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村越化石自選句集「籠枕」

村越化石自選句集「籠枕」

共鳴句
      高澤良一・抽
■獨眼
癩人の相争へり枯木に日
除夜の湯に肌触れあへり生くるべし
夏終るひぐらしに言慎みて
雪沓穿く広き脊にいふ頼みごと
冬の山動くものなく径通ず
望郷台暮春の頭垂れ登る

母面会 二句
会ひて安し夏の夜母の横坐り

新薬プロミンの恩恵に浴し数年を経たれば
湯豆腐に命儲けの涙かも

もの蒼む梅雨の片眼を失くし佇つ
終日雪抽斗母の文多し
径引入れからまつ無限の霧雫
大根おろし星かがやくにあと一刻
一眼を励ます風や空に鳶
古草に雉子のからくれなゐ潜む
鍋の耳しづかに山の夜長来る
獣の糞緑に和む深山中
どこ見ても青嶺来世は馬とならむ
もろこしの食べ殻しんと子規忌なり
筒鳥ポポポポ馬の足跡森出づる

■山國抄
雁渡し山脈力集め合ふ
やんまの眼きびきび仕事したきかな
闘うて鷹のゑぐりし深雪なり
崖の脈あかく走れり山ざくら
夜の夢の蟇と化しつぞさまよへる
探り食ふ柿の重みの夜の底
リンゴに花の風ふところに入れて行く
夕べ紫蘇に長跼みして母を恋ふ
録音の嚏冬夜の親しさあり
ふと覚めし雪夜一生見えにけり
雪に十歩遠きへ出でてゐるごとし
もう急がぬ齢の中の冬籠
はるかなる鳶へ昼寝の身を起す
ぱちぱちと胡麻炒ってゐる寒ンの入

■端坐
春を言ひ一片の海苔舌にのす
土橋一つ渡る春来てゐたりしよ
高野夕風ほたるぶくろを吹いて来よ
山中を出でず白息太くせり
雪の国猫鳴いてゆく方に春
天が下雨垂れ石の涼しけれ
金色の音のひぐらしを祠べり
この家に桜一樹と蔵書やや
雨も降り筍飯をうまくせり
頭の中の涼しきものをはたらかす
山中の居や一簾に足りにけり
凍晴を障子もっとも知れるなり
ひと吹きは土くさき風初朧
師との間水のごとしよ夕端居
峠その向ふの話夜長なり
水を聴き杖もろともに涼むなり
羽音せる霞の国に住ひをり
河童の絵一枚掛けて昼寝せり
花いまだ風が耳打ちしてゆけり
星まつり読み書きたのむ汝とかな

■筒鳥
この戸口谺も入り来深秋ぞ
誰彼の肩に降誕祭の雪
湧ける音輪となり泉湧きゐたり
雨音をこよなきものに朝寝すも
余花明り雀も少し居て囃す
豆植ゑてゐる声二人ほかは山
嶺明りまだある夏の夕餉かな
葛の花村の風吹く村の道
こほろぎや火山の翳の冷えにゐて
いま汲みて提げゆく水の立夏かな
法悦を得むと日当る障子際
待春や湯呑一つを前にして
空耳ふえ雪間もふえてゆくならむ
筒鳥や山に居て身を山に向け
蟇ほども歩まず山に親しむよ
鉄風鈴いままで睡りいま覚むる
かなかなの一つはぐれし声を聴く
眼をつむり耳をはるかへ冬籠
山深く日向を愛しちゃんちゃんこ
歩くこと残され歩くきりぎりす
墓近くまで来て今日の秋天下
小鳥来る頃なればこの軽き杖

信州戸隠・大昌寺に林火の句碑建立さる
月々の月を賞でませ月の句碑

山眠り火種のごとく妻が居り
大空を鏡と衣更へにけり

皇太子、美智子妃両殿下訪園
一介の身も爽やかな一日かな

山のどこもかもが留守めく神の留守

■石と杖
天高きを杖のひびきに知りて歩す
飴玉を一人に一つ余寒の座
あたたかく声に覚えのありて会ふ
鶯餅父母の知らざる世をば生く
大根を洗ふさへ日々新たなり
峠置き牧置く村の五月かな
鶯の声映るほど水に寄り
盆唄に山の大きさ唄はるる
昔あり今ありて餅白くあり
俳諧の仲間の蝌蚪の泳ぎをり
ナースらの爪先走り聖五月

■八十八夜
鈴蘭や救癩史いま終焉期
梟に夢を託して眠る森

■蛍袋
森に降る木の実を森の聞きゐたり
心のみ出で行きて野に遊ぶなり
客来れば客間となりて暖かし
春となる大地のふやす笑ひ皺
春生る地の穴ぼこの一つより

林火句碑
鏡なす句碑に木の葉の飛び来り

生ひ立ちは誰も健やか龍の玉
寒明けや蘭の一鉢妻が守り
朝寒に夜寒に聞かな湯揉唄
歩を合はせもらひて歩む小六月
目をつむりどこのどなたぞ日向ぼこ
冬ぬくし背を撫でくるる姉の居て

■八十路
八十の大台に乗り大旦
三月の野のものを掌に載せもらふ
菜の花の上を越え来る子らの声
秋澄むや杖の先から峠まで
どか雪と四つに組みたるまま暮るる
桃食へば白雲空を行き来せり
林火の忌秋草と水手向けなむ
山国の山と向き合ひ年賀かな
寒見舞読みて貰ふに手を膝へ
梅便り姉の周りに孫曾孫
すっと立ちすたすた歩きたき五月
わが夜長森の夜長とつながれり
春いづこ松の根方に腰下ろし

■団扇
晴れ女晴子が来り霧晴るる
来客に氷柱の丈を見てもらふ
春をまだ遠くにおきて白湯を飲む
藤咲いて五月の今日は看護の日
世の隅に療養祭といふ祭
静かな夜虫と同居をするごとし
声のみを聞かせて帰る秋の暮
身を預け集中治療室小春
雪国に残る水車が師の水車
顔色をよしと褒められ冬菜汁
リハビリに励む米寿のちゃんちゃんこ
昔拾ひし石の一つと春惜しむ

■団扇以後
瘤あるが故の親しさ一冬木


わたくしなりに高峰、化石山脈をなぞって見ました。
by 575fudemakase | 2013-07-04 09:51 | 句集評など | Trackback


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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