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木槿

木槿

あはれほど咲きつぐむくげ散るむくげ

夏は居間から毎日のように眺められるようにと木槿を一本庭に
植え込んである。垣根にも一本植えてあるが居間に最も近い
ところにもう一本。その隣りに夕方から咲き出す白色の合歓
を一本。朝は木槿で夕方は合歓と言う寸法。もっとも合歓は
7月前半が最盛期で今は木槿。
さて 前掲の木槿句だが
「咲きつぐ木槿散る木槿」の対句で木槿本然は既に言い尽くされている。
これ以上何を謂うかである。へたに語句を付け加えれば蛇足になる。
しかるに 作者は〝あはれほど〟という絶妙を添加した。
レトリックの手練れである。作者名は及川貞。馬酔木の古参同人。

秋桜子の貞評に「なにか人の使わなかった手を使いたいという気はよく
見えます」とある。されば次句なども、なるほどと頷けるところ。

空澄めば飛んで来て咲くよ曼珠沙華 及川貞

次いで貞句で私の感心する句は

夕やけの大きな山に迎へられ
月光の野のどこまでも水の音

平々凡々な「山」とか「野」とか「水」とか謂う言葉だけを使って大景を
立たしむる力業。

次も姿シンプルにして説得力有り。

翌ありとただ翌ありと去年今年
by 575fudemakase | 2013-07-31 08:30 | Trackback | Comments(0)

俳句で綴る変哲半生記(第一章)

俳句で綴る変哲半生記(第一章)

小沢昭一 岩波書店 平成二十四年十二月

先づは、端書きより

今で詠んだ句を集めましたら、およそ四千にもなり
ました。改めて眺めてみますと、どの句にも「自分」
というものがチラチラ出ているように思えます。
特に「駄句」にこそ私らしさが現れておりますので、
あれこれ選ばず、恥ずかしながら詠んだ句全てを載
せさせていただきました。まさに、これも私メの半
生記と申せましょう


第一章 俳句を知り初めしころ(昭和44年~53年)
第二章 句友がいれば、苦吟もまたたのし(昭和54年~63年)
第三章 駄句への愛着、迷句へのこだわり(平成元年~10年)
第四章 句縁で結ばれ、豊かな後半生(平成11年~24年)

以降は

第一章 俳句を知り初めしころ(昭和44年~53年)
よりの小生(高澤良一)の共鳴句

俳句との関わりにつき 変哲自身述べている箇所(短文)がある
ので以下にそれを掲ぐ

『それに、毎日の仕事の合い間に、ふっと俳句を作る時間になると
、たとえ苦吟していても、心が自分に戻るのです。長い間、どれだ
けそれで気持がほどけたかわかりません。脳のなかの血がゆるやか
に流れ出すような気分にさえなるのです。なるほどボケの予防にな
っているかもしれもせんですなぁ。小林一茶の晩年の、私の大好き
な句ですが、
今年から丸儲けぞよ娑婆遊び
・・・娑婆遊びというコトバに、うまいこと言うもんだと唸ってい
ますが、俳句は私にとって、ありがたい娑婆遊びです。』

今回私は私の好み、私の流儀で変哲句 凡そ4千句から合点する句
を手当たり次第抜いてみることとする。

後日 某誌を見ると 変哲100句というのがあって 小生が抽い
た句と大違い。いみじくも 変哲が別の處で言っている通り、〝選
者変われば 選変わる〟である。どっちも信用するな 自分自身の
目でみろーーーということ。
【】内は小生のコメント


南瓜はわせて主人(あるじ)民生委員なり
誰がかけし地蔵の首のからす瓜
手袋を肩に小便焼芋屋
薔薇植えて元銀幕の女王かな
浅草の風や腹掛竹牀几
ハンカチやリベラリストという教授
京成押上ひとを訪ねて残暑かな
かぼちゃからむ錆びし火の見の鉄梯子
さんま焼く煙夕映えまたあした
大根を煮る湯気の香やハイタダイマ
高楼(たかきや)にのぼれば浪花薄暑かな
おどおどとただおどおどと目高かな
蟲の音の蹴りても止まぬしげみ哉
栗食いてこれを終(しまい)と手をこする
りんどうを摘む下駄の緒のしめりかな
無愛想に道を答えしちゃんちゃんこ
床の間へ伸びた日脚の埃かな
陽炎を蹴散らし郊外電車かな
畏くも「ヒトリシズカね」とヒロヒト氏
雨の日はどこに宿るのかてふてふ
葱の花から関東平野は暮れる
泥はねて艶なり祭足袋はだし
秩父路の桑の実を掌に転がしつ
映写技師の太きズボンの薄暑かな
陽のありかわかるほどなる秋曇
落葉かけ合い遊びし杜(もり)よ兄弟(はらから)よ
蜜柑ぬくめてふところ手の帰りかな
閑(ひま)人も板につきたる新茶かな
本箱の場所変えてみる薄暑かな
大君の辺にこそ死なず老桜、アコリャコリャ
【下記を下敷きにした懐古詠か?
♪ 海行かば

作詞:大伴家持 作曲:信時 潔
歌唱:

(一)
海行かば 水漬(みづ)く屍(かばね)
山行かば 草生(くさむ)す屍
大君(おおきみ)の 辺(へ)にこそ死なめ
かへり見はせじ

(二)
海行かば 水漬く屍
山行かば 草生す屍
大君の 辺にこそ死なめ
かへり見はせじ

(三)
海行かば 水漬く屍
山行かば 草生す屍
大君の 辺にこそ死なめ
長閑(のど)には死なじ


寝つかれぬ宿の浴衣や遠蛙
祭の甘い闇に不良少年少女
はじけるに間のある青さほうせん花
白蟻の広告バス停は秋ひでり
つらら陽に輝く朝の旅立ちや
ゆく年や下駄からからとポストまで
湯の中のわが手わが足春を待つ
初電話今年も妻の動かす家庭
時計屋の微動だにせぬ金魚かな
偏屈の夫へつくる梅酒かな
夜店へ向いて百円玉のまっしぐら
【登場人物が掻き消されて 代わりに 百円玉が主人公に
すり替わっている。この倒錯がおもしろい。もちろん
子供のお小遣いの一句】
背の痒くしきりに痒く夜長かな
催促にゆく決断や年の内
行くピエロ帰るピエロよ寒夕焼
【ピエロには企業戦士たるサラリーマン像を思ひ重ねればよいか?】
鴨南に温ったまったる夜風かな
散人の色紙ありけりカキフライ
七草の半ばそろえばよしとせり
枯芝や紙ヒコーキの落ちしまま
鰻重の朱塗りのてりや牡丹雪
鏡台のうるしの照りや日脚伸ぶ
やどかりは歩みし分を流されぬ
蚊柱の露地や「三郎ごはんだよォ」
声かけて昼寝の足の返事あり
【随分とズボラな句である。横着にも片足を挙げて返事としたか?】
日帰りの親子に荒き土用波
風の夜に月走る月走るなり
【掲句には雲が省かれている。雲と月との関係を詠んだ句。
もっとスッキリした表現形は
風の夜に月走りまた走るなり
ぐらいでよいのだろう
実際に走ったのは雲。静止する月に次々流れるのは雲。それを
〝月走る〟と倒置したのは
嘗て 〝波打つ崖〟を表現するに 波を静止させ〝崖進む〟とやった
論法と同じ】
寄せ鍋の遅刻を待ってトロ火かな
寄せ鍋に万事めでたく高笑い
湯ざめしてまた入る湯に目をとじぬ
寒月や女房と腕を組んでみる
氷蹴りつつ通学のひとりっ子
紅梅や靴下ではく庭の下駄
【この場違いのような感覚おもしろい】
ハンカチや話はとんとまとまらず
打水や今日半どんのブリキ職
焼酎や浮世をすねてみたものの
夏やせや働き盛りとひとの言う
深川のその日稼ぎの水の秋
破れ蓮の葉末小魚につつかれて
この街に小鳥来ること有難く
取的の下駄のひびきや都鳥
円鏡のラジオせわしや年用意
獅子舞の思いのほかに老いし手や
小さんらしきラジオ聞こえて春炬燵
川沿いの道を行こうよ春なれば
【これぐらい自然に俳句を述べられればよいんだが・・・】
主あまり見かけぬ家や藤の咲く
溝さらいさらいし泥に生きるもの
溝さらい「子供はどいたどいた」かな
【こんな口調も好みだね】
小さき子にキョトンと鯊は釣られけり
障子貼りまずはほうじ茶すすりけり
by 575fudemakase | 2013-07-30 08:04 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

俳句で綴る変哲半生記(第二章)

俳句で綴る変哲半生記(第二章)

小沢昭一 岩波書店 平成二十四年十二月

先づは、端書きより

今で詠んだ句を集めましたら、およそ四千にもなり
ました。改めて眺めてみますと、どの句にも「自分」
というものがチラチラ出ているように思えます。
特に「駄句」にこそ私らしさが現れておりますので、
あれこれ選ばず、恥ずかしながら詠んだ句全てを載
せさせていただきました。まさに、これも私メの半
生記と申せましょう


第一章 俳句を知り初めしころ(昭和44年~53年)
第二章 句友がいれば、苦吟もまたたのし(昭和54年~63年)
第三章 駄句への愛着、迷句へのこだわり(平成元年~10年)
第四章 句縁で結ばれ、豊かな後半生(平成11年~24年)

以降は

第二章 句友がいれば、苦吟もまたたのし(昭和54年~63年)
よりの小生(高澤良一)の共鳴句


変哲句だんだん若作りになると採る句すくなくなります。
変哲さんが第二章辺りに挟み込んだ短文に面白い箇所があったので
それを抜き書きする。
所謂 人により”選”というものが如何に多様であるかということ。
”選”を幾つかに収斂させることがいかに至難の業かということ。

『俳句の良し悪しには、あるレベル以上だと、あとは好みの違いが
大あり、どだい不確かなものだと、どうしても思えるのです。
だって、例えば、毎週私が愛読している朝日新聞の俳句欄。
四人の先生が投稿句すべてに目を通されて、その中から、それ
ぞれ十句選んでおられまして、複数の先生のお目にとまってダブ
って入選となっている句には、星印が句の上に付くのですが、これが
毎週めったにない。たまに二人の先生が選んだ星印があるくらいなん
です。つまり、四人四様の選択基準。具眼の先生がたの目もバラバラ
なんですかな』それその通りだと思います。


煮凝や女房をたよる吾となり
春寒やあるじ帰らぬ灯のようす
花火する子等にまぎれて犬はしゃぐ
コスモスに風の渡れば夕餉かな
一本つけてもらって蕎麦屋の庭紅葉
もう二軒大歳を越す札まわり
菜の花にむんと風なき真昼かな
スイートピーコップに似合う花と知る
冷麦屋不動産屋の馬鹿笑い
のしという泳ぎへ子等の拍手かな
父泳ぐ海軍体操念入りに
夕顔や垣根をはさむ立ちばなし
みぞるるやつい諍いて帰る道
年明ける雀をききて眠りけり
夏の夜の眠れぬ果ての渋茶かな
金魚死す家族旅行の留守の間に
椰子の実を書斎に名誉教授かな
かたくなに木の葉一枚おちざりき
冬ごもり養毛液の残りかな
鮟鱇や金馬の口も大きくて
あじさいやオバケヤシキと呼んだ家
かんざしに手をやるしぐさ野崎船
菫など咲かせやがって市役所め
ぬくき夜は素足で下駄でポストまで
何事よ緋鯉にわかに散りにけり
犬と遊ぶ土管置場の赤まんま
畦をゆく子等より速し春の水
門灯のまわりまあるく雪しんしん
穴子裂く返し包丁光りけり
手甲でふかす煙草や金魚売り
極道を恥じて住みたる甚平かな
葉月なる夜風東京音頭かな
駅前に待ちあわせれば秋の空
わが町はビル少くて渡り鳥
短日の宿の廊下に迷いけり
二の午の一軒だけのリンゴ飴
うらなりに似る番頭や道後の湯
歳時記を離さぬままの昼寝かな
ぼうふらや不揃いのシンクロナイズドスイミング
本牧のボタン屋の窓水中花
秋刀魚キラキラ陽がのぼる荷揚げだァ
ちゃんこ鍋あのとっつぁんが巴潟
落第や吹かせておけよハーモニカ
質屋もとらぬ女房と初鰹
藪っ蚊め眼鏡を探す間に逃がす
遠花火まだ一仕事残る街
正座して月を眺めていたりけり
裏白のピアノの上に乾きけり
摘草や束ねる紐にする草も
科白覚えの悪さつくづく余寒
やみくもにぶつかるだけの灯取虫
片蔭の銀座に紙を購えり
人の住む気配もなくて稲の花
藁仕事婆はラジオにくわしくて
寒風へ頭を槍にして進む
室の梅みがきこんだる廊下かな
梅雨寒の宿の将棋は駒不足
蠅叩き入手す家内一巡す
ベコベコのアルミのコップ岩清水
その晩のうちにこわれて走馬燈
丹念な焦げ目屋台のとんもろこし
床屋でも行ってこようか冬日和
紙漉の言葉すくなき手順かな
うどん屋であすは冬至と聞きにけり
by 575fudemakase | 2013-07-29 04:07 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

林火忌余話

林火忌余話

さきに濱終刊関連につき林火忌に触れた。
今回はその続き。

小生が林火師の訃報を知ったのは吟行先の四万温泉に
着いた時のこと。東京支部句会に同道してこれから吟行
&句会と勇んでいたときのことである。
即刻 リーダーの新井正隆さん等は帰京。他は翌日帰京と
いう段取りとなった。
一方 横浜では直系の弟子 鉄之介、昭彦、朝人、稔、岡田鉄
等が明日は危篤かという塩梅で枕元に張り詰めていた。
この枕元で鉄之介が濱誌を継ぐということが決まった。

八月二十一日が師林火の没年。

宮津昭彦さんの遺句集の一つ前の句集「暁蜩」に

暁蜩みとりに果てのありしなり 宮津昭彦

がある。挨拶句としてしみじみするものがある。

話しはそれからだいぶ経ってのこと。
編集部の下田稔さん、岡田鉄さんから林火先生宅より
神奈川文学館へ蔵書を寄贈するから手伝えという連絡
が来た。作業終わってからご褒美に一冊持っていけと
いう。そのとき頂いたのが 大野 と三文判の押して
ある 誓子の「黄旗」であった。
これは今でも私の蔵書棚にある。

なお さきの蔵書整理のときだが 林火先生宅の家中
の通路という通路は本の山で埋まっていた。
後々の話だが 林火宅の訪問の弟子にはいい本があった
持っていけということであった。
by 575fudemakase | 2013-07-28 11:32 | Trackback | Comments(0)

濱終刊

濱終刊

俳句誌 濱 終刊に当たっての最終同人会が
さる7月25日 横浜 労働プラザにて開催され
終刊につき経過説明があった。百名ぐらい参加。
小生もこれが最後ということで列席。
終刊の詳細については既に月刊誌に主宰自らが
述べられておられるとおりであった。
本年 8月号を以ての終刊の理由は 同月に林火忌
があり、これを考慮したとのこと。

閉会後 お別れ会という趣旨で 中華街 華正樓
で 林火先生のお嬢さん 玲子さんも交えて別れ
を惜しんだ。

以下は小生の林火忌 関連句

彼の日のごと権兵衛坂は灼けをりぬ 寒暑
日盛りを煌めき渡る風のあり 寒暑
林火忌を憶へばそれに連なるひと 石鏡
林火忌の朝動き出す街の音 石鏡


1句目 2句目は葬儀の日 若手がかり出され 炎天下
に突っ立って来訪者への道案内を勤めたことを思ひ出しての作。
3句目 4句目はそれから日が経ってからの作。


なほ 横浜 神奈川の白幡南町のご自宅を詠んだ
自句としては

大野林火先生居
焚莱山房庭前の萩走り咲き ぱらりとせ
(焚莱山房はフンライサンボウとよむ)
因みに この萩 林火師の師 臼田亜浪宅より持ち来たりしもの。
林火辞世句3句はこの萩にこと寄せたもの。

今も先生のお宅の門には 白字で 濱発行所と札が下がっているという。
by 575fudemakase | 2013-07-27 08:51 | Trackback | Comments(0)

俳句で綴る変哲半生記(第三章)

俳句で綴る変哲半生記(第三章)

小沢昭一 岩波書店 平成二十四年十二月

先づは、端書きより

今で詠んだ句を集めましたら、およそ四千にもなり
ました。改めて眺めてみますと、どの句にも「自分」
というものがチラチラ出ているように思えます。
特に「駄句」にこそ私らしさが現れておりますので、
あれこれ選ばず、恥ずかしながら詠んだ句全てを載
せさせていただきました。まさに、これも私メの半
生記と申せましょう


第一章 俳句を知り初めしころ(昭和44年~53年)
第二章 句友がいれば、苦吟もまたたのし(昭和54年~63年)
第三章 駄句への愛着、迷句へのこだわり(平成元年~10年)
第四章 句縁で結ばれ、豊かな後半生(平成11年~24年)

以降は

第三章 駄句への愛着、迷句へのこだわり(平成元年~10年)
よりの小生(高澤良一)の共鳴句
()内は小生のつぶやき。

毬拾うにわか良寛にて暮るる
ふんどしと俺と昭和と厄おとし
いまさらに吾が身いとしき初湯かな
剪定の音の途絶えて昼餉らし
放り出すバナナの包み父帰館
放歌高吟酔漢バナナしかと抱く
まみどりの田をまっ二つつばくらめ
湯上りにはや整いし夏料理
川向うだけ夕焼けて暮れにけり
短夜の他人の家のにほひかな
酔うて梨しずくものかはかぶりつく
山あいの陽ざし短かし吊し柿
熱燗に仕事を了えし機嫌かな
湯気立ててある奥の間に金庫あり

壇の浦見下ろす丘や椿落つ
海澄みて底まで冬日さしこめる
冬凪やいみじきものの流れ寄る
雨降りてやさしき春に包まるる
なにはさて春は分葱のぬたの色
うとうとと観る小津映画春炬燵
遅き日の帰宅まぎわの立ばなし
春の灯のゆらいでやがて眠りけり
小流れに小魚速く夏来る
蛞蝓やしばらくはかぬ庭の下駄
裸電球すももひと山売れ残る
失敬という挨拶や夏帽子
父の日の父のびんぼうゆすりかな
浜木綿や漁業組合残業らし
冷房をいとう恩給ぐらしかな
暑気ばらいですと昼より酩酊す
かき氷ブリキの匙の舐め心地
花野とは遠く眺めて花野なり
出稽古にゆく曇り日の秋袷
美術館の搬入口や蔦紅葉
あんたがたどこさひごさの小春かな
八千代座のうわさ浅漬手に受けて
備長で焼く無愛想の主かな

雪かきの道をきかれて一服す
裏木戸へまわっても留守青木の実
立腹の酒や目刺しを食いちぎる
握れば以外葱坊主ひんやりと
気をつけのまま風にゆれ葱坊主
春暮るる今宵はヨハンシュトラウス
蜃気楼の話などして薬売り
むきだしの命はねたり青がえる
けたたましく中華民国夏に入る
ビールあり世話女房あり夜風あり
まずは下駄つっかけて出る避暑地かな
俺見えぬあたし見えたの流れ星
秋めいてビル半分にビルの影
下駄屋店じまいして柳散る
ポケットにあった去年の木の実かな
熱燗にしろと小言のあるらしく
貞吉ではねて上野の初時雨
餅をつく養護学級にぎやかに
ざんぶりと湯のあふれ出て除夜の鐘
ストーブに旅の楽屋の阿弥陀くじ
炭つぎてまァ休んでけや食いなんしょ
暫時柝の途絶えて夜番何をせし?

探梅の客へ和尚の注意書き
水洟の釣り銭手間がかかりけり
白足袋やお日和もよく出開帳
試験もう終ったらしきギターかな
春潮に散りゆく岩の虫あまた
たんぽぽや飛行機雲の野に立ちて
春寒やここまでくればひと我慢
起伏ある町小石川春の虹
朝凪の浜をしわの手組む二人
潮焼や腰で結んだアロハシャツ
ほのるるの夜涼の月の明澄に
直江津の一直線の浜や夏
打ち水や平次が謎をとく時分
汗をふくとき人はみな好人物
蛍とびそうな今宵よ鍬洗う
水羊かん結局はなし切り出せず
炎天下第一京浜炎上す
休暇明けことあたらしき雲と風
南瓜煮ておいたからネと母子家庭
庭掃けば昨夕(ゆうべ)来た子の花火くず
口にふたする仕草して秋扇
末枯や夫婦っきりのちんどん屋
小春日や動物園のうらの道
藪入りの六区デン助、不二、大江
熱海より芸妓来ていて初芝居

散髪はまたの日にして雪もよい
焼きうどんつくる留守居や雪もよい
咳ばらいしてあらわれる主人(あるじ)かな
ついぞ見ぬ猫も来ていて軒の恋
臼のごとおはす余寒の首ぼとけ
燕来てほほえみ給う磨崖仏
とある夜にもずくで酒をなめにけり
上着ぬぐ時ひとひらの落花かな
手拭をかぶる意気ごみ大掃除
バイエルのもれくる薔薇の垣根かな
穫れすぎのいかの噂や佐渡暑し
踊りの娘ひとり選びて目で追いぬ
骨と皮背広着ていて伯父涼し
道具屋のよろいかぶとや志ん生忌
買い食いの子供こころに月の道
くるみ割る人それぞれの手つきかな
靴下ではく庭下駄や落葉焚き
書初めや嫌な野郎の見事な字
横浜の坂やまもなくクリスマス
寒夕焼馬のにほひの根岸かな
元日という日も暮れてゆきにけり

カーラジオ八代亜紀なりみぞれ降る
虎造を寝てイヤーホーン春の風邪
寝不足をむうっと包む朝曇り
両国に草履の音や風薫る
浮人形ゆうべのままの風呂の水
夏の雨西の雲間に陽はさんさん
新涼や額かけ替えてモジリアニ
遅き湯にひたれば遠き虫しぐれ
風あればななめななめに秋の蝶
いちど手に包みて桃はむくがよし
たこ焼をほおばっていて流れ星
迷いとんぼガラスを上下して死せり
車窓一瞬幟の見えて秋祭
夕刊を簑傘にして初時雨
ごみ捨てに出ればカラカラ落葉の夜
どんとどんとむかし藤原波を越え
散る木の葉散らぬ木の葉もやがて散る
寒風やはずれ馬券の野毛通り
馬車道の秘薬売る店寒灯し
どうらんの堅さ冬至の楽屋かな

寒釣や同じ顔ぶれ同じ場所
寒釣の餌かえてみて小半日
束髪に椿の表紙「主婦の友」
寮長の意外に取るや歌留多とり
梅匂う農家のぞきて吠えらるる
汐干狩熊手にすがり子は帰る
ブリーフに収まりよき日春ぞ行く
(ブリーフのところがパンツだったら駄目である
股間にピッタリとくるのはブリーフ この肌感覚
が眼目 収まりよきとは男の一物であろうか?)
山吹や鉄砲の音ポンの音
人はみな食って生きてる夏の雲
蛍の背べんがらの赤炭の黒
お岩でて貞山の脱ぐ夏羽織
スター居て付人の居て日傘かな
トマト煮てワイフ突然カンツォーネ
足で足掻いて昼寝の覚め心地
昼寝さめさてもう一仕事する背伸び
流燈の明くれば堰に無残なり
かくなればかくなるものよ秋の蝉
駅裏に咳こむひげの易者かな
防火用水まだ残る町秋の暮
へへのののしかと見守る実りかな
冬の朝遅刻しそうな子の走る
肉まんの湯気立つ角に人を待つ
爆音の聞こえるエイの姿かな
伝法な口も羽子板市の華
かさぶたのある子凧揚げ上手な子
新年はけだし心のなかのこと
雪は朝おどろくことを佳しとする
如月の星刺してくる夜道かな
菱餅の菱の先より反りかえる
逃げ水の逃げる彼方の鎮守かな
二浪して草笛吹いていたりける
短夜やどこか近所へ救急車
糸とんぼ帆かけてつるむ葉末かな
手花火をするお屋敷のパジャマの子
彼岸花よくも彼岸にあわせ咲く
腹ばいに見る小津映画秋めく夜
虫の音に寄れば鳴き止み去れば鳴く
一望の刈田にまろぶ犬二匹
それぞれの窓それぞれの秋の灯よ
児の靴の片っぽ落ちていて野菊
いつもよりゆっくり歩む秋深し
ロッパ観てホットケーキの日比谷かな
年暮るる猫つくづくと見てやがる
*お嬢さまお入ンなさいの声うらら
*セーターはお古メンコの強い奴
*年問えば手袋ぬぎて指出す子
*背で囲み背で話し合う焚火かな
(*かような句は何を意味するか?
谷内六郎的世界 即ち 六郎メルヘンの再現である)

*本郷の市場たいやき買う教授
*水洟や万年筆(ペン)修理する腕カバー
*如月やぱったり顔を見ぬ易者
*仕立物とりに蜆の路地を踏む
*事務服のバドミントンや春めく日
(*かような句は何を意味するか?
昭和風俗の博物館への収集である)
野遊びや次男の嫁になるひとも
(極めて個人的事情をも俳句と為す
これ小沢昭一的世界)
両国の髷の匂いに夏来る
西空へ向って泳ぐ鯉のぼり
夕立ちのあがりし町の匂いかな
あじさいの供えてありし無縁墓
江ノ電の踏切りわたる夏の蝶
うな丼や親父の馴染みだった店
遠出したばかりに蚯蚓干からびる
勝鬨をわたる都の雲の峰
手花火や算盤塾の角あたり
ふるさとで着る横綱のアロハシャツ
下駄といふ有難きもの夕涼み
(一句一句に一味加えてあるという感じ
この手間が後味となって読み手を魅了する)
夕立ちや小言もにぎる江戸かたぎ
短夜やウクレレの弦切れしまま
裏路地へ日傘で顔を隠すひと
昼顔や隣家の下手なバイオリン
枯蔦のはう窓からのマンドリン
おでん屋の同じ顔ぶれ同じ席
悠久のなかのひと日の初み空
いっぱしに鎌ふりあげて子かまきり
たきびの輪老棟梁の朝の指示
寄せる波あれば引く波去年今年
網干してあるだけの島小春かな
餅花の上(かみ)に昭和の両陛下
吉良の忌やうまい役者が吉良の役
商談のまとまる鍋の機嫌かな
寒き夜の舌ににぎりのぬくみかな
雪女郎とけて流れて三島まで
(以前にこの様に詠ったのは白隠)
陸送の噂峠の雪女郎
(天声人語のようなものなら昭一俳句は
いくらでも挟み込めそう)
ねんねこのなかパッチリと上眼かな
岩のりに仄かに海の甘みかな
あぶく銭使い果たして冴返る
タテのカギ二つわからず春の風邪
白きもの見えがくれして遍路みち
春雨の谷中の墓地の匂いかな
すかんぽやバスにぬかれる万歩計
天衣無縫おたまじゃくしの丸い口
若き日の下宿仲間やパリー祭
炎天下現場検証裸女腐乱
(かように 妄想も超一流)
地下鉄を出れば炎天襲いくる
風鈴はたまに小さく鳴るがよき
百円ライター造る工場や夾竹桃
杵屋某の表札ありて百日紅
まずおらが食うだべおらの今年米
寒き朝痴呆の母は薄着にて
その場しのぎに生きてきてまた師走
相談をしてる兎の鼻と鼻
酢なまこやのれんを入れた後の酒
懐手して棟梁の鋭き目
(かように人物描写の眼も鋭い)
小津映画流るるままに寝正月
席ぱっと立ってゆずる子春隣
口笛の透る夜道や冬めける
水洟やひとりの方が好きな俺

*****************

変哲句に詠まれる句の人物、情景が多彩、
躍動しているのは、ひとえにラジオトーク
演劇 放浪芸などをこなす小沢個人の大衆
との接点の多彩さを反映するもの
by 575fudemakase | 2013-07-26 08:14 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

俳句で綴る変哲半生記(第四章)

俳句で綴る変哲半生記(第四章)

小沢昭一 岩波書店 平成二十四年十二月

先づは、端書きより

今まで詠んだ句を集めましたら、およそ四千にもなり
ました。改めて眺めてみますと、どの句にも「自分」
というものがチラチラ出ているように思えます。
特に「駄句」にこそ私らしさが現れておりますので、
あれこれ選ばず、恥ずかしながら詠んだ句全てを載
せさせていただきました。まさに、これも私メの半
生記と申せましょう


第一章 俳句を知り初めしころ(昭和44年~53年)
第二章 句友がいれば、苦吟もまたたのし(昭和54年~63年)
第三章 駄句への愛着、迷句へのこだわり(平成元年~10年)
第四章 句縁で結ばれ、豊かな後半生(平成11年~24年)

以降は

第四章 句縁で結ばれ、豊かな後半生(平成11年~24年)
よりの小生(高澤良一)の共鳴句

竹馬へ取っておくれと軒を指す
女房の旅行で留守で日脚の伸ぶ
のっけから老妓の小言寒ざらい
竹馬やひとりで遊ぶ娼家の子
春の風邪うどんなるもの旨きかな
揺らすともなくふらここに本を読む
雀の子親はどこかにきっといて
まずつかるぬるき湯舟や花疲れ
こいのぼり孫のそれほど喜ばず
浦安に老いて穴子をさく手際
両国の髷のにほひも五月かな
天下国家をさておいて冷奴
手のなかの散歩の土産てんとう虫
まず子供とびだす夕立一過かな
蟋蟀に八重子の後姿かな
こおろぎや家族寝た夜のぬるき風呂
鼻唄の夜なべはかどる草津節
味噌汁の匂いのなかの今朝の秋
終電の絶えて二駅月とゆく
鷹匠に呼ばれ鷹めはまっしぐら
小春日の天神様へ通りゃんせ
空咳をひとつしてみて講釈師
耳に志ん生口に塩豆年惜しむ

初場所や女連れなる赤ら顔
春立ちてひと駅歩く陽差しかな
春の夜や五高の寮歌うたう酒
川風も春色里のありし土手
生まれただけの遠き満州猫柳
子を二人育てし針の針供養
あのむすめギターをやるか春の闇
広重の由比蒲原や白子干し
深呼吸して伸びをして若葉かな
教室に舞い込む花の一学期
目差し食う仕草も東野英治郎
花鬼灯咲かせて書道教授かな
現世を忍び足にてかたつむり
夏の夜やおいぶらっと出てみるか
下宿屋の下手なウクレレ薄暑かな
ブリキきんととおもちゃ売場で泣きやむ子
おこしやすここでお見やす大文字
ひぐらしや積み上げられし無縁墓
夕立ちの駅や迎えのありとなし
髪刈りて出る新涼の丸の内
一等は父のなき子や運動会
寄れば止み離れれば鳴く蟋蟀め
マイブルーヘブン夜寒の家路かな
みぞるるや元湯まで行く宿の傘
しわの手を柚子にいたわる柚子湯かな
手甲のこはぜ勤労感謝の日
熱燗を世辞ものせ注ぐ二本指
年の瀬をゆく足どりの幸不幸
冬ざれの野毛焼とりの煙かな
聞くはめの身の上ばなし焼芋屋
何もこの師走に山の俳句会
物忘れする顔ぶれの年忘れ

寒月や鼠小僧の屋根わたる
牛鍋の湯気に商談まとまりぬ
寒の道おのずから出る軍歌かな
お互いの足を止めずの御慶かな
渋面の人底冷えの兜町
繭玉や吉原(なか)へくりこむ高笑い
淡雪へ高き声あげ子の帰る
独活和えやおかみはむかし新喜劇
ばか貝のかなわぬ恋の桜貝
春昼のぼくしか居ない美術館
拙宅へおこぼれ届く花吹雪
壺焼を廻し廻して無聊かな
往く春を送らむどじょっ子ふなっ子と
子と孫の共同謀議万愚節
苗代の水は遙かな穂高より
まだ尻を目で追ふ老や荷風の忌
悪口も雑言も薬暑気払い
祭屋台出っ歯反っ歯の漫才師
蜘蛛の子の行方見定め長湯せり
「新茶どす」三条木屋町小さき宿
猫はもと卯の花くたしに拾われし
三度目の欠伸卯の花腐しかな
蔵前に老いて音のみ聞く花火
手甲の下の小皺やにごり酒
     、
右左逃げる沢蟹沢歩き
     、
川の字や昭和も蚊帳のありし頃
    、
後継ぎのなき一徹の田草取り
      、
腹ばいの煙草の味も秋めく夜
片陰の慈悲をもらいてポストまで
うなぎ釣る名人という腕の皺
ただの空ただの原っぱ秋満々
秋の日や子犬じゃれあふ駅の裏
旅空の蜻蛉に聞かすわらべ唄
鶴見総持寺霧の流れて裕仏(ゆうぼとけ)
湯舟にて聞く極上の虫の声
貧乏ゆすり嫌う女房と長き夜
肌寒や閉じる噂の純喫茶
肌寒や貧乏ゆすりして屁をたれて
短日の野毛立ち飲みの露天商
冬ざれや子を風の子と言ったげな
残されて飛箱やる子日短か

今年とてつまるところは同じこと
親鶏のぬくみ宿して寒卵
水仙や帯止めきゅっと締める音
夜もすがら雪は差し足忍び足
寺町の裏ことさらに牡丹雪
田楽や二万石でも城下町
母の手で入学させたランドセル
じっとしてゐれば過ぎゆく二月かな
宿浴衣着くずれていて弥生かな
おもかげは金子みすゞや春日傘
石けりはさざえの蓋の港の子
佳きことの今日二ッありおぼろ月
吾輩も猫になりたき弥生かな
まぁ言はば騙(かた)る稼業やはるの風
伊勢参り柏手揃ふ弥次と喜多
春の夜のもう三人の戦友会
雪舟の庭と伝えて小さき滝
昼顔や足を洗えぬ水稼業
亀に水かけて残暑の見舞とす
きつつきのつつく巧みも生きる術
参道に大輪競ふ菊自慢
三の酉更けて梨園のひとらしく
ラグビーのテレビうとうとうとうとと

寒月やさて行く末の丁と半
春寒や不義理出不精人嫌い
ゴムかけてある筆箱や卒業す
どうだんの花のご飯のおままごと
身ぶるいの犬の背より散る桜
麦踏の足に合わせておけさ節
浅草の夢や音なき春の雨
手バリカン使う床屋の半ズボン
ウインドの金魚のいない金魚鉢
サングラス器量の上がる下がる人
縫いものや時計の音の秋灯下
惨劇の現場検証月細く
道楽も覚めて今宵の初時雨
さずかりし身すぎ世すぎよ初時雨
露寒の前へならへと露の玉
吾輩は漱石読まず漱石忌
船員のどてらはおりて煙草買ふ
あぶらうる暖炉元町旦那衆
ぬくぬくと炬燵で愚痴の身分かな
水洟や昔は毒のありし人
冬麗ら庭でも掃除してみるか

五慾ひく二慾三慾寒の内
水鳥の痩せて離れし一羽かな
小春日の病室隠れ煙草かな
取的の裾や両国春嵐
小半日浮子は動かず水ぬるむ
遅桜水戸支局長にて逝きし友
幕切れの桜吹雪や柝のきざみ
象の鼻後ずさりして日永かな
うなぎ捕り七十年の腕の皺
うすものやヒルの部はねた木挽町
萍や流れて慣れて泥水に
黴の香や明治元勲御用宿
短日や女房の愚痴に目を閉じて
冷酒や始終無言の平手造酒
雷雨沛然猫の喧嘩を仲裁す
でで虫の安堵は井戸の蓋の裏
同県と知る夕立の軒の下
母ひとり子ひとり線香花火かな
ふるさとや踊りの輪へは三ッから
駆けめぐる子等を叱りて墓参り
馬子唄の尾花分けゆく中山道
なすこともなき敬老の日や咳ばらい
熊撃たれ十万億土へおもむく目
木の葉追う猫あきらめの程を知り
まずマスクはずす笑顔の待ち合わせ
湯たんぽや質素の美徳たりし頃
ッてなわけで虻蜂とらず冬休み
さざん花や作曲家とかいう住居(すまい)
車中同行身延山まで冬の蠅
息白く質素を旨と生きし頃

独楽も目が廻ってバタリ倒れけり
冬枯の野を串刺しに鉄路かな
寒暖寒暖寒暖暖と浅き春
花どきの色に三浦屋格子先
雛の夜やもうオバサンの長女次女
春寒やもりにしようかいやかけに
浜で今朝捕ったと婆があさり汁
晩春は春の年増と笑ひけり
制服の娘(こ)の煙草吸う春の闇
金策のあれやこれやに明け易く
花冷えに番鴉(つがいがらす)の鳴きやまず
退院という足どりの夏衣
夕焼や今日の足どり明日もまた
木に水をやる一瞬のちさき虹
パッと散る目高よ何もしやせんぞ
かつおぶし風にゆらぎて夏だいこ
ハンモックさほど楽ではなかりけり
打水やいま番頭と呼ばれる身
月じっと眺め賭博の足洗ふ
幼な子のはだしにはしゃぐアスファルト
出稽古にゆく白足袋の今朝の秋
アンテナに土鳩来て鳴く今朝の秋
けなげさや風に逆らふ赤とんぼ
二泊して夜露ぶるぶるジョン帰る
秋晴へおのずと背筋伸び歩む
落栗や世にうずもれし師の舌禍
こおろぎや「縫いもの致します」の札
運動会延期の雨に万国旗
舌打ちでたたむみぞれの露天商
勤めると立つ病僧の初ともし

燕の巣五子誕生の朝ぼらけ
お達者と言われる腰の懐炉かな
ひまらしく守衛のつくる雪達磨
玉砂利のザックザクより淑気立つ
大挙して熱海芸妓や初芝居
藪入りの錦を飾るハンチング
獅子舞やのぞく手先の皺深く
梅見んと訪ね人出に戻りけり
春浅く窓拭く芸子紅だすき
亀鳴くを待つ鶴翁のあくびかな
長閑なりキャッチボールの父と子と
浅草や賑いよそに老塗師
毛虫突きつけ腕白の恋ごころ
ややあって毛虫の奴め葉の裏へ
ふるさとの校庭はだしになってみる
寝たきりへ夏めける風通す朝
橙の花ぞなもしと伊予訛
穴一つ詰めるベルトや涼新た
秋近し預金残高確かめり
新蕎麦の札や店主の筆のくせ
落魄の身にそそぎ込む蕎麦湯かな
撃たれたる熊の両眼閉じてやり
時雨るるやどうせ迎えの来ない駅
大火あり人の情けのおもてうら
元旦やいつもの鳥の二羽で来る

水仙や佛と暮らす四畳半
年寄の笑はぬ顔の初笑ひ
ボク電車好きと土筆は線路端
春日さす煉瓦明治の夢のいろ
薄き灯に宿題をやる夜店の子
口あけて餌をもらえぬ燕の子
燕の子しばし見上げて郵便夫
竹とんぼにぎりたるまま昼寝の子
夏やせと曰くありげに合わす衿
万緑の最中なるほど草田男忌
鼻寄せて兎相談あるらしく
暁のもう大根をきざむ音

黒き炭赤く燃え尽き白き灰
老残の頭の小言出初式
もの思ひ火鉢の灰に差す煙草
勇み肌さより握れば殊更に
姑娘(くうにゃん)の干し物らしく春の風
花筏分けて顔出す小さき魚
五月晴仰いで反らす老いの腰
いささかの暑さのがれにテレビ消す
葭切や浮子の動かぬ印旛沼
夕立やされば一服露天商
冷麦を拝む遍路の老ひとり
指先の濡れしぶどうの色つくづく
すぐ腹のへる年寄りや天高し
当てつけのようにはかなく秋の虹
トンガラシといふ癖ぬけぬ育ちかな
肌寒の近頃まっつぐ家路かな
茶のほうのしかるべき家松手入れ
餅をつく兎が確と良夜かな
うとうとの背にすやすやの日向ぼこ
近火あり寝巻同志のご挨拶
風邪声の長き小言を聞き流す
ビル風に下手なラッパの社会鍋
ギョーザ屋のサンタ姿も野毛通り
玉砂利を踏む袴より淑気立つ
咳をして不満の意志の替りとす

冬なればこその青さに空深く
餅花の垂れて置屋の茶の間かな
豆撒きに照れて叫ばぬ父であり
公魚の釣られてはねてあきらめて
春の夜や釣竿みがくだけの日々
駒下駄の鳴って小走り春しぐれ
菓子店のうぐいすもちと筆自慢
十薬の花やはばかり借りる庭
梅雨寒のいつもいる猫いない道
サングラス胸に下げてるだけの女医
夏のれんくぐり襟足直す科
梅雨近くやらなきゃならぬあれやこれや
奥入瀬の川音にのせ閑古鳥
郭公と教えて樵山くだる
暑気中りして見ておりぬバカテレビ
物置に亡き子を偲ぶ捕虫網
白粉花咲かせチンドン稼業とす
遊女墓誰が生けたか猫じゃらし
弔文をしたため更けて夜の秋
長き夜やたまには早寝してみるか
鳥渡る旅のかなわぬ身をかこつ
やや寒や昨夜(ゆうべ)さわぎし燗ざまし
道祖神木の実時雨にほほえみぬ
やや寒の寝床へ急ぐ素足かな
鰤かまを食ふ箸さばき漁労長
馬車道の裏に開化のにほふ風
裕チャンと気安き女波止場風
掃納めして銭湯へ錺職
掃納め塵から拾ふ五円玉

江の電にただ海を見て実朝忌
大木に隠れる真似も実朝忌
早梅や碁を打つ音の離れかな
閑散の八百屋春待つ手をこする
鬼ケ島雉子を頼りの桃太郎
海苔舟や羽田に老いて海眺む
「早春の候」と葉書にこごえる手
恋猫のもう恋を捨て陽を恋えり
一本道歩きながらの日向ぼこ
如月の日差し頂く寝床まで
ふるさとの訛は抜けず啄木忌
ともかくも倅入社の桜鯛
手に乗れば蝌蚪ぱくぱくと丸き口
上賀茂に雅びの風やくらべ馬
祭屋台まだ存命の腹話術
夏花抜き髪にかざして婆の往く
良寛の螢となりて五合庵
十薬の白にみとれて厠窓
「おはよう」と知らぬ人なり夏の朝
宿浴衣浮世の裏を五十年
猛暑きてどうでもいいぜ振りチンコ
蟲の音を湯で聞く夜更け後生楽
稲妻に山のかたちを知る夜道
優勝の品竹箒村相撲
見慣れたる庭を見直す無月の夜
みのむしの皮の財布も老い仕事
ブリキ職区議当確のにごり酒

大寒の夜の六度目か厠月
癇性の女の叩く蒲団かな
早慣れて暮春の肩のランドセル
ブランコを落選候補まだ揺らす
はこべらや長く空地の駅の裏
夏めくや下駄占いで遊んだなぁ
蠅多き街なればこそこの活気
筍をサラッと煮たる甘下地
飛魚ややたらにトンデみる人も
またの名をグビジンソウとは知らざりき
桑の実をくれて別れし村はずれ
オサラバも近き浮世や夜光蟲
すててこのまたアベサダの話かョ
道きけばトマトをかじる子はにげた
待ちきれず眠りて更けて「ブッポーソウ」
七月の暮らしさまざま「もう」と「まだ」
朝顔や路地に咲く人しぼむ人
丘の上秋満喫の深呼吸
名月や失意の帰路の真正面
あの野郎俺を逃げたな濁り酒
感慨も年相応や流れ星
すれちがふご婦人の胸秋想ふ
十月は半ぱな月と襟合わす
父逝きて叱らぬ母と摂(と)る夜食
朝露や定年二名立ちばなし
おしろい花散らす横丁郵便夫
妙な音立てて湯たんぽ胸に抱き
空ッ風吹く懐へうどん風
場違に非らず平然冬の虹
毛皮などはおって金のない奴め

変りばえせぬもめでたし初句会
炭団まだ積もる話に赤味さす
裏店の生まれ育ちや福寿草
変わりばえせぬ俺も句も年新た
ぬるむ水人差し指でたしかめる
伯父上京郷里(くに)の雪崩の長ばなし
春寒やまた本年もこの上衣
春の夜のやけに賑わう隣家かな
春の夜や娘と照れて詰将棋
女房と紙風船打ち転勤す
春の夜の春来たる音春あらし
入学をのばす病弟あるも春
国民学校後輩ですと花の縁
ヘェこの娘「キントト」と言ってた娘じゃないか
木苺のこんな町場の道路わき
ラムネ壜にぎり昭和の子にもどる
麦飯やいまカネモチの膳の上
溝さらい知らない顔は何処の嫁
夜遊びをするらし鰻は夜釣れる
釣ったはいいが糸にからまるド鰻メ!
わが庭の実梅大事に大切に
悪妻といわれる女(ひと)のサングラス
大部屋も長く日傘の似合ふ女
夕立のあとの横丁深呼吸

以上

************************

さるとき 横浜は野毛近辺の飲み屋街に小沢が現れるという噂が
流れて皆網を張って待っていたがその夜は現れなかった。
野毛の街興しの一環か何かであったような気がする。
よなよな古色ゆかしき芸人が出没するという・・・・。

当集を読むと 小沢の吟行地として横浜が頻出する。
野毛、元町、馬車道などなど それも時代を遡って明治時代までも。
小沢は舞台芸人であるから一人芸も能くする。
奇天烈な情景を設定して ひとりのめり込み演ずるのは得意である。
その伝で 当集にはサラリーマン俳人では思ひもつかぬ情景設定が
随所にみられる。楽しむべし小沢ワールドである。


さて、以下二句は私だったらこうしたいと思ったところ。

俺こんな顔が秋立つ鏡かな
俺こんな顔で秋立つ鏡かな

蝗かなお前立派な面してる
おい蝗お前立派な面してる

なお小沢は俳句以外に川柳にも手を染めていたので
俳句の文体以外に 川柳的文体をも駆使して表現は多彩である。

俳諧宗匠を「やなぎ句会」に招待、たてまつりつつ、実は泥臭い我流を鼓吹
したのが実態であろう。ここらへんが芸人の心意気、根性である。素人宗匠
が適わないのはこの点。

毛皮などはおって金のない奴め
麦飯やいまカネモチの膳の上

嘗て小沢はテレヴィで唖然坊の「金金節」を
朗々と唄ったもんだ。

以下にその文句を引用しておく。

添田唖然坊   Soeda Azenbou ( 1872 - 1944 ) 日本

「 金金節 」   
     
詩: 作曲者

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金だ金々 金々金だ
金だ金々 この世は金だ
金だ金だよ 誰が何と言おと
金だ金だよ 黄金万能

金だ力だ 力だ金だ 
金だ金々 その金欲しや
欲しや欲しやの顔色目色
見やれ血眼くまたか目色

一も二も金 三・四も金だ
金だ金々 金々金だ
金だ明けても 暮れても金だ
夜の夜中の 夢にも金だ

泣くも笑うも 金だよ金だ
バカが賢く 見えるも金だ
酒も金なら 女も金だ
神も仏も 坊主も金だ

坊主可愛や 生臭坊主
坊主頭にまた毛が生える
生えるまた剃るまたすぐ生える
はげて光るは つるつる坊主

坊主抱いてみりゃ
めちゃくちゃに可愛い
尻か頭か 頭か尻か
尻か頭か 見当がつかぬ
金だ金だよ医者っぽも金だ

学者・議員も政治も金だ
金だチップも賞与も金だ
金だコミッションも賄賂も金だ
夫婦・親子の中割く金だ

金だ金だと 汽笛がなれば
鐘もなるなる ガンガンひびく
金だ金だよ 時間が金だ
朝の5時から 弁当箱さげて

ねぼけ眼で 金だよ金だ
金だ工場だ 会社だ金だ
女工・男工・職業婦人
金だ金だと 電車も走る

自動車・自転車・人力・馬力
靴にわらじに ハカマにハッピ
服は新式 サラリーマンの
若い顔やら 気のない顔よ

神経衰弱 栄養不良
だらけた顔して 金だよ金だ
金だ金だよ 身売りの金だ
カゴで行くのは お軽でござる

帰る親父は 山崎街道
与市べえの命と 定九郎の命
勘平の命よ 三つの命
命にからまる サイフのひもよ

小春・治兵衛 横川忠兵衛
沖の暗いのに 白帆がみえる
あれは紀の国 みかんも金よ
度胸どえらい 文左衛門だ

江戸の大火で暴利を占めた
元祖・買い占め・暴利の本家
雪の吉原 大門うって
まいた小判も  金だよ金だ

お宮貫一 金色夜叉も
安田善次郎も 鈴弁も金だ
金だ教育 学校も金だ
大学・中学・小学・女学

語学・哲学・文学・倫理
理学・経済学・愛国の歴史
地理に音楽 幾何学・代数
簿記に修身 お伽に神話

コチコチに固くなった頭へ詰める
金だ金だと むやみにつめる
金だ金だよ 金々金だ
そうだ金だよ あらゆるものが

動く・働く・舞う・飛ぶ・走る
ベルがペン先が ソロバン玉が
足が頭が 目が手が口が
人が機械か 機械が人か

めったやたらに 輪転機が廻る
金だ金だと うなって廻る
「時事」に「朝日」に「万朝」「二六」
「都」「読売」「夕刊報知」

捨子・かけおち・詐欺・人殺し
自殺・心中・空巣に火つけ
泥棒・二本棒・ケチンボ・乱暴
貧乏・ベラ棒・辛抱は金だ

金だ元から 末まで金だ
みんな金だよ一切・・金だ
金だ金だよ この世は金だ
金・金・金・金 金金金だ
by 575fudemakase | 2013-07-24 14:53 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

藤木清子全句集

藤木清子全句集

宇田喜代子編著
平成24年10月10日 ㈱沖積舎
(昭和6年~昭和15年の作品)

幼名を呼び合ひながら十夜婆
夜学子の道一ぱいに戻りけり
天井へわが影およぶ夜なべかな
まち針を数へて夜なべ仕舞せり
年寄のたえいるばかり風邪のせき

ひとこひし炭火の美しく照るをみれば
さびしさに湯気這ひのぼる吾が肋

空は青磁白きチョッキの夏燕

雪ふれり窓枠のビル消してふる
降る雪に商館海に向き聳てり

ひとり身に馴れてさくらが葉となれり

花のベンチ世につかれてはよるべきもの

香水よしづかに生くるほかなきか

枳殻垣しろき封筒咬めりポスト

枇杷熟れて人清閑に住みなせり

園閑散けものの昼寝みてありく
屋上園涼しく昏れてゐるふたり

わが心無言の月にはぢらふよ

きりぎりす昼が沈んでゆくおもひ

夾竹桃外科医手術の手を洗ふ

こめかみを機関車くろく突きぬける

ひと日病む時計のまろき貌に向ひ

秋雨よわれはおきのこされてゐる

新聞小説ハッピーエンドせり師走
あきかぜの安全地帯にひとゝ吹かれ
八ッ手咲きみえない月が育ちゐる
落葉ふり看護婦眉を描いてゐる
灯を消してより悔が大きくなってくる

歓呼湧く中にひとまつわれも待てり

北風の夜の心がまるくなってゐる

陸橋に雲うつくしく旅了る

水仙に元日重く来てゐたる
元日のそらみづいろに歯をみがく

年かはり炭火匂ってゐるばかり
落葉ふりひとあやまちを繰りかへす
くろかみのおもくつめたき日のわかれ
あきらめて縫ふ夜の針がひかるなり

ひとりゐて刃物のごとき昼とおもふ

冬の雨音なくたより来てゐたり
南京豆かんで時計の音とゐる
冬ぬくしほこりがあちら向いてゆく

春宵の自動車平凡な人と乗る
蘭の香にひとりの昼がたけてゐる

戦死報夕月いまだひからざる

幸運は逃げひとひらの雲のしろき
いくさやまず夕べ地平に雲あふれ

汚点ひとつ心にもちて梅雨晴るゝ

夏ふかしおのが匂ひと昼をねむる

出征のどよめき遠き丘にのぼる

きりぎりす視野がだんだん狭くなる
追憶にまみれ雲ゆき雲来る

しろい昼しろい手紙がこつんと来ぬ

戦争と女はべつでありたくなし
短日の写真正直にうつりたり
征子寡黙なりすき焼ぢいと煮えつまる

戦死せり三十二枚の歯をそろへ

梅白きあしたの髪をかたく結ふ
戦のふかきになれて犬を愛す

夏萩は淡し逆境もまた愉し
冷房に居沈みてひとりひとりなる
戦死者の寡婦にあらざるはさびし

病人も医師もしづかに聖戦下
戦ふかしづかに朝の海苔をかむ
元日の孤独を映画館にもまれ

政変ありひとり焚く火の朝をひびき

夏痩の友に特急たくましき

胸に掌を置けば虫の音通ひ来ぬ

財宝がなく文学を愛しみぬ
文学は遠し油虫に這ひ寄られ

秋あつし宝刀われにかゝはりなき


さて代表句の
「戦死せり三十二枚の歯をそろへ」だが

宇多の解説によれば
清子の夫が病没後、清子が身を寄せたのが歯科開業医の兄
のところ。
尋常でない表現、「三十二枚の歯をそろへ」の迫真力はここから
生まれているのだろう。
by 575fudemakase | 2013-07-21 06:47 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

深川淑枝句集「海市」

深川淑枝句集「海市」

第三句集 文学の森 平成25年7月13日

ご恵贈深謝

句集名はおそらく
海市消え沖にさびしき空戻る
から採った模様。

帯にもう一句
夢覚めしとき向き変へて浮寝鳥
がある

通底しているトーンは著者が後書きで述べているごとく
後期高齢者の心境ということか?

著者の年齢は小生よりも二歳年上の姉さん俳人。
俳歴は「菜殻火」「春燈」「地平」「青嶺」「白桃」とある。
道理で句に無駄弾が無い。

徹底した写生眼が真骨とお見受けした。
写生よきかなである。

           高澤良一・抽

初詣飾焚き場に鈴転げ
野遊びに日暮の近き水の音
鰓に指入れて魚提げ暮の春
山の気の抜けし流木鳥帰る
朝涼や白粥へ匙深く入れ
少年の水たたく棒夏兆す
アイガーに長き夕映え藤寝椅子
明易し氷河に音のなき流れ
唾つけておくくるぶしの芒傷
冬隣日をたくはへて鶏まろし
鑑真の渡海の絵巻身に入めり
年の瀬の頭上からくり時計鳴る
水餅の息して濁す甕の水
読み残し消す灯や夜の雪しんしん
船窓に波の汚れや年詰る
蝦夷春蝉倒木白く湖の底
磯に寄すちぎれ若布や良寛忌
とどまるに使ふ蹼春の鴨
降りなんと春鴨赤き脚揃へ
島畑に藻を鋤き込みてよなぐもり
にはとりの爪青ばみて落花踏む
アカシヤの花房みじか津軽富士
柿若葉まぶしく喪服たたみ終ふ
火が通り身の反る鮎や山暮るる
あと味の煙のやうな麦こがし
川を打つ雨脚白き祭かな
川狩や草を掴みて川あがる
揚げられて陸に老いたる藻刈舟
草笛や雲より大き雲の影
流れつつまだ粗組の鷹柱
澄む水の堰落ちてまた澄みにけり
湯が沸いて小鳥来てゐる戸口かな
出立に柩は舟や天の川
八月や遺影の視野に飯を食ふ
いもうとが消え草そよぐ秋の山
灘風や生きてゐる木を稲架にして
風垣を飛砂打つ一向宗の村
ふるさとを加賀とせし父母雪降れり
壜に挿す草に根が伸び風邪心地
まだ水の通ふ切株百千鳥
草や木の芽ばかり食うべ坊泊
烏賊船は昼の眠りや葱坊主
くらやみへ波返りゆく火取虫
草刈の鎌ごと婆の背に組む手
蛸壺の海底の砂こぼしたる
馬槽(うまふね)にはぐれ蛍の来てをりぬ
山ひとつ越せば国出るさるをがせ
氷塊を祭の中に運び込む
法螺貝の内側赤き山開
もののみな遠き真昼や暑気中り
夾竹桃白も炎のいろ爆心地
晩稲干す匂ひの中の道祖神
貝割菜まだ種殻のついてゐし
精霊会閻魔のまへの皿秤
秋風に似し浄瑠璃のさはりかな
落葉みな木の根に寄せて掃き納む
いくつもの嶺経し朝日寒卵
谺にもこだまが返り猟期くる
ひと雨のまた軒を打つ針供養
石段を波甘く噛む松納
にはとりの水噛んで呑む日永かな
藻畳の上すべる水祭来る
目の上に鶏冠(とさか)の倒れ羽抜鶏
桃の木の脂透きとほる夏の風邪
父の日や抜いて熱かり錆の釘
熱帯魚のうしろ歪んで人通る
落石に屋根の痩せゆく狭霧かな
とりかぶと山国は雲間近にす
蕎麦の花雲の行く手に千曲川
とんぼ放し少しべたつく指残る
吊るすたび薄る地獄絵初閻魔
念仏の端は山籟初観音
身を折れば帯きしみたる朧かな
海女小屋に母座のありぬ桃の花
船降りるとき鈴鳴れる遍路かな
蜃気楼からゆきさんの船が見ゆ
亀鳴くや彼方にも寝ね遅れし灯
火の通り白魚白くくもりたる
梧桐に揺すられて空青かりし
百物語らふそく消ゆるたび匂ふ
かき氷崩して風にふくらむ木
夕空のえごの花まで降りて来し
栗落す棹栗の木に立てかけて
踏みくぼむ畳や遠き敗戦忌
縦列にあはひ淋しき渡り鳥
船に水積むや秋燕高かりし
肩掛けをして海女の来し朝の彌撒
繰り細りせしロザリオの冷まじき
冬銀河潮の香ほのと島の井戸
山葵田の石畝雪の降りしきる
伊良湖岬日矢をくぐりて海鼠舟
公魚釣帰り釣穴また凍る
木枯のぶつかる磨崖仏の胸
初雪や木賊で磨くこけしの頭
泉湧く降る雪ほどの音たてて
若水を飲みたての声交はしけり
水を行くやうに空ゆく木の葉かな
風ことと鮃に隠し包丁す
木菟の鳴くたび米櫃の米の減る
遙かまで海の平らや大根干す
赤海鼠前世に手足忘れきし
防風掘帰りしばらくして暮るる
雄鶏の首立て歩む朝ざくら
鋸変へし木挽の音や水温む
山寺や短き畝に三月菜
春昼や歯のなまりたるおろし金
島に来て向き変ふ潮路鳥帰る

なお この方の前句集に下記がある

風吹けばまたはじめからつくつくし
切株に鋸の休み目百千鳥

以上
by 575fudemakase | 2013-07-19 11:58 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

宇田喜代子句集「記憶」

宇田喜代子句集「記憶」

第六句集 2011年5月14日

流派が違うとこんな選になりました。
      高澤良一・抽

泥水に泥手を洗う半夏生
働いてくる日くる日の青嵐
幾人の掌わたる蕗の薹
黒牛の背にしみ通る秋の雨
怒りはとけたか葉鶏頭に雨
夏帯の真ん中を水色に水
戦争の話もすこし昼花火
秋の草十把一絡げがたのし
うつくしき芥も交え春の川
水甕に罅の一筋じわりと夏
おずおずと夏川に入る膝頭
へこへこの鎖骨肋骨ところてん
お向かいの妙にしずかな三日かな
松過ぎを桂信子を知る人と
昨夜居て今朝居て秋の燕かな
晴また晴またまた晴の秋三日
秋蛙仰天の目の並びたる
清談や野山の色をこまごまと
元日はよきかな雨も雨音も
尾頭を平らに運ぶ桜鯛
新らしき傘の匂いも翁の忌
奥山の雪一片を護符として
木の瘤に触れて叩いて山始
花時のマッチ幾本擦り損ず
長生きをしたような日の夏霞
by 575fudemakase | 2013-07-15 12:15 | 句集評など | Trackback | Comments(0)


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インターネットの「Google」や「yahoo」の検索ボックスから、季語等を入力して数多くの例句を得られれば大変便利である。

具体的に季語“新樹”の例句を求めるには、先ず検索ボックスに“新樹”と入力する。
その後、ひらかなで“れいく”と入力する。この時、日本語変換候補に幾つかの語彙が表示されるが、その中から“575筆まか勢”を選択する。
この結果、検索ボックスには “新樹575筆まか勢”と表示される筈である。
この用語で検索すれば求めるサイトが表示される。

但し、上述の ひらかなの“れいく”と入力して“575筆まか勢”を選択する為には、事前に小細工をしておく必要がある。
即ち、ユーザーズ辞書を使って “れいく=575筆まか勢”を定義しておく必要がある。以下はその指定方法。

ユーザーズ辞書定義

▼iPadの場合
設定>一般>キーボード>ユーザーズ辞書

単語 575筆まか勢
よみ れいく

▼kindleの場合
アプリ>設定>言語とキーボード>キーボードの設定>ユーザーズ辞書

読み れいく
表記 575筆まか勢

PCの場合も同様に「ユーザーズ辞書」機能を使い、前もって定義しておく。

春の季語から現在の当季季語までは既に表示可能である。
来年の三月末(2015年3月末)までに全季語について表示可能となる。

以上

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