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中原道夫句集 天鼠

中原道夫句集 天鼠

今時、字義語義の詮索にかけては天下一品の中原大人より
こたびもその蘊蓄をご恵送戴いた。
玉集のその身なり(装丁)はと見れば、赤紙に墨痕しるく”天鼠”と
印し還暦と洒落たり。
大人(うし)の押しの一手に気圧されながら 一夜をあかして句を
漁った結果は以下の通りである。


鳥帰る鏡に深度加へては

天地玄黄
初蝶や斯くて始まる千字文

たぎらせておけば湯の減る萬愚節
初蝶に余の一存とゆかぬ空
藤棚の下の時間のたるみがち

わが家には壁虎(へきこ)の守りあるからに
             *壁虎=やもり

京都
賀茂茄子の豊満に棘ほに意地悪(いけず)

蔵六の腹平らなり祭来る
おちつかぬことありまひまひとなりぬ
櫻の実露文科に籍あるといふ
殺伐と景に入り来る黒揚羽
たへかねつやまもも樹下を汚したる
葛切や深井を覗くときの顔
かたつむり瓦礫を岐けてゆく戦車
溺れよと晩夏イギリス海岸に
炎上もひそか帚木もみぢかな
ごはごはのいちじくのはのゆふまぐれ
をぢけづくあかさとなりてななかまど
葉鶏頭よそよそしきは彩ロに出て
やへむぐらいでたるつきのおもさかな
晩涼や片口は口突き出して
傲岸を孔雀に見たり秋日濃し
荒地野菊いつそ無名でをれば良き
露を置く易きに流れるではないぞ

鰓裂(さいれつ)のならぶ月夜の晩のこと
      鰓裂=鮫などの鰓の穴のこと

廣島/宮島
焼芋屋はなはだ星に精しかり
初もみぢ裳階の朱ケに倣ふなり

ダビデ像
包茎をみな仰ぐなり霧を来て

本日のおすすめ(ピヤット・デル・ジョルノ)冬河見遣る席

當惑のもの届くなり年の暮
鼻筋を跨ぐ雀斑(そばかす)御慶言ふ
初髪の空を率ゐてゆく迅さ
癇癪は玉にしておけ春までは
捗(はか)の行く大きぐい呑み雪を来て
きさらぎのめぐりめぐりてもとのさや

指もまたランドルト環春の景
 *視力測定に使ふc状の環

土に気の水に気のある四月かな
草の芽も驚く柱落しけり
鬼籍にて長閑を旨としてゐたり
どの幹も蟻に直登うながしぬ
噴水の頭打ちなる水あはれ
白焼の穴子いつまでやまぬ雨
聲援に洗濯板も泳ぐ泳ぐ
懸崖をすべり落つるを秋日とふ
来し方は迷路迂廻の電熱器

絳裙(こうくん)の口半びらき雪どすえ
            *芸妓のこと
大阪新世界
痩せ牡蠣に過衣えげつなうおます

四天王寺
我楽多も冬の日の目を見ぬことにや
by 575fudemakase | 2011-04-29 10:02 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

3.11地震がらみの地震の句


3.11地震がらみの地震の句

以下は小生の加わっている ねずみのこまくら句会(4月)に
句評としてUPされた一文。


[78] 一句評 投稿者:高澤 投稿日:2011/04/15(Fri) 07:51



131 霾や船魂といふ黒きもの

今回の津波で これまでの災害と決定的に異なるものに
石油タンク等の流失に伴う あぶら炎上大火災があると専門家は指摘する。
所謂 都市型災害である。この災害の一端は かっての北海道 奥尻島の
災害時にも垣間見られたというが 今回程でない。
掲句は 災害後の一シーンを再現したものとおもわれる。

舟には舟魂があって うろくずを業とする漁民にとっては尊いもの。
普段目に見えない その舟魂が津波という天災によりなまなましく
陸上に露呈しているというのであろうか?

東日本大震災ならではのことがらを詠んでいる。
秀抜であるかどうかは 10年後あたりで判断してみたい。



一方 以下は ねんてんさんの  2011年4月28日 付けの一文。


若葉して海神怒る何事ぞ

正岡子規


 明治29年6月15日、三陸沖でマグニチュード7、6の大地震が発生、30メートルの高さ
の津波が三陸海岸を襲った。子規は新聞「日本」に俳句時事評「海嘯」を載せた。
今、それは『子規全集』第12巻に俳句入り随筆として収録されている。掲出の句もその中にある。
 東日本大震災の俳句を募集した新聞があった。読売新聞では長谷川櫂の選評を添えてその俳句を発表した。
そうしたことを見ながら思ったのだが、震災の句を作ってもいいが、今は作らないという態度を大事にしたい。
じっくり言葉を発酵させるのだ。目に見えない深いところで震災は私たちの言葉に影響するはず。
「若葉」という季語にしても、震災を介すると今までとは違って見えるかも。そうした差異を言葉ににじませたい。
そのためには今は震災の句を詠まない、そういう態度も大事だろう。


私見をのべれば震災の句は いつ詠んででも構わんと思うのであるが すぐに何にでも飛び付くマスコミまがいの興味
のみで取りあげられるのは 少し抵抗があるといったところであろうか?

震災と言っても 関東大震災 神戸大震災 東日本大震災とある。これからは どの震災を詠んでいるのかハッキリして
もらいたい。無論 震災一般としてもよいが。
by 575fudemakase | 2011-04-28 09:23 | Trackback | Comments(0)

3.11大震災

3.11大震災

俳句界 5月号が来た。
大震災特集 一人3句 70名をやっている。
ザッと読んでピンときたのは次の3句

雛飾りつつ地震鎮めたまへかし 汀子
それでも微笑む被災の人たちに飛雪 兜太
無音界朧満月瓦礫界 杏子

俳句はくっちゃべればくっちゃべる程つまらなくなるのは
皆重々承知しているのであるがそれが制御できない。何年遣っていても。

次いでよいとおもったのは

大津波六角堂も春もなく 落合水尾
余寒余震花壇に刺さる欠け瓦 同

八甲田トンネルにて大地震に遭ふ
弁当の牛蒡つめたき春の地震 辻桃子

激震や余寒の柱抱いてをり 奈良文夫
被災者や火のなきストーブただ囲む 同

陽炎や津波は海の意志ならず 河内静魚
避難所の行住坐臥やマスクして 小路紫峡
はくれんのゆらぎてひらきゐし余震 中戸川朝人
羽根たたみ合掌の蝶大震災 花谷和子

その他 季語はないが 一寸気に掛かった句

なにもかも失くしよい顔ありがとう 前田弘
(意味的には 「なにもかも失くすもよい顔ありがとう」の意味なんだろう)
by 575fudemakase | 2011-04-26 09:15 | Trackback | Comments(0)

大岡信精選折々のうた 下巻

大岡信精選折々のうた 下巻

映画の新作をいっぽん見て 一階下の書店に立ち寄った。
例によって 俳句コーナー。まあめぼしいものはなかったが
大岡信 精選折々のうた が目にとまった。
ぱらぱらとめくったら 既視感のない句やら短歌が目にとまった。
上中下3巻ある ちょっと値が張るので これはネットで検索して
図書館で借りることにした。今は自宅で検索し図書が借りられる時代
である。上中下のうち 上はほとんど見た句群が多い。既視感の少ない
のは中巻下巻。今回は下巻の例句を以下に挙げる。

●印を付した句には小生のコメントを加えた。


食べる時だけ静かなる幼らが冬陽に浄き耳をそろへて 藤井幸子
肋木をのぼりつめたる子の遊びおくれしものを容赦なく蹴る 一ノ関忠人
斬られたるごとく昼寝の道具方 吉岡桂六
●冷酒のおりる段々咽にあり 川崎展宏
●箸割ってわが冷麦の季来る 星野麥丘人
(現在の俳壇で崇拝する俳人のお二方であるが 展宏さんは先に亡くなられた)
ふつつかな魚のまちがひそらを泳ぎ 渡辺白泉

●潮満ちて海鼠最も油断の季 津田清子
●あめんぼも蛙も村を出る気なし 同
(この方のずけずけした物言いも大好きである)

冷奴、めうが、トマトを冷たくしひとりの食は火を使はざる 佐藤慶子
あれこれと研ぎし水打つ研屋かな 土生重次
衣更へて魚のこころで町に出る 能村登四郎
白玉や母は中座のやうに逝き 山田碧
若葉みな心臓のかたち眼のかたち 多田智満子
わが顔を忘れてすする心太 澤木三乗
●ところてん昭和がふっと顔を出す 藤田湘子
(亡くなったが共鳴した俳人 最晩年の句集 神楽など好ましい)
満腹の蚊のゆっくりと打たれけり 近藤酔舟
女子フィギュアの丸きおしりをみてありてしばしほのぼのと灯れり夫は 馬場あき子
赤蜻蛉まだびしょびしょの空の中 小檜山繁子
水羊羹喜劇も淡き筋ぞよき 水原秋櫻子
弱らせて草に帰せしすいっちょん 遠藤千鶴羽
鰯群来畑のやうな海となる 成田千空
●滝行の白衣干さるる紅葉小屋 吉野義子
(同門の先達で 早々に一誌起こして四国から東京支部句会に出席せんとはりきって
上京し俳論を滔滔とホテルで述べあったおばちゃん)
蝉の屍(し)の鳴き尽したる軽さかな 大倉郁子
秋来ぬと合点させたる嚏かな 與謝蕪村
焼かれたる秋刀魚の顔は皿の外 井上緑水
秋草や鉄から壊(く)える土の蔵 北島大果
火に投げし鶏頭根ごと立ちあがる 大木あまり
柿の木であいと答へる小僧かな 小林一茶
父母を乗せきしきしきしむ茄子の馬 岸本マチ子
秋蒔や陽を混ぜて土ふくらます 田山康子
芋の葉のいやいや合点々々かな 高浜虚子
芋の露不器用といふ宝もの 富樫均
産院へさんさ踊の笠のまま 小原啄葉
●めぐまれて小さな星に棲みながら人間最も凶悪である 坪野哲久
(どなたであつたか 文化人類学者で人間が作り出したもので一番悪いものは
原子爆弾であると云ったのは。確か 自然界には無いものでという条件下で。
今般 その原発になやまされている。日本どころか全世界が。)
おもむろに自然に近くなりゆくを老いとはいわじ涅槃とぞいわむ 鶴見和子
●折折に遊ぶいとまはある人のいとまなしとて書(ふみ)よまぬかな 本居宣長
(まったくこのとおりだ 小生も)
存分に老人の顔になったなと語りかけたき鏡中のひと 清水房雄
自動エレベーターのボタン押す手がふと迷ふ真実ゆきたき階などあらず 富小路禎子
腹痛におろおろ下りし駅の階過ぎては演技の如き感あり 大島史洋
面の皮いちまい剥ぎてばあといふ遊びをしたしこの日疲れて 藤井常世
すこし痩せて妻と歩めば平凡な市民にすぎずニキタ・フルシチョフ 四賀光子
「結果として」を上につければわが行動の大方は説明がつく 高瀬一誌

●月のひかりにのどを湿めしてをりしかば人間とはほそながき管のごとかり 森岡貞香
(当時 欧米や日本の現代詩で人間を管に還元して見る比喩が愛用された・・・と大岡は書く。
実は小生の賞賛する川崎展宏に 人間は管よりなれる日短 という句があるがこれもその影響下か
どなたか その源を突き止めてはくださらぬか)

包丁を研ぐのが好きで指に眼が付くまで研いで七本を過ぐ 河野裕子
「鶏も高きに居れば鳳凰とならん」おかしな末吉を抽く 佐伯裕子
●縞馬の尻の穴より全方位に縞湧き出づるうるはしきかな 小池光
(まあよく観察していること。最近の動物園は動物に優しく出来ていて当歌の如くこんな近くでは観察できない。
逆に古くからある動物園は人間に優しく出来ていて歌詠みにはうってつけ その違いを知っている御仁はどれほ
どいるかしら?)
木の枝に雀一列ならびゐてひとつびとつにものいふあはれ 北原白秋
夜の渋谷公園通り 薔薇色の臓器を吊りてピピピして居り 佐々木幸綱
をとめらはエレベータに口噤みアスパラガスの束のごとしも 篠弘
まなざしに仰角30度の陶酔があるあなたはきけば指揮者だといふ 井辻朱美
衣裾より上へ上へとあがりくるばうじゃくぶじん人の視線の 森岡貞香
●世を乱すほどにはあらぬ歌詠みて刷りて送りて人煩はす 来島靖生
(こんな塩梅で俳人もお互いの句集等をやりとりしている。困ったものだ)
女の手冬菜を洗ふとき撓ふ 井上雪
●なまはげの一服つける森の闇 松崎鉄之介
(同門 秋田の古参俳人 縄田屋朗々が企画して行われた男鹿年越吟行。大三十日の
真山神社での作。小生も同席 宮津さんも同行。先達の句の巧さに脱帽。
このとき 確か 師鉄之介の句に 小つごもり大つごもりも月の海 だったか詳細は忘れたが
一句の中に 小つごもり大つごもり を入れてくるテクニックには正直なところまいったという感がした。
尚 同夜 真夜中 朗々がなかなか眠れぬと言って寝床で一服つけた。
小生も一服しながら四方山話。そのとき朗々が言った”この煙草の煙でおかあちゃんを殺してしまった”という
言葉が今でもわすられない。朗々も今は亡き人)
水鳥のあさきゆめみし声こぼす 青柳志解樹
●手毬突く石の仁王に唄聞かせ 宮津昭彦
(ついせんだって 宮津さんは亡くなった。この句は 遠樹にあるという。
ちかじか いつかゆっくり宮津さんの句集を読み返してみたいとおもう)
春雨にぬれてや水も青う行 加賀千代女
しんしんと柱が細る深雪かな 栗生純夫
●冬の蠅少しあたたかいとこれだ 辻田克巳
(誹諧の句ではこの人。強烈なひねりが真骨頂)
●たった一字の誤植切なき霜夜かな 小田島季走
(「だんだんみんなゐなくなる」所収。 句よりもこの句集名はなんだ!
この頃の句集名はおもしろくない。これぐらいやらねば・・・・)
訪ひ来るは古人のみなり冬籠 志城柏
(本名は目崎徳衛)
寒の水ひきずって鮒釣りにけり 大図四星
●さきいずるやさくらさくらとさきつらなり 荻原井泉水
(どなたも 毎年 さくらが咲けば さくらの句を作りたくなるが
この一句があれば すべて代弁出来ようというもの)
●赤い根のところ南無妙菠薐草 川崎展宏
(南無妙菠薐草のところ 南無妙が菠薐草に掛かってゆくところ この化け方が
いろいろ応用出来ることを当句は示している。数学の定理みたいな一句)
啓蟄の世に出たがりの鼻毛かな 山上樹実雄
ものの芽の力に雨の加はりぬ 稲畑汀子

布団たたみ雑巾しぼり別れとす 和之(処刑時三十一歳)
全身を口にして受く春の雪 白洋(処刑時 二十七歳)

●ばんざいの姿で蛇に銜えられ春らんまんの蛙いっぴき 鳥海昭子
(マンガチッックな構図が見事である)
男とは老いておとなし梅を仰ぐ 本井英
生れたる蠅すぐ人を疑へり 百合山羽公
●春キャベツ象の花子の耳破れ 佐藤若菜
(2日前 近くの野毛山動物園に花見がてら行ってきた。
目的は駱駝の”つがる”さんを見に。山妻がご執心。人間なら100歳のおばあちゃん駱駝。
前脚を怪我していてもう立ち上がれない。余命もあと僅か。小学生が激励とばかり何枚ものクレヨン画を
近辺に張り出してある)
蛇穴を出れば飛行機日和かな 幸田露伴
コロッケはその街のかほあたたかし 中嶋秀子
一切をふりむかずくる春の濤 太田保子
黙々と妻がしまひゆく春の雛しまひきれざる歳月があり 水上良介
ブリキ屋の町より消えて春深む 東野礼子
(俳優 東野英治郎の夫人)
釜上げの白魚直ぐなるものをらず 柴田美雪
薦着ても好な旅なり花の雨 田上菊舎
by 575fudemakase | 2011-04-20 09:14 | Trackback | Comments(0)

大岡信 精選 折々のうた 中巻

大岡信 精選 折々のうた 中巻

●印を付した句にはコメントを加えた。

最上川の上空にして残れるはいまだうつくしき虹の断片 斎藤茂吉
ひきだしをなかば開きてばうぜんと机の前に物をおもへり 岩谷莫哀
海中に入りゆく石の階ありて夏の旅つひの行方しらずも 安永蕗子
さういふこともあろう、さうであろう、何しろ自分は自分で忙しい 若山牧水
なにしかも日記つけると人はいふ は は わしや松を植ゑとるのじゃよ 中勘助
(なにしかも=一体なぜ)
クレヨンに「肌色」といふ不可思議な色あり誰の肌とも違う 松平盟子
広場すべて速度と変る一瞬をゆらゆらと錯覚の如く自転車 高安国世
ゆびずもう親ゆびらしくたゝかへり 阿部青蛙
●山々の一度に笑ふ雪解にそこは沓々ここは下駄々々 山東京伝
(俳句にて誹諧を遣りたい御方には一度 狂歌のお勉強をしておきたい処)

花の蜜はたりと蝶のかしぎけり 桜井博道
春の雪いっしょうけんめい時計鳴る 同

鶯の次の声待つ吉祥天 加藤知世子
花は散りその色となくながむればむなしき空にはるさめぞ降る 式子内親王
ももちどりさへづる春は物ごとにあらたまれども我ぞふり行く よみ人しらず(古今集)

津山はや石の三鬼に草萌えて 森玲子
青天に紅梅晩年の仰ぎ癖 西東三鬼

鶏ねむる村の東西南北にぼあーんぼあーんと桃の花見ゆ 小中英之
花冷や履歴書に捺す摩滅印 福永耕二
春の浜大いなる輪が画いてある 高浜虚子
遅き日や土に腹つく犬の伸び 三宅嘯山
鵞鳥ーたくさんいっしょにゐるので、自分を見失はないために啼いてゐます 三好達治
海鳥の風にさからふ一ならび一羽くづれてみなくづれたり 若山牧水
おもひだすさくらとなれば母校かな 神崎忠
山里や男も遊ぶ針供養 村上鬼城
紺青の乗鞍の上に囀れり 前田普羅
筑波根もこえよと投つ火とり虫 田川鳳朗
炎天のとかげのわれを知る呼吸 秋山牧車
金線草(みづひきぐさ)、車前草(おほばこ)、鴨路草(つきくさ)、蓼の花みな一ときに咲きて目だたず 山口茂吉
いつせいにあふりたてられし峡の若葉やがてそれぞれのそよぎとぞなる 大悟法利雄
髪洗ふ女百態その一つ 高浜虚子
子燕のこぼれむばかりこぼれざる 小澤實
海霧のあと山きて坐る大暑かな 永田耕一郎
撥太皷習う子荒ら荒ら阿波夜波 古沢太穂
尾を曲げて瑠璃の濃くなる糸蜻蛉 堀口星眠
家は皆海に向ひて夏の月 柳原極堂
河鹿とはまろべる珠のごときもの 平井照敏
懐しやラムネの味に進歩なし 石井邦雄
打水の流るる先の生きてをり 上野泰
葉先より指に梳きとる蛍かな 長谷川櫂
天寿とは昼寝の覚めぬ御姿 阿波野青畝
帆のはらをつき出して行雲の峰 椎本才麿
夏木立地虫はベース蝉はファゴット 佐治敬三
ふればぬるぬるればかはく袖のうへを雨とていとふ人ぞはかなき 一遍上人
鳥渡る北を忘れし古磁石 鍵和田秞子
虫時雨猫をつかめばあたたかき 岸本尚毅
●月見酒下戸と上戸の顔見れば赤坂もあり靑山もあり 唐衣橘洲
大勢が夜霧の中を此方へ来る 星野立子

行秋やででむし殻の中に死す 森鴎外
指当てて一腑をさぐる夜の秋 丸山哲郎
鰍らは清きまさごを呑みけらし噛みつつをれば歯にさやる音 半田良平
魑魅魍魎月下に遊ぶ曼珠沙華 林原耒井
名は知らず草毎に花哀れなり 杉山杉風
●船にゐて身にしむ陸の燈火かな 本宮鼎三
(小生の第三句集につき身に余る句評を頂戴した。物故)
いま落ちし氷柱が海に透けてをり 橋本鶏二
一いろも動く物なき霜夜かな 岡田野水
起きぬけに妻のたたかふ凍の音 吉武月二郎
冬の蟇川にはなてば泳ぎけり 飯田蛇笏
駅暖炉入れ替る人亦無口 平井呈一
蹴ちらせば霜あらはるる落葉かな 高野素十
●一夜づつ捨て去るごとく寒を生く 上野さち子
(同門の先達。物故。その門下生が目下 インターネット句会に同席しているのも奇しきご縁)
年の夜のポストの口のあたたかし 宮坂静生
元日の句の龍之介なつかしき 久保田万太郎
●降り昏む雪はこそとの音もなししんしんとして鳴れるわが耳 尾山篤二郎
(尾山氏次女が小学校同窓。一昨年同窓会にてお会いした。癌を患うも服薬せず気丈な壮絶な死であった。昨年は有志で尾山宅にて
簡単な追悼会を実施 同窓会を行った。因みにわが町内ー武州 金澤文庫ーにゆかりの文人は河合玉堂 鏑木清方 尾山篤二郎)
冬の蠅二つになりぬあたたかし 臼田亜浪
正月の子供に成て見たき哉 小林一茶
水仙は密に挿しても孤なる花 大橋敦子

おほらかに もろて の ゆび を ひからせて
おほき ほとけ は あまたらしけり  会津八一

たれこめて春のゆくへもしらぬまにまちし桜もうつろひにけり 藤原因香
いたましき病人として八ケ日死にたかりけん生きたかりけん 佐藤志満(佐藤佐太郎夫人)
あかがねの色になりたるはげあたまかくの如くに生きのこりけり 斎藤茂吉
さればよとみるみる人の落ちぞ入るおほくの穴のよにはありける 西行
九十歳に至れりと言へば土屋先生を挙げなほ努めよといふ馬鹿ばかりなり 頴田島一二郎
思ひ見ればわれの命もこの一つの眼鏡を無事に保てるごとし 柴生田稔
おいとまをいただきますと戸をしめて出てゆくやうにゆかぬなり 斎藤茂吉
家ひとつ毀つ過程にあらはれて黒き階段が雨に濡れをり 川島喜代詩
雪のやうに木の葉のやうに淡ければさくりさくりと母を掬へり 馬場あき子

若葉よ。 来年になったら海へゆこう。 そして
じいちゃんもいっしょに貝になろう。 金子光晴

白菜が赤帯しめて店先にうっふんうっふん肩を並べる 俵万智
白藤の花にむらがる蜂の音あゆみさかりてその音はなし 佐藤佐太郎
あぐらをかいて遠いビルを見ている何となく身の上話になってきた 宮崎信義
街灯のひとつがながくはぢらひのまたたきをしてのち点りいづ 上田三四二
戸をひけばすなはち待ちしもののごと辷り入り来ぬ光といふは 宮柊二
どんぶりを抱へてだれにも見られずに立蕎麦を食ふ時が好きなり 岩田正
朝床にめざめて吾は鳩尾より背にぬけゆきし弾(たま)おもひゐる 荒井孝
うくすつぬ童子唱へてえけせてね今日の終はりの湯の音のなか 今野寿美
母蟹の腹より百の小さき蟹匐ひ出づるごと新しくあれ 与謝野寛

草藉(し)きて臥すわが脈は方十里寝ねたる森の中心に摶つ 森鴎外
わが足はかくこそ立てれ重力のあらむかぎりを私しつつ 同

かへりみて言葉短し大方は命令形にて犬を従ふ 徳山高明

最後に 短いが 上巻の句を挙げておく

花冷の包丁獣脂もて曇る 木下夕爾
菫越して小さき風や渡りけり 篠原温亭
by 575fudemakase | 2011-04-18 09:00 | Trackback | Comments(0)

[ 句集 誰が袖 伊藤瓔子 ]

[ 句集誰が袖伊藤瓔子 ]

句集上木おめでとうございます。
面識無きながら 早々のご恵送ありがとうございます。
ザッと拝見 大変な果汁ある句集と読了いたしました。

句集 あとがきを詠むに

句集を編む作業は 様々な思い出と向き合うことでもあり
これまで 私を支えてきてくれた方々への感謝と郷愁の想い
に満たされ作業

とあり ここらへんにこの作者のこころばえのよろしさを
感じ入った次第です。

刀自は 阿波野青畝門。 随所に おおらかな滑稽が健在で
あり ここぞと膝を叩く場面が多々ありました。

中でも 次句あたりは これはこれはとおもう御句

午前中三面六臂午後昼寝
目に青葉老眼鏡を誂へむ

前句 確か青畝も漢語使いの名手 三面六臂の一語が躍動している
後句は 「目には青葉 山郭公 初松魚」山口素堂 を換骨奪胎し
途中から「老眼鏡を誂へむ」と脱線するところなどは こころにくいまで
の秀作。

向後の研鑽を期待するところです。



雪解をドレミドレミと聞きにけり
のびあがり名乗るがごとき物芽かな
ちょびひげのごときもの芽や鉢に出づ
塀越えてその先知らずシャボン玉
わが庭に君臨するは牡丹かな
含羞草その従順におどろきぬ
選り好みして掬へざる金魚かな
昼寝子に添へる人形寝返らず
阿とひらき呍と消えぬる花火かな
銀鈴の鳴るが如くに桔梗咲く
われここにありとつつ立つ吾亦紅
木曾材のかぐはしきかな時雨くる
さきほどはピアノひく手が毛糸編む
空想が空想を呼び毛糸編む
子だくさん名を連ねたる賀状かな
白木蓮や宣誓の手を挙げしごと
牡丹見にどの塔頭に入らむか
大和路は田んぼの中の鯉幟
お手柄の鵜を見て縄を寄せにけり
根こそぎにせむと闘志や草を引く
スコップの力借りねば引けぬ草
里帰り母の見立ての春着着て
棒切れが国境をなす蝌蚪の国
私が起きねば家族皆朝寝
「でも」「だつて」「けれど」と春の愁ひかな
春眠の後の発想転換す
首飾りして閻王のいかり肩
午前中三面六臂午後昼寝
六甲の羊腸の道霧流る
虫の闇裂くは暴走族なりし
静謐の炎といはむ曼珠沙華
大宇陀の白装束の案山子かな
字幕にも目を走らせて毛糸編む
ペン画もて俳画となせり十田久忌(十田久は青畝の号)
手炉の灰煙草の灰と交はらず
毛氈の二人に一つづつの手炉
麦の芽のたどたどしくも縞模様
寒牡丹巫女の緋袴より赤し
寒禽の忘れしころに髙音張る
わが道をゆくと残りし鴨ならめ
包丁の銘は堺や桜鯛
春愁や櫛の通りの悪き髪
雨の日は意気消沈の含羞草
灯の海の東京眺めビール酌む
若いのに俳句ですかと夏炉焚く
鰻屋の古色蒼然たる団扇
破芭蕉亀裂が亀裂呼びにけり
お互ひに子を誉めあひて日向ぼこ
明日のパン小脇に抱へ日記買ふ
万太郎句碑に三味線草ばかり
徳利のあやふく立てる花筵
しやぼん玉吹くひとときは母追はず
目に青葉老眼鏡を誂へむ
赤詰草母に白詰草父に
雨粒をはじきて太る実梅かな
渋滞といふことのなし蟻の道
絹糸にまさるかがやき蜘蛛の糸
石垣につきあたりたる木下闇
端居して見入るともなき庭の雨
漱石忌伊予のみかんに舌鼓
by 575fudemakase | 2011-04-16 09:49 | 句集評など | Trackback | Comments(0)


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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