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波多野爽波全集 第三巻(続き)

波多野爽波全集 第三巻(続き)

「俳論・俳話」より参考になると思われる爽波の一文を下記に
抜いておく。引用文末尾の()内は小生のコメント並びに相槌。

      *********************       
滝の句
松彩子さんよりのお便りで御承知かとも存じますが、先生が四国九州へ
旅立たれる前日、五人会の吟行がありました。久し振りで先生や立子さん
とゆっくりした一日を俳句に過ごせて、実に愉快な集いでした。その時の
次の三句が入選しました。

大滝に至り著きけり紅葉狩
こまごまと落葉してをり滝の岩
滝見えて滝見る人も見えてきし

その翌日、松彩子さんが芦屋のお宅で先生達とお話をしていた時、先生が
「昨日の爽波の句はよかった」と言い出され、どの句が良かったのですか
と誰かが伺ったら「大滝の句がいい」と言われたそうです。又、誰かがその
句のどういう所がいいのですかとお尋ねしたら、先生は笑い乍ら「爽波らし
くないところがいいですよ」と言われたそうです。句会の時の句を後でほめ
て戴いたことは滅多にないことなので、実に嬉しいことでしたが、爽波らし
くないところがいいとなると、爽波らしい句は見込みがないとも受け取れる
ので、一寸気がかりです。併しまあ、兎も角も嬉しいことでした。

(どっしりした恰幅の好さは大滝の句だろう。おそらく爽波が最も気に入って
いた句は「滝見えて滝見る人」の句だろう。どちらかと言うとレトリックに
うまみの見える句。そこらへんに虚子は若さを感じたのだろう)
      *********************       

『五百句を詠む』
俳句を作る人たちにもっともっと広く、且つ深く読まれて然るべき一書として
、虚子の『五百句』がある。
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・・・・・・・・・・・・・・・・
落花のむ鯉はしゃれもの髭長し 虚子

世に言う写生派の目として見れば、鯉の口が落花を飲み取った、そしてこの後
には当然のことながらその落花が鯉の口から静かに吐き出されるのだが、この
情景など格好の句材として目を向けられるところであろう。しかし、「しゃれ
もの」とは一体他の誰が言いとめ得るところであろうか。そしてまたこれに続
く「髭長し」も単なる写実ではないのである。この句もまた豊かな虚子の人生
体験の裏づけが汲みとられて、読み手たる私自身の貧しさ、小ささに身をすぼ
める思いである。

(磊落的な 「鯉はしゃれもの」 という物言いがいい。)
      *********************       

『ホトトギス雑詠選集』
立秋も近づく頃ともなれば毎年必ずといっていい程書架から抜き出して播くのが、
厚くてズシリと重い『ホトトギス雑詠選集』(秋の部)である。
この一書はまさに秀句が目白押しで、来るべき秋の句作りへの意欲をふつふつと
湧き起こして呉れるのだが、それもその筈、「ホトトギス」の雑詠入選句、約
三万五千の中から選抜された秋の句、千七百句なのである。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ホトトギス雑詠選集』は春、夏、秋、冬の順番に昭和十三年から十八年の間に
無事に四巻の刊行が終わった。その対象句は全部で十六万六千余句、そして選抜
された句は九千六百余句といわれるが、選ぶ側の虚子も約六年がかりでどれほど
のエネルギーを費したことであろうか。

(ネットに俳句検索サイトを設けて足かけ12年になる。季語などを入力して検
索キーボタンを押して例句を引っ張り出すサイト。好評で多いとき一日200件
程のアクセスがある。俳句を勉強する者にとっては、このような 季語入れてポ
ン式のものと季寄せみたいなものーーー予め季語の下にバーッと例句がぶるさが
っているものーーーの二つがあれば大変便利である。後日私は後者について「例
句データベース」なるものを作成し公開した。こちらのアクセスもだいぶあるよ
うである。当初私も『ホトトギス雑詠選集』をPDF化し閲覧出来るようにしたが、
著作権上問題ありということで止めた。ネットでこれを問題無く閲覧できる方法
があればよいのだが・・・・)
      *********************       

波多野 虚子先生はいつも先頭きってどんどん、どんどん書いていらっしゃるんですわ。
何ですか、何でもかんでもどんどん句帖に書いてね、そういうことは何かこうもっと低
い次元のね、俳句づくりみたいにいう人がありますよね。心にきたものを持って帰って
家でね、じいっとやるのがこれが上等なんであって、その場でとっとことっとこ書きとめ
てんのは下の下だといわんばかりにね。
僕はそうじゃないと思うんです。やっぱりね、現場でどんどんね、書いて書いて書いて
いくのが写生のひとつの極意だと思いますね。魚目君がいってる眼前即刻ですよ。無我
の境地っていうのか。
森  芭蕉もね、やっぱりね、ものに感動してどうにもならん時は、文章でもいいから
書いとけってね、そんなこといっています。「絶景にむかふ時は、うばはれて不叶、物
を見て取所を心に留めて不消、書写して静かに句すべし」って。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(文章でもよいから書いておけというのは 俳句多作者なら誰でもやること。私の経験で
言えば、どうしてもその場でピタリの言葉がみつからない時は散文でながながと書いてお
く。へたに五七五の型に流し込んでおくとかえって後で苦労する。)
      *********************       

爽波
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・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
また例の対談中で龍太が言っていることなんだけどね。
虚子の句というのは、一日一日、一句一句で文体が違うということ。
俳句を作る場合、自分の文体がだいたい一定してるってことは、これは寂しいことですよ。
宏  ほんとうに寂しいことですよ。
爽波 文体が一定してるってことは常に一定の姿勢でしか俳句を作れないということです
からね。だから誰々の世界というのがすぐ出てくるんじゃないですか。僕はこれ実に寂し
いことのように思うんです。
虚子の句というのは玉石混淆で、それも石ばっかりが多いなどと言われてるけれども、玉
だか石だか知らないが、文体までも含めて、何というか圧倒的に幅が広いですねえ。そう
いう意味ではまさに怪物ですね。

(実は虚子の文体につき上掲のやうな考えを指摘したのは爽波のみ?。
「貫く棒」も「初蝶来何色と問ふ」も「天智天皇」も「地球にこにこ」もすべて然り。)
      *********************       

爽波 さっき言った一番のポイントね。十七音という「言葉の塊」として反射的に出てく
るような体質に己を変えてゆく。そこんとこが大事なんで、その為には「沢山作れる」自
分になることが先ず以て第一の習練だ。
一般的に言って、この障害になっているのは、いい句が出来たら書くとか、いい句が出来
る迄は書かないとか、そういう自己を意識しすぎた考え方、やり方だと思う。
こういうのは習練というしんどいことから逃げているとも言える訳でね。
兎も角十七音になったものはどしどし書いてゆく。書き終わったときにもうその句は捨て
てる訳だ。そうやってゆくうちに対象の回りの部分を少しずつそぎ落して行って、ものの
中心に迫って行くということですね。
これをやらずに、イキナリ対象の中核を素手で掴もうなんて欲が深すぎるし、余程のキャ
リアを積んだ人だってそう容易とは出来るもんじゃない。
馬鹿らしいようなもんでも、書くことによってそれが捨てられ、捨てた分だけ自分が対象
への中核へ少しでも近づくことになる。

(たしかに私も「「沢山作れる」自分になること」を目指しましたね。)
      *********************       

波多野  例えば森さんが、ぼくは何十年にわたって「杉」をやって、一生懸命、俳句を
作る心構えを説き続けてきたんだけど、今にいたるも杉の俳句は駄目で、こんなんだった
ら「杉」はやめてもいいんだと。その言葉を湘子が引き、誰が引き、というふうになって
いますね。しかし、ぼくに言わせたら、これちょっとおかしいんじゃないかと思って。
いくら心構えを説いたって、そんなもの全く徒労であること間違いないんです。それより
は主宰者がわずかに説きうるものとしたら技術論であって、この場合にはこういう季語を
使う、さっきの〈夏草〉という句が出てきたなら、〈夏草〉よりも〈草いきれ〉という季
語があるじゃあないですかと、具体的なことを教えてあげたり、てにをはの使い方なんか
も、まあこれは言ったってその場だけのことで、なかなか分かってはもらえないけど、主
宰者がかろうじて言いうることとしたら、自分がこれまで実作上になめてきた苦労の一端
を--------ということは結局、自分の作句工法みたいなものですよ。そういうものをあか
らさまに根気よく教えてあげることが、主宰者のなしうる唯一のことであってね。
茨木 そうですね。

(ネット句会をやって十年近くなる。最近私のやっていることはレトリックの詳細な部分。
私には第一感でここがおかしいとピーンとくるのだが、どうかと問いかけている。
それがいやで句会をぬけたとおもわれる方もいるが、それはそれ縁はここまでと思ってい
る)
      *********************       

波多野  今の俳壇で、多作というのは、まあ藤田湘子氏が一つの実験的な試みをしたこ
となどもあって、わりと見直されるようになってきたし、今後も、真剣に俳句に取り組ん
でいこうという若い連中なんか、多作ということについてかなり実行してる人はあると思
うんです。しかしやっぱり、いい句をたくさん頭の中へたたき込んじゃうということもね。
また、これ無しじゃ、あるところまで以上はいけないですよ。
茨木  伸びないですね。ぼく自身がひしと感じていることなんですが、それなしに一つ
の峰を越えることは不可能でしょう。
波多野  しょせん、自分独自の表現、独自の発想だと思ったって、もうちゃんと先人が
登録済だ。ぼくなんかは大正以降の俳句で充分だという認識ですから、それとすれば、も
ちろん虚子の『五百句』と、虚子の畢生の事業であったあの「雑詠選集」の選句-------
その結果として残された『ホトトギス雑詠選集』、四冊のあれですべて、こと足りると思
うし、また、これがどうしてもっと広く読まれないのかな、と思うんです。

(これについては、最近の岸本尚毅氏の『ホトトギス雑詠選集』をベースにした選句鑑賞集の刊行を興味深く見守っている。爽波の意図したことを少し実現している。とは言え
それは尚毅選についての句の紹介なので 各自は原点に基づき自身選での鑑賞が理想的で
あろう。

閑話休題 
ネット上に俳句検索サイトを構築してあれこれ12年程になる。調べたい 季題や用語を
指定して検索キーを押せばたちどころに100句でも1000句でも関連例句が表示され
るというもの。これにより多くの例句が検索され、季題の本意をつかむのが便利だという意見も戴いている。もう一つ句作するものにとって便利なものは 季寄せ的なもの すな
わち 『ホトトギス雑詠選集』のように既に季題別に例句が分類されているものは即その
まま利用できるのでこれまた便利である。とは言え これをそのままPDFの形式でネッ
トに載せるのは問題があろう。)
by 575fudemakase | 2013-07-04 08:46 | 句集評など | Trackback


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


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全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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