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英語で伝える和のおみやげ図鑑 第四章 遊びもの

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◾️英語で伝える和のみやげ図鑑 遊びのもの 付記例句◾️

◆花火◆

花火 の俳句

花火 の例句(↓ここをクリック)


花火 補遺

あひつげる花火の傘の重なりし 清崎敏郎
あびこ屋の二階にひそと花火客 岸田稚魚
あまり強き黍の風やな遠花火 飯田蛇笏 霊芝
あらたまの弥勒が穹の花火かな 岡井省二 大日
ある朝の冬の花火が一つあがり 安住敦
いんいんと頭蓋に花火咲き散るや 中村苑子
うちあげし花火くづるる軒端かな 山口青邨
かきつばた祭といひて花火揚ぐ 細見綾子
かたくりが咲いて祭の昼花火 石田勝彦 百千
かつと照る虚無地帯の花火殻 金子兜太
かにさぼてん花火のごとく妻咲かす 山口青邨
きさらぎの満月でありホームレス 佐藤鬼房
くたびれてねむたがる子に花火見す 細見綾子
くづれたる花火が垂るる軒端かな 山口青邨
くらがりに人の別れや遠花火 藤田湘子 途上
くらがりの天地にひゞく花火哉 正岡子規 花火
くりかへす花火あかりや屋根は江戸 三橋敏雄
この空に記憶さまざま大花火 桂信子「草影」以後
ご赦免花火の島六島従へて 角川源義
さなぶりの小花火堰の方に鳴る 百合山羽公 寒雁
しばらくは船の葭戸に遠花火 飯田蛇笏 春蘭
しまひ花火窓流行歌ぶちまけて 石橋秀野
しらじらと消ゆ大いなる花火の血 三橋敏雄
そのなかの城を影絵に遠花火 鷹羽狩行
たまたまに花火あくるや川涼 正岡子規 納涼
たまたまに花火あぐるや涼船 正岡子規 納涼船
だんだんと幼き顔に遠花火 有馬朗人 耳順
ちちははのためにもお買得花火 後藤比奈夫
つぶやける如くに終り遠花火 松崎鉄之介
とき朝の花火の音や霜日和 河東碧梧桐
どの家も冬の花火の音残る 金子兜太
どん~と音してひらく花火かな 高野素十
なかぞらにさびしさひらく花火かな 村山故郷
なかなかに暮れぬ人出や花火待つ 高野素十
なき魂の空におとろく花火哉 正岡子規 花火
ねむりても旅の花火の胸にひらく 大野林火 冬雁 昭和二十二年
ひぐらしは薄明の鈴花火果てし 金子兜太
ひとしきり綴れ織りなす遠花火 鷹羽狩行
ふじ見えて物うき晝の花火哉 正岡子規 花火
ふと闇の花火に反く艪のきしり 中村汀女
ふりかゝる花火の花や城の松 内藤鳴雪
ほしいまゝ遠花火裂け職危し 小林康治 玄霜
ほしきまま荒野が隔つ遠花火 斎藤玄 狩眼
まなうらに今の花火がしたたれり 草間時彦
よべこゝに花火あげたる芒かな 正岡子規 薄
よべ花火揚げゐし浜の合歓盛り 松崎鉄之介
わが流転花火の股に抱かれて 細谷源二 砂金帯
ガラスの笛のような鳥声花火師あり 金子兜太
ケ口イドを秘め花火師の語り草 阿波野青畝
シプレーは伯林の川揚花火 山口青邨
セーヌに灯のエッフェル塔揺れ 花火散り 伊丹三樹彦
ポケツトに仕掛花火と小笹の葉 佐藤鬼房
ヴエルサィユ宮殿の賓たり揚花火 山口青邨
一枚の海に戻して花火終ふ 鷹羽狩行
一滴の天より火玉 花火死す 三橋鷹女
一輪の花となりたる揚花火 山口誓子
三彩四彩五彩花火を追ふ花火 林翔
上げ潮の川口攻める大花火 鈴木真砂女 紫木蓮
上諏訪の花火は遠し湖の上 山口青邨
乗込の役者の船や花火散る 内藤鳴雪
乱発の花火の花の下に逢ふ 上田五千石『天路』補遺
二三人波にたはむれ花火待つ 大野林火 海門 昭和十年
二三人花火線香に端居哉 正岡子規 花火
二百十日の月に揚げたる花火かな 村上鬼城
二重三重すぐ八重咲きの揚花火 鷹羽狩行
人かへる花火のあとの暗さ哉 正岡子規 花火
人の身は咲てすく散る花火哉 正岡子規 花火
人を恋ひ切々たるは花火の夜 村山故郷
仏具屋の店閉めてゐる花火かな 岸田稚魚
何すとて揚げてゐるのか昼花火 細見綾子
何の花火奈良公園に轟けり 右城暮石 一芸
余寒の雲を花火軽打し職求む群 古沢太穂 古沢太穂句集
全身に夜のおもたさ花火消ゆ 鷲谷七菜子 黄炎
全開し花火大きな菊花なり 山口誓子
兩國の花火聞ゆる月夜かな 正岡子規 花火
兩國の花火見て居る上野哉 正岡子規 花火
冬花火きりんの首の長くなる 星野麥丘人 2005年
冬花火揚り何かが終焉す 安住敦
冬花火浮かぬ貌してあがりたる 安住敦
凶作の田を照らしては花火消ゆ 伊丹三樹彦
函嶺にこぞる一夜の花火かな 阿波野青畝
刃毀れのやうに湾へと花火散る 佐藤鬼房
北上川の澱みがうてな大花火 佐藤鬼房
医師起きず深夜の花火音もなし 加藤秋邨
又開く山下清花火かな 高田風人子
古書見つけ出る天辺に花火ひらく 橋閒石 朱明
吉兆や海へ落ちゆく花火の尾 亭午 星野麥丘人
呪の象して枝垂れ消ゆ冬の花火 佐藤鬼房
咲きちる蒼き後頭部の仕掛花火 三橋鷹女
咲き降つて花火の海といふ酷(むご)さ 佐藤鬼房
城山の北にとゞろく花火かな 正岡子規 花火
壺ふかく鈴虫孵えす花火の夢 橋閒石 風景
夏の終りの朝の花火師一尿(ひといば)り 金子兜太
夕曇遠くの花火音もなし 正岡子規 花火
夕榮や晝の花火の打終り 正岡子規 花火
夕涼み子供花火音すなり 正岡子規 納涼
夕涼み花火線香の匂ひ哉 正岡子規 納涼
夕涼小供花火の聞ゆなる 正岡子規 納涼
夕焼け河原の撫子に花火筒を据う 尾崎放哉 大正時代
夕空に花火の傘のうす~と 清崎敏郎
夕花火虹の浮橋碎きけり 正岡子規 花火
夕飯や花火聞ゆる川開 正岡子規 花火
夜寒さや花火遊びも宵の内 村山故郷
大方は海に見せんと揚花火 鷹羽狩行
大花火下に新六本舗あり 岸田稚魚
大花火何といつてもこの世佳し 桂信子「草影」以後
大花火床下の蛇跼むころ 赤尾兜子 歳華集
大花火草一筋を流しけり 桂信子「草影」以後
大花火首相周氏の白に 中村汀女
天の園花火の上に星咲ける 西東三鬼
天上に触れし花火の散るほかなし 野澤節子 八朶集以後
子がねむる重さ花火の夜がつづく 橋本多佳子
子供等の花火ぽんぽん宿は蔦屋 山口青邨
子花火と爆ぜて谺の返りけり 石塚友二 光塵
宵花火一基の墓のうしろより 中村苑子
富士の前小さき花火を愛すなり 岸田稚魚 筍流し
小さき町のその町だけの花火かな 松崎鉄之介
小花火に台風しぼみ盆果つか 角川源義
小花火のしゆるしゆるあがる庭隣 佐藤鬼房
少年等声先立てて花火揚ぐ 右城暮石 句集外 昭和五十年
屋根越に僅かに見ゆる花火かな 内藤鳴雪
山の上の晩餐青き遠花火 野澤節子 八朶集以後
山もとの花火の空をはしるもの 下村槐太 光背
山国や空にただよう花火殻 金子兜太
山間の霧ににじめる花火かな 清崎敏郎
岩窪を流れ出でたる花火屑 石田勝彦 秋興
岬二つそれ~花火上げきそひ 高浜年尾
峰越しなる逗子の花火と磯涼み 石塚友二 光塵
川上は花火にうとき月夜哉 正岡子規 月夜
川敷に雨の爪跡揚花火 佐藤鬼房
工場の山吹散れば花火の黄 山口青邨
師に示す作品無惨遠花火 松崎鉄之介
帰るとき仕掛花火の滝懸る 右城暮石 声と声
干網の谷間に男女 花火爆ぜ 伊丹三樹彦
年忘れ花火野郎も老いにけり 大野林火 方円集 昭和五十一年
彼のボスか花火さかんに湾焦す 佐藤鬼房
往吉にすみなす空は花火かな 阿波野青畝
待ち受けし花火の空の響きあふ 中村汀女
待ち待ちしただ二時間の花火の夜 山口誓子
待つ気ややゆるびし隙の花火鳴る 岡本眸
復路なきみちを花火の馳せのぼる 上田五千石 田園
思ふほど飛ばぬ小花火涼み舟 百合山羽公 樂土
恋神の化粧箱すぎ冬花火 角川源義
恙なく玉になりしよ釣花火 正岡子規 花火
患者らの横臥すままの遠花火 石田波郷
想出は花火の空をふりかぶる 橋本多佳子
意表に出し冬の花火を瞳にしまふ 三橋鷹女
戸あくれば上らずなりし花火かな 内藤鳴雪
手に触れし草の湿りや大花火 桂信子 花影
打ち揚げし人をはなるる花火かな 右城暮石 散歩圏
招魂祭皮膚に埃降り花火降る 三橋敏雄
提燈で分け行く花火大群衆 山口誓子
揚花火杉の木の間に散らばれり 中村汀女
揚花火消えしはさらにはかなきかな 伊丹三樹彦
揚花火芯を囲める菊花弁 山口誓子
揚花火闇に浮く山恋ひにけり 及川貞 夕焼
揺れ昇りゐし尾はいづこ大花火 林翔
撒水形の花火や夜天青むかに 香西照雄 素心
故郷ありねずみ花火の地べたあり 百合山羽公 樂土以後
敬老の日とは別途の昼花火 百合山羽公 樂土
旅ごころ消ゆる花火に追ひすがる 大野林火 冬雁 昭和二十二年
旅なるを貨物列車に花火散りて 金子兜太
旅なれぬ妻率てひらく花火の下 能村登四郎
旅後の幾夜家にをり遠花火 能村登四郎
旅衣花火を揚ぐる門司の空 中村汀女
早打や花火の空は艶まさり 中村汀女
星はおち月はくたくる花火哉 正岡子規 花火
星はきへ月はくたくる花火哉 正岡子規 花火
春の峡霧へ花火を打ちてし止まん 金子兜太
春は曙花火打ち揚ぐ三河人 金子兜太
昼からの花火湖畔の秋祭 高浜年尾
昼寝よく足らひ花火の夜がくる 波多野爽波 鋪道の花
昼花火おろかにあがる蓮咲けり 富安風生
昼花火古巣にひびき日短し 飯田龍太
昼花火天の裂目にひびきわたる 山口誓子
昼花火昔は梨も丸かじり 百合山羽公 寒雁
昼花火空威張して終りけり 藤田湘子 てんてん
昼花火雨窪多き大谷石 中村草田男
晝の花火烟となつてしまひけり 正岡子規 花火
晝花火見えては白しああ銃後 三橋敏雄
晝見れば小旗立てたり花火舟 正岡子規 花火
暁や火串に焦げし草の花 正岡子規 火串
暗き海大きくうねり花火果つ 桂信子 草影
暗く暑く大群集と花火待つ 西東三鬼
暮れきりてまだはじまらぬ花火待つ 清崎敏郎
暮を待つ兄弟の子や釣花火 正岡子規 花火
書斎より見ゆる花火を見てしまふ 稲畑汀子
月の下花火珱珞ぶらさがる 山口誓子
月の御前揚花火爆ぜつづく 山口誓子
月代に消え行く仕掛花火かな 前田普羅 普羅句集
月白や花火のあとの角田川 正岡子規 花火
朝雀爪音花火運動會 三橋敏雄
木にひびき山にこたへて花火かな 正岡子規 花火
木の末に遠くの花火開きけり 正岡子規 花火
木の柿が花火のようでほんに一軒 荻原井泉水
机上大菊の花火揚げておる 荻原井泉水
杉の間にひらく筈なる花火待つ 能村登四郎
枝垂梅花火のごとくほころべり 上村占魚
枝川の暗き流れや遠花火 鈴木真砂女 卯浪
枝川や花火にいそぐ館船 正岡子規 花火
柿の花火入れし窯を間近にす 右城暮石 句集外 昭和十八年
格子戸の鈴が鳴る花火のあがる夕 尾崎放哉 大正時代
桟橋のいよよ突き出て揚花火 鷹羽狩行
梅雨ぐもる夜空の花火大いなる 下村槐太 光背
梅雨明けを待ちきれぬ音揚花火 右城暮石 散歩圏
梅雨晴れず祭の花火天に爆ぜ 相馬遷子 山国
梟や花火のあとの薄曇り 正岡子規 花火
梨畑をいくつも越えて花火見に 細見綾子
梨番に梨の天井昼花火 百合山羽公 寒雁
樹に家にこもる冬至の花火音 飯田龍太
橋開きありて師走の花火かな 河東碧梧桐
死にし人別れし人や遠花火 鈴木真砂女 居待月
残雪に花火のこだまかへり来る 廣瀬直人
母似の幼女見上げ母の日晝花火 三橋敏雄
毬に見え平板に見ゆ揚花火 山口誓子
水の上火龍の走る花火かな 村上鬼城
水摶つて湖さびしうす遠花火 岸田稚魚 筍流し
水飲みに下りし階下や遠花火 橋閒石 橋閒石 雪
江泊の酒尽くほどの花火かな 飯田蛇笏 山廬集
泡立ちて仕掛花火に川熱す 大野林火 雪華 昭和三十七年
泥船の泥の猪首や昼花火 佐藤鬼房
浜木綿をちりぢりこがす花火手に 赤尾兜子 歳華集
浜殿とおぼしき空や昼花火 内藤鳴雪
浜花火見知らぬ人と並び見る 桂信子 草影
浦々の密柑花火といふ眺め 鷹羽狩行
浮寝鳥昼花火音すぐ忘れ 飯田龍太
海の月花火彩どる美しき 河東碧梧桐
海へ低く父亡きあとの花火の円 岸田稚魚 筍流し
海沿ひの津にて花火を揚げをるなり 山口誓子
海花火遠流の島をおもひけり 桂信子 草影
消ゆるとて花火の尖の曲りゆき 右城暮石 句集外 昭和三十年
涼しさや花火ちりこむ水の音 正岡子規 涼し
淋しさや花火のあとを星の飛ぶ 正岡子規 花火
淡交の家のあわいの打揚げ花火 金子兜太
深窓にそだちて愛づる花火かな 飯田蛇笏 霊芝
深窗にそだちて愛づる花火かな 飯田蛇笏 旅ゆく諷詠
湖尻に来てさいはての花火見る 能村登四郎
潮満ちてくるさざなみや遠花火 古舘曹人 樹下石上
瀬波立つ花火日延となりし川 後藤夜半 底紅
火のやうな月の出花火打ち終る 石橋秀野
火の道のばらばらに解け揚花火 山口誓子
火の髪の花火の下は降る落葉 中村苑子
火口湖に貧しき花火揚りけり 阿波野青畝
炎天の花火に故山応へけり 百合山羽公 寒雁
炎天の花火涼夜を約束す 百合山羽公 寒雁
炎帝に照覧花火二三発 百合山羽公 樂土以後
熱さらず遠き花火は遠く咲け 西東三鬼
父の忌の雨の花火の無数かな 岸田稚魚 筍流し
父を踏台の遠花火も終る 鷹羽狩行
物干や薄べり敷て花火見る 正岡子規 花火
犬吠ゆる天に爆ぜたる花火をも 山口誓子
独立祭の花火山越しあふぎけり 松崎鉄之介
王氏歌ふ招魂祭の花火鳴れば 西東三鬼
瓢大西瓜大これ花火玉 百合山羽公 樂土以後
生身魂ねずみ花火も好まるる 百合山羽公 樂土以後
畦塗にどこかの町の昼花火 相馬遷子 山国
病人の早寝頭上に花火爆ぜ 山口誓子
病床にとどく花火は秋まつり 百合山羽公 樂土以後
病院の屋上に出て花火見る 岸田稚魚 紅葉山
白雲木花火揚つて牛の臭い 金子兜太
百千の反り身に惑ふ海の花火 中村苑子
盆の墓に花火をあげて島原は 岡井省二 前後
盛んなる花火を傘に橋往き来 深見けん二
眸の高さを出ぬ花火へ蟇と向ふ 三橋鷹女
眼をほそめこけしも見るや遠花火 山口青邨
石は昼の温さで花火待ちあぐむ 津田清子 礼拝
石段にとはにしやがみて花火せよ 渡邊白泉
神童あり空には花火殻がある 金子兜太
祭夜々青き花火の開ききゆる 高屋窓秋
秋山に映りて消えし花火かな 杉田久女
移り住めば靖国も近し昼花火 村山故郷
稻妻の遠くに光る花火哉 正岡子規 稲妻
稿つぐや林火忌に聞く遠花火 松崎鉄之介
空明り変りどうしの花火かな 高浜年尾
空高み嵐して花火消やすき 正岡子規 花火
童話読むことも看とりや遠花火 及川貞 夕焼
糊こはきシャツ着て花火見にゆける 細見綾子
納涼花火見んとて父と立ち並ぶ 渡邊白泉
紙花火売るは静かに美しく 後藤夜半 底紅
縁日広場ねずみ花火に泣き出す子 佐藤鬼房
群集のためよろよろと花火昇る 西東三鬼
腕時計見て花火揚ぐ川開き 右城暮石 句集外 昭和五十二年
舟に寐て我にふりかゝる花火哉 正岡子規 花火
船着の花火にうかぶ旅籠あり 水原秋櫻子 餘生
花のごと花火ひらくや黴の中 加藤秋邨
花八手けふを花火のごとく咲け 上田五千石『琥珀』補遺
花火あがる夜のよろこばしくへさきのほそし 中川一碧樓
花火あげすもも祭を囃すなり 細見綾子
花火あげて開く間を心落付ず 正岡子規 花火
花火あと川のうねりの大きく冴ゆ 大野林火 冬青集 雨夜抄
花火があがる空の方が町だよ 尾崎放哉 小豆島時代
花火があがる音のたび開いてゐる 尾崎放哉 小浜時代
花火して時雨の雲のうつり哉 正岡子規 時雨
花火して頭うごめく橋の上 正岡子規 花火
花火ちる四階五階のともし哉 正岡子規 花火
花火とほき露店の前にかがむかな 大野林火 海門 昭和七年以前
花火など揚つてゐるや花の雨 山口青邨
花火にて荒れし空雁鳴きわたる 山口誓子
花火の下黒き頭あまたうごめける 桂信子「草影」以後
花火の夜暗くやさしき肌づかひ 三橋敏雄
花火の夜椅子折りたたみゐし男 三橋敏雄
花火の尾流れつつなほ風に青し 大野林火 海門 昭和十三年
花火の棒赤く地に挿しキャンプ去る 秋元不死男
花火の音近き夕雪駄ならし行く 尾崎放哉 大正時代
花火はて一湾の灯の秋めけり 角川源義
花火ひらき餅の厚みの恋人たち 橋閒石 荒栲
花火またうつろひ青と金まじる 篠原梵 年々去来の花 中空
花火やみ夜空に生れし罅多数 能村登四郎
花火やむあとは露けき夜也けり 正岡子規 花火
花火ゆたかに買う北国の墓参道 橋閒石 卯
花火上るいちじくの木の向ふなり 細見綾子
花火上るどこか何かに応へゐて 細見綾子 雉子
花火仕掛けあり常のごと河原暮れ 津田清子 礼拝
花火会城の樹木が障るなり 津田清子 礼拝
花火会果ててそのまま外寝浜 山口誓子
花火咲き凍天に悲の台なす 佐藤鬼房
花火嗅ぎ父を嗅ぎ勝つ今夜かな 三橋敏雄
花火垂る夜の泉が声あげて 小林康治 玄霜
花火尽きうしろすがたもなくなりぬ 篠原梵 年々去来の花 中空
花火屑おしろい花に掃き寄せて 細見綾子
花火師が村中を馳せ 彼岸花 伊丹三樹彦
花火師と人に知られず天高し 平畑静塔
花火師に早や狎れし子等蹤き廻る 右城暮石 上下
花火師の旅してゐたり曼珠沙華 加藤秋邨
花火師の男盛りに惚れにけり 松本たかし
花火師の麦藁帽のあちこちす 中村汀女
花火店居並び夜毎給水車 三橋鷹女
花火待つ人のうしろに加はりぬ 篠原梵 年々去来の花 皿
花火待つ花火の闇に脚突き挿し 三橋鷹女
花火待つ話相手はギリシヤ人 高野素十
花火打ちて彼ら顔出す春の霧 金子兜太
花火打ち上げて祭の潮青し 右城暮石 句集外 昭和二十五年
花火描一どきに死ぬ寺のなか 飯島晴子
花火揚がりゐてどこまでも平たき地 橋閒石 朱明
花火揚りウイルヘルム大王の帽浮む 山口青邨
花火揚る冬を頭上に感じつつ 廣瀬直人 帰路
花火果て大河一瞬黒き帯 桂信子「草影」以後
花火果て星は夜空をとり戻し 鈴木真砂女 紫木蓮
花火果て流れは音をとり戻し 波多野爽波 鋪道の花
花火殻嗅ぐ凶荒の少年期 佐藤鬼房
花火殻落ちくる泥の曳船に 佐藤鬼房
花火毎に戸隠闇空赤く青く 中村草田男
花火消え元の闇ではなくなりし 稲畑汀子
花火滅亡す七星ひややかに 西東三鬼
花火爆ず爆ぜし花火の消えぬうち 右城暮石 上下
花火百雷天も正気の天ならず 百合山羽公 寒雁
花火筒透く仮のわが時間内 佐藤鬼房
花火終へ港のぐるり燈が残る 山口誓子
花火聞く机上の夜の天地かな 三橋敏雄
花火舟櫓音ときめき遡る 日野草城
花火裂けクレーンの裾の一家族 小林康治 玄霜
花火見てただくたびれて戻るなり 細見綾子
花火見て一時間後に眠り落つ 山口誓子
花火見て帰路のわびしさつのるかな 松崎鉄之介
花火見にゆく約束に念押さる 細見綾子
花火見に出払ひし家のあかるき燈 松崎鉄之介
花火見の人現はれし葎かな 岸田稚魚
花火見の彼の幇間も老いしかな 松本たかし
花火見や風情こごみて舟の妻 飯田蛇笏 山廬集
花火見や風情こゞみて舟の妻 飯田蛇笏 霊芝
花火見る母も老いたり我も老い 清崎敏郎
花火見る茣蓙の上なる一家族 細見綾子
花火見る袖のうるほふ園の闇 飯田蛇笏 家郷の霧
花火追ふ花火よ月はほそぼそと 林翔
花火連打秋晴を午後に保たむと 上田五千石『田園』補遺
花火野郎火除けと被る浄め塩 松崎鉄之介
花火雨とふる内股をほめかしめ 橋閒石 風景
芽柳や光彩もなき昼花火 日野草城
茜雲架け海上に花火待つ 原裕 青垣
萩薄一ツになりて花火散る 正岡子規 萩
萬人の聲に散り來る花火哉 正岡子規 花火
萬人の聲に散り落つ花火哉 正岡子規 花火
落ちてくる花火の殻に水あかり 飯田龍太
落つかぬ晝の花火や人心 正岡子規 花火
薄闇に人待つごとく花火待つ 鈴木真砂女 紫木蓮
蚕まつりや冬木に裂く夜の花火 角川源義
蜘蛛の子が散れり花火の開く如 相生垣瓜人 負暄
螢火も花火も見ざる餘生かな 相生垣瓜人 負暄
蟇あるく昼の花火の音なく消え 加藤秋邨
製糸廃れ花火の空地ばかりある 木村蕪城 寒泉
西風に火の流れたる花火哉 正岡子規 花火
試射音につづく花火のほろ苦し 岸田稚魚 負け犬
読本に隠されし顔遠花火 平畑静塔
警察の舟も漕ぎ行く花火哉 正岡子規 花火
警察の舟も繋ぐや花火舟 正岡子規 花火
赤彦の住みしは遠し昼花火 松崎鉄之介
足利市隈なき花火蚊が太し 平畑静塔
踏み花火仕掛けて子等のはしやげり 右城暮石 散歩圏
軽子職なし炎天仰ぐ遠花火 小林康治 玄霜
逢ひに行く母ゐて花火揚りけり 星野麥丘人
逸れとびし花火に病者拍手して 右城暮石 句集外 昭和四十一年
遅月の出て終りたる花火かな 日野草城
遊女屋の子と仲たがひ春休み 佐藤鬼房
遊船の舳に艫に芒花火かな 河東碧梧桐
運動会天気固めの花火鳴る 百合山羽公 樂土
運動会甲賀も伊賀も花火鳴る 百合山羽公 樂土
道見えて闇上り行く花火哉 正岡子規 花火
遠き闇終の花火と知らで待つ 野澤節子 未明音
遠星の揺がぬ中に花火揚る 野澤節子 未明音
遠空に花火の浪費なほつづく 山口誓子
遠花火いきいきとして夜の鉄路 大野林火 冬雁 昭和二十二年
遠花火いくつの中に音なきも 能村登四郎
遠花火この家を出でし姉妹 阿波野青畝
遠花火さびしき夜は寝てしまふ 村山故郷
遠花火しづかな杜にさへぎらる 山口誓子
遠花火つれの一人は女なる 上村占魚 鮎
遠花火ときをり塔を映し出す 能村登四郎
遠花火とりすがれるは冬布団 石橋秀野
遠花火わが愁ひには遠き人か 中村苑子
遠花火二つ三つ見て寝返りぬ 石田波郷
遠花火唄はわが上ならぬかな 石田波郷
遠花火夜の髪梳きて長崎に 橋本多佳子
遠花火寂寥水のごとくなり 富安風生
遠花火我は煙草火投げ上げて 右城暮石 上下
遠花火波郷寝ねしか森の蔭 村山故郷
遠花火立居目立たぬひとと居り 桂信子 花影
遠花火終るとみえて矢つぎばや 橋閒石 微光
遠花火色あやまたず水流る 岸田稚魚 筍流し
遠花火見えては低しひびかずや 三橋敏雄
遠花火音して何もなかりけり 河東碧梧桐
郷の花火心のぬるるおもひにて 飯田蛇笏 椿花集
金策に脚早め居り花火の夜 伊丹三樹彦
金魚玉とほき花火は雲に消え 大野林火 海門 昭和十二年
金龍のだらりと消えし花火かな 川端茅舎
釣花火又唐松かな薄哉 正岡子規 花火
長崎の暗き橋ゆき遠花火 橋本多佳子
開きたる海へ花火の落下物 百合山羽公 寒雁
開きたる花火の下の波頭 上野泰
開くとき光りぬ冬の昼花火 中村草田男
開の中つぎの花火の火が来てゐる 山口誓子
閑けさや花火消えたるあとの星 日野草城
闇がなほ濃き闇つくる花火後 能村登四郎
雨いまだ遠き花火を消すに足らぬ 野澤節子 未明音
雨の花火終りいそげり喪服脱ぐ 岸田稚魚 筍流し
雨の花火終始弱気に燈を摶つ蛾 上田五千石『田園』補遺
雨雲に入りては開く花火かな 正岡子規 花火
雨雲の中へ打ちこむ花火かな 正岡子規 花火
霜の夜の花火七彩きのこ雲 角川源義
霧に鳴る富士の花火の遠こだま 金子兜太
霧の中しまひ花火のつづけざま 清崎敏郎
青で終る赤で始りたる花火 後藤比奈夫
青天のざらつく花火買ひにけり 波多野爽波
青沼へ音かたぶきて昼花火 西東三鬼
静かなる尾を曳くばかり遠花火 高浜年尾
音として花火愉しみ寝につけり 上田五千石『田園』補遺
音もなし松の梢の遠花火 正岡子規 花火
顔の前花火拡大されて散る 山口誓子
風吹てかたよる空の花火哉 正岡子規 花火
颱風も経たる祭の花火玉 百合山羽公 寒雁
飄々と西へ吹かるゝ花火かな 村上鬼城
飛機の灯を花火の輪より引きいだす 岡本眸
飲食や掛け古びある晝の花火 三橋敏雄
餅花を花火ちらしに加賀の国 鷹羽狩行
駅毎に花火揚がりて汽車のろし 上田五千石『田園』補遺
駅路やうしろほめきに宵花火 飯田蛇笏 山廬集
魚のまぶたの山ひだに浮く冬の花火 金子兜太
鯉の口見えてどこかの花火かな 加藤秋邨
鳥飛んで日の落際の花火哉 正岡子規 花火
黒き川花火の夜を流れずに 平畑静塔

◆折り紙◆

むらさきの折紙ひらくごと桔梗 石川星水女
寒波来るまづ折紙を三角に 湯舟富子
耳袋して折紙に夢中なり 池本光子
実桜や折紙細工の本が形見 中村草田男
折り紙のはじめななめに春浅し 辻美奈子
折り紙のピアノかたむく花ぐもり 大高 翔
折り紙の鬼折り溜むる菜種梅雨 平川常廼
折紙となる前は紙春疾風 山根 真矢
折紙のあやめ菖蒲に走り梅雨 松村 晋
折紙のにわとりに午後あるごとし 宇多喜代子
折紙の蛙跳ばして夕立晴 清水節子
折紙の金銀の舟クリスマス 済木深起子
折紙の鼓鳴りそな春の宵 白井米子 『青浄土』
折紙の国から赤い蝉生まる 佐田和江
折紙の順番狂う万愚節 大和智恵子
折紙の色を畳めば雪降れり 島田碩子
折紙の雀鳴きだす 若葉雨 谷村きみ江
折紙の折目正してゆび夜寒 上田五千石『琥珀』補遺
折紙の鶴の処分にまた困る 池田澄子
折紙の如く春著を畳みをり 上野泰
折紙の裏から濡れて植田水 磯貝碧蹄館
折紙を置きたる如く落椿 上野泰 佐介
冬の蝿静止折り紙のだまし舟 濱島仁子



◆歌留多◆


うばはれし紺の裏おく歌留多かな 皆吉爽雨
うんすん歌留多一枚足りぬ蔵の中 宮部鱒太
おはこまで人に取られて歌留多の夜 清水忠彦
お手つきに恋の歌留多を繰り返す 稲畑汀子
こころにもあらでながらへ歌留多読む 上田五千石 琥珀
しのぶ恋こがるる恋や歌留多よむ 杉山 喜代子
そのかみの恋のはじめの歌留多かな 細川加賀 『玉虫』以後
そのはしに婢もとれる歌留多かな 五十嵐播水 播水句集
たはやすく恋歌揃へ歌留多とり 辻桃子
とられたくなし歌留多眼にて押へ 不二子
ひらかなの散らかつてゐる歌留多会 後藤立夫
むべ山の札よごれゐる歌留多かな 高橋淡路女 梶の葉
一枚の歌留多の砂に埋れんと 波多野爽波 『一筆』
亡き母の羽織を借りし歌留多かな 岩田由美 夏安
傘寿の師音吐朗々歌留多読む 富樫八千枝
刀自の読む咳まじりなり歌留多とる 皆吉爽雨
初釜の座を改めて歌留多とる 宇野 氷露子
塩田のとある一戸によむ歌留多 佐野まもる 海郷
妻病みて父子の歌留多の倦み易し 奥野曼荼羅
婢の手にとられたる歌留多かな 山口波津女 良人
学校に畳の間ある歌留多かな 森田峠 逆瀬川
座設けや歌留多の蓋の浮きあがり 森田峠
恋の札撫切りにとる歌留多かな 能村研三 鷹の木
恋歌の老によろしき歌留多かな 森澄雄
恋歌はその声をして歌留多読む 森田公司
招かれて隣に更けし歌留多哉 夏目漱石 明治三十二年
掌が飛んで来るなり歌留多取 高澤良一 宿好
掌に歌留多の硬さ歌留多切る 後藤比奈夫
日本の仮名美しき歌留多かな 比奈夫
月の暈かかる歌留多の夜に入りぬ 山田弘子 懐
欝々と歌留多の裏の曇る夜や 久米正雄 返り花
歌留多すむ今宵の月のありどころ 永田青嵐
歌留多ちらばり今さら蔵書とぼしさよ 草田男
歌留多とるいつよりかみな年下に 渡邊千枝子
歌留多とる哀れみぢかき女帝の世 駒木逸歩
歌留多とる声や門前過ぐるとき 岸風三樓
歌留多とる忘れたはずの恋心 片山暁子
歌留多とる皆美しく負けまじく 高浜虚子(1874-1959)
歌留多の灯一途に老いし母のため 山田みづえ
歌留多の絵小町は老いずありにけり 後藤夜半 底紅
歌留多の釈迦坊主揃ひや涅槃講 九石 選集「板東太郎」
歌留多会廊下の冷えてゐたりけり 岡本眸
歌留多会散らばる仮名と戦へり 小西宏子
歌留多会老一徹に狙ふ札 下村ひろし 西陲集
歌留多会青き畳の匂ひけり 山口波津女
歌留多取りみかども恋も跳ねとばす 柏原眠雨
歌留多取る昔の速さ手に戻り 明石春潮子
歌留多屋の後家を引出す四分の熱 仁平勝 東京物語
歌留多撥ね白粉の香にほはせっ 正林白牛
歌留多歌老いて肯ふ恋あまた 殿村菟絲子
歌留多読む声のありけり谷戸の月 松本たかし
歌留多読む恋はをみなのいのちにて 野見山朱鳥
歌留多読む息づき若き兄の妻 占魚
歌留多読む明治の祖母の節まはし 下山宏子
水を得た魚のやうに歌留多とる 高岡すみ子
沖休み立て膝海女の歌留多かな 下谷行人
炉塞ぎの伊呂波歌留多は遠くなり 宮崎重作
熊笹にあかりのおよぶ歌留多かな 正木ゆう子 静かな水
片恋の歌留多に負けてしまひけり 鈴木真砂女
病女たちはげしく歌留多奪ひあふ 萩原麦草 麦嵐
罎詰の梨は冷たき歌留多会 久米正雄 返り花
胼の手も交りて歌留多賑はへり 杉田久女
花歌留多むかし男は啖呵きり 石田阿畏子
虚子歌留多ひろげ作りし人偲ぶ 安原葉
負歌留多さみしう笑みて立ちにけり 河野静雲 閻魔
雪晴や歌留多の袖をひるがへし 岩田由美 夏安
二三回とりてなじめり歌がるた 山口波津女 良人
城山を雪ふりかくす歌がるた 大橋櫻坡子 雨月
恋は子のものとなりにし歌がるた 矢島久栄
撥ねとばす一枚恋の歌がるた 加古宗也
業平と小町の並ぶ歌がるた 下村梅子
歌がるた一枚失せて年を経ぬ 大橋櫻坡子 雨月
歌がるた眼鏡ばかりや西の組 蘇山人俳句集 羅蘇山人
歌がるた覚えて恋の苦を知らず 上田五子石
法師出て嫌はるゝなり歌がるた 阿波野青畝
祖母のもの遠き昔の歌がるた 高木晴子 晴居
若き日の母われ知れり歌がるた 山口波津女 良人
茸狩や鼻のさきなる歌がるた 榎本其角
読み札のいちまいを欠く歌がるた 伊藤白潮

歌留多 補遺

お手つきに恋のかるたを繰り返す 稲畑汀子
かるたして帰る雨夜や最合傘 内藤鳴雪
かるたとる手がすばしこく美しく 高浜年尾
かるた切るうしろ菊の香しんと澄み 飯田龍太
かるた取り天下分け目に固唾呑む 阿波野青畝
こころにもあらでながらへ歌留多読む 上田五千石 琥珀
こぼれたるかるたの歌の見えしかな 後藤夜半 翠黛
こぼれゐし歌留多順徳院の歌 阿波野青畝
たらちめの手ずれの歌留多読みにけり 阿波野青畝
だんだんに歌留多減りくる膝頭 後藤比奈夫
ならべゆき心とめゆく歌留多かな 阿波野青畝
みそかごと大音声に歌かるた 鷹羽狩行
わが膝の前の歌留多も一過客 後藤比奈夫
カルタの灯乳霧窗になごむ夜を 飯田蛇笏 雪峡
カルタ切るふもと雪解の雉うたれ 橋閒石 風景
一年生らしく加留多をとりにけり 上野泰 春潮
一年生らしく歌留多をとりにけり 上野泰
一枚の歌留多の砂に埋れんと 波多野爽波
一茶まで俳聖とせし歌留多かな 後藤比奈夫
乾くとも濡るるともいひ歌留多読む 後藤比奈夫
二つ三つ歌も覚えて歌留多かな 村上鬼城
二日雪となりし燈下にカルタ並ぶ 大野林火 早桃 太白集
人麻呂の哥を首の歌留多かな 山口青邨
住吉に嬬ごめなりしかるたかな 阿波野青畝
佳きひとの声音まぢかや歌かるた 桂信子「草影」以後
凧を飾りて子等籠りとるかるたかな 杉田久女
厚化粧かくす頬疵歌かるた 山口青邨
古風なる筥にねむれる歌留多かな 阿波野青畝
声といふ美しきもの歌留多読む 後藤比奈夫
奥の方幾間距てしかるたかな 尾崎放哉 大学時代
妹の目も我が目も歌留多撫でゆけり 阿波野青畝
子ら作る歌留多まの字はママの事 上野泰
子を負ふてかるた貼り居る燈籠哉 正岡子規 燈籠
張りつめてをりしは空気歌留多取る 後藤比奈夫
恋やみなかりそめならぬ歌かるた 上田五千石 琥珀
恋よりも旅に焦がるる歌留多かな 後藤比奈夫
情緒にて歌留多を取れと云ひをれり 相生垣瓜人 負暄
掌に歌留多の硬さ歌留多切る 後藤比奈夫
日本の仮名美しき歌留多かな 後藤比奈夫
朗々と百人一首誦しけり 村山故郷
桐箱にかるたの月日をさめあり 稲畑汀子
歌かるたよみつぎてゆく読み減らしゆく 橋本多佳子
歌かるた人知れずこそ恋ひにけり 村山故郷
歌かるた女ばかりの夜は更けぬ 正岡子規 歌留多
歌かるた戀ならなくに胴氣哉 正岡子規 歌留多
歌かるた昔むかしの母の恋 鷹羽狩行
歌かるた知らぬ女と竝びけり 正岡子規 歌留多
歌かるた読み人かへてとりにけり 村上鬼城
歌留多とる膝の大きく向ひけり 稲畑汀子
歌留多の絵小町は老いずありにけり 後藤夜半 底紅
歌留多会廊下の冷えてゐたりけり 岡本眸
歌留多取化粧崩れも顧みず 日野草城
歌留多取粉雪ふるとはよも知らじ 日野草城
歌留多夫人に孔雀といふ名奉る 日野草城
歌留多散らばり今さら蔵書とぼしさよ 中村草田男
歌留多読む恋はをみなのいのちにて 野見山朱鳥 運命
歌留多読む息づき若き兄の妻 上村占魚
決着のつきたる恋のかるたかな 阿波野青畝
源平や恋のかるたは駆け回る 阿波野青畝
生国の越に歌なき歌留多とる 上田五千石 天路
百人に百の致命や捨歌留多 斎藤玄 狩眼
相ともに昔恋しきかるたかな 高浜年尾
粛として閨中の灯や花かるた 飯田蛇笏 霊芝
粧ふは百人一首の小倉山 清崎敏郎
羞らへどとても歌留多の妖手にて 日野草城
老の艶こゑに出にける歌かるた 森澄雄
胼の手も交りて歌留多賑へり 杉田久女
膝に手を重ね歌留多のとれる子よ 後藤比奈夫
花かるた夜々のおもゝち愁ひあり 飯田蛇笏 霊芝
若死の母のかるたの世をおもふ 阿波野青畝
落椿小倉百人一首散る 百合山羽公 樂土
落飾の娘まじへてかるた会 阿波野青畝
蓬莱の一間明るし歌かるた 正岡子規 歌留多
虚子の棒かるたの犬の知らざりし 後藤比奈夫
蝉丸がいぢめられたる歌留多かな 阿波野青畝
裾模様かるたぢらしの春著の妓 高浜年尾
読みびとにあくび出でたる歌留多かな 森澄雄
負けまじと張る眦や加留多とる 上野泰 春潮
賑やかな骨牌(カルタ)の裏面のさみしい繪 富澤赤黄男
遣羽子や夕飯くふて歌かるた 正岡子規 遣羽根
野球帽被て来て歌留多負けられず 後藤比奈夫
雲隠れかるたは孫の小股座 百合山羽公 樂土以後
髪長き世よりの歌をかるた取り 鷹羽狩行
鼻高き清少納言歌カルタ 有馬朗人 知命

歌留多 続補遺

麦蒔やかるたを捌く手のひねり 桃隣
風むすぶ星はいづれの哥かるた 早野巴人
虚の位をかり催す日かるた哉 支考
石鰈やかるた伏せたる遠干潟 琴風
疱瘡したる顔をならべてかるた哉 〔ブン〕村
手いつぱいいすのかるたやつゝじ山 許六
夏草に臑でかるたをそろへけり 其角
住かえて春待宿やかるた箱 馬場存義
かさゝぎの橋や絵入の百人一首 許六


◆双六◆

雙六や盧生の夢のふりあがり 双六 正岡子規
雙六のどこへころげて樂まん 双六 正岡子規
野ざらしの月日を渡る絵双六 工藤富貴
遠き世の双六の雲母零れけり 高橋睦郎
道中双六後や先なる君と我 渡辺波空
道中双六いそがぬ旅のひとり哉 籾山梓月
賽子が火星に届く絵双六 友永佳津朗
賽の目の仮の運命よ絵双六
負け役の父呼びに来る絵双六 鷹羽狩行
草摺りの絵双六古り蔵古りて 谷津妙子
花双六さくら一枝に上りけり 山田みづえ
膝の上をすべる袂や絵双六 佐久間澄水
老い二人双六におどけ冬籠 山田みづえ
絵双六雪の匂ひのする夜なり すずきりつこ
絵双六死にはぐれたる生活かも 古賀まり子 緑の野
絵双六兄嫁一に上がりけり 山田みづえ
絵双六人生戻ることできず 宇咲冬男
絵双六みどりは松と決まりけり 秋山幹生
絵の破片あり双六のたたみあり 上野泰 春潮
素飛びに川越えにけり絵双六 関戸靖子
笊に入れて置く双六の蜜柑かな 長谷川かな女
祖母の世の裏打ちしたる絵双六
畳みゆく双六世界虹と失せ 上野泰 春潮
生きて今宵妻子の前に絵双六 目迫秩父
生きて今妻子の前に絵双六 目迫秩父
死が上り一休禅師の絵双六 石河義介
橋渡り廓を抜けて絵双六 伊藤とし子
日本のちちははあそぶ絵双六 脇本星浪
摩り切れしところが上がり絵双六 小林武子
振り出しへ戻りて遠し絵双六 山口幻花
振り出しに戻るこはさの絵双六 七田谷まりうす
怪獣に撃たれ振出し絵双六 今村夏子
忘れゐしものの一つの絵双六 石川桂郎 四温
年忘れ人生双六しばし止む 百合山羽公
年寄りてたのしみ顔や絵双六 飯田蛇笏 山廬集
少年我へお下髪垂れきし絵双六 中村草田男
孫と行く世界一周絵双六 大貫松子
子供等に双六まけて老の春
子に負けてやる双六のむづかしく 嶋田一歩
大津から程むつかしや絵双六 野村喜舟
四さへある双六の采振らばやな 相生垣瓜人
四さへある双六の賽振らばやな 相生垣瓜人 明治草抄
吾子等はやくはしきかなや絵双六 中村汀女
君追うて越せぬ大井や絵双六 吉武月二郎句集
古き世の絵双六見て年忘れ 成瀬正とし 星月夜
双六を上りて餅を焼く羽目に 田川蘭子
双六をひろげて淋し賽一つ 久保田万太郎 草の丈
双六をしてゐるごとし世はたのし 国弘賢治
双六をあがりたる手で猫掴む 大石雄鬼
双六や額あつめて筒井筒 安井小洒
双六や歩いてをりし能登の国 斉藤美規
双六や押立槍の早上り 西山泊雲
双六や恋の修羅場を逃げてばかり 鈴木栄子
双六や屑目平凡にわが娘 日野草城
双六や大人ばかりが残りたる 内田美紗 魚眼石
双六や二三の駅に富士見ゆる 広田寒山
双六や一夜に消ゆるこころざし 江頭 信子
双六やわが名ひとの名打重ね 野村喜舟 小石川
双六も市井雑事も同じこと
双六めく盲暦を読初に 野澤節子 黄 炎
双六の関所越せねば船路かな 六本和子
双六の長崎出島より発ちぬ 岡部六弥太
双六の都にちかしふる暦
双六の近江の国を引き返す 林佑子
双六の賽転がりて袖の上 山口波津女
双六の賽掌に暖め家長の座 保知券二郎
双六の賽振り奥の細道へ 水原秋櫻子
双六の賽の禍福のまろぶかな 久保田万太郎
双六の賽の一と振り倉敷へ 小林鱒一
双六の賽に雪の気かよひけり 久保田万太郎
双六の賽ころがりて袖の上 山口波津女
双六の賽ころがしてかへしけり 上野泰
双六の賽が目をむきとまりけり 上野泰 春潮
双六の花鳥こぼるる畳かな 橋本鶏二
双六の芭蕉に迅き曾良の脚 大類つとむ
双六の絵図に残りし昭和かな 赤井よしを
双六の絵にも越ゆべき幾山河 江川虹村
双六の正しき折目敷き展べし 島田みつ子
双六の橋の真上に波あがる 角川春樹
双六の振出しのまづ花ざかり 後藤比奈夫
双六の振出しといふ初心あり 後藤比奈夫
双六の折り目正しき国境 宮下恵美子
双六の戻りて大井川越せず 池田秀水
双六の忍者の伊賀を一跳びに 下村ひろし
双六の彦根あたりの齢かな 渡辺 純
双六の川止めに遭ひ茶を淹るる 下村ひろし
双六の山河畳んでありしかな 大石悦子
双六の小夜の中山越えにけり 柴田行太
双六の六部に逢ん宇都の山
双六の入口で手を洗ひけり 石川利夫
双六の京をめざせば川止に 宇田川八江子
双六の五十三次晴れつづき 柴崎富子
双六の二回休みといふ難所 山内山彦
双六の中の人生にも負けて 大槻右城
双六の上り大臣関白に 下田喜代
双六の上り大文字山が待つ 下村ひろし 西陲集
双六の上りは月の世界かな 椎名みすず
双六の上りの賽は掌中に 石原君代
双六の上りて仲間はづれめく 檜紀代
双六の三島に春の日は暮れぬ 春日 正岡子規
双六のわが道中の永かりき 辻田克巳
双六のもつと面白かつた筈 吉沼等外
双六のなかなか果てず雪降り来 辻桃子
双六のとびたる賽にみんなの眼 藤本朱竹
双六のさいを堰きたる折目かな 松野加寿女
双六のごとふり出しに戻れたら 吉田彩
双六のごとく大津に戻りをり 鈴木鷹夫
双六に負けておとなしく美しく 高浜虚子
双六に負けし子母の膝の上 小坂優美子
双六に負けおとなしく美しく
双六に気のなき賽を父振りし 森澄雄
双六に折りかけ垣や梅の花 立花北枝
双六に折かけ垣や梅の花
双六にピーナツの皮零れけり 岡田かげお
双六にいれてもらへず父は立つ 鷹羽狩行
出世して上る双六ふと貧し 後藤比奈夫
写楽の目ぎりぎり寄つて絵双六 紅露ゆき子
写楽の目ぎりぎり寄って絵双六 紅露ゆき子
六ツ目出て宇宙へ行けり絵双六 江藤安司
先急ぎしてをり老いの絵双六 鈴木清
何遍も生まれ変つて絵双六 吉村玲子
伊都や奴や倭や狗奴国や絵双六 中戸川朝人 尋声
伊賀越えて金の洛(みやこ)に絵双六 大屋達治 絵詞
仲見世の昼の灯あはし絵双六 古賀まり子
仲見世の屋の灯あはし絵双六 古賀まり子
今は誰も触れず文篋の絵双六 足立敏子
人生の双六上がり菊薫る 仲川記代
人の世の様描かれて絵双六 高浜虚子
人の世に振出しありぬ絵双六 冨田みのる
下駄を履く双六はやく上がり過ぎ 伊藤白潮
上方は近くて遠し絵双六 斎藤 翆
三道を進むや軍の絵双六 広田寒山
三春発つて江戸を上がりの絵双六 宮津昭彦
三が出て伊勢に三泊り絵双六 北村雪山
万両や配流の戸に古双六 古舘曹人 樹下石上
一番に上りてさみし絵双六 内田美紗 浦島草
一振りで越ゆ双六の箱根山 大石悦子 聞香
わが過去の双六に似て行き戻り 伊東 白楊
むかし菓子といふは固きよ絵双六 金久美智子
ふるさとの山の姿や絵双六 寺山修司 未刊行初期作品
ふりかへす双六の目や梅の花 会津八一
ひと振りの賽に破産や絵双六 久保田育代
ばり~と附録双六ひろげけり 日野草城
ばりばりと附録双六ひろげけり 日野草城
ちちははの愉しき山を絵双六 関戸靖子
してみたくなきもの浄土絵双六 後藤比奈夫 めんない千鳥

絵双六 補遺

してみたくなきもの浄土絵双六 後藤比奈夫
ぱり~と附録双六ひろげゝり 日野草城
一と思ふ双六の賽一と出づ 上野泰
万両や配流の戸に古双六 古舘曹人 樹下石上
出世して上る双六ふと貧し 後藤比奈夫
双六に折かけ垣や梅の花 北枝
双六に負けまじとして末子かな 上野泰
双六のまた振出しへ戻る父 鷹羽狩行
双六の一がよく憑く不思議かな 阿波野青畝
双六の三島に春の日は暮れぬ 正岡子規 春日
双六の京をめぐりて日の暮るる 後藤比奈夫
双六の六部に逢ん宇都の山 建部巣兆
双六の折目が峠又峠 阿波野青畝
双六の振出しで乗る人力車 後藤比奈夫
双六の振出しといふ初心あり 後藤比奈夫
双六の振出しのまづ花ざかり 後藤比奈夫
双六の母に客来てばかりをり 加藤秋邨
双六の民話の神と仏かな 後藤比奈夫
双六の賽が目をむきとまりけり 上野泰 春潮
双六の賽ころがしてかへしけり 上野泰 春潮
双六の道中川止めまぬかれたり 上田五千石『琥珀』補遺
双六の都にちかしふる暦 完来
双六の高雄の紅葉比叡の雪 後藤比奈夫
双六や二浪三浪おもしろき 阿波野青畝
双六や眉目平凡にわが娘 日野草城
双六を好めど碌に出世せず 阿波野青畝
双六を目がけて五指のひらくとき 阿波野青畝
双六岳越え来し小鳥岨に鳴く 水原秋櫻子 緑雲
双六道中二日休みの大井川 上田五千石『琥珀』補遺
吾子等はやくはしきかなや絵双六 中村汀女
呉春の画賎しからざる絵双六 後藤比奈夫
四さへある双六の賽振らばやな 相生垣瓜人 明治草抄
少年われへお下髪垂れきし絵双六 中村草田男
年寄りてたのしみ顔や絵双六 飯田蛇笏 山廬集
年忘れ人生双六しばし止む 百合山羽公 寒雁
忘れゐしものの一つの絵双六 石川桂郎 四温
版元のありたる頃の絵双六 後藤比奈夫
畳みゆく双六世界虹と失せ 上野泰 春潮
絵の破片あり双六のたたみあり 上野泰 春潮
絵双六にもほつほつと平成語 後藤比奈夫
絵双六由比蒲原は日の高き 後藤比奈夫
絵双六茅の輪をくぐり御田も植う 後藤比奈夫
老い二人双六におどけ冬籠 山田みづえ 忘
草の家の屏風に張れり絵双六 尾崎放哉 大学時代
言ふことを聞く賽の目や絵双六 阿波野青畝
負け役の父呼びに来る絵双六 鷹羽狩行
逃げ腰のなほ勝ちつづく絵双六 鷹羽狩行
雙六のどこへころげて樂まん 正岡子規 双六
雙六や盧生の夢のふりあがり 正岡子規 双六
雪や牡丹や双六の旅終りけり 橋閒石 卯

◆独楽 ◆

あばれ独楽わが足元にきて止まる 柊 愁生
あばれ独楽力抜きつつ澄みにけり 大森井栖女
いさぎよく負けをみとめて叩き独楽 三田きえ子
いつまでもとまらぬ独楽が哀しくて 内藤吐天 鳴海抄
いもうとの夢に幼し木の実独楽 佐野美智
おのが影ふりはなさんとあばれ独楽 上村占魚 球磨
お囃子の練習の間の木の実独楽 吉原文音
かしぎつゝ独楽の金輪の摶ちあへる 百合山羽公
くらがりの唸り独楽なる金亀子 石塚友二 光塵
ころんでばかり泣き虫独楽は遊ばれぬ 栗林千津
そのころの独楽の抽斗ありにけり 宮坂静生 春の鹿
たとふれば独楽のはじける如くなり 高浜虚子(碧梧桐とはよく親しみよく争ひたり)
つくるよりはや愛憎の木の実独楽 橋本多佳子
つららの囲独楽澄むように老女いる 渋谷道
てのひらにまだ負独楽の熱ありき 荻原都美子
てのひらの独楽山川を引離す 松浦力
とある漁港に廻り澄む独楽一つ 友岡子郷 日の径
どうじやこの独楽の唸りの心地よき 小川恭生
どんぐり独楽いで湯の宿の卓に澄める 横山房子
はし汚れたる新しき独楽の紐 後藤夜半 底紅
はじめから山へ傾き木の実独楽 山崎聰
はやされてまだまだ廻る木の実独楽 松田美子
ひとしきりふるへて独楽の廻り出す 山本一歩
ひとり子は父忘れめや木の実独楽 及川貞 榧の實
ひとり独楽まはす暮色の芯にゐて 上田五千石
ひと死にて慰問袋の独楽まひ澄む 片山桃史 北方兵團
ふところに勝独楽のあり畦を跳ぶ 神蔵器
べい独楽や佃の路地の行き止り 宮下邦夫
ぼんやりと独楽に乗りたる別れかな 渡辺誠一郎
まてがしの独楽の廻らず倒れけり 副島いみ子
まはされて傷の消えたる喧嘩独楽 若井新一
まはらねば倒るる独楽のさみしさよ 竹谷ただし
むかし祖母廻し呉れたる木の実独楽 飯田 波津恵
ゆき雲におとの弾ける叩き独楽 角川春樹 夢殿
りんりんと独楽は勝負に行く途中 櫂未知子 蒙古斑
わらんべの身を擲つて独楽打てる 藤岡筑邨
カイゼルの髭が近づき独楽を売る 山田弘子 こぶし坂以後
スケートの少女独楽なす円舞曲 西山青篁
ファミコンに疲れし子等に木の実独楽 初川トミ子
ベい独楽のおどけがましう廻りけり 星野麦人
一つだけ回らぬ独楽や転校生 橋本いづみ
一夜経て虫吐きにけり木の実独楽 山田みづえ 木語
一点を探り当てたる独楽の芯 渡部節郎
一片の雲ときそへる独楽の澄ミ 木下夕爾
一芸に優れてまはす木の実独楽 杉若 多美
万緑や木独楽はげしき静を享く 柚木 紀子
五彩独楽喧嘩忘れて飾らるる 河野頼人
仏塔は凍天の独楽影引きて 古舘曹人 能登の蛙
仲直りはいつも兄より独楽回す 頓宮れい
佐紀の子ら独楽打ち合せ麗らなり 水内 鬼灯
倒れては足投げいだす怒り独楽 平井照敏
倒れては遠逃げすなり木の実独楽 皆吉爽雨
倒れんと独楽のへらへら笑ひ出す 中川指月
傷にまた傷を重ねて独楽の胴 戸恒東人
元日の縁に伸びをり独楽の糸 久米正雄 返り花
児とけふの隙間埋むる木の実独楽 馬場移公子
児に巻いて貰ひし独楽を回しけり 樋笠文
全身で回れる独楽のしづかかな 林 たかし
出囃子に江戸独楽走る紐さばき 池森 昭子
加賀殿と名付けてよりのあばれ独楽 宮田勝
勝ち独楽のまだまだ競ふ力あり 冨所冬女
勝独楽と決りぐらりと倒れけり 川村紫陽
勝独楽のなほ猛れるを手に掬ふ 福田蓼汀
勝独楽のぶれながら時稼ぎをり 中村節子
勝独楽のまだ余力あるひかりかな 福田甲子雄
勝独楽の余力掬へる掌 新家豊子
勝独楽の倒るるまでを見おろせり 五十嵐研三
勝独楽の創いたはるや掌 小野恵美子
勝独楽の勢ひを手でおさへこむ 大堀柊花
勝独楽の大いなる輪を一描き 上村占魚 球磨
勝独楽の廻り尽きたる彩を見す 池田秀水
勝独楽の木の実は右のポケツトに 佐土井智津子
勝独楽の澄みたる彩となりにけり 道川虹洋
勝独楽の澄みのきはみの鉄の心 栗生純夫 科野路
勝独楽の胴震ひ手に掬ひけり 和田幸江
勝独楽の鐺磨がれてにほふ鉄 栗生純夫 科野路
勝独楽は愛しも徐々に彩もどる 小賀野恵
勝独楽は派手なジャケツの子供かな 上野 泰
勝独楽も負独楽もなき倒れ独楽 畠山 弘
勝独楽も遠嶺も肩をあげにけり 大嶽青児
勝独楽や傷もみごとに廻りつつ 中島 久子
勝独楽を掌に移しなほ余力あり 川村敏夫
北風や独楽買ふ銭を固く掌に 永井龍男
十六夜の子が目のかたい独楽まはし 林原耒井 蜩
古き良き世をゆっくりと独楽廻る 武田和郎
叩きつけられたる独楽のまはりけり 久保田万太郎 流寓抄
吾子病めりこれやこゝなる独楽童子 石塚友二 光塵
唸り独楽唸る東西南北に 後藤比奈夫 めんない千鳥
唸り独楽少年の目のひたすらに 水原 春郎
喧嘩独楽うらにし磯を走り抜け 猿橋統流子
喧嘩独楽叱咤せしにはやさしかり 北見さとる
喧嘩独楽地球にすこしかすり傷 萩原陽美
喧嘩独楽火花発しておとろふる 加藤憲曠
喧嘩独楽紐に秘訣の脂を塗る 中村たゞし
回らねば仲間失う団栗独楽 保尾胖子
回転の末期酔ひどれ独楽となる 山下美典
団栗独楽椎の実十とかへ事しよ 尾崎紅葉
土凍てて闘ふ独楽の走り癖 内藤吐天 鳴海抄
夕不二やひとりの独楽を打ち昏れて 加倉井秋を
夜は音のはげしき川や木の実独楽 桂信子
大山独楽いそいそと夫購ひぬ 渡辺恭子
大木に負独楽の子の凭れをり 上野泰 春潮
子の独楽を撥ねてゆるがぬ父の独楽 渡部重子
子等の瞳に澄む一点の命独楽 栗林千津
孫の手にどんぐり独楽の良く回はず 森岡 恵女
家出する家なし紐もその独楽も 塩見 恵介
富士山の此処らも裾野独楽廻る 嶋田一歩
小さき独楽殺気帯びゆく海暮れゆき 柴田白葉女 牡 丹
少年のこぶしが張れる独楽の紐 長谷川かな女 花 季
少年の舐めては巻ける独楽の紐 齋藤朗笛
山にまた雲あふれゐて木の実独楽 友岡子郷 翌
山の子が独楽をつくるよ冬が来る 橋本多佳子
山越えて風のはためき喧嘩独楽 鍵和田[ゆう]子 浮標
左利き一人混れり独楽の円 文挟夫佐恵 雨 月
幕間や五色の独楽を買初に 千手和子
廻り冴ゆる独楽や絶えざる澪・轍 成田千空 地霊
廻るうち確かな独楽となりゆけり 前田隆子
弥陀の前童子独楽打つ富貴の里 松本 進
強き独楽もつとも汚れゐたるなり 小西瑞穂
彎曲の砂洲半身に独楽まわる 対馬康子 愛国
心棒のつっぱって独楽ただよえる 宇多喜代子
恙やゝありて廻りし木の実独楽 高垣かず子
息抜けば子の独楽がまづ倒るべし 加藤秋邨 吹越
悪しき日も子の抛つ独楽は薔薇色に 石寒太 あるき神
悪童も素直にまじり木の実独楽 関根東鳳
愉しくてもの言はぬ日の木の実独楽 大石悦子 群萌
憮然たり独楽の崩れの秒刻み 河野南畦 湖の森
我れの影独楽のくづれに慕はるる 河野南畦 湖の森
手のくぼに重さうしなひ独楽まはる 篠原梵 雨
打たれたる独楽の弾みて立ちにけり 坂井建
打ちてより口に咥へて独楽の紐 加古宗也
打ちに打つ腕白の独楽まだ澄めり 安田杜峰 『蛍草』
打ち込みし左利きなる喧嘩独楽 松村筺花
抛てる独楽雀躍とまはりけり 鈴木貞雄
拾得の独楽に無数の創のあと 樋笠文
掌に独楽の回転移りたる 豊田淳応
掌中に珠のひかりや木の実独楽 近藤一鴻
揺らめきのおのれを正し独楽澄めり 新井秋芳
放られし独楽の立ちたる氷かな 石田勝彦 秋興
敗け独楽に故郷の日暮れ来てゐたり 山内佗助
斑鳩の子等は木の実の独楽まはす 有馬朗人
新しき独楽に添寝をせしことも あかぎ倦鳥
新世紀まはる地球で独楽はじく 安井常人
日の先へ先へ発止と独楽を打つ 山田みづえ
日を散らし独楽の崩れの秒刻み 河野南畦 湖の森
春星の悲願廻れる発光独楽 宮武寒々 朱卓
時間停まるときが僕の死独楽放つ 田川飛旅子 『使徒の眼』
暑き地を打ったり独楽を打たんとし 川口重美
暮れてゆくひとつの独楽を打ちにうつ 橋本多佳子
朝の地べたにはねかへる団栗独楽です 人間を彫る 大橋裸木
木の実独楽この子も人に頼らざれ 林翔
木の実独楽ころげ第一反抗期 皿井芳子
木の実独楽すぐつまらなくなりにけり 小林廣芝
木の実独楽それも袴の穿かせあり 後藤夜半 底紅
木の実独楽つくるに父の手をかしぬ 上村占魚 球磨
木の実独楽ひとり子故に離しけり 影島智子 『田神』
木の実独楽ややに多感の膝頭 大石悦子 聞香
木の実独楽マッチの脛を見せて孤独 細谷源二
木の実独楽三つつくりて嫌になる 加倉井秋を 午後の窓
木の実独楽三人の子に三つ作る 関 成美
木の実独楽人生傾斜して廻る 吉田未灰
木の実独楽倒れる前ののゝ字書く 工藤いはほ
木の実独楽兄貴ふたりは征きしまま 下鉢清子
木の実独楽力尽きては実にかへる 山本 牧秋
木の実独楽去年の一つが強かりき 中山 允晴
木の実独楽夜は弾みつつ夫と在りぬ 大石悦子 群萌
木の実独楽子離れてふ語夫になし 中山フジ江 『富士南』
木の実独楽幼の指に応へざる 松尾緑富
木の実独楽廻してみたき仏足石 太田土男
木の実独楽廻り澄むことなかりけり 成瀬正とし
木の実独楽廻り続ける部屋を出る 上野龍子
木の実独楽影を正して回りけり 安住敦
木の実独楽故郷の匂ひして廻る 笹瀬節子
木の実独楽智恵うすき子に友のなし 成瀬桜桃子 風色
木の実独楽父子の会話のまた弾む 斎藤ひろし
木の実独楽狂つて止まり懐疑続出 細谷源二
木の実独楽老眼鏡を飛び出せる 鈴木鷹夫 風の祭
木の実独楽自転に力尽しをり 小川立冬
木の実独楽芯さだまりて澄みにけり 畑佐白城子
木の実独楽触れて弾けて孤にあらず 鈴木 榮子
木の実独楽造れり孫等遠くあり 高橋利雄
木の実独楽遠く住む子へまはしけり 高橋悦男
木地独楽のまだ彩もたぬ雁渡し 野見山ひふみ
枯園の一点光り独楽舞へり 内藤吐天 鳴海抄
枯野の中独楽宙とんで掌に戻る 西東三鬼
梅雨空や独楽屋の独楽のみな横倒れ 細谷源二
母の亡き故の上手か独楽童子 大橋敦子 手 鞠
気にかかること今日はなし独楽日和 鈴木栄子
気負ふものより弾かれて木の実独楽 檜紀代
泣かせたる方が弟木の実独楽 泉浄宝
泣癖をこらへて廻す木の実独楽 高橋 好温
海の音山に鳴る日の独楽澄める 山根仙花
滅多打ちされたる独楽の立ち直る 松井義和
澄みきつて独楽の廻れり冬日和 田中冬二 俳句拾遺
澄み澄みて息長彦や木の実独楽 大石悦子 聞香
火の独楽を廻して椿瀬を流れ 野見山朱鳥
無住寺の独楽傷古りし著莪の花 浜田みずき 『石蕗の花』
父と子とおとがひ同じ独楽まはし 秋山 蔦
父と子の手心もなき喧嘩独楽 市川 玲子
牛小屋の牛に見られて独楽を打つ 大串章
独楽あそぶ子らを見る一の酉すみて 梅林句屑 喜谷六花
独楽うつやなかに見知らぬ子がひとり 村上しゅら
独楽きそふ子がゐて壬生の袋路地 茂里正治
独楽きそふ子に塀越しの父病めり 目迫秩父
独楽とあそぶ壁に大きな影おいて 橋本多佳子
独楽として闘志生れし木の実かな 山内山彦
独楽となる木の実の器量ありにけり 辻口静夫
独楽とまるとき廻転に執着し 河野南畦 『風の岬』
独楽にまでうつる右利き左利き 竹中碧水史
独楽によき団栗ひろふ賢治の忌 角谷昌子
独楽に巻くなみだの紐のはてしなき 澁谷道
独楽の子に唾がくすりのかすり傷 下村ひろし 西陲集
独楽の子に糸まだしろき日中かな 島谷征良
独楽の子に陸前の海渚なき 富安風生
独楽の子の口笛うまくなりにけり 関口謙太
独楽の子の眉間はつしと夕日さす 内藤吐天 鳴海抄
独楽の子をたしなめ羽子の子をかばふ 富安風生
独楽の日や枯れざる竹の中に臥す 石川桂郎 含羞
独楽の精尽きて松籟ごうごうと 内藤吐天 鳴海抄
独楽の精尽きんとす土昏みけり 近藤一鴻
独楽の紐よりも白朮の縄やさし 後藤比奈夫
独楽の紐三椏の木に掛けてあり 山西雅子
独楽の紐子等はゆつくり巻いてゐる 山口誓子
独楽の紐帰りは父の指巻く紐 加倉井秋を
独楽の紐独楽を離れて空を切る 住友和子
独楽の紐締むるに唇を一文字 山田弘子 螢川
独楽の紐蛇の如くに伸び縮む 真山 尹
独楽の緒をもて地を叱咤独楽叱咤 上野 泰
独楽の緒を好みに染めし反抗期 辻 牛歩
独楽の芯坐り少年ふるさとなし 山本つぼみ
独楽の軸やゝ傾くを佳しとせり 池田守一
独楽の辺の猫の白腹また睡し 中拓夫 愛鷹
独楽は回ることが幸せ回らねば 鈴木栄子
独楽まはしひとりとなりし山家かな 赤尾兜子
独楽まはす道の童に梅の影 中村秋晴
独楽まはす間の童心をとゞめおり 吉田恵一
独楽まはり澄めば鉄輪の光り出づ 篠原梵 雨
独楽もたぬ子も来て跼む石だたみ 石崎静女
独楽を回してやるときしゅっと巻きおこる火のような風を子はよろこべり 渡辺松男
独楽を打つモスク広場の大理石 山田弘子 こぶし坂以後
独楽二つながなが回り相触れず 宇多喜代子
独楽二つぶつかり離れ落葉中 星野立子
独楽二つ相打ちゐしが寄り添へる 黒川友子
独楽喧嘩ひとりは耳を患へる 菅原鬨也
独楽回りして立てる子はシャワー浴ぶ 岩崎照子
独楽回りゐて土一色とはいへず 鷹羽狩行
独楽回るその危うさを囃されて 船平晩秋
独楽売りの独楽を廻して老いしかな 樺島八重子
独楽宙に紐の呪縛をはなれたる 平松三平
独楽崩れゆくとき森の泉見ゆ 久保田月鈴子
独楽崩れ己れの脚を投げゐたる 河野南畦 湖の森
独楽工房木の香のたちて涼新た 新井悠二
独楽廻す子に路地裏の川ひかる 中村文彦
独楽廻す少年地球廻しけり 脇本星浪
独楽廻る小さき寒気まきちらし 松本美紗子
独楽廻る青葉の地上妻は産みに 金子兜太「少年」
独楽強しまた新しき色を生み 橋本榮治 逆旅
独楽打ちの子も見ず正月二日かな 小原菁々子
独楽打つて夕日に紐を垂らしたる 大串章
独楽抱いて帰る白壁が痛い 村上雅子
独楽摶つや跳びわかれしが凍テに澄む 原田種茅 径
独楽木地師小屋へ雪虫の橋懸 石川桂郎 高蘆
独楽止り美しき独楽息づける 三好潤子
独楽澄みてやがて静かにとまりたる 榛葉明彦
独楽澄みて夕満月をのぼらしむ 村上しゆら
独楽澄みて日はかがやかに真上なり 山野邊としを
独楽澄むや山空たゞにうすみどり 村田翠雨
独楽澄めば山川風土ひかりあり 佐々木有風
独楽澄めり戦争知らぬ少年に 菅原さだを
独楽疾し行く日来る日の血まみれに 吉田未灰
独楽童子ふところに手をあたためつ 黒川 龍吾
独楽競ふ子がゐて壬生の袋路地 茂里正治
独楽競ふ子に境内の暮色かな 坂口麻呂
独楽買へば木守の柚子か*もぎ呉るる 石川桂郎 高蘆
独楽飛ぶや棒のごとくに紐走り 河野南畦 『試走車』
独楽鳴るや殺気は手より背後より 河野 薫
生も死もひとり舞台や独楽の芯 西川織子
男の子は独楽を手に取り凧を手にとり 阿部みどり女 笹鳴
発光独楽購ふ春泥を後戻り 宮武寒々 朱卓
白き紐たれて手にあり独楽澄める 佐々木郷盛
白馬から飛び下りて騎士独楽廻す 脇本星浪
直前に最も乱れ独楽止まる 花谷清
石坂の継目にをどる勢ひ独楽 朝倉和江
神棚に彩なき独楽や木地師宿 塩原佐和子
秋天に傾きめぐる独楽があり 平井照敏 天上大風
空気引きしぼりて独楽の廻り澄む 嶋田一歩
筒袖の藍匂ひけり独楽遊び 榎本好宏
糸ゆふや里の祭の独楽まわし 陽炎 正岡子規
紐の先舐めて手強き喧嘩独楽 白井新一
紺青の海ひき寄せて独楽回し 鷹羽狩行
絵タイルの独楽まはり出す油照 高橋悦男
総身に傷持つ独楽の舞ひ澄める 井関しげる
縄跳びと独楽廻す子と風花と 永井龍男
翻訳の辞書に遊ばす木の実独楽 角谷昌子
肥後独楽や清正公のみそなはす 磯貝碧蹄館
肥後独楽を打つ少年のまなじりよ 宮部鱒太
自棄酒の呑めぬ拙なさ木の実独楽 文挟夫佐恵 遠い橋
舞ひ澄みて独楽一色になりにけり 上島としえ
芯太き大山独楽を買初に 北澤瑞史
若き父初独楽廻しそこねけり 瀬野美和子 『毛馬堤』
菩提子の独楽おろそかに廻しけり 後藤夜半 底紅
蕪村忌の土堤の日だまり独楽打てり 田中英子
藁へ飛び藁巻きこめる喧嘩独楽 小原啄葉
虹になき色を持ちたる独楽まわす 対馬康子 純情
虹の上独楽廻りじりりじりり虹が消え 高柳重信
街燈の独楽の子北風に連れ去られ 石原八束 空の渚
西国に人の死にたる独楽あそび 田沼文雄
負けん気が過ぎて場外木の実独楽 井上 匡
負けん気の零す涙や独楽の紐 林 八重子
負け嫌ひなる末の子の独楽を打つ 上野泰
負け独楽へ天地傾きはじめたり 瀬戸美代子
負け独楽を愛し勝独楽に目もくれず 富安風生
負け独楽を手に眠らせて帰りけり 森川緑衣
負け癖のつきたる独楽を休めけり 安田 晃子
負独楽に唾くれて紐まきはじむ 佐藤南山寺
負独楽のこつんとかなし空を見て 中尾杏子
負独楽は手で拭き息をかけて寝る 加藤楸邨
負独楽を愛し勝独楽に目もくれず 富安風生
貧しきにあらず椎の実独楽澄めり 石川桂郎 四温
買ひし独楽腰手拭にくくり帰る 羽部洞然
赤き独楽まはり澄みたる落葉かな 立子
赤黄黒まはり澄んだる独楽が好き 上村占魚 鮎
躓きを勢に転じ木の実独楽 村越化石
轆轤見の寒気の泪独楽化粧ふ 石川桂郎 高蘆
逆さ独楽ひよろりふらりと逆立ちぬ 後藤比奈夫 めんない千鳥
逢坂の関の古る道独楽打てる 梅原黄鶴子
道問はむ子らのうしろに独楽目守りつ 原田種茅 径
陸に来てあばれ独楽打つ艀の子 町田しげき
青い目の少女勝ちぬき独楽まはる 柳沢たみ子
頭うちふつて肥後独楽たふれけり 上村占魚 鮎
風浪や貝独楽に賭けたる子の黒眼 柴田白葉女
風音はとほくへ誘ふ木の実独楽 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
飾られて土といふもの知らぬ独楽 田中春生
麻痺の児が笑ってくれた木の実独楽 石井樹氷
人生ゲームのコマのやうなり花八つ手 小林貴子
風待ちのコマの狂いを霧がつゝむ 穴井太 土語

◆凧◆

あがりきて忍坂の凧峰をちかみ 山口誓子
あがりつくうれしさを凧きれてけり 凧 正岡子規
あたま撫でられつつ凧をあげてゐし 京極杞陽 くくたち下巻
あまり凧の尾の長すぎしをかしさに二人 中塚一碧樓
あやまちて正月の凧踏みしかな 小川千賀
ありたけの糸のばしたり凧 石井露月
ありつたけ凧糸伸べて後顧なし 内藤吐天 鳴海抄
ある時はすねて落ちけり凧 凧 正岡子規
いきものは凧からのびてくる糸か 鴇田智哉
いと小さき凧のあがれる恵方道 岩城佳州
うちまじり葬送凧もあがりけり 銀漢 吉岡禅寺洞
うっとりと落ちゆくことも凧 藺草慶子
うつとりと落ちゆくことも凧 蘭草 慶子
うなりなき凧空蝉の破れかな 安藤十歩老
うなり凧天上にあり軒菖蒲 和田 祥子
うまや路や松のはろかに狂ひ凧 芝不器男
かかり凧おねしよの兄の拗ねてゐる 文挟夫佐恵 遠い橋
かかり凧奴は骨となつてけり 正岡子規
かかり凧暮光が閉ざす沖の島 角川源義
かくばかりたぐりためけり凧の糸 野村喜舟 小石川
かの童まだ遠凧につながれる 林翔 和紙
かはたれの風の加曽利の懸り凧 萩原季葉
からからの天より凧が墜落す 庄中健吉
かゝり凧今日も暮れゆく梢かな 高橋淡路女 梶の葉
かゝり凧奴は骨となつてけり 凧 正岡子規
きさらざのめんくらひ凧あげにけり 久保田万太郎 草の丈
きら~と天日に凧近づけり 及川貞
きれ凧に主なき須磨の夕べかな 蓼太
きれ凧の川渡り行く嵐哉 凧 正岡子規
きれ凧の広野の中に落ちにけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
きれ凧の糸かかりけり梅の枝 尾崎放哉
きれ凧や糸くひとむる鬼瓦 凧 正岡子規
くさぐさの待春の荷に豆凧も 茂里正治 『春日』
くれなゐの骨肉裂けて懸り凧 野見山朱鳥
けふの空助六よりも奴凧 後藤比奈夫 めんない千鳥
けむらひて堰を水落つ凧の下 石川桂郎 含羞
げんげ田のどこかがかげり凧揚る 菖蒲あや あ や
こどもの日祝ぎて凧あぐ利根の風 田中あき穂
この木また凧搦めとる不思議の木 辻田克巳
こやりゐる窓にあふるゝ凧となりぬ 林原耒井 蜩
こやる窓初日生れぬ凧群れぬ 林原耒井 蜩
しばし風受けつ梢のかゝり凧 凧 正岡子規
そこらから江戸が見えるか奴凧 正岡子規
ちぎれ凧吹きとび牛の目まばたく 加藤楸邨
ちさい子の走りてあがる凧 河東碧梧桐
ちら~と凧見えそめぬ花の雲 島村はじめ
つなぎ凧どんどん地球が軽くなる 宮川としを
なほのぼる意のある凧のとどめられ 野澤節子 黄 瀬
ばらもんの凧天草の風に乗り 中山あさ子
ばらもん凧うなり鬼岳夏立てり 野川釈子 『苗』
ぱちんこに大凧切れてしまひけり 正岡子規
ひき寄する空の青さや凧の糸 朝倉和江
ひとつだけ下りては来ない奴凧 堂本ヒロ子
ひとり子と風と凧との遊びをり 成瀬正とし 星月夜
ひとり子のひとりあそびの凧やぶれ 成瀬正とし 星月夜
ふるさとの海へ出たがる狂ひ凧 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
まだ先に霞める凧もありにけり 吉武月二郎句集
まだ遊び足りない凧を引き下ろす 合田旅渓
まだ風を知らぬ武者絵の飾り凧 山下美典
みささぎの空ゆるされし奴凧 太田 昌子
みづうみに月光を容れ懸凧 菅原鬨也
もてあます大凧つひに父の手に 朝倉和江
やつこ凧も枯原の青空にゐる シヤツと雑草 栗林一石路
やはらかき凧の骨格引き降す 櫻井博道
やぶいりのまたいで過ぎぬ凧の糸 蕪村
よく晴れて凧くれなゐや二月空 高橋淡路女 梶の葉
よく見れば昼の月あり凧 凧 正岡子規
りんりんと凧上りけり青田原 小林一茶
わかの浦に来てうち跼む凧日和 梅史
わが凧の赤地に龍の一字かな 野村喜舟
わが声の五十となりぬ凧(いかのぼり) 藤田湘子
われとあり天を知らざるわが凧よ 橋本多佳子
アメリカ史や泡だつ凧に身をかたむけ 竹中宏 句集未収録
アンヂエラス・ベル鳴り出でて凧おろす 内藤吐天 鳴海抄
オリオンの息やいづこも凧落ちて 今井 聖
ペダル漕ぐ大凧になるかも知れぬ 高木暢夫
ポップコーン匂い凧の尾ひらひらす 酒井雪子
リン~と凧上りけり青田原 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
一人子の凧揚りけり麦の秋 麦秋 正岡子規
一天に座の定まりし凧の数 清崎敏郎
一家出て空ほがらかに凧上がる 杉山加代
一月の小学校の懸り凧 下田稔
一点に凧止まりて恍惚と 平松荻雨
上りながらひら~落ちぬ小凧の尾 長谷川かな女 雨 月
上昇の揺れを大きく奴凧 池田秀水
上賀茂の神の庭なるかかり凧 中 火臣
中空にとどまる凧も夕陽浴ぶ 桂信子 黄 炎
中空のふと色うせて狂ひ凧 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
二の午の風の粗さや納め凧 伊藤いと子
二子玉川凧凧 小林 貴子
二村の凧集まりし河原かな 凧 正岡子規
人の子の凧あげて居る我は旅 子規句集 虚子・碧梧桐選
人の親凧を跨で通りけり 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
人もなし野中の杭の凧 正岡子規
人間天皇空に凧が上っています 内田南草
今様の凧上りけり小食小屋 一茶
伸びきつてひかりとなりし凧の糸 長田等
住吉に凧揚げゐたる処女はも 誓子
信濃路の田植過けり凧 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
傾城の門まで出たり凧 凧 正岡子規
元日の昼たけてあり凧二つ 森潮
兄いもとひとつの凧をあげにけり 安住敦
兄欲しや弟欲しや凧を買ふ 成瀬正とし 星月夜
先頭が揺れ連凧の竜尾揺る 石井いさお
公園にからみあってる夫婦凧 亀山佐助
公魚の連凧めきて釣れにけり 花岡美恵子
兵の子の凧天にあり日落つるに 細谷源二 鐵
兵の子の凧蒼天へ糸張れり 細谷源二 鐵
再びせぬこの渡り凧も鳴る空や 河東碧梧桐
冬晴や鳶がちかづく奴凧 稲葉房枝
冴え返る空灰色に凧一つ 会津八一
凍えたる指のしびれや凧の絲 凍る 正岡子規
凧(いかのぼり)なにもて死なむあがるべし 中村苑子
凧(いかのぼり)遂に風向きとらえたる 高澤良一 寒暑
凧あがり少年の日の山河あり 倉田青
凧あがり戦前戦後町変らず 福田蓼汀
凧あがる唐人墓のほとりかな 銀漢 吉岡禅寺洞
凧あがる空の弾力妻妊る 石井康久
凧あがる衣笠山の日表に 野村泊月
凧あがれあがれ遂げ得ぬことばかり 林 翔
凧あくる子守女や御院田 凧 正岡子規
凧あぐる子もなき蜑の村を過ぐ 清崎敏郎
凧あぐる風にこぼすやいも(疱瘡)麻疹 白良 芭蕉庵小文庫
凧あげてかれはきりすと教徒なり 阿部完市 軽のやまめ
凧あげて子供もいつしよに風になる 岩崎邦彦
凧あげて空の深井を汲むごとし 福永耕二
凧あげて鳶にさからう伊勢童 八木三日女 赤い地図
凧あげにゆく子と逢ひぬ町の中 高橋淡路女 梶の葉
凧あげの原や秩父嶺あきらかに 貞
凧あげの空や秩父嶺あきらかに 及川貞
凧あげや沖の沖より父の声 高柳重信
凧あげや風大を吹き麦の青 徳永山冬子
凧あげる好い天気自首して泣く 長谷川かな女 花 季
凧あげる子もなし鳥になる子なし 大澤淳基
凧あはれ二つとなればはや競ふ 岡本 眸
凧かけてさびしき夜の柱かな 土朗
凧がぐいぐい昼の屋根からのぼつてきた シヤツと雑草 栗林一石路
凧が凧切りつつ上る冬の海 加藤瑠璃子
凧きのふの空のありどころ 蕪村
凧くるわの空に唸り居り 篠原鳳作
凧さわぐ夕風雲のそゞろなり 凧 正岡子規
凧とぶや僧きて父を失いき 寺田京子 日の鷹
凧と鷺武州あめつちひたとあり 平井さち子 鷹日和
凧なにもて死なむあがるべし 苑子
凧のあたりどころや瘤柳 丈草 芭蕉庵小文庫
凧のかげ夕方かけて読書かな 室生犀星 魚眠洞發句集
凧のぼるひかりの網の目の中を 飯田龍太 山の影
凧の下母が手織の絣欲し 石田波郷
凧の子がきしませてゐる田の氷 内藤吐天 鳴海抄
凧の子に伊吹は雪をかづきたる 岸風三楼 往来
凧の子の恍惚の眼に明日なき潟 能村登四郎 合掌部落
凧の子の海の日の出を呆然と 阿部みどり女
凧の子や仕立おろしの紺絣 高橋淡路女 梶の葉
凧の子を掴まへ帰り夕餉かな 雑草 長谷川零餘子
凧の尾に二日の月のもつれけり 凧 正岡子規
凧の尾に相模の海の波荒ぶ 市川東子房
凧の尾のぞろりと下がりぬ苗代田 佐藤紅緑
凧の尾のちらりと見ゆる朝の彌撒 石寒太 あるき神
凧の尾のながながしきを誇りとす 高澤良一 寒暑
凧の尾の屋根をはなるゝうれしさよ 凧 正岡子規
凧の尾の我家はなるゝうれしさよ 高井几董
凧の尾の筑波の山をはなれけり 凧 正岡子規
凧の尾の籬を辷り落ちにけり 鈴木貞雄
凧の尾の色紙川に吹かれけり 室生犀星 魚眠洞發句集
凧の尾の荒縄太き闘志かな 菖蒲あや
凧の尾の見えずなりたる空うつろ 石橋秀野
凧の尾をつかまんとする弟哉 凧 正岡子規
凧の尾を咥て引や鬼瓦 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
凧の尾を引きずつて行く肉屋の子 川崎展宏
凧の尾を追かけ廻る狗(ゑのこ)哉 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
凧の影失すれば宿る旅安し 青峰集 島田青峰
凧の影校舎の窓が捕へたる 西村和子 夏帽子
凧の影走り現る雪の上 松本たかし
凧の影足もとに来て亭午なる 内藤吐天 鳴海抄
凧の息伝はる糸を引きにけり 門伝史会
凧の果てはチラチラ夜の雪 阿部みどり女
凧の点在電球づくりの父らを地に 磯貝碧蹄館 握手
凧の空あまりに青し身をひきしむ 加倉井秋を 午後の窓
凧の空あり天平の礎石あり 村中美代
凧の空か獄舎(ひとや)の空にとなりたる 中島斌雄
凧の空夕影しのびよりにけり 杉山芳之助
凧の空天城の万二郎つづき 井沢正江 晩蝉
凧の空女は男のために死ぬ 寺田京子
凧の空微塵もなかりふるさとは 林火
凧の空獄舎の空にとなりたる 中島斌男
凧の空置いて帰るは惜まるゝ 稲畑汀子
凧の空見せてしづめり谿部落 河野南畦 『空の貌』
凧の空韋駄天風を残しけり 鈴木頑石
凧の窓シャツが乾いて棹はしる 川口重美
凧の糸たるんで大き山ありぬ 五十崎古郷句集
凧の糸のびるばかりの怖ろしや 岸風三楼
凧の糸ひとすじイタリー大使館 伊藤 清
凧の糸まきつゝはゝをおもふめる 道芝 久保田万太郎
凧の糸まつすぐ伸びて勉強せ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
凧の糸二すぢよぎる伽藍かな 高野素十
凧の糸天駈ける風を指にせる 内藤吐天
凧の糸巻かねば家へ帰られず 尾崎邦水女
凧の糸持たせてもらひ凧傾しぐ 原田種茅
凧の糸濡さじものを潦 仙堂
凧の糸犬駈ける風を指にせる 内藤吐天 鳴海抄
凧の糸見えぬ高さに凧上げる 鈴木皆子
凧の糸過ぎし月日をおもふかな 龍岡晋
凧の糸青天濃くて見えわかぬ 山口誓子 炎晝
凧の紙尾帰路の大工の鋸ひらひら 香西照雄 対話
凧の絲まきつゝはゝをおもふめる 久保田万太郎 草の丈
凧の絵にルオーのキリスト描かばや 山口青邨
凧の絵の蓑着し亀のたたへられ 後藤夜半 底紅
凧の絵の貴妃が見おろす紫禁城 大島民郎
凧の絵も何かあはれや春立てる 百合山羽公 故園
凧の野もややに青草胃の軽さ 友岡子郷 遠方
凧の陣帯屋桝屋ぞ人も知る 田士英
凧の骨刺さりし春の渚かな 中村和弘
凧ばいと売る古町や雪催 石川桂郎 高蘆
凧ひとつうつして暮れぬ水田圃 芝不器男
凧ひとつ凍みて白山遠くせり 昭彦
凧ひとつ延び来て澄めり百花園 水原秋櫻子
凧ひとつ浮ぶ小さな村の上 龍太
凧ひとつ誰にも逢はず石狩野 猪俣千代子 堆 朱
凧ひら~港遊女が母おもふ 松瀬青々
凧また日輪をさへぎりて 中田剛 珠樹以後
凧ゆれてゐる町へ用はなけれども 川島彷徨子 榛の木
凧を子にゆだねて麦を踏みはじむ 佐野美智
凧を張る糸に朝光矢のごとし 原裕 葦牙
凧を手に祖母を埋めに行く子なり 今瀬剛一
凧を揚ぐぺろりぺろりと舌出して 工藤克巳
凧を負ふ樹や露降らし実を降らす 津田清子
凧一つ向ひの村にいつまでも 阿部みどり女 笹鳴
凧一つ揚げて山河を眩しくす 木村敏男
凧一つ貌のごときが冬空に 中村苑子
凧上ぐる太平洋を目の前に 土屋と志
凧上ぐる彼の此の島の秋まつり 佐野まもる 海郷
凧上げし手の傷つきて暮天かな 水巴
凧上げてビルの谷間の校舎かな 啓又
凧上げに手を貸す往診帰りかな 西川 五郎
凧上げの下手も上手も先づ走る 高澤良一 寒暑
凧上げの声はづませて父子なる 土屋みね子
凧上げの子の渚まで一目散 高澤良一 寒暑
凧上げの手応へ残る夜の指 佐久間尚子
凧上げや小石川台の一角に 野村喜舟 小石川
凧上てゆるりとしたる小村哉 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
凧上り塩田古くまた潔し 佐野まもる 海郷
凧上る西陣景気よしとかや 波多野爽波 鋪道の花
凧下りて日も落つ標なき砂丘 吉田 芙水
凧与市が弓の稽古哉 凧 正岡子規
凧二つ相慕ひよる尾と尾かな 柑子句集 籾山柑子
凧二つ相摶つとして澄みにけり 野村喜舟 小石川
凧二三裏の白見す流寓者 香西照雄
凧切れて泣く泣く帰り行く児よ 凧 正岡子規
凧合せ戦はずして鵜ぞわたる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
凧合戦中止となりし凧巨き 山田みづえ 草譜
凧合戦凧に気付の神酒を吹き 児玉 寛幸
凧吹いて島の峠の白薄 和知喜八 同齢
凧唸り孟宗竹の青さゆるみなし 渡邊水巴 富士
凧唸るや険しき風の雲の中 鈴木花蓑句集
凧墜ちてしたたか尾*てい骨を打つ 品川鈴子
凧墜ちて凧の吐いたるごとく糸 望月 周
凧寂し天風地風夕ざりにけり 冬の土宮林菫哉
凧小さく天に停り田の氷 内藤吐天 鳴海抄
凧小さし川の向うの知らぬ町 辻田克巳
凧尾を跳ね上げて唸りけり 鈴木花蓑句集
凧市の地より色顕つ雪催ひ 文挟夫佐恵 遠い橋
凧平衡感覚使ひけり 高澤良一 寒暑
凧引き擦られゆく磧かな 中田剛 珠樹以後
凧張つて蘇へるもの耳朶の色 成田千空 地霊
凧形に裁ちはやく縫いはやく逢う 渋谷道
凧手繰る墓の背後の市街より 澤木欣一
凧抱たなりですや~寝たりけり 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
凧持てをる弟の頭はつはつな 梅林句屑 喜谷六花
凧持て風尋るや御伽の衆 炭 太祇 太祇句選後篇
凧揚がり空に目鼻の生れにけり 杉村凡栽
凧揚がる大海原を借景に 菅原文子
凧揚がる藤原京の風とらへ 田中美月
凧揚ぐるまだ征服の卒業子 下村ひろし 西陲集
凧揚ぐる子等に空あり都府楼址 松尾千代子
凧揚ぐる廃墟の子等のなかをゆく 八木原祐計
凧揚げし手の傷つきて暮天かな 渡辺水巴
凧揚げて天の鼓動を掌に享くる 小田欣一
凧揚げて天狗をたのむ童かな 正岡子規
凧揚げて子には流離のおもひなし 村上喜代子 『雪降れ降れ』
凧揚げて子の水飲むや眼は天に 大熊輝一 土の香
凧揚げて来てしづかなる書斎かな 山口青邨
凧揚げて男の空と思ひけり 辻田克巳
凧揚げて空の深井を汲むごとし 福永耕二
凧揚げのはなしにおのづ身を反らす 村越化石
凧揚げの子らに灯り地安門 原田青児
凧揚げの師は横丁の煎餅屋 工藤克巳
凧揚げの日がな一日沼の荒れ 岩出千代子
凧揚げの焼津より乗る婆子かな 長谷川かな女 雨 月
凧揚げの空あり空に凧のあり 手塚酔月
凧揚げやこゝ一郷の秣原 菅原師竹句集
凧揚げる片手は父の手を掴み 滝 はる江
凧揚げる神さま用事ありますか 山本純子
凧揚の下語らひの藁塚二つ 太田土男
凧揚の父子に波の迫りけり 岡本まち子
凧揺れて東京の屋根の波の上 青峰集 島田青峰
凧日和とは海峡の荒るゝ日よ 松本圭二
凧日和流水湾に押し入りつ 澤田 緑生
凧日和百畳の凧天に在り 竹内瑞芽
凧日和遠州灘に波あがり 菖蒲あや
凧月も出てある三笠山 維駒
凧次第にふえぬ目白台 阿部みどり女
凧母にことづてありにけり 大木あまり 火球
凧澄むや天の香具山低くあり 柊 愁生
凧澄んで運命線のひびき居り 中島斌雄
凧点在天水の減りあきらかに 友岡子郷 遠方
凧狂ふ風の狼藉逃がれ得ず 河野南畦 湖の森
凧白く山嶽を引き絞りけり 大串章
凧白し長閑過ての夕ぐもり 炭 太祇 太祇句選後篇
凧百間の糸を上りけり 河東碧梧桐
凧空見てものはおもはざる 加舎白雄
凧童児去り青麦の丘残す 石塚友二
凧童子一郷の風掌中に 脇本千鶴子 『てんと花』
凧童子去り青麦の丘残す 石塚友二 光塵
凧糸につまづく母を歎く子よ 中村汀女
凧糸に顔よぎらるる遠干潟 鍵和田[ゆう]子 浮標
凧糸ののびるばかりの怖ろしや 岸風三樓
凧糸の五百目綯ひし夜頃かな 塩谷華園
凧糸の白さをもつて地に還る 加倉井秋を 午後の窓
凧糸の白のひとすぢ身より出て 桂信子
凧糸はいま恍惚の抛物線 松山足羽
凧糸もつれ解く野風に立てりけり 八年間『碧梧桐句集八年間』 河東碧梧桐
凧糸を父より継いで 新世紀 橋本昭一
凧絵描く五彩競はす秋燈下 中山フジ江 『富士南』
凧絵畫きし絵の具のまゝに灯りけり 安斎櫻[カイ]子
凧落ちて砂にまみれて冬鴎 対馬康子 吾亦紅
凧見れば東風ばかりでもなかりけり 凧 正岡子規
凧越後国原照る雪に 佐野青陽人 天の川
凧連の引き綱はねてげんげ咲く 久保田大晴
凧遠し家根と枯木と半せり 瀧春一 菜園
凧遠し逢はねばの夢もちつづけ 山本つぼみ
凧鏡が浦ハ真ツ平 凧 正岡子規
凧青葉を出つ入つ哉 一茶 ■寛政七年乙卯(三十三歳)
凧静かなれば糸引く子の座り 向井曽代
凧高うなりて山彦もう答へず 内藤吐天 鳴海抄
凧高くいよいよ涸るる多摩の紺 中島斌男
凧高く揚げたる父を誇りとす 下村福
凧高し少年風をにぎりしめ 島田まつ子
凧高し鏡が浦は真ッ平 子規句集 虚子・碧梧桐選
凧鳴るや昼餉の鱒の油こき 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
出陣の凧凱旋の凧すれちがふ 伊藤いと子
切り結ぶ凧夕映をもたらしぬ 朝倉和江
切れ凧が日のさす山に落ちてゆく 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
切れ凧が身をすぼめゆく冬がすみ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
切れ凧に淋しく暮るゝ広野かな 古白遺稿 藤野古白
切れ凧のなほ頭を立てて流さるる 鷲谷七菜子 雨 月
切れ凧の切れて帰らぬ行へ哉 凧 正岡子規
切れ凧の敵地へ落ちて鳴りやまず 長谷川かな女
切れ凧の残りの糸を巻きにけり 松尾松蘿
切れ凧の糸の見えつゝ落ちにけり 東方日生子
切れ凧やふわりふわりと沖の方 凧 正岡子規
切れ凧や後徳大寺の棟の上 元夢
切れ凧や江越え丘越え麦は青 東洋城千句
切れ凧や道灌山を越えて行く 凧 正岡子規
切れ凧や関の弥太つぺ旅いづこ 水原秋櫻子
切れ凧を沖照りの日が靡く 下村ひろし 西陲集
切れ凧を犬の追行く野道かな 凧 正岡子規
切れ凧を追ひ行く人か野の小道 凧 正岡子規
切凧の敵地へ落ちて鳴りやまず 龍胆 長谷川かな女
切凧の絵をうつぶせに麦の上 温亭句集 篠原温亭
切凧の絵硝子打ちて落ちにけり 小西 藤満
切凧の縋るすべなく漂へる 鈴木貞雄
切凧の落行さきは淡路哉 凧 正岡子規
切凧の行方は光る灘ならむ 下村ひろし
切凧や中国さして飛んで行 凧 正岡子規
切凧や少年土手に躍り出づ 角菁果
切凧や関の弥太つぺ旅いづこ 水原秋櫻子
刈田の烏追いたてて凧あげにくる 栗林一石路
初凧の海を忘れて船にあり 五十嵐播水 埠頭
初凧の礁ぬきんづ新夫婦 原裕 葦牙
初凧の舞天帝を唸らしむ 宮田硯水
初凧やものゝこほらぬ国に住み 鈴木真砂女
初凧や生えしがごとく錨綱 五十嵐播水 埠頭
初富士や舟より上がる武者の凧 吉中愛子
初晴にはやきく凧のうねりかな 吉田冬葉
初東風をうしろにうけて凧 初東風 正岡子規
初空や土佐凧揚がる土佐の空 堀川豊彦
初辰の水を上ぐるや凧の中 増田龍雨 龍雨句集
助六は凧となりても傘挿せる 後藤比奈夫
勝ち凧の骨となりしを捧げゆく 伊藤いと子
勝ち残る綱のひびきや夕焼凧 櫛原希伊子
勝凧になほ敵空にあるかぎり 下村ひろし 西陲集
勝凧も手疵を負ひて下りて来し 小谷まつを
勝凧を掲ぐ陣屋の天井に 大石祐子
北窓に金色の凧あがりけり 橋石 和栲
厨芥車に青空は遠い凧飾る 有働亨 汐路
反古凧のあたりを払つて上りけり 一茶
叡山を下るに大津凧あげる 萩原麦草 麦嵐
古戦場たりし河原の喧嘩凧 阿部恭晃
古稀といふ童心にあり喧嘩凧 延平いくと
右へまた右へと凧のならず者 鷹羽狩行 六花
合戦の父子相討つ凧日和 上野泰子
合戦圈はなれて澄める凧一つ 下村ひろし 西陲集
吉男なき土手に上ればうなづく凧 菖蒲あや
君が代の母の晴着を凧とせむ 攝津幸彦 鹿々集
吾子の凧漸く天にとゞまりし 石井とし夫
唐寺の上にて凧の切り結ぶ 下村ひろし
唖ン坊の虐められ来し凧日和 富田木歩
唸り凧あそぶ筑波を見下ろしに 荒井正隆
喧嘩凧武者震ひして風に乗る 坪谷耕雨
国府跡真白な凧ひきずれる 原田喬
土管の子等一つの凧を声援す 菖蒲あや 路 地
地に下りて凧に魂なかりけり 久保田九品太
地に立つ木離れず鳥も切れ凧も 西東三鬼
城山や少年の凧糸太し 藤岡筑邨
基地の空少し借りもし凧揚げる 坊城 中子
墓原に人りて凧上ぐ吾が子呂と 石田波郷
墓所に下りし鳶見る日凧も遠き空 河東碧梧桐
夏燕故宮広場の凧もまた 加藤耕子
夏赤き凧あげ召集兵の子なり 細谷源二 鐵
夏風邪や津軽凧絵をながめつつ 八木林之介 青霞集
夕ぞらや凧見に出でし酒の酔 加舎白雄
夕まぐれ凧売る家の嵐かな 凧 正岡子規
夕凧ぎて砂丘余熱を徐々に吐く 竹中碧水史
夕凧や坐りて暗き漁夫の母 谷野予志
夕嵐切凧西に飛んで行 凧 正岡子規
夕暮の凧に少年糸捲けり 山口波津女 良人
夕暮や都の空の凧一つ 凧 正岡子規
夕焼て富士あり凧の絲たるみ 岸風三楼 往来
夕焼の輪中の田より凧一つ 近藤一鴻
夕空にぐん~上る凧のあり 高浜虚子
夕空に凧の尾長し風呂を焚く 室積波那女
夕空や日のあたりゐる凧一つ 高野素十
夕雲に凧の行衛の覚束な 蘇山人俳句集 羅蘇山人
夕風の俄に起る凧 凧 正岡子規
夕風や空に日暮るゝ凧一つ 凧 正岡子規
外房の大凧ひびく海の上 橋本榮治 逆旅
多摩の子は葱畑より凧揚ぐる 青邨
多摩の野に多摩の横山がはなつ凧 水原秋櫻子
夢の遠さに凧糸をのばしきる少年 山本つぼみ
夢醒めよ天上大風凧あがる 和田悟朗 法隆寺伝承
大いなる凧の絲目の長さ行く 八木林之介 青霞集
大仏の空や西洋凧(カイト)に眼のありて 鍵和田[ゆう]子 浮標
大凧に搦め取らるる小凧かな 行方克己 知音
大凧に曳かれ火をふくたなごころ 西本一都
大凧に触れ傾ける絵凧かな 星野吉人
大凧に近よる鳶もなかりけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
大凧に魂入るは糸切れてのち 高橋睦郎
大凧のいのち十指にひびきけり 板垣 紫洋
大凧のひとゆらぎして地を離る 有吉桜雲
大凧のもんどり打ちし渚かな 行方克己 知音
大凧のもんどり打つて落ちにけり 池上不二子
大凧のゆさ~来たり五人力 尾崎紅葉
大凧のりんとしてある日暮哉 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
大凧の墜つる一度は立直り 仁尾正文
大凧の天に貼りつき子供の日 大森三保子
大凧の太綱むすぶ去年今年 原裕 正午
大凧の降りたり草の色となる 山田六甲
大凧の魂入るは絲切れてのち 高橋睦郎 稽古飲食
大凧や上げ捨てある亦打山 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
大凧や伽藍の屋根に人の声 正岡子規
大凧や階子に並ぶ庭の隅 凧 正岡子規
大凧をかついで通る漁師かな 松藤夏山 夏山句集
大凧を引き揚ぐ一の太鼓鳴る 浅井仁水
大凧を揚げて野の風使い切る 井上純郎
大凧を積んで自転車押してゆく 今井千鶴子
大凧を見に乗込の川をとぶ 中戸川朝人 星辰
大凧を駅天井に切符買う 対馬康子 吾亦紅
大学の空の碧きに凧ひとつ 山口誓子
大方は海へ上りて島の凧 宮田蕪春
大空の凧に風ある茅花かな 小杉余子 余子句選
大空の淋しき国へ凧 中尾寿美子
大空や相よらんとす凧二つ 高橋淡路女 梶の葉
天に凧地に吾ひとり夕茜 中嶋秀夫
天に凧海苔網洗ひ尽くすまで 林翔 和紙
天に赤き凧その日より母病みき 宮崎光治
天の凧昏るれば男女岐れ路に 本島高弓
天の国遠し遠しと凧 佐久間慧子
天の扉を次々と開け凧真白 秋山素子
天上は春風まかせまなぐ凧 文挟夫佐恵 雨 月
天上大風天狗牛若まなぐ凧 文挟夫佐恵 雨 月
天帝に打たれし凧か急落下 西宮 舞
天梯の如く連凧揚りけり 平松三平
天界のこと伝へてよ天の凧 浜端順子
天界の大凧五月の風の色 芝岡友衛
天界の果てより凧の引く力 足立幸信
天知らぬ凧を揚げむと野に抱き来 橋本多佳子
天空の冷えもつ凧を地に下ろす 石井いさお
天網にかかり戻らぬ凧いくつ 大関靖博
天風の圏に入り凧白を増す 羽部洞然
天駆くる馬の嘶き武者絵凧 住谷幸子
太陽の真下に澄めり凧 阿部みどり女 『笹鳴』
夫の手の凧逃げたがり青嵐 加藤知世子 花 季
奈良町の駄菓子屋に吊る絵凧かな 飯隈球子
奴凧まづは頭突きを覚えけり 松浦敬親
奴凧よき川風の眼鏡橋 山野邊としを
奴凧肩怒らせて一人占め 川崎春浪
子が凧と太陽を揚げ九十九里 岸原清行
子に描かれねば凧の糸黒くなれず 加倉井秋を
子のたぐる空の紺青火伏せ凧 伊藤三十四
子の凧の尾を踏みし罪軽からず 辻田克巳
子の眠りゐる墓山に凧揚がる 品川鈴子
子を抱いて巨燵に凧を揚げる人 炬燵 正岡子規
子無くとも見ゆ山麓の凧ひとつ 神尾久美子 桐の木
学校の上に絵凧が唸りけり 内田百間 百鬼園俳句帖
安房の子の大凧海をおそれざる 大串章
宙吊りの飾羽子板飾凧 清崎敏郎
実直な風を探しに凧さげて 柴田久子
宮址なる雲の中にて凧きそふ 上村末子
家出づるにはや凧の尾の振れそめし 汀女
家出づる頭上鬼凧の舌真赤 加藤知世子 花寂び
家書万金に抵るなり凧 龍岡晋
富士晴れてむかしにあそぶ凧ひとつ 鈴木蚊都夫
寒がりの師なりし夕焼に残す凧 山本つぼみ
寒き児の凧の形して戻り来る 小松崎爽青
寝たいやらかぶりふりけり凧 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
対なるは佳し夫に在る凧とても 品川鈴子
小き子の小き凧を揚げて居る 凧 正岡子規
小さなる凧くくりあり水馴棹 阿部みどり女
小田に水満ち雪國の凧あがる 松村蒼石 春霰
少年の手に凧の糸張りどほし 池田秀水
少年の瞳に海平ら凧揚ぐる 東早苗
尼の弟子春田に凧を落しけり 前田普羅 能登蒼し
尼寺や尾はとうに無き懸り凧 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
尾の切れし凧のごとくに二月終ふ 有賀充惠
尾をつけて一番高し奴凧 前田普羅
屋根の上凧見えそめて春近し 阿部みどり女 笹鳴
屋根越しに刈田に落ちし凧引かる 田川飛旅子 花文字
屠蘇の眼に吾子の凧もやと見あげたり 耒井
山の日は如来の裏に凧 古舘曹人 砂の音
山の駅子らはそれぞれ凧を手に 西堀三朗
山中湖凧のあがれる小春かな 高野素十
山寺や翌そる児の凧 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
山路きてむかふ城下や凧の数 炭太
山路来て向ふ城下や凧の数 太祇
山里の空や師走の凧一つ 師走 正岡子規
岡寺や揚りすはれる凧一つ 松藤夏山 夏山句集
峠家の子の数の凧峠に見ゆ 茂里正治
峡の凧日の当るまで糸伸ばす 福田蓼汀
峡の子よ空より青き凧を揚げ 鍵和田釉子
島彼方積荷の凧が絵を累ね 宇佐美魚目 秋収冬蔵
嶺の雪ひとすぢ分けて凧の糸 堀口星眠 営巣期
川ひとつ跨ぎかがやく遠の凧 山本つぼみ
工場街抽きて揚れる凧いつまで 右城暮石 声と声
市中や馬にかけ行凧のぼり 伊勢-団友 俳諧撰集「有磯海」
庭先に凧落かゝる夕日哉 寺田寅彦
廃墟浦上火の子の如く凧飛べり 野見山朱鳥
引鶴やまた切れ凧をさそひ行 引鶴 正岡子規
弥彦晴仰げば小さき凧の紅 坂手美保
御所の凧あがれあがれと仰ぎけり 鈴村寿満
心励む凧がうなれば凧を見て 阿部完市 無帽
忽然と凧落ち来る小庭哉 凧 正岡子規
思ひきや絵凧あげたる離れ島 佐野まもる 海郷
意地悪き公孫樹にかゝる凧いくつ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
愛そのほか刑務所跡に凧あがる 寺田京子
感に堪へて大凧きつて放しけり 凧 正岡子規
懸り凧遺跡の刻はゆるやかに 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
手を放さば紺に喰入る凧をあぐ 細谷源二 砂金帯
手元から日の暮れゆくや凧(いかのぼり) 井上井月
担ぎたる絵凧に磯の波あがる 有働亨
拓地つ子に末広がりの凧の天 三石白蛾
捕鯨船凧より近くかゝりたる 米沢吾亦紅 童顔
捨て凧の頭上げてはまたしづまりぬ 右城暮石 声と声
据わる凧小鳥過ぎてはひかりけり 佐野良太 樫
掛り凧富士より高く暮れのこる 渡邉 英子
揚がる中に尾長き凧や庭の空 増田龍雨 龍雨句集
揚がる凧曳きずっている活断層 鴨下昭
放たれて自在をまかす凧の糸 松本詩葉子
放参の黄檗僧か凧のぼり 正田雨青
新月といふほどのもの凧のへん 青畝
方言の飛ぶ中に凧切られけり 朝倉和江
旅なれや胆次にあがる凧を見て 尾崎迷堂 孤輪
旅人や泣く子に凧を上げてやる 雉子郎句集 石島雉子郎
旅人や泣く子に凧を揚げてやる 石島雉子郎
既に妻の朝の物音空に凧 中村草田男
日の出鶴それもばらもん凧のうち 後藤比奈夫 めんない千鳥
日の暮に凧の揃ふや町の空 一茶
日の翳り凧の空にもありにけり 下村ひろし 西陲集
日曜のパパは大好きやっこ凧 山口きみ子
旧正や凧のあがれる藺田の上 岸風三樓
明らかに凧の糸のみ暮れ残る 齋藤愼爾
星たちの集まつてきし懸り凧 鈴木貞雄
春めくや風に倦みたるかかり凧 滝澤 清
春を凧ぎ浄きひかりを妊れり 高澤晶子
春風やおとづれそむる凧 春風 正岡子規
昨日の翳負はぬ子凧をかがやかせ 小松崎爽青
昼餉後を語り居つ碁陣凧鳴りて 荻原井泉水
暮るるまで兄弟凧を競いけり 高村寿山
曳く糸が生くる証の凧 佐藤美恵子
更けし燈に風音を聞く飾凧 鈴木鷹夫 渚通り
月山の風を捉へて竜の凧 成澤みよ子
木にかかる風の虜の武者絵凧 植野フサ子
木の下に幕や打ちけり凧の陣 田中田士英
末の子の凧引きずりて得意なり 蘇山人俳句集 羅蘇山人
朱を入れて凧とびやすし冬青空 杉本寛
杉襖その上に凧いと高し 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
来ては去る寝墓の上の凧の影 朝倉和江
松の中にすめる夕日や凧下ろす 金尾梅の門 古志の歌
松過ぎの風呂屋の前の掛凧 冨田みのる
枝かはす松さくら木や凧 白水郎句集 大場白水郎
枯山や昼三日月と凧 増田龍雨 龍雨句集
枯草にかたくなな凧になつてる シヤツと雑草 栗林一石路
桃畑に凧のあがれり甲斐の国 市川春枝
梅の髄凧日の浪のひびくなり 臼田亞浪 定本亜浪句集
森凧の湧くにやあらむ椎落つる 太田鴻村 穂国
楷子して凧取る屋根の童哉 凧 正岡子規
正月の凧の一つの睥睨す 鷲谷七菜子
正月の凧や子供の手より借り 百合山羽公 寒雁
正月の凧裏窓に漂へり 風間加代
正月の凧鳴つてをり多摩川原 中嶋絵美
武者凧のひとり占めなる空の青 能勢 俊子
武者凧の眼より糸でてゐたり 大石雄鬼
武者絵より空にかなしき眼凧 文挟夫佐恵 雨 月
武者絵凧狼煙台より上がりけり 川村紫陽
武者絵凧虚空を睨みつつ揚がる 榎本栄子
母の見る凧を手繰りぬ 安斎櫻[カイ]子
比翼塚ありて男女で凧揚げす 北野民夫
毛の國の/風に揚げたる/凧も/風花 林桂 黄昏の薔薇 抄
毛馬堤連凧の糸きりもなし 瀬野美和子 『毛馬堤』
水の上に凧伸びて子の疑はず 原田種茅 径
水の谷の池うめられつ空に凧 道芝 久保田万太郎
水の谷の池埋められつ空に凧 久保田万太郎 草の丈
氷海へ凧揚げて糸余さざり 笠井操 『雪の紋』
江戸凧の空に上がらず飾り物 池田美津子
江東の凧の巷に育ちける 京極杞陽 くくたち下巻
決闘の島逆しまに凧合戦 堀青研子
沖へ出し負けん気の凧曳きもどす 伊藤京子
沖合ひの父乗る船に凧伸ばす 菊田千石
泣き虫は泣かせておきぬ凧 足立律子
泥つけしまま天界の凧となる 八染藍子
洋凧が来りサタンの眼をもちて 百合山羽公
洋凧と云ふが血走る目を持てり 相生垣瓜人
洋凧に睨みきかせて武者絵凧 松倉ゆずる
洋服掛手にして遠き天の凧 横山白虹
流れくる凧にさざなみ少しのる 佐野良太 樫
流人島見えて凧伸ぶ俊寛忌 白髭葉子
浜の子の凧あげしあと春の月 大串章 百鳥
浦の子が凧にとらへし海の風 米沢吾亦紅 童顔
海が見えしか凧下りて来ず 鷹羽狩行 月歩抄
海は国境少年の凧あがる 対馬康子 愛国
海光のつよくて凧の糸見えず 池田秀水
海道に山群れ迫る冬の凧 百合山羽公 故園
海道の山へ糸張る冬の凧 百合山羽公 寒雁
海風を手だまにとつて上がる凧 岬雪夫
渇水都市凧澄明な腸をたらす 桜井博道 海上
減り~て五尺の雪や凧 佐野青陽人 天の川
漁の父の小舟へ凧伸ばす 秋元不死男
澄む凧や浪に日の出のあざやかに 野村喜舟 小石川
灘の空凧うち合ひて端午なり 和田 祥子
火事煙凧の大空よごしけり 椎橋清翠
火防凧ひつくり返り納りぬ 岸田稚魚 『雪涅槃』
火防凧売れて風出づ一の午 大坪景章
火防凧買はんと解きし懐手 町田しげき
点滴のふたり正月凧遠し 神尾季羊
無いような宇宙や風の懸り凧 池田澄子
煙突が凧揚げてゐるやうに見え 辻田克巳
燈台にふら~揚る凧のあり 鈴鹿野風呂 浜木綿
父に触れたくて継ぎ足す凧の糸 佐藤利夫
父の凧越えて子の凧山晴るる 恒松英子
父の手に息吹き返す奴凧 葛野良子
牟婁の子は藻屑に坐して凧揚ぐる 鈴鹿野風呂 浜木綿
犬駈けて凧の河原となりにけり 川畑火川
狂ひさうになり連凧である一つ 川崎展宏
狂ふすべなき静かさや喧嘩凧 室積徂春
狙引(さるひき)は猿に持せて凧 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
狭き庭に一枚凧の上りけり 凧 正岡子規
王陵に童が載りて凧揚ぐる 横山白虹
生き別るほどに駆け出し凧上がる 対馬康子 純情
由縁なく凧と鴨ゆれ 昼おわる 伊丹公子 ドリアンの棘
男の子は独楽を手に取り凧を手にとり 阿部みどり女 笹鳴
男凧海の初日を曳き上る 高橋悦男
町の凧あがればけふも揚げくらべ 平畑静塔
留守に来て子に凧買つてくれしかな 敦
番町や夕飯過の凧 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
畳の上をひきずる凧の音がする 篠原梵 雨
病むことの安らぎに似て寒の凧 野澤節子 『駿河蘭』
痩村に見ゆや小春の凧 小春 正岡子規
痩村に見ゆるや小春の凧 正岡子規
白き凧韻きて真夜に覚めしなり 友岡子郷 日の径
百連凧吐き終はりたる小さき函 朝家兆花
相模野に端午の大凧あがりたり 滝沢伊代次
石油危機ひそめる蒼さ凧の天 中村明子
砂浜に落ちて砂噛む奴凧 高澤良一 寒暑
破れ凧の影生きてゐる路地の月 鳥居おさむ
硝子戸の明るくなりて凧あがる 臼田亞浪 定本亜浪句集
碧落の凧の力を児へ渡す 佐々木蔦芳
磯風の今日南なる凧を揚ぐ 石塚友二 光塵
神の凧オリオン年の尾の空に 中村草田男
神籬によりて凧あぐ賀茂の子は 岸風三楼 往来
秋子忌の凧の残照手繰るなり 関根冨美
移り来て凧競ふ野に隣りけり 林原耒井 蜩
積藁にもたれ心や凧 久野助二郎
空の凧いま素直なり妹が手に 下村ひろし 西陲集
空制しきて横たはる凧の武者 木村 勇
窓岩の上に凧あぐ春の海 前 孝治
竜になれよと連凧の糸伸ばす 高木悠悠
竜の字は龍でなくては凧 大橋敦子
童心は遥かなれども飾り凧 今泉貞鳳
第三の眼をもつほとけ懸り凧 磯貝碧蹄館
節句凧翼成す波止に波の立ち 関森勝夫
籾筵凧を貼るごと敷きつめぬ 大熊輝一 土の香
糸たるみゐて完全に天の凧 橋本美代子
糸のべて凧の尾垂るゝ水田哉 凧 正岡子規
糸伸ばせ伸ばせと凧の風に鳴る 宮崎サカエ
糸尽きてなほ天上を恋ふる凧 鈴木貞雄
糸引けばひかりを返す凧 長谷川久々子
糸見えぬ遠凧の位置安定す 都筑智子
紀の浦は沖浪たつも凧日和 鈴鹿野風呂 浜木綿
紅の羽根さゝれけり烏凧 伊藤観魚
紅顔の義経つよし飾り凧 長谷川かな女 雨 月
納め凧ひつくりがへり納まりぬ 岸田稚魚
紙の音たてて天より凧戻る 赤井淳子
紫外線凧の唸りに満ち来たり 佐野青陽人 天の川
絵凧一つシャガールの空暮れ残り 久保 乙秋
緑子の凧あげながらこけにけり 正岡子規
美しき凧上りけり乞食小屋 一茶
美濃のひと握手離せば凧になる 澁谷道
羽衣を誰にとられてかゝり凧 凧 正岡子規
老人が凧に命を入れてをり 日原傳
肩で風切つてまつさかさまの凧 中本憲己
肩振りて初陣の凧揚がりゆく 志賀自朗
花粉症にも患はず火伏凧 伊藤二瀬
若き父吾子なほざりの競ひ凧 及川 貞
草の上に凧合戦の控凧 山崎ひさを
草の上に寝ころんで見る凧高し 青峰集 島田青峰
荒川に凧を揚げたる父子二代 斉藤夏風
荒縄の凧の尾なりし踏んでゐし 岸風三樓
萱山に凧あげて友なかりけり 大須賀乙字
落ちたりし絵凧は軽くすぐ上る 中村汀女
落凧を餘所に我畑を打ちにけり 中塚一碧樓
落日にくろ~とあり凧の陣 高橋淡路女 梶の葉
葬列の呟滲む天の凧 宇佐美魚目 秋収冬蔵
蒼天や舌出す凧の三番叟 水原秋櫻子
蓬生や日暮れておろす凧の音 梅室
藪入の新井薬師に凧あがる 皆川盤水
藪入の碧空の凧澄めるかな 種茅
蜑の子の凧が怒濤の上にまで 伊藤柏翠
袂晴に親子絆の凧ひとつ 三戸水歩
裏山に来て父の息凧の息 石寒太 翔
見えてゐて童女の首と凧の糸 金田咲子 全身 以後
見つつ来し凧の下なり投函す 馬場移公子
親二人に不機嫌の児や凧提げて 河野静雲 閻魔
負け凧の打ち据ゑられし荒磧 櫛原希伊子
負け凧を手にし帰るや風連れて 大石悦子 群萌
負け凧を手操るわが子よ四肢張つて 大石悦子 群萌
負凧の気勢をあげて戻りけり 一 民江
責むべきか聖塔の穂に懸り凧 下村ひろし 西陲集
走る子に上がり下がりつつ凧蹤ける 篠原梵 雨
走る音してはガラスを凧よぎる 飴山實 少長集
身に寒き仕立下ろしや凧日和 増田龍雨 龍雨句集
転校の決まりし凧を揚げてゐる 岩崎洋子
辻に湖見え凧の尾の吹きまろぶ 木村蕪城 寒泉
辻諷凧も上ていたりけり 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
迎春の字凧飾りし職場かな 木暮剛平
逢ひたくて凧をみてゐる風邪ごこち 桂信子 黄 炎
連凧のごとくに鶴の棹しなふ 酒井京
連凧のにぎはひ海へのびゆけり 朝倉和江
連凧の先頭寂しからざるや 佐々木六戈 百韻反故 初學
連凧の墜ちてひろがる空のいろ 石寒太 炎環
連凧の太白山を目指しけり 佐々木潤子
連凧の男が引きて天が引く あらきみほ
連凧の風の重さを手繰りけり 柴原昌代
連凧を仰げる眉間父子かな 石寒太 炎環
連凧を揚げゐて二十世紀末 庄中健吉
逸る眼をもて風待ちの武者絵凧 櫛原希伊子
道芝やたぐりためたる凧の糸 高浜虚子
遠き空凧あげるらし競ひをり 岬珠江
遠山を引くごと繰りて凧を揚ぐ 榊原真寿美
遠州の風を待ちゐる祝凧 志水千代子
遠近の凧や乞食が火を焚けり 皆川盤水
遣羽子や切凧落ちぬ門の内 福田把栗
野に詩の無き日よ凧を買ひもどる 今瀬剛一
野の窪の一つ家よりぞ凧あがる 篠田 麦子
鉦太鼓もて相模野に凧を上ぐ 中戸川朝人
長崎の空の青さを凧伸びぬ 中尾杏子
降りきたる凧の火照りは空のもの 朝倉和江
降りてくるときやはらかき凧の脚 井上弘美
雨晴れて一本榎凧高し 凧 正岡子規
雪山の端が輝き奴凧 阿部みどり女
雪嶺にぶつかりぶつかり凧あがる 藤岡筑邨
雲すべて独りの凧の尾にみだれ 中村草田男
雲中に二の凧 雲上に一の凧 伊丹三樹彦
雲寄せず揚りきりたる凧の意志 菖蒲あや
電信や糸のたよりのかゝり凧 凧 正岡子規
電線に凧のかかりて春の風 寺田寅彦
霜除にちらり~と凧の影 池内たけし
青天に朝より凧を漂はす 大串章 朝の舟
青嵐喧嘩凧空に大水入り 村上清香
青空がぐんぐんと引く凧の糸 寺山修司
青空に繋ぎとめたり父の凧 出口善子
青空の凧には凧の自由席 森田ていじ
青空の深きに凧や真田領 横山昌子
預かつて凧不機嫌にしてしまふ 豊田淳応
顔あたたかし凧喧嘩見たやな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
風しばし受けつ梢のかゝり凧 凧 正岡子規
風に乗り糸重くする絵凧かな 小畑克己
風に乗る姿は軽し鳳巾 凧 正岡子規
風神の手加減に凧澄みにけり 松本幹雄
風神を味方につけし武将凧 品川鈴子
風邪の子が見てをり地を擦る赤き凧 桜井博道 海上
風邪の子の壁にある凧はためきぬ 川口重美
飛火野のこの蒼空や凧ひとつ 山内遊糸
飛行機来て顔のかなしき奴凧 加藤知世子 花寂び
飾られて天を恋ふなり武者絵凧 矢野 聖峰
駄菓子屋の飴片寄せて凧を売る 倉田静子
鬼凧を買ふほかはなし壱岐土産 原裕 『新治』
鶏あがる梅の枯枝やかゝり凧 凧 正岡子規
龍の凧には負けまじき蛇の凧 後藤比奈夫 めんない千鳥
いかのぼりかみはあがらせ給ひけり 惟中
いかのぼりきのふの空のありどころ 蕪村
いかのぼり供の小坊の真仰向 寒烟(かんえん)喜谷六花、内田易川編
いかのぼり吹かれかはるや夕曇り 飯田蛇笏 山廬集
いかのぼり土管ころがす警官よ 仙田洋子 橋のあなたに
いかのぼり月も出てある三笠山 維駒 五車反古
いかのぼり東寺八坂の塔の間 蝶夢
いかのぼり海抜千の晴天に 宮坂静生 春の鹿
いかのぼり眼ふたつを使ひきる 小檜山繁子
いかのぼり落ち行く方や波がしら 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
いかのぼり見事にあがるあほうかな 林紅 古句を観る(柴田宵曲)
いかのぼり近江の風を掴みをり 藤田直子
いかのぼり雲と游べる雪解かな 松瀬青々
そこまでがこの世の高さいかのぼり 本宮哲郎
やぶ入りのまたいで過ぬ几巾(いか)の糸 蕪村
十戒や日落ちるまでをいかのぼり 柿本多映
吹き吹けど花に欲なし鳳巾(いかのぼり)紙鳶 千代尼
多数とは馬鹿の集りいかのぼり 加藤郁乎
津の国の水暮れ残るいかのぼり 大石悦子 聞香
雲に乗る翼や出来ていかのぼり 廬元坊
鱶の海流れて青きいかのぼり 宇多喜代子
拾得の几巾にからむや玉箒 其角
几巾きのふの空のありどころ 蕉村
やぶ入りのまたいで過ぬ几巾(いか)の糸 蕪村

◆香道◆
●伽羅
この伽羅に思ひ出しけり古紙衣 介 我
さとかをる伽羅の油や梳き始 高橋淡路女 梶の葉
なれも恋猫に伽羅(きゃら)焼いてうかれけり 服部嵐雪
ふぐと汁鼎に伽羅をたく夜哉 蕪村遺稿 冬
伽羅くさき風が吹く也京の花 花 正岡子規
伽羅くゞる庇の下や冬の庭 長谷川かな女 雨 月
伽羅さめし伏籠の衣や朧月 会津八一
伽羅たく寺かたくりの芽の二三本 杉本寛
伽羅に触れ松にさはりぬ西行忌 岡井省二
伽羅の御所ありしあたりに羽子をつく 佐野美智
伽羅の御所宴の跡や初紅葉 仁科歌子
伽羅の木から音がはじまる人の音なり 阿部完市 春日朝歌
伽羅の蚊遣羅の団扇彼も一時 蚊遣 正岡子規
伽羅の香のかすかはいとし朝曇 河野多希女
伽羅の香の仏臭さよ御身拭 文 武
伽羅の香焚きこめてより魂迎ふ 山本絢子
伽羅御所の跡に牛飼ふ蕗の花 安田三代子
伽羅御所をうかがうてをる案山子かな 加藤三七子
伽羅木の残り香にして冴ゆるなり 大石悦子 聞香
傲る世に伽羅は用ゐず削り掛 削掛 正岡子規
名月や伽羅焚きすてゝ人もなし 露月句集 石井露月
吐月峰に伽羅の香を聞く良夜かな 坂田静枝
夕顔やことわり状に伽羅ほのか 中村明子
大内も伽羅は用ゐず削掛 削掛 正岡子規
天竺川伽羅に竿させ妻迎 調和
奈良七重七堂伽羅八重桜 芭蕉
宿ぞあやめ伽羅の大橋酒の池 露浩 選集「板東太郎」
微禄して尚ほ焚く伽羅や黴の宿 吉津まるめ
此雪に伽羅*たきけらし笠の内 尾崎紅葉
片付きし居間に伽羅聞く六日かな 藤田耕雪
短夜や伽羅の匂ひの胸ふくれ 高井几董
羅の伽羅の香りを置きて去ぬ 児玉をさむ
花近し髭に伽羅たく初連歌 言水
行年や庭木に伽羅を植ゑ込みて 長谷川かな女 雨 月
雪に伽羅ほのかに*たいて松青し 尾崎紅葉
青簾香木の名を伽羅といふ 伊藤敬子
●伽羅の香
伽羅の香のかすかはいとし朝曇 河野多希女
伽羅の香の仏臭さよ御身拭 文 武
伽羅の香焚きこめてより魂迎ふ 山本絢子
吐月峰に伽羅の香を聞く良夜かな 坂田静枝
●源氏香
紅葉かつ散る源氏香五十二図 河内桜人
月の道尽きて御廟や源氏香 北さとり
●香合
宝引の終ひ福なる亀香合 竹腰千恵子
熨斗香合見て言葉待つさくら季 河野多希女 こころの鷹
香合にのせ春光を廻したる 深見けん二
香合は堆朱を出して風炉支度 及川貞
●香を聞く
古茶*たきて香を聞くことも雨読の日 桑田青虎
香を聞くすがたかさなり春氷 宇佐美魚目 秋収冬蔵
ひもじさに杉の香を聞く秋の山 日野草城
羅の襟元正し香を聞く 大信田梢月
吐月峰に伽羅の香を聞く良夜かな 坂田静枝
●香箱
春の闇香箱の蓋きつうして 佐々木六戈 百韻反故 初學
●香木
青簾香木の名を伽羅といふ 伊藤敬子
夜香木父のにほひの減りし家 福永耕二
●香炉(灰)
かの香炉購はむ片蔭かへしけり 西村和子 かりそめならず
レコードかけ春の香炉にバッハ招く 林翔 和紙
中宮寺香炉に木の実焚き添へて 大島民郎
元朝の火神香炉に爆音住み 牧野信子
初虚空蔵祈りが渦となる香炉 大堀春野
十六夜の一客に焚く蔭香炉 佐野美智
呼次や千鳥の香炉浦煙 井原西鶴
夜の定時銀香炉拭く青葉木菟 宮武寒々 朱卓
大仏の膝に香炉に寒雀 河野静雲 閻魔
大燈蛾香炉に貌をおさめたり 下村槐太 光背
大香炉に青海波紋寒潮 中戸川朝人 星辰
大香炉の煙にまみれ四万六千日 佐野寿々
大香炉火を噴きにけり札納 山口青邨
寒明けや鬼の背負ひし大香炉 佐川広治
巣立鳥左千夫生家の吊り香炉 寺崎美江女
惜春や堆朱の香炉艶ふかむ 伊藤敬子
手探りに香炉を擁す夜の雪 古白遺稿 藤野古白
数へ日の香炉に塵もなかりけり 澤村昭代
木犀の昼は醒めたる香炉かな 服部嵐雪
根本中堂香炉の煙も凍らんか 高澤良一 燕音
橘や南圓堂の香爐盤 橘 正岡子規
火事めきて大香炉の初不動 長谷川督江
炎立つ四万六千日の大香炉 水原秋櫻子
煙たえて香炉の冷える霜夜かな 飯田蛇笏 春蘭
猫脚の秋の香炉を焚きにけり 大石悦子 百花
秋の雨香爐の烟つひに絶えぬ 秋雨 正岡子規
秋の香や揺り香炉掌に老司祭 内藤吐天 鳴海抄
秋遍路去りし香炉のひとり燃ゆ 三浦恒礼子
秋風や鬼の支へし大香炉 福田蓼汀 秋風挽歌
立冬の弥陀の香炉の灰均す 大石悦子 百花
置香炉しずかに秋の遠ざかる 長谷川かな女 花 季
花の風香炉に香を足しをれば 伊藤敬子
茶の花に烟絶えたる香爐哉 茶の花 正岡子規
茶香炉の焔つぎたす梅雨の寒 猪股洋子
虫吐きし夢と香炉に明易き 宮武寒々 朱卓
袖を出る香炉も雪の千鳥かな 黒柳召波 春泥句集
鉄鉢を香爐としたり迎盆 綾部仁喜 樸簡
霞*たく富士を香炉や西行忌 素丸
青岸渡寺紅葉ちり込む大香炉 近藤文子
風入や香炉の亀に琥珀の目 石黒幸子
香炉の火落とす室生の夕霧に 早崎明
香爐峯の敵はいかにぞ秋晴れぬ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
●沈香
屁もひらず沈香もたかず年の暮 一茶
●聞香
春の昼聞香の耳紅潮す 小川軽舟
福寿草聞香といふ集ひあり 大橋敦子 手 鞠
聞香に一本の松しぐれけり 大石悦子 聞香
聞香のあとしばらくは露の山 神尾久美子 桐の木
聞香の後の小疲れ鱧甘し 宮下初子(翔臨)
聞香の思ひ猿蓑時雨の碑 加藤知世子 花寂び
聞香の障子ひと重に今年竹 佐野美智
●蘭麝香
水仙や焚かで久しき蘭麝香 会津八一


以上




by 575fudemakase | 2022-04-05 06:49 | ブログ


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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