霞 の俳句
霞 の俳句
霞
例句を挙げる。
あなたなる安土の麦の青霞 高澤良一 燕音
ある日より消え花霞夢となる 宮津昭彦
いざや霞諸国一衣の売僧坊 三千風
いたき歯をうつかり噛みし霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
いぶり炭蓬莱の霞かもしけり 高田蝶衣
うたたねの母は霞を見しならむ 齋藤愼爾
うみ山を霞いれたる坐敷かな 松岡青蘿
おもしろの鬼の世にゐて霞かな 斎藤梅子
かいつぶり潜りしあとの霞かな 鷲谷七菜子
かからでもありにしものを春霞 良岑よしかた女
かさかさな眼にくれてゆく霞 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
かすむやら目が霞やらことしから 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
くさむらへ舟擦りあげし霞かな 中田剛 珠樹
こたつ出てまだ目の覚ぬ霞哉 高井几董
こちからも越の山路や八重霞 立花北枝
こつねんと塔うかびたる霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
さして行く紀三井は見えず鐘霞 伊藤松宇
さながらに羽化登仙の山霞 沢木欣一 赤富士
しばらくの白を打ち敷き春霞 藤村克明
すこしくは霞を吸つて生きてをり 能村登四郎 天上華
たてゝ見ん霞やうつる大鏡 野水
たなびける六十年の霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
たましいもいい声で鳴く遠霞 岸本マチ子
とろろ汁霞千里を啜らむか 山上樹実雄
どの森に撞きすて鐘や夕霞 沢田はぎ女
どやきけり聞て里しる八重霞 井原西鶴
にさんにち霞をたべるつもりなり 品田まさを
はなを出て松へしみこむ霞かな 服部嵐雪
ぱらついて雨は霞となつてしまふ 細見綾子 黄 炎
ひと霞叱る源氏か艶二郎 加藤郁乎 佳気颪
ふるさとは大霞して城と畑 福田蓼汀 山火
ほとほとと白酒をつぐ霞かな 田川飛旅子
まだ名なく睡る児遠き花霞 金箱戈止夫
まぼろしの兵馬か山の霞飛ぶ 高井北杜
むつくりと岨の枯木も霞けり 杉風 俳諧撰集「有磯海」
もやしの手で霞を食べてくたびれて 八木三日女
やや乾く蟹の甲羅や夕霞 永井龍男
よくかゝる笠子魚あはれむ霞かな 白水郎句集 大場白水郎
よごれたる海の面や夕霞 五十嵐播水 播水句集
わが柩まもる人なく行く野辺のさびしさ見えつ霞たなびく 山川登美子
わらしなに霞を流せ御代の春 中勘助
われは恋ひきみは晩霞を告げわたる 渡辺白泉(1913-69)
をちこちを芒さわがしき霞かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
ケーブルの降りても霞抜け切れず 磯直道
スモッグを毒霞とも呼ばんとす 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
モノレール浮遊の多摩野昼霞 中村将晴
一つある霞が浦の春灯 岸本尚毅 舜
一人づつ渡舟を下りる霞かな 高浜虚子
一旅信ありていよいよ霞濃し 岡本眸
一本の杖の行手に夕霞 桂信子 黄 瀬
一炊の夢のくさぐさ雪霞 深谷雄大
一羽毛たらむ霞へ身を入るる 斎藤玄 雁道
一銭の釣鐘撞くや昼霞 子規句集 虚子・碧梧桐選
万葉の机島とて春霞 浅野白山
三三と下手に書いたる霞哉 尾崎紅葉
三文が霞見にけり遠眼鏡 小林一茶 (1763-1827)
三日はや達治を偲ぶ煙霞癖 石原八束 高野谿
三条をゆがみもて行霞かな 高井几董
三瀧茶屋三瀧山荘霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
三鬼忌の霞きてゐる軒あはひ 下田稔
上げ舟をおろし漕ぎ去りし霞かな 尾崎迷堂 孤輪
上元の月はまだしき八重霞 軽部烏帽子 [しどみ]の花
上市は灯をともしけり夕霞 子規句集 虚子・碧梧桐選
上蔟の己に糸吐く霞かな 菅原師竹
丸ビルの灯火失せて夕霞 稲畑廣太郎
九天の霞をもれてつるの聲 幸田露伴
九重の霞たへ也このあした 尾崎紅葉
五加木摘み霞くづれの雨となる 北村仁子
五味十香喰ふ霞や歯に舌に 松根東洋城
今朝なりけり鴬雑煮霞礼 一鉄 選集「板東太郎」
仏法のそれは大きな霞かな 野村喜舟 小石川
仏相にとつぜん霞かかりけり 柿本多映
仙人の棲むてふ谿も霞中 京極杞陽
伊良湖まで伊勢の神代の霞展ぶ 大屋達治 龍宮
会心の一打吸ひ込む春霞 後藤郁子
体中に安心なかり夕霞 斎藤玄 雁道
何處やらに鶴の聲聞く霞かな 井上井月
信濃はも大霞して山と湖 福田蓼汀 山火
修学院村にやすらふ春霞 中田剛 珠樹以後
俳壇の六十余州横霞 高澤良一 さざなみやっこ
僧とゐてしづかに霞吸ふばかり 殿村菟絲子 『晩緑』
元日を遥に伊勢の霞かな 会津八一
入海の藍に長閑な霞かな 鈴木余生
八郡の空の霞や御忌の鐘 召波
其の寺の鐘とおもはず夕霞 蝶夢 選集古今句集
冷や飯がぞろぞろと来る春霞 坪内稔典
出雲より西する旅の大霞 大峯あきら 鳥道
前山の吹きどよみゐる霞かな 芝不器男
前山の花粉霞と申すべし 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
勤行の椿まで来る霞かな 山本洋子
千扨の巌に人立つ霞かな 尾崎紅葉
厚ぼたき大福餅や野の霞 久米正雄 返り花
厳嶋弥山にのぼる霞かな 尾崎迷堂 孤輪
去年の眉今朝は嬉しき霞かな 越前-簪 俳諧撰集玉藻集
古き代の漁樵をおもふ霞かな 飯田蛇笏 霊芝
古事記読む八方に濃き春霞 有馬朗人
古里は筑紫の国よ春霞 三島 汲水
名山の余りに遠き霞かな 尾崎紅葉
吸ひなづむ霞か雲か春の夢 三橋敏雄
吾が車大内山へ霞かな 松根東洋城
和子様の風船飛んで霞かな 幸田露伴 拾遺
哨戒機霞ごもりにきらきら航く 篠原梵 雨
問答に負けて立去る霞かな 野村喜舟
国に添て霞をはこぶうしほ哉 加舎白雄
国原や五月は青き霞立つ 佐野良太 樫
垣の上に船を現じて大霞 富安風生
堰きれば野川音ある霞かな 下村槐太 天涯
壺坂を花にこす日の霞かな 松瀬青々
夕支度霞を来る手を洗ひ 櫛原希伊子
夕眺めいつとゝのへる霞かな 久保田万太郎 流寓抄
夕霞あれやこれやと綻びて 橋間石
夕霞して剥落の嶽こだま 新井海豹子
夕霞サラダを街に買ひに出て 依光正樹
夕霞乗鞍岳に銀の鞍 伊藤敬子
夕霞孤村に帰る女工かな 鳴子
夕霞枝にあたりて白さかな 高野 素十
夕霞片瀬江の島灯り合ひ たかし
夕霞畑いちまいのなほ緑 福田蓼汀 山火
夜がとざす人の晩年寒霞 戸村羅生
大いなる港に作る霞かな 河東碧梧桐
大なる港に作る霞かな 碧梧桐
大兵の野山に満つる霞かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
大木の枝下ろし居る霞かな 喜谷六花
大松に吹かれよどめる霞かな 吉武月二郎句集
大比叡やしの字を引いて一霞 松尾芭蕉
大船の岩におそるゝ霞かな 炭 太祇 太祇句選
大鉄塔大昼霞渉り 上野泰 佐介
大霞したる海より濤こだま 橋本鶏二
大霞家ある谷は懐しき 福田蓼汀 山火
大霞露生むさまの浮葉かな 中島月笠 月笠句集
奥津城や顧みすれば夕霞 吉武月二郎句集
妙齢の喪主まずくぐる春霞 仁平勝 東京物語
妹山に見る背の山の花霞 能村登四郎 菊塵
妻恋ふも旅恋ふも薄霞かな 小林康治 玄霜
嫁入の歩で吹るゝ霞かな 向井去来
子が父をうしなひやがてうす霞 下村槐太 天涯
子の未来親の未来や遠霞 山田 はるい
富士にたつ霞程よき裾野かな 井上井月(1822-86)
寒霞からまつ林に来てたまる 三宅七采
寒霞波上の星にはなれけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
小昼時霞が中の鶏の声 五周
山やまに霞わきたつ峡の春 中勘助
山を出て山を見返る霞かな 古白遺稿 藤野古白
山国の霞つめたし朝さくら 相馬遷子 山國
山山を霞がつなぎ母の国 長谷川双魚 『ひとつとや』
山幾重霞を紡ぐ鳥もゐむ 櫛原希伊子
山棲のこのまま老いなば霞いろ 神林信一
山裾に葬具寄せある霞かな 大峯あきら 鳥道
山門を下りて京去る霞かな 金尾梅の門 古志の歌
山霞杣のいこひによる小鳥 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山鳥の翔ちしひかりの谷霞 木村蕪城 寒泉
川舟の荷もなく戻る夕霞 いのうえかつこ
川霞昼は濁りつ都鳥 山谷 春潮
巨き犬牽ける少女も夕霞 瀧春一 菜園
巻貝を砂のこぼるる霞かな 大岳水一路
帷子をほすてふ山の霞かな 尾崎紅葉
庭松に裏山霞下りてあり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
引きそめし霞を庵のながめ哉 小澤碧童 碧童句集
徐霞客の暴に洗ひし硯かな 尾崎紅葉
御齋のしやもじの大きひる霞 廣江八重櫻
忽然と蝶があらはれ霞濃し 加畑吉男
我恋の松嶋も嘸はつ霞 井原西鶴
手のひらに悟空の走る霞かな 龍岡晋
手放しに霞喰らうて天馬たり 伊藤 格
托鉢と板子一つや海霞 飴山實 『次の花』
折端に霞はんなり京言葉 加藤耕子
抱き取ればすぐ寝ぬし児や昼霞 久米正雄 返り花
指一本づゝ洗ひをり夕霞 久米正雄 返り花
指南車を胡地に引去ル霞哉 與謝蕪村
掌の上を悟空の走る霞かな 龍岡晋
搾女の乳も張りなむ野の霞 林原耒井 蜩
撞きもせぬ鐘を見に行く霞かな 井月の句集 井上井月
数珠さげて訪ふふるさとの山霞 原 和子
日三竿雨になり行く霞かな 召波
日本のぽつちり見ゆる霞哉 正岡子規
星きへて霞かゝれる檜原哉 加舎白雄
春のあはれ雉子うつ音も霞けり 高井几董
春の嶺々みるみる霞立ちにけり 松村蒼石 雁
春の鵙くせみ那須ケ嶺雪霞 小松崎爽青
春立つは衣の棚の霞かな 貞徳
春近き雪よ霞よ淀の橋 妻木 松瀬青々
春霞 あはれさくらのそのよりか靉靆と野をよぎる馬車みつ 下村光男
春霞たなびきにけり速達とどく 阿部完市
春霞三輪の瑞山神の山 石井桐陰
春霞四五枚小松苗畑 和知喜八 同齢
春霞國のへだてはなかりけり 幸田露伴 拾遺
春霞奥壁仰ぎ師を弔ふ 岡田日郎
春霞富士はうたたね決め込めり 高澤良一 随笑
春霞畳の上の潦 高木千住
春霞老母と天とややへだつ 永田耕衣 奪鈔
春霞観音も腰かけられよ 矢島渚男 天衣
春霞赤き祠が木の根方 中田剛 珠樹以後
春霞踊る宗徒のトラホーム 田川飛旅子 花文字
春霞軍神といふ檜かな 攝津幸彦
春霞食べつくし舌残りけり 後藤貴子
昼深く野霞屋根に寄せゐけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
昼見ゆる星うらうらと霞かな 芥川龍之介
晒し居る布の長さの霞かな 迷堂
晝霞親死んで渡舟筋替へし 中塚一碧樓
有馬筆水と睦めば遠霞 塘 柊風
朝鮮の霞つめたき喉ぼとけ 中川宋淵 遍界録 古雲抄
朧々直ぐに霞て明けにけり 杉風 正 月 月別句集「韻塞」
木のもとに居ればひそかな夜の霞 西村公鳳
来て丘に松蝉をきく霞かな 太田鴻村 穂国
東京のまッたゞなかの霞かな 久保田万太郎 流寓抄
柴舟も筏も下る霞かな 井月の句集 井上井月
桐火桶霞うぐひすのこゝろあり 松岡青蘿
梅雨霞海へ移りて暮れにけり 佐野良太 樫
梨棚のふつふつ霞呼べりけり 太田鴻村 穂国
椎の葉のつやゝかに暮るゝ霞かな 中島月笠 月笠句集
榛名山大霞して真晝かな 村上鬼城
樹液滴り八方に霞立つ 直人
橋桁や日はさしながら夕霞 立花北枝
橿原は霞つめたきところかな 緒方敬
歎抄霞ひえびえ顔にせり 稲垣法城子
武蔵野の幅にはせばき霞哉 服部嵐雪
死んでから背丈がのびる霞かな 栗林千津
死期といふ水と氷の霞かな 齋藤玄 『無畔』
母亡きをあなやそら似の夕霞 林翔 和紙
比叡の嶺のなだれの肩の霞かな 岸風三楼 往来
水すでにあぶらのごとき霞かな 久保田万太郎 流寓抄
水のなき川ばかりなる昼霞 臼田亜浪 旅人
汽車の音こころしづかな霞かな 太田鴻村 穂国
沖霞焼けて南風吹き出でぬ 乙字俳句集 大須賀乙字
洛外や遊ばん方タの霞濃く 尾崎迷堂 孤輪
浴衣着てふつと霞ヶ浦のいろ 浅沼澄暎
海きら~帆は紫に霞けり 森鴎外
海上に利尻全容霞切れ 高澤良一 素抱
海山の霞冥加や生れ国 千那 正 月 月別句集「韻塞」
海霞筑紫も見えずなりにける 相馬遷子 山国
海鼠腸を啜る霞を食ふ心地 宮本美津江
消えがてに漁火ちら~と夕霞 鈴木花蓑句集
渡り来ししまなみ十橋昼霞 高澤良一 寒暑
湖離る鴨のこころも昼霞 高澤良一 鳩信
準急のしばらくとまる霞かな 原田 暹
漕ぎ負けし舸夫の大唄霞かな 中塚一碧樓
潮ぬるむ淤能碁呂嶋や夕霞 会津八一
潮ひいて纜あらはれぬ昼霞 五十嵐播水 播水句集
潮騒は南洋よりす八重霞 渡邊水巴 富士
濤を刃に替へて終日春霞 小澤嘉幸
瀬戸内海所を変へて昼霞 高澤良一 寒暑
火の山はうす霞せり花大根 篠原鳳作
火の島の霞おし分け煙立つ 沢木欣一
煉瓦焼き驪山の霞濃くしたり 田中英子
煙霞追へば煙霞の疲れ薄暑かな 松根東洋城
爪を切るほうけ話や晝霞 島村はじめ
牛啼くや左千夫が歌は霞より 白岩 三郎
牧霞西うちはれて猟期畢ふ 飯田蛇笏 霊芝
獅子の児の親を仰げば霞かな 幸田露伴 拾遺
瓜人先生羽化このかたの大霞 能村登四郎 寒九
生きることに不機嫌となり霞見る 田川飛旅子 『使徒の眼』
田に出でて霞を少し食うべけり 手塚美佐 昔の香 以後
男に少しかなしみ動く晩霞かな 清水径子
町なかの銀杏は乳も霞けり 芥川龍之介 澄江堂句集
痛くなるまで働いて春霞 森田智子
白波を一度かかげぬ海霞 芝不器男(1903-30)
白波を繰り出してゐる霞かな きちせ・あや
白浪を一度かゝげぬ海霞 芝不器男
百姓は地にすがりつく霞かな 飯田蛇笏 春蘭
皿山の白崩崖けぶる霞空 石原八束 空の渚
真似をして霞をかくす嵐かな 野澤凡兆
石上も冷たからずよ春霞 高浜虚子
碓氷川瀬音もらさず夕霞 相馬遷子 雪嶺
礫よく水をすべるよ夕霞 芝不器男
福島は桃桃桃の花霞 高澤良一 宿好
稿了えてなお傷つきて野の霞 中島斌雄
窯元に老刀自ひとり春霞 上野さち子
竹伐つて大藪を出る霞かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
竹帚腰のあたりを霞かな 糸大八
米山をつつむ霞はたわらかな 椎本才麿
糸霞たちこめ繭をむすびそめ 赤松[ケイ]子
紅霞たつ彼方山背に桃やある 高田蝶衣
紫に変る霞や海の上 比叡 野村泊月
紫雲出山(しうでさん)瀬戸に霞をもたらせり 高澤良一 寒暑
老杉の鴟尾より高き夕霞 舘岡沙緻
胎内になおみ仏や春霞 和田悟朗 法隆寺伝承
膝つきにかしこまり居る霞かな 中村史邦
自愛てふ怠けごころの霞かな 岡本眸
舟は帆をまいて艪押せり晝霞 高田蝶衣
舟曳きの砂に鼻擦る霞かな 菅原師竹句集
花葱や咽せんばかりに昼霞 富安風生
若布を刈るや霞汲むかと来て見れば 巣兆
菊昔ながら畿内の霞かな(桃山御陵) 石井露月
菜の花の黄の滲みわたる昼霞 富安風生
蒲團いぢりかくて果つ女や晝霞 中塚一碧樓
蓬莱や霞をながすしだの島 京-重栄 元禄百人一句
薄霞雉子は一谿越えにけり 幸田露伴 拾遺
薪棚を崩すこだまや昼霞 楠目橙黄子 橙圃
蘇芳の花見るたび霞濃くなりぬ 内藤吐天 鳴海抄
虚仮の世の霞を来たるかもめどり 佐怒賀正美
蝶折々扇いで出たる霞かな 千代尼
行さきや眼のあたりなる野の霞 松岡青蘿
見えすぎて鷺の飛ばずや大霞 大木あまり 山の夢
観潮の帆にみさごとぶ霞かな 飯田蛇笏 霊芝
谷杉の紺折り畳む霞かな 原石鼎
貫之の舟落ちてゆく霞かな 斎藤梅子
足魂と森魂遊ぶ遠霞 和田悟朗
躓くや老いも裾濃の夕霞 橋石 和栲
身に落花ふところ奥の煙霞癖 文挟夫佐恵 雨 月
転身を念ふ恍惚と霞濃し 内藤吐天 鳴海抄
近江にも立つや湖水の春霞 上島鬼貫
迹供(あとども)は霞引きけり加賀の守 小林一茶 (1763-1827)
逢わぬ日を地つづき霞つづきかな 池田澄子
過ちに似て世にありし大霞 齋藤愼爾
遠富士の現れ消えぬ夕霞 五十嵐播水 播水句集
遠浅に小貝ひらふや夕霞 加舎白雄
遠霞ココアは舌に浸み渡る 横光利一
遠霞知恩院の鐘霞むらし 白雄
都をどり霞降る夜の篝燃え 渡邊水巴 富士
野あそびや霞いろせる白湯賜ふ 櫛原希伊子
野の水の澄む日もあらぬ霞かな 岡本松浜 白菊
野の霞昼をかひなのもつれけり 林原耒井 蜩
野の霞濃くなれば牛乳溢れけり 林原耒井 蜩
釣り落す魚も千曲の霞かな 矢島渚男
鐘の音の島にもどりぬ春霞 古館曹人
長身にして春服の霞霧園主 三宅清三郎
門跡の屋根拝まるゝ霞かな 野村喜舟 小石川
開け放つ座敷の奥は能登霞 筑紫磐井 婆伽梵
闘牛やああ男くさい春霞 岸本マチ子
雑氷に琵琶きく軒の霞かな 芭蕉 俳諧撰集「有磯海」
雛の頭を鷹の巣巌の霞かな(青海鴫) 松根東洋城
雪の上桃花の色の霞かな 松瀬青々
雪の山翳うしなふは霞立つ 相馬遷子 山国
雪嶺と色同じくて霞立つ 相馬遷子 山河
雪嶺の並ぶかぎりの青霞 岡田日郎
雪霞野の萱骨のとげとげし 臼田亞浪 定本亜浪句集
雲か霞か知らねども囀れり 長谷川双魚 風形
霞うすしとほき日向の木むきむき 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霞さへまだらに立つや寅の年 貞徳
霞つゝ生駒見ねども夕部哉 井原西鶴
霞より下り来しバスに拾はるる 山田弘子
霞より岬伸びきて鯛生簀 下田稔
霞より川現れて甲斐を出づ 神蔵 器
霞より引つゞく也諸大名 一茶
霞より潮の満ちくるはるかかな 山田桂三
霞より猫の持て来し松ぼくり 村越化石
霞より生まれし孫か握り手で 田川飛旅子
霞ム夜や藍屋の匂ひ野べにある 松瀬青々
霞中火をたく音のふつふつと 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霞冷えて湖の夕浪*えりを打つ 渡邊水巴 富士
霞消て富士をはだかに雪肥たり 榎本其角
霞濃しわが船すゝまざる如く 下村非文
霞突き鳥居が山をせりあがる 中田剛 珠樹以後
霞立つふるさとに入る遠忌かな 高澤良一 ねずみのこまくら
霞立つ大商人の普請かな 増田龍雨 龍雨句集
霞立つ駅は全てが終はる場所 櫂未知子 貴族
霞老い川の下つてゆけるかな 松澤昭 面白
霞野や明け立つ春の虎の糞 中村史邦
霞野や遊離たのしむ牛いくつ 村越化石 山國抄
青柳の朝寝をまくる霞かな 千代尼
青葉雨霞城霞までありにけり 林原耒井 蜩
風呂敷や遠の嶋立つ八重霞 西望 選集「板東太郎」
風早の檜原となりぬ夕霞 芝不器男
風返し峠風なき日の霞 稲畑汀子
飯米売り霞棚引く農に落つ 藤後左右
餌撒いてより雀来ず春霞 阿部みどり女 月下美人
駒鳥啼くや嶽は日和の雪霞 小松崎爽青
高麗舟のよらで過ゆく霞かな 蕪村 春之部 ■ 野望
高麗船のよらで過行霞かな 蕪村
鬚剃ルヤ上野ノ鐘ノ霞ム日二 正岡子規
魚の糶終りて沖の霞濃し 酒井みゆき
鯉のぼり港都の霞ややふかく 石原舟月 山鵲
鳥どもの恋さま~に霞かな 石井露月
鳴交す鴉の嘴の霞かな 野村喜舟 小石川
鳶飛んで天にいたれる霞かな 幸田露伴 拾遺
鴬や洞然として昼霞 高浜虚子(1874-1959)
鶏籠山霞棚曳く日の葬 桑田青虎
鶯や広野あたりの夕霞 古白遺稿 藤野古白
麦をふんで霞をわかす山わかな 中勘助
黄金なす野づらの霞嶺呂へひき 太田鴻村 穂国
あねいもと別の山見てかすみけり 長谷川双魚 風形
かすみけり近江女の面より 加藤三七子
かすみだつ林*けいの日をたゞ行けり 飯田蛇笏 霊芝
かすみだつ漁魚の真青き帆かげかな 飯田蛇笏 霊芝
かすみつゝ月上りゐし雪後かな 石塚友二 光塵
かすみての夜の春寒し星の照 幸田露伴 江東集
かすみゐる小松に来しにかげ曳ける 原田種茅 径
かすみ来ぬ芽の疾きおそき楢櫟 臼田亞浪 定本亜浪句集
さらし布かすみの足に聳へけり 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
しらぬまにまはりし舟や夕かすみ 赤羽
ふり仰ぐ月かすみたり十夜寺 岡本松浜 白菊
ゆく春の干潟かすみに酔へりけり 臼田亜浪 旅人
ゑんどうの花蒲原の海かすみ 大井雅人
ゴルフ打つかすみの奥をうたがはず 鈴木油山
友二忌の過ぎし鎌倉かすみけり 青木重行
反古を焼くけぶりは庭へ出てかすみ 太田鴻村 穂国
大和路や春立つ山の雲かすみ 飯田蛇笏 霊芝
大国の山皆低きかすみ哉 正岡子規
山かすみして奥瀑のひゞきけり 飯田蛇笏
山かすみつつ母擁く手術前 原裕
山頂に塔かすみをり一の午 原 裕
我寺の鐘と思はず夕かすみ 蝶夢
放馬鈴に野末の春かすみ 臥央
朝かすみ立つや夜舟の枕上 几董
梨の花かすみにねむるおぼろ夜に夢よりあはき月を見るかな 金子薫園
沖かすみ潮騒もなき宿の朝 高濱年尾
泣いて居る夢の亡母や春かすみ 倉田弘子
泣な子供赤いかすみがなくなるぞ 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
海の奥かすみのひかるところ隠岐 篠原梵
淀の水かすみ摂河の野を分つ 高濱年尾 年尾句集
淡路消すかすみは青し鳥帰る 赤松[ケイ]子
籠舁に山の名を問ふかすみ哉 炭 太祇 太祇句選後篇
美作は法然の国かすみ立つ 今川凍光
老子霞み牛霞み流沙かすみけり 幸田露伴 蝸牛庵句集
聖芭蕉かすみておはす庵の春 飯田蛇笏 霊芝
茫々と山原かすみ目の前の桃の一樹は空を押しあぐ 大野とくよ
菜の花やかすみの裾に少づゝ 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
谷川の幅広々と夕かすみ 髭風
迹供はかすみ引けり加賀の守 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
いつ逢ん身はしらぬひの遠がすみ 一茶 ■寛政四年壬子(三十歳)
うちあげし磯の白魚や昼がすみ 五十嵐播水 播水句集
こころなみ風邪の外出の昼がすみ 太田鴻村 穂国
しら浪に夜はもどるか遠がすみ 一茶
むら鴎餌處移りす晝がすみ 高田蝶衣
九十九谷一歩ふはりと薄がすみ 渡辺恭子
京見えて臑をもむ也春がすみ 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
今さらに別ともなし春がすみ 一茶 ■寛政十一年己未(三十七歳)
使者船に水進上や夕がすみ 水田正秀
便りせむ安房は浅葱の朝がすみ 大屋達治 龍宮
兼六園一望欠けし春がすみ 青木重行
古郷や朝〔茶〕なる子も春がすみ 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
夕がすみおもへば隔ッむかし哉 高井几董
夕がすみ今日も松葉掻くふたりなり 野上豊一郎 能百句
夕がすみ燈台ともること早し 高濱年尾 年尾句集
大棟木あがり吉野の八重がすみ 鷲谷七菜子
尾根寄りに五六戸ひかる昼がすみ 荒井正隆
山ぐにの鴎まぶしや夕がすみ 『定本石橋秀野句文集』
彼桃が流れ来よ~春がすみ 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
放れ馬終に野末の春がすみ 臥央 五車反古
春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ 前川佐美雄
春がすみ利尻は溶けてしまひけり 高澤良一 素抱
春がすみ團十郎といふ名かな 久保田万太郎 流寓抄以後
春がすみ詩歌密室には在らず 飯田龍太
春がすみ鍬とらぬ身のもつたいな 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
春がすみ鳥より高き山に立ち 太田寛郎
春なれや名もなき山の朝がすみ 芭蕉
昼がすみ鱠くふべき腹ごころ 中村史邦
朝がすみ夕がすみして伊賀の山 橋本鶏二 年輪
桃の種子出土の丘の昼がすみ 田中英子
横乗の馬のつゞくや夕がすみ 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
沖がすみ人のほとんど知り合わず 池田澄子
煤すみし野べも垣穂も夕がすみ 金尾梅の門 古志の歌
牧がすみ西うちはれて猟期畢ふ 飯田蛇笏 山廬集
癌病めばもの見ゆる筈夕がすみ 相馬遷子(1908-76)
磯山にきて蓮如忌の遠がすみ 鷲谷七菜子 花寂び 以後
笠でするさらばさらばや薄がすみ 一茶
茶を呑めと鳴子引也朝がすみ 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
通し鴨ちと逃げてみる湖がすみ 林原耒井 蜩
遠う来る鐘の歩みや春がすみ 上島鬼貫
遠里の麦や菜種や朝がすみ 鬼貫
遺書書けば遠ざかる死や朝がすみ 相馬遷子 山河
野寒布と宗谷の間の昼がすみ 高澤良一 素抱 四月-六月
門前や何万石の遠がすみ 一茶 ■寛政七年乙卯(三十三歳)
高根まで青麦の世や夕がすみ 松岡青蘿
鰯焼片山畠や薄がすみ 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
すっかり春我等がビルも霞に入る 高澤良一 ぱらりとせ
雪舟の水と霞の勝景図 高澤良一 寒暑
利尻島霞もやもや引き出せり 高澤良一 素抱
突き進む船首礼文は霞みづめ 高澤良一 素抱
海上に霞める利尻その内着く 高澤良一 素抱
LNG
昼霞天然ガス積む船の影 高澤良一 石鏡
ある日より消え花霞夢となる 宮津昭彦
いざや霞諸国一衣の売僧坊 三千風
いたき歯をうつかり噛みし霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
いぶり炭蓬莱の霞かもしけり 高田蝶衣
うたたねの母は霞を見しならむ 齋藤愼爾
うみ山を霞いれたる坐敷かな 松岡青蘿
おもしろの鬼の世にゐて霞かな 斎藤梅子
かいつぶり潜りしあとの霞かな 鷲谷七菜子
かからでもありにしものを春霞 良岑よしかた女
かさかさな眼にくれてゆく霞 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
かすむやら目が霞やらことしから 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
くさむらへ舟擦りあげし霞かな 中田剛 珠樹
こたつ出てまだ目の覚ぬ霞哉 高井几董
こちからも越の山路や八重霞 立花北枝
こつねんと塔うかびたる霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
さして行く紀三井は見えず鐘霞 伊藤松宇
さながらに羽化登仙の山霞 沢木欣一 赤富士
しばらくの白を打ち敷き春霞 藤村克明
すこしくは霞を吸つて生きてをり 能村登四郎 天上華
たてゝ見ん霞やうつる大鏡 野水
たなびける六十年の霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
たましいもいい声で鳴く遠霞 岸本マチ子
とろろ汁霞千里を啜らむか 山上樹実雄
どの森に撞きすて鐘や夕霞 沢田はぎ女
どやきけり聞て里しる八重霞 井原西鶴
にさんにち霞をたべるつもりなり 品田まさを
はなを出て松へしみこむ霞かな 服部嵐雪
ぱらついて雨は霞となつてしまふ 細見綾子 黄 炎
ひと霞叱る源氏か艶二郎 加藤郁乎 佳気颪
ふるさとは大霞して城と畑 福田蓼汀 山火
ほとほとと白酒をつぐ霞かな 田川飛旅子
まだ名なく睡る児遠き花霞 金箱戈止夫
まぼろしの兵馬か山の霞飛ぶ 高井北杜
むつくりと岨の枯木も霞けり 杉風 俳諧撰集「有磯海」
もやしの手で霞を食べてくたびれて 八木三日女
やや乾く蟹の甲羅や夕霞 永井龍男
よくかゝる笠子魚あはれむ霞かな 白水郎句集 大場白水郎
よごれたる海の面や夕霞 五十嵐播水 播水句集
わが柩まもる人なく行く野辺のさびしさ見えつ霞たなびく 山川登美子
わらしなに霞を流せ御代の春 中勘助
われは恋ひきみは晩霞を告げわたる 渡辺白泉(1913-69)
をちこちを芒さわがしき霞かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
ケーブルの降りても霞抜け切れず 磯直道
スモッグを毒霞とも呼ばんとす 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
モノレール浮遊の多摩野昼霞 中村将晴
一つある霞が浦の春灯 岸本尚毅 舜
一人づつ渡舟を下りる霞かな 高浜虚子
一旅信ありていよいよ霞濃し 岡本眸
一本の杖の行手に夕霞 桂信子 黄 瀬
一炊の夢のくさぐさ雪霞 深谷雄大
一羽毛たらむ霞へ身を入るる 斎藤玄 雁道
一銭の釣鐘撞くや昼霞 子規句集 虚子・碧梧桐選
万葉の机島とて春霞 浅野白山
三三と下手に書いたる霞哉 尾崎紅葉
三文が霞見にけり遠眼鏡 小林一茶 (1763-1827)
三日はや達治を偲ぶ煙霞癖 石原八束 高野谿
三条をゆがみもて行霞かな 高井几董
三瀧茶屋三瀧山荘霞かな 久保田万太郎 流寓抄以後
三鬼忌の霞きてゐる軒あはひ 下田稔
上げ舟をおろし漕ぎ去りし霞かな 尾崎迷堂 孤輪
上元の月はまだしき八重霞 軽部烏帽子 [しどみ]の花
上市は灯をともしけり夕霞 子規句集 虚子・碧梧桐選
上蔟の己に糸吐く霞かな 菅原師竹
丸ビルの灯火失せて夕霞 稲畑廣太郎
九天の霞をもれてつるの聲 幸田露伴
九重の霞たへ也このあした 尾崎紅葉
五加木摘み霞くづれの雨となる 北村仁子
五味十香喰ふ霞や歯に舌に 松根東洋城
今朝なりけり鴬雑煮霞礼 一鉄 選集「板東太郎」
仏法のそれは大きな霞かな 野村喜舟 小石川
仏相にとつぜん霞かかりけり 柿本多映
仙人の棲むてふ谿も霞中 京極杞陽
伊良湖まで伊勢の神代の霞展ぶ 大屋達治 龍宮
会心の一打吸ひ込む春霞 後藤郁子
体中に安心なかり夕霞 斎藤玄 雁道
何處やらに鶴の聲聞く霞かな 井上井月
信濃はも大霞して山と湖 福田蓼汀 山火
修学院村にやすらふ春霞 中田剛 珠樹以後
俳壇の六十余州横霞 高澤良一 さざなみやっこ
僧とゐてしづかに霞吸ふばかり 殿村菟絲子 『晩緑』
元日を遥に伊勢の霞かな 会津八一
入海の藍に長閑な霞かな 鈴木余生
八郡の空の霞や御忌の鐘 召波
其の寺の鐘とおもはず夕霞 蝶夢 選集古今句集
冷や飯がぞろぞろと来る春霞 坪内稔典
出雲より西する旅の大霞 大峯あきら 鳥道
前山の吹きどよみゐる霞かな 芝不器男
前山の花粉霞と申すべし 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
勤行の椿まで来る霞かな 山本洋子
千扨の巌に人立つ霞かな 尾崎紅葉
厚ぼたき大福餅や野の霞 久米正雄 返り花
厳嶋弥山にのぼる霞かな 尾崎迷堂 孤輪
去年の眉今朝は嬉しき霞かな 越前-簪 俳諧撰集玉藻集
古き代の漁樵をおもふ霞かな 飯田蛇笏 霊芝
古事記読む八方に濃き春霞 有馬朗人
古里は筑紫の国よ春霞 三島 汲水
名山の余りに遠き霞かな 尾崎紅葉
吸ひなづむ霞か雲か春の夢 三橋敏雄
吾が車大内山へ霞かな 松根東洋城
和子様の風船飛んで霞かな 幸田露伴 拾遺
哨戒機霞ごもりにきらきら航く 篠原梵 雨
問答に負けて立去る霞かな 野村喜舟
国に添て霞をはこぶうしほ哉 加舎白雄
国原や五月は青き霞立つ 佐野良太 樫
垣の上に船を現じて大霞 富安風生
堰きれば野川音ある霞かな 下村槐太 天涯
壺坂を花にこす日の霞かな 松瀬青々
夕支度霞を来る手を洗ひ 櫛原希伊子
夕眺めいつとゝのへる霞かな 久保田万太郎 流寓抄
夕霞あれやこれやと綻びて 橋間石
夕霞して剥落の嶽こだま 新井海豹子
夕霞サラダを街に買ひに出て 依光正樹
夕霞乗鞍岳に銀の鞍 伊藤敬子
夕霞孤村に帰る女工かな 鳴子
夕霞枝にあたりて白さかな 高野 素十
夕霞片瀬江の島灯り合ひ たかし
夕霞畑いちまいのなほ緑 福田蓼汀 山火
夜がとざす人の晩年寒霞 戸村羅生
大いなる港に作る霞かな 河東碧梧桐
大なる港に作る霞かな 碧梧桐
大兵の野山に満つる霞かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
大木の枝下ろし居る霞かな 喜谷六花
大松に吹かれよどめる霞かな 吉武月二郎句集
大比叡やしの字を引いて一霞 松尾芭蕉
大船の岩におそるゝ霞かな 炭 太祇 太祇句選
大鉄塔大昼霞渉り 上野泰 佐介
大霞したる海より濤こだま 橋本鶏二
大霞家ある谷は懐しき 福田蓼汀 山火
大霞露生むさまの浮葉かな 中島月笠 月笠句集
奥津城や顧みすれば夕霞 吉武月二郎句集
妙齢の喪主まずくぐる春霞 仁平勝 東京物語
妹山に見る背の山の花霞 能村登四郎 菊塵
妻恋ふも旅恋ふも薄霞かな 小林康治 玄霜
嫁入の歩で吹るゝ霞かな 向井去来
子が父をうしなひやがてうす霞 下村槐太 天涯
子の未来親の未来や遠霞 山田 はるい
富士にたつ霞程よき裾野かな 井上井月(1822-86)
寒霞からまつ林に来てたまる 三宅七采
寒霞波上の星にはなれけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
小昼時霞が中の鶏の声 五周
山やまに霞わきたつ峡の春 中勘助
山を出て山を見返る霞かな 古白遺稿 藤野古白
山国の霞つめたし朝さくら 相馬遷子 山國
山山を霞がつなぎ母の国 長谷川双魚 『ひとつとや』
山幾重霞を紡ぐ鳥もゐむ 櫛原希伊子
山棲のこのまま老いなば霞いろ 神林信一
山裾に葬具寄せある霞かな 大峯あきら 鳥道
山門を下りて京去る霞かな 金尾梅の門 古志の歌
山霞杣のいこひによる小鳥 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山鳥の翔ちしひかりの谷霞 木村蕪城 寒泉
川舟の荷もなく戻る夕霞 いのうえかつこ
川霞昼は濁りつ都鳥 山谷 春潮
巨き犬牽ける少女も夕霞 瀧春一 菜園
巻貝を砂のこぼるる霞かな 大岳水一路
帷子をほすてふ山の霞かな 尾崎紅葉
庭松に裏山霞下りてあり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
引きそめし霞を庵のながめ哉 小澤碧童 碧童句集
徐霞客の暴に洗ひし硯かな 尾崎紅葉
御齋のしやもじの大きひる霞 廣江八重櫻
忽然と蝶があらはれ霞濃し 加畑吉男
我恋の松嶋も嘸はつ霞 井原西鶴
手のひらに悟空の走る霞かな 龍岡晋
手放しに霞喰らうて天馬たり 伊藤 格
托鉢と板子一つや海霞 飴山實 『次の花』
折端に霞はんなり京言葉 加藤耕子
抱き取ればすぐ寝ぬし児や昼霞 久米正雄 返り花
指一本づゝ洗ひをり夕霞 久米正雄 返り花
指南車を胡地に引去ル霞哉 與謝蕪村
掌の上を悟空の走る霞かな 龍岡晋
搾女の乳も張りなむ野の霞 林原耒井 蜩
撞きもせぬ鐘を見に行く霞かな 井月の句集 井上井月
数珠さげて訪ふふるさとの山霞 原 和子
日三竿雨になり行く霞かな 召波
日本のぽつちり見ゆる霞哉 正岡子規
星きへて霞かゝれる檜原哉 加舎白雄
春のあはれ雉子うつ音も霞けり 高井几董
春の嶺々みるみる霞立ちにけり 松村蒼石 雁
春の鵙くせみ那須ケ嶺雪霞 小松崎爽青
春立つは衣の棚の霞かな 貞徳
春近き雪よ霞よ淀の橋 妻木 松瀬青々
春霞 あはれさくらのそのよりか靉靆と野をよぎる馬車みつ 下村光男
春霞たなびきにけり速達とどく 阿部完市
春霞三輪の瑞山神の山 石井桐陰
春霞四五枚小松苗畑 和知喜八 同齢
春霞國のへだてはなかりけり 幸田露伴 拾遺
春霞奥壁仰ぎ師を弔ふ 岡田日郎
春霞富士はうたたね決め込めり 高澤良一 随笑
春霞畳の上の潦 高木千住
春霞老母と天とややへだつ 永田耕衣 奪鈔
春霞観音も腰かけられよ 矢島渚男 天衣
春霞赤き祠が木の根方 中田剛 珠樹以後
春霞踊る宗徒のトラホーム 田川飛旅子 花文字
春霞軍神といふ檜かな 攝津幸彦
春霞食べつくし舌残りけり 後藤貴子
昼深く野霞屋根に寄せゐけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
昼見ゆる星うらうらと霞かな 芥川龍之介
晒し居る布の長さの霞かな 迷堂
晝霞親死んで渡舟筋替へし 中塚一碧樓
有馬筆水と睦めば遠霞 塘 柊風
朝鮮の霞つめたき喉ぼとけ 中川宋淵 遍界録 古雲抄
朧々直ぐに霞て明けにけり 杉風 正 月 月別句集「韻塞」
木のもとに居ればひそかな夜の霞 西村公鳳
来て丘に松蝉をきく霞かな 太田鴻村 穂国
東京のまッたゞなかの霞かな 久保田万太郎 流寓抄
柴舟も筏も下る霞かな 井月の句集 井上井月
桐火桶霞うぐひすのこゝろあり 松岡青蘿
梅雨霞海へ移りて暮れにけり 佐野良太 樫
梨棚のふつふつ霞呼べりけり 太田鴻村 穂国
椎の葉のつやゝかに暮るゝ霞かな 中島月笠 月笠句集
榛名山大霞して真晝かな 村上鬼城
樹液滴り八方に霞立つ 直人
橋桁や日はさしながら夕霞 立花北枝
橿原は霞つめたきところかな 緒方敬
歎抄霞ひえびえ顔にせり 稲垣法城子
武蔵野の幅にはせばき霞哉 服部嵐雪
死んでから背丈がのびる霞かな 栗林千津
死期といふ水と氷の霞かな 齋藤玄 『無畔』
母亡きをあなやそら似の夕霞 林翔 和紙
比叡の嶺のなだれの肩の霞かな 岸風三楼 往来
水すでにあぶらのごとき霞かな 久保田万太郎 流寓抄
水のなき川ばかりなる昼霞 臼田亜浪 旅人
汽車の音こころしづかな霞かな 太田鴻村 穂国
沖霞焼けて南風吹き出でぬ 乙字俳句集 大須賀乙字
洛外や遊ばん方タの霞濃く 尾崎迷堂 孤輪
浴衣着てふつと霞ヶ浦のいろ 浅沼澄暎
海きら~帆は紫に霞けり 森鴎外
海上に利尻全容霞切れ 高澤良一 素抱
海山の霞冥加や生れ国 千那 正 月 月別句集「韻塞」
海霞筑紫も見えずなりにける 相馬遷子 山国
海鼠腸を啜る霞を食ふ心地 宮本美津江
消えがてに漁火ちら~と夕霞 鈴木花蓑句集
渡り来ししまなみ十橋昼霞 高澤良一 寒暑
湖離る鴨のこころも昼霞 高澤良一 鳩信
準急のしばらくとまる霞かな 原田 暹
漕ぎ負けし舸夫の大唄霞かな 中塚一碧樓
潮ぬるむ淤能碁呂嶋や夕霞 会津八一
潮ひいて纜あらはれぬ昼霞 五十嵐播水 播水句集
潮騒は南洋よりす八重霞 渡邊水巴 富士
濤を刃に替へて終日春霞 小澤嘉幸
瀬戸内海所を変へて昼霞 高澤良一 寒暑
火の山はうす霞せり花大根 篠原鳳作
火の島の霞おし分け煙立つ 沢木欣一
煉瓦焼き驪山の霞濃くしたり 田中英子
煙霞追へば煙霞の疲れ薄暑かな 松根東洋城
爪を切るほうけ話や晝霞 島村はじめ
牛啼くや左千夫が歌は霞より 白岩 三郎
牧霞西うちはれて猟期畢ふ 飯田蛇笏 霊芝
獅子の児の親を仰げば霞かな 幸田露伴 拾遺
瓜人先生羽化このかたの大霞 能村登四郎 寒九
生きることに不機嫌となり霞見る 田川飛旅子 『使徒の眼』
田に出でて霞を少し食うべけり 手塚美佐 昔の香 以後
男に少しかなしみ動く晩霞かな 清水径子
町なかの銀杏は乳も霞けり 芥川龍之介 澄江堂句集
痛くなるまで働いて春霞 森田智子
白波を一度かかげぬ海霞 芝不器男(1903-30)
白波を繰り出してゐる霞かな きちせ・あや
白浪を一度かゝげぬ海霞 芝不器男
百姓は地にすがりつく霞かな 飯田蛇笏 春蘭
皿山の白崩崖けぶる霞空 石原八束 空の渚
真似をして霞をかくす嵐かな 野澤凡兆
石上も冷たからずよ春霞 高浜虚子
碓氷川瀬音もらさず夕霞 相馬遷子 雪嶺
礫よく水をすべるよ夕霞 芝不器男
福島は桃桃桃の花霞 高澤良一 宿好
稿了えてなお傷つきて野の霞 中島斌雄
窯元に老刀自ひとり春霞 上野さち子
竹伐つて大藪を出る霞かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
竹帚腰のあたりを霞かな 糸大八
米山をつつむ霞はたわらかな 椎本才麿
糸霞たちこめ繭をむすびそめ 赤松[ケイ]子
紅霞たつ彼方山背に桃やある 高田蝶衣
紫に変る霞や海の上 比叡 野村泊月
紫雲出山(しうでさん)瀬戸に霞をもたらせり 高澤良一 寒暑
老杉の鴟尾より高き夕霞 舘岡沙緻
胎内になおみ仏や春霞 和田悟朗 法隆寺伝承
膝つきにかしこまり居る霞かな 中村史邦
自愛てふ怠けごころの霞かな 岡本眸
舟は帆をまいて艪押せり晝霞 高田蝶衣
舟曳きの砂に鼻擦る霞かな 菅原師竹句集
花葱や咽せんばかりに昼霞 富安風生
若布を刈るや霞汲むかと来て見れば 巣兆
菊昔ながら畿内の霞かな(桃山御陵) 石井露月
菜の花の黄の滲みわたる昼霞 富安風生
蒲團いぢりかくて果つ女や晝霞 中塚一碧樓
蓬莱や霞をながすしだの島 京-重栄 元禄百人一句
薄霞雉子は一谿越えにけり 幸田露伴 拾遺
薪棚を崩すこだまや昼霞 楠目橙黄子 橙圃
蘇芳の花見るたび霞濃くなりぬ 内藤吐天 鳴海抄
虚仮の世の霞を来たるかもめどり 佐怒賀正美
蝶折々扇いで出たる霞かな 千代尼
行さきや眼のあたりなる野の霞 松岡青蘿
見えすぎて鷺の飛ばずや大霞 大木あまり 山の夢
観潮の帆にみさごとぶ霞かな 飯田蛇笏 霊芝
谷杉の紺折り畳む霞かな 原石鼎
貫之の舟落ちてゆく霞かな 斎藤梅子
足魂と森魂遊ぶ遠霞 和田悟朗
躓くや老いも裾濃の夕霞 橋石 和栲
身に落花ふところ奥の煙霞癖 文挟夫佐恵 雨 月
転身を念ふ恍惚と霞濃し 内藤吐天 鳴海抄
近江にも立つや湖水の春霞 上島鬼貫
迹供(あとども)は霞引きけり加賀の守 小林一茶 (1763-1827)
逢わぬ日を地つづき霞つづきかな 池田澄子
過ちに似て世にありし大霞 齋藤愼爾
遠富士の現れ消えぬ夕霞 五十嵐播水 播水句集
遠浅に小貝ひらふや夕霞 加舎白雄
遠霞ココアは舌に浸み渡る 横光利一
遠霞知恩院の鐘霞むらし 白雄
都をどり霞降る夜の篝燃え 渡邊水巴 富士
野あそびや霞いろせる白湯賜ふ 櫛原希伊子
野の水の澄む日もあらぬ霞かな 岡本松浜 白菊
野の霞昼をかひなのもつれけり 林原耒井 蜩
野の霞濃くなれば牛乳溢れけり 林原耒井 蜩
釣り落す魚も千曲の霞かな 矢島渚男
鐘の音の島にもどりぬ春霞 古館曹人
長身にして春服の霞霧園主 三宅清三郎
門跡の屋根拝まるゝ霞かな 野村喜舟 小石川
開け放つ座敷の奥は能登霞 筑紫磐井 婆伽梵
闘牛やああ男くさい春霞 岸本マチ子
雑氷に琵琶きく軒の霞かな 芭蕉 俳諧撰集「有磯海」
雛の頭を鷹の巣巌の霞かな(青海鴫) 松根東洋城
雪の上桃花の色の霞かな 松瀬青々
雪の山翳うしなふは霞立つ 相馬遷子 山国
雪嶺と色同じくて霞立つ 相馬遷子 山河
雪嶺の並ぶかぎりの青霞 岡田日郎
雪霞野の萱骨のとげとげし 臼田亞浪 定本亜浪句集
雲か霞か知らねども囀れり 長谷川双魚 風形
霞うすしとほき日向の木むきむき 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霞さへまだらに立つや寅の年 貞徳
霞つゝ生駒見ねども夕部哉 井原西鶴
霞より下り来しバスに拾はるる 山田弘子
霞より岬伸びきて鯛生簀 下田稔
霞より川現れて甲斐を出づ 神蔵 器
霞より引つゞく也諸大名 一茶
霞より潮の満ちくるはるかかな 山田桂三
霞より猫の持て来し松ぼくり 村越化石
霞より生まれし孫か握り手で 田川飛旅子
霞ム夜や藍屋の匂ひ野べにある 松瀬青々
霞中火をたく音のふつふつと 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霞冷えて湖の夕浪*えりを打つ 渡邊水巴 富士
霞消て富士をはだかに雪肥たり 榎本其角
霞濃しわが船すゝまざる如く 下村非文
霞突き鳥居が山をせりあがる 中田剛 珠樹以後
霞立つふるさとに入る遠忌かな 高澤良一 ねずみのこまくら
霞立つ大商人の普請かな 増田龍雨 龍雨句集
霞立つ駅は全てが終はる場所 櫂未知子 貴族
霞老い川の下つてゆけるかな 松澤昭 面白
霞野や明け立つ春の虎の糞 中村史邦
霞野や遊離たのしむ牛いくつ 村越化石 山國抄
青柳の朝寝をまくる霞かな 千代尼
青葉雨霞城霞までありにけり 林原耒井 蜩
風呂敷や遠の嶋立つ八重霞 西望 選集「板東太郎」
風早の檜原となりぬ夕霞 芝不器男
風返し峠風なき日の霞 稲畑汀子
飯米売り霞棚引く農に落つ 藤後左右
餌撒いてより雀来ず春霞 阿部みどり女 月下美人
駒鳥啼くや嶽は日和の雪霞 小松崎爽青
高麗舟のよらで過ゆく霞かな 蕪村 春之部 ■ 野望
高麗船のよらで過行霞かな 蕪村
鬚剃ルヤ上野ノ鐘ノ霞ム日二 正岡子規
魚の糶終りて沖の霞濃し 酒井みゆき
鯉のぼり港都の霞ややふかく 石原舟月 山鵲
鳥どもの恋さま~に霞かな 石井露月
鳴交す鴉の嘴の霞かな 野村喜舟 小石川
鳶飛んで天にいたれる霞かな 幸田露伴 拾遺
鴬や洞然として昼霞 高浜虚子(1874-1959)
鶏籠山霞棚曳く日の葬 桑田青虎
鶯や広野あたりの夕霞 古白遺稿 藤野古白
麦をふんで霞をわかす山わかな 中勘助
黄金なす野づらの霞嶺呂へひき 太田鴻村 穂国
あねいもと別の山見てかすみけり 長谷川双魚 風形
かすみけり近江女の面より 加藤三七子
かすみだつ林*けいの日をたゞ行けり 飯田蛇笏 霊芝
かすみだつ漁魚の真青き帆かげかな 飯田蛇笏 霊芝
かすみつゝ月上りゐし雪後かな 石塚友二 光塵
かすみての夜の春寒し星の照 幸田露伴 江東集
かすみゐる小松に来しにかげ曳ける 原田種茅 径
かすみ来ぬ芽の疾きおそき楢櫟 臼田亞浪 定本亜浪句集
さらし布かすみの足に聳へけり 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
しらぬまにまはりし舟や夕かすみ 赤羽
ふり仰ぐ月かすみたり十夜寺 岡本松浜 白菊
ゆく春の干潟かすみに酔へりけり 臼田亜浪 旅人
ゑんどうの花蒲原の海かすみ 大井雅人
ゴルフ打つかすみの奥をうたがはず 鈴木油山
友二忌の過ぎし鎌倉かすみけり 青木重行
反古を焼くけぶりは庭へ出てかすみ 太田鴻村 穂国
大和路や春立つ山の雲かすみ 飯田蛇笏 霊芝
大国の山皆低きかすみ哉 正岡子規
山かすみして奥瀑のひゞきけり 飯田蛇笏
山かすみつつ母擁く手術前 原裕
山頂に塔かすみをり一の午 原 裕
我寺の鐘と思はず夕かすみ 蝶夢
放馬鈴に野末の春かすみ 臥央
朝かすみ立つや夜舟の枕上 几董
梨の花かすみにねむるおぼろ夜に夢よりあはき月を見るかな 金子薫園
沖かすみ潮騒もなき宿の朝 高濱年尾
泣いて居る夢の亡母や春かすみ 倉田弘子
泣な子供赤いかすみがなくなるぞ 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
海の奥かすみのひかるところ隠岐 篠原梵
淀の水かすみ摂河の野を分つ 高濱年尾 年尾句集
淡路消すかすみは青し鳥帰る 赤松[ケイ]子
籠舁に山の名を問ふかすみ哉 炭 太祇 太祇句選後篇
美作は法然の国かすみ立つ 今川凍光
老子霞み牛霞み流沙かすみけり 幸田露伴 蝸牛庵句集
聖芭蕉かすみておはす庵の春 飯田蛇笏 霊芝
茫々と山原かすみ目の前の桃の一樹は空を押しあぐ 大野とくよ
菜の花やかすみの裾に少づゝ 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
谷川の幅広々と夕かすみ 髭風
迹供はかすみ引けり加賀の守 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
いつ逢ん身はしらぬひの遠がすみ 一茶 ■寛政四年壬子(三十歳)
うちあげし磯の白魚や昼がすみ 五十嵐播水 播水句集
こころなみ風邪の外出の昼がすみ 太田鴻村 穂国
しら浪に夜はもどるか遠がすみ 一茶
むら鴎餌處移りす晝がすみ 高田蝶衣
九十九谷一歩ふはりと薄がすみ 渡辺恭子
京見えて臑をもむ也春がすみ 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
今さらに別ともなし春がすみ 一茶 ■寛政十一年己未(三十七歳)
使者船に水進上や夕がすみ 水田正秀
便りせむ安房は浅葱の朝がすみ 大屋達治 龍宮
兼六園一望欠けし春がすみ 青木重行
古郷や朝〔茶〕なる子も春がすみ 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
夕がすみおもへば隔ッむかし哉 高井几董
夕がすみ今日も松葉掻くふたりなり 野上豊一郎 能百句
夕がすみ燈台ともること早し 高濱年尾 年尾句集
大棟木あがり吉野の八重がすみ 鷲谷七菜子
尾根寄りに五六戸ひかる昼がすみ 荒井正隆
山ぐにの鴎まぶしや夕がすみ 『定本石橋秀野句文集』
彼桃が流れ来よ~春がすみ 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
放れ馬終に野末の春がすみ 臥央 五車反古
春がすみいよよ濃くなる真昼間のなにも見えねば大和と思へ 前川佐美雄
春がすみ利尻は溶けてしまひけり 高澤良一 素抱
春がすみ團十郎といふ名かな 久保田万太郎 流寓抄以後
春がすみ詩歌密室には在らず 飯田龍太
春がすみ鍬とらぬ身のもつたいな 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
春がすみ鳥より高き山に立ち 太田寛郎
春なれや名もなき山の朝がすみ 芭蕉
昼がすみ鱠くふべき腹ごころ 中村史邦
朝がすみ夕がすみして伊賀の山 橋本鶏二 年輪
桃の種子出土の丘の昼がすみ 田中英子
横乗の馬のつゞくや夕がすみ 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
沖がすみ人のほとんど知り合わず 池田澄子
煤すみし野べも垣穂も夕がすみ 金尾梅の門 古志の歌
牧がすみ西うちはれて猟期畢ふ 飯田蛇笏 山廬集
癌病めばもの見ゆる筈夕がすみ 相馬遷子(1908-76)
磯山にきて蓮如忌の遠がすみ 鷲谷七菜子 花寂び 以後
笠でするさらばさらばや薄がすみ 一茶
茶を呑めと鳴子引也朝がすみ 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
通し鴨ちと逃げてみる湖がすみ 林原耒井 蜩
遠う来る鐘の歩みや春がすみ 上島鬼貫
遠里の麦や菜種や朝がすみ 鬼貫
遺書書けば遠ざかる死や朝がすみ 相馬遷子 山河
野寒布と宗谷の間の昼がすみ 高澤良一 素抱 四月-六月
門前や何万石の遠がすみ 一茶 ■寛政七年乙卯(三十三歳)
高根まで青麦の世や夕がすみ 松岡青蘿
鰯焼片山畠や薄がすみ 一茶 ■文化二年乙丑(四十三歳)
すっかり春我等がビルも霞に入る 高澤良一 ぱらりとせ
雪舟の水と霞の勝景図 高澤良一 寒暑
利尻島霞もやもや引き出せり 高澤良一 素抱
突き進む船首礼文は霞みづめ 高澤良一 素抱
海上に霞める利尻その内着く 高澤良一 素抱
LNG
昼霞天然ガス積む船の影 高澤良一 石鏡
霞 補遺
*えり挿しの漕ぎ出してすぐ霞みけり 鷲谷七菜子 游影
あけぼのや霞がくれに花ざくら 日野草城
アネモネのみだれて霞む沖津浪 水原秋櫻子 蓬壺
あめつちに霞濃き日の松の芯 鷲谷七菜子 天鼓
あめりかの波打ちよする霞かな 正岡子規 霞
アメリカもろしやも一つや春霞 正岡子規 霞
いたく霞みて呼び返すには遅し 上田五千石 琥珀
いへづとの苺をさげて日霞む 大野林火 海門 昭和九年
うち霞み山頭の火ぞあきらかや 中村汀女
うなばらは白子霞や白子干 百合山羽公 樂土以後
えりの戸を鷺が守れる霞かな 阿波野青畝
おのずから結目とけし夕霞 橋閒石
かいつぶり潜りしあとの霞かな 鷲谷七菜子 一盞
かく霞むと思はれざりし日暮かな 右城暮石 句集外 昭和十一年
かへり見れば行きあひし人の霞みけり 正岡子規 霞
かへり見れば西と南にかすみけり 正岡子規 霞
きなくさき蛾を野霞へ追ひ落す 三橋敏雄
きぬぎぬの絵巻のなかも棚霞 伊藤白潮
きらめきの野路に霞みてゆけるもの 稲畑汀子
さなぎだに曖昧な世を靄霞 能村登四郎
すこしくは霞を吸つて生きてをり 能村登四郎
すべ知らず山に向へば霞み消ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
せせらぎの霞はうごかず十三夜 村山故郷
そこいらに都の見えぬ霞哉 正岡子規 霞
つくばねの昨日も今日もかすみけり 正岡子規 霞
どこまでも私有地霞む山重なり 右城暮石 句集外 昭和三十七年
どこ見ても霞だらけにけさの春 正岡子規 今朝の春
なほ枯るゝ木立もありて霞みけり 日野草城
はだら霜見えてあかつき霞むなど 原石鼎 花影以後
はつきりと霞の中に鳶黒し 正岡子規 霞
ぱらついて雨は霞となつてしまふ(山の辺の道) 細見綾子
ひた霞む島に硫酸液造る 山口誓子
ひとひらに墓原霞み刃物澄む 斎藤玄 狩眼
ビルの北のみを昇りて湾霞む 鷹羽狩行
ふじのねの矢先に霞む弓始 正岡子規 弓始
ぶりかへる峡に墓守る霞かな 飴山實
ふりかへる峡に墓守る霞かな 飴山實 次の花
ブルーデル霞たなびく山を領す 山口青邨
ふるさとの山有難しけふ霞む 山口青邨
ふるさとは大霞して城と畑 福田蓼汀 山火
プ口ペラで霞を攪拌して飛べり 山口誓子
プ口ペラの回転霞掻きまぜて 山口誓子
まき落ちて浪とどろける霞かな 原石鼎 花影
みちのくに光堂あり大霞 山口青邨
みちのくの女が立てり霞む山 山口青邨
みほとけと霞眺めて国東に 藤田湘子
みるほどにあちこち灯る夕霞 日野草城
むさしのはどこまで行くも霞哉 正岡子規 霞
むさしのや霞の中に水の音 正岡子規 霞
ものの芽にこぼれあつまる春霞 山口青邨
モラエスと小春とがゐて阿波霞む 山口誓子
ゆふべ霞む丘低し禿げてみな低し 橋閒石 朱明
ロダン作るバルザツクはまとふ青霞 山口青邨
わが胸の邪鬼なになにぞ湖霞 飴山實 句集外
わが窓は観世音寺の鐘霞む 山口青邨
われは恋ひきみは晩霞を告げわたる 渡邊白泉
阿夫利嶺に雨気すこしある霞かな 能村登四郎
愛宕の灯霞がくれにちら~と 日野草城
杏さいて遠くは犀川の千曲に霞み入るあたり 荻原井泉水
伊豆の鼻安房の岬もかすみけり 正岡子規 霞
一つづゝ霞みそめけり大八洲 正岡子規 霞
一ひきや都もひなもうす霞 正岡子規 霞
一より二 二よりも三の 橋霞む 伊丹三樹彦
一羽毛たらむ霞へ身を入るる 斎藤玄 雁道
一銭の釣鐘撞くや昼霞 正岡子規 霞
一村は柳ばかりや朝かすみ 正岡子規 霞
一村晩霞ひたすら揺れる紅葉山 飯田龍太
一本の縷となり霞む信濃川 山口誓子
一旅信ありていよいよ霞濃し 岡本眸
隠岐四島連なりて裾霞みけり 松崎鉄之介
右の手に指すや御室の塔霞む 正岡子規 霞
宇治下る柴つみ船や夕霞 正岡子規 霞
碓氷川瀬音もらさず夕霞 相馬遷子 雪嶺
瓜人先生羽化このかたの大霞 能村登四郎
雲をふみ霞を吸ふや揚雲雀 正岡子規 揚雲雀
永平寺の松のつづきも霞曳く 大野林火 方円集 昭和五十一年
駅場出れば東海道の霞哉 正岡子規 霞
堰きれば野川音ある霞かな 下村槐太 光背
燕飛び水勢霞む熊野川 水原秋櫻子 帰心
猿引の木曽路を下る霞かな 正岡子規 霞
遠霞近江の山もまじりけり 正岡子規 霞
於福てふ驛過ぐるより川霞む 石塚友二 曠日
奥の院霞の中に見ゆるかな 正岡子規 霞
奥の海の綱手かなしも八重霞 佐藤鬼房
奥花背村とて霞む四五戸寄り 能村登四郎
奥津城は木を樵る山や薄霞 飴山實
岡に上り南を見れば霞かな 正岡子規 霞
岡の茶屋に駄菓子くふ日や昼霞 正岡子規 霞
沖中の白石かすむ日和哉 正岡子規 霞
屋島まで大霞して壇の浦 鷹羽狩行
何もせぬ一日霞み頭の中も 斎藤玄 狩眼
加賀染や霞み残りの鴉啼き 橋閒石
家に入ればひいやりとする霞む日に 細見綾子
家々のきれめきれめや薄霞 正岡子規 霞
花はかり引きのこしたる霞哉 正岡子規 霞
霞から真下に下す雲雀哉 正岡子規 雲雀
霞こき処やさかみいづむさし 正岡子規 霞
霞とも山とも見えず朧月 正岡子規 朧月
霞にも雲にもあらずよしの山 正岡子規 霞
霞の度怪しきホテル霞むほど 山口誓子
霞ひき盆地青ます山と川 大野林火 潺潺集 昭和四十三年
霞みきて木の芽あからむおもひかな 原石鼎 花影以後
霞みけり山一番の大檜 正岡子規 霞
霞みけり山消えうせて塔一つ 正岡子規 霞
霞みけり泉を抱く森ふたつ 大野林火 飛花集 昭和四十七年
霞みけり大島小島真帆片帆 正岡子規 霞
霞みたる雪嶺霞の側のもの 山口誓子
霞みつつ一縷の山路谷へ消ゆ 福田蓼汀 山火
霞みつつ肱一張の非仏かな 永田耕衣
霞みつゝ辛夷の花けなほも白く 山口青邨
霞みながら春雨ふるや湖の上 正岡子規 春の雨
霞みゐて四国山脈起伏せる 山口誓子
霞み霞みて指呼の島とは思はれず 清崎敏郎
霞み行く奥街道の車哉 正岡子規 霞
霞み来てなほうるはしき何々ぞ 原石鼎 花影
霞むには青すぎて船動き出す 岡本眸
霞むより眼鏡の奥の波の綺羅 原裕 葦牙
霞むらん一の鳥居の小さゝよ 正岡子規 霞
霞むるや見ゆる限りは同し国 正岡子規 霞
霞む一微塵に故郷哭き現われ 永田耕衣
霞む海汽車に眠りて母やすし 松崎鉄之介
霞む街しんしんとして枇杷芽立つ 右城暮石 声と声
霞む街抜け来る音の紛れなし 右城暮石 上下
霞む山はせをの連として見をり 藤田湘子 てんてん
霞む山引つかへさざる鴉の翼(はね) 橋本多佳子
霞む山見てゐて乾く硯かな 鷲谷七菜子 游影
霞む山根本中堂中にして 正岡子規 霞
霞む首都道路の上に道路架け 鷹羽狩行
霞む中月日もつとも霞みけり 林翔
霞む中雪嶺の白あでやかに 相馬遷子 雪嶺
霞む中墓かたまつて光るなり 岡本眸
霞む度が違ふ近江の山々は 山口誓子
霞む島へ一歩まぎるるごとくなり 原裕 葦牙
霞む島畑マリヤ足摺る子を曳きて 原裕 葦牙
霞む東京おほかたは撤軌され 鷹羽狩行
霞む日のかなしき絵巻ひろげゆく 水原秋櫻子 緑雲
霞む日の海に釣して舟の酔 正岡子規 霞
霞む日の湖見渡すや橋半 正岡子規 霞
霞む日の佐渡みえ山の雪も見ゆ 能村登四郎
霞む日の城の筒鳥聞きにけり 岡井省二 鹿野
霞む日の秩父に入りて猪の宿 石田勝彦 雙杵
霞む日の天守閣上の人となんぬ 松本たかし
霞む日の夫婦一男一女連れ 廣瀬直人 帰路
霞む日や一本杉をかきりにて 正岡子規 霞
霞む日や屋根許りなる本願寺 正岡子規 霞
霞む日や見ゆる限りは同じ国 正岡子規 霞
霞む日や湖西漁師のほそき田も 古沢太穂 捲かるる鴎
霞む日や真乳山から見渡せば 正岡子規 霞
霞む日や人の面に波しぶき 岡本眸
霞む日や村の伽藍の屋根許り 正岡子規 霞
霞む日や筑波小さき窓の中 正岡子規 霞
霞む日や町音城を包みたる 松本たかし
霞む日や鳶舞ひ落つる西の京 正岡子規 霞
霞む日や八島は遠き海の上 正岡子規 霞
霞む日を戻りてものを言はざりし 細見綾子
霞む墓 けむるオリーブ 花眼か もう 伊丹三樹彦
霞む艀も若しや襁褓はためかせ 小林康治 玄霜
霞より上にうきけり春のくも 正岡子規 春の雲
霞より上に浮きけり春の海 正岡子規 春の海
霞吹く風の出でけり水の上 右城暮石 句集外 大正十五年
霞絶えて村見えて又霞あり 正岡子規 霞
霞沢の新緑まざと室の名に 山口青邨
霞脱け天の真洞を飛びつづく 山口誓子
霞濃し一言主の神領は 津田清子
霞濃し海のありかを指ししより 中村汀女
霞濃し胸おしつくる海の柵 山口誓子
霞立ち罩めて茫々関ケ原 山口誓子
霞立つたらちねの背の折れ曲り 三橋鷹女
霞冷えて湖の夕浪*えりを打つ 渡邊水巴 富士
我が働く奈良市朝から山霞む 右城暮石 句集外 昭和三十五年
我身まてういたやうなるかすみかな 正岡子規 霞
餓鬼となるわが末おもふ夕霞 日野草城
海の橋ハープに似あひ霞みけり 阿波野青畝
海の船霞む市中に海の笛 山口誓子
海も山もたゞ一ひきや春霞 正岡子規 霞
海も山も只一すぢに霞みけり 正岡子規 霞
海を飛ぶ大和島根は霞みゐて 山口誓子
海霞み火力発電所も霞む 津田清子
海霞み尾根が天地の界なす 山口誓子
海霞巌流島は名を変へず 飴山實 句集外
海霞筑紫も見えずなりにける 相馬遷子 山国
海岸線長き和歌山県霞む 右城暮石 上下
開墾や川上霞むほとゝぎす 小林康治 四季貧窮
街道の旅人多き霞かな 正岡子規 霞
垣とりし日を山凪げる霞かな 村山故郷
渇きいふ妻に昼霞濃かりけり 大野林火 海門 昭和十年
葛城も丸き山なる霞かな 河東碧梧桐
樺太をさかひかけふの朝かすみ 正岡子規 霞
鴨川踊われも霞みて先斗町 森澄雄
粥腹で霞踏みゆくつもりかな 林翔
観潮の帆にみさごとぶ霞かな 飯田蛇笏 霊芝
眼の霞小春霞といふべしや 能村登四郎
帰漁船濤を負ひ来る夕霞 水原秋櫻子 殉教
休みとて山を眺むる霞かな 右城暮石 句集外 昭和三年
吸ひなづむ霞か雲か春の夢 三橋敏雄
宮島をすぢかひに引く霞哉 正岡子規 霞
牛馬の遊ぶ野広し春霞 正岡子規 霞
境に入つて国の礼とふ霞かな 河東碧梧桐
業平の旅路霞むや返り花 水原秋櫻子 緑雲
近き山遠き渚やむら霞 正岡子規 霞
近寄るまで大き製錬島霞む 山口誓子
金の鵄尾あり晴れ晴れと霞みけり 阿波野青畝
空腹の霞を少しづつ吸へり 能村登四郎
熊の来て牛闘ひし霞かな 河東碧梧桐
鍬洗ふて門に立ておく夕霞 村山故郷
群れ霞むヨツトに青年覚めてをり 原裕 青垣
傾城は五階の上の霞哉 正岡子規 霞
鶏殺され愛鶏園は霞むかな 赤尾兜子 歳華集
月日こそいや遠きもの遠霞 林翔
犬の子に蹤かれて霞みゐなりけり 加藤秋邨
肩凝つてならず顔上げ夕霞 草間時彦 櫻山
見えてゐし富士の方角霞みけり 稲畑汀子
見せ合へば見合ふ古墨を立つ霞 三橋敏雄
見ゆるだけ同し国なり春霞 正岡子規 霞
見下せば夜の明けて居る霞哉 正岡子規 霞
見送るや引鶴海に霞む迄 正岡子規 霞
見渡せとはてハ霞の浦けしき 正岡子規 霞
見渡せははては霞の浦の春 正岡子規 霞
源平桃霞裾濃に見えにけり 水原秋櫻子 殉教
古き代の漁樵をおもふ霞かな 飯田蛇笏
湖霞むかしむかでを射たる山 飴山實 句集外
午下の柝四山いよ~霞みけり 日野草城
午下りより霞して瓶(みか)の原 能村登四郎
午過ぎぬ稲架の田原はうち霞み 日野草城
厚杯の木のでつしり座る霞かな 正岡子規 霞
校庭の動きいきいき霞む村 右城暮石 句集外 昭和五十年
荒き風出て来てちらす野の霞 右城暮石 句集外 昭和六年
行くほどに老懶熟す春霞 永田耕衣
行く人の霞になつてしまひけり 正岡子規 霞
行く程の人馬小さき霞かな 正岡子規 霞
香具山は畝傍を愛(を)しと添ひ霞み 松本たかし
国原やほとほと霞む四方の山 日野草城
黒き三角霞みたる近江富士 山口誓子
今切はほどよき距離の朝霞 能村登四郎
根こじしてころびたる木の霞みけり 阿波野青畝
砂丘ふく風に霞みて旅疲れ 飯田蛇笏 旅ゆく諷詠
最上川嶺もろともに霞みけり 石田波郷
妻恋ふも旅恋ふも薄霞かな 小林康治 玄霜
菜の花の弁に光やうす霞 原石鼎 花影
鷺消えて片帆の残る霞哉 正岡子規 霞
三国は海をへたつる霞哉 正岡子規 霞
三山の月隈日隈けふ霞む 山口青邨
三重に淡路のかすむ日和哉 正岡子規 霞
三千坊はなれはなれの霞かな 正岡子規 霞
山に崎ありて摂津の国霞む 山口誓子
山のへや霞一の字水くの字 正岡子規 霞
山を出て海にひろかる霞かな 正岡子規 霞
山一つこえてうら手の霞哉 正岡子規 霞
山火事を怖る山々霞みたる 右城暮石 句集外 昭和四十年
山霞みして奥瀑のひびきけり 飯田蛇笏 山響集
山霞み消えゆくそこら群像も 山口青邨
山霞む羽化登仙を誘ふほど 鷹羽狩行
山霞む山にも運河記念林 河東碧梧桐
山霞大河たうたうと野を流る 村山故郷
山霞斑なし鶉がかきまはす 岡井省二 鹿野
山国の霞つめたし朝さくら 相馬遷子 山国
山寺に城を見下す霞哉 正岡子規 霞
山寺の昼飯遅き霞かな 正岡子規 霞
山荘に終る句会や夕霞 松本たかし
山鳥の翔ちしひかりの谷霞 木村蕪城 寒泉
山伏の山のぼり行く霞哉 正岡子規 霞
蚕室の多摩川見えて霞かな 河東碧梧桐
子が父をうしなひやがてうす霞 下村槐太 天涯
死したるを焼く島同じ霞む島 山口誓子
紫に霞みて暮るゝ都かな 正岡子規 霞
紫雲英野となる前殊に霞むらし 水原秋櫻子 蘆雁以後
時計塔霞みつゝ針濃ゆく指す 山口青邨
耳成と畝傍濃淡霞中 星野立子
自愛てふ怠けごころの霞かな 岡本眸
蒔け蒔けと鳥が人呼ぶ夕霞 飯田龍太
汐満ちて鳥居の霞む入江哉 正岡子規 霞
七浦や一浦さきは春霞 正岡子規 霞
叱られて仔牛が坐る遠霞 秋元不死男
柴を樵る日々のくらしに山霞む 飯田蛇笏 春蘭
借問せん霞む架橋の脚数を 阿波野青畝
若松を生けたり霞立つ如し 日野草城
手に足に蟻や国原霞みけり 石田波郷
手紙もつ人はたちまちかすみ哉 正岡子規 霞
樹液滴り八方に霞立つ 廣瀬直人
十国の一つ一つに霞みけり 正岡子規 霞
銃眼に風をおこせし霞かな 阿波野青畝
春の日は湖一はいに霞哉 正岡子規 春日
春の野に丸く広がる霞哉 正岡子規 春野
春の嶺々みるみる霞立ちにけり 松村蒼石 雁
春は霞む日田の摩天楼とや言はむ 山口青邨
春霞老母と天とややへだつ 永田耕衣
春潮の霞みつゝあり汽車の音 日野草城
春風や霞破れて村一つ 正岡子規 春風
書に倦んで野に出れば野の霞哉 正岡子規 霞
女引く車と見しかかすみけり 正岡子規 霞
哨戒機霞ごもりにきらきら航く 篠原梵 年々去来の花 雨
小松曳わが思ふ人は霞みけり 正岡子規 子の日
小松曳わきもこどこに霞むらん 正岡子規 子の日
少年喪主半鐘いまも霞み鳴る 赤尾兜子 歳華集
松島は松それそれの霞哉 正岡子規 霞
松苗は霞む心にうゝるかな 右城暮石 句集外 昭和十一年
消炭を筵干シして比良霞む 石田勝彦 雙杵
鐘の音の谷より出でて霞みけり 森澄雄
鐘の音の島にもどりぬ春霞 古舘曹人 砂の音
鐘撞けばゆらぐ榛名の大霞 水原秋櫻子 殉教
上市は灯をともしけり夕霞 正岡子規 霞
蒸気ャ出て行く残る煙が霞哉 正岡子規 霞
信濃はも大霞して山と湖 福田蓼汀 山火
信濃まで霞みて雪の嶺見えず 鷹羽狩行
心やゝにおちつけば遠山霞かな 種田山頭火 自画像 層雲集
新霞紅梅町のむかしはも 上田五千石『天路』補遺
榛名山大霞して真昼かな 村上鬼城
深霞して山齢を問はしめず 上田五千石 森林
真帆 片帆 なべて遠しも 太湖霞み 伊丹三樹彦
真帆片帆沖はかすみて何もなし 正岡子規 霞
真帆片帆行く手行く手の海霞む 正岡子規 霞
神の木のいま魂ぬけて霞みゐる 飯田龍太
神南備の久米の皿山霞立つ 松崎鉄之介
身ぬちあたたかく別るる夕霞 伊丹三樹彦
水のなき川ばかりなる昼霞 臼田亜浪 旅人 抄
水平線もとより分かずひた霞む 清崎敏郎
翠黛に位置して山廬霞みけり 阿波野青畝
酔ひて恋ふ老母の眉霞みけり 小林康治 玄霜
杉垣の上に筑波の尖霞む 正岡子規 霞
裾山の土堀る人や遠霞 正岡子規 霞
瀬戸大橋渡る両端霞む日を 右城暮石 散歩圏
畝傍耳梨香久も見ゆ空朝霞 村山故郷
製錬島霞む大きな島なるらし 山口誓子
青霞亭林之助忌の夕空よ 燕雀 星野麥丘人
石ころも霞みてをかし垣の下 村上鬼城
石位寺あまり小さき霞かな 阿波野青畝
石垣と同じ寒さの夕霞 廣瀬直人 帰路
赤帯の女野辺行く霞哉 正岡子規 霞
雪ながら霞もたつや不二の山 正岡子規 霞
雪の山翳うしなふは霞立つ 相馬遷子 山国
雪霞野の萱骨のとげとげし 臼田亜郎 定本亜浪句集
雪渓を目のなだれゆき青霞 岡本眸
雪山はゆつくり霞むかいつむり 岡井省二 明野
雪道の来し方霞む白鳥湖(新潟県、瓢湖六句) 細見綾子
雪嶺と色同じくて霞立つ 相馬遷子 山河
雪嶺の白きがいたく霞みたり 山口誓子
先行く人光りとなりし霞行く 大野林火 月魄集 昭和五十五年
川波の霞むを見れば疾く流る 水原秋櫻子 霜林
線香の煙にかすむ御堂哉 正岡子規 霞
船造る槌霞むなり因島 阿波野青畝
前景に光源古神の杜霞む 香西照雄 素心
祖師の森霞み和田本町も霞む 山口青邨
漕きぬけて霞の外の海広し 正岡子規 霞
争へる牛車も人も春霞 杉田久女
草山の黄や紫や春霞 山口青邨
草餅につきませてある霞哉 正岡子規 霞
藻塩火を焚きたや霞む沖の辺に 佐藤鬼房
足袋脱いで顔のつめたき夕霞 飯田龍太
其人の霞んでぞあらんことづてよ 正岡子規 霞
其中に富士ぼつかりと霞哉 正岡子規 霞
村ぬちに霞ふるなり実朝忌 永田耕衣
体中に安心なかり夕霞 斎藤玄 雁道
泰山の遠く霞むに腹空けり 松崎鉄之介
鯛の片身こんぶでしめて夕霞 草間時彦
大なる港に作る霞かな 河東碧梧桐
大霞するとはかかる宮址かも 水原秋櫻子 蘆雁以後
大霞家ある谷は懐しき 福田蓼汀 山火
大霞富士見えず近江富士見えず 山口誓子
大空は夜半も霞むやおほろ月 正岡子規 朧月
大国の山皆低きかすみ哉 正岡子規 霞
大国の使者船で来る霞哉 正岡子規 霞
大寺の屋根あちこちと霞哉 正岡子規 霞
大船の小舟引き行く霞哉 正岡子規 霞
大鉄塔大昼霞渉り 上野泰 佐介
大年の暮れぎはにして深霞 能村登四郎
大仏の横顔かすむ夕哉 正岡子規 霞
大仏の霞まぬやうに御堂哉 正岡子規 霞
大仏の頭出したる霞かな 正岡子規 霞
大仏は前とうしろの霞哉 正岡子規 霞
大兵の野山に満つる霞かな 正岡子規 霞
大和三山指す一本の指霞む 林翔
鷹が鳴く峠を越すや昼霞 河東碧梧桐
托鉢と板子一つや海霞 飴山實
棚霞して薩*た富士なかりけり 清崎敏郎
谷霞藤の紫消えさりぬ 阿波野青畝
谷深くうぐひす鳴けり夕霞 水原秋櫻子 葛飾
谷杉の紺折り畳む霞かな 原石鼎 花影
狸棲む一本榎かすみけり 正岡子規 霞
単線となり吉野線深霞 山口誓子
団参の旗押立てぬ山霞む 日野草城
地震やんで門を出づれば霞哉 正岡子規 霞
池いくつ過ぎて嵯峨遠き霞かな 村山故郷
竹筒の銭饐えてゆく霞かな 橋閒石
茶つみ歌東大寺の塔は霞みけり 正岡子規 茶摘唄
中虚にて気球群みな霞む 山口誓子
昼深く野霞屋根に寄せゐけり 臼田亜郎 定本亜浪句集
朝が昼に昼が夕と霞みつゝ 星野立子
朝な朝な萬才東へ霞み行く 正岡子規 万歳
朝霞はたきかけゐる音きこゆ 星野立子
朝鮮をうしろにかすむ対馬哉 正岡子規 霞
朝々の霞のいろや峯の花 正岡子規 霞
朝凪や霞みて遠き島一つ 正岡子規 霞
朝餉遅しなか~霞む東山 渡邊水巴 富士
潮騒は南洋よりす八重霞 渡邊水巴 富士
町中や仰げば鳶の霞む空 正岡子規 霞
長閑さや雨も霞と思はれて 正岡子規 長閑
長橋に閃めく灯あり昼霞 阿波野青畝
長橋の向ふに低き霞かな 正岡子規 霞
長江の五里一湍の霞みけり 松崎鉄之介
長生の氷らむとする霞かな 永田耕衣
鳥飛ぶや霞はづれて塔一つ 正岡子規 霞
鳥貌や遠方(をちかた)ふかき夕霞 中村苑子
鶴引クヤ蓬莱ノ松遠霞 正岡子規 引鶴
鶴翼の備くづるゝ霞哉 正岡子規 霞
庭木など寄進を思ふ昼霞 河東碧梧桐
笛吹かぬ霞黄児となりにけり 藤田湘子 途上
天つ雲雀霞となりて失せにけり 正岡子規 雲雀
天上に何おはす日ぞ薄霞 正岡子規 霞
天人が帰りしあとの霞かな 正岡子規 霞
天人の裾引きのこす霞哉 正岡子規 霞
天辺に秀でたる眉をかすみけり 正岡子規 霞
田の中に稲荷の杜の霞みけり 正岡子規 霞
徒労のみ立枯れ松も霞み立つ 小林康治 四季貧窮
土佐流の刷毛のつかひや横霞 正岡子規 霞
土饅頭つらね陵原霞みけり 松崎鉄之介
唐船と人はいふなり夕かすみ 正岡子規 霞
塔に上れば南住吉薄かすみ 正岡子規 霞
島なくば海と思へず大霞 鷹羽狩行
島の子の麦苗かなし沖霞 村山故郷
島の娘がひじき採りに行くよ朝霞 村山故郷
島山や神代の霞いまもなほ 飯田蛇笏 旅ゆく諷詠
灯一つ星二つ三つ夕霞 正岡子規 霞
鳶一つ都のはてにかすみけり 正岡子規 霞
鳶舞ふてきのふもけふも霞哉 正岡子規 霞
鍋の数多からうとも昼霞 飯島晴子
南部富士近くて霞む花林檎 山口青邨
日を恋うて己に星ある霞かな 原石鼎 花影
日本のぽつちり見ゆる霞哉 正岡子規 霞
日本の霞める中に富士霞む 山口誓子
日本の霞目がけていそぐらん 正岡子規 霞
日本は霞んで富士もなかりけり 正岡子規 霞
濃きものは淡きに食はれ山霞 鷹羽狩行
破船の環よりも男の濃く霞む 永田耕衣
婆の眼に姨捨けふは霞むらし 能村登四郎
馬に鍼うちゐし馬柵も霞みけり 阿波野青畝
馬霞み左に低き山を見る 正岡子規 霞
梅の鵯人の頭も霞む日に 右城暮石 句集外 昭和十年
煤の沖暁光すでに霞むかな 小林康治 玄霜
白山をうすうすかかぐ朝霞 上田五千石『琥珀』補遺
白子船電波応答して霞む 百合山羽公 樂土
白子百籠霞百杯水揚げす 百合山羽公 樂土
白地着て己れよりして霞むかな 中村苑子
薄霞東大寺の赤さ哉 正岡子規 霞
薄霞南大門の赤さかな 正岡子規 霞
薄墨は花に霞の夕哉 正岡子規 霞
薄緑お行の松は霞みけり 正岡子規 霞
麦秋や日出でゝ霞む如意ケ嶽 日野草城
畑中に雪隠小屋の霞みけり 正岡子規 霞
八ヶ岳霞みたれども八つ並ぶ 山口誓子
八月の停雲白し彩霞峰 日野草城
帆の向のかはるや須磨の鐘霞む 正岡子規 鐘霞む
繁る帆は霞む帆 湖上の蝶迷う 伊丹三樹彦
飯盒の飯のつめたき霞かな 石田波郷
晩霞たつときもレールの平行に 佐藤鬼房
飛び込んで鳶も烏も霞みけり 正岡子規 霞
飛ぶ鳥もふりかくしたる霞かな 右城暮石 句集外 昭和十一年
鼻先の富士も箱根も霞みけり 正岡子規 霞
筆草やいそはかすみて一文字 正岡子規 霞
姫神のひろげしけふの霞とも 鷹羽狩行
百姓は地にすがりつく霞かな 飯田蛇笏 春蘭
氷魚死んで宇治の川上霞みけり 正岡子規 霞
病起椽に出れば上野の森霞む 正岡子規 霞
品川の霞んで遠き入江哉 正岡子規 霞
品川の白帆かすむや遠眼鏡 正岡子規 霞
浜名湖は霞みて奥に海ある如 山口誓子
富士ありと思へず霞む大空間 山口誓子
富士の根の霞みて青き夕哉 正岡子規 霞
富士霞むことの畏し勝たでやは 渡邊水巴 富士
富士霞む伊吹も霞む距たりて 山口誓子
富士薄く雲より上に霞みけり 正岡子規 霞
浮御堂あるべき方も朝霞(大津三句) 鷹羽狩行
負へるものみな磐石や夕霞 石田波郷
武蔵野にかすまぬものもなかりけり 正岡子規 霞
武蔵野の一隅かすむつく波哉 正岡子規 霞
武蔵野やはるかに霞む村一つ 正岡子規 霞
葡萄手入アルプの嶺はけふ霞む 山口青邨
福原に霞みて赤きともし哉 正岡子規 霞
並杉の日光領はかすみけり 正岡子規 霞
遍路まだまだ歩く 堂塔霞むから 伊丹三樹彦
墓山に北条霞亭法師蝉 山口誓子
墓山のどこか崩るる霞かな 岡本眸
墓所を出て街ひと筋にうす霞む 飯田蛇笏 白嶽
母亡きをあなやそら似の夕霞 林翔 和紙
砲台の舳に霞む港かな 正岡子規 霞
貌剥いで山の鴉と霞むべし 橋閒石
北国の夜を剥ぎをり春霞 高屋窓秋
北上川の睡気をさそふ昼霞 佐藤鬼房
牧霞西うちはれて猟期畢ふ 飯田蛇笏 霊芝
堀割をのぞけば霞む人夫かな 正岡子規 霞
妹山に見る背の山の花霞 能村登四郎
娘率て吾妻に下る霞かな 正岡子規 霞
明けの水行くに何処まで春霞 高屋窓秋
鳴門ほのぼの淡路ほのぼの大霞 林翔
網干さぬ蜑か家はなし夕霞 正岡子規 霞
木の間に紙すく小村霞みけり 正岡子規 霞
木の先の紫になり霞かな 右城暮石 句集外 三年
目の下に霞み初めたる湖上かな 杉田久女
目の前の夕山霞み油煮え 廣瀬直人
目も耳も古詩のふるさと国霞む 高屋窓秋
野に霞む鼻孔何個や布を絶つ 永田耕衣
野に出でゝ霞む善男善女かな 村上鬼城
野の果や霞んで丸き入日影 正岡子規 霞
野の霞吹きよす山辺連翹花 右城暮石 句集外 昭和四年
野の宮のあはれをこゝに霞みけり 正岡子規 霞
野の末や霞んで丸き入日影 正岡子規 霞
唯白き空なり富士の霞みゐて 山口誓子
有明の燈明台をかすみけり 正岡子規 霞
郵便夫同じところで日々霞む 村上鬼城
夕栄の五色が浜をかすみけり 正岡子規 霞
夕霞あれやこれやと綻びて 橋閒石 微光
夕霞む水ひたひたと祖父の街 原裕 青垣
夕霞烏のかへる国遠し 村上鬼城
夕霞小狐ならば呼びとめん 佐藤鬼房
夕霞星見えて灯のともりたる 正岡子規 霞
夕霞畑いちまいのなほ緑 福田蓼汀 山火
夕霞螺子をおしやかにしたる日の 佐藤鬼房
夕霞連吾を待つ宿はづれ 正岡子規 霞
与謝の海かすんで赤き入日哉 正岡子規 霞
来て見れば都一目の霞哉 正岡子規 霞
裏筑波焼け木の鳶にうす霞む 飯田蛇笏 霊芝
離れ家の隣に遠き霞哉 正岡子規 霞
立山のあるべきあたり朝霞 桂信子 花影
立身の長階は仰ぐ眼に霞む 日野草城
旅遠くわが来し道のすぐ霞む 山口青邨
旅霞むそびらつめたき波の音 鷲谷七菜子 銃身
旅人にカプリの島は霞み見ゆ 山口青邨
隣から御慶の聲の霞けり 正岡子規 御慶
嶺々の嶮霞みやはらぐ夕間暮 福田蓼汀 山火
老婆出て霞む百穴ただ見つむ 西東三鬼
湾口を扼されて沖霞むなり 右城暮石 句集外 昭和二十八年
嗚呼哈爾濱学院出身遠霞 三橋敏雄
巫女下るお山は霞濃くなりて 山口青邨
枷重き牛とも見えず田に霞む 百合山羽公 寒雁
毟らるる鶏もあるべし昼霞 橋閒石 微光
澎湃と霞み石川島響き 川端茅舎
瘤つきの島多くして瀬戸霞 鷹羽狩行
簑の毛は晴れて漁村の霞哉 正岡子規 霞
籬より麦踏み出でぬ晝霞 高野素十
萬歳の歸るあとより霞みけり 正岡子規 万歳
跼みつつ霞やさしき爺ケ岳 能村登四郎
蹠にもさかなのあぶら遠霞 桂信子 花影
躓くや老いも裾濃の夕霞 橋閒石
餞別を担ふて出たる霞哉 正岡子規 霞
鬚剃ルヤ上野ノ鐘ノ霞ム日ニ 正岡子規 鐘霞む
霞 続補遺
あへものゝごますりにけり朝霞 越人
あまさかる碑の銘のぞく霞哉 羽笠
いざや霞諸国一衣の売僧坊 大淀三千風
いなゝいて馬は峠を霞かな 万子
うつくしの海のぐるりや朝霞 尚白
うみ山を霞いれたる坐敷かな 松岡青蘿
おらもはや霞む知る人もゝすかち 惟然
かへり花里の朝食霞む哉 一笑(金沢)
かまどからたつとしらずや春霞 寥松
きじ鳴くや山の藁屋はうす霞 堀麦水
こたつ出てまだ目の覚ぬ霞哉 高井几董
こちかちも越の山路や八重霞 北枝
さえかへるけしきしづむる霞哉 旦藁
さればこそ黒日も霞む雲の脚 沾圃
さんざめく江戸太~や朝霞 蓼太 蓼太句集三編
せりよめ菜すこしの事も霞けり 夏目成美
たてゝ見む霞やうつる大かゞみ 野水
タ霞暮ておぼろと申けり 鼠弾
つくばねやくるゝ霞は野からたつ 鈴木道彦
つぶ~と梅咲かゝる霞かな 尚白
どやきけり聞て里しる八重霞 井原西鶴
とりとめぬ蜑が仕事や薄霞 桜井梅室
のし餅に灯霞む広間かな 東皐
はなを出て松へしみこむ霞かな 嵐雪
はらぼふて土喰ふ子あり夕霞 東皐
はる霞いほり看板幾代へむ 荘丹 能静草
ふは~と飛上りたし春霞 配力
ふりむけば灯とぼす関や夕霞 炭太祇
ほけやかに京の京たる霞哉 三宅嘯山
むつくりと岨の枯木も霞けり 杉風
衣打つひと夜~や北の窓 青霞 靫随筆
一花に霞あつまるさくら哉 土芳
鵜の觜の魚みる間も霞みけり 鈴木道彦
詠出す冨士や絹地の一ト霞 中川乙由
遠霞智恩院の鐘かすむらし 加舎白雄
遠霞穂家の鼠も嫁入べし 寥松
遠里の麦や菜種や朝霞 鬼貫
塩浜にぬれたものなき霞かな 桜井梅室
沖に帆の捨てたやうなり夕霞 鳥酔 類題発句集
何の木も霞て煙るこぬか雨 杉風
何所となう黄ばみをふくむ霞哉 玄梅
花がたのわたし乗うかゆふ霞 寥松
霞けり消けり富士の片相手 小西来山
霞けり比叡は近江の物ならず 言水
霞さへまだらにたつやとらの年 松氷貞徳
霞せて行や花見の内家老 野紅
霞つゝ生駒見ねども夕部哉 井原西鶴
霞ても降てもあかき月夜かな 除風
霞ふみて我声すごき太山哉 李東
霞ほどかすみて白し滝の幅 凉菟
霞む人何をするやら桶小鉢 鈴木道彦
霞む日やほどこし杖を墻の外 卓池
霞む日やまばゆき紅の水洗 里東
霞む日や仏のあかし遅なはる 建部巣兆
霞より降ぞまことのはるの雨 鈴木道彦
霞凝てものあらはなるうなへ哉 加藤曉台
霞戸や死んだふりしてけふも寐ん 松窓乙二
霞事忘れてゐるか梢ども 松窓乙二
霞消て富士をはだかに雪肥たり 其角
霞日の風さはぐ迄寐たりけり 鈴木道彦
霞野や明立春の虎の糞 史邦
霞来て汗身に氷る山路かな 長翠
海の日の半見るよりうす霞 高桑闌更
海山の霞冥加や生れ国 千那
関こすや六蔵が引朝霞 井原西鶴
関守も往来も酔ぬ八重霞 桜井梅室
眼先まで霞よせたる舩路哉 長翠
弓張の入日を追ふやうす霞 三宅嘯山
橋桁や日はさしながら夕霞 北枝
桐火桶霞うぐひすのこゝろあり 松岡青蘿
近江にも立つや湖水の春霞 鬼貫
茎だちの目で見る人や朝霞 許六
月なくて昼は霞むや昆陽(こや)の池 鬼貫
月霞む折枇杷橋や夕端川 旦藁
見わすれてたもるな春は霞むとも 馬場存義
胡椒茶も船ごゝろ也朝霞 諷竹
紅梅に霞そめたる軒端哉 三浦樗良
行さきや眼のあたりなる野の霞 松岡青蘿
国にそふ霞をはこぶ潮かな 加舎白雄
今朝なれや鶯雑煮霞礼 一鉄 富士石
三条をゆがみもて行霞かな 高井几董
三文が霞見にけり遠眼鏡 小林一茶
山くれて霞下せり大炊川 加藤曉台
山科の礼に行日やうす霞 許六
山霞み海くれなゐのゆふべかな 高桑闌更
山城に似たる大和やうす霞 三宅嘯山
残月に日のうつりッゝ朝霞 三浦樗良
師走菜も霞む住家ぞみそさゞゐ 松窓乙二
指南車を胡地に引き去る霞哉 与謝蕪村
柴舩の矢ごろ過れば霞けり 長翠
釈迦霞ミけりや生駒は雨ぐもり 言水
出がはりやそなた見かゆる夕霞 為有
出るに入無地の帆もなし霞つゝ 小西来山
出替のみつちや見直す夕霞 為有
春のあはれ雉子うつ音も霞けり 高井几董
春霞そめてや藤もあれが色 支考
春立つや人の心をうご霞 高瀬梅盛
曙のよし原みする霞かな 其角
曙や降らふとしたる一霞 一笑(金沢)
小池にも汀をなして霞む日ぞ 鈴木道彦
松島やいらぬ霞が立て来る 桃隣
松風の松はねぶれる霞かな 塵生
心よりたつやしらねの春霞 三浦樗良
森の花霞より低しちとばかり 東皐
真似をして霞をかくす嵐かな 凡兆
人の無事聞はしなれや朝霞 成田蒼虬
塵ひぢの首途や霞む日本橋 馬場存義
寸馬豆人峠に変る霞かな 三宅嘯山
青柳の朝寐をまくる霞かな 千代尼
雪分る我をたとはゞ霞む鬼 松窓乙二
先明て野の末ひくき霞哉 荷兮
草も木も誓の網の霞かな 中川乙由
草霞み水に声なき日ぐれ哉 与謝蕪村
造り樹に是非なき色や夕霞 舎羅
村々は茶色に霞む小春かな 建部涼袋
大船の岩におそるゝ霞かな 炭太祇
大竹を引するおとやにせ霞 成田蒼虬
達磨尊霞伴ふ窓の豆 土芳
筑波根や世のやぶ入か遠霞 加舎白雄
昼の鐘箒木きゆる霞哉 仙化
朝霞ひき際にぶき桜かな 十丈
朝霞み峠を越る馬の息 浪化
蝶折~扇いで出たる霞かな 千代尼
長橋の行人征馬霞けり 三宅嘯山
鳥は音に跡先さぞふ霞かな 千代尼
鳥もろとも野に出し我も霞らん 三浦樗良
通る人皆顔なでる霞かな 桜井梅室
屠所遠く霞へだてゝ桜哉 乙訓
登る日やぬれ色霞むいせの海 凉菟
都をば霞とともに正気散 許六
鳶はまだ霞て居ルや更衣 朱拙
日三竿雨になり行霞かな 黒柳召波
年を経て御堂たちけり霞けり 桜井梅室
波の寄ル小じまも見えて霞哉 黒柳召波
婆々ひとり霞てゐるや丘の家 成田蒼虬
馬で行鷹のきほひや夕霞 支考
馬士眠るらんけふの富士なる薄霞 木節
白須可は不二の名残やあさ霞 馬場存義
薄霞む間いに水の光かな 三宅嘯山
八郡の空の霞や御忌鐘 黒柳召波
八重霞日落ていまだ夜ならず 加藤曉台
比叡にこそ額の皺はあさ霞 言水
富士ありとおもへばしろき霞哉 凉菟
富士の雪雲井にのせて霞けり 三宅嘯山
斧うける大樹のゆれや霞む空 鈴木道彦
武蔵野の幅にはせばき霞哉 嵐雪
分~や朝気のけぶりひと霞 一笑(金沢)
糞おとす鳥などみえて木々霞む 鈴木道彦
米山をつつむ霞はたわらかな 椎本才麿
片方はわが眼なり春霞 桃隣
歩行神さあ~霞むあしたより 凉菟
北そらや霞て長し雁の道 黒柳召波
霧霞さてもしのばじ後の月 宗波
明にけり吉野ゝ国や霞むらん 許六
木のほやも霞残さぬ夕かな 松窓乙二
門松や網代の杭に朝霞 介我
夜霞は須磨とあかしのとぎれ哉 田川鳳朗
有明や志賀は霞で波戸の鼻 支考
夕霞楼の人裾ばかり 東皐
落馬せし去年の山路の霞哉 松窓乙二
老松の花をもてなす霞かな 長虹
和讃でもしらばひかふに月霞む 鈴木道彦
和布を刈や霞くむかと来て見れば 建部巣兆
朧~直に霞て明にけり 杉風
纔なる橋に見て居る霞哉 仙杖
莚帆のひるみや灘の一霞 車庸
蜩や常盤木霞畑出し 兀峰
迹供は霞引きけり加賀の守 小林一茶
by 575fudemakase
| 2017-04-29 18:35
| 春の季語
俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase
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(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
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[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
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[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
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《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
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例1 残暑 の例句を調べる
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[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
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以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
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