例句を挙げる。

「鬼は外」鬼の闇にて咳込めり 桜井博道 海上
あかあかと雛栄ゆれども咳地獄 石田波郷
あきなひの世辞言ひてより咳多し 宍戸富美子
あさあさを芙蓉の霧に咳き入りぬ 中尾白雨 中尾白雨句集
あの咳は父よ溝板ふんで来る 菖蒲あや
あはれなり咳入りてさへなまめけば 久保田万太郎 流寓抄
あはれめり座にたへかねるほど咳くを 久保田万太郎 流寓抄以後
あばら家に人の居は居て咳にけり 清原枴童
うつせみの咳なりやこのさびしさは 筑紫磐井 未定稿Σ
おなじ人おなじ机に咳しつぐ 川島彷徨子 榛の木
かまど焚く母の咳きをる野分かな 伊東宏晃
から咳に真昼の深さ白牡丹 鍵和田[ゆう]子 未来図
がんこな咳のあいま 白梅の瓶の 位置をなおす 吉岡禅寺洞
けんけんと咳くや身近に茅舎の意地 赤城さかえ
こは父の咳なりき椎の花降れり 千代田葛彦 旅人木
こらへゐし咳柊の匂ひけり 石田あき子 見舞籠
こん~と咳きて山葵の花は見ず 萩原麦草 麦嵐
ごほ~と咳きて庵主蚊帳より 清原枴童 枴童句集
ささやきや咳気をなぐる年の暮 探志 芭蕉庵小文庫
さびしさや咳を見かえる大き部屋 古沢太穂 古沢太穂句集
しばらくは言葉とならず咳つゞく 山口白甫
しらじらと暁けぬ雨中を咳きゆきぬ 片山桃史 北方兵團
せせらぎや眠れぬは咳のみならず 山口草堂
ぜんそくのその咳ゆゑにあはれなり 高濱年尾 年尾句集
それからのこと妻の墓にきて咳こぼす 栗林一石路
たんたんの咳を出したる夜寒かな 芥川龍之介
つきまとふ咳に孤独のはじまりぬ 新田充穂
てのひらで押さへて咳の震源地 高澤良一 鳩信 
とめどなく咳きつゝ甕を洗ひをり 清原枴童
ねんねこの男の負える子の咳か 石橋辰之助
はんてんの子の咳をする吉野山 大木あまり 火球
ひたとやむ咳の薬や寒の内 筏井竹の門
ひとなかに咳してゐたる己れかな 草間時彦 櫻山
ふるさとはひとりの咳のあとの闇 飯田龍太
ほうほうの体で逃げ出す咳地獄 高澤良一 鳩信 
りんご撰るたのしさ咳を忘れゐて 目迫秩父
わが咳がたたしめし冬の蝶は舞ふ 加藤楸邨
わが咳けば寒鯉鰭をうごかしぬ 風生
わが咳けば百巻ひびく庵かな 阿波野青畝
わが咳にくづるる薔薇と見入りけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
わが咳に十二神将こちら向く 岬雪夫
わが咳やわれには耳を経ずひびく 宮津昭彦
わが咳や塔の五重をとびこゆる 川端茅舎
われに売文ありて夜の楡咳こぼす 寺田京子 日の鷹
われ咳きて市電夜の濠端を過ぐ 榎本冬一郎 眼光
われ咳けばわが背にても咳く夜汽車 茂里正治
われ咳けば子子孫孫も咳きやまず 和田悟朗
ゑらゑらに咳するネコ二世になる 加藤郁乎
アナウンサー咳くはマイクに反りてしぬ 岸風三樓
コンサート咳怺へ得ず怺へ得ず 前山松花
ジャズの中咳を落してわが過ぎぬ 石田波郷
ダリの青キリコの赤と咳けり 四ッ谷龍(1958-)
ランドセル咳込む吾子の背に重く 稲畑汀子 汀子句集
レスラーが咳してゐたる丸の内 皆吉司
丁字咲き夫婦が一つづゝ咳す 長谷川双魚 風形
丑満の雪に覚めゐて咳殺す 臼田亞浪 定本亜浪句集
世辞ここだ咳くことも又多し 香西照雄 対話
両の手を机に突いて咳込める 千本木 溟子
乙訓の大きな藪の中に咳く 細川加賀 生身魂
九官鳥子の咳までも真似てをり 小路初子
九年母を呉れるに多く咳おとす 萩原麦草 麦嵐
九月はや運河に人の咳ひびく 榎本冬一郎 眼光
五智如来の中の一人が咳こぼす つじ加代子
亜浪忌を縁なしとせず咳こみぬ 大川つとむ
人が咳犬が咳きをるアスファルト 川口重美
人間が居りて咳する芽木の中 右城暮石 上下
今日空を見ざりしと思ふ夜の咳 千代田葛彦
代々木踏切越す老優と咳落し 古沢太穂
体ごと咳きて義士祭遠しとす 萩原麦草 麦嵐
俄に咳く息もて供ふ菊厚咲き 北野民夫
俯向いてコートの襟の中に咳く 西海枝梟子
元日雨降り病む母の咳にひとりいる 栗林一石路
兜金(ときん)ひしと少年山伏咳ころす 平井さち子 鷹日和
入日の冷え家のそこここ母の咳 大野林火
八十八夜真田村から咳ばらひ 鳥居美智子
冬よりの持ち越し咳きや更衣 楠目橙黄子 橙圃
冬空の一片落ちてくる咳のあと 桜井博道 海上
冬鴎海のあをくて咳込めり 中拓夫
刀自の読む咳まじりなり歌留多とる 皆吉爽雨
刈跡の田に疳だかきわれの咳 川島彷徨子 榛の木
初咳といへばめでたくきこえけり 日野草城
初芝居意休の咳も芸のうち 江口千樹
初霜やひとりの咳はおのれ聴く 日野草城(1901-56)
判子屋を出て咳ひとつふたつかな 今村俊三
前山の麦刈る音を咳のあと 中戸川朝人 残心
勿忘草霧に咳き人行けり 堀口星眠
北風にいらだてば咳きし胸ほてる 川島彷徨子 榛の木
十兵衛が謀叛の如く咳こまる 筑紫磐井 婆伽梵
双手に顔埋め盛装の咳を埋め 伊藤敬子
口取も咳気(がいき)ごゑなり駒むかへ 曲翠 俳諧撰集「有磯海」
口笛の咳そそる木の芽夕べかな 富田木歩
叫ぶごと咳くたび命さみしくす 古賀まり子 緑の野
叱咤せんとして咳入りてしまひしか 八木絵馬
君が咳角を曲りて帰り来る 長山あや
咳かすかかすか喀血とくとくと 川端茅舎
咳がまんしてにこやかに応対す 稲畑汀子
咳がやまない背中をたたく手がない 種田山頭火(1882-1940)
咳きいでて夜半の時雨を遠くしぬ 林翔 和紙
咳きいりて起重機の脚掴みをり 米沢吾亦紅 童顔
咳きこみて閻魔の前を忘れけり 下村槐太 天涯
咳きこむあと他人の騒音にやはらげられ 竹中宏 饕餮
咳きこんでゐし泪顔あげにけり 猿橋統流子
咳きこんでゐる初髪のかざしかな 細川加賀 生身魂
咳きこんでゐる子に母の哀しき瞳 遠入たつみ
咳きしあと撚れし百尋もみほぐす 稲垣きくの 牡 丹
咳きしつつ遠賀の蘆原旅ゆけり 橋本多佳子
咳きつのる目を日輪のゆきもどり 加藤楸邨
咳きて思ひ寝の鴨乱さゞれ 篠田悌二郎
咳きて痰落す冬青き松の群 岩田昌寿 地の塩
咳きて飛石ひろひ来つつあり 下村槐太 天涯
咳きながら十一月に入りけり 阿波野青畝
咳きにせく哀しき妻となりにけり 久保田万太郎 流寓抄以後
咳きに咳く日矢太束にひれふして 石田波郷
咳きのあとの無言を自恃とせり 小澤克己
咳きの身のくらやみを冬至かな 山上樹実雄
咳きもせぬ眼の据えやうや水仙花 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
咳きを朱のごとくしてゐたりけり 松山足羽
咳き入りて咳き入りて瞳のうつくしき 篠原鳳作 海の旅
咳き入りて身のぬくもりし夜寒かな 日野草城
咳き入りて~瞳のうつくしき 篠原鳳作
咳き入ると見えしが青子詩を得たり 篠原鳳作
咳き入るや吹き寄せられし星も咳く 千代田葛彦 旅人木
咳き入るや涙にくもるシクラメン 臼田亜浪 旅人
咳き入るや父に肖しひびき咳を過ぎれり 篠原梵
咳き出せぬ土蜘蛛の如ひそむもの 稲垣きくの 牡 丹
咳き咳くは物乞ふなりに似てさもし 吉野義子
咳き尽し生れ来るものを俟ちにけり 斎藤空華 空華句集
咳き臥すや女の膝の聳えをり 石田波郷
咳き込めば我火の玉のごとくなり 川端茅舎(1897-1941)
咳き込めば白き牧師のカラー揺る 今泉貞鳳
咳き込めば臓腑七転八倒す 高澤良一 鳩信 
咳き込んで力ぬけたる命かな 山本しげき
咳き込んで地球踏みつけ止まぬなり 高澤良一 燕音 
咳き込んで言葉の継ぎ穂失へり 柏井季子
咳くたびに肺臓かなしうかび出づ 篠原梵
咳くところ芽ちらちらと草ありし 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
咳くと胸の辺に月こぼれきぬ 角川源義 『神々の宴』
咳くまじく耳火と燃やしレール越す 赤城さかえ
咳くや篆刻どれも気に入らず 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
咳く人に白湯まゐらする夜寒かな 几董
咳く人に素湯まいらする夜寒哉 高井几董
咳く我を包みし吹雪海へ行く 野見山朱鳥
咳けばうしろへとんでゆく時間 山崎政江
咳けば土管の中にマッチの火 石川桂郎 含羞
咳けば夜も眼中の火と闘ひぬ 加藤楸邨
咳けば少し抜けゆくかなしみよ 矢島 恵
咳けば月光の濃くなりにけり 草間時彦 櫻山
咳けば痰硝子一枚だけ新し 榎本冬一郎 眼光
咳けば脾腹が痛し何の風邪 石塚友二 光塵
咳けば青僧良寛応へんや(岡山県水島円通寺は若き良寛修行の地) 角川源義 『神々の宴』
咳けば風邪かと問ひぬかなしけれ 宮部寸七翁
咳こだまリョウメンシダの林にて 高澤良一 さざなみやっこ 
咳こぼすかがやきわたる海の面 川崎展宏
咳こぼすより身のゆるぶ菩薩の前 小松崎爽青
咳こぼすマスクの中の貌小さし 吉田鴻司
咳こぼれいづこにこもる夜居(よゐ)の僧 筑紫磐井 野干
咳こぼれ人形つかひ女人なり 山岸 治子
咳こらへゐしが祈りのうちに咳く 長田等
咳ころし己を殺しゐたりけり 岡田 貞峰
咳こんですべて悲しくなりにけり 谷中隆子
咳さそふ咳けふさくら亡びたり 千代田葛彦 旅人木
咳しつつ出島新地の橋赤し 山田みづえ 草譜以後
咳しつつ炭つぎゐしもしんとしぬ 篠原梵
咳しつつ老醫受持産に就く 下村ひろし 西陲集
咳しつゝ歩き来る子や稲埃 高野素十
咳しても一人のわれと旅信書く 伊藤瓔子
咳そそる夜気に窓さす落葉かな 富田木歩
咳そゝる夜気に窓さす落葉かな 木歩句集 富田木歩
咳たまたま 子規草城の系譜の端 伊丹三樹彦 一存在
咳とばす師弟長命寺裏枯れたり 小林康治 玄霜
咳にせき赤鬼顔をしてはゐずや 山田みづえ 木語
咳に寝て聖夜の鐘のはるけさよ 鷲谷七菜子 黄 炎
咳のなか何か言はれしきゝもらす 能村登四郎
咳の夜の壁穿つ余寒かな 石塚友二 光塵
咳の子に待合室のマンガ本 町田敏子
咳の子に籾山たかくなりにけり 田中裕明 花間一壺
咳の子のうるみし瞳我を見る 星野立子
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや 中村汀女(1900-88)
咳の子守る扁平な家雁渡る 細見綾子 花寂び
咳の底切株は雨啜りをり 藤村多加夫
咳の後きらりと妻の泪眼よ 能村登四郎 民話
咳の後掌にしかとある無一物 長谷川博和
咳の顔月にそむけむ方やなし 斎藤空華 空華句集
咳はげしどうでもなれと思ふとき 菖蒲あや 路 地
咳ひとつこぼして直哉旧居去る 上野さち子
咳ひとつして催促の稿のこと 宮田勝
咳ひとつ壷のくらがり駈けめぐり 加藤楸邨
咳ひとつ異性の部屋に入るとき 工藤克巳
咳ひとつ落つ月明の鷲羽山 田住満夫
咳ひとつ赤子のしたる夜寒かな 龍之介
咳ひびく戦傷ならぬ傷を持ち 三谷昭 獣身
咳ひびく畦より細く水流れ 廣瀬直人
咳もまたわがものなれや死ぬるまで 杉山岳陽
咳やつと胸におさまり雪も積みぬ 斎藤空華 空華句集
咳やまぬここより暗夜行路の地 対馬康子 純情
咳やんで遠くいたはる眼に出会ふ 谷口小糸
咳よりもはやく団栗落ちきたる 米澤吾亦紅
咳よりも咳の谺のさびしさよ 林翔 和紙
咳をしてひよどりを驚かす 細見綾子
咳をしても一人 尾崎方哉
咳をしてコンコンチキノコンチキノ 高澤良一 燕音 
咳をして厠の中の人わかる 田川飛旅子 『邯鄲』
咳をして残業の僚たしかむる 米澤吾亦紅
咳をして祝ふ咳して祝はるる 嶋田一歩
咳をして言ひ途切れたるままのこと 細見綾子
咳をして闇のふかまる他国かな 永田耕一郎 方途
咳をする奴は不埒といふ目付 高澤良一 鳩信 
咳をする母を見あげてゐる子かな 中村汀女
咳を捨て西院の河原を去らんとす 上野美智子
咳一つ報恩講に置いてくる 星永文夫
咳一つ校長訓示始まりぬ 城台洋子
咳一つ生きて玉葱岬に積む 原田喬
咳一つ飛びて枯木の枝光る 内藤吐天 鳴海抄
咳一家に童唄などほろにがし 河野多希女 彫刻の森
咳兆す顎ひきすゑて会議の隅 赤城さかえ
咳入るや涙にくもるシクラメン 臼田亞浪 定本亜浪句集
咳入れる人に説きやめ十夜僧 河野静雲 閻魔
咳呆けぬ柚味噌の箸をもちながら 石田波郷
咳呼んで牀頭月のさし来り 臼田亞浪 定本亜浪句集
咳堪へて逢はねばならぬひとのまへ 大島民郎
咳怖れてもの云ひうとし蚊の出初む 富田木歩
咳払せねば出ぬ声報恩講 小松月尚
咳払ひうすうす透かし松手入 平井さち子 紅き栞
咳払ひしつつ短気を持て余す 谷口桂子
咳果てて虹追ふ翼われになし 鷲谷七菜子 黄炎
咳止まず明治大正昭和と生き 猿橋統流子
咳止みて万緑滾りゐる寝覚め 斎藤空華 空華句集
咳止めと鰭酒いづれすすむべき 後藤比奈夫 めんない千鳥
咳止めば山のやうなる静寂かな 江崎紀和子
咳止んでわれ洞然とありにけり 川端茅舎
咳気声や世間の噂衣がへ 安昌 選集「板東太郎」
咳気引て来る朝もあり夜興曳 也有
咳減らし賜へよ伊豆へ師に供し 杉本寛
咳熄んで大きな石をみつめゐる 菅原鬨也
咳真似てゐたる生徒ら黙りけり 森田峠
咳終へて遙かな国に来し思ひ 大野林火
咳耐へに耐へ腹力なかりけり 福永耕二
咳込みて三界の闇凸凹す 館岡沙緻
咳込むを人に見られてかなしけれ 菖蒲あや 路 地
咳込めど目は物を見てゐてかなし 京極杞陽 くくたち上巻
咳込めば帽子の庇はずみつつ 京極杞陽 くくたち下巻
咳込んで以下省略となりにけり 白岩 三郎
咳遠くひびけば吾の咳くごとし 上野さち子
啼く夜鷹咳やすらげば痩躯冷ゆ 千代田葛彦 旅人木
喋らんとして悉く咳となる 朝倉和江
喪のひとのときに咳く竹落葉 柴田白葉女 『冬泉』
噴烟に咳き智に咳きて火口墜つ 石原八束 空の渚
噴烟に捲かれ呆けて咳きつづく 石原八束 空の渚
噴烟のこゑなく裹むときに咳く 石原八束 空の渚
四手小舎廃ると過ぐに咳もらす 篠田悌二郎 風雪前
図書室の咳一つして今日終る 有馬 芳子
地下鉄にわれも生きもの咳をして 寺田京子 日の鷹
堂守り咳き踏まるる邪鬼の泣き笑ひ 奈良文夫
塵一つなき神前に咳こぼす 綾ひろ子
壁いちまい抜け来る咳に力あり 高澤良一 鳩信 
声高になるを咳よりおそれつつ 石川桂郎 含羞
外来の患者持ち込む咳いろいろ 高澤良一 宿好 
夜の坂父の高さで咳をする 小原洋一
夜を徹しゐる子の咳と父の咳 上田五千石 風景
夜仕事に籠る合図の咳ひとつ 上田五千石 琥珀
夜深さに咳して後の餓ゑ渇き 能村登四郎 幻山水
夢のあたりへ響くちりめんじゃこの咳 坪内稔典
夢のごと咳の果にて紙燃ゆる 桜井博道 海上
大き咳のあと声割れて叱咤せり 中戸川朝人 残心
大試験咳とどめえぬ子がひとり 鈴木貞雄
夫の咳やまず薔薇喰ふ虫憎む 横山房子
女の咳を乗せて一〇三列車発つ 田川飛旅子 花文字
女人咳きわれ咳きつれてゆかりなし 下村槐太 天涯
妻に齎す大入袋咳しつつ 細川加賀 『傷痕』
妻の留守ひとりの咳をしつくしぬ 日野草城
始業ベル子らも教師も咳地獄 田中俊尾
子の咳くに真夜の家ぢゆう目をさます 篠原梵 雨
子への声一語をなさず咳きに咳く 角川源義 『冬の虹』
寒林の隙間だらけに咳ひびく 野見山ひふみ
寒肥の老の咳ひびきたる 五十嵐播水 埠頭
寝ねさせよ白むまで咳く咳地獄 及川貞
小照の父咳もなき夕立かな 渡辺水巴 白日
山枯れたり遥に人の咳ける 相馬遷子 山国
川風を受けて咳おし戻される 八木博信
布団はね咳きむせぶもの真紅なり 中尾白雨 中尾白雨句集
師の咳の隣に寝たり青葉木莵 猿橋統流子
帰り咲く木のあり尼僧咳秘むる 臼田亞浪 定本亜浪句集
常楽会比丘尼の咳をまじへけり 野澤節子 遠い橋
干しためし刀豆咳に効くとこそ 稲畑汀子
年の夜の咳もて何を攻めらるる 野澤節子 『駿河蘭』
幽音念佛耳こそばゆく咳さそふ 中戸川朝人 星辰
広襖閉して蛇笏の咳きかへる 石原八束 空の渚
底みせぬ海に咳き込み何か失す 齋藤愼爾
弁当のパンがわきゐて咳さぞふ 篠原梵 雨
弱り目に崇り目の咳死にはせぬ 原田柏生
忽忘草霧に咳き人行けり 堀口星眠 火山灰の道
思ふこと多ければ咳しげく出づ 日野草城
怺へゐし咳を柩にこぼしたり 品川鈴子
抜けがての咳抱きつつ去年今年 馬場移公子
抱き起されなほあやさんとして咳込む(長女規子来る) 岸田稚魚 『負け犬』
持ち運ぶ風邪こぼるなり咳くたびに 宮津昭彦
接吻もて映画は閉ぢぬ咳満ち満つ 石田波郷(1913-69)
握りしめた夜に咳こむ 住宅顕信 未完成
旅の夜の階下の咳の幼きを 原田種茅 径
日の中に咳けばみな蒲公英となる 千代田葛彦 旅人木
日中に咳はく牛や花葵 飯田蛇笏 山廬集
旦夕を身に添ふ咳となりにけり 近藤一鴻
早雲禅寺梅に咳する人ありて 川崎展宏
明易や己が咳に目覚めもし 藤松遊子
星咲いて帰る道ばた咳こぼす 稲垣きくの 黄 瀬
時雨忌のともしび遠く咳き入りぬ 金尾梅の門 古志の歌
晩餐や不在を飾る咳ひとつ 加藤郁乎 球体感覚
暗転へまた裏方の咳聞こゆ 幡谷東吾
暮光に咳き人間一人むさくるし 榎本冬一郎 眼光
月夜風ある一人咳して 尾崎放哉
月明り、青い咳する 住宅顕信 未完成
朝の市馬も寒気にむせて咳く 寺田京子 日の鷹
朧月ゆがみゆがめり咳堪ふる 斎藤空華 空華句集
松とぼ~そのやうに咳せし思ふ 細見綾子 花 季
松深く東風の寒さに咳き入りぬ 久米正雄 返り花
松王がじぶんの咳をこぼしけり 結城美津女
林中の寂寞咳をして払ふ 那須乙郎
枯菊を焚く人とほく咳きゐたり 石原舟月
柳絮とぶや夜に日に咳いてあはれなり 石橋秀野
栗咲ける家の更けゐて咳きこゆ 村越化石 山國抄
桜餅気になる咳をする人と 茨木和生 野迫川
梅が香や妻戸の内の咳はらひ 井上井月
梅白しかつしかつしとだれか咳く 竹下しづの女句文集 昭和十五年
榧の木の冷えまとひ来て夜の咳 佐野美智
樹氷林咳をするとき身のひかり 寺田京子 日の鷹
橙や大川端に咳の神 古舘曹人 樹下石上
死に近く咳こめる眼をあいてゐる 川口重美
残雪に咳ひとつして歩き出す 櫻井博道
殿上に咳しづまれとまじなへり 筑紫磐井 野干
殿上に貧書生わが咳ひびけり 加藤楸邨
母とわれ夜寒の咳をひとつづつ 桂信子
母につぎ兄も柱も咳きぬ 宇多喜代子
母の咳妻の歯ぎしり寒夜の底 香西照雄 対話
母の咳道にても聞え悲します 大野林火
母の手紙にげほげほと父の咳のこと 栗林一石路
母逝きし後も咳き咳くゆゑしらず 吉野義子
民の径精舎に沿へば咳ひびく 桂樟蹊子
氷海やこだまさびしきわれの咳 伊藤彩雪
汽笛止む咳の一人を忘れゐしに 桂樟蹊子
泉川いとけなき咳こんこんと 山口誓子
泊船に咳きこえ夜は長き 五十嵐播水 埠頭
泥濘に落とす一本の葱の咳き 長谷川かな女 花寂び
派手に咳こぼしつつ来て灯をともす 柴田白葉女
漁夫咳きて魚籠へ頒たむ氷魚こぼす 大島民郎
潮騒や松過ぎの咳落すのみ 渡辺七三郎
火の玉となりつゝ咳のこみ上ぐる 川原 和子
火の玉の如くに咳きて隠れ栖む 川端茅舎
火口壁に咳きて胸病み視界病む 石原八束 空の渚
火口鳴る倦怠に咳く身のしびれ 石原八束 空の渚
灯を消して咳くや年ゆく夜の底に 栗林一石路
灯台に咳する螺旋形の咳 三好潤子
炎天に出んとて咳をこぼしけり 森 総彦
炭の香や奥に聞ゆる咳払へ 会津八一
煖炉消え咳金属の音を返す 阿部みどり女
熱の子に咳く子に凡父たりしかな 杉山 岳陽
熱燗を夫の催促咳一つ 杉田英子
父の咳母の咳よりさびしかり 正木ゆう子 悠
父の忌や咳けば応ふる星一つ 菖蒲あや あ や
父咳けばつぎつぎいやなこと思ふ 菖蒲あや 路 地
牛の咳すべてあたりの青き中 右城暮石 声と声
獅子頭かぶりて落す咳ひとつ 築城百々平
瓦礫なか麦の芽生えて咳きこゆ 臼田亞浪 定本亜浪句集
生と死の境に洩らす咳一つ(父脳溢血にて倒る九句) 田川飛旅子 『花文字』
生後初感染の咳牡丹冷ゆ 中戸川朝人 残心
田を植えし足跡を見て病女咳く 萩原麦草 麦嵐
画家の犬咳して青き朴の蔭 右城暮石 声と声
留守居妻他人の咳に夜をたのむ 竹下しづの女
畦の路まがるやわれも咳けり 川島彷徨子 榛の木
病院のアナウンス嬢咳き込んで 谷村千恵子
白き藤房に夜があけ咳やまず 佐藤鬼房
白粉花に咳して漁夫の深まなこ 原田喬
白道の左右より咳御滅燈・・・清浄光寺一ツ火 高澤良一 ねずみのこまくら 
白靴の淡き光に咳くひとり 赤尾兜子
百五十億光年の星へ咳 嶋田一歩
百夜経て咳の減りたり初蛙 秩父
百姓の咳まじる遠き物音に 中山純子 茜
短くも咳きて夜を狩りにゆく 寺井谷子
短日の父母の辺に咳隠すなし 細川加賀 『傷痕』
石牢に已たしかむ咳をする 加藤耕子
石階のしろきにあそび咳く子あり 山口草堂
硝子戸に星満ちて咳ゆるびをり 鷲谷七菜子 黄 炎
磔の釘打つ如く咳きはじむ 野見山朱鳥
祝婚やミモザのもとに咳こぼし 石田波郷
稿債と咳まだ残る誕生日 窪田久美
空咳せしあと咳込みぬ総彦忌 岸田稚魚 筍流し
空広き蝦夷に咳して吸はれけり 鳥居おさむ
立て込んで検尿 採血 咳 患者 高澤良一 鳩信 
立上り泉へ落す咳ひとつ 田川飛旅子 花文字
立竝ぶ勘解由(かげゆ)しづかな咳をして 筑紫磐井 野干
笹鳴に大きかりける人の咳 有働亨 汐路
笹鳴の木の裏あたり母の咳 長谷川かな女 雨 月
節穴がぼつかぼつかと咳のあと 八木三日女 紅 茸
紅の真闇に咳を咳きにけり 八木林之介 青霞集
紅茶熱し霧にむせたる咳のあと 稲垣きくの 牡 丹
老の咳しばし満座を領しけり 香西照雄 素心
老人の咳したるあと日が差して 今井杏太郎
老工の咳ひびく屋根裏の材組み 榎本冬一郎 眼光
老工の服たるませて咳きにけり 榎本冬一郎 眼光
耳に棲む父の叱よ母の咳よ 香取哲郎
聖五月男の咳をひとつかな 村越化石
胸の中がらんどうなり咳く度に 野見山朱鳥
胸中の凩咳となりにけり(三汀の病を問ふ我亦時に病床にあり) 芥川龍之介 我鬼窟句抄
臨月でありし娘の咳く寝待月 堤信彦
芭蕉忌や咳する中に子の泣く声 宮坂静生 青胡桃
草芳しもつとも遊ぶ咳する子 中村汀女
菊人形咳きしと見れば菊師をり 衣川 砂生
葱食つてこなごなの咳朝の川 中拓夫 愛鷹
蓬髪を抱きて火口に女咳く 石原八束 空の渚
薄咳をしつゝやめずよ水遊 川村たか女
薄氷の端のさざなみ咳こぼす 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
虫の音の中に咳出す寝覚哉 丈草 (病床)
蚊遣り火や麦粉にむせる咳の音 許六 俳諧撰集「有磯海」
蜩も鳴きをはりしを薄咳して 千代田葛彦 旅人木
蝋涙やたたかふごとく彼我の咳 楠本憲吉
行く人の咳こぼしつゝ遠ざかる 高浜虚子
補聴器を飛ばしてしまふ咳の人 田川飛旅子 『使徒の眼』
言の葉のちりぢり祖母の咳きに咳く 橋本榮治 麦生
詩は無償胸絞り揺る咳も久し 香西照雄 対話
誰からとなく咳したり萩昏む 目迫秩父
誰か一咳きわがゆく闇の奥をゆく 篠原梵 雨
誰か咳きわがゆく闇の奥をゆく 篠原梵
誰か咳き冷たく重く動く機械 榎本冬一郎 眼光
誰彼の咳に散りしく花うばら 横山房子
讃美歌の余韻咳なほ堪へてをり 津田清子 礼 拝
貝剥女母より老いぬ地に咳きて 伊東宏晃
起きざまに咳いて落葉の匂ひかな 鳥居美智子
起きてゐる咳や深雪となりにけり 石橋秀野
起き出でて咳をする子や寒雀 中村汀女
身のうちを抜け切るものや咳地獄 及川貞
運慶の仁玉の舌の如く咳く 野見山朱鳥
道に売る咳止め飴や初大師 中 火臣
遠ざかる咳に師走の夜深く 『定本石橋秀野句文集』
遠蛙やがて男の咳きこゆ 飯田龍太
野の涯のこゑなき夜火事見つつ咳く 馬場移公子
金柑は咳の妙薬とて甘く 川端茅舎
銭湯の鏡の前に咳込めり 田川飛旅子 花文字
鍋の牡蠣吊りあやまちしより咳くも 中戸川朝人 残心
間みじかの胸灼く咳を憎み咳く 篠原梵 雨
障子の影が一人の咳する 住宅顕信 未完成
雨ふればくらしも冷えて妻が咳する 栗林一石路
雪屋根の眉に迫れり咳をのむ 臼田亞浪 定本亜浪句集
雪泥の港明るし荷馬の咳 西村公鳳
電話口咳して兄の出てきたり 星野立子
静臥時の咳ひとつなし山桜 塩尻青笳
靴音に咳で応へて灯しけり 板橋美智代
須彌壇に水洟のひと咳のひと 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
風邪の咳のなみだのみにてあらざりし 森川暁水 淀
風邪の母咳きつゝ炊ぎ在しけり 清原枴童 枴童句集
風邪二日咳次ぎかめる洟一斗 石塚友二 光塵
餅花の燦爛として咳きにけり 細川加賀 生身魂
馬の咳気にかけながら俵編む 北川蝶児
高値蟹糶るへぶつぶつ咳の婆 石川桂郎 高蘆
魚餌磨る媼しはぶけば鶏も咳く 宮武寒々 朱卓
鳥雲に砂利採りの咳遠きこゆ 稚魚
鴉の咳ごとに嬰児の首洗う 赤尾兜子
鴬がぎよつとするぞよ咳ばらひ 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
鵜の乱舞見て来て咳の募りけり 大島民郎
鶏をりをり咳く鬼灯の月夜かな 宮武寒々 朱卓
鶴咳きに咳く白雲にとりすがり 日野草城
黒板をしばし離れて咳こめる 藺草慶子
黒髪町もめんのごとき咳ばらい 城門次人
黙読に胸押せば咳く夜寒かな 富田木歩
ぎっくり腰咳く図は曽呂利新左衛門  高澤良一  寒暑
内科B外来咳を持ち込んで  高澤良一  石鏡
えらさうに聞こゆる咳が出てしまふ  高澤良一  暮津
日本晴れ咳の一つもしたくなり  高澤良一  暮津

以上
by 575fudemakase | 2014-12-04 00:24 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)
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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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