【雷火】

【雷火】

あかつきの雷火かかれる大牡丹 深川正一郎

かげりなき月に雷火のあとしるき 上村占魚 『天上の宴』

ガラス戸をしめても雷火たばしりて 阿波野青畝

かんばせに雷火かかれる時美(くわ)し 深川正一郎

この世撃つ雷火も呆れ果てて去る 中戸川朝人 尋声

まつすぐの雷火の柱揺れにけり 阿波野青畝

よべ雷火浴びたる焼岳の赤く聳つ 大野林火 白幡南町 昭和三十二年

依代のごとき燈台雷火立つ 橋本榮治 麦生

一閃の雷火のなかに青胡桃 阿波野青畝

一茶の墓よべの雷火の激しさは 鍵和田[ゆう]子 飛鳥

一雷火仙石原に氾濫す 阿波野青畝

雲が呑むウィーンの森雷火立つ 林翔 和紙

雲龍桜幹を雷火に裂かれ咲く 川村紫陽

遠近の森ことごとく雷火刺す 石田あき子 見舞籠

餓鬼の田に雷火立ちたるいさぎよし 水原秋櫻子 蓬壺

快楽ともいま十呼吸一雷火 藤田湘子 てんてん

海の守りの月を食ふあなあな雷火 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく

海原を雷火一刀両断す 高澤良一 暮津

海坂に雷火立ちたり流人島 木村里風子

葛切のギヤマン雷火奔りけり 水原秋櫻子 餘生

駆けつけて雷火匂はす農俳人 近藤一鴻

空知野に走る雷火や植ゑ急ぐ 石塚友二

痕れ寝の妻の白脛雷火立つ 佐藤鬼房

山桜雷火の跡を覆ひ咲く 羽部洞然

山百合をいくたび照す夜の雷火 土方秋湖

山羊は角挙げ藻岩山上雷火立つ 林翔 和紙

紫の紐のごとくに雷火かな 阿波野青畝

心急く泊り雷火の海を打つ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく

人牛を走らす雷火北伊吹 宇佐美魚目 秋収冬蔵

睡蓮の池にしばしば雷火陥つ 瀧春一 菜園

杉の秀に雷火走れり箱根山 鈴木大林子

閃々と雷火泥濘の道に燃ゆ 相馬遷子 山国

喪の妻や車窓の雷火浴びとほし 細川加賀

太古の空に爆ぜし雷火がやつて来た 兜太

谷を打つ雷火に咲けりかざぐるま 水原秋櫻子 磐梯

竹煮草夜々の雷火のたばしれる 馬場移公子

釣り上げし鯰に雷火にはかなり 松本 幹雄

堂暗く天平仏に雷火立つ 狹川青史

南壁に雷火一瞬峙ちし 桑田青虎

脳天に雷火くらひしその刹那 緒方句狂

蚤とんで失せぬ雷火に村打たれ 宇佐美魚目 秋収冬蔵

煤の沖梅雨緑なる雷火立つ 小林康治 玄霜

疲れ寝の妻の白脛雷火立つ 佐藤鬼房

美幌路の雷火しばらく楡に炎ゆ 堀口星眠 営巣期

蛭降つて大台山中雷火立つ 平川 尭

不死男忌の雷火まみれの髪膚なり 越高飛騨男(小熊座)

敷網の上に一閃の雷火かな 清崎敏郎

文学論雷火一瞬灯を奪ふ 椎橋清翠

宝剣岳哮りて泛ぶ夜の雷火 小林碧郎

毛虫みな総毛立ちたる雷火かな 迫田白庭子

夜の雷火巣鳥ひそめる栂照らす 斎藤 道子

野の燕雷火を浴びて啼きにけり 佐野良太 樫

羅針盤しづけし雷火たばしるに 橋本多佳子

雷火あとそれも露けし一茶の地 山内山彦

雷火ありたり宮を焼き楠を裂き 村松紅花

雷火たつあなたや心燃えつづけるか 岸田稚魚 負け犬

雷火とび喜雨の顔々かがやけり 臼田亞浪 定本亜浪句集

雷火とふ激しきものにあこがるる 西川五郎

雷火にも逆立つ馬の黒たてがみ 桂信子 新緑

雷火にも焼けず法燈ともりをり

雷火飛び墓中にストラヴィンスキー 馬場駿吉

雷火立ち海へ落ちゆく馬柵の先 大森三保子

雷火立つゴツホのタッチさながらに 川口 淀村

雷火立つたまゆら蛇気のただよへり 千代田葛彦

雷火立つ一夜に織りし曼荼羅に 野見山朱鳥 幻日

雷火立つ肩の怒れる駒ヶ岳 原 柯城

媾曳に天の雷火の下急ぐ 野見山朱鳥 曼珠沙華

谿二つ雷火立ちては相照す 水原秋櫻子 残鐘

以上