カテゴリ:句集評など( 87 )

松田雄姿句集「歳月」を読んで

松田雄姿句集「歳月」を読んで

2017・2・20 ふらんす堂 第四句集

以下、共鳴句を挙げる。

抜刀隊駈けし山坂曼珠沙華
開戦日一年生が七十に
雪掻いて雪掻き道具並べ売る
流氷を見むと靴紐固く結ふ
山に鈴聞かせて秩父遍路去る
高空に富士ある暮し初幟
富士の水七日温め田を植うる
蟻走る富嶽を目指しゐるごとく
春の雪慶事の積りゆくごとく
春光や名を書いて船塗りあがる
雉撃たれ首やはらかく置かれあり
大花火昔警備に明け暮れて
赤き花赤く映して水澄めり
秋高し亀も飛びたくなってをり
白鳥来銀河を発ちて来しごとく
冬薔薇孤高の色を掲げたる
梅雨茸大地つぶやく如く生ふ
子鎌切風を掴みて飛び立てり
やんまの眼眼鏡を掛けて見たりけり
己が鵜を師として鵜匠五十年
芥掻き梁守の今日始まれり
河鹿鳴く水が余りに美しく
春の雪真珠の育つ海に降る
往き帰り見る猿の芸日の永し(浅草三社境内)
風鈴の音競はせて売りに来る
鮎を釣る川幅ほどの竿振って
振出しは雷門や初日射す(昭和二十八年浅草署へ)
初鵙や叱る勇気の湧いて来し
誤字脱字正すごと稲補植せり
遠山の暮れてゆくなり冷奴
虹を来て明日の予定告げてゆく
甚平や齢に従ひ又抗し
老いていよいよ煩悩具足着膨るる
氷面鏡他人のごとく老いてをり
千年の桜のオーラ浴びに行く
薔薇の芽にはや大輪の勢あり
半分は聞こえぬ会話夜の長し
銀杏散る楽しき明日があるやうに
絵馬に跳ね梅林へ飛び年の豆(湯島天神)
柿熟るる美濃も尾張もなく晴れて
猪鍋を囲み昭和の気概あり
八十路なほ冬芽のやうな夢育て
松の芯目指せるもののあるごとく
松原は海辺の名残り緑さす
草笛を吹き郷愁を呼び覚ます
玄奘の塔に里程図雲の峰
横綱碑見て初場所へ廻りけり
春の雪一幕ほどを舞ひて止む
青葉谿獣のごとく水勢ひ

集中、好みで言えば、次句あたりが最も好きである。

秋高し亀も飛びたくなってをり
遠山の暮れてゆくなり冷奴
松原は海辺の名残り緑さす
氷面鏡他人のごとく老いてをり

以上


by 575fudemakase | 2017-04-09 14:02 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

正木ゆう子句集「羽羽」を読んで

正木ゆう子句集「羽羽」を読んで

2016・9・23 春秋社 第五句集

以下、共鳴句を挙げる。

はなびらと吹き寄せられて雀の子
藤の花よりもはるかに桐の花
夏炉かな火があればみな火を見つめ
雨あがり芋の蔓さへ美しく
密やかに雲より出でず稲光
飛ぶ鳥の糞にも水輪春の湖
幹でなく茎でなく青芭蕉林
礼文
山裾を海に浸して明易し
一花のみ揺るるは蜂のとまりたる
降る雪のときをりは時遡り
雪片の速ければ影離れたり
焼芋を割れば奇岩の絶景あり
日向ぼこ瞑ればより明るくて
潺々とまたクレソンの頃となり
立春の輪ゴムを栞がはりとす
雁のこゑ足もとはもう真つ暗に
春の雷外輪山を踏みわたり
鮴の佃煮鮴のこちらは卵とぢ
まつすぐに来る螢火に道ゆづる
深ければ黒々と湧く泉かな
夜半の雨止みて啾啾虫の声
千年余撞き減りたるを除夜の鐘
本を読む手首に脈の見えて秋
ぢりぢりと石の隙より新蕎麦粉
あふちの実ならむおそらくあふちの実
冬泉湧き且つ流れ且つ奏で
春蝉の飛び移るさへ色あはし
違ひ棚とほき霞を引き寄せて
螢のみ待つふるさととなりにけり
唸り来る筋肉質の鬼やんま
安達が原ゆけば身につく草の種
こんな日はとにかく眠る鵯のこゑ
つかみたる雛(ひよこ)に芯のありて春
なんといふ高さを鷹の渡ること
渡りゆく鷹高ければ静かな空
この星のはらわたは鉄冬あたたか
いつもそこに坂道があり雪が降り

集中一句と言われれば、次句を揚げたい。

唸り来る筋肉質の鬼やんま

以上
by 575fudemakase | 2017-02-24 09:13 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

句集 はまなす を読んで

句集 はまなす を読んで
升田ヤス子 第一句集 文學の森 2016・2・24

共鳴句を挙げる。

のぼりきし鮭は藻の色石の色
頬被りすれば身に添ふ土地言葉
夕花野野馬一列に帰りゆく
春暁の一間隔てて母の経
受験子の朝を素直な返事かな
劇団の去りし楽屋に蠅取紙
子の眼涼し幾何証明を成し得たり
滝の前直立不動にて撮られ
母の汗ハンカチにあり逝きにけり
湯冷めして手抜きの家事のつけ払ふ
猫車立てて干しある田植足袋
納屋の戸に農覚え書耕せり
雛の夜の熱の子にその姉の添ふ
口々に留学の夢チェリー食ぶ
草刈の顔に飛びつく雨蛙
漫画本読みて夜長を笑ひづめ
ひらひらと念佛踊り葛の風
葉牡丹の畑に入りて眩暈せり
夜回りの農協前に勢揃ひ
受験子のおのれに怒る声に泣く
合格の数字踊ってゐるごとし
職探す娘に白シャツの糊効かす
葛湯吹き糢糊と夢見る子の未来
大学生首突っ込んで穴子丼
母の髪握りねまる子冬ぬくし
仏掌薯擂れば子の手の添ひにけり
牡丹鍋肉を乗せくる新聞紙
海上タクシー昼寝に舫ふ待合所
盆過ぎの棚の品薄作州鎌
錦絵の顔になりをり梯子乗
室の花咲かせマンハッタン住まひ(長男一家)
地芝居やさはりとなれば客も和し
踵より足抜くがコツ蓮根掘
いかなごに値札を置きぬ無言糶
川風に旗鳴らし売る囮鮎
割り箸を子も持ち鮴の塵取れり
青梅の臍を取りつつ子のことを
音びゅんと鳴らぬが不思議流れ星
冬蝶の紛れてゐたる御籤の木
雪掻の音を嗚咽と思ひけり
恋猫に他人やうな目で見らる
鯉のぼり大きな口の掲げらる
木曾馬の北を見てゐる緑雨かな
草の脈走るほうたる点るたび
川原湯や形ばかりの秋簾
芽柳に公園深くなりにけり
茅花の穂風がつまんでゆきにけり

集中、目を見張ったのは、たぶん長期に渡った「松手入」詠。
俳人誰しも長期にわたって、お気に入りの季語を詠いたいもの。
私の場合は、「まんさく」「山茱萸」「蝉」等である。

角刈の男前来て松手入
松手入れ大将亡くし弟子ばかり
手入れせし松にわが家の位負け
松手入れ新入り鋏落しけり

一言、
浜木綿の昨夜の花火の残像めく
「浜木綿の」は「浜木綿は」とハッキリさせるべきである。

以上
by 575fudemakase | 2016-05-05 11:07 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

句集 短夜を読んで

句集 短夜を読んで

大峯あきら著 第九句集 角川学芸出版 2014・9・25

共鳴句を挙げる

森澄雄氏を悼む
とめどなき夕蜩となってをり
大時化の来さうな種を採ってをり
磐石に音を消したる時雨かな
鴛鴦のはやも来てゐる茶々の里
九天に舞ひはじめたる落葉かな
本の中歩いて年が改まる
雪折の音いま止みし書院かな
赤椿はね上りたる雪解かな
鳥帰り一川の折れ曲りたる
永き日の大日寺といふがあり
凹みたるところに家や春の山
みな低き宇陀の山なり小鳥引く
門川に連翹映りあまりたる
みなつきや声を惜しまぬ山鴉
朝風の通り道なる蓮かな
板廂涼風どどと至りけり
浦浦に入江入江に盆来る
心持ち夕べが早し花茗荷
島かげに芋の大露こぼれつぐ
朝風は芙蓉の白にありあまる
上弦の月下に麦を蒔き終る
冬麗や鴉一つもゐなくなり
行く年の連山にとり巻かれをり
初日出てすこし止りて上るなり
残月の伊吹のそばを帰る雁
一休寺までは春田の中を行く
蝶飛んで土塀破れに破れたる
午からは日のあふれたる彼岸かな
いつまでも花のうしろにある日かな
物音のなくなりたれば花月夜
大いなる暈着て日あり花御堂
春の日のをりをり揺るるかと思ふ
春暁や屋敷の中の一畠
春逝くと南都の雨の降りつのる
苗代やまだまだ太る屋敷松
遠山の映つてゐたる植田かな
奥宇陀の一本杉の鴉の子
麦熟れて太平洋の鳴りわたる
昼の月いつしか合歓の花のそば
鴉の子中仙道を歩きをり
一つ葉の夕暮のまだつづきをり
秋声のしきりなる日の書庫にをり
秋の日の行手さへぎるものもなし
奥座敷より暮れかかり蘭の秋
秋風は太平洋の上を吹く
松手入済みてすつかり暮れてゐる
行く雲の丸や四角や大根蒔く
松虫は明る過ぎたる月に鳴く
秋風やいくたび曲る吉野川
横雲のゆつくり通る良夜かな
大寺をとり巻く秋の草となる
山茶花にまだまだ細る雨と思ふ
玄海の紺こよなくて大根干す
亀鳴くや天気ふたたび下り坂
木蓮にまた来る夜のとばりかな
灌仏の雨は明るくなるばかり
筒鳥が鳴くとかたへの人も云ふ
天狗岩天狗杉あり夏来る
子鴉のよく鳴く宇陀に来てゐたり
青梅の中来て君を訪ひにけり
消えがての昼の月あり青嵐
梅干してまだまだ伸びる雲の先
涼風を吹き分ちをる柱かな
ここからは青田に映る下校かな
今しがた雹の過ぎたる南部領
城門のごとき山門秋の風
色鳥に伊勢のうしほの先が飛ぶ
浅井領鶫しきりに渡りけり
ひとり居る時の時雨のよく聞こゆ
朴落葉はじまる山の日和かな
元日の山を見てゐる机かな
一つ行く白雲はやし初御空
元日の日向となりて人来る
雪山の十重二十重なる春隣
雪折の音の絶えたる夜中かな
大風にさからひて摘む蓬かな
大根の花に濃くなる霞かな
何鳥か緋桃に来ては威丈高
穴を出し蛇に噴煙折れ曲り
はくれんの天辺に来て日は止まる
心持ち曇るとおもふ蝶の昼
右にまた近づき来たる大桜
花どきの薪棚へ薪取りにゆく
鳥の巣のつまびらかなる大樹かな
竹秋やゆきとどきたる拭き掃除
山高く谷深くして種下し
すかんぽに大きくなりて入る日かな
筍を掘りかけてある裏の庭
瀧風といふものいつも吹いてをり
梅落とす声のしばらくしてゐたり
時鳥鳴き移りゆく雨の中
時鳥本を探してをれば鳴く
筒鳥はいちばん遠い声で鳴く

俳人を称して云うに、「かな」止めの人とか 「けり」止めの妙手とか云うが、
氏の場合は、「たる」止めの達人と渾名したい。景を踏まえて悠然と詠う。
「たる」止めの人の為しうるところであろう。
又 最小限の言葉をもって句を成立せしめているところも我々、後進の学ぶべきところ
である。


以上
by 575fudemakase | 2016-04-28 10:24 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

冬青集 を読んで

冬青集 を読んで
矢島渚男 第九句集 ふらんす堂 2015・5・3

あとがきにもあるように、果敢な試行の記録である。

共鳴句を挙げる

三伏や火の入りまじる中華鍋
稲子取る幼子籠に草詰めて
つめた夜の静かな水を飲みにけり
嬉々として地衣類に冬めぐりけり
ゴンドワナ大陸も須臾年移る
ほれほれと円空仏も日向ぼこ
きさらぎや鰊の小骨絹光り
春浅し佐渡の鮑に海の草
雉鳩が塀をよちよち春の雨
蜥蜴らにジュラ紀の眼麦の秋
痩せぎすの美形一団野のあやめ
はればれと山打ち揃ひ秋の草
指を入れ掌をあて秋の水
暗き世を諾はむとす秋茗荷
水引に朝の光のあらはるる
炎上の伽藍をかさね曼珠沙華
蝶は翅貝は貝殻のこし秋
温め酒ことし茸の山踏まず
眠る山鯨の骨が崖に出て
ほの前といふあたたかな言葉かな(松山弁にて屁を言ふ)
實朝の船を虚空に春の浜
花びらの彩る田水満ちにけり
赤貝に生えてゐる毛や春惜しむ
牡丹の蕊にふかふか金亀子
鰯雲旅のをはりの心地して
秋の寺水中ミミズ長く赤し
死は誰も無念波郷忌近づくも
注連縄に撚られし藁の誇らしく
歪みたり焚火の向う側の人
犬は犬を呼びとめてをり春の暮
擽つたさうに膜つけ葱坊主
では剥いてやろ空豆の宇宙服
目に青葉三葉虫の化石に目
煮凝の固作りなる老舗かな
細切れに野菜を干して妻の冬
高足蟹深海にかく脚のびし(戸田)
あをぞらに波の音する春の富士
クッ・ホッと応答白鳥家族春
花ちるや近江に水のよこたはり
道端の好きな雀の茶挽かな(路傍の草三題)
穂を出して狸蘭とぞ狸の尾(路傍の草三題)
たつぷりと大蒜おろせ梅雨鰹
うすべりの波打つてゐる極暑かな
追ひついて並んで歩く冬の草
メエーと啼けばめえといふひと冬うらら
ずんぐりの山むつつりと雪がきし
冠雪の胸飾りして初浅間
空洞を育てる冬の欅かな
われもまた雪が包んでくれるもの
ひろびろと来る春を待つ田螺かな
春惜しむモーリタニアの蛸の足
雨あとの道跳んでをりあめんぼう
萍をつけて浮びぬ青蛙
ひとりづつ持ってみんなが猫じゃらし
太刀魚に擦傷さだか秋澄めり
綾紅葉多武峰からの明日香村
鈴舎に佐々木幸綱暮の秋(偶会)
じとじと雪助惣鱈の目が赤し
鳥追の子供の上に雪が降る
雪降って降りぬく成人の日なり
われわれも何かであるさ寒の星
残雪や焼き枯らしたる岩魚の目
さくら咲き水晶体のにごりゆく
汗拭いて目薬さして仕事せず
かの少女運動会のいつも隅
マスクして直立歩行哺乳類
カーリングストーンへ赤子あやす声
巌陰の堅香子に寄せ舟下り(天龍川)
系統樹魚までたどり春の宵
つくづくと芽のものうまき五月来ぬ
黙り込む諸仏諸菩薩著莪の花
編む音のすでに涼しき葭簀かな
読みさしに緑の蜘蛛が走りけり
愛くるし山薄荷属ヒキオコシ
秋たのしポポーも食用ほほづきも
山々の木の実を撒いて小鳥たち
いつも冬にあり木星の子だくさん
過ぎし日のやうに雪降る積りそむ
豪雪につかまれ里の見えずなる
手袋となりし獣の一部かな
南海の墓にトートーメーギの実(石垣島、トートーメーギは先祖の木、柾)
ユーナ咲け俵万智さん暮らす島
よき仕事する蚯蚓らに土尽きず(四億年土を耕す)

以上
f
by 575fudemakase | 2016-04-20 09:45 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

日本人の暦を読んで

日本人の暦を読んで

各季語に付された例句がいいのである。
ついつい惹かれるままに句を抽いたら以下の通りとなった。
作者名は原著を参照されたし。

日本人の暦  長谷川櫂 著 筑摩書房  2010.12.15

ずたずたの大地に我ら去年今年
初空や雀言祝ぐごとくなり
初空や太陽のまづとほりゆく
暁闇の松を漂ふ淑気かな
太箸や数ふればわれ七十五
太箸や国生みの神さながらに
寒卵笑ふと思ふ笑はずや
大阪の遊びはじめや宵戎
ふっくらと能登大納言小正月
赤ん坊泣かすどんどの煙に当て
大家族の頃もありけり小豆粥
水仙の花びら氷りゐたりけり
龍の玉漸う一句生まれけり
探梅のここまでといふところなし
臘梅の庭の日向が机まで
蠟梅の花みな濡れてゐるやうな
春節の花のランタンぶーらぶら
鬼がいふひゅうどろどろや福は内
薄氷を割って押し出す諸子舟
青空の映れる水に針魚みゆ
村ぢゅうの畦あらはるる雪解かな
淡海といふ大いなる雪間あり
春泥の光るところを大股に
流氷のあっけらかんと去りにけり
弁当のまづは鰆へ箸延ばし
街道の梅も老いたりとろろ汁
ぽつぽつと雨の音する末黒かな
すきずきにうぐひす餅と桜餅
雛の日やしんとこころに父と母
白酒の酔のほのめく薄まぶた
紅梅の中に小鳥のゐるらしく
たつた今蛤置きしところ濡れ
若布刈舟鎌をかざしてすすみけり
春雷や蕎麦を肴に昼の酒
温みゆく水のたてたる音ならむ
芹の上に笊のせて芹摘んでをり
ざくざくとよそひてくれし蜆汁
朝粥のしまひは目刺炙りけり
内陣を火の海にしてお水取
涅槃図やうたた寝のごとおん姿
酢で緊むる湖の魚や西行忌
加賀びとの實先生鳥雲に
猫の恋初手から鳴きて哀れなり
をちこちの前の後ろの山笑ふ
鯉に髭仏に髭や山笑ふ
田楽に果つる大山詣かな
けつかうな御世とや蛇も穴を出る
蛇穴を出づ棟上の真っ只中
取り出す袈裟冷たしや朝桜
大渦に舟廻さるる花の昼
鯛めしやほのかにうごく花の色
茎立の天辺に花西の京
春風や鯉にも二つ鼻の穴
囀や粥は一匙づつ熱し
ぶらんこや昨夜の雨の水溜り
菜の花の花も莟もちらし鮓
蔵王堂花びらに乗り飛ぶごとく
いざ竹の秋風聞かむ相国寺
眠りゐる子猫をそっともらひけり 
春眠のひとときに乳たまりけり
しんとして朝寝してゐる一戸かな
はるさめや暮なんとしてけふも有
春霞白蛇のごとく大河あり
寝姿の山も朧となりにけり
目もとまで水につかりて初蛙
旅先の銭湯にゐて春の暮
同じ箇所ばかり間違ふ遅日かな
而して無為を行ふ遅日かな
首あげて人なつかしの蚕かな
わたつみもときにはやさし桜貝
街道の右も左も茶摘かな
ばさばさと打ち重なれり柏餅
太郎とは男のよき名柏餅
この国に新茶を贈るよき習ひ
筍や笑ふがごとく湯の煮ゆる
蕗を煮る柱時計の音の中
そら豆のまだ眠さうな顔ばかり
子が問ふて応へて今日は豆ご飯
良寛の酒の礼状ほととぎす
万緑や山頂は空あるばかり
万緑やどの道をどう行かうとも
青嵐雀の喧嘩空へ地へ
寝ころんで何の思案か青嵐
嫁ぐ子に名残の蚊帳のひろさかな
鄙ぶりの大きな蚊帳に手こずりぬ
麦秋や雲より上の山畠
麦の秋加賀一国は晴れわたり
早苗よりうまるる水輪越の国
鮎の腸(わた)かすかに灰の味したり
だぶだぶの皮のなかなる蟇
奪衣婆に糸瓜の乳房五月闇
紫陽花の無き寺もまたよかりけり
実盛が草摺ゆかし杜若
蝸牛又も音なく降り出しぬ
短夜をさらに短く眠りけり
火取虫篠突く雨をかいくぐり
朝採りの胡瓜の先や花の殻
睡蓮の浮葉ばかりの暑さかな
葉先より指に梳きとる蛍かな
尾を振って金魚なかなか進まざる
子燕も仰ぎ見る子もかしましく
飛びたちて宙にためらふ燕の子
この道のいつもぬかるみ柿の花
籐椅子や黒雲かかる箱根山
一つづつ大事片づく団扇かな
羅やところどころの糸太く
暮れかねてやがて暮れきる冷し酒
笠ひとつ棚田のぼるや雲の峰
出向かねばならぬ日傘を開きけり
打水につかれが見えて来たりけり
ねぶの花初産といふ大仕事
羽衣のごとくに瀧の吹かれをり
この夏が過ぎれば嫁ぐ浴衣かな
空蝉や鋭き爪を残したる
ひと畝は皆花つけて茄子かな
茄子の紺うそいつはりはなかりけり
大夕立青樟の香を残したる
大空を鳥流れ飛ぶ夕立かな
金色の鯉と生まれて喜雨の下
お遍路の笠一つゆく青田かな
土用波鬼の洗濯岩を打つ
味見して塩ひとつまみ夜の秋
石鹸のにほへる娘夜の秋
夕顔や月の光に無きごとく
白玉やちょっと苦手なひととゐて
天花粉子どもに羽の生えさうな
けさ秋の掌になじませて化粧水
新涼やはらりと取れし本の帯
新涼や溺るるごとく梨食はな
朝顔や家を離るること二日
七夕竹ウルトラマンになれるとも
寝に帰るばかりの家か天の川
冷房はとことん嫌ひ生身魂
盆踊り一声かけて輪の中へ
その中に蛾のをどりをる切子かな
蜩や妻氷囊を換へに来し
かなかなと鳴きかなかなと返しけり
桐一葉又一葉又一葉哉
いく粒か緑をのこす葡萄かな
道元のつむりに似たる梨一つ
桃食べて桃のにほひや女の子
その人の顔は忘れし秋扇
飛びしもの飛んできしもの大野分
この家をつかみて揺する野分かな
もんぺ着て村夫子然(そんふうしぜん)稲の花
赤ん坊の乳に吸ひつく稲の花
枝豆ヤ三寸飛ンデ口二入ル
枝豆の殻を残して散会す
無花果も無花果の葉も青きとき
蜻蛉の羽がかさっと網の中
とんぼうの取り合ってゐる竿の先
露の世に豆腐つくりて老いしかな
きりぎりす顎よりうごきはじめたる
きりぎりす帰省十日のまたたく間
馬追の髭よく動く紙の上
秋の鮎魚籠をひと搏ちしてしづか
突進の面構なる鱸かな
花売の一桶はみな芒かな
里芋のやうな御仁でありしかな
何もかも修行と思へ衣被
いちめんの花野のころや軽井沢
宝戒寺奥の奥まで萩白く
水音に又めぐりあふ野菊かな
レガッタの大差となりぬ秋うらら
蟷螂を狙ふ猫の尾揺れ止まず
蟷螂の青き一身とびきたる
窯跡は蛇が眠りにつくところ
水澄むや深沈として無きごとく
爽やかや何かにつけて出て歩く
輪になって魚籠を覗くや鯊日和
今年また所違へず曼珠沙華
渋柿と勝手にきめて通りけり
この風にもう邯鄲の声のなし
邯鄲は鳴くたび羽根を砕くらむ
鷹匠の鷹にもの云ふ夜長かな
皮椅子にくぼみをこさへ夜長人
 虫すだく闇大いなる京(みやこ)かな
虫鳴いて海の上なる滑走路
風韻に耳そばだてて牡鹿たつ
鴟尾といふ金のかたまり夜の鹿
腹の中土ばかりなる蚯蚓 鳴く
子育ての頃の秋刀魚を思ひけり
大輪となるべき菊の莟あり
頂は日の中にあり登高す
雲飛んで伊豆山の秋高きかな
耕しの馬と生まれて肥ゆるかな
うちうちの宴のうへを後の月
この秋のなごりの月を出雲崎
かりがねの初音聞かんと卯辰山
色鳥や麹匂へる桶干して
色鳥にまじる吾家の雀かな
けさよりは鵙の天地となりにけり
鵙鳴いて隠れ家めいて来りけり
鶏頭のくろがねの種こぼしけり
身に入むや草折れ伏して草のうへ
雀らに侮られゐる案山子かな
石畳熟柿落ちたるしぶきかな
日がさして熟柿の中の種みゆる
鉄橋の上に駅ある紅葉かな
激つ瀬をあらおもしろの紅葉舟
行く秋を淋しくないと云ふは嘘
帰り来て妻が灯す秋の暮
一言で足ることばかり冬隣
杖つきて残りの菊を見てをられ
末枯るる蔓に重たし烏瓜
やがてまた落葉に埋まる山の墓
もののふの鎌倉の山眠りけり
ギリシャ劇始まってゐる枯野かな
釣宿の昼は静かや返り花
牡蠣剥や見てゐる方が寒からん
木の葉髪ばっさりやってくれたまへ
このあたり荒涼たるや浮寝鳥
綿虫をいくたび見失ひたるや
大綿のさもやはらかに当りくる
大根の味噌汁に酔ふ心地かな
さを鹿の角にたばしる霰かな
曲り釘伸ばして打って雪囲
葱の鞘光の鞘といふべしや
息白き犬に行きたき道のあり
大いなる蕪のごとき志
熱燗やまったうに生き悔少し
熱燗や世間のせゐにするなかれ
こまかなる銀器の傷や雪催
眼口閉ぢしまきの中を人来たり
包丁の動きて河豚をうすづくり
河豚の口ちょんとつけたるごとくなり
短日や薬怠けて叱らるる
暮早き東京灯りはじめけり
湯豆腐の土鍋小さし京泊り
笹鳴や眼鏡しばらく本の上
細やかな豆腐の布目笹子鳴く
梵鐘をくすぐるごとし煤払
トロ箱に鮟鱇ぺたと均さるる
関東煮まづ一亙りいただかん
餅の臼まだ濡れてゐる日向かな
 餅ふくる崑崙山も天山も
どの星も一つ年取り除夜の鐘

以上
by 575fudemakase | 2016-01-18 10:24 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

鈴木しげを句集「初時雨」を読んで

鈴木しげを句集「初時雨」を読んで

2015・9・25 角川書店 第五句集? 昭和17年生れ

ご恵贈いただいて深謝。氏が三師、波郷 友二 麥丘人から享受したものは、手堅く大きい。以下 共鳴句を挙げるが、それを見れば一目瞭然であろう。

先生の座に先生や初句会
菜の花を食うべ一齢加へけり
湧水の落花まはしてゐたりけり
鯱はねて卯浪の島のビクトリア
蹤いてゆく師のゆくところあやめ草
からすうりの花ジュピターは大き星
蝉鳴いて箸袋にも島津紋
風渡る九月といへばポプラの木
捨聖ゆきし道かも曼珠沙華
覚束無ポインセチアの赤のほか
煤掃の竹一束や深大寺
納豆にはじまる朝に戻りけり
北の魚はつかく旨き余寒かな
優曇華やなほざりに過ぐ家のこと
湧水の上をものさしとんぼかな
のどぐろは出雲の魚や冬はじめ
きたかぜが吹いて柿の木だましの木
茎の石川へ返して来りけり
亡き数の連衆も来よ花の山
平釜に炊いて暮春の湖の魚
鴨居に手あげて見てをり夏の山
正座して山を見てをり終戦日
小賑はひ見せて日暮や生姜市
小鳥来る朗読会の椅子五十
葡萄園監視カメラがあらうとは
多賀城址礎石におんぶばったかな
品川を出れば旅ぞら初しぐれ
両国の夜空となりぬ山鯨
ずず玉の枯るるをヨブの涙とも
女房は笑ひ上戸よてりごまめ
箭の如し椿の山のひよどりは
恋雀ときに鞘当ありにけり
花行脚まづ武蔵野の深大寺
母の日や梅ぼ志飴の榮太楼
青柿の転び坂とは誰が言ひし
高框夏花が摘んでありにけり
乗鞍の麓の町のあきつかな
秋高してのひらを置く榧の幹
ザビエル祭いてふは燦をつくしけり
数へ日の昼のキネマに匿れけり
水仙のための青竹切りにけり
升さんの好きなココアを彼岸寒
亡きひとは亡し一茎の華鬘草
朝富士のすでになかりし卯浪かな
水飯にレシピなんぞはなかりけり
蔵の町藻刈舟出てゐたりけり
漆掻く削鎌とはまっくろな
新宿を「あずさ」に乗って盆の山
めかるがやへたり込んでも居られずよ
水飲んで処暑と呟くばかりにて
ナフキンの角立ててあり文化の日
十夜寺海に星出てゐたりけり
絨緞や帝国ホテル孔雀の間
幣立ててあり狐穴らしきもの
あられ餅炒ればちちはは在すかに

3・11
地震ふるふ春を悴むばかりにて
花見てもみちのくびとの安否かな
余震日々好日ならず花も過ぐ

酢海雲や知らで過ぎたる酒の味
かなぶんや筆まめ一茶旅日記
守宮ちよと顔出す家に帰りけり
秋じまひ比良の山より風小僧
星空やボーナスを得し一家族
兄弟の誰も欠けずよ年の豆
独活和の酢に噎せてもう七十か
打坐といひ即刻といひ梅真白
花人にならんと京にのぼりけり
花の雨京のへそ石打つばかり

吉野 四句
山滴る青権現にひざまづき
夏来る金看板の陀羅尼助

原発の是非は非なりき花ざくろ
簾出すことにも遅れとってをり

古石場 小津記念館
汗の目に臍の緒は小津安二郎

好物の一に冬瓜の冷しもの

東北鍛錬会 仙台にて 五句
秋晴や膝にひらきてわっぱ飯
束の間の小望月なり広瀬川

零るるといへばむかごのこぼれけり
花八つ手妻もふた親なかりけり
この先の備へなどなし寝正月
雪掻いてゐる星空となってをり
いつまでも一書生なり豆撒いて
如月の潮の香もなし小名木川
線量表なんぞ貼られて鶯菜
鳥雲に棚田捨田となりしまま
著莪の花叢は水走りけり

五月二十日
先生のいまはに侍り夕青葉

窓青葉浄几といふに遠けれど
明日の麵麭抱へて茅の輪くぐりけり
梅雨明けや原宿駅の風見鶏
夾竹桃の赤よりペンを起さんか
塗椀の会津呉汁や夜の秋
のうぜんや返書二三を朝のうち
広島やラジオの中も蝉鳴いて
秋暑しまた靖國のことばかり
ぎす鳴いて刺草に日の烈しさよ
駿河台下へ踵や秋の暮
かりがねや姑の満州引揚記
窓拭きの好きな妻なり冬雀

以上
by 575fudemakase | 2015-10-03 13:41 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

原田達夫句集 箱火鉢 を読んで

原田達夫句集 箱火鉢 を読んで
2015・8・20 ウエップ 昭和9年生まれ 鴫 同人

句集ご恵贈ありがとうございます。

雪原を大きく分かち川二本
雪下ろし街道に音落ちてきし
さざなみに万の花片預けたり
不揃ひの音たててゐる若葉雨
退院に跨ぐ毛虫の生き生きと
日高
馬臭き漢らと食ぶ海霧の中
刈田跡日向の匂ひしてをりぬ
秋暁の海へサーファーづかづかと
太刀魚をひかり引き抜くやうにかな
間引菜の束ねるほどはなかりけり
天高く大きな顔のモデルかな
ほととぎす佐渡まで海の真つ平
青蛙おのれを消してゐるつもり
破蓮の向かうは人の住むところ
夏没日✳︎タクラマカンは碧く透く
怯ゆる目満つ炎天の家畜市
羽抜鶏行方知れずになる迷路
力もて川は流るる去年今年
冬の雲置かれしままにありにけり
こぼれてはふくら雀となりにけり
白鳥の馴れなれしさに惑ひけり
山裾にゆきわたりたる梅の花
虚子庵のガラス戸越しのゆがむ夏
手詰まりやペンペン草は花盛り
鎌倉は本降りとなる余花残花
滝へ滝へと笹舟の速きかな
用水は大利根の水裸の子
耳聡くして日替りの落葉踏む
焼藷を闇取引のやうに買ふ
プラタナス並木に冬の残りをり
馬跳びのうまよろけをり春の土
雲うつす水凹まして蘆の角
えごの花地味を着こなす人と会ふ
えへらえへら赤✳︎えい泳ぐ早さかな
補聴器の土砂降りとなる秋の蝉
括られしまま枯菊の朱は残り
襟巻を顔に巻き付け大間崎
人気なきテーラー春の生地見本
青むものあをむ八十八夜かな
久々の風に風鈴慣れて来し
坑道を出て万緑に浸りけり
じんわりと花鰹反る冷奴
軽自動車は棺のかたち秋はじめ
目ばかりの少年のかほ終戦日
銀漢に列なる漁りありにけり
しんがりはいつもしんがり稲雀
一茶の忌ひつつき虫を脱いでとる
またたく間横一線となる落葉
めったやたらの鬼は外福は内
疎開児も浮浪児も老ゆ花の下
夏めくや貨車は昭和の音立てて
無花果の押されてつきし指の痕
街灯のすぐ先にある望の月
土門拳の浮浪児写真長き夜
蒲叢のあはひにありぬ鴨溜り
十六分音符跳ねてゐてクリスマス
バーナーを手にうろうろと野焼かな
夕空のひかりを奪ふ代田かな
風に遊ばれ新緑の色無尽
翡翠の色ひとすぢに飛びゆけり
表具師の曽孫も表具師藺座布団
補虫網振るに久しき腕ぢから
あめんぼの狩一瞬の水輪かな
噴水の水余らずに落ちてをり
田圃道盆供の匂ひして来たり
ブリキ缶の雑な鳴子を引いてみる
子の辞書を無断でつかふ雨月かな
さざなみを濡らしてゆけり秋の雨
へこへこと動く蝗の袋かな
ビルを染めビルに吞まるる秋落暉
赤のままわらんべ顔の仁王像
十二月どぶから湯気が立ってゐる
気にもせず仮歯で年を越しにけり
嘴の痕残る金柑春近し
退屈な蛤ひゅうと水飛ばす
いつの間に蓬摘む人遠ざかる
榛芽吹き日の溢れゐる流れかな
耕にひさびさ黒き土を嗅ぐ
手に余すほどの大きな葱坊主
若葦の果て大利根の分流す

これがじゃがいもの花かと母のいふ
何を言うても笑む母の花の昼
惚けても惚けても母かりんの実
粥柱口まではこぶ母白寿
なに思ふ手指動かす母薄着
かまつかや母の目の色ふともどる
白芙蓉ふくみ綿せし母のかほ
螻蛄鳴いて小さき母を納棺す

以上


by 575fudemakase | 2015-08-30 00:01 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

茨木和生句集 真鳥 を読んで

茨木和生句集 真鳥 を読んで
2015・8・13 株 KADOKAWA

句集ご恵贈深謝申し上げます。

地を走る鳥の殖え来て春めくも
春灯消えてしばらく人のこゑ
名前なき仔猫をみいと呼べば来る
地下道を抜け海へ行く薄暑かな
青鮑誰の膳にも付きをらず
蛇やといふ子供の声のかがやけり
汗手貫鯨の髭と自慢され
潮まはりよけれど鱚の釣れてゐず
大阪の暑さ苦にせず暮石の忌
豆稲架の傍に足踏み脱穀機
どぶろくはぐいぐいと呑め鎌祝
流れ踏み抜いて歩けり鰍突
じっと見てをれば蓑虫兒出せり
松茸飯炊くにぎやかに火を育て
まごいねの穂を噛んでゐる子猿かな
大覚寺さまも出品菊花展
ふんどしを取らぬ麦飯とろろ汁
西行の墳にもがもな返り花
猪犬に鳴き構ひして人通る
みちのくの酒取り寄せて年酒かな
見し夢のことのさてはて忘初
春駒の鞍外されて走りけり
陶工の捨てたる水に蝉氷
京なれば好文木といひ愛でむ
木造の研究棟の春暖炉
のぞきたる肌着は真白仏舞
これ立派これも立派と蝮草
梅落す前に落梅拾ひけり
梅雨雲の発達峰をなすものも
これはモロッコ桜煮の蛸を見て
ギヤマンに入れたるオールドパーの色
ひと谷をとよもすこともほととぎす
柏手を打てば蛾が飛ぶ山の神
甕に水張りをれば来て水馬
滝の水かつて棚田も養ひき
蟻抓み損ね損ねて稚遊ぶ
魚断の流れに至り岩魚跳ぶ
鰣不漁年よと嘆き鮓作る
潮速く流れてしづか日の盛
声切るることなく鳴いてちつち蝉
海出でてますぐの日差稲の花
道を逸れゆけば一縷の秋の滝
痰切豆貰ひどうしたものやらと
鷹渡る突堤を越す波の日も
椎の実と見極めてから拾ひけり
日輪のことににこやか御遷宮
この頃は寺にも猪が報恩講
着水の姿勢取りつつ鴨飛べり
熊鍋の汁凍らずに黄金色
真夜中の書斎に聞こえ狐鳴く
どて焼の立ち食ひもして弘法市
仏頭はいかにものもの果大師
うどん鋤ジャンジャン横丁ならではの
焚火して寄るを楽しむ漁翁かな
乗り来たるバスの号車を忘初
お日さんもえべつさん顔残り福
航海を終へて来てをり残り福
寒鶫大き雀といひて捕る
目こぼしのありたる橡の実の芽吹く
ここいらの猟期は旧と出て行けり
あつぱれと褒められてをる朝寝かな
居眠れる妻の鼾も春ならでは
大岩を離れず眼張釣りゐたり
ひひと鳴く声のあはれも麦鶉
春惜しむ吉野に続く峰を見て
刈られゐずうはばみ草も長けたれば
息あらあらと緑蔭の大型犬
朴の葉に先付の品夏料理
沢濁りゐて滝までは立ち入れず
みちのくの朝日やはらか青りんご
辻を曲がれば涼風の土塀道
沖遠くまでいま一度泳ぎたし
小骨まで熟れて鰶鮓めでた
隧道の向かうが見えて鵙日和
鳥好む色となりゐず榎の実
地の人の案内を得て茸狩
衰えてゐず雑茸を探す目も
駅前の田も露寒の伊賀の国
しぐれせり夜の鉄軌を光らせて
立つことの難きところも蜜柑山
蜜柑山よいしょよいしょと戻りけり
大冬樹腰を叩いて見上げけり
あの呑み屋この呑み屋なし六林男の忌

荘子の言葉に〝和して唱えず〟という言葉があるそうだが、俳句の評も同じく〝和して唱えず〟が至当と思っている。
即ち〝和して〟止りが最妥当と思っています。
従って引用句が多くなるが御勘弁。

以上



by 575fudemakase | 2015-08-29 15:34 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

季語別 田中貞雄句集を読んで(特徴を中心に)

季語別 田中貞雄句集を読んで(特徴を中心に)

俳誌のサロン 2015・5・10

貞雄さんとのおつき合いは、そもそも俳句初学の頃
俳句結社 濱の同人であった 下田稔氏の教えを共に
受けたというご縁であった。句会を共にするように
なって15年を経た。目下、作句力は爆発しているようだ。

▼ご自宅周辺
お住まいは横須賀 田浦 。軍港に近く港町に因んだ町名が
多い。因みに、田浦 長浦 船越 汀橋等々…
とりわけ〝潜水艦が街の顔〟の句は、自宅周辺を詠って秀逸
である。

ぼんやりと尾をひく汽笛年替はる
艦艇の舳先ずらりと年迎ふ
初明り潜水艦が街の顔
浅蜊汁分の浅蜊を採つて足る
きぶし咲く素掘隧道出入口
春眠を引きずるやうに油槽船
泣き言の代りに鳴らす海酸漿
軍艦碑竜舌蘭を供花とせむ
釣瓶落し艦旗降納見届けて
行く年の憂さの捨て場の転舵渦
釣瓶落し艦旗降納見届けて
潮溜りあれば覗きて秋うらら

▼鎌倉諷詠
毎月 鎌倉吟行を実施している鎌倉通であられる

楼門の枡組の密青葉光
十間の流鏑馬道に涼みけり
お仕置きのやうなる秋暑山ノ内
うめもどき色づき扇ヶ谷雨情
阿仏尼の湯坂山坂からす瓜
仏足石日々団栗の喜捨を受く
零余子黄葉旗立山の日を返す
大仏に豊麗線や冬日射

▼老いの日々
無手勝流の磊落な気風を謳歌している

買初めは箱根駅伝スポーツ紙
パソコンも員数のうち鏡餅
いつとなくパソコン脇の飾餅
御慶まへラジオ体操こなしけり
ウォーキング兼ねての七福神詣
ぼんやりと尾をひく汽笛年替はる
一年の気息はラジオ体操より
初鏡ただ指櫛をしたるのみ
竹を踏み鉄亜鈴振り二日かな
巣鴨地蔵通り縦断春の汗
陽春や大きな切手より使ふ
いつまでも根にもつやうに余寒かな
暑を凌ぎ切ったるホットコーヒー派
煙突に遺句記したき卯月晴
真炎天齢の順に間引かれさう
唖蝉と一脈通じ合ふ性根
かき氷十七までは丸坊主
黄菖蒲の真つ正面に身を曝す
ゴキブリを搏つとき婦唱夫随なり
ハミングを引き出す微酔五月闇
大暑なり今日より後期高齢者
行き当たりばったり疲れたら昼寝
コンビニに頼りっぱなし食の秋
等閑の日の多くなり秋風鈴
もう一献いや止しておく新走
いなびかり逃げも隠れもせぬ起重機(クレーン)
晒しもの種鶏頭に選ばれて
秋深む啼くといふより吼ゆる鹿
新蕎麦と五平餅食べ木曾贔屓
施餓鬼会の常連となり父の歳
ひぐらしの余情より抜け出せぬまま
おろぬきを持って行くかと問はれけり
雑念のやがて虫音となり寝落つ
とりとめなき独語捨場の落葉掻き
自らの根元あたたむ朴落葉
小春日和ゴミ分別の行き届き
伊勢佐木町にはか聖樹の落羽松
一章も知らぬ聖書や花柊
気が乗らぬやうさきがけの枇杷の花
余生とて又とない時枇杷の花
永眠にならないやうに冬籠
虎落笛わが口笛は曲なさず
先鋒・中継ぎ・押へを決めて餅を搗く
無器量を補つて柚子香を放つ
穫れすぎる柚子を始末の柚子湯かな

以上
by 575fudemakase | 2015-07-19 14:35 | 句集評など | Trackback | Comments(0)


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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らくらく例句検索

インターネットの「Google」や「yahoo」の検索ボックスから、季語等を入力して数多くの例句を得られれば大変便利である。

具体的に季語“新樹”の例句を求めるには、先ず検索ボックスに“新樹”と入力する。
その後、ひらかなで“れいく”と入力する。この時、日本語変換候補に幾つかの語彙が表示されるが、その中から“575筆まか勢”を選択する。
この結果、検索ボックスには “新樹575筆まか勢”と表示される筈である。
この用語で検索すれば求めるサイトが表示される。

但し、上述の ひらかなの“れいく”と入力して“575筆まか勢”を選択する為には、事前に小細工をしておく必要がある。
即ち、ユーザーズ辞書を使って “れいく=575筆まか勢”を定義しておく必要がある。以下はその指定方法。

ユーザーズ辞書定義

▼iPadの場合
設定>一般>キーボード>ユーザーズ辞書

単語 575筆まか勢
よみ れいく

▼kindleの場合
アプリ>設定>言語とキーボード>キーボードの設定>ユーザーズ辞書

読み れいく
表記 575筆まか勢

PCの場合も同様に「ユーザーズ辞書」機能を使い、前もって定義しておく。

春の季語から現在の当季季語までは既に表示可能である。
来年の三月末(2015年3月末)までに全季語について表示可能となる。

以上

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