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山頂・山道・麓  の俳句

山頂・山道・麓  の俳句


●青嶺
いつの世も青嶺ぞ立てる盆支度 藤田湘子 途上
かくばかり父の恋しさ夜の青嶺 寺井谷子
ぐいぐいと青嶺引き寄せ旅はじめ 山崎千枝子
ここすぎて蝦夷の青嶺ぞ海光る 角川源義 『神々の宴』
しんがりにも細き道あり遠青嶺 鍵和田[ゆう]子 未来図
ためしたき山彦青嶺ま近なり 朝倉和江
どこ見ても青嶺来世は馬とならむ 村越化石
ひむがしや青嶺つづき宇陀郡 井浪立葉
ふるさとの青嶺に外すサングラス 宮本はるお
みちのくの青嶺はじまり道曲る 角川源義
むささびの声聞く青嶺泊りかな 小林和子(橡)
わがものとして裏山の青嶺聳つ 斎藤玄 雁道
わが立てる青嶺に青嶺続きゐて 右城暮石 上下
をみなへし信濃青嶺をまのあたり 大野林火
イザヤ書の語や凜々と遠青嶺 大谷利彦
コスタリカ旗翩翻青嶺よりの風 大橋敦子
シャワー熱し八甲田山いま青嶺 鈴木鷹夫 風の祭
テスト終ふ青嶺全身映りけり 宮坂静生 雹
ドライブイン四方の青嶺に見下ろされ 高澤良一 随笑
ハンモック青嶺の底へ髪垂らす 中島斌雄
ロープウェイ迫る青嶺に息こらす 大谷秀子
一野猿逃げて残れる遠青嶺 吉田紫乃
七月の青嶺まぢかく溶鑛爐 山口誓子
三山の青嶺の奥に青嶺聳つ 大石壮吾
三泊して雲湧かす青嶺の襞知りぬ 中戸川朝人 残心
九十年へて鍋山も青嶺かな 福田秩父
仰ぐかぎり梅雨の青嶺や小海線 古賀まり子 緑の野
六月の青嶺をちかみ雨のひま 石原舟月 山鵲
六月の青嶺仏相嶽鬼相 西本一都 景色
切り出してここら青嶺の水利権 高澤良一 ぱらりとせ
北上川越えたる青嶺明りかな 下鉢清子
双眼鏡合はす青嶺の一点に 池田秀水
句碑もまた合掌造り遠青嶺 都筑智子
句碑洗ふ青嶺にこだま返しては 長山遠志
句碑生れぬ佐久の青嶺も袖つらね 古賀まり子 緑の野以後
吊皮に足踏んばつて青嶺見る 加藤真名子
向日葵の向きかはりゆく青嶺かな 篠原鳳作 海の旅
吾子死にし青嶺ゆ光雲ひよこ色 香西照雄「素志」
土蔵に青嶺の群るる桑照りぬ 桂樟蹊子
夢踏んでさらに遠のく青嶺かな 小山大泉
大杉に透き重畳の青嶺かな 大橋敦子 匂 玉
大青嶺雲もろともに立ちあがる 井沢正江 湖の伝説
天涯に青嶺むらがり牡丹園 桂樟蹊子
天矛の滴りの山みな青嶺 山口誓子 不動
妻に買ふ青嶺泊りの首飾り 山下一冬
子の目にも梅雨終りたる青嶺立つ 谷野予志
字を思ひ出すため遠き青嶺見る 角光雄
安住す青嶺全きふるさとに 松倉ゆずる
尺蠖の青嶺はかるや句碑の前 角川源義
屋根の上をわたる青嶺や朴の花 田村了咲
屋根替の大声がとぶ青嶺晴 鵜飼直子
川ぐいと曲る青嶺を巻き込みて 高澤良一 随笑
巫女舞の扇の先の青嶺かな 佐野典子
師のほかに師はなし青嶺星ひとつ 小澤克己
師の句碑の成るや火山に青嶺侍す 杉本寛
形代の襟しかと合ふ遠青嶺 能村登四郎 幻山水
悠々と暮れて青嶺のいま黒嶺 高澤良一 随笑
押し迫る青嶺や羆棲息地 高澤良一 燕音
振りて買ふ鈴よ青嶺に雲生まる 宮坂静生 雹
振り向けば帰郷なり遠青嶺 尾田明子
掛茶屋のうらは青嶺や滝祭 田村了咲
放牧の牛見当らず青嶺村 長田等
故里の青嶺さびたり鰻食ふ 細見綾子 黄 瀬
旅の身のいづく向くとも青嶺のみ 菖蒲あや
旅自慢などしてバスは青嶺越え 高澤良一 随笑
日や月や青嶺三日を妻と旅 鈴木鷹夫 春の門
明方の夢が尾をひき青嶺聳つ 本村蠻
昼ふかき青嶺の鬱を道の神 猪俣千代子 秘 色
昼月の青嶺さびしき柿の秋 内藤吐天 鳴海抄
普陀落へ雲翳移る青嶺ばかり 鈴木六林男
望郷の山振り向けば青嶺聳つ 豊長みのる
朝の虹立ちかはりたる青嶺かな 五十崎古郷句集
木曾青嶺お茶壺さまのお通りよ 杉本寛
松伐つて青嶺は傷の深々と 青木重行
梅雨の鳥ひとに似て啼く青嶺かも 飯田蛇笏 雪峡
正面に風三樓忌の青嶺聳つ 池田秀水
母いつも手庇をして青嶺見し 長谷川双魚 『ひとつとや』
母の名を指呼の青嶺に呼びかける 両角津也子
水無月や青嶺つゞける桑のはて 水原秋櫻子「葛飾」
水論に青嶺湧き立つ負けるなよ 加藤かけい
泥まみれなる飲食に青嶺聳つ 飯田龍太
浮雲をあつめて遠き青嶺かな 両角津也子
海原に聳える青嶺神島は 塚腰杜尚(天狼)
渥美夕山青嶺を海のかなたにす 太田鴻村 穂国
湯どころの青嶺をくだりくる湯樋 皆吉爽雨 泉声
湯に立つや青嶺に礼をする如く 川崎展宏
滴りて青嶺を指せる洋傘の尖 加藤楸邨
父に肖るはさびしからねど青嶺聳つ 友岡子郷 日の径
牧柵の白き一条青嶺より 太田土男
瑠璃啼いて青嶺閃く雨の中 秋元不死男
生涯の竹刀青嶺に向きて振る 梶山千鶴子
田沢湖は青嶺の間に手窪ほど 高澤良一 素抱
由布青嶺翳ればかげる寺三和土 岸原清行
男に咲く発破青嶺を噴きあげて 加藤知世子 花寂び
疎の村の青嶺こだまに機を織る 河野南畦 湖の森
白鷺城掌中にして青嶺峙つ 伊東宏晃
的立てて青嶺に対す洋弓部 桂樟蹊子
硬山の青嶺と顕てり廃坑史 阿部いく子
神が世をつくりしままの青嶺かな 梅木蛇火「大山蓮華」
稚い睾丸青嶺へ見せてさびしい牛 井沢子光
空にあふるる青嶺描くに画布たりず 今瀬剛一
立山は七重の青嶺雲を率き 佐藤こう一
紙漉唄ありて青嶺の富める村 神尾久美子 桐の木
繭を煮る老婆に青嶺より微風 福田甲子雄
置いて来し子の眉なすや遠青嶺 猪俣千代子 堆 朱
羽後牛のステーキ青嶺滴るに 高澤良一 素抱
老鴬や青嶺折々雲の上 徳永山冬子
聖母月青嶺青潮あひ響き 伊丹さち子
職も青嶺も癒えねば遠し簾の内 小檜山繁子
胸の上に青嶺来てをり急行車 猪俣千代子 堆 朱
船笛に青嶺引寄せ接岸す 袴田君子
花あけび垂れて青嶺を傾かす 松本 進
花火野郎青嶺の肝を抜き来しと 高澤良一 ねずみのこまくら
蔵を引く転(ころ)や青嶺がどこからも 宮坂静生
蜩や奥の青嶺にうちひびく 水原秋桜子(1892-1981)
蝦夷青嶺肩寄せて守る湖の艶 高澤良一 ねずみのこまくら
裏返る蟇の屍に青嶺聳つ 飯田龍太
西方にあぶくま青嶺句碑開眼 金丸鐵蕉
語尾に光つて杖雲上の青嶺を指す 加藤知世子 花寂び
踏切りいつも生きねばならぬ青嶺見ゆ 寺田京子 日の鷹
轆轤引く指呼に青嶺の帆を張りて 関森勝夫
造船の鉄の音飛ぶ青嶺かな 谷角美砂(湾)
遠青嶺円空仏に鳥の貌 鈴木恵美子
遠青嶺師の墓山に対ひ峙つ 伊東宏晃
遠青嶺煽りて岳の大幟 町田しげき
釣竿を青嶺に向けて川漁師 高澤良一 随笑
鉾杉の鉾を重ねて青嶺なす 山口誓子 紅日
雲ふつと青嶺離るは子のごとし 東城伸吉
雲青嶺母あるかぎりわが故郷 福永耕二
霜害を脊の青嶺がさしのぞく 相馬遷子 雪嶺
青嶺あり日覚めてすぐに水欲りぬ 菖蒲あや あ や
青嶺あり青嶺をめざす道があり 大串章「百鳥」
青嶺こす鉄塔墓の上に光り 福田甲子雄
青嶺なる湯地獄音もかよふなり 皆吉爽雨 泉声
青嶺また青嶺故郷へ産みにゆく 長田等
青嶺もて青嶺を囲む甲斐の国 丁野弘(狩)
青嶺より青き谺の帰り来る 多胡たけ子(山茶花)
青嶺出てまたも青嶺へほとけ道 渡辺恭子
青嶺垣麻八尺の丈そろふ 及川貞 夕焼
青嶺星ゴッホの杉も谷に暮れ 辻田克巳
青嶺星秋立つ雲にさゞめける 西島麦南 人音
青嶺来て身ぬちに充たす野の力 つじ加代子
青嶺照る重たき椅子に身を沈め 沢木欣一
青嶺眉にある日少しの書を読めり 細見綾子 黄 炎
青嶺立つ茶房に双眼鏡置かれ 中田尚子
青嶺聳(た)つふるさとの川背で泳ぐ 大野林火(1904-84)
青嶺聳つに白鳳石の句碑坐る 影島智子
青嶺聳つ三つの國の寄合ひに 山口誓子 雪嶽
青嶺聳つ川沿ひに町続きけり 関森勝夫
青嶺背に分譲マンシヨンそびえ建つ 由良つや子
青嶺背に負ひて当麻の塔二つ 前川伊太郎
青鷺と青嶺動かず千曲川 堀口星眠(橡)
鞍形の青嶺をそこに木曾旅籠 荒井正隆
顔近く昏るる青嶺や合歓の花 藤田湘子
風の奥青嶺は眉を張りつめし 木村敏男
風の青嶺大河芯よりひかり出す 柴田白葉女
風見鶏いづちを向くも伊豆青嶺 冨田みのる
飛騨の迅霧顔出す青嶺陣痛待つ 加藤知世子 花寂び
馬入れて青嶺廂に蹄を打つ 森 澄雄
骨壺に葛生の青嶺見せ戻る 高澤良一 素抱
鮎掛の反らす蹠に青嶺立つ 橋本鶏二
鮎鷹の一閃青嶺澄みにけり 土山紫牛
鳶舞ふや青嶺の滝を護るごと 羽部洞然
鷹とべり青嶺を雲を切り抜けて 茨木和生 三輪崎
麺棒に青嶺窓あり過疎つづく 河野多希女 こころの鷹
●頂
あまつ日に頂裂けぬ秋の島 長谷川かな女 雨 月
お山焼火は頂を皆目指す 磯野充伯
とどまれる波の頂初昔 正木ゆう子 静かな水
まぶしかり雲頂庵の白牡丹 高澤良一 さざなみやつこ
めぐる春頂愚な妻で生き了ふや 及川貞
万燈は頂の花地に崩す 古舘曹人 能登の蛙
元朝の焼嶽の頂蓮華座に 宮武寒々 朱卓
初富士の朱の頂熔けんとす 青邨
初富士の頂丸く友が住む 吉平たもつ
君子蘭蟻頭をふりて頂に 加藤楸邨
噴水の頂の水落ちてこず 長谷川櫂 古志
囀や洛の内チの華頂山 尾崎迷堂 孤輪
塔頂に競うて揚羽異界より 和田悟朗 法隆寺伝承
夏山や二三枚の田を頂に 前田普羅 新訂普羅句集
夢窓忌や頂相となす円相図 渡辺大円
大峯の頂暮れず蓼の花 角川春樹
大穹に鶏頂山の白鶏冠 高澤良一 素抱
寒食や頂まろき双子山 星野麥丘人
尺蠖の頂礼大地しづかなり 嶋田麻紀
手始めに山の頂もみずれり 高澤良一 素抱
摩天楼の頂に秋来てゐたり 長谷川櫂 虚空
星流る天覧山の頂に 山口素基
春山の頂近く開墾す 高濱年尾 年尾句集
春暁や紫焔紅焔富士の頂 徳永山冬子
春虹の頂見んと森を出づ 溝口青男
春蝉や頂を指す道のあり 深川正一郎
春風に頂渡る禅師かな 野村喜舟 小石川
月山の頂にある夏炉かな 岸本尚毅「舜」
枯松の頂白き月夜かな 前田普羅 新訂普羅句集
梅雨雲を頂にして八ケ岳 高木晴子 花 季
樹種ごとに異なる芽生え頂も 雨宮抱星
残照に頂染めて山眠る 孤村句集 柳下孤村
水仙を頂にして堤成る 中戸川朝人 尋声
絶海の島頂に枯すすき 品川鈴子
臘八や老師は須弥の頂キに 尾崎迷堂 孤輪
花氷頂の色何の影 原石鼎
英彦山の頂に置く夏帽子 松尾隆信「菊白し」
錆鮎や頂見えぬ山ひとつ 児玉輝代
雄阿寒の頂吹雪きユーカラ織る 野崎ゆり香
雪の香濃し頂近くわが香失す 加藤知世子 花寂び
雪残る頂一つ国境 残雪 正岡子規
韓国の頂見えて滝かかる 小原菁々子
頂ならぶ越の雪山きのこ取り 川崎展宏
頂にたてば海見え山笑ふ 成瀬正とし 星月夜
頂につらなる雪に厩出し 前田普羅 飛騨紬
頂に出て茸空し昼の月 比叡 野村泊月
頂に噴煙載せて山笑う 宮成鎧南
頂に家かたまれり梅の村 五十嵐播水 埠頭
頂に山の日のこる桐の花 佐藤美恵子
頂に春の岩群膝吹かる 原裕 葦牙
頂に湖水ありといふ秋の山 河東碧梧桐
頂に神話の碑あり雲の峰 木津凉太(萬緑)
頂に花一つつけ秋茄子 原 石鼎
頂に西日残せり秋の山 大場白水郎 散木集
頂に遊べる馬や萱を刈る 河野静雲 閻魔
頂に雪来る暗さかも知れず 山田弘子 懐
頂に駕籠を置きたし冬桜 星野紗一
頂に鷺がとまりぬ梅雨の松 前田普羅 新訂普羅句集
頂のしばしを霧に馴れ憩ふ 石橋辰之助 山暦
頂の夕日わづかや雪の嶺 長谷川かな女 雨 月
頂の山火かくさず鹿の杜 古舘曹人 砂の音
頂の泰山木の花に逢ふ 殿村莵絲子 花 季
頂の湖の真晴や山眠る 東洋城千句
頂の炎の歓喜牡丹焚く 大橋敦子
頂の神事は知らず山開 森田峠 逆瀬川
頂の雪澄みわたり秋立ちぬ 池内友次郎 結婚まで
頂は日射す風樹や蝉音籠る 中戸川朝人 残心
頂は祠一つや四方の春 木野泰男
頂へ峰焼く煙たゝなはり 高橋馬相 秋山越
頂へ踏青の道馬の径 遠井俊二
頂へ逆立つ樹氷奥信濃 三栖隆介
頂へ道の集まる初詣 高澤良一 ねずみのこまくら
頂や残んの雪の一握り 平塚蕗山
食べるものある茶屋もあるかに頂見ゆれ シヤツと雑草 栗林一石路
麦藁帽に頂のある日暮かな 大木あまり 火球
●奥嶺
とらはれし熊に奥嶺の秋のこゑ 大島民郎
仏母忌の奥嶺をのぼる沙羅の雨 安藤葉子
佐保姫に白き奥嶺のいつまでも 大島民郎
凍滝と奥嶺の月と照らし合ふ 能村登四郎
初機のやまびこしるき奥嶺かな 飯田蛇笏
吹雪ゐてかがやく奥嶺信じたし 宮坂静生 春の鹿
夏深く奥嶺に入れば音もなし 飯田蛇笏 椿花集
夕映えて雪の奥嶺のあぶり出し 堀口星眠 営巣期
奥嶺もう隠れし秋の扇かな 辻桃子
奥嶺よりみづけむりして寒の溪 飯田蛇笏 春蘭
奥嶺より雪の次第に迫る町 吉村ひさ志
奥嶺奥嶺へ雨の燕と電線と 加藤楸邨
奥嶺奥嶺へ雪降るやうな繭組む音 加藤知世子 花寂び
山吹の夕冷え奥嶺までつづく 大串章 朝の舟
山葵田は奥嶺の梅雨にしたしめり 松村蒼石 雪
戸隠の奥嶺ちかづく雪卸 松村蒼石 雪
日は渺と奥嶺秋園人をみず 飯田蛇笏 春蘭
暑うして奥嶺も花の古びたる 吉武月二郎句集
桜桃の花に奥嶺の雪ひかる 大竹孤愁
波立つ瀬奥嶺の雪の解けそめたり 大島民郎
簗守るや奥嶺にこもる夜の雷 河北斜陽
蛇去るに多摩の奥嶺が日を吸へり 萩原麦草 麦嵐
蛇笏忌や奥嶺の雲に炎走る日 角川源義
逆の峰入法螺鳴つて奥嶺霧うごく 松林到池
重陽の夕日をのこす奥嶺あり 大峯あきら 鳥道
頬白や奥嶺秘めたる渓去らず 木山白洋
風かはり奥嶺雲脱ぐ植樹祭 根岸善雄
●尾根
いく尾根の果とし雪の平家村 桑田青虎
うぐひすや古雪いよよ尾根に臥し 皆吉爽雨
かやくぐり聞き天近き尾根わたる 福田蓼汀 山火
けんぽなし干してほかほか尾根ぬくし 浜田波川
この小屋を埋むる雪の尾根に来し 福田蓼汀 秋風挽歌
こまどりや風に靡きて尾根の木々 土方 秋湖
さねかづら一途に来しが尾根さみし 稲垣きくの 牡 丹
すひかづら尾根のかなたの椎の群 志摩芳次郎
つめたい尾根へ足なみそろえてみに行つて 阿部完市 軽のやまめ
ななかまど尾根に吹く雲霧となり 原柯城
まんまるに雑木尾根出て盆の月 永井東門居
やまびこをつれてゆく尾根いわし雲 飯田蛇笏 春蘭
わが来し尾根わが来し雪渓夕日さす 岡田日郎
キャンプ出て暁の尾根ともし行く 田中静竜
ヤンマとぶ伊豆南端の尾根の上 飯田龍太 今昔
一刷きの紅葉の修羅尾根走り 斉藤美規
一尾根に日向が逃げて葛しぐれ 上田五千石 琥珀
一尾根はしぐるる雲か富士の雪 松尾芭蕉
一月の星座きりりと尾根を統べ 雨宮抱星
一樹だになき尾根秋風殺到す 岡田日郎
丹沢の尾根よく晴れて大根引 萩原まさこ
人住めば人の踏みくる尾根の雪 前田普羅 飛騨紬
人小さく雲崩のがれて尾根はしれり 石橋辰之助 山暦
偃松とお花畑は尾根に会ふ 福田蓼汀 山火
八栗嶺の松原尾根の遍路みち 高濱年尾 年尾句集
冬旱尾根の草原牧のあと 岩本相子
凍空へ尾根みち槍のごとくあり 清水青風
刈萱や雲通ふ尾根を吾も行く 岸田幸池
反りうつて花野へのびる尾根の径 栗生純夫 科野路
吊り尾根を越え来し雨脚踊子草 平井さち子 鷹日和
囀や次の札所へ尾根づたひ 柳沢仙渡子
夕尾根のたてがみとなり雪木立 平井さち子 紅き栞
夕雁の光となりて尾根越ゆる 佐藤桂水
夕露や尾根うつりする鳥一羽 金尾梅の門 古志の歌
大南風をくらつて尾根の鴉かな 飯田蛇笏 霊芝
大恵那の尾根や端山や鳥渡る 松本たかし
子と描きし七月の尾根遂に昏れぬ 石橋辰之助 山暦
子は抱かれ夏雲の尾根を下りむとせず 石橋辰之助 山暦
孫尾根へすべり込む鳥子供の日 平井さち子 鷹日和
寒明けもおし迫りたる尾根ゆきぬ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
尾てい骨したたかに打つ夏の尾根 江崎豊子
尾根ごとの秋日を愛しみ馬佇てる(美ケ原四句) 内藤吐天
尾根さらに尾根を岐ちて初紅葉 有働亨
尾根さらに尾根を岐つや初紅葉 有働 亨
尾根といふ大地の背骨春の雷 薬師寺彦介
尾根に出て雲まぶしめり岩鏡 国枝隆生「鈴鹿嶺」
尾根に出るところ日当り春竜胆 岡田日郎
尾根に延ぶエーデルワイス夕日の的 影島智子
尾根に雪残し弥陀仏懇ろに 相原左義長
尾根の赤土せんぶり摘みが蟻めくよ 佐野まもる
尾根みちの杉の下露濡れて行く 高濱年尾 年尾句集
尾根めざす鷹捲き上る霧に乗り 羽部洞然
尾根わたる杖もさだかに遍路かな 皆吉爽雨
尾根をゆく雲の流れや南州忌 松尾田春一
尾根を行く夫鶯のまねしつつ 一ノ木文子
尾根を越す柳絮の風の見えにけり 前田普羅 春寒浅間山
尾根を越す羽音鳴かねば冬の鳥 中戸川朝人
尾根寄りに五六戸ひかる昼がすみ 荒井正隆
尾根移り落ちゆく日あり冬紅葉 島田みつ子
尾根越しに鶸鳴きわたる日和かな 長谷川草洲
尾根越しの風に匂ふは花辛夷 福田蓼汀 秋風挽歌
尾根越しの鶴光塵となりにけり 小西 藤満
尾根雪と幕舎にもどる山男 福田蓼汀 秋風挽歌
尾根雪崩れ鳴りどよみひんひんと餘韻消ゆ 京極杞陽
山火いま月のしたびを尾根に出づ 栗生純夫 科野路
岩なだれとどろ荒尾根蝶湧けり(穂高尾根) 河野南畦 『黒い夏』
幽明の境の尾根を月照らす 福田蓼汀
幾尾根に広がる牧場雲の峰 松尾緑富
幾尾根の冬紅葉抜け奈良山に 稲岡長
幾尾根を越え春潮へ至る旅 稲畑汀子 春光
幾尾根を越え来し我に野菊あり 大久保橙青
我等父子雷鳥親仔と尾根に逢ふ 福田蓼汀
我等親子雷鳥親仔と尾根に逢ふ 福田蓼汀
新樹風一息に尾根渡る見ゆ 高澤良一 素抱
日の尾根の太虚に亙り寒き聯 木村蕪城 寒泉
明けはずむ鳥音ぞ尾根に雲眠れる 太田鴻村 穂国
星かとも尾根ゆく灯あり初詣 白澤よし子
春蘭に尾根つたひくる日のひかり 斎藤梅子
月のこる尾根に囮もくばられし 瀧春一 菜園
月の天網場の尾根のうかびくる 瀧春一 菜園
朝焼の尾根にザイルを結び合ふ 山田春生
朝焼の雲海尾根を溢れ落つ 石橋辰之助「山行」
朝焼やたてがみなして尾根の藪 香西照雄
朝焼やたてがみ如して尾根の藪 香西照雄 対話
木賊刈いく尾根の線起ちて走す 桂樟蹊子
松虫草いく夜吹かれし月の尾根 小畑耕一路
枯尾根の模糊たるはつるうめもどき 福永耕二
柳絮舞ふ天に吊尾根揺るぎなし 橋本榮治 越在
桑咲くや尾根を下りくる薬うり 金尾梅の門
横川まで卯月曇の尾根づたひ 中井余花朗
残雪のわが来し尾根を星が埋め 岡田日郎
残雪の尾根星ぞらの若々し 千代田葛彦 旅人木
海の日をさやけみ尾根の枯れをゆく 太田鴻村 穂国
炭山は尾根を重ねて月遅し 高濱年尾 年尾句集
片頬朝焼片頬月夜尾根のぼる 岡田日郎
生きものを見ぬ尾根の池虹映す 福田蓼汀 秋風挽歌
白雲の流転の尾根に紅葉濡れ 岡田日郎
真直に尾根越えしたり天の川 乙字俳句集 大須賀乙字
秋や尾根アテネを模せし小劇場 吉田紫乃
秋晴を分水嶺の尾根で截る 辻田克巳
秋草や尾根おのづから径をなす 馬場移公子
稲妻に穂高むら尾根光り合ふ 河野南畦 『黒い夏』
竜胆や嶺にあつまる岩の尾根 水原秋櫻子
竜胆や青尾根霧を吹きおとす 百合山羽公
筒鳥や思はぬ尾根に牛群れて 堀口星眠「火山灰の道」
老鴬を足元に聞く風の尾根 竹屋睦子
胡麻干すや津久井の尾根を河越しに 石塚友二 光塵
芋虫や赤城が尾根を曳く様に 野村喜舟 小石川
花の名は知らず花野の尾根行けり 渡部抱朴子
花吹雪うねりて尾根を越えゆけり 矢島渚男 船のやうに
茸狩の尾根みちへ出て戻るなり 高濱年尾 年尾句集
萱刈の尾根に出てゐる日和かな 松藤夏山 夏山句集
蒼天へつづく尾根尾根植樹祭 木村蕪城 寒泉
蒼天へ続く屋根尾根植樹祭 木村蕪城
薄雪草咲く尾根夕日朝日さす 岡田日郎
虹くぐり神官ひとり尾根くだる 岡田日郎
蜻蛉やにはかに紅き尾根の霧 千代田葛彦 旅人木
裏尾根は青翳りして初浅間 堀口星眠 営巣期
踏みさうになりし竜胆風の尾根 豊田美枝子
退路なし進路霧ただ冥き尾根 福田蓼汀
這松を抽きつつ尾根も花野なす 皆吉爽雨 泉声
遠山の尾根をましろに草城忌 田中麗子
雄阿寒の尾根引き締めし今朝の秋 三上美津子
雑木山にこぶし点在尾根を越す 杉山郁夫
雛を呼ぶ雷鳥尾根の日暮どき 新井 英子
雪尾根に月ありコリーさまよふも 堀口星眠 営巣期
雪尾根の日に炎えて鴨落ちにけり 堀口星眠 営巣期
雪嶺のかみそり走り尾根を成す 若木一朗
雪嶽の尾根越ゆる道白き道 山口誓子 雪嶽
雲取の尾根の樹間に初日の出 大原紀峰
雲海の音なき怒涛尾根を越す 福田蓼汀
雲海の音なき怒濤尾根を越ゆ 福田蓼汀
雷又雷尾根の新樹を震はせて 高澤良一 素抱
雷鳥や風吹き分かれ尾根のみち 金沢正恵
霧はれし尾根がみちびく浄土山 能村登四郎
霧晴るゝいとまは短か尾根もみぢ 及川貞 夕焼
露けさの尾根連なりて暮れにけり 金尾梅の門 古志の歌
青あらし高積雲に尾根かたぶき 桂樟蹊子
頬にふるゝ萩をかなしと尾根づたひ 岸風三楼 往来
風やみし入日の尾根を猪の列 土方 秋湖
風花の尾根がすなはちへんろ道 細谷喨々
駒草や朝しばらくは尾根はれて 望月たかし
鳩鳴いて松尾寺まで尾根歩き 田中はな
鴬や岬の尾根は海女の畑 渡部昌石
鵙の昼ひかりて尾根の人が見ゆ 原裕 青垣
鶯やしばし平らな尾根伝ひ 小澤碧童 碧童句集
鶴の棹尾根に吸はるる如く消ゆ 鈴木貞雄
黒百合の花に鎌尾根霧吹きし 蓮實淳夫
●岳麓
*のろが来て鳴く岳麓の夕べかな 大野雑草子
山廬まだ存す岳麓枯木中 高浜虚子
岳麓の名残りの猟の野兎二匹 山本二三男
岳麓の思出尽きず夜の秋 松尾緑富
岳麓の旅や三日の雪に逢ふ 伊藤いと子
岳麓の旅コスモスにコスモスに 山田弘子 こぶし坂
岳麓の朝日きびきび山吹に 高澤良一 ももすずめ
岳麓の枯れのつづきの畳に母 友岡子郷 日の径
岳麓の石田やよべはどんど焚 百合山羽公 寒雁
岳麓の達谷山房蝉涼し 伊東宏晃
岳麓の闇より闇へほととぎす 山田弘子 こぶし坂
岳麓も浪うつ畦や田掻馬 百合山羽公 寒雁
岳麓や正月菓子の色ぞ濃き 北野民夫
岳麓冬物音はなればなれにす 宮津昭彦
萱刈つて岳麓の冬見えはじむ 岡本 眸
鯉幟岳麓の田植始まれり 渡邊水巴 富士
●神の嶺
神の嶺も雪消したまふ田植かな 井沢正江 一身
水分の神の嶺つたふ木の葉雨(吉野山) 角川源義 『神々の宴』
●切通し
たたら踏む神輿となりし切通 槐太
丑満の星飛び氷る切通し 佐野美智
何時も春に湧く水祭の切通し 宮田正和
何求(と)めて冬帽行くや切通し 角川源義(1917-75)
公暁忌のしんと底冷え切通し 伊藤伊那男
冬空の鋼色なす切通し 大野林火
切通からの青空水仙花 中田剛 珠樹以後
切通しこほろぎの音に満ち満てる 山本歩禅
切通し出て天辺に枯野星 石塚友二
切通し岩に日の照る蜻蛉哉 内田百間
切通し岩石剥いで氷柱落つ 高澤良一 鳩信
切通し手套の拳固めすぐ 大岳水一路
切通し抜けて田に出る冬日和 藤田あけ烏
切通し春りんどうに足をとめ 坂本いつ子
切通し海へ出る蝶かずしれず 佐野まもる 海郷
切通し磐しぼる水凍りつき 高澤良一 宿好
切通し落葉朽葉を踏み付けに 高澤良一 宿好
切通し薄の空の深くして 森本芳枝
切通し蜑がくさめのこもりたる 佐野まもる 海郷
切通し路藁苞の胡瓜苗 滝井孝作 浮寝鳥
切通し霜踏めば遂はるるごとし 角川源義 『口ダンの首』
切通破魔矢かざせば海が見ゆ 宮下翠舟
初音して海ひらけくる切通し 水原春郎
団栗や入日に冷ゆる切通 長谷川櫂 古志
大雪や藪と藪との切通し 秋紅 俳諧撰集玉藻集
天に葛飛び咲く赭き切通し 末次雨城
好しき切通あり小正月 八木林之介 青霞集
妹許へ萩に触れゆく切通し 北野民夫
山吹の風ふき抜くる切通し 中原八千子
山桑は花垂らしをり切通 阿波野青畝
捨雛に甲斐の山見ゆ切通し 水原秋櫻子
早春の空嵌(は)めて悲し切通し 楠本憲吉
本郷は切通し上吹雪かな 久保田万太郎 草の丈
烈風に桜のけぞる切通し 高澤良一 寒暑
猟犬の綱引き絞る切通し 嶋田一葉詩
猪狩の大勢が来る切通 細川加賀
獅子頭抱へてゆきし切通し 増成栗人
盛んなる雪解や湯島切通し 村沢夏風
石蕗は絮飛ばし亀ヶ谷切通し 青木重行
秋郊のひやゝかなりし切通し 山口誓子
笹鳴のたどたどしさよ切通し 長谷川浪々子
笹鳴や鎌倉街道切通し 矢田邦子
背負籠に水仙風の切通し 佐野美智
茱萸の花寺へ往き来の切通し 永島きみ子
葛咲くやいたるところに切通 槐太
藤揺れて朝な夕なの切通し 中村汀女
蚋が出て闇の下り来る切通し 原口英二
蝉に蝉声加へゆく切通し 都筑智子
行く秋の鶴に似る雲切通し 鍵和田[ゆう]子 未来図
鎌倉の切通ゆく冬青空 大橋敦子
阿羅漢のつくる野分や切通 齋藤玄 飛雪
雪折の竹裂くるよる切通し(末次雨城庵二句) 『定本石橋秀野句文集』
零余子散るいざ鎌倉の切通し 川崎展宏
青を以て聖土曜日の切通 柚木紀子
青葉風都電跡なる切通し 長 カツコ
●銀嶺
まんさくに銀嶺の風まつしぐら 立川華子
新樹より一銀嶺に眼を飛ばす 古舘曹人 能登の蛙
銀嶺の水の巡りて山葵沢 宮木忠夫
銀嶺をはるかに蝦夷の野焼かな 矢野 宗
銀嶺を劃す一木枯れにけり 金尾梅の門 古志の歌
青空に銀嶺走るだるま市 高澤良一 寒暑
●群峰
慈悲心鳥鳴き群峰の一つ明け 岡部六弥太
●嶮嶺
●高峯
つゆさむやすこしかたむく高峯草 飯田蛇笏
秋さむや瑠璃あせがたき高峯草 飯田蛇笏
●孤峰
我が思ふ孤峰顔出せ青を踏む 前田普羅
眉間に聳ち雪の冥さの孤峯なり 鷲谷七菜子 銃身
●最高峰
登り来し山上どれが最高峰 右城暮石 上下
●山中
あくがれは山中に摘む子日草 立半青紹
いさぎよくやみたる雨にしばらくの真夜の沈みは山中のごと 松村英一
かくれ滝鳴る山中に独活を提ぐ 村越化石 山國抄
きりぎりす山中の昼虚しうす 原コウ子
したたりや山中に老ゆ寺の鶏 秋元不死男
しらほねという山中で人を見た 奥山甲子男
どくだみの咲く山中に迷ひけり 大串章 百鳥 以後
どこにても死ねる山中あけびの實 手塚美佐 昔の香
ひぐらしの鳴く山中に林火句碑 伊藤いと子
ゆく年の山中の星 独眼竜 穴井太 土語
ゆく年や山中に水湧くところ 久保純夫 熊野集
われを呼ぶ患者寒夜の山中に 相馬遷子 雪嶺
一つ葉の胞子を飛ばす山中に 久保田月鈴子
一握の刈田明りや木曽山中 鷲谷七菜子 花寂び
一月や山中をくる狐憑 矢島渚男 梟
一灯もなき山中の火取虫 檜紀代
久女忌の山中に焚く桜榾 児玉輝代
人真似の吾が頬かむり木曾山中 橋本三汀
仏在す山中に僧冬耕す 吉野義子
仏法僧山中の樹々沈みゆく 高橋良子
伊豆へ避暑今は山中今は浜 高澤良一 鳩信
伊賀上野いまも山中餘花にきて 古舘曹人 砂の音
何もなし飛騨山中の火打ち石 津沢マサ子 華蝕の海
何燃やしゐる月明の山中に 吉田汀史
修羅落し走りの梅雨を山中に 佐野美智
八月の山中なれば吾子とゐる 松尾隆信
初秋や山中は魚串刺しに 斎藤玄 雁道
台風豪雨甲斐山中の湯に沈む 石川桂郎 四温
吹流し山中に家見えざれど 茨木和生 倭
嚏して木曽山中と知らすなり 松山足羽
夜寒さの皿洗ふ音山中に 野澤節子 遠い橋
大炉燃えて山中の家城の如し 清原枴童 枴童句集
大雪の今朝山中に煙たつ 宇多喜代子 象
密教の山中鰯雲密に 近藤一鴻
富士五湖の山中の秋ついりかな 石塚友二
寒の雨山中に艶もどりたる 原田しずえ
山中にあり囀りは身より出づ 渡辺恭子
山中にこの大蟻の行きゝかな 前田普羅
山中にしてまくなぎの徒党組む 滝 佳杖
山中に一夜の宿り白桔梗 野澤節子
山中に人の働くしぐれどき 齋藤玄 『雁道』
山中に人恋ふごとく火を恋へり 檜紀代
山中に人来ればまた夏落葉 清水径子
山中に何時かは亡ぶ大桜 高澤良一 寒暑
山中に冬の日昇ること遲し 冬の日 正岡子規
山中に古き炭屑世阿弥父子 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中に喝と木の根をうつ木の実 福永耕二
山中に地球儀まわし霧深める 中島斌雄
山中に夜干しの褌(みつ)の静かなり 奥山甲子男
山中に大きほとけや鴉の子 関戸靖子
山中に子あやす鈴をもらす家 安川貞夫
山中に寝よとて合歓は植おかず 立花北枝
山中に師と花冷の湯壺かな 近藤一鴻
山中に底冷えの湖一つ置く 松村蒼石 雪
山中に恋猫のわが猫のこゑ 橋本多佳子
山中に新しき道十二月 和田耕三郎
山中に時の澄みゆく蟻地獄 山上樹実雄
山中に暦日ありて蝌蚪生る 遠藤梧逸
山中に朴ひとつ咲き父の日か 木村敏男
山中に梅あり道はこゝにあり 尾崎紅葉
山中に楪氷るものを踏み 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中に楽師の宿や夏の月 乙字俳句集 大須賀乙字
山中に歩みをとどめ火の恋し 檜紀代
山中に氷柱を囲み詩仲間 村越化石 山國抄
山中に河原が白しほとゝぎす 遷子
山中に澄みのはじめの返り花 村越化石
山中に火を飼ふごとし夏炉焚く 鷹羽狩行「十二紅」
山中に独りの日あり梅雨菌 若月瑞峰
山中に生きぬく鯉に春の雲 車谷弘
山中に番地の残り竹の秋 大木あまり 山の夢
山中に眼の慣れてきし狐罠 牧 辰夫
山中に空家の並ぶ竹の花 福田甲子雄「山の風」
山中に竹しなふ音菊膾 大木あまり 火のいろに
山中に羽子を突くその可憐な音 山口誓子 構橋
山中に芽ぐむもの待つ蟹の泡 村越化石 山國抄
山中に菌(きのこ)からびぬ冬日輪 野沢節子 鳳蝶
山中に菌からびぬ冬日輪 野澤節子 黄 炎
山中に薪棚白息ふりかへる 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中に解脱して蛇穴に入る 村越化石 山國抄
山中に貝の化石や松蘿 原 天明
山中に身を養ふや洗鯉 森澄雄
山中に達者なりけり大桜 高澤良一 随笑
山中に銀河を語る大銀河 中島斌雄
山中に銀行ありし櫻かな 久保田万太郎 流寓抄以後
山中に鯉飼ふさくらさくらかな 大石悦子 百花
山中のいづこ雷雨か洗ひ牛 村越化石 山國抄
山中のほたるぶくろに隠れんか 小澤實「立像」
山中のテントむしばむ星の数 内野 修
山中の一木に倚る蛇笏の忌 桂信子 緑夜
山中の一窯守りて竜の玉 北見さとる
山中の冷えきびきびと神の顔 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中の凩白い手を出しぬ 庄司とほる
山中の初烏とてなまぐさし 清水衣子
山中の吹雪抜けきし小鳥の目 福田甲子雄
山中の夜やわれ坐り柿坐り 村越化石
山中の夜干しの褌(みつ)の静かなり 奥山甲子男
山中の大き目まとひ水薬師 宮坂静生 山開
山中の大百合もたらせし中夜吟 原裕 『王城句帖』
山中の大石橋や時鳥 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
山中の小松みどりに春祭 森 澄雄
山中の居や一簾に足りにけり 村越化石
山中の巌うるほひて初しぐれ 飯田蛇笏
山中の巨石の季節苔寒し 林翔
山中の師の夢のこと雪が降る 大串章
山中の径たえだえに芹の花 大木あまり 火球
山中の斧のひかりを恵方とす 佐川広治
山中の昼老け役のけらつつき 岡井省二
山中の時雨に無線中継所 和田耕三郎
山中の木々の匂へる冷し酒 大木あまり 雲の塔
山中の水音いそぐ紅葉かな 山崎千枝子
山中の氷らぬ池や浮寐鳥 石動炎天
山中の池の薄氷美術館 横田昌子
山中の池物凄し閑古鳥 閑古鳥 正岡子規
山中の涅槃団子としての色 小林牧羊
山中の瀧を見にくる厄落 宮坂静生 山開
山中の炊煙霧が濃くて失す 及川貞 夕焼
山中の相雪中のぼたん哉 蕪村 冬之部 ■ 陶弘景賛
山中の石気に冷ゆる新茶かな 高田蝶衣
山中の神輿庫守る冬桜 中野真奈美
山中の秋めくものに枕かな 大木あまり 火のいろに
山中の竹林ゆれて底冷す 鶏二
山中の落葉しぐれや芭蕉堂 泊 康夫
山中の螢を呼びて知己となす 飯田蛇笏 椿花集
山中の贅山繭のうすみどり 後藤比奈夫「紅加茂」
山中の闇たちあがる仏法僧 高橋良子
山中の闇の分厚さ牡丹鍋 横山房子
山中の雨やきらきら若牛蒡 森澄雉
山中の雲にあけびをあづけたる 高澤良一 ねずみのこまくら
山中の静けさありぬ夏座敷 増田龍雨 龍雨句集
山中の風が風呼ぶ時雨宿 中川結子
山中の風鈴白き尾を垂らす 館岡沙緻
山中の馥郁たるは焚火あと 鴻司
山中の鯉にフ麸をやる三ヶ日 森 澄雄
山中の鯉に麩をやる三ケ日 森澄雄
山中は心音と梅にぎやかに 宇多喜代子 象
山中は独語も緑滴れり 辻田克巳
山中は雪解空より糸の滝 松村蒼石 雪
山中は青空に明け冬苺 中田剛 珠樹以後
山中やえごの散り敷く翁道 山本麓潮
山中やただにおもふも人のうへ 室生犀星 犀星発句集
山中や何れか固き鼻と栗 永田耕衣 闌位
山中や何をたのみに秋の蝶 蝶夢
山中や日の没るまでを猛り鵙 桂 信子
山中や朝しらたまの冷豆腐 上田五千石
山中や泉を寝かせ涅槃雪 村越化石 山國抄
山中や空にみなぎる春の雪 林 徹
山中や絵団扇の色薄きまま 波多野爽波 『一筆』
山中や菊は手折らぬ湯の匂ひ 芭蕉
山中や萩咲き私の座敷のよう 斎藤一湖
山中や鶯老いて小六ぶし 支考「けふの昔」
山中をありありとゆく父の拳 奥山甲子男
山中を出て曼珠沙華旅いざなふ 村越化石 山國抄
山中を風暗く過ぐ慈悲心鳥 山崎千枝子
山中一湖の光り山中漆掻く一人の男 安斎櫻[カイ]子
山中人が饒舌の爐を塞ぎけり 内藤吐天
山中公園 熊蜂 女神像同居 伊丹公子 ドリアンの棘
山中昏れ 昏睡の鵙 美山杉 伊丹公子 山珊瑚
山中村此頃俗化山の月 上野泰 春潮
折鶴ら如何に夜を越す雪山中 村越化石 山國抄
春の葬山中に木木立ちどまり 和田悟朗
暦日もなき山中や鶏合 和気魯石
月光を得て山中の竹煮草 多田裕計
月明の熊野山中水急ぐ 久保純夫 熊野集
木の実植う山中に得て名を知らず 後藤梅子
木曽山中松風をきく夏爐かな 加藤耕子
枯れ山中夜は星降るを誰れも知らず 河野南畦 『空の貌』
枯山中日ざせばふいに已が影 野澤節子 遠い橋
枯山中月光散華一水車 近藤一鴻
枯山中遠きけむりにぬくみあり 和田耕三郎
枯蔓や山中に水もつれ合ふ 加藤けい
栃の実にしたたかの雨出羽山中 鷲谷七菜子
栃降つて山中深く日当りぬ 宮慶一郎
桜濃き紀伊山中に界を分つ 宇多喜代子 象
梅雨寒のそれも山中七ヶ宿 岸田稚魚
梅雨山中白茫々の狂ひ滝 岡田日郎
梅雨雲のそれも山中七ケ宿 岸田稚魚
正月の山中にして囀れり 岸田稚魚
死の見ゆる日や山中に栗おとす 秋元不死男(1901-77)
気短き木曾山中の走り雨 福田甲子雄
水芭蕉山中は日のこまやかに 大畑善昭
沢音の時雨とまがふ木曾山中 片山由美子 天弓
泉ある証靄立つ寒山中 村越化石 山國抄
滝もある山中に蝉死処えらび 村越化石
滝落ちて山中の春ゆるやかに 星野麦丘人(1925-)
火より人恋ひ山中の火取虫 鷹羽狩行「十四事」
父恋ひの山中に栗落としをり 伊藤白潮
猪を煮て山中に日の失せしかな 手塚美佐
猪食つて山中忘る余寒かな 秋元不死男
猫歩く枯山中にみごもりて 山口誓子
白幣の切れ端の飛ぶ枯山中 飯野きよ子
白蚊帳の丈山中に目を覚ます 藤井亘
白骨樹立つ山中に目細鳴く 池永 和子
皐月紅さし山中節は情ふかく 長谷川かな女 牡 丹
真鯉飼ふ木曾山中の秋の水 大西八洲雄
睡蓮の初花雲の山中に 中戸川朝人 残心
短夜の山中白瀑落し明け 村越化石 山國抄
秋の山中にも金洞と申すは 秋の山 正岡子規
秋の山中に石鐵山高し 秋の山 正岡子規
竹が粉を噴いて山中日の盛り 河合凱夫
笑ふ山中に妙技のむつかしき 山笑う 正岡子規
紅葉山中にあたまが数珠繋ぎ 中田剛 珠樹以後
終点は山中にあり白露の日 永田園子
緑山中かなしきことによくねむる 森澄雄
緑山中一瀑神の一糸とも 野澤節子 遠い橋
緑山中翁と曾良のはなしかな 佐藤美恵子
緑山中魂といふそよぐもの 加藤耕子
耳ふたつ山中をゆく落葉どき 猪俣千代子 堆 朱
耳澄ましゐる山中の百合とをり 永田耕一郎 海絣
船の音山中深く響きけり 高橋 龍
芋虫を木曽山中に嗤ひけり 波多野爽波 『湯呑』
芥子の種蒔く山中の薬舗かな 富永眉月
花魁草甲斐山中の一軒湯 岡田日郎
荒くれのやう山中の朴落葉 平手むつ子
荒瀧にしてかく静かなる山中 小島花枝
蔓うめもどき雪と交はる山中に 村越化石 山國抄
薫風に求めて軽き山中紙 林翔 和紙
虎杖折る小気味よき音山中に 茂里正治
蛇穴に入りて不思議に澄む山中 村越化石
蛭降つて大台山中雷火立つ 平川 尭
蛾も青を被て山中の一燈に 野澤節子 遠い橋
蟻地獄在り山中の暦日に 松本たかし
蠅叩置き山中の料金所 宮坂静生 春の鹿
裏白を剪り山中に音を足す 飴山實 辛酉小雪
裏白取りに行く山中の愛林碑 浜田清子
誰も来ぬ日の山中に茸(たけ)あそぶ 青柳志解樹(1929-)
赤を深めゐる山中の土運び 右城暮石 声と声
軍装を解く山中のかまいたち 星野昌彦
逢ひにゆく枯山中の一泉 宮坂静生 山開
野分雲箱根山中にて仰ぐ 細見綾子 黄 瀬
長時間ゐる山中にかなかなかな 山口誓子
長遊びして山中のゐのこづち 児玉輝代
雨に日延べの踊を今日や木曾山中 島谷征良
雨降れば冷ゆ山中のおそざくら 関 成美
雪ふる夢ただ山中とおもふのみ 大野林火(1904-84)
雪来るか山中に入る深轍 中村明子
雪解急夜の山中にこゑひそみ 松村蒼石 雪
雲白く湧く山中のかたつむり 大串章
電気出発雪山中の発電所 茨木和生 木の國
霜柱の針の山中蘭の温室 殿村莵絲子 花寂び 以後
霧の山中単飛の鳥となりゆくも 赤尾兜子
青嵐湧く山中のささら舞 茂里正治
青苔の冷え山中に口おごり 原裕 葦牙
髪のピン光る山中の紅葉に逢ひ 櫛原希伊子
鬼やらひ山中だけの雪とべり 村越化石 山國抄
鳥けもの喜雨山中に出で逢へや 村越化石「山國抄」
鶏売の来て山中に鰯雲 村越化石 山國抄
鶏犬の声す山中の返り花 臼田亞浪 定本亜浪句集
●山頂
いま山頂に汗よろこびて看護婦達 飯田龍太 麓の人
かんじきに乗る山頂に溺れぬため 小川双々子
きちきちがとんで山頂草広し 高浜年尾
つひに佇つ奥穂山頂秋日濃し 紅谷敏子
ひぐらしや山頂は陽の谺生み 雨宮抱星
リフトにて山頂へなほ冷えに行く 辻田克巳
体育の日の山頂に彩筵 筏奈雅史
冬の虹山頂ホテル夕閉す 柴田白葉女 遠い橋
凍波の月影砕く山頂湖 山本圭子
十歩に山頂お花畑を駈け登る 福田蓼汀 山火
十里飛び来て山頂に蝿とまる 誓子
双子山頂のはだれ夕日かな 滝井孝作 浮寝鳥
夕近き畝傍山頂つばめ飛ぶ 田上悦子
天ハ固体ナリ山頂ノ蟻ノ全滅 夏石番矢 真空律
夫と来て野分の山頂夫とふたり 及川貞 夕焼
富十山頂天へ聳ゆる雲の峯 山口誓子 大洋
山頂でいつまでも帽子を振っている 西川 徹郎
山頂にあり凩と語らなん 山田弘子 螢川
山頂になにほどもなく秋の穴 宇多喜代子
山頂にわが顔覗く鏡なし 津田清子 礼 拝
山頂にをとこの汗を指で拭く 雨宮抱星
山頂に乙女座垂るる聖五月 加藤春彦
山頂に冷えし麦茶を頒ち合ふ 大澤栄子
山頂に及ぶ開拓馬鈴薯の花 太田ミノル
山頂に塔かすみをり一の午 原 裕
山頂に女藷食ふかなしけれ 石田あき子 見舞籠
山頂に少年かるい錠剤撒く 阿部完市 絵本の空
山頂に杭打ちて山目覚ましむ 吉野義子
山頂に桜樹のありし咲き満ちて 成瀬正とし 星月夜
山頂に海の風あり蕨狩 大沢貴恵
山頂に牌腹をあづけ蜜柑食ふ 佐藤鬼房
山頂に登りて今日の新聞燃す 加倉井秋を
山頂に眼こらせば雪降り来 島田武重
山頂に神の灯蒼く松納 三千女
山頂に立つ矛錆びて岩ひばり 堀内ひろし
山頂に童児走れば薄暑光 飯田龍太
山頂に羽虫とぶ日の冬はじめ 篠田悌二郎
山頂に脾腹をあづけ蜜柑食ふ 佐藤鬼房
山頂に蜻蛉密集せり月下 矢島渚男 延年
山頂に駅その先に鱗ぐも 市川友苑
山頂のことにかがやく十二月 雨宮抱星
山頂のなお秋天の底の吾れ 宇咲冬男
山頂のモラエス館に黄砂降る 藤江駿吉
山頂の一樹占め鳴く四十雀 清水 山彦
山頂の古墳初風四方より 鳥羽紀子
山頂の吾亦紅風も日も止らず 細見綾子
山頂の城に抜け道法師蝉 長田等
山頂の小屋秋風につぶれたる 岡田日郎
山頂の松一本に冬日あり 高木晴子 晴居
山頂の櫨の紅葉を火のはじめ 矢島渚男 釆薇
山頂の磐座に来し初詣 茨木和生 遠つ川
山頂の神守りて貼る障子かな 大峯あきら 鳥道
山頂の草立つさまや霜の晴 長谷川かな女 雨 月
山頂の蜂飢えまひるのなみがしら 坪内稔典
山頂の見えて晴れ間や水見舞 吉武月二郎句集
山頂の野菊の天に子を放つ つじ加代子
山頂の霧粗かりし夜の髪 野澤節子 黄 炎
山頂の鳥に多汗の病かな 宇多喜代子
山頂はこの先とのみ夏の霧 柏井幸子(ホトトギス)
山頂はごろごろ岩や御来光 河本和「かつらぎ選集」
山頂はメルヘンめきて煙茸 松本田寿子
山頂は夏雲の中駅を出づ 平賀淑子
山頂は見えざるままよ心太 如月真菜
山頂へ丘重なりて竹の春 桂樟蹊子
山頂へ小屋の灯連ね富士涼し 伊藤いと子
山頂へ日覆の町の続きけり 滝青佳
山頂へ犀吹き寄せて空の秋 坪内稔典
山頂へ磴じぐざぐの初妙見 小砂見曙美
山頂も果たして同じ霧の景 高澤良一 随笑
山頂や三百六十度の炎天 高橋悦男
山頂や吹かれて霧の影走る 木村勇
山頂や忌のごとく日の楢紅葉 小島千架子
山頂や日の出待つ間の煮しめ芋 つじ加代子
山頂や更に踏みたき鰯雲 渡辺恭子
山頂や松挽く如き梅雨の蝉 殿村莵絲子 花寂び 以後
山頂や雁にも逢はず鹿の跡 渡辺恭子
山頂を征し成人祝ぐ仲間 山田弘子 こぶし坂
山頂を極めし如く日焼して 長島ちよ
山頂ヘ二手にわかれ夏つばめ 土生重次
山頂ホテル霧に盲ひし火蛾宿し 樋笠文
山頂小屋天水桶に氷張る 成宮弥栄子
山頂駅寒き映画の闇のぞく 石原八束 空の渚
山頂駅迅風は寒し楽鳴らし 石原八束 空の渚
山頂駅鉄鎖に止まる秋あかね 高澤良一 寒暑
峨眉山頂秋風玉石百顆かな 金子皆子
彼の雲は山頂に雪降らしをり 高木晴子 花 季
日の暈のまろき山頂花馬酔木 沢 聰
春月にかの山頂の荒御魂 大峯あきら 鳥道
槍山頂歩む不安の秋の風 沢 聰
海底山脈山頂は島冬耕す 吉野義子
湖風の山頂ホテル灯を派手に 柴田白葉女
湧蓋山頂に雪焼野統ぶ 穴井湧峰
滝は凍て山頂つぎつぎ日を失す 福田蓼汀 秋風挽歌
焼きのぼる火や山頂に相擁す 野澤節子 『駿河蘭』
燈涼しく総玻璃聖堂山頂に 吉良比呂武
片陰を縫ひ山頂へ至る道 稲畑汀子
盆の路山頂にまであらはるゝ 瀧澤伊代次
秋晴や山頂に立つ観世音 新井太四郎
秋澄むや荒船山頂水流れ 原田清正
秋高し身にそふ影もなき山頂 福田蓼汀 山火
荒船の山頂広し桷の花 行実みよ子
虎吼えてかの山頂を老けさせる 安井浩司
虫出しや山頂へ眉張り通す 鴻司
視界ゼロ吹雪く山頂無一物 平田青雲
遠望のわが山頂の壷中の母よ 高柳重信
鈴蘭やまろき山頂牧をなす 大島民郎
阿蘇山頂がらんどうなり秋の風 野見山朱鳥(1917-70)
阿蘇山頂にんげん冷ゆるかけらほどに 玉城一香
雨乞ならん山頂へ灯かたまり 菅裸馬
雲海にうかぶ山頂神います 吉澤卯一
雲雀すつ飛ぶ白根山頂駐車場 山田みづえ 手甲
雷鳥の鳴くや山頂雲の中 山田英津子
騰る騰る夏雲に山頂はあり 佐野良太 樫
魚哭きて山頂の木の昼下がり 坪内稔典
鳥の目光る山頂めざしわが柩 小宮山遠
鷽鳴くや山頂きに眞晝の日 相馬遷子 雪嶺
●山巓
大夕焼視野の山巓みな踏みし 福田蓼汀 秋風挽歌
山巓に一と刷毛の雲蛇笏の忌 吉田飛龍子
山巓に弓なりの木木 栄光!(ぐろうりや) 夏石番矢 猟常記
山巓に海底地殻まざと夏 斎藤梅子
山巓に立ち老鴬の気分なり 高澤良一 随笑
山巓のさくらを風の櫛けづり 高澤良一 寒暑
山巓の冬の尖りに顔射らる 石橋辰之助 山暦
山巓の雲離れゆく瑠璃の声 唐橋正伊
山巓の霧を切り裂きつばくらめ 高澤良一 随笑
山巓はすでにまぶしく籾の臼 友岡子郷 未草
山巓は人気を嫌ひ夏も冷ゆ 上村占魚 『自門』
山巓は雲に突込み山ざくら 小檜山繁子
山巓は雲吐きつくし青林檎 愛澤豊嗣
山巓や氷柱に閉ぢし測候所 寺田寅彦
山巓よ眠る鯨を涅槃とす 久保純夫 聖樹
秋星の山巓に船の舳を向くる 加藤楸邨
酔ひて濃き虎の老斑山巓の高祖 高柳重信
雪解日に山巓傷をあらはにす 金箱戈止夫
雲表にみゆる山巓初音 飯田蛇笏 椿花集
●桟道
桟道に瀧落ちかかる藪柑子 児玉 小秋
桟道を羽音よぎりしは雉子かな 尾崎迷堂 孤輪
●山腹
味噌なめて釘打ちに行く山腹へ 坪内稔典
天辻の山腹(たいら)使ひや蝿叩 辻桃子 ねむ 以後
山腹にかたまり凍つる墓石かな 阿部みどり女 笹鳴
山腹に暁けの灯ひとつ初荷着く 東條和子
山腹に暖気一點やまざくら 木附沢麦青
山腹に灯りがひとつ西行忌 木内怜子
山腹に灯見えぬあれや桜寺 桜 正岡子規
山腹に百八燈の一文字 清崎敏郎
山腹に道あり花をつゞりたる 高濱年尾 年尾句集
山腹に霧がにじます灯をならべ 相馬遷子 山国
山腹に鳥を下ろせし遅櫻 高澤良一 ももすずめ
山腹の冬田の上や昼の月 寺田寅彦
山腹の家並の照りや初手水 長崎玲子
山腹の家寒暖に従ヘり 飯田龍太 春の道
山腹の模糊たるはつるうめもどき 福永耕二
山腹の赤い華表や蕎麦の花 寺田寅彦
山腹の遠花菜畑ちぎり絵めく 高澤良一 素抱
山腹へ列車を入れる牡丹雪 五島高資
山腹へ汽車入れ傾山笑ふ 川原つう
山腹をめぐると知らず花野来し 大須賀乙字
磐梯の山腹に入り田螺食ふ 有馬正二
袋掛山腹かけてすゝみをり 清崎敏郎
●山稜
下り鮎山稜紺を裁ちにけり 大嶽青児
冬鵙や山稜に日の環ふるへ 矢島渚男
山稜に日の沈みけり草ひばり 早川典江
山稜に霧立つ巌ぞ大汝 水原秋桜子
山稜の大片蔭の谷を蔽ふ 福田蓼汀 山火
山稜へ涼気うかがふ雲の貌 河野南畦 湖の森
秣場の先に山稜馬肥ゆる 原田昭
空果てしなき山稜に植樹の声 飯田龍太
金星や雪の山稜見ゆるのみ 杉山岳陽 晩婚
隼に山稜黝し灘の晴 斎藤梅子
雲海に山稜沈み音もなし 福田蓼汀 山火
●山嶺
桑枯れて大菩薩山嶺をつらぬけり 水原秋桜子
●山麓
とるほどは無くて山麓夏わらび 及川貞 夕焼
制服その他洗濯し干し愁眠山麓 阿部完市 純白諸事
囀へ小室山麓明け渡す 小出文子
囀や男体山麓畑ひらけ 石原栄子
夏雲の湧く山麓に荘傾斜 深見けん二
大山山麓すかんぽ噛めば谺 金子兜太
子無くとも見ゆ山麓の凧ひとつ 神尾久美子 桐の木
山麓と温度差五度の早紅葉 高澤良一 寒暑
山麓に日色を湧かせ花りんご 高澤良一 ぱらりとせ
山麓の溶岩隠り虎杖摘 高澤良一 さざなみやつこ
山麓の煙り卯の花腐しかな 阿部みどり女
山麓の牧草を刈り蚕飼村 和知喜八 同齢
山麓の百年の家銀木犀 坪内稔典
山麓の遠ちの一村夏祭 欣一
山麓の駅舎灯りて去年今年 内池珠美
山麓は麻播く日なり蕨餅 田中冬二 行人
山麓や黄ばかり多き秋の蝶 有馬籌子
山麓ホテルの 黄金時間 角笛は 伊丹公子 アーギライト
山麓声なくて初曼珠沙華 岡井省二
山麓駅造花紅葉も酣に 高澤良一 随笑
採るほどは無くて山麓夏わらび 及川貞
春昼や山麓の家樫鳥飼へる 田中冬二 俳句拾遺
白馬山麓少年と鍬形と 国沢晴子
白馬山麓星夜天然冷房裡 高澤良一 宿好
花の山麓の橋の人通り 泉鏡花
蔵王山麓鷹の巣の漉始 黒田杏子 花下草上
青毛虫程の山麓木五倍子かな 高澤良一 鳩信
●秀峰
秀峰を北に重ねて狩場かな 大峯あきら 宇宙塵
●秋嶺
ちゝはゝの顔秋嶺の深刻み 原裕 葦牙
ふた親のくに秋嶺の藍ひらく 成田千空
わが秋嶺基地原色の油槽と澄み 赤城さかえ
信ねど秋嶺どこかに吾子居るかと 福田蓼汀 秋風挽歌
八ケ嶽どの秋嶺を愛すべき 中村草田男
名ある嶺秋嶺として輝ける 竹腰八柏
幼な名を呼べど秋嶺谺なし 福田蓼汀 秋風挽歌
掃く方の秋嶺さやに夫癒えぬ 神尾久美子 掌
涙つくしてしまへば何も彼も秋嶺 岩田昌寿 地の塩
目睫にして秋嶺の嶮ふゆる 赤松[けい]子 白毫
神と人逢ふ秋嶺の絶巓に 福田蓼汀
秋嶺となりておのおの天に帰す 太田嗟
秋嶺と思ひて帽子まぶかにす 今瀬剛一
秋嶺にのぼりつくまでまた逢はず 岩田昌寿 地の塩
秋嶺に手帳失ひ過去なきごとし 岡田日郎
秋嶺に神の吐息の雲一つ 井沢正江 以後
秋嶺に置き忘れたる池ひとつ 福田蓼汀 秋風挽歌
秋嶺に背を向けて立つ旅衣 松原弥生
秋嶺のどの襞もわが頭に栖めり 金子無患子
秋嶺の影秋嶺を覆ひけり 岡田日郎
秋嶺の絞りて落とす滝ひとすぢ 宮下翠舟
秋嶺の聳つまぶしさの鍬づかひ 鷲谷七菜子 花寂び
秋嶺の肩のかみそり神さびて 赤松[ケイ]子
秋嶺の襞より湧きて赤とんぼ 高澤良一 寒暑
秋嶺の闇に入らむとなほ容 桂信子
秋嶺はコールに応ふ死者応へず 福田蓼汀 秋風挽歌
秋嶺や晴れの日へ押す介護椅子 山田桃晃
秋嶺や渡舟にまとも尖り立ち 河野静雲 閻魔
秋嶺や父系を遠く思ひたり 尾高惇子
秋嶺を収む硝子戸蜂歩む 大野林火
秋嶺を覗くは丹雲昏れゆとる 飯田蛇笏 雪峡
秋嶺行く光る白点あれが吾子 田所節子
肩ならべあひ秋嶺を讃へあふ 和田耕三郎
身について近き点滴遠き秋嶺 横山白虹
雨浴びて秋嶺襞をふかめけり 近藤一鴻
風鐸の秋嶺近くひびくなり 神山冬崖
●主峰
あまた嶺の主峰いづれぞ車百合 冨田みのる
ゆつくりと主峰あらはれ大旦 長田 等
コスモスに朝雲脱ぎし主峰あり 山田弘子 こぶし坂
万緑の中残雪の主峰峙つ 伊東宏晃
主峰いづれ雪のこやみに薄日さし 福田蓼汀 秋風挽歌
主峰なほ灼けふかみをりわが裡にて 昭彦
主峰まだ暮れず寒柝第一打 藤田湘子
岩のみの主峰かがやく日の盛 黒坂紫陽子
朝の間の主峰全き花野かな 山田弘子 懐
登り来し剣の主峰目に溢れ 右城暮石
石楠花や主峰の薙の男ぶり 水沼三郎「鰤起し」
碧落の主峰垂氷を砦とす 岡田日郎
窓に嵌む夏山主峰見えねども 篠田悌二郎 風雪前
老鶯や主峰は遂に霧はれず 下村非文
聖主峰縹渺と雪新たにす 坂本謙二
遠ざかり来て雪嶺の主峰見ゆ 右城暮石 上下
那須五峯主峯は肩に月を載せ 町田しげき
風花の中白濁の主峰見ゆ 岡田日郎
鳥海の主峰に消ゆる雁の列 伊藤てい子
鷹渡る主峰は厚き雲脱がず 中川 忠治
●峻峰
青空に雪の峻峰と鷲とかな 河野静雲
桔梗や此の峻峰の遭難者 雑草 長谷川零餘子
●峻嶺
峻嶺のそれぞれに空冬近し 三森鉄治
●春嶺
ミサの鐘四方春嶺となりひびく 村越化石 山國抄
春嶺となれり万雷の瀧谺 川村紫陽
春嶺とほき奥のけむりをわびにけり 飯田蛇笏 春蘭
春嶺に向ふこころを旅情とす 加倉井秋を 午後の窓
春嶺に夕月淡き久弥の忌 田村愛子
春嶺のかたまり動くときのあり 関戸靖子
春嶺の気流に孤独の鳶乗れり 渡邊日亜木
春嶺の胸から小鳥飛び出せり 大串章 百鳥 以後
春嶺の脈うつを蹴り起きあがる 加藤楸邨
春嶺の雨に文の端濡れてきし 神尾久美子 掌
春嶺は女性草を噛む山羊うつむく山羊 河合凱夫 飛礫
春嶺を重ねて四万といふ名あり 風生
春嶺白根あるとき雲の上に並ぶ 岡田日郎
神々の座とし春嶺なほ威あり 蓼汀
義父母とは遠春嶺のやうなもの 本庄登志彦
金剛と聞く春嶺の大いなり 遠藤梧逸
雲に触れ春嶺肌を燃やし合ふ 日郎
黒牛の背が春嶺に重なりぬ 今井 聖
●絶巓
北に絶巓悪相ひとつ動きをり 森澤義生
画布にいま雪の絶巓夜は狂ふ 小枝秀穂女
神と人逢ふ秋嶺の絶巓に 福田蓼汀
絶巓にいてむささびの雄々しさよ 松本勇二
絶巓に圏谷の闇真夜の月 福田蓼汀 秋風挽歌
絶巓のコーラス烈日に肩を組み 福田蓼汀 秋風挽歌
絶巓の夜明け氷壁エメラルド 福田蓼汀 秋風挽歌
絶巓はさびしきかなや岩ひばり 福田蓼汀「暁光」
絶巓へケーブル賭博者を乗せたり 平畑静塔(1905-97)
絶巓へ降る絶体の雪片よ 坂戸淳夫
身をそらす/虹の絶巓/処刑台 重信
香水瓶蓋に絶巓ありにけり 小林貴子「北斗七星」
●雪嶺
*えり挿しの背後雪嶺威を解かず 丸山哲郎
ある日遠くある日は近く一雪嶺 本郷昭雄
いちご咲く雪嶺天にねむれども 有働亨 汐路
いや白く雪嶺媚びぬ彼岸前 相馬遷子 山河
かのセーラー服二輌目の雪嶺側 今井 聖
きのふ見し雪嶺を年移りたる 森澄雄 浮鴎
きらめきて雪嶺月の黄を奪ふ 佐野美智
ぎしと鳴つて牧柵の釘耐う雪嶺風 中島斌雄
けふの日のしまひに雪嶺荘厳す 上田五千石 田園
げんげんを見てむらさきの遠雪嶺 大野林火
この寮を出て雪嶺へ行き逝きし 岡田日郎
この雪嶺わが命終に顕ちて来よ 橋本多佳子(1899-1963)
これを見に来しぞ雪嶺大いなる 富安風生
しきりなる汽笛雪嶺より返す 岸風三楼 往来
しろがねの甲冑つけて一雪嶺 古川京子
そそり立つ雪嶺に月近くあり 上村占魚 球磨
たんぽぽを踏み雪嶺を指呼に見る 藤岡筑邨
つるぎなす雪嶺北に野辺おくり 飯田蛇笏 春蘭
どんど焼果てて雪嶺に囲まるる 石原八束
はこべらや雪嶺は午后うつとりす 森 澄雄
はるかなる雪嶺のその創まで知る 橋本多佳子
ふいご押す雪嶺の光押し返えし 細谷源二
ふりむきし鷲の眼雪嶺けぶりたる 鷲谷七菜子 雨 月
ふりむけば雪嶺ならぶ洋書棚 大島民郎
ほほづきの如き日輪雪嶺に 岡田日郎
まんさくの淡さ雪嶺にかざし見て 阿部みどり女 『微風』
ゆくほどに雪嶺囲ひや恵方道 森 澄雄
わが攀ぢしひと日雪嶺に雲湧かず 岡田日郎
わが汽車に雪嶺のやや遅れつつ 榎本冬一郎 眼光
わが疼く眼に雪嶺の照り倦かぬ 相馬遷子 山国
われを呼ぶもの雪嶺と大日輪 和泉千花
ガラス戸の内側拭けば雪嶺見ゆ 津田清子 二人称
コンテナは並び雪嶺かがやける 岩崎照子
スト中止令雪嶺に対ひて張らる 内藤吐天 鳴海抄
一家のゴム長乾されるたびに雪嶺指す 細谷源二
一戸減り雪嶺がまたひとつ増ゆ 齊藤美規
一汁の大鍋たぎる雪嶺下 加藤知世子 花 季
一蝶に雪嶺の瑠璃ながれけり 川端茅舎
七十年雪嶺あふぎてくたびれたり 齊藤美規
万才の雪嶺にかざす扇かな 志水圭志
三國嶽三つの國の雪嶺なり 山口誓子 紅日
下萌や雪嶺はろけき牧の柵 芝不器男
並ぶ肥樽峰雪嶺に湧きつつあり 成田千空 地霊
久方の雪嶺見えて霞みけり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
乗初めのすぐ雪嶺と対ひあふ 上田五千石
人は世に墓を遺して遠雪嶺 小澤克己
人生序の口雪嶺に眼を凝らし 伊藤敬子
全貌を見せぬ雪嶺白皚々 右城暮石
冷房のかつ雪嶺の絵の前に 皆吉爽雨 泉声
刃毀れのやうな雪嶺月渡る 金箱戈止夫
切先に比叡の雪嶺破魔矢受く 山田弘子 こぶし坂
切干の青みがちなる雪嶺も 中村志那
切手買ひ雪嶺の名を聞きにけり 正岡雅恵
切手購ふ雪嶺のあるやすらぎに 猪俣千代子 秘 色
切炬燵夜も八方に雪嶺立つ 森澄雄
刈萱寺塵掃く雪嶺まなかひに 岡部六弥太
初めに言ありと雪嶺光りだす 田川飛旅子 『植樹祭』
初めに言葉ありと雪嶺光りだす 田川飛旅子
初日待つ雪嶺の色かはりつつ 五十嵐播水
刻々と雪嶺午後の影きざむ 相馬遷子 山国
北端の極みに雪嶺ひとつ立つ 永田耕一郎 海絣
北陸線雪嶺に沿ひ海に沿ふ 朝野早苗
午後の日の雪嶺づたひや山葵採 藤田湘子
南北の雪嶺太陽西へ行く 津田清子 二人称
厩出し牛に雪嶺蜜のごと 森澄雄
只眠るなり雪嶺の前の山 原田喬
吹かれつゝ雪嶺暗し棉の花 久保田月鈴子
吹越や虹のごとくに遠雪嶺(群馬方言風花を吹越といふ) 角川源義 『秋燕』
告げざる愛雪嶺はまた雪かさね 上田五千石 田園
咽喉かわく旅や雪嶺蹤き来る 津田清子
喪章はづす雪嶺ちかき野の光り 鷲谷七菜子 黄炎
地のうねりつづき雪嶺遥かなり 平川雅也
堂押祭果てし夜空の雪嶺かな 本宮哲郎
夏雪嶺生れし郷は目の高さ 一條友子
夕日さしカットグラスの一雪嶺 岡田日郎
夕日なほ濃き一群の雪嶺あり 岡田日郎
夕月にとどろき暮るる一雪嶺 岡田日郎
夕風や捨子のごとく雪嶺攀づ 加藤知世子 花寂び
夜間飛行雪嶺と湖響きあふ 川村紫陽
大和にもかゝる雪嶺雪金剛 右城暮石 上下
天に雪嶺路のおどろに蔓もどき 石原八束 秋風琴
天寿とは父を焼く日の遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
天帝を追ひ傾ける一雪嶺 岡田日郎
妻と雪嶺暮色に奪われまいと白し 細谷源二
子に学費わたす雪嶺の見える駅 福田甲子雄
安曇野は雪嶺連なり猫柳 森澄雄
安曇野や雪嶺におよぶ晝がすみ 及川貞 夕焼
寄生木に雪嶺浮かみゐしが雨 木村蕪城 寒泉
小春日や雪嶺浅間南面し 相馬遷子 山河
小路ふさぐ雪嶺へ蒸籠けむりけり 金尾梅の門 古志の歌
尺八吹く雪嶺に窓開け放ち 伊藤いと子
山桜雪嶺天に声もなし 水原秋櫻子
崩れ簗雪嶺のぞみそめにけり 五十崎古郷句集
師の碑けふ少し猫背に遠雪嶺 平井さち子 鷹日和
師の訃あり雪嶺を見に丘のぼる 堀口星眠
帰路の友にぶし雪嶺は夕日得て 大井雅人 龍岡村
帰還兵なり雪嶺の下に逢ふ 文挾夫佐恵
幕切れのごと雪嶺の夕日消ゆ 岡田日郎
干割れ落つ餅花一つ雪嶺覚め 喜多牧夫
往還の上雪嶺のたたずまひ 猪俣千代子 秘 色
復活祭雪嶺を青き天に置く 堀口星眠 火山灰の道
恋ふ寒し身は雪嶺の天に浮き 西東三鬼
愛ひらくときも心に雪嶺あり 平木梢花
戸隠の雪嶺間近に御開帳 前川みどり
抜群の雪嶺生涯たどたどし 古舘曹人 能登の蛙
捨てられて雪嶺あそべる村の空 齊藤美規
授業日々雪嶺にとりまかれつつ 石田小坡
文江忌の雪嶺の蒼心にす 加藤耕子
斑雪嶺に会ふまばゆさの顔撫でて 村越化石 山國抄
斑雪嶺のふかきへ鱒を提げゆくか 村上しゆら
斑雪嶺の影のゆらぎの絵蝋燭 吉田紫乃
斑雪嶺の暮るるを待ちて旅の酒 星野麦丘人
斑雪嶺の音霊を聴く達治の忌 伊藤貴子
斑雪嶺や雀尾長も声潤ひ 行木翠葉子
斑雪嶺や風の土手ゆく郵便夫 奥田卓司
斑雪嶺や鴉の声のややに錆び ふけとしこ 鎌の刃
斑雪嶺をささふ穂高の鉄沓屋 宮坂静生 樹下
斑雪嶺を仰ぎ応挙の絵を見たり 越智照美
斑雪嶺を神とも仰ぎ棚田打つ 伊東宏晃
新樹の道雪嶺に向き背まつすぐ 細見綾子
方位盤指す山すべて雪嶺なる 村木海獣子
旅人に雪嶺翼張りにけり 大橋敦子 匂 玉
日のテラス雪嶺へ展べ佳人亡し 木村蕪城 寒泉
日の出時雪嶺向きを変へはじむ 永田耕一郎 雪明
日の描く雪嶺の襞自在なり 阿部ひろし
日を浴びて雪嶺一座づつまどか 岡田日郎
明日へ繋がる寝息雪嶺足先に 太田土男
昏々眠る昨日雪嶺の裾にゐし 佐野美智
昏るるとき雪嶺やさしふるさとは 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
星うるむ夜は雪嶺も肩やさし 千代田葛彦 旅人木
星ひとつともり雪嶺ひとつ暮れ 岡田日郎
星光り雪嶺になほ夕日の斑 岡田日郎
星空に雪嶺こぞる夜番かな 松本たかし
春の牛乳おはよう牧の雪嶺よ 有働亨 汐路
春の雪嶺夜は雲母の肌へ照る 石原八束 空の渚
春ふかき雪嶺めぐる甲斐盆地 柴田白葉女 花寂び 以後
春月を得て雪嶺のやさしさよ 岸風三楼 往来
春立つや雪嶺はまだ夢の白 大串章
春雪嶺北へ数へて飼山の家 宮坂静生 春の鹿
春雲と雪嶺ふれむとして触れず 吉野義子
春駒がゆく雪嶺を雲の上 森澄雄
晩年の道行きどまる遠雪嶺 木村敏男
暁光にけふ雪嶺となりて立つ 相馬遷子 山河
暮雲おき雪嶺たゞの山に伍す 篠田悌二郎
曇天に雪嶺しづむ野梅かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
月光に雪嶺かくすところなし 大橋桜坡子
月光に雪嶺ひとつ覚めて立つ 相馬遷子 山河
朝ざくら雪嶺の威をゆるめざる 木村蕪城
木菟の夜は雪嶺軒に来て立てる 堀口星眠 火山灰の道
杏咲き雪嶺いたくよごれたり 宮下翠舟
来し方や雪嶺はかくあるばかり 行方克己 昆虫記
東京へ東京へ車窓雪嶺しづむ 桜井博道 海上
枯桑に雪嶺裾をひきにけり 大橋櫻坡子 雨月
桑の芽や雪嶺のぞく峡の奥 秋櫻子
桑解けば雪嶺春をかゞやかす 西島麦南
楊萌ゆ雪嶺天にねむれども 有働 亨
楽器抱くように編物雪嶺ふくらめ 寺田京子 日の鷹
榛の花雪嶺かすかに光り暮れ 岡田日郎
歩廊の端に余りし雪嶺の寒さ 内藤吐天 鳴海抄
母の瞳の行き届くかに遠雪嶺 佐藤美恵子
水鳥に凍てはとほらず逆雪嶺 原裕 青垣
汽車とまり遠き雪嶺とまりたり 山口誓子 七曜
汽車どちら向くも雪嶺なくなれり 右城暮石 声と声
汽車喘ぎ雪嶺遠く威ありけり 岸風三楼 往来
汽車降りて雪嶺の高さには馴れず 橋本美代子
波の花とべば遥かな雪嶺あり 加藤有水
泪目に殊に眩しき遠雪嶺 前山松花
洗面の水の痛さの遠雪嶺 石川桂郎
流氷と羅臼の雪嶺いづれ濃き 石原八束 『風信帖』
浮雲いつかなし雪嶺は墓標群 福田蓼汀
海に聳つ雪嶺はこの陸つゞき 右城暮石 上下
海へ雪嶺へ舞ひは銀朱や朱鷺の夢 加藤知世子 花寂び
湖眠る雪嶺深く映すべく 西村和子 かりそめならず
濡れし眼に雪嶺父の愛母の愛 伊藤敬子
炬燵焦げくさし雪嶺暮れてなし 藤岡筑邨
無情なるまで雪嶺の天聳る 榎本冬一郎 眼光
燕来る遠雪嶺の光負ひ 林翔 和紙
牛乳のむ花の雪嶺のつづきにて 細見綾子 黄 炎
牧の犬むつみ来るまゝ雪嶺ヘ 石橋辰之助 山暦
狂院のちなみに鴉声遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
獅子舞つてはるか雪嶺の晴れをよふ 上野一孝
班雪嶺の寡黙を通す別れかな 佐藤文子
町の上に雪嶺澄めり吹雪熄む 相馬遷子 山国
畦青み雪嶺しざり秩父別(ちっぷべつ) 高澤良一 素抱
白雲の中白光の一雪嶺 岡田日郎
白雲を雪嶺と見て年忘れ 阿部みどり女
白鳥に雪嶺も頭を並べたり 堀口星眠 営巣期
白鳥の別れ夜空に雪嶺泛く 石原舟月
真夜雪嶺雲なし月光のみまとふ 岡田日郎
矢のごとく降り雪嶺の雪となる 原裕 葦牙
短日や雪嶺天に遺されて 小野宏文
碧落に神雪嶺を彫りにける 福田蓼汀
秋の暮どの雪嶺がわれを待つ 齋藤愼爾
種浸す若狭は雪嶺遠巻きに 西村公鳳
穂高ほどの名なく雪嶺にて並ぶ 篠田悌二郎
空青し雪嶺これを縫ふごとし 橋本鶏二
立ち憩ふときも雪嶺に真向へり 相馬遷子 山国
立春の日差雪嶺の肌燃やす 岡田日郎
競ひ立つ雪嶺をアラスカの天とせり 有働亨 汐路
竹皮を脱ぐ雪嶺に真向ひて 佐野美智
筒鳥や雪嶺映す池しづか 鎌田八重子
米磨ぐや雪嶺いつまで夕茜 岡田日郎
糀屋が春の雪嶺を見てゐたり 澄雄
紅葉鮒そろ~比良の雪嶺かな 松根東洋城
終着駅雪嶺触るるばかりなり 茂里正治
網を引くエンジンに負荷雪嶺耀る 中戸川朝人 尋声
綺羅星は私語し雪嶺これを聴く 松本たかし(1906-56)
繭玉の端雪嶺に触れてゐし 平原玉子
美しき雪嶺を指す人さし指 茨木和生 木の國
翔ぶことの歓喜雪嶺たたなはる 原和子
老婆より菫を買へり雪嶺下 田川飛旅子
耳うごくごと雪嶺に遠く佇つ 萩原麦草 麦嵐
聴診器ことりと置けば雪嶺あり 岡本正敏
脚はやき僧に雪嶺あとしざり 河野静雲 閻魔
腕組んで唄へば雪嶺ゆらぎ出す 岩田昌寿 地の塩
舞踏室灯せばなづむ雪嶺かな 宮武寒々 朱卓
船の銅羅かの雪嶺に谺せる 福田蓼汀 山火
芦刈りて夕べ雪嶺をあらはにす 茂里正治
花杏雪嶺なぞへに暮れなづむ 石原八束 空の渚
落花抜けゆく雪嶺にまみえんと 中戸川朝人 残心
落花霏々雪嶺いまも陸に聳つ 佐野まもる 海郷
蒼天に雲消ゆ雪嶺離りては 岡田日郎
藁屋根の端の雪嶺ことに冴え 桂信子 黄 瀬
藁灰の底の火の色雪嶺星 福田甲子雄
蚕具焼く火に雪嶺の線揺ぐ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
製紙工場白煙雪嶺より白し 本多穆草
見えゐて遠き雪嶺や夫に追ひつけず 加藤知世子 花寂び
諸仏諸天かつ雪嶺の加護なせる 小澤 實
谷展け雪嶺右へ右へ濃し 太田嗟
貧しくて照る雪嶺を窓にせり 相馬遷子 山国
貨車連結さる雪嶺の大盤石 齋藤愼爾
赤子哭くたび雪嶺聳え立つ 徳岡蓼花
足袋つくろふ雪嶺の朝から晴れて 内藤吐天 鳴海抄
身は萎えて気はまだ確か雪嶺よ 相馬遷子 山河
農耕の声雪嶺のふもとより 永田耕一郎 海絣
追分や越後路雪嶺立ち塞ぎ 福田蓼汀 秋風挽歌
逆雪嶺うすももいろに水あかり 原裕 青垣
連なりて雪嶺一つづつ尖る 石井いさお
連なれる雪嶺の黙天を占む 山本歩禅
遠き雪嶺日の大きな赤児見て 北原志満子
遠く雪嶺一村日の中ぐみ熟るる 近藤馬込子
遠ざかり来て雪嶺の主峰見ゆ 右城暮石 上下
遠ざかる雪嶺近づき来る雪嶺 大橋敦子 手 鞠
遠ぞらに雪嶺のこり機の音 鷲谷七菜子 花寂び
遠空へ雪嶺畳めり晝蛙 松村蒼石 春霰
遠雪嶺うすむらさきの野辺送り 渡辺礼子
遠雪嶺石楠花は紅こぼれむと 林 翔
遠雪嶺見むと胎児もともに出づ 鷹羽狩行
遠雪嶺近よりがたし去りがたし 古舘曹人 能登の蛙
遠雪嶺黒部に紅葉下りて来し 源義
遥かよりわれにむき照る雪嶺あり 岡田日郎
銀の匙もて雪嶺を窓に指す 神谷九品
鋪装路の果ての雪嶺に駅出でぬ 原田種茅 径
除湿器に生の水たまり遠雪嶺 平井さち子 鷹日和
雀交る雪嶺を截る屋根の上 相馬遷子
雛の灯を消せば近づく雪嶺かな 本宮哲郎
雪原のかなた雪嶺絹の道 片山由美子 風待月
雪嶺(ゆきね)を砦書を砦しなほ恋へる 川口重美
雪嶺が北に壁なす大暗黒 榎本冬一郎
雪嶺が台座神鏡の日が一輪 岡田日郎
雪嶺となつて外山の大起伏 竹下しづの女 [はやて]
雪嶺となる雲中にきらめきつゝ 相馬遷子 山河
雪嶺と交歓に日の短かさよ 大島民郎
雪嶺と倒影の間の唐辛子 中戸川朝人 残心
雪嶺と吾との間さくら満つ 細見綾子 黄 炎
雪嶺と暮色のあひを風吹けり 長谷川双魚 風形
雪嶺と激浪のあひ貨車長し 吉野義子
雪嶺と色同じくて霞立つ 相馬遷子 山河
雪嶺にても女懐中かがみ見る 稲垣きくの 黄 瀬
雪嶺にぶつかりぶつかり凧あがる 藤岡筑邨
雪嶺にむかひて*たらの芽ぶきたる 長谷川素逝
雪嶺にむかひて高し祷りの碑 古賀まり子 降誕歌
雪嶺にわが名呼ばれぬ春の暮 奥坂まや
雪嶺に一雲すがりともに暮れ 岡田日郎
雪嶺に三日月の匕首飛べりけり 松本たかし
雪嶺に今年別れんとして来たり 岡田日郎
雪嶺に住む鏡掛くれなゐに 神尾久美子 掌
雪嶺に向きて雪解の簷しづく 素逝
雪嶺に向く山車蔵を開け放つ 栗田やすし
雪嶺に向ひて妻と洗面す 椎橋清翠
雪嶺に向ひて砂利を篩ひをり 萩原麦草 麦嵐
雪嶺に地は大霜をもて応ふ 相馬遷子 山河
雪嶺に夕蒼き空残しけり 馬場移公子
雪嶺に対きて雪解の簷しづく 長谷川素逝 暦日
雪嶺に対したじろぎ一歩挑む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に対す籐椅子ふたつ置かれ 岸風三楼 往来
雪嶺に徒手空拳をもて対す 行方克己 昆虫記
雪嶺に我こそ寵児たらむとす 行方克己 昆虫記
雪嶺に手を振る遺影ふり返り 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に押され梵天近づき来 利部酔咲子
雪嶺に星座の移るとんどかな 角川春樹
雪嶺に暈の触れゐて月は春 皆吉爽雨
雪嶺に月の部落息ひそむかな 河野多希女 こころの鷹
雪嶺に死ぬ落陽を生かしたし 細谷源二 砂金帯
雪嶺に汽車分け登る力出し(津軽路) 河野南畦 『黒い夏』
雪嶺に汽車現れてやや久し 中村汀女
雪嶺に沈む満月黄を失し 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に注連新しき若狭彦命 斎藤夏風
雪嶺に照りりんりんと夜明月 岡田日郎
雪嶺に産声あげて水芭蕉 渡辺和子
雪嶺に発し海まで短か川 山口誓子 青銅
雪嶺に目を離し得ず珈琲のむ 岩崎照子
雪嶺に真向き居並ぶ化け地蔵 岡田日郎
雪嶺に真向ふ道のあれば行く 太田土男
雪嶺に瞬く星も春めけり 京極高忠
雪嶺に礼し初湯に入りにけり 柳澤和子
雪嶺に神観し朝日当るより 吉村ひさ志
雪嶺に立つ父の過去子の未来 京極紀陽
雪嶺に終る太陽手は垂れて 細谷源二 砂金帯
雪嶺に落月白くまぎれ消ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に訣るる影を濃くしたり 行方克己 昆虫記
雪嶺に輝きし日も昏れそめし 上村占魚 球磨
雪嶺に遠し田があり田がありて 山口波津女 良人
雪嶺に重なりて瑠璃きつき峰 内藤吐天 鳴海抄
雪嶺に雉子全きを吊りにけり 野中亮介
雪嶺に離り近づく桜かな 阿部みどり女
雪嶺に雪あらたなり実朝忌 相馬遷子 山河
雪嶺に雲無きひと日忌を修す 勅使川原敏恵
雪嶺に電車久しく通らざる 山口波津女 良人
雪嶺に面をあげて卒業歌 岩崎健一
雪嶺に風突き当り苗代寒 石井とし夫
雪嶺に駆けのぼりたき夜ぞ街ヘ 石橋辰之助
雪嶺に骨光るかに月かかる 岡田日郎
雪嶺に鷹の流るる初御空 森澄雄
雪嶺に鼻梁のかげのごときもの 宮津昭彦
雪嶺のいづかたよりの山彦ぞ 猪俣千代子 秘 色
雪嶺のうしろより雷ひびき来る 飯田晴子
雪嶺のうしろを見たき夕焼かな 太田土男
雪嶺のうつりてひろき水田かな 鈴木花蓑句集
雪嶺のかがやきかへし花すもも 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺のかがやき集め紙乾く 細見綾子 黄 炎
雪嶺のかがやく祖谷の出初かな 佐原頼生
雪嶺のかげ射す車窓人睡たり 相馬遷子 山国
雪嶺のかみそり走り尾根を成す 若木一朗
雪嶺のかゞやき集め紙乾く 細見綾子
雪嶺のこぞりて迫る大根漬け 駒形白露女
雪嶺のさめては鳶を放ちけり 井上三余
雪嶺のため息聴ゆ大落暉 伊達甲女
雪嶺のとらへがたけれ雲湧きつぎ 大島民郎
雪嶺のどこかにまぎれ鳥飛べり 岡田日郎
雪嶺のなほ彼方なる一雪嶺 右城暮石
雪嶺のひとたび暮れて顕はるる 森澄雉
雪嶺の上の青空子は二十歳 越智千枝子
雪嶺の上の青空機始め 澤木欣一
雪嶺の下五日町六日町 高野素十
雪嶺の並ぶかぎりの青霞 岡田日郎
雪嶺の中まぼろしの一雲嶺 岡田日郎
雪嶺の乙女さびしてスイス領 有働亨 汐路
雪嶺の人語翼となりて飛ぶ 小川原嘘帥
雪嶺の佐渡の吹つ飛ぶ大嚏 小島 健
雪嶺の供華とし銀河懸かりけり 藤田湘子 てんてん
雪嶺の光わが身の内照らす 相馬遷子 山河
雪嶺の光をもらふ指輪かな 浦川 聡子
雪嶺の冷たさいつも桜の上 細見綾子 黄 炎
雪嶺の名をみな知らずして眺む 山口誓子 晩刻
雪嶺の吹き晴れてゆく桜かな 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺の大を以て怒りを鎮む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺の天に牆なす牧びらき 小林碧郎
雪嶺の天の余白は生きんため 宮坂静生 春の鹿
雪嶺の威の劣へし初桜 上野弘美
雪嶺の尚彼方なる一雪嶺 右城暮石 声と声
雪嶺の彼方の何ともわからぬ音 加倉井秋を 午後の窓
雪嶺の悠久年のあらたまる 阿部みどり女 『光陰』
雪嶺の愁眉に迫る朝かな 蓬田紀枝子
雪嶺の我も我もと晴れ来たる 三村 純也
雪嶺の星おのおのの音色あり 舘野 豊
雪嶺の春やいづこの田も日射す 山口誓子
雪嶺の暮れなむとしてこころの炎 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺の朝な影濃き園児服 原裕 葦牙
雪嶺の正装君を送るなり 福永耕二
雪嶺の歯向ふ天のやさしさよ 松本たかし
雪嶺の氷の色を夜空かな 正木ゆう子 静かな水
雪嶺の浮きて流れず茜空 原裕 青垣
雪嶺の溶け入る湖のくもりかな 矢島渚男 延年
雪嶺の無言に充てる太虚かな 松本たかし
雪嶺の照りをうながす除夜詣 原裕 正午
雪嶺の白銀翳り藍に染む 粟津松彩子
雪嶺の目の高さなる小正月 阿部みどり女
雪嶺の神々しさに鮭打たる 洲浜ゆき
雪嶺の稜骨くろし地にも雪 相馬遷子 山河
雪嶺の肩に雲燃え樺の花 西村公鳳
雪嶺の茜や詩論白熱す 加藤知世子 花寂び
雪嶺の裏側へなほ旅つづけ 岡田日郎
雪嶺の裏側まっかかも知れぬ 今瀬剛一
雪嶺の裾なにか播きなにか消す 木村敏男
雪嶺の裾を踏まんと来て踏むも 相馬遷子 山国
雪嶺の襞しんしん蒼し金縷梅咲く 加藤知世子
雪嶺の襞亀裂せり父の鬱 齋藤愼爾
雪嶺の襞濃く晴れぬ小松曳 杉田久女
雪嶺の見えしざわめきスキーバス 行方克己 無言劇
雪嶺の見えてなかなか近づけず 冨田みのる
雪嶺の見えて漆器をつくる町 冨田みのる
雪嶺の見つめすぎたる暗さかな 猪俣千代子 秘 色
雪嶺の覗く苗代かぐろしや 石田波郷
雪嶺の踏んばつてゐる湖国かな 大石悦子 群萌
雪嶺の遠き一つの名は知りて 須田冨美子
雪嶺の間近く泊り確かに酔ふ 鈴木鷹夫 渚通り
雪嶺の雪につづける縁の雪 遠藤梧逸
雪嶺の霞むといふはやさしかり 平林春子
雪嶺の青き昃りのとき浴む 木村蕪城 寒泉
雪嶺の青のきびしき生糸繰る 加藤知世子
雪嶺の青みかかりぬ柏餅 阿部みどり女 『陽炎』
雪嶺の風繭玉に遊ぶかな 村越化石
雪嶺の麓に迫る若葉かな 野村泊月
雪嶺の麓再会と言ふ茶房 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺は 遠い切り絵で 珈琲沸いた 伊丹公子 アーギライト
雪嶺はくまなく父でありにけり 下山田禮子
雪嶺はつらなり畝はたてよこに 長谷川素逝 暦日
雪嶺は北に遠しやたんぽゝ黄 大橋桜坡子
雪嶺は天の奥なり目白籠 宇佐美魚目
雪嶺は天柱をなし吾を迎ふ 伊藤彰近
雪嶺は月掲げたり友癒えよ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
雪嶺は父この橋ときに酔うて帰る 齊藤美規
雪嶺は美し道祖神手をつなぐ 坂口緑志
雪嶺は襞深く立ち送水会 岡崎桂子
雪嶺は遠し田があり田がありて 波津女
雪嶺は雪嶺に向き黙し会ふ 岡田日郎
雪嶺へひとたび柩掲げたる 中島畦雨
雪嶺へひびき丸太を貨車積みす 榎本冬一郎 眼光
雪嶺へ二輛編成にて発てり 本宮鼎三
雪嶺へ向けチカチカと鶸の嘴 木村蕪城 寒泉
雪嶺へ戸口のくらさ猟夫住む 星眠
雪嶺へ日影去りにける花野かな 渡辺水巴
雪嶺へ杏の枝のやゝしだれ 椎橋清翠
雪嶺へ林檎の芯を投げにけり 佐久間慧子
雪嶺へ畝の伸びたり木の芽風 小島健 木の実
雪嶺へ白魚を汲む肘上ぐる 田川飛旅子
雪嶺へ貨物車長き列と影 右城暮石 声と声
雪嶺へ通ふゴンドラ外より鍵 大橋敦子 手 鞠
雪嶺へ酷寒満ちて澄みにけり 相馬遷子 山国
雪嶺まで枯れ切つて胎かくされず 森澄雄 雪櫟
雪嶺まで行きては戻るばかりかな 平井照敏 天上大風
雪嶺も一憂一喜雲移る 堀口星眠 営巣期
雪嶺やどこを行つても向ひ風 ふけとしこ 鎌の刃
雪嶺やひとのこころにわれ映り 黒田杏子 花下草上
雪嶺やコーヒー餓鬼のわが乾き 秋元不死男
雪嶺やマラソン選手一人走る 西東三鬼
雪嶺や一つ猟銃音ありしのみ 猪俣千代子 堆 朱
雪嶺や一艇湖の色分ける 中村みよ子
雪嶺や口を拭ひて飯の後 岸本尚毅 舜
雪嶺や右に首垂れイエス像 野澤節子 黄 炎
雪嶺や名もまぶしくて初鴉 森澄雄
雪嶺や地蔵のごとく吾を残す 渡辺七三郎
雪嶺や夕ベのチャイム廊に鳴り 有働亨 汐路
雪嶺や如来の幅に扉を開く 小島千架子
雪嶺や寝足りて耳の温かりし ふけとしこ
雪嶺や昼夜の膳に鱈鰊 岸本尚毅 舜
雪嶺や死者還らねば棺は空ら 岡田日郎
雪嶺や畦の焚火に誰もゐづ 秋元不死男
雪嶺や疎林の奥にゆるぎなく 筒井正子
雪嶺や白眼ばかりの達磨市 渡辺白峰
雪嶺や肉塊トラックよりおろす 藤岡筑邨
雪嶺や誰も触れざる火縄銃 長田喜代子
雪嶺や頭を寄せ合つて唄ふ看護婦 岩田昌寿 地の塩
雪嶺や髪刈つて首すくめゆく 永田耕一郎 方途
雪嶺より来る風に耐へ枇杷の花 福田甲子雄
雪嶺より水来て水菜萌えたたす 伊藤霜楓
雪嶺より稜駈けりきて春の岬 大野林火
雪嶺より高処ホテルの桜草 神尾久美子 掌
雪嶺よ女ひらりと船に乗る 石田波郷(1913-69)
雪嶺よ日をもて測るわが生よ 相馬遷子 山河
雪嶺よ柑橘に風吹きこぞる 下村槐太 光背
雪嶺をひたくれなゐと思ひけり 中村千絵
雪嶺をひた負ひ年賀配達夫 横道秀川
雪嶺をみちづれにして詩嚢充つ 原裕 青垣
雪嶺ををろがみ杣の一日終ゆ 木村蕪城 寒泉
雪嶺を今年まだ見ずクリスマス 右城暮石 上下
雪嶺を仰ぐキヤラメル渡されて 藤岡筑邨
雪嶺を出づ毒の川濁りなし 岡田日郎
雪嶺を出でたる星のはなればなれ 橋本 榮治
雪嶺を大障壁に天守閣 瀧澤伊代次
雪嶺を天にさだめる線太し 橋本鶏二
雪嶺を天の高みに田の昼餉 大野林火
雪嶺を小さき日遅々と天づたふ 福田蓼汀 山火
雪嶺を山でたる星のはなればなれ 橋本榮治 麦生
雪嶺を左右にひらき月のぼる 橋本鶏二 年輪
雪嶺を慈母とす開拓の聖家族 岡田日郎
雪嶺を据ゑ一故旧なき故郷 林翔
雪嶺を支へ百日百夜の湖 伊藤敬子
雪嶺を点じ山々眠りけり 大野林火
雪嶺を背骨となしつ農夫老ゆ 小田欣一
雪嶺を若き一日の標とす 藤田湘子 途上
雪嶺を落ち来たる蝶小緋縅 川端茅舎
雪嶺を西に鞴の太き息 成田千空 地霊
雪嶺を見し網膜のあたらしき 本郷をさむ
雪嶺を見て耕して長命す 田川飛旅子
雪嶺を讃へ落葉松芽吹くなり 長倉いさを
雪嶺を負ふ映画館恋やぶれ 堀口星眠 火山灰の道
雪嶺を連ねて阿蘇の火山系 山口誓子 青銅
雪嶺を間近としてや初暦 越智哲眞
雪嶺を雌蘂とし夕日の巨花開らく 岡田日郎
雪嶺を離るる雲とその影と 行方克己 昆虫記
雪嶺下小橋つくろふ雪まみれ 林翔 和紙
雪嶺夕焼鈴高鳴らす供米車 加藤知世子 花寂び
雪嶺描く底に羆を眠らせて 秋本敦子
雪嶺攀づわが影われを離れ攀づ 岡田日郎
雪嶺星赴任せし夜の寝つかれず 堀井春一郎
雪嶺晴れ畦の水仙風のなか 欣一
雪嶺暮れ機婦等若さをもちあぐむ 宮武寒々 朱卓
雪嶺燃えかぶされり夕蒼き村 岡田日郎
雪嶺美しおとこ光星仰ぐかに 源鬼彦
雪嶺聖見んと藪こぎ山を攀づ 鈴木りう三
雪嶺芽吹く嶺朝湧く力校歌創る 加藤知世子 花寂び
雪嶺蒼し研師おのれを研ぎすます 長田豊秋
雪嶺襖鳶は翔たんと息つめる 松本 旭
雪嶺見ゆとて傾ぎゆく一車輛 原裕 青垣
雪嶺輝り伊那の小梅も咲くべかり 西本一都 景色
雪嶺近き畦は塗られて夜も光る 加藤知世子
雪嶺雪嶺を登り暮るるや西行忌 加藤知世子 黄 炎
雪嶺颪ゆふべ身ぬちに滾るもの 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雪嶺颪を毛に立て兎逃げまどふ 加藤知世子
雪沓の跡が雪嶺と駅を結ぶ 加藤楸邨
雲しきてとほめく雪嶺年新た 飯田蛇笏 雪峡
雲上にまだ雪嶺や百千鳥 森澄雄
雲嶺の中まぼろしの一雪嶺 岡田日郎
青年の肩幅雪嶺をかくしえず 椎橋清翠
革命のいろに雪嶺暁けてきし 高島茂
風荒び雪嶺の秀を研ぎすます 前山松花
風邪の眼に雪嶺ゆらぐ二月尽 相馬遷子 山国
風雲の雪嶺にふるるところあかし 矢島渚男 釆薇
馬の鼻なでて雪嶺のアポイ岳 笠川弘子
馬産む日しづかに雪嶺明けきたる 鴎昇
高まりし野にかくれたる雪嶺かな 阿部みどり女
魚割女胸に雪嶺かがやかす 金箱戈止夫
鳶の声雪嶺屹つて来る日なり 永田耕一郎 雪明
鴨ねむりくらき雪嶺湖に満つ 堀口星眠 火山灰の道
鷲飛びし少年の日よ雪嶺よ 多田裕計
鷽鳴いて雪嶺天に還りけり 松本進
麦あをみ雨中の雪嶺雲むるる 飯田蛇笏 雪峡
麦踏のたつた一人にみな雪嶺 加藤楸邨
麦踏を今朝雪嶺となり囲む 佐野美智
麦踏んで雪嶺の下の一頭顱 森澄雄
黒凍(くろじ)みの道夜に入りて雪嶺顕(ゆきねた)つ 石原八束(1919-98)
●尖峰
日高嶺の尖峰白く厩出し 荒舩青嶺
キャンプ張る槍の尖峰まなかひに 山田春生
●岨道
*さんざしの花に岨道夜明けたり 紀野自然生
から駕の岨道戻る月夜かな 月夜 正岡子規
わたすげに岨道の出でひろがりぬ 八木林之介 青霞集
岨みちを夜どほしたどる小鳥狩 瀧春一 菜園
岨道にかゝり明けゆく山始 竹原梢梧
岨道に六方踏むややぶれ傘 高澤良一 宿好
岨道に鶯聞くや馬の上 鶯 正岡子規
岨道の上り下りや滝の道 高浜年尾
岨道の家危うして若葉哉 若葉 正岡子規
岨道の高くかかれる朴の花 富安風生
岨道や匂へば仰ぎ栗の花 高濱年尾 年尾句集
岨道や折るともなしに蕨もつ 蝶夢
岨道を横に駕舁ぐ紅葉かな 内藤鳴雪
旅人に吉野岨みち凍解かず 中村青峯
盆まへの岨道鳶の影落つる 『定本石橋秀野句文集』
紅葉狩心もとなき岨みちを 松尾緑富
蔓手毬岨道細くなるばかり 松本秩陵
豁然と岨道ひらけ山法師 沢村芳翠
足かけて岨道崩すいちご哉 苺 正岡子規
青梅雨や修那羅岨みち沢づたふ 西本一都 景色
●高嶺
いちはやく高嶺の草木蝉たえし 飯田蛇笏 春蘭
すみれ展高嶺の菫花異端めく 沢 聰
せんぶりの花も紫高嶺晴 木村蕪城 一位
つゆさむやすこしかたむく高嶺草 飯田蛇笏 春蘭
ひぐらしや高嶺落ちこむ青湯壺 秋元不死男
ふりけぶる高嶺の雨や田植唄 橋本鶏二 年輪
みちのくの高嶺幾座や深山蝶 渡辺 立男
ゆく雲に高嶺はさとし牧開 土屋未知
よく光る高嶺の星や寒の入り 村上鬼城
三山の高嶺づたひや紅葉狩 杉田久女
初夢のなかの高嶺の雪煙り 龍太
初荷馬木曾の高嶺に嘶けり 木内彰志
初鳴りは高嶺止まりに雪起し 相馬沙緻
別れはや高嶺薄雪草咲くに 野見山朱鳥(菜殻火)
回春の利尻高嶺は雪を置き 高澤良一 素抱
地の土は高嶺の土のお花畠 山口誓子
夜神楽の笛に澄みゆく高嶺星 西村博子
夜神楽の笛哭くやうに高嶺村 橋本和子
夜蛙や高嶺をめざす人に逢ふ 堀口星眠 火山灰の道
夜鷹鳴き影の高嶺をきびしくす 岡田貞峰
宿坊や楡の木の間に高嶺月 鈴鹿野風呂 浜木綿
山なみに高嶺はゆがむ秋の空 飯田蛇笏 山廬集
山なみの上の高嶺の秋意かな 鷲谷七菜子 天鼓
山山青垣なしてこれの高嶺の夏の朝なり 荻原井泉水
川ひたと定まる秋の高嶺かな 飯田龍太
巣立鳥高嶺の壁のこたへなし 藤田湘子
干瓢の曇るを高嶺曇りとす 木村蕪城 寒泉
年木樵老いぬ高嶺をいたゞきて 小川枸杞子
日覆馬車高嶺のもとの街往来 橋本鶏二 年輪
旦高嶺の残雪へ田を植ゑすすむ 松井鴉城夫
早蕨や高嶺ならねど山ばかり 橋本鶏二
星月夜高嶺へ窓の開きあり 野尻みどり
春すでに高嶺未婚のつばくらめ 飯田龍太(1920-)
春蘭を掘り提げもちて高嶺の日 高浜虚子
春雪を玉と頂く高嶺かな 野見山朱鳥
暁の紅葉黄葉の間に高嶺 畠中じゆん
朴暮れて信夫高湯は高嶺冷ゆ 遠藤梧逸
松蝉の高嶺を左右にとろろ汁 秋元不死男
桐の花甲斐の高嶺を透かし見る 仙田洋子 雲は王冠
桐の花高嶺と高嶺向き合ひて 橋本美代子(七曜)
桑の実の熟れて靄立つ高嶺村 飯島 愛
桑の実の紅しづかなる高嶺かな 飯田龍太「涼夜」
桔梗や高嶺へ戻る夜明雲 望月たかし
椅子向けてれんげつつじや高嶺晴 伊藤敬子
橋に来て高嶺の月を仰ぎけり 比叡 野村泊月
水仙に住むべく着きぬ高嶺晴 雑草 長谷川零餘子
水無月を際だつ雲の高嶺かな 霊椿 俳諧撰集「有磯海」
河鹿鳴き夜は雲とざす高嶺村 下元きみ子
流氷に夜も高嶺の影正し 一水
湖をとりまく秋の高嶺哉 秋の山 正岡子規
湯の神をまつる高嶺の花辛夷 塩田龍瑛
火祭の煙うすれに高嶺星 鈴鹿野風呂
狐啼く声冴えざえと高嶺星 斎藤美智子
狩座に高嶺の月を仰ぎけり 安達素水
猫柳高嶺は雪をあらたにす 山口誓子
町を行く夜番の灯あり高嶺星 松本たかし
畦塗るや高嶺いちにち雲の中 本村蠻
畳替高嶺いちにち日浴びたる 友岡子郷 春隣
矍鑠と日あたる雪の高嶺哉 会津八一
石楠花や朝の大気は高嶺より 渡邊水巴 富士
秋さむや瑠璃あせがたき高嶺草 飯田蛇笏 春蘭
秋晴や由布にゐ向ふ高嶺茶屋 久女
秋燕に日々高嶺雲うすれけり 飯田蛇笏 春蘭
秋燕に高嶺をきそひ甲斐の国 井沢正江 湖の伝説
秋耕や高嶺を四方にしりぞけて 橋本鶏二 年輪
篭枕こころに高嶺ありし日や 鷲谷七菜子
簗番が高嶺の星を褒め合へる 皆川盤水「暁紅」
簗見廻つて口笛吹くや高嶺晴 高濱虚子
簗見廻りて口笛吹くや高嶺晴 高浜虚子「虚子全集」
籐椅子に暮れゆく高嶺見てゐたり 及川貞 夕焼
籠枕こころに高嶺ありし日や 鷲谷七菜子「晨鐘」
緬羊に高嶺がさむき雲を呼ぶ 大島民郎
耳もとに高嶺撫子吹かれけり 古舘曹人 樹下石上
膝抱いてあふぐ高嶺や網代守 橋本鶏二 年輪
花と見る高嶺の雪や来山忌 伊藤松宇
菊酒や高嶺の裾の一ツ家 窪田桂堂
菜殻火に刻々消ゆる高嶺かな 野見山朱鳥
萌ゆるあり咲くあり梅雨の高嶺草 堀口星眠 営巣期
薄暑光高嶺いきなり水にあり 友岡子郷 未草
蝶いでゝあそぶ高嶺の二日かな 渡邊水巴 富士
蝶生る高嶺の壁のきららかに 藤田湘子 てんてん
見上げ立つ高嶺の花や雨の中 野村泊月
連峰の高嶺々々に夏の雲 高浜虚子
金剛の高嶺を月の桟敷とし 水上末子
除夜の鐘果てたるあとの高嶺星 福田甲子雄
隠栖の窓の高嶺や鷹渡る 橋本鶏二 年輪
雁列や飛騨の高嶺の日のありど 藤田湘子
雉子啼くや月の輪のごと高嶺雪 前田普羅 春寒浅間山
雨くると指す高嶺より秋の雨 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雪しろき高嶺はあれど阿蘇に侍す 山口誓子 炎晝
雪渓やなべて短き高嶺草 佐藤瑠璃
雲の翳とどまる高嶺木賊刈る 渡部北星
雲出でし高嶺雪なり文化の日 相馬遷子 雪嶺
雲立ちて高嶺とざしぬ田草取 相馬遷子 雪嶺
雲誘ふ高嶺の雪や人麿忌 堀口星眠 火山灰の道
風冴えて高嶺紺青雪のこる 飯田蛇笏 雪峡
高嶺つゝむ雲の中こそ若葉なれ 渡邊水巴
高嶺にて高嶺仰ぐや螻蛄がなく 加藤知世子 黄 炎
高嶺の黙男突つ立ち夏桑つむ 加藤知世子 花寂び
高嶺みな機嫌くづるる出初かな 上田五千石
高嶺みな鋭き眼をあげて麦の秋 飯田龍太
高嶺ゆく軽便鉄道風薫る 大谷恵教
高嶺より礫うち見ん夏の海 言水「前後園」
高嶺より翔け来し競ひ夏つばめ 大串章
高嶺並む広袤に住み鍬はじめ 飯田蛇笏
高嶺星わけなく新酒酌みにけり 武田伸一
高嶺星墓参怠りしにあらず 坂本山秀朗
高嶺星蚕飼(こかひ)の村は寝しづまり 水原秋桜子(1892-1981)
高嶺星見てより夏夜の深睡り 角田独峰
高嶺星開拓村に冬早き 及川貞 夕焼
高嶺星除夜参籠の燈をつつむ 岡田 貞峰
高嶺星風に吹き飛ぶ鬼やらひ 末永龍胆
高嶺松霧に育ちて霧に老ゆ 岡本緑也
高嶺百合潮のごとき雲に向く 有働亨 汐路
高嶺草夏咲く花を了りけり 水原秋桜子
高嶺草神を畏れて丈短か 佐藤美恵子
高嶺踏みきし荷を置くや花馬酔木 渡辺 立男
高嶺風一朶の花を微塵とす 栗生純夫 科野路
鮎掛くる高嶺の入日仰ぎをり 橋本鶏二 年輪
鳶の木も高嶺の雪も暮遅し 藤田湘子 てんてん
鶯のこゑのゑがける高嶺かな 橋本鶏二
鶯の高嶺曇りになきつゞけ 鈴鹿野風呂 浜木綿
鷹舞うて神座の高嶺しぐれそむ 飯田蛇笏
黒百合や高嶺の泉飛騨に落つ 堀口星眠 営巣期
●中腹
中腹に宮あり詣で薄紅葉(上州妙義山) 上村占魚 『球磨』
中腹に道の岐れる冬の山 桂信子 遠い橋
中腹に雲湧き上る岳紅葉 村田橙重
硫黄山にして中腹に滝を懸け 北野民夫
●頂上
お頂上皆かほよせて語りけり 柑子句集 籾山柑子
お頂上顔青ざめて皆笑へり 中島月笠 月笠句集
かなかなや夜明けて見えぬお頂上 林原耒井 蜩
くすり飲む頂上に花崗岩があり 五島高資
ハクサンシャジンリフト減速して頂上 高澤良一 宿好
一重足袋日の頂上を履きにけり 増田龍雨 龍雨句集
両神山を指呼に頂上涼み台 高澤良一 宿好
八幡平頂上芒の茎臙脂 高澤良一 寒暑
初鶏や頂上一戸谿十戸 近藤一鴻
日射病頂上見えて倒れけり 森田峠 三角屋根
最高となり頂上の巌の林檎 西東三鬼
枯山をきて頂上の平らな水 桂信子 黄 瀬
樹氷満ちゐて頂上といふ幽さ 鷲谷七菜子
炭俵積める頂上闇に透き 棟上碧想子
男体山の頂上に生れ梅雨茸 山口恭徳
百千鳥頂上なにもなかりけり 星野麥丘人
百歩にて頂上の塚富士詣 村木海獣子(天佰)
秋晴や頂上にして褥草 楠目橙黄子 橙圃
秋風や頂上ありく癩患者 佐野青陽人 天の川
茸山の頂上に水置かれたり 右城暮石 声と声
草木なき頂上雪の積むままに 津田清子 二人称
蜜柑山眼のみ頂上まで行けり 山口波津女
金の芒頂上駅に降り立ちぬ 原裕 『王城句帖』
雷鳥や頂上は巌あたゝかく 久米正雄 返り花
霧破れ頂上の標の字ぞ見ゆる 相馬遷子 山國
頂上から太古柑橘したたり来 渋谷道
頂上といふも平らに蕨山 畠山讓二
頂上にたてば文化の日が見ゆる 只野柯舟
頂上になれば野菊の低く咲く 大塚 あつし
頂上に朱塗りの鳥居鳥雲に 大原 雪山
頂上に来てその先に秋の山 桂信子 遠い橋
頂上に蛇巻き冬の山乾く 飴山實 『おりいぶ』
頂上に誰もをらざる赤とんぼ 石田郷子
頂上の天の逆鉾蜂唸る 鈴木厚子
頂上の寝釈迦のどけし肘枕 内海良太
頂上の末枯いそぐ穂草かな 福田蓼汀 山火
頂上の枯木に群るゝ秋燕 比叡 野村泊月
頂上の薄に乾び鳥の糞 桂信子 遠い橋
頂上の雨音のまた芽吹く音 増田萌子
頂上の霞に游ふ子馬哉 松瀬青々
頂上の風の菫の泪いろ 辻田克巳
頂上は日傘を畳む程の風 星野椿
頂上は此処よと花野四方へ伸び 阿波野青畝
頂上は銀河に近し母に近し 西尾 苑
頂上は黄泉の明るさ式部の実 大嶋邦子
頂上へ六根極む深山蝶 鈴木すなを
頂上へ火の筋走るお山焼 滝沢伊代次
頂上や人の匂ひの雪だるま 松尾隆信
頂上や嗚咽のごとく遠き街 和田悟朗
頂上や月に乾ける薯畑 前田普羅 春寒浅間山
頂上や殊に野菊の吹かれ居り 原石鼎(1886-1951)
頂上や海ひとひらの冬霞 玖保律子
頂上や淋しき天と秋燕と 鈴木花蓑句集
頂上や秋凪見せて日本海 河野南畦 湖の森
頂上や雲の渚の空の秋 河野南畦 『広場』
頂上や風入れてゐる登山靴 太田土男
頂上を証す前後の深き谿 津田清子 二人称
●九十九折
三日月を左右に遊びし九十九折 本多恭子
九十九折後ト来る人や春の山 尾崎迷堂 孤輪
九十九折木五倍子の上に人のこゑ 高澤良一 ももすずめ
九十九折雪しろ棚田光り合ふ 西村公鳳
幻住庵への九十九折秋気澄む 小路智壽子
探梅や一間上の九十九折 白泉
林道の九十九折顕たせて一夜雪 平井さち子 完流
白梅や谷に傾く九十九折 須佐はじむ
紅萩や死んで山道九十九折 渋谷道
青枇杷や九十九折なす島の道 石川桂郎 含羞
●吊尾根
柳絮舞ふ天に吊尾根揺るぎなし 橋本榮治 越在
●峠
「北越雪譜」峠紅葉の空張つて 紺野佐智子
あかねこ餅峠にひさぐ半夏生 茂里正治
あすの天気は/晴かもしれぬ/知らぬ峠で/凍る轆轤師 鳥海多佳男
あるときは狢の眼ある峠かな 三田きえ子
いくつ山越えて峠の霙かな 村田三郎
いざ夏と塩尻峠雲騰る 篠田悌二郎
いしぶみは峠の名のみ夏蕨 大岳水一路
いつもこの峠から花火が盗まれる 西川碧桃
いとどたよりあらぬもといや峠の蝉 広瀬惟然
いひおとす峠の外もあきの雲 内藤丈草
おけら咲く峠に消えた薬売り 中西みつえ
かまど猫座せり峠の茶屋の土間 茂里正治
からだじゅう満月となる峠かな 林加宝利
かるかやを見て峠から雨にのる 鳥海むねき
くぼみたるところは峠雲の峰 島田紅帆
くらがりの峠とぶ風狂もいて正月 大西健司
くらがり峠音たてて虻ついてくる 江中真弓
くらやみを年来つつあり峠の木 綾部仁喜 寒木
けもの径落合ふ峠独浦の花 毛塚静枝
この峠又越ゆべしや落花急 大久保橙青
さくらの芽峠に坐る牛の神 つじ加代子
さめざめと雪の峠になりゆくよ 野澤節子 『八朶集』
すかんぽや峠の雨の降りに降り 水原秋櫻子
すれ違ふ春の峠の樽と樽 中村苑子(1913-2001)
ずら・だんべ峠が頒つ冬鴉 影島智子
ぜんまいの筵にちぢむ峠茶屋 深井かず子
たましいの暗がり峠雪ならん 橋間石
たわたわと雪の峠の青鴉 野澤節子 『八朶集』
にじは七色、七十路の峠に立つ 荻原井泉水
ひとり来て峠の春と別れけり 小川特明
ぶな峠下りても緑賢治の径 文挟夫佐恵 雨 月
まつすぐに峠下りくる霞なか 瀧澤伊代次
みんみんの峠を越えし風呂敷よ 国武十六夜
もの狂ひしてゐる春の峠かな 柿本多映
やぶさめや峠を左右に越ゆる霧 水原秋櫻子
ゆく春や杖突峠なほ上り 久保田万太郎 流寓抄以後
ゆく秋の夜叉神峠の雲迅し 倉林美保
イタリアヘ越す峠見ゆ朝の百合 有働亨 汐路
エゾオヤマリンドウ秋を告ぐ峠 高澤良一 寒暑
カンナ燃えさかれど避暑期はや峠 久保田万太郎
カーナビに載らぬ峠や一位の実 宮本つる子
パラソルをさして入道峠かな 京極杞陽
ピレネーの峠の桔梗手折りけり 加藤三七子
ミサ終へし乙女峠の春惜む 松尾白汀
一声を峠に天城の初鴉 林 昌華
一旦は照つて峠の霰かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
一本のラムネの甘露峠茶屋 中山純子
一鳥も見ぬ寒林の峠さび 阿部みどり女
万緑は甲斐の峠に他ならず 萩原麦草 麦嵐
万緑を顧みるべし山毛欅峠 石田波郷「風切」
三ッ峠お山洗ひの潔ぎよし 佐々法子
上も下も枇杷もぐ薩*た峠かな 吉中愛子
上簇は蚕飼の峠時鳥 大岳水一路
下りへの荷直し峠懸巣鳴く 山田和子
世の花や百の峠も幾九十 上島鬼貫
中空に秋の風吹く峠かな 秋風 正岡子規
乳房ふたつ冷えて山刀伐峠かな 黒田杏子
亀兎飼うて峠の葭簀茶屋 江川由紀子(諷詠)
五平餅人語も芽吹く峠茶屋 渡辺恭子
京へ出るひくき峠や寒見舞 大峯あきら 鳥道
仙人峠雪呼ぶ窓と指さされ 田中英子
伊賀へ越す峠七つや土芳の忌 大杉幸靖
会釈して水口祭の峠神 大井戸 辿
何時の間に越へたる峠福寿草 佐藤愛子
何追うて越ゆる峠か秋の蝶 金箱戈止夫
信濃なる峠の科の木大木いまし緑す 荻原井泉水
修奈羅峠のお金の神様肩まで雪 小澤實 砧
先立ちゆく犬の巻き尾や露峠 鷲谷七菜子 花寂び
八十八夜女を仮りの峠とす 鈴木明
六月の雪踏まれずにある峠 山田弘子 こぶし坂
冬がれの里を見おろす峠かな 黒柳召波 春泥句集
冬の芽の婆娑羅峠を越えて来し 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
冬雲や波郷が詠みし山毛欅峠 牛山一庭人
凧吹いて島の峠の白薄 和知喜八 同齢
凩に向ふて登る峠かな 凩 正岡子規
凩のひつかかりゐる峠の木 原裕 正午
出雲への峠晴れたり初蕨 鷲谷七菜子 天鼓
初富士のかすめる草の峠かな 市村究一郎
初明りまとひつつありぬわが峠 新谷ひろし
初茸の婆のうしろに大菩薩峠 古舘曹人 樹下石上
初蛙笛吹峠の真下より 山口素基
初電話暗峠を声往き来 鈴木六林男
刺客ひそむ峠のような日暮の便所 西川徹郎 無灯艦隊
北冥き雪の峠を誰か越ゆ 千代田葛彦 旅人木
北狐出さうな峠春を待つ 新家崇子
北窓を開きさびしき峠見ゆ 鳥羽とほる
十三峠業平泣かせの北風吹くよ 楠節子
十文字峠にかかる朴の花 岡安迷子
卒業の子のー人ゆく峠あり 岸 霜蔭
南予には峠の多し山桜 青山ミヱ子
卯の花に不二ゆりこぼす峠哉 卯の花 正岡子規
卯の花の峠に来れば京が見え 大峯あきら 宇宙塵
卯の花の水呑峠夫と越ゆ 中村としゑ
古き道葡萄峠の渓涼し 桑原天士
古杉に道ある雪の峠かな 古白遺稿 藤野古白
句碑寂とくらがり峠冬ざるる 江見太郎
合歓は実に風の行き交ふ峠かな 市堀玉宗
名を恋ひし月出峠に馬酔木咲く 中戸川朝人 残心
吾妻に峠十三もみぢ晴(上州野反湖途上) 上村占魚 『萩山』
吾妻に峠十三紅葉晴 上村占魚
唯今は十国峠時雨をる 高木晴子 晴居
啄木鳥が叩き葉が降る峠神 猿橋統流子
喪がつづく麦生に赤き峠見え 宮坂静生 山開
囀りの擬音ひねもす峠茶屋 田中政子
団子汁吹く息白し峠茶屋 房前芳雄
団栗や倶利伽羅峠ころげつゝ 東洋城千句
団栗拾ふ峠あかるきさびしさに 山田麗眺子
国分寺は峠の向かふ鴉麦 平岡千代子
国盗りの綱引き峠冬枯るる 杓谷多見夫
土佐水木峠は人の別れ径 安岡清子
土竜打ちをり大菩薩峠見え 渋谷隆治
地下鉄にかすかな峠ありて夏至 正木ゆう子「静かな水」
坂鳥や峠へつづく塩の道 澤田佳久
坂鳥や木ノ芽峠の雲のなか 川上季石
声あげて牛首峠芽吹きおり 穴井太 原郷樹林
夏山や水に乏しき峠茶屋 夏山 正岡子規
夏木にも瓜蠅とべり峠畑 飯田蛇笏 山廬集
夏果つる峠や茶碗伏せし棚 長谷川かな女 花 季
夏炉焚く木の芽峠の一軒家 橋本公枝
夏鶯雲立ち上がる山毛欅峠 櫛原希伊子
夕日さす峠の白膠木紅葉かな 山本順子
夢にも人に逢はぬ峠の夕桜 島田柊
大峠小峠鷹の渡る頃 大峯あきら 宇宙塵
大島の峠の籔の実梅かな 後藤栄生
大根引くけふを峠といふ日和 林のぶ子
大菩薩峠をつつむ春しぐれ 福田甲子雄
大菩薩峠を越ゆるみどりの日 山崎ひさを
天はるかに大菩薩峠冬晴れたり 渡邊水巴 富士
天地水明あきあきしたる峠の木 中村苑子
奇稲田姫の須勢理姫の恋の秋峠 伊藤いと子
女郎花の中に休らふ峠かな 高浜虚子
姉とねて峠にふえるにがよもぎ 安井浩司
子鴉の峠短し明智領 大峯あきら 鳥道
宇陀越えの花の峠をバス徐行 西浦立子
寂しくばなほ寂しきに来て棲めと花折峠のひぐらしぞ澄む 青井史
密猟の小鳥を食はす峠かな 安田蚊杖
富士見峠乙女峠の小春富士 大橋敦子 手 鞠
寒凪ぎの高鳥見ゆる峠かな 乙字俳句集 大須賀乙字
寒潮のそのくろがねを峠より 大峯あきら
寝ござ干す峠の茶屋の罐コーヒー 村本畔秀
小佛の峠の茶屋の菜飯噴く 塩月能子
小峠に海道憩ふ山ざくら 百合山羽公 寒雁
小峠や青田の風を吹き上げに 野村喜舟 小石川
小障子に峠の日あり七日粥 木村蕪城
小雨より雪に変りし時峠 稲畑廣太郎
尾瀬竜胆雨に艶濃き峠かな 柴田寛石
山刀伐峠のかくも暑き日祠神 原裕 『新治』
山刀伐峠の栗の毛虫の大きさよ 細川加賀
山刀伐峠の青葉闇なす翁径 菅原庄山子
山椒喰峠田の水あまりたり 皆川盤水
山椿高々とある峠かな 河東碧梧桐
山樫に朝霧かゝる峠かな 霧 正岡子規
山毛欅の芽や富士見峠をどの国も 中拓夫
山蛭の落ちて峠は風もなし 竹中雪乃
山蟻とて乙女峠へ攀ぢにけり 成瀬桜桃子
峠うかべ遅日の村の昔より 村越化石 山國抄
峠からは行く方へ水も急ぎゆく秋(清水峠) 荻原井泉水
峠から一川糸に青田かな 東洋城千句
峠から大和の里や春夕 尾崎迷堂 孤輪
峠から故郷に来し紅葉かな 稲垣暁星子
峠から見る段々の青田かな 青田 正岡子規
峠こす鴨のさなりや諸きほひ 内藤丈草
峠この夢のいづこも蝉しぐれ 河原枇杷男 訶梨陀夜
峠てふバス停留所桐の花 川村紫陽
峠にうごかぬめがねの女いる二月 阿部完市 純白諸事
峠にて朴の鬱たる秋はじめ 森澄雄
峠にはまだ雪消えず水芭蕉 瀧井孝作
峠に見冬の日返しゐし壁ぞ 深見けん二
峠のその向ふの話夜長なり 化石
峠の名桃咲くころに来て覚ゆ 野中 亮介
峠の名空と伝へて朴の花 南 うみを
峠は闇われに棲みつく北風も 河原枇杷男 流灌頂
峠への終の痩せ坂息さやけし 鷲谷七菜子 花寂び
峠まで一本の道雁渡し 草間時彦
峠まで来ても真上や揚雲雀 揚雲雀 正岡子規
峠まで送るつもりの炉火を埋め 長尾あき子
峠まで送るならひやほとゝぎす 遠藤加寿子
峠みなよき名を持てりほととぎす 藤崎実「菱花」
峠みな佳き名をもてる初時雨 片山由美子 風待月
峠ゆく影のいちまいとして咳 小松雅朗
峠ゆく雲が晩稲の黄に馴染む 田中青濤
峠より人の下り來る吹雪哉 吹雪 正岡子規
峠より平らに落ちぬ天の川 天の川 正岡子規
峠より日が濃くなれり紅の花 皆川盤水
峠より来し車濡れ草紅葉 斉藤夏風
峠より海を見下す日永哉 日永 正岡子規
峠より無限夜長のはじまりぬ 宇多喜代子 象
峠より眞下におろす野分哉 野分 正岡子規
峠より雪くる一樹立ちつくし 穴井太 天籟雑唱
峠より風吹きおろす蚊帳哉 蚊帳 正岡子規
峠より風音かはる落し文 立木節子
峠一つがんじがらめに葛嵐 木下むつみ
峠一つ越すたび紅葉透けてくる 島 杜桃
峠二つ乳房のごとし冬の空 赤星水竹居
峠半里を帰りゆく子にほととぎす 茂里正治
峠大きな目で泣くははたちの新月 金子皆子
峠家の子の数の凧峠に見ゆ 茂里正治
峠小屋きのふで閉ぢし野紺菊 星野恒彦
峠教ゆ冬の深みのなつかしく 村越化石 山國抄
峠星美しくなりぬ春隣 大森桐明
峠村ひるをふかしとだいこひき 関戸靖子
峠涼し沖の小島の三年酒 山口素堂
峠涼し沖の小島の見ゆ泊り 素堂「六百番発句合」
峠澄む実の仙人掌のほの甘く 小池文子 巴里蕭条
峠神ひこばえの先づ紅葉して 小島千架子
峠神幣を倒して旅だちぬ 福田蓼汀
峠空身にしむ青さ誰が現れむ 野澤節子 黄 炎
峠茶屋なくて門茶の功徳かな 中山蕗峰
峠茶屋子育て飴も薄暑かな 細川加賀 生身魂
峠行く声ちりばめて小梨咲く 青柳志解樹
峠行く時静けさの若葉かな 東洋城千句
峠見ゆ十一月のむなしさに 細見綾子(1907-97)
峠踏みもこれきりの残雪となりぬ 乙字俳句集 大須賀乙字、岩谷山梔子編
峠近し落葉松林日雀鳴き 小川斉東語
巣立鳥あそべり峠隠す杜 及川貞 榧の實
幾曲り峠の月は海のうへ 横光利一
待宵の山刀伐峠ひそと子安神 斎藤夏風
律寺への峠肉(しし)切る青芒 山口草堂
心太峠の茶屋の隠し味 小島左京
恵方なる見え来て天塩峠の木 永田耕一郎 方途
悠然と峠を行き来鬼やんま 小島國夫
支那人大きな壺脊負ひ峠の冬を越える 人間を彫る 大橋裸木
故郷の巨燵を思ふ峠かな 炬燵 正岡子規
新涼や蜜の香のせる峠みち 岸田稚魚 筍流し
新蕎麦や木曽路へ抜ける峠茶屋 吉田幾代
日田越えの峠の小村花たばこ 吉田南窓子
旧街道峠の茶店の長火鉢 蕪木啓子
早朝の峠に白し落し角 斉藤志津子
早蕨の風の峠の名を知らず 佐野まもる
昔/真神の/深雪匂ひの/青春楡峠(あをだもたうげ) 林桂 銀の蝉
星合や峠へだてて牧ふたつ 大島民郎
星空や葛の峠を越えてきし 長谷川櫂 天球
春昼や蓮如も越えし大峠 宇佐美魚目 天地存問
春浅き峠とのみの停留所 八木林之助
春浅し峠の茶屋の丸火鉢 鷲見千里
昨夜の猪峠に現れて二つ 森下草城子
昼の虫峠の神は足短か 江中真弓
昼月の峠にをりぬ野老掘 大峯あきら 鳥道
昼頃の蝉の峠の茶屋日覆 清原枴童 枴童句集
時雨きてたましひを吊る峠の木 柿本多映
時鳥昔此頃此峠 時鳥 正岡子規
晩春の登りつめたる峠の木 廣瀬直人
晴着着て峠くだれば母の国 阿部完市 絵本の空
暑き日の浦見えわたり峠かな 尾崎迷堂 孤輪
暮坂の峠や懸巣啼かず飛ぶ 上村占魚
月の出の峠振り出し鳥追衆 下田稔
月の道乙女峠へ一筋に 平野青坡
月花を見かへすや年の峠より 上島鬼貫
望の月西行峠さびれける 下田稔
望台に芒積んだり峠茶屋 比叡 野村泊月
木ぶし咲き花折峠つづら折 古賀まり子 緑の野以後
木ノ芽峠雨霧赤腹湧出す 岡井省二
木枯や二つ越え来し又峠 東洋城千句
東方に峠あるなり雪降るなり 村越化石 山國抄
松籟は峠ならむと汗ばみ登る 篠原梵 雨
松蝉の湧ける暮坂峠かな 勝又一透
枯峠青空に風無尽蔵 矢島渚男 梟
枯萱に峠の鷹の沈みけり 秋櫻子
柿点す峠これより伊賀へ入る 加藤耕子
柿熟るるうしろの虚峠見ゆ 宮津昭彦
柿熱るるうしろの虚ろ峠見ゆ 宮津昭彦
栗の花峠に饑神(ひだるがみ)のゐて 茨木和生 遠つ川
桑の実に長きも長き峠かな 阿波野青畝「国原」
梅雨茸の紅に目をとむ暗峠 橋本美代子
梅雨霧に鳴く鳥もなし和田峠 相馬遷子 雪嶺
棕櫚剥ぎて峠の道の見えにけり 山口峰玉
棟寄せてくらがり峠小鳥来る 犬童冴子
榾たくや峠の茶屋にいわし売 泉鏡花
樹々透きて峠の雪に昏れゆく間 飯田蛇笏 椿花集
橡の実をふたつひろへば峠冷ゆ 黒田杏子
死んで弟は骨壺の骨、峠の海が青しとも青し 橋本夢道 無禮なる妻抄
殉教の乙女峠の萩こぼる 森 操
殊更に初日待ちたる峠かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
残菊や風も峠を登りゆく 猿橋統流子
母がりの峠を越ゆる桐の花 古田かつみ
母老いしや冬日に浮ぶ峠あり 村越化石
毒茸ばかりの修那羅峠かな 山田春生
水仙の匂ふ峠を越へにけり 横田昌子
水底より明けて峠の犬も死んだ 沢 好摩
水楢の芽立ちはおそし峠茶屋 高木晴子
水気付けたのむ峠の暑さかな 水田正秀
水菜さげ霧の峠のゆきだおれ 吉田さかぇ
泡吹虫峠の風に泡育て 河内孝子
洞川へ古き峠や水中り 大峯あきら 鳥道
海までは峠ひとつや餅配 大峯あきら 鳥道
海道の難所の峠杉の花 和田孝子
涅槃会の風の峠を越えにけり 山田弘子 懐
涼しさや立木柱に峠茶屋 雉子郎句集 石島雉子郎
涼風や峠に足をふみかける 許六 六 月 月別句集「韻塞」
深息をして八月の峠かな 中里 結
渋茶すゝる峠の茶屋や青嵐 寺田寅彦
滑歯の花テーブルに峠茶屋 満田玲子
滴りは木の根のことば峠みち 岩間民子
漱石忌近づく峠茶屋を訪ふ 河津春兆
濡れ落葉峠の向ふいつも晴れ 白鳥峻
炉に一夜峠で別れ後知らず 福田蓼汀
炎天の峠こえくる一人かな 石井露月
炎天の馬あれつのる峠かな 横光利一
烏瓜の花は峠の風のいろ 福川悠子
煤逃や峠を越えて海辺まで 松林朝蒼
熊棚の残る吹雪の峠かな 原田恵美子
犬のいない犬鳴峠という緑陰 鮫島康子
狐の嫁入り虹を峠に残しけり 櫛原希伊子
独活を掘る碇峠と云ふところ 渋谷一重
狼に夜は越せざる峠かな 大谷句仏
猪(しし)が来て空気を食べる春の峠 金子兜太(1919-)
猪がくる元旦の峠かな 星野昌彦
猪が来て空気を食べる春の峠 金子兜太 遊牧集
猪とれし話峠を越え来る 吉年虹二
猪独活の峠ひたひた女たち 樋口こと
猿の手の秋風つかむ峠かな 吉田汀史
猿蓑の峠は雨と秋刀魚売り 北村 保
猿鳴ひて金精峠初しぐれ 三角 節
生れは甲州鶯宿峠に立っているなんじゃもんじゃの股からですよ 山崎方代
甲斐への塩絶たれし峠山法師 田中英子
甲斐信濃分かつ峠や冬霞 下瀬川慧子
男といふ性は峠を過ぎゆきて<赤いきつね>を啜りゐるなり 田島邦彦
男郎花峠下れば海女の村 東 容子
畚岳遠望りんだう咲く峠 高澤良一 寒暑
異国旗のひきずられ行く雪峠 対馬康子 愛国
白玉を竹の器に峠茶屋 山本閑子
白露や紫尾の峠を牛越ゆる 脇本星浪
白靴の軽きに峠二つ越え 西浦幸男
百幹の峠の冬木夕茜 上沼美保子
目頭に刈田峠の蜻蛉かな 高橋龍
真清水や世に小峠の忘れられ 野村喜舟 小石川
石楠花や影振りすててゆく峠 鷲谷七菜子 雨 月
秋口のこんにやく畑の峠かな 阿波野青畝
秋桜峠に祀る牛の霊 広瀬一朗
秋祭すみし塵掃く峠茶屋 渡辺一魯
秋祭人語四方の峠より 前田普羅 春寒浅間山
秋草の峠はいつも今朝もさびし 岡田日郎
秋草の花みな濡れて霧になびく夕霧峠といふ道をこゆ 尾崎左永子
秋蝶と漂ひ越すも一峠 小林康治 玄霜
秋風〔に〕ふいとむせたる峠かな 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
秋風に小銭の溜まる峠神 角川春樹(1942-)
秋風や加賀へ峠をひとつ越え 片山由美子 風待月
秋風や旅の女と小峠と 野村喜舟 小石川
秋風を映す峠の道路鏡 大串 章
科の木や葉月ぐもりの峠茶屋 佐藤鬼房
立葵ゆらぎ峠をはしる水 水原秋櫻子
竹杖のしわる峠や閑古鳥 閑古鳥 正岡子規
竹煮草野麦峠の雨太し 小野淑子
笹子峠に春告ぐ雲のかかりたる 古屋富雄
笹鳴や義経越えしといふ峠 石原 栄子
筒鳥や山刀伐峠日照雨来る 金居欽一
筒鳥や峠に冷やす車酔 相馬遷子 雪嶺
箒売月の峠を越えきたり 中田剛 珠樹以後
籠坂の峠の神に鵙の贄 鳥越憲三郎
紀見峠の薊なびかす風に立つ 鈴鹿野風呂
紀見峠紀伊けぶらせて五月雨るる 安立富美子
紅の花峠は水の上にあり 皆川盤水
綺羅星の揃ひし年の峠かな 池田秀水
義仲の声す照葉の峠往く 山本富万
義経の笛吹峠花野かな 岡本英夫
羽前羽後分かつ峠や初しぐれ 小野誠一
翁憩ひし峠の空を草の絮 茂里正治
老鴬や峠といふも淵のうへ 石橋秀野
老鶯やゆくての峠雲の中 白水郎句集 大場白水郎
老鶯や峠といふも淵のうへ(石見市山村七句) 『定本石橋秀野句文集』
耳やはらか霧の峠を二つ越え 神尾久美子 桐の木
耶蘇祀り摘草峠野萱草 小原菁々子
聳え立つ恋の峠や業平忌 京極杞陽
胡鬼の子や一茶のころの峠みち 中戸川朝人 星辰
胸元に涼風あつめ峠茶屋 小林ミヨ子
臍峠いづこや雨の仏生会 魚目
自転車の蒼光る肉峠より 西川徹郎 死亡の塔
良寛の辿りし峠草紅葉 沢木欣一
色鳥や道の消えたる古峠 野村喜舟 小石川
芭蕉越えて戻らぬ峠葛茂る 品川鈴子
花どきの峠にかかる柩かな 大峯あきら
花の雨ふりて人来ぬ峠かな 前田普羅 新訂普羅句集
花芒峠に青き日ありけり 中田剛 珠樹
花萩に三味一挺や峠茶屋 鈴鹿野風呂 浜木綿
花蕎麦や谷におくれて峠の灯 長田 等
花追ひて鞍馬花背と二峠 肥田埜恵子
若狭田のわかきそよぎを峠より 高橋睦郎 稽古飲食
若菜摘む風の峠をはるかにし 久松澄子
茸狩や峠の奥の遠き山 草間時彦
茸狩や峠の奥の遠つ山 草間時彦 櫻山
草ひばり声澄みのぼる峠みち 柴田白葉女
莨火の貸借一つ枯峠 上田五千石 田園
萬緑を顧みるべし山毛欅峠 石田波郷(1913-69)
萱草の花に霧ふく峠かな 中勘助
萱萌えし伊豆の峠の雪を踏む 石橋辰之助 山暦
落葉ふるなり峠の茶屋にたべる餅に シヤツと雑草 栗林一石路
葛の中人を見すごす峠神 森澄雄 游方
葛掘と越ゆる風雨の狛峠 河北余枝子
蒟蒻の花を咲かせて峠茶屋 高橋悦男「海光」
蓬摘む由比の峠の暮るるまで 大橋利雄
蓮如忌やみづうみ蒼きこの峠 大峯あきら
蓮如輿難所とはこの峠かな 吉波泡生
藁屋根にたんぽぽ咲けり峠茶屋 佐々木尚子
藪入やくらがり峠降り来しと 阿波野青畝
虎杖や狩勝峠汽車徐行 星野立子
蚕屋障子開きて九月の峠見ゆ 筒井恭子
蛍狩花背峠を越え来たり 松村節子
蜻蜒を相手に上る峠かな 蜻蛉 正岡子規
蝉暑つや松に飽き行く長峠 東洋城千句
蝦夷富士へ蕗のはためく峠みち 渡辺恭子
蝶と化す菜の花ばかり峠村 上田五千石
蟆子擲つて山刀筏峠引き返す 深谷雄大
蟷螂のひらひら飛べる峠かな 岸本尚毅(1961-)
蠅とぶや烈風なぎし峠草 飯田蛇笏 山廬集
護摩焚いてくらがり峠残花なり 山本千之
谷越えの風透く峠花さびた 櫻内玲子
豆柿をひたき占めゐる峠かな 中勘助
豆筵峠をおりしここに干す 村越化石 山國抄
赤き馬車峠で荷物捨てにけり 高屋窓秋
赤松や峠は春の雪とべる 有働亨 汐路
越えてきし峠のはなし夜長し 下田稔
越す峠ガラガラ蛇の轢かれをり 坊城としあつ
躑躅咲く奥もつつじや仁田峠 増田 富子
車とめぬ風の峠の松虫草 及川貞 夕焼
送行にあるべき様の二つ峠 斎藤玄 雁道
通り峠棚田絵巻の遠霞 早水運太郎
通草引くひとりが塞ぐ峠みち 小澤満佐子
逝く春や見返り峠低けれど 細川加賀 生身魂
遅き日のフランス見ゆる峠かな 大峯あきら
遠くわくこう森のはじめの峠みち 野澤節子 黄 炎
遠富士に乙女峠は枯芒 後藤比奈夫
遠目して修那羅峠のいぼむしり 原田喬
遠耳や風に吹かれる峠の木 穴井太 原郷樹林
郭公耳摺払ふ峠かな 上島鬼貫
野に仰ぐ峠の道や秋の晴 内田百間
野峠へしばらくの径朴落葉 岸原清行
野峠を越ゆれば秋の国ならむ 穴井太 原郷樹林
金精の峠閉じたる薬喰ひ 藤田十紀子
闇の雁手のひら渡る峠かな 雁 正岡子規
防人の別れの峠鷹渡る 若松徳男
降る雪のその先日暮れ峠の灯 野澤節子 『八朶集』
雁渡る杖突峠湖の上 桂樟蹊子
雄国沼望む峠やうつぼ草 石原栄子(山火)
集落へくだる峠や熊の架 雨宮美智子
雉子なくや倶理加羅峠まだ五町 水田正秀
雪ちらちら峠にかかる合羽かな 夏目漱石 明治三十二年
雪峠「継さ」「角さ」も越えしてふ 伊藤いと子
雪晴夜夜泣峠をうさぎ跳ぶ 赤尾兜子
雪解の峠の茶屋の戸口かな 原 石鼎
雪解川峠の下を衝きにけり 野村喜舟 小石川
雪起し山刀伐峠底ひびき 加藤楸邨
雲うすらぎ鶯なく峠の小雨となりぬ 梅林句屑 喜谷六花
雲めざす蛾のあり暮坂峠なり 堀口星眠
雲渡る猿羽根峠の花こぶし 鈴木朗月
霜くすべ土湯峠を下り来れば 阿波野青畝
霜柱高き山刀伐峠なる 下村梅子
霧は家族の匂ひ峠の木下闇 広嶋爽生
露草や温見峠の空濁る 斎藤英樹
青峠生駒八景その一景 塩川雄三
青葉してくらがり峠粉挽けり 林 徹
青葉木菟峠に女工哀史あり 松本千冬
頬赤来て峠の夕日いま円に 塩野谷仁
顔上げて梅の峠へ郵便夫 蓬田紀枝子
風倒木雹こゑあげて峠こゆ 石原八束 空の渚
風峠 雲をちぎって捨てておく 鈴木石夫
風干しの肝吊る秋の峠かな 三橋敏雄 *シャコ
風荒き峠の菫冴えにけり 渡辺水巴 白日
風返し峠風なき日の霞 稲畑汀子
風返峠の桜吹雪かな 永方裕子
馬が来てどこも坂なす峠の磔刑 深谷守男
馬鈴薯の花やこれより臍峠 濱田正把「冬晴」
駅の名の峠と呼ぶや雪の聲 寺田寅彦
骨壺の弟を抱え母と故郷の海見ゆる峠となる 橋本夢道
鬼追はれ夜昼峠までゆくか 正木ゆう子 静かな水
鮒鮨を買はむと越ゆる花峠 飴山實 辛酉小雪
鮓宿へ旅人下りぬ日の峠 飯田蛇笏 山廬集
鳥の巣を覗いて登る峠かな 希 因
鳥渡る甲斐十方に峠もつ 加々美鏡水
鴬や柏峠をはなれかね 蕪村遺稿 春
鶯の声たちのぼる峠の木 綾部仁喜 樸簡
鶯笛十国峠に吹きて売る 石鍋みさ代
鶴引て行くや海より峠より 引鶴 正岡子規
鶸渡る雨の峠の草伝ひ 堀口星眠
麦秋や峠むかうに杜氏の村 島津ふじ穂
麦笛の中の笛吹峠かな 秦 夕美
黄鶲や峠に波郷見しやうな 木村有宏
黒い峠ありわが花嫁は剃刀咥え 西川徹郎 無灯艦隊
黒峠とふ峠ありにし あるひは日本の地図にはあらぬ 葛原妙子
黒百合や美幌峠の岩陰に 藤瀬正美
●峠口
よく晴れて峠口より頬被 中井満子
一村のしぐれはじまる峠口 石寒太 あるき神
三椏に生魚割く峠口 綾部仁喜 樸簡
峠口うめさきつゞく道曲る 滝井孝作 浮寝鳥
斑猫のとぶ夜叉神の峠口 荒川優子
旅人に稲負鳥峠口 八木林之介 青霞集
松は目をみひらく寒の峠口 大井雅人 龍岡村
松毟鳥山路ここより峠口 後藤春翠
桔梗やまた雨かへす峠口 飯田蛇笏 霊芝
梅雨晴や小村ありける峠口 水原秋桜子
白靴や手鏡を出す峠口 増子 京
盆近き老婆いちづに峠口 宮坂静生 山開
竜胆や風のあつまる峠口 木内彰志
色鳥や塩の店ある峠口 皆川盤水
花了る木曽のひまはり峠口 黒田杏子
葭簀茶屋かたまるところ峠口 荒川あつし
薬掘る天目山の峠口 高木良多
露草の千の目ひらく峠口 若井新一
馬の瞳も零下に碧む峠口 飯田龍太
●峠路
冬山や峠路別に樵り道 尾崎迷堂 孤輪
峠路のいづこか鳴ける囮かな 水原秋桜子
峠路のはづれに四五戸立葵 稲畑汀子
峠路のほぼなかばなる初景色 橋本鶏二
峠路の分るるところ野菊咲く 阿部ひろし
峠路の句碑をうづむる霜柱 飯田蛇笏 雪峡
峠路の夕や夏の雲はやし 蘇山人俳句集 羅蘇山人
峠路の春も吹雪くといふことを 稲畑汀子 春光
峠路の果なき如く花辛夷 稲畑汀子
峠路の登るにつれて紅葉濃し 高浜年尾
峠路は遥か黒穂の捨てゝあり 山口草堂
峠路やわらびたけてぼうぼうの山 室生犀星 犀星發句集
峠路や俯向きて受く郁子の雨 岸田稚魚 筍流し
峠路や夏蚕の家は瀬を前に 石橋辰之助 山暦
峠路や時雨晴れたり馬の声 尾崎放哉
峠路や水引草は妻のもの 岸田稚魚
峠路や風の形に咲く木華 中村恵美子
峠路をゆかばこのまま雪をんな 野沢節子 八朶集
空濡れて峠路うすき草もみぢ 柴田白葉女 花寂び 以後
芒なほ午前の光り峠路は 野澤節子 黄 炎
●峠道
きぶし咲く雫つらねて峠道 茂木房子
万緑や瀬音のふかき峠道 林 宏
仙翁花や信濃へ越ゆる峠道 桜木俊晃
元日の海の風吹く峠道 龍太
夏薊丹波でかんしよ峠道 中野あきを
宇津谷の葛も了りの峠道 高澤良一 燕音
宿までは氷柱明りの峠道 斎藤夏風
富士曇る静かな花の峠道 広瀬直人
山百合の白新しき峠道 滋田房子
峠道見えゐて消ゆる秋の暮 小林康治 『潺湲集』
新涼や蜜の香のせる峠みち 岸田稚魚 筍流し
桑の実ややうやくゆるき峠道 五十崎古郷句集
滴りは木の根のことば峠みち 岩間民子
猪撃ちの黙殺に遇ふ峠道 高澤良一 ぱらりとせ
胡鬼の子や一茶のころの峠みち 中戸川朝人 星辰
草ひばり声澄みのぼる峠みち 柴田白葉女
蝦夷富士へ蕗のはためく峠みち 渡辺恭子
通草引くひとりが塞ぐ峠みち 小澤満佐子
遠くわくこう森のはじめの峠みち 野澤節子 黄 炎
●遠嶺
さだかなる遠嶺の高さ落葉踏む 橋本鶏二
しばらくは遠嶺あかるし黐の花 柴田白葉女 花寂び 以後
のこる鴨肥えて遠嶺のかすみけり 山本古瓢
ふぢばかま遠嶺は雨にけむりをり 古谷のぶ子
まなじりと遠嶺かかはり合ふ寒気 水谷キミエ
みづいろの遠嶺入れたり春日傘 山本千恵子
むらさきに遠嶺かがやき寒晒 鈴木虚峰
よべ月をあげし遠嶺の名を問ふも 山田弘子 こぶし坂
カンナの黄雲は遠嶺の裏に棲む 奥野久之
コスモスに遠嶺を入れて娘を写す 横山房子
コスモスや遠嶺は暮るゝむらさきに 五十崎古郷句集
プラタナス咲いて遠嶺のやさしかり 椎橋清翠
マスクしてけふの遠嶺の雪に会ふ 五十崎古郷句集
一位の実ふくみ遠嶺のよく見ゆる 大串章
一位の実甘し遠嶺の霧を見る 野見山朱鳥
伊勢海老の髭を雲ゆく遠嶺晴 小澤克己
光なき遠嶺の紺や十二月 大岳水一路
六月の遠嶺引き寄せ方位盤 今井嘉子
初大師遠嶺より享く日のぬくし 吉岡道夫
初春の日ざし見えゐる遠嶺雪 河野南畦
初東風や雪清浄の遠嶺より 室積徂春
初秋はうすむらさきの遠嶺かな 豊田都峰
初雪の遠嶺へ高き操車音 鳥居おさむ
勝独楽も遠嶺も肩をあげにけり 大嶽青児
北空の遠嶺けふ澄み達谷忌 矢島房利
卒業歌遠嶺のみ見ること止めむ 寺山修司
吹き晴れし遠嶺を指して鳥帰る 鈴木英女
夏惜しむ目を細めよと遠嶺雲 鈴木鷹夫 大津絵
夏期講座窓の遠嶺を見てゐたり 戸川稲村
夏風邪の長びいてゐし遠嶺かな 綾部仁喜「樸簡」
子供の日薄紅色に遠嶺暮る 福田甲子雄
扇風機の羽根透き遠嶺ゆらぐなり 松田 多朗
手袋をまだ脱がずゐる遠嶺かな 綾部仁喜 樸簡
新墾山遠嶺をつなぎ光る風 成田千空 地霊
春雪の遠嶺つらなる母子の旅 柴田白葉女 花寂び 以後
木瓜咲けば遠嶺も春にかへりけり 石橋辰之助 山暦
林檎の実赤し遠嶺に雪を待たず 大串章
桃畑に糞りて遠嶺を見はるかす 奈良文夫
桑もゆれ遠嶺もゆれて桑車 岡本まち子
樹氷ぱりぱり触れてのぼりぬ遠嶺見に 及川貞 夕焼
水飲めば生きたかりけり遠嶺の雪 川口重美
沈む星遠嶺に冴ゆる燈と並ぶ 宮津昭彦
法師蝉杉間に蒼む空遠嶺 石 昌子
深秋の雄心ひとり遠嶺越ゆ 木村敏男
片栗の花咲き遠嶺雪きゆる 松村蒼石 露
独活掘るや遠嶺に消えぬ雪の道 中拓夫 愛鷹
田水沸く遠嶺雲を育てつつ 米沢吾亦紅
白菊に八方澄める遠嶺かな 石昌子
白薔薇一輪遠嶺発行所 小澤克己
秋草に埋もれて低き遠嶺かな 青峰集 島田青峰
種おろし遠嶺しぐれのうつるころ 福田甲子雄
竜胆やかがめば遠嶺も草の丈 花田春兆
笛吹いて了る童話よ遠嶺に雪 大嶽青児
紅葉寒遠嶺の日ざし吾に来ず 綾子
紙の里遠嶺の雪解やさしくす(土佐、仁淀川付近) 河野南畦 『試走車』
緬羊舎雪の遠嶺に扉を開く 福田蓼汀 山火
芒闌けこだまが遠嶺より返る 河野南畦 湖の森
芦刈の置きのこしたる遠嶺かな 橋本鶏二
花林檎遠嶺恋する彩にかな 高山まどか
菜種蒔く遠嶺の没日仰ぎ見ず 寺田木公
葱掘るやしんしん吹雪く遠嶺どち 吉田未灰
蒟蒻を掘り散らしたる遠嶺かな 古舘曹人
蘆刈の置きのこしたる遠嶺かな 鶏二
蜩や遠嶺々浮かめ曉の色 松根東洋城
遠嶺いま蒼し梵天発つかまへ 柏山照空
遠嶺から日癖の風や達磨市 林 青芒子
遠嶺の如死遠し厚朴の緑かげ 石田波郷
遠嶺の晴れて風寄す稲架襖 工藤たみ江
遠嶺まだ闇をはなさず漁始 山崎冨美子
遠嶺まで風透きとほり青葡萄 吉田保子
遠嶺みなよき名山葵の水はしる 平田笙子
遠嶺みな雲にかしづく厄日かな 上田五千石 風景
遠嶺もう雪肌理のこまかい対話で旅 楠本憲吉
遠嶺も晴いく畑となく藷掘られ 古沢太穂 古沢太穂句集
遠嶺より日あたつてくる鴨の水 桂信子 遠い橋
遠嶺より日差伸び来る葡萄棚 橋本榮治 麦生
遠嶺より追風青葉若葉風 小出秋光
遠嶺より雨匂ひだす水芭蕉 堺 信子
遠嶺より霜の強さを掴みだす 松澤昭 安曇
遠嶺より鬣を振り野分来る 小林康治 『虚實』
遠嶺斑雪シヨートケーキの角くずす 田村みや子
遠嶺斑雪夕鶴は声やはらかに 神尾季羊
遠嶺新雪すぐ旅立てる世ではない 秋庭俊彦 果樹
遠嶺星涼し父母ゐる昂りに 鍵和田[ゆう]子 未来図
遠嶺濃し藁塚のいと眠たげな 森戸光子
遠嶺発つ冬の薄日に姉の葬 相原左義長
遠嶺白野兔ももう冬毛なる 依田明倫
野焼後の遠嶺は肩を寄せ合へり 館岡沙緻
雉子鳴くや遠嶺は雪を被きたる 井杉恵美子
雛菊に遠嶺の虹のしばらくは 鷲見鈴子
雪千々の遠嶺暮れゆく母の忌も 堀口星眠 営巣期
雪渓の遠嶺そびらに天守立つ 広田恵美子
餅花をつくる遠嶺のよく見えて 佐川広治
馬上の子に遠嶺ふくらむ裸の雲 飯田龍太
麻刈りて稲妻かかる遠嶺かな 橋本鶏二 年輪
黐の花しばらく遠嶺あかるくて 柴田白葉女
●夏嶺
どんよりと夏嶺まぢかく蔬菜園 飯田蛇笏
レンズもて夏嶺アイガーは捕へがたし 稲垣きくの 黄 瀬
乱気流噴きあげ夏嶺まのあたり 今井杏太郎
卓に白墨立て教へ子と夏嶺恋ふ 友岡子郷 遠方
夏嶺ゆき恋する力かぎりなし 仙田洋子 雲は王冠
富士夏嶺谺雄々しく育ちをり 橋本榮治 麦生
父なる夏嶺と群燕中に丸裸 磯貝碧蹄館 握手
突兀の夏嶺も泰くねむるなり 文挟夫佐恵 黄 瀬
飛騨高山へ帰る少女と夏嶺越ゆ 原田青児
●麓
お山焼すみし麓に鹿遊ぶ 山下輝畝
お岩木の麓の林檎熱しをり 高澤良一 寒暑
きさらぎの麓よく見え梯子市 福田甲子雄
たたなはる山の麓へ春墓参 津曲つた子
ふじのねや麓は三保の松飾り 門松 正岡子規
ふるさとの雪あたたかき麓かな 石塚滴水
まんさくや麓をさらに長歩き 猪俣千代子 秘 色
ものいはず夫婦畑うつ麓かな 畑打 正岡子規
よいぞ嵐麓のいきり肩の花 調試 選集「板東太郎」
アスパラガスの花のあはあは麓村 飯坂ヒデ子
アルプスの麓に目覚め百千鳥 田中水桜
キヤデイこの麓の農婦曼珠沙華 車谷弘 花野
ヒマラヤのここも麓や水澄める 福井圭児
ヒマラヤの麓に古りし暦かな 山本洋子
万葉の山の麓のかぶら売り 岸原清行
二上の麓ひゝらぎ挿しにけり 角川春樹
二十六夜の草道を刈る麓人 佐野美智
兀山の麓に青き柳かな 青柳 正岡子規
八つ霽れや神の留守なる麓原 飯田蛇笏 山廬集
再会は麓を風の山法師 小川トシ子
冬山の麓にならぶ喇嘛八寺 遠藤梧逸
冬山やごぼごぼと汽車の麓行く 冬山 正岡子規
冬木立道灌山の麓かな 冬木立 正岡子規
冬紅葉俗塵払ふ麓寺 高澤良一 燕音
凩や麓の方に鍛冶の音 凩 正岡子規
初富士や雪の筆勢麓まで 染谷彩雲
初霞娘の嫁ぎゆく麓村 羽吹利夫
初鶏に遥か麓の鶏こたふ 高浜虚子
北麓の空より碧し蛍草 小川晴子
南麓に灯の帯展け朧富士 川村紫陽
名月に麓の霧や田の曇り 芭蕉
堂頭の新そばに出る麓かな 内藤丈草
夏山の麓に見ゆる牧場かな 夏山 正岡子規
夏山の麓電車の来てかへす 倉田青
夏山や麓なしける草の丘 尾崎迷堂 孤輪
夏山や麓に近き雲の村 夏山 正岡子規
夕焼の麓の村の帰省かな 田中冬二 俳句拾遺
夜の富士麓残して雲となんぬ 渡邊水巴 富士
夜の蝉に戸締りきそふ麓かな 龍胆 長谷川かな女
夜越えして麓に近き蛙かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
夜越して麓に近き蛙かな 蛙 正岡子規
大久住眠る麓の今日の宿 高野素十
姨捨の麓の四五戸胡麻を干す 大久保橙青
宇治山の麓の寺のうす紅葉 比叡 野村泊月
家見ゆる花の麓の郭かな 花 正岡子規
寒鮒に千年かたちよき麓 松澤昭 山處
寝てくらす麓の嵯峨ぞ雲の峰 来山
山々に麓ありけり桐の花 小島健「木の実」
山峨々としてその麓猫の恋 岸本尚毅
山焼の麓に暗き伽藍かな 多田桜朶
山風に芒浪うつ麓かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
岩木山祀る南麓蕗の雨 宮津昭彦
峯すでに麓へぼかす紅葉哉 寺田寅彦
川の名の変はる麓の絲ざくら 佐川広治
恐山閉ざし麓の兎罠 松本進
早苗饗の燈の暈ならぶ麓村 三嶋隆英
明月に麓のきりや田のくもり 芭蕉 俳諧撰集「有磯海」
春山の麓に餅を搗ける音 田中冬二 俳句拾遺
春風の山の麓に子がもたれ 大峯あきら
時鳥人馬の細き麓かな 時鳥 正岡子規
晩春の猫が草吐く麓かな 大木あまり 火のいろに
月の出や麓暗さに松林 東洋城千句
月山の麓の村の箒草 伊藤いと子
月山の麓より来し小豆売 岩月通子
杖となるやがて麓のをみなへし 三橋鷹女
松伐られゆく麓より威銃 阿部みどり女 月下美人
枯麓落石であり墓である 平畑静塔
横山の麓の藤の見ゆる縁 京極杞陽 くくたち下巻
水と地と麓ゆったり余寒あり 一ノ瀬タカ子
水張つてまた眠らせる麓の田 綾部仁喜 樸簡
水打つや上野の山の麓路 子規句集 虚子・碧梧桐選
水鳥や麓の池に群れて居る 水鳥 正岡子規
浅間嶺の麓まで下り五月雲 高浜虚子
消しゴムや麓の川を川蒸気 攝津幸彦
涼しさや小家の前の麓川 涼し 正岡子規
湧水を鈴の音と聞く麓神 伊藤京子
滴りや東叡山に麓あり 斉藤夏風
火の山の麓に二つ秋の湖 鶴飼 風子
火の山の麓の湖に舟遊 高濱虚子
火の山の麓の茶屋の蕨餅 田中冬二 俳句拾遺
火山寧らぐ鼓笛びんびん麓を衝ち 隈治人
炉塞いで一本の道麓まで 神尾久美子 桐の木
煤掃いて眼鏡玉澄む麓かな 山本洋子
煦(く)々として麓畑あり種井あり 友岡子郷 未草
爪たてて山柿しぶし麓路 飯田蛇笏 山廬集
父はひとり麓の水に湯をうめる 三橋敏雄 眞神
牧番の麓むけたる雪達磨 松本みどり
犬吠ゆる里は麓に星月夜 星月夜 正岡子規
犬吠ゆる麓は低し星月夜 星月夜 正岡子規
田を植うる妙義の麓家二軒 高浜虚子
畦の波麓に寄する山ざくら 松藤夏山 夏山句集
白雲や山の麓の蜜柑畑 青蜜柑 正岡子規
目刺青し富士麓までよく見える 岩間民子
看下すや麓の村の揚花火 会津八一
眠る山の麓に据ゑぬ製縄機 比叡 野村泊月
石を切る山の麓や桃の花 湖柳
石切場に石切る鑿の音ひびき麓はかすむ菜の花ばたけ 太田青丘
秋彼岸麓の馬の紺に見ゆ 友岡子郷
空蝉に雨水たまる麓かな 高橋龍(龍年纂)
笠を編む麓の村や山眠る 内田百間
笹鳴や艦入り替ふる麓湾 飯田蛇笏 山廬集
糸屑を払うや冬に入る麓 橋石 和栲
繭玉飾る麓の村よ雪降り出す 村越化石 山國抄
胡麻咲きて霧湧きのぼる麓村 菅原文子
臥待ちや湯町の囃子麓より 田村鬼現
自動車と駕と麓に冬紅葉 高浜虚子
花の句碑に早其處めける麓かな 西山泊雲
花の種買ふアルプスの麓町 岬 雪夫
花咲きて牛にのりたき麓かな 井上井月
芹の水葛城山の麓より 矢島渚男
草山の麓燃ゆるや桃ならん 尾崎迷堂 孤輪
菊の香や麓の里のそここゝに 尾崎迷堂 孤輪
菜の花や末寺の見ゆる麓迄 古白遺稿 藤野古白
萱刈のゐて麓路に山でにけり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
葛城の麓まで雪の大和側 右城暮石 声と声
葡萄熟れ雲も棚なす麓村 野中亮介
蓬の麓へ通ふ鼠かな 鬼貫
蓬莱の麓にかよふ鼠かな 西鶴
蓬莱の麓に寐たる夫婦かな 蓬莱 正岡子規
虚子句碑の麓の畑の蕎麦を刈る 中川みさえ
虫分けて来るや麓の映画バス 長谷川かな女 雨 月
行く春や麓におとす馬糞鷹 荊口 三 月 月別句集「韻塞」
親籠をはるか麓に茶を摘める 八染藍子
豆腐うる声は麓の月夜かな 内藤丈草
逆吊りの兎を軒に麓村 藤木倶子
酒旗高し高野の麓鮎の里 高浜虚子
降かくす麓や雪の暮さかひ 井上井月
陣場址に聞くは麓田の昼蛙 有働亨 汐路
雪山の麓の山毛欅の疎林かな 京極杞陽 くくたち上巻
雪嶺の麓に迫る若葉かな 野村泊月
雪嶺の麓再会と言ふ茶房 福田蓼汀 秋風挽歌
雪渓の楔を深く麓村 片山由美子 風待月
雪解や旅人通る麓町 雪解 正岡子規
雪車下りてかじきをつける麓かな 橇 正岡子規
雲の峯の麓に一人牛房引 雲の峯 正岡子規
靈山の麓に白し菊の花 菊 正岡子規
風にのる母と麓の梅祭 宮坂静生 山開
馬肥ゆる牧場に遊ぶ麓の子 蒲沢康利
馬鈴薯の花蝦夷富士の麓まで 永沼弥生
鶏鳴くや小冨士の麓桃の花 桃の花 正岡子規
鶫網かけある英彦の麓かな 前田まさを
鶲来る富士北麓に夕日充ち 飯田龍太
鷽鳴くや麓の村の照り曇り 和田明子
鹿啼いて麓は奈良のともし哉 河東碧梧桐
麓から寺まで萩の花五町 萩 正岡子規
麓から風吹き起るすゝき哉 薄 正岡子規
麓しき春の七曜またはじまる 山口誓子 七曜
麓なる当麻の寺や烏瓜 侘仏
麓なる鐘をうつゝに榾火かな 喜谷六花
麓の胸毛をこぼす春みなみ 加舎白雄
麓の蕎麦屋に何カラツトの寒すばる 尾田秀三郎
麓まで一気に駈けて龍田姫 山仲英子
麓まで山の峨々たる比良祭 辻田克巳
麓まで米貰はばや花の雲 内藤丈草
麓よりはや散らばりて蕨狩 永松西瓜
麓より余花をたづねて入りにけり 原 石鼎
麓より大分硬き芽山桜 高澤良一 素抱
麓より届く夏越の神饌の鯛 白岩てい子
麓より拝む佛や初嵐 山本洋子
麓より暮れて信濃路菜殻焚く 宮坂静生 青胡桃
麓より風吹き起る薄かな 薄 正岡子規
麓人の描く冬瓜や良寛忌 草間時彦 櫻山
麓人先生雷除をはや享けし 石田あき子 見舞籠
麓枯れ色処々に村落寺をまじへ 宮津昭彦
麓田の夕日に多き案山子かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
麓神熟ませし柿を貰ひけり 村越化石 山國抄
麓神遊びに来るか炬燵せり 村越化石 山國抄
麓野や月一色に轡虫 東洋城千句
麥蒔や北砥部山の麓まで 麦蒔 正岡子規
麥踏みの角力ひたりけり阿蘇麓 三好達治 路上百句
麻干して麓村とはよき名なり 高野素十「初鴉」
黄鶲や裏由布麓まで崩れ 雨宮美智子
●分水嶺
ケーブルカー雑木紅葉の分水嶺 八木洋子
万緑の分水嶺に人灯す 加藤耕子
低くとぶ分水嶺の冬の鵙 河合凱夫 飛礫
分水嶺からの一水 橡の花 伊丹三樹彦
分水嶺に髪の枯色梳る 八木三日女 落葉期
分水嶺未生の春の霧氷顕つ 文挟夫佐恵 雨 月
分水嶺汽車を雪野へ放ちけり 羽部洞然
分水嶺海の方には雪ゆたか 鷹羽狩行 誕生
分水嶺発しゆくもの柿に会え 和知喜八
分水嶺越えて夕日に鳥帰る 研 斎史
南無三滴!分水嶺のみなみへ落つ 折笠美秋 虎嘯記
建国の日となり分水嶺を越ゆ 山口都茂女
新豆腐分水嶺の町に買ふ 岩崎照子
秋晴を分水嶺の尾根で截る 辻田克巳
荒梅雨の雲奔り去る分水嶺 吉田鐵城「分水嶺」
香水を分水嶺にしたたらす 櫂未知子「蒙古斑」
鮎かけや分水嶺に雷遠し 冬葉第一句集 吉田冬葉、伊藤月草編
●山窪
啓蟄や山窪の日に忘れ罠 小林黒石礁
山窪に窯古りぬ鵯ひくゝたつ 及川貞 榧の實
山窪の二十戸足らず初神楽 百合山羽公
山窪は蜜柑の花の匂ひ壺 山口誓子(1901-94)
菊戴山窪すこし水を溜め 能村登四郎 菊塵
鳥だけが知る山窪のわすれ雪 能村登四郎
●山坂
ここよりは山坂けはし駒つなぎ 増田宇一
このあたり有為の山坂花なずな 北見さとる
ひらきし掌に自問す露の山坂にて 友岡子郷 遠方
みちのくの蚯蚓短かし山坂勝ち 中村草田男「来し方行方」
吹流し吹かれ山坂あつまれり 萩原麦草 麦嵐
境内に山坂ありて梅早し 有働 亨
寒念仏山坂越えてひとつ家に 福田蓼汀 山火
山坂にかかりて唄ふ春祭 大石悦子 百花
山坂に山車がつまづく秋祭 百合山羽公 故園
山坂に牛の足掻きの秋立つ日 千代田葛彦
山坂に蟇待つ死ねば家に帰り 宮坂静生 青胡桃
山坂に馬の足掻きの秋立つ日 千代田葛彦 旅人木
山坂の大根の青中学生 中拓夫 愛鷹
山坂の影に入りけり菊車 吉田成子
山坂の浮雲貝の雛あける 長尾由夫
山坂の荒れし春泥如何に行かむ 下村槐太 天涯
山坂は日のすさびゐて冬の虫 安藤葉子
山坂や二人静も雨の中 星野麥丘人
山坂や冬日は秀野亡き後も 清水基吉 寒蕭々
山坂や春さきがけの詣で人 飯田蛇笏 山廬集
山坂や風傷みして遅ざくら 秋元不死男
山坂を立てたる盆供流しかな 綾部仁喜 樸簡
峰入や山坂花にはぐれ行 松瀬青々
川灯し山坂灯し風の盆 柏原眠雨
弥生尽山坂の靄あるごとし 飯田蛇笏
日和山坂をくだると師走の町 菅原俊夫
春泥の果の山坂うつくしき 萩原麦草 麦嵐
木曾馬に山坂ばかり青胡桃 大野林火「白幡南町」
柩ゆく山坂紅葉明りかな 縄田喜笑
桑照りに山坂照りに郵便夫 森澄雄
波郷土に山坂すべる初時雨 古舘曹人 砂の音
洞川へ山坂三里囮鮎 宇佐美魚目 天地存問
牛乳買ふと山坂こえぬ虹の橋(安見子肺浸潤を病む二句) 『定本石橋秀野句文集』
白雨あびし馬皎として山坂ゆく 加藤知世子 花寂び
続きゐる山坂無情夏薊 今井千鶴子
繭くさき乳房もどるか山坂暮れ 沢木欣一
葛を負ひ鍬を杖とし山坂を 橋本鶏二 年輪
蛇の尾や山坂ものゝ声ひそめ 『定本 石橋秀野句文集』
蜩の山坂登り農夫帰る 相馬遷子 雪嶺
螢火や闇に山坂あるごとく 檜紀代
郁子も濡るる山坂僧の白合羽 野澤節子 花 季
釘打つて釘からゆるぶ春の山 坂本ひろし
雨の山坂ぎざぎざできれい妹あるけ 阿部完市
霧ぬれの飛騨山坂の蕎麦の花 鈴鹿野風呂 浜木綿
風が吹く月の山坂展けたり 有働亨 汐路
●山路
*たらの芽や銀を運びし山路荒れ 岡部六弥太
いちご取る山路に著莪を手折けり 苺 正岡子規
いつしんに露を浴びたる山路かな 田中裕明 花間一壺
いろいろの人見る花の山路哉 小いと
うぐひすに松明しらむ山路哉 高井几董
えびづるの食みこぼしある山路かな 坊城としあつ
おのづから山路となりぬ夏の萩 楠目橙黄子 橙圃
かく刳りしよべの雷雨か萩山路 皆吉爽雨 泉声
きのふけふ樗に曇る山路かな 芭蕉
こしらへて案山子負ひ行く山路哉 案山子 正岡子規
こちからも越の山路や八重霞 立花北枝
さはやかに日のさしそむる山路かな 飯田蛇笏
さま~の木葉あつまる山路哉 枳風
しくれすに歸る山路や馬の沓 時雨 正岡子規
しぐれする音聞き初むる山路かな 黒柳召波 春泥句集
しるべして山路もどせよ杜宇(時鳥) 内藤丈草
ぜんまいの鼓膜一輪づつ山路 赤松子
つゆじもに冷えし通草も山路かな 芝不器男
とどまれば跫音もやむ雪山路 福田蓼汀 秋風挽歌
どことなくここらの山路凍ててをり 上村占魚 球磨
どの紅葉にも青空のある山路 木暮つとむ
ぬれ蓑に落花をかづく山路哉 松岡青蘿
ひとしぐれ通りし山路古暦 大岳水一路
ひともとの春にやすらふ山路かな 角川春樹 夢殿
ふるさとは山路がかりに秋の暮 臼田亞浪 定本亜浪句集
ほつほつと春の雨ふる山路行く 高野素十
み吉野の山路阻みてゐる朧 河野美奇
むめがゝにのつと日の出る山路かな 松尾芭蕉
もつれ見ゆ三笠山路小春空 皆吉爽雨 泉声
やぶさめや山路なほ咲くすひかづら 水原秋櫻子
ゆくほどにかげろふ深き山路かな 飯田蛇笏
一とわたり霧たち消ゆる山路かな 飯田蛇笏 山廬集
一ツ家の家根に蓼咲く山路かな 蓼の花 正岡子規
下りゆく山路滝音遠ざかる 麻生英二
不図友に山路の雲雀語りかけ 飯田蛇笏 椿花集
五月雨に胡桃かたまる山路かな 斯波園女
人麻呂の越えし山路や百千鳥 平野 伸子
今年竹先生せまき山路かな 黒部祐子
令法つみかかる山路にあき俵 鴻水
再びの夕立にあふ山路かな 阿部みどり女 笹鳴
初富士の秀をたまゆらに山路ゆく 皆吉爽雨
初花の蕾ころがる山路かな 中島月笠 月笠句集
卯の花に白波さわぐ山路哉 卯の花 正岡子規
卯の花の匂ふ山路の雨意の風 廣瀬凡石
厩出しの馬かもあらび山路来る 皆吉爽雨
古桑の実のこぼれたる山路かな 飯田蛇笏 霊芝
古草に陽炎をふむ山路かな 大魯
唐黍の煙る山路の一車両 飯田龍太
團栗のひとりころがる山路哉 団栗 正岡子規
土佐水木咲きしづもれる山路かな 桜木俊晃
塔見えて躑躅燃えたつ山路かな 阿波野青畝
夏つばめ喪服つぎつぎ山路より 飯田龍太「今昔」
夕されば山路も盆の人どほり 吉武月二郎句集
夕山路毒茸踏めば白き雨 下田稔
夜をこめて越ゆる山路や清水茶屋 青峰集 島田青峰
大根の白き花より山路へ 阿部みどり女
大牛の尻に夕立つ山路哉 夕立 正岡子規
大蟇に出逢ひ山路の昼暗し 仙座公坊子
太滝の凍りて曇る山路かな 橋本鶏二
女郎花猿にも馴るる山路かな 上島鬼貫
如月の駕に火を抱く山路かな 高濱虚子
家ありて桃の仄めく山路かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
宿とりて山路の吹雪覗けり 炭 太祇 太祇句選
宿はづれ急に山路や夜の秋 松本たかし
寒苦鳥の声に脉見る山路哉 鬼 貫
寝耄御前山路に初夜の桜狩 井原西鶴
寺ゆかし山路の落葉しめりけり 黒柳召波 春泥句集
尋ね行く武庫の山路や靭艸 素丸「素丸発句集」
小芝かけて萩こぼれたる山路かな 西山泊雲 泊雲句集
山吹に行けば山路となるばかり 楠目橙黄子 橙圃
山路きてむかふ城下や凧の数 炭太 (たんたいぎ)(1709-1771)
山路きて山吹白く顔黒し 山吹 正岡子規
山路しみじみ薄荷の花に匂ふ雨 平沢桂二
山路なるこゝら辺りも麻植うる 脇坂満穂
山路にて銭の寸借薄紅葉 辻田克巳
山路に石段ありて葛の花 高浜虚子
山路に落葉なだれしまゝにあり 高濱年尾 年尾句集
山路の苔穴あれば栖むこほろぎ 太田鴻村 穂国
山路の草間に眠るきりぎりす 蟋蟀 正岡子規
山路はや萩を咲かせてゐる 種田山頭火 草木塔
山路やうつぎの隙の海の紺 阿部みどり女 笹鳴
山路や壺荷にひびくほととぎす 内藤丈草
山路ゆくさしかけ日傘しかと寄れ 皆吉爽雨 泉声
山路ゆく赤き帯また曼珠沙華 野澤節子 黄 炎
山路より霧来るならひ盆夕べ 村越化石 山國抄
山路を下りて刈田を横ぎりぬ 高浜虚子
山路を横切る水やほとゝぎす 楠目橙黄子 橙圃
山路急なるとき朴の花匂ふ 高木石子
山路折れ夏うぐひすの声変る 白尾澄子
山路攀づ顔の高さに水仙花 高澤良一 寒暑
山路春水車の音につながり歩す 村越化石 山國抄
山路暮る濡れし薄に触れしより 福田蓼汀 山火
山路来し杖も一本盆の家 宇佐美魚目 天地存問
山路来し秋扇たたむ厨子の前 大島民郎
山路来てとくに月落つ夜長かな 乙字俳句集 大須賀乙字
山路来てなにやらゆかし菫草 松尾芭蕉
山路来て何やらゆかし菫草 芭蕉
山路来て半日藤の曇りかな 会津八一
山路来て向ふ城下や凧の数 太祇
山路来て報恩講の白襖 大峯あきら
山路来て正月青き芒かな 渡邊水巴
山路来て立ちよる宿や茸干せる 岡本松浜 白菊
山路来るや暮るゝばかりの栗の花 碧雲居句集 大谷碧雲居
山路来れば蜥蜴神代のさまに遊ぶ 村越化石 山國抄
山路枝頭の花に逢へは皆合歓也 尾崎紅葉
山路経るこゝちや菊にえのき茸 服部嵐雪
山路行き山路を戻り深秋ぞ 村越化石 山國抄
山路行くや木苺取つて食ひながら 村上鬼城
山路行く限り奈落と花卯木 稲畑汀子
山路見ゆ滝川ごしの冬日和 飯田蛇笏 山廬集
山路這ふ葛にも花の鉾の立つ 爽雨
川よりも山路につよし枯尾花 枯薄 正岡子規
引返す山路これより凍ててをり 稲畑汀子 春光
彼の日彼の山路眼に在りわらび買ふ 及川貞
愛づるもの蕗の花さへ山路ゆき 及川貞 夕焼
慈悲心鳥父母恋ひの歌碑おく山路 入江朝子
我笠に藤振りかゝる山路哉 藤 正岡子規
我等には険しき山路小鳥来る 稲畑汀子
戸口より山路はじまる屠蘇の酔 宇佐美魚目 天地存問
手にとまる蝶おそろしき山路かな 星野立子
手折捨る山路の菊のにほひ哉 高井几董
持主も知らず山路の葡萄園 葡萄 正岡子規
掃苔の鎌ひかりゆく山路かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
散る花のうこんまじりとなる山路 井沢正江
旅人に合はぬ山路のいちご哉 苺 正岡子規
旅人のつゝじ引き抜く山路哉 つつじ 正岡子規
旅人の山路に暮れるいちご哉 苺 正岡子規
日傾く山路いへづとの蝉鳴いて 林原耒井 蜩
日本道に山路つもれば千代の菊 井原西鶴
日表にかかりし山路鷽鳴けり 久田 澄子
明暗の著き山路の道をしへ 岡田順子
春の山路雪ある峯に近づきぬ 会津八一
春曇り鳩の下り居る山路かな 前田普羅 新訂普羅句集
春泥を踏む雲はれし山路かな 西島麦南 人音
昼暗き山路に灯す灸花 川野秋恵「新山暦俳句歳時記」
書を負うて梅雨の山路をたどりけり 飯田蛇笏 春蘭
月光にぶつかつて行く山路かな 渡邊水巴
木の実落つ山路は祖母を訪ふごとし 大串章
木苺の花美しく山路行く 枌さつき
朴の花見上げて佇ちし山路かな 比叡 野村泊月
松明に雪のちらつく山路かな 雪 正岡子規
松毟山路ここより峠口 後藤春翠
松風に新酒を澄ます山路かな 支考
栗の毬より野菊咲き出し山路かな 西山泊雲 泊雲句集
桜烏賊提げて山路となりにけり 大峯あきら 鳥道
梅が香にのつと日の出る山路哉 松尾芭蕉
梅が香や山路猟入る犬のまね 向井去来
梅ちりて蘭あをみたる山路かな 飯田蛇笏 春蘭
梅雨晴の白百合多き山路かな 石動炎天
樒かとまがふ山路の馬酔木かな 河東碧梧桐
残る雪山路の果の雲路かな 二村典子
水引草山路ここより仏みち 本橋沙紗
水担いて彼岸の空へ山路継ぐ 友岡子郷 遠方
水晶の山路分け行く清水かな 蕪村「落日庵句集」
海見えぬときは冬めく山路ゆく 清水忠彦
海道と山路いで逢ふ威し銃 百合山羽公 寒雁
清水より濡れつゞきたる山路かな 村家
温泉山路のおほつゆたるる鬼薊 飯田蛇笏 春蘭
滴りやかつて負はれてきし山路 田中裕明 櫻姫譚
炭馬にしばし挟まれゆく山路 田村了咲
熊でるまではなんでもなき山路 大塚信太
爽かに日のさしそむる山路かな 飯田蛇笏 山廬集
狼のおくる山路や月夜茸 中勘助
猪鍋食ひ山路の闇をおそれけり 大串章
猿の恋見るにあらねど山路ゆく 氷由頼寿
生絹めく山路の雨に鷽鳴けり 井沢正江 湖の伝説
町中の山路や雪の小鳥ども 立花北枝
盃や山路の菊と是を干す 桃青 選集「板東太郎」
石踏めば水にじみ出づ枯山路 岡田日郎
秋の蚊に病む身さゝるゝ山路かな 秋の蚊 正岡子規
秋晴の山路すなほに導ける 阿部みどり女
秋曇や山路に深き轍あと 阿部みどり女
秋蝶の紅鮮しき山路かな 川崎展宏
竜胆や山路に入りて山隠る 下村ひろし
竹煮草山路の昼をさだかにす 松村蒼石 雁
老杣の目鼻ひとつに雪山路 鷲谷七菜子 花寂び
老鶯にこころ洗はれゆく山路 松野加寿女
肌のよき石にねむらん花の山 路通
脚夫一人木曾の山路の落葉かな 寺田寅彦
花三日お白粉くさき山路哉 花 正岡子規
花卯木いよいよ山路細くなる 稲畑汀子 春光
花葛の秋にからまる山路哉 方壷
茴香に浮世をおもふ山路かな 浪化
茶の花に人里ちかき山路かな 芭蕉
菊の香にさすが山路の雪踏(雪駄)かな 服部嵐雪
菊の香や山路の旅籠奇麗也 炭 太祇 太祇句選
落葉さへあらぬ山路となりにけり 渡辺水巴 白日
落葉して杉あらはるゝ山路かな 前田普羅 新訂普羅句集
葬送の山路がかりにいわし雲 飯田蛇笏 雪峡
蕎麦はまだ花でもてなす山路かな 芭蕉
藁沓や庭に山路の露を印す 露 正岡子規
藪雨の小ごゑ聞きとめ山路ゆく 野地二見
虫の音に挟まれて行く山路かな 風国
蛇の子の息絶えてをり夕山路 堀口星眠 青葉木菟
行くほどにかげろふ深き山路かな 飯田蛇笏 霊芝
行春や山路の空に塔の簷 橋本鶏二
西行も踏みし山路の草の花 稲畑汀子 春光
走り根のをどる山路や藪柑子 栗原ひろし
足許に気配る山路雪しづれ 松尾緑富
足跡の氷る山路も宵の口 宇佐美魚目 秋収冬蔵
踏む度に落葉香を立つ山路かな 栗原稜歩
迢空の越えし山路や葛の花 中村昭一
迷ひなき山路と知れどそぞろ寒 広江八重桜
里見えて葉こぼれ居し山路かな 尾崎迷堂 孤輪
重荷負ひ山路急ぐか秋の暮 福田蓼汀 秋風挽歌
野を来しがいつ山路なる蕨かな 柑子句集 籾山柑子
野菊咲き続く日あたりはある山路 橋本夢道 無礼なる妻
野菊濃し山路七折平家村 松隈博子
銀漢の記憶につゞく山路あり 星野立子
閑古鴛鐘も通はぬ山路哉 星野麦人
闇の山路へ灯をさし向けて柿くれる 加藤知世子 花寂び
降り出して山路の暗さうそ寒く 牧野令子
陽だまりのここより山路藪柑子 伊藤いと子
隠し女房山路ぞ隔つ呼子鳥 調鶴 選集「板東太郎」
雉一羽吊りし山路の茶店哉 雉 正岡子規
雨あと秋見ゆる山路見とほしてのぼる 人間を彫る 大橋裸木
雨あれて筍をふむ山路かな 炭 太祇 太祇句選後篇
雨にまた川なす山路鶸鶲 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雨流る山路に葛の落花の渦 阿部みどり女
雪残る山路の高さありにけり 稲畑汀子 春光
雪蹈にて辷る山路のつゝじ哉 高井几董
雫たる山路のませんよぶこ鳥 重頼
雲を蹈山路に雨のさくら哉 高井几董
雲照りて山路を夏へ入れにけり 村越化石
雲霞呑みつゝ越ん菊の山路 菊舎
霜凪の山路の落葉が牛の足にはがれる 人間を彫る 大橋裸木
霜多き山路になりぬ猿の声 麦水
霞みつつ一縷の山路谷へ消ゆ 福田蓼汀 山火
霧の香に桔梗すがるる山路かな 飯田蛇笏 山廬集
露結ぶ音をうしろに山路暮れ 井沢正江
青刈草むちむち負ひ来夕山路 猪俣千代子 堆 朱
青空へ近づく山路野菊濃し 山田弘子 こぶし坂
顎出して登る山路や秋あかね 中里藤風
香を踏みて蘭に驚く山路かな 月居
馬の尾に雪の花ちる山路かな 支考
馬の鈴近くて遠き山路かな 正岡子規
鴾啼て雲に露ある山路哉 挙白
鶫焼きしあととおぼしき山路かな 木村蕪城 一位
鶯にほうと息する山路かな 嵐雪
鶯の老いたるが多き山路哉 老鶯 正岡子規
鷽の声きゝそめてより山路かな 式之
鹿の糞ありて日の入る山路かな 大峯あきら 宇宙塵
鹿垣のずり破れたる山路かな 阿波野青畝
黒部沿ひ蝶導けど山路切れ 福田蓼汀 秋風挽歌
龍胆や山路に入りて山隠る 下村ひろし
●山下
●山裾
いくたびも山裾めぐり初市へ 巌寺堅隆
うす羽かげろう山裾に孵るサーカス 山中葛子
信心する山裾に桃が咲きすぎるけしき 中塚一碧樓
六曲一雙山裾にして焚火して 佐々木六戈 百韻反故 初學
刻惜み刻山裾の椎拾ふ 高木晴子
千年の秋の山裾善光寺 高浜虚子
声継ぎて山裾駆ける地蜂取り 村山智一
寝釈迦山裾膝そろへをる寒さかな 小林康治
對岸に雪の山裾見ゆるのみ 鈴木洋々子
山桜山裾に咲き山に満つ 平林桂山
山裾にかすみて当麻の塔二つ 皿井旭川
山裾にきのふ虚子忌の柴の束 宇佐美魚目 天地存問
山裾に入る雪上車浮き沈み 村上しゆら
山裾に屋根のかたまるかき氷 猪俣千代子 堆 朱
山裾に庵りしゆゑに月遅く 斎藤双風
山裾に日はさめやすし駱駝薯 小田つる女
山裾に旧街道や桐の花 吉田伝治
山裾に梅の一角ありしかな 平渡藻香
山裾に梅見て足を休めけり 雑草 長谷川零餘子
山裾に立もたれたる日向ぼこ 松本たかし
山裾に落葉の塀の長さかな 大橋櫻坡子 雨月
山裾に葬具寄せある霞かな 大峯あきら 鳥道
山裾に藩の窯跡竹の秋 田部みどり
山裾のありなしの日や吾亦紅 飯田蛇笏 椿花集
山裾の一本道の木の芽風 千原満恵
山裾の三椏の花灌仏会 細見綾子 黄 炎
山裾の井を汲む八十八夜かな 岡井省二
山裾の山葵畑やおちつばき 西山泊雲 泊雲句集
山裾の戸毎にひらく花菖蒲 伊藤とく
山裾の日に燦とあり仏の座 工藤弘子
山裾の没日あつめし冬苺 川上左恵子
山裾の河原となりて草紅葉 高木晴子 晴居
山裾の野葡萄熟す秋の霜 渡辺香墨
山裾の錆びし鉄路や柿熟るる 岩谷照子
山裾の風ごちごちと蕎麦を刈る 豊川トシ
山裾は杉皮葺のひかる午下 横山白虹
山裾は梅まだ早し竜沢寺 蒲 長子
山裾へ参道細る初不動 北原木犀
山裾へ日毎退く遠紅葉 篠田悌二郎
山裾や一と隅請けて牛蒡蒔く 井上痴王
山裾や草の中なる落し角 高濱虚子
山裾や落花引き込み紙漉女 河野南畦 湖の森
山裾より灯りて秋の暮の灯は 茂里正治
山裾をせりあがりゆく青棚田 塩川雄三
山裾を欠き欠く道の枯野かな 楠目橙黄子 橙圃
山裾を白雲わたる青田かな 高浜虚子
山裾を螢袋のかこむとき 岩淵喜代子 朝の椅子
御ン身いとはれよ山裾風冷ゆる 高木晴子
御岳山裾まで晴れて菜種刈り 大塚友治
月の出や石炭殻山裾に葱育て 友岡子郷 遠方
木戸出るや草山裾の春の川 飯田蛇笏 霊芝
枯芝に山裾流れ来てをりぬ 五十嵐播水 埠頭
流星や火の山裾に灯の撒かれ 渡邊千枝子
火の国の火の山裾に打てる麦 中島斌雄
眠る山裾の谷倉に父母の墓 高木晴子
神の山裾に香りて花蜜柑 飯塚やす子(狩)
種子蒔く少年反射炉は立つ山裾に 田川飛旅子
菊畠晴れて夜の山裾ひきぬ 石原舟月 山鵲
落人の住む山裾の青葉木菟 熊倉 猷
蔵王権現山裾こがす冬日かな 角川源義
蜜柑山裾に釈迦堂多宝塔 今川凍光
螢飛ふや山裾を行く水暗し 孤村句集 柳下孤村
街大路雪の山裾なほせまる 池内友次郎 結婚まで
誰も負う山裾の影秋収め 遠藤秀子
遠郭公山裾の田のうすみどり 大熊輝一 土の香
里祭山裾かけて幟立つ 藤崎実
雪の来し火の山裾のななかまど 加藤ひろみ
雪解山裾の黒杉手をつなぐ 殿村莵絲子 花寂び 以後
領巾振山裾わに摘めり蕗の薹 原田しずえ
風呂吹や山裾にねむたくなりぬ 田中裕明 櫻姫譚
風音に山裾遠く秋早む 飯田蛇笏 椿花集
馬肥ゆる火の山すそをかけめぐり 廣中白骨
鶴の懐妊山裾に雪降らしむる 磯貝碧蹄館
●山道 山径
*まくなぎや山道つひにどんづまる 松澤 昭
うららかや行く山径を疑はず 楠目橙黄子
お涅槃の山道ながくながくあり 岸本尚毅 舜
きさらぎの山道見ゆる書道塾 広瀬直人
これはやまみちやまざくらいろへ向かう山みち 阿部完市 にもつは絵馬
しぐるゝや山道深く石だゝみ 楠目橙黄子 橙圃
たれも通らぬ山道の注連飾 広瀬町子
厩出しの山道蹄あとに荒れ 皆吉爽雨
大凍に衆山径を交はしけり 前田普羅 飛騨紬
大石の山道ふさぐ野分かな 野分 正岡子規
姥捨の山みち険し華鬘草 高木良多
嫁菜咲きここ山道の待避箇所 高澤良一 素抱
寒施行山道声のおりてくる 井上道子
山がら小がら山みち小みち水神へ詣る 荻原井泉水
山みちを滑りて蛭に囲まるる 今井杏太郎
山みちを紅炉へもどる虚子忌かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山径の明るきに入りゐのこづち 猪股千代子
山径の礫あたらしき出水あと 田原央子
山径を降らるるままに新樹雨 高澤良一 素抱
山道となりて灯が混む地蔵盆 中川須美子
山道に並ぶ地蔵や露涼し 金子幽霧
山道に扇をつかふことありぬ 今井杏太郎
山道に毛虫の落ちて忙しき 高澤良一 随笑
山道に麥丘人や秋の風 今井杏太郎
山道のいづれを来しも富士桜 勝俣のぼる
山道のここにどっこい蝮蛇草 高澤良一 宿好
山道のゆき止まりなる虚子忌かな 岬雪夫
山道の墓と人栖む籾莚 石原舟月
山道の掃いてありたる初詣 富安風生
山道の案内顔や虻がとぶ 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
山道の腐れ木株に木の葉蝶 高澤良一 素抱
山道も吾妻郡葛の花 清崎敏郎
山道や不義理つづきの十二月 福田甲子雄
山道や人去て雉あらはるゝ 雉 正岡子規
山道や出羽に見下す雲の峯 雲の峯 正岡子規
山道や椿ころけて草の中 落椿 正岡子規
山道や糞落し行く馬涼し 野村喜舟 小石川
山道や落葉溜に寒葵 吉田八重子
山道や葛のうら葉に青嵐 寺田寅彦
山道や足もとに雉子野に雲雀 雉 正岡子規
山道をゆきつもどりつあきつかな 室生犀星 犀星發句集
山道を挟めて萩の乱れ咲き 高橋よし
山道を水流れゐる野菊かな 中田剛 珠樹
山道を直す百日焚火して 大木あまり 火のいろに
山道を行き行き永日かへりみる 村越化石
彼らの話山道の人らにてすぎし シヤツと雑草 栗林一石路
後山道ゆく手明くて雪見月 飯田蛇笏 椿花集
探梅や宇津の山道踏みもして 矢島渚男
提灯で花の山道下りける 妻木 松瀬青々
新緑の山径をゆく死の報せ 飯田龍太
木天蓼の花や山道湿りたる 射水綾子
柿を剥く山道たどるごとく剥く きくちつねこ
椀持ちてゆく山道とだえ春の霧 赤尾兜子
油瀝青咲いて山道あたたかし 鈴木しげを
波音の消えて山みち出開帳 大峯あきら 鳥道
温泉山みち凝る雲みえて躑躅咲く 飯田蛇笏 霊芝
温泉山みち賤のゆき来の夏深し 飯田蛇笏「山廬集」
炉を塞ぐ丹波山道の崖住まひ 堀 古蝶
爆薬庫に山径果てつ竹煮草 林翔 和紙
石上布留の山みち野菊濃し 下村梅子
紅萩や死んで山道九十九折 渋谷道
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり 釈迢空
行けどゆけど吉備の山みち花煙草 松尾いはほ
遅田植見かけこれより峨山道 逢坂月央子
雨降れば渓音はやみ後山道 飯田蛇笏 椿花集
霧ひらく山径にして蔓もどき 臼田亜浪
青梅ふた粒づつ山道 北原白秋
麦の穂に山径たよりなく細る 飯田龍太
●稜線
うすものの稜線切れんばかりなり 赤松[けい]子 白毫
ゆるやかに稜線のぼる鰯雲 丸山瑠美子
丹沢の稜線劃然として冬 川崎展宏 冬
乳房鋭し雪稜線に近き夜 仙田洋子 橋のあなたに
今年藁稜線の陽の鈍うごき 諸角せつ子
仔馬帰る月夜雪稜線を負ひ 石原八束 雪稜線
佐渡が島稜線紅葉して怺ふ 伊藤敬子
元朝や八ツ岳の稜線金色に 五十川敏枝
六甲の稜線仄と黄沙降る 稲畑廣太郎
冬晴の稜線視野に余りけり 坂本山秀朗
夜は碧き雪稜線のよみがへる(志賀高原発哺) 石原八束 『雪稜線』
夜は碧く雪稜線のよみがへる 石原八束
大富士の稜線の野や時鳥 渡邊水巴 富士
山々は稜線張りぬほととぎす 正木ゆう子 静かな水
嵐山の稜線天に冴返る 粟津松彩子
昏れる稜線広重タッチの春霖行 河野 薫
月渡る稜線いくさを共に経し 成田千空 地霊
海へ散る課員稜線の松のように 堀葦男
牛の背の稜線なせる夏薊 正木ゆう子 静かな水
甲斐駒の稜線ゆるび種おろし 渡辺立男
男郎花あの稜線が大菩薩 古沢太穂
秋風の歔欷の稜線山さらば 岡田日郎
稜線の右肩上がり稲妻す 石渡玲子
稜線の寝釈迦にぞ見え母は亡し 大橋敦子
稜線の昏れ残りゐる洗鯉 鈴木寿美子
稜線の研がれて白し山眠る 橋本千枝
稜線の輝きませる五月かな 遠山 翠
稜線はだんだんに黒稲架を解く 松塚大地
稜線も襞も女神や初浅間 西本一都
稜線をはなれ卯の花月夜なる 稲畑汀子 汀子第二句集
稜線を引張り合へり雁渡し 中島畦雨
稜線を蕗の毛花の越えゆける 佐野良太 樫
稜線を銀にかがりて秋入日 加藤耕子
稲雀古都に稜線ありにけり 坂口匡夫
花薊われら稜線にうきあがる 佐野良太 樫
赤城嶺の稜線浮かぶ桃の花 堤箸理吟
里山のゆるき稜線柿すだれ 佐藤美恵子
雪稜線さす白鳥の青雫 築田圭子
雪稜線光りては生む銀河かな 仙田洋子 雲は王冠
青松が森の稜線冴返る 石田波郷
鷹を目に追ひ稜線は湖に入る 中戸川朝人 残心

以上

# by 575fudemakase | 2022-05-22 15:15 | ブログ

山3  の俳句

山3  の俳句


●山家
あかげらを飼ひて山家の冬構 田中冬二 冬霞
あたふた用足して落葉の山家へ戻る 人間を彫る 大橋裸木
あはれさや時雨るる頃の山家集 山口素堂 (1642-1716)
あるだけの夜具干す山家花の昼 高井北杜
うぐひすのはまり過ぎたる山家かな 立花北枝
かるさんの子に秋深き山家かな 麦人
さゞめきて秋水落つる山家かな 前田普羅 新訂普羅句集
しだ売りて夜るあたま剃る山家かな 上島鬼貫
たづね来てさつきに早き山家かな 宮嶋千転子
つゝじ咲て飴売る木曽の山家哉 つつじ 正岡子規
なほ深き山家へもどるかんじきぞ 岩城 史郎
びしよ濡れの雪解山家に飯噴く音 鷲谷七菜子 花寂び
ぶら下がる糸瓜山家の粧ひに 堤信彦
ほとゝぎす山家も薔薇の垣を結ふ 川端茅舎
まづ入るや山家の秋をわせの花 広瀬惟然
みそさざい屋根に杉の葉干す山家 鵜飼登美子
ものすごくなつて夕立つ山家哉 夕立 正岡子規
ゆききせで年くるる雪の山家かな 通助 五車反古
ゆくとしのこそりともせぬ山家かな 士朗
ゆづり葉に暁雪うすき山家かな 飯田蛇笏 春蘭
ゆり直せ山家を動す雄子の声 西和 選集「板東太郎」
わたり猪の竹の子につく山家かな 浪化
一と雨のありて山家の夜の秋 佐藤梧林
一むらの竹の春ある山家かな 高浜虚子
七ツ星光る山家や黐匂ふ 岡田日郎
三光鳥鳴く鳴け山家まだ暮れず 市村究一郎
五六軒づつの山家やお茶の花 竹中一藍
住み捨てし山家なりけり懸り藤 今井つる女
先づ入るや山家の秋をわせの花 惟然 俳諧撰集「有磯海」
先ゆくは山家のひとか日傘せる 水原秋櫻子
八方に白百合咲いて山家めき 久米正雄 返り花
冬ざれの山家の欠け茶碗に酒なみなみつがれる 人間を彫る 大橋裸木
冬ざれの山家醤油の香を洩らす 鷲谷七菜子 花寂び
冬枯て手持ぶさたの山家哉 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
凍つ山と背中合せに山家の灯 村越化石 山國抄
切干の屋根に凍てたる山家かな 九保田九品太
初鴉一声山家泊りかな 石川風女
十一や山家の早き夕餉の灯 五味すず
十月もあと二三日木曽山家 松沢 みさ女
午過きて山家の干烏賊唯白し 尾崎紅葉
呱々の声聞ゆる山家鯉のぼり 薮脇 晴美
啄木鳥の穴あちこちの山家かな 若木一朗
塩鮭を吊し山家の奥座敷 宮田富昭
声高にくらす山家や鵙日和 嶋田摩耶子
夏桜石を火に焚く山家哉 夏桜 正岡子規
夜廻りに星曼陀羅の山家かな 河村たまの
夥しく唐黍つるす山家かな 寺田寅彦
大簗のとどろきに住む山家かな 鶏二
大風のあとを蚊の出る山家哉 蚊 正岡子規
天国に近き山家ぞ星月夜 園部鷹雄
天高し山家は庭に栗干せる 田中冬二 俳句拾遺
女礼者山家の華と迎へけり 古川禮子
姨捨の山家の搗ける月見餅 荒川あつし
客僧に柚味噌振舞ふ山家哉 寺田寅彦
寒明の雪どつと来し山家かな 高浜虚子
寒灸師山家に来り泊りけり 前田普羅
寒餅や手力こめし山家搗 水原秋櫻子
屋根替の煤たちのぼる山家かな 西島麥南 金剛纂
山家 とかくして一把に折ぬ女郎花 蕪村遺稿 秋
山家いま二タ火煮炊きと迎火と 大岳水一路
山家にて魚喰ふ上に早稲の飯 向井去来
山家に灯紅葉ぐん~暮れて来し 嶋田一歩
山家の婆さまの焦がした餅をよばれてゐる 人間を彫る 大橋裸木
山家の法会の鉦の音が青空を刺して冬 人間を彫る 大橋裸木
山家への負ひ荷新鮭反りうたせ 中島斌男
山家みな秋日の縁に何か干し 三村純也
山家より鶏鳴起こり旧端午 彦根伊波穂(狩)
山家宿二階つき出て鼻悴かむ 平井さち子 完流
山家集の破本かしこき西行忌 河西河柳
山家集夜長の塵をはたきけり 野村喜舟 小石川
山家集読むことが忌を修すこと 佐藤鬼房
山家鳥虫歌の情砧かな 龍岡晋
山椒の実生家婚家も山家にて 中貝貞子
干大根山家いずこも恙なし 武田光子
干柿やまた一とせの山家住 楠目橙黄子 橙圃
干蕨山家の春は尽きにけり 楠目橙黄子 橙圃
座敷にて椎茸干して山家かな 柿原一如
庭を来る山家料理のよき炭火 桂樟蹊子
引窓に蔦の手を出す山家かな 蔦 正岡子規
往診と云へば山家や炉火燃ゆる 酒井黙禅
思はぬや茶一服とも山家の雪 調鶴 選集「板東太郎」
我が夢を蝶の出ぬける山家哉 幸田露伴
我ために椎を器にもる山家かな 蘭更
斑雪照り山家一戸に来るはがき 鷲谷七菜子 花寂び
日と風に睦み山家の破れ障子 鍵和田[ゆう]子 浮標
日の力ぬけたる山家障子かな 上田五千石 森林
日雀来る山家は縁に栗など干し 宮下翠舟
日雀鳴く山家それぞれ小橋架け 中野一窓
早蕨の庭に手を出す山家哉 蕨 正岡子規
春の星かくて山家の匂ひそむ 中島月笠
春浅き山家集より花こぼれ 原裕 『出雲』
春燈を山に飛ばして山家あり 上野泰 佐介
春雨や猶袖ぬらす山家集 中村史邦
昼砧槌出てをりし山家かな 阿波野青畝
晒井の夜の賑へる山家かな 茨木和生「往馬」
暖も山家ははやし足袋の土 其文
月に鳴く山家のかけろ別れ霜 飯田蛇笏 雪峡
月明に九十九谷の山家の灯 八牧美喜子
朝顔の石に這ひつく山家哉 朝顔 正岡子規
木がくれて梅雨の山家となりにけり 石橋辰之助 山暦
木瓜咲いて天日近き山家あり 大峯あきら 鳥道
李咲き山家は船着き場のような 伊藤和
李咲く山家のまひるはねつるべ 高橋睦郎 舊句帖
松とれて俄かに雪の山家かな 松根東洋城
松とれて俄に雪の山家かな 東洋城
松風に醤油つくる山家かな 高濱虚子
柿の皮干すも山家の冬用意 小峰恭子
柿若葉山家の棟のやゝ秀づ 水原秋桜子
栗の花庭木に眺め山家めく 水内鬼灯
栞して山家集あり西行忌 高濱虚子
桑干すに借りる御堂や山家妻 原 石鼎
梅雨の霧とぶ峠越え来て山家 高濱年尾 年尾句集
檜笠着て頬の若さや山家妻 原石鼎
武具飾り松籟乱れなき山家 大峯あきら 鳥道
毒だみを軒いっぱいに干す山家 尾岸美代子
水鼻にわひて山家のもみち哉 水洟 正岡子規
汚れたる雪の山家に日脚のぶ 高浜虚子
江戸衆や心は山家ほととぎす 調鶴 選集「板東太郎」
泉湧く山家を捨てて町に住む 神谷美枝子
泳ぎ子に雲影走る山家かな 原 石鼎
涼しさの星の仲間の山家の灯 加藤亮
深閑と大き山家や寒の入り 田中冬二 俳句拾遺
渋鮎を炙り過ぎたる山家かな 几董
溝浚へ山家の水が走り出す 上西啓三
火桶とは山家の夜にふさはしく 藤崎美枝子
灯を消して団扇のしろき山家かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
炭焼の住める山家や緋鯉飼ふ 根岸善雄
点在の山家溺るる桃の花 白澤よし子
燕来て山家に鳴けば春祭 水原秋桜子
牡丹咲く山家にひさぐ吉野紙 白澤よし子
狐火よ鹿火よと山家がたりかな 向田貴子
独楽まはしひとりとなりし山家かな 赤尾兜子
猪罠を仕掛けて山家暮しかな 中野一窓
王子守る山家一軒黍干して 松本圭二
田楽や山家に揃ふ織部皿 水原秋櫻子
男ひとり秋蚕飼へる山家かな 藤田あけ烏 赤松
病葉の散るとてかへる山家かな 前田普羅
皀角子を軒端に干せる山家かな 小川 真砂二
皿洗ふ音の涼しき山家かな 桑島啓司
碧空へつづく山家の白障子 角田宗実子
稲架よりも低き山家の四五戸かな 那須サエ子
笹鳴や世をしづめたる山家集 野村喜舟 小石川
箒もて氷柱落すも飛騨山家 鈴鹿野風呂
箸とって鴬ひびく山家蕎麦 百合山羽公 寒雁
絵の中に居ルや山家の雪げしき 向井去来
縁の日に当てて山家の福寿草 石 昌子
美しき忘れ団扇の山家かな 大峯あきら
色鳥や山家につかふ水の音 鈴木康久
花さびた山家は簷に*どを吊し つじ加代子
花勝に撫し子咲きし山家哉 撫子 正岡子規
花山椒煮るや山家の奥の奥 松瀬青々
若草や八瀬の山家は小雨降る 高濱虚子
荒壁に煙草干したる山家かな 水落露石
荒梅雨や山家の煙這ひまわる 前田普羅 新訂普羅句集
菊の香になくや山家の古上戸 立花北枝
菜切庖丁添へて山家の大きな柿 人間を彫る 大橋裸木
葭粽すすきで結ひて山家かな 吉田みち子
蓮如忌や山家の餉(かれひ)さまざまに 増田龍雨
蕣の蔦にとりつく山家哉 朝顔 正岡子規
薪には富みし山家や庭かまど 菊路
薪わりしあとを山家の涼み哉 納涼 正岡子規
虫干しの山家の牛に鳴かれけり 臼田亜浪
蚤焼て日和占ふ山家哉 一茶 ■文政八年乙酉(六十三歳)
蝶ひとつわれに添寐の山家かな 幸田露伴
蝶蜂に牡丹まばゆき山家かな 原石鼎
行く春の月もなくなる山家哉 行く春 正岡子規
誰が見てや木の葉挟みし山家集 尾崎紅葉
谷底まで晴れし雪見下ろし山家の法会 人間を彫る 大橋裸木
買初に雪の山家の絵本かな 鏡花
貸し失せし山家集なり西行忌 松尾いはほ
賀客なく雪ふりつもる山家めき 青邨
赤子泣く柿の山家のただ中に 赤松[ケイ]子
踏込み炉ありて山家や根深汁 加藤浮氷子
邯鄲や山家は昼の星見えて 内山亜川
野分して隣に遠き山家かな 会津八一
野蒜野萱草大荷物山家に入る 金子皆子
鍋敷に山家集あり冬ごもり 與謝蕪村
門なみにさくや山家の梅椿 松岡青蘿
障子閉め山家の夜を深くせり 加藤宵村
雁来紅に山家は白き壁をもつ 馬場移公子
雉鳴くや那須の裾山家もなし 雉 正岡子規
雨の若葉梁にや映る山家かな 河東碧梧桐
雨一日二日山家の暮遅し 日永 正岡子規
雨折々あつさをなぶる山家哉 暑 正岡子規
雪山家それぞれ裏に墓を負ふ 井上哲王
雪掻きし山家の庭に野猿坐す 中島美也
雪沓を軒に干したる山家かな 吉野左衛門
雪解雫山家の戸口釘多し 宮坂静生 青胡桃
雷去らぬ山家よ酒徒の忌を修す 高井北杜
霜枯れの山家へ戻つて来た娘の長い首巻 人間を彫る 大橋裸木
露けしや星より暗き山家の灯 川田長邦
露山家一竿嬰の白づくし 白鳥一子
露涼し山家に小さき魚籠吊られ 大串章「百鳥」
風の日は雪の山家も住み憂くて 高浜虚子
餅花に髪ゆひはえぬ山家妻 飯田蛇笏 霊芝
餅花を飾れば書屋山家めき 山口青邨
鯉幟山家を根ごとゆすぶるよ 辻田克巳
鶏鳴や山家育ちの太つらら 佐川広治
鶯に山家の人の紺絣 鈴木鷹夫 風の祭
鷹鳩と化して山家に微笑仏 嶋津亜希
麻につるゝ山家の雨の脚直し 麻 正岡子規
黍の穂と掛けて山家のかざりかな 大谷句佛 我は我
鼠を視るに歯があり毛がある山家かな 金子兜太 詩經國風
●山垣
ひねもすの山垣曇り稲の花 芝不器男
ふるさとの幾山垣やけさの秋 芝不器男
元旦のひかり 山垣も 萬葉のままではない 吉岡禅寺洞
冷し瓜美濃の山垣霧込めに 清水青風(白露)
寒鯉の常陸山垣低くして 軽部烏頭子
山垣にとほやまのそひ散るもみぢ 木津柳芽 白鷺抄
山垣にとゞろきて消ゆ春の雷 及川貞 榧の實
山垣に雁添ひおちしその深さ 桂樟蹊子
山垣のかなた雲垣星まつり 福永耕二(1938-80)
山垣のほかは大虚の空の秋 井沢正江 以後
山垣の上の金星風の盆 上村占魚
山垣の闇みづみづし草泊 倉垣和子
山垣の雲ひらきつつ辛夷かな 飴山 實
山垣の高ければ梅雨降り止まじ(伊勢美杉村魚九旅館客中) 上村占魚 『石の犬』
山垣はみな檜山なり天の川 秋櫻子
山垣は天竜美林盆の笛 百合山羽公 寒雁
山垣へ葡萄瑠璃光蕩揺す 木村蕪城 寒泉
山垣も棚の葡萄も青き伊豆 大島民郎
山垣やひとり雪置く遠浅間 松本たかし
山垣二重に一重は優し七五三 池上樵人
栗くぬぎ芽立ち霞めり背山垣 及川貞 榧の實
河鹿鳴き山垣四方に暮れゆけり 木津柳芽 白鷺抄
牡丹咲きめぐる山垣日に澄める 梅原黄鶴子
羽子の児に熔岩の山垣おし迫り 皆吉爽雨
背山垣青葉木菟鳴く夜もあり 及川貞 榧の實
花冷えの山垣高く町ともる 太田嗟
要咲く山垣尽きて波の音 藤田れい子「新山暦俳句歳時記」
●山陰
しづかさや山蔭にして通し鴨 松瀬青々
冬空や山陰道の君が家 小澤碧童
冬耕の山陰迫り来りけり 稲畑汀子
小春日や道山蔭を出でしより 尾崎迷堂 孤輪
山川に山蔭深き出初かな 柄沢ひさを
山蔭に村の手作りスケート場 高澤良一 随笑
山蔭に渡り鳥聞く戻らうよ 原田種茅 径
山蔭に耕す音を立てにけり 野村喜舟 小石川
山蔭に野猫躍るよみな笑うよ 金子兜太
山蔭のえごの実海を見て嘆く 松村蒼石 雪
山蔭の家や日永を鶏うたふ 至青
山蔭やこゝもとの日は紅の花 千代女「千代尼句集」
山蔭やしぐれの道の函ポスト 石塚友二 光塵
山蔭を来て水引の花の庵 後藤夜半 底紅
山陰に多少の家の薺かな 青々
山陰に小家ありて蚊遣煙る也 蚊遣 正岡子規
山陰に日のさゝぬ池の氷哉 氷 正岡子規
山陰に稻干す晝の日脚哉 干稲 正岡子規
山陰に虎杖森の如くなり 虎杖 正岡子規
山陰に雨とねているねむたしや 阿部完市 軽のやまめ
山陰に魚籠をしづめし末黒かな 古舘曹人 樹下石上
山陰のじやじやじやじや雨や秋の雨 京極杞陽
山陰の小家ありて蚊遣煙る也 蚊遣 正岡子規
山陰の小笹の中の清水かな 清水 正岡子規
山陰の旅の始まるえごの花 伊谷詢子
山陰の暗き杣路や瑠璃鶲 長谷川草洲
山陰の木の間の畑やひとり打 畑打 正岡子規
山陰の楓林や閑古鳥 会津八一
山陰の橋朽ちんとす晝の露 露 正岡子規
山陰の田植見まふや藻刈舟 立花北枝
山陰の白鱚に割る檜箸 揚石八重子
山陰の秋冷恐れ来たりしも 稲畑汀子
山陰の終りの句会後の月 高木晴子 晴居
山陰の野に暮急ぐ芒かな 乙二
山陰も畠となりてなく雉子 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
山陰やいつから長き蕗の薹 凡兆
山陰やわすれしころのすみれ草 千代女
山陰や一村暮るゝ麻畠 古白遺稿 藤野古白
山陰や寺吹き暮るゝ秋の風 秋風 正岡子規
山陰や敷物とても今年藁 乙由 (茂秋法師の十方庵)
山陰や日あしもさゝず秋の水 秋の水 正岡子規
山陰や春の露おく柴桜 石井露月
山陰や暗きになれて冬籠 冬籠 正岡子規
山陰や月さす水の底暗し 月 正岡子規
山陰や朝霧かゝる庭の竹 霧 正岡子規
山陰や村の境の冬木立 冬木立 正岡子規
山陰や檐より上につゝじ咲く つつじ 正岡子規
山陰や烏入来る星むかえ 向井去来
山陰や胸に雲おく夏の夢 水田正秀
山陰や草穂まじりに稲の出来 飯田蛇笏 山廬集
山陰や葉広き蕗に雨の音 闌更
山陰や薄は薄月は月 薄 正岡子規
山陰や誰呼子鳥引板の音 蕪村 秋之部 ■ 武者繪賛
山陰や身を養はん瓜畠 松尾芭蕉
山陰や霧に濡れたる村一つ 霧 正岡子規
山陰や霧吹きつけて石佛 霧 正岡子規
山陰や青東風に散る蜆蝶 佐野良太 樫
山陰や魚氷に上る風のいろ 原 裕
山陰を斜にのぼる雲雀哉 雲雀 正岡子規
年を経て君し帰らば山陰のわがおくつきに草むしをらん 正岡子規
有馬山陰白い蛾杖をついて飛ぶ 阿部完市 春日朝歌
汗氷る山陰行けば風もなし 汗 正岡子規
池氷る山陰白し冬の月 古白遺稿 藤野古白
溝は日にささやき山蔭の冬の堆 古沢太穂 古沢太穂句集
秋立つや山陰ふかき伊賀の畠 大橋櫻坡子 雨月
耕すや鳥さへ啼かぬ山蔭に 蕪村
耕や鳥さへ啼ぬ山陰に 蕪村
自然薯掘る山蔭のこゑ風の間 中拓夫 愛鷹
色薄し夕山陰の花菫 菫 正岡子規
野生馬に山陰を恋ふ妻子あり 藤後左右
雲かくす山陰も無し冬木立 冬木立 正岡子規
雲白し山蔭の田の紅蓮華 泉鏡花
霜枯るるこの山陰や松の蔦 広瀬惟然
驢に乗りて山陰急ぐ秋の暮 秋の暮 正岡子規
驢に騎りて山陰いそぐ秋の暮 秋の暮 正岡子規
鯉青き山陰の沼雷の峯 大井雅人 龍岡村
●山影
との窓を見てもすゞしや山の影 涼し 正岡子規
どの山の影ともならず蜜柑山 辻田克巳
はこべらや親につめたき山の影 長谷川双魚 『ひとつとや』
ひえびえとなすこと溜る山の影 飯田龍太
ひやひやと百姓帰る山の影 鷲谷七菜子 花寂び
もう山の影がとゞいて大根引 飴山 實
三輪山の影なる中に種おろす 福田千栄子
三輪山の影置く池も涸れはじむ 森田峠 避暑散歩
仏壇へ十一月の山の影 鈴木厚子
初鴨や男体山の影に浮き 小川斉東語
半身に口山の影耕せる 中戸川朝人 尋声
墓山の影となりゆく雁の空 齋藤愼爾
夕空や紫苑にかゝる山の影 閑斎
山にゐて二月の山の影をみる 小澤實
山に山の影濃く遠し神渡 池田如水
山の影かぶさり冷ゆる崩れ簗 今井時子
山の影とろりとろりと牡蠣植うる 林原耒井 蜩
山の影に押さるる日向蒟蒻掘る 奈良文夫
山の影洗ひし墓におよびけり 堤高嶺
山の影湖心にしづめ黄釣舟 加藤耕子
山の影落穂拾ひに稲苅に 相馬遷子 山国
山の影駅にのびつくし汽車がつきけり シヤツと雑草 栗林一石路
山干しの蒟蒻に来る山の影 野崎ゆり香
岩手路や田植済みたる山の影 瀬知和子
岩魚籠どさと置かれて山の影 下田稔
川半ばまで立秋の山の影 桂信子 遠い橋
数へ日の町に伸びゐる山の影 伊藤通明
晩涼や湖舟がよぎる山の影 水原秋桜子
末枯やはや落ちかゝる山の影 相馬遷子 山国
枯山の影の来てゐる晩稲刈 草間時彦
枯芝に夕日の山の影のびる 伊藤淳子
柴の戸に入るや秋たつ山の影 樗堂
歳晩の橋の半ばに山の影 中戸川朝人 星辰
残雪や日ねもす山の影去らず 柑子句集 籾山柑子
水芭蕉水面に山の影重ね 宮崎要子
氷り田解けはやも山の影さす 安斎櫻[カイ]子
爆竹や瀬々を流るる山の影 原石鼎
牧草の山の影なき日の盛り 阿部みどり女
田じまひの煙の捉ふ山の影 中戸川朝人 星辰
畑打にけふの終ひの山の影 野中亮介
秋まつり大きな山の影の中 黛 執
蒟蒻掘る人を覆ひし山の影 浅見さよ
蕎麦刈るやいちにち山の影の中 太田光子
送行や湖水の底の山の影 大峯あきら 鳥道
達磨市山の影濃き秩父かな 伊藤伊那男
麻刈りて屏風に淋し山の影 麻 正岡子規
黄葉の一樹に山の影及ぶ 嶋田麻紀
ごんぼねずみ山影淡くなるばかり 豊山千蔭
のしかかる巨き山影馬冷やす 伊藤虚舟
ふたたびは山影を出ず遠花火 片山由美子 天弓
冬銀河山影かむる和紙の里 柴田白葉女 花寂び 以後
冬銀河山影かむる陶の町 柴田白葉女 花寂び 以後
初寅や信貴の山影寒きかな 石井桐陰
午後もまた山影あはし幟の日 田中裕明 花間一壺
園にでて山影谿し榾の酔 飯田蛇笏 山廬集
大寺に山影どつと鳥総松 斎藤夏風
大根を蒔けば山影すぐに来る 大峯あきら
天城路の五時は山影花わさび 秋元不死男
寺影を出て山影の林檎みち 鳥居おさむ
山よりも山影の鋭き二月かな 川中由美子
山影が目と鼻のさき晩稲刈 宮田藤仔
山影となりゆく稲を刈りにけり 小黒葭浪子
山影に山沈みゐる梅の花 須ケ原樗子
山影に終ひ支度の大根売 神原栄二
山影のけふ深き川雛流す 鷲谷七菜子 游影
山影のさす停車場や木槿垣 滝井孝作 浮寝鳥
山影のずんずん迫る薬喰 内田美紗 魚眼石
山影のひた押す藁塚のおびただし 木村蕪城 寒泉
山影の中を這ひゆく早苗取 澤村昭代
山影の冷えてきたりし川床料理 小島健 木の実
山影の切込んでくる竹煮草 矢島渚男 梟
山影の夕冷え犇と二期田刈る 千代田葛彦 旅人木
山影の彩があるかに冬の水 古舘曹人 砂の音
山影の早き楮を抱き刈る 松林朝蒼
山影の瀞にゆがみし猟名残 斎藤夏風
山影の移りゆくなか胡麻叩く 棚田良子
山影の迫りてゐたる干蒲団 池田秀水
山影は人を濡らさず牡丹の芽 鈴木太郎
山影は暮色のはじめ雪婆 山田弥寿子
山影も夕日も入るる植田かな 水井千鶴子
山影や魚氷に上る風のいろ 鷹羽狩行
山影をかぶりて川面花の冷 西山泊雲 泊雲句集
山影をひとつ移りし蕨狩 斉藤夏風
山影をわけあう村人花山桜桃 児玉悦子
山影を大きくしたる花野かな 永田呂邨
山影を抜けしとき瑠璃黒揚羽 高橋笛美
山影を日暮とおもひ浮寝鳥 鷹羽狩行
山影を沈めて峡の代田掻 藤澤美代
山影を砕きて鴨の着水す 松下朱実
春蘭に山影せまる音もなし 青木重行
朝の間の親山影や山始 大橋櫻坡子 雨月
水打つや山影きたる街の中 大橋櫻坡子 雨月
浦唄涼しそれとおぼしき夜山影 林原耒井 蜩
畦豆を引く山影の外に出て 山崎羅春
睡る童に山影うつる簟 永野好枝「寧楽」
舳を並めて山影乱す鵜舟かな 雑草 長谷川零餘子
茶を摘むやまだ山影の母の里 中拓夫 愛鷹
葛餅や山影たたむ茶屋の前 吉田冬葉
街道に山影せまるとろろ汁 鷲谷七菜子
親鸞忌近き山影大いなる 飯島晴子
逆しまの山影蝌蚪のよりどころ 横山椒子
野施行の山影寒きところまで 福永耕二
釣舟を漕ぐ山影となり漕ぐや 安斎櫻[カイ]子
青みどろ山影鰡をとばしめず 林原耒井 蜩
青柿に山影移る天武陵 角川春樹 夢殿
風吹いて消し山影や寒雀 宮武寒々 朱卓
高流れしても山影夕蜻蛉 鷲谷七菜子 雨 月
高稲架に冷えし山影倒れ来し 中島真沙
鴨引きて湖に山影返しけり 菊井稔子
鹿ながら山影門に入日哉 蕪村 秋之部 ■ 殘照亭晩望
●山火事
二階から山火事見るや宿はづれ 寺田寅彦
南国の山火事ひたにひろがれり 原 裕
夜に入りし山火事の火を天にまかす 右城暮石 上下
大迂回して山火事へ消防車 右城暮石 上下
山火事に漕ぐ舟もなし浮寝鳥 安斎櫻[カイ]子
山火事に肥き男の駈け出しぬ 鈴木鷹夫 春の門
山火事に蔵戸ほのかや鶏謡ふ 飯田蛇笏
山火事に追はれし目白拾ひけり 原田清正
山火事のあと太陽も窶れけり 百合山羽公
山火事のあと漆黒の瀧こだま 飯田龍太
山火事のありたる地肌夏蕨 茨木和生
山火事のごとくに描いては捨てる絵よ 佐藤三保子
山火事ののち戻らざる僧ひとり 黒田杏子 花下草上
山火事のむどくなりしよ夏木立 夏木立 正岡子規
山火事の匂ひの雲やテレビ塔 茨木和生 遠つ川
山火事の北へ~と廣がりぬ 寺田寅彦
山火事の北国の大空 尾崎放哉
山火事の半鐘鳴つて花の昼 大峯あきら 宇宙塵
山火事の如き日落とし御命講 林 昌華
山火事の灰降って来る渡舟 澤草蝶
山火事の立ち木業火となりて燃ゆ 右城暮石 上下
山火事の起きさうな日の鴉かな 大木あまり 雲の塔
山火事の音と黒煙火は見えず 右城暮石 上下
山火事の音の上ゆく風船あり 田川飛旅子 『外套』
山火事の騒ぎ静まり暮の春 大峯あきら 宇宙塵
山火事ははるかなるかもよ鶏ゐつ 川島彷徨子 榛の木
山火事も凍てはてにける大裾野 百合山羽公 寒雁
山火事やぶら下りたる雲一朶 会津八一
山火事や乾の空の雪曇り 寺田寅彦
山火事を消しに登るや蜜柑畑 前田普羅
山火事を知る人もなし冬の月 雉子郎句集 石島雉子郎
山火事泊芙藍を経ておこる獣姦 加藤郁乎
日が落ちてゆく山火事の山の裏 坂戸淳夫
昼山火事へ一本の羽毛が走る 三橋鷹女
汽車が走る山火事 尾崎放哉(1885-1926)
湖に山火事うつる夜寒かな 内藤鳴雪
眦に山火事懼れ旅をゆく 佐藤惣之助 春羽織
短日や山火事消してもどる衆 冬葉第一句集 吉田冬葉
艸木瓜や山火事ちかく富士とほし 三好達治 路上百句
覚めがちに山火事つづく一夜なる 八牧美喜子
都市の灯に山火事の呪詛濃く加わる 林田紀音夫
●山風
かなかなを誘ふ山風なりしかな 河野美奇
なぐり吹く山風ぐらし蜂の縞 成田千空 地霊
みちのくの郁子山風をむらさきに 平沢陽子
一鷹を生む山風や蕨のぶ 飯田蛇笏
先生はふるさとの山風薫る 日野草城
冷房を山風に変へ旅のバス 佐山けさ子
刈るほどに山風のたつ晩稲かな 飯田蛇笏 山廬集
刈る程に山風のたつ晩稲かな 飯田蛇笏
唐黍売外道山風に焦がし過ぎ 林翔
夜の道を山風が過ぐ芒の村 中拓夫 愛鷹
小降りして山風のたつ麦の秋 飯田蛇笏 春蘭
尻上げて山風読むか鴉の子 藤田湘子 てんてん
山風があかく過ぎゆくぼたん鍋 奥山甲子男
山風が残してゆきし夜の秋 星野椿
山風が誘い出したる今朝の秋 伊藤 翠
山風に「ようづの虫も送るヨイ」 高澤良一 宿好
山風におほきうねりの樟若葉 狹川 青史
山風にすぐ人消えて春の墓 宇佐美魚目 天地存問
山風にながれて遠き雲雀かな 飯田蛇笏 霊芝
山風にふかれて田植はじまれり 萩原麦草 麦嵐
山風にふかれて田植をはりけり 萩原麦草 麦嵐
山風にほうと立つたる寒さ哉 寒さ 正岡子規
山風にまだ咲く茄子や秋祭 大峯あきら 鳥道
山風にもまるゝ影や鳥おどし 西島麦南 人音
山風にゆられゆらるゝ晩稲かな 飯田蛇笏 霊芝
山風に一尺伸びしあやめ草 萩原麦草 麦嵐
山風に乗つて遠くへ花吹雪 草間時彦 櫻山
山風に剽軽てあるく藜杖 宇佐美魚目 天地存問
山風に匂ひ持たざり男郎花 渡辺桂子
山風に北窓閉すやところせく 飯田蛇笏
山風に又一と鳴りす蚊帳の鐶 佐久間慧子「文字盤」
山風に口ひきむすび吉野雛 関戸靖子
山風に小揺れ大ゆれ初桜 高木晴子 花 季
山風に幣ひるがへり簗の秋 楠目橙黄子 橙圃
山風に押されて暮るる寒施行 福田甲子雄
山風に斧の刃こぼれ山はじめ 萩原麦草 麦嵐
山風に春をしむこころおどろく 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山風に晒して算木牛蒡かな 井上康明
山風に暁のなぐれや木菟のこゑ 飯田蛇笏 山廬集
山風に月光添ひて走るかな 中島月笠 月笠句集
山風に朝はやさしき吾亦紅 松村蒼石 雪
山風に木遣り起こりて木落とし坂 高澤良一 鳩信
山風に棉ふき出でてましろけれ 太田鴻村 穂国
山風に焔あらがふ磯どんど 上田五千石
山風に燭の危ふき施餓鬼棚 山田弘子 懐
山風に痩せゆくばかり枯芒 大橋敦子 手 鞠
山風に研がれてをりし冬木の芽 小川幸子
山風に立てかけてあり胡麻の束 水上孤城
山風に笛ひょろひょろと夏神楽 木村蕪城 寒泉
山風に耳を洗ひぬ蛇笏の忌 上田五千石
山風に芒浪うつ麓かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
山風に落ち来る蝶や夏座敷 中島月笠 月笠句集
山風に落葉頻りや永平寺 還暦前後 浅井意外
山風に藪鳴りたわむ一の午 有泉七種
山風に蝶うろたへて雪にとまる 渡邊水巴 富士
山風に買ふ矢真白き恵方かな 渡辺水巴
山風に跼みて鮎の落ちしかな 大岳水一路
山風に鈴の空鳴り神の旅 芝田教子
山風に鋸屑薫る氷室かな 大須賀乙字
山風に闇な奪られそ灯取虫 原石鼎
山風に雨沿うて来ぬ蕨餅 芝不器男
山風に鶴が啼いたる寒さかな 飯田蛇笏 山廬集
山風のいま青嵐瓦切る 宮坂静生 樹下
山風のおさまれば百合草に起ち 阿部みどり女 笹鳴
山風のこゑ聞き分けてやまめ釣 黛執
山風のつのる手毬をかはりつく 木村蕪城 寒泉
山風のときに呻吟朴芽立つ 鈴木鷹夫 千年
山風ののこす日向に桑括る 橋本鶏二
山風のひく音深し梅咲かず 渡辺水巴 白日
山風のふき煽つ合歓の鴉かな 飯田蛇笏 山廬集
山風のふたたびみたび薄氷 廣瀬直人
山風のまた亡骸に集まり来る 森下草城子
山風の中のひとすぢ耳菜草 秋山 夢
山風の吹きおとろふる梅月夜 飯田蛇笏 春蘭
山風の吹き煽つ合歓の鴉かな 飯田蛇笏 霊芝
山風の塔にあつまる若葉かな 内田百間
山風の山に還りて牡丹焚 松村多美
山風の忘れてゆきし烏瓜 廣瀬町子
山風の旅信ひらりと寒満月 野澤節子 黄 炎
山風の更けて更けざる風の盆 山田弘子 こぶし坂
山風の涼しさ過ぎぬ満つる月 臼田亞浪 定本亜浪句集
山風の温微にゆるる鉄線花 飯田蛇笏「椿花集」
山風の荒き暮春や河原鵯 宮坂静生 樹下
山風の蚊帳吹きあぐるあはれさよ 原石鼎
山風の軒を離るる粥柱 宮島冨司子
山風の音を溜め込む桜かな 高澤良一 燕音
山風は山にかへりぬ夜長酒 上田五千石 琥珀
山風は氷柱を曲げてしまひけり 小杉余子
山風は荒御魂飛ぶ梅白し 渡辺水巴 白日
山風やしっぺ返しの村時雨 内藤丈草
山風やしづかにおごる櫨紅葉 五味洒蝶
山風やずんぐりむつくり春の藁塚 嶋田麻紀
山風やそれぬぎすてよ単もの 単衣 正岡子規
山風や世を鮭小家の影ぼうし 加舎白雄
山風や人の背丈の夏蓬 勝又水仙
山風や夜落ちしところ湖氷る 松根東洋城
山風や桶浅く心太動く 心太 正岡子規
山風や棚田のやんま見えて消ゆ 飯田蛇笏 山廬集
山風や河鹿の聲の水放れ 安斎櫻[カイ]子
山風や瑠璃深めゆく式部の実 太田 蓁樹
山風や霰ふき込む馬の耳 大魯
山風を怖るゝ鶏や葛の秋 原 石鼎
山風を懐に入れ心太 増田萌子
山風を濤と聞きつつ朝寝せり 米谷静二
山風を盆地へとほす葭障子 藤田直子
山風吉野うるしや初桜 立独 選集「板東太郎」
川を呼び山風を呼び青葡萄 広瀬直人
掃苔の山風にまた火となりて 宇佐美魚目 天地存問
暗い山風の下ろし来て浪立ちて船に酒を酌む 梅林句屑 喜谷六花
月の戸に山風めぐる雪解かな 飯田蛇笏 山廬集
月虧けて山風つよし落し水 飯田蛇笏 霊芝
朝顔の紺に山風疾走す 萩原麦草 麦嵐
汁に煮立つる色保つ薊山風に 河東碧梧桐
湖風の山風となる夏薊 長岡幸子(花暦)
源氏山風に恋猫の声すなり 篠田悌二郎
漆黒の梁に山風蛇笏の忌 廣瀬悦哉
火塚累累枯山風をとほくしぬ 太田鴻村 穂国
炎天に山風の香や吉野口 桂信子 遠い橋
炎天を来て山風に癒さるる 釜江喜代子
焚口に山風あそぶ干菜風呂 黛執
煤はきや山風うけて吹通し 内藤丈草
申祭むべ山風の冷えに冷え 村上麓人
白萩に禅の山風荒々し 大岳水一路
籠枕そを山風の吹き抜けて 飴山實 『花浴び』以後
花の山風の秩父となりにけり 浅野享祐
花ふぶく夕山風に立ちつくしいく春かけし夢をつづれり 五島美代子
花人に信濃山風突き刺さり 草間時彦 櫻山
菜取虫山風立てば居ずなりぬ 大峯あきら 宇宙塵
萱鳴らす山風霧を晴らしけり 金尾梅の門 古志の歌
葛百貫晒す山風荒びけり 山下喜代子
語らねば山風ひびく田植笠 松村蒼石 寒鶯抄
足許に山風のたつ斧始 牧 辰夫
身ほとりに夜風山風涼し過ぎ 高木晴子 花 季
鉄線を活けて山風畳摶つ 林翔 和紙
鉄風鈴山風ばかりうけて鳴る 村越化石
鏡餅荒山風に任せあり 石田波郷
門松や山風ここにきては吹く 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
雪を削ぐ山風いたし野蒜摘み 能村登四郎
雲雀なく越の山風ふきはるゝ 上村占魚 鮎
青稲穂夕山風に息もつかず 松村蒼石
かたくりの花には強し山の風 堀 文子
からはな草雲つれて来る山の風 古賀まり子 緑の野以後
かりんの実越えきし山の風のいろ 原裕 青垣
くろもじの花虔しき山の風 山田みづえ
さなぶりの明るき夜空胸の上 福田甲子雄「山の風」
なんばんが真つ赤山の日山の風 冨舛哲郎
ひあふぎの咲くとここより山の風 伊藤三十四
みちのくに八月終る山の風 高木晴子 花 季
みほとけも邪鬼も素足や山の風 木塚眞人
もらひ湯の螢つめたき山の風 中勘助
ビールには山の風より海の風 片山幸美
二階にも山の風入れ盆用意 若山すみ江
僧の機嫌雑茸山の風に吹かれ 橋石 和栲
冷房のなき教室に山の風 稲畑汀子
初釜に侍すや故山の風の音 大串 章
半鐘に雪はたきつけ山の風 大串章
地梨の実ころころ青し山の風 石川和雄
夕さりぬ勿忘草へ山の風 伊藤敬子
天蚕を振りて故山の風を聞く 平賀扶人
姫女苑雪崩れて山の風青し 阿部みどり女(駒草)
姫女雪崩れて山の風青し 阿部みどり女
山の風いきいきひそむ枯葎 飯田龍太
山の風うまし八十八夜過ぐ 皆川白陀
山の風寒餅に紅滲まする 村上しゆら
山の風松虫草を吹き白め 深見けん二
山の風海の風凪ぎ種おろす 揚石八重子
山の風田の風なじむ古浴衣 渡辺ミ∃子
山の風田の風村に盆過ぎし 相馬遷子 雪嶺
山中に空家の並ぶ竹の花 福田甲子雄「山の風」
干大根鼻削ぎにくる山の風 太田土男
早池峰山の風のあふれる門火かな 阿久津渓音子
晩涼の句碑へ七面山の風 星野椿
木の芽垣砂山の風とゞめけり 増田龍雨 龍雨句集
木の葉ひゅうと飛ばして山の風走(わし)る 高澤良一 宿好
木苺の花に田の風山の風 前田和子
松の幹濡れてきさらぎの山の風 安斎櫻[カイ]子
桜から人にうつるや山の風 桜 正岡子規
楢山の風紅いろに春立ちぬ 岸田稚魚 筍流し
海山の風をつなぎし福寿草 関 千恵子
火の山の風の荒さよ干大根 風間啓二
火をかけし鮎飴いろや山の風 阿波野青畝
火祭りや大杉揺らす山の風 宮下邦夫
猪鍋やまだをさまらぬ山の風 落合典子
田起しに一と声かけて山の風 成田千空 地霊
白芙蓉衣笠山の風渡る 水野加代
白雨や蕗の葉かへす山の風 中勘助
祭場に水打つて待つ山の風 福田甲子雄
秋めくとすぐ咲く花に山の風 飯田龍太 山の木
秋草のいろ湧き立たす山の風 朝倉和江
秋草やシャツの中まで山の風 藤井愛子
種茄子の割れて種吐く山の風 牛山麗子
空蝉の背の割れに鳴る山の風 井野時子
笛吹いて山の風よぶ秋祭 豊長和風
肺透けてさわらび山の風明り 橋石 和栲
胸にしまふ黄葉の山の風の音 仙田洋子 雲は王冠
芝焼の立つ焔辷る焔山の風 丸島純平
花山葵摘む手に冷ゆる山の風 山下廣
花茣蓙に山の風呼ぶ土産茶屋 飯田弘子
苗代にきて押しあへる山の風 宮岡計次
茶の花や居士の耳目の山の風 碧雲居句集 大谷碧雲居
萩の蝶黄色ばかりや山の風 星野椿
蕾む百合こづいて籠ノ登(かごのと)山の風 高澤良一 燕音
藍甕の底吹いて止む山の風 萩原麦草 麦嵐
裏返す葛山の風追ふごとし 萩原麦草 麦嵐
読経はじまりふときこゆ遠い山の風 シヤツと雑草 栗林一石路
豆稲架に山の風鳴る奥石見 荒田千恵子
軽暖の歩に海の風山の風 川西達雄
雪山の風樹孤島の濤と聴き 福田蓼汀 秋風挽歌
風三楼忌来る真開山の風涼し 池田秀水
香具山の風にほぐるる白菖蒲 古川京子
駒草や砂塵逆巻く山の風 田村恵子
高槙に山の風くる鼬罠 廣橋いたる
鯉のぼり雷神山の風はらむ 屋代ひろ子
鶏頭は茎まで赤し山の風 大串章
黒穂ぬく老いをな吹きそ山の風 中勘助
●山霧
かたまりとなる山霧の芯に居り 稲村茂樹
ふみ迷ひしやみよし野の山霧に 稲畑汀子
ふらふらと草食べている父は山霧 西川徹郎 町は白緑
一散の山霧を漕ぐ登山杖 上田日差子
三日居りて山霧のみの葛の花 水原秋桜子
五月雨の山霧暗し枯つゝじ 中島月笠 月笠句集
初蝶を見し夜山霧水に浮く 松村蒼石 雁
大破璃に山霧迫る午後のお茶 小川晴子
山霧か硫気か地獄枯るる中 水原春郎
山霧が國鎖したる薩摩みち 筑紫磐井 婆伽梵
山霧が瞬時に隠すお花畑 本田八重子(圓)
山霧となり霧山となり明けし 滝青佳
山霧にあせたる欄に蚊帳を干す 水原秋桜子
山霧にうたれ亡びし種族かな 長谷川かな女 雨 月
山霧にしめりて明き燈籠かな 西島麦南 人音
山霧にときをり隠し湯の匂ひ 伊藤トキノ
山霧に幹の如くに我は濡れ 上野泰(1918-73)
山霧に掻き消えし子は霧の子か 大串章 百鳥 以後
山霧に線香曲り阿闍梨墓 佐藤夫雨子
山霧に蛍きりきり吹かれたり 臼田亞浪 定本亜浪句集
山霧に蜻蛉いつさりし干飯かな 飯田蛇笏 山廬集
山霧に遭ふ魂を持つゆゑに 手塚美佐
山霧に釣船草の航くごとし 米山千代子
山霧のかんがり晴れし枯木かな 飯田蛇笏 山廬集
山霧のしげきしづくや真柴垣 飯田蛇笏 山廬集
山霧のつひに障子を濡らしけり 今井杏太郎
山霧のわきくるとんぼ群るゝかな 久保田万太郎 草の丈
山霧の奥も知られず鳥の聲 霧 正岡子規
山霧の引きゆく迅さ小鬼百合 星野恒彦
山霧の梢に透ける朝日かな 召波
山霧の流れ施行のもの濡らす 江口竹亭
山霧の深しと思へば眠りたり 太田鴻村 穂国
山霧の裾の重さよ栃の花 橋本榮治「越在」
山霧の霽るるを待てり箒星 宮坂静生 樹下
山霧の霽れ天界に千枚田 大原良江
山霧の音となりけり強羅駅 鈴木しげを
山霧は夜も峡浸すほたる籠 有働亨 汐路
山霧は晴をいざなふ秋祭 茨木和生 三輪崎
山霧は雲に紛れぬ蕎麦の花 田部谷紫
山霧へ烟を入れて田の終ひ 矢島渚男 船のやうに
山霧や妊る牛に合羽着せ 坂本のり子
山霧や宮を守護なす法螺の音 炭 太祇 太祇句選
山霧や虫にまじりて雨蛙 飯田蛇笏 山廬集
山霧や駕篭にうき寐の腹いたし 野澤凡兆
山霧や黄土(はに)と匂ひて花あやめ 不器男
山霧をかすかにダムの花の渦 桂樟蹊子
山霧を払ふ扇の寒かりき 尾崎紅葉
山霧を抜けしは脱皮せるごとし 中村芙路子
山霧を抜け来し白き蛾なりけり 山田弘子 螢川
山霧を行かせ蒼白なり氷河 有働亨 汐路
山霧走るほか気配なし 土葬の上 伊丹公子 時間紀行
待宵の四山霧ふかき外厠 西島麦南
月見草別れてのちの山霧は 臼田亞浪 定本亜浪句集
木の芽山霧右往して左往して 行方克巳
朴や白恋の山霧しげきかな(湯殿山) 河野南畦 『広場』
杉の秀に山霧の湧く送り梅雨 島田芳恵
枳殻踏む臭さ山霧さつと来し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
梅雨さむし山霧軒にささと降り 長谷川素逝
梅雨入りや山霧あほつ杣の顔 前田普羅 飛騨紬
森林浴山霧に耳洗はれぬ 市村究一郎
棺にひそかに山霧を詰め運ぶ数人 西川徹郎 家族の肖像
湖霧も山霧も罩むはたごかな 飯田蛇笏 山廬集
白塊の山霧(ガス)が押し寄す山母子 高澤良一 随笑
翌檜に絶えざる山霧分校よ 鍵和田[ゆう]子 浮標
舟解いて山霧にこぐや河下へ 飯田蛇笏 山廬集
茜掘山霧ささとにほひ来る 小亀双二
起き出でて山霧濃きをたれか言ふ 西村和子 かりそめならず
身体は山霧であり金剛であり 佃 悦夫
黍畑の山霧粒をなせりけり 山口草堂
あしびきの山の霧降る湖施餓鬼 加倉井秋を
この山の霧深くして一位の実 綾部仁喜 寒木
もみずるに一役買って山の霧 高澤良一 素抱
三峰山の霧をふるはせ法螺の音 小宮久美
仆れ木やかくて朽ちゆく山の霧 林原耒井 蜩
厨房のナイフ曇らす山の霧 桂信子 黄 瀬
向う嶺の霧よりさびし山の粟 古沢太穂 古沢太穂句集
山の日の霧に捲かるる朝寒き 臼田亜浪 旅人
山の童の霧がくれする秋の滝 飯田蛇笏 霊芝
山の霧下り来て包む港町 飯田京畔
山の霧村に来てをり診察日 小池龍渓子
山の霧枯草道の先きを断つ 佐野良太 樫
山の霧池の霧降るゴルフ場 永川絢子
山の霧罩めたる柿の雫かな 飯田蛇笏 山廬集
山の霧降り来て濡らす袋角 岸田稚魚
山動くごとし金剛山の霧 小林たけし
引窓や温泉(いでゆ)の山の霧の洞 黄吻 選集「板東太郎」
志賀山の霧降る夜道兎跳ぶ 堀口星眠
早発ちの炉辺に吹き入る山の霧 木村蕪城 一位
湧きしときのかたちのままに山の霧 加倉井秋を 午後の窓
湧きつづく霊山の霧無尽蔵 山口超心鬼
火の山の霧に噎びて岩桔梗 伊東宏晃
火の山の霧に月明みだれそむ 倉橋羊村
火の山の霧ふりかぶり登りゆく 上村占魚 球磨
火の山の霧や音たて皿ふれあふ 鍵和田[ゆう]子 浮標
環山の霧ひしひしと薄紅葉 鈴木しげを
秬しごく音のあらくて山の霧 西村公鳳
穂黍まだ青きに早も山の霧 原石鼎
筒鳥やみるみる晴るゝ山の霧 秋山万里
茸の旬をはりし山の霧の粒 宇佐美魚目 秋収冬蔵
蒜山の霧ふりやまぬをどりの輪 谷口古杏
虎尾草に黒姫山の霧匂ふ 亀田英子
電線の二本はさみし山の霧 佐野良太 樫
●山際
山際すこしと朝々や明易き 松根東洋城
山際にたまる端午の柑の闇 福田甲子雄
山際に淡き日のこり田鶴渡る 示日止三
山際のあさぎ空より北風は来る 篠原梵 雨
山際の凍空まぶし婆の髪も 金子兜太
山際の大きな家の垣繕ふ 黒田杏子 花下草上
山際の涼しさに寄せ墓箒 下田稔
母の声す山際の月冷やけし 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
走り穂や山際へ退く朝の霧 森重 昭
雲行くは山際ばかり干大根 廣瀬直人
●山国
すぐ途切れ山国に会ふ夏祭 加藤瑠璃子
そばの花咲いて山国らしくなる 小竹由岐子
つばめ来て山国の雲定まりぬ 正木不如丘 句歴不如丘
つわの連弾山国の平和なくらし 山岡敬典
なきがらに山国の水くだるばかり 佃悦夫
もう桔梗咲く山国の田植かな 及川貞
わが名掻消す山国の風速み 竹本健司
五月雨の山国川の瀬鳴りの夜 河野扶美
交る蜥蜴山国の城端正に 藤岡筑邨
八十八夜過ぎ山国の白豆腐 児玉南草
冬に入る山国の紺女学生 森澄雄
冬凪ぎの山国目覚め黒き猫 五十嵐春草
冴え返る山国に星押し出さる 雨宮抱星
卯の花腐し山国は墓所多し 飯田龍太
厄日過ぎし山国にゐて風の音 岸田稚魚
厩に音月の山国けぶるかな 鷲谷七菜子 花寂び
夏の山国母いてわれを与太と言う 金子兜太「皆之」
夜の白き菊に山国寂しけれ 石昌子
夜空うつくしくなりし山国蚊帳かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
威し銃山国の空新しく 細見綾子
威し銃山国を出ぬ雀らに 竹鼻瑠璃男
宿の下ゆく山国の夜廻りよ 鈴木穀雨
寒鮒を焼けば山国夕焼色 青邨
山国と野の国接し種を蒔く 和田悟朗
山国にがらんと住みて年用意 廣瀬直人
山国にきて牡蠣の口かたしかたし 矢島渚男 天衣
山国に一川ありて鮎落つる 中村明子
山国に光いくまい田植すむ 鷲谷七菜子 花寂び
山国に冬が乗つかり動かざる 村越化石
山国に墓ひとつ増え天の川 鷲谷七菜子 雨 月
山国に夏痩せて歯の痩せていく 鈴木六林男 王国
山国に妻子住ましめ小六月 遷子
山国に嫁げば杉を植うことも 西尾 苑
山国に寝て遠雷を遊ばする 村越化石
山国に日の暈賜ふ西行忌 廣瀬直人
山国に来て二日目に秋立ちし 細見綾子 黄 瀬
山国に来て感傷の水充たす 佃悦夫
山国に来て牡蠣の口かたしかたし 矢島渚男
山国に火色の赤さ富有柿 森澄雄
山国に省略の秋はじまりぬ 岡本 眸
山国に秋さだまりて師の忌あり 松村蒼石 雁
山国に積み重なりし肉の草 佃悦夫
山国に行く苗売のバスに立つ 茨木和生 遠つ川
山国に逢ふや幟の月遅れ 杉山岳陽
山国に邃き青空年新た 矢島渚男 延年
山国に重い垂氷の月夜かな 池田澄子 たましいの話
山国に雪の彼岸の一会かな 金田あさ子
山国に頻繁に鳴る木器かな 佃悦夫
山国に鯨の化石天の川 近藤昌平
山国のおさなき光種案山子 永野佐和
山国のおそき朝日の花すもも 草間時彦 櫻山
山国のけぢめの色の青葡萄 藤田湘子「前夜」
山国のたそがれはやき新豆腐 館岡沙緻
山国のつばめ見てきし更衣 千代田葛彦
山国のどん底にかけ上り簗 檜 紀代
山国のひかり散らして桷の花 水原京子
山国のひかり頒け合ひ軒氷柱 清水白郎
山国のぶつかり合つて蝌蚪生きる 中村明子
山国のまことうす日や翁の忌 長谷川素逝 暦日
山国のわづかにひらく霜の薔薇 福田甲子雄
山国のゑのころぐさは大きかり 十川たかし
山国の一村一寺桃の花 木附沢麦青
山国の代田ひかりを深く呑み 雨宮抱星
山国の伊賀に霾る一日かな 藤井充子
山国の光あつめて畦を塗る 青柳志解樹
山国の光を斬つて夏つばめ 南村マサ子
山国の冬は来にけり牛乳を飲む 高浜虚子
山国の刈田ざんざん降りに逢ふ 広瀬直人
山国の到るところに喉仏 佃悦夫
山国の土鈴氷柱をくぐり買ふ 大串章
山国の地震地すべり秋飼屋 百合山羽公 寒雁
山国の夏炉に落居ず檐の雨 原田種茅 径
山国の夜は更け易し踊唄 北川草魚
山国の夜番の上に星時計 鷹羽狩行
山国の夜霧に劇場出て眠し 渡辺水巴 白日
山国の大きな星の飛びにけり 三村純也
山国の大橋日脚伸びにけり 中島克巳
山国の天へ供華なす大花火 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
山国の太きうどんを湯涼みに 下田稔
山国の媼ひとりも着ぶくれず 茨木和生 倭
山国の小さき山も雪積る 辻田克巳
山国の小さき駅やほたる草 鈴木 正子
山国の小学校にがうな売 福沢義男
山国の小石捨て~耕せり 沢木欣一 塩田
山国の山より高き幟かな 中川和宥
山国の山包む雲や今朝の冬 柑子句集 籾山柑子
山国の山消して雪さかんなり 澁谷澪
山国の川美しや人麿忌 西本一都 景色
山国の年端月なる竃火かな 飯田蛇笏 霊芝
山国の日のつめたさのずゐき干す 長谷川素逝 暦日
山国の日和は梨の返り花 碧雲居
山国の日暮れ狂へるつばくらめ 中拓夫 愛鷹
山国の星の刺さりし凍大根 太田土男
山国の星の大粒春祭 石田勝彦
山国の星をうつして水ぬるむ 吉野義子
山国の星をまぢかに大どんど 池谷市江
山国の星座は低しクリスマス 野口八重子
山国の星美しき盆の唄 高鴨アヤ子
山国の春の寒さのガラス市 星野石雀
山国の春や他郷へ急ぐ川 渡辺啓二郎
山国の春何もかも花ぱっと 川口咲子
山国の春日を噛みて鶏の冠 飯田蛇笏 山廬集
山国の暗さを底に葡萄煮る 対馬康子 吾亦紅
山国の暗すさまじや猫の恋 原石鼎
山国の暮れ切るまでや杏花村 草間時彦 櫻山
山国の暮春と仰ぐ梅桜 酒井土子
山国の暮春の家の土間暗し 京極杞陽 くくたち下巻
山国の月しろながく美しく 西本一都 景色
山国の月の枝より棗摘む 大岳水一路
山国の朝日は颯と青胡桃 藤田湘子 てんてん
山国の木の実落つおと振りむけば 加藤耕子
山国の枕木きしむ秋の声 伊藤 翠
山国の桃の紅らむ力かな 櫛原希伊子
山国の桜のかげの男ごゑ 鷲谷七菜子 花寂び 以後
山国の橡の木大なり人影だよ 金子兜太 遊牧集
山国の残菊日和惜みつつ 福田蓼汀 山火
山国の毛虫ふさふさ生きるとは 宮坂奈々
山国の水あらあらと洗鯉 黒木 胖
山国の流れのはやき天の川 八染藍子
山国の瀬音は高し初月夜 江口竹亭
山国の煙草明りと秋の土 松村蒼石 雁
山国の照り空高き田植かな 金尾梅の門 古志の歌
山国の祖母竹輪一本食べました 松本勇二
山国の秋迷ひなく木に空に 福田甲子雄
山国の稲穂の冷えにラジオ流す 桜井博道 海上
山国の空に山ある山桜 三橋敏雄 畳の上
山国の空に游べる落花かな 草間時彦 櫻山
山国の空は底なし袋掛 林 徹
山国の空をあまさず星月夜 檜 紀代
山国の竹箸太し新豆腐 茨木晶子
山国の縦につらなる寒の星 中拓夫 愛鷹
山国の耳振る牛よ雪起し 高橋正人
山国の聞けば淋しき踊唄 稲畑汀子 汀子第二句集
山国の花火も水を恋ひて散る 大串章
山国の茅葺き厚き冬構へ 滝戸蓮
山国の茎の太くて女郎花 檜 紀代
山国の藁塚木菟に似て脚もてる 松本たかし
山国の虚空日わたる冬至かな 飯田蛇笏(1885-1962)
山国の蛇を投げあう遊びかな 小西 昭夫
山国の蝶を荒しと思はずや 高濱虚子
山国の街早じまひして仲秋 柴田白葉女 花寂び 以後
山国の辛夷一向宗の花 茨木和生 三輪崎
山国の酒もて拭ふ神楽面 船越淑子
山国の銀座小暗き盆踊 宮坂静生 青胡桃
山国の長き停車の初景色 木内彰志
山国の闇うごき出す除夜の鐘 鷹羽狩行
山国の闇おそろしき追儺かな 原石鼎
山国の闇がふちどる門火かな 有働木母寺
山国の闇ごつごつと青胡桃 酒井 弘司
山国の闇を濃くして草蚊遣 長田等
山国の闇冬服につきまとふ 茨木和生 木の國
山国の闇恐しき追儺かな 原石鼎
山国の闇降りてきし種案山子 宮田正和
山国の雨けはしさよ田植笠 芝不器男
山国の雨したたかに夏燕 瀧春一
山国の雪が泣くなり姫はじめ 岸田稚魚
山国の雪の大年降り暮れぬ 椎橋清翠
山国の雪解しづくは星からも 鷹羽狩行 六花
山国の雪解荒々しかりける 今井杏太郎
山国の雪降る中へ初燕 矢島渚男 延年
山国の雲の阿修羅に梅雨の月 西本一都 景色
山国の雷雨にはてし祭かな 松崎鉄之介
山国の風の満月のすばかり 飯田蛇笏 雪峡
山国の風鮮らしき鯉幟 川邊房子
山国の魚の血黒き四月尽 宮坂静生 青胡桃
山国の魚を釣りゐる睦月かな 橋本榮治 逆旅
山国はむら立つ雲に稲架静か 久米正雄 返り花
山国は仰向けに寝て春惜しむ 宗村堯
山国は山を砦に冬を待つ 鷹羽狩行 六花
山国は星座傾け冬に入る 渡部抱朴子
山国は炭焼く焔鉄路まで 辰巳秋冬
山国は鼻にもつけよ灸花 岡本政雄
山国へ秋雲も歩を早むかな 冨田みのる
山国へ退りし山や十二月 伊藤通明
山国へ送る乾鮭歳暮かな 小澤碧童
山国やとろとろあをき透き蚕ども 石 寒太
山国やひとりに余る冷し酒 舘岡沙緻
山国や一方海に雲の峯 雲の峯 正岡子規
山国や冬ざれてゐる畑の土 渡辺水巴 白日
山国や夕日くもらす草蚊遣 近藤一鴻
山国や寒き魚介の小商人 飯田蛇笏 山廬集
山国や屋根に来るさへ春の鳥 三津人
山国や手触れて消えむ春の虹 文挟夫佐恵 雨 月
山国や新蕎麦を切る音迅し 井上雪
山国や星のなかなる吊し柿 木内翔志
山国や昨日流せし雛が浮く 大西静城
山国や空にただよう花火殻 金子兜太「遊牧集」
山国や蟻の地獄の育ちつつ 辻桃子(童子)
山国や誕生石の石蕗咲けり 安西 篤
山国や追はれて杉の実が生りし 竹本健司
山国や陸稲畑に父の糞 金子兜太
山国や雪の縁取りめぐらして 矢島渚男 延年
山国や霧蹴つて舞ふささら獅子 宮田富昭
山国や黒きリボンの夏帽子 岸本尚毅 舜
山国や鼬振り向き人は笑い 森下草城子
山国をいちにち出でず春の雲 小島健 木の実
山国を出て山国へ神渡 山田弘子 こぶし坂以後
山国を空から見れば螢かな 和田悟朗
山茱萸や山国のものみな素顔 黒川憲三
岩魚焼く山国の星瞭かに 西村公鳳
帰去来(かえりなんいざ)山国へ雪国へ 橋本榮治 越在
引売や山国人へ*さより提げ 西山 睦
打ち強くして山国の鉦叩 山仲英子
旅嚢より足袋いだし履き山国ヘ 古沢太穂 古沢太穂句集
早稲の香や山国の雲みな走り 富沢みどり
星とんでのち山国の闇厚し 柴田白葉女
春北風山国棲みをはかなみて 飯田蛇笏 椿花集
春竜胆山国育ちは山が好き 青柳照葉
時雨忌の山国に入り夜を更す 平井さち子 鷹日和
枯山国を眠りつづけて時失ふ 森澄雄 花眼
柚子落とし山国の空覚ましけり 布川武男
栗咲いて山国の夜々沈むなり 村越化石
桐まだ咲かぬ山国山人と酔うて 金子兜太 詩經國風
水温む山国川や通院す 笈木志津女
水音にも山国の張り*たら芽あヘ 鍵和田[ゆう]子 浮標
洛南は山国どこも大旱 妹尾健
淋しめば天井落ちてくる山国 佃 悦夫
火柱の明き山国あれは小雀 下山光子
炉あるかに坐し山国は夜の秋 村越化石 山國抄
照りつけて盆に入るなり山国は 宮津昭彦
猪食つて山国はすぐ深夜なり 高星吐
畦塗りの水がすぐ澄む山国は 中根唯生
白桃を吸い山国の空濡らす 酒井弘司
磯開き山国の児も祓はれる 滝田英子
糊加減濃く山国の障子貼る 北見さとる
芥川龍之介忌を山国に 今井杏太郎
花芒光る山国仏見に 木村敏男
荼毘に似る山国伊賀の菜穀火は 右城暮石
蕨干す山国の日のうつくしや 大場白水郎 散木集
蛍火に谷毛むくじゃら山国は 金子兜太
蜜をわずかに山国の返り花 池田澄子
行くほどに京は山国青嵐 山内山彦
踊り果て山国の闇かむさり来 菅原鬨也
鈴虫よ振り向けばしんかんと山国 児玉悦子
雨霧のとぶ山国の糸ざくら 高濱年尾 年尾句集
雪中梅うるむ山国乙女の香 原裕 青垣
電柱とかまきり痩せて山国は 井桁白陶
青空は山国にのみ曼珠沙華 鷹羽狩行
馬の瞳も山国の澄み蕎麦刈れる 岡野風痕子
馬刺しを喰ふ山国の朝曇り 吉田鴻司
騒然と山国くるる葛の花 小松崎爽青
高々と山国に来し燕かな 大峯あきら
鳥渡る山国の空ひきしめて 小林康治 『虚實』
●山暮る
いつもの星が出でたれば暮れてゆく山 シヤツと雑草 栗林一石路
かへり見る雪山既に暮れゐたり 清崎敏郎(1922-99)
けふ秋や朝浴暮浴山浅葱 松根東洋城
すでに晩夏草ぬきんでて昏れる山 桂信子 黄 瀬
たたなはる紅葉の山の暮れてなし 上村占魚 球磨
ひぐらしに谷より暮るる山の宿 太田美奈子
ひとつづつ山暮れてゆく白露かな 黛執
ふるさとは山より暮るる蕎麦の花 日下部宵三
五竜山昏れ鵲の巣も昏れにけり 原田青児
人の下り来る暮るる山のまつたく暗くなる 梅林句屑 喜谷六花
人棲まぬ山から昏れて三月は 茨木和生 野迫川
仏たち暮れてひかりの芒山 鷲谷七菜子 花寂び
住みわびぬ暮山の雲とならばやな 中勘助
便追に山は襞より暮れそむる 松木弥栄子
俳優と俳人暮るゝ蜜柑山 攝津幸彦
元日の暮れて窓辺に山据わる 小畑きよ子
去りがてに山ふところの梅暮るゝ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
城昏れて山の灯となる晦日蕎麦 古舘曹人 樹下石上
大佐渡は山より暮れて稲雀 藤田弥生
大夫格子せめては暮を花の山 調鶴 選集「板東太郎」
大文字の点かざる山もみな暮れし 岸風三樓
大柑引く男か女か山の暮 森澄雄 浮鴎
大根焚き日暮を山と思いけり 大坪重治
天つばめ昏れ色ひそむ山の襞 稲垣きくの 牡 丹
天昏れず風雲光る山襖 飯田蛇笏 雪峡
完熟の昏さが覆ふ葡萄山 正木ゆう子 悠
容鳥の鳴きて暮れゆく曳馬山 関戸高敬
小瑠璃鳴き止めばからまつ山暮るる 青柳志解樹
山がちに足寄は昏るる女郎花 古舘曹人 樹下石上
山が山呼んで暮れゆく空つ風 千代田葛彦
山ざくら暮れ道くさの夫と猫 大木あまり 火のいろに
山の国大きく暮れて笊に栗 村越化石
山の子の遊び暮れたり花たばこ 小田切輝雄
山の日のぐらつと昏れる白障子 山中栄子
山の湯や吾が春愁の花昏れず 宇田零雨
山は暮て野は黄昏の芒かな 蕪村
山ひとつふたつ昏れゆく虫送り 豊田八重子
山よりも稲刈暮れてしまいけり 鈴木六林男 後座
山を見てちらつく暮色あたたかし 松澤昭 神立
山一つ二つ暮れゆく寒稽古 石田三省
山中昏れ 昏睡の鵙 美山杉 伊丹公子 山珊瑚
山国の暮れ切るまでや杏花村 草間時彦 櫻山
山坊の障子一枚づつ暮れる 椎橋清翠
山女釣りにはかに暮るる厚別 古舘曹人 砂の音
山昏れてぬぎすてし汗のもの重し 松村蒼石 雪
山昏れてよりの親しき誘蛾燈 鶴原暮春
山昏れて車窓菜殻火迫り来し 松本みつを
山暮るるほどには暮れず遠郭公 大庭星樹
山暮るるまで白樺に小瑠璃鳴く 石原栄子
山暮るる零余子こぼさぬやうに暮れ 蓬田紀枝子
山暮るゝ麦を蒔く田に火を放ち 張田裕恵
山暮れて水暮れてくる鳴子かな 福島壺春
山暮れて水暮れて花まだ暮れず 細川子生
山暮れて湖暮れてより鹿の声 長谷川富佐子
山暮れんか蜜柑の色の遠くにて 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山村の暮を鶏なく余寒かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
山桑の枯葉を噛めば日暮見ゆ 佐藤鬼房
山法師標高千の湖昏るる 田村恵子
山深くゐて父の日の暮れにけり 柴崎七重
山火事の騒ぎ静まり暮の春 大峯あきら 宇宙塵
山焼や旅に暮れける西の京 和田祥子
山空のとろりと青き暮春かな 岡田日郎
山雨に暮れゆく庭の楓かな 流木
山雰の足にからまる日暮哉 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
山風の荒き暮春や河原鵯 宮坂静生 樹下
山鴉啼いて元日暮れにけり 白水郎句集 大場白水郎
岩手山はや暮れかかる風炉名残 齋藤夏風
峰雲の暮れつつくづれ山つつむ 篠原梵
左右の山暮れて相似る橋涼み 富安風生
師へ父へ歳暮まゐらす山の暮 松本たかし
年木伐るひびきに暮るる山ひとつ 黛執
待宵や山の端暮れて星一つ 高浜虚子
怖ろしき山を背負うて芹の暮 和田悟朗
懸大根ことりと山が昏くなる 石井一舟
戸隠山の日暮がおそふ焚火かな 鷲谷七菜子 游影
捨水をこほろぎの嗅ぐ山の暮 進藤一考
教会へ山鳥が行く雪の暮 和知喜八 同齢
散る花もなくて暮れ来し源氏山 深見けん二 日月
旅愁の顔に暮れいろ寒き山が傾く 人間を彫る 大橋裸木
日の出花四つ猿楽よ暮明樽 山夕 選集「板東太郎」
日の暮の背戸に風立ち松納 棚山波朗
日の暮は雲をゆたかに山桔梗 角川春樹
日の暮れも離れぬ風や干し鰈 梶山千鶴子
日は暮れて芒の山を越えにけり 薄 正岡子規
日暮には白露の山の坐りゐる 八木林之介 青霞集
日暮まで山かげの田の薄氷 長谷川櫂 古志
日暮来る山焼きの火のまだ残り 石川薫
明け暮れを山見てすごす白絣 菊地一雄
昏々と夜は雪山をおほひくる 石橋辰之助 山暦
昏うして綺羅星ならぶ山の沼 中川宋淵 遍界録 古雲抄
昏れいろの山の隠り沼春の鴨 柴田白葉女 花寂び 以後
昏れかかる山をいくへに*かりんの実 矢島渚男
昏れぎはの紅をひきゆく山蜻蛉 原裕
昏れ雲のうす墨垂りて山ざくら 石原舟月
昏睡の父よ霧中に山鳩鳴く 大井雅人 龍岡村
春の山一つになりて暮れにけり 正岡子規
春の山屡屡雲に暮れむとす 会津八一
春惜しむ姿や佐保山昏れてなほ 河原枇杷男
春暮るる会津に白き山いくつ 岡田日郎
春田打菩薩の山の暮るるまで 池田まつ子
暮の山遠きを鹿のすがた哉 其角
暮るる海枯山かけて大雨あり 舟月
暮るゝまで山の夏蝶飛んでゐし 小林たか子
暮れさむく紅葉に啼くや山がらす 白雄
暮れてなお山空青し勝つた牡牛 金子兜太
暮れてゆく山を見てをり秋扇 村上喜代子
暮れて越す草山一つ春の月 志田素琴
暮れどきの山も息して鮎膾 中拓夫
暮れ際のさくらむらさき斑雪山 堀口星眠 営巣期
暮れ際を山あかりして初紅葉 遠藤正年
暮んとす春をゝしほの山ざくら 蕪村 春之部 ■ 曉臺が伏水嵯峩に遊べるに伴ひて
暮春かな山黒々と川を抱き 中村苑子
暮春ふりむくは妻か山鳥か 橋石 和栲
暮雲おき雪嶺たゞの山に伍す 篠田悌二郎
松茸の丸焼き食らふ山の暮れ 山本寛太
桐一葉やがていつもの山で暮れ 小菅久芳
樟大樹山の寒暮が海に移り 長谷川双魚 風形
権現の杜に雉鳴き山湖暮れ 阪井 節子
樹々暮れて大き山の蛾髪ほどく 柴田白葉女 花寂び 以後
母の日の山が暮れゆく納戸色 中村明子(萬緑)
水平に来る死期山茶花の日暮 赤松[けい]子 白毫
水現れて檜山の暮天曳き落つる(那智山) 野澤節子 『飛泉』
河鹿鳴き山垣四方に暮れゆけり 木津柳芽 白鷺抄
波のりに淡路島山暮れにけり 岸風三楼 往来
涙ぐむ山の日暮の木守柿 鈴木鷹夫 渚通り
湖昏れて山女焼く焔の美しく 菅正子
満天星の花や山よく見えて暮れ 大井雅人
火の山の暮れ映ゆる菜花一望に 乙字俳句集 大須賀乙字
無患子や大き山より暮るるなり 福島勲
焼山の煙かゝりぬ暮の月 朝竹
煮凝や暮れて故山のみなまろし 大石悦子 群萌
牛小屋は暮れつゝ山火いろめきぬ 五十崎古郷句集
独活摘みて山の娘山の唱に暮れ 河野南畦 『花と流氷』
猪鍋や暮れて背高くなりし山 石田勝彦
男唱に山の蜜柑の熟し昏れ 八木三日女 赤い地図
畠打の顔から暮るゝつくば山 一茶 ■文化六年己巳(四十七歳)
白妙もいつしか暮れて花の山 千代女
白飯やいづこの山も日暮にて 桑原三郎 龍集
百本のひとつに暮るる花の山 瓜生和子
睡蓮の純白のこす山の暮 桂信子 黄 瀬
神留守の畝傍山より昏れにけり 佐川広治
秋の山暮るゝに近く晴るゝなり 長谷川かな女 雨 月
秋山に昏れてゐる子の父がわれ 石橋辰之助 山暦
秋水の縮まつて山昏るるかな 金田咲子 全身 以後
秋風に馳せ下りけり暮るゝ山 露月句集 石井露月
空海の山暮れ切つて天高し 小島千架子
窓掛に暮山のあかね春寒し 飯田蛇笏 霊芝
端居すや三笠の山の昏るるまで 島村茂雄
筒鳥の声暮れのこる山の坊 高城玲子(ホトトギス)
箸と膳ひぐらしの山暮れてゆく 原田喬
紅葉日が暮れた山をうごかしたいと思ふ見てゐる 中塚一碧樓
肩まるき山暮れ果てし炭火かな 村沢夏風
芋を掘る山より先に顔昏るる 対馬康子 吾亦紅
花くえて山雨あやなし暮の春 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
花卯木水湧く山は暮れ早し 中拓夫
花昏れて夜空の青き吉野山 桑田青虎
花昏れて宇治山星をあげにけり 岸風三楼 往来
英彦山の日暮うながす閑古鳥 荒巻信子
茄子紺に恵那山昏るる涼しさよ 西本一都
草刈一日のうしろより山が暮れかかる 栗林一石路
菜の花や火の山沖に昏れのこる 松浦喜代子
蓑虫や昏れなむとして山やさし 山田みづえ
蕎麦の花火山灰の山畑暮れ残る 羽田岳水
蕗の葉に太き雨脚山暮るる 田中冬二 麦ほこり
蚊遣火や山に対へば暮れてゐし 田宮房子
蜜柑畑出て寝釈迦山昏れにけり 萩原麦草 麦嵐
蜩や山ひとつづつ昏れゆかむ 木塚眞人
蟇二度鳴いて山二度暮れぬ 原田喬
西行の日やたわたわと山暮れて 黛 執
見てゐたる山も暮れたり西行忌 鈴木鷹夫 千年
見返れば山暮れてをり秋の声 八幡城太郎
見送りし仕事の山や年の暮 高浜虚子
身つくらふ鵜に山暮れて来りけり 龍胆 長谷川かな女
迢空忌裾より昏るる二上山 浅場芳子
追ふ鳥も山に帰るか年の暮 丈草
逆光に山笑ひつつ暮れなづむ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
避暑の宿山暮るゝ見て灯しけり 雑草 長谷川零餘子
鈴虫に山居暮れたる窓閉ざす 尾亀清四郎
鐘一つ洛外の弥生山暮るる 大野洒竹
雁瘡の父よ暮れゆく島山よ 八木林之助
雁鳴や浅黄に暮るちゝぶ山 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
集卵や寒暮の山がよく見えて 長谷川双魚 風形
雛の日や遅く暮れたる山の鐘 飯田蛇笏 霊芝
雪山の昏るるゆとりに鳴る瀬かな 飯田蛇笏 春蘭
雪山暮るゝや天青きまゝ月ほの~ 楠目橙黄子 橙圃
雪来ると山のぞろぞろ暮れだしぬ 松澤昭
青ぶだう山一重づつ暮れかかり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
青葉木菟鳴いて山ノ手暮色かな 深川正一郎
青饅や暮色重なりゆく故山 加藤燕雨
韮の花墓山はやく昏れそめし 木下青嶂
音羽山暮るゝ焚火のはなやかに 草城
風の梅地に垂れつ四山暮れにけり 中島月笠 月笠句集
餅花や暮れてゆく山ひとつづつ 廣瀬町子
馬追や山の暮色を日がはこぶ 雨宮抱星
鳶ないて雪山空に暮れかぬる 梅の門
鴨啼いて山の日暮をさそひけり 福永みち子
鵜の尾岬澪之助なき山暮春 阿部みどり女
鹿おどし背山昏れゆく詩仙堂 柳田聖子
●山険し

●山越
*かんじきのあと山を越えいづくへか 福田蓼汀 秋風挽歌
いく山を越えきし雲や金鳳華 村沢夏風
かぎろへばあはれや人は山を越ゆ 篠田悌二郎
かりんの実越えきし山の風のいろ 原裕 青垣
きのふ見し山を越えをり初しぐれ 豊長みのる
くわりんの実越えきし山の風のいろ 原裕 青垣
この軍旗かの枯山を幾度越えし 深見けん二
どの山も花房越しや胡桃に倚り 宮津昭彦
やぶ入の暁山を越えにけり 星野麦人
ボタ山を越える電柱雪狐 穴井太 ゆうひ領
丘幾つ越え来て此處に山の秋 星野立子
人を恋ひ阿蘇越えゆかば山火燃ゆ 本郷昭雄
伊賀越の時雨がとんで山の神 茨木和生 往馬
兀山を越えて吹きけり秋の風 秋風 正岡子規
冬木越し霊山に拠る町点る 宮津昭彦
冬近し人の背越しに山を見て 黛執
切れ凧や道灌山を越えて行く 凧 正岡子規
初蛙妻を娶らむと越えし山 岩田昌寿 地の塩
去年今年ひとつの山の闇を越え 岩谷滴水
夕顔や山を越え来て髪の老ゆ 岸田稚魚
夜を越えし山や覚えの花臭木 森澄雄
天狗党越えたる山も眠りをり 梅原昭男
寒禽もさびしと群れて山を越す 福田蓼汀 秋風挽歌
山の月独り越ゆらん君が面 露月句集 石井露月
山の背を越えがたく滝凍てており 駒 志津子
山一つ越えし筑後の揚雲雀 野村 佑
山一つ越えし谷間の太蕨 吉田久子
山一つ越えて見にゆく冬ざくら 林原和枝
山一つ越えんど春の湖を過ぐ 甲斐禮子
山一つ越せばわが里春の雨 伊藤文代
山並の雪越えて来て旅の僧 高濱年尾 年尾句集
山二つ谷一つ越え蕎麦湯かな 柳澤和子
山刀伐を越ゆ水引の銀を手に 安藤五百枝
山幾重越え来し音か虎落笛 城戸花江
山茱萸越しに露天湯の見ゆる部屋 能村登四郎
山見れば越せしを思ふ芒かな 廣江八重櫻
山雀が垣根を越えて渓に去る 小沢晴堂
幾山も山火を見つつ越えて来ぬ 下村梅子
幾山を越えて夜となる雪起し 福田甲子雄
志賀越えの名残仏に山の蟻 大東晶子
新年の雲山刀伐を越えてくる 中島松濤
日は暮れて芒の山を越えにけり 薄 正岡子規
早起山を越え炎天を茶屋に休む人 炎天 正岡子規
明日越ゆる山うかがへば時雨星 福田蓼汀
星月夜山一つ越え電話線 川崎展宏
春しぐれ山を越す道また造る 福田甲子雄
春の山いくつとも無く越えにけり 春の山 正岡子規
春の旅小き山を越えにけり 春 正岡子規
暁の山を越え来てうきね鳥 暁台
暮れて越す草山一つ春の月 志田素琴
枯山を越えて海鳴り早う寝む 八木澤清子
枯山を越え来し風に独語乗す 河野南畦 『黒い夏』
枯山を越え枯山に入りゆく 篠原梵 雨
残月や馬上で越ゆる薩陲山 伊藤松宇
水仙を見に丹生山の雪を越え 細見綾子 黄 炎
波打つ桜風大股に山を越え 金子潤
渡り鳥高し山盧を越えし後も 新津有一
火の山の火を運ぶ鳥 湖を越ゆ 鷲巣繁男
灯を消して網戸越しなる山の精 渡辺 和子
烏瓜咲いて風越山の闇 伊原正江
父の凧越えて子の凧山晴るる 恒松英子
狼にも逢はで越えけり冬の山 冬山 正岡子規
玉あられ百人前ぞお取越 山店 芭蕉庵小文庫
玻璃越しの雨山茶花に鳥の来る 金尾梅の門 古志の歌
白牡丹わが越えて来し山の数 今瀬剛一
白露や茶腹で越るうつの山 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
百合の句案明日又越えん山の事 露月句集 石井露月
磐梯山猛鷲蛇をさげて越す 前田普羅
祖先のやうに寒い砂山いくつも越し 栗林千津
祖父越えて来しかの山も炭焼くか 高濱年尾 年尾句集
秋燕むれ越す雨の鈴鹿山 鈴鹿野風呂 浜木綿
秋風の山を越えゆく蝶一つ 三好達治(1900-64)
空蝉や山の日照雨の毛越寺 皆川盤水
紅葉せる錦木を折り山を越す 前田普羅
肩越しに山の音くる零余子かな 藤木倶子
花追へば一揆の越えし山の道 関塚康夫
茸山を越え来る人に遭ひにけり 雑草 長谷川零餘子
草刈の昨日刈りたる山を越ゆ 木附沢麦青「南部牛追唄」
草山を又一人越す日傘かな 渡辺水巴
草鞋巡査とつれだち越えぬ秋の山 冬葉第一句集 吉田冬葉
落鮎のころの神楽に山を越え 神尾久美子 桐の木以後
葛城山を越へし羽音に初鴉 佐野美智
葭簀越し売る山の物川の物 嶋田義久
蒸し鮑提げて足柄山を越ゆ 宮岡計次
越えてきし山に灯のつく秋薊 大木あまり 火球
越えて来し山すぐ軒に蕨餅 田中冬二 麦ほこり
越えて来し山のいくつや花杏 羽生敏子
越えて来し山の紅葉の話など 高濱年尾 年尾句集
越て来た山の木がらし聞夜哉 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
逢阪の山を越え行く燕哉 燕 正岡子規
連雀の越ゆるや花の吉野山 堀口星眠
道見えていづこへ越ゆる春の山 綾部仁喜
雪の山義仲の目に憑かれ越す 大串章
雪山を越えて彼方へ空むなし 相馬遷子 雪嶺
鞍馬参り山二つ越す夜寒かな 名和三幹竹
飛騨の山冬日とわれが今日は越ゆ 岡田日郎
黄梅や息きらさずに越えし山 鷲谷七菜子
●山小屋
はやばやと仕舞ふ山小屋男郎花 伊藤霜楓
ルカ伝を読む山小屋の雪解かな 仙田洋子 雲は王冠
万緑へ山小屋の鍵ひびかせり 渡辺桂子
夜霧入り来る山小屋の戸の隙間 内山芳子
夜鷹鳴く山小屋蒲団配り終へ 西村梛子
富山の置き薬があった 山小屋の灯が青い 松井尚子
山小屋に「知足」の額や麦茶のむ 小俣幸子
山小屋に寝る足と足突き合はせ 石井いさお「雪の輪」
山小屋に正座し年酒くみにけり 岡田日郎
山小屋に膝を揃へて月待てり 伊藤敬子
山小屋に遠き水場も朝焼けぬ 岡田日郎
山小屋に門火を焚きて魂迎ふ 余田厚子
山小屋に雨が狂はす米の量 黒木野雨
山小屋のオンザロックの氷柱かな 成澤 零
山小屋の一と夜雪解の渓の音 小松愛子
山小屋の一燈のこり虎鶫 新海りつ子
山小屋の七夕の字も鎮魂歌 福田蓼汀 秋風挽歌
山小屋の他に灯のなし虫時雨 深見けん二 日月
山小屋の半日仕事薪の山 窪田英治
山小屋の夕べ頻りに岩つばめ 大村文夫
山小屋の夕餉早しや目細鳴く 大野今朝子
山小屋の少年霧夜犬抱き寝 岡田日郎
山小屋の屋根に敷詰め夏布団 秋田裕弘
山小屋の庇かたむき霧とべり 上村占魚 球磨
山小屋の押入れ泊り夜鷹鳴く 堀口星眠 樹の雫
山小屋の椅子の曝れしが涼しかり 西本一都 景色
山小屋の灯にきし虫をつぶせば水 宮坂静生
山小屋の灯に星よりの金亀虫 西村梛子
山小屋の犬雷鳥を追ひ翔たす 福田蓼汀
山小屋の真昼さだかに霧雫 岡田日郎
山小屋の窓辺に蝿の一頓死 高澤良一 宿好
山小屋の荒粒銀河閉めて寝る 堀内薫
山小屋の道に鍋干す蕎麦の花 阿部寿雄
山小屋の階を抜け行く夏の蝶 朝日子
山小屋の骨正月を湯気ごもり 上田五千石
山小屋はヴォイラー焚いて昨日まで 高澤良一 素抱
山小屋は岩を楯とし夕焼けぬ 岡田日郎
山小屋も天日熱し孑孑棲み 滝 春一
山小屋を声が出てゆき明易し 竹村幸四郎
朝来ると山小屋叩く星鵜 伊藤いと子
梁も山小屋造り蘭吊りて 遠藤はつ
注連飾る山小屋鈴の鳴る扉 道場信子
芒寄せて山小屋の扉を見出したり 長谷川かな女 花寂び
螢袋咲く山小屋の裏梯子 柴田白葉女 『月の笛』
赤富士の褪め山小屋の灯も消えて 河野美奇
雪踏みて来し山小屋にランプ燃ゆ 岡田日郎
霧の山小屋夕日いくたびさして暮れず 岡田日郎
青林檎の青さ孤絶の山小屋に 橋本多佳子
●山里
ちんまりと山里成りぬ冬隣 寥松
チチチチと鳧山里の田を走る 木村容子
五月鯉上り山里明るくて 後藤緒峰
壇の浦とほからなくに落人の裔いまに住む浅き山里 窪田章一郎
多摩越えて入る山里や初蛙 大場白水郎 散木集
小塀風に山里涼し腹の上 内藤丈草
山里にすゝけて咲くや蓼の花 蓼の花 正岡子規
山里にひとりゆれたる鳴子哉 鳴子 正岡子規
山里にむかしのままの成木責 清水美京
山里に夏蚕飼ふらん桑畠 夏蚕 正岡子規
山里に大鳥飛ぶや秋の風 秋風 正岡子規
山里に家々に足る蒲団かな 尾崎迷堂 孤輪
山里に尚遠山の四月かな 尾崎迷堂 孤輪
山里に恋をはなれし桜哉 桜 正岡子規
山里に月もなき夜の長さかな 夜長 正岡子規
山里に残る歌舞伎や梅二月 富田潮児
山里に花咲く八十八夜かな 八十八夜 正岡子規
山里に雲打払ふ幟哉 幟 正岡子規
山里に餅つく音の谺かな 浜田波静
山里に首出す富士や葱坊主 村山古郷
山里に魚あり其名紅葉鮒 紅葉鮒 正岡子規
山里のかかる所にくづれ簗 岡田佐久子
山里のかくれ耶蘇とて雪降れり 牧野桂一
山里のバスを待つ間のかき氷 竹内光江
山里のモノクロの景花鶏鳴く 野村ぎはく
山里の人美しや遅ざくら 維駒 五車反古
山里の卯の花月夜鳥啼く 卯の花 正岡子規
山里の夕べの煙春惜しむ 杉本美寿津
山里の夕べひひ鳴くいずこより 迫田健路
山里の夜すがら揚ぐる花火かな 徳田秋声
山里の学童八人弓始 奥村梅村
山里の幟見て来よ京男 幟 正岡子規
山里の星にいるなりあの遊女 阿部完市
山里の春は淋しき茗荷かな 茗荷 正岡子規
山里の春や迅かりし鹿尾菜売 吉武月二郎句集
山里の朝のかがやき花南瓜 村田 脩
山里の桑に昼顔あはれなり 昼顔 正岡子規
山里の橋は短し鳥の恋 三橋敏雄 畳の上
山里の深き朝霧より出勤 中西冬紅
山里の畦の五行にあまねき日 百瀬美津
山里の盆の月夜の明るさよ 高浜虚子
山里の砧の音も宵のほど 松藤夏山 夏山句集
山里の空や師走の凧一つ 師走 正岡子規
山里の芒一本づつ光る 後藤比奈夫
山里の蕣藍も紺もなし 正岡子規
山里の蚊は昼中にくらひけり 去来「続虚栗
山里の遅き田植や合歓の花 岡本松浜 白菊
山里の道細りゆく女郎花 安部靖代
山里の雨の一日や鳴雪忌 帖地津木
山里の餅に菊敷く亥子かな 妻木 松瀬青々
山里はまづ露霜の初けぶり 青々
山里は万歳遅し梅の花 芭蕉
山里は喰ふ物にせぬ白魚かな 会津八一
山里は土筆摘む子が覗く雛 林原耒井 蜩
山里は巌を祀りて相撲かな 矢島渚男
山里は早寝早起き盆の月 五十嵐哲也
山里は月もなき夜の長さかな 夜長 正岡子規
山里は李さく頃の寒さ哉 李の花 正岡子規
山里は桃の花籠め夕とほし 上田日差子
山里は梅さく頃の燕哉 燕 正岡子規
山里は水車の音に合歓の花 清水青瓢
山里は汁の中迄名月ぞ 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
山里は留守かと見えて冬構へ 諷竹
山里は磐を祀りて相撲かな 矢島渚男 木蘭
山里は蚕飼ふなり花盛 蚕飼 正岡子規
山里は豆もつくらず蕎麦の花 悟空
山里へはる~ありし賀客かな 高橋淡路女 梶の葉
山里やちりめんじゃこを飴いろに 穴井 太
山里やみやこ見て來て秋のくれ 秋の暮 正岡子規
山里や一斗の粟に貧ならず 夏目漱石 明治三十年
山里や井戸の端なる梅の花 鬼貫
山里や人もなき夜の花ふゝき 花吹雪 正岡子規
山里や初日を拜む十時頃 初日 正岡子規
山里や夜は団欒の春炬燵 石川薫
山里や大時鳥大月夜 時鳥 正岡子規
山里や大根干す木に梅の花 梅 正岡子規
山里や嫁入しぐるゝ馬の上 時雨 正岡子規
山里や尺に満ちたる鮎のたけ 鮎 正岡子規
山里や旅にしあれば令法飯 塘雨
山里や日傘さしたる町戻 髭家
山里や月もなき夜の花吹雪 花吹雪 正岡子規
山里や月を名残りの藁鉄砲 金尾梅の門 古志の歌
山里や木小屋の中を蕗の川 飯田蛇笏 山廬集
山里や木立を負ふて葱畠 葱 正岡子規
山里や杉の葉釣りてにごり酒 一茶
山里や枯木の枝の初烏 初鴉 正岡子規
山里や母を養ふ夏氷 暁台「この時雨」
山里や水に引かせておく鳴子 一茶
山里や水暖き冬近う 野村喜舟 小石川
山里や水鶏啼き罷んで犬遠し 水鶏 正岡子規
山里や清水うれしき理髪床 尾崎紅葉
山里や火の見の足を百合の中 野村喜舟
山里や烟り斜めにうすもみぢ 闌更
山里や男も遊ぶ針供養 村上鬼城
山里や秋を隣に麦をこぐ 秋近し 正岡子規
山里や端山の松に藤懸けて 尾崎迷堂 孤輪
山里や筍に飽く麦の飯 筍 正岡子規
山里や箕に干す粟の二三升 粟 正岡子規
山里や簀の子の下のかぎ蕨 蕨 正岡子規
山里や米つく音の霧の中 霧 正岡子規
山里や花の盛りの轆轤ひき 野村喜舟 小石川
山里や若水くみの遠あるき 井月の句集 井上井月
山里や草を刈らずて萱を刈る 佐藤紅緑
山里や蚊遣の上を時鳥 時鳥 正岡子規
山里や軒の菖蒲に雲ゆきゝ 高浜虚子
山里や雪の中より蕗のとう 蕗の薹 正岡子規
山里や雪積む下の水の音 雪 正岡子規
山里や雪間を急ぐ菜の青み 井上井月
山里や頭巾とるべき人もなし 観水 選集古今句集
山里や馬槽にきじの歩みよる 加舎白雄
山里ゆく生ある自転車もつれて 阿部完市 春日朝歌
山里を出ぬやまじめな郭公 宮川(由)-政田妹 俳諧撰集玉藻集
山里を行きつゝ菊の香に触れぬ 石橋辰之助 山暦
山里を雪のうかがふ翁の忌 矢島渚男 延年
年くるゝ山里寒し塩肴 成美
手習本春雨けむる山里と 田中冬二 俳句拾遺
星合や山里持ちし霧のひま 其角
残る火燵まだ山里はこころかな 上島鬼貫
水音も鮎さびけりな山里は 服部嵐雪
氷室山里葱の葉白し日かげ草 榎本其角
熊穴を出る山里に万の影 小林みさ
獅子舞つて山里の花綻ばす 小松原みや子
盆がらを追ひやる掛け声山里に 高澤良一 宿好
真田砦ありし山里秋蚕飼ふ 伊東宏晃
花なれやこの山里も訪はれぬる 尾崎紅葉
蝶の来て此山里を春辺かな 跨仙
重陽の山里にして不二立てり 水原秋櫻子
風吹て山里春をしらぬ哉 初春 正岡子規
鳴神の鳴る山里や鯉幟 秀斎
●山騒ぐ
密造酒かくされ芒山騒ぐ 萩原麦草 麦嵐
山に冬来ると騒げる寺烏 高木晴子 花 季
春暁を騒ぐ山の鳥海の鳥 福田蓼汀 秋風挽歌
朴落葉山を騒がせはじめたる 山口啓介
楢山の騒ぎさながら寒鴉 杉 良介
立冬の山の樹騒ぐ音眼にす 臼田亞浪 定本亜浪句集
花の山騒がしにくる目白かな 高澤良一 素抱
●山仕事
外湯出てすぐに師走の山仕事 大島民郎
山仕事山吹がくれして居りぬ 高浜虚子
山仕事明の方より始めけり 望月武司
数へ日の白雲とゐて山仕事 友岡子郷 春隣
梅雨に入るより途絶えたる山仕事 小南精一郎
蜩や今日もをはらぬ山仕事 石鼎
雷鴫足を取られる山仕事 篠田悦子
鮎の瀬を教へて戻る山仕事 小早川恒
鳥渡り去るや蜜柑の山仕事 癖三酔句集 岡本癖三酔
●山静か
あけぼのや山静かなる鷽の琴 高田蝶衣
くたびれし静かな面テ夏の山 阿部みどり女
二人静 仏の山のふところの 西浦和子
何時来ても静寂の山芳次郎忌 甲斐羊子
全山の枯木となりし静かかな 高濱年尾 年尾句集
十月が来てしばらくは山静か 石井 浩
厳冬の静寂父のような山 楠本義雄
咳止めば山のやうなる静寂かな 江崎紀和子
囮すでに掛けての樹々や山静か 松根東洋城
夏木立映して山湖静止せり 直原玉青
太陽の静かな力山葡萄 金子秀子
山しづか涸滝も亦静なる 西岡つい女
山の子が提げて静かな寒の鯉 稲垣晩童
山は覚めて寝てゐる貨車を静かに看る 藤後左右
山ひだ日かげりの移るばかり湖も峰も静に 梅林句屑 喜谷六花
山よりも静か母の死に顔 橋本夢道 無類の妻
山山の静止する日や赤ん坊 津沢マサ子 楕円の昼
山笑ふ静けさに人働けり 玉木春夫
山静か廃墟に芥子の花二つ 今泉貞鳳
山鳴に馴れし静けさ蟻地獄 隈元いさむ
山鴉鳴く静けさを機始 水原秋桜子
干草の山が静まるかくれんぼ 高浜虚子「虚子全集」
愛欲に斑雪の山の遠静か 三谷昭 獣身
懸巣来て山は静寂保たれず 桔梗きちかう
戎壇院辺りは静かお山焼 橋本道子
数へ日の静かな山へ入りけり 小島健 木の実
日を吸へる吾亦紅あり山静か 清原枴童(かいどう)(1882-1948)
朝寒や山と静けきわが心 東洋城千句
朴の葉の落ちて重なる山静か 松本たかし
楢山時雨藪鳥なほも静まらで 臼田亞浪 定本亜浪句集
汽車過ぎて山静かなり夏木立 夏木立 正岡子規
火の山の静かなる日の田植かな 青木重行
火を噴きしあと静かなり山の秋 橋本鶏二
白百合や蛇逃げて山静かなり 百合 正岡子規
禁猟区静かに山の眠りおり 田辺たか
秋の山静かに雲の通りけり 夏目漱石 明治二十八年
秋晴の山横たはり静かなり 上村占魚 球磨
耳鳴りのするほど静か枯木山 鈴木みよ
花の山蔵王権現静まりぬ 花 正岡子規
草の尖きに蝶居て山の静かな日 合浦句集満潮 原田合浦
蛇逃げて山静かなり百合の花 百合 正岡子規
霧こむる四山や湖舟静かなり 西島麥南 金剛纂
静かさやをしの来てゐる山の池 正岡子規
静かなる山の御堂の花まつり 高木晴子 晴居
静さやゆふ山まつの若みどり 闌更
静寂音あおいあおい揚羽や山や 金子皆子
鳥一声山静にして椿落つ 尾崎紅葉
鳥礫また飛び枯木山静か 加古宗也
鳥鳴いて山静かなり夏蕨 子規句集 虚子・碧梧桐選
●山下風
●山下水
山女魚釣る朴の下水雲こめぬ 佐野青陽人 天の川
●山清水
かち栗に喉の乾きや山清水 清水 正岡子規
くちすすぎ月光残す山清水 柴田白葉女 花寂び 以後
ことによると心中たのし春の山 清水浩
しろがねの指の間を洩れ山清水 檜紀代
とんねるや笠にしたゝる山清水 清水 正岡子規
ねらはれし魚の命や山清水 清水 正岡子規
のむよりもこぼるが早し山清水 辻桃子(童子)
ウェストン碑礎石をめぐる山清水 岡部義男
一つまみほどの青山と見つつ来てかげ深くなる天の香具山 清水房雄
住かねて道まで出る歟山清水 服部嵐雪
円空(えんく)さんにどすんどすんと山清水 中戸川朝人 星辰
十本の指しみじみと山清水 原石鼎
山清水かき濁らせて旅人われ 相馬 黄枝
山清水ごくごく飲めば杉の青 二串康雄
山清水ささやくまゝに聞入りぬ 松本たかし
山清水さびしき指の揃ひをり 鎌倉佐弓 潤
山清水掌にあふれつつふくみけり 上野泰 佐介
山清水汚せしことのすぐに澄む 橋本多佳子
山清水汲みに木花咲耶姫 上野澄江
山清水注ぎて吹けり習ひ笛 宮田富昭
山清水石鹸もて寺僮何洗ふ 楠目橙黄子 橙圃
山清水翁の杖を拝しけり 佐藤美恵子
山清水豆腐の角を削りけり 林原耒井 蜩
山清水靭左りへまはりけり 雁宕
山清水願かけの水二掬ひ 藤井光(青樹)
山清水魂冷ゆるまで掬びけり 臼田亜浪
山清水鳴れり朽葉を潜り出て 高澤良一 鳩信
戸を閉めて人すぐ座る山清水 田中裕明 山信
手をかりて腰をあげたる花の山 清水基吉
放牧の牛の喉鳴る山清水 大山ク二子
法の山清水を鳥と頒ちあふ 小川かん紅
湯治場のとば口に湧く山清水 高澤良一 素抱
湯治場の天下一品山清水 高澤良一 寒暑
湯治宿つと山清水引き込んで 高澤良一 素抱
無住小屋に道標あり山清水 大谷恵教
焼鏝の煙があまし冬の山 清水刀谷
目ではかる水の冷たさ山清水 尾崎和子
筒鳥や桶より溢れ山清水 早川とも子
老鴬や歯朶に湧き澄む山清水 碧雲居句集 大谷碧雲居
蕗の葉に汲む白神の山清水 小林洋子
裏口に迫りて盆の月の山 清水盛一
貧しき死診し手をひたす山清水 相馬遷子 雪嶺
銭亀や青砥もしらぬ山清水 蕪村
開発の狼藉すすむ紅葉山 清水晴子
青竹の樋の山清水寒も鳴る 及川貞 榧の實
顔ふつて水のうまさの山清水 河野南畦 『空の貌』
馬と蚕を飼ふ厨暗くて山清水 森 澄雄
鶺鴒の黄の滴れり山清水 堀口星眠
●山澄む
どんぐりの山に声澄む小家族 福永耕二
ボタ山が坑夫の墓標一灯澄む 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
七面山聳ゆ一夜に澄める水 加賀美子麓
三光鳥谷戸の山山鳴き澄ます 高橋芳夫
人の世の海山澄めと青葉木菟 多田裕計
人入りて人の耳澄む冬木山 広瀬直人
凧澄むや天の香具山低くあり 柊 愁生
塔やけふ秋澄みたりし羽黒山 鷲谷七菜子
大年の山の日ぐれとなりにけり寒雷一つ澄みて霽れたり 穂積忠
大木の裏に山澄み閑古鳥 飯田龍太
子の目澄む背後の山が刃となりて 大井雅人 龍岡村
山の空夕澄む晩稲刈り急ぐ 金子伊昔紅
山の端を揺れ出でし月澄みにけり 野村喜舟 小石川
山の色空の色澄む暮石の忌 茨木和生 往馬
山は流れの澄みの迅しも霽り星 林原耒井 蜩
山めぐらし秋の日輪しかと澄む 柴田白葉女 花寂び 以後
山城の山あきらかに秋澄めり 上野青逸
山気澄みただよひそめし茸の香 松下信子
山法師人の呼ぶ声澄みてをり 高橋良子
山清水汚せしことのすぐに澄む 橋本多佳子
山湖澄み石投ぐことに怖れあり 大橋敦子
山湖澄み空と檀の実と映る 岡田日郎
山澄みて巨峰に色の来るころか 日原傳
山澄みて神見そなはす広田かな 阿部みどり女 月下美人
山火曇り我が居る檜原澄み徹る 林原耒井 蜩
山畑に麻の花澄む颱風季 有働亨 汐路
山眠る若き木地師の眼澄み 館岡沙緻
山空をひとすぢに行く大鷲の翼の張りの澄みも澄みたる 川田順
山茶花の散れば散るとて澄むばかり 林原耒井 蜩
山蜂の脚垂れ澄めり滝ひゞき 米沢吾亦紅 童顔
山雀のこゑ澄み透る女人みち 中村みづ穂
山鳩のかしこき眼秋家澄む 河野多希女
年の瀬や行くこともなき山の澄み 矢島渚男 天衣
梅鉢草點々山の池澄めり 及川貞 夕焼
清澄山の日向日陰に百千鳥 加藤とみを
澄む水に数ほど鳴かず山の鳥 斎藤玄 無畔
牡丹咲きめぐる山垣日に澄める 梅原黄鶴子
独楽澄むや山空たゞにうすみどり 村田翠雨
玻璃戸みな火の山据ゑて秋澄めり 野上水穂
男らに山の星澄み酒匂う 鈴木六林男
短日やこころ澄まねば山澄まず 龍太
秋天の端に置く山双耳澄む 百瀬美津
秋澄みて一連なりの山のいろ 高澤良一 寒暑
秋澄むや傾きざまに山の空 角川春樹
秋澄むや山を見回す人の眼も 大串 章
老鴬や歯朶に湧き澄む山清水 碧雲居句集 大谷碧雲居
葛の花淵のいろより山が澄み 佃藤尾
蕎麦刈や丈それぞれに山澄める 瀧澤宏司
足もとに梅雨の山湖のなぎさ澄む 皆吉爽雨 泉声
身のうちに山を澄ませて枯野ゆく 福田甲子雄
雪山に野鯉群れいて蜜の澄み 阿保恭子
風澄むや小松片照る山のかげ 龍之介
風花の山湖夕日の翼澄む 岡田日郎
高*はごやしののめ澄ます山かつら 味方蕪吟
鮎くだる山幾重にも澄みゐたる 龍太
●山田
ある夜月にげんげん見たる山田かな 原石鼎
かなかなと山田の水の冷たさと 香西照雄 対話
からうじて山田実りぬ落し水 几董
くたびれた音や山田の落水 落し水 正岡子規
たばこ干す山田の畔の夕日かな 其角
ぬり疇の光る山田や夕づく日 芦水
ねこ鳥の山田にうつるあられかな 水田正秀
ひとりゆく山田ざざめく蝗かな 中勘助
ほとゝぎす山田の土管尻さがり 廣江八重櫻
みちのくの山田の田螺日にまぶし 山口青邨
一枚も山田荒さずほととぎす 茨木和生 倭
一滴も水無き山田耕さる 右城暮石 上下
中々に刈らぬ山田や櫨紅葉 野村喜舟
丹の袖の山田僧都に逢ひにけり 芝不器男
二人して山田淋しう植ゑにけり 近藤浩一路 柿腸
二人植う山田二人のいま昼餉 皆吉爽雨 泉声
五六間に鳴子盡きたる山田哉 鳴子 正岡子規
五月雨や夜の山田の人の声 一茶 ■寛政年間
人まねの猿や落せし山田かな 西山泊雲 泊雲句集
仏舞果てて山田の遠蛙 小坂栄子
休耕の山田も僧都外しゐず 茨木和生 往馬
刈株や山田の鳴子倒れ伏す 寺田寅彦
土筆生ひ山田は畦の短かさよ 水原秋桜子
天竜川へ奔る山田の落し水 芋川幸子
女出て山田の稲を刈りゐたり 綾子
寒天を干して人影なき山田 大橋櫻坡子 雨月
小瑠璃鳴く山田の苗は水に立ち 岩村牙童
山刀伐の山田ひそかに蝌蚪育つ 鈴木精一郎
山田とて稲を刈り干す岩多し 秋櫻子
山田なる一つ家の子の囮かな 飯田蛇笏 霊芝
山田守る案山子も兵児(へこ)の隼人かな 虚子(薩摩の国に入る)
山田守猿手の粟の鳴子かな しげ 俳諧撰集玉藻集
山田鋤く馬のましろし蝉の声 金尾梅の門 古志の歌
引く人もなくて山田の鳴子かな 高浜虚子
或夜月にげん~見たる山田かな 原石鼎
日ぐらしや山田を落る水の音 諷竹
早乙女の葛葉ふみこむ山田かな 加舎白雄
春のてふ山田へ水の行とゞく 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
春の蝶山田へ水の行きとどく 一茶
春遅し山田につゞく萸ばやし 井原西鶴
月下にて山田の案山子隙だらけ 高澤良一 寒暑
朝日さす山田は引板も霧じめり 高橋淡路女 梶の葉
末黒野に鴉の遊ぶ山田寺 吉原田鶴子
松風に蝌蚪生れたる山田かな 芝不器男
核も武器もない山田の蝌蚪群れ 切目とき
植ゑかけて捨てある山田あはれなり 高浜虚子
樵りにはあらざる山田植ゑにかな 尾崎迷堂 孤輪
段々の山田を下だる落し水 寺田寅彦
水張つて山田のにほふ姫蛍 渡辺立男
汽車行きて氷る山田を煙らしむ 山口波津女 良人
浮草やしかも山田の落し水 水田正秀
牛歸るあとの山田や鹿の聲 鹿 正岡子規
猪の守つらき山田と代を掻く 茨木和生 三輪崎
田螺鳴いて日高くなりし山田かな 前田正治
痩蛭の杭に吸ひつき山田哉 田口酔月
眉太に丹波山田の案山子かな 大石悦子 群萌
看護婦の父でありたり山田守 瀧澤伊代次
睡り足り梅雨の山田に戸をひらく 石橋辰之助 山暦
穂に出て山田に交る薄かな 二貞
空稲架に日の遊びゐる山田かな 大石悦子 群萌
笹鳴や山田いつより捨てられし 岡本まち子
紫苑高し山田につづく製材所 渡邊千枝子
缺徳利字山田の案山子哉 案山子 正岡子規
群鶴の影舞ひ移る山田かな 杉田久女
腰籠のゆるるにぎはひ山田植う 皆吉爽雨
臨終へ急かす山田の夕蛙 和田伴義
葭切や山田植ゑをる雲の中 金尾梅の門 古志の歌
虫のつきて目もあてられぬ山田哉 寺田寅彦
蛇多き山田の稲や刈らである 虚子
裏西の丹後山田の駅に着く 武田霞亭
雨足りて山田息づく花辛夷 相馬遷子 山河
雪汁に浸かる山田も校庭も 矢野典子
鹿小屋や花は山田の鵺(ぬえ)の声 水田正秀
鼓笛隊山田をすぎつ稲の出来 飯田蛇笏 椿花集
●山祇(やまつみ)
山祇の出入りの扉あり雪囲 前田普羅
山祇の土になれゆく小楢の実 佐藤鬼房
山祇の金剛童子照紅葉 西崎白星
山祇の雪に踏ん張る紅鳥居 成田千空 地霊
山祇は稲穂を愛でて帰りけり 宮川三保子
山祇へ田みちづたひや弓はじめ 飯田蛇笏 春蘭
山祇も一人静も雨の中 木村蕪城
幣をただ替えて山祇初詣 皆吉爽雨
大山祇(やまつみ)の放つ金の蛾薪能 野沢節子 八朶集以後
やまつみの紅葉尽しにゑひにけり 矢島渚男 木蘭
●山並
かくれなき四囲の山並虫送り 杉本幸子
下北の山並ひくし鳥雲に 畑中とほる
北窓を塞ぎし山並遠くせり 星野 椿
屋根替や比良の山並跨ぎつつ 吉村玲子
山並にそふ朝茜鳥渡る 坂井多嘉
山並のその頃となり下り簗 浅賀渡洋
山並の押し寄せてくる扇かな 上田操
山並の雪越えて来て旅の僧 高濱年尾 年尾句集
山並ぶことに武尊の青霞 岡田日郎
山並めし伊豆や七草七ツ瀧 矢島渚男 延年
山並を引き寄せて梅雨明けにけり 三村純也「蜃気楼」
師弟句碑佐久の山並み眠りけり 中西永年
帰雁見えなくなりまた青空また山並 安斎櫻[カイ]子
新緑の山並鏡なせりけり 原裕 『王城句帖』
春駒やぽこんぽこんと山並び 中村清子
檐燕眠り山並みさだかなり 林原耒井 蜩
残雪の山並映す大正池 松橋昭夫
涅槃なり狐色して山並び 村越化石 山國抄
秋の暮力のかぎり山並ぶ 岡田日郎
色さめし針山並ぶ供養かな 高浜虚子
蓮枯れて山並北をふさぎけり 石原義輝
見なれたる山並にして鳥渡る 高濱年尾
近々と山並びぬ梅雨はじまりぬ 及川貞 夕焼
銅鐸の出でし山並紅葉映ゆ 坪内寂山
青春なかば雪山並ぶ暗さ知りぬ 岡田日郎
●山鳴り
すこし日が照り元日の山鳴りとなれり 栗林一石路
万緑や火の山鳴りが押しわたる 中條明
三光鳥谷戸の山山鳴き澄ます 高橋芳夫
元日や一系の天子不二の山 鳴雪俳句鈔 内藤鳴雪
山鳴と噴煙とある神の留守 西村数
山鳴に馴れし静けさ蟻地獄 隈元いさむ
山鳴りが烏貝ほど雫せり 栗林千津
山鳴りに追はれて下る芒かな 吉武月二郎句集
山鳴りのあとゆつくりと山ねむる 立原修志
山鳴りのゆゆしき裾の代田掻 小西 藤満
山鳴りの他は聞えぬ干菜汁 小林輝子
山鳴りの山をはなれず春の霜 菅原師竹句集
山鳴りの柞の中に癪の神 古舘曹人 樹下石上
山鳴りの浅間のもとの花野かな 阿部みどり女
山鳴りの草鞋にひゞく枯野かな 柑子句集 籾山柑子
山鳴りも二日を経たり初不動 飯野燦雨
山鳴りを常とす村の松飾 大岳水一路
山鳴るとうちみる妻や橇暗し 飯田蛇笏 山廬集
栂風も添ふ山鳴りや霧の中 臼田亞浪 定本亜浪句集
海鳴につぐ山鳴や夜半の秋 米谷静二
滅罪に来しか山鳴り青青と 和田悟朗
火吹竹吹きをれば鳴く雀の子 柑子句集 籾山柑子
葛城の山鳴り夏の明け易く 横山白虹
葛城の山鳴り月も扉にさゝず 横山白虹
車蔵ふ一夜山鳴り聞きしより 桃谷良一郎
鉦叩山鳴熄めばまた叩く 米谷静二
○山眠る
●山の色
山色を尽しきるとき冬ざるる 稲畑汀子
蝉稚し山色翅にみなぎらせ 金子 潮
四山色枯れてはやなき燕かな 雑草 長谷川零餘子
こころしづかに秋冷の山の色 石嶌岳
この山の彩見えますか墓洗ふ 前岡茂子
ちぎり絵や粧ふ山の色貼りて 近藤伸子
ふり向きて狐まぎるる山の色 堤 京子
凩の一夜に山の色奪ふ 宇川紫鳥
初釜の炭火をわたる山の色 森句城子
初鮒や昨日の雨の山の色 視山
密教の山の彩とし柿熟るる 横山節子
山の色けふむらさきや日向ぼこ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
山の色澄みきつてまつすぐな煙 山頭火
山の色空の色澄む暮石の忌 茨木和生 往馬
山の色釣り上げし鮎に動くかな 原石鼎「花影」
日当りてきし枯山の色ゆるぶ 清崎敏郎
水のんでのんどをとほる山の色 岡井省二
熊笹に一雨ありし山の色 高澤良一 素抱
草餅の故山の色にふくれけり 平賀芙人
蕨見つけ初む山の色眼に馴れて 津田清子
路に買ふ秋果や山の色異にし 長谷川かな女 花寂び
鐘を鋳しあと粧ひぬ山の色 尾崎紅葉
露涼し幾重離りて山の色 松村蒼石 露
●山の湖
きつつきや新秋白き山の湖 千代田葛彦 旅人木
さみだるゝ鵜に伴ありぬ山の湖 渡辺水巴 白日
五月雨や蕗浸しある山の湖 渡邊水巴
初秋の雲を宿せる山の湖 加藤耕子
名月や産湯のごとき山の湖 田中清之
寒風に日の遠ざかる山の湖 石井 保
山の湖かたくりも花濃かりけり 星野麥丘人
山の湖に浮びそめたるヨットかな 高浜虚子
山の湖のかた昃りしてかいつぶり 吉野北斗星
山の湖の花火に更けてゆくばかり 高浜年尾
山の湖へほたるぶくろの露ぐむ径 古沢太穂 古沢太穂句集
山の湖や秋冷のつきまとひゐし 新田充穂
山の湖を灯のふちどりて夜の秋 柏翠
山の湖仮装の魚のやさしさよ 宇多喜代子
山の湖満月箔を伸ばしけり 大串章(1937-)
慈悲心鳥霧吹きかはる山の湖 築城京
木枯やつひにぞ動く山の湖 尾崎迷堂 孤輪
流灯のざわめきゐたり山の湖 田川江道
深雪晴小鴨花なす山の湖 笠井きよ
火の山の湖に泳ぎて波たてず 緒方敬
焚火して山の湖夜の秋 下村梅子
百千鳥照り昃りして山の湖 桑原晴子
秋晴るる山の湖縁暗く 上村占魚 球磨
稲妻の四方に頻りや山の湖 松本たかし
稲妻の突き刺りては山の湖 大橋櫻坡子
立秋の眼鏡ひたすや山の湖 佐野青陽人 天の川
籠にあふれ公魚山の湖より来 山口青邨
老鶯や夕靄上る山の湖 菅原師竹句集
花サビタ小雨にけぶる山の湖 青木起美子
藍色に溺れ秋意の山の湖 河野南畦 湖の森
車前草の花のふるへる山の湖 大坪景章
長閑すぎて虚雷きくなり山の湖 大須賀乙字
あさあけや鴛鴦のみ渡り来し山湖 松村蒼石 雁
そぞろ寒山湖すれすれ雲覆ふ 岡田日郎
まひまひに山湖の広さかぎりなし 西田浩洋
スノードロップ山湖の空気透明にて 有働亨 汐路
一本のバナナ分け喰ふ山湖かな 尾崎木星
冬木風山湖の蒼さ極まりぬ 金尾梅の門 古志の歌
冷やかな程なつかしき山湖かな 須藤常央
凍て蝶のきらめき渡る山湖かな 中川宋淵
古雛とほき山湖の濃むらさき 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
噴煙の延び来る山湖鳥渡る 阿部 幽水
夏木立映して山湖静止せり 直原玉青
夫婦山湖をへだてて閑古鳥 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
山湖ただ月天心の閑けさに 村田脩
山湖ひたす星影見ても秋来たり 乙字俳句集 大須賀乙字
山湖今篠突く雨や未草 松尾白汀
山湖対岸秋冷の灯の一つのみ 村田脩
山湖澄み石投ぐことに怖れあり 大橋敦子
山湖澄み空と檀の実と映る 岡田日郎
岩燕明日なきごとく翔ぶ山湖 谷口和子
敦盛草山湖の霧の来てつつむ 平賀扶人「風知草」
新月の山湖に育ちつつありし 田村おさむ
新涼や山湖の色の靄離れ 乙字俳句集 大須賀乙字
星飛んで山湖の芯を波立たす 松村多美
権現の杜に雉鳴き山湖暮れ 阪井 節子
父と子へ紫紺の山湖ラムネ抜く 佐川広治「光体」
白地着て山湖の魚にならばやと 野澤節子 花 季
竜天に昇るに宜し山湖霽る 林翔
紅葉かつ散る 山湖の就眠儀式 いま 伊丹三樹彦 樹冠
胸に曳く山湖の暗さ通し鴨 加藤耕子
舟底型の道は山湖へみすぢ蝶 平井さち子 完流
花かんばさらさら漣立つ山湖 角田双柿
草の丈つくして山湖避暑期果つ 山本 雅子
草原も山湖も梅雨のふところに 藤浦昭代
草蜉蝣真昼の山湖呟ける 望月紫晃
蘆枯れてひと夜風鳴る山湖かな 紅林みのる
訛が沈む山湖萍泣きぼくろ 小林まさる
足もとに梅雨の山湖のなぎさ澄む 皆吉爽雨 泉声
遠吠えの山湖を渡る薬喰 関森勝夫
雁渡し山湖は水をあふれしめ 奥井須美江
雉子笛に山湖の波は盲縞 北野民夫
雪解水注ぎ山湖の色となる 山田弘子 こぶし坂
雲は貴婦人山湖の冬は終りけり 有働亨 汐路
風花の山湖夕日の翼澄む 岡田日郎
鰯雲ひろげて無垢の山湖照る つじ加代子
鳥渡る山湖の張りは珠をなし 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
鴨引いて山湖は藍をふかめけり 福原ふじこ
●山の音
あちこちに山の音せり耳冷ゆる 仙田洋子 雲は王冠
うすらひや絹織るやうな山の音 渡辺恭子
うたせ湯に紅葉且つ散る山の音 松岡也寸志
えご散るや咲くやしづかに山の音 渡辺桂子
かたかごの斜面を満たす山の音 黒田杏子 水の扉
きしきしと雪踏み山の音起す 高橋沢子
きつつきや海よりさびし山の音 宇咲冬男
ささ鳴の後遥かより山の音 篠田悌二郎
ふたところより山の音今朝の秋 岡井省二
めつぶりて山の音きく屠蘇の酔 大東二三枝
をりふしの山の音なり青簾 神尾久美子 桐の木
ケルン積む手にひびきくる山の音 石原八束 『風信帖』
一枚の木の葉拾へば山の音 稲畑汀子
一椀に鎮まる茗荷山の音 鈴木鷹夫 渚通り
丹前の袂が重し山の音 北見さとる
五月雨や山に籠れる山の音 福田和子
人日やうしろにばかり山の音 細川加賀 『傷痕』
冬うらら川音となる山の音 中里武子
冬も湧く泉を山の音としぬ 鷹羽狩行
冬兆す何か必死に山の音 加藤楸邨
冬眠の寝息こぞるか山の音 石川恵美子
初夢に扉あく音山の音 永島靖子
初蝶に子を攫はれし山の音 石寒太 あるき神
初霜にとぢこめられし山の音 吉年虹二
初音売来てより山の音すなり 中村菊一郎
地虫出づ日の山の音海の音 大峯あきら 鳥道
夏花摘あるけばうごく山の音 宇佐美魚目「秋収冬蔵」
夕市に山の音する歯朶を購ふ 平野冴子
外套の肩尖るとき山の音 草間時彦 櫻山
夜々冷えて柿甘くなる山の音 野沢節子
寂鮎やどつと日暮るる山の音 草間時彦 櫻山
寒蘚や餓鬼が水くむ山の音 古舘曹人 樹下石上
寝正月川音そして山の音 戸塚時不知
屋根裏で飼う結氷の山の音 対馬康子 愛国
山の音うしろに聞きし寒さかな 百瀬美津
山の音すひこまれたる夜の新樹 高木晴子 花 季
山の音ともなまはげの叫びとも 井上宮子
山の音一つづつ消え雪となる 古賀まり子 緑の野
山の音人等にかよひ里神楽 田室澄江
山の音封じ込めたる大氷柱 浅倉寒月
山の音山の香春の来つつあり 黒木野雨
山の音山へかへりて冬に入る 石嶌岳
山の音明るくなりぬ櫨紅葉 古賀まり子 緑の野以後
山の音時雨わたると思ひをり 森 澄雄
山の音来てゐる秋の簾かな 小林康治 『華髪』
山の音海の音来る落葉かな 徳永山冬子
山の音深雪にしづむ永平寺 石原八束 『操守』
山の音聞きたくて来し山毛欅若葉 多田薙石
山の音聴けよと桑のくくらるる 相葉有流
山の音聴こゆる胡桃割りにけり 老川敏彦
山女魚飼ふ水に沈みて山の音 山口草堂
山帰来の花の終んぬる山の音 岸田稚魚
山繭を振ればたてたる山の音 山崎みのる
山裏に山の音せり鳥兜 成沢たけし
待宵や芒ばかりの山の音 岡田貞峰
息しづかに山の音きく干菜風呂 日美井雪
星飛びしあと山の音川の音 松村多美
春一番山を過ぎゆく山の音 藤原滋章
春寒し山の音聴く鯉と居て 渡辺恭子
春蘭や山の音とは風の音 八染藍子
木枯しのあと裏声の山の音 倉橋羊村
木枯のはじまる山の音といふ 松本陽平
木苺やまたもどり来る山の音 丹治道子
枯山の音のすべてを吾がつくる 島野国夫
橡餅や山を出でゆく山の音 古賀まり子
比良八荒波濤にまさる山の音 松本可南
海の音山の音みな春しぐれ 中川宋淵
海山の音ふうりんを高く吊る 大串章 百鳥
滝の音瀬の音いつか山の音 北村 寛
父祖の地の遅日に絡む山の音 水治悦子
田楽や疾風がゆする山の音 森澄雄
石鼎忌修す水音山の音 原和子
碧落の牡丹の中に山の音 古舘曹人 砂の音
秋たつときけばきかるる山の音 飯田蛇笏 椿花集
紅梅を氷結びに山の音 中戸川朝人 尋声
肩越しに山の音くる零余子かな 藤木倶子
舞茸のすさびやすきに山の音 内田美紗 魚眼石
花の世の花散る山の音すなり(三月十一日中川宋渕禅師遷化四月十一日本葬に参列) 石原八束 『雁の目隠し』
若葉ばれ山の音野にのびてくる 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
菊なます眉を逃げゆく山の音 角川源義 『神々の宴』
蜂死して地震過ぎゆく山の音 対馬康子 吾亦紅
蜂鳥の翼のうなり山の音 富重かずま
螢火や曼陀羅闇の山の音 石原八束 『風霜記』
西行忌林中に聴く山の音 吉野義子
踏む草に山の音ある鰯雲 赤石明子
輪飾に山の音ため酒造る 瓜生和子
邯鄲の絶えし夜より山の音 澤田 緑生
障子洗ふみちのく人に山の音 村山古郷
飲食を節して寒の山の音 細川加賀 生身魂
黒羊羹照葉を敷けり山の音 中戸川朝人 尋声
足萎に山音ばかり菌生え 萩原麦草 麦嵐
山音の吹き通りては冬の梅 斎藤玄 雁道
筍山音といふ音耳に入る 脇本星浪
●山の気
山の気や秋蚕もわれも健康に 阿部みどり女
寝言いかに花待山の気草臥(きくたびれ) 宗也 選集「板東太郎」
あけがたの山気すなはち冬の霧 長沼三津夫
うかと穴出でたる蟇の山気かな 小島健 木の実
ぞく~と山気背襲ふうるし掻 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
てのひらに滲み入る山気一位の実 井沢正江 湖の伝説
むらさきの山気そのまま沢桔梗 渡辺恭子
一の鳥居くぐれば山気登高す 穂坂日出子
反閇にゆらぐ山気や花神楽 白井爽風
夏深く山気歯にしむ小径かな 室生犀星 犀星發句集
夕風の山気かなかなおのづから 大久保橙青
定家かづら山気少しく動きけり 永方裕子
山気やや渓ほとばしるやま桜 長谷川櫂 古志
山気凝りさゆらぎもなき花の夜 稲岡長
山気凝りほたる袋のうなだれし 稲岡長
山気十分吸ひし鶯ききにけり 角光雄
山気吸ふ室生の深き木下闇 稲畑汀子
山気夢を醒せば蟆の座を這へる 乙字俳句集 大須賀乙字
山気当つひろげ通しに鵜の濡れ羽 加藤耕子
山気澄みただよひそめし茸の香 松下信子
山気降り通草に色を紡ぎ足す 加藤耕子
新たなる山気吸ひ入れ謡初 阿部月山子
暁の山気身に沁む夏書かな 佐藤紅緑
梨汁のねばりや山気ただならず 栗生純夫 科野路
椿の朱は 観音の唇 山気満つ 伊丹公子 山珊瑚
水引の紅の一点づつ山気 山田弘子 こぶし坂
汚れなき緑の山気摩耶詣 桑田永子
泥湯温泉山気令法を引き締むる 高澤良一 素抱
湯ざめしてにはかの山気かむりけり 上田五千石
滴りのひとつ一つの山気かな 山口草堂
熊穴に入りたる山気顔洗ふ 加藤彦次郎
白扇を用ひて山気そこなはず 上田五千石 琥珀
神南備のにはかに山気玉霰 斎藤梅子
立ちのぼる春の山気や一位谷 能村登四郎
薄紅葉いま安達太良の山気かな 雨宮きぬよ
蛇笏忌の山気つらぬく鵙の声 小倉英男
走馬燈軒の深きに山気満ち 小林紀代子
達磨忌の山気せまりし結跏趺坐 市堀玉宗
●山の子
あけびの木花咲く山の子愛馬進軍歌 安斎櫻[カイ]子
うら山の子狐鳴ける干菜風呂 内田 雅子
この秋も行くと山の子に積むケルン 福田蓼汀
すこやかに山の子酔へる榾火かな 飯田蛇笏 霊芝
めはじきや山の子花となり嫁ぐ 市村究一郎
夏深しバット素振りの山の子に 飯島晴子「儚々」
山の子が両手に握る初蕨 横尾孝子
山の子が啖べてにほはす柚の実かな 飯田蛇笏 春蘭
山の子が提げて静かな寒の鯉 稲垣晩童
山の子が独楽をつくるよ冬が来る 橋本多佳子
山の子が盆過ぎし空眺めゐる 林原耒井 蜩
山の子が荷台にあふれ初笑 田島和生
山の子が荷物持ち呉れ萩がくれ 阿部みどり女 笹鳴
山の子が見せてくれたる花うぐひ 小島健 木の実
山の子が雪に筋つけ遊びゐし 長谷川双魚 『ひとつとや』
山の子とひとつ灯にある夜は長し 木村蕪城 一位
山の子と繭玉吊りて教師なり 和田和子
山の子と馬の仔遊ぶ手鞠花 花村愛子
山の子に初花といふ山葵かな 萩原麦草 麦嵐
山の子に夜学教へて住みつきぬ 木村蕪城 一位
山の子に待たれて橡の実の落つる 水田のぶほ
山の子に星もキャベツも蹴れとばかり 篠田悦子
山の子に樗の花の小学校 細川加賀 生身魂
山の子に獅子の遠笛やるせなや 長谷川素逝
山の子に筍堀りと言う授業 三浦恒子
山の子に翅きしきしと夏の蝶 秋元不死男
山の子のいつもひとりで雨蛙 中村汀女
山の子のひとり遊びや甲虫 原勲
山の子のままごと椎の実を並べ 松井貴子
山の子のヴアヰオリン蛇眠りけり 萩原麦草 麦嵐
山の子の一里鳩吹く下校かな 佐佐木としまさ
山の子の丁寧に掘る汐干狩 小林 武
山の子の乗りて洗へる障子かな 河野静雲 閻魔
山の子の井筒にあそぶ雪解かな 佐々木有風
山の子の制服の紺冬苺 黒川礼子
山の子の声みどりなる夏隣 小坂優美子
山の子の夏沸瘡白粉はたきたる 滝沢伊代次「鉄砲蟲」
山の子の大き長靴稲運ぶ 井上久枝
山の子の径に出てゐる幟かな 米沢吾亦紅 童顔
山の子の応へすげなし初蕨 三田きえ子
山の子の持てる燈りや月の道 阿部みどり女 笹鳴
山の子の湯気の子となり雪遊び 鈴木酔子
山の子の猿にも似て通草とる 大橋敦子 手 鞠
山の子の目鼻涼しき踊かな 橋本榮治 麦生
山の子の羽子をつきゐる独りかな 由水しげる
山の子の脱兎のごとし雑木の芽 永方裕子
山の子の遊び暮れたり花たばこ 小田切輝雄
山の子の遊んでゐたり朴の花 大石悦子 群萌
山の子の風切る遊び馬酔木咲く 橋本 榮治
山の子の風聴き分けぬ黄連雀 中西夕紀
山の子は山の入日に懐手 福田蓼汀 山火
山の子は桃にほはせて食ひけり 高橋馬相 秋山越
山の子は棒持ち歩き馬の市 中島畦雨
山の子は藪騒親し通草採り 米澤吾亦紅
山の子や羽子ついて空すぐ近し 大串章
山の子ら霧のプールに声をあぐ 石橋辰之助 山暦
山の子を従へ来たる漆掻き 萩原麦草 麦嵐
帰らざる山の子呼べば流れ星 福田蓼汀
正座して山の子が葺く花御堂 中村陽子
残雪を噛んで草つむ山の子よ 飯田蛇笏 山廬集
汽笛知らぬ山の子の村煙草干す 清水清山
炭山の子の別れにもらふ甲虫 小原良枝
玄圃梨くれて山の子もうゐない 山田弘子
瓜坊も来よ山の子の祭笛 永島靖子
町の子に山の子が取る通草かな 川口利夫
綿入や山祗祀る山の子ら 金尾梅の門 古志の歌
聡き耳持つ山の子の雪うさぎ 首藤基澄
草擦つてゆく山の子に祭来る 山上樹実雄
葉桜や山の子の髪揺れて止む 蓬田紀枝子
蔓梅擬山彦つれて山の子ら 古賀まり子 緑の野以後
騒乱に山の子混じる生きる山桜 阿部完市 春日朝歌
●山の端
きりぎりすわが庭の端は山の端 村越化石 山國抄
余花といふ消えゆくものを山の端に 大串章
名月や僅かの闇を山の端に 上島鬼貫
寒立や日輪山の端に赤し 三尾知水
山の端といふ短日のあるところ 稲畑汀子
山の端にかかる昼月猫目草 野口光江
山の端にころがる冬日忌を修す 岸田稚魚 筍流し
山の端にちがふ闇ある牡丹雪 平木智恵子
山の端にのこりしひかり瓜の馬 藺草慶子
山の端に乙鳥をかへす入日かな 其角
山の端に冬三日月の金沈む 阿部みどり女
山の端に大粒の星稲の花 石田郷子
山の端に宝珠のまるき彼岸かな 青畝
山の端に庵せりけり薄紅葉 松本たかし
山の端に春月ひらく車井戸 柴田白葉女 花寂び 以後
山の端に朝日きらりと山葵沢 鈴木鷹夫 渚通り
山の端に椋鳥のあらしや二日月 兀子
山の端に残る暑さや大文字 宋屋
山の端に残照とどめ十三夜 岡田日郎
山の端に火星河原にきりぎりす 滝野美恵子
山の端に火種のごとき寒没り日 久保田愛子
山の端に見えざる海の夕焼雲 水原秋櫻子
山の端に遊び雲あり雛飾る 三井寛子
山の端に雪とどこほる実千両 澤村昭代
山の端のありしあたりも春の闇 八木林之介 青霞集
山の端のいちにち逃げるリラの花 齋藤愼爾
山の端のうす明りして菜種梅雨 山根貞子
山の端のかしこの花も見て行かん 比叡 野村泊月
山の端の吃音鴬懸命に 石塚友二
山の端の日の嬉しさや木綿とり 浪化
山の端の星の大粒狩の宿 戸口千枝子
山の端の月や鵜舟の片明り 井上井月
山の端の月より来たる兜虫 小野寺左右志良
山の端の薄紅二十六夜待 広瀬直人
山の端の逃げて春月ただよへる 川崎展宏
山の端の雪あはれなり大文字 服部嵐雪
山の端の雲の端のつくつく法師 佐土井智津子
山の端の雲入れ替り鳥帰る 浦山輝代
山の端の雲浮彫りに稲光 岩原玖々
山の端や二十六夜の月仏 野村喜舟
山の端や入日をつゝむ渡り鳥 浦四三子
山の端や廿六夜の月仏 野村喜舟
山の端や春遠からぬ細い月 尾崎迷堂 孤輪
山の端や海を離るゝ月も今 蕪村 秋之部 ■ 探題雨月
山の端をつたひて花を送りけり 綾部仁喜 寒木
山の端を揺れ出でし月澄みにけり 野村喜舟 小石川
山の端を没日が焦がす牡丹の芽 布施キヨ子
山の端を離れ満月すぐ凍る 吉野トシ子
年々やあの山の端の初紅葉 村野蓼水
待宵や山の端暮れて星一つ 高浜虚子
早春の凍て雲にして山の端に 高濱年尾
春霞いつからお前は山の端 大野三恵子
桐咲いて山の端を日の退りゆく 永方裕子
永き日の山の端にある笑ひかな 柿本多映
灯涼しく粋に山の端にはまだ日 京極杞陽 くくたち上巻
約すごと山の端に現れ初つばめ 村越化石 山國抄
素通りの山の端より芒抜く 対馬康子 愛国
花換祭山の端に日の射して 石村与志
花栗や少し明るむ山の端 小倉寿子
郭公や野へ岬なす山の端 三橋敏雄
酌つよし山の端にげて下戸の月 西望 選集「板東太郎」
酔ふ人に山の端逃ぐる餘寒かな 田中裕明 櫻姫譚
鍵盤に山の端が映え卒業歌 今瀬剛一
雨雲の山の端に巻く青林檎 古舘曹人 砂の音
雪山の端が輝き奴凧 阿部みどり女
雪解不二林道山の端をゆけば 大島民郎
雲ぎれの山の端うすく寒えくらし 養浩 芭蕉庵小文庫
きくとなく山端の風の春の蝉 飯田蛇笏 椿花集
山端は寒し素逝を顧みし 高浜虚子
山端や一もと櫻おそ櫻 泉鏡花
山端や桜の上の雪の峯 野村泊月
杜氏帰る山端に桑のかがやく日 福田甲子雄
武蔵野の月の山端や時鳥 大淀三千風(みちかぜ)(1639-1707)
●山の湯
かつこうや山の湯の薬師さんの白い障子 荻原井泉水
がまづみの色づく頃の山の湯に 高澤良一 素抱
けふ生きて山の湯にあり朝の蝉 畠山譲二
一身の凍をひつさげ山の湯へ 皆吉爽雨
今日生きて山の湯にあり朝の蝉 畠山譲二「朝の蝉」
優曇華や生涯山の湯の木地師 鈴木貞二
同齢か上か秋夜の山の湯に 大井雅人
天の川山の湯にして塩の味 中戸川朝人 尋声
山の湯が利いて快眠かじか宿 高澤良一 素抱
山の湯にあそびしあとの洗鯉 関戸靖子
山の湯にたまたま秋の螢かな 加藤三七子
山の湯に創洗ひしが鷹と化す 星野石雀
山の湯に吾と入替り大き灯蛾 八木林之介 青霞集
山の湯に早苗饗の衆朝より来 谷渡末枝
山の湯に母いざなえば合歓さかり 渕向正四郎
山の湯に浮くは農夫の盆の顔 瀧春一
山の湯に男が白し末枯れて 久保田博
山の湯に秋七草の咲き揃ふ 野原春醪
山の湯に精進落ちの秋遍路 福瀬伯彩
山の湯に膝抱き八十八夜かな 木内彰志
山の湯に蕗の雨降り母とゐる 松本澄江
山の湯に野点遊びの桃青忌 中山純子
山の湯に雪積む頭並べたる 矢島渚男
山の湯に青き蛾泛ぶ五月来ぬ 小林黒石礁
山の湯に首だし勤労感謝の日 鈴木一恵
山の湯に首立てひとり十二月 岡田日郎
山の湯に骨正月の老夫婦 長谷川浪々子
山の湯のあつきをかぶり風の盆 小島千架子
山の湯のなみなみとある寝釈迦かな 桂信子 樹影
山の湯のほがらほがらと啼く青鵐 臼田亜浪 旅人
山の湯のランプの燈火親しみぬ 富安風生
山の湯の一人声高あきざくら 西村良子
山の湯の二日眺めし青葉かな 永井静枝
山の湯の借り衣薄し十三夜 小林寂無
山の湯の大屋根の照り岩燕 三原清暁
山の湯の宿のロビーに絵蓬 酒井 武
山の湯の尾花しぐれに別るるか 西本一都 景色
山の湯の山菜づくし栃の花 村上克哉(笹)
山の湯の松葉しづりや春の雷 臼田亜浪
山の湯の枯木の宿に客ひとり 村山 郁
山の湯の田植終へたる顔ばかり 国安一帆
山の湯の花に来るなり人形座 穐好樹菟男
山の湯の蝌蚪日輪へ頭を揃ヘ 沢木欣一
山の湯やすぐ売切れし寒卵 首藤勝二
山の湯やだぶりだぶりと日の長き 一茶
山の湯やふと囁ける雪女郎 磯 直道
山の湯やまだ散る花のありにける 及川貞 榧の實
山の湯や吾が春愁の花昏れず 宇田零雨
山の湯や紅葉を払う脱衣籠 太田小夜子
山の湯や霧に蒸されて木々の苔 寺田寅彦
山の湯を出でて化粧ひてより秋思 斎藤杏子
山の湯を初湯にひとつ年とれり 宮津昭彦
山の湯泉や裸の上の天の川 子規句集 虚子・碧梧桐選
時雨来て山の湯宿の早や灯る 新井セツ
桐の花爆音山の湯にも飛び 石田波郷
相客もなき山の湯に走り蕎麦 金森柑子
紅すすきほどにあからみ山の湯に 高澤良一 素抱
紅葉狩り序でに山の湯も浴びて 高澤良一 寒暑
蒼朮を焚く山の湯の一夜かな 伊藤冨美子
行く春の山の湯糖尿病に効くと 岡田日郎
道道の稲の出来見て山の湯ヘ 上村占魚 球磨
郭公や山の湯壺に山の神 福田和子(梛)
銀河の夜雨の夜山の湯に二泊 岡田日郎
霧ふかし山の湯に親も子も裸 栗林一石路
鰯雲山の湯のやや熱かりし 大峯あきら 鳥道
せい出して山湯のけぶる野分哉 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
入道がふぐりをつかむ山湯かな 中勘助
眠る山湯の脈ここにみちびかれ 上田五千石 田園
隠れ棲むごとく山湯のきりぎりす 成澤たけし
風あらぶ臥待月の山湯かな 飯田蛇笏 春蘭
●山畑
ぬかばえに焦ぐ山畑の痛々し 松本成章
まだ打たぬ山畑つづき雉子歩む 伊藤京子
三人子はときのま黙し山畑に地蔵となりて並びゐるかも 前登志夫
人ひとり櫻ひともと山畑に 相馬遷子 雪嶺
冬搆ふや庭より道し山畑 尾崎迷堂 孤輪
凍てゆるぶ山畑の土うごくかも 飯田蛇笏 雪峡
小梨咲く山畑雉子の子が一列 矢島渚男 梟
山畑にこゑ撒きちらし盆の昼 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山畑にひとり鍬振る西行忌 長谷川史郊
山畑にむれたつ鶸を見て登る 水原秋櫻子
山畑に仲間顔するわらびかな 水上郁子
山畑に吉野人帰し花終る 亀井糸游
山畑に屈みて胸を暗うせり 竹本健司
山畑に庵結ぶや棕梠の花 大須賀乙字
山畑に引き傾けし鳴子かな 東國 泉天郎、岡田葵雨城(平安堂)編
山畑に打ちし蜥蜴に立つ男 原コウ子
山畑に月すさまじくなりにけり 石鼎
山畑に杉菜波打つ御師部落 菅原文子
山畑に火を放ちをる七日かな 大峯あきら 鳥道
山畑に縄張つてゐる残暑かな 大峯あきら
山畑に触れて雲ゆく韮の花 中戸川朝人 尋声
山畑に豆引くをとこゐて久し 稲垣きくの 牡 丹
山畑に豚猪の如くあさりけり 楠目橙黄子 橙圃
山畑に青み残して冬がまへ 向井去来
山畑に頬朱くして雉子走る 飯村周子
山畑に麻の花澄む颱風季 有働亨 汐路
山畑のいよいよ荒れて桑の花 青柳志解樹
山畑のすみれや背負う肥一桶 西東三鬼
山畑のでこぼこ径や杉の花 福川悠子
山畑のなぞへ暖かに打ちにけり 青峰集 島田青峰
山畑のひとつ家もする墓まゐり 飯田蛇笏 春蘭
山畑の冬菜の色も雨のなか 田沼文雄
山畑の境も失せて葛の花 平地美紗子
山畑の大根引やすぐ済みし 今井杏太郎
山畑の日ぐれを閉じるハーモニカ 穴井太 穴井太句集
山畑の濡れくたれたる雪解かな 尾崎迷堂 孤輪
山畑の畝は短し雉子鳴けり 結柴 蕗山
山畑の粟の稔りの早きかな 高浜虚子
山畑の耕し浅き桜かな 小川軽舟
山畑の芋ほるあとに伏す猪かな 其角
山畑の落葉をひろひ寒見舞 宇佐美魚目 天地存問
山畑の鋤かるる前の花なづな 石渡旬
山畑の高みに励み文化の日 馬場移公子
山畑は垣など結はず胡麻の花 辻田克巳
山畑は父の生甲斐瓜の花 古川幸市
山畑は笠に雲おく案山子哉 正岡子規
山畑へ行くだけの道蜥蜴出づ 大串章 百鳥
山畑へ麦刈りに行く日和哉 麦 正岡子規
山畑も三成陣址小豆干す 神蔵器
山畑やくれなゐの薔薇ひとつ咲く 岸本尚毅 鶏頭
山畑ややゝ淋しらに芋の葉を 尾崎迷堂 孤輪
山畑や岸這ひ下る芋の蔓 会津八一
山畑や引かで腐りし春大根 斎藤俳小星
山畑や掘られし芋のすぐ乾く 長谷部彩児
山畑や明日を信じて鍬始 中川康子
山畑や昼ほとゝぎす柿の花 癖三酔句集 岡本癖三酔
山畑や月夜々に満ちて芋肥ゆる 青峰集 島田青峰
山畑や椶櫚の根もとの曼珠沙華 河野静雲 閻魔
山畑や煙りのうへのそばの花 蕪村
山畑や物種栽る五月晴 五月晴 正岡子規
山畑や猪の足跡を打ち返す 畑打 正岡子規
山畑や白髪太郎が電線に 水木なまこ(童子)
山畑や真昼のころの郭公 時鳥 正岡子規
山畑や笊もむしろもをどろかし 加舎白雄
山畑や笠の紐より汗しづく 宇佐美魚目 天地存問
山畑や老婆ひとりの鍬の音 寺内吉六
山畑や茄子笑み割るゝ秋の風 村上鬼城
山畑や蒜植うる微雨の中 斎藤雨意
山畑や雪に打ち込む鍬始 高橋淡路女 梶の葉
山畑や雲より落つる舞雲雀 雲雀 正岡子規
山畑や雲より落る桐一葉 妻木 松瀬青々
山畑や青みのこして冬構へ 去来
山畑や麦蒔く人の小わきざし 大魯
山畑をうちくらしたる鍬かたげ 清原枴童 枴童句集
山畑を劃れる径や秋彼岸 八木林之介 青霞集
山畑を打つやをりをり母と話し 大峯あきら 鳥道
山畑を来て燈籠を流しけり 西田栄子
山畑を煙の出でずかいつむり 宮坂静生 樹下
山畑を耕す木ぐつ修道女 佐藤一村
山畑秋の育ちよく新ら簑まとふて来る 人間を彫る 大橋裸木
山畑麦が青くなる一本松 尾崎放哉
打ち返しある山畑の落葉かな 渡辺水巴 白日
掘り返す山畑かたし蕨長け 水上 勇
数へ日や山畑に人ゐることも 児玉輝代
日に酔うて藷挿しをるや山畑 藤田あけ烏 赤松
日照雨ぐせつきし山畑大根蒔く 三村純也
旧正の歩危の山畑人を見ず 野中木立
明け易き山畑道の水車小屋 石原舟月
春あさき人の会釈や山畑 飯田蛇笏 山廬集
暖き山畑にゐて老いにけり 大峯あきら 宇宙塵
照る雲に葡萄山畑五月来ぬ 飯田蛇笏 雪峡
秋の日や萱に道ある山畑 尾崎迷堂 孤輪
秋晴の山畑今日は人の居り 斎藤空華 空華句集
秋立てり山畑の葱一畝も 小澤實
稲妻や刻み上げたる山畑 会津八一
繭玉や赤子見てまた山畑へ 岸野曜二
花煙草ここらも法の山畑 柴原保佳
茎立や髪のふくらむ山畑 伊藤二瀬
蕎麦の花火山灰の山畑暮れ残る 羽田岳水
薯伏せて山畑守る隠れ耶蘇 下村ひろし 西陲集
豆柿や石ばかりなる山畑 福田蓼汀 山火
雨雲や山畑は暗き蜜柑花 内田百間
雪の山畑白真ッ平らしかし斜め 金子兜太 遊牧集
雪を待つのみ山畑の無一物 津田清子 礼 拝
青桃の落つる山畑風かたし 沖田佐久子
顔裂けた地蔵もろとも山畑売られ 西川徹郎 天女と修羅
鳥の巣が木にも土にも山畑 松瀬青々
鶯や山畑拓く朝仕事 石井露月
かつこうの声を目で追ふ山の畑 加藤武夫
山の畑独りで守りて目白飼ふ 高橋利雄
山の畑雲も耕されて白し 大串章
芋虫や空あをあをと山の畑 長谷川綾子
花煙草摘むにやゝ酔ひ山の畑 西村数
雁鳴くや落花生掘る山の畑 桜木俊晃
雉子鳴くや小石を拾ふ山の畑 杉山 えい
鶉鳴くばかり淋しき山の畑 紅緑
●山肌 山膚
つぼすみれ山肌染めてゐたりけり 加藤三七子
一休宗純五百年忌の山肌よ 小澤實
世々嗣ぎて山肌荒き茶を摘めり 白鳥 峻
八ケ岳山肌近し小梨散る 及川貞 夕焼
六甲の山肌さらに出水跡 鈴鹿野風呂 浜木綿
十津川の山膚畑や黍嵐 米沢吾亦紅
大寒の日は山膚にふるるなし 清崎敏郎
山肌に付き合ひほどの雪残す 雨宮抱星
山肌に日柱移る鷹柱 中戸川朝人 尋声
山肌のひとところ濡れ寒日和 阿部みどり女
山肌の昼より照れり血止草 大木あまり 火のいろに
山肌の極彩に叛き木の実降る 沓掛喜久男
山肌の濃紫なる冬日かな 『定本石橋秀野句文集』
山肌の熱さめてゆく芒かな 中田剛 珠樹
山肌をかけおりてくるななかまど 斎藤順
山肌をはなれし蔓や明易き 岸本尚毅 鶏頭
山肌を嗅ぎし竜胆日和かな 小池 都
山肌を夕日が照らすみちひとすぢ 柴田白葉女 『月の笛』
山肌を流る雲影野路の秋 増山至風
復活祭山肌赫く海青し 大野林火
日ののぼり来る山肌や鶲鳴く 村田脩
日盛りの山肌に捺す「大」一字 平井さち子 鷹日和
明るい山肌残すため散るオートバイ 赤尾兜子
明暗に山肌分けし冬の雲 杉田竹軒
木の葉掻き山肌の香が母に沁む 松村蒼石 雪
杜氏帰る斑雪山肌海へ垂れ 安達峰雪
残雪に目覚む山肌かく近く 林原耒井 蜩
畑を鋤き山肌の荒れ負いいたる 宇咲冬男
秋夕焼「大」の字残る山肌に 小川晴子
紫香楽や芽吹く山肌須恵の肌 加倉井秋を
花火こだまする深い山肌 シヤツと雑草 栗林一石路
赤子立つ夏の山肌割れるかな 和田悟朗
雁渡し山肌高きまで濡るる 中戸川朝人 星辰
雪殺ぎし山肌戦後も永くなりぬ 赤城さかえ句集
雷雲は四海より急山肌錆び 古舘曹人 能登の蛙
鳶の巣に枯山膚を近づけて 成澤たけし
八方に山の肌の淑気かな 堀米秋良
山の膚艶ますばかり梅雨旱 相馬遷子 山国
晴るるとし雲うごく中の山の肌 シヤツと雑草 栗林一石路
父祖の地や植田にせまる山の肌 金尾梅の門
短日や鏡のなかの山の膚 久保田万太郎 草の丈
筒鳥に火の山の肌新しき 下山芳子
粧ひもせずに削られ山の肌 滝佳杖
芒種はや人の肌さす山の草 鷹羽狩行「七草」
雪山の肌より顕るる岳かんば 関本テル
●山遙か
斑雪山はるかに鹿が耳立てる 藤森都史子
小倉山はるかに桜しだれけり 植田露路
土佐みづき土佐の砂山遥かなる 磯貝碧蹄館
●山番
山番と山を見廻り春惜しむ 影島智子
山番の塞がぬ炉辺の救護箱 上田五千石
山番の戸の籠に飼ふ梟かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
山番の道細々と冬木立 寺野守水老
松茸がとれて山番やめられず 中村稲雲
●山火
あかあかと山火の裾の阿修羅像 中田剛 珠樹以後
おとろへしとき妻をだく山火かな 萩原麦草 麦嵐
くるくると飛んで山火や水の上 岸本尚毅 選集「氷」
さかんなる山火に弟を呼ぶ子あり 石橋辰之助 山暦
ちろちろと舗道はしるよ山火の灰 軽部烏帽子 [しどみ]の花
ときめきてかの嶺も起てる山火かな 井沢正江 晩蝉
なまくらの山火道端焦がしをり 高澤良一 ぱらりとせ
ひとの世の在りしはむかし山火燃ゆ 野見山朱鳥
ふるさとに稀れにある日の山火かな 深川正一郎
わがゆめにありしがごとき山火とも 青畝
をのゝきて人にとまりぬ山火の灰 軽部烏帽子 [しどみ]の花
カルストの死色にかげる山火かな 石原八束 空の渚
一つ夜をたがひに燃ゆる山火かな 萩原麦草 麦嵐
一臂もて山火にひかるさるすべり 古舘曹人 砂の音
世の隅にいのち預けて山火の夜 村越化石 山國抄
人が焼く天の山火を奪ふもの 水原秋櫻子
人を恋ひ阿蘇越えゆかば山火燃ゆ 本郷昭雄
人並に蛙もはやす山火哉 一茶
伊豆の夜はほつ~燃ゆる山火かな 萩原麦草 麦嵐
冬の山火伏の行者渉りけり 冬葉第一句集 吉田冬葉
勢子のいま心ゆるしてゐる山火 稲畑汀子
勢子の意に添はぬ山火は叩かれし 八尋浄子
十輪院山火に遠く雪降れり 河北斜陽
千木屋根に月照り山火いまは消ゆ 木村蕪城 一位
南の山火の闇のありにけり 小菅佳子
夕月や山火曇りに阿蘇五岳 工藤義夫
夢深く山火の音を曳き寄せて 黒田杏子 花下草上
大阪の妓がひとり見る山火かな 角川春樹
寒の山火伏の神に酒供ふ 山本多七
山火あり大胆不敵なるごとし 加藤かけい
山火いま刻々寝釈迦焙らるる 豊長みのる
山火いま月のしたびを尾根に出づ 栗生純夫 科野路
山火いま風をとらへて咆哮す 介弘浩司
山火今追慕の火色燃え立たす 稲畑汀子 春光
山火曇り我が居る檜原澄み徹る 林原耒井 蜩
山火果つ白きは蓬の灰ならむ 高澤良一 ぱらりとせ
山火果て万葉の闇深くなる 下里美恵子
山火点けて人馳けにけり闇の中 成瀬桜桃子 風色
山火点けて人駆けにけり真の闇 成瀬櫻桃子 風色
山火燃ゆ乾坤の闇ゆるぎなく 竹下しづ女
山火爆ぜ爆ぜては山を呑む勢ひ 高澤良一 ぱらりとせ
山火眼に花火を口に受けましよう 八木三日女 赤い地図
山火立つ標高農の極限地 久保 武
山火見てゐたりし舟の流されて 岸本尚毅 選集「氷」
山火見てをれば寝ねよと母の声 今井つる女
山火見て二つのこころたたかはす 原裕 『新治』
山火見て立つ嫂を淋しとも 清原枴童 枴童句集
山火見ゆ母に正気の刹那あり 市川葉
山火見るために据ゑられ一つ巌 原裕 『新治』
山火見るや醜女からだを起しては 萩原麦草 麦嵐
川に垂る足のさみしき山火かな 中戸川朝人 星辰
幾山も山火を見つつ越えて来ぬ 下村梅子
悪食の鯉よく撓ひ山火かな 鳥居美智子
悲しみの色とはこれか山火見る 深川正一郎
散乱の机上を照らす山火かな 原裕 『王城句帖』
旅の夜を起きて山火のなほ見ゆる 臼田亜浪 旅人
日を歪め山火の灰がしんしんと 軽部烏帽子 [しどみ]の花
暗き夜や伊豆の山火と漁火と 鈴木花蓑
暗き夜や伊豆の山火を漁火と 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
歯朶裏の底焼けくゞり山火かな 西山泊雲 泊雲句集
歯朶裏の底燃えくぐり山火かな 西山泊雲 泊雲
母の頬にはるけく動く山火かな 汀女
気紛れな山火すすっと山の肩 高澤良一 ぱらりとせ
溶岩原に向かふ山火の急先鋒 高澤良一 ぱらりとせ
火の鳥が翔ちて山火の鎮まりぬ 手塚美佐 昔の香 以後
火の鳥となりて羽摶く山火かな 豊長みのる
焼山にどつと隣の山火煤 中戸川朝人 星辰
熊穴を出づ山火注意の旗なびき 坂尻惺
燃えさしに山火の火力そこそこや 高澤良一 ぱらりとせ
父もゐて焼くなる山火指す子あり 石橋辰之助 山暦
牛小屋は暮れつゝ山火いろめきぬ 五十崎古郷句集
白面の月のただよふ山火かな 白岩 三郎
真日を降る山火の灰ぞ眉をかすめ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
神へ焔の山火大胆不敵なり 豊長みのる
窓とほく更けし山火にちさくねる 辰之助
網代守る夜々の山火の江に映る 臼田亜浪
網代守る夜々を山火の江に映ゆる 臼田亜浪
逆らへる山火は二人して叩く 岩岡中正
遠き世の山火ぞ映ゆる埴輪の眼 蓼汀
野に野火が山に山火が走るかな 下村梅子
野火山火いちにち狂ふ神の国 豊長みのる
野火山火柩に古きものはなし 神尾久美子 桐の木
阿蘇五岳覚ます山火のあがりけり 増田 富子
阿蘇谷へ逆落しくる山火かな 江口竹亭
頂の山火かくさず鹿の杜 古舘曹人 砂の音
馬籠とは方違ひなる山火かな 森田峠 避暑散歩
●山彦
いくたびも山彦かへす夕焼かな 吉武月二郎句集
おーいおーいと永久にあなたを呼ぶ山彦 池田澄子
おーいおーい命惜しめといふ山彦 高柳重信
からうじて山彦もどる吾亦紅 下田稔
ざんばら髪の山彦あるく油照り 長谷川双魚
しぐるるや山彦は樹を親と思ひ 長谷川久々子
しぐれきて山彦絶ちし下りかな 原田種茅 径
ためしたき山彦青嶺ま近なり 朝倉和江
ひよどりの山彦の澄む初詣 田村木国
ぼんでんの法螺山彦のごと吹きあふ 上村占魚
亀鳴くや山彦淡く消えかかる 赤尾兜子
二人行けど秋の山彦淋しけれ 佐藤紅緑 紅緑句集
全山の芽や山彦がもの言へり 米沢吾亦紅 童顔
凧高うなりて山彦もう答へず 内藤吐天 鳴海抄
前山に山彦棲む日松飾る 渡辺柳風
吠え牛に山彦高し霧の中 西山泊雲 泊雲句集
夕凍みの山彦山に残りけり 秋山ユキ子
夕焼る山彦山に帰るとき 三田きえ子
天彦呼びに山彦駈くる斧始 大野せいあ
子遍路に山彦のゐる札所かな 山崎一角
寒卵割り山彦の国を出る 市原光子
山彦が聞えてあやめ祭来ぬ 萩原麦草 麦嵐
山彦とならぬわがこゑ落胡桃 白岩 三郎
山彦とゐるわらんべや秋の山 百合山羽公
山彦と啼く郭公夢を切る斧 山口素堂
山彦と晴れて学校始めかな 松下鶴生
山彦にいつか鳴き勝て羽抜鶏 秋山朔太郎
山彦にさからひやまず霧の鵙 西島麦南 人音
山彦にも毀れるひかり二月の樹 速水直子
山彦に妻の遊べる山毛欅若葉 菅原多つを
山彦に山葵の花や散りかゝり 萩原麦草 麦嵐
山彦に散果たしたるさくらかな 米密 三 月 月別句集「韻塞」
山彦のあと一斉に杉花粉 岡本まち子
山彦のうしろ姿を漉き上げる 小澤杏林
山彦のしばしとだへし紅葉かな 杉本寛
山彦のしばらくありて草刈男 西山泊雲 泊雲
山彦のはきはきとして青吉野 大石悦子 聞香
山彦のはじめつばらにねこじやらし 藤田湘子
山彦のはなればなれよ妓王の忌 神尾久美子
山彦のゆつくりとほる弥生かな 中村契子
山彦のよくかへる日よえびかづら 遠藤露節
山彦のわれを呼ぶなり夕紅葉 臼田亞浪 定本亜浪句集
山彦のゐてさびしさやハンモツク 水原秋桜子(1892-1981)
山彦の一歩も退かず閑古鳥 檜紀代
山彦の南はいづち春のくれ 蕪村遺稿 春
山彦の口まね寒きからすかな 千代尼
山彦の尻尾だすまで黄落す 西野理郎
山彦の山みな遠し花うつぎ いのうえかつこ
山彦の己の声に呼ばれ夏 白岩三郎
山彦の待ちかまへゐし山開き 木内怜子「繭」
山彦の打つ小鼓や山葵咲く 田方建子「土鈴」
山彦の打てもどしに砧かな 紫貞女
山彦の棲む山めざし旱道 徳永山冬子
山彦の棲む谷々の薄紅葉 三村純也
山彦の気配を棟に冬仕度 岡本まち子
山彦の触れず落ちたる一位の実 浅井一志
山彦の語尾のすとんと山眠る 山本秋穂
山彦の通り抜けたる涼気かな 神尾久美子
山彦の駆けて椎の実こぼしけり 井本芦水
山彦はみな男ごゑ冬の山 大谷てるみ
山彦は他所(よそ)の事なりわかな摘 千代尼
山彦は呼べぬ齢や栗の花 赤塚五行
山彦は宵に一戻るやのちの月 千代尼
山彦は山に捨て置く夜の桃 鈴木湖愁
山彦は山へかへりて枯一途 鹿野佳子
山彦は杜甫か李白か登高す 白澤良子
山彦は湖に出てゆく朴の花 長田等
山彦は男なりけり青芒 山田みづえ 木語
山彦は青年のこゑ山笑ふ 二藤 覚
山彦も山を出ることなき二日 鷹羽狩行
山彦も島出づるなし青芒 朝倉和江
山彦も魂ぎる多摩や血止め草 高柳重信
山彦やむらさきふかき春の嶺 池田秀水
山彦や湯殿を拝む人の声 桃隣「陸奥鵆」
山彦や知らなくてよいけもの道 池田澄子
山彦や花の梢にひびき行く 水田正秀
山彦をかへし雪渓夜もしるく 福田蓼汀 山火
山彦をすぐに戻せぬ樹氷林 北見弟花
山彦をつけてありくや鉢たたき 千代女
山彦をぬすむすすきのすだま見つ 栗生純夫 科野路
山彦を伴ふ窓に夏経かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
山彦を呼び出してゐる山開き 小野伶(南風)
山彦を呼び戻せしが雪となる 相原左義長
山彦を山に帰して修二の忌 関野八千代
山彦を山へかへして卒業す 遠藤若狭男
山彦を引き寄せてゐる春田打 小泉八重子
山彦を探す夕暮れ頬濡らし 久野千絵
山彦を連れて半鐘防火の夜 野澤節子 遠い橋
山眠るや山彦凍てし巌一つ 松根東洋城
岬現れ海彦山彦すでに春 河野南畦 湖の森
引鶴のこゑ海彦へ山彦へ 福島笠寺
拍手が山彦となる四方拝 石津不及
旅人の中を山彦ときに野火 三枝桂子
早春の山彦かへる垣根かな 萩原麦草 麦嵐
明けまたぬ小野の山彦土竜うち 吉武月二郎句集
春愁やひとの山彦われに来る 米沢吾亦紅 童顔
月明や山彦湖をかへし来る 秋櫻子
木耳を踏み山彦の老いゆくよ 長谷川双魚 風形
朴の青枝下されて飛騨の山彦 金子皆子
梅雨雲がすぐ山彦を追ひかへす 米沢吾亦紅 童顔
極月の山彦とゐる子供かな 細川加賀 『傷痕』
海彦と山彦あそぶ初茜 樫村安津女
海彦と山彦そろふ入学期 原裕 新治
海彦と山彦とゐる霧笛かな 鈴木洋々子
海彦も山彦も来て綱を引く 荒井籠聲
海彦も山彦も来よ太刀飾る 野木桃花
澱みなく山彦とんで神無月 斎藤佳代子
火祭の山彦ゆゆし秩父人 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
牛飼の山彦わかし冬隣 岩田昌寿 地の塩
町の子の山彦遊び秋の山 安藤登美子
白根葵咲けりといふよ山彦も 水原秋櫻子(馬酔木)
窓の外にゐる山彦や夜学校 芝不器男
老鴬に山彦もなき浮葉かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
腸の水の山彦昼寝覚 高澤良一 随笑
花菜いちめん孤児に山彦野彦する 磯貝碧蹄館 握手
蔓梅擬山彦つれて山の子ら 古賀まり子 緑の野以後
近づいてくる山彦の暑さかな 松澤昭 山處
近頃は山彦となる不如帰 橋本鉄也
返盃や会うこともなき山彦に 仁平勝 東京物語
雪嶺のいづかたよりの山彦ぞ 猪俣千代子 秘 色
鞦韆や春の山彦ほしいまゝ 秋櫻子
鶏のこゑ山彦すなり日南ぼこ 吉武月二郎句集
●山襞
いくたびも山襞めぐり初市へ 巌寺堅隆
ふるさとの山襞深くほととぎす 桑原たかよし
唐辛子干し山襞を深くする 浮洲久子
啓蟄の山襞淡き忌なりけり 原裕 青垣
夏深し山襞緑濃き夜明 福田蓼汀 秋風挽歌
夕明りの山襞のどこ神楽笛 加倉井秋を 『欸乃』
奥塩原山襞にまだ雪残る 浦野慶子
寒禽のこゑ山襞に深まりぬ 大谷 茂
山ひだ日かげりの移るばかり湖も峰も静に 梅林句屑 喜谷六花
山襞にあり巡礼の鈴恐し 金子皆子
山襞にたつ夕靄やすだれ捲く 西山泊雲 泊雲句集
山襞に入る往還や手鞠唄 綾部仁喜 寒木
山襞に見しぬくもりや良寛忌 菅沼勝男
山襞に貼りつく四五戸ほとゝぎす 工藤吾亦紅
山襞に魔法のランプ霧を噴く 佐藤たみ子
山襞のあらたに生まれ桜満つ 原裕 正午
山襞のどの闇からの仏法僧 竹中碧水史
山襞のひかり残せり冬の蝿 川田由美子
山襞の奥まで紅葉いろは坂 小林すま
山襞の小さき祠も一の午 東野悠象
山襞の折目の二百十日かな 木内彰志
山襞の折目正しく秋の湖 金箱戈止夫
山襞の梅蒼きまで翳りけり 田島朱一
山襞の残雪を見て飛騨の面 萩原麦草 麦嵐
山襞の深くなりたる落し水 井浪千明
山襞の深みて釣瓶落しかな 水原春郎
山襞の裾濃に映えて遠ざくら 松島利夫
山襞や脳の襞よりなほ冥く 多田智満子
山襞を出でくる涅槃詣かな 矢島渚男 梟
新年の山襞に哀れ烟立ち 室生犀星 十返花
新年の山襞に立つ烟かな 室生犀星 犀星発句集
日脚のびる山襞ぐいと厩戸へ 木村蕪城 寒泉
春埃山襞までも隠したり 中嶌水声
月山の山ひだ深き春彼岸 有馬朗人
木の国の山襞ふかき花吹雪 藤井冨美子
残雪の山ひだ考へのごと深し 細見綾子 花 季
芦野路や山襞馳せる梅雨の霧 屋代孤月
雪残る山襞深し風不死岳 野村幸子
鳥帰る山襞ゆるび始めけり 大内清香
冬神の鞭かと思ふ山の襞 河野南畦 湖の森
天つばめ昏れ色ひそむ山の襞 稲垣きくの 牡 丹
山の襞がふかい月光の黒い黙想 荻原井泉水
書楼出て日さむし山の襞を見る 飯田蛇笏 霊芝
書樓出て日寒し山の襞を見る 飯田蛇笏
木枯や鋭く切れて山の襞 浅見まき子
橇に葱夕日が深む山の襞 宇佐美魚目 秋収冬蔵
湯の山の襞に落ち込む鹿の声 瀬川ふく子
白露に火の山の襞荒びつゝ 杉山岳陽 晩婚
秋深しすぐ目のまへの山の襞 久保田万太郎 流寓抄
色鳥の諸音熱くす山の襞 原裕 青垣
荒々し霞の中の山の襞 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
雪山の襞ぎつしりと青年期 木村敏男
●山人
なつかしや山人の目に鯨売 原石鼎
ななかまど赤し山人やすを手に 田村木国
むささびの闇うつくしく山人早寝 篠田悦子
もぐらもちの円さよ山人の背の荷は 金子皆子
不知火や山人に海恐ろしく 岩田美蜻
城あるを山人誇る耕しつつ 大野林火
塩負うて山人遠く行く秋ぞ 暁台
夏雲や山人崖にとりすがる 飯田蛇笏 山廬集
山くだる山人の葬曼珠沙華 岡部六弥太
山くらし山人くらし烏頭 斎藤玄
山人が水に束ぬる山葵かな 渡辺水巴 白日
山人に春蘭を掘る向きかえて 長谷川かな女 花 季
山人に逢ふよろこびを残鶯が 金尾梅の門 古志の歌
山人のくしやみやとゞく秋の雲 前田普羅
山人のみやび言葉や秋の雷 原和子
山人のよき顔に初雪来 宇多喜代子 象
山人の傷ひかりおり冬木立 森下草城子
山人の十指の掬す岩清水 加古宗也「八ッ面山」
山人の垣根づたひや桜狩 高浜虚子
山人の水こぼし行くすみれかな 松瀬青々
山人の独活丸齧り別れかな 金子兜太
山人の直ぐなる情や水仙花 宮坂静生 春の鹿
山人の真顔が揃う霧の中 横地かをる
山人の眼に月明のかるもかな 原石鼎
山人の腰のかゞみやつるいちご 苺 正岡子規
山人の蓬莱の間にある炉かな 癖三酔
山人の衣裳持なり土用干し 河野静雲
山人の雪沓はいて杖ついて 高浜虚子
山人はすさめぬ山のいちご哉 苺 正岡子規
山人は客をよろこぶ夏炉かな 松本たかし
山人は斧浸しゆく滝水に 萩原麦草 麦嵐
山人や薪にすとて木の実植うる 道彦
木の実拾ふて山人去りぬ山深く 西山泊雲 泊雲句集
松風や年の山人の帰る後 内藤丈草
桐まだ咲かぬ山国山人と酔うて 金子兜太 詩經國風
水明の日を建つ小春山人と 長谷川かな女 雨 月
繩打つや山人越後縮着て 長谷川かな女 雨 月
萱高し山人何に大笑ひ 久米正雄 返り花
霧藻採る山人腹を病みにけり 石島雉子郎
鮎占い白装束の山人ら 奥山甲子男
●山日和
ふくべけふひさごとなりぬ山日和 岡井省二
ふは~と朴の落葉や山日和 松本たかし
まんさくの一枝余さず山日和 宇佐美ふき子
一人出て稲刈つてをり山日和 立山花恵
冬耕の人出てをりぬ山日和 藤松遊子
吾亦紅紅の焦げたる山日和 森澄雄
四十雀銀の笛吹く山日和 大塚宏江
大綿のとび交ふそれも山日和 塩見武弘
寝坊に小鳥来てゐる山日和 岩城久美
山日和夕ベは崩れ秋の蛇 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山日和綿虫舞へば崩れくる 田中なつゑ
山日和鳥を威すに鳥の声 松井志津子
山葡萄むらさきこぼれ山日和 水原秋桜子
愛鷹にまづ山日和梅鉢草 山田みづえ
手の餌に近づく小雀山日和 中川 忠治
新雪の消えてしばらく山日和 福田蓼汀 秋風挽歌
柚子*もいで山日和このゆたかなもの 有働 亨
柞散るかそけき音や山日和 岡安迷子
栗虫の頭出てゐる山日和 矢島渚男 船のやうに
桐の実の晒せしごとし山日和 神尾久美子 桐の木以後
漉く水に暗しのび込む山日和 山上樹実雄
熊穴に入るをためらひ山日和 西村浩風
猟人を招じ入れたる山日和 猪俣千代子 秘 色
秋の山日和つゞきとなりにけり 佐藤紅緑
秋声の近くて遠し山日和 福井圭児
稲刈の急ぐことなき山日和 安原葉
稲架を解く音の谺の山日和 山田弘子 初期作品
竜胆の筒のふくらみ山日和 岡田日郎
臘梅のいろの溶けゆく山日和 板谷芳浄
茸やく松葉くゆらせ山日和 杉田久女
萱刈るやきのふにまさる山日和 植地芳煌
落葉踏む軽き音踏む山日和 小原正子
蒟蒻を掘るや甘楽の山日和 佐々木有風
蒟蒻を蚕棚に寝かす山日和 馬場移公子
襞襞に寒さかくまり山日和 上村占魚 『自門』
講宿に頬白来鳴く山日和 岡田 日郎
豆飯がふつくり炊けし山日和 柴田白葉女 花寂び 以後
赤蜻蛉翅うつ音さへ山日和 福田蓼汀 山火
鳴き混じる日雀小雀や山日和 鈴木久美子
鶯や摘茶いきれる山日和 菅原師竹句集
五倍子干して山の日和を頼みけり 山口峰生
干菌山の日和に反りかへる 水原秋櫻子
朝からの山の日和に朴咲いて 中島よし絵
稲の花道灌山の日和かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
穏やかな山の日和や針祭 宮本素月
簡明なさわらび山の日和かな 坂本ひろし
●山水
あつめたる山水鳴らし冬菜洗ふ 楸邨
ありありと童子山水初暦 斉藤夏風
さくら湯に山水またもにぎやかに 宇佐美魚目 天地存問
ひそみゐし冬が見えたり枯山水 鳥越すみこ
ふるゝものを切る隈笹や冬の山 水巴
ほとばしりいづ山水や厚氷 松村蒼石 露
みちのくの朱夏の山水掬ひけり 佐川広治
もつれ行く黄蝶や枯山水の秋 川崎展宏 冬
ゆく年を惜しむ長巻山水図 森澄雄 空艪
亀虫のはりついてゐる山水図 藺草慶子
亡き母の陶枕に濃き山水図 肥田埜恵子
体内も枯山水の微光かな 橋間石
元日や野の石として妙義山 水上孤城
八十八夜過ぎ山水の腰強し 櫛原希伊子
切口にすぐ山水や菖蒲引 飴山實 『次の花』
初明り三島大社の枯山水 柴山つぐ子
古町の簷の山水秋の蝶 松村蒼石 寒鶯抄
夕だつやぬけてうしろはあたご山 水田正秀
大比叡の山水賜ひ作り滝 牧野春駒
天ぐさを洗ふ山水葭打てる 田中冬二 俳句拾遺
寒禽に山水音を断ちにけり 渡辺大年
寒葵枯山水の片隅に 小宮山政子
対峙して枯山水の寒暮なり 鈴木鷹夫 大津絵
小鳥来て枯山水のお庭なる 谷口忠男
屋根替や山水軒に迸り 富安風生
山水、一面の巌を立琴とする 荻原井泉水
山水でとぐ米白し林檎の花 細見綾子 雉子
山水にさす傘や秋の雨 長谷川かな女 雨 月
山水に凱歌を挙ぐる水芭蕉 高澤良一 燕音
山水に夏めく蕗の広葉かげ 飯田蛇笏
山水に夜を浸しある障子かな 松村蒼石 寒鶯抄
山水に射られ五月の郵便夫 宮坂静生 春の鹿
山水に竜胆涵り風雨やむ 飯田蛇笏 春蘭
山水に米を搗かせて昼寝哉 一茶 ■文政六年癸未(六十一歳)
山水に蝌蚪流さるる千枚田 山口千代子
山水のいよいよ清し花曇り 飯田蛇笏 山廬集
山水のここにも光り山毛欅黄葉 内藤吐天 鳴海抄
山水のこぼれる葡萄の房置けば 吉田 晃
山水のこぽこぽと鳴る菜を洗ふ 木村蕪城 寒泉
山水のたたまれてゆく秋扇 西宮陽子
山水のつまづく音や秋隣 石田勝彦
山水のとどろきを身に巣立鳥 鷲谷七菜子
山水のはや力抜き初紅葉 内山せつ子
山水のひゞかふ町は辛夷どき(戊辰の桃月、伊豫松野町の芝不器男記念館開扉に招かれて) 飴山實 『次の花』
山水のひゞく紫白のあやめかな 日野草城
山水のゆたかにそそぐ雪の池 飯田蛇笏 春蘭
山水の一気に暮るる新松子 大澤ひろし
山水の乗りこえ乗りこえサイダー冷ゆ 窪田鱒多路
山水の切れず凍らず紙漉ける 百合山羽公 寒雁
山水の城へひとすぢ青木の実 和田ゑい子
山水の寺を貫き富貴草 大木あまり 火のいろに
山水の尽くることなき添水かな 山崎一之助
山水の新鋭そそぐ冷し瓜 上田五千石 風景
山水の涸れ~ながら玉走る 王城
山水の減るほど減りて氷かな 蕪村 冬之部 ■ 貧居八詠
山水の湧いて自然薯掘りにくし 田中烏鷺多
山水の澄めるを温泉に引きこみて 上村占魚 球磨
山水の町をつらぬくあきつかな 大嶽青児
山水の色染みやすく雉子の聲 古舘曹人 砂の音
山水の落ちくる池に菖蒲の芽 鈴鹿野風呂 浜木綿
山水の蕭条としてみそさゞい 田中寒楼
山水の迅きに洗ふ硯かな 大橋越央子
山水の迅きに負けず菜を洗ふ 大串章 百鳥
山水の音に四五人夏椿 岡井省二
山水は歯朶の下ゆき年立ちぬ 中島月笠
山水は澄み残心の梅の白 櫛原希伊子
山水やまだ初秋の香*(こうじゅ)散 句空 俳諧撰集「有磯海」
山水や鴨の羽いろにながれこむ 乙二
山水をかけし漆の祭笛 平畑静塔
山水を引きしわが家の新茶召せ 安原葉
山水を引きて五六戸糸蜻蛉 長谷川かな女 牡 丹
山水を引くこころあり冬籠 斉藤夏風
山水を裏から眺め扇風機 永末恵子 発色
山水激突し激突し青年のごと何も失わず 橋本夢道 良妻愚母
山水繚乱たり新芋生れけり 雑草 長谷川零餘子
年の夜や山水と星ひびきあひ 佐野美智
打水や端から乾く枯山水 酒向香代子
昼寝覚め枯山水をのぼる猫 川崎展宏
朗々と山水迅し谷の梅 吉武月二郎句集
朝寒の山水満つる木賊かな 中島月笠 月笠句集
村なかを山水奔る花すもも 荒井正隆
枯山水の石に紛るる秋の蝶 関森勝夫
枯山水ふとん打つ音の遠くより 木下ひでを
枯山水卯月あかりの木々やさし 河野南畦 湖の森
枯山水巌顱頂に露を置き 高澤良一 宿好
枯山水見て白息を肥しけり 百合山羽公 寒雁
枯山水風化すすむる鵙のこゑ 高澤良一 宿好
梨剥くや山水白砂を滲み出て 香西照雄 対話
水芭蕉山水くびれ流れけり 高澤良一 燕音
沙羅黄葉枯山水を明るくす 高見孝子
源流は共有の山水温む 右城順一
滝へ行く山水迅き通草かな 山口冬男
火祭や山水闇にほとばしり 富安風生
父亡き夜山水凍てて音絶えし 成瀬櫻桃子 風色
片陰や枯山水の半分に マブソン・青眼
田の跡を残す山水桃咲けり 内田芳子
田楽や山水走る妻の里 肥田埜勝美
白扇に山水くらしほととぎす 飯田蛇笏 山廬集
硯洗ふやりんりんと鳴る山水に 新田 豊
神の山水にうつらず水草生ふ 池田菟沙
空梅雨日々ひだりうちはの山水圖 塚本邦雄 甘露
突つぱつて走る山水五月来ぬ 鈴木真砂女
糸蜻蛉山水影をとどめざる 根岸善雄
紅葉山水先立てて人帰る 廣瀬直人
絨毯の山水渉る冬至の日 原田青児
耳の裏枯山水の奔り去る 角川源義
花寂びて日月山水屏風かな 長谷川櫂 古志
花楓枯山水に風抜けて 兜木總一
苔のぬくみは男のぬくみ枯山水 桂信子 黄 瀬
茶室までひびく山水 秋海棠 土田桂子
茸山水分神を祀りけり 中戸川朝人 星辰
草夕焼山水邑を落ちゆけり 千代田葛彦 旅人木
草虱暮れてゆく山水になる 松澤 昭
落合ひて山水澄みをたがへざる 上田五千石 琥珀
葱洗ふ山水濁りなかりけり 山口草堂
虫たべて蟇の山水呆けにけり 宇佐美魚目 秋収冬蔵
蜩や山水を引く山の坊 加古宗也
蝉銜へ枯山水を猫通る 関森勝夫
襖絵の山水を吹き盆の風 館岡沙緻
走り穂や山水畦にあふれつゝ 岸風三楼 往来
阿彌陀経山水鳥語蓬餅 黒田杏子 花下草上
雉鳴くや山水引きて菜を洗ふ 深海利代子
雪舟の山水のなか落葉焚く 長谷川櫂 蓬莱
鯉に引く山水ゆたか木の芽風 宗像夕野火
鱒飼へる山水澄みて木の芽雨 内藤吐天
●山焼
あかあかと山焼のさま金屏に 武藤紀子
あちら側の山を焼くらん雲明り 山焼 正岡子規
お山焼いたゞきの火となりにけり 森田峠
お山焼きしばし待つ間の焚火かな 森田敬之介
お山焼く僧六人の白頭巾 田村愛子
お山焼すみし麓に鹿遊ぶ 山下輝畝
お山焼ただじめじめとしてゐたり 佐々木元嗣
お山焼はるばる煙くさきかな 岸本尚毅 舜
お山焼下りて来し街にも匂ふ 西村正子
お山焼大仏殿もただならね 長谷川櫂 虚空
お山焼山の裏にも消防夫 奥野敏子
お山焼待つ人となく古都混める 桑田永子
お山焼日のべとなりし春疾風 高岡智照尼
お山焼果てしばかりの闇匂ふ 稲畑汀子 春光
お山焼果てたる寧楽は暗き街 杉山木川
お山焼火の奢りいて咎まれず 磯野充伯
お山焼火は頂を皆目指す 磯野充伯
お山焼築地塀割る松が照り 藤田三郎
お山焼見し目に繊き月ありぬ 稲畑汀子 春光
お山焼見し窓闇に置き変ふる 稲畑汀子 春光
お山焼贄のごとくに鹿が跳ね 行方克巳
ごうごうと山焼く末の世を焼くか 野澤節子
たっぷりと日を浴み山焼き前の萱 高澤良一 ぱらりとせ
のぼりゆく火に径のありお山焼 三輪満子
まづあがる飾焚く火やお山焼 森田峠 避暑散歩
みちのくの町暗くして山焼くる 遠藤梧逸
一社二寺司る火やお山焼 大橋敦子 匂 玉
三日三夜草山一つ焼にけり 山焼 正岡子規
三笠山焼けつつ月の上りけり 小城古鐘
中天の月の昏さよお山焼 船木朴堂
人を忘れさする一瞬よ山焼くる火に 細見綾子
伊豆の山焼くるを見つゝ船に寝る 内藤吐天
出て見れば南の山を焼きにけり 山焼 正岡子規
北上の岸辺に立てば山焼くる 遠藤梧逸
双塔を嵌めて遠見のお山焼 石黒まさを
反物は畳をころげお山焼き 大野朱香
吾もはためきて山焼く台上に 上野さち子
夕づゝの焦げんとすなるお山焼 由井艶子
夕餉の座おしだまり山焼けてゐる 金尾梅の門 古志の歌
大佛殿山焼の雲を負ひにけり 服部鹿頭矢
大由布の山焼く匂ひ水辺まで 栗田やすし
天平の火色となりぬお山焼 原 好郎
天界に焦すものなきお山焼 高石敏子
奈良山焼雨にひるみしまま終る 宮岡計次
奈良離る山焼の火の消えぬ間に 右城暮石 上下
奥人や山焼いて待つ上り鱒 廣江八重櫻
如月 ひとつ皓歯山焼くことを始めるか 宇多喜代子
宵々の窓ほのあかし山焼く火 夏目漱石 明治二十九年
山やくやどこから人の通ふらん 山焼 正岡子規
山を焼く火に近く我夜越ゆる 山焼 正岡子規
山焼いてきし眼にて吾を見る 出口 善子
山焼いて夜空つやもつ肥後の国 河野照子
山焼いて大和に真の闇の冷え 吉田靖子
山焼いて来し同窓生と酌める 中拓夫
山焼いて来し眼もて吾を見る 出口善子
山焼いて雨欲すれば雨のあり 喜谷六花
山焼かれなむ銃床に降る花粉 仁平勝 東京物語
山焼かれ行きどころなき天邪鬼 丸山嵐人
山焼きし匂ひがぬつと奈良の町 高畑浩平
山焼きし夜は玄界のとどろけり 三谷 和子
山焼きし火の匂ひせり頭陀袋 瀧澤伊代次
山焼きし者東京にいでにけり 萩原麦草 麦嵐
山焼きてより一片の雲もなし 中戸川朝人 星辰
山焼きて下りくる顔のゆるびけり 白岩 三郎
山焼きて仏けぶらす大和かな 西川織子
山焼きて雲のかゝらぬあした哉 山焼 正岡子規
山焼きのすみたる村に雪の降る 河原比佐於
山焼きの付け火ちょんちょん小走りに 高澤良一 ぱらりとせ
山焼きの火の躓ける岩場あり 石川薫
山焼きの火勢は闇を深くせり 小室ていこ
山焼きの灰のわらわら頬を打つ 高澤良一 ぱらりとせ
山焼きの炎の結び目に風生れ 鈴木とおる
山焼きの烟むらさきに捲きのぼる 石原八束 空の渚
山焼きの焔をさかおとす迅風かな(阿蘇にて三句) 石原八束 『空の渚』
山焼きの煤溜めて畝石まじり 中戸川朝人
山焼きの爺を鬼爺と思ひけり 山焼 正岡子規
山焼きの赤き火を見るこけしの目 加納染人
山焼きや無線合図に火を放つ 前橋春菜
山焼きや賽の河原へ火のびたり 山口誓子
山焼き了へ滅法暗し奈良の夜は 山下幸子
山焼くとばかりに空のほの赤き 正岡子規
山焼くと仏の庭の人ゆきゝ 中村三山
山焼くと裾の祠に禰宜まをす 大島牛後
山焼くに似て一冬の塵焼かる 村越化石 山國抄
山焼くやたむろ移りに鹿の影 内田 雅子
山焼くやひそめきいでし傍の山 芝不器男(1903-30)
山焼くや今宵爛たる飼鷲の眼 久米正雄 返り花
山焼くや夜はうつくしきしなの川 一茶
山焼くや秩父山の子鼻たれ子 月笠
山焼くや窓でながめて庭へ出て 古白遺稿 藤野古白
山焼くや胡蝶の羽のくすぶるか 山焼 正岡子規
山焼くや遠まなざしの埴輪の眼 角田双柿
山焼くよと門に彳む独言 山焼 正岡子規
山焼くる明りにまろき池塘かな 河野静雲 閻魔
山焼くる木の間明りに鹿と居る 土生静児
山焼く火うつりてはやき雲のあり 片岡 青苑
山焼く火かなしきまでに乙女の瞳 星野麦丘人
山焼く火すすみしあとに火のさざなみ 宮津昭彦
山焼く火夕ぐれ急ぐマントの子 角川源義
山焼く火将軍塚を囲みけり 宮下邦夫
山焼く火左に見えて路曲る 正岡子規
山焼く火桑の真闇に衰へぬ 水原秋桜子
山焼く火檜原に来ればまのあたり 秋櫻子
山焼く火熊襲の穴を燻しけり 徳留末雄
山焼く火見れば母焼く煙とも 福田蓼汀
山焼けに焼けのこりしを摘む茶かな 飯田蛇笏 山廬集
山焼けば狐のすなる飛火かな 河東碧梧桐
山焼けば鬼形の雲の天に在り 水原秋櫻子
山焼にゆきたる父を待つ子あり 石橋辰之助 山暦
山焼に始まる阿蘇の牧仕事 武藤和子
山焼に来よと賀状の隅にあり 柏 禎
山焼に煤けごころを払ひけり 高澤良一 ぱらりとせ
山焼に雑木林にたかぶりぬ 阿部みどり女
山焼のかの世を現じやまぬ火よ 井沢正江
山焼のけむり千丈富士立てり 堀口星眠
山焼のしだいにかげる空の沖 石原八束 空の渚
山焼のすみたる月のまどかなる 岸風三楼 往来
山焼のたんねんに刈る火切り道 朝妻 力
山焼のなぐれ煙や塔の尖 内田百間
山焼のはじまる闇をよぎる鹿 津川たけを
山焼のはじまる鹿を呼びにけり 岸風三樓
山焼のはじめの焔注連囲ひ 渋谷 澪
山焼のはじめは雲を見てゐたり 小泉八重子
山焼のはや衰へしところかな 岸風三楼 往来
山焼の一夜の紅蓮奈良に雪 野澤節子 『駿河蘭』
山焼の人出を前に土産店 久保五峰
山焼の匂ふ装束脱ぐ三和土 森本大樹
山焼の夜叉の火影のはしるかな 大橋敦子 匂 玉
山焼の明りに下る夜舟哉 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
山焼の果て夜を雪となりにけり 松尾緑富
山焼の柱に映つる庵かな 青々
山焼の火が山形りにとゞこほる 右城暮石 上下
山焼の火が我が顔も照らし出す 右城暮石 上下
山焼の火の連れ来たる恋心 藤田弥生
山焼の火勢鎮めの雨にほふ 山本照子
山焼の火種に下ろす藁の束 千須和蟻昼
山焼の火種引きずり走りけり 梶尾黙魚
山焼の灰かぶり来し仔馬かな 内藤吐天
山焼の灰の降り来る小駅かな 田中冬二 俳句拾遺
山焼の灰散りこめり一碧湖 伊藤芳子
山焼の炎に叫び翔ちゆくもの 黒谷忠
山焼の炎の降る旅程身は一つ 原裕 葦牙
山焼の焔は嶺を匐へり日輪も 石原八束 空の渚
山焼の煙の上の根なし雲 高浜虚子
山焼の煙は雲と逢ひにけり 小澤實
山焼の煤溜めて畝石まじり 中戸川朝人 星辰
山焼の燧袋も古りにけり 石井露月
山焼の眼の玉ふたつ燃え残り 徳弘純 麦のほとり 以後
山焼の茶屋に書きたる手紙かな 長谷川零余子
山焼の間際までゐる鹿を追ふ 山口超心鬼
山焼の闇を押しゆく炎かな 湯浅千加江
山焼の雄心たもつ幾日あり 沼尻巳津子
山焼の雨に終れば鯛蕪 角川春樹 夢殿
山焼の音谺せり大阿蘇に 高木あけみ
山焼の香に買ふ寧楽のみやげ墨 松島 利夫
山焼の麓に暗き伽藍かな 多田桜朶
山焼やかへり見すれば月すでに 岸風三楼 往来
山焼やほのかにたてる一ツ鹿 白雄
山焼や夜はうつくしきしなの川 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
山焼や岩の悲鳴がひた走る 笹本カホル
山焼や旅に暮れける西の京 和田祥子
山焼や火の刈萱を撒き散らし 長谷川櫂 天球
山焼や火焔太鼓の響きせり 武井与始子
山焼や礫のごとく鳥翔り 林八重子
山焼や賽の河原へ火のびたり 誓子
山焼イテ十日ノ市ヤ初蕨 蕨 正岡子規
峰の松に迫る火の瀬やお山焼 山田弘子 初期作品
弥勒寺の棟の左の山焼くる 河野静雲 閻魔
戎壇院辺りは静かお山焼 橋本道子
手をゆるくつなぎのぼれり山焼く火 高澤良一 ぱらりとせ
文藝は遠し山焼く火に育ち 寺山修司 花粉航海
旅は阿蘇山焼く頃とさそはるる 汀子
日暮来る山焼きの火のまだ残り 石川薫
星空のひろがる明日の山焼かん 宮中千秋
春の山やくやそこらに人もなし 山焼 正岡子規
春の山焼いたあとから笑ひけり 山焼 正岡子規
月の面へ飛びつく火の粉お山焼 山田弘子 懐
東大寺方より火の手お山焼 岩崎三栄
松に倚り山焼見るや人も来ず 西山泊雲 泊雲句集
残り火の星になりたるお山焼 吉村久子
残る雪煮ゆや山焼く火のひびき 高橋睦郎
水仙の群落に山焼くが見ゆ 松村蒼石 雪
湯の山も田上も焼くや雨近み 山焼 正岡子規
満月のうかと出でたるお山焼 今井妙子
火が鬩ぐ鶯御陵お山焼 河合佳代子
火の上に火の上に火のお山焼 蔦三郎
火の変化風に従ふお山焼 稲畑汀子 春光
火の帯が火をつつみゆくお山焼 朝妻力
火を追うてのぼる高張お山焼 下村非文
焔焔を呑んで大きく山焼く火 高澤良一 ぱらりとせ
焼山の大石ころりころりかな 山焼 正岡子規
燃えしぶる山焼の火を叱咤して 塩川雄三
瘤爺の山焼く火をぞ放ちけり 野村喜舟
神の火に万葉の山焼けるかな 田原憲治
竃の火燃えてをり山焼けてをり 楠目橙黄子 橙圃
花なき山焼木にせぬも郭公 井原西鶴
薄曇り隣の山を焼きにけり 山焼 正岡子規
薄月の山焼きに行く小路かな 山焼 正岡子規
薄月の山焼きに行く路遠み 山焼 正岡子規
襟立てて遠くに奈良のお山焼 倉田 健一
賀茂郡河津の庄に山焼く火 石塚友二
足もとに鹿の来てゐしお山焼 岸風三樓
遠くより美しかりしお山焼 山田一女
遠つ世の火色ひろげしお山焼 山田弘子 こぶし坂
遠山の焼くる火見えて夕淋し 山焼 正岡子規
闇よりも濃し山焼を了へし山 橋本美代子
雨ならん山を焼く火の広がりぬ 山焼 正岡子規
雨空にほつかりと山焼くるなり 臼田亞浪 定本亜浪句集
青丹よし奈良は影絵のお山焼 貞吉直子
頂上へ火の筋走るお山焼 滝沢伊代次
鴟尾光るうちは山焼始らず 吉村宵雨
鹿の目に地異天変のお山焼 三嶋隆英
鹿の眼に映る焔やお山焼 角田勝代
鹿の瞳に地異天変のお山焼 三嶋隆英
○山笑う
●雪山
あかつきの雪山の上星黄なり 長谷川かな女 雨 月
いつ見ても婆に雪山雪降りをり 中山純子 沙羅
いぬふぐり雪山は雲湧き立たせ 斎木直治
おほひなる雪山いま全盲 かがやくそらのもとにめしひたり 葛原妙子
おもおもと雪山の方餅搗く音 村越化石 山國抄
かへり見る雪山既に暮れゐたり 清崎敏郎(1922-99)
こたへなき雪山宙に労働歌 飯田蛇笏 雪峡
すれちがふ汽車の窓透き雪山あり 篠原梵
その墓に佇てば雪山鷽の舞ふ 黒田杏子 花下草上
たはやすく弾丸に撃たれて雪山をまろび落つる熊は映画に撮られぬ 半田良平
つく~と雪山近く歩きけり 星野立子
なお雪が降り雪山の羽毛みゆ 和知喜八 同齢
ふところに一枚の櫛雪山へ 岡本眸
ふるさとは雪山まろし父母在らず 成瀬櫻桃子 素心
わが一生(ひとよ)雪山つなぐ橋に揺れ 野沢節子 花季
わが生や夜も雪山に囲繞され 相馬遷子 雪嶺
一つ知る雪山の名を言ひにけり 綾部仁喜 樸簡
一歩前へ出て雪山をまのあたり 齋藤美規
人の許へ雪山たゝむ敦賀湾 細見綾子 花 季
人日の雪山ちかき父母の墓 石原舟月 山鵲
初蝶や雪山恍と雲の上 松村蒼石 露
北の星ばかり雪山背に迫り 中戸川朝人 残心
北へ走す雪山島に二タ並び 中戸川朝人 残心
吹き晴るる雪山の威の自ら 阿部みどり女 『微風』
吾子泣くか雪山かぎる杉一樹 角川源義
壁に身をする馬や雪山眼のあたり 金子兜太
夕日落つ雪山の裏は明るからん 岡田日郎
夜が来て雪山けもののごと横たふ 吉野義子
夜の明けてをらぬ雪山見えてをり 青葉三角草
天へ入りゆふべ雪山結晶す 岡田日郎
奥武蔵雪山ならぶ除夜の鐘 水原秋櫻子
小さき母雪山にながくながくあれよ 石橋辰之助 山暦
山開雪山讃歌もて了る 渡辺立男「蘆刈」
嶺の奥に雪山ありぬ薺摘み 飯田龍太
川の淵寂寥は雪山よりくるか 川島彷徨子 榛の木
川激ち雪山うつるところなし 早崎明
恋捨てに雪山に来しが笑ひ凍る 小林康治 玄霜
手あぶりや雪山くらき線となりぬ 林火
日象と雪山ふかく水かがみ 飯田蛇笏 雪峡
昏々と夜は雪山をおほひくる 石橋辰之助 山暦
月いでゝ雪山遠きすがたかな 飯田蛇笏 霊芝
月明りありて雪山くるゝかな 比叡 野村泊月
月稚し雪山照らす力なし 岡田日郎
朝焼けの雪山負へる町を過ぐ 篠原梵 雨
村人や雪山の威に恃み栖む 深川正一郎
桃の村雪山が見え鶏が鳴く 柴田白葉女 花寂び 以後
桑括ることぶれの雪山に見て 秋山幹生
梟に雪山星を加へけり 山下竹揺
極月や雪山星をいただきて 飯田蛇笏 山廬集
母の死や南風の雪山きほひたつ 金尾梅の門(古志)
水晶の数珠雪山にかげなき日 柴田白葉女 花寂び 以後
汽車来る雪山に音刻みつつ 相馬遷子 雪嶺
漁樵をり氷湖雪山こもごも照る 木村蕪城 寒泉
灯を消され雪山近み眠られず 村越化石 山國抄
産院を繞る雪山四温光 飯田蛇笏 椿花集
男山酒造雪山正面に 高澤良一 素抱
画家たらんおもひ雪山前にして 高澤良一 素抱
盆地黄に乾く雪山の中にして 相馬遷子 雪嶺
窯出しの雪山写シいかばかり(萩焼休雪白は水指にきはまり、口縁の景色まさに遠山の風趣なり) 飴山實 『次の花』
策無きに怒る雪山の中の妻 石橋辰之助
糧を喰ふ手もて雪山の闇はらふ 辰之助
練習機雪山にそひまはりくる 川島彷徨子 榛の木
美しき雪山の名のシンデレラ 京極杞陽
群りてゐる雪山を去りにけり 八木林之介 青霞集
翁舞国栖の雪山塀をなす 津田清子 二人称
英霊を雪山ふかく秘めし家 石橋辰之助 山暦
豆撒くや雪山ふかきかり住居 鎌野秀々
車輪すでに雪山がかる響かな 野澤節子 花 季
逃げ来しにあらず雪山あたゝかし 石橋辰之助
逢ひたさつのる夕ベの陽雪山に泌みる 人間を彫る 大橋裸木
遠天に雪山ほのと秋の暮 相馬遷子 山國
銀婚の旅雪山の虹に入り 影島智子
銃声の谺雪山無一物 長嶺千晶
闇とほく雪山おそふ風ゆける 石橋辰之助 山暦
降りて止む降りて止む雪山真白 岡田日郎
雁の声雪山は月に見えてか 佐野良太 樫
雛買うて杣雪山へ帰りけり 原石鼎
雪山こごりげんげ田の果に海光る 栗林一石路
雪山と寝起共にし疲れけり 阿部みどり女
雪山と立ち向ひたる身一つ 伊藤柏翠
雪山と降る白雪と消し合ひぬ 松本たかし
雪山と雪の日輪白きかな 阿部みどり女
雪山に 日のあたりたる 馬のいななき 富澤赤黄男
雪山になほ降る雲か垂れて来ぬ 篠原梵 雨
雪山にひとりの眠り沈みゆく 林翔 和紙
雪山にゆふべの月のまだ白く 上村占魚 球磨
雪山に一切埋めし心のはづ 相澤静思
雪山に一家はたらく日の英霊 石橋辰之助 山暦
雪山に会いたる痩木とその影と 寺田京子 日の鷹
雪山に何も求めず夕日消ゆ 飯田龍太 麓の人
雪山に噴く湯ゆたかに登別 清水寥人
雪山に大汗はばむしまき哉 中勘助
雪山に成層圏の蒼さ墜つ 松本詩葉子
雪山に日は入り行けり風吹けり 相馬遷子 山河
雪山に春が来てをり美しや 高木晴子 晴居
雪山に春のはじめの滝こだま 大野林火
雪山に春の夕焼滝をなす 飯田龍太 百戸の谿
雪山に春の川ある街住ひ 高木晴子 晴居
雪山に時計は遅々とすゝまざる 相馬遷子 山国
雪山に林相白を以て描き 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山に水ほとばしる寒の入り 飯田蛇笏 椿花集
雪山に汝を思へば海蒼し 相馬遷子 山国
雪山に沿ふてりんごの花街道 高澤良一 燕音
雪山に灯なき電気に雪が降る 金子兜太
雪山に照る日はなれて往きにけり 飯田蛇笏
雪山に父の樅の木鳥見えて 大井雅人 龍岡村
雪山に白樺の白やや汚れ 福田蓼汀 山火
雪山に籠り牛百の他は見ず 太田土男
雪山に英霊の供華あたらしき 石橋辰之助 山暦
雪山に路あり路を人行かず 相馬遷子 山國
雪山に還り英霊しづかなるや 石橋辰之助 山暦
雪山に野を界(かぎ)られて西行忌 橋本多佳子
雪山に野尻湖の碧沈めけり 橋本夢道
雪山に野鯉群れいて蜜の澄み 阿保恭子
雪山に雪の降り居る夕かな 前田普羅(1884-1954)
雪山に雪降り夜の力充つ 日下部宵三
雪山に雪降り重ね粥柱 陣内イサ子
雪山に雲のかゝりしことありぬ 今井杏太郎
雪山に頬ずりもして老いんかな 橋間石
雪山に頬削り来し男なり 野澤節子 黄 炎
雪山のあなた雪山麻を績む 文挟夫佐恵 雨 月
雪山のある日老髯のさるをがせ 古舘曹人 能登の蛙
雪山のいま樹々の闇青かりし 石橋辰之助 山暦
雪山のうしろにまはり遅日光 松村蒼石 寒鶯抄
雪山のおもてをはしる機影かな 飯田蛇笏 春蘭
雪山のかがやき近き山になし 阿部みどり女
雪山のかへす光に鳥けもの 木村蕪城 寒泉
雪山のきららの雪の夜を透す 石原八束 空の渚
雪山のけさ鳴きたるは橿鳥か 長谷川櫂 天球
雪山のけぶらひひとりふたり帰化 松澤昭 山處
雪山のそびえ幽らみて夜の天 飯田蛇笏 雪峡
雪山のたそがれにこそあこがるる 松澤昭 面白
雪山のどこも動かず花にほふ 飯田龍太(1920-)
雪山のどのみちをくる雪女郎 森澄雄
雪山のどの墓もどの墓も村へ向く 相馬遷子 雪嶺
雪山ののぞける街の羽子日和 上村占魚 球磨
雪山のひかりのこれりかの夜空 石橋辰之助 山暦
雪山のひと日のうるみ青烏 野澤節子 黄 炎
雪山のふもとの伏家初かまど 飯田蛇笏 春蘭
雪山のまなざしのなか白鳥湖 細見綾子
雪山のみな木かげして音絶えき 飯田蛇笏 雪峡
雪山のむらさきに出す凍豆腐 平沢洲石
雪山のむらたつ故園日のはじめ 飯田蛇笏 春蘭
雪山のゑぐれし襞に霧たてばただよふ如し愛といふこと 五島茂
雪山のラッセル深し膝でこぐ 矢我崎和子
雪山の今日の輝き明日ありや 阿部みどり女
雪山の冠りみだるる風の星 飯田蛇笏 雪峡
雪山の初明りして狐罠 小坂順子
雪山の名を言ふ春の渚かな 山本洋子
雪山の向うの夜火事母なき妻 金子兜太(1919-)
雪山の堂断食の僧一人 伊藤柏翠
雪山の夕かげふみて猟の幸 飯田蛇笏 春蘭
雪山の夕しづかさのせまりけり 橋本鶏二 年輪
雪山の夕べかげりて噴く煙 石原八束 空の渚
雪山の夕日に溶けて鳩の道 阿部みどり女
雪山の夜ぞねがふべきいのち忘れ 石橋辰之助 山暦
雪山の夜も聳えをり近松忌 森澄雄
雪山の大白妙に初烏 田村木国
雪山の奥に雪山白子汁 長田喜代子
雪山の岩肌をかく爪掻きし 八木林之介 青霞集
雪山の左右に揺るる歩みかな 上野泰 佐介
雪山の底なる利根の細りけり 草間時彦
雪山の後ろにまはり遅日光 松村蒼石 寒鶯抄
雪山の斑や友情にひゞ生ず 上田五千石 田園
雪山の斑や近き者愛す 岸貞男
雪山の旭にひとざとの鶫かな 松村蒼石 寒鶯抄
雪山の昏るるゆとりに鳴る瀬かな 飯田蛇笏 春蘭
雪山の星座を数ふ指で衝き 橋本美代子
雪山の星見いでたし猿啼く 松村蒼石 雪
雪山の昼も夜も寝て杉丸太 吉田紫乃
雪山の朝日に顔のちから抜く 飯田龍太
雪山の朝日英霊にわかれ浴びぬ 石橋辰之助 山暦
雪山の照り楪も橙も 森澄雄
雪山の眺めに桑のあをみけり 松村蒼石 露
雪山の端が輝き奴凧 阿部みどり女
雪山の繊翳もなく日のはじめ 飯田蛇笏 椿花集
雪山の羞らひの白村が見え 齊藤美規
雪山の聞きたる儘に現れし 京極杞陽 くくたち下巻
雪山の肌より顕るる岳かんば 関本テル
雪山の荒膚仰ぐ針供養 堀口星眠
雪山の虚ろに炎立つランプ小屋 原裕 青垣
雪山の襞ぎつしりと青年期 木村敏男
雪山の遠さ発止ととどめたる 松澤昭
雪山の重なる奥の白さかな 五十嵐春男
雪山の闇たゞ闇にすがりゆく 石橋辰之助 山暦
雪山の闇夜をおもふ白か黒か 正木ゆう子
雪山の障子をひらきたるかたち 齊藤美規
雪山の雪の歇み間の一つ星(土合) 殿村菟絲子 『繪硝子』
雪山の雪の立錐皆檜 橋本鶏二
雪山の雲に入りてよりながし 阿部みどり女 『雪嶺』
雪山の風来るまでにちかづきぬ 篠原梵 雨
雪山の風樹孤島の濤と聴き 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山の鳥の音は目をさそふなり 大串章
雪山の鷽が来てをり春祭 加藤岳雄
雪山の麓の山毛欅の疎林かな 京極杞陽 くくたち上巻
雪山はうしろに聳ゆ花御堂 露月句集 石井露月
雪山はゆつくり霞むかいつむり 岡井省二
雪山は人の棲まざる淋しさあり 岡田日郎
雪山は晴れて港の船往来 高濱年尾 年尾句集
雪山は月よりくらし貌さびし 前田普羅 飛騨紬
雪山は雲にかくれて梅匂ふ 大熊輝一 土の香
雪山へ共に快癒を祈るかな 阿部みどり女
雪山へ向ふ人数恃まるる 山田弘子 螢川
雪山へ狐の駈けし跡いきいき 大野林火
雪山へ眼遊ばす絵付工 羽部洞然
雪山へ鉄路消えゆく建国日 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
雪山へ顔上げつづけ一人旅 細見綾子 黄 炎
雪山みゆるこの坂いつも埃まく 川島彷徨子 榛の木
雪山も雪なき山も似し高さ 稲畑汀子 汀子句集
雪山や頻りに動く竹数竿 島村元句集
雪山や駅には駅の煙立ち 京極杞陽 くくたち下巻
雪山をのしのし匍へる鯰雲 宮坂静生 春の鹿
雪山をはなれてたまる寒の闇 飯田龍太 山の木
雪山をはひまはりゐるこだまかな 飯田蛇笏
雪山をはるけく来つる炭売女 飯田蛇笏 雪峡
雪山をへだてて見ゆる炭山疲れ 齋藤玄 『無畔』
雪山をまぢかに見つゝ通勤す 上村占魚 鮎
雪山をみせて月出ぬ古かかし 飯田蛇笏 山廬集
雪山をゆく日とどまるすべもなし 飯田蛇笏 椿花集
雪山を匍ひまはりゐる谺かな 飯田蛇笏
雪山を匐ひまはりゐる谺かな 飯田蛇笏
雪山を夜目にポールをまはすなり 中村汀女
雪山を奔りきし水口漱ぐ 長谷川櫂 虚空
雪山を宙にひくめて年新た 飯田蛇笏 雪峡
雪山を容れて伽藍の大庇 伊藤柏翠
雪山を寒きところと仰ぐばかり 高柳重信
雪山を流れて水の炎となれる 原裕 葦牙
雪山を灼く月光に馬睡る 飯田龍太 童眸
雪山を畏みてをり源義忌 吉田鴻司
雪山を背にし枯れ山貧窮す 吉田嘉彦
雪山を背に立つ国境歩哨兵 深田久彌 九山句集
雪山を見てきし故に山見つゝ 京極杞陽
雪山を越えて彼方へ空むなし 相馬遷子 雪嶺
雪山を近く林檎の咲き潤ふ 長谷川かな女 雨 月
雪山幾重まさしく北にポーラリス 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山想う心音は軽い音楽 一ノ瀬タカ子
雪山暮るゝや天青きまゝ月ほの~ 楠目橙黄子 橙圃
雪山滑り降り人住むドア汚る 中山純子 茜
雪山真向ひもり上がりをる膝の継 川口重美
雪山背にバレーのごとき白孔雀 加藤知世子 黄 炎
雪沓でゆく雪山の発電所 和知喜八
電線のたるみが大事雪山へ 林 庄一
霜日輪雪山の秀をつつむなり 松村蒼石 春霰
青春なかば雪山並ぶ暗さ知りぬ 岡田日郎
頂ならぶ越の雪山きのこ取り 川崎展宏
風が棲む雪山の裾初荷行く 相馬遷子 雪嶺
鳶ないて雪山空に暮れかぬる 梅の門
●霊山
冬を力耕霊山のほとりにて 上田五千石
冬木越し霊山に拠る町点る 宮津昭彦
湧きつづく霊山の霧無尽蔵 山口超心鬼
爾霊山のひまわり種のこげ臭し 千葉幸江
種浸しあり霊山の雪解水 松井利彦
霊山に鴨が来てをり木魚鳴る 山口超心鬼
霊山の威儀を庇に大根干す 遠藤梧逸
霊山の峡の常山木に正午の日 飯田蛇笏 椿花集
霊山の巌打ちて霊山の滝 岬雪夫
霊山の胸突く磴に山法師 角田太一
霊山の隣の山も風光る 亀田俊美
霊山の風吹きおろすホップ摘む 太田嗟
霊山へ木深く逃げし鶉かな 西山泊雲 泊雲句集
霊山や昼寐の鼾雲起る 子規句集 虚子・碧梧桐選
霊山や昼寝の鼾雲起る 昼寝 正岡子規
霊山を仰ぐ夜の果て雪の降る 飯田蛇笏 椿花集
霧剥がれゆく霊山の鳥兜 太田嗟
●霊峰
春嵐去りて霊峰煌めけり 吉井竹志
法螺の音の絶えぬ霊峰山開き 高橋美智子(蘇鉄)
火口湖を発ち霊峰へ鷹消ゆる 脇本澄子
血曼荼羅蔵し霊峰もみいづる 澤井洋子
連山のいづれ霊峰冬の霧 松本糸生
雉子笛に霊峰谺かへしけり 小森都之雨
霊峰に足踏み入れし秋の風 栗田希代子
霊峰の明け放たれし初御空 藤田つとむ
霊峰の風を五色に秋立てり 吉原文音
霊峰をのせ動かざる秋の雲 久保善男
鷹柱霊峰富士をみはるかす 三枝青雲
●連山
くろもじの花連山を忘れ咲く 友岡子郷 未草
とんぼうの空の弾力その連山 阿保恭子
どどーんと轟く連山猟期入る 藤田真寛
はるかには日高連山馬肥ゆる 辛順子
まんさくや暁の連山刃めき 柴田紫水
冬近き連山屋上の水を飲む 桜井博道 海上
初富士や連山抜けて宙に浮く 井手切子
合歓の花箱根連山けむりをり 森永 奈美
名残雪九重連山明け渡る 藤田岳人
向日葵の百の素顔と阿蘇連山 高澤良一 鳩信
地ビールや阿蘇の連山昏れかかる 中村温子
大寒の穂高連山総立ちす 近藤英江
山笑ひ出して連山総笑ひ 塩川雄三
日は一輪雪の連山耀かす 伊東宏晃
日蓮忌甲斐連山の晴れ渡り 大村峰子
暮れのこる連山雛の間を灯す 田辺博充
朝凪や鶴見連山雲を被て 河野恭二
柿盗む枝に連山晴れすぎて 長谷川かな女
棕櫚剥ぐや連山風をふところに 小倉緑村
河骨を連山かこむ国に来し 大峯あきら 鳥道
炉によつて連山あかし橇の酔 飯田蛇笏 霊芝
瑠璃鳥澄める連山の夜をはがしつつ 宇咲冬男
白菜を抱いて連山呼び捨てに 隈元拓夫
白鳥の引きて連山動きそむ 小松原みや子
知床の連山望み砕氷船 渡辺酔美
稲刈るや連山四顧の秋濶し 金剛纂(麥南小句) 西島麥南、飯田蛇笏選
紅葉連山赤蕪掘りが働ける 和知喜八 同齢
紫に箱根連山暮の春 河野美奇
縒りかけて一気に綯へり牛蒡注連 山本とく江
芋の露連山影を正うす 飯田蛇笏 霊芝
茶の花や秩父連山雲深し 青峰集 島田青峰
葱の剣秩父連山低くして 矢作 至
蝌蚪の紐連山雲を放ちけり 川崎陽子
連山に雪の鞍おく青き夜 吉川昌子
連山のいづれ霊峰冬の霧 松本糸生
連山のかすみ青しや空を反射 八牧美喜子
連山の一気に近し野分あと 秋吉かずみ
連山の夜気の冷せし桃を食ぶ 関森勝夫
連山の肩組み合うて笑ふなる 本井英
連山の輪にとざされて日雀かな 柚木紀子
連山を北へ曳きつつ残る花 飯野榮儒
連山を引きよせている蛇笏の忌 槙 宗久
連山を蛇笏とおもふ袋掛 梅田津(銀化)
連山を踏みにふむなり稲扱機 山口誓子
雁のあと連山岩をそばだてゝ 相馬遷子 山国
雪の連山見つつチョークの粉払ふ 森田公司
雪を被て連山統べる伊吹山 藤田真木子
雪止みて墨絵の屏風伊賀連山 田中義明
雪虫や連山藍を重ね合ふ 菅原多つを
●連峰
アルプスの連峰指呼にりんご狩 長谷部八重子
八岳連峯展け冬晴れの詣で道(諏訪神社) 内藤吐天
初茜阿蘇連峰をそめにけり 松永如峰
残雪の吾妻連峰桑ほどく 鈴鹿野風呂 浜木綿
残雪の連峰しずかに沖さがす 対馬康子 愛国
白馬連峰雲をとどめず天高し 柴田茫洋
秋桜連峯よべに雪着たり 金尾梅の門 古志の歌
立山連峰極月の月の下 野中亮介
籠枕編むや連峰雲の中 大島民郎
蓮根掘る鈴鹿連峰靄の中 佐竹幸子
連峯に月抛りあげ芋煮会 高井北杜
連峯のしのゝめ鷹を見失ふ 及川貞
連峯や匂ふ日の出のうろこ雲 及川貞
連峯や松蟲草は夕風に 及川貞 夕焼
連峰に雪来しを知る目の痛み 西浦一滴
連峰の雪日ごと見て濃山吹 松村蒼石 雁
連峰の高嶺々々に夏の雲 高浜虚子
連峰へ辛夷ほつほつ塩の道 栗原澄子
連峰を屏風びらきに桜かな 鷹羽狩行
連峰残雪いまだほどかぬしつけ糸 対馬康子 吾亦紅
雪連峰摩周湖の蒼引立てて 加藤純子

以上

# by 575fudemakase | 2022-05-22 15:14 | ブログ

山2  の俳句

山2  の俳句

●山上
まいりては実や山上の物がたり 井原西鶴
万愚節山上に在り航を待つ 中島斌雄
初暦山上のイエス天を指す 秋山育子
初栗に山上の香もすこしほど 飯田蛇笏
千振採山上に小雨降つてきし 藤波銀影
姨捨山上台風を見送りぬ 原田喬
山に死し山上の墓地十三夜 杉山榮一
山上げにかかりいよいよ荒梵天 太田土男
山上にけむりを立てて焚火かな 太田鴻村 穂国
山上に人の灯を生む十二月 原裕 青垣
山上に人現れつ春の蝉 臼田亞浪 定本亜浪句集
山上に強き燈洩らす夏館 桂信子
山上に御師の町あり月照らす 岡田日郎
山上に拡げし地図に小鳥来る 中川忠治
山上に杉生は重し星祭 斎藤玄 雁道
山上に水を惜しまず墓洗ふ 鷹羽狩行
山上に淡海ふたつ更衣 宮坂静生 春の鹿
山上に臥れば巨人になった様 仁平勝 東京物語
山上に言葉四・五人は揚羽なり 稲山佳子
山上に鍵使ひをり春の寺 綾部仁喜 寒木
山上に雲をさまりぬ閑古鳥 龍胆 長谷川かな女
山上に雲突き上げてケルン立つ 寺岡捷子
山上のあたらしき町白魚売 中拓夫
山上のいっぽんの木に朝日さし夕照りいつもいっぽんの木 松本千代二
山上のことに晴れたる濃竜胆 池上浩山人
山上のパイプオルガン花あしび 八木蘭
山上の仮の弓場も義士祭 吉武月二郎句集
山上の坊に憩へば避暑心地 山田弘子 初期作品
山上の垂訓よむや秋の山 松瀬青々
山上の城真向ひに種選 村岡 悠
山上の妻白泡の貨物船 金子兜太 金子兜太句集
山上の月に憧れ初ぼたる 関森勝夫
山上の湖に馬冷やしたる 小林洸人
山上の祠のあたり火串かな 安藤橡面坊
山上の秋は俄かと思ひけり 千原草之
山上の秋草に身や天は男 文挟夫佐恵 黄 瀬
山上の空気に冷えしビール飲む 右城暮石
山上の茶屋に鮓ありそれを喰ひぬ 鮓 正岡子規
山上の雪をまぶしむ蕉蒸 原裕 『新治』
山上の霧に夜明けて黄なる糞 右城暮石 声と声
山上は無垢の青空斧仕舞 古賀まり子
山上は真冬の小鳥うららに人に鳴き寄る 人間を彫る 大橋裸木
山上へせり上がりたる桜かな 棚山波朗
山上へ闇を縫ひくる白切子 つじ加代子
山上や胡椒少々と高橋君 中北綾子
山上憶良ぞ棲みし蓬萠ゆ 竹下しづの女句文集 昭和十二年
山上憶良の知らぬオクラ咲く 矢島渚男 延年
山上憶良を鹿の顔に見き 後藤夜半
心臓面白うて止まらぬ山上の痩蛙 永田耕衣 悪霊
松明の山上り行くもみち哉 紅葉 正岡子規
氷掻く音し山上澄めるかな 茨木和生 木の國
泣きべたや山上に行くかたつむり 増田まさみ
海に原潜山上によきおみなえし 阪口涯子
父を焼く山上焼酎ほど澄んで 西川徹郎 瞳孔祭
登り来し山上どれが最高峰 右城暮石 上下
目つむりて邯鄲の聲引きよせし(武州御嶽山上) 上村占魚 『萩山』
秋風や三田山上に春夫詩像 宮脇白夜
竜胆を山上に売り駅にも売る 横山白虹
紅葉山上りの道にある下り 須川洋子
給仕人 ときどき 山上館の全き冬 伊丹公子 陶器の天使
花の山上と下とで見染めけり 野村喜舟 小石川
萬歳や袖広げ山上げて空 八木林之介 青霞集
裏門は山上にあり花林檎 阿部みどり女
雪照りて山上の日はゆらぎをり 渡邊水巴 富士
頼瑜忌や根来山上樟の秋 門屋大樹
飛行船山上にあり竹の子のせる 阿部完市 春日朝歌
●山上湖
初郭公水位の満ちし山上湖 葉良一彦
四方の深雪に山上湖温みそむ 松村蒼石 雁
夜鷹啼きたそがれ永き山上湖 太田嗟「夜庭」
山上湖とゞろ波立ち日の寒き 石塚友二 方寸虚実
山上湖へ道ひと筋や霾れり 脇坂啓子
山上湖一枝映し紅葉かな 東洋城千句
山上湖氷らんとして波さわぐ 篠田悌二郎
擬宝珠咲きのぼる晴夜の山上湖 福田甲子雄
暮れぎはの紅葉を讃へ山上湖 青柳志解樹
秋冷や瑠璃色尽す山上湖 宮田俊子
秋天へ紺を投げたる山上湖 伊代次
秋天を絞り溜めたり山上湖 関成美
菊暮れて月の染めゆく山上湖 橋本榮治 麦生
●山地
いく霜の山地日和に咲く茶かな 飯田蛇笏 山廬集
五千尺の山地三尺の柳蘭 瀧井孝作
山地図を展きしままの春炬燵 本郷をさむ
弔砲の谺は冬の山地駆せ 安田北湖
花ひとすじ白神山地越えゆけり 武藤鉦二
蕗の芽や海に墜ち込む紀伊山地 つじ加代子
風吹いて山地のかすむ雲雀かな 飯田蛇笏 霊芝
●山脈
あきかぜの山脈おのが影いだく 楠本憲吉
いく壁の翳りを刻む高空のかの山脈に日照るらむか 若山喜志子
うねうねと山脈低し青嵐 青嵐 正岡子規
もう春の山脈として濡れてゐる 柿本多映
ゆく年の雲山脈と同じ色に 川崎展宏
コスモスに山脈影の世のごとし 齋藤愼爾
スリッパで春の山脈見てゐたる 鈴木鷹夫 春の門
トマト熟れ伊賀の山脈明らかに 大田たけを
仏壇を負う男炎天の山脈見えぬ 和田悟朗
冬柏阿武隈山脈ねむりけり 加藤楸邨
冬波に背けば炎き常陸山脈 富澤赤黄男
凍踏むや旭をまつ山脈のたゝずまひ 金尾梅の門 古志の歌
切(きれ)に包めば山脈となる妹よ 攝津幸彦
切れぬ山脈柿色の柿地に触れて 西東三鬼
初雪や奥羽山脈深々と 吉田狂草
動きてはならぬものすこしうごきたり天山山脈初雪を受く 川野里子
嘶きや日高山脈星走る 一ノ瀬タカ子
夏断ちして山脈闇へ帰りゆく 鈴木慶子(小熊座)
夜の帳り包む山脈蛍とぶ 福本天心
実朝忌伊豆の山脈あらけなく 原裕 青垣
寒ン山脈ほおいほおいと栃木のひぐれ 古川克巳
寒卵割る山脈を近づけて 中村明子
寒波来るや山脈玻璃の如く澄む 内藤吐天
寒満月山脈低み宙に浮く 相馬遷子 雪嶺
尾張野は山脈遠し稲の花 滝 峻石
山脈が尽きて乱れし冬の雁 対馬康子 愛国
山脈に似て遠雲や雛しまふ 籏こと
山脈に何か光りし稲を刈る 百合山羽公 寒雁
山脈に富士のかくるる暮春かな 飯田蛇笏 椿花集
山脈に本気に生きて二輪草 桃木光子
山脈に沿ふ空淡し冬の雁 相馬遷子 雪嶺
山脈に漂着したる哺乳壜 遠藤進夫
山脈に猫入りくるやがて夏服 阿部完市 軽のやまめ
山脈に窪あり秋日包まんと 佐藤鬼房
山脈に耳あり夜の石つぶて 夏石番矢 神々のフーガ
山脈に藍さして夏立ちにけり 相馬遷子 雪嶺
山脈に闇なじみたる薺打 長崎玲子
山脈に雪来し芒ほそりけり 有働亨 汐路
山脈のすそが崩れて金屏風 南村健治
山脈のひと隅あかし蚕のねむり 金子兜太 少年/生長
山脈の一か所蹴つて夏の川 正木ゆう子「静かな水」
山脈の動くのが好きすすき揺れ 瀬戸葉子
山脈の夜影漆黒きりぎりす 内田典子
山脈の奥に富士あり日脚伸ぶ 上田正久日
山脈の果の岬にちちろ鳴く 山口誓子 雪嶽
山脈の濃くさだまりてそばの花 長谷川双魚
山脈の空みどりなす春の月 相馬遷子 山國
山脈の脈より生まれ黒揚羽 高野ムツオ「蟲の王」
山脈の荒々しくも天瓜粉 飯島晴子「朱田」
山脈の襞に聴き澄み埋もれる耳ら 高柳重信
山脈の遠むらさきや葱囲ふ 三橋迪子
山脈は竜の背をなし草刈女 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
山脈へ肩張る軍鶏や七五三 池元道雄
山脈へ野をおらび行く雪解風 相馬遷子 山国
山脈やほたる袋に母と棲む 杉田桂
山脈を手籠めにしたる祖父の日よ 仁平勝 東京物語
師をへだつ山脈かけて銀河濃し 羽部洞然
帰白鳥背な低き山脈負ひて 新谷ひろし
干草をひろげ山脈高くせり 毛塚静枝
平安に山脈麦の穂に隠る 百合山羽公 故園
影ばかり脊梁山脈の獅子舞 金子兜太
抱き果ての/血を/吹きさらす/風山脈 折笠美秋 火傅書
抽出しに少年迷う山脈荒れ 阿部完市 絵本の空
数の子や奥羽山脈光もつ 井上昌文
新松子山脈に雲遼かなり 星野麥丘人
日が/落ちて/山脈といふ/言葉かな 高柳重信
日が落ちて山脈といふ言葉かな 高柳重信
早春の山脈は陽の像して 原裕 青垣
春の夢山脈を曳きずるは雉子 金子皆子
時の日のベルトが むらさきの山脈の 向うへながれる 吉岡禅寺洞
月夜鴉落つる山脈けぶりけり 月笠
木枯や山脈北へ走るのみ 石嶌岳
果無山脈大きねむりを日に曝す 宮津昭彦
柊挿し山脈ひくくなりにけり 山田諒子
梅雨さびの山脈越えて僧の臑 中島斌雄
檀の実割れて山脈光り出す 福田甲子雄
死して/無二の/谺が/のぼる/寝釈迦山脈 高原耕治
毛皮敷くはなれに阿武隈山脈を 阿部みどり女
泥酔われら山脈に似る山脈となれず 高野ムツオ
海へ没する夜の山脈の枯れ烈し 齊藤美規
海底山脈山頂は島冬耕す 吉野義子
源は日高山脈馬冷す 荒舩青嶺(藍)
濃く淡く山脈昏るる栃の花 原 裕
燕去り山脈襞をふかめたる 堀口星眠 火山灰の道
白鳥来佐渡の山脈聳ちて 中嶋秀子
盆地は灯の海山脈は寒茜 福田甲子雄
県境の低き山脈花うつぎ 浦辻美笑
眩暈して吾が山脈のあたらしく 松岡貞子
硯洗ふ天山山脈見ゆるまで 九鬼あきゑ
秋かぜの山脈おのが影いだく 楠本憲吉
秋の暮山脈いづこへか帰る 山口誓子(1901-94)
秋の風夜の山脈のかはりけり 中島月笠 月笠句集
秋冷の八溝山脈茜さす 柴田白葉女 花寂び 以後
秋天とわが山脈を基地が占む 赤城さかえ句集
秋晴るる町角にきて山脈を見し 原田種茅 径
稲光/顔の山脈/瞳の海よ 高原耕治
紙干しに出るたび雪の飛騨山脈 細見綾子 黄 炎
緑噴きあげし山脈妻になれず 寺田京子 日の鷹
縄飛びの宙に山脈吹き晴るる 宮本径考
繭干すや赤石山脈の上の日に 中沢康人
芋茎干す陽の山脈へ群れとぶ鳥 福田甲子雄
葦枯れて山脈キシキシとあとずさる 富澤赤黄男
蛇笏亡き甲斐の山脈寒に入る 澤井我来
蟋蟀や陰山山脈夜目に立つ 加藤秋邨 沙漠の鶴
行き果ての夢山脈よ行き果てず 折笠美秋 君なら蝶に
襞消えて山脈やさし春の暮 相馬遷子 山河
誘蛾燈山脈近くなりにけり 小林康治 四季貧窮
赤石山脈最南端に小豆干す 原田喬
野の吹雪山脈かくしたる抒情 秋澤猛
鉄の門の錆びたれば山脈青かりき 富澤赤黄男
闇抜けて立つ山脈の淑気かな 井上 康明
隼ヨリ額ニ卍ヲ受ケテ褶曲山脈ヲ総ベム 夏石番矢 真空律
雁の列山脈切れし彼方より 永田耕一郎 雪明
雁渡し山脈力集め合ふ 村越化石 山國抄
雁渡る山脈は紺を引き締めて 磯田とし子
雉子の声沁みて山脈あはれなり 龍太
雪の山脈怒濤のごとし寒夕焼 相馬遷子 雪嶺
雪渓の楔アンデス山脈に 品川鈴子
雲山脈帰る鴨また夕あをし 堀口星眠 営巣期
雷雲下国境山脈惨と伏す 相馬遷子
雷雲下國境山脈惨と伏す 相馬遷子 雪嶺
靄かかる奥羽山脈蕨狩 阿部みどり女
青澄みて山脈残る冬の雁 相馬遷子 雪嶺
風はろばろと山脈の光にうたれ シヤツと雑草 栗林一石路
風哭かせ山脈哭かせ冬ざくら 吉田未灰
風葬の山脈遠く秋耕す 目貫るり子
饅頭を焼けよ中国山脈の灯 稲岡已一郎
麦踏みの山脈揃ふ日なりけり 大曽根育代
黒鶫朝の山脈走り出す 小田利恵子
●山容
ゆつくりと台風の来る山容ち 藤田あけ烏 赤松
一国の山容あらた鷹渡る 斎藤梅子
元日や山容無類不老富士 橋本夢道 無類の妻
冬日が照る山容に応ふべし 中塚一碧樓
十月の父ら頷く山容ち 原裕 青垣
山容ち木の芽の中に隠れ得ず 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
山容もあらたまるらし虹のあと 村越化石
山容も刈田ひかりも小諸に来 宮坂静生 春の鹿
山容チ変らず梅雨の町古び 高田風人子
日の讃歌富士はつ秋の山容ち 柴田白葉女 『夕浪』
朝の山容仰ぎ身を愛で蠅まで愛で 磯貝碧蹄館 握手
梅雨晴の武庫の山容思惟半伽 長谷川かな女 花 季
珍しき山容ち旅秋の雲 上野泰 春潮
知床の山容奪ふしまきかな 戸川幸夫
筒鳥や廃坑あとの山容ち 高浜年尾
筒鳥や癈坑あとの山容ち 高浜年尾
精霊火浮びあがりし山容 広瀬町子
背戸の菊に山容早く荒びけり 青峰集 島田青峰
落鮎や山容かくす雨となり 三谷いちろ
薄薄と吹雪小止みに山容 上村占魚 球磨
青北風の岩手山容啄木歌碑 柴田白葉女 花寂び 以後
顔昏れるまで蜩の山容 鈴木蚊都夫
鵙鳴いて山容嶮を加へけり 青峰集 島田青峰
●山雷
山雷のすずろに秋の深みたる 藤田あけ烏
山雷や毛野の青野に人も見えず 臼田亞浪 定本亜浪句集
金剛山雷ぐせのつきゐたり 大島雄作
大年の山の日ぐれとなりにけり寒雷一つ澄みて霽れたり 穂積忠
山の旅雷の高さで湯を使ふ 鍵和田[ゆう]子 浮標
山の湯の松葉しづりや春の雷 臼田亜浪
山の背をころげ廻りぬ春の雷 高浜虚子
山の雷夕べの渓を照しけり 長谷川かな女 雨 月
山びらき神は雷もて迎へけり 三谷和子
山を出て山にかへしぬ春の雷 菅原師竹句集
山人のみやび言葉や秋の雷 原和子
山垣にとゞろきて消ゆ春の雷 及川貞 榧の實
山百合をいくたび照す夜の雷火 土方秋湖
山鳩のくぐもる唄に雷迫る 西東三鬼
戸隠に雷一つ山開 串上青蓑
日雷土葬の山に近づかず 森田智子
春の雷まひるの山を邃うせり 飯田蛇笏 春蘭
春もまた雪雷やしなの山 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
杉の秀に雷火走れり箱根山 鈴木大林子
棕梠山の父の匂ひや冬の雷 石寒太 翔
清盛祭弥山を春の雷はしり 塩田佐喜子
灌仏に軽雷山を下りてくる 西村公鳳
火の山にいどみ駆けづる日雷 上村占魚 『自門』
男女でいて何ごともなく雷の山 和知喜八 同齢
秋雷のあとの山照り鳩鳴けり 阿部みどり女
秋雷の一つ転がる山向う 高澤良一 随笑
秋雷や旧会津領山ばかり 高野素十
秋雷や踏めば崩るる悪の山 宮武寒々 朱卓
草山を比叡の内チや春の雷 尾崎迷堂 孤輪
針山に針いきいきと春の雷 橋本榮治 麦生
鎌倉五山虫出しの雷走りけり 谷田部栄
長閑すぎて虚雷きくなり山の湖 大須賀乙字
雷に切り刻まれをり鋸山 高澤良一 寒暑
雷の殷殷として夏の山 会津八一
雷光に妙義走らす嶺と(いは)(妙義山二句) 河野南畦 『硝子の船』
雷裂けて全山震ふ吉野杉 桂信子 遠い橋
雷鴫足を取られる山仕事 篠田悦子
露座仏の背山を走る春の雷 黒田智彦
飛騨山を雷轟きに指させる 鈴鹿野風呂 浜木綿
●山籟
冬籠山籟聞いて起きしぶる 高田蝶衣
冬葉忌真間の山籟底冷えす 吉田巨蕪
引く鈴に山籟つのる初不動 北 光丘
綱曳の声山籟となりにけり 吉本伊智朗
●山霊
お花畑山霊嶺々に棲み給ふ 福田蓼汀 山火
山霊に一拍二礼きのこ狩 関位安代
山霊に励まされつつ紅葉散る 雨宮抱星
山霊に殺められたし星月夜 長山順子
山霊の語りたき日か滝ゆたか 鍵和田[ゆう]子 浮標
山霊をうとんずる月や霧晴るる 飯田蛇笏 山廬集
山霊を鎮めむと雪つのるなり 岡本まち子
山霊を集め一気に滝落つる 柿沼昭治(麻苧)
山霊雲を餞る鷹の別かな 尾崎紅葉
火祭に山霊あまた蛾を放つ 橋本榮治 麦生
筍を山霊地霊かこみゐる ほんだゆき
●島山
はたはたや志賀の島山低くして 山田みづえ
パンをさく島山青き朝焼に 岸風三楼 往来
六月の雪島山はソ連領(岬頭より国後島を望む) 角川源義 『西行の日』
冬めくや離ればなれに島と島 山本林雨
冬日消えとほき島山に紺還る 篠原梵 雨
冬枯や絵の島山の貝屏風 子規句集 虚子・碧梧桐選
口の隈の島山据り鷹ゆけり 成田千空 地霊
国来よと引きし島山初明り 山本喜朗
墓所一つなき島山の冬紅葉 野澤節子
天草の島山高し夏の海 高浜虚子
婚の旅すずし島山帆がくりに 岸風三樓
島山にしぐれかへしぬ福良港 石原八束
島山にひとり登れり日のひとつ 徳弘純 非望
島山に四囲の島恋ひ登高す 赤松[けい]子 白毫
島山の如青蚊帳に襞のあり 上野泰 佐介
島山の笑ふをながめ磯づたひ 上村占魚 球磨
島山の鈴なす枇杷の皆熟るゝ 鈴鹿野風呂 浜木綿
島山の霞の奥の深み哉 瀧井孝作
島山の露けき径海を離れず 内藤吐天 鳴海抄
島山の高さのつばめ翔けかはす 佐野まもる 海郷
島山はもとより隠岐の秋霞 岸田稚魚
島山は紺あたらしや百千鳥 綾部仁喜 寒木
島山やいたゞきまでも昆布干場 青木茶話一
島山や鳴きつくさんと法師蝉 清崎敏郎
島山を焼く二すぢの煙かな 五十嵐播水 播水句集
島山を鳴きつくさんと法師蝉 清崎敏郎
島山貧し雲の峯にも見離され 津田清子 礼 拝
暁け初めて記紀の島山青葉潮 田中水桜
暗澹と島山つらね冬座敷 飯田龍太
水仙の径はとんびの島山へ 高澤良一 随笑
水無月の島山茫とある別れ 石塚友二 光塵
泳ぎ子に紺島山のよこたはる 加藤三七子
浪の声島山の麦熟れにけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
湖中まで霞むうつつの竹生島 山口草堂
湾をなす島山ひきし盆の月 鈴鹿野風呂 浜木綿
漁りて耕して且つ祈る島 山澄陽子
炎天に神の土鈴の乾く島 山田弘子 初期作品
烏賊釣火隠岐の島山焦がしけり 増本春蘭(城)
白色に包む島山夏の昼 沖手一恋
秋燕のまだ居続ける仁右衛門島 山田春生
背の窓に島山の月みかんむく 及川貞 榧の實
舟がゝりなき島山や夕霙 雉子郎句集 石島雉子郎
船すすむ島山桜すれすれに 上村占魚 球磨
船ゆけり夏の島山を率てゆけり 山口誓子
色足袋で来て拝みけり竹生島 山本洋子
茣蓙半帖*ささげを干して盆の島 山本つぼみ
蒼海へ鷹を放ちし神の島 山田弘子
足はよき物ぞ春辺よ島山よ 永田耕衣 冷位
車窓より瀬戸の島山春隣 星野立子
除虫菊島山ちかみ艀来る 石川桂郎 含羞
雁瘡の父よ暮れゆく島山よ 八木林之助
鵯に安芸の島山濃かりけり 長谷川かな女 雨 月
黒南風や島山かけてうち暗み 高浜虚子「句日記」
●城山
お城山やうやくそれと初明り 高浜年尾
かなかなや邑は城山より明ける 永井博文
仏生会城山の鳶海に啼き 宮津昭彦
代田掻き城山影に人りにけり 山本洋子
初山へ翁城山へ旅われら 亀井糸游
卒業の城山へ笛携へし 山本洋子
句碑動くかに城山の滝の音 杉山青風
喪の家に城山の花散ることよ 田村了咲
城山が見えて小部屋の薩摩汁 川村哲夫
城山が透く法師蝉の声の網 西東三鬼
城山でありしは昔蜜柑狩 舘野翔鶴
城山というものは登つて見ても蝉の鳴くばかり 荻原井泉水
城山にあり弾の穴蝉の穴 品川鈴子
城山にいつものけふの目借時 岡井省二
城山にのぼりてつきし草虱 銀漢 吉岡禅寺洞
城山に多き抜けみちゐのこづち 中山梟月
城山に心置くとき笹鳴ける 中嶋田鶴子
城山に明治の匂ふ樟若葉 原田 昭
城山に残る大樹や天の川 山之内赫子
城山に海の日とどく藪柑子 棚山波朗
城山に蝉の居て鳴く学府かな 藤後左右
城山に間道のあり冬すみれ 佐藤八百子
城山に間道のあり花五倍子 山下明山
城山に雉子出でけり小六月 山店 芭蕉庵小文庫
城山に風のくぐもる藤の花 吉田 二葉
城山のぶつかるごとき蝉しぐれ 中村明子
城山のまた颪しをり猫の恋 大峯あきら
城山の七谷晴れて小鳥来る 深見けん二
城山の八幡祭風強し 皆川盤水
城山の初日あまねく隼人墓地 岡部寿香
城山の北にとゞろく花火かな 花火 正岡子規
城山の崖掃きおとす夏落葉 松村蒼石 春霰
城山の桑の道照る墓参かな 杉田久女
城山の浮み上るや青嵐 青嵐 正岡子規
城山の真下の闇を鵜舟過ぐ 松井利彦
城山の竹むらに啼く雉子かな 飯田蛇笏 山廬集
城山の葛のはづれの我が家かな 京極杞陽
城山の裾の秋水日暮れけり 山田弘子 螢川
城山の錦を今に十二月 深見けん二 日月
城山の霧の奥よりほととぎす 小島千架子
城山の鴬老いぬ鮎食ひに 雑草 長谷川零餘子
城山は桜点々辛夷点々 京極杞陽
城山は猩々袴ばかりかな 野沢節子 存身
城山へ千の目くばせ小かまくら 白井 爽風
城山や少年の凧糸太し 藤岡筑邨
城山や椎の實落ちて兒もなし 椎の実 正岡子規
城山や篠ふみ分けて苺採り 篠原鳳作
城山を一つ残して秋暮るる 相原左義長
城山を烟らせ茅花流しかな 林 かよ
城山を雪ふりかくす歌がるた 大橋櫻坡子 雨月
大試験済み城山に登りけり 後藤秋邑
寅彦忌城山の禽庭に来て 竹林美和子
木々の影踏み十六夜の城山に 川崎 克
枯洲より見る南面の福山城 山口誓子
棟神にお城山から夜の飛花 田中英子
母と来てこの城山の羽子日和 山本洋子
海風の落とす無患子平戸城 山田弘子 螢川
湖かくす城山秋の誕生日 松村蒼石 雪
町中の闇は城山盆の月 上暮潮
秋の城山は赤松ばかりかな 秋の山 正岡子規
臥待や城山低く北に負ひ 丸山しげる
自然薯黄葉城山の径明るうす 高澤良一 素抱
花芒雨意の雲垂る新府城 山本紅童
蝉時雨城山の風連れてくる 八木ケイ
●翠黛
小春日のかげり早さや翠黛山 西山泊雲 泊雲句集
翠黛(すゐたい)の時雨いよいよはなやかに 高野素十(1893-1976)
翠黛と日もすがらある桜狩 後藤夜半
翠黛に聖燭節の雨げしき 飯田蛇笏 霊芝
翠黛に雲もあらせず遅ざくら 飯田蛇笏
翠黛のもと蒟蒻の花咲きぬ 松瀬青々
翠黛の明暗雨の時鳥 稲畑汀子
翠黛の時雨いよいよはなやかに 高野素十
翠黛も王昭君も菖蒲の芽 行方克己 知音
●翠巒
六月の翠巒を照る日が胸に 柴田白葉女 『夕浪』
打水す娘に翠巒の雲ゆけり 飯田蛇笏 春蘭
河床涸れ翠巒痩せつ秋燕 林翔 和紙
翠巒にかかる暮靄や田を植ゑし 吉武月二郎句集
翠巒に杣家のあぐる施火の煙 飯田蛇笏 霊芝
翠巒のいつ鷹放つ大暑かな 飴山實 『次の花』
翠巒の幾重の波に鯉のぼり 山内遊糸「蘇鉄」
翠巒の落ち込む流れ瓜冷やす 平松荻雨
翠巒や風を漉き込む吉野紙 倉田勝栄(けごん)
翠巒や鵜川しぶきてしづかなり 伊藤敬子
翠巒を降り消す夕立襲ひ来し 杉田久女「杉田久女句集」
●杉山
くらがりの杉山を去る冬帽子 柴田白葉女 花寂び 以後
こぶし天蓋杉山へ墓延びてをり 河野南畦 湖の森
たかし忌の杉山に鳴る能鼓 森 重夫
みよし野の杉山深し華鬘草 稲畑汀子
一郎死んで杉山に憑く県境 穴井太 土語
三光鳥檜山杉山淋しくす 瀧澤宏司
冬に入る杉山こぞり真空待つ 松村蒼石 雁
冬三ケ月かかげ杉山ねむりゆく 柴田白葉女 花寂び 以後
堂凍てて杉山に日の来迎図 鷲谷七菜子 花寂び
夏休みなかば杉山檜山寂び 友岡子郷 日の径
夕杉山こめかみへ来る蜘蛛はらう 赤尾兜子
威し銃杉山の上を長わたり 岸田稚魚 筍流し
尺蠖や杉山中に睡り足る 進藤一考
帰省子に杉山にほふ胡瓜もみ 野澤節子
庭さきの杉山残され穴まどひ 阿部みどり女 月下美人
新豆腐杉山裾に日のあたり 桂信子
春月や檜山杉山隣り合ひ 藤本輝紫
朝凍みて夕暮ぬくむ杉山中 野澤節子 遠い橋
杉山にただよふ雲や花見唄 草間時彦 櫻山
杉山にたつ雪げむり枝打か 亀井糸游
杉山につゞく檜原や斧始 若林北窗
杉山にとりかこまれて雛かな 大峯あきら
杉山に墓の五、六基とりかぶと 斎藤玲子
杉山に山雀帰り空のこる 戸塚三生
杉山に日の沈みたる鵜飼かな 梶原健伯
杉山に月のぼるなり凍豆腐 岡井省二
杉山に杉の雨降る夏休み 伊藤通明
杉山に杉の風彦河鹿鳴く 鈴木蚊都夫
杉山に波郷忌の雲あそびをり 原裕 青垣
杉山に煙ふうはり小正月 猪俣千代子 秘 色
杉山に燭をかかげて海老根咲く 青柳志解樹
杉山に父かと思ふ瀧こだま 原 裕
杉山に相交はらず山ざくら 山田みづえ 草譜
杉山に花の散りこむ仏生会 大佐 優
杉山に隠れてかかる雪解滝 遠藤梧逸
杉山に飛んで檜山の螢かな 大石悦子 聞香
杉山に飛白をなして朝桜 大石悦子 百花
杉山に鱗重ねし鱗雲 原裕 青垣
杉山のあひの桜のさくらまじ 岡井省二
杉山のあをき滴り吉野葛 佐川広治
杉山のときに青炎走り梅雨 井沢正江
杉山のどこか火を焚き上り鮎 神尾久美子 桐の木
杉山のどの木に吊す春の魂 寺井谷子
杉山のふもと竹山盆迎 八木林之介 青霞集
杉山の切り株濡るるお中日 大木あまり 火のいろに
杉山の千の切っ先鰯雲 橋本みず枝
杉山の周りにばかり春が来ぬ 蓬田紀枝子
杉山の墨絵ぼかしに牡丹鍋 木内彰志
杉山の底に野分の音を聞く 大古殿風亭
杉山の影の来やすき小豆干す 大峯あきら
杉山の日昏れよく澄む水のこゑ 石井一舟
杉山の春の曙杜氏らに 加倉井秋を
杉山の暗さを迷ふ落花あり 山田弘子 懐
杉山の木洩れ日淡し著莪の花 村上和子
杉山の杉それぞれに雪降らす 町田しげき
杉山の杉の寒さの能舞台 河合凱夫 飛礫
杉山の杉の波濤や冬に入る 宮坂静生 春の鹿
杉山の杉の直なる寒さかな 片山由美子 天弓
杉山の杉擲つ風や比良八講 梶山千鶴子
杉山の杉濤裂きて滝とどろく 古賀まり子 緑の野以後
杉山の杉籬づくり花ぐもり 芝不器男
杉山の水に視られて炭を負ふ 六角文夫
杉山の滴り蒼き熊野かな 田村幸江(草苑)
杉山の濃くなってくる宵の年 穴井太 原郷樹林
杉山の矢絣に雪新しや 成田千空
杉山の育ち盛りの草いきれ 西村和子 かりそめならず
杉山の芯は濡れをり囮籠 蓬田紀枝子
杉山の若木ばかりや夏火鉢 大木あまり 火球
杉山の荒れを痛めり石鼎忌 茨木和生 往馬
杉山の虫に喰はれて蝮蛇草 山本順子
杉山の陰の田も植ゑ終りけり 岸田稚魚 筍流し
杉山の靄に滲めり遅桜 半田順子
杉山の香を水の香に鮎育つ 野澤節子 遠い橋
杉山はどこより暮るる法師蝉 森 澄雄
杉山は息を殺して雪催 土屋秀穂
杉山は杉の言葉のしづり雪 文挟夫佐恵 遠い橋
杉山は湖にのめりて初詣 廣瀬直人
杉山へ朝露払ふ槍鶏頭 伊藤純子
杉山へ猟夫のごとく深入りし 野澤節子 遠い橋
杉山へ登る背負子に団扇挿し 肥田埜勝美
杉山へ空片寄れる早苗束 綾部仁喜 樸簡
杉山や雪なだれたる一と平 癖三酔句集 岡本癖三酔
杉山をゆくじんじんとゆく暗澹 瀬川泰之
杉山を出てゆく蝶や白一筋 青柳志解樹
杉山を育てし人と雪見酒 太田土男
杉山を負ひ戸々富めり冬の水 露月句集 石井露月
杉山を越えて落花の空つづく 山田弘子 懐
杉山を餅配る子が越えてゆく 大峯あきら 鳥道
杉山中何も映さず泉湧く 野澤節子 遠い橋
枝打ちて寒の杉山匂ひけり 田中浩子
檜山杉山落ち合ふところ夜の朧 町田しげき
河鹿湧く夕杉山のほとぼりに 岸田稚魚 筍流し
河鹿鳴けり杉山に杉哭くごとく 高柳重信「山川蝉夫句集」
注連太く張る杉山の出入口 田中禾青
洛北の杉山に雨新豆腐 角川春樹
流灯会杉山に月にじみ出て 皆川美恵子
涅槃西風杉山赤く動き出す 越前春生
濃淡の霧にしづみぬ羽黒杉 山上樹実雄
火祭を待ち杉山の闇にをり 小宮山政子
炉火赤し檜山杉山淋しかろ 平畑静塔
猫埋む杉山は春竹は秋 大木あまり 山の夢
田水張つて杉山の冷えあつめたる 鷲谷七菜子 花寂び
白シャツに入れば杉山にほふなり 太田土男
皆伐をせし杉山に冬の鹿 茨木和生 往馬
眠らんと杉山の襞深めたる 西村和子 かりそめならず
短日の深空杉山檜山据ゑ 舟月
短日や杉山透る竹の笛 青柳志解樹
秋冷の檜山杉山匂ひけり 山田みづえ
終戦忌杉山に夜のざんざ降り 森澄雄 浮鴎
舎利仏に月蝕甚の杉山中 野澤節子 黄 炎
赤蜻蛉檜山杉山ながめ倦きぬ 瀧春一 菜園
雪霏々と檜山杉山隣り合ふ 矢野緑詩
風禍とは稲のみならず杉山も 吉持鶴城
飛騨杉といふ杉山の炎暑かな 藤田あけ烏 赤松
魂棚に杉山の風通ひけり 茂里正治
鮎掛や吉野杉山迫る瀬に 山田弘子 こぶし坂
鮎落ちて吉野杉山高うせり 小島健 木の実
鯉のぼり杉山の杉立ちならび 小田部杏邨
鰤起し杉山檜山色褪せぬ 阿波野青畝
鳴き交はす檜山杉山四十雀 根岸善雄
●背山 兄山
うす~と背山も染まり紅葉寺 楠目橙黄子 橙圃
まろ~と背山がありて紅葉寺 楠目橙黄子 橙圃
りんご咲き背山前山力抜く 久慈月山
南帝の拠りし背山を鳥渡る 三村純也
唐寺の背山仰げば小鳥かな 八木林之介 青霞集
囚はれの鶏に背山の秋の風 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
墓参あと吾ら背山に青き踏む 下村ひろし 西陲集
夜を鳴く海猫の背山に星の出て 山口あつ子
大仏の背山もつともしたたれり 三田きえ子
大仏の背山密々手鞠唄 大石香代子
大寒の宿の背山は火噴く山 村松紅花
大阿蘇の背山妹山滴れり 牛島登美(同人)
大雪や背山は知らず峡の里 尾崎迷堂 孤輪
妹山の花は背山へ吹雪くべし 稲畑汀子
妹山へやがて背山へ蛍の火 山口素基
揚雲雀妹山背山相凭りて 永方裕子
暖炉焚くけむり背山を寂しくす 堀口星眠 火山灰の道
松籟を背山に雪の月影堂 洲浜ゆき
栗くぬぎ芽立ち霞めり背山垣 及川貞 榧の實
梅満ちて背山くらみぬ万霊塔 鍵和田[ゆう]子 浮標
海よりも背山親しき冬至粥 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
涅槃寺背山で鴉打ち啼く 赤壁ゆき江
淵へだて妹山背山芽吹き合ふ 中村富子
湯地獄の叫喚背山紅葉濃く 下村ひろし 西陲集
潮騒を背山に蔵し甘茶寺 辻桃子
火鎮めの神の背山を焼きにけり 行方克己 昆虫記
灯の入りて切子の背山杉匂ふ 田中英子
矢のごとき背山の滝や妙雲寺 皆川盤水
竹春の背山明るし英治の忌 生江通子
紙を漉く背山の墓に日の当り 中戸川朝人 残心
綿採るやことし背山の雪はやし 佐野まもる
美しき背山妹山初御空 柴沼忠三
老鶯や甘酒茶屋の背山より 長島久江
背山かけて降り込む雪に館閉づ 木村蕪城 寒泉
背山にて伐りし樅なり聖夜待つ 堀口星眠
背山まだ眠れぬさまに彩れる 稲畑汀子
背山よりしぐれ尾を曳く神事能 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
背山よりもどる寺鳩春の雨 亀井糸游
背山より今かも飛雪寒牡丹 皆吉爽雨(1902-1983)
背山より前山に鵙高音かな 高木晴子 花 季
背山より屋根に猿や札納め 水谷洋子
背山より日照雨また来る夏炉かな 有働 亨
背山より海へひびかふ斧始 甲斐すず江
背山より雨走りくる青林檎 小林紀代子
背山より露の下り来るしんこ餅 山田弘子 懐
背山囀り止み白波は寄せどほし 及川貞 夕焼
背山垣青葉木菟鳴く夜もあり 及川貞 榧の實
花筏鯉の背山に乗りあげし 中原道夫
虫篝果てて背山の星のかず 木下郁子
蹴轆轤や背山に露の下りるころ 文挟夫佐恵 遠い橋
蹴鞠白し背山の降らす雪よりも 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
遠き雪崩背山の雪崩夜も鳴れり 殿村菟絲子 『繪硝子』
露座仏の背山を走る春の雷 黒田智彦
馬洗ふ水は霞める背山より 小堀紀子
鳥渡る妹山曇り背山晴れ 小川斉東語
鴛鴦流れ妹山背山深みどり 大峯あきら 宇宙塵
鹿おどし背山昏れゆく詩仙堂 柳田聖子
●全山
いちはつや母の心音全山に 三森鉄治
こつつんと全山紅葉磧 松澤昭 宅居
さくと縄切る全山の蝉時雨 菅原鬨也
ときに発破掛け全山を眠らせず 上田五千石 田園
ひとひらのあと全山の花吹雪 野中亮介
サイダー瓶全山の青透き通る 三好潤子
サイダー飲むや全山の緑傾けて 藪宕山
ススメススメ全山枯れて初明り 穴井太 原郷樹林
仏名会果て全山に日が射せり 森 靖子
信濃全山十一月の月照らす 桂信子 花寂び 以後
全山が鳴り末枯の一葉が鳴る 加藤秋邨 野哭
全山にこゑ掛け瀧の凍て始む 小澤克己
全山に一ッの椿探しをり 渡部伸一郎
全山に芭蕉の破れ打つてでる 松澤昭 面白
全山に花の面影とどめけり 黒川悦子
全山に蜜柑花つけ通過駅 斎藤おさむ
全山のかなかなしぐれ自刃跡 近藤一鴻
全山のひとつとなりし蝉時雨 原田青児
全山のほむらを曳きて色鳥は 橋本榮治 麦生
全山のみかんに色の来つゝあり 深川正一郎
全山のもみぢ促す滝の音 山内遊糸
全山の一樹一石送り梅雨 深見けん二
全山の晴をあやぶむ紅葉かな 安東次男
全山の枯木となりし静かかな 高濱年尾 年尾句集
全山の生毛ひかりに桜咲く 角川照子
全山の紅葉に対す一戸なり 永島靖子
全山の紅葉に耐へし薄まぶた 能村登四郎
全山の紅葉照るとき男透く 森田智子
全山の紅葉里まで続きをり 山岸盛栄
全山の索道の荷の皆蜜柑 宇根畝雪
全山の結びつつある花の露 坂井建
全山の花の鼓動を秘む真闇 安原葉
全山の芽のせまり来て船繋る 米沢吾亦紅 童顔
全山の芽や山彦がもの言へり 米沢吾亦紅 童顔
全山の芽吹きうながし辛夷咲く 伊東宏晃
全山の芽立ちの中に坑出づる 戸沢寒子房
全山の萩やすすきや刈萱や 立松けい
全山の落葉を運ぶ埋立地 対馬康子 純情
全山の葛のしじまの破れざる 松本たかし
全山の葛の衰へ見ゆるかな 高浜虚子
全山の蝉の鳴き止む消火栓 長田等
全山の雪解水富士下りゆく 山口誓子 不動
全山の露一粒の草の露 岡田順子
全山へ紅葉導火の蔦一縷 能村研三 海神
全山や一宗興るごと芽吹き 村松紅花
全山を占めしは花の降る音か 橋本榮治 逆旅
全山を夏鶯が鎮めいる 桜木登代子
囀す全山逆さ吊りの貌 松澤昭 安曇
地虫出づ寺に全山案内図 梶山千鶴子
少林山全山灯し星黙す 田中英雄
山豪雨全山滝となりにけり 福田蓼汀
憂鬱なゴリラ全山紅葉し 穴井太 天籟雑唱
我を容れ全山すでに汗をかく 和田悟朗
椎の花箱根全山雨ふり出す 村山古郷
濃き霧に全山白き闇となる 林 保子
照る全山虫ごわごわと水ふやす 坪内稔典
秋立つや全山墓におおわれて 対馬康子 純情
空海の全山雪解雫光 黒田杏子 花下草上
空海大遠忌全山さくらかな 成瀬櫻桃子
粧ひし全山光りはじめたり 仙田洋子 雲は王冠
緋縅の如全山の粧ひぬ 山本歩禅
身に貯へん全山の蝉の声 西東三鬼「今日」
雪霏々と全山白き幻に 鈴木りう三
雲はまだ覚めず全山青牧草 中戸川朝人 残心
雷裂けて全山震ふ吉野杉 桂信子 遠い橋
高天神城跡全山紅葉して 鈴木里隹
鬼女跳べり全山枯るる閑けさに 河合凱夫
鳴子引けば全山の露さかだちに 池上浩山人
鶯や筑波全山雨の中 長谷川草州
鷹匠の佇ち全山の景しまる 内田晴子
鷹渡り全山の木々何急ぐ 米澤吾亦紅
●雑木山
うす雪に小鳥笛澄む雑木山 塚原麦生
この世なる枯追ひゆけば雑木山 栗林千津
ざくざくと歩く二日の雑木山 飯田晴
まほろばのいろ動き出す雑木山 福井ちゑ子
まんさくに風めざめけり雑木山 行方寅次郎
みそさざい絵島の墓は雑木山 中澤康人
やがては来る歓喜の人声即芽吹く雑木山 橋本夢道 良妻愚母
ゆく秋の天蓋ひらく雑木山 穴井太 原郷樹林
バード・デー風音のみの雑木山 永井敦子
一本の余花の明りや雑木山 村上三良(ホトトギス)
万歳や真赤な月の雑木山 辻桃子 桃
三月の光渦巻く雑木山 三島玉絵
三椏のいろにはじまる雑木山 伊藤三十四
二月の日入れて明るき雑木山 長谷川二三
人日や夕日の彫りし雑木山 加藤三七子
何の芽と知れず赤らむ雑木山 金箱戈止夫
光太郎忌の日が透ける雑木山 高木良多
入梅の静けさに倦み雑木山 瀧澤宏司
全貌を見せて虚子忌の雑木山 九鬼あきゑ
冬凪や煙のごとき雑木山 高須茂
冬天のどこまで碧し雑木山 清藤徳子
冬枯れの枯れひびき合ふ雑木山 山田和子
冬鴉こもりて雑木山うごく 黒坂光博
凩の抜けて明るき雑木山 安藤まこと
初声の天へ筒抜け雑木山 村井郁子
初雪に日のゆきわたる雑木山 行方寅次郎
初音せりほのむらさきの雑木山 田中季子
吹はじめ雑木山より僧衣出づ 加藤正子
吾も衆愚雑木山芽吹く炎に心革る 橋本夢道 良妻愚母
啓蟄や衣干したる雑木山 角川春樹 夢殿
囀りのふりこぼれゐる雑木山 瀧澤伊代次
囀りの念珠入れたる雑木山 澄雄
囀りの雨粒となる雑木山 柿本多映
囀りを海へこぼして雑木山 西浦一滴
塩鯖がかっと目をあけ雑木山 坪内稔典
夕月が春したたらす雑木山 細谷友汀
夕月や雪あかりして雑木山 藤田湘子(1926-)
女正月口のおだやかな雑木山 藤本安騎生
如月のひかりもみあふ雑木山 朝倉和江
寒の汽車すばやくとほる雑木山 飯田龍太 忘音
寒夕焼どつかり収め雑木山 武藤ほとり
小包を出し冬麗の雑木山 栗林千津
少年のあと秋風の雑木山 原裕 『新治』
山茱萸の黄が流れ出す雑木山 山本富枝
年の瀬の日の移りゆく雑木山 鈴木六林男
弔電や影の雪ふる雑木山 大木あまり 火のいろに
引鴨の昼夜を風の雑木山 斎藤梅子
悴みて秀野恋ひゆく雑木山 関戸靖子
手の冷えは手にて暖たむ雑木山 大木あまり 火のいろに
斧の音して早春の雑木山 水上 康
日蓮忌すみても低し雑木山 大峯あきら 鳥道
早春の見えぬもの降る雑木山 山田みづえ 手甲
春の蛾に彩出で初めし雑木山 柳沢君子
春浅し髪染めてゆく雑木山 柿本多映
春蘭の幾株か減り雑木山 阿部みどり女 『陽炎』
曲*ろくに澄みて二月の雑木山 向井 秀
東風吹くや真竹まじへし雑木山 尾崎迷堂 孤輪
枯れつくしたる明るさに雑木山 青柳志解樹
枯山の低山にして雑木山 今井杏太郎
梅の香のあとに水の香雑木山 畠山譲二
極寒の出口をさがす雑木山 福田甲子雄
母の日のいちにち風の雑木山 正部家一夫
氷る日の杣がもの言ふ雑木山 大峯あきら 鳥道
汝ら裁かれてのち死すべし雑木山 齋藤愼爾
浅春や小鳥こぼるる雑木山 渡辺立男
海照ると芽ふきたらずや雑木山 悌二郎
海照ると芽吹きたらずや雑木山 篠田悌二郎(1899-1986)
海見えて寒さほどけぬ雑木山(大磯湘南平) 河野南畦 『焼灼後』
火の始末してゐる春の雑木山 福田甲子雄
炎昼を睡りて勁し雑木山 永島千代
白雲の触れては芽吹く雑木山 山田弘子 こぶし坂
眼が澄んで雪来る前の雑木山 関口謙太
眼白捕入れてしづもる雑木山 白井 爽風
空晴れて落葉くらべの雑木山 鈴木しげを
立春の星すみずみに雑木山 藺草慶子
耳さとくゐて人日の雑木山 菅原鬨也
芽吹かむと息つめてをり雑木山 澤村昭代
芽吹きつつ削られてをり雑木山 篠田鶴之助
落葉より人語さびしき雑木山 穴井太 原郷樹林
藪柑子空の展けし雑木山 古堀 豊
足湯して春の息吹きの雑木山 難波きくえ
足跡の氷つてゐたり雑木山 長谷川櫂 天球
速度計微動 三月 雑木山 沙羅冬笛
郭公の去りてまた来し雑木山 宮地美保子「雉俳句集」
陽炎の誘ひに乗りぬ雑木山 ふけとしこ 鎌の刃
雉子鳴ける方や日当る雑木山 重利帆南
雑木山 雪とめどなく鳥啼かす 穴井太 土語
雑木山かぐはしきまで枯れゐたり 中村やす子
雑木山さつそくとおくなりにけり 阿部完市 軽のやまめ
雑木山どんより鯰の一種だな 井手都子
雑木山にこぶし点々子の初旅 細見綾子 花 季
雑木山にこぶし点在尾根を越す 杉山郁夫
雑木山にこぶし點々子の初旅 細見綾子
雑木山に向ひ住みけり芽木の雨 池川蜩谷
雑木山ひとつてのひらの天邪鬼 金子皆子
雑木山ふくらむほどに囀れり 高橋朋子
雑木山中に一樹の山ざくら 小林美千代
雑木山丸く見え来て春近し 宮崎かつ代
雑木山入れて半円冬の虹 加藤ふみえ
雑木山小鳥きて年重ねけり 村上しゆら
雑木山延命水の水涸れて 苗代 碧
雑木山朴ひともとの浅き春 松村蒼石 寒鶯抄
雑木山消して雪降る槇の山 金箱戈止夫
雑木山白きは天へ南風の道 羽部洞然
雑木山経巡る風に辛夷咲く 高澤良一 随笑
雑木山花は四五本の桜かな 石塚友二 光塵
雑木山鳥の影散る雪間かな 棚山波朗
雛の家雑木山より朝日出て 齊藤美規
雨晴れて春意噴き上ぐ雑木山 日比野美風
雪がふる音のきこえる雑木山 齊藤美規
雪国のわつと芽吹ける雑木山 坂本山秀朗
雪晴のひとり照りゐる雑木山 森澄雄
雪止んで雪の花咲く雑木山 漁 俊久
雲を踏む如く落葉の雑木山 菊川末廣
青啄木のこゑこだまして雑木山 加藤功
青鷺が母よ乳母よと雑木山 鈴木鴻夫
頭高日があをみ降る雑木山 藤井瞳
風摶つや辛夷もろとも雑木山 石田波郷
風邪妻にいちにち風の雑木山 関口謙太
鳥交る夢のつづきの雑木山 瀬戸美代子
鳶が餌を落す二月の雑木山 児玉輝代
鴬や茜さしたる雑木山 芥川龍之介
鷹狩の借景となり雑木山 穂積カネ子
●峙つ
(塩原)寒林の端シの早瀬や巌峙ち 尾崎迷堂 孤輪
オリオンや闇に峙つ聖岳 山下智子
万緑の中残雪の主峰峙つ 伊東宏晃
仮小屋に秋山欠けて峙ちぬ 高濱年尾 年尾句集
兵馬俑棋峙(きぢ)して寒き地を走る 石原八束 『幻生花』
冬濤の裂ける白さに巌峙つ 稲岡長
南壁に雷火一瞬峙ちし 桑田青虎
夜学淋し運河の破船玻璃に峙つ 橋本鶏二
夜焚火に金色の崖峙てり 秋櫻子
大寒を擁して富士の峙てり 百合山羽公 故園
天壇は四方の夏雲率て峙てる 原田青児
山々は峙ち神は還りけり 大峯あきら 宇宙塵
峙ちて立山近き日除かな 渡辺池汀
峙つや枯葉の中の鷹の鳥 斎藤玄 雁道
峙つ巌に拍子抜けたる冬の濤 小原菁々子
峙てる宝剣岳が霧を堰く 和泉信子
峙てる高炉の下の秋日和 深見けん二
常念も爺も峙つ雪の果 澄雄
手焙に五指峙てて牡丹見る 高澤良一 さざなみやつこ
明日の山月に峙つ狩の宿 米沢吾亦紅 童顔
春潮を引きよせ山は峙てり 池内友次郎 結婚まで
棟竜の反り峙てる夜寒かな 千代田葛彦 旅人木
決勝の壁と峯雲峙てり 高澤良一 燕音
海冥く断崖峙てり祭笛 内藤吐天 鳴海抄
湖よりも山に峙ち吾亦紅 百合山羽公 故園
滝ちりぢり峙ちて寒来りけり 鷲谷七菜子 花寂び
火の山の峙つ磯や鹿尾菜干す 大網信行
火口丘笹竜胆に峙てる 吉村ひさ志
灯台は低く霧笛は峙てり 高浜虚子
燈台に低く霧笛は峙てり 高浜虚子
犬吠の冬濤に目を峙てし 高浜年尾
町空に峙ちたりし雪の山 田村了咲
白鷺城掌中にして青嶺峙つ 伊東宏晃
石楠花の巌そそり峙つ雲あをく 小原菁々子
石蓴濃き礁に峙つ耶蘇落し 下村ひろし 西陲集
磯の香に峙つ山も枇杷のころ 水原秋櫻子
竜飛岬鷹を放つて峙てり 大久保橙青
紅葉山峙てる気配にしんの闇 轡田進
葛水に我脊峙ちて柱の如し 雑草 長谷川零餘子
行く春の白く峙つ比丘尼巌 京極杞陽 くくたち下巻
遠青嶺師の墓山に対ひ峙つ 伊東宏晃
闇中に山ぞ峙つ鵜川かな 河東碧梧桐
雲仙は初夏の潮路に峙てり 高濱年尾
馬市や町に峙つ南部富士 田村了咲
鵜舟去り空に峙つ金華山 神山テル
龍飛崎鷹を放つて峙てり 大久保橙青
●聳ゆ
*えり簀編む大風除の聳えたり 高濱年尾 年尾句集
いさぎよく枯れいさぎよく聳えをり 山口甲村
かんかんと白樺聳ちて荒ごころ 臼倉真沙尾
この暑さ山も憮然として聳ゆ 和田耕三郎
さらし布かすみの足に聳へけり 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
その上に滝の聳ゆる天の川 角川春樹 夢殿
はこべらやD5l鋼の影聳え 紺野佐智子
もろこしの伸びて聳ゆるさま想ふ 高澤良一 鳩信
よき程に聳ゆる山や茸狩 露月句集 石井露月
わがものとして裏山の青嶺聳つ 斎藤玄 雁道
スキーヤのその右肩の聳ゆるや 竹下しづの女 [はやて]
テレビ塔聳ゆるのみの枯野かな 左右木圭子
ハルジオン富士も薄紅帯びて聳つ 高澤良一 随笑
プラハの街に戦車聳ゆる秋の風 相馬遷子 雪嶺
七面山聳ゆ一夜に澄める水 加賀美子麓
三山の青嶺の奥に青嶺聳つ 大石壮吾
仏法僧こだまかへして杉聳てり 大野林火
伊吹聳つ豊かに雪の胸はだけ 茨木和生 木の國
偶然のごと大冬木聳てりけり 澤井我来
入日寒卒然として白亜聳てり 中尾白雨 中尾白雨句集
八ケ嶽聳てり斑雪近膚吾に見せ 橋本多佳子
六月の甲斐駒聳てり雲の隙 鈴木しげを
冬の夜や槌音返す壁聳ゆ 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
冬木立五重の塔の聳えけり 冬木立 正岡子規
冬枯の樫の木りんと聳えけり 冬枯 正岡子規
函嶺を率て雪の不二聳えけり 石井桐陰
初座敷己が座高を聳えしめ 肥田埜勝美
初明り神います山聳てりけり 河合未光
初比叡聳えてきたる舳先かな 三関浩舟
北斎に無き冨士聳てりつちぐもり 小林 葭竹
十六夜の月に一位を聳えしめ 高澤良一 素抱
南部富士地吹雪寄する中に聳つ 高橋青湖
口閉づるとき聳えけり羽抜鶏 加藤秋邨 吹越
古城は北に聳えて天の川 内藤鳴雪
右肩を聳かしつつ浮いて来る 高浜虚子
向日葵にビルは裏側もて聳ゆ 古舘曹人 能登の蛙
向日葵に長城聳えつつ走り 桂樟蹊子
咳き臥すや女の膝の聳えをり 石田波郷
嘯きて蔵王は聳てり括り桑 皆川白陀
城聳え街中にある林檎園 福田蓼汀 山火
塔聳てり青葡萄みなさかしまに 宮津昭彦
塔聳ゆ老いたる鹿の目の奥に 池田琴線女
夕佳亭紅葉の上に聳えけり 比叡 野村泊月
夕凍みの聳ゆる暗さ甲斐の国 直人
夕焼けて夏山己が場に聳ゆ 飯田龍太 麓の人
夜桜や海の底にも峰聳え 三森鉄治
大木の雲に聳ゆる枯野哉 枯野 正岡子規
大雪山若葉の上に聳えけり 比叡 野村泊月
天に穴背骨のごとく滝聳ゆ 角川春樹 夢殿
天壇の聳ゆるに虹さそふ雨 千代田葛彦
天守聳つ秋空この人を妻に 友岡子郷 遠方
天日に農婦聳えて螻蛄泳ぐ 石田波郷
妙義峨々と聳えて三日の月細し 三日月 正岡子規
学び舎に聳ゆる黄葉銀杏かな 永沼直行
家々と冬菜畠に比叡聳え 波多野爽波 鋪道の花
宸殿に夕立聳ゆるかと思ふ 古舘曹人 能登の蛙
富十山頂天へ聳ゆる雲の峯 山口誓子 大洋
富士聳え 干菜の匂ひたかかりき 吉岡禅寺洞
富士聳ゆ師は卯の花に立ちつくし 佐野青陽人 天の川
寒晒富嶽大きく裏に聳つ 西村公鳳
寝聳(ねそべつ)てふんぞりかへつて星迎 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
屋根失せた列柱聳え 螺髪尖り 伊丹三樹彦 写俳集
屯せる春著に聳ゆ二万噸 高澤良一 さざなみやつこ
山光や寒天に聳つ木一本 臼田亞浪 定本亜浪句集
山笑ふうしろに富士の聳えつつ 島谷征良
山聳え川流れたり秋の風 蓼太
山聳つや日覆ふかく写真館 桂 信子
山開き太郎次郎の杉聳ゆ 矢部治子「未来図合同句集」
岩木山菊畑より聳えけり 増田手古奈
岳峨々と夢に聳えて明易き 村上 光子
峯雲のよく聳つ日なり鵬を見ず 高澤良一 ももすずめ
島の麦聳ゆる嶺に熟れはじむ 佐野まもる 海郷
嶺聳ちて秋分の闇に入る 飯田龍太
徒らに古塔ぞ聳ゆ秋の雲 臼田亜浪 旅人
手毬唄なほ焼工場聳えたり 波郷
教會の塔聳えたる茂り哉 寺田寅彦
新数の子山陶然と聳えたり 井上康明
新緑の中より白鳳城聳ゆ 中森美年子
新豆腐皿に聳えてをりにけり 小井川和子
新雪の蔵王瑠璃光浴びて聳つ 小倉英男
明方の夢が尾をひき青嶺聳つ 本村蠻
星空に聳えわけても鳳凰台 高澤良一 素抱
春の山円く聳えて重なれり 青峰集 島田青峰
春寒し楼門聳ゆ藪の奥 西山泊雲 泊雲句集
春寒の襞をひき緊め浅間聳つ 西本一都
春風や犬の寝聳(ねそべ)るわたし舟 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
晩年の月日聳える青簾 桂信子 遠い橋
晴雪の富士聳え寒に入る温泉郷 内藤吐天
月の土手ポプラ四五本聳えけり 比叡 野村泊月
月光に聳りたちたる新樹かな 五十嵐播水 播水句集
望郷の山振り向けば青嶺聳つ 豊長みのる
木の芽風神木高く聳り立つ 安黒義郎
松聳ゆまさしくも秋五十年 中村汀女
松蝉や葬家が聳ゆ崖の上 吉田鴻司
枯草とおもひしがはたと牛聳ゆ 栗生純夫 科野路
枯葉つけて椢聳えぬ雪の土手 西山泊雲 泊雲句集
校門の聳えてゐたり試験場 藤井美智子
根にはまだ炎暑至らず杉聳てり 大熊輝一 土の香
梅の上に聳ゆ富嶽も相模ぶり 高澤良一 素抱
梅桜あるは聳えて火の子来つ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
正面に風三樓忌の青嶺聳つ 池田秀水
残る壁赭し夏蝶の野に聳え 殿村莵絲子 花 季
母病めり雲の峰聳つ葛西沖 館岡沙緻
水が水呼ばはり瀧の聳ゆかな 伊藤敬子
水晶岳望の夜雲を脱ぎ聳ゆ 岡田日郎
水晶岳雲脱ぎ望の夜を聳ゆ 岡田日郎
油照り樹のごと聳え頭頂花 永瀬千枝子
法師蝉いつもの山のいくつ聳つ 斎藤玄 雁道
泥まみれなる飲食に青嶺聳つ 飯田龍太
洗場の前に聳ゆる蓮かな 比叡 野村泊月
海に聳つ雪嶺はこの陸つゞき 右城暮石 上下
海の雪吹きよせて聳つ利尻岳 深谷雄大
海の雪吹き上げて聳つ利尻岳 深谷雄大
海原に聳える青嶺神島は 塚腰杜尚(天狼)
海道の切れつ聳えつ冬の雁 百合山羽公 故園
満ち潮の一湾に聳つ雲の蜂 田中英子
満目の枯れて浅間を聳えしめ 深見けん二 日月
炎天に聳えて寒き巌哉 炎天 正岡子規
炎天に聳て高き巌哉 炎天 正岡子規
無情なるまで雪嶺の天聳る 榎本冬一郎 眼光
爪先に富士の聳ゆる籐寝椅子 竹本素六(ホトトギス)
父に肖るはさびしからねど青嶺聳つ 友岡子郷 日の径
片蔭の街の往来に恵那聳ゆ 木村蕪城 一位
狐雨白々と聳つ秋の槍ケ岳 羽部洞然
畠打や寝聳て見る加賀の守 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
白鳥に雪の大山聳えけり 長谷川明子
白鳥来佐渡の山脈聳ちて 中嶋秀子
百舌鳥高く啼きて平山聳えたつ 百合山羽公 故園
眉間に聳ち雪の冥さの孤峯なり 鷲谷七菜子 雨 月
真中に富士聳えけり国の春 伊藤松宇
真葛より鳥海聳てる城址かな 西本一都 景色
磯菜摘む越前岬の聳つもとに 宮津昭彦
秋天に聳ゆる峰の近さかな 原 石鼎
秋山聳ゆ愁を消して川手水 清原枴童 枴童句集
秋嶺の聳つまぶしさの鍬づかひ 鷲谷七菜子 花寂び
秋風やアイヌ墓標の聳り切り(旭川アイヌ墓地) 石原八束 『黒凍みの道』
秩父丸鯊のうしほに聳えたり 日野草城
空さむく野山のにしき神聳ゆ 飯田蛇笏 霊芝
筒鳥の声を放てば山が聳つ 野澤節子 『駿河蘭』
箱根姫しやら聳ゆ冬霧なき夜なり 及川貞 榧の實
箱根路に残雪の富士白く聳つ 佐野萬里子
籐椅子に青山聳てり並びかく 岸風三楼 往来
老桜の花ともしらに聳えたり 柴田白葉女 遠い橋
耳の日や人々耳を聳やかし 相生垣瓜人 明治草抄
聳えたつ山の巌に秋祭 百合山羽公 故園
聳えたる枯木の中や星一つ 枯木 正岡子規
聳えて充ちて風穴一つ去年今年 中村草田男
聳えゐて氷壁に翳まぎれなし 鷲谷七菜子 雨 月
聳え立つ山が閊えて梅の軒 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
聳え立つ恋の峠や業平忌 京極杞陽
聳え立つ春木吾家もかく富めよ 細谷源二 砂金帯
聳え立つ燈台冬の雨寄せず 金子麒麟草
聳つ穂高アンドロメダの渦瞭か 伊藤敬子
舞ふ雪の中に飛ぶ雪欅聳つ 野沢節子 存身
花ふぶく真只中に城の聳つ 伊藤敬子
花散る夜崖は聳えて育ちをり 小檜山繁子
花祭みづ山の塔聳えたり 飯田蛇笏
芽落葉松雪の戸隠尖り聳ち 河野静雲
落慶の大塔聳ゆ新樹晴 田伏幸一
落花霏々雪嶺いまも陸に聳つ 佐野まもる 海郷
虎杖の自縛悪城の壁聳ゆ 河野多希女 納め髪
虹の中雨飛び水晶岳聳ゆ 岡田日郎「赤日」
蜂死して十月の峰天聳(そそ)る 山口誓子
蟇あるく四方八方みな聳え 加藤楸邨
行水の簷に聳ゆれ伊吹山 村上霽月
裏返る蟇の屍に青嶺聳つ 飯田龍太
補陀落や滝の聳ゆる波の上 春樹 (海上より那智の滝を望む)
裸木となりて初めて聳えけり 原田喬
讃岐富士聳え晴天高うする 柴田奈美
赤子哭くたび雪嶺聳え立つ 徳岡蓼花
起し絵のけはしき富士の聳えけり 相生垣瓜人 微茫集
身を捨てて聳つ極寒の駒ケ岳 福田甲子雄
道ばたの家に初富士聳えけり 百合山羽公
遠いプールの飛沫父子の尖塔聳ち 川崎三郎
遠景に城聳ち落花いさぎよし 伊藤京子
遠雷や咲き聳えたる蓮の花 五十嵐播水 播水句集
野馬追の武者に野展け山聳え 島田紅帆
鉾聳ゆ夜が衆人衆人に 古舘曹人 能登の蛙
長城のために聳えて夏の嶺 鷹羽狩行 長城長江抄
雨雲に比良聳ちあがり上り簗 鷲谷七菜子 花寂び 以後
雪の富士大き空間占めて聳つ 山口誓子 大洋
雪の嶺走らずにみな聳え立つ 山口誓子 激浪
雪の朝汽罐車が肩聳やかす 田川飛旅子 花文字
雪山の夜も聳えをり近松忌 森澄雄
雪山はうしろに聳ゆ花御堂 露月句集 石井露月
雪後なり息つめて聳つ夜の穂高 阿部誠文
雪渓の風抗ふは火山聳つ 宮津昭彦「積雲」
雪解や山は聳えて道乾きし 長谷川零余子
雪解山聳ち祭典の鉾つづく 松村蒼石 寒鶯抄
雪雲をかざして岳と岳聳ゆ 岡田日郎
雲なくて聳ゆうすいろ春の山 飯田蛇笏 春蘭
雲の峰一峰暗く聳てりけり 石塚友二
雲の峰前山として富士聳ゆ 大竹君代
雲の峰左右に従へ烏城聳つ 渡辺恭子
雲の峰聳つ古里の文宝川 谷口荒太
雲の峰雷を封じて聳えけり 夏目漱石 明治三十六年
雲海に溺れじと聳つ蝶ヶ嶽 西本一都
雲聳ちて蟹は甲羅の干きゆく 富澤赤黄男
霜ためて菊科の蕚聳えたる 前田普羅 飛騨紬
霞むこともなくて夏木の聳えけり 中島月笠 月笠句集
露の玉より朝富士の聳えけり 粟津松彩子
青りんご今日のひと日が聳えたり 金田初子
青天や植ゑし苗木を聳えしむ 徳永山冬子
青嵐ホルスタインの腰聳え 岡本まち子
青嶺聳(た)つふるさとの川背で泳ぐ 大野林火(1904-84)
青嶺聳つに白鳳石の句碑坐る 影島智子
青嶺聳つふるさとの川背で泳ぐ 大野林火
青嶺聳つ三つの國の寄合ひに 山口誓子 雪嶽
青嶺聳つ川沿ひに町続きけり 関森勝夫
韋駄天の日雷ゐて妙義聳つ 中戸川朝人「星辰」
風花に富士骨相を荒く聳つ 加々美鏡水
首に弁当秋の蜂など山が聳え 金子兜太 少年/生長
駿河富士白し四温の晴れに聳つ 岡田文泉
魂まつり一本みちに岳が聳つ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
鮮烈の紅葉を裾に岩場聳つ 中戸川朝人 残心
鯱に入道雲の聳ち損ね 高澤良一 ぱらりとせ
鳥渡る着のみの肩や聳えしめ 石塚友二 方寸虚実
鶯や聳えて茫と天祖山 岡田 日郎
鷹舞うて音なき後山ただ聳ゆ 飯田蛇笏 椿花集
麦刈て大寺一つ聳えけり 麦 正岡子規
龍舌蘭のすくすく聳てば島の夏 篠原鳳作
●杣
いでたちは杣にもあらず葛根掘 津川芸無子
いま釣れし鱒が焼かれて杣昼餉 岸本隆雄
えり巻につつみ余れる杣の顔 前田普羅
かち渡る杣のしぶきや菊日和 大峯あきら 鳥道
かなかなや杣木追ひつつ瀬をかへる 木津柳芽 白鷺抄
かまきりや日傭(ひよう)も同じ蓬が杣 露章 選集「板東太郎」
かんじきを柩に入れて杣の葬 成瀬櫻桃子
くれゆく芒杣負ふ婆のみ日当りて 桂信子 花寂び 以後
ころ~ところがる杣や茸の毒 飯田蛇笏 霊芝
こゝに湧く清水が頼み杣夫婦 岡本秋雨路
しはぶきの霧にひびかひ杣居たる 木村蕪城 一位
すこやかに杣の娘として日焼け 成瀬正とし 星月夜
そこばくの馬鈴薯に花杣の住む 及川貞 夕焼
つまらなく独り遊ぶ子鳳杣花 月舟俳句集 原月舟
どぶろくがあると耳打ち杣の宿 伊藤伊邦男
どぶろくや語尾かん高き杣ことば 高橋悦男
どぶろくを旅の者にも祭杣 藤田湘子
はつあきの言葉紡ぎ一歌杣 山田みづえ
はらはらと茶の花咲けり杣の家 加藤 春子
ほととぎすさくらは杣に伐られけり 言水「五子稿」
まくなぎに追われて杣の下り坂 阿部こまじ
みさゝぎへ杣の道あり草いちご 藤井乃婦
もの憂きは五月半ばの杣の顔 飯田龍太
やわらかき杣の子の足春の炉に 前田普羅 飛騨紬
七夕の街に蓑着て杣酔へり 本多静江
万緑の天地有情や杣男(鍵谷芳春を詠む) 原裕 『葦牙』
万緑や杣の葬りの吹流し 西本一都 景色
倒したる大樹をわたる霜の杣 飯田蛇笏
倒れ木やのぼるになれて露の杣 飯田蛇笏 山廬集
傘さして杣帰りゆく柚湯かな 宮武寒々 朱卓
元日の恋文持ちて杣小屋に 萩原麦草 麦嵐
兎追ふ勢子に雇はれ杣の子等 有本銘仙
冬の杣渡り初めたり島荒るる 伊藤凍魚
冬杣に片根の雪のあらはなり 田中勝次郎
冬杣の谺杉枝の雪散らす 町田しげき
冬杣や猿は再び出でざりき 宵信二
冬杣を見てゐし鴉立ちにけり 小笠原燈鳥
切岸を曲れば路地や鳳杣花 茨木和生 遠つ川
初山の杣は神話をいまも持つ 木村蕪城 寒泉
初花や杣の手業の水仕掛 飴山實 『次の花』
千振を引く杣童犬を連れ 小玉芋露
千振を日陰干して杣の家 大久保重信
午睡して待て僧戻らんと杣が云ふ 比叡 野村泊月
右手を吊り街へ煙草の東風の杣 宮武寒々 朱卓
向日葵の丈に埋るる杣の家 中条久三夫
囀や杣衆が物の置所 原石鼎
団子花杣住む三戸天近し 山田省吾
夕山の焚火を蔽ふ杣二人 飯田蛇笏 椿花集
夕焼寒う杣小屋の大きな鋸 人間を彫る 大橋裸木
大き手の杣のもてなす茸汁 岡田六華子
大岩魚炙りて杣の山泊 五十嵐春男
大工と杣夫茂みに来て樹を言い争う 赤城さかえ
天水を集め杣住む山桜 成瀬正とし 星月夜
太鼓鳴り継ぐ杣道も黄落す 田中裕明 山信
女杣野良着でひらく草の市 矢野愛乃
子連れ杣わが鳩吹きにふり返る 下村ひろし 西陲集
寒ゆるむ杣の感情焚火もゆ 飯田蛇笏 春蘭
寒卵一気に杣の喉ぼとけ 平子公一
小鳥来て通草のうつろ杣の眼に 安斎櫻[カイ]子
屠蘇の酔あらはに杣の王子守る 田守としを
山の池ま青な雨降り杣人蓑つけて来る 人間を彫る 大橋裸木
山ン神祀りて杣の新酒酌む 青柳照葉
山凍り杣が家天理祀りけり 岡田日郎
山墾いて杣も農たり芋の秋 西島麥南 金剛纂
山寺に杣雇ふ日や納豆汁 岡本癖三酔
山旦那杣の焚火に打交る 雉子郎句集 石島雉子郎
山替の糧負ふ杣に遠雪崩 太田蓁樹
山柴に木瓜咲く杣の厠かな 石原舟月 山鵲
山蛭や栂林に入る杣のみち 牧野まこと
山陰の暗き杣路や瑠璃鶲 長谷川草洲
山雀や杣の頬張る握り飯 古藤みづ絵
山霞杣のいこひによる小鳥 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
年木負ひ杖しかと手に杣女房 上村占魚 球磨
年輪と冬日を杣が会はせけり 都筑智子
広縁に杣腹這へる夏書かな 西山泊雲 泊雲句集
弁当縁に杣深く入りぬ夏書寺 比叡 野村泊月
待宵の雨粒つけて杣もどる 山本洋子
忌詞杣には生きて寒夕焼 茨木和生 木の國
恋ひ来しは恵那なる新樹杣と語る 及川貞 夕焼
手作りの椎茸干して杣の家 武田光子
手拭に鋸をつつみて雪の杣 木村里風子
投げ置きて杣の歳暮の雉一羽 細谷鳩舎
抱卵の山鳥杣をおどろかす 米本小風
探梅や途すがらなる杣の梅 羽公
斧担ぎ行く杣の脊に初日かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
斧置いて框に杣や今年酒 野村泊月
日あたりに斧研ぐ杣や水涸るゝ 銀漢 吉岡禅寺洞
日暮待つのみ杣が戸のつららごめ 千代田葛彦
旧正や杣は渋紙色に老ゆ 赤座閑山
星天に干しつるる衣や杣が夏 原石鼎
星空に干しつるる衣や杣が夏 原 石鼎
春の炉に足裏あぶるや杣が妻 前田普羅 飛騨紬
春蘭や杣とは違ふ足の音 和田祥子
春隣る嵐ひそめり杣の炉火 飯田蛇笏 霊芝
春雪や色濃き杣の雪眼鏡 前田普羅 飛騨紬
昼寝の子抱きて憩へり女杣 成瀬正とし 星月夜
昼過ぎて杣の馬ゆく鳥屋のみち 木村蕪城 一位
晩秋や杣のあめ牛薔薇甜ぶる 飯田蛇笏 霊芝
月の杣高き齢でありにけり 大峯あきら 鳥道
月の湯壺ひざまづき脱ぐ杣の地下足袋 中島斌男
月祀る杣家かたまり千早口 太田穂酔
朝寒の杣が届けし端書かな 比叡 野村泊月
朝寒の言葉つまづく杣同士 下村ひろし
朝霧や狩人に逢ひ杣に逢ひ 由井蝴蝶
木と草と寂かにせめぎ昼寝杣 小松崎爽青
木兎鳴かぬ夜は淋しと杣の云ふ 広沢米城
木流しや堰に立ちたる裸杣 樋渡清石
木耳や杣の夜の火の濡れ色に 木附沢麦青
杉の実を採る杣天によぢのぼる 山口峰玉
杣が*かやの紐にな恋ひそ物の蔓 原石鼎
杣がくゞり熊が通れる頽雪どめ 前田普羅 飛騨紬
杣がさす鋭鎌の先のしめぢかな 皿井旭川
杣が妻にしづくしやまぬ狭霧かな 前田普羅 飛騨紬
杣が妻四温の濡手かざすなる 木村蕪城 寒泉
杣が妻戸口に打てり葛砧 橋本鶏二 年輪
杣が子に日中さみしき清水かな 原石鼎
杣が子の摘みあつめゐる曼珠沙華 原石鼎
杣が家の一畑五菜冬に入る 白井爽風
杣が家の百合根あんかけ小正月 阿部月山子
杣が家は障子一重の根雪かな 山口草堂
杣が家へ清水引く竹真青なり 野原春醪
杣が家も油灯すや松の内 莚志
杣が往来映りし池も氷りけり 原石鼎
杣が燭ともす山神青葉木菟 青木 路春
杣が羽織着し日の心鳥渡る 中塚一碧樓
杣が菊壺の膾になりにけり 野村喜舟 小石川
杣が蒔きし種な損ねそ月の風 原石鼎
杣が路頬弾く草のいきれかな 楠目橙黄子 橙圃
杣に聞き図鑑に照らし薬狩 久永雁水荘
杣のみち靄がゝりして猟期畢ふ 飯田蛇笏 霊芝
杣の娘は斧を納めて姫の如し 萩原麦草 麦嵐
杣の子が雉子笛ならす暮春かな 飯田蛇笏 春蘭
杣の子にうさぎの耳の冬帽子 菅原多つを
杣の子に縁談のあり山笑ふ 長田穂峰
杣の子に遅れ躑躅と夏ひばり 飯田蛇笏 霊芝
杣の子の二つ持ちたる手毬かな 村上鬼城
杣の子の侮り覗く茸籠 有本銘仙
杣の子の初夢に樅太りけり 黛 執
杣の子の掌中の珠兜虫 末氷てる
杣の子の焚いてくるゝと花の風 飴山實 『花浴び』
杣の子の鬼呼ぶ遊び菫咲く 橋本榮治 麦生
杣の家の夜夜星粗し貝割菜 本多静江
杣の家の湯文字高干し杉の花 岸風三樓
杣の家の濃すぎて惜しき新茶かな 及川貞 夕焼
杣の戸をしめきる霧の去来かな 飯田蛇笏 山廬集
杣の手に明てゆく夜や水下やみ 横井也有 蘿葉集
杣の死に斧を祀るやほととぎす 飯田蛇笏 山廬集
杣の火にゆく雲絶えて秋の空 飯田蛇笏 霊芝
杣の言ひし怖ろしき霧となりにけり 雉子郎句集 石島雉子郎
杣の負ふものの雫や霧時雨 忍月
杣は谿へ双手をひらき鬼やらひ 藤原 如水
杣みちの目で渡る川花胡桃 伊藤白潮
杣みちや剣抜き落葉暮れ残す 石川桂郎 高蘆
杣も来つ穂高里宮春まつり 渡辺立男
杣を籠め霜焼け深き杉の山 小島千架子
杣一人猿のごとく山始 居附稲声
杣人と共に十六夜静かな 川崎展宏
杣人のけふは雉子打ち犬連れて 秋月城峰
杣人の祈りの長し夕河鹿 影島智子
杣人の長身たわむ露の月 田中裕明 花間一壺
杣人の雪消しといふ木の芽雨 岡村紀洋
杣人の頬ひげあらし残暑どき 飯田蛇笏 山廬集
杣人はなべて旧暦彼岸西風 道川虹洋
杣人番傘さして秋雨の森の家出る 人間を彫る 大橋裸木
杣仕事休みわづかの秋蚕飼ふ 原孚水
杣出の渓春蘭のふるへをり 石原八束
杣去れる林中漠と寒ンに向ふ 阿部みどり女
杣小屋におとろへ動く牡丹かな 萩原麦草 麦嵐
杣小屋に椿の落花杣老ゆる 熊谷哲太郎
杣小屋に煙ひとすぢ斧始め 鈴木初男
杣小屋に隠し醸せる濁酒 目黒一栄
杣小屋の噴き立つ釜や雪の果 野村喜舟
杣小屋の掟三行そぞろ寒 檜 紀代
杣小屋の昼をぐつぐつ牡丹鍋 近澤杉車
杣小屋の灯とも狐火とも見ゆる 小川界禾
杣小屋は山の窪地に蚊吸鳥 人見幾生
杣小屋へ山吹草の雪崩咲 辻田克巳
杣小屋をゆすぶりに来る狸かな 平松竃馬
杣山に電動音や零余子蔓 竹石一夫
杣山やたかみの栗に雲かかる 飯田蛇笏 山廬集
杣山や高みの栗に雲かゝる 飯田蛇笏 霊芝
杣山や鶲に煙のながれたる 飯田蛇笏 霊芝
杣師らに木天蓼酒といへるもの 村元子潮
杣径の大昼月や仏生会 大峯あきら 鳥道
杣患者受診に郁子をさげて来し 夏秋仰星子
杣暮し語る蝮の傷みせて 宮中千秋
杣父子山に火を焚く小昼時 飯田蛇笏 椿花集
杣男髪に百足を這はしをり 安部範子
杣病めり*かんじきを炉に吊りしまま 東 天紅
杣芦や曲りて川の果テみえず 木下夕爾
杣路断ち雪解の水は滝をなし 福田蓼汀 山火
杣道に踏み入り峡の春惜む 大久保白村
杣道の登りとなりて鶉鳴く 永由頼寿
杣達の家宝持ち寄る文化祭 野原春醪
松立てゝ杣人代々の火を守れる 水内 鬼灯
松蝉の群唱に入り杣を診る 金子千侍
枯れをゆく杣の脚絆の飛ぶごとし 野澤節子 遠い橋
案内杣つと径それて通草もぐ 村野蓼水
梅雨入りや山霧あほつ杣の顔 前田普羅 飛騨紬
榧の実や杣のほとけを担ぎだす 角川春樹 夢殿
榾たくや沈の杣人梺庵 昌夏 選集「板東太郎」
檀橋や杣木の運び雪の四方 調管子 選集「板東太郎」
正月や杣の遊びのふところ手 前田普羅 飛騨紬
此杣や秋を定めて一千年 秋 正岡子規
毛衣を尻まで垂らし杣通る 高濱年尾 年尾句集
水上を横ぎる杣の厚着かな 前田普羅 飛騨紬
氷る日の杣がもの言ふ雑木山 大峯あきら 鳥道
治聾酒といふもの信じ杣ぐらし 藤丸東雲子
深山蝉杣夫抜け来し杉の城 原裕 青垣
渓橋に見いでし杣も二月かな 飯田蛇笏 霊芝
濁酒杣にはなくてならぬもの 高濱年尾
火を焚いて杣のもてなし梅雨の入り 河村静香
炉の炎杣の白髪も数へらる 前田普羅 飛騨紬
炉明りに杣等朝出の身ごしらへ 植地芳煌
炭がまへ杣も昼餉に下り来る 東原蘆風
焚火跡ありて三日の杣の道 中森皎月
焼葱をかじりて杣の茶碗酒 土屋かたし
熊が出て仕事にならぬ杣飯場 田島緑繁
熊出ると言ふ杣道を独活掘りに 小西須麻
熱いかと問へども杣のこたへなし 暑 正岡子規
父を待つ杣の子に椎の冬日消ゆ 石島雉子郎
狐火を見て来しといふ若き杣 萩原麦草 麦嵐
白藤や火の粉はげしき杣の風呂 大峯あきら 鳥道
白衣きて禰宜にもなるや夏至の杣 飯田蛇笏 山廬集
白露や杣ら一礼肢鹿野山 成瀬正とし 星月夜
皺手擦る杣よ雪解の声はあまし 香西照雄 対話
盆礼や織子の親の女杣 有木銘仙
盆花を替へて杣去る義景忌 南部白夜
目つむりて杣の聴かせる踊唄 田中英子
破れ夜着板の如しや杣の宿 松浦真青
神山を涼しき杣の抜けてゆく 大峯あきら 鳥道
福達磨ふろしきに負ふ杣二人 芳賀昭子
秋の田の畦より杣の道となり 城戸 杉生
秋の陽をどつかと背負ひ杣夫ゆく 川村亜輝子
秋の雲杣木の棚のみづみづし 瀧春一 菜園
秋日失せ易きを教ふ杣人は 西村和子 かりそめならず
秋立つや社に隣る杣の宿 大峯あきら 宇宙塵
秋風や倒れ木わたる杣と犬 大橋櫻坡子 雨月
秋風や森に出合ひし杣が顔 原石鼎
立秋の廂みせたる杣家かな 飯田蛇笏 山廬集
笹鳴や杣の忘れし鉈袋 原 天明
粥すする杣が胃の腑や夜の秋 原石鼎
糸を張る杣に寒の日強まれり 飯田蛇笏 椿花集
紋服や年神が来し杣の家 森澄雄
絶壁にもたれて杣の今朝の春 川端茅舎
緑陰に炭焼く杣の仮眠小屋 谷法幸
縄とびの杣の子風の子となりて 福田和子
翠巒に杣家のあぐる施火の煙 飯田蛇笏 霊芝
老杣のあぐらにくらき蚊遣かな 原石鼎
老杣の目鼻ひとつに雪山路 鷲谷七菜子 花寂び
老杣の肩ずれしたるちやん~こ 川島奇北
老鴬に杣は木魂をつくりけり 石橋辰之助 山暦
老鴬や杣人とほる勅願寺 大峯あきら 鳥道
腰もとに斧照る杣の午睡かな 原石鼎
花ぐもり一径杣の戸口より 大峯あきら 鳥道
苔の香や午睡むさぼる杣が眉 原石鼎
著流しの杣四五人や山祭 比叡 野村泊月
著莪の雨杣の石垣瀧なして 金子 潮
蓬が杣和泉が軒の人形なり 幽山 選集「板東太郎」
薬鑵もつ裸の杣について行く 比叡 野村泊月
蘗に杣が薪棚荒れにけり 芝不器男
虫出しや炭切る杣のほとけ貌 つじ加代子
蚊帳つりてさみしき杣が竈かな 原石鼎
蜩をつぎつぎに消し杣下る 福田甲子雄
蝮酒飲んで仮寝や雨の杣 荻田小風
蟻いでて風薄暑なる杣の路 飯田蛇笏 山廬集
行き逢ふは杣よ吉野の花も奥 高濱年尾 年尾句集
行水や我立杣の苔の水 尾崎迷堂 孤輪
裏白を売る杣の子が銭こぼす 中村石秋
襟巻につつみ余れる杣の顔 前田普羅
諸道具や冬めく杣が土間の壁 原石鼎
謡曲きゝに杣人来り夜半の秋 西山泊雲 泊雲句集
谷底の杣の午睡の見えて居り 比叡 野村泊月
谷暮れて友をや杣の呼千鳥 尾崎紅葉
貝寄や遠きにおはす杣の神 飯田蛇笏 山廬集
貰ひたり杣の遺せし玉忍 諸田宏陽子「新山暦俳句歳時記」
賜りし杣の千振苦しとせず 鈴木栄子
赤き帯して杣の子や山の講 金子夏雪
身綺麗な杣下りてくる冬の山 橋石 和栲
軒しのぶ杣が一戸に伊勢市果つ 桂樟蹊子
通草手に杣の子山の名を知らず 南部憲吉
逝く年の雪に灯を寄せ杣部落 望月たかし
遠まきに杣のぞきをり兎罠 美柑みつはる
遠雪崩杣はランプの火屋磨く 山本 雅子
酔へば泣く杣のありけり山始め 藤原 如水
重陽やこだまし吠ゆる杣の犬 大峯あきら 鳥道
金縷梅や杣炭焼は祭顔 前田普羅 飛騨紬
鎌やせて杣の夫婦の冬仕度 渥美文窓
集ひくる神の一人か杣が来る 宮津昭彦
雛買うて杣雪山へ帰りけり 原石鼎
雨かくも細くて杣の貝割菜 鈴木鷹夫 大津絵
雪しろや昼をしづかに杣の酒 児玉輝代
雪嶺ををろがみ杣の一日終ゆ 木村蕪城 寒泉
雪明りより炉あかりに杣戻る 細谷鳩舎
雪渓や長くは啼かぬ杣の犬 岡田青虹
雪眼なる下りの杣に逢ふばかり 中村若沙
雲まとふ雪渓杣の名を負へる 望月たかし
雷雨やむ月に杣家のかけろ鳴く 飯田蛇笏 霊芝
霧寒し樹にある杣が頬冠り 吉武月二郎句集
霧深くなりゆくばかり杣と逢ふ 藤松遊子
霰うつ杣が板屋のそぎはなし 北原白秋
青竹に蝮はさみて杣下山 手島つね一
頬皺の深き杣なり冬帽子 松藤夏山 夏山句集
額の花ゆれて杣来る隠し径 原 柯城
風花といふ花降ると杣の言ふ 石川文子
飯食ふて淋しき杣や山桜 月舟俳句集 原月舟
骨どこか鳴らし杣ゆく冬の山 鷲谷七菜子 花寂び
鬚剃りて秋あかるさよ杣が顔 原石鼎
鮠串を焙りて杣の年用意 太田蓁樹
鳥の巣の淋しや杣も来ぬところ 大峯あきら 宇宙塵
鴬の声降る杣の昼餉どき 高畠畝子
●杣山
杣山に電動音や零余子蔓 竹石一夫
杣山やたかみの栗に雲かかる 飯田蛇笏 山廬集
杣山や高みの栗に雲かゝる 飯田蛇笏 霊芝
杣山や鶲に煙のながれたる 飯田蛇笏 霊芝
●高嶺晴
せんぶりの花も紫高嶺晴 木村蕪城 一位
椅子向けてれんげつつじや高嶺晴 伊藤敬子
水仙に住むべく着きぬ高嶺晴 雑草 長谷川零餘子
秋晴や由布にゐ向ふ高嶺茶屋 久女
簗見廻つて口笛吹くや高嶺晴 高濱虚子
簗見廻りて口笛吹くや高嶺晴 高浜虚子「虚子全集」
●岳 嶽
*いさざ小鮒けふ売初の賤ケ嶽 斎藤夏風
あやめ咲く野のかたむきに八ケ嶽 木村蕪城 一位
いさざ小鮒けふ売初の賤ケ嶽 斉藤夏風
うぐひすや翌立秋の嶽の雲 渡邊水巴 富士
うす靄の日ざす疎林に秋の嶽 飯田蛇笏 椿花集
おどろおどろ浅間ケ嶽の夜ぎりかな 日夏耿之介 婆羅門俳諧
おのれ吐く雲と灼けをり駒ヶ嶽 加藤楸邨
きちかうや明星ヶ嶽と山の名を 尾崎迷堂 孤輪
こくげんをわきまふ寒の嶽颪 飯田蛇笏 椿花集
さむざむと雲ぬく嶽に月あそぶ 飯田蛇笏 春蘭
しぐれ日々如意ケ嶽より比叡より 岸風三樓
しらくもに鷹まふ嶽の年をしむ 飯田蛇笏
しらつゆやお花畠に嶽の尖 飯田蛇笏 春蘭
しら雲に鷹まふ嶽の年惜しむ 飯田蛇笏 霊芝
じやんがらの鉦の谺す閼伽井嶽 平山節子
たとうれば普羅は剣の雪の嶽 福永嘴風
つらなりて雪嶽宙をゆめみしむ 飯田蛇笏 雪峡
どの家からも春暁の駒ヶ嶽 飯田龍太
にぎやかに盆花濡るる嶽のもと 飯田蛇笏 雪峡
にほどりの凍てよ凍てよと嶽の星 栗生純夫 科野路
ひよりよく奥嶽そびえ秋彼岸 飯田蛇笏 春蘭
やまなみに宿雪かびろく白根嶽 飯田蛇笏 雪峡
わが時空嶽が雪肌とどめたり 河野南畦 『元禄の夢』
キスゲ群落裾に展けて神の嶽 河野南畦 湖の森
三伏の月の小さゝや焼ケ嶽 飯田蛇笏 霊芝
三國嶽三つの國の雪嶺なり 山口誓子 紅日
中嶽の雪を踏む間も霧せまる 松村蒼石 雁
乗鞍は凡そ七嶽霧月夜 松本たかし
五月空真白くのぞき木曽の駒嶽 橋本多佳子
伊吹嶽残雪天に離れ去る 山口誓子 激浪
信心の足音が好き蟻地嶽 後藤比奈夫 花びら柚子
兆忌の秋雪嶽に月明り 飯田蛇笏 春蘭
八ケ嶽ここに全し野菊折る 木村蕪城 一位
八ケ嶽どの秋嶺を愛すべき 中村草田男
八ケ嶽聳てり斑雪近膚吾に見せ 橋本多佳子
八方に秋嶽そびえ神祭 飯田蛇笏 春蘭
八方の嶽しづまりて薺打 飯田蛇笏
八月のうぐひす幽し嶽の雲 渡邊水巴 富士
六月の木曾駒ケ嶽箱庭に 長谷川かな女 雨 月
六月の青嶺仏相嶽鬼相 西本一都 景色
冬の日の照りゐる嶽のうらおもて 栗生純夫 科野路
冬の雨嶽寂光に雪降れり 沢木欣一 雪白
冬帝先ず日をなげかけて駒ケ嶽 高浜虚子
冬帝先づ日をなげかけて駒ヶ嶽 高浜虚子
初がすみきその嶽々たのもしき 白雄
初雪や四五里へだてゝひらの嶽 向井去来
古里の時雨を颪す嶽おそろし 竹下しづの女句文集 昭和十五年
名月や三年ぶりに如意が嶽 向井去来
土用の日浅間ケ嶽に落ちこんだり 村上鬼城
地嶽草紙の炎の舌の言の葉よ 八木三日女 落葉期
夏嶽のかげ負ふダムの小住宅 河野南畦 湖の森
夏嶽や雲も奢りの空の貌(箱根樹木園) 河野南畦 『空の貌』
夕霞して剥落の嶽こだま 新井海豹子
夜の嶽を燈が登りゆく根雪原(立山連峰) 河野南畦 『湖の森』
夜の雲のあそぶ嶽あり稲架を結う 石橋辰之助
夜は夜のしらくもひきて秋の嶽 飯田蛇笏
大寒の嶽負ふ戸々の鎮まれる 飯田蛇笏 椿花集
天嶽の葉月それきり口結ぶ 萩原麦草 麦嵐
天界へ跳んで白隠雪嶽描く 高澤良一 随笑
寒きたり相いましめて嶽そびゆ 飯田蛇笏 春蘭
寒月や比叡より高き如意ケ嶽 五十嵐播水 播水句集
寒流の奥嶽を去る水けむり 飯田蛇笏 椿花集
寒茜象牙を立てしごとき嶽 西本一都 景色
小綬鶏鳴き万嶽に朝の日あふれ 村山古郷
崢の嶽負へりけり城雪解 西本一都 景色
嶽々と角ふる鹿の影法師 飯田蛇笏 山廬集
嶽々や鳰とりまはす雪けぶり 史邦 芭蕉庵小文庫
嶽かけて牧堤の環や樺紅葉 西本一都 景色
嶽が生む劫初の雲の淑気かな 西本一都 景色
嶽と呼ぶ名におぢにけり冬の山 尾崎迷堂 孤輪
嶽に雪母なる大地揺れにけり 西本一都 景色
嶽ねむらんと澄む水にうかびけり 福田甲子雄
嶽の上にのぞける嶺も盛夏かな 村山古郷
嶽の子に朴の花びら開きけり 萩原麦草 麦嵐
嶽の容鷹舞ひ居ればなほ高く(鳳凰山麓) 河野南畦 『黒い夏』
嶽の秀に風が雲捲く三月菜 川合尋
嶽の耳雲のくすぐる睦月かな 西本一都 景色
嶽は午の渓をへだつる雪の面ン 飯田蛇笏 雪峡
嶽を撃ち砲音を谿に奔らする 三橋敏雄 まぼろしの鱶
嶽を見て田植辛夷や散りかゝり 萩原麦草 麦嵐
嶽下りる雲秋燕の揉み出でし 西本一都 景色
嶽兎貂にはらわたぬかれけり 西本一都
嶽大に花野を広く藉き延べぬ 徳永山冬子
嶽嶽の立ち向ふ嶽を撃ちまくる 三橋敏雄 まぼろしの鱶
嶽澄めり死んでゆく日の念珠購ふ つじ加代子
嶽祭馬の代参てふ行事 西本一都 景色
嶽秋光駅長駅夫服正しく 石橋辰之助 山暦
嶽腹を雲うつりゐる清水かな 飯田蛇笏 春蘭
嶽蔓に触れて目覚めよ凍女瀧 小野元夫
嶽越えし秋雷なつかしきゆふべ 石橋辰之助 山暦
嶽鬼相雪被きても眠りても 西本一都 景色
巣立鳥明眸すでに嶽を得つ 藤田湘子(1926-)
巴旦杏*もぐ庭にある八ケ嶽 木村蕪城「一位」
年たつや駒嶽にはるけき釈迦の嶮 飯田蛇笏 雪峡
年たつ嶽開闢の日にいまもなほ 飯田蛇笏 雪峡
年暮るる振り向きざまに駒ヶ嶽 福田甲子雄
強霜や朝あかねして駒嶽の嶮 飯田蛇笏 春蘭
把旦杏?ぐ庭にある八ケ嶽 木村蕪城
新雪の嶽を眩しむ無一物 鈴木正代
日あたたか「春嶽高圓」は窓の景 猿橋統流子
日ある野や秋雷嶽にぶつかれる 石橋辰之助 山暦
日出の凍雲もなく釈迦ケ嶽 飯田蛇笏 雪峡
日溜りの柿のまぶしき閼伽井嶽 川澄祐勝
旱天の冷えにのけぞる駒ケ嶽 飯田龍太
明るくて嶽の骨組極月ヘ 斎藤玄
明日の月雨占なはん比那が嶽 松尾芭蕉
春北風白嶽の陽を吹きゆがむ 飯田蛇笏
春睡や明星嶽をめぐらせて 八木林之介 青霞集
晴るる日も嶽鬱々と厚朴咲けり 飯田蛇笏「山響集」
晴るゝ日も嶽鬱々と厚朴咲けり 飯田蛇笏
朝日には青麦あらし八ケ嶽 加藤楸邨
林帯をかける橿鳥秋の嶽 飯田蛇笏 雪峡
枯蘆や浅間ヶ嶽の雪ぐもり 村上鬼城
栗咲ける嶽みちの雲梅雨入かな 飯田蛇笏 霊芝
根雪原影の嶽おく月明り 河野南畦 湖の森
梅雨の雲幾嶽々のうらおもて 飯田蛇笏 雪峡
梨棚をつゆにゆだねて嶽の星 栗生純夫 科野路
樹々すでに木の葉をはらひ神の嶽 鷲谷七菜子 花寂び 以後
水の面に秋白日の穂高嶽 石原八束
水月の望の光りに嶽おろし 飯田蛇笏 雪峡
洗はれて朝の嶽濃し沙羅の花 矢島渚男 木蘭
浅間八ケ嶽左右に高く秋の立つ 高浜虚子
涅槃嶽のもつとも裾の大瀑布 橋本鶏二
渓べまで夕雲下りる嶽の秋 飯田蛇笏 春蘭
渓べまで夕雲下りる秋の嶽 飯田蛇笏
溺るるはあはれをんなの蟻地嶽 稲垣きくの 黄 瀬
濃紅葉や竜胆いろの嶽の肌 西本一都
火を噴きし嶽とは見えず若葉光 富田潮児
火燵覚めして大書すや望嶽と 廣江八重櫻
焼芋や月の叡山如意ヶ嶽 日野草城
焼藷や月の叡山如意ケ嶽 日野草城
父の日や父なる嶽の雲籠り 荒井正隆
爺ケ嶽己れをかくす雪げむり 西本一都
牛嶽の雲吐きやまぬ月夜哉 前田普羅
猿あそぶ嶽の秋雲きえゆけり 飯田蛇笏 春蘭
生みし嶽に早やまつはれる雲の秋 西本一都 景色
生涯に尊き一と日嶽若葉 阿部みどり女
甲斐駒ケ嶽ふかぶかと青田入れ 広瀬直人
畦塗りの一日かわく嶽の風 六角文夫
畦焼く火夜に入る嶽のちらちらと 福田甲子雄
病起杖に倚れば千山萬嶽の秋 秋 正岡子規
登嶽を阻みて巨巌硫気噴く 羽部洞然
百合ひらき甲斐駒ケ嶽目をさます 福田甲子雄
百蟲の聲暮れ天に八ケ嶽の屏 中島斌男
真額に由布嶽青し苔を掃く 竹下しづの女 [はやて]
眠る田に三日つづきの嶽颪 福田甲子雄
短夜の水ひびきゐる駒ヶ嶽 飯田龍太
秋の嶽そびえ刻々雲うごく 鈴木白祇
秋の嶽咫尺す啄木にそばえせり 飯田蛇笏 春蘭
秋の嶽国土安泰のすがたかな 飯田蛇笏 霊芝
秋の嶽天に黙れといふ如し 赤松[ケイ]子
秋口の星みどりなる嶽の上 飯田蛇笏
秋嶽に応えなきもの女の肩 萩原麦草 麦嵐
秋嶽ののび極まりてとゞまれり 飯田龍太
秋嶽の底に師は逝くただひとり 柴田白葉女 『夕浪』
秋晴の嶺が彼方の嶽を呼ぶ 福田甲子雄
秋晴や一点の蝶嶽を出づ 前田普羅 春寒浅間山
秋晴や比叡より亘る如意ヶ嶽 五十嵐播水
秋蚕飼ふ村のうしろに嶽あつめ 米山源雄
秋雪をえて巓ひろき国師嶽 飯田蛇笏 雪峡
秋風に嶽の日は金ン水鏡 石原舟月 山鵲
秋風やそびえていぶる嶽の尖き 飯田蛇笏
科落葉舞ひ閉牧の嶽に雪 西本一都 景色
稲は穂に嶽真つ黒に星を生み 雨宮抱星
穂芒や弓月ケ嶽の裾に生ふ 羽部洞然
立春の甲斐駒ケ嶽畦の上 飯田龍太
立春の篁の穂の南駒ケ嶽 木村蕪城 寒泉
笠嶽に笠雲翳し寒日和 西本一都 景色
笹山に那須嶽仰ぎ日向ぼこ 渡邊水巴 富士
筍の穂先にかすむ甲武信嶽 飯田龍太
筍の雨にうすうす賤ケ嶽 木村蕪城
草もなく嶽のむら立つ狭霧かな 飯田蛇笏 霊芝
荵つり簷のうちなる如意ヶ嶽 岸風三楼
落葉嶽児は日溜に遊ばせて 西山泊雲 泊雲句集
蕨萌え弓月ヶ嶽に道ひとすぢ 松岡 英士
薪橇のとどまるひまも嶽おろし 飯田蛇笏 春蘭
藍染めし手を秋嶽にかざすなり 萩原麦草 麦嵐
藪巻や雲にかさなる嶽晴れて 三輪不撓
虹きえて諸嶺にとほき釈迦ケ嶽 飯田蛇笏 雪峡
蜂追ひのひと出て来たる茅ケ嶽 飯田龍太 今昔
蟻地嶽探りし指にぶらさがる 加藤知世子 花 季
蟻地嶽飢ゑてゐずやと砂こぼす 鷹羽狩行 五行
行く春の亭に子女よる嶽一つ 飯田蛇笏 霊芝
谿ひろくこだまもなくて嶽の秋 飯田蛇笏 雪峡
豁然と桔梗咲きけり八ケ嶽 雑草 長谷川零餘子
豆蒔くや噴煙小さく駒ケ嶽 岡村浩村
賤ケ嶽裾の寒柝田に廻る 斉藤夏風
遠めきて尖々の澄む八ッ嶽の冬 飯田蛇笏 雪峡
選句地嶽のただなかに懐手 鷹羽狩行 七草
那須嶽をとぢし雲よりほととぎす 上村占魚 『方眼』
野をこぞり菊挿す八ケ嶽の大斜面 木村蕪城 寒泉
野望 畠打の目にはなれずよ魔爺が嶽 蕪村遺稿 春
野菊咲き肩うちほそる茅ケ嶽 堀口星眠 営巣期
門前にそびゆる嶽や秋霞 飯田蛇笏
閼伽井嶽夜風ゆたかな盆踊 皆川盤水
雁くると秋嶽ばかり殖えて見ゆ 萩原麦草 麦嵐
雪あらた嶽ちかぢかと年むかふ 飯田蛇笏 春蘭
雪みえて雲ぬく嶽の日和かな 飯田蛇笏 山廬集
雪中の葱を折る雪賤ケ嶽 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雪兎作つて溶けて如意ヶ嶽 波多野爽波 『湯呑』
雲きれて春料峭と嶽のいろ 飯田蛇笏 雪峡
雲海に嶽(たけ)のかげおく月夜かな 河野南畦 『花と流氷』
雲海に溺れじと聳つ蝶ヶ嶽 西本一都
雲間もえ笹一色に秋の嶽 飯田蛇笏 春蘭
雲霧や嶽の古道柿熟す 飯田蛇笏 霊芝
霜つよし蓮華と開く八ケ嶽 前田普羅
霜晴の那須野那須嶽故郷去る 深見けん二
霧がくれ男嶽がくれに女嶽かな 小川ひろ女
霧脱げば雲被てありし根子ケ嶽 西本一都 景色
青葉して浅間ケ嶽のくもりかな 村上鬼城
餅替の祭に五嶽かがやける 西本一都
駒ケ嶽凍てゝ巌を落としけり 前田普羅
駒ケ嶽右し左し花野追ふ 阿部みどり女
駒ヶ嶽を謎とし去りぬ秋の風 佐野良太 樫
駒ヶ嶽凍てて巌を落しけり 前田普羅
駒鳥やむと雨吹き上げぬ嶽樺 小松崎爽青
駒鳥啼くや嶽は日和の雪霞 小松崎爽青
鬱々とまた爽やかに嶽の白昼 飯田蛇笏
鬼やらひ果てて鳥来る閼伽井嶽 吉田初江
鬼やんまとび賤ケ嶽古戦場 大橋敦子
鮎汲みや喜撰ケ嶽に雲かゝる 几董
鰯雲はなやかに出て嶽日和 西本一都 景色
鳶啼くや日ほてりに嶽の雪を噛む 渡邊水巴 富士
鵲の巣に白嶽の嶮かすむなし 飯田蛇笏 春蘭
鷹とんで冬日あまぬし竜ケ嶽 前田普羅 新訂普羅句集
鷹ゆけり秋霞みして嶽の雪 飯田蛇笏 霊芝
鷹澄みて雪いただかぬ嶽もなし 西本一都 景色
鷹現れていまぞさやけし八ケ嶽 石田波郷
*のろが来て鳴く岳麓の夕べかな 大野雑草子
*はまなすに仔馬かくれて湖の斜里岳 石原八束 空の渚
あかしやの花や由布岳に歩み寄る 殿村莵絲子 花 季
あたゝかき昼岳上に雪残る 山口誓子
あやめ咲く野のかたむきに八ケ岳 木村蕪城
うつぼ草豊かに八ケ岳の雲霽らす 雨宮抱星
おとろへし吹雪の天に岳は燃ゆ 石橋辰之助 山暦
おのれ吐く雲と灼けをり駒ヶ岳 加藤楸邨
かもしかの睫毛冰れり空木岳 小川軽舟
かりがねの初陣来たり賤ケ岳 山下喜子
きしませて白菜漬くる岳颪 池田悦子
くろぐろと梅雨入の八ケ岳の大つむり 高澤良一 ももすずめ
ここ過ぎて霜陣営の賤ヶ岳山柿の実は棘より黒し 山崎方代
こぞり立つ屋久の八重岳青嵐 岡田日郎
ことごとく八ケ岳の峰見す建国日 江 ほむら
この夏岳心に刻む雲は散れど 福田蓼汀 秋風挽歌
こゝに見る由布の雄岳や蕨狩 高浜年尾
さびた咲き摩周岳けふ雲絶えつ 大島民郎
さむく~岳陽障子貼らで居り 萩原麦草 麦嵐
しづかなる駒岳の煙に北風ありや 京極杞陽
ぜんまいにどつと風吹く賤ヶ岳 すだ左千子
ちりぢりに春りんだうや甑岳 古舘曹人 樹下石上
つちふるや雄々しき常念岳見えがくれ 森 都
つらなりて雪岳宙をゆめみしむ 飯田蛇笏
てつぺんに瘤ある地蔵岳粧ふ 山田春生
との曇る泉ヶ岳や遅桜 畑中次郎
どこからも見ゆる鞍岳栗拾ふ 古賀 雁来紅
どれが甲斐駒ヶ岳やら桃咲けり 須永かず子
のこぎりの歯を秋天に剱岳 沢木欣一
はまなすや大き雲居る羅臼岳 飯塚 秀城
ひと雨に色濃き岳や虚抜き菜 長崎玲子
ふらふらと頭の上にくる岳蜻蛉 高澤良一 宿好
めぐり立つ北信五岳の淑気かな 柳沢二葉
よびかけてくる八ケ岳秋立つよ 及川貞 夕焼
わが岳の姿よきゆゑ暮遅し 藤原美峰
をだまきや鬱と暮れゆく燧岳 堀口星眠
をやみなき雪を剣岳の夕明り 金尾梅の門 古志の歌
アポイ岳砂利より立ちし壺すみれ 榎 美幸
オリオンや闇に峙つ聖岳 山下智子
キャンプの火あがれる空の穂高岳 加藤楸邨「寒雷」
キャンプ・ファイヤ消ゆると岳友輪を縮め 福田蓼汀 秋風挽歌
コスモスや甲斐駒ヶ岳晴れ渡る 小坂しづ
チングルマ一岳霧に現れず 友岡子郷 風日
メーデー歌雪形の出る岳の街 北沢 昇
一列の露の灯暁闇の岳に消ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
一岳に一路見えつつ秋の中 友岡子郷 未草
七月のてのひらにおく八ケ岳 神蔵 器
万二郎岳より万三郎岳へ威銃 原田青児
三光鳥鳴く賤が岳昏るる方 今村泗水
三日月の鍵かけ閉す真夜の岳 福田蓼汀
中腹に雲湧き上る岳紅葉 村田橙重
乗鞍は凡そ七岳霧月夜 松本たかし
乗鞍岳の春雪喬眠らせる 中澤康人
乗鞍岳へ唐子が跳んで春祭 黒田杏子
乗鞍岳烟り全天霰降る 仙田洋子 雲は王冠
乗鞍岳雪積みそむる夜なりけり 沙羅夕子
二上山の雄岳か星の流るるは 冨田みのる
五月来る伊豆に万次郎岳万三郎岳 原田青児
五竜岳巌頭しろしスキー挿す 望月たかし
今朝の秋岳の朝日は岳へさし 岡田日郎
今白岳双峰赤天狗青天狗 福田蓼汀 秋風挽歌
代掻くや雪かがやける十勝岳 伊藤凍魚
会津嶺も猫魔ヶ岳も紅葉晴 柏原眠雨
何菩薩春愁華岳ゑがきける 水原秋櫻子
元朝や八ツ岳の稜線金色に 五十川敏枝
光る風白樺から岳樺 矢島渚男 延年
八つ岳の襞の初雪峯をわかつ 和田暖泡
八グ岳仰ぐやわらび手にあまり 及川 貞
八ケ岳くもれば灯しペチカ焚く 大島民郎
八ケ岳の前どんと置かるる稲架襖 太田すま子
八ケ岳まづ一峰の初明り 宇都木水晶花
八ケ岳まなかひにあり月見草 町春草
八ケ岳むらさき頒けし葡萄かな 久米正雄 返り花
八ケ岳よりも偽八ケ岳親し秋の雲 甲斐遊糸
八ケ岳一望にして種を蒔く 青柳志解樹
八ケ岳仰ぐやわらび手にあまり 貞
八ケ岳山肌近し小梨散る 及川貞 夕焼
八ケ岳嶺々寄せ凛と眠り初む 割田あき子
八ケ岳見えて嬉しき焚火哉 前田普羅
八ケ岳雨吹きおとす田草取 相馬遷子 雪嶺
八ケ岳雲にうかべる野の桔梗 秋櫻子
八ケ岳霧の一日ダリヤ咲く 皆川盤水
八ケ岳颪を恃み寒天干す 古戸ふき子
八方の岳しづまりて薺打つ 飯田蛇笏
冠雪の羅臼岳ゆさぶる春の雷 鈴木夢亭
冬の雨岳寂光に雪降れり 沢木欣一
冬天を絞り上げたる那須五岳 福田道子
冬岳に向き一つ家の時計鳴る 村山古郷
冬帝先ず日をなげかけて駒ケ岳 高浜虚子
冬晴の岳日かげりてより澄みぬ 呉龍
冬晴の御在所岳の岩仏 友石示子
冬晴や立ちて八つ岳を見浅間を見 高浜虚子
冬麗の嶺へ立ち尽す岳樺 松村蒼石
凍傷の手もて岳友に花捧ぐ 福田蓼汀
凍雲を剱岳はらへり句碑びらき 水原 春郎
凩や妙義が岳にうすづく日 村上鬼城
初冠雪男剣岳の仁王立ち 平譯敏子
初夏の雲騰れり乗鞍岳とおもふ 石橋辰之助 山暦
初日の出剱岳は雲をぬぐところ 島木悦子
初空に樹氷うかべて甲武信岳 小野宏文
初虹や岳陽楼に登る人 尾崎紅葉
初雪の雌阿寒岳は噴きて恋ふ 野見山ひふみ
利酒や北信五岳背にし 北見さとる
剣岳水場で蝮捕へけり 山本洋子
南に火岳燃え聞こえたる卑弥弓呼は在り 高柳重信
厩出しやからりと晴れて阿蘇五岳 加藤いろは
又の旅夏と定めて富良野岳 高澤良一 素抱
双肘に岳の日躍る峡田打 木下ふみ子
句碑生るる春雪を被て木曾駒ケ岳は 原田青児
可愛岳に梟鳴けり星月夜 佐納冬芽
右左前後の岳の秋ひしひし 石川桂郎 含羞
合歓の実や畳の上の岳男 宮坂静生 樹下
吉良殿の花岳寺筍よく肥ゆる 富田潮児
名月や峰の退く八ケ岳 佐藤ます子
吾子あらばかくや岳友みな日焼 福田蓼汀 秋風挽歌
咲かぬひまはり岳に眠りし子に逢ひに 鍵和田[ゆう]子 未来図
唐黍を鳴かせてもぐや岳日和 日野口晃
四日はや霞むに似たる岳の雲 米谷静二
土用の日浅間ケ岳に落ちこんだり 村上鬼城「定本鬼城句集」
地の震ひ岳の木霊す御神渡 増澤正冬
地鳴きして岳去り難き日雀をり 澤田緑生
墓碑銘の岳魂とあり身にぞ入む 平田青雲
夏の雲背負ひて立てり八ケ岳 原田 稔
夏山を統べて槍ヶ岳真蒼なり 水原秋櫻子
夏帽を岳陽今年きつと買はむ 石川桂郎 含羞
夏深し万岳すでに蒼を帯び 福田蓼汀「暁光」
夏空の冷え透明ぞ岳鴉 有働亨 汐路
夏草や湖に声なき賤ケ岳 井口ひろ(獅子吼)
夏蚕眠る明神岳の一番星 中拓夫 愛鷹
夏霧へ発つ岳人の群しづか 堤高嶺「五嵐十雨」
夕べ岳のよく見えるなり花満つる 杉本寛
夕張岳霧とんでをり籐椅子に 山口青邨
夕日さす韓国岳の花芒 富田 要
夕日の岳冬帽おのず脱ぎ仰ぐ 川村紫陽
夕映えの木曽駒ケ岳春の雁 伊藤敬子
夕月や山火曇りに阿蘇五岳 工藤義夫
夕涼や編笠岳は雲解きて 古賀まり子 緑の野以後
夕澄みて秋冷の岳そろひけり 有働亨 汐路
夕焼けむと激つ雲脱ぐ八ケ岳 千代田葛彦 旅人木
夕虹の全き中に岳あをし 吉澤卯一
夕霞乗鞍岳に銀の鞍 伊藤敬子
夕露ののぼる稲穂に八ケ岳 橋本鶏二
夕顔や浅間が岳を棚の下 芥川龍之介
多良岳の雪を遥かに若菜摘む 岸川沙枝子
夜が長く鶏に風吹く八ツ岳 飯田龍太
夜の秋やこぼるるほどに岳の星 山本さだ
夜は夜の白雲靆(たなび)きて秋の岳 飯田蛇笏
大いなる冬芽飛雪が岳を消す 及川貞 夕焼
大寒や松と根を組む岳樺 清水道子
大根吊る荒縄ゆるび岳おろし 加古宗也
大沼の紅葉す天に駒ヶ岳の牙 野見山朱鳥
大滝の岳おもくおき鰯雲 松村蒼石 雁
大瑠璃や岳見る頬を霧が打つ 野中亮介
大花野雲のかがやく燧岳 伊澤福也
大露の有珠岳湖に裾ひけり 石原舟月 山鵲
大鵠の羽博つ暁の岳のいろ 宮坂静生 春の鹿
大鷹を吹き降ろしけり賤ケ岳 山本良明
天の川わが臥す岳がせきとめつ 澤田 緑生
天子ヶ岳眼鏡冷え立つとき茜 古沢太穂
天子岳に牛牽いてゆく雪男 萩原麦草 麦嵐
天狗岳攀る一列灼け灼けて 日野あや子
天馬棲む幻岳月に浮びけり 福田蓼汀 秋風挽歌
天騒ぎ摩利支天岳に雷おこる 水原秋櫻子
女神岳晴れ夫神岳に雲や信濃柿 藤江 昭
如窓ケ岳を去らぬ雲影稲を刈る 日野草城
妙見岳雲きそひ騰り時鳥 水原秋桜子
孤高なる岳は空より春が来る 小島左京
宝剣岳(ほうけん)の剣もどきの残雪光 高澤良一 鳩信
宝剣岳哮りて泛ぶ夜の雷火 小林碧郎
実山椒を手揉みに朝の燧岳 榎本好宏
宵に寝て目覚めぬ真夜の月岳に 福田蓼汀 山火
寒天終ひ近し八ケ岳より*はやて来る 宮坂静生 樹下
寒風の洗ひし鎧兜岳 右城暮石
小白鳥ひかり常念岳越ゆる 山下智子
小豆挽く噴煙太き十勝岳 富田 要
山廬まだ存す岳麓枯木中 高浜虚子
岩を攀ぢ立つ涼風の天狗岳 岡田日郎
岳あふぐわが惜春のチロル帽 澤田緑生
岳あふぐ胸もとに露かぎりなし 堀口星眠 火山灰の道
岳おぼろにて雪深きけものらよ 千代田葛彦 旅人木
岳からの風に反りをり凍豆腐 佐々木茂子
岳に雲荒く被さる靫草 石川玲子
岳のもと虎杖を食ひ水を飲み 青柳志解樹
岳の上にのぞける嶺も盛夏かな 村山古郷
岳の下野菊の川原ひろからず 大島民郎
岳の名を忘れて春の畦をゆく 友岡子郷 春隣
岳の幟下り来て湯町彩れる 村上一葉子
岳の幟発つにいろめく夏の露 宮津昭彦
岳の影ヨット卸せし波にあり 岡田貞峰
岳の日は伊吹風露の花に澄む 早崎明
岳の星今宵全し降誕祭 古賀まり子 降誕歌
岳の星家々氷柱そだつなり 及川貞 夕焼
岳の空暮れをはるまで蟆子はらふ 堀口星眠
岳の雨二日にあまり畳冷ゆ 石橋辰之助 山暦
岳はなほ白き彫刻鴨かへる 大島民郎
岳はみな雲の中なる牧びらき 岡本まち子
岳は秋風雲われをめぐるなり 岡田日郎
岳は秋黒部本流なほ澄まず 福田蓼汀 秋風挽歌
岳ばかり見て立つスキー怠けては 堀口星眠 営巣期
岳も田も暁闇にあり燕とぶ 高野途上
岳を捧げチーヌの村は紫苑冷ゆ 有働亨 汐路
岳下り来て安曇野に新酒酌む 岡田 貞峰
岳五つ据ゑて鎮守の秋祭 藤澤果抱
岳人のふるさと奥又白は秋 福田蓼汀 秋風挽歌
岳人のゆめはじまりぬ岩煙草 本沢恵子
岳人の大靴太脛卓の下 平畑静塔
岳人の寝息さだまる炉火太し 岡田 貞峰
岳人の朝ひとゝきの岩魚釣り 望月たかし
岳人の睡れる胸に烏頭 堀口星眠 営巣期
岳人は秋風を聴き雲を見る 岡田日郎
岳人らみな小屋を出て虹を見る 田上悦子
岳人ら喪の家に合掌して行きぬ 奈良喜代子(裸子)
岳兎貂にはらわたぬかれけり 西本一都
岳峨々と夢に聳えて明易き 村上 光子
岳暮れて岩魚づくしや浅間の湯 北尾国代
岳暮れて馬鈴薯の花うすうすと 芝 哲雄
岳更けて銀河激流となりにけり 福田蓼汀
岳枯るる人より高き樹のなくて 黒坂紫陽子
岳樺の芽のつつましきほととぎす 西本一都 景色
岳樺呑み込む海霧の迅さかな 高澤良一 素抱
岳樺大黄落の予感あり 松井光子
岳樺幹の阿修羅に秋烈日 高澤良一 ぱらりとせ
岳樺枝のたわみの若葉かな 瀧井孝作
岳烏さわがしき夜のスキー小屋 石橋辰之助 山暦
岳燻る蝦夷いそつつじ咲く涯に 石原八束 空の渚
岳父を埋めて帰路の梅園素通りに 奈良文夫
岳王の墓裏冷ゆる衆の中 石寒太 翔
岳蔽ふ雲を寒しと木賊刈る 三輪不撓
岳蜻蛉日差しの強さ知ってをり 高澤良一 宿好
岳越えて若葉のダムヘ送油管 大島民郎
岳迫る薪ストーブにチビチビ飲む 林 充孝
岳阻み銀河逆流せんばかり 福田蓼汀 秋風挽歌
岳雪のあざやかなるに麦を踏む 冬葉第一句集 吉田冬葉
岳雪解霧鐘巡礼なほ尽きず 菅原達也
岳颪まともに梢のさるをがせ 小鷹奇龍子
岳鴉霧の木曽川べりをとぶ 西村公鳳
岳麓の名残りの猟の野兎二匹 山本二三男
岳麓の思出尽きず夜の秋 松尾緑富
岳麓の旅や三日の雪に逢ふ 伊藤いと子
岳麓の旅コスモスにコスモスに 山田弘子 こぶし坂
岳麓の朝日きびきび山吹に 高澤良一 ももすずめ
岳麓の枯れのつづきの畳に母 友岡子郷 日の径
岳麓の石田やよべはどんど焚 百合山羽公 寒雁
岳麓の達谷山房蝉涼し 伊東宏晃
岳麓の闇より闇へほととぎす 山田弘子 こぶし坂
岳麓も浪うつ畦や田掻馬 百合山羽公 寒雁
岳麓や正月菓子の色ぞ濃き 北野民夫
岳麓冬物音はなればなれにす 宮津昭彦
峙てる宝剣岳が霧を堰く 和泉信子
師を辞して春雲かげる八ケ岳 柴田白葉女 『夕浪』
常念岳の夜の深さや鳥兜 長沢常良
常念岳の晴げんげ蜜ゑんじゆ蜜 中戸川朝人 星辰
常念岳の秀に明け残る寒昴 太田蛇秋
常念岳の秀を研ぎ澄ます空つ凍み 太田蛇秋
常念岳の膝下早苗の丈も伸び 高澤良一 ぱらりとせ
常念岳の風の尖りや若菜摘み 大久保里美
常念岳はまだ雪を置く花桜桃 森 澄雄
常念岳は雲中にあり天道虫 朝倉水木
常念岳へ雪の落葉松総立ちに 伊東宏晃
常念岳へ雲ひかり飛ぶ花林檎 伊東宏晃
常念岳も安曇野富士も雁渡し 加古宗也
常念岳をみてゐし人が雛を見る 斉藤夏風
常念岳を正面に桑解きにけり 古木俊子
常念岳を雲に閉ぢこめ鼬罠 唐沢南海子
幟立つ八ケ岳の古雪朝焼けて 相馬遷子 山國
年の市朝熊の岳の真柴かな 乙由
年送る岳友と聴く山の悲歌 福田蓼汀 秋風挽歌
年酒して阿蘇中岳の見ゆるかな 飴山實 『花浴び』
幻のごと雪照らふ天塩岳 古賀まり子 緑の野以後
幻影か岳か夕霧みだれそめ 大島民郎
引鴨や岳のすがたに星残り 岡田貞峰
御柱祭八ケ岳に木遣の届きをり 渡邊那津
徳沢に岳昏るるまで地蜂焼 大野今朝子
悪沢岳に悪き雲湧き風は秋 福田蓼汀 秋風挽歌
憑代の油日岳に鷹舞へり 田辺富子
挽馬嘶き八ッ岳の宿雪に幟立つ 宮武寒々 朱卓
文字焼の明星岳雲もなし 石塚友二
斜里岳に夕映のこるホップ摘 大網信行
斜里岳のけふはうっすら花はしどい 高澤良一 燕音
斜里岳や計り売りする薯焼酎 高野京子
斜里岳を海霧たちまちに隠しけり 橋本弘子
斜里岳暮れて白鳥路標失へり 平井さち子 紅き栞
新雪の那須岳見ゆる窯場訪ふ 伊東宏晃
於茂登岳裏も表も甘蔗刈る 山城久良光
日は凜と青垣なせる春の岳 柴田白葉女
日を吸ふて雲吐きて夏駒ヶ岳 稲垣晩童
日雷水晶岳を通りをり 山田春生
早苗田にきのふと違ふ八ツ岳 勝又木風雨
早蕨や岳双翼を張る日和 坂本山秀朗
明易や雲が渦巻く駒ケ岳 前田普羅「普羅句集」
明神岳に雪淡かりし蒸鰈 丸山しげる
明神岳浄めの霧を吹きおろす 水原秋桜子
星曼陀羅かけてぞ悼む岳は雪 福田蓼汀 秋風挽歌
春の月雌岳の肩に出て円し 茂里正治
春北風やまだ覚めやらぬ羅臼岳 岡田英子
春寒し地蔵の見えぬ地蔵岳 大木あまり 山の夢
春雷のかくれてゐたり甲武信岳 高畑浩平
時雨来る不風死岳の名をよしと 矢島渚男 延年
晩祷や編笠岳へ道凍り 堀口星眠
晩稲刈雲の動かぬ那須五岳 萩原まさこ
暁紅に外れて夏逝く槍ケ岳 水原秋櫻子
暁紅の岳へ巣立ちし鷹翔ける 研斎史
暁紅を外れて夏逝く槍ケ岳 水原秋桜子
暈を着て満月淡し岳の上 岩崎静子
曇りても那須岳まぶし牧開き 斎藤 道子
月さすや代田にもどる岳の影 大島民郎
月明や乗鞍岳に雪けむり 石橋辰之助 山暦
望岳窓今日は菖蒲の真つ盛り 富田潮児
朝焼や窓にあまれる穂高岳 小室善弘
朝焼雲貫き立てり鎌ヶ岳 岡田日郎
朝霧を脱ぎかけてゐる蝶ケ岳 川崎展宏
木曽駒岳のふところ深く年木樵 芋川幸子
松虫草雄々しき八ケ岳を庭に借り 関森勝夫
林檎*もぐ北信五岳真近にし 岸野不三夫
林檎もぐ夕映えの八ケ岳真向に 柳 清子
林檎咲きなべて雲脱ぐ八ケ岳 小澤満佐子
果しなく秋燕とぶや八ケ岳 及川貞 榧の實
枯れきわみたる骨相に八ケ岳 宮津昭彦
枯木立ありその上に八ケ岳 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
架線夫の天や雪岳うち乱れ 相馬遷子 雪嶺
根子岳がそこに見えゐて野に遊ぶ 大塚華恵
根子岳に魔神集へば年暮るる 保坂春苺
根子岳の雨の落ちくる秋薊 玉井玲子
桃咲くや裾うちけむる間の岳 小澤満佐子
桜桃の熟れゆく空に白根岳 福田甲子雄
梅雨雲を頂にして八ケ岳 高木晴子 花 季
棉咲いて天の焼ヶ岳爛れをり 石原八束 秋風琴
植田寒岳が平たく写りたる 野村仙水
極寒や顔の真上の白根岳 飯田龍太
槍ケ岳槍研ぎ澄まし寒明くる 小島左京
槍ヶ岳林檎の花にとほくあり 井上久枝
槍蓮華岳々見ゆる田植ゑてをり 及川貞 夕焼
樅の芽は煌き岳の肌は荒れぬ 有働亨 汐路
権現岳夜は雲閉ざし稲光 岡田日郎
権現岳弦をゆるめず春遠し 堀口星眠 営巣期
横岳は入日に燃えて雪崩れたり 小林碧郎
横岳ヘリフトの伸びて秋にはか 斉藤小夜
樹肌細めて冬に入らむと岳樺 松村蒼石 雁
橇ゆきて寂しき岳を野にのこす 堀口星眠 火山灰の道
橋に出て涼む前後に夜の岳 川村紫陽
橿鳥や浄らにゆがむ鈴ケ岳 堀口星眠 営巣期
残花飛ぶ風俄かなり賤ヶ岳 小澤満佐子
残菊の軍伝ふる賤ケ岳 宮木忠夫
残雪の岳のどこより夜の川 堀口星眠 樹の雫
残雪の引っ掻き傷めく羅臼岳 高澤良一 燕音
水ぎはの寒き日還る蓮華岳 藤田湘子
水晶岳更けて月下に雲払ふ 岡田日郎
水晶岳望の夜雲を脱ぎ聳ゆ 岡田日郎
水晶岳秋風湧けば雲まとふ 岡田日郎
水晶岳越えて飛び去る月の雲 岡田日郎
水晶岳雲脱ぎ望の夜を聳ゆ 岡田日郎
水漬く樺霧氷の岳と夜明けたり 白澤よし子
氷岳の見える病院 コップの無色 伊丹公子 アーギライト
氷岳は桂冠 インディアン一家の旅 伊丹公子 アーギライト
氷岳薔薇いろ しばしとどまれ 神の刻 伊丹公子 機内楽
河蘇五岳まなかひにして馬肥ゆる 中村青径
波うつて八ケ岳立つ霜くすべ 澤田緑生
洗はれて朝の岳濃し沙羅の花 矢島渚男
流氷やはるかに尖る羅臼岳 小森行々子
海の雪吹きよせて聳つ利尻岳 深谷雄大
海の雪吹き上げて聳つ利尻岳 深谷雄大
淡雪の明星ケ岳夜空占む 矢島房利
渡渉幾度ずぶ濡れ岳友キャンプ張る 福田蓼汀 秋風挽歌
湖のまつり岳樺の葉はハート形 北野民夫
湖の面に賤ケ岳より春時雨 八木林之助
漆黒の水晶岳へ星飛べり 山下智子
濁流は澄むまじ岳に雪来るとも 福田蓼汀 秋風挽歌
火を起す音の笹鳴き燧岳 堀口星眠 営巣期
灯をとりに那須ヶ岳より大蛾来る 富安風生
灼けそゝぐ日の岩にゐて岳しづか 石橋辰之助 山暦
炉にもどり岳の饗宴胸を占む 大島民郎
炎天へ守門ヶ岳のひびきつつ 佐野良太
炎天やおもて起して甑岳(こしきだけ) 細川加賀 『玉虫』
炭竃の上に真白に那須ケ岳 岡安迷子
無言で対す無言の雪の八ケ岳 小林草山
焼け岳にけむりのたてり麻を刈る 田中冬二 俳句拾遺
焼芋や月の叡山如意ケ岳 日野草城
燕岳の日が落ちてきてあたたかし 曹人
燕岳蕎麦咲く丘に浮かぶかも 水原秋桜子
燕来て八ケ岳北壁も斑雪なす 相馬遷子 山国
父の日の消印岳の峨々と立つ 杉田久美子
父子草生ふ賤が岳古戦場 河府雪於
爺々岳の噴煙ま直ぐ昆布干す 石渡穂子「石渡穂子句集」
爺ケ岳真上に冬の虹立てり 大原雪山
爺ケ岳雪かがやくに種おろす 鳥羽とほる
爺ヶ岳また雪つもる社日かな 滝沢伊代次
爺ヶ岳八十八夜の月くもる 服部鹿頭矢
爽籟に肌みがかれし岳樺 大川輝子
牧に咲く嫁菜よさらば岳に雪 有働亨 汐路
牧閉ぢし日の八ケ岳輝かず 皆川盤水
牧閉づ日手触れむばかり八ケ岳 篠田悌二郎
狐雨白々と聳つ秋の槍ケ岳 羽部洞然
猪鍋や背にしんしんと夜の岳 川村紫陽
獅子独活の群落白き岳月夜 福田蓼汀
玲瓏と雪頂いて暑寒別岳(しょかんべつ) 高澤良一 素抱
瑠璃鳴くや頂きけむる越後駒ヶ岳 佐藤草豊
由布岳に秋の虹たつ湯花掻 木村敏子
由布岳の初かな~を湯壷まで 飴山實 『次の花』
由布岳の放つ雲より落雲雀 加藤安希子
由布岳の空遠ざかる冬の雁 杉田江美子
由布岳の裾に芋茎のすだれ干し 深海利代子
由布岳へ打つ九面太鼓や苗代田 平子 公一
由布岳を庭の景とし干菜宿 千代田景石
甲斐駒ケ岳ふかぶかと青田入れ 広瀬直人
甲斐駒ヶ岳ぎりぎりに田水張る 原田喬
甲斐駒ヶ岳の輝く朝や花辛夷 三原清暁
甲斐駒岳を前にのけぞる乙鳥 高澤良一 さざなみやつこ
甲斐駒岳を斜めに仰ぐハンモック 宮武章之
甲武信岳うかぶ月夜を鹿鳴けり 根岸善雄
畚岳遠望りんだう咲く峠 高澤良一 寒暑
登ってさんざん下りてさんざん岳夕立 高澤良一 宿好
白岳の白根の端山焼ける見ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
白日や一岳韻く代田水 宇咲冬男「乾坤」
白樺の咲くとは知らず岳を見る 水原秋櫻子
白樺の花岳人に独語なし 小川軽舟
白樺の霧しづくして岳晴れぬ 水原秋桜子
白樺枯れ陽筋頒け合ふ八ケ岳 北野民夫
百合ひらき甲斐駒ヶ岳目をさます 福田甲子雄
百舌鳥鳴くや雲みだれ寄る槍ヶ岳 水原秋櫻子
盆明けの月の明るき蓮華岳 山田春生
目細鳴き雲間かがやく間の岳 中村信一
真夜の岳銀河流るる音を聴け 福田蓼汀
真夜起きて方位疑ふ岳の月 福田蓼汀 秋風挽歌
真赭なる尾花のそよぐ賤ヶ岳 吉田紫乃
眠る蚕に雲の尽きたる駒ケ岳 飯野燦雨
眼細鳴き岳は眼深に雲の笠 大島民郎
短夜の水ひびきゐる駒ヶ岳 飯田龍太
神の座の白岳照らす日一輪 福田蓼汀 秋風挽歌
神代ざくら八ッ岳と甲斐駒岳ふりわけて 多田裕計
神送る雲より立ちて甲武信岳 中村 翠湖
禽獣と寝起をともに岳の秋 福田蓼汀 秋風挽歌
秋つばめ餓鬼岳寂と色を変ふ 藤田湘子 てんてん
秋の山四明岳の猿沸くごとし 斉藤夏風
秋の岳師の瞳師の所作生きてくる 柴田白葉女 花寂び 以後
秋の湖岳友人界のもの探す 福田蓼汀 秋風挽歌
秋の雲焼ケ岳噴煙にすはれゆく 鈴鹿野風呂 浜木綿
秋天の岳のひとつに火山あり 大森三保子
秋山の穂高の岳を母と思ふ 松村巨湫
秋岳ののび極まりてとどまれり 飯田龍太
秋岳の底に師は逝くただひとり 柴田白葉女 花寂び 以後
秋晴の四明ケ岳のベンチかな 比叡 野村泊月
秋水秋風声あり呼べど岳応へず 福田蓼汀 秋風挽歌
秋湖抱く嶺々豁然と賤ヶ岳 伊東宏晃
秋澄むやまのあたりなる八ケ岳 五百木飄亭
秋燕群れ岳友集ふもわが子なし 福田蓼汀 秋風挽歌
秋虹の円に鎮もる名久井岳 小西暎子
秋風やいただき割れし燧岳 福田蓼汀
秋風やポプラの上の駒ヶ岳 高浜虚子
秋風や永久に怒れる有珠二岳 遠藤梧逸
種おろし少し早くて爺ヶ岳 大橋敦子
稲光蝙蝠岳は闇に没し 福田蓼汀 秋風挽歌
稲妻の斬りさいなめる真夜の岳 福田蓼汀(りょうてい)(1905-88)
稲妻の闇大いなる燧ヶ岳 針ヶ谷里三
穂高岳真つ向うにして岩魚釣 石橋辰之助 山暦
穂高岳秋立つ空の紺青に 及川貞 夕焼
穂高岳霧さへ嶺を越えなやむ 水原秋櫻子
穴釣の小人並びに岳さびし 岡本まち子
立子忌や岳の風神まだ眠る 市川弥栄乃
竜胆や夕映きそふ岳いくつ 中村信一
竜胆や巌頭のぞく剣岳 水原秋櫻子
竜門の岳吹き晴るる根深汁 森尾仁子
笠が岳の駆け出しさうに大西日 都倉義孝
笠岳が笠を脱いだる柳蘭 斉藤美規
笠岳に夕立雲たつ鱒を釣る 田中冬二 俳句拾遺
筒鳥の筒打ちかへす羅臼岳 上村占魚
筒鳥の遠音か夕雲岳とざす 福田 蓼汀
筒鳥の遠鳴き女岳雲の中 水野博子
節分や八ケ岳の裾回を燈の電車 宮坂静生 春の鹿
粟の穂や百貝岳にはたた神 宇佐美魚目 天地存問
粟岳を仰ぐ菜の花畑かな 樋口フミ子
紅梅や聖ケ岳に雲ほぐれ 有働亨 汐路
紅葉していろはを綴る岳の沼 古賀まり子
綿虫が傘のがれゆく甲武信岳 堀口星眠 火山灰の道
編笠岳肩あはく立つ稲びかり 古賀まり子
繭干すや農鳥岳にとはの雪 辰之助
羚羊の噛傷寒し岳樺 大立しづ
羚羊の子五十鈴ちやんとぞ岳の町 工藤智子
羽拡ぐ雪形残り蝶ケ岳 川口崇子
老鶯や南郷谷の阿蘇五岳 青木秀水
胸さらす冷たき岳の夕焼に 澤田緑生
至仏岳直登の径霧に消ゆ 市村究一郎
艶やかに鴉たたかふ岳雲解 千代田葛彦 旅人木
芋子汁振り向くたびに地蔵岳 草間時彦
芒野の鳶より低し賤ケ岳 水原秋櫻子
芙美子忌や浮雲ならぶ八ケ岳 川越昭子
花からたち岳父に夢二の切抜帳 小池文子
花時計すみれの刻に火噴く岳 本宮鼎三
花梓襞に雪おく地蔵岳 山田春生
花野より巌そびえたり八ケ岳 相馬遷子 山國
芳しき雪渓の岳おそれけり 伊藤敬子
芽吹きつつ一夜に雪の賤ヶ岳 渡会昌広
若鮎の川はうねうね白神岳ヘ 佐々木とみ子
若鮎の遡上うながす岳の雨 野原春醪
茅ケ岳霜どけ径を糸のごと 前田普羅
茱萸酒やもたれ心も岳の松 沙羅
茶臼岳かたまりて死す黄金虫 青柳志解樹
茶臼岳熔岩に浅茅の色づけり 三好かほる
荒岳に滾つ湯地獄霧氷咲く 石原八束
菊花晴れ群岳に起つ日章旗 長谷川かな女 雨 月
菜の花に北信五岳月夜かな 高澤良一 燕音
萱くべし焚火にゆがむ甲斐の岳 阿部ひろし
萱刈つて岳麓の冬見えはじむ 岡本 眸
落穂拾ひ去るや夕澄む穂高岳 水原秋櫻子
葛はつと散るむらさきの爺ヶ岳 石寒太 あるき神
蕎麦を碾く灯をにじませり岳の霧 浅沼艸月
蕗咲くや雲よりしろき塩見岳 渡辺立男
蕨干しあまれる簷に雪の岳 石川桂郎 含羞
藁塚の離ればなれに岳颪 太田土男
虫出しの雷を小出しに駒ケ岳 沢 正夫
虫干しや人の下り来る賤ケ岳 大峯あきら
虫干や人の下り来る賤ヶ岳 大峯あきら「紺碧の鐘」
虹の中雨飛び水晶岳聳ゆ 岡田日郎「赤日」
虹まとふ月岳を越え傾きぬ 福田蓼汀 秋風挽歌
虹映り綺羅星映る岳の池 福田蓼汀 秋風挽歌
蚊火消ゆや乗鞍岳に星ひとつ 水原秋櫻子
蛙田や残雪うつす笠ヶ岳 水原秋桜子
蜂飼ひのひと出て来たる茅ヶ岳 飯田龍太
蜘蛛ふとる観音岳の酷暑かな 保坂敏子
蝶ケ岳見失ひては鳩を吹く 松村多美
蝶ヶ岳泛べたる野の雪解靄 岡田貞峰
蟇鳴いて黒雲かくす燧岳 福田蓼汀 秋風挽歌
蟇鳴くや夜空に跼む至仏岳 小林碧郎
行く秋や願ひ鐘打つ長岳寺 渡辺政子
裏八ケ岳の晩夏うぐひす叢に 宮坂静生 雹
裏駒ヶ岳の天辺までも揚雲雀 森山暁湖
襞おほふ雲影さむし天子岳 小野宏文
賎ヶ岳暮れて煮えだす牡丹鍋 榊原順子
賤が岳見ゆる湖畔の畦を塗る 伊東宏晃
賤ケ岳へ鳶吹き上げて余呉は雪 猿橋統流子
賤ケ岳より風つよき門火かな 対中いずみ
賤ケ岳裾の寒柝田に廻る 斎藤夏風
賤ケ岳越えたる雁の乱れかな 小島健 木の実
賤ヶ岳まではとどかぬ草矢打つ 久田美智子
賤ヶ岳まで早稲の香の吹き上る 水野征男
賤ヶ岳よりの引き水繭を煮る 鈴木みや子
賤ヶ岳より降る雪や*いさざ汲む 井桁蒼水
賤ヶ岳越え来し夜を水鶏鳴く 中川芳子
賤ヶ岳青葉若葉に鎧はるる 野原春醪
赤岳に夕日秋蝉鳴きはげむ 伊藤一枝
赤岳の影尖り来て牧を閑づ 小林碧郎
赤岳の烈風なぎて聖夜なり 古賀まり子 降誕歌
赤岳の裾なだらかに蕎麦の花 山本絢子
赤岳の雹のたばしる牧草地 山岸治子
赤岳の霧流れ来るレタス畑 長江克江
赤岳の面起しのほととぎす 石田勝彦 秋興
赤岳へ道荒れつくす穴まどひ 堀口星眠 営巣期
赤岳を鋭き風つつむけらつつき 橋本榮治 越在
赤牛岳に火星水晶岳に月 岡田日郎
赤牛岳を墓標と見ればほととぎす 福田蓼汀 秋風挽歌
赭き岳野に遺されつ秋の暮 相馬遷子 山國
越中の虹が呼び出す剣岳 名倉春月
越前岳すうつと一本曼珠沙華 市村穎子
身をすてて聳つ極寒の駒ケ岳 福田甲子雄
身を捨てて立つ極寒の駒ケ岳 福田甲子雄
農鳥岳や春雷の日矢太かりき いさ桜子
農鳥岳霧荒れ農鳥小屋灯る 岡田日郎
逃水や斜里岳とろけ出しにけり 高澤良一 燕音
通し鴨あるとき賤ヶ岳へとぶ 杉浦東雲
連翹や雲の居座る烏帽子岳 竹内和歌枝
遊船や阿寒二岳を左右の窓 高濱年尾 年尾句集
道返す背に雪岳の光満ち 相馬遷子 雪嶺
遠野火の煙の上に茅ケ岳 河野友人
遠雲の夏おとろへぬ阿寒岳 水原秋櫻子
遠雷や裾うつくしき八ケ岳 及川貞 夕焼
遠青嶺煽りて岳の大幟 町田しげき
那須五岳霧の二岳を余情とす 樽谷青濤
那須岳の霧の下りくる田植かな 尾花トシ
那須岳を吹きくる風に稲架を解く 小野三子
郭公に全容青き茅ケ岳 小野宏文
郭公の谺に晴るる阿蘇五岳 甘田正翠「紫木蓮」
郭公の連呼絶えざる八ケ岳は好し 高澤良一 ももすずめ
郭公や天凄惨の岳かげり 有働亨 汐路
郭公や沼も燧岳も茜色 石川英子
釈迦岳の襞かげ濃かり鯉幟 高島筍雄
野分して餓鬼岳襞をあらはにす 玉木春夫
野分めく風を面に景岳忌 松崎 豊
野菊咲き肩うちほそる茅ケ岳 堀口星眠 営巣期
針ノ木岳見し乗越の鳥兜 奥村喜代子
鈴生りの林檎讃へて岳に雪 三嶋隆英
銀河曼陀羅かけ荘厳す聖岳 福田蓼汀
銀漢のさざなみ寄する杓子岳 星野恒彦
鋤き残る花菜に剣岳そびえたり 金尾梅の門 古志の歌
鋸草の花にはじまる岳の嶮 木内翠園
鍬始浅間ヶ岳に雲かゝる 村上鬼城
鎌ケ岳先づ立ちおこり露の天 橋本鶏二
闇の沼いくつ抱ける月の岳 八牧美喜子
阿弥陀岳畦火の上にゆらぎをり 小口理市
阿蘇五岳一岳冬も眠られず 鈴木真砂女 夕螢
阿蘇五岳乗せて波打つ芒原 穐好樹菟男
阿蘇五岳噴煙吐きて秋日和 有光和子
阿蘇五岳方位を変へてゐし花野 中村田人
阿蘇五岳枯野に起ちて雲に遊ぶ 高井北杜
阿蘇五岳花野を行けば浮き沈み 篠原樹風
阿蘇五岳覚ます山火のあがりけり 増田 富子
阿蘇五岳雨に煙りて桐の花 井田満津子
除雪夫に曉の日輪岳を出づ 伊東宏晃
陽炎や落石ひびく前の岳 篠田悌二郎
雀交る残雪の岳その上に 野澤節子 黄 炎
雁帰る地平の小さき羅臼岳 伊藤ゆめ
雌岳いま雄岳がくれに野路の秋 山田弘子 こぶし坂
雨かなし晴るるもかなし岳粧ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
雨燕翔けてはしぬぐ間の岳 水原秋桜子
雪の岳天飛ぶ雲の触るゝなし 水原秋櫻子
雪はやき赤岳農婦菊を焚く 及川貞 夕焼
雪下し剣岳はひとり夕焼くる 金尾梅の門 古志の歌
雪中に赤芽たたえて岳樺 松村蒼石 雁
雪壁の風身を刺すや岳開き 熊田鹿石
雪山の肌より顕るる岳かんば 関本テル
雪岳が並びおり実のななかまど 和知喜八 同齢
雪岳の上眼が暗く鬼がいて 和知喜八 同齢
雪岳の胸のももいろ海が見る 和知喜八 同齢
雪崩かなし羚羊の死岳人の死 福田蓼汀 秋風挽歌
雪崩るるや雲垂れて岳響きあふ 小林 碧郎
雪形の駒かけのぼる駒ケ岳 井口幸朗
雪椿青空のぞく粟ヶ岳 関口青稲
雪残る山襞深し風不死岳 野村幸子
雪渓の一岳ごとに蒼ざめぬ 伊藤敬子
雪渓の真下に駒ヶ岳神社 後藤比奈夫
雪渓の翅垂るるごと岳暮るる 岡村千恵子
雪煙岳に孤高のこゝろあり 岡田貞峰
雪田に跳び下りみえる白根岳 和知喜八 同齢
雪眼鏡紫紺の岳と相まみゆ 谷野予志
雪解や蝶あらはれし蝶ヶ岳 福田蓼汀 秋風挽歌
雪載せて岳あらはるる端午かな 橋本榮治 越在
雪間なく来るべし馬柵に岳鴉 福田蓼汀 山火
雪雲をかざして岳と岳聳ゆ 岡田日郎
雲と吾と韓国岳越える夏逝くぞ 金子兜太
雲の中赤岳崩ゆる菌狩 相生垣瓜人 微茫集
雲を吐く大江ケ岳の紅葉かな 会津八一
雲形や獅子駆け鹿島槍ヶ岳 加古宗也
雲海に刃を研ぎ澄ます槍ヶ岳 平野芳子
雲海に溺れ喘げり八ケ岳 水原秋桜子
雲海の日の出にゆらぐ岳ひとつ 岡本まち子
雲海やゆるがぬ巌の穂高岳 水原秋桜子
雲脱ぎて岳さやかなる牡丹かな 徳永山冬子
雷火立つ肩の怒れる駒ヶ岳 原 柯城
雷鳥や岳の荘巌一身に 加藤かけい
雷鳥を見しより岳の昏れにけり 毛笠静風
霜きびしなどて名づけし継子岳 福田蓼汀
霜つよし蓮華とひらく八ケ岳 前田普羅
霜の日や岳がしづかに語りいづ 手島 靖一
霜強し蓮華と開く八ケ岳 前田普羅
霜晴や富士に応ふる八ケ岳 井上ゆかり
霜枯や従容として至仏岳 堀口星眠 営巣期
霧に沈む笠岳岩魚焼かれゐて 及川貞 夕焼
霧の田を女耕し八ケ岳の裾 西村公鳳
霧好きは一位に如かず摩利支天岳(まりしてん) 高澤良一 素抱
霧晴れて肩あらはるる鎧岳 藤本安騎生
霧来れば阿修羅見す木ぞ岳樺 高澤良一 鳩信
霧浄土てふも岳人泣かせかな 平田青雲
霧過ぎて照る餓鬼岳は岩ばかり 小野宏文
霧黒くなり来て岳も鬼相帯ぶ 太田嗟
露けしや蝶の小粒の賤ケ岳 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
青嵐岳王廟を吹きまくる 川崎展宏
青梅雨のガレ場あらはに蛭ケ岳 小野宏文
青空の常念岳や畳替 小澤實 砧
青鵐鳴き雲より出づる八ツ岳 宮口喜代子
頬白の声に明け暮る岳住ひ 藤原よしえ
頬白や裾濃の靄に岳光る 千代田葛彦 旅人木
頭禿げはるかなるもの冬の岳 和知喜八 同齢
風の木の氷塵きそふ岳の前 阿部ひろし
飛雪中暁紅燦と八ケ岳 伊東宏晃
餓鬼岳は紅葉緋縅岩鎧ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
餓鬼岳は雷神の座や見えずとも 小澤實「瞬間」
馬の鼻なでて雪嶺のアポイ岳 笠川弘子
駒ケ岳乗鞍除隊入営の道乾きし 雑草 長谷川零餘子
駒ケ岳凍てて巌を落としけり 前田普羅
駒ケ岳残雪里人とゐて祓はるる 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
駒ケ岳裾曳き秋の湖に消ゆ 星野立子
駒ケ岳遠山となる花野かな 高木晴子
駒ヶ岳凍てて巌を落しけり 前田普羅
駒ヶ岳太刀傷のごと雪残る 山田春生
駒ヶ岳裾曳き秋の湖に消ゆ 星野立子
駒ヶ岳雪解ごよみに田植する 角川源義
駒ヶ岳雲居に蒼くいくひきの蜂をあつむる百合の一花は 中川昭
駒岳澄めば仙丈岳が降る草雲雀 鈴木鵬于
駒岳鳴つて花野の奥の放牧場 石原八束
駒鳥の啼くたび岳の昏さ増す 岡田日郎
駒鳥の来鳴きて岳の雪ゆるぶ 倉橋羊村
高空に照り合ふ岳や青林檎 長沼冨久子
鬼の子を鳴かせ望岳亭の軒 加古宗也
魂まつり一本みちに岳が聳つ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
魚が氷に上りて闇に八ケ岳 宮坂静生 春の鹿
鮎汲みや喜撰ケ岳に雲かゝる 几董
鮒寿司やうしろの闇は賤ヶ岳 小林未明(恵那)
鯉幟岳麓の田植始まれり 渡邊水巴 富士
鴛鴦帰り雲烟岳をのぼりつぐ 堀口星眠 営巣期
鴛鴦涼し明神岳の影曳きて 原 柯城
鹿垣の尽き斜里岳の登山口 藤瀬正美
黄落のからまつ襖八ケ岳の風 高野幸江
黄葉の「宝の木」岳人誰も目当 福田蓼汀 秋風挽歌
黒百合や風のゆくへに塩見岳 岡田貞峰
龍胆や巌頭のぞく剣岳 水原秋櫻子
●銅山
別子銅山のぼれば桔梗また桔梗 津村芳水
枯れきつて崩崖のなだれの銅山の墓地 石原八束 空の渚
男盛りが育てるしめじ閉銅山 花谷和子
草笛に吹くよ別子の銅山節 品川鈴子
製錬のにほひかそかに夏山路(下野足尾銅山) 上村占魚 『霧積』
足尾銅山枯葉に重さありにけり 渡辺恭子
銅山のいたどりの花咲きにけり 石川登柿
銅山へくまなく朝日茄子の馬 磯貝碧蹄館
霜晴れのうす煙らひて銅山の墓地 石原八束 空の渚
●遠山
きりぎりす夜の遠山となりゆくや 臼田亞浪 定本亜浪句集
とんぼ飛ぶ遠山色に翅すかし 山口青邨
ねんねこに遠山脈の澄む日かな 石田いづみ
ひとつ家の遠山火事に寝しづめる 西島麦南 人音
ひねもすや遠山かくす干蒲団 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
ふらここを下りて遠山眼にうごく 竹坡
ぽんぽんと山桜置き遠山並み 高澤良一 燕音
みちのくの闇ふかみかも遠山火 山口青邨
むらさきに暮るる遠山田鳧鳴く 今井さだ子
わが胸の乳は遠山ふところ手 赤松[ケイ]子
ペーチカに寄りしあのころ遠山河 田口三千代子
何も変らず遠山に去りし年 耕一郎
元日や遠山一つあたゝかき 中島月笠 月笠句集
冬銀河遠山脈に降るごとし 田村コト
吹雪くなか遠山襞の雪白し 鈴木貞雄
土間ぬけて遠山へ去る青田風 桂信子 黄 瀬
夏蕨遠山見ゆるころ夕餉 大野林火
夕焼けて遠山雲の意にそへり 龍太
寒波来て遠山白し秋彼岸 相馬遷子 雪嶺
尾長とぶ雪の遠山さみどりに 椎橋清翠
山里に尚遠山の四月かな 尾崎迷堂 孤輪
干蒲団打てば遠山縷のごとし 飯田龍太
平地行てことに遠山ざくらかな 蕪村遺稿 春
懸仏かけてありけり遠山火 福谷俊子
手をついて見る遠山の秋の暮 小林康治 『叢林』
旅人に遠山見せて蕎麦の花 毛塚静枝
早々と百姓寝ねし夕月夜 遠山 楠翁子
春の雪ゆきの遠山見えて降る 鶴田卓池(たくち)(1768-1845)
晴れし香のコーヒー遠山ほど霞み 野澤節子 黄 炎
月の出のまず遠山の立ち上がり 徳弘純 麦のほとり
月代にある遠山や時鳥 尾崎迷堂 孤輪
月明の遠山となる壁鏡 桂信子 遠い橋
来ぬ客に遠山吹の雨ばかり 永井龍男
柿のれん遠山脈は背振山 仲 真一
桜さくと遠山見こせ眉の八 上島鬼貫
橙や遠山はまだ雪降らず 角川春樹
湖暮れてゆく遠山の羽ばたきに 広重知子
満紅の柿や遠山にもすがる 百合山羽公 寒雁
炎天へ遠山をおく竹の幹 桂信子 黄 瀬
熱出づる予感にをりぬ遠山火 森藤 千鶴
牡丹剪る遠山脈に残り雪 田中冬二 麦ほこり
牧を閉ぢ遠山神となりにけり 吉舘曹人
町はづれ秋遠山の色なつかし 山田みづえ
秋山の上の遠山移るなり 中村草田男
秋燕をくらき戸が吸ふ遠山家 能村登四郎 合掌部落
稲の月遠山見えて昼のまゝ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
稲妻や遠山低き湖向ふ 鈴鹿野風呂 浜木綿
竿のもの取りこむ母に遠山火 清原枴童 枴童句集
絵も斯や遠山低し鳳巾の糸 支考
聖週や月星濡るる遠山脈 山本よ志朗
舟出して遠山桜見つけたり 呑獅
花茨遠山消して空気熟れ 宮津昭彦
菜の花や遠山どりの尾上まで 蕪村遺稿 春
藤咲くや遠山うつす池の水 井上井月
藪入りの朝遠山のあらたなる 伊東達夫
蟹赤し遠山あをし母睡し間 石田波郷「春嵐」
赤光をつらねてくらし遠山火 竹下しづの女 [はやて]
遅き日を遠山鳥の鳴音かな 星野麦人
遠天へ遠山をおく竹の幹 桂信子
遠山がおいしそうなり間石忌 永末恵子
遠山が目玉にうつるとんぼ哉 小林一茶
遠山にいかづち籠る稲の花 佐々木 咲
遠山にうごかぬ雲や氷魚取 松婦
遠山にきれぎれの虹つなぎつつわが父の座に雪は降りつむ 辺見じゅん
遠山にして人恋し薄霞 涼袋
遠山にまた来し雪に鮎を汲む 松下芳子
遠山にもう雪の来ぬ青さかな 蓬田紀枝子
遠山に一瀑かゝる安居かな 安養寺義明
遠山に八十八夜の雲生る 新井勝美
遠山に冬の気配の二三日 桂 信子
遠山に及ぶ思ひを秋の暮 斎藤玄 無畔
遠山に日の當りたる枯野かな 高浜虚子
遠山に星もたらしぬ神渡 吉田巨蕪
遠山に暖き里見えにけり 村上鬼城
遠山に残る雪あり牡丹園 佐藤亜矢子
遠山に滝かかりゐる紅葉かな 谷向竹桃
遠山に雪きてをりぬ赤かぶら 村上易子
遠山に雪のふたたび小鮎波 鷲谷七菜子 花寂び 以後
遠山に雪のまだありチューリップ 高田風人子
遠山に雪もたらしぬ神渡 吉田巨蕪
遠山に雪来てゆるぶ干菜綱 渡辺文雄
遠山に雲ゆくばかり麦を蒔く 桂信子 黄 瀬
遠山のうすうすとあり梅ひらく 茂里正治
遠山のかがやき寒に入りにけり 澤村昭代
遠山のかくも晴れたり菜の花忌 大森理恵
遠山のかたちのこりぬ螢籠 細川加賀 『傷痕』
遠山のくつがへるさま郭公鳴く 山口青邨
遠山のくれおそしともながめつゝ 清原枴童 枴童句集
遠山のさきの雨雲葱づくり 大木あまり 雲の塔
遠山のすさまじきまで晴れ渡り 向井千代子
遠山のそのまま秋や浅紫 阿部みどり女
遠山のはだれ際やか九山忌 太平栄子
遠山のまだ昏れきらぬ端居かな 鈴木愛子
遠山のまだ見えてゐる寒暮かな 片山由美子 水精
遠山の低く引かれて眠りそむ 阿部みどり女
遠山の奥の山見ゆ蕎麦の花 水原秋櫻子
遠山の奥遠山の雪白し 斉藤忠男
遠山の尾根をましろに草城忌 田中麗子
遠山の峯曇り居る菫哉 内田百間
遠山の折り目正しき淑気かな 伊藤敬子
遠山の日の半眼に蕗の薹 前田照世
遠山の明るきところ今年竹 三島牧子
遠山の昏れかかる川面やまべ跳ぶ 篠田悦子
遠山の晴れつづく夜の中稲かな 塩谷半僊
遠山の晴れ退きぬ寒晒 勝又一透
遠山の晴間みじかし吾亦紅 上田五千石 森林
遠山の朝日てんてん雪しづく 桜井博道 海上
遠山の本降りとなる桜鯛 斎藤梅子
遠山の枯生光れる二日かな 本郷迂象
遠山の焼くる火見えて夕淋し 山焼 正岡子規
遠山の照る雪はかの坂ならむ 篠原梵 雨
遠山の色を濃うして春田かな 月舟俳句集 原月舟
遠山の花に明るしうしろ窓 一茶
遠山の落窪にも星ひとつ凍む 篠原梵 雨
遠山の薄花桜身うけせん 桜 正岡子規
遠山の虹美しき日照雨かな 町 春草
遠山の襞引き寄せて春の雪 小林康治
遠山の見えて近くの山霞む 船坂ちか子
遠山の雨をふくみて焼けにけり 清原枴童 枴童句集
遠山の雪に遅麦まきにけり 村上鬼城
遠山の雪に飛びけり烏二羽 村上鬼城
遠山の雪ひかるどこまで行く 山頭火
遠山の雪を花とも西行忌 上田五千石
遠山の雪見る市の蜜柑かな 石井露月
遠山の雲ほどけゆく花林檎 田村コト
遠山の雲を脱ぎたる花林檎 石川皓子
遠山の雲起つてくる祭かな 木村敏男
遠山の霧よりとどく風の音 椎橋清翠
遠山は利休色して鳥曇 岩田洋子
遠山は蕨の茎の下にあり 鈴木花蓑句集
遠山は雨か飲み干す新走 服部一彦
遠山は雲を払ひて土用太郎 檜山京子
遠山へ喪服を垂らす花の昼 桂信子 黄 瀬
遠山へ水滴連ね蜘蛛の糸 樟豊(秋)
遠山もさだかに春よ仏舎利塔 阿部みどり女 月下美人
遠山もなき麦畑の菫かな 野村喜舟 小石川
遠山も風の案山子も伊賀のうち 桂信子 遠い橋
遠山やしづかに見ゆる秋の空 闌更
遠山や充ち充ちてゐる芹の水 舗土
遠山や木の芽たたけばよく匂う 東 英幸
遠山や池も遥かの鵙日和(修學院離宮) 石川桂郎
遠山や霞にうかぶ投げ盃 丸石 選集「板東太郎」
遠山や馬も日傘も橋の塵 尾崎紅葉
遠山をせつに畏み竹酔日 後藤綾子
遠山を二つに分けて日と時雨 時雨 正岡子規
遠山を引くごと繰りて凧を揚ぐ 榊原真寿美
遠山を柳の奥と思ふかな 尾崎迷堂 孤輪
遠山を移すばかりに春嵐 平井照敏 天上大風
遠山を見てゐて不意に春田打つ 牧 辰夫
遠山を連翹の黄の立ちふさぐ 波多野爽波 鋪道の花
遠山を霧のとびゆく草ひばり 深見和子
遠山河その一枚の稲架を組む 古舘曹人 能登の蛙
遠山河よりも遠くに獅子舞へり 文挟夫佐恵
遠山火寝息生絹のごとくゆれ 龍太
遠山火数珠手放さず見てゐたり 飯田龍太
遠山火汽車に寝てゆく旅に馴れ 成瀬櫻桃子 風色
遠山火闇の馬の瞳しづかなり 中拓夫 愛鷹
野老祝ふ胸中深く遠山河 清水芳子
陽炎へば遠山低くなりにけり 星野椿
障子貼る日の遠山の照りくもり 猿橋統流子
雹晴れし遠山襞の紫紺かな 楠目橙黄子 橙圃
霜柱千々に砕けむ遠山河 殿村莵絲子 雨 月
青山に遠山かさね梅雨晴るゝ 前田普羅 飛騨紬
駒ケ岳遠山となる花野かな 高木晴子
鮎釣りに遠山の風樹々の風 桂信子 黄 瀬
鴨たちて比良の遠山ひかるなり 岸風三楼 往来
麦刈が立ちて遠山恋ひにけり 橋本多佳子
麦刈て遠山見せよ窓の前 蕪村
○登山
○夏の山
●禿山
兀(禿)山に秋のとりつく山もなし 斯波園女
夏立つや禿山すかす不浄門 飯田蛇笏 山廬集
禿山に秋のとりつく山もなし 園女 俳諧撰集玉藻集
蝉鳴くや小松まばらに山禿たり 寺田寅彦
蝉鳴くや山の禿げたる處々 寺田寅彦
●端山
あかくなる端山みてたつ朝寒き 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
いたゞきも端山も焚火あげにけり 軽部烏帽子 [しどみ]の花
うしろから白む端山の雉の声 雉 正岡子規
はつ猟や暑さおどろく不猟端山 飯田蛇笏 山廬集
ぽつと桜ぽつと桜の端山かな 川崎展宏 冬
やや寒や朝から日さす端山寺 吉武月二郎句集
一ト日の疲れ合歓の花見ゆ端山かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
一人とは端山ゆ風の薫るとも 千原叡子
一木に戻る端山の桜の木 高澤良一 素抱
一行の鴈や端山に月を印す 蕪村 秋之部 ■ 探題雁字
五月鳶啼くや端山の友くもり 野坡
元旦の端山離るる椋鳥の群 梶井枯骨
六甲の端山に上り十六夜へる 浅井青陽子
六甲の端山に遊び春隣 高濱年尾 年尾句集
冬安居佐久の端山の鴾色に 土屋未知
千鳥飛んで枯色見ゆる端山かな 清原枴童 枴童句集
同じ路とりて菫の咲く端山 高澤良一 宿好
団栗は小春に落つる端山かな 言水
土手に来て端山の雪におどろきぬ 五十崎古郷句集
坂鳥や六甲端山の端まで晴 早渕道子
夏草や端山の裾の野雪隠 古白遺稿 藤野古白
夜を焼くや坊のうしろの端山なる 雑草 長谷川零餘子
大なる松蕈に逢著す端山哉 松茸 正岡子規
大恵那の尾根や端山や鳥渡る 松本たかし
家郷なり端山に白ナプキンの富士 奈良文夫
山里や端山の松に藤懸けて 尾崎迷堂 孤輪
年神も雪に端山の見えかくれ 斎藤玄 雁道
廻礼や多摩の端山に風出でて 本宮銑太郎
彼の端山地獄にまがふ焚火あぐ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
日の下に端山群山落葉せり 瀧春一 菜園
春一番端山吹きをり死者の飯 堀口星眠 営巣期
春暁や端山めぐりて家櫛比 清原枴童 枴童句集
春浅き端山に入りて深山見ゆ 谷野予志
晴れんとす皐月の端山塔一つ 皐月 正岡子規
晴雪の薄雲かよふ端山かな 松村蒼石 寒鶯抄
月遅き青田外れの端山かな 柑子句集 籾山柑子
朝野焼くけむり端山をへだてけり 五十崎古郷句集
札所抱く端山は雪の消えゐたり 宮津昭彦
枯すすき端山の月の昼のぼる 太田鴻村 穂国
桑の実や端山に白雨きらめきて 柴田白葉女 『月の笛』
渡り鳥四方に生るゝ端山かな 水原秋桜子
田鶴舞ふや眩し冬日を端山にし 森川暁水 淀
甲斐端山円太郎馬車夏へ駛す 安田 勇
白岳の白根の端山焼ける見ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
眠れぬは端山のみにはあらざらむ 相生垣瓜人
短夜の満月かかる端山かな 乙二「乙二発句集」
秋の風つねにひびける端山かな 雨宮北里
空也忌の十三夜月端山より 飯田龍太
端山こそ軽々しくも笑ふなれ 相生垣瓜人 明治草抄
端山紅葉霧を脱ぎつゝ近づき来 相馬遷子 山河
端山越す兎見ゆるや蕎麦の花 三輪未央
端山越秋の七草思ひ出せず 飯島晴子
端山路や曇りて聞ゆ機初 飯田蛇笏 霊芝
篠の子や一雨端山を包み来る 金箱戈止夫(俳句研究)
粧ひし端山来て立つ朝の庭 相馬遷子 雪嶺
紅うつぎ由布に端山の重なるとき 殿村莵絲子 花 季
美しく並ぶ端山に鳥屋二つ 松本たかし
花まつり四五羽の鵯が端山より 本郷熊胆
苗代や端山の躑躅復た赤く 尾崎迷堂 孤輪
葛かけて黒部の端山そゝり立つ 前田普羅 新訂普羅句集
親し名の志賀や端山の初もみぢ 及川貞 夕焼
鎌倉の海見ゆ花の端山より 高濱年尾
降つて来る端山の空や畑打 柑子句集 籾山柑子
陰雪がゾクッと端山に近き畑 高澤良一 素抱
雉子飛んで端山雪なき冬至かな 菅原師竹句集
雑木芽だち端山日の照り 北原白秋
雪舞ふや雪の端山が見ゆる街 五十崎古郷句集
露草に落木あまた端山かな 飯田蛇笏 山廬集
韮臭き僧と端山の月を見たり 橋石 和栲
鴨山の端山の茸を狩りにけり 田中静龍
麦青し端山もぬるるよべの雨 飯田蛇笏 雪峡
○春の山
●檜山
はやばやと檜山のもとに鵜飼待つ 京極杞陽 くくたち下巻
ひやひやと檜山に坐る水の音 田中裕明 櫻姫譚
七夕や檜山かぶさる名栗村 秋櫻子
三光鳥檜山杉山淋しくす 瀧澤宏司
冬麗らことに檜山の上の雲 大岳水一路
吉野なる檜山の裾は茶摘時 岡本差知子
夏休みなかば杉山檜山寂び 友岡子郷 日の径
夜語りや檜山の露の膨らまむ 宮坂静生 山開
夜鷹啼き檜山の雲を月泳ぐ 角川源義
夜鷹啼く檜山の径に月こぼれ 那須 乙郎
天限る檜山が放つ蝉の声 林翔 和紙
山垣はみな檜山なり天の川 秋櫻子
山笑ふ中の檜山は口重し 白岩てい子
恐しき檜山の星や寒曝 大峯あきら 鳥道
新藁や檜山あるきのひるの月 宇佐美魚目 秋収冬蔵
日照雨して檜山の蝉の声ごもる 飯田蛇笏 椿花集
明暗の暗の檜山に山桜 太田土男
春待つと檜山は月を育てけり 安立公彦
春月や檜山杉山隣り合ひ 藤本輝紫
朧々と檜山の中の山ざくら きくちつねこ
杉山に飛んで檜山の螢かな 大石悦子 聞香
杉谷に檜山かぶさる寒暮かな 宮坂静生
柩のような雲浮く午后の檜山 穴井太 原郷樹林
梅白し檜山の凍てをふみ来り 瀧春一 菜園
檜山かげむらさき深し縄出荷 宇佐美魚目 秋収冬蔵
檜山なる冬の橇道囀れり 瀧春一 菜園
檜山には白き雨降り秋蚕飼ふ 有働亨
檜山よりかなかな瀬音ともなへり 荒井正隆
檜山より檜山をつなぐ峡青田 加藤耕子
檜山より雪片馬の強咀嚼 宇佐美魚目 秋収冬蔵
檜山出る屈強の月西行忌 大峯あきら 鳥道
檜山吹雪き天馬羽ばたくばかりなり 大串章
檜山夕立檜は埋火のごとく照る 橋本鶏二
檜山杉山落ち合ふところ夜の朧 町田しげき
檜山松山秋風こぞる身のめぐり(足利浄因寺) 角川源義 『秋燕』
檜山滝ひびかせて人そぞろ 太田鴻村 穂国
檜山透く夏の朝日は僧の辺に 杉本寛
水現れて檜山の暮天曳き落つる(那智山) 野澤節子 『飛泉』
水音の檜山夜に入る網戸かな 木村蕪城
炉火赤し檜山杉山淋しかろ 平畑静塔
狐啼く檜山の月の痩せゆくに 七里はる江
百八松明檜山は稜に星並べ 佐野梧朗
眠りゐる檜山は余木あらしめず 松本たかし
秋冷の檜山杉山匂ひけり 山田みづえ
縄を綯ふ檜山に雪の降る限り 小原渉
臼を刳るうしろ檜山の垂り雪 ももすずめ 昭和拾遺
虹消えて檜山に色のもどりけり 鈴木貞雄
螢火の急いでゐたり檜山 大石悦子 聞香
譲られて譲る檜山の青泉 影島智子
赤蜻蛉檜山杉山ながめ倦きぬ 瀧春一 菜園
輪尺ひたとあてて檜山の露に濡る 宮坂静生 青胡桃
迎火に檜山仄めく峡十戸 藤谷紫映
通し土間月の檜山につながれり 町田しげき
連れだちて檜山づたひに盆の客 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雪代や檜山のみどり流しつつ 大石悦子 聞香
雪雲に檜山のかたちさだまらず 篠原梵 雨
雪霏々と檜山杉山隣り合ふ 矢野緑詩
雲の峰育つ檜山を子に譲る 影島智子
霧のぼる檜山くらみを啼く蛙 臼田亜浪 旅人
鰤起し杉山檜山色褪せぬ 阿波野青畝
鳴き交はす檜山杉山四十雀 根岸善雄
○冬の山
●瑞山
元日の瑞山にたてる姻かな 久保田万太郎
初富士や瑞山は未だ明けきらず 松浦其国
春霞三輪の瑞山神の山 石井桐陰
茅の輪立ち瑞山がきを左右にせり 本多静江
●深山
うすらひは深山へかへる花の如 藤田湘子
うつしみの終のあぶらを捨てにゆく越の深山は水の音する 山田あき
けりけりと深山ひぐらし原爆忌 秋元不死男
さしこすや深山しぐれのぬれ筏 暁台 選集古今句集
さるをがせ深山の霧の捲き来たり 矢島無月「無月句集」
たちよれば深山ぐもりに桷の花 飯田蛇笏「春蘭」
はせを忌をこころに修す深山住 飯田蛇笏 春蘭
はなびらの盡きたる深山朝櫻 黒田杏子 花下草上
ひとごゑのかへる深山の初紅葉 菊地一雄
ふろふきの火の弱まりて深山星 福田甲子雄
ほぞ落ちの柿の音聞く深山かな 山口素堂
ほど遠く深山風きく雪解かな 飯田蛇笏 霊芝
むさゝびを狩りとる樅の深山雲 飯田蛇笏 霊芝
ゆきどけや深山曇を啼烏 暁台
ゆく秋の深山に抱く子の重み 飯田龍太
一歩ずつ深山明るき*しどみの実 松田ひろむ
一里行二里行深山桜かな 三四坊
七月の花を梢に深山朴 西本一都 景色
三宝をはみ出す根深山河かな 永田耕衣 人生
世の人のしらぬ花あり深山椎 園女 俳諧撰集玉藻集
冬といふもの流れつぐ深山川 飯田蛇笏
凄まじき深山の月の十三夜 石塚友二
勅なるぞ深山鶯はや来鳴け 正岡子規
去年今年闇にかなづる深山川 飯田蛇笏
吊り歯朶に深山育ちの小夕焼 橋本渡舟
吾にねらひ定めて離れぬ深山の蚊 小野若沙
坐せば花臥して深山の塔の空 橋本榮治 逆旅
埋火に猿来るとぞ深山寺 尾崎迷堂 孤輪
壷にして深山の朴の花ひらく 水原秋櫻子
夏帽を歯朶にぬぎ置ける深山かな 尾崎迷堂 孤輪
夏木立佩くや深山の腰ふさげ 松尾芭蕉
夏果てむ雨の深山の櫟の木 小澤實
夏雲のからみてふかし深山槇 飯田蛇笏 山廬集
夜は夜のみみづくを聞き深山杉 青柳志解樹
夜鷹鳴く暈を大きく深山月 椎橋清翠
大柄の木洩日すずし深山朴 岡野風痕子
大王の耳は深山や椿落つ 大屋達治 繍鸞
大鳥の眼が凝視めおり深山霧 対馬康子 愛国
妻は恋人一人静の深山口 原子公平
姥捨の子に鳴け深山ほととぎす 広瀬町子
婆が煮てぜんまい甘し深山鳩 佐野美智
寒明けの風吹きわたる深山空 飯田蛇笏 椿花集
小屋に寝て深山の月を瞼にす 相馬遷子 山國
小鳥さへ渡らぬほとの深山かな 千子
山号に鷲棲む深山沙参かな 中戸川朝人 星辰
巌に倚れる樹の鳥の巣や深山なる 尾崎迷堂 孤輪
市なかに深山はあり吊忍 長谷川櫂 蓬莱
底なし沼忽と瑠璃なす深山霧 鷲谷七菜子
庵ちさし深山みづきの花陰に 伊藤柏翠
御影供が花が人呼び深山寺 荻野信子
手をつなぎ深山をだまき崖に折る 河府雪於
散花に音きくほどの深山かな 心敬
春暑くうす雲まとう深山かな 飯田蛇笏 霊芝
春浅き端山に入りて深山見ゆ 谷野予志
春浅く深山がかりに飛行音 飯田蛇笏 椿花集
春浅し洟紙すてる深山草 飯田蛇笏 山廬集
春風に松毬飛ぶや深山径 前田普羅 春寒浅間山
月みせてはとぶ白雲や深山槇 飯田蛇笏 山廬集
木枯や深山秀虚空鷲一羽 松根東洋城
東風吹くや松の深山の松の針 東洋城千句
松に蔦深山の奥の其の奥の 尾崎紅葉
枯くさのながるるもあり深山川 飯田蛇笏 山廬集
栗拾ふ深山の中の林かな 尾崎迷堂 孤輪
栗笑んで不動の怒る深山かな 言水
栗鼠跳ねて深山落葉の音覚ます 鷲谷七菜子 花寂び
樅に出て深山ぐもりの月の秋 飯田蛇笏 霊芝
樫落葉はらり~と深山めき 杉浦真青
水引に滝のしぶきと深山露 大野林火
淙々と水音珊々と深山蝉 福田蓼汀 山火
深山この夢のいづこも紅茸 齋藤愼爾
深山つつじ朝々霧のおろしけむ 臼田亜浪
深山にわが影ふみて秋日和 飯田蛇笏 椿花集
深山に吹かれて誰の秋風ぞ 斎藤玄 雁道
深山に炭焼き暮るるひとりかな 飯田蛇笏 椿花集
深山に蕨とりつつ亡びるか 鈴木六林男 荒天
深山の日のたはむるる秋の空 飯田蛇笏
深山の書院に住みてやもめ僧 飯田蛇笏 椿花集
深山の月夜にあへる蝉しぐれ 飯田蛇笏 春蘭
深山の風にうつろふ既望かな 飯田蛇笏
深山みち風たつ花の名残りかな 飯田蛇笏 山廬集
深山も鱒も赤子のように抱く 対馬康子 吾亦紅
深山ゆゑか齢のゆゑか暮はやし 村越化石 山國抄
深山より水引きしてふ洗ひ鯉 木内怜子
深山寺の飼猿酒をかもしけり 青峰集 島田青峰
深山寺雲井の月に雷過ぎぬ 飯田蛇笏 霊芝
深山川氷りて目白歩きをり 大峯あきら 鳥道
深山木に狩られであそぶ鶲かな 飯田蛇笏 山廬集
深山木に雲行く蝉のしらべかな 飯田蛇笏 霊芝
深山木のこずゑの禽や冬の霧 飯田蛇笏 霊芝
深山木の底に水澄む五月かな 鳳朗「鳳朗発句集」
深山木や斧に湿ふ秋の雲 尾崎紅葉
深山榛の木青葉こそこそ雪ぎらい 和知喜八 同齢
深山橡咲くはんざきの子に脚が 松村蒼石 雁
深山田に雲なつかしや早苗時 石鼎
深山石楠花この世かの世の遠い空 岸秋溪子
深山石楠花やはるかにまさしく蔵王なり 荻原井泉水
深山空寒日輪のゆるるさま 飯田蛇笏 椿花集
深山空寒明けし陽のわたりけり 飯田蛇笏 霊芝
深山空満月いでてやはらかき 飯田蛇笏 椿花集
深山空片雲もなく初雲雀 飯田蛇笏 椿花集
深山竜胆少女期を過ぎしいろ 佐野幸子
深山花つむ梅雨人のおもてかな 飯田蛇笏 霊芝
深山草挿してありけり床涼み 藤田湘子
深山菫慟哭しつつ笑いけり 安井浩司 氾人
深山薊は黙して居れば色濃くなる 加藤知世子 花寂び
深山藤蔓うちかへし花盛り 前田普羅 春寒浅間山
深山藤風雨の夜明け遅々として 前田普羅 飛騨紬
深山蚋しふねかりけり社務所去る 植地芳煌
深山蝉どこへもゆかぬ母を掴み 友岡子郷 遠方
深山蝉杣夫抜け来し杉の城 原裕 青垣
深山路に雲ふむ尼僧孟蘭盆会 飯田蛇笏 椿花集
深山路を出抜てあかし麦の秋 炭 太祇 太祇句選
深山辺のこゝろの風を年取木 井原西鶴
深山雨に蕗ふかぶかと泉かな 飯田蛇笏 山廬集
深山霧厠にたまる無月かな 栗生純夫 科野路
深山霧声あるものは木に執す 栗生純夫 科野路
深山鳥雨の木の芽の寒さかな 碧雲居句集 大谷碧雲居
深山鴬今掌に宝珠のにぎりめし 加藤知世子 花寂び
湯どころや行く秋青き深山歯朶 石塚友二 光塵
湯治客深山櫻をたづねあて 後藤夜半
激つ瀬に囲を張りわたし深山蜘蛛 木村蕪城「一位」
猿酒をおもへば深山時雨けり 大串章
獣の糞緑に和む深山中 村越化石
玲羊は深山の尊者月は神 福田蓼汀 秋風挽歌
畳這ふ深山の霧に地図案ず 鈴鹿野風呂 浜木綿
白足袋のいちにん深山朝櫻 黒田杏子 花下草上
真榊の花散り深山路の如く 川田傘帆
眼に力戻りぬ深山清水飲み 菰田晶(狩)
短夜や一輪生けて深山蓮 五十嵐播水 播水句集
石楠花の深山の谷や氷解 松根東洋城
石楠花や深山の怖れこのものに 尾崎迷堂 孤輪
秋芽摘む唄も聞かざり深山の茶 林原耒井 蜩
秋風やこだま返して深山川 飯田蛇笏 山廬集
空蝉を集めて深山暮らしかな 林桂 ことのはひらひら 抄
笹埋む深山の雪となりにけり 尾崎迷堂 孤輪
笹鳴や深山たびたび日をかくす 長谷川双魚 風形
筒鳥に深山は霧を深めけり 伊勢由美子
箱庭の景深山と幽谷と 後藤夜半 底紅
粽結ふ一束の笹深山より 前田普羅 能登蒼し
紅梅の雨にも燃ゆる深山かな 中島月笠 月笠句集
紅葉山あたまこわれる深山 阿部完市 春日朝歌
肌いたきまで秋冷の深山空 原裕 『出雲』
芽をふいて藪は深山のつめたさに 佐野良太 樫
苔をうつ雨や深山の秋の声 宗祇
葛の花引くは深山の母を引く 金箱戈止夫
蔕(ほぞ)おちの柿のおときく深山哉 素堂 (翌日(身延より)甲斐の府へ帰路の吟)
蕈に深山のおどろおどろしきを思ふ 尾崎紅葉
藍ふかぶか雪庇にふるる深山空 大野林火
藤の芽に雨強く来し深山かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
蛇笏忌の目鼻と近む深山星 飯田龍太
蝸牛いつか深山の夢のなか 金子青銅
誰が斧に崇りて深山夕立かな 露月句集 石井露月
踏つけし雪解にけり深山寺 炭 太祇 太祇句選後篇
這松にひた鳴く秋の深山蝉 福田蓼汀
郭公のはるかに帰る深山かな 樗良 選集古今句集
酔ふままに深山に入りぬ蕨狩 田中裕明 花間一壺
開帳の破れ鐘つくや深山寺 飯田蛇笏 山廬集
閑古啼くや深山薊の花の色 石井露月
降りたけて深山の雨いさぎよし 飯田蛇笏 椿花集
隠し田のほとりの深山蓮華かな 沢村昭代
雉鳴いて深山めくなる松露かき 五十崎古郷句集
雨になほ鷽啼く深山櫻かな 黒田杏子 花下草上
雪来るとどれも反り身の深山杉 橋本榮治 麦生
雪解や深山曇りを啼く烏 加藤暁台 (きょうたい)(1732-1792)
雲のぼる六月宙の深山蝉 飯田龍太 春の道
霜とけて陽炎あぐる深山歯朶 前田普羅 飛騨紬
霜月の瀬をひるがへす深山風 有泉七種
額の花深山の秋に化けつゞく 鈴鹿野風呂 浜木綿
顔の辺を深山泉の声とほる 飯田龍太
風澄むや落花にほそる深山ふぢ 前田普羅 飛騨紬
餅つきやものゝ答へる深山寺 炭 太祇 太祇句選後篇
鰊群来深山鴉も鰊場へ 野西幸来
鳥ひとつ深山に叫ぶ梅雨嵐 相馬遷子 雪嶺
鼓動して太古のこころ深山瀧 燕音 八月
●深山晴
四十雀のつむりの紺や深山晴 加藤青圃
深山晴虻蜂を岩すがらしむ 中戸川朝人 残心
磐に干す菜の貼りついて深山晴 中戸川朝人 残心
蓑虫の貌だしてゐる深山晴 下地慧子
郭公啼く青一色の深山晴れ 飯田蛇笏 椿花集
●名山
ちかぢかと雪の名山年古りぬ 飯田蛇笏 春蘭
名山に対す厠や三ヶ日 宮武寒々 朱卓
名山に正面ありぬ干蒲団 小川 軽舟
名山に近く冬川の豊かさよ 青峰集 島田青峰
名山の余りに遠き霞かな 尾崎紅葉
名山の水を供へて子規忌なる 小檜山繁子
秋夕映その名も赤城山棲名山かな 川崎展宏 冬
行脚こゝに名山にあひぬ冬安居 松瀬青々
●雌岳 女嶽
雌岳いま雄岳がくれに野路の秋 山田弘子 こぶし坂
霧がくれ男嶽がくれに女嶽かな 小川ひろ女
●芽吹山
みちのくの星を殖やして芽吹山 片山由美子 水精
付け足しにそこらの小木も芽吹山 ぱらりとせ 春
明るさに径うすれゆく芽吹山 能村登四郎 幻山水
浮雲をしばしとどめて芽吹山 宮武章之
火渡りを待つ芽吹き山昼の月 福島壺春
疾風めく羽音一陣芽吹き山 鷲谷七菜子 花寂び 以後
芽吹き山二重にこだま返しけり 二村典子
風が噂ひろげしほどの芽吹山 小澤克己
●物見山
●紅葉山
いつよりの男盛りや紅葉山 波戸岡旭
うちうちに陰陽師よぶ紅葉山 伊藤敬子
ぎつしりと星紅葉山まっくろに 藤本草四郎
この年は何捨てる年紅葉山 鈴木太郎
すさまじき真闇となりぬ紅葉山 鷲谷七菜子(1923-)
ときをりの日矢をよろこぶ紅葉山 仙田洋子 雲は王冠
ひとひらの雲が頭上に紅葉山 稲田眸子
もしもしと呼ばれてをりぬ紅葉山 岩淵喜代子 硝子の仲間
もつともな醜聞絶えぬ紅葉山 宇多喜代子
キャンパスの裏手が火の手紅葉山 伊藤敬子
一瀑のかがやき落つる紅葉山 有泉七種
万華鏡中紅葉山紅葉谷 後藤比奈夫 めんない千鳥
五、六歩は友から離れ紅葉山 坪内稔典
伏す鹿の耳怠らず紅葉山 小島健
先着にあな幣尊と紅葉山 飯田蛇笏
大勢にまぎれて入る紅葉山 宇多喜代子
大津絵の鬼が手を拍つ紅葉山 桂信子 遠い橋
天誅の義士の碑訪ふや紅葉山 石川風女
妻と見るまるいまあるい紅葉山 岸田稚魚 『紅葉山』
家裏に空瓶透いて紅葉山 桂信子 黄 瀬
干すとなく乾く髪膚を紅葉山 池田澄子 たましいの話
彩の奥行見せて紅葉山 竹腰朋子
最澄はつねに意中に紅葉山 玉城一香
果無しの山の一つは紅葉山 加藤三七子
満月をかかげ昼見し紅葉山 秋山幹生
目薬を注し紅葉山覚ましけり 佐川広治
立ちどまるなほ吸ひよせんと紅葉山 池内友次郎 結婚まで
紅葉山あたまこわれる深山 阿部完市 春日朝歌
紅葉山いろんな色に落着かず 岸田稚魚 『紅葉山』
紅葉山だんだん足が長くなる あざ蓉子
紅葉山の上這ひ亙り赭き山 河野静雲 閻魔
紅葉山の忽然生みし童女かな 芝不器男
紅葉山の文庫保ちし人は誰 子規句集 虚子・碧梧桐選
紅葉山もの言はずして目が綺麗 岸本尚毅 鶏頭
紅葉山や分つゝゆけば西の丸 丸石 選集「板東太郎」
紅葉山一夜泊りて痩せにけり 鈴木六林男 王国
紅葉山人語鳥語に匹敵す 鳩信 白帝
紅葉山夜はとほき世の風の音 高橋謙次郎
紅葉山夢のとおりに道迷い 渋谷道
紅葉山女に逢ふは怖ろしき 品川鈴子
紅葉山峙てる気配にしんの闇 轡田進
紅葉山月ぞら既に濃くなんぬ 下村槐太 光背
紅葉山洞窟覗き引き返す 栗原満
紅葉山火元のごとく燃ゆるところ 松村蒼石 雪
紅葉山狂う一葉となり狂う 八木三日女 落葉期
紅葉山生ある限り好機あり 大関靖博
紅葉山白髪ふやして帰りけり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
紅葉山禰宜をろがむは伊勢のかた 木村蕪城 一位
紅葉山秘中の色をまだ見せず 木内彰志
紅葉山空へぽつぽつ目高水 和知喜八 同齢
紅葉山糸ひくやうに日暮れけり 辺見じゅん
紅葉山耳ほてるまで深入りす 加藤憲曠
紅葉山茶屋の跡地の若木かな 大崎康代
紅葉山踏んで平和といふ重み 志摩知子
紅葉山靄より水の流れ出づ 西岡正保
紅葉山鬼も天狗もをりにけり 高橋将夫
紅葉山鳥のこぼしし血も淋し 太田鴻村 穂国
紅葉山鷹舞ひ出でてさらに濃し 斎藤 道子
終着は紅葉山ですフルムーン 益田清
茅原や行きつくしたる紅葉山 軽部烏帽子 [しどみ]の花
茹で卵ころがしに行く紅葉山 鴻巣又四郎
蘆の湖やさながら映る紅葉山 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
行く先の見えて日の落つ紅葉山 福田甲子雄
赤ん坊ひよいとかかへて紅葉山 夏井いつき
酒のあと寝ること残る紅葉山 鈴木六林男
霧の中むら消えのして紅葉山 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
●焼山
うかれ猫焼山にゆき孕みけり 萩原麦草 麦嵐
汽車着くや焼山晴れてまのあたり 芝不器男
焼け山の春や天より人語くる 長谷川草々
焼山にどつと隣の山火煤 中戸川朝人 星辰
焼山に月の出かかる母郷かな ねずみのこまくら 昭和五十六年
焼山の夕暮淋し知らぬ鳥 高浜虚子
焼山の段だら縞に日の新た ぱらりとせ 春
焼山の灰のほろりと道よぎる ぱらりとせ 春
焼山の焦げ目曼陀羅日表に ぱらりとせ 春
焼山の白き道ゆく萱負女 丸山海道
焼山の茶店で書きし手紙かな 雑草 長谷川零餘子
焼山の闇濡らす雨駅を籠め 宮津昭彦
焼山は心腹の友さながらに ぱらりとせ 春
焼山や嵩其まゝに歯朶の容 西山泊雲 泊雲句集
焼山を嗅ぐ父祖のごと獣のごと 大串章
焼山を来る人見えて庵かな 雑草 長谷川零餘子
焼山を襲ふごと過ぐ雲の影 青野爽
球戯場出て松過ぎの焼山硬く 宮武寒々 朱卓
通り魔に遇ひし面持ち焼山は ぱらりとせ 春
●山男
かんじきや市に物買ふ山男 高浜虚子
きりさめや歯朶ふみいづる山男 飯田蛇笏 春蘭
切株にたちて暮春の山男 飯田蛇笏 春蘭
夏霧の山男にも乳首あり 大屋達治 繍鸞
大学を出て山男ちやんちやんこ 福田蓼汀
尾根雪と幕舎にもどる山男 福田蓼汀 秋風挽歌
山男くる捩花の小鉢提げ 高井北杜
山男泥の大根ひつさげて 澤村昭代
山男老いては集ふ泉あり 有働 亨
春蘭やことばやさしき山男 飯田弘子
瞳が涼し蓬髪無言の山男 福田蓼汀 秋風挽歌
秋の蚊を掴み損ねし山男 辻田克巳
虫の闇獣の眼もち山男 福田蓼汀 秋風挽歌
送行と申せどただの山男 市堀玉宗
風邪引きや髯蓬々の山男 楠目橙黄子 橙圃
●山颪
お山颪裸詣りの幣鳴らす 高橋青湖
せきれいのまひよどむ瀬や山颪 飯田蛇笏 霊芝
刈干しの晩稲吹立つ山颪 大熊輝一 土の香
初寅や山颪呼ぶ僧の法螺 宮川蔦江
初汐や夜な夜なつのる山颪 立花北枝
初潮や夜る~募る山颪 北枝
十夜寺をいゆるがすなり山颪 芝不器男
堂鳩をふくや泊瀬の山颪 鉄丸 選集「板東太郎」
山颪早苗を撫て行衛かな 蕪村遺稿 夏
新発意(ぼち)が花折る跡や山颪 服部嵐雪
桑の芽に火の山颪荒るる日ぞ 上村占魚 球磨
水鳥やかたまりかぬる山颪 大坂-瓠界 元禄百人一句
無患子の弥山颪に吹きさわぐ 阿波野青畝
石坂を菓飛ぶなり山颪 太祇
邯鄲や日のかたぶきに山颪 飯田蛇笏 山廬集
金屏に吹き衰へぬ山颪 大峯あきら
雪時雨釜臥山颪し照り翳り 小林康治 玄霜
馬追に硬山颪し夜更けたり 小林康治 玄霜

以上 

# by 575fudemakase | 2022-05-22 15:13 | ブログ

山1  の俳句

山1  の俳句


●青垣
おほどかや春の虹立つ青垣は ふけとしこ 鎌の刃
仮眠のごと牧の青垣雲隠る 宮坂静生 山開
凌霄に青垣ぞ為し信貴生駒 北野民夫
土濡れて大和青垣燕来る 伊藤敬子
山山青垣なしてこれの高嶺の夏の朝なり 荻原井泉水
日は凜と青垣なせる春の岳 柴田白葉女
梅雨明けて大和青垣入日どき 堀田知永(雲の峰)
町さみし五加木青垣露地露地に 宮坂静生 雹
肥後しぐる青垣ごもる日田(ひた)いかに 高橋睦郎 荒童鈔
青垣の夏の夜露にふれにけり 西島麦南 人音
青垣の山たたなはる雛屏風 上田五千石
青垣の月に日の照る角切場 古舘曹人 砂の音
青垣の雨を牡丹の中に聴く 古舘曹人 砂の音
青垣山したたる国の原爆忌 三嶋隆英
青垣山隠れる大和川太し 和田悟朗 法隆寺伝承
高原の裸身青垣山よ見よ 山口誓子「黄旗」
鱚釣や青垣なせる陸の山 山口誓子
●秋の山
いつさいがわがために在る秋の山 正木ゆう子 悠
うつり行く蝶々ひくし秋の山 前田普羅 春寒浅間山
うれしさの極みの涙秋の山 阿部みどり女
すでに秋の山山となり机に迫り来 尾崎放哉
つきづきし石の響や秋の山 吉川英治
ひよろひよろと人の出てくる秋の山 青柳志解樹
ぶらり旅秋の山見て手相見て 杉浦一枝
まるければ丸山といふ秋の山 星野麥丘人
みんな来て車座くめば秋の山 橘川まもる
一昔そのまた昔秋の山 深見けん二
一片づゝ雲をかぶれり秋の山 長谷川かな女 雨 月
下るにはまだ早ければ秋の山 波多野爽波 鋪道の花
中年の影伸びゆけり秋の山 仁平勝 東京物語
二階を借りてたつた一つある窓の秋の山かな 三好草一
人にあひて恐しくなりぬ秋の山 正岡子規
人の呼ぶをうしろに秋の山に入る 四明句集 中川四明
仮小屋に秋山欠けて峙ちぬ 高濱年尾 年尾句集
仮死のことまことか秋の山に向く 阿部みどり女
信濃路やどこ迄つゞく秋の山 正岡子規
入相のあとや明けにき秋の山 支考
冷々と袖に入る日や秋の山 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
声あげて父母を呼びたし秋の山 阿部みどり女 『微風』
壺にして葉がちに秋の山あざみ 飯田蛇笏 春蘭
夕日差空に離れし秋の山 茨木和生 往馬
夕空に足の音する秋の山 桑原三郎 春亂
大勢のひとの集る秋の山 今井杏太郎
大巖にまどろみさめぬ秋の山 飯田蛇笏 霊芝
大滝を北へ落すや秋の山 夏目漱石
大鯉の動きに秋の山のいろ 森澄雄
女教師ひとり秋山深き分校に 中島斌雄
好きで来し道深まりて秋の山 稲畑汀子
子を抱いて猿が見てゐる秋の山 吉田汀史
安来ぶしの唄の文句の秋の山 高木晴子 晴居
家ふたつ戸の口見えて秋の山 鈴木道彦 (1757-1819)
山彦とゐるわらんべや秋の山 百合山羽公
山門を出て下りけり秋の山 正岡子規
帰る雲秋山谿を行衛かな 松根東洋城
故人多き思ひに仰ぐ秋の山 安斎桜[カイ]子
故郷去る 秋山に墓一つ増やし 伊丹三樹彦 樹冠
方丈の庇の上の秋の山 白井冬青
方丈の間を見下ろすや秋の山 比叡 野村泊月
日当れば秋山の塔よく見ゆる 上村占魚 球磨
日永さをふと思い立ち秋山へ 高澤良一 燕音 五月
旧知僧になれるに逢へり秋の山 比叡 野村泊月
明るくてさびしくて秋の山の駅 柴田白葉女 『朝の木』
暮れてなほ秋山めざすダム資材 大島民郎
木食の人に逢ふ秋の山深み 直野碧玲瓏
東西に別れて下る秋の山 比叡 野村泊月
枯わらびつかんで登る秋の山 前田普羅 新訂普羅句集
機関車に雲や鴉や秋の山 飯田蛇笏 霊芝
欠伸せる口中に入る秋の山 高浜虚子
段丘の道弥高し秋の山 瀧井孝作
毬栗の笑ふも淋し秋の山 李由 九 月 月別句集「韻塞」
湯の縁につかまり秋の山を見る 清崎敏郎
火を焚けばのろしの如し秋の山 椎橋清翠
火産霊の神とこしへや秋の山 赤星水竹居
父のあと追ふ子を負ひて秋の山 高浜虚子
牧こゝを広げんと思ふ秋の山 乙字俳句集 大須賀乙字
犬が臥て横向きの顔秋の山 波多野爽波 『骰子』
生きて修業をす秋の山彼方にあり 中塚一碧樓
町の子の山彦遊び秋の山 安藤登美子
登り見ても一つの峯や秋の山 正木不如丘 句歴不如丘
登るべき秋山晴れぬ絵の如く 尾崎迷堂 孤輪
石切りてたてかけにけり秋の山 渡辺白泉
秋の山ところどころに煙立つ 暁台
秋の山人顕れて寒げ也 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
秋の山北を固めの砦かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
秋の山南を向いて寺二つ 夏目漱石 明治二十八年
秋の山四明岳の猿沸くごとし 斉藤夏風
秋の山妹背のさまに肩組めり(会津湯野上温泉行) 上村占魚 『方眼』
秋の山所々に烟りたつ 暁台
秋の山新雪の富士なかぞらに 佐野青陽人 天の川
秋の山暮るゝに近く晴るゝなり 長谷川かな女 雨 月
秋の山活て居迚うつ鉦か 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
秋の山滝を残して紅葉哉 正岡子規
秋の山灯れるそこも湯を噴けり 長谷川かな女 雨 月
秋の山膝を揃へて見てをりぬ 鈴木しげを
秋の山遠祖ほどの星の数 野澤節子 花 季
秋の山関所の跡を通りけり 赤木格堂
秋の山静かに雲の通りけり 夏目漱石 明治二十八年
秋の山麹埃を眉にして 中村ヨシオ
秋の海秋の山恋ふひたぶるに 阿部みどり女 月下美人
秋山と一つ寝息に睡りたる 森澄雄 四遠
秋山に僧と携ふ詩盟かな 村上鬼城
秋山に岐れ道あり岐れゆく 塩川雄三
秋山に得し滝一つ珠のごと 川畑火川
秋山に放牧の柵高く高く 鈴鹿野風呂 浜木綿
秋山に昏れてゐる子の父がわれ 石橋辰之助 山暦
秋山に眼力不動古りにけり 山田弘子 螢川
秋山に秋山の影倒れ凭る 山口誓子
秋山に遊ぶや宙を運ばれて 山口波津女
秋山に騒ぐ生徒や力餅 前田普羅 新訂普羅句集
秋山のあさくわが村木がくれに 石橋辰之助 山暦
秋山の上に二の丸三の丸 手塚金魚
秋山の上の遠山移るなり 中村草田男
秋山の人に堕ち来る蝶々かな 前田普羅 春寒浅間山
秋山の午天をのぼる蝶双つ 飯田蛇笏 椿花集
秋山の奥も奥なる弥陀如来 大峯あきら 宇宙塵
秋山の橋小ささよ湖舟より 飯田蛇笏 山廬集
秋山の穂高の岳を母と思ふ 松村巨湫
秋山の襞を見てゐる別れかな 沢木欣一 塩田
秋山の退りつづけてゐたりけり 平井照敏
秋山の道よく見えて人家あり 皿井旭川
秋山の遠き墓地見ゆ花圃のごと 相生垣瓜人 微茫集
秋山の驟雨は音を先立てり 百瀬美津
秋山も大河も己が名を知らず 宮武寒々
秋山やいくつか滝に沿ひ別れ 岡本松浜 白菊
秋山やいづれは峯の坊泊り 尾崎迷堂 孤輪
秋山やこの道遠き雲と我 飯田蛇笏 山廬集
秋山やヒカゲノカヅラ露しとゞ 前田普羅 新訂普羅句集
秋山や人が放てる笑ひ声 前田普羅 春寒浅間山
秋山や影むらさきに瘤二つ 水原秋桜子
秋山や椢をはじき笹を分け 高浜虚子
秋山や石楠花咲くは春の暮 尾崎迷堂 孤輪
秋山や神楽寄進す二三人 中島月笠 月笠句集
秋山や草むら浅き焚火屑 飯田蛇笏 山廬集
秋山や谷川落し居るを見て 尾崎迷堂 孤輪
秋山や雲間にあふぐ師の庵 西島麥南 金剛纂
秋山や駒もゆるがぬ鞍の上 其 角
秋山をどかと下り立つ墓地かな 島村元句集
秋山を妻と下りくる刻ちがふ 石橋辰之助 山暦
秋山を来て教會の水むさぼる 相馬遷子 雪嶺
秋山を越きて寝るや水のごとく 高橋馬相
秋山を踏みかへり来し幸は云はず 石橋辰之助 山暦
秋山広い道に出る 尾崎放哉
秋山浅し芒の中の柿二本 島村元句集
秋山真之将軍もまつり子規忌かな 尾崎迷堂 孤輪
秋山聳ゆ愁を消して川手水 清原枴童 枴童句集
秋山葵味に速さのあるごとし 鳥居おさむ
秋山郷赤湯に春を惜しみけり 高澤良一 燕音 五月
立ち止り秋山眉にのりにけり 上野泰 春潮
竪に見て事珍らしや秋の山 夏目漱石 明治四十三年
縄跳びの円にすっぽり秋の山 甘田正翠
聞え来る人語も音や秋の山 嶋田一歩
聲あげて父母を呼びたし秋の山 阿部みどり女
肉を焼く煙あがりぬ秋の山 長谷川櫂 天球
背戸を出入る妻見下ろすや秋の山 比叡 野村泊月
花山車や動き出たる秋の山 成美
草鞋巡査とつれだち越えぬ秋の山 冬葉第一句集 吉田冬葉
葛城に重ねてうすし秋の山 山本梅史
蓼科は秋の山なり木賊刈る 正木不如丘
虚子行きし径慕ひゆく秋の山 橋爪 巨籟
谷に仏峰に神ます秋の山 福田蓼汀 秋風挽歌
錦秋の山に琥珀を掘りし坑 坊城としあつ
雨雲の晴れて残りぬ秋の山 我堂
雪隠の窓から見るや秋の山 夏目漱石 明治三十二年
雲一つはなれて晴るゝ秋の山 苅谷 千代
頂上に来てその先に秋の山 桂信子 遠い橋
首出して秋の山見ていたりけり 永末恵子 留守
馬が虻に乗つて出かける秋の山 室生犀星 犀星發句集
馬放つ牧の中にも秋の山 左右木韋城
魚屋が行ってしまひぬ秋の山 斎藤夏風
鳥かげにむれたつ鳥や秋の山 飯田蛇笏 霊芝
鳥獣のごとくたのしや秋の山 山口青邨
鳥獣見よと野糞す秋の山(高尾山にて) 原石鼎
鳥葬の人肉きざむ秋の山 角川春樹(1942-)
●石山
そそる石山水仙ひとむら海を聴き 友岡子郷 遠方
むき蜆石山の桜ちりにけり 蕪村
冬日義理ほど石山の石切るに 津田清子 二人称
初もみぢ石山肌を見せをれば 木津柳芽 白鷺抄
初紅葉石山の石ぬれそぼち 奈良鹿郎
有耶無耶の関は石山霰哉 寺田寅彦
湖荒れて石山寺の落葉かな 柑子句集 籾山柑子
石に鳴く石山寺の昼の虫 清水嘯風子
石山そぎ立ち真冬の鴉鳴きかかる 人間を彫る 大橋裸木
石山にとりし舟路や月今宵 山田弘子 こぶし坂
石山に今はの雁や夕泊り 妻木 松瀬青々
石山に夏了へて鳴く油蝉 川崎展宏
石山に夜の水くむ新茶哉 妻木 松瀬青々
石山に時雨るゝ虹の短けれ 松藤夏山 夏山句集
石山に雲重き日ぞ蝉さわぐ(琵琶湖畔) 河野南畦 『風の岬』
石山のいしの形もや秋の月 上島鬼貫
石山のじりりと這ひし唖の蝉 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
石山の大磐石に寒の雨 相良哀楽
石山の法のともしにうんかかな 籾山梓月
石山の石が船の荷雁渡し 松本ヤチヨ
石山の石にたばしる霰哉 松尾芭蕉
石山の石にも蔦の裏表 乙州
石山の石に躓く裘 高澤良一 燕音 一月
石山の石の上飛ぶ螢かな 石井露月
石山の石も騒がぬ二月かな 田丸三樽
石山の石より白し秋の風 芭蕉
石山の石をいのちの蔦紅葉 野澤節子
石山の石をたたいて月見かな 太祇
石山の石洗ひけり秋の雨 古白遺稿 藤野古白
石山の石皚々と冬紅葉 高澤良一 燕音 一月
石山の驟雨にあへる九月かな 飯田蛇笏 雪峡
石山や石にさしたる花樒 松瀬青々
石山や石取りし跡の秋の水 歌原蒼苔
石山や行かで果たせし秋の風 野澤羽紅女
石山切り取られた秋がもうすぐ 住宅顕信 未完成
石山寺詣ちんちん初電車 高澤良一 燕音 一月
石山寺郵便局の大根注連 高澤良一 燕音 一月
福引や石山の月膳所の城 小澤碧童
秋の暮石山寺の鐘のそば 服部嵐雪
蜆舟石山の鐘鳴りわたる 川端茅舎
蜩や石山茶屋の掛すだれ 癖三酔句集 岡本癖三酔
行く秋の石山寺の石に座す 川上季石
●一山
あきつ飛ぶ島一山の峰澄める 石井保
かつこうや一山翳をふかくせる 小島花枝
ひぐらしの一山しんと暮れゆけり 伊藤 翠
まくは瓜寄せし一山黄色かな 加来 都
一山いま花の吹雪裡山に住む 関口ふさの
一山にまぎれず朴の走り花 藤原かつ代
一山に一千の比丘はつざくら 下田稔
一山に一寺浮き出づお水取 小島千架子
一山に一樹のみある夕辛夷 能村登四郎 幻山水
一山に法螺の響かひ竹伐会 青垣和子
一山に滝の音声冬こだま 野澤節子 遠い橋
一山に秘めたる祭り五月来る 石原林々
一山に草刈り作務の散らばりし 八木林之介 青霞集
一山に薬師三尊初詣 吉原朱雀
一山に譚まつはる木の実かな 古舘曹人 砂の音
一山のことに明るき椎の山 帖地 津木
一山のこらへきれざる花ふぶき 野澤節子 『八朶集』
一山のこゝに息づき滴れる 高島松陰(ホトトギス)
一山のすすき陽に泛く疲れかな 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
一山のふもとの坊の菊真白 久野幸子
一山の僧が出座す十夜の燭 加藤芳雪
一山の僧に覗かる穴惑ひ 川澄祐勝
一山の僧の並びし御松明 山内年日子
一山の僧定に入る竹の秋 中川宋淵
一山の僧集まりて御開帳 都築 道子
一山の光の渦となる落花 水田むつみ
一山の凍死の記録棚にあり 奧坂まや(1950-)
一山の力を滝の姿とし 蔦三郎
一山の圧のかかりし巌清水 小原禎子(銀化)
一山の夕闇支へ桜満つ 清水節子
一山の大荒れの滝蝉鳴かず 渡邊水巴 富士
一山の威のおのづから初日滝 つじ加代子
一山の寝落ちてしだれ桜かな 蘭草 慶子
一山の崩れんばかり花の散る 藤崎久を
一山の春蝉に身を浮かせゆく 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
一山の晴れては曇る桜かな 青峰集 島田青峰
一山の杉の若木や風かほる 会津八一
一山の杉揺り上げて冬の風 茨木和生 遠つ川
一山の枯れに加はる父の声 朝広純子
一山の枯れ清水の舞台圧(お)す 高澤良一 燕音 一月
一山の桜にひしと鎧ひけり 尾崎紅葉
一山の椋鳥集め椋大樹 力丸青花
一山の構へを解きて早苗束 鎌倉佐弓 潤
一山の涼を呼び寄せ万灯会 佐野すすむ
一山の湯けむり凍てし日に向ふ 爽雨
一山の田打櫻のけさひらく 黒田杏子 花下草上
一山の石蕗が忌日を濃きものに 今村青魚
一山の秋風を聴く窓に倚る 大橋越央子
一山の笑ひはじめの水の音 兒玉南草
一山の篠枯れつづき伊豆の春 青木重行
一山の紅葉に染まり死ぬもよし 佐藤鬼房
一山の紅葉風を楽しめり 新谷ひろし
一山の緑の暗き茅の輪かな 石田勝彦 秋興
一山の胡瓜買ふ腰子につかまれ 千代田葛彦 旅人木
一山の芒残照ゆらしけり 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
一山の花の天蓋御忌の鐘 仁科翁童
一山の花の散り込む谷と聞く 稲畑汀子 汀子第三句集
一山の花を法衣の観世音 梅澤朴秀
一山の落葉松やほととぎす 会津八一
一山の薬掘り得で書半巻 尾崎紅葉
一山の蜩壺中にあるごとし 佐野美智
一山の蜩負へり朝の打坐 手島靖一
一山の蝉の木末枯れ立つ シヤツと雑草 栗林一石路
一山の裾の裾まで霧氷して 山田弘子 螢川
一山の要に露の千光寺 長田等
一山の鐘遠近し櫻散る 旅一筋 安藤和風
一山の闇松虫の寄せて来る 竹下陶子
一山の隠す一村鵺啼けり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
一山の雑魚の中なる夏の河豚 遠藤梧逸
一山の雪の深さや初薬師 野津無字
一山の雪へ鐘撞く善光寺 南沢つぎほ
一山の雪解の音はわが鼓動 早乙女翠
一山の露授かりし西虚子忌 三宅黄沙
一山の青竹藪に男棲む 平井照敏 天上大風
一山の静謐を解く落花かな 水田むつみ
一山の風動き出す大根焚 加藤石雲
一山は皆畑なり秋の風 高木晴子 晴居
一山は石楠花彩に室生道 福原実砂「新山暦俳句歳時記」
一山や乳を出す木の春の暮れ 折笠美秋 虎嘯記
一山や秋色々の竹の色 夏目漱石 明治四十三年
一山をつつむ淡雪聖高野 前山松花
一山をふくよかにして椎の花 朝倉春子(椎の実)
一山を下闇として立石寺 岡安仁義
一山を仕切る高声あれは鵙 高澤良一 燕音 十月
一山を住宅にして風光る 柳沢たみ子
一山を吹き抜けてゆく青嵐 今泉貞鳳
一山を庭とし馬貞の忌を修す 佐藤 峻峰
一山を揺るがし解夏の法鼓鳴る 吉富無韻
一山を洗ひし雨やお開帳 木内彰志
一山を蝉に占められ瑞巌寺 廣瀬壽子
一山を賄ふだけの大根蒔く 加藤窟外
一山を越え来し思ひ彼岸来る 稲畑汀子
一木の一山の雪しづりかな 行方克己 昆虫記
万灯会果て一山の虫の闇 佐藤藍
万緑の中の一山杉の鉾 野澤節子 黄 炎
三山の一山の上鳥渡る 角光雄
三山の一山霧に没しゐて 塩川雄三
三山をかくす一山高稲架に 古舘曹人 砂の音
上々のみかん一山五文かな 一茶
中尊寺一山くらき星月夜 佐藤棘夫
仏法僧一山の月に鳴きはづむ 瀧春一 菜園
傘あげて見よ一山の雨の葛 細川加賀
僧千人かくし一山朝曇り 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
冬滝のこゑ一山の遺蹟群 山崎千枝子
分たれて鱈も一山できにけり 大橋櫻坡子 雨月
切子貪欲一山蛾族翔け参じ 橋本多佳子
初烏一山雪に明くるかな 忍月
初護摩の法螺一山を貫けり 中島ふゆみ
初鴉一山雪に明くるかな 石橋忍月
口笛や一山のへび棒立ちに 豊口陽子「花象」
句碑開眼成りし一山菊の秋 伊東宏晃
夕影は一山売りの胡瓜にも 福神規子「雛の箱」
打つ鐘の一山制す初不動 小川てる子
採石の一山白し夏燕 下村ひろし 西陲集
日盛や一山の僧のありどころ 河野静雲 閻魔
春蝉の声一山をはみ出せる 深見けん二 日月
朴若葉して一山を隠し余る 幡谷東吾
杖振れば一山の花咲きさうな 長山あや
松花季一山くもり総てくもる 村越化石 山國抄
樹氷いま鳴れば一山鈴の音に 長沼三津夫
水垢離場より一山の凍りたる 藤崎久を
永平寺一山あげて障子貼る 佐々木和子
泣き涸れて聴く一山の蝉しぐれ 赤城さかえ
滝の上に一山があり空があり 山口みちこ
熊野詣や一山の椎花粉噴く 辻桃子 ねむ 以後
白菜の一山値札つきさして 深見けん二
真言密教一山の滴れる 二神利恵
磐打つて響く一山落し文 野見山ひふみ
磨崖仏統る一山ほととぎす 林昌華
神迎ふ一山六社みな灯り 木田素子
竹秋の一山一寺雨けぶる 下村ひろし
芒穂を解きて一山揺れ易く 稲畑汀子
花に声あらば一山華巌経 栗栖恵通子
菜殻火の匂ひ一山越えて来し 山川刀花
葛枯れて一山の風落ちつかず 鷲谷七菜子 花寂び 以後
蔓踏んで一山の露動きけり 石鼎
蟇出でて一山昏き接心会 中川宋淵 命篇
蟇容れて一山の雨気ととのひぬ 鳥居美智子
行僧の去りて一山寒ゆるむ 毛塚静枝
裾に人一山葡萄棚覆ふ 石川桂郎 四温
鐘撞けば一山ふるふ露しぐれ 牧野紀代子
鐘楼より一山の雪囲解く 皆吉爽雨
鑑真の壷眼一山しぐれけり 熊谷愛子
除夜の鐘一山の闇揺らしけり 田守としを
隠国の長谷一山の蝉時雨 亀井新一
雨吸つて一山深し九輪草 堀田澄子(夏爐)
雪ながら一山沈むダムの底 西本一都 景色
雪囲ひ解きて一山一寺かな 庄司圭吾
青ざめるまで一山の竹を伐る 小内春邑子
食器清水に浸し一山の昼寝僧 楠目橙黄子 橙圃
髪剃つて一山の僧御忌支度 野島ひさし
鳴神の一山征す小半時 矢ヶ崎昭子
鶯の声に一山失せにけり 上田操
●岩山
やまなみの一つ岩山歳の市 子郷
ギリシャ岩山女身みどりに疾風の尾 八木三日女 石柱の賦
一本のこの岩山の撫子よ 鈴鹿野風呂 浜木綿
仏法僧岩山更けて月のぞく 岡田日郎
初富士の鳥居ともなる夫婦岩 山口誓子
子とかじる青はしばみよ岩山に 佐藤鬼房
岩山に冬日的*れき友の婚 木村蕪城 寒泉
岩山に張りつく農家繭白し 相馬遷子 山国
岩山に恋愛の胸夏の終り 鈴木六林男 後座
岩山に生れて岩の蝶黒し 西東三鬼
岩山に裸の櫟光りあふ 佐藤鬼房
岩山のいのちかそけく滴れる 有泉七種「季」
岩山のぎらぎらしたる極暑かな 瀧澤伊代次
岩山の何に鳴り居る朝月夜 内田百間
岩山の岩あたたかく子守居る 木村蕪城 寒泉
岩山の岩より咲きぬ筆竜胆 中島いはほ
岩山の岩を無念の日が過ぎる 津沢マサ子
岩山の岩押しあへる朧かな 小川軽舟
岩山の崩れし跡や枯尾花 寺田寅彦
岩山の捧ぐる土の冬紅葉 中島斌男
岩山の石にたばしるあられかな 芭 蕉
岩山の裾なす汀蝶鮮らし 成田千空 地霊
岩山は冬かげろふに加はりて 柿本多映
岩山や切れとを過ぐる鷹の声 梅室
岩山や水仙かをる風の間 幸田露伴 竹芝集
岩山を蝶越ゆ吾も幸福追ふ 橋本多佳子
巌山の霜枯すすき空およぎ 太田鴻村 穂国
巌山を胸ほそり越ゆ雁の数 山口草堂
搦手の岩山つゝじ盛りなり 寺田寅彦
日の巌山蜻蛉の翅もひびくべし 山口草堂
春山やわが手ぢからにゆるぎ岩 山口誓子
椙炎える戦傷の足岩山に 徳弘純 非望
油照巖山は巖しぼり出す 金子青銅
渓は鳴り岩山夜風梨花散らす 岡田日郎
真白な寒月岩山の横へ出づ 岡田日郎
結願の経のたかぶり岩山萌え 堀葦男
藻の暗層岩山海へ逆落し 成田千空 地霊
遅い月が出ると巌山のかげにある甕 中原礼二
風雨凪ぐ大巌山のなごり花 飯田蛇笏 春蘭
鷹の子や岩山裾に白砂の帯 成田千空 地霊
●裏山
あけび熟れ裏山寂と日の移る 井戸川萋女
うねりをかくしわが裏山は東に一つ 竹本健司
うら山に竹伐りに来て胃が痛し 萩原麦草 麦嵐
うら山に雉子啼いてゐる金閣寺 萩原麦草 麦嵐
うら山のひたと動かず秋暑し 並松 玉哉
うら山の子狐鳴ける干菜風呂 内田 雅子
うら山の影絵のきつね雪降らす 穴井太 天籟雑唱
うら山を石ころげおつ二日の夜 萩原麦草 麦嵐
つつ鳥や木曽の裏山木曽に似て 白雄
とぎ澄ます耳に雪ふり裏山をわたれる雉子の天斬るこゑも 大滝貞一
わがものとして裏山の青嶺聳つ 斎藤玄 雁道
一人静二人静も裏山に 長谷川かな女
伊勢からも裏山からもかえりくる 阿部完市 純白諸事
僻地校すぐ裏山に湿地採り 都甲 憲生
兄弟裏山のきのこ取り朝雨に濡れ来る 人間を彫る 大橋裸木
冬晴の裏山へゆく魔法瓶 山口いさを
前山の闇裏山の十三夜 福田蓼汀 山火
四五人ははや裏山に鵙の晴 高濱年尾 年尾句集
奥へ奥へ誘ふ裏山午まつり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
子守半纏裏山の影足もとに 鍵和田釉子
学園に裏山のある良夜かな 上野 燎
客来ればすぐ裏山へ菌狩 斎藤句城
寒禽の裏山越えてくる長男 坂井三輪
市振の雨の裏山花常山木 森野稔
年の瀬の裏山とほる松を手に 宇佐美魚目 秋収冬蔵
庭松に裏山霞下りてあり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
廃村次ぐ裏山馬場に桜散り 鍵和田[ゆう]子 未来図
数珠玉の裏山道を塞ぎけり 岡本 求仁丸
文庫(ふみくら)の裏山菊芋咲き出して 高澤良一 素抱 七月-九月
早や梅雨の気配裏山かけてあり 高木晴子 花 季
明け動く宮裏山や初烏 三幹竹
春暁や裏山畑の百姓家 比叡 野村泊月
柊挿す裏山に雲あそばせて 桑原白帆
柿ことごとく落ち裏山の青天井 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和五十六年
柿の裏山帽子のかるさ空に出る 桜井博道 海上
梅林へ梅林へ私は裏山ヘ 阿部みどり女
歯朶刈の音裏山へ廻りたる 児玉輝代
海鳴れば裏山鳴れり虎が雨 鈴木康久「四孟閑雲」
渡り漁夫宿裏山の夏落葉かな 今井杏太郎
港の灯華麗に裏山十三夜 福田蓼汀 秋風挽歌
湯の町の裏山に会ふ年木樵 茂里正治
火事消えて裏山は夏闌けにけり 徳弘純 非望
父の忌の裏山歩く白地来て 冨田みのる
片栗の花裏山を淋しくす 村上しゆら
狩猟期に入りたり寺の裏山も 茨木和生 遠つ川
猟銃音父母の墓山その裏山 杉本寛
登り窯裏山伝ひ歯朶を刈る 松本正一
百合白く雨の裏山暮れにけり 泉鏡花
破れ傘生ふ裏山の道愛す 高澤良一 随笑 一月-三月
祭ある裏山里や合歓の花 菅原師竹句集
禅林やその裏山の鵯谺 石塚友二
窯火燃え裏山若葉ゆれどほし 坂巻純子
竹白く光る裏山日の盛り 中村祐子
筑波よく見ゆる裏山草萌ゆる 及川貞 榧の實
籾摺やわが裏山の薄紅葉 柏崎夢香
紅芙蓉暮色裏山より落ち来 石原八束
紙干して裏山に猿鎮まらず 黒田杏子 花下草上
花柘榴裏山の空残りたり 森田緑郎
茂吉忌の雲裏山の冷えを呼ぶ 田中光枝
薪割るや裏山に立つ冬の虹 秋元不死男
藪巻やこどものこゑの裏山に 星野麥丘人
蜩といふ名の裏山をいつも持つ 安東次男(1919-)
蝶の来て裏山に父消ゆるまで 新谷ひろし
裏山がすぐそばに来る盆休み 坪内稔典
裏山といふ名の山も笑ひけり 伊藤政美
裏山に*ぎすが鳴き継ぐ生徒の死 宮坂静生
裏山にいつも兄ゐて冬ぬくし 向山隆峰
裏山にけものの殖ゆる良寛忌 石川桂郎 高蘆
裏山にのどかと日の射す安居かな 伊藤淳子
裏山にひかる雲積み蛇笏の忌 廣瀬直人
裏山にまずものを言う大旦 杉本雷造
裏山にゑくぼの日ざし福寿草 成田千空
裏山に一つの道や葛の花 野村喜舟 小石川
裏山に人の声ある竹の秋 森田 玉水
裏山に人語きこゆる小春かな 日野草城
裏山に出て雪ありぬ兎罠 鈴鹿野風呂
裏山に初東雲の蒼からむ 松田ひろむ
裏山に声なき鷺や大夕焼 岡本まち子
裏山に少し雪ある雛納め 野崎ゆり香
裏山に山吹咲かせ人住まず 和田ゑい子
裏山に巣箱を掛けて卒業す 原口洋子
裏山に手づから剪りて歯朶長し 風生
裏山に投げ捨てられたる歯が繁る 夏石番矢
裏山に日がさすときの麦埃 桂信子 遠い橋
裏山に日が落ち残雪あらあらし 桜井博道 海上
裏山に日が赤々と秋蚕かな 小笠原和男
裏山に日のたつぷりと畳替 太田寛郎
裏山に月を置きざり風の盆 岸田稚魚
裏山に来て父の息凧の息 石寒太 翔
裏山に椎拾ふにも病女飾る 大野林火
裏山に滝下りをり冬の寺 石原舟月
裏山に登れば遅日尚在りぬ 松本たかし
裏山に笹鳴殖やし醤油蔵 冨田みのる
裏山に藤波かかるお寺かな 高浜虚子
裏山に蛇帰る振袖に手を通す 鳴戸奈菜
裏山に裏山かさねゆくひぐらし 平井照敏 天上大風
裏山に返す谺や山始 堤俳一佳
裏山に金粉散らし春の月 原和子
裏山に雪の来てゐる神楽かな 橋本榮治 逆旅
裏山に音先立てて盆の雨 橋本榮治 麦生
裏山に音立ちのぼる晩夏かな 原裕
裏山に風の荒れゐる霜囲 ほんだゆき
裏山に風募りくる冬至粥 栗原政子
裏山に風鳴る夜の根深汁 佐藤伊久雄
裏山に鴉収めて会陽寺 宮津昭彦
裏山に鶯鳴かせ老知らず 小川原嘘帥
裏山に鷹の落ちたる遅日かな 根岸善雄
裏山に鷺啼く夜の暑さかな 大峯あきら 宇宙塵
裏山に黄泉の使者立つ雪煙り 中村苑子
裏山のうぐひす老いぬ妻を賜へ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
裏山のつづきの異界花すすき 糸山由紀子
裏山のにはかに暮るる掃納 中村智恵子
裏山のほうと椿の口あける 穴井太 原郷樹林
裏山のわらびぜんまい枯れはげし 細見綾子
裏山の光る雉とぞ契らん 夏石番矢
裏山の十歩の松を迎へけり 綾部仁喜 寒木
裏山の土をこぼしぬ藪柑子 誠
裏山の奥に裏山夏休み 齋藤愼爾
裏山の女つららを食つてゐる 中鳥健二
裏山の峯に灯のある夜の長き 内田百間
裏山の幼い星よ*えい泳ぐ 坪内稔典
裏山の日ざしが縮む吊し柿 藤井寿江子
裏山の日暮が見えて雛祭 齋藤愼爾
裏山の日暮れのいろの風邪心地 白岩三郎
裏山の昏らさは桃の花ざかり 長谷川双魚 風形
裏山の春風さむしすぐ下る 上村占魚 球磨
裏山の暗い青空紅葉散る 原子公平
裏山の木の芽かたきにとぢて窓 太田鴻村 穂国
裏山の杉の香つよき雪催 落合伊津夫
裏山の東風澄みまさり来りけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
裏山の栗鼠が来てをり避寒宿 堤 京子
裏山の梅ちらほらやお万歳 雑草 長谷川零餘子
裏山の植樹千本西行忌 岩崎照子
裏山の残雪になほ兎罠 高濱年尾 年尾句集
裏山の秋の七草今朝きりて 細見綾子
裏山の竹炭を継ぐ大夏炉 黒田杏子 花下草上
裏山の笑ひころげてゐたりけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
裏山の遍路径てふ木の実降る 馬場志づ代
裏山の闇より去年に入りにけり 藤崎久を
裏山の雨雲深し鳴く蚯蚓 会津八一
裏山の風に応へて貝割菜 相馬沙緻
裏山の風まろび来る達磨市 水上多美子
裏山の骨の一樹は鷹の座ぞ 角川春樹(1942-)
裏山はじつとまるくて鯉料理 阿部完市 軽のやまめ
裏山はせかせかと暮る餅配 茨木和生 遠つ川
裏山は下闇深し土着漁夫 成田千空 地霊
裏山は松が枝ばかり初詣 桂信子
裏山は真昼の日ざし草蘇鉄 櫛原希伊子
裏山は籬に囲ふ春の雪 長谷川櫂 古志
裏山は芽吹きはげしや達磨市 石田あき子 見舞籠
裏山は風のひびきの酢の澄む昼 林田紀音夫
裏山へ垣せぬぞよし濃山吹 下村ひろし 西陲集
裏山へ帰る子のあり花祭 小川鴻翔
裏山へ干場の伸びて海苔日和 上杉緑鋒
裏山へ通ふ木戸あり冬構 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
裏山へ鎌光りゆく盆支度 神野久枝
裏山やついりの鳥は黙り鳥 林原耒井 蜩
裏山や枝おろし行く秋の風 室生犀星 魚眠洞發句集
裏山や緑くはしきほとゝぎす 相馬遷子 山国
裏山や雪頬白に枯れ盡くし 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
裏山より年を届けにみそさざい 高澤良一 ねずみのこまくら 昭和六十一年
裏山をこどもの通る雪解かな 水野紀子
裏山を僧急ぎつつ桃の種 西川徹郎 町は白緑
裏山を夕日洩れくる春炬燵 宮津昭彦
裏山を百舌鳥宰領す菊日和 大峯あきら 宇宙塵
裏山を紋白蝶のこぼれ来し 深見けん二 日月
誰れをくしけづるその裏山の屈葬 加藤郁乎
迷ひしを裏山と知る芒かな 乙字俳句集 大須賀乙字
雨あびて鵯は裏山へとぶ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
雪暗の裏山に雷鳴りこもる 佐藤鬼房 潮海
雲衲に裏山の百合咲けば江湖 河野静雲 閻魔
霙ふる裏山かけて竹ばやし 上村占魚 鮎
霙降る幾裏山や昭和終ふ 金箱戈止夫
●大山
*えびづるや大山寺道石を敷き 梶井枯骨
うすぐもり大山淡き田植かな 滝井孝作 浮寝鳥
どむみりと大山入れて植田水 高澤良一 鳩信 東帝
はたはた神夜半の大山現れたまふ 阿波野青畝(1899-1992)
人参を抜き大山を仰ぎけり 庄司圭吾
伯耆大山椀の蜆の小さかり 櫻庭敏子
伽羅蕗が好きで大山詣かな 轡田 進
刃の如く輝き始む大山の襞に残れる雪の幾条 川辺古市
初旅の大山を負ふ駅つづく 皆吉爽雨
大山に日のあるうちは畑打て 大峯あきら 宇宙塵
大山に脚をかけたる竈馬かな 大屋達治 龍宮
大山に釣瓶落としの雲ふたすぢ 米谷静二
大山に雲集へるは神集ふ 宮下翠舟
大山のその天上へ半夏生 黒田杏子 花下草上
大山の伏流といふ種井かな 波出石品女
大山の全き日なり雁帰る 田村木国
大山の全容近し初御空 阿波野青畝
大山の北壁けづれ巌冷ゆる 高木晴子 花 季
大山の南に不二や渡り鳥 滝井孝作 浮寝鳥
大山の各坊味噌を搗きにけり 山本青蔭
大山の吹き飛ばし居る冬の雲 引田逸牛
大山の夏山として今日よりは 原三猿子
大山の天狗が撒きし花粉症 野上貞勝
大山の山毛欅の雪間の大いなる 吉岡新風
大山の暁月夜ほととぎす 鈴鹿野風呂 浜木綿
大山の月さしてきし梨番屋 由木みのる
大山の根雪もとれぬ羽子日和 皆吉爽雨
大山の水が命の冷奴 高澤良一 素抱 七月-九月
大山の水をあまねく早苗月 飴山實 『次の花』
大山の沢の奈落の山葵かな 吉次みつを
大山の浮びし梨の花月夜 山本杜城
大山の火燵をぬけて下りけり 阿波野青畝
大山の男坂なる尉鶲 松尾隆信
大山の竿雪細る花こぶし 美柑みつはる
大山の裾寒林となるはいつ 高木晴子 花 季
大山の闇より音となる時雨 山田弘子 懐
大山の雪も間なけむ晩稲刈 石塚友二 光塵
大山の雲を下りて鮎を見る 野田別天楼
大山の青を巻きたる落し文 百瀬美津
大山はナポレオン帽春の雲 川端茅舎
大山は霧の中なり能舞台 芳賀かをる
大山へ一拍二拍鍬始 金川晁山
大山や枯は怠惰の色ならず 藤田湘子 てんてん
大山を知りつくす夫茸狩りに 米川みどり
大山女背の斑光らす雪解水 火村卓造
大山山麓すかんぽ噛めば谺 金子兜太
大山独楽いそいそと夫購ひぬ 渡辺恭子
大山能狂ひしおもて月仰ぐ 鍵和田釉子
大山詣水に研がれし冷奴 田中俊尾
対州は大山国やほとゝぎす 河野静雲
急ぎ来る大山蟻や昼餉の座 安部ひろし
新涼や子とつれあそぶ大山蟻 原石鼎
昔麻布大山道の桔梗かな 野村喜舟 小石川
春の野を持上(もた)げて伯耆大山を 森澄雄(1919-)
水神に大山百合の白さかな 前田正治
猪鍋の大山詣くづれかな 石田勝彦
猪鍋や大山の闇待つたなし 大木あまり 火のいろに
田を植うるみな大山の裾に乗り 皆吉爽雨
竹箒大山麓をはくわれら 阿部完市 純白諸事
笹叢を大山百合のぬきんずる 鈴鹿野風呂 浜木綿
節分の微も茫もなき大山塊 猿田咲子
結界の轟然と鳴りて大山崩 横山白虹
翳す手が霧を誘ふ大山能 雨宮きぬよ
芯太き大山独楽を買初に 北澤瑞史
送行の大山門を返り見ず 小中優実代
雨雲の大山道の葵かな 綾部仁喜 樸簡
雪を着て伯耆大山頑張りぬ 藤後左右
雪晴の大山そそり三瓶坐す 竹下陶子
露乾く草に晴れ見ゆ大山かな 尾崎迷堂 孤輪
●奥山
七月やひづめの音を奥山に 原裕 『出雲』
冬景色奥山大臼歯の如く 川崎展宏
夫につく有為の奥山あをあらし 山口みちこ「懐郷」
奥山にむささびの声山開き 皆川盤水
奥山にもみぢ踏み分け偽書に入る 高橋龍
奥山に売られて古りし蚊帳かな 原石鼎
奥山に夏霧のぼり杉濡らす 原裕 青垣
奥山に大雪やある余寒かな 原石鼎 花影以後
奥山に旅寝かさねて合歓の花 田中裕明 櫻姫譚
奥山に来て逢ふ春の障子かな 鷲谷七菜子
奥山に滝かくしたる平家村 御子柴弘子
奥山に雪積るらし白湯うまし 村越化石
奥山に風こそ通へ桐の花 前田普羅 春寒浅間山
奥山のさくらは白く舂づける 高澤良一 燕音 五月
奥山の囀小筥に納めたし 上野好子
奥山の天をうつろふ夏雲雀 飯田蛇笏 椿花集
奥山の奥ある国にゐて炬燵 村越化石 山國抄
奥山の寒蝉月に鳴きにけり 飯田蛇笏
奥山の径を横ぎる蕨とり 前田普羅 春寒浅間山
奥山の懸巣の羽根を拾ひ来し ふけとしこ 鎌の刃
奥山の枯もけぶれり野蒜摘 中拓夫
奥山の枯葉しづまる春夕 前田普羅 春寒浅間山
奥山の温泉の夜寒ひとしほに 上村占魚 球磨
奥山の滝に打たるる夏行かな 大石悦子「耶々」
奥山の芒を刈りて冬構へ 前田普羅 新訂普羅句集
奥山の花をうながす修羅落し 福永耕二
奥山は雪ふかけれど西行忌 五十崎古郷句集
奥山やめでたきものに飾炭 原石鼎 花影以後
奥山や五声続く鹿をきく 向井去来
奥山や枯木の穂にも初日影 原石鼎 花影以後
奥山や紅葉掻き分け鹿の角 古白遺稿 藤野古白
奥山や鈴がら振つて呼子鳥 古白遺稿 藤野古白
奥山紅葉めぐすりの木の在り處 小枝秀穂女
屋の間奥山見えて夕立かな 飯田蛇笏 椿花集
時雨忌や有為の奥山越えてなお 五島高資
暮れそむる奥山見えて雪おろす 前田普羅 飛騨紬
法然の日を奥山に籠りけり 伊藤白潮
火薬庫ある奥山かけて紅葉はげし 宮津昭彦
落蝉は有為の奥山けふ越えて 高澤良一 素抱 七月-九月
葛切や京奥山の水の味 篠原悠子(野火)
薄氷天に奥山在る如し 河原枇杷男 訶梨陀夜
谷春辺猶奥山の寝こけかな 松根東洋城
雪かけて奥山肩を上げにけり 高井北杜
●雄岳 男嶽
こゝに見る由布は雄岳や蕨狩 高濱年尾 年尾句集
二上山の雄岳か星の流るるは 冨田みのる
雌岳いま雄岳がくれに野路の秋 山田弘子 こぶし坂
霧がくれ男嶽がくれに女嶽かな 小川ひろ女
●峨々
コンドルの舞ひて峨々たる夏の山 平田縫子
伊吹峨々と眉に迫りて冬凪げり 高木蒼梧
夏山を峨々と重ねて坊夜明け 星野椿
岳峨々と夢にそびえて明易き 村上光子
抜きん出て冬日を峨々と荒削り 加藤耕子
東西に峨々たる岬鰊群来 高野閑洞
流氷の峨々たる下に海軋む 大立しづ
父の日の消印岳の峨々と立つ 杉田久美子
玄冬に桂林巍々と峨々とあり 竹中碧水史
種売に彼岸の御堂峨々とたつ 百合山羽公 寒雁
臘八の旦峨々たる声音かな 河東碧梧桐
鱈汁や掛軸の絵の山峨々と 岸本尚毅 舜
麓まで山の峨々たる比良祭 辻田克巳
●岳陵
●枯岳
●枯山
*さいかちの枯山に入る夜を水の上 岡井省二
ぐ る り と ま は つ て 枯 山 山頭火
ここのところに俺の子枯山もう暗い 金子兜太 少年/生長
この軍旗かの枯山を幾度越えし 深見けん二
ただに在る一つ枯山たのみなる 斎藤玄 無畔
ひとり来しわれに華やぐ枯山は 相馬遷子 雪嶺
コーヒーの香を枯山に洩らし住む 津田清子 二人称
一日世を隔つ枯山の日だまりに 相馬遷子 山国
僕の樹鳥の樹枯山はひかりの骨 椎名弘郎
冬苺引けば枯山やや動く 野沢節子
刻かけて汽車枯山に頭出す 黒木野雨
卑弥呼径尽く枯山の列車音 高井北杜
少年尿す枯山をあたたかく 細見綾子 黄 炎
日当たれば枯山母に似て温し 大川 輝子
日当りてきし枯山の色ゆるぶ 清崎敏郎
星まばらな枯山鋼の眠り来よ 桜井博道 海上
暮るる海枯山かけて大雨あり 舟月
書を閉ぢし音枯山の一燈下(読み終えて好き書一巻閉ずる如き死を希いて居し夫の言葉思いて) 殿村菟絲子 『樹下』
朝日さし枯山にぎやかにしてさびし 岡田日郎
果しなき枯野枯山石鼎忌 原コウ子
枯山が日ごと枯山らしく見ゆ 大石悦子 百花
枯山が霞むスモッグ入り込みて 茨木和生 木の國
枯山となりて明るく海を抱く 金箱戈止夫
枯山と同じ日なたにをればよし 大石悦子 百花
枯山にくろもじを折り匂はする 日郎
枯山にけむり一すぢ飢ゑかすか 鍵和田[ゆう]子 浮標
枯山にしばらくをれば馴れにけり 今井杏太郎
枯山にすつぽりと入り女たり 岩永佐保
枯山にのぼりておのれ葬るごと 井沢正江 火襷
枯山にめをと懸巣か常に二羽 相馬遷子 山河
枯山にもつとも近きもの嘴 齋藤愼爾
枯山に一夜ねむりて血を濃くす 中嶋秀子
枯山に一筋生きて木馬道 石田あき子 見舞籠
枯山に入りし思ひを傘の中 齋藤愼爾
枯山に夕日あやしきまで赤し 岡田日郎
枯山に抱かむ黄なる日垂れて来よ 石橋辰之助 山暦
枯山に放り出されし無人駅 稲畑汀子
枯山に日ざすやいなや紫無し 篠原梵 雨
枯山に日はじわじわと指えくぼ 西東三鬼
枯山に未だ枯れぬ川侍りけり 能村登四郎
枯山に来て研ぎたての鉈ふるふ 古川信一
枯山に枯れてはならぬものを植ゆ 東郷瑞穂
枯山に火を点じたり雉子の頬 沢木欣一 遍歴
枯山に火薬の匂ひふとしたる 西村和子 窓
枯山に生れて滝の白秀づ 伊藤京子
枯山に禽啖ひいのちあらはにす 齋藤玄 『狩眼』
枯山に虹の一遊ありにけり 小枝秀穂女
枯山に見比べて買ふ鳩の笛 桂信子 黄 瀬
枯山に釦を拾ふ既知のごと 鷹羽狩行 八景
枯山に鳥突きあたる夢の後 藤田湘子
枯山に鳥透き肉親こぼれゆく 穴井太 土語
枯山のうしろは青し風の音 長谷川櫂 天球
枯山のうすずみ色は唇に 斎藤玄 雁道
枯山のかげ枯山をのぼりつむ 飴山實 少長集
枯山のひよどり翔けて日の真空 羽公
枯山のむかうなほ枯れひとり旅 鍵和田[ゆう]子 浮標
枯山のホテルにポーの黒猫飼ふ 横山房子
枯山の上に忽として一雪白 栗生純夫 科野路
枯山の上の荒海航を絶え 石原舟月
枯山の中にしづみて温泉に浸る 古舘曹人 砂の音
枯山の人声はつきりと聞いて湯に居る 人間を彫る 大橋裸木
枯山の低山にして雑木山 今井杏太郎
枯山の入日なつかし炭売女 銀漢 吉岡禅寺洞
枯山の向うが見えて己れ見ゆ 市野沢弘子
枯山の奥なまなまと滝一筋 桂信子 花寂び 以後
枯山の岫をめぐれる水のこゑ 石原八束 空の渚
枯山の影の来てゐる晩稲刈 草間時彦
枯山の日向の道の腕めく 和田耕三郎
枯山の昼のランプに鬼をどる 桜井博道 海上
枯山の暖かさうな不思議かな 三神リラ
枯山の暖色に馴れ狎れし愛 松本進
枯山の月今昔を照らしゐる 飯田龍太(1920-)
枯山の月光垢離というべかり 辻直美
枯山の枯れの匂ひも夕日なか 青木重行
枯山の火塚にのぼり天はるか 太田鴻村 穂国
枯山の猫の迅さをかなしめり 鳥居美智子
枯山の短き谺かへしけり 星野麦丘人
枯山の背骨腰骨春めきぬ 林翔
枯山の菩薩顔して日当れり 茨木和生 遠つ川
枯山の落暉に音のありにけり 塚原いま乃
枯山の谺となれば寧からむ 藤田湘子 てんてん
枯山の起き伏し蘇領に続くかな 小林康治 四季貧窮
枯山の音のすべてを吾がつくる 島野国夫
枯山の骨角器にて拾ふ星 杉野一博
枯山はとほしかゞやく馬の膚 横山白虹
枯山はゆつくり来よと坐りをり 藤田湘子 てんてん
枯山は禽を放ちてくもりぐせ 岸田稚魚 筍流し
枯山へわが大声の行つたきり 藤田湘子 てんてん
枯山へ走る火襷くづれ窯 伊藤敬子
枯山へ餅搗く音のゑくぼなす 神蔵器
枯山や子の骨格に手を置きて 加畑吉男
枯山や屋根の風見の海を指し 佐野良太 樫
枯山や振り返るとき尉鶲 草間時彦 櫻山
枯山や昼三日月と凧 増田龍雨 龍雨句集
枯山や枯山なしてパン並ぶ 金箱戈止夫
枯山や消ゆく電車のうしろ窓 太田鴻村 穂国
枯山をきて頂上の平らな水 桂信子 黄 瀬
枯山をくだり来て夕富士にあふ 岡田日郎
枯山をこだまのごとし道が這ふ 平井照敏 天上大風
枯山をほとばしる瀬のねこやなぎ 飯田蛇笏 春蘭
枯山をみなもと鴉争へり 村越化石 山國抄
枯山を下りきて熱きぼんのくぼ 三橋鷹女
枯山を出て朽野に憩ふなり 相馬遷子 山河
枯山を擦つて夕雲燃えはじむ 馬場移公子
枯山を断つ崩え跡や夕立雲 芝不器男
枯山を歩き来し夜はさ湯うまし 岡田日郎
枯山を水のぬけゆく琴柱かな 吉田汀史
枯山を渡り歩けば眼も枯れて 高澤良一 燕音 十二月
枯山を登り一人なる汗拭ふ 相馬遷子 山国
枯山を見てゐしが飽き登りけり 伊藤いと子
枯山を越え来し風に独語乗す 河野南畦 『黒い夏』
枯山を越え枯山に入りゆく 篠原梵 雨
枯山を重ね~てあたゝかし 高野素十
枯山毛欅をなぶりたわめて霧荒し 岸風三樓
枯山飲むほどの水はありて 種田山頭火 草木塔
枯野枯山遂に脱がざる鉄仮面 磯貝碧蹄館
柚子湯出て枯山の日に歩きけり 石原舟月
柚湯出て枯山の日に歩きけり 石原舟月 山鵲
死の商人ばかり枯山鴉ばかり 佐藤鬼房
母紛るるな枯山の密な日で 廣瀬直人
汽車工場の汽罐車枯山へ光向く 細谷源二 鐵
火塚累累枯山風をとほくしぬ 太田鴻村 穂国
父の墓建ち枯山に親しさ増す 中山純子 沙羅
父の墓枯山けさは雪の山 中山純子 沙羅
男寝て枯山へ息通はする 伊藤白潮
石おこすや枯山に得し働き口 村越化石 山國抄
神呼びの鼓笛枯山目に畳む 友岡子郷 遠方
窓に立つ枯山思ふ人遠し 金箱戈止夫
誰か柴掻きて枯山匂ひくる 馬場移公子
逝く年の枯山あかり頬にとどめ 太田鴻村 穂国
鉄瓶の枯山に鳴る身内の喪 宮坂静生 山開
陶師屈背(くぐせ)枯山の創陽にしるく 友岡子郷 遠方
雉子のいろ枯山のかたち目なれつゝ 百合山羽公
雪山を背にし枯れ山貧窮す 吉田嘉彦
青山を枯山にしてかいつぶり 齋藤玄 『雁道』
音たてて泉湧くなり枯山に 水原秋櫻子
鳶の巣に枯山膚を近づけて 成澤たけし
鴉とともに枯山くだる郵便夫 加藤楸邨
鴉低く翔ぶ枯山を知りつくし 川村紫陽
鶴啼きて枯山は枯深めけり 古賀まり子
●函嶺
函嶺の湯あみを冬の雷のもと 皆吉爽雨
函嶺を率て雪の不二聳えけり 石井桐陰
春の雲とぶや函嶺の裏関所 三好達治 路上百句
西函嶺を踰(こ)えて海鼠に眼鼻なし 夏目漱石 明治三十年
●巍々
玄冬に桂林巍々と峨々とあり 竹中碧水史
連嶺の巍々の眠りに雲の影 岡田日郎
切岸の巍々と迫りて鰯雲 林紀子
満月の光顔巍々と照りわたり 福田蓼汀
●茸山
いきいきと水の出てゆく茸山 柿本多映
うすけむり立つるとき佳し茸山 澁谷道
かへり見て母の達者や茸山 皆吉爽雨
これが茸山うつうつ暗く冷やかに 多佳子
しめりある茸山の風土も亦 上村占魚 鮎
よべの月細くも差せし茸山 百合山羽公 寒雁
一睡のあとに分け入る茸山 嶋田麻紀
三度行き三度迷ひし茸山 吉田健一
僧の機嫌雑茸山の風に吹かれ 橋石 和栲
妻の座は臀の座なり茸山 静塔
少年の尿がとんで茸山 福島勲
帰郷した鼻でさまよう茸山 伊丹三樹彦
庭先の道を通りて茸山に 水永 正十子
日蝕や獣の匂ふ茸山 阿部月山子
泊雲忌過ぎし丹波の茸山に 高濱年尾 年尾句集
牛に紛れて姑は分け入る茸山 小泉八重子
生き過ぎし者で賑はふ茸山 小泉八重子
茸山きのふの人の声のこる 飴山實 少長集
茸山ざわざわとあと何か覚め 金田咲子 全身 以後
茸山とは毒茸あるところ 小島健 木の実
茸山と寂光院の径と岐れ 岸風三楼 往来
茸山にひるからの雨残夢冷ゆ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
茸山に唯ならぬ顔わけ入りぬ 田中裕明 櫻姫譚
茸山に妻木を寄する走り合ひ 松瀬青々
茸山に対し一色城址かな 京極杞陽
茸山に煙立つなり今日は晴れ 青峰集 島田青峰
茸山に見えてとまれる汽車のあり 銀漢 吉岡禅寺洞
茸山に近づき上るこみちかな 楠目橙黄子 橙圃
茸山に遊びて京の旅終る 高濱年尾 年尾句集
茸山に馬頭観音ひそとして 白石 時子
茸山のざわざわとせるあたりかな 岸田稚魚 『萩供養』
茸山の仕事納の一焚火 杉 艸子
茸山の尾上の鐘をきゝにけり 野村喜舟 小石川
茸山の昼餉始まり一人欠く 横山房子
茸山の浅き山にて満ち足れり 波津女
茸山の深き落葉に藁草履 松本たかし
茸山の煮喰いや陽をも烟らして 津田清子
茸山の白犬下り来るに逢ふ 誓子
茸山の真の深みにはまりをり 斎藤玄 雁道
茸山の茸の孤独に囲まるる 昭
茸山の蛾のほろほろと月の前 宇佐美魚目 天地存問
茸山の裾に待ち居し俥かな 比叡 野村泊月
茸山の道なき道のかぎりなし 篠原梵 雨
茸山の頂上に水置かれたり 右城暮石 声と声
茸山へかつぎ登りし水一荷 井谷三叉
茸山へひかりのはしをのぼりゆく 岡井省二
茸山へ三味を届くる俥夫なれや 五十嵐播水 播水句集
茸山やあらぬ処に京の見ゆ 安田木母庵
茸山やむしろの間の山帰来 高浜虚子
茸山や巨石うしろに酒黄なり 渡邊水巴 富士
茸山や殻鉄砲の一けぶり 召波
茸山を下りてこゝに水迅し 五十嵐播水 播水句集
茸山を出て来し人等稲架ぞひに 高濱年尾 年尾句集
茸山を淋しき顔の出て来たる 飯田龍太
茸山を背の酒ほしき夕べ来ぬ 石川桂郎 四温
茸山を越え来る人に遭ひにけり 雑草 長谷川零餘子
茸山去年も崩れてをりし径 稲田壺青
茸山茶粥を吹いて仰ぎけり 小島健 木の実
茸山観月の山その上に 百合山羽公 寒雁
茸山飯食はんとす海見ゆる 鳥居木象
赤埴に茸山の径十文字 前田普羅 飛騨紬
遅れつきし茸山深く声あちこち 高濱年尾 年尾句集
飲食の四五人見えて茸山 文挟夫佐恵 遠い橋
●金山
老鶯や佐渡金山の狸穴 弦巻淑子
蓬萌ゆ土肥金山は風の奥 大野紫陽
金山に夜の光りやさつき闇 五月闇 正岡子規
金山の裾に広がる踊の輪 太田明子
●銀山
五加木摘む廃銀山の墓径に 皆川盤水
哀史秘む銀山絵巻曝さるる 山本ノブ子(城)
廃銀山馬鈴薯の花ここに尽く 皆川盤水
泉なほ湧く天領の廃銀山 品川鈴子
禊川銀山を出てひびきけり 下田稔
花が花降らしぬ銀山坑あたり 吉田紫乃
銀山の小笹を刈つて盆の道 斎藤夏風
銀山の粒選りの雨流燈に 吉本伊智朗
銀山や真冬の清水たばしりぬ 辻 桃子
●空山
朝日さす霜の空林空山に 高澤良一 燕音 十二月
空山に蚤〔を〕捻て夕すゞみ 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
空山の常盤木に神いましけり 前田普羅 春寒浅間山
空山へ板一枚を荻の橋 原石鼎
空山へ草の絮とぶ誕生日 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
空山を煙上るや東風の空 西島麦南 人音
落鮎や空山崩えてよどみたり 芝不器男
●草山
かむこどり草山高き昼の月 蒼[きう]「蒼[きう]翁句集」
トマト濡れ高草山よ青けぶり 菊川貞夫
上り見れば只草山や風月夜 乙字俳句集 大須賀乙字
初不二を枯草山の肩に見つ 水原秋櫻子
夏萩に草山の日の影のさす 岡井省二
宗祗忌の草山をゆく風の尖 宮坂静生 山開
幾草山芳はしき青母と行く 野澤節子 黄 炎
指で梳く蓬髪秋の草山に 中尾寿美子
教場より見ゆ草山や春の風 冬葉第一句集 吉田冬葉
日のひかりきこゆ枯草山にひとり 山口草堂
春立つや草山ながら烽火台 柑子句集 籾山柑子
暮れて越す草山一つ春の月 志田素琴
枯草山夏柑は色ととのへて 松村蒼石 雪
父こひし草山秋の日を湛へ 鷹女
秋虹や草山映えて一とところ 飯田蛇笏 山廬集
航空燈台暑し草山尨然と 渡辺水巴 白日
草山にかげる雲なき暑さかな 白水郎句集 大場白水郎
草山に下りてまばらや鴉の子 萩原麦草 麦嵐
草山に夕日見送る冬の虫 宮沢映子
草山に夜の風きて蕪汁 大木あまり
草山に浮き沈みつつ風の百合 松本たかし
草山に涼しく向かひゆく五感 武藤和子(阿蘇)
草山に矢の根拾ふや時鳥 会津八一
草山に顔おし入れて雉子のなく 一茶
草山に馬放ちけり秋の空 夏目漱石(1867-1916)
草山のくり~はれし春雨 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
草山のすつかり刈られ秋の風 乙字俳句集 大須賀乙字
草山の一歩ははるか秋燕 折井眞琴
草山の墓北風に吹きはれぬ 西島麦南 人音
草山の奇麗に枯れてしまひけり 正岡子規
草山の枯色撃ちて雉仕止む 津田清子 礼 拝
草山の火に秋風のすぐ応ヘ 阿部みどり女
草山の谷間に槇の茂りかな 比叡 野村泊月
草山の重なり合へる小春哉 夏目漱石 明治二十八年
草山の麓燃ゆるや桃ならん 尾崎迷堂 孤輪
草山ばかり眺めの茶屋や萩の花 冬葉第一句集 吉田冬葉
草山やこの面かの面の百合の花 高濱虚子
草山や南をけづり麦畑 夏目漱石 明治二十九年
草山や沖の鯨を見にのぼる 月舟俳句集 原月舟
草山や潮じめりにかへる雁 成美
草山を又一人越す日傘かな 渡辺水巴
草山を春田へ下りる鳥居かな 増田龍雨 龍雨句集
草山を比叡の内チや春の雷 尾崎迷堂 孤輪
草山を雉子はなれざる抱卵期 土方秋湖
蝗たち 草山へ移つていく 避難民のように 吉岡禅寺洞
郭公や草山の瘤影を曳き 中戸川朝人 残心
雨垂れの向ふ草山仏生会 村越化石
高原の草山に霧ふれて飛ぶ 上村占魚 球磨
●下山
三黙の行了へ下山爽やかに 小林牧羊
下山して堅田泊りや後の月 三沢久子
下山して西湖の舟に富士道者 飯田蛇笏 霊芝
下山する釣鐘草の早や萎れ 片山那智児
下山の荷サロンに積まれ汗匂ふ 廣瀬 遊星
下山の蟻掲ぐる獲物はずみはずみ 香西照雄 素心
下山一気夏雲はいま触れきし霧 荒井正隆
下山僧に露の深さを思ひけり 青峰集 島田青峰
下山者に杖譲られて著莪の花 堀八郎「草矢」
乗鞍の黄葉にスリップして下山 高澤良一 素抱 十月-十二月
八方尾根下山がたがた蝶番 高澤良一 宿好 七月-九月
列固く組めり下山のスキー隊 望月たかし
啄木鳥や下山急かるゝ横川寺 森定南楽
大いなる富士の影踏み下山せり 村上美枝(七曜)
実葛青年海を見て下山 蓮田双川
山形へ下山途中の夏薊 高澤良一 素抱 七月-九月
御しのびの下山や萩のから衣 高井几董
暁の霧しづかに神の下山かな 黒柳召波 春泥句集
暗闇の下山くちびるをぶ厚くし 金子兜太(1919-)
杉の間のひぐらし下山の息ほどに 桜井博道 海上
火を焚いて下山に似たる別れかな 萩原麦草 麦嵐
火山灰つむじ先だつ下山秋の風 皆吉爽雨 泉声
独活の実の露あるが降る下山かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
百合折るや下山の袖に月白き 飯田蛇笏 山廬集
着かさねて箱根を下山遅さくら 皆吉爽雨 泉声
秋天下山落ちきつて太る水 宇佐美魚目 秋収冬蔵
立山の虹くぐり来し下山かな 宇都木水晶花「蓑虫」
花辛夷尼の下山とすれちがふ 鳥居美智子
蕗を負ふ母娘の下山夜鷹鳴く 皆吉爽雨
蜩や下山の僧に追ひつけず 朝倉天易
覗き込む下山路霧を背にしたり 高澤良一 随笑 七月-九月
迎火のとろりと浮ぶ下山口 飯田龍太
遠雷が一つ鳴りゐて下山道 高澤良一 宿好 七月-九月
郭公や下山の頭ふつと消え 綾部仁喜 樸簡
銀杏踏で静に兒の下山哉 蕪村遺稿 秋
銀杏踏んでしづかに児の下山かな 蕪村
雪焼の顔を揃へて下山せし 宮中千秋
鞍壷に摩耶昆布かけて下山かな 倉田萩郎
額の花下山の靴の紐締むる 金田野歩女(白魚火)
鳴きかはす鵺に急かるる下山かな 根岸 善雄
鶯や雨となりたる下山路 五十嵐播水 播水句集
●険し
八講の険しさ鳥をこぼす雲 菅 裸馬
山険し猟銃の口下方に向け 右城暮石 声と声
師道険し新樹の直枝左右に迫り 香西照雄 素心
我等には険しき山路小鳥来る 稲畑汀子
斑猫の飛びて馬籠へ坂険し 所山花
水澄むや四方険しき出羽の山 市野沢弘子
盆栽の熔岩険しうてふ蘭 関森勝夫
絵簾の険しき山のすがたかな 軽部烏帽子 [しどみ]の花
薬掘る人に声かけ道険し 浅井青陽子
貴船より険しさ参る牛王加持 正田雨青
道漸く険しくなりて梅多し 西山泊雲 泊雲句集
●鉱山
あそびめに塞かる鉱山や天の川 宮武寒々 朱卓
しばたいてゐる鉱山の踊の子 萩原麦草 麦嵐
ラムネ吸ふ鉱山の肌見て来し街にて 北野民夫
向日葵に鉱山びとの着る派手浴衣 飯田蛇笏 霊芝
廃れ鉱山雪にたれかれありて住む 文挟夫佐恵 雨 月
春暁のコーランに覚め鉱山の街 坊城としあつ
春潮の荒らぶ鉱山町けぶるなり 石原八束 空の渚
時の日の鉱山霽れ酒保に煙草着く 宮武寒々 朱卓
暑き日の鉱山見ゆる不浄門 飯田蛇笏 霊芝
月赫き崩崖鉱山ぞひの盆の月 石原八束 空の渚
松蝉や鉱山のさびれの目に立ちて 伊藤碧水
生理説く鉱山の中学軽雷す 宮武寒々 朱卓
秋祭り終はれば鉱山を離れんか 原田 耕二
花木槿鉱山は廃れて雨に冷ゆ 塩田藪柑子
葵咲く鉱山の理髪師嫁迎ふ 宮武寒々 朱卓
野葡萄負へり鉱山の匂の男たち 林翔 和紙
鉱山に朝市が立ち春大根 大熊太朗
鉱山に生れし誇り鏡餅 深見けん二 日月
鉱山に逢うて盛夏帽裏の刺を通ず 飯田蛇笏 山廬集
鉱山のエレベーターに見ゆる滝 西本一都 景色
鉱山の五月のさくら小さく咲く 阿部みどり女
鉱山の姿とみれば寒さかな 白水郎句集 大場白水郎
鉱山の村噴井に障子洗ふなど 瀧春一 菜園
鉱山の町や舟著く冬の川 雑草 長谷川零餘子
鉱山の神露けき鉱石に注連新し 瀧春一 菜園
鉱山の跡分校の跡山桜 猿渡青雨
鉱山人のうまし女連れぬ寄席の秋 宮武寒々 朱卓
鉱山出来て刈田の日々の洟垂児 清原枴童 枴童句集
鉱山慣れて手拭首に涼みけり 清原枴童 枴童句集
鉱山暮るゝことの早くて霙れけり 岸風三楼 往来
鉱山煙日々おだやかに草の花 清原枴童 枴童句集
鉱山町や障子を洗ふ一ト流 清原枴童 枴童句集
鉱山街寂びて秋晴の墓あらは 瀧春一 菜園
●木霊 木魂
えぞにうの木霊オホーツク海へ抜け 永田耕一郎
かしづくや木霊をさなき欅苗 正木ゆう子 静かな水
かなかな木魂山萱の葉のふれ合へる 臼田亜浪 旅人
かへらざる木魂もあらむ柞山 塩川秀子
きつつきの樹を打つ音も木霊かな 大高芭瑠子
くれくれて餅を木魂のわびね哉 松尾芭蕉
しめっぽい木霊とびかう置き薬 穴井太 原郷樹林
どの子にも木霊返して山開き 白根君子
どの木にも木霊生まるる寒昴 美野節子
ひさしぶりの雨だ灯を消せ匂う木霊 柴崎草虹子
みよし野の木霊となりしほととぎす 長山あや
一斉に木霊の醒むる春の森 柴田白葉女 花寂び 以後
伊那谷は木霊の色も紅葉して 木方三恵
冬木伐る木魂あそべり道志峡 石田あき子 見舞籠
冷まじく暮れて木霊も居らざりき 槐太
凩も負けて太鼓の木魂かな 正岡子規
初明り一つ咲きたる木霊かな 穴井太 原郷樹林
初猟の木霊が遠く重なれり 米澤吾亦紅
匂い立つ樹々の朧に笛木霊 長谷川かな女 牡 丹
十月の木霊が通る鉈の上 折井紀衣
吾子呼べば吾子は木魂す夜の山瀬風 角川源義「角川源義全集」
啄木鳥の纔に木霊の耳を澄ます 尾崎紅葉
国栖奏の鼓は木霊呼ぶごとし 山田弘子 螢川
声ちがふ木霊竹霊利休の忌 岡井省二
夏の夜や木魂に明くる下駄の音 松尾芭蕉
大暑にて杉の木霊は背の高き 正木ゆう子
密猟の火づつときけど木魂かな 三好達治 俳句拾遺
寒林の切株四五は木霊の座 能村登四郎
少年へ涼しき声の木霊が居り 平井さち子 紅き栞
山百合の哄笑谷に木魂せり ジヨニー平塚
常夜鍋木霊は山に帰りけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
幹打つて覚ます木霊や西行忌 大石悦子 群萌
恋猫や椎の木にある夕木霊 古舘曹人 樹下石上
慈悲心鳥おのが木魂に隠れけり 前田普羅「新訂普羅句集」
手をうてば木魂に明る夏の月 芭蕉
手を打てば木魂に明くる夏の月 松尾芭蕉
春立ちし国栖の大きな木霊かな 大石悦子 百花
暮れ暮れて餅を木魂の侘寝哉 松尾芭蕉
月よりも春の木魂は遥かより 有馬朗人
月山の木魂と遊ぶ春氷柱 有馬朗人 耳順
月明の木を離れたる木霊かな 河原枇杷男 流灌頂
木曾谷の木魂の寒さ相よべり 加藤秋邨 颱風眼
木枯の木霊修那羅の神の声 加藤知世子 花寂び
木霊ありいつか身につく走るフォーム 上田 玄
木霊より軽き子を抱く冬隣 橋間石
木霊ゐず霧か露かの山の鯉 岡井省二
木霊棲む山めぐらすや神楽笛 伊藤純
木霊棲む神の大楠夜鷹鳴く 豊長みのる
梅雨の夜の園の木霊と犬を呼ぶ 木津柳芽 白鷺抄
樹氷林声なき木霊空に充ち 伊東宏晃
橇去りてより鈴きこゆ木魂とも 石原八束
母声の木霊が帰る月下かな 杉本雷造
氷る湖の木霊呼びつつ機始 原 柯城
汗の身を木霊が透り過ぎにけり 徳永山冬子
海棠や教会の鐘木霊なし 宮坂静生 青胡桃
涸谿の木霊言霊冬ざるる 佐原トシ
父にしてむかし不良の木霊かな 攝津幸彦(1947-96)
甲斐駒の返す木霊や吾亦紅 山下喜子
種に入る木霊の一部青くるみ 正木ゆう子 悠
空谷に木魂して掻く漆かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
紅葉折る木魂かへすや鏡石 前田普羅
結界の木霊となりける青葉木菟 栗桶恵通子
老桜の木霊や現れて返り花 大石悦子 群萌
老鴬に杣は木魂をつくりけり 石橋辰之助 山暦
落栗やなにかと言へばすぐ木魂 芝不器男
谿ふかく棲める木魂や棕櫚の花 木下夕爾
郭公の木霊の中の火山かな 杉本寛
開拓や斧よ木霊よ遠郭公 北光星
雨細し木霊枯れ棲む磯林 河野南畦 湖の森
雪の夜は遠き木魂に呼ばれをり 金箱戈止夫
雪の日のちよつと遊びに出る木霊 ふけとしこ 伝言
露日和木霊は元の木にもどり 友岡子郷
青梅雨や木霊棲みつく鞍馬杉 河野多希女 納め髪
青葉木菟鳴いて木霊はうまいどき 西村 博子
鼓打ち新樹の木魂呼び下ろす 上野さち子
●谺
あさましや谺も同じ雉の声 半捨
あまぎ嶺に谺し冬の鳥射たる 五所平之助
いづこにも雲なき春の滝こだま 飯田龍太 忘音
いわし雲斧の谺は父祖の声 高橋素水
うぐひすの谺も神の瀧のもの 田村木国
おらが世は臼の谺ぞ夜の雪 一茶
かぐらせり唄谺して雪もよふ 黒木千佳子
かげろひゆく身に谺して怒濤音 鷲谷七菜子 雨 月
かたくりの花すぐゆれて谷谺 飯塚田鶴子
かの瀧のかの瀧谺手を合はす 黒田杏子 花下草上
こだま欲し干潟に貝の放射脈 成田千空 地霊
さきがけて蕗咲く渓の谺かな 飯田蛇笏 霊芝
さくら陰誰に谺か山の神 菊十
さしのぼる月の谺のきんひばり 神戸光
さみしさや谺返しの威銃 小林康治 『叢林』
しんしんと谺殺しの雪の谷 藤田湘子 てんてん
すぐ応ふ谺も秋や旅日和 村越化石
そのこゑに谺ちかづく囮籠 福永耕二
たはやすく谺する山たうがらし 飴山實 『次の花』
ひぐらしや山頂は陽の谺生み 雨宮抱星
まんさくや谺返しに水の音 岸野千鶴子
みちのくの山谺して松の芯 吉田鴻司
むかごにもありし大小山谺 西谷 孝
わが声の二月の谺まぎれなく 木下夕爾
わが声の谺と知らず女郎花 小泉八重子
わが谺かへらぬ祖谷の初御空 伊沢 健存
ボート・レース雲と谺と繋がりて 大島邦子
マッキンレーからの谺か秋つばめ 平井さち子 鷹日和
ユーラシア五分遅れの谺かな あざ蓉子
一山に滝の音声冬こだま 野澤節子 遠い橋
万緑や舟唄水に谺して 土屋うさ子
丈高き谺返し来春の滝 小林康治 『虚實』
下萌のいづこともなく水谺 日向野貞子
二ン月の天に谺し城普請 花野有情
二月ころふりさけみれば伊勢こだま 阿部完市 純白諸事
二期田植う村に射爆の遠谺 玉城一香
人去りて木の芽の谺包む館 長山あや
人声の谺もなくて飛騨雪解 前田普羅 飛騨紬
仏法僧こだま返して奥身延 上田正久日
伐採の谺の雪となりにけり 西村博子
修羅落す谺を追ふて雪崩れたり 山口草堂
公害魚擲られ磯の枯れこだま 河野南畦 湖の森
冬に入る瀧の谺の一屯 宮坂静生 樹下
冬の宿谺を返し夕暮るる 横光利一
冬山や鉈音よりも谺澄み 羽部洞然
冬杣の谺杉枝の雪散らす 町田しげき
冬河に誰呼びおるや谺なし(片山桃史戦死) 石橋辰之助
冬滝の谺蕩々と湯の小滝 松村蒼石 雁
冬耕のひとりとなりて生む谺 橋本榮治 麦生
冬菫ときにさみしき潮谺 友岡子郷 風日
冬麗を己が谺とゐる鴉 村越化石
冴ゆる夜の谺にひゞく汽笛哉 寺田寅彦
冷蔵庫に潮騒のあり谺あり 工藤克巳
凍てゆるむ落石音や七こだま 加藤知世子
凍ゆるむ落石音や七こだま 加藤知世子 花 季
凍蝶に落石の音谺しぬ 羽部洞然
凍蝶の息ひきとりし谺かな 宗田安正
凍解けて瀧にもどりし水こだま(常陸袋田瀧) 上村占魚 『方眼』
刀打つ鎚の谺す青吉野 品川鈴子
初富士や崖の鵯どり谺して 川端茅舎
初山や木の倒されて谺生む 本多一藻
初猟の第一弾の谺かな 森 竜南
初鶏の銘酒の里に谺して 木内彰志
十和田湖に暮春の谺崩しけり 雨宮抱星
友とその新妻春の汽車こだま 友岡子郷 遠方
号令が谺す夕日の小学校 斎藤康子
呼び出しの声谺してスキー場 中沢菊絵
咳こだまリョウメンシダの林にて 高澤良一 さざなみやっこ 冬
咳よりも咳の谺のさびしさよ 林翔 和紙
啄木鳥(けら)こだま山齢樹齢あらたまる 千代田葛彦
啄木鳥のついばむ音も谺して 西岡仁雅
啄木鳥の己が谺を叩きけり 佐之瀬木実
啄木鳥の谺は天に滝凍る 三谷和子
啓蟄の蛇に丁々斧こだま 中村汀女
噴射機に鳴り億兆の露谺 石塚友二 光塵
地の底の神が滝呼ぶ闇こだま 河野南畦 湖の森
夏みなぎるグワーングワーンと鉄こだま 古沢太穂 古沢太穂句集
夏山の大木倒す谺かな 内藤鳴雪(1847-1926)
夏潮の谺がこだま生む岬 上村占魚
夕霞して剥落の嶽こだま 新井海豹子
夜をこめて会式谺す向つ峰 竹冷句鈔 角田竹冷
大山山麓すかんぽ噛めば谺 金子兜太
大瀧の谺相うつ杉襖 石原八束 『白夜の旅人』
大瀧や月の谺のただ中に 黒田杏子 花下草上
大瑠璃の谺をかへす虚空かな 加藤耕子
大花火峡の谺の逃げ場なし 川村紫陽
大霞したる海より濤こだま 橋本鶏二
天地の谺もなくて雪降れり 鈴鹿野風呂
姥百合にかへる谺となりにけり 蘭草 慶子
威し銃裸の山が谺返す 津田清子 礼 拝
威銃こだまを返し来て威す 山岸木風
威銃谺して大磨崖仏 牧野春駒
子を叱る声筒抜けに寒谺 小林康治 四季貧窮
子花火と爆ぜて谺の返りけり 石塚友二 光塵
実椿の数へきれざる滝こだま 岩崎多佳男
家毀つ音秋天に谺して 高澤良一 寒暑 七月-九月
富士の火を鎮めの宮の鵯谺 西本一都 景色
富士夏嶺谺雄々しく育ちをり 橋本榮治 麦生
寒山に谺のゆきゝ止みにけり 前田普羅 飛騨紬
寒月や野の大門の谺呼ぶ 乙字俳句集 大須賀乙字
寒詣過去は谺の割れる先 首藤基澄
寒谺高校生の弔銃に 中村草田男
対岸の石切るこだま夏蓬 大中祥生
射初また谺はじめの松の幹 中戸川朝人 星辰
小蒸気のもどる谺や月の潭 千代田葛彦 旅人木
屏風岩河鹿が鳴けば谺する 塚田正子
山々にお会式太鼓谺して 中里之妍
山がひの杉冴え返る谺かな 芥川龍之介 澄江堂句集
山に向きくさめ一つの冬谺 村越化石
山ぼうし谺がこだま生みにけり 和田冬生
山伏問答峰に谺し山開 高橋耕子
山墓の巨石がまとふ夏谺 原裕 葦牙
山始一人が谺起しけり 増井冬木
山峡の杉冴え返る谺かな 芥川龍之介 蕩々帖〔その二〕
山火事のあと漆黒の瀧こだま 飯田龍太
山焼の音谺せり大阿蘇に 高木あけみ
山眠りいづこへ帰る谺なる 影島智子
山谺かえる花火の尾は新涼 長谷川かな女 花 季
山里に餅つく音の谺かな 浜田波静
山雲にかへす谺やけらつゝき 飯田蛇笏
岩尾根に夏暁の鳥が谺啼き 河野南畦 湖の森
峡空に谺かへすや大花火 鈴鹿野風呂 浜木綿
川原吹く風より水の青谺 原裕 青垣
幼な名を呼べど秋嶺谺なし 福田蓼汀 秋風挽歌
弔砲の谺は冬の山地駆せ 安田北湖
当り矢の谺がへしに霜の天 伊藤いと子
念仏踊左右の山よりよき谺 羽部洞然
息ひそめ棺うつかぎり寒谺 小林康治 四季貧窮
悪玉の声谺して野外劇 魚田裕之
惜春の雄波もみあひ谺せり(喜屋武岬) 上村占魚 『玄妙』
我が笛の谺聞きゐる月の森 雑草 長谷川零餘子
採氷池子等への怒声日へ谺 木村蕪城 寒泉
探梅の谺に応ふ声のあり 米沢吾亦紅 童顔
斧を振る青いこだまを孵らせて 穴井太 原郷樹林
斧強く打てば谺も寒の冴 橋本榮治 麦生
日おもてに谺のあそぶ斧始め 木内彰志
旧山河こだまをかへし初鼓 飯田蛇笏
春光に人語鳥語の谺かな 梅谷紀子
春嶺となれり万雷の瀧谺 川村紫陽
時無しに竹伐る春の谺かな 青木重行
晩秋の木曾谷汽車の遠谺 福田蓼汀
月一痕仏法僧の遠谺 渡邊千枝子
月光にしづめる部落滝こだま 柴田白葉女 花寂び 以後
月落ちて仏法僧の遠谺 高橋克郎「月と雲」
木の実ふるわが名谺に呼ばすとき 寺山修司 未刊行初期作品
木樵ゐて冬山谺さけびどほし 橋本多佳子
木耳に谺邃くも来つるかな 山口草堂
朴の花谺のごとく咲きふえし 山城英夫
朴咲くや谺のごとく雲殖えて 福永耕二
杉山に父かと思ふ滝こだま 裕
杉菜の雨土足の谺渡殿に 下村槐太 天涯
杭打つて 一存在の谺 呼ぶ 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
松籟も寒の谺も返し来よ 小林康治 四季貧窮
松風の谺返しや夕桜 小林康治 四季貧窮
枝打ちの谺小さく日の澄めり 松村蒼石 露
枝打ちの谺返しに始まりぬ 石田郷子
枝打ちの音谺して底冷えす 柴田白葉女 花寂び 以後
枯山の短き谺かへしけり 星野麦丘人
枯山の谺となれば寧からむ 藤田湘子 てんてん
梟の谺のこもる月の杜 つじ加代子
棺を打つ谺はえごの花降らす 結城昌治(1927-1996)
椿寿忌や山に谺す大木魚 河野静雲
樹々ら/いま/切株となる/谺かな 高柳重信
歩みゐて谺に呼ばる西行忌 伊藤京子
死して/無二の/谺が/のぼる/寝釈迦山脈 高原耕治
残雪に少年が打つ斧こだま 中村里子
残雪や谺鳴きして山の禽 小林康治 玄霜
水こだま走りて釣瓶落しかな 長谷川双魚
水取や五體投地の堂谺 松瀬青々
水谺深き夜明けの初音売 臼田亜浪
氷伐る谺もきこゆ朝かな 安藤橡面坊
汐浴びの声ただ瑠璃の水こだま 中村草田男「来し方行方」
汽車たつや四方の雪解に谺して 前田普羅 飛騨紬
沖津風こゝ渡り行く幟かな 増田龍雨 龍雨句集
浄智寺の屋根替衆に鵯谺 肥田埜勝美
浦島草過ぎるは人の谺かな 保坂リエ(くるみ)
海へ出て寒の谺となりにけり 小林康治 玄霜
深田鋤く谺しぶきに身をゆだね 松村蒼石 春霰
温泉の宿に何建つ昼の斧こだま 石塚友二 光塵
湖二つ郭公谺し合ふ距離に 川村紫陽
湯もみ唄谺す山の芒かな 中島月笠 月笠句集
湾内に花火の谺あまた度 西村和子 夏帽子
濤こだま実朝忌まだ先の日ぞ 友岡子郷 風日
濤摶ち合ふ谺はけふも青岬 豊長みのる
濤谺のぼるを追へり秋燕 橋本鶏二
濤谺天をもどらず銀河澄む 橋本鶏二
瀧壺へ根こそぎの水枯谺 宮坂静生 山開
炎天に谺す深井汲みにけり 松井葵紅
炎天や鳶交る声谺して 佐野青陽人 天の川
炎天下嶺々の谺もなかりけり 行方克己 知音
照紅葉谷に谺の美辞麗句 高橋綾子
熊撃たる谺一つで終りけり 伊藤しげじ
熊野なる瀧谺なす月今宵 黒田杏子 花下草上
熊野路へ谺波打つ威銃 大澤柿村
牧びらき牛の谺のために嶺 太田土男
獺が又森谺さす夜振月 乙字俳句集 大須賀乙字
玄関へ奥の鶯の谺かな 西山泊雲 泊雲句集
瑠璃沼の暁け谺して里鶫 伊藤いと子
生凍豆腐叩く谺や寒未明 小佐田哲男
甦る滝の谺や梅散れり 小林康治 『潺湲集』
畦叩き塗りて母校に谺さす 太田土男
白木蓮鉈の一打がうむ谺 福永耕二
白鳥の立上りたる水谺 綾部仁喜 寒木
真夜覚めて波郷と呼べり霜こだま 林 翔
石一つ抛げし谺や山桜 西山泊雲 泊雲句集
石伐りのたがね谺す夏の海 前田普羅 能登蒼し
石叩き谷間に小さき谺なす 米久保進子
石抛れば汐に谺や夜光虫 富田潮児
石段に下駄の谺や山椿 池内たけし
神杉に谺し雪のびんざさら 伊藤いと子
祭の子谺遊びの町内湯 高澤良一 鳩信 炎帝
禅林やその裏山の鵯谺 石塚友二
秋の谷とうんと銃(つつ)の谺かな 阿波野青畝(1899-1992)
秋晴や薬草講義谺呼び 和田ゑい子
秋深し身をつらぬきて滝こだま 鷲谷七菜子
稲扱くや水の佐原の夕こだま 橋本榮治 麦生
稲架を解く音の谺の山日和 山田弘子 初期作品
空蝉の谺とならず谿昏れる 山田晴彦
空谿の何の谺ぞ鴨かへる 藤田湘子
立山の卯月の谺返しくる 萩原麦草 麦嵐
竹取の冬の谺に入りゆけり 宮坂静生 山開
簗なほす青水無月の夕こだま 橋本榮治 逆旅
紅糸が足らぬ日暮の滝こだま 神尾久美子 桐の木
絶壁にて怒濤と春雷谺わかつ 加藤知世子 花寂び
綿虫消え峡を満たせる水谺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
老鴬に九十九谷の青谺 伊丹さち子
老鴬の谺にふふむ雨の色 古市絵未
老鴬の鍛へしこゑの谺せり 武井与始子
聖歌果てし街は汽笛の雪こだま 加藤知世子 花寂び
聖鐘の谺と来たり初つばめ 西村博子
舊山河こだまをかへしはつ鼓 飯田蛇笏
船の銅羅かの雪嶺に谺せる 福田蓼汀 山火
船笛に遅るる谺氷河より 品川鈴子
色鳥や谺をつくる山のこゑ 雨宮抱星
花といへば鳥と答へる標語(こだま)かな 筑紫磐井 花鳥諷詠
花に打てばまた斧にかへる谺かな 飯田蛇笏 霊芝
花の峡シグナル谺して下りぬ 宮武寒々 朱卓
花火あがる母ゐる天に谺して 大西一冬
花火音立て込む家に谺して 高澤良一 宿好 七月-九月
若葉滝まだ谺ともなりきれず 大高松竹
草の絮父の谺のなき山河 森田鵜柳
草焼いて谺とあそぶ山童 伊藤凍魚
草笛や白鳥陵の水こだま 石田勝彦
荒滝の段なし谺打ち込めり 山口草堂
落栗やなにかと言へばすぐ谺 芝不器男(1903-30)
落石の月に響きし谺かも 小林碧郎
落石の谺とかへる鵯の声 成智いづみ
落石の谺は渓の早春譜 平田青雲
落粟やなにかと言へばすぐ谺 芝不器男
落葉して人にかかはりなき谺 原裕 青垣
落葉松に春逝く谺ひびきけり 小林吐秋
蒲団叩けば団地に谺開戦日 奈良文夫
薄墨桜ことし谺の棲むことも 諸角せつ子
薄暗き厨房秋の水こだま 奈良鹿郎
蚊柱や斧の谺のいつ止みし 雉子郎句集 石島雉子郎
蜩や古鏡に谺あるごとし 加藤知世子 花寂び
蝉やむと夜は天づたふ滝こだま 神尾久美子 桐の木
蝶蜂の高さの上を谷こだま 藤田湘子 てんてん
裏山に返す谺や山始 堤俳一佳
谷底に簗つくろへる谺かな 黒田櫻の園(馬酔木)
谺 谺 す る ほ が ら か 山頭火
谺こめて五月の一樹雨降れり 松村蒼石
谺して伊那谷深き威し銃 原田さがみ
谺して夜明けの峡の黒鶫 白鳥武子
谺して宙真空の秋の井戸 河野多希女 こころの鷹
谺して山ほととぎすほしいまゝ 杉田久女「杉田久女句集」
谺して山川草木神楽の季 大久保たけし
谺して春霜木々へ還りゆく 藤田湘子
谺して男一人の斧始 川村紫陽
谺して谷の底まで梅日和 森藤千鶴
谺して雪崩のけむりあがりをり 石原八束 『雁の目隠し』
谺せずビル高階のつくり滝 船坂ちか子
谺たつる鈴鴨の音や水明り 高田蝶衣
谺とは思へぬひびき威し銃 片山由美子 天弓
谺めく津軽ことばや薄暑光 新谷ひろし
谺も不在雪渓垂らし針の木小屋 宮津昭彦
谺も豆か膝に落ちつく山の国 奥山甲子男
谺呼ぶにつれなくて昼蛙鳴く 松村蒼石
谺生み谺をつれてスケーター 町田しげき
豆たたく鬼歯の谺たのしめり 影島智子
豊年や谺呼びあふ出羽の山 細川加賀 生身魂
赤げらの音の谺に穂高晴れ 宇佐川礼子
赤腹鶫の谺をかへす月山湖 鈴木幹恵
蹴り落す石の谺や谷紅葉 水原秋桜子
身近きは響き野分の遠谺 斎藤空華 空華句集
轟々と建国の日の滝こだま 吉田銀葉
透きとほる雨後の谺や岩煙草 平子公一
逝く人を呼び谺せり冬木立 赤尾恵以
遅き日や谺聞る京の隈 蕪村
遠谺して木曽谷の修羅落し 加古宗也
還らざる谺もありぬ朴の花 佐藤国夫
郭公こだま一車より白衣降り 友岡子郷 未草
郭公こだま妙法此処に定まりし 林原耒井 蜩
郭公の己が谺を呼びにけり 山口草堂
郭公の谺し合へりイエスの前 大野林火
郭公の谺に晴るる阿蘇五岳 甘田正翠「紫木蓮」
郭公や母と谺をへだて住む 今瀬剛一
郭公や谺あそびはわれもせし 中戸川朝人 尋声
野平らに何の谺や花芒 廣江八重櫻
野葡萄の房にとどけり滝谺 五十島典子
鈴虫や甕の谺に鳴き溺れ 林原耒井 蜩
鉄を打つ谺短かし斑雪山 阪本 晋
鉄砲射堋(あづち)霧間の樹神(こだま)かよひけり 調古 選集「板東太郎」
鉦太鼓谺し三日の山部落 福田蓼汀 秋風挽歌
銃こだま雪こんこんと葉につもる 川島彷徨子 榛の木
銃声の谺雪山無一物 長嶺千晶
銃谺寒禽翔つて山緊る 福田蓼汀
錦秋の谺の中に禽死す 榎本虎山
鐘谺宿坊の冷えきたるかな 清水基吉 寒蕭々
長き夜の空に谺し孔雀経 横山白虹
降る雪の/野の/深井戸の/谺かな 重信
陶土打つ杵の谺や谷紅葉 渡部勝雄
隠り滝溢れて谺なかりけり 小林康治 『存念』
雉子笛に霊峰谺かへしけり 小森都之雨
雪山に春のはじめの滝こだま 大野林火
雪山を匐ひまはりゐる谺かな 飯田蛇笏
雪崩音止みて落石音こだま 岡田日郎
雪折のとどまりがたき谺かな 阿波野青畝
雪解川滾ちて天に谺なし 前山松花
雷鳥を追ふ谺日の真上より 河東碧梧桐
青啄木鳥の笛の谺や朝雲 木村コウ
青天より落花ひとひら滝こだま 野澤節子 黄 炎
青嶺より青き谺の帰り来る 多胡たけ子(山茶花)
青葉木菟遠し二羽とも谺とも 肥田埜勝美
音すべて谺となれり山始 黛執
首根っこ打てる花火の大谺 高澤良一 素抱 七月-九月
高きより谺をとばす冬の鳥 原裕 青垣
高千穂の双肩高き冬こだま 殿村莵絲子 牡 丹
高原の鈴虫星へ谺せる 橋本美代子
鳥威し谺となりし翁みち 遠藤孝作
鴛鴦こぞり起つ氷上の谺かな 臼田亜浪 旅人
鵜つかひの舷叩く谺かな 大谷句佛 我は我
鵯こだま嵯峨の旨水日々に透き 高野途上
鵯谺初日は千木にのみさしぬ 加倉井秋を
鵯谺稀に馬車行き谷戸の秋 福田蓼汀 山火
鶯の谺す淵を覗きけり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
鶯の谺聴きゐぬ障子内 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
麦秋の石切りをるや沖谺 小林康治 四季貧窮
黄昏れて山に稲刈る音こだま 佐瀬しづ江
●木の芽山
抱合の神をかくして木の芽山 澄雄
木の芽山どこかに父を隠し了ふ 橋本榮治 麦生
木の芽山襁褓替ふるにひざまづく 辻美奈子
木の芽山雨止む気配して匂ふ 山下美典
木の芽山霧右往して左往して 行方克巳
海原の朝日返して木の芽山 石塚友二 光塵
雨の降りだして明るき木の芽山 片山由美子 天弓
鳥刺の少年の日の木の芽山 椰子次郎
●小山
かたかごを祀る小山を指さしにけり 阿部完市 軽のやまめ
小山の裾の春さきにゐるやこの伊豆 梅林句屑 喜谷六花
枯尾花ばかりの小山鳥も鳴かず 梅沢墨水
町中の小山のすすき月祭る 松村巨湫
野鼠ら晴れた小山を競っている 穴井太 ゆうひ領
雲なくて空の寒さよ小山越 正岡子規
●岬山
国果つるここの岬山粧ふに 田元北史
岬山に月沁む寒さ土竜みち 石田阿畏子
岬山に現れて五月の一馬身(都井岬) 野澤節子 『飛泉』
岬山のなぞへそのまま葡萄園 下村ひろし 西陲集
岬山の没日より現る鴨の群 関森勝夫
岬山の緑竹にとぶちどりかな 飯田蛇笏 霊芝
岬山の蝶の恋ひたる妹が汗 大屋 達治
岬山の雨に模糊たる花茨 遠藤梧逸
岬山の雨のけむれる桜鯛 石田阿畏子
岬山は萱山にして春の山 清崎敏郎
渾身の蝉音に岬山浮き立てり 関森勝夫
●山雨
*たらの芽やまとまりて降る山の雨 藤崎久を
あかつきの萍たたく山の雨 桂信子 黄 瀬
いち早く風鈴の知る山雨かな 南礼子
おいらん草日ぐせの山雨殺到す 矢島房利
ががんぼや山雨がたたく夜の坊 三田きえ子
きらきらと梅雨も終りの山の雨 今井杏太郎
きらめきて山雨すぐ止む秋薊 芝 由紀
くわんおんの蹉*だ(足偏に它)のお山の雨螢 黒田杏子 花下草上
このわれを生まし給ひし美はしき母を呪へば三輪山の雨 前登志夫
しどけなく山雨が流す蛇の衣 能村登四郎 冬の音楽
すかんぽの一本を折り山の雨 桂信子
すぐ熄めり山の蟻うつ山の雨 堀口星眠 営巣期
たかんなに白き山雨の到りけり 栗生純夫 科野路
ただよへる梅雨蝶山雨打つて消す 福田蓼汀 秋風挽歌
どうどうと山雨が嬲る山紫陽花 長谷川かな女 牡 丹
ねむり草叩き走りて山雨急 七木田北思
ひとくちに茗荷を山の雨の粒 中田剛 竟日
ひとときの山雨はげしき午祭 小島花枝
まんさくや雪に変はりし山の雨 つじ加代子
むささびの巣穴濡らして山雨急 木下香代
エゾホソイ山雨傍若無人なり 高澤良一 宿好 七月-九月
キャンプ更け残り火を消す山の雨 坂本山秀朗
万緑や山雨が醒ます昼の酒 石川桂郎 高蘆
上蔟の音もなかりし山の雨 馬場移公子
下り簗走り過ぎゆく山の雨 椎橋清翠
先に音来て六月の山の雨 西尾潔
冬鳥のこゑに霽れゆく山の雨 西村貴美子
凌霄や刻を待たずに山の雨 岸田稚魚 『萩供養』
初花やななめに降つて山の雨 草間時彦
十一の声の尾にじみ山雨来る 倉垣和子
吾亦紅雫し合へる山の雨 館岡沙緻
土筆摘む野は照りながら山の雨 青峰集 島田青峰
夏寒き髪をしぼりぬお山雨 長谷川かな女 雨 月
夏草を打ちて沈めて山雨急 高木晴子 花 季
夏野行く濡るゝほかなき山雨来し 稲畑汀子
大寺や山雨に覚めし總晝寝(永平寺) 内藤吐天
奥宮の山雨に濡るる祭檜葉 つじ加代子
存分の山雨もて暑を残さざり 上田五千石
実紫音なく過ぎし山の雨 山田弘子 こぶし坂
寒鯉の水くもらせて山の雨 茨木和生 遠つ川
射干や山の雨きて寺濡らす 舘岡沙緻
山の雨かんば一葉を苔に置けり 及川貞 榧の實
山の雨くればよろこぶ紫苑かな 宮岡計次
山の雨さくらに触れて光りけり 関森勝夫
山の雨さと過ぎつんと吾亦紅 森田游水
山の雨しかすがに鮎も食ひ飽きし 林原耒井 蜩
山の雨しはぶき走るわらび狩 宮坂静生 山開
山の雨たつぷりかかる蝸牛 飯田龍太 山の木
山の雨にほひ立つ法師蝉 松本美簾
山の雨ひとつぶのせて秋海棠 佐藤美恵子
山の雨やみ冬椿濃かりけり 白葉女
山の雨春宵だんろもてなさる 及川貞 榧の實
山の雨束の間なりし吾亦紅 高田風人子
山の雨激ちやすしへ葛のさま 中田剛 竟日
山の雨牡丹の庭にしぶきつつ 瀧春一 菜園
山の雨縫うて気儘や秋の蝶 西村和子 かりそめならず
山の雨葛の葉に音たてにけり 池上浩山人
山の雨蛍袋も少し濡れ 高田風人子
山の雨靴下に浸む茂吉の忌 林 徹
山の雨鼓打ちして苗障子 澤村昭代
山帰来若葉して山の雨走る 内藤吐天 鳴海抄
山車曲る金をはじきて山の雨 鳥羽とほる
山雨すぎし日のかゞやきや稲の花 金尾梅の門 古志の歌
山雨つよし伊香保は秋の夜なりけり 長谷川かな女 雨 月
山雨なほ轟き落ちて夏爐もゆ 松本たかし
山雨に暮れゆく庭の楓かな 流木
山雨また富士を隠せり黒鶫 樋笠文
山雨また来る雲行や懸巣鳴く 岩瀬操舟
山雨去りほたる袋の朝の来し 稲畑汀子 汀子第二句集
山雨急牡丹くづるることも急 安住 敦
山雨急睡蓮すでに花をたゝむ 泉田菟糸子
山雨急秋燕来てはよぎり消え 及川貞 榧の實
山雨来る雲の中なり葡萄摘 水原秋櫻子
山雨烈したゞ籠りゐて秋深み 高濱年尾
山雨過ぎ網を繕ふ女郎蜘蛛 大久保白村
山雨雪となりたる夢は音のなし 山口草堂
岬山の雨に模糊たる花茨 遠藤梧逸
岬山の雨のけむれる桜鯛 石田阿畏子
巫山の雨乞ひべくさかづきに示すのみ 加藤郁乎
常山木咲きひかり重げの山の雨 鷲谷七菜子 花寂び
年の夜の夢に入りたる山の雨 澄雄
引き倒す牛蒡の花や山の雨 鈴木しげを
心太すすれば山雨到りけり 皆川白陀
恵那山の雨叩きゆく栗の花 宇佐美魚目 天地存問
掃苔やまたもはら~山の雨 木戸口金襖子
敷紙や烈しき音の山の雨 宇田零雨
新蕎麦や暖簾のそとの山の雨 吉田冬葉
明日植ゑる杉苗に降る山の雨 八牧美喜子
明易の湯に荒々と山の雨 辻桃子 ねむ 以後
木の芽山雨止む気配して匂ふ 山下美典
朴の芽の数によまれて山の雨 栗生純夫 科野路
朴の香を閉ざす山雨は又晴れて 稲畑汀子
杉玉の新酒のころを山の雨 文挾夫佐恵
松茸の相寄る傘に山雨急 秋元不死男
枯るるものまだあたたかし山の雨 古賀まり子
栗の毬青くて山雨なだれけり 臼田亜浪 旅人
桐高く咲くや会津に山の雨 黒田杏子 木の椅子
梅雨明の近き山雨に叩かれて 稲畑汀子
梨もぐや山雨つばさのごとく去る 桜坡子
水音淙々芽吹きうながす山の雨 福田蓼汀 秋風挽歌
汗に干す羅に湖の山雨かな 島村元句集
沙羅咲けば音立ててくる山雨かな ふけとしこ 鎌の刃
滴りや山雨は晴るゝことはやし 高木晴子 花 季
火が呼びし山雨に濡るる能舞台 山本つぼみ
火祭の大蛾にしぶく山の雨 飯田龍太
炎昼の屋久島俄かなる山雨 桑田青虎
煽ちては山の雨呼ぶ枯かづら 中村祐子
牡丹にはなればなれの山の雨 松澤昭 父ら
牡丹を双子見てゐる山の雨 大木あまり 火のいろに
男体山の雨となりたる躑躅かな 皆川盤水
百八灯しづめの山雨来たりけり 上田五千石 森林
石楠花の瑞枝に山雨到りけり 石井桐蔭
秋の草まつたく濡れぬ山の雨 飯田蛇笏
秋の草全く濡れぬ山の雨 飯田蛇笏 山廬集
稗干して午後はくづるる山の雨 大津希水
稲妻が磨き山雨が洗ふ杉 田中暖流
稲妻の更けて山雨となり来る 佐々田まもる
立葵いざや山雨を私しす 諸角和彦
竹煮草たたきて山雨はじまりぬ 鷲谷七菜子
筒鳥や日暮れをさそふ山の雨 松本のの女
繍線菊をけぶらせて過ぐ山の雨 瀬藤もと子「新山暦俳句歳時記」
置かれある精霊花に山の雨 金箱戈止夫
群れ咲ける仙翁へはや山雨来る 伊藤敬子
羽抜鶏追ひこむ山雨しみし門 米澤吾亦紅
老鴬や晴るるに早き山の雨 成瀬櫻桃子
老鶯や音たててまた山の雨 有働亨 汐路
色鳥やきらきらと降る山の雨 草間時彦
花ぎぼし山雨したたりそめにけり 太田 嗟
花くえて山雨あやなし暮の春 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
花時雨てふ深吉野の山雨来る 角川春樹
苗障子鼓打ちして山の雨 澤村昭代
草団子盧山の雨を見にゆかな 橋本 薫
萍のひろごりあへぬ山雨かな 草堂
葉桜や滝津瀬となる山の雨 石塚友二
蕗の葉や斜めに通る山の雨 黛 執
蕗刈るや山雨のはじめ葉を鳴らす 安藤五百枝
蕗味噌に夜もざんざんと山の雨 鷲谷七菜子 花寂び
薄氷をたたき割りたる山の雨 大串章(1937-)
虹鱒を焼く火に山の雨の糸 大島民郎
蛭の水叩きて過ぎぬ山の雨 船木みち子
蛭落ちて山雨の冷えの走りけり 鷲谷七菜子 花寂び
蜜柑山の雨や蜜柑が顔照らす 西東三鬼
蟹筌を沈めゐる子に山雨急 江口竹亭
行春の苔に色ある山雨かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
見るかぎり暗き山雨や滑 木暮才々
貝母咲くあえかにけぶる山の雨 つじ加代子
起きて醒めて秋打ひゞく山の雨 石塚友二 光塵
足早に山の雨来る門火かな 渡辺浮美竹
邯鄲とききしが山雨俄なり 甲賀山村
降りいでて落葉をさそふ山の雨 麦南
雪渓を貫く如き山の雨 小竹由岐子
青胡桃音さき立てて山の雨 高田秋仁
音たててくさぎの花に山の雨 長谷川素逝 暦日
音たててまた来る山雨藤袴 福田蓼汀 秋風挽歌
音たてて走る山雨や著莪の花 前津 栄子
音たてて降る落葉松を山雨とも 福田蓼汀 秋風挽歌
高原に山雨到れば夜の秋 高濱年尾
髪解けて夏の寒さやお山雨 長谷川かな女 雨 月
鮎一尾反りて山雨のざんざ降り 鳴瀬芳子
鮎焼くや底抜け降りの山の雨 橋本榮治
鮎膾山雨弾みて到りけり 山口草堂
鶺鴒のなぶり出しけり山の雨 一茶
●山塊
冬夕焼山塊を押し戻し来る 行方克巳
小梨咲き鳳凰山塊朝蒼し 水原秋櫻子
山塊にゆく雲しろむ秋思かな 飯田蛇笏 椿花集
山塊のいづこか欠けて寒鴉 村越化石 山國抄
山塊の日あたりながら霜気満つ 飯田蛇笏
山塊の月の仏法僧遠音 中村將晴
山塊の荒息と霧押し昇る 林翔 和紙
山塊を雲の間にして夏つばめ 飯田蛇笏
百千鳥ほうと山塊せりあがり 斎藤梅子
襞削ぎて穂高山塊夕月夜 猪俣サチ
見張鳰山塊に枯れ到りけり 宮坂静生 春の鹿
陸地皆黒き山塊納涼船 右城暮石 上下
雪光をはなち山塊ゆるびなし 石原舟月
雲被る妙義山塊梅雨兆す 塩川祐子
霙れつつ山塊春を押しもどす 白岩 三郎
青緑の山塊を霧のこしけり 佐野良太 樫
風邪神駈け妙義山塊ぐらぐらす 河野南畦 『元禄の夢』
●山岳
乗り換へし山岳バスにきりぎりす 杉田竹軒
山岳も村も眠りは黒かりき 森下草城子
山岳を見ぬ英仏や草の秋 河野静雲
山岳書増えて書棚も夏に入る 河野南畦 『元禄の夢』
山岳部歌湧きて雲海ひらきたり 神田 岩魚
音がしそうな谷 画く 十七歳の山岳地図 伊丹公子 メキシコ貝
凧白く山嶽を引き絞りけり 大串章
菜の花や山嶽稜々むらさきに 川崎展宏
雪やみて山嶽すわる日のひかり 飯田蛇笏 春蘭
霧の夜は門に山嶽ねしづみて 飯田蛇笏 椿花集
●山気
うかと穴出でたる蟇の山気かな 小島健 木の実
ぞく~と山気背襲ふうるし掻 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
てのひらに滲み入る山気一位の実 井沢正江 湖の伝説
むらさきの山気そのまま沢桔梗 渡辺恭子
一の鳥居くぐれば山気登高す 穂坂日出子
反閇にゆらぐ山気や花神楽 白井爽風
夏深く山気歯にしむ小径かな 室生犀星 犀星發句集
夕風の山気かなかなおのづから 大久保橙青
定家かづら山気少しく動きけり 永方裕子
山気やや渓ほとばしるやま桜 長谷川櫂 古志
山気凝りさゆらぎもなき花の夜 稲岡長
山気凝りほたる袋のうなだれし 稲岡長
山気十分吸ひし鶯ききにけり 角光雄
山気吸ふ室生の深き木下闇 稲畑汀子
山気夢を醒せば蟆の座を這へる 乙字俳句集 大須賀乙字
山気当つひろげ通しに鵜の濡れ羽 加藤耕子
山気澄みただよひそめし茸の香 松下信子
山気降り通草に色を紡ぎ足す 加藤耕子
暁の山気身に沁む夏書かな 佐藤紅緑
梨汁のねばりや山気ただならず 栗生純夫 科野路
椿の朱は 観音の唇 山気満つ 伊丹公子 山珊瑚
水引の紅の一点づつ山気 山田弘子 こぶし坂
汚れなき緑の山気摩耶詣 桑田永子
泥湯温泉山気令法を引き締むる 高澤良一 素抱 七月-九月
湯ざめしてにはかの山気かむりけり 上田五千石
滴りのひとつ一つの山気かな 山口草堂
白扇を用ひて山気そこなはず 上田五千石 琥珀
神南備のにはかに山気玉霰 斎藤梅子
立ちのぼる春の山気や一位谷 能村登四郎
薄紅葉いま安達太良の山気かな 雨宮きぬよ
蛇笏忌の山気つらぬく鵙の声 小倉英男
走馬燈軒の深きに山気満ち 小林紀代子
●山居
國破れて蜘蛛に宿かる山居かな 中勘助
壁までが板であられの山居哉 炭 太祇 太祇句選後篇
山居しぐれてけづる牛蒡のかをり哉 中勘助
山居してただ雲の峰仰ぐのみ 浅井青陽子
山居よし一水葛の花がくれ 中田余瓶
榾の火にあやしき僧の山居かな 黒柳召波 春泥句集
満月を庵一杯の山居かな 中勘助
百里来て結夏に参ず山居かな 河東碧梧桐
鈴虫に山居暮れたる窓閉ざす 尾亀清四郎
飯煮ゆる昔もゆゆしき山居かな 中勘助
●山系
きりぎりす奥羽山系横たへて 高澤良一 素抱 七月-九月
さがし居り白山山系のなかのいもうと 阿部完市 にもつは絵馬
たでの花阿蘇山系は水の音 穴井太 原郷樹林
丹沢山系新らの雪置きだるま市 高澤良一 寒暑 一月-三月
凛々と蔵王山系霜日和 草間時彦 櫻山
抽斗の中の月山山系へ行きて帰らず 西川徹郎 月山山系
日雀鳴き阿武隈山系漂はす 松本進
汝にふさふ流謫地として朝焼けの阿讃山系横たはりたり 紀野恵
白山山系立山山系神渡し 橋本榮治 逆旅
蓮の葉より月山山系へ足懸ける 西川徹郎 月山山系
銀芒丹波山系光りけり 岩崎照子
非時(ときじく)の蝶が白山山系に 柿本多映
●山湖
あさあけや鴛鴦のみ渡り来し山湖 松村蒼石 雁
そぞろ寒山湖すれすれ雲覆ふ 岡田日郎
まひまひに山湖の広さかぎりなし 西田浩洋
スノードロップ山湖の空気透明にて 有働亨 汐路
一本のバナナ分け喰ふ山湖かな 尾崎木星
冬木風山湖の蒼さ極まりぬ 金尾梅の門 古志の歌
冷やかな程なつかしき山湖かな 須藤常央
凍て蝶のきらめき渡る山湖かな 中川宋淵
古雛とほき山湖の濃むらさき 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
夏木立映して山湖静止せり 直原玉青
夫婦山湖をへだてて閑古鳥 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
山湖ただ月天心の閑けさに 村田脩
山湖ひたす星影見ても秋来たり 乙字俳句集 大須賀乙字
山湖今篠突く雨や未草 松尾白汀
山湖対岸秋冷の灯の一つのみ 村田脩
山湖澄み石投ぐことに怖れあり 大橋敦子
山湖澄み空と檀の実と映る 岡田日郎
岩燕明日なきごとく翔ぶ山湖 谷口和子
敦盛草山湖の霧の来てつつむ 平賀扶人「風知草」
新月の山湖に育ちつつありし 田村おさむ
新涼や山湖の色の靄離れ 乙字俳句集 大須賀乙字
星飛んで山湖の芯を波立たす 松村多美
父と子へ紫紺の山湖ラムネ抜く 佐川広治「光体」
白地着て山湖の魚にならばやと 野澤節子 花 季
紅葉かつ散る 山湖の就眠儀式 いま 伊丹三樹彦 樹冠
胸に曳く山湖の暗さ通し鴨 加藤耕子
舟底型の道は山湖へみすぢ蝶 平井さち子 完流
草の丈つくして山湖避暑期果つ 山本 雅子
草原も山湖も梅雨のふところに 藤浦昭代
草蜉蝣真昼の山湖呟ける 望月紫晃
足もとに梅雨の山湖のなぎさ澄む 皆吉爽雨 泉声
遠吠えの山湖を渡る薬喰 関森勝夫
雉子笛に山湖の波は盲縞 北野民夫
雪解水注ぎ山湖の色となる 山田弘子 こぶし坂
雲は貴婦人山湖の冬は終りけり 有働亨 汐路
風花の山湖夕日の翼澄む 岡田日郎
鰯雲ひろげて無垢の山湖照る つじ加代子
鳥渡る山湖の張りは珠をなし 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
鴨引いて山湖は藍をふかめけり 福原ふじこ

以上

# by 575fudemakase | 2022-05-22 15:12 | ブログ

波2  の俳句

波2  の俳句


●波足
波足のゆるきときあり桜貝 鈴木美根子
朝焼の波足もとに来て青む 三谷昭 獣身
戦死者の沖からの波足濡らす 林田紀音夫
●波荒れ
ご神事の和布刈に門波荒れやまず 西村草生
凧の尾に相模の海の波荒ぶ 市川東子房
午後よりは磯波荒し富士薊 道川虹洋
卯波荒れ海鳴近き夜なりけり 松本穣葉子
成人の日の昏れぎはの波荒ぶ 館岡沙緻
掛け時計冬波荒るゝ船中に 右城暮石 上下
日本海の波荒き日も枇杷ちぎり 鈴鹿野風呂 浜木綿
早稲の香やはや波荒き能登の海 村田よう子
昆布育つ海といふ波荒きかな 川口咲子
春寒の安宅の関の波荒し 守岡千代子
最果て夏どの過去よりも波荒く 山本つぼみ
母子草浦波荒びそめにけり 黒川龍吾
水鳥に夕波荒くなりて来し 浜田一枝
波荒き襟裳岬や鳥渡る 中川水歩
波荒し月見の舟は出せぬとか 中井余花朗
波荒ぶ日はそら豆を海女が摘む 久保 乙秋
波荒るゝ入江の月の千鳥哉 千鳥 正岡子規
波荒れてゆらぐ利島や冬苺 水原秋桜子
波荒れて悲しき星の別かな 比叡 野村泊月
波荒れて鰰漁の活気づく 若狭得自
流氷や宗谷の門波荒れやまず 誓子
海猫と鵜の島を二つに波荒るる 高橋良子
湖のけふ波荒し遅ざくら 豊田八重子
燦然と波荒るゝなり浮寝鳥 芝不器男
燦爛と波荒るゝなり浮寝鳥 芝不器男
白鳥に夕波荒くなりにけり 奥田紫峰
米山の霞める今日も波荒し 堀前小木菟
言問橋川波荒るる十二月 高橋良子
●波幾重
きりぎりすいぶかりきくに波幾重 水原秋櫻子
城濠にさざ波幾重今朝の秋 山内遊糸
崩れては寄する秋濤幾重にも 清崎敏郎
巨濤幾重沖の夏雲襞もちさく 香西照雄 素心
早稲の穂に能登より寄する波幾重 河北斜陽
梅林の疎密を透きて浪幾重 福田蓼汀 秋風挽歌
●波打際
あまりにも波打際を遍路行く 大牧 広
名付けられざる波打際を匍ふ花火 夏石番矢 猟常記
朝寒う波打際をあるきけり 寺田寅彦
死魚なぶる波打際の秋の声 白井房夫
民宿や波打際の花筏 小倉民子
水着濃く波打際を騎りゆける 相生垣瓜人 微茫集
波打際で働くことは祈ることだ 夏石番矢 神々のフーガ
波打際空にもありて揚花火 都筑智子
海雲寄る波打際の島の迹 大野岳翠
白桃や家の中にも波打際 大坪重治
開発の波打際の春キヤベツ 島貫アキ子
●波打つ
すべて打消す冬の河逆波立ち 津田清子 礼 拝
仇波の打てはかへす島邊哉 正岡子規
冬波のもんどり打つて戻りけり 鈴木真砂女 夕螢
冬波は打合へりわが船北へ 高濱年尾 年尾句集
利根の波鰡打ちあげし野分かな 皆川盤水
卯波立ち小貝打ち上ぐ阿尾の浦 竹中恭子
名月や雄波雌波の打ちがひ 名月 正岡子規
吹雪河野鼠のむくろを波が打つ 鳥居おさむ
土用波杭打ち込んで馬つなぐ 村上しゅら
夕波のひびき戸を打つ遍路宿 田守としを
大寒の陸打つて波おどろけり 斉藤美規
寄す波の打つ船腹もおぼろかな 堀田春子
弁天の琵琶の卯波に打ち消され 木村紀美子
打ち跼み芒の波のかむさり来 上野泰 佐介
打ち返す波の若布は刈りにくゝ 稲吉楠甫
打よする波をふまへて鰯曳く 高濱虚子
打よする藻屑も寒し波の跡 乙由 (阿漕浦)
打よする連銭波や*えりを挿す 西山泊雲
打水か波か軒端のきらきらす 岩田由美 夏安
捨水の波を打ちゆく蓼の溝 山口青邨
春の夜や重たう打てる波の音 小杉余子 余子句選
桜貝ゆら~波が打ち上げし 細見綾子 花寂び
橋の灯の波に脈打つ立夏かな 藤原千紗子
櫓の声波ヲ打つて腸氷ル夜や涙 芭蕉
波に打つひかりの楔冬鴎 加藤耕子
波に打つひかりの楔浮鴎 加藤耕子
波を繰返し菱の実打寄せる 依田明倫
波暮れて牡蠣打小屋に灯の点る 藤井すみ子
波返し打つ間拍子を藤浪す 内田百間 新輯百鬼園俳句帖
流れ海苔小磯の波に打たれけり 安斎桜[カイ]子
海ひらく波に打ちこむ大太鼓 前田 青紀
石を打つ波まぶしくて小春凪 土屋みね子
磯浜や花打ちあぐる波の跡 花 正岡子規
磯鴫や真野の浜打つ片瀬波 坂井ひとし
稲穂波そぞろ打ち合ふ神楽の里 高澤良一 鳩信
胸を打つ麦秋の波焦げ臭し 櫻井ハル子
胸元で打つ波 船の毛布は 白 伊丹公子 メキシコ貝
艪の声波を打って腸凍る夜や涙 艪声波を打って腸凍る夜や涙 松尾芭蕉
花の日の岩打つ波の白く柔ら 村田脩
花石蕗の波大亀の骸打つ 谷川火鳥
若布採腰打つ波となじみけり 白井新一
陽炎を打ち消す磯の男波哉 陽炎 正岡子規
高蘆に打ち込む波や青嵐 臼田亞浪 定本亜浪句集
●波裏
波裏に都ぞあらむ雛送る 角南星燈
水鳥に来て波裏を反しけり 平井照敏 天上大風
子どもらへ盆波裏を見せにけり 蓬田紀枝子
松島の波裏もまた小六月 高野ムツオ
●波音
いちにち物いはず波音 種田山頭火(1882-1940)
かたばみの花に波音休暇村 木村蕪城
ここから浪音きこえぬほどの海の青さの 尾崎放哉
ちぎり絵に濤音ありぬ夏つばめ 河野多希女
とべらの実浪音に殻割れんとす 大熊輝一 土の香
どーんと波音日向に覚めて石蕗の花 有働亨 汐路
はしり蕎麦濤音つのりきたりけり 齋藤玄 飛雪
はまなすや濤音慣れの昼寝漁夫 河野南畦 湖の森
はららご飯濤音いつか納りし 岸田稚魚
ひねもす曇り浪音の力かな 尾崎放哉
ひよんの笛吹けば波音風の音 稲畑汀子
ひる顔の夢は波音ばかりなり 西沢和子
ふるさとの波音高き祭かな 鈴木真砂女(1906-)
みくまのゝ波音聞きて初湯かな 桑田青虎
みちのくの濤音荒し望の夜も 成瀬正俊
オリーブの花へ波音高き午後 平井伊都子「新山暦俳句歳時記」
ホテルの浪音もなくうすら眠うものかく 梅林句屑 喜谷六花
ポケットに生るる波音さくら貝 清水久子
ワイキキの波音ごもり昼寝覚 古賀まり子
一ツづゝ波音ふくる夜長哉 夜長 正岡子規
一度だけの波音冬日昏れにけり 桂信子 黄 炎
一湾の凍て浪音を封じけり 大島早苗
伊豆はあたたかく死ぬるによろしい波音 山頭火
冬すみれ石垣は波音に慣れ 山崎正枝
凍蝶に濤音いつも遥かなり 鷲谷七菜子 雨 月
切株に波音のあり抱卵期 増成栗人
刳舟に座れば 波音 魚の声 伊丹公子 アーギライト
十夜寺濤音ひとつとどろきぬ 小澤謙三
午後よりは眠し雲雀も浪音も 阿部みどり女
古道は濤音ごもり新松子 六本和子
囀りやよべの波音引絶えて 石塚友二 光塵
土佐の濤音サングラス外し聴く 田中英子
夏蚕飼夜は浪音に籠りけり 大野林火
夕靄のなかに波音小六月 角川春樹
夜くだちて浪音ばかり松の内 高浜虚子
夢にまで浪音重ね年詰る 伊藤京子
大いなるけふの浪音荒布干す 平尾楽山人
太古より湖の波音浜ひるがほ 鈴木隆子
実朝の忌の浪音を聴きに来し 大野崇文
実朝忌由井の浪音今も高し 高浜虚子
寶舟須磨の波音聞えけり 宝船 正岡子規
山越しに濤音聞ゆ十三夜 西山泊雲 泊雲句集
巌風呂に濤音こもる神無月 坂本山秀朗
帚目に載る波音や西行忌 池田弥生
庭番と濤音を聞く夕霞 鈴木鷹夫 大津絵
後の雛濤音ひびく床柱 田中英子
房総の高き波音秋刀魚買う 長田美智子
敦盛塚浪音聞かず花散らず 岡部六弥太
春の波音きくべし眼閉づるべし 鈴木真砂女
春やこの波音やさしくりかへし 齊藤美規
春寒き舟の波音さびしみつ すみだ川 新井聾風
春愁や湖に波音あることも 徳田千鶴子
昨日今日波音のなし白子干 清崎敏郎
昼寝覚め波音高くなりゐたり 川村紫陽
暮しの中の波音烏賊の白乾され 鈴木六林男 第三突堤
最はての濤音重ね手鞠唄 古賀まり子 緑の野以後
望の夜の波音に舞ふ安乗木偶 山下千代子
村ぢゆうに濤音ひびく冬柏 永田耕一郎 方途
松の奥浪音涼し御用邸 五十嵐播水 播水句集
柚子の花波音空にのぼりけり 市川恵子
梅干して夜は波音の近きかな 礒江沙知子
横走る渚波音日短し 染谷彩雲
歳明くる濤音國の四方つゝむ 長谷川素逝
毛糸編む遠く波音くりかへし 永田清子
沖に波音なくためて冬の靄 上窪則子
波 音 強 く し て 葱 坊 主 山頭火
波音かしぐれか旅寝うつゝなる 内田准思
波音がすぐそこにある大根引 加藤岳雄
波音が月光の音一人旅 坪内稔典
波音にくもる裸灯蜜柑選る 石本秋翠
波音になごむ松籟春ここに 及川貞 夕焼
波音にまぎれぬ虫や門草に 雉子郎句集 石島雉子郎
波音にまさりて蝉の岬あり 八木林之介 青霞集
波音にむせび酢蛸に咽びける 安達実生子
波音にポスター吹かれ海の家 田村恵子
波音に亡き声のあり送南風 川合憲子
波音に寒夜枕を深く当つ 井上雪
波音に榎の実こぼるる港阯 木村蕪城
波音に歩を合はせゆく小春かな 松田美子
波音に耽りこころまで海月 吉持愁果
波音に背ナ向けてゐる座禅草 小池槇女
波音に鉄道草の月日あり 高野ムツオ
波音のいちにち高し金盞花 水田光雄
波音のいつか遠のく篭枕 上 慶子
波音のうつつに寄せて初明り 稲畑汀子
波音のおほひかぶさり来る暑さ 今井千鶴子
波音のけだるきキャンプたたみけり 行方克巳
波音のけふのびやかに袋掛 赤尾冨美子
波音のこもりし髪を洗ひけり 片山由美子 風待月
波音のすぐそこにあり十夜寺 福川悠子
波音のせぬは不思議や松露掻 森田峠 三角屋根
波音のせぬ不思議さや松露掻く 森田峠
波音のたえずしてふる郷遠し 山頭火
波音のときをりひびく新障子 片山由美子 水精
波音のなくて寄す波朝ぐもり 水野宗子(麓)
波音のねむたくなりし浴衣かな 細川加賀 『玉虫』
波音のほかを忘れてゐてのどか 保坂伸秋
波音のまくれ上れる春の雪 行方克巳
波音のをりをり漏るる朧かな 林 千恵子
波音の中の人声明易し 中村雅樹
波音の丸くかへりぬ月日貝 百瀬美津
波音の四方に聞ゆる冬瓜かな 八木林之介 青霞集
波音の大王岬の蚊と生れ 波多野爽波 『骰子』
波音の如き風音十三夜 石川喜美女
波音の引く音ばかり落椿 行方克巳
波音の改りたり初明り 高浜年尾
波音の早稲田を囃し出雲崎 小島健 木の実
波音の昏れし水仙畑かな 行方克巳
波音の暮色まとへり袋掛 西村博子
波音の月にからまるごと朧 郷 のぶこ
波音の朝の芒に高まりし 奥田智久
波音の消えて山みち出開帳 大峯あきら 鳥道
波音の湖にもありぬ流し雛 神崎 恵
波音の灯をくらくする山蛾かな 太田鴻村 穂国
波音の由比ケ浜より初電車 高浜虚子(1874-1959)
波音の筵成したり桜えび 佐野鬼人
波音の耳をはなれぬ無月かな 片山由美子 天弓
波音の落ちて盂蘭盆沖暗し 鈴木真砂女
波音の蘇鉄にひびく甘茶寺 荻原芳堂
波音の遠くにありしおぼろかな 田井野ケイ
波音の須磨をはなるゝ汐干哉 汐干狩 正岡子規
波音の高き日続く種浸し 茨木和生 三輪崎
波音の高き湖畔を鍋の渡御 廣瀬凡石
波音の高まる雪を割りにけり 陽美保子
波音は光りと消えて花アロエ 原 天明
波音は妻恋ふしらべ防風摘む 山田弘子 こぶし坂
波音もいつしか忘れ防風摘む 御堂御名子
波音も星も真近きバルコニー 永野由美子(阿蘇)
波音も木の国の音栄螺焼く 藤井冨美子
波音やひるの薊のかげもなし 田中裕明 花間一壺
波音や不漁鰊場の犬が吠ゆ 清崎敏郎
波音や夜目に仰ぎて寒ざくら 及川貞 夕焼
波音や弁天様の孑孑に 岸本尚毅 舜
波音や応挙の銀の屏風より 三浦久子
波音や抱けばつめたき秋日傘 井上弘美
波音を同行として秋遍路 芳西兌子
波音を掬ひてゐたり*いさざ舟 関戸靖子
波音を聞きしばかりの野梅かな 青木重行
波音を聞きちやつきらこ歌まねる 寺田木公
波音を聞きに来てゐる卒業子 山田弘子 螢川
波音を豊かに容れて夏座敷 柴田奈美
波音を近づけてゐる端居かな 稲畑汀子
波音を離れて春の月となる 星野椿
波音を離れコートの襟を立て 高澤良一 随笑
波音を風除少し遠ざけし 稲畑汀子
泳ぎゐてとほき波音に恍惚す 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
浪子碑に波音絶えず冬かもめ 岩村森子
浪音あかるく砂浜のまろみ青めり シヤツと雑草 栗林一石路
浪音にあらがふいのち鬚髯白く 篠原鳳作 海の旅
浪音にまろねの魂の洗はるゝ 篠原鳳作 海の旅
浪音にまろ寝の魂を洗はるゝ 篠原鳳作
浪音に暮るゝ日おそし豆の花 吉川春藪
浪音に気づきて跼む苺園 横山白虹
浪音のしば~変る夜半の秋 雉子郎句集 石島雉子郎
浪音のどどとくずれて国ありや 栗林一石路
浪音のゆるい冬陽の蜜柑ちぎつている 橋本夢道 無禮なる妻抄
浪音のをりをりとどく屏風かな 矢島久栄
浪音の今宵は遠し草朧 本井英
浪音の冬に入りたる色ヶ浜 森田公司
浪音の夜は遠流めく柳葉魚焼く 菊地滴翠
浪音の由比ヶ浜より初電車 高浜虚子
浪音の空にしてゐる棗の実 茨木和生 木の國
浪音の部屋にとどけり松納 洞 久子
浪音は春のこころをかきたつる 阿部みどり女
浪音も夏に入りけり健吉忌 茨木和生 往馬
浪音も静かに暑し綿の花 高濱虚子
浪音をかけしさくらの莟かな 永田耕衣 真風
浪音をひき寄せて野火秀を立つる 原裕 葦牙
浪音を終始奏上先帝祭 竹腰八柏
浸蝕の波音背戸に雁供養 岡田波流夫
深海の波音聞こゆ立浪草 小玉真佐子
湖岸打つ波音その夜炉を開く 中嶋秀子
濤音にしぐれのまじる行幸宿 宮武寒々 朱卓
濤音に太鼓ぽと~一の午 河野静雲 閻魔
濤音に犬の追はるる海開き 高澤良一 素抱
濤音に耳をあづけて雪の旅 古賀まり子 緑の野
濤音に芋のころがる雨月かな 齋藤玄 飛雪
濤音に近づくわれも冬景色 黒田杏子 水の扉
濤音に飽きたる椿落ちにけり 谷口忠男
濤音のある夜なき夜も冬籠 蓼汀
濤音のかかるあかるさ初筑波 矢島房利
濤音のどすんとありし雛かな 千葉皓史
濤音のなき日かさぬる百日紅 杉山 岳陽
濤音のはずみ立待月のぼる 池田 菟沙
濤音の中に千鳥の声すなり 岡田耿陽
濤音の天より硯洗ひけり 菅原多つを
濤音の山の奥より多摩二日 宮坂静生 春の鹿
濤音の月日のしだれざくらかな 篠崎圭介
濤音の萱にはずみて明治節 齋藤玄 飛雪
濤音の賀状深雪の賀状かな 大嶽青児
濤音へあけて炭つぐ置炬燵 石田波郷
濤音やうぐひす餅の暗くあり 鈴木鷹夫 大津絵
濤音やしづかに絮となる薊 鷲谷七菜子 雨 月
濤音や都をいづる梅雨二タ夜 『定本石橋秀野句文集』
濤音や陸稲の中のきりぎりす 増田龍雨 龍雨句集
灯を消して雛も波音聞き給ふ 松内かつみ
瓢(ひょん)の笛吹けば波音風の音 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
瓢の実につく波音のしらべかな 原裕 正午
畑の青菜抜きつくし浪音の冬 人間を彫る 大橋裸木
白がねの濤音ばかり年惜しむ 大村フサエ
白南風や波音とどく萩城址 塚本 清
白蚊帳と波音と吾子をいねしめず 林原耒井 蜩
秋夜ふと浪音にゐて流人めく 柴田白葉女
立秋の退く濤音を心拍と 安東次男
精霊舟いづる波音間遠なる 銀漢 吉岡禅寺洞
胸中に波音湧けり藍浴衣 小島健 木の実
舟屋口洗ふ波音初月夜 久保峰子
舷窓に白らむ濤音秋遍路 伊藤敬子
船過ぎしあとの波音花八つ手 杉立悦子
花火果て湖に波音よみがへる 中西以佐夫
菜の花や沖の濤音逃げてなし 河野南畦 湖の森
萩は花へ波音しるきにさんにち 林原耒井 蜩
萱草に立つ浪音や桂浜 高木晴子
葉月かな濤音遠くあらたまり 藤原たかを
蓬長け波音人を安からしむ 右城暮石
藁屋根に沁む濤音や冬仕度 久米正雄 返り花
虫の間磯の波音なかりけり 友水 清
蛸壺に波音詰まる昼の虫 白井新一
街尽きて波音ありぬ諏訪の秋 深見けん二
補聴器にはづむ波音春きざす 島村野青
襖絵に起る浪音鑑真忌 小畑晴子
角切られ波音に鹿寝べきころ 菅原鬨也
遠き日の父と波音籐寝椅子 清水節子
醒むるたび浪音白し籐寝椅子 中島斌男
野火はるか胸の濤音聴き澄ます 鷲谷七菜子 雨 月
門司小学校波音の運動会 野中亮介
闇深し晩涼の浪音を聞く 高木晴子 花 季
雨音の中の波音ところてん 岩淵喜代子 硝子の仲間
音波電波霊波音響N氏UFO論 五島エミ
風音を波音と聞き浦島草 鷹羽狩行
鰯がしけの町のどよもす濤音 梅林句屑 喜谷六花
黒南風や浪音からむ榕樹林 下村ひろし 西陲集
●波頭
あとからあとから月の出寒い波頭 鈴木六林男 第三突堤
いかづちの乗る北斎の波頭 清家美保子
ぐんぐんと初日波頭を躍り出づ 伊東宏晃
さまざまな波頭のうへの蜻蛉かな 中田剛 珠樹
とことわに逃げるかたちの波頭 齋藤康子
ひかりつつ秋おとろへて波頭 長谷川双魚 『ひとつとや』
トンネル見え雪のみどりの波頭 中拓夫
フレームの光の先の波頭 藤永誠一
一平面率ゐ進めて冬の波頭 香西照雄 対話
三月のまぶしくなりし波頭 亀井 碧
人日の海を出たがる波頭 東野鷹志
八荒や鵜の見え隠る波頭 蟇目良雨
冬の虹生めり波頭の一と崩れ 奈良文夫
初あらし野馬にも似たる波頭 能村研三
吼え盛る高き波頭や鰤の海 船平晩秋
夕凪に月も照り添ふ波頭かな 久米正雄 返り花
夜釣火消す月きよらかな波頭 中拓夫
大寒の湾に攻め入る波頭 山元金子
寒凪や同じ間を置き波頭 前山百年
寒月にそそり立ち折れ波頭 星野立子
巌門の白き波頭や初松籟 塩井志津
待春のふくれ崩るゝ波頭 星野椿
怒りの夜ひかり満ち来る波頭 鈴木六林男
春愁のみなわれに向く波頭 永方裕子
春日燦サンタモニカの波頭 中村初枝
昭和果つ七日の波頭すべて鎖 熊谷愛子
氷店の鏡に午後の波頭 桂信子 黄 瀬
沖に日矢十一月の波頭 星野椿
波頭とびとびくるよ年の神 邊見京子
波頭どどと崩れて春惜しむ 星野 椿
波頭ふれんばかりに春の雁 高畑浩平
波頭よりも真白き初鴎 龍神悠紀子
波頭ラいさぎよかりし初渡船 中村若沙
波頭一人一人が佛頭に 斎藤冬海
波頭冬の没日へしぶき上げ 深見けん二
波頭月のサンバを乗せてくる 星野椿
波頭月の光を得つゝあり 加藤蛙水子
波頭水着の胸にとびつけり 守谷順子
波頭鬱とかへりて春深む 百瀬美津
泳ぎ出る子等に眩しき波頭 久米谷和子
海士が家や鶏頭赤く波頭ラ 野村喜舟 小石川
涼風やいのち競へる波頭 鍵和田[ゆう]子「風月」
濁流の瀬波頭に秋時雨 福田蓼汀 秋風挽歌
焼く鰺の油燃えれば波頭 和知喜八 同齢
狼を連れて熊野の波頭 天津伎依子
目覚めたるけものに春の波頭 西村明
砂の城攫ふ土用の波頭 佐藤信子
秋の暮一睡に見し波頭 小檜山繁子
秋潮の藍のかゝげる波頭 佐藤艸魚
菜の花の強き茎立つ波頭 大屋達治 絵詞
蓬莱や夜目に立ちたる波頭 原 雅子
襖絵の波頭畳へ鑑真忌 浦野芳南
風にとぶ大赤潮の波頭 澤草蝶
鮫ばかり獲れつつ波頭しぶくなり 岡野風痕子
●波風
五十年波風たたず冷奴 永野はる
春の波風より軽く打ち返す(常陸大洗海岸) 上村占魚 『玄妙』
沼氷らむとするに波風たちどほし 橋本多佳子
波風や涼しき程に吹き申せ 涼し 正岡子規
波風を立てて帰りし黒セーター 諸田登美子
石蓴掻く日波風波礁揺るる 山口草堂
雛罌粟に日波風波あそびゐし 館岡沙緻
●波際
波際を歩いて父の日なりけり 今井杏太郎
鳥渡る波際粗き砂の面 毛塚静枝
浪際や茶の花咲ける志賀の里 飯田蛇笏 山廬集
●波煙
●波声
波の声春大根の畑に消ゆ 江藤ひで
千屈菜の群れ咲く波の声もなし 石原八束
波の声春大根の畑に消ゆ 江藤 ひで
リラ濡れて白夜の町の波のこゑ 石原舟月
●波殺し
寒風を殺してゐたり波殺し 大木あまり 火のいろに
波がしらの切れはし凍り波殺 平井さち子 鷹日和
波殺躱せし卯浪に載る鴎 平井さち子 鷹日和
流氷や風を殺さぬ波殺し 深谷雄大
灼くる日の陸に積まれて波殺し 白井房夫
秋濤のうかがひそめし波殺し 行方克己 知音
鱚釣や水かげろふの波殺し 冨田正吉
かいず釣テトラポットに仁王立ち 田中英子
テトラポットの太腿ならぶ鳥曇り 国領恭子
テトラポット冬の怒濤の墓積むよ 百合山羽公 寒雁
冬の濤テトラポットを丸呑みに 清水登江
冬怒濤何の化身のテトラポット 百合山羽公 寒雁
千鳥ゐしテトラポットの錨足 百合山羽公 寒雁
●波先
小春波手まねきほどに波先折る 平井さち子 鷹日和
波先や勢田の水行く朧月 猿雖 俳諧撰集「有磯海」
●波路
風花や波路のはては空青き 水原秋櫻子
鳰浮きあはせたる波路かな 軽部烏帽子 [しどみ]の花
●波飛沫
波飛沫かぶりきし身を春の炉に 久保美智子
郭公の公の聞えず濤飛沫 猪俣千代子 秘 色
すずめらに青波しぶき茄子畑 龍太
らいてふ忌舳先に浴びて波しぶき 黛 まどか
佐鳴湖の中洲の枯へ波しぶき 阿部すず枝
宝前のゆづり葉に波しぶきをり 手島 靖一
春寒き波しぶき見る与論島 今村柳枝
波しぶき上げ初潮の満ち来る 澤 草蝶
波しぶき空ながれゐる茅花かな 中戸川朝人 尋声
波しぶき雪煙となり崖のぼる 中戸川朝人 尋声
白南風や波のうへ飛ぶ波しぶき 長谷川櫂 虚空
磯の鵜や春一番の波しぶき 弘
苺摘む膝下に荒磯波しぶき 神尾久美子 掌
霞む日や人の面に波しぶき 岡本眸
●波繁吹く
●波畳む
あしかびに波押し寄する畳み皺 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
くろぐろと波畳まれて十三夜 河合凱夫
夕波の畳む岬や轡虫 風間 淑
死んでゆく畳の波を月照らす 白井房夫
波畳む壱岐や対馬や星合いぬ 寺井谷子
炉塞いで畳の海に波もなし 炉塞 正岡子規
秋の波畳々として音しけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
箱根鏡波飴のよに畳みけり 徳永山冬子
●波立つ
あをあをと東風波立ちて月いづる 松村蒼石 寒鶯抄
えぞにうの花や誓子の門波立つ 戸恒東人「桜鯛」
かくれ岩あり春の波立ちまさり 高濱年尾 年尾句集
かなかなや硯の海に波立ちて ふけとしこ 鎌の刃
きさらぎの空と真青なり田波立つ 木津柳芽 白鷺抄
これ程の鴨移動して波立たず 鵜飼美鶴
さいかちの莢鳴り湖に波立つ日 中戸川朝人
さゝ鳴にいつか波立つ海の暮 篠田悌二郎
しらうをののぼりくるとき波立てず 坂井たづ子
すべて打消す冬の河逆波立ち 津田清子 礼 拝
ばら黄なり小春ごころを波立たせ 鷹女
ぼてふりの消えて波立つ秋桜 文挟夫佐恵 雨 月
みづうみの喜雨濁りして波立てり 金森柑子
ゆふづくや円位忌の波立ち上り 鍵和田[ゆう]子
カルストの波立つ冠山萌ゆる 石原八束 空の渚
ベッドより長き手と足卯波立つ 森田智子
一握の餌に波立つ鴨の湖 田名部登美
一村の波立つ障子洗ひをり 今瀬剛一
七十路を越えて寒泳波立てず 鈴木 照子
凩に波立つ沼を今日の証し 下山光子
凩や我に向いて波立ちあがる 凩 正岡子規
切干や海波立つること忘れ 高澤良一 鳩信
初富士や宗吾の渡舟波立たず 石井とし夫
北斎の波立ちあがる冬隣 笠井香芳里
午後からの沼の波立ち源五郎 木内彰志
南風の波立ち上るより駈け出しぬ 西村和子 夏帽子
卯波立ち小貝打ち上ぐ阿尾の浦 竹中恭子
卯波立つバス江ノ電に追ひ越され 小竹梅堂子
卯波立つ中を戻り来大漁旗 吉川一竿
卯波立つ沖へ乗り出すえっさ丸 高澤良一 寒暑
卯波立つ雲仙岬をなすところ 田村木国
堀割の波立つことのなき薄暑 片山由美子 水精
宇治川に波立ちて来ぬ青簾 田村木国「大月夜」
室内プール波立つ 教師も母子も若く 伊丹公子 機内楽
小さき堰波立てゝをり春の川 高木晴子 晴居
山上湖とゞろ波立ち日の寒き 石塚友二 方寸虚実
山椒の芽さゞ波立てて拡ごりぬ 渡辺桂子
巌流島舟より低し卯波立つ 堀青研子
廃運河何に波立つ雪の中 水原秋櫻子
御座船に波立ちあがる放生会 福島けい子
急霰のはしり波立つ鯛生簀 石原義輝
恵方かな礁山に波立ちあがり 岡本まち子
慈悲心鳥落葉松の秀の波立てる 瀧 春一
指くめば心音の波立夏かな 野澤節子 『駿河蘭』
掛大根沼に波立ちゐたりけり 荻野忠治郎
断崖に波立ちあがる石蕗の花 岡本芳子
新涼や浴槽に波立てている 知念茶々
旅人に運河波立ち降る霙 有働亨 汐路
日のましたはるかはるかに波立てり 荻原井泉水
早苗田に水波立つや辰雄の忌 安田千夜子
星飛んで山湖の芯を波立たす 松村多美
春水にさゞ波立つは日高散る 篠田悌二郎
春航ぞ殉教の地へ舳波立て 友岡子郷 遠方
昼すぎてやゝに波立ち沖膾 篠田悌二郎
時間波立ち ベンツに睡る 老華人 伊丹公子 機内楽
最果志向 阻み 波立つ珊瑚の海 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 島嶼派
月餅をほほばり西湖波立たず 阿波野青畝
木曽川の波立ちやまぬ雁渡し 鷲谷七菜子 花寂び
机見れば木目波立つ夜寒かな 木歩
机見入れば木目波立つ夜寒の灯 富田木歩
楽浪の志賀に初波立ちにけり 高澤良一 燕音
水平線波立ち見ゆる寒日和 大橋敦子 匂 玉
水田多く見えて波立つ寒い夏 能村登四郎
水草の花夕空を波立たす 青柳志解樹
水郷は空も波立つ吹流し 町田しげき
氷波立つ男宮女宮とひきさかれ 平畑静塔
法難会日蓮岬卯波立つ 遠藤止観
波たちて波立ちて生ふ水草かな 池内たけし
波立ちて只揺れてゐる水澄 松藤夏山 夏山句集
波立つ瀬奥嶺の雪の解けそめたり 大島民郎
波立てて霧来る湖や女郎花 水原秋櫻子
波立てば逆立ちもする海雲かな 岡田耿陽
波立てる岸辺の草の駒返る 浦野せつを
波立てゝ二百十日の出船かな 月舟俳句集 原月舟
波立てゝ何故に鴨陣をとく 高木晴子
波立てゝ生簀涼しや闇の中 増田龍雨 龍雨句集
波立や野分のあとに合歓の花 神蔵 器
浮巣見に舟波立てず近よりぬ 中野博子
浴槽に熱き波立つ夕桜 櫛原希伊子
涸河の水海となる波立てり 松村蒼石 寒鶯抄
湖に波立ちて芋煮の火を煽る 五十嵐春男
湾内も白き波立つかじめ干 杉崎あさ
漕ぎ入りて四方の海苔麁朶波立つや 大橋櫻坡子 雨月
瀬波立つ花火日延となりし川 後藤夜半 底紅
焼岳や雲海に波立ちはじむ 内藤恵子
熊蜂の嬉々とゐて宙波立ちぬ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
牡蛎*ひびに白き波立つ良夜かな 石原令子
犬吠埼へ波立ち上がる初日の出 水野澄子
産卵の*いもり夕波立ててをり 三原蛙子
白波の背波立つあり鮭のぼる 皆吉爽雨 泉声
白魚のさざ波立てる桝の中 串上青蓑
百舌鳥鳴くや夕波立ちし渡船場 長谷川草洲
盆の月鯉むらがりて波立てず 高井北杜
神傅流夫の泳ぎは波立たず 及川貞 夕焼
秋の波立ち上るより翳を抱き 西村和子 窓
秋桜七色の波立たせをり 新庄圭造
秋燈や女寝に立つ髪に手を 波多野爽波 鋪道の花
空也忌の波立ち上がり立ち上がる 雨宮きぬよ
竹植うる此日江水波立てり 高田蝶衣
経師屋の夜なべの紙は波立ちぬ 斉藤夏風
羽衣の松玲瓏と卯波立つ 松野自得
花太藺ささら波立つ風消えて 乾 節子
茎もたぬ蒲公英に波立ち上る(安房鴨川二句) 殿村菟絲子 『路傍』
蓮見舟蛇の骸を波立たせ 佐々木六戈
蓴生ふところさざ波立つところ 高崎武義
蜻蛉の行手波立つ最上川 斉藤夏風
補植する歩ごと波立つ深田かな 野木民子
赤腹に波立ち暮るる湖白し 原柯城(馬酔木)
赤腹の波立ち暮るる湖白し 原柯城
送火や濤より子波立ちあがる 中拓夫
金印の島あおあおと卯波立つ 松岡耕作(天籟通信)
阿賀野川あを波立てり初さくら 篠田悌二郎
雛静か琴は袂楽を波立てつ 河野多希女 両手は湖
鞁(むながい)置く熱砂さみしく波立たせ 対馬康子 愛国
響灘波立てれども西鶴忌 橋本鶏二
風のない涼しさよしんと葉波立ち 室生犀星 犀星発句集
食器洗う白き運河に卯波立つ 綾野南志
鮎鷹に宍道湖の波立ちそむる 川瀬カヨ子
鯔群るる音の波立ち走るなり 山上樹実雄
鯛荒し寄せたる網に背波立て 上杉緑鋒
鳶の笛東尋坊に卯波立つ 橋元信子
黎明のさゞ波立ちぬ蓮の花 佐野青陽人 天の川
黒髪も風に波立つ春岬 丸毛房子
●波散る
杖洗ふゆふべ残花の波に散り 黒田杏子 花下草上
波の穂の金色に散る実朝忌 大木 茂
海蝕巌草も穂をなし波へ散る 河野南畦 湖の森
清瀧や波に散込む青松葉 芭蕉
環礁に飛び散る波の夜光虫 合田丁字路
●波遠し
よもすがら鈴虫近く波遠し 鈴虫 正岡子規
海士の家や若和布干す日は波遠し 蓼太
波遠く退きたるところ蟹の穴 池田昭雄(冬野)
亀の子のはやる手足に波遠し 山下美典
波遠く細螺美しき函の中 山口青邨
●波の綾
●波の泡
磯波の泡波伸びつ金盞花 水原秋桜子
秋風や波の残せし波の泡 鈴木真砂女 生簀籠
貝塚に虫鳴けば白し波の泡 桂樟蹊子
●波の上
ちらちらと初雪ふりぬ波の上 正岡子規
リラを憶えば睡くてならぬ波の上 宇多喜代子
世の夏や湖水に浮かむ波の上 芭蕉「前後園」
世の夏や湖水に浮ぶ波の上 芭 蕉
冬鴎影遅れゆく波の上 福田鴉生
凧揺れて東京の屋根の波の上 青峰集 島田青峰
囮鴨時々鳴いて波の上 深見けん二
夕星(ゆうづつ)は立浪草の浪の上 藤田あけ烏 赤松
夜の秋の蠍座の尾を波の上 片山由美子
宮島の除夜の燈明り波の上 竹下陶子
御影講や千鳥の跡も波の上 三谷耕村
春の日や鴎ねぶれる波の上 闌更
木苺のさびしさ浪子碑波の上 河野南畦
束の間の佐渡や明けゆく卯浪の上 高澤良一 寒暑
波の上は風過ぐばかり天草取 鯉屋伊兵衛
波の上を走る波あり初嵐 岡田耿陽
波の上波のながれて桔梗蘭 吉田紫乃
波の上雨の走れり安房の冬 中戸川朝人 残心
涼しさや月徒渉る波の上 石塚友二 光塵
紅梅や日はくらくらと濤の上 鈴木鷹夫 大津絵
船ゆきて日覆も波の上ゆけり 山口波津女 良人
虚子の忌の伊予が近づく波の上 鈴木鷹夫 風の祭
蝶舞へりペーロン発ちし波の上 朝倉和江
行く春に塵をも付けず浪の上 中村史邦
補陀落や滝の聳ゆる波の上 春樹 (海上より那智の滝を望む)
陽炎や冬荒浪の砂の上 東洋城千句
韃靼の蝶のあしあと波の上 齋藤愼爾
餅花や淡路はくらし波の上 斎藤梅子
*はまなすや波のうへより濤襲ひ 岸風三楼 往来
波のうへに秋の咲なり千種貝 千代尼
波のうへに花浮き花や遠ロシヤ 大屋達治 繍鸞
白南風や波のうへ飛ぶ波しぶき 長谷川櫂 虚空
●波の音
*えり解いて畳の上に濤の音 古館曹人
*はまなすや波の音聞く水枕 雪島東風
あいの風防波堤うつ濤の音 藤井紫水
あたたかに忘れがちなる浪の音 中條 明
いつ散りし白薔薇そらを濤の音 桜井博道 海上
きさらぎのあけくれ波の音ばかり 鈴木真砂女 生簀籠
さへづりのすとんとやめば波の音 夏井いつき
しばらくは濤の音して春の月 北崎武
たまさかに浪の音して夜の雪なり 北原白秋 竹林清興
たまさかに浪の音する夜の雪なり 北原白秋
つはぶきの花へうしろの浪の音 鈴木蚊都夫
ながき夜や佛の耳に浪の音 会津八一
はまゆふの白へ紛れる波の音 福川悠子
ぱつたりとやんだ浪の音の夜のダリヤだ 北原白秋
ひともとの櫻に佇てば濤の音 環 順子
ふるさとに春を風邪寝の波の音 鈴木真砂女 夕螢
ふるさとの亥の子といへば波の音 木村蕪城
まひるまの波の音聴く合歓の花 西村和子
もつれあふて涼し松風浪の音 涼し 正岡子規
ゆく春の放送劇に波の音 内田美紗 魚眼石
七浦や安房を動かす波の音 正岡子規
世に遠く浪の音する深雪かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
伊予は梅散りをり濤の音の中 鈴木鷹夫 大津絵
元朝の泳者ぞ潜く浪の音 石川桂郎 四温
冬浪の音の聴きたく障子開け 後藤夜半 底紅
冬浪の音断つ玻璃に旅寝かな 佐土井智津子
冬隣る夜をこまやかや濤の音 小杉余子 余子句選
初夢の土鈴に波の音すなり 水野恒彦
初潮や人は畠に波の音 会津八一
初鶏やひそかにたかき波の音 久保田万太郎 流寓抄
台風の近づいてゐる濤の音 岡安仁義
向日葵の迷路どこまで波の音 小野恵美子
夜に入りて波の音あり避寒宿 中 火臣
夜の秋のすこし間をおく濤の音 小川鴻翔
夜や更けぬ蚊帳に近き波の音 蚊帳 正岡子規
寒念佛聞きわけてまた波の音 斎藤夏風
山吹の根行く輪波の音たてて 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
崎の蝉鳴き出で濤の音をつらぬく 篠原梵 雨
引く浪の音はかへらず秋の暮 渡邊水巴
放哉の卯波の音と聞きゐたり 飯島晴子
料峭のこの道行けば波の音 行方克巳
新藁にかがみて濤の音拾ふ 裕
日脚伸ぶ机の下に波の音 今井聖
早梅の花ほつほつと濤の音 細田寿郎
明月に波の音見るゑくぼ哉 名月 正岡子規
星合の波の音する新羅の壷 飯島晴子
星流れ土偶の眼より波の音 菅野茂甚
春の夜の大きな~濤の音 京極杞陽 くくたち上巻
春の夜の玻璃戸の外の波の音 星野立子
春の夜や重たう打てる波の音 小杉余子 余子句選
春眠のわが身をくゞる浪の音 山口誓子
春風やちよろりちよろりと波の音 春風 正岡子規
昼顔にからむ藻屑や波の音 昼顔 正岡子規
昼顔にひと日けだるき波の音 鈴木真砂女 夕螢
昼顔や砂丘の果ての波の音 鈴木文野
昼顔や老いることなき波の音 青木重行
智恵子碑の残暑とろとろ濤の音 鍵和田[ゆう]子 浮標
月光とまぐはふ波の音ばかり 森壽賀子
村じゅうにある一月の浪の音 岡田 耕治
松落葉元寇の波の音きこゆ 高橋沐石
松過ぎの良寛堂や濤の音 森田公司
枇杷*もぎし山のやせける波の音 木下 慈子
枕かへし冬濤の音ひきよせる 橋本多佳子
林檎をかぢつて、夜、浪の音がしてゐる 北原白秋
柚子剥けばいちにち風と波の音 春樹
桑の実は食べごろ波の音ばかり 高瀬恵子
椅子に寝て波のプールは海の音 松浦敬親
母に抱かれて初秋の波の音 藤原満喜
水貝や安房の一夜の波の音 深見けん二
永き日やくたびれもせぬ波の音 日永 正岡子規
河豚汁や風をさまりし波の音 山田春生
波の音いと高く蝿生れけり 久保田万太郎 流寓抄
波の音さっと切り裂く寒の鰤 福原幸江
波の音たかく元日をはりけり 久保田万太郎
波の音たかく元日了りけり 久保田万太郎 流寓抄
波の音ときどき高き敷松葉 川崎展宏
波の音とどく寺領の思ひ草 青柳はじめ
波の音はこぶ風あり秋まつり 久保田万太郎 流寓抄
波の音やゝたかく蝶うまれけり 久保田万太郎 流寓抄
波の音をりをりひびき震災忌 久保田万太郎
波の音低し雪国雪止んで 深見けん二
波の音教室を占め夏休 鈴木貞雄
波の音残して月の去りにけり 松田美子
波の音聞ゆる浜に花火待つ 長田一男
波の音話を奪ふ月にあり 大場白水郎 散木集
波の音遠し水仙揺れどほし 久万とみ子
流星やかくれ岩より波の音 加藤楸邨
浜木綿の薄暮にひらく濤の音 古館曹人
浪の音にも馴れ過ぎた衣更へてる 北原白秋
浪の音は遠し あんまにからだ右を左にする 荻原井泉水
海に来て浪の音聞く真砂女の忌 後藤綾子
海へ降る霰や雲に波の音 基角
海へ降霰や雲に波の音 榎本其角
海苔粗朶に潮引ききりし波の音 森田かずを
涼しさや平家亡びし波の音 涼し 正岡子規
涼しさや平家亡びし浪の音 子規句集 虚子・碧梧桐選
満月も菜の花いろや波の音 朝倉和江
灯かすかに沖は時雨の波の音 時雨 正岡子規
灯火によこぶよ多し浪の音 籾山梓月
煤逃げの伊豆に二泊の波の音 鈴木鷹夫 風の祭
牡蠣船や静かに居れば波の音 日野草城
甘蔗刈の歌となりけり波の音 米須盛祐
由良の門の冬天浪の音満てり 山口草堂
番神堂に入りて春めく濤の音 笠原古畦
病めばきこゆ春の襖の波の音 鷲谷七菜子 花寂び 以後
白菊の在所に入れば波の音 山本洋子
白蚊帳のなかは真白き波の音 明隅礼子
真夜中や涼みも過ぎて波の音 納涼 正岡子規
短夜や波の鼓の音早し 短夜 正岡子規
短日やにはかに落ちし波の音 久保田万太郎 流寓抄
短日や俄かに落ちし波の音 万太郎
砂日傘睡気催す波の音 笠原古畦
磯に来て卯浪の音となるところ 浅賀魚木
空耳に濤の音聞く春の暮 伊藤京子
立待の月得てよりの波の音 吉本和子
竹島に灯のつき波の音涼し 栗田せつ子
紅葉寺いつ訪ねても濤の音 蒲澤康利
老杉の間涼しかり波の音 石寒太 翔
聖夜劇牧師が波の音つくり 真下耕月
肌寒やふじをまきこむ波の音 肌寒 正岡子規
臨終なる父の口から波の音 仁平勝 東京物語
花ぎぼし句碑と吹かるる波の音 伊藤あかね
花芭蕉むかしの波の音きこゆ 澤木欣一
若鮎や波のすれあふ波の音 古館曹人
茶の花や越後村上浪の音 三浦仙水
荒東風にのる波の音父の墓 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
落椿よろめくほどの濤の音 鍵和田[ゆう]子 浮標
落鮎や一夜高瀬の波の音 立花北枝
蓬生ふ月指す城の波の音 横光利一
蘆ちるや淺妻舟の波の音 芦の花 正岡子規
蘆刈りて日を横たへぬ波の音 石田 厚子
螢袋ふくろにためて濤の音 原田青児
行く年の波の音ともきこゆなり 柏崎要次
要咲く山垣尽きて波の音 藤田れい子「新山暦俳句歳時記」
豆実る天心居なり浪の音 及川貞 榧の實
踊唄息つぐときの波の音 鹿喰悦子
遠つ世の浪の音きけ宝舟 星野石木
釣舟草耳をすませば波の音 山崎ルリ子
鎌倉は波の音より明易し 星野椿
門火消えもとのくらさに濤の音 原田青児
闇冴えて虚空に聴きし濤の音 鷲谷七菜子 雨 月
雑炊となりし宴に浪の音 中戸川朝人 尋声
雛芥子や机の上に濤の音 磯貝碧蹄館
青饅や島に泊れば波の音 草間時彦 櫻山
風涼し生地(せいち)へかへる浪の音 立花北枝
鯔納屋の春陰濤の音ばかり 北見さとる
鴬を聞きとめしより波の音 行方克己 知音
●波の花 波の華
かき合はす衿に舞ひきて波の花 伊藤節子
ほうほうと波の華てふもの飛べる 行方克巳
まさをなる天にも流れ波の花 神蔵 器
オロシヤより風吹きつのる波の花 池野よしえ
シベリアの風が紡ぎし波の花 辻口静夫
八一忌の波の花とぶ日なりけり 山田春生
吹雪より波の花また高舞へり 桑田青虎
夕晴や桜に涼む波の華 松尾芭蕉
奥能登に波の花散る別れかな 田上さき子
奥能登の淋しさつのる波の華 定梶き悦
担ぎ出し洗ふ大樽波の華 下田稔
放下して巌くろがね波の華 下田稔
沸き上る海を毟りて波の花 神蔵 器
波の花とべば遥かな雪嶺あり 加藤有水
波の花と雪もや水の返り花 松尾芭蕉
波の花ひかりは暗きもの裹む 渡辺香根夫
波の花ふたたび波に帰るあり 豊原月右
波の花ぶつかり合ひて松が枝に 千田一路
波の花崖の四五戸は昼灯す 千田一路
波の花意志あるごとく岬曲がり 桝谷栄子
波の花散りてや磯のさくら貝 竹夜
波の花昨日のバスの運転手 小林こみち
波の花湧きたつ闇の村はづれ 井上雪
波の花空へ吹き上ぐ親不知 同村文彦
波の花能登最果ての晴れて見ゆ 山本満義
波の花舞ひて曽々木の陣太鼓 村本畔秀
波の花蝶にならむと岩の上 田中英子
波の花雪垣を出でぬ雀どち 中戸川朝人 残心
波の花飛ぶ風音と変りけり 下谷行人
波の華とびつく能登の千枚田 森下清子
波の華走りころがり部落口 岸田稚魚
海沿ひを走る鈍行波の花 斉藤葉子
燈台の点滅に浮く波の花 林 照江
磯路ゆくバスに飛びつく波の花 水田江葦
絶壁を登りつ飛びつ波の花 藤本朋子
能登荒磯曾々木の空の波の花 石原八束
茶店より出てさざ波の花筏 平野冴子
降り積る雪より白し波の花 浦幸雪
飛ぶ力なき波の花岩に憑く 里見玉兎
とりつきし岩から剥がれ浪の花 星野八郎
シベリアの風ちぎれ舞ふ浪の花 吉年虹二
一日の路や菜の花浪の花 菜の花 正岡子規
岩削がれ漢のかたち浪の華 赤塚五行
浪の花もまれゐるうち吹き飛びぬ 加藤絹子
浪の花巌をせめぎて吹き寄れり 長谷川久々子
浪の花洗ふ障子をはしりつゝ 阿波野青畝
浪の花礁に育つ羽音かな 吉田功次郎
浪の花音もろともに舞ひ上る 荒舩青嶺
浪の花飛んで来る日の雪囲 後藤比奈夫
浪の華とき~舞ひて荒磯凍つ 雁択水
疎に密に礁を翔てる浪の花 鶴田佳三
簗打ちやさゝらささらと浪の花 阿波野青畝
能登瓦越えて舞ひけり浪の花 林 徹
鵜の飛ぶは悲しき眺め浪の華 久國兆元
●波の穂
しはぶくや冬浪の穂の明るさに 内藤吐天 鳴海抄
のこりたる波の穂ばかり流し雛 橋田憲明
ふくらんで波の穂にのる都鳥 雨角玲子
ギブアツプ いやいや波の穂が光る 大平 愛
サンタマリヤで支える波の穂ゆれやまぬ 八木三日女 赤い地図
佐渡見えて土用波の穂波を截る 沢木欣一「雪白」
冬波の穂のちぎれとび壇ノ浦 桑田青虎
初富士や浪の穂赤き伊豆相模 格堂
夏曉の浪の穂に生れ陸みどり 桂樟蹊子
暁紅に波の穂染まり鷹渡る 斎藤朗笛
松虫や夜の波の穂見ゆる原 秋櫻子
橋脚を洗ふ波の穂初明り ふけとしこ 鎌の刃
水鶏ゐて波の穂白く明けそめぬ 加藤楸邨
波の穂に現るる国後島鱈を干す 山本 雅子
波の穂に襲ひかかりしとんどかな 岸田稚魚 『雪涅槃』
波の穂に驚き易き千鳥かな 城谷文城
波の穂のおぼろおぼろをたゝみ航く 橋田憲明
波の穂のみなわれに向き青岬 藤井 亘
波の穂の月にこぼるる白魚網 平賀扶人
波の穂の段なすひかり蛍烏賊 福山志づ
波の穂の蠢いてゐる朧かな 鈴木貞雄
波の穂の金色に散る実朝忌 大木 茂
波の穂の風に揃はぬ二月かな 鈴木真砂女
波の穂はさうびの闇に来て光る 岸風三楼 往来
波の穂も若布刈の棹も光るなり 宮下翠舟
浪の穂にうかぶも一羽秋の鵜は 佐野まもる 海郷
浪の穂やまぎれで遠く飛ぶ千鳥 東洋城千句
湾奥へ波の穂が駈け春一気 奈良文夫
簀にしづむ波の穂ばかり簗も末 皆吉爽雨 泉声
雲海の波の穂はしる御来光 水原秋櫻子
霙れそむ波の穂光ゲの夜に消ゆる 石原八束 空の渚
飛魚の波の穂を追ひ穂におちぬ 原柯城(馬酔木)
鮑桶高浪の穂につと走り 鈴鹿野風呂 浜木綿
●波の間
名月をかさねつこけつ波の間 一茶
波の間を上手に揺れて昆布舟 今井杏太郎
波の間や小貝にまじる萩の塵 松尾芭蕉
●波の列
うやうやしき波の列くる懐手 大木あまり
波の列乱るるところ搗布生ふ 小川背泳子
●波奔る
ミモザ咲き磯横ざまに奔る波 水原秋櫻子
土用波の裏は日あたりつつ奔る 加藤楸邨
天に入る芒野の波奔放に 古賀まり子 緑の野以後
七夕やくらきを走る波がしら 杉山 岳陽
八月の行方や稲に波走り 米澤吾亦紅
冬凪のさざ波走るひとところ 上原一郎
凩や波のほさきの走り舟 凩 正岡子規
初花や魂のごと波走り 岩井久美恵
卯波といふ白き泡立ち走り寄る 細見綾子
夜焚火や闇より波の走り出づ 岡本眸
岩壁に鮫裂き卯波走りこむ 伊藤白楊子
年立つや波が走りて鴎散る 中拓夫
待ちかねてさざ波走る田植あと 都筑智子
沖を走る波の白兎や柿接木 中拓夫
波がしら虹伴れ走るお元日 中戸川朝人 残心
波が波押さへて走る葉月潮 遠藤芳郎
波の上に波走りくる葉鶏頭 河内静魚
波の上を走る波あり初嵐 岡田耿陽
波の上雨の走れり安房の冬 中戸川朝人 残心
波伸びて砂を走りぬ春隣 稲畑汀子
波走る岬の村もお元日 長谷川かな女
海桐の香夜を走りつぐ波白し 岡田 貞峰
白扇に一筆描きの波走る 東峰芳子
磯遊びする子が走り波走る 上野泰 佐介
紀の海の鰆走りの波迅し 山川喜八
紺碧の波走りくるサーフィン 藤原照子
縺れつつ解けつつ走る稲穂波 若井新一
背黒鶺鴒波に驚きとと走り 高澤良一 ぱらりとせ
腦痛む河波走り沸きたつデルタ 鈴木六林男
苧殻たくあとすぐさらひ走り波 鈴鹿野風呂 浜木綿
菜の花に入らんとするや走り波 橘田春湖
蛙子や折々水の面走る波 高濱年尾 年尾句集
蛤や二月の波の横走り 殿村莵絲子 雨 月
走りつゝ鮭の背波に網打てり 黒川龍吾
送り火をすぐに消したる走り波 鈴鹿野風呂 浜木綿
鮒走る時波走り蓮を植う 高瀬初乗
鯔群るる音の波立ち走るなり 山上樹実雄
鶏頭にひかりの波のひと走り 大木あまり 雲の塔
●波間
せめぎ合ふ波間に海鵜ただよへり 三好知子
ひとり寝や暗き波間はしぐれゐて 柴田白葉女 『冬泉』
まなかひに暗き浪間や初日の出 増田龍雨 龍雨句集
サーフィンの踊り出でたる波間かな 堀内紗知
ダリヤ燃ゆ拒否と受容の波間なる 河野多希女 こころの鷹
一つ鵜の波間がくれの春浅き 大場白水郎 散木集
一汁のほかはとどろく土用波 間立素秋
不知火や女に通ふ浪間舟 野間喜舟
何笑うて波間に消へし鯨の目 高澤良一 ぱらりとせ
初秋の潮の香闇の波間より 相河美智子
墨堤に返す波間の都鳥 鳥飼しげを
天草取波間波間にいぶく声 松藤夏山
妻の名を花に与へて日本語の波間にあをくシーボルト居き 大口玲子
小田原の波の波間の一の花の舟 阿部完市 春日朝歌
山を手にのせて波間のゆあみかな 海水浴 正岡子規
惜春や波間の鴎一トならび 五十嵐播水 埠頭
日の落ちる波間のくらげわが喪見ゆ 金子弘子
春の月上りて暗き波間かな 後藤夜半
昼寝覚波間に鯔の見えにけり 岩月通子
水牢を脱けて波間に雛抱く 高澤晶子
沙羅の花波間に蟹の沈むかな 岸本尚毅 選集「氷」
波間からぴんと出たり浦の玉兎(つき) 幸田露伴 谷中集
波間よりこゑの飛びくる立版古 宇佐美魚目 天地存問
波間吹くそよ風ゆかしさくら貝 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
生簀籠波間に浮ける遅日かな 鈴木真砂女 生簀籠
舟速し波間の百合に遠ざかる 五十崎古郷句集
萍を波間に河口近づけり 篠田悌二郎
遠泳の頭波間に減りもせず 品川鈴子
遠雷や波間波間の大凹み 松本たかし
面上に散乱す花火波間にも 石原八束 空の渚
首立てて春の波間を鵜の一塊 日比野里江
●波枕
ころりんと渚に海鼠波枕 高澤良一 素抱
みえはじめはかまとゆかいに波枕 阿部完市 春日朝歌
丈夫(ますらを)やマニラに遠き波枕 攝津幸彦
放生の河豚しばらくは波枕 森田峠 逆瀬川以後
昼月をあふぎ海月の波枕 高澤良一 宿好
老梟となりゆくもよし波枕 佐藤鬼房
波まくら小舟にうすき蒲団かな 闌更
木枯の夜明が見えて波まくら 中拓夫
●波除
よしきりや波除ありて田の家居 木津柳芽 白鷺抄
一月や波除こゆるなみしぶき 久保田万太郎 流寓抄
波除けにねずみかくるる土用かな 鈴木真砂女
波除けの目よりもたかし春しぐれ 久保田万太郎 流寓抄以後
波除にのみ波見ゆる冬椿 大西桑風
波除に大年の波静かかな 松本たかし
波除に旱雀の痩せにけり 森田峠 逆瀬川以後
波除に海女が作りし注連の屑 牧野春駒
波除の上に並びて注連作り 岡田耽陽
波除の暮れゆく村の田植かな 大峯あきら 鳥道
波除を越ゆる波あり豆の花 清崎敏郎
●波寄す
あしかびに波押し寄する畳み皺 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
いわし寄る波の赤さや海の月 桃首 古句を観る(柴田宵曲)
うち寄せる波染め抜きて夏暖簾 唐橋秀子
かなかなの森の色して波寄する 古館曹人
こころにも寄する波あり冬かもめ 伊藤道子
しら波のはればれと寄す恵方かな 澤村昭代
たわいなき波寄せてをり缶ビール 鈴木鷹夫 春の門
てのひらの波の寄せくる盆踊 嶋田麻紀
ななかまど支笏の波は草に寄す 古舘曹人 樹下石上
アマリリス曇り日寄する波一線 水原秋櫻子
サハリンより寄せて春寒日暮波 高澤良一 素抱
九十九里一線に寄す土用波 土田祈久男(濱)
佐渡院に波押し寄する端居かな(佐渡十句) 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
光撥ねつつ春の波躍り寄せ 西村和子 夏帽子
兎波マーガレットに駈け寄りぬ 高澤良一 さざなみやつこ
全裸なり波ひたひたと寄る術後 対馬康子 純情
冬満月佐渡より寄する波がしら 文挟夫佐恵
卯波といふ白き泡立ち走り寄る 細見綾子
卯波寄す力くらべの神の岩 神蔵 器
卯波寄す大王崎の朝ぼらけ 大橋克巳
吾妹子に仇波寄する汐干かな 寒川鼠骨
周防の海航くもかえるも佐波島に思いの波を寄せては過ぎる 西内敏夫
和布刈炬に躍り寄り来る波がしら 藤本和理子
土用波寄するや荘の裏梯子 久米正雄 返り花
塗畦の波のごと寄せ山陰線 西村公鳳
夏草の波かと寄する椅子一つ 中島和昭
夕月夜乙女(みやらび)の歯の波寄する 沢木欣一
夜光虫波は渚に冥く寄す 神内妙海
寄す波の打つ船腹もおぼろかな 堀田春子
寄せて来て返すことなき青田波 大久保和子
寄せて来る女波男波や時鳥 井上井月(1822-86)
寄せる波大きく返す海開 稲畑汀子
寄せ返す波のしぐさの優しさにいつ言われてもいいさようなら 俵万智
寄せ返す波の小声に秋日和 片山由美子 風待月
寄り添つて波を忘れし都鳥 福永みち子
寒梅や光琳波を寄せ付けず 安東次男
巌に寄する白き海波の春寂と 瀧春一 菜園
引く波はまた寄せる波磯遊 佐藤静良
弖爾乎波(てにをは)と寄る年波に躓けり 内田利之
手をつなぎ寄せて来たりし春の波 西村和子 夏帽子
手波もて寄る燈龍を送りけり 福田蓼汀 山火
日蓮の俎岩に卯波寄す 大西八洲雄
早春の波寄せ故郷唱もなし 藤後左右
早春の波寄せ濱に寡婦溢る 藤後左右
早稲の穂に能登より寄する波幾重 河北斜陽
春浅し寄せくる波も貝がらも 川崎展宏
月の波竜王岬に寄せ返し 安芸游子
朝羽振る沖波寄るや秋袷 中拓夫
松の花波寄せ返すこゑもなし 水原秋櫻子
松島の白磁の磯に卯波寄す 松本鶴栖
気動車へ野菊の波のひた寄する 鳥居おさむ
水門に夕波寄する針まつり 角川春樹
沖照りの東風波寄する聖母巌 下村ひろし 西陲集
波あまた押し寄せていて山眠る 恒藤滋生
波たてて水仙園に船寄り来 川崎展宏
波の数だけの初日が寄せてくる 関口比良男
波ゆきて波ゆきて寄る海月かな 高野素十「初鴉」
波を繰返し菱の実打寄せる 依田明倫
波寄せしさまに渚の薄氷 宮地玲子
波寄せてよせても遠き浮寝かな 近藤良郷
波寄せてゐる刻とみし珊瑚草 嶋田一歩
波寄せて国上山ひそけき蔵開 斎藤夏風
波寄せて山の木の芽は燃えにけり 太田鴻村 穂国
波寄せて月の渚の祭笛 岡崎憲正
波寄せて蘇生をはかる夕渚 林田紀音夫
波消ゆる岸辺に寄りて根無草 稲畑汀子
波音のなくて寄す波朝ぐもり 水野宗子(麓)
浜昼顔退屈な波寄せてをり 和田順子「錐体」
浜社無月の波の寄するのみ 小原牧水
浦寺に波の寄るべの十夜かな 野村喜舟 小石川
海酸漿高音は波の寄るときに 高野夜穂
海霧とざす沼波岸に寄するのみ 高濱年尾 年尾句集
湖の波寄せて音なし草紅葉 深見けん二
灌仏の柄杓寄すれば波起り 岩田由美
照り雲や夜見の浦波寄せ返せ 臼田亜浪 旅人
牡蠣舟に波の明暗寄せ返す 稲畑汀子 汀子第二句集
畦の波麓に寄する山ざくら 松藤夏山 夏山句集
白堊紀の石に波寄す賢治の忌 遊田禮子
盆の波連れくるもののなく寄する 宮津昭彦
盆波の寄せ来し板にロシア文字 柏原眠雨
石庭の波の寄せくる春あらし 原 裕
砂日傘ジブラルタルの波寄する 岩崎照子
磯巾着波引き寄せて管を上ぐ 赤木日出子
磯菜摘む波は寄せつつ限りなし 清崎敏郎
秋思また波のごとくに寄せてきし 高倉和子
秋深き吾にのみ寄する湖の波 加倉井秋を 午後の窓
群鰮畝波捲きて寄する岸 石塚友二 方寸虚実
耕牛に海の波寄る田の古び 加藤楸邨
若水を汲むための井戸波寄する 加藤憲曠
葭五位にさざ波寄する網走湖 高木良多
詩も波も寄せてはかへす鵜はとばずも 磯貝碧蹄館 握手
貝寄風にまた白き富士白き波止 百合山羽公 寒雁
貝寄風の波光り合ふ石廊崎 古市枯声
赤富士やちやぷちやぷ波の寄り来たり 森玲子
郷愁や夏波ななめにななめに寄す 川口重美
門中墓平たくぬくき波が寄す 鳥居おさむ
障子洗ふ波に寄り得ぬ芥かな 大橋櫻坡子 雨月
雛流す少女の素足波が寄す 郷原弘治
青山へ青田の波の寄する村 松本たかし
青田波ポンプ小屋へと寄せにけり 大野信子
青田波寄せ来る中の賢治論 伊藤和枝
飛魚の波寄すを待つ十字墓 下木和子
馬鈴薯にさざ波のごと土を寄す 加藤季騒
駿河湾波の寄せ来る初湯かな 築城百々平
鯛荒し寄せたる網に背波立て 上杉緑鋒
鰰の寄る波色となって来し 国安一帆
鱚舟に研ぎたての波光り寄す 石塚友二 光塵
麦の波押し寄せてくる古墳山 伊藤いと子
●野分波
あをあをと心の末の野分浪 恩賀とみ子
くらがりの野分浪みな癇高し 榎本冬一郎 眼光
三河より男がひとり野分濤 鈴木鷹夫 春の門
塵夫出でてこころを遣らふ野分浪 山口誓子
崖草は空へ綯はるる野分波 林翔 和紙
海峡の中ほどくらき野分波 能村登四郎 民話
海彦の荒ぶるこえか野分浪 杉本京子
照りつけし昨日は遠し野分波 米沢吾亦紅 童顔
熊野市を潮に煙らす野分浪 茨木和生
眦の海をはみ出す野分浪 佐藤鬼房
磯神の一燈の白野分浪 近藤一鴻
荒磯や海のこなたの野分濤 石塚友二 光塵
通勤の明日にとく寝る野分浪 百合山羽公 故園
野分波浚渫の一燈あるかぎり 中戸川朝人 残心
野分浪さなくとも旅衣しめりやすし 橋本多佳子
野分浪ひびけ抱かるる骨壺よ 羽部洞然
野分浪をさまり汀砥のごとし 下村槐太 天涯
野分浪倒れんとして立ち怺ふ 上田五千石 風景
野分浪夫臥しをればひとり見る 山口波津女 良人
野分浪白しや信ぜざるべからず 下村槐太 天涯
野分浪立ちゐる簀戸をなほ替へず 内藤吐天 鳴海抄
野分浪肺腑もんどり打つばかり(佐渡秋意) 野澤節子 『飛泉』
●波響
冬の波退くや鉄鎖の響きして 長谷川櫂 古志
天草小屋羽目一面に波響く 川村紫陽
盆の波ゆるやかにして響きけり 岸本尚毅
秋蝉の穴あり蠣崎波響墓 西本一都 景色
船腹に五月の波の響きかな 島田五空「裘」
●波光
ギブアツプ いやいや波の穂が光る 大平 愛
上瀞は波の光りて船遊び 鷹羽狩行
九十九里の波の遠鳴り日の光青葉の村を一人来にけり 伊藤左千夫
光るもの波となり来し初明り 稲畑汀子
光る時ひかりは波に花芒 稲畑汀子
光る時光は波に花芒 稲畑汀子(1931-)
光撥ねつつ春の波躍り寄せ 西村和子 夏帽子
冬桜波のひかりと光りあひ 正円青灯
千波湖の梅の香越しに光りけり 飯野吉男
寒梅や光琳波を寄せ付けず 安東次男
山笑ふ野はさざ波の光満ち 手塚順
岩かげの波折れ光ひきすみれ草 石原舟月
岩一つ一つに初夏の波光る 岸田竹女
引鴨や光も波もこまやかに 津田清子
春めくや波は光を巻きこみて 飯尾婦美代
春光の波が引摺るほんだはら 阿部ひろし
春光も波もとどまつてはをらず 竹下陶子
春光やさゞ波のごと茶畑あり 森田峠
春光を砕きては波かゞやかに 稲畑汀子 汀子第二句集
横笛のごと波光り螢籠 田川飛旅子
沼波の光りを消さず時雨来し 石井とし夫
波の穂はさうびの闇に来て光る 岸風三楼 往来
波の穂も若布刈の棹も光るなり 宮下翠舟
波光るその一つより鯊釣れて 大竹きみ江
波光るとき鴨いづこ鳰いづこ 稲畑汀子 汀子第二句集
渦潮の波光むらだつ天の澄み 石原八束
簗の簀の光琳波に落鰻 新村寒花
胸の波砕けて夜光虫より光る 大木志峰
若芦に来て浦波の光りけり 菅井たみよ
荒磯しぶく波秋光を撒きにけり 中川久子
貝寄風の波光り合ふ石廊崎 古市枯声
貯炭場に花のながるる波の光ゲ 石原八束 空の渚
遠足に今年の白き波光る 齋藤愼爾
釣山女光る瀬波に戻しけり 松田 聖魚
阿蘇噴くとむらだつ烟の凍波光 石原八束 空の渚
雨光りパパイヤ青き残波岬 鳥越憲三郎
霙れそむ波の穂光ゲの夜に消ゆる 石原八束 空の渚
風だちて落花の光る波上かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
飛魚の翼の光り波を切る 高濱年尾
鯊釣るや光琳波に湖凪いで 高井北杜
鴨がひく波光櫟の幹にさす 川島彷徨子 榛の木
●初凪
ジユゴン棲む初凪の海汚すまじ 国吉良子
五指浸しみる初凪の地中海 品川鈴子
伊豆の海初凪せるに火桶あり 水原秋桜子
初凪げる和布刈の磴に下りたてり 杉田久女
初凪といふ美しき海の皺 吉田美佐子
初凪に岬燈台白一指 誓子
初凪に島の祠の昼灯 久米正雄 返り花
初凪に豚の金ン玉遊びをり 川崎展宏
初凪のお手玉となる日と月と 原裕 正午
初凪のかぐろき海に圧されゐる 伊東月草
初凪のどこまでが海月のぼる 中村棹舟
初凪のふる里に母待ちくれし 中井文子
初凪の一湾海の門(と)まで見ゆ 山口誓子 大洋
初凪の二つの島へ渡し舟 青山冬至
初凪の五湖へ裾ひく富士の山 竹内和歌枝
初凪の伊良湖恋路という真砂 山田亀城
初凪の光の中の孤舟かな 大谷茂
初凪の光りまとひぬ石叩 増田燕城
初凪の切つ先となり出航す 森岡正作
初凪の壇の浦辺のゆきゝかな 楠目橙黄子 橙圃
初凪の宇多の松原うちつれて 下村梅子
初凪の安房の礁のこむらさき 草間時彦
初凪の安房は渚に牛放つ 稲垣きくの 黄 瀬
初凪の岩の鵜ひとついつ翔つや 長谷川久代
初凪の岩より舟に乗れと云ふ 川端茅舎
初凪の岩飛び~の遊びせり 西村濤骨
初凪の島に人形の首刺さん 星野紗一
初凪の島は置けるが如くなり 高濱虚子
初凪の帆と旅客車と行き交へる 宮武寒々 朱卓
初凪の極みよ湾の奥の奥 山口誓子
初凪の沖の深さの光りけり 安立恭彦
初凪の波止に睦みて雀どち 茂里正治
初凪の浜に来玉を拾はんと 高浜虚子
初凪の浜辺に赤き貝拾ふ 茂木房子
初凪の海へ乾きし藻を戻す 白虹
初凪の海を漕ぎくる祖父なりき 津田清子
初凪の渚ゆたかに撓んだり 風生
初凪の渚を駆ける郵便夫 杉山碧風
初凪の湾一枚となりにけり 千葉仁
初凪の潮の満ちくる青さかな 太田 蓁樹
初凪の潮目境を見せてをり 湯浅桃邑
初凪の灘色分かつ流れあり 木村緑枝
初凪の煙草火砂にさして消す 藤井 亘
初凪の真つ平なる太平洋 山口誓子
初凪の礁ぬきんづ新夫婦 原裕 葦牙
初凪の美しくもあらぬ貝拾ふ 鍵和田[ゆう]子 浮標
初凪の艪櫂かつぎて舸子の妻 石田ゆき緒
初凪の芥に芽吹く玉葱よ 高麗銀糸尾
初凪の若者にして縁の使者 中村草田男
初凪の遊覧船の高浮び 中村汀女
初凪の針路東へ多島海 三戸都起子
初凪の青を違へて空と海 今橋眞理子
初凪の願かけとばす一の石 原裕 青垣
初凪の鳶の眼を借りにゆく 石田郷子
初凪やあつけなく果つ海女角力 小島千架子
初凪やかがめばありし桜貝 山本歩禅
初凪やさすがサーフィン族もゐず 清崎敏郎
初凪やさねさし相模しらねども 有澤[かりん]
初凪やものゝこほらぬ国に住み 鈴木真砂女 生簀籠
初凪やセロリのスープすきとほり 鈴木多江子
初凪やワイングラスにある夕日 小高沙羅
初凪や人立つ柚の実すずなりに 蒼石
初凪や伊豆の石廊は風絶えず 景山筍吉
初凪や供華あたらしき潮仏 畠山譲二
初凪や児島湾なる備前富士 岸風三樓
初凪や入江重ねて安房上総 平松茂都子
初凪や十戸十舟江に映り 堀 葦男
初凪や千鳥にまぢる石たゝき 島村元句集
初凪や四羽の鵜のとり礁の上 白泉
初凪や大いなる日の生れつゝ 中川宋淵
初凪や大きな浪のときに来る 高浜虚子
初凪や太地の浜に鯨来て 松林馨子
初凪や妻に五勺の笑い酒 西條泰弘
初凪や小さなドイツ料理店 本井英
初凪や小石奏づるほどの波 川崎展宏
初凪や小舟過ぎゆく巌流島 船山俊子
初凪や島根まばゆき流れ汐 梨葉
初凪や廃校いまも図画を貼り 山田紀代
初凪や日々やせてゆく島に住む 井上海風
初凪や普賢岳の修羅の際立ちて 杉村凡栽
初凪や松の向うの城ケ島 嶺治雄
初凪や松ばかりなる舞子浜 鈴鹿野風呂 浜木綿
初凪や橋七つ過ぎ浜離宮 恩田秀子
初凪や水を豊かに総国 木津みち子
初凪や氷張りたる滑川 水原秋桜子
初凪や汐さび声の男たち 佐藤みゆき
初凪や汐引き砂のつぶやける 阿部みどり女
初凪や波に戯れ二少年 山口青邨
初凪や海に根を張る利尻富士 宇都木水晶花
初凪や潮が描けるよろけ縞 樫村ひろ子
初凪や潮の道ある両津湾 平岩 静
初凪や潮引き砂のつぶやける 阿部みどり女
初凪や瀬戸に千島千の神 上原白水
初凪や無人の校庭平なる 江森定子
初凪や犬吠岬を畑の下 小杉余子 余子句選
初凪や玉磯に鹿ちりばめて 八染藍子
初凪や生簀の魚が海を恋ふ 大竹多可志
初凪や登城の道の松の中 乙字俳句集 大須賀乙字
初凪や白髯橋はうす~と 青邨
初凪や真珠筏に波たたみ 御村善子
初凪や神の鹿島へ手押船 波多野晋平
初凪や翔てばみな翔つ鴨の群 大友月人
初凪や膝下へいたる湾一枚 草田男
初凪や航空母艦平かに 五十嵐播水 埠頭
初凪や艫をおすも亦一水兵 高野素十
初凪や若者にして縁の使者 中村草田男
初凪や茫洋として新世紀 西岡正保
初凪や蘂のあふるゝ磯椿 秋櫻子
初凪や裏戸より鶏はしり出て 桂信子 緑夜
初凪や誘はれ出でし由比ヶ浜 池内たけし
初凪や遠くに居れる伊豆の雲 阿波野青畝
初凪や野付半島砂嘴長し 吉田晶子
初凪や鉄路呑み込む海峡線 鈴木一舜
初凪や雲を聚めて小さき富士 新田 郊春
初凪や霜雫する板廂 鬼城
初凪や魚拓の鯛が口ひらく 鍵和田[ゆう]子 浮標
初凪や鴉は陸に鵜は海に 鈴木真砂女 夕螢
初凪や鵜のたむろして生簀籠 宵灯
初凪をたゆたに蛋の乳房かな 久米正雄 返り花
初凪を咀嚼のあとの風にする 田村柿城
古戦場より初凪の沖の船 片山一江
巨き人の寝顔のごとき初凪か 田中裕明 櫻姫譚
弥彦嶺の裾初凪の海に入る 原田しずえ
揚げ船に鶏鳴く磯家初凪す 飯田蛇笏
揚舟に幣の真白し初凪す 代 五米
旗立てて街なす艀初凪げり 五十嵐播水 埠頭
日の丸が焦点初凪の海と砂 福田蓼汀 秋風挽歌
朝の間の初凪とこそ思はるゝ 高浜年尾
母逝きてより初凪の故郷見ず 柏田洋征
石庭の日を恋う鳩や初凪げる 富田潮児
魚陣うつる初凪ぎの空の鴎かな 乙字俳句集 大須賀乙字、岩谷山梔子編
鳶舞つて初凪の空澄みにけり 水 邦子
龍馬像より初凪の海展け 田村一翠
●波濤
さくら散る唐(から)の和上の波濤かな 筑紫磐井 婆伽梵
サングラス白き波濤へはづしけり 貴志治子(嵯峨野)
今朝さめて波濤あとなし宝舟 庄司瓦全
初日射す欄間の花鳥波濤の図 伊藤敬子
喉ごしの酢牡蠣三陸波濤の灯 花貫寥
小春日や波濤海辺謡の句 尾崎迷堂 孤輪
悴めり波濤は石をまろばせつ 斎藤梅子
新巻に波濤千里の潮匂ふ 吉岡孝三
早稲の風とどく蘆雪の波濤絵図 栗田せつ子
晩稲垂れ波濤は隠岐のかたより寄す 橋間石
晴るる日も崖に波濤や板踏絵 宮坂静生
杉山の杉の波濤や冬に入る 宮坂静生 春の鹿
松虫や暮るる波濤に空つづく 千代田葛彦 旅人木
水洟や波濤のほかは見るものなし 杉山岳陽 晩婚
沖よりの波濤を前に冬構 杉森久英
波濤図の襖絵曝す蘆雪寺 中川幸子
波濤見てをり西日の中に立ちてをり 杉山岳陽 晩婚
浅蜊とる波濤の裏にうづくまり 豊東蘇人
漁舸かへる夏海黝ろむ波濤かな 飯田蛇笏 霊芝
茶畑の波濤が生みし冬の蝶 富安風生
草に落つ二枚の雪雀日の波濤 古館曹人
雲海の波濤をかぶる峰一つ 須田冨美子
青田の道に後じさる馬怒る波濤 田川飛旅子 花文字
黒鯛(かいず)釣る薄暑の波濤日を揺りぬ 西島麦南
黒鯛釣る薄暑の波濤日を揺りぬ 西島麦南 人音
●波紋
うらゝかや波紋の中の猫の舌 冬の土宮林菫哉
かなかなの光の波紋風に乗る 鈴木幸江
ひと言の波紋となれり杉の花 小島多美
ひと蹴りの波紋ひろげて水馬 大竹裕子
人の顔に波紋のかげる秋西日 石原八束 空の渚
全身の水の波紋や除夜の鐘 宮川としを
冬菜洗ふ波紋を交はし嫁どうし 成田千空 地霊
卵塔の石に涼しき波紋あり 平井照敏 天上大風
原稿紙白し蝉声波紋なす 野澤節子 黄 瀬
大香炉に青海波紋寒潮 中戸川朝人 星辰
川魚の鼻出す波紋油照 高井北杜
帰省子の投げてゆきたる一波紋 藤崎美枝子
息ながき朝の波紋やさくら濃し 倉橋羊村
春夕焼星の生るる波紋見ゆ 橋本鶏二
春夕空星の生るる波紋見ゆ 橋本鶏二
昼顔や流沙の波紋金に炎ゆ 石原八束 『仮幻』
枯蘆の川わかれゆく波紋あり 斉藤夏風
椿落つたびの波紋を見てをりぬ 結城昌治
江東区は存して秋の雨波紋 太穂 (橋本夢道逝きて)
波紋曲げてすゝむ目高や苗代水 西山泊雲 泊雲句集
流れ来るものに波紋や五月川 原石鼎
涸谷の石の波紋や秋の蛇 殿村菟絲子
湖の面を波紋細かに霧降りぬ 高濱年尾 年尾句集
留守の婢涼し磨きて木目波紋めく 香西照雄 素心
紅茶の波紋 女王の名授かる州都にて 伊丹公子 アーギライト
芭蕉林波紋をかもす魚鼈あり 飯田蛇笏 春蘭
萩の枯れ文一行にたつ波紋 河野多希女 彫刻の森
落椿波紋をさまり流れそむ 福田蓼汀 山火
蟇の波紋かりそめならぬ砲音ぞ 成田千空 地霊
裸子ら闇に没して闇に波紋 香西照雄 対話
軽鳧の子の小さき波紋ひろがれり 福地はま子
隠岐枯れて空の波紋をたたみくる 石原八束 黒凍みの道
風紋に波紋つらなり浜の秋 佐々木ちてき
鮭の稚魚池 抽象形に 波紋湧く 伊丹公子 アーギライト
鱒がいて苔の波紋の樅の国 和知喜八 同齢
鳰残す波紋に倦くよ死者忘れ 香西照雄 素心
鴛鴦二つ波紋を曲げて進みけり 年尾
鴛鴦二匹波紋を曲げて進みけり 高濱年尾 年尾句集
●波浪
崖の百合揺れゐて波浪注意報 高澤良一 ももすずめ
新豆腐沈みて波浪注意報 柚木紀子
●彼岸波
常のごと日にくつがへる彼岸波 畠山譲二
●引く波
再会や時雨るゝ波止に手を引かれ 平尾みさお
冬波の引き忘れたる毬ひとつ 中嶋秀子
取りついて波引ち切る柳哉 柳 正岡子規
土用波引きざまにまた礁を呑む 佐野青陽人 天の川
夕焼や足裏くすぐり波引いて 米澤道子(山茶花)
引いてゆく長きひゞきや五月波 鈴木花蓑句集
引き波の速きに秋を惜しみけり 酒井十八歩
引き際の波のすなほに桜貝 岬雪夫
引くときも二日の波の岩を越ゆ 田島魚十
引く波が岩間の鹿尾菜くしけづる 茂木連葉子
引く波に壜の転び音海開き 奈良文夫
引く波に小蟹巻かれゐたりけり 猿渡啓子
引く波に抗ひ若布抱へ立つ 平賀扶人
引く波に砂のつぶやく花の冷え 島田洋子
引く波に貝殻鳴りて実朝忌 秋元不死男
引く波に鹿尾菜被きて礁現る 高澤良一 ももすずめ
引く波の引くたび残し桜貝 鷹羽狩行
引く波の強さも二百十日かな 片山由美子 天弓
引く波の渚なだめて利休の忌 片山由美子 水精
引く波の湖にもありて星月夜 片山由美子 天弓
引く波の置いてきぼりに蟹の泡 中拓夫
引く波はまた寄せる波磯遊 佐藤静良
引く波を押し上ぐる波鷹渡る 長嶺千晶
引く波を追ふかに進み踊の輪 香西照雄 素心
引つ越して卯波まぶしき町に住む 大高翔(藍花)
春の日や目高はおのが波引きて 石塚友二 光塵
春の波引いてゆくなり時かけて 永方裕子
春の波引いて我影濡れてゐし 永野由美子
春光の波が引摺るほんだはら 阿部ひろし
松風に千の波引く涼み台 原裕 青垣
波の引く奈落のみどり葉月潮 中村将晴
波引いていそぎんちやくの渚あり 稲畑汀子
波引きし磯巾着のルビー色 広瀬一郎
波引けば砂のつぶやく小春かな 稲垣きくの 黄 瀬
浜波の引く音ばかり春の昼 黛 執
海苔粗朶に潮引ききりし波の音 森田かずを
湖波の引くなく落花とめどなく 西村和子 かりそめならず
磯巾着波引き寄せて管を上ぐ 赤木日出子
磯遊び波引くたびに足残り 大牧広
秋の波身を広げては引きにけり 藤木倶子
秋日傘湖北の波は引くばかり 那須淳男
胸中に引く波ばかり秋の浜 手塚美佐 昔の香
青北風の波引くはやさ荒布採り 山上樹実雄
飾焚く橙波に引かれけり 岸本尚毅 舜
●ひと波
ひと波にしづまる産湯鶴の天 赤松[ケイ]子
ひと波に消えて子鹿の蹄あと 八染藍子「八千草」
一波に消ゆる書初砂浜に 西東三鬼
千波湖の万の一波は鴨が生む 名取思郷
春昼のかならず一波旅に倦む 古舘曹人 能登の蛙
春鴎の浮けり一波もつくらずに 右城暮石 声と声
水舞月や中年一波二波越ゆる 赤松[けい]子 白毫
蓑虫に眠り季風一波二波 岡本まち子
●昼凪
昼凪や街路の空の干むつき 石原舟月
昼凪のわが言葉のみ揺るるなり 松澤昭 神立
●風波
坂ありて吹き下しくる雪解風 波多野爽波 鋪道の花
寒釣の風波の綾を纏わずや 鈴木修一
木の芽風波の殺気の迫り来る 中拓夫
柴漬や風波立ちて二つ見ゆ 村上鬼城
桝酒に顔の映るや春の風 波多野爽波 『一筆』
梓川風波だちて残花ちる 飯田蛇笏 春蘭
水馬夜は風波にみみもてり 松村蒼石
湖に風波立てる義仲忌 大山百花
牡丹の風波寄せてゐるところ 水田むつみ
石蕗咲いて風波すなり伊豆の海 高橋淡路女 淡路女百句
競漕や午後の風波立ちわたり 水原秋櫻子
紀の川の風波しろき雛流し 塩谷はつ枝
見飽きたる湖も風波立てて春 橋本榮治
観月の風波かへす聖牛 西島麦南 人音
風波の池のほとりの水葵 矢田豊羊
風波の畦越す日なり蓮植うる 宇津木未曽二
風波の立つ日立たぬ日金盞花 鈴木真砂女
風波の立てば夕べや草紅葉 片山由美子 風待月
風波の走りて藺苗植ゑにくゝ 住田満枝
風波の野火吹きのぼる鶴見川 水原秋桜子
風波をおくりて深き蓮の水 飯田蛇笏 霊芝
風波をかぶりかぶりて蘆の角 星野立子
●風浪
園枯れぬ風浪川をさかのぼり 山口草堂
大仏の柱くぐるや春の風 浪華 二柳 五車反古
洪水の風浪村を囚獄とす 橋本鶏二
流氷群風浪の貌止めたる 田代朝子
風浪に描く輪小さき水すまし 篠田悌二郎
風浪の佐渡を擡ぐる高卯浪 高澤良一 寒暑
風浪や*ばいに賭けたる子の瞳 柴田白葉女
風浪やとばしりあげて沈む鳰 鈴木花蓑句集
風浪や貝独楽に賭けたる子の黒眼 柴田白葉女
●べた凪
べた凪に浮ぶ出羽島初明り 藤田真寛
べた凪の晩年を漕ぐ置炬燵 武田和郎
べた凪を流したる湾秋鯖煮 中拓夫
●防波堤
さくら咲き男は防波堤に寝ころぶ 加倉井秋を 午後の窓
春めくやまんばうの絵の防波堤 高澤良一 寒暑
枇杷の葉の照り一月の防波堤 中拓夫
海機嫌防波堤と僕はそよ風 藤後左右
蒲公英や激浪寄せて防波堤 水原秋桜子
防波堤おぼるる涛や干鰈 水原秋桜子
防波堤のコンクリートに下駄なづまず 藤後左右
防波堤秋日をかへす稚魚の群 内田 芳子
防波堤裸子むれて鯖を釣る 水原秋櫻子
●盆波
じょんがらのででんと盆波くつがへる 高澤良一 ぱらりとせ
土左衛門盆波に乗り材木座 高澤良一 素抱
子どもらへ盆波裏を見せにけり 蓬田紀枝子
屋根越しに盆波ひびく夕べかな 畑菊香
息深くして盆波のよせきたり 佐野美智
盆波につかり居並ぶ六地蔵 岡田日郎
盆波にひとりの泳ぎすぐ返す 井沢正江
盆波に乗りて舳倉へ渡りけり 坂下草風
盆波に蜑の笑顔のうかびくる 遠山壺中
盆波のあとからあとから遠江 高澤良一 ぱらりとせ
盆波のうねり座頭鯨の背のやうに 高澤良一 ぱらりとせ
盆波の寄せ来し板にロシア文字 柏原眠雨
盆波の来て大鴉よろけたり 村上みきお
盆波の生めるあぶくのたゆたへる 高澤良一 随笑
盆波の秀先抑へてくづれけり 成瀬櫻桃子
盆波や乞食靴を鳴らしくる 黒田杏子 花下草上
盆波や舫ひの弛緩くり返し 今田清照
盆波や船渠(ドック)の中に自衛艦 二又淳子
盆浪や命をきざむ崕づたひ 飯田蛇笏
船窓におらぶ盆波津軽越え 猪俣千代子 秘 色
●盆の波
さだまらぬ旅のゆくへに盆の波 田中裕明 花間一壺
とどろくや髪のごときも盆の波 斎藤玄 雁道
ふぐの子の膨れて浮かぶ盆の波 若山智子
わが影の中のもの引く盆の波 中戸川朝人 残心
海の胸より生れつぎ盆の波白し 但馬美作
盆の波ゆるやかにして響きけり 岸本尚毅
盆の波今日は荒ばず巌起き臥し 岸田稚魚 筍流し
盆の波男女ふたりが泳ぐのみ 中拓夫
盆の波連れくるもののなく寄する 宮津昭彦
落つる日のひかり大事に盆の波 阿井京子
身のどこか裏返りたる盆の波 桂信子
顔うめて母の背にある盆の波 阪本孝子
●水煙
ががんぼよ飛べ水煙の天使まで 橋本鶏二
くらがりの逆さ水煙野に放つ 小泉八重子
ナイアガラ水煙倍にして雷雨 竹中碧水史
九輪水煙黒々とあり初茜 川崎展宏 冬
仙女となる 滝の水煙まとう裕子 伊丹公子 山珊瑚
代田うつ鍬やあげをる水煙 高濱虚子
凍星や水煙は夜を離しつつ 山田弘子 懐
双塔の水煙結ぶうろこ雲 狹川青史
御所川原町われわれは水煙なり 阿部完市 軽のやまめ
月に對す君に唐網の水煙 蕪村 夏之部 ■ 鴨河にあぞぶ
朝霜やになひつれたる水煙 水田正秀
松よりも水煙蒼しわたり鳥 水原秋櫻子
水煙あげて早苗の投げらるゝ 虚子
水煙に三日月かかる興福寺 河本遊子
水煙に四万六千日の雲 内田巳恵子
水煙に昇りもあへず黒揚羽 藤田湘子 てんてん
水煙の上まぶしき彼岸かな 下村槐太 天涯
水煙の塔の天路を鳥帰る 野見山朱鳥
水煙の天女が舞へる春の空 山下佳子
水煙の天女笛吹く春の風 山名愛三
水煙の天女衣とほる花の雨 鈴木貞雄
水煙の水煙らしく陽炎へる 塩川雄三
水煙の雀が呼ぶや初薬師 杉田賀代子
水煙の飛天の楽も凍る月 長谷川史郊
水煙の飛天冬三日月に失せ 阿波野青畝
水煙やそのうち人は渡り鳥 丸山海道
水煙漾う瀧壺へ瀧壺へ水の鎖を手繰り込む 橋本夢道
水煙草と消えた 紡いだ時間など 伊丹公子 機内楽
白滝や六月寒き水煙り 松岡青蘿
翔て水煙もつとも遠い人の許へ 小泉八重子
茜雲に触れこぼれ刃の水煙は 小泉八重子
藁塚や水煙星を*ささげそむ 下村槐太 天涯
虹や水煙の天女はふえをふく 荻原井泉水
襞深き水煙を恋う春の下車 小泉八重子
寒流の奥嶽を去る水けむり 飯田蛇笏 椿花集
川淀や霧の下這ふ水けぶり 太祇
月光や川瀬に騰る水けぶり 楠目橙黄子 橙圃
水けむり胴ふち合ふや寒ばしる 横光利一
雁鴨や輪違ひめぐる水けぶり 蘇人 芭蕉庵小文庫
雨季来る南の寺に水けむり 中田 美子
●水波
早苗田に水波立つや辰雄の忌 安田千夜子
葉桜のかげり水波もつるるか 太田鴻村 穂国
竹植うる此日江水波立てり 高田蝶衣
雪どけの船の中の一艘が出てゆく水波 人間を彫る 大橋裸木
●女波
あはうみや三日の女波たたみゐて 大石悦子 群萌
九十九里の男浪女浪に馬冷やす 石垣達雄
五色湖は女波ばかりや鳥曇 角川源義
六月の沼の女波や鶴見えず 角川源義 『西行の日』
女波照る磯馴の松の小稲架かな 石塚友二 光塵
寄せて来る女波男波や時鳥 井上井月(1822-86)
寒明けの女波が抱いて礁一つ 秋元不死男
小正月女波ばかりが遊びをり 前島みき
山帰来女波ばかりが足もとに 横山白虹
月光の巌とりかこみ女浪ばかり 岸田稚魚 筍流し
浜名湖の女波ばかりや牡蠣割女 百合山羽公
満目に男波女波の 石蕗の花 伊丹三樹彦
蜷の岩女波男波と夕さり来 清原枴童 枴童句集
野水仙ときに女濤を日本海 中戸川朝人 残心
●百重波
浅蜊の身肥ゆ頃ほひぞ百重波 高澤良一 素抱
●八重波
八重波に向ひて祝詞神迎 金森柑子
●夕凪
どの家もいま夕凪の伊予簾 今井つる女
はたと夕凪さまざまの恩胸に沁む 榎本冬一郎 眼光
ふくらんで夕凪となる酵母かな 和田悟朗
ますほ貝拾ふや磯の夕凪に 高岸まなぶ「鶴俳句選集」
夕凪ぎて原子禍の町音絶えし 石原八束「秋風琴」
夕凪ぎて砂丘余熱を徐々に吐く 竹中碧水史「基壇」
夕凪ぎて荒布いろなる家の中 福田甲子雄
夕凪にもう電飾のトラック部隊 横山白虹
夕凪にわれは嘴もちてをり 飯島晴子
夕凪に乳啣ませてゐたるかな 正雄
夕凪に反る框 寒念仏が折れた 星永文夫
夕凪に月も照り添ふ波頭かな 久米正雄 返り花
夕凪に油槽つむあつさかな 几董
夕凪に癩船重く離れけり 八木三日女 紅 茸
夕凪に脛まで濡らし桶あらふ ほんだゆき
夕凪に菩提樹の実の飛行せり 永田耕衣
夕凪に鎌倉垣の厚さかな 久米正雄 返り花
夕凪に鼻先そろふうからたち 松澤昭 麓入
夕凪のあとたゝ白し秋の海 尾崎紅葉
夕凪のいま西へ行く舟ばかり 下村梅子「花」
夕凪のおもさ病者が死を待つとき 松村蒼石 雪
夕凪のますほの小貝見当らず 清水基吉
夕凪の一つ井鳴らす島ぐらし 水谷晴光
夕凪の三河の寺の大蘇鉄 大峯あきら 宇宙塵
夕凪の人泣きにゆく墓の前 宇佐美魚目 天地存問
夕凪の垣沿ひに尨犬(むく)毛を垂れて 槐太
夕凪の垣沿ひに尨犬毛を垂れて 下村槐太 天涯
夕凪の女坐りの足の裏 池田澄子「たましいの話」
夕凪の椅子引き上げる椅子の塔 竹中宏 句集未収録
夕凪の汐汲みあげて舟洗ふ 広瀬河太郎
夕凪の海を踊の国に来し 西本一都 景色
夕凪の海岸道路出来つゝあり 高浜年尾「年尾句集」
夕凪の濃さに息づくカンナかな 久米正雄 返り花
夕凪の瀬尻は水の性つよし 龍太
夕凪の白鷺おもく竹の秀に 松村蒼石「露」
夕凪の硫黄漂ふ雲仙岳 岡部幸子
夕凪の茄子一鉢の艀に老ゆ 中拓夫 愛鷹
夕凪の草に寐に来る蜻蛉かな 寺田寅彦
夕凪の豊後に豊後風土記あり 藤小葩
夕凪の遂に女類となるを得ず 永田耕衣 驢鳴集
夕凪の雲美しく寒の果て 原石鼎 花影以後
夕凪の黐木斛にきはまりぬ 渡邊千枝子
夕凪はしづか帰山の僧一列 松村蒼石 雪
夕凪や 兵士はみんなキネマに死す 星永文夫
夕凪やことに海士町中ノ島 岸田稚魚
夕凪やとぶ鯔とわが櫂の音と 柳芽
夕凪やのこぎりでひく大鮪 盤水
夕凪やまどかに浮ける大海月 日野草城
夕凪やデルタ押し出す安芸の国 赤松[ケイ]子(雪解)
夕凪や三日月見ゆる船の窓 子規句集 虚子・碧梧桐選
夕凪や三河の寺に御文古り 大峯あきら 宇宙塵
夕凪や人は故郷を捨てて佇つ 小澤克己
夕凪や仏勤めも真つ裸 寸七翁
夕凪や使はねば水流れ過ぐ 耕衣
夕凪や入江に舟の舫ひせる 田中冬二 俳句拾遺
夕凪や兵士はみんなキネマに死す 星永文夫
夕凪や古座の漁師は潮をよむ 尾池和夫
夕凪や坐りて暗き漁夫の母 谷野予志
夕凪や垂乳あらはにゆきかへる 銀漢 吉岡禅寺洞
夕凪や宇宙にいくつ水の星 松山ひろし
夕凪や寄居虫穴を出てあそぶ 甲賀 山村
夕凪や山の横顔焦げ臭し 藤倉哲夫
夕凪や島にとろりと灯のつきぬ きくほ
夕凪や島の民話の皆哀し 密田真理子(朝)
夕凪や弥撒の戻りの小買物 野中亮介
夕凪や抜け道多く漁師町 松本末生
夕凪や推理小説あと一行 油井和子
夕凪や旅の小荷物手にさげて 村山古郷
夕凪や歩いて渡る神の島 磯野充伯
夕凪や母とありにし真桑瓜 森澄雄
夕凪や浜蜻蛉につつまれて 臼田亞浪 定本亜浪句集
夕凪や渡れば橋の長きこと 佐々木六戈 百韻反故 初學
夕凪や湧水靄を生みやまず 高濱年尾
夕凪や潮にやつれし舫ひ綱 吉田つよし
夕凪や烏賊の胎児の瞳は緑 奥野曼荼羅
夕凪や独語ひとつに砂うごく 岸田稚魚 筍流し
夕凪や畳に塩をこぼしたる 岸本尚毅 舜
夕凪や瘤太りだす駱駝像 加藤三陽
夕凪や磯山紅葉日を溶かす 幸田露伴 拾遺
夕凪や舟に目出たきあふり烏賊 榎本好宏
夕凪や舟屋に舟の一つづつ 上森成子
夕凪や船客すべて甲板に 五十嵐播水
夕凪や菊畑の人ものをいふ 有風
夕凪や菰に包みしもの抱へ 白石喜久子
夕凪や蒙古来襲ありし海 片山由美子 水精
夕凪や蟷螂鎌を嘗むる也 島村元句集
夕凪や行つたり来たり撒水車 田中田士英
夕凪や裸をあぶる火の匂ひ 瀧春一 菜園
夕凪や言いたいことをついに言い 深山 真
夕凪や赤錆しるき帰港船 松本幹雄
夕凪や釣舟去れば涼み舟 杉田久女
夕凪や風帆(フォンファン)十九までかぞへ 鷹羽狩行
夕凪や髯美しき機関長 今井杏太郎
夕凪をひっぱり人体解剖図 布施徳子
夕凪を客にわびつつ簾捲く 五十嵐播水
夕凪強しわが身はわが手で洗はねば 北野民夫
夕凪村赤松がまづ赤くなり 桜井博道 海上
大阪の夕凪に馴れ簾捲く 大橋越央子
怠惰また身を守るすべか夕凪す 草間時彦
播州の夕凪桃を見て来たり 魚目
旅三日夕凪地獄三日かな 草間時彦
暖かやとく夕凪げる杉の幹 中島月笠 月笠句集
桟橋に出て夕凪の団扇かな 水原秋桜子
毛虫焼くいくさの暇の夕凪に 殿村莵絲子 花 季
汗涌くや夕凪の稲すく~と 佐野青陽人 天の川
海夕凪海に氓びしものの墓 内藤吐天 鳴海抄
熊本の大夕凪よ閻魔の夜 阿部小壷(阿蘇)
痒さうな夕凪の巌アメフラシ 矢島渚男 延年
白扇や筑紫の海の夕凪に 野村喜舟 小石川
神楽師を訪ふ夕凪のひとり舟 能村登四郎 枯野の沖
秋夕凪島影黒く昏れ急ぐ 小川濤美子
空梅雨の夕凪ぐ漁家の竃火かな 西島麦南 人音
箒木に夕凪ぎて月出でにけり 癖三酔句集 岡本癖三酔
草屋根の丹波夕凪蜆蝶 斉藤夏風
錦鯉の背すじ透りて夕凪す 松村蒼石 雁
青蜜柑はたと夕凪の村となり 中拓夫 愛鷹
高野夕凪ほたるぶくろを吹いて来よ 村越化石
●夕波
さみだれの夕波鳥やかいつむり 森澄雄
すゞしさや須磨の夕波横うねり 涼し 正岡子規
セル着れば夕浪袖に通ふなる 久米正雄 返り花
プールにも夕波の立ち初めにけり 西村和子 かりそめならず
人去つて三日の夕浪しづかなり 大江丸
北上川に夕浪の立つ端午かな 大石悦子 百花
夕波にまぎるる鳰のかなしけれ 中村汀女
夕波に手綱遊ばせ牛冷す 三浦正治
夕波に見えがくれする鴨のあり 上村占魚 球磨
夕波に駆けて仔馬よ避暑期去る 小野恵美子
夕波の*えり簀をくぐるひとうねり 岡本 眸
夕波のあつまつて来る露台かな 園田筑紫郎
夕波のいつもこの音月見草 鈴木 功
夕波のしらじらとある単帯 根岸善雄
夕波のひびき戸を打つ遍路宿 田守としを
夕波の一つひとつに鴨ゐたる 八木林之介 青霞集
夕波の上のつばめの矢数果つ 友岡子郷 未草
夕波の尖り始めし先帝会 百瀬美津
夕波の無情に高き葭簀小屋 百合山羽公
夕波の畳む岬や轡虫 風間 淑
夕波の船に聞ゆる薺かな 孤屋
夕波の見えて淋しき遍路かな 桜木俊晃
夕波の鴎見てをり氷菓売 古賀まり子「源流」
夕波や牡蠣に老いたる船の腹 芥川龍之介
夕波を追ふ目きびしき網代守 白井 爽風
夕浪に店ともりけり炭問屋 増田龍雨 龍雨句集
夕浪の無情に高き葭簀小屋 百合山羽公 寒雁
夕浪の皺腕に掻く荒布かな 島村元句集
夕浪は忘却のいろ雁渡る 柴田白葉女 花寂び 以後
夕浪や鯖釣る舟の行止まず 尾崎紅葉
夕浪や鯖釣舟の行やまず 尾崎紅葉
夕濤の窟にとどろく雉子の声 古舘曹人 樹下石上
大乳房ゆるるまで海女の浪うてる 柴田白葉女 『夕浪』
宮島や春の夕波うねり来る 春の夕 正岡子規
岩肌を洗ふ夕波冬の雁 前野泉
岸釣の夕波の糸となりにけり 長谷川春草
島もかならずいのちなりけり夕波、冬 阿部完市 春日朝歌
川幅に夕波満ちぬ花吹雪 橋本榮治 麦生
栗の花夕波ちから収めつつ 朔多 恭
水門に夕波寄する針まつり 角川春樹
水鳥に夕波荒くなりて来し 浜田一枝
水鳥や安房夕浪に横たはる 秋櫻子
涼しさや夕波くゞる大鳥居 涼し 正岡子規
産卵の*いもり夕波立ててをり 三原蛙子
田沢湖の夕波漣濃きさくら 金子蛙次郎
白南風の夕浪高うなりにけり 芥川龍之介「澄江堂句集」
白鳥に夕波荒くなりにけり 奥田紫峰
百舌鳥鳴くや夕波立ちし渡船場 長谷川草洲
祭果て巨き夕浪立ちにけり 高澤良一 ねずみのこまくら
秋の虹二川夕浪たてにけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
立ちそめて夕波蒼し鱸舟 和田祥子
籾筵夕波ひとをしづかにす 友岡子郷 翌
耶蘇島の夕波しづむ月見草 正林白牛
背泳ぎの父夕波に顔越され 宇佐美魚目 秋収冬蔵
舟夕浪に揺らるゝ風の桜かな 尾崎紅葉
軽鳧の子に濠の夕波やや荒し 清水素生
霞冷えて湖の夕浪*えりを打つ 渡邊水巴 富士
青蘆に夕浪かくれゆきにけり 松藤夏山
静岡より私をいんどにながす夕波 阿部完市 春日朝歌
風寒う夕波千鳥鳴きにけり 高橋淡路女 梶の葉
高倉に夕波高き帰燕舞ふ 脇本星浪
鳥渡り夕波尖りそめしかな 勝又一透
鴨一羽離れて潟の夕波に 本岡歌子
●横波
横波にゆさぶる船の新酒哉 新酒 正岡子規
秋口の横波鳴れりタグボート 高澤良一 寒暑
横波をくらひどほしの海鼠突 松崎楽中
●寄せ波
●夜凪
石触れ打つ音と覚む野分夜凪ぎをり 閭門の草(櫻[カイ]子の自選句集) 安斎櫻[カイ]子
●余波
あめんぼう曲れる鯉の余波喰らひ 高澤良一 素抱
台風の余波の埠頭に接岸す 伊藤いと子
台風の余波立つ岩に男松 玉澤幹郎
壺中にも台風の余波月見酒 百合山羽公 寒雁
夏風忌の風雨の余波の磯千鳥 山内美津男
夜歩く春の余波や芝居者 炭 太祇 太祇句選
寒声の連衆のそろふ余波かな 浪化
左右忌の噴煙ぬすむ台風余波 福元啓刀
幕の八重花の余波や祭客 調泉 選集「板東太郎」
月よ実(げに)たれも余波はなんとなと 広瀬惟然
棒飴や上野の余波(なごり)子供の花 立独 選集「板東太郎」
沖船の余波たたみくる*さより汲む 大木さつき
物書いて扇引きさく余波(なごり)哉 松尾芭蕉
白鳥のつつましき余波伴へる 上田圭子
終戦の日や台風の余波荒れて 大堀澄子
行方床し四方の明樽余波の花 鉄丸 選集「板東太郎」
豊流の余波が揺り役芦若葉 香西照雄
開発の余波とも猪の害続く 岡崎さとし
颱風の余波時なしの雨が降る 星野立子

以上

# by 575fudemakase | 2022-05-22 15:11 | ブログ


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by 575fudemakase

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探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
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尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
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《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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山1  の俳句
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波2  の俳句
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波1  の俳句
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潮2  の俳句
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潮1 の俳句
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湾・浦 の俳句
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海  の俳句
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野原・丘  の俳句
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坂 の俳句
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谷・沢 の俳句
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温泉 の俳句
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火山 の俳句
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岩・崖・洞  の俳句
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砂漠 の俳句
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地  の俳句
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洪水  の俳句
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舟・渡し  の俳句
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