都市

都市

くろき河鬱々として都市(まち)ねむる 富澤赤黄男

その下に古代都市ある枯野かな 武田知子

ダックの晩餐 華僑に 夕映え大陸都市 伊丹公子 アーギライト

ハツカーの浮遊の指紋不眠都市 森 洋彦

ハンカチに透けて無防備都市赤し 中村和弘「蝋涙」

びっしりと異神の 海峡都市 夜涼 伊丹公子 ドリアンの棘

びっしりと異神の 赤道都市 夜涼 伊丹公子

ヘリコプターの顔で近づく渇水都市 杉本雷造

郁子の花山上に都市延びてゆく 篠田悦子

影しるき鳩寄る海上都市の春 花谷和子

家庭の灯だけでは都市の夜暗し 林田紀音夫

河終る工場都市にひかりなく 高屋窓秋

花ふぶき畝に鋤きこみ都市農夫 平井さち子 鷹日和

過密都市秋の居場所が定まらず 佐藤 賢

会い別る占領都市の夜の霰 鈴木六林男

会議都市でもある 河風に旗を鳴らし 伊丹三樹彦

渇水都市凧澄明な腸をたらす 桜井博道 海上

鴨翔んで黒人多き湖畔都市 北野民夫

機翼灼け眼下に都市をあざけるか 皆吉司

汽罐焚いて都市を出でゆく十三夜 文挟夫佐恵

飢えつつも知識の都市を離れられず 藤木清子

飢ゆる都市雪空動くゆるやかに 三谷昭 獣身

逆光の飛行船浮く流感都市 横山 房子

金属の記憶に遠い過密都市 田中信克

月の音 あるひは埋没都市の響 富澤赤黄男

鍵穴殖え六月の都市きらきらす 櫛原希伊子

婚礼車のリボン ぷるぷる 南洋都市 伊丹公子 ドリアンの棘

沙羅の花都市は僅かに傾ぎつつ 四方万里子

祭舞台を濁流に架け漁港都市 佐藤鬼房

冴え返る万の足痕過密都市 寺井谷子

冴返る万の足痕過密都市 寺井谷子

昨夜や雨都市周辺に春の雲 松崎鉄之介

紙面一葉忌と海上都市のこと 須川洋子

室蘭は丘陵の都市青葉燃え 高浜年尾

秋うらら時の止まりし都市の跡 本多一基

春の草都市の地面にしがみつく 藤田健

春遅々と噴水に透く過密都市 野見山ひふみ

春闘のデモ足早やに小さい都市 稲岡巳一郎

沼をみる背に灰色の都市を負ひ 富澤赤黄男

硝子のなかの微笑 あまたの 都市夕景 伊丹公子 ドリアンの棘

城郭都市あちこちに湧く泉かな 上原瑞子 『燈台草』

擾乱鎮圧後の都市の皮下出血 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー

性交も飽きてしまった地球都市したたるばかり朝日がのぼる 林あまり

青き都市運河の涯にかなしく炎ゆ 高屋窓秋

青柳 都市彷徨に脛毛減る 伊丹三樹彦

石炭を欲りつゝ都市の年歩む 竹下しづの女 [はやて]

扇状都市の朝のおくゆき閑古鳥 平井さち子 完流

霜の夜の展翅されたる如き都市 高野ムツオ 鳥柱

造花の紗に いま鋏入れ 都市の裏 伊丹公子 パースの秋

直線と球の新都市冬木の芽 小島幸子

追羽子の硬き音のみ沿線都市 藤井亘

鉄板の下は空洞零下の都市 三谷昭 獣身

都市の灯に山火事の呪詛濃く加わる 林田紀音夫

都市の麦黄なるは寂し家なしに 林田紀音夫

都市生活寺の泰山木が咲く 阿波野青畝

都市暮しやどかりほどの音たてて 中西夕紀(1953-)

冬スモッグ世界一流の都市並よ 右城暮石 句集外 昭和三十六年

冬霞都市の輪郭和げる 稲畑廣太郎

冬耕のその双肩の上の都市 辻井夏生

塔に神棲む 多国籍都市の 炒め鍋 伊丹公子 ドリアンの棘

二月暖雁鳴き渡る無防備都市 坂本ひろし

日蝕が天に発掘都市なりや 平畑静塔

熱風傾斜し 疾走バイク群都市 伊丹公子 山珊瑚

薄氷の下真暗な都市がある 今井 聖

蛤の吐きし港湾都市ならむ 奥坂まや

非核宣言都市へ襖をひらきたる 大石雄鬼

風蝕の都市女らがぞくぞく生え 林田紀音夫

泡立草 山腹攻めに 爆音都市 伊丹三樹彦

繭やぶる虫の白昼 博物都市 伊丹公子 山珊瑚

万歳の顔に紐垂る煙霧都市 小川双々子

霧の都市葱を束ねし藁をとく 森田智子

霧の列車に 椰子増え 終着河口都市 伊丹三樹彦

霧笛ぼうぼう 棕梠の花噴く海峡都市 伊丹三樹彦

木の葉降るや都市の煤煙遥かなり 野村喜舟

予告密集 都市の何処かに あじさい咲く 伊丹公子 時間紀行

梨の花雨降る午後の古代都市 有馬朗人 母国

立冬や白骨都市の観覧車 和田悟朗

緑なす都市や獣の匂ひせる 長谷川照子

漏水の堤防めぐらし早婚都市 和田悟朗

六月の声押し殺す過密都市 山田一男

夾竹桃火花の如し過密都市 山本歩禅

穢土浄土月の砂漠の賭博都市 保田白帆子

蝙蝠や川の向ふに過密都市 西牧トキ子(桔槹)

以上