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桂信子の句 「冬」編

桂信子の句 「冬」編

桂信子の季題別全句集を読んで佳句を愉しもう。


▼時候
ゆでたまご口いっぱいに冬の旅
送電線にいつも平行 冬の旅
二階踏む昼の足音冬金魚
片足にまといつく紐冬畳
一隅に冬の匂いの乱れ籠
深川や竿竹売りも冬の声
宿の廊つきあたりたる冬鏡
葛根湯身の一冬を支へけり
中辺路の山にこだまし冬の音
国旗出すひと小さく見ゆ冬山家
冬遍路入日の金をまとひけり
谿川のいつの間にこの冬の音
真昼間のひとり遊びや冬金魚
眦を決すとまではゆかぬ冬
はつ冬や刃物を入れて水動く
帆柱に十一月の光かな
水中に滝深く落ち冬に入る
水甕の水に浮く塵冬に入る
冬に入るけものの逆毛撫でながら
燈明のまわりが空いて冬に入る
立冬の暮色は沼の底の色
もの入れし袋の容チ冬となる
眼帯や片目の街の冬ざるる
亀水に平らに浮きて冬ぬくし
桶あれば桶をのぞいて十二月
十二月緋の緞帳の長く垂れ
十二月こちらの本をあちらへ積み
霜月の水かがやけり咳ばかり
松の根にふきたまる砂冬至波
陸橋の遠く日あたる冬至かな
波の上に遠き日を置く冬至かな
火の端に残る紙片や年の果
ねばならぬことのつづきて年終る
考へてもわからぬ国や年果つる
数へ日や一日づつの珠の晴
年逝くや闇にをさめし嶺あまた
大年の真闇に水を流しけり
部屋の隅の赤き金魚と越年す
一月や油紋の海に雨の粒
一月や浄め塩散る石畳
相たのむ母娘の影や寒に入る
膝ついて松風をきく寒の入り
大寒の乾ききつたる橋わたる
大寒や魚の容ちに猫はしり
大寒の木々にうごかぬ月日あり
大寒の山中にして鍋たぎる
大寒のここはなんにも置かぬ部屋
大寒や野のはるかまで日当りて
紙屑をたきて音なし寒の土
寒の闇来て一燈に入る夜学生
倒木や石の飛び散る寒の谷
火掻き棒のまはりの火屑寒の闇
菜屑より流れはじめし寒の川
寒に逝くまこと俳句の鬼として
一度だけの波音冬日昏れにけり
親しみ受く冬日東京の三叉路に
昼も閉ざす燈台の扉の冬日向
呪文とけ冬日の亀が歩き出す
微塵ともならず真向う寒入日
若狭塗冬日は遠く海の上に
中辺路や冬日のなかに魚乾び
みちのくに見し片鱗の冬入日
弱火で煮るものの多くて冬の暮
道端に捨縄を踏む冬の暮
帯留を身よりはづして日短し
掃き出して仏間すぐさま寒気満つ
三寒の寒のつづきて四温なし
象の皺ゆっくりと見て春隣
春近し水輪のなかに水輪生れ
春近し九官鳥の哄ふさへ

▼天文
冬麗の気高き馬を引き出だす
冬麗や草に一本づつの影
寒月光男女つれだち出づるこゑ
寒月をまたぐに惜しき潦
寒風に出す七輪の火の粉の尾
木枯や帰りは空の出前箱
われによき師ありて北風をいそぐなり
北風に手を出せば短い言葉となる
一僧に喜捨の米粒初時雨
独り言いよよ時雨るる夜となりぬ
しぐるるやすうつと開きし宿襖
しぐるるや宿のはたきの遠い音
玻璃うちに黒き猫ゐてしぐれけり
火の奥の炎の熾んなる時雨宿
寺箒立てかけしより時雨かな
このごろや夕かけてくる時雨ぐせ
時ならぬ吹上御所の玉霰
霜の踏切越えてみなぎる朝の力
湖際のもの横流れ雪ぐもり
神棚の榊の真青雪催
霊柩車ゆき雪がふり今日をはる
窓の雪女体にて湯をあふれしむ
たまさかの雪なり出でて髪ぬらす
須臾にして雪ふりしくか子等のこゑ
貨車が来て粉雪一層荒れ狂ふ
雪のなか傘のうすくらがりがよし
深雪ならむ朝の戸あけて声あぐは
雪ふれば雪ひねもすの窓ひとつ
鮒煮えてくれば粉雪となりにけり
旅にて使ふ鮮しき紙幣雪の駅
雪国の柄太き傘を借り出づる
雪墜ちて深雪ににぶき音うまる
靴先に散る雪きみの死は確か
ややあつて呟く雪の越後人
とんねるの雪なき国へ出でにけり
雪中の鷺に遠き灯ともりそむ
沖雲は雪はこびつつ湖の暮
雪の日の皿にぶあつき舌平目
何もかも遠くへ去りぬ冬霞
微光曳くもの生きていて冬の霧
寒夕焼反り身に魚の焼かれ居り

▼地理
駅長の閑雪嶺を立ち眺む
枯山の奥なまなまと滝一筋
遠雪嶺鉄扉ひらいて国旗出す
中腹に道の岐れる冬の山
雪山の前に目立たぬ雪の山
雪嶺のことごとく昏れ水の音
窓際のガラスコップや遠雪嶺
地の底の音をおさえて山眠る
鳥放ち山は眠りに入らんとす
地震知らぬかに山々の眠りけり
これからのことはまかせて山眠る
大き掌に枯野来し手をつつまるる
枯野に出てなほ喧しき女学生
子等帰り枯野浮遊の一風船
焚口は枯野にむいて昼の風呂
飛ぶ鳥に枯野のうねり川の耀
雪原のまひるは束となるひかり
枯園に息はづまする之が恋か
男女歩む枯園を枯園とせず
寒水に透ける冬菜と指の傷
電線を闇に走らす冬の川
朱塗椀冬波遠く逆立てる
冬荒れの波に日あたり小浜線
寒潮へひとを信じて鳴らすギター
白波や泡ののこれる冬の浜
霜柱牝鶏絶えず眸をうごかし
遠き音冬滝らしくなって来し
冬の滝日輪白く過ぎゆけり
まつたうに落ちて冬滝ただ白し

▼生活
外套のなかの生ま身が水をのむ
干し蒲団叩く音する浜の午後
昭和果つかたまってゆく裘
手袋に五指を分ちて意を決す
破れ手袋三十の夢今以て
河豚雑炊次の間に闇満ちにけり
まんなかに餅のふくれる老姉妹
餅のひび深くて老の笑いあう
いちにちの大方餅を焼く匂ひ
底にまだ水餅らしきもののあり
衝立の陰の声音や薬喰
四十近し湯豆腐鍋にをどらせて
煮凝りをくづす目玉はとうに無し
煮凝の白眼を最後まで残す
高き縁めぐらす寺や冬構
湯ざめせし貌寒灯の下過ぐる
便箋の白に日あたる冬座敷
午後に入りゆるむ障子や池の水
気配して人の出でくる冬障子
湖の面の銀に障子を開け放つ
襖絵は狩野山楽牡丹の図
襖絵は名知らぬ絵師の寒雀
丁字屋のいつもの屏風「いろはにほ」
煖炉より笑声われのことならむ
煖炉ぬくし何を言ひだすかもしれぬ
煖炉もえわが身いとしむ刻となる
寂けさを欲りまた厭ひ炭をつぐ
炭つぎつ昼はそのまま夜となんぬ
鉛筆もてひろぐ炭火や夫はなし
さぐりあつ埋火ひとつ母寝し後
階段の裏のこたつを探し出す
炉の灰に昼の陽が射すひと待てば
炉火もえつぎたやすくひと日たちにけり
大火鉢畳の縁の模様かな
そば通り過ぎ冬耕のにぶい音
八十の母の焚火の勢い立つ
何もなき海見つくして避寒宿
雪兎昼までほつておかれけり
スキー担ぐおのおの温き家を出て
湯ざめして居り黙々と豆腐切る
たちまちにあられ過ぎゆく風邪ごもり
風邪の衿白きをあはす逢はんとて
風邪の身にながき夕ぐれきたりけり
二つ目の辻に嚔をのこしけり
忘年や身ほとりのものすべて塵
忘年の酒いささかの覚悟あり
忘年や話せば長きことながら
小肥りとなられし女将忘年会

▼行事
鶏のとさか珍らし七五三
夜空より大きな灰や年の市
歳の市裏通りより入りにけり
むつかしい一日が暮れ柚子湯の柚子
運び来しホテルの年越蕎麦ひとつ
十夜粥ぬくし本堂八方透き
ひとの頭のうすくらがりに十夜寺
十夜粥箸のまはりの灯影かな
雨傘を横に払うて親鸞忌
裏町の泥かがやけりクリスマス
凸凹の道踏み帰りクリスマス
クリスマスケーキこの荷厄介なもの
クリスマスツリーに関はりなき身なり
聖夜の伴に洗ひ熊などよからんか
この冬の意外なぬくさ 草城忌
一燈をつつむ冬靄草城忌
全集の濃き藍色や草城忌

▼動物
冬眠の蛇の真上を跫音過ぎ
冬の犬糞まるに時を費さず
虚空にてかすかに鳴りし鷹の腹
鷹舞ふや海に入らむとして落暉
冬の鷲爪みじかくて老いにけり
一本の白髪おそろし冬の鵙
笹子鳴きふたゝび空はくもりけり
笹鳴や女ばかりの昼ながし
飯櫃の芯まで乾き寒雀
風わたることのしばらく浮寝鳥
遠嶺より日あたってくる鴨の水
水尾やがてさざなみとなる鴨の池
落日や横にはしりし鴨一羽
水の中われにかへりし鴨一羽
鴨の羽根浮きたる水の堰を越ゆ
どこにでもある軸垂らし鴨の宿
艫の音のしばし過ぎゆく鴨の宿
金泥の水の落日鳰くぐる
身の果は知らず舞ひ立つ冬鴎
白鳥の声のなかなる入日かな
白鳥の白鳥らしからざるもあり
裏口におろす荷鰤の尾が見えて
水底に昼夜を分ち冬の鯉
時々は泛く寒鯉の胴まわり
俎のどちらむいても海鼠なる
たちまちに海鼠のつくる曇り空
何といふことなき昼の海鼠かな
海鼠から何が飛び出すかも知れぬ
年逝くや海鼠は海鼠の容して
たしかめてみたき海鼠の目鼻立チ
今なら殺せる冬の蜂畳匍ふ
冬蜂の死やカーテンの襞のなか

▼植物
室の花貌の大きな魚を飼ひ
中二階へ細身のてすり寒桜
汲みたての水揺れている冬椿
花八つ手花を散らして鉛の水
茶の花を梯子の影の過ぎてゆく
蜜柑の重さいつも頭上に蜜柑採る
ぽんかんの皮のぶあつさ土佐の国
山の湯の湧きつづきつつ木の葉散る
絵硝子の裏を木の葉の降りつづく
夫恋へば落葉音なくわが前に
落葉掻く母に小走り 目ざとい鶏
落葉焚きそのあとの用次々湧く
落葉焚き風がとりまく火の柱
落葉降る途中の空や奥吉野
落葉焚き途中で急に無口になる
いづれ地に朽つる落葉を掃き寄する
朝に夕に落葉掃く日のなほありや
朴落葉真正面より吹かれくる
ひと日かけ裏返りたる朴落葉
冬の松日輪ひとつよるべなし
冬木より目づたふ雲のなくなりぬ
壁鏡冬木が遠く身震ひする
管理人室に入りこむ冬木影
寒林や道より細く水流る
スクーターに曲がる道なし寒林透き
寒林にまぎれず駈くる一騎あり
逢ふところまでいくたびも枯木過ぎ
画鋲ひとつ枯木に光り学園祭
浮世絵を枕辺にせり枯木宿
枯蔓の切尖に触れ水激す
山川の枯れゆくさまに遍き日
中辺路の一樹のもとの枯仏
水仙剪る錆びし鋏を花に詫び
水仙を二三日見て旅に発つ
水仙に変らぬひと日ありにけり
ソファーにいて葉牡丹の真正面
葉牡丹や女ばかりの昼の酒
共に焚かれ枯菊と縄似てしまう
枯菊に午前の曇り午後の照り
枯菊の終の香りは火の中に
枯蓮やうごくともなき池の水
枯蓮の日当ってゐる午前かな
枯蓮によんどころなき昼の水
枯芦へ落日は金放ちたる
枯芦の日あたってゐるところかな
枯葦の影の乱れも湖北なる
枯薄乱るるさまに日のまとも
ハンカチをていねいに折り冬菫

以上
by 575fudemakase | 2014-10-02 13:38 | 句集評など


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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