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俳句年鑑2022年版を読んで

俳句年鑑2022年版を読んで
(2020-10 ~2021-9)角川文化振興財団

共鳴句を挙げる。作者名は原著を参照ください。

海胆の棘海を探してゐるらしく
行く春の鳩の歩みに遅速なし
祭笛気性激しき雲生まる
水羊羹すうつと切れてしまひけり
まばたきに眉連れうごく時雨かな
雨宿り出来さうなほど大根干す
寒鯉の動かぬためにつかふ鰭

◆年代別 2021年の収穫◆

だらしなく着て狐火をみてゐたり
亀の子の動くまで水かけてやる
みなおなじかたちで終り盆踊り
柚子湯出て柚子より生れたる思ひ
太古は海カルストは今芒原
鳥渡るナウマン象も駈けし丘
物干台みしみし踏んで遠花火
にほどりの浮んで嘴に光るもの
女郎蜘蛛箔を付けたる尻の紅
年逝くや鴉に亞々と返しゐて
落葉踏む楽しみ赤いスニーカー
息足しに足し蒲公英の絮とばす
ただ声が聞きたき電話秋深み
昔々むかし湖畔の月見草
簡単に今宵おでんと決まりけり
連れがまだ来なくて尺取虫いびる
日溜りはここよここよと冬すみれ
月山の雪とんでくる雛の市
自然薯の土の食ひ込むくびれかな
熊蜂の木の実のごとき骸かな
四日もう昼や水仕を終へたれば
露草に見開きし眼を遥かにす
大夏野常陸和牛を育てをり
一つで「火」二つで「炎」三つで「小火」か
あたしや字の書けぬと老妓涼しかり
青嵐渋谷の街はLEGOのごと
少年に読書の時間雲の峰
足洗ふ水音も秋立ちにけり
蟻はまつ黒太陽はひとつにて
行く秋やすなわち本を置くやうに
松明けの子がスケボーに乗つてきし
朧夜の蛇口はきつく締めたはず
火の山へ道の岐るる大暑かな
松籟の他に音なし弓始
涅槃図の奥へ奥へと膝送り
手弱女に益荒男によく梅匂ふ
夜の秋のゴムの匂ひの水枕
枇杷の種からんと仮寓さびしくす
膝小僧がきれい線香花火かな
人悼む湯気立ての湯気立てにたて
お三どんてふをしてゐて日脚伸ぶ
喧嘩やめなさい水洟拭きなさい
甲斐なれや霧の猛々しさ讃へ
七五三かなしいほどに似てゐたり
大文字ぽつんぽつんとあらはれし
両の手は円座の外や寛げり
一駅のとしまえん行き萩日和
草の絮ほら草の絮飛んでゆく
暇を持て余す金魚の宙返り
枯蟷螂じつくりと腹あたたむる
花野ゆくときどき風になりながら
夜神楽の天岩戸はベニヤ板
蜥蜴の尾体はづれてあたふたす
目の前を運動会の砂の音
晩秋のどこに置いたかしら眼鏡
小寒に獣とならん子を産まん
スケーター指の先まで回りをり

◆諸家自選五句◆

涼風や椅子を廊下に持ち出して
下北もはづれの浜やラムネ売る
曼珠沙華もたれ合ふこと一切なし
春を待つ小鳥老人子供たち
火の中のものよく見えて秋の暮
二畝は出荷済みなり大根畑
また来てと母に言はれて秋の暮
炬燵猫胎内仏のやうにをり
マーラーの五番短夜司り
子蟷螂にも面差しといへるもの
蛇の衣切らずに木よりはがしけり
小鳥の木小鳥の来ないしづかな木
口といふ歪な楽器水温む
昔々むかし湖畔の月見草
蚕豆は愚図豌豆はお人好し
とりあへず捕まへておき兜虫
もう少し引き留めたくて桃を剥く
瀧壺にたくさんの音沈みゐる
春行くや形見となりし文庫本
ひよつこりとパン屋ができてあたたかし
白鳥の意地悪さうな顔で来る
虫しぐれ声に結び目あるごとし
水母見る大水槽に額当てて
百舌の贄蛙は泳ぐかたちにて
十二月八日この日を忘れさう
いいじやんは浜のことばよ海の家
一本芒立つ勝頼が自刃の地
ざざんざの磯波あれど沖うらら
手を上げて山頂さらば落葉道
十一月ものごと斜(はす)に読んで居り
パイプオルガン両翼ひろぐ雪の朝
後先に付く鶺鴒や川の道
鮟鱇の恵比寿笑ぞ畏ろしき
ぼろ市に置かれてゐてもよき齢
眼鏡にも土飛びつくや筍掘る
鯖の皮ぶくぶく膨れ焼きあがる
去年今年蝋燭の火のすつと伸ぶ
初富士や大空に雪はらひつゝ
春や有為の奥山越えてダンスダンス
春の土砲丸投げにへこみけり
たのもしき音となりたる夕立かな
弥次喜多のごとき風体伊勢参
海開きライフセーバー祓はるる
俺様と言はんばかりや蟾蜍
船虫の何やら謀議して散りぬ
ひと山に売られ秋日の文庫本
春雨といふほのあまきものが降る
月の友もうホスピスへ行かうかと
大旦波の底ゆく波の綺羅
落ちて這ふまた落ちて這ふ火取虫
あの顔の利休を思ふ利休の忌
赤赤とこの木紅葉やちと艶冶
初場所や初日いきなり肩透かし
水涸れて日向のなんとあたたかな
虫愛ずる眼が縦に割れてゆく
襖絵の龍虎背にして御慶かな
読点も句点もありし大花火
楤の芽の一つ一つを並べ売る
馬鈴薯植う等間隔のいい加減
根切虫見事に仕事してくれし
蟷螂は長すぎる糸繰る仕草
短日や箒塵取所得て
立春の夜なりと骨牌(とらんぷ)に興ず
ぺんぺん草指にまはして父を恋う
苦艾(にがよもぎ)村を出てゆく道ひとつ
鰯雲スコアボードに並ぶ零
針穴の向かう粉雪降つてをり
冬の雲じんべえ鮫のごとく浮く
句読点なき文よろし実朝忌
豊の秋声出すコイン精米機
衣被つるりと父の齢越ゆ
レガッタが(株)大久保の前過ぎぬ
箱根駅伝いつしか昼となつてをり
風呂の灯を窓の守宮に残したり
ただ長く飼ひたる鯉に死なれけり
運動会声が校庭埋め尽す
八重桜むかし日暮れは瀬音から
海女の足宙をふた蹴りして潜る
稲稔る太腿は跳ぶためにある
まづ貌の向き変へ蛇の動きだす
一切の色奪はむと吹雪けり
寒紅をさしただならぬ世に向かふ
天狼や神韻かつておのづから
縄文の土器の眠れる野に遊ぶ
板屋根に取り付いてゐる三味線草
遠足のからあげおにぎりたまごやき
全長の滝となるまで後退り
夜静か朝なほ静か山桜
アイスホッケー引き金となる無鉄砲
小刀のやうに跳びたる山女かな
どの田にも水走り込み鯉幟
母の忌の新海苔の帯解きにけり
白玉や時代の進化めくるめく
春浅きこと風に聴き草に聴き
本降りをしぶきかへしぬ額の花
痛いほど日は照りつけて終戦日
きちきちばつたきちきち翔んで秋日和
その先もまたその先もすすき原
歩かねば錆びる心身桜狩
三人の酔狂誘ひ浮巣見に
論闌けて呉越同舟温め酒
十二月七日の夜の海の黙
掃きよせしものそのままや露時雨
空蝉も鳴いてゐるかと思ふほど
集められ忘れ去られし櫟の実
赤い羽根善意に針が付いてをる
生涯といふ遠回り春夕焼
舊年を襖のむかう初寝覚
足で引くスタートライン風光る
蜂起するごとく秩父の吹流し
雄心の見えて直ぐなる松の芯
トマトを切れば右心室左心房
鼻歌は父の持歌青き踏む
寒牡丹勝気内気が見え隠れ
秋草の中なるわれに返りけり
ゆるゆると初湯のところどころ夢
囀の心配になるほど続く
半分は真黒なりし夕立空
人力車ゆく松手入せる下を
老人はすぐ死ぬつくつくつくしんぼ
あらと声出て道のべのすみれ草
落椿きのふのままにありにけり
法体の実時像や梅二月
形代の女雛ぞ紅をちよんと点け
つちふるや我ら黄色人種たり
向かふでもそのむかふでも雪卸す
時を待つこと寒鯉に及ばざり
水を替へても退屈な水中花
鮟鱇にしては比較的美男
皮脱ぎし竹はしなやか朝の風
乾きても魚籠にほふなり額の花
みな死出の旅人われも雁仰ぐ
公園遅日老人一人消えてをり
酔ひどれの天使のごとく独楽笑ふ
お晩です夜濯の廃炉作業員
鳰の海しぐれながらに虹掲ぐ
我うごけば埃もうごき暖かし
松竹の映画の怒濤初日の出
長き夜の文鎮として玄武岩
金接ぎの景色涼しく囘しけり
雨意のまま暮るる新宿春ともし
夏場所の鬢付け油匂いたつ
太ゴムで縛す台湾蝤蛑かな
賞味期限切れのかんぱん冬日和
而してほとけとふたりお元日
電球に紙漉の滓乾びたる
一面のつつじ明りの外厠
死ねといふ文字はヘタくそ冬夕焼
泥動き少し遅れて蜷うごく
よき一日のごとき一生草の花
私を愁う私がいる秋の鏡
ふる里はそれぞれにある雑煮かな
万両の実に雪積んでめでたけれ
アオバトよお前そんなに悲しいか
空うるみ然うか帰雁のころなるか
初鏡齢に嘘はつくまじく
石に彫る逃げよとの声しぐれけり
あかあかと目玉二つや冬の蠅
ときをりは飛沫を乗せて秋の風
控えめに元色町の秋灯
夏蜜柑いすわるだんだんなりすます
まだ何か海鼠に聞いてみたきこと
擦り傷のなき子ばかりや冬日燦
読初に朱線まみれの古書を買ふ
蟇交る泥のやうなる声を出し
赤ペンを休めて抓むさくらんぼ
この頃は早寝で八十八夜寒
隧道の中もおこたりなく秋風
姫女菀脚組み替へて書に執す
去年今年玄関灯のついたまま
胎動のととんととんと梅ひらく
浸りても水を弾けり落椿
赤べこの空(くう)を探れる素秋かな
惚れ惚れと羽子板市の切られ与三
田水張る佐渡国中は鏡晴れ
十王に糺されゐしが昼寝覚
茄子漬や小ざつぱりこそ老いの知恵
初蝶のもつれて高くまた低く
かまきりの卵に日脚伸びにけり
すぐ上の天井へ逃げ冬の蠅
部活の子大待宵草の道帰る
振り向けば椿の落ちただけのこと
ひなたにて枯蟷螂と語りをり
雛祭内緒話が嬉しさう
舞茸の耳たぶほどにやはらかく
熱燗でことの次第を促せり
春風に木々もスウィング軽音部
あたたかや樹木医はまづ土つかみ
今年米ぶつぶつ言うて炊き上がる
塩やつれしたる冬日の塩地蔵
駅までをなづなの花に屈みもし
観音の臍を見にゆく麦の秋
断捨離に擂粉木一つ足しにけり
こんなにも母に似るとは木の葉髪
ひとたびは空へ向かひて散る桜
あと二日こんな年でも惜しみをり
山茱萸のユが言ひたくて三度ほど
書架に旧るエズラ・ボーゲル昭和の日
生前墓さすつたり亀鳴かしたり
ゆつくりと氷の上をこほる水
いつまでも非行老年龍の玉
老の身の遅れがちなる桜狩
迷ひ来しおけらと秋の灯を分つ
聖夜劇せりふ忘れし天使かな
かたかごの花は飛びさう走りさう
余生なほたのしむべしとごまめ噛む
鳥獣の星座組み上げ山眠る
山寺の蝉は早寝や月欠けて
小梅かりかり朝ッから上天気
籐椅子に眠るいつからかは知らず
葉柳やむかし銀座に点灯夫
省略こそ老婆の美学冬たんぽぽ
ステイホーム明日咲く朝顔またかぞえ
身一つの生活に馴染むちやんちやんこ
プラハの絵ならぶ個展にゐて小春
めくるめくほどの紺天鷹渡る
畳屋は香りの仕事夏立ちぬ
身を切るは空の青さよ初山河
揚花火垂れに垂れたる信濃川
夕焼にあるがままなりるしやな仏
ジーンズに脚入れて立ち夏来る
五百羅漢立つは座るは天高し
全身を舵とし春のセーリング

◆今年の句集◆

すみれ目のひとたちが自転車で来る
甘露煮の醜きかほや春の暮
瀧見台びしよぬれの春来たりけり
桐箪笥ぷかぷか鳴らし春着出す
ゆく秋のオルガン人が人信じ
しろがねの水躍り込む植田かな
夕月夜老いゆく日々の中にあり
やどかりの脚あふれ出て動きけり
枯草に薄むらさきの水の玉
児の顔をまじまじと見る蜻蛉かな
買物の靴なり前途三千里
金屏風あぶらのごとく雲ながれ
水鳥のこゑのよぎれる金閣寺
枝川にまづ鵜馴らしの長良川
甚平や生活はなべて目分量
皺々の生きものばかり小六月
天高し軍手をはめてやる気になる
セメントの袋に降りて百合鴎
秋の風鈴まるで初めて鳴るやうに
猪は棒一本で運ばるる
風死してアラビア糊の気泡かな
颱風や裡ぎらぎらと魔法瓶
星なべて自壊のひかりきりぎりす
荒縄をくぐる荒縄鉾組めり
晩涼や原田芳雄の煙草の火
秋潮や映画のなかの太地町
列島をスクロールして秋の風
等高線そのうはずみをゆく蜻蛉
瓦礫失せ一痕として冬の星
白梅の中抜けてきし鳥のかほ
牛の角ぶつかる音や夏旺ん
枯木山描くにあまたの色使ふ
風船に埋まり風船売つてをり
引き揚げて来て今があり敗戦日
黒揚羽三百歳の松を舞ふ

◆今年の秀句ベスト30◆

回し蹴りして春禽を飛び立たす
しぐるるやかかへてかばふ旅鞄
地球といふ大いなる独楽初日の出
春や有為の奥山越えてダンスダンス
明易や壺から壺へ蛸源氏
初手水鳥のごとくに水弾き
秋風に引つ掛けてある割烹着
一力の西日晒しの竹矢来
競輪の走路の傾斜春の雲
天高し駝鳥はいつも脱走中
猫の目が縦に見てをりはたた神
箱庭に誰ぞゲリラを入れたるは

◆心に残る秀句◆

後れ蚊の手強き律の墓なりし
大声を出すな雪崩が起きるから
指までも幸せさうに毛糸編む
教科書のやうに桜が咲いてゐる
裏表なく働きて日焼かな
冬の蚊も背中丸めて生きてをり
カーネーション私を母と呼ぶ母へ
きつと毒茸ぢやないよ茶色だし
天も地もけふ爽やかにつつましく
初笑より一切の始まりぬ
東京の水飲む朝や大試験
これはこれは攻撃的なソーダ水
うすらひのこの世を離れはじめけり
立子忌の鎌倉からの電話かな

街の灯の身に入みながらともりけり
瞬きのごとき一生星飛べり
蛇(くちなは)の這うて地の音水の音
直線はときどき曲がる冬銀河
木蓮かこぶしか白内障の目に
皮膚癌手術果て飯桐の実の赤し

◆全国結社・俳誌一年の動向◆

舟虫はひねもすだるまさんごっこ
一遍七百三十三回忌
甚平や齢に馴染むわが手足
白鳥の意地悪さうなかほで来る
蛇衣を脱ぐ放浪の始まりの
蜩や原稿用紙に手を置いて
万有引力鮃は底に寝そべつて
春逝くや鳥の骸は足揃へ
訪ね来る人まだあれば茶立虫
根のものの味良くなりぬ冬はじめ
太古は海カルストは今芒原
割箸に残る木の香や今朝の秋
高値つく一番糶の走り飛魚
ガス欠のホンダスーパーカブ盛夏
箱庭にゐさうな四人家族かな
露の玉くつきりと縁ありにけり
青柿や木曾三川は天気雨
なめらかに急いでをるやなめくぢり
鳰小暗き水を食みこぼす
わつと発ちどこへも行かぬ稲雀
梟のこんな顔でと首まはす
毒消や「リンゴ日報」最終号
熊蝉の鳴き止む空の軽くなる
百歳はいつも昼寝や海の音
緑陰におとぎ話の読み聞かせ
あきらかに躾けられをり鷭の雛
星々の生くる輝き寒の入
つぶやきて露の師の忌をまた迎ふ
螢火を手なづくるほど老いてみよ
乗れさうな雲と泰山木の花
長老にひと腰ずらす日向ぼこ
万緑といふ贅沢に浴し住む
年の豆八十粒は侮れず
ひよつこりとパン屋が出きてあたたかし
撫子に神の鋏のこまごまと
新涼の波におくれて波の音
マスクして天下国家を語りけり
城垣を葛よぢのぼる葛の上
何せむと陋屋に蠅生まれたる
饒舌を少しくださいヒヤシンス
落し文故郷恋しと拾ひけり
麦の秋まつすぐに来る原節子
一族はみんな俊足秋桜
はるかなる追腹の世の法師蝉
朝涼や顔を浮べて貼る切手
石に彫りし俳句は永久か未草
些事なれど丸く収まりさくらんぼ
石鹸玉遊びせし夜焼夷弾
大学に別館多し文化の日
歯朶刈の勝手知つたる山なりし
生涯一小児科医たれ日雷
かたまりて同じいろなき海鼠かな
恋の猫日向はゆつくりと歩く
名月や叢雲おのづから散じ
忘己利他こころに生きむ露世かな
界隈を音なく包み春の雨
蒼天の臍さながらに昼の月
まけるよの一と声で買ふずわい蟹
鬼やらふウイルスといふ見えぬもの
鮴汁の暮石好みの味といふ
野田藤もよけれど山藤が好きと
不覚にも吾と出合ひし御器囓り
県庁の受付にをり袋角
石蕗の花戦評定ありし寺
ライト線ファウルゾーンの残る雪
面接の部屋に金魚の悠々と
秋晴やよしと頷き出発す
場所入りは自転車漕いで五月場所
穂芒の中から声が「もういいよ」
春塵やタイムタイムの草野球
大花火もっともらしく終りけり
盆僧のひらとをさまる金おざぶ
立冬のことに翠のいろは松
春水と見るは日のある迄のこと
もう誰の碑とも分からぬ露の石
病葉の一枚真っ赤水の上
佐渡の風佐渡にあまりて踊りの夜
銀河より氷柱をたたき落す音
蠅取紙軒並吊るす浜焼屋
水中花命の水を足しにけり
京の宿酸茎茶漬をさらさらと
両腕でオーケーの丸うららけし
夫がまた同じこと言ふ昭和の日
その先は成り行きまかせ心太
下書きはいつも2B文化の日
睡蓮の下にも都ありさうな
鳥けもの魚も座につく星月夜
手つかずの雑炊母は寝息たて
ぬつと乳牛朝霧の奥処より
鰯雲セットの町を解体す
空と地をひろげるやうに犬ふぐり
ひとりづつ萩回廊を通りやんせ
刀身は桐箱の中梅雨きざす
また榾を足して返事を渋る父
星朧めがしら熱くなる言葉
店先の刃物が光る寒さかな
これがその黄雀風かなう雀
大壺に水仙演題は「生きる」
玉葱を真ん中に置き考へる
いつ来たか分からぬ春のゆきゆきて
枯荻のささらばさらと日暮れけり
歯車が歯車まはす夜の朧
葉桜やタクシードライバーの仮眠
あんなにも小さく凧を揚げにけり
書初の一画にして躓けり
透き通る炎鰹を包みけり
川の字のほどけきったる大朝寝
冷麦の色遊ばせてガラス皿
全山を空となすべく黄落す
禅寺に閉門はなし初蛍
父の日の所望ぴったり運動靴
歩かねば損をしさうな石蕗日和
吹かれよるもののひとつに鹿の声
相撲して鳥獣戯画の負け兎
爽やかにをみな住持の片ゑくぼ
露寒の野辺に与太めく鴉どち
籠り居の連れにくろべえてふ金魚
しぐれ虹とて総立ちとなる車中
戒名に釣といふ文字菊香る
いつしんに糸取る土間の手暗がり
繭を煮し湯にも生絹の色少し
息ほそくして猟犬とすれ違ふ
ねんねこの中より雨を見てをりぬ
さざんかと二度口ずさむほどの垣
散らかしてまた整えて獺祭忌
月下美人爺さまカメラごと傾く
「ご縁」と言ひ御坊ぎんなん施せり
蠅払ひをり牛の尾のしなひをり
新涼や銀座に箸の専門店
冬至粥吹き晩節を穢すまじ
鳴き損じとびたちてゆく法師蝉
花ひらくやうに着氷スケーター
帝劇の角曲りたる春ショール
天上を手さぐりでとぶ蝙蝠よ
生き急ぎぶつかり急ぐ金亀子
間違って打つたる釘へ吊忍
虫の秋声持ちたるも持たざるも
節分や鬼とて老いて蹴つまづく
絵襖や古りてまことの松の色
黴臭きものが高値の初版本
葦叢の動くと見れば鳰浮巣
箸置のガラスの鮎の夏めける
大阪に嫁ぎ夏負けしてゐたり
ダッコちゃん工場は六畳一間葛飾夏
分割画面の一人フリーズ咳の途中
つゆけしやくわんおんだうもくわんおんも
形代の女雛ぞ紅をちょんと点け
あんたがたどこさ施設さ灯下親しむ
船頭の飛び上がりたる涼しさよ
葛咲くや崖つぷちとは面白く
毬栗や昔漫画は悪書にて
銀杏黄葉キッチンカーの来る時分
鷲掴みして大根の首ねつこ
朧夜のパズルの桝の中にをり
太陽のぬくみも入れて袋掛
思ひ出し笑ひのやうに風車
ななふしの使ふ六脚盆の道
国産にこだはる生活冷奴
大物は地面にすわり青瓢
木隠れに水音奏で秋の滝
波の花千切れて波に戻りけり
馬追や蛇籠の上の釣天狗
春寒し鳴き竜が泣き入るるほど
鰯雲小石でこそぐ鍬の土
斑雪旅の一夜の湯もみ唄
ごみ捨場育ちで掃溜菊といふ
ほたるぶくろ咲き山鳩の啼いてをり
コロッケに中濃ソース麦の飯
麦秋や大事はいつか些事となり
地獄絵の朱の美しき冬の寺
存へて他力やからす瓜の花
かにかくに過ぎたる一世くつわむし
縁側が好きで秋風吹いて来る
モンタンもグレコも逝きて秋時雨
みんみんの一つのこゑの大欅
脊の丈をほめて年玉渡しけり
捩花や螺旋の先の大宇宙
氾濫の泥ひかりたる晩夏かな
自問して九十余齢秋の風
峠から煙が見えて稲架が見ゆ
すれ違ふ人に蛍はいましたか
なんじゃもんじゃ疑心暗鬼の世の中に
旅支度のブラウスを畳む鼻うた
生身魂何度撮つてもおなじ顔
だしぬけに誰かが笑ふ夜業かな
水吸うて豆のふくるる良夜なり
真っ先に水仙真っ直ぐに咲けり
雨に背を黒くテカらせ蟇交む
しら露や一穂灯る閻魔堂
線香のうすき煙や油蝉
寒晴や何をするでもなき闘志
筍のひとつひとつが菩薩さま
胡瓜とんとん民主主義民主主義
児らの打つ面子見に来る鬼やんま
だれの目にどう映らうと恋蛍
早梅や日溜り未だ余所余所し
長き夜や寄木小箱の謎を解く
母の日の母より油絵の具の香
新雪といふも一夜に卸すほど
初旅の吉田の富士の男々しけれ
日差まだ残る梢や帰り花
ひと匙はひと幸なるか小豆粥
雪囲洩るる灯りと読経かな
おほかたは日和続きや松の内
蛍火や千夜一夜のひとよにて
狐火は跳梁疫病神跋扈
うつくしき蒔絵とであひ若狭ぐじ
灯ともせば水も灯りぬ心太
秋冷や山ふところに罠かけて
ぐれさうなやつも引き連れ鰯雲
波郷筆「悲母鈔」に風入るるなり
かまつかの紅に過ぎたる日照雨かな
棒稲架に養老山の没日かな
薄氷をまはしてゐたる小鮒かな
野遊びや本丸跡を陣取つて
梁に梅雨の薄日や醤蔵
バリカンの頭を巡る寒の入
とろろ汁揉め事うまく収まれり
地球といふ大いなる独楽初日の出
京の雅奈良の鄙なる紙雛
春あけぼのご飯が炊けて師は亡くて
玄奘の法灯いまも常楽会
牛蒡から春泥の色したる水
ビーツ掘るとほく南のたすまにあ
任せろと箱から鍾馗風薫る
鱈捌く大俎を汚さずに
花筏あくたつつみてただよへる
火蛾落ちて斑の美しく脱衣籠
池凍る日の耀ひを容れながら
冬ざれや水は一途に水を追ひ
鶺鴒の風より軽くひるがへり
とんとんと寄するオムレツ春あした
舟虫に付和雷同といへる知恵
遡る波を見てをり橋涼み
別人となりて冬蛇叩きけり
数へ日のひとりに寄する波の音
白梅に言葉正されゐるごとし
ついと来る燕は鳥の寅さんか
生き方は死に方と聞く蝉時雨
春燈古き写真にみんなをり
ランドセル背負ふ真似ごと春近し
喝采のやうに峠の葛に風
雨の日は手紙を書く日花水木
取り敢へず丼に飼ふ金魚かな
春風に手を振りあうてまたあした
夏帽をにぎりつぶして応援す
夏座敷いきなり青き海を見せ
水切りの石のぽちゃんと秋深し
遠きさへずり黙禱のあひだぢゆう
向き合うて梟我を見てをらず
突堤は空のはじまり鳥帰る
何喰はぬ顔とは返り花のこと
花よ星よと切り貼りの白障子
家中の時計零時を指す淑気
夕涼や横一列に宿の下駄
秋燈や昔はありし手暗がり
草団子母の小さな手の記憶
終の日は絮たんぽぽの発つやうに
ちりとりの中で落ち蝉鳴き始む
弁当をさてと土筆の野に開く
転ぶなと大書してあり年賀状
どこへなと先頭次第鮠走る
花八つ手集合写真はいつも端
もう一つおまけの如く星流る
吉凶はごまめの味の出来不出来
打水や鉄平石に色新た
涅槃図の壁一面の悲嘆かな
炙られて反り正されて干鰈
時の日や余生に目盛あるならば
杓掛けの釉夏草を汚しけり
ロートレック観にゆくマント翻し
流灯に添つて歩ける所まで
散華とて今し散り散る夕さくら
ゆくゆくは天の川にてのし泳ぎ
草紅葉みな富士山に向いて食ふ
病室を覗く牡丹のやうな君
ダンベルが漬物石となりて暮
ちはやふる絵札に伸びる手と手と手
しばらくは手にしてをりし小判草
よく枯れてをりたっぷりと日を孕み
直線でつながる星座冬に入る
葱は青味噌は白てふ京女
忙しげに動くは栗鼠の冬支度
電柱を呑み込んでをり蔦若葉
空低く来る洛北の時雨雲
行秋や窓に松葉のやうに雨
二本目のバナナを剥いてゐるところ
三千歩辺りで迎ふ初日の出
冷やかに私どもとしましては
長靴の春泥落す鎌の背で
朝の月産後疲れのやうな白
冬ぬくしマンモス展に糞石も
空低く来る洛北の時雨雲
天の川君渡れしや会へたるや
妹を励ます兄も受験生
ビー玉に射し込む日差し秋彼岸
花過ぎの雨にまかせてゐる空想
春の星数へしあとは佐渡の闇
三寒のキオスクに立つ新聞紙
種袋裏に小さな日本地図
ほーほーと月のしめりの青葉木莵
元朝の八十八段「どつこらしよ」
錠剤に逃げられ探す春の卓
逃水や一本道の先に黄泉
去年の雪今年の雪と踏みきたり
剃り立ての顔冴返る日なりけり
夕立やところによるといふところ
炎天に反る大寺の鬼瓦
太極拳色なき風を手繰り寄せ
ぴかぴかに煮えし金柑祖母恋し
大工らの木の香に浸り三尺寝
金魚掬ひ黒の一尾が狙はれて
手刀で払ふ連射のしやぼん玉
またしても熊の出没ばつたんこ
羽根伏せてとんぼ目玉で考える
雪こんこん昼夜火を抱く登り窯
頬杖といふ杖かなり枯れ兆す
冬天へ気骨展げてゐる欅
仮初めの歯にて噛むもの去年今年
春はあけぼの抱ふるものにわが乳房
秋雷の忘れものなり義歯一顆
ふゆあをぞら亡骸はすきとほりゆく
鳥海山雪煙上がりつつ暮るる
ぶだう狩こごみ歩きを笑ひ合ひ
杉下駄を選ぶ天領日田の秋
はたはたの飛んで御空の深まりぬ
薄目あく猪の骸や雪催ひ
里神楽しまひは大蛇箱づめに
紫陽花や見つかるやうにかくれんぼ
遠きものばかりとらへてサングラス
耕人の一振りごとに力こめ
面打の木屑を焼べて夏炉焚く
嘘少し混ぜて笑はす春炬燵
つばくろの急上昇に影失せる
海光に呼び起こされし帰り花
軒端ゆく荒川線や蚊喰鳥
筒鳥の声六甲の樹海より
子どもらは漫画三昧冬ごもり
梅雨寒の体温計の電子音
相老いて花の記憶を新しく
追ひかけて追ひかけて虹真正面
一人ふたり落葉溜りへ子が隠れ
嵩上げの突堤に佇ち冬銀河
パソコンのマウス持つ手も寒の入り
まう少しゆつくり刻め鉦叩
枝わたるとりの影ある春障子
手花火のぽとりと落ちて夜のしじま
蝗笑ふ幼きわれを知るやうに
さう言へば台風に名のありしころ
雨の字に雨粒四つ梅雨気配
一つで「火」二つで「炎」三つで「小火」か
まつすぐな道ほど遠し稲の花
蓋閉ぢて己語らぬ栄螺かな
湧水の鼓動を春の声と聴く
春筍の紫匂ふ襲かな
捩花や音階上がるやうに咲く
角振りて天牛跳ぶを迷ひをり
雪よりも白くて荼毘のにぎり飯
亀鳴くや暗証番号宙に在り
元日やよそよそしきは部屋の中
富士山のどこか傾きゐる大暑
春愁や花の溶けゆく絵蝋燭
透き通る蛇しか脱げぬ蛇の衣
月といふ指揮者を待てる樹氷林
光りつつ薄暮きざせり藤の花
椿落つあつといふ声聞き逃す
名月を居待ち寝待ちと老いゆくも
これやこの天地をつなぐ心太
切符買ふせせらぎ経由花野まで
きれいでしょほうせきみたいはるごおり
倒れ込む走者を包む防寒着
背高泡立草駅までが遠い
接写され不動の姿勢土筆かな

水うちて鯖街道の起点てふ
椿落つ只それだけの径なれど
囲炉裏火にかざす祖父の手明治の手
風呂場へと連行さるる水鉄砲
枕辺の散らかりやすき夜長かな
やはらかく土盛る冬のぼたん園
真っ青な空ががらあき木守柿
焼き芋屋まるで売る気のない速度
ンのつく野菜いただき風邪しらず
左官屋の鏝擦る音や芽木の風
追伸のやうに小鳥の遅れくる
奥にもの書く人もゐて冬のカフェ
白靴の先生どこかあか抜けず
地下足袋のこはぜ十二個夏に入る
鶏頭に大粒の雨降り止まず
蝶というとても小さな乱気流
虚子の虹消えてしまひしらしき虹
大試験長き机に一人坐し
竜胆や古くは蝦夷地このあたり
毛虫焼く襤褸の煙や棒の先
しらゆきの無窮のなかに身を正す
突然の雪煮くづれし煮ものたち
緋鯉には火の性兜太龍太亡し
青蜥蜴むかし石屋に俳句好き
豁然と海に日矢差す石鼎忌
大寒や福耳二つもて臨む
ごろすけほう一番星は南に
追羽子のはね返さるる空の青
落日を追ひかけてゐる枯尾花
一天の青かぎりなき大旦
露草や昨日言へざることひとつ
真如堂紅葉震はす十夜鉦
歳晩の積らぬ雪を見ていたり
薄氷に陽の巡り来て陽を返す
大津波生れし方より初日影
余呉はいま月の巷や繭を掻く
みづうみに夕日とろとろ赤とんぼ
ヨットぽつんと落款に成りすます
木耳に訊く山の向こうの山のこと
水仙やひやりとまとふ検診着
待春の降車ボタンを誰か押し
浅間へと刈草の香も風にのり
コーヒー豆挽く手応へも春めけり
豆を撒く老いの濁声はり上げて
昼寝の子おもちやの山も眠りけり
おさがりの自転車届くこどもの日
一日を誰も来ぬ日や水中花
鍵盤のひとつ沈ませ秋思かな
春の海のらりくらりと汚染され
人生の放課後にゐてかき氷
遠山に積もらない雪ヨハネ伝
老いっぷり笑いとばして初電話
伊予和紙の細き罫線春の雨
赤とんぼ地蔵の膝がほんに好き
小雪や若狭の味はこつぺ蟹
初燕足助の宿の空高く
節くれの手の編みあぐる蛍籠
霜晴の杉の雫に打たれけり
土筆持つ反対の手を繋ぎゆく
銀色の声かけてくる芒原
鐘の音の余韻をのせて春の風
杜若きりきりしやんと小糠雨
飛騨山脈純白に年明けにけり
秋の夜や高浜虚子に「柿二つ」
春過ぎて夏来にけらし家に居る
棕櫚の花戦の種となる正義
春菊のサラダが好きで認知症
はまぼうの黄のなだれ入る太平洋
ぐずぐずと亡びてゆくか着ぶくれて
巨樹あれば幹を叩けり春よ来い
蛤とならぬ雀に米分くる
飛べさうで飛び立ちさうで燕の子
蝉声を出囃子にして出勤す
唇に残る麻酔や日雷
嫁入りの荷の片隅に桜貝
新海苔の黒際立ちて飯白し
寝癖にもどこか華やぎ初鏡
モナリザに眉画くならば二日月
向日葵は円周率を極めたり
見つめては置き直しては受験票
オリンピック目指し聖夜を泳ぐ人
大西日病棟五階を見舞ひたり
時の日や残る命のねじを巻き
どくだみの白き聖地に風よどむ
飲兵衛に添うて幾とせ牡丹鍋
凜乎たる背の家紋や七五三
ひとしきり悪態吐いて衣被
雑炊に蟹ガラかすか昼の月
もの云へる時代の不遜万愚節
身ぎれいに路地に暮らせり鳳仙花
フルネーム告げ大寒の点滴す
息止めて落款を押す十二月
パキパキとセロリ喰って詩を書いて
秋夜長立てばゆつくり回る椅子
黄砂降る落書残るボンネット
ストリートピアノ人待つ薄暑光
蛇穴を出づ知りたくもなき余命
刻刻とひとりに向かう刻刻と
筑波嶺の星研ぎあげて寒波くる
アメンボの貌に似て来し横泳ぎ
影連れて雀来てをりクロッカス
妹に走って知らせ秋の虹
噴水にうらわかき風生まれけり
三年坂五月雨傘をかはし合ふ
日曜といふ安らぎに豆ごはん
夏の夜の地図をなぞって旅気分
らちもなき病気自慢や去年今年
九十のはしたを生きて屠蘇に酔ふ
水桶のラムネ一本抜いて買ふ
初刷の郵便受けに収まらず
目覚しの鳥のメロディー春立ちぬ
若葉して道白川の関に入る
先代を今も慕ひぬ冬の梅
みづうみの満月とゆれ残り鴨
草刈機唸らす恐らくは女
冬麗や尺余の鯉に泡ひとつ
育ちたる菠薐草に見惚れけり
穂芒の鯖街道を戻りけり
初荷船水平線を出てきたり
炎天に切絵のごとく僧立てり
ひょいと来て筍置いて帰る父
沖は霾天様になる人梶芽衣子
カルタゴの海の青さよ花石榴
唐三彩の馬が出窓に薄暑光
春そこに紙飛行機の着地点
秋めくや指示のそつなきセルフ・レジ
鬼百合の花弁どこまで反り返る
胡瓜採る成行きといふ曲りやう
マネキンの着こなし上手街薄暑
槽底に豆腐の揺るる紅葉晴
春雷や寝ぼけ面して団子虫
入学はげんこつタッチで迎へらる
上皇を護る白バイ清和かな
勾玉のやうに寝ねたる寒夜かな
あらかたのことは過ぎたり鰯雲
梅雨冷やFJITAの白い女たち
またなにかやる気の老の寒やいと
口上のやうな花火の先づ揚る
訊きたきは訊きがたきこと蓼の花
学校の艇庫全開青嵐
逞しき志功のをんな野梅咲く
跳ねのけてまた引き寄せて夏ふとん
生身魂何もろうても仏壇へ
黄金のかぼちゃを食うて春を待つ
春雨や音もあらずに庭濡らす
白い息どつと吐き出す迷子かな
新走りたしなむ程と言ひながら
ひとつまみ足すや新茶の秤売り
立春や紺の背広にして見るか
菜の花や島をあげての結婚式
ゆっくりゆっくり動いてはいる春の雲
偏屈を通すつもりや葱坊主
分身のステッキを振りパナマ帽
憂きことは流れ流れて春の川
緑蔭にほつと力を抜く暫し
走り茶の味に先立つ香りかな
サルビアの百人力の赤なりし
本郷の路地は変はらず花石榴
梅雨兆す広目天の眉くもり
退院や若葉の風を先づ部屋に
無聊なる顔突き出せば風は秋
生醤油を煮切る匂ひや柿若葉
霜降りて葱太くなる甘くなる
葉を落しやがておちつく栗林
かちゃんは民生委員枇杷の花
返盃も金箔入りの冷酒かな
あめんぼの停滞すれば後退す
読初めは栞で分かつところより
短日や昨日と同じことをして
愚痴つてもおもろい男おでん酒
ふはふはのパーマもふもふのセーター
短日の草を踏み来て草に座す
人ごゑを遠く花野のどまん中
地震あとの街の沈黙流れ星
木に戻る色して古書の夜の秋
日めくりを忘れて二枚梅雨あがる
三鬼の忌端のめくれた英和辞書
三月やまはりにふゆる物の音
納得の文字の成り立ち地虫出づ
スーパームーン軍艦島を浮き彫りに
終戦日鏡にうつるカレンダー
兜虫あらゆるものを投げとばす
星涼しいっぽんみちの白馬村
色変へぬ松をめぐらせ京都御所
五右衛門が引き廻されてねぶたかな
尾を跳ねて鯛焼生きの良かりけり
福笹の重さうな福ありさうな
穴出でしものに春光惜しみなく
あれこれとなやむてにをはつづれさせ
ミッフィーのくちのばつてんあたたかし
波郷忌や肝に串刺す焼鳥屋
煤逃げや何ブルータスお前もか
波の花見せ場は此処と日本海
研ぎ立の鑿が寒波の羆彫る
武家屋敷四角四面に剪定す
亀甲に蕾膨らむ蕗の薹
仲見世といふ花道を荒神輿
大土佐に清流二つ天高し
学はなりがたくかなぶん灯にとまる
子規の忌を吾も病床で菓子パンを
積もるだけ積らせて雪掻きにけり
ありつたけ鍋繰り出して大晦日
荒波の囃して高きどんど焼
みづうみを蹴って白鳥北を指す
一人づつのベンチ一人づつの春
ひょっときて今日も目の合ふ孕み猫
今日よりは自然に帰依し耕さん
出奔をそそのかす赤とんぼかな
放棄田は杉菜のものよ開田碑
みかん積む急勾配のモノレール
マグドナルドハッピーセット終戦日
飲み干して瓶の底打つラムネ玉
隼と指されて空のあるばかり
故郷の春を探しに行く切符
亀鳴くを待ちて退屈など知らず
長考の末の一手や棋士涼し
鬼平も梅安もいる花の闇
薄氷がほどの友情なら要らぬ
千年をきのふのごとく花ざかり
雪をんなあれから勘がよく当たる
丸描いてけんけんぱの水すまし
初音聞く朝茶柱の立ちにけり
碧梧桐越えし峠の秋を行く
四行の十年日記書く良夜
蕗味噌にま白きごはん命惜し
耳元の髪を切る音春深し
ぼろ市の映画ポスター裕次郎
とりあへずビールつまみは宇宙論
丹頂の下り来る空のいぶし銀
短夜や鬼平読んで柿の種
目もくれず過ぎゆく人を追ふ落花
外連味のなく縦横に初燕
大阪城一の巨石を蟻登る
石垣は城の語り部花見舟
まだつづく釣果自慢や蚊遣焚く
襖みなはづして風の奈良町屋
山粧う名のある山もなき山も
攩網腰に釣竿背ナに神の留守
大草原入口に来て秋の雨
雪起し越後の冬は真横から
青野ゆくどこまでもわれ戦中派
おぼろ月むかし名画座この辺り
春著見ず街中マスクマスク人
肩幅に踏んばる車中冬近し
八十三今年も元気に御来光
俄雨妻の日傘へとび込める
梅漬に紅さす五指のひと仕事
太刀魚や真一文字に捌き待つ
草笛の途切れ途切れに野を渡る
春昼やなんでも出来て何もせず
来るといふ電話を潮に更衣
朴の花見つけて声の上ずれる
空を見る草を引く青空を見る
酔芙蓉晩年といふ円熟期
だとしても独りを選ぶ実むらさき
父の日の期待と言へばなくはなし
まだ見てはゐない近くの椿かな
子育ての愛は直線つばくらめ
電柱を数へて帰る朧月
顔見世や顔の大きな女形
冴返る身の幅きりの手術台
杖の音はこころの楽よ去年今年
金木犀風の来る道通る道
三日はやアンカーに振る紙手旗
電線は地下へと消えて鰯雲
新米の景品の出る米所
富士山に向けてすててこ干してある
凩や歳月友を減らしゆく
ライダーのどどどどどどど夏兆す
寒の入りマトリョーシカの紅き頬
つくしんぼここそこあそこ今こそと
貌出してここにここにと蕗の薹
鳥雲に梵字の薄る五輪塔
数へ日やどつこい生きて五七五
新緑のポンと飛び出す口語体
引鶴の丹後に残す筬の音
留守の間の日永預かる古時計
流氷は見るより音を聴くべしや
何と言はれやうと大根の潔白
変る世に変らぬ香り芹を摘む
リラの香と思ふ自転車押しながら
目の前を過ぐる秋の蚊正信偈
ギャロップも少し試して春近し
刃物にモリブデン敏雄忌にしだらでん
蓮の実が飛んだところが自由律
梅雨深し念腹評伝手に重し
春惜しむ本の栞の入場券
風鈴の風にてこずりゐて鳴らぬ
掬ふたび金魚に顔を見られけり
なまこ買う先祖代々下戸ですもん
つばな野をくすぐる風のぼへみあん
転居して風新しく薫りけり
裸子のするんと逃げてゆきにけり
そつと持つ線香花火のこれつきり

◆老いを強く意識した句を収集(再掲)◆

あたしや字の書けぬと老妓涼しかり
いつまでも非行老年龍の玉
またなにかやる気の老の寒やいと
茄子漬や小ざつぱりこそ老いの知恵
公園遅日老人一人消えてをり
春を待つ小鳥老人子供たち
省略こそ老婆の美学冬たんぽぽ
節分や鬼とて老いて蹴つまづく
相老いて花の記憶を新しく
長老にひと腰ずらす日向ぼこ
豆を撒く老いの濁声はり上げて
棒稲架に養老山の没日かな
名月を居待ち寝待ちと老いゆくも
夕月夜老いゆく日々の中にあり
老いっぷり笑いとばして初電話
老の身の遅れがちなる桜狩
老人はすぐ死ぬつくつくつくしんぼ
螢火を手なづくるほど老いてみよ

◾️私だったらこうしたいコーナー。

生かされてここまで来たが初紅葉
生かされてここまで来たか初紅葉

旧村名タクシーに告ぐ帰省かな
旧村名運ちゃんに告ぐ帰省かな

初鏡今年の顔はこんな顔
初鏡私の顔はこんな顔

わが死後は春の蛇籠の五郎太石
我(われ)死後は春の蛇籠の五郎太石

よく釣れてゐる釣堀の向う岸
釣堀のよく釣れてゐる向う岸

夏の朝まずは十指を広げたる
夏の朝まずは十指を広げみぬ

生かされてここまで来たが初紅葉
生かされてここまで来たか初紅葉

跳び終へたる脚を集めて螇蚸の胸
跳び終へたる脚を収めて螇蚸の胸

生き了るときに春ならこの口紅
生き了るときが春ならこの口紅


◾️苦言
あたまにはけものの残る寒さかな
俳句の表記は一目瞭然であるべき。それで書き手も読み手も瞬時に諒解、それでは何ですかこの句の叙述の不徹底は。

空色に擬態(なら)ひて水の温みけり
このルビの表記いただけない

以上


by 575fudemakase | 2022-01-25 14:50 | 句集評など


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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