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時実新子1955年〜1998年全句集

時実新子1955年〜1998年全句集
   1999年1月23日発行 大巧社

共鳴句を挙げる

くしゃみ一発臍は下向く上を向く
クロサワの法螺貝消えた映画村
投げ出され目路の限りのキリン草
咳はさみしい私の音楽と思う
ヨオと声かけ浜辺の人は消え
夏の日の母子すたすたと無帽にて
ごめんなさいうちの坊やがあなた好き
この旅を思うだろうな死ぬときに
船脚を速め月(のの)さま追いかける
父のステッキ夫の木刀 男とは
くやしゅうて玩具の兵隊を並べ
高圧線越えたイチヨウの葉が二枚
桜の木 せぇーので死んだ人がいる
ゴミの日というのがあってヨモギ髪
ある日すべてがしやらくせぇじゃまくせぇ
王手飛車 春の障子に音がある
ふとんにもぐる蒼いくりからもんもんと
一生をむかむか生きたむかでかな
洗面器思い直してぺこと鳴る
ごほう日の金米糖金が降る夜だ
びらびらの朝顔 台風に勝った
私の家は梟の目のずっと奥

1

悪の華ツンツンツンと目の高さ
神サマは水玉が好き てんと虫
一色になってしまったなあピエロ
春なればねずみ賢し猫のバカ
アリクイの頭で考えた承知
わがままなアヒル身ぶるい水が散る
元のサヤという巣へ急ぐ群れスズメ
青群れて甚兵衛鮫のお正月
こんな柔らかな部分をくれた母
親方がこぶしで泣いてくれてはる
おおこの世こそ天国さ退屈さ
細めたる目に突き刺さるのはカモメ
智恵子泣く カミキリ虫に髪与え
目まで水この世見納めましたので
以後無口 人の声出す鳥飼って
「読め」という本の無礼と日本人
何考えてんだかこけし二本立つ
そうさなあ落ちたら野の蛇になるさ
星の路地 猫美しくすり抜けて
おっとっとスカンポぽんと終りけり
五十年鼻を振りつづけた象だ
もんぺ脱ぎ捨てて男をもぐらせた
ヘイ・マンボゆうべ安売りした乳房
おおおと人唸らせて鶴飛来
サボテンの針に夜露の宿るとき

2

雪ふる町なり蟹の足動く
生き残りたれば喧嘩のつづきせん
カモメはカモメ私は私逃げまどう
犬にも劣る猫のわがままにも劣る
戸袋でシオカラトンボ死んでいる
かんたんに一二の三で死ににけり
頰かむり地蔵は金を数えおり
足許のカラスぞくりと日を落とす
天に三日月 爪に三日月 美しき
見ていると馬も大きなため息だ
神戸新月 ないないづくし 靴がなし
たんとんたんとんみなさん脈を打っている
シーソーの中天に足ばたつかす
にらめっこ昆虫の眼は横につく
オジギバッタ連れて帰って夕ごはん
運命というタクシーに乗って来た
いっぺんに親を亡くした夏の空
延命の器具るいるいと父を巻く
おやスズメノエンドウが咲いている
てのひらのうすくらがりのうらおもて
錠剤の赤をころがし春立ちぬ
わたしにも少しドンガバチョの野心
博多人形ケース中で年をとる
栗はぜて一同秋の貌になる
地球儀のここらあたりが鬱の海

3

なつかしき十年前の声給う
みよちゃんの赤い鼻緒がほしくなる
時々は蹴爪にもなるハイヒール
自転車が一台雨に打たれている
ねえねえママおじぞうさまに歯はあるの
船長に海図きっちり見えている
わたくしの考えること母のこと
じゃがいもの考えること恋のこと
にんじんの考えること愛のこと
丼に箸つっ立てて戦争忌
笑ってください私の姉は見栄っぱり
城ヶ島の雨がふるふる原稿紙
わたくしに降って女々しい雪となる
うぐいすのケキョケキョなんて単調な
蛙二匹複式呼吸ばかりして
ろんろんと地の橇何を求めゆく
帽子は胸にピンカートンの船が出る
除籍入籍 椿ぽたぽた落ちる中
髪はらら木の葉はらはら原稿紙
なさけなやうどんをすするおとの中
渾身は美し 夏みかんに爪
しあわせなふとん叩きの音の中
離婚こんこん雪やこんこん人の世に

4

台風に病衣の百をひるがえす
蝦蟇もまた一点凝視昏れなずむ
しあわせよトントン葺の屋根の下
よろよろと手をつくところ春の草
鬼も蛇もおいでめされの味噌雑煮
ののさまは千変万化雲の中
ニコチンのいのち知らずの指愛す
餅を切る渾身 細身しなわせて
アイロンがすべって早い秋だこと
たとえばの話の多き九月かな
完りとせシャボンの匂ういのちとせ
夜明けかな美は乱調にありて 乱
またあした遠いあしたへとぶとんぼ
チョン とどこかで柝の音がする
夢のよめはん夢のむこはん夕ごはん
桑食んで大きな繭になるつもり
杉ふかき山を渡れり越天楽
雀騒然の夕ぐれ出て旅へ
一羽来る含み啼きしてまた一羽
柳川の秋は秋とて秋ざくら
一斉に風鈴売りよ手を放せ
見てごらん鰯の目玉つなぎだよ
起きて寝て枯木枯色安んずる
水仙の二本は二本匂ひたつ
出てみれば雨 手に受けて春の雨

5

新しい傷にひりひり狐の湯
昔から月は鏡でありました
別居してわが身の丈に合うふとん
堪忍の袋もいつかうす汚れ
まっすぐに歩く日があるチンドン屋
夜汽車には横顔がありふるさとへ
耐えがたきことはあるもの下ろしがね
流木を集めて焚いた火の赤さ
巻寿司を一本巻いてわが祭
からすうり人待ち顔にのんしゃらり
生まれた日からずっときょうだい莢の豆
馬もまた彫られて肢(あし)を空(くう)に置く
秋の雪ふるふるうすれゆく視力
阿呆阿呆はもういいのだよカラス
ねころんでふるさと噺秋立ちぬ
絵本からときどき居なくなる駱駝
はつなつや金の生毛をもてあそび
あじさいが何さまだ咲くなおも咲く
すかんぽのぽかんと今があるばかり
十日見ぬ鏡三年会わぬ親
蟹よりもぶざまに夏へ辿りつき
春うららうらら建物解体屋
めまいかな兼六園の大緑
じゃんけんの好きな男の妻になる
ビール缶ぺこんと暮らし荒れてゆく

6

大空へキリンの首もさみしかろ
子供から貰うじゃんけんぽんの石
霜の夜に干した軍手の指かたち
海にふる雪を見ていた誕生日
笑いはじけて夜の新宿さみしかり
大寒の鋏が切って捨てるもの
そういえば鳶(とんび)に会わぬきのう今日
自転車に第二国道霧深し
一月や凜凜と星凜と花
さっきまで青大将がいた垣根
サイレンの尾のどこまでが秋の海
鬼の目に涙じわじわ小春かな
泣くことに飽きれば草のきりぎりす
大阪の何橋ならん橋の上
あかさたなはまやらわとて入院す
春雷の腹を渡るにまかせたり
てのひらでゆっくり洗うお大根
蟹の赤椿の赤の根くらべ
戸が風を誘うとんとん隣組
銭湯の中はつくづくこの世だな
生きておれば下駄からころと銭湯へ
親の住む空のあたりのいかのぼり
正月の電車の隅の決意かな
こおろぎの顔つくづくと四十すぎ

7

びやだるぽるか数々逢ってみても冬
更年期みかんの花が咲いている
夕立の中で別れて西東
ポチよ悠然と歩け 王様になれる
トンネル鉄橋トンネル鉄橋人生は
耳鳴りはわたしの華やかな楽隊
別れしゃんすなと春雷轟けり
安らかよあんなところにお月様
月美しと やにわの羽交締め
ともだちに電話をしよう春が来たと
犬の散歩はすませたそれからの日長
しなやかに鹿になりきる雪の夜は
いちめんの椿の中に椿落つ
突つかれて丸くなる虫丸くなれ
一本道でこうもり傘が小さくなる
天井よごらんの通り昏睡さ
大掃除泣いたカラスが笑うまで

8

蟹の穴には蟹のくらしがあろうもの
梨の袋まあたらしきに旅新し
冬の小川はさらさら行くよそうですよ
力点は眼光にあり持国天
男とはいいな正統西部劇
感傷もたかだか傘の雫だな
連弾のとぎれのちぐはぐな二人

9

妻帯者なればズボンに折り目あり
その朝は衿を立てないジャン・ギャバン
落し紙はらりと人もはらり死ぬ
ベンチから一人が起てば鳩も立つ
傘さして独楽は一日綱渡り
あだたら山の雪は光っているだろう
生きんとて蝉はみるみる蝉色に
梨の芯かなしいせっくすがおわる
父が生きる日数に動く冬の蠅
ひとしきりひとをそしりぬ鳳仙花

鯉に麩を奪られてばかり亀の口
越天楽きぬずれはわが音楽にて
スイスイと空の燕も無職かな
なにはなくともほっこり芋が箸の先
赤とんぼ竿にもどって深い息
菜の花のべたべた泣きも策ならん
生きてきて雪の卍の中に在り
念佛踊り次第次第に声高に
としむかえカチとライター鳴らしけり
カルメラがふくれ美少女母となる
よくねむりよいにんげんになれそうな
みちづれのみかんに話すことがあり
塗り箸に顔を映してひとりぼち
じんとくる手紙を呉れたろくでなし
秋風に角力人形おっとっと
てんまりや秋へころげて戻らざる
割箸で背中を掻いているわたし
つくづくと独り 秋立つ風よろし
鬼と暮らして鬼のふんどし洗いおり
結んでひらいてそのてのひらに雨ぞ降る
別れるに一番星を指さしぬ
たんぽぽはたのしや屋根の上で咲く
ひとしきり浮巣も揺れる春嵐
何を書かんと習い覚えしいろは文字

10

鳥網を破って来たか三度笠
大切になさい魚の浮袋
今日こそは桃が流れてくる小川
まっすぐに今来た道は蛇行せり
青梅を叩き落として夫婦かな
一山を越えて大慈大悲のふところへ
唐草の風呂敷包み御用なり
夜をこめて追いくるものに瞽女の三味
春風に乱れつづける心電図
春もおわりの紅指で紅さすよ
運命が変わるぽっかりお月様
大寒む小寒む別れていった男下駄
暗転の舞台の袖も冬景色
一丁の豆腐に涙したたりぬ
いっしんに崩しつづけるかき氷
中年やぱッと火がつくセルロイド
みつめると光を増しぬ兜虫
爪きってもらうルノアールの女
一心の糸が通った針のみみ
一心に見ている水に降る雨です
菜の花の菜の花色に遇う四国
スリッパの他人のぬくもりは他人
やわらかきやさしきみかん十二月
子無し親無しカーンと空がひろがって
炎天の塀を曲がって 一つ済む


11

水に流して それは小さな日本人
舟虫よお前卑怯でうつくしい
佐渡を見ず佐渡に横たうものも見ず
かの子には一平が居たながい雨
木に春が来てハガキなどに書いている
魂が並んで珈琲のんでいる
個展出て雨の一粒手に受ける
水があれば椿の花を旅立たす
軍人ぞ死ねよ生きよは御意のまま*小野田少尉四句
挙手の礼浮かれの国に還り来て*小野田少尉四句
何かが完(おわ)る予感の中の葱の花
すずなすずしろみなはなをつけはるのかぜ
水たまり鳩が歩いて鳩の彩
なわとびに入っておいで出てお行き
三人が黙ると風が出たような
ゼルソミーナよ茶色の道は真実だよ
鳩も女もせっせと歩く 男も歩く
ほッとするゴミが出て行く朝なりき
東京無頼 風は地下から吹いてくる
何だ何だと大きな月が昇りくる
いっまでを残像ゆれて冬晴れぬ
男の夢も小さくなりぬマイホーム
いくつもいくつも紙の兜は出来上がり

12

友らうま酒揃う手拍子北のうた*秋田九句
おどろおどろと生身魂(なまはげ)生まれ急な闇*秋田九句
波頭眼下に男鹿の薊を横ぐわえ*秋田九句
島還る日も蛇皮線は哀調に
日本国沖縄県に砲座あり
ふたりだまって浮子を見ている四月馬鹿
さんさんと墓に春光 安んずる
春になれば春になればと何待つや
牛の鼻くすぐったいぞ春なのだ
雪の日は雪よりしらしらと笑う
チンドンとしばらく歩き涙しぬ
水枕 海は三鬼のものなのか
集まって虹まで走るヨーイドン
芹なずなごぎょうはこべら私の座
灯の底であしたの爪を剪りそろえ
正月の不甲斐なき身は蜘蛛となれ
豚の鼻ピンク新年おめでとう
つーッと蛍 愛の距(へだ)たりうべないぬ
入学の桜はよろし万と咲け
生き愛したスタンダールも私も
煮魚の姿崩れず原爆忌
父あわれ太田胃散が膝に散り
足芸の樽がくるりと中年や
春の蚊のみどり見ているやさしくなる
彼女利発 赤い財布に鈴つけて

13

ぼたん雪看取りの窓に降りしきる*師川上三太郎逝去四句
春寒のハガキ一枚書き余す*師川上三太郎逝去四句
数え唄四つ五つは親の愚痴*師川上三太郎逝去四句
もう◯をもらえない句を書いて書いて*師川上三太郎逝去四句
小さき墓をふるさとに建てる旅
鉄棒の鉄の匂いよ別れしよ
撫でている姑の背中未だ他人
人間に捕まるトンボ愛すべし
笹舟の行方しのつく雨となる
おかめひょっとこ秋風の居酒屋です
骨一握り人間って何だろう
寝ころべば青むんむんと中年へ
まあるく生きてお日さまがありがたし
パンのみに生きる日もあり高笑い
形式ワム90000の貨車出ていった
惜しや惜しや爪の先まで子が惜しや
お嬢さんをくださいと言う何を言う
ルーレット廻るはるかに愛傾き
お笑いを一席という仏あり*北条五百羅漢十八句
語り出す仏のわれもかれもかな*北条五百羅漢十八句
十日町まだ見ぬ雪のふるふる町
水風呂にぽかりと浮いてやろうかな
家中のガラスを割っているこころ
絵ハガキをあふれんとする女文字

14

鮮やかな死だいっぴきの金魚の死
雑巾をしぼる力のない笑い
あばら骨こしゃくな息をくり返し
すべて嫌 臍の緒を世に残すさえ
一心発起さやえんどうをむいている
極まりて漫画のごとき涙つぶ

極月のてのひらなれば萼(うてな)です
あくまで白し十一月の喉(のんど)かな
十月の藍の晴着に享く光
脈うつは九月の肌にして多恨
八月の蝉からからと完(おわ)りける
七月に透ける血脈陽を怖れ
六月の雨まっさきに犬に降る
美しい五月正当化す別離
三月の風石に舞うめくるめき
二ン月の裏に来ていた影法師
一月に生きて金魚の可能性

何とこころに沁みるミミズの唄ですか
塀の向こうに三人は居る笑い声
ためいきのあたりにポッと白い花
せつない青できょうの水平線くっきり
傘を支えに歩く精いっぱいの日よ
思いつめしままに未明の鴉たり

15

雄であるだけの男と見ている沖
愛おわる蟹の穴から蟹が出て
すいと水鳥おどけてタイムイズマネー
ふと明るしページの上のてんと虫
暑き日は暑き思ひに膝を抱く
子の鼻のニキビに猛暑つづくなり
赤ちゃんのパウダー匂ういい夜風
この夜ひそかに愛は重しと日記せり*療養所十三句
人の死はかくも静かにビル建つ音*療養所十三句
笑えば笑うそのかなしみを知り尽くし*療養所十三句
生きたしと本当に言うふたつの瞳*療養所十三句
しょうのないひとをふんわり包む笑み
掌の中の雀しみじみあたたかし
石のねがいは石であること此処に在ること
足裏にナンバーしるし買われゆく
捜す手袋虫りんりんと近く鳴く
ああああと言えばどうしたのどうしたの
万人に万の思いや石黙す
片足を置く地さえない鶴である
あなたは去った 月夜の猫のあしのうら
少し弱気なこの子空中戦が好き
みかん一個置かれしままの曙か
クラクション 馬鹿と叱ってくれた人

16

ここにこうして坐っていると冬が好き
飛ばぬ蠅迷い迷いつ見て居たり
開けゴマ愛の言葉のからまわり
人は人虫はいのちを鳴きしきる
病む人がじっと見ている梨の蠅
病人にゆらゆら月見草ひらく
オルガンは陽気とぼけた空がある
噴水をただ美しと見る日あり
沛然と降る呆然と立っている
人を待つ台風の来る空の色
願望のひしめき合うて紙の鶴
風船を追うどこまでも春の空
保護者母無職と書いて母を見る
受験子の本でふさがれきった窓
完敗のああにわとりは丸裸
今日もぶらぶらこのひとのボタン
女は魔物時に女もそう思う
明日の心は定まっている枕許
包丁で指切るほどに逢いたいか
そこらまで歩こうという別れの日
生きている価値は何だろ影法師
煙もくもくもくもく生きてゆき給え
妻として手にするもののみな寒き
かかる日のチャールストンのよきリズム
乾杯と未来が好きな男たち

17

猫の鼻ももいろ恋は素晴らしや
後悔の心にポストぬうと立ち
ばらいろの雲を迎えた朝のこと
耳の奥去年の蝉が鳴くばかり
風船の指離そうか離そうか
かわいそうな人を男は好きになり
淋しさの桜は白しただ白し
裁ち鋏シャリシャリ人を忘れたく
煉炭の穴と向き合う幾日か
しまい忘れた下駄へしゃんしゃん積もる雪
寝て起きて立って歩いて日が暮れて
りらるるれ私の心安泰だ
くやし涙をだくだくとして吸う枕
よく笑う妻に戻って以来 冬
何を弾みに起き一日の序となすや
孤独きわまり動物園に立っている
売った血の色くらくらと市電待つ
売店の灯りのように他人やさし
いつまでの生どこまでの迷いなる
りんどうは卓に開かず便り来ず
眠れ眠れ夜はしんしんと子が育つ
背にはぜる花火追われる歩となりぬ
アベベ走る走る直線コースなり
ドドンパを踊る正気に戻るため
生きて来た道青青と生まぐさし

18

抽斗の中も五月に染まりける
花を見るごとく子を見る日もありぬ
突然に涙おかしいほど涙
手を出して霧の冷たさ確かめる
ゆずられた本の匂いをなつかしみ
ぬくい雨例の気儘が出そうなり
心の声を聞かれたようでふり返り
水仙のあさましきまで匂う宵
崩れきる間際に書いた人間詩
私から狐が落ちてみすぼらし
輝いて珠あり心貧しき日
尾道を過ぎて列車に灯が入り
脱線の叶わぬ汽車に似て走る
誤解されたままでトンボも秋の色
運命は赤の一色ファンファーレ
陽が射したように待人現われる
ウインクをしてくれますかダッコちゃん
四人掛け四人黙って汽車走る
別れての私は夜のアドバルン
まっすぐにみつめてありがとうを言う
ぼんやりとやがて己れの無知を知る
あまりにもかぼそきうなじ前をゆく
向き合って兎のように食べている
性急に求めみじめな風の中
見ていると鴉に友のある日暮

19

哀しみをさとらせまいとして多弁
灯台のとどかぬ海に置くこころ
知っていますがキューピーは黙っている
恋成就バンザイをさせるキューピー
どうしてくれよう手紙の喧嘩じれったし
ほんとうの愛は愛はとくどい人
あなたを石にして腰かけてみたい
北風の心にスフィンクス坐る
悟るには遠くさんまを裏返す
新しい棚を心に吊る日あり
目的があって毛糸の玉愉し
絵になって残るやりきれない昨日
冷えきって輝く月をこそ性(さが)と
絆断ちたし進水式の船の如く
バッカスに魂を売る目の赤さ
さびさびと蚊帳の吊手の鳴る夜なり
清流にひたした指が鮎となる
真っ黒な夜気を自縛の縄とせん
三十歳駻馬に怖いものがなし
ゆっくりと引き裂く便箋紙の自嘲
吐き捨てるガムに女の貌がある
干す物の全き白に妥協なし
そらまめのふふみ笑いの五月晴
どちら向いても壁は味方にあらず壁
序曲いま薪に燃えうつる炎


20

背信の事実を前に海がある
傷ついた狐に山の湯があふれ
たんぽぽを吹いて小さな悔いと居る
男の眼金色巨き怒りなり
まなこふたつ憎悪にもりあがる泪
平手打ち頰に鳴るとき物と化す
メタンガスのあぶくあたしのひとりごと
野の佛死をも生をも頷かれ
ぬかるみを越えたら言おうその言葉
くしゃみひとつ夜の貴婦人の鼻を折る
他人ならいっそ憎んですむものを
犯すにも似て座ぶとんの紅に坐す
乗りおくれまいとうしろも見ない人
めくるめく闇に言葉は生きて刺す
不要なら捨ててとエンピツが折れる
鳥籠を小さく飛んでみた鳥か
通過駅小さく寒く我に似る
胸張ってみよう希望がともるかも
腹這いて思うお金のことばかり
欲しいものひとつずつ消し夜を眠る
だます気かしらと花びら嗅いでみる
味噌汁のどろりどろりと失意抱く
レコードを鳴らしつづけて弱虫奴
騙されているのかしらん月夜道
乞焼却はいはい焼いて忘れます

21

秘すこと多く母と対している灯火
十二時を十二数えてなおさみし
号泣を湯舟に沈め雨に消し
泣くことも叶わず茶房出て巷
頓狂に笑ふ心の貧しい日
さよならというくちづけは髪に降る
呼ばれたようで振り向く野辺に風が立ち
詩をそらんじて大根の値に遠し
添うて十年 夫婦に木曽節のリズム
敗けて勝つそんな言葉も女ゆえ
貯めてきた言葉は無駄なものと知る
赤電話人の足音次に声
ざわざわと日昏れてほッと聞く時報
さんまさんま春夫の詩(うた)を子と唱え
ばら色の卵透かして癒りたし
母さんが一番好きよ抱っこして
ベルリンフィル心の起伏そのままに
その上にまだ同情という侮辱
方角オンチ廻れ右して悔いもせず
絶望の交響曲が鳴りやまず
大勢の中で心をみつめ合い
朝の鏡生きる望みをみつけよう
子をなぐる蹴るよ男は子を産まず
不用意な貌ライターに見られたり
つづれさせこの虫はわが味方なり

22

茶房の灯それより暗く君語る
待針のように素直になってみる
きき分けて子が手を放す赤とんぼ
たわむれに叩けばあばら音をたて
目薬の冷たさ不意に秋を言う
子のひとみ澄んで私が映りそう
とびついて来ぬ子がさびし鰯雲
子を呼んでほら三日月がきれいでしょ
線香の匂い故郷が呼んでいる
泣いた目にメガネかけさせ笑うかな
病む人が今年の早い蝉を言い
暴力やゼルソミーナの星光る
現実は忘れなさいと星が出る
泣きじゃくる箸冷奴またすべり
子の目にはこよなく大切な私
とり返しつかぬ受話器をまだ握り
トウシューズ子は白鳥になりたがる
カリプソのリズムの中に罪が消え
椅子に脚組んで煙草を吐いてみる
玩具より安いひよこが歩かされ
観音の御手をこっそり真似てみる
詩を愛すも君ヌードショー見るも君
二束五円のほうれん草だ子供たち
しあわせをひょいと感じるゴマがはぜ
こんな日に海は光っているだろな


23

子に負けて戻った街が夕焼ける
釣り銭の手が触れ少年微笑する
平凡な朝の歯ブラシ縦横に
君と行く春のコートが風はらむ
長い影よ夕やけ小やけ唄おうか
レコードは恋はやさしを繰り返し
われに棲む女をうとむ夜が来る
独り居てふとなつかしい煙草の香
わがことになれば涙を溢れさせ
橋をゆく母子の影が水に揺れ
水仕事男の目にはふびんなり
毛糸玉はにかむように減ってゆき
胸にあるホクロは消えず遠い恋
頼る人なくて鏡の目をみつめ
寝顔だけこの弟を好きと言う
こんないい月夜を救急車が走る
ポマードのおなじ匂いと乗り合わせ
年の差を思う夜道は石ばかり
蒲団縫いあがれば子らのダイビング
子供だと思っていたに鉄の意志
秋のバス秋の灯をつけ通り過ぎ
墓参道飲んでいただく酒を提げ
物干で他所のしあわせ見ています
命ある限りと言ひし名は男
故郷(くに)へ向く汽車で子の髪梳いてやり

24

青年の理想だまってハイボール
ただ生きてきたそれだけのひと昔
空青くかんかん虫は歌が好き
六月はしのび笑いに暮れてゆき
灯を消せば誰憚らぬ涙なり
中年女の顔にわたしはなりたくない
箸重ねて洗う縁をふと思う
自信ある眸(め)を見返してたじろがず
体温を奪い取るよう日が沈む
きっちりと衿を合わせて一人寝る
お嫁なんて真平ですわヘイマンボ
女にはさびしい程の仕事好き
心読む目でまっすぐにみつめられ
ボタン取れそうなまんまで今日が暮れ
宿題はできずトンボはよく釣れる
月の道だまっていても揃ふ足
電話では失礼やって来て邪魔な
竹光で斬られて母は死んでやり


25
(高澤良一)


by 575fudemakase | 2021-01-14 15:48 | 句集評など


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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