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後評(2017・4)

後評(2017・4)


評をしたくなる句とそうでない句がある。

なかには、評などするまでもなく、自明な句もある。


76山頭火の句碑にいきなり初音かな

句碑を山頭火のものとしたことが、「いきなり」の語彙に適う。

他のものでは、替え難い。


81墨堤の開花促すスカイツリー

スカイツリーの句はごまんと作られていよう。

だが、スカイツリーが開花を促すとやったのは先ず無いのでは…?。

又墨堤と前近代的な語彙を置いた作者のオトボケもグーである。


148本降りとなり彩ましぬ花海棠

これは旨さの句。「本降りとなり彩ましぬ」等と嘘っぱちのような事を

言っておいて、ホントと思わせるところなど、上手の手の込んだ一句。

騙されたのだが、その手の内に感心するという読み手降参の程の一句。


158ずわい蟹その膝頭なんとせう

これは食すときの難儀な点を指摘した句であろう。

あの関節の辺りの肉をせせり出すのには誰もが苦労する。

そこを問題にしたのが当句。へんな処に注目したのがこの句の手柄であろう。


173馬酔木咲き生駒庭石明るくす

関東には「鎌倉石」なる固有名詞がある。阪神には「生駒石」なるそれが

ある。地名を石に被せてそれらしい感じを読み手に与えること、何も説明せず

とも、伝わってくるものがある。その点の効率の良さを思う。配した季語の

花馬酔木が又よい。


by 575fudemakase | 2017-04-22 02:39 | ねずみのこまくら句会 | Trackback | Comments(0)

雪 の俳句ー

雪 の俳句

雪 の例句

雪 補遺

*えぐい舌触りの街の暮雪かな 佐藤鬼房
*えりに降る雪のはげしさ往くさ来さ 下村槐太 天涯
あかつきに雪降りし山神還る 藤田湘子 神楽
あひ触れて深雪の廂夜は深し 福田蓼汀 山火
あらぬこと思ひてをりし雪明り 飯田龍太
いちさきに孟宗ゆれて降る雪よ 原石鼎 花影以後
うちこめる斧の厚刃に雪散華 福田蓼汀 秋風挽歌
おしひらく傘新しき深雪かな 原石鼎 花影
おでん酒うしろ大雪となりゐたり 村山故郷
おのづからよき声の出て深雪晴 能村登四郎
お降りといふに適ひし細雪 後藤比奈夫
かん酒や深雪とならん深雪になれ 渡邊白泉
きさらぎや深雪に沈む林檎園 福田蓼汀 山火
ぎんなんを焼くゆふぐれの雪明り 橋閒石 雪
くもる日はすでに心に雪降りをり 能村登四郎
くらがりに雪降る空のありにけり 岸田稚魚 負け犬
こしかたゆくすゑ雪あかりする 種田山頭火 草木塔
こんこんは来む来む姑に雪降れり 寒食 星野麥丘人
さめざめと夕べ雪降る川流れ 松村蒼石 雁
さんさんと雪降るなかのものわすれ 鷲谷七菜子 花寂び
サンシャインビルの占めたる雪景色 岸田稚魚 紅葉山
しばらくは粉雪が頬に除夜詣 村山故郷
じぶ食へばたちまち加賀の雪景色 飴山實 次の花
しん~と降る雪に見入りわがさだめ 原石鼎 花影以後
しんしんと深雪や鴨も声を断つ 野見山朱鳥 幻日
しんしんと雪つむ夜の梁の音 長谷川素逝 村
しんしんと雪降りしんしんと降りかくす 伊丹三樹彦
しんしんと大雪吊の天地かな 村山故郷
そののちの仏らに雪深からむ 安住敦
ただ積る小雪朦朧たりしことよ 野見山朱鳥 愁絶
つとわが手とらるる夜の牡丹雪 鷲谷七菜子 黄炎
てのひらに熱き火桶や雪景色 日野草城
てり返へす峰々の深雪に春日落つ 前田普羅 飛騨紬
はげしさのかくも寂かに雪降れり 鷲谷七菜子 一盞
はるかなる坂下ともり秋の暮 橋閒石 雪
ひざまづき散華を拾ふ雪あかり 能村登四郎
ふり出してささめ雪また牡丹雪 森澄雄
ふるさとの町縫う根雪煤臭し 飴山實 おりいぶ
ふるさとの夜半降る雪に親しめり 飯田蛇笏
ぼけの蕾のふくらみようは大雪にして晴れ 荻原井泉水
ほしいまま亡師春雪降らしめき 岸田稚魚 筍流し
ぼたん雪卒業の日のひねもすを 百合山羽公 春園
マネキンと帰路をともにす雪降れり 村山故郷
まひる野のいよよ雪降り林檎小屋 古沢太穂 捲かるる鴎
マリヤ祀る樹林聖地の暮雪かな 飯田蛇笏 山響集
みくじは八十番吉、読むに雪つむ松の如しと 荻原井泉水
みくまりの落葉松しんと雪降る前 佐藤鬼房
みじめなる妻の下着や雪降れり 日野草城
みそさざいふりしく暮雪紊るなし 飯田蛇笏 春蘭
みちつけて水の出でくる深雪沢 上田五千石 森林
みみづくの眠る梢に粉雪舞ひ 飯田龍太
やつと退勤ネオンの色の牡丹雪 草間時彦 中年
ゆふぐれと雪あかりとが本の上 篠原梵 年々去来の花 皿
よろこべる子に降る雪の白くなり 臼田亜浪 旅人 抄
ランプ明り雨戸に粉雪ささと触れ 福田蓼汀 秋風挽歌
りんごの木乳のにほひの雪降り出す 上田五千石『琥珀』補遺
わが葬列夢に雪降る仮借なし 小林康治 玄霜
われを見る深きまなざし雪降るなか 鷲谷七菜子 黄炎
われを呼ぶ深雪の中の母の墓 野見山朱鳥 愁絶
をさな子も深雪を帰るクリスマス 日野草城
愛のごとし深雪の底の水音は 小林康治 玄霜
愛をしる牝獣の前雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
愛を知る牝獣の前雪降れり 飯田蛇笏 家郷の霧
愛隣の果も雪降る夜通し降る 森澄雄
逢ひし目のほのぼの濡れて牡丹雪 鷲谷七菜子 黄炎
逢ふ宵の大雪ふりとなりにけり 日野草城
逢ふ人の皆大雪と申しけり 正岡子規 雪
逢瀬阻みしかの夜の雪が根雪なす 上田五千石『田園』補遺
鮎の炉の火かげとゞかず深雪の戸 前田普羅 飛騨紬
鮎焼きし大炉の灰に雪あかり 前田普羅 飛騨紬
闇に眼の馴れて見え来し牡丹雪 右城暮石 句集外 昭和四十七年
一つ寝のはじめての夜の牡丹雪 日野草城
一色に雪降りかくしても藁塚 右城暮石 句集外 昭和二十六年
一葉の便りが通る深雪掻く 上田五千石 森林
淫らな唄雪降る青年集会所 草間時彦 中年
雲のまに新雪きそふ嶺三つ 飯田蛇笏 家郷の霧
餌とならず鱒池に降る牡丹雪 右城暮石 虻峠
駅凍てゝ曠野につゞく深雪かな 前田普羅 飛騨紬
焔といふもののしづけき暮雪かな 鷲谷七菜子 花寂び
猿に別れ山下り来ても雪深し 松村蒼石 雪
猿の湯や杉は深雪に花つけて 松村蒼石 雪
遠つ嶺に刷く新雪や母へ駈く 能村登四郎
遠つ嶺に雪降りてより木々の銘 原裕 青垣
遠國に降る雪ながら恐るべし 相生垣瓜人 明治草
奥山に大雪やある余寒かな 原石鼎 花影以後
屋根白くなりて夜の雪降りやまず 右城暮石 上下
牡丹の芽にあな予告なく雪降り来 安住敦
牡丹囲ひもあへずちらちら雪降り来 安住敦
牡丹雪 牡丹雪 くろき牛の頭蓋 富澤赤黄男
牡丹雪こころの海に吸はれけり 野澤節子 存身
牡丹雪さかんなるまゝあらせ度き 右城暮石 句集外 昭和十七年
牡丹雪なれば韻きてつもるなり 日野草城
牡丹雪にじむ地べたの浅蜊買ふ 佐藤鬼房
牡丹雪に変りて間なし降りしきる 右城暮石 句集外 昭和四十三年
牡丹雪ノート小脇に今日は若し 草間時彦 中年
牡丹雪の日と記し獄へ入るる書よ 古沢太穂 古沢太穂句集
牡丹雪ひととき鏡はなやぎぬ 桂信子 女身
牡丹雪まづしき一日とは言はず 細見綾子
牡丹雪まばらに人の顔の見ゆ 桂信子 花影
牡丹雪牡丹根元の敷きわらに 細見綾子
牡丹雪己濡れつゝ鉄濡らす 右城暮石 声と声
牡丹雪降りつつむ家を軽んずる 藤田湘子 途上
牡丹雪触るゝものなく地に下りぬ 右城暮石 句集外 昭和二十三年
牡丹雪触るれば触れし如く散る 右城暮石 句集外 昭和二十三年
牡丹雪触れたるものに砕け散る 右城暮石 一芸
牡丹雪善き記憶のみ積まれなば 上田五千石 田園
牡丹雪退廳どきのけしきかな 百合山羽公 春園
牡丹雪池にぎやかに降りしきる 右城暮石 散歩圏
牡丹雪宙に触れ合ひ砕け散る 右城暮石 散歩圏 補遺 頑張れよ
牡丹雪昼をともしし灯と濡るる 右城暮石 句集外 昭和二十一年
牡丹雪繚乱たるに恋雀 相馬遷子 山河
牡蠣舟を出でゝ天満の雪景色 河東碧梧桐
温室の花買ひぬ信濃の深雪中 及川貞 夕焼
音をたえて寒流のゆく雪げしき 飯田蛇笏
何埋むべく降る雪や妻との距離 楠本憲吉 孤客
歌留多取粉雪ふるとはよも知らじ 日野草城
河豚の文大雪降ると物しけり 河東碧梧桐
花に雪降り光太郎逝き給へり 石塚友二 曠日
花仕度元禄館の小雪洞 百合山羽公 樂土以後
花置いて身を退く四囲の雪景色 飯田龍太
蝦夷見むと深雪に窪む長靴は 小林康治 玄霜
我菴や上野をかざす雪明り 正岡子規 雪明
海さかに牡丹雪ふる吾がねむり 佐藤鬼房
貝殻に雪降りゐるや伊良湖岬 細見綾子
外灯立ちその先深雪道昏し 野澤節子 未明音
街路樹にからむ風船雪降り出す 草間時彦 中年
学久し靴をしずかに暮雪踏む 赤尾兜子 蛇
橿鳥に峡の逆光根雪解く 飯田蛇笏 家郷の霧
竃火に根雪かがやきだす故郷 飴山實 おりいぶ
鴨射ちが粉雪を払ひ船上る(七尾にて二句) 細見綾子
寒牡丹雪被てその緋ふかめけり 鈴木真砂女 夕螢
寒卵刻一刻の雪明り 飯田龍太
観能の灯の昼ふかき深雪かな 西島麦南 人音
雁たちて暮雪に翅音のこしたる 野澤節子 八朶集
雁なくや小窓にやみの雪明り 正岡子規 雪明
帰りつく身をよす軒や雪明り 飯田蛇笏 山廬集
蟻塚のほとりひたすら粉雪舞ふ 飯田龍太
丘の住宅暮雪ふかきにガス細る 野澤節子 未明音
急ぎ降り急ぎ止みたり牡丹雪 細見綾子
求心の湖放心の雪景色 飯田龍太
泣寝妻いつか安寝の雪降れり 草間時彦 中年
京菜好きの男の歯音粉雪降る 古沢太穂 捲かるる鴎
京底冷え奈良は粉雪の万燈会 細見綾子
京都遠し夜行列車に雪降りつつ 村山故郷
峡湾は暮しの歯型雪降り降る 佐藤鬼房
仰ぎみしのみにみるみる雪はげし 岡井省二 明野
銀座うら雪降れる夜の鶴吊れり 飯田蛇笏 山響集
銀壺の花くれなゐに雪降る日 飯田蛇笏 家郷の霧
駒鳥や大雪嶺に真横の陽 石塚友二 曠日
鍬研いで忘れしころの雪降らす 能村登四郎
君の遺著まづ雪の香の書といはむ 能村登四郎
君は酒家へわれは駅へと夜の小雪 林翔
軍港の兵の愁ひに深雪晴れ 飯田蛇笏 霊芝
鶏が踏む根雪が蒼しガリレオ忌 飴山實 おりいぶ
鶏たかく榎の日に飛べる深雪かな 飯田蛇笏 山廬集
結跏趺坐雪積るとも積るとも 大野林火 月魄集 距和五十七年
月や火の色怒濤の如く雪降り来 小林康治 四季貧窮
見えぬ枷雪降るは谷とざすため 佐藤鬼房
源義の声桂郎の眼や雪降る夜 石塚友二 磊[カイ]集
玄関のくらさを好み雪降り込む 能村登四郎
限りあるいのちよわれよ降る雪よ 鈴木真砂女 夕螢
古池のをしに雪降る夕かな 正岡子規 鴛鴦
孤児園に雪降り太る雪達磨 飴山實 おりいぶ
戸の隙を雪散りこんで蜆籠 鷲谷七菜子 游影
枯枝に刻々つもる粉雪かな 日野草城
湖に群衆の如く雪降れり 上野泰 佐介
五六軒雪つむ家や枯木立 正岡子規 枯木
午ちかく雀なき出し深雪かな 原石鼎 花影
御水屋に浅柄杓伏せ雪降る杉 古沢太穂 捲かるる鴎
御扉にふとも日のさす暮雪かな 日野草城
御涅槃のかたきまぶたや雪明り 前田普羅 普羅句集
公魚のよるさゞなみか降る雪に 渡邊水巴 富士
喉を責む痛み湖上に雪降れり 佐藤鬼房
稿難し雪降れば雪に韜晦す 小林康治 玄霜
紅梅に雪降り雪に紅梅散り 安住敦
行平や春の雪散る夕まぐれ 桂信子 花影
降りに降る雪や恋情汪然と 日野草城
降り沈む暮雪向き変ふ鳰ひとつ 鷲谷七菜子 銃身
降る雪に山霊のぼる太古かな 野見山朱鳥 運命
降る雪に時流れゐる水の中 飯田龍太
降る雪に樹霊ふくれてきたるかな 鷲谷七菜子 游影
降る雪に独りの風呂を湧かすかな 鈴木真砂女 卯浪
降る雪に白玉楼中皆会す 福田蓼汀 秋風挽歌
降る雪に悲しみはたゞ怺ふべし 相馬遷子 山河
降る雪に力抜きたる汀かな 山田みづえ 木語
降る雪の奥も雪降るその奥も 林翔
降る雪の中に雪片たたかへり 鷹羽狩行
降る雪の波の穂先と争ひぬ 鈴木真砂女 夏帯
降る雪の舞ふは熄むてふ心あり 稲畑汀子
降る雪の力の中へ川入りゆく 斎藤玄 狩眼
降る雪へつばさ摶ち摶つ死鼠を恋い 橋閒石 風景
降る雪やあざやかすぎし夢の虹 鈴木真砂女 卯浪
降る雪やこけしの如く吾子馳け来 小林康治 四季貧窮
降る雪やこゝに酒売る灯をかゝげ 鈴木真砂女 夏帯
降る雪やわれをとりまく人の情 鈴木真砂女 卯浪
降る雪や暗き自画像想はるる 藤田湘子 途上
降る雪や玉のごとくにランプ拭く 飯田蛇笏 雪峡
降る雪や女所帯は豆撒かず 安住敦
降る雪や聖徒の折り競きをリ 上田五千石『田園』補遺
降る雪や地上のすべてゆるされたり 野見山朱鳥 運命
降る雪や父母を子が持つ日曜日 林翔 和紙
降る雪や旅は孤りを佳しとして 鈴木真砂女 夏帯
降る雪泣熄め太陽顔を洗ひたり 中村草田男
豪華古るラツキーシツプ深雪晴れ 飯田蛇笏 雪峡
豪雪の岩がしら息鮮しや 佐藤鬼房
豪雪の空港となり燈も見えぬ 佐藤鬼房
豪雪の夜明のおさな髪撫でる 橋閒石 荒栲
豪雪や母の臥所のかぐわしく 橋閒石 卯
豪雪を友へ禅林の太柱 福田蓼汀 秋風挽歌
黒田三郎小雪もたらし逝きしはや 山田みづえ 手甲
黒豆を煮んか粉雪が降つてゐる 細見綾子
黒白の差別根雪につばきして 有馬朗人 母国拾遺
根雪となりぬ 根雪の間に翼拡げ 三橋鷹女
根雪にて社は朱なり丹はさみし 佐藤鬼房
根雪ふみ新雪にぬれ旅の町 及川貞 夕焼
根雪掘る二十代経し妻の背よ 佐藤鬼房
魂祭庫裏は團子の粉雪哉 正岡子規 魂祭
佐久に雪降るか寒鯉苞に厚し 能村登四郎
座禅草そこから根雪とけそめし 飴山實 句集外
細雪一茶の国の夕間暮 原裕 青垣
細雪遠干潟かけ人恋ふも 小林康治 玄霜
細雪客は蒲焼好みけり 村山故郷
冴ゆる灯に新年夜情雪のこゑ 飯田蛇笏 家郷の霧
坂邸楽はずませて雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
昨夜は雪降りし信濃の暮春かな 細見綾子
三度目の雪降りざまも遊びをり 能村登四郎
山あひに時を閉ぢこめ牡丹雪 佐藤鬼房
山は深雪湯檜曽の村は夕日さす 村山故郷
山越えの木偶に優しや雪明り 橋閒石 卯
讃美歌の中木の股に雪積る 岸田稚魚 負け犬
仕込樽撞木と古りぬ雪明り 石川桂郎 高蘆
仔牛瞬く丑三つの雪明り 飯田龍太
四方の深雪に山上湖温みそむ 松村蒼石 雁
子がいつまで寝ねず雪降り東北線 古沢太穂 捲かるる鴎
子の胸の粉雪ゆふべの醤油買 飯田龍太
子鏡の一円相に雪降れり 野見山朱鳥 愁絶
市隠の愚責めぬく無燈雪明り 香西照雄 対話
死ぬ人の歩いて行くや牡丹雪 藤田湘子 てんてん
死のかげに音楽が雪降らせをり 原裕 葦牙
歯にあてゝ雪の香ふかき林檎かな 渡邊水巴 白日
歯車の噛みあふ真夜を雪つむか 橋閒石 朱明
時雨星またゝく嶺の雪明り 西島麦南 人音
自転車の燈に降る雪のおびただし 相馬遷子 雪嶺
七十の恋の扇面雪降れり 橋閒石 荒栲
柴折戸を押すすべもなき深雪かな 原石鼎 花影
酌めば茶のすぐにさめたる深雪かな 鈴木真砂女 夏帯
若菜滴みし畦道今日は雪降れり 細見綾子
寂として春の雪降る林かな 村山故郷
手ぶくろをはめつゝ急ぐ暮雪かな 及川貞 夕焼
手袋や暗夜の粉雪肩に鳴る 村山故郷
朱の柵とざして廟の深雪かな 日野草城
朱印捺す手をぬらしけり牡丹雪 飴山實 句集外
週末や眼鏡濡らして雪降れり 赤尾兜子 蛇
宿根の宿恨は在れ雪景色 永田耕衣
春の雪はじめ粉雪でありにけり 細見綾子
春の雪降つて消えたる地面かな 右城暮石 散歩圏 補遺 頑張れよ
春の雪降りつゝすでに野は眩し 相馬遷子 山国
春の雪降るふつくらとゆつくりと 細見綾子
春の雪降るまもとけてゐたりけり 鈴木真砂女 夏帯
春の悲曲窗をくらめて雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
春寒き夜半の深雪を人知らず 村山故郷
春深雪買はねばならぬ青菜の値 及川貞 夕焼
春雪の二夜の深雪星を得ぬ 及川貞 夕焼
春大雪この世眩しみゐたりけり 鷲谷七菜子 天鼓
春大雪の宵東京のラヂオ聞く 村山故郷
春猫の暮雪に逢うて失せにけり 原石鼎 花影
春蘭の葉のとどめたる牡丹雪 野澤節子 飛泉
春隣り雪降る湖を思ひつつ 飯田龍太
初寄席の池田の猪の雪景色 飴山實 花浴び
初七日の春の深雪を忘れめや 日野草城
初雪の大雪になるそ口をしき 正岡子規 初雪
初夢の模糊の目覚めに雪降りをり 上田五千石『森林』補遺
初旅や寝返りてまた雪明り 岸田稚魚 紅葉山
初蕨隠りし雪の香にたちぬ 百合山羽公 春園
初鴉山に大雪降らせけり 岸田稚魚 紅葉山
小柴門出入のしげき深雪かな 飯田蛇笏
小雪の思ひ込めたる切字かな 能村登四郎
小雪の浅間の水を飲んでみる 雨滴集 星野麥丘人
小雪の日とか茶色の奈良に居り 桂信子 草影
小雪や古り枝垂れたる糸桜 飯田蛇笏 山廬集
小雪吸ふ昼の襁褓が長屋の旗 佐藤鬼房
小雪降る勤めやめんと思ふとき 山田みづえ 草譜
小雪庇よし大雪庇知らざるも 右城暮石 句集外 昭和四十三年
少年帰る夕日の根雪蹴りながら 飴山實 おりいぶ
庄司が二婦深雪のせつに馨りけり 佐藤鬼房
松とれて雪降りて常の日となりぬ 及川貞 夕焼
沼暗らめ琵琶の音色に雪降れり 佐藤鬼房
鐘の音の一つひとつの深雪かな 鷲谷七菜子 天鼓
鐘の臍雪明りとはちがうなり 永田耕衣
障子梅の木の影、大雪大に晴れ 荻原井泉水
上*せいの燈明りわたり深雪かな 原石鼎 花影以後
新しき年新しき雪降らせ 細見綾子
新雪すでに山を覆へり発哺に灯 及川貞 夕焼
新雪にやもめ炊爨ラヂオ鳴る 飯田蛇笏 春蘭
新雪に一歩また一歩あゆみ出づ 相馬遷子 山河
新雪に出て橇犬のふる尾かな 飯田蛇笏 春蘭
新雪に触れ三行の葉書出す 有馬朗人 母国
新雪のかがやきを遠ざかり来し 細見綾子
新雪のかがやき何にたとへんか 細見綾子
新雪のスキーの音の上に立つ 篠原梵 年々去来の花 皿
新雪の闇より闇へ雁のこゑ 飯田龍太
新雪の幹のうしろのかたつむり 飯田龍太
新雪の高嶺相寄るごときあり 上田五千石『天路』補遺
新雪の消えてしばらく山日和 福田蓼汀 秋風挽歌
新雪の浅間燃えたり人丸忌 相馬遷子 山国
新雪の東京神妙に在りぬ 山田みづえ まるめろ
新雪の比良正面に朝日出る 右城暮石 句集外 昭和三十五年
新雪の富士の肩荒きへら使ひ 細見綾子
新雪の富士や忙しき里車 石塚友二 光塵
新雪の富士見ゆるなり妻の墓 森澄雄
新雪の富士現はれし草の上 飯田龍太
新雪へ絵踏のごとく踏み出だす 上田五千石『田園』補遺
新雪や空の蒼さに神ひしめき 橋閒石 朱明
新雪や山のゴンドラに犬も乗る 村山故郷
新雪を見つめたる眼を伏せにける 細見綾子
新雪を染めざる浦の溢れ潮 飯田蛇笏 雪峡
新雪を被てはるかなる加賀の山 石塚友二 光塵
新雪を来て返しゆく郵便夫 右城暮石 上下
新雪眉のごとし杖老の手にしてのぼる 荻原井泉水
新雪来り約して今日小生来り 荻原井泉水
新年の深雪ぬくとく愛馬飼ふ 飯田蛇笏 春蘭
榛の木に雪降る音を聞きわくる 細見綾子
深雪して遺愛樹の洞ふたがりぬ 中村草田男
深雪つむ夜のシンクロンただ聾ひぬ 飯田蛇笏 白嶽
深雪に会へば眉目の新しき 細見綾子
深雪の顔にかかりし子の白息 細見綾子
深雪やむときの粉雪に星浮ぶ 松村蒼石 雪
深雪見むと軒へのべたる手燭かな 原石鼎 花影以後
深雪晴たばこのけむり濃むらさき 日野草城
深雪晴野を来て町は汚れたる 相馬遷子 雪嶺
深雪青翳畦川ほそき音ひらき 鷲谷七菜子 銃身
深雪中湖村一塊となり睡る 鷲谷七菜子 銃身
深雪踏む楽しさ胸に旅始 林翔
深雪野の美濃や近江は彦根まで 石塚友二 玉縄抄
深大寺の裏藪春の雪降れり 細見綾子
真下のみ照らす駅燈牡丹雪 右城暮石 声と声
神山や霽れ雲うつる雪げしき 飯田蛇笏 山廬集
神無月テレビ画面に雪降れり 右城暮石 句集外 昭和五十四年
薪水を事とする日の牡丹雪 細見綾子
人寄せへ朝より湯気や粉雪降り 古沢太穂 捲かるる鴎
人形の家に窓あり雪明り 有馬朗人 耳順
人恋えば灰のごとくに雪降れり 橋閒石 卯
尋ね来て山科は雪深かりき 安住敦
水底は暗のさざなみ雪降れり 鷲谷七菜子 游影
水面に近づき弱る牡丹雪 右城暮石 句集外 昭和三十七年
雛棚や雛の中の小雪洞 正岡子規 雛祭
世に遠く浪の音する深雪かな 臼田亜浪 旅人 抄
星暗らめ雪降る気配したるのみ 佐藤鬼房
聖仏母懸けて春雪降りしきる 松村蒼石 寒鶯抄
青天に湧く粉雪やえんぶり踊り 草間時彦 中年
青縄に染まる根雪や女工寮 飴山實 おりいぶ
静けさを深め雪降るわが行方 原裕 葦牙
石の精神、まず大雪をぬきんず 荻原井泉水
積みあまる富士の雪降る都かな 正岡子規 雪
雪あかりのまぶしくも御飯ふく 種田山頭火 草木塔
雪あかりの足袋の破れからつまさき 種田山頭火 自画像 落穂集
雪あかりほのかにも浪の音すなり 種田山頭火 自画像 層雲集
雪あかり胸にわきくるロシヤ文字 古沢太穂 古沢太穂句集
雪つむや亡き児の形見歳古りて 飯田蛇笏 家郷の霧
雪のこゑ老来ひしと四方より 飯田蛇笏 春蘭
雪の香に炉辺の嬰児を抱きて出ぬ 飯田蛇笏 雪峡
雪の香に鄰保親しくすまひけり 飯田蛇笏 家郷の霧
雪の香や街角に出し花売女 飯田蛇笏 雪峡
雪の香をおもひ蕨の香をおもふ 百合山羽公 春園
雪の声珈琲は重厚紅茶は軽快 日野草城
雪はげし遠のものみな亡びけり 野澤節子 未明音
雪卸し暮れており立つ深雪かな 前田普羅 飛騨紬
雪起しと人いふに雪降り出しぬ 岸田稚魚 紅葉山
雪降つてから鴨鍋といふことに 亭午 星野麥丘人
雪降つて姑は正気にもどりけり 寒食 星野麥丘人
雪降つて椋(ちしやのき)の名をたしかにす 亭午 星野麥丘人
雪降らば降れと塞の神相擁く 安住敦
雪降りこむままの棒鱈干場の列 古沢太穂 捲かるる鴎以後
雪降りしばかりの荒嶺光なし 野見山朱鳥 愁絶
雪降りそめし葉のそよぎ暗き病床に 種田山頭火 自画像 層雲集
雪降りつ凹めつ馬淵川氷る 小林康治 玄霜
雪降りてゐて壜詰の帆掛船 有馬朗人 天為
雪降りて色となりゆく恵方道 斎藤玄 狩眼
雪降りて真昼の何もかも淡し 廣瀬直人 帰路
雪降りぬ忘れるほどに遠くの日 能村登四郎
雪降りのかまくら父を加へざる 佐藤鬼房
雪降りの街空明り早寝の妻 佐藤鬼房
雪降り来ず白鷺潟に彳つかぎり 上田五千石 天路
雪降るに溺るるわれを遮るな 藤田湘子 途上
雪降るやしばらく墓を忘じゐし 松村蒼石 雁
雪降るや沖へ出でゆくわがねむり 藤田湘子 神楽
雪降るや仰臥死を待つにも似たり 村山故郷
雪降るや経文不明ありがたし 相馬遷子 山河
雪降るや葉音収めて竹立てる 臼田亜浪 旅人 抄
雪降る海白鳥群るる辺は明し 草間時彦 中年
雪降る暁巣箱のわらも樹も覚めず 古沢太穂 捲かるる鴎
雪降る山神に捧ぐるもの持たず 藤田湘子 てんてん
雪降る山毛欅のおなじ傾き湯桧曽川 古沢太穂 火雲
雪降れば焼跡の家すぐ白し 右城暮石 句集外 昭和二十五年
雪降れば墓碑銘を書く心の中 有馬朗人 母国
雪降れば夜は来といひて昼に来ぬ 下村槐太 光背
雪降れり『雪降れ降れ』の受賞かな 松崎鉄之介
雪降れり海なき国の野に山に 福田蓼汀 山火
雪降れり少年の日の友等無く 相生垣瓜人 微茫集
雪降れり沼底よりも雪降れり 橋閒石
雪降れり天上の詩がこぼせしか 林翔
雪散るや干曲の川音立ち来り 臼田亜郎 定本亜浪句集
雪散るや千曲の川音立ち来り 臼田亜浪 旅人 抄
雪散るや桃子の3は逆字のΣ 村山故郷
雪散るや木の葉小鳥を交へつつ 山田みづえ 木語
雪散るや利酒茶碗手に持ちて 村山故郷
雪女南の国に雪降らす 鈴木真砂女 紫木蓮
雪深き高嶺火噴きし形して 右城暮石 虻峠
雪深き朝よ時計に耳澄ます 細見綾子
雪深き道外るるには決意要る 津田清子 礼拝
雪深き方へといそぐ何の愁 鈴木真砂女 夏帯
雪深く合掌建へ丘なだらか 石川桂郎 高蘆
雪深しかくれて来たる旅ならね 鈴木真砂女 夏帯
雪深し熊を誘ふおとしあな 正岡子規 雪おとしあな<こざとへん+井>
雪積る谷けものの眼さかなの眼 藤田湘子 てんてん
雪積る中滑らかな水車の軸 津田清子 礼拝
雪像にいたはりの雪降り出せり 鷹羽狩行
雪墜ちて深雪ににぶき音うまる 桂信子 女身
雪踏みの無言につづく深雪空 松村蒼石 雪
雪明りしてこの隈や四季桜 河東碧梧桐
雪明りして渡岸寺観音像 寒食 星野麥丘人
雪明りには池くらし山あかるし 及川貞 夕焼
雪明り月明りして町眠る 松本たかし
雪明り鳥の首切り脚を切り 飯田龍太
仙丈新雪を見る日の君を煙とするか 荻原井泉水
船の荷の佐渡の青竹雪降り出す 草間時彦 中年
船方に三角山の雪景色 佐藤鬼房
素琴忌の雪降り出すや暮れてより 村山故郷
早も小雪かゝりし水や鴛鴦の沓 原石鼎 花影以後
槍の穂は雪をとどめず深雪晴 福田蓼汀 山火
相寄れる木地師の墓や雪深し 有馬朗人 知命
窓ぢゆうの夜明けの空も雪あかり 篠原梵 年々去来の花 中空
村まはりする花嫁御深雪晴 木村蕪城 寒泉
他家(よそ)で働く妻の寝ぎはへ牡丹雪 佐藤鬼房
太陽が煤を降らして雪降らす 鷹羽狩行
大きさの極まりし夜の牡丹雪 右城暮石 上下
大絵馬の朱のうごくなり牡丹雪 岸田稚魚 筍流し
大雪となるべし春の夜空これ 岸田稚魚 紅葉山
大雪となる我が家の玄関まで 右城暮石 声と声
大雪になるや夜討も遂に來ず 正岡子規 雪
大雪にぽつかりと吾れ八十歳 飯島晴子
大雪にほめき出る月ありにけり 原石鼎 花影
大雪に耐ゆる柱の時計うつ 橋閒石 朱明
大雪に来て肥を汲む男かな 原石鼎 花影
大雪のただひたぶりな一日かな 細見綾子
大雪のたなぞこふるゝ別れかな 齋藤玄 飛雪
大雪のなほ降る闇へ鬼やらふ 相馬遷子 山河
大雪のわが掻きし道人通る 相馬遷子 山河
大雪のわれのニコニコ絣かな 飯島晴子
大雪の山猿こころかわきけり 松村蒼石 雪
大雪の小川たぎちて道添へり 松村蒼石 雪
大雪の上にぽっかり朝日かな 正岡子規 雪
大雪の谷間に低き小村かな 内藤鳴雪
大雪の朝を出でゆく魚の骨 佐藤鬼房
大雪の夜の排卵を拝むなり 橋閒石 荒栲
大雪の夜の白檀を燻ずべし 橋閒石 雪
大雪の夜を福寿草ひらきけり 橋閒石 朱明
大雪の鴉も飛ばぬ野山哉 正岡子規 雪
大雪やあちらこちらに富士いくつ 正岡子規 雪
大雪やめくら暦の里埋もれ 百合山羽公 樂土
大雪や玉のふしどに猪こゞへ 正岡子規 雪
大雪や洲の雪穴のゆりかもめ 松村蒼石 雁
大雪や寝るまでつがん仏の灯 渡邊水巴 白日
大雪や人を呼び込む壕の中 岸田稚魚 雁渡し
大雪や石垣長き淀の城 正岡子規 雪
大雪や底びかりして夜の梁 鷲谷七菜子 花寂び
大雪や納屋に寝に来る盲犬 村上鬼城
大雪や風鈴鳴りつ暮れてゐし 渡邊水巴 白日
大雪や幽明わかず町寝たり 渡邊水巴 白日
大雪や狼人に近く鳴く 正岡子規 雪
大雪や關所にかゝる五六人 正岡子規 雪
大雪を見に大雪の国へ行く 山口誓子
大雪を朗報のごと春立てる 百合山羽公 寒雁
大雪嶺子らの喊声打ち返し 上田五千石『田園』補遺
大日の前けなげにも雪降りをり 上田五千石『森林』補遺
大年の襖の隙の深雪かな 百合山羽公 春園
瀧尻の渦ながれつぐ深雪かな 飯田蛇笏 心像
谷杉の深雪に堪へてつむじ舞ふ 松村蒼石 雪
鱈割いて女体汗ばむ牡丹雪 佐藤鬼房
誰とて黙つてただただ雪降る世相か 荻原井泉水
地の深雪宙の二階の白根澄む 飯田蛇笏
遅月にふりつもりたる深雪かな 飯田蛇笏 山廬集
竹に降る雪はげし目刺よく焼けぬ 渡邊水巴 富士
竹の張力、太陽へ大雪を払う 荻原井泉水
竹垣にひそむ雉子の眸深雪晴れ 廣瀬直人 帰路
竹藪の前の枯木にちる暮雪 飯田龍太
猪打ちの足許しまる粉雪かな 細見綾子
猪打ちの粉雪を蹴つてゆくなりし(懐旧) 細見綾子
兆しそむ飢の清しく細雪 鷲谷七菜子 黄炎
朝すこし雪降り年を深くする 能村登四郎
長靴をはくほど春の雪降りし 細見綾子
鳥とぶや深雪がかくす飛騨の国 前田普羅 飛騨紬
鳥高みたる完璧の雪景色 飯田龍太
鳥声や出窓みづから雪明り 石川桂郎 四温
鎮み降る雪のかなたにけぶる過去 鷲谷七菜子 銃身
漬きごろの今年の京菜粉雪降る 古沢太穂 捲かるる鴎
爪切つてをり細雪呼びにけり 岸田稚魚 紅葉山
爪先に体重かかりたる根雪 橋閒石 無刻
吊橋の深雪ふみしめ飛騨へ径 前田普羅 飛騨紬
鶴哭くや新雪須臾にして消えさり 橋閒石 無刻
庭におく深雪の石にみそさざい 飯田蛇笏
泥眼や般若や杉生雪降らす 岡井省二 明野
天よりも夕映敏く深雪の面 野澤節子 未明音
天上に貯へゐたる牡丹雪 右城暮石 虻峠
天地たゞ傘に降る雪あるばかり 石塚友二 磯風
天地の息合ひて激し雪降らす 野澤節子 未明音
田起しや根雪一塊うづくまり 鷲谷七菜子 一盞
電気爐の烈しき雪の香だちけり 飯田蛇笏 家郷の霧
電線の雨滴の上も雪の声 飯田龍太
電話借る母校や夜の雪明り 右城暮石 句集外 昭和三十七年
兎ゆきしあとのみ散りて深雪なり 及川貞 夕焼
兎獲て一羽と数ふ雪深し 右城暮石 句集外 昭和三十三年
唐松は空の支へ木雪降りふる 佐藤鬼房
東京の雪らしく雪降りにけり 岸田稚魚 紅葉山
東大寺の高き赤松牡丹雪 細見綾子
盗伐で生く曲木部落いま深雪 佐藤鬼房
湯煙や根雪となりし山襖 石塚友二 光塵
湯坪には母の怨念雪降り降る 佐藤鬼房
湯婆こぼす垣の暮雪となりにけり 飯田蛇笏
灯に粉雪にわとり眠るうしろ向き 飴山實 おりいぶ
灯は水にまたたきはじめ牡丹雪 桂信子 初夏
灯を消して障子にはかに雪明り 上村占魚 鮎
踏みこみし萱のほとりの雪深く 木村蕪城 一位
踏切の灯を見る窓の深雪かな 飯田蛇笏
頭の中の地獄極楽牡丹雪 藤田湘子 てんてん
瞳孔に雪散り童唄ありき 橋閒石 荒栲
鳶鳴いて小雪崩さそふ峰日和 上田五千石『森林』補遺
奈良で会ふ約束眉につく粉雪 細見綾子
那須嶽や二月乱雲雪散らす 村山故郷
汝がとる燭芯たちて雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
二三尺雪つむ軒や猿肉屋 飯田蛇笏
二十五年目といふ大雪に降られたる 細見綾子
二日より深雪に飛ばす鉄火かな 齋藤玄 飛雪
匂ふ肌大きな窓に雪降れり 日野草城
日に近く雪深まりぬ山毛欅林 渡邊水巴 富士
日暮まで降り出して大雪となる 右城暮石 散歩圏
日輪のいでて深雪やスキー行 百合山羽公 春園
葱洗ふや月ほのぼのと深雪竹 飯田蛇笏 山廬集
脳天に小雪ちらつく杉の森 佐藤鬼房
農具市深雪を踏みて固めけり 前田普羅 普羅句集
波璃越しに降る雪実物よりも大 右城暮石 句集外 昭和三十九年
馬に雪降るローカル線に老いし駅夫 古沢太穂 火雲
梅探る吾妻の森や雪深き 正岡子規 雪
煤蟹や根雪明りに糶場うち 石川桂郎 高蘆
白魚や襖の裏の雪明り 岸田稚魚 負け犬
白鳥に春の雪降る遥かに降る 有馬朗人 母国
白鳥よ日かげればすぐ雪降り出す 草間時彦 中年
白鳥を真近に見むとすれど雪降り 安住敦
白鳥座大雪嶺を越えて翔く 上田五千石『田園』補遺
白鳳仏の眉目見に来て春の雪(深大寺) 細見綾子
箸流る川筋追いし牡丹雪 赤尾兜子 歳華集
発止ときし鶺鴒つぶて深雪原 鷲谷七菜子 銃身
髪刈りあう父と子に雪つむ迅さ 橋閒石 荒栲
帆船は雲と日暮れて雪降りぬ 細谷源二 鐵
晩鐘に雪降り続く爆心地 有馬朗人 母国
彼岸過ぎの大雪ふるさと人嘆く(丹波) 細見綾子
肥橇曳く遠深雪野に消えむため 小林康治 玄霜
飛行音の闇穢されず雪積る 野澤節子 未明音
飛騨人や深雪の上を道案内 前田普羅 飛騨紬
柊に春の雪降り一樹の音 野澤節子 鳳蝶
柊をさしたる闇にまた粉雪 百合山羽公 春園
筆匠の死後も名だいに雪降れり 飯田蛇笏
紐解くになほ天霧し雪降り来 下村槐太 光背
病巣のごとき根雪をつつきゐる 佐藤鬼房
苗木市春の粉雪となりにけり 西島麦南 人音
富士の里大雪に筬を鴫らす門 村山故郷
富士新雪これほどまでに薄しとは 林翔
浮かれ猫わた雪歇んでしまひけり 寒食 星野麥丘人
風の揶揄やみて暮雪となりゐたり 上田五千石 森林
風一夜したたかに根雪そだちけり 能村登四郎
風邪の神去る日の小雪ちらつかす 安住敦
風神の膝に力の雪明り 古舘曹人 砂の音
風立てば落花の小雪ふじざくら 林翔
福笹をいただきし夜の小雪かな 雨滴集 星野麥丘人
仏坂より雪深き鶴の村 野見山朱鳥 幻日
鮒煮えてくれば粉雪となりにけり 桂信子 女身
粉雪あがる夕日の彩がただよいて 古沢太穂 古沢太穂句集
粉雪の句帳にたまる鶴を待ち 古舘曹人 砂の音
粉雪の塔あかしひとびと儚なき希ひ 細谷源二 砂金帯
粉雪の眉辺泉辺哀れなり 永田耕衣
粉雪ふるまでのやさしい潦 桂信子 新緑
粉雪や還るを惜しむ人のむれ 永田耕衣
粉雪降り鯉をも切に見んと思ふ(京都西芳寺) 細見綾子
粉雪降る妻の徹夜は幾日ぞ 野見山朱鳥 愁絶
粉雪降る正月空の遠くより 細見綾子
粉雪積むあかつき闇の藪畳 松村蒼石 雪
粉雪片片停らぬ駅と伐木に 古沢太穂 捲かるる鴎
兵を送る松明あらはるゝ深雪かな 前田普羅 飛騨紬
墓にも降る雪のこんや屋根につむ屋根のした 荻原井泉水
墓碑銘を写す間も雪降り冥む 木村蕪城 寒泉
暮れてなほ倶楽部にゐたり外は深雪 村山故郷
暮雪さびし道をそれ居る足跡も 原石鼎 花影
暮雪にてただ漠々の海苔簀原 林翔 和紙
暮雪にて天に雪降る意なし 山口誓子
暮雪のタクシー流れて舞踏会のごと 岸田稚魚 負け犬
暮雪の広場いましアドマン漂はす 岸田稚魚 負け犬
暮雪の天刎枝の雪の白々と 山口青邨
暮雪ふむ僧長杖をさきだてぬ 飯田蛇笏 山響集
暮雪ふる舞踏乙女もちりぢりに 百合山羽公 故園
母たちの供養乳房や根雪解く 能村登四郎
母のふところ雪深々とあやめ咲く 橋閒石 荒栲
母の座は雪降る家の灯の真下 有馬朗人 母国
母遺し雪降りかくす故郷発つ 福田蓼汀 山火
母郷なり粉雪と知れるのみの闇 佐藤鬼房
母子ありき雪深き昼餅焼いて 松村蒼石 雪
法悦のごとく雪降りやまぬかな 村山故郷
忘られし三角渚水雪降る 佐藤鬼房
望郷やしなのの山の深雪空 松村蒼石 雪
枕辺に妻ゐて春の深雪云ふ 村山故郷
鱒池にひとの近づく雪景色 飯田龍太
繭玉にかかる小雪や光悦寺 寒食 星野麥丘人
無花果の木や雪降れば雪かかり 細見綾子
霧行くや樅は深雪に潰えつゝ 相馬遷子 山国
命日の牡丹雪その後の凍て 佐藤鬼房
明け方の暗さもどりし深雪に降り立つ 篠原梵 年々去来の花 皿
綿雪や雪をかむれる実万両 森澄雄
茂吉忌や時に逸りて牡丹雪 細見綾子
毛蟹食えば雪降りウイマム以後の民 古沢太穂 火雲
木のもとに草青々と暮雪かな 原石鼎 花影
木の芽打つて雪はげし句々抹殺す 渡邊水巴 白日
木の芽張り雪降り山の幻化境 林翔
木々ぬれて大樋水迅く暮雪やむ 飯田蛇笏 春蘭
黙々生きて暁の深雪に顔を捺す 佐藤鬼房
目覚の声か満開の雪の下 飯田龍太
夜の間に薄雪降りしだけつもる 右城暮石 句集外 昭和二十九年
夜の書庫にユトリロ返す雪明り 安住敦
夜の船は雪降り出でて雪積みぬ 細谷源二 鐵
夜の町は紺しぼりつつ牡丹雪 桂信子 初夏
夜の明けてゆくと深雪の冷えぞこれ 篠原梵 年々去来の花 皿
夜もすがら雪明りしんしんと冷ゆ 村山故郷
夜桜や大雪洞の空うつり 正岡子規 夜桜
野に大雪も来よとおもふ冬菜を漬ける 中川一碧樓
野の果まで雪明かるくて道あやまつ 津田清子 礼拝
野火あふつ風に粉雪のまじりつつ(奈良) 細見綾子
約束の日なり降る雪さまたげず 及川貞 夕焼
幽きより風新雪の竹しなふ 鷲谷七菜子 銃身
有明に雪つむ四絛五絛かな 正岡子規 雪
夕月や雪あかりして雑木山 藤田湘子 途上
窯跡に鼬出て来し雪明り 飯田龍太
落葉松林の奥しづかなる深雪かな 村山故郷
乱へ到らず根雪絡みあう白秩序 赤尾兜子 歳華集
離りて貧し深雪の中の翌檜 小林康治 四季貧窮
立ち睡る馬のまはりを舞ふ小雪 有馬朗人 知命
流水の声は隠さず雪の谷 鷹羽狩行
旅かなし夢の中にも雪降れり 鈴木真砂女 夏帯
林泉に暮雪の白き涅槃かな 日野草城
嶺近く大雪晴るる水迅し 廣瀬直人 帰路
炉を離れ飯詰(いじこ)の中に雪明り 古舘曹人 樹下石上
炉隠しに轡かかりて暮雪ふる 飯田蛇笏 春蘭
廊灯しゆく婢に月明の深雪竹 飯田蛇笏 山廬集
老孤松大雪景を降らしけり 永田耕衣
老松方方を拝す大雪景 永田耕衣
曼珠沙華の葉をぬらしたる粉雪かな 細見綾子
撓みたる樹頭の刎ねて雪散華 福田蓼汀 秋風挽歌
朧夜の裸火の見に粉雪舞ふ 飯田龍太
柩蔽へば華やかに雪降り来 鷲谷七菜子 一盞
焙じ茶の熱しかんばし雪景色 日野草城
爐隠しに轡かかりて暮雪ふる 飯田蛇笏 心像
竈火に根雪かがやきだす故郷 飴山實 おりいぶ
篁の夜の査けくて雪の声 臼田亜郎 定本亜浪句集
翔べと命じて死にぎはおのが雪景色 佐藤鬼房
蓼科へ傾く廂大雪解 木村蕪城 一位
蹇に縋り寝の子よ雪明り 小林康治 玄霜
蹇や深雪ゆく子を励ましつ 小林康治 玄霜
鰤の尾に大雪つもる海女の宿 前田普羅 能登蒼し
鳰と目があう鉄道長屋へ粉雪舞い 古沢太穂 火雲

雪 補遺  続き

*あさざ網吹かれ雪降る溺谷 松崎鉄之介
あかんぼに紅き唇雪明り 中村草田男
あのへんに浮御堂点く暮雪かな 阿波野青畝
あまづたふ日のさざなみの深雪原 上村占魚
いま起きしばかりの寝間の雪明り 廣瀬直人
うごめくに雪降り積むや蟹の甲 水原秋櫻子 殉教
おのづからひらく瞼や牡丹雪 加藤秋邨
かがやく雪景色の夢がさめた 尾崎放哉 小豆島時代
かごめかごめかまくらに降る雪の声 平畑静塔
きさらぎの粉雪に浮く錦鯉 廣瀬直人
ぎんなんを焼くゆふぐれの雪明り 橋閒石
くすぐるごとき哀歓の雪降り初めぬ 中村草田男
けふはふる牡丹畑に牡丹雪 山口青邨
ここが縄張り 根雪に手押車を押し 三橋鷹女
こころ火の国にあそべる粉雪かな 三橋鷹女
コツプのかげすきとほる夜の雪深し 大野林火 海門 昭和七年以前
ささやかに受賞祝はれ牡丹雪 松崎鉄之介
さざんかにすこし雪降るこころかな 平井照敏
さんさんと田宮二郎の雪降れり 平井照敏
しづかにこころ満ちくるを待つ牡丹雪 大野林火 白幡南町 昭和三十三年
じぶ食へばたちまち加賀の雪景色 飴山實
しん~と雪降る空に鳶の笛 川端茅舎
しんとして深雪の視野のあるばかり 加藤秋邨
スケートの面粉雪にゆき向ふ 橋本多佳子
ずり落ちず聖樹に積みし綿雪は 山口誓子
そこここと網倉見ゆる深雪かな 阿波野青畝
ただに素顔の青流沿へり深雪道 中村草田男
たべ物の切口ならび夜の深雪 中村草田男
だんまりの深雪一行子を中に 平畑静塔
どの家よりも海に近くて雪降れり 山口誓子
トンネルを出れば雪国雪降れり 清崎敏郎
なきがらの軽きおもひの雪明り 飯田龍太
なつかしき水の音する深雪かな 清崎敏郎
バス停 暮雪 揃って無口の湯治老婆 伊丹三樹彦
はるか新雪北へ真直ぐ道作り 森澄雄
ひとつづつ深雪の上の星の数 加藤秋邨
ひとりゐの牡丹畑に牡丹雪 山口青邨
ふるさとの山は愚かや粉雪の中 飯田龍太
ふるさとの楢山夢の粉雪舞ひ 飯田龍太
ヘヤピンを前歯でひらく雪降り出す 西東三鬼
また一人暮雪にかへりスキー脱ぐ 水原秋櫻子 古鏡
マフラーの新雪のごと肩にゆたか 山口青邨
まんさくや小雪となりし朝の雨 水原秋櫻子 餘生
みちのくの雪降る町の夜鷹蕎麦 山口青邨
みちのくの雪深ければ雪女郎 山口青邨
みちのくは雪深き国ゆきつばき 山口青邨
みつみつと雪積る音わが傘に 橋本多佳子
みみづくの眠る梢に粉雪舞ふ 飯田龍太
めづらしい春の大雪 尾崎放哉 小豆島時代
もちの花よべの小雪のほどこぼれ 山口青邨
ゆるやかに大雪片のまじりきし 清崎敏郎
わが頬に天の雪降り地にもふる 渡邊白泉
暗黒に降る雪片の見えて積む 大野林火 青水輪 昭和二十七年
伊吹山広き地域に雪降らす 山口誓子
遺されて母が雪踏む雪あかり 飯田龍太
井戸の窪一茶旧居の深雪中 松崎鉄之介
一刀に斬りさげし根雪秋の富士 富安風生
一燈につのりきたりし粉雪かな 清崎敏郎
一燈を底に雪降る硫黄泉 大野林火 雪華 昭和三十七年
一木の白樺立てば雪降れり 平井照敏
飲食はいやしきがよし牡丹雪 岸田稚魚
飲砲光つて居る深雪 尾崎放哉 小豆島時代
羽子つき居る青空よ粉雪をおとす 尾崎放哉 大正時代
駅夫の眼旅具の粉雪をかなしむや 大野林火 海門 昭和十年
円空仏怒髪ゆたかに雪降れり 大野林火 潺潺集 昭和四十一年
炎天に妄執の雪降らしたり 山口誓子
猿の眼に 飢ありありと 深雪の檻 伊丹三樹彦
縁側に映りて降るや牡丹雪 三橋敏雄
遠き燈のそこにのみ雪降り集ふ 山口誓子
遠野勢夜半に著きぬる雪明り 河東碧梧桐
鉛とかすにみちのくの空雪降らす 松崎鉄之介
応挙寺大雪塊のしりぞかず 阿波野青畝
黄に爛れ深雪晴せる硫気口 大野林火 白幡南町 昭和三十一年
沖暗くサィ口をうづむ雪降れり 松崎鉄之介
牡丹雪 人間(ひと)の貌こそかなしけれ 富澤赤黄男
牡丹雪 茫失の面またたきせず 富澤赤黄男
牡丹雪おのが生みたる風に乗り 岡本眸
牡丹雪ジルベスターの夜をこめて 山口青邨
牡丹雪その夜の妻のにほふかな 石田波郷
牡丹雪てのひらくぼめ降つてくる 山口青邨
牡丹雪とははつきりと地にとどく 後藤比奈夫
牡丹雪わらべのこゑをまじへ降る 大野林火 月魄集 昭和五十五年
牡丹雪一片にして覆ふ紅粉花の苗 山口青邨
牡丹雪下宿のお豊何してる 山口青邨
牡丹雪海に消えてはとどろくも 加藤秋邨
牡丹雪古人一茶を撫でをれば 加藤秋邨
牡丹雪酒屋の前の友の家 森澄雄
牡丹雪重しと伏すやおかめ笹 山口青邨
牡丹雪息がゆるめば鯉うごく 加藤秋邨
牡丹雪天に戻るもあるごとし 阿波野青畝
牡丹雪土につくときふとためらふ 加藤秋邨
牡丹雪二つに離れ解けにけり 阿波野青畝
牡丹雪木立は遥か粉雪せる 三橋鷹女
牡丹雪陽明門をかくし得ず 川端茅舎
牡丹雪林泉鉄のごときかな 川端茅舎
温室の戸を緑のぞくよ深雪晴 大野林火 雪華 昭和三十七年
温室へ出入り二日またぎの深雪晴 大野林火 雪華 昭和三十七年
音といふ音閉ざされし深雪宿 稲畑汀子
音なく白く重く冷たく雪降る闇 中村苑子
火を浴びし木に降る雪を見てゐたり 飯田龍太
火形(かぎゃう)にて焚火深雪にくだけゆく 平畑静塔
火消壷まことに黒し牡丹雪 山口青邨
花匂ふ能郷白山の雪の香か 大野林火 飛花集 昭和四十六年
悔のような根雪 日がさし 日がかげり 伊丹三樹彦
海に寄り来て海に降る雪を見る 山口誓子
海音の明るさ恃め根雪墓 角川源義
海吹雪く林檎畑に雪深々 松崎鉄之介
海底に何か目ざめて雪降り来 加藤秋邨
蟹を立ち売る降る雪に消されもせず 津田清子
貝まきて畳に拾ふ根雪かな 平畑静塔
貝刺しの雪つむ芝をわたり来ぬ 永田耕衣
外堀内堀きさらぎの粉雪舞ひ 廣瀬直人
柿吊つて新雪の神嶺に来ぬ 森澄雄
岳新雪前山幾重衿合わせ 山口青邨
額の亡母浮き出てかなし雪降れば 大野林火 白幡南町 昭和二十九年
橿鳥のこぼす粉雪の光り舞ふ 水原秋櫻子 秋苑
鎌倉に小雪ありけり初詣 山口青邨
鎌倉に雪降り出しぬ黒マント 草間時彦
鴨毟る雪降らざれば止まぬなり 橋本多佳子
寒潮に雪降らす雲の上を飛ぶ 西東三鬼
干柿の八ツ岳新雪のかがやきに 山口青邨
干潟には時間をかけて雪積る 鷹羽狩行
幹たかく葬後深雪の夕ながし 飯田龍太
甘酒に 小雪散り込む 椿の宮 伊丹三樹彦
甘酒の沸々木瓜は雪深き 水原秋櫻子 蓬壺
観音の御衣深雪にはだけむほど 松崎鉄之介
眼がしらに雪降りはじめ樹をぬらす 三橋敏雄
眼の高さ以下はゆつくり牡丹雪 鷹羽狩行
眼を病むに降る雪霏々と兵舎消す 伊丹三樹彦
眼前を刻すぎゆけり牡丹雪 岡本眸
顔出でし窓の暗黒雪景色 三橋敏雄
幾谿の雪明りのみ見つつ来ぬ 加藤秋邨
記憶を持たざるもの新雪と跳ぶ栗鼠と 中村草田男
起きてゐる咳や深雪となりにけり 石橋秀野
泣ける場所があって 暮雪の 漬物納屋 伊丹三樹彦
旧正や雪深き国けふも雪 山口青邨
虚空見る目や瞬けば牡丹雪 加藤秋邨
虚空雪降る一途なる妻遊べる妻 加藤秋邨
虚子塔の手向の蜜柑にも粉雪 阿波野青畝
漁夫町 根雪 飴玉溶かす舌もつ子ら 伊丹三樹彦
魚屋の荷に雪降つて金目鯛 草間時彦
峡一つ奥へすゝめば雪降れり 高浜年尾
峡湾は暮しの歯型雪降り降る 佐藤鬼房
狂ひ寝や雪達磨に雪降りつもる 中村草田男
郷倉は深雪・氷柱よ三百年 大野林火 潺潺集 昭和四十一年
鏡なす大雪嶺を北の盾 大野林火 潺潺集 昭和四十一年
暁闇をこめて降る雪こまかなり 大野林火 青水輪 昭和二十五年
局地性大雪六甲山に積む 山口誓子
芹川の芹を埋めて雪積る 大野林火 月魄集 昭和五十五年
近づいて 遠のく人語 根雪地蔵 伊丹三樹彦
近づく睡り水に近づく牡丹雪 加藤秋邨
喰積や雪明暗の陶の匙 角川源義
空の紺氷柱の瑠璃に深雪晴 松本たかし
空町へ土塀の坂や深雪晴 大野林火 潺潺集 昭和四十一年
空谿の深雪のどこか月ありぬ 加藤秋邨
月光に深雪の創のかくれなし 川端茅舎
犬を呼ぶ女の口笛雪降り出す 西東三鬼
犬猫と共に永らふ牡丹雪 西東三鬼
肩落とすやうに日暮れて牡丹雪 岡本眸
見てゐたるところから雪降りはじむ 加藤秋邨
限りあるいのちよわれよ降る雪よ 鈴木真砂女
限りなく降る雪何をもたらすや 西東三鬼
枯草に粉雪さゝやけば胼の吾れ 杉田久女
湖の松に雪つむ*えり簀編 高野素十
胡桃ひとつに夢ひろがりぬ牡丹雪 森澄雄
御高祖頭巾の婆寸詰り粉雪降る 松崎鉄之介
御所の灯はかぞへて五つ牡丹雪 山口青邨
口あけて口中の天雪降りくる 三橋敏雄
杭一本雪降る条々かぎりなし 中村草田男
行きゆきて深雪の利根の船に逢ふ 加藤秋邨
購ふはくろき襟巻雪降れり 大野林火 早桃 海風抄
降り積むごとき睡りは来ずや牡丹雪 加藤秋邨
降る雪が川の中にもふり昏れぬ 高屋窓秋
降る雪が父子に言を齎しぬ 加藤秋邨
降る雪が踊る櫟を降りつつむ 石田波郷
降る雪に 宝石店の 裡暗む 伊丹三樹彦
降る雪にサイレンの尾の細り消ゆ 西東三鬼
降る雪にさして消えたる日ざしかな 清崎敏郎
降る雪にさめて羽ばたく鴨のあり 加藤秋邨
降る雪にしんこの犬コ四肢張れる 大野林火 飛花集 昭和四十七年
降る雪にやすらけくとぞ奏しける 阿波野青畝
降る雪に映写つゞくる映画館 山口誓子
降る雪に貝吹く頬をふくらませ 山口誓子
降る雪に角巻の胸真白くす 山口誓子
降る雪に汽笛船底をうち貫けり 山口誓子
降る雪に胸飾られて捕へらる 秋元不死男
降る雪に古りし螺鈿の底光り 松崎鉄之介
降る雪に若菜祭の禰宜の列 高野素十
降る雪に終焉の蔵戸もなしや 大野林火 白幡南町 昭和三十二年
降る雪に触れんと蔓ら這ひまはる 三橋鷹女
降る雪に漕ぎ出で海に漁夫ひとり 山口誓子
降る雪に太陽光の通路あり 山口誓子
降る雪に長子羽摶つごと来るよ` 角川源義
降る雪に日輪小さきスキー場 山口誓子
降る雪に病む者一指だに触れず 石田波郷
降る雪に目ひらいてみてまた泣けり 加藤秋邨
降る雪に老母の衾うごきけり 永田耕衣
降る雪に俯向くことを慣ひとす 山口誓子
降る雪のいまは鴨さへかきくらす 水原秋櫻子 蘆刈
降る雪のしんしんと松を降りかくす 水原秋櫻子 蘆刈
降る雪のそらへ體温のぼりゆく 三橋敏雄
降る雪のたてがみかぶり秣喰ふ 三橋敏雄
降る雪の影おぎろなし昇汞水 大野林火 白幡南町 昭和三十一年
降る雪の影をさまりつ壁冴えぬ 大野林火 早桃 太白集
降る雪の影を障子に旅ごころ 大野林火 月魄集 昭和五十五年
降る雪の空つづきにて海も降る 山口誓子
降る雪の激しさにゐる受け応へ 岡本眸
降る雪の月をかくさずすでに春 大野林火 冬雁 昭和二十二年
降る雪の紙呆気なし聖夜劇 伊丹三樹彦
降る雪の松に浮寝の鴨にふる 水原秋櫻子 蘆刈
降る雪の勢ひあまりて捻れけり 岡本眸
降る雪の勢ひ失せてさまよひぬ 岡本眸
降る雪の星屑まじへ橇走る 山口青邨
降る雪の川の奔流見せず降る 大野林火 青水輪 昭和二十四年
降る雪の底にして鴨の青うごく 水原秋櫻子 蘆刈
降る雪の薄ら明りに夜の旗 西東三鬼
降る雪やここに酒売る灯をかゝげ 鈴木真砂女
降る雪や襖をかたく人の家に 石田波郷
降る雪や傘にあまりて供華の枝 石田波郷
降る雪や山美しく人貧し 角川源義
降る雪や樹洞を恋ふる一羽毛 秋元不死男
降る雪や父母の齢をさだかには 石田波郷
降る雪や夢の檜山に憑かれ来て 中村苑子
降る雪や明治は遠くなりにけり 中村草田男
降る雪や流せし赤きものも消え 山口青邨
降る雪を見てまた戻る哺育室 飯田龍太
降る雪を見る眼差のみな同じ 山口誓子
降る雪を高階に見て地上に濡る 西東三鬼
降る雪を照らす汽罐車動きそむ 山口誓子
降る雪を鳥凌ぎゆく昇りゆく 中村草田男
降る雪を天階に見ず畦に見る 秋元不死男
降る雪を齢を一つ加へ見る 大野林火 青水輪 昭和二十四年
降る雪点々アララギ巨幹にあたり散る 中村草田男
高きより雪降り松に沿ひ下る 山口誓子
豪雪に寝て髪の毛の白くなる 山口誓子
豪雪の夜明のおさな髪撫でる 橋閒石
豪雪や母の臥所のかぐわしく 橋閒石
豪雪をうがつわが尿レモン色 平畑静塔
豪雪報ひしひし雪割草は知る 山口青邨
黒き雲脚を垂らして雪降らす 山口誓子
黒き地や身を降る雪の打ちつけに 中村草田男
骨上げ 深雪路 モンペおかしい姉遅れる 伊丹三樹彦
骨上げ 大雪 隠亡待ちのたたら踏む 伊丹三樹彦
根雪掘る二十代経し妻の背よ 佐藤鬼房
根雪待つ用意をさをさ怠らず 清崎敏郎
砂山の八方やぶれ雪降り出す 中村苑子
細雪加賀屋あたりに灯の入りて 岸田稚魚
細雪妻に言葉を待たれをり 石田波郷
細雪身に添ひ齢加へけり 岡本眸
在りし日の妻のこゑあり牡丹雪 森澄雄
三つ並ぶ大きな窓や牡丹雪 松本たかし
三月のとぼそのひまの粉雪かな 石橋秀野
山の雪降るを見てをり春炬燵 岸田稚魚
山の襞みな垂直に新雪を 山口青邨
山越えてゆかばいかなる雪降らむ 平井照敏
山越えの木偶に優しや雪明り 橋閒石
山峡の粉雪にまじり枯葉舞ふ 清崎敏郎
山々のはればれねむる深雪かな 飯田龍太
山上の粉雪一日草に積む 廣瀬直人
山雀の声の深雪を誘ひゐる 飯田龍太
山川と湯川落ち合ふ雪深し 松本たかし
山刀伐の深雪の中に炭を焼く 阿波野青畝
山刀伐の深雪解けまで文字ねむれ 加藤秋邨
山門を掘り出してある深雪かな 清崎敏郎
四月馬鹿雪降りいでて夜をはやむ 角川源義
四面 雪明り その湯にかるがる浮き 伊丹三樹彦
子が寝ねて妻の水のむ雪明り 加藤秋邨
子の留守の家降りつつむ牡丹雪 飯田龍太
市隠の愚責めぬく無燈雪明り 香西照雄
死ぬ日いつか在りいま牡丹雪降る 橋本多佳子
獅子舞に山手暮色雪降り出す 富安風生
紙を干す富士新雪と相照らひ 山口青邨
次の間も~雪明りかな 高野素十
七十の恋の扇面雪降れり 橋閒石
酌めば茶のすぐにさめたる深雪かな 鈴木真砂女
手毬唄牧も雪降るころならむ 飯田龍太
首綱で犢引き来る深雪かな 河東碧梧桐
樹蔭にも雪積るまで時借さめ 山口誓子
洲浜草鞍馬はけふも雪降ると 後藤比奈夫
熟睡より雪降る中に覚めゐたり 大野林火 月魄集 昭和五十五年
出雲まが玉暮雪の中を買ひに出づ 松崎鉄之介
春の雪降らせし夜空裾濃なす 松崎鉄之介
春の雪降りつつ早む夜の刻 飯田龍太
春の雪降るまもとけてゐたりけり 鈴木真砂女
春の雪降るや山家のうしろから 三橋敏雄
春の雪降る日の鬘合せかな 後藤比奈夫
春の雪降れば積れば山つばき 飯田龍太
春の雪明るし法王の日本語 阿波野青畝
春の粉雪に一塊の村しづか 飯田龍太
春暁や音もたてずに牡丹雪 川端茅舎
春月の眼胴(めどう)うるほひ雪景色 川端茅舎
春大雪未明友逝き逝きて帰らぬ 金子兜太
処女の背に雪降り硝子夜となる 西東三鬼
初雪は根雪にならぬ林檎かな 阿波野青畝
曙の雪明りより膳所の鳰 阿波野青畝
書を積んで巌のごとし牡丹雪 山口青邨
書庫までのわが足あとや牡丹雪 山口青邨
女中部屋の雪あかりに病んでゐる 尾崎放哉 小豆島時代
女名の家の濡縁深雪嵩む 中村草田男
除雪軍の通りしあとに雪降れり 清崎敏郎
除雪車に雪降る海がうごきくる 加藤秋邨
小雪や実の紅の葉におよび 鷹羽狩行
小雪飾りて山椒は棘ばかり 飯田龍太
少女等の髪の粉雪やスキー行 高野素十
松の枝大雪塊ののり撓め 高野素十
松籟の消ぬかのままに雪降る音 中村草田男
焼畑に鴉ついばむ雪降り来 角川源義
織りすすむ殊に紅絲に雪明り 大野林火 潺潺集 昭和四十三年
信濃路に降る雪昏し空に織り 中村草田男
新雪にスキー応へてをりにけり 後藤比奈夫
新雪に何か声澄むさるをがせ 飯田龍太
新雪の山別々の闇に入る 飯田龍太
新雪の上いたましや玩具燃ゆ 飯田龍太
新雪の人の表札を見てはゆく 加藤秋邨
新雪の葡萄畑に水の音 松崎鉄之介
新雪の穂高の奥の光るは槍 山口青邨
新雪の木曽駒と遇ひ君等と会ふ 松本たかし
新雪の来て花ひらく蓮華岳 山口青邨
新雪や崖の上下に声めざめ 加藤秋邨
新雪をかぶり富士山一本立ち 平畑静塔
新雪をもて槍岳は槍としたり 山口青邨
新雪を一浴したる駒ケ嶽と会ふ 松本たかし
深雪にアイヌは腰の定りぬ 後藤比奈夫
深雪のどれもみみづく越後の子 森澄雄
深雪の下くぐり来し水漉場に入る 橋本多佳子
深雪の戸はひれば読んで居り暗し 平畑静塔
深雪の照り双頬へ来てそを熱す 中村草田男
深雪の燈灯れる駅を通過せり 清崎敏郎
深雪の夜友をゆさぶりたくて訪ふ 中村草田男
深雪やへくそかづらがふとそよぎ 加藤秋邨
深雪よりいま一滴の旅はじまる 加藤秋邨
深雪降らしていま憩ふ空月と星 中村草田男
深雪宿温泉室の屋根は雪を置かず 松本たかし
深雪宿足あと家を一めぐり 高野素十
深雪晴 木馬 ブランコ みな音絶ち 伊丹三樹彦
深雪晴雁木表に馬具吊られ 松崎鉄之介
深雪晴湯花凝らしめ湯は流れ 大野林火 雪華 昭和三十七年
深雪晴非想非非想天までも 松本たかし
深雪掻く家と家とをつながんと 西東三鬼
深雪踏む白き看護婦呼べばふり向く 西東三鬼
深雪道来し方行方相似たり 中村草田男
人恋えば灰のごとくに雪降れり 橋閒石
水に着かんとするときがふと牡丹雪 加藤秋邨
清瀬村医療区に鐘雪降り出す 石田波郷
声はわれらよ雪降りつつむ終ひの蔵 大野林火 白幡南町 昭和三十二年
西方も粉雪の眉毛充満す 永田耕衣
惜しみなく炉火焚かれたり雪降り来る 橋本多佳子
積むことのはやき暮雪よ妻病めば 大野林火 青水輪 昭和二十五年
積るともなき粉雪の積りゐし 清崎敏郎
赤のまんま末枯(すがれ)れたりすでに雪降りたり 金子兜太
赤子泣き覚めぬひとの家雪明し 橋本多佳子
跡隠しの雪降る闇に沸く怒濤 加藤秋邨
雪の一糸も無く白日や秋の声 中村草田男
雪の香の犬コ小筥に族鞄 大野林火 飛花集 昭和四十七年
雪の上に雪降ることのやはらかく 西東三鬼
雪はげし化粧はむとする真顔して 橋本多佳子
雪はげし鶏舎の網の目をつぶし 鷹羽狩行
雪はげし書き遺すこと何ぞ多き 橋本多佳子
雪はげし谷戸の流れの音たつほか 大野林火 白幡南町 昭和二十九年
雪はげし夫の手のほか知らず死す 橋本多佳子
雪はげし抱かれて息のつまりしこと 橋本多佳子
雪はげし木立悉く傾けば 石田波郷
雪を払って僕生きている 雪降る墓地 伊丹三樹彦
雪雲が通る儀礼の雪降らし 山口誓子
雪空火を焚きあげる雪散らす 尾崎放哉 須磨寺時代
雪窪に雪降る愛を子の上に 橋本多佳子
雪降つてうすずみいろの厨かな 草間時彦
雪降つてもよきほど藁屋いぶせきよ 大野林火 方円集 昭和五十三年
雪降つてより雪除の柵造り 山口誓子
雪降つてゐる赤門や冬休 深見けん二
雪降つて解く大阪の生旺ん 山口誓子
雪降らしおのれも白き天狗山 山口誓子
雪降らす夜も家なしの天の童 三橋敏雄
雪降りて休めるトロを子は走らす 山口誓子
雪降りて谷の底より吹き揚る 山口誓子
雪降りて蕪村忌にしてクリスマス 富安風生
雪降りぬ病む友に詩も多からん 松崎鉄之介
雪降りやみ鋸の音なほつづく 山口誓子
雪降り出す車窓よぎる燈の白熱し 大野林火 青水輪 昭和二十六年
雪降るか沼に宿かる神の岳 角川源義
雪降るか立春の暁昏うして 石田波郷
雪降るとき黄河黄濁を極めん 金子兜太
雪降ると兎の風船だけが赤 加藤秋邨
雪降ると背骨一本立ちにけり 加藤秋邨
雪降るなかのコンクリート塀母子眠らせ 金子兜太
雪降るな人間魚雷いまぼろぼろ 山口誓子
雪降るにまかす夜中の鼠捕り 山口誓子
雪降るはあしたあたりか五百川 平井照敏
雪降るもやむも正法眼蔵意 上村占魚
雪降るや一壺一輪白牡丹 水原秋櫻子 緑雲
雪降るや忌の日一日美しく 角川源義
雪降るや去る足跡をかくさんと 角川源義
雪降るや妻が小声の子守唄 伊丹三樹彦
雪降るや笹に音して更けにけり 森澄雄
雪降るや泥濘荒るる北の海 松崎鉄之介
雪降るや白千羽孜々と食み 大野林火 雪華 昭和三十九年
雪降るや霏々と水仙埋むべく 山口青邨
雪降る山と睡眠薬を枕上 大野林火 雪華 昭和三十五年
雪降る夜逃場は海のほかになし 山口誓子
雪降れど高臺のなき工場地区 三橋敏雄
雪降ればころんで双手つきゐたり 三橋敏雄
雪降れば転んで双手つきゐたり 三橋敏雄
雪降れりすこし離れし海の上 山口誓子
雪降れりひとのさまよひ十字なす 三橋敏雄
雪降れり月食の汽車山に入り 石田波郷
雪降れり時間の束の降るごとく 石田波郷
雪降れり人のゆきかひ十字なす 三橋敏雄
雪降れり美童に遙かに無数の駅 金子兜太
雪降れるときひたすらに白き父 三橋敏雄
雪山に雪降り友の妻も老ゆ 西東三鬼
雪深き村々燈火洩らさざる 山口誓子
雪深くかぶりてをりしヌード小屋 清崎敏郎
雪深くして厨房の音こもる 橋本多佳子
雪深く勝道上人斧ふりしか 川端茅舎
雪深く天手力男命籠り在す 山口青邨
雪深く南部曲屋とぞ言へる 山口青邨
雪深く年歩む吾あゆむなり 岡本眸
雪積ることはじまりて水暮るる 大野林火 青水輪 昭和二十七年
雪積る梢の勾配ありにけり 稲畑汀子
雪掻けば雪降る前の地の渇き 中村苑子
雪中の水仙雪の香とにほふ 山口青邨
雪粉雪受話器をながれ来たるこゑ 三橋鷹女
雪片と人間といづれ雪降りつぐ 石田波郷
雪明りこゑももらさず餌場の鴨 橋本多佳子
雪明りベツドにうづむ寝顔かな 大野林火 早桃 太白集
雪明り一切経を蔵したる 高野素十
雪明り死へやすやすと鉄路置き 岡本眸
雪明り熱のぼるとき冴えにけり 大野林火 早桃 太白集
雪明り目覚めて夜の胸隆き 岡本眸
雪嶺のがれ煎餅買ふ掌に雪の声 角川源義
戦友会暮雪にはかに会者増ゆ 松崎鉄之介
船の絵を見しが雪降る海が見ゆ 加藤秋邨
船煙黒褐に雪降りてやむ 山口誓子
船煙雪降る海にはねかへる 山口誓子
祖母・父母の死苦の総和や雪降り次ぐ 中村草田男
組みあひて降つてくるなり牡丹雪 三橋敏雄
壮行や深雪に犬のみ腰をおとし 中村草田男
想ひ出づ歴史の中に雪降れり 山口誓子
息やはらかく降る雪にお晩です 大野林火 白幡南町 昭和三十年
大いなる牡丹雪鼻の先に落つ 阿波野青畝
大雪が押す禅堂の雪囲ひ 山口誓子
大雪となる兎の赤い眼玉である 尾崎放哉 須磨寺時代
大雪に耐ふる柱の時計うつ 橋閒石
大雪に埋れざるものなかりけり 三橋敏雄
大雪の村に水銀燈点る 山口誓子
大雪の朝を出でゆく魚の骨 佐藤鬼房
大雪の都電とどまる旧居前 水原秋櫻子 帰心
大雪の夜の排卵を拝むなり 橋閒石
大雪の夜の白檀を燻ずべし 橋閒石
大雪の夜を福寿草ひらきけり 橋閒石
大雪や山毛欅の諸枝のどこか揺れ 阿波野青畝
大雪や母の点つ茶の泡みどり 大野林火 白幡南町 昭和二十八年
大雪を曳きあへずして汽車うごく 平畑静塔
大雪を冠りて木々も低頭す 山口誓子
大雪を降らして伊吹雪少な 山口誓子
大雪を降らす曲者伊吹山 山口誓子
大雪を必然として埋れ住む 山口誓子
大雪原人の住む燈の見当らず 山口誓子
大雪原地球のうねりそのままに 山口誓子
大雪原天には月を掲ぐのみ 山口誓子
大雪片不意に吾が眼の前に降る 山口誓子
大沢の深雪解くるに間あるなり 山口誓子
啄木鳥や深雪に立てる木も凍り 水原秋櫻子 秋苑
脱衣著衣浴女出で入り雪散華 松本たかし
探梅図ことしも掛けて雪深き 山口青邨
炭つぐや髷の粉雪を撫でふいて 杉田久女
炭色の眠たうなりぬ牡丹雪 森澄雄
誕生日わが満面に雪明り 伊丹三樹彦
地は厚くして大雪の富士を載す 山口誓子
抽出に佛光りし雪降るか 永田耕衣
昼暗き四方八方の雪降りみだる 山口誓子
鶴舞うて雪降りて旅なぐさむる 星野立子
低山に雪降りわれら蹣跚と 金子兜太
天高き処新雪降りしきる 山口誓子
天草を天たかく見れど雪降れり 山口誓子
点燈す手の高さより雪降りをり 森澄雄
電燈を点けて雪降る日の奢り 山口誓子
土につくまで牡丹雪重かりき 加藤秋邨
冬は何故か涙もろくて雪降れり 松崎鉄之介
冬鵙の暮れんとしつつ雪明り 加藤秋邨
湯汲老婆に 妓から会釈の 深雪の橋 伊丹三樹彦
湯女どちと深雪月夜を一つ温泉に 松本たかし
湯女どちの肌の湯艶よ深雪宿 松本たかし
湯畑の湯花採る日や深雪晴 松本たかし
灯台のどの方位にも雪降れり 鷹羽狩行
燈を洩らし深雪の関ケ原に住む 山口誓子
討伐隊まだかへりこぬ暮雪かな 石田波郷
踏み出でて大雪晴に身の浮けり 岡本眸
堂内へ気まぐれ小雪 灰葬経 伊丹三樹彦
瞳に古典紺々とふる牡丹雪 富澤赤黄男
道に柴一枝夜明けて雪降りをり 森澄雄
道傍に海あふれたる暮雪かな 石田波郷
謎もなし穴掘れば穴に雪降り 藤田湘子
日がさして消えて春雪降りやまず 清崎敏郎
日のあたる方へ深雪の幹歩む 藤田湘子
日本曹洞第一道場深雪晴 上村占魚
乳児の黒瞳さめて見てゐる牡丹雪 加藤秋邨
妊りて堆く寝て雪降り積む 森澄雄
年木積み新雪ひかる岳を負ふ 水原秋櫻子 霜林
白牡丹われに落ちつぐ牡丹雪 山口青邨
白菊は富士新雪を前に光る 山口青邨
白魚を煮る酒の香や細雪 水原秋櫻子 緑雲
髪刈りあう父と子に雪つむ迅さ 橋閒石
半ば魔を恃む深雪に両足消し 西東三鬼
斑雪降り家鴨のこゑを聞きとどむ 三橋敏雄
氾濫の絮のごとくに牡丹雪 阿波野青畝
飯噴くと恍惚たりき粉雪の日 加藤秋邨
尾ある人現るか雪降る奥吉野 津田清子
美しき夜となしつつ牡丹雪 森澄雄
百千の土管口あけ雪降れり 石田波郷
病みてここに綿雪を見て慰まむ 森澄雄
病める目にときに繚乱牡丹雪 森澄雄
富士根雪鶴は再び病みにけり 渡邊白泉
父の奥に雪降り子守唄遠し 中村苑子
父の忌の雪降りつもる炭俵 大野林火 早桃 太白集
父の墓へは新雪 母焼く煙見返り 伊丹三樹彦
負け独楽のつきささりたる深雪かな 加藤秋邨
復活や深雪に墓の抱かれて 大野林火 白幡南町 昭和三十一年
覆はれし受難のイエス雪降れり 大野林火 白幡南町 昭和三十三年
淵の深さやあとからあとから牡丹雪 加藤秋邨
仏壇屋 覗きもし 雪降る町で男 伊丹三樹彦
憤りわが踏む雪に雪明り 加藤秋邨
粉雪の雉子はしばらくあるきけり 加藤秋邨
粉雪はくちなしの実にとまりそめ 清崎敏郎
粉雪ふつてゐる畑の畝そろへり 大野林火 冬青集 雨夜抄
粉雪ふる常はおもひのなき径 飯田龍太
粉雪ふる町賑はひて年歩む 松本たかし
粉雪や朝より熱き女の身 森澄雄
粉雪散らし来る大根洗ふ顔を上げず 尾崎放哉 須磨寺時代
兵起す喇叭ぞ鹿児島に雪降れり 山口誓子
編笠山新雪すこしのせ瀟洒 山口青邨
墓原に低き声充ち雪降り出す 岡本眸
暮雪てふ比良を舳に捕 阿波野青畝
暮雪飛び風鳴りやがて春の月 水原秋櫻子 霜林
母のふところ雪深々とあやめ咲く 橋閒石
母子踊る粉雪の如く静寂に 三橋鷹女
母情さながら楓古木に粉雪舞ひ 飯田龍太
本を売る予報なかりし牡丹雪 鷹羽狩行
埋葬行森を隠して雪降れり 大野林火 白幡南町 昭和三十三年
妹の嫁ぐ栃尾も雪深し 高野素十
又も夕ベとなり粉雪降らし来ることか 尾崎放哉 須磨寺時代
満目の大言海の雪降れり 平井照敏
無より有出でくる空の牡丹雪 阿波野青畝
綿雪のいつしか粉雪白魚汁 森澄雄
綿雪のふる夜おのれに紛れ紐れ入る 森澄雄
綿雪やしづかに時間舞ひはじむ 森澄雄
木立裾落ち込んでゐる深雪かな 高浜年尾
黙々生きて暁の深雪に顔を捺す 佐藤鬼房
目のあたり浴泉群女深雪晴 松本たかし
夜なべの母寝ゐてふかぶか雪積る 松崎鉄之介
夜の鉄路乗りかへてより雪深き 橋本多佳子
夜泊石呉天より雪散らせ来よ 阿波野青畝
爺ケ岳新雪の髪ふりかぶる 山口青邨
薬待つ遠い日向の雪景色 飯田龍太
柳鰈貰ふ大雪そのあとに 大野林火 潺潺集 昭和四十三年
癒らざる方へ打臥す雪降り出す 石田波郷
由良の戸 暮雪 汽笛こんなにかなしいとは 伊丹三樹彦
欲しきもの夫の相槌牡丹雪 岡本眸
浴泉やひた降る雪を唇に吸ひ 松本たかし
落葉松はいつめざめても雪降りをり 加藤秋邨
落葉松を仰げば粉雪かぎりなし 橋本多佳子
裏山に巨岩があり雪降れり 金子兜太
流水のはげしさよ降る雪も斜め 大野林火 青水輪 昭和二十六年
旅鞄雪に置く雪降りしきる 山口誓子
両手組めば握手に似たり雪降りつぐ 中村草田男
力なく降る雪なればなぐさまず 石田波郷
林泉邃く来て雪明る簷ありぬ 伊丹三樹彦
俯伏せに甕押しならび雪降れり 石田波郷
溲瓶にも飛込むがあり牡丹雪 阿波野青畝
煖炉に立つ大雪を積む聖樹 山口誓子
煖炉燃え牡丹雪とはかかるもの 三橋鷹女
轆轤いま土をひきあぐ牡丹雪 加藤秋邨
饒舌に吹雪寡黙に降る雪よ 稲畑汀子

雪 続補遺

*霰小雪ふた親のこゝろ察し入 加舎白雄
あかるさに蠅の出て行深雪哉 田川鳳朗
あやなくも霰降かつ小雪哉 加藤曉台
いつ涌きていつ降る雪の玉柏 鬼貫
こゝろだに置処なき深雪哉 松岡青蘿
しなのぢや小田は粉雪に蕎麦畠 高井几董
そばへ啼鳥や小雪のさゝとふる 寥松
たをやかに柳もうけよ初深雪 馬場存義
ない事のやうに来ていふ深雪哉 田川鳳朗
ひつかくれ~降る雪の山 秋之坊
よし野山も唯大雪の夕哉 野水
われ若きいつやらは此雪げしき 土芳
一重なみ雪降かゝる凍かな 蘆本
下京や雪つむ上の夜の雨 凡兆
絵の中に居ルや山家の雪げしき 去来
客となりて雪降迄は竹の月 松岡青蘿
魚店に鰒の残るや雪げしき 呂風
月雪の墨の香ふかみ古人達 加舎白雄
元服や丹波の小雪ふれこんこ 支考
根雪かと見ればおそろし風の音 北枝
在寺や天井張らぬ雪あかり 鈴木道彦
鷺の雪降さだめなき枯野哉 千代尼
女潟とは小雪のたまる根笹哉 支考
小雪せよ笠着て舞ん神の前 建部巣兆
水仙の香やこぼれても雪の上 千代尼
是をだに夕日の野菊雪深し 句空
積にけり消る力のなき粉雪 田川鳳朗
雪の声篠三葉四葉のうごき哉 加舎白雄
雪の夜や重ッて行鳥の声 丈草
雪の有ものにきかすな松の声 千代尼
雪降て今朝は誠に浮世かな 買明 反古ふすま
雪降にうらと表は替りけり 芙雀
雪降のひよ鳥越や猿すべり 桃先
雪降は鴈のこゝろの目玉かな 助然
雪降や紅梅白し花の春 杉風
雪降や調抜子しづむ夜の神 車庸
雪降や南高藪殿どなり 紫道
雪深く人は世渡る楫をたえて 加藤曉台
雪明りあかるき閨は又寒し 建部巣兆
千人の日用そろふや雪明り 炭太祇
大雪と成けりけさは鶴のこゑ 成田蒼虬
大雪に埋まぬものや鏡の声 落梧
大雪に明たまゝ也枝折門 荻人
大雪に餅をならべし莚かな 建部巣兆
大雪のこゝにも食のけぶりかな 不玉
大雪のつみ残しけり腹のうち 田川鳳朗
大雪の降とは見えず浦のさま 成田蒼虬
大雪の旦若菜をもらひけり 加舎白雄
大雪の中からほのと赤つばき 諷竹
大雪の夜を打崩す景色かな 松岡青蘿
大雪やむぐらの宿のひしけ物 野水
大雪や我を山家に庭の松 夏目成美
大雪や水の枝折の埋跡 野坡
大雪や落つきて啼鳥の声 紫白女
大雪や里どまりするひわの声 卯七
大雪や隣のをきる聞合せ 浪化
大雪や隣へ行ば雪の洞 路健
池水にかさなりかゝる深雪哉 高井几董
猪突の控に立る深雪かな 加藤曉台
底冷やいつ大雪の朝ぼらけ 此筋
提灯についたも氷る小雪かな 寥松
踏初て根雪となるや椿井坂 正秀
日比見し松も深雪の高根哉 高桑闌更
年の雪の郭公かな夜ルの声 旦藁
白妙は遠山而已ぞ小雪ちる 高桑闌更
帆ばしらに雪降そふや風面 泥足
物置の櫃の先まで雪あかり 釣壺
北山は小雪散らん軒端吹 高桑闌更
木の葉ちり雪降上にちる木の葉 野坡
来月は猶雪降ンはつしぐれ 千里
落穂拾ひのまた出るに小雪ふる 寥松
蘭の香は薄雪の月の匂ひかな 松岡青蘿
里へ出る鹿の背高し雪明り 炭太祇
旅人に我糧わかつ深雪哉 高井几董
狼の声そろふなり雪の暮 内藤丈草
寐見台雪降時は起にけり 凉菟
棹立て越の深雪やみほつくし 正秀
蠣ひねる背戸のほそめや雪明り 昌房
鶯よいつをむかしの雪の声 鬼貫

以上

by 575fudemakase | 2017-04-19 10:11 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)


例句を挙げる。

あくがれし雪国に来て飛雪の夜 大島民郎
あぢさゐの枯れて日当る根雪かな 藤田あけ烏 赤松
あひ触れて深雪の廂夜は深し 福田蓼汀 山火
あらき日の出あらき暮雪の泥炭地 細谷源二
うつはりに鶏の鳴く深雪かな 吉田冬葉
お涅槃のかたきまぶたや雪明り 前田普羅
お白州の格子窓より雪明り 高澤良一 随笑
お降りのうす墨刷ける深雪かな 西本一都 景色
かぎりなく舞ひおりて雪明りとなる 千代田葛彦 旅人木
かぎ括弧型に根雪のとけにけり 櫂未知子 貴族
かくて暮雪持たざる人は鶴のごとし 細谷源二
かまくらへ城と童女と雪明り 河野多希女 月沙漠
からたちの黄の褪せてくる飛雪かな 藤田あけ烏 赤松
かん酒や深雪とならん深雪になれ 白泉
がうがうと深雪の底の機屋かな 皆吉爽雨(1902-1983)
きさらぎや深雪に沈む林檎園 福田蓼汀 山火
くろもじに粉雪かかりてみづみづし 風生
こころ火の国にあそべる粉雪かな 三橋鷹女
ことことと小豆煮つむる細雪 加藤耕子
ことと音又も深雪にことと音 京極杞陽
この食を今受くる手の雪明り 宮武寒々 朱卓
こんにやくの一枚ありし深雪かな 龍岡晋
こゝろだに置処なき深雪哉 松岡青蘿
ごう~と深雪の底の機屋かな 皆吉爽雨
しなのぢや小田は粉雪に蕎麦畠 高井几董
しんしんと柱が細る深雪かな 栗生純夫
じぶ食へばたちまち加賀の雪景色 飴山實 『次の花』
だんだんに深雪の畑となりにけり 阿部みどり女
ちちははや畳にゆらぐ雪明り 金箱戈止夫
とんどの火小雪まじりを猛りけり 平田マサ子
どつと起る歓声にまた飛雪かな 金尾梅の門 古志の歌
ぬばたまの闇も深雪も祀らるる 西本一都 景色
のり出でて両岸迫る深雪かな 高濱年尾 年尾句集
はしか寺分教場も根雪来て 文挟夫佐恵 遠い橋
ひそかなる壺の吐息や雪明り 朝倉和江
ひとはふり塵ののりゐる深雪かな 銀漢 吉岡禅寺洞
ひめ始八重垣つくる深雪かな 増田龍雨
ひもすがら小雪ちらつく年用意 伊達外秋
ふきのたう根雪汚れて退りけり 高澤良一 素抱
ふるさとに東歌あり根雪ふむ 烏頭子
ふるさとの山は愚かや粉雪の中 飯田龍太 百戸の谿
ふるさとの町縫う根雪煤臭し 飴山實 『おりいぶ』
ふる雪やすでに深雪の一伽藍 橋本鶏二
ほつたりと鴉深雪の樹に暮るる 加藤知世子
また一人暮雪にかへりスキー脱ぐ 水原秋桜子
まろ~と白大嶽や峡深雪 松根東洋城
みそさざい暮雪に声をこぼし去る 中村 信一
みちつけて水の出でくる深雪沢 上田五千石 森林
みちのくの深雪の倉の寒造 遠藤梧逸
みちのくは根雪の上の土竜打 長谷川浪々子
みみづくの眠る梢に粉雪舞ふ 飯田龍太
むささびの飛翔影曳く雪月夜 村上喜代子
もう帰らん茶釜の下の秋の暮 雪色 選集「板東太郎」
もしもしにもしもし申す雪月夜 攝津幸彦 鹿々集
もちの花よべの小雪のほどこぼれ 山口青邨
やはらかくふくさ折つたり雪曇り 椎本才麿
やや酔ひて子の部屋を訪ふ細雪 鈴木鷹夫
やわらかに粉雪は舞うわたくしという昏がりの窓のむこうに 三枝浩樹
りくぞくと暮雪妻の手吾が手につつむ 細谷源二
わがまなぞこに語々据うるごと雪国人 赤城さかえ
わが母郷雪国の海蒼き町 大橋敦子 匂 玉
わが翳をわれがさびしみ雪明り 加倉井秋を 午後の窓
アドバルーンのない空がちらす 日暮の粉雪 吉岡禅寺洞
シグナルの青を夜の目雪国ヘ 野澤節子 花 季
スケートのきほへば飛雪また飛雪 大島民郎
バイブルに鞣し香のある深雪かな 石原八束 雁の目隠し
ブリユーゲルの雪景色あり喪服着る 仙田洋子 雲は王冠
ホーと木莵雪国の土匂ひ出づ 村越化石
ミサの歌こもり深雪の梁太し 宮津昭彦
ランプ明り雨戸に粉雪ささと触れ 福田蓼汀 秋風挽歌
レモン大の雫おちくる雪国晴れ 桜井博道 海上
レール若し貨車を雪国より発たす 磯貝碧蹄館 握手
一切を断ち雪国の重襖 鷲谷七菜子 花寂び
一力ののれんにかゝる粉雪かな 松根東洋城
一撞一礼飛雪に年を畏みぬ 森澄雄 鯉素
一文字に雁去る朝の雪曇 石塚友二 光塵
一文字の一葉はね居る深雪かな 西山泊雲 泊雲句集
一筋の深雪の径の追儺寺 梧桐 青吾
一頭の闇のいななく粉雪かな 河原枇杷男 閻浮提考
一飛雪ひゅうと川面をよぎりけり 高澤良一 鳩信
一飛雪挿す柊にとどまりぬ 阿波野青畝
三が日だるまになれば粉雪ふる 八木三日女 落葉期
三十路はや粉雪をいそぐ死化粧 渡辺恭子
三月のとぼそのひまの粉雪かな 石橋秀野
上*せいの燈明りわたり深雪かな 原石鼎 花影以後
不安ごとテレカ吸いこまれ雪国へ 吉田嘉彦
世に遠く浪の音する深雪かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
中坪は雪国づくり金魚飼ふ 水原秋櫻子
中空に起重機鳴れる深雪かな 米沢吾亦紅 童顔
中華街砕かれている雪明り 対馬康子 吾亦紅
五六尺積らぬうちはまだ小雪 佐藤五秀
人を消し忘れ帝都の深雪かな 五島高資
人形使お七に添いて深雪踏む 藍不二子
人月の弥陀ケ原なる雪景色 高木晴子 花 季
今は灯をつけよ筆擱く雪明り 篠田悌二郎
今降りて根雪となるか椿井坂 水田正秀
仕込樽撞木と古りぬ雪明り 石川桂郎 高蘆
信義なき世なりといふも雪明り 野村秋介
修二会いま飛雪浄土へ火を降らす 細見しゆこう
倶利伽羅は杉ばかりなる小雪かな 細川加賀
停止なき金魚粉雪に売られおる 寺田京子 日の鷹
傘の柄にどんど明りと雪明り 阿部みどり女
傘松と飼はるゝ鶴と深雪かな 野村喜舟 小石川
備前窯の系図かげろふ雪明り 殿村莵絲子 牡 丹
傷口に粉雪積れば血を噴かむ 石原八束 『白夜の旅人』
僧に遇ふのみの深雪の高野かな 岩崎照子
先ず目には東寺の塔や細雪 橋本夢道 『無類の妻』以後
兎ゆきしあとのみ散りて深雪なり 及川貞 夕焼
児らのうたふ鳥追ひ唄も伝承となりはてにけり杳き雪明り 大滝貞一
兵を送る松明あらはるゝ深雪かな 前田普羅 飛騨紬
其の上は天領といふ根雪かな 梶山千鶴子
冬苺雪明り遠く遠くあり 加藤楸邨
冷奴のんどに不二の根雪かな 渡辺恭子
凍豆腐編む天窓の雪明り 加藤弥子
出家するごとし粉雪海へ海へ 櫂未知子 蒙古斑
刻々と手術は進む深雪かな 中田みづほ
剪定は寒にするもの深雪掘る 西本一都
匹夫も逸る飛雪の比叡はじまりぬ 高柳重信
医師あらでまた走る桑の雪明り 佐野青陽人 天の川
千人の日用そろふや雪明り 炭 太祇 太祇句選後篇
午ちかく雀なき出し深雪かな 原石鼎
卓々と声張る鵜群暮雪急 村上冬燕
卯の花の深雪咲きして美術館 本宮鼎三
去年の雪明るく消えぬ梅の花 横光利一
参籠の人の掻き居る深雪かな 比叡 野村泊月
反芻の牛の顔ある雪明り 依田明倫
叡山の小雪まじりの涅槃西風 西沢信生
口も手も深雪にゆるめでく廻し 宇佐美魚目 秋収冬蔵
古戦場信濃の粉雪唇にふる 西本一都 景色
叫びたい子等に深雪のつくり山 成田千空 地霊
吊橋の乾きあとさき深雪道 中戸川朝人
吊橋の深雪ふみしめ飛騨へ径 前田普羅 飛騨紬
向日葵に雪国の窓欝とあり 石原舟月 山鵲
吶喊鶴亀! 一万年ノ雪景色 夏石番矢 真空律
吾一語汝一語や夜の深雪 徳永山冬子
啼きしあと鶴は深雪の中あゆむ 安田 晃子
四方の深雪に山上湖温みそむ 松村蒼石 雁
地に皺の中のふるさと雪明り 矢島渚男 天衣
地の深雪宙の二階の白根澄む 飯田蛇笏 椿花集
地より湧く暮雪口中までとどく 吉田紫乃
地酒買ふ飛騨の暮雪に肩濡らし 長田等
埋もれて穴あく笹の深雪かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
堂押祭深雪を踏んで声しぼる 皆川盤水
境内や深雪晴れたる池の水 石原舟月 山鵲
壮行や深雪に犬のみ腰をおとし 中村草田男(1901-83)
外は飛雪帰る風呂敷かたく結ぶ 古沢太穂 古沢太穂句集
夜の書庫に『ユトリ口』返す雪明り 安住敦
夜の柱肥るは深雪くるならむ 稲島帚木
夜の飛雪獣皮店鋪の飾戸に 西島麥南
夜晴れて朝又降る深雪かな 虚子
夢の世のわが墓見ゆる雪明り 清水基吉
夢を見るまでモモンガ飛ばす雪明り 石川青狼
大いなる冬芽飛雪が岳を消す 及川貞 夕焼
大山の根雪もとれぬ羽子日和 皆吉爽雨
大松明の火の粉雪の粉鬼走る 松本 竜庵
大椿とりまいてゐる飛雪かな 山本洋子
天にまだある粉雪がちらちらす 御旅屋長一
天よりも夕映敏く深雪の面 野澤節子 黄 瀬
天井に駕籠つるしある深雪かな 龍岡晋
天壁を夕焼のぼる深雪かな 児玉南草
天臺の大寺にして深雪かな 橋本鶏二
天辺の飛雪ちからを抜くところ 赤松[けい]子 白毫
太陽が粉雪降らす稚魚放流 石川文子
太陽に吹き込む飛雪スキー場 中西碧秋
夫病む部屋の乳児が伸びする雪明り 加藤知世子 黄 炎
妻へ声送る 雪国の赤電話 伊丹三樹彦 樹冠
姨捨の深雪の底の炬燵婆 藤岡筑邨
娘等濯ぐ深雪の中の温泉の流 伊藤柏翠
嬬恋の里も深雪の中の頃 成瀬正とし 星月夜
子が寝て妻の水のむ雪明り 加藤楸邨
子等散つて深雪の学舎たそがるゝ 石橋辰之助 山暦
孤り炊ぐや根雪の上に煙をため 細谷源二
学僕の松を納むる暮雪かな 矢野奇遇
宝恵籠を出る裾こぼれ粉雪ちる 岡本圭岳
家裏は鬼の逃げ路の雪明り 林原耒井 蜩
宿木に飛雪張りつく峠越え 高澤良一 随笑
密月旅行雪国どこにゆきても雪 長田等
富山にて金澤おもふ深雪かな 松根東洋城
寐たはずの牛が顔だす雪月夜 本宮哲郎
寒明の飛雪をそらに妻と酌めり 森川暁水 淀
寒立馬遠く飛雪と砂防林 河野多希女 こころの鷹
寒菊に著せたる傘も深雪かな 橋本鶏二
寒鮒の籠も秤も粉雪かな 龍雨
寺領なる闇が深雪を照らしゐる 鳥居おさむ
小便所の油火にちる粉雪哉 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
小屋ぬちに田舟乾ける深雪かな 猿橋統流子
小柴門出入のしげき深雪かな 飯田蛇笏 山廬集
小説でなき「小雪」を螢火に 長谷川かな女 花 季
小雪の朱を極めたる実南天 富安風生
小雪の水清く田の一枚のなみ立ち 原田種茅 径
小雪ふる夕べは言葉こまやかに 柴田白葉女 花寂び 以後
小雪や古り枝垂れたる糸桜 飯田蛇笏 霊芝
小雪や実の紅の葉におよび 鷹羽狩行
小雪日々残るところには残り 川島彷徨子 榛の木
小雪舞ふ病者片目を開けてをり 石井保
少女等の髪の粉雪やスキー行 高野素十
少年帰る夕日の根雪蹴りながら 飴山實 『おりいぶ』
屋根替にまたも飛雪の奥丹波 薄木千代子
山の音深雪にしづむ永平寺 石原八束 『操守』
山下りし根雪に白き睡りかな 勝又木風雨
山二つ一双なせる深雪かな 橋本鶏二
山内の杉に吸はるゝ粉雪かな 野村喜舟 小石川
山吹や根雪の上の飛騨の径 普羅
山火事や乾の空の雪曇り 寺田寅彦
山荘に飯噴く匂ひ細雪 伊藤敬子
山門を掘り出してある深雪かな 清崎敏郎(1922-99)
岩温泉に老猿ばかり深雪晴 西本一都 景色
峡暮雪眼に赤きものあるはずなし 千代田葛彦 旅人木
崖の上に犬吠えたつる雪曇り 加藤楸邨
嶺々暁くるしづかな粉雪町に降る 野澤節子 花 季
川流れる雪国雪に柿残す 和知喜八 同齢
左義長の竹組む根雪踏み固め 吉澤卯一
左義長や雪国にして雪の上 松根東洋城
巫女の剣佩きたる雪月夜 飯田蛇笏 霊芝
市隠の愚責めぬく無燈雪明り 香西照雄 対話
帯かたき和服一生粉雪降る 野澤節子
帰りつく身をよす軒や雪明り 飯田蛇笏 山廬集
帰去来(かえりなんいざ)山国へ雪国へ 橋本榮治 越在
幌に降る雪明るけれ二の替 阿部みどり女 笹鳴
干網に日ざせば狂ふ粉雪かな 西山泊雲 泊雲句集
広重の亀山の図の深雪かな 伊藤敬子
庭におく深雪の石にみそさざい 飯田蛇笏 椿花集
廊灯しゆく婢に月明の深雪竹 飯田蛇笏 山廬集
廬火に根雪かがやきだす故郷 飴山實 『おりいぶ』
往診鞄暮雪に重し親鸞忌 伊与幽峰
御扉にふとも日のさす暮雪かな 日野草城
御松明の火の粉粉雪舞ひ上げぬ 川口黄秀
御涅槃のかたきまぶたや雪明り 普羅
御滅燈この世の果ての雪明り 沢木欣一
忘れ雪明日は別るゝ女とあり 松木 百枝
念ごろな飛脚過ゆく深雪かな 蕪村遺稿 冬
思はざる猟夫に逢へり根雪来て 太田 蓁樹
怠りの歳月を埋め飛雪なほ 小林康治 玄霜
急がねばならぬ暮雪の降りやうや 高澤良一 随笑
恋猫の通ふ深雪の紅殻戸 佐野美智
息切れし口を飛雪にあづけをり 林翔 和紙
恵那山ありと思ふ障子の雪明り 森田峠 避暑散歩
意に満たぬ日々に粉雪がちらつけリ 桂信子 花寂び 以後
愛のごとし深雪の底の水音は 小林康治 玄霜
我寐れば暗の仏の深雪かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
手ぶくろをはめつゝ急ぐ暮雪かな 及川貞 夕焼
手焙りや経師師の店雪明り 永井龍男
打解て落人圍ふ深雪かな 井上井月
托鉢の比良の暮雪に笠かざし 野田まこと
抱かれて指繊くなる雪明り 寺井谷子
掛路樹の飛雪にかなひ飾馬 阿部みどり女
故郷去る三日の暮雪ちらつく中 田中鬼骨
教会の塔めじるしの深雪かな 山本歩禅
文書くと机に向ふ雪景色 山口波津女 良人
旅人に我糧わかつ深雪哉 高井几董
旅痩の髭温泉に剃りぬ雪明り 河東碧梧桐
日本曹洞第一道場深雪晴(越前永平寺) 上村占魚 『橡の木』
日食や飛雪黒白こもごもに 栗生純夫 科野路
早も小雪かゝりし水や鴛鴦の沓 原石鼎 花影以後
早梅や深雪のあとの夜々の靄 龍雨
明治女は死顔緊まる雪明り 加藤知世子 花 季
星の空なほ頬をうつ粉雪あり 堀口星眠 火山灰の道
星見えて星の光りの粉雪降る 佐々木夕加子
時雨星またゝく嶺の雪明り 西島麦南 人音
暮雪しづかに壁の刺繍絵古びたり 有働亨 汐路
暮雪にてただ漠々の海苔簀原 林翔 和紙
暮雪にて燈火黄を増す貧しさよ 中島斌男
暮雪の嶺帽なき空を掟とす 安東次男 裏山
暮雪の軸雪村八十二歳筆 高澤良一 鳩信
暮雪ふる舞踏乙女もちりぢりに 百合山羽公 故園
暮雪やむ静けさ鴛鴦の羽づくろひ 内藤吐天
月光に深雪の創(きず)のかくれなし 川端茅舎(1897-1941)
月明に雪国のごと火山灰の島 板敷浩市
月読の梢をわたる深雪かな 加藤楸邨
望蜀の粉雪りんりん牛の角 寺田京子 日の鷹
木のもとに草青々と暮雪かな 原石鼎
杉玉にとまりては消ゆ粉雪かな 西村和子 かりそめならず
杉間より粉雪とび出す追儺寺 田中青濤
村まはりする花嫁御深雪晴 木村蕪城 寒泉
杣が家は障子一重の根雪かな 山口草堂
松島は薄雪平泉は深雪 田村了咲
松過ぎの月が散らせし小雪あり 永井龍男
林檎煮る雪国遠く来し林檎 三好潤子
枚岡の神代はしらず雪曇り 飯田蛇笏 山廬集
枯蔓にうす日あたりて深雪かな 清原枴童 枴童句集
柊を挿すやものみな雪明り 吉岡句城
柩出て畳八枚の雪国なり 古館曹人
柿の枝の影につまづく雪月夜 石川 桂郎
根雪かと見ればおそろし風の音 立花北枝
根雪ふみ新雪にぬれ旅の町 及川貞 夕焼
根雪まで灯届かず授乳室 中澤康人
根雪やさしひざまづきては湯浴みなす 寺田京子
根雪一枚めくれしや風光りしや 村越化石
根雪来る古墨に二象比肩之図 宇佐美魚目 秋収冬蔵
梅さくや赤土壁の小雪隠 広瀬惟然
梵天の法螺貝飛雪の天へ吹く 小林輝子
棹立てて越の深雪やみをつくし 水田正秀
椿姫(トラヴィアータ)の耳に囁く粉雪かな 仙田洋子 雲は王冠
楮皮剥ぐ人々に飛雪かな 吉武月二郎句集
楽書も訴へに満つ雪明り 中島斌男
榛の実が粉雪と語る去年今年 永峰久比古
槍の穂は雪をとどめず深雪晴 福田蓼汀 山火
樫の樹の静に動く粉雪かな 会津八一
橇下りる深雪に足を下したる 高濱年尾 年尾句集
橇帰る飛雪の底に町ありて 堀口星眠
橇用意して娼家ある深雪かな 森川暁水 黴
機音にゆきあたりたる深雪かな 清准一郎
橿鳥の鳴くばかりなる深雪かな 大橋櫻坡子 雨月
檜林のこし粉雪町を消し 長谷川かな女 花寂び
檻の鶴いとしみのぞく深雪かな 大場白水郎 散木集
此あたり深雪漸く人あらず 高濱年尾 年尾句集
歳暮の荷小雪に庇ひ抱きゆけり 岡本まち子
死なくば遠き雪国なかるべし 和田悟朗
死に顔が童女に変はる雪明り 笹本千賀子
死者は深雪に生者は檻に安らがむ 齋藤玄 『玄』
死顔のやすらかなるや雪明り 近藤一鴻
死顔の妻のかしづく深雪かな 石原八束 操守
残されて鯨の背骨のごと根雪 高澤良一 燕音
段差また段差根雪の温泉場 高澤良一 寒暑
母の間に母を見にゆく雪明り 日下部宵三
比叡よりの暮雪あそべり酢茎樽 山田ひろむ
毛蟹食べ雪国の夜のみづみづし 古賀まり子 緑の野以後
毬唄や十は深雪の十日町 大井戸辿
水を揉み落とす深雪の白竜頭 岡田日郎
水仙のほのかに匂ふ雪明り魚のたぐひが沈みて眠る 竹久夢二
水滴を待つ硯あり雪曇 石川桂郎 高蘆
水着緊むる雪国の肌まぎれなし 成田千空 地霊
池水にかさなりかゝる深雪哉 高井几董
汽罐車庫うすけぶりたつ深雪かな 宮武寒々 朱卓
沖ッ鳥山さしてとぶ雪月夜 金尾梅の門 古志の歌
泉岳寺小雪じゃんじゃん降りにけり 高澤良一 宿好
波の音低し雪国雪止んで 深見けん二
注連貰ひ宵の飛雪をかぶり行く 木村陽城
注連貰比良の飛雪を漕ぎもどる 羽田岳水
洩るる灯のそこより前後なき深雪 安東次男 裏山
海にも降り良寛母の墓粉雪 古沢太穂
海暗し暮雪いつまで降れば足る 有働亨 汐路
海波折れ地鳴り穹鳴り雪月夜 石原八束 『操守』
海苔に酌むわれらに飛雪やみては降る 森川暁水 淀
海苔掻に粉雪ちらつく手元かな 高橋淡路女 梶の葉
深雪なほ高まりゆくは堤らし 青葉三角草
深雪に入る犬の垂れ乳紅きかな 原子公平
深雪に高く継ぎ足す道しるべ 羽吹利夫
深雪より嘴をぬき鶴歩む 大澤ひろし
深雪中湖村一塊となり睡る 鷲谷七菜子 雨 月
深雪掻く家と家とをつながんと 西東三鬼
深雪晴わが影あをき虚空より 深谷雄大
深雪晴酢をうつ香り二階まで 中戸川朝人
深雪晴雁木表に馬具吊られ 松崎鉄之助
深雪晴非想非非想天までも 松本たかし(1906-56)
深雪見むと軒へのべたる手燭かな 原石鼎 花影以後
深雪谷芽木峻烈の枝を伸べ 辻田克巳
深雪踏み長持唄を通しけり 濱本 八郎
深雪道のけぞり合うてすれ違ふ 長尾虚風
深雪道来し方行方相似たり 中村草田男
深雪野の割れしところにさゝ流れ 高濱年尾 年尾句集
深雪野をいちにち歩き面痩せし 伊藤敬子
深雪雲割れて真つ青霊の道 加藤知世子 花 季
清水の小雪おっとり店構 高澤良一 燕音
温室の花買ひぬ信濃の深雪中 及川貞 夕焼
温泉上りの身の柔らかし深雪の夜 殿村莵絲子 牡 丹
温泉場雪掻き根雪ひっぺがし 高澤良一 寒暑
湖べりの田の小さしや雪曇り 古沢太穂 古沢太穂句集
湖守るは灯一つの深雪かな 正木不如丘 句歴不如丘
湯女どちと深雪月夜を一つ温泉に 松本たかし
湯女どちの肌の湯艶よ深雪宿 たかし
湯婆こぼす垣の暮雪となりにけり 飯田蛇笏 山廬集
湯帰りやあらおもしろの雪景色 尾崎紅葉
湯煙や根雪となりし山襖 石塚友二 光塵
満目の深雪の底に温泉あり 村上三良
漂泊のこゝろ羽黒の深雪踏む 桑田青虎
火の酒を雪国の遠き連隊へ 仁平勝 花盗人
火口丘女人飛雪を髪に挿す 山口誓子(1901-94)
灯して寝る癖の美帆にいま雪明かり 折笠美秋 君なら蝶に
灯とぼるは家あるあかし深雪原(越後柏崎) 上村占魚 『橡の木』
灯に粉雪にわとり眠るうしろ向き 飴山實 『おりいぶ』
灯を消して障子にはかに雪明り 上村占魚 鮎
灯入して妻生々と暮雪かな 杉山岳陽 晩婚
炉を離れ飯詰(いじこ)の中に雪明り 古舘曹人 樹下石上
炭竃に火のまはりたる暮雪かな 石原舟月 山鵲
炭鉱の灯のかたまれる深雪かな 戸沢寒子房
焔といふもののしづけき暮雪かな 鷲谷七菜子 花寂び
煤蟹や根雪明りに糶場うち 石川桂郎 高蘆
煮干粉が袋に湿り根雪減る 西村公鳳
燈を洩らし深雪の関ヶ原に住む 山口誓子 紅日
父方のふかき縁の雪国に 京極杞陽 くくたち下巻
父笑ふうしろ西日の雪景色 飯田龍太
片膝をついて深雪や凍死人 紅実
牧暮れて木木にいたゞく雪明り 中川宋淵 詩龕
独り碁や笹に粉雪のつもる日に 中 勘助
猪打ちの粉雪を蹴つてゆくなりし 細見綾子
猿酒に消ゆる小雪もありぬべし 秋元不死男
生きて来し分の根雪が二メートル 櫂未知子 貴族
産屋口深雪をかぶる村の墓地 つじ加代子
田ひばりや暮雪に声のまぎれずに 千代田葛彦 旅人木
疼きけり深雪に地震に疼きけり 西本一都
病みてより夜の粉雪の音が好き 森田愛子
病む母に山河深々たる暮雪 冨岡夜詩彦
瘤木割つて斧の歯こぼす雪明るし 内藤吐天 鳴海抄
発止ときし鶺鴒つぶて深雪原 鷲谷七菜子 銃身
発酵のつづく根雪もトンネルも 櫂未知子 貴族
白壁の日は水のよな深雪かな 佐野良太 樫
白樺のいっぽん交じる雪景色 高澤良一 ぱらりとせ
白樺の白極まりぬ雪月夜 古賀まり子
白樺林劇の如くに小雪舞ふ 岡田日郎
白河より遊行柳へ飛雪かな 太田土男
白魚や深雪のうへの夜の雨 龍岡晋
百枚の座布団のある雪明り 岸本尚毅 舜
監視塔四囲に深雪の収容所 安田北湖
目のあたり浴泉群女深雪晴 松本たかし
眠れずにゐて洛中の雪明り 石嶌岳
着ぶくれてあり雪国に誰よりも 茂里正治
瞬きて過去よりもどる細雪 福永耕二
石段が汀で尽きる雪景色 池田澄子
破魔矢得て飛雪の磴をひたに下る 正雄
祈祷師の家に深雪のかゝり人 森田峠 避暑散歩
祖父逝くやその拓きたる野は深雪 依田明倫
祝ぎごとの近づく音で小雪降る 都筑智子
稚子が合掌小雪の朝が来て 長谷川かな女 花 季
稽古日の花の出入りの雪明り 野澤節子 花 季
積る後は只散るまでの小雪哉 美角
穴のやうに唇あけ歩む粉雪に 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
空深く消え入る梢や雪月夜 西山泊雲 泊雲句集
竹に見て野を慕(なつ)かしむ深雪哉 羅父
箸一ぜん買ひに出でたる深雪かな 龍岡晋
簀囲ひに蒟蒻踏める深雪かな 野村喜舟 小石川
籾殻を根雪に三戸馬を飼ふ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
粉雪あがる夕日の彩がただよいて 古沢太穂 古沢太穂句集
粉雪いよゝ大降となりぬ蘆の花 西山泊雲 泊雲句集
粉雪が似合ふ黒衣の三姉妹 櫂未知子 貴族
粉雪しきりや子等各々の夢がたり 加藤知世子 黄 炎
粉雪に亡母来る音かと耳澄ます 黒江鏡湖
粉雪に灯して熊の腑分かな 小原啄葉
粉雪のすこしかかりし松をとる 田中冬二 麦ほこり
粉雪の句帳にたまる鶴を待ち 古舘曹人 砂の音
粉雪の塔あかしひとびと儚なき希ひ 細谷源二 砂金帯
粉雪の夜を怺へて鶏の爪 吉田紫乃
粉雪の散り来る迅し草の原 長谷川かな女 花寂び
粉雪の篝火に降る寒詣 長谷川 櫂
粉雪は灯に金箔となりて飛ぶ 吉田紫乃
粉雪ふるまでのやさしい潦 桂信子 黄 瀬
粉雪ふるマントの子等のまはりかな 加藤楸邨
粉雪ふる常はおもひのなき径 飯田龍太
粉雪やいづこ隙間を洩るゝ風 寺田寅彦
粉雪や恋の煮つまる村芝居 中山純子 沙 羅以後
粉雪や朝より熱き女の身 森澄雄
粉雪舞ふ成人の日の記念樹へ 福田甲子雄
粉雪舞ふ湖の大きさ掴めずに 杉本寛
粉雪舞ふ闇に寒天造りの燈 堤俳一佳
粕焼いて深雪の底の白髪童子 西村公鳳
糊をねる音きくきくと雪月夜 吉野義子
約束の最後の橋の雪明り 水野真由美
紙を漉く明治と同じ雪明り 長田等
細雪一茶の国の夕間暮 裕
細雪妻に言葉を待たれをり 石田波郷(1913-69)
細雪愛ふかければ歩をあはす 佐野まもる
細雪義理ゆえ別の義理を欠く 千島染太郎
細雪遊女の墓のまへうしろ 福島せいぎ
細雪過ぎゆくものとして極む 和田悟朗
細雪遠干潟かけ人恋ふも 小林康治 玄霜
細雪降る日の故郷の幾小径 村越化石 山國抄
綿のごときひかり暮雪の卒業生 桜井博道 海上
緋寒桜ほうと見とれて雪国びと 中山純子 沙 羅以後
縁下へ燈火がさせる深雪かな 佐野良太 樫
繋ぎてし我犬来るや雪明り 石島雉子郎
羚羊の跡ぞ深雪を巌頭へ 篠田悌二郎
老杉のしまけり飛雪止観の座 鷲谷七菜子 花寂び
聖鐘へ深雪明りの梯子とどく 宮津昭彦
聞き及ぶ高田瞽女訪ふ深雪中 松尾緑富
肥橇曳く遠深雪野に消えむため 小林康治 玄霜
肩出して眠る雪国育ちかな 鳥居美智子
背山より今かも飛雪寒牡丹 皆吉爽雨(1902-1983)
自転車の翳に鳩ゐる雪国よ 林桂 銅の時代
舞へる田鶴飛雪のときをおもはする 森川暁水 黴
舞踏室の灯洩れ薬師堂深雪かな 宮武寒々 朱卓
良寛の遊びし村の雪景色 太田土男
若水や映るものみな雪景色 吉武月二郎句集
茂吉の墓埋めて根雪となりにけり 三宅 句生
茨の枝に頬白ふくるゝ粉雪かな 西山泊雲 泊雲句集
茶を点つる声遠かりし暮雪光 加藤楸邨
茶を焙ず匂ひほのかに暮雪かな 岡本松浜 白菊
茶焙じて我夜果てなき深雪かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
莚帆に風筋見せる粉雪哉 井上井月
菩提樹の實のこぼれゐる深雪かな 河合凱夫 藤の実
葉ごもりて深雪のごとき牡丹かな 橋本鶏二
葱洗ふや月ほのぼのと深雪竹 飯田蛇笏 山廬集
蒼海に果つ雪国の雪岬 大橋敦子 匂 玉
蕎麦刈つて富士は根雪となりにけり 三上良朗
蕗隠しに轡かかりて暮雪ふる 飯田蛇笏
薄雪の炭火深雪の炭団かな 小杉余子 余子句選
藁負うて田道こかしぬ雪曇 金尾梅の門 古志の歌
蝦夷見むと深雪に窪む長靴は 小林康治 玄霜
行きゆきて深雪の利根の船に逢ふ 加藤秋邨 寒雷
行年の深雪の音に子と団欒 久米正雄 返り花
衾被て木魚の眠る深雪かな 鈴木貞雄
裸参りの一歩一歩や根雪鳴る 藤島かの子
西方も粉雪の眉毛充満す 永田耕衣 冷位
見て居れば小雪の中の玉霰 高木晴子 晴居
見の遠き深雪の鶴になぜ泣くや 齋藤玄 『無畔』
見送り絵小雪舞はせて雪をんな 高澤良一 寒暑
観能の灯の晝ふかき深雪かな 西島麥南
訥々と雪国よりの雪見舞 島田まつ子
詣りぬれば釣鐘蒼き深雪かな 野村喜舟 小石川
誰が継ぐとなき漢籍の雪明り 佐野良太 樫
谷々の流れとまりし深雪かな 岡本松浜 白菊
谷の水くゞもりひゞく深雪かな 比叡 野村泊月
谷杉の鬱蒼真白深雪かな 松根東洋城
赤ちやんの通つた匂い深雪晴れ 坪内稔典
赤海老のさしみ縮めり深雪の夜 殿村莵絲子 牡 丹
起きてゐる咳や深雪となりにけり 石橋秀野
踏みゆきて佐渡の深雪の能舞台 坂井建
踏切の灯を見る窓の深雪かな 飯田蛇笏 霊芝
蹇に縋り寝の子よ雪明り 小林康治 玄霜
蹇や深雪ゆく子を励ましつ 小林康治 玄霜
身を伏せて郷関はあり細雪 竹本健司
車窓に迫り来深雪兎の走りし跡 赤城さかえ句集
軍港の兵の愁ひに深雪晴れ 飯田蛇笏 霊芝
軒氷柱雪国の花舗暗かりき 古賀まり子
転轍の孤影に飛雪集中す 三谷昭 獣身
農具市深雪を踏みて固めけり 前田普羅 新訂普羅句集
近づく雪国 座席で躍るハートのA 花谷和子
追れ行人〔の〕うしろや雪明り 一茶 ■寛政年間
遅月にふりつもりたる深雪かな 飯田蛇笏 霊芝
道傍に海あふれたる暮雪かな 石田波郷
遠き灯を飛雪がうばふ羽越線 耕二
遠ち方の鶏音に覚めし深雪かな 木歩句集 富田木歩
遮断機をくぐる雪国かも知れず 対馬康子 純情
遺されて母が雪踏む雪明り 飯田龍太
酔へば出るアリランの唄粉雪降る 石川文子
里へ出る鹿の背高し雪明り 炭 太祇 太祇句選
野の果まで雪明るくて道あやまつ 津田清子 礼 拝
金箔師/鯉師の/深雪暮かな 林桂 銀の蝉
金色堂飛雪にひらく淑気かな 佐藤国夫
金襴の軸のさがれる深雪宿 京極杞陽 くくたち下巻
釘店の路地に住みても深雪かな 野村喜舟
針供養宮戸座裏の深雪かな 増田龍雨 龍雨句集
釣堀の葭簀囲ひの深雪かな 龍岡晋
銀日輪飛雪を凌ぎゆくものに 成田千空 地霊
門しめて雲衲去りし暮雪かな 河野静雲 閻魔
門をゆくひと物いはぬ深雪かな 会津八一
開かぬ戸もはづれゐる戸も深雪宿 皆吉爽雨
開山の昔を今や深雪寺 尾崎迷堂 孤輪
間欠泉のごときわが詩粉雪降る 仙田洋子 雲は王冠
闘うて鷹のえぐりし深雪なり 村越化石
降る雪は雪国の財際限なく 品川鈴子
降れ粉雪後段は庭の杉楊枝 元求 選集「板東太郎」
除夜の鐘かすかに聞え深雪かな 清原枴童 枴童句集
隠沼に消えし深雪のけもの跡 山田弘子
隧道の中も勾配雪国は 茨木和生 木の國
雁たちて暮雪に翅音のこりたる 野澤節子 『八朶集』
雛の日の都うづめし深雪かな 鈴木花蓑句集
離りて貧し深雪の中の翌檜 小林康治 四季貧窮
雨のち小雪青銅の十二使徒 対馬康子 吾亦紅
雪の道深雪の里を遠さかな 東洋城千句
雪の音絶えて深雪となりゐたり 橋本冬樹
雪を黄に染むる燈ありて雪国よ 宮津昭彦
雪卸し暮れており立つ深雪かな 前田普羅 飛騨紬
雪吊の千切れて垂れし深雪かな 鈴木貞雄
雪国にあらためて白水芭蕉 嶋田摩耶子
雪国にいて白鳥は菓子の白 和知喜八 同齢
雪国にこの空の青餅の肌 成田千空
雪国にちかづく田水うつろなり 松村蒼石 雁
雪国にテレビ忘るる四日まり 石川桂郎 高蘆
雪国に住みつくと決め転職す 松尾緑富
雪国に住みて造花の手内職 成瀬正とし 星月夜
雪国に六の花ふりはじめたり 京極杞陽(きよう)(1908-81)
雪国に嫁ぎ著なれしちやん~こ 三輪きぬゑ
雪国に嫁ぐ雪見に招かれて 長谷川回天
雪国に子を生んでこの深まなざし 森澄雄
雪国に早出しの雛ありにけり 下田稔
雪国に来て雪をみずクリスマス 久保田万太郎 流寓抄
雪国に生れし妻の雪卸し 橋詰 一石
雪国に花鳥づくしの婚衣裳 筑紫磐井
雪国に雪よみがへり急ぎ降る 三橋敏雄 眞神
雪国に雪解時ありめざましき 伊藤柏翠
雪国のありとも見えず松飾 龍胆 長谷川かな女
雪国のさびしき鎧のプロパンガス 松本恭子 二つのレモン 以後
雪国のひかりを紙に漉き込める 三森鉄治
雪国のぽとと点りて暗くなる 長谷川双魚 『ひとつとや』
雪国のわつと芽吹ける雑木山 坂本山秀朗
雪国の人住むところ雪汚れ 品川鈴子
雪国の余生暮らしや根深汁 山本 きつの
雪国の大蕣の咲にけり 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
雪国の子にクラークの言葉あり 山本歩禅
雪国の子に雪の降る七五三 小川里風
雪国の日はあはあはし湖舟ゆく 飯田蛇笏 山廬集
雪国の晴こそ深し臼の市 成田千空 地霊
雪国の朝はすがしや納豆汁 今城余白
雪国の桜の花は小粒哉 正岡子規
雪国の樹の雪は夜に降りし雪 右城暮石 上下
雪国の汽車を歩きて座席探す 右城暮石
雪国の海きらきらと卒業す 高木弘子
雪国の父の大屋根母の墓 山田弘子
雪国の産屋そのまゝ納屋代り 森田峠 避暑散歩
雪国の田は水びたし農具市 橘川まもる
雪国の童等の遊びのはや暮るる 松村蒼石 寒鶯抄
雪国の納屋もろこしの黄を吊す 森田峠 三角屋根
雪国の細月の縁朱に燃え 上村占魚 球磨
雪国の苔の青さに一葉落つ 大島民郎
雪国の萩は紅濃し土濡れて 松村蒼石 雁
雪国の蔵座敷見ゆ穂麦中 阿部みどり女
雪国の言葉の母に夫奪はる 中嶋秀子
雪国の闇に置きたる枕かな 黒田杏子 水の扉
雪国の雪が減らずに日の暮るゝ 右城暮石 上下
雪国の雪のない田をよぎる死者 斎藤白砂
雪国の雪のやみたる北斗かな 大峯あきら
雪国の雪の話や暖炉もゆ 宮本 とよ
雪国の雪降る音の無音なる 新谷ひろし
雪国の駅は洞窟目が並び 三谷昭 獣身
雪国の駅や目鼻が汽車を待つ 三谷昭 獣身
雪国の鱈の目玉もねぶり喰ぶ 中山純子 沙 羅以後
雪国はいつも目の前雪が降る 平畑静塔
雪国へ家庭教師を帰しけり 山田弘子
雪国へ帰る人あり冬籠 田福
雪国へ苛性ソーダを運ぶ貨車 五島高資
雪国へ貨車は青菜を積み込める 館岡沙緻
雪国やけものの仮面あれば足る 対馬康子 吾亦紅
雪国やしづくのごとき夜と対す 櫻井博道
雪国や人若やぎて盲縞 橋石 和栲
雪国や向ふの国の日がとどく 永田耕一郎 方途
雪国や土間の小すみの葱畠 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
雪国や夜はともしび蜜柑色 不破博
雪国や日の漂へば人の声 磯貝碧蹄館
雪国や月照りてまた白朝日 和知喜八 同齢
雪国や糧たのもしき小家がち 蕪村遺稿 冬
雪国や膕に透く一静脈 林 桂
雪国や青日輪の炎垂れ 近藤一鴻
雪国を出てすぐ避寒心かな 安原葉
雪国を訪はん土産は何よけん 成瀬正とし 星月夜
雪墜ちて深雪ににぶき音うまる 桂信子 黄 炎
雪折の竹もうもれし深雪かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
雪明かり家来の雉子などあれよ 佐々木六戈
雪明りあり降る雪の見ゆるほど 汀子
雪明りしつついつしか暮れにけり 田中冬二 俳句拾遺
雪明りしてまだ暗し雪卸し 瀬戸 十字
雪明りして井戸神の鏡餅 赤石明子
雪明りして岩風呂の岩の相 高澤良一 寒暑
雪明りすると思はねばしてをらず 加倉井秋を 午後の窓
雪明りたよりに雪を卸しをり 三宅句生
雪明りには池くらし山あかるし 及川貞 夕焼
雪明りの街燈が灯りそめた シヤツと雑草 栗林一石路
雪明りゆらりとむかし近づきぬ 堤白雨
雪明りより炉あかりに杣戻る 細谷鳩舎
雪明り一切経を蔵したる 高野素十
雪明り仏となりしうつしゑに 阿部みどり女
雪明り及びて波のふくれくる 奥田智久
雪明り夜明けの色の加はりし 奥田智久
雪明り家来の雉子など現れよ 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
雪明り星幽かにも遙かにも 奥田智久
雪明り橋を壊した跡なのです 小川双々子
雪明り死者は夢見ることありや 折笠美秋 死出の衣は
雪明り母なき部屋にははのこゑ 日下部宵三
雪明り毛蚕といへるは糸ほどか 宇佐美魚目 天地存問
雪明り疲れやすきはランプの炎 桜井博道 海上
雪明り紅差し指の老いゆけり 文挟夫佐恵 遠い橋
雪明り蔀戸すこし埃りかな 八木林之介 青霞集
雪明り虚ろの姉に添ひ寝して 中村苑子
雪明り返へらぬ人に閉しけり 前田普羅
雪明り闘病冴えの眠る顔 加藤知世子 花寂び
雪景色だんだん深く次の駅 今井千鶴子
雪曇りして一日の表裏見す 原裕 青垣
雪曇り身の上を啼く鴉かな 内藤丈草
雪曇身の上を啼く烏かな 丈草
雪月夜塗椀つぎの世の音す 川村静子
雪月夜師の影踏まず離れずに つじ加代子
雪月夜影に首ある安堵かな 吉田紫乃
雪月夜斜の木影々々かな 東洋城千句
雪月夜歩きてつくる五十路の顔 加藤知世子 花寂び
雪月夜猟場の割符拾ひけり 西山泊雲 泊雲句集
雪月夜蘆間の寝鳥しづまりぬ 臼田亞浪 定本亜浪句集
雪月夜裸婦の屍伏し~て 渡邊水巴
雪片のつれ立ちてくる深雪かな 高野素十
雪眼鏡かけて雪国熟知せる 堀米秋良
雪雀の周囲をのこし降る暮雪 長谷川かな女 花寂び
雷鳥や霧海の底の雪明り 大森桐明
霜除にさや~と来ては粉雪やみぬ 青峰集 島田青峰
霧行くや樅は深雪に潰えつゝ 相馬遷子 山国
青邨忌よの字橋より粉雪かな 小原啄葉
青頸のわが娘ふるさとは悲の雪国 武田伸一
非目前深雪の杉の立話 和知喜八 同齢
音のない粉雪のやうに死は来るか 渡辺延子
顔あげて髪は粉雪に濡るるまま 仙田洋子 橋のあなたに
風の小雪ガラスの城に嬰の微笑 柴田白葉女 花寂び 以後
風の道を中ぞらにみる雪月夜 石原八束 空の渚
風呂にゐて胸のときめく暮雪かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
風呂吹や小窓を圧す雪曇 正岡子規
風神の膝に力の雪明り 古館曹人
飄客の束ね髪なり雪景色 小澤實(1956-)
飛び来ては白馬の暮雪顔へ憑く 野澤節子 遠い橋
飛花か飛雪か棘棘(いらいら)として立つ柱 夏石番矢 猟常記
飛雪あかるし焼酎にて乾杯 宮津昭彦
飛雪いよいよはげし吾れのみ見のこりて 野澤節子 黄 瀬
飛雪くる海の先端海に橋 対馬康子 吾亦紅
飛雪のホーム軍手という語なお生きいる 古沢太穂 古沢太穂句集
飛雪の町 さまよう 朝から珈琲飢餓 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 磁針彷徨
飛雪はや目鼻もあらず喪へ急ぐ 小林康治 『華髪』
飛雪われに来るや睫毛を濡さむと 細谷源二 砂金帯
飛雪来ることのしばしば寒牡丹 細見綾子 天然の風
飛騨人や深雪の上を道案内 前田普羅 飛騨紬
飾り臼南の窓の雪明り 村上一央
駅にだけ人をり深雪村眠る 嶋田摩耶子
駅凍てゝ曠野につゞく深雪かな 前田普羅 飛騨紬
駅暮るる水が飛雪を吸いつくし 三谷昭 獣身
駅暮雪エロ写真売にささやかる 有働亨 汐路
高台をゆき次ぐを見る雪曇り 飯田蛇笏 椿花集
鬼の身に虚ありなむ雪明り 沼尻巳津子
鬼を視たるが/義民はじめや/飛雪の/両手 林桂 黄昏の薔薇 抄
鮎の炉の火かげとゞかず深雪の戸 前田普羅 飛騨紬
鮒煮えてくれば粉雪となりにけり 桂信子 黄 炎
鯨鳴く水族館を出て小雪 対馬康子 愛国
鱈船がゆき昏れし洲の雪明り 村上しゅら
鳥が去り光がのこる深雪晴 柴田白葉女 雨 月
鳥とぶや深雪がかくす飛騨の国 前田普羅(1884-1954)
鳥の嘴に赤き実のなき深雪かな 野村喜舟 小石川
鳥声や出窓みづから雪明り 石川桂郎 四温
鳥落ちず深雪がかくす飛騨の国 前田普羅
鳶覚めて杉に粉雪の厚帷 西村公鳳
鴨もろく飛雪に遠く撃たれけり 蛇笏
鵯啼いて堆の小雪となりにけり 石原八束 『秋風琴』
鶏が踏む根雪が蒼しガリレオ忌 飴山實 『おりいぶ』
鶏たかく榎の日に飛べる深雪かな 飯田蛇笏 霊芝
麦の芽のうごかぬ程に小雪ちる 蝶夢
黒豆を煮んか粉雪が降つて来る 細見綾子 花寂び
あめつちのねむりもやらで雪あかり 河野美奇
しくしくと肺のあたりの雪あかり 増田まさみ
まゆ玉やにはかにけさの雪ぐもり 久保田万太郎 流寓抄
わが部屋に馬の影する雪ぐもり 高田律子
中庸を愛する国の雪あかり 櫂未知子 貴族
交み椋鳥宙で分れて雪ぐもり 岸田稚魚 筍流し
夜咄の灯あかり軒の雪あかり 古賀まり子
常照光寺石階を踏む雪あかり 加藤耕子
括り桑一枝撥ねたる雪ぐもり 鷲谷七菜子 雨 月
枯蘆や浅間ヶ嶽の雪ぐもり 村上鬼城
水鳴りを一句に封ず雪あかり 柴田南海子
湖際のもの横流れ雪ぐもり 桂信子 初夏
烏丸の路地の奥まで雪あかり 橋本榮治 麦生
狐鳴く岡の昼間や雪ぐもり 内藤丈草
空襲の夜明けて窓の雪あかり 京極杞陽 くくたち下巻
遺されて母が雪踏む雪あかり 飯田龍太
阿片(モヒ)をさす襤褸たくりぬ雪あかり 神崎縷々
雪あかり妻睡りをるにはあらず 杉山岳陽 晩婚
雪あかり胸にわきくるロシヤ文字 古沢太穂 古沢太穂句集
雪あかり酸素外れてゐたりけり 石田あき子 見舞籠
雪ぐもり火星はもはや高からむ 山口誓子
鮎焼きし大炉の灰に雪あかり 前田普羅 飛騨紬
あめつちのねむりもやらで雪あかり 河野美奇
しくしくと肺のあたりの雪あかり 増田まさみ
まゆ玉やにはかにけさの雪ぐもり 久保田万太郎 流寓抄
わが部屋に馬の影する雪ぐもり 高田律子
中庸を愛する国の雪あかり 櫂未知子 貴族
交み椋鳥宙で分れて雪ぐもり 岸田稚魚 筍流し
夜咄の灯あかり軒の雪あかり 古賀まり子
常照光寺石階を踏む雪あかり 加藤耕子
括り桑一枝撥ねたる雪ぐもり 鷲谷七菜子 雨 月
枯蘆や浅間ヶ嶽の雪ぐもり 村上鬼城
水鳴りを一句に封ず雪あかり 柴田南海子
湖際のもの横流れ雪ぐもり 桂信子 初夏
烏丸の路地の奥まで雪あかり 橋本榮治 麦生
狐鳴く岡の昼間や雪ぐもり 内藤丈草
空襲の夜明けて窓の雪あかり 京極杞陽 くくたち下巻
遺されて母が雪踏む雪あかり 飯田龍太
阿片(モヒ)をさす襤褸たくりぬ雪あかり 神崎縷々
雪あかり妻睡りをるにはあらず 杉山岳陽 晩婚
雪あかり胸にわきくるロシヤ文字 古沢太穂 古沢太穂句集
雪あかり酸素外れてゐたりけり 石田あき子 見舞籠
雪ぐもり火星はもはや高からむ 山口誓子
鮎焼きし大炉の灰に雪あかり 前田普羅 飛騨紬
冴ゆる灯に新年夜情雪のこゑ 飯田蛇笏
寝て覚めて雪の声聞く真暗がり 菖蒲あや
晩年や林に積みし雪の声 小林康治
更けし灯に睫毛影なす雪の声 篠田悌二郎
篁の夜の査けくて雪の声 臼田亞浪 定本亜浪句集
野の仏と語る嵯峨野の雪の声 橋本夢道 『無類の妻』以後
雪のこゑ老来ひしと四方より 飯田蛇笏 春蘭
雪の声珈琲は重厚紅茶は軽快 日野草城
雪の声聞く耳欲しき日暮なり 太田土男
雪踏めば胎の子も聞く雪の声 佐藤美恵子
駅の名の峠と呼ぶや雪の声 寅彦 (羽越紀行中)
鰤来るや夜を限りなき雪の声 小田 司
鶯よいつをむかしの雪の声 上島鬼貫
五柳先生六花七言絶句之天 加藤郁乎
六花には育たぬままに降つてきぬ 橋本末子
六花めく犬の足跡雪の墓地 高澤良一 素抱
六花清く崩れし掌 稲畑廣太郎
日盛りの元湯六花の六角堂 高澤良一 宿好
稚児舞の大地踏み鳴る六花かな 野沢節子 八朶集
餅の香に在りて捉へつ六花の音 林原耒井 蜩
わが年齢おそれ三月雪の花 寺田京子 日の鷹
手とればマッフに雪の花ぞ散る 岡野知十
父が倒れぬ樹々に三月雪の花 寺田京子 日の鷹
磨ぎなほす鏡も清し雪の花 松尾芭蕉

馬の尾に雪の花ちる山路かな 支考
スキー了へ積雪標のやや沈めり 大島民郎
初日かげ積雪の牙に潮なぎぬ 飯田蛇笏 春蘭
塗り直す積雪標やまゆみの実 木村美保子
外れし雪礫積雪に喰入れり 津田清子
夜の積雪躍りて踏みて子をやどす 八木三日女 紅 茸
屋を出て積雪の暾にあくび出づ 飯田蛇笏 椿花集
水際まで尺の積雪浮寝鳥 古賀まり子
積雪が映ゆ硝子戸の全面に 右城暮石 上下
積雪にすぐ乗るスキー倒しけり 長谷川かな女 雨 月
積雪に夕空碧み雲の風 飯田蛇笏 霊芝
積雪に明暗ありぬ松の上 宇多喜代子 象
積雪に月さしわたる年の夜 飯田蛇笏
積雪に飛びこむ雪の礫かな 徳永山冬子
積雪の中に鳩鳴く枝のあり 長谷川かな女 雨 月
積雪の牙にうつ浪や犬橇駛す 飯田蛇笏 春蘭
積雪の碧落藪をそめにけり 松村蒼石 雪
積雪の籠城や女を人質に 藤森成吉 天翔ける
積雪の鬱たりといふ他はなく 山口誓子
積雪や埋葬をはる日の光り 飯田蛇笏 霊芝
積雪計コスモスに埋れありにけり 久米正雄 返り花
英霊となり積雪を踏み来しなり 石橋辰之助 山暦
ひたすらに積る雪なり茂吉の忌 相馬遷子 山河
ものうりの鈴の絶えまに積る雪 『定本石橋秀野句文集』
水青し土橋の上に積る雪 夏目漱石 明治二十九年
笹鳴やつくばひかけて積る雪 軽部烏帽子 [しどみ]の花
身をゆすりゐてかなしみの積る雪 石原八束 『藍微塵』
降り積る雪にさめゆく火事の空 太田鴻村 穂国
降り積る雪より白し波の花 浦幸雪
雪像に積る雪掃き雪まつり 内田柳影
*えりの水ゆふつづさして雪積みぬ 石原舟月 山鵲
いつしかに元日の雪積りけり 岩田潔
うさぎ径谿のむこうも雪積り 和知喜八 同齢
かまくらの肩まろやかに雪積る 館岡沙緻
きぬぎぬを別れ来しかばふり返る北山の嶺にはつか雪積む 中野照子
この里や雪積む上の雪もよひ 小杉余子 余子句選
どの木にも雪積りをる読書かな 辻允子
ぼた山に雪積らせて街眠る 金箱戈止夫
むさしのの雪積む松を納めけり 渡辺恭子
よき眠りなりし雪積む二重窓 有働亨 汐路
わが墓に雪積む景を見にゆくか 安住敦
一夜どかと雪積み森を鳶出でず 西村公鳳
一夜雪積もり遠くへ来しごとし 川村紫陽
下京や雪積む上の夜の雨 凡兆
中学生神語りおり雪積む藁 金子兜太 少年/生長
二つづつ川の灯黄なり雪積めり 長谷川かな女
人恋ふる歌に雪積む林檎の木 原裕 青垣
人泊めて雪積もらする蚕屋二階 下田稔
今し方までの雪積み寒牡丹 三村純也
伐り出しの竹に雪積む利休の忌 岡井省二
休日や地を癒やすごと雪積り 川村紫陽
切口に春の雪積む峯薬師 古舘曹人 砂の音
初市や抱き寐の子にも雪積り 田川飛旅子
初手水邸内は雪積んで靄 京極杞陽
塚と化し雪積むままの氷下魚釣 原柯城
夜の船は雪降り出でて雪積みぬ 細谷源二 鐵
夜雪積む雪女郎こそ恐ろしや 小林康治 玄霜
大露頭赭くてそこは雪積まず 山口誓子 方位
奥山に雪積るらし白湯うまし 村越化石
孤独なるブロンズに夜の雪積り 山本歩禅
山の湯に雪積む頭並べたる 矢島渚男
山国の小さき山も雪積る 辻田克巳
常磐木にして降るだけの雪積る 津田清子
平橋に続き反橋雪積める 高澤良一 さざなみやっこ
心臓の音のとっくん雪積む夜 高澤良一 随笑
拒みゐし雪積みはじむ海の芥 鷹羽狩行 月歩抄
故障なほりたる後もバスに雪積る 津田清子
旧正の雪積んで谷あらたまる 宮津昭彦
暗黙の干柿美濃は雪積まむ 殿村莵絲子 雨 月
暮れて蒼し雪積む嶺も雪無きも 相馬遷子 雪嶺
村貧しければ雪積むほかはなし 岸風三樓
束の間に雪積む歌会始かな 盛川真二
東門の奥は雪積む荒磯道 猿橋統流子
枕均して雪積む音を聞いてをり 林菊枝
梅林に雪積む彼岸詣でかな 浦野栄一
母危篤一冬一の雪積むに 高井北杜
流氷の上に雪積む終身刑 中村路子
湖に向く雪積むポーチ閉ざしあり 高木晴子 花 季
煤煙のしづかに遠し雪積めば 千代田葛彦 旅人木
片側は雪積む屋根や春の月 鳴雪句集 内藤鳴雪
猿は昔のこゑを遺せり雪積む夜 松村蒼石 雪
猿も山も雪積むことをうべなへり 松村蒼石 雪
秩父路の臍や雪積む観世音 原裕 青垣
継体天皇大頭なり雪積もり 松山足羽
老らくの恋かな春の雪積る 津田清子
聖燭のごとし雪積む枯芙蓉 堀 葦男
藁焼きし灰に雪積み小鳥来る 野見山ひふみ
蜩のいまは雪積む地の奥に 平井照敏 天上大風
豊胸の聖母どこより雪積もる 対馬康子 純情
遠き鴨蜑の早寝に雪積り 林翔 和紙
金髪に染め帰途は黒恋い雪積む樹々 寺田京子 日の鷹
鎌倉に春の雪積む一夜かな 松本たかし
雑木林に雪積む二人の棺のように 金子兜太 暗緑地誌
雪に雪積みて神山神に近く 杉本寛
雪積まぬひと処あり藪柑子 井口さだお
雪積みしけはひにしらむ屏風かな 金尾梅の門 古志の歌
雪積みしところより海更に退く 山口誓子 構橋
雪積みて巨き砂丘は天にあり 森川暁水 淀
雪積みて深く撓みしリラの枝ああ祖国とふ遠国ありし 安永蕗子
雪積みて闇しろがねに奥の院 つじ加代子
雪積みぬ夢のかよひ路無きまでに 京極杞陽
雪積むに似たる安心得たりけり 三田きえ子
雪積むは深きいたはり積みにけり 齋藤玄 『雁道』
雪積むやしづかにつつむこころの喪 桂信子 黄 炎
雪積むや夜を日に三河花祭 岡島礁雨
雪積むや恋しくて猫背ひどくなりぬ 池田澄子
雪積むや畦にころげし筌いくつ 木村蕪城 寒泉
雪積むを見てゐる甕のゆめうつつ 斎藤玄 雁道
雪積む夜夫待つごとく刻過ごす 横山房子
雪積む家々人が居るとは限らない 池田澄子(1936-)
雪積む貨車酔い痴れた手は妻の肩 金子兜太 少年/生長
雪積めりよべの熟睡の深さほど 相馬遷子 雪嶺
雪積もらむはからずも鳴る蚊帳の鐶 千代田葛彦 旅人木
雪積りつまらぬことの気になりぬ 加倉井秋を 午後の窓
雪積ることと歩幅が合ふ気がす 加倉井秋を 午後の窓
雪積るしのび返しや夕霧忌 三宅応人
雪積る中滑らかな水車の軸 津田清子 礼 拝
雪積る凶作の田を忘れよと 津田清子 二人称
雪積る夢殿次第に花型に 加藤知世子 花寂び
雪積る家へ妻ひとり置いて出る 加倉井秋を
雪積んで一丁の斧しづまれり 清水径子
雪積んで京のお寺の庭に似て 上村占魚 球磨
雪積んで田とけじめなき藁塚の裾 猿橋統流子
雪積んで陣屋米蔵ねずこ葺 高澤良一 随笑
雪詠みて雪積む句碑でありにけり 藤浦昭代
霏々として雪積みつるむ鶏女夫 前田普羅 飛騨紬
静かなる夜は雪積みてゆくらしく 高木晴子 晴居
音もなく春の雪積む蹶速塚 伊藤いと子
あかつきに雪降りし山神還る 藤田湘子
あかときの雪降るまえの寂かさとおもいて卓にともる燈を消す 三枝浩樹
あく取りて捨てて雪降る日なりけり 如月真菜
いつ見ても婆に雪山雪降りをり 中山純子 沙羅
うつすらと日の在り処見え雪降れり 徳永山冬子
えんぶりの笛いきいきと雪降らす 村上しゆら
おだやかに腹のへりゆく雪降りぬ 冬の土宮林菫哉
おもかげの雪降るなかの捨聖 鈴木貞雄
さめざめと夕べ雪降る川流れ 松村蒼石 雁
さんさんと雪降るなかのものわすれ 鷲谷七菜子 花寂び
しろたへの雪降るははの墓掃けり 佐川広治
しんしんと雪降り遠き母屋かな 深川正一郎
しんしんと雪降る木曾に安らげり 中村苑子
しんしんと雪降る空に鳶の笛 川端茅舎(1897-1941)
しんねりと残れる鴨に雪降り出す 山田みづえ
その上にまたその上に雪降れり 秋山未踏
たふとさや雪降らぬ日も蓑と笠 松尾芭蕉
ためらひてゐし輪中雲雪降らす 近藤一鴻
どんど火のうしろ雪降る夜の川 柯舟
なほも雪の降る市街戦にならう雪降る 秋山秋紅蓼
なまぐさき眠りの蛇を雪降りつつみ 高柳重信
ねむれざる瞼の裏に雪降らす 楸邨
ひとしきり雪降る川の破れ靴 中拓夫 愛鷹
ひと遠く雪降りつもる雪の上 柴田白葉女 雨 月
ふところに鳴る菓子袋雪降れり 長谷川双魚 風形
ふるさとの酔容酔語雪降りぬ 橋本榮治 麦生
ほしいまま亡師春雪降らしめき 岸田稚魚 筍流し
ほの赤くけむる雪降り没日刻 宮津昭彦
まなこ閉づればとこしへに立つ一本のさあをき竹の内に雪降る 永井陽子
まれによき夢みし朝や雪降りつつ 清水基吉
みちのくに雪降るかぎり雪女郎 木村滄雨
みちのくの雪降る町の夜鷹蕎麦 山口青邨
みちのくの雪降る街の桜餅 長内万吟子
みどりごのいまだ見ぬ雪降るを待つ 佐野美智
みどり子に初めての雪降りいだす 有働亨 汐路
み雪降る尾のある人の住む山に 角川春樹
もう一度雪降つてから鴨帰す 矢島渚男
ものの芽の雪降るときも旺んなり 伊藤東魚
わかさぎの身ごもるに雪降りつのる 千代田葛彦
わが葬列夢に雪降る仮借なし 小林康治 玄霜
われを見る深きまなざし雪降るなか 鷲谷七菜子
をかしさはすこし雪降る子の日かな 松根東洋城
イザナミの流し目強き日必ず雪降る 夏石番矢 神々のフーガ
カマンベール東京に雪降つてをり 多田睦子
クリオネに負けし天女が雪降らす 榎本利孝
クリスマス礼拝つひに雪降らず 上田日差子
ゴンドラ行く雪降る宙は雪に満ち 有働 亨
スキーに足りぬ雪降り薯らが囁くよ 寺田京子 日の鷹
スキー買へば巷にも雪降りそめつ 堀口星眠 営巣期
トラックの幌の暗がり雪降り込む 西村和子 夏帽子
ペリカンの己れつつみて雪降れり 入倉朱王
ロボットが一室うばひ雪降りだす 河野南畦 『元禄の夢』
一つ年とつて雪降る夏蜜柑 和知喜八 同齢
一天の告白のごと雪降れる 伊東宏晃
三月や見事なる牡丹雪降り良妻愚母 橋本夢道 良妻愚母
三椏に春の雪降る雪の奥 小林康治 『華髪』
丹頂に薄墨色の雪降り来 西嶋あさ子
人の世の淋しからむと雪降らす 片山由美子 水精
人の世の過去へ過去へと雪降れり 三村純也
人の死に始まる一日雪降れり 古賀まり子
人の死のあかりが路地に雪降れり 古賀まり子 緑の野以後
人生なかば白く黒く雪降りしきる 川口重美
今もラ・クンパルシーターと雪降るよ三鬼 八木三日女 落葉期
今日ざらめ津軽七種の雪降るてふ 田中英子
休め田のねむり深めて雪降れり 古賀まり子 緑の野
佐保姫のまばたきほどの雪降りぬ 池亀恵美子
佐渡に雪降るらし風の五合庵 斉藤夏風
何か食べたいしやべりたい口雪降り出す 栗林千津
何しても佳き吾が時間雪降れり 橋本美代子
佗助や夢の切れ目を雪降れり 小檜山繁子
俯して待つ波郷思ひの雪降れと 齋藤玄 『玄』
俳諧の雪降れり溺れなむいざ 小林康治 『虚實』
傷つきし馬に雪降る父の谷 大井雅人 龍岡村
兎も角雪降るは降るはと初電話 岩井 柳蛙
兎狩する頃合の雪降りし 居附稲声
兔罠作りてよりは雪降らず 若土 白羊
全伽藍雪降れり父母未生の闇 倉橋羊村
全空より雪降り出せる暗さかな 三谷昭 獣身
公魚がひらひら釣れて雪降れり 永井龍男
内孫他住、同居の外孫フランス風に雪降るか 橋本夢道 良妻愚母
冬の雨嶽寂光に雪降れり 沢木欣一 雪白
凍滝に刻ながるるは雪降れり 鈴木貞雄
処女の背に雪降り硝子夜となる 西東三鬼
切紙のこまやかな音雪降れり 猪俣千代子 堆 朱
初大師雪降りたらぬ寒さかな 白水郎句集 大場白水郎
初旅の眼裏すでに雪降れり 古賀まり子 緑の野以後
前髪に雪降りかゝる鷹野かな 吏明 古句を観る(柴田宵曲)
勾玉は始めのかたち雪降れり 野見山ひふみ
北斎の海に雪降る涅槃かな 春樹
十字架は地に挿すものぞ雪降り来 橋本榮治 麦生
千年の雪降る塔の上にかな 秋山巳之流
午近き明るさに雪降りつづく 西村和子 夏帽子
卯の花や雪降髪の南部馬 文挟夫佐恵 雨 月
卸したる雪へ雪降る父子の旅 藤田湘子
去年の実の柘榴にありて雪降れり 永井龍男
双六のなかなか果てず雪降り来 辻桃子
双子山見えず雪降る曾我の墓 中島月笠 月笠句集
古壺の底が音吸ふ雪降り出す 河野多希女
古池のをしに雪降る夕かな 正岡子規
名刺受雪降り込みて濡れにけり 白水郎句集 大場白水郎
吾子死なす窓雪降れり雪降れり 三谷昭 獣身
呆とあるいのちの隙(ひま)を雪降りをり 上田五千石(1933-97)
喜びて靴に入る足雪降れり 桑原三郎 晝夜
喪失や胸像に雪降りつもる 藤岡筑邨
図書は猟犬雪降る山へ眼をひらき 西川徹郎 家族の肖像
図書館の窓荒園に雪降れり 沢木欣一 雪白
土蔵の穴一茶終焉の雪降れる 西本一都 景色
地上より貧富失せよと雪降れり 有働亨 汐路
地中にて大根の直雪降れり 中戸川朝人
坂邸楽はずませて雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
坑夫らに雪降れるのみ十二月 淡路青踏
埋葬のやがてまろらに雪降らむ 文挟夫佐恵 雨 月
墓碑銘を写す間も雪降り冥む 木村蕪城 寒泉
声あげて泣きしあとにも雪降れり 朝倉和江
夕空は雪降りつくし漂ふ紺 中西舗土
外梯子濡るる春雪降るかぎり 田村了咲
夜の船は雪降り出でて雪積みぬ 細谷源二 鐵
夜の雪降りつつ下水流れけり 榎本冬一郎 眼光
夜をこめて胆を腐らす雪降れり 寺田京子
夜学部や宿直室に雪降り来る 森田智子
夜明けつつためらふ空や雪降りくる 大島民郎
夢にまで雪降る昏さ手を洗う 対馬康子 吾亦紅
大勢にひとりひとりに雪降れり 出口 善子
大空にくらく雪降る別れかな 柴田白葉女 遠い橋
天地の息合ひて激し雪降らす 野澤節子(1920-95)
天地の谺もなくて雪降れり 鈴鹿野風呂
天気かな されど見えざる雪降る愛よ 折笠美秋 君なら蝶に
奥嶺奥嶺へ雪降るやうな繭組む音 加藤知世子 花寂び
女と見る疑心暗鬼の雪降るを 齋藤愼爾
女の胸雪降りつゝむ山河わかず 岩田昌寿 地の塩
婚決めてよりの娘の日々雪降れり 上野さち子
子と話す童話の外は雪降れり 小松道子
子の髪を撫でてゐる夢雪降りゐし 有働亨 汐路
宙をゆく父の鉄鉢雪降れり 磯貝碧蹄館
客となりて雪降迄は竹の月 松岡青蘿
密林のごとく雪降る火の捨て場 成田千空 地霊
寒復習障子硝子に雪降つて 大橋櫻坡子 雨月
寒念仏急がねば雪降り来るよ 大越千代
寒燈や松江大橋雪降るらむ 林原耒井 蜩
審判台いまも地上に雪降れり 成田千空 地霊
寺山の桑に雪降る二月かな 石原舟月 山鵲
少女と来て雪降る国の初景色 岸田稚魚
尾ある人現るか雪降る奥吉野 津田清子 二人称
尾白鷲雪降るときも止むときも 福島壺春
屋根白くなりて夜の雪降りやまず 右城暮石 上下
山に雪降迚耳の鳴にけり 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
山動かねば囃すごと雪降れり 村越化石 山國抄
山里のかくれ耶蘇とて雪降れり 牧野桂一
峡湾は暮しの歯型雪降り降る 佐藤鬼房 海溝
川上に雪降る夜の火消壺 広治
帆ばしらに雪降りそふや風面 泥足 霜 月 月別句集「韻塞」
帆船は雲と日暮れて雪降りぬ 細谷源二 鐵
帯締むるは舟きしむ音雪降れり 本塩義子
干拓地まだ陸ならず雪降りて 茨木和生 木の國
年賀の雪降りきてかゝる吾が眼鏡 藤後左右
年重ねたる父の忌の雪降れり 上野さち子
弾き初めの千鳥の曲が雪降らす 林明子
彼の雲は山頂に雪降らしをり 高木晴子 花 季
忘恩の春の雪降り積もりけり 上田操
思考像しんしん青し雪降る下 加藤知世子 花寂び
恍惚の直後の手足雪降れり 高澤晶子(1951-)
息止め見る雪割草に雪降るを 加藤知世子 花寂び
恰もや鎮魂の雪降りにけり 小林康治 『華髪』
想望の山に近づき雪降らす 和田悟朗
愛をしる牝獣の前雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
戦盲に雪降りかかる黒眼鏡 榎本冬一郎 眼光
手毬唄牧も雪降るころならむ 飯田龍太 山の影
投錨ののちも雪降る響灘 坪内稔典
折紙の色を畳めば雪降れり 島田碩子
掌の山の一つに雪降らす 松澤昭 神立
揺り返しつづくつごもり雪降れり 仙田洋子 橋のあなたに
改札の鋏におこる雪降る旅 橋本夢道 『無類の妻』以後
方舟に在るかの目覚め雪降れり 宮脇白夜
早足に佐渡の雪降るにごり酒 橋本榮治 麦生
早鐘を聞く雪降らば雪の中 和田悟朗
明るい店向き合ふて夜の往き来こまごま雪降る 人間を彫る 大橋裸木
春の悲曲窗をくらめて雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
春の雪降りつゝすでに野は眩し 相馬遷子 山国
春の雪降るふつくらとゆつくりと 細見綾子
春の雪降る下宿屋の階軋む 対馬康子 吾亦紅
春の雪降る日の鬘合せかな 後藤比奈夫 金泥
春立つや雪降る夜の隅田川 角川春樹(1942-)
昨日ありし街焦土の雪降り積む 椎橋清翠
昼眠る眼底に雪降らしめて 日下部宵三
時効だと告げる運河に雪降れば 櫂未知子 貴族
暗き方は海に雪降る室の花 篠田悌二郎
曲り家に眠らぬ鏡雪降りくる 坂巻純子
書架整理雪降りそめし玻璃戸かな 橋本鶏二 年輪
月ありと見れば雪降る定めなし 雑草 長谷川零餘子
月や火の色怒濤の如く雪降り来 小林康治 四季貧窮
月よりも上の空より雪降り来る 堀米秋良
月見えて濁れる面や雪降れり 高濱年尾 年尾句集
望郷や雪降るごとき寒月光 八牧美喜子
木偶鴨の眼のかなしくて雪降れり 関戸靖子
杉山の杉それぞれに雪降らす 町田しげき
来し方の野に雪降れり涅槃寺 野見山朱鳥
東方に峠あるなり雪降るなり 村越化石 山國抄
松とれて雪降りて常の日となりぬ 及川貞 夕焼
松納め嶺明るくて雪降れり 中拓夫
枯芦や大沢の雪降る池にやすらぎぬ 橋本夢道 『無類の妻』以後
柊に春の雪降り一樹の音 野澤節子 黄 炎
栗鼠がかくれし木の穴へ雪降り出せり 田川飛旅子 花文字
桃花節雪降りいでぬはしきやし 加藤三七子
桐の木はいつもいつぽん雪降り出す 神尾久美子 桐の木
梟に向き合へば雪降りけり 細田恵子
椴松といふは雪降る木なりけり 今井杏太郎
榛の木に雪降る音を聞きわくる 細見綾子 黄 瀬
槐太忌の傘にかそけき雪降れり 冨田拓也
樅の木に樅のしづけさ雪降れり 渡邊千枝子
橙や遠山はまだ雪降らず 角川春樹
檻の中雪降るヘッドライト過ぎ 中島斌雄
止木に鶏の行儀の雪降れり 猪俣千代子 秘 色
歳晩や空仰がねば雪降らす 新谷ひろし
死 ぬ る 夜 の 雪 降 り つ も る 山頭火
死のかげに音楽が雪降らせをり 原裕 葦牙
死の如し雪降るなかの鉄棒は 奥坂 まや
死の跡の棒ひとつ立ち雪降れり 永田耕一郎 海絣
死人もゐて紙の雪降る児童劇 星野昌彦
母容れて繭の柩や雪降れる 奥坂まや
母遺し雪降りかくす故郷発つ 福田蓼汀 山火
比良明神しゃなりしゃなりと雪降り出す 高澤良一 燕音
水仙に四月雪降る国かなし 有働亨 汐路
水底は暗(やみ)のさざなみ雪降れり 鷲谷七菜子
水甕に雪降りつのる暮色かな 近藤一鴻
汝がとる燭芯たちて雪降れり 飯田蛇笏 雪峡
汲みあげし水のまはりに雪降れり 榎本冬一郎 眼光
汽車に寝ね雪降る船に寝て旅す 山口波津女 良人
沈丁の一夜雪降りかつにほふ 篠田悌二郎
沖くらく建国の日の雪降れる 轡田進
泣き飽きし女東京に雪降れり 対馬康子 吾亦紅
注連を焼く火のはなびらに雪降れり 野見山朱鳥
洲浜草鞍馬はけふも雪降ると 後藤比奈夫
海を見るひとりひとりに雪降れり 小田郁子
海底に何か目ざめて雪降り来 加藤楸邨
海深く魚を潜ませ雪降れり 阪本謙二
海老蔵に雪降らせけり初芝居 野口里井
涅槃会や松に雪降る清涼寺 青木月斗
湖に群衆の如く雪降れり 上野泰 佐介
満月をくぐりはやみて雪降れり 松村蒼石
漉き紙の仮の世界に雪降れり 和田悟朗
灯の裾に暗黒の水雪降れり 川村紫陽
灯を捧ぐあはれ赦せと雪降る闇に 高柳重信
無花果の木や雪降れば雪かかり 細見綾子 花寂び
焼失の二階の窓に雪降らす 対馬康子 吾亦紅
燦燦と交通巡査に雪降れり 池内友次郎 結婚まで
父に抗ひてきし背に蒼く鉛より深く重たく雪降りつもる 大滝貞一
父の忌の雪降りつもる炭俵 大野林火
牛乳の皺になりゆく雪降る夜 阿部みどり女
牡丹の芽に雪降らす天ありて 阿部みどり女
狂ひ寝や雪達磨に雪降りつもる 中村草田男
狐等に銀世界雪降りつづく 池内友次郎
猟銃音たちまち過去へ雪降りつむ 千代田葛彦 旅人木
猪鍋のぼたんびらきや雪降れり 小檜山繁子
琴唄の雪降るよりもさびしかり 文挟夫佐恵 雨 月
生くること急がねば雪降りつくす 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
甲斐谷へ武田家紋の雪降れり 佐川広治
白くなりたい石の願望雪降れり 磯貝碧蹄館
白すぎる雪降りゐたり母の墓 瀧澤宏司
白魚は水ともならず雪降り降る 碧雲居
白鳥に魂抜けて雪降れり 藤岡筑邨
白鳥よ日かげればすぐ雪降り出す 草間時彦
的遠く雪降りかくす弓始 大橋宵火
目覚めゐて雪降る音に息合はす 石川文子
眼がしらに雪降りはじめ樹をぬらす 敏雄
石焼藷に雪降る麻布中之橋 有働亨 汐路
砂山の八方破れ雪降り出す 中村苑子
神々の沓音に雪降りはじむ 奥坂まや
神鏡に成人式の雪降れり 江口竹亭
福耳の婆へ雪降る火消壷 坂内佳禰
稿難し雪降れば雪に韜晦す 小林康治 玄霜
積もる雪降る雪いまだ名なき児に 野見山ひふみ
窓のなき潜水艦に雪降れり 茨木和生 木の國
立春といふに雪降り孫生る 皆川白陀
竹林に隠さるる鈴雪降れり 磯貝碧蹄館
竹筒の中のさざなみ雪降る中 太田紫苑
竹藪を曲り雪降る直指庵 橋本夢道 『無類の妻』以後
筆匠の死後も名だいに雪降れり 飯田蛇笏 椿花集
糧かろき身に闇せまり雪降り来 石橋辰之助 山暦
約束の雪降つてゐる出会ひかな 増田宇一
紐解くになほ天霧し雪降り来 下村槐太 光背
絵屏風の中も雪降る加賀泊 橋本榮治 麦生
綾取の川くれなゐに雪降れり 山崎節子
縁談の蔵王雪降る雲の中 岩田昌寿 地の塩
繭玉飾る麓の村よ雪降り出す 村越化石 山國抄
美濃紙の美濃を雪降る頃訪ふて 高澤良一 随笑
羽子板市夕べはなやぎ雪降れる 石田小坡
聖佛母懸けて春雪降りしきる 松村蒼石 露
肉体の薄闇に雪降り敷きぬ 徳弘純 麦のほとり 以後
肩に乗る小鳥のかろさ雪降れり 井上雪
胃の中に雪降る如き訣れかな 冨田拓也
胸埋めるほどに雪降る初日記 菅原多つを
脱ぎすてし足袋の白きに雪降り出す 内藤吐天 鳴海抄
花に雪降り光太郎逝き給へり 石塚友二
花祭踊る設楽の真闇雪降らす 村上冬燕
芽吹く木に芽吹かざる木に雪降れり 朝倉和江
茫々と湖に雪降り鴨のこゑ 豊長みのる
茶筅の先雪降る音を感じて止む 中嶋秀子
草田男の死絵皿雪が雪降らす 河野南畦 『広場』
荒れ鵜群れ海の底まで雪降れり(尻屋崎付近二句) 河野南畦 『硝子の船』
荒粒の雪降りかくす荷揚げ鱈 平子 公一
荘巌な無音の調べ雪降り積む 河野薫
荷馬につゞく砲車の記憶雪降るか 中島斌男
菩提樹に雪降りし香の二日かな 西村公鳳
落葉松はいつ目覚めても雪降りをり 加藤楸邨
蓬莱や雪降る音の夜の山 晏梛みや子
薄い雑誌が靴箆がわり雪降り出す 鈴木六林男 第三突堤
薺打つ音澄むくりや雪降れり 足羽雪野
蛇の目に雪降る刻の重くあり 仙田洋子 橋のあなたに
蝌斗の水三月の雪降りにけり 増田龍雨 龍雨句集
蝶の化身の雪降りつづく信濃川 佐川広治
血は眠らず春闘近し雪降り積む 橋本夢道 無類の妻
血を享けて戻りし意識雪降れり 朝倉和江
行きて負ふかなしみぞここ鳥髪に雪降るさらば明日も降りなむ 山中智恵子
行くも帰るもならぬ四十や雪降れり 佐野美智
裏返す刺繍の冬は雪降らぬ 対馬康子 愛国
覆はれし受難のイエス雪降れり 大野林火
見てゐたるところから雪降りはじむ 加藤秋邨 怒濤
象の皺一日だけの雪降れり 中島斌雄
貨車の上に黒き雪降る受難節 井沢正江 湖の伝説
責は己に雪降るまでの木々の枝 榎本冬一郎 眼光
起笹にいくたびとなく雪降れり 比良暮雪
足止めの柩一体雪降れり 村越化石 山國抄
足止めの雪降るに何んの鶏鳴ぞ 村越化石 山國抄
辷る鴨うづくまる鴨雪降れり 高澤良一 さざなみやっこ
追へばまだ会へさうに母雪降れり 猪俣千代子 秘 色
送水会法螺の高音に雪降り来 岡 淑子
造花かく挿し幸せか雪降れり 村越化石 山國抄
遠き白鳥珠とつつみて雪降れり 古賀まり子 降誕歌
遠つ嶺に雪降りてより木々の銘 原裕 青垣
遠母に亡き父に雪降りはじむ 細川加賀 『傷痕』
醒むるたび鶴は啼きけり雪降る闇 沼尻巳津子
針傷をいくたびも舐め雪降れり 長谷川双魚 風形
鉄板打つ響きの圏に雪降りて 榎本冬一郎 眼光
銃声や空の奥処に雪降れり 柿本多映
鍵かけて夜の浴槽たのし雪降れり 畑耕一 蜘蛛うごく
鎌倉に雪降る雛の別れかな 宮下翠舟
長靴をはくほど春の雪降りし 細見綾子 黄 瀬
門松の竹の切つ先雪降れり 井上美子
防風衣(アノラック)かたしいつしか雪降りゐぬ 石橋辰之助 山暦
阿夫利嶺に雪降る金の寝釈迦かな(相州大山) 石原八束 『幻生花』
阿武隈の山に雪降る黒空穂 八牧美喜子
阿蘇に雪降る夜はかなし雉子を食ふ 野見山朱鳥
除夜の鐘地にはつもらぬ雪降れり 那須 乙郎
雑木山消して雪降る槇の山 金箱戈止夫
雛頭百一様に雪降れり 猪俣千代子 秘 色
雨の野を越えて雪降る谷に入る 福田甲子雄
雪だるまうしろの山に雪降れり 中本美代子
雪に据ゑ雪降つてゐる社会鍋 嶋田一歩
雪に雪降り積む白さ乳児眠る 長田等
雪のうへに雪降るありありと青し 辻美奈子
雪の上に白き雪降る廓址 有働亨 汐路
雪の上に雪降ることのやはらかし 西東三鬼
雪の山山は消えつつ雪降れり 高屋窓秋
雪原に雪降り月光の跡癒やす 岡田日郎
雪国の雪降る音の無音なる 新谷ひろし
雪安居胸中に雪降らしゐる 嶋 杏林子
雪山に雪降り夜の力充つ 日下部宵三
雪山に雪降り重ね粥柱 陣内イサ子
雪掻けば雪降る前の地の渇き 中村苑子
雪景の湖に雪降り誰も死なず 和知喜八 同齢
雪虫や雪降る前の音なき野 柴田白葉女 『冬泉』
雪見とは卍巴と雪降ること 京極杞陽
雪降つてあたま丸めし伊吹山 細川加賀 生身魂
雪降つてもう目のみえぬ林檎の木 和知喜八 同齢
雪降つてゐる赤門や冬休 深見けん二
雪降つてをりぬ独りで餅を焼く 岸風三楼 往来
雪降つて来しと小声の暖かし 殿村菟絲子 『菟絲』
雪降つて白鳥の巨花湖に浮く 和知喜八 同齢
雪降つて赤松の幹いよよ立つ 猪俣千代子 堆 朱
雪降らす天の雪蔵開け放ち 玉井俊一
雪降らす雲かや窓に動きそむ 阿部みどり女 笹鳴
雪降りしあとの寒さや浅蜊汁 増田龍雨 龍雨句集
雪降りし四月の冬も終りけり 高木晴子 晴居
雪降りし日も幾度よ青木の実 中村汀女
雪降りし朝や孔雀の声汚れ 加古宗也
雪降りつもる電話魔は寝ている 辻貨物船
雪降りつ凹めつ馬淵川氷る 小林康治 玄霜
雪降りて光の紐を遺しけり 斎藤玄
雪降りて海を鳴らすよ父の郷 伊藤京子
雪降りて積ることなき井のほとり 山口波津女 良人
雪降りて立体失する銃砲店 宮武寒々 朱卓
雪降りて遠き翅音を降らすなり 齋藤玄 『玄』
雪降りて高野の春の土濡るゝ 高木晴子 花 季
雪降りぬ同じ日本語話しつつ 櫂未知子 貴族
雪降りぬ非在の花にこだわりつ 鳴戸奈菜
雪降りをり夢に故人の向うむき 松村武雄
雪降りをり深夜の停車駅に声 宮津昭彦
雪降り出す灯のなき鶴の寝園に 横山房子
雪降り出す瞼閉づれば故郷の山 櫛原希伊子
雪降り来るか梟の目瞑れば 橋本榮治 逆旅
雪降り来梵天唄の聞ゆれば 文挟夫佐恵 雨 月
雪降り来牛乳とレモン睡る窓 小池文子 巴里蕭条
雪降り積む櫟林や秀野亡し 関戸靖子
雪降り込む改札口のみかん箱 中拓夫 愛鷹
雪降り込む溝の黒きを夜の力 村越化石
雪降り降る山の男で逝きし吾子 栗林千津
雪降るとき黄河黄濁を極めん 金子兜太 黄
雪降るとラジオが告げている酒場 清水哲男
雪降るもやむも正法眼藏意 上村占魚 『橡の木』
雪降るやくらくしづかに隅田川 山西雅子
雪降るやさだまる家をいまは得し 杉山岳陽 晩婚
雪降るやしづかに消ゆる灯を見たり 長田等
雪降るやしばらく墓を忘じゐし 松村蒼石 雁
雪降るややけつく聲のをしねどり 廣江八重櫻
雪降るや一つの峡に一清流 猿橋統流子
雪降るや人いて人の辺が冥し 長谷川草々
雪降るや僻地のネオン赤がちに 有働亨 汐路
雪降るや化石句ばなし懇ろに 荒井正隆
雪降るや忌の日一日美しく 角川源義 『冬の虹』
雪降るや教科書になき歴史読む 羽田岳水
雪降るや濡れたる草のうちふるヘ 岸本尚毅 舜
雪降るや瑠璃光寺池鏡なす 合田岩雨
雪降るや生まれし町に子を産みて 猪俣千代子 堆 朱
雪降るや種くろく透け雀瓜 山西雅子
雪降るや紙人形の紙の呼吸 滝井清子
雪降るや経文不明ありがたし 相馬遷子 山河
雪降るや葉音収めて竹立てる 臼田亜浪 旅人
雪降るや身裡に翳をつみかさね 宗田安正
雪降るや遠き記憶の母の胸 皆川白陀
雪降るや銀紙まきしチヨコレート 藤岡筑邨
雪降るより消えてひるごろ シヤツと雑草 栗林一石路
雪降るよ障子の穴を見てあれば 正岡子規(1867-1903)
雪降るを見てゐて人を赦しけり 日下部宵三
雪降る三界僧の飽食赦すべからず 磯貝碧蹄館 握手
雪降る中硝煙の香の甦る 千代田葛彦 旅人木
雪降る庭に昨夜の父が立っている 西川徹郎 死亡の塔
雪降る朝白き産着を賜りし 有働亨 汐路
雪降る淵玉虫色に紬織る 加藤知世子 花寂び
雪降る街大魚の背骨など見せて 北原志満子
雪降る間も暗き結核彷徨す 林田紀音夫
雪降る降る今宵北国へと発つ人よ 文挟夫佐恵 黄 瀬
雪降ればすぐに雪掻き妻なき父 寺田京子 日の鷹
雪降れば夜は来といひて昼に来ぬ 下村槐太 光背
雪降れば女子大もつくる雪達磨 山口青邨
雪降れば湯気倍にして饅頭屋 高澤良一 寒暑
雪降れば石の耳輪はおもからまし 野澤節子 黄 炎
雪降れば雪たのし商の妻失格 八牧美喜子
雪降れば雪見の酒をもてなさん 金山 有紘
雪降れりくつがへらんとする鯉に 高澤良一 随笑
雪降れり子の手を包む我の手に 橋本榮治 麦生
雪降れり子役の素足花道に 佐藤せつ子
雪降れり少年の日の友等無く 相生垣瓜人 微茫集
雪降れり時間の束の降るごとく 石田波郷(1913-69)
雪降れり海なき国の野に山に 福田蓼汀 山火
雪降れり疑心暗鬼の雪降れり 堀井春一郎
雪降れり葱の口臭あたらしく 中拓夫 愛鷹
雪降れり雪の重みが裂きし木に 徳永山冬子
雪降れる夜の闇淡くなつて来し 青葉三角草
霊南坂ゆけば雪降る牧師館 冨田みのる
青き愛撫の銅版の人雪降れり 磯貝碧蹄館
静けさの極み雪降りいでにけり 徳永山冬子
静けさを深め雪降るわが行方 原裕 葦牙
静夜にてかのバイオリン雪降らす 鈴木六林男 桜島
静臥位に豊かなる雪降りつづく 誓子
音すべて雪降る音の中に消ゆ 加藤瑠璃子
音もなく白く冷たく雪降る闇 中村苑子
音絶えしこの音が雪降る音か 有働亨
風景の何処からも雪降り出せり 柿本多映
風裏はあそび雪降る氷柱かな 松村蒼石
食堂のすべての窓に雪降れり 大井雅人 龍岡村
餅の杵洗へば山に雪降りぬ 大串章
餅食う母雪降る死火山の裏側に 佐藤野火男
馬の目に雪降り湾をひたぬらす 鬼房
馬の眼に遠き馬ゐて雪降れり 中条明
馴鹿の角重たげに雪降りぬ 寺田寅彦
高山の雪降る街の消火栓 高澤良一 随笑
高張に霏々と雪降るお講かな 石田雨圃子
鮟鱇が吊るされ河岸に雪降れり 伊藤みちを
鳥の目に雪降るはひとつの奇跡 宇多喜代子
鳥翔ちて雪降りすさむ遠い沼 対馬康子 愛国
鳴雪忌二月一度も雪降らず 堀田春子
鳶のいろ巌に重なり雪降れり 中西舗土
鴨の羽に雪降り汀までは寄らず 猿橋統流子
鴨毟る雪降らざれば止まぬなり 多佳子
鶴の懐妊山裾に雪降らしむる 磯貝碧蹄館
鷺の雪降りさだめなき枯野かな 千代尼
鹿の瞳に雪降る今年はじまれり 野見山ひふみ
黒白の斎藤茂吉雪降れり 和田悟朗
*えりに降る雪のはげしさ往くさ来さ 下村槐太 天涯
いちさきに孟宗ゆれて降る雪よ 原石鼎 花影以後
いつせいに降る雪速度ゆるむなり 加藤秋邨 雪起し
いつ涌きていつ降る雪の玉柏 上島鬼貫
かぎりなく降る雪何をもたらすや 西東三鬼
かまくらへ降る雪生死ひとつなる 河野多希女 月沙漠
ごみごみと降る雪ぞらの暖かさ 宮沢賢治
しん~と降る雪に見入りわがさだめ 原石鼎 花影以後
ただ白く降る雪心音もて通る 野澤節子 黄 炎
ちらちらと檻の狐に降る雪よ 成瀬正とし 星月夜
ふるさとの夜半降る雪に親しめり 飯田蛇笏 椿花集
まつすぐに降る雪はなく積りをり 橋本榮治 麦生
やみなく降る雪を掻きに出てゐる 人間を彫る 大橋裸木
よろこべる子に降る雪の白くなり 臼田亜浪 旅人
スケートの終り降る雪真直なり 山崎秋穂
亂れ降る雪や音なき音をこめ(上州草津温泉) 上村占魚 『かのえさる』
佳き言に似て降る雪や掃き納め 川辺きぬ子
元日や竹の葉に降る雪の音 南うみを
公魚のよるさゞなみか降る雪に 渡邊水巴 富士
凛然と降る雪のさまかそかなる夜の紺青を吸ひて光れり 大滝貞一
力なく降る雪なればなぐさまず 石田波郷(1913-69)
君に降り吾に降る雪卒業す 北澤瑞史
吾等つひに起てり降る雪もたのし 佐野良太 樫
天地たゞ傘に降る雪あるばかり 石塚友二
宿とりて猶降る雪に佗びにけり 東洋城千句
幌に降る雪明るけれ二の替 阿部みどり女 笹鳴
懸命に降る雪知らで夜半に覚む 村越化石 山國抄
戎克の灯降る雪に射すほどもなき 桂樟蹊子
新年会降る雪を見て高階に 川畑火川
日射しつつ降る雪の綺羅蔵開 早川柾子
明日を信ず鉄骨に降る雪の向き 榎本冬一郎 眼光
杉に降る雪さらさらと紙漉場 西村公鳳
東京よ小公園に朝降る雪 高柳重信
松に降る雪ほたほたと実朝忌 冨田みのる
河に降る雪があきらめきつて降る 加倉井秋を
泣くおまえ抱けば髪に降る雪のこんこんとわが腕に眠れ 佐佐木幸網
洋芹をいとほしみ降る雪淡し 堀口星眠 営巣期
海に降る雪美しや雛飾る 小林康治 『華髪』
湖こめて降る雪松につもり来し 佐野青陽人 天の川
灯の及ぶ限り降る雪埋むる雪 橋本榮治 逆旅
灯明りの中をしづかにくらがりへ降る雪 シヤツと雑草 栗林一石路
炭を積む馬の脊に降る雪まだら 夏目漱石 明治三十二年
無人派出所曲れば降る雪の千代田区 大沼正明(1946-)
白髪の姉を秋降る雪と思い込む 西川徹郎 月山山系
積もる雪降る雪いまだ名なき児に 野見山ひふみ
立つたびに降る雪つのる温め酒 小林康治 『虚實』
竹に降る雪はげし目刺よく焼けぬ 渡邊水巴 富士
約束の日なり降る雪さまたげず 及川貞 榧の實
自転車の燈に降る雪のおびただし 相馬遷子 雪嶺
舳先に降る雪一条の言葉のごと 桜井博道 海上
蟹を立ち売る降る雪に消されもせず 津田清子 二人称
誰を訪はむ故郷を蔽ひ降る雪に 榎本冬一郎 眼光
賤ヶ岳より降る雪や*いさざ汲む 井桁蒼水
身の闇に降る雪嘗めて檻の熊 金箱戈止夫
遠く降る雪より緩く吾に降る雪 加倉井秋を 午後の窓
闇を降る雪をおもえば額打たる 和田悟朗
降る雪がさそふねむりの思惟仏 小室善弘
降る雪が別るゝひとの瞳にも降る 五所平之助
降る雪が川の中にもふり昏れぬ 高屋窓秋(1910-99)
降る雪が月光に会う海の上 鈴木六林男
降る雪が父子に言(こと)を齎らしぬ 加藤楸邨
降る雪と歯並の白さ別れ際 榎本冬一郎 眼光
降る雪にさはられてゐるクリスマス 攝津幸彦
降る雪にはばたく鷺の生きの白 吉野義子
降る雪にわが家の客の家遠し 山口波津女 良人
降る雪にわが家の燈のみ道照らす 山口波津女 良人
降る雪にピンポンの音は廊下の果 栗林一石路
降る雪に力抜きたる汀かな 山田みづえ 木語
降る雪に卒業写真撮りにゆきし 大橋櫻坡子 雨月
降る雪に大護摩焚けり初薬師 熊田鹿石
降る雪に天神地祇と応えけり 渡辺誠一郎
降る雪に客送らんと吾も濡る 山口波津女 良人
降る雪に弾み付ききし夕笹子 高澤良一 ねずみのこまくら
降る雪に悲しみはたゞ怺ふべし 相馬遷子 山河
降る雪に松は翼をひろげたり 徳永山冬子
降る雪に楽器沈黙楽器店 大橋敦子 母子草
降る雪に消えし国家の現われ来 徳弘純 麦のほとり 以後
降る雪に照らされてゐる谷の家 桑原三郎 晝夜
降る雪に白樺総立ちとなりにけり 岡田日郎
降る雪に白玉楼中皆会す 福田蓼汀 秋風挽歌
降る雪に目ひらいてみてまた泣けり 加藤楸邨
降る雪に眼いきいき目礼少女 鈴木六林男
降る雪に睫毛もつとも早く濡れ 内藤吐天 鳴海抄
降る雪に糶らるる蟹の紅しづもる 三好潤子
降る雪に紛ぎれ梅咲き和紙の村 西村公鳳
降る雪に縒つよくして川流る 的野雄
降る雪に老母の衾うごきけり 永田耕衣 與奪鈔
降る雪に胸飾られて捕らへらる 秋元不死男
降る雪に船の肋骨歯抜け立つ 米沢吾亦紅 童顔
降る雪に裸身まぶしき玉せせり 井田満津子
降る雪に触れんと蔓ら這ひまはる 三橋鷹女
降る雪に遠流のごとし鶴の色 齋藤玄 『無畔』
降る雪に金の卵を想ひゐる 林桂 銅の時代
降る雪に針金ゆるく巻かれあり 森田智子
降る雪に長子羽摶つごと来るよ 角川源義 『神々の宴』
降る雪に闇に瞠き喰ひ飽かぬ 石橋辰之助 山暦
降る雪の/野の/深井戸の/谺かな 重信
降る雪のかなたかなたと眼があそぶ 皆吉爽雨
降る雪のかなた蝋燭の輪の舞踏靴 高柳重信
降る雪のことば遊びのかぎりなし 長田等
降る雪のその先日暮れ峠の灯 野澤節子 『八朶集』
降る雪のたてがみかぶり秣喰ふ 三橋敏雄
降る雪のつもる濃淡ありにけり 志摩芳次郎
降る雪のときたま力ゆるめけり 秋山未踏
降る雪のをりをり隙をひろげ舞ふ 井沢正江 晩蝉
降る雪の一身もえてただ悼む 赤城さかえ
降る雪の中の香煙初大師 今川 青風
降る雪の力の中へ川入りゆく 齋藤玄 『狩眼』
降る雪の垣に昨日の煤の竹 中野浩村
降る雪の天に逆巻くときのあり 鈴木貞雄
降る雪の奥うすうすと雪刷く山 千代田葛彦 旅人木
降る雪の徐々に地上の形なす 林田紀音夫
降る雪の水くらければ浮寝鳥 小檜山繁子
降る雪の白魚採を遠くする 大橋敦子 匂 玉
降る雪の真ん中にあり自在鈎 森田智子
降る雪の空におしやべり拡声器 青葉三角草
降る雪の舞ふは熄むてふ心あり 稲畑汀子
降る雪の谷に雉子鳴く西行忌 南光 翠峰
降る雪の野の深井戸の谺かな 高柳重信
降る雪は天飛ぶ田鶴を消しにけり 下村梅子
降る雪は急ぎ積るに急がざる 嶋田一歩
降る雪は生者に翳り死者に照る 加藤知世子 花 季
降る雪は雪国の財際限なく 品川鈴子
降る雪も一途雛とは女とは 綾部道江
降る雪も互みの酔も迅し早し 清水基吉 寒蕭々
降る雪やこけしの如く吾子馳け来 小林康治 四季貧窮
降る雪やこゝに酒売る灯をかゝげ 鈴木真砂女
降る雪やさらに北指す夜汽車なり 桂樟蹊子
降る雪やひとひらづつの初明り 金箱戈止夫
降る雪やもの言ひて眼の黒さ増す 今瀬剛一
降る雪や九死一生皆懺悔 橋本夢道 無類の妻
降る雪や他郷と言ふを知りてをり 杉山岳陽 晩婚
降る雪や厠が近くなりにけり 仁平勝 東京物語
降る雪や地上のすべてゆるされたり 野見山朱鳥
降る雪や天金古りしマタイ伝 長谷川双魚(1897-1987)
降る雪や夫婦離(か)れ住むせんもなし 川口重美
降る雪や妻が過しむ愚痴の中 清水基吉 寒蕭々
降る雪や家得たりしを誰に謝す 杉山岳陽 晩婚
降る雪や岬に買ひし藻付焼 八牧美喜子
降る雪や拳の鷹に心問ふ 野村喜舟 小石川
降る雪や旅人われに家路なく 山本歩禅
降る雪や明治は遠くなりにけり 草田男
降る雪や母の諭しに「をのこたれ」 井田寛志
降る雪や灼鉄は暗いところで打つ 榎本冬一郎 眼光
降る雪や父母を子が持つ日曜日 林翔 和紙
降る雪や玉のごとくにランプ拭く 飯田蛇笏(1885-1962)
降る雪や祖母が縫ひゆく花雑巾 古賀まり子 降誕歌
降る雪や禅問答を繰り返す 佐藤美恵子
降る雪や竹藪庵に香を聴く 橋本夢道 『無類の妻』以後
降る雪や行かねばならぬゆえに行く 下村梅子
降る雪や野には舌持つ髑髏(ひとがしら) 夏石番矢 猟常記
降る雪や音読の書は立てらるる 成田千空 地霊
降る雪より積む雪白し避病棟 川村紫陽
降る雪よ今宵ばかりは積れかし 夏目漱石(1867-1916)
降る雪よ闇のシュプール消さずあれ 石橋辰之助 山暦
降る雪を仰ぎゐる身の浮遊感 高橋京子
降る雪を仰げば昇天する如し 夏石番矢(1955-)
降る雪を天階に見ず畦に見る 秋元不死男
降る雪を泥にこねたる時雨かな 水田正秀
降る雪を見てをり犬の真顔なる 行方克巳
降る雪を見てをり眼鏡てのひらに 井上雪
降る雪を見んとてこけし眼をもらふ 矢島渚男 天衣
降る雪を避ける意志なき柩出づ 林田紀音夫
降る雪を降る雪を消す湿り田は 津田清子 二人称
降る雪淋しがつて白粉をとくてのひら 人間を彫る 大橋裸木
限りあるいのちよわれよ降る雪よ 鈴木真砂女 夕螢
限り無く降る雪何をもたらすや 西東三鬼
雪や降る雪や母胎にあるごとし 松山足羽
雪明りあり降る雪の見ゆるほど 汀子
飛ぶ雪も降る雪に和し暮れにけり 殿村菟絲子 『牡丹』
饒舌に吹雪き寡黙に降る雪よ 稲畑汀子 汀子第二句集
じやじや馬を飼ひ馴らすかに雪激し 柴田奈美
夜廻りの老の背を追ひ雪はげし 岡田日郎
懺悔(こひさん)に雪はげしくて浄めらる 筑紫磐井 婆伽梵
木の芽打つて雪はげし句々抹殺す 渡辺水巴 白日
熊笹原音絶えてより雪はげし 岡田日郎
竹に降る雪はげし目刺よく焼けぬ 渡邊水巴 富士
絶壁にはりつく海鵜雪はげし 新谷氷照
鏡中に飛ぶ雪激し髪染むる 加藤 紅
関ヶ原ここを先途と雪はげし 下村梅子
雪はげしいのち惜しめと母の文 宮下翠舟
雪はげしかり劉生のかぶらの絵 中田剛 竟日
雪はげし夫の手のほか知らず死す 橋本多佳子
雪はげし抱かれて息のつまりしこと 橋本多佳子(1899-1963)
雪はげし書き遺すこと何ぞ多き 橋本多佳子(1899-1963)
雪はげし松ぼつくりの見えながら 岸本尚毅 舜
雪はげし灯して碧きなまこ切る 吉野義子
雪はげし生まるる言葉宙に消え 仙田洋子 橋のあなたに
雪はげし白樺一樹一樹消す 岡田日郎
雪はげし縛されざるはむしろわびし 吉野義子
雪はげし血汐のごとき茨の実 古賀まり子 緑の野以後
雪はげし遠のものみな亡びけり 野澤節子 黄 瀬
雪はげし闇を横切る北キツネ 松田満江
雪はげし雪の脈博灯をつつむ 石原八束
雪はげし鶫がくだる葡萄棚 石原舟月
雪激しピアノ売りたる夜のごとし 櫂未知子 蒙古斑以後
雪激し何の夾雑物もなし 津田清子 礼 拝
雪激し見知らぬ人と言交はし 佐野美智
雪激し鼓はげしく打たれゐて 文挟夫佐恵 雨 月
飯の前死の前音なく雪はげし 小檜山繁子
おぼろ夜の雪のふる夜にさも似たる 久保田万太郎 草の丈
こんもりと栂や旦暮を雪の降る 村越化石 山國抄
さ迷ひて果は降りゆく雪の降る 小池文子 巴里蕭条
しらぬまにつもりし雪のふかさかな 久保田万太郎 流寓抄
どんど焚くどんどと雪の降りにけり 一茶
どんど焼きどんどと雪の降りにけり 一茶
ないそでをなをふる雪の歳暮かな 井上井月
なほも雪の降る市街戦にならう雪降る 秋山秋紅蓼
なまはげの出る夜を雪の降りしぶる 高澤良一 ももすずめ
はつ雪の降出す此や昼時分 傘 下
ふる雪にひとりふたりとひと逝きぬ 中尾白雨 中尾白雨句集
ふる雪にみなちがふことおもひゐる 中尾白雨 中尾白雨句集
ふる雪に巴をつくる浮寝鳥 内藤吐天 鳴海抄
ふる雪に手をのべて時とどまらず 野見山朱鳥
ふる雪に木々の撓ひや白吉野 宇佐美魚目 秋収冬蔵
ふる雪に洗濯バサミなげつけり 皆吉司
ふる雪に犬も退屈狩の宿 三好雷風
ふる雪に駅はしりぞきはじむなり 藤後左右
ふる雪のかりそめならず年用意 久保田万太郎 流寓抄以後
ふる雪のゆるやかにして松の幹 橋本鶏二 年輪
ふる雪の水の明るさ山葵沢 細見綾子
ふる雪の音のみとなるわさび沢 細見綾子 黄 炎
ふる雪やすでに深雪の一伽藍 橋本鶏二
ふる雪や機械しづかに鐵を切る 橋本鶏二
ふる雪を消しつつ鱒の渦ながる 沢田緑生
ふる雪を見てをりこの曲何の曲 西村和子 夏帽子
まなうらの緋を積む雪の降りにけり 斎藤玄
みちのくにさらりと雪の降りし頃 成瀬正とし 星月夜
ゆくところ雪のふるくに親鸞忌 西本一都 景色
りんてん艫、今こそ響け。/うれしくも、/東京版に、雪のふりいづ。 土岐善麿
バザールヘ行きましよ雪の降る前に 筑紫磐井 花鳥諷詠
二十日忌は雪の降るさへなつかしき 大森桐明
井戸深く雪のふりこむ日暮かな 増田龍雨 龍雨句集
人体に空地のありて雪の降る 鳴戸奈菜
仲秋淡海に遊ぶ 水の月やよ望にふる雪歟とぞ 蕪村遺稿 秋
初髪を結ひをり雪のふりてをり 久保田万太郎 草の丈
前略と激しく雪の降りはじむ 嵩 文彦
古郷はかすんで雪の降りにけり 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
大仏にひたすら雪の降る日かな 飯田龍太 今昔
姉と雪の降る日の貝あはせ 筑紫磐井 野干
学問の静かに雪の降るは好き 中田みづほ
山焼きのすみたる村に雪の降る 河原 比佐於
彳めば猶ふる雪の夜みちかな 几菫
急がねばならぬ暮雪の降りやうや 高澤良一 随笑
捨てられし花の朧へ雪の降る 金箱戈止夫
新しき雪の降る夜の雪女 後藤夜半 底紅
林あかるくさらさらと雪のふるけはひ シヤツと雑草 栗林一石路
桐畑それも景色や雪のふる 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
水雪の降る日暮まで札所道 吉田紫乃
氷結の上上雪の降り積もる 山口誓子 青女
沢庵の若衆せゝりや雪のふみ 服部嵐雪
河豚喰て其の後雪の降りにけり 上島鬼貫
湖に隈なく雪の降ることよ 上野泰 佐介
濡れ土に届かぬ雪の降ってをり 嶋田摩耶子
父と子のあはひに雪の降り積る 福田甲子雄
生き生きて妻と二人の老いたらば帰らむ英彦山(えいげん)よ雪の降る見ゆ 伊藤保
真鱈なお涙眼雪のふりはじむ 諸角せつ子
稚き日の雪の降れゝば雪を食べ 篠原鳳作 海の旅
窓帷の重くて雪のふる夜なり 桂信子 黄 炎
節分をみかけて雪のふりにけり 久保田万太郎 草の丈
紅梅に雪のふる日や茶のけいこ 永井荷風
綿雪の降る一つ空隅に目離れず 安斎櫻[カイ]子
緑竹の猗々たり霏々と雪の降る 夏目漱石 漱石俳句集
縄を綯ふ檜山に雪の降る限り 小原渉
芝生との別れと思ふ雪の降る 嶋田摩耶子
芹洗ふ井水に雪の降りそそぐ 石川桂郎 四温
見てとほる雪のふる駅ふらぬ駅 藤後左右
贄の熊昇天雪の降り止まず 柴田黒猿
輪飾や鏡中雪の降りしきる 龍雨
近き友遠き友雪の降る聖夜 村越化石 山國抄
近山に彼岸の雪のふりにけり 石原舟月 山鵲
遠き灯は兎眼雪の降りに降る 大木あまり 山の夢
遠山に雪のふたたび小鮎波 鷲谷七菜子 花寂び 以後
酒蔵の窓あるかぎり雪の降る 茂里正治
鉛筆に雪の降り出す匂いあり 高野ムツオ
限りなく虚しき雪の降るばかり 福田蓼汀 秋風挽歌
隣國は雪の降りつむ木のかたち 宇多喜代子
雁行や初秋の雪の降る地平 対馬康子 吾亦紅
雪のふることのこんなになつかしく 行方克巳
雪のふるさみしさよけれ善光寺 西本一都 景色
雪のふるゆめよりさめし朝寝かな 久保田万太郎 流寓抄以後
雪のふる空の高処に年木樵 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雪の上に二月の雨の降りにけり 石原舟月
雪の降るまへの桜の木にもたれ 長谷川双魚 『ひとつとや』
雪の降る佐渡ヶ島より初電話 北澤瑞史
雪の降る夜握ればあつき炭火かな 上島鬼貫
雪の降る山を見てゐる桃の花 福田甲子雄
雪の降る彼の世は赤く燃えてをり 石原八束
雪の降る町といふ唄ありし忘れたり 安住敦(1907-88)
雪の降る華麗に夜の来てをりし 嶋田一歩
雪の降る遠き世赤く燃えてをり 石原八束(1919-98)
雪の降る闇に無数の目犇く 鈴木貞雄
雪をんな来さうな雪の降りといふ 根元敬二
雪吊の力の限り雪の降る 倉田紘文
雪国の子に雪の降る七五三 小川里風
雪山に雪の降り居る夕かな 前田普羅(1884-1954)
霊山を仰ぐ夜の果て雪の降る 飯田蛇笏 椿花集
魚眠るふる雪のかげ背にかさね 金尾梅の門
鰒喰うて其の後雪の降りにけり 鬼貫
鰤敷や雪の降り込む舟焚火 桑田青虎
鴬につもらぬ雪のふりにけり 久保田万太郎 流寓抄
鹿を曳く雪の上なり雪の降る 文挟夫佐恵 黄 瀬
けらけらと笑ヘり雪の積りをり 石原八束 黒凍みの道
さみしさの極みの雪の積るなり 石飛如翠
ひと遠く雪降りつもる雪の上 柴田白葉女 雨 月
まだもののかたちに雪の積もりをり 片山由美子
初午や狐のわたる雪の積 滝井孝作 浮寝鳥
弥太郎忌今宵は雪の積れかし 上村占魚 鮎
新樹匂ひ霊車は雪の積れるなり 渡邊水巴 富士
眉の上にも降りつもる雪父と母 磯貝碧蹄館
舞ふ雪の積むにはあらず昼の鐘 上村占魚 鮎
草木なき頂上雪の積むままに 津田清子 二人称
門松や静かに雪の積る音 墨水句集 梅澤墨水
降りつもる雪に火口もただの穴 品川鈴子
*かんじきをはいて一歩や雪の上 高浜虚子
かりがねの撓ひしなひて雪の上 飴山實 少長集
かんじきをはいて一歩や雪の上 高浜虚子
したゝかに炭こぼしけり雪の上 銀獅
しら~と今年になりぬ雪の上 伊藤松宇
たびらこや洗ひあげおく雪の上 吉田冬葉
ひと遠く雪降りつもる雪の上 柴田白葉女 雨 月
厄落す火の粉とび散る雪の上 福田甲子雄
吹落す杉の枯葉や雪の上 比叡 野村泊月
囀りや宿雪の上を水流れ 八束
墓守の火を焚きつぐも雪の上 岸田稚魚 筍流し
夜もすがら満月照るや雪の上 相馬遷子 山国
夥かに炭こぼしけり雪の上 銀獅
山吹や根雪の上を飛騨の径 前田普羅
左義長や降つゞきたる雪の上 鞭石
左義長や雪国にして雪の上 東洋城
市に竝ぶ泥葱三把雪の上 羽部洞然
御神楽やおきを弘げる雪の上 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
手水湯や流しそこなふ雪の上 膳所-弩鳥 俳諧撰集「有磯海」
数読んで鰤投げ出すや雪の上 萩男
日光みちて樹影はげしき雪の上 渡邊水巴 富士
明星は乞食も見るか雪の上 服部嵐雪
木の影の一語を置ける雪の上 大串章 山童記
柿の枝の影につまづく雪の上 石川桂郎 含羞
橇で着く初刷折るや雪の上 久米正雄 返り花
死後もまたあかあかと火を雪の上 有馬朗人 知命
水仙の折れ伏せる葉や雪の上 虚子選躑躅句集 岩木躑躅、村上磯次郎編
水仙の香やこぼれても雪の上 千代女
炭竈や雪の上行夕煙り 松岡青蘿
煤掃に砧すさまじ雪の上 亡士-嵐蘭 極 月 月別句集「韻塞」
煤竹の投げ出されある雪の上 大橋宵火
父亡くて母かこみ立つ雪の上 細川加賀 『傷痕』
空澄みてまんさく咲くや雪の上 相馬遷子 雪嶺
笹一葉ちりとなりけり雪の上 土芳 俳諧撰集「有磯海」
糶り残る鱈ひきずつて雪の上 石川文子
美しき日和になりぬ雪の上 太祇
能舞台普請の木屑雪の上 藺草慶子
菊月や外山は雪の上日和 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
落葉松の錆針敷けり雪の上 福永耕二
葬の雪の上誰が転びしや 岸田稚魚
葱抜くや土ぱらぱらと雪の上 南 うみを
金蘭のふくろおとせよ雪の上 立花北枝
雪の上*あさざこぼれてゐたりけり 関戸靖子
雪の上から踏む牡蠣殻や他郷ならず 木村蕪城 寒泉
雪の上ぽつたり来たり鶯が 茅舎
雪の上まづ第一歩印しけり 鈴木貞雄
雪の上まろびて熱き女の身 井上雪
雪の上わが影跼み糧を食ふ 相馬遷子 山国
雪の上をころげどんどの火屑かな 岸田稚魚 『萩供養』
雪の上を死がかがやきて通りけり((二月二十五日歌人斎藤茂吉逝く)) 石原八束 『秋風琴』
雪の上を燃えつつ走る吉書かな 白文地
雪の上ジルベスターの仮面捨つ 山口青邨
雪の上光りの贅のたよりなし 松澤昭 神立
雪の上日が交叉して四月くる 永田耕一郎 雪明
雪の上桃花の色の霞かな 松瀬青々
雪の上火屑かたまり吹かれをり 鈴木貞雄
雪の上芥捨て暮れ早くせり 岸田稚魚 筍流し
雪の上鱈ぶちまけて売られけり 松本 旭
雪の上鶏あつまりてくらくなる 成田千空 地霊
雪を掻き落して白し雪の上 右城暮石 声と声
青天やなほ舞ふ雪の雪の上 臼田亞浪 定本亜浪句集
餅搗きし臼のほてりや雪の上 大串章 山童記
香をとめぬまで蓬枯れ雪の上 藤岡筑邨
鳴き通る雪間雪の上猫の恋 皆吉爽雨 泉声
麦のためまづ風ゆらぐ雪の上 立花北枝
うつくしき日和となりぬ雪のうへ 炭 太祇
冬紅葉散りて数葉雪のうへ 高澤良一 寒暑
炭竃や雪のうへ行く夕けぶり 青蘿
真昼間の山雪のうへ蜘蛛あるく 高澤良一 燕音
鶯の畳さはりや雪のうへ 立花北枝
おぼろ夜の雪ふる夜にさも似たり 久保田万太郎
おらが世は臼の谺ぞ夜の雪 一茶
くらがりに変貌を遂ぐ夜の雪 高澤良一 随笑
こゝろ皆竹にふすなる夜の雪 松岡青蘿
さくさくと藁喰ふ馬や夜の雪 大江丸
たまさかに浪の音して夜の雪なり 北原白秋 竹林清興
ともしびを見れば風あり夜の雪 蓼太
ともし火を見れば風あり夜の雪 蓼太
ひきすてし車のかずよ夜の雪 加舎白雄
みとりするその夜の雪は積りけり 平井照敏 天上大風
ポストから玩具出さうな夜の雪 渡邊水巴
乞食の事いふて寝る夜の雪 李由 霜 月 月別句集「韻塞」
二十日夜の雪残りたる竹籬 浦田一代
今日の塵焼くその上に夜の雪 阿部みどり女
何の工事場土管に夜の雪かかり 古沢太穂 古沢太穂句集
修行者に此杖やらん夜の雪 むめ
俳居士の高き笑や夜の雪 会津八一
六条の豆腐の沙汰や夜の雪 京-吾仲 霜 月 月別句集「韻塞」
凧の果てはチラチラ夜の雪 阿部みどり女
初午や思ひがけなき夜の雪 高橋淡路女 梶の葉
別荘や膳のかよひも夜の雪 松岡青蘿
刻かけて蟹食ふ夜の雪密に 川島万千代
厩の灯道にさしゐる夜の雪 木村蕪城 一位
夜の雪だまつて通る人もあり 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
夜の雪となりたるらしきしじまなり 渡部マサ
夜の雪となる焼跡を通りすぎ 長谷川かな女 花寂び
夜の雪に御嶽の貂が木を登る 小山しげる
夜の雪に聴き耳をたて老コリー 鈴木貞雄
夜の雪に誰かホテルの窓あけし 横山白虹
夜の雪に駅の時計の機械透け 田川飛旅子 花文字
夜の雪のひとひらうけて嗅ぐあそび 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
夜の雪のまこと静かや縄をなふ 水野六江
夜の雪のやみし風音立ちにけり 赤城さかえ
夜の雪やさら~と戸にふれもして 法師句集 佐久間法師
夜の雪や受験の吾子が居睡りて 相馬遷子 山国
夜の雪をとこのおもさかと思ふ 保坂敏子
夜の雪公衆電話開けつぱなし 八木三日女 紅 茸
夜の雪大きく照らし出されたる 岸本尚毅 鶏頭
夜の雪屏風一枚ものおもふ 中尾寿美子
夜の雪晴れて薮木の光りかな 浪化 (1671-1703)
夜の雪耶蘇の言葉のごとく降る 藤岡筑邨
夜の雪遮二無二海の中へ降る 山口誓子
夜の雪降りつつ下水流れけり 榎本冬一郎 眼光
夜の雪雪の音して降りはじむ 右城暮石 上下
妻と病めば鎮魂歌めく夜の雪解 小林康治 玄霜
嫁く人のほかはささめく夜の雪 鷲谷七菜子 黄 炎
子の部屋に子がゐる音の夜の雪 細川加賀 生身魂
孤独なるブロンズに夜の雪積り 山本歩禅
寝ならぶやしなのゝ山も夜の雪 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
射的屋の人形倒る夜の雪 鈴木真砂女 夕螢
小便の数もつもるや夜の雪 貞室
屋根白くなりて夜の雪降りやまず 右城暮石 上下
山にふる夜の雪片に満つる軒 橋本鶏二
川黒うして舟に声あり夜の雪 古白遺稿 藤野古白
師の面ざし父と重なる夜の雪 毛塚静枝
御車を大路に立てゝ夜の雪 古白遺稿 藤野古白
我が子なら供にはやらじ夜の雪 とめ 俳諧撰集玉藻集
戦争が戻つてきたのか夜の雪 鈴木六林男 桜島
戸まどひや呉竹くゞる夜の雪 西望 選集「板東太郎」
手探りに香炉を擁す夜の雪 古白遺稿 藤野古白
昼よりも明るき夜の雪を掻く 北 光星
更けゆくや雨降り変はる夜の雪 碧童 (昭和十二年二月一日碧師病歿、通夜)
月の夜の雪の立山まのあたり 中村汀女
月光とともにただよふ午夜の雪 飯田蛇笏 雪峡
林中やきちきちと散る夜の雪 岸田稚魚 筍流し
梅白し古墳に夜の雪来つつ 神尾久美子 掌
森の奥の夜の雪のおくの真紅のまんじ 高柳重信
椅子回し見る少年に夜の雪 対馬康子 吾亦紅
樽さげて酒屋おこさん夜の雪 二柳
漆にはうるしを重ね夜の雪 管 タメ
灯の動き来るは道なり夜の雪 高橋笛美
炉がなくて炉話亡ぶ夜の雪 八牧美喜子
熊突の夫婦帰らず夜の雪 名倉梧月
爆音またもペンがりがりと夜の雪 栗林一石路
父の死の夜の雪と思ふ肩に頭に 小林康治 四季貧窮
牛飼が句を見せに来る夜の雪 細川加賀 生身魂
牡蠣船や夜の雪堆く覚めてあり 山口誓子
物書きて鴨にかへけり夜の雪 笹山 菰堂 五車反古
窓あけて眺めゐる間の夜の雪 波多野爽波 鋪道の花
窓の灯やわが家うれしき夜の雪 永井荷風
笠着たる人によく降る夜の雪 立花北枝
自転車に夜の雪冒す誰がため 相馬遷子 山国
舞姫のおもかげいだき夜の雪ヘ 山本歩禅
蛎船の障子細目や夜の雪 孤軒句集 三宅孤軒
豆撒きの夜の雪やむや家路急き 石川桂郎 含羞
質おいて番傘買ふや夜の雪 泉鏡花
身を律す夜の雪琴は袋の中 河野多希女 両手は湖
酒のめばいとど寝られね夜の雪 芭蕉
酔ひ帰る教師に夜の雪だるま 新田祐久
閉し固む戸に訪れて夜の雪 石塚友二 光塵
陣太鼓ひそかに打つは夜の雪 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
難波津や橋めぐりして夜の雪 青蘿
霊膳の湯気の細さや夜の雪 渡辺水巴 白日
静かさや大つごもりの夜の雪 吉野左衛門
顔につく夜の雪村に岩つきだし 大井雅人 龍岡村
魂を落して睡る夜の雪 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
鹿子ゆふ音きこゆなり夜の雪 広瀬惟然
わが佇てば降りまさりつつ窓の雪 波多野爽波 鋪道の花
下窓の雪が明りのばくち哉 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
丸窓の雪に灯ともる実南天 九郎
切張りの隙は有けり窓の雪 調鶴 選集「板東太郎」
北窓の雪さへあかり障子かな 重頼
子の声の窓の雪しきりなり白き 原田種茅 径
空襲の夜明けて窓の雪あかり 京極杞陽 くくたち下巻
窓の灯やわが家うれしき夜の雪 永井荷風
窓の雪日の暮れかねてありにけり 高橋淡路女 梶の葉
絹糸の光沢しめやかに窓の雪 瀧井孝作
繭玉にはなやぎ降れり窓の雪 星野立子
蝋燭のうすき匂ひや窓の雪 素牛 俳諧撰集「藤の実」
降り止まぬ無灯の窓の雪青し 阿部みどり女
飾り臼南の窓の雪明り 村上一央
くろぐろと雪片ひと日空埋む 相馬遷子 山國
ただならぬ静けさは雪片の大 菅裸馬
つまづけり人の暗さの雪片に 栗林千津
三椏の花雪片の飛べる中 山口青邨
中空に見し雪片を身にまとふ 原裕 葦牙
二月堂昏れ綿虫か雪片か 長谷川史郊
加奈陀の雪片ひらりとクリスマスカード 石塚友二
去年今年雪夜雪片かさなり降る 斉藤美規
囚徒ゆき雪片は地にくだけけり 飯田蛇笏 雪峡
大いなる雪片ふはと枝をたつ 橋本鶏二
妻寂し髪の雪片消ゆるより 齋藤玄 『玄』
宙にのみありて華麗なる雪片 鷲谷七菜子 銃身
山にふる夜の雪片に満つる軒 橋本鶏二
崖赭し雪片はひた飛びゆくも 藤田湘子 途上
巨島消えし天雪片を掌に数ふ 古館曹人
日の中に雪片とべるだるま市 門伝史会
檜山より雪片馬の強咀嚼 宇佐美魚目 秋収冬蔵
浮き沈む雪片石切場の火花 西東三鬼
消え難き雪片をつけ毛つぶ貝 八木林之介 青霞集
温泉は遠し肩の雪片すでに凍り 大島民郎
湖村音なし雪片かぎりなき夜空 鷲谷七菜子 雨 月
湯煙を吸ひ雪片を散らす空 成瀬正とし 星月夜
病者見よ熔岩が雪片ゆたかにす 萩原麦草 麦嵐
百万片中一雪片の落下つづく 加藤秋邨 吹越
目刺やく一雪片にとびこまれ 下村槐太 天涯
石蕗の葉に雪片を見る霙かな 高浜虚子
磁気帯びて春の雪片髪につく 渋谷道
穢土と呼ぶこの世の冬ぞ仰ぐとき無数の雪片天より下る 大下一真
空にもどる雪片もあり工事の灯 桜井博道 海上
絶巓へ降る絶体の雪片よ 坂戸淳夫
罠に雪片森のおきてとして速し 対馬康子 愛国
老人と思ひ雪片とびつけり 加倉井秋を
胎動や午後の雪片太りつつ 飴山實 『おりいぶ』
花の中雪片こほる椿かな 中田剛 珠樹
虹くぐり舞ふ雪片のかぎりなし 岡田日郎
通る雲雪片こぼす猫柳 遠藤梧逸
雪片が舞うくらがりの石の椅子 河合凱夫 飛礫
雪片が雪のいのちをきらめかす 三好潤子
雪片が髪を濡らすよ月給日 石橋辰之助
雪片となるまではただ鈍色に 猪俣千代子
雪片と耶蘇名ルカとを身に着けし 静塔
雪片にふれ雪片のこはれけり 夏井いつき
雪片に飛びつく波の上りけり 西村和子 窓
雪片のかかるよ赤子家に迎ふ 太田土男
雪片のつれ立ちてくる深雪かな 高野素十
雪片のはげしく焦土夜に入る 飯田蛇笏 春蘭
雪片の大きさ今のきざやかさ 細見綾子 花 季
雪片の平らにのりし寒牡丹 吉野義子
雪片の消ぬべくあそぶ辛夷の芽 堀口星眠 営巣期
雪片の眼より離れず埴輪馬 河野多希女 こころの鷹
雪片の瞼に降りてきたるあり 中田剛 珠樹
雪片の花びらとなる子の受賞 都筑智子
雪片の裏返り紺ばかり降る 殿村菟絲子 『牡丹』
雪片の負けず嫌ひが先争ふ 三好潤子
雪片の高きより地に殺到す 山口誓子 激浪
雪片は誰のてのひら弟よ 栗林千津
雪片も旅いそぐかに翁の忌 堀口星眠 青葉木菟
雪片やこぼれ餌にきてこぼれ海猫 吉田紫乃
雪片や呪符のごとくにこころ占む 林田紀音夫
雪片をすいと引き寄せ一枯枝 高澤良一 鳩信
雪片を児は児の眼して見てゐたる 星野麥丘人
雪片を星が降らしぬクリスマス 相馬遷子 雪嶺
鶴のこゑ身に雪片の消ゆる間も 大岳水一路
鶴の檻雪片月をかすかにす 飯田蛇笏 春蘭
黒人が眉に雪片つけて来る 田川飛旅子 花文字
えんぶりの雪照り道を影の列 加藤憲曠
三椏の花や雪照る夕日受け 及川貞 夕焼
安達太良は雪照りにけり吹流し 細川加賀 生身魂
幻のごと雪照らふ天塩岳 古賀まり子 緑の野以後
片頬に雪照る雛を納めけり 渡邊千枝子
牛羊に昨日の雪照る大試験 木村蕪城 寒泉
萱ふかく雪照る雲雀きこえくる 金尾梅の門 古志の歌
葛城山の肩に雪照る皇子の陵(河内日本武尊白鳥陵) 角川源義 『神々の宴』
見えてゐる菜圃の妻を雪照らす 吉武月二郎句集
雪照らして光の渦の日が渡る 渡辺水巴 白日
雪照りて山上の日はゆらぎをり 渡邊水巴 富士
雪照りに馬打たるること忘れ 松澤昭 父ら
雪照りに髯うつうつと歩くべく 岸田稚魚 筍流し
雪照りのはげしさ橇が一つ来し 佐野良太 樫
雪照るや骰も人も面つつむ 古舘曹人 能登の蛙
あまえびのぬめりを舌に雪夜かな 吉野義子
いねし子の朱唇にうるむ雪夜かな 渡邊水巴 富士
いぶりがつこ雪夜に飲めと届きけり 茂里正治
ごきぶりの何と大きく舞ふ雪夜 殿村莵絲子 花寂び 以後
ねむりいて耳が孤独よ雪夜の父 寺田京子 日の鷹
ふと覚めし雪夜一生見えにけり 村越化石
ふるさとの雪夜のいまも匂ふ水 千代田葛彦 旅人木
スタンドの燈は何さそふ雪夜なる 渡辺水巴 白日
フリージヤ雪夜に長き妻の祈り 金箱戈止夫
一糸整然雪夜夢まで香をきく 加藤知世子 花寂び
並び寐の子と手つないで雪夜かな 渡辺水巴 白日
亡き人の句に逢ひ閉づる雪夜の書 野澤節子 黄 瀬
去年今年雪夜雪片かさなり降る 斉藤美規
墓の上雪夜の潮流れをり 岸田稚魚 『負け犬』
夢ありし雪夜の離被架庇護の中 赤松[けい]子 白毫
夫遠しわが量にふゆ雪夜の湯 吉野義子
妻の裾跨ぐ雪夜となりしかな 小林康治
子より幼く雪夜寝息に加はりぬ 猪俣千代子 堆 朱
子ら留守の雪夜晩年のごとく更く 茂里正治
寝仕度に触れて鈴鳴る雪夜かな 村越化石
少年美し雪夜の火事に昂りて 中村苑子
幕開いてひとり紅茶の雪夜かな 渡邊水巴 富士
文業の竹林灯す雪夜にて 清水基吉 寒蕭々
昔雪夜のラムプのやうなちひさな恋 鷹女
甕に入れ雪夜の水の自在奪ふ 宮津昭彦
甕の水雪夜は言葉蔵しをり 能村登四郎(1911-2002)
甘栗をむけばうれしき雪夜かな 芥川龍之介 蕩々帖〔その二〕
生けるものは重たさ持てり雪夜にて 加藤秋邨 まぼろしの鹿
畦の雪夜も解くるなり初蛙 藤原如水
畳の目粗し雪夜をかへりきて 桂信子 黄 炎
発心の言葉雪夜の方寸に 田川飛旅子
登り窯の洩れ火のはねる雪夜かな 石原八束 藍微塵
祝祭の雪夜にぎやかとりけもの 山田みづえ
精霊の凍みる雪夜を牡丹照る 渡邊水巴 富士
紙幣とは雪夜香を嗅ぐためのもの 林翔 和紙
紙風船越の雪夜に妻がつく 肥田埜勝美
繭紡ぐごとく雪夜を重ねたる 金箱戈止夫
覚めてひとり盗汗ぬぐふや雪夜風 小林康治 四季貧窮
過去帳に姑の名記す雪夜かな 影島智子
酔ふほどに行火のあつき雪夜かな 小杉余子
雪の風瀬々になごんで雪夜かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
雪夜なる足はるかにし睡るかな 村越化石 山國抄
雪夜にてことばより肌やはらかし 森澄雄
雪夜にて妙にも耳の鳴りゐたる 馬場移公子
雪夜の瀬こころを遣れば奏でけり 馬場移公子
雪夜ふるさと真白き曲り蒼き曲り 加藤知世子 花寂び
雪夜一路わが車追ふ車なく 野澤節子 牡 丹
雪夜子にかぶすマフラー裏につぎ 古沢太穂 古沢太穂句集
雪夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び 加藤秋邨 起伏
雪夜寝て四囲を海とも野山とも 大串章
雪夜思ふ花咲蟹の濃き脂肪 小檜山繁子
雪夜来し髪のしめりの愛しけれ 大野林火
雪夜消す灯の残像の緋から青 千代田葛彦 旅人木
雪夜眠る痛む喉など痛ましめ 所山花
首出して夫婦雪夜を眠りをり 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
馬が眼をひらいてゐたり雪夜にて 加藤楸邨
鼻かみて雪夜を更に貧しうす 原コウ子
あたたかき雪がふるふる兎の目 上田五千石(1933-97)
いちまいの鋸置けば雪がふる 上田五千石(1933-97)
むまさうな雪がふうはりふはり哉 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
伊那の吊り柿食うて戻れば雪がふる 林原耒井 蜩
山頭火永遠の留守雪がふる 夏石番矢
山鳩よみればまはりに雪がふる 高屋窓秋(1910-99)
林ゆたかに火を焚いてをれば雪がふる シヤツと雑草 栗林一石路
柳葉魚漁るアイヌ舟歌雪がふる 野見山朱鳥
灯をめざし白蛾のやうな雪がふる 佐藤公子
菊枯らす雪がふりたる夜の富士 萩原麦草 麦嵐
雪がふかくなりそうな、財布の紐くびにかけゆく 伊藤雪男
雪がふるふる雪見てをれば 種田山頭火 草木塔
雪がふる障子に顔をうづめけり 萩原麦草 麦嵐
かぢの火も殊さらにこそ笠の雪 服部嵐雪
ぽつかりとわれて落ちけり笠の雪 伊勢-芦本 俳諧撰集「有磯海」
何を釣る沖の小舟ぞ笠の雪 黒柳召波 春泥句集
市人にいで是売らむ笠の雪 松尾芭蕉
我が雪とおもへばかろし笠の雪 其角
笠の雪いくび(猪首)になりて惜しまるる 卯七 俳諧撰集「有磯海」
笠の雪博士の簑も新しく・・・中田みづほ、独逸留学出発に際し医学博士の学位を受く。昼の雪ますます粗くなりにけり 高澤良一 随笑
白酒やどんどこ降つて昼の雪 大峯あきら
米売と交す言葉や昼の雪 藤田湘子 途上
腸(はらわた)が古びん昼の雪ちらちら 高澤良一 随笑
見上げたる顔に当りて昼の雪 高澤良一 随笑
魚食うて口腥(なまぐさ)し昼の雪 成美

以上

by 575fudemakase | 2017-04-19 10:03 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)

寒鰤 の俳句

寒鰤 の俳句

寒鰤 

あきらかに寒鰤を抱く怒濤なれ 吉田紫乃
塩打ちし寒鰤の肌くもりけり 草間時彦
寒鰤と煮る大根の厚さかな 加藤浩子
寒鰤に祝儀値付きし手締かな 渡辺安江
寒鰤のいづれ見劣りなかりけり 鈴木真砂女
寒鰤のどさりととどく朝の市 荻野輝子
寒鰤のとどく潮の色のまま 柴田佐知子
寒鰤の一切のみの煙上ぐ 殿村菟絲子
寒鰤の神のごとくに売られけり 平井照敏 天上大風
寒鰤の大きく跳ねて市が立つ 梶山千鶴子
寒鰤の目の美しさ揃へ売る 猪狩紫水
寒鰤の夜が来て立山もう見えず 角川春樹
寒鰤の糶られるまでの無聊かな 市原幸子
寒鰤は虹一筋を身にかざる 山口青邨
寒鰤は虹一条を身にかざる 山口青邨
寒鰤や飛騨を越え来し塩こぼす 中澤康人
寒鰤をおろす刃捌き活魚店 田原幹一郎
寒鰤を煮る幸せや永らえて 原田マサ恵
寒鰤を買へばたちまち星揃ふ 山本洋子
寒鰤を糶るや雄声の日本海 海野ふさ子
気前よく飲んで寒鰤漁師達 金子 蜂郎
手秤りの寒鰤の潮雫かな 友岡子郷
酒すすむ氷見の寒鰤刺身かな 山口耕堂
二三言言ひて寒鰤置いてゆく 能村登四郎
二三言言ひて厚き寒鰤置いてゆく 登四郎
日の柱立つ寒鰤の定置網 神蔵 器
糶落ちし寒鰤を引く手際かな 新鞍かほる

寒鰤 補遺

二三言言ひて厚き寒鰤置いてゆく 能村登四郎
刃を入るるまで寒鰤の厚さ撫でてゐし 能村登四郎
寒鰤をこの世のものとして食める 石田勝彦 百千
寒鰤は虹一条を身にかざる 山口青邨
寒鰤の無念の目口見とれをり 加藤秋邨
寒鰤の神のごとくに売られけり 平井照敏 天上大風
寒鰤の熊野灘より到来す 山口青邨
寒鰤の下頤ばかり月に立つ 加藤秋邨
寒鰤のいづれ見劣りなかりけり 鈴木真砂女
寒鰤に一句授る魚市場 鈴木真砂女 都鳥
寒鰤にいどむ老妻血ぬらして 山口青邨
塩打ちし寒鰤の肌くもりけり 草間時彦

以上

by 575fudemakase | 2017-04-18 18:21 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)

雪山 の俳句

雪山 の俳句

雪山の例句
雪山 

*えり挿しの背後雪嶺威を解かず 丸山哲郎
あかつきの雪山の上星黄なり 長谷川かな女 雨 月
あめつちのいましづかなり雪の嶺 山口波津女 良人
ある日遠くある日は近く一雪嶺 本郷昭雄
いちご咲く雪嶺天にねむれども 有働亨 汐路
いつ見ても婆に雪山雪降りをり 中山純子
いぬふぐり雪山は雲湧き立たせ 斎木直治
いや白く雪嶺媚びぬ彼岸前 相馬遷子 山河
うしろより雪嶺匂ふ夕茜 大石昌代 『清見潟』
おほひなる雪山いま全盲 かがやくそらのもとにめしひたり 葛原妙子
おもおもと雪山の方餅搗く音 村越化石
かのセーラー服二輌目の雪嶺側 今井 聖
かへり見る雪山既に暮れゐたり 清崎敏郎(1922-99)
ガラス戸の内側拭けば雪嶺見ゆ 津田清子 二人称
ぎしと鳴つて牧柵の釘耐う雪嶺風 中島斌雄
きのふ見し雪嶺を年移りたる 森澄雄
きらめきて雪嶺月の黄を奪ふ 佐野美智
けふの日のしまひに雪嶺荘厳す 上田五千石 田園
げんげんを見てむらさきの遠雪嶺 大野林火
こし雪の山見て障子しめにけり 原石鼎
こたへなき雪山宙に労働歌 飯田蛇笏
この雪嶺わが命終に顕ちて来よ 橋本多佳子
この寮を出て雪嶺へ行き逝きし 岡田日郎
これを見に来しぞ雪嶺大いなる 富安風生
コンテナは並び雪嶺かがやける 岩崎照子
しきりなる汽笛雪嶺より返す 岸風三楼 往来
しろがねの甲冑つけて一雪嶺 古川京子
すつへりと日に向ひてあり雪の山 作者不知 選集古今句集
スト中止令雪嶺に対ひて張らる 内藤吐天 鳴海抄
すれちがふ汽車の窓透き雪山あり 篠原梵
そそり立つ雪嶺に月近くあり 上村占魚 球磨
その墓に佇てば雪山鷽の舞ふ 黒田杏子 花下草上
タクシーに射す日のぬくさ斑雪山 茨木和生 木の國
たはやすく弾丸に撃たれて雪山をまろび落つる熊は映画に撮られぬ 半田良平
たんぽぽを踏み雪嶺を指呼に見る 藤岡筑邨
つく~と雪山近く歩きけり 星野立子
つらなりて雪岳宙をゆめみしむ 飯田蛇笏
つるぎなす雪嶺北に野辺おくり 飯田蛇笏 春蘭
どんと焼果てて雪嶺に囲まるる 石原八束
どんど焼果てて雪嶺に囲まるる 石原八束
なお雪が降り雪山の羽毛みゆ 和知喜八 同齢
ねんねこの子ごと見返る雪の山 鈴木貞雄
はこべらや雪嶺は午後うつとりす 森 澄雄
はこべらや雪嶺は午后うつとりす 森 澄雄
はたちの吾娘を遠見るおもひ雪の嶺々 中村明子
はるかなる雪嶺のその創まで知る 橋本多佳子
ふいご押す雪嶺の光押し返えし 細谷源二
ふところに一枚の櫛雪山へ 岡本 眸
ふりむかず猟夫は雪の山に入る 本多 勝彦
ふりむきし鷲の眼雪嶺けぶりたる 鷲谷七菜子
ふりむけば雪嶺ならぶ洋書棚 大島民郎
ふるさとは雪山まろし父母在らず 成瀬櫻桃子 素心
ほほづきの如き日輪雪嶺に 岡田日郎
まんさくの淡き雪嶺にかざし見て 阿部みどり女
まんさくの淡さ雪嶺にかざしみて 阿部みどり女
まんさくや町よりつゞく雪の嶺 相馬遷子
みやげ屋の熱き呼びごゑ斑雪山 堀口星眠 樹の雫
めざめては睡りめざめて雪の山 黒田杏子 花下草上
ゆくほどに雪嶺囲ひや恵方道 森 澄雄
ゆっくりと麻酔解けゆく斑雪山 伊藤はる子
レモン吸ひ雪嶺に香を拡げたり 荒川文雄 『銀河』
わが一生(ひとよ)雪山つなぐ橋に揺れ 野沢節子 花季
わが一生雪山つなぐ橋に揺れ 野澤節子 『花季』
わが汽車に雪嶺のやや遅れつつ 榎本冬一郎 眼光
わが攀ぢしひと日雪嶺に雲湧かず 岡田日郎
わが疼く眼に雪嶺の照り倦かぬ 相馬遷子 山国
われを呼ぶもの雪嶺と大日輪 和泉千花
われを枯野に點じ雪嶺大いなり 高島 茂
愛ひらくときも心に雪嶺あり 平木梢花
愛欲に斑雪の山の遠静か 三谷昭 獣身
逢へさうな逢へなささうな斑雪山 鳥居美智子
芦刈りて夕べ雪嶺をあらはにす 茂里正治
安曇野は雪嶺連なり猫柳 森澄雄
安曇野や雪嶺におよぶ晝がすみ 及川貞 夕焼
安曇野や雪嶺に及ぶ昼がすみ 及川貞
闇とほく雪山おそふ風ゆける 石橋辰之助 山暦
杏咲き雪嶺いたくよごれたり 宮下翠舟
一つ知る雪山の名を言ひにけり 綾部仁喜 樸簡
一家のゴム長乾されるたびに雪嶺指す 細谷源二
一戸減り雪嶺がまたひとつ増ゆ 齊藤美規
一汁の大鍋たぎる雪嶺下 加藤知世子 花 季
一蝶に雪嶺の瑠璃ながれけり 川端茅舎
一歩前へ出て雪山をまのあたり 斉藤美規
咽喉かわく旅や雪嶺蹤き来る 津田清子
厩出し牛に雪嶺蜜のごと 森澄雄
雲しきてとほめく雪嶺年新た 飯田蛇笏 雪峡
雲の影過ぎ雪の嶺刻が過ぐ 津田清子 二人称
雲上にまだ雪嶺や百千鳥 森 澄雄
雲嶺の中まぼろしの一雪嶺 岡田日郎
英霊を雪山ふかく秘めし家 石橋辰之助 山暦
燕来る遠雪嶺の光負ひ 林翔 和紙
艶やかに雪嶺まだ出ぬ蕗の薹 相馬遷子 雪嶺
遠き雪嶺日の大きな赤児見て 北原志満子
遠く雪嶺一村日の中ぐみ熟るる 近藤馬込子
遠ざかり来て雪嶺の主峰見ゆ 右城暮石 上下
遠ざかる雪嶺近づき来る雪嶺 大橋敦子 手 鞠
遠ぞらに雪嶺のこり機の音 鷲谷七菜子 花寂び
遠空へ雪嶺畳めり晝蛙 松村蒼石 春霰
遠雪嶺うすむらさきの野辺送り 渡辺礼子
遠雪嶺嬰児に渾身の泣く力 栗林千津
遠雪嶺近よりがたし去りがたし 古舘曹人 能登の蛙
遠雪嶺見むと胎児もともに出づ 鷹羽狩行
遠雪嶺黒部に紅葉下りて来し 源義
遠雪嶺石楠花は紅こぼれむと 林 翔
遠天に雪山ほのと秋の暮 相馬遷子 山国
奥武蔵雪山ならぶ除夜の鐘 水原秋櫻子
往還の上雪嶺のたたずまひ 猪俣千代子 秘 色
翁舞国栖の雪山塀をなす 津田清子 二人称
温泉の色硝子ごし雪の山 京極杞陽 くくたち下巻
音が光晴雪の嶺に斧うてる 千代田葛彦
下品下生町を繞りて雪の山 小鳥幸男
下萌や雪嶺はろけき牧の柵 芝不器男
夏雪嶺生れし郷は目の高さ 一條友子
花のなき日は雪嶺の窓に向く 清水径子
花杏雪嶺なぞへに暮れなづむ 石原八束 空の渚
貨車連結さる雪嶺の大盤石 齋藤愼爾
霞む中雪嶺の白あでやかに 相馬遷子 雪嶺
画家たらんおもひ雪山前にして 高澤良一 素抱
海に聳つ雪嶺はこの陸つゞき 右城暮石 上下
海へ雪嶺へ舞ひは銀朱や朱鷺の夢 加藤知世子 花寂び
灰色の夜空の下の雪の山 高木晴子 晴居
革命のいろに雪嶺暁けてきし 高島茂
楽器抱くように編物雪嶺ふくらめ 寺田京子 日の鷹
鴨ねむりくらき雪嶺湖に満つ 堀口星眠 火山灰の道
鴨の陣はつきり雪の山ぼうと 波多野爽波 鋪道の花
刈萱寺塵掃く雪嶺まなかひに 岡部六弥太
干割れ落つ餅花一つ雪嶺覚め 喜多牧夫
雁の声雪山は月に見えてか 佐野良太 樫
寄生木に雪嶺浮かみゐしが雨 木村蕪城 寒泉
帰還兵なり雪嶺の下に逢ふ 文挟夫佐恵
帰路の友にぶし雪嶺は夕日得て 大井雅人 龍岡村
汽車どちら向くも雪嶺なくなれり 右城暮石 声と声
汽車とまり遠き雪嶺とまりたり 山口誓子
汽車降りて雪嶺の高さには馴れず 橋本美代子
汽車喘ぎ雪嶺遠く威ありけり 岸風三楼 往来
脚はやき僧に雪嶺あとしざり 河野静雲
逆雪嶺うすももいろに水あかり 原裕 青垣
久方の雪嶺見えて霞みけり 鈴木花蓑
牛乳のむ花の雪嶺のつづきにて 細見綾子 黄 炎
漁樵をり氷湖雪山こもごも照る 木村蕪城 寒泉
魚割女胸に雪嶺かがやかす 金箱戈止夫
競ひ立つ雪嶺をアラスカの天とせり 有働亨 汐路
狂院のちなみに鴉声遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
胸ひらく母の眼をして斑雪山 堀口星眠 青葉木菟
暁光におのれ削ぎ立つ雪の嶺 相馬遷子 山河
暁光にけふ雪嶺となりて立つ 相馬遷子 山河
極月や雪山星をいたゞきて 飯田蛇笏
極月や雪山星をいただきて 飯田蛇笏 山廬集
極月や雪山星をいたゞきて 飯田蛇笏 霊芝
金星や雪の山稜見ゆるのみ 杉山岳陽 晩婚
銀の匙もて雪嶺を窓に指す 神谷九品
銀婚の旅雪山の虹に入り 影島智子
空海のくに雪嶺のひとつ泛く 水沼三郎
空青し雪嶺これを縫ふごとし 橋本鶏二
熊鷹の巣作りはじまる雪の山 阿部みどり女
桑の芽や雪嶺のぞく峡の奥 秋櫻子
桑を解く雲よりくらき雪の嶺 中拓夫
桑解けば雪嶺春をかゞやかす 西島麦南
桑括ることぶれの雪山に見て 秋山幹生
群りてゐる雪山を去りにけり 八木林之介 青霞集
畦青み雪嶺しざり秩父別(ちっぷべつ) 高澤良一 素抱
月いでゝ雪山遠きすがたかな 飯田蛇笏
月いでて雪山遠きすがたかな 飯田蛇笏 山廬集
月いでゝ雪山遠きすがたかな 飯田蛇笏 霊芝
月光に雪嶺かくすところなし 大橋桜坡子
月光に雪嶺ひとつ覚めて立つ 相馬遷子 山河
月稚し雪山照らす力なし 岡田日郎
月明りありて雪山くるゝかな 比叡 野村泊月
見えゐて遠き雪嶺や夫に追ひつけず 加藤知世子 花寂び
元日や比枝も愛宕も雪の山 虚子
戸隠の雪嶺間近に御開帳 前川みどり
枯桑に雪嶺裾をひきにけり 大橋櫻坡子 雨月
湖眠る雪嶺深く映すべく 西村和子 かりそめならず
午後の日の雪嶺づたひや山葵採 藤田湘子
吾子泣くか雪山かぎる杉一樹 角川源義
向うは雪の山へ山吹の咲くのが湯どころ 巣山鳴雨
紅葉鮒そろ~比良の雪嶺かな 松根東洋城
行く雁に雪嶺襞をゆるめざる 井沢正江
降りて止む降りて止む雪山真白 岡田日郎
高まりし野にかくれたる雪嶺かな 阿部みどり女
刻々と雪嶺午後の影きざむ 相馬遷子 山国
告げざる愛雪嶺はまた雪かさね 上田五千石
国栖奏の吉野の奥に雪嶺見す 村上冬燕
酷寒の白日照るや雪の嶺 相馬遷子 山河
黒凍(くろじ)みの道夜に入りて雪嶺顕(ゆきねた)つ 石原八束(1919-98)
黒凍みの道夜に入りて雪嶺顕つ 石原八束
此処景色余りに雪の山多し 京極杞陽 くくたち上巻
昏るるとき雪嶺やさしふるさとは 長谷川秋子
昏々と夜は雪山をおほひくる 石橋辰之助 山暦
昏々眠る昨日雪嶺の裾にゐし 佐野美智
佐保姫の鈴鳴る水の斑雪山 山上樹実雄
妻と雪嶺暮色に奪われまいと白し 細谷源二
昨日より今日大いなり雪の嶺 相馬遷子 山河
策無きに怒る雪山の中の妻 石橋辰之助
三國嶽三つの國の雪嶺なり 山口誓子 紅日
山開雪山讃歌もて了る 渡辺立男
山桜雪嶺天に声もなし 水原秋桜子
産院を繞る雪山四温光 飯田蛇笏 椿花集
蚕具焼く火に雪嶺の線揺ぐ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
子に学資わたす雪嶺の見える駅 福田甲子雄
子に学費わたす雪嶺の見える駅 福田甲子雄
師の碑けふ少し猫背に遠雪嶺 平井さち子 鷹日和
師の訃あり雪嶺を見に丘のぼる 堀口星眠
死の砂漠展けて遠き雪の嶺 セリグマン和佳人
獅子舞つてはるか雪嶺の晴れをよふ 上野一孝
耳うごくごと雪嶺に遠く佇つ 萩原麦草 麦嵐
七十年雪嶺あふぎてくたびれたり 斎藤美規
捨てられて雪嶺あそべる村の空 齊藤美規
車輪すでに雪山がかる響かな 野沢節子 花季
尺八吹く雪嶺に窓開け放ち 伊藤いと子
手あぶりや雪山くらき線となりぬ 林火
朱鷺の山斜めに雪の降る日なり 生田政春
種浸す若狭は雪嶺遠巻きに 西村公鳳
授業日々雪嶺にとりまかれつつ 石田小坡
秋の暮どの雪嶺がわれを待つ 齋藤愼爾
終に風けものの性を斑雪山 緒方敬
終着駅雪嶺触るるばかりなり 茂里正治
銃声の谺雪山無一物 長嶺千晶
春の牛乳おはよう牧の雪嶺よ 有働亨 汐路
春の雪嶺夜は雲母の肌へ照る 石原八束 空の渚
春ふかき雪嶺めぐる甲斐盆地 柴田白葉女 花寂び 以後
春雲と雪嶺ふれむとして触れず 吉野義子
春雲に雪嶺ふれむとして触れず 吉野義子
春駒がゆく雪嶺を雲の上 森澄雄
春月を得て雪嶺のやさしさよ 岸風三楼 往来
春光に消えなんと立つ雪の嶺 相馬 遷子
春祭山のうしろに雪の山 鷲谷七菜子
春雪嶺北へ数へて飼山の家 宮坂静生 春の鹿
春立つや雪嶺はまだ夢の白 大串章
春闌けし牧をいだけど雪の嶺 石橋辰之助
初めに言ありと雪嶺光りだす 田川飛旅子
初めに言葉ありと雪嶺光りだす 田川飛旅子
初蝶や雪山恍と雲の上 松村蒼石
初日待つ雪嶺の色かはりつつ 五十嵐播水
初富士に従ふ如き雪の嶺々 星野高士
初旅や明るき雪の山つづき 阿部みどり女
諸仏諸天かつ雪嶺の加護なせる 小澤 實
除湿器に生の水たまり遠雪嶺 平井さち子 鷹日和
小さき母雪山にながくながくあれよ 石橋辰之助 山暦
小春日や雪嶺浅間南面し 相馬遷子 山河
小路ふさぐ雪嶺へ蒸籠けむりけり 金尾梅の門 古志の歌
少年に雪嶺の盾ゆづりわたす 伊藤 敬子
松原の見こしに白し雪の山 雪 正岡子規
乗初めのすぐ雪嶺と対ひあふ 上田五千石
城古び雪嶺背骨なせる国 濱本暁生 『因幡』
唇に雪嶺感ず眠き夜汽車 三好潤子
新樹の道雪嶺に向き背まつすぐ 細見綾子
榛の花雪嶺かすかに光り暮れ 岡田日郎
真夜雪嶺雲なし月光のみまとふ 岡田日郎
身にあまる白さに堪へて雪の嶺 相馬遷子 山河
身は萎えて気はまだ確か雪嶺よ 相馬遷子 山河
身を反らすほど晴れしかや雪の嶺 村越化石 山國抄
人の許へ雪山たゝむ敦賀湾 細見綾子 花 季
人は世に墓を遺して遠雪嶺 小澤克己
人間の我は虫けらよ雪の山 阿部みどり女
人生序の口雪嶺に眼を凝らし 伊藤敬子
人日の雪山ちかき父母の墓 石原舟月
人日の雪山近き父母の墓 石原舟月
刃毀れのやうな雪嶺月渡る 金箱戈止夫
吹かれつゝ雪嶺暗し棉の花 久保田月鈴子
吹き晴るる雪山の威の自ら 阿部みどり女
吹越や虹のごとくに遠雪嶺 角川源義
水晶の数珠雪山にかげなき日 柴田白葉女 花寂び 以後
水鳥に凍てはとほらず逆雪嶺 原裕 青垣
雛の灯を消せば近づく雪嶺かな 本宮哲郎
雛買うて杣雪山へ帰りけり 原石鼎
雀交る雪嶺を截る屋根の上 相馬遷子
星うるむ夜は雪嶺も肩やさし 千代田葛彦
星ひとつともり雪嶺ひとつ暮れ 岡田日郎
星空に雪嶺こぞる夜番かな 松本たかし
星光り雪嶺になほ夕日の斑 岡田日郎
聖鐘はひびき納めて雪の嶺々 野澤節子 黄 炎
製紙工場白煙雪嶺より白し 本多穆草
青春なかば雪山並ぶ暗さ知りぬ 岡田日郎
青年の肩幅雪嶺をかくしえず 椎橋清翠
赤子哭くたび雪嶺聳え立つ 徳岡蓼花
切干の青みがちなる雪嶺も 中村志那
切手購ふ雪嶺のあるやすらぎに 猪俣千代子 秘 色
切手買ひ雪嶺の名を聞きにけり 正岡雅恵
切先に比叡の雪嶺破魔矢受く 山田弘子 こぶし坂
切炬燵夜も八方に雪嶺立つ 森澄雄
雪の山かはつた脚もなかりけり 向井去来
雪の山からくる栗鼠に林檎置く 和知喜八 同齢
雪の山しりぞいて道春になる 細見綾子 花 季
雪の山も見えて花野や夢ごころ 渡辺水巴
雪の山義仲の目に憑かれ越す 大串章
雪の山巨きく巨きく凹みをり 京極杞陽 くくたち上巻
雪の山紅葉の山に隠れけり 正木ゆう子 静かな水
雪の山三角形をただ畳む 橋本鶏二
雪の山山は消えつつ雪ふれり 高屋窓秋
雪の山山は消えつゝ雪ふれり 高屋窓秋
雪の山山は消えつつ雪ふれり 高屋窓秋(1910-99)
雪の山十三輪塔雪つけゆく 八木林之介 青霞集
雪の山照る日の山毛欅に鳶下りぬ 渡邊水巴 富士
雪の山低きは花の梨畑 森鴎外
雪の山背すぢのばせば眼前に 澤村昭代
雪の山畑白真ッ平らしかし斜め 金子兜太 遊牧集
雪の山眉間に立てゝうち仰ぐ 古舘曹人 砂の音
雪の山壁の崩れに見ゆる哉 雪 正岡子規
雪の山朴ひらく日は嵐と決む 大木あまり 山の夢
雪の山遥か他界にあるごとし 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
雪の山瞽女のごとくに座りをり 仙田洋子 雲は王冠以後
雪の山翳うしなふは霞立つ 相馬遷子 山国
雪の嶺いま紅雲に護られて 相馬遷子 山河
雪の嶺うつろに照れり雁帰る 相馬遷子 雪嶺
雪の嶺にゆめいろふかき日和空 飯田蛇笏 春蘭
雪の嶺のまだゆるぎなき櫻かな 久保田万太郎 流寓抄以後
雪の嶺の霞に消えて光りけり 花蓑
雪の嶺はるか連なり梨の花 長谷川 耕畝
雪の嶺むらさき深しつひに暮る 遷子
雪の嶺を磁針のをどりつつ指せる 加藤三七子
雪の嶺四方にはしれり緋の菜干す 橋本鶏二 年輪
雪の嶺消えなんばかり鳥雲に 相馬遷子 山河
雪の嶺真紅に暮るゝ風の中 相馬遷子 山国
雪の嶺成人の日を照り通す 相馬遷子 山河
雪の嶺走らずにみな聳え立つ 山口誓子 激浪
雪の嶺地底の色の煙噴く 相馬遷子 山河
雪の嶺鳥送らんと照り交はす 矢島渚男
雪の嶺旅より戻り来てまぶし 相馬遷子 雪嶺
雪の嶺々つひに求めし本を抱き 宮坂静生 青胡桃
雪の嶺々仰ぐことなし子守姥 宮坂静生 青胡桃
雪岳が並びおり実のななかまど 和知喜八 同齢
雪岳の胸のももいろ海が見る 和知喜八 同齢
雪岳の上眼が暗く鬼がいて 和知喜八 同齢
雪沓でゆく雪山の発電所 和知喜八
雪沓の跡が雪嶺と駅を結ぶ 加藤楸邨
雪原のかなた雪嶺絹の道 片山由美子 風待月
雪山こごりげんげ田の果に海光る 栗林一石路
雪山と降る白雪と消し合ひぬ 松本たかし
雪山と寝起共にし疲れけり 阿部みどり女
雪山と雪の日輪白きかな 阿部みどり女
雪山と立ち向ひたる身一つ 伊藤柏翠
雪山に 日のあたりたる 馬のいななき 富澤赤黄男
雪山になほ降る雲か垂れて来ぬ 篠原梵 雨
雪山にひとりの眠り沈みゆく 林翔 和紙
雪山にゆふべの月のまだ白く 上村占魚 球磨
雪山に一家はたらく日の英霊 石橋辰之助 山暦
雪山に一切埋めし心のはづ 相澤静思
雪山に雲のかゝりしことありぬ 今井杏太郎
雪山に英霊の供華あたらしき 石橋辰之助 山暦
雪山に沿ふてりんごの花街道 高澤良一 燕音
雪山に何も求めず夕日消ゆ 飯田龍太
雪山に会いたる痩木とその影と 寺田京子 日の鷹
雪山に還り英霊しづかなるや 石橋辰之助
雪山に時計は遅々とすゝまざる 相馬遷子 山国
雪山に春が来てをり美しや 高木晴子 晴居
雪山に春のはじめの滝こだま 大野林火
雪山に春の川ある街住ひ 高木晴子 晴居
雪山に春の夕焼滝をなす 飯田龍太
雪山に照る日はなれて往きにけり 飯田蛇笏
雪山に水ほとばしる寒の入り 飯田蛇笏 椿花集
雪山に成層圏の蒼さ墜つ 松本詩葉子
雪山に雪の降り居る夕かな 前田普羅
雪山に雪降り重ね粥柱 陣内イサ子
雪山に雪降り夜の力充つ 日下部宵三
雪山に大汗はばむしまき哉 中勘助
雪山に灯なき電気に雪が降る 金子兜太
雪山に汝を思へば海蒼し 相馬遷子 山国
雪山に日は入り行けり風吹けり 相馬遷子 山河
雪山に白樺の白やや汚れ 福田蓼汀 山火
雪山に父の樅の木鳥見えて 大井雅人 龍岡村
雪山に噴く湯ゆたかに登別 清水寥人
雪山に頬ずりもして老いんかな 橋かんせき
雪山に頬削り来し男なり 野沢節子 鳳蝶
雪山に野を界(かぎ)られて西行忌 橋本多佳子
雪山に野を界られて西行忌 橋本多佳子
雪山に野鯉群れいて蜜の澄み 阿保恭子
雪山に野尻湖の碧沈めけり 橋本夢道
雪山に林相白を以て描き 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山に路あり路を人行かず 相馬遷子 山国
雪山に籠り牛百の他は見ず 太田土男
雪山のあなた雪山麻を績む 文挟夫佐恵 雨 月
雪山のある日老髯のさるをがせ 古舘曹人 能登の蛙
雪山のいま樹々の闇青かりし 石橋辰之助 山暦
雪山のうしろにまはり遅日光 松村蒼石
雪山のおもてをはしる機影かな 飯田蛇笏 春蘭
雪山のかがやき近き山になし 阿部みどり女
雪山のかへす光に鳥けもの 木村蕪城
雪山のきららの雪の夜を透す 石原八束 空の渚
雪山のけさ鳴きたるは橿鳥か 長谷川櫂 天球
雪山のけぶらひひとりふたり帰化 松澤昭 山處
雪山のそびえ幽らみて夜の天 飯田蛇笏
雪山のたそがれにこそあこがるる 松澤昭 面白
雪山のどこも動かず花にほふ 飯田龍太
雪山のどのみちをくる雪女郎 森 澄雄
雪山ののぞける街の羽子日和 上村占魚 球磨
雪山のひかりのこれりかの夜空 石橋辰之助 山暦
雪山のひと日のうるみ青烏 野澤節子 黄 炎
雪山のふもとの伏家初かまど 飯田蛇笏 春蘭
雪山のまなざしのなか白鳥湖 細見 綾子
雪山のみな木かげして音絶えき 飯田蛇笏
雪山のむらさきに出す凍豆腐 平沢洲石
雪山のむらたつ故園日のはじめ 飯田蛇笏 春蘭
雪山のラッセル深し膝でこぐ 矢我崎和子
雪山のゑぐれし襞に霧たてばただよふ如し愛といふこと 五島茂
雪山の旭にひとざとの鶫かな 松村蒼石 寒鶯抄
雪山の闇たゞ闇にすがりゆく 石橋辰之助
雪山の闇夜をおもふ白か黒か 正木ゆう子
雪山の遠さ発止ととどめたる 松澤昭
雪山の奥に雪山白子汁 長田喜代子
雪山の冠りみだるゝ風の星 飯田蛇笏
雪山の冠りみだるる風の星 飯田蛇笏 雪峡
雪山の岩肌をかく爪掻きし 八木林之介 青霞集
雪山の虚ろに炎立つランプ小屋 原裕 青垣
雪山の後ろにまはり遅日光 松村蒼石 寒鶯抄
雪山の向うの夜火事母なき妻 金子兜太
雪山の荒膚仰ぐ針供養 堀口星眠
雪山の今日の輝き明日ありや 阿部みどり女
雪山の昏るるゆとりに鳴る瀬かな 飯田蛇笏 春蘭
雪山の左右に揺るる歩みかな 上野泰 佐介
雪山の重なる奥の白さかな 五十嵐春男
雪山の初明りして狐罠 小坂順子
雪山の照り楪も橙も 森澄雄
雪山の障子をひらきたるかたち 齊藤美規
雪山の星見いでたし猿啼く 松村蒼石 雪
雪山の星座を数ふ指で衝き 橋本美代子
雪山の雪の立錐皆檜 橋本鶏二
雪山の雪の歇み間の一つ星 殿村莵絲子 花 季
雪山の繊翳もなく日のはじめ 飯田蛇笏 椿花集
雪山の大白妙に初烏 田村木国
雪山の端が輝き奴凧 阿部みどり女
雪山の昼も夜も寝て杉丸太 吉田紫乃
雪山の朝日に顔のちから抜く 飯田龍太
雪山の朝日英霊にわかれ浴びぬ 石橋辰之助 山暦
雪山の眺めに桑のあをみけり 松村蒼石 露
雪山の鳥の音は目をさそふなり 大串章
雪山の底なる利根の細りけり 草間時彦
雪山の堂断食の僧一人 伊藤柏翠
雪山の肌より顕るる岳かんば 関本テル
雪山の斑や近き者愛す 岸貞男
雪山の斑や友情にひゞ生ず 上田五千石 田園
雪山の斑や友清にひゞ生ず 上田五千石 田園
雪山の風樹孤島の濤と聴き 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山の風来るまでにちかづきぬ 篠原梵
雪山の聞きたる儘に現れし 京極杞陽
雪山の名を言ふ春の渚かな 山本 洋子
雪山の夜ぞねがふべきいのち忘れ 石橋辰之助
雪山の夜も聳えをり近松忌 森澄雄
雪山の夕かげふみて猟の幸 蛇笏
雪山の夕しづかさのせまりけり 橋本鶏二 年輪
雪山の夕べかげりて噴く煙 石原八束 空の渚
雪山の夕日に溶けて鳩の道 阿部みどり女
雪山の麓の山毛欅の疎林かな 京極杞陽
雪山の羞らひの白村が見え 齊藤美規
雪山の襞ぎつしりと青年期 木村敏男
雪山の鷽が来てをり春祭 加藤岳雄
雪山はうしろに聳ゆ花御堂 石井露月
雪山はゆつくり霞むかいつむり 岡井省二
雪山は雲にかくれて梅匂ふ 大熊輝一 土の香
雪山は月よりくらし貌さびし 前田普羅 飛騨紬
雪山は人の棲まざる淋しさあり 岡田日郎
雪山は晴れて港の船往来 高濱年尾 年尾句集
雪山へ眼遊ばす絵付工 羽部洞然
雪山へ顔上げつづけ一人旅 細見綾子 黄 炎
雪山へ共に快癒を祈るかな 阿部みどり女
雪山へ狐の駈けし跡いきいき 大野林火
雪山へ狐の馳けし跡いきいき 大野林火
雪山へ向ふ人数恃まるる 山田弘子 螢川
雪山へ鉄路消えゆく建国日 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
雪山みゆるこの坂いつも埃まく 川島彷徨子 榛の木
雪山も雪なき山も似し高さ 稲畑汀子
雪山や駅には駅の煙立ち 京極杞陽
雪山をぬけきし川の高鳴れる 安原 葉
雪山をのしのし匍へる鯰雲 宮坂静生 春の鹿
雪山をはなれてたまる寒の闇 飯田龍太
雪山をはひまはりゐるこだまかな 飯田蛇笏
雪山をはるけく来つる炭売女 飯田蛇笏 雪峡
雪山をへだてて見ゆる炭山疲れ 齋藤玄 『無畔』
雪山をまぢかに見つゝ通勤す 上村占魚 鮎
雪山をみせて月出ぬ古かかし 飯田蛇笏 山廬集
雪山をゆく日とどまるすべもなし 飯田蛇笏
雪山を畏みてをり源義忌 吉田鴻司
雪山を寒きところと仰ぐばかり 高柳重信
雪山を近く林檎の咲き潤ふ 長谷川かな女 雨 月
雪山を見てきし故に山見つゝ 京極杞陽
雪山を灼く月光に馬睡る 飯田龍太
雪山を手玉にとつてみたくなる 松澤 昭
雪山を前に後に耕しぬ 森田 愛子
雪山を宙にひくめて年新た 飯田蛇笏 雪峡
雪山を背にし枯れ山貧窮す 吉田嘉彦
雪山を背に立つ国境歩哨兵 深田久彌 九山句集
雪山を奔りきし水口漱ぐ 長谷川櫂 虚空
雪山を夜目にポールをまはすなり 中村汀女
雪山を容れて伽藍の大庇 伊藤柏翠
雪山を流れて水の炎となれる 原裕 葦牙
雪山を匍ひまはりゐる谺かな 飯田蛇笏
雪山を匐ひまはりゐる谺かな 蛇笏
雪山を匐ひまわりゐる谺かな 飯田蛇笏
雪山滑り降り人住むドア汚る 中山純子
雪山幾重まさしく北にポーラリス 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山真向ひもり上がりをる膝の継 川口重美
雪山想う心音は軽い音楽 一ノ瀬タカ子
雪山背にバレーのごとき白孔雀 加藤知世子 黄 炎
雪山暮るゝや天青きまゝ月ほの~ 楠目橙黄子 橙圃
雪焼けの唇割れて血がにじむ 大原雪山
雪晴れて浅間嶺すわる町の上 相馬遷子 雪嶺
雪嶺(ゆきね)を砦書を砦しなほ恋へる 川口重美
雪嶺が台座神鏡の日が一輪 岡田日郎
雪嶺が北に壁なす大暗黒 榎本冬一郎
雪嶺とスケートの子の初景色 相馬遷子
雪嶺となつて外山の大起伏 竹下しづの女 [はやて]
雪嶺となる雲中にきらめきつゝ 相馬遷子 山河
雪嶺とわれ立春の日を頒つ 相馬遷子
雪嶺と激浪のあひ貨車長し 吉野義子
雪嶺と吾との間さくら満つ 細見綾子
雪嶺と交歓に日の短かさよ 大島民郎
雪嶺と色同じくて霞立つ 相馬遷子 山河
雪嶺と倒影の間の唐辛子 中戸川朝人
雪嶺と暮色のあひを風吹けり 長谷川双魚
雪嶺にても女懐中かがみ見る 稲垣きくの 黄 瀬
雪嶺にぶつかりぶつかり凧あがる 藤岡筑邨
雪嶺にむかひて*たらの芽ぶきたる 長谷川素逝
雪嶺にむかひて高し祷りの碑 古賀まり子 降誕歌
雪嶺にわが名呼ばれぬ春の暮 奥坂まや
雪嶺に一雲すがりともに暮れ 岡田日郎
雪嶺に雲無きひと日忌を修す 勅使川原敏恵
雪嶺に遠し田があり田がありて 山口波津女 良人
雪嶺に押され梵天近づき来 利部酔咲子
雪嶺に我こそ寵児たらむとす 行方克己 昆虫記
雪嶺に汽車現れてやや久し 中村汀女
雪嶺に汽車現れてやゝ久し 汀女
雪嶺に汽車分け登る力出し(津軽路) 河野南畦 『黒い夏』
雪嶺に輝きし日も昏れそめし 上村占魚 球磨
雪嶺に駆けのぼりたき夜ぞ街へ 石橋辰之助
雪嶺に景の触れゐて月は春 皆吉爽雨
雪嶺に訣るる影を濃くしたり 行方克己 昆虫記
雪嶺に月の部落息ひそむかな 河野多希女 こころの鷹
雪嶺に後ずさりつゝ*どを沈む 森田 愛子
雪嶺に向きて雪解の簷しづく 素逝
雪嶺に向く山車蔵を開け放つ 栗田やすし
雪嶺に向ひて砂利を篩ひをり 萩原麦草 麦嵐
雪嶺に向ひて妻と洗面す 椎橋清翠
雪嶺に骨光るかに月かかる 岡田日郎
雪嶺に今年別れんとして来たり 岡田日郎
雪嶺に三日月のヒ首飛べりけり 松本たかし
雪嶺に三日月の匕首飛べりけり 松本たかし
雪嶺に産声あげて水芭蕉 渡辺和子
雪嶺に死ぬ落陽を生かしたし 細谷源二 砂金帯
雪嶺に手を振る遺影ふり返り 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に終る太陽手は垂れて 細谷源二 砂金帯
雪嶺に住む鏡掛くれなゐに 神尾久美子 掌
雪嶺に重なりて瑠璃きつき峰 内藤吐天 鳴海抄
雪嶺に瞬く星も春めけり 京極高忠
雪嶺に照りりんりんと夜明月 岡田日郎
雪嶺に真向き居並ぶ化け地蔵 岡田日郎
雪嶺に真向ふ道のあれば行く 太田土男
雪嶺に神観し朝日当るより 吉村ひさ志
雪嶺に星座の移るとんどかな 角川春樹
雪嶺に雪あらたなり実朝忌 相馬遷子
雪嶺に雪片のごと鴎飛ぶ 森田 愛子
雪嶺に対きて雪解の簷しづく 長谷川素逝 暦日
雪嶺に対したじろぎ一歩挑む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に対す籐椅子ふたつ置かれ 岸風三楼 往来
雪嶺に鷹の流るる初御空 森澄雄
雪嶺に地は大霜をもて応ふ 相馬遷子 山河
雪嶺に注連新しき若狭彦命 斎藤夏風
雪嶺に沈む満月黄を失し 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に電車久しく通らざる 山口波津女 良人
雪嶺に徒手空拳をもて対す 行方克己 昆虫記
雪嶺に発し海まで短か川 山口誓子 青銅
雪嶺に鼻梁のかげのごときもの 宮津昭彦
雪嶺に風突き当り苗代寒 石井とし夫
雪嶺に面をあげて卒業歌 岩崎健一
雪嶺に目を離し得ず珈琲のむ 岩崎照子
雪嶺に夕蒼き空残しけり 馬場移公子
雪嶺に落月白くまぎれ消ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に離り近づく桜かな 阿部みどり女
雪嶺に立つ父の過去子の未来 京極紀陽
雪嶺に礼し初湯に入りにけり 柳澤和子
雪嶺に暈の触れゐて月は春 皆吉爽雨
雪嶺に雉子全きを吊りにけり 野中亮介
雪嶺のいづかたよりの山彦ぞ 猪俣千代子 秘 色
雪嶺のうしろより雷ひびき来る 飯田晴子
雪嶺のうしろを見たき夕焼かな 太田土男
雪嶺のうつりてひろき水田かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
雪嶺のかがやきかへし花すもも 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺のかがやき集め紙乾く 細見 綾子
雪嶺のかゞやき集め紙乾く 細見綾子
雪嶺のかがやき集め紙乾く 細見綾子 黄 炎
雪嶺のかがやく祖谷の出初かな 佐原頼生
雪嶺のかげ射す車窓人睡たり 相馬遷子 山国
雪嶺のかみそり走り尾根を成す 若木一朗
雪嶺のこぞりて迫る大根漬け 駒形白露女
雪嶺のさめては鳶を放ちけり 井上三余
雪嶺のため息聴ゆ大落暉 伊達甲女
雪嶺のどこかにまぎれ鳥飛べり 岡田日郎
雪嶺のとらへがたけれ雲湧きつぎ 大島民郎
雪嶺のどれか谺をかえす発破音 田邊香代子
雪嶺のなほ彼方なる一雪嶺 右城暮石
雪嶺のひとたび暮れて顕はるる 森 澄雄
雪嶺の茜や詩論白熱す 加藤知世子 花寂び
雪嶺の威の劣へし初桜 上野弘美
雪嶺の遠き一つの名は知りて 須田冨美子
雪嶺の乙女さびしてスイス領 有働亨 汐路
雪嶺の下五日町六日町 高野素十
雪嶺の霞むといふはやさしかり 平林春子
雪嶺の我も我もと晴れ来たる 三村 純也
雪嶺の間近く泊り確かに酔ふ 鈴木鷹夫 渚通り
雪嶺の供華とし銀河懸かりけり 藤田湘子 てんてん
雪嶺の肩に雲燃え樺の花 西村公鳳
雪嶺の見えしざわめきスキーバス 行方克己 無言劇
雪嶺の見えてなかなか近づけず 冨田みのる
雪嶺の見えて漆器をつくる町 冨田みのる
雪嶺の見つめすぎたる暗さかな 猪俣千代子 秘 色
雪嶺の光や風をつらぬきて 相馬遷子
雪嶺の光わが身の内照らす 相馬遷子 山河
雪嶺の光をもらふ指輸かな 浦川聡子
雪嶺の光をもらふ指輪かな 浦川 聡子
雪嶺の佐渡の吹つ飛ぶ大嚏 小島 健
雪嶺の歯向ふ天のやさしさよ 松本たかし
雪嶺の愁眉に迫る朝かな 蓬田紀枝子
雪嶺の春やいづこの田も日射す 山口誓子
雪嶺の尚彼方なる一雪嶺 右城暮石 声と声
雪嶺の照りをうながす除夜詣 原裕 正午
雪嶺の上の青空機始め 沢木欣一
雪嶺の上の青空子は二十歳 越智千枝子
雪嶺の神々しさに鮭打たる 洲浜ゆき
雪嶺の人語翼となりて飛ぶ 小川原嘘帥
雪嶺の吹き晴れてゆく桜かな 仙田洋子
雪嶺の数見えて来し初深空 永田耕一郎
雪嶺の裾なにか播きなにか消す 木村敏男
雪嶺の裾を踏まんと来て踏むも 相馬遷子 山国
雪嶺の星おのおのの音色あり 舘野 豊
雪嶺の正装君を送るなり 福永耕二
雪嶺の青き昃りのとき浴む 木村蕪城
雪嶺の青のきびしき生糸繰る 加藤知世子
雪嶺の青みかかりぬ柏餅 阿部みどり女
雪嶺の青何処までも吾とへだつ 市川翠峯 『素木』
雪嶺の雪につづける縁の雪 遠藤梧逸
雪嶺の大を以て怒りを鎮む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺の中まぼろしの一雲嶺 岡田日郎
雪嶺の朝な影濃き園児服 原裕 葦牙
雪嶺の天に牆なす牧びらき 小林碧郎
雪嶺の天の余白は生きんため 宮坂静生 春の鹿
雪嶺の踏んばつてゐる湖国かな 大石悦子 群萌
雪嶺の覗く苗代かぐろしや 石田波郷
雪嶺の白かぎりなし總選挙 相馬遷子 雪嶺
雪嶺の白銀翳り藍に染む 粟津松彩子
雪嶺の彼方の何ともわからぬ音 加倉井秋を
雪嶺の氷の色を夜空かな 正木ゆう子 静かな水
雪嶺の浮きて流れず茜空 原裕 『青垣』
雪嶺の風繭玉に遊ぶかな 村越化石
雪嶺の並ぶかぎりの青霞 岡田日郎
雪嶺の暮れなむとしてこころの炎 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺の無言に充てる太虚かな 松本たかし
雪嶺の名をみな知らずして眺む 山口誓子 晩刻
雪嶺の目の高さなる小正月 みどり女
雪嶺の悠久年のあらたまる 阿部みどり女
雪嶺の溶け入る湖のくもりかな 矢島渚男 延年
雪嶺の裏側へなほ旅つづけ 岡田日郎
雪嶺の裏側まっかかも知れぬ 今瀬剛一
雪嶺の裏側まつかかも知れぬ 今瀬剛一
雪嶺の稜骨くろし地にも雪 相馬遷子 山河
雪嶺の冷たさいつも桜の上 細見綾子
雪嶺の麓に迫る若葉かな 野村泊月
雪嶺の麓再会と言ふ茶房 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺の煌々として年立てり 荒川文雄 『銀河』
雪嶺の襞しんしん蒼し金縷梅咲く 加藤知世子
雪嶺の襞亀裂せり父の鬱 斎藤愼爾 秋庭歌
雪嶺の襞濃く晴れぬ小松曳 杉田久女
雪嶺は 遠い切り絵で 珈琲沸いた 伊丹公子 アーギライト
雪嶺はくまなく父でありにけり 下山田禮子
雪嶺はつらなり畝はたてよこに 長谷川素逝 暦日
雪嶺は遠し田があり田がありて 波津女
雪嶺は月掲げたり友癒えよ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
雪嶺は雪嶺に向き黙し会ふ 岡田日郎
雪嶺は天の奥なり目白籠 宇佐美魚目
雪嶺は天柱をなし吾を迎ふ 伊藤彰近
雪嶺は美し道祖神手をつなぐ 坂口緑志
雪嶺は父この橋ときに酔うて帰る 齊藤美規
雪嶺は北に遠しやたんぽゝ黄 大橋桜坡子
雪嶺は襞深く立ち送水会 岡崎桂子
雪嶺へひとたび柩掲げたる 中島畦雨
雪嶺へひびき丸太を貨車積みす 榎本冬一郎 眼光
雪嶺へ杏の枝のやゝしだれ 椎橋清翠
雪嶺へ貨物車長き列と影 右城暮石 声と声
雪嶺へ戸口のくらさ猟夫住む 星眠
雪嶺へ向けチカチカと鶸の嘴 木村蕪城 寒泉
雪嶺へ酷寒満ちて澄みにけり 相馬遷子
雪嶺へ畝の伸びたり木の芽風 小島健 木の実
雪嶺へ通ふゴンドラ外より鍵 大橋敦子
雪嶺へ二輛編成にて発てり 本宮鼎三
雪嶺へ日影去りにける花野かな 渡辺水巴
雪嶺へ白魚を汲む肘上ぐる 田川飛旅子
雪嶺へ林檎の芯を投げにけり 佐久間慧子
雪嶺まで枯れ切つて胎かくされず 森澄雄
雪嶺まで行きては戻るばかりかな 平井照敏 天上大風
雪嶺も一憂一喜雲移る 堀口星眠 営巣期
雪嶺やコーヒー餓鬼のわが乾き 秋元不死男
雪嶺やどこを行つても向ひ風 ふけとしこ 鎌の刃
雪嶺やひとのこころにわれ映り 黒田杏子 花下草上
雪嶺やマラソン選手一人走る 西東三鬼
雪嶺や一つ猟銃音ありしのみ 猪俣千代子 堆 朱
雪嶺や一艇湖の色分ける 中村みよ子
雪嶺や右に首垂れイエス像 野沢節子
雪嶺や畦の焚火に誰もゐず 秋元不死男
雪嶺や口を拭ひて飯の後 岸本尚毅 舜
雪嶺や死者還らねば棺は空ら 岡田日郎
雪嶺や寝足りて耳の温かりし ふけとしこ
雪嶺や疎林の奥にゆるぎなく 筒井正子
雪嶺や誰も触れざる火縄銃 長田喜代子
雪嶺や地蔵のごとく吾を残す 渡辺七三郎
雪嶺や昼夜の膳に鱈鰊 岸本尚毅
雪嶺や頭を寄せ合つて唄ふ看護婦 岩田昌寿 地の塩
雪嶺や肉塊トラックよりおろす 藤岡筑邨
雪嶺や如来の幅に扉を開く 小島千架子
雪嶺や白眼ばかりの達磨市 渡辺白峰
雪嶺や髪刈つて首すくめゆく 永田耕一郎 方途
雪嶺や名もまぶしくて初鴉 森澄雄
雪嶺や夕ベのチャイム廊に鳴り 有働亨 汐路
雪嶺より鯨を曳いて帰るかな あざ蓉子
雪嶺より高処ホテルの桜草 神尾久美子 掌
雪嶺より水来て水菜萌えたたす 伊藤霜楓
雪嶺より来る風に耐へ枇杷の花 福田甲子雄
雪嶺より稜駈けりきて春の岬 大野林火
雪嶺よ柑橘に風吹きこぞり 下村槐太 天涯
雪嶺よ女ひらりと船にのる 石田波郷
雪嶺よ税務署の窓磨かれて 相馬遷子 雪嶺
雪嶺よ日をもて測るわが生よ 相馬遷子
雪嶺をひたくれなゐと思ひけり 中村千絵
雪嶺をひた負ひ年賀配達夫 横道秀川
雪嶺をみちづれにして詩嚢充つ 原裕 青垣
雪嶺ををろがみ杣の一日終ゆ 木村蕪城 寒泉
雪嶺を間近としてや初暦 越智哲眞
雪嶺を仰ぐキヤラメル渡されて 藤岡筑邨
雪嶺を見し網膜のあたらしき 本郷をさむ
雪嶺を見て耕して長命す 田川飛旅子
雪嶺を今年まだ見ずクリスマス 右城暮石 上下
雪嶺を左右にひらき月のぼる 橋本鶏二 年輪
雪嶺を山でたる星のはなればなれ 橋本榮治 麦生
雪嶺を讃へ落葉松芽吹くなり 長倉いさを
雪嶺を支へ百日百夜の湖 伊藤敬子
雪嶺を雌蘂とし夕日の巨花開らく 岡田日郎
雪嶺を慈母とす開拓の聖家族 岡田日郎
雪嶺を若き一日の標とす 藤田湘子 途上
雪嶺を出づ毒の川濁りなし 岡田日郎
雪嶺を出でたる星のはなればなれ 橋本 榮治
雪嶺を小さき日遅々と天づたふ 福田蓼汀 山火
雪嶺を据ゑ一故旧なき故郷 林 翔
雪嶺を西に鞴の太き息 成田千空 地霊
雪嶺を大障壁に天守閣 瀧澤伊代次
雪嶺を天にさだめる線太し 橋本鶏二
雪嶺を天の高みに田の昼餉 大野林火
雪嶺を点じ山々眠りけり 大野林火
雪嶺を背骨となしつ農夫老ゆ 小田欣一
雪嶺を負ふ映画館恋やぶれ 堀口星眠 火山灰の道
雪嶺を落ち来たる蝶小緋縅 川端茅舎
雪嶺を離るる雲とその影と 行方克己 昆虫記
雪嶺を連ねて阿蘇の火山系 山口誓子 青銅
雪嶺襖鳶は翔たんと息つめる 松本 旭
雪嶺下小橋つくろふ雪まみれ 林翔 和紙
雪嶺芽吹く嶺朝湧く力校歌創る 加藤知世子 花寂び
雪嶺輝り伊那の小梅も咲くべかり 西本一都 景色
雪嶺近き畦は塗られて夜も光る 加藤知世子
雪嶺見ゆとて傾ぎゆく一車輛 原裕 青垣
雪嶺星赴任せし夜の寝つかれず 堀井春一郎
雪嶺晴れ畦の水仙風のなか 欣一
雪嶺雪嶺を登り暮るるや西行忌 加藤知世子 黄 炎
雪嶺蒼し研師おのれを研ぎすます 長田豊秋
雪嶺燃えかぶされり夕蒼き村 岡田日郎
雪嶺美しおとこ光星仰ぐかに 源鬼彦
雪嶺描く底に羆を眠らせて 秋本敦子
雪嶺暮れ機婦等若さをもちあぐむ 宮武寒々 朱卓
雪嶺夕焼鈴高鳴らす供米車 加藤知世子 花寂び
雪嶺攀づわが影われを離れ攀づ 岡田日郎
雪嶺颪ゆふべ身ぬちに滾るもの 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雪嶺颪を毛に立て兎逃げまどふ 加藤知世子
川の淵寂寥は雪山よりくるか 川島彷徨子
川激ち雪山うつるところなし 早崎明
洗面の水の痛さの遠雪嶺 石川桂郎
羨むやかの雪嶺の若き死を 相馬遷子 雪嶺
船の銅羅かの雪嶺に谺せる 福田蓼汀 山火
全貌を見せぬ雪嶺白皚々 右城暮石
喪章はづす雪嶺ちかき野の光 鷲谷七菜子
蒼天に雲消ゆ雪嶺離りては 岡田日郎
送水会や日ののこりゐる斑雪山 猿橋統流子
霜日輪雪山の秀をつつむなり 松村蒼石 春霰
足袋つくろふ雪嶺の朝から晴れて 内藤吐天 鳴海抄
村人や雪山の威に恃み栖む 深川正一郎
大寒の夜明雪嶺微笑せり 相馬遷子 雪嶺
大雪嶺雲突き抜けて鎮もれり 大原雪山
大和にもかかる雪嶺雪金剛 右城暮石
大和にもかゝる雪嶺雪金剛 右城暮石 上下
只眠るなり雪嶺の前の山 原田喬
谷を出る線のまぼろし雪の山 和知喜八 同齢
谷展け雪嶺右へ右へ濃し 太田嗟
炭色の夜空の下の雪の山 高木晴子
短日や雪嶺天に遺されて 小野宏文
男山酒造雪山正面に 高澤良一 素抱
地のうねりつづき雪嶺遥かなり 平川雅也
地鎮めの竹担ぎ出す斑雪山 三森鉄治
竹皮を脱ぐ雪嶺に真向ひて 佐野美智
竹藪の梢に遠し雪の山 雪 正岡子規
朝ざくら雪嶺の威をゆるめざる 木村蕪城
朝な朝な笑ひこぼすや山の雪 山笑う 正岡子規
朝焼けの雪山負へる町を過ぐ 篠原梵 雨
町の上に雪嶺澄めり吹雪熄む 相馬遷子 山国
聴診器ことりと置けば雪嶺あり 岡本正敏
頂ならぶ越の雪山きのこ取り 川崎展宏
頂の夕日わづかや雪の嶺 長谷川かな女 雨 月
追分や越後路雪嶺立ち塞ぎ 福田蓼汀 秋風挽歌
鶴の墓雪嶺に向く小ささよ 神尾久美子
鉄を打つ谺短かし斑雪山 阪本 晋
天に雪嶺路のおどろに蔓もどき 石原八束 秋風琴
天へ入りゆふべ雪山結晶す 岡田日郎
天寿とは父を焼く日の遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
天帝を追ひ傾ける一雪嶺 岡田日郎
天日に我が血ふえたり雪の嶺 渡邊水巴
電線のたるみが大事雪山へ 林 庄一
東京へ東京へ車窓雪嶺しづむ 桜井博道 海上
桃の村雪山が見え鶏が鳴く 柴田白葉女 花寂び 以後
灯を消され雪山近み眠られず 村越化石 山國抄
筒鳥や雪嶺映す池しづか 鎌田八重子
豆撒くや雪山ふかきかり住居 鎌野秀々
逃げ来しにあらず雪山あたゝかし 石橋辰之助
頭たれて月に覚め居り雪の山 前田普羅 飛騨紬
堂押祭果てし夜空の雪嶺かな 本宮哲郎
鳶ないて雪山空に暮れかぬる 梅の門
鳶の声雪嶺屹つて来る日なり 永田耕一郎 雪明
曇天に雪嶺しづむ野梅かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
南北の雪嶺太陽西へ行く 津田清子 二人称
日がさしてくるはさびしや斑雪山 清崎敏郎
日のテラス雪嶺へ展べ佳人亡し 木村蕪城 寒泉
日の出時雪嶺向きを変へはじむ 永田耕一郎 雪明
日の直下立つくろがねの雪の嶺 相馬遷子 雪嶺
日の描く雪嶺の襞自在なり 阿部ひろし
日を浴びて雪嶺一座づつまどか 岡田日郎
日象と雪山ふかく水かがみ 飯田蛇笏 雪峡
入りし日が裏よりつゝむ雪の嶺 相馬遷子 山国
濡れし眼に雪嶺父の愛母の愛 伊藤敬子
年つまる鼻先にすぐ雪の山 澄雄
能登凪げり越の雪嶺総立ちに 千田一路
農耕の声雪嶺のふもとより 永田耕一郎 海絣
波の花とべば遥かな雪嶺あり 加藤有水
馬の鼻なでて雪嶺のアポイ岳 笠川弘子
馬の目のしづかに雪の山ありぬ 石田 啓
馬産む日しづかに雪嶺明けきたる 鴎昇
白きうさぎ雪の山より出でて来て殺されたれば眼を開き居り 斎藤史
白雲の中白光の一雪嶺 岡田日郎
白雲を雪嶺と見て年忘れ 阿部みどり女
白鳥にこゞしき雪の越の山 石塚友二
白鳥に雪嶺も頭を並べたり 堀口星眠 営巣期
白鳥の別れ夜空に雪嶺泛く 石原舟月
白鳥を送る雪嶺総立ちに 佐藤俊子 『雪の本丸』
麦あをみ雨中の雪嶺雲むるる 飯田蛇笏 雪峡
麦踏のたつた一人にみな雪嶺 加藤楸邨
麦踏を今朝雪嶺となり囲む 佐野美智
麦踏んで雪嶺の下の一頭顱 森澄雄
抜群の雪嶺生涯たどたどし 古舘曹人 能登の蛙
反芻の牛に遠見の斑雪山 鷲谷七菜子 花寂び
斑雪山かたくり咲ける頃とおもふ 鈴木貞雄
斑雪山にぎやかに葬の人帰る 中拓夫
斑雪山はるかに鹿が耳立てる 藤森都史子
斑雪山をりをり射せる日もまばら 堤 高嶺
斑雪山月夜は滝のこだま浴び 飯田龍太
斑雪山見えて空席多きバス 浅井一志
斑雪山四方よりせまる別れかな 永田耕一郎 雪明
斑雪山真下に機上のティータイム 塩川祐子
斑雪山半月の黄を被るなり 大野林火
斑雪山目の前に来て懸巣鳴く 和公梵字
斑雪嶺に会ふまばゆさの顔撫でて 村越化石 山國抄
斑雪嶺のふかきへ鱒を提げゆくか 村上しゆら
斑雪嶺の影のゆらぎの絵蝋燭 吉田紫乃
斑雪嶺の音霊を聴く達治の忌 伊藤貴子
斑雪嶺の暮るるを待ちて旅の酒 星野麦丘人
斑雪嶺や雀尾長も声潤ひ 行木翠葉子
斑雪嶺や風の土手ゆく郵便夫 奥田卓司
斑雪嶺や鴉の声のややに錆び ふけとしこ 鎌の刃
斑雪嶺をささふ穂高の鉄沓屋 宮坂静生 樹下
斑雪嶺を仰ぎ応挙の絵を見たり 越智照美
斑雪嶺を神とも仰ぎ棚田打つ 伊東宏晃
班雪嶺の寡黙を通す別れかな 佐藤文子
晩年の道行きどまる遠雪嶺 木村敏男
彼の背中で忽然消えている雪嶺 田邊香代子
微動せず風に研がるゝ雪の嶺 相馬遷子 山国
美しき雪山の名のシンデレラ 京極杞陽
美しき雪嶺を指す人さし指 茨木和生 木の國
病医師と病者をへだつ雪の山 三嶋隆英
貧しくて照る雪嶺を窓にせり 相馬遷子 山国
夫と語り吾と語らぬ遠雪嶺 田淵ひで 『木椅子』
浮雲いつかなし雪嶺は墓標群 福田蓼汀
父を火にしていでて雪の山なみはあり 和田光利
武藏野やあちらこちらの雪の山 雪 正岡子規
舞踏室灯せばなづむ雪嶺かな 宮武寒々 朱卓
風が棲む雪山の裾初荷行く 相馬遷子
風雲の雪嶺にふるるところあかし 矢島渚男 釆薇
風強くきりりと晴れて雪の山 阿部みどり女
風荒び雪嶺の秀を研ぎすます 前山松花
風邪の眼に雪嶺ゆらぐ二月尽 相馬遷子 山国
風邪の目に雪嶺ゆらぐ二月尽 相馬遷子
復活祭雪嶺を青き天に置く 堀口星眠 火山灰の道
噴煙をおのれまとひて雪の嶺 相馬遷子 山河
文江忌の雪嶺の蒼心にす 加藤耕子
文鎮を持ち上げるとき雪の山 鈴木鷹夫 春の門
並ぶ肥樽峰雪嶺に湧きつつあり 成田千空 地霊
米磨ぐや雪嶺いつまで夕茜 岡田日郎
壁に身をする馬や雪山眼のあたり 金子兜太
碧落に神雪嶺を彫りにける 福田蓼汀
鋪装路の果ての雪嶺に駅出でぬ 原田種茅 径
歩廊の端に余りし雪嶺の寒さ 内藤吐天
穂高ほどの名なく雪嶺にて並ぶ 篠田悌二郎
暮れ際のさくらむらさき斑雪山 堀口星眠 営巣期
暮雲おき雪嶺たゞの山に伍す 篠田悌二郎
暮雪の嶺帽なき空を掟とす 安東次男 裏山
母の死や南風の雪山きほひたつ 金尾梅の門(古志)
母の瞳の行き届くかに遠雪嶺 佐藤美恵子
母看取る何処に坐すも雪嶺見ゆ 寺田京子
崩れ簗雪嶺のぞみそめにけり 五十崎古郷句集
方位盤指す山すべて雪嶺なる 村木海獣子
北の星ばかり雪山背に迫り 中戸川朝人 残心
北へ走す雪山島に二タ並び 中戸川朝人 残心
北端の極みに雪嶺ひとつ立つ 永田耕一郎 海絣
北陸線雪嶺に沿ひ海に沿ふ 朝野早苗
牧の犬むつみ来るまゝ雪嶺ヘ 石橋辰之助 山暦
幕切れのごと雪嶺の夕日消ゆ 岡田日郎
繭玉の端雪嶺に触れてゐし 平原玉子
万才の雪嶺にかざす扇かな 志水圭志
満月の夜は翅たたむ雪の嶺 木村敏男
無情なるまで雪嶺の天聳る 榎本冬一郎 眼光
明日へ繋がる寝息雪嶺足先に 太田土男
網を引くエンジンに負荷雪嶺耀る 中戸川朝人 尋声
木菟の夜は雪嶺軒に来て立てる 堀口星眠 火山灰の道
木菟の夜は雪嶺簷に来て立てる 堀口星眠
夜が来て雪山けもののごと横たふ 吉野義子
夜の明けてをらぬ雪山見えてをり 青葉三角草
夜間飛行雪嶺と湖響きあふ 川村紫陽
矢のごとく降り雪嶺の雪となる 原裕 葦牙
夕月にとどろき暮るる一雪嶺 岡田日郎
夕凍みに青ざめならぶ雪の嶺 相馬遷子 山国
夕日さしカットグラスの一雪嶺 岡田日郎
夕日なほ濃き一群の雪嶺あり 岡田日郎
夕日落つ雪山の裏は明るからん 岡田日郎
夕風や捨子のごとく雪嶺攀づ 加藤知世子 花寂び
楊萌ゆ雪嶺天にねむれども 有働 亨
窯出しの雪山写シいかばかり(萩焼休雪白は水指にきはまり、口縁の景色まさに遠山の風趣なり) 飴山實 『次の花』
遥かよりわれにむき照る雪嶺あり 岡田日郎
来し方や雪嶺はかくあるばかり 行方克己 昆虫記
落ちてゆく日をとどめたる斑雪山 清崎敏郎
落花抜けゆく雪嶺にまみえんと 中戸川朝人 残心
落花霏々雪嶺いまも陸に聳つ 佐野まもる 海郷
落葉松の立のまばらに雪の嶺 石橋辰之助 山暦
立ち憩ふときも雪嶺に真向へり 相馬 遷子
立枯の林の上の雪の嶺 比叡 野村泊月
立春の日差雪嶺の肌燃やす 岡田日郎
流氷と羅臼の雪嶺いづれ濃き 石原八束 『風信帖』
旅人に雪嶺翼張りにけり 大橋敦子 匂 玉
糧を喰ふ手もて雪山の闇はらふ 石橋辰之助
良いときにお逝きなされて斑雪山 鳥居美智子
冷房のかつ雪嶺の絵の前に 皆吉爽雨
嶺の奥に雪山ありぬ薺摘み 飯田龍太
恋ふ寒し身は雪嶺の天に浮き 西東三鬼
恋捨てに雪山に来しが笑ひ凍る 小林康治 玄霜
練習機雪山にそひまはりくる 川島彷徨子 榛の木
連なりて雪嶺一つづつ尖る 石井いさお
連なれる雪嶺の黙天を占む 山本歩禅
炉に近き窓あり雪の山見ゆる 紅緑
狼のちらと見えけり雪の山 雪 正岡子規
狼の見えて隱れぬ雪の山 雪 正岡子規
老婆より菫を買へり雪嶺下 田川飛旅子
鷲飛びし少年の日よ雪嶺よ 多田裕計
藁屋根の端の雪嶺ことに冴え 桂信子 黄 瀬
藁灰の底の火の色雪嶺星 福田甲子雄
腕組んで唄へば雪嶺ゆらぎ出す 岩田昌寿 地の塩
梟に雪山星を加へけり 山下竹揺
泪目に殊に眩しき遠雪嶺 前山松花
炬燵焦げくさし雪嶺暮れてなし 藤岡筑邨
玻璃拭けば幸住むごとき雪の山 柴田白葉女
糀屋が春の雪嶺を見てゐたり 森澄雄
綺羅星は私語し雪嶺これを聴く 松本たかし
翔ぶことの歓喜雪嶺たたなはる 原和子
谺して雪嶺牧の子の相手 太田土男 『西那須野』
雉子喰つて目のさめたれば雪の山 沢木欣一
鷽鳴いて雪嶺天に還りけり 松本進

雪山 補遺

ああ敵に死守なし雪嶺厳かしき 山口誓子
あふぎ飲む牛乳雪嶺をまなかひに 山口青邨
いちはやく雪嶺となりて峯を統ぶ 上田五千石『森林』補遺
いや白く雪嶺媚びぬ彼岸前 相馬遷子 山河
うきうきと雪の晴れまの雪の嶺嶺 上村占魚
おぼろ月奥の雪嶺の夜は見えず 大野林火 潺潺集 昭和四十二年
かすむ雪嶺よ吾を死なしむなゆめ 山口誓子
かの雪嶺火噴きし頃の切支丹 野見山朱鳥 幻日
かの雪嶺信濃の国の遠さ以て 山口誓子
かへり見る雪山既に暮れゐたり 清崎敏郎
きのふ見し雪嶺を年移りたる 森澄雄
けふの日のしまひに雪嶺荘厳す 上田五千石 田園
けふ見ゆるとて雪嶺のたのみがたし 山口誓子
げんげんを見てむらさきの遠雪嶺 大野林火 冬雁 昭和二十二年
コーヒー飲み残して下る斑雪山 廣瀬直人
こざかしく雪嶺に回る風力計 山口誓子
こし雪の山見て障子しめにけり 原石鼎 花影
こたへなき雪山宙に労働歌 飯田蛇笏 雪峡
こだまして雪山に鶴浮び出づ 野見山朱鳥 幻日
ことごとく雪山なりしめでたさよ 高野素十
この雪嶺わが命終に顕ちて来よ 橋本多佳子
ゴビ灘のかなた万年雪の嶺 鷹羽狩行
こよひ焼くべかりしに奈良雪の山 阿波野青畝
これを見に来しぞ雪嶺大いなる 富安風生
ころ柿の粉の峭絶の雪嶺か 大野林火 雪華 昭和三十九年
さくら咲き連なり雪山の光連なり 荻原井泉水
すれちがふ汽車の窓透き雪山あり 篠原梵 年々去来の花 皿
そして眠れ 雪山散華の父の骨 伊丹三樹彦
そそり立つ雪嶺に月近くあり 上村占魚 球磨
つるぎなす雪嶺北に野辺おくり 飯田蛇笏 春蘭
てのひらに陽炎載せて雪嶺越ゆ 加藤秋邨
どこまでも雪嶺の道訣れなむ 山口誓子
とつぐ子に雪嶺月山となりて立つ 加藤秋邨
とどかざる掌にて雪嶺を撫で回す 山口誓子
ぬり上げし鉛筆の艶雪山澄む 松崎鉄之介
はこべらや雪嶺は午後うつとりす 森澄雄
はるかなる雪嶺のその創まで知る 橋本多佳子
ふぐり垂るるは寂しからずや雪嶺の間 森澄雄
ふところに一枚の櫛雪山ヘ 岡本眸
ふりむきし鷲の眼雪嶺けぶりたる 鷲谷七菜子 銃身
まだ見えぬ騎手二三人斑雪山 飯田龍太
まだ国の雪山はしり舷に雨 古沢太穂 火雲
まばたかぬ雪山のわがアトラスよ 佐藤鬼房
まんさくや町よりつゞく雪の嶺 相馬遷子 山河
めひらけば雪嶺つむれば指が立つ 加藤秋邨
ゆふべしづかに明日にも雪嶺たらむとす 山口誓子
よべの雪山白くしぬ梅花村 山口青邨
わが一生雪山つなぐ橋に揺れ 野澤節子 花季
わが雪嶺北は曇りて南顕つ 佐藤鬼房
わが博徒雪山を恋ひ果てしかな 佐藤鬼房
わが疼く眼に雪嶺の照り倦かぬ 相馬遷子 山国
わざをぎの如し雪嶺よそほへば 阿波野青畝
をのゝく日雪山にきて胸にしむ 高屋窓秋
愛語一閃雪嶺の威の囲むなか 楠本憲吉 方壺集
或る雪嶺尖るを雪嶺みな倣ふ 山口誓子
安曇野は雪嶺連なり猫柳 森澄雄
安曇野や雪嶺におよぶ晝がすみ 及川貞 夕焼
一雪嶺を赤松が抽き風鳴らす 森澄雄
一足さきに出る雪の山宿 尾崎放哉 小豆島時代
一族の墓雪嶺根より真白 橋本多佳子
一蝶に雪嶺の瑠璃なかれけり 川端茅舎
芋植ゑて雪嶺にひとかくれけり 岡井省二 明野
引鶴のごとく雪嶺かすみけり 森澄雄
隠すもの雲のほかなき雪嶺よ 右城暮石 句集外 昭和三十八年
鰻田や春の雪嶺たたなはり 岡井省二 明野
厩出し牛に雪嶺蜜のごと 森澄雄
雲しきてとほめく雪嶺年新た 飯田蛇笏 雪峡
雲をもて隠ろひ了る雪の嶺 山口誓子
雲雀たかく雪山隈に夕日照る 角川源義
雲表に雪の嶺のぞく辛夷かな 阿波野青畝
永き日の雪嶺としてうつつなす 森澄雄
越中の雪嶺芭蕉の高さなる 山口誓子
燕来る遠雪嶺の光負ひ 林翔 和紙
艶やかに雪嶺まだ出ぬ蕗の薹 相馬遷子 雪嶺
遠ざかり来て雪嶺の主峰見ゆ 右城暮石 上下
遠ぞらに雪嶺のこり機の音 鷲谷七菜子 花寂び
遠雪嶺ときに咎むるごとく顕つ 上田五千石『田園』補遺
遠雪嶺近よりがたし去りがたし 古舘曹人 能登の蛙
遠雪嶺見んと胎児とともに出づ 鷹羽狩行
遠雪嶺黒部に紅葉下りて来し 角川源義
遠天に雪山ほのと秋の暮 相馬遷子 山国
遠天に雪嶺尾根をつらねたり 水原秋櫻子 霜林
遠白き雪嶺雲の厚からむ 右城暮石 句集外 昭和四十一年
翁舞国栖の雪山屏をなす 津田清子
温泉の池に雪山映り女体透き 松本たかし
何とぬかるむ田ばかり 頑固な雪嶺ばかり 伊丹三樹彦
火の山の雪の浄衣や嶺嶺の上 松本たかし
火の山の爛れに雪の斑なる 山口誓子
霞みたる雪嶺霞の側のもの 山口誓子
霞む中雪嶺の白あでやかに 相馬遷子 雪嶺
回転のプ口ペラ雪嶺撫でやまず 山口誓子
快晴の雪嶺を観る欄の雪 松本たかし
海に聳つ雪嶺はこの陸つゞき 右城暮石 上下
海の上飛ぶ雪嶺の加護もなく 山口誓子
海港や雪嶺天に支へたる 山口誓子
外に出て雪の山畑見る月夜 大野林火 飛花集 昭和四十六年
外輪山五百重雪山を垣外にす 山口誓子
外輪山雪嶺を短山とせり 山口誓子
鴨の陣はつきり雪の山ぼうと 波多野爽波 鋪道の花
岩の背をここに露はす雪の嶺 山口誓子
頑とある雪嶺 死火口五月の北 伊丹三樹彦
寄せ雪の山成せり駅周辺は 右城暮石 天水
寄生木に雪嶺浮かみゐしが雨 木村蕪城 寒泉
汽車どちら向くも雪嶺なくなれり 右城暮石 声と声
汽車とまり遠き雪嶺とまりたり 山口誓子
汽車に寝て雪岳行の膝慄ふ 山口誓子
汽車煙雪嶺にちかくかざし寄る 山口誓子
汽車走る雪嶺の向き変りつつ 右城暮石 天水
汽罐車と雪嶺よよとかげろへり 山口誓子
祈りに似て煙はながし雪嶺下 加藤秋邨
客土馬車雪嶺天にまかがやき 大野林火 雪華 昭和三十五年
逆雪嶺うすももいろに水あかり 原裕 青垣
牛乳のむ花の雪嶺のつづきにて(長野県高遠へ二句) 細見綾子
牛鳴いて雪嶺ぬくき誕生日 秋元不死男
漁樵をり氷湖雪山こもごも照る 木村蕪城 寒泉
狂院のちなみに鴉声遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
胸を背に寄せて雪嶺重なりあふ 山口誓子
胸痛きまで雪嶺に近く来ぬ 藤田湘子 神楽
蕎麦すする越の雪嶺明けわたり 秋元不死男
暁光におのれ削ぎ立つ雪の嶺 相馬遷子 山河
暁光にけふ雪嶺となりて立つ 相馬遷子 山河
極月や雪山星をいただきて 飯田蛇笏
極月や雪山星をいたゞきて 飯田蛇笏 霊芝
近くなるほど雪嶺の威丈高 桂信子 草影
桑の芽や雪嶺のぞく峡の奥 水原秋櫻子 葛飾
群山の中系なすは雪嶺のみ 山口誓子
畦焼いてねむらず覚めず雪の嶺 森澄雄
畦焼の近づきあひぬ雪の嶺 岡井省二 明野
鶏鳴はまさに男声や雪の嶺々 中村草田男
月いでて雪山遠きすがたかな 飯田蛇笏
月いでゝ雪山遠きすがたかな 飯田蛇笏 霊芝
月光に雪嶺ひとつ覚めて立つ 相馬遷子 山河
月曇るとき雪嶺のあとずさり 上村占魚
犬吠えて峡は雪山すぐ応ふ 森澄雄
軒氷柱下がり雪嶺突き立ちぬ 松本たかし
個々に太陽ありて雪嶺全しや 西東三鬼
湖岸まで雪を垂らせる雪嶺あり 山口誓子
湖暮れて雪山ほのと残りたる 細見綾子
午後の日の雪嶺づたひや山葵採 藤田湘子
吾が降りし夜の雪嶺に残る者 山口誓子
吾子泣くか雪山かぎる杉一樹 角川源義
口笛に林語すぐ和す雪嶺晴 上田五千石 森林
孔雀小屋春の雪嶺に向へりき 飯島晴子
更科はまだ冠着の斑雪山 森澄雄
行く春を比良の雪山紫に 細見綾子
降りやみて雪山鎮む月あかり 飯田蛇笏 家郷の霧
降るとき雪岳天に群立す 山口誓子
刻々と雪嶺午後の影きざむ 相馬遷子 山国
告げざる愛雪嶺はまた雪かさね 上田五千石 田園
酷寒の白日照るや雪の嶺 相馬遷子 山河
骨太の窓枠の中雪の嶺々 中村草田男
祭典のよあけ雪嶺に眼を放つ 西東三鬼
鷺とんで直ぐ雪嶺の上に出づ 山口誓子
昨日より今日大いなり雪の嶺 相馬遷子 山河
笹飴や雪嶺濃くて昼ねむし 森澄雄
三国嶽三つの国の雪嶺なり 山口誓子
山の魂浮かび月夜の斑雪山 森澄雄
山は雪山の根がずつと張つてゐるでもあらう 中川一碧樓
山葵田に夜も日も雪の山襖 飯田龍太
山垣の奥処ひかるは雪の嶺 水原秋櫻子 霜林
山櫻雪嶺天に声もなし 水原秋櫻子 帰心
産院を繞る雪山四温光 飯田蛇笏
子を抱きて雪嶺しづかなるゆふべ 山口誓子
師の眼鏡雪山照らす木瓜の花 角川源義
指ざせし雪嶺どれが氷山 右城暮石 句集外 昭和四十三年
時かけて暮る雪嶺の白き部分 上田五千石『田園』補遺
次越や虹のごとくに遠雪嶺 角川源義
耳聡き小鳥に遠き雪の山 飯田龍太
車輪すでに雪山がかる響かな 野澤節子 花季
若楓大き傘とし雪嶺見る 角川源義
手あぶりや雪山くらき線となりぬ 大野林火 早桃 太白集
酒場既に灯雪山遠く日あたりて 日野草城
終着駅立ちはだかれる斑雪山 松崎鉄之介
出航の花束で指す遠雪嶺 鷹羽狩行
春空にして雪嶺を夢の数 森澄雄
春耕の顔上ぐるたび雪の嶺 右城暮石 虻峠
春雪嶺壮行の旗群を解く 上田五千石『田園』補遺
初蝶や雪山恍と雲の上 松村蒼石 寒鶯抄
書架組めば春の雪嶺みそなはす 秋元不死男
勝を祝ぐ雪嶺の裏も雲なしに 山口誓子
小春日や雪嶺浅間南面し 相馬遷子 山河
松原の見こしに白し雪の山 正岡子規 雪
照り翳り照るアルプスの雪の嶺々 鷹羽狩行
乗初めのすぐ雪嶺と対ひあふ 上田五千石 風景
信濃は雪山をめぐらす城山の花にして 荻原井泉水
信濃まで霞みて雪の嶺見えず 鷹羽狩行
心には美濃の雪嶺としてしたしむ 山口誓子
新樹の道雪嶺に向き背まつ直ぐ 細見綾子
親不知雪嶺下り来てここに落つ 山口誓子
身にあまる白さに堪へて雪の嶺 相馬遷子 山河
身は萎えて気はまだ確か雪嶺よ 相馬遷子 山河
辛夷咲き浅間嶺雪を梳る 相馬遷子 雪嶺
針落ちし音雪嶺にひびきけり 秋元不死男
人の許へ雪山たゝむ敦賀湾 細見綾子
水のんできて雪嶺の濃くなりぬ 加藤秋邨
水鳥に凍てはとほらず逆雪嶺 原裕 青垣
雛祭雪嶺ばかりが白みそむ 森澄雄
杉檜賞めてめぐれば雪嶺照る 上田五千石『天路』補遺
瀬を岐れ来る春水や雪嶺聳ち 右城暮石 句集外 昭和二十七年
西は雪の山山春おおらかに日の入りし空 荻原井泉水
西行忌班雪の山を見てゐたり 森澄雄
青き野の果の雪嶺眉に感じ 細見綾子
切炬燵夜も八方に雪嶺立つ 森澄雄
雪ぐもる雲ゐに佐渡の雪の山 上村占魚
雪のなき山雪嶺の裾かくす 右城暮石 句集外 昭和三十八年
雪の屋根雪の山膚近く竝み 清崎敏郎
雪の山から海苔ひびに朝日さす 飯田龍太
雪の山から帰つて来たゆふぐれわが家の廂 中川一碧樓
雪の山が空に輝く恵方かな 右城暮石 句集外 昭和二年
雪の山くつがへらんず鬼女棲むと 山口青邨
雪の山とほくなりゆき襞立ちぬ 篠原梵 年々去来の花 皿
雪の山にはかに顔の前に立つ 有馬朗人 母国
雪の山はだかり暮れて谿寒むし 水原秋櫻子 新樹
雪の山を眺めに軒の出入かな 右城暮石 句集外 大正十五年
雪の山見ゆるがせめて嬉しけれ 高野素十
雪の山山は消えつゝ雪ふれり 高屋窓秋
雪の山照る日の山毛欅に鳶下りぬ 渡邊水巴 富士
雪の山畑白真ッ平らしかし斜め 金子兜太
雪の山眉間に立てゝうち仰ぐ 古舘曹人 砂の音
雪の山壁の崩れに見ゆる哉 正岡子規 雪
雪の山夜空をせばめ立ち並ぶ 水原秋櫻子 秋苑
雪の山夕映えてをり馬を練る 日野草城
雪の山翳うしなふは霞立つ 相馬遷子 山国
雪の上に雪山かすむ朴の花 松崎鉄之介
雪の嶺いま紅雲に護られて 相馬遷子 山河
雪の嶺うつろに照れり雁帰る 相馬遷子 雪嶺
雪の嶺にゆめいろふかき日和空 飯田蛇笏 春蘭
雪の嶺むらさき深しつひに暮る 相馬遷子 山河
雪の嶺仮りに滋賀県側にをる 山口誓子
雪の嶺消えなんばかり鳥雲に 相馬遷子 山河
雪の嶺真紅に暮るゝ風の中 相馬遷子 山国
雪の嶺成人の日を照り通す 相馬遷子 山河
雪の嶺聖岳ぞと見てとほき 水原秋櫻子 浮葉抄
雪の嶺走らずにみな聳え立つ 山口誓子
雪の嶺地底の色の煙噴く 相馬遷子 山河
雪の嶺朝日がさしてなまなまし 山口誓子
雪の嶺天に溶け入り春祭 草間時彦 中年
雪の嶺旅より戻り来てまぶし 相馬遷子 雪嶺
雪の嶺々の平らな山が春呼ばふ 大野林火 潺潺集 昭和四十三年
雪の嶺々琴柱の如し無絃の楽 中村草田男
雪やまずひとりとなりて出羽の酒 角川源義
雪を被て富士も伊吹も雪嶺なり 山口誓子
雪雲の通路の伊吹雪嶺なり 山口誓子
雪解水こんこんと野に雪嶺照る 角川源義
雪岳と天守を護る天守を歩し 山口誓子
雪更に厚き雪嶺現れし 右城暮石 虻峠
雪国の雪嶺弔辞に答なし 鷹羽狩行
雪国の雪嶺木の花より美し 山口誓子
雪三たび来て雪嶺となりにけり 水原秋櫻子 重陽
雪山が負ふ幻の嶺二つ 佐藤鬼房
雪山と雲とのあはひ鳥帰る 森澄雄
雪山と降る白雪と消し合ひぬ 松本たかし
雪山に 日のあたりたる 馬のいななき 富澤赤黄男
雪山になほ降る雲か垂れて来ぬ 篠原梵 年々去来の花 雨
雪山にひとりの眠り沈みゆく 林翔 和紙
雪山にゆふべの月のまだ白く 上村占魚 球磨
雪山に位あり老いても兵に位 松崎鉄之介
雪山に一つの入江飯の浦 高野素十
雪山に何も求めず夕日消ゆ 飯田龍太
雪山に近づくわれに雲垂れ来 大野林火 白幡南町 昭和三十年
雪山に憩ひ明日思ふうつゝなき 高屋窓秋
雪山に時計は遅々とすゝまざる 相馬遷子 山国
雪山に春のはじめの滝こだま 大野林火 潺潺集 昭和四十二年
雪山に春の夕焼滝をなす 飯田龍太
雪山に照る日はなれて往きにけり 飯田蛇笏 家郷の霧
雪山に食ひものありて犬は食ふ 山口誓子
雪山に水ほとばしる寒の入り 飯田蛇笏
雪山に水銀燈を消し忘れ 山口誓子
雪山に星が矢を射る父母の国 飯田龍太
雪山に雪の道あり白白と 松本たかし
雪山に雪降り友の妻も老ゆ 西東三鬼
雪山に漕ぎ入り謡などうなる 佐藤鬼房
雪山に打てばとび散る蔓もどき 飯田龍太
雪山に対し州庁舎の威容 高浜年尾
雪山に朝の樫の木さかんなり 飯田龍太
雪山に灯なき電気に雪が降る 金子兜太
雪山に汝を思へば海蒼し 相馬遷子 山国
雪山に虹のをはりのいろしづか 飯田龍太
雪山に虹の尾たらしはたた神 角川源義
雪山に日が真赤ぞな薺打 岸田稚魚 紅葉山
雪山に日は入り行けり風吹けり 相馬遷子 山河
雪山に燃え来よ嫁かぬ事務乙女 藤田湘子 途上
雪山に白樺の白やや汚れ 福田蓼汀 山火
雪山に頬ずりもして老いんかな 橋閒石 微光
雪山に頬削り来し男なり 野澤節子 鳳蝶
雪山に無韻の流れ一と筋に 飯田蛇笏 家郷の霧
雪山に野を界(かぎ)られて西行忌 橋本多佳子
雪山に野村万蔵手をかざし 高野素十
雪山に林相白を以て描き 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山に路あり路を人行かず 相馬遷子 山国
雪山のあきらかにして自愛見ゆ 森澄雄
雪山のある日老髯のさるをがせ 古舘曹人 能登の蛙
雪山のおもてをはしる機影かな 飯田蛇笏 春蘭
雪山のかへす光に鳥けもの 木村蕪城 寒泉
雪山のしづけさの中に吾ゐたり 村山故郷
雪山のそびえ幽らみて夜の天 飯田蛇笏 雪峡
雪山のつき出してあり鮭の海 高野素十
雪山のどこも動かず花にほふ 飯田龍太
雪山のどのみちをくる雪女郎 森澄雄
雪山ののぞける街の羽子日和 上村占魚 球磨
雪山のふところ深く行く列車 高浜年尾
雪山のふもとの伏家初かまど 飯田蛇笏 春蘭
雪山のまなざしのなか白鳥湖 細見綾子 曼陀羅
雪山のみな木かげして音絶えき 飯田蛇笏 雪峡
雪山のむらたつ故園日のはじめ 飯田蛇笏 春蘭
雪山の旭にひとざとの鶫かな 松村蒼石 寒鶯抄
雪山の遠目に煙る林かな 川端茅舎
雪山の絵を見て選ぶ雪眼鏡 後藤比奈夫
雪山の冠りみだるる風の星 飯田蛇笏 雪峡
雪山の幾襞遠く曇りなし 飯田蛇笏 家郷の霧
雪山の虚ろに炎立つランプ小屋 原裕 青垣
雪山の金色の線引くところ 川端茅舎
雪山の午下はけぶろふ桃の花 上田五千石 天路
雪山の後ろにまはり遅日光 松村蒼石 寒鶯抄
雪山の向うの夜火事母なき妻 金子兜太
雪山の昏るるゆとりに鳴る瀬かな 飯田蛇笏 春蘭
雪山の左右に揺るる歩みかな 上野泰 佐介
雪山の照り楪も橙も 森澄雄
雪山の裾とどまれば畦木立つ 廣瀬直人
雪山の星見いでたし猿啼く 松村蒼石 雪
雪山の雪谷を出て魚野川 森澄雄
雪山の泉の鯉を苞にせる 水原秋櫻子 蓬壺
雪山の繊翳もなく日のはじめ 飯田蛇笏
雪山の前に目立たぬ雪の山 桂信子 緑夜
雪山の前の煙の動かざる 高野素十
雪山の大汝とはなつかしや 高野素十
雪山の底なる利根の細りけり 草間時彦 中年
雪山の底に方等般若落つ 川端茅舎
雪山の内懐に岳友葬 上田五千石『田園』補遺
雪山の日にかゞやきて雪崩前 鈴木真砂女
雪山の肌をはなれて雲移る 飯田蛇笏 家郷の霧
雪山の肌朗々と雉子鳴く 飯田龍太
雪山の斑や友情にひゞ生ず 上田五千石 田園
雪山の眉を上げゐる春の夕 森澄雄
雪山の風樹孤島の濤と聴き 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山の風来るまでにちかづきぬ 篠原梵 年々去来の花 雨
雪山の没日を咥へ飛びたしや 佐藤鬼房
雪山の木々の根もとの息吹かな 飴山實 おりいぶ
雪山の夕かげふみて猟の幸 飯田蛇笏 春蘭
雪山の夕日の斜面近くゆく 飯田蛇笏 家郷の霧
雪山の翼ひらけば蔓もどき 飯田龍太
雪山の梨ケ平は十七戸 高野素十
雪山の立木の並び見の正し 松本たかし
雪山の麓のポスト尊くて 川端茅舎
雪山の谺金輪際を這ふ 川端茅舎
雪山はゆつくり霞むかいつむり 岡井省二 明野
雪山は月よりくらし貌さびし 前田普羅 飛騨紬
雪山へ顔上げつづけ一人旅 細見綾子
雪山へ狐の馳けし跡いきいき 大野林火 白幡南町 昭和三十年
雪山へ行きし日焼や松の内 水原秋櫻子 蘆雁
雪山へ成人の日の道通ず 百合山羽公 樂土
雪山へ雪吹きかへす最上川 上村占魚
雪山も雪なき山も似し高さ 稲畑汀子
雪山も其を見る人も屹と立つ 林翔
雪山や正しく胸のかたすみに 飯田龍太
雪山をはなれてたまる寒の闇 飯田龍太
雪山をはるけく来つる炭売女 飯田蛇笏 雪峡
雪山をまぢかに見つゝ通勤す 上村占魚 鮎
雪山をみせて月出ぬ古かかし 飯田蛇笏 山廬集
雪山をめぐらす國土日のはじめ 飯田蛇笏 家郷の霧
雪山をゆく日とどまるすべもなし 飯田蛇笏
雪山を雲海の涯に見て登る 松崎鉄之介
雪山を冠りつららの峡は裂け 川端茅舎
雪山を見し眼うつらふペンの先 飯田龍太
雪山を見てならぶショールのまぶしくも 飯田龍太
雪山を行く電線のかすかなる 山口誓子
雪山を指して確認転轍手 松崎鉄之介
雪山を灼く月光に馬睡る 飯田龍太
雪山を手招いてゐる山の木か 飯田龍太
雪山を出でたる風の雲に入る 飯田龍太
雪山を宙にひくめて年新た 飯田蛇笏 雪峡
雪山を浮べて春のはやて村 森澄雄
雪山を蔽ふまひるの黝き海 飯田蛇笏 家郷の霧
雪山を夜目にポールをまはすなり 中村汀女
雪山を流れて水の炎となれる 原裕 葦牙
雪山を匐ひまわりゐる谺かな 飯田蛇笏 霊芝
雪山幾重まさしく北にポーラリス 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山呼ぶO(オー)の形の口赤く 西東三鬼
雪山暮れきれば月するどし 荻原井泉水
雪晴れて浅間嶺すわる町の上 相馬遷子 雪嶺
雪掻きて雪嶺に白き道つくる 山口誓子
雪嶺ある陸を離れて海を飛ぶ 山口誓子
雪嶺かがよう峡の口なる宵の星 金子兜太
雪嶺が遠き雪嶺よびつづけ 橋本多佳子
雪嶺が雪嶺を負ひ紙漉き老ゆ 橋本多佳子
雪嶺さめゆく一赤松の秀が日ざし 森澄雄
雪嶺として霞の中をなほ白め 山口誓子
雪嶺として聳つ御嶽教の山 山口誓子
雪嶺とスケートの子の初景色 相馬遷子 雪嶺
雪嶺となりて遠嶺の名乗り出づ 上田五千石『田園』補遺
雪嶺となる雲中にきらめきつゝ 相馬遷子 山河
雪嶺とはならずしづかに天を占む 山口誓子
雪嶺とわれ立春の日を頒つ 相馬遷子 雪嶺
雪嶺と月と燃えゐる冷たさよ 松本たかし
雪嶺と月光の宙残し寝る 大野林火 雪華 昭和三十五年
雪嶺と吾との間さくら満つ 細見綾子 伎藝天
雪嶺と色同じくて霞立つ 相馬遷子 山河
雪嶺と青嶺のやどる雪しろ湖 角川源義
雪嶺と童女五月高野のかがやけり 橋本多佳子
雪嶺にこころひかれて陽の歩み 飯田蛇笏 家郷の霧
雪嶺にのびて無欠の飛行雲 平畑静塔
雪嶺には野焼あそびの火と見えむ 平畑静塔
雪嶺にも主と副天の中にして 山口誓子
雪嶺に岩尖りゐて雪積まず 山口誓子
雪嶺に汽車現はれてやや久し 中村汀女
雪嶺に輝きし日も昏れそめし 上村占魚 球磨
雪嶺に近づく歩みなるわが家 細見綾子
雪嶺に甲乙のある端山かな 阿波野青畝
雪嶺に甲斐の紺天あとずさる 上田五千石『森林』補遺
雪嶺に三日月の匕首(ひしゅ)飛べりけり 松本たかし
雪嶺に死ぬ落陽を生かしたし 細谷源二 砂金帯
雪嶺に手を振る遺影ふり返り 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に終る太陽手は垂れて 細谷源二 砂金帯
雪嶺に消えし夕映鮟鱇割く 岡井省二 明野
雪嶺に条紋の蝶かがやかず 川端茅舎
雪嶺に雪あらたなり実朝忌 相馬遷子 山河
雪嶺に雪よぶ鴉きえにけり 角川源義
雪嶺に対きて雪解の簷しづく 長谷川素逝 暦日
雪嶺に対したじろぎ一歩挑む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に地は大霜をもて応ふ 相馬遷子 山河
雪嶺に朝日「永遠に女性なるものへ」 上田五千石『田園』補遺
雪嶺に沈む満月黄を失し 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に凍て観覧車解を待つ 山口誓子
雪嶺に日常のわが書の新た 飯田蛇笏 家郷の霧
雪嶺に白くならざる芒原 山口誓子
雪嶺に発し海まで短か川 山口誓子
雪嶺に風立つ男日和かな 上田五千石 森林
雪嶺に揚げたる声や四月尽 細見綾子
雪嶺に落月白くまぎれ消ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺のありかや旅の夏爐焚き 中村汀女
雪嶺のうつる田植をしてゐたり(佐渡) 細見綾子
雪嶺のかがやき集め紙乾く 細見綾子 和語
雪嶺のかげ射す車窓人睡たり 相馬遷子 山国
雪嶺のがれ煎餅買ふ掌に雪の声 角川源義
雪嶺のそばだつ畦の子供かな 富安風生
雪嶺のひかり恋しく唇を吸う 赤尾兜子 蛇
雪嶺のひとたび暮れて顕はるる 森澄雄
雪嶺の位高きは奥に坐し 上田五千石『森林』補遺
雪嶺の囲む盆地の石の街 大野林火 飛花集 昭和四十五年
雪嶺の一つ日当りかゞやけり 右城暮石 句集外 昭和三十八年
雪嶺の運河の道を送らるる 山口誓子
雪嶺の影雪嶺に尖りけり 松崎鉄之介
雪嶺の遠さよ袂連ね行く 山口誓子
雪嶺の下にクレタの富士聳てり 山口誓子
雪嶺の下に胎児を養ふも 鷹羽狩行
雪嶺の下五日町六日町 高野素十
雪嶺の下病む者を搬びけり 山口誓子
雪嶺の供華とし銀河懸かりけり 藤田湘子 てんてん
雪嶺の靴あと女なりしを踏む 山口誓子
雪嶺の月の照らせる波一つ 野見山朱鳥 運命
雪嶺の光や風をつらぬきて 相馬遷子 雪嶺
雪嶺の光わが身の内照らす 相馬遷子 山河
雪嶺の光輝を煽り飛ぶ白鳥 佐藤鬼房
雪嶺の紅を含みて輝けり 松本たかし
雪嶺の黒く夜明に連亙す 山口誓子
雪嶺の最高峰に向へる眼 松本たかし
雪嶺の歯向ふ天のやさしさよ 松本たかし
雪嶺の手がかりもなき胸壁よ 山口誓子
雪嶺の春やいづこの田も日射す 山口誓子
雪嶺の尚彼方なる一雪嶺 右城暮石 声と声
雪嶺の裾を踏まんと来て踏むも 相馬遷子 山国
雪嶺の青き昃りのとき浴む 木村蕪城 寒泉
雪嶺の青く震ひぬ夜の鏡 桂信子 草影
雪嶺の赤恵那として夕日中 橋本多佳子
雪嶺の折るるばかりの鋭さよ 松本たかし
雪嶺の雪の平は山上湖 山口誓子
雪嶺の雪乱るるところ襞乱る 山口青邨
雪嶺の前朴の花朝茶の湯 山口青邨
雪嶺の大を以て怒りを鎮む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺の大を数ふや十座余り 松本たかし
雪嶺の大三角を鎌と呼ぶ 山口誓子
雪嶺の朝な影濃き園児服 原裕 葦牙
雪嶺の二月南方戦果に満つ 山口誓子
雪嶺の覗く苗代かぐろしや 石田波郷
雪嶺の白かぎりなし總選挙 相馬遷子 雪嶺
雪嶺の白きがいたく霞みたり 山口誓子
雪嶺の薄肩尾根の薄ければ 山口誓子
雪嶺の尾根が陥ち来て親不知 山口誓子
雪嶺の浮きて流れず茜空 原裕 青垣
雪嶺の方へともなく逍遥す 上田五千石 風景
雪嶺の無言に充てる太虚かな 松本たかし
雪嶺の名をみな知らずして眺む 山口誓子
雪嶺の裏へ白夜の日が廻る 有馬朗人 耳順
雪嶺の稜骨くろし地にも雪 相馬遷子 山河
雪嶺の冷たさいつも桜の上(長野県高遠へ四句) 細見綾子
雪嶺の麓再会と言ふ茶房 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺の皓体雲の環(わ)をまとひ 松本たかし
雪嶺の緻密な雪の上を飛ぶ 山口誓子
雪嶺の蹤き来ずなりて帰路寧し 上田五千石『田園』補遺
雪嶺はつらなり畝はたてよこに 長谷川素逝 暦日
雪嶺ははなびら鎌も御在所も 山口誓子
雪嶺は湖畔の榛をひきたてぬ 阿波野青畝
雪嶺は燦うなゐ子は蒲公英を 山口青邨
雪嶺ひらく常念の座を真中に 森澄雄
雪嶺へゆく目もどる目煙たつ 加藤秋邨
雪嶺へわさび根分けの目を上ぐる(長野県安曇山葵田二句) 細見綾子
雪嶺へ貨物車長き列と影 右城暮石 声と声
雪嶺へ向きはつきりと肯定語 藤田湘子 神楽
雪嶺へ向けチカチカと鶸の嘴 木村蕪城 寒泉
雪嶺へ喉のびて鶏鳴となる 橋閒石
雪嶺へ酷寒満ちて澄みにけり 相馬遷子 山国
雪嶺へ日暮紫寄するまで(長野県安曇山葵田二句) 細見綾子
雪嶺まで枯れ切つて胎かくされず 森澄雄
雪嶺まで行かずに未亡人の家 山口誓子
雪嶺まで行きては戻るばかりかな 平井照敏 天上大風
雪嶺みなわが故旧天守降りがたき 山口誓子
雪嶺みな越後境に根を下す 山口誓子
雪嶺も見えずもてなす何もなし 山口誓子
雪嶺やいまに誦して純愛詩 上田五千石『天路』補遺
雪嶺やいま口閉ぢて牡蠣そだつ 加藤秋邨
雪嶺やマラソン選手一人走る 西東三鬼
雪嶺や右に首垂れイエス像 野澤節子 鳳蝶
雪嶺や果樹園に斧谺して 藤田湘子 途上
雪嶺や火花発して独楽遊び 山口誓子
雪嶺や牛先立てて牛男 森澄雄
雪嶺や群鳥樹頭を見すて見すて 中村草田男
雪嶺や畦の焚火に誰もゐず 秋元不死男
雪嶺や甲斐の蓬はしろがねに 石田勝彦 百千
雪嶺や号泣を野にしづめ得ず 上田五千石『田園』補遺
雪嶺や春のゆふべの村の屋根 草間時彦
雪嶺や榛のさびしき雪間萌え 森澄雄
雪嶺や天龍に家屯して 森澄雄
雪嶺や田にまだなにもはじまらず 森澄雄
雪嶺や日本に雪頓節ぞ欲し 岡井省二 鯛の鯛
雪嶺や肌幾重にもむすびあひ 中村草田男
雪嶺や名もまぶしくて初鴉 森澄雄
雪嶺よさくらの園となりにけり 高屋窓秋
雪嶺より出でて二川とも涸川 山口誓子
雪嶺より春の旭を得て林檎店 森澄雄
雪嶺より低くなりゆく吾が機席 山口誓子
雪嶺より稜駈けりきて春の岬 大野林火 潺潺集 昭和四十一年
雪嶺よ柑橘に風吹きこぞり 下村槐太 天涯
雪嶺よ女ひらりと船に乗る 石田波郷
雪嶺よ税務署の窓磨かれて 相馬遷子 雪嶺
雪嶺よ日をもて測るわが生よ 相馬遷子 山河
雪嶺をかぞへあまさずかなしみき 加藤秋邨
雪嶺をたたむ山山うづくまり 阿波野青畝
雪嶺をはるか国仲平野かな 細見綾子
雪嶺をひきゐ野に出る川の幅 上田五千石 風景
雪嶺をみちづれにして詩嚢充つ 原裕 青垣
雪嶺をわたる陽ここに四度の瀧 飯田蛇笏 家郷の霧
雪嶺ををろがみ杣の一日終ゆ 木村蕪城 寒泉
雪嶺を何時発ちて来し疾風ならむ 山口誓子
雪嶺を空にし人はあひわかる 橋本多佳子
雪嶺を見わたす湖の桟橋に 右城暮石 句集外 昭和三十八年
雪嶺を光去りまた光射す 野見山朱鳥 愁絶
雪嶺を光源として白夜かな 上田五千石『田園』補遺
雪嶺を今年まだ見ずクリスマス 右城暮石 上下
雪嶺を削ぎ落したる 日本海 伊丹三樹彦
雪嶺を遮二無二攀づる誕生日 赤尾兜子 蛇
雪嶺を若き一日の標とす 藤田湘子 途上
雪嶺を小さき日遅々と天づたふ 福田蓼汀 山火
雪嶺を据ゑ一故旧なき故郷 林翔
雪嶺を雪なき伊勢にゐて眺む 山口誓子
雪嶺を全掲風の日のために 鷹羽狩行
雪嶺を低め低めて信濃川 森澄雄
雪嶺を天の高みに田の昼餉 大野林火 雪華 昭和三十五年
雪嶺を点じ山々眠りけり 大野林火 青水輪 昭和二十三年
雪嶺を登る道白歴歴と 山口誓子
雪嶺を落ち来たる蝶小緋縅 川端茅舎
雪嶺を連ねて阿蘇の火山系 山口誓子
雪嶺を玻璃戸開きて凝視なす 山口誓子
雪嶺遠し落葉松新樹立ち並ぶ 右城暮石 句集外 昭和五十四年
雪嶺下小橋つくろふ雪まみれ 林翔 和紙
雪嶺下鳶を翁と思ひをり 岡井省二 明野
雪嶺下抱き上ぐる児の腹が見え 山口誓子
雪嶺下藍つぼ紅つぼ深し深し 橋本多佳子
雪嶺見せ影も明るし真田村 松崎鉄之介
雪嶺見て子等は天守に瞼張る 山口誓子
雪嶺見て灼鉄を打つ町通る 山口誓子
雪嶺見て天守に吾等君は監守 山口誓子
雪嶺見て天守降りざる一人の靴 山口誓子
雪嶺見て歩くうちにも日は暮るゝ 山口誓子
雪嶺見ゆとて傾ぎゆく一車輛 原裕 青垣
雪嶺見る薄き草履を天守に履き 山口誓子
雪嶺見る名古屋平城よりけふは 山口誓子
雪嶺見る睫毛天守に瞬き 山口誓子
雪嶺残照五十の坂の戦友ら 松崎鉄之介
雪嶺星言葉にちかき光だす 鷹羽狩行
雪嶺星瞳ににじむ旅半ば 上田五千石『田園』補遺
雪嶺星旅の早寝を強ひられて 上田五千石『天路』補遺
雪嶺暮れ城も蔀を下さうとする 山口誓子
雪嶺無く極地は雪の平のみ 山口誓子
雪嶺名乗らず遠くより出で迎ふ 山口誓子
雪嶺立つ四十の熱き血の彼方 能村登四郎
雪嶺立つ北の鬼房望むため 平畑静塔
雪熄めば遠雪嶺も現るゝ 右城暮石 句集外 昭和三十一年
仙丈そのほか一々雪山のその名にうなずく 荻原井泉水
羨むやかの雪嶺の若き死を 相馬遷子 雪嶺
船の銅羅かの雪嶺に谺せる 福田蓼汀 山火
船は皆出てしまひ雪の山山なり 尾崎放哉 一燈園時代
全貌を見せぬ雪嶺の白皚々 右城暮石 句集外 昭和三十三年
禅寺の屋根落ちし雪山を成す 右城暮石 句集外 昭和五十九年
僧ひとりまじりて仰ぐ雪の山 飯田龍太
双眼鏡の双眼こらし雪嶺見る 山口誓子
喪章はづす雪嶺ちかき野の光り 鷲谷七菜子 黄炎
蒼天の彼の雪嶺の鎌尾根よ 松本たかし
大寒の夜明雪嶺微笑せり 相馬遷子 雪嶺
大日の顔雪嶺に立ちをれば 山口誓子
大和にもかゝる雪嶺雪金剛 右城暮石 上下
凧あがる斑雪の山の面かな 清崎敏郎
淡海の奥の奥には雪嶺立つ 山口誓子
地図を羞ぢず雪嶺見ゆる天守に来ぬ 山口誓子
馳す雪嶺紅雲ちぎりちぎり捨て 上田五千石『田園』補遺
竹藪の梢に遠し雪の山 正岡子規 雪
中空に相寄り昏れる雪の嶺 桂信子 緑夜
中継の後もマラソン雪嶺へ 鷹羽狩行
朝焼けの雪山負へる町を過ぐ 篠原梵 年々去来の花 雨
朝日射す斑雪嶺に対きわが暗し 岸田稚魚 負け犬
町に燈が点いて暮れゆく雪の嶺 山口誓子
町の上に雪嶺澄めり吹雪熄む 相馬遷子 山国
長きトンネル出て雪山の夕かな 村山故郷
鳥帰る雪嶺の肩雲の間に 大野林火 潺潺集 昭和四十三年
津軽とて梅雨青雲に雪の山 水原秋櫻子 帰心
追分や越後路雪嶺立ち塞ぎ 福田蓼汀 秋風挽歌
鶴舞ふや雪嶺遠き世を距て 野見山朱鳥 幻日
鉄橋の影水にある雪の山 飯田龍太
天に尖りて雪嶺と吾と立つ 山口誓子
天守の雪嶺參を見むと靴脱げり 山口誓子
天寿とは父を焼く日の遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
天日に我が血ふえたり雪の嶺 渡邊水巴 富士
田掻牛海に向くとき雪嶺照る 角川源義
田返して杏の花を雪嶺下 森澄雄
搭乗機まで雪嶺の反射光 山口誓子
湯檜曽水上すぎて雪山に日暮るゝ 村山故郷
透くばかり雪嶺いまは天のもの 大野林火 方円集 昭和四十九年
頭たれて月に覚め居り雪の山 前田普羅 飛騨紬
二階より雪の山見て春やすみ 雨滴集 星野麥丘人
日がさしてきて照りそめし斑雪山 清崎敏郎
日がさしてくるはさびしや斑雪山 清崎敏郎
日のテラス雪嶺へ展べ佳人亡し 木村蕪城 寒泉
日の直下立つくろがねの雪の嶺 相馬遷子 雪嶺
日の当りをる雪山の雪げむり 右城暮石 句集外 昭和四十九年
日もすがら日当りてゐし雪山か 清崎敏郎
日りんに耐ふる雪嶺雲を絶え 飯田蛇笏 家郷の霧
日象と雪山ふかく水かがみ 飯田蛇笏 雪峡
日没るとき隠れ雪嶺に光当つ 上田五千石『森林』補遺
日本海の雲つどひ侍す雪嶺あり 村山故郷
乳牛に遠き雪嶺の遅日光 廣瀬直人 帰路
入りし日が裏よりつゝむ雪の嶺 相馬遷子 山国
年つまる鼻先にすぐ雪の山 森澄雄
馬車ゆけり春の雪嶺照る下を 草間時彦 中年
梅雨川を従へ雪嶺海に向く 角川源義
梅折つて雪山遠く帰るの図 山口青邨
白蝶に越の雪嶺も末期なり 山口誓子
白鳥にこごしき雪の越の山 石塚友二 曠日
白鳥の帰北うながす斑雪山 野澤節子 八朶集
白鳥去り雪嶺のやや老兆す 能村登四郎
白鳥見て雪山を見て戻りたる(新潟県、瓢湖六句) 細見綾子
麦あをみ雨中の雪嶺雲むるる 飯田蛇笏 雪峡
麦踏のたつた一人にみな雪嶺 加藤秋邨
八方に雪山ばかり年用意 角川源義
抜群の雪嶺生涯たどたどし 古舘曹人 能登の蛙
半月に向きかはりしがまた雪嶺 加藤秋邨
半月に今昔もなき斑雪山 森澄雄
反芻の牛に遠見の斑雪山 鷲谷七菜子 花寂び
斑雪山月夜は滝のこだま浴び 飯田龍太
斑雪山魂のいろいろ宙に充ち 飯田龍太
斑雪山眺めて遠き月日かな 飯田龍太
斑雪山半月の黄を被るなり 大野林火 雪華 昭和三十五年
斑雪山負ひたる雪の墓並ぶ 清崎敏郎
斑雪嶺の紅顔とあり飛騨の国 金子兜太
斑雪嶺の暮るるを待ちて旅の酒 星野麥丘人
斑雪嶺の翳ればかげる種物屋 岡本眸
斑雪嶺を四方に立掛け雪解村 林翔
班雪嶺の暮るるを待ちて旅の酒 弟子 星野麥丘人
飛び来し方飛び行く方のみな雪嶺 山口誓子
微動せず風に研がるゝ雪の嶺 相馬遷子 山国
百姓のおどけ走りに雪嶺湧く 飯田龍太
貧しくて照る雪嶺を窓にせり 相馬遷子 山国
武藏野やあちらこちらの雪の山 正岡子規 雪
風邪の眼に雪嶺ゆらぐ二月尽 相馬遷子 山国
蕗の薹青し雪の嶺殺到す 加藤秋邨
淵となる夜のしづけさ雪嶺聳つ 鷲谷七菜子 銃身
噴井あり沙漠に雪嶺もりあがり 加藤秋邨
噴煙をおのれまとひて雪の嶺 相馬遷子 山河
米負うて男雪嶺を負ひ来る 森澄雄
壁に身をする馬や雪山眼のあたり 金子兜太
墓ありてそれより雪の山幾重 大野林火 潺潺集 昭和四十二年
暮れて蒼し雪積む嶺も雪無きも 相馬遷子 雪嶺
忘却のならぬ遠さに雪嶺泛く 上田五千石 天路
北斗の柄雪嶺の襞につきささる 有馬朗人 母国拾遺
北方に遠祖の如き雪の嶺 山口誓子
牧舎の扉雪嶺へ向け明け放つ 草間時彦 中年
牧者杖はつしと振れば照る雪嶺 有馬朗人 知命
蜜入れる林檎雪山ととのへり 大野林火 飛花集 昭和四十三年
眠る児を遥かに囲む雪の嶺 有馬朗人 母国拾遺
木の芽谷なほ雪嶺のつきまとふ 中村汀女
目を上げて初旅にあり雪の嶺 森澄雄
夜の雪嶺車中教師の肱かたし 伊藤白潮
夜明けつつなほ雪嶺は夜の方 森澄雄
野の一樹より雪嶺へ道はじまる 野見山朱鳥 荊冠
野兎追うて雪嶺それし鷹一つ 飯田蛇笏 家郷の霧
矢のごとく降り雪嶺の雪となる 原裕 葦牙
夕べ現れて雪嶺すでに星かざす 大野林火 白幡南町 昭和三十二年
夕茜真紅な方に雪の嶺 山口誓子
夕冴ゆる雪嶺ちりめん織られゆく 橋本多佳子
夕凍みに青ざめならぶ雪の嶺 相馬遷子 山国
夕暮れに奥へ奥へと雪の嶺 山口誓子
窯出しの雪山写シいかばかり 飴山實
欲れば手に五月の雪嶺母の傍 橋本多佳子
来ぬ友の消鳥雪嶺応へざる 松崎鉄之介
陸走る艀の犬に雪の嶺 右城暮石 句集外 昭和三十二年
立ち憩ふときも雪嶺に真向へり 相馬遷子 山国
立ち塞ぐ雪山に日の急ぎ落ち 松本たかし
林檎園人をり雪嶺を遠くしぬ 山口青邨
林帯に雪嶺を据ゑて雪解川 角川源義
累代の墓や雪嶺悲しきまで 山口誓子
嶺の雪天に波うつ季節風 相馬遷子 雪嶺
恋ふ寒し身は雪嶺の天に浮き 西東三鬼
恋捨てに雪山に来しが笑ひ凍る 小林康治 玄霜
連なれる雪嶺御嶽直ぐ判る 山口誓子
狼のちらと見えけり雪の山 正岡子規 雪
狼の見えて隱れぬ雪の山 正岡子規 雪
藁塚若し遠雪嶺に佇立して 岡本眸
哭く鴉雪山ちかき家の群 角川源義
廁より雪嶺の貌夜明け前 森澄雄
搦手に斑雪の山のたたなはる 清崎敏郎
杣のみち今雪山に見えずとも 平畑静塔
楮蒸す湯気あげてをり雪の嶺へ 右城暮石 句集外 昭和九年
煖を採り阿蘇雪岳を顔にせる 山口誓子
痣の青年雪山に融け輝くなり 佐藤鬼房
癩園を春の雪嶺遠巻きに 大野林火 青水輪 昭和二十六年
磧より春の雪嶺羽根ひらく 森澄雄
糀屋が春の雪嶺を見てゐたり 森澄雄
綺羅星は私語し雪嶺これを聴く 松本たかし
蘆枯るる信濃川面に雪嶺の秀 森澄雄
蜷のひげ見てをりし眼を雪山へ 岡井省二 夏炉
蟇のこゑ日の廻りゆく遠雪嶺 角川源義

雪山 続補遺

あぶなしや海へかたむく雪の山 田川鳳朗
いざよひやきのふの雪の不二の山 桜井梅室
おなじ色を重~て雪の山 高桑闌更
のけぞりて雪の上なる雪の山 夏目成美
ひつかくれ~降る雪の山 秋之坊
ひつすくへ硯の蓋に雪の山 傘下
ふらぬ日や見たい程見る雪の山 一笑(金沢)
沖一夜あれてはるかに雪の山 卓池
鶏てたつ日も遅し雪の山 高桑闌更
枝川へ盗まれにけり雪の山 早野巴人
松明けして見るやそこから雪の山 成田蒼虬
正面に江戸のゑぼしや雪の山 平洲 園圃録
雪の山かはつた脚もなかりけり 去来
雪山に死なで見苦し涅槃像 越人
線香やそのまゝでゐる雪の山 昌房
鳥の道ばかり有る也雪の山 成田蒼虬
踏分て何見る人ぞ雪の山 高桑闌更
二日路といふや舳先の雪の山 田川鳳朗
馬場先を乗出す果や雪の嶺 許六
有明をすこしみせけり雪の山 完来

以上


by 575fudemakase | 2017-04-18 18:17 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)

寒暮 の俳句

寒暮 の俳句

寒暮 

アフリカ象の耳のうしろの寒暮かな 伊藤いと子
かまきりの卵嚢よりの寒暮光 高野ムツオ 鳥柱
こんもりと鳩は寒暮に耐ふ容 高澤良一 石鏡
サイレンがつどふ寒暮の墓地の空 小川奴々子
なにもゐぬ洲に汐充ちて寒暮かな 松村蒼石
ねむたくて睡りむさぼり寒の暮 八木林之介 青霞集
やはらかき土を賜はる寒暮かな 柿本多映
われ遊び妻働きて寒の暮 八木林之介 青霞集
一日を寝ていし父の寒暮かな 岡田 耕治
一遍像寒暮を歩き出すところ 高澤良一 素抱
烏賊の墨返り血のごと浴ぶ寒暮 内田美紗 浦島草
羽摶きのあとの静もり寒暮光 菅野茂甚
遠山のまだ見えてゐる寒暮かな 片山由美子
佳きことばもて訪いくる寒暮遠い汽笛 寺田京子 日の鷹
家を出て寒暮のわが家かへりみる 堀井春一郎
家々に寒暮を頒ちゐる老樹 福田甲子雄
火に乗せし菊に生気の寒暮かな 大木あまり 火球
海老跳ねて寒暮の厨かがやかす 石田あき子 見舞籠
寒の暮手紙の束の燃えてをり 木下野生
寒の暮兎の箱に足ふれて 百合山羽公 故園
寒暮いま干潟の果の水あかり 中村祐子
寒暮に売らるわが水枕魚となり 寺田京子 日の鷹
寒暮の灯点けて雨音身を離る 鷲谷七菜子
寒暮の谿滝白光となり展く 鷲谷七菜子 雨 月
寒暮光痩せたるヨハネさらに痩す 藤井 亘
寒暮光諦めにいろありとせば 平野冴子
寒暮光彼には光我に闇 高澤晶子
寒暮少し夕焼け母に還らねば 蓬田紀枝子
寒暮地下道光盗人あまた来る 金子兜太
寒暮肉屋に肉の断面渦を巻く 谷野予志
寒暮濃くなりて煮つまる鯛の骨 佐野まもる
機関車の寒暮炎えつつ湖わたる 山口誓子
京の町ゆくさきざきの寒暮かな 小川ひろし
狂院の寒暮の百の窓並ぶ 谷野予志
胸底に昭和居すわる寒暮光 吉見弘子
串にさす魚やはらかし寒の暮 桂 信子
堅田てふ寒暮の郷の風呂熱し 鈴木鷹夫 大津絵
呼ぶ母にこゑは応へず寒の暮 山口誓子
御頬の寒暮剥落前の罅 中島斌雄
鯉食べて眼の効いてきし寒暮かな 大石悦子
紅梅のおとろふるみしこの寒暮 原裕 青垣
黒富士と鉄塔はるかなり寒暮 松村蒼石 雁
産湯出て足型とられゐる寒暮 赤松[けい]子 白毫
姿見に男がうつる寒暮かな 秋永放子
耳ふたつ吹かれ寒暮の日本海 土肥さだ子
耳門より細身の出入り寒の暮 桂信子 遠い橋
手の中に死神がいる寒暮なり 寺田京子 日の鷹
集卵や寒暮の山がよく見えて 長谷川双魚 風形
商ひて戻る寒暮の子のもとに 田中菅子 『紅梅町』
樟大樹山の寒暮が海に移り 長谷川双魚 風形
畳拭く死後のながさの寒の暮 関戸靖子
森ひとつひとつに寒暮湧くごとく 村越化石
身丈越す火に近づきて寒暮かな 斉藤史子
人買い舟消えた寒暮と おなじ寒暮 伊丹公子
酢のいろに染まり寒暮の骨拾う 岩佐光雄
水すこし溜めて寒暮のわだち跡 加藤耕子
水鳥の羽摶ちごたへのある寒暮 高澤良一 随笑
杉谷に檜山かぶさる寒暮かな 宮坂静生
声のなきこゑを寒暮の鯨幕 富川仁一郎
惜別や寒暮の溝をともに越え 岩崎健一
石灰工場寒暮殺到して来るぞ 加藤かけい
対峙して枯山水の寒暮なり 鈴木鷹夫 大津絵
大津絵の朱の美しき寒暮なり 鈴木鷹夫 大津絵
大仏の胸のうしろに湧く寒暮 福田甲子雄
卓の布替へてあかるき寒暮光 西岡千鶴子
沢蟹の寒暮を歩きゐる故郷 飯田龍太
竹切りし粉がこぼれてゐる寒暮 関口謙太
釣宿の客の帰りし寒暮かな 飯田龍太 涼夜
鉄棒の下の窪みの寒暮かな 内田美紗 浦島草
天哭し猫も哭せる寒暮かな 大橋敦子 勾 玉以後
湯の町は人待ち顔の寒暮なる 大高芭瑠子
呑みはじむ薄紫に寒の暮 松根久雄
縄とびの寒暮いたみし馬車通る 佐藤鬼房
縄とびの寒暮傷みし馬車通る 佐藤鬼房
白き馬寒暮の波を聚めをり 岸田稚魚 筍流し
尾の長きこの鳥去れば寒暮の木 高澤良一 宿好
斧一丁寒暮のひかりあてて買ふ 福田甲子雄
負犬となるとも寒暮妻が待つ 冨田みのる
風の中彼方直視十里の寒暮あり 飯田龍太
風の彼方直視十里の寒暮あり 飯田龍太
物は皆器に入りぬ寒の暮 森川麗子
物売りに寒暮あかるむ橋の際 桂信子 黄 瀬
母を入れ地球寒暮の蒼さかな 下山光子
母亡くて寒暮吹く笛山に沁む 佐藤母杖 『一管の笛』
亡きひとを木に喩へつつ寒暮かな 友岡子郷 風日
夢にまた寒暮の土のひと握り 河原枇杷男 定本烏宙論
夢解や贋あかしやは寒暮の木 宮坂静生 山開
明日までは転覆し置く寒暮のトロ 西東三鬼
盲鵜の法師のごとき寒暮かな 近藤一鴻
木の裏や表や甘き寒暮かな 柿本多映
流域の寒暮ひきずり鴉翔つ 河合凱夫 飛礫
旅にをり眼鏡を通し寒暮いふ 下田稔
両の肩抜けし曲り家寒暮光 照井 翠
佗助を骨色にまで寒の暮 斎藤玄 雁道
摶つ濤に眼鏡の白む寒暮かな 中戸川朝人 残心
蜆売り発止と諏訪の寒暮にゐ 宮坂静生 春の鹿

寒暮 補遺

「もつと光を」鴉の絶唱寒の暮 上田五千石『田園』補遺
イルカの鼻 撫でる 寒暮の飼育青年 伊丹三樹彦
ガラスケースに剥製の寒暮かな 廣瀬直人 帰路
しづもりて庭樹にはやも寒暮光 伊丹三樹彦
なぜかこの寒暮を父と二人きり 藤田湘子
なにもゐぬ洲に汐充ちて寒暮かな 松村蒼石 雪
ひとときは寒暮の日記しぐれけり 高屋窓秋
一段と寒暮の水の甘かりき 高屋窓秋
雲を駆け帰る寒暮の看護妻よ 野見山朱鳥 愁絶
貨物船に寒暮羽ばたく熔接光 右城暮石 句集外 昭和三十二年
外燈細身寒暮帰る鵜みな濡れ身 大野林火 雪華 昭和三十九年
崖下の町犬吠えてゐる寒暮 大野林火 月魄集 距和五十七年
寒の暮まばたきしては落着かず 弟子 星野麥丘人
寒の暮一塊の海抱きつづけ 上田五千石『田園』補遺
寒の暮兎の箱に足ふれて 百合山羽公 故園
寒の暮灯さず妻が泣いてをり 弟子 星野麥丘人
寒暮にて足に跫音つきまとふ 鷹羽狩行
寒暮にて頭燈いまだ焚火色 山口誓子
寒暮の谷滝白光となり展く 鷲谷七菜子 銃身
寒暮の灯点けて雨音身を離る 鷲谷七菜子 銃身
寒暮ひとを忿り足らざる駅の裏 伊丹三樹彦
寒暮までト口ッコ外れるまで遊ぶ 山口誓子
寒暮ラッシュの 都塵ぼかしに照明城 伊丹三樹彦
寒暮鵜は耐へとぶ一羽も叫ばずに 大野林火 雪華 昭和三十九年
寒暮光わが降架図に母よ在れ 上田五千石 天路
寒暮光見舞の菊を焚きにけり 角川源義
寒暮光瀬頭の渦衰へず 佐藤鬼房
寒暮地下道光盗人あまた来る 金子兜太
寒暮灯さず頬杖の教師像 上田五千石『田園』補遺
寒暮来て階梯険しき聖歌楼 山口誓子
寒暮来て衰へし鍵盤蓋したり 山口誓子
堪へかねて寒暮のネオン走り出す 岡本眸
機関車の寒暮炎えつつ湖わたる 山口誓子
汽罐車のよこがほ寒暮裏日本 橋本多佳子
泣かんばかり寒暮の潦を越ゆ 佐藤鬼房
空に未だにほふものなし寒暮色 能村登四郎
串にさす魚やはらかし寒の暮 桂信子 女身
呼ぶ母にこゑは応へず寒の暮 山口誓子
紅梅のおとろふるみしこの寒暮 原裕 青垣
黒き男鉄船へ入る寒の暮 西東三鬼
黒富士と鉄塔はるかなり寒暮 松村蒼石 雁
菜を引いて寒暮のまなこ濡れにけり 岡本眸
山の灯に棘生えてくる寒暮かな 飯田龍太
寺ひとつすぐれし村の寒暮かな 廣瀬直人
手を触れて寒暮の母を覚ましけり 石田勝彦 雙杵
獣めく熔岩にまつはる寒暮光 角川源義
青火噴く寒暮の工場押しくる潮 佐藤鬼房
青竹の千鳥がかりも寒暮にて 飯田龍太
全山の寒暮滝壷よりひろごる 橋本多佳子
袖口を噛んでひつぱる寒暮の馬 右城暮石 句集外 昭和三十三年
沢蟹の寒暮を歩きゐる故郷 飯田龍太
団栗を四方に射ちうつ子の寒暮 伊丹三樹彦
潮退いて寒暮まぬがれがたき礁 鷲谷七菜子 花寂び
釣宿の客の帰りし寒暮かな 飯田龍太
動きしか寒暮干潟の黒きもの 右城暮石 句集外 昭和三十九年
禿山を駈けくだりしは寒暮の巷 伊丹三樹彦
縄とびの寒暮いたみし馬車通る 佐藤鬼房
廃船のあつけらかんと寒暮光 佐藤鬼房
白き馬寒暮の波を聚めをり 岸田稚魚 筍流し
風の彼方直視十里の寒暮あり 飯田龍太
鱒池の鱒に寒暮の水澄みて 飯田龍太
明治に初点今日の寒暮に燈台点く 山口誓子
戻る鵜に寒暮むらさきより黒へ 大野林火 雪華 昭和三十九年
陽を浴びた顔こちらむく寒暮の村 金子兜太
旅やめて寒暮とりとめなく残る 大野林火 月魄集 距和五十七年
老婆来て赤子を覗く寒の暮 西東三鬼
佗助を骨色にまで寒の暮 斎藤玄 雁道
咆哮の牛浦の町すぐ寒暮 古沢太穂 捲かるる鴎以後
塒雀よ海ありて寒暮光さす 佐藤鬼房
榧の木にかへる雀の寒暮あり 森澄雄
濤つひに寒暮の船を生みいだす 岡本眸
藪の向うに早鐘の寒暮かな 廣瀬直人

以上

by 575fudemakase | 2017-04-18 18:08 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)

雪起し の俳句

雪起し の俳句

雪起し

例句を挙げる。

あかんぼの頭蓋やはらか雪起し 辻美奈子
くろぐろと津軽がありし雪起し 青山法破来
とつぷりと暮れし海より雪起し 田村木国
ふるさとに腰抜けてゐる雪起し 細川加賀
われの中われを覚ましめ雪起し 森澄雄
一天を転げ出したる雪起し 安原葉
乗換の越後湯沢の雪起し 大久保白村
初鳴りは高嶺止まりに雪起し 相馬沙緻
北国の冬はかく来る雪起し 山本薊花
唯一つ大きく鳴りぬ雪起し 高浜虚子
夜半の雪起きてくすしに君馳せしか 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
夜半の音雪起しとは知らざりし 西尾北鳴
大富士の面よりおこり雪起し 井沢正江
大釜に湯のたぎりをり雪起し 鎌田容克
夫の字の一つおどろく雪起し 加藤知世子 花 季
山国の耳振る牛よ雪起し 高橋正人
幾山を越えて夜となる雪起し 福田甲子雄
戸の隙に手紙が刺さり雪起し 細川加賀
榛の木に風纏ひつく雪起し 中川志帆
機音の街をゆすりぬ雪起し 加藤知世子 花 季
死の想ひありて他郷の雪起し 清水昇子
法要の箸とる僧や雪起し 飯田蛇笏 春蘭
海沿ひの一筋町や雪起し 小峰恭子
灯しても鏡奥晦し雪起し 山口草堂
炉ごもりのこころ満たざる雪起し 森 澄雄
照るときの伊吹の鞍や雪起し 阿波野青畝
生湯葉のほのと甘しや雪起し 関 成美
砂山に雀が鳴いて雪起し 今井杏太郎
納豆するとぎれやみねの雪起 内藤丈草
良寛の里にききゐる雪起し 茂里正治
花麹買うて土堤ゆく雪起し 飴山實 辛酉小雪
荒海に一と火柱や雪起し 堀前小木菟
莨火をわかつやとゞろ雪起し 相川背水
話しゐて距てある人雪起し 川村紫陽
軒裏に榾高く積み雪起し 吉沢卯一
酔た人をかへさや花の雪おこし 井原西鶴
雪起しいくたび坊の灯を奪ふ 鈴木貞雄
雪起しきくべくなりし屏風かな 京極杞陽
雪起ししんのいかりは一度かぎり 加藤秋邨 雪起し
雪起し一晩鳴りて雨ばかり 田辺 栖村
雪起し一瞬あをき闇つくる 大竹孤悠
雪起し仏間の暗き加賀の国 西村公鳳
雪起し出がけに念を押されたり 橋石 和栲
雪起し夜すがら沖を離れざる 安藤五百枝
雪起し夢千代像にひびきけり 岩崎照子
雪起し恐ろし加賀の冬なつかし 西村公鳳
雪起し普賢の象の大き四股 岡井省二
雪起し海のおもてをたゝくなり 阿部慧月
雪起し轟き渡り雪となる 金山 有紘
雪起し闇に海の香強まれり 伊藤京子
雪起し障子震はし過ぎにけり 本間翠雪
甲羅酒雪いかづちを聴きながら 角川春樹
雪雷や死の刻を医師知る由なし 町原木隹
春もまた雪雷やしなの山 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
雪の雷浅間の火天ゆるがし来 大坂藤屋
雪の雷若狭酒蔵ゆるがしぬ 橋本鶏二
黒燿の眼が驚きし雪の雷 細見綾子

雪起し 補遺

ある日戦が忽と立ちゐき雪起し 加藤秋邨
われの中われを覚ましめ雪起し 森澄雄
花麹買うて土堤ゆく雪起し 飴山實
黒姫は鴉のことか雪起し 鷹羽狩行
黒燿の目がおどろきし雪の雷 細見綾子
照るときの伊吹の鞍や雪起 阿波野青畝
雪起しけふあり春も遠からじ 森澄雄
雪起しと人いふに雪降り出しぬ 岸田稚魚 紅葉山
雪起し何から先に焼き棄てん 橋閒石
雪起し響みかさねしひとつかな 岡井省二 明野
雪起し山刀伐峠底ひびき 加藤秋邨
雪起し出がけに念を押されたり 橋閒石
雪起し心底応ふるもののあり 岸田稚魚 紅葉山
雪起し普賢の象の大き四胯 岡井省二 明野
雪起し烙印しかと信濃鎌 鷹羽狩行
雪起し瞽女のうたひし恋の唄 鷹羽狩行
雪起低き軒端のふるへけり 阿波野青畝
地平より三たび四たびと雪起し 阿波野青畝
滴瀝の音日昏れつつ雪起し飯田龍太
頭を下げて炉籠りをれば雪起し 森澄雄
法要の箸とる僧や雪起し 飯田蛇笏 春蘭
炉ごもりのこころ満たざる雪起し 森澄雄
老夫婦しづかにあれば雪起し 山口青邨
窖(あなぐら)へ下りる裸火雪起し 橋閒石 雪
窖へ下りる裸火雪起し 橋閒石

雪起 続補遺

納豆するとぎれやみねの雪起 丈草
酔た人をかへさや花の雪おこし 井原西鶴
身ぞひとり夢の枯野の雪起こし 角上
ふす児やわつとをびえの雪おこし 尚白

以上

by 575fudemakase | 2017-04-18 16:54 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)

寒の俳句

寒の俳句


例句を挙げる。

われ起きてはじまるけふの寒きびし 山口波津女 良人
妻の瞳のかまど火明り寒きびし 柏燹
寒きびし一刀彫のごとくなり 鈴木青園
寒きびし學生駅へ群れよぎり 及川貞 夕焼
寒きびし悠範義道居士天へ 飯田蛇笏 春蘭
寒きびし気を張りつめて参籠す 島村茂雄
寒きびし海の匂ひに街暮るる 河野南畦 湖の森
寒きびし醪湧くこと遅れ勝ち 中井余花朗
いちぢくの葉の残りをる寒九かな 藤田あけ烏 赤松
おささらの列へ寒九の浄め水 小枝秀穂女
ちいちいと山を鶸とぶ寒九かな 省二
ひじき置かれ燦たり寒九たり 中北綾子
ひたひたと寒九の水や廚甕 飯田蛇笏(1885-1962)
もぐさ屋の硝子戸ひびく寒九かな 桂 信子
ゆらめきは百済ぼとけの寒九の身 井沢正江 以後
よき甕に寒九の水を封じけり 武田酔仏
二三枚寒中見舞申し上ぐ 佐田 かずえ
仏にも寒九の水をたてまつる 森澄雄
出来過ぎの話寒九の水呷る 種子田誠子
刀鍛治寒九の庭にひびきけり 向久保貞文
勝者なく寒中水泳終りけり 伊藤通明
寒中の毛衣磨れば火の走る 大須賀乙字
寒中の画房花満つ陶壺かな 西島麦南 人音
寒中の茜粗々しき筑波 原裕 新治
寒中の蕗掘られ来て箸洗ひ 石塚友二 光塵
寒中の風鈴が鳴る四温かな 飯田蛇笏 春蘭
寒中の鰡に呼ばるる何の酔ひ 佐藤鬼房 朝の日
寒中や柴の虫繭あさみどり 飯田蛇笏 春蘭
寒中や水なくば供華砂利に埋め 依光陽子
寒中や目覚めたる目に柚子の照り 岸田稚魚
寒中水泳観る寒泳の貌をして 河野南畦 『試走車』
寒九の水山国の血を身に覚ます(父母ともに信州の生れなれば) 野澤節子 『飛泉』
寒四郎溜息橋をひき返す 加古宗也
寒四郎火星を珠とかがやかす 宮津昭彦
寒四郎秩父を孫の駆け回る 矢島蓼水
山河眼にさやか寒九の水のめば 朔多 恭
指折りて寒九にひと日早き雨 大橋敦子 匂 玉
捨て灰をなだめ寒九の雨なりし 能村登四郎
昼の月上げて寒九の潮かな 大澤ひろし
棒のごと寒九の水を呑みくだす 大石悦子
歓べる寒九の水ののんどかな 石塚友二
母に似て寒中大事にされている 宇多喜代子 象
氷上や寒九の雨のうちけむり 齋藤玄 飛雪
氷柱折つて寒九の水を汲みゆけり 茂里正治
犬歯見せ寒中水泳より戻る 大石雄鬼
磨かれて寒九のこゑの太垂木 岡井省二
磨かれて寒九の杉の横たはる 笹井武志
竹が竹打つ音を聴く寒九かな 鈴木太郎
笹百合の実のからからと寒四郎 青木重行
筆おろす寒九の水になじませて 武藤あい子
筆洗にむらぐもつくる寒四郎 上田五千石 琥珀
粥吹いて寒九のまなこ濡しけり 鷲谷七菜子 花寂び
老の眼のものよく見えて寒四郎 小松崎爽青
老酒蜜のごとき寒中の甕かな 高田蝶衣
虹鱒の虹寒中をおとろへず 宮津昭彦
諒闇の語のよみがへる寒四郎 青木重行
身の内の闇を寒九の水流る 成田清子
霊招ばひしをり寒九の黒づくめ 後藤綾子
おかめ笹いつまでつづく寒日和 内藤吐天 鳴海抄
ほうほうと楢山枯るる寒日和 富安風生
もの影の皆正しゐる寒日和 堀恭子
リヤカーの影は複雑寒日和 大岳水一路
一歩出てかんばせ怯む寒日和 高澤良一 素抱
並ぶ鵜の黒の端正寒日和 吉年虹二
埴輪の手どこへ伸びても寒日和 廣瀬直人
寒日和コックが花を捨てに出づ 多田睦子
寒日和布袋に礼を申しけり 平本微笑子
寒日和渚の平踏めば硬し 瀧春一 菜園
山肌のひとところ濡れ寒日和 阿部みどり女
帰りにもなお立話寒日和 北田真洲美
庭に出づくるぶし二つ寒日和 井沢正江 一身
手を摶つて粉はらふ昼寒日和 桂信子 遠い橋
抽斗に花種ねむる寒日和 本宮哲郎
死は狎れを許さぬものぞ寒日和 飯田龍太 山の影
水平線波立ち見ゆる寒日和 大橋敦子 匂 玉
海辺の松黄に汚れ寒日和 瀧春一 菜園
湧水の川を養ふ寒日和 高澤良一 ぱらりとせ
湧水の気泡ぴぴぴぴ寒日和 高澤良一 ぱらりとせ
炭竃ほとり木瓜咲き出でぬ寒日和 冬葉第一句集 吉田冬葉
獄の扉のゆくてをはばむ寒日和 飯田蛇笏 雪峡
発掘の土中の人語寒日和 井沢正江
禽獣とゐて魂なごむ寒日和 麦南
空ざまに真葛枯れたり寒日和 内藤吐天
笠嶽に笠雲翳し寒日和 西本一都 景色
箱棟の寺紋きらめく寒日和 高崎恵久子
芝舐むる牛濤を見ず寒日和 石原舟月 山鵲
郵便の来てをりし門の寒日和 日野草城
霊柩車野に遠ざかる寒日和 有働亨 汐路
から鮭も空也の痩も寒の内 芭蕉
くわりん落ち木瓜守りけり寒の内 梓月
さそはれて寒の内なる寺詣り 尾之内 かゑ
たのもしき岩の風切り寒の内 齋藤玄 飛雪
のら猫の声もつきなや寒の内 浪化
ひたとやむ咳の薬や寒の内 筏井竹の門
むきだしの仏の肩も寒の内 上田五千石 琥珀
不慮の死に人垣ゆるむ寒の内 安東次男 裏山
乾鮭も空也の痩も寒の内 芭蕉
何う手探りしても出口のない寒の内かな 冬の土宮林菫哉
何ともなき足大切や寒の内 龍胆 長谷川かな女
働く妻の裾に病みをり寒の内 小林康治 玄霜
切干の袋ゆたかや寒の内 広江八重桜
勧進の白提灯も寒の内 館岡沙緻
厳かに万象寒の内にあり 風生
名ある星名のなき星も寒の内 猪俣千代子 秘 色
垣越しに低き日の出や寒の内 碧童句集 小澤碧童
夜噺の脾胃の強さよ寒の内 千川
寒の内このやうな日のあることを 星野立子
寒の内たま~客を迎へけり 小澤碧童 碧童句集
寒の内まくらのにほひほのかなる 飯田蛇笏 春蘭
寒の内子等健やかであれば足る 高木晴子
寒の内朱唇干されてゐたりけり 赤松[ケイ]子
寒の内釣り来し鮒の泳ぐかな 小澤碧童 碧童句集
寧楽山の寒の内訪ふ身ごしらへ 稲畑汀子 春光
小をんなの鼠走りや寒の内 石塚友二 光塵
庖丁の刃こぼれ憂しや寒の内 鈴木真砂女 夕螢
松籟やふたり寝る夜も寒の内 清水基吉 寒蕭々
枝折りて香に立つ柴や寒の内 丸林好翠
森といふ大きしじまよ寒の内 上田五千石 田園
水口にうごく田水や寒の内 松村蒼石 寒鶯抄
煤降るも貯炭の痩せも寒の内 小林康治 『玄霜』
痩せし身をまた運ばるる寒の内 石田波郷
肉桂の葉がもつ艶や寒の内 裸馬
肌寒の内にうごきし恋かとも 松瀬青々
花温室に漁具ものめきて寒の内 飯田蛇笏 霊芝
薬のむあとの蜜柑や寒の内 子規
蹇が厨を鳴むす寒の内 小林康治 玄霜
酒買ひに線路越しをり寒の内 石塚友二 光塵
鎌倉のなかの往来も寒の内 清水基吉 寒蕭々
頬に享くる日の屑ばかり寒の内 斎藤玄
餅焼いて寝しな喰ひけり寒の内 碧童
鮒売を二タ朝聞くや寒の内 小杉余子 余子句選
鶴にやる鰌惜むや寒の内 比叡 野村泊月
ものの音沈めて深き寒の闇 飯田蛇笏 椿花集
一徹の眼も寒の日も美しき 上村占魚 『自門』
咲きつゞく臘梅にある寒の日々 高木晴子 花 季
嗚呼といふ声々寒の日差来て 齋藤玄 『雁道』
妻無しの鬼面を映す寒の闇 石原八束 『断腸花』
寒の日のいくたび変る海の色 五所平之助
寒の日の爛々とわれ老ゆるかな 中川宋淵
寒の日の西日となりて射して来ぬ 斎藤空華 空華句集
寒の日や弥勒の笑ひ蒼覚めぬ 角川春樹
寒の日陰シャツがつぶやく妻のように 大井雅人 龍岡村
寒の日陰音失ないて登校児 大井雅人 龍岡村
寒の空日々の日のありどころ 高野素十
寒の闇ほめくや赤子泣く度に 西東三鬼
寒の闇来て一燈に入る夜学生 桂信子 花寂び 以後
寒の闇煩悩とろりとろりと燃ゆ 草城
寒の闇腓返りに呼ばれたる 徳弘純 麦のほとり
寝しづみて老が火を吹く寒の闇 飯田蛇笏
少年の毛穴十方寒の闇 飯田龍太
廻廊の拭きこまれたる寒の寺 坂内佳禰
潰えゆく藁火にひしと寒の闇 飯田蛇笏 春蘭
炉を焚きて静かに老いませ寒の日々 殿村莵絲子 花 季
白衿を恃みて寒の闇すがし 川端京子
石階を寒の日射しの降り来る 木下夕爾
空瓶のかたちを出でず寒の闇 久保純夫 熊野集 以後
篁や寒の日輪たよりなし 清水基吉 寒蕭々
簑虫や病窓寒の日を入るゝ 小林康治 四季貧窮
糸を張る杣に寒の日強まれり 飯田蛇笏 椿花集
終夜食む獣屋の神寒の闇 飯田蛇笏 雪峡
羽をのして鶴なく寒の日和かな 飯田蛇笏 春蘭
老人や寒の日だまり誰も居ず 草間時彦 櫻山
肉食のあと寒の日に照らされに 清水径子
降りさうで寒の日空の浚渫船 長谷川双魚 風形
雪山をはなれてたまる寒の闇 飯田龍太 山の木
風邪の町寒の日輪白熱し 相馬遷子 雪嶺
いく夕べ死を定めけむ寒の中 立花北枝
いのち一つ寒の瞳の中にあり 野澤節子
一あらし犬のど吠えや寒の中 巴水 俳諧撰集「藤の実」
乾坤に寒といふ語のひびき満つ 富安風生
乾鮭も空也の痩も寒の中 芭蕉
供するは梨を尋ん寒の中 服部嵐雪
厳といふ字寒といふ字を身にひたと 高浜虚子
寒といふことばのごとくしづかなり 長谷川素逝
寒といふ大いなるもの空より来 阿部みどり女
寒といふ字のー劃々々の寒さ 富安風生
寒といふ百の切つ先足下より 河野薫
干鮭も空也の痩も寒の中 芭蕉
海老焼てやまひに遊ぶ寒の中 樗良
端倪を許さぬ寒の中にあり 相生垣瓜人 微茫集
釘うてばひゞく身内を寒と言はむ 綾子
千両の実のいちいちに寒没日 斎藤玄
ふぐりまで拭かれて寒の没日うるむ 森澄雄
声走る寒の落日見に来よと 永井東門居
風よりも透けば死すべし寒入日 仙田洋子 橋のあなたに
声走る寒の落日見に来よと 龍男
茎石に寒の没日のしばしあり 宮田正和
千両の実のいちいちに寒没日 斎藤玄
のこる杜に今いま今の寒入日 及川貞
牛乳うまし寒の入日の雲染めて 太田鴻村 穂国
寒入日妻子にしばたゝかるるなり 細谷源二 砂金帯
一日の終り 寒ンの入日を たしかめに出る 吉岡禅寺洞
寒没日濡れ羽たためば撫肩鵜 野澤節子 花 季
寒没日むずと掴みて家組まる 加藤知世子 黄 炎
のこる杜に今いま今の寒入日 及川貞
熊笹にしばらく寒の入日かな 木下夕爾
寒没日濡れ羽たためば撫肩鵜 野沢節子 花季
がうがうと朝日押上ぐ寒の海 小島みつ代
まさしくも子らの星夫の星寒の空 及川貞
寒の空ものの極みは青なるか 細見綾子
寒の空日々の日のありどころ 高野素十
寒の空竿を巻き旗赤きはまる 島津亮
寒の街ある日人より馬多き 加藤楸邨
工場の太き白煙寒の空 望月田鶴子
帰り来て駅より低き寒の町 石田波郷
松浜のかゞやくみよや寒の海に 石田波郷
欅ありさびしからざる寒の空 大井雅人
葬り場へゆく見馴れたる寒の町 上崎暮潮
告別の膝折る寒の百合の前 高澤良一 ねずみのこまくら
風生に「大寒と敵のごとく対したり」の句あれば
風生の相手取りたる寒ン迎ふ 高澤良一 ももすずめ
碧梧桐忌法外な寒ンもたらせり 高澤良一 ももすずめ
寒芹をこづき湧水馳せゆけり 高澤良一 ぱらりとせ
供花絶えず絶やさず寒ンの巴塚 高澤良一 燕音
でかしたる丈艸の墓つつむ寒ン 高澤良一 燕音
叡山の寒ンを背に阿耨多羅(あのくたら) 高澤良一 燕音
寒ンの採尿咄嗟に出たりするもんか 高澤良一 宿好
山鳩のごとく身を揉み寒ン払ふ 高澤良一 宿好
鼻莫迦になるまで寒ンの通勤路 高澤良一 宿好
火の用心命用心寒最中 高澤良一 宿好
ぎっくり腰悪寒は鼬のやうにくる 高澤良一 寒暑
水差しに水満ちゆける音も寒 高澤良一 暮津
猫がまだ己押さへて寒の日々 高澤良一 暮津
寒中を咲き通す花物好きや 高澤良一 暮津

寒 補遺 

*はららごをかなしむ寒の色として 石田勝彦 百千
*ひさかきの実の黒曜も寒の内 富安風生
「もつと光を」鴉の絶唱寒の暮 上田五千石『田園』補遺
あざらしの潜きたのしむ寒の水 日野草城
アダムの太根煌々寒の雀ども 角川源義
あたらしき舎利塔にいま寒の雨 飯田龍太
あゆみやむ大冠ゆれて寒の鶏 飯田蛇笏 心像
アルミ貨の浮くといふこと寒の水 後藤比奈夫
あをあをと水の廻れる寒の池 岡井省二 鹿野
いつぽんの火の秀そだてて寒の谷 鷲谷七菜子 花寂び
いとほしく寒のいく日を生きしいのち 村山故郷
いまも若し寒の星数眼に狩れば 上田五千石『天路』補遺
うしみつや音に出でたる寒の雨 日野草城
うとまれて声なすまでや寒の雨 小林康治 玄霜
おじいさんも好きだつた寒の水をあじわう 荻原井泉水
かしこみて白粥二椀寒のうち 石橋秀野
かばかりの佛供への寒の餅 石田勝彦 秋興以後
くれがたは声の明るむ寒四郎 上田五千石『琥珀』補遺
こくげんをわきまふ寒の嶽颪 飯田蛇笏
こだまして昼夜をわかつ寒の渓 飯田蛇笏
ことほぎの寒九の昼の望の月 岡井省二 大日
この町の気性はげしき寒の柝 鷹羽狩行
こめかみに寒の日ほのと晩年へ 岡本眸
これこそは寒の土筆よ小吸物 及川貞 夕焼
さわがしく綱打つてをり寒の雨 村山故郷
しんしん寒の夜の人間にほふ 種田山頭火
すぐ消えし寒の夕焼あはれまず 安住敦
すぐ消えし翡翠寒の川のなり 岡井省二 鹿野
すこやかなれ寒の鼻梁のあけぼの色 能村登四郎
すなどるやめをとに寒の子持鮒 飴山實 句集外
すはといふ間もあらばこそ寒の地震 桂信子 花影
すりこぎで肩叩きゐて寒の晴 飴山實 句集外
せりせりと寒の寸土を鋤きはじむ 上田五千石『琥珀』補遺
たのもしき岩の風切り寒の内 齋藤玄 飛雪
たばこやにたばこがない寒の雨ふる 種田山頭火 草木塔
ためらはず寒の牡丹に刻藉しぬ 星野麥丘人
だんだんに眼を遠くせる寒の凪 石田勝彦 百千
ちいちいと山を鶸とぶ寒九かな 岡井省二 明野
ちかぢかと命を燃やす寒の星 相馬遷子 雪嶺
つけさして老けは~し寒の紅 河東碧梧桐
なんときびしい寒の水涸れた 種田山頭火 草木塔
のぞきこむ寒の泉の抜け道を 平井照敏
ビー玉のかちあふ音や寒の雨 佐藤鬼房
ひたすらに波打ち寄せる寒九かな 飯田龍太
ひたひたと寒九の水や厨甕 飯田蛇笏
ひたひたと担ひこぼしぬ寒の水 西島麦南 人音
ひとり居や映るものなき寒の水 前田普羅 春寒浅間山
ひと仰ぐたび殺気立つ寒の滝 桂信子 晩春
ひらくより五衰のいろに寒の梅 鷲谷七菜子 天鼓
ひりひりと寒の悪意の刺しにけり 富安風生
ほうほうとー楢山枯るる寒日和 富安風生
まぼろしの幹に釘うつ寒の闇 橋閒石 卯
むきだしの仏の肩も寒の内 上田五千石 琥珀
むつちりと手応へ寒の餅とどく 能村登四郎
むらぎもの大小掃いて寒の庭 岡井省二 五劫集
むらくもの動くと見れば寒の鯉 鷹羽狩行
めつむりて病む母寒の埃立つ 佐藤鬼房
ものの音沈めて深き寒の闇 飯田蛇笏
やすやすと榧の樹に入る寒の鳥 岡井省二 鹿野
ゆめを見て泣く子に寒の燈をともす 篠原梵 年々去来の花 雨
ラヂオさへ黙せり寒の曇り日を 日野草城
わがかたちわがこゑ寒の明けにけり 岡本眸
わが庭の寒のたんぽぽ君に摘む 山口青邨
わきあふれ流れゆくなり寒の水 山口青邨
われ泣くもいとしむことも寒の闇 飯田蛇笏 家郷の霧
をさなさを馳走に寒の蜆汁 飴山實 辛酉小雪
或ることに心傷つき寒の雨 富安風生
安房よりの寒の鹿尾菜を珍重す 雨滴集 星野麥丘人
移り香のして宵寒の抹茶飴 佐藤鬼房
胃を病めり貝殻に似て寒の月 岡本眸
遺愛まだ寒の荒枝ながらに芽 古沢太穂 捲かるる鴎
遺構とは寒の燈の一つにも 後藤比奈夫
一枚の寒の鏡とたましひと 藤田湘子 てんてん
一枚の硝子に厚き寒の闇 橋閒石
宇治山の幽くて寒の雨降れり 日野草城
宇治川の碧く曲れり寒の雨 日野草城
羽をのして鶴なく寒の日和かな 飯田蛇笏 春蘭
羽をのして鶴啼く寒の日和かな 飯田蛇笏 白嶽
羽開く孔雀に寒の潮流れ 有馬朗人 母国拾遺
雨寒の刃ものゝ舗のほのぐらき 日野草城
雲間出る編隊機あはれ寒日和 飯田蛇笏 山響集
雲水の打てるはつきり寒の水 後藤比奈夫
奥嶺よりみづけむりして寒の渓 飯田蛇笏 白嶽
横浜に焼売買へり寒の雨 石塚友二 光塵
横濱に焼賣買へり寒の雨 石塚友二 光塵
屋根裏に寒の朝日の黄金なす 石田波郷
牡丹の寒の芽立ちを虔める 岸田稚魚 筍流し
何となく苗代寒の灯はくらく 高野素十
何揚げてこれ煮て寒の思案妻 石塚友二 玉縄以後
佳きひとと水を距てし寒九かな 桂信子 草影
科学自体は残酷ならず寒の月 中村草田男
火にあぶり寒の鼓の音を聞けり 飴山實 花浴び
火の匂ひより出てあそぶ寒の星 飯田龍太
花温室に漁具ものめきて寒の内 飯田蛇笏 霊芝
花絶えし壺拭き浄む寒の水 林翔 和紙
我痩せて鴉太りぬ寒の内 藤田湘子 てんてん
海の鳥あそべり寒の墓の前 西東三鬼
海へ出て寒の谺となりにけり 小林康治 玄霜
絵葉書を売る娘の日焼寒日和 富安風生
芥子雛を夢にみごもる寒の竹 橋閒石 卯
階段を信じて寒の皮膚なめらか 橋閒石 荒栲
鎌かけず火かけず寒の芒原 飯田龍太
粥にぽと落せし黄味や寒四郎 藤田湘子 てんてん
粥吹いて寒九のまなこ濡しけり 鷲谷七菜子 花寂び
寒きびしごくりと白き乳を飲む 日野草城
寒きびしひとの青春眼もあやに 日野草城
寒きびし鯉の沈思をつづかしめ 上田五千石『風景』補遺
寒きびし樟の切口香に立ちて 日野草城
寒きびし悠範義道居士天に 飯田蛇笏 心像
寒きびし學生駅へ群れよぎり 及川貞 夕焼
寒のビール狐の落ちし顔で飲む 西東三鬼
寒のひよこ一塊にうごく油田帯 能村登四郎
寒の闇鼠とんでもゆらぐ家 飯田龍太
寒の闇匂ふばかりに更けにけり 飯田蛇笏 家郷の霧
寒の闇煩悩とろりとろりと燃ゆ 日野草城
寒の雨はじくからかさ通りけり 日野草城
寒の雨リフト開きて乗り降りなし 岡本眸
寒の雨枯れたるものの華やげり 右城暮石 一芸
寒の雨芝華やぐと夫も言ふ 細見綾子
寒の雨洲の水の面に漾たたず 松村蒼石 雁
寒の雨深夜ふたたび厠踏む 佐藤鬼房
寒の雨石人も古りわれも古り 高野素十
寒の雨舗道に散りて黒かりき 細見綾子
寒の雨擁きて心屈しけり 小林康治 玄霜
寒の雨鈴売りうどん来てかへす 小林康治 玄霜
寒の崖日表の土こぼしけり 岸田稚魚 紅葉山
寒の巌鵯わだの日に啼きにけり 渡邊水巴 富士
寒の雁磐余の田井を*あさるかな 下村槐太 天涯
寒の雁磐余の田井を求食るかな 下村槐太 光背
寒の菊にも末法の塵すこし 後藤比奈夫
寒の菊乾きて咲けり妻も他人 草間時彦 中年
寒の菊水子の魂の消えしまま 飯田龍太
寒の菊病吟更にあはれなり 村山故郷
寒の暁ツイーンツイーンと子の寝息 中村草田男
寒の苦が八苦の外に置かれけり 相生垣瓜人 明治草
寒の空ものゝ極みは青なるか 細見綾子
寒の空崇めて鳧にとばれけり 岡井省二 前後
寒の鶏とさかゆらりともの思ふ 飯田蛇笏 山響集
寒の鶏鳴くかに見えて終りけり 橋閒石 和栲
寒の月押し照る底に病めりけり 小林康治 四季貧窮
寒の月牡丹畑の上に高く 山口青邨
寒の月昂然として満ちてゆく 相生垣瓜人 負暄
寒の月酒にもまろみありとせり 相生垣瓜人 明治草
寒の月白炎曳いて山をいづ 飯田蛇笏 家郷の霧
寒の月夜ぶかく赭くのぼり来ぬ 篠原梵 年々去来の花 雨
寒の月由々として満ちゆけり 相生垣瓜人 負暄
寒の厳しさ湛えているさま鯉を見て想う 荻原井泉水
寒の戸のひとつひとつに釘を剌す 橋閒石 朱明
寒の鯉描く薄墨を塗りかさね 能村登四郎
寒の紅思ひをこめて塗りにけり 清崎敏郎
寒の坂つまづきたるをひとりごと 岸田稚魚 紅葉山
寒の坂女に越され力抜け 岸田稚魚 雁渡し
寒の山々中年の陰きよらに覚め 古沢太穂 火雲
寒の始発車日傭の弁当のぬくみに触れ 能村登四郎
寒の終り陸橋に風執着し 佐藤鬼房
寒の重さ戦の重さ肢曲げ寝る 西東三鬼
寒の松見あげ黙つて出掛けたり 橋閒石 微光
寒の松伐れと亡父の独り言 橋閒石
寒の水あをあをとして吉野川 日野草城
寒の水かそけき音に煮たちけり 西島麦南 人音
寒の水こぼれて玉となりにけり 右城暮石 句集外 昭和三十二年
寒の水しづまりかへるうちたたへ 山口青邨
寒の水のまず逝きしがあはれかな 石橋秀野
寒の水もろもろのもの制し澄む 右城暮石 上下
寒の水井戸は地獄に通ずとふ 相生垣瓜人 明治草
寒の水飲み干す五臓六腑かな 細見綾子
寒の水飲む機も遂に得ざりけり 相生垣瓜人 負暄
寒の水城壁の稜うつし暗し 松崎鉄之介
寒の水触れなば珠と砕くらむ 山口青邨
寒の水念ずるやうにのみにけり 細見綾子
寒の水棒呑みに何恃むべき 岡本眸
寒の水餅つけてより夜のたしか 細見綾子
寒の水浴びし記憶も薄れけり 相生垣瓜人 明治草
寒の水玲瓏よよと家鴨掻く 山口青邨
寒の水六百尺の地下より湧く 山口青邨
寒の炊事場水叩きつけては洗ふ 能村登四郎
寒の星一点ひびく基地の上 西東三鬼
寒の星忘れゐし「死」にゆきあたる 桂信子 月光抄
寒の星恃むものなく竹揺るる 廣瀬直人 帰路
寒の晴れ爆音空を吹かれ去る 飯田蛇笏 家郷の霧
寒の打水徐々に流れて泡を抱く 林翔 和紙
寒の中コンクリートの中医師走る 西東三鬼
寒の庭犬も女のけがれ見す 下村槐太 天涯
寒の土紫檀の如く拓きけり 川端茅舎
寒の独房黒スリッパを戸々にそろへ 能村登四郎
寒の独房覗けばあをき頭が真下 能村登四郎
寒の鳶一つ砂丘の歌碑一つ 木村蕪城 寒泉
寒の鳶天に砂丘に光無し 木村蕪城 寒泉
寒の内まくらのにほひほのかなる 飯田蛇笏 山響集
寒の内桶ケ谷沼の鴨見舞ふ 百合山羽公 樂土以後
寒の内御宝蔵にもいたち穴 百合山羽公 樂土以後
寒の内光るかまちに家の責 飯田蛇笏 家郷の霧
寒の凪ぎ歩行のもつれ如何せん 飯田蛇笏
寒の日の影法師つれ火口壁 角川源義
寒の日の覚束なしや浅蜊むく 角川源義
寒の日の寄りきて暮るる豆腐笛 角川源義
寒の日の肩ほこ~と打ち給ふ 川端茅舎
寒の日の今こそ我が背焼き給ふ 川端茅舎
寒の日の静かさ崖はこぼれつぎ 川端茅舎
寒の日の恃みがたしよまた雪に 角川源義
寒の日の襤褸によぎる軍鶏の街 角川源義
寒の日を屋根に野鳥の毛をむしる 橋閒石 朱明
寒の日々敵地を行くに似たりけり 相生垣瓜人 負暄
寒の日々無為の日々とも選ぶなし 相生垣瓜人 負暄
寒の猫短く鳴きて争へり 岡本眸
寒の馬首まつすぐに街に入る 桂信子 月光抄
寒の梅心身とかく背き合ふ 藤田湘子 てんてん
寒の白き馬居り昨夜の焼跡に 石田波郷
寒の箸がほとぼる骨をはさみあふ 小林康治 四季貧窮
寒の百合ひらき湖沼のにほひせり 野澤節子 未明音
寒の百合硝子を声の出でゆかぬ 野澤節子 未明音
寒の百合喪の帯ひくく結び終ふ 鷲谷七菜子 黄炎
寒の浜婚期の焔焚火より 西東三鬼
寒の富士椋の木膚を白くせり 大野林火 青水輪 昭和二十四年
寒の蕗水の日向を流れけり 飯田龍太
寒の鮒うしろにこころして遊びぬ 永田耕衣
寒の墓所口開けてゐる名刺受 飯田龍太
寒の暮まばたきしては落着かず 星野麥丘人
寒の暮一塊の海抱きつづけ 上田五千石『田園』補遺
寒の暮兎の箱に足ふれて 百合山羽公 故園
寒の暮灯さず妻が泣いてをり 星野麥丘人
寒の明け頭たたけばごぼと鳴る 佐藤鬼房
寒の餅切る日あたりの古畳 松村蒼石 寒鶯抄
寒の夜の一間ばかりは明うせよ 中村汀女
寒の夕焼雄鶏雌の上に乗る 西東三鬼
寒の裸足の指真紅なる藷洗ひ 能村登四郎
寒の雷おのれを庇ふひしと庇ふ 山田みづえ 忘
寒の廊鳴らすひそけさに六家族 藤田湘子 途上
寒の壺虚空が詰りいたりけり 橋閒石 微光
寒の柝星座総出の海に向け 鷹羽狩行
寒の靄バスの遠くのまへうしろ 篠原梵 年々去来の花 雨
寒の鵙見窄らしきが訪ね来し 相生垣瓜人 負暄
寒の鵙呟きもせで去りにけり 相生垣瓜人 負暄
寒九の水山国の血を身に覚ます 野澤節子 飛泉
寒四郎逝かしめ寒九郎を恃む 上田五千石『琥珀』補遺
寒泉の玉を走らせてはひびく 山口青邨
寒日和シネマの深空見て飽かず 飯田蛇笏 山響集
寒日和吾れに水兵と下命あり 村山故郷
寒日和台うてなの棚田かな 岡井省二 鹿野
寒日和童児再び象の前 飯田龍太
寒日和必定編隊機墜ちず 飯田蛇笏 山響集
寒日和兵ら頭を刈り竝ぶ 村山故郷
寒日和老尼もしばし手鞠つき 飯田龍太
寒念佛に行きあたりけり寒念佛 正岡子規 寒念仏
寒夕焼きびしうつくし人の世も 山口青邨
歓べる寒九の水ののんどかな 石塚友二 玉縄以後
甘皮を垂らす折れ口寒の木瓜 右城暮石 散歩圏
簡素といふことの厳粛寒の月 山口青邨
含嗽して舌の根甘し寒の水 石塚友二 光塵
雁首が抜けてからりと寒の湖 橋閒石 虚 『和栲』以後(I)
顔小さき女なる寒の街なれ 中川一碧樓
顔伏せてはたと齢や寒の雨 草間時彦 櫻山
喜びの面洗ふや寒の水 前田普羅 普羅句集
忌へ連れて雲水飄と寒日和 飯田蛇笏 山響集
久女忌は寒のひかりの虚空より 飯田龍太
急雨に寒のピアノの強連弾 赤尾兜子 玄玄
魚市場傲気に寒の水使ふ 飯島晴子
京いづれかくれやすけれ寒の猿 岡井省二 鯨と犀
狂女の手赤きもの乾す寒の窓 西東三鬼
胸に矯むことばふえゆく寒の内 星野麥丘人
暁けの波ひたすらなれば寒きびし 岡本眸
曲るとき墓地が匂ひぬ寒日和 岡本眸
琴爪に花色かよひ寒四郎 上田五千石 風景
金魚大鱗海の日に汲む寒の水 角川源義
句作りの文語不識や寒の梅 藤田湘子 てんてん
空桶に空柄杓立て寒の内 木村蕪城 寒泉
空也蒸しにして三寒の「笹の雪」 及川貞 夕焼
串にさす魚やはらかし寒の暮 桂信子 女身
串刺しに焼かれて寒のうぐひの眼 石塚友二 玉縄以後
熊笹の美しき時寒の内 高田風人子
兄妹の焚火のあとの寒の雨 安住敦
欠伸にも揺らぎて寒の泪壺 林翔
結界の寒のきはみをせせらげる 上田五千石『天路』補遺
月光のあまねくわたり寒の星 松村蒼石 寒鶯抄
鍵鳴らし来て寒の独房へ兄の言 能村登四郎
言ふも悔言はざるも科寒の鵙 野澤節子 鳳蝶
孤立してより寒のししむら艶を帯ぶ 能村登四郎
戸が開いて泣く子出てくる寒日和 岡本眸
湖の家並ぶ寒の小魚とるいとなみ 尾崎放哉 須磨寺時代
五歳や青竹結ひし寒の墓 小林康治 四季貧窮
吾が頭髪つんどらめきて寒の貧 細谷源二 砂金帯
御宮の苗代寒の畏しや 高野素十
御手玉や二人の寒の女学生 石田波郷
御佛の金透く寒の格子とて 川端茅舎
光保つ寒の渦潮胸にしむ 佐藤鬼房
光琳笹白しと思ふ寒の雨 山口青邨
向寒のこころおきなくわれ若し 三橋敏雄
好感を残して寒の去りにけり 相生垣瓜人 負暄
稿しぶる寒のきびしく慈悲もなし 飯田蛇笏
荒神に寒の水仕女燈をさゝぐ 西島麦南 人音
黒ずむをうぐひと言へり寒の水 細見綾子
獄の扉のゆくてをはばむ寒日和 飯田蛇笏 雪峡
此部屋も坊主小し寒の内 正岡子規 寒
佐渡振りを賑ふ臼や寒の内 河東碧梧桐
妻の友階上に靴寒の土間に 伊丹三樹彦
妻癒えず寒の厨の音沈む 小林康治 玄霜
菜の花や一葉は寒の濃紫 渡邊水巴 白日
菜屑より流れはじめし寒の川 桂信子 花影
鷺の蓑すこしみだるる寒の雨 山口青邨
笹原にふる寒の雨人の墓 山口青邨
三寒ののちの四温を信ずべし 上田五千石 風景
三寒の寒さ問はるる逝くままに 斎藤玄 狩眼
三寒の寒のつづきて四温なし 桂信子 花影
三寒の鯉が身じろぐ泥けむり 能村登四郎
三寒の四温の香爐文箱かな 岡井省二 山色
三寒の四温を待てる机かな 石川桂郎 高蘆
三寒の尽くる夜半の星づくし 上田五千石『琥珀』補遺
三寒の星を小粒に櫟原 石田勝彦 雙杵
三寒の日向うらやむ日影かな 鷹羽狩行
三寒の頁の肩を折栞 上田五千石『琥珀』補遺
三星の南廻りや寒の内 石田波郷
三日在りて灯なき病舎に寒の雨 石橋秀野
山水の一縷の生きて寒の寺 岡本眸
山荘も水黒くせり寒の鯉 右城暮石 散歩圏
残寒の火渡り何の穢を焼きし 佐藤鬼房
仕置場にやや似て寒の水垢離場 能村登四郎
子なき夫婦寒の豆腐を切断す 佐藤鬼房
子に堰かる寒の畳を躄りゐて 小林康治 玄霜
子に香をたきては寒の句三昧 飯田蛇笏 雪峡
子の上や寒の戻りの木賊叢 石田勝彦 雙杵
師の柩車寒の砂塵に見失ふ 西東三鬼
指細く耳朶薄し寒の旅の中 中村草田男
指弾して生ける声きく寒の竹(北海道七句) 鷹羽狩行
死を触れて寒の鳴神通りけり 藤田湘子 てんてん
糸を張る杣に寒の日強まれり 飯田蛇笏
紙屑をたきて音なし寒の土 桂信子 女身
紙漉きの寒の水見る約束す 細見綾子
脂粉なき寒の遍路とすれちがふ 上田五千石『天路』補遺
賜はるや寒の一袖父は亡し 古舘曹人 能登の蛙
時計みな止りて吉野寒の内 日野草城
自らの美貌に逃げて寒の渦 古舘曹人 能登の蛙
自由人暉峻康隆寒の内 能村登四郎
汐入りの水嵩さだまり寒の雨 石田勝彦 秋興
鹿の匂ひおのづ辿れば寒の蕗 岡井省二 鹿野
捨て灰をなだめ寒九の雨なりし 能村登四郎
煮凝りも酢の香も寒の清さかな 右城暮石 句集外 昭和四年
若き膝正座す寒の荒蓆 能村登四郎
寂然と自転車漕げり寒の晝 三橋敏雄
手どりたる寒の大鯉光りさす 飯田蛇笏 霊芝
狩くらの雲にあらはれ寒の鳶 飯田蛇笏 霊芝
酒熱く寒の蕗の芽たまはりぬ 西島麦南 人音
酒買ひに線路越しをり寒の内 石塚友二 光塵
首に出て平成と云ふ寒日和 林翔
周到な用意の深さ寒の鯉 鷹羽狩行
秋田杉土佐杉にほふ寒日和 山口青邨
終夜食む獣屋の神寒の闇 飯田蛇笏 雪峡
住むことの湖を見て寒の菅 岡井省二 夏炉
書を閉づや紙も持ちける寒の音 林翔
諸手つき墓洗ふべし寒の水 小林康治 四季貧窮
宵ながら門づけ節も寒のうち 石橋秀野
宵寒の背中を吾子のつたひあるく 篠原梵 年々去来の花 皿
小をんなの鼠走りや寒の内 石塚友二 光塵
少年の毛穴十方寒の闇 飯田龍太
掌の窪に死水ほどの寒の水 斎藤玄 狩眼
松籟の尽きては浮かぬ寒の鯉 斎藤玄 狩眼
松籟も寒の谺も返し来よ 小林康治 四季貧窮
障子あけて夜となる軒の寒の雨 及川貞 夕焼
丈高の社箒や寒の内 石田勝彦 秋興以後
食ふまでのたのしさ尽きず寒の柿 能村登四郎
寝しづみて老が火を吹く寒の闇 飯田蛇笏 家郷の霧
寝る時に飲みほしにけり寒の水 細見綾子
心たひら寒の雨ふる芝たひら 山口青邨
心中を貫く光寒の月 桂信子 草影
森といふ大きしじまよ寒の内 上田五千石 田園
神の川橋の上に汲む寒の水 山口青邨
神橋の下寒の水あをかつし 川端茅舎
薪負いの 額の皺の 寒の汗 伊丹三樹彦
身じろがぬもの 寒の鯉 霜の墓 伊丹三樹彦
身のうちの腑のみやはらか寒の闇 桂信子 草影
身ほとりのものの文目や寒日和 岡井省二 鹿野
身を固くして寒の野の屍を通す 岸田稚魚 雁渡し
進学の子をもち寒の草青し 橋閒石 雪
人の来て寒の月光土間に入る 野澤節子 未明音
人もまた寒九の山の日しづか 岡井省二 夏炉
人形の恋の熱気や寒の汗(大阪、国立文楽劇場にて) 細見綾子
人呼んで応へなかりき寒の内 上田五千石『琥珀』補遺
人知れぬ高みに寒の梅ひらく 上田五千石 天路
吹き晴れてくらき大地と寒の星 篠原梵 年々去来の花 雨
水で拭いて寒の畳目こまかくす 能村登四郎
水飲んで寒九の日暮どきと思ふ 能村登四郎
水汲女寒の石段踏み減らし 岸田稚魚 負け犬
水口にうごく田水や寒の内 松村蒼石 寒鶯抄
水深し水の色して寒の鯉 右城暮石 虻峠
水餅に寒九の水を重ねけり 百合山羽公 樂土
睡る母寒のベツドの端を掴み 石田勝彦 雙杵
瑞の菜の三畝ばかりや寒の内 石田波郷
世の果のこの身このまま寒日和 飯田龍太
畝遠くのび寒の瀬のひゞきゐる 飯田龍太
生かされてわれ在り寒の星の下 林翔
生花造花まじえ籠に盛る寒の妻 山口青邨
西方に寒の蕨を探そうよ 橋閒石 卯
税重し寒の雨降る轍あと 古沢太穂 三十代
切りごろを外さず切りし寒の餅 能村登四郎
切昆布洒すや寒の水まけて 石塚友二 光塵
浅みつつ食べけり寒の桜餅 相生垣瓜人 負暄
浅草に波郷来てをり寒の雨 草間時彦 中年
船が曳く筏は長し寒の水 山口青邨
船を待つひとのあそべる寒日和 飯田龍太
船宿の出格子ぬらす寒の雨 飴山實 句集外
全しや寒の太陽猫の交尾 西東三鬼
組紐や屋根の深空を寒の雁 岡井省二 鯛の鯛
僧体のやうなつもりの寒の鯉 斎藤玄 狩眼
掃き寄せて餓鬼三人の寒の塵 小林康治 四季貧窮
草城の肩突兀と寒の灸 伊丹三樹彦
草青むところも寒の内ながら 石塚友二 玉縄以後
俗吏にも徹せず衒ふ寒の酒 藤田湘子 途上
孫の手と麻姑といづれぞ寒日和 飯田龍太
多聞酒倉仕込み終んぬ寒の雨 村山故郷
耐へに耐へ寒九の己さびしめり 山口青邨
大海のなか一杓の寒の水 桂信子 草影
大木に木蔦からまる寒の闇 飯田龍太
濯ぎゐて寒の旭の有難し 下村槐太 光背
諾ふは寒の土葬の穴一つ 飯島晴子
達磨市寒の日和を當てにけり 百合山羽公 樂土
棚の隅こけしかたまる寒の雨 山口青邨
端倪を許さぬ寒の中にあり 相生垣瓜人 微茫集
段差なき閾にこぼす寒の水 桂信子「草影」以後
地にひびくばかり輝やき寒の星 松村蒼石 寒鶯抄
地震あとの高声寒の闇走る 桂信子 花影
竹叢の秀枝に激つ寒の月 山口青邨
竹木の間を歩く寒日和 日野草城
昼ともる寒の裸燈に村老くる 上田五千石 森林
昼酒のから口にして寒の明け 星野麥丘人
著重ねて苗代寒の芦村翁 高野素十
朝風のからから朝熊寒九郎 山田みづえ まるめろ
朝夕の日影あきらか寒の池 松村蒼石 寒鶯抄
町川の寒の戻りのさゝ走り 上田五千石『風景』補遺
直なるが禅の教へか寒の竹 鷹羽狩行
鎮魂のごと寒の水のみ干して 細見綾子 虹立つ
痛さうに屋台たたまれ寒の月 鷹羽狩行
痛むゆゑ背骨がわかる寒の雨 佐藤鬼房
潰えゆく藁火にひしと寒の闇 飯田蛇笏 春蘭
鉄瓶も風も笛吹き寒四郎 藤田湘子 てんてん
店洗浄寒の切り身に血一痕 香西照雄 対話
田の朝の苗代寒の靄おりて 長谷川素逝 村
兎と懸巣寒の卵にこもりゐる 平井照敏 猫町
土すこし抱きし寒の蕗の薹 野澤節子 八朶集以後
土浦に来て喪を修す寒の鐘 原裕 青垣
唐詩には寒の牡丹の賦のなかり 能村登四郎
島の天日が暮れ寒の鳶もどる 右城暮石 句集外 昭和三十八年
湯ほてりのひととゆきあふ寒の雨 桂信子 月光抄
湯火照りの子をひく寒の河明り 山田みづえ 忘
湯薬師によく来る寒の鶲なり 岡井省二 山色
灯ともるや寒の内なる青畳 日野草城
当麻寺ゆ大和三山寒の松 細見綾子
働く妻の裾に病みをり寒の内 小林康治 玄霜
動かぬが修羅となるなり寒の鯉 斎藤玄 狩眼
動かぬ戸いくつもありて寒の部屋 桂信子 花影
道の辺の藁塚も酔ひたり寒日和 石田勝彦 雙杵
道の辺や寒の芥の色に出て 岸田稚魚 負け犬
道をきく寒の夜道の心細そ 星野立子
突き当り突き当りつつ寒の梅 石田勝彦 秋興以後
縄文の火色うごめく寒の昼 飯島晴子
日も月もわたりて寒の闇夜かな 飯田蛇笏 霊芝
日をうけて寂たる寒の扉かな 飯田蛇笏
日を封じ山ふところに寒の鯉 斎藤玄 狩眼
乳飲んで乳くさき口寒日和 日野草城
猫が人の声して走る寒の闇 西東三鬼
熱の子にくすぶる寒の夕焼よ 佐藤鬼房
年寄りのゐる家として寒の施肥 能村登四郎
波の痕寒の夕日をためて黄に 大野林火 早桃 太白集
波音は礁をはなれ寒日和 飯田龍太
煤の沖寒の太虹弧をなさず 小林康治 玄霜
煤降るも貯炭の痩も寒の内 小林康治 玄霜
萩寺の切株ばかり寒日和 山口青邨
白雲の湧き賑はひぬ寒の空 星野立子
白菊の魂とぶ寒の月明り 飯田龍太
白鶏の番飼はれて寒の樹下 右城暮石 句集外 昭和三十年
白昼の湯を出て寒の臙脂あまし 飯田蛇笏 春蘭
白晝の湯を出て寒の臙脂あまし 飯田蛇笏 山響集
薄き日がさいなむ寒の蜆掻 斎藤玄 雁道
薄墨がひろがり寒の鯉うかぶ 能村登四郎
麦芽ばえ寒の水舟運河ゆく 西島麦南 人音
筏いま通りし運河寒日和 山口青邨
晩凄を好みし寒の明くるなり 相生垣瓜人 明治草
晩節の竹あをあをと寒の内 鷹羽狩行
飛竜頭と煮る向寒の干蕨 草間時彦 櫻山
美しき夜目の生垣寒の月 星野立子
筆洗にむらぐもつくる寒四郎 上田五千石 琥珀
氷上や寒九の雨のうちけむり 齋藤玄 飛雪
病むと聞き死と聞き寒の身の内外 能村登四郎
貧久し薪をぶつさく寒の斧 細谷源二 砂金帯
父の忌過ぐ皺みて窪む寒の水 小林康治 玄霜
父の手のひとつ突きでて寒の棺 平井照敏 猫町
風つよく野の明るさは寒の罰 飯田蛇笏 家郷の霧
風に出て寒九の小旅はれやかに 上田五千石『琥珀』補遺
風の日は水湧くごとし寒の芹 岡本眸
風邪の町寒の日輪白熱し 相馬遷子 雪嶺
風神の寒の裳裾は簓なす 古舘曹人 砂の音
風騒の疼くばかりに寒の月 佐藤鬼房
腹を割き見する尊者も寒きびし 山口青邨
物置を椅子はみ出せる寒の雨 右城暮石 句集外 昭和三十二年
平らかに坐つて見たる寒の池 岡井省二 山色
米櫃の干果てゝ三日寒の内 石塚友二 磯風
別れ棲む都会と田舎寒の餅 福田蓼汀 山火
編隊機寒の鋼空ななめなす 飯田蛇笏 山響集
庖丁の刃こぼれ憂しや寒の内 鈴木真砂女 夕螢
法論に勝ちとりし鐘寒の雨 山口青邨
砲は包みしかと結べり寒の雨 山口青邨
蜂の子の如くに寒のつくづくし 川端茅舎
訪はるるまで寒の閑けさつづく部屋 野澤節子 未明音
豊頬や若さを余す寒の死者 能村登四郎
頬に享くる日の屑ばかり寒の内 斎藤玄 狩眼
北冥は納屋よりくらき寒の雨 古舘曹人 砂の音
磨かれて寒九のこゑの太垂木 岡井省二 明野
巳の絵馬に寒の日ざしの定まらず 佐藤鬼房
眠り神と酌まむか寒の丑の刻 林翔
夢殿をめぐりて寒の草取女 細見綾子 天然の風
霧寒の無間地獄にわが孤影 富安風生
命惜しまむ寒の弱日に縋りても 小林康治 四季貧窮
明星のとび込みし口寒の鰡 岡井省二 鯨と犀
滅罪の寒の夕焼法華尼寺 津田清子
面に化す驚愕の顔寒の雨 平井照敏 天上大風
木の影が土よりうかび寒の明 鷲谷七菜子 天鼓
木の念佛土の念佛や寒の雨 藤田湘子 てんてん
目は涙の蔵かも知れず寒の星 鷹羽狩行
目礼のあとしみじみと寒の明 鷲谷七菜子 一盞
紋章は笹龍胆よ寒の雨 山口青邨
門川は鴨と共有寒の内 百合山羽公 樂土以後
夜学の鐘やさし寒の月と雲に 古沢太穂 古沢太穂句集
約束の寒の土筆を煮て下さい 川端茅舎
薬煮るやゐざり迫りに寒の雲 鷲谷七菜子 花寂び
湧き水を半分照らし寒の月 右城暮石 句集外 昭和二十三年
郵便の来てをりし門の寒日和 日野草城
雄鶏に寒の石ころ寒の土くれ 西東三鬼
夕しづの寒の庭掃く音きこゆ 日野草城
夕寒の温泉夜寒の温泉かな 高野素十
夕寒の村なつかしと逗留す 高野素十
夕空の晴れゆく寒の遍路道 飯田龍太
夕凪の雲美しく寒の果て 原石鼎 花影以後
余震また身を伝ふがに寒の夜半 桂信子 花影
葉牡丹の深紫の寒の内 松本たかし
来し方や寒の没日と無蓋車と 岡本眸
流離あり遠離ありける寒の潮 石田勝彦 秋興
両眼に寒の目高の溢れたり 永田耕衣
力竭して波郷は死にき寒の靄 佐藤鬼房
淋しさの一生病みつつ寒の雁 野澤節子 八朶集以後
冷凍の氷を寒の地にすてる 右城暮石 句集外 昭和二十四年
裂きて食ぶうす桃色の寒の鱈 細見綾子
恋猫に寒の園生の幾起伏 上田五千石『琥珀』補遺
路地抜ける鼠走りや寒の内 鈴木真砂女 都鳥
老移民 波止場の寒の水を飲む 伊丹三樹彦
老人の奢りの寒の巌あちこち 能村登四郎
老人や寒の日だまり誰も居ず 草間時彦 櫻山
老人を一掃すべく寒の来し 相生垣瓜人 負暄
佗助を骨色にまで寒の暮 斎藤玄 雁道
凛々と峡は日をあげ寒九かな 飴山實 句集外
嗚呼といふ声々寒の日差来て 斎藤玄 雁道
壺といふものならず寒の猫柳 橋閒石 朱明
婢が活くる葉蘭そこばく寒の内 飯田蛇笏 家郷の霧
枷の荷に漂ひ泛きて寒の妻 小林康治 玄霜
梟を衣としたる寒九かな 岡井省二 鯛の鯛
洟かんで渡御待つ寒の祭かな 石塚友二 光塵
炙られてひと跳ね寒の諸子かな 飴山實 句集外
獏王は九眼爛々寒の堂 山口青邨
玻璃越しに眉焼く日あり寒の内 石塚友二 磊[カイ]集
甕一ついけて日あたる寒の土 松村蒼石 寒鶯抄
簑虫や病窓寒の日を入るゝ 小林康治 四季貧窮
簀囲ひの魚の潜みや寒の雨 河東碧梧桐
絨毯にフラスコ転び寒の内 飯田蛇笏 山響集
莢豆の芽は出でそめぬ寒の土 飴山實 句集外
藥のむあとの蜜柑や寒の内 正岡子規 寒
藺田の中小川流るる寒夕焼 山口青邨
蹇が厨を鳴むす寒の内 小林康治 玄霜
隱居して芝居に行や寒の内 正岡子規 寒
韋駄天も如法に古び寒の庫裡 木村蕪城 寒泉
饒舌の辺より寒の気ゆるびけり 岸田稚魚 負け犬
驢馬今も寒の塩負ひ川渡る 有馬朗人 知命

寒 続補遺

*こおろぎのこゝろもとなし寒のうち 露川
あかるさや風さへ吹ず寒の月 三浦樗良
いく夕死を定けむ寒の中 北枝
うぐひすの江戸子鳴なり寒の白 桜井梅室
かり金や友におくれて寒の入 風国
さだめよの遺精もつらし寒の水 其角
のら猫の声もつきなや寒のうち 浪化
ひく汐の浅くさすぢや寒の入 夏目成美
ふむ所あたる所や寒の入り 乙訓
また一つ着れば着寒の霜夜哉 傘下
むさし野は馬の上にて寒の入 土芳
一はづみぬけたる寒の雨気かな 浪化
烏飛て高台橋の寒の月 松岡青蘿
雲いきをねらひすまして寒の明キ 林紅
家並に精進するや寒の入 田川鳳朗
花鳥の身を又誰や寒の中 朱拙
海老焼てやまひに遊ぶ寒の中 三浦樗良
乾鮭を思ふ梢や寒の月 吾仲
寒の月川風岩をけづるかな 三浦樗良
寒の中たま~雨の静也 許六
供するは梨を尋ん寒の中 嵐雪
荒海に人魚浮けり寒の月 松岡青蘿
腰かけてまづ喰へ寒の豆腐汁 三浦樗良
今朝がたや笛も聞へて寒の雨 蘆文
傘の内あたゝかや寒の雨 東皐
持病にも道理つけるや寒の入り 遅望
若猫のつはり心や寒の中 許六
松風も氷りついたる寒の入 鈴木道彦
松風も氷り付たか寒の入 鈴木道彦
心にも花咲ばこそ寒の雨 支考
晴天も猶つめたしや寒の入 杉風
雪一夜ふた夜つゞきて寒の入 卓池
川風や唇切るゝ寒の中 岱水
川蓼の色青~と寒の中 十丈
栴檀の実にひよ鳥や寒の雨 蘆文
張きつて鶤鶏なくや寒の入 卓池
長閑さや寒の残りも三ヶ一 利牛
猫の声うかれ初けり寒の雨 三宅嘯山
農家にはさしてかまはず寒の入 成田蒼虬
梅に似ぬ人のこゝろや寒の入 路青
白魚やさぞな都は寒の水 高井几董
雷一声まことしからず寒の雨 加舎白雄
里人もこゝへ手向よ寒の紅脂 望月宋屋
老衰や口に梅まつ寒の入 杉風
藪一重あちらは春か寒の梅 亀洞
霰かとなじめば太し寒の雨 怒風

以上


by 575fudemakase | 2017-04-18 16:37 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)

霰 の俳句

霰 の俳句


例句を挙げる。

「竹返」の手甲の上に霰散る 長谷川かな女 花寂び
あだし野に日の一すぢの霰かな 徳永山冬子
あばら家〔に〕とんで火に入る霰哉 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
いかめしき音や霰の檜木笠 芭蕉
うなゐ髪霰をつけて愛しけれ 福田蓼汀 山火
うれしさの霰たばしる鴨の数 山田みづえ 草譜以後
おとづれし清女が傘の霰かな 中勘助
お七夜荒れ霰も混じりゐるといへり 猿橋統流子
お降りのいつか霰の音となる 粳間ふみ
かきくらす掛菜にはぜて玉霰 小林康治 四季貧窮
かさ守のおせん出て見よ玉霰 一茶 ■文化十二年乙亥(五十三歳)
かの山を思ひ忘るる玉霰 斎藤玄 無畔
からからと霰跳ねたりこの娶り 中田剛 珠樹
きつとして霰に立や鹿の角 支考
この度は音のしてふる霰かな 高野素十
この霰これが北陸日和かな 高木晴子 晴居
こぼれたる霰の空のあをかりき 五十崎古郷句集
これほどの霰に寒き朝かな 日鮮 霜 月 月別句集「韻塞」
さつさつと荻も氷も霰かな 中村史邦
さみしさや霰逃れし方の枯れ 小林康治 『潺湲集』
さわ~と霰いたりぬ年の市 銀漢 吉岡禅寺洞
しのもみや袖に音有り玉霰 調泉 選集「板東太郎」
しろ金や霰ふる夜の年忘れ 上島鬼貫
すぐ昏らむ地のもろもろや霰打つ 村越化石 山國抄
すさまじき霰となりて芦を刈る 加藤楸邨
たばしりし霰のあとの簷雫 河野静雲 閻魔
たばしるや十符(とふ)の樽菰玉霰 松滴 選集「板東太郎」
ちる霰立小便の見事さよ 一茶
つくまでに霰降り過ぎし渡舟かな 野村喜舟 小石川
つるぎ洗ふ武夫(もののふ)もなし玉霰 夏目漱石 明治三十二年
てのひらの霰天より帰り来し 丘本風彦
とけるとも見えで消え行く霰哉 会津八一
とけるまで霰のかたちしてをりぬ 辻桃子
なほ奥へ行者みちあり初霰 高塚頼子
にはとりの総毛立つたる霰かな 白岩 三郎
のぼり窯芯まで青し玉霰 兼近久子
はね上りとび上りして霰降る 久留島 広子
ひらきたる厨子の香にふる霰かな 永田耕衣 加古*傲霜
ふり向きて霰とほりし大徳寺 宇佐美魚目 天地存問
ふるさとに芒なびきて霰来る 横光利一
ふるさとの山仰ぐ眼に霰落つ 横光利一
ふるさとは緋蕪漬けて霰どき 蒼石
ほしいまゝにプラツトフオームの霰哉 尾崎紅葉
まぎれなく貧し鼻うつ夕霰 小林康治 玄霜
みづうみを打つて過ぎゆく霰かな 草間時彦 櫻山
ものありぬ霰が降れば音たてる 加倉井秋を 午後の窓
ものもへば霰にまぶた打たれけり 川口重美
やう~に舟岸につく霰哉 寺田寅彦
ゆく雲や霰ふりやむ寺林 飯田蛇笏 霊芝
ゆづり葉の見事にたれて霰かな 原石鼎
ゆり合す蓑のひまうつ霰かな 弄我
よろこびて地に一刷けの初霰 斎藤俊子
わが血子に移せり霰ふりきたる 川島彷徨子 榛の木
わだなかに教会の鐘霰ふる 石原八束
アーケードの中へ転がる玉霰 川村甚七
一旦は照つて峠の霰かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
一禮に籠めて別るる霰かな 古舘曹人 砂の音
一羽毛たらむ霰へ身を入るる 齋藤玄 『雁道』
一莚霰もほして有りにけり 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
一霰こぼして青し松の空 原 石鼎
一霰まじろがぬ鷹のけしき哉 也好
丁子かく祖母が布子や初霰 中勘助
三椏の枝をころがる霰かな 藤田あけ烏 赤松
三絃のばちで掃きやる霰哉 小林一茶
三鬼忌の山傾けて霰かな 角川源義 『神々の宴』
乗鞍岳烟り全天霰降る 仙田洋子 雲は王冠
五六間飛ぶや霰の網の魚 蒼[きう]
人等来るうつくしき霰もちて来る 山口青邨
今日も亦霰たばしりつゝ暮れぬ 高木晴子 晴居
仏飯の麦めでたさよ初霰 石田波郷
会い別る占領都市の夜の霰 鈴木六林男 荒天
会者定離(ゑしゃぢょうり)笹に霰や松の雪 ゆき 俳諧撰集玉藻集
何もなき二月と思へば霰降る 百合山羽公
俄かなる霰や壺に花なき日 秩父
俳諧に霰飛び散り長子得し 齋藤玄 『玄』
傘さして女のはしる霰かな 太祇
元日の地を威して玉霰 吉武月二郎句集
内灘の霰たばしる砂塵かな 桑田青虎
冬の情月あきらかに霰ふる 暁台
冬知らぬ宿や籾摺る音霰 松尾芭蕉
冴返る音や霰の十粒程 子規句集 虚子・碧梧桐選
初花に霰こぼしぬ小湧谷 長谷川かな女 雨 月
初薬師磴に霰の敷きそめし 松波はちす
初霰たばしる牧を閉ぢにけり 佐藤瑠璃
初霰めざめの子等を待たで消ゆ 相生垣瓜人 微茫集
初霰父の冥土にしみるもの 古舘曹人 樹下石上
初霰耳に残りてゐし朝餉 相生垣瓜人 微茫集
初霰鮭のぼる瀬々けぶらせて 及川 澄
初霰鳶尾(しゃが)や万年青の葉のきほひ 鞭石 俳諧撰集「藤の実」
勅額に霰はげしき玉せせり 倉富勇二
勿ちに小粒となりし霰かな 高浜虚子
北国の夕べの霰小鯛煮ゆ 高島筍雄
十夜ある昼の筵に霰かな 田中寒楼
叢に日かげりて霰静かな 高濱年尾 年尾句集
口あけば鼻にたはしる霰かな 尾崎紅葉
口こはき馬に乗たる霰かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
口切の窓を過ぎゆく霰かな 会津八一
句碑ひとつ墓標にかはる夕霰 古舘曹人 樹下石上
叱られて帰る霰の石畳 桂信子 黄 炎
吉野葛溶くや窓うつ夕霰 南光翠峰
吹き落とす木の葉に包む霰かな 錦江 俳諧撰集玉藻集
吾も走り霰も走り橋長し 城谷文城
吾子育つ島の霰に打たれもし 村松紅花
呉竹の奥に音ある霰かな 正岡子規
啄木鳥の羽音きびしく霰止む 堀口星眠 火山灰の道
啓蟄の霰しまくに薄日浮く 松村蒼石 雁
四弦一斉霰たばしる畳かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
土器にたまる霰や土芳の忌 鈴鹿野風呂 浜木綿
垣際のぱつぱとはしやぐ霰哉 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
場末町章魚の脚打つ霰かな 幸田露伴 谷中集
塩田に跳ねて静まる夕霰 岸田稚魚 筍流し
売られをる臼に霰のたまりけり 大島鋸山
変な岩を霰が打つて薄日さす 西東三鬼
夕ばえて霰ふりやむ花圃の水 石原舟月 山鵲
夕霰をりから池の端に在り 下村槐太 天涯
夕霰冥府の母に被布やらむ 関戸靖子
夕霰枝にあたりて白さかな 高野素十
夕霰等身のチエロはこばるる 塚本邦雄
多羅葉をみだれ打つたる霰かな 京極杞陽
夜の町を牛牽く人に打つ霰 内田百間
夜毎敷く霰こまかに雁帰る 金尾梅の門 古志の歌
夢殿は海の枯木に霰かな 島村はじめ
大かたは霰はね出る盥かな 竹冷句鈔 角田竹冷
大屋根に右往左往の霰かな 上野泰 佐介
大嶽を霰ひそかに降り去れり 雑草 長谷川零餘子
大粒な霰にあひぬうつの山 漱石
大隊の駈足に降る霰かな 会津八一
天塩路や霰に残るとりかぶと 齋藤玄 飛雪
太鼓うつ山の学校の霰かな 龍岡晋
夫旅にある寧けさよ玉霰 石田あき子 見舞籠
奔放にあるべき素手や玉霰 渋谷道
奔湍(ほんたん)に霰ふり込む根笹かな 夏目漱石 明治三十二年
妻と行く霰店には鯛二つ 香西照雄 対話
妻死後の力賜はる霰がこ 黒須俊行
子守沙彌霰たばしる傘さして 橋本鶏二 年輪
寒燈や外の霰をきゝすます 西山泊雲 泊雲句集
寝るより枕かたむく初霰 齋藤玄 飛雪
小夜更けて霰らしきが散らばりぬ 手塚美佐 昔の香
小走りに出し禰宜が妻霰降る 木村蕪城 寒泉
小阪殿のはり縄打つて霰哉 鶴汀
小霰の音の蹤きくるばかりかな 八木林之介 青霞集
届きけり霰ちる日の蕪寿し 飴山實 辛酉小雪
山の水まだ衰へず初霰 木村敏男
山茶花に月の霰やそゞろなる 金剛纂(麥南小句) 西島麥南、飯田蛇笏選
山門の鉄網に入る霰かな 古白遺稿 藤野古白
山鳥の霰の打ちしところ白 田中裕明 櫻姫譚
岩海苔を掻けばたまたま霰来て 鈴木真砂女 夕螢
岩襞にすこしたまりて霰かな 西山泊雲 泊雲句集
島原の霰をうける袂かな 岩谷山梔子
川浪の霰光りに川千鳥 飯田蛇笏 椿花集
広小路に人ちらかつて玉霰 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
庄内の野に日は照れど霰哉 寺田寅彦
役者親子しづかに座して霰打つ 長谷川かな女 花寂び
忽ちに小粒になりし霰かな 高浜虚子
急霰のあとの月光愛終る 徳弘純 非望
急霰のたまれば光るイカケ鍋 細谷源二
急霰のはしり波立つ鯛生簀 石原義輝
急霰の去れば影生れ比叡あり 岸風三楼 往来
急霰の自転車白鳥を記憶する 鈴木光彦
恐ろしき岩の色なり玉霰 夏目漱石 明治三十二年
我善坊に車引き入れふる霰 河東碧梧桐
戒壇院霰ひと撒きして雪に 赤松[けい]子 白毫
或る草に佛眼賜ふ玉霰 河原枇杷男 烏宙論
手枕の夢にふりこむ霰かな 二葉亭四迷
打敷くは霰なりけり誕生日 鈴木しげを
打返す藁干す時の霰かな 河東碧梧桐
折からや霰たばしる敷砂に 西山泊雲 泊雲句集
抱きいづる石の睡り児夕霰 松村蒼石 雪
挨拶や髷の中より出る霰 夏目漱石 明治二十九年
振り向けばふるさと白く夕霰 中村苑子(1913-2001)
採氷池よべの霰のまろびをり 金子伊昔紅
故里の人を思へば霰降る 会津八一
散りあえぬ楢の日和や霰雲 会津八一
文章を書きをればよく霰ふる 永田耕衣 傲霜
日の子われ日の下にして玉霰 原石鼎
日の高さ霰おとせる枯野かな 乙字俳句集 大須賀乙字
日一日障子の外の霰かな 森鴎外
明け方にふりし霰ぞ霜の上 花蓑
星消えて闇の底より霰かな 古白遺稿 藤野古白
時ならず馬で山越す霰哉 露月句集 石井露月
晩祷や星を招きし霰あと 村越化石 山國抄
暁闇の衛士のつらうつ霰かな 筑紫磐井 野干
書道塾出る子入る子に玉霰 福田甲子雄
月に侘び霰にかこつとぼそかな 原石鼎
月の出の俄に曇り一霰 比叡 野村泊月
月光の削りし木々に霰ふる 百合山羽公 故園
有耶無耶の関は石山霰哉 寺田寅彦
朝はしぐれ夕べ霰の竹瓮かな 草間時彦 櫻山
朝市の火入にたまる霰かな 一茶 ■文政年間
木曽殿に遅参責めらる玉霰 田中水桜
木賊原小兎はねる霰かな 幸田露伴 江東集
束の間の洩れ日にさとく霰止む 中村田人
松の葉をこぼれて落つる霰かな 古白遺稿 藤野古白
板葺の屋根をころがる霰哉 寺田寅彦
枇杷の花霰はげしく降る中に 野村喜舟
枯れむぐら掻いくゞり落つ霰かな 青邨
枯蓮の玉といつはる霰かな 古白遺稿 藤野古白
柴売の柴にはさまる霰かな 会津八一
梅いくつ閼伽の折敷に玉霰 榎本其角
楢山に降りし霰ぞ田に敷ける 秋櫻子
楪葉にこは年玉の霰かな 古白遺稿 藤野古白
欠航の行嚢二百霰打つ 木村蕪城 寒泉
歌手病める窓の橘霰やむ 宮武寒々 朱卓
武士の臑に米磨グ霰かな 服部嵐雪
武蔵野の教師となりし玉霰 日原傳
死に遠く飢ゑも爽やか霰うつ 楸邨
残菊の雨は霰と変じける 有働亨 汐路
殖林の松伐る香して霰かな 大谷句佛 我は我
母恩遠し夜の霰は屋根駈けて 皆川白陀
母死して軽くなりたる霰かな 河原枇杷男 閻浮提考
水にある日たのしきを大霰 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
水にうくものとは見えぬ霰かな 千代尼
水の面にしばらく見ゆる霰かな 松籟集(蕉子句集) 小野蕉子
水仙に霰のまろびあへるかな 久保田万太郎 流寓抄
水仙の根に降たまる霰哉 吟江
水仙や雨に霰に戸を閉めて 中村汀女
氷上に霰こぼして月夜かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
氷頭なます霰といふ字胸中に 八牧美喜子
氷魚汲むや暁の霰に灯かざして 山田孝子
河童なくと人のいふ夜の霰かな 中勘助
沼の怪をおどろかし降る霰かな 野村喜舟 小石川
波止埋めて糶待つ蟹や初霰 吉澤卯一
注連貰ひ一と霰せし畦跳んで 荒井正隆
洛北の霰日和に蕪村の忌 鈴鹿野風呂
流れゆく霰かなしや泊船 会津八一
浅沓に霰はいるや地鎮 高田蝶衣
浜垣に鴎しけとぶ霰かな 楠目橙黄子 橙圃
海へ降る霰や雲に波の音 其角
海吹雪霰先立て来りけり 西本一都 景色
渡船は帆を巻きおろす霰哉 寺田寅彦
港町海の機嫌の霰過ぐ 猪俣千代子 秘 色
湯村の湯九十八度霰打つ 岩崎照子
満目の霰に旅装解きにけり 田中裕明 櫻姫譚
灯蓋に霰のた〔ま〕る夜店哉 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
炭を出す間に月のさし霰降り 大橋櫻坡子 雨月
焚かんとす枯葉にまじる霰哉 夏目漱石 明治三十一年
熊笹に野麦峠の霰かな 沢部幹雄
熱し弾くピアノ受験生霰やむ 及川貞 夕焼
燈火の色変はりけり霰打つ 内田百間
片町や霰捨てつゝ雲とほる 飴山實 少長集
牛酪なめて一人いぬるや寒霰 北原白秋
牡蠣殼に生身の牡蠣に霰過ぐ 中戸川朝人
犬の尾の霰へ帰るベーシスト 須藤 徹
狐診し医師戻るに霰かな 菅原師竹句集
玉ぜりの裸を叩く霰かな 富安風生
玉霰すべて了りぬ日の光り 山口誓子
玉霰ふたつならびにふゆるなり 三橋敏雄 眞神
玉霰ほちりと石を打ちけるよ 尾崎紅葉
玉霰人の恋聞く聞き流す 清水基吉 寒蕭々
玉霰冬の桜をちらしけり 尾崎紅葉
玉霰夜タカは月に帰るめり 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
玉霰夜鷹は月に帰るめり 小林一茶
玉霰幽かに御空奏でけり 川端茅舎
玉霰月の兎が仕業かな 柳原極堂
玉霰杉の命と檜の妃 下田稔
玉霰漂母が鍋をみだれうつ 蕪村 冬之部 ■ 貧居八詠
玉霰竹に当つて竹青し 日野草城
玉霰花壇はつよき皮膚もてり 渋谷道
玉霰花甘藍を囃しおり 大野紫陽
玉霰茶の子のたしに飛入ぬ 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
玉霰誰がまことより二三分 安昌 選集「板東太郎」
玉霰雪ゆるやかに二三片 汀女
玻璃窓に霰たばしる夜半かな 寺田寅彦
琵琶行の夜や三味線の音霰 松尾芭蕉
生酔がちろりで遊ぶ霰かな 筑紫磐井 花鳥諷詠
甲板に霰の音の暗さかな 子規句集 虚子・碧梧桐選
畦立ちの仏に霰たまりける 水原秋櫻子
白猫に不実な霰ふりかかる 宇多喜代子
白飯に飢ゑしは昔霰はね 桂信子 花寂び 以後
白鳥に霰をこぼす茜雲 西本一都
百余艘鯨に向ふ霰かな 会津八一
盞や庭に霰のきこえつつ 京極杞陽
相摶つて元旦の霰いさぎよし 河野南畦 『風の岬』
真木部屋の霰拾はん笹交り 能州大野氏-良長 俳諧撰集「藤の実」
石上の霰にそそぐ時雨かな 会津八一
石山の石にたばしる霰哉 松尾芭蕉
石濤に既に狎れつつ玉霰 相生垣瓜人 微茫集
石蕗の葉をうちも破らぬ霰哉 熊三
磐石をめがけて霰降り集ふ 誓子
磧湯の底までうちて霰来る 山岸治子
磨れて木賊に消る霰かな 榎本其角
磨臼にすりつぶさるる霰かな 会津八一
神の田の祭のごとし初霰 永方裕子
神燈の真下のくらさ夕霰 桂信子 遠い橋
稲架骨に風の鳴る日や霰雲 皆川白陀
竹を割る俄霰に力得て 高木和蕾
竹買ふて裏河岸戻る霰かな 正岡子規
篁に降り込む霰山始 木村蕪城 寒泉
素堂碑に霰ふりやむ山の径 飯田蛇笏 椿花集
素湯呑んで霰を見たる近江かな 安東次男 昨
絶えず躍りて軽き霰や肩の幅 高濱年尾 年尾句集
絶頂に敵の城あり玉霰 夏目漱石 明治二十九年
網はらふころり~と霰杜父魚 米野耕人
繭白し不破の関屋の玉霰 井上井月
老い朽ちてゆく母羨し玉霰 永田耕衣 與奪鈔
胸に溜めし敗残の詩夜の霰 小林康治 玄霜
胸熱く詩を溜め霰遊ばせて 小林康治 玄霜
能登殿の矢先にかゝる霰哉 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
船橋に駄馬騒ぎ出す霰かな 会津八一
色ケ浜霰とぶ冬迫りけり 青畝
茎漬に霰のやうに塩をふる 細見綾子 花寂び
荷をうつて霰ちる君みずや村雨 山口素堂
落穂拾ひゆく~霰至りけり 石井露月
落葉掃く中にころがる霰かな 柑子句集 籾山柑子
葉牡丹を街の霰にまかせ売る 中村汀女
葱ひくや昨日の霰そのまゝに 西山泊雲 泊雲句集
葱引いて来る妻の髪霰かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
蓆帆の早瀬を上る霰かな 夏目漱石 明治三十二年
蓑虫は何處に居るぞと霰降る 会津八一
蓮の実を袖に疑ふ霰哉 井原西鶴
蓮の茎からからと鳴り霰来ぬ 松村蒼石 露
薄明の霰と知るや胸に撒く 杉山岳陽 晩婚
薄暮や霰興ずる樽ひろひ 加舎白雄
藁灰にまぶれてしまふ霰かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
蘭万年青なほ降り足らぬ霰かな 小杉余子 余子句選
蝿の貌ほどの霰や潰れ降り 永田耕衣 殺祖
衛士の火のます~もゆる霰哉 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
袂着た子を打交せて霰降る 尾崎紅葉
袋小路に霰愛犬紺太の屍 塚本邦雄 甘露
見て居れば小雪の中の玉霰 高木晴子 晴居
訪ふ嬉れしき霰や道に垂るゝ竹 安斎櫻[カイ]子
語られぬ神にたばしる霰かな 角川源義 『冬の虹』
足もとに旅の霰のすぐたまる 加倉井秋を 午後の窓
足もとに霰ころがる焚火かな 上甲明石
足もとに霰はね降る別れかな 小林寂人
蹴あぐれど裳(もすそ)にたまる霰かな 遊女-ときは 俳諧撰集玉藻集
退院者送る霰の門に出て 下村ひろし 西陲集
道訊きにゆきし子を待つ父へ霰 中村草田男
都をどり霰降る夜の篝燃え 渡辺水巴
金槐集霰たばしる日なりけり 奥田杏牛
金沢のしろき日輪夕霰 中田剛 珠樹
鉄鉢の中へも霰 種田山頭火 草木塔
銅のとゆにたばしる霰かな 寺田寅彦
鍋焼の行燈を打つ霰かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
鏡餅霰まじりの音となリ 深見けん二
降りにけり落ちては消ゆる玉霰 七 俳諧撰集玉藻集
降りをさまり降りをさまりて霰かな 京極杞陽
降り止んでひつそり並ぶ霰かな 茅舎
隙間多き夜業工場霰溜む 西村公鳳
雑水に琵琶聴く軒の霰かな 松尾芭蕉
雪につきささる霰の小樽かな 小宅容義
雪峰の月は霰を落しけり 原石鼎
雪空に霰ふるなる但馬かな 京極杞陽 くくたち下巻
雲乱れ霰忽ち降り来り 虚子
雲割れて月光霰こぼしけり 福田蓼汀
雲衲等霰に飛んで帰りけり 河野静雲 閻魔
雲霰帆一つ見えぬ海淋し 寺田寅彦
霜の上にたまる霰はやはらかに 高橋馬相 秋山越
霰うつて信長の墓うそぶける 松本進
霰うつわが少年の日の学舎 堀口星眠 営巣期
霰うつ杣が板屋のそぎはなし 北原白秋
霰おく夕べの土のさりげなき 松村蒼石 寒鶯抄
霰おもへば開拓地真平ら 龍太
霰かな野山の真言聴き居れば 河原枇杷男 訶梨陀夜
霰がこ啖ひ文人の棋譜を観る 石原八束 断腸花
霰きく坐せる盲の友一人 京極杞陽 くくたち下巻
霰さらりとあがりて明し門麦生 林原耒井 蜩
霰して月夜もみゆる碑のほとり 飯田蛇笏 椿花集
霰して納め遅れの飾かな 石田勝彦 秋興
霰すがし崩るるものを身に蔵し 鷲谷七菜子 黄炎
霰せば網代の氷魚を煮て出さん 松尾芭蕉
霰たばしる早く起きたる甲斐のあり 長谷川かな女 花 季
霰ちれくゝり枕を負ふ子ども 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
霰とぶ石屋根の先日本海 井上雪
霰なぐ日なたの粉ナ葉かたよりつ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霰にもやさしくならぬ湖の國 安東次男 昨
霰にも夕榮もつや須磨の浦 井上井月
霰ふるこの土地人よ父よ祖父よ 京極杞陽
霰ふると思ふ空かな初竈 増田龍雨 龍雨句集
霰ふる悪しき映畫のポスターに 京極杞陽
霰ふる煤びしまどよドンきこゆ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霰ふれども濡れざるは白秋碑 松澤昭 神立
霰まじへ修二会の火屑匂ひけり 田中英子
霰みな吸ひこまれゆく茶山かな 守山琴女
霰やみし静けさに月さしてをり 内藤吐天
霰やみ木々美しく濡れにけり 橋本鶏二
霰引く空のおくがに星見つる 金尾梅の門 古志の歌
霰打ち花片積る彫の恥部 八木三日女 赤い地図
霰打つ天井板やいづこより 河野静雲 閻魔
霰打つ暗き海より獲れし蟹 松本たかし
霰打つ模型の鮨をめがけては 秋元不死男
霰打つ男女の世より逃るべし 大木あまり 山の夢
霰打つ相対死も足柄よ 高柳重信
霰散り舗道隅より夕兆す 上井正司
霰散る武者絵のふいと立つごとし 平井照敏 天上大風
霰来て喪の元日の暮色急 下村ひろし 西陲集
霰来るたそがれの川狭められ 松村蒼石 雪
霰止みその日は暮るる御師部落 岡田日郎
霰止み鴉いま鳴く御宮居 木村蕪城 寒泉
霰止む時束の間の淋しさよ 尾崎迷堂 孤輪
霰白う浮ぶ盥の夜の水 鶯子句集 山口鴬子
霰窓を打つて二更の月黄なり 福田把栗
霰粒石採り場への深轍 右城暮石 上下
霰聞くやこの身はもとの古柏 芭蕉
霰跳ねけふ一日を踏まぬ土 野澤節子 黄 炎
霰降り鳩翔ち貯炭渚なす 小林康治 玄霜
霰降る*かりんの色の光にて 対馬康子 吾亦紅
霰降る大地に鈴の音満つごとく 柴田白葉女 花寂び 以後
霰降る天に慶びあるごとく 永津溢水
霰降る宿のしまりや蓑の夜着 内藤丈草
霰降る田の面や榛の枝細か 癖三酔句集 岡本癖三酔
霰降る胃カメラ呑みに行く道に 村本畔秀
青天を一ト雲走る霰かな 東洋城千句
青潮に霰溜め浮きラワン材 木村蕪城 寒泉
青空の見ゆる霰の落ちてきし 石田郷子
鞍馬寺を打つて過ぎける霰かな 尾崎迷堂 孤輪
音たてゝ又霰降るみぞれ降る 高木晴子 晴居
音のして霰ふりくる 遠天に星ありながら雲ありながら 岸本節子
風を追ひ霰を追ひて魂翔けぬ 篠原鳳作
風呂熱くたしなむ妻や夕霰 西島麦南 人音
餅切るや又霰来し外の音 西山泊雲 泊雲句集
馬も家族村は霰を迎へけり 有働亨 汐路
馬を入れて袴たゝめば霰かな 古白遺稿 藤野古白
驚破霰狐啼く声やみにけり 古白遺稿 藤野古白
髪の中に脱けてある髪夕霰 永田耕衣 吹毛集
鬼塀の鬼が霰を撥ね返す 下村ひろし 西陲集
鳩白う神杉に乱れ霰降る 幸田露伴 拾遺
鶏につく鼬の悪の霰かな 野村喜舟 小石川
龍神を祭る岩頭の霰哉 寺田寅彦
ちりめんの狙(さる)を抱く子よ丸雪(あられ)ちる 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
ふりやみていはほになじむ玉あられ 蛇笏
中空に降りきゆるかと夕あられ 白雄
二三合蜆にまじる丸雪(あられ)かな 梅室
初あられ捨鎌の辺に弾みけり 有働亨 汐路
夕市や蟹の眼を打つ玉あられ 東條素香
夕爾の詩つぶやく藁の玉あられ 福田甲子雄
小夜あられ起見んばかり降にけり 加舎白雄
揚舟や枯藻にまろぶ玉あられ 飯田蛇笏 山廬集
獅子舞も奥湯へいそぐ夕あられ 山岸 治子
玉あられ百人前ぞお取越 山店 芭蕉庵小文庫
玉あられ鍛冶が飛火にまじりけり 暁台
玉あられ風夜半を過ぐこずゑかな 飯田蛇笏 山廬集
白樺に吾名きざめば夕あられ 細谷源二 砂金帯
紅の鷹の大緒や玉あられ 胡布 霜 月 月別句集「韻塞」
萱負へば音の変りし夕あられ 藤原 如水
急霰に家鴨の雄声突っ走る 高澤良一 石鏡

霰 補遺

うす日して震災堂の玉あられ 飯田蛇笏 山響集
うながすや霰む山村往診談゛ 水原秋櫻子 蓬壺
うなゐ髪霰をつけて愛しけれ 福田蓼汀 山火
うらなひの鬚にうちこむ霰哉 正岡子規 霰
うれしさの霰たばしる鴨の数 山田みづえ まるめろ
おかめ笹笹原なせり初霰 山口青邨
おどろくや月に踏み敷く初霰 石塚友二 磯風
かきくらす掛菜にはぜて玉霰 小林康治 四季貧窮
かたかたは霰ふるなり鳰の月 正岡子規 霰
カラ~な藻草に溜る霰かな 河東碧梧桐
から城に鵲さわぐ霰かな 正岡子規 霰
かるさうに提げゆく鍋の霰哉 正岡子規霰
きりぎしにとりつき住むや玉霰 山口青邨
この度は音のしてふる霰かな 高野素十
ころがれば哀れ天付霰かな 永田耕衣
さげて行く鍋へ打ち込む霰哉 正岡子規 霰
しぐれより霰となりし山泉 森澄雄
しばらくはあられふりやむ楢林 飯田蛇笏 山響集
すさましや霰ふりこむ鳰の海 正岡子規 霰
たちまちにあられ過ぎゆく風邪ごもり 桂信子 月光抄
ちはやぶる臍を原とし霰かな 岡井省二 大日
つはぶきに霰はじける五六粒 飴山實 花浴び
はらはらと音して月の霰哉 正岡子規 霰
ひらきたる厨子の香にふる霰かな 永田耕衣
ふりやみて巖になじむたまあられ 飯田蛇笏 白嶽
ふるさとは緋蕪漬けて霰どき 松村蒼石 寒鶯抄
ほとめきて霰が胸を打ちにけり 岸田稚魚 紅葉山
まぎれなく貧し鼻うつ夕霰 小林康治 玄霜
みちのくの霰はいまも茎漬季 山口青邨
みづうみを打つて過ぎゆく霰かな 草間時彦 櫻山
もう合えぬ祖父母 地蔵に霰の餐 伊丹三樹彦
ものすごき音や霰の雲ばなれ 正岡子規 霰
ゆく雲や霰ふりやむ寺林 飯田蛇笏 山廬集
ゆづり葉の美事にたれて霰かな 原石鼎 花影
りきむ程猶はね返す霰かな 正岡子規 霰
りきむ程猶はね返る霰哉 正岡子規 霰
逢阪や霰たばしる牛の角 正岡子規 霰
一しきり霰のふりてしくれ哉 正岡子規 霰
一ト霰篁わたるひびきかな 村山故郷
一本一本箸洗ひをり夜の霰 岡本眸
一粒の霰裸子道砥の如く 山口青邨
一禮に籠めて別るる霰かな 古舘曹人 砂の音
一霰こぼして青し松の空 原石鼎 花影
隠田の罅すさまじき霰かな 秋元不死男
烏賊漁る大電球を打つ霰かな 阿波野青畝
雲立ちの霰過ぎけり山始 岡井省二 鹿野
塩田に跳ねて静まる夕霰 岸田稚魚
温泉へ行く百姓に霰騒ぐ 飴山實 おりいぶ
音のして藁火に消ゆる霰哉 正岡子規 霰
音のして霰も見えず藪の中 正岡子規 霰
音不意に霰雲より落ちきたる 右城暮石 句集外 昭和三十七年
何か降ると言ひしとき止む宵霰 山口青邨
何か苗育つフレーム霰ふる 山口青邨
何もなき二月と思へば霰ふる 百合山羽公 故園
何段に杉の木陰のあられ哉 正岡子規 霰
我に突き当り行く青年達霰飴色 永田耕衣
我善坊に車引き入れふる霰 河東碧梧桐
蛾の翅の霰小紋がわびしくて 松村蒼石 雁
海の際霰はねては陽にまみる 佐藤鬼房
海静かなるに石切る音や霰降る 河東碧梧桐
刈萱に湖北は霰のるころか 飴山實 句集外
寒月や海にこぼるゝ玉霰 正岡子規 寒月
堪閑の灯も消さず夜半の霰きく 村山故郷
岩海苔を掻けばたまたま霰来て 鈴木真砂女
岩膚の玉あられやみ霑へり 飯田蛇笏
岩關の岩にけし飛ぶ霰哉 正岡子規 霰
祈るとき霰荒蕪の短山 赤尾兜子 歳華集
逆潮の霰ふたたび来りけり 岡井省二 山色
急霰にあけし障子や冬籠 日野草城
急霰を敷き国宝の塔立てり 鷹羽狩行
魚棚に鮫竝べたる霰かな 正岡子規 霰
胸に溜めし敗残の詩夜の霰 小林康治 玄霜
胸熱く詩を溜め霰遊ばせて 小林康治 玄霜
蕎麥の雪棉の霰はまばらなり 正岡子規 霰
鏡餅霰まじりの音となリ 深見けん二
驚かす霰の音や冬籠 正岡子規 冬籠
玉あられまこと小さくちいさくて 川端茅舎
玉あられ風夜半を過ぐこずゑかな 飯田蛇笏 山廬集
玉霰くぐるばかりや枯いばら 阿波野青畝
玉霰すべて了りぬ日の光り 山口誓子
玉霰ふたつならびにふゆるなり 三橋敏雄
玉霰みな傷ついて居るならむ 三橋敏雄
玉霰花無き梅を降り包み 松本たかし
玉霰錦木の実もうちまじへ 川端茅舎
玉霰鯛茶の上に来つゝあり 岡井省二 猩々
玉霰炭に酔ひたる顔出せば 草間時彦 中年
玉霰竹に当つて竹青し 日野草城
玉霰幽かに御空奏でけり 川端茅舎
芹さましあへず霰大空よりす 原石鼎 花影
金華山志せば冬になる霰 河東碧梧桐
句碑ひとつ墓標にかはる夕霰 古舘曹人 樹下石上
駒返り峠に向ふ霰哉 尾崎放哉 大学時代
啓蟄の霰しまくに薄日浮く 松村蒼石 雁
渓巖に吹きたまりたるあられかな 飯田蛇笏 霊芝
畦立ちの佛に霰たまりける 水原秋櫻子 蓬壺
茎漬に霰のやうに塩をふる 細見綾子
欠航の行嚢二百霰打つ 木村蕪城 寒泉
月に侘び霰にかこつとぼそかな 原石鼎 花影
月光の削りし木々に霰ふる 百合山羽公 故園
犬吠ゆる白虎山下の霰かな 正岡子規 霰
軒をうつ霰が覚ます去年今年 飴山實 句集外
古塀の終に倒るゝ霰かな 正岡子規 霰
戸格子を漏れて降り込む霰かな 日野草城
枯むぐら掻いくぐり落つ霰かな 山口青邨
枯原に降り込む霰のみの音 右城暮石 散歩圏
枯蔓にふる霰こそかすかなれ 山口青邨
湖の氷にはぢく霰哉 正岡子規 霰
午過ぎて初霰せり爆音下 加藤秋邨
呉竹の奥に音あるあられ哉 正岡子規 霰
呉竹の横町狹き霰かな 正岡子規 霰
呉竹の名に音たてゝ霰哉 正岡子規 霰
語られぬ神にたばしる霰かな 角川源義
口こはき馬に乘たる霰哉 正岡子規 霰
后陵出でて霰に顔うたる 角川源義
甲板に霰の音の暗さかな 正岡子規 霰
荒れ畝の霰のあとはぬくめあふ 能村登四郎
降り止んでひつそり並ぶ霰かな 川端茅舎
降る程の霰隱れて小石原 正岡子規 霰
降霰の白き小窓の内に職す 渡邊白泉
降霰やつむれるまなこ遊ばせつつ 三橋敏雄
黒羽や霰たばしる座禅堂 鷲谷七菜子 天鼓
妻と行く霰店には鯛二つ 香西照雄 対話
冴え返る音や霰の十粒程 正岡子規 冴返る
鷺のほか霰うつもの暗くなりぬ 加藤秋邨
三鬼忌の山傾けて霰かな 角川源義
三月のたばしる霰見つつ臥す 野見山朱鳥 愁絶
三輪の里降りわたりたる霰かな 阿波野青畝
山茶花に月の霰やそゞろなる 西島麦南 人音
山茶花の落花とをどる霰かな 原石鼎 花影
山風や雉子のあら羽に一ト霰 村山故郷
散りそむ花に霰せり大空高きより 種田山頭火 自画像 層雲集
四絃一齋霰たばしる疊かな 正岡子規 霰
子の脚がはね霰はね視野ゆたか 加藤秋邨
死ぬるまで怒つてゐると玉霰 飯島晴子
時々に霰となつて風強し 正岡子規 霰
鹿の躯のぬくさかなしや霰打つ 草間時彦 中年
柴漬になぐりこんたる霰哉 正岡子規 霰
捨橋の中にたばしる霰哉 正岡子規 霰
捨舟の中にたばしる霰かな 正岡子規霰
弱霰載せ気球の半身夜明待つ 赤尾兜子 蛇
手をしかと合はし霰に耐へゐたり 角川源義
酒倉へ粕とりにやる初霰 飴山實 句集外
宿根を打つや天付き玉霰 永田耕衣
順禮の笠を霰のはしりかな 正岡子規 霰
初めての霰かしこみ誕生日 上田五千石『天路』補遺
初霰ありて即ち欠航す 高野素十
初霰めざめの子等を待たで消ゆ 相生垣瓜人 微茫集
初霰耳に残りてゐし朝餉 相生垣瓜人 微茫集
初霰硝子戸の中びろうど冷ゆ 細見綾子
初霰父の冥土にしみるもの 古舘曹人 樹下石上
初霰簗には鰻かゝるべし 高野素十
小心の鴛鴦に霰の水柱 日野草城
小走りに出し禰宜が妻霰降る 木村蕪城 寒泉
掌に跳ねて失せて霰の重きかな 岡本眸
掌の霰溶けゆくに心ほぐれけり 橋閒石
松を洩る霰夕映え墓の面(能登一の宮、折口信夫先生墓のほとり) 細見綾子
上弦の最後の霰溶け行くも 永田耕衣
城崎に必ず逢ひし霰かな 岡井省二 前後
城門の釘大いなる霰哉 正岡子規 霰
寝るより枕かたむく初霰 齋藤玄 飛雪
振り向けばふるさと白く夕霰 中村苑子
人等来るうつくしき霰もちて来る 山口青邨
陣笠のそりや狂はん玉霰 正岡子規 霰
吹きまはす浦風に霰霙かな 河東碧梧桐
星暗く霰うつなり小野木笠 正岡子規 霰
星一類霰一粒手にもとらむ 山口青邨
青照りの日輪据わる霰あと 大野林火 白幡南町 昭和三十一年
青竹をつたふ霰のすべり哉 正岡子規 霰
青潮に霰溜め浮きラワン材 木村蕪城 寒泉
石橋の上にたまらぬ霰哉 正岡子規 霰
石上の霰しばらく月照らす 桂信子 月光抄
石上も地上も霰はねかへる 山口誓子
石濤に既に狎れつつ玉霰 相生垣瓜人 微茫集
雪解のぬかるみを吸ふ霰かな 野見山朱鳥 曼珠沙華
雪峰の月は霰を落しけり 原石鼎 花影
千両に霰こぼして空青し 橋閒石
川浪の霰光りに川千鳥 飯田蛇笏
素堂碑に霰ふりやむ山の径 飯田蛇笏
槍持の横つらを打つ霰哉 正岡子規 霰
蒼天より八ッ手をたたくあられくる 細谷源二 鐵
藻汐草かきあつめたる霰哉 正岡子規 霰
霜よけの俵破れし霰かな 正岡子規霰
打返し藁干す時の霰かな 河東碧梧桐
大きわが熱の掌霰はずみ消ゆ 佐藤鬼房
大きわが熱の掌霰はづみ消ゆ 佐藤鬼房
大屋根に右往左往の霰かな 上野泰 佐介
大阪に来てをり霰しまく日を 村山故郷
大年の霰打つたる鯉の澄み 森澄雄
大粒な霰ふるなり薄氷 正岡子規 霰
大粒の霰降るなり石疊 正岡子規 霰
大佛のからからと鳴る霰哉 正岡子規 霰
大佛のまじろきもせぬ霰哉 正岡子規 霰
瀧壺の渦にはねこむ霰哉 正岡子規 霰
凧に霰降り来る曇りかな 河東碧梧桐
蛸壺の壺割れてをる霰かな 阿波野青畝
鍛錬の霰附くなり老の松 永田耕衣
男神倒けて在せる霰かな 飯島晴子
知る人の顔近づくに霰いよゝ 細見綾子 桃は八重
地に鳴るは三月尽の夜のあられ 飯田蛇笏 雪峡
竹垣の外へころげる霰かな 正岡子規 霰
竹買ふて裏河岸戻る霰かな 正岡子規 霰
竹藪に伏勢起る霰かな 正岡子規 霰
竹賣の通りかゝりし霰哉 正岡子規 霰
猪の人をかけたる霰かな 正岡子規 霰
朝はしぐれ夕べ霰の竹瓮かな 草間時彦 櫻山
朝日さすそのとき霰ときめきて 山口誓子
朝発つ牝牛に異音流れる霰の丘 赤尾兜子 蛇
町筋を霰たばしりたばしりて 清崎敏郎
沈丁をくぐりて落つる霰かな 中村汀女
鶴の巣を傾けてふる霰哉 正岡子規 霰
汀にたまる霰見て温泉の村に入る 尾崎放哉 須磨寺時代
鉄鉢の中へも霰 種田山頭火
鉄鉢の中へも霰 種田山頭火 草木塔
天塩路や霰に残るとりかぶと 齋藤玄 飛雪
途中三湖を見る遑ありて降る霰 河東碧梧桐
土くれは霰まみれや寒牡丹 中村草田男
冬緑なる樹を霰降りかくす 右城暮石 句集外 昭和二十七年
燈心のたばにこぼさぬ霰かな 正岡子規 霰
踏み捨ての石も霰も武州の産 三橋敏雄
禿山に鉄塔立ちて霰降る 上田五千石『田園』補遺
届きけり霰ちる日の蕪寿し 飴山實
那須野より大寺打つて霰かな 森澄雄
薙刀を車輪にまはす霰哉 正岡子規 霰
鍋焼きの行燈を打つ霰かな 正岡子規 霰
日の海や今し方なる浮霰 三橋敏雄
日の子われ日の下にして玉霰 原石鼎 花影
熱し弾くピアノ受験生霰やむ 及川貞 夕焼
年賀式軍帽たたきたる霰 伊丹三樹彦
脳天に霰を溜めて耶蘇名ルカ 西東三鬼
波除に霰ころころ人働く 岡本眸
梅の木に霰きしかば文章書く 永田耕衣
白樺に吾名きざめば夕あられ 細谷源二 砂金帯
白魚に霰くはゝる棹秤 飴山實
白飯に飢ゑしは昔霰はね 桂信子 晩春
八陣の石は崩れてあられ哉 正岡子規 霰
八陣の石崩れたる霰哉 正岡子規 霰
髪の中に脱けてある髪夕霰 永田耕衣
帆柱や大きな月にふる霰 正岡子規 霰
帆渡りの島山颪霰かな 河東碧梧桐
板屋根に眠りをさます霰かな 正岡子規 霰
板塀によりもつかれぬ霰かな 正岡子規 霰
磐石の黒き勝利よ霰歇む 鷹羽狩行
磐石をめがけて霰降り集ふ 山口誓子
磐石打つ霰 幻の鬼ら躍り 伊丹三樹彦
筆に聲あり霰の竹を打つ如し 正岡子規 霰
氷上に霰こぼして月夜かな 臼田亜郎 定本亜浪句集
氷霰のかなた気球の沈み浮く 西東三鬼
病院の岩窪の霰夜光る 西東三鬼
貧しき退院胸に霰をはじきつつ 西東三鬼
風吹て霰空虚にほどばしる 正岡子規 霰
風呂熱くたしなむ妻や夕霰 西島麦南 人音
風呂敷のものゝかさばる霰かな 清崎敏郎
文章を書きをればよく霰ふる 永田耕衣
変な岩を霰が打つて薄日さす 西東三鬼
片町や霰捨てつゝ雲とほる 飴山實 少長集
暮れて尚硝子戸を霰うち止まず(三月廿五日、マーシャル全滅の報) 細見綾子
抱きいづる石の睡り児夕霰 松村蒼石 雪
北海の急霰吾の寝屋を撃つ 山口誓子
北斎の北に重なる霰かな 永田耕衣
無口の牛打ちては個々に死ぬ霰 西東三鬼
木の葉に笠に音たてて霰 種田山頭火
木兎の鳴きやむ杉の霰哉 正岡子規 霰
木蓮の苗束打つて霰去る 飯田龍太
黙契の集牛と我を霰打つ 西東三鬼
門附の編笠しをるあられ哉 正岡子規 霰
夜の霰へ犬を叱りて送らるゝ(西東三鬼氏を訪ふ) 細見綾子
夜廻りの木に打ちこみし霰哉 正岡子規 霰
夜廻りの鐵棒はしる霰哉 正岡子規 霰
耶蘇名ルカ霰はじきて友帰る 西東三鬼
油槽へむらがる眼ざらざら霰ふりこむ 赤尾兜子 蛇
有明の霰ふるなり本願寺 正岡子規 霰
夕鳶の翔けかたむきて玉あられ 飯田蛇笏 家郷の霧
夕霰をりから池の端に在り 下村槐太 光背
夕霰枝にあたりて白さかな 高野素十
揚舟や枯藻にまろぶ玉あられ 飯田蛇笏 山廬集
溶くる霰落つる霰を月照らす 桂信子 月光抄
葉牡丹に年立つあられ降りやみぬ 飯田蛇笏 白嶽
葉牡丹を街の霰にまかせ売る 中村汀女
旅僧の笠破れたる霰哉 正岡子規 霰
林中の青笹にとぶ玉あられ 飯田龍太
涙腺に霰たばしる民族なり 永田耕衣
霊芝生えし松の切株霰添ふ 山口青邨
老い朽ちてゆく母羨し玉霰 永田耕衣
老訥の観る霰のみ残るらむ 永田耕衣
鷲の子の兎をつかむ霰かな 正岡子規霰
藁灰にまぶれてしまふ霰かな 正岡子規 霰
藁屑のほのぼのとして夕霰 原石鼎 花影
曉の霰のたまるおとし穴 正岡子規 霰
炮烙に豆のはぢきや玉あられ 正岡子規 霰烙(ろく<火+緑のつくり>)
玻璃障子霰たばしり日ノ箭ふり 川端茅舎
篁に降り込む霰山始 木村蕪城 寒泉
賣れ殘る炭をおろせば霰かな 正岡子規 霰
鉈の柄を短く持ちて霰かな 飯島晴子
霰うつ巌に渇きて若い女 西東三鬼
霰おく夕の土のさりげなき 松村蒼石 寒鶯抄
霰おもへば開拓地真つ平ら 飯田龍太
霰きて術後の弱き目を荒らす 秋元不死男
霰して月夜もみゆる碑のほとり 飯田蛇笏
霰して納め遅れの飾かな 石田勝彦 秋興
霰すがし崩るるものを身に蔵し 鷲谷七菜子 黄炎
霰たばしり雪の切間に雪の佐渡 森澄雄
霰ふりやむ大地のでこぼこ 尾崎放哉 須磨寺時代
霰ふることもありしか笹粽 正岡子規 粽
霰やんで笠ぬげば月空に在り 正岡子規 霰
霰を撥ね石の柱のごとく待つ 西東三鬼
霰笠を打つてすくはる小順禮 正岡子規 霰
霰降りいふこときかぬ杖がある 飯島晴子
霰降り鳩翔ち貯炭渚なす 小林康治 玄霜
霰降り夜も降り顔を笑はしむ 西東三鬼
霰降る生れて間なき乳児の身に 山口誓子
霰降る鼠草子の鼠たち 飯島晴子
霰散る武者絵のふいと立つごとし 平井照敏 天上大風
霰止み鴉いま鳴く御宮居 木村蕪城 寒泉
霰打つ音のままなる山泉 飯田龍太
霰打つ谷底の墓時忠卿 大野林火 飛花集 昭和四十四年
霰打つ模型の鮨をめがけては 秋元不死男
霰跳ね絵馬より馬を誘ひ出す 鷹羽狩行
霰跳ぶ厨に近し病父と寝て 飴山實 おりいぶ
霰来るたそがれの川狭められ 松村蒼石 雪
霰落とす雲つぎつぎに庭日南 右城暮石 句集外 昭和八年
霰粒石採り場への深轍 右城暮石 上下
鮟鱇の口あけて居る霰かな 正岡子規 鮟鱇

霰 続補遺

*霰小雪ふた親のこゝろ察し入 加舎白雄
あめあられ雪や蜷川新右エ門 旦藁
あやなくも霰降かつ小雪哉 加藤曉台
あられかなけさのさむさを計る音 存義 古来庵発句集
あられかなけふのさむさを計る音 馬場存義
あられきくやこの身はもとのふる柏 芭蕉 続深川集
あられにはおもひ忘よはちかつぎ 挙白
あられふる篶のまがきや子はほしき 鈴木道彦
あられ雨空も馴ずや降こぼす 鈴木道彦
あられ降軒は黄めり正木つら 加藤曉台
いかに見よと難面うしをうつ霰 羽笠
うき雲や*霰月夜を鳩の啼 加舎白雄
おもしろき愛宕の坂の霰かな 素丸 素丸発句集
から~と味噌に摺こむ霰かな 傘下
から崎やあられ打込浪がしら 卯七
ぎよつとして霰に立や鹿の角 支考
くれなひの鷹の太緒や玉あられ 木導
げそ~と霰はれたるはる日かな 鈴木道彦
こけかはる霰晴てや梅の花 土芳
こぼるゝとのみ申たし降霰 松窓乙二
さゝばゆふ落葉をくゞるあられかな 杜若
さつ~と荻も氷もあられかな 史邦
しろ金や霰ふる夜の年忘れ 鬼貫
たまあられ水に沈めば消ぬべし 加藤曉台
たま霰星の空より降にけり 長翠
つばの葉も打ぬくやうな霰かな 芙雀
つぶ~と蕗の葉に降夕あられ 加舎白雄
つり髭に二度手間落る霰かな 紫白女
ねこ鳥の山田にうつるあられかな 正秀
のまばのめ霰降夜の箔仏 乙訓
はつ霰座頭笠ぬぐ霰哉 一笑(金沢)
ひすがらに垣間見くゞる霰哉 助然
ひとつ~かぞへもならず玉あられ 乙訓
まて暫しあられを華や柴小舩 馬場存義
めりやすの旅寐はやすしはつあられ 洒堂
もの売の声のはづみやはつあられ 土芳
よそ事にへがたく見ゆれ雪霰 田川鳳朗
伊勢の御師の折敷に溜る霰哉 建部巣兆
一おこし日を取たてゝあられ哉 林紅
一降はあられはしりのふり残し 土芳
一石橋年うちこさん玉あられ 流也 江戸広小路
鵜はしづみ鷺は雲井に霰かな 桜井梅室
奥山は霰雲なりけふの月 加藤曉台
音しばし霰にもなるはちたゝき 土芳
嫁入の歩で吹るゝ霰かな 去来
花の日は空に根のなき霰哉 土芳
荷をうつて霰ちる君みずや村雨 素堂
我物よ溝より内の玉あられ 尚白
海へ降霰や雲に波の音 其角
海士の尻沈むで浮て霰かな 其角
外の井や朝に炊ぐ玉あられ 尚白
柿の葉につれ~当る霰かな 卯七
樫の木の枝にとばしるあられ哉 蘆文
粥杖や打たれてあられはしりまで 完来 発句題叢
干鮭の目打て出るあられかな 雪芝
丸合羽はしり過たる霰かな 知足
顔出してはづみを請ん玉あられ 嵐雪
気たるみし鷹の面うつ霰哉 加藤曉台
記録所に目を留らるゝ霰かな 三宅嘯山
強く降て石に砕ケン玉霰 一笑(金沢)
玉あられ緒絶の橋やふり所 風虎 誹枕
玉あられ小菊の綿がこぼれける 土芳
玉あられ百人前ぞおとりこし 山店
玉霰お児の姿見初けり 木節
玉霰さて奇妙なる細工かな 井上士朗
玉霰思ひまをけし竹柱 加藤曉台
玉霰誰まことより二三分 安昌 坂東太郎
玉霰鍛冶が飛火に交りけり 加藤曉台
狗子の目をしばたゝくあられかな 三宅嘯山
鶏の忘れては寄霰かな 中川乙由
月や霰其の夜の更けて川千鳥 上田無腸
呼かへす鮒売見えぬあられ哉 凡兆
呼びかへす鮒売見えぬあられ哉 野沢凡兆
枯菊をまたもてはやすあられかな 夏目成美
五六間飛や霰の網の魚 成田蒼虬
広小路に人ちらかつて玉霰 一茶 文政句帖
行雲の四五合こぼすあられ哉 荻人
降こんで肩をぬかするあられかな 桜井梅室
今や身を裂か霰の紙合羽 五明
昆布売のうしろにかゝる霰かな 成美 はら~傘
笹の葉にこゞとをはじく霰哉 蘆文
三拝に霰のはしる扇かな 林紅
傘は世にたづさはる霰かな 四睡
山の月霰こぼせし皃もせず 松窓乙二
山風や霰ふき込む馬の耳 吉分大魯
山風や霰ふき込馬の耳 露印
山里は人をあられの花見かな 其角
山里や雲さへ来れば霰降る 鈴木道彦
市人の板戸負ひてあられ哉 支考
市人の目の鞘はづすあられ哉 支考
歯朶売のさつと仕舞ふてあられ哉 配力
汐いりの門田やあれて霰ふる 長翠
取次へ霰をはじく長柄かな 其角
手みじかに消て見するや玉霰 舎羅
舟曳の腰にたばしる霰かな 桜井梅室
初雪の次手のよさにあられ哉 雪芝
初霰柏木風呂にあたる音 句空
小夜あられ起見んばかり降にけり 加舎白雄
松の葉やあられひとつのすはりやう 曲翠
松嶋や炉路の霰にひの木笠 牧童
消まいぞ霰の音がうそになる 松窓乙二
心よくあられやくゞる冬木立 魚日
新田に水風呂ふるゝあられ哉 昌房
吹れ来て珠簾にはさまる*霰哉 三宅嘯山
吹入て背筋をはしる霰かな 許六
吹落す木葉に包む霰哉 錦江女
水にうくものとは見えぬ霰かな 千代尼
水鳥の大崩れするあられかな 正秀
酔きげん*霰に傘をはづしけり 三宅嘯山
菅笠の旅にあふたる霰哉 林紅
青柳やあら怪しからぬゆふ霰 寥松
静さや枯藻にまろぶ玉霰 加藤曉台
雪あられ旅好人の夜も寝ず 桃隣
雪の朝うへにころぶや玉あられ 路健
雪や五合あられや五合壱升哉 凉菟
雪雲の引のき際をあられかな 浪化
銭湯へ客の傘遣る霰かな 道彦 続蔦本集
祖父の指嘗るかんろやはつ霰 野坡
足リになる物か師走の雪霰 凉菟
打綿にあられ降り込師走哉 木導
鯛を切手もとにはしるあられ哉 三浦樗良
大仏のやね閑なるあられかな 許六
中空に降きゆるかと夕あられ 加舎白雄
猪の怒り毛走るあられ哉 木導
町中のあられさはがしひとの顔 炭太祇
追ついて霰の跡のしぐれ哉 旦藁
土器を投てうけたるあられかな 蓮谷 温故集
冬のはやいそがしうなる霰かな 木因
冬の情月明らかにあられふる 加藤曉台
冬瓜のかくてもあられ降夜哉 句空
藤葺やあられにやどる不破庇 其角
曇り晴松は霰のもやうかな 望翠
鍋売や霰ながらも得かぶらず 木因
縄ふしに霰はさまる垣根かな 加藤曉台
匂ひなき冬木が原の夕あられ 加舎白雄
猫の毛の中にはさまるあられ哉 許六
年の尾にあらむつかしや雪霰 中川乙由
梅いくつ閼伽の折敷に玉霰 其角
梅持て霰にはしる三十日哉 万子
白丁の根に吹まくるあられ哉 支考
薄暮やあられ興ずる樽ひろい 加舎白雄
飛かへる岩のあられや窓の内 丈草
美濃帋の力聞ゆるあられかな 晩得 哲阿弥句藻
膝つきにかしこまり居る霰かな 史邦
武士の足で米とぐ霰かな 嵐雪 玄峰集
武士の臑に米磨グ霰かな 嵐雪
武蔵野や富士のあられのこけ所 其角
武蔵野や富士の霰のこけ所 其角
風雲に別れてはしるあられ哉 卓池
壁までが板であられの山居哉 炭太祇
別事のどこともなしや飛あられ りん女
縫ものゝ中につぶ~霰かな 紫貞女
縫立の帋衣をためす霰哉 露川
磨レて木賊に消ル霰かな 其角
門高く池にこけこむあられ哉 卓袋
夜神楽や襟にあられのはくほろり 尚白
夜嵐に中でかたまるあられ哉 露川
野の末の雲に音あるあられ哉 成田蒼虬
矢面に出女たてり玉あられ 白雪
落馬しておもしろげやむ霰哉 松窓乙二
冷めしの霰たばしる鷹野哉 黒柳召波
恋侘てあるにあられぬ霰哉 旦藁
蓮の実を袖に疑ふ霰哉 井原西鶴
浪人のあられたばしる紙子哉 李由
老武者と指やさゝれむ玉霰 去来
嶽山のしるしにおろす霰哉 路健
椶櫚の葉の霰に狂ふあらし哉 野童
籠目から霰ふるふやこと納め 梅人 栞集
莚帆にあられたばしる月夜かな 牡年
霰かとなじめば太し寒の雨 怒風
霰かとまたほどかれし笠やどり一 如行
霰ちれくゝり枕を負ふ子ども 小林一茶
霰にもまだ鳴る山のなる子かな 卓池
霰ふり嶺のまさ木の今やちる 寥松
霰ふる音にも世にも聾傘 長谷川馬光
霰ふる形は木曽路かむさし野か 木節
霰やは芥子に牛房は埋木の 杉風
霰降絵ばかり見てもあられふか 錦江女
霰入る序に耳の掃除かな 朱拙
霰迄降約束歟若菜の夜 松窓乙二
鵲の橋よりこぼす霰かな 示蜂

以上

by 575fudemakase | 2017-04-18 16:17 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)

氷壁 の俳句

氷壁 の俳句

氷壁

火の山の一氷壁の美しき 児玉 菊比呂
三面の氷壁のなか水揉み合ふ 岡田日郎
春あけぼの凱歌の如き氷壁立つ 有働亨 汐路
雪壁につららの育つ夜の月 伊藤いと子
雪壁の炎ゆる夜空ぞ鴨帰る 堀口星眠
雪壁の迫りて山の深くなり 稲畑廣太郎
雪壁の風身を刺すや岳開き 熊田鹿石
雪壁の崩れんばかり日は宙に 岡田日郎
絶巓の夜明け氷壁エメラルド 福田蓼汀 秋風挽歌
啄木鳥や氷壁に日のにじみ落つ 中村 信一
悼むべき「氷壁」を読む炬燵かな 三和玲湖
氷壁が雲とたたかふ牧の空 大島民郎
氷壁が返すこだまはわれのもの 本田青棗
氷壁に黒燿石の洞の闇 中戸川朝人 残心
氷壁に垂る一線のザイルの朱 小倉英男
氷壁に石楠花凍る葉を垂らす 岡田日郎
氷壁に着くゴンドラの終の駅 山口誓子
氷壁に夕雲の来てゐたりけり 岡田日郎
氷壁に来て燦然と鳥乱る 中戸川朝人 残心
氷壁のおのがこだまの中に鴎 古館曹人
氷壁の奥は知らずも死後の国 河野南畦 湖の森
氷壁の下の教会ともりそむ 石原八束
氷壁の碧を引き寄せユーカラ織る 中山砂光子 『納沙布』
氷壁は女の誘ひかも知れず 石田よし宏
氷壁は息絶えわれの声けぶる 中本源二
氷壁へ氷壁の影刃のごとし 羽部洞然
氷壁を煽りて発てるブルージェイ 高澤良一 ぱらりとせ
氷壁を攀づくれなゐの命あり 大串章
木々芽吹く富士の大氷壁の前 羽部洞然
嶺の星黄を氷壁へしたたらす 太田嗟
聳えゐて氷壁に翳まぎれなし 鷲谷七菜子

氷壁 補遺

聳えゐて氷壁に翳まぎれなし 鷲谷七菜子 銃身
瞑れば雉子鳩背後には氷壁 佐藤鬼房
氷壁の空真蒼に日脚のぶ 飯田龍太
氷壁に着くゴンドラの終の駅 山口誓子
桃咲くや雪壁かすむ間の岳 水原秋櫻子 餘生
絶巓の夜明け氷壁エメラルド 福田蓼汀 秋風挽歌
生活の氷壁きびし爪を剥ぐ 富澤赤黄男
残雪の雪壁なせり渋峠 水原秋櫻子 殉教
コーヒーを飲み雪壁の中走る 細見綾子

以上

by 575fudemakase | 2017-04-18 16:12 | 冬の季語 | Trackback | Comments(0)


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インターネットの「Google」や「yahoo」の検索ボックスから、季語等を入力して数多くの例句を得られれば大変便利である。

具体的に季語“新樹”の例句を求めるには、先ず検索ボックスに“新樹”と入力する。
その後、ひらかなで“れいく”と入力する。この時、日本語変換候補に幾つかの語彙が表示されるが、その中から“575筆まか勢”を選択する。
この結果、検索ボックスには “新樹575筆まか勢”と表示される筈である。
この用語で検索すれば求めるサイトが表示される。

但し、上述の ひらかなの“れいく”と入力して“575筆まか勢”を選択する為には、事前に小細工をしておく必要がある。
即ち、ユーザーズ辞書を使って “れいく=575筆まか勢”を定義しておく必要がある。以下はその指定方法。

ユーザーズ辞書定義

▼iPadの場合
設定>一般>キーボード>ユーザーズ辞書

単語 575筆まか勢
よみ れいく

▼kindleの場合
アプリ>設定>言語とキーボード>キーボードの設定>ユーザーズ辞書

読み れいく
表記 575筆まか勢

PCの場合も同様に「ユーザーズ辞書」機能を使い、前もって定義しておく。

春の季語から現在の当季季語までは既に表示可能である。
来年の三月末(2015年3月末)までに全季語について表示可能となる。

以上

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