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百句百話

百句百話

中原道夫 ふらんす堂 2013年8月1日

今回もまた中原大人から掲書ご恵贈いただいていたが全編に一通り
目を通してからと、だいぶ感想が遅れてしまった。

〝句と自解〟の均衡のとれた一句一解を二,三挙げさせてもらってお礼
とさせてもらいたい。即ち 著者の〝聞かせどころ〟の極上を再掲
して、御礼とさせてもらいたいという寸法であります。

●火鉢には降りねど鶴の脚二本 歴草

子供のころ我が家にあった染付の大きな火鉢は何處へ行ったのだろう。
所在も聞かぬまま、父は逝ってしまい、母に尋ねても興味がなかった
のか知らないという。(中略)
その一抱えもある(子供の時だから特に大きく感じたのだろう)呉須
の淡い色で描かれた意匠は山水を背景にした筏乗りで、長々と火鉢の
胴の回りを一周するように描かれていた。子供心ながら、筏の始まり
と終りの部分が同一画面にある不思議さに酔い痴れていたものだ。
そして火鉢の中にはいつも鶴の形をした火箸が一対で差してあった。
細い鶴の脚がそのまま大地を歩いているような見立てが、何とも楽し
くて、火弄(いじ)りをしたのだった。(後略)

●みまさかのぶだうひとふささまよかり 緑廊

(前略)
掲句は少し時間が経って、〝美作〟の言葉の韻に因って〝葡萄〟の方
が呼び出されて一句に成った。みまさか、さか、ふさ、さま、という
ような、反転した音の連なりがあたかも葡萄の一房のように、下から
下へぶら下がってゆき形になったと記憶する。言葉が一粒ずつ重力に
逆らわずに、という感じ。葡萄の糖度もそんな風に先端に降りてゆく
のだとか。(後略)

●ただいまと帰るところを春の家 巴芹

私にはここで言う春の家はない。今住んでいる稲毛の家ではなく、実
家、岩室にある家のことだ。父の死後ずっと母は一人で住んでいたが、
昨年の十一月、厨で転倒骨折して隣町の病院に入院して以来、誰も住
んでいない。それまでは軽い脳梗塞で顔面、殊に唇が痺れるとか腰痛
で介護認定1,を戴いていたのだが、それでも慣れた一人暮らしがい
いらしく、ディケアの人が来る日が近付くと、掃除をしてしまう几帳
面タイプであった。(中略)
先日病院を訪ねたら昼時でカレーの匂いがしていた。「今日はカレー?」
と言うと「別のものに替えて貰った」と澄ましている。この人は一生カ
レーを食べないつもりなのだ。そしてその日は、珍しく〝家〟に帰ろう
と言わなかった。

●腰痛はお腰のなかや松とれて 歴草

モデルは彼の鈴木真砂女さん。晩年の真砂女さんの悩みは腰痛であった。
(中略)
房州鴨川の生まれなのに、魚より血の滴るようなステーキが好み。「私
ね、丙午(ひのえうま)だから男を食い殺すんだって。でももう男より
上等な肉の方がいいわねぇ」なんて言ってのける茶目っ気があった。
鈴木真砂女さんは結構おっちょこちょいな処があって、常連の人達で作
った「卯波会」の一泊旅行でも転倒や、捻挫をすることも度々、そんな
捻挫が治ったかと思うと自宅で電気コードに足を引っ掛けて転び、額を
切ったとか、怪我と話題の尽きない人だった。そして仕舞に、電源が入
ったままのコードを長過ぎると、裁ち鋏で切った・・・と。聞いた連中
は慌てふためいたものだが、しかし本人は「驚いたねぇ、バチンと星が
飛ぶんだから・・・」とケロリ。死ぬまで怖いもの知らずの人であった。

●明易し灘の名かはるあたりにて 顱頂

この句 能村登四郎存命の頃の旅先吟行での飲み過ぎた末の苦吟であったとは。
そこら辺の事情は以下の自解に詳らか。

(前略)
隣の研三さんは、作ってから寝たのか大鼾をかいている。出来ないときという
のは本当に出来ないもので、そうこうしているうちに外が白みかけて来ている。
窓からの眺望でハタと気付き地図を見る。何とホテルは周防灘が海峡で狭めら
れ、響灘へと繋がっていく要所に位置していたのだった。

もう一つこの句 小生の属した 俳句結社〝濱〟などではその句柄からして好まれた
ように思う。品格が第一の句だ。


以上
by 575fudemakase | 2013-08-22 10:42 | Trackback


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
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《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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