拙句 蟹 （高澤良一）

拙句　蟹　（高澤良一）

蟹蟹と岩を起こして蟹捕る子 高澤良一 鳩信

せいこ蟹蟹丼にして唐錦 高澤良一 寒暑

蟹に眼を凝らして蟹のやうな顔 高澤良一 ももすずめ

蟹の肉せせる腕をあやつりて 高澤良一 暮津

渡り蟹の食べ殻を捨つ十二月 高澤良一 暮津

椿落つ小坪の蟹の横這い径 高澤良一 暮津

馬穴見せ蟹捕り兄弟鼻高々 高澤良一 石鏡

チゴ蟹の万歳小旗持たせたし 高澤良一 石鏡

ロンパリの蟹の目干潟観察会 高澤良一 石鏡

穴掘れり森の隠者の赤手蟹 高澤良一 石鏡

小網代の森の育てし赤手蟹 高澤良一 石鏡

コメツキ蟹健啖にして砂団子 高澤良一 石鏡

チゴ蟹の小心者に芦の風 高澤良一 石鏡

小網代湾蟹の棲み分け聞く干潟 高澤良一 石鏡

冬の虹のこのこ蟹が這ひ出して 高澤良一 石鏡

酒やれば風が募りて松葉蟹 高澤良一 鳩信

牧谿猿蟹捕へんと身を乗り出す 高澤良一 鳩信

蟹さんの型押し遊び灼け砂に 高澤良一 素抱

わらわらと乾きて蟹の砂だんご 高澤良一 素抱

蟹の眼を濡らして挙がる潮けむり 高澤良一 素抱

渡り蟹甘藻の林はすかひに 高澤良一 素抱

蟹は目を縦に上げくる潮を見て 高澤良一 素抱

韓信の股潜りかやまんじゅう蟹 高澤良一 素抱

手のこんだ咲き方をする蟹さぼてん 高澤良一 随笑

蟹さぼてん今年も花をつけぬ鉢 高澤良一 随笑

旅先の藻屑蟹めく目覚めとも 高澤良一 随笑

もくもくと藻屑蟹漁濁り川 高澤良一 随笑

纜を岩に渡して蟹捕舟 高澤良一 随笑

蟹漁の雨脚白し最上川 高澤良一 随笑

浄土ケ浜蟹の称ふるお念仏 高澤良一 随笑

四角ばる青柿の面(つら)蟹に似て 高澤良一 随笑

大仰に吾見上げては蟹あるく 高澤良一 随笑

盗み歩きする蟹そこそこに面白し 高澤良一 随笑

沢蟹のカタンと転けて宇津谷道 高澤良一 随笑

岩に手を掛けて退ければきょとと蟹 高澤良一 随笑

沢蟹も雨にもみづる凹凸竄(おうとつか) 高澤良一 宿好

岩畳蟹追いかけて追いかけて 高澤良一 宿好

お昼のニュース越前に蟹あがるとよ 高澤良一 寒暑

夜なべの肩凝りゐて蟹の甲羅ほど 高澤良一 寒暑

蟹奔らせ青嵐到る巾着湾 高澤良一 寒暑

藻畳の中にて蟹の目覚むらん 高澤良一 寒暑

沢蟹のとことこ宇津谷地蔵盆 高澤良一 燕音

沢蟹の歩むその先靴で堰き 高澤良一 燕音

蟹のいふ事情とやらを聞きやらむ 高澤良一 燕音

踊るならタンゴに如かず高脚蟹 高澤良一 ぱらりとせ

ずわい蟹両腕組んで豪のもの 高澤良一 ぱらりとせ

柿芽吹き蟹の鋏のやうな芽を 高澤良一 ぱらりとせ

来る波に蟹のたじろぐ岩っ角 高澤良一 ぱらりとせ

泡の中蟹の何やら策しをり 高澤良一 ぱらりとせ

渡り蟹いろの夕映え額染めて 高澤良一 ぱらりとせ

駆け廻り蟹は干潟のプロデューサー 高澤良一 ぱらりとせ

たらば蟹ずばと包丁入れにけり 高澤良一 さざなみやつこ

こうばく蟹波陸削る夜なりけり 高澤良一 さざなみやつこ

冬灯蟹の甲羅はキチン質 高澤良一 さざなみやつこ

口もとにぶだう運ぶは蟹めくも 高澤良一 さざなみやつこ

沢蟹の脚すりぬけて奔る水 高澤良一 さざなみやつこ

沢蟹の桔梗いろの肯を押ふ 高澤良一 さざなみやつこ

目の遇ひし蟹が脳裡にちらつくも 高澤良一 さざなみやつこ

砂蟹の穴に押し入る無理無体 高澤良一 さざなみやつこ

磯屑蟹打ちて雨脚強くなる 高澤良一 さざなみやつこ

穴を出て小蟹疾っ疾と駆け出せり 高澤良一 さざなみやつこ

つままれて脚硬ばらす磯屑蟹 高澤良一 さざなみやつこ

降り出して干潟を蟹のわらわらと 高澤良一 ももすずめ

泥を食ふ蟹を見つめて腹空けり 高澤良一 ももすずめ

蟹横に横に夕日を引摺れる 高澤良一 ももすずめ

ぴらぴらと蟹の口許南風吹く 高澤良一 ももすずめ

ぶつかつてここは譲れぬ蟹同志 高澤良一 ももすずめ

鋏抱き磯蟹波をかぶりけり 高澤良一 ももすずめ

弁慶蟹葭の葉騒に目を上げぬ 高澤良一 ももすずめ

待宵の濡れ岩隠り蟹の爪 高澤良一 ねずみのこまくら

（末尾は句集名）

以上