雛祭1

雛祭1

例句を挙げる。

あいみての浮世しばらく雛飾る 保科その子
あかあかと雛栄ゆれども咳地獄 石田波郷
あかしやを大ぶりに挿し紙の雛 殿村菟絲子 『旅雁』
あぐらせる雛の足の白さかな 法師句集 佐久間法師
あしのうらからくるやはらかさ雛の前 桂信子 黄 瀬
あづかり子居つき雛の日来りけり 森川暁水 黴
あどけなき目鼻子に似し紙雛 岡本八重子
あの隅におれがやったる雛もあり 立花北枝
いかにほそき雛の眉かく小筆かな 東洋城千句
いきいきと細目かがやく雛かな 飯田蛇笏 山廬集
いくさ一つ元号二つ古雛 吉本和子
いくたびも身を貫かれ雛の夜 久保純夫 熊野集
いくとせも変らぬものや雛の髪 松吟 俳諧撰集玉藻集
いざなひて雛のともしびたてまつる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
いつか死ぬ話を母と雛の前 山田みづえ 手甲
いとほしや髪そゝくれて古雛 高橋淡路女 梶の葉
いにしへの色とぞ思ふ土雛 石川星水女
いにしへの袖張りたまひ立雛 中村若沙
いねし子に雛の夜浅し梅花香 碧雲居句集 大谷碧雲居
いのち毛をもつて引き目や豆雛 柴田豊子
いまの世に御目を閉ぢて古雛 出木裕子
うちつけの雛の一瞥怯むなり 行方克巳
うばがおててさき払けり后雛 洞雨 選集「板東太郎」
うまず女の雛かしづくぞ哀れなる 服部嵐雪 (1654-1707)
うららかや土の男雛のはね眉毛 野澤節子
うら若き妻いとほしみ残雛 会津八一
おくれ雛まぶたに重き恙かな 阿部みどり女 『光陰』
おびたゞしく古雛祭る座敷かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
おもひでは雛のあとさき雪しゞに 林原耒井 蜩
おんわれめありと思へぬ女雛かな 田川飛旅子 『薄荷』
おん口のゝ(ちょん)と小さゝよ婢子雛 富安風生
お仏間の今しばらくは雛の間 山田閏子
お雛師の白き眉毛のたれにける 森川暁水 黴
かづらきの神はいづれぞ夜の雛 榎本其角
かにかくに飲食雛の夜となりぬ 河合未光
かの部屋になほ雛段のあるごとし 山口波津女 良人
かんばせに日の射し込みて初雛 佐藤美恵子
かんばせのあはれに若し古雛 高橋淡路女 梶の葉
かんばせのひびのかなしき雛かな 野村喜舟
きぬぎぬのうれひがほある雛かな 加藤三七子
くれなゐの闇あたたかき雛の間 西村梛子
ことごとくまことをうつし雛調度 本田あふひ
ことし雛飾らず雛の夜を更かす 片山由美子 水精 以後
この雛とわれといづれが老いたるや 下村梅子
こやりゐて雛の日過ぎし桃を買ふ 及川貞 榧の實
これはこれは貝雛の中混み合へる 大石悦子
これよりはじやうずに齢を雛あられ 大石悦子
ころがしてみな愚かなる土の雛 高橋睦郎 舊句帖
ご粉荒れの掌中雛の笑顔成る 加藤知世子 花寂び
さかさまに水ごもりたまふ雛かな 阿波野青畝
さしあたり雛の調度を並べみん 高澤良一 寒暑
さつきまで雛を包んでありし紙 岩田由美
さゝめきをやめし顔なる雛かな 林原耒井 蜩
しはがれし声一間より雛の夜 鷲谷七菜子 花寂び
しろしろと色紙の雛の余白あり 後藤夜半 底紅
すぐ飾りをへてさびしき雛かな 林翔 和紙
すゞらんすゐせん雛はきのふとなりにけり 林原耒井 蜩
そのなかに汐くむ雛のあはれかな 道芝 久保田万太郎
たたかへる国の雛の太刀反れる 五十嵐播水 埠頭
たまゆらのいのち立たして立雛 大木格次郎
たらちねの抓(つま)までありや雛の鼻 蕪村
たれも居ぬ雛の部屋の開いてゐる 辻桃子
だいがさをかたげて老いし雛かな 久保田万太郎 草の丈
だんだんに暮れゆく雛の目鼻かな 阿部みどり女
ちやんちやんこの皆雛めきてお雛粥 宮津昭彦
ちらと見てあとは思ひて餘所の雛 加倉井秋を 『午後の窓』
ちゝはゝのある子の幸や雛祭 高橋淡路女 梶の葉
つくばひの雪よ雛の夜過ぎしより 金井巴津子
つるし雛夕日とろりとまとひをり 武内婦美子
てのひらにしばしの渡御や豆雛 宮脇白夜
てのひらに風あるごとし雛あられ 中嶋秀子
てのひらの齢かくさず古雛 行方克巳
とある家におそろしかりし古雛 相馬遷子 雪嶺
ときめきて雛にまみゆ今年また 及川貞
とぼし灯の用意や雛の台所 千代尼
ともしびは雛に影してひそかごと 野中 亮介
ともどもに風雪ありし雛かな 清水達夫
どこやらがしかと抱一絵雛かな 真下喜太郎
どの橋もみな日当りて雛祭 大牧 広
どの雛の箔や落ちけん塗盆に 廣江八重櫻
なか~に雛の御手かたくなや 軽部烏帽子 [しどみ]の花
なぶらるる子持ながらや雛遊び 朱芳妻 俳諧撰集玉藻集
なほ映えてわが雛五十路こえ給ふ 及川貞 榧の實
につぽんの悲しみ白き雛の眉 三谷昭 獣身
にほやかに刻の過ぎつゝ雛祭 大橋敦子 母子草
ねこ柳のほほけ白むや雛の雨 室生犀星 魚眠洞發句集
ねぢ巻いて雛の歌もオルゴール 今泉貞鳳
はつ雛や老の波よる娘の子 左繍
はなさけり古きを祝ふ雛の宿 松岡青蘿
はるかにて雛あられめく淡紅梅 高澤良一 鳩信
ひき止めて雛の灯ともし頃となる 水田むつみ
ひざまづき飾る高さに官女雛 片山由美子 雨の歌
ひそやかに話して雛の品定め 鈴木花蓑句集
ひとりもの雛の睦びをかざりけり 国弘賢治
ひとり居の雛とぢこめて出勤す 菖蒲あや あ や
ひと寝ねずけり雛の間となりてより 山口波津女 良人
ひんやりと人の影ゆく雛の家 酒井弘司
ふうの木を東に植ゑて雛遊び 手塚美佐
ふと気配して雛の間また灯す 稲岡長
ふと雛に呼ばれしごとく目覚めけり 恩田秀子
ふりむくをしらざる雛の面かな 大木あまり 雲の塔
ふるさとの蔵にわが雛泣きをらむ 鈴木真砂女
ほのぐらく茶漬の音す雛疲れ 渋谷道
ほほ笑みて笛休まする雛かな 上田五千石 森林
まつすぐに人見る男児五月雛 中村草田男
まなじりの紅若やかに今年雛 高橋淡路女 淡路女百句
みいくさや雛の眉もあがりたれ 五十嵐播水 埠頭
みかど雛帯のみやびは手に余す 河野多希女 両手は湖
みぞれきて戦の国の雛若し 渡邊水巴 富士
みづうみの波低からず雛祭 片山由美子 水精 以後
みづうみの雛の宿より城見ゆる 関戸靖子
みづら結ひ何々朝臣墨雛 下村梅子
みどり児もはにかみの笑み初雛 中村明子
みなし子のひとりで遊ぶ雛哉 正岡子規
むさい家との給ふやうな雛哉 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
むしろ寒くて雛の間に灯をやれば 金田咲子 全身
むらさきに暮るゝ障子や雛の窓 高橋淡路女 梶の葉
めちやくちやに晴れし雛の飾られぬ 寺田京子
もう一彩むらさき欲しき雛あられ 高澤良一 素抱
もたれ合ひて倒れずにある雛かな 高浜虚子
もとめんと思ふ値段の雛に来る 京極杞陽 くくたち上巻
ものいはゞうしといふらん箱の雛 松岡青蘿
もの言へば雛も唇寒からむ 行方克巳
やうやくに雛餅干ぞる旦暮かな 飯田蛇笏 山廬集
やはらかき闇をめぐらす雛の家 日色愛
やはらかなあれは木の音雛祭 原田喬
ゆるゆるの鋏のかなめ雛祭 辻桃子
よき旅を語り雛に家居せる 稲畑汀子 春光
よき雛の數多からず飾りたる 松本たかし
よく泣いてゐる赤ん坊の雛まつり 細川加賀 生身魂
よべの雛旦の雛と存問す 阿波野青畝
われの凭る壁に隣は雛かざる 飴山實 少長集
アネモネも散華に加ふ雛会式 杉山郁夫
アパートの雛段嶮し鉄路添ひ 香西照雄 対話
オリオンを直上に指す雛祭 横光利一
キンカトのタヒトゝうれし雛遊 高橋睦郎 金澤百句
セロファンのかなしき音や雛祭 矢島 恵
パリの呼鈴土雛を目覚まする 石川桂郎 高蘆
ヒサノマサルシス雛飾る子をあとに 林原耒井 蜩
一人娘の遠く嫁げり貝雛 阿部みどり女
一刀に彫られて男雛生まれけり 菱田好穂
一塊の雪もなくなり雛あられ 阿部みどり女
一寸ゐてもう夕方や雛の家 岸本尚毅(1961-)
一対の雛の辺双子睡りをり 文挟夫佐恵 遠い橋
一対の雛一対の雛の燭 後藤夜半 底紅
一幅の絵雛の春や草の宿 楠目橙黄子 橙圃
一村の真青な湖雛あられ 渡辺純枝
一燭のわなわなゆらぐ雛の恋 阿波野青畝
一組は嫁ぎゆきし子雛の宿 加藤耕子
一行李の雛あたたかし雪の縁 渡辺つゆ女
七十の母がかしづく雛かな 山田みづえ 木語
三代の雛の剥落鹿鳴けり 伊丹さち子
三十にわが近づきぬ雛飾り 山口波津女 良人
三平二満(おたふく)に縁引はてな雛の糸 斯波園女
三月四日草庵の雛灰かぶる 萩原麦草 麦嵐
三界に家なき雛を飾りけり 青木喜久
三越で吾子の名前で姪へ雛 京極杞陽 くくたち上巻
三越の買物とては雛あられ 吉屋信子
上座ほど雛のすがたの新なり 榎本其角
不具の掌の受けてこぼしぬ雛あられ 成瀬桜桃子 風色
不産女のはらひものなり後の雛 尾崎紅葉
不産女の雛かしづくぞ哀れなる 嵐雪
並べ方ゆとりをもてる雛かな 森田峠
串柿の袖を引しか雛の中 服部嵐雪
主婦らしくなりし起居の雛飾る 伊東宏晃
乏しきに堪へて燦たる雛かな 林原耒井 蜩
乙娘雛も次第になりにけり 飯田蛇笏 山廬集
二人して雛にかしづく楽しさよ 夏目漱石 明治四十一年
二日ほど雛に見られて病めりけり 能村登四郎 寒九
井戸に待つ織女に雛の夕かな 古舘曹人 砂の音
亡き吾子の飾るすべなき雛かな 高木晴子 晴居
亡き母へ遠まなざしの古雛 飯野栄儒
享保雛かかえて暗き蔵梯子 寺島勝子
享保雛膝ゆたかなり加賀泊り 米沢吾亦紅
亭々たる街道松に雛のやど 西本一都 景色
人の世の塵美しき雛調度 後藤比奈夫 花びら柚子
人の世の月日を惜しむ雛かな 吉武月二郎句集
人の取る齢と雛の取る齢 後藤比奈夫
人は寝て雛がはやしの太鼓哉 正岡子規
人形の双つづつあり雛の意か 後藤夜半 底紅
仏壇に雛段からの金花糖 中山純子 沙 羅以後
仕(つかまつ)る手に笛もなし古雛 松本たかし(1906-56)
仕立もの持て行く家や雛の宵 夏目漱石 大正三年
代々の一人娘や雛まつり 五十嵐播水 播水句集
仲秋の筥を出されしせん女の雛 長谷川かな女 牡 丹
伏して念ふ雛の如き御契 子規句集 虚子・碧梧桐選
伏せ籠の雛にかがみぬ花吹雪 阿部みどり女
似顔絵の雛ひとつなき初日記 大槻和木
佗び住めば家にもあらぬ子の雛を出す 木歩句集 富田木歩
例ふれば恥の赤色雛の段 八木三日女 紅 茸
侘び住めば家にあらぬ子の雛を出す 富田木歩
俳諧に虚の恋ばかり雛飾る 品川鈴子
倉二階人の気配や雛問屋 福田蓼汀 山火
優曇華に遇ひたる顔の雛かな 萩原麦草 麦嵐
兄従兄征きし雛を祭るなり 林原耒井 蜩
児に届く天地無用の雛の荷 畑中次郎
冠きせ參らせつゝも雛の顔 泉鏡花
冠のなか~のらぬ雛飾る 猿渡青雨
冠の紐の細さよ京雛 田畑比古
冠を正しまゐらす雛かな 野村喜舟 小石川
冠を落してばかり古雛 石井とし夫
冴えかへる夜の灯のもとはつはつに雛のしろき頬ひかるなり 杜沢光一郎
凜々と雛の瞳並ぶ久女の忌 寺井谷子
凩の身は七とせや像の雛 中村史邦
出戻りの姉哀なり雛の客 中村楽天
出替や雛とこねたるやつこ宿 浜田酒堂
函を出てより添ふ雛の御契り 杉田久女
刀をちょとあてて開眼雛作 福田蓼汀 山火
分岐また分岐操車場へ雛を運ぶ 和田悟朗
初孫のぬっと顔出す雛の前 高澤良一 素抱
初日出づ恵那のいただき今雛れ 太田嗟
初雛のみづみづしさや蝶も来よ 内藤吐天 鳴海抄
初雛や丹の椀とれば芹にほふ 及川貞 榧の實
初雛や女の一生かくはじまる 福田蓼汀 秋風挽歌
初雛や嬰は全身でよろこべる 伊東宏晃
初雛や揺れてをかしき風の家 岸田稚魚
初雛や母の椀とれば芹にほふ 及川貞 夕焼
初雷やふるふが如き雛の壇 河東碧梧桐
別るゝもまた愉しげの雛かな 佐野青陽人 天の川
加太はるか一夜づくりの雛舟 下村姿
加湿器に何を語るや古代雛 奥村京子
包丁を水にくぐらす雛料理 辻田克巳
十字紋なり天草の雛道具 品川鈴子
千代紙をちらかして子らは雛つくる焦土の春の寒き彩ひよ 筏井嘉一
卒寿の手雛を飾る夢ならず 阿部みどり女
印刷代突然騰り雛過ぎぬ 渡邊水巴 富士
厨房に貝があるくよ雛祭 秋元不死男
双親の陶榻にあり雛の日 後藤夜半 底紅
受験生嬉々と絵雛をかへり見ず 佐野青陽人 天の川
口紅の濃からぬ程に男雛かな 高橋淡路女 梶の葉
古き世の如く雛の間ほの暗く 成瀬正とし 星月夜
古代雛今に伝へて大館 高濱年尾 年尾句集
古妻の面はなやぐ雛の酒 沢木欣一 地聲
古希すぎし自分のために買ふ雛 高橋笛美
古庭に月のさしゐる雛の宵 大橋櫻坡子 雨月
古雛の伏目海鳴り夜は高し 鷲谷七菜子 黄 炎
古雛の古びは桜橘にも 大橋敦子 手 鞠
古雛の唇と笛とのあはひかな 奥坂まや
古雛の由来を歌ふごとく言ふ 堀口星眠 営巣期
古雛の目もとかそけくなりはててみちのく遅き春をみており 馬場あき子
古雛の見知り顔しておはしけり 上村占魚 球磨
古雛の身退きたる端居哉 尾崎紅葉
古雛の錦の屑や箱の底 戸沢撲天鵬
古雛の髪痩せたれど濡羽色 西村和子 かりそめならず
古雛は着ぶくれたまふ佳かりけり 水原秋櫻子
古雛やむかしの人の袖几帳 蕪村 春之部 ■ 上巳
古雛や花のみ衣の青丹美し 杉田久女
古雛をみなの道ぞいつくしき 橋本多佳子
古雛を今めかしくぞ飾りける 虚子
古雛を継ぐ娘は屈託なく笑ふ 渡辺恭子
古雛を膝にならべて眺めてゐる 室生犀星 魚眠洞發句集
古雛松の日ざしの及びけり 松林 慧
吉野雛祀るおもひに香焚きぬ 渡辺恭子
君に似よ我に似よとて雛まつり 会津八一
吾が立てば紙雛の衛士倒れけり 嶋田麻紀
吾妹子が雛もちかし梅の花 会津八一
吾娘欲しと言ふ青年が雛の客 山内山彦
和紙揉みて雛とのわかれ延しゐる 柿本妙子
唇をころげ落ちけり雛あられ 波多野爽波 鋪道の花
喪の妻の面あげて雛飾りをり 岡田 貞峰
器量よき雛皆が好き飾りけり 松藤夏山 夏山句集
国分けているのは大河雛祭り 対馬康子 純情
土に木に深き爪痕雛の雪 森ちづる
土不踏なければ雛倒れけり 阿波野青畝(1899-1992)
土偶の雛目鼻もわかず笑み給ふ 加倉井秋を
土牢の影さす雛の緋を飾る 紀音夫
土雛ありとしもなきあぎと哉 前田普羅
土雛つくる燈はひとつ雪籠る燈に 宮津昭彦
土雛のにほへど土に還るなし 栗生純夫 科野路
土雛のゑぼしの紐のゆるやかに 橋本鶏二
土雛の並びそめたる雁木町 小島千架子
土雛の拭きても拭きても暗き赤 渋谷道
土雛の蝉を聞く眼を細うして 吉田紫乃
土雛の陽気な顔の冬旱 小島千架子
土雛の雨夜は土を匂はせつ 栗生純夫 科野路
土雛は干菓子の色でありにけり 京極杞陽
土雛やそのかみよりの目鼻立 下村ひろし
土雛夕星糸のこゑ発す 大石香代子
在原雛の調度の料紙硯箱 高橋淡路女 梶の葉
地球儀の宇宙に雛と我とあり 上野泰 春潮
地震ゆれのみほとけの灯よ雛の灯よ 西本一都 景色
埒もなき家のしめしぞ雛あそび 中村史邦
壁かげの雛は常世に冷たうて 臼田亞浪 定本亜浪句集
壁によるや母の忌につぎ雛の日 寺田京子
夕刊が早く来てゐる雛の日 綾子
夕霽り寒く雛の灯さゝげけり 金尾梅の門 古志の歌
夜々遅くもどりて今宵雛あらぬ 大島民郎
夜の雛うらはらの言妻へ告ぐ 小林康治 玄霜
夜の雛母に何にもしてやれず 鈴木しげを
夜を籠めて降りて雪晴雛飾る 後藤夜半
夜半の雛肋剖きても吾死なじ 石田波郷
夜鷹の目煌々と雛かばひをり 内山亜川
夢色の雛のあられと膨れつゝ 石塚友二
大内雛湯宿の棚の暗がりに 横山房子
大原や牛飼ふ家も雛祭 巌谷小波 さゝら波
大寒と云顔もあり雛たち 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
大臣(おとど)雛頬ひんやりの忠義かな 渋谷道
大藁屋雛も闇を含みけり 橋本榮治 麦生
天上に星斗雛にかよひ路ありやなし 河野多希女 両手は湖
天地の寒さ知らざる雛かな 中島月笠 月笠句集
天平につながる雛に雪の翳 阿部みどり女
天平のをとめぞ立てる雛かな 水原秋櫻子
太々と真鯉のをりし雛の家 日原傳
太刀佩て恋する雛ぞむつかしき 夏目漱石 明治三十年
太平洋浪高し雛は照りたまふ 渡邊水巴 富士
夫婦雛口舌は知らぬ装かな 尾崎紅葉
夫婦雛袖正しくも幾世かな 中島月笠 月笠句集
夫留守のわれの朝寝を雛は知る 下村梅子
奈良雛の刀痕いまは深くさび 山口青邨
奉公日雛の冠を子が正す 渡邊水巴 富士
奥飛騨やちようだの隅の土雛 文挟夫佐恵 雨 月
女の子坐つて泣けり雛の前 加藤三七子
女の雛の髪ほぐれつつ波の間に 山口誓子
女雛ゐて男雛を泣かす蔵の中 松下千代
奴雛赤きふどしを極込みし 高濱年尾 年尾句集
好もしく低き机や雛の間 高浜虚子
妹が門雛の客に開きあり 成瀬正とし 星月夜
妻子しづかや雛飾りゐるらしき 辻田克巳
娉(つまどい)の財を得たる雛かな 加倉井秋を
娘の心吾が心雛飾らばや 汀子
娘は遠し雛を侍らす日々となる 稲畑汀子 春光
娘多き真宗寺の雛かな 会津八一
婚の荷をひろげるやうに雛飾る 猪俣千代子
婚近き子の雛祭り終りけり 伊阪美祢子
子が居ねば雛の夜もわれらきり 成瀬桜桃子 風色
子が無くてチャンネルどれも雛祭 品川鈴子
子なき手にもらひて紅き雛の菓子 鷲谷七菜子 黄 炎
子について上る二階の雛かな 野村喜舟 小石川
子に言葉教へし頃の雛や古り 殿村莵絲子 雨 月
子の恋につひに触れつつ雛あられ 渡辺 立男
安曇野の灯りの冥し押絵雛 竹内弥太郎
官女雛は仕丁雛は夕つくりけり 増田龍雨 龍雨句集
家作りの蚕飼する家の雛かな 尾崎迷堂 孤輪
家鼠懸想ばみたる雛かな 小澤實
寂庵に雛の間あり泊りけり 黒田杏子 一木一草
富士垢雛や富士百景の第一図 菅原師竹
寒屋に打つ釘ふえて雛祭 百合山羽公 寒雁
寒雛の犇くどれも一羽なり 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
寝返りし子の片頬の雛明り 今瀬剛一
寮住のさみしき娘かな雛まつる 杉田久女
小さくとも一刀彫ぞわが雛 朝倉和江
小夜更けの耳を澄ますや雛の辺へ 林原耒井 蜩
小庇にのぞく雪あり雛まつり 木津柳芽 白鷺抄
小物いろいろ殖えし雛を飾るかな 高澤良一 素抱
小物にも井伊の紋あり雛調度 廣瀬凡石
小箪笥に雛ぽちとある叔母訪ヘり 久米正雄 返り花
少年に手招かれたる雛の部屋 大口公恵
少年に結界となる雛の間 復本鬼ケ城
少年のこちらむきたる雛遊 後藤夜半
少年のごとくに雛の間をよぎる 金田咲子 全身 以後
尾の厚き鯉そのほかの五月雛 中村草田男
居残りて四五人話す雛の間 松藤夏山 夏山句集
屑繭を煮るや燕も二番雛 石塚友二
山がかりして松の薪雛の家 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山の家や雛の囃子の松籟シ 尾崎迷堂 孤輪
山の端に遊び雲あり雛飾る 三井寛子
山の雪すでにまばゆし雛祭 相馬遷子 山國
山山は紺に日暮れて雛まつり 福田甲子雄
山里は土筆摘む子が覗く雛 林原耒井 蜩
山風に口ひきむすび吉野雛 関戸靖子
川の音聴かんと立てる女雛あり 田村了咲
川下の郷へ雛増す夏の川 池上樵人
川原石積みてお城やお雛粥 宮津昭彦
川面に映るひとつの灯雛の夜 桂信子 黄 瀬
巡見使迎へし館有職雛 田中英子
巣の鷺の頸高らかに雛を見る 長谷川かな女 雨 月
常念岳をみてゐし人が雛を見る 斉藤夏風
年ごとに夫のうながす雛かざり 高野嘉子
年の頃十六七の雛かな 京極杞陽
広田越雛段の端見えてをり 飯島晴子
底紅や雛妓のころの名でよばれ 加藤三七子
庖丁を水にくぐらす雛料理 辻田克巳
庭先に牛を繋ぎて雛飾る 太田土男
庭芝をうるほしやみぬ雛の雨 高橋淡路女 梶の葉
引き止めて雛の灯ともし頃となる 水田むつみ
弟を征服しつ雛の女王なる 久米正雄 返り花
弱い夕日にガソリン匂ふ雛祭 桜井博道 海上
彩ちらし乙女さびたる雛まつり 原裕 『王城句帖』
影といふものの色めき雛飾る 村田脩
影負うてうつし世に立つ雛かな 雨宮きぬよ
待つ子等のあらねば母へ雛の菓子 大島民郎
後の雛うしろ姿ぞ見られける 泉鏡花
後の雛濤音ひびく床柱 田中英子
後の雛調度乏しく飾りけり 高橋淡路女 梶の葉
御ン雛の食の美しきあられかな 上野泰 春潮
御所車火焔の猛るお雛焼き 関森勝夫
御所雛のことに豊頬柔媚かな 西本一都 景色
御雛をしやぶりたがりて這子哉 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
心ふとや都の雛に夫婦づれ 上島鬼貫
心中の昏さに気づく雛かな 寺澤慶信
忍び泣く子に今雛は絵そらごと 殿村莵絲子 雨 月
忽忙のいつとき雛の間を通る 蓬田紀枝子
怒り上戸に童顔こめて雛作り 加藤知世子 花寂び
怖かりし山姥雛懐しや 松藤夏山 夏山句集
恋すてふ一刀彫の立雛 加藤三七子
恐ろしきことをたくらみ真夜の雛 行方克巳
恐龍の名を諳んじて雛の客 日原傳
恥らひて鼻白む雛の灯かな 安斎桜[カイ]子
悄然たる路上の馬を雛の間より 金子兜太 金子兜太句集
悉く見きはめず別る雛の瞳も(三月三日羽田発加州に向う千代田葛彦氏より「雛の瞳」の句を頂く) 殿村菟絲子 『旅雁』
惚れつぽく飽きつぽく雛あられ噛む 仙田洋子 雲は王冠
愛と云ふ一途ごころを雛は知らず 松野加寿女
懸け雛過去は淡紅色けむり来る 河野多希女 両手は湖
或夜雛娶りけり白い酒 夏目漱石(1867-1916)
戦ひの世に飾らるる雛かな 阿部みどり女
戸をくれば襖の奥の雛かな 上村占魚 鮎
戻りゆく渡舟の見ゆる雛の間 摂津よしこ
戻り来て深夜の雛に逢ひにけり 麦草 (下宿して)
手にうけてかぐはしきもの吉野雛 吉田鴻司
手にとりし雛のあられの双子かな 上野泰 佐介
手にのせて雛の髪を撫でにけり 山口波津女 良人
手のひらにそろひてのりぬ桜雛 田中冬二 行人
手ほどきをうけて作りし押絵雛 後藤夜半 底紅
手作りの雛の開眼声かけて 長崎小夜子
手渡しに子の手こぼるる雛あられ 中村汀女
手道具や蒔絵の林雛の桃 調泉 選集「板東太郎」
打たんとす打たぬ雛の鼓かな 安斎櫻[カイ]子
折り上げて一つは淋し紙雛 三橋鷹女
折雛の影鷹揚に曳きにけり 阿部みどり女 『陽炎』
振舞や下座になをる去年の雛 向井去来
掃あへぬ桃よさくらよ雛の塵 炭 太祇 太祇句選後篇


以上
by 575fudemakase | 2015-03-03 00:11 | 春の季語 | Trackback | Comments(0)
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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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