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素十の一句 を読みて

素十の一句 を読みて

日野傳著 ふらんす堂 2013・10・15発行

あとがきに依れば、従来注目されなかった作品を発掘する意気込みでのぞんだが、結果の何如は覚束ないとある。
本選は日野氏指摘のその中から小生の琴線に響くものを掬った。
自分の句作が覚束無いと思った時や句仲間の句作りがかったるいと思った時などに取り出して一瞥するのに適していよう。先づはメモる。(旧知の句は割愛した)

一月
お降りといへる言葉も美しく
七種のはじめの芹ぞめでたけれ
夕霰枝にあたりて白さかな
漂へる手袋のある運河かな
繭玉や夕はやけれど灯しけり
雁木中大きな犬の濡れて行く
山吹の花さくまでの炉と云ひし
黄楊の雪大きく割れてゐたるかな
蒲団干すなもしなもしと言ひながら
(「なもし」は文末に用いる終助詞。念を押したり、軽い詠嘆を添える)

二月
大いなる春といふもの来るべし
泡のびて一動きしぬ薄氷
惜別の一盞ここに白魚汁
火の山の太き煙に春の星
足もとに消え沈みたる畔火かな
高菜かき人間もたべ鶏もたべ
百千鳥堂塔いまだ整はず
一堂のあれば一塔 百千鳥
お遍路に嶮しき道のありがたし
ふるさとの芹飯ならばいただかん

三月
たんぽぽのサラダの話野の話
薪割をしつつ初蝶心まち
日おもてに咲いてよごれぬ沈丁花
田打鍬一人洗ふや一人待ち
田打花咲けばみちのく人田打つ
悉くこれ一日の蜷のみち
耕牛の一歩一歩の見守られ

四月
妻連れて兵曹長や花ぐもり
ある寺の障子ほそめに花御堂
ゆれ合へる甘茶の杓をとりにけり
鞦韆や灯台守の垣のうち
半日の用擲つて花下に在り
一日の終るぺんぺん草の花
柳絮とぶ道の真中に立ちて見る
苗代に落ち一塊の畔の土

五月
オホツクへ出漁花の港より
ひるがへる葉に沈みたる牡丹かな
もちの葉の落ちたる土にうらがへる
水馬流るる黄楊の花を追ふ
芍薬や土這へる蜂風の蜂
 牡丹のこと何年も前のこと
三人の斜めの顔や祭笛
いつまでも一つ郭公早苗取
早苗束濃緑植田浅緑
早苗饗の御あかしあぐる素っ裸
小波の立ちてうれしき植田かな

六月
悉く繭となりたる静けさよ
花菖蒲ゆれかはし風去りにけり
花びらを流るゝ雨や花菖蒲
牛蠅といふなりいつも二三とぶ
母の膝娘の膝や粽結ふ
(対偶仕立て)
ともし灯に来るは大方沼の虫
大梅雨の茫茫と沼らしきもの

七月
蓮の花とらんと向けし舳かな
くも糸をわたり返して葉のさきに
竃また夕立風に燃えいでし
雲の峰立ちていよいよ土佐は夏
夏山の大噴火口隠すなし
蝶歩く百日草の花の上
一つづつ団扇を添へて革蒲団
身辺にものの少なき大暑かな
喪の家の大勢立ちて夕立見る
塵とりに凌霄の花と塵すこし

八月
みちのくのまつくらがりの夜涼かな
蛇籠より蛇籠へ渡り灸花
打水や萩より落ちし子かまきり
 桃青し赤きところの少しあり
棚経の上りゐる間も威し銃
稲妻にインカの民は灯さず
割れて二つ割れて二つに水の月
かたまりて通る霧あり霧の中
かなぶんぶんの頭に泥や萩の花

九月
秋風やくわらんと鳴りし幡の鈴
船員とふく口笛や秋の晴
秋雷や旧会津領山ばかり
なきそめし今宵の虫は鉦叩
馬追の緑逆立つ萩の上
鰯雲はなやぐ月のあたりかな
白浪やうちひろがりて月明り
月うすうす人の縁のうすうすと
日日の是好日や秋茄子
石一つ崩して水を落しけり
コスモスの倒れ倒れし花の数

十月
秋の日の笛吹川を一見す
触れてこぼれひとりこぼれて零余子かな
百姓の秋の戻りはまつ暗な
初猟や一水蘆に澄みわたり
稲刈の姉のしぶきのはげしさよ
雁の声のしばらく空に満ち
裏山の日なき紅葉に下りけり
午までが夜までとなり稲架下ろし
まつすぐな道に出でけり秋の暮

十一月
蘆刈の天を仰いで梳る
行秋の朝な朝なの日田の霧
時雨るると四五歩戻りて仰ぎけり
山中湖凧のあがれる小春かな
落葉道みづうみ見えて下りかな
顔上げてからかはれをり蓮根掘
冬の蜂おさへ掃きたる箒かな
箒さき吹き返さるる落葉かな
枯枝のひつかかりゐる枯木かな
悲しみのあり枯山に来りけり

十二月
誰といふことなく当る大炉あり
いく度の大火の草津盛衰記
女の子枯木に顔をあてて泣く
自動車のとまりしところ冬の山
柏手の二つひびきし冬日かな
冬波の百千万の皆起伏
凍鶴のやをら片足下しけり
頰被りしつかと覗く噴火口
雪卸す人に通りし煙かな
一ひらの枯葉に雪のくぼみをり
餅搗くや框にとびし餅のきれ


過日 麥丘人の遺句集(「小椿居以後」)を読んでいたら
行く春や俳句は久保田万太郎
なる句に出会って妙に感じ入ったが、この久保田万太郎のところ 高野素十と遣ってもまんざら悪くもない。一茶と遣っても…。
変な話だが、小生は腹の調子が悪いとき、大正製薬のパンシロンを嚥むとスッキリする。それと同じで、万太郎も素十も一茶も同効果を齎す御仁である。万太郎様様、素十様様、一茶様様である。

以上

by 575fudemakase | 2016-04-12 04:56 | 句評など


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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