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木附沢麦青句集を読んで

木附沢麦青句集を読んで

2015・8・10 東奥日報社

当集は氏の四つの句集「母郷」「南部牛追唄」「青嶺」「馬淵川」から各90句選出した一集である。


大野林火の称える「俳句は抒情」と云う時、最も濃くそれを受け継いだのは林火門中、木附沢麦青だろう。と私は、昔からそして今も思っている。麦青句は炭の香の顕つごとく後進を刺す。その佳句を此処に挙げて讃えたい。


「母郷」

炉語りやこびとの数の祖母の指

夜泣き子に燃え移らむと炉火赤し

一と夜一足藁沓編んで父老いず

炭窯(かま)酔の膝折って吸ふ雪の風

長女あけみ誕生

爽やかや一児得て髭濃くなれり

馬も潔め早苗饗の酒はじまれり

ねむりても拳解かぬ児雲の峰

坂半ば糞(ま)る炭馬に冬来てをり

冬銀河藁足して馬睡らしむ

妻を子を叱り三寒やりすごす

初蜩馬へ置く水平らなり

母の死後障子一棧欠きしまま

独活掘りのひとりにかかる昼の月

通夜の畳一匹の蟻全速に

梨月夜まよはずとどく汽笛あり

索漠とわが血に酔ひし蚊を殺す

葛を吹く風音も旧南部領

この家の馬臭なくんば親しさ減る

踊り出て生(なま)の太陽雪国なり

尺蠖に腕をはからせゐて青年

飛びたがる夏帽おさへつつ帰郷

朝草刈盆花あれば摘み置きぬ

花防風潮ふりきって海女着替ふ

峠路は炭運ぶ道からまつ散る

啼き出して囮たること忘れゐむ

出稼ぎに父とられじと厚目貼

天へ翔ち初雀たる羽根さばき

飛ぶ雪はとばし隆々男根祠


「南部牛追唄」

つけ足しの仔豚のしっぽ梅雨あがる

夜涼し父の寝息の中に寝て

鼻冷えてわれ魚ならば深海魚

冬耕の父遠ければ音もなし

母の手ざはり袖無の冬親し

つくしんぼまたひとつから子が數ふ

子に仰がしむ完璧の雲の峰

いつまでも落ちず南部の木守柿

蓑虫のまた顔隠す山の中

山の影山にしたがひ冬に入る

村童の白鳥日誌厚表紙

下校児のみなこゑかくる白鳥に

山腹に暖気一點やまざくら

馬の仔に母馬が目で力貸す

分校の五人の走る跣足の音

夏雲やくりくり洗ふ子のつむり

露けさの土橋は人を待つごとし

ひとつぶの星に昏れたる萬の柿

胸元を牛に嗅がれて厚着の子

狐隠して雪原の起伏なし

水打ちし土間を好みて鷄集ふ

柿売って牛売って冬ちかづきぬ

草刈の昨日刈りたる山を越ゆ

帚木の露の萬の目母の家

仔馬二頭爽やかに頸さし交す

くらやみに年を越しゐる牛の息

蕗の薹しばらくは川橋もなく

ねころびて兩足あまる夜の新涼

いつ空へ翔ぶか花野を子がひとり

春立てり三人の子のじゃんけんぽん


「青嶺」

父の晩年陰雪のごとく在り

山風の浜に出て鳴る春祭

腰痛にかまけてをれば地虫出づ

ゆっくりと春来る陸奥の山容(やまかたち)

蕨摘む山の柔毛(にこげ)のごときもの

母の日の朝日大きなまま昇る

三陸は海また海の明易き

おうおうと山応へをり鯉のぼり

するすると子が下りてくる薄暑の木

紺絣齢隠さぬ小袖海女

青空のひととこ暗し虫送り

荒莚昼寝をせよとあるごとし

誰彼の足音のなか盆が来る

みちのくの萩もはしりの師の忌日

逆光の花芒より鹿踊(ししおどり)

小鳥来る寺から別の寺が見え

いもうとの墓へ秋草ひとつかみ

秋すすみ水草萍花小さし

八分目の腹よこたへて蚯蚓聞く

木枯は山に棘ある木を殖やす

花八つ手夕日はいつも斜より

蜂がもう来ぬ蜂の巣に雪つもる

雪籠り魚食べ魚の骨残す

山を見に出る元日の頰被り

一生のいまを唄ひて毬突く子

あり余る雪ありてまた雪催

元旦の空晴れたれば山そびゆ


「馬淵川」

己が生む影に涼みて一樹あり

島陰に海鳥たまる寒もどり

夏山の谺若々しくもどる

暑くなるぞとみんみんが唸り出す

おふくろも胃袋もなし年の暮

妙丹をもぐまたとなき柿日和

鮭簗のからくり見せぬ水しぶき

箱根にて

早川にして駆け下る冬紅葉

こころもち畳をつかむ跣足かな

春隣丈を競はぬ山ばかり

蛍と逢ふ忍び足こそ似つかはし

誰からも一目おかれ種胡瓜

年とるといふこと梟にもあるか

雪原のどこからも見え日がひとつ

えんぶりの初日(しょにち)の雪となりにけり

うしろより見れば灯の透く子かまくら

尻屋崎にて

下北の狐らしくて逃げもせぬ

まだ出番あるかも知れぬ枯蟷螂

梟は自分と話すやうに鳴く

大根引一本づつと勝負して

喜ばれ憎まれ今日も雪が降る

白鳥の第一陣のかひがひし

みな大き田植おにぎり結仲間

ふるさとの味噌にこだはり茸汁


最後にこれは当たっているかどうか定かではないが、麦青の初期作品に林火恋の一端が垣間見られる箇所がある。


ねむりても旅の花火の胸にひらく 林火(冬雁)

ねむりても拳解かぬ児雲の峰 麦青


あをあをと空を残して蝶別れ 林火(早桃 太白集)

帰る雁見ゆるあをあを空流れ 麦青


(高澤良一)


以上


by 575fudemakase | 2019-06-04 04:45 | 句集評など


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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