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桂信子の句 「秋」編

桂信子の句 「秋」編

桂信子の季題別全句集を読んで佳句を愉しもう。

▼時候
秋の土鶏のみつむるもの動く
四五人に日向ばかりの秋の道
秋すでに風のひびきの湖西線
水汲んで水を動かす山の秋
桟橋を端まで歩く秋の昼
横顔に傘の雫の飛んで秋
傘立に傘がまつすぐ立つて秋
汐ひきしあとわらわらと秋の蟹
もの置かぬ秋の机を憶ひけり
はじめより高音朝の秋の鳥
暮れそむる辺りに秋を思ひけり
秋航や半島長く日当れる
秋となるまでのわが身のおきどころ
これが秋鏡のなかのもの吹かれ
やうやくに秋のかがやき水の綺羅
一夜経て波のかたちのすでに秋
雲は秋木の考へてゐたりけり
初秋の草のかこめる真水かな
初秋やひそめるものの声きこゆ
八月をかたはらにおく三尺寝
八月や兄の帽子が遠ざかる
川半ばまで立秋の山の影
秋立つや鐘をつかんとのけぞれる
秋といふ身にしむころのきたりけり
身もそぞろ秋立つ風のよぎるさへ
一羽毛ただよふ秋となりにけり
音もなく水の流れて秋となる
立秋や何かを思ひ立たねばと
さまざまの雲ゆきあひて秋に入る
秋暑し泥の乾きし築地塀
秋暑し一木のみに日のあたり
もろもろのもの尖りだす九月かな
窓閉ぢて九月はラフマニノフの曲
二階から声のしている白露の日
閾をすべる雨戸いくつも白露の日
つる細き眼鏡を探す白露の日
白露の日石段ひとつづつ降りる
山の木のはつきり見えて白露の日
口むすぶ鯉みて帰る秋彼岸
秋彼岸石階の端砂たまり
みごもりしことなし肌に秋日あつし
かがやきて髪も秋日のものとなる
時計師に微塵の秋日身のまわり
朽ち舟のどうにもならず秋日中
秋の暮鶏はいつまで白からむ
炎える火のふしぎなかたち秋の暮
海照らす日は真正面秋の暮
秋の夜を笑ふひとなき淋しさよ
大空の何待ちて澄む何も来ず
緻密に冷える夜気 葡萄酒のぶどう色
母とわれ夜寒の咳をひとつづつ
坐す牛にそれぞれの顔秋深む
秋ふかし夢二の女灯をともす
秋深し木は年輪をいとなみつ
逝く秋のからくれなゐの心意気
逝く秋のあからさまなる山の容
冬近し黒く重なる鯉の水

▼天文
よれよれの禰宜の袴や秋日和
一湾に漁ながき秋日和
石の上に落す鉛筆秋旱り
秋空や高きにおきて志
これをしも秋空といふ藍の色
秋雲や画家のガウンの裾短か
都さす貨車が連なり鰯雲
庇より周防の国の鰯雲
老婦人のピンクのパジャマ鰯雲
すゝき原水なき川を月照らす
男臥て女の夜を月照らす
月の夜の枕ひきよせ寝るほかなき
ひとりとてひとり歩める月の街
やはらかき身を月光の中に容れ
水底に泥のかぶさる月の村
月の出て畳の縁の足ざわり
関門の引き潮さわぐ砂月夜
早鞆に月の潮路の立ち騒ぐ
月明の杭に通ひの舟きしむ
月明のことに雪被し富士の山
月明の奈良もはづれの一寺なる
湯の町の片側暗し十日月
真夜かけて窓わたりゆく月ひとつ
魂は売らぬ雲より雲へ月
月出でて海峡をゆく一漁船
広縁を拭きたるあとの良夜なる
岸の波打ちあつてゐる無月かな
海の底うねりつづける無月かな
辛口の人の集まる無月かな
後の月長門周防を照らしけり
この年の雨に終りし十三夜
流星やすでに妙義をかくす闇
秋風の窓ひとつづつしめゆけり
目に触るるものみな乾き秋の風
鉋屑の小さな旋回 秋風路地
秋風を来て鼻筋の通る馬
秋風や細身の傘を巻きながら
蛇籠より洩るる水音秋の風
秋風に松斜めなるままが佳し
秋風や心の傷は覆ふなし
秋風をやりすごしゐる草の丈
秋風やいつも気になる蝶番
よく歩くひとに交りて野分あと
駅弁の黒きこんにゃく雁渡し
ふりほどく老婆の髪へ秋の雷
秋雷をひそめし嶺の黒く聳つ
夜霧濃し厚き母の掌に手をおけり
霧の中むなしさのみぞつきまとふ
鉄塔の間のさびしさを霧満たす
罠もろとも獣がうごく霧の底
セロファンにひびく霧笛よ薬のむ
いただきは霧がとりまく国境
霧笛の尾長き朝や壇の浦
葦舟の声のとどかず湖の霧
霧のなか音無川の音ばかり
祷りの背霧にかくれてしまひけり
露の灯の陽とさしかわる牛乳店
露けしや撞木の縄の宙とんで

▼地理
秋嶺の闇に入らむとなほ容
平らなるひろがりにあり水の秋
なればなるやうになりゆく水の秋
舟影のすすむともなく水の秋
やさしさは日にひろがれる秋の潮
秋の浜煮ものの湯気のそば通り

▼生活
木洩れ日の素顔にあたり秋袷
秋袷母の匂ひをわれも持つ
箱階段下りる足音新豆腐
新米や蔵の陰ゆく猫車
濁酒太郎もいつか眠りたる
母老いてパン喰みこぼす秋の灯に
なほ励むこと持ち吾も秋燈に
志高きにありて秋簾
弁当のまはりの塵や松手入
松手入バケツの水に松葉浮く
遠山も風の案山子も伊賀のうち
昼ふかく稲刈る音のすすみくる
稲架日和空気おいしくなりにけり
石臼を庭石として豊の秋
徳利をあの世の供に豊の秋
道の辺に雨後の川音崩れ簗
尾道のきれいな猫の秋思かな
運動会草深く日の射しにけり

▼行事
街中を烏歩ける終戦日
敬老日豆腐の上を水流れ
純毛の服に日あたり文化の日
留守の家の七夕笹の枯れし音
汲みおきの水に夜がくる盆の家
起き伏しの枕ひとつや盆の風
左京区や電柱寄りに大文字
角伐らる鹿に小さき枕あり
果てるころ月明となる村芝居
出番待つ馬話しあふ村芝居
村芝居翁の笛のとうたらり
山々に深空賜わる秋祭
放生の魚を眺めて岸にあり
門川を流れる風や地蔵盆
地蔵盆筵にうすきところあり
兵児帯の房の絞りや地蔵盆
鉄燭の壁に影おく蛇笏の忌
蛇笏の忌寸鉄の句をつくらばや

▼動物
秋の鹿老の近よるごとく寄る
飛火野の小流れに佇つわれも鹿
秋の蛇水にかくれし匂ひかな
見られつつしばらく居りし秋の蛇
欠け茶碗水に瞭らか鳥渡る
一天の翳りなきとき帰燕かな
稲雀波うつ山にむかひ飛ぶ
鵙なくや見送るひともなくて出づ
鵙はやもけたたましわが誕生日
鵙の昼古き写真のわれ笑ふ
椅子の背を一回まわし鵙の晴
ああ言へばかう言ふ鵙と思ひけり
ともしびのひとつは我が家雁わたる
雁をきく敷布の皺をのばしつつ
かりがねや手足つめたきままねむる
中天に雁生きものの声を出す
起き伏すもをみなひとりぞ雁わたる
他郷にてしきりに鰡の飛ぶ日なり
水中に石段ひたり鯊の潮
岩鼻へわたす板切鯊日和
家裏に潮の満干や鯊日和
ひぐらしに樹々の残照ながかりき
ホテルはともす 鳴くかなかなに似合う灯を
かなかなに絵筆を洗う水の彩
庭石やいま微に入りし遠ひぐらし
蜩の一樹はなれし湖畔かな
閂をかけて見返る虫の闇
虫しげし四十とならば結城着む
音立てぬ虫いて青む夜の畳
蝉絶えて虫絶えて何もなき野末
こほろぎのうかべる水を地に流す
ひとり臥てちちろと闇をおなじうす
誰がために生くる月日ぞ鉦叩
きりぎりす腰紐ゆるめ寝ころべば
ひとりねのひるの底よりきりぎりす
きりぎりす足元の草直立し
はたはたの翔んで隠れて湖の国
盤石に青蟷螂の細肢透く
いつ遺句となるやも知れずいぼむしり

▼植物
水中になほ水はじく水蜜桃
柿に耀る陽はかげりきて海に耀る
柿の色脳裏に荒れし海を見る
柿耀りて牛にしづかな刻うつる
熟柿掌に受く断りきれなくて
灯れば寂かさのまゝ耀る林檎
りんご掌にこの情念を如何せむ
いちじくの葉蔭に遠く耕せる
大津絵の鬼が手を拍つ紅葉山
神官の遠くを歩く紅葉かな
黄落のなかをただよう小海線
黄落や片膝立てて山の湯に
黄落や表戸ぬらす朝の雨
黄落や梯子おかれし土の上
ポタージュの厚みを唇に黄落期
まつさをき穹にくひこみ銀杏の木
城壁に木の実落ちそのままの夜
降る木の実水中半ばまで見えて
低き地へ水は流れて一位の実
どんぐりの落ちて日あたる山となる
カンナの黄視野いっぱいに熱上る
朝顔むらさき海に裏側みせて棲む
皺のばす朝顔の種つつむ紙
朝顔の平らにひらき海の風
眩しみて白菊の辺に撮られたる
白菊に起ち居しづかな日を重ね
夫なくて子なくて白き菊咲かす
白菊に触れむと農の大きな指
わが身また糸瓜にひとし垂れ下る
世の中のよくも悪くも糸瓜垂る
長考は山の芋より始まりぬ
遠くほど光る単線稲の花
ただならぬ雲のかたちや稲の花
波音に唐黍を焼く火を落す
敗荷のまはりの雨のこまかなる
生きもののぬくみをうつす秋草に
何となく佇てば秋草そよぎけり
萩の葉のこまかきにわが脛入るる
飲食のかすかな音に萩昏れる
萩の辺りまできて光る貝釦
萩の風白猫は絵のなかで臥る
萩叢をゆるがす風や鶴の胸
夕闇の萩群ざわとあるばかり
卓袱台のありしころにも萩に風
誰彼の声のやさしく花芒
湖消えて昼の穂芒湧くばかり
雲かはるがはるに伸びて薄原
白薄水嵩はげしくなりにけり
芒野やひとの決めたる国境
芒原戻り道などある筈なし
とどきたる夕日しばらく葛の谿
まんじゅさげの意味なき赤さ入日中
曼珠沙華噴く火を山の際にまで
桔梗挿す壺の暗さをのぞいてから
桔梗の間に運ばれし朝の粥
いちにちの終りに会ひし烏瓜
縄張りの縄新しききのこ山
毒茸を掘って真昼の日にさらす

以上
by 575fudemakase | 2014-09-03 00:18 | 句集評など


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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《方法1》 残暑 の例句を調べる
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表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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