【日雷】

【日雷】

うけとめて胸壁はあり日雷 福田蓼汀

かの象の戻らぬ道の日雷 宇多喜代子 象

ガラス器の罅またはしる日雷 能村登四郎

ばくぜんと躰ある日の日雷 津沢マサ子 空の季節

ハブ擲ちし手のきな臭し日雷 小熊一人 『珊瑚礁』

バレー部の合宿終る日雷 土橋いさむ

みどり児を尻から抱いて日雷 能村登四郎

わが罪はわが前背より日雷 中村草田男

鰻田の端の泡立ち日雷 鈴木鷹夫 渚通り

塩ひさぐ婆の地べたに日雷(闇市最終の日) 『定本石橋秀野句文集』

夏族や温泉山出てきく日雷 飯田蛇笏 霊芝

夏旅や温泉山出てきく日雷 飯田蛇笏「山廬集」

寡婦の前一撃岩割る日雷 中村草田男

火の山にいどみ駆けづる日雷 上村占魚 『自門』

火の島の沖へ走りて日雷 丸山嵐人

巻貝の肉引き出だす日雷 鈴木鷹夫 春の門

含みたる水に金気や日雷 須賀一恵

吸取紙の逆文字にじみ日雷 河野南畦 『広場』

球根の闇納屋にあり日雷 町山直由

牛量る目盛くるはす日雷 中村翠湖

漁夫の婚一と日雷鳴る裏日本 齋藤愼爾

空(くう)掴む神将の手ぞ 日雷 伊丹三樹彦

空き腹のかくも健やか日雷 亀割 潔

決断を促すごとく日雷 ましお湖(やまびこ)

源内の生家に避くる日雷 野原春醪

鯉の頭の盛りあがりたる日雷 鈴木鷹夫 春の門

口で紐解きつつあれば日雷 山崎冨美子

轟くといふには遠き日雷 伊藤政美「天の森」

国栖人の貌にとどろく日雷 大峯あきら 鳥道

錆斧を抱くと那覇の日雷 橋本榮治 麦生

子を二人抱へる力日雷 近藤伸子

師の檄か突とすぎたる日雷(吉田冬葉先生句碑建立式典途中に) 河野南畦 『風の岬』

紙のごと蹠かはく日雷 能村登四郎

柔らかい時計のゆくえ日雷 米花紺子

初萩をうち渡りたる日雷 森澄雄

女系断つ直線上の日雷 宇多喜代子

将門の塚訪ふ日雷のなか 伊藤伊那男

身を賭してはげむ一事や日雷 桂信子 草影

人形の家を出ずると日雷 徳弘純 麦のほとり 以後

生き蛸の盛り上がる山日雷 平畑静塔

生駒山鳴れるごとくに日雷 茨木和生 往馬

青蘆の根のゆるみなき日雷 岡本眸

積む本の言の葉の圧 日雷 西尾千佳子(青玄)

赤米を噛めば来たりぬ日雷 原裕 『王城句帖』

浅間が叱し遠山応ふ日雷 中村草田男

煎餅合ふ力も失せぬ日雷 石田波郷

草原に牛の袂便日雷 大木あまり 火球

体操のマットの匂ひ日雷 山本左門

大*べしに似し噴煙よ日雷 小林康治

大鋸屑の中を探れば日雷 森田智子

達磨からもひとつ達磨日雷 田中美沙

地球儀の海が傾く日雷 野木桃花

竹の根の浮上がりきし日雷 小島健 木の実

忠魂碑の囲いは砲弾 日雷 伊丹三樹彦

抽斗に臭気満ちたり日雷 宇多喜代子 象

虫喰の木佛尊し日雷 山本洋子

弔電に追伸のなし日雷 中山純子

吊り皮の無表情なる日雷 小泉八重子

低くゐる厠を襲ふ日雷 田川飛旅子 『山法師』

天然氷三塊一駄日雷 中戸川朝人

頭の芯を軽打しやまず日雷 伊藤白潮

豚舎より小豚飛び出す日雷 根岸善雄

日雷うしろめたさの門を出る 波多野爽波

日雷かろがろと石摶つたりけり 岸田稚魚 筍流し

日雷かろんぜられしぼんのくぼ 小林康治 四季貧窮

日雷とおもえば二輌だけの貨車 渋谷道

日雷に咲くやおほむね白蓮 高橋馬相 秋山越

日雷応援団のうねりだす 好井由江

日雷砂を跳ね上げ雀立つ 今井ヒナ

日雷写経の硯すぐ乾き 河野美保子

日雷女に流行る野球帽 黒岩秀子

日雷水晶岳を通りをり 山田春生

日雷水大将の家震ひ 高澤良一 ももすずめ

日雷水中に立つ脚二本 宇多喜代子 象

日雷葬列が浮く田に出でて 鈴木鷹夫 渚通り

日雷孫のご機嫌斜めなり 高澤良一 素抱

日雷大和を揺する力持つ 山中麦邨

日雷泥鰌の夢を覚しけり 鈴木真砂女 居待月

日雷泥鰌の夢を覚ましけり 鈴木真砂女

日雷田を這うて稲いたはれり 茨木和生「往馬」

日雷土葬の山に近づかず 森田智子

日雷突然雉子が見たくなる 攝津幸彦 未刊句集

日雷二度鳴り火渡り続くなり 堀 古蝶

日雷皮膚蒸しつづけ製茶工 飴山實 おりいぶ

日雷百万遍の数珠太し 山中 巌

日雷母が正気に戻るとき 高澤良一 暮津

日雷木の仏頭の伏目かな 今井伊都子

日雷雷電関の碑(いしぶみ)に 高澤良一 宿好

梅花藻の水湛黙と日雷 渡邊三一子

白紙より湧く影のあり日雷 桂信子 遠い橋

髪あかき女医に診られぬ日雷 大竹多可志

磐座に 建柱一本 日雷 伊丹三樹彦

筆太き蓮如名号日雷 山本洋子

風三楼忌なり短き日雷 平間真木子

抱擁のあと問いしこと日雷 久保純夫 聖樹

亡き人の笑ひ声かや日雷 山形晶子

墨色の金うかべたり日雷 石田波郷

本伏せし仰臥の臍に日雷 森澄雄

鳴滝を宇多野に抜けし日雷 星野麥丘人

鳴瀧を宇多野に抜けし日雷 雨滴集 星野麥丘人

棉畑千里棉噴き日雷 殿村莵絲子 花寂び 以後

木偶倉に頭目をむく日雷 平賀扶人

木偶倉に木偶の目を剥く日雷 平賀扶人「風知草」

木祭の斎串つくれり日雷 茨木和生 丹生

野良帽に黄色いリボン日雷 影島智子

遊牧の民棒立ちに日雷 宇咲冬男

立山に閃光ありし日雷 坂本ひろし(ホトトギス)

露伴忌のいやにしづかな日雷 高澤良一 素抱

六斎の暗くなりけり日雷 小川千賀

帛紗捌きて余恋を払ふ日雷 近藤園子

碌山のひれ臥す像に日雷 松崎鉄之介

韋駄天の日雷ゐて妙義聳つ 中戸川朝人「星辰」

以上