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吉田鴻司句集「平生」以後

吉田鴻司句集「平生」以後

(吉田鴻司全句集より、三百四十六句、平成十五年一月~
平成十七年十一月)

マフラーを撥ねあげてゐる老いまじく
お降りのはじめかぞへてゐたりけり
破魔矢の鈴振って鳴らして晴れ渡る
何も見ぬふりして春の鴨なりき
笹舟の行方を追ひし春休
春惜しむ雨の大粒なるがよし
舟虫のあとかたもなき日暮かな
一日を呆けてたんぽぽもどきかな
夏至の日や金魚田の水よく騒ぐ
拝啓と書き出してみて虫の宿
をんな声ばかりが聞ゆ茸山
かいつぶり水よろこんでゐたりけり
松過ぎのただの雀でありにけり
橋一つ二つ越えたる余寒かな
初ざくら息をころしてゐたりけり
栄螺籠背負ひて海女の大股に
今日はけふの眺めでありし蜷の道
しゃぼん玉吹いて吹かれてねむたしや
矢車の音たててゐる何の音
仏生会ひときは濤の白きかな
風鈴のをはりの音のはげしかり
ソフトクリーム舐めつくしたる淋しさよ
まひまひの舞ひ了りたる行方かな
夜は海の匂ひとなりぬ青すだれ
ふと止んでこだま返しに遠花火
まつり果つひときは笛の高まりて
秋扇音を大きく閉ぢにけり
骨壺のかかる重さや秋暑し
月山へ雲飛んでゐる稲の花
みんみんの声溜めてをり暮れてをり
浮玉の浮き沈みして残る秋
蛸壺の乾ききったる在祭
十一月足向くままに紀尾井坂
はればれと鼻を大きく雪に栖む
枯葦の薙ぎたる空の青さかな
紅梅の空さわがしくなってをり
まつさをな日和となりぬ海苔を干す
舷を叩いて去りぬ春の雷
両の手の遊んでゐたる野焼かな
連翹の奢りの空となりゐたり

陽炎を踏んでるばかり妻生きよ
囀りをどこかに妻の眠りをり
緑の羽根たかだかと妻と逢はな

青蘆の寸を競ひて吹かれをり
車椅子に押されてゐたる薄暑かな
食道に癌棲みついて梅雨の月
片虹のほのぼのとして癌告知
梅雨夕焼齢にかなふ患者食
ハンカチを握ってゐたる別れかな
妻を夢に薄暑うとうとしてゐたり
敬老の日と言ひとしよりの日と言ひて
手花火のわずかに残る火の匂ひ
蓮の実の跳び損ねたる真昼かな

吉田鴻司句集「平生」

(平成十六年、遊牧舎、三百十九句)

鵜の飛んで鴨の浮かんで湖の国
刺し身こんにゃく茂吉の国の雪を見て
ときどきはどぜうが上げる泥けむり
水口は蝌蚪のあつまるところかな
浮苗やゆふぐれ早き山ばかり
みちのくの四万六千日の雨
夕風へ跳人(はねと)の鈴の鳴り出しぬ
燈の入りてみるみる侫武多修羅となる
町筋のとある涼しさ祭了ふ
古着市しぐれて妍を競ひけり
都鳥見てフランス座通り過ぐ
波といふ波に音ある朧かな
音といふほどのひびきを春の瀧
昨夜の豆こんなところに春立ちぬ
破れたるところも春の障子かな
ゆふかぜのそのをりをりの赤とんぼ
一日は冬至南瓜でありにけり
重ねたるほどに着ぶくれてはをらず
ぽっぺんを旅人らしく鳴らしけり
舟虫の一目散に子沢山
【はまなす】の実のかがやきを誰も言ふ
煙出しに火の粉の見ゆる初景色
小田原に半日居りて松過ぎぬ
恋猫の叩かれてゐる始末かな
遠くにも雨の彼岸のかいつぶり
母の日の田水肌へのごとくあり
ひとのこゑ通り過ぎたる蛇の衣
夏料理まづ箸にせむ嵯峨豆腐
ゆつくりと歩いてをれば後の月
冬の山はなればなれに日当りて
をどりこ草手振りをさなく咲きにけり
父母の知らぬ傘寿の暑さかな
へぎそばを啜りて植田よき色に
舟唄や青水無月の雨の急
琴糸の町の白菊黄菊かな
石導寺までのぬかるみ赤とんぼ
梅林の誰かがうたふいくさ歌
八十を一つ過ぎたり初雀
水すこしうごきとうすみとんぼかな
東京はいつかふるさと衣被
秋風に抜きんで一遍が墓といふ
木偶の瞳の開ききつたる露けさよ
紅梅が好きで女人とはぐれたる
はくれんの日和なりけり傷武甲
振舞の筍飯も遍路寺
国引の地の大いなる茅の輪かな
羊蹄山の残照となる薯の花
えぞ春蝉えぞ春蝉と鳴いてをり
法華寺の蟻くろがねに生まれけり
冬近き銚子鮪の赤身かな
竹馬や入学は第一日暮里小学校
言問をゆつくり渡り午祭
羽摶きを忘れてゐたる春の鴨
うぐひすや漬物樽のよく乾く
遠山に桜の浮かぶ葬りかな
ここよりは但馬植田のささにごり
送り火の崩るるときの焔かな
木の葉髪一汁三菜ほどがよし
獅子舞の大きく跳ねて仕舞ひとす
壺焼のつるりと抜けて島泊り
番ひつつ残りの鴨となりにけり
すかんぽやこだまうろうろしてゐたり
冷酒や月山筍をつまみとす
からびごゑどこから聞こゆ新走り
by 575fudemakase | 2013-07-04 09:40 | 句集評など | Trackback


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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