渡り鳥
渡り鳥
例句を挙げる。
あの世まで歩幅のこして鳥渡る おぎ洋子
いつもかの山を斜めに鳥渡る 青峰集 島田青峰
うず潮のさきの白ラ波鳥渡る 岩本多賀史
うつすりと昼の月あり渡り鳥 田中冬二 俳句拾遺
おん像遥かの雲に鳥渡る 中川宋淵 遍界録 古雲抄
かすかにも芝掃く音や浮寐鳥 渡邊水巴 富士
かつしかに住みしことあり鳥渡る 深川正一郎
くるぶしに野面のぬくみ鳥渡る 手塚美佐 昔の香 以後
とりつくや日本の山へ渡り鳥 正岡子規
どう追れても人里を渡り鳥 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
どつと来し伊賀の寒さや渡り鳥 橋本鶏二 年輪
はらはらと木の葉交りや渡り鳥 井上井月
はらわたの熱きを恃み鳥渡る 宮坂静生
はるばるといふやうに鳥渡り来る 山田みづえ
ひらり高う嫩葉食みしか乙鳥 渡邊水巴
ふところへさす日も秋や鳥渡る 増田龍雨 龍雨句集
まばたきを暗しと思ふ鳥渡る 八木林之助
まびく菜に日のうすれ来る渡り鳥 素史句集(扉「素史句集第一」) 首藤素史
みちのくは生涯の地なり渡り鳥 みどり女
みづうみのくもるひとつへ鳥渡る 上田五千石 琥珀
ゆめも青うつつも青や渡り鳥 かもめ
わが息のわが身に通ひ渡り鳥 龍太
わたり鳥田舎酌婦の眼の光り 松瀬青々
わたり鳥雲の機手のにしき哉 蕪村 秋之部 ■ 竹渓法師丹後へ下るに
エッフェルといふは人の名鳥渡る 今井杏太郎
オカリナの音は紬色鳥渡る 小泉静子
ソプラノの高さの極み鳥渡る 和田悟朗
ホーホーと唄へば水に鳥渡る 金箱戈止夫
ラ・マンチヤの空の真ん中鳥渡る 今井杏太郎
ロケツトの島未来あり鳥渡る 塙告冬
ロツキーの怒り肩より渡り鳥 左右木韋城
一つ啼く声するどさよ渡り鳥 岡本松浜 白菊
一峡を以て国境鳥渡る 倉田紘文
一点の湖あれば鳥渡るなり 鈴木貞雄
一番汽車鳥渡る空に音あげし 碧雲居句集 大谷碧雲居
一脚の床几に木地師鳥渡る 古舘曹人 樹下石上
一陣の撓に現れては鳥渡る 尾亀清四郎
下駄の歯の石除くとき鳥渡る 石川文子
世紀末焼かれし森を鳥渡る 仙田洋子 雲は王冠
丸亀七万五千石鳥渡り見ゆ 皆川白陀
乗込口幟紅白鳥渡る 毛塚静枝
乗鞍の鞍が見えるぞ渡り鳥 原田喬
九十九折そここゝへ鳥渡りけり 尾崎迷堂 孤輪
九十九里濤より湧きて鳥渡る 毛塚静枝
二輪車のハンドル低し渡り鳥 原裕 新治
五千石も耕二もあらず鳥渡る 坂本和加子
京近き山にかゝるや渡り鳥 暁台
人はみな旅せむ心鳥渡る 石田波郷(1913-69)
人生に四季は過客や渡り鳥 滝青佳
仏にも後の正面鳥渡る ふけとしこ
仰ぎ見る丘の聖堂鳥渡る 古藤春世
伯耆とは母来の国や鳥渡る 大石悦子
俳諧の飛耳張目や鳥渡る 尾崎迷堂 孤輪
入院の四角な窓を鳥渡る 高浜年尾
再びの単身赴任鳥渡る 加賀さとし
出でて耕す囚人に鳥渡りけり 青峰集 島田青峰
制服の肘の古びや鳥渡る 鈴木しげを
北に偏るイデエの中を鳥渡る 加藤郁乎 球体感覚
南帝の拠りし背山を鳥渡る 三村純也
只一人だまりこくつて渡り鳥 一茶
吹きあがる落葉にまじり鳥渡る 前田普羅 飛騨紬
吹きからぶ野の隈なれど渡り鳥 杉山岳陽 晩婚
噴煙のある日は高く鳥渡る 図師星風
四つ手網あがる空より渡り鳥 水原秋桜子
地を離れすぎざる高さ渡り鳥 柴原保佳
埋れ樹のあらはるゝ湖や渡り鳥 冬葉第一句集 吉田冬葉
城あとは丹波の真中鳥渡る 茂里正治
声だして読む「流寓抄」鳥渡る 石川桂郎 四温
声張りて羽数すくなき渡り鳥 百合山羽公 故園
声熱く鳥渡り来し夜を眠る 櫛原希伊子
夕暮れの都会は病めり鳥渡る 仙田洋子 雲は王冠
夕空に磐梯の弧や渡り鳥 手島靖一
外輪山より湧き出でて鳥渡るかな 川村紫陽
夜の明けて我もうれしや渡り鳥 高田蝶衣
夜をこめて鳥渡りくる音聞かな 片山暁子
夜ルのうろこ雲 渡り鳥が 見えないであろうか 吉岡禅寺洞
夜鳥渡る火桶の灰を掻きて居り 内田百間
大富士の稜線の野や時鳥 渡邊水巴 富士
大山の南に不二や渡り鳥 滝井孝作 浮寝鳥
大恵那の尾根や端山や鳥渡る 松本たかし
大空のまんなかを鳥渡りけり 尾崎足
大空の動く一劃渡り鳥 稲畑汀子
大空の美しきとき鳥渡る 深川正一郎
大袋負ひたる民に鳥渡る 楸邨 (江南秋色)
大雁塔鳥渡る道あきらかに 林火
大風にキョ~と鳴く鳥渡りけり 乙字俳句集 大須賀乙字
天山のこと聞かせてよ渡り鳥 原田喬
太陽の火の粉となつて鳥渡る 堀内薫
失語して石階にあり鳥渡る 鈴木六林男(1919-)
奈良なれば大仏殿や渡り鳥 尾崎迷堂 孤輪
妻のこゑ聞かぬ幾日鳥渡る 藤崎久を
子にえらぶ白き毛糸や鳥渡る 鈴木真砂女 生簀籠
學帽の金の幼なさ鳥渡る 斉藤夏風
家かたちあればの母郷鳥渡る ながさく清江
小石川も音羽の空や渡り鳥 野村喜舟 小石川
屋上に交換手あり鳥渡る 岸風三楼 往来
山かけて鳥渡る湖の眺めかな 河東碧梧桐
山の巫女高く筒鳥渡しけり 萩原麦草 麦嵐
山の神水の神ゐて鳥渡る 長谷川公二
山の端や入日をつゝむ渡り鳥 浦四三子
山蔭に渡り鳥聞く戻らうよ 原田種茅 径
山高く水低く在り渡り鳥 三橋敏雄 畳の上
嶋は秋しぐれやすさよ渡り鳥 飯田蛇笏 山廬集
川下の千住曇りぬ渡り鳥 白水郎句集 大場白水郎
川原の砂ほこり色鳥渡る 内田百間
工夫等に休憩の刻鳥渡る 寺岡捷子
市中に鳥屋が森や渡り鳥 会津八一
帆をたたむ男がひとり鳥渡る 吉田汀史
帝都懐滅後の渡り鳥いつ帰る 齋藤愼爾
帰郷する日はいつのこと鳥渡る 松尾緑富
廃校に集ふ同窓鳥渡る 杉本寛
彫像は鉄鍛つ男鳥渡る 三苫知夫
後添いの過去には触れず鳥渡る 太田秋峰
御林や日高にとまる渡り鳥 水田正秀
忌に集ひ来て日本海鳥渡る 伊藤京子
愛うすき日の青空を鳥渡る 仙田洋子 雲は王冠
戸袋に褪せし浮世絵鳥渡る 北見さとる
捲き戻す舵輪のきしみ鳥渡る 石原 義輝
故郷も今はかり寝や渡り鳥 去来 (長崎に旅寝の頃)
断崖の隠れ湊に鳥渡る 関森勝夫
新宿ははるかなる墓碑鳥渡る 福永耕二(1938-80)
旅の髪うしほに冷えて渡り鳥 安藤葉子
日にかかる雲やしばしの渡り鳥 松尾芭蕉
星近く寝て鳥渡る夢の中 宮原双馨
春暁や見たきもの巣の時鳥 渡辺水巴 白日
春曉や見たきもの巣の時鳥 渡邊水巴
昭和夢見し少年倶楽都鳥渡る 高橋康菴
昼の湯にふぐりをさらす渡り鳥 古舘曹人 樹下石上
昼寝さめて鳥渡まごつく机かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
晴ながら富士はあらずよ鳥渡る 及川貞 夕焼
暁の燈台消えて渡り鳥 古白遺稿 藤野古白
暮れなずむ空に道あり渡り鳥 黒坂重政
更にはらはら吸はれ加はり渡り鳥 草田男
朝あらしあたまの上を渡り鳥 去来
朝熊山富士見ゆる日の渡り鳥 鈴鹿野風呂 浜木綿
木当か判つてたまるか鳥渡る 加藤郁乎
木拾ふによきしけ照りや渡り鳥 乙字俳句集 大須賀乙字
木曽川の今こそ光れ渡り鳥 高濱虚子
木曾川の今こそ光れ渡り鳥 高浜虚子
束ねたる和紙の軽さを鳥渡る 森田智子
杣が羽織着し日の心鳥渡る 中塚一碧樓
東京の空とも見えず渡り鳥 鈴鹿野風呂 浜木綿
松島の西日をさして渡り鳥 阿部みどり女 笹鳴
枯れ立てる葵の上を鳥渡る 阿部みどり女
枯水灘巨大な化鳥渡り去んぬ 後藤綾子
柴売につれてや市の渡り鳥 支考
桑くくり終へしばかりや鳥渡る 細見綾子
椎樫を踏みこぼしてや渡り鳥 吾仲
樹を植ゑて若やぐ街や渡り鳥 中島月笠 月笠句集
橋立の松にはよらず渡り鳥 西山泊雲 泊雲句集
此処に日本といふ国ありき鳥渡る 鈴木伸一
殺生石ほとほと鳴れよ渡り鳥 原田喬
母とゐてわれ大いなり鳥渡る 細川加賀 生身魂
母乗りし嫁入り駕籠や鳥渡る 瀧澤伊代次
水堰きし蓙干す空や鳥渡る 内田百間
水晶の一面光り渡り鳥 小川軽舟
水煙やそのうち人は渡り鳥 丸山海道
没り日のなか 渡り鳥の こえごえがきこえる 吉岡禅寺洞
沼縁を吠え行く犬や鳥渡る 内田百間
波荒き襟裳岬や鳥渡る 中川水歩
洪水あとの石白く灼け鳥渡る 臼田亞浪 定本亜浪句集
海光をもて送るべし鳥渡る 佐藤艸魚
海落暉神子・遊子・塩坂越鳥渡り 伊藤いと子
海見ゆる子午線の町鳥渡る 中井啓子
涙拭き面を上げよ鳥渡る 下村梅子
淡海という水の器を鳥渡る 斎藤愼爾 冬の智慧
淡海といふ水の器を鳥渡る 齋藤愼爾
渡り鳥かすかに見えて過ぎてゆく 星野立子
渡り鳥がうがうと風明るくて 加藤楸邨
渡り鳥しづかにわたる羽に遇ふ 寺井谷子
渡り鳥しみじみ見ればこぼれ行く 栗生純夫
渡り鳥つひに鍋提げいでしかな 小林康治 四季貧窮
渡り鳥なりしと思う水枕 橋間石
渡り鳥に声落されし地上かな 田川飛旅子 花文字
渡り鳥はるかなるとき光けり 川口重美
渡り鳥は知つている星空の暗号 伊藤完吾
渡り鳥みるみるわれの小さくなり 上田五千石(1933-97)
渡り鳥ゆるき流れが河口まで 野辺まさを
渡り鳥わが名つぶやく人欲しや 原裕(1930-99)
渡り鳥われに小さき机あり 仙田洋子 雲は王冠
渡り鳥ベビーベットの城なすも 岸田稚魚 『負け犬』
渡り鳥人住み荒らす平野見え 矢島渚男 船のやうに
渡り鳥仰ぐや献花胸に抱き 村元子潮
渡り鳥仰ぐや茱萸を食べながら 長谷川かな女 雨 月
渡り鳥仰ぐ一生旅のおもひ 村越化石 山國抄
渡り鳥伸び縮まりつ中空に 鬼骨
渡り鳥低く翔ぶとき迅くながく 中尾白雨 中尾白雨句集
渡り鳥光輪となり嶺に触るる 太田嗟
渡り鳥古き挽歌を口ずさむ 内藤吐天 鳴海抄
渡り鳥向き変りたる強雨かな 太田鴻村 穂国
渡り鳥四方に生るゝ端山かな 水原秋桜子
渡り鳥声を集めて過ぎゆけり 栗林千津
渡り鳥夕日に翳をわきばさみ 誓子
渡り鳥小さき翼を集めけり 東洋城千句
渡り鳥小田原城に梨食へば 石塚友二 光塵
渡り鳥尾上の霧にふれて迅し 内藤吐天 鳴海抄
渡り鳥山のゆたかさついばめる 萩原麦草 麦嵐
渡り鳥幾千の鈴ふらし過ぐ 赤城さかえ
渡り鳥影も残さず渡り終ふ 小林康治 『叢林』
渡り鳥微塵のごとしオホーツク 大野林火
渡り鳥日本の我を見しらぬか 一茶
渡り鳥暑き眠りをむさぼりし 太田鴻村 穂国
渡り鳥木の天守には木の手摺 百合山羽公 寒雁
渡り鳥来たり東の国の端 折井愚哉
渡り鳥棚田一枚づつ暮れる 春樹 (湖西和邇の地)
渡り鳥殉教の島綴りゆく 水原春郎
渡り鳥海は地よりしづかにて 塚原麦生
渡り鳥消えて欅の空残す 石塚友二
渡り鳥渡りつくせり初冬蚕 栗生純夫 科野路
渡り鳥湖一枚をのこしけり 杉山岳陽
渡り鳥田圃の焚火あかくなり 佐野良太 樫
渡り鳥田面賑はし下りにけり 温亭句集 篠原温亭
渡り鳥目二つ飛んでおびただし 三橋敏雄 眞神
渡り鳥砂丘いよいよ現はれて 岸田稚魚 筍流し
渡り鳥空の深くに向き変ふる 徹
渡り鳥空の色めきまだ覚めず 中村汀女
渡り鳥空摶つ音の町にしづか 太田鴻村 穂国
渡り鳥舟屋の軒の混み合へる 高井 剛
渡り鳥落暉の島を埋めつくす 朝倉和江
渡り鳥葉越の空に見えにけり 中島月笠 月笠句集
渡り鳥西日明りの瀬に憩ふ 松村蒼石 雁
渡り鳥見えずなりたる空の色 立子
渡り鳥見えますとメニュー渡さるる 今井 聖
渡り鳥見てをり空をふと忘れ 中村菊一郎
渡り鳥見上ぐる國父記念校 高澤良一 燕音
渡り鳥訥々とうた継ぐもよし 原裕 葦牙
渡り鳥近所の鳩に気負なし 小川軽舟
渡り鳥雲の流れに添ひゆかず 太田鴻村 穂国
渡り鳥風にさわだつ大樹かな 島村元句集
渡り鳥高し山盧を越えし後も 新津有一
渡り鳥鳴くは古郷の咄かな 内藤丈草
渾身の一羽が率ゆ鳥渡る 須田冨美子
湖もこの辺にして鳥渡る 高浜虚子
漕ぎ出でし余呉の湖鳥渡る 大橋宵火
潮騒の香のたかまれば鳥渡る 対馬康子 吾亦紅
濱の日に沖まひ立つや渡り鳥 松瀬青々
火の山をそれて乱るる渡り鳥 山岸 治子
火を創るにも歳月や鳥渡る 大串章 百鳥
灯台の初点の日付渡り鳥 大串章 朝の舟
灸から命のけむり鳥渡る 天川晨索
燈台の初点の日付渡り鳥 大串章
燈台の羽撃つかに見え鳥渡る 加藤憲曠
父の忌の見上ぐるたびに鳥渡る 関戸靖子
牛乳を飲ませてあげる春の鳥 渡辺誠一郎
玩具屋に賭けし生涯鳥渡る 恩田秀子
由良の戸の浜をめぐりて渡り鳥 渋谷 一重
白地図に色塗る今日を渡り鳥 耕二
百姓の片目泪や渡り鳥 杉山岳陽
盗掘をすとや彼方に渡り鳥 三好達治 路上百句
真白に又真黒に渡り鳥 梅室
石にかけて痺れし尻や鳥渡る 内田百間
石塊を拾へば石器鳥渡る 岡本まち子
秘してこそ永久の純愛鳥渡る 佐藤鬼房
移り来てまだ鳥渡るあしたあり 及川貞 榧の實
稲架かけて飛騨は隠れぬ渡り鳥 前田普羅
穂芒の暮れてぞひくき渡り鳥 秋櫻子
立山の雪刷く朝や渡り鳥 小坂灯村
竹伐れば挙り鳴る藪や鳥渡る 碧雲居句集 大谷碧雲居
竹河岸の竹のしづかや渡り鳥 長谷川春草
紙箱の四隅が空くや鳥渡る 竹内悦子
絵踏跡の上の聖壇鳥渡る 岡部六弥太
耽として廃屋の上を鳥渡んぬ 北原白秋 竹林清興
耿として廃屋の上を鳥渡んぬ 北原白秋
胸ポケットの老眼鏡や鳥渡る 菱沼杜門
脳といふ曠野をいまも鳥渡る 土橋たかを
舟に乗れば水平らかや鳥渡る 青峰集 島田青峰
航路の一すぢ白し鳥渡る 大橋敦子
航送の聖火従ふ渡り鳥 下村ひろし 西陲集
茶どころの花つけにけり渡り鳥 室生犀星 魚眠洞發句集
菅笠の羽根も休めず渡り鳥 乙由 (漂泊の雅子にとはれて)
萎えて咲きし熱帯草や渡り鳥 雑草 長谷川零餘子
落葉松や雌がこたへし時鳥 渡邊水巴 富士
葬列や数人仰ぐ渡り鳥 高柳重信(1923-83)
葬祭にばかり妻連れ鳥渡る 荒井正隆
街あれば高き塔あり鳥渡る 有馬朗人(1930-)
街灯はあまたのクルス鳥渡る 対馬康子 愛国
見なれたる山並にして鳥渡る 高濱年尾
諸ろ諸ろの鳥渡るらむ灘曇り 原石鼎
谷底の墓に照る日や鳥渡る 内田百間
赤不二のいましはじまる渡り鳥 服部鹿頭矢
近江の湖照り返してや鳥渡る 石塚友二 光塵
退会に捺す一印影鳥渡る 橋本榮治 越在
造船所閉ぢたる街を鳥渡る 阿部寿雄
遠目にも崖(きりぎし)の濡れ鳥渡る 中戸川朝人
針山に羽なき針や鳥渡る 磯貝碧蹄館
鈴を落さず海上わたる渡り鳥 磯貝碧蹄館
鐘楼の四足の傾斜鳥渡る 高井北杜
隣人の愛かなしさや渡り鳥 杉山岳陽 晩婚
雀らも真似して飛ぶや渡り鳥 一茶
雁よりは哀も低しわたり鳥 横井也有 蘿葉集
雨の日もかげをおとして渡り鳥 太田鴻村 穂国
雲と水よき栖なれ渡り鳥 諸九
雲の根を押して出づるや渡り鳥 浪化
青銅の鳥の彼方に鳥渡る 対馬康子 愛国
面寂びて湖国の仏鳥渡る 朝広純子
靴穿いて発ち際の酒鳥渡る 皆川白陀
音のなき一空間や渡り鳥 加藤楸邨
風呂浅き肩のさむさよ鳥渡る 金尾梅の門 古志の歌
飛ぶための日和も連れて鳥渡る 松本勝雄
馬刀貝の直立に鳥渡るなり 山尾玉藻
高臺の裏を表に鳥渡る 古舘曹人 砂の音
髭剃りし顎の手触り鳥渡る 深町一夫
魚散らふ沼のつゆけく鳥渡る 金尾梅の門 古志の歌
鳥渡り了へしや不定定型や 加藤郁乎 球体感覚
鳥渡り去るや蜜柑の山仕事 癖三酔句集 岡本癖三酔
鳥渡り夕波尖りそめしかな 勝又一透
鳥渡り明日はと望む山夏野 河東碧梧桐(1873-1937)
鳥渡り月渡る谷人老いたり 金子兜太(1919-)
鳥渡り渡りて太る榎かな 山本洋子
鳥渡り良寛の墓所昏むなり 西村公鳳
鳥渡り裾野相会ふ火山群 福田蓼汀
鳥渡るいつかは家を出ることに 辻美奈子
鳥渡るこきこきこきと罐切れば 秋元不死男
鳥渡るふるき宿場の灯ともしに 小松崎爽青
鳥渡るみちのく空の兜屋根 河野南畦 湖の森
鳥渡るや三昧原を賑かに 尾崎迷堂 孤輪
鳥渡るや大声に我も走らんか 中島月笠 月笠句集
鳥渡るや炎のごとき塔一つ 徳永山冬子
鳥渡るわが往診圏の島列び 秋光泉児
鳥渡るをみなあるじの露地ばかり(木屋町) 『定本石橋秀野句文集』
鳥渡るゴールのテープ持たされし 橋本榮治 逆旅
鳥渡るセザンヌの山ミレーの田 大串章 百鳥
鳥渡るマークシートのます埋め 対馬康子 純情
鳥渡るユーカリ根付く埋立地 酒井 武
鳥渡る二階に子あやす人見えて 兜太
鳥渡る低目低目を我れ二人 沼尻巳津子
鳥渡る初猟の父と茶を飲めば 杉本寛
鳥渡る勤め帰リの鞄抱き 深見けん二
鳥渡る北を忘れし古磁石 鍵和田釉子
鳥渡る午後より大き曇りかな 椎橋清翠
鳥渡る博物館の林かな 河東碧梧桐(1873-1937)
鳥渡る友垣ありて此の世よし 村越化石
鳥渡る句碑三行のおどろかな 古舘曹人 砂の音
鳥渡る地に残されし哺乳壜 対馬康子 純情
鳥渡る城ある山のよく見えて 杉本寛
鳥渡る堅田に飯を食ひをれば 下田稔
鳥渡る壊れしままの洗濯機 和田耕三郎
鳥渡る夕べ朱の濃き甲斐の山 有馬朗人 天為
鳥渡る夕ベをさまる海のいろ 中拓夫
鳥渡る多武の峰より月あかり 大森三保子
鳥渡る夜空の音を肴とす 飴山實 少長集
鳥渡る大空や杖ふり歩く 碧雲居句集 大谷碧雲居
鳥渡る大陸の雲流るゝに 田原けんじ
鳥渡る天文台の円き屋根 升田義次
鳥渡る失ひてより気づくもの 上原若子
鳥渡る宝永火口翳ふかめ 岡田貞峰
鳥渡る小さき町の空満たし 佐野美智
鳥渡る山の高さを仰ぎけり 青峰集 島田青峰
鳥渡る山より山へ古代窯 所山花
鳥渡る山国の空ひきしめて 小林康治 『虚實』
鳥渡る岩場に挿して風車 古舘曹人 樹下石上
鳥渡る廃村の空ときに埋め 宮津昭彦
鳥渡る思ひ遥けくをりにけり 星野立子
鳥渡る播州平野音もなし 西村和子 かりそめならず
鳥渡る日のつづきつつとぎれつつ 橋本鶏二 年輪
鳥渡る日のまぶしさに野外劇 石原舟月 山鵲
鳥渡る柱鏡を曇らせて 柿本多映
鳥渡る河口はるかに海蒼く 馬詰敏恵
鳥渡る波際粗き砂の面 毛塚静枝
鳥渡る津軽三年味噌屋敷 古舘曹人 樹下石上
鳥渡る海に展けし未来都市 下山宏子
鳥渡る海峡を夜の離れつつ 及川 澄
鳥渡る渡良瀬利根となるところ 吉田槻水
鳥渡る湖辺に近き喫茶室 竹内恒子
鳥渡る灯ともし頃の船溜 浅倉サカエ
鳥渡る父の浮名も鐵砧も 河原枇杷男 訶梨陀夜
鳥渡る父終生を小店守り 大塚信子
鳥渡る瑠璃陶片のさまざまを 小檜山繁子
鳥渡る病者に熱き蒸しタオル 水野すみ子
鳥渡る病者の花圃のみだれつつ 古賀まり子 洗 禮
鳥渡る真ッ赤な櫛を姉洗ふ 和田耕三郎
鳥渡る着のみの肩や聳えしめ 石塚友二 方寸虚実
鳥渡る移さぬままの本籍地 小川木久江
鳥渡る空の広さとなりにけり 友二
鳥渡る空の次第を克明に 年尾
鳥渡る空ばかり澄むわかれかな 石塚友二 光塵
鳥渡る空もうすぎぬ絹の道 中村明子
鳥渡る空や水車のから廻り 内田百間
鳥渡る空傾けて棒倒し 高澤良一 ねずみのこまくら
鳥渡る筆捨てかねてゐたるかな 清水基吉 寒蕭々
鳥渡る終生ひとにつかはれむ 敦
鳥渡る群ばらばらに且つ散らず 橋本多佳子
鳥渡る老人ホームのティータイム 山尾玉藻
鳥渡る聲の夕空身に近き 内藤吐天
鳥渡る腕のつけねの太欅 渋谷道
鳥渡る草木すでに黒く昏れ 永田耕一郎 方途
鳥渡る衣縫ふ鳥も居りぬべし 清水径子
鳥渡る角力巡業待つ浦を 杉本寛
鳥渡る路地には路地の生活の図 柴田白葉女 『月の笛』
鳥渡る辛抱づよき農の屋根 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
鳥渡る運動会の海苔巻手に 杉本寛
鳥渡る雀つぶての田の面にて 石川桂郎 高蘆
鳥渡る雲の笹べり金色に 杉田久女
鳥渡る雲取山は雲を呼び 成瀬桜桃子 風色
鳥渡る頂点くづれやすきかな 桑原まさ子
鳥渡る頃を利尻の昆布売り 遠藤雪花
鳥渡る風音のして妻匂ふ 原裕 葦牙
鳥渡る香林坊にバス待てば 茂里正治
鳥渡る駅にもの編む子とあれば 茂里正治
鳥渡る鳥よりほそき貨車の笛 高杉杜詩花
鳥渡れひかりが苦くなる前に 鎌倉佐弓
鳥渡船ゆき交ふオリーブ日和かな 石川文子
黒潮に影もこぼさず鳥渡る 上野さち子
あきらかに小鳥来てゐる庭木かな 高浜年尾
あららぎの結ぶ紅涙小鳥来る 福永耕二
お手玉は母の縮緬小鳥来る 府中谷幸枝
さまざまの円相を抜け小鳥来る 小檜山繁子
たまゆらの陽を吸ふ障子小鳥来る 小松崎爽青
ほんの少し自惚鏡小鳥来る 中村明子
ままごとのやうな産着や小鳥来る 辻美奈子
みどりごの目に小鳥来し別れかな 相馬遷子 山河
むらさきの森を掠めて小鳥来る 正木ゆう子
もう小鳥来ぬか曇天ひろがるか 夏井いつき
よく晴れし川越大師小鳥来て 斉藤美規
わが心ふとときめけば小鳥来る 中村汀女
エアメールの封切りをれば小鳥来る 山口恵子
オムレツのふんはりできて小鳥来る 稲生 正子
グワツ~と鳴く小鳥来ぬ雪の窓 西山泊雲 泊雲句集
一室を吾子と等分小鳥来る 上田日差子
一歩二歩あるき初む嬰に小鳥来る つじ加代子
一葉の卒業証書小鳥来る 中山芳文
一頁づつ読む詩集小鳥来る 田村了咲
亡き父の日記四五行小鳥来る 堀口星眠 営巣期
人からは何も学ばず小鳥来る 加藤春子
伸びきらぬ手足の体操小鳥来る 高橋うめ子
似顔絵にほくろがひとつ小鳥来る 渡部 良子
分校は大きな巣箱小鳥来る 茨木和生 遠つ川
劫火消え春泥のなか小鳥来る 柴田白葉女 遠い橋
千年の塔の風鐸小鳥来る 石嶌岳
千磴に千磴の空小鳥来る 青木重行
厨房の煉瓦寂びたり小鳥来る 山岸治子
叡山の昼の暗がり小鳥くる 小泉八重子
吾が庭も武蔵野のうち小鳥来る 東舟遊子
四阿に木椅子木の卓小鳥来る 真鍋 完子
城山の七谷晴れて小鳥来る 深見けん二
大前の玉のそらより小鳥来る 坂口 かぶん
大道芸の鞄開けば小鳥来る 一 民江
天上の言葉ついばみ小鳥来る 高橋謙次郎
天遠く下り来し小鳥皆光る 内藤吐天
太陽のまはり騒がし小鳥来る 仙田洋子 橋のあなたに
子と合はす小皿の昼餉小鳥来る 上田日差子
官司また一歌人たり小鳥来る 石倉啓補
寒波来て小鳥の森へ沁みゆけり 大島民郎
小書院の揚げし蔀に小鳥来る 木村蕪城
小鳥くる会ひたき人に会ふべかり 辻桃子
小鳥くる柱の細き能舞台 大木あまり 火球
小鳥くる火箸の丈をいとしめば 大木あまり 火球
小鳥くる障子を入れてまだ鎖さず 皆吉爽雨 泉声
小鳥来てこの膝小僧だけまるし 田中裕明 櫻姫譚
小鳥来てつかのま胸のあたたかし 樋笠文
小鳥来てつくばひ渡るしづけさよ 石塚友二
小鳥来てひとり病む家つゝきけり 川口重美
小鳥来てをりたのしげに人遊ぶ 星野立子
小鳥来てをり子の手紙読んでをり 岡田順子
小鳥来て中村八大ねむる墓 高澤良一 随笑
小鳥来て人はものかげより出づる 田中裕明 櫻姫譚
小鳥来て人工内耳にチチチチと 岸野千鶴子
小鳥来て何やら楽しもの忘れ 星野立子
小鳥来て午後の紅茶のほしき頃 富安風生
小鳥来て巣藁入れゆく郵便受 太田土男
小鳥来て幸福少し置いてゆく 星野椿
小鳥来て枯園の水ひきしまる 泉 春花
小鳥来て枯山水のお庭なる 谷口忠男
小鳥来て桑がくれなり峡の家 古賀まり子 緑の野以後
小鳥来て母亡き家を鳴き囲み(あまりに野鳥たち集ひくれば) 野澤節子 『八朶集』
小鳥来て熱の下がりし子の目覚め 三村純也
小鳥来て縄閂の緩むかな 山崎和枝
小鳥来て落葉の嵩に見失ふ 岩西多加志
小鳥来て街の雀にたちまじる 中山良章
小鳥来て足柄山に光り棲む 仙田洋子 雲は王冠
小鳥来て通草のうつろ杣の眼に 安斎櫻[カイ]子
小鳥来とたぶの樹は腕伸ばしたり 西村和子 窓
小鳥来と人の呑みたる木実酒 萩原麦草 麦嵐
小鳥来と母の着物を解きをる 大木あまり 火球
小鳥来と眼鏡はづせし眸を凝らす 稲垣きくの 黄 瀬
小鳥来ぬジヤケツの赤き子供らに 岸風三楼 往来
小鳥来ぬ日はさびしくて垣繕ふ 法師浜桜白
小鳥来るSLホテル窓開き 神蔵 器
小鳥来るお浜の松の汐曇り 長谷川かな女 花 季
小鳥来るここに静かな場所がある 田中裕明 先生から手紙
小鳥来るほとけの数に足らざるも 中嶋秀子
小鳥来るケーキに花を咲かせれば 田中春生
小鳥来るルルドに水の溢れをり 常盤しづ子
小鳥来る乾く絵皿の茜寂び 三橋迪子
小鳥来る出港漁夫の忘れ鍵 小野恵美子
小鳥来る函にあまたの小抽出 古舘曹人 樹下石上
小鳥来る十字架山はただの丘 朝倉和江
小鳥来る命のごとき日溜りに 小林康治 『存念』
小鳥来る嘉門次小屋の炉辺かな 西本一都 景色
小鳥来る四五戸やむかし木樵村 古賀まり子 緑の野以後
小鳥来る太陽と落葉のみの庭 相馬遷子 山河
小鳥来る宝石いろの海地獄 朝倉和江
小鳥来る少年無口にして無言 井出真理子
小鳥来る弥生の村として残る 坊城中子
小鳥来る慶びごとのあるごとく 厚海房女
小鳥来る手紙秤の針の振れ 須川洋子
小鳥来る手馴れし帯の締めごこち 木村 ふく
小鳥来る旅の昨日を話す目に 岡田順子
小鳥来る朝が逆さに匙の中 有馬朗人 母国
小鳥来る朝靄さめて奥信濃 松村蒼石 雁
小鳥来る母郷ふところ深きかな 大塚信子
小鳥来る水に甘さの戻りをり 上村占魚 『玄妙』
小鳥来る沖の一線ゆらぎそめ 原裕 『出雲』
小鳥来る海金剛を目の中に 百合山羽公 寒雁
小鳥来る港にマスト多き日も 原田青児
小鳥来る湖はをとこのいろ充たし 雨宮抱星
小鳥来る甲斐の空気をまつすぐに 前川弘明
小鳥来る空たのもしくみ上げけり 久保田万太郎 草の丈
小鳥来る空の青さをひき連れて 千才治子
小鳥来る窓に青空ゆきわたり 黛まどか
小鳥来る築泥のそとにある俗語 長谷川かな女 花 季
小鳥来る苑内にあるスピーカー 西村和子 夏帽子
小鳥来る若きイエスの受洗図に 村田白峯
小鳥来る藁の日差の一堂宇 橋本榮治 越在
小鳥来る身のはうばうに貼薬 草深昌子
小鳥来る鎧戸とざす異人館 木下慈子
小鳥来る音うれしさよ板庇 蕪村
小鳥来る頃なればこの軽き杖 村越化石
小鳥来る風禍の木々を伝ひつゝ 堺井浮堂
小鳥来る風車は羽根をゆるやかに 西村 澪
小鳥来る驚くほどの青空を 中田剛 珠樹以後
小鳥来る髯のベルツのその頭上 高澤良一 随笑
小鳥来る黄河長江渡りては 辻桃子 ねむ 以後
小鳥来る黒部へつりの径縷々と 有働 亨
尼ごぜのしづかな暮し小鳥来る 橋本 博
岩稜に巻き干すザイル小鳥来つ 渡辺 立男
嵩しづめ土となる葉や小鳥来る 伊藤敬子
干し物の良く乾く日や小鳥来る 穂坂日出子
幼子に言葉の殖えて小鳥来る 高野 教子
庭先のげんのしようこや小鳥来る 銀漢 吉岡禅寺洞
引出しに石蹴りの石小鳥来る 高尾方子
忘れずに種まくやうに小鳥来る 小檜山繁子
思ふことかがやいて来し小鳥かな 石田郷子
我等には険しき山路小鳥来る 稲畑汀子
新生児の手首に名札小鳥来る 中川靖子
朝の偈を待つ回廊に小鳥来る 熊田 鹿石
朝の日に画布の純白小鳥来る 橋本榮治 麦生
木洞の水新しく小鳥来し 内藤吐天
林火忌の小鳥来て水散らし去る 上野さち子
枝きゆんと鳴る榛の木に小鳥来て 鎌倉佐弓 水の十字架
桜島句碑を掠めて小鳥来る 稲畑廣太郎
梢々を揺籃にして小鳥くる 下田稔
樹洩れ日の乱れやう小鳥来てゐるよ 中島月笠 月笠句集
樹海晴れてはや渡り来る小鳥哉 中川宋淵 詩龕
気がつけば小鳥来てゐて五十歳 今瀬剛一
浅瀬よりみちびく光り小鳥来る 鷲谷七菜子 花寂び
濡れ縁に小鳥くる日をなにか干す 稲垣きくの 黄 瀬
瀬戸は凪小鳥来てゐる松林 高木晴子
灯台は岬のしるし小鳥来る 原汀歩
犀の背に乗らむと小鳥来たりけり 小熊里利
独り居や小鳥来てゐる些々の音 及川貞 榧の實
生きることまだまだ愉し小鳥来る 藤崎久を
生傷の絶えざる男の子小鳥来る 毛塚静枝
異国語が杜に氾濫小鳥来る 吉原文音
病院の庭広ければ小鳥来る 今井杏太郎
癖のあるチーズを食べて小鳥来る 錦織 鞠
白髪の乾く早さよ小鳥来る 飯島晴子(1921-2000)
目覚めよき赤子を抱けば小鳥来る 小野 喬樹
看取りにも平穏の日々小鳥来る 田中あかね
真言律宗別格本山小鳥来る 橋本榮治 越在
睫というあえかな繁み小鳥くる 鎌倉佐弓
石積んで石積んで城小鳥来る 和田順子
石見から周防の梢へ小鳥来ぬ 飴山實 辛酉小雪
祝婚歌聖堂に満ち小鳥来る 宮下翠舟
空がまだ濁らぬ時刻小鳥くる 大庭三千枝
窮屈なパイの断面小鳥来る 上田日差子
純白の点訳楽譜小鳥来る 丹羽啓子
老人はとしとりやすし小鳥来る 橋本榮治 越在
聖母頌口ずさむ朝の小鳥来し 内藤吐天 鳴海抄
胸中の未来は白紙小鳥来る 穐好樹菟男
色々の酒肉を断ちて小鳥来る 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
茅舎なる一滴文庫小鳥くる 岩崎照子
草木染のたまの外出小鳥くる 影島智子
薔薇園に小鳥来る日の海の紺 原田青児
藁焼きし灰に雪積み小鳥来る 野見山ひふみ
虎杖の花を銜へて小鳥来る 佐々木六戈
虫送り欠かさぬ在所小鳥来る 藤本安騎生
裏庭を愛する小鳥来たりけり 西村和子 かりそめならず
記念館起工の大地小鳥来る 稲畑廣太郎
赤ん坊いびつに泣いて小鳥来る 北見さとる
銭透ける愛の泉や小鳥来る 楠見稲子
陶工の指の荒れ初め小鳥来る 栗原 政子
離れ住むことも倖せ小鳥来る 川野 洋子
離れ住む母思ふ日よ小鳥来る 廣田 幸子
風呂敷のするりと解けて小鳥くる 大木あまり 火球
風荒き日は小鳥来ず誰も来ず 野崎 静子
食卓は原木のまま小鳥来る 鈴木けんじ
魚屋に青物売つて小鳥来る 石川桂郎 四温
鴎外の日記短し小鳥来る 天田牽牛子
渡り鳥東寺の空に懸りけり 高澤良一 暮津
浦のつく駅名多し渡り鳥 高澤良一 暮津
先達あり渡る鳥にも吾が身にも 高澤良一 石鏡
法然院雨に紛るる小鳥ごゑ 高澤良一 宿好
小鳥来る樟は見通しよき樹にて 高澤良一 随笑
横浜市立金沢動物園
平日の動物園にくる小鳥 高澤良一 石鏡
八幡宮ぱらぱら小鳥来そめけり 高澤良一 石鏡
以上
例句を挙げる。
あの世まで歩幅のこして鳥渡る おぎ洋子
いつもかの山を斜めに鳥渡る 青峰集 島田青峰
うず潮のさきの白ラ波鳥渡る 岩本多賀史
うつすりと昼の月あり渡り鳥 田中冬二 俳句拾遺
おん像遥かの雲に鳥渡る 中川宋淵 遍界録 古雲抄
かすかにも芝掃く音や浮寐鳥 渡邊水巴 富士
かつしかに住みしことあり鳥渡る 深川正一郎
くるぶしに野面のぬくみ鳥渡る 手塚美佐 昔の香 以後
とりつくや日本の山へ渡り鳥 正岡子規
どう追れても人里を渡り鳥 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
どつと来し伊賀の寒さや渡り鳥 橋本鶏二 年輪
はらはらと木の葉交りや渡り鳥 井上井月
はらわたの熱きを恃み鳥渡る 宮坂静生
はるばるといふやうに鳥渡り来る 山田みづえ
ひらり高う嫩葉食みしか乙鳥 渡邊水巴
ふところへさす日も秋や鳥渡る 増田龍雨 龍雨句集
まばたきを暗しと思ふ鳥渡る 八木林之助
まびく菜に日のうすれ来る渡り鳥 素史句集(扉「素史句集第一」) 首藤素史
みちのくは生涯の地なり渡り鳥 みどり女
みづうみのくもるひとつへ鳥渡る 上田五千石 琥珀
ゆめも青うつつも青や渡り鳥 かもめ
わが息のわが身に通ひ渡り鳥 龍太
わたり鳥田舎酌婦の眼の光り 松瀬青々
わたり鳥雲の機手のにしき哉 蕪村 秋之部 ■ 竹渓法師丹後へ下るに
エッフェルといふは人の名鳥渡る 今井杏太郎
オカリナの音は紬色鳥渡る 小泉静子
ソプラノの高さの極み鳥渡る 和田悟朗
ホーホーと唄へば水に鳥渡る 金箱戈止夫
ラ・マンチヤの空の真ん中鳥渡る 今井杏太郎
ロケツトの島未来あり鳥渡る 塙告冬
ロツキーの怒り肩より渡り鳥 左右木韋城
一つ啼く声するどさよ渡り鳥 岡本松浜 白菊
一峡を以て国境鳥渡る 倉田紘文
一点の湖あれば鳥渡るなり 鈴木貞雄
一番汽車鳥渡る空に音あげし 碧雲居句集 大谷碧雲居
一脚の床几に木地師鳥渡る 古舘曹人 樹下石上
一陣の撓に現れては鳥渡る 尾亀清四郎
下駄の歯の石除くとき鳥渡る 石川文子
世紀末焼かれし森を鳥渡る 仙田洋子 雲は王冠
丸亀七万五千石鳥渡り見ゆ 皆川白陀
乗込口幟紅白鳥渡る 毛塚静枝
乗鞍の鞍が見えるぞ渡り鳥 原田喬
九十九折そここゝへ鳥渡りけり 尾崎迷堂 孤輪
九十九里濤より湧きて鳥渡る 毛塚静枝
二輪車のハンドル低し渡り鳥 原裕 新治
五千石も耕二もあらず鳥渡る 坂本和加子
京近き山にかゝるや渡り鳥 暁台
人はみな旅せむ心鳥渡る 石田波郷(1913-69)
人生に四季は過客や渡り鳥 滝青佳
仏にも後の正面鳥渡る ふけとしこ
仰ぎ見る丘の聖堂鳥渡る 古藤春世
伯耆とは母来の国や鳥渡る 大石悦子
俳諧の飛耳張目や鳥渡る 尾崎迷堂 孤輪
入院の四角な窓を鳥渡る 高浜年尾
再びの単身赴任鳥渡る 加賀さとし
出でて耕す囚人に鳥渡りけり 青峰集 島田青峰
制服の肘の古びや鳥渡る 鈴木しげを
北に偏るイデエの中を鳥渡る 加藤郁乎 球体感覚
南帝の拠りし背山を鳥渡る 三村純也
只一人だまりこくつて渡り鳥 一茶
吹きあがる落葉にまじり鳥渡る 前田普羅 飛騨紬
吹きからぶ野の隈なれど渡り鳥 杉山岳陽 晩婚
噴煙のある日は高く鳥渡る 図師星風
四つ手網あがる空より渡り鳥 水原秋桜子
地を離れすぎざる高さ渡り鳥 柴原保佳
埋れ樹のあらはるゝ湖や渡り鳥 冬葉第一句集 吉田冬葉
城あとは丹波の真中鳥渡る 茂里正治
声だして読む「流寓抄」鳥渡る 石川桂郎 四温
声張りて羽数すくなき渡り鳥 百合山羽公 故園
声熱く鳥渡り来し夜を眠る 櫛原希伊子
夕暮れの都会は病めり鳥渡る 仙田洋子 雲は王冠
夕空に磐梯の弧や渡り鳥 手島靖一
外輪山より湧き出でて鳥渡るかな 川村紫陽
夜の明けて我もうれしや渡り鳥 高田蝶衣
夜をこめて鳥渡りくる音聞かな 片山暁子
夜ルのうろこ雲 渡り鳥が 見えないであろうか 吉岡禅寺洞
夜鳥渡る火桶の灰を掻きて居り 内田百間
大富士の稜線の野や時鳥 渡邊水巴 富士
大山の南に不二や渡り鳥 滝井孝作 浮寝鳥
大恵那の尾根や端山や鳥渡る 松本たかし
大空のまんなかを鳥渡りけり 尾崎足
大空の動く一劃渡り鳥 稲畑汀子
大空の美しきとき鳥渡る 深川正一郎
大袋負ひたる民に鳥渡る 楸邨 (江南秋色)
大雁塔鳥渡る道あきらかに 林火
大風にキョ~と鳴く鳥渡りけり 乙字俳句集 大須賀乙字
天山のこと聞かせてよ渡り鳥 原田喬
太陽の火の粉となつて鳥渡る 堀内薫
失語して石階にあり鳥渡る 鈴木六林男(1919-)
奈良なれば大仏殿や渡り鳥 尾崎迷堂 孤輪
妻のこゑ聞かぬ幾日鳥渡る 藤崎久を
子にえらぶ白き毛糸や鳥渡る 鈴木真砂女 生簀籠
學帽の金の幼なさ鳥渡る 斉藤夏風
家かたちあればの母郷鳥渡る ながさく清江
小石川も音羽の空や渡り鳥 野村喜舟 小石川
屋上に交換手あり鳥渡る 岸風三楼 往来
山かけて鳥渡る湖の眺めかな 河東碧梧桐
山の巫女高く筒鳥渡しけり 萩原麦草 麦嵐
山の神水の神ゐて鳥渡る 長谷川公二
山の端や入日をつゝむ渡り鳥 浦四三子
山蔭に渡り鳥聞く戻らうよ 原田種茅 径
山高く水低く在り渡り鳥 三橋敏雄 畳の上
嶋は秋しぐれやすさよ渡り鳥 飯田蛇笏 山廬集
川下の千住曇りぬ渡り鳥 白水郎句集 大場白水郎
川原の砂ほこり色鳥渡る 内田百間
工夫等に休憩の刻鳥渡る 寺岡捷子
市中に鳥屋が森や渡り鳥 会津八一
帆をたたむ男がひとり鳥渡る 吉田汀史
帝都懐滅後の渡り鳥いつ帰る 齋藤愼爾
帰郷する日はいつのこと鳥渡る 松尾緑富
廃校に集ふ同窓鳥渡る 杉本寛
彫像は鉄鍛つ男鳥渡る 三苫知夫
後添いの過去には触れず鳥渡る 太田秋峰
御林や日高にとまる渡り鳥 水田正秀
忌に集ひ来て日本海鳥渡る 伊藤京子
愛うすき日の青空を鳥渡る 仙田洋子 雲は王冠
戸袋に褪せし浮世絵鳥渡る 北見さとる
捲き戻す舵輪のきしみ鳥渡る 石原 義輝
故郷も今はかり寝や渡り鳥 去来 (長崎に旅寝の頃)
断崖の隠れ湊に鳥渡る 関森勝夫
新宿ははるかなる墓碑鳥渡る 福永耕二(1938-80)
旅の髪うしほに冷えて渡り鳥 安藤葉子
日にかかる雲やしばしの渡り鳥 松尾芭蕉
星近く寝て鳥渡る夢の中 宮原双馨
春暁や見たきもの巣の時鳥 渡辺水巴 白日
春曉や見たきもの巣の時鳥 渡邊水巴
昭和夢見し少年倶楽都鳥渡る 高橋康菴
昼の湯にふぐりをさらす渡り鳥 古舘曹人 樹下石上
昼寝さめて鳥渡まごつく机かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
晴ながら富士はあらずよ鳥渡る 及川貞 夕焼
暁の燈台消えて渡り鳥 古白遺稿 藤野古白
暮れなずむ空に道あり渡り鳥 黒坂重政
更にはらはら吸はれ加はり渡り鳥 草田男
朝あらしあたまの上を渡り鳥 去来
朝熊山富士見ゆる日の渡り鳥 鈴鹿野風呂 浜木綿
木当か判つてたまるか鳥渡る 加藤郁乎
木拾ふによきしけ照りや渡り鳥 乙字俳句集 大須賀乙字
木曽川の今こそ光れ渡り鳥 高濱虚子
木曾川の今こそ光れ渡り鳥 高浜虚子
束ねたる和紙の軽さを鳥渡る 森田智子
杣が羽織着し日の心鳥渡る 中塚一碧樓
東京の空とも見えず渡り鳥 鈴鹿野風呂 浜木綿
松島の西日をさして渡り鳥 阿部みどり女 笹鳴
枯れ立てる葵の上を鳥渡る 阿部みどり女
枯水灘巨大な化鳥渡り去んぬ 後藤綾子
柴売につれてや市の渡り鳥 支考
桑くくり終へしばかりや鳥渡る 細見綾子
椎樫を踏みこぼしてや渡り鳥 吾仲
樹を植ゑて若やぐ街や渡り鳥 中島月笠 月笠句集
橋立の松にはよらず渡り鳥 西山泊雲 泊雲句集
此処に日本といふ国ありき鳥渡る 鈴木伸一
殺生石ほとほと鳴れよ渡り鳥 原田喬
母とゐてわれ大いなり鳥渡る 細川加賀 生身魂
母乗りし嫁入り駕籠や鳥渡る 瀧澤伊代次
水堰きし蓙干す空や鳥渡る 内田百間
水晶の一面光り渡り鳥 小川軽舟
水煙やそのうち人は渡り鳥 丸山海道
没り日のなか 渡り鳥の こえごえがきこえる 吉岡禅寺洞
沼縁を吠え行く犬や鳥渡る 内田百間
波荒き襟裳岬や鳥渡る 中川水歩
洪水あとの石白く灼け鳥渡る 臼田亞浪 定本亜浪句集
海光をもて送るべし鳥渡る 佐藤艸魚
海落暉神子・遊子・塩坂越鳥渡り 伊藤いと子
海見ゆる子午線の町鳥渡る 中井啓子
涙拭き面を上げよ鳥渡る 下村梅子
淡海という水の器を鳥渡る 斎藤愼爾 冬の智慧
淡海といふ水の器を鳥渡る 齋藤愼爾
渡り鳥かすかに見えて過ぎてゆく 星野立子
渡り鳥がうがうと風明るくて 加藤楸邨
渡り鳥しづかにわたる羽に遇ふ 寺井谷子
渡り鳥しみじみ見ればこぼれ行く 栗生純夫
渡り鳥つひに鍋提げいでしかな 小林康治 四季貧窮
渡り鳥なりしと思う水枕 橋間石
渡り鳥に声落されし地上かな 田川飛旅子 花文字
渡り鳥はるかなるとき光けり 川口重美
渡り鳥は知つている星空の暗号 伊藤完吾
渡り鳥みるみるわれの小さくなり 上田五千石(1933-97)
渡り鳥ゆるき流れが河口まで 野辺まさを
渡り鳥わが名つぶやく人欲しや 原裕(1930-99)
渡り鳥われに小さき机あり 仙田洋子 雲は王冠
渡り鳥ベビーベットの城なすも 岸田稚魚 『負け犬』
渡り鳥人住み荒らす平野見え 矢島渚男 船のやうに
渡り鳥仰ぐや献花胸に抱き 村元子潮
渡り鳥仰ぐや茱萸を食べながら 長谷川かな女 雨 月
渡り鳥仰ぐ一生旅のおもひ 村越化石 山國抄
渡り鳥伸び縮まりつ中空に 鬼骨
渡り鳥低く翔ぶとき迅くながく 中尾白雨 中尾白雨句集
渡り鳥光輪となり嶺に触るる 太田嗟
渡り鳥古き挽歌を口ずさむ 内藤吐天 鳴海抄
渡り鳥向き変りたる強雨かな 太田鴻村 穂国
渡り鳥四方に生るゝ端山かな 水原秋桜子
渡り鳥声を集めて過ぎゆけり 栗林千津
渡り鳥夕日に翳をわきばさみ 誓子
渡り鳥小さき翼を集めけり 東洋城千句
渡り鳥小田原城に梨食へば 石塚友二 光塵
渡り鳥尾上の霧にふれて迅し 内藤吐天 鳴海抄
渡り鳥山のゆたかさついばめる 萩原麦草 麦嵐
渡り鳥幾千の鈴ふらし過ぐ 赤城さかえ
渡り鳥影も残さず渡り終ふ 小林康治 『叢林』
渡り鳥微塵のごとしオホーツク 大野林火
渡り鳥日本の我を見しらぬか 一茶
渡り鳥暑き眠りをむさぼりし 太田鴻村 穂国
渡り鳥木の天守には木の手摺 百合山羽公 寒雁
渡り鳥来たり東の国の端 折井愚哉
渡り鳥棚田一枚づつ暮れる 春樹 (湖西和邇の地)
渡り鳥殉教の島綴りゆく 水原春郎
渡り鳥海は地よりしづかにて 塚原麦生
渡り鳥消えて欅の空残す 石塚友二
渡り鳥渡りつくせり初冬蚕 栗生純夫 科野路
渡り鳥湖一枚をのこしけり 杉山岳陽
渡り鳥田圃の焚火あかくなり 佐野良太 樫
渡り鳥田面賑はし下りにけり 温亭句集 篠原温亭
渡り鳥目二つ飛んでおびただし 三橋敏雄 眞神
渡り鳥砂丘いよいよ現はれて 岸田稚魚 筍流し
渡り鳥空の深くに向き変ふる 徹
渡り鳥空の色めきまだ覚めず 中村汀女
渡り鳥空摶つ音の町にしづか 太田鴻村 穂国
渡り鳥舟屋の軒の混み合へる 高井 剛
渡り鳥落暉の島を埋めつくす 朝倉和江
渡り鳥葉越の空に見えにけり 中島月笠 月笠句集
渡り鳥西日明りの瀬に憩ふ 松村蒼石 雁
渡り鳥見えずなりたる空の色 立子
渡り鳥見えますとメニュー渡さるる 今井 聖
渡り鳥見てをり空をふと忘れ 中村菊一郎
渡り鳥見上ぐる國父記念校 高澤良一 燕音
渡り鳥訥々とうた継ぐもよし 原裕 葦牙
渡り鳥近所の鳩に気負なし 小川軽舟
渡り鳥雲の流れに添ひゆかず 太田鴻村 穂国
渡り鳥風にさわだつ大樹かな 島村元句集
渡り鳥高し山盧を越えし後も 新津有一
渡り鳥鳴くは古郷の咄かな 内藤丈草
渾身の一羽が率ゆ鳥渡る 須田冨美子
湖もこの辺にして鳥渡る 高浜虚子
漕ぎ出でし余呉の湖鳥渡る 大橋宵火
潮騒の香のたかまれば鳥渡る 対馬康子 吾亦紅
濱の日に沖まひ立つや渡り鳥 松瀬青々
火の山をそれて乱るる渡り鳥 山岸 治子
火を創るにも歳月や鳥渡る 大串章 百鳥
灯台の初点の日付渡り鳥 大串章 朝の舟
灸から命のけむり鳥渡る 天川晨索
燈台の初点の日付渡り鳥 大串章
燈台の羽撃つかに見え鳥渡る 加藤憲曠
父の忌の見上ぐるたびに鳥渡る 関戸靖子
牛乳を飲ませてあげる春の鳥 渡辺誠一郎
玩具屋に賭けし生涯鳥渡る 恩田秀子
由良の戸の浜をめぐりて渡り鳥 渋谷 一重
白地図に色塗る今日を渡り鳥 耕二
百姓の片目泪や渡り鳥 杉山岳陽
盗掘をすとや彼方に渡り鳥 三好達治 路上百句
真白に又真黒に渡り鳥 梅室
石にかけて痺れし尻や鳥渡る 内田百間
石塊を拾へば石器鳥渡る 岡本まち子
秘してこそ永久の純愛鳥渡る 佐藤鬼房
移り来てまだ鳥渡るあしたあり 及川貞 榧の實
稲架かけて飛騨は隠れぬ渡り鳥 前田普羅
穂芒の暮れてぞひくき渡り鳥 秋櫻子
立山の雪刷く朝や渡り鳥 小坂灯村
竹伐れば挙り鳴る藪や鳥渡る 碧雲居句集 大谷碧雲居
竹河岸の竹のしづかや渡り鳥 長谷川春草
紙箱の四隅が空くや鳥渡る 竹内悦子
絵踏跡の上の聖壇鳥渡る 岡部六弥太
耽として廃屋の上を鳥渡んぬ 北原白秋 竹林清興
耿として廃屋の上を鳥渡んぬ 北原白秋
胸ポケットの老眼鏡や鳥渡る 菱沼杜門
脳といふ曠野をいまも鳥渡る 土橋たかを
舟に乗れば水平らかや鳥渡る 青峰集 島田青峰
航路の一すぢ白し鳥渡る 大橋敦子
航送の聖火従ふ渡り鳥 下村ひろし 西陲集
茶どころの花つけにけり渡り鳥 室生犀星 魚眠洞發句集
菅笠の羽根も休めず渡り鳥 乙由 (漂泊の雅子にとはれて)
萎えて咲きし熱帯草や渡り鳥 雑草 長谷川零餘子
落葉松や雌がこたへし時鳥 渡邊水巴 富士
葬列や数人仰ぐ渡り鳥 高柳重信(1923-83)
葬祭にばかり妻連れ鳥渡る 荒井正隆
街あれば高き塔あり鳥渡る 有馬朗人(1930-)
街灯はあまたのクルス鳥渡る 対馬康子 愛国
見なれたる山並にして鳥渡る 高濱年尾
諸ろ諸ろの鳥渡るらむ灘曇り 原石鼎
谷底の墓に照る日や鳥渡る 内田百間
赤不二のいましはじまる渡り鳥 服部鹿頭矢
近江の湖照り返してや鳥渡る 石塚友二 光塵
退会に捺す一印影鳥渡る 橋本榮治 越在
造船所閉ぢたる街を鳥渡る 阿部寿雄
遠目にも崖(きりぎし)の濡れ鳥渡る 中戸川朝人
針山に羽なき針や鳥渡る 磯貝碧蹄館
鈴を落さず海上わたる渡り鳥 磯貝碧蹄館
鐘楼の四足の傾斜鳥渡る 高井北杜
隣人の愛かなしさや渡り鳥 杉山岳陽 晩婚
雀らも真似して飛ぶや渡り鳥 一茶
雁よりは哀も低しわたり鳥 横井也有 蘿葉集
雨の日もかげをおとして渡り鳥 太田鴻村 穂国
雲と水よき栖なれ渡り鳥 諸九
雲の根を押して出づるや渡り鳥 浪化
青銅の鳥の彼方に鳥渡る 対馬康子 愛国
面寂びて湖国の仏鳥渡る 朝広純子
靴穿いて発ち際の酒鳥渡る 皆川白陀
音のなき一空間や渡り鳥 加藤楸邨
風呂浅き肩のさむさよ鳥渡る 金尾梅の門 古志の歌
飛ぶための日和も連れて鳥渡る 松本勝雄
馬刀貝の直立に鳥渡るなり 山尾玉藻
高臺の裏を表に鳥渡る 古舘曹人 砂の音
髭剃りし顎の手触り鳥渡る 深町一夫
魚散らふ沼のつゆけく鳥渡る 金尾梅の門 古志の歌
鳥渡り了へしや不定定型や 加藤郁乎 球体感覚
鳥渡り去るや蜜柑の山仕事 癖三酔句集 岡本癖三酔
鳥渡り夕波尖りそめしかな 勝又一透
鳥渡り明日はと望む山夏野 河東碧梧桐(1873-1937)
鳥渡り月渡る谷人老いたり 金子兜太(1919-)
鳥渡り渡りて太る榎かな 山本洋子
鳥渡り良寛の墓所昏むなり 西村公鳳
鳥渡り裾野相会ふ火山群 福田蓼汀
鳥渡るいつかは家を出ることに 辻美奈子
鳥渡るこきこきこきと罐切れば 秋元不死男
鳥渡るふるき宿場の灯ともしに 小松崎爽青
鳥渡るみちのく空の兜屋根 河野南畦 湖の森
鳥渡るや三昧原を賑かに 尾崎迷堂 孤輪
鳥渡るや大声に我も走らんか 中島月笠 月笠句集
鳥渡るや炎のごとき塔一つ 徳永山冬子
鳥渡るわが往診圏の島列び 秋光泉児
鳥渡るをみなあるじの露地ばかり(木屋町) 『定本石橋秀野句文集』
鳥渡るゴールのテープ持たされし 橋本榮治 逆旅
鳥渡るセザンヌの山ミレーの田 大串章 百鳥
鳥渡るマークシートのます埋め 対馬康子 純情
鳥渡るユーカリ根付く埋立地 酒井 武
鳥渡る二階に子あやす人見えて 兜太
鳥渡る低目低目を我れ二人 沼尻巳津子
鳥渡る初猟の父と茶を飲めば 杉本寛
鳥渡る勤め帰リの鞄抱き 深見けん二
鳥渡る北を忘れし古磁石 鍵和田釉子
鳥渡る午後より大き曇りかな 椎橋清翠
鳥渡る博物館の林かな 河東碧梧桐(1873-1937)
鳥渡る友垣ありて此の世よし 村越化石
鳥渡る句碑三行のおどろかな 古舘曹人 砂の音
鳥渡る地に残されし哺乳壜 対馬康子 純情
鳥渡る城ある山のよく見えて 杉本寛
鳥渡る堅田に飯を食ひをれば 下田稔
鳥渡る壊れしままの洗濯機 和田耕三郎
鳥渡る夕べ朱の濃き甲斐の山 有馬朗人 天為
鳥渡る夕ベをさまる海のいろ 中拓夫
鳥渡る多武の峰より月あかり 大森三保子
鳥渡る夜空の音を肴とす 飴山實 少長集
鳥渡る大空や杖ふり歩く 碧雲居句集 大谷碧雲居
鳥渡る大陸の雲流るゝに 田原けんじ
鳥渡る天文台の円き屋根 升田義次
鳥渡る失ひてより気づくもの 上原若子
鳥渡る宝永火口翳ふかめ 岡田貞峰
鳥渡る小さき町の空満たし 佐野美智
鳥渡る山の高さを仰ぎけり 青峰集 島田青峰
鳥渡る山より山へ古代窯 所山花
鳥渡る山国の空ひきしめて 小林康治 『虚實』
鳥渡る岩場に挿して風車 古舘曹人 樹下石上
鳥渡る廃村の空ときに埋め 宮津昭彦
鳥渡る思ひ遥けくをりにけり 星野立子
鳥渡る播州平野音もなし 西村和子 かりそめならず
鳥渡る日のつづきつつとぎれつつ 橋本鶏二 年輪
鳥渡る日のまぶしさに野外劇 石原舟月 山鵲
鳥渡る柱鏡を曇らせて 柿本多映
鳥渡る河口はるかに海蒼く 馬詰敏恵
鳥渡る波際粗き砂の面 毛塚静枝
鳥渡る津軽三年味噌屋敷 古舘曹人 樹下石上
鳥渡る海に展けし未来都市 下山宏子
鳥渡る海峡を夜の離れつつ 及川 澄
鳥渡る渡良瀬利根となるところ 吉田槻水
鳥渡る湖辺に近き喫茶室 竹内恒子
鳥渡る灯ともし頃の船溜 浅倉サカエ
鳥渡る父の浮名も鐵砧も 河原枇杷男 訶梨陀夜
鳥渡る父終生を小店守り 大塚信子
鳥渡る瑠璃陶片のさまざまを 小檜山繁子
鳥渡る病者に熱き蒸しタオル 水野すみ子
鳥渡る病者の花圃のみだれつつ 古賀まり子 洗 禮
鳥渡る真ッ赤な櫛を姉洗ふ 和田耕三郎
鳥渡る着のみの肩や聳えしめ 石塚友二 方寸虚実
鳥渡る移さぬままの本籍地 小川木久江
鳥渡る空の広さとなりにけり 友二
鳥渡る空の次第を克明に 年尾
鳥渡る空ばかり澄むわかれかな 石塚友二 光塵
鳥渡る空もうすぎぬ絹の道 中村明子
鳥渡る空や水車のから廻り 内田百間
鳥渡る空傾けて棒倒し 高澤良一 ねずみのこまくら
鳥渡る筆捨てかねてゐたるかな 清水基吉 寒蕭々
鳥渡る終生ひとにつかはれむ 敦
鳥渡る群ばらばらに且つ散らず 橋本多佳子
鳥渡る老人ホームのティータイム 山尾玉藻
鳥渡る聲の夕空身に近き 内藤吐天
鳥渡る腕のつけねの太欅 渋谷道
鳥渡る草木すでに黒く昏れ 永田耕一郎 方途
鳥渡る衣縫ふ鳥も居りぬべし 清水径子
鳥渡る角力巡業待つ浦を 杉本寛
鳥渡る路地には路地の生活の図 柴田白葉女 『月の笛』
鳥渡る辛抱づよき農の屋根 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
鳥渡る運動会の海苔巻手に 杉本寛
鳥渡る雀つぶての田の面にて 石川桂郎 高蘆
鳥渡る雲の笹べり金色に 杉田久女
鳥渡る雲取山は雲を呼び 成瀬桜桃子 風色
鳥渡る頂点くづれやすきかな 桑原まさ子
鳥渡る頃を利尻の昆布売り 遠藤雪花
鳥渡る風音のして妻匂ふ 原裕 葦牙
鳥渡る香林坊にバス待てば 茂里正治
鳥渡る駅にもの編む子とあれば 茂里正治
鳥渡る鳥よりほそき貨車の笛 高杉杜詩花
鳥渡れひかりが苦くなる前に 鎌倉佐弓
鳥渡船ゆき交ふオリーブ日和かな 石川文子
黒潮に影もこぼさず鳥渡る 上野さち子
あきらかに小鳥来てゐる庭木かな 高浜年尾
あららぎの結ぶ紅涙小鳥来る 福永耕二
お手玉は母の縮緬小鳥来る 府中谷幸枝
さまざまの円相を抜け小鳥来る 小檜山繁子
たまゆらの陽を吸ふ障子小鳥来る 小松崎爽青
ほんの少し自惚鏡小鳥来る 中村明子
ままごとのやうな産着や小鳥来る 辻美奈子
みどりごの目に小鳥来し別れかな 相馬遷子 山河
むらさきの森を掠めて小鳥来る 正木ゆう子
もう小鳥来ぬか曇天ひろがるか 夏井いつき
よく晴れし川越大師小鳥来て 斉藤美規
わが心ふとときめけば小鳥来る 中村汀女
エアメールの封切りをれば小鳥来る 山口恵子
オムレツのふんはりできて小鳥来る 稲生 正子
グワツ~と鳴く小鳥来ぬ雪の窓 西山泊雲 泊雲句集
一室を吾子と等分小鳥来る 上田日差子
一歩二歩あるき初む嬰に小鳥来る つじ加代子
一葉の卒業証書小鳥来る 中山芳文
一頁づつ読む詩集小鳥来る 田村了咲
亡き父の日記四五行小鳥来る 堀口星眠 営巣期
人からは何も学ばず小鳥来る 加藤春子
伸びきらぬ手足の体操小鳥来る 高橋うめ子
似顔絵にほくろがひとつ小鳥来る 渡部 良子
分校は大きな巣箱小鳥来る 茨木和生 遠つ川
劫火消え春泥のなか小鳥来る 柴田白葉女 遠い橋
千年の塔の風鐸小鳥来る 石嶌岳
千磴に千磴の空小鳥来る 青木重行
厨房の煉瓦寂びたり小鳥来る 山岸治子
叡山の昼の暗がり小鳥くる 小泉八重子
吾が庭も武蔵野のうち小鳥来る 東舟遊子
四阿に木椅子木の卓小鳥来る 真鍋 完子
城山の七谷晴れて小鳥来る 深見けん二
大前の玉のそらより小鳥来る 坂口 かぶん
大道芸の鞄開けば小鳥来る 一 民江
天上の言葉ついばみ小鳥来る 高橋謙次郎
天遠く下り来し小鳥皆光る 内藤吐天
太陽のまはり騒がし小鳥来る 仙田洋子 橋のあなたに
子と合はす小皿の昼餉小鳥来る 上田日差子
官司また一歌人たり小鳥来る 石倉啓補
寒波来て小鳥の森へ沁みゆけり 大島民郎
小書院の揚げし蔀に小鳥来る 木村蕪城
小鳥くる会ひたき人に会ふべかり 辻桃子
小鳥くる柱の細き能舞台 大木あまり 火球
小鳥くる火箸の丈をいとしめば 大木あまり 火球
小鳥くる障子を入れてまだ鎖さず 皆吉爽雨 泉声
小鳥来てこの膝小僧だけまるし 田中裕明 櫻姫譚
小鳥来てつかのま胸のあたたかし 樋笠文
小鳥来てつくばひ渡るしづけさよ 石塚友二
小鳥来てひとり病む家つゝきけり 川口重美
小鳥来てをりたのしげに人遊ぶ 星野立子
小鳥来てをり子の手紙読んでをり 岡田順子
小鳥来て中村八大ねむる墓 高澤良一 随笑
小鳥来て人はものかげより出づる 田中裕明 櫻姫譚
小鳥来て人工内耳にチチチチと 岸野千鶴子
小鳥来て何やら楽しもの忘れ 星野立子
小鳥来て午後の紅茶のほしき頃 富安風生
小鳥来て巣藁入れゆく郵便受 太田土男
小鳥来て幸福少し置いてゆく 星野椿
小鳥来て枯園の水ひきしまる 泉 春花
小鳥来て枯山水のお庭なる 谷口忠男
小鳥来て桑がくれなり峡の家 古賀まり子 緑の野以後
小鳥来て母亡き家を鳴き囲み(あまりに野鳥たち集ひくれば) 野澤節子 『八朶集』
小鳥来て熱の下がりし子の目覚め 三村純也
小鳥来て縄閂の緩むかな 山崎和枝
小鳥来て落葉の嵩に見失ふ 岩西多加志
小鳥来て街の雀にたちまじる 中山良章
小鳥来て足柄山に光り棲む 仙田洋子 雲は王冠
小鳥来て通草のうつろ杣の眼に 安斎櫻[カイ]子
小鳥来とたぶの樹は腕伸ばしたり 西村和子 窓
小鳥来と人の呑みたる木実酒 萩原麦草 麦嵐
小鳥来と母の着物を解きをる 大木あまり 火球
小鳥来と眼鏡はづせし眸を凝らす 稲垣きくの 黄 瀬
小鳥来ぬジヤケツの赤き子供らに 岸風三楼 往来
小鳥来ぬ日はさびしくて垣繕ふ 法師浜桜白
小鳥来るSLホテル窓開き 神蔵 器
小鳥来るお浜の松の汐曇り 長谷川かな女 花 季
小鳥来るここに静かな場所がある 田中裕明 先生から手紙
小鳥来るほとけの数に足らざるも 中嶋秀子
小鳥来るケーキに花を咲かせれば 田中春生
小鳥来るルルドに水の溢れをり 常盤しづ子
小鳥来る乾く絵皿の茜寂び 三橋迪子
小鳥来る出港漁夫の忘れ鍵 小野恵美子
小鳥来る函にあまたの小抽出 古舘曹人 樹下石上
小鳥来る十字架山はただの丘 朝倉和江
小鳥来る命のごとき日溜りに 小林康治 『存念』
小鳥来る嘉門次小屋の炉辺かな 西本一都 景色
小鳥来る四五戸やむかし木樵村 古賀まり子 緑の野以後
小鳥来る太陽と落葉のみの庭 相馬遷子 山河
小鳥来る宝石いろの海地獄 朝倉和江
小鳥来る少年無口にして無言 井出真理子
小鳥来る弥生の村として残る 坊城中子
小鳥来る慶びごとのあるごとく 厚海房女
小鳥来る手紙秤の針の振れ 須川洋子
小鳥来る手馴れし帯の締めごこち 木村 ふく
小鳥来る旅の昨日を話す目に 岡田順子
小鳥来る朝が逆さに匙の中 有馬朗人 母国
小鳥来る朝靄さめて奥信濃 松村蒼石 雁
小鳥来る母郷ふところ深きかな 大塚信子
小鳥来る水に甘さの戻りをり 上村占魚 『玄妙』
小鳥来る沖の一線ゆらぎそめ 原裕 『出雲』
小鳥来る海金剛を目の中に 百合山羽公 寒雁
小鳥来る港にマスト多き日も 原田青児
小鳥来る湖はをとこのいろ充たし 雨宮抱星
小鳥来る甲斐の空気をまつすぐに 前川弘明
小鳥来る空たのもしくみ上げけり 久保田万太郎 草の丈
小鳥来る空の青さをひき連れて 千才治子
小鳥来る窓に青空ゆきわたり 黛まどか
小鳥来る築泥のそとにある俗語 長谷川かな女 花 季
小鳥来る苑内にあるスピーカー 西村和子 夏帽子
小鳥来る若きイエスの受洗図に 村田白峯
小鳥来る藁の日差の一堂宇 橋本榮治 越在
小鳥来る身のはうばうに貼薬 草深昌子
小鳥来る鎧戸とざす異人館 木下慈子
小鳥来る音うれしさよ板庇 蕪村
小鳥来る頃なればこの軽き杖 村越化石
小鳥来る風禍の木々を伝ひつゝ 堺井浮堂
小鳥来る風車は羽根をゆるやかに 西村 澪
小鳥来る驚くほどの青空を 中田剛 珠樹以後
小鳥来る髯のベルツのその頭上 高澤良一 随笑
小鳥来る黄河長江渡りては 辻桃子 ねむ 以後
小鳥来る黒部へつりの径縷々と 有働 亨
尼ごぜのしづかな暮し小鳥来る 橋本 博
岩稜に巻き干すザイル小鳥来つ 渡辺 立男
嵩しづめ土となる葉や小鳥来る 伊藤敬子
干し物の良く乾く日や小鳥来る 穂坂日出子
幼子に言葉の殖えて小鳥来る 高野 教子
庭先のげんのしようこや小鳥来る 銀漢 吉岡禅寺洞
引出しに石蹴りの石小鳥来る 高尾方子
忘れずに種まくやうに小鳥来る 小檜山繁子
思ふことかがやいて来し小鳥かな 石田郷子
我等には険しき山路小鳥来る 稲畑汀子
新生児の手首に名札小鳥来る 中川靖子
朝の偈を待つ回廊に小鳥来る 熊田 鹿石
朝の日に画布の純白小鳥来る 橋本榮治 麦生
木洞の水新しく小鳥来し 内藤吐天
林火忌の小鳥来て水散らし去る 上野さち子
枝きゆんと鳴る榛の木に小鳥来て 鎌倉佐弓 水の十字架
桜島句碑を掠めて小鳥来る 稲畑廣太郎
梢々を揺籃にして小鳥くる 下田稔
樹洩れ日の乱れやう小鳥来てゐるよ 中島月笠 月笠句集
樹海晴れてはや渡り来る小鳥哉 中川宋淵 詩龕
気がつけば小鳥来てゐて五十歳 今瀬剛一
浅瀬よりみちびく光り小鳥来る 鷲谷七菜子 花寂び
濡れ縁に小鳥くる日をなにか干す 稲垣きくの 黄 瀬
瀬戸は凪小鳥来てゐる松林 高木晴子
灯台は岬のしるし小鳥来る 原汀歩
犀の背に乗らむと小鳥来たりけり 小熊里利
独り居や小鳥来てゐる些々の音 及川貞 榧の實
生きることまだまだ愉し小鳥来る 藤崎久を
生傷の絶えざる男の子小鳥来る 毛塚静枝
異国語が杜に氾濫小鳥来る 吉原文音
病院の庭広ければ小鳥来る 今井杏太郎
癖のあるチーズを食べて小鳥来る 錦織 鞠
白髪の乾く早さよ小鳥来る 飯島晴子(1921-2000)
目覚めよき赤子を抱けば小鳥来る 小野 喬樹
看取りにも平穏の日々小鳥来る 田中あかね
真言律宗別格本山小鳥来る 橋本榮治 越在
睫というあえかな繁み小鳥くる 鎌倉佐弓
石積んで石積んで城小鳥来る 和田順子
石見から周防の梢へ小鳥来ぬ 飴山實 辛酉小雪
祝婚歌聖堂に満ち小鳥来る 宮下翠舟
空がまだ濁らぬ時刻小鳥くる 大庭三千枝
窮屈なパイの断面小鳥来る 上田日差子
純白の点訳楽譜小鳥来る 丹羽啓子
老人はとしとりやすし小鳥来る 橋本榮治 越在
聖母頌口ずさむ朝の小鳥来し 内藤吐天 鳴海抄
胸中の未来は白紙小鳥来る 穐好樹菟男
色々の酒肉を断ちて小鳥来る 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
茅舎なる一滴文庫小鳥くる 岩崎照子
草木染のたまの外出小鳥くる 影島智子
薔薇園に小鳥来る日の海の紺 原田青児
藁焼きし灰に雪積み小鳥来る 野見山ひふみ
虎杖の花を銜へて小鳥来る 佐々木六戈
虫送り欠かさぬ在所小鳥来る 藤本安騎生
裏庭を愛する小鳥来たりけり 西村和子 かりそめならず
記念館起工の大地小鳥来る 稲畑廣太郎
赤ん坊いびつに泣いて小鳥来る 北見さとる
銭透ける愛の泉や小鳥来る 楠見稲子
陶工の指の荒れ初め小鳥来る 栗原 政子
離れ住むことも倖せ小鳥来る 川野 洋子
離れ住む母思ふ日よ小鳥来る 廣田 幸子
風呂敷のするりと解けて小鳥くる 大木あまり 火球
風荒き日は小鳥来ず誰も来ず 野崎 静子
食卓は原木のまま小鳥来る 鈴木けんじ
魚屋に青物売つて小鳥来る 石川桂郎 四温
鴎外の日記短し小鳥来る 天田牽牛子
渡り鳥東寺の空に懸りけり 高澤良一 暮津
浦のつく駅名多し渡り鳥 高澤良一 暮津
先達あり渡る鳥にも吾が身にも 高澤良一 石鏡
法然院雨に紛るる小鳥ごゑ 高澤良一 宿好
小鳥来る樟は見通しよき樹にて 高澤良一 随笑
横浜市立金沢動物園
平日の動物園にくる小鳥 高澤良一 石鏡
八幡宮ぱらぱら小鳥来そめけり 高澤良一 石鏡
以上
by 575fudemakase
| 2014-10-08 00:56
| 秋の季語
俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase
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グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
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例1 残暑 の例句を調べる
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[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
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いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
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[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
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