一つ火

一つ火

 《神奈川県藤沢市の遊行寺で、十一月十八日~二十八日まで行われる勤行で、別時とは長時の対話で、特別の時期に念仏行を修する意味。十八日より毎朝勤行を行い、二十四日より別時念仏修行、二十七日には、一山の灯火を消し、火打ち石による採火が行われる。これが「遊行の一つ火」である》(『角川俳句大歳時記(冬)』より)

一遍の遊行を今に伝える時宗のこの行事について、栗田勇は『一遍上人 旅の思索者』で、次のようにその「一つ火」の厳粛さを述べている。

《浄土の灯、大光灯をつける報土役も、宙空の灯をうつ後灯役も、二度の打ち火は許されず、ただひと打ちで失敗した場合は、編笠一つを餞別に、即刻、退山を命じられたという。そのため、打ち火のまえに予め最後の暇の十念を受けるため、小書院に退くのである。山中や田野で、一団から放逐されることが、直ちに死を意味したことは想像に難くない。一つ火には必死の想いがこめられている》(栗田勇 『一遍上人 旅の思索者』より)


例句を挙げる。
 
 
まひあがりたる一つ火は恋蛍 原裕 正午
一つ火のしめしたる香の通りをり 中戸川朝人 尋声
一つ火の一会と思ふ小豆粥 北澤瑞史
一つ火の僧座尼座の燿へる 山西雅子
一つ火の再びの火の冴ゆるかな 西村和子 窓
一つ火の宙に座れる寒さかな 原裕 正午
一つ火の念佛までの残る虫 中戸川朝人 星辰
一つ火の息災なりしあづき粥 原裕
一つ火の息災なりし小豆粥 原 裕
一つ火の果ててまたたく海の星 原田しずえ
一つ火の無明の刻のしじまかな 西村和子 窓
一つ火の照らす父母なき膝頭 岩淵喜代子 朝の椅子
一つ火の用意のともし丈揃ふ 西村和子 窓
一つ火の闇の重さにしはぶけり 津野美都江 『ひなげし』
一つ火や捧ぐる燭に顔泛べ 中戸川朝人 星辰
一つ火や満堂の闇まだ醒めず 鈴木貞雄
一つ火をあつかふ袖に火色溜め 西村和子 窓
一つ火を待つ梟と息合はせ 北村仁子
一つ火を待つ百畳の冷え膝に 鈴木貞雄
一ツ火に白道濡れむばかりなり 高澤良一 ねずみのこまくら
上人と一つ火桶に初句会 原田浜人
切り火よりほとけのこゑや滅灯会 中戸川朝人 尋声
御滅灯のくらやみ動く僧の影 野崎ゆり香
御滅燈この世の果ての雪明り 沢木欣一
満堂の闇のゆらぎて一つ火生る 鈴木貞雄
滅灯会しはぶきに闇動きけり 内藤恵子
滅灯会青竹で酌む般若湯 吉川信子
滅燈会枯葉の精も加はれる 高澤良一 ねずみのこまくら
狐鳴き風呂の一つ火そそのかす 坂巻純子
甘酒に六腑の在り処滅燈会 高澤良一 ねずみのこまくら
白道の左右より咳御滅燈 高澤良一 ねずみのこまくら
蝙蝠に一つ火くらし羅生門 芥川龍之介
重ね着て一つ火の粥すすりけり 石鍋みさ代
清浄光寺、一ツ火
 綿蟲を割つて総本山に入る  高澤良一  ねずみのこまくら
わらわらと白息称名起りけり  高澤良一  ねずみのこまくら
引声念仏畳めつぽう冷ゆるかな  高澤良一  ねずみのこまくら
 
以上
by 575fudemakase | 2014-11-27 00:16 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)
トラックバックURL : http://fudemaka57.exblog.jp/tb/23367642
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

プロフィールを見る

S M T W T F S
1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30

カテゴリ

全体
春の季語
夏の季語
秋の季語
冬の季語
新年の季語
句集評など
句評など
自作
その他
ねずみのこまくら句会
未分類

以前の記事

2017年 06月
2017年 05月
2017年 04月
2017年 03月
2017年 02月
2017年 01月
2016年 11月
2016年 10月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 06月
2016年 05月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 07月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 11月
2013年 10月
2013年 09月
2013年 08月
2013年 07月
2011年 04月

フォロー中のブログ

ふらんす堂編集日記 By...

メモ帳

らくらく例句検索

インターネットの「Google」や「yahoo」の検索ボックスから、季語等を入力して数多くの例句を得られれば大変便利である。

具体的に季語“新樹”の例句を求めるには、先ず検索ボックスに“新樹”と入力する。
その後、ひらかなで“れいく”と入力する。この時、日本語変換候補に幾つかの語彙が表示されるが、その中から“575筆まか勢”を選択する。
この結果、検索ボックスには “新樹575筆まか勢”と表示される筈である。
この用語で検索すれば求めるサイトが表示される。

但し、上述の ひらかなの“れいく”と入力して“575筆まか勢”を選択する為には、事前に小細工をしておく必要がある。
即ち、ユーザーズ辞書を使って “れいく=575筆まか勢”を定義しておく必要がある。以下はその指定方法。

ユーザーズ辞書定義

▼iPadの場合
設定>一般>キーボード>ユーザーズ辞書

単語 575筆まか勢
よみ れいく

▼kindleの場合
アプリ>設定>言語とキーボード>キーボードの設定>ユーザーズ辞書

読み れいく
表記 575筆まか勢

PCの場合も同様に「ユーザーズ辞書」機能を使い、前もって定義しておく。

春の季語から現在の当季季語までは既に表示可能である。
来年の三月末(2015年3月末)までに全季語について表示可能となる。

以上

検索

タグ

最新の記事

栗 の俳句
at 2017-06-26 09:40
後評 (2017・6)
at 2017-06-19 06:23
野蒜の花 の俳句
at 2017-06-18 16:46
米搗虫 の俳句
at 2017-06-18 16:44
紅鱒 の俳句
at 2017-06-18 16:42

外部リンク

記事ランキング