後藤比奈夫句集「心の花」読後

後藤比奈夫句集「心の花」読後

春の手にとどくところに空の色
滝の上に空の蒼さの蒐り来
夕方は滝がやさしと茶屋女
矢の如くビヤガーデンへ昇降機
睡蓮の水に二時の日三時の日
蛇踏んで見せつまらなき男かな
秋風のこらへきれずに吹く日かな
捕虫網持たせておけば歩く子よ
夏足袋の指の先まで喜びぬ
サングラス掛けて妻にも行くところ
水遊とはだんだんに濡れること
耳うごくときはつきりと狩の犬
蛞蝓といふ字どこやら動き出す
神戸美し除夜の汽笛の鳴り交ふとき
コスモスとしか言ひやうのなき色も
民宿の花魁草の厚化粧
芝のやさしさは冬日が来てきめる
一会とは冬のすみれと庭帚
治山とはみやまあかねも殖すこと
雲は行き懸大根はとどまれり
兵糧のごとくに書あり冬籠
田村麻呂まだ生きてゐる祭かな
この鐘を春ゆふぐれに撞きたかり
牧場に生れし蠅とバーベキュウ
一と日づつ一と日づつ冬紅葉かな
下萌に心が先に下り立ちし
一時に目高が向きを変へし水
露涼し石に刻みしわがまこと
脇差を差して相川をどりとて
あたたかやきりんの口が横に動き
縦に見て時代祭はおもしろし
蒲団より枕があはれ瓦礫の中
象を見る人と別れて落葉踏む
梟にはっきり横を向かれたる
寝釈迦には見ゆる獣の泪かな
五十年野暮を涼しと過し来し
羅にちがひなかりし蛇の衣
雪がちらつけばと思ふルミナリエ
寒いからみんなが凜々しかりにけり
亡き妻を探しにきたる初雀
火をつけてやりたきほどに枯れしもの
初盆に要るもの少しづつ判る

「心の花」は比奈夫氏の過去の十句集、
「初心」「金泥」・・・「一句好日」「めんない千鳥」
より自選で三百八十句選んだもの。
その中でわたくしの好みに合うものを選んだのが上掲。
# by 575fudemakase | 2013-07-04 08:35 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

稲畑汀子句集「花」読後

稲畑汀子句集「花」読後

吉野花恋いの三百句をあつめた一集。
ちょっと俳歴の長い方なら、こんなこともしてみたいという処
を前(さき)にやってのけた。集中 私のこころに止まった句を
挙げる。(平成二十二年刊行)

夜桜の気配ともなく宿に着く
一山の花の散り込む谷と聞く
花しづめきれざる闇も吉野山
この山路花に埋まる日近きこと
一片の落花に落ちてゆく視線
花朧弾くは現かヴァイオリン
皆自由行動花の出会ひ又
一献も又花の夜を彩れる
今欲しき風散る花よ散る花よ
散る花は又の楽しみ吉野山
どの道をとらん吉野の花の帰路
みよし野の花のうつつに踏み入りぬ
みよし野の花に庭下駄出払ひし
花終へしこと口にして淋しみぬ
花隠す闇に彗星探しあて
落花踏み固めてそこがけもの道
花はもう終りましたと吉野駅
春雷に山雨駆け抜けゆきにけり
春泥に西行庵は又のこと
天候はあるがままなり花の旅
話したく秘めておきたく花の旅
灯に浮かぶ花に見え来し雨の糸
遅れ着き花の乾杯つかまつる
移りゆく花の心に添ふ別れ
昼食を食べそびれしと花の旅
星を見に出し春宵の五六人
花吹雪別るるときの近づきぬ
山路より覗いてゆきぬ花の宿
木戸出入御免落花と我等かな
全山の花散らす風待つばかり
鯉覚めて花屑動きはじめけり
この宿の跡継ぎの武具飾らるる
みよし野の花に心を置いて来し
一枚の闇をおぼろにする桜
六日月朧の闇を抜けてをり
二日目も花の日和となる吉野
東西に別れて花の帰路となる
山桜より抜け出して来し人も
生涯の花の出逢ひを重ね来て
みよし野の花の通ひ路ある限り
# by 575fudemakase | 2013-07-04 08:33 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

正木ゆう子「一句悠々」読後

正木ゆう子「一句悠々」読後

集中 あまり見たことない句で気になった句を
拾ってみた。

例によって作者名は割愛。

老人に十種類あり年の暮
絶壁に眉つけて飲む清水かな
床屋から出てきた皃の穴子かな
ただ一度蝉の通りし蝉の穴
思はずも銀河近うて道にしゃがむ
梨食うてすつぱき芯にいたりけり
さりげなく聞いて身にしむ話かな
春めきてものの果てなる空の色
道広くなりても遍路一列に
ものの芽をうるほしゐしが本降りに
春の昼大きな籠の燃ゆるなり
芳しき草にまろべば日は真上
蛇過ぎてゆつくりと草立ち上がる
老船長わが香水を言ひあてし
筆硯に及べる喜雨のしぶきかな
そらまめや怺ふればなほをかしくて
フィルムの傷の雨ふる銀河かな
拾ひ来し栗出すあちらこちらから
こがらしや血管の中明るくて
冬の月そこまでと言ひどこまでも
自づから口笛となる早春賦
逆流をすこしこころみ水温む
春雷は空にあそびて地に降りず
打水のころがる玉を見て通る
起こされてみれば九月の理髪店
松手入しづかに二時をまはりけり
海光の及ぶものみな冬ざるる


(春秋社)
# by 575fudemakase | 2013-07-04 08:32 | Trackback | Comments(0)

安住敦句集/柿の木坂だより

安住敦句集/柿の木坂だより
西嶋あさ子編

西嶋さんの選したもののうちから
私の好みの句を選んでみた。

先づ 敦が多用した季語の句を抜き去って見よう。

●秋風
秋風や夕餉すませて子と町に
秋風や引揚寮に兎飼はれ
秋風やへちまの花はきよく落つ
秋の風箸おきて妻何を泣くや

今はーー
秋風や褒めても叱つても呉れず

百ヶ日も過ぐ
秋風や暦の喪より心の喪墓

「春燈」続刊
秋風や家鴨は家鴨どちかたまり

八月四日、木下夕爾逝く。七日、追悼式あり
秋風や亡き友に二児われにも二児

須磨寺
秋風やのぞきからくり一の谷

秋風や麺麭の袋の巴里の地図

●墓
木下夕爾の墓に詣づ
墓もおどろくばかり夏菊抱へ来し

わが墓に雪積む景を見にゆくか

●死
八月十五日終戦
てんと虫一兵われの死なざりし

大野林火兄危篤
秋夕焼かく濃かる間も死はあらむ

●あるXX
ある朝の鵙ききしより日々の鵙
ある日ひとり萩括ることしてをりぬ
ある晴れた日に乙鳥(つばくらめ)かへりけり
ある日真砂女葱の高値を嘆じけり

●燕
学芸大学駅前通り
燕来るアンデルセンは麺麭屋の名で

ある晴れた日に乙鳥(つばくらめ)かへりけり

抜き去った結果は以下の通り。



雁啼くやひとつ机に兄いもと
兄いもとひとつの凧をあげにけり
春惜しむ食卓をもて机とし
散るさくら兄妹あひる逐ひにけり

田園調布
しぐるるや駅に西口東口

花冷のおのづと消えてゐしたばこ
鳥渡る終生ひとにつかはれむ
ランプ売るひとつランプを霧にともし
留守に来て子に凧買つてくれしかな
啄木忌いくたび職を替へてもや

伊東
秋の海見て来し下駄を脱ぎちらし

緑陰にして乞はれたる煙草の火
門川にうつる門火を焚きにけり
掃き寄せておいて落葉をまだ焚かず
ハンケチに鏝あてて春愁ひかな
啓蟄や庭とも畠ともつかず
雁ゆくや古き映画の二本立
麦秋や書架にあまりし文庫本
獅子舞の笛のきこえてここへは来ず
水仙の枯れゆく花にしたがふ葉
屑払ふにもかけひきや日脚伸ぶ
片みちは歩いて春を惜しみけり
梅雨の犬で氏も素性もなかりけり
世にも暑にも寡黙をもつて抗しけり
春昼や魔法の利かぬ魔法瓶
手にとりて冬帽古りしこと嘆ず
栄達に遠しはこべら道に咲き
水の辺に立つは鶏頭それも昏れぬ
白つつじ心のいたむことばかり
門出でて十歩すなはち秋の暮

五月六日、久保田先生急逝
小でまりの愁ふる雨となりにけり

自嘲
蓑虫の出来そこなひの蓑なりけり

亀鳴くや事と違ひし志

軽井沢小瀬温泉
はつはつと白きは辛夷ここは信濃

雛流し松籟これを悼みけり
河豚鍋や返しもならぬ人生事

「春燈」主宰と言へば聞えよけれども
水仙の水替へ海綿(スポンジ)の水も替ふ

まゆ玉やまづ真砂女来てきくの来て
芋食つてさも子を憂へざるふりす
うぐひすや母は亡けれど母の家
家鴨らに落花の情はなかるべし

源義、桂郎共に亡し
身辺のものよりかくは枯れ始む

新薬師寺、婆娑羅大将
一神将弓に箭番ふ鹿は射るな

凡朝顔のあと駄鶏頭育てけり
枯芙蓉気儘に生きし覚えなし

東福寺二句
紅葉寺重文百雪隠を遺す
冷まじきものに東司の糞壺よ

甲府常磐ホテル 二句
こほろぎの昼は遊べり石の上

風生先生逝く
喪にをりて春寒の一隠し弟子

蒲郡
草ひばり悲流離悲流離と鳴きつるよ

根深汁一日寝込めば世に遠し
朱欒の欒(ぼん)は団欒の欒(らん)まどゐせむ

岸風三楼逝く
通夜の夜の冷酒菊正君も飲め

大野林火兄逝く
白幡南町秋蝉鳴いてゐたりしか

舟虫の老いては遅鈍嘆じけり
しんかんとあめつちはあり寒牡丹
引くといふこと鴨にあり人にもあり
章魚食つて路通はその忌知れずなり
父の日といふ日がありて子が訪ひ来
雪の降る町といふ唄ありし忘れたり

-------------------------------
今回の私の全句集に、安住敦関連の一句がある。

秋風に安住敦の渋い顔 随笑

作者自身 どこで作ったか定かでない。
写真か何かを見ての作かもしれない。
# by 575fudemakase | 2013-07-04 08:31 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

深見けん二「折にふれて」読後

深見けん二「折にふれて」読後


全句集を出して一息ついている。
それでいて実作のほうは噸と運ばない。
12句集 一万二千句作ったのだから 句作いまさら・・・と思ふのだが
これでは俳句から遠のいてしまう。そうあってはならないと 月一回の
句会を続けている訳だが それも過去のA4ファイル一冊分の過去句から
引っ張りだして行っている。実を言うと もう一句集作成出来る句数は
揃っている。その余裕を残しておいて全句集を閉じた。
余裕の無いことは嫌である。
俳句に繋がるということでもう一つ行っていることは
気になる句集、評判の句集、恵送された句集より好みの句を選り出すという
こと。実は齢相応に依って好みの句は変わるということを実感している。
若いとき是とした句が今何でということがちょくちょくあるのである。

その他の関心事には「多作ということ」、それに関連して「句集の句数のこと」
があるがこれらに関し深見さんの卓見があるので以下に抜粋しておく。

抜粋する一文のタイトルは「句の書き写しと読み上げ」「写生の徒は多作であれ」
「多作の心得」。

●「句の書き写しと読み上げ」

この頃、頂戴する句集に、なかなか目を通すことが出来ないが、古くからの親しい
方の句集や、ずっと注目している方の句集は、自分なりによいと思う句を、紙に書き
写す。更にその二十句を原稿用紙一枚に書きぬき、カルチャーの皆さんに配ることが
ある。その時に、著者の略歴を述べ、まず二十句を私が読み上げることにしている。
・・・この作業を通して、最も恩恵を受けているのは、私自身だとお話した。
よい俳句の書き写しと、朗読することで、心の中に俳句のリズムが自然としみ込むから
である。

●「写生の徒は多作であれ」

私自身も、まずまずの句が出来た時は、多作を続けている時である。
若い時もそうであったが、最近二十年くらいを振り返ってみても、ある期間継続して
多作をしている時に、自分の力と思えぬ言葉が浮かび、発想が飛躍するのである。
その多作も外に出て、ものに触れて写生をして作ることが殆どである。そんな中で
心が詠まれたり、過去と重なった眼前が詠まれ、それまでの自分がいくらか超えられる
のである。

(因みに、多作の句集の句数について深見さんは次のように指摘している)

虚子先生の作句は、ほとんど句会の場であったが、「句日記」に残る句を見ても、
昭和三十二年、八十三歳の一年間で、約六百三十句ある。
青邨先生の第十二句集「寒竹風松」は八十二歳から五歳までの四年間の作品九百六十三
句。年平均二百四十句となる。

●「多作の心得」。

私が考える多作のすすめは、既成の観念を捨てることなのである。その方法としての
多作で、多作しているうちに、対象と自分とが一つとなって、自分が作っているのか、
自然に出来たのか分からぬところへ到達する方法としての多作なのである。
・・・・・・・・・・

心を変えるのに一番よいのは旅であるが、それだけでなく、普段句作以外に、よい句集
を読み、それを諳んじることである。俳句以外の文芸、芸術に興味を持ち、心を豊かに
することが、なおよいが、季題のよく働いたよい句のリズム、言葉のあっせんが身に
つかなくて、ただ多作しても、多作の意味はない。自己模倣にならないこと、それは
私自身への言葉である。

(ふらんす堂文庫)
# by 575fudemakase | 2013-07-04 08:30 | Trackback | Comments(0)


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いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
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[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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