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例句を挙げる。

あおむけの蟹炎天を掻きむしり 小宅容義
あかき蟹庭の驟雨に出て遊ぶ 木津柳芽 白鷺抄
あしの穂や蟹をやとひて折もせず 内藤丈草
あふむきで値切られている越前蟹 栢尾さく子
あゆみさりあゆみとゞまる夜の蟹 飯田蛇笏
あるまじき蟹の睫毛や冬の椅子 増田まさみ
いくたびも蟹岩を落ち身をかくす 加藤知世子 花 季
いけんだ煮蓋つき上げし蟹の脚 岸風三樓
いざ宵も猶蟹の目の夜もすがら 斯波園女
いんちきな手品も楽し芙蓉蟹 筑紫磐井 花鳥諷詠
おがくずの動き出したるずわい蟹 山田弘子
お昼のニュース越前に蟹あがるとよ 高澤良一 寒暑
か、彼が 遠くの蟹へ帰るころ 坪内稔典
かくれがほに蟹せゝりをる海雲かな 阿波野青畝
かしこくて蟹は遁行汐干哉 松岡青蘿
かなかなの森濡れ蟹の歩くなり 松村蒼石 春霰
かぼちや咲き眼立て爪立て蟹よろこぶ 西東三鬼
がくがくと鋏揺れつつ蟹よぎる 山口誓子
ぎしぎしや弁慶蟹の栖処 籾山梓月
こうばく蟹うまし十指をよごしけり 楠 久子
こうばく蟹波陸削る夜なりけり 高澤良一 さざなみやっこ
この岸にわが彳(た)つかぎり蟹ひそむ 山口誓子(1901-94)
この崖にわが彳つかぎり蟹ひそむ 山口誓子 激浪
さざれ蟹足這ひのぼる清水哉 松尾芭蕉
さはさはと蟹這ふ冬夜の地学室 中拓夫 愛鷹
さらに干て藻屑の蟹も出で遊ぶ 篠田悌二郎 風雪前
さわ蟹の畳を這へる泊りかな 明石 茂子
ざり蟹のからくれなゐの少年期 野見山朱鳥
ざり蟹のつかれ知らざる子に弄ばる 相葉有流
しぐれ来てはさみ忙しや蟹の市 山本一糸
しぐれ笠目深に越の蟹売女 木下ふみ子
しづけさにたゝかふ蟹や蓼の花 石田波郷
すこし眠って 思い出も消す 蟹獲り老人 伊丹公子
ずわい蟹いま燦々と切られをり 飴山實
ずわい蟹ひたすら食らふ閑かさよ 斉木 永久
ずわい蟹両腕組んで豪のもの 高澤良一 ぱらりとせ
ずわい蟹肢折りしやぶる岬人 高島筍雄
ずわい蟹肩肘張つて届きけり 三宅郷子
ずわい蟹茹でる灯靄の人だかり 坂本其水
ずわい蟹食ふ狼藉を尽しけり 白岩三郎
ずわい蟹食ぶる器用と不器用と 椎橋清翠
せいこ蟹蟹丼にして唐錦 高澤良一 寒暑
たましいの冷めゆくところ沢の蟹 和田悟朗
たらば蟹ずばと包丁入れにけり 高澤良一 さざなみやっこ
たんぽぽの座を火の色の蟹よぎる 内藤吐天 鳴海抄
ちかぢかと赤く醜き蟹をみる 百合山羽公 故園
つままれて脚硬ばらす磯屑蟹 高澤良一 さざなみやっこ
とどまりてふと潺潺と走る蟹 小池文子 巴里蕭条
とまれ弱者蟹は目を立て鋏あげ 福田蓼汀 秋風挽歌
とらわれの蟹炎天を掻きむしり 小宅容義
とろ箱に朝日一閃冬の蟹 石田阿畏子
どの蟹もはしれり人に吾は背かれ 下村槐太 天涯
のどかさやつついて見たる蟹の穴 正岡子規(1867-1903)
ひとでふみ蟹とたはむれ磯あそび 杉田久女
ぴらぴらと蟹の口許南風吹く 高澤良一 ももすずめ
ぶつかつてここは譲れぬ蟹同志 高澤良一 ももすずめ
ほぐし食ぶ蟹美しき年忘れ 西本一都
まっさおな海犯し続ける渚の蟹 森田高司
まつ宵や招き合ひたる田打蟹 車庸 俳諧撰集「藤の実」
まんじゆしやげ子はせせらぎに蟹もとめ 太田鴻村 穂国
みしみしと蟹喰ふ人に盆の月 高橋睦郎 荒童鈔
みじろがぬ蟹のまわりに男いて 宇多喜代子
もくもくと藻屑蟹漁濁り川 高澤良一 随笑
もの影のごとく蟹の子生まれけり 山本洋子
やまの蟹うみの蟹ゐて松の荘 瀧 春一
やや乾く蟹の甲羅や夕霞 永井龍男
ゆく春の蟹ぞろ~と子をつれぬ 飯田蛇笏 霊芝
ゆく船へ蟹はかひなき手をあぐる 富澤赤黄男(1902-62)
ゆで上りたる蟹笊に十三夜 鈴木真砂女 生簀籠
よしあしの其まゝすゞし蟹の穴 松岡青蘿
わさび田の畦の沢蟹みづみづし 石井青歩
わらわらと乾きて蟹の砂だんご 高澤良一 素抱
われ立つと断崖の蟹海へくだる 野見山朱鳥
われ門に立つ時蟹も穴に立つ 相生垣瓜人 微茫集
コクトウの詩を読む蟹が足許に 内藤吐天 鳴海抄
ジヨコンダが蟹妊めりと風呂でおもふ 竹中宏 句集未収録
トロ箱を蟹の這ひ出る糶初め 福川悠子
バラバラのパックの蟹買ふ多喜二の忌 斎藤由美
ピアノ弾く白い渚の蟹のやうに 大屋達治 繍鸞
ライラック来 蟹股の神ら 加藤郁乎
一斉に臼搗蟹のはじめけり 比叡 野村泊月
一群の沢蟹に序のあるらしく 村田一峯
三月菜つむや朝雨光り降る 渡辺蟹歩
下り簗川蟹くろき甲羅着て 野澤節子
下り簗蟹現れて鮎を喰ふ 花島一歩
下腹部の大きな蟹に霙降る 田中信克
両眼を低くして蟹穴を出づ 山口誓子 晩刻
久闊のこゑ生きいきと冬の蟹 白井 爽風
乳さぐる小蟹の如くかじかむ手 赤松[ケイ]子
乾いた手ばかりで掴む夕餉の蟹 久保純夫 瑠璃薔薇館
二タ蟹の爪たゝかへる清水かな 東洋城千句
二尺蟹糶るに応へて着ぶくれて 石川桂郎 高蘆
五月雨の蟹這ひよれり草川居 四明句集 中川四明
人はたしかに沢蟹の清流をかへり 金子皆子
今日より誰にも負けず蟹の殻踏みしめ 細谷源二
他の蟹を如何ともせず蟹暮るる 永田耕衣 驢鳴集
代る代る蟹来て何か言ひては去る 富安風生
例外もなく一方へ蟹のがる 篠田悌二郎
光るもの多し蟹江の水の秋 稲畑汀子 汀子第二句集
兜蟹交り兜の音もなし 和知喜八 同齢
入日より紅き蟹並ぶ寺泊 折井醜琴
入梅や蟹かけ歩く大座敷 一茶
八月尽蟹を踊らすテレビ見て 百合山羽公 寒雁
冬凪や岩のくぼみに小蟹這ふ 河本好恵
冬灯蟹の甲羅はキチン質 高澤良一 さざなみやっこ
冬瓜を求めて蟹の入り来る 相生垣瓜人 微茫集
冬蟹を言葉少なに食べてをり 佐藤綾子
冷かや籃中の蟹の泡を聞く 高田蝶衣
冷酒や蟹はなけれど烏賊裂かん 角川源義
凍つる夜の線密集す蟹の顔 小檜山繁子
凍光や蟹漁る舟を目つぶしに 宇佐美魚目 秋収冬蔵
出潮の岩の蟹あらは暮るる風吹けり 人間を彫る 大橋裸木
刃こぼれの包丁蟹は手強いぞ 長谷川久々子
刃を入るる越前蟹の寒さかな 永井龍男
初夢に蟹は甲羅をゆるめたり 宇多喜代子
初旅の膳に両眼立てて蟹 亀井糸游
初漁の大蟹雪に這はせ売る 長谷川かな女
初漁の蟹揚げて波止明けわたる 吉澤 卯一
初雁を蟹舟虫とともに見る 百合山羽公 故園
刻かけて蟹食ふ夜の雪密に 川島万千代
北海の蟹ほぐすなり秋燕忌 埋橋一枝
北風やあるひは赤き蟹の足 久保田万太郎 流寓抄以後
十一月は青微光なし越前の蟹の雌雄も食はれてしまふ 鈴木春江
十尋透く海底蟹は歩すばかり 杉本寛
原爆許すまじ蟹かつかつと瓦礫あゆむ 金子兜太(1919-)
友生きているかぎり来る松葉蟹 伊佐利子
口もとにぶだう運ぶは蟹めくも 高澤良一 さざなみやっこ
古手拭蟹のほとりに置きて糞(ま)る 金子兜太 少年/生長
吊し干すズボン蟹股花大根 川村紫陽
名月や汐みちくればさゞれ蟹 蓼太
名月や蟹のあゆみの目は空に 高井几董
向きあつて蟹の身ほぐして春深し 平田よしこ
向き合へば蟹の麦踏話し合ふ 樋口伊佐美
君のことなんにも知らず春の蟹 辻桃子 童子
唖の子の指に歩ませ蟹赤き 桂樟蹊子
四角ばる青柿の面(つら)蟹に似て 高澤良一 随笑
垂れこめて雪か飛沫か鱈場蟹船 山田尚良
城崎に雪雫して蟹豆腐 松瀬青々
塵芥夫凍て蟹殻の紅こぼす 莵絲子
夏惜む蟹より紅く爪染めて 樋笠文
夕市や蟹の眼を打つ玉あられ 東條素香
夕日影蟹も晩夏の眼なりけり 村越化石 山國抄
夕焼が流れる川から這い出る蟹 久保純夫 瑠璃薔薇館
夕焼のさめたる崖に蟹赤し 内藤吐天 鳴海抄
夕立のあがりし清水蟹あそぶ 清原枴童 枴童句集
夕雨やをかに出揃ふ蟹の穴 暁 台
夜なべの肩凝りゐて蟹の甲羅ほど 高澤良一 寒暑
夜のしぐれそれの爪もて蟹食へば 皆吉爽雨
夜濯の蟹の門川あふれつつ 森川暁水
大き蟹落ちて歩めり月の簗 渡会昌広
大仰に吾見上げては蟹あるく 高澤良一 随笑
大根の双葉に月の蟹あそぶ 中野ただし
大皿に蟹のけむりぬ十三夜 村上鬼城
大皿に越前蟹の畏る 檜 紀代
大笊に選り分けられし鱈場蟹 林周平
大膳に越前蟹の雌雄かな 磯野充伯
大鋸屑をまぶれど蟹の翠さす 高橋睦郎 荒童鈔
大鍋に蟹ゆで上る時雨かな 鈴木真砂女 生簀籠
天地無用のビルにて蟹が茹で上がる 夏石番矢
女人高邁芝青きゆゑ蟹は紅く 竹下しづの女 [はやて]
女子高遭芝青きゆゑ蟹は紅く 竹下しづの女句文集 昭和十三年
妻のみ恋し紅き蟹など歎かめや 中村草田男
妻のみ恋し赤き蟹など歎かめや 中村草田男
子にゑがきやる青き蟹赤き蟹 福永耕二
子の描く蟹の鋏のみな大き 伊東白楊
子午線最北端 蟹の脚からむさぼる 小川未加
家に来て蟹は鋏を使ひをる 寺沢一雄
家の蟹も出でて野の蟹に交れよ 相生垣瓜人 微茫集
家中の入れ物出して蟹を飼ふ 岡本一代
宿借蟹にやる飯粒や秋の風 宮武寒々 朱卓
寒さ防ぎの粗毛身につけ越の蟹 相葉有流
寒廚蟹がいのちの音を出す 松井鴉城夫
寒潮や蟹釣りの子の岩濡らす 石川桂郎 高蘆
寝ねし後音せしものは蟹なりき 相生垣瓜人 微茫集
小さい可愛いい蟹の横這ひ浪追はず 長谷川かな女 花寂び
小春日や潮より青き蟹の甲 秋櫻子
小蟹逃ぐ石をめくられめくられて 仙田洋子 雲は王冠以後
小走りの蟹みな穴をたがへずに 土屋海村
尿道を断たれてをりて平家蟹 斉藤夏風
山びとや沢蟹ほどのひかり負う 森下草城子
山中に芽ぐむもの待つ蟹の泡 村越化石 山國抄
山峡に沢蟹の華(はな)微かなり 金子兜太(1919-)
山浅きけしきに走る小蟹かな 増田龍雨 龍雨句集
山蟹のさばしる赤さ見たりけり 加藤楸邨
山蟹の眼の艶もてる父の墓 河野南畦 湖の森
山蟹の足高かにありく苔の花 冬葉第一句集 吉田冬葉
岩に手を掛けて退ければきょとと蟹 高澤良一 随笑
岩に蜥蜴蟹は木の根に海荒ぶ 金子兜太 少年/生長
岩畳蟹追いかけて追いかけて 高澤良一 宿好
岩蟹に飯粒沈め旅行くよ 中島斌雄
峡の田を沢蟹はしる出水あと 太田 蓁樹
島海苔もそへてくれけり蟹胥 雲良
川蟹のしろきむくろや秋磧 芝不器男(1903-30)
川蟹の垣にのぼり来昼寝宿 松本たかし
川蟹の踏まれて赤し雷さかる 角川源義
干潟いま寵児のごとく子蟹たち 庄司圭吾
年年歳歳沢蟹すばしこくなりぬ 山根 真矢
年金受給日手足折られるたらば蟹 金子潤
底冷えの夕暮蟹を売り残し 中村里子
店赤くなる程松葉蟹ならべ 山下美典
座に上る蟹の脛にも露涼し 高田蝶衣
弁慶蟹葭の葉騒に目を上げぬ 高澤良一 ももすずめ
引く波に小蟹巻かれゐたりけり 猿渡啓子
引く波の置いてきぼりに蟹の泡 中拓夫
引潮に宮しりぞくや蟹の穴 古舘曹人 砂の音
待つ蟹のゐて水口はにごさずに 影島智子
待宵の濡れ岩隠り蟹の爪 高澤良一 ねずみのこまくら
怖るるに足らざる我を蟹怖る 相生垣瓜人 微茫集
患者等は椰子蟹売りをかこみゐて 高橋馬相 秋山越
悪食の蟹の赤さよいくさの日 宇多喜代子
憐みを乞ひては蟹のたちどまる 百合山羽公 故園
懸崖や蟹さばしりて道通ず 水原秋桜子
成木責兄は大猿われ小蟹 加藤知世子
手のこんだ咲き方をする蟹さぼてん 高澤良一 随笑
手の中に蟹を眠らせ磯遊び 四条ひろし
手水おつる下にあつまり嵐の蟹 川島彷徨子 榛の木
手秤のずわい蟹盛る朝の市 三好たけし
打水に濡れた小蟹か薔薇色に 北原白秋
投げ込まる蟹に怒りて桶の蟹 羽部洞然
括られし蟹秋風の底にゐる 百合山羽公 寒雁
捨てられし蟹の甲羅に都心の霜 和田悟朗
捨てるごと呉れし月夜の渡り蟹 青木重行
放ちやる蟹大海は尋常に 阿部みどり女
故郷は深毛の蟹の真闇なる 小檜山繁子
新樹光花咲蟹とはおもしろや 角川源義
新涼の黄泉(よもつ)へぐひに蟹の味噌 角川源義
新涼や蟹のさ走る能舞台 吉田鴻司
施餓鬼塔たてて水揚秋の蟹 百合山羽公 寒雁
旅の涯蟹が殻脱ぐを見たりけり 山口草堂
旅先の藻屑蟹めく目覚めとも 高澤良一 随笑
日本海の寒さの沁みし蟹甘し 宮津昭彦
日盛の破船無数の蟹が棲む 中島斌男
日盛や汽車道はしる小さき蟹 泉鏡花
日盛りの破船無数の蟹が棲む 中島斌雄
旧道を蟹渉り急く伊勢薄暑 鳥居おさむ
早稲の香や蟹踏みつくる磯の道 支考
春の夜や蟹の身ほぐす箸の先 鈴木真砂女 生簀籠
春の蟹食へばからりと足の筒 中拓夫
春の風蟹と遊べば蟹悉く笑みまけつ 日夏耿之介 婆羅門俳諧
春一番過ぎて身痩せし蟹を食ふ 西村公鳳
春暑う蟹漁り子の裸かな 金尾梅の門 古志の歌
春潮や蟹のランプに暮光垂れ 石原八束 空の渚
春陰の蟹の目うごく忘れ潮 中拓夫
春風や干潟の蟹の穴ごもり 冬葉第一句集 吉田冬葉
時の日の蟹はぐらりと湯中より 大木あまり 火のいろに
晩祷の退屈に蟹が出て来たよ 宇多喜代子(1935-)
曳き出づる蟹のトロ箱雪を詰め 西村和子 かりそめならず
月に吐く蟹の泡よりはかなき言 加藤楸邨
月に蟹出て逃ぐる脚ならしけリ 長谷川双魚
月の夜やなすこともなき平家蟹 井上井月
月の蟹陸続たるが愉しまる 佐野まもる 海郷
月夜蟹妊りてゐて辷りだす 萩原麦草 麦嵐
月待ちのうしほさし来ぬ蟹の穴 千代田葛彦
朝すゞに瓜くふ蟹を叩き逐ふ 高田蝶衣
朝市の跡に蟹這ひ南風吹く 江藤暁舟
朝市や湯気にあらはる鱈場蟹 沼澤 石次
朝戸出て直ぐあり沢蟹の猛(たけ)き匂い 金子兜太 遊牧集
朝涼の白波に蟹まろびけり 大串章 百鳥
朝網や蟹もまじりて魚しぐれ 海岸 中勘助
木賊刈蟹のむくろのさざれ石 中拓夫
来る波に蟹のたじろぐ岩っ角 高澤良一 ぱらりとせ
東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる 石川啄木
松の根に火をともし這ふ弁慶蟹 長谷川かな女 花寂び
松明けの蟹船を出てゆきにけり 古舘曹人 樹下石上
松落葉蟹踏んとす浜辺かな 三輪未央
松葉蟹うまし一献さらによし 大橋敦子
松葉蟹せせり精進落しとや 西尾照子
松葉蟹たべてピカソの話など 早川信一
松葉蟹海恋ふ色に届きけり 田中美彦
松葉蟹男の膝を巡るなり 宇多喜代子
松葉蟹眼を立て日本海暗む 三好潤子
松葉蟹雪一尺の地に括る 松瀬青々
果実吸う原爆忌の妻蟹のように 前川弘明
枯葦の折れ重なりて蟹の穴 寺田寅彦
柿芽吹き蟹の鋏のやうな芽を 高澤良一 ぱらりとせ
桃の日や蟹は美人に笑るゝ 服部嵐雪
梅雨の蟹半身紅きまゝに死す 百合山羽公 故園
棲みつける小蟹つくばふ井を晒す 井手 芳子
榾漬けし甕のうしろに蟹ひそむ 百合山羽公 故園
歩み去りあゆみとゞまる夜の蟹 飯田蛇笏 霊芝




死せる蟹裏返されて全き死 立岩利夫
死にしふりして蟹あはれ土用浪 原石鼎
死蟹も底くぐりけり青葉潮 平井照敏 天上大風
残陽や蟹も這ひ出る岩がもと 太田鴻村 穂国
母の忌の蟹みつつ汲む泉かな 福田甲子雄
水つぽき蟹食ひ温き小正月 西村公鳳
水に入りたる沢蟹の水の色 湯浅桃邑
水中も同じ速さで蟹遁ぐる 右城暮石 上下
水仙が好き蟹が好き越前も 坊城中子
水仙や捨てて嵩なす蟹の甲 民郎
水泡をいだいて蟹はかなしめり 富澤赤黄男
水盤の蟹の游ぎの足けぶる 森川暁水
水神祭蟹も寄居虫も罷り出て 町田しげき
汐干くれて蟹が裾引なごり哉 服部嵐雪
汐干暮れて蟹が裾引くなごりかな 嵐雪
沓脱を落つる如くに蟹隠る 内藤吐天 鳴海抄
沖へ去る雪天ずわい蟹売られ 豊山千蔭
沙羅の花波間に蟹の沈むかな 岸本尚毅 選集「氷」
沢の蟹ほのぼの紅し業平忌 神尾久美子 桐の木
沢蟹と一年生は水の中 中山保夫
沢蟹に白頭映す家郷かな 金子兜太 皆之
沢蟹に花ひとひらの花衣 矢島渚男 船のやうに
沢蟹のあらがふことを愛しとす 富安風生
沢蟹のつきあたりたる一の杉 鳥居美智子
沢蟹のとことこ宇津谷地蔵盆 高澤良一 燕音
沢蟹のやは腰育てに日が昇る 磯貝碧蹄館 握手
沢蟹のカタンと転けて宇津谷道 高澤良一 随笑
沢蟹の両眼立てて沖ゆく艦 細川加賀
沢蟹の吐く泡消えて明け易き 芥川龍之介
沢蟹の夢の中でもわれを過ぐ 足利屋篤
沢蟹の大小しづむ秋の水 中田剛 珠樹以後
沢蟹の寒暮を歩きゐる故郷 飯田龍太(1920-)
沢蟹の小石をあゆむ別れ霜 松村蒼石 寒鶯抄
沢蟹の末裔のごと人集まる 大口元通
沢蟹の桔梗いろの肯を押ふ 高澤良一 さざなみやっこ
沢蟹の榧の実運び尽しけり 水原秋櫻子
沢蟹の歩むその先靴で堰き 高澤良一 燕音
沢蟹の死んでゐたりし春氷 茨木和生 倭
沢蟹の水きらきらと母は風 栗林千津
沢蟹の水をはなるる爽気見ゆ 松村蒼石
沢蟹の沢で柩がぐらりとす 栗林千津
沢蟹の泡ふくさまを見てゐたり 谷口雨女
沢蟹の濡眼たてをり遠き雷 加藤知世子
沢蟹の背の八色の一つが毒 宇多喜代子
沢蟹の脚すりぬけて奔る水 高澤良一 さざなみやっこ
沢蟹の鋏もうごくなづなかな 蓼太
沢蟹の飯つぶ喰める桜かな 小川軽舟
沢蟹も雨にもみづる凹凸竄(おうとつか) 高澤良一 宿好
沢蟹をここだ袂に入れもちて耳によせきく生きのさやぎを 原阿佐緒
沢蟹を伏せたる籠もみぞれゐる 龍太
沢蟹を蹤いてくる子に不意にやる 加藤秋邨 怒濤
沢蟹生れ生れて夜を短くす 川村三千夫
泉辺の石われ去らば蟹の乗る 村越化石
法印の法螺に蟹入る清水かな 夏目漱石 明治四十年
泡の中蟹の何やら策しをり 高澤良一 ぱらりとせ
波止埋めて糶待つ蟹や初霰 吉澤卯一
波耀れば蟹はしづかに眸をつむる 富澤赤黄男
泣く形に子蟹戻れり砂の穴 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
泥を食ふ蟹を見つめて腹空けり 高澤良一 ももすずめ
浄土ケ浜蟹の称ふるお念仏 高澤良一 随笑
浅間山蟹棲む水の滴れり 前田普羅 春寒浅間山
浦風に蟹もきにけり芋畠 炭 太祇 太祇句選後篇
浪の際小蟹は春の日にまろび 河野南畦 『花と流氷』
海底を歩きし蟹を食ふ春夜 市村究一郎
海日の出蟹一斉に崖のぼる 内藤吐天 鳴海抄
海松かけし蟹の戸ぼそも星祭 杉田久女
海老網の蟹ぽきぽきと脚折られ 石田勝彦 秋興
海見えず蟹ののぼれる屋根が見ゆ 森田峠 避暑散歩
海鼠ともならてさすがに平家也 涼莵 (赤間関にて平家蟹といふを見て)
涼しくて蟹の朽ちをるお寺かな 太田鴻村 穂国
涼しさや松這ひ上る雨の蟹 正岡子規
深海の松葉蟹とて甘かりし 星野 椿
渡し場や初汐逼る蟹の穴 寺田寅彦
渡り蟹いろの夕映え額染めて 高澤良一 ぱらりとせ
渡り蟹甘藻の林はすかひに 高澤良一 素抱
温仙花散りて落つれば小さき蟹鋏をささげて驚き走る 窪田空穂
滅びつつピアノ鳴る家蟹赤し 西東三鬼(1900-62)
滴りに山蟹来ては身を濡らす 竹中碧水史
潮の香や小蟹をくれし彼を訪う 松本文子
火星(マルス)近づく海が呟き蟹呟き 横山白虹
灯寒し蟹食べし指幾度も拭き 鈴木真砂女 夕螢
炎天の浜に火焚けば蟹隠る 内藤吐天 鳴海抄
煉炭の火の匂ひ濃し蟹買ふに 宮津昭彦
煤蟹や根雪明りに糶場うち 石川桂郎 高蘆
熱燗や捨てるに惜しき蟹の甲 龍岡晋
燈台は砂上の櫓蟹寄せて 古舘曹人 能登の蛙
燈台は雨後の白骨蟹走り 古舘曹人 能登の蛙
爆音は編隊蟹が続々と 八木三日女 赤い地図
爪立つ蟹火の跡の町槌ひびく 成田千空 地霊
爪置いて逃げたる蟹や春の潮 鈴木真砂女 生簀籠
父の日や皿をはみだす蟹の脚 畠山譲二
片爪の蟹這ふ八月十五日 木内彰志
牡丹雪やみ蟹売を地に貽す 宮武寒々 朱卓
牧谿猿蟹捕へんと身を乗り出す 高澤良一 鳩信
猿蟹のその蟹の子の子の子の子か 林原耒井 蜩
珊瑚珠のごと蟹沈む清水かな 下村梅子
瓜刻む足もとに来て蟹可愛 富安風生
生きて渇く蟹よ炎天の蟹売よ 川辺きぬ子
生き死にを清水のふちに蟹赤し 川崎展宏
田打蟹の 手の リズムがしろい 吉岡禅寺洞
田打蟹の干潟をふるわせて 都會行きの汽車だ 吉岡禅寺洞
田打蟹洲はとんがりを現しぬ 棚橋影草
甲羅より蟹の目起立して歩む 羽柴雪彦
白雲の下に鬱気の蟹といる 宇多喜代子
盆の供に蟹が来てゐる海女の墓 町田しげき
盗み歩きする蟹そこそこに面白し 高澤良一 随笑
盤台の椹平葉に松葉蟹 水原春郎
目の遇ひし蟹が脳裡にちらつくも 高澤良一 さざなみやっこ
目を立てて動かぬ蟹や晩夏光 小松崎爽青
短か夜や芦間滝るる蟹の泡 蕪村
短夜や芦間流るる蟹の泡 與謝蕪村
石を積み紅蟹置けば梅雨の宮 宮武寒々 朱卓
石菖の根に止まりぬ蟹の泡 柳川春葉
砂ありく蟹のどけしやその狭み 安斎桜[カイ]子
砂あり蟹のどけしや空らはさみ 安斎櫻[カイ]子
砂の歩を殺し蟹より遠ざかる 古舘曹人 能登の蛙
砂の蟹一つ見ゆれば無数見ゆ 内野修
砂蟹の穴に押し入る無理無体 高澤良一 さざなみやっこ
磯はたや蟹木に上る五月雨 森鴎外
磯屑蟹打ちて雨脚強くなる 高澤良一 さざなみやっこ
磯桶にあそばせて売る渡り蟹 山田春生
磯蟹の甲羅を低く殿を越ゆ 古舘曹人 砂の音
磯蟹の隠るるために出できたる 池田秀水
礁に群れて夕焼よりも赤き蟹 木下夕爾
礁覆ふ若布にもまれ蟹蒼し 河野南畦 『花と流氷』
神島を黙契の蟹はい出づる 宇多喜代子
禅堂へ入らむ蟹の高歩き 飴山實
秋の水片輪の蟹の一つ棲む 内藤吐天 鳴海抄
秋の潮すべての蟹の背を越えぬ 原田喬
秋の蝉蟹にとられて鳴きにけり 飯田蛇笏
秋めける灯に蟹赤き屋台店 山形勝峰
秋風や甲羅をあます膳の蟹 龍之介 (室生犀星金沢の蟹を贈る)
秋風をいよ~蟹の眼玉かな 尾崎迷堂 孤輪
穴にのぞく余寒の蟹の爪赤し 子規句集 虚子・碧梧桐選
穴の中にゐる蟹の見ゆ何せるや 相生垣瓜人 微茫集
穴を出て小蟹疾っ疾と駆け出せり 高澤良一 さざなみやっこ
穴口に蟹の引き込み切らずをり 市場基巳
空(くう)をはさむ蟹死にをるや雲の峰 河東碧梧桐(1873-1937)
空をはさむ蟹死にをるや雲の峰 河東碧梧桐
空輪待つ花咲蟹の身じろがず 平賀扶人
突堤の蟹が引っ張る赤い月 河合凱夫 飛礫
童話作家と蟹の呟き聞きゐたり 奈良文夫
端近にておもへば蟹も喰べをり 篠田悌二郎 風雪前
笹折て赤蟹なぶる夕すゞみ 松岡青蘿
笹蟹にかゞり初めたる手毬かな 中村烏堂
箱庭のそこは井戸端赤き蟹 坂本宮尾
糶声の気合一本ずわい蟹 長谷川史郊
紅き蟹まだ夕月に染まずして 百合山羽公 故園
紅戈の蟹も来て居る涅槃像 河野静雲 閻魔
紺青の蟹のさみしき泉かな 青畝
網の蟹海鴎にぶつつけ鮭不漁 青葉三角草
練炭の火の匂ひ濃し蟹買ふに 宮津昭彦
纜を岩に渡して蟹捕舟 高澤良一 随笑
美しき蟹あり酒を温むる 高野素十
美酒あふれ蟹は牡丹の如くなり 渡辺水巴
老い始む沢蟹さりりと炒る人も 上林裕
老斑の手に蟹捉へすぐ放つ 福田蓼汀 秋風挽歌
聖五月日輪かぶり子も蟹も 町田しげき
肘張つて蟹茹でらるる雪時雨 鈴木真砂女 夕螢
脚折れし蟹を歳暮に大工来る 上林レイ子
腹の子をこぼして蟹の崖登る 北村保
自我を捨て従ふ余生懐手 蟹江かね子
舟倉に蟹は朱の爪より入る 佐川広治
芦の葉の蜻蛉風無し蟹の泡 子規句集 虚子・碧梧桐選
花人に北の海蟹ゆでひさぐ 中村汀女
花冷の小蟹愛しむ漢の掌 渡辺恭子
花咲蟹すすりて旅の顔よごす 高井北杜
花咲蟹茄でて真紅を越えにけり 吉田紫乃
花蟹や盛の一字がなみの泡 浜田酒堂
若狭蟹外の面はしぐれゐるらしき 森田峠 避暑散歩
若葉風津蟹が泡の潰えしぶく 内田百間
茹蟹やにはかに男らは日焼け 野澤節子 黄 瀬
草刈つて蟹の横ぎる盆の道 沢木欣一
草隠る小蟹も露に濡るるもの 内藤吐天 鳴海抄
葉も蟹も渦のうちなる土用かな 依光陽子
葛咲いて蟹水中に二つ死せり 横山白虹
葵など咲きて研究室の前 元松蟹春
蓮の実のとぶや蟹煮る隣あり 松瀬青々
藻の上に沢蟹遊ぶ古江かな 高橋淡路女 梶の葉
藻畳の中にて蟹の目覚むらん 高澤良一 寒暑
蘆の芽や蟹釣りの子の腹ン這ひ 富田木歩
蘆の葉を揺がしゐるは小蟹かな 芝不器男
蘆の角濁り曳きつゝ蟹ありく 三色不撓
蘆生の子掌にこそばゆく蟹くれぬ 太田鴻村 穂国
蛍火や蟹のあらせし庭のへり 内藤丈草
蛸追へば蟹も走るや芋畠 太祇
蝉涼し蟹ははさみをたたみ去る 阿部みどり女
蟹あゆむ刈展べ若布夕映えて 金子 潮
蟹かさかさ入り来て砂を戸内に敷く 長谷川かな女 花寂び
蟹が出て名もなき滝みち雲垂らす(箱根) 河野南畦 『焼灼後』
蟹が目を立てて葭切帰りゆく 百合山羽公 寒雁
蟹が眼を立てて集る雷の下 西東三鬼
蟹が肩怒らす方の鋏大 田畑比古
蟹さくと門前街の片時雨(永平寺) 角川源義 『秋燕』
蟹さぼてん今年も花をつけぬ鉢 高澤良一 随笑
蟹さんの型押し遊び灼け砂に 高澤良一 素抱
蟹ちりに煮込む但馬の冬菜かな 山田弘子
蟹とあそぶときは少年旅ひと日 山岸 治子
蟹となり今宵霜くだる砂を匐ふ 千代田葛彦 旅人木
蟹と共に海の入日へ向きて歩む 金子兜太 少年/生長
蟹と吾に雲吹きとほる木暮沢 千代田葛彦 旅人木
蟹と居て宙に切れたる虹仰ぐ 西東三鬼
蟹と老人詩は毒をもて創るべし 佐藤鬼房 何處ヘ
蟹に指挟まれ多喜二忌の渚 石井里風
蟹に眼を凝らして蟹のやうな顔 高澤良一 ももすずめ
蟹のいふ事情とやらを聞きやらむ 高澤良一 燕音
蟹のうごかす石の一つの薄暑かな 村越化石 山國抄
蟹のなか蟹のなまみの歩みゐる 平井照敏 天上大風
蟹のぼる桑の老木のたまり水 前田普羅 能登蒼し
蟹の味締まるは雪の来るしるし 鈴木真砂女 夕螢
蟹の屍乗り越えて蟹海へ行く 飯沼衣代
蟹の手のひびも乾はらぐ暑さかな 野明 俳諧撰集「有磯海」
蟹の来るところに斧を置く厨 山口誓子
蟹の死を舟虫群れて葬へり 富安風生
蟹の目に八月の潮光るなり 小松崎爽青
蟹の目の巌間に窪む極暑かな 泉鏡花
蟹の目の突き出てものを疑へり 佐藤漾人
蟹の直ぐそばに滔々たる流れ 山口誓子 晩刻
蟹の眼や原潜遠く沖にゐて 池田秀水
蟹の眼を濡らして挙がる潮けむり 高澤良一 素抱
蟹の瞳に似て海棠の群蕾 酒井鱒吉
蟹の瞳や油団の人を窺へり 島村元句集
蟹の穴のぞき幼き日をのぞく 岩岡中正
蟹の穴より天球へ泡ひとつ 小暮洗葦
蟹の穴塞ぎみぬ夕べ涼しくて 中島月笠 月笠句集
蟹の簗かけて籔中王子守る 谷本 圭司
蟹の肉せせり啖へばあこがるる生れし能登の冬潮の底 坪野哲久
蟹の肉蝋のごとくに地主祭 宮武寒々 朱卓
蟹の背に月満ちくればひく潮 原裕 投影
蟹の脚強烈に折り日本海 小檜山繁子
蟹の色悪しき真昼の声を出す 飯島晴子
蟹の足の純粋運動日暮かな 中北綾子
蟹の鋏が硝子を擦つて満月なり 豊山千蔭
蟹の骸蟇の骸に水草生ふ 山口青邨
蟹はしづかに蛙の前を立去れり 相生垣瓜人 微茫集
蟹はしる水に翳ひき青すすき 石原舟月 山鵲
蟹は目を縦に上げくる潮を見て 高澤良一 素抱
蟹は穴にひそむ白日為すことなし 大野林火
蟹もぐる砂の動きを波が消す 堤剣城
蟹も今事なき如く見ゆるなり 相生垣瓜人 微茫集
蟹よ汝れ砂にもぐらば眼つむるか 川口重美
蟹を喰ふことも賢く老いにけり 松山足羽
蟹を煮て山茶花しぐれとなりにけり 吉田紫乃
蟹を立ち売る降る雪に消されもせず 津田清子 二人称
蟹を見て三鬼の死にし家は見ず 秋元不死男
蟹を追ふ足指不器用に五本あり 長谷川かな女 花寂び
蟹を食ふ濡れし荒磯に黒が満つ 中拓夫 愛鷹
蟹一つ死んでをるなり芹の水 京極杞陽 くくたち下巻
蟹二つ食うて茅舎を哭しけり 松本たかし
蟹割つて母のゐますを羨しめる 石川桂郎 四温
蟹啖ふ秋の裸灯低く吊り 小林康治
蟹喰ひて郷の貧乏言はずじまひ 松山足羽
蟹喰ふをやめオホーツクの没日見よ 福田蓼汀
蟹売のばけつのまはり子の気荒し 原田種茅 径
蟹売の裾引き雪を地に呼びぬ 古舘曹人 能登の蛙
蟹売りが声張るときは雪止むとき 鈴木真砂女 夕螢
蟹売りの背を離れぬ冬の蝿 木村里風子
蟹売女凍ててその掌も蟹の紅 鈴木真砂女 夕螢
蟹奔らせ青嵐到る巾着湾 高澤良一 寒暑
蟹孤独炎ゆる砂どち歌へるに 川口重美
蟹工船に乗込む雪をかじっている 七戸黙徒
蟹市場きさらぎの灯はまたたかず(越前三國港) 上村占魚 『橡の木』
蟹折つて食へば風花顔へくる 西村公鳳
蟹捉へ春の夜に鳴る紙袋 斉藤夏風
蟹捕りし夕の怒濤ぬれてゐたり 萩原麦草 麦嵐
蟹提げて童はしれる田植かな 米沢吾亦紅 童顔
蟹揚ぐる見ての膝より風邪兆す 石川桂郎 高蘆
蟹星雲をぶち抜いて行く我が視線 木村聡雄
蟹横に横に夕日を引摺れる 高澤良一 ももすずめ
蟹歩き亡き人宛にまだ来る文 波多野爽波 『湯呑』
蟹歩くところや石に還る臼 大峯あきら
蟹死にて仰向く海の底の墓 西東三鬼
蟹死んで潮少しづつ上りくる 加藤瑠璃子
蟹殺す我家が見えぬところにて 永田耕衣 驢鳴集
蟹毟りもののあはれを忘れをり 北見さとる
蟹汁を啜りてをればソ連船 斉藤夏風
蟹沈む潮心のごとのぞく 田川飛旅子
蟹消えて見えねど眼玉何処かに 平井照敏 天上大風
蟹漁の雨脚白し最上川 高澤良一 随笑
蟹漁期月にわびしや妻の陰(ほと) 金子兜太 詩經國風
蟹漁期榾火絶やさず家居婆 鈴木真砂女 夕螢
蟹穴を佛の通る詣り墓 八牧美喜子
蟹穴を出でんとしてはためらへる 今井つる女
蟹筌を沈めゐる子に山雨急 江口竹亭
蟹籠も船も沖来し濡れを負ふ 西村公鳳
蟹糶る声沖より吹雪段なして 三好潤子
蟹糶場声とぶ時化値斑雪して 石川桂郎 高蘆
蟹紅く鉄橋ひびきやすしかな 秋元不死男
蟹紅しひとの訃信じられずゐる 山口波津女 良人
蟹紅し遠畦は萌え移りをり 千代田葛彦 旅人木
蟹缶の赤きラベルや多喜二の忌 有田 文
蟹群るる古溝海に出てをはる 森川暁水
蟹船に乗らぬ舟夫あり御講凪 本多柳芳
蟹茹でて秋夜父亡きこと鮮らし 神尾久美子 掌
蟹落ちて梅雨の大河の声のなし 太田 蓁樹
蟹蟹と岩を起こして蟹捕る子 高澤良一 鳩信
蟹赤きさらさら川や芹の花 中勘助
蟹赤くひそみて朝の熱帯樹 橋本鶏二
蟹赤し野菜を洗ふ海女の前 米澤吾亦紅
蟹走り喪のわれ何処へゆかむとす 村越化石 山國抄
蟹走る神殿羯鼓打つ音に 伊藤いと子
蟹逃る吾が思ひたる方にあらず 加倉井秋を 午後の窓
蟹酒の壺捨てゝあり畑の霜 比叡 野村泊月
蟹釣つて楸邨先生膝あたたか 原田喬
蟹食めば星せつせつと濃きかな 小林一枝
裘着て犬くさき蟹工女 三戸杜秋
親蟹の子蟹誘うて穴に入る 高浜虚子
豆咲いて田に沢蟹の甲かわく 田島秩父
豆蟹の荻の葉のぼる月夜哉 梅沢墨水
貝塚に蟹は火色に生きてをり 飯山 修
貝殻と蟹で賑はつてゐる眞晝 富澤赤黄男
貧厨や川蟹乾く籠の中 木下夕爾
赤き蟹横這ひ急ぐ走馬燈 福田蓼汀 山火
越前の雪の匂ひの夫婦蟹 猿山木魂
越前や茹で蟹の脚咲くごとし 鍋谷ひさの
越前蟹みな仰向けに糶られたる 田上さき子
越前蟹糶のうしろの夜の面 文挟夫佐恵
足もとを蟹も毛虫もひた急ぐ 相生垣瓜人 微茫集
足高に涼しき蟹のあゆみかな 木因
踊るならタンゴに如かず高脚蟹 高澤良一 ぱらりとせ
軽き詩歌蟹は甲羅に朝日載す 磯貝碧蹄館
近浦も相模も雨の虚蟹 佐藤鬼房 何處ヘ
遠雷や土間に這ひ出し蟹の色 久米正雄 返り花
邃き穴なり蟹の一部見ゆ 相生垣瓜人 微茫集
酒からし花橘に蟹の脚 樗良 (前夜飲美酒)
酒こぼれし膳に雪の夜蟹ちぎる 猿橋統流子
酒やれば風が募りて松葉蟹 高澤良一 鳩信
酔蟹や新年会の残り酒 正岡子規
酢を舐める神父毛深し蟹料理 寺山修司 花粉航海
醉蟹や新年会の残り酒 正岡子規
重代の鋏を蟹の翳すちふ 相生垣瓜人 明治草抄
野ざらしに見ゆ炎天の蟹港 福田甲子雄
野分あと蟹ぞくぞくと出できたる 瀧澤伊代次
鈴となつても怨霊の貌平家蟹 下村ひろし 西陲集
鉤打ちて花咲蟹と女云ふ 井桁蒼水
鋏抱き磯蟹波をかぶりけり 高澤良一 ももすずめ
鋏立てゝ苔食ふ蟹に水浅し 龍胆 長谷川かな女
鍋の中に蟹生きて居ぬ箒草 龍胆 長谷川かな女
長恨の丹のいろうすれ平家蟹 中原道夫
降り出して干潟を蟹のわらわらと 高澤良一 ももすずめ
降る雪に糶らるる蟹の紅しづもる 三好潤子
陸前のとある岩間のみなし蟹 佐藤鬼房 朝の日
陽炎に蟹の泡ふく干潟かな 夏目漱石 明治二十九年
雑炊に蟹のくれなゐひそめたる 山田明子
雪くらむ厨まつかに蟹ゆだる 吉野義子
雪の海底紅花積り蟹となるや 金子兜太 早春展墓
雪夜思ふ花咲蟹の濃き脂肪 小檜山繁子
雪濡れし眼もて届きぬたらば蟹 桂樟蹊子
雲動き干潟の蟹のみなうごく 加倉井秋を 午後の窓
雲影も蟹も浅処に澄めりけり 佐野まもる 海郷
雲聳ちて蟹は甲羅の干きゆく 富澤赤黄男
霙るるや小蟹の味のこまかさに たかし
霜の蟹や玉壷の酒の底濁り 子規句集 虚子・碧梧桐選
霜蟹を食ふべしと夜の円居かな 高木晴子 花 季
霧深し挫けごころと沢蟹と 田口満代子
霧笛鳴る上海蟹をせせる時 岩崎照子
霰打つ暗き海より獲れし蟹 松本たかし
青い蟹となるぼくら爪がないために 林田紀音夫
韓信の股潜りかやまんじゅう蟹 高澤良一 素抱
音もなく紅き蟹棲む女医個室 藤田湘子(1926-)
風かをる庭下駄のさきを蟹にぐる 滝井孝作 浮寝鳥
飼へば蟹重なりあへり花の夜 村越化石 山國抄
駆け廻り蟹は干潟のプロデュサー 高澤良一 ぱらりとせ
高値蟹糶るへぶつぶつ咳の婆 石川桂郎 高蘆
高汐に吹かれ樹上の蟹とべり 萩原麦草 麦嵐
髪置に大き過ぎたるリボンかな 本堂蟹歩
鮭を打つ槌なりといふ汚れたり 蟹平
鰤網に縋る蟹あり夜明けつつ 吉沢卯一
鱈場蟹おのが甲羅で煮られをり 長谷川櫂
鱈場蟹北方領土守る子より 木下慈子
鴨足草山神蟹を彩りぬ 松根東洋城
黒南風や火の爪あげて蟹はしる 赤松[けい]子 白毫


以上
by 575fudemakase | 2014-06-20 07:27 | 夏の季語 | Trackback


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《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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