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霧 補遺 その1

霧 補遺 その1

*うば堂の立て膝の*うば霧籠めに 金子兜太
*しがらみも廃車の山も霧ごめに 佐藤鬼房
「アリア」ヘダイヤル 車窓拭いても拭いても 霧 伊丹三樹彦
「考える人」の鼻にも霧しづく 阿波野青畝
あかつきの舷燈よごれ霧をゆく 橋本多佳子
あしたより霧雨さむくくらく降る 長谷川素逝 砲車
あしもとにからまる霧につまづきぬ 富安風生
あめつちの創めもかくや滝と霧 林翔
あめふれど霧消す丘べ桃の花 飯田蛇笏 雪峡
ありかとて妻も子も山の霧の中わたしも行く 荻原井泉水
あれなる霧の中に白きは何にて候ぞ 正岡子規 霧
いくたびも霧湿原のうぐひすよ 佐藤鬼房
いただきに夕霧こめし温泉山かな 飯田蛇笏 旅ゆく諷詠
いただきを雲霧過ぎゆく修羅の木々 山口誓子
いつの間に舟やそろひし霧晴れて 正岡子規 霧
いぶかしむ音の即ち霧走る 石田勝彦 秋興以後
いま晴れねば一と日霧いろ烏頭 岡本眸
うぐいす此のとき霧より天地闢けゆく 荻原井泉水
うしろより霧を噴きゐる登山小屋 深見けん二
うすうすと雪渓らしも霧の中 清崎敏郎
うす霧に日あたる土の木の実かな 飯田蛇笏 山廬集
うす霧に日当る土の木の実かな 飯田蛇笏 霊芝
うす霧に苑の朝凪ぎ年惜しむ 飯田蛇笏 雪峡
うす~と松虫草を過ぐる霧 清崎敏郎
うたた寝の霧の閉ざせば閉ざすまま 大野林火 方円集 昭和五十一年
うつぼ草父子の間を霧ながる 能村登四郎
おのおのに唇影濃霧の灯の一室 金子兜太
おんおんと夜の霧とぶ行者塚 鷲谷七菜子 花寂び
お花畑花も霧中の神がくし 平畑静塔
お釜覆ふ不死男の霧と思ひけり 佐藤鬼房
かけ橋や霧の底より水の音 正岡子規 霧
かけ橋や霧の底行く水の音 正岡子規 霧
かたき地が霧で滑るよ一茶の地 中村草田男
かたまりて通る霧あり霧の中 高野素十
かつがれて濃霧のなかへ消えてゆく 長谷川素逝 砲車
かなかなや漂ひ越えに霧の伊賀 鷲谷七菜子 花寂び
かみきり虫踏みしか霧の匂へるは 加藤秋邨
かりがねに夜霧をながす嶺幾重 飯田龍太
ききと過ぐ鳥影霧の彩となり 佐藤鬼房
きまって霧 きまってジャイナの鐘鳴る朝 伊丹三樹彦
きんぽうげ川波霧を押しひらく 飯田龍太
くさび打つ音の高さよ霧の中 正岡子規 霧
くちびるにほつれ髪霧涼しといふ 阿波野青畝
くちびるに夜霧を吸へりあまかりき 三橋鷹女
ぐんぐんと霧の降りくる牛の列 石田勝彦 秋興以後
こき行きて霧にものるや渡し舟 正岡子規 霧
こき行けは霧にうきけり渡し舟 正岡子規 霧
この庭の霧すさまじき紅葉かな 松本たかし
この谷にいつも霧あり蘭の秋 日野草城
こまくさの華鬘をこぼれ霧雫 山口青邨
こめてきし霧の動いてをりにけり 清崎敏郎
こめてくる霧のはやさの庭園燈 清崎敏郎
これよりのくれなゐ秘めし霧の山 桂信子 草影
これよりの霧の日々スザノ町 高野素十
さくら千本飯綱山の霧吹きながし 松村蒼石 雁
さやうなら霧の彼方も深き霧 三橋鷹女
さゆらぎもなく杉の梢霧まとひ 山口青邨
さるをがせ女は霧に飛ぶごとし 古舘曹人 砂の音
さるをがせ雫せるのみ霧襖 福田蓼汀 山火
しはぶきの霧にひびかひ杣居たる 木村蕪城 一位
しばらくは月をとぼその夜霧かな 飯田蛇笏 山廬集
しぶきとぶ霧の檜原となりにけり 阿波野青畝
すぐ傍の大樹うするる霧の子に 香西照雄
すさぶ霧天に白銀の日を駐む 相馬遷子 山国
すでに霧の山上ホテル化の繁茂 金子兜太
せゝらぎや石見えそめて霧はるゝ 高野素十
そこここにあそべる蝶も霧に馴れ 阿波野青畝
そよそよとすゝき動くや晴るゝ霧 正岡子規 薄
ちち病むにゆかりなき人夜霧に現る 野澤節子 未明音
ちゝはゝよ緑の霧に穂の垂るゝ 高屋窓秋
つばらなる牛見てをれば霧湧かぬ 水原秋櫻子 岩礁
でかんしよの篠山夜霧猪を食ふ 大野林火 月魄集 昭和五十四年
とある喫茶に顔が燃えてる霧の言葉 金子兜太
とある家霧の晩食に談笑す 山口誓子
ところところ竹藪青し霧の中 正岡子規 霧
とどこほる霧がやうやく飛び始め 清崎敏郎
とどこほる霧のにはかに飛びはじむ 清崎敏郎
とめどなき崩落のぞく霧の谷 野澤節子 八朶集以後
ともし火や霧に竝ひし村百戸 正岡子規 霧
どこかに獣の悲鳴狭霧の繭籠 金子兜太
どこまでも霧濃き家庭教師の夜 有馬朗人 母国
どを下ろす音ひそかなり霧の夜は 加藤秋邨
ながれこむ霧に藁屋の戸を下す 上村占魚 鮎
なつかしやうするゝ霧に星一つ 日野草城
なべて霧天上の月孤なりけり 福田蓼汀 山火
なほ高き雪渓が霧のひまに見ゆ 水原秋櫻子 秋苑
にんげんの焚く火かくさず霧の中 赤尾兜子 蛇
ねむからぬ生血霧濃き二十四時 能村登四郎
のんのんと馬が魔羅振る霧の中 加藤秋邨
はい松を馳せくだる霧の瀬を見たり 水原秋櫻子 秋苑
はぐれたるはかなき霧にまつはられ 平畑静塔
はじめ火があり川霧のわが場末 佐藤鬼房
はれてゆく霧とゞこほるところかな 清崎敏郎
ひぐらしに峡の朝雲霧がくり 飯田龍太
ひしひしと巌そびゆ霧の退くかぎり 相馬遷子 山国
ひとの子を濃霧にかへす吾亦紅 橋本多佳子
ひねもすの霧に落葉の音もなし 清崎敏郎
ひや~としばらく霧の樅さくら 渡邊水巴 富士
ふきおこす湖の霧這ひわたりたる 阿波野青畝
ふた廻り半の細帯霧の宿 桂信子 花影
ふみ迷ひしやみよし野の山霧に 稲畑汀子
ふりかへる大きな眼霧が降り 加藤秋邨
ふりむかず霧にまぎれてゆきしひと 桂信子「草影」以後
ふり返るひと怖しき霧のなか 桂信子 花影
ほととぎす野は消毒の噴霧煙 木村蕪城 寒泉
ほとゝぎす明治のサイロ霧に寂び 相馬遷子 山国
まつしぐら花野は霧にもどりけり 中村汀女
まなかひに来れる霧に小さき子よ 中村汀女
みづから霧湧き阿禰陀嶺天がくる 橋本多佳子
みづひきのほのかに硬し霧のなか 岡本眸
むささびや夜霧吹き入る手打蕎麦 水原秋櫻子 旅愁
むらさきふかめ葡萄みづから霧まとふ 野澤節子 未明音
むんむんと子の香を率ゐ霧の教師 橋本多佳子
めざむるや深き中世の霧の中 有馬朗人 知命
もう一軒山に宿あり狭霧に燈 及川貞 夕焼
ももとせを経し風流ぞ霧の家 水原秋櫻子 緑雲
やぶさめや峠を左右に越ゆる霧 水原秋櫻子 重陽
ややながき手紙や崖をくだる霧 加藤秋邨
ゆつくりと霧が近づく婚衣裳 鷲谷七菜子 花寂び
ゆつくりと霧の流るる鮎の竿 石田勝彦 秋興以後
よその子の歩める霧に立ちどまる 石川桂郎 含羞
わがこだま霧に濡るるも厭うなり 橋閒石 卯
わがまつげ霧にまばたき海燕 橋本多佳子
わが登山蔵王の霧をひたに吸ふ 高浜年尾
わが胸を通りてゆけり霧の舟 渡邊白泉
わが魂のごとくに急ぎ谷の霧 鷹羽狩行
われを消す地獄の煙天降る霧 山口青邨
をだまきの霧うすうすとまとひたる 木村蕪城 一位
アンシエータ街道今も霧の中 高野素十
オホーツクの霧歯舞消し色丹消す 津田清子
カチューシャ被りの牧婦霧しぐれ 阿波野青畝
カルタの灯乳霧窗になごむ夜を 飯田蛇笏 雪峡
カーテンの模様紅バラ霧が押す 山口青邨
キヤベツ畑霧に匂へり黒つぐみ 水原秋櫻子 蘆雁
ケーキに薔薇霧のちまたに老人殖え 三橋鷹女
コスモスに宗祗の霧のいたるかな 平井照敏 猫町
コスモスや明治大正狭霧こめ 三橋鷹女
ゴンドラの 何の頓挫か いっさい霧 伊丹三樹彦
ゴンドラの 来し方行方の 索断つ霧 伊丹三樹彦
シグナルの犇きし音霧の中 山口誓子
ジプシー女の乞う手 現われ テルミナ 霧 伊丹三樹彦
スープ音立てて吸ふ濃霧の地下 橋閒石 無刻
タ霧や纜を草にむすんでゐる 大野林火 海門 昭和七年以前
トンネルを出て霧深しすぐトンネル 右城暮石 句集外 昭和三十六年
ナマステ ナマステ 霧の裏戸を叩くは誰 伊丹三樹彦
バーベキュー興ざめてきし霧しぐれ 阿波野青畝
パンタグラフに焼かれそう霧の修理工 金子兜太
ヒマラヤ杉霧が隠せばフォーク重し 橋閒石 風景
プ口ペラの回る残像霧の航 山口誓子
ホテル出る白頭ひとつ霧の海 金子兜太
マール湖は神の隠子狭霧立つ 佐藤鬼房
ミサのベル霧すみやかにすみやかに 阿波野青畝
モジといふ町は霧尚深しとか 高野素十
モーター鳴る一劃明るく夜霧の冷え 古沢太穂 古沢太穂句集
ユトリロを観に来て霧の眼鏡橋 橋閒石
ユトリ口を観に来て霧の眼鏡橋 橋閒石 無刻
ランプ売るひとつランプを霧にともし 安住敦
リラ白く霧もサイロもまた白し 水原秋櫻子 晩華
レース工場跡の夜霧の濃き流れ 松崎鉄之介
一ちゅうの霧立昇る十三夜 川端茅舎
一とわたり霧たち消ゆる山路かな 飯田蛇笏 山廬集
一の壁晴れむと霧をさわがせり 能村登四郎
一切があるなり霧に距てられ 津田清子 礼拝
一切を霧となしゆく出窓かな 阿波野青畝
一堡より指呼の一堡を霧が消す 清崎敏郎
一日霧舞童もオリオンも見えず 金子兜太
一本のマツチをすれば湖は霧 富澤赤黄男
一本の道どこまでも霧月夜 大野林火 月魄集 昭和五十六年
一瞬に妻を失ふ霧隔て 山口青邨
一舟を行かせ 一湖に霧の朝日 伊丹三樹彦
一草の微なき岩原霧荒し 富安風生
一通の手紙を霧の日に読みし 高野素十
三つ立たす霧の祠のしづくせり 水原秋櫻子 秋苑
三日月のうするるは霧のためなるや 富安風生
三角標霧に朽ちたり飛騨の霧に 水原秋櫻子 秋苑
三角標霧立ちのぼり渦巻けり 水原秋櫻子 秋苑
上宮は時じく霧ぞむら紅葉 杉田久女
中天に竝ぶ岩あり霧の奥 正岡子規 霧
中嶽の雪を踏む間も霧せまる 松村蒼石 雁
中野天神前夜霧に咽び帰りしこと 大野林火 方円集 昭和四十八年
乗鞍の諸嶽ずつぷり霧浸し 山口誓子
乗鞍は凡そ七嶽霧月夜 松本たかし
乗鞍を踏まへ立てれど霧深し 松本たかし
九十九里の霧に下りいてつばくらめ 古沢太穂 古沢太穂句集
乳ぜり子に夜霧小家を裹みつつ 岸田稚魚 負け犬
乳牛の四肢動かして霧の中 右城暮石 句集外 昭和五十八年
二の酉や夜浅き霧にむせながら 臼田亜浪 旅人 抄
二十日鼠が脳齧る横断歩道の霧 橋閒石 風景
五の池の五眼霧来て盲ひたり 松本たかし
井戸ばたに灯をさしかゝげ夜の霧 右城暮石 句集外 昭和九年
人を見ず忍坂に霧込むるのみ 松崎鉄之介
人参や寺もたぬ僧霧のなか 金子兜太
人影に蚕飼の疲れ霧の家 金子兜太
人待つや坂は湯町の霧月夜 上田五千石『天路』補遺
人恋へば野は霧雨の赤まんま 三橋鷹女
人見知りする鯉のゐて霧の中 右城暮石 天水
今し藁家青ダイダイを霧が吹き 古沢太穂 捲かるる鴎
仙石の高原暮るゝ霧の音 石塚友二 光塵
仮睡覚め霧か日暮か音もなし 福田蓼汀 秋風挽歌
伊達の駅霧かかる中うち過ぎぬ 山口青邨
伐株のおもて傾く深山霧 富安風生
何もかも霧奪はむとしてをりぬ 後藤比奈夫
何鳥や啼く音に杉の霧はやみ 飯田蛇笏 旅ゆく諷詠
俯ぶせの霧夜の遊行青ざめて 金子兜太
倉床に塵紙敷いて霧に憩ふ 中村草田男
借りて着る霧のコートが賞められて 後藤比奈夫
偃松に音たて過ぐる霧荒く 福田蓼汀 山火
停電のゴンドラに坐す霧の宙 右城暮石 句集外 昭和四十八年
偽聖者尿る夜霧のバーの裏 小林康治 玄霜
傷兵にある駅は鵙あるひは霧 加藤秋邨
僧たちのほかなにもかも霧傷み 後藤比奈夫
僧院のそびえや霧はしまくとも 中村汀女
先陣は霧に中陣後陣哉 正岡子規 霧
光る灯と獣毛に霧ふかき夜 飯田龍太
児の忌の兄来るごとく霧降るよ 岡本眸
兜虫霧を押しゆく日の力 雪華 大野林火 昭和三十五年
八ケ岳攫ひて多感なりし霧 後藤比奈夫
八月や霧吹いて彫る墓の文字 星野麥丘人 2004年
六月の霧ちぎれとぶ湯殿山 亭午 星野麥丘人
写真にもはつきり堂の霧いたみ 後藤比奈夫
処女峯といふべき登攀霧をふむ 飯田蛇笏 椿花集
凶年や霧に傘さし神父来る 飴山實 おりいぶ
列車追ふ霧あり山は迫りたる 右城暮石 句集外 昭和十五年
初蝶を見し夜山霧水に浮く 松村蒼石 雁
初鴨や穂高の霧に池移り 水原秋櫻子 玄魚
別れたる女のにほひふと霧に 安住敦
別れ蚊帳霧じめりして干されけり 飯田蛇笏 白嶽
前山を霧が消しをり唐辛子 森澄雄
前檣燈霧に暈しぬ燈はかくれ 山口誓子
動きそめし谷の朝霧ほとゝぎす 上村占魚 鮎
匂ひなき霧立ち罩めて海かくす 右城暮石 声と声
北海の霧の中にて神隠し 山口誓子
北海や日蝕見えず晝の霧 正岡子規 霧
北辺の霧流木はわが墓標 津田清子
区民葬霧とざす街無言なり 松崎鉄之介
十三夜隴まつすぐに霧の這ふ 川端茅舎
十三夜霧降りつのるばかりなり 木村蕪城 一位
十里木の遅出日輪霧煤け 上田五千石『琥珀』補遺
午も過ぎ霧の日輪かたちなし 山口誓子
南蛮の酒のつめたき夜霧かな 日野草城
厚朴の実に雨やむ霧か朝雲か 飯田蛇笏 雪峡
厚朴蝕し苑囿の霧たちのぼる 飯田蛇笏 霊芝
参籠の一と日の霧にとまどひて 後藤比奈夫
又しても家路まどへる夜霧かな 松本たかし
友な死にそと書きて投函夜霧の中 松崎鉄之介
双耳峰霧そだて霧放つなり 藤田湘子 神楽
双頭の嶽その間を霧通る 山口誓子
受験日の霧雨かかる檻の鳥 飯田龍太
受験日の霧雨かかる襤の鶴 飯田龍太
叡山の霧の小みちの椿堂 雨滴集 星野麥丘人
口で霧遣れば甘えて籠蛍 岡本眸
古庭の蕣さきぬ霧の中 正岡子規 朝顔
号外屋酔へり運河に霧ながれ 西東三鬼
名にし負ふ霧の釧路の夜寒の灯 石塚友二 磊[カイ]集
向う嶺の霧よりさびし山の粟 古沢太穂 古沢太穂句集
君が持ちものこの山林この濃霧 山口誓子
君逝きて河原あぢさゐ霧まかせ 岡本眸
吹きあぐる渓の奈落の霧涼し 福田蓼汀 秋風挽歌
吹きおろす霧やもつるゝ牛の角 正岡子規 霧
吹キ下ス妙義ノ霧ヤ葡萄園 正岡子規 葡萄
吾亦紅はづみて霧のしづまらず 阿波野青畝
吾亦紅折らましものを霧こばむ 阿波野青畝
吾子よ積め浄土霧界の弟の塔 能村登四郎
命惜しむ霧に紛れし昼寝覚 金子兜太
和魂(にきたま)の霧高階の窓窓に 金子兜太
唐松も這ヘりはげしく霧とんで 山口青邨
喇叭吹けば霧晴れて朝の星一つ 正岡子規 霧
噴水のましろにのぼる夜霧かな 中村汀女
噴煙や歩して夜霧にぬるゝまゝ 及川貞 榧の實
四十五度六分や雨も霧散かな 松崎鉄之介
園生より霧たちのぼる一葉かな 飯田蛇笏 山廬集
土用の日巻きこめし霧の匂かな 渡邊水巴 白日
土這うて夕霧よせ来道交叉 星野立子
在るものの霧に消えゆく烏頭 古舘曹人 樹下石上
地上三尺霧とぶ笠や麦を蒔く 飯田蛇笏 山廬集
地主から声掛く霧を来る者へ 山口誓子
地芝居の衣は金の縫い霧の宿 古沢太穂 捲かるる鴎
地蔵並び給ふ霧雨ふりてはやみ 尾崎放哉 須磨寺時代
堂内の明暗霧の去来かな 稲畑汀子
堂塔の霧深き夜の佛たち 松本たかし
塔一ツ霧より上に晴れにけり 正岡子規 霧
塩田は絣の如し霧のひま 阿波野青畝
墓地の霧はげしくつかふ父方や 飯島晴子
墓霧に懶かりける手足かな 飯島晴子
壁画古り浄土曼荼羅霧のごと 野見山朱鳥 天馬
声なくとぶ一鳥二鳥霧の中 山口青邨
壺の國信濃を霧のあふれ出づ 平畑静塔
夕弥撒へどの径とるも雨と霧 岡本眸
夕張岳霧とんでをり籐椅子に 山口青邨
夕紅葉霧来てしばしあそぶかな 安住敦
夕霧か今様農薬煙れるか 山口誓子
夕霧にとんで白蛾の大いさよ 大野林火 潺潺集 昭和四十二年
夕霧にホテル厨房燈をともす 飯田蛇笏 山響集
夕霧に冷えてかたまり農一家 西東三鬼
夕霧に香のありと又音ありと 星野立子
夕霧のひかるむしろや芝居小屋 正岡子規 霧
夕霧の嶺に泛ぶ湖面標識よ 能村登四郎
夕霧の木槿の花は消なんとす 臼田亜浪 旅人 抄
夕霧の疾風のごとしちんぐるま 阿波野青畝
夕霧の簪ゆらぐ初芝居(大阪、国立文楽劇場にて) 細見綾子
夕霧やうす星いでて笠庇 飯田蛇笏 山廬集
夕霧や吾と吾子と佇つ濡れそぼち 小林康治 四季貧窮
夕霧や家路に馬のおとなしき 西島麦南 人音
夕霧や展墓の袖の草じらみ 西島麦南 人音
夕霧より伊左さま參る師走哉 正岡子規 師走
夕霧を来る人遠きほど親し 野澤節子 未明音
夕顔や藪が霧生む奥会津 大野林火 方円集 昭和四十九年
外は霧昇降機落ちなば何掴まむ 岡本眸
外燈に霧あそばせて谷戸早寝 大野林火 白幡南町 昭和二十九年
夜々の霧還りしひとにまた尋ね 大野林火 早桃 太白集
夜が明ける濃霧乗鞍依然として 山口誓子
夜の秋障子打つ霧知りてをり 大野林火 方円集 昭和五十三年
夜の荘霧をまとひて友入り来 相馬遷子 山国
夜の逢ひのかなしさ霧が眸に沁みる 安住敦
夜の霧かなしみにまでおしよせ来(義弟細見修三逝く) 細見綾子
夜の霧に溝を流るる水絶えず 桂信子 月光抄
夜の霧や団欒もとのごとくにて 山口誓子
夜は霧にとりまかれなむ城孤つ 桂信子 草影
夜も朝も霧のなかりし高野山 右城暮石 句集外 昭和三十七年
夜学生次々煙霧に没す眠るべく 伊丹三樹彦
夜神楽の明けての霧に 落幣(おちしで)踏む 伊丹三樹彦
夜雨晴れて霧濃きあした出湯熱し 上村占魚
夜霧 朝霧 きまってのラッシー飲む 伊丹三樹彦
夜霧あり驛手が持てる燈をぬらす 三橋敏雄
夜霧こめて赤き灯見ゆる廓哉 正岡子規 霧
夜霧さむし海豹などは灯なく寝む 藤田湘子
夜霧たつ服(まつ)ろひし祖の深傷に 佐藤鬼房
夜霧とぶ甲虫のつばさ響きけり 水原秋櫻子 残鐘
夜霧とも木犀の香の行方とも 中村汀女
夜霧の車窓デモ解散後の誰も映り 金子兜太
夜霧の辻楽器屋できて音ぬらす 能村登四郎
夜霧ふる塔下なるらし鹿鳴くは 水原秋櫻子 蓬壺
夜霧より娘の兄と名乗り出づ 飯田龍太
夜霧濃く戦死兵ありこの町に 三橋鷹女
夜霧濃しロートレックの悲しみに 有馬朗人 立志
夜霧濃し厚き母の掌に手をおけり 桂信子 月光抄
夜霧罩め兵馬の臭ひとある辻に 伊丹三樹彦
夜霧耀りカットグラスはひとみの色 三橋鷹女
夢がちに明けて湖霧さわぐなり 臼田亜郎 定本亜浪句集
大いなる幹のうしろの霧の海 富安風生
大いなる肢璃と思へず霧の海 阿波野青畝
大円の虹を霧中に仰ぎたり 平井照敏
大台の悪獣霧の石に封ず 右城暮石 句集外 昭和三十八年
大台の霧伝説も霧の獣 右城暮石 句集外 昭和四十年
大台の霧時化波のごとく来る 阿波野青畝
大山天霧う豊葦原の瑞穂日の照り 荻原井泉水
大栂や霧のひと夜を寝ぶとりて 岡井省二 明野
大樹林赤屋根さむく霧罩めぬ 飯田蛇笏 山響集
大汝眉に迫りて霧はやて 角川源義
大理石寒夜の霧が来て曇る 加藤秋邨
大納言乾して吉野の霧寒し 阿波野青畝
大蕗の青ひしひしと霧のひま 加藤秋邨
大都とは霧たちのぼり十三夜 原石鼎 花影以後
大霧のうごける岩は手力雄 阿波野青畝
大霧の霽れかかるより小鳥狩 松本たかし
大霧はるる百万石の城下哉 尾崎放哉 大学時代
大鴉小鴉霧の磧草 飯田龍太
天ちかきねむりの深さ霧つゝむ 能村登四郎
天の霧のぼる安河しづまらず 阿波野青畝
天秤棒ぎしぎし鳴るは 霧の下船 伊丹三樹彦
天霧らひ男峰は立てり望の夜を 水原秋櫻子 葛飾
天霧らふ山たたなはり蕨萌ゆ 村山故郷
天霧らふ望のひかりは空にのみ 高屋窓秋
天龍に沿うて霧たつ盆地の夜 松本たかし
太虚より霧くらげこそつつがなし 岡井省二 大日
夫ねむり霧はひそかに河を流れ 桂信子 月光抄
夫留守の霧月夜なり何為さむ 岡本眸
夾竹桃砂浜は霧賑はへり 廣瀬直人
奈落からのぼる夜霧に眉濡らし 伊丹三樹彦
奥穂より霧降り圏谷の紅葉消す 福田蓼汀 秋風挽歌
女消えゆくうしろ渦巻く霧黒し 赤尾兜子 蛇
女郎花霧に咲き男郎花霧を抽き 水原秋櫻子 蘆雁
妖しくも霧ぞ動ける夜明前 水原秋櫻子 残鐘
嫗あり霧の憶良をひたに恋ひ 佐藤鬼房
子がために吾が積みし塔も霧の涯 能村登四郎
子の寝息明日へ一気なり霧の音 能村登四郎
子の船をいつまで沖の霧がつゝむ 及川貞 榧の實
子へ急ぐ霧の中より風呂焚く火 飴山實 おりいぶ
子守唄きこえくるなり夜の霧に 三橋鷹
学問に霧一粒の曇る悲しさ 赤尾兜子 蛇
学生の家籠りがたく夜霧を来 加藤秋邨
学童の走る声して霧まみれ 右城暮石 散歩圏
安房の海や霧に灯ともす漁船 正岡子規 霧
宵散歩懐中燈に霧たかる 山口誓子
宿ありて夜霧博多の町帰る 橋本多佳子
宿院の朝霧の中滝遠音 高浜年尾
寄生木の実は霧の精 聖歌季節 伊丹三樹彦
富士の霧圧倒し来る月見草 富安風生
寒夜さめふと枕灯に霧の笛 赤尾兜子 稚年記
寺あり村ある 霧らうも霽れるも 尖塔から 伊丹三樹彦
封切れば句集や霧の重さ以て 下村槐太 天涯
小原女の歸り路霧になりにけり 正岡子規 霧
小康その笑み霧こまやかに鶴見川 古沢太穂 火雲
小田原の霧や川崎長太郎 石塚友二 曠日
小男が法螺貝を吹く 霧が晴れる 伊丹三樹彦
小角生え来さう霧ごめ梨の花 佐藤鬼房
少女病みつゞけ丹波の霧深し 右城暮石 句集外 昭和二十四年
尾を見せて狐没しぬ霧月夜 橋本多佳子
尾根を越す霧に南面萌えいでぬ 大野林火 潺潺集 昭和四十三年
尾根を越す霧は奔流 竜舌蘭 伊丹三樹彦
尾瀬の霧蜻蛉が面を打つことあり 加藤秋邨
屋の棟や草にからまる朝の霧 正岡子規 霧
屋上の朽ちし飛行機に霧ながれ 西東三鬼
山々や霧吹きおろす奈良の町 正岡子規 霧
山こむる霧の底ひの猫の恋 中村汀女
山と山つなぐ乳白色の霧 右城暮石 句集外 昭和四十二年
山の日の霧に捲かるる朝寒き 臼田亜浪 旅人 抄
山の日は月より淡し霧紅葉 福田蓼汀 秋風挽歌
山の湯に霧しづみくる青葉冷え 鷲谷七菜子 花寂び
山の童の霧がくれする秋の滝 飯田蛇笏 霊芝
山の霧けものら柵に沿ひて逃ぐ 津田清子
山の霧ふけて寐ぬるも男ばかり 橋閒石 朱明
山の霧ふけて寝ぬるも男ばかり 橋閒石
山の霧罩めたる柿の雫かな 飯田蛇笏 山廬集
山の音とも霧走る音かとも 稲畑汀子
山や霧降る樹々の秋に似て 臼田亜郎 定本亜浪句集
山上の霧に夜明けて黄なる糞 右城暮石 声と声
山上湖かかるともなく霧かかり 清崎敏郎
山中の大きな霧の宿灯る 松本たかし
山中の炊煙霧が濃くて失す 及川貞 夕焼
山中の鉄路を霧の越えわたる 山口誓子
山住みの君夕霧をまとひ来る 佐藤鬼房
山国の夜霧に劇場出て眠し 渡邊水巴 白日
山坊は時々刻々に霧に朽つ 山口誓子
山塊の荒息と霧押し昇る 林翔 和紙
山姥の曉ヶ霧ふかく咲きにけり 飯田蛇笏 白嶽
山宿の灯をうるませて霧深し 稲畑汀子
山小屋の庇かたむき霧とべり 上村占魚 球磨
山小屋は霧を入らしめ締まりせず 山口誓子
山底の霧切れ切れになり残る 右城暮石 散歩圏
山彦にさからひやまず霧の鵙 西島麦南 人音
山本や日のさす霧を出る鴉 正岡子規 霧
山桜伐られ霧中へ捨てられる 金子兜太
山樫に朝霧かゝる峠かな 正岡子規 霧
山河消え日輪ひそむ霧夕焼 福田蓼汀 秋風挽歌
山畑に霧一沫の良夜かな 松本たかし




山畑や葱につまずく霧のなか 金子兜太
山百合が消えて霧より何かが見る 加藤秋邨
山稜に霧立つ巖ぞ大汝 水原秋櫻子 蓬壺
山籠り夜霧の底の月も見つ 臼田亜浪 旅人 抄
山腹に霧がにじます灯をならべ 相馬遷子 山国
山荘のどこか嶮しや霧とんで 高浜年尾
山荘の窓霧塗りに夕ながし 上田五千石『風景』補遺
山荘の霧深き夜は音なき夜 稲畑汀子
山萩に淋漓と湖の霧雫 富安風生
山葡萄いろづく霧に至佛岳 水原秋櫻子 殉教
山蜻蛉群れつつ狭霧再びす 村山故郷
山里や米つく音の霧の中 正岡子規 霧
山間の霧ににじめる花火かな 清崎敏郎
山陰や朝霧かゝる庭の竹 正岡子規 霧
山陰や霧に濡れたる村一つ 正岡子規 霧
山陰や霧吹きつけて石佛 正岡子規 霧
山雨来る早さに霧の追ひつきし 稲畑汀子
山霊をうとんずる月や霧晴るる 飯田蛇笏 山廬集
山霧にしめりて明き燈籠かな 西島麦南 人音
山霧にひとの莨火あたたかし 能村登四郎
山霧に濡れてあざみの自己主張 楠本憲吉 孤客
山霧に蛍きりきり吹かれたり 臼田亜郎 定本亜浪句集
山霧に蜻蛉いつさりし干飯かな 飯田蛇笏 山廬集
山霧のあきののげしは雫かな 飴山實 句集外
山霧のかんがり晴れし枯木かな 飯田蛇笏 山廬集
山霧のしげきしづくや真柴垣 飯田蛇笏 山廬集
山霧の切れ目を登りくる幼女 佐藤鬼房
山霧の奥も知られず鳥の聲 正岡子規 霧
山霧の往来に向けめんぱひさぐ 上田五千石『琥珀』補遺
山霧やおそき螢の窓に来る 水原秋櫻子 新樹
山霧やひんがしの方ほのぬくし 中村草田男
山霧や虫にまじりて雨蛙 飯田蛇笏 山廬集
山霧や蛾のたわめたる草の丈 藤田湘子
山霧らひ窓に雨ふり湯に籠る 山口青邨
山霧らふみやましぐれと云ふ草木 松崎鉄之介
山霧来て眼鼻張りつけわが家覗く 金子兜太
山霧透き臥龍の如し雄物川
山麓の霧ごめの燈を明うせよ 上田五千石『森林』補遺
岨ゆくや咫尺の霧にやまぼうし 富安風生
岩と岩相したしくて霧流る 右城暮石 句集外 昭和二十七年
岩と思ひて山霧がわれを攀づ 鷹羽狩行
岩に坐してさびしと眉の霧払ふ 村山故郷
岳麓の霧にじゆういちじゆういちと 阿波野青畝
峠路は霧湧くところ消ゆるところ 高浜年尾
峡も奥霧深ければ葡萄よし 山口青邨
嵐峡の狭霧はれゆく日向かな 日野草城
嶺々を伏せ霧中空を飛べりけり 富安風生
嶺に霧凝れば鷹出て翔くるなり 村山故
嶺の残雪雨ひと夜霧ひと日へぬ 松村蒼石 雁
川筋を霧這ふ夜振り戻りかな 右城暮石 句集外 大正十四年
川霧に日の出て咲ける茅花かな 村上鬼城
川霧に菖蒲一束古墳の地 飯田龍太
川霧の場末の顔を持ち歩く 佐藤鬼房
川霧の更けて及べり月の黍 日野草城
川霧やあらはれわたる牛の數 正岡子規 霧
川霧や犬通りてもゆるゝ橋 星野立子
川霧や鐘打ちならす下り舟 村上鬼城
川霧や鳥群れて飛ぶ舟の上 正岡子規 霧
川霧わく湯屋そこばかり鴉立つ 赤尾兜子 虚像
川霧を透き水を透き鮎走る 林翔
川音や萬馬肅として霧の中 正岡子規 霧
工事灯火花の毬や霧の夜 山口青邨
工場の捨て湯がぼがぼ霧の中 右城暮石 句集外 昭和三十七年
巨陽いづ茶園の霧を吸ひにけり 飯田蛇笏 霊芝
巫女市の霧大粒に湖わたる 角川源義
布の如霧もつれゆく木立かな 上野泰
帆柱や霧に淡路の嶋もなし 正岡子規 霧
帰化神父の 髯に 盆地の霧凝る粒 伊丹三樹彦
帰路の飢きざす煙霧で鈍い電車 伊丹三樹彦
常念が吐く霧さへや夕映ゆる 加藤秋邨
幻か一本杉の霧しぐれ 阿波野青畝 阿波野青畝
広告塔の楽きこえ銀座夜の霧 村山故郷
底なし沼忽と瑠璃なす深山霧 鷲谷七菜子 銃身
底霧にいよ~月の明かに 高野素十
底霧のきれ~に月明かに 高野素十
庭石にけさは霧ある山が見ゆ 右城暮石 句集外 昭和二十一年
廻廊や霧吹きめぐる嚴嶋 正岡子規 霧
引き返すほかなき村の霧晴るる 右城暮石 散歩圏
張れる帆の高低の帆の立ち霧らふ 山口誓子
待宵の更けたる霧の軒端かな 高浜年尾
後の月暁方の霧上る 右城暮石 句集外 昭和三年
後山に蝉減る霧の罩むるのみ 飯田蛇笏 椿花集
心の隙に夜霧のタクシー近寄り来 岸田稚魚 負け犬
心細し我舩遲き海の霧 正岡子規 霧
心細し我船遲き灘の霧 正岡子規 霧
忽ちに霧忽ちに霧雫 高野素十
思ひきや宇治の川霧朝戸繰り 星野立子
急ぐ霧戦車びしよぬれに音なき森 赤尾兜子 蛇
恋さまざま駅の夜霧の車寄せ 小林康治 玄霜
悉く霧の如くに去り行かん 高野素十
慈悲心鳥ひびきて鳴けば霧きたる 水原秋櫻子 古鏡
慈悲心鳥わが身も霧にかすかなり 相馬遷子 山国
慈悲心鳥翔けゆく霧に田を植うる 水原秋櫻子 殉教
慈悲心鳥霧がおもてを吹きて去る 水原秋櫻子 古鏡
慈悲心鳥霧吹きのぼり声とほき 水原秋櫻子 磐梯
我が家と思へぬほどに霧つつむ 右城暮石 一芸
我船や夜明けて霧に流れ居る 正岡子規 霧
或る夜産声霧が降つても泥(べと)運河 佐藤鬼房
戸明くるや霧に起きたる屋敷守 正岡子規 霧
戸隠の霧 蕎麦すする鼻先まで 伊丹三樹彦
戸隠の霧ぞえ 落葉松けむるぞえ 伊丹三樹彦
戸隠の霧のにほひも宜ならむ 阿波野青畝
手にすくふ熔岩礫は霧の粒 佐藤鬼房
手を洗ふ水なし駅の霧に佇つ 右城暮石 句集外 昭和二十九年
手折りても霧をまとへり女郎花 水原秋櫻子 蘆雁
手花火のこだま折折霧の宿 金子兜太
折りくれし霧の蕨のつめたさよ 高野素十
抱き上げし仔犬つめたき夜霧かな 中村苑子
押し寄せて来る霧霧を先立てて 後藤比奈夫
押ならぶ海燕さへ霧はさびし 橋本多佳子
拭ふごと脱ぐごと山の霧霽るゝ 右城暮石 句集外 昭和三十九年
拾えば山桃 弥撒のチャイムヘ狭霧の歩 伊丹三樹彦
指で描いたスプートニク飛ぶ霧の車窓 伊丹三樹彦
捨てし蛾のまた窓を打つ霧ふらし 金子兜太
掌中の手のやはらかき夜霧かな 日野草城
提灯が向ふから来る夜霧哉 尾崎放哉 大学時代
提灯が火事にとぶ也河岸の霧 尾崎放哉 大学時代
揺椅子やうしろへ揺れば霧の山 岡本眸
攀ぢがたき雪渓と見れば霧かかる 水原秋櫻子 秋苑
散木といふか粗目の霧に寝て 佐藤鬼房
散髪後霧ごしに立つ不意の墓 赤尾兜子 歳華集
数かぎりなき霧の目のつけてくる 平井照敏
数分経つ霧の学校始まりて 山口誓子
新婚車です 霧の城址にたやすく消え 伊丹三樹彦
新涼の瀧の雲霧に打たれけり 松本たかし
旅なれば早起き柘榴霧を呼ぶ 大野林火 青水輪 昭和二十三年
旅の髪洗ふや夜霧町をこめ 橋本多佳子
旅はいつしか秋めく山に霧のかかるさへ 種田山頭火 草木塔
旅籠屋や霧晴て窓に不二近し 正岡子規 霧
旅籠屋や霧晴れて窓に山近し 正岡子規 霧
旅霧らふ高み明りに朴ひらき 鷲谷七菜子 銃身
日が出れば消ゆる雲霧峰若葉 杉田久女
日に聡き水たまりあり霧木立 岡本眸
日の出見ず没日見ず山は霧月夜 福田蓼汀 秋風挽歌
日の終り晩紅霧ににほふほど 山口誓子
日の色の霧が霧追ふ行者谷 能村登四郎
日の霧の間に青空のいく柱 中村草田男
日の鵙や霧の高木に尾垂れたる 原石鼎 花影
日を蔵し由布の底霧冷ゆる朝 高浜年尾
日光キスゲとその名覚えてまた霧へ 加藤秋邨
日出でて那須野ケ原は霧の海 山口青邨
日比谷あたりの夜霧僅かにすなほなる 中村草田男
日輪に青野の霧が粗く降る 橋本多佳子
日輪の形骸霧にたかられて 山口誓子
早発ちの炉辺に吹き入る山の霧 木村蕪城 一位
明けならず霧の上を月照りわたり 及川貞 夕焼
明けのこる霧に羽うちて川鴉 飯田蛇笏 椿花集
明神岳浄めの霧を吹きおろす 水原秋櫻子 玄魚
昨夜霧に寝しひとけさは山下る 山口誓子
昨荒れし裏嶺か道志七里霧 古沢太穂 捲かるる鴎
昼の霧田の上にきて悠々たり 大野林火 海門 昭和七年以前
晝の霧傷兵の顔あまた搖れ 三橋敏雄
晩夏なる強羅の霧に巻かれけり 石塚友二 玉縄以後
暁冷いとゞ霧の花売眉秀づ 日野草城
曉の霧しづか也中禪寺 正岡子規 霧
曉や霧わけ出る鹿の角 正岡子規 鹿
更けてきし燈が山霧ににじむなり 清崎敏郎
書の上を鎖す溶暗霧の海 金子兜太
曼珠沙華霧に鮮烈飛騨に入る 野見山朱鳥 荊冠
月の如霧の太陽クワイ河 高田風人子
月の街大江の霧たちのぼる 中村汀女
月の面消えんばかりに霧迅し 原石鼎 花影
月を仰いで霧頬にあたる思ひかな 原石鼎 花影
月を待つ悉く灯に霧にじみ 及川貞 夕焼
月光の霧に電燈光卑し 西東三鬼
月光を霧が消す今愛湧き出づ 楠本憲吉 孤客
月夜霧孤立キヤンプがをのゝけり 能村登四郎
月山の霧浴びて耳重くなる 佐藤鬼房
月稚し狭霧早くも田に下りて 及川貞 榧の實
月見草別れてのちの山霧は 臼田亜郎 定本亜浪句集
月隠す峨眉山の霧吾を巻けり 金子兜太
月高し遠の稲城はうす霧らひ 杉田久女
朝の霧より牡丹の新ら蕾 原裕 青垣
朝月のなほ光りつつ飛べる霧 稲畑汀子
朝涼や遠巻きに寄す大雲霧 村山故郷
朝立や主從と見えて土手の霧 正岡子規 霧
朝立や主從と見えて霧の中 正岡子規 霧
朝霧が見ゆ山が見ゆ寝床より 右城暮石 一芸
朝霧に 一家賄う 右手 左手 伊丹三樹彦
朝霧に出でてずつとつゞいてゐる道 中川一碧樓
朝霧に土工の肩とあふばかり 伊丹三樹彦
朝霧に夜霧にむせて絣著て 三橋鷹女
朝霧に寄り添ふ牛や牧びらき 相馬遷子 山国
朝霧に日のさしてくる畦八方 大野林火 早桃 太白集
朝霧の 湧きかつ流れ 独木舟 伊丹三樹彦
朝霧のいや濃き強羅泊りかな 石塚友二 玉縄以後
朝霧のこめて酸つぱき壺湯あり 阿波野青畝
朝霧の中に九段のともし哉 正岡子規 霧
朝霧の九輪兀として鴉かな 正岡子規 霧
朝霧の凝りて蜜柑の千顔哉 尾崎放哉 大学時代
朝霧の堀割下りて鍋洗ふ(中国旅行吟) 細見綾子
朝霧の富士を尊とく見する哉 正岡子規 霧
朝霧の晴れかゝりけり塔のさき 正岡子規 霧
朝霧の晴れて山見ゆ花うつぎ(箱根) 細見綾子
朝霧の晴れぬ塔より見えそめて 正岡子規 霧
朝霧の杉にかたよるもみち哉 正岡子規 紅葉
朝霧の比枝を出て京に廣がりぬ 正岡子規 霧
朝霧の町に兵隊並びたり 尾崎放哉 大正時代
朝霧の終りの牡丹よき牡丹 山田みづえ 草譜
朝霧の虹となりゆく鎗岳生まる 角川源義
朝霧の雫するなり大師堂 正岡子規 霧
朝霧はおのころ島の姿かな 正岡子規 霧
朝霧へ消える 愛する方位もち 伊丹三樹彦
朝霧やまづ岩山の岩を仰ぐ 中村草田男
朝霧やもつれてめぐる塔の尖 正岡子規 霧
朝霧やもろこし船の何さわぐ 正岡子規 霧
朝霧や一人火を焚く普請小屋 正岡子規 霧
朝霧や咫尺山見えず蜑小船 正岡子規 霧
朝霧や四十八瀧下り船 正岡子規 霧
朝霧や團十郎の二三輪 正岡子規 霧
朝霧や夕霧や干潟湖とはなんぬ 小林康治 玄霜
朝霧や奈良阪下る小菊賣 正岡子規 菊
朝霧や女と見えてたびの笠 正岡子規 霧
朝霧や旗翻す三萬騎 正岡子規 霧
朝霧や杉の木末の園城寺 正岡子規 霧
朝霧や海を限りし伊豫の鼻 正岡子規 霧
朝霧や牛馬は四肢の上に醒む 中村草田男
朝霧や矢橋へ向ふ舟の數 正岡子規 霧
朝霧や舟かゝり居る裏戸口 正岡子規 霧
朝霧や船出払へる大埠頭 日野草城
朝霧や船頭うたふ最上川 正岡子規 霧
朝霧や起きて飯たく弟子大工 正岡子規 霧
朝霧や首ふるごとく嘶(いば)えし声 中村草田男
朝霧や馬いばひあふつゞら折 正岡子規 霧
朝霧浄土夕霧浄土葛咲ける 水原秋櫻子 晩華
朝霧飛びかう二羽のつばめの二羽にして 荻原井泉水
朝餉のもの朴の葉で煮るなお濃霧 金子兜太
朝餉前霧を満喫して戻る 百合山羽公 寒雁
朝鳥の小瑠璃鳥うたへり霧降るに 水原秋櫻子 殉教
木のごとく人佇てり夜の霧が吹き 大野林火 海門 昭和七年以前
木の奥の木をゆく霧とゐぐち茸 飯田龍太
木の鳥居木の橋を経て霧しぐれ 鷹羽狩行
木ノ芽峠雨霧赤腹湧出す 岡井省二 明野
木場の材の転がる道に霧下りて 山口誓子
木槿夕暮野犬らすでに霧の仲間 金子兜太
木走りや霧の胸突坂行けば 石塚友二 曠日
木霊ゐず霧か露かの山の鯉 岡井省二 鹿野
本郷に坂下の路地霧溜る 三橋敏
本郷に坂下の路次霧溜る 三橋敏雄
朽木いま流木となり夜の霧 桂信子 草影
杉の間の無明長夜の霧雫 大野林火 飛花集 昭和四十七年
杉千里痛めし指に霧の粒 原裕 青垣
杉山の鉾といふ鉾霧浸し 鷹羽狩行
杉山の霧の雨ふる薄羽織 日野草城
村へ帰る霧の繭掻き鉄の音 金子兜太
村も見えず竹藪青し霧の中 正岡子規 霧
杣が妻にしづくしやまぬ狭霧かな 前田普羅 飛騨紬
杣が戸に霧降りかゝる野菊かな 原石鼎 花影
杣の戸をしめきる霧の去来かな 飯田蛇笏 山廬集
来る濃霧下帯朱く絡むかな 赤尾兜子 歳華集
東京の月夜の霧に濡れて戻る 村山故郷
松虫草霧らひながらに花明り 石塚友二 光塵
松蟲草霧らひながらに花明り 石塚友二 光塵
板廂蝕ばまれをり霧去来 大野林火 潺潺集 昭和四十二年
枕抱き山みみずおもう霧くれば 金子兜太
林中にひとりならねば霧襲ふ 上田五千石『田園』補遺
林中は愛の霧ふり降りしきる 高屋窓秋
林道の崩れ場霧の明るめり 右城暮石 虻峠
枯山の残る力の霧湧けり 岡本眸
栂風も添ふ山鳴りや霧の中 臼田亜郎 定本亜浪句集
栗の花そよげば箱根天霧らし 杉田久女
桃の花に降りてやうやく霧ながる 加藤秋邨
桜門に幕打て霧の晴るゝなり 河東碧梧桐
梨の木木素足擦りつつ霧の二人 赤尾兜子 歳華集
梨をむく音のさびしく霧降れり 日野草城
梨を噛む霧に見えざる湖を前 福田蓼汀 山火
椅子に坐すものなし霧の渡し船 右城暮石 上下
椴松の霧に折れ伏す懺悔越 水原秋櫻子 玄魚
楢櫟霧呼んで普羅の忌なりけり 石田波郷
槻の根や霧にうたれて秋の蝶 西島麦南 人音
樵夫二人だまつて霧を現はるゝ 正岡子規 霧
樹を叩けば霧の雫と吾が言葉 山田みづえ 手甲
橋わたり橋わたる眉の霧じめり 橋閒石 卯
橡咲くや霧わたる音の原始林 渡邊水巴 白日
檜山の道まつすぐに霧晴れぬ 村山故郷
欄干の獅子むせびつつ霧に吼ゆ 山口青邨
歌の筑波の霧に巻かれてしばし立つ(筑波山) 細見綾子
歌はかりきりにかくれぬ筏かな 正岡子規 霧
歔欷罩めて爆音霧の夜も飛べり 藤田湘子 途上
死のちかき母おはすかな旦暮に霧 下村槐太 天涯
残り蓮一花やすでに霧がくれ 鷲谷七菜子 天鼓
毎朝の霧 毎朝のラッシー飲む 伊丹三樹彦
毒茸の独語をしづめ山の霧 三橋鷹女
気泡となりバンドの男帰る霧 藤田湘子
気配して山霧女郎現れず 鷹羽狩行
水は死へ摩周の影の霧がかる 臼田亜浪 旅人 抄
水分の神が霧ふく桜哉 正岡子規 桜
水恋鳥つらぬきすぎし霧の渦 水原秋櫻子 殉教
水掬ぶ霧の中なる灯を水に 及川貞 夕焼
水漬く稲干すもひねもす霧の中 加藤秋邨
水牛も老子の里も深き霧 有馬朗人 立志
水着つかの間朝霧休む奥部落 飯田龍太
水筒のろろんと鳴りて霧の中 福田蓼汀 山火
水音のあるばかりなる霧地獄 石塚友二 光塵
氷提げ夜霧のぬくさ訝しむ 能村登四郎
江上に月のぼりたる夜霧かな 飯田蛇笏 山廬集
汽車の胴霧抜けくれば滴りぬ 飴山實 おりいぶ
沙羅の花雲霧は末の散りやすし 鷲谷七菜子 花寂び
沛然とくもる霧間の間引小菜 赤尾兜子 玄玄
没き子への一塔霧の溶岩積まむ 能村登四郎
没き子への祷りの塔ぞ霧に積む 能村登四郎
没義道な汽車連結の音霧に 山口誓子
沢あれば霧湧き想い新たなり 金子兜太
河口未明馬車きしみくる霧の奥 飴山實 おりいぶ
沼霧にきらめくタナゴ釣りあそぶ<嘉興煙雨楼> 篠原梵 年々去来の花 中北支の四〇日
沼霧の立ちのぼるより稲架の雨 木村蕪城 一位
波一とひら霧中にありて港かな 金子兜太
波立てて霧来る湖や女郎花 水原秋櫻子 蓬壺
波際に霧晴るゝ迄佇みぬ 尾崎放哉 大学時代
泣くことのあれば饒舌の霧一夜 渡邊白泉
洗面のミルクに霧のうごきくる 石田波郷
津軽よりうす霧曳きて林檎園 飯田蛇笏 椿花集
流れ霧のみつるつるの撫で仏 加藤秋邨
流燈に下りくる霧の見ゆるかな 高野素十
流燈の遠くも去らず霧の中 高野素十
流竄の翳りぞ霧の岩庇 佐藤鬼房
浜木綿や鉛筆は減る霧の中 加藤秋邨
浪音と木を挽く音と霧の中 清崎敏郎
浮寝鳥 段々消えに 霧の奥 伊丹三樹彦
浴室に小鳥あふれて霧のホテル 金子兜太
海に吸われる紙の白さの霧の夜 金子兜太
海の霧黯澹として心太 加藤秋邨
海図ありこもれる霧に燈をともす 橋本多佳子
海楼の松薄霧に残る月 河東碧梧桐
海燕するどき尾羽も霧滴(た)りつ 橋本多佳子
海燕われも旅ゆき霧にあふ 橋本多佳子
海燕霧の停船夜となりぬ 橋本多佳子
消えかねて朝月濡るゝ霧の中 正岡子規 霧
淡き霧無月の槻をおほふらし 水原秋櫻子 玄魚
深田刈少ししかけて霧襲ふ 阿波野青畝
深霧に安んじて腹を立ててをり 加藤秋邨
混浴の霧の酸ケ湯の野ぶどうかな 金子兜太
清水の屋根あらはれぬ霧の中 正岡子規 霧
渓々へ霧しづもれり夕日落つ 福田蓼汀 山火
渓とざす霧にたゞよひ朴咲けり 相馬遷子 山国
渓に逢ふ霧の汽罐車びしよぬれに 加藤秋邨
渓の霧蒼し蜩に暮るる時 村山故郷
渓流に出て明るめり霧の天 右城暮石 上下
渦霧のまにまに淡し松虫草 山口青邨
湖とざす霧がホテルの芝を這ふ 高浜年尾
湖の霧に納涼提灯おちつかず 阿波野青畝
湖は霧逢へばうなづく馬と馬 桂信子 晩春
湖見むと目を見開くも霧の中 岡本眸
湖霧に濡れては覚めん龍の玉 飴山實
湖霧も山霧も罩むはたごかな 飯田蛇笏 山廬集
湯の香濃しや散いそぐ霧のななかまど 及川貞 夕焼
湯もどりの心許なし霧こめて 山口誓子
湯地獄のたぎるを霧の掠めけり 清崎敏郎
湯気立たすグリル 霧湧く湖畔ホテル 伊丹三樹彦
湯花小屋霧に失せ又雲に失せ 阿波野青畝
湯華掻行きて花野の霧にほふ 水原秋櫻子 餘生
滝は仏身、山は大香炉霧をたく 荻原井泉水
滝は天より地よりは霧の晴れてゆく 荻原井泉水
滝壺やとはの霧湧き霧降れり 相馬遷子 山国
滝霧の*あがりて樅のこずゑまで 飯田蛇笏 霊芝
滝飛沫忽ち霧と紛れける 林翔
漁場の友と頭ぶつけて霧夜酔う 金子兜太
漕ぎ出せしボートの霧に紛れたる 清崎敏郎
澎湃と山霧閉ざす能一夜 野澤節子 八朶集以後
濃き霧に富士の高嶺は有りて無 山口誓子
濃き霧よ枯木枯木と触れ合ひて 岸田稚魚 雁渡し
濃く淡く夜霧うごけり死を脱す 石田波郷
濃霧だから顆に光蝉を覚えるのだ 金子兜太
濃霧の奥の群青核実験場もある 金子兜太
濃霧の真昼静かな人等に湧く船影 金子兜太
濃霧晴れし玻璃に映れる信濃かな 杉田久女
濃霧言い合い 部落の朝の途上キッス 伊丹三樹彦
瀧とぶや霧にもつれて尾上より 正岡子規 霧
瀧わかれふたつに舞へり瀧の霧 水原秋櫻子 岩礁
瀧霧にほたる火沁みてながれけり 飯田蛇笏 山響集
瀧霧にまひながれゐるほたるかな 飯田蛇笏 心像
瀧霧に樅の鳴禽尾を垂りぬ 飯田蛇笏 白嶽
瀧霧に螢火沁みてながれけり 飯田蛇笏 旅ゆく諷詠
瀬しぶきにうつろふ霧や吾亦紅 飯田蛇笏 心像
瀬の音や霧に明け行く最上川 正岡子規 霧
瀬霧とは別な炊煙 夕郭公 伊丹三樹彦
火おこし好きの幼時の紀介霧の墓に 金子兜太
火の山の霧ふりかぶり登りゆく 上村占魚 球磨
火口壁まなかひに失せて霧吹けり 水原秋櫻子 古鏡
火口底に入れば涼しき霧いきれ 上田五千石『琥珀』補遺
火口湖の霧寒むければ石を積む 角川源義
灯して蘭に霧吹く二月尽 飯田龍太
灯して霧をなだめて神仕へ 岡本眸
灯ともりて夜霧の深さ見えにけり 松崎鉄之介
灯の洩るるところ霧流れ門しづか 村山故郷
灯をあび切つて霧の電柱油弾く 赤尾兜子 蛇
炉にかはき額にかたまる霧の髪 橋本多佳子
炊煙も谷霧のうち小赤沢 上田五千石『森林』補遺
炊煙より低きうごきは背戸の霧 及川貞 榧の實
炬火(まつ)照らしゆく霧原の水音かな 臼田亜浪 旅人 抄
炬火照らしゆく霧原の水音かな 臼田亜郎 定本亜浪句集
炭馬の首をふらねば霧ばかり 加藤秋邨
点けぬランプをたくさん 古道具店 川霧 伊丹三樹彦
烏森霧は止むべくして止みぬ 平畑静塔
焦げくさい霧降り拝火めく海堡 佐藤鬼房
焼岳の霧に獅子独活立ちなびく 水原秋櫻子 蓬壺
焼烏賊を食ふ霧雨に濡れながら 清崎敏郎
煉瓦館築く灯に霧 朝から日暮めき 伊丹三樹彦
煙草の火なつかしきかな霧の夜は 渡邊白泉
煙草火の大きくなりぬ霧の街 飴山實 おりいぶ
煤煙の尼崎市を霧つゝむ 右城暮石 声と声
熔岩を撃つ霧生滅の生われに 佐藤鬼房
熟れた鼻の男霧より出て欠伸 金子兜太
熟れ稲の香のそこはかと霧は濃き 定本亜浪句集
熱湯のけむるに似たり霧の鶏 阿波野青畝
燈台のともる港や霧の中 河東碧梧桐
父の墓兄の墓にも霧降れり 三橋鷹女
父の墓霧に濡れをり拭ひやる 三橋鷹女
父母とゐて障子に霧のなだるる夜 大野林火 海門 昭和七年以前
父母の前にまだ起きてあらむ霧の夜を 大野林火 青水輪 昭和二十四年
牛の群霧が置き去る阿蘇の谷 加藤秋邨
牛乳を呼ぶ夜霧の駅は軽井沢 川端茅舎
牡蠣くいてかぎりなかりし夜霧かな 赤尾兜子 蛇
牧すがし遠黒鶫霧に鳴き 水原秋櫻子 玄魚
牧といへど赤薙の嶮霧きびし 山口青邨
牧の戸に鎖一条霧しぐれ 阿波野青畝
牧の霧あざみの絮に入みにけり 阿波野青畝
物狂ふ父ぞ岩がくれ霧がくれ 中村苑子
狂気の沙汰霧の厠に沢蟹が 金子兜太
狐火やあはれに消ゆる霧の朝 正岡子規 霧
狩勝のまひるの霧の大鴉 加藤秋邨
猟銃音出て見れば田の霧ふのみ 山口誓子
猫の来て霧の夜我にも泣けといふ 加藤秋邨
猿の声霧の香寒き泊りかな 臼田亜浪 旅人 抄
獣肉の腑なきを吊るに霧籠る 山口誓子
玄奘寺暁鐘霧をゆるがしむ 阿波野青畝
玄関に鬼面をかかぐ霧の宿 山口青邨
玉砂利の踏み均されて霧しぐれ 鷹羽狩行
王妃眠る円屋根 霧に日に月に 伊丹三樹彦
珊瑚樹のことに夕霧女人講 飯田龍太
琵琶の帆に煙霧も末の四月かな 飯田蛇笏 山廬集
瑠璃鳥鳴くや飛泉こもごも霧となり 水原秋櫻子 旅愁
甘い夫妻に 霧の古城の死角 随所 伊丹三樹彦
生き死の道のり霧の小石積む 佐藤鬼房
生まれたる霧眼の前を昇りゆく 右城暮石 散歩圏
生保内の日々を霧らふにだし待たる 松崎鉄之介
田*ぐろ芋花さく丈けに霧しづく 飯田蛇笏 山響集
由布岳の霧真暗の寝酒かな 百合山羽公 樂土以後
甲板の霧を見に起き降りて寝たり 山口誓子
男傘させば激しく霧挑む 岡本眸
町古りぬ霧に物干台浮きて 岡本眸
画眉鳥の嘴のきびしさ霧に仏 金子兜太
異れる山の様見る霧晴れて 河東碧梧桐
畳屋が 口で霧吹く 梅開く 伊丹三樹彦
痩身のうしろに霧を背負(お)うてゆく 富澤赤黄男
登呂暮色へだたりし人すぐ霧らふ 松崎鉄之介
登山バスともに斎戒富士の霧 百合山羽公 樂土
登校や流るゝ霧に逆らひて 前田普羅 普羅句集
白川村夕霧すでに湖底めく 能村登四郎
白扇のさみしや霧の峰泊り 秋元不死男
白根のや焼石原の霧寒し 上村占魚 球磨
白樺に月照りつつも馬柵の霧 水原秋櫻子 葛飾
白樺の霧にひゞける華厳かな 川端茅舎
白樺の高きが囲む霧の月 水原秋櫻子 残鐘
白樺も霧に痩せるといふことを 後藤比奈夫
白樺を幽かに霧のゆく音か 水原秋櫻子 新樹
白樺山夜に入るごとく霧をゆく 松村蒼石 雪
白米をあげし宝前を霧ながる 水原秋櫻子 秋苑
白髪を霧にあらひて先に待つ 飯島晴子
白鳥ゆく時計が鳴つて旅宿も霧 金子兜太
百千鳥琵琶湖なかばは霧の中 飯田龍太
百姓のあとついて行く霧の朝 右城暮石 句集外 昭和八年

以上
by 575fudemakase | 2016-09-28 03:09 | 秋の季語


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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