夜長
夜長
例句を挙げる。
仙厓円相図
○△□圖判じゐる夜長 高澤良一 ももすずめ
あいつらも夜長なるべしそそり唄 一茶
あすといふ日のたのめなき夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
あゝなんと放物線の夜長かな 田中信克
いちまいの壁の夜長のあるがまま 長谷川素逝 暦日
いつのまに中日となりし夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
うきぐもの雨こぼし去る夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
うたたねの覚めて夜長の水車 福田蓼汀 山火
うつばりに煙のこれる夜長かな 大橋櫻坡子 雨月
えぐりたる景清の目の夜長かな 龍岡晋
おしづかなお晩でございますと夜長 長谷川素逝 村
おそくついて蕎麦を打たすも夜長宿 鈴鹿野風呂 浜木綿
お染久松通ひの毬の夜長かな 龍岡晋
かなはない人の句を誦す夜長なり 高澤良一 ぱらりとせ
かの窓のかの夜長星ひかりいづ 芝不器男
くさ原に月はたゞある夜長かな 石鼎
けぶらせて夜長の尼のみそかごと 後藤綾子
この目鼻離れてゆかぬ夜長かな 藤谷和子
こほろぎのただひとつゐる夜長かな 田中冬二 俳句拾遺
これよりの夜長の山と虚子の墓 宇佐美魚目 天地存問
さかしまにしても夜長の砂時計 町田しげき
しびれてはうめく草津の夜長の湯 高澤良一 随笑
ずうつと抱擁 ずうつとシヤンソン そんな夜長 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
ずるずると昨夜の夜長を引きずりて 稲畑廣太郎
せつけんの裏すこし溶け夜長し 辻美奈子
そぼ濡れし車夜長のガラージヘ 林原耒井 蜩
それぞれの部屋にこもりて夜長かな 片山由美子
たばこすふ煙の垂るる夜長かな 芥川龍之介
とく閉めて雨の夜長と灯の夜長 長谷川素逝 暦日
とけい屋が夜長のがらす戸に幕を 長谷川素逝 暦日
なぐさめの人来ずなりし夜長かな 吉武月二郎句集
なぞへなす遠の夜長の灯は馬籠 皆吉爽雨 泉声
にせものときまりし壷の夜長かな 木下夕爾
ねむれねば念仏申す夜長かな 尼子 凡女
ははそはの母の夜長のものがたり 大橋櫻坡子 雨月
はらわたの動く音聞く夜長かな 田中裕敏
ひとごゑをへだつ夜長の襖かな 長谷川素逝 暦日
ひとりづつ立てば独白夜長劇 上田日差子
ひとり寝の夜長の帯をたたみけり 高橋淡路女
ひとり居のする事もなき夜長かな 木村千枝子
ふたりとも煙草の切れし夜長かな 角川春樹
ふと火事に起きて物食ふ夜長哉 巌谷小波
ふりむいておのが夜長の影の壁 長谷川素逝 暦日
ふりむきし顔の夜長の灯くらがり 長谷川素逝 村
みちのくの夜長の汽車や長停り 阿波野青畝
みちのくの頭良くなる湯に夜長 大野林火(1904-84)
むさゝびの話小国の夜長かな 高濱年尾 年尾句集
むら萩に落ちたる風も夜長哉 増田龍雨 龍雨句集
めいめいの影の夜長のおのがじし 長谷川素逝 暦日
めつむれば夜長の母の糸車 新家豊子
ゆきつきし君に道ある夜長かな 中島月笠 月笠句集
よく話すわれなり人の居る夜長 佐野美智
よそで鳴る夜長の時計みなが聞く 長谷川素逝 村
よそに鳴る夜長の時計数へけり 杉田久女
わが夜長妻の夜長の灯一つ 占魚
わが夜長母の夜長と別にあり 大橋敦子
イヨマンテ北の夜長を熱唱す 星野椿
カンテラに新酒をあぶる夜長哉 寺田寅彦
シンフオニーのフィナーレ夜長の奥へ届く 金子潤
ジヨンガラもロックも愛す夜長かな 山口都茂女
スリッパを新しくして夜長かな 岡田史乃
ダビデの死まで読みて消す夜長の灯 宮脇白夜
デジタルの一分も又夜長かな 岩崎照子
パリ夜長シヤンペン抜きて杯上げて 稲畑汀子 春光
ピアノ高音部夜長に倦みて打つ 林翔 和紙
ポケットベル鳴り出す夜長記者ぐらし 加藤憲曠
ミサ夜長聖堂の扉に犬はべり 桑田青虎
ランプの代に生れし吾や夜長来る 村越化石
ルーレット夜長を装ふ貴婦人も 大津希水
一人酌む酒は蓬莱宿夜長 高澤良一 素抱
一対の男女にすぎぬ夜長かな 加藤郁乎(1929-)
一燈を残し夜長の仕事終ふ 高濱年尾 年尾句集
三国浜の浪吼ゆ夜長守る灯花 四明句集 中川四明
下げし灯に夜長の襖しまりたる 長谷川素逝 暦日
不意に死の来るやも知れぬ夜長かな 櫛原希伊子
京洛のかかる夜長も久し振り 浅井青陽子
人形に言葉をかけて夜長かな 竹山美江子
人情の味噛みしめむ夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
人間が単純になる湯に夜長 高澤良一 燕音
人間に寝る楽しみの夜長かな 青木月斗
仰ぎ見る夜長の時計とまり居る 青峰集 島田青峰
住みつかん河内を夜長話とす 亀井糸游
何笑ふ声ぞ夜長の台所 子規句集 虚子・碧梧桐選
作曲の又手をかへし夜長かな 大場白水郎 散木集
侵されている山間の夜長し 森田智子
俳論も尽きてしまへり夜長人 藤野艶子
兄へ異のありと夜長の生一本 橋本榮治 逆旅
先に寝し顔のかなしき夜長の灯 菟絲子
内剛のわれマーラー派夜長来る 橋本榮治 麦生
凡夫わが妻の足揉む夜長かな 樋口玉蹊子
出るかと妖物をまつ夜長哉 高井几董
加藤洲の大百姓の夜長かな 高浜虚子
半分は彼の世のごとき夜長かな 井上純子
去ぬは去に泊るは泊り坊夜長 松枝よし江
友泊めて誰彼のこと聞く夜長 影島智子
同じ事程経て思ふ夜長かな 柑子句集 籾山柑子
向ひ家に魚もたらせし夜長かな 波多野爽波 『湯呑』
含め煮の鍋の呟く夜長かな 矢嶋あきら
吹きぶりの障子のうちの夜長かな 清原枴童 枴童句集
吾が胃吾が手に触れしよりの夜長かな 竹下しづの女句文集 昭和十四年
味噌豆を火止めてうます夜長かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
唐紙に鼠溺す夜長哉 寺田寅彦
噛んでゐて夜長の味の茎若布 能村登四郎 菊塵
地球儀の灯影の国の夜長かな 龍岡晋
地蔵湯の道順聞いて夜長人 高澤良一 随笑
堪へゆかめ夜長きことの淋しさも 兜木総一
壺の中歯ブラシ落ちてゐる夜長 皆吉司
滑稽新聞
外骨に引きずり込まれ読む夜長 高澤良一 さざなみやっこ
夜長かなあいついまごろどこにゐる 岡田史乃
夜長かな蛍雪時代といふ雑誌 天槻和木
夜長き女蚕の如く寝ね入れり 竹下しづの女 [はやて]
夜長き燈碇泊燈とをしへらる 五十嵐播水 埠頭
夜長さに少し暇ある婢かな 高橋淡路女 梶の葉
夜長さの厠三たびよ避難宿 近藤一鴻
夜長さの夫ゐぬもよしゐるもよし 吉野義子
夜長さの障子の桟の影とあり 長谷川素逝 暦日
夜長さの雨降る音のかはらざる 長谷川素逝 暦日
夜長さやところも替ず茶たて虫 加舎白雄
夜長さや処もかへず茶立虫 白雄
夜長さや燻べたす薪のひとつかみ 金尾梅の門 古志の歌
夜長さを映して澄める鏡かな 吉武月二郎句集
夜長さを衝きあたり消えし婢かな 芝不器男
夜長し卓に土産の火山弾 太田土男
夜長し四十路かすかなすわりだこ 中村草田男
夜長し妻の疑惑を釈かずに措く 日野草城
夜長し家号鰻の絵の添ひて 昭彦
夜長し木彫の木菟と谷の木菟 村越化石 山國抄
夜長し父を継ぎたる農日誌 影島智子
夜長し背中ばかりの虫歩く 大石雄鬼
夜長し遠流の果てに東京都 櫂未知子 貴族
夜長とは詠めど夜寒の句なりけり 久保田万太郎 流寓抄
夜長とも夜寒ともある羽織かな 野村喜舟 小石川
夜長なる磧なりけりほの白う 尾崎迷堂 孤輪
夜長の子夫婦の膝を往来して 黒坂紫陽子
夜長の屍全き母のすがたして 成田千空 地霊
夜長の灯あらはに語り倦まざりけり 石塚友二 光塵
夜長の灯人の一生読み了る 高木石子
夜長の灯家に娘のものなくなりて 松村蒼石 露
夜長の灯暗しと思ひたりしより 成瀬正とし 星月夜
夜長の灯水音に明き花屋にや 安斎櫻[カイ]子
夜長の灯煌々として人在らず 日野草城
夜長の炉松毬ばかりくべにけり 金尾梅の門 古志の歌
夜長の雨ことにはげしき家裏なり 原田種茅 径
夜長びと濤のごとくに菊づくり 宇佐美魚目 天地存問
夜長ふと見出しものに「肥後守」 草田男
夜長を来し列車たやすく切離す 津田清子 礼 拝
夜長人たのしみて書く手紙かな 楠目橙黄子 橙圃
夜長人に遠火事の鐘いつまでも 清原枴童 枴童句集
夜長人小匣に真珠秘めにけり 野村喜舟 小石川
夜長人彭々と銀座十一時 清原枴童 枴童句集
夜長人耶蘇をけなして帰りけり 前田普羅 新訂普羅句集
夜長咄狐が人を騙す型(かた) 高澤良一 鳩信
夜長妻さなきだになほ口重に 近藤一鴻
夜長妻栗色の靴買へと言ふ 欣一
夜長宿ぎうと犇めく草津町 高澤良一 随笑
夜長宿宴席の名も草千里 高澤良一 鳩信
夜長寝てその後の雁は知らざりき 日野草城
夜長憎み通すドラマの敵役 下村ひろし 西陲集
夜長星窓移りしてきらびやか 芝不器男
夜長灯や只の御茶屋の女人堂 前田普羅 新訂普羅句集
夜長炉に土間の柱や誰かある 飯田蛇笏 霊芝
大島上空にありとのみ夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
大津絵の鬼枕上ミ宿夜長 大橋敦子 匂 玉
大蜘蛛のがさ~と這ふ夜長哉 内田百間
太りたき痩せたき夫婦の夜長かな 宮本美津江
妹に軍書読まする夜長哉 正岡子規
妻がゐて夜長を言へりさう思ふ 森澄雉
妻が書く夜長まかせの文長き 林 翔
妻一語又妻一語して夜長 上野泰
妻子寝ねホ句の夜長でありにけり 小原菁々子
妻帰り夜長の居間に喪服脱ぐ 津村浅次郎
婚も死も酒盛りとなる夜長かな 小泉八重子
子の旅を地図になぞりて夜長の灯 岡本 静子
子の椅子の二階に軋む夜長かな 内藤信子
子離れは難し又子へ文夜長 嶋田摩耶子
存分に夜長もちひて勤めなし 田川飛旅子 『使徒の眼』
孤トりなり夜長泪に読みながら 瀧井孝作
宿炬燵山の夜長を如何にせん 高澤良一 燕音
寝ねあぐむ老や夜長の三つ下り 会津八一
寝るだけの家に夜長の無かりけり 松崎鉄之介
尉と姥メニユーにのこる夜長かな 佐野青陽人 天の川
小人数になりて夜長を落着けず 市川婦美子
山もここに集る夜長点すべし 村越化石 山國抄
山夜長寝ねし時のみ涙なく 福田蓼汀 秋風挽歌
山夜長雨やむまじと湯にひとり 福田蓼汀 秋風挽歌
山家集夜長の塵をはたきけり 野村喜舟 小石川
山賊の煙草くゆらす夜長かな 寺田寅彦
山路来てとくに月落つ夜長かな 乙字俳句集 大須賀乙字
山近みわが白障子夜長来る 村越化石 山國抄
山郷の夜長をしるく欅鳴る 飯田蛇笏 椿花集
山風は山にかへりぬ夜長酒 上田五千石 琥珀
山鳥の枝踏かゆる夜長哉 蕪村
峠のその向ふの話夜長なり 化石
峠より無限夜長のはじまりぬ 宇多喜代子 象
峡の灯は減りて殖えゆく夜長星 蓼汀
崖ぞひのふみかためたるみち夜長 久保田万太郎 草の丈
己が影に釘打つてゐる夜長人 安東次男 裏山
師はさきに寝ねたまひある船夜長 五十嵐播水
帰国子の語り尽せぬ夜長かな 佐藤 博重
干鮎を煮びたす鍋の夜長かな 柳芽
年寄に夜長の長くなりしかな 勝又一透
康秀が夜長踊りてゐたりけり 道芝 久保田万太郎
廊に群る夜長のスリツパ鼠めく 高澤良一 ねずみのこまくら
弁慶の道具しらべる夜長哉 正岡子規
弁松の煮ものゝ味の夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
引き算の手持ちなくなる夜長かな 有馬英子
弟子達の一つ灯に寄る夜長かな 村上鬼城
心にもなきこといひて夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
悲しみは去りぬ夜長の椅子二脚 小松まさ子
悲しみを泣きに出づ絃声も夜長かな 河東碧梧桐
愚やおのれあたら夜長の闘棋づれ 石塚友二 光塵
戦争を語りし夫の亡き夜長 岡田佐久子
戦艦が沈んでゆきし夜長かな 大口元通
手をとめて妻がもの問ふ夜長かな 茂里正治
手枕のしびれて覚めてしんと夜長 篠原梵
指輪時計はづしてよりの夜長なる 野澤節子 黄 炎
描きかけの油絵匂ふ夜長かな 矢野智司
摺鉢にこほろぎなける夜長かな 田中冬二 俳句拾遺
改装のペンキ匂はせ駅夜長 北野民夫
文殻を鼠引き行く夜長哉 寺田寅彦
旅に裁つ衣に妻女と夜長かな 河東碧梧桐
旅多き夜長の机辺片づかず 稲畑汀子 春光
旅疲れかくして語る夜長妻 竹下しづの女 [はやて]
旅芝居見せて夜長の湯治宿 大江 朱雲
旅馴れて来て温泉宿の夜長かな 星野立子
日本は夜長スー・チーさんの髪飾り 池田澄子
映画出て銀座の夜長喫茶店 成瀬正とし 星月夜
時計うれし夜長の永久を刻む音 原石鼎 花影以後
晩学の絵筆の進む夜長かな 高田里江
書架夜長たけくらべなどありにけり 西島麥南
月光に閉ぢて夜長の戸なりけり 増田龍雨 龍雨句集
月遅き垣根の草の夜長かな 増田龍雨 龍雨句集
木星は椎の中ゆく夜長かな 佐野青陽人 天の川
末の子の又起きて来し夜長かな 泰
東京に行かずにすみし夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
枕もとに妻寝ねである夜長かな 高浜虚子
栃の實の渋抜夜長咄かな 八木林之介 青霞集
案頭の句作ノートや夜長の灯 青峰集 島田青峰
桶伝ふ雫ひとすぢ夜長かな 佐藤美恵子
梟の眼うごく時計の夜長かな 龍岡晋
棚の茶器にこほろぎが黒くすむ夜長 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
極楽の夢見て覚むる夜長かな 折井愚哉
構想を二つ持ちゐる夜長人 京極杞陽 くくたち上巻
樓門を四方に夜長の華僑街 保田白帆子
横にゐて横顔ばかり見て夜長 小島花枝
横川なる夜長のランプうち囲み 星野立子
次の間へ湯を飲みに立つ夜長かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
歌劇観て来て夜長星燦々 上田日差子
武蔵野に昔よりなる夜長かな 小杉余子 余子句選
歳月を端折る祖母ゐて夜長かな 橋本榮治 麦生
死を悼むこころを縛す夜長かな 阿部みどり女 月下美人
殺戮の歴史親しき夜長かな 櫂未知子 蒙古斑
水上に薄雪おりて夜長なる 前田普羅 飛騨紬
水盤の花衰ふる夜長かな 橋本鶏二
水飲んでそれからする事無き夜長 高澤良一 寒暑
泊りたる最後の部屋の窓夜長 福田蓼汀 秋風挽歌
泣き寝入りせし児を離れ母夜長 粟津美知子
浄土にて復た逢ふまでの夜長かな 大谷句佛 我は我
浅草のよしみはいづれ夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
浅草や夜長の町の古着店 荷風
海鳴れど艫は壁にある夜長かな 飯田蛇笏
渓ひゞく湯の面夜長の首並ぶ 林原耒井 蜩
湯花咲く夜長の宿の湯引き樋 高澤良一 随笑
湯鏡にうつる夜長の母娘かな 石原舟月 山鵲
漁火の北に片寄る夜長かな 鈴木真砂女
漁火の灯る夜長は沖にあり 池内たけし
潜り戸の未だあけてある夜長かな 田中冬二 麦ほこり
火を吹くや夜長の口のさびしさに 尾崎紅葉
灯にとほくしまる夜長の板戸かな 長谷川素逝 村
灯のもとの畳の夜長はじまりぬ 長谷川素逝 村
灯を入れてこれより荘の夜長かな 星野 椿
灰にいろは書くや夜長の煙草盆 寺田寅彦
灰ふかく立てし火箸の夜長かな 道芝 久保田万太郎
炉が鳴いてわが頤とがる夜長かな 林原耒井 蜩
炭焼も神を恐るゝ夜長かな 前田普羅 春寒浅間山
燈がひとつ夜長の谷をのぞかしむ 宮津昭彦
父とゐて何することもなく夜長 石嶌岳
父在さば八十一の夜長かな 宮津昭彦
父母の夜長くおはし給ふらん 高浜虚子
牛の背に夜長のねづみねてゐしと 長谷川素逝 村
狂女なりしを召使はれて夜長し 静塔
独学は穴だらけなる夜長かな(自嘲) 細川加賀 『玉虫』以後
狸出て残飯あさる夜長とか 瀧澤伊代次
猫鳴いて香港丸は夜長なる 五十嵐播水 埠頭
玄関につけてある灯の夜長かな 道芝 久保田万太郎
甃音曾て無く夜長かな 尾崎迷堂 孤輪
甦へる我は夜長に少しづつ 夏目漱石 明治四十三年
男物などを羽織りて夜長かな 蓬田紀枝子
病人のうまいして居る夜長かな 正岡子規
白毫寺秋篠までの夜長かな 松根東洋城
百姓の夜は夜長のひとつの灯 長谷川素逝 村
目のあかぬ猫てのひらに夜長かな 宇佐美魚目 天地存問
相客の欠けて船室夜長なる 五十嵐播水 埠頭
相対ひ夜長の巌峡の口 西山泊雲 泊雲句集
相逢うて比叡の夜長の灯の下に 高濱年尾 年尾句集
眼の光る若き僧をり庫裡夜長 岡田日郎
石化金雀児呪詛の解かれぬまま夜長 嶋田麻紀
碾臼のごろりごろりの夜長かな 田中冬二 俳句拾遺
祖母のうしろの罐に飴ある夜長し 宮津昭彦
祖父までは公家侍の夜長かな 小杉余子 余子句選
福助の太るにまかす夜長かな 二村典子
稚子のともしけしたる夜長哉 士川
窓ばかり見てゐるをんな夜長電車 石川文子
窯の火のしんそこ燃ゆる夜長かな 鈴木真砂女 夕螢
窯太郎焔色うかがふ夜長かな 鈴木真砂女 夕螢
筆硯の夜長き水を足しにけり 細川加賀 『傷痕』
管絃と仰せ出されし夜長かな 寺田寅彦
節黒の杉板囲ひ夜長の湯 高澤良一 随笑
糸を巻く妻子夜長のわれも居り 永井龍男
紫蘇泌む手いつ迄匂ふ夜長かな 雑草 長谷川零餘子
絣模様の絹を座布団夜長縫ふ 田中英子
絵襖の鶴翔けに翔け夜長かな 野村喜舟 小石川
繰り返し教へて飽かめ夜長かな 五城句集附短歌 数藤五城
背を揉みし夜長の妻へ世辞一つ 吉武月二郎句集
膝低く坐れる媼の夜長かな 島村元句集
臥すわれを見下ろすイエス夜長し 下田稔
自画像の問ひかけてくる夜長かな 藤井寿江子
船の首ひびきて障子夜長けれ 清原枴童 枴童句集
船夜長ときをり皿の音きこえ 五十嵐播水 埠頭
船夜長部屋の挿花も少し萎え 五十嵐播水 埠頭
船津屋に借りし硯の夜長かな 八木林之介 青霞集
船津屋はかの湊屋の夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
色鉛筆削りそろへて夜長父子 林翔 和紙
茶筒かげそれも夜長の炉縁かな 飯田蛇笏 山廬集
菊摘みし古筆匂ふ夜長かな 雑草 長谷川零餘子
落人の伝記繙く夜長かな 二村美伽
蔵はさみ灯り灯らぬ夜長宿 福田蓼汀 山火
藻のごとくわれあり夜長稿の前 鷹羽狩行
虚子好きと虚子嫌ひとの夜長かな 仲村美智子
蛇酒のとろりと澄んで来る夜長 中島杏子
街道の夜長床屋に客ひとり 福田蓼汀 山火
裁箆の掃き残されし夜長かな 金尾梅の門 古志の歌
裏向けて置きし時計の夜長刻む 宮津昭彦
襖絵の鴉夜長を躍り居る 原石鼎
語り草既に尽きぬる夜長かな 坂本四方太
読みすすむ夜長くなりし心もて 下村梅子
豆殻が風呂を焚きたる夜長かな 野村喜舟 小石川
貂棲んで剽軽鳴きや夜長宿 銀漢 吉岡禅寺洞
貝搗く音夜長の汐に響きけり 久米正雄 返り花
越えてきし峠のはなし夜長し 下田稔
足音も鯖街道の夜長かな 榎本好宏
身このまゝが仏と知りて夜長かな 小杉余子 余子句選
軸の中屯してゐる夜長人 原裕 『出雲』
逢ふてゐて明日なき夜長かも知れず 後藤綾子
連れ立ちて湯畑巡る夜長人 高澤良一 随笑
遥かなる国へ夜長の滑走路 竹中碧水史
部屋のもの夜長の影をひとつづつ 長谷川素逝 暦日
酒断って知る桎梏のごとき夜長 楠本憲吉
酒肴癌にも与え夜長かな 柿本英二
里ありて夜長の妻に落花生 宮津昭彦
金襴の帯につまづく夜長かな 星野石雀
鉛筆をけづる匂ひの夜長なる 杉野一博
鍋の耳しづかに山の夜長来る 村越化石
鎌倉の夜長にはかに到りけり 久保田万太郎 流寓抄
鐘の音の輪をなして来る夜長哉 子規
鑿を砥めて彫るや夜長の彫刻師 雑草 長谷川零餘子
開くる人を待つかに襖夜長けれ 雑草 長谷川零餘子
闇の色にも湖と山ある夜長 山田弘子
階段の頭注意の夜長かな 石田勝彦 秋興
雨だれや夜長の雨はやまず降る 池内友次郎 結婚まで
雨もりもしづごゝろなる夜長かな 阿波野青畝
雨粒をつけし夜長の花づつみ 田中裕明 花間一壺
雪の夜長き「武蔵」を終わりけり 徳川夢声
電燈の光りの下の夜長かな 成瀬正とし 星月夜
電話来て退屈の去る夜長かな 嶋田摩耶子
音もなくひとり夜長の灯の下に 石井とし夫
頓狂汽笛に応える汽笛冬夜長し 鈴木六林男 第三突堤
顔回に会ふ西安の夜長かな 伊藤敬子
風呂敷をかけてみとりの夜長の灯 伊藤みのる
食卓にまたゝくや夜長の小蝋燭 阿部みどり女 笹鳴
鼠追ふも秋の夜長のすさびかな 尾崎紅葉
うたせ湯に病む肩預け夜の長き 内田安茂
おのづから人は向きあひ夜の長し 田中裕明 先生から手紙
それぞれの部屋にこもりて夜の長き 片山由美子(1952-)
ともし置いて室明き夜の長さ哉 漱石 (修善寺病中)
はるばると来て夜の長し渓の音 林原耒井 蜩
ふつつり思ひきり冬夜の長い橋渡る 人間を彫る 大橋裸木
ほとけの栗を分けて貰うて夜の長き 林原耒井 蜩
また道に迷ふ夢見て夜の長し 中嶋秀子
めいめいの部屋に引きとる夜の長し 高澤良一 ぱらりとせ
よしさらば泣き明さんか夜の長き 寺田寅彦
わが名書きこれより長き夜の稿 鷹羽狩行 平遠
イーゼルに鏡置かれて夜の長き 上田日差子
一つ長き夜の藤房をまのあたり 高濱年尾 年尾句集
一人居に馴れ給ひしや長き夜を 安原葉
七人の敵今は無し長き夜 天日照子
人絶えて長き橋長き夜を懸る 大野林火
柴田宵曲文集
出し渋る本こそよけれ長き夜に 高澤良一 鳩信
北山の夜の長さを杉育つ 細見綾子
又一人湯に立ちゆくや長き夜 山田昌子
回想にはじまる長き夜のドラマ 大橋敦子
声に出て夜の長さの睫毛にも 野澤節子 黄 炎
夏至過ぎて吾に寝ぬ夜の長くなる 正岡子規
夜の長く物音遠くなりにけり 高浜年尾
夜の長し眠気そのうちそのうちに 高澤良一 寒暑
妻や娘の笑ひもらひて夜の長き 伊東宏晃
子の王手凌ぎしのぎて夜の長き 福島 胖
信貴山縁起
宙を飛ぶ倉を目で追ふ夜の長し 高澤良一 ももすずめ
宵っ張り二階にもゐて夜の長し 高澤良一 鳩信
寐て起て長き夜にすむひとり哉 炭 太祇 太祇句選
寝余ればまた起き出して長き夜 高澤良一 寒暑
山椒魚にばつたり暮れて長き夜 宇佐美魚目 秋収冬蔵
岩風呂に癒えし躬沈め夜の長き 伊東宏晃
嵯峨=記このかた嵯峨は夜の長き 阿波野青畝
年寄の部類に入り夜の長し 高澤良一 寒暑
張れざりし障子も嵌めて夜の長さ 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
文鎮を置き替へ長き夜の稿 長田等
星がない夜の長いカーテンをひく 住宅顕信 未完成
晩酌や吸殻積もる夜の長さ ジャック・スタム
沈黙を気づまりとせず長き夜を 今橋真理子
渓音と雨と分きて分かずて夜の長き 林原耒井 蜩
湯湧き湧く岩壁を背の夜の長き 林原耒井 蜩
後生掛温泉
湯疲れや長き夜に倦み生あくび 高澤良一 寒暑
灯火をさぞ長き夜の力ぐさ 上島鬼貫
煩悩の渦巻く長き夜の坐禅 西沢信生
父逝きて残りし母に夜の長き 田上一蕉子
犬吠にかかる船路や夜の長き 吉武月二郎句集
珠大き算盤使ひ夜の長き 栗城節子
病む母の昔語りや夜の長し 八牧美喜子
病めばこころ常に泣きゐて夜の長し 瀬川芹子
砂濱を大浪の走る夜の長き 内田百間
籠の日に蜆詰まりて夜の長き 岸本尚毅 舜
粟の穂に霧こだはつて夜の長き 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
老いゆくを知れとて長き夜はあるか 大野林火
茶話会なんどす習學寮の夜の長き 寺田寅彦
蜜柑摘み終りし夜の長湯かな 檜田 慧星
蝶籠の長き夜に入る影ふたつ 古舘曹人 樹下石上
裏山の峯に灯のある夜の長き 内田百間
言い訳の会話とぎれず夜の長き 平野みよ子
譫言も聞きとれぬ夜の長きかな 大場白水郎 散木集
長き夜とも短き日ともわきまへず 緒方句狂
長き夜のかくも短し生き急くな 野澤節子
長き夜のすでに一睡したるあと 井沢正江 火襷
長き夜のそのかたはらに大河あり 平岡道代
北九州行
長き夜のつれづれに湯の効能書 高澤良一 鳩信
長き夜のところどころを眠りけり 今井杏太郎
長き夜のどうでもよき句は読み飛ばす 高澤良一 宿好
長き夜のまたもさびしき夢を見る 仙田洋子 雲は王冠
長き夜のまつすぐ先に指揮者の背 数長藤代
長き夜のまどのあかりにくるめく葉 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
長き夜のわが生涯をかへりみる 今井つる女
長き夜のを指先で拭く酒のしみ 中村真一郎
長き夜の中に我在る思かな 高浜虚子
長き夜の五右衛門風呂をたのしめり 山田みづえ 草譜
長き夜の京劇の袖長きかな 有馬朗人 天為
長き夜の今更捨つる反故もなし 中村汀女
長き夜の他宗の死者へ馳せもする 赤松[けい]子 白毫
長き夜の刀の鍔の素朴なる 藤木清子
長き夜の勝手明神灯しあり 阿波野青畝
長き夜の土間よりひびく米搗ける 長谷川素逝 村
長き夜の壁の一点動き出づ 林原耒井 蜩
長き夜の大同江を渉りけり 正岡子規
長き夜の大方は反古棚の本 高澤良一 寒暑
長き夜の女の声が勝ちにけり 波多野爽波 鋪道の花
長き夜の妻との黙に馴れにけり 杉本寛
長き夜の寝に見離されゐたりけり 岸田稚魚 『紅葉山』
長き夜の寝惚先生文集読む 高澤良一 宿好
長き夜の巻き戻しゐる貸しビデオ 長崎小夜子
長き夜の影と坐りてもの縫へる 長谷川素逝 暦日
長き夜の影のあつまる部屋の隅 長谷川素逝 暦日
長き夜の指が覚えてゐる漢字 稲荷島人
長き夜の数を尽して十二鳴る 鷹羽狩行 誕生
長き夜の星や軒端に迫りたる 露月句集 石井露月
長き夜の更けて遊女の目井・乙前 辻桃子
長き夜の月欠けてあり市原野 五十嵐播水 播水句集
長き夜の本を持ち替へ持ち替へて 高澤良一 さざなみやっこ
長き夜の柱につるす狐面 上村占魚 鮎
長き夜の楽器かたまりゐて鳴らず 伊丹三樹彦(1920-)
長き夜の母を温めて掛時計 服部ますみ
長き夜の水流れたり大井川 河東碧梧桐
長き夜の汝が名を父もまだ知らず 大串章 朝の舟
長き夜の浅き眠りの二十階 猿橋統流子
長き夜の淋し身にそふ灯かな 乙字俳句集 大須賀乙字
長き夜の温泉山に向ける障子閉づ 宮武寒々 朱卓
長き夜の潜り戸あいて月夜といふ 田中冬二 俳句拾遺
長き夜の灯を引き込みて先斗町 高澤良一 宿好
長き夜の熱きが薬地蔵の湯 高澤良一 随笑
長き夜の物書く音に更けにける 村上鬼城
長き夜の目をやすめるゐるミレーの絵 瓜生和子
長き夜の眠り薬の白湯さます 鈴木華子
長き夜の空に谺し孔雀経 横山白虹
長き夜の空存分にくもりけり 久保田万太郎 草の丈
長き夜の筧の音に柱立ち 深見けん二
長き夜の纜高き舳より 五十嵐播水 埠頭
長き夜の育てし遠野物語 鱒澤行人
長き夜の腐木の上の臍の緒よ 冬の土宮林菫哉
長き夜の苦しみを解き給ひしや 稲畑汀子(1931-)
長き夜の行燈に何か書いて見ん 寺田寅彦
長き夜の街の灯見つゝ看取妻 稲畑汀子 汀子第二句集
長き夜の詩集のあとの聖書読む 長田等
長き夜の遠野に遠野物語 倉田 紘文
長き夜の鉄扉細目に誰がために 中村汀女
長き夜の隔離の廊下魔が通る 左右
長き夜の雅歌と聞くべし海鳴りを 山田みづえ
長き夜の顔にまたたきおくばかり 皆吉爽雨
長き夜の風に起きゐて焚き次げり 臼田亞浪 定本亜浪句集
長き夜の黒川能の口説かな 黒田杏子 水の扉
長き夜の黒澤映画「まあだだよ」 佐藤知敏
長き夜はただせせらぎに更けにけり 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
長き夜も尾越の鴨に明にけり 加舎白雄
長き夜やあなおもしろの腹話術 中村哮夫
長き夜やあらまし成りぬ翌の業 黒柳召波 春泥句集
長き夜やいろ~に聞く虫の声 許六
長き夜やこんなものでも御覧あれ 尾崎紅葉
長き夜やつゝかけ下駄の土間の音 島村元句集
長き夜やひそかに月の石だゝみ 久保田万太郎 流寓抄
長き夜やほうと鳴き去る鳥恋し 青峰集 島田青峰
長き夜やパラパラ漫画踊らせて 石田たまみ
長き夜や人灯を取つて庭を行く 子規句集 虚子・碧梧桐選
長き夜や今後ジテとなる江口 立子
長き夜や千年の後を考へる 子規句集 虚子・碧梧桐選
長き夜や和紙のあかりに旅ごころ 田生正子
長き夜や在るべき人の座に在らず 竹冷句鈔 角田竹冷
長き夜や坐礁の船の灯は航かず 五十嵐播水 埠頭
長き夜や夢想さらりと忘れける 炭 太祇 太祇句選
長き夜や夫と異なる刻を持つ 小川濤美子
長き夜や妻にしたがふ事もあり 伊奈秀嶺
長き夜や妻子に分つ耳ふたつ 日月をさむ
長き夜や孔子も磐を打ち慰さむ 有馬朗人 耳順
長き夜や孔明死する三国志 正岡子規
長き夜や心の鬼が身を責める 小林一茶 (1763-1827)
長き夜や思ひあまりの泣寝入り 星布尼
長き夜や我をる故の我が一家 上野泰
長き夜や掌もてさすりしうすき胸 鈴木しづ子(1925?-?)
長き夜や明りの消えし外科病棟 工藤久平
長き夜や書架に無数の文字眠り 林翔 和紙
長き夜や猿の鼾鶴の夢 霊子
長き夜や生死の間にうつら~ 鬼城
長き夜や痛むともなき足のひら 会津八一
長き夜や眠るためにも要る力 上原恒子
長き夜や眼鏡に曇る雨の音 成美
長き夜や船の書棚の片ひらき 五十嵐播水 埠頭
長き夜や街をはなれて船にあり 五十嵐播水 埠頭
長き夜や身を折り膝折り遺りすごす 宇多喜代子 象
長き夜や退きてまだ見る職の夢 宇野直治
長き夜や通夜の連歌のこぼれ月 蕪村 秋之部 ■ 山家
長き夜や逢ひたき人の皆遠く 木村速子
長き夜や遺影の眼鏡こちらむく 照子
長き夜や針を狂はす噴火音 宝亀 重子
長き夜や障子の外をともし行く 正岡子規
長き夜や饐えつゝ並ぶ青リンゴ 前田普羅 春寒浅間山
長き夜や鼠も憎きのみならず 幸田露伴 礫川集
長き夜や鼠王出て来て親しみぬ 村上鬼城
長き夜をたゝる将棋の一ト手哉 幸田露伴 蝸牛庵句集
長き夜を佛おろして語りけり 八牧美喜子
長き夜を夢恐ろしく悩みけり 会津八一
長き夜を寝あくと貧の傲りかな 幸田露伴 江東集
長き夜を幻燈などもよかるべく 会津八一
長き夜を念仏あつめて明にけり 加舎白雄
長き夜を押せばへこめる護謨人形 辻桃子
長き夜を描く幾百のこけしの瞳 山田みづえ 忘
長き夜を月取る猿の思案哉 正岡子規
長き夜を杳と灯れり能舞台 西村和子 かりそめならず
長き夜を眠ることにも不器用な 浅野久子
長き夜を編棒の先でくづしゆく 毛塚静枝
長き夜を虚子が旅寝や明達寺 細川加賀
長き夜を覚めぬ長椅子のスパニール 内藤吐天 鳴海抄
長き夜を読ませる宵曲妖怪譚 高澤良一 鳩信
長き夜を豆煮る匂満たしけり 神澤 信子
長き夜を重ね~し枕かな 高浜虚子
長き夜を金堂の鳩塔の鳩 津田清子 二人称
長き夜を長き語りに島歌舞伎 宮津昭彦
長き夜を隣人は 釘を打つてゐる 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
長き夜を面に眉かく能太夫 大谷句佛 我は我
長き夜を鳥羽僧正とあそびけり 白岩 三郎
長く灯をつづりて長き夜の埠頭 町田しげき
雨音の庭木に澄みて夜の長き 内田百間
青すぎる眼と長き夜の豆ランプ 二村典子
敵(かな)はない人の句を誦す夜長なり 高澤良一 ぱらりとせ
夜長妻予期したとほり生返事 高澤良一 暮津
問い掛けに返事が返って来ぬ夜長 高澤良一 暮津
信貴山縁起
宙を飛ぶ倉を目で追ふ夜の長し 高澤良一 ももすずめ
めいめいの部屋に引きとる夜の長し 高澤良一 ぱらりとせ
ここ迄と長夜の本の耳を折る 高澤良一 寒暑
後生掛温泉
湯疲れや長き夜に倦み生あくび 高澤良一 寒暑
高山市内
一人泊つ長夜に飛弾の味噌せんべい 高澤良一 素抱
火の始末等して長夜さあ寐よか 高澤良一 石鏡
夜を長く感じ始める灯の許に 高澤良一 暮津
虎造の侠客ものに夜の長し 高澤良一 暮津
以上
例句を挙げる。
仙厓円相図
○△□圖判じゐる夜長 高澤良一 ももすずめ
あいつらも夜長なるべしそそり唄 一茶
あすといふ日のたのめなき夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
あゝなんと放物線の夜長かな 田中信克
いちまいの壁の夜長のあるがまま 長谷川素逝 暦日
いつのまに中日となりし夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
うきぐもの雨こぼし去る夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
うたたねの覚めて夜長の水車 福田蓼汀 山火
うつばりに煙のこれる夜長かな 大橋櫻坡子 雨月
えぐりたる景清の目の夜長かな 龍岡晋
おしづかなお晩でございますと夜長 長谷川素逝 村
おそくついて蕎麦を打たすも夜長宿 鈴鹿野風呂 浜木綿
お染久松通ひの毬の夜長かな 龍岡晋
かなはない人の句を誦す夜長なり 高澤良一 ぱらりとせ
かの窓のかの夜長星ひかりいづ 芝不器男
くさ原に月はたゞある夜長かな 石鼎
けぶらせて夜長の尼のみそかごと 後藤綾子
この目鼻離れてゆかぬ夜長かな 藤谷和子
こほろぎのただひとつゐる夜長かな 田中冬二 俳句拾遺
これよりの夜長の山と虚子の墓 宇佐美魚目 天地存問
さかしまにしても夜長の砂時計 町田しげき
しびれてはうめく草津の夜長の湯 高澤良一 随笑
ずうつと抱擁 ずうつとシヤンソン そんな夜長 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
ずるずると昨夜の夜長を引きずりて 稲畑廣太郎
せつけんの裏すこし溶け夜長し 辻美奈子
そぼ濡れし車夜長のガラージヘ 林原耒井 蜩
それぞれの部屋にこもりて夜長かな 片山由美子
たばこすふ煙の垂るる夜長かな 芥川龍之介
とく閉めて雨の夜長と灯の夜長 長谷川素逝 暦日
とけい屋が夜長のがらす戸に幕を 長谷川素逝 暦日
なぐさめの人来ずなりし夜長かな 吉武月二郎句集
なぞへなす遠の夜長の灯は馬籠 皆吉爽雨 泉声
にせものときまりし壷の夜長かな 木下夕爾
ねむれねば念仏申す夜長かな 尼子 凡女
ははそはの母の夜長のものがたり 大橋櫻坡子 雨月
はらわたの動く音聞く夜長かな 田中裕敏
ひとごゑをへだつ夜長の襖かな 長谷川素逝 暦日
ひとりづつ立てば独白夜長劇 上田日差子
ひとり寝の夜長の帯をたたみけり 高橋淡路女
ひとり居のする事もなき夜長かな 木村千枝子
ふたりとも煙草の切れし夜長かな 角川春樹
ふと火事に起きて物食ふ夜長哉 巌谷小波
ふりむいておのが夜長の影の壁 長谷川素逝 暦日
ふりむきし顔の夜長の灯くらがり 長谷川素逝 村
みちのくの夜長の汽車や長停り 阿波野青畝
みちのくの頭良くなる湯に夜長 大野林火(1904-84)
むさゝびの話小国の夜長かな 高濱年尾 年尾句集
むら萩に落ちたる風も夜長哉 増田龍雨 龍雨句集
めいめいの影の夜長のおのがじし 長谷川素逝 暦日
めつむれば夜長の母の糸車 新家豊子
ゆきつきし君に道ある夜長かな 中島月笠 月笠句集
よく話すわれなり人の居る夜長 佐野美智
よそで鳴る夜長の時計みなが聞く 長谷川素逝 村
よそに鳴る夜長の時計数へけり 杉田久女
わが夜長妻の夜長の灯一つ 占魚
わが夜長母の夜長と別にあり 大橋敦子
イヨマンテ北の夜長を熱唱す 星野椿
カンテラに新酒をあぶる夜長哉 寺田寅彦
シンフオニーのフィナーレ夜長の奥へ届く 金子潤
ジヨンガラもロックも愛す夜長かな 山口都茂女
スリッパを新しくして夜長かな 岡田史乃
ダビデの死まで読みて消す夜長の灯 宮脇白夜
デジタルの一分も又夜長かな 岩崎照子
パリ夜長シヤンペン抜きて杯上げて 稲畑汀子 春光
ピアノ高音部夜長に倦みて打つ 林翔 和紙
ポケットベル鳴り出す夜長記者ぐらし 加藤憲曠
ミサ夜長聖堂の扉に犬はべり 桑田青虎
ランプの代に生れし吾や夜長来る 村越化石
ルーレット夜長を装ふ貴婦人も 大津希水
一人酌む酒は蓬莱宿夜長 高澤良一 素抱
一対の男女にすぎぬ夜長かな 加藤郁乎(1929-)
一燈を残し夜長の仕事終ふ 高濱年尾 年尾句集
三国浜の浪吼ゆ夜長守る灯花 四明句集 中川四明
下げし灯に夜長の襖しまりたる 長谷川素逝 暦日
不意に死の来るやも知れぬ夜長かな 櫛原希伊子
京洛のかかる夜長も久し振り 浅井青陽子
人形に言葉をかけて夜長かな 竹山美江子
人情の味噛みしめむ夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
人間が単純になる湯に夜長 高澤良一 燕音
人間に寝る楽しみの夜長かな 青木月斗
仰ぎ見る夜長の時計とまり居る 青峰集 島田青峰
住みつかん河内を夜長話とす 亀井糸游
何笑ふ声ぞ夜長の台所 子規句集 虚子・碧梧桐選
作曲の又手をかへし夜長かな 大場白水郎 散木集
侵されている山間の夜長し 森田智子
俳論も尽きてしまへり夜長人 藤野艶子
兄へ異のありと夜長の生一本 橋本榮治 逆旅
先に寝し顔のかなしき夜長の灯 菟絲子
内剛のわれマーラー派夜長来る 橋本榮治 麦生
凡夫わが妻の足揉む夜長かな 樋口玉蹊子
出るかと妖物をまつ夜長哉 高井几董
加藤洲の大百姓の夜長かな 高浜虚子
半分は彼の世のごとき夜長かな 井上純子
去ぬは去に泊るは泊り坊夜長 松枝よし江
友泊めて誰彼のこと聞く夜長 影島智子
同じ事程経て思ふ夜長かな 柑子句集 籾山柑子
向ひ家に魚もたらせし夜長かな 波多野爽波 『湯呑』
含め煮の鍋の呟く夜長かな 矢嶋あきら
吹きぶりの障子のうちの夜長かな 清原枴童 枴童句集
吾が胃吾が手に触れしよりの夜長かな 竹下しづの女句文集 昭和十四年
味噌豆を火止めてうます夜長かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
唐紙に鼠溺す夜長哉 寺田寅彦
噛んでゐて夜長の味の茎若布 能村登四郎 菊塵
地球儀の灯影の国の夜長かな 龍岡晋
地蔵湯の道順聞いて夜長人 高澤良一 随笑
堪へゆかめ夜長きことの淋しさも 兜木総一
壺の中歯ブラシ落ちてゐる夜長 皆吉司
滑稽新聞
外骨に引きずり込まれ読む夜長 高澤良一 さざなみやっこ
夜長かなあいついまごろどこにゐる 岡田史乃
夜長かな蛍雪時代といふ雑誌 天槻和木
夜長き女蚕の如く寝ね入れり 竹下しづの女 [はやて]
夜長き燈碇泊燈とをしへらる 五十嵐播水 埠頭
夜長さに少し暇ある婢かな 高橋淡路女 梶の葉
夜長さの厠三たびよ避難宿 近藤一鴻
夜長さの夫ゐぬもよしゐるもよし 吉野義子
夜長さの障子の桟の影とあり 長谷川素逝 暦日
夜長さの雨降る音のかはらざる 長谷川素逝 暦日
夜長さやところも替ず茶たて虫 加舎白雄
夜長さや処もかへず茶立虫 白雄
夜長さや燻べたす薪のひとつかみ 金尾梅の門 古志の歌
夜長さを映して澄める鏡かな 吉武月二郎句集
夜長さを衝きあたり消えし婢かな 芝不器男
夜長し卓に土産の火山弾 太田土男
夜長し四十路かすかなすわりだこ 中村草田男
夜長し妻の疑惑を釈かずに措く 日野草城
夜長し家号鰻の絵の添ひて 昭彦
夜長し木彫の木菟と谷の木菟 村越化石 山國抄
夜長し父を継ぎたる農日誌 影島智子
夜長し背中ばかりの虫歩く 大石雄鬼
夜長し遠流の果てに東京都 櫂未知子 貴族
夜長とは詠めど夜寒の句なりけり 久保田万太郎 流寓抄
夜長とも夜寒ともある羽織かな 野村喜舟 小石川
夜長なる磧なりけりほの白う 尾崎迷堂 孤輪
夜長の子夫婦の膝を往来して 黒坂紫陽子
夜長の屍全き母のすがたして 成田千空 地霊
夜長の灯あらはに語り倦まざりけり 石塚友二 光塵
夜長の灯人の一生読み了る 高木石子
夜長の灯家に娘のものなくなりて 松村蒼石 露
夜長の灯暗しと思ひたりしより 成瀬正とし 星月夜
夜長の灯水音に明き花屋にや 安斎櫻[カイ]子
夜長の灯煌々として人在らず 日野草城
夜長の炉松毬ばかりくべにけり 金尾梅の門 古志の歌
夜長の雨ことにはげしき家裏なり 原田種茅 径
夜長びと濤のごとくに菊づくり 宇佐美魚目 天地存問
夜長ふと見出しものに「肥後守」 草田男
夜長を来し列車たやすく切離す 津田清子 礼 拝
夜長人たのしみて書く手紙かな 楠目橙黄子 橙圃
夜長人に遠火事の鐘いつまでも 清原枴童 枴童句集
夜長人小匣に真珠秘めにけり 野村喜舟 小石川
夜長人彭々と銀座十一時 清原枴童 枴童句集
夜長人耶蘇をけなして帰りけり 前田普羅 新訂普羅句集
夜長咄狐が人を騙す型(かた) 高澤良一 鳩信
夜長妻さなきだになほ口重に 近藤一鴻
夜長妻栗色の靴買へと言ふ 欣一
夜長宿ぎうと犇めく草津町 高澤良一 随笑
夜長宿宴席の名も草千里 高澤良一 鳩信
夜長寝てその後の雁は知らざりき 日野草城
夜長憎み通すドラマの敵役 下村ひろし 西陲集
夜長星窓移りしてきらびやか 芝不器男
夜長灯や只の御茶屋の女人堂 前田普羅 新訂普羅句集
夜長炉に土間の柱や誰かある 飯田蛇笏 霊芝
大島上空にありとのみ夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
大津絵の鬼枕上ミ宿夜長 大橋敦子 匂 玉
大蜘蛛のがさ~と這ふ夜長哉 内田百間
太りたき痩せたき夫婦の夜長かな 宮本美津江
妹に軍書読まする夜長哉 正岡子規
妻がゐて夜長を言へりさう思ふ 森澄雉
妻が書く夜長まかせの文長き 林 翔
妻一語又妻一語して夜長 上野泰
妻子寝ねホ句の夜長でありにけり 小原菁々子
妻帰り夜長の居間に喪服脱ぐ 津村浅次郎
婚も死も酒盛りとなる夜長かな 小泉八重子
子の旅を地図になぞりて夜長の灯 岡本 静子
子の椅子の二階に軋む夜長かな 内藤信子
子離れは難し又子へ文夜長 嶋田摩耶子
存分に夜長もちひて勤めなし 田川飛旅子 『使徒の眼』
孤トりなり夜長泪に読みながら 瀧井孝作
宿炬燵山の夜長を如何にせん 高澤良一 燕音
寝ねあぐむ老や夜長の三つ下り 会津八一
寝るだけの家に夜長の無かりけり 松崎鉄之介
尉と姥メニユーにのこる夜長かな 佐野青陽人 天の川
小人数になりて夜長を落着けず 市川婦美子
山もここに集る夜長点すべし 村越化石 山國抄
山夜長寝ねし時のみ涙なく 福田蓼汀 秋風挽歌
山夜長雨やむまじと湯にひとり 福田蓼汀 秋風挽歌
山家集夜長の塵をはたきけり 野村喜舟 小石川
山賊の煙草くゆらす夜長かな 寺田寅彦
山路来てとくに月落つ夜長かな 乙字俳句集 大須賀乙字
山近みわが白障子夜長来る 村越化石 山國抄
山郷の夜長をしるく欅鳴る 飯田蛇笏 椿花集
山風は山にかへりぬ夜長酒 上田五千石 琥珀
山鳥の枝踏かゆる夜長哉 蕪村
峠のその向ふの話夜長なり 化石
峠より無限夜長のはじまりぬ 宇多喜代子 象
峡の灯は減りて殖えゆく夜長星 蓼汀
崖ぞひのふみかためたるみち夜長 久保田万太郎 草の丈
己が影に釘打つてゐる夜長人 安東次男 裏山
師はさきに寝ねたまひある船夜長 五十嵐播水
帰国子の語り尽せぬ夜長かな 佐藤 博重
干鮎を煮びたす鍋の夜長かな 柳芽
年寄に夜長の長くなりしかな 勝又一透
康秀が夜長踊りてゐたりけり 道芝 久保田万太郎
廊に群る夜長のスリツパ鼠めく 高澤良一 ねずみのこまくら
弁慶の道具しらべる夜長哉 正岡子規
弁松の煮ものゝ味の夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
引き算の手持ちなくなる夜長かな 有馬英子
弟子達の一つ灯に寄る夜長かな 村上鬼城
心にもなきこといひて夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
悲しみは去りぬ夜長の椅子二脚 小松まさ子
悲しみを泣きに出づ絃声も夜長かな 河東碧梧桐
愚やおのれあたら夜長の闘棋づれ 石塚友二 光塵
戦争を語りし夫の亡き夜長 岡田佐久子
戦艦が沈んでゆきし夜長かな 大口元通
手をとめて妻がもの問ふ夜長かな 茂里正治
手枕のしびれて覚めてしんと夜長 篠原梵
指輪時計はづしてよりの夜長なる 野澤節子 黄 炎
描きかけの油絵匂ふ夜長かな 矢野智司
摺鉢にこほろぎなける夜長かな 田中冬二 俳句拾遺
改装のペンキ匂はせ駅夜長 北野民夫
文殻を鼠引き行く夜長哉 寺田寅彦
旅に裁つ衣に妻女と夜長かな 河東碧梧桐
旅多き夜長の机辺片づかず 稲畑汀子 春光
旅疲れかくして語る夜長妻 竹下しづの女 [はやて]
旅芝居見せて夜長の湯治宿 大江 朱雲
旅馴れて来て温泉宿の夜長かな 星野立子
日本は夜長スー・チーさんの髪飾り 池田澄子
映画出て銀座の夜長喫茶店 成瀬正とし 星月夜
時計うれし夜長の永久を刻む音 原石鼎 花影以後
晩学の絵筆の進む夜長かな 高田里江
書架夜長たけくらべなどありにけり 西島麥南
月光に閉ぢて夜長の戸なりけり 増田龍雨 龍雨句集
月遅き垣根の草の夜長かな 増田龍雨 龍雨句集
木星は椎の中ゆく夜長かな 佐野青陽人 天の川
末の子の又起きて来し夜長かな 泰
東京に行かずにすみし夜長かな 久保田万太郎 流寓抄
枕もとに妻寝ねである夜長かな 高浜虚子
栃の實の渋抜夜長咄かな 八木林之介 青霞集
案頭の句作ノートや夜長の灯 青峰集 島田青峰
桶伝ふ雫ひとすぢ夜長かな 佐藤美恵子
梟の眼うごく時計の夜長かな 龍岡晋
棚の茶器にこほろぎが黒くすむ夜長 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
極楽の夢見て覚むる夜長かな 折井愚哉
構想を二つ持ちゐる夜長人 京極杞陽 くくたち上巻
樓門を四方に夜長の華僑街 保田白帆子
横にゐて横顔ばかり見て夜長 小島花枝
横川なる夜長のランプうち囲み 星野立子
次の間へ湯を飲みに立つ夜長かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
歌劇観て来て夜長星燦々 上田日差子
武蔵野に昔よりなる夜長かな 小杉余子 余子句選
歳月を端折る祖母ゐて夜長かな 橋本榮治 麦生
死を悼むこころを縛す夜長かな 阿部みどり女 月下美人
殺戮の歴史親しき夜長かな 櫂未知子 蒙古斑
水上に薄雪おりて夜長なる 前田普羅 飛騨紬
水盤の花衰ふる夜長かな 橋本鶏二
水飲んでそれからする事無き夜長 高澤良一 寒暑
泊りたる最後の部屋の窓夜長 福田蓼汀 秋風挽歌
泣き寝入りせし児を離れ母夜長 粟津美知子
浄土にて復た逢ふまでの夜長かな 大谷句佛 我は我
浅草のよしみはいづれ夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
浅草や夜長の町の古着店 荷風
海鳴れど艫は壁にある夜長かな 飯田蛇笏
渓ひゞく湯の面夜長の首並ぶ 林原耒井 蜩
湯花咲く夜長の宿の湯引き樋 高澤良一 随笑
湯鏡にうつる夜長の母娘かな 石原舟月 山鵲
漁火の北に片寄る夜長かな 鈴木真砂女
漁火の灯る夜長は沖にあり 池内たけし
潜り戸の未だあけてある夜長かな 田中冬二 麦ほこり
火を吹くや夜長の口のさびしさに 尾崎紅葉
灯にとほくしまる夜長の板戸かな 長谷川素逝 村
灯のもとの畳の夜長はじまりぬ 長谷川素逝 村
灯を入れてこれより荘の夜長かな 星野 椿
灰にいろは書くや夜長の煙草盆 寺田寅彦
灰ふかく立てし火箸の夜長かな 道芝 久保田万太郎
炉が鳴いてわが頤とがる夜長かな 林原耒井 蜩
炭焼も神を恐るゝ夜長かな 前田普羅 春寒浅間山
燈がひとつ夜長の谷をのぞかしむ 宮津昭彦
父とゐて何することもなく夜長 石嶌岳
父在さば八十一の夜長かな 宮津昭彦
父母の夜長くおはし給ふらん 高浜虚子
牛の背に夜長のねづみねてゐしと 長谷川素逝 村
狂女なりしを召使はれて夜長し 静塔
独学は穴だらけなる夜長かな(自嘲) 細川加賀 『玉虫』以後
狸出て残飯あさる夜長とか 瀧澤伊代次
猫鳴いて香港丸は夜長なる 五十嵐播水 埠頭
玄関につけてある灯の夜長かな 道芝 久保田万太郎
甃音曾て無く夜長かな 尾崎迷堂 孤輪
甦へる我は夜長に少しづつ 夏目漱石 明治四十三年
男物などを羽織りて夜長かな 蓬田紀枝子
病人のうまいして居る夜長かな 正岡子規
白毫寺秋篠までの夜長かな 松根東洋城
百姓の夜は夜長のひとつの灯 長谷川素逝 村
目のあかぬ猫てのひらに夜長かな 宇佐美魚目 天地存問
相客の欠けて船室夜長なる 五十嵐播水 埠頭
相対ひ夜長の巌峡の口 西山泊雲 泊雲句集
相逢うて比叡の夜長の灯の下に 高濱年尾 年尾句集
眼の光る若き僧をり庫裡夜長 岡田日郎
石化金雀児呪詛の解かれぬまま夜長 嶋田麻紀
碾臼のごろりごろりの夜長かな 田中冬二 俳句拾遺
祖母のうしろの罐に飴ある夜長し 宮津昭彦
祖父までは公家侍の夜長かな 小杉余子 余子句選
福助の太るにまかす夜長かな 二村典子
稚子のともしけしたる夜長哉 士川
窓ばかり見てゐるをんな夜長電車 石川文子
窯の火のしんそこ燃ゆる夜長かな 鈴木真砂女 夕螢
窯太郎焔色うかがふ夜長かな 鈴木真砂女 夕螢
筆硯の夜長き水を足しにけり 細川加賀 『傷痕』
管絃と仰せ出されし夜長かな 寺田寅彦
節黒の杉板囲ひ夜長の湯 高澤良一 随笑
糸を巻く妻子夜長のわれも居り 永井龍男
紫蘇泌む手いつ迄匂ふ夜長かな 雑草 長谷川零餘子
絣模様の絹を座布団夜長縫ふ 田中英子
絵襖の鶴翔けに翔け夜長かな 野村喜舟 小石川
繰り返し教へて飽かめ夜長かな 五城句集附短歌 数藤五城
背を揉みし夜長の妻へ世辞一つ 吉武月二郎句集
膝低く坐れる媼の夜長かな 島村元句集
臥すわれを見下ろすイエス夜長し 下田稔
自画像の問ひかけてくる夜長かな 藤井寿江子
船の首ひびきて障子夜長けれ 清原枴童 枴童句集
船夜長ときをり皿の音きこえ 五十嵐播水 埠頭
船夜長部屋の挿花も少し萎え 五十嵐播水 埠頭
船津屋に借りし硯の夜長かな 八木林之介 青霞集
船津屋はかの湊屋の夜長かな 久保田万太郎 流寓抄以後
色鉛筆削りそろへて夜長父子 林翔 和紙
茶筒かげそれも夜長の炉縁かな 飯田蛇笏 山廬集
菊摘みし古筆匂ふ夜長かな 雑草 長谷川零餘子
落人の伝記繙く夜長かな 二村美伽
蔵はさみ灯り灯らぬ夜長宿 福田蓼汀 山火
藻のごとくわれあり夜長稿の前 鷹羽狩行
虚子好きと虚子嫌ひとの夜長かな 仲村美智子
蛇酒のとろりと澄んで来る夜長 中島杏子
街道の夜長床屋に客ひとり 福田蓼汀 山火
裁箆の掃き残されし夜長かな 金尾梅の門 古志の歌
裏向けて置きし時計の夜長刻む 宮津昭彦
襖絵の鴉夜長を躍り居る 原石鼎
語り草既に尽きぬる夜長かな 坂本四方太
読みすすむ夜長くなりし心もて 下村梅子
豆殻が風呂を焚きたる夜長かな 野村喜舟 小石川
貂棲んで剽軽鳴きや夜長宿 銀漢 吉岡禅寺洞
貝搗く音夜長の汐に響きけり 久米正雄 返り花
越えてきし峠のはなし夜長し 下田稔
足音も鯖街道の夜長かな 榎本好宏
身このまゝが仏と知りて夜長かな 小杉余子 余子句選
軸の中屯してゐる夜長人 原裕 『出雲』
逢ふてゐて明日なき夜長かも知れず 後藤綾子
連れ立ちて湯畑巡る夜長人 高澤良一 随笑
遥かなる国へ夜長の滑走路 竹中碧水史
部屋のもの夜長の影をひとつづつ 長谷川素逝 暦日
酒断って知る桎梏のごとき夜長 楠本憲吉
酒肴癌にも与え夜長かな 柿本英二
里ありて夜長の妻に落花生 宮津昭彦
金襴の帯につまづく夜長かな 星野石雀
鉛筆をけづる匂ひの夜長なる 杉野一博
鍋の耳しづかに山の夜長来る 村越化石
鎌倉の夜長にはかに到りけり 久保田万太郎 流寓抄
鐘の音の輪をなして来る夜長哉 子規
鑿を砥めて彫るや夜長の彫刻師 雑草 長谷川零餘子
開くる人を待つかに襖夜長けれ 雑草 長谷川零餘子
闇の色にも湖と山ある夜長 山田弘子
階段の頭注意の夜長かな 石田勝彦 秋興
雨だれや夜長の雨はやまず降る 池内友次郎 結婚まで
雨もりもしづごゝろなる夜長かな 阿波野青畝
雨粒をつけし夜長の花づつみ 田中裕明 花間一壺
雪の夜長き「武蔵」を終わりけり 徳川夢声
電燈の光りの下の夜長かな 成瀬正とし 星月夜
電話来て退屈の去る夜長かな 嶋田摩耶子
音もなくひとり夜長の灯の下に 石井とし夫
頓狂汽笛に応える汽笛冬夜長し 鈴木六林男 第三突堤
顔回に会ふ西安の夜長かな 伊藤敬子
風呂敷をかけてみとりの夜長の灯 伊藤みのる
食卓にまたゝくや夜長の小蝋燭 阿部みどり女 笹鳴
鼠追ふも秋の夜長のすさびかな 尾崎紅葉
うたせ湯に病む肩預け夜の長き 内田安茂
おのづから人は向きあひ夜の長し 田中裕明 先生から手紙
それぞれの部屋にこもりて夜の長き 片山由美子(1952-)
ともし置いて室明き夜の長さ哉 漱石 (修善寺病中)
はるばると来て夜の長し渓の音 林原耒井 蜩
ふつつり思ひきり冬夜の長い橋渡る 人間を彫る 大橋裸木
ほとけの栗を分けて貰うて夜の長き 林原耒井 蜩
また道に迷ふ夢見て夜の長し 中嶋秀子
めいめいの部屋に引きとる夜の長し 高澤良一 ぱらりとせ
よしさらば泣き明さんか夜の長き 寺田寅彦
わが名書きこれより長き夜の稿 鷹羽狩行 平遠
イーゼルに鏡置かれて夜の長き 上田日差子
一つ長き夜の藤房をまのあたり 高濱年尾 年尾句集
一人居に馴れ給ひしや長き夜を 安原葉
七人の敵今は無し長き夜 天日照子
人絶えて長き橋長き夜を懸る 大野林火
柴田宵曲文集
出し渋る本こそよけれ長き夜に 高澤良一 鳩信
北山の夜の長さを杉育つ 細見綾子
又一人湯に立ちゆくや長き夜 山田昌子
回想にはじまる長き夜のドラマ 大橋敦子
声に出て夜の長さの睫毛にも 野澤節子 黄 炎
夏至過ぎて吾に寝ぬ夜の長くなる 正岡子規
夜の長く物音遠くなりにけり 高浜年尾
夜の長し眠気そのうちそのうちに 高澤良一 寒暑
妻や娘の笑ひもらひて夜の長き 伊東宏晃
子の王手凌ぎしのぎて夜の長き 福島 胖
信貴山縁起
宙を飛ぶ倉を目で追ふ夜の長し 高澤良一 ももすずめ
宵っ張り二階にもゐて夜の長し 高澤良一 鳩信
寐て起て長き夜にすむひとり哉 炭 太祇 太祇句選
寝余ればまた起き出して長き夜 高澤良一 寒暑
山椒魚にばつたり暮れて長き夜 宇佐美魚目 秋収冬蔵
岩風呂に癒えし躬沈め夜の長き 伊東宏晃
嵯峨=記このかた嵯峨は夜の長き 阿波野青畝
年寄の部類に入り夜の長し 高澤良一 寒暑
張れざりし障子も嵌めて夜の長さ 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
文鎮を置き替へ長き夜の稿 長田等
星がない夜の長いカーテンをひく 住宅顕信 未完成
晩酌や吸殻積もる夜の長さ ジャック・スタム
沈黙を気づまりとせず長き夜を 今橋真理子
渓音と雨と分きて分かずて夜の長き 林原耒井 蜩
湯湧き湧く岩壁を背の夜の長き 林原耒井 蜩
後生掛温泉
湯疲れや長き夜に倦み生あくび 高澤良一 寒暑
灯火をさぞ長き夜の力ぐさ 上島鬼貫
煩悩の渦巻く長き夜の坐禅 西沢信生
父逝きて残りし母に夜の長き 田上一蕉子
犬吠にかかる船路や夜の長き 吉武月二郎句集
珠大き算盤使ひ夜の長き 栗城節子
病む母の昔語りや夜の長し 八牧美喜子
病めばこころ常に泣きゐて夜の長し 瀬川芹子
砂濱を大浪の走る夜の長き 内田百間
籠の日に蜆詰まりて夜の長き 岸本尚毅 舜
粟の穂に霧こだはつて夜の長き 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
老いゆくを知れとて長き夜はあるか 大野林火
茶話会なんどす習學寮の夜の長き 寺田寅彦
蜜柑摘み終りし夜の長湯かな 檜田 慧星
蝶籠の長き夜に入る影ふたつ 古舘曹人 樹下石上
裏山の峯に灯のある夜の長き 内田百間
言い訳の会話とぎれず夜の長き 平野みよ子
譫言も聞きとれぬ夜の長きかな 大場白水郎 散木集
長き夜とも短き日ともわきまへず 緒方句狂
長き夜のかくも短し生き急くな 野澤節子
長き夜のすでに一睡したるあと 井沢正江 火襷
長き夜のそのかたはらに大河あり 平岡道代
北九州行
長き夜のつれづれに湯の効能書 高澤良一 鳩信
長き夜のところどころを眠りけり 今井杏太郎
長き夜のどうでもよき句は読み飛ばす 高澤良一 宿好
長き夜のまたもさびしき夢を見る 仙田洋子 雲は王冠
長き夜のまつすぐ先に指揮者の背 数長藤代
長き夜のまどのあかりにくるめく葉 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
長き夜のわが生涯をかへりみる 今井つる女
長き夜のを指先で拭く酒のしみ 中村真一郎
長き夜の中に我在る思かな 高浜虚子
長き夜の五右衛門風呂をたのしめり 山田みづえ 草譜
長き夜の京劇の袖長きかな 有馬朗人 天為
長き夜の今更捨つる反故もなし 中村汀女
長き夜の他宗の死者へ馳せもする 赤松[けい]子 白毫
長き夜の刀の鍔の素朴なる 藤木清子
長き夜の勝手明神灯しあり 阿波野青畝
長き夜の土間よりひびく米搗ける 長谷川素逝 村
長き夜の壁の一点動き出づ 林原耒井 蜩
長き夜の大同江を渉りけり 正岡子規
長き夜の大方は反古棚の本 高澤良一 寒暑
長き夜の女の声が勝ちにけり 波多野爽波 鋪道の花
長き夜の妻との黙に馴れにけり 杉本寛
長き夜の寝に見離されゐたりけり 岸田稚魚 『紅葉山』
長き夜の寝惚先生文集読む 高澤良一 宿好
長き夜の巻き戻しゐる貸しビデオ 長崎小夜子
長き夜の影と坐りてもの縫へる 長谷川素逝 暦日
長き夜の影のあつまる部屋の隅 長谷川素逝 暦日
長き夜の指が覚えてゐる漢字 稲荷島人
長き夜の数を尽して十二鳴る 鷹羽狩行 誕生
長き夜の星や軒端に迫りたる 露月句集 石井露月
長き夜の更けて遊女の目井・乙前 辻桃子
長き夜の月欠けてあり市原野 五十嵐播水 播水句集
長き夜の本を持ち替へ持ち替へて 高澤良一 さざなみやっこ
長き夜の柱につるす狐面 上村占魚 鮎
長き夜の楽器かたまりゐて鳴らず 伊丹三樹彦(1920-)
長き夜の母を温めて掛時計 服部ますみ
長き夜の水流れたり大井川 河東碧梧桐
長き夜の汝が名を父もまだ知らず 大串章 朝の舟
長き夜の浅き眠りの二十階 猿橋統流子
長き夜の淋し身にそふ灯かな 乙字俳句集 大須賀乙字
長き夜の温泉山に向ける障子閉づ 宮武寒々 朱卓
長き夜の潜り戸あいて月夜といふ 田中冬二 俳句拾遺
長き夜の灯を引き込みて先斗町 高澤良一 宿好
長き夜の熱きが薬地蔵の湯 高澤良一 随笑
長き夜の物書く音に更けにける 村上鬼城
長き夜の目をやすめるゐるミレーの絵 瓜生和子
長き夜の眠り薬の白湯さます 鈴木華子
長き夜の空に谺し孔雀経 横山白虹
長き夜の空存分にくもりけり 久保田万太郎 草の丈
長き夜の筧の音に柱立ち 深見けん二
長き夜の纜高き舳より 五十嵐播水 埠頭
長き夜の育てし遠野物語 鱒澤行人
長き夜の腐木の上の臍の緒よ 冬の土宮林菫哉
長き夜の苦しみを解き給ひしや 稲畑汀子(1931-)
長き夜の行燈に何か書いて見ん 寺田寅彦
長き夜の街の灯見つゝ看取妻 稲畑汀子 汀子第二句集
長き夜の詩集のあとの聖書読む 長田等
長き夜の遠野に遠野物語 倉田 紘文
長き夜の鉄扉細目に誰がために 中村汀女
長き夜の隔離の廊下魔が通る 左右
長き夜の雅歌と聞くべし海鳴りを 山田みづえ
長き夜の顔にまたたきおくばかり 皆吉爽雨
長き夜の風に起きゐて焚き次げり 臼田亞浪 定本亜浪句集
長き夜の黒川能の口説かな 黒田杏子 水の扉
長き夜の黒澤映画「まあだだよ」 佐藤知敏
長き夜はただせせらぎに更けにけり 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
長き夜も尾越の鴨に明にけり 加舎白雄
長き夜やあなおもしろの腹話術 中村哮夫
長き夜やあらまし成りぬ翌の業 黒柳召波 春泥句集
長き夜やいろ~に聞く虫の声 許六
長き夜やこんなものでも御覧あれ 尾崎紅葉
長き夜やつゝかけ下駄の土間の音 島村元句集
長き夜やひそかに月の石だゝみ 久保田万太郎 流寓抄
長き夜やほうと鳴き去る鳥恋し 青峰集 島田青峰
長き夜やパラパラ漫画踊らせて 石田たまみ
長き夜や人灯を取つて庭を行く 子規句集 虚子・碧梧桐選
長き夜や今後ジテとなる江口 立子
長き夜や千年の後を考へる 子規句集 虚子・碧梧桐選
長き夜や和紙のあかりに旅ごころ 田生正子
長き夜や在るべき人の座に在らず 竹冷句鈔 角田竹冷
長き夜や坐礁の船の灯は航かず 五十嵐播水 埠頭
長き夜や夢想さらりと忘れける 炭 太祇 太祇句選
長き夜や夫と異なる刻を持つ 小川濤美子
長き夜や妻にしたがふ事もあり 伊奈秀嶺
長き夜や妻子に分つ耳ふたつ 日月をさむ
長き夜や孔子も磐を打ち慰さむ 有馬朗人 耳順
長き夜や孔明死する三国志 正岡子規
長き夜や心の鬼が身を責める 小林一茶 (1763-1827)
長き夜や思ひあまりの泣寝入り 星布尼
長き夜や我をる故の我が一家 上野泰
長き夜や掌もてさすりしうすき胸 鈴木しづ子(1925?-?)
長き夜や明りの消えし外科病棟 工藤久平
長き夜や書架に無数の文字眠り 林翔 和紙
長き夜や猿の鼾鶴の夢 霊子
長き夜や生死の間にうつら~ 鬼城
長き夜や痛むともなき足のひら 会津八一
長き夜や眠るためにも要る力 上原恒子
長き夜や眼鏡に曇る雨の音 成美
長き夜や船の書棚の片ひらき 五十嵐播水 埠頭
長き夜や街をはなれて船にあり 五十嵐播水 埠頭
長き夜や身を折り膝折り遺りすごす 宇多喜代子 象
長き夜や退きてまだ見る職の夢 宇野直治
長き夜や通夜の連歌のこぼれ月 蕪村 秋之部 ■ 山家
長き夜や逢ひたき人の皆遠く 木村速子
長き夜や遺影の眼鏡こちらむく 照子
長き夜や針を狂はす噴火音 宝亀 重子
長き夜や障子の外をともし行く 正岡子規
長き夜や饐えつゝ並ぶ青リンゴ 前田普羅 春寒浅間山
長き夜や鼠も憎きのみならず 幸田露伴 礫川集
長き夜や鼠王出て来て親しみぬ 村上鬼城
長き夜をたゝる将棋の一ト手哉 幸田露伴 蝸牛庵句集
長き夜を佛おろして語りけり 八牧美喜子
長き夜を夢恐ろしく悩みけり 会津八一
長き夜を寝あくと貧の傲りかな 幸田露伴 江東集
長き夜を幻燈などもよかるべく 会津八一
長き夜を念仏あつめて明にけり 加舎白雄
長き夜を押せばへこめる護謨人形 辻桃子
長き夜を描く幾百のこけしの瞳 山田みづえ 忘
長き夜を月取る猿の思案哉 正岡子規
長き夜を杳と灯れり能舞台 西村和子 かりそめならず
長き夜を眠ることにも不器用な 浅野久子
長き夜を編棒の先でくづしゆく 毛塚静枝
長き夜を虚子が旅寝や明達寺 細川加賀
長き夜を覚めぬ長椅子のスパニール 内藤吐天 鳴海抄
長き夜を読ませる宵曲妖怪譚 高澤良一 鳩信
長き夜を豆煮る匂満たしけり 神澤 信子
長き夜を重ね~し枕かな 高浜虚子
長き夜を金堂の鳩塔の鳩 津田清子 二人称
長き夜を長き語りに島歌舞伎 宮津昭彦
長き夜を隣人は 釘を打つてゐる 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
長き夜を面に眉かく能太夫 大谷句佛 我は我
長き夜を鳥羽僧正とあそびけり 白岩 三郎
長く灯をつづりて長き夜の埠頭 町田しげき
雨音の庭木に澄みて夜の長き 内田百間
青すぎる眼と長き夜の豆ランプ 二村典子
敵(かな)はない人の句を誦す夜長なり 高澤良一 ぱらりとせ
夜長妻予期したとほり生返事 高澤良一 暮津
問い掛けに返事が返って来ぬ夜長 高澤良一 暮津
信貴山縁起
宙を飛ぶ倉を目で追ふ夜の長し 高澤良一 ももすずめ
めいめいの部屋に引きとる夜の長し 高澤良一 ぱらりとせ
ここ迄と長夜の本の耳を折る 高澤良一 寒暑
後生掛温泉
湯疲れや長き夜に倦み生あくび 高澤良一 寒暑
高山市内
一人泊つ長夜に飛弾の味噌せんべい 高澤良一 素抱
火の始末等して長夜さあ寐よか 高澤良一 石鏡
夜を長く感じ始める灯の許に 高澤良一 暮津
虎造の侠客ものに夜の長し 高澤良一 暮津
以上
by 575fudemakase
| 2014-09-13 00:54
| 秋の季語
俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase

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《方法1》 残暑 の例句を調べる
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全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
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《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
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例1 残暑 の例句を調べる
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[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
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