【夜の雷】

【夜の雷】

いきいきと明日が来るなり夜の雷 藤田湘子 途上

かの戦さに彼我ともふれず夜の雷 平井さち子 完流

わが大き耳羽摶つがに夜の雷 藤田湘子 てんてん

一閃に白骨の温泉や夜の雷 東洋城千句

供華となす野草浸けあり夜の雷 岡本眸

塞外の大厦に泊す夜の雷 上田五千石 天路

昨夜の雷一掃したる山日和 稲畑汀子

山刀伐峠を越え来し夜の雷雨かな 松崎鉄之介

山百合をいくたび照す夜の雷火 土方秋湖

初冬や地ひびきのして夜の雷 細見綾子

榛の花どどと嶺渡る夜の雷(箱根仙石原) 角川源義 『神々の宴』

深夜の雷ひびき柱のほのとあり 原田種茅 径

真夜の雷吾子と坐りゐて聴きにける 加藤秋邨

真夜の雷傲然とわれ書を去らず 加藤楸邨

地階春夜の雷鳴をきゝとめぬ 西島麦南 人音

置く帽の藺草匂へり夜の雷 鍵和田[ゆう]子 浮標

昼の雷夜の雷水巴忌なりけり 石田波郷

天主堂の炎をさまりし外壁を浮きあがらせて夜の雷鳴る 竹山広

病む夫が重たくなりぬ夜の雷 加藤知世子

文字あまた白紙に戻る夜の雷 松村筺花

宝剣岳哮りて泛ぶ夜の雷火 小林碧郎

夜の雷にもどり冷えせり松の蕊 荒井正隆

夜の雷の遠ざかりけり絵具溶く ふけとしこ 鎌の刃

夜の雷雨終焉黒部の水増さん 福田蓼汀 秋風挽歌

夜の雷雨沼なす道に立ち憩ふ 相馬遷子 山国

夜の雷雨朝も降りつぐ月見草 水原秋櫻子 残鐘

夜の雷雨砲車に光りては消ゆる 長谷川素逝 砲車

夜の雷火巣鳥ひそめる栂照らす 斎藤 道子

夜の雷看板多き街にはげし 成田千空 地霊

夜の雷身辺に師の封書おく 桂信子 女身

遊佐(ゆざ)の夜の雷いくたびも嶺泛べ 佐藤鬼房

立冬や地ひびきのして夜の雷 細見綾子

簗守るや奥嶺にこもる夜の雷 河北斜陽

腑抜け寝に夜の雷わたる死ねとこそ 小林康治 玄霜

以上