拙句 月別俳句抄 9月新
拙句 月別俳句抄 9月新
俳句 時候・天文・地理・生活・行事・動物・植物
■時候
九月 /葉月 /仲秋 /八朔 /二百十日 /秋の朝 /秋の昼 /秋の夜 /夜長 /秋彼岸 /秋分の日 /爽やか /冷やか /九月尽 /
■ 天文
台風 /野分 /秋の虹 /秋夕焼 /初月 /二日月 /三日月 /夕月夜 /露 /月 /待宵 /名月 /良夜 /無月 /雨月 /芋嵐 /十六夜 /立待月 /居待月 /臥待月 /更待月 /宵闇 / 霧 /富士の初雪 /雁渡し /青北風 /鰯雲 /
■ 地理
秋出水 /花野 /初潮 /秋の潮 /秋の海 /秋の水 /水澄む /
■ 生活
休暇明け /震災忌 /風の盆 /秋の燈 /燈火親し /夜学 /夜業 /夜なべ /夜食 /秋意 /虫売 /敬老の日 /月見 /芋水車 /衣被 /秋の蚊帳 /秋簾 /秋扇 /秋団扇 /秋日傘 /秋袷 /美術の秋 /牡丹植う /秋の球根植う /竹伐る /
■ 行事
西鶴忌 /生姜市 /鬼城忌 /子規忌 /秋遍路 /
■ 動物
虫 /松虫 /鈴虫 /馬追 /蟋蟀 /竈馬 /草雲雀 /螽蟖 /轡虫 /鉦叩 /邯鄲 /茶立虫 /蚯蚓鳴く /螻蛄鳴く /地虫鳴く /蓑虫 /蟷螂 /芋虫 /放屁虫 /秋蚕 /秋繭 /蜉蝣 /うすばかげろふ /草蜉蝣 /蜻蛉 /秋の蝶 /秋の蠅 /秋の蚊 /蛇穴に入る /穴まどひ /雁 /燕帰る /秋鯖 /太刀魚 /秋刀魚 /鰯 /鮭 /鱸 /鰡 /鯊 /鯊釣 /鰍 /菜虫 /
■ 植物
秋草 /秋の七草 /芒 /撫子 /桔梗 /沢桔梗 /女郎花 /男郎花 /藤袴 /思草 /菊芋の花 /葛 /葛の花 /萩 /藍の花 /枝豆 /芋 /芋茎 /曼珠沙華 /鶏頭 /葉鶏頭 /薄荷の花 /芙蓉の実 /早稲 /竹の春 /草の花 /秋海棠 /紫菀 /蘭 /釣舟草 /松虫草 /竜胆 /鳥頭 /富士薊 /秋薊 /コスモス /吾亦紅 /真菰の花 /杜鵑草 /狗尾草 /風船葛 /露草 /蕎麦の花 /糸瓜 /瓢 /鬼灯 /唐辛子 /秋茄子 /紫蘇の実 /生姜 /貝割菜 /間引菜 /胡麻 /玉蜀黍 /砂糖黍 /黍 /黍嵐 /稗 /粟 /桃 /梨 /葡萄 /木犀 /
■ 季語「九月」
以下、季語に例句の無いものがあるが、それは小生が作句しなかった為である。
例)
◆時候
九月 /
風立てる其色月の橋わたり ぱらりとせ
取り逃がす石鹸九月の銭湯に 暮津
冷蔵庫の中も九月となりにけり
含羞草九月過ぎれば忘れられ
注書きは九月某日旗日の景
コップに張る水うつくしき九月かな
気の早き九月の自然薯掘に遇ふ
鯵刺の翼九月の雨弾く
鈴懸の大いさ九月来たりけり
返却日書き込む九月のカレンダー
わたつみを九月間近き雲の飛ぶ
(末尾は句集名)
葉月 /
弔旗垂れ雁来月端(はな)紐育 随笑
ハイキング気分で葉月のフランスパン
打水やあつさ葉月にずれ込みて
仏壇より借りくる葉月のチャッカマン
事務机深く坐りて雁来月
なまる身を歩きて正す雁来月
(末尾は句集名)
仲秋 /
擦過音身ほとりに殖え秋半ば 素抱
仲秋の或る晴れた日の耳掃除 暮津
仲秋の雲片づけに風が出て 石鏡
仲秋の月にいろいろ名を付けて 暮津
仲秋のある日切符を買ひに出て
街並にユリの樹泥み秋半ば
秋半ば中途半端に色づく葉
忘れっぽくなりしとおもふ秋半ば
仲秋のひかり潜りてあめんばう
秋半ば木乃伊作りのアビヌス神
セザンヌの裸体習作秋半ば
最上仲秋夜は遡る川の音
家に日が奥深く入る秋半ば
仲秋に入りてくしゃみの走りかな
(末尾は句集名)
八朔 /
伊予柑を横目八朔買ひにけり さざなみやっこ
八朔の雨吹きかけぬ一遍像
八朔の水のとりわけ銀化かな
八朔の雀降り立つ朝の土
八朔の本場もの食ぶ因島
二百十日 /
稔り田に二百十日の風の跡
吾に迫る二百十日のはたきの音
厄日なるハタキの音に追立てられ
二百十日一生の厄既に負ひ
胸板の手術痕撫で厄日の床
一病を持てばことさら厄日など
秋の朝 /
秋の昼 /
きゅっと鳴る紅茶の砂糖秋の昼 宿好
実習の指圧のいろは秋の昼 素抱
秋の昼着たきりすずめ本を読む 寒暑
石像のテーベ市長と遭ふ秋昼 燕音
略図又出して確かむ秋の昼 暮津
蝋の香を立たせピザ焼く秋の昼 暮津
秋の昼パンは餡もの挟みもの
広々と使ふ銭湯秋の昼
わが時間だう使ひても秋の昼
大型書店秋昼の灯を無駄使い
白き花叩きて秋の昼の雨
鶏糞のふんぷん秋の昼深し
案内を乞へる牛舎の秋の昼(吉田牧場)
ピザ生地をまだのし足らぬ秋の昼
麺麭屑の衣より零るる秋の昼
赤ん坊の地蔵顔みる秋の昼
高座着の絽からつむぎへ秋の昼
捨てるもの選り出してをり秋の昼
秋の昼とある電話の受け答え
秋の昼眼を振り回す眼医者かな
ご本家の猫なで声や秋の昼
閼伽を汲む音の森閑秋の昼
岩風呂の岩に手を置き秋の昼
(末尾は句集名)
秋の夜 /
さきに寐し秋夜の妻の後向き 石鏡
秋の夜の妻の戸締り念入りに 素抱
秋の夜の字幕に友情出演と 暮津
秋の夜の明るさ違え二タ間の灯 石鏡
秋の夜を忍んで日劇ストリップ 暮津
秋夜読む「扨化狐通人(さてもばけたりきつねつうじん)」 燕音
等類の右へならへに倦む秋夜 宿好
夜や秋の手にとりてみぬ不審紙 ももすずめ
秋の夜の夜な夜なごとに明恵の哥
吾はテレビ妻はパズルを解く秋夜
夜半の秋時間足らねば手を抜いて
秋の夜の屋台提灯曳き別れ
続編に當たったためしなき秋夜
山妻の背中の見ゆる夜半の秋
秋の夜の眼鏡の置処またも忘れ
秋の夜の長湯の爪にハーブの香
(末尾は句集名)
夜長 /
◯△口圖判じゐる夜長 (仙厓円相図) ももすずめ
うさんくささうに答えて夜長の眼 暮津
カーテンの鈎付け長夜の植木算 燕音
ここ迄と長夜の本の耳を折る 寒暑
しびれてはうめく草津の夜長の湯 随笑
テレビ切るその後長夜のあるばかり 随笑
ながら族夜長妻針持ち出して 暮津
ポットの湯底ついてゐる夜長かな 石鏡
めいめいの部屋に引きとる夜の長し ぱらりとせ
一人酌む酒は蓬莱宿夜長 素抱
一人泊つ長夜に飛弾の味噌せんべい (高山市内) 素抱
火の始末等して長夜さあ寐よか 石鏡
外骨に引きずり込まれ読む夜長 (滑稽新聞) さざなみやつこ
宿炬燵山の夜長を如何にせん 燕音
出し渋る本こそよけれ長き夜に (柴田宵曲文集) 鳩信
寝余ればまた起き出して長き夜 寒暑
人間が単純になる湯に夜長 燕音
水飲んでそれからする事無き夜長 寒暑
節黒の杉板囲ひ夜長の湯 随笑
地蔵湯の道順聞いて夜長人 随笑
宙を飛ぶ倉を目で追ふ夜の長し (信貴山縁起) ももすずめ
長き夜のごろ寐して読む手が痺れ 石鏡
長き夜のつれづれに湯の効能書 (北九州行) 鳩信
長き夜のどうでもよき句は読み飛ばす 宿好
長き夜の更かし方にも夫婦の差 暮津
長き夜の首を傾げて吾が略字 石鏡
長き夜の寝惚先生文集読む 宿好
長き夜の大方は反古棚の本 寒暑
長き夜の灯を引き込みて先斗町 宿好
長き夜の熱きが薬地蔵の湯 随笑
長き夜の本を持ち替へ持ち替へて さざなみやつこ
長き夜を読ませる宵曲妖怪譚 鳩信
敵(かな)はない人の句を誦す夜長なり ぱらりとせ
澱む茶のごとく坐しゐて夜長の底 暮津
湯花咲く夜長の宿の湯引き樋 随笑
湯疲れや長き夜に倦み生あくび (後生掛温泉) 寒暑
買置きの煙草の尽きし夜長かな 石鏡
問い掛けに返事が返って来ぬ夜長 暮津
夜を長く感じ始める灯の許に 暮津
夜を長く長く使ひて栗を剥く 寒暑
夜長妻予期したとほり生返事 暮津
夜長宿ぎうと犇めく草津町 随笑
夜長宿宴席の名も草千里 鳩信
夜長咄狐が人を騙す型(かた) 鳩信
連れ立ちて湯畑巡る夜長人 随笑
廊に群る夜長のスリツパ鼠めく ねずみのこまくら
汐干狩せし夜長湯に肉(しし)ふやけ
長雨と長き夜毎の三秋へ
やりかけの溜まり放題長き夜
問い掛けに返事が返って来ぬ夜長
長き夜のからだを絞り浪花節
少しづゝ読む本夜長に慣れまじく
火の始末などして寐ねんこの夜長
長き夜の雨の厠にしんと佇つ
蓑虫のごとく重ね著して夜長
買い置きの煙草の尽きし夜長かな
ありあはせのものを羽織りて夜長かな
骨残し夜長の鰺の南蛮漬
長き夜の始まる鍋の細火かな
長き夜を島田の長唄祭かな
長き夜に飽きしと母が二階より
あっさり酔ひもう老人や夜長宿(末廣当主より酒賜れば自嘲一句)
ひとり酌む生酒利きて夜長宿
長き夜の水を一杯飲みに起つ
長き夜といふはこれから二十日月
気に懸かるところメモして夜長月
夜長宿手酌地酒の蓬莱に
まなうらに屋台泛かべて宿夜長
高山の東(ひんがし)に泊つ夜長かな
指圧して躰ばらばらの夜長
蟻潰す手すさび雨夜長ければ
宵曲の面目茲にある夜長
夜長咄狐が人を化かす型
長き夜のエレキにかかるごと読本
湯の花は水虫に効く宿夜長
長き夜の二階にもゐる宵っ張り
枕上音立て点ける夜長の灯
長き夜の南座の灯を川越しに
長き夜の足湯の効能話かな
湯畑に洩れをり宿の夜長の灯
うつらうつら川床の鳴る夜長宿
湯を浴びて羽前最上の夜長かな
長き夜の眼鏡外して文字確認
旅泊てのここに幸あり夜長の湯
磧の蛾夜長の宿の灯を取りに
画家蛇骨描ける作に夜長かな
本の上に眼鏡を外す夜長とも
妻よりさきに寝床に入る夜長かな
豆電球点けて夜長をなほ長く
よその家夜長の電話ながながと
何か鳴く夜長の椅子の脚あたり
孫が出て何やら長き夜の電話
長き夜に首擡げたる大鯰
長き夜の書架に辞林の背の古りて
夢も見ぬ長き夜のまた始まりぬ
長き夜の長き電話の話声
夜長宿後生掛温泉七つの湯
長き夜の湯治療法板壁に
(末尾は句集名)
秋彼岸 /
お供物に両手塞がる秋彼岸 暮津
からからに乾く桶提げ秋彼岸 暮津
夏ものをまだ手放せず秋彼岸 暮津
果物の芯の錆び出す秋彼岸 暮津
言替えても痴呆は痴呆秋彼岸 暮津
寺に自転車乗りつけてあり秋彼岸 暮津
秋彼岸供花の包みをほどく音 暮津
秋彼岸親仁(おやじ)に逢ひに田沼まで 石鏡
線香を身寄りの墓にも秋彼岸 暮津
町中の墓地通り抜け秋彼岸 暮津
認知症とはけったいな秋彼岸 暮津
判りにくき墓地の地図見て秋彼岸 暮津
墓地の塀少し撓んで秋彼岸 暮津
妹が姉を誘ひて秋彼岸 暮津
めいめいが一役こなす秋彼岸
素焼鉢西日を吸ひて秋彼岸
桜いっぽん墓地に突出秋彼岸
止められぬ煙草のけむり秋彼岸
墓地の路細くややこし秋彼岸
秋彼岸風に塔婆の鳴るばかり
線香焚く灰転がりて秋彼岸
秋彼岸細き径経て広き道
桶の音一つ響けり秋彼岸
がやがやと墓を取り巻く秋彼岸
女ごゑ墓に挙れり秋彼岸
線香の煙に巻かれて秋彼岸
遠縁の墓にも線香秋彼岸
秋彼岸墓地で一服して退散
人気なき墓地に日の差す秋彼岸
秋彼岸日差すばかりで墓地無人
供物らに両手塞がる秋彼岸
人絶ゆることのまゝあり秋彼岸
田舎より施食の通知秋彼岸
秋彼岸雨の階(きざはし)一歩づつ
病葉の谷戸に振り込む秋彼岸
顎の髯おのづから伸び秋彼岸
日当りよき墓地の脇道秋彼岸
目新しき卒塔婆の立つ秋彼岸
供花のいろ大方黄勝ち秋彼岸
(末尾は句集名)
秋分の日 /
秋分の木造駅舎の日章旗 (金澤八景駅 懐古) 鳩信
秋分の一と日を使い切りにけり 暮津
着おろしの秋分の日の麻下着
菊括る紐長すぎて秋中日
秋分の草叢に日の強くさす
(末尾は句集名)
爽やか /
阿蘭陀万才手書きの髭も爽やかに (栄町 阿蘭陀万才) 燕音
飲みしゃぶる爽やか赤ちゃんあくびする (初孫 美雨 誕生) 燕音
遠野民話聞きゐる両の耳さやか 寒暑
御所車金具さやかに大八台 (屋台 曳き回し) 素抱
指圧爽やか突手柳手拍打叩打 素抱
船頭の地下足袋さやに舟下り 随笑
爽やかに土地人の云ふ乳首山(ちちくびやま)(安達太良山別称) 石鏡
長生きしてさやかに使ふ象牙箸(岳父) 暮津
鼻唄さやにお医者様でも草津の湯でも 随笑
風爽やかピザは高原野菜入り 暮津
籾殻枕爽涼の声挙げにけり 暮津
耳毛きる音も爽やか散髪屋
円空佛さやけし飛弾に五百体
白馬岳の空中散歩とは爽やか(観光キャッチコピー)
爽気充つ三角岩と直立松
卓上の白布にリンゴ爽気立つ
「陸舟の松」とさやかな名を賜ふ
同窓会の誘ひさやけし皆還暦
何でも入る屑籠があり秋爽に
秋くると目にはさやかに鼠の尾
秋はさやかに花巻神楽権現舞
白煙りさやかに地熱発電所
さはやかに自炊棟の名極楽寮
風くると目にはさやかにゑのこ草
(末尾は句集名)
冷やか /
あかときの新樹の樹頭冷え居らむ さざなみやつこ
お茶の実がしんしん冷ゆる高山寺 宿好
ぐんと冷え今日着るものに大わらわ 随笑
けふひどく冷え込み鵙の畳み啼き 随笑
シネマ冷房空席冷えに冷えゐたり 暮津
ただやたら冷えて秋雨もどきの雨 素抱
ひやつく日笠森おせんに遭はず往く 随笑
ぶだう酒のやうに日差しの冷えて来し ぱらりとせ
一段と今朝は冷え込む隼人瓜 ももすずめ
一番の冷え込みありぬ蔦紅葉 燕音
引声念仏畳めつぽう冷ゆるかな ねずみのこまくら
海上につよき一星メロン冷ゆ ねずみのこまくら
柿冷ゆるそんな季節となってをり 随笑
胸を張るスクリバ石像黄葉冷え 随笑
紅葉冷え薄着後悔してみても 石鏡
紅葉冷え佛御前のおん膝も 宿好
黒煮豆芯まで冷えてゐたりけり 暮津
手も足もこりゃあたまらむ紅葉冷え 石鏡
秋冷と腕叩きて云へる人 暮津
秋冷のかます焼く火の透きとほり 石鏡
秋冷のさし込む膝を二タさすり 素抱
秋冷の東京に出て人體展(人体の不思議展東京国際フォーラム) 石鏡
秋霖に尚も冷えくる鼻つ先 暮津
出あいがしら朝の冷え込み口にする 随笑
少しくは肋が冷えて団扇置く 寒暑
性きつき梛に秋冷到りけり 燕音
青葉冷え作務衣の襟を掻き合はせ 石鏡
谷戸冷えてはうれん草に甘味増す 石鏡
谷紅葉冷え厳しきを好みけり 寒暑H
団扇風みぞおち辺り汗に冷ゆ さざなみやつこ
断ち割れる梨は芯まで冷えてゐし 石鏡
土産屋をひやかし霧冷え宿浴衣 素抱
投函の小銭ひやつく共同湯 燕音
屯田兵絵巻冷ゆ手をさすりつつ ぱらりとせ
板間冷え鰊番屋の漁夫寝床 素抱
眉上げて唯秋冷といふばかり 暮津
膝小僧冷えて来たれば酒支度 随笑
風冷えて蕎麦うまき日の上根岸 随笑
霧冷えの肩に落ちくる樅雫 燕音
霧冷えの五体煮川乃湯に痺れ 随笑
霧冷えの先客ひとり町営湯 石鏡
夜寒人雨冷えを来て湯に沈む 暮津
夕冷え来水仙六球植え込めば 暮津
冷え込みのかう強ければ鵙も来ず 随笑
冷え込むに少し大袈裟セーター着 石鏡
冷え込んだまま一葉忌暮れにけり ぱらりとせ
冷え症の妻がくわりんを漬けるべく 寒暑
冷え性の本土キツネとおもひけり さざなみやつこ
秋冷のコップ選ばず一輪挿し
ひやひやと夜の手が触れて眠草
熱燗に生きてひやひや豆腐の味
山紅葉ひやひやするからもう帰ろ
殷々と滝秋冷を募らしむ
雨ひややかに白頭の猫じゃらし
秋冷の東京に出て人體展(人体の不思議展東京国際フォーラム)
図書館の窓秋冷の到る楡
陋巷に秋冷到る並木より
ひやひやと一分止まりの花の雨
ひやひやと川越駄菓子あんこ玉
秋冷のまだ跳ね止まぬ雨水輪
秋冷の川三筋より一筋に
秋冷の鯉を放てる橋の町
秋冷の飛弾の笊蕎麦喉とほり
厚き手でさする秋冷何處よりぞ
秋冷は六十余歳の脛のぼり
秋冷の徳利の胴を掴み注ぐ
水羊羹匙ひやひやと使ひけり
ひやひやと俄芹摘み夕づける
喫水の胃の腑にひやひや水仙花
薄雪草風ひやひやと渡りけり
ひやひやと踏みてうぐひす張りの廊
ひやひやと砌打つ雨聞きゐたり
ひやひやと畳すりつつすすみけり
ひやひやと枯山水につのる雨
秋冷のいよよ楓の走り根に
ひやひやと芽吹きの風や光堂
さざんかにひやひやと夕至りけり
ひやひやと白き面テの居士塑像
ひやひやと居士の遺品の黒メガネ
津軽海峡ひやひや明けて海猫の糞
海峡にひやひやと聳つ夏の雲
陸奥湾にひやひやのぼる夏の月
ひやひやと欅は芽吹き初めにけり
ひやひやと彼岸の真水胃に落ちぬ
秋冷の青葉一片山の湯に
胃にひやひや落つる水道水の秋
秋冷の人形置かれ人形塚
ひやひやする机の肘を掴み佇つ
渡り廊秋冷の鯉潜りけり
カッパ渕秋冷帯びる水と翳
秋冷の素首覗かせ露天湯に
ひやひやと川に朝来て朝ざくら
(末尾は句集名)
九月尽 /
ぶだう狩りしたることなど九月尽
◆天文
台風 /
あばずれのキティ上陸せしことも (颱風シーズン到来) ももすずめ
うなばらの涯まで台風一掃す 暮津
なまなまと台風の夜に入りにけり 素抱
のろまなる台風と聞きやきもきす 暮津
バイオリンずいこずいこと颱風ひく 燕音
またありぬ愚図颱風の雨のおと 随笑
ワンワンと犬鳴き台風中休み 暮津
ゑのこ草首を振り振り台風裡 素抱
一灯の他は台風圏の闇 暮津
越後に地震播磨に颱風なんてぇこと 石鏡
煙草買ふ間ありて台風中だるみ 暮津
瓦打つ雨は序の口颱風来 寒暑
関東縦断台風スピードアップせり ぱらりとせ
玉突きの玉めく台風天気図に 随笑
金魚玉如何に台風荒れやうと 素抱
秋津島颱風窺う頃となり 燕音
少しづゝガタのくる家颱風圏 随笑
真ん中をへことやられて風倒田 (陸羽西線) 随笑
生木剥ぐ風の鈍刀颱風裡 随笑
青葉吹き散らしさしもの颱風も さざなみやつこ
台風にこれから痛めつけらる樹々 暮津
台風にこれから日本一騒動 暮津
台風にひらきなほりて真っ裸 素抱
台風に脚攫はれて糸瓜棚 石鏡
台風に先手打ち鉢取り込みぬ 暮津
台風のあとの日差しに疲れけり 暮津
台風のその牙チャンネル切り替えても 暮津
台風のその規模風鈴きりきり舞 暮津
台風のものおそろしく覚む夜半 素抱
台風の雨の底抜け箱根町 暮津
台風の雲脚迅し箱根山 暮津
台風の箇条書きなる注意ごと 暮津
台風の巻き添え喰って鳴く蝉か 素抱
台風の眼のなかジメジメしてゐたり 暮津
台風の眼の中の蝉憶せずに 素抱
台風の近づいてゐる千草の葉 素抱
台風の後の鶏頭つんのめる 暮津
台風の接近降ったり日が差したり 素抱
台風の前宣伝が効きにけり 暮津
台風の素通りてふはなかりけり 素抱
台風の只々だだっぴろき空 暮津
台風の置きみやげなる蒸し暑さ 暮津
台風の中出て垣根手当せり 暮津
台風の張り手出し投げ何でもあり 素抱
台風の風納まると見え夜半 暮津
台風の来る日を蝉の知らん顔 素抱
台風を生める地球と金魚玉 素抱
台風下取り込む鉢に限りあり 暮津
台風下足のベタつく厠板 暮津
台風直下こんなものかと空見上げ 暮津
台風報報じ直して県全域 素抱
台風来植木に施す紐いろいろ 暮津
大写し見ての通りの台風禍 暮津
茶の間にも寄せて颱風余波の浪 石鏡
朝餉の茶台風接近前にして 暮津
馴れ合ひの台風となり手を抜けり 暮津
忍び寄る巨大台風蜘蛛知るや 暮津
買置きの煙草とライター台風下 暮津
鉢仕舞ひ簾は外し颱風下 暮津
風前のともしび燈台颱風裡 随笑
風来坊颱風こっちへ向って来 随笑
風颱風トーキーに似て傘舞ふ図 石鏡
蔓といふ蔓を台風一掃せよ 素抱
妙に明るきものよ台風眼のなか 暮津
予報士が雲を動かし霜予報 石鏡
予報士の何度もヘクトパスカルと 暮津
蝸牛渦のぐるぐる颱風裡 燕音
颱風に懲りて刈込む月桂樹 随笑
颱風のアッパーカット喰らふ軒 宿好
颱風のあとのなんだいこのあつさ 随笑
颱風のいい加減さに振り回され 随笑
颱風のその後を同じ予報官 随笑
颱風のそれはないだろ土砂崩れ 石鏡
颱風のたてこんでくるこの時分 宿好
颱風の何処へ抜けやうかと腐心 鳩信
颱風の眼窩豁然青菜畑 石鏡
颱風の合間蛮勇ふるふ蝉 随笑
颱風の出方を待てる外房線 随笑
颱風の道草食うて近畿道 宿好
颱風の腕力のほど身にしみて 随笑
颱風は颱風として薬のむ 随笑
颱風や瓦摶ちつけ樹が凶器 随笑
颱風一過パンパカパーンと晴れわたり 随笑
颱風禍まざまざチャンネル切り替えても 石鏡
颱風接近羽蟻もぞもぞ出る夜かな 随笑
颱風来て玄関にわかに物置場 随笑
颱風来て百葉箱の脚くじけ 石鏡
台風眼精子のごとくのたうちて(台風図)
颱風は颱風として薬のむ
坐り込む颱風日本國のうへ
颱風の道草してゐる鳥島沖
颱風下履く長靴は一生もの
祭りごといつも後手踏み土用時化
足踏みをしてゐる颱風図に二つ
進路図を北上颱風目の真っ赤
颱風来Sの字型に雲画像
鉢仕舞ひ簾は外し颱風下
サルビヤに颱風一過とはゆかず
朝の虫昨夜の台風嘘のやう
虫音の中ラジオ告げゐる台風禍
台風が蝉を一掃すれば秋
しんしんと虫鳴き台風迫る闇
今真上あたりか台風小休止
台風禍画面はまさかの土砂崩れ
台風に足止め喰ひし蕣咲く
台風のあとの日差しに疲れけり
台風を送りからりと晴るる空
台風の過ぎし翌日空応ふ
台風の大風呂敷に呑まれるな
黙々とすすむ台風房総沖
台風の中の蜩嘘のやう
台風の眼のなか外燈点りそむ
台風に追はれ来し蟻畳這ふ
台風のその眼は何處に冥らむ空
台風の只中啼けり狂ひ蝉
ダイヤ乱れに乱れ台風一過かな
文机を蟻の彷徨ふ台風下
台風映像八丈島を結ぶ便
時化波に乗り越へらるる防波堤
七号てふ台風いやに大きかり
台風の洩れなく襲ふ浦十戸
台風報屋根に登りて転けし人
雨台風ネオンを映す交差点
とてつもなき蚊取線香台風図
黒く低く時化雲ながれ相模灘
ワンワンと犬鳴き台風中休み
台風支度その他手をうつもの無きや
台風直下こんなものかと空見上げ
盆支度ならぬ台風支度せり
これが台風関東一円つつむ雲
台風の棒雨萩菊百叩き
台風を見てゐて雨のとばっちり
台風の魁の雨いよいよや
台風の飛来かうしてゐるうちにも
対峙して雨台風とカサブランカ
台風はあなたの空からくるかしら
風害は丈なすものに台風下
台風のそろそろ時折烈しき
買ひ置きの煙草とライター台風下
飛びさうなもの先づ優先時化支度
台風の小康状態いつ脱す
百姓に鼬ごっこの台風来
台風を出し抜く遊びなど無きか
台風の雨の林立小漁港
台風に先手打ち鉢取り込みぬ
台風のこんな筈では雨に斑(むら)
波逆巻く台風映像お茶の間へ
朝餉の茶台風接近前にして
時化啖ひ羽田成田の空の便
上陸の懼れうんぬん台風報
台風来一時毎に空眺め
大写しにして台風の目玉焼
台風予報立ち見してゆく勤め前
目まぐるしく映してけふの台風禍
台風詠夕立の句にすり替はり
へんな時颱風が来て鉢取り込み
台風を明日に雨の前哨戦
葉っぱ打ち颱風前夜の雨ぱちぱち
脚早と聞く台風のその雨来
時化をると突堤叩く石たたき
田作りの凹凸なせるは時化の海
地震・颱風・津波来し年逝かせけり
時化風に貌殴られて冬の航
地震・颱風 初冠雪はよき話題
人埋む台風の亦恨めしや
台風と越前クラゲの当り年
雨粒の大きさ云へり颱風報
一つ目の台風日本呑み込みに
寺の木々繁れば折らる台風に
台風に折らるゝ羽目となり欅
台風一過片づけきれぬもの諸々
真っ直ぐな欅被る台風禍
台風禍神社・仏閣・塔と見て
台風一過片づけきれぬ欅の枝
台風過欅裂かれし断面見す
颱風の雨漏りの音何處ならん
関東を直撃颱風常陸へ抜け
台風の進路正しく相模灘
颱風の雨漏りの音二つとは
颱風に家鳴り頭上通過中
颱風の雨漏りの音一つ増え
台風を幾つ送りしすがれ草
颱風来て百葉箱の脚くじけ
台風にアンテナ飛びて屋根に人
颱風の真下のくわりん気づかいて
颱風を頭上にしてラ・カンパネラ
居ながらに高浪映像颱風裡
颱風の斯く荒れをると鳥取港
泣き面に蜂の颱風まだ来るよ
颱風のそれは無いだろ土砂崩れ
颱風禍まざまざチャンネル切り替えても
吹き込んで来るもの颱風余波の雨
ズタズタに四国分断颱風裡
手始めに四国を襲ふ風颱風
颱風列島放映潮岬より
颱風裡常と変って桂浜
べっとう時化崎の雑木を揺さぶりて
改札にべっとう時化の欠航札
台風に胸まで浸かる家の数
終夜雨台風一歩もしりぞかず
落蝉や台風の目は渦巻いて
金魚鉢如何に台風荒れやうと
机上に空蝉台風は今北上中
台風を生める地球と金魚鉢
台風の一夜を境蝉ガタ減り
台風来夜の我が家を鷲掴み
台風のこんどは北へ流るゝ雲
台風の来る日を蝉の知らん顔
台風のそら見てテレビの予報見て
カンナ揺れ台風圏にいつ入りし
台風の張り手出し投げ何でもあり
台風を迎え撃つ花秋海棠
月と雲高きをすすみ台風来
台風の来てゐるといふ南のそら
台風は荒れて室戸の天打つ浪
台風に捨て身の蝉音脱帽す
台風の眼の中の蝉憶せずに
台風をカンナは知らず暗雲裡
八千草の台風を待つしづごころ
台風にはや溺れゐる草のいろ
沖時化て風鹹し金盞花
磯椿時化に首振る淡島さま
青芭蕉先づぶっ割きて風颱風
青芭蕉だらり颱風接近中
風倒田颱風日向灘へ抜け
伝へ聞く颱風接近梅もどき
颱風に特徴ありて足早型
光りつゝ喬木きしむ颱風余波
きしきしと立木が鳴りて颱風余波
八丈島颱風に入り雨断続
花了へしアロエの村の沖時化て
別当時化ぶつかり磯の木々哭けり
べっとう時化鳶大胆に急降下
別当時化梢に梢打ちつけて
バイオリンずいこずいこと颱風ひく
生干しの白子に時化て走る波
颱風にやられずるずるべったり蔓
颱風が来るぞ来るぞと多摩川梨
沖時化てじゃがたらいもの花騒ぐ
棒立ちの大傘持に沖時化て
もう一つ颱風迎ふ宵の口
颱風の雨ひしひしと真暗闇
颱風の一挙一動首っぴき
颱風一過からりと乾く屋根瓦
台風の号数二十と三が来る
台風のあとにけろりと青きそら
立木薙ぐ風の鈍刀颱風裡
颱風に馴れて添木の手際よし
眼前の樟を揺さぶる暴風雨
いざ颱風来ませ万端怠りなし
戸といふ戸にザザと吹きつけ颱風雨
台風の目玉緩緩わが頭上
台風の目玉上ゆく痛快や
台風の一つや二つ屁の河童
台風を迎ふも泰し定年後
颱風に坐すのみほんろうさるゝ百(もも)木
台風の目に入る穹に目を上げて
颱風は目の上昼餉の昼灯
定年や人事のごと颱風遣り
颱風は蒲うち倒しうち倒し
颱風の詩なぞ無きかと本を繰る
台風なぞへっちゃらと家勇み出づ
台風なぞ平気の平左壁の蝉
台風の雨ぶったたく函の家
台風に息をひそめて函の家
台風の蹴散らす杜の欅の葉
台風の行方蜻蛉の現るるそら
欅ゆさゆさ颱風のお通りだい
颱風来島へ横づけシャリアピン
大蜘蛛と留守居颱風やり過ごす
植木ひっくり返し颱風余波の風
壁に蜘蛛大型台風通過中
颱風の最中の気まぐれ天気雨
顔映す颱風一過の潦
赤ポスト今にも来るか颱風雨
忽然と羽蟻の現るる台風下
翅のある蟻が翔ぶなり颱風下
台風が揺らしテレビの走査線
台風の戸締り妻と手分けして
四六時中颱風のこと考えをる
颱風一過羽蟻もぞもぞ出る夜かな
称名寺さまの甍の颱風禍
颱風の何時過ぎるかと昼灯
吹き込まぬ方の窓開け颱風裡
颱風の合間蛮勇ふるふ蝉
颱風の隙ちょいとつき蝉鳴けり
颱風の災難に遭ふ蝉のこと
颱風ののろまマラソン選手並み
颱風来玄関にわかに物置場
颱風のなほも北上陸伝ひ
天地の間颱風一掃す
颱風を家にて迎ふ定年後
颱風を高みの見物とはゆかじ
颱風の雨の暗闇猫の鳴く
颱風に備ふ警報取り揃え
颱風警報四つが四つ全て出づ
颱風の腕力のほど身にしみて
颱風に懲りて刈込む月桂樹
颱風の雄叫び挙げてゐる足摺
颱風や瓦摶ちつく樹が凶器
その歩みバスよりのろき颱風来
鴨川の鴨映さるる颱風前
颱風の見通し逐次お茶の間にて
颱風の雨の断続トタン葺き
颱風の出方を待てる外房線
颱風の前ぶれの雨バタと来ぬ
颱風の続報土砂降り十津川村
飛行機も脚を奪はれ颱風裡
颱風の前ぶれの風雨誘ふ
颱風の気配に庭の蚊も避難
颱風の目玉の中のしじみ蝶
颱風は眼中び無しつくつくし
時化るぞと牢名主めく舟虫が
ビーチパラソル傾き海は時化模様
浮袋抱きかかふ子に海時化て
旅のプラン練るや颱風横睨み
台風が湧いて進んで北北東
舟虫の潮じめりに海時化る
時化込むなか蕾しっかり金盞花
颱風の目に物見せぬ馬鹿力
老梅をたうたうへし折る風颱風
百草の玉砕颱風一過かな
颱風の前ぶれの風なまめかし
颱風の目はどの辺と上目して
アフタヌーンティ熱く淹れ颱風裡
おろおろと水位見守る雨颱風
風颱風鉄骨ぐにゃりとひん曲げて
颱風の爪跡速報相次いで
颱風の大濤朝刊一面に
沖時化て海豹変すスターチス
あいにくと海は時化気味矢車草
時化雲の沖に垂れ込めアロエ咲く
(末尾は句集名)
野分 /
うつくしゅうみえる家々野分晴れ 素抱
うなばらの涯まで台風一掃す 暮津
お手本のやうな御空や野分晴れ 素抱
こともなく蝉また鳴けり野分あと 素抱
ふれ込みと違ひ野分の雨然程 さざなみやつこ
雨脚の吹き曲り見ゆ野分山 燕音
大鯉の水を突き上げ野分中 石鏡
電線のつくづくとある野分あと 素抱
弁慶草起こし野分の後始末 鳩信
万象の斯くあきらかに野分あと 暮津
野分あとこんなところに月が出て 素抱
野分あとこんなに晴れて目の遣り場 暮津
野分あと街は輝く万華鏡 寒暑
野分あと斯く減る蝉音拍子抜け 素抱
野分あと長々起きてゐたりしよ 素抱
野分あと夜の更けて月浄くあり 素抱
野分雲それより迅く蝉飛べり 素抱
野分川滔々安倍川餅のいろ 燕音
飲み水の真水鮮し野分あと
草風船種子潜ませて野分中
雲助のやうな雲脚野分山
野分あと仕切り直してのうぜん咲く
野分あとこんなに晴れて目の遣り場
野分に落つ今年と去年の松毬が
野分して瓦を飛ばす欅の枝
野分中浅瀬に躍る池の鯉
ひよひよと草原の虫野分あと
野分あといつもの月が上りけり
どの家も灯を煌々と野分あと
野分して風鈴舌を抜かれけり
一つ樹に百蝉こぞる野分あと
馳せ来たりいざ鎌倉の野分雲
鉢底に野分窺ふ金魚の目
蜂一つ高きを目指し野分晴れ
隅々に風ゆきわたり野分晴れ
もう一つ蝉落ちゐたり野分晴れ
是非もなき蝉のむくろや野分晴れ
逝く蝉の分まで鳴けり野分晴れ
朝顔の鉢外に出す野分晴れ
お手本のやうな御空や野分晴れ
野分あとひたに流るゝ雲に月
野分雨ザザッと来てはからりと晴れ
野分に巣投げ出し公孫樹ぶっ倒れ
鏡中のお仏壇まで野分晴れ
わたなかをつらぬく光野分晴
野分して相模の天地照らし合ふ
わたつみに日柱立ちぬ野分晴れ
川筋の乱るに乱る野分川
雲助の如き雲脚野分山
旅先の鞠子の宿の野分雨
里芋の茎ぐんにゃりと野分晴れ
磐いろ野分のあとの濁り川
野分の小枝送電線に触れたがる
雲飛んで急に明るき野分空
がらがらと戸を開くる音野分あと
さんざんな目に遭ふ公孫樹野分晴れ
洗濯物まとめて干され野分晴れ
また聞きを妻の話せる野分あと
青団栗野分のありし山の径
野分くる木魚一つが守る堂
吾が肋の龍骨を撫で野分の夜
野分あと鰻昇りに温度計
(末尾は句集名)
秋の虹 /
解決にまだ道遠し秋の虹 寒暑
秋の虹どうせこの世はそんなトコ
秋の虹ゆすり蚊わいわい云ひながら
(末尾は句集名)
秋夕焼 /
ぽつと出の社員に新宿秋夕焼 さざなみやつこ
(末尾は句集名)
初月 /二日月 /
三日月 /
神々の遊びを三日月見そなはす
見そなはす三日月神楽舞ひ始む
夏みかん三日月形の花散れり
数珠玉に新月の色載りにけり
秋明菊新月のいろ湛へけり
湯屋の煙突白煙り吐く三日月に
夕月夜 /
酒のあと水恋しくて夕月夜 石鏡
独酌の間(あわひ)を夕月移りつゝ 石鏡
夕顔と夕月闇を同じうす 暮津
夕月の一刻経ってその高み 素抱
夕月の色のいよいよ栗きんとん 石鏡
昼月の高さその後の夕月も
夕月のくりくりし出すくわりんの上
夕月を遮るものなし海つ方
さし招かれ妻の見つけし夕月を
夕月の白増す菊の終りかな
昼月が夕月となり蒲の絮
里芋は山芋おもひ夕月夜
(末尾は句集名)
露 /
おっとっと露のまだ干ぬ草っ原 石鏡
おほらかに露の凝りしが葡萄とも 暮津
かがんぼに跨がるゝ葉の露こぼす 寒暑
かたくりの花に重たき山の露 燕音
こころしてツユクサ峡の露受けぬ 暮津
しじみ蝶降り立つほどに石露けし 石鏡
スタンディングブッダと云はれ露けしや (長谷観音 観光) 燕音
テラスのさき露のジャパニーズ・ローズかな (ハマナスに別名あれば) 燕音
ののさんに供えむ菊の露浴びて 石鏡
はあ、むがしはと始まる民話露けしや (遠野) 寒暑
ハライソはこの真上にて露葎 素抱
ピアソラのタンゴ魂露と凝り 鳩信
ふんばりてドウガネブイブイ露吸へり ももすずめ
稲架棒の使ひ古しに露降りて さざなみやつこ
芋の露よべの嵐を切り抜けし 燕音
芋の露面白ければ覆す 暮津
引く草がみんな露草なららくちん 暮津
羽黒山大鐘露を生みにけり 石鏡
栄西の茶種育てし露の畑 宿好
円空堂鉄錠外す音露けし 素抱
円空佛拝観名簿露けくて 素抱
化野の露の佛の背のまろみ (化野念仏寺 ) 宿好
化野の露を零せる多聞塀 宿好
夏の露ころりと白馬岳快晴 宿好
夏の露昆布干し場の留石に 随笑
夏の露払ひ諏訪社の五兵衛杉 宿好
街道はこれから灼けむ露葎 宿好
丸茄子朝露弾く梵天丸 素抱
鬼やんま棲みつく山に露降りて 素抱
居士臥せゐし居間より露けきものはなし 随笑
屑籠は大き程よし露の家 随笑
枯山水巌顱頂に露を置き 宿好
雑草(あらくさ)は露を蒐めて魂祭 暮津
子規庵の電燈の紐露けしや 随笑
子規居士の體温計とやいと露けし 随笑
十本程社箒の露けしや 暮津
書家にして露の世あとにせられけり 素抱
触るもの全てに露の夥し 石鏡
心臓のお薬六粒露けしや 素抱
人間の脛といふもの露こぼす 素抱
青花を摘むとき露が手に当り 素抱
石庭の謂れ露けき日本語に 宿好
石白く粗く化野露佛 宿好
蝉何かに突き当たる音露けしや 暮津
草っ原渚に沿ひて夏の露 素抱
村営バス朝刊下ろす露の村 寒暑
大石田大河洋洋露満満 暮津
大露に衿掻き合はせ驚きぬ 石鏡
大露の寺前町の散歩かな 暮津
湛慶の作とうんぬん露御坊 宿好
地球儀は露の大玉子規臥す間 随笑
張子人形陸軍さんの髯露けし(喜多方) 石鏡
彫り露けく金魚奉納三百尾 石鏡
朝刊を取るにポストの露零す 石鏡
朝顔の観賞二輪露乾ぬ間 素抱
朝露にあらあら濡れてしまひけり 石鏡
朝露のまだ干ぬ内の柿もみぢ 鳩信
湯上りのつまさきに浴ぶ芝の露 素抱
猫が居て旭の当る露の屋根 石鏡
萩と露色のつり合ひとれてをり 素抱
八百万の神々の座に結ぶ露 暮津
碑にその名露けきベルツ花 (明治十一年ベルツ 昭和十年ベルツ花 草津訪問) 随笑
文字面の「草津道の記」露けしや 随笑
壁露けし自炊道具の料金表 寒暑
碧眼も露の十五の石見据え 宿好
欄干に結べる露に驚けり 素抱
離陸機の鱶のやうなる胴露けし さざなみやつこ
露けかり木乃伊の棺の審判図 燕音
露けくも日枝神社の竹箒 素抱
露けさのここに極まるカノポス壺 (*ミイラにする際に肺胃などの臓器取り去つて入れる壺) 燕音
露けさの一歩今朝吉宅を出で (智恵子生家、父の名は長沼今朝吉と聞けば) さざなみやつこ
露けさの金閣見んと一歩寄る 宿好
露けさの出刃下げ南泉斬猫図 ももすずめ
露けさの丹波黒豆「どうどやす」 宿好
露けしと云へば二の句を挟めざり 暮津
露けしの一語に尽きぬ一遍像 暮津
露けしの一語荒野の全て指す 暮津
露たんと寺前町の屋根々々に 暮津
露どきの魚の眠りに棹さして 随笑
露の金閣屋根は椹と申されき 宿好
露の空何かあっては困るなり 暮津
露の世の我にとり憑く物忘れ 暮津
露の世の木と紙の家震ひ地震 暮津
露の他省き尽くして銀沙灘 宿好
露の鉄鉢長者の倉を持ち上げて (信貴山縁起絵巻 飛倉巻) 鳩信
露の日は顔の輪郭思はるる 燕音
露の浜犬にも流行りすたりあり 石鏡
露は凝りゐたりタテヤマウツボ草 宿好
露まみれ雄日芝そこに信号機 石鏡
露わんさと芒が原に降り立ちて 暮津
露寒やるるると草に潜むもの 暮津
露処ここに始まる日本の茶 宿好
露草がひょろりと長けて命日来 暮津
露草のたやすく引けてなんまいだ 暮津
露草のもって生まれし審美眼 石鏡
露草を引く掌に残る露臭さ 暮津
露草を震はせ手折る山の朝 素抱
露葎より翔つ蝶の翅重し 素抱
露零す螢袋に道草す 素抱
叭叭鳥を四方に翔ばせ露襖 (蕪村筆) 宿好
扁平になりて千切れぬ芋の露 燕音
箒・塵取露けく下がり共同湯 随笑
蟷螂の翅にも山の露降りて ぱらりとせ
跼み見る露草の露鳴りさうな ももすずめ
露草の露浴びまじと道の央
露草を引く掌に残る露くささ
露草はまさをなる葉に露受けて
五重塔背らに露の露伴墓
露落ちて下葉の芋の露を打つ
泉下の露伴会式太鼓に耳を藉し(池上 本門寺 お会式)
白萩の露を手放す石の上
ぶだう抓む指のもっとも露けかり
芋の葉を訪ふてをるなり露法師
夜気帯ぶる白露の腕さすりつゝ
豆の葉の露も天より戴きもの
露震ふ牡丹を見て気養生
露溜めて花を了りし牡丹の葉
「次の方どうぞ」と医師の露けきこゑ
醜草の方が余計に露浴びて
八百万の神々の座に結ぶ露
大石田大河洋洋露満満
厘毛の風に朝露走りけり
露たんと寺前町の屋根々々に
朝露に芒重くれゐたりけり
大露の寺前町の散歩かな
露わんさと芒が原に降り立ちて
よき種を結ばんがため露降りて
零るゝはむかごか露か八重葎
いとどと螻蛄こもごも露けくなると云ふ
極上のお数珠の材は萩の露
萩の葉にまろび遊べり露法師
露の世の我にとり憑くものわすれ
不作法な露を零せる茗荷採
露草のたやすく引けてなんまいだ
露の世の木と紙の家震ひ地震
露草がひょろりと長けて命日来
蝉何かに突き当たる音露けしや
重なれる社箒の露けしや
露の空何かあっては困るなり
砂浜に朝露まみれの花火屑
露けしの一語荒野の全て指す
露けしと云へば二の句を挟めざり
露けしの一語に尽きぬ一遍像
露けさの薙ぎ倒されし芒叢
萩の露連ねたやうな数珠欲しや
露の玉朝夕凌ぎやすくなり
庭草の一葉一葉の夏の露
庭草は露を宿して魂迎
雑草(あらくさ)は露を蒐めて魂祭
庭草の一草毎の朝の露
日々肥る自家製胡瓜露しとど
露草の己立たしめゐる力
風露草雨すれすれに落ち来たる
露草の白花ひょろり梅雨清浄
かきつばた蕾むしょうぶの露払ひ
猫が居て旭の当る露の屋根
触るもの全てに露の夥し
大露に衿掻き合はせ驚きぬ
朝刊を取りてポストの露零す
ののさんに供えむ菊の露浴びて
健やかな脱糞露けき眼をして犬
山里は朝露の領数馬峡
吊橋を濡らすは雨かはた露か
露湿り鳩ノ巣小橋渡りけり
連なりて露の屋根屋根紅葉宿
吊橋に降りる白露そこをゆく
金星に木星睦む露寒空
蜘蛛の囲の露にくもれり蜑部落
妻母の薬係りを露けき日々
入山の下山の時刻露けき文字
彫り露けく金魚奉納三百尾
渡御の杜大王松の露けくて
露凝りて十あまりからかね吊り燈籠
露降りて朱き小振りの太鼓橋
川越し人足築きし石垣露載せて
露の拂曉横濱駅を発つ電車
妹宛智恵子の直筆露けしや
張子人形陸軍さんの髯露けし
露けくも鼠かぢりの招き猫
芋に露河童日和と申すべし
朝露にあらあら濡れてしまひけり
露草の眸は雨に打たれける
鉢植えの花に等しく露降りて
金網のまへで足踏み露葎
草原の近道ゆきてあびる露
露まみれ雄日芝そこに信号機
露草のもって生まれし審美眼
廃品の壜・缶置きに露の辻
露けさの首に手拭いウォーキング
露の浜犬にも流行りすたりあり
ウォーキング露けき朝日が真正面
倒れ易き草花多き露の庭
事もなき日の始まりの露葎
青すすき露を止どめぬ露天風呂
敷石をうしろより来る露のひと
蜘蛛の囲に白露燦々陽が昇る
円空堂鉄錠外す音露けし
道教はる円空堂の土露けし
露けくも千手観音是一體
円空佛拝観名簿露けくて
祭済む朱ケの欄干露しとど
欄干に結べる露に驚けり
露けくも日枝神社の竹箒
心臓のお薬六粒露けしや
起てば鳴る六十路の膝小僧露けしや
青草を摘むとき露が手に当り
露葎より翔つ蝶の翅重し
鬼やんま棲みつく山に露降りて
萩と露色のつり合ひとれてをり
露草を震はせ手折る山の朝
大谷寺見学文集露けかり
露の観音千手といふも四十二手
ひらがなのおもひ露けく書家逝けり
書家にして露の世あとにせられけり
百草の宿す白露の銀河系
人間の脛といふもの露こぼす
雌日芝に宿る天地の間の露
露草の辺にて和賀流の懐古談
そこ発って朝露零す秋あかね
丸茄子の朝露弾く梵天丸
ハライソは此処から近し露葎
露伴忌の眼光紙背に徹すひと
夏暁の露結びたる一流木
露草や剥落とどめ難き弥陀
紙縒げに露けく線香花火屑
露しとど帯びて線香花火屑
浜に降る露帯ぶ砂を踏みしめて
車前草の広葉にしとど夏の露
赤詰草摘んで露浴ぶ女の子
舟小屋の錆びる一方露草咲く
露伴忌のいやにしづかな日雷
真っ直ぐに草原渡る露の道
砂浜はやや固締り夏の露
赤詰草夏の露降る松林に
草っ原渚に沿ひて夏の露
朝顔の観賞二輪露乾ぬ間
湯上りのつまさきに浴ぶ芝の露
しろがねの露結ばせて夏桔梗
風露草能取岬へつづく径
露零す螢袋に道草す
板敷きの反橋露を零さざり
朝露のまだ干ぬ内の柿もみぢ
夜の底を曳きずり露けきバンドネオン
ヒポクラテス仕草露けき銅板画
露けくて首欠け落ちし佛是
露空へ翔てる翼に気流見え
日向路へ空路は露の暁紅便
階段の手摺りに露の点字板
高原の向日葵畑露浴びて
草原に踏み込み阿蘇の露浴びぬ
信玄ガ願掛け毘沙門天露けし
露の鉄鉢長者の倉を持ち上げて
露草の藍も深々奥会津
欄干に露降り立てる朝桜
大神官石像露けき手を胸に
露けさのここに極まるカノポス壺
木乃伊巻く亜麻布の綾露けかり
猫のミイラ犬のミイラと露けかり
露の日の木乃伊の頭蓋亜麻布詰め
霊力の甲冑よろふ露ミイラ
露けかり木乃伊の棺の審判図
ミイラ露けし包帯に護符差し挟み
大王の石像頭部露けしや
石像の頭部露けきエジプト展
スタンディングブッダといふも露けしや
やぶめうが峡の朝露しとど浴び
茶畑をしりへ露の村の家
茶作りに大事も大事山の露
吾は弥次汝は喜多露の宇津ノ谷路
蜘蛛の囲の縦横糸に結ぶ露
蜻蛉のぶんと発つなり露河原
霧来ると小首振りけり風露草
バイケイソウ広葉に降りし露の数
露まみれ蜻蛉河原の草叢より
佐久平稲の穂先に結ぶ露
夏の露避け寝袋とオートバイ
夏の露まみれに砂州のオカヒジキ
テラスのさき露のジャパニーズ.ローズかな
足許を吹く風のあり蝦夷風露
また現れて忘れた頃に蝦夷風露
半日陰好みて咲ける蝦夷風露
扁平になりて千切れぬ芋の露
露の日の顔の輪郭思はるる
枯芦に凝る露つゝとはしりけり
金閣の鯉に差し伸ぶ露けき掌
湛慶の作とうんぬん露御坊
壇上に大日如来(だいにち)露けき印結ぶ
叭叭鳥を四方に翔ばせ露襖
露の他省き尽くして銀沙灘
丈山の髯を倣ひて露の鯉
枯山水巌顱頂に露を置き
露どきの苔衣被て常夜燈
露けさの丹波黒豆どうどやす
化野の露の佛にお焼香
そと生れ且つ消ゆ露の化野に
化野の露を零せる多聞塀
化野の露の小法師そと生れ
化野の露の佛の背のまろみ
石白く粗く化野露佛
寶物の六百余点露けしや
十五の石指し示す指露けかり
碧眼も露の十五の石見据え
石庭の石数ふるも露の中
石庭の謂れ露けき日本語に
龍安寺朝露冷えの廁借る
露の金閣屋根は椹と云はれても
露燦と朝の日を得て金閣は
露けさの金閣見んと一歩寄る
暫し彳つ露の金閣正面に
鳳凰の朝露を得て羽打つかに
金閣にわいわい旅の露童子
大露のここに寺伝の石不動
露処ここに始まる日本の茶
露の中明恵座禅の松いづこ
茶祖明恵語るが如く露落ちぬ
明恵上人樹上座禅図いと露けし
出す出さぬ一悶着あり露の金
茄子紺の九谷白露の小盃
雨に尾を引いて白露の紹興酒
青栗に峡の朝露降りたちて
街道はこれから灼けむ露葎
青稲穂ずっぽり浴びぬ夏の露
宮前の栃の実に凝る夏の露
向日葵の朝露零れ畑の土
夏の露払ひ諏訪社の五兵衛杉
夏の露ころりと白馬岳快晴
露は凝りゐたりタテヤマウツボ草
朝露のはらりほろりと生姜畑
笹原の笹彩深く夏の露
雑学の大家露伴の忌の読書
一掻の爪の露けさ土竜の死
窓があり指文字をかく露けしや
露帯びてうぶと云はうか泥茗荷
鵙日和ルビを頼りに露伴読む
屑籠は大き程よし露の家
木を離る木の葉くらりと露伴墓
幸田文八十六の露の墓
墓所に降る木の葉を聴いて露伴・文(あや)
露の大石蝸牛庵大人の墓
どんぐりを拾ひて置ける露伴墓
文字面の「草津道の記」露けしや
露むすぶ宿の屋根屋根草津町
坂一つ上がりて露の地蔵の湯
箒・塵取露けく下がり共同湯
凪の湯出る妻に露けき声かけて
碑(いしぶみ)にその名露けきベルツ花
石像のベルツの額に露の玉
居士臥せし居間より露けきものはなし
地球儀は露の大玉子規臥す間
遺品露けく体温計も寝そべりて
子規居士の體温計とやいと露けし
露けしや子規の自筆のカタカナ書き
子規そこにみるごと露の六畳間
自筆露けく子規病相と記す写真
子規庵の電燈の紐露けしや
これも遺品愚庵の露の狗置物
文字露けく子規の見聞カタカナ書き
露けしや朝一番の下り舟
最上川瀬鳴り露けき枕上ミ
舟縷々と下れり露の最上川
露どきの魚の眠りに棹さして
旅立ちの一歩踏み出す露の空
頭の濡れて露の暁光電車かな
新宿の空にびっしり露のビル
白露の亀怪訝さうなる顔を向け
大露の柱叩いて佇めり
身ほとりに大き屑籠露けしや
覗き込むひとを仰ぎて風露草
湿原は風湧くところ風露草
顔寄せて頬紅いろの風露草
青栗に結びて八ヶ岳の夏の露
さみどりに露のつめたさ青ふだう
山梨のここだく峡に露降りて
夏の露仏ケ浦の仏具岩
海峡の朝露帯びて待宵草
海峡のいわをいわをに夏の露
繋がれて夏の露置く烏賊釣り舟
烏賊釣り舟電球に凝る夏の露
夏露の碑一つ本州最北端
夏の露昆布干し場の留石に
夏の露大間港の家並の上
夏の露青森ヒバに木天蓼に
露法師朝一番のげんげ田に
露けしや引湯泉質二系統
栃黄葉零す朝露浴びにけり
村営バス朝刊下ろす露の村
朝露のここだく降りぬ蕎麦ぼっち
川音や湯宿の手摺り夜露帯び
湯町の灯何はともあれ露けきよ
馬車道のあかがね椅子の夜露かな
芋剪れば頭から浴ぶ返り露
露の日をいのち短しとて旅へ
風露草紫がかる薄日差し
芋の露燦と散らして銀河系
いのち伸ぶ旅を続けぬ露の中
一文字に術痕露けき身の証し
露けき灯ぽつりぽつりとぶだう郷
露草の早池峰へ向く田んぼみち
語り口低く民話の露けしや
板の間の露けく民話を旅土産
はあ、むがしと始まる民話露けしや
聞いてってがんせと婆の露けき言
後生掛の朝のりんだう露まみれ
坊主地獄大中小の露景色
国訛り顕はに露のオンドル部屋
壁露けし自炊道具の料金表
露降りぬ模様の混めるマンホール
マンホール蓋に朝露燦々と
夏萩の一葉一葉に宿る露
露草に雨降り直す磧みち
かがんぼに跨がるゝ葉の露零す
「はちすの露」切に思ほゆ苔の花
(末尾は句集名)
月 /
をみなへし月待つ月の色湛え
今日の月ならざる月を朋に酌む
昼月の薄月松のとれし空
花季の月の井月の伊那路かな
吐月峯とんだ雨月となりにけり
無月また雨月もよろし吐月峯
待月軒なればの月の句を成せと
雨月なら雨月のなりに句を為さん
日めくりの月が進みて神楽月
職無しに月は移りて物入り月
後の月もどきの月が家裏より
月の出の月に背景あり大き
月替れば風の名替り祭月
ひばり逝く月が巡りてその月に
門の上けふより十一月の月
蔓ものの鉢を並べて小六月
掲げ打つ団扇太鼓も月の形(なり)
月半を過ぎゐて蜘蛛の中肥り
お月様妻の捏ねたる団子召せ
月は丸窓の灯四角路地更けて
雨催月の供物は簡略に
つつかけで今夜二度目の月を見に
雲間より顔出す月のアイボリー
お会式の月懐に老ゆる松
天が下万灯の界月の界
月も得て万灯日和といふべかり
瑠璃の空佛画の月を上げにけり
夕顔を見に出づ序でに月も見て
木にのぼり夕顔月を招きけり
夕顔と別の白さの月上がり
宗右衛門町ブルース月の覗く路地
夜気にハモる「月がとっても青いから」
槍鶏頭一ト月眺む穂のかたち
雨樋の音のとことん祭月
ケバだちて神在月の栞ひも
病葉一つ手にとりて見つ昼の月
投函の戻りの道の今日の月
月変り顔にもゆとり秋の風
木染月庭に芒を植え込んで
二歩三歩さがって見え来今日の月
この路地に建て込む家並今日の月
出序でにあふぐ松越し今日の月
顎髯のいやにちくちく今日の月
白萩は大鳥となり月明に
夕顔の一つは月に対しけり
月祀る芒を惜しみ飾り置く
月に芒活けて何とか様になる
颯爽と歩いて月の近くに来
仲秋の月にいろいろ名を付けて
よき位置に月廻り来て月見の座
夕顔と月と村雲いと白し
花すすき囲める月の小漁港
雲高く澄みて夕顔月夜かな
月明に夕顔の数幾つなる
月祀るすすきの他に萱も活け
海に向き芒活けをり月今宵
月を待つ路地暗がりに馴染みごゑ
灯を消して今宵の月を軒先に
月見まんじゅうぽんと置かれて月祀る
月の家ヒゲタ醤油の髭の屋根
路地折れて今正面に今日の月
月の路地歩いてみたく家抜けて
垢抜けてみゆる良夜の月の路地
町中の墓地ぽっかりと今日の月
窓際の屑籠に差す今日の月
今日の月夜間飛行の道しるべ
六十と餘歳の吾に今日の月
白萩の上に懸かれる今日の月
夕顔の二、三咲きゐる今日の月
庭先に出づや良夜の月奈辺
漁港より芒採りきて月祀る
鉛筆をいっぽん置きて月を待つ
供え物に月光ゲ射し込むまで一刻
つくねんとすすきいっぽん月を待つ
月と月見まんじゅうどちらもうまさうに
虫聞いて月の出るまで月見の座
先代の主しのべと今日の月
月の橋日本画の粋尽しけり
十六夜の月の風姿を磧越し
月白の今ほんのりと海の方
月見まんじゅう月が食うたか一つ減る
立待と月は名を替ふその日なり
十五夜の月みてあぎと引っ込めぬ
昔よりある路地月と遊ばばや
今日の雲月と優劣つけ難し
今日の月匂ふがごとく今日の雲
夕顔と夕月闇を同じうす
咲き登る夕顔脇の月を見て
月替はりても朝顔の三ツや四ツ
槇の空こよなく晴れて月真澄
昼月の生み落したる昼顔か
月の下植えたきものに棗の木
ひょいと変な考え浮び月夜の道
幾つもや月夜を蝉の魂(たま)昇天
月の夜を選びて蝉の魂(たま)昇天
月半(なか)を過ぎて蕣先細り
月光裡こんな高さに実向日葵
夏風邪に昇れる月のうすぼんやり
曉斎の蜘蛛出づ月の怪しき夜(河鍋曉斎)
そのかみの海恋ふ月の潟巻貝(かたつぶり)
月半より天気狂ひて時計草
トネリコの葉を打ち祭月のあめ
月光にダチュラ怪人佇つごとし
熟れ枇杷や敢へて云ふなら人缺月
卯の花月明けきる迄の新聞読む
太蚯蚓踊り出でたる祭月
卯の花月上げ下げ供養の水と飯
お月さま坐り給へる芒のうへ
庭に出て枯木の上の雲居月
乾燥藷焙れば月(ルナ)の隕石孔(クレーター)
月旦評ゆき過ぎと知る筆寒し
月の谷戸梅一色に尽きてをり
乾坤の一突き月の除夜の鐘
除夜の月杜随一の銀杏の上
年の夜の雨は止んだか月でたか
顧みる年も淡々昼月も
一芝居摶ってやろうか枯月夜
神楽果つ森を遍く照らす月
お神楽の庭燎に加え月あかり
残菊は白に極まり二十日月
残菊も枯れ木の賑はひ昼月に
昼の月落葉踏む音に耳を借す
星月夜どぶ板通りのラスベガス
昼月のいろの綿飴三の酉
マネキンに首なし北風の賞与月
月明や母船の如く家ありて
武州金澤明けて朝月松の上
昼月に虚色深めて猫じゃらし
銭湯の煙突月と睦むかな
酔漢の駅指しあるく月光裡
凜々と月のやうなる厚物菊
はや入れり風邪がうろうろする月に
肩すぼめゆく路地月のかぼそきに
中天に月と種採済みし蔓
人ごとのお歳暮月がやって来ぬ
駅にポスター展示などして防火月
菊蕾むことを一途に月半ば
風禍・震災こうむる人に澄める月
芙蓉散る真白き月に見守られ
海棠の月より淡く返り花
菊月や首をすくめる日もありて
月と雲その道筋を折り合ひて
二タ月で生計たつる菊師とぞ(自ら云へる)
菊人形菊の着せ替え月五つ度
ほの白き月見団子と月を待つ
明き月望むべく物供えけん
いちまつの望みはありてけふの月
気をもんで月の出までの遠(をち)のそら
路地の闇一歩さがりて上り月
庭石に載りて迎へる今日の月
横濱の端の海邊の今日の月
月祀る前夜祭とてあほる酒
月よりもつつましきもの対ひの灯
夕月の色のいよいよ栗きんとん
酒のあと水恋しくて夕月夜
独酌の間(あひ)を夕月移りつゝ
昼月の淡さに古りて狗尾草も
夕月のくりくりし出すくわりんの上
昼月の高さその後の夕月も
月光に育つくわりんと思へりき
艶やかに月の面と虫のこゑ
その間(あひ)を一風吹けり月と虫
虫の音を愉しみ月を愉しみて
長き夜といふはこれから二十日月
履物に妻の温みや後の月
葭切に天網恢々昼の月
昼月に海蜷の道あえかなり
漂へるガザミの脱殻昼の月
六郎の街灯点る星月夜
葉ざくらを月の始の風わたる
花過ぎの月も白塗り大道芸
月夜道唄出て菅原都々子の唄
菊月のおだやかな日を送りけり
気に懸かるところメモして夜長月
生垣の斑入り芒に月昇る
日を上げて又月上げて石蕗の花
月を翔ぶ白雲狐火祭くる
きつね火祭山の端に出づ月に暈
十六夜の月に一位を聳えしめ
月上げて家並高山祭了ゆ
高山の月を歩ませ練り屋台
揺られ来る十(とを)の屋台に満つる月
月光に色を奪られてまんじゅさげ
仙崖の拙き月のなぐり描き
お十夜の月へ暦をめくりけり
お十夜の月の半ばとなりにけり
月光に翳とし佇てる曼珠沙華
ひとり見る文月の月の昇り際
遅れ咲き月をまたがる百日紅
月のよな顔覗かせよ踊笠
反り撓ふ踊の指さき月の方
蓴沼朝月の翳落しけり
朝月に鳥海山目覚めゐたりけり
混浴の胸まで浸り昼の月
病葉は月を誘いて落ちにけり
月半(なか)を過ぎて朝顔咲き止めぬ
盆迄に満つる月とはおもひをり
盆まへの月のそぞろになつかしや
夕月を遮るものなし海つ方
夕月の一刻経ってその高み
さしのぼる月と葉騒と夕涼み
月は地をゆっくり離れ家並の丈
さし招かれ妻の見つけし夕月を
月の出のぐうんと低くて東(ひんんがし)に
野分あとこんなところに月が出て
野分あといつもの月が上りけり
土用芽の庭木透かねば月半ば
野分あとひたに流るゝ雲に月
野分あと夜の更けて月浄くあり
月と雲高きをすすみ台風来
月も笠被りて島の盆踊り
盆踊り月が出た出た蝉も出た
澄みわたる月と甍と盆踊り
新築も交え月照る屋並かな
質蔵に月高まりぬ寺前町
こっちからあっちへ月の通り道
石畳真一文字に星月夜
片づけるきのふの月の膳のもの
ガムランに皇子(みこ)踊り出づ星月夜
ガルーダの悪漢退治星月夜
月替れば海月の軸など宜しかり
雨ぱらつきけふ林火忌の月に入る
橋の上海月二つを数ふのみ
煙草値上げ明日に始まる祭月
団地の灯つましく梅雨の月の下
七夕月港湾の灯をちりばめて
レインボウブリッジ真上の梅雨眉月
ふんはりと七夕月の夜のフライト
梅雨の月更に茫洋目を病めり
祭月金魚貰うて藻を買ひに
梅雨季に約して旅は翌々月
山車出して風に当てをり祭月
山車倉に風を入れをり祭月
移ろひて月を覆へる梅雨白雲
梅雨白雲月を覗かせはた覆ひ
昼月を母としくらげ生れけり
いざ旅に出でむ新樹の旺ん月
金魚田の写真入り記事月替る
夕月の白増す菊の終りかな
来よ来よと月を招きて枯尾花
月招きぽやっぽやっと枯尾花
又喰うてニュースとなりし月夜茸
花薺月琴の音を蔵したり
三椏に月は二十日の仮面とる
昼月に海月末路の身を晒し
三月は不二を遠目の霞み月
二ン月の木々垂直に垂直に
山茱萸は淡きを通し月のはな
二ン月のカルキのにほふ湯を薄め
潮吹と昼月の彩相似たり
昼の月潮吹かへりみられずよ
二ン月の噴水立てる鶴の臑
二ン月も半ばと云ひて手をこする
返されし磯の海月に昼の月
股引のもう手放せぬ太郎月
月半ば花入れ替はる花舗店頭
月さして幽霊咲きの葉鶏頭
梅雨といふ辟易月に入りにけり
朝月のいろを代田に張る水も
菜の花にはぐらかされてゐる月夜
句をつくるはた又授かる太郎月
大幅に賀状絞るか思案月
むかご皆落ちて仕舞へり昼の月
梅雨空の突っかえ棒の外れ月
木の葉降る月の輪熊の檻抜けて
賀状出す図案あれこれ思案月
狗尾草(えのころ)の魂(たま)のぬけがら枯月夜
折角の月の供へとなりにけり
月を待つ大観峯の花芒
湯布岳に月は昇りて花すすき
月を待つばかり阿蘇谷花すすき
月渡る空朗々と虫今宵
漂ふて花火の煙の大海月
足腰の弱り案じて八九月
そら豆の莢から飛び出す祭月
蓮の葉に雨砕け散る祭月
田蛙の此処は井月の伊那路かな
蛙啼く伊那に井月の居ったっけ
二ン月の土掻き植うる球根は何
家人よりけふよと云はれ後の月
鶏頭ののっぺらぼうに後の月
昼月にべったら市の店支度
芒とる少年月を迎ふ村
十六夜の月移ろへば窓替へて
十六夜の月を堪能して寝落つ
明け方の十六夜の月沈む嶺
月の寺二間に徹る薩摩琵琶
雨月なり撥のぴたりと薩摩琵琶
薩摩琵琶雨月無念と弾じけり
薩摩琵琶雨月湿りの撥捌き
雨やみてくわりん月夜となりにけり
数珠玉に新月の色載りにけり
淹るる茶も望月いろに月今宵
薩摩琵琶待月軒に徹りけり
庭前の紫苑に月の待たれけり
月の軸一幅かかげ月見の座
寺門脇槇の高垣月の寺
月待ちて望月いろの畳の上
秋明菊新月のいろ湛へけり
風颯と雨月いよいよ確かなり
立ち寄りて待月軒の芋名月
雨上り天柱山は月得たり
天柱山小闇転じて望の月
前山にてれつくてんと月昇る
月の出は嵯峨より貰ふ竹の上
月なかまでお向いさんの芙蓉咲く
清経の笛高らかに舵楼の月
仲麻呂のまなざし凛と月の海
水面の月槍の寶蔵院覗く
菜の花に北信五岳月夜かな
月くりくりりんごの花の薄闇に
菜の花の丘に夕月かかる頃
海手より上れり節分経たる月
関取の錦を飾る太郎月
ぬるま湯に浸りて雨降りお月さん
死神と世に倦む人のむつみ月
石山の諸堂諸仏にむつみ月
文庫(ふみくら)や月憚りて虫細音
銭湯が未だあり大つごもり月夜
月あるを確かめ戸閉す大つごもり
町内に枯木と月と銭湯と
のらくらと陽炎主宰月旦評
ふりあほぐ月にも雀斑職を引く
月の面のあばた仰ぎて家に入る
箸つけぬ酢牡蠣は月の面いろ
太平洋戦争仕掛けし月に入る
昼月のいろを貰ひて枯尾花
昼月の辺りで穂絮ついと消え
昼月の中に入りゆき穂絮消ゆ
能登産の月夜茸とぞ掌にとりぬ
月魄の山越阿弥陀火恋し
大沢の池訪ふならば月の頃
金閣の鳳凰の上の昼の月
もう一度見てから寝ねん後の月
この一角家建て替はる望の月
促され庭に出てみる後の月
弟と倶に仰げる後の月
本葬を済ませし家や後の月
中天にしろがねの月銀木犀
月端(つきはな)の蝉ごゑ何処か衰へし
茎ぞろと生え出て月の曼珠沙華
中天に今日の月上げ薩摩琵琶
月に祀る芒に伍してゑのころも
今日の月三渓園の松越しに
出る筈の月促せり庭の虫
中天に時間をかけて望の月
月明り月見団子の小法師に
澄むといふこと一心に望の月
職退きて妻と眺むる望の月
海べりに住んで今宵の月迎ふ
海渡る雲脚迅し月今宵
つづれさせ職退きて早一ト月か
月夜道越中おわらの高調子
編笠も月のかたちに風の盆
祭果つ遠くに月の皆野町
八方尾根山麓月夜蛙啼く
八方尾根月夜木蛙と
青天の昼月いろの絮たんぽぽ
月あるも寒さしぶとき戻り道
水活きて五月雨月の山毛欅林
マンゴーのむんむん熟るる星月夜
青空のまま昏れ柿の蔕月夜
つくねんと柿の木いっぽん枯月夜
パパイヤの幹むっちりと月明り
連呼して売れぬ商品暮古月
弟と四方山話弟月(おとごづき)
小六月寄り来る鯉に興動く
冬瓜の青息吐息月旦評
昼月のあんなところに枇杷の花
ぽっかりと泛かびて鴨と昼の月
銀杏黄葉唄ふは月夜のサンタルチア
月を越す木守くわりん生らせおく
昼月のかろさ水鳥泛びをり
昼月が夕月となり蒲の絮
断食月(ラマダン)は海の彼方に八つ手咲き
月旦や仁義なき世の龍の玉
鼻尖の氷りつきけり月夜道
昼月に瞑想のいろ秋明菊
師走てふ物入り月が目の前に
買物の帰りに見て来し月のこと
月半ば過ぎて芙蓉の花じまひ
十六夜の月懐に身を置けり
近隣に鵙のこゑ殖え月半ば
月の出の方を指さし十夜僧
万灯は月の明さに浮かれ貌
十六夜の妻の誘ふ庭の月
十六夜の襟掻き合はす月のもと
雨月なるきのふに替はる月夜ぶり
十六夜の畏き楠の月夜ぶり
うしみつの雲を払ひて今日の月
雨止めば確かめに出て今日の月
点る灯の月の明るさ雨名月
月祀る定座は大玻璃戸のほとり
雨名月月に替はりて点れる灯
湯けむりにふすぼりもせぬ月の貌 一茶
湯畑より湯の香蹤きくる霧月夜
芋煮会煙の行方に昼の月
芋煮会里芋いろの昼の月
朝月いろ烏賊釣り船の船腹も
通り雨海月のやうな傘買うて
里芋は山芋おもひ夕月夜
月はなや夏場の簾吊りにけり
泰山木高みに咲いて月に逢ふ
繕ひもの月は卯月と名を替えて
青梅の清浄月に入りにけり
あぢさゐを照らす竹林月夜かな
欅の葉吹かれて躍る祭月
昼月に向きて海月の四つ目かな
昼月と淡さ比べを花の梢
毒月船師とす御坊の花見絵圖
月に向きはくれん開く薬師堂
月光の下にはくれん稍さびれ
月交え白木蓮の夜の宴
月浴びて夜叉のはくれん突っ立てる
夕月に白木蓮の苞の毳(けば)
一ト月がすぐ過ぎ二月の診察日
月も半ばのこゑきけば梅ふふみ初め
二ン月の雑木日差しを返しをり
大手振り死神あるく太郎月
太郎月ここ一番の雪降れり
昼月の高みに佇ちて宿木は
一薔薇昼月恋ふて長けに長け
油揚に狐化けたり小六月
秋嶺のなで肩にさす峡の月
湯の町の月に飽かなき女郎蜘蛛
むさき雲迷惑顔に望の月
あきらかに案山子は自滅月明に
挫折とは斯くなる月の枯蓮
枯れざまも月に窮まる敗荷
花巻といへば赤松それに月
ぐい呑の木目あらはに今日の月
何となく家出て月の今宵かな
しろがねに月の瓦と萩叢と
白菊の月輪黄菊の日輪と
万灯を曳きゆく月の都まで
望の月覆へる雲のいつかなし
玄関に雨月の靴の匂ひして
藪肉桂大樹こんもり星月夜
うち曇りをるも今宵の月のうち
くわりんの実今宵の月と遊ばゞや
皓々と月を上げたるくわりんの実
くわりんの実今宵の月に安んじて
信州の月のほとりのくわりんの実
とぼとぼと行く径見えて月真澄
月さしてぶだうも甘さ増す頃ぞ
菊月の盃に酒なみなみと
重くれるくわりんは月にまどかなり
月の前はばかり通る雲一つ
案山子田を篤と拝見お月さん
手さぐりのうす暗がりや後の月
海浜の蘇鉄を艶に月今宵
月なかの青くわりんより青抜けて
百日紅芙蓉の月に入りにけり
凌霄花よく見し月と振り返る
伊豆の月湯の町エレジー口を衝き
月夜道菅原都々子の口調真似
ウインドサーフィンあやつる風も月代り
押し詰まる月の抜け道灸花
脱落者めく蝉が殖え月半ば
心臓病み莨を買ひに星月夜
星月夜週間新潮脇挟み
この谷に月と私と草螢
ほたる飛ぶ月の明さの中にゐる
ほうたるの谷に注げり月明り
月明り螢の宿に注ぎけり
螢火は月の明さと別にあり
谷戸の月平家螢が隠れ棲む
ほうたるに月が宴の役を振る
葛の蔓鎌首擡げ昼の月
すててこで通すならひの祭月
イチローの投打愉しみ祭月
橘月良寛剃髪せし寺に
早苗月非登利(ひとり)あ處非(そび)の旅をして
雲の浦橘月の雲うごく
道後公園夜桜の上に月上り
糸柳月に懸かれる道後の夜
花辛夷暮れて月夜の谷を守る
待宵 /
門被り松の中より小望月
待宵のとろろを擂れる音暫し
待宵の空を垣間見家に入る
待宵の以心伝心月と雲
門閉めに出でて仰げる小望月
待宵の湯呑をつつむ両手かな 寒暑
待宵の濡れ岩隠り蟹の爪 ねずみのこまくら
名月 /
この路地に建て込む家並今日の月 暮津
なあなあの仲の芒と望月と 暮津
むさき雲迷惑顔に望の月 寒暑
もうけもの雨後の望月正面に ぱらりとせ
雨止めば確かめに出て今日の月 随笑
雨名月月に替はりて点れる灯 随笑
雨名月程よき数に客ありて 燕音
顎髯のいやにちくちく今日の月 暮津
供へらる二十世紀に今日の月 さざなみやつこ
軽雷の飛び入りもあり雨名月 随笑
月待ちて望月いろの畳の上 燕音
月並みを恐れず恥じず名月吟 鳩信
今日の月三渓園の松越しに 宿好
今日の月匂ふがごとく今日の雲 暮津
十五夜の花暮町に灯の入りて ももすずめ
十五夜の空へこぞれる糸瓜加持 ねずみのこまくら
十五夜の水屋に張れる水満満 暮津
出序でにあふぐ松越し今日の月 暮津
窓際の屑籠に差す今日の月 暮津
地卵の色の満月上りけり 石鏡
町中の墓地ぽっかりと今日の月 暮津
庭石に載りて迎へる今日の月 石鏡
庭木より栗名月を外し見る さざなみやつこ
天柱山小闇転じて望の月 燕音
投函の戻りの道の今日の月 暮津
二歩三歩さがって見え来今日の月 暮津
白帯びて満月の路地愛(は)しきやし 石鏡
浮かぬ空模様十五夜台無しに 石鏡
望の夜のかさごの煮付け甘かりき 暮津
望月のいろを貰へり女郎蜘蛛 燕音
望月の差すまで間ありじれったき 暮津
満月にほっとする顔寄せにけり 暮津
満月のいろを頒たれをみなへし 暮津
満月の下に睦める家と家 暮津
満月はいつもここより家並の間(あひ) 石鏡
満月を海に沈めてカガミ貝 素抱
満月を昇らせちちろの囃子方 暮津
路地から路地渡り歩けり望の夜 暮津
路地折れて今正面に今日の月 暮津
今日の月ならざる月を朋に酌む
庭を訪ふけふの客人(まろうど)栗明月
路地裏の空刳り抜きて望月は
十五夜の薄採りゐる見知り人
海に向き芒活けをり月今宵
満月は出渋るものでなけれども
門被り松の中より小望月
望の夜の空明りして海の方
望月のすすみ具合を庭に出て
望月に夜間飛行の空路あり
六十と餘歳の吾に今日の月
夕顔の二、三咲きゐる今日の月
白萩の上に懸かれる今日の月
満月の高さ欅を抜き去れり
腕組みをしをれば満月おのづから
満月の終に欅をしのぎけり
満月を見んとこぞれる駐車場
先代の主しのべと今日の月
天心に節穴のある栗名月
十五夜の月みてあぎと引っ込めぬ
満月に颯爽と佇つ妻なりき
幕開けは夏満月の田圃みち
横濱の端の海邊の今日の月
十五夜を過ぎ泊つ宿はヒュッテ星
家並の灯どれも貧しく満月下
梅雨満月水っぽき風吹けるなり
寒満月破魔矢携え戻る道
ばった追ひ追ひかけゆきて満月寺
満月に阿蘇の芒のコンと鳴く
講談の抜き読み名月若松城
淹るる茶も望月いろに月今宵
月見んと望月いろの堂畳
雨名月天柱山は闇向ふ
立ち寄りて待月軒の芋名月
すすめられ雨名月の座につきぬ
先師また雨名月の句を成せり
末席へ雨名月の遅れ客
中天に今日の月上げ薩摩琵琶
満月の出を待つ吾と母の丈
十五夜の藷の煮付けに舌鼓
黐の木の上に望月顔見せぬ
海渡る雲脚迅し月今宵
雨名月寝しなに覗くそらの方
雨にほふ雨名月の夜半の庭
うしみつの雲を払ひて今日の月
点る灯の月の明るさ雨名月
満月といふこゑ外(と)より虚子翁忌
木の芽の嘴寒満月に突き上げて
のっそりと満月迫る一立木
名月より一段落つる灯に読書
犬小屋の屋根も明るう明月に
ぐい呑の木目あらはに今日の月
満月が近々と見え腸(わた)めくもの
満月の腹擦りのぼる家危うし
満月ののぼりきるまで厨ごと
門閉めに出でて仰げる小望月
海浜の蘇鉄を艶に月今宵
(末尾は句集名)
良夜 /
この家の先代覚えてをり良夜 暮津
どの家にも一つ良夜の玄関灯 暮津
家々に良夜迎へる窓のあり ぱらりとせ
垢抜けてみゆる良夜の月の路地 暮津
手に通す良夜のパジャマ薄黄なる 暮津
首長き花瓶にくさぐさ活け良夜 暮津
水道の雫切る音良夜なり 寒暑
通夜ありて良夜の句会一人欠く ねずみのこまくら
庭石を二つ渡りし良夜なる 宿好
庭先に出づや良夜の月奈辺 暮津
二つ飛ぶ夜間飛行の灯も良夜 暮津
明日の良夜待ち切れざれば酒無心 石鏡
良夜かな家は明りが点りてこそ 暮津
良夜の足二本重ねて寝まるなり 暮津
良夜の本ここ迄にして寝るとせむ 暮津
良夜の本開けたところを先づは読み 暮津
良夜明けよべの供物のなつかしさ 暮津
良夜明け常の日差しをもたらせり 暮津
寐落つまで耳遊びゐる良夜なり 石鏡
建売の三棟買い手を待つ良夜
家毎に一つ良夜の玄関灯
影ぼんやり映りて良夜の障子桟
天井窓良夜の明り洩れてをり
良夜の灯洩れゐる家の簾越し
居間にけふも妻とふたりの良夜かな
家々の良夜の窓の四角な灯
まんじゅうと芒と良夜頒ちけり
影絵のごと二階の人影良夜なる
煮付けの甘味口に残れる良夜かな
建て込める家の一つにして良夜(我が家)
路地いとほし今宵良夜と聞きしより
空模様おぼつかなくて明日良夜
明日良夜それに託け頼む酒
庭へ灯の末広がりに良夜なる
良夜めく思ひを萱の一輪挿し
白木槿けふの良夜を約束す
満腹に良夜の町の遠明り
モダンなる家の良夜の玄関燈
かたはらにひょうたんを置く良夜かな
良夜の池掻き回す奴罰当り
真白き犬良夜の土に頤埋め
ゆらゆらと揺れて良夜の芭蕉かげ
新聞の一面に載る良夜かな
神奈川版三渓園の良夜かな
一面に良夜と健闘力士のこと
(末尾は句集名)
無月 /
いかんともしがたき空やけふ無月 石鏡
ぬうぼうと無月の家路辿るなり 石鏡
重衡を弾ず無月の薩摩琵琶 燕音
折角の月の供へとはなれり 鳩信
蘇鉄らのずんぐりむっくり無月かな 寒暑
箱河豚に酌みて無月の泊りかな ねずみのこまくら
雲の浦橘月の雲うごく
無月なる風呂出て釦の掛け違ひ
酔ひいささかたうたう無月に了りけり
無月また雨月もよろし吐月峯
無月なら上々けふの里の空
ひたる湯に透きて無月の爪のいろ
無月なり湯舟の底の粗き砂
闇底に鯉の跳ねたる無月かな
(末尾は句集名)
雨月 /
雨名月月に替はりて点れる灯 随笑
雨名月程よき数に客ありて 燕音
軽雷の飛び入りもあり雨名月 随笑
玄関に雨月の靴の匂ひして 寒暑
薩摩琵琶雨月湿りの撥捌き 燕音
風颯と雨月いよいよ確かなり 燕音
吐月峯とんだ雨月となりにけり
無月また雨月もよろし吐月峯
雨月なら雨月のなりに句を為さん
雨月なり撥のぴたりと薩摩琵琶
薩摩琵琶雨月無念と弾じけり
先師また雨名月の句を成せり
雨名月天柱山は闇向ふ
すすめられ雨名月の座につきぬ
末席へ雨名月の遅れ客
雨月なるきのふに替はる月夜ぶり
雨名月寝しなに覗くそらの方
雨にほふ雨名月の夜半の庭
点る灯の月の明るさ雨名月
(末尾は句集名)
芋嵐 /
このやうに空澄み来れば芋嵐
十六夜 /
十六夜の栗と眼鏡のつるのいろ 燕音
十六夜の月に一位を聳えしめ 素抱
十六夜の月移ろへば窓替へて 燕音
十六夜の宿の障子を走らする 燕音
十六夜の宿の枕を均しけり 燕音
十六夜の小腹に納む里の栗 燕音
十六夜の生節の血合いつつき食ぶ 暮津
十六夜やギターケースの胴くびれ さざなみやつこ
二人旅寝物語りの十六夜 燕音
里芋の茎の色よき十六夜 燕音
十六夜の醤油いろして古障子
十六夜の二階に点る豆ランプ
十六夜のお手元酔ひておぼつかな
十六夜の酒にむらさき菊膾
十六夜の夕顔漂ひ初めにけり
酔ひ誘ふ十六夜の雲こむらさき
十六夜の外灯自動点火せり
十六夜の空にするりと蔓伸びて
十六夜の鯛の目浸かる潮汁
十六夜の犬のごと路地抜けゆけり
十六夜の月の風姿を磧越し
十六夜の下着まさぐる脱衣籠
旅寐また浅く十六夜過ぎの宿
十六夜をきのふに月見櫓あと
十六夜のピラニア潜む水槽にや
十六夜の月見こちらの窓がよし
十六夜の二間貰ひて山の宿
十六夜の嶺連なれる峡に泊つ
十六夜の月を堪能して寝落つ
明け方の十六夜の月沈む嶺
十六夜のかうもり飛んで薩摩琵琶
十六夜の池に降り込むこぬか雨
十六夜の雨庭石を渡りそめ
十六夜のはつりほつりと宵の雨
十六夜の木叢草叢翳深く
十六夜の月懐に身を置けり
十六夜の妻の誘ふ庭の月
十六夜の襟掻き合はす月のもと
十六夜の畏き楠の月夜ぶり
引続き晴れて十六夜十七夜
十六夜の出るときたっぷり湯を足しぬ
(末尾は句集名)
立待月 /
立待と月は名を替ふその日なり
引続き晴れて十六夜十七夜
居待月 /臥待月 /
更待月 /
残菊は白に極まり二十日月
長き夜といふはこれから二十日月
宵闇 /
布袋からくり神髄見する秋の空 素抱
布袋台金冷まじき機関樋 素抱
天高くからくり繰れる布袋台 素抱
布袋台覗けばからくりあやつり衆 素抱
秋空を金襴屋台押し移る 素抱
下三之町の宵闇屋台来る 素抱
宵祭屋台の端(はな)は神楽台 素抱
高山の宵闇屋台の目白押し 素抱
星空ゆく屋台提灯夢うつつ 素抱
五百提灯屋台の後後から 素抱
屋台曳かるさん法被姿かな 素抱
星空に聳えわけても鳳凰台 素抱
高山に思ひ知らさる月夜寒 素抱
高山の月を歩ませ練り屋台 素抱
御所車金具さやかに大八台 (屋台曳き廻し)素抱
栗材の台輪屋台秋日差す 素抱
宮司さま馬でぱかぱか御神幸(ごじんこう) 素抱
秋空へ打ってこどもの闘鶏樂 素抱
御神幸一文字笠キッと締め 素抱
御神幸しょうごい隆と押立てて (*しようごいは榊替わりの樹木 冬青の訛りか)素抱
宵闇に耳を澄ませば既に秋
夕闇を蚊燻の蚊のふぬけ飛び
夕闇に馴染み初めけり手入れ松
夕闇の萩を経て来し風ならむ
宵闇に仙人台の泛き上り
やがて来る夕闇そこに寒雀
蚊帳吊りし宵闇いまもそこにあり
肝吸ひに夕闇募る暑気払ひ
(末尾は句集名)
霧 /
ガタの来し下駄箱霧の共同湯 素抱
カルデラを一目たりとも霧の中 鳩信
グライダー大格納庫霧閉ざす 随笑
ししうどの花を霧今閉ざすところ 随笑
ししうどの花横なぐり霧暗転 随笑
シャツ通す冷気朝霧湧き止まず 素抱
だまなして霧の走れりゼンテイカ 燕音
ときに鹿現るる林道海霧塞ぎ 燕音
トラノオのその先霧の粗く飛ぶ 宿好
ななかまど白根百度霧流れ ぱらりとせ
ぼんやりと夏霧のこる山間部 随笑
まんじゅうの湯気の淡さに町霧らふ 随笑
みゃうみゃうと霧の乗鞍スカイライン 素抱
もみずるに一役買って山の霧 素抱
ゆふいんの霧に目の慣れ梅擬 鳩信
りんどうに霧のわいわい押し寄せぬ ぱらりとせ
一条の霧を抜けくる日の光 随笑
一団の霧に突き上げらる霧も さざなみやつこ
一本の樺見ゆ他は一切霧 随笑
羽黒権現姥百合に霧ながれけり 石鏡
黄菅色フォッグランプに海霧抜けて 燕音
黄葉山谷間漂ふ霧も黄に 素抱
岳樺呑み込む海霧の迅さかな 素抱
樺の幹朝霧に溶け込まんとす 随笑
九階草霧淡くなり淡くなり 燕音
駒草を囲ふ鎖の霧雫 素抱
鶏頭のいたくうらぶれ霧雨に 暮津
月山は霧籠め朝の青田の香 素抱
戸隠の霧に娑婆気抜かれけり ももすずめ
吾亦紅霧の冥さを帯びつゝあり 随笑
国後島あとかたもなく海霧の中 燕音
恨めしや湯釜は霧に覆はれて 随笑
祭去る下一之町霧籠めに 素抱
桜の実朝霧の味したりけり 素抱
山頂も果たして同じ霧の景 随笑
山巓の霧を切り裂きつばくらめ 随笑
残念よ無念よ湯釜は霧の中 随笑
諸鳥のこゑを青嶺を閉ざす霧 暮津
松虫草めそめそ霧に取り囲まれ 素抱
松虫草霧来る方を知れるなり 燕音
沼明けて野しゃうぶに霧停滞す 素抱
乗鞍の霧とトウヒのかくれんぼ 素抱
乗鞍の霧を糧としさるをがせ 素抱
青芦の一葉に凝る霧の粒 素抱
石ころ径霧に眼の利く蜻蛉来て 随笑
川霧に川根茶畑ひた濡れに 石鏡
潜水艦霧雨隠りにその艦尾 石鏡
草千里一二三と霧湧いて 鳩信
足許の白山千鳥の他は霧 素抱
足許は草の色して霧の中 暮津
蜘蛛の囲に朝霧の粒あからさま 素抱
朝湯して湯花は霧の淡さなる 素抱
朝霧に散歩の下駄の緒の緩し 素抱
朝霧の樹間ほのぼの明るめり 素抱
朝霧の汝を訪ひ声を掛くるならむ (三浦妃代さん逝く) ぱらりとせ
吊鐘人参聞きをり霧の私語(ささめごと) 燕音
釣舟草霧に溺るる女坂 ももすずめ
庭園灯霧より他に訪ふものなし 素抱
登山届ポストぽとぽと霧雫 石鏡
土産屋をひやかし霧冷え宿浴衣 素抱
湯をうすめうすめ夜霧の共同湯 (蔵王温泉) 素抱
湯畑の霧籠め硫気鼻曲る 随笑
燈台がぽつんと海霧の帯のさき 随笑
燈台の鉄階を霧濡らし初む 寒暑
日光黄菅霧の向うの霧を見て さざなみやつこ
日雀啼き大日岳の霧霽らす 素抱
念力で霽れるお釜の霧でなし 素抱
覗き込む下山路霧を背にしたり 随笑
白塊の山霧(ガス)が押し寄す山母子 随笑
白檜曾の幹を好める霧が出て さざなみやつこ
櫨の木の霧にちょっぴりもみぢして 鳩信
魔がさしたやうに海霧湧きまだ引かず 燕音
霧うすれ弟子屈町営飛行場 ぱらりとせ
霧に顕つ岩相霧の道ゆけり 暮津
霧に呼びかく殺生河原の拡声器 (殺生河原) 随笑
霧に擦るマッチのばうと硫黄の香 随笑
霧に湯気逃がす高窓共同湯 随笑
霧の香に八百萬神在す羽黒山 石鏡
霧の坂羽黒詣での息整え 石鏡
霧の中ガイドお釜がある筈と 素抱
霧の中バスはもたもた蔵王嶺へ (蔵王 お釜) 素抱
霧の中四五歩先ゆく妻の肩 さざなみやつこ
霧の中霧に日当る一所 宿好
霧の夜の湯町の上湯下湯かな 素抱
霧まみれ婆ちゃん湯の花ひさぎをり 随笑
霧らふ山下り来てホットミルクかな 随笑
霧を来て鮫肌いろの両腕 随笑
霧雨に箱根七湯めそめそと 石鏡
霧呼んで行儀の悪き岳樺 石鏡
霧好きは一位に如かず摩利支天岳(まりしてん) 素抱
霧込めののっぺらぼうぞ草千里 鳩信
霧退くと思へば寄せて白樺に 素抱
霧展く朴の高みをうち仰ぎ 素抱
霧濡れのお釜の石に御注意を 素抱
霧濡れの小石を拠り処駒草は ぱらりとせ
霧湧かす花別名をゼンテイカ 石鏡
霧浴びし山の蜻蛉の羽根使ひ 燕音
霧来れば阿修羅見す木ぞ岳樺 鳩信
霧冷えの肩に落ちくる樅雫 燕音
霧冷えの五体煮川乃湯に痺れ 随笑
霧冷えの先客ひとり町営湯 石鏡
霧籠めに一茶の句碑のふすぼり貌 (湯けむりにふすぼりもせぬ月の貌 一茶) 随笑
霧籠めの朝は一際湯川の香 (草津 西ノ河原) 随笑
戻り湯の湯町坂がち霧にほふ 素抱
夜も更けて霧に灯ながす老舗宿 素抱
夕菅の霧を素早く技けし色 さざなみやつこ
夕霧にチョイナチョイナの時報かな 随笑
羅臼沖背黒鴎に海霧去来 燕音
露天湯の湯口の硫黄霧呼べり 素抱
嘶きと思はるこゑも霧四辺 鳩信
鬱金空木海霧を抜け出てひよこ色 燕音
山頂は霧が懸かりて霧千里
シラビソの霧より抜けて霧の色
霧を出てヤマブキショウマ霧に入る
霧の中一人で歩く霧ヶ峰
霧らふ日も霧湧かぬ日も松虫草
海霧止んで海霧又出でて沿岸部
音立つる全面の霧松虫草
しんしんと霧に巻かれて山毛欅雫
某命の使いの小牝鹿霧より現れ
海霧破り今出漁のコンブ舟
足許も草の色して霧の中
松虫草霧通り抜け通り抜け
霧浴びて湯山林道下りて来し
霧籠めの集落跡はあの辺り
猿渡る寸又三山霧籠めに
サワグルミ花序を黒々濡らす霧
川根茶の川根高校霧隠れ
大井川霧らふ濁流こきまぜて
霧籠めに艦船の噴く白蒸気
辿りゆく手摺り霧冷え湯治棟
鳥海山の長き山脚海霧に入れ
羽黒権現茅葺霧に波打ちて
霧霽れて三神合祭殿葺替
霧のこゑじはっとしたり蟻地獄
羽黒山三十三坊霧の中
爺杉の霊力霧を生み継げり
霧被り羽黒詣の随神門(羽黒山門前)
霧の中羽黒詣の深呼吸
霧らふなかどれがどれやら摩利支天岳(まりしてん)
霧好きは一位に如かず針葉樹
川風に霧に吹かれて栃黄葉
霧の牧白樺の布置宜しかり
オオシラビソ霧を払ひて溶岩池
日雀来て大日岳の霧霽らす
乗鞍の霧に突っ込むバスの尻
這松も霧に這ひつくばる峠
日枝神社霧らふ横手に中学校
高山の町見ゆ狭霧の厠窓
蓼科の霧の染めたる松虫草
霧湧いて太陽を断つ松虫草
湯返りの夜道坂道霧の出づ
岳鴉霧に溺るる樺の木
白樺を裹める霧の薄ヴェール
霧明り朴の広葉を透きにけり
走り根につまづく森の霧濃かり
山麓の霧にぜんまい臈長けて
がまずみの実を熟らす霧また出でて
朴の葉に霧の幽冥さだかなり
水上を横這ひの霧沼封ず
蔵王口霧に鳥居の漂へり
霧終に雨にバス停蔵王口
共同湯霧の夜熱く水加減
戻り湯の夜道灯の減る霧の闇
山形弁飛び交ふ霧の共同湯
朝湯して湯花は霧の淡さなる
霧の夜を青年寡黙共同湯
霧籠めの露地惑ひゆき共同湯
霧湧きて蔵王温泉一呑みに
蔵王嶺より霧垂れ湯町一呑みに
駒草を育む霧の子守唄
霧を見て蔵王山頂レストラン
岩鏡霧に佇み心細
霧籠めのお釜覗いて引き返す
たちまちの内にお釜を霧が閉づ
蔵王嶺の車前草霧にしとど濡れ
お釜かすみ只々霧を見る他なし
霧雫しとど駒草囲ふ柵
霧きらふ溶岩あらんお釜の辺
不承不承這松お釜の霧に濡れ
いちはやく霧を抜け出しチングルマ
ななかまど霧を好みて咲きにけり
やみくもに霧を登りてお釜の辺
お釜覆ふ霧に対ひてそもさんと
霧の中バスはもたもた登り出す
霧濡れの山麓育ちたうもろこし
鼻先の霧払はばや遠刈田岳(とおがった)
霧らふ径螢袋の豆ランプ
這松に海霧脚迅き礼文島
あらはとは霧の霽れゆく草千里
霧霽れて緑むくむく草千里
外輪山伝ひに降りくる霧の中
高原の大犬蓼の霧雫
霧込めに阿蘇は冷え冷え虫鳴ける
霽れてまた霧らふ湯布岳チョットコイ
草黄ばむ湯布岳朝の霧に浮き
地獄巡り霧のむかふは何地獄
ゆふいんの霧に目の慣れ梅もどき
名にし負ふ地獄巡りや霧まみれ
びくともせぬ溶岩霧の山麓に
霧の音肥後赤牛の鼻の先
草千里霧の中から馬匂ふ
阿蘇谷に霧を呼び込む花すすき
乗馬せる音のもそもそ霧の中
霧冷えの俄か阿蘇杉寸詰り
乳牛に一二三と霧わいて
霧呼んで一寸蕎麦の丈伸ばす
蜻蛉の霧に湿りし羽根ふると
がまづみの霧にぱっちり長蔵小屋
櫨の木の霧にチョッピリもみぢして
馬面の駒草切りぬ霧雫
大観の絵の仙人につのる霧
吾亦紅霧が閉しにかかりけり
駒草の鼻先掠め霧湧けり
駒草を嘶かす霧出でにけり
バイケイソウ背後に霧の廻りけり
駒草や小石を濡らし霧湧けり
霧来ると小首振りけり風露草
霧のこゑキオンてふ名を持てる草
霧淡く又濃くアキノキリンソウ
霧冷えの肌につのれる薄雪草
お花畑霧の中くる足音あり
霧のこゑならぬ人声薄雪草
霧込めの黄菅明るさ増しにけり
気まぐれな霧の合間のお花畑
霧の随(まにま)に日光キスゲの幽明界
吾亦紅霧は濃淡強めけり
シュロ草の見栄えせぬ花霧込めに
日光キスゲ霧におぼるる呱々のこゑ
下り道キスゲに湧ける霧八方
八方より霧湧く黄菅原に入る
バイケイソウずんずん霧の深くなる
霧の海肩から冷ゆる峠越え
昇りくる霧脚の見ゆ黄菅原
籠ノ登(かごのと)のあれといふ間に霧襖
霧抜けて青き太陽松虫草
熊出没海霧の峠のあの辺り
ときに鹿現るる林道海霧塞ぎ
樺の上海霧を抜け出し山容
海霧育ち羅臼育ちの大虎杖
海霧籠めの灯を点しけり羅臼町
湧く海霧に前後塞がれ峠茶屋
ウコン空木海霧を抜け出てひよこ色
つつつつと羅臼岳の肩に海霧流れ
たちまちにハイマツ帯に海霧至る
やにはに海霧国後島を呑み込めり
しろしろと海霧に目覚めぬ鋸草
やみくもに海霧出て羅臼岳巻けり
羅臼町海霧の岩山背に負ふて
海霧最中背黒鴎の行方見て
海霧籠めの国後島に目を凝らし
鼻を突く霧の中とぶ蛾を追へり
紫の花の太陽霧の底
常念岳の霧冷えが味噌早場米
恨めしや湯釜は霧に覆はれて
湧く山霧の韋駄天走り濃りんどう
山霧濡れの岩を背にして監視員
山巓の霧霽れてきて湯釜見す
旅先の甘栗を割る霧の中
白根嶽暫し青空閉ざす山霧
霧を裂き湯釜へ射せる真昼の陽
最悪の山霧(ガス)に見まわれ瑠璃湯釜
ななかまど次々山霧に呑まれけり
山霧に足をとられてずっこけぬ
岩っ原霧の白さの山母子
火口壁霧に色増すななかまど
象のごと霧の一塊樺に寄す
湯釜・水釜・涸釜なべて霧籠めに
火口湖の霧は頑固に囲を解かず
霧探りフォッグランプの二つの眼
もやもやの霧の白根を下りて来ぬ
岩っ原山霧に呑まるる山母子
黒豆の木の実濡らして霧這ひ来
白塊の山霧が押し寄す山母子
本白根山より硫気ふふむ山霧(ガス)
霧霽れて意外に勁し白根の陽
山巓の霧の中よりこどもごゑ
束の間の霧の晴れ間の濃りんどう
霧籠めに人影のごと枯れ立木
乳白の湯釜呑み込む山の霧
瞬く間山霧霽れて濃りんどう
霧に点り岩間の残んのまつよい草
立枯れの一木霧の山巓に
霧籠めに「狐に注意」の道路標
一本の樺立つ他は一切霧
熊笹の上をさ走る朝の霧
熔岩原の樺を離るる朝の霧
霧に擦るマッチのボウと硫黄の香
霧呼んで賽の河原のごろた石
ゴンドラゆく谿は霧籠め硫気籠め
霧雫殺生河原の火山弾
傾いて霧に巻かるる樺いっぽん
句碑二つ肩を並べて霧に入る
影絵めく草津は霧と坂の町
霧の夜のあまりに熱き地蔵の湯
霧越しに磨りガラスめく草津町
草津町霧に宿の灯点り初む
古る友は霧の草津の時計屋で
湯疲れは先づ足にくる霧の径
饅頭の蒸籠湯気噴く霧の町
霧冷えの肩うち沈め地蔵の湯
霧の日の朝湯うめてもうめてもや
霧冷えの肩へ掛湯をふんだんに
湯畑より湯の香蹤きくる霧月夜
湯畑の硫気霧籠め鼻曲る
霧に濡れ婆ちゃん湯の花ひさぎをり
霧籠めの湯畑を過ぐ登校児
霧籠めの草津茶店に霊芝売る
霧籠めにおどろおどろし湯釜の名
湯の川の硫気濃ければ霧深く
霧らふ沼白樺いっぽん立たしめて
沼の霧動くにつれて人動く
斑の著く霧潜るたび小鬼百合
向き替ふる霧の先見て山下る H
飛んで来し岩の岩角霧雫
霧襖老鴬のこゑ珠とせり
岩盤みち手をつけられぬ霧をゆく
音もなく霧に突っ込むグライダー
もくもくと歩く他なき霧の径
松虫草屯し霧を誘い出す
山神の申し子松虫草霧らふ
ししうどの花の明るさ湧く霧も
吾亦紅霧の冥さを帯びゐたり
グライダー大格納庫霧閉ざす
山頂の霧厳しかり岩の相
松虫草眼下を霧の昇り来る
松虫草岩原を霧波打つて
気象レーダー霧混む天の奥探る
背後より松虫草を覆ふ霧
どこまでも霧どこまでも独活の径
湧ける霧松虫草を目隠しに
松虫草霧かいくぐりかいくぐり
獅子独活の霧雫切る柵の内
霧生んで白樺映ゆる白樺湖
車百合あらはずかしの霧隠れ
たちこめる霧に憮然と独活の彳つ
ししうどの花ぽっかりと霧の間
霧込めの風にふるふる車百合
山霧の流るリフトに足を垂れ
御殿場の霧に朝の蛾まごまごす
たちまち霧たちまち霽れて富士裾野
霧ヶ峰・車山高原・八島ケ原湿原
海霧来ると鴎の嘴敏感に
遊び舟手摺りに海霧の冷え及び
たちまちに陸中海岸海霧の中
遊覧船咽せんばかりに海霧湧きて
やみくもに遊船はしる海霧の中
手始めに海霧の仏ケ浦に寄る
海峡の海霧の合間の松前町
たちこめる霧の魔法を黄菅解く
霧の触れゆきし木石皆親し
霧の戸の開け閉め百合が司どる
霧濡らし始む萬物呱々のこゑ
霧に脚垂るる鴎の淋しさよ
白妙の翼浦賀の霧払ふ
後生掛の霧の香つよし硫黄谷
霧の香に硫黄の交じる温泉場
風鈴の盛岡過ぎて霧・小雨
(末尾は句集名)
富士の初雪 /
雁渡し /
顎引いて太棹雁のわたる空 燕音
雁ゆかせ津軽よされの高調子 燕音
雁引くや荒布色なる島の子ら ねずみのこまくら
撒き砂に願化踊りの雁形舞 素抱
人足に定年ありて雁渡し(四十五歳で口取りに) 石鏡
水面這ふ虫に田螺の大雁塔 随笑
西馬音内(にしもね)衆踊る姿は雁の列 素抱
草の上は空に直結雁わたし 暮津
弔旗垂れ雁来月端(はな)紐育 随笑
連れ立ちて屏風の裾より雁どち 寒暑
(末尾は句集名)
青北風 /
鰯雲 /
一切の小細工無用いわし雲 寒暑
いわし雲天龍寺船穹駈けて 宿好
鱗雲鱗崩れてただの雲
鱗雲端乱れ完璧期し難き
散歩道橋のここ迄いわし雲
句集出すことも伸び伸びいわし雲
リレーはいつも部落対抗鰯雲
持ち物の点検鰯雲の下
鰯雲ことさら思ふこともなく
(末尾は句集名)
◆地理
秋出水 /
秋出水なかなか暮れぬ白磧
岩壁にぶち当り折れ秋出水
秋出水ヘヤピンカーブして山峡
隧道を浸して山の秋出水
秋出水林道よぎり落ち谿へ
とんでもなき所に流木秋出水
秋出水くびれ広がり大井川
急ぐありゆっくりゆくあり秋出水
秋出水体当りして洲を削り
皚々と砂州の削られ秋出水
砂州削いで真白き牙の秋出水(大井川鐵道)
大井川秋出水して川会所
川越しの賃料こまごま秋出水
水平に且つ脚早に秋出水
秋出水うち揚ぐ流木足蹴にす
宝の山磐梯山より秋出水
秋出水あらがふ岩を組み伏せて 寒暑
秋出水東夷(あずまえびす)の國々に
秋出水一夜に削げる川原石
秋出水その上を蜻蛉すいすいと
秋出水ぶち当たりたる岩襖
秋出水あらがふ岩を組み伏せて
花野 /
いっぽんの手拭首に花野行 随笑
ここいらが花野の端と目で区切る 随笑
どうどうといなし花野を巡る馬 随笑
花野ゆく女の服の大雑把 さざなみやつこ
花野行さよなら三角また来て四角 随笑
花野行足弱組に加はれり ぱらりとせ
鼻唄の一つも出さうな花野行 暮津
花野歩き疲れ残れりふくらはぎ
妹に母を預けて花野行
茅花野を駈くるテリアはぬいぐるみ
思ひ立つまま家立ちて花野に来
大花野双眼鏡に納めけり
てくてくと花野ゆく人豆粒大
花野行覚えて忘る千草の名
盛り過ぐ花野に鳴ける昼の虫
(末尾は句集名)
初潮 /
日向灘初潮けむりあげにけり
秋の潮 /
秋潮の寄せて直ぐ引く潮あかり
秋潮のにほふ散歩は胸張って
里山の鳶や秋潮暮れしむる
秋潮の文目押す浜虚蟹
秋潮の曳き残したる砂の綾
連痕の岩牡蠣洗ふ秋の潮
ひたひたと葉山昏れ出す秋の潮
秋の海 /
御用邸巡査眺むる秋の海 素抱
秋の浜流木を目に収むのみ 寒暑
椋鳥きょときょと鴉とんとん秋の浜 石鏡
江ノ電のカタコト走り秋の浜
薄鼠の艦艇浮かべ秋の海
リハビリの男立たせて秋の浜
砂踏みてリハビリ日和秋の海
沖かけて雨のべうべう秋の浜
浜木綿に押し照る秋の海一日
流木と犬と白波秋の浜
(末尾は句集名)
秋の水 /
シナノザサ秋水音もなく流る 素抱
古川の鯉の色差す秋の水 素抱
鯉一転秋水を遡るあり 素抱
秋水の孤り鳴る瀬やカッパ渕 寒暑
出流山(いずるさん)一足早く水の秋 素抱
水の秋石樋渡す江名子川 素抱
尿管は腎臓を出て水の秋 石鏡
林間にたまりては干ぬ秋の水 寒暑
高きより低きへ移る秋の水
洋菓子より和菓子好める水の秋
カヤックで湖心へピチャと水の秋
亀の鼻すいと寄り来る水の秋
のんびりとしてゐる秋の亀の水尾
岩頭の削ぎ落とされし水の秋
秋水の岩間隠れとなり下る
秋の水一輪挿しの瓶のぼる
奥飛弾の磧大人し水の秋
川沿ひに町を歩けり水の秋
明けの鯉橋を潜れる水の秋
江名子川石樋渡す水の秋
玉堂の岩兀々と水の秋
水の秋一級河川大曲り
金閣の鯉に深まる水の秋
朝五錠夕べ三錠水の秋
草叢の中の窪みの秋の水
秋水の翳りを帯びて峡を出づ
最上川舟唄水の秋寂びて
子規はまた芭蕉を追ひて水の秋
歯切れよくもの言ふ人や水の秋
忘れぬうち薬飲みけり水の秋
信玄の菩提寺抜けて秋水縷々
秋水を引き巡らせて巾着田
秋水も刻もゆったりカッパ渕
秋水に舌鼓打つ湯治人
(末尾は句集名)
水澄む /
葦の間の方寸の水澄みゐたり 暮津
雨三日水澄む暇もなかりけり 素抱
金閣の金を破りて錦鯉 宿好
古川の町貫きて川澄めり 素抱
山はそのあるべき姿映す水 暮津
水澄めるなり回遊の鯉に瑕 素抱
水澄める宗猷寺町たもとほり 素抱
水馬総出で水を澄ましをり ねずみのこまくら
澄み澄みて水も心も方円に 宿好
青松に金閣の金ン飛ばしけり 宿好
定型の器の水の澄みにけり 寒暑
白樺のほとりをながれ水澄めり 素抱
屁理屈の一つもなくて水澄める 石鏡
代田水澄みに澄みたり鳶のこゑ
湧水と云へる側から水澄める
銭洗弁天の水澄めるにや
水澄めるらし葦折れの隠り沼
流れ込む枝川澄める大井川
水澄める大井川には程遠し
理屈などなく澄む水でありにけり
河童橋水澄む辺りうろつけり
川あれば澄む水のあり棗の木
醸造元真ん前の川澄みにけり
目測の鯔の体長水澄めり
水馬一日掻いて水澄めり
冬定る杭の廻りの水澄みて
川澄めりざりがに捕りの少年に
(末尾は句集名)
◆生活
休暇明け /
二学期のもうすぐ始まる夏ずいせん
二学期の始まり告ぐる母のこゑ
震災忌 /
カレーライスぐらと煮え立つ震災忌 暮津
つくねんと水を味はふ震災忌 暮津
一切は過去と云うても震災忌 寒暑
花鳥風月なんのかんのとマグマの上 石鏡
今日を逃がしてだうする我が家の地震対策 暮津
朔日の雀は知らず震災忌 寒暑
蛇口より水の塊震災忌 寒暑
震災忌云い聞かす婆無(の)うなりて 燕音
棚の本ときに仇なす震災忌 暮津
放置すればいづれはツケが震災忌 暮津
無策のまゝ今日まで到る防災日 暮津
缶立ちて運河流るゝ震災忌
その時の吾を想ふや震災忌
説きゐるはP波とS波震災忌
震災忌箸の持ち方教えをり
今更と云ふも巡り来震災忌
震災忌その翌日のかんかん照り
鯰こづく国に生まれて防災日
震災忌味なき水を掬ひのむ
惨報じ写真ばかりの震災忌
さざなみの運河に百の目震災忌
戸締まりを寝しなに問はる防災日
防災員古手の妻の防災日
喬木の赤き一葉震災忌
眼鏡とり部屋を見回す震災忌
(末尾は句集名)
風の盆 /
おわら見て二階に風の通る家 宿好
おわら流しここで一服私も一服 宿好
おわら流しころと川原の石鳴れり 宿好
おわら流しふらりと出でて町流す 宿好
おわら流し橋で一息入れゆけり 宿好
おわら流し折り目正しき手の捌き 宿好
くらがりに鈴虫を飼ふ風の盆 宿好
一息に唄ひ切らねば風の盆 宿好
佳き風が出て来ておわら流しどき 宿好
黒羽二重法被衣桁に風の盆 宿好
細き路地大きく使ひ総流し 宿好
坂の町足のむくまま風の盆 宿好
石垣の上の町並み風の盆 宿好
雪洞にすいと灯の入る風の盆 宿好
川の音おわら流しの遠ざかる 宿好
素通しに川原の見ゆる盆の家 宿好
揃え脱ぐおわら流しの草履に名 宿好
太棹の影が法被に風の盆 宿好
団扇風妻より貰ひ風の盆 宿好
町々の趣向の法被風の盆 宿好
灯取虫おわら流しの路地よぎり 宿好
八尾びと路地先に据ふ涼み台 宿好
風おさまる如く豊年踊果つ 宿好
風の盆朝顔の葉に灯の洩れて 宿好
風の盆幕開けの風橋上に 宿好
聞名寺(もんみょうじ)堂縁借りておわら節 宿好
編笠も月を象(かた)どる風の盆 宿好
豊年踊り地口も嬶(かが)腹満作と 素抱
夕顔に胡弓漂ひ初めにけり 宿好
踊り手が町に戻りて風の盆 (八尾の風の盆) 宿好
踊巧者踊見巧者風の盆 随笑
越中おわら口すべり出て鄙の味
越中おわら八尾が体に染みついて
おわら流し赤緒の草履に灯が洩れて
酔芙蓉おわら流しの音に浸る
おわら流しころと川原の水鳴れり
胡弓の音風に息づく風の盆
風立ちぬおわら流しの坂と路地
おわら聞く耳も達者よご老体
肩寄せておわら流しの町家並み
縦長の町中おわら流しゆく
おわら流し踊りも一服私も一服
月夜道越中おわらの高調子
男衆のおわら流しの浴衣柄
踊り手に地方も酔ふておわら節
風の盆路地の裏手の路地抜けて
越中おわら蔵の町並み流しけり
しみじみとおわら地方の町流し
今町のおわら流しの浴衣柄
おわら流し胡弓の冴えも嫋々と
夕顔に流れて越中おわら節
おわら流し音色さばきも遺憾なく
揃え脱ぐおわら流しの草履に名
おわら流し地方音色を継ぎ継ぎて
旅人の誰もおわらに染まる宵
一対の男女のおわら流しかな
公民館一息入るるおわら衆
聞名寺(もんみょうじ)堂掾借りておわら節
流し唄宵のおわらに染る雲
立つ風におわら流しの手の靡き
団扇風胸に送れり風の盆
おわら流し一踊りして夕餉とる
おわら流し出で立ち支度垣間見ゆ
風の盆坂ゆるやかに胡弓の音
おわら流し地方に和して「わしゃはやす」
女衆のおわらの腰の宙返り
おわら流し地方のハイと踊締め
よき風が出て来ておわら流しどき
床几借りおわら流しの宵迎ふ
団扇一本投げ出しおわら流すとせり
紅引いておわら流しの出を待つ娘(こ)
風の盆迎ふ座敷に置燈籠
踊り場に踊子散って風の盆
格子越しおわら流しの法被見ゆ
おくにぶりおわら囃子の合いの手も
おわら流し風に手が生き足が生き
編笠も月のかたちに風の盆
せせらぎもおわら流しの唄に和し
海側の空は霽れゐて風の盆
旅土産おわら流しの切手買ふ
軒先におわら流しの風立ちぬ
おわら流し橋で一息入れにけり
橋渡りこれよりおわら流しの里
麹屋の店先おわら流しゆく
おわら流し犬は地べたに顎埋め
整然と稔り田おわら流しの里
風倒田をちこちに見ゆ風の盆
夕顔とおわら流しの宵迎ふ
おわら流し初日の踊り披露せり
怪しげな雲の出てくる風の盆
ひらひらとおわら流しの袖袂
流しゆくおわらの果ては風の闇
川風におわら流しの遠ざかる
踊り衆ぞろとお出まし風の盆
踊る手を横に捌いておわら衆
川面の灯おわら流しの町更けぬ
風の盆朝顔の葉に灯の洩れて
川の音おわら流しの過ぎ去りぬ
足そろと運びておわら流しかな
したたかやおわら流しのバチ捌き
二階の間開けっぴろげに風の盆
酔芙蓉咲けばもうすぐ風の盆
旅土産おわら流しの団扇搖り
絵団扇の流しに偲ぶ風の盆
風化して路傍の地蔵風の盆
風の盆果てて川原の音伝ひ
(末尾は句集名)
秋の燈 /
その生活(たつき)手に取るやうに秋燈 素抱
三崎より戻る電車の秋灯 素抱
秋の灯に詰め替えてゐる旅鞄 素抱
秋の灯に湯呑の絵柄廻し見ぬ 寒暑
秋灯にかざして眼鏡の球(たま)の瑕 素抱
秋灯古川温泉赤濁湯 素抱
秋燈下勢ひし日には勢ひし書 (懐旧) 鳩信
地蔵湯の秋の灯洩るゝ女下駄 随笑
眉唾もの黄表紙ひろぐ秋燈下 (黄表紙 七句) 燕音
腹くちく読めば字が逃げ秋灯下 暮津
和ろうそく作り細々秋灯 素抱
秋灯よぎる火虫の点々と
肩の凝る書は後回し秋灯下
しんみりと湯屋の厠の秋灯
脇腹に秋の灯ひとり酒酌めり
盃を置けば影添ふ秋灯
蔵店の帳場取り込む秋灯
秋灯ぼんやり江戸蔵大正蔵
秋灯燦雨の立喰い焼鳥屋
秋灯どぶ板通りバー「テネシー」
焼鳥の脂たらたら秋灯下
ARS版子規歌集繰り秋灯下
寸酌の手許明るし秋灯
読みかけの箇所を探すも秋灯下
日曜日はやばや隣の秋灯
立て直す家の二階の秋燈
塗箸の文様眺め秋灯下
宇都宮餃子屋賑はふ秋灯
秋灯を点ける音して隣部屋
書き漏らすことふと秋灯消すときに
書かでものことをごたごた秋灯下
先斗町煙草屋に入る秋灯
先斗町珈琲店の秋灯
嵐山交番点す秋灯
地蔵湯の秋の灯洩るゝ女下駄
秋灯下食ひ物談義子規・碧・虚
紛れ込むこおろぎの貌秋灯
(末尾は句集名)
燈火親し /
燈火親し「臍の下谷」を読み始む 燕音
燈火親しめず雲脂より軽き句に 宿好
燈火親し袖珍文庫二色刷り 素抱
燈火親し流石てふ字に目を止めて ぱらりとせ
燈火親し浪曲事典繙けば 暮津
燈火親し楷の木の本展ぐれば ぱらりとせ
燈火親し絵本の山羊の鼻眼鏡
燈火親し女のとびつく電子辞書
背表紙のとれさうな辞書燈火親し
燈火親しごはん革命なる新書
燈火親し徳利の影猪口の影
燈火親し古句を孫引玄孫引
燈火親しお化けの眷属出没し
燈火親し引声念仏はおもむろに
燈火親し籐の屑籠侍らして
燈火親し借りて読む書に古名刺
(末尾は句集名)
夜学 /夜業 /
夜なべ /
夜なべの肩凝りゐて蟹の甲羅ほど 寒暑
(末尾は句集名)
夜食 /
簡単な芋の煮っころがしが夜食 寒暑
秋意 /
囲の上に囲を張れるもの秋意とも
水皺顕つにはかに秋意うごくとき
酔醒めの水に秋意の旅寐かな
秋情を籠めて寺林のヤブニッケイ
枝に差す夕日めっきり秋意帯ぶ
蜘蛛の糸金色帯びる秋意かな
一点の隈なき御空秋意かな
葉蘭打ち秋意深むる漫ろ雨
ぐい呑みを買ひ足すこともまた秋意 石鏡
ぎらぎらと日差すなかにも秋意かな 素抱
(末尾は句集名)
虫売 /
敬老の日 /
お年寄駄菓子ほおばる敬老日 石鏡
とかとんと金槌振ふ敬老日 鳩信
敬老日ころっと忘れをりにけり 宿好
敬老日過ぎて常の日常の母 石鏡
敬老日番組玄米健康法 石鏡
町内の二百と五人の敬老日 ももすずめ
敬老日過ぎの雨日の映画館
敬老の日とや内心いやいやす
人ごとのやうに聞きゐて敬老日
人ごとの老人の日でなくなりぬ
鳩に餌撒く婆ちゃんの敬老日
敬老の日を放映の「老いぬ脳」
かたばみは秋の花つけ敬老日
敬老日彼の人健在なれば吾も
空元気出して庭掃き敬老日
色艶よき草花雨の敬老日
末っ子の庭手入れせる敬老日
とりとめもなく敬老の日の虫音
敬老日雨具携え念仏会
野沢菜の歯応えよろし敬老日
割引かれ敬老の日の水族館
日付表示時計購ふ敬老日
(末尾は句集名)
月見 /
月見まんじゅうもちもちとして月見の座
外燈の灯外し路地の月見かな
マグドナルド月見バーガーとは如何な
麁相して月見の酒を注ぎ零す
月祀る芒を惜しみ飾り置く
よき位置に月廻り来て月見の座
月祀るすすきの他に萱も活け
月を待つ路地暗がりに馴染みごゑ
月見まんじゅうぽんと置かれて月祀る
鉛筆をいっぽん置きて月を待つ
漁港より芒採りきて月祀る
つくねんとすすきいっぽん月を待つ
虫聞いて月の出るまで月見の座
月と月見まんじゅうどちらもうまさうに
月見まんじゅう月が食うたか一つ減る
月見だんご供えて妻の横坐る
十六夜をきのふに月見櫓あと
蔵店は月見名残りの芒活け
ほの白き月見団子と月を待つ
水仕果つ妻と二人の観月会
ありあはせの茄子・藷盛りて観月会
月祀る前夜祭とてあほる酒
月見酒鰊山椒こそよけれ
月を待つ大観峯の花芒
月を待つばかり阿蘇谷花すすき
十六夜の月見こちらの窓がよし
店先に月見名残の花すすき
よき数に月見の席のお座布団
観月の一座弾みて伽羅談義
庭前に山水引きて月見寺
月の軸一幅かかげ月見の座
月見んと望月いろの堂畳
月見の座望月いろの堂畳
大寺の二間打ち抜き観月会
法隆寺古材香合月見の茶
月見の芒経て本堂に通る風
野の萩と数珠玉を活け観月会
お月見のお藷おいしく頂きぬ
お月見の寺の座布団十あまり
琵琶弾じ香聞き合うて月見衆
お月見の一隅占めぬ堂座布団
観月会戻りの道の轡虫
観月会お香談義にユエの伽羅
観月会三々五々と客引きぬ
月の出は嵯峨より貰ふ竹の上
愚図つき気味ながらも月見のけふのそら
祇王寺の紅葉見給へ月見給へ
ご大家の二間打抜き観月会
襖越し琵琶の音締めや観月会
観月会招待客の出足よし
大甕に芒投入れ観月会
一山の虫音の細み観月会
一山の虫音和すなか観月会
月明り月見団子の小法師に
月祀る定座は大玻璃戸のほとり
ありあわせの物もてお月見支度かな
月祀るすすき折り来し此通り
月見の座とんと忘れてゐたりしよ
芋水車 /
衣被 /
ど忘れの話題弾みて衣被(夫婦) 石鏡
衣被だまつておいてゆきくれし さざなみやつこ
衣被剥いてはレシピメモしつゝ(妻) 暮津
衣被剥きつゝぼやく何のかんの 寒暑
衣被不義理いちいち気にしては 暮津
懸案の一事果たしぬ衣被 宿好
判り易く話す御仁や衣被 寒暑
綺麗事みんなつまらぬ衣被 燕音
衣被旗日の雨を横に見て
一合が習ひの晩酌衣被
夜更かしの機(とき)来たりけり衣被
儲からぬ本こそよけれ衣被
衣被何でも塩振る癖のひと
停年はとっくの昔衣被
内心は素知らぬ振りの衣被
(末尾は句集名)
秋の蚊帳 /
秋簾 /
それらしき日差しとなりぬ秋簾 素抱
引っ越しの噂立つ家秋簾 寒暑
外(と)に起こることは外(と)のこと秋簾 暮津
咳払ひせしは主か秋簾 暮津
見当のつくこゑ過ぎぬ秋簾 素抱
秋簾五枚連ねて真宗寺 素抱
秋簾布団の上に日のかけら 素抱
大凡の間取りが判る秋簾 暮津
痴話喧嘩あとはだんまり秋すだれ 暮津
旅の細部思ひ出しをり秋簾 素抱
秋簾老いさらばえて開かずの戸
外(と)に起こることはどうでも秋簾
風が起こってよささうなもの秋簾
通りがかりのもう吊ってゐる秋簾
あばら家の見てのとほりの秋すだれ
まづまづの日和となれり秋簾
秋簾旅に在りしは二日まへ
旅先より戻りをるなり秋簾
とりとめもなく秋簾掛けて置く
秋簾蝉か何かがぶつかりて
秋簾乙二のごとく籠りけり
(末尾は句集名)
秋扇 /
なによりと妻をねぎらふ秋扇 寒暑
秋扇いっぽん持ちて通院す 暮津
書きあぐねをれば秋扇手にとりて ぱらりとせ
扇面のをんな艶たる秋扇 寒暑
本題になかなか入らず秋扇
秋扇困ったことに亦度忘れ
秋扇開いて閉じて思案事
大嘘の見極め難く秋扇
雑談に骨はばらばら秋扇
臍に込む俳諧力秋扇
秋扇使ひてさます草津の湯
秋扇遠ちを流るる川に向き
要領のよき人使ふ秋扇
軽装と云へど欠かせぬ秋扇
(末尾は句集名)
秋団扇 /
秋団扇転がり込みし三連休
秋団扇こゑ掛からねば仕舞はれず
いつか読む予定の本と秋団扇
ここにただ積んであるだけ秋団扇
考えてもしょうがないこと秋団扇
かたかたと何處かが壊れ秋団扇
二つ程残してしまふ秋団扇
捨て置かるものにごろ寐と秋団扇
少しくは肋が冷えて団扇置く 寒暑
団扇置き昼餉に呼ばれゆきにけり 随笑
少しくは肋が冷えて団扇置く
秋日傘 /
秋袷 /
石庭を案内の僧の秋袷
仁和寺の御室で降りぬ秋袷 宿好
(末尾は句集名)
美術の秋 /
ずぼらな吾東京に出て二科を観る (上野周辺) 素抱
美術の秋上野にぽんと降り立ちて 石鏡
秋は美術のポスター写楽の大寄目
美術の秋吾もぶらつく上野山
美術の秋上野の山のまろきこと
院展の大観の金観山の銀
美術の秋なじみのレジエ キリコさん
(末尾は句集名)
牡丹植う /
はやばやと正月気分葉牡丹植う
牡丹植う鉢そのまゝにして昼餉
秋の球根植う /
選り惑ふ秋の球根フェアかな
竹伐る /
◆行事
西鶴忌 /
心算といふ字面白西鶴忌 燕音
生姜市 /
かはたれの芝に廻りて生姜市 燕音
大門は目と鼻のさき生姜市 (芝神明宮 だらだら祭) 燕音
いちげんの客とし覗く生姜市
生姜市汗ぬぐえどもぬぐえども
懐に風を入れつゝ生姜市
かはたれを其角ぶらつく生姜市
(末尾は句集名)
鬼城忌 /
子規忌 /
とんと本読まぬこの頃獺祭忌 寒暑
糸瓜忌に出来て俗だが気に入る句 鳩信
糸瓜忌の一犬吠えれば三犬吠ゆ 暮津
糸瓜忌の傘立に傘十四五本 随笑
糸瓜忌の朝刊隅々まで読める 暮津
糸瓜忌の癇癪玉が破裂せり 随笑
糸瓜忌の鶯谷で落ち合ひぬ (子規庵へ) 随笑
獺祭忌天気どんどん悪くなる 随笑
獺祭忌発句にもある著作権 宿好
解説の要らぬ句を詠め獺祭忌
獺祭忌肩の力を抜き詠めと
新聞の見出し先づ読む獺祭忌
コラムニスト蘊蓄傾け獺祭忌
糸瓜忌の要点のみ記し返信す
苦しみに手加減はなし獺祭忌
草長けんと一生懸命獺祭忌
吾は庭歩き放題獺祭忌
連休のしんがり糸瓜忌でありぬ
子規庵の栞取り出し明日子規忌
出来早き栗を茹でゐて明日子規忌
獺祭忌いたづらに句を深読みすな
糸瓜忌の物の見えたる目の篩
糸瓜忌の喋りゐる句を皆捨てよ
傘いっぽん携え子規忌の上根岸
子規庵へ子規忌の友と連れ立ちて
悪くなるいっぽう子規忌の空模様
子規忌なるわが心音も高く摶つ
獺祭忌虫の居所悪き日ぞ
糸瓜忌の腹立ち紛れに吐きし言
糸瓜忌や等類の句がまた出来て
糸瓜忌や手加減せずに句を敲く
(末尾は句集名)
秋遍路 /
◆動物
虫 /
あきあかね先導つとむ虫送り 宿好
がさつかせ茂みの虫を捕る雀 暮津
かしゃかしゃと番屋近くに鳴く虫も 燕音
かなぶんのその実(じつ)よからぬ虫と聞く 暮津
ガレ場にて嗄れしこゑの昼の虫 宿好
じくじくと虫喰い酸漿雫せり 素抱
しゃかしゃかと仙石原の夏の虫 暮津
ストックを剪るやほろほろ虫発たせ ぱらりとせ
センティメント虫の息継ぎダリエンソ 素抱
そっとして置いてくれよとだんご虫 鳩信
だんご虫愛づる姫君梅雨の庭(孫美雨) 暮津
だんご虫交む姿も又団子 素抱
だんご虫殖ゆる景気の悪き世に 鳩信
だんご虫節々返す薄暑光 素抱
だんご虫転けて宙掻く脚清ら 寒暑
ちちろ虫雨の音色と心得て 鳩信
でで虫に深淵なせる油壷 ももすずめ
でで虫のでん公雨を呼びにけり ぱらりとせ
でで虫の引っかかる殻さてどうする 素抱
でで虫の雨音聞いて大きくなる 暮津
でで虫の角さえさはれぬ女(め)の子にて 素抱
でで虫の角のほとりへ寝ぼけ貌 随笑
でで虫の止まる広葉に朝が来て ももすずめ
でで虫の縮むところと伸ぶところ 随笑
でで虫の大いなる伸び朝朗(あさぼらけ) 随笑
でで虫の当推量が外れけり ももすずめ
でで虫も其角の墓も傘の内 さざなみやつこ
でも好きとだんご虫掌に這はせゐる 石鏡
でんでん虫雨が当りて角曲げぬ 素抱
とある日の徘徊蟻とだんご虫 素抱
とび出して土師器色なる墳の虫 さざなみやつこ
なめくぢは極刑草鞋虫は放免 暮津
パソコンの画面を舐めに油虫 石鏡
ぶんぶんと泣虫拠り出さんかな ねずみのこまくら
ぽつねんと居士の座机昼の虫 随笑
ミドリ虫べん毛使ふこどもの日 燕音
むずむずと田虫送りの火のすすむ ぱらりとせ
もうそんな時分かと聞き夏の蟲 寒暑
もう疾うに起きて居るなり曉の虫 暮津
やうやうに夜泣き納まり夏の虫 素抱
ゆく雲に「はやりの虫も送るヨイ」 宿好
よそゆきの水玉模様天道虫 素抱
悪さする虫に先んじくわりん採 宿好
闇を翔け来たる強肩兜虫 ぱらりとせ
一っ風呂浴び来て虫に和む宵 寒暑
一人舞台ひとり演ずる火取虫 暮津
炎天を天道虫の活動家 暮津
遠方より朋有り森の火取虫 素抱
鉛筆はH金亀虫の固さ 暮津
奥まって御廟虫喰い蕗の中 寒暑
温泉(ゆ)に浮かむ羽ある虫と一青葉 寒暑
夏の夕虫の語らふ繁々夜話 素抱
夏の蟲など鳴きざっくばらんな夜 寒暑
火山弾転がる陰に昼の虫 寒暑
火取虫こんど飛んだら百年目 素抱
火取虫どきとはなれり辞書を引く 寒暑
火取虫何故こんなことをする 寒暑
火取虫火を取る夏も終りけり 素抱
火取虫火取始めの音のおどろ 暮津
火取虫光輪放ちつつ飛べり 素抱
火取虫障害物に当り落つ 暮津
火取虫掴み損ねし灯の貧し 素抱
火取虫飛び廻る輪を拡げつゝ 素抱
海峡の舟虫にして黒光り 随笑
垣内にずんと伸びくる捕虫網 寒暑
角つつき子はでで虫の調教師 素抱
角振りてでんでんむしは唄ふ虫 素抱
汗流るむずむず虫の這ふやうに 暮津
肝張っていきいき鳴ける朝の虫 宿好
顔つくる外出の妻に昼の虫 宿好
気散じの虫首擡げチゴガニ見に 寒暑
亀虫の一団鬼灯荒らしに来 暮津
亀虫の匂ひ持ち込む梅雨の家 随笑
偽八ヶ岳へ兜虫(かぶと)飛んだりまっしぐら 宿好
挟虫ゴミの仕分けは細に入り 暮津
教団の使者とし来たる天道虫 ぱらりとせ
暁の虫音交りの雨降れり 素抱
金亀虫さうかさやうか灯を遣ろふ 随笑
金亀虫ぶんぶと裸燈せゝりをり 素抱
金亀虫飛んで来ぬかと灯を点す 随笑
掘り出され団子決め込む団子虫 ももすずめ
掘り返して団子虫やら蚯蚓やら さざなみやつこ
繰返す蟲は一病息災と ぱらりとせ
穴出づる虫の裡なるだんご虫 素抱
月渡る空朗々と虫今宵 鳩信
見えてゐて擬宝子震はす虫の尻 随笑
古草を渡り歩きの天道虫 燕音
五右衛門の釜茹でに遇ふ栗の虫 燕音
公理より定理導く雲母虫 さざなみやつこ
行き当たる小石を嗅げるだんご虫 素抱
国分寺礎石を攀ずるだんご虫 寒暑
根詰めて仕事にかかる虫の夜 鳩信
妻の寝顔すやすや虫音の高音部 随笑
冴え冴えとゴム長靴の川虫採 宿好
雑兵のごとく駆け出すわらじ虫 寒暑
三井寺歩行虫(みいでらごみむし)訳も分からず詠んでみぬ 寒暑
山峡の百千の蟲夜を徹し 燕音
山風に「ようづの虫も送るヨイ」 宿好
刺客篇読む地虫鳴く夜の底(史記) 石鏡
四人(よったり)で聞いて確かに夏の虫 随笑
子規庵のつましき間取り昼の虫 随笑
寺の名が即ち地名地虫鳴く 石鏡
時化るぞと牢名主めく舟虫が 随笑
七節虫はなんべん見ても只の枝 暮津
七節蟲の単なる棒があるき出す 素抱
種蒔きに出て退屈の虫退治 ぱらりとせ
舟虫がちょろちょろ足の踏み場なし 随笑
舟虫に危害加えることなんぞ 燕音
舟虫のしよぼしよぼ歩き雨に釣る ももすずめ
舟虫のどちらへ進む髯ある方 随笑
舟虫の俗気俗気を呼ぶごとし 鳩信
舟虫の梁山泊を覗きけり 燕音
舟虫の鬚をそよろの翁ぶり ぱらりとせ
舟虫や怪傑ゾロを彷彿と ぱらりとせ
舟蟲の吾に続けと云ふごとし ぱらりとせ
舟蟲の這ひ廻る岩減りもせず ぱらりとせ
十勝晴れ天道虫が肩に来て ぱらりとせ
松とれて心の内に頭上ぐ虫 燕音
松虫草めそめそ霧に取り囲まれ 素抱
松虫草処を得たる岩と風 宿好
松虫草霧来る方を知れるなり 燕音
松明の高きいっぽん虫送り ぱらりとせ
鐘楼の石垣錆びて昼の虫 素抱
上人の虫音のごときおねんぶつ 燕音、
身の内の退屈の蟲鳴き出す梅雨 寒暑
進みゐるくわりんの尻の虫腐れ 随笑
水面這ふ虫に田螺の大雁塔 随笑
生垣の下で確かに夏の蟲 寒暑
船虫散る活路開けるごとくなり さざなみやつこ
船蟲に持ち場持ち場のあるごとし 石鏡
前後して人の逝くなり蟲ほほづき 寒暑
疎開して生にんにくを虫下し(疎開地静岡島田) 暮津
早起きをしてでで虫の側にゐる ももすずめ
草の根の民意奈辺に昼の虫 暮津
草の名はそこそこ虫の名はぜんぜん 素抱
草原の端っこ押え捕虫網 素抱
足出して生けるしるしをだんご虫 宿好
村の衆手拭い首に虫送り 宿好
太陽神ラーとミイラと昼鳴く虫 (大英博物館 古代エジプト展) 燕音
団子虫出づれば春とおもうべな 素抱
団子虫団子いびつに陽炎へり ぱらりとせ
団子虫蛞蝓同居鉢の底 暮津
地虫鳴く皆もやもやを持ちて生く 寒暑
茶畑のその畝々の朝の虫 燕音
昼の虫すがれし赤のままのなか さざなみやつこ
昼の虫四畳程なる円空堂 素抱
昼の虫電車はなんぼ待てば来る 随笑
昼闌けて鳴く虫もなき岡城阯 鳩信
虫すだく坊主地獄の陥没箇所 寒暑
虫のこゑじいんじいんと稲稔る 宿好
虫のこゑ百匹居れば百通り 暮津
虫の音におっとりとまた性急と 寒暑
虫の音のじんじんとフルオーケストラ 暮津
虫の音のほろろばったり雨閉す ぱらりとせ
虫の音の弱くてまばら夕立あと 素抱
虫の音の中で虫の句書き留めぬ 暮津
虫の音を聞きつゝ庭の片づけごと 暮津
虫の名のそのいちいちは知らざりき 暮津
虫の鳴く左沢(あてらざわ)線トコトンと 随笑
虫の夜といふには虫を知らず来し 随笑
虫の夜のああ利尿剤利きにけり ぱらりとせ
虫の夜の小便粗相致しけり 暮津
虫の夜をピアノ小刻みダリエンソ 素抱
虫を聴くゆとり生まれぬ夜風のなか 寒暑
虫一つ水平飛行秋日中 さざなみやつこ
虫音のごと木乃伊の音声ガイド洩れ 燕音
虫干しの開山語録と韓櫃と 燕音
虫共の鼻も曲らむゼラニューム 暮津
虫喰ひの紫蘇も一緒に吹かれをり ももすずめ
虫刺され酸の如きを裸身に 暮津
虫時雨妻の寝顔のつやつやと 鳩信
虫出しの試みの雷半島に 燕音
虫食いくわりんたうたう落ちてしまひけり 随笑
虫送り五色のノロセ持ち寄りて 宿好
虫送り撮りにケーブルテレビ局 宿好
虫送り竹竿に鉦ぶるさげて 宿好
虫送り飛び交ふ蜻蛉火の粉めく 宿好
虫送り嶺に張りつく二集落 宿好
虫瘤の意気壮んなり真炎天 宿好
虫瘤ももみづる頃となりにけり 宿好
虫籠に蝉の御報謝ありにけり 素抱
虫籠に虫籠突きだし比べっこ 素抱
虫籠に蜥蜴を入れて兄貴分 素抱
虫籠の桟に掴まり弱りをる 素抱
虫籠の中はと見れば蝉の殻 暮津
虫籠の中味の話訥々と 素抱
虫籠を覗けば何と瑠璃蜥蜴 素抱
虫籠を揺らして中の蝶発たす 素抱
虫籠提げ蝉など捕ってちょうだいと 素抱
朝顔につく亀虫を払ひをり 暮津
庭草の虫の宴に吾も参ず 寒暑
庭中のでで虫蒐め一つ木に 素抱
庭茂り放題虫も鳴き放題 暮津
天牛の髯立てて哭く虫籠の隙 暮津
天道虫ハイカラな星七つかな ももすずめ
点線の虫音と棒線の虫音 石鏡
登校の途中で捕ふ天牛虫 素抱
都合よき虫を配して一句成る 随笑
土用雀虫でもとるか葉叢なか 暮津
冬ざれの天道虫は能く歩く 素抱
東尋坊岩間に昼の虫音澄み 宿好
灯を取りに箱根の山の兜虫 随笑
灯取虫おわら流しの路地よぎり 宿好
灯取虫黙らせんため灯を消しに 素抱
突堤に舟虫しゃしゃり出て祭 素抱
屯して天道虫のローティーン ぱらりとせ
日曜日舟虫奔る焼津港 燕音
梅雨晴間憩ふ社にだんご虫 寒暑
白浪物短けぇ娑婆に昼の虫 (一龍斎貞水) 鳩信
半島はここにてくびれ昼の虫 さざなみやつこ
髭振りつ次はどうでる油虫 ももすずめ
百円ショップ香奠袋も虫籠も 素抱
芙蓉の葉食むは一体如何な虫 鳩信
芙蓉喰う虫はお主か悪(わる)じゃのう 暮津
芙蓉食ふ虫は小奴でありにけり 暮津
風混める大谷地をゆく松虫草 燕音
文庫(ふみくら)や月憚りて虫細音 燕音
聞き分けて違ふ虫の音三つほど 石鏡
捕れたかと云へば虫籠掲げ見す 宿好
捕虫網かなぐり捨てて鳩追ふ子 暮津
捕虫網ぬうっと蝉の背後より 暮津
捕虫網押えたままで大きな声 素抱
捕虫網空振りの棹一閃す 素抱
捕虫網継ぎ足す棒が見あたらず 素抱
捕虫網産土の森一漁り 素抱
捕虫網持ってほっつき歩きけり 鳩信
捕虫網出会ひ頭の蝶逃がす 石鏡
捕虫網蝉を大地に押さえ付け 素抱
捕虫網二つ母子の並みゆける 暮津
捕虫網破れかぶれに振る始末 素抱
捕虫網戻りはママがうち担ぎ 素抱
捕虫網脇に横たえ砂遊び 素抱
満腹の腹先すっかり虫の闇 石鏡
鳴く虫も鉦のやうなり西馬音内 (西馬音内(にしもない)) 素抱
綿虫に道を訊きゆく多聞院 石鏡
綿蟲を割つて総本山に入る ねずみのこまくら
木道に人影を見ず松虫草 燕音
目覚むれば妻も目覚むる曉の虫 寒暑
夜半の虫煙草ふかしに起きて来ぬ 随笑
油虫下見の現場灯さるる 石鏡
油虫手を施すも出るには出る 素抱
油虫触り犯せるものの数 石鏡
油虫厨をちょろちょろ醤油いろ 暮津
夕かぜに息浅くつく夏の蟲 寒暑
落柿舎の虫喰いもみぢ栞とす 宿好
簾して虫籠めく家外(と)を見をり 寒暑
老舟虫時化占ひの髭を立て ぱらりとせ
(末尾は句集名)
松虫 /
重なりて鳴くは御免とちんちろりん
高架駅ちんちろこんなところ迄
鈴虫 /
くらがりに鈴虫を飼ふ風の盆 宿好
鈴虫の聞き分け難く風起ちて
(末尾は句集名)
馬追 /
すいっちょと云ひて足音しのばせゆく 鳩信
馬追や畳に積める本の丈
馬追の躰反らして鳴けるなり
(末尾は句集名)
蟋蟀 /
こおろぎが畳のうへに上がり込む 随笑
こおろぎの風貌詩人飯炊くか 随笑
こほろぎの腿に引け目や夏痩せて 暮津
ちちろ虫雨の音色と心得て 鳩信
玄関にて鳴くこほろぎの居候 随笑
口さがなき婆のがちゃがちゃ娘のちゝろ 鳩信
草叢をごそつかせゐしは蟋蟀 素抱
脱衣籠えんまこおろぎ宿しけり 寒暑
髯を振るこほろぎ遺愛の箪笥の辺 暮津
つづれさせそれこそいっしょうけんめいに
黒頭こほろぎ出掛けの玄関に
ちちろ聴く痩身に夜気徹りけり
洩るる灯にこゑ強むべしちちろ虫
いつの間に妻寝てしまふちちろの夜
ちちろ虫無名がいいと鳴きにけり
満月を昇らせちちろの囃子方
ちちろ鳴き選挙結果は予想外
一人寝のねむりの淵につづれさせ
草叢を飛び出し蟋蟀足許へ
小雨には小雨の音色ちちろ虫
蟋蟀の闇夜に妻の阿弥陀顔
蟋蟀の何處に翅当て擦り啼き
重吉の芸の奥行初ちちろ
蟋蟀の音の転がれる独り酒
雨上り音色整ふちちろ虫
つづれさせ職退きて早一ト月か
渡船場の大岩かげにちちろ鳴く
焚き跡の煤け岩かげちちろ鳴く
尿(しと)せんと厠踏まえぬ初ちちろ
屑籠の編目細々ちちろ鳴く
使ひ減りする鉛筆や初ちちろ
岩風呂の岩の陰よりちちろ虫
独酌が板につきけりちちろ虫
湯治場の岩盤の上のちちろ虫
(末尾は句集名)
竈馬 /
手に乗せて勝手の違ふ竃馬 さざなみやつこ
病み上がり足許いとどに跳ばれけり 鳩信
逞しきいとどの腿に及ばざり 暮津
いとどと螻蛄こもごも露けくなると云ふ
竈馬ひょんなところに罷り出て
(末尾は句集名)
草雲雀 /
草ひばり朝方の雨一ト払ひ
無人駅電車待つ間の草ひばり
螽蟖 /
ぎす載せて東尋坊の安山岩 宿好
ぎす鳴いて玉川温泉岩盤浴 寒暑
きりぎりすぴくりと動く水平線 ぱらりとせ
きりぎりす奥羽山系横たへて 素抱
きりぎりす灯を取り損ね露天湯に 素抱
擬態語の力を借りてぎす鳴けり さざなみやつこ
陶工の筋金入りやきりぎりす 素抱
精進は猶さらのこときりぎりす
古りたれど廊下ある家きりぎりす
きりぎりす奥羽山系横たへて
きりぎりす灯を取り損ね露天湯に
陶工の筋金入りやきりぎりす
きりぎりす指でまさぐる手術痕
ぎす鳴いていよいよ妻の阿弥陀顔
行状記続きを読めるきりぎりす
色白の吾は家居のきりぎりす
(末尾は句集名)
轡虫 /
口さがなき婆のがちゃがちゃ娘のちゝろ 鳩信
観月会戻りの道の轡虫
(末尾は句集名)
鉦叩 /
仏頭をあづかる寺に鉦叩 ねずみのこまくら
晩年の真只中の鉦叩
蟲の音の隙間見つけて鉦叩
都合よき虫の一つに鉦叩
(末尾は句集名)
邯鄲 /茶立虫 /蚯蚓鳴く /
螻蛄鳴く /
螻蛄鳴くや疎遠となりし朋(とも)らの貌
螻蛄鳴かす俳句は興の持ち処
螻蛄鳴くやかへすがへすも生きあせり
地虫鳴く /
地虫鳴く皆もやもやを持ちて生く 寒暑
寺の名が即ち地名地虫鳴く 石鏡
刺客篇読む地虫鳴く夜の底(史記) 石鏡
なほ聴けば本格的に地蟲鳴く
定年の先々のこと地蟲鳴く
(末尾は句集名)
蓑虫 /
オオミノガの巣をこじあけてみるつもり さざなみやつこ
偏屈な蓑虫薦被て晩年へ 素抱
蓑虫が首出し外出心かな 石鏡
蓑虫の着たきりすずめ押し通す 寒暑
蓑虫の蓑はおほかた簡単着 随笑
蓑虫の蓑温めゐし日の陰る 随笑
蓑虫の無口を真似るにもあらず 石鏡
蓑虫の無聊の処し方てふを真似 随笑
揺さぶられどうしの来し方蓑虫も 寒暑
老人の屈伸体操蓑虫に 素抱
蓑虫の常着を小春日ぐるみかな
鎌倉を歩こう会の蓑虫貌
蓑虫のごとく重ね著して夜長
蓑虫を揺らして図書館開館まへ
蓑虫の空中遊泳何處に糸
蓑虫の垂れてジョギングコースの上
消息の途絶えがちなり蓑虫に
鬼の子の玩具の鬼灯生りにけり
蓑虫のごとく籠れり旅の虫
蓑虫の蓑剥ぐおもひ医師の前
六日まで蓑虫籠り決め込みぬ
蓑虫の身ぐるみ脱いで診てもらふ
蓑虫の首伸ばす空澎湃と
蓑虫の身ぐるみ脱いで心電図
蓑虫の一簑一笠箱根越え
蓑虫の今日は温しと不審顔
蓑虫の人見知り顔引っ込めて
みのむしの声聞くまでに臈長けて
蓑虫のけふは寛ぐ蓑の中
蓑虫の蓑を着こなす相模晴れ
(末尾は句集名)
蟷螂 /
かまきりの首傾げればその影も 石鏡
かまきりの巣と云ふを見る着膨れて ももすずめ
こりゃあびっくり菊に跨りゐる蟷螂 石鏡
夏痩せて拝み太郎の湯浴みなり 素抱
額艶やかに蟷螂の妙好人 素抱
権禰宜めく蟷螂にしてうやうやし 暮津
朔日の風蟷螂の貌を吹く ももすずめ
取り込まる洗濯物に子かまきり 素抱
青蟷螂生兵法の斧を振る 宿好
先づ出方窺ふ戦(いくさ)も蟷螂も 随笑
素浪人風の蟷螂振り返る 宿好
其の斧に歯こぼれなかり枯蟷螂 宿好
中古の斧を振りあげ蟷螂は さざなみやつこ
日向好き枯蟷螂の妙好人 随笑
腹見せて蟷螂ひっくり返るとは 宿好
腹立つとみえて蟷螂斧振り上ぐ 宿好
紛れ込む蟷螂を外(と)に出し遣りぬ 宿好
棒切れでかまえば蟷螂ご立腹 随笑
藁持って青蟷螂を指南せる 宿好
蟷螂と戦争一つ日の下に 随笑
蟷螂と日を分け合うて日向ぼこ 随笑
蟷螂に横を向かれてしまひけり 随笑
蟷螂のひらり飛び来ぬカーテンに 暮津
蟷螂の一剣客と出会ひたる 随笑
蟷螂の一棒切れと渡り合ふ 随笑
蟷螂の構えは卜伝無手勝流 随笑
蟷螂の三角の貌キューヴィズム 寒暑
蟷螂の暢気な父さん歩きかな 随笑
蟷螂の登攀そこに壁があり 宿好
蟷螂の逃げるにあらず尻向けぬ 暮津
蟷螂の背筋をぴんと張るときあり 宿好
蟷螂の美学を学びジャコメティ 素抱
蟷螂の斧見よ一点豪華主義 素抱
蟷螂の斧振りかぶり豪の者 宿好
蟷螂の面子立たぬといふ貌す 随笑
蟷螂の翅にも山の露降りて ぱらりとせ
蟷螂は千人斬りの構えなり 宿好
蟷螂も戦(いくさ)もキッと身構へて 随笑
蟷螂を凝視ひるんだ方が負け 暮津
かまいやる動き鈍りし蟷螂を
吹き起こる風蟷螂を立たしむる
蟷螂も種採日和の日に浴し
風に振り向く三角頭の青蟷螂
蟷螂の皃三面に享くる風
蟷螂の何見て凝視風の中
首ひねり蟷螂吾を見返りぬ
気のついた時には初老いぼむしり
蟷螂の枯れしと云はず老いけると
蟷螂のその負けん気の死ぬるまで
蟷螂も蔓の程度に枯れてをり
蟷螂のいつかは枯るゝ貌三角
蟷螂がゐて種採の手が止まる
種採のおっとここにはいぼむしり
蟷螂の踏まえどころのおぼつかな
かまきりの子に風向きを教へらる
蟷螂の子と吹かれゐる少しの間
より深く首傾げ瞻るいぼむしり
われの首ひねるを真似ていぼむしり
蟷螂のしゃっちょこ立をしてみせぬ
蟷螂のよろよろとして吾が前に
家壁にかまきり時経てこんな位置
家壁と問答蟷螂達磨めく
かまきりの動向を今ひとり占め
かまきりが飛び来て壁にぶるさがる
蟷螂にちょっかい出して暇つぶし
蟷螂の子の揶揄されてへっぴり腰
蟷螂の貌がヒントやキュービズム
いぼむしり近づくものを目の敵
蟷螂の首筋掴み得意なり
見えてゐるものが全てやいぼむしり
かまきりの貴公子現るる草の隙
蟷螂のごとく腕を置く寝相
罷り出づ浪人風の蟷螂が
壁色の蟷螂我家も負けず古り
蟷螂のいざ推参といふ構え
蟷螂の影ゆらゆらと動き出す
蟷螂の躰運びもゆらゆらと
堪忍がならぬと蟷螂大反り身
蟷螂の斧振り上げて吾を見据え
紛れ込む蟷螂を外に出しやりぬ
あっぱれの貴公子ぶりや青蟷螂
蟷螂の武士は喰はねど風(ふう)の形(なり)
蟷螂の長身にして一徹者
蟷螂の千人斬りの構えなり
かまきりの宙ぶらりんの思案かな
蟷螂と日向ぼこして小半時
蟷螂の罷り出でたる石畳
蟷螂の反骨試す棒の先
蟷螂構ふごとくに始まる戦争も
蟷螂の背筋伸ばせる姿勢かな
蟷螂のけふは網戸に来てゐしか
かまきりの雌にはあらず種(たね)違ひ
棒立ちに青蟷螂の気色ばむ
蟷螂の如く出歩く俳諧師
棒切れでかまえば蟷螂ご立腹
我こそは武蔵ノ國のいぼむしり
怨敵に立ち対ふごといぼむしり
いぼむしり虚に居て実(じつ)をみよといふ
年寄りの部類に入るいぼむしり
(末尾は句集名)
芋虫 /
芋虫と見とがめられて殺めらる
葵喰ふ青虫作法知らざりき
うまさうな葉に穴そもそも青虫は
芋虫のごと馳す電車秋風裡
鵯の啄み甲斐のある芋虫
芋虫の嫌はれて地を這ひにけり
青虫の躰を揺すりつつ食事
芋虫のやうに丸まり厚衾
芋虫の貌は何處やら横を向く
放屁虫 /
三井寺歩行虫(みいでらごみむし)訳も分からず詠んでみぬ 寒暑
(末尾は句集名)
秋蚕 /秋繭 /
蜉蝣 /
お焚上げ煙かげろふをなせりけり
佛足石かげろふて見え真炎天
薄翅蜉蝣とぶ坊主山今もあり
うすばかげろふ /
翅ひろぐうすばかげろうガレの壺 宿好
(末尾は句集名)
草蜉蝣 /
蜻蛉 /
お岩木の日照雨に蜻蛉翅休め 寒暑
ぎしぎしの錆びを蜻蛉の貰ひけり 随笑
この沼を往き来蜻蛉の二匹はゐる 素抱
そこ動かぬ蜻蛉にたうたう根負けして 石鏡
つくづくと翅の上げ下げ墨とんぼ 寒暑
つと廻り込んで止まれる川蜻蛉 ぱらりとせ
ともかくも選挙終れり赤とんぼ 暮津
とんぼ飛ぶ泥亀町(でいきちょう)とはこの辺り 暮津
ふらふらと頭の上にくる岳蜻蛉 宿好
また顔にあたる狼煙のあきつかな ぱらりとせ
よぎるもの風にはあらず糸とんぼ 素抱
意を変へて土橋に止まる糸蜻蛉 暮津
一茎を両手で押へ糸とんぼ さざなみやつこ
隠坊の如きとんぼが前から来る 燕音
駅前の自転車サドルに赤とんぼ 随笑
塩辛蜻蛉(しほから)の汚れし翅を笑むごとく ももすずめ
蚊とんぼのぶらさがりをる谷地柳 暮津
蚊とんぼのやうな神主大祓 素抱
岳蜻蛉日差しの強さ知ってをり 宿好
鬼やんま往来白き埃道 素抱
鬼やんま棲みつく山に露降りて 素抱
鬼やんま青の洞門抜け来たる 鳩信
鬼やんま追いかく目線振り切られ 寒暑
鬼やんま飛行高度を上げにけり 随笑
空にゐる鶴田浩二の赤とんぼ さざなみやつこ
兼六園ガイドの上にあきつ来て 宿好
黒塚をよぎる蜻蛉の胴焦げて さざなみやつこ
今市のそらゆく蜻蛉権現晴れ 寒暑
混浴のずばり入る湯に秋津来る 素抱
混浴の脱衣場秋津の入り来たる 素抱
混浴は熱め折々秋津くる 素抱
最上川あきつの止まる破れ竹瓮 随笑
指立てて蜻蛉止まらす子の真顔 寒暑
止まらんと瑠璃糸とんぼ間合詰め 燕音
糸とんぼ茎に取り付くその角度 素抱
糸とんぼ止まる所が判りけり 燕音
糸蜻蛉進むリズムはピチカート 素抱
時国家ぐんと高むや鬼やんま ぱらりとせ
秋嶺の襞より湧きて赤とんぼ 寒暑
序幕から蜻蛉が飛んで村芝居 素抱
沼巡る背のぬくければ背へ蜻蛉 鳩信
沼辺より翔ちて蜻蛉の飛行艇 鳩信
上昇の蜻蛉頭を振りぐんと振り 寒暑
尻のさき待ち針いろの糸蜻蛉 暮津
人好きな蜻蛉の面白がりやかな 寒暑
水飲むをルリボシヤンマとしておかう 素抱
晴眼の蜻蛉のごとく山見る人 暮津
石ころ径霧に眼の利く蜻蛉来て 随笑
石炭紀の模型蜻蛉に秋が来て ももすずめ
赤とんぼ汚るゝ翅に頓着せず 暮津
赤とんぼ浜吹く風は一息に 素抱
川蜻蛉飛んで翅色薄めけり 石鏡
祖師堂前蜻蛉のつるむ音すなり ぱらりとせ
足湯して簀の子に止まる秋津見る (大釜温泉) 素抱
孫六湯山の蜻蛉は岩場好き 素抱
男体と名も佳き山に蜻蛉湧く ねずみのこまくら
虫送り飛び交ふ蜻蛉火の粉めく 宿好
泥亀町吾が前をゆく鬼やんま さざなみやつこ
鉄漿蜻蛉(おはぐろ)に羽摶ち疲れといふはなし 鳩信
鉄漿蜻蛉(おはぐろ)の影おはぐろを追ひゆきぬ 燕音
鉄漿蜻蛉(おはぐろ)の姿勢正して止まりけり 暮津
天守閣あきつがこんな所まで 石鏡
灯心蜻蛉の尻尾ずんずん目の前を ぱらりとせ
燈心蜻蛉(とうすみ)は瑠璃一色の針とんぼ 素抱
盆がらにあらざる秋津里に殖え 宿好
霧浴びし山の蜻蛉の羽根使ひ 燕音
木道に人に蜻蛉の寄り易し 素抱
木道に蜻蛉発たし発たしゆく 暮津
目で追ひて蜻蛉向き替ふその地点 暮津
目をかっと和賀流の里の鬼やんま 素抱
野趣溢る出湯はしおからとんぼ色 (蒸ノ湯) 寒暑
湧水見てサナエトンボに出会う径 随笑
夕日に透き五効(ごこう)のすりきれ赤とんぼ 暮津
蓮田に潜む少年ぎんやんま 素抱
露天湯の上をくる蜻蛉にでっくわす (八丁の湯) 寒暑
葭叢の中に蜻蛉の通り道 素抱
蜻蛉がお手本人力飛行かな 素抱
蜻蛉がちょっかいだして蜻蛉に 石鏡
蜻蛉が止まると石のつぶやける 石鏡
蜻蛉つるむ音のかさこそかさと堕つ 暮津
蜻蛉に降り出す日照雨笑まふやう 寒暑
蜻蛉に磨きあげたる鏡空 寒暑
蜻蛉に無き石段が吾にあり 石鏡
蜻蛉のつるむ営み古代より 暮津
蜻蛉の眼を持つ郷の男の子 寒暑
蜻蛉の極めて人間臭き季(とき) 燕音
蜻蛉の好みて止まるダンボール 素抱
蜻蛉の所を得たる止まり方 素抱
蜻蛉の人懐こさも奥会津 鳩信
蜻蛉の早や夕暮の翅遣ひ 寒暑
蜻蛉の面白がりぬ草の揺れ 鳩信
蜻蛉の目よりも大きな結果出す 寒暑
蜻蛉の目玉ほど空輝くよ 寒暑
蜻蛉の目配り岩の稜(かど)掴み 燕音
蜻蛉の流さるる方鶏頂山 寒暑
蜻蛉の溜まり場仮バスターミナル 暮津
蜻蛉の咄嗟に我を交はしゆく 石鏡
蜻蛉の訝しげなる眼に遭ひぬ 燕音
蜻蛉は翅を頼れる楽天家 さざなみやつこ
蜻蛉も一差し舞へる能舞台 寒暑
蜻蛉を捕ふにへんな手つきかな 暮津
蜻蛉飛ぶ定期航路のある如く 暮津
蜻蛉捕パパお手本の忍び足 素抱
蜻蛉の上ゆく蜻蛉最上峡
寺前町空き地は蜻蛉の集会所
蜻蛉の停まる一點ありにけり
粗き日に使ひ古しの蜻蛉の翅
石階の角っこ好きな蜻蛉なる
蜻蛉止め余熱放てる鬚題目
蜻蛉飛び家並の上の風の筋
海上を蜻蛉流れモノレール
また視野に入りくる池の蜻蛉かな
捕虫網ひらひら池の蜻蛉捕り
蜻蛉がまんまと止まる古簾
これは如何に妻がつかまえ来しやんま
あめんぼの上をのうのう蜻蛉ゆく
空の下亀と往き交ふ蜻蛉かな
蜻蛉の交む音する池の端(はた)
蜻蛉の交むに倦みて立ち去らん
さびしさの因(もと)は蜻蛉のつるむおと
蜻蛉の交む営み古代より
蜻蛉を捕らふにへんな手つきかな
木道を蜻蛉発たし発たしゆく
木道を蜻蛉真っ直ぐ吾も真っ直ぐ
黒くて小柄その蜻蛉の名を知らず
泡噴虫蜻蛉の発てる一草に
蜻蛉飛ぶ定期航路がありにけり
ホットレモンにとんぼの絵柄バッチャン焼(ベトナム陶器)
鉄柵が温くて蜻蛉そこに居る
落城の炎のいろ夕べのあきつにも
見晴し台蜻蛉の往き来見飽きるまで
安達太良山晴れてあきつを湧かす谷戸
古戦場蜻蛉のつるむ音すなり
本丸の礎石の上を夕あきつ
雨上がり沼のほとりに殖ゆ蜻蛉
沼の面の空が明るみ初めあきつ
蜻蛉の翅折る没日により深く
蜻蛉に石段は無し吾にあり
へらへらと蜻蛉の翅日にかざし
そこ動かぬ蜻蛉にたうたう根ン負けして
蜻蛉の翅しろしろと夕づける
蜻蛉が止まりて石のつぶやける
濠の水皇居の蜻蛉きて掬ふ
序幕からとんぼが飛んで村芝居
蜻蛉が止り湯元の湯槽の上
経巡れる鴨は蜻蛉をみること莫し
山の朝雑木の間を蜻蛉飛ぶ
蜻蛉の定宿にして孫六湯
混浴の脱衣場あきつの入り来たる
板葺の湯小屋にあきつ親しみて
露天湯の湯壺をあきつに譲りけり
蜻蛉に横を通られ立話
大釜の足湯の日向に蜻蛉ゐる
乳頭山曇り塩辛蜻蛉いろ
足湯して簀の子に止まるあきつ見る
混浴は熱め折々あきつくる
混浴のずばり入る湯にあきつ来る
せせらぎのやうに蜻蛉の羽根使ふ
墨染は蜻蛉の羽根の先っぽまで
蜻蛉の羽音の聞こゆ湯治棟
蜻蛉をモデルの人力飛行かな
ゆうゆうと飛んで蜻蛉の単葉機
鬼やんま眼を剥きだしに恐山
鬼やんま近々と見て物々し
蜻蛉を肩に止まらせ板碑あり
蜻蛉来て賽の河原に羽音顕て
蜻蛉のごとすれ違ふ真昼の道
塩からとんぼ散策の歩の石擦る音
蜻蛉捕りパパお手本の忍び足
蜻蛉の往きつ戻りつ仁王門
蜻蛉旺ん弥勒の寺の阿字ケ池
蜻蛉のうしろの正面誰(だあれ)
蜻蛉ににじり寄るにもタイミング
あさざ暮れ難くとんぼの遊びをり
とうすみは瑠璃一色の針とんぼ
蜻蛉ゆく弾むリズムはピチカート
眼中に吾無きごとくやんま過ぐ
蜻蛉の曲る通りに沼曲り
巡りくる蜻蛉を待つ橋ほとり
蜻蛉の通り道あり葭の中
蜻蛉の行方追ひ掛け目の運動
鉄漿蜻蛉(おはぐろ)はタンゴのステップ踏むごとし
雨上る川面おはぐろとんぼ飛ぶ
湧水の川面か黝く蜻蛉飛ぶ
赤茶けし石の仁王の頭にあきつ
ゆふいんのおはぐろとんぼ雨を除け
鉄漿蜻蛉(おはぐろ)に羽撃ち疲れといふことなし
あきつ来て最も威厳のある佛
鉄漿蜻蛉(おはぐろ)は幽冥界の冥纏ひ
蓮田べり蜻蛉のついと現れて
塩辛蜻蛉(しおから)の尻尾の他はかすみをり
原っぱのここは蜻蛉の飛行場
尾瀬沼の蜻蛉淋しければ群るる
洗ひ場にて蜻蛉の羽根をぶるるんと
沼巡り背のぬくければ背へ蜻蛉
木道にひっくり返れば蜻蛉の空
蜻蛉の霧に湿りし羽根ふると
蜻蛉の人懐っこさも奥会津
木道ゆく福島弁は蜻蛉の中
蜻蛉の疎んぜらるるも人に蹤く
蜻蛉群る最中に入るを避けにけり
蜻蛉の群るるは何處かいかがわし
蜻蛉のうようよ凶の翅使ふ
おぞましき蜻蛉群れに群れたるは
宇津ノ谷の蜻蛉寄り来る寄らしめぬ
もくもくと投げるエースにあきつ殖ゆ
蜻蛉のぶんと発つなり露河原
蜻蛉の朝の羽音とすれ違ふ
蜻蛉さんここに止まれと吾亦紅
露まみれ蜻蛉河原の草叢より
蜻蛉の背後よりして紙の音
蜻蛉のふらっと現れて沼近し
鬼やんま反転羅臼岳左方
蜻蛉の昇天羅臼岳正面
蜻蛉を発たせぬやうに坐る椅子
蜻蛉待つ決勝点にゴールイン
運動会あきつの殖ゆる入場門
埋立の蓮田思へと蜻蛉来ぬ
塩辛蜻蛉(しおから)伴れ石ころ道を巡礼す
火の粉めく蜻蛉飛び交ふ虫送り
火の粉めき山の畑に憑く蜻蛉
お花畑石頭にも蜻蛉来て
風のケルン蜻蛉のケルンと登り来し
頂上の石は熱かろ岳蜻蛉
蜻蛉のわっと集るケルンの上
蜻蛉の影落とすのみ瓦礫径
蜻蛉の翅もガレ色唐松岳行
蜻蛉ゆく映画日和の背を見せて
舟着場までの道のりあきつ群れ
焦燥にかられぬあきつの群るゝを見て
埃くさきあきつに蹤きて渡しまで
古ぼけし駅の木柵あきつ止め
白一線蜻蛉の翅の下の波
台風の行方蜻蛉の現るるそら
人好きの蜻蛉もゐて釣日和
蜻蛉の翅ゆるめけり枝の先
尻が白なれば塩辛とんぼなり
朝蝉の誦経のしりきれとんぼかな
ようこそと宿の燕がとんぼ切る
奇怪な蜻蛉の羽音恐山
三途の川渡る蜻蛉の骨の音
骨片の音して蜻蛉羽打ちける
賽の河原塩辛蜻蛉の翅も焦げ
賽の河原さまよふ蜻蛉ならずとも
蜻蛉の眼仏ケ浦を見渡して
みちのくの蜻蛉の眼して一人旅
蜻蛉採り蓮田の中の子の頭
蓮の香のただよふ中を蜻蛉釣り
蜻蛉釣り畦にしゃがめる子の頭
羽化一番乗りのとんぼと出合ひけり
蜻蛉見て登仙の湯に長浸り
露天湯に人居ぬ時間蜻蛉来
蜻蛉も早や夕暮の翅遣ひ
上昇中蜻蛉のやや前傾ぎ
蜻蛉の流さるる方鶏頂山
秋出水その上を蜻蛉すいすいと
露天風呂やんまが湯の香嗅ぎにくる
蜻蛉の往きつ戻りつ墓地のそら
蜻蛉の翅焦さんと西日かな
道風の末流にして墨蜻蛉
地獄谷蜻蛉の曳く湯の匂ひ
鬼やんま谷地睥睨の風情なり
いのち伸ぶ蜻蛉のくる湯に浸り
蜻蛉の翅音のごとく昇天す
蜻蛉の坂下りてくる小石川
鬼やんまじゅんじゅんじゅんと進みけり
八幡宮蜻蛉も神楽舞ひ納め
神楽見る帽に蜻蛉の翅休め
蜻蛉と一緒遠野の雨に遭ふ
蜻蛉の翅音の遠野物語
地獄谷飛べる蜻蛉の硫黄臭さ
蜻蛉の編隊亀の潜水艦
三段に翅折る蜻蛉卵塔に
そと発つは蜻蛉の視野に入るならん
一趣向とんぼとめがねの花火かな
鞍馬石蜻蛉が端に止まりけり
百千の蜻蛉お岩木麓村
お岩木の日照雨に蜻蛉翅休め
人好きな蜻蛉の面白がりやかな
すいと寄る男鹿の蜻蛉の目の大き
夏掛の吹けば飛ぶよな蜻蛉柄
不手際の蝉の尻切れとんぼかな
鬼やんま追い掛く目線振り切られ
鉄漿蜻蛉(おはぐろ)に倒木の関森の径
巾着湾の芦の上蜻蛉翻り
芦原が好みの珍品蜻蛉かな
葭原に道の消えをり鬼やんま
蟹の棲む谷翔ぶ珍品蜻蛉かな
塩辛蜻蛉(しおから)が止まる雀の鉄砲に
内子座の前でつばくろとんぼきる
海へ山へ人生とんぼ返りの春
(末尾は句集名)
秋の蝶 /
セセリ蝶ねずみの如き貌をして 暮津
ぶらさがり止まりが好きで秋の蝶 石鏡
開き閉づ翅の切なし秋の蝶 石鏡
気をもませながら秋蝶まだ止まらず 暮津
秋蝶のあれあれとほる仁王門 (仁和寺) 宿好
秋蝶のうしろ姿をなほ追へり 素抱
秋蝶の翅の内側化粧ふ智慧 石鏡
秋蝶沿ふ仁和寺の塀長く長く 宿好
段(きだ)のぼる気多若宮の秋の蝶 素抱
欄干に暫し添ひとぶ秋の蝶
秋の蝶黄にしてパタパタやってをり
秋の蝶あちらではたはたこちらではたはた
花に粉かけをるごとし秋の蝶
秋の蝶一葉落つるが如く地へ
秋の蝶石庭飛んでは歩きては
秋の蝶日差しに適ふ翅使ひ
坪庭を通りすがりの秋の蝶
秋蝶の止まるところが決まりをり
山頂に憩へり秋の蝶と吾
秋蝶の来てゐる牧の畜霊碑
仁王門めがけて来たる秋の蝶
コスモス園秋蝶ならずともはしゃぐ
秋蝶の舞ふのみ気多の総鎮守
蔵元の壁に秋蝶影落とし
秋蝶の腹が重りて草撓む
露天湯の岩すぐ乾く秋の蝶
秋蝶や大釜の湯の白濁り
秋蝶の羽根立てがたく開き来し
秋蝶は黄なり臼杵の佛等に
秋蝶の横一文字御室茶屋
秋の蝶白もよきもの穂を離れ
流水の迅さに秋蝶カッパ渕
人影の差すがごとくに秋の蝶
秋の蝶舞ひゐる家へ回覧板
(末尾は句集名)
秋の蠅 /
たまらむと牛も首振る秋の蝿 石鏡
火山弾上にぬくもる秋の蠅 随笑
秋の蠅集(たか)る牧牛見せ呉れし(吉田牧場) 石鏡
秋の蠅文化進みて姿消す
秋蠅は大目に秋の蚊は許さず
黒牛をわっと離れて秋の蠅
牛に蹤く秋蝿も飼う牛舎かな
蠅帳に小さき秋の立ちにけり
上昇中ケーブルカーに秋の蠅
家中をまだふらついて秋の蠅
遠野民話聞く背に秋の蠅止まる
人懐っこくオンドル部屋の秋の蠅
湯治人秋の蠅追ふオンドル部屋
(末尾は句集名)
秋の蚊 /
ぺしゃんことなりし秋の蚊塵と捨つ 寒暑
恰好の脛あり秋蚊むさぼれり 暮津
再来の秋の蚊遂に仕留められ 石鏡
刺すことの今旺盛な秋蚊とも 暮津
手の翳を察すに秋蚊抜かりなし 暮津
秋の蚊にはぐらかされてゐるごとし 寒暑
秋の蚊の拠ん所なく隅にをる 暮津
秋の蚊の幽霊じみて足の方 暮津
秋の蚊を振り切りしかと辺りみる 暮津
秋の蚊を打ちて血しぶき浴ぶ膚(はだえ) 石鏡
食らひつく秋の蚊打つにまだまだよ 寒暑
足揃え摶たれし秋の蚊なりけり 石鏡
力んでは秋の蚊をまた打ち損ず 暮津
秋の蚊を叩き潰して紅の染み
蚊の名残座を起つ風に煽られて
秋の蚊の一匹ぐらい雨夜の寐間
秋の蚊に喰はれて痒し足の甲
酒気帯びて五體むんむん秋蚊くる
秋の蚊を覚悟の種子採支度かな
秋の蚊と妻居る本を読むほとり
厠へと起つとき秋蚊のしりへに蹤く
秋の蚊と妻の居るなり隣部屋
かうなりては抜き差しならず秋蚊打つ
秋の蚊を討ち損じたる音こだま
秋蠅は大目に秋の蚊は許さず
秋の蚊のこゑはと腕裏返す
秋の蚊に追はるるごとく苑を出づ
秋の蚊を発たせ巡るや居士の庭
脳震とう起こせし秋蚊を屑籠へ
(末尾は句集名)
蛇穴に入る /
秋蛇に遭ひし女の気色ばむ 随笑
そそくさと蛇穴に入る海蔵寺 ももすずめ
秋の蛇水のごとくに流れけり
蛇穴に入る隠沼の裏磐梯
秋の蛇滑り込むなり川原草
村童になめてかかられ秋の蛇
秋の蛇人目に触るること厭ひ
(末尾は句集名)
穴まどひ /
穴惑居る筈がなきでも居さう
穴惑出さうな日なり庭に佇つ
穴惑通しどぎまぎしてゐる妻
穴惑ことし貴兄に遇はざりし
楓(かえるで)の穴惑めく走り根よ 宿好
穴惑大日如来にっこりす 鳩信
穴惑汝も齢を曳きづるか
穴まどひ息ひそめをる巾着田
(末尾は句集名)
雁 /
顎引いて太棹雁のわたる空 燕音
雁ゆかせ津軽よされの高調子 燕音
雁引くや荒布色なる島の子ら ねずみのこまくら
撒き砂に願化踊りの雁形舞 素抱
人足に定年ありて雁渡し(四十五歳で口取りに) 石鏡
水面這ふ虫に田螺の大雁塔 随笑
西馬音内(にしもね)衆踊る姿は雁の列 素抱
草の上は空に直結雁わたし 暮津
弔旗垂れ雁来月端(はな)紐育 随笑
連れ立ちて屏風の裾より雁どち 寒暑
雁ゆくと東北訛り悪びれず
雁を見て戻りの江ノ電グッズ選る
西馬音内(にしもね)女ご踊る雲井に雁を見ず
雁形に願化踊りの手を伸べて
春の蝿天登雁村鰊漁場
塔描くかりがね色のパステルに
北斎の構図の空を雁駈くる
事務机深く坐りて雁来月
なまる身を歩きて正す雁来月
呑み込んで理解しておく雁供養
若冲の雁を展観始めかな
(末尾は句集名)
燕帰る /
ホテルニューグランド前飛ぶ秋つばめ 寒暑
秋燕この雨何時か上がるだろう 随笑
秋燕の翼返すや伊豆相模 石鏡
秋燕を見たりのこゑに振り返る 燕音
秋燕濁りやまざる最上川 随笑
畳職人雨に目を遣り秋燕 素抱
秋燕河を狭めて何とする
崎々の鳶に送られ帰燕あり
陸離る帰燕の空は鳶のそら
秋燕と振り向きざまに声発す
反橋に秋燕あふぐ称名寺
(末尾は句集名)
秋鯖 /
太刀魚 /
海上に太刀魚の銀うち延べて
太刀魚のごとく身を折り昼寝せり
太刀魚のだんびら抛る魚市場
秋刀魚 /
ここ残し秋刀魚の食べ方知らぬ妻 石鏡
はるばると秋刀魚は南下この刻も 石鏡
わがままの度は弁えて初秋刀魚 素抱
妻と吾と旬の秋刀魚を二等分 宿好
山妻と旬の秋刀魚を二等分 寒暑
酸橘得しされど秋刀魚は旬ならず 素抱
秋刀魚の骨代はって外し遣りにけり 暮津
秋刀魚割る祖父の手つきと云はれけり 素抱
秋刀魚焼き年金暮し帳じり合ふ 暮津
秋刀魚食ふ敢えて値段は聞かずにおく 暮津
初秋刀魚世話焼き口調殖ゆ妻と 石鏡
大将のその手に乗らぬ初秋刀魚 石鏡
店頭の秋刀魚は氷に埋もれて 暮津
腸が煮えくり返る焼さんま
秋刀魚の腸壮年いつか過ぎてをり
青さんま焼き烟らしぬ四人分
客引の十円さんまに人だかり
陳さんの店の安売り青さんま
火ぶくれの脂ぶくれの焼きさんま
魚松の値の張る秋刀魚横に見て
秋刀魚追ひ鯨漁る民の國
焼さんま得手のものなる箸捌き
初ものの秋刀魚の値札に及び腰
秋刀魚の値上げ下げもなく過ごす日々
かぼす貰ふそれでは今晩秋刀魚にしょ
秋刀魚など贅沢肴は豆腐でよし
長身の秋刀魚に適ふ皿を出せ
秋刀魚出す皿に落ち度がありにけり
待望の銚子が沖の秋刀魚なり
ちょうしの秋刀魚脂が乗ってこの程度
秋刀魚焼く煤け寒山濛々居士
年寄の脂欲しくて秋刀魚焼く
腸の苦き秋刀魚の旬過ぎたり
秋もはや脂抜けたる秋刀魚焼く
秋刀魚焼くそんな時分となりゐたり
一本の秋刀魚を妻と頒つ秋
長身の走りの秋刀魚貰ひけり
(末尾は句集名)
鰯 /
ちょうしたの鰯の缶詰独酌す 暮津
舳向けこれより鰯の湧く海へ 暮津
氷ごと背黒鰯(せぐろ)を揚げて漁納め
酢で〆るお作り鯖と鰺・鰯
浜に活気みすゞの鰯も揚がるらむ
弔ひと云へばみすゞのあの鰯
氷ごと背黒鰯(せぐろ)を揚げて漁納め
雑魚中の雑魚の鰯が好みなり
干鰯この頃気になる骨密度
鰯買ふ小田原産の標示見て
七輪に太海の鰯味見して
和田浦をうらうら歩けば干し鰯
晩酌に畳鰯を焙る煙
端噛めばうるめ鰯の鼻弾く
温め酒たたみ鰯の焦げを折る
火に掛けて焼く間みすゞの鰯の詩
(末尾は句集名)
鮭 /
はららごに伍してかがよふ飯の粒 ぱらりとせ
ブナ鮭の水かったるく打ちにけり ぱらりとせ
鮭トバでちびりちびりと男山 素抱
鮭缶で二膳軽々豊の秋 暮津
鮭簗のあたりうろつく熊ならず 燕音
秋の暮鮭のはら身を肴とし 暮津
独り酌む筋子にたうたうたらりの灯 さざなみやつこ
内陸をさしのぼるなり鮭の川 暮津
もみづるに間ある晩酌鮭赤身
鮭缶を開け初冬の独りの餉
ちょうしたの鮭の缶詰独酌す
肴には鮭を利尻の昆布巻き
鮭梁の水透くばかり大虎杖
虎杖生ふ遠音別川鮭遡らず
蕗叢の真中を鮭の遡る川
夏バテにはこれが一番鮭茶漬
夏バテにいちばん激辛鮭茶漬
(末尾は句集名)
鱸 /
鱸跳ね天羽(あまは)漁協のトロ箱に 石鏡
漁納め黒凍み鱸揚げられて
落鱸(はらふと)漁東京湾のとば口に
鱸船湾一ぱいに始動音
朝靄にどどと出漁鱸船
(末尾は句集名)
鰡 /
鰡跳ばぬ川を淋しみゐたりけり
朝の川鰡の一つも跳ばぬかと
この辺で昔は鰡の引っ掛け釣り
昔日の柳と鰡の川景色(金澤八景、埋立地)
川沿ひをい行く鰡など飛ばぬかと
一団の鰡を見送る橋の上 寒暑
躍る身をあびせ倒して鰡墜ちぬ 燕音
鰡はねる視野を大きくとりにけり 燕音
鰡はもう跳ばなくなりぬやおら寒 燕音
花吹雪散り込む川に鰡の泛く
鰡飛んで深川鼠の川面かな ぱらりとせ
フィニッシュを見事に決めて鰡の反り
鰡跳ぶと云へる側からまた跳べる
水面の彼方破りて次の鰡
ささくれし波間にぴらと鰡跳ねし
一団の鰡を見送る橋の上
水面に鰡がゆっくり倒れけり
(末尾は句集名)
鯊 /
だぼ鯊の無茶苦茶走りまたしたり ももすずめ
なげやりになりてそれでも鯊を釣る 暮津
ねこじゃらし茫々鯊の当り待つ 暮津
海星釣り笑はれてをり鯊日和 石鏡
缶からに釣られし鯊の跳び上り 石鏡
江ノ電の一寸走って鯊の海 石鏡
糸を垂るそばから鯊が掛かりけり 素抱
自転車の遠乗りをして鯊の海 素抱
水底の冥さ帯ぶ鯊釣られたる 石鏡
対岸に横たふドック鯊を釣る 暮津
釣人の呟き鯊に落としけり 石鏡
琵琶島の端(はな)にて鯊のよく釣れる 石鏡
鯊は水底で釣師は岸辺で虎視眈々 石鏡
鯊を釣る舟が出てゐる大日向 さざなみやつこ
鯊を釣る頭上を鳶の胴ながれ 石鏡
鯊釣の君らの今日の釣果はと・・・(少年) 石鏡
鯊釣の装備の一つ烏龍茶 随笑
鯊釣の泛子に流せる眼の寒さう 石鏡
鯊釣りの坐せる突堤温とかり 暮津
鯊釣れば鯊の眼をして浜の子等
落鯊の海の絶景松の上
空缶は空缶にして鯊釣れず
空缶を足許に置き鯊を釣る
コンクリート放熱なかなか鯊釣れず
空缶にたった一匹鯊の秋
太公望ならねど鯊の海の端(はた)
鯊釣れり村井商事の鼻先で
曳き込まる海の深みへ冬の鯊
だぼ鯊は命拾ひして海中
だぼ鯊の二束三文うち捨てられ
場所替えても釣れぬ寒鯊衿立てぬ
正月の甘露煮に佳き鯊を釣る
冬籠る鯊を釣らむと意気軒昂
この川と東京湾の鯊の形(カタ)
釣られたる寒鯊何處か目が坐り
空缶にばしゃばしゃ行末談ず鯊
背後より気安くこゑ掛け鯊日和
空瓶のゆたのたゆたに鯊を釣る
突堤のとっても温し鯊を釣る
釣具店空色の屋根鯊日和
目の悪きすじ鯊テッポウエビに蹤く(共生)
釣糸を呑み込んだまゝ鯊の海
鯊釣れずなりて漣ぐもりかな
朔風や松原抜けて鯊の海
ここ迄と三角波立つ鯊の海
波発すひかり乱れて鯊の海
猶行けば視界展けて鯊の海
ヘリ発進鯊寄る海を眼下にし
自転車の行き着く果は鯊の海
釣具店並び立つ間鯊の海
自転車二つ抜きつ抜かれつ鯊の海
鯊の海右手に海岸廻りのバス
海向う海苔の木更津鯊の木更津
降りる飛行機上がる飛行機鯊の海
船腹をぴたぴた叩き鯊の潮
魚籠底に腹這ひ顎を張るダボ鯊
岡釣りの面目かけて鯊日和
鯊釣りしこゑの挙りて「三匹目」
大方の釣果そこそこ鯊日和
釣人の鯊より寒き眼をしたり
鯊の頤ゆったり据えて魚籠の底
畑向う国府津の海の鯊日和
ゑのころに風吹くばかり鯊釣れず
ゑのころの首振る土手に鯊釣れり
磯釣りのバケツ覗けば鯊ばかり
釣り上げし鯊に陰影生まれけり
ひらひらと釣れて涸沼の鯊小振り
鯊跳ねてひらひらひらと沼の風
うかつにも針を丸呑みしたる鯊
(末尾は句集名)
鯊釣 /
なげやりになりてそれでも鯊を釣る 暮津
海星釣り笑はれてをり鯊日和 石鏡
缶からに釣られし鯊の跳び上り 石鏡
水底の冥さ帯ぶ鯊釣られたる 石鏡
対岸に横たふドック鯊を釣る 暮津
釣人の呟き鯊に落としけり 石鏡
琵琶島の端(はな)にて鯊のよく釣れる 石鏡
鯊は水底で釣師は岸辺で虎視眈々 石鏡
鯊を釣る舟が出てゐる大日向 さざなみやつこ
鯊を釣る頭上を鳶の胴ながれ 石鏡
鯊釣の君らの今日の釣果はと・・・(少年) 石鏡
鯊釣の装備の一つ烏龍茶 随笑
鯊釣の泛子に流せる眼の寒さう 石鏡
鯊釣りの坐せる突堤温とかり 暮津
三人の鯊釣仲間川挟み
鯊釣のくしゃみ連発して橋上
上ミ下モに寒鯊釣の一人づゝ
鯊釣の一匹とはこれだう話さう
鯊釣の北風に天麩羅談義かな
実時の殺生禁ぜし江に鯊釣(武州金澤八景)
鯊は水底で釣師は岸辺で虎視眈々
鯊釣の首に手拭い巻きつけて
鯊釣の無口なること達磨のごと
鯊釣が話して料る妻のこと
(末尾は句集名)
鰍 /
揚げものの鰍つまめば秋の音 素抱
平皿に呆と口開け揚げ鰍 素抱
湯田人の朋もてなしの鰍揚げ 素抱
和賀川のから揚げ鰍熱きうち
鰍揚げビールコップになみなみと
和賀川のから揚げ鰍に弾む余話
金魚屋にかじか蛙も売られけり
この谿に三軒ばかりかじか宿
山の湯が利いて快眠かじか宿
相性よき穂高の水に鰍孵化
(末尾は句集名)
菜虫 /
◆植物
秋草 /
せいぜい知る秋草の名を独りごち 石鏡
つんつんとへなりと野辺の秋草は 石鏡
一秋草ひよんなはづみで田に入りて さざなみやつこ
雨もまたよろしや乱る秋草に 寒暑
雨雫して秋草の穂といふ穂 寒暑
秋草といひて一草引いて来ぬ 随笑
秋草といふには一寸早からむ 暮津
秋草と一つ括りに野辺の草 素抱
秋草のこの名も妻の知るところ 石鏡
秋草の思ひ出せずにゐるその名 素抱
秋草の丈すんなりと雨に長け 暮津
秋草の長きは長く摘み揃え 随笑
秋草の風に打合ひ古ぶ穂よ 石鏡
秋草は茎を活けるがごとくなり 寒暑
秋草も黄勝ちの野草摘みとりぬ 宿好
秋草や舗道余熱を持ち続け 石鏡
秋草を手折るは釣れぬ証拠なり 暮津
秋草を食卓に活け愛づ生活(たつき) 素抱
秋草を厨厠に頒ち活け 素抱
秋草を折りとる音の根元より ももすずめ
秋草を鳥羽絵の兎高掲げ 宿好
秋草を摘める長短取り混ぜて 随笑
秋草を倒せる雨の定めなき 寒暑
水揚げのよき秋草の一輪挿し 石鏡
台風の近づいてゐる千草の葉 素抱
等伯の松剛直に秋草図 宿好
葉も茎も夕日のいろに秋草は
秋草の丈なす空き地一軒分
秋草の二、三摘みては雨の径
秋草がすらすら描けてちび4B
秋草の何をおいても一輪挿
秋草のほっそりいつまで降る雨か
雨あれば一層秋草らしく見ゆ
磧に降り秋草の穂を尖らす雨
目にとまる秋草けふの一輪挿し
色草にいちいち感心してゐては
御薬園千草とりどり黄葉して
秋草にくさぐさ名ありそれも佳し
雨に遇ふ秋草のそこ凹みをり
我の知る秋草三、四進歩なし
秋草の名をすらすらと侮れず
六国見山秋草に日が燦々と
秋草を手折り戦がせゆく家路
秋草に舗道余熱を持ち続け
秋草の末廣がりに晝の雨
八千草の仙石原の夏の虫
千草引く母の佇ちては蹲り
千草引く母の小さき背庭隅に
湯ざましにあるく秋草昏るる径
立ちあがる秋草磧の強日射
秋草の色は黄と藍二分せり
七草と云はず秋草摘みにけり
吾にとり新種の秋の草摘めり
秋草を摘み来て図鑑と首っぴき
八千草の台風を待つしづごころ
色草の一つ青花空き地埋め
秋草の雑多なる色風吹ける
秋草の紫じみし茎吹かれ
秋草に跳ね翔ぶものの我が足下
秋草の名挙ぐ三人三様よ
秋草を押して吹き込む潮っ風
秋草の一つ一つに妻のこゑ
道草もいいとこ秋草摘み止めず
秋草のこれは棘あり遠慮しぬ
摘み足らぬ秋草顔に描いてある
秋草やまだ空地ある駅なりけり
秋草の中に転がる破れ竹瓮
思ふこと絵書きならねど秋草図
秋草の代表としてすすき活く
花野行覚えて忘る千草の名
秋草に朝の天然蒸気音
しじみ蝶千草祝福せるごとく
(末尾は句集名)
秋の七草 /
言の葉に乗せてたのしむ秋七草
買ひ足せる秋の七草五草目
萩桔梗秋の七草巡りかな
秋の七草巡りの寺の桔梗かな
芒 /
お月さま坐り給へる芒のうへ 暮津
お月見の支度すすきの雨払ひ 随笑
このうへなし川原すすきの吹っきり方 随笑
すすき季岩手県北バスの旅 寒暑
すすき見て露天湯に汗流されよ (番頭曰く) 寒暑
そよりともせいで巨刹の青すすき ももすずめ
なあなあの仲の芒と望月と 暮津
ひとりでに唄が出てくる花すすき 素抱
一叢のざっくばらんな糸芒 燕音
一叢の芒も寺の風趣にて 素抱
鋭さを内に押さえつ青すすき 燕音
艶ありて甕の薄も念仏も 燕音
花すすき雲を飛ばして最上川 随笑
花すすき河の流れのやうにかな 随笑
花すすき十方(じゅっぽう)衆生の願ありて 燕音
花すすき小耳に挟む寺縁起 素抱
花すすき人家といふは寄り添うて 燕音
花すすき仏拝んでゆかれよと (照蓮寺) 素抱
花すすき夜盗さながら裾野馳せ 鳩信
花すすき揺るゝがごとくおねんぶつ 燕音
花すすき揺るゝ辺ひねもす釣糸垂れ 暮津
海に向き芒活けをり月今宵 暮津
外輪山すすきは変り果てにけり 寒暑
帰るさに今一度(ひとたび)の芒原 素抱
近道のつもりが何ですすき原 寒暑
句碑の横風にばらけし芒の穂 随笑
駈け巡る夢のほとりに枯尾花 燕音
恵林寺に風のごと来てすすき季 寒暑
月に芒活けて何とか様になる 暮津
月祀るすすきの他に萱も活け 暮津
月祀るすすき折り来し此通り 寒暑
月祀る芒に添えてゑのころも 宿好
鍵の字に湯治棟あり初すすき 素抱
言うなれば奉書の明るさ花すすき 石鏡
古戦場ここら一帯青すすき 随笑
枯尾花いちめんの日に酔ふことなし 燕音
向日葵の王道青すすきの覇道 随笑
紅すすきさ揺れ湯治湯熱めなり 素抱
紅すすきほどにあからみ山の湯に 素抱
紅すすき湯田の町並見えながら (笹峠 蜩や夕日の里は見えながら 子規) 素抱
最上川芒ぐるりと彎曲し 随笑
殺生河原風に穂を解く痩せ芒 随笑
捌けたる人のごとくに芒枯れ 随笑
青すすきからめ取らんと蔓のさき 寒暑
青すすき仙石原は風に富み 石鏡
青すすき道をいっぽん通しけり 石鏡
節々に臙脂の入る川芒 燕音
川上の又川下の花芒 燕音
川波のこゑを懸けゆく糸芒 燕音
川波の緩急つけて芒過ぐ 燕音
川芒脂っ気抜け雲のいろ 随笑
素玄寺の芒丈なす荒法師 素抱
蔵店は月見名残りの芒活け 石鏡
釣舟の戻る両岸花すすき 暮津
笛吹川(ふえふき)の中州の尾花日和かな さざなみやつこ
湯けむりが芒白めて立ちのぼり 素抱
湯けむりの翳の這ひゆく青すすき 石鏡
湯治小屋嘗て十六芒原 寒暑
道なりに下りゆかれよ芒の中 ももすずめ
売れのこる芒みみづく風邪引くな ねずみのこまくら
薄は穂に清浄光佛在す寺 燕音
八幡平頂上芒の茎臙脂 寒暑
半歩ほど入りて穂芒手折りけり ぱらりとせ
穂すすきのほの字程度に解けそめて ももすずめ
穂芒に声在りとせば御空より 素抱
穂芒のまさに段平抜かんとす 燕音
穂芒の穂を解く雅ごころかな 素抱
穂芒の末路思はす風吹けり 素抱
穂芒の葉擦れの径を川下モへ 素抱
穂芒を手折り馴れたる手つき見せ 素抱
褒めちぎる脂の如き穂の芒 暮津
末黒野の芒夜盗のごとくなり ぱらりとせ
遊行寺のすすき光沢持ち始む (清浄光寺(遊行寺)薄念仏会) 燕音
雄日芝はいつか芒になりたくて 寒暑
落人の落ちゆく姿芒谷 寒暑
硫気浴ぶ芒たまったもんぢやない 寒暑
良寛のかな文字の書を青すすき 寒暑
露わんさと芒が原に降り立ちて 暮津
眄に紅ほとばしる芒かな 寒暑
芒いつぽん手折りて山に別れ告ぐ 石鏡
芒とる少年月を迎ふ村 燕音
芒原目がみえてきて女郎花 ぱらりとせ
芒生ふ駅前仮バスターミナル 素抱
芒赤う秋が一足さきに来ぬ 鳩信
芒馳す彼方祖母山傾山 鳩信
芒分け又芒分けいっぽん道 ぱらりとせ
斑入り芒唯の芒になることも
芒より芒へ流れる真昼かげ
穂芒の切通し越え鎌倉へ
穂芒のホの字ホの字の真盛り
芒の穂みんな開いてハヒフヘホ
沿線の芒追ひ越す鈍行にて
学生は学校へ吾は薄野へ
ややのぼり芒野をゆくジーゼル音
野末吹く風に随笑せる芒
芒原突っ切り出づる日の磧
薄野にこころ解かれて佇ちにけり
芒野に踏み入る半歩即千歩
足音に足音蹤ける芒原
朝露に芒重くれゐたりけり
木染月庭に芒を植え込んで
月祀る芒を惜しみ飾り置く
花瓶替ゆ芒の頭重ければ
漁港より芒採りきて月祀る
まんじゅうと芒と良夜頒ちけり
をみなへし揺れて芒に寄りかかり
鷹羽芒鉢を踏み抜きをりにけり
露けさの薙ぎ倒されし芒叢
褒めちぎる脂の如き穂の芒
仏弟子としての戒名得て芒種(新城千代)
穂芒の油が少し脱けゐたり
芒いつぽん手折りて山に別れつぐ
ポッポーと芒に挙ぐる白蒸気
捨蒸気かむる芒の幽玄に
大井川芒の右に入れ替り
左手に芒下れる大井川
檜原湖に八十島芒生ふ島も
穂芒に泣きだしさうな湖のそら(裏磐梯)
瀬戸橋の横の芒を摘みに一寸(ちょと)
芒採る昔を今に川いっぽん
泥湯噴く芒が根元微濁音
一本道青き芒に陥没し
虫の音も捩れ吹かるゝ芒原
生垣の斑入り芒に月昇る
停年や斑入り芒も斯く殖えて
芒の呆け辺りに移り猫じゃらし
ゑのころに芒声掛く高みより
穂芒も赤銅いろに円空佛
寺々の紫苑・芒に丈越され
穂芒に幾たびとなく道草して
川魚の突如跳ねたり芒叢
穂芒の一輪挿しに適ふ花器
一夜経て黄金いろなる芒の穂
穂芒の風受け流し受け流し
穂芒の容佳ければ振り返る
穂芒の高さにうんと頷けり
穂芒の葉先まで見て葉の捩れ
穂芒の穂に適ふ葉の葉数かな
穂芒の穂に適ふ葉の撓ひかな
湯治湯の芒すぐれて長けにけり
日帰り湯芒の風に煽られて
芒ゆれ銀河のいろの日帰り湯
鳥海山や穂芒赤く明けにけり
湯の町の秋これからぞ紅芒
これは佳き芒に停車在来線
混浴の河原にさゆれ紅芒
穂芒の田沢湖さバス走り抜け
岳望荘芒眼下に納めけり
風迅くなる趣の花芒
孫とみる芒種の「ピーマントリオ」かな
芒種の髯剃るや雨日の徒然に
へんぽんと箱根の空のわた芒
漱石も迷ひし阿蘇の芒原
穂芒の吹かれし方に汝を見る
丈高き汝は紫苑とも穂芒とも
芒野へ外輪山より降りて来ぬ
穂芒や首に阿蘇の日痛いほど
痛快や阿蘇の芒に夕日抜け
月を待つ大観峯の花芒
阿蘇谷の肥後の赤牛芒分け
一団の芒阿蘇谷突っ走る
阿蘇谷を芒一団駆け巡る
夕日今芒千里の外輪山
溶岩原に芒すいすい生ひにけり
満月に阿蘇の芒のコンと鳴く
夕日再び阿蘇の芒に差し込めり
もろこしと芒の糸の白と紅
芒赤う秋が一足さきに来ぬ
会津高原何處まで芒の穂の赤う
穂芒と大待宵草の村はずれ
芒の姥荻の遠叔父民話の里
冬日得ていま恍惚の芒かな
川は生きて水勢増せる芒どき
川波のこゑを懸けゆく糸芒
節々に臙脂の入る川芒
活けるには程よき芒半開き
花のいろ芒に一歩譲る葭
川音のすいすい抜ける芒叢
真葛ケ原芒ケ原の河原みち
糸芒真似て雌日芝穂を解ける
月見の芒経て本堂に通る風
川芒募れる風に右顧左眄
月に祀る芒に伍してゑのころも
大甕に芒投入れ観月会
穂芒のまねく越後にやって来ぬ
池端の芒の身丈三渓邸
川音の近づき離れ芒みち
急がねば日が暮れちまふ芒原
川端を駈けて夕日の芒波
芒波打ってこれより下り路
捌けたる芒に逢へる足柄路
手つかずの芒が光る岬鼻
一茶句碑風にばらけし芒の穂
最上川流れ片寄る芒の瀬
花芒最上川べり埋めつくす
最上川中洲にゆらと芒長け
舟下り芒の天を頂きて
芒越し見え来し幡の舟着場
芒叢翅をこすりて虫啼ける
高原の道端穂芒初々し
平家塚芒明りの径をゆく
分け入りて芒の彼方落人村
奥鬼怒の芒の呆と山暮れて
眦に紅ほとばしる芒かな
サイクリング目指すは芒のデンデラ野
露出して芒が原の赤茶け岩
硫気立つ岩に芒のぺんぺん草
穂芒のか黒く谷の酸性湯
芒群る中に湯治場一軒宿
八幡平頂上芒の茎えんじ
芒は穂に秘湯連なる県境
五能線甘草揺るゝ芒かげ
(末尾は句集名)
撫子 /
河原撫子雨に摶たれて一揺れす
ゆらゆらと河原撫子水明り
かわらなでしこ湿原巡る女ごゑ
蝦夷河原撫子入れて砂州の窪
波音のぺたぺた河原撫子に
寒風山撫子の径ゆるゆる下る
えぞかわらなでしこ砂州の凹みにも 燕音
(末尾は句集名)
桔梗 /
変化朝顔桔梗咲きてふ一異色
いやに白き土耳古桔梗は梅雨の花
白土耳古桔梗服喪の一日目
切実に言葉を使え白桔梗
桔梗の言葉は推して知るべしと
秋の七草巡りの寺の桔梗かな
桔梗や椀にめうがのすまし汁
素(しら)風に桔梗の莟賢しや
桔梗のいろに馴染みて日を過ごす
桔梗のひといろ折り目正しきはな
夕づける風いちはやく桔梗に
暑にめげぬうすむらさきの庭桔梗
桔梗にきのふもけふも青い空
尼寺に桔梗と茶花の方と円
きちかうの記憶を辿る容して ぱらりとせ
むらさきに違はぬ桔梗の信(まこと)かな 寒暑
桔梗にきのふもけふも青い空 寒暑
桔梗にはよそ事のごと灼ける空 寒暑
桔梗に太古の空のいろを瞻る 寒暑
桔梗の莟の爆破遂げてをり 寒暑
桔梗の蕾祈祷の調度に似る 素抱
桔梗は法器の一つ安居寺 寒暑
桔梗蕾みて鞍馬天狗の被りもの 素抱
沢蟹の桔梗いろの肯を押ふ さざなみやつこ
佛性はここにうそ寒神経網(倣漱石(仏性は白き桔梗にこそあらめ夏目漱石)) 石鏡
(末尾は句集名)
沢桔梗 /
女郎花 /
をみなへし月待つ月の色湛え 暮津
をみなへし朝日に溶けてしまひけり 暮津
黄は艶なり長けては灼くる女郎花 素抱
灼熱に打たれ強かり女郎花 素抱
暑に擲たれ強くして長(た)く女郎花 素抱
女郎花一息おいて手折りけり ぱらりとせ
女郎花強き日差しを欲りにけり 随笑
女郎花今を盛りとなまめきぬ 暮津
女郎花芯ある花と覚えけり 暮津
女郎花容れて一景なまめきぬ 暮津
朝曇黄のうちかすむ女郎花 素抱
天日に撲たれ強しよをみなへし 暮津
白日下色を増しつつをみなへし 暮津
満月のいろを頒たれをみなへし 暮津
烈日の育む丈余のをみなへし 暮津
芒原目がみえてきて女郎花 ぱらりとせ
女郎花その枯れぶりも大年増
女郎花ひょろと長けしも腰強し
女郎花盛り光の嵩増しぬ
女郎花日差す辺りの澄みきりて
女郎花植えて周囲の明るめり
女郎花すらりと姉は伸び盛り
女郎花右はいもうと左はあね
女郎花日はつらつらと西を指し
女郎花模糊と黄を刷く朝曇
女郎花空に明るさ加へけり
太陽の黄をまざまざと女郎花
草抽いて生々しきは女郎花
早咲きのこれは何とも女郎花
女郎花抜群の丈得つつあり
この莟女郎花とは知らなんだ
はっとして胸つかまれぬ女郎花
しみしみとその黄に見入る女郎花
女郎花庭に朝日を呼び込めり
食卓の小瓶に庭の女郎花
人声の挙がるところに女郎花
夏さきの女郎花なりすがすがし
女郎花すらりと長けし立姿
女郎花満面に日を湛えをり
雲間よりお岩木覗く女郎花
(末尾は句集名)
男郎花 /
噂にはいつも上りし男郎花
藤袴 /
藤袴名前負けとまでは云はじ
あららぎの泰然栃の自若の秋 寒暑
鼻衝いて木の香草の香蛍沢
(末尾は句集名)
思草 /
足許の何に根ざして思草
故ありてなんばんぎせるは無頼の徒
草叢に南蛮煙管の忘れ物
思草ちと出来すぎの字づらかな
菊芋の花 /
寺一つ隠す菊芋べらばうに
菊芋に山が装ひ始めけり
菊芋の廻りの山も装へり
菊芋の花の待たるる鄙暮し
菊芋の花山裾を埋め尽し
菊芋咲く里山の秋確かめに
菊芋の跋扈仮バスターミナル
菊芋の長けて切なきまで青空
菊芋と図鑑で識れり手折り花
菊芋の朝の項(うなじ)に強日射
菊芋に対す山気は空に充ち
文庫(ふみくら)の裏山菊芋咲き出して
菊芋の丈なす山の道辿り
摘んで来し山の菊芋一輪挿し
葛 /
あらあらしく落ちて来るなり葛の雨 随笑
ここで道はたと絶えをり葛の花 暮津
とりついたりとりつかれたり葛の蔓 鳩信
やっかいなものにて葛の遊び蔓 素抱
宇津谷の葛も了りの峠道 燕音
葛あらし葛の横腹見せにけり 素抱
葛の葉の化粧ふに山の日の加勢 宿好
葛の毳ここらで道の尽きをるよ 素抱
葛黄葉遠慮がちなる色合ひに 鳩信
葛原に遊び呆けて荒ぶ蔓 暮津
葛咲いてやぶらこうじのぶらこうじ 暮津
葛灼けて菅江真澄のゆきし道 寒暑
葛蔓の何を仕出かすこの勢ひ 素抱
袈裟いろの葛打ち敷ける土牢前 燕音
言うならば葛這屋敷荒れ屋敷 石鏡
崎鼻に葛とおぼしき花吹かれ ももすずめ
照りつける鉄砲鼻に葛灼けて ももすずめ
吹き下ろす大風葛を吹き窪め 暮津
精悍なにほひの蔓でありにけり ぱらりとせ
大井川葛は暴走して止まず 宿好
湯治場の山深ければ葛の花 素抱
明月院横へ出る路葛の花 石鏡
夜がつまみ捨つものならむ葛落花 素抱
野の草を見る会葛に屯して ももすずめ
窶れ葛西日の中を這ひ回り 暮津
(末尾は句集名)
葛の花 /
ここで道はたと絶えをり葛の花 暮津
葛咲いてやぶらこうじのぶらこうじ 暮津
崎鼻に葛とおぼしき花吹かれ ももすずめ
湯治場の山深ければ葛の花 素抱
明月院横へ出る路葛の花 石鏡
野の草を見る会葛に屯して ももすずめ
葛の花岩勝ちの道なほのぼる
土牢へ葛の花屑踏みしめつ
切通し見上げて葛の花と逢ふ
湯治場へ脇道下りて葛の花
葛の葉に葛の花ちる岩木山
葛の花これより藍増す日本海
葛の花寒風山は藍深め
(末尾は句集名)
萩 /
いろいろな萩植えてあり萩の寺 暮津
うるはしき風のかたちに青萩は 暮津
その生活(たつき)手に取るやうに萩便り 素抱
ふいを衝く風に青萩ぐらりとす 暮津
ぼたもち寺寺門の萩に乱れなし 随笑
一頻り萩刈る音か高山寺 宿好
卯辰山前に白萩うねり初め 宿好
何食はぬ顔にて萩の花盗人 暮津
俄雨芙蓉を叩き萩叩き 暮津
回廊に回廊を継ぎ萩の風 宿好
絵が得手の人の手になる萩便り 暮津
幾つもの風筋通し萩の寺 暮津
月下の萩くわんのんのごと千手垂れ 暮津
行先がすっと決まって萩の寺 暮津
山萩の地味でゐて且つ和むいろ 素抱
散らせ置く萩の花屑始末せり 暮津
紹興酒の空壺に萩活けてあり 暮津
青萩に当りてあらはなる風筋 暮津
青萩に風納まれる寶戒寺 暮津
大撓みしていちめんに萩の海 寒暑
知己に逢ふごときやすけさ萩を見る 燕音
天上より萩を押しつけ吹ける風 暮津
道思い出しながらゆく萩の寺 (瀬谷 徳善寺) 燕音
萩と露色のつり合ひとれてをり 素抱
萩に萩押しつけゆける萩の中 さざなみやつこ
萩に箔置くごと朝の雨の粒 暮津
萩に風姿乱せる萩に風 暮津
萩を打つ雨に慌てゝ蜆蝶 暮津
萩寺の確か白咲き萩未だ 宿好
萩叢の裾まくられてその涼味 暮津
萩叢も萩見る会も旺んにて 燕音
萩叢より蝶のほろほろこぼれ飛ぶ 暮津
萩叢を雨は手加減して打てり 暮津
萩優るぼたもち寺の植込は (常栄寺) 随笑
白萩の楚々たるを寄せ掃き給ふ 燕音
白萩は大鳥となり月明に 暮津
風往(い)なすことにかけては宮城野萩 暮津
風絞るごと青萩を絞りたる 暮津
焚莱(ふんらい)山房庭前の萩走り咲き (大野林火先生居) ぱらりとせ
無常迅速生死事大と萩咲けり 燕音
葉影又丸くその名も丸葉萩 暮津
立ち直るいとま与へず萩へ風 ももすずめ
類無く明るかりけり萩透く陽 暮津
連れ立てり芙蓉の風と萩の風 宿好
萩寺の萩吹く風はそこよりす
萩寺の名残の萩に二夫婦
萩寺に日はまだ強く萩咲かず
萩咲いて庭の地色を深めたる
白萩の露を手放す石の上
石畳伝はり冷気萩の寺
白萩にしめりをくれに一ト雨来
枝垂れ萩擦りて家人出入りす
寺巡り十箇寺萩寺皮切りに
萩盛る頃と訪ひしが堪鈍る
自転車を通すにじゃまな萩を剪る
白萩の懸崖セセリ蝶のぼる
江戸絞りてふ名に惚れて萩屋敷
萩叢の蝶を発たせて朝の雨
極上のお数珠の材は萩の露
萩の葉にまろび遊べり露法師
萩は枝を卒なく四方に広げけり
相対す仏に白豪萩の花
通るとき白萩汚してはならじ
同色の萩に止まれり蜆蝶
昏れてくる夕顔の白萩の白
山をなす萩の麓に蜆蝶
白萩の上に懸かれる今日の月
萩の葉を震はせ雨の到りけり
萩の雨目線移せば芙蓉の雨
萩の枝をこづき遊べるつむじ風
秋暑の日朝から萩の千の葉に
萩を打つ雨に伴ひ来たる風
七草の三草萩葛尾花咲き
萩の露連ねたやうな数珠欲しや
萩叢の一うねりしてその涼味
夕闇の萩を経て来し風ならむ
大きく風起たしめ萩の一風趣
向き替えて一転萩を起こす風
夕風を呼び込む萩を恃みをり
台風の棒雨萩菊百叩き
黄泉平坂(よもつひらさか)むらさきみそ萩灼け灼けて
萩の葉を金蝿蹴って飛びにけり
山萩のちぢれ葉枯れの始まりぬ
野辺の草手にす一見感じは萩
しとやかに宮城野萩の咲きっぷり
蝶飛ぶにさしつかえなき萩の雨
萩を吹きなほ余る風嫁菜を吹き
萩叢の横より突き出すボンネット
庭石に懸かりて楚々とこぼれ萩
菊にゆるく萩にしっかり縄結はえ
みぞ萩の風あることを知らす花穂
宗猷寺萩は盛りを過ぎゐたり
花了ふ萩一色深き小紫
石段を五段のぼれば萩すだれ
当山の萩は盛りを過ぎ居れり
降りかかる雨を咎めず宮城野萩
これからの萩と莟を指させる
野の萩と数珠玉を活け観月会
萩なぶる風十団子の碑へ抜けり
萩吹かれ十団子の碑に散りかかり
十団子の白さに萩の花吹かれ
萩咲くと聞くさへ過ごし易き日々
吾といふ心消滅萩の花
萩の花掴みそこねし虻見たり
下葉より下葉へ零れ萩花屑
萩の花身心脱落説くごとし
萩白く身心脱落せよと云ふ
蝶となり翔びたちさうな萩の花
萩を押し寺の小径の始まれり
白萩に女のこゑのよく徹る
白萩の花屑吊れる蜘蛛の糸
白萩のけぶるが如くその莟
初萩のほとばしる白掻き分けて
初萩に呼び止めらるる氣のしたり
白萩の波うてる空蝶翔べり
白萩の小径よぎりて走り咲
ひとりびとり萩に佇む寺まひる
蝶止まるごとくに萩に佇める
小径より小径分かれて萩の寺
白萩のはつはつ咲けるご本堂
けふの花活けんと萩の枝選び
住職の萩を活けんと枝選ぶ
瀬谷 徳善寺 萩を見る会
萩叢の家盗人に入られし
伴れだてり芙蓉の風と萩の風
萩を活け三番札所のご住職
吹かれては萩揺りこぼす花真白
指当つる刈られし萩の断面に
婆跼む萩刈株に掌を当てて
山萩に言葉かけゆく七合目
しろがねに月の瓦と萩叢と
貴人の如く分けゆく萩の叢
先づ鯉に目を奪はれて萩の庭
萩桔梗秋の七草巡りかな
白萩の遅れ咲きゐし放光寺
参道のなほなほ奥へ萩の径
萩枝垂れ花園の径通せんぼ
白萩に径を奪られてしまひけり
縺れ合ひ萩より零るしじみ蝶
山萩の零る径なり此処も亦
人一人通れる程の萩小径
山萩に散策の目を細めたる
(末尾は句集名)
藍の花 /
枝豆 /
口中に飛ばす枝豆いい感じ 素抱
枝豆に寒風山の空あをし 寒暑
枝豆を根こそぎにしぬ佐吉多万人(さきたまびと) さざなみやつこ
枝豆を茹でる湯気まで走りなり 素抱
付けたりの固き枝豆昼の酒 ぱらりとせ
枝豆を硬きとおもふ齢来て
枝豆を植えに植えたり秋田富士(鶴岡)
塩振って走りの枝豆喜ばす
枝豆の走りを貰ふお辞儀かな
枝豆の葉の蒼深し山の畑
信州の日差し青田と枝豆に
裾野なる火山灰地に枝豆伸ぶ
枝豆に独酌はづむ宵の口
旬過ぎし枝豆つまみ独り言
枝豆も古参ばかりとなりにけり
遅蒔きの枝豆を以てずんだ餅
誕生日枝豆の殻積み上げて
枝豆の指ざはりよき季節なり
枝豆のこれがほんとの旬の味
枝豆の向うに青田八郎潟
(末尾は句集名)
芋 /
ありあはす芋の煮しめに一善飯 寒暑
タロ芋のとてつもなきを掘る島人 随笑
ロシア船員跣足であるくタロ芋島 寒暑
芋の露面白ければ覆す 暮津
芋茎とはえぐさ記憶に新たなり 素抱
芋煮会差し入れありぬ香の物 随笑
芋煮会蠅も仲間に入りたがる 随笑
芋煮鍋そら噴く芋をさあさらえ 随笑
芋畑天上大風吹き初めぬ 寒暑
佳き顔の里芋を頒く子の皿へ ねずみのこまくら
乾燥芋焙り上手よ婆ちゃん子 宿好
簡単な芋の煮っころがしが夜食 寒暑
菊芋の長けて切なきまで青空 石鏡
菊芋の跋扈仮バスターミナル 石鏡
見較べて手首ほどある芋の茎 燕音
見渡して芋煮の鍋の据えどころ 随笑
妻にとり我は口きく八つ頭 石鏡に
寺一つ隠す菊芋べらばうに 暮津
青鷺の八頭身を水鏡 宿好
大学芋食うて戦争あやしまず 暮津
男一人混じるがをかし芋煮会 随笑
長芋の短冊切りにひとり酌む 宿好
筒っぽの海芋は雨を蒐む花 ぱらりとせ
鳶の糞里芋の葉に垂れてける 宿好
鍋蓋におたまの鎮座芋煮会 随笑
梅雨湿り芋銭の河童百図かな 素抱
八つ頭馬鹿丁寧に洗はれをり ももすずめ
飛花当る雪洞舟和の芋ようかん 石鏡
筆ささと芋銭のスケッチ秋の生りもの 石鏡
紐あるごと零余子芋蔓式に落つ 燕音
文庫(ふみくら)の裏山菊芋咲き出して 素抱
里芋の茎の色よき十六夜 燕音
里人の里芋作りこの家も 燕音
扁平になりて千切れぬ芋の露 燕音
炬燵して芋銭の狐隊行圖 ももすずめ
露落ちて下葉の芋の露を打つ
秋雨に芋の下茹で下ごしらえ
芋剥きの手伝い亀の形よと
芋の葉を訪ふてをるなり露法師
でで虫に芋の葉脈縦走路
芋届けにお産仲間の妻が友
まだ判らぬ肥らぬ原因芋の秋
芋畑の土の匂ひに蟻の憑く
八頭めく日々家居も長くなり
妻にとり我は口きく八頭
夢二展出て家苞に芋ようかん
芋に露河童日和と申すべし
海芋覗く者とて不審がられゐる
山畑の里芋晩夏の翳もてり
里芋など盆の煮物の鍋ぐらぐら
里芋を煮付けておいてビデオ撮り
芋の葉にあまりに広きけふの空
長芋の千切りビールすすみけり
りゅうのめのなみだのいろの芋のつゆ
芋植うも利発なリスにしてやられ
「芋太郎屁日記咄」読初めに
峡人の自給自足の芋畑
雨風を凌ぎし芋の身丈程
里芋のよべの嵐を切り抜けし
里芋の畑の廻りのごろた石
芋の葉の風にやられてばらりずん
里芋にこの村の土合うとみえ
立ち寄りて待月軒の芋名月
里芋の茎ぐんにゃりと野分晴れ
芋の葉に一ト夏過す蝸牛
次はこの慈姑の親玉芋頭
芋煮会里芋いろの昼の月
ザングリと芋の鬼っ子掘り当てぬ
里芋は山芋おもひ夕月夜
茎を喰う芋もありけり名を忘る
なまなかな箸を嫌ひぬ八頭
暮市の露地にごりっと八頭
芋剪れば頭から浴ぶ返り露
芋の露燦と散らして銀河系
塗箸もて断ち割る芋の煮っころがし
何首鳥芋術後五年の秋立ちて
このやうに空澄み来れば芋嵐
いまだ暑の先見えて来ぬ芋畑
芋の葉の上のまんまる鏡空
(末尾は句集名)
芋茎 /
芋茎とはえぐさ記憶に新たなり 素抱
芋茎干し一戸一戸の庭日向
(末尾は句集名)
曼珠沙華 /
いづれ行く彼の世の下見まんじゅさげ 暮津
しがらみの地縁人縁まんじゅさげ 宿好
へし折らるために生ひ来し彼岸花 石鏡
ポキポキと目で折り往きぬ曼珠沙華 暮津
まんじゅさげその朱ケ飛んで宇佐八幡 鳩信
まんじゅさげ此処を黄泉路と違へ咲く 随笑
まんじゅさげ蒐まり咲けば墳めきぬ 寒暑
まんじゆさげ蹴散らかしゆく小鬼あり さざなみやつこ
まんじゅさげ生白の茎にょきにょきと 宿好
まんじゅさげ遅咲きの村円空守る 素抱
まんじゅさげ薙ぎて悪餓鬼健在ぞ 石鏡
悪たれは何處にでも居るまんじゅさげ 暮津
金澤山(きんたくさん)弥勒院跡まんじゅさげ 随笑
月光に色を奪られてまんじゅさげ 素抱
散らばって散らばって日とまんじゆさげ (高麗 巾着田) 寒暑
残塁に降り石火矢の曼珠沙華 素抱
死人花蘂は変じてむらさきに 素抱
宿(しゅく)外れ一本咲きの彼岸花 燕音
新しき地蔵の前掛けまんじゅさげ 寒暑
勢いたち流るゝ水や曼珠沙華 暮津
石火矢のここに炸裂まんじゅさげ 石鏡
蝶せせる蘂わなわなとまんじゅさげ 宿好
長雨に火力衰ふ曼珠沙華 ぱらりとせ
当山は真言律宗まんじゅさげ 寒暑
日豊線爪先立ちに曼珠沙華 鳩信
彼岸花ツンツカツンと咲きにけり (小石川植物園) 寒暑
彼岸花咲きゐし場所を事細か(妻) 暮津
彼岸花彼岸の色を薄めけり ぱらりとせ
彼岸花莟ばかりのお仏壇 燕音
描線のみな生きてゐる曼珠沙華 暮津
墓域より人家へ飛んで曼珠沙華 石鏡
野に出でてよりの水勢まんじゆさげ ねずみのこまくら
曼珠沙華黄泉のとば口此処にあり 寒暑
曼珠沙華元寇の絵図さながらに 寒暑
曼珠沙華疾うに御首級あげられて 暮津
曼珠沙華先づは一輪挿にして 暮津
曼珠沙華突撃バンザイ花にして 鳩信
曼珠沙華念彼(ねんぴ)観音力以て ぱらりとせ
曼珠沙華木(ボク)の根っこを飾りけり 暮津
蘂わたる一匹の蟻まんじゅさげ (武州 金澤山 弥勒院称名寺) 寒暑
藪裾に燃え尽きをりぬ曼珠沙華 暮津
曼珠沙華足場築ける一拠点
彼岸花もう見て来しと弾む息
曼珠沙華その尖端は土の中
彼岸にて見ることあらむ曼珠沙華
彼岸花土冷え来ればたちどころ
斑鳩に遊ぶおもひの彼岸花
彼岸花神社の椨の木の下の
曼珠沙華一斉に咲き鬨の声
曼珠沙華の影めためたに水尾が来て
先回りして曼珠沙華咲きにり
毛越寺式庭園今に曼珠沙華(金澤文庫称名寺の庭園は奥州平泉毛越寺のそれと同形式なれば)
車椅子その高さより曼珠沙華
墓域より人家へ飛んで曼珠沙華
太鼓橋少し色抜け曼珠沙華
曼珠沙華難しいともその描線
立木より日は洩れ易く曼珠沙華
実時の殺生の戒曼珠沙華
曼珠沙華水面に映りお曼荼羅
曼珠沙華見てきて描きかけ絵筆とる
鼻缺けし石の狐と曼珠沙華
一尊を拝し出づれば曼珠沙華
赤門を潜りて曼珠沙華の道
曼珠沙華ひょろひょろと伸ぶ頃ほひか
曼珠沙華一ト花咲かす土貧し
曼珠沙華空気愉しむ季来たる
屯してロウソク立ちの曼珠沙華
曼珠沙華いろを飛ばして餓鬼草子
彼岸花話題にのぼる夕餉の座
月光に翳とし佇てる曼珠沙華
神通力もって咲かせよ曼珠沙華
光背の彼岸花いろホキ石佛
曼珠沙華右に左に日豊線
そを想へば目にちらついて曼珠沙華
曼珠沙華次々生ふる土恋し
川波と堤を奔る彼岸花
彼岸花雨後の水量増せる川
彼岸花ひょろりと宇津ノ谷峠口
駈け廻りゐしが下火の曼珠沙華
曼珠沙華満開畦に火を零す
曼珠沙華しゅんと燃焼了へにけり
堤吹く風に発色曼珠沙華
茎ぞろと生え出て月の曼珠沙華
生え際のぞくっとしたる曼珠沙華
最上川此岸彼岸の曼珠沙華
ひょろひょろと優(やさ)彼岸花茎を立て
曼珠沙華むらさき帯びて滅の時
曼珠沙華はや幽霊の面持ちに
曼珠沙華滅相を雨叩くなり
曼珠沙華夭折といふけ遠さに
曼珠沙華もう咲く頃と気も漫ろ
煩悩の河横たはる彼岸花
始めて見し蒙古の火薬曼珠沙華
白茎の寸に寸足し曼珠沙華
曼珠沙華彼の世へ一歩また一歩
曼珠沙華紅蓮に倦めばざっと見て
曼珠沙華見尽して佇つ水ほとり
地べた割り蝋燭立ちの曼珠沙華
曼珠沙華高麗の部落に下り立ちし
曼珠沙華ここより昇る天の階
まんじゆさげ福音のごと射す日なり
堰落つはくちなはならずやまんじゆさげ
高麗川を臨む林間まんじゆさげ
まんじゆさげ呼び名は五十幾つとか
ひょろひょろも精悍もありまんじゆさげ
まんじゆさげ百万本の茎襖
まんじゆさげ堤を人のぞろぞろと
まんじゆさげ日和堤を猶もゆく
手の届く処に彼の世まんじゆさげ
まんじゆさげ高麗川(こま)の堤に勢揃ひ
木洩れ日は一縷の光明まんじゆさげ
赤光(しゃっこう)を放ち梵字のまんじゆさげ
一本も折らずに来たりまんじゆさげ
一茎は落葉突き刺しまんじゆさげ
光明を湛え降る日やまんじゆさげ
まんじゆさげ屈んで入る金剛界
まんじゆさげむらがる処小川あり
ちらばってちらばって日とまんじゆさげ
まんじゆさげ大千世界足下にす
花と茎のみのデッサンまんじゆさげ
まんじゆさげ弥勒浄土といふべかり
まんじゆさげ蝶の如くに倚りゆけり
灌木の日陰日陰にまんじゆさげ
まんじゆさげ煉獄の門飾りけり
日陰花まんじゆさげ樹下いちめんに
まんじゆさげ百茎妖気登りけり
彼岸花すうっと白む根方かな
青天に斯く風吹けば曼珠沙華
(末尾は句集名)
鶏頭 /
うらぶれし鶏頭抜かうか抜くまいか 暮津
プランターに植えてへなちょこ槍鶏頭 暮津
雨宿りせる軒先の鶏頭花 燕音
火の見の下槍鶏頭の小火ありぬ 随笑
喜多方の蔵もつ宿の鶏頭図 (笹屋旅館) 石鏡
曲ろくに鶏頭明り忌を修す ももすずめ
鶏頭のいたくうらぶれ霧雨に 暮津
鶏頭のとっとと昏れてしまひけり 暮津
鶏頭ののっぺらぼうに後の月 燕音
鶏頭のひとり頑張りをる日暮 燕音
鶏頭の芽の何處をだう間引かんか 暮津
鶏頭の駈けだしさうな若冲忌 随笑
鶏頭の今年の種を見せに来る 鳩信
鶏頭の写生何とかまとまりぬ 素抱
鶏頭の小火出す火の見櫓下 燕音
鶏頭の数にこだはるすさびごと さざなみやつこ
鶏頭の頭(かしら)化け物めく遠野 寒暑
鶏頭の頭の塵払ふ雨来たり 燕音
鶏頭の暮るる暮るるといへば暮れ 燕音
鶏頭は大き頭で風受け止め 暮津
鶏頭を引っこ抜くとき土けむり 暮津
鶏頭を引っこ抜くにはまだ早き 随笑
鶏頭花空気違へば彩違ふ 寒暑
鶏頭花林立の季(とき)来たりけり 燕音
鶏頭図蔵す蔵主旅籠兼ね(喜多方笹屋旅館) 石鏡
甲州の鶏頭の道往き暮れて 寒暑
子規いのち縮める従軍鶏頭花 寒暑
種子零す鶏頭いやはやひどい形(なり) 石鏡
槍鶏頭一族郎党引き連れて 燕音
槍鶏頭張り合ふ天の底抜けに 石鏡
台風の後の鶏頭つんのめる 暮津
断乎たる枯鶏頭の大頭 さざなみやつこ
内祝鶏頭の茎色づきて ももすずめ
墓所を守るはらからも絶え鶏頭花 暮津
目細めて子規の鶏頭蒔きにけり 暮津
憮然たる鶏頭に似て史の歌 (斎藤史) 鳩信
流行りありトサカ鶏頭久留米鶏頭
お供えの花はとみれば鶏頭花
鶏頭も五輪ノ塔もすっ倒れ
鉄骨の横に鶏頭昏倒す
色うすれ来てここまでの鶏頭花
岳下る風との出逢い鶏頭花
種子やたら付け鶏頭の彩乏し
全盛を過ぐ鶏頭の雨まみれ
鶏頭の雨に遭ふ程槍尖る
鶏頭の倒れしまゝがよきと見ゆ
土掴みそっくり抜けし鶏頭花
鶏頭の見栄えのいつか過ぎてをり
苦しみを絵筆に託し鶏頭花
鶏頭の真昼の墓地をたもとほり
鶏頭の殊に異様なその頭部
六地蔵こんな所に鶏頭花
種子零す鶏頭その嵩如何許り
ひたぶるに鶏頭枯れて種子零す
鶏頭のだう倒れても墓地の中
括られて風禍に遇ひし鶏頭花
鶏頭もすっかり没し虫の闇
鶏頭の耄碌立ちを見下ろせり
鶏頭のありし辺りの闇深し
鶏頭の没す辺りの闇窺ふ
鶏頭花妻に看護の日の永く
鶏頭の黒づむまでに装ひて
鶏頭と言へば十二所光触寺
距たれる鶏頭この墓地入り易し
鶏頭の青空目指す気養生
鶏頭の走り出しさう墓地に風
鶏頭の卒倒しをり他所(よそ)の墓
鶏頭の鶏冠墓地に見え隠れ
お隣りは鶏頭我が家は何蒔かむ
鶏頭は枯れて一心欲見佛
鶏頭の種干し日和うち続き
人の老ひ眺むるごとく鶏頭を
村中の高みを鶏頭生ふる道
鶏頭の黙って思案せよといふ
鶏頭のこれが親方これが弟子
長雨に降り籠められし鶏頭花
鶏頭の色づきを待つ母の日々
かいなでの初心者軽んず鶏頭花
お不動の零れ焔の鶏頭花
鶏頭の種採りオリンピック果つ
方便の一つに写生鶏頭花
上根岸の大人(うし)の宅訪ふ鶏頭花
子規居士の日々の呻吟鶏頭花
鶏頭のどきんとする色もう日暮れ
暗色の鶏頭峡は暮れんとす
鶏頭は枯れアフガンの消耗戦
空青く晴れて無冠の鶏頭に
色脱(ぬ)けて平々凡々鶏頭花
子規庵の戸袋の反り鶏頭花
日が差してはっと墓域の鶏頭花
鶏頭の大小万霊供養塔
鶏頭の見栄張る葉とも見ゆる日も
手向花鶏頭多し伝心寺
鶏頭をひょんなところで見し記憶
盆花の鶏頭ならんぐんと伸び
鶏頭の子規へ傾倒そんな日も
大風を呼ぶ雲鶏頭低頭す
(末尾は句集名)
葉鶏頭 /
かまつかに殴りかからむばかりの雨 石鏡
かまつかに見透かされゐるおもひあり 燕音
かまつかに出陣の下知下るごとし ねずみのこまくら
かまつかに留守を頼んで出かけけり 鳩信
かまつかのこれが限度といふ紅蓮 石鏡
かまつかのてんてこ舞の風の日々 随笑
かまつかの旭にむせぶ斜面畑 さざなみやつこ
かまつかの雨に摶たれて大きうなる 随笑
かまつかの赫っとイスラム原理主義 随笑
かまつかの錦の御旗振るごとし 鳩信
かまつかの紅蓮を見栄とおもふ日も 随笑
かまつかの彩なかなかに鄙ぶ寺 宿好
かまつかの繪手紙しみじみ繪のちから 暮津
かまつかや報道一ト日テロ一色 随笑
かまつかや来し方透いてみえるとも 石鏡
一斉に褒めそやされし葉鶏頭 暮津
一段と空深くなり葉鶏頭 燕音
雨のあと直ぐ日が射して雁来紅 宿好
魂棚の賑やかしとて葉鶏頭 素抱
幅跳の助走路に沿ひ雁来紅 ねずみのこまくら
葉鶏頭勢いづいて来たりけり 随笑
葉鶏頭嵐を前に鎮まれる 随笑
葉鶏頭急雨につんのめる一茎
葉鶏頭月中過ぎれば佳き彩に
栄光は斯くのごとき歟葉鶏頭
葉鶏頭乱のごと風起こりけり
葉鶏頭喰ふ奴どこへ雲隠れ
かまつかの鬨のこゑ挙ぐ容して
移ろひゆく彩をとどめて葉鶏頭
また母を其処に佇たしめ葉鶏頭
かまつかの焔あかりに種宿す
雁来紅落ち目の彩と見たりけり
月さして幽霊咲きの葉鶏頭
かまつかのはだけし胸を風に晒し
かまつかを括りに出でて煽らるゝ
かまつかのどぎつくそれでいて明朗
かまつかの七八九本朝夕な
かまつかを吹き抜く風に色載らん
雨毎の延びが愉しみ葉鶏頭
まなぞこに去年の焔色の葉鶏頭
かまつかとサルビアの赤競ふ季
かまつかの盛りの花に身を晒す
天上より風かまつかを一ト煽り
丈を得しかまつかの辺を母巡る
大風の中かまつかの伸び盛り
大風をまとも正直葉げいとう
葉鶏頭林立の季(とき)迎へけり
かまつかの緋の傘雨に打たれをり
かまつかにひたひたひたと小雨来る
かまつかの辰砂色増す昼の雨
激賞のかまつか折れて仕舞ひけり
かまつかに出迎へらるる札所寺
かまつかの燃え出すアフガン聖戦下
かまつかの駈けだしさうに若冲忌
かまつかを引っこ抜くにはまだ早き
いよいよかかまつかに風募り来ぬ
大風が来て葉鶏頭泳がする
かまつかのずんと丈得し風の中
朔日のかまつかのまだ丈を得ず
葉鶏頭きょとんと村はもう日暮
葉鶏頭幼な彩してもどかしや
絢爛と天つ日弾く葉鶏頭
葉鶏頭育む雨のザッと来ぬ
かまつかを雨一ト震ひ二タ震ひ
(末尾は句集名)
薄荷の花 /
芙蓉の実 /
芙蓉の実軽々とあり経し日かな
芙蓉の実大往生は誰もが欲り
達観に似たる枯れざま芙蓉の実
終刊にだうもってゆく芙蓉の実
時に介護軽く重たく芙蓉の実
天皇の笑みのこぼるゝ芙蓉の実
雲飛んで一日迅し芙蓉の実
芙蓉の実高きにつけて風些々と
閑日の昨日今日明日芙蓉の実 宿好
老ひらくの斯くはありたし芙蓉の実
芙蓉の実一つ一つの想ひごと
枯れてもや姿優しき芙蓉の実
芙蓉の実頭揃へて枯るる景
天つ日に呆けゆくばかり芙蓉の実
芙蓉の実知恵を蒐むるごとくなり
どうしてもそこへ眼のゆく芙蓉の実
眼鏡の度進むとおもふ芙蓉の実
安住敦と云へば擦れ鳴る芙蓉の実
(末尾は句集名)
早稲 /
早稲の香の入り来る合掌造りかな
早稲の香の沸きかへる中巡礼道 宿好
浮草に数では負けぬ早稲垂穂
性悪の雉が啄む早稲垂穂
村晴れて結(ゆひ)四軒の早稲田刈り
雑草のぽつんぽつんと早稲田なか
早稲田中居候めく稗いっぽん
早稲の香に吸い寄せらるゝ畦の虫
(末尾は句集名)
竹の春 /
竹の春お手間をとらせましたと謝辞
五輪塔片寄せられて竹の春
惚れ惚れする竹の春みち玄関まで
嵯峨竹の春にしてなほつづく径 宿好
化野の佛居眠る竹の春
太秦のお寺巡りも竹の春
やはらかき昼の湯を浴び竹の春
里巡る話の合間竹の春
(末尾は句集名)
草の花 /
埋立の頃の種なむ草の花
半歩でもともかく前へ草の花
登り口団地の裏とよ草の花
倒れ易き草花多き露の庭
土盛りしそこが山頂草の花
水揚場だだっぴろきに草の花
胸内に留めおく一事草の花 寒暑
草の花氷河すさりし跡に充つ ぱらりとせ
道形に風のくるなり草の花 さざなみやっこ
人のあと宝鐸草の花こづく さざなみやっこ
草の花鉄路のつくる三角地 ももすずめ
草の花氷室名残りの上り坂 ねずみのこまくら
色艶よき草花雨の敬老日
湿原に短き夏の草の花
軽井沢土産絵葉書草の花
目を大事にするといふ人草の花
鉄路の辺蝦夷萓草の終の花
けふは大分歩いたとおもふ草の花
妻の歩幅わたしの歩幅草の花
哲理とは無縁なところ草の花
草の花歩まねばけふ往き着けず
胸内に留めおく一事草の花
奥津城の溺るゝばかり草の花
埃くさき道どこまでも草の花
(末尾は句集名)
秋海棠 /
雨撥ねて葉ばかり大き秋海棠 暮津
関節を秋海棠も持ってをり 素抱
秋海棠思ひ至るは相田サク 素抱
秋海棠情にほだされ易く生れ 暮津
秋海棠夕べ遅れて起つ風あり 素抱
秋海棠様にならぬと筆投げ出し 素抱
精一杯立ってゐるなり秋海棠 素抱
沢沿ひにのぼり満山秋海棠 素抱
行きずりの雨に打たるゝ秋海棠
何處となく疲れの溜まる秋海棠
秋海棠頭(かうべ)を深く垂れてこそ
しじみ蝶秋海棠はまだ咲かず
撓ふ迄雨粒負ふて秋海棠
朝の雨秋海棠を引き立てぬ
うち屈み秋海棠に独りごつ
活け難き花の一つや秋海棠
節々のまこと逞し秋海棠
色づくや節ポキポキと秋海棠
台風を迎え撃つ花秋海棠
秋海棠咲いて秋口早めけり
とどこほりなく済むお産秋海棠
じっくりと秋海棠に坐り込む
(末尾は句集名)
紫菀 /
受付を離れ紫苑を剪りゐたり(観世寺)
門前に紫苑の立ちんぼ御薬園
寺々の紫苑・芒に丈越され
野っ原みち紫苑ほこりを被りけり
遠来を寺の紫苑にねぎらわれ 素抱
祇王寺はそこの紫苑の右を行け 宿好
天つ日に紫苑紛れてしまひけり
丈高き汝は紫苑とも穂芒とも
ゆうふいんのゆんべの雨に紫苑臥す
大寺の紫苑の上の国東晴れ
庭前の紫苑に月の待たれけり
庭石に紫苑を配す旧虚子庵
句碑 人々に更に紫苑に名残あり
身だしなみ紫苑は高く括られて
(末尾は句集名)
蘭 /
ラン棟に舌噛みさうなランの名も 鳩信
奇天烈も奇天烈蘭の仲間とよ 寒暑
遣る水をじはっと吸へり君子蘭 さざなみやつこ
秋田蘭画発祥の地の熊谷草 宿好
春宵の蘭花譜繰れば生まる風 暮津
場違ひのやうにおもへる蘭展に 寒暑
長生きをしさう風蘭見て曰く 素抱
妃殿下の出品の蘭とっつきに 寒暑
風蘭に風の訪れありにけり 素抱
風蘭の在り処教ふに扇子もて 素抱
風蘭の宿る此の樹と聞きて来し 素抱
風蘭の二大樹しんと深む昼 素抱
風蘭の物見を雨に先送り 素抱
風蘭の領域拡がる眼の馴れて 素抱
風蘭はそらそらあそこ木瘤の下 素抱
風蘭は風通しよき樹の高み 素抱
風蘭を見て来し夕べ雲呑(わんたん)食ぶ 素抱
風蘭を見上ぐる人のうしろに佇つ 素抱
風蘭を風より淡く訪へる 素抱
洋蘭の種を明かさぬ咲かせ方 寒暑
洋蘭展鼻が華やぎ始めけり 寒暑
蘭展の客層もまた見ものなる 寒暑
蘭展の蘭の招きにあづかりぬ 寒暑
蘭展へ軽き足取り銀座まで (洋蘭展) 寒暑
蘭展出で銀座通りの人となる 寒暑
蘭棟のともかく蘭の香にそまる
蘭展の蘭に対せる好き者よ
寒蘭を瀟洒といふに物足らず
デンファレといふ蘭伊勢佐木(ザキ)の露地店に
人の手に為る富貴蘭とぞ聞ける
藪蘭のうすぼんやりと朝曇
蘭にほふ家相応のシャンデリア
忘れゐてと或る日咲けり鉢の蘭
一病息災恃める吾に蘭勁し
洋蘭のビギナー講座立ち聞きす
蝶ならぬ鼻が止まりぬカトレアに
洋蘭の称し難き名すらすら云ふ
洋蘭見る柄でもないと云いつつ見る
洋蘭の舌かみさうな名前持ち
蘭展出てふわふわ銀座歩きけり
蘭展のほとぼり覚ますアッサム茶
蘭展と云へどチャッカリ株も売る
蘭展に紛れ込んだるガサツ者
序でに買ふ蘭を元氣にする薬
変り種が変り種生む蘭族よ
洋蘭の一曲ありぬ展示花
蘭展の客層如何にと見渡せる
蘭展の芳香舞ひ込むエレベーター
洋蘭の羽子のごとくに翔ぶ花よ
(末尾は句集名)
釣舟草 /
大航海時代思ほゆ釣舟草 寒暑
釣舟草水は百代の過客にて 暮津
釣舟草霧に溺るる女坂 ももすずめ
釣船草日陰は水のよく匂ふ
黄釣舟草(きつりふね)森を貫く梓川
黄釣舟草遠野の雨に降られけり
(末尾は句集名)
松虫草 /
松虫草ひるがへるここ天界か 暮津
松虫草めそめそ霧に取り囲まれ 素抱
松虫草処を得たる岩と風 宿好
松虫草霧来る方を知れるなり 燕音
風の道即ち松虫草の道 宿好
風混める大谷地をゆく松虫草 燕音
木道に人影を見ず松虫草 燕音
松虫草霧通り抜け通り抜け
霧湧いて太陽を断つ松虫草
蓼科の霧の染めたる松虫草
見舞花の中にやあやあ松虫草
見舞花松虫草のありてこそ
風筋に花委ね咲く松虫草
谷地渡る風筋のあり松虫草
霧抜けて青き太陽松虫草
風向きの絶えず変れり松虫草
心臓病持ちに咲く花松虫草
松虫草虻のごとくに浮上せり
麓より牛の啼声松虫草
松虫草両手に抱え蝶の息
この辺り風の美味しき松虫草
よき風を貰ひてガレ場の松虫草
岩原の灼け鎮まれり松虫草
紫の風の太陽松虫草
容佳き岩のほとりに松虫草
松虫草独りごころを大切に
松虫草屯し霧を誘い出す
山神の申し子松虫草霧らふ
松虫草眼下を霧の昇り来る
松虫草岩原を霧波打つて
松虫草残して山を下り始む
背後より松虫草を覆ふ霧
霧らふ日も霧湧かぬ日も松虫草
湧ける霧松虫草を目隠しに
松虫草霧かいくぐりかいくぐり
松虫草心細げな屯ろ咲
山上の風のさまよふ松虫草
(末尾は句集名)
竜胆 /
エゾオヤマリンドウ秋を告ぐ峠 (八幡平) 寒暑
サロマ湖の空冷え来たり武者りんどう 燕音
りんどうに霧のわいわい押し寄せぬ ぱらりとせ
りんどうのほとり真っ黒火山弾 ぱらりとせ
監視員詰所の前の濃りんどう 随笑
武者りんどうこぞりこぞりて砂州に咲く 燕音
畚岳遠望りんだう咲く峠 寒暑
熔岩原のりんだうしゃしゃりこしゃんと咲き
りんだうの一鉢母を敬うに
りんだうの朝の目覚め沼ほとり
後生掛の朝のりんだう露まみれ
りんだうの宝庫八幡平あるく
りんだうに会話零して歩きけり
りんだうの峠より指呼もっこ岳
えぞりんだう呼びゐる後生掛温泉へ
(末尾は句集名)
鳥頭 /
足投げて疲れをとりぬ鳥兜
木道のここら一帯とりかぶと
橡の芽のとろり雪置く鳥甲山(とりかぶと)
独善は他にも及ぶ鳥兜
跫音を聞くこと稀にとりかぶと
跫音を頼みの山路とりかぶと
嬌声に話途切れる鳥兜
とりかぶと沼は鎮まり返りけり
ここらまで平家落ち来ぬ鳥兜 寒暑
心臓の鼓動移りぬ鳥兜 燕音
鬼女祀る堂出て日暮とりかぶと ねずみのこまくら
(末尾は句集名)
富士薊 /秋薊 /
コスモス /
あきらめがつきコスモスの吹かれざま 随笑
コスモスにぼろんぼろんと雨の降る 石鏡
コスモスに遠ざかりゆくをみなごゑ 鳩信
コスモスに高原の日の乗ってをり 暮津
コスモスに須弥山見ゆる日もあらむ ももすずめ
コスモスに配色といふ一語あり 暮津
コスモスのそこここを折れ穂高町 ももすずめ
コスモスのやうに浮かれてゐたき日や さざなみやつこ
コスモスの雨来ぬうちの器量佳し 石鏡
コスモスの縁を掴みて虻沈む さざなみやつこ
コスモスの汚れ下葉の縮れ気味 さざなみやつこ
コスモスの横に吾が顔ぶれてゐる さざなみやつこ
コスモスの佳人の如きたたずまひ 鳩信
コスモスの空のあなたに祝儀あり さざなみやつこ
コスモスの空へ風船離せし子 随笑
コスモスの咲く辺踏切のほほんと 素抱
コスモスの種を蒔きをり細目して 石鏡
コスモスの上に市街地展け見ゆ 暮津
コスモスの人気(ひとけ)なければ昇天す 鳩信
コスモスの風にのんのん舟着場 随笑
コスモスの脇をぶるると馬体過ぐ ももすずめ
コスモスや奥羽に廻る碧梧桐 鳩信
コスモスを泳がす風の弧を描き 素抱
なほつづくコスモス街道ナイスディ 寒暑
形ばかり長けし子に似てコスモスは ねずみのこまくら
左京区の雨のコスモス高う咲く 宿好
私語多きコスモスを風咎立 さざなみやつこ
祖母山の裾のコスモス高かばい 鳩信
大風に倒れしコスモスほったらかし 暮津
コスモスの波のごとくに揺れ返す
コスモスのひょろひょろと長け日々単調
宇宙(コスモス)の誕生の謎蝸牛
なめくじにコスモスの苗丸坊主
コスモスの一花一花に風配られ
コスモスの広場に集合遠足か
コスモスにいつまでこどもの遊びごゑ
コスモスの真っ只中に立ってみる
コスモスの押し花去年のいろ止どめ
コスモスのさ揺れも蔵と蔵の間
コスモスの三色(みいろ)相和す園の径
コスモスと向かひ向かひに車椅子
コスモスを吹き過ぐ風を追へる風
コスモス園秋蝶ならずともはしゃぐ
コスモスの項(うなじ)を見する柔き風
コスモスの唯一色の薄明り
コスモスのぱらりぱらりと乗鞍晴れ
踏切のコスモス揺らし高山線
風下の揺れコスモスに目がゆきて
コスモスやたんたんと延ぶ埃道
日露戦争前後コスモス普及せり
コスモスに運動場の照り昃り
コスモスや武甲山はいつも雲隠れ
コスモスや軽く息つきのぼる坂
コスモスに展け絵本のごとき景
コスモスの一花一花を空に置く
コスモスの花にはとっても適わない
コスモスの束ごと搖れて草津町
コスモスの搖るる最上の舟番所
コスモスの三色(みいろ)早咲き誕生日
小流れの向うコスモス小走りに
旅情濃くコスモスの真直中
コスモスに濃淡ありぬ旅の情
コスモスの撓へる茎の揺れ戻し
コスモスの首の振りづめ甲州路
コスモスの風にこすれて甲州路
(末尾は句集名)
吾亦紅 /
くりくりの空があるなり吾亦紅 さざなみやつこ
吾亦紅ミロの構図を想ひをり (高峰温泉) 燕音
吾亦紅見つむだんだん黒くなる 随笑
吾亦紅枯れてしまへば風のもの 暮津
吾亦紅撮りつつ現像する話 随笑
吾亦紅指で突くごと風の出て ぱらりとせ
吾亦紅独りごころを通す黝 随笑
吾亦紅霧の冥さを帯びつゝあり 随笑
混むでもなくまばらでもなく吾亦紅 宿好
沼風にごっつんこして吾亦紅 鳩信
己が影振り捨て振り捨て吾亦紅
登り来し麓眺めて吾亦紅
吾亦紅山間を風吹き抜けに
振り返る彼方に沼と吾亦紅
沼尻より人現れて吾亦紅
雨しとど重き首垂れ吾亦紅
湿原の雨に滲める吾亦紅
打ち屈むなかでも明き吾亦紅
吾亦紅霧が閉しにかかりけり
蜻蛉さんここに止まれと吾亦紅
吾亦紅霧は濃淡強めけり
吾亦紅湿原の風計りをり
吾亦紅シックな臙脂点しけり
湿原を振返り見る吾亦紅
吾亦紅好みの風が吹いてをり
吾亦紅間合いをうまくとりにけり
吾亦紅見つめて見つめ返さるる
吾亦紅自と手の出て爪弾く
長旅にピリオッド打つ吾亦紅
吾亦紅ふらふら風におどけるよ
(末尾は句集名)
真菰の花 /
杜鵑草 /
紅毛もすなる俳諧杜鵑草 暮津
杜鵑草手にし座興に啼かせみぬ 随笑
陶片の出てくる畑油点草 暮津
首傾げてしまふ草の名杜鵑草
杜鵑草のあの点々はフレスコ画
水引と微光を頒つ杜鵑草
日の目見ぬ陶の捨てられ油点草
鳥ごゑの横一文字杜鵑草
幕を引くごとく夕暮れ油点草
(末尾は句集名)
狗尾草 /
えのこ草コップに挿せば茎交叉 寒暑
えのこ草小雨を弾く青穂かな 寒暑
ジョギングコース狗尾草(ゑのころ)を見て走り込む 素抱
ねこじゃらし老若の穂の入り混じり 石鏡
ねこじゃらし茫々鯊の当り待つ 暮津
ゑのころのうぶが吹かれて転びづめ 随笑
ゑのころの光れる試歩は朝の内 鳩信
ゑのころはうぶで真青で澄みきるそら 随笑
ゑのころも庭草の裡愛で暮らす 石鏡
ゑのころ草風がそこそこ出で来たる 寒暑
ゑのこ草雨に明るさ失はず 素抱
ゑのこ草首を振り振り台風裡 素抱
英名は緑の狐のしっぽ草 (狗尾草英語にては) 燕音
金網の外にも内にも猫じゃらし 石鏡
狗尾草(えのころ)の魂(たま)のぬけがら枯月夜 鳩信
狗尾草の向きを一つに揃へたし さざなみやつこ
狗尾草濡れぬやう穂の出来てをり 石鏡
擦り寄りて馴れ馴れしいぞ狗尾草 暮津
除けきれぬ雨の小道の猫じゃらし 石鏡
人懐っこく猫じゃらしとも狗尾草(えのころ)とも 暮津
昼月に虚色深めて猫じゃらし 石鏡
湯元の辺穂の真っ黒な猫じゃらし 素抱
猫じゃらし雨を嫌ひて雨弾く 素抱
風が風追ひ越しゆけり狗尾草 石鏡
舗装路の狗尾草(ゑのころ)も枯れ通院日 宿好
傍目にも釣れぬと判るねこじゃらし 暮津
銹錨狗尾草の穂の古りて 石鏡
名は体をあらはす虎尾草狗尾草
まっさきに降参したり狗尾草
田楽辻子(ずし)風に躍るは狗尾草
狗尾草乱るに行儀学ばせたし
猫じゃらし思ふただけでもこそばゆし
狗尾草雨を弾きて遊びをり
屯してさびしがりやの猫じゃらし
男からかふこゑの徹れり猫じゃらし
狗尾草風の起こせる日のうねり
猫じゃらし骨の髄まで日の透きて
猫じゃらし末枯れ始め節度なし
雨ひややかに白頭の猫じゃらし
雨ばかり降る日となれり猫じゃらし
こっぴどく雨に打たるる狗尾草
猫じゃらしアスファルトにも根を張りて
昼月の淡さに古りて狗尾草も
猫じゃらし一、二本摘みあと摘まず
日もちよき一輪挿しの狗尾草
風はまたひかり伴ひ猫じゃらし
芒の呆け辺りに移り猫じゃらし
猫じゃらし水と油の雨降れり
そらに雲地に猫じゃらし靡きけり
狗尾草(えのころ)に透るや秋の日が透る
狗尾草(えのころ)の魂(たま)のぬけがら枯月夜
呆けては化けて出さうな猫じゃらし
猫じゃらし枯れ伏す夕日も頼りなげ
安倍川の堤の風に猫じゃらし
猫じゃらし黄昏どきを知ってをり
猫じゃらし枯れ伏す夕日も頼りなげ
猫じゃらし妙法寺道暮れ初めて
(末尾は句集名)
風船葛 /
あな蟻の門(と)渡り風船葛にも 鳩信
ふうせんかづら唯見てゐてはつまらない 素抱
古ぼけし風船かづら送り盆 宿好
色古りて風船かづらにも老境 暮津
草風船いっそ昔のまゝがいい 暮津
鉢植えの蕎麦屋の風船かづらかな 暮津
風船かづらぼんやりと日を過ごしをり 燕音
風船かづら軽くこづきて雨到る 暮津
風船かづら祖霊送りも済ませしよ 宿好
風船かづら日の色帯びて来たりけり 暮津
風船かづら揺らす風出て早夕べ
風船葛ゆらゆら夕風出づと見ゆ
朝顔棚それより風船葛棚
棚這はす風船葛と朝顔と
色変り風船かづら黄昏いろ
冷やつける朝の風船葛かな
網棚ごと風船かづら揺れてをり
風船かづら網棚のぼり始めけり
風船かづら葉叢透く日のすいすいと
風湧いて風船葛を掌
蕎麦啜れば風船葛越しに風
風船かづら揺らしに風のあつまり来
風船葛朽色昔偲べとや
一昨日の昨日の彩の風船かづら
夕づける風船葛きつね色
おとといのきのふの風船葛の色
試に風船かづら突きにけり
夕風を齎す風船葛垣
風船かづら風と面壁夏の果
(末尾は句集名)
露草 /
引く草がみんな露草なららくちん 暮津
青花の青を称えて佛さま 素抱
青花を摘むとき露が手に当り 素抱
青花摘むことも一つの仏ごと 素抱
仏花にでもするらむ婆の青花摘 素抱
露草がひょろりと長けて命日来 暮津
露草のたやすく引けてなんまいだ 暮津
露草のもって生まれし審美眼 石鏡
露草を引く掌に残る露臭さ 暮津
露草を震はせ手折る山の朝 素抱
跼み見る露草の露鳴りさうな ももすずめ
あまりにもあっけなく引け碧蝉花(青花)
露草の露浴びまじと道の央
露草はまさをなる葉に露受けて
露草の己立たしめゐる力
露草の白花ひょろり梅雨清浄
露草の眸は雨に打たれける
青花に如かじ素直にもの見る眼
草叢に深く手を入れ青花摘む
青花を摘むや初老の仏ごと
青花摘むことも一つの仏ごと
青花の青を称えて佛さま
露草を震はせ手折る山の朝
露草の辺にて和賀流の懐古談
色草の一つ青花空き地埋め
露草や剥落とどめ難き弥陀
舟小屋の錆びる一方露草咲く
露草の藍も深々奥会津
露草の早池峰へ向く田んぼみち
露草に雨降り直す磧みち
(末尾は句集名)
蕎麦の花 /
蕎麦の花ぴくんぴくんと雨受けて ぱらりとせ
蕎麦の花はや昃りてよそよそし 随笑
サイクリングロード左右に蕎麦咲いて
蕎麦咲ける畑の石の鏃めく
蕎麦咲いて縄文石器出づる畑
トコトンと左沢(あてらざわ)線蕎麦の花
老眼の少し進みて蕎麦の花
蕎麦の花何とかもちて旅の空
一茶の句碑建てある村の蕎麦の花
(末尾は句集名)
糸瓜 /
へたり込む糸瓜野郎の跳人かな 寒暑
子規庵の糸瓜こづきて立去るか 随笑
糸瓜みな附句のごとく垂れ下り 寒暑I
糸瓜吊る茎の付け根のもつこりと さざなみやつこ
十五夜の空へこぞれる糸瓜加持 ねずみのこまくら
揃へ脱ぐ中に長靴糸瓜加持 ももすずめ
子規庵の糸瓜と糸瓜の間合かな
糸瓜にも目を遣る子規のいとおしみ
男性も化粧する世ぞ糸瓜水
使ひ捨てなる世に糸瓜束子となる
糸瓜咲く横ちょに子規のおしまい顔
子規居士の座机にさすへちま翳
子規庵のふくべ仰げるへちま面
子規庵の糸瓜に柿に小糠雨
子規庵の糸瓜一葉黄葉して
棚ノ下糸瓜ノ一句書キトメテ
子規庵の屋根這ふへちま蔓八方
湯中りして糸瓜漢のごろ寝かな
糸瓜みるまなざし大事さうに爺
雨の花舗糸瓜苗など並べ立て
糸瓜苗など入荷して雨の花舗
(末尾は句集名)
瓢 /
瓢箪に興ず亭主の顔が見え 寒暑
ひょうたんから俳諧を出す粋なひと (「中原道夫俳句日記」恵送受く) 随笑
蕪村また大器晩成種ふくべ 随笑
かにかくに人は生きやう種ふくべ 寒暑
ひょうたんの花等類を好みけり ぱらりとせ
否応なく老人瓢に佇めば
大ふくべ仏の説法せるごとし
神楽宿ふくべを濡らす天気雨
屋号もて挨拶交はす瓢越し
子規庵のふくべ仰げるへちま面
青ふくべに覗かれ居士の六畳間
気の利いた狂歌頻りに欲るふくべ
刀掛け・ふくべ先立て鹿踊
遁走の鯰一匹瓢鯰図
(末尾は句集名)
鬼灯 /
じくじくと虫喰い酸漿雫せり 素抱
なま白き鬼灯の花雨を呼ぶ 素抱
ほゝづき揉む女の手許よく描けて (鏑木清方)寒暑
鬼の子の玩具の鬼灯鳴らしけり 素抱
鬼灯の窶れて野辺の魂棚に 素抱
鬼灯を雨に打たせて船世帯 ねずみのこまくら
亀虫の一団鬼灯荒らしに来 暮津
市立ちて一鉢なんぼの鬼灯売る 暮津
清方のほゝづきの絵のほゝづき鳴る 宿好
前後して人の逝くなり蟲ほほづき 寒暑
庭土が痩せゐて鬼灯ひとつきり 暮津
良寛の桑門の道鬼灯より (光照寺) 寒暑
鬼灯の虚無僧姿晒しをり
送るもの送り了へたる破れ鬼灯
盆近みさても鬼灯赤くなる
鬼灯に付く虫にしてやられけり
鬼灯を剪りてあげれば喜ばれ
葉といふ葉喰はれ鬼灯丸坊主
鬼灯の須臾の間にして虫喰い葉
鬼灯にホウズキカメムシ付き始め
鬼灯の累々社頭に参ずれば
両日で鬼灯千鉢売るといふ(六月二十三日、二十四日 愛宕神社千日詣り)
篤き手が足らぬ鬼灯ひとつきり
遅植えの故の鬼灯乏しかり
鬼灯を植うもお盆に間に合はず
鬼灯を鉢に三本鼎咲き
鬼灯の袋を持たずまだ幼
鬼灯と見えねば横に句を添えよ(夏見舞)
鬼灯の咲く露地雨の三田界隈
鬼灯の地に近き程赤き梅雨
鬼灯の鈴生り袋のグラデーション
鬼灯の幼く宙ぶらりんないろ
鉢ほほづき提げて人波分けゆけり
ほほづき縁日婆の足腰鍛え坂
ほほづきを提げて縁日気分かな
ほほづきの鉢をかざして求めけり
坂を危なげ鉢ほほづきを抱えくる
ほほづき縁日笛ひゃらひゃらとひゃらひゃらと
鉢ほほづき雨具抱えて選りゐたり
運選るごと鉢ほほづきを選りゐたり
ほほづきの鉢提げ愛宕大権現
ほほづきの鉢選り愛宕大権現
ほほづき提げ愛宕千日詣りかな
千鉢のほほづき縁日立ちにけり
蟲ほほづき花屋の彼も去年逝きて
宵宮の鬼灯いろさす吊提灯
鬼灯に前後し届く風夕べ
(末尾は句集名)
唐辛子 /
これ以上赤くはならぬ唐辛子 寒暑
心して塵に染まらぬ鷹の爪 素抱
新米に葉唐辛子を目分量 さざなみやつこ
身勝子を通してきたる唐辛子 さざなみやつこ
朝市の地べたを覚ます鷹の爪 素抱
冬兆すスパゲッティに鷹の爪 随笑
唐辛子ひとりよがりの癖が出て ももすずめ
万願寺とうがらしとや火の恋し 石鏡
その気性共に激烈唐辛子
鑑賞用とて求(と)む鉢の唐辛子
配達の坂の途中の唐辛子
唐辛子鼻の脂をちょとつけて
一片の唐辛子添え千枚漬
山北町段々畑の唐辛子
底打ちの株価刺激す唐辛子
(末尾は句集名)
秋茄子 /
紫蘇の実 /
紫蘇の実を好物として食細し 寒暑
炊き立ての飯にまぶして紫蘇の実漬
紫蘇の実を好物として食細し 寒暑
紫蘇の実をしごきて夕餉支度かな
花穂つんと紫蘇の実もどきの雑草(あらくさ)よ
(末尾は句集名)
生姜 /
かはたれの芝に廻りて生姜市 燕音
梢見て風推し量る生姜湯 素抱
生姜売る巫女の袴も生姜いろ 燕音
其の上の生姜畑の芝秋暑 燕音
大門は目と鼻のさき生姜市 燕音
湯を浴びて葉付き生姜を酒のつま 暮津
豚と合ふ生姜ご飯の進みけり 暮津
買うてゆけ神明生姜とめ組絵馬 燕音
葉生姜にぴしぴし峡の雨到る
ひりりと来鯖の味噌煮の針生姜
ご縁起もの生姜作りの男衆
ご利益もの生姜作りを禰宜指図
葉を落とし神明生姜作りかな
神明生姜みんなはけよと祭笛
ご常連購うて絵馬付新生姜
購へる生姜小股の切れ上がる
生姜味葛湯想ひを遙かにす
朝露のはらりほろりと生姜畑
一しきり生姜の林濡らし雨
怒り一つ心に抱え新生姜
(末尾は句集名)
貝割菜 /
貝割菜整列足踏みせるごとし ぱらりとせ
貝割菜海まで続く丘の径
(末尾は句集名)
間引菜 /
おろぬきどき大根台地を抜けにけり さざなみやつこ
下金(おろしがね)色の夕日に菜を間引く ももすずめ
間引菜に昼酒の箸上げ下ろし 寒暑
(末尾は句集名)
胡麻 /
湧く雲も胡麻の花いろ奥秩父 宿好
胡麻の咲く秩父盆地を徒の旅
胡麻の花咲けば秩父の盆休
胡麻を擂る鉢支ふ手をとやかくいふ
ぽと咲いて淡きがよけれ胡麻のはな
(末尾は句集名)
玉蜀黍 /
ただ甘き玉蜀黍を蔑めり 随笑
もろこしの伸びて聳ゆるさま想ふ 鳩信
もろこしの髭の赤さのあきあかね 寒暑
開戦シーンポップコーンの香が流れ 暮津
頑丈な歯が欲しもろこし前にして 寒暑
もろこしに健啖たりし日のはるか
お三時歟もろこしに添え食卓塩
世も末よたうもろこしが甘くなり
南蛮毛淹れてこの暑気何とかせん(とうもろこしのヒゲ茶)
埃立つダンプ街道たうもろこし
馬並みに玉蜀黍を食ふやから
湯けむり上げ和賀流の里のたうもろこし
長きこと歯をぞんざいにして唐黍
丘に消ゆ農道丈余のたうもろこし
霧濡れの山麓育ちたうもろこし
もろこしと芒の糸の白と紅
もろこしの花暮れがたき檜枝岐
かぶりつく玉蜀黍に歯の試練
アイスクリームとうもろこしの味したり
玉蜀黍トマトに戻せ昔の味
花巻のもろこし日和となりにけり
ただ甘いだけの贋物玉蜀黍
アユタヤのもろこしの黄は僧衣の黄
もろこし食ぶ剣山のごと歯を立てゝ
口癖の昔はよかったたうもろこし
(末尾は句集名)
砂糖黍 /
夏は巡り来たりて砂糖黍の唄
黍 /
一段と空高くなり黍畑
天を衝く黍になるにはもう一押し
長きこと歯をぞんざいにして唐黍
弾き語りざわわざわわと黍の唄
照りつける西日と照りつけらるゝ黍
黍嵐 /
稗 /
つつきゆく雀の稗とナルコビエ
生ひ茂るなかに雀の稗の道
雀の稗手折り難くて夕日中
道なべて舗装されても雀の稗 素抱
雀の稗忘れものして戻る道 素抱
雀の稗傾ぐ夕日が穂を染めて 素抱
稔田に交りて稗のまんめんじん 随笑
稲田中長けたる草の稗もどき
早稲田中居候めく稗いっぽん
つんつんと稗伸ぶ遠野の稲田中
(末尾は句集名)
粟 /
桃 /
福島の桃の夕焼けどき長き 随笑
この水気(みずけ)頬っぺた落っこちさうな桃 燕音
桃剥くと妻のむっちりせる上肢 暮津
香煙の立ちのぼる中匂ふ桃 暮津
見た目より重たき桃でありにけり 暮津
赤子立つ立つと褒めれば桃の笑み 宿好
打身ある白桃味に変りなし 素抱
桃の核(さね)囲める蟻の真っ黒け 暮津
桃の皮張り強うして水弾く 暮津
毛虫付き驚き桃の木山椒の木 暮津
白桃を支ふる指の何處かに艶(しな)
忘れられて冷やし殺しの桃その他
蟠桃の初見の面付へちゃむくれ
蟠桃の味は確かや千疋屋
蟠桃の種貰ひそを植えてみぬ
冷やし桃抱く気泡のしろがね色
白桃は一寸冷やしたものがいい
香煙の立ちのぼる中匂ふ桃
桃剥くと妻のむっちりせる上肢
桃の皮張り強うして水弾く
桃の核(さね)囲める蟻の真っ黒け
傷む箇所自分の皿に桃食うぶ(妻)
雨不足祟りて甘味足らぬ桃
見た目より重たき桃でありにけり
掲載の自作も桃も面映ゆし
打ち身ある白桃味に変りなし
手土産に余る白桃頂戴す
長生きと云へば平板桃を召す
桃・杏・李一本づつ庭に
どうこれと頬っぺた落っこちさうな桃
赤子立つ立つとほめれば桃の笑み
東北道桃の福島通過して
福島の桃の夕焼けどき長き
青空を配し斜面(なぞえ)の桃描く
桃太郎生れし桃の小賑ひ
懐にも事情がありて見切桃
白桃の傷みやすきをどう料る
備中より備後へ抜けて桃畠
岡山の桃の畠の幾起伏
(末尾は句集名)
梨 /
そこそこの梨買うて来て褒めらるる 鳩信
丸顔の多摩川梨の送り主 さざなみやつこ
気前よく剥く洋梨の角張りぬ 素抱
供へらる二十世紀に今日の月 さざなみやつこ
酒・飯・梨うまくて人間好時節 さざなみやつこ
人物評ざっくばらんに梨の味 燕音
西洋梨ごろんと一つ静物画 燕音
断ち割れる梨は芯まで冷えてゐし 石鏡
二軒目の八百屋に在りぬラ・フランス 鳩信
二人して食ふには大き梨折半 石鏡
八月盡つまめる梨の口当り 素抱
仏壇に梨の坐りの全しや 素抱
洋梨のおいど優しきものの一つ 宿好
洋梨の器量も含めし値段なり 暮津
洋梨の油絵掲げ洋菓子店 石鏡
梨といふ天然ものの水の味 随笑
梨なんぞ剥いて無聊の手を濡らす 石鏡
梨の持つ硬さを意志と受けとめぬ 暮津
梨を剥きその一片に楊子立て 石鏡
梨を剥く皮のぶらぶら定年後 随笑
梨重しされど甘味の保証無し 暮津
梨貰ひ大きい方をののさんへ 随笑
訃報聞く梨の皮剥く音のなか 素抱
梨の木の古きほど梨甘きとよ
その仔細机上に愛づる玄圃梨
玄圃梨落ちし処に只管打座
冷蔵庫乾びし梨も死蔵して
三秋へ堰切るやうに梨・ぶだう
三秋のしょっぱなの梨甘くなし
梨その他冷やし殺しの冷蔵庫
洋梨を少し置いといても酸つぱ
洋梨のふてくされゐる何でも屋
猿梨をうち過ぐこゑの上滑り
子の帰宅待ちゐる妻に梨を剥く
大き梨半分ほどを妻とかな
洋梨の手ざはり買ふと決めにけり
一囓り図体ばかりの梨と知れ
颱風が来るぞ来るぞと多摩川梨
吾と古り二十世紀といふ梨も
これやこの二十世紀の梨名も古り
梨と皮夜半の別れを長々と
かぶりつきおおこの味ぞ郷の梨
小ぢんまりしたる盆供の梨一つ
仏壇の梨と聞きゐる遠き蝉
(末尾は句集名)
葡萄 /
うねり出すぶだう若葉のみどりの炎 ぱらりとせ
うねる丘ぶだう黄葉の幾区画 さざなみやつこ
おほらかに露の凝りしが葡萄とも 暮津
くちびるに残るぶだうの皮の渋 さざなみやつこ
ひろがれり葡萄の味の交響楽 ぱらりとせ
ぶだう一粒地球のやうな愛しさに 暮津
ぶだう郷飛んで甲州雀かな 寒暑
ぶだう酸しそれにもましてその甘味 暮津
ぶだう酒のやうに日差しの冷えて来し ぱらりとせ
ぶだう食ひ見合はす顔のちょと酸っぱ 寒暑
ぶだう食ふ渋ある故の甘味なれ 鳩信
宇津谷の雲行き怪し山葡萄 燕音
炎帝に葡萄の種を抜かれたる ももすずめ
見てくれと甘味は別の青ぶだう 素抱
口皺の深々ぶだう食うべけり 暮津
黒ぶだう閻魔の舌となりにけり 寒暑
山ぶだう酒持病直せと賜はりぬ 石鏡
小粒なる葡萄摘むに千手欲し 燕音
昇天の心地ぶだうの一粒に 暮津
青ぶだう日毎に凌ぎやすくなる 随笑
藤沢山(とうだくさん)野ぶだうに色のり初めぬ 燕音
目に見えぬ風に野ぶだう色づけり 暮津
野ぶだうに雑多な彩を与ふ雨 寒暑
野ぶだうに湯けむり流れ町営湯 石鏡
野葡萄の不粋紅葉も興のうち 寒暑
曰く言ひ難しぶだうの果肉とは 暮津
ぶだう盛るぶだう模様の硝子皿
ぶだう抓む指のもっとも露けかり
びしょ濡れに灯に色深む黒ぶだう
黒ぶだう指をおよびと云ひもして
夜を更に深めて皿の黒ぶだう
世のならひ良くも悪しくも種なしぶだう
ぶだう郷空気が旨し水旨し
三秋へ堰切るやうに梨・ぶだう
型どほり水に通せり黒ぶだう
しきたりの如くにぶだう洗ふなり
鐘の音の及ぶ限りのぶだう畑
めいめいが語りて葡萄狩のこと
このぶだう旨しこの貌御礼とす
その巨きさ無花果大のぶだう哉
うやうやしく三次の葡萄届きけり(片山由美子さんより賜る)
老人は小粒なぶだう欲しがれり
ぶだう小粒指にも甘みありにけり
夜のぶだう食べてしまひしそのあとは
つまむ手の頻りに伸びてぶだう無し
ぶだう食べ胸にすとんと落つ甘味
打開策練りをりぶだう食うべつゝ
緊迫のぶだう一粒づゝほぐす
竜淵に潜むや海獣葡萄鏡
ぶだう酒のコクに喉(のんど)のこだはりて
ぶだう村透きて盆地の強日射
少し酸きぶだう八月始まれり
棚奔るぶだう若葉のみどりの炎
水中の葡萄の粒の気泡抱き
つばくらめぶだう棚下潜り抜け
水弾く甲州葡萄に力あり
ぶだう棚切れ目切れ目の畑道
勝沼の葡萄棚摶ち朝の雨
ぶだう棚葉の隙透いて稲光
もう昏るるぶだう黄葉のぶだう村
ちまちまとよく抓みしよぶだう殻
バスツアーバッジ甲州葡萄いろ
閑散と人の出待てるぶだう棚
黒ぶだう閻魔の舌となりにけり
野葡萄は甲乙丙の柄紅葉
ぶだう棚あたり一帯暮れて来ぬ
ぶだう狩りしたることなど九月尽
ぶだう郷夕日輪を宙吊りに
垂涎の黒葡萄狩りいよいよや
露けき灯ぽつりぽつりとぶだう郷
新種のぶだう試飲ワインを振る舞はれ
旅土産片手に重るぶだう籠
高尾・ピオーネ・甲斐路とりどり葡萄狩り
水晶玉ぶだうロザリオつまみけり
実り待つ棚棚棚のぶだう郷
四方の嶺々紫紺に暮れてぶだう郷
秋夕焼け真っ赤に染まるぶだう郷
ぶだう狩り団体バスがどっと着く
ぶだう酸きは改悛の情湧くごとく
(末尾は句集名)
木犀 /
あり余るもの木犀の香と時間 随笑
おのが香に木犀我を忘れたり 随笑
くだくだしき木犀の香に突っ込みぬ 石鏡
こんなに長け上からにほふ金木犀 石鏡
ご町内木犀の香のつなぐ路 宿好
またちょっと行って金木犀の家 石鏡
雨籠めの木犀ここらからにほふ 随笑
街騒に木犀零れ初めにけり 宿好
気配りのゆきわたるやう金木犀 随笑
金木犀掃く身にもなって下さいと(家人の云へる) 石鏡
金木犀腐(くた)してふ雨なかりけり 石鏡
金木犀零れ土塀の瓦に跳ね 石鏡
降り出して木犀我に返りけり 随笑
散歩道木犀はもう匂はざり 随笑
紙飛行機木犀の香によく飛べり ねずみのこまくら
唐突と云へば米屋の金木犀 石鏡
日々通る靴音日々散る金木犀 石鏡
飛石の間埋め金木犀花屑 石鏡
木犀と気づけるときはいつも雨 石鏡
木犀に頭すっきりする机辺 ぱらりとせ
木犀のいっときの花噴き出せり 燕音
木犀のかほり始めの後知らず 随笑
木犀のかをる出鼻を雨叩き ぱらりとせ
木犀のこまごま蕾むこと一途 宿好
木犀のちょうどここらが風下にて 随笑
木犀の家木犀の家隣 随笑
木犀の花の付き方はと見れば ぱらりとせ
木犀の花屑カレー粉めく散歩 石鏡
木犀の花屑二三歩程に尽き 燕音
木犀の香の源を確かむる 素抱
木犀の大盤振る舞ひ鼻つく香 石鏡
木犀の匂ふ道なり歩を緩め 石鏡
木犀の父情にも似て募れる香 燕音
木犀の例へて云へば深情 燕音
木犀も記憶も薄るるばかりにて 素抱
木犀や同窓会に出向く道 素抱
木犀を散らして夜間飛行音 石鏡
木犀の散る闇散らぬ闇粗密
薄れゆくものに記憶と金木犀
金木犀侏儒の寸劇始まりさう
金木犀火星接近せしは去年
銀木犀にほふ札場の帳場越し
金木犀零れて町内掲示板
飛石の間埋め金木犀花屑
日々通る靴音日々散る金木犀
金木犀香強め寺の築地塀
木犀が零れて雨の精肉店
水溜り朝から光れり木犀も
評判の歯医者の家の金木犀
金木犀朝の頭を空っぽに
木犀の芳香に馴れるまへの鼻
金木犀どの路地となく家となく
はやばやと新聞配達金木犀
公園の木犀痴呆進みをり
大方は子息の代や金木犀
先代は町医でありし金木犀
街中の通りすがりの金木犀
ゆふいんの雨にぞ零る銀木犀
木犀あり一っかけらも花とどめず
木犀の花屑明り通院みち
木犀の花屑零る煉瓦路
木犀の落下一夜に築地塀
木犀の風に飛び来し一花片
木犀の花屑こんな処まで
木犀のかほり深めて二タ夜三夜
木犀のたち現るる寺前町
木犀を打過ぎ打過ぎ尋めゆく家
木犀のかほる渦中に置机
ここに又強く木犀かほる家
銀木犀花屑明り来来世
銀木犀花屑来世現じたり
木犀の葉陰に秘むる固莟
香をさらふ雨は盗人金木犀
出棺のとき迫りをり金木犀
木犀の闇にかほれる家構え
楚々と掃く銀木犀の木の周り
中天にしろがねの月銀木犀
仮初めの世に木犀の香を放つ
敷き詰めて久留米絣の銀木犀
木犀に痛恨の念わだかまる
狎れなれしき木犀の香を払ひ捨つ
木犀のにほふ石ころ道通る
木犀の魁の花今知りし
木犀のかほれる袋小路に入る
さきがけの木犀一つ弾け花
夜盗めく風木犀を襲ひけり
木犀の家から家へ郵便夫
木犀の薬のごとくにほふ晨
木犀の落下脱色して木屑
朝夕な家人を律す金木犀
物腰のしづかな木なり金木犀
突っ切れる木犀の香に隙ありぬ
地に展く金木犀の一星座
木犀のかほり衣に憑き髪に憑き
玄関へ石段六つ金木犀
金木犀零れて塀のこちら側
世を離る顔に木犀かほり立て
木犀の花に気づける裏通り
跳ね上げて雨の木犀にほふ径
木犀の香り秘めゐる八百莟
木犀のにほへる家路人心地
酔い痴れること金木犀に如かず
木犀の心遣いの香なりけり
木犀の香の濃く淡く風の筋
選佛堂木犀の香の退きて
甦る記憶ありあり木犀に
木犀は家の中まで寝しづまる
木犀の香立ち鉄壁なせりけり
闇底に深沈として金木犀
ほどほどに匂ひて木犀香の抜けし
木犀の初々しき香走らする
木犀に沈むがごとく大藁家
木犀をゆき過ぎしかと立ち止まる
木犀のある日ぱたりと疎遠なり
ついとくる来信に似て木犀は
木犀を見つけしこゑの後ろ向き
金木犀雨がかほりを抜きにくる
木犀に気づき始めてより数多
(末尾は句集名)
◆季語「九月」
取り逃がす石鹸九月の銭湯に
冷蔵庫の中も九月となりにけり
含羞草九月過ぎれば忘れられ
注書きは九月某日旗日の景
コップに張る水うつくしき九月かな
気の早き九月の自然薯掘に遇ふ
鯵刺の翼九月の雨弾く
ぶだう狩りしたることなど九月尽
鈴懸の大いさ九月来たりけり
返却日書き込む九月のカレンダー
わたつみを九月間近き雲の飛ぶ
以上
by 575fudemakase
| 2021-04-06 09:00
| 自作

俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase
カテゴリ
全体無季
春の季語
夏の季語
秋の季語
冬の季語
新年の季語
句集評など
句評など
自作
その他
ねずみのこまくら句会
ブログ
自作j
自作y
j
未分類
以前の記事
2026年 04月2026年 01月
2025年 12月
more...
フォロー中のブログ
ふらんす堂編集日記 By...魚屋三代目日記
My style
メモ帳
▽ある季語の例句を調べる▽
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
検索
タグ
お最新の記事
| 最近の嘱目句あれこれ47 2.. |
| at 2026-04-12 04:06 |
| 季語別鈴木しげを句集を読んで.. |
| at 2026-04-10 13:21 |
| 俳句年鑑2026年版を読んで.. |
| at 2026-01-17 22:31 |
| 最近の嘱目句あれこれ46 2.. |
| at 2026-01-03 05:49 |
| 最近の嘱目句あれこれ45 2.. |
| at 2025-12-16 16:16 |
| 最近の嘱目句あれこれ44 2.. |
| at 2025-11-17 10:38 |
| 辻桃子句集 水蜜抄を読んで .. |
| at 2025-11-06 07:28 |
| 角川 俳句賞(2025年)を.. |
| at 2025-10-26 07:29 |
| 最近の嘱目句あれこれ43 2.. |
| at 2025-10-24 01:30 |
| 最近の嘱目句あれこれ43 2.. |
| at 2025-10-24 01:11 |
| 樹令 |
| at 2025-10-24 00:17 |
| 最近の嘱目句あれこれ42 2.. |
| at 2025-10-04 11:56 |
| 最近の嘱目句あれこれ41 2.. |
| at 2025-10-02 06:12 |
| 最近の嘱目句あれこれ40 .. |
| at 2025-09-15 00:50 |
| 最近の嘱目句あれこれ39 .. |
| at 2025-09-08 08:51 |
| 最近の嘱目句あれこれ37 2.. |
| at 2025-09-04 19:58 |
| 最近の嘱目句あれこれ38 2.. |
| at 2025-09-04 19:52 |
| 最近の嘱目句あれこれ36 2.. |
| at 2025-08-28 03:10 |
| 最近の嘱目句あれこれ35 2.. |
| at 2025-08-19 21:35 |
| 最近の嘱目句あれこれ34 2.. |
| at 2025-08-17 20:50 |
