ダムの俳句

絵本　かこさとし

◆ダムの俳句

ダム底に獣の足跡秋旱/西本睦子

廃炉廃ダム廃高速路夏蓬/今井聖

ダム広き裏大雪や初紅葉/鮫島交子

万緑のダムや対角線の風/横川信義

水馬ダムの放流はじまるぞ/山口速

ダムの上灼けて土工の墓二十/三鬼

笹鳴やダム底亀裂もて笑ふ/木下夕爾

ダム尻を船で渡しぬ三依炭/西本一都

ダム落とす水逝く彼方雁の空/林昌華

櫨紅葉一艇ダムに揚げしまま/堀葦男

稲光刹那刹那にダム見ゆる/寒川逸司

鷹の眼にダムは腸見せて秋/福永耕二

旧道の葉桜並木のこるダム/右城暮石

新緑のダム白炎の水吐けり/前山松花

古道を沈めてダムの水温む/稲畑汀子

鵙鳴かず過ぐ秋風のダムの上/及川貞

ダム暖か口中暗くして笑う/河合凱夫

ダムの春水没枯木動かれず/辻田克巳

ダム満水大雪渓の尾を浸し/西本一都

雪ながら一山沈むダムの底/西本一都

遅桜ダムに堰かるる男鹿川/野口夏桐

首輪なき犬に冬晴ダム明るし/北野民夫

ダムたぎつ末枯そめし多摩川原/及川貞

ダムといふ水の嵩抱き山眠る/長友/梓

ダムとなる一村幽し山法師/豊田美代子

ダム底の村より上る秋の声/末永あつし

ダム開くや吹きすさぶ白彼岸花/澁谷道

一村を沈めてダムの水澄めり/岡野洞之

三峡ダム春昼の水位落しけり/谷中隆子

井川ダム底をあらはに榛の花/大坪貞子

冬晴のダムはしづかに翼張る/松村蒼石

夏嶽のかげ負ふダムの小住宅/河野南畦

奥只見ダムひろびろと山眠る/塚本弘満

ダムの上に天日小さき葛の谷/遠藤梧逸

山霧をかすかにダムの花の渦/桂樟蹊子

岩棲むだけの水だし雪のダム/山岸珠樹

ダムの底をのがれし数戸夏の山/瀧春一

新涼やダムは真白な水を吐く/平田青雲

ダム壁を忍者の登る秋意かな/大野宏峰

ダム奥となりし水色木の芽晴/茨木和生

歳月が冬連れて来るダム工事/堀江爽青

ダム工事半ばの釣瓶落しかな/堀江爽青

流木の船へ向きてはダムの夏/和知喜八

ダム底となる一村の春惜しむ/鎌田阿公

ダム底となる峡村の門火かな/三宅句生

秋天やダム高々と瀞を捧げ/佐野青陽人

ダム底にかつて恋あり凍豆腐/庄野千壽

ダム底になるといふ村野菊晴/日比野悟

白鳥の白まぎれなしダムの紺/石川文子

薫風やきつちりと減るダムの水/舘田五葉

涸ダムなり朝鴉飛ぶ真つ逆さま/寺田京子

ダムとなる村史ひもとく花明り/宮田富昭

ダムとなる渓の深きに河鹿鳴く/村井光子

冷まじやダム底に立つ墓いくつ/真城藺郷

萩咲いてマタギの里のダムの音/神田典夫

草は穂にダムは一気に水吐けり/宇咲冬男

ダムに落ちさうな野蒜の畑かな/刈谷桂子

水涸るるダム一村の匂いけり/相川玖美子

色鳥や霧の晴れゆく相模ダム/中川冬紫子

暮れてなほ秋山めざすダム資材/大島民郎

耳朶やわきダムの新樹ら青幾色/寺田京子

ダム守のガイドもかねて夏帽子/村井桂子

ダム底となりし一村懸巣鳴く/有川/淳子

束の間の秋虹立てり黒部ダム/古岡寿美恵

梅雨深むダム放水のアナウンス/宮田富昭

ダム鳴る冬湯槽が深く友の家に/寺田京子

大瑠璃や雲より出づるダムの壁/岡田貞峰

探梅のダムに映りて落ちあふも/亀井糸游

山灼けのまま冬籠りダムを護る/毛塚静枝

初雲雀湖底透きたる御母衣ダム/市江律子

蝶翔つてダムの円堤小さくしぬ/河野南畦

蟷螂がゆく干あがりしダムの底/松尾隆信

谷とんで燕啼かずにダムの冷え/和知喜八

赤とんぼ現場に拾ひダムに放つ/沢木欣一

ダム番は覚めず鼓虫すでに舞ひ/木村凍邨

雪解水草履浮かしてダムに入る/宮坂静生

霧のダム花提げくれば鈴鳴りぬ/宮武寒々

青歯朶の底まで晴るるダム工事/中村千絵

影みな吸い取つてダムが昏れる/牛江朝子

鴨のほか何も浮かべずダムの碧/長沼紫紅

入道雲ダムに一気に雪崩れ込む/太田あや子

ダム灼くるダム建設の慰霊碑も/森田かずを

涼しきダム友とその妻の間に見る/寺田京子

登山者の荷より重くてダム作りに/津田清子

秋耕のひゞきやすさよダムの上/馬場移公子

ダム眠るごろごろ根株の晒し首/八木三日女

藁焚く火ダムに沈む日重ね見え/八牧美喜子

ダムとなる村より神を送り出す/天岡宇津彦

ダムとなる谷よりの松迎へけり/中戸川朝人

岩ひばり雲切れ初むる御母衣ダム/深川知子

ダムの尾に公園細りさくらの実/中戸川朝人

ダム底となる街道の夕焼けたり/冨田みのる

ダム底に沈むちちろのこの声も/森田かずを

霧ながら渦巻くダムの夜をひかる/桂樟蹊子

手負猪追ひ込められてダム泳ぐ/恩田鹿火子

早蕨やダムの外れののびちぢみ/中戸川朝人

梨噛んでダムの奈落を見てをりぬ/川上彌生

冬雲雀の声のはるけさダムの色/小木ひろ子

ダム放水のサイレン響く夕野分/大久保武司

誰も霧のこと言ふダムを越ゆる時/鈴木鷹夫

胡麻叩くダムとなるまで胡麻叩く/大野西湘子

野兎のみち踏み来てダムの蒼かりし/坂下和子

錦木が染め暮れ急ぐ五十里ダム/塩野谷ゆべし

ダムの宙墜ちゆくものに冬の蝶/鍵和田ゆう子

ダムになる郵便受けのあかさかな/中島不二男

ダム底の村いちじくがいてわらう/八木三日女

新蕎麦や夕照りのダムまなかひに/星野麦丘人

ノートル/ダム寺院明滅驟雨の向う側/伊丹公子

ダムの水万緑へ解き放たるる/山本一歩「一楽」

われら踊りまわたのごときをダムは吐く/竹中宏

ダムに沈む優曇華の咲く電球さげ/長谷川かな女

囚人ダム工を瞰る紅葉嶺の山羊貴婦人/加藤知世子

夜ごとの赤らみもうぢきダム底の鬼灯畑/加藤知世子

ダムのそこびえダイヤモンドより固く誓う/八木三日女

以上