ふるさとの俳句
ふるさとの俳句
●古里
一駅で行ける古里豆の飯 三谷淳子
冬や今年われ古里にこもりけり 冬籠 正岡子規宇宙
初湯して古里は水やはらかき 大石暁座
古里にふたりそろひて生身魂 阿波野青畝(1899-1992)
古里に一夜明けたり露すゞし 上村占魚 鮎
古里に帰るは嬉し菊の頃 夏目漱石 明治四十三年
古里に来てバスを待つ雁木かな 城戸愛子
古里に根深畠は荒れにけり 葱 正岡子規
古里に母を置き捨て黍嵐 三橋鷹女
古里に父母在す雑煮かな 五十嵐播水 播水句集
古里のしるべの辻の桐は実に 佐野秋翠
古里のはたはたみんな祖(おや)の貌 高澤良一 素抱
古里のテレビに乗りし鱧の味 岩田麗日
古里の人々老いし燈籠かな 岡本松浜 白菊
古里の便りは無事と衣更 横光利一
古里の土佐の造りや初鰹 大和田隆蕉
古里の大炉を守りて母達者 後藤鬼橋
古里の山なだらかに初明り 岸本淑子
古里の山は語らず竹の秋 塩田薮柑子
古里の島を真近に船遊 山口明里
古里の旅籠に泊る展墓かな 吉武月二郎句集
古里の日向の匂ひ寒雀 前田千鶴子
古里の昔の径の薮柑子 江藤ひで
古里の時雨を颪す嶽おそろし 竹下しづの女句文集 昭和十五年
古里の母の炬燵に居りどころ 楠目橙黄子 橙圃
古里の水に鴛鴦見し昔かな 尾崎迷堂 孤輪
古里の湿り気残し粽笹 井戸村知雪(知音)
古里の灯とぼし頃の落葉かな 野村喜舟 小石川
古里の風は昔のまま昼寝 杉橋仙蕉
古里の風呂は外風路つくつくし 日高邦子
古里は未だ屋号や軒燕 松本正弘
古里は畦に茶の花香を放つ 宇留間靖子
古里は痩稲を刈る老ばかり 竹下しづの女 [はやて]
古里は筑紫の国よ春霞 三島汲水
古里は薺御行の湧くところ 山田岳星
古里は霜のみ白く夜明けたり 山口青邨
古里は音つつしみて松の雪 宮地英子
古里へおつとりがたな走り星 木村真魚奈
古里も亦住みうしや冴返る 竹末春野人
古里や凍てたる中の水車 野村喜舟 小石川
古里や嫂老いて萵苣の薹 高浜虚子
古里や小寺もありて秋の風 秋風 正岡子規
古里や秋に痩せたる小傾城 秋 正岡子規
古里や蚊に匂ひける栢のから 井原西鶴
古里や都見てきて秋のくれ 秋の暮 正岡子規
古里を持たぬさびしさ青田風 吉沢太志
古里を捨てしは昔蓬摘む ジョンズ美加子
古里を遠く我等は雪に住む 高木晴子 晴居
土用明けたる古里の海を見に 秋畑まきこ
峰入の古里衆に合流す 粟賀風因
揃ふまで待つ古里の雑煮かな 片山文夫
梅花ころげ合ふ古里の皿囃子 三橋鷹女
楊梅は母の乳首よ古里よ 国 しげ彦
民主革命まだ遠し古里の母娘不和の鶏をむしる 橋本夢道 無礼なる妻
水無月や風に吹れに古里へ 上島鬼貫
父母の負債や古里の凩に村を押し出さる 橋本夢道
生家なき古里に咲く北辛夷 桜田和夫
留守の戸に古里人や衣がヘ 会津八一
種物屋して古里にをると聞く 豊原月右
笹百合の咲く古里の山偲ぶ 久保ふさ子
粧ひて古里の山高からず 土山山不鳴
船に寐て古里百里天の川 白砧
菜飯くへば古里に似し雨が降る 桜木俊晃
萩に伏し芒に乱れ古里は 夏目漱石
蛇穴を出づ古里に知己すこし 松村蒼石 雁
金風や虚子記念館古里に 稲畑廣太郎
関の清水古里恋し生鰹 青雲 選集「板東太郎」
隣りで米つく音の古里の厠にゐる 佐々木露路
隣住む古里人や草の餅 坂本四方太
雲の峰聳つ古里の文宝川 谷口荒太
電気毛布恋ふ古里へ荷造りす 吉良蘇月
鬼の子が吹かれ古里遠くせり 飯泉葉子
●故郷
*はったいや故郷間遠になるばかり 谷口みどり
あたふたと故郷に帰るいつも悲しいことばかり(父の死) 橋本夢道
あるだけの故郷となり風の盆 安田直子
うまごやし故郷遠き少年工 松田多朗
おやじらはおれを見捨てて故郷にあり しようり大
かたかごや我に故郷のあるごとく 寺澤慶信
かなかなにかなかな応へ故郷去る 香西照雄 対話
くぼみ眼の鴉を愛し 似非故郷 三橋鷹女
この月の下故郷に父母在す 今井文和
これを故郷と云ふ朧夜の更けにけり 中島月笠 月笠句集
さつま汁妻と故郷を異にして 右城暮石
さはらねば赤蜂美しき故郷 永田耕衣 驢鳴集
さみだれの傘さしもどる故郷かな 橋本鶏二 年輪
しがらみの一茶の故郷籾殻焼く 大高霧海
じつにたくさん手でする仕事雪故郷 中尾寿美子
すこやかに故郷の楡の枯れにけり 阿部みどり女 『雪嶺』
すれ違ふ故郷訛り弁慶草 大沢知々夫
そらまめの莢の猛々しく故郷 櫂未知子 蒙古斑
そら豆がおはぐろつけし故郷かな 細見綾子 曼陀羅
そら豆の空の彼方に故郷死す 小檜山繁子「流水」
たちまちに藪蚊寄り来る故郷塚 藤本安騎生
たんぽぽを敷いて故郷の山近し 阿部みどり女
たんぽゝの黄しるく故郷遠きかな 岸風三楼 往来
だばどぼだばどぼ駄馬ゆくぼくゆく故郷の村道 高柳重信
ちちははの在せし故郷桐の花 大塚和子
つくつくと故郷萬里の年の暮 年の暮 正岡子規
つばくらめ故郷に仕立下ろし着て 猪俣千代子 秘 色
つわぶきは故郷の花母の花 坪内稔典
でんしやからしきりにこぼす故郷 松本照子
とかくして又故郷の年籠り 一茶
としの雲故郷に居ても物ぞ旅 広瀬惟然
とはの故郷夜明は鶏の脚凍り 小檜山繁子
どこをもって故郷となさむ枯木に日 川上梨屋
どこをもて故郷となさむ朧月 中村苑子
どの流木も故郷消して着く新宿 鷹島牧二
なつかしき父の故郷月もよし 高浜年尾
にわとりを殺めて剥ぎし掌の記憶遠き故郷に夕日が当たる 三枝昂之
はらわたに昼顔ひらく故郷かな 橋石(かんせき)(1903-92)
ひどいものを食つて故郷の人は皆死なず笑つているようで 橋本夢道 無禮なる妻抄
ふるさとの家に寝てきん蛙かな 故郷 吉田冬葉
まくなぎを抜けて故郷すぐそこに 富永 小谷
まひまひや故郷をめぐり来たる水 今瀬剛一
みずすまし故郷の夕日裏返す 平井久美子
みな遠き故郷持ちて粽食ふ 村越化石
むべ熟す母故郷に永あそび 近藤馬込子
もう訪はぬ故郷と思ふ雁渡し 西川五郎
もう降りることなき故郷麦青む 橋本 紅
わが前の白紙いつまで虫の故郷 成田千空 地霊
わが夏帽どこまで転べども故郷 寺山修司「花粉航海」
わが客地子の故郷榛咲きにけり 林翔 和紙
わが故郷異国となりし雁渡る 斎藤徳治郎
わが故郷藪漕ぎに次ぐ藪を漕ぎ 穴井太 天籟雑唱
オホーツクの花野に近く故郷あり 副島いみ子
ラムネの玉ころんと故郷透明に 成瀬櫻桃子 素心
ラムネ玉鳴らして故郷去りがたし 日笠靖子
一枝の椿を見むと故郷に 原石鼎
一石路の「鎌の柄談議」君の故郷の貧乏稲田 橋本夢道 良妻愚母
七種や故郷にはらから既になし 五味真琴
七種や故郷遠からず近からず 中村苑子
三人の故郷の遠き蒲団かな 余子
下町は父母の故郷一葉忌 伊東宏晃
下車一人故郷の小駅先づ郭公 星野魯仁光
不知火を故郷に持てり枇杷をむく 栗木麦生
両眼にみどリ涼しき故郷の田 柴田白葉女 花寂び 以後
事なき日故郷の雪を懐ひけり 会津八一
二荒嶺に秋雪父母の無き故郷 加藤親夫
五年みぬ故郷のさまや桃の花 維駒
亡き夫とここが故郷いぬふぐり 木村房枝
亡母遠し故郷遠し鰯雲 清水朱美
人の世を故郷とせむ楸邨忌 小檜山繁子
今住むは曽祖母の故郷青葉木菟 豊田 晃
今日の瀬の鮎居ずなりし故郷哉 石井露月
今朝秋の故郷人やどどと老ゆ 所山花
今死ねば野分ばかりの故郷よ 東川紀志男
他郷また故郷となりぬリラの花 金箱戈止夫
傾城に鳴くは故郷の雁ならん 夏目漱石 明治四十年
傾城の故郷や思ふ柏餅 柏餅 正岡子規
光度の弱い裸灯の下に芋麦飯食う故郷の親子 橋本夢道 無禮なる妻抄
冬囲ふ故郷の誰にも会はず 角川春樹
冬山の深いところに棲む故郷 十河宣洋
冬雲が翳抱く故郷 乳房さがす 伊丹三樹彦 樹冠
凍豆腐故郷の山河まなうらに 阿部みどり女
函館も故郷の一つ鰯雲 西本一都
初便り復員学徒故郷にあり 青邨
初声に明け故郷の藁庇 桑原晴子
初声の千鳥を故郷に来て聞ける 石橋海人
初夢に故郷を見て涙かな 一茶
初郭公吾子住むゆゑに故郷といふ 平井さち子 鷹日和
前橋は母の故郷霜夜明け 星野立子
北窓を開き故郷を恋う話 浦川哲子
原野(ぬぷ)はわが心の故郷榛の花 金箱戈止夫
双手浸す故郷の水や蝉の声 佐野青陽人 天の川
名月や故郷に似し山の嶺 池田トク
名月や故郷遠き影法師 漱石
吠えて牛は巨き目をして母に叱られて故郷の痩せ 橋本夢道 無禮なる妻抄
吾を容るる故郷や月の一本道 青柳志解樹(1929-)
四万六千日の陸橋故郷なし 八木荘一
国なまり故郷千里の風かをる 薫風 正岡子規
国境に立てば故郷恋ふ冬茜 加藤一水
土筆呆け行かねば故郷遠きかな 奈良文夫
墨染に故郷の秋の深からめ 中川宋淵 遍界録 古雲抄
夏の湖いつもさかさに故郷うつす 宮坂静生「青胡桃」
夏井戸や故郷の少女は海知らず 寺山修司 花粉航海
夏帽や故郷を望む舟の中 赤木格堂
夏木立故郷近くなりにけり 正岡子規「子規句集」
夕凪や人は故郷を捨てて佇つ 小澤克己
夜と昼といづれが故郷夏祭 長谷川双魚 『ひとつとや』
大寒の一戸もかくれなき故郷 飯田龍太(1920-)
大川を渡れば故郷稲の花 沼尻ふく
大粒の雨降る青田母の故郷 成田千空 地霊
夫若く故郷出でし日多喜二の忌 石田あき子 見舞籠
失ひしものばかり見え故郷の冬 本田末子
妹と母うち解けぬ故郷の牛の大きい静かな目 橋本夢道 無禮なる妻抄
嫁ぎたるここも故郷盆の月 小山陽子
子を産みに故郷の稲架棒根づくごと 宮坂静生 青胡桃
孟宗を七夕竹として故郷 福永耕二
宿団扇持ち故郷なき映画館 宮武寒々 朱卓
寒の水飲みて故郷の家を去る 越田美奈子
寒肥や骨は故郷に埋めんと 関 梅春
寒蜆故郷の砂を吐きにけり 野坂 民子
寒雀故郷に棲みて幸ありや 相馬遷子 山国
小春日や故郷かくも美しき 相馬遷子 山国
山碧く冷えてころりと死ぬ故郷 飯田龍太 麓の人
峠から故郷に来し紅葉かな 稲垣暁星子
川かすむ故郷の道に出でにけり 会津八一
川涸れた故郷 ゴロンと ゴツンと石 伊丹三樹彦 樹冠
川西の故郷も見へて朝寒み 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
左右へとぶ蛙や歩々に去る故郷 三橋敏雄
差し入れの菊嗅げば生れ故郷の雲がある 橋本夢道 無禮なる妻抄
帯ゆるく締めて故郷の居待月 鈴木真砂女
帰り来し故郷の山河虎落笛 星野立子
幕ノ内ニナツテ故郷ニ歸リケリ 相撲取 正岡子規
干し干瓢故郷の山河ひらひらす 島みえ
年とれば故郷こひしいつくつくぼうし 種田山頭火 草木塔
年行くと故郷さして急ぎ足 行く年 正岡子規
幹うつて落葉は迅し故郷なし 千代田葛彦 旅人木
廬火に根雪かがやきだす故郷 飴山實 『おりいぶ』
引き裂かる故郷の蝶曼陀羅野 小檜山繁子
思ひ出のめぐり故郷の芥子若葉 小林むつ子
恙なき故郷の山河初景色 岡野洞之
息とめて青柚子しぼる雲の故郷 飯田孤石
懐手故郷の町も久しぶり 福田蓼汀 山火
手に蜜柑故郷日和授かれり 村越化石
手漉紙光る故郷の春にゐて 杉本寛
手袋に故郷の山河温めいる 高橋和伸
振り向けば石屋呆ける故郷かな 攝津幸彦
採氷や湖の端より売る故郷 対馬康子 愛国
揚羽たかし川が故郷を貫くゆえ 寺山修司 『われに五月を』
放浪子酒下げ故郷の新年会 千保霞舟
故郷あり祇園太鼓の胴張って 百合山羽公 寒雁
故郷がけんちん汁に混み合へり 松浦敬親
故郷すでに海市の中や母老いし 柴田佐知子
故郷せまし無事の笹舟いづこより 三橋敏雄 まぼろしの鱶
故郷という鉄格子青葉木菟 田仲了司
故郷とはひそかに泣かす花わさび 丸山佳子
故郷なり終夜群れをる誘蛾燈 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
故郷につながれている蟻地獄 川端妙子
故郷にまだ店ありき心太 大西よしき
故郷にわが植ゑおきし柳哉 柳 正岡子規
故郷に一人残りて展墓かな 神田美代子
故郷に住みて無名や梅雨の月 相馬遷子 雪嶺
故郷に住み古りてこそ初墓参 下村ひろし 西陲集
故郷に墓のみ待てり枇杷の花 福田蓼汀
故郷に来て過客なり柏餅 東 智恵子
故郷に桃咲く家や知らぬ人 桃の花 正岡子規
故郷に母亡く山河枯ふかむ 佐々木かつの
故郷に猿の出没かまい時 原田孵子
故郷に生涯老いて粥試し 植村よし子
故郷に縁者の絶えし盆の月 橋本蝸角
故郷に肺を養ふ冬こもり 冬籠 正岡子規
故郷のここにも雪の富士見橋 内藤廣
故郷のたよりうれしき袷哉 袷 正岡子規
故郷のなき晩年や寒昴 塩田晴江
故郷のひたすら灼ける父母の墓 山県よしゑ
故郷の便り一行さくらんぼ 望月由紀子(帆船)
故郷の冬へおくる金がない大きい日ぐれの國旗であつた 橋本夢道
故郷の冬空にもどつて来た 尾崎放哉
故郷の匂ひ運び来秋の風 郡司しま子
故郷の味を守りて胡瓜もみ 倉田静子
故郷の大根うまき亥の子かな 正岡子規
故郷の家大きく貧し落葉積む 松本澄江
故郷の寒さを語り給へとよ 寒さ 正岡子規
故郷の山しづかなる師走かな 吉田冬葉
故郷の山にしたしむ相撲かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
故郷の山の明るき初手水 小西敬次郎
故郷の山未だ覚めず霞草 川野一雨
故郷の山深くして蝉時雨 山本仟一
故郷の川に洗わる女郎花 高山たんぼ
故郷の巨燵を思ふ峠かな 炬燵 正岡子規
故郷の春夕焼に染む屋並 清原和子
故郷の月の明るき寒稽古 福田蓼汀 山火
故郷の栗を待たずに逝かれけり 岩田由美 夏安
故郷の棚田の荒れて水鶏鳴く 高橋正彦
故郷の母と姉との初便 高浜虚子
故郷の水の味晝千鳥なく 中塚一碧樓
故郷の海の色濃き鱸かな 黒瀬輝子
故郷の海見下して春菜摘む 川村ひろし
故郷の淋しき秋を忘るゝな 秋 正岡子規
故郷の畑に散りけり芥子の花 芥子の花 正岡子規
故郷の目に見えてたゞ桜散る 散桜 正岡子規
故郷の神に願ひて厄落し 稲垣由江
故郷の秋わびしさよ帰り花 会津八一
故郷の秋天濃しや土手上崖の上 香西照雄 素心
故郷の稲架の向うは日本海 小櫃 きよ
故郷の艀舟嬉しき夏帽子 会津八一
故郷の菊はいくさに踏まれけん 菊 正岡子規
故郷の菊十月も咲きにけり 船山
故郷の蒼白の文字と水の空 阿部完市 証
故郷の虫の浄土に枕並べ 成宮紫水
故郷の訛に戻り初電話 松本幸代
故郷の話ふくらむ雑煮椀 工藤たみ江
故郷の遠ざかるごと春去りぬ 早稲田良子
故郷の野良打つ音して鍬形虫 ひらきたはじむ
故郷の闇あをあをと夜鷹鳴く 恩田 洋子
故郷の雪間の道を帰り来し 羽生大雪
故郷の電車今も西日に頭振る 平畑静塔「月下の俘虜」
故郷の霜の味見よ赤かぶら 霜 正岡子規
故郷の風の匂へる古団扇 青柳薫也
故郷の餅焼きつ流浪の夜のごとし 大串章
故郷の鮎くひに行く休暇哉 鮎 正岡子規
故郷まで吹き抜けの空いかのぼり 橋本喜夫
故郷も今は仮寝や渡り鳥 去来
故郷も父母もなき手毬唄 菖蒲あや 路 地
故郷も隣長屋か虫の声 其角 (柴雫と伊勢を語りて)
故郷やいたはりて剥く桃の肌 佐野美智
故郷やどちらを見ても山笑ふ 正岡子規
故郷やよるもさはるも茨の花 一茶
故郷や上がり框にへぼ南瓜 二宮貢作
故郷や即女も非女もおみなえし 安井浩司 氾人
故郷や暗きより湧く泉ゆゑ 小檜山繁子「流水」
故郷や母がいまさば蓬餅 草餅 正岡子規
故郷や玻璃にぶつかる銀やんま 中沢城子
故郷や瓜も冷して手紙書く 雑草 長谷川零餘子
故郷や知らぬ男の畠打つ 畑打 正岡子規
故郷や祭も過ぎて柿の味 柿 正岡子規
故郷や秋稍寒く梨の味 抱琴
故郷や臼も竃も注連飾 田中寒楼
故郷や茅花ぬきしは十余年 正岡子規
故郷や菊の籬の草の山 尾崎迷堂 孤輪
故郷や菊芳しく父母在す 寺田寅彦
故郷や蕪引く頃墓参 子規句集 虚子・碧梧桐選
故郷や蝌蚪もむじなも死に絶えて 筑紫磐井 花鳥諷詠
故郷や近よる人を切る芒 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
故郷や道狹うして粟垂るゝ 粟 正岡子規
故郷や酒はあしくとそばの花 蕪村 秋之部 ■ 雲裡房、つくしへ旅だつとて我に同行をすゝめけるに、えゆかざりければ
故郷より虹の輪くぐり友の来る 斉藤洋子
故郷をいでて久しききゆうりもみ 中川夢想子
故郷をすつかり忘れ残る鴨 猪瀬 幸
故郷をよしなくおもふ日の帰燕 佐野まもる 海郷
故郷を七度あとに秋の風 会津八一
故郷を去つて蓴を喰ふかな 会津八一
故郷を水色のサングラス越し 伊藤トキノ
故郷を白くしたるは雪女郎 稲畑廣太郎
故郷を百度捨てし鳳仙花 杉田桂
故郷を立ちいでたるも一むかし 正岡子規
故郷を訪ひて遊子や夏罰 山田弘子 こぶし坂
故郷去る 夏山に墓一つ増やし 伊丹三樹彦
故郷去る 秋山に墓一つ増やし 伊丹三樹彦 樹冠
故郷去る三日の暮雪ちらつく中 田中鬼骨
故郷去る十三日の月の宵 下村梅子
故郷去る秋山に墓一つ増やし 伊丹三樹彦
故郷向く独身寮の枯辛夷 百合山羽公 寒雁
故郷喪失洗い髪のまま寝ては 対馬康子 愛国
故郷寒しうつくしき雨垂れの砂 榎本冬一郎 眼光
故郷捨てて捨てられしごと春炬燵 鳥居美智子
故郷近く夏橙を船に売る 夏蜜柑 正岡子規
故郷近し義手のバンドを緊める音 小沢潮路
故郷遠く一番星は蜘蛛の囲に 今瀬剛一(対岸)
故郷遠く土筆に囲まれ立ちてわれ 村越化石 山國抄
故郷遠し線路の上の青ガエル 寺山修司
故郷離れざるものわれと寒鴉 矢島渚男 釆薇
敗け独楽に故郷の日暮れ来てゐたり 山内佗助
数へ日や故郷の海老生きて着く 伊東宏晃
斜線でくもる故郷と児の描く初島と 阿部完市 絵本の空
斥候の故郷望む岡見かな 岡見 正岡子規
新聞で見るや故郷の初しぐれ 正岡子規
旅に寝て故郷の春を惜みけり 春武
旅寐九年故郷の月ぞあり難き 月 正岡子規
日あたる故郷釣の餌箱のみみず跳ね 三橋敏雄
日向ぼこ溶けて流れて故郷無し 浜崎敬治
日本が故郷栗の林に栗満ちて 阿部完市 無帽
早春の波寄せ故郷唱もなし 藤後左右
早春や遠故郷のすみれ色 村越化石
早稲熟れてゐる故郷に力あり 乾 燕子
明易き故郷泊り水匂ふ 田中英子
春の窓ふいて故郷に別れを告ぐ 大高翔
春の風草深くても故郷也 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
春山を越えて土減る故郷かな 三橋敏雄
春帽子畳に投げて故郷かな 佐藤さよ子
春暁の故郷の厠生木の香 宮坂静生 青胡桃
春服や親達にのみ故郷あり 中村草田男
春浅き故郷に泥鰌手捕らむか 有働亨 汐路
春炬燵酔へば釣らるる故郷訛 槫沼けい一
春蘭や株ごとに持つ野の故郷 遠藤 はつ
春蝉や墓域がわれを待つ故郷 座光寺亭人
春風や高さを競ふ千社札 故郷 吉田冬葉
晩稲田の色濃き雨に故郷あり 宮津昭彦
更衣故郷のたより届きけり 更衣 正岡子規
曼珠沙華もろ手をあげて故郷なり 鈴木真砂女
曾良故郷塚湖風の三味線草 西本一都 景色
月に来ませ故郷の鮎を振舞はむ 会津八一
朝市や故郷の青梅選び買ふ 小泉はつゑ
木の実独楽故郷の匂ひして廻る 笹瀬節子
木枯や故郷の火事を見る夜かな 寺田寅彦
朴ひらく故郷の山の名を知らず 岩田由美 夏安
東京はわが故郷よ獅子ばやし 龍男
東風の塵胸に吹きつけくる故郷 原裕 葦牙
松茸食いたし故郷から来た青酢橘 橋本夢道 無類の妻
枯露柿の甘さ故郷ある限り 西川五郎
柳葉魚焼く学徒の唄に故郷あり 桂樟蹊子
柳葉魚焼く学徒や唄に故郷あり 桂樟蹊子
柿食うて移民に遠き故郷あり 目黒白水
桃ひらく故郷千代紙より稚く 植村通草
桜貝耳に忘れてゆく故郷 二村典子
梅は実に故郷の釣瓶いまもきしむ 成瀬桜桃子 風色
梨むくや故郷をあとに舟下る 飯田蛇笏
梨むくや故郷をあとの舟の中 東洋城千句
棄てて来し故郷おもへり盆の月 成瀬桜桃子 風色
歯車のように歩むスカンポ伸びた故郷 福富健男
死ぬときは故郷といふ雀の子 菅原さだを
残雪や故郷を離るる薬売 青柳志解樹
母ありてこそ故郷の盆をしに 豊田長世
母の渦子の渦鳴門故郷の渦 橋本夢道 無禮なる妻抄
母逝きてより初凪の故郷見ず 柏田洋征
母遺し雪降りかくす故郷発つ 福田蓼汀 山火
水かぎろへる辺りより故郷 長谷川双魚 風形
水を打つ故郷再び離るべく 中村汀女
水洟の水色膝に落つ故郷 永田耕衣
水虫の足裏で息し行く故郷 永田耕衣
水門にうごく木影や冬の月 故郷 吉田冬葉
汽罐車の火夫に故郷の夜の稲架 大野林火
汽車待てば汽車来る故郷麦畑 橋本美代子
沖もわが故郷ぞ小鳥湧き立つは 寺山修司 花粉航海
沢蟹の寒暮を歩きゐる故郷 飯田龍太(1920-)
法師子の故郷かたる焚火かな 伊藤虚舟
泡盛や故郷違ふ男らに 青木満子
洗ひ顔の河砂利故郷の柿若葉 香西照雄 素心
流あれば故郷めけよと柳挿す 佐藤念腹
海苔を噛みて故郷人と談りけり 会津八一
添え乳していま燃え落ちる故郷の橋 小泉八重子
添乳していま燃え落ちる故郷の橋 小泉八重子
渡鳥誰か故郷を愛せざる 山口青邨
港で編む毛糸続きは故郷で編む 大串章 朝の舟
源五郎故郷の貌をしてあゆむ ほんだゆき
濡れて来る猫いっぴきの枯れ故郷 河合凱夫 飛礫
焚火離れて故郷を後にせり 平石和美
照影も殊に故郷の花の蔭 中村汀女
父の日や夫に父あり故郷あり 小坂京子
父母と戻る故郷ながら秋の星 中島月笠 月笠句集
父母亡くて何ぞ故郷やつくつくし 池田弥寿
犬吠えて故郷荒れぬ柿紅葉 紅葉 正岡子規
猫柳故郷にありし空の色 山田紀子
玉虫もその木もはるかなる故郷 清水澄子
玉虫厨子いずこの山も故郷かな 和田悟朗 法隆寺伝承
生きゐしかばうごく故郷の栗の虫 松村蒼石 雁
生れたるのみの故郷盆の月 大橋敦子 母子草
畑より西瓜貰ふも故郷かな 中田多喜子
病得て今は故郷に虫の秋 鶴田栄秋
白朮火やふと故郷の炉のにほひ 藤崎実
百姓の生きのすがた終身囚の如く老いこけて笑わぬ故郷 橋本夢道 無禮なる妻抄
盆団子の白き故郷の客となる 有働亨 汐路
盆荒の故郷をしかと見届けし 大牧 広
盆菓子に手を出し 所在ない故郷 伊丹三樹彦 樹冠
眉ひらく故郷三十二度とけふ 石塚友二 方寸虚実
真冬の故郷正座してものおもはする 飯田龍太 春の道
短夜や明日は故郷に薫る風 寺田寅彦
秋出水「カルメン故郷に帰る」頃 攝津幸彦 鹿々集
秋十とせ却つて江戸を指す故郷 松尾芭蕉
秋十年却って江戸を指す故郷 松尾芭蕉
秋風や故郷さして歸る人 秋風 正岡子規
稲架の上に乳房ならびに故郷の山 富安風生
窓を開け幾夜故郷の春の月 中村汀女
竹伐るや盂蘭盆近き日の故郷 村野鶴諒子
竹馬のうしろ昏れゐし故郷かな 土佐ノ竜雅洞
素通りの故郷の山河時雨れをり 山田弘子 こぶし坂
細雪降る日の故郷の幾小径 村越化石 山國抄
終点が故郷晩秋磯の香も 古舘曹人 能登の蛙
絵葉書の象の悲しみ知る故郷 武馬久仁裕
線路沿ひ枯れて故郷を遠くせり 大串章
線香花火の火の玉落つる故郷なし 稲野博明
老いても子に従わぬ母の頑固の故郷の秋茄子 橋本夢道 無禮なる妻抄
胡桃割るこきんと故郷鍵あいて 林翔
胸に棲みつく鴎いま冬母の故郷 鍵和田[ゆう]子 浮標
脚病めば故郷遠し啄木忌 遠藤梧逸
自然薯来る故郷の山の土付けて 大塚とめ子
芋虫や故郷に似たる草嵐 小松崎爽青
芝焼いて転勤者の子ら故郷なし 近藤一鴻
花いばら故郷の路に似たる哉 蕪村 夏之部 ■ かの東皐にのぼれば
花しきみ遺髪うづめし故郷塚 上村占魚
花山葵田故郷いまさら美しく 笠原蜻蛉子(萬緑)
花火果て故郷の闇深かりし 佐藤なか
花盛故郷や今衣がへ 花盛 正岡子規
花茨故郷の路に似たるかな 蕪村
花街の雨の冬草故郷かな 長谷川双魚 風形
茎立や故郷すでに他郷にて 樋笠文
茸にほへばつつましき故郷あり 龍太
草木瓜や故郷のごとき療養所 石田波郷
草枕故郷の人の盆曾かな 暁臺
草餅や故郷出し友の噂もなし 寺山修司 花粉航海
荷ずれ傷つきて故郷の梨届く 前橋春菜
菅原葭原馬は故郷の青墓なり 阿部完市 軽のやまめ
菊の香や故郷遠き国ながら 夏目漱石 明治二十八年
菊咲けり故郷に帰らんかと思ふ 福田蓼汀 山火
菌など干して祖母ある故郷かな 比叡 野村泊月
落花生畑の月も故郷なる 行方克巳
落葉道吾にも故郷ありしかな 市野沢弘子
葛の花次第にかなし故郷のうた 知世子
葭切に故郷またも杭を打つ 滝佳杖
葭切に空瓶流れつく故郷 藤田湘子「雲の流域」
葱坊主どこふり向きても故郷 寺山修司
葱坊主どこをふり向きても故郷 寺山修司(1935-83)
藁塚のもたれあふなどああ故郷 佐野まもる
藍刈やこゝも故郷に似たる哉 藍刈る 正岡子規
藺田青き師の故郷の忌に参ず 伊東宏晃
藺苗抜くいたづら鴉故郷のいろ 和田照海
虫鳴いて裏地のやうな故郷かな 大石雄鬼
蚊帳へくる故郷の町の薄あかり 中村草田男「長子」
蚊帳吊し中に故郷の夜のあり 小林景峰
蚊柱や豊作の山川暮れて故郷の母娘不和の家 橋本夢道 無禮なる妻抄
蚯蚓鳴き故郷の夜道今も同じ 福田蓼汀
蝉の穴覗く故郷を見尽して 中村苑子(1913-2001)
螢飛ぶ故郷の夜道鞄提げ 福田蓼汀 山火
蠅いとふ身を故郷に晝寢かな 蕪村 夏之部 ■ 畫賛
血縁の絶えし故郷の桐の花 長田等
行年を故郷人と酌みかはす 行く年 正岡子規
衣被嫁かずば故郷無きに似て つじ加代子
袷古りぬ妻と故郷を同じうし 佐野青陽人 天の川
襤褸買ひの陽をまるめ込む枯故郷 成田千空 地霊
西行忌棄つべき故郷われになし 成瀬桜桃子 風色
見かぎりし故郷の山の桜哉 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
記念館待たるる故郷冬霞 稲畑廣太郎
誰を訪はむ故郷を蔽ひ降る雪に 榎本冬一郎 眼光
誰彼に逢うて蓮の実とぶ故郷 伊藤京子
蹴り伏せて野菊水色なる故郷 永田耕衣 吹毛集
身に入むや流離のはての故郷に 八牧美喜子
迎春花故郷恋しくありし日々 三木朱城
迎火や墓は故郷家は旅 迎火 正岡子規
郭公やわれに故郷かへすべし 小檜山繁子
重心を低くして故郷にいる 一井真理子
野鼠の走るを遠目枯故郷 伊藤京子
銀河濃し故郷の海匂ひ来る 角南旦山
長男がまもる故郷の餅届く 早乙女成子
閑古鳥故郷に満てる他人の顔 山田みづえ 忘
除虫菊女中に白き故郷あり 攝津幸彦 鹿々集
陵は早稲の香りの故郷かな(大和路に入る) 『定本石橋秀野句文集』
雨故郷千年沼のぬなはかな 小川芋銭 芋銭子俳句と画跡
雪におもへ富士にむかはゞ故郷の絵 斯波園女
雪に思へ富士に向はば故郷の絵 園女 俳諧撰集玉藻集
雪女出さうな沢もあり故郷 佐藤宣子
雪嶺を据ゑ一故旧なき故郷 林翔
雪解の故郷出る人みんな逃ぐるさま 修司
雪降り出す瞼閉づれば故郷の山 櫛原希伊子
雲の峰故郷のかたに立つ日哉 会津八一
雲海の高さに目覚め故郷たり 竹内秋暮
雲白し蝉満開の故郷の杉 福田甲子雄
雲青嶺母あるかぎりわが故郷 福永耕二
雷走る葉煙草の野や父の故郷 鍵和田[ゆう]子 未来図
霜晴の那須野那須嶽故郷去る 深見けん二
霜柱踏めば故郷くづれけり 木村敏男
霞む一微塵に故郷哭き現われ 永田耕衣 悪霊
青故郷法事一つに繋がりて 高澤良一 さざなみやつこ
青梅の雫したたる故郷塚 近藤文子
青葉嶺の見ゆる限りは吾が故郷 横田清桜子
青葡萄夕爾の故郷いまだ見ず 樋笠文
頭にふるる炎天の風故郷なり 原裕 葦牙
風の故郷が見えるいちにち茣蓙にいて 阿部完市
風の故郷が見える一日茣蓙にいて 阿部完市 絵本の空
風吹いて故郷明るし真赤な父 阿部完市 絵本の空
飯饐えて踏切の鳴る故郷かな 藤澤正英(鷹)
香水や母と故郷を異なれり 寺山修司 『われに五月を』
馬の子の故郷離るる秋の雨 一茶
骨壺の弟を抱え母と故郷の海見ゆる峠となる 橋本夢道
鬼灯の朱色葉ごもる母の故郷 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
鬼灯を揉んで幼なくする故郷 野村仙水
魂迎へ故郷失ひゐたりけり 米沢吾亦紅 童顔
鮭と鯡と故郷語る武庫の月 月 正岡子規
鯉ほどの唐黍をもぎ故郷なり 成田千空
鯖火焚くひとの子とゐて故郷なり 榎本冬一郎 眼光
鰊焼くけむり故郷の匂ひ来る 谷 和子
鰤雑煮父母の故郷に縁なしや 茘枝
鰯雲故郷に似たる堪へがたし 徳永山冬子
鰯雲故郷の竃火いま燃ゆらん 金子兜太 少年/生長
鳥かぶとすつくと故郷遥かなり 大野悠子
鳥となり瞰たし故郷の初景色 林昌華
鳥の列穢として見ずや故郷恋へば 細谷源二 砂金帯
鳥の巣や既に故郷の路にあり 露月句集 石井露月
鳥居出て故郷のごとし穂麦風 香西照雄 対話
鳥雲に水の近江を故郷とし 桜坡子
鴫焼きに偲ぶや故郷の死者生者 石崎素秋(俳句饗宴)
麦の風故郷近くなりにけり 麦 正岡子規
麦秋の故郷に帰る遺骨かな 河野静雲 閻魔
麦秋や誰か故郷をハーモニカ すずき波浪
麦秋を俯向き通る故郷かな 耕衣
麦藁の上に憩ひて故郷かな 池内たけし
麦藁帽振れば故郷寄せて来る 相原左義長「地金」
●故里
いまだ見ぬ夫の故里黄沙降る 豊田美奈子
ここ故里のひととこの眠り草かな 人間を彫る 大橋裸木
ゐのこづち故里に来てただ睡し 中村苑子
佇つ人に故里遠し浮寝鳥 風生
墓参せし夜の雨音の故里に寝る 人間を彫る 大橋裸木
夕陽ひろびろ我が故里は麦蒔かれ 木村緑平
天井の低き故里千鳥鳴く 小田泰枝
女の履歴書に故里の川がある 鹿山末広
子にうつす故里なまり衣被 石橋秀野
寒ン晴れの故里に戻り芋粥に喉やく 人間を彫る 大橋裸木
山鳩のみ故里の声つまびらか 林薫子
年の暮故里に身をゆるめたる 細見綾子
恵方道故里人と話しつれ 富安風生
故里にしばらく菊の奴かな 比叡 野村泊月
故里につながる蜜柑ころがれり 村越化石
故里に声なき昼やもつれあい 津沢マサ子 楕円の昼
故里に帰りし女芹を摘む 真柄嘉子
故里に禰宜とし帰る夏帽子 石川冨美子
故里の人や汗して菜飯食ふ 細見綾子 雉子
故里の人を思へば霰降る 会津八一
故里の何処を向いても冬銀河 東濃幸子
故里の入口寒し亂塔場 寒し 正岡子規
故里の厠の貧し李咲く 瀧澤伊代次
故里の夢麦秋の汽車に覚む 橋本喜夫
故里の河口越冬つばめかな 内田郁代
故里の深雪に吾子を旅発たす 山田弘子 螢川
故里の粟餅を焼き老いんとす 細見綾子 黄 炎
故里の蚊の声あまし酒をくむ 瀧澤伊代次
故里の野の香炊き上げ嫁菜飯 山田弘子 こぶし坂
故里の銀漢小さくなりにけり 瀧澤伊代次
故里の青嶺さびたり鰻食ふ 細見綾子 黄 瀬
故里は今も無医村冬ぬくし 坂本登美子
故里は子規の松山つくつくし 川崎祥子
故里は母ありてこそ猫柳 長谷川満子
故里は火を点したる夜寒哉 寺田寅彦
故里へ近づく鰊ぐもりかな 高岸藤渓
故里や六年ぶりの風呂の秋 寺田寅彦
故里や家失せてうちむらさきの樹も 二宮貢作
故里や打てば炎えたつしびと花 河原枇杷男 流灌頂
故里や稲妻がして早寝せり 細見綾子
故里や蝉の聲しむ母の骨 栗林一石路
故里をぶら~歩く金盞花 真田三裕紀
故里を発つ汽車にあり盆の月 竹下しづの女句文集 昭和十年
故里を語らばや蝌蚪生るゝなど 細見綾子 花 季
日貼剥ぐや故里の川鳴りをらむ 村越化石
春暁の夢の土橋の故里よ 高柳重信
暗闇に故里訛富士詣 吉村あい子
母ありてこその故里春の雁 藤田正聲
母と住む此処が故里稲の花 三谷スミ
母病むと訪ふ故里や羽蟻の夜 山田弘子 螢川
汗引いて山河やうやく故里ぞ 皆吉爽雨
猪肉の包み大事に故里人 細見綾子 黄 炎
甘草の芽の出し土橋故里に 瀧澤伊代次
田螺生るわが故里の津守かな 柴田きよ子
白髪すいて故里ばかりがとおくなる 中谷みさを
盆燈籠の下ひと夜を過ごし故里立つ 尾崎放哉
目貼剥ぐや故里の川鳴りをらむ 村越化石
笹鳴やけふ故里にある思ひ 篠原鳳作
老の身に故里ありて栗とどく 松本つや女
花人として故里にある一日 山田弘子 こぶし坂
芹摘んで故里とほき齢かな 望月たかし
苗木植う故里の山踏みしめて 川崎俊子
草の穂をぬいて故里見てありく 瀧澤伊代次
藁塚ごとに藁塚の影あり故里は 藤岡筑邨
雀の声の故里のそこここへ土産を分ける 人間を彫る 大橋裸木
霧こめた野に泣くところ故里は 竹屋敦子
馬屋見れば故里遠し合歓の花 瀧澤伊代次
麦の夜風のなまぬくき故里へ病んで戻る 人間を彫る 大橋裸木
●郷里
にほひなきハリエンジユなり郷里おもう 布川みどり
ひよろつくは郷里の月に酔ひしかな 香西照雄 対話
初景色富士を大きく母の郷里 文挾夫佐恵
桑の芽に郷里玉なす夕日射 飯田龍太
水洟も郷里艶めく橋の空 飯田龍太
海原に郷里茫たり月千里 寺田寅彦
車輪の下はすぐに郷里や溝清水 寺山修司 花粉航海
●実家
実家から千両貰ふを習ひとす 高澤良一 宿好
実家なき母よ煮こぼるるさまの芝桜 平井さち子 完流
実家にて油売りくる日焼妻 高澤良一 寒暑
実家には嫂匂う麦の秋 島津天平
実家の名の畳紙に残る花衣 有馬籌子
寒天晒す実家の空気が薄くなる 高遠朱音
廃屋を実家と指せり山桜 茨木和生 丹生
彼岸会や実家の仏間うす暗く 平田まり
栗おこわ持って実家へ妻いそいそ 高澤良一 素抱
死際なれば実家の裏に焚木積む 吉田さかえ
秋の灯の誰かしらゐて実家なる 細川洋子
羽子板や実家の押入れ深かりき 鍵和田釉子
胡蝶蘭抱へて妻の実家訪ふ 船坂ちか子
酢牡蠣塩梅実家の嬶座の代変り 菊池志乃
●故国
初夢や故国を恋ひし兵のころ 三浦誠子
南なる故国をわらひ雪焼けなむ 石田波郷
君が遺詠多く故国の秋の詩なり 瀧春一 菜園
故国へかへる真つ黒の汽車にゆられかへる 酒井桐男
故国恋うて家毎に高しさるすべり 金箱戈止夫
水無月の故国に入れば翠かな 日野草城
満身に薫風まとふ故国の地 橋本奈津子
生きて故国の村にいる風速い元日 内田南草
秋風や故国へ帰る持扇 大場白水郎 散木集
積もる雪故国の遠さ感じをり D・J・リンズィー
荒南風や一線尽す故国の灯 桂樟蹊子
蓮浮葉ゆらゆら故国とほきかな 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
蹠やわらかし故国の空港踏み 久米富美子
還ります人に故国の蝉時雨 阿部みどり女
●家郷
*かりん老樹に赤児抱きつく家郷かな 金子兜太
あたらしき秋の家郷を水過ぐる 宇多喜代子
うかうかと木の実踏んづけ親しき家郷 山岡敬典
かまど猫家郷いよいよ去りがたし 鈴木渥志
二十年家郷を出でず花茨 石井露月
伐られたる梢に滲むわが家郷ひとつのことば枝に置かれゐし 前川佐重郎
切干や家郷捨てたるにはあらず 小島健 木の実
合掌の家霊冴えをり家郷捨つ 石原八束
地靄して阿蘇の家郷は田打時 斉藤亀夫
夏めくこゝろあり水平なれば家郷のごとし 中塚一碧樓
夏空に記憶の一樹家郷を去る 大井雅人 龍岡村
夜光虫燃えゐて家郷まぎれなし 富田みのる
妻とあればいづこも家郷梅雨青し 山口誓子「遠星」
家郷いつも誰かが病めり干菜汁 関戸靖子
家郷いま山車練る頃ぞ男児生る 奈良文夫(萬緑)
家郷なり端山に白ナプキンの富士 奈良文夫
家郷の夕餉始まりをらむ夕桜 大串章 朝の舟
家郷末枯れ旅人として山見をり 小松崎爽青
家郷青し低き山にも視野絶たれ 津田清子 礼 拝
寄鍋や家郷に遠き人ばかり 大橋敦子 手 鞠
屋根石の濡れて家郷の虹太し 冨田みのる
手毬唄父の家郷と思はばや 藤木倶子
捨てしにはあらぬ家郷や雁渡し 平賀 扶人
昼顔や老い美しき家郷の人(水橋町) 角川源義 『西行の日』
月光のしみる家郷の冬の霧 飯田蛇笏
柚子味噌や家郷に遠き雇人 八牧美喜子
栄転の家郷に仰ぐ春の月 佐藤英子
母の顔春蘭(ほくり)に重ね家郷恋ふ 原田孵子
沢蟹に白頭映す家郷かな 金子兜太 皆之
灯取虫家郷に遠く父母あり 岸風三楼 往来
父の忌の早稲の刈りある家郷かな 鈴木穀雨
盆のもの家郷に送り拘引かれ来ぬ 岸風三楼 往来
稲架組めば家郷に似たり一つ星 鍵和田釉子
花梨老樹に赤児抱きつく家郷かな 金子兜太 皆之
萍の影濃き水の家郷かな 上野草魚子
行く年の追へばひろがる家郷の灯 福田甲子雄
●母郷
あけくれの素足涼しき母郷かな 谷田部 栄
かぎろひて父郷母郷のあはひかな 伊丹さち子
けぶる母郷いくたび芹の匂いたつ 穴井太 土語
けぶる母郷樗散る日の胸の中 木村宣子
げんげ田の果てに山あり母郷行 伊東宏晃
ひしほの香するや母郷の草いきれ 加藤三七子
ひとくちの酒の身にしむ母郷かな 成田千空
ひまわりのあなろぐ式も母郷かな 折笠美秋 虎嘯記
ひらがなのかなかな啼かせ母郷かな 辺見じゅん
ほろほろと芋の崩るる母郷かな 本庄登志彦
やや寒き戸を繰る音も母郷かな 吉村摂護
わが母郷雪国の海蒼き町 大橋敦子 匂 玉
アカシアの花踏み母郷まぎれなし 木村敏男
冬霧の鷲の白きを母郷とす 橋本鶏二
夕の川風の母郷は青天に 香西照雄 対話
家かたちあればの母郷鳥渡る ながさく清江
小鳥来る母郷ふところ深きかな 大塚信子
底紅や母郷かなしきまで澄みし 明石晃一
敗走の果ては母郷の青葉木菟 豊田都峰
春潮の遠鳴る能登を母郷とす 能村登四郎
晩春のとろりと海や母郷見ゆ 有働享
木の芽和つつく隅隅まで母郷 平畑静塔
本然の日と雪の原ここ母郷 成田千空 地霊
栗の花白湯にも味のある母郷 小松崎爽青
桑の実に雲旺んなる母郷かな 町田しげき
歳晩の海に日の入る母郷かな 岡崎陽市
母郷たしかむ焚火の芯は狐色 原裕 『葦牙』
母郷つひに他郷や青き風を生み 沼尻巳津子
母郷とは枯野にうるむ星のいろ 福田甲子雄
母郷とは涼しき道のあれば足る 島田牙城「袖珍抄」
母郷なり冬眠ヨツトのきしみ音も 鍵和田[ゆう]子 未来図
母郷なり瓢の実を吹く他はなし 永島靖子
母郷にて手掴む春の鮒冷たし 藤井亘
母郷春暁母もろともに時計古り 神尾久美子 掌
母郷言葉覚え戻りし娘と涼む 高橋せをち
母郷遠しラストシーンに落葉舞ひ 大串章 朝の舟
海原を母郷と呼ばはむ松の蝉 鍵和田[ゆう]子 浮標
焼山に月の出かかる母郷かな 高澤良一 ねずみのこまくら
百日紅この地母郷のごと見むか 角川源義 『西行の日』
真水の香母郷にみちて冬桜 白澤良子
老鶯や母郷つくづく水うまし 加藤たけし
胡桃割つて母郷の言葉われに無き 林翔 和紙
芋の葉の露ころがして母郷かな 皆川白陀
芋棒や母郷に消えし四脚門 小枝秀穂女
菜殻火に大河紅なす夜の母郷 岡部六弥太「土漠」
藁塚の蕊ぬくぬく母郷出づるなきか 宮慶一郎
虎杖を食めば母郷の海光る 館岡沙緻
踏みしめて白露一つづつ母郷 工藤義夫
里芋の茎の太きも母郷なり 山口いさを
銀漢の後尾は己が母郷へ落つ 伊藤敬子
降る雪や母郷に甘え生きて来し 山田一穂
骨壺のごと酒花菜母郷行 古舘曹人 能登の蛙
鮎鮨や山を幾重にわが母郷 近藤一鴻
鳥雲に厚き来信母郷より 神尾久美子 掌
鷹匠は母郷の空を裏返す 平尾知子
●父郷
かぎろひて父郷母郷のあはひかな 伊丹さち子
この大河渡れば父郷荻の声 熊田鹿石
父郷たる都濃津に拾ふ落穂かな 宮津昭彦
父郷行どの冬木にも黙礼し 木村敏男
父郷行父の享年踰ゆ秋に 宮津昭彦
知らぬ貌ばかり父郷の土竜打 持丸子蕪
落下傘燃える父郷の濃山吹 増田まさみ
蝌蚪の水いくつも跨ぎ父郷なる 高尾方子
●郷土
ダリヤ咲く踏絵の残る郷土館 村松圭治
嫁が君祀りし郷土資料館 内海良太
波郷土に山坂すべる初時雨 古舘曹人 砂の音
炎天の郷土にあたま晒しをり 石塚友二 光塵
秋の霜懺悔こころに郷土ふむ 飯田蛇笏 椿花集
郷土日々水澄むに思慮ふかめつつ 飯田蛇笏 雪峡
銀杏散る母校に聴講郷土の史 岡田三枝
●生国
ドラム缶炎炎炎と泣き継ぐ生国 金城けい
人なぜか生国を聞く赤のまま 大牧広(1931-)
光秀の生国黒穂踏みて佇つ 中澤康人「山居]
八重山吹生国はもう見知らぬ石 市野記余子
名を言へば生国問はれ水温む 戸恒東人
名乗りあふ生国遠き遍路かな 堀 磯路
夫の生国雪ぼたる連れ歩く 有光令子
年酒酌み生国遠き漢たち 中村苑子
戻り寒わが生国の邃いところ 山崎 聰
日蓮の生国埋む金盞花 高澤良一 寒暑
月下美人生国知らず開くなり 阿部みどり女 月下美人
炎天や丸太積まれている生国 穴井太 原郷樹林
燈籠の雨に生国問われたり 橋石 和栲
生国と発しましては零余子散る 穴井太 天籟雑唱
生国にいちばん近い檸檬の木 松澤昭 面白
生国に住みしことなし三宝柑 佐藤文子
生国に刀豆垂れる 父がいる 橋本純子
生国に大往生せん曼珠沙華 新谷ひろし
生国に念念の桜ありにけり 小枝秀穂女
生国に探す言葉や新豆腐 柿本多映
生国に来て夜桜の人となる 辻口秋草子
生国の夕焼を売る海鞘の山 下坂富美子
生国の山は畏し初茜 高橋克郎
生国の山河畏し初茜 高橋克郎
生国の昼へ蹴り出す煙茸 柿本多映
生国の籠目を抜ける祭笛 武田和郎
生国の闇を飛び交う紅椿 大西泰世
生国はここかもしれず蓬摘む 宇多喜代子
生国は不知火の果てほうき売 中村久江
生国は丹波も奥のましら酒 山田弘子
生国は土佐と薩摩や雪見酒 小田玲子
生国は波の上にと生御魂 橋本榮治 逆旅
生国は火の国なりき大根干す 時広智里
生国は越前故に丸餅に 松山足羽
生国は鉄の匂いの青葉闇 伊藤 翠
生国やいまのまぼろし花水木 齋藤玄 『無畔』
生国やすぐ酢に溶ける雁の空 西野理郎
生国や仏ぐらしの金鳳華 小島千架子
生国や寒の朝日のまくれなゐ 木附沢麦青
生国や海月の腫れに触れている 五島高資
生国を古い地名でいふ御慶 坂本安子
生国を呼び名とされて鱈の漁夫 中川水精
生国を問へば阿波とや老遍路 冨田みのる
生国を忘れし母の息白し 大木あまり 雲の塔
生国を恨むとすれば麦の禾 たむらちせい
生国を洗いきったる蛇の殻 鈴木光彦
生国を電車で通る月光裡 池田澄子
生涯に生国一つ柏餅 村越化石
秋は旅です思う存分生国抜け 山岡敬典
竹の子や生国を聞き大濤を 宇佐美魚目 天地存問
藁塚解かれ百の棒立つ生国は 樫谷雅道
螢火や生国いまだ見尽くさず 坂野源治
豆打つて我生国の直中に 折井紀衣
踊り子や生国の闇まうしろに 大盛和美
雪止まぬわが生国の塩壺に 大西泰世
雲見ても生国の海おもふ枯野かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
食ひぶちも穫れぬ生国薬降る 茨木和生 三輪崎
鵲と生国おなじ哀れかな 中尾寿美子
●故山
ほうほうと木菟呼ぶ故山に父母待つと 福田蓼汀 秋風挽歌
先生の故山に集ひ明け易し 深見けん二
初つばめ虚子の故山にあひて旅 大橋敦子 匂 玉
初釜に侍すや故山の風の音 大串 章
吾子とわれ故山に立つる鯉幟 相馬遷子 山國
夏帽子振るべく故山ありしかな 松山足羽
夏空の下美しき故山あり 上村占魚 鮎
天蚕を振りて故山の風を聞く 平賀扶人
妻癒えて故山のみどり滴らす 小島健 木の実
山葡萄故山の雲のかぎりなし 木下夕爾
師の病みし故山秋雨もただならず 金箱戈止夫
帰るべき故山は遠し雪安居 市堀玉宗
彼岸会の故山邃まるところかな 飯田蛇笏
御墓参のなみだをかくす故山かな 飯田蛇笏 山廬集
故山いよよ日強くいよよ水澄めり 中村草田男
故山また造成禿青田中 皆吉爽雨 泉声
故山我を芹つむ我を忘れしや 橋石 和栲
日の下に神の眠りの故山かな 吉武月二郎句集
春田水けふも故山をおもくせり 松村蒼石 雪
有の実やわれの故山を何処とも 上田五千石
桑いちご故山と云ふは雲に似て 今井勲
水の秋茫茫として故山あり 山内偕子
炎天の花火に故山応へけり 百合山羽公 寒雁
煮凝や暮れて故山のみなまろし 大石悦子 群萌
畝幅も芽麦のいろも故山なる 篠原梵 雨
登高の景に故山のまぎれなし 亀井糸游
秋の風故山に父母をゆだね去る 大串章
秋風や晶子捨てたる故山これ 大橋敦子 勾 玉以後
老足を遊ばす故山枯木中 岩木躑躅
背戸べりに菫ならびつ故山なる 室生犀星 犀星発句集
舟を得て故山に釣るや木の芽時 飯田蛇笏 山廬集
船のりの起臥に年たつ故山かな 飯田蛇笏 山廬集
船のりの起臥に歳たつ故山かな 飯田蛇笏 霊芝
船乗の起臥に年たつ故山かな 飯田蛇笏
草餅の故山の色にふくれけり 平賀芙人
親死んで松茸の出ぬ故山かな 星野恒彦
車窓新緑故山に向ふうづくまり 森澄雄 雪櫟
転げ出て故山の匂ひ虚栗 高澤良一 ねずみのこまくら
酸葉噛んで故山悉くはろかなる 石塚友二
鐘霞む故山といふはなかりけり 星野麥丘人
青饅や暮色重なりゆく故山 加藤燕雨
頬白や故山の土に母還し 手島靖一
●他郷
はこべ花を抱くといへど他郷なり 浅井周策
ふかぶかと他郷にありて青葉木菟 伊藤淳子
パイプの灰叩く他郷の一夏木 秋元不死男
人力車他郷の若草つけて帰る 寺山修司 花粉航海
仏法僧枕並べし他郷かな 菅原鬨也
他郷にてのびし髭剃る桜桃忌 寺山修司 花粉航海
他郷にて影の溺るる洗濯場 柿本多映
他郷にて懐炉しだいにあたたかし 桂信子 黄 炎
他郷にて駅の煖炉にすぐ寄らず 桂信子 黄 炎
他郷に生く蜻蛉ぽちぽち潦 宮坂静生 青胡桃
他郷また故郷となりぬリラの花 金箱戈止夫
住み古りて他郷は知らず杁(えぶり)笛 栗山光子
傀儡師他郷に命古りにけり 斎藤朗笛
北に他郷の黒つぐみ、ふるさとは父(ペール) 加藤郁乎 えくとぷらすま
向日葵に待たるる心地して他郷 櫂未知子 蒙古斑以後
四葩咲き他郷水の香強きかな 伊藤京子
夕日さす他郷の春の扉かな 柴田白葉女 花寂び 以後
妻恋や他郷の空にいわし雲 杉山岳陽 晩婚
屈み買う瓜に他郷の地熱かな 丸山景子(草苑)
山国の春や他郷へ急ぐ川 渡辺啓二郎
春の町他郷のごとしわが病めば 相馬遷子 山國
昼寝より醒めて他郷に足洗ふ 大串章 朝の舟
朝顔を咲かせ他郷の水に慣る 小林 強
枯山に汽笛漂ふ他郷かな 大堀恒春
桐の実に雲のまぶしき他郷棲み 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
桐の花他郷の情のふかゝりき 杉山岳陽 晩婚
桑の実を食むや他郷の風の中 岡部名保子
死の想ひありて他郷の雪起し 清水昇子
母郷つひに他郷や青き風を生み 沼尻巳津子
水母の顛倒すべて他郷の事なりし 堀内薫
洗ひ髪いつか他郷に家事の順 平井さち子 完流
煮凝や他郷のおもひしきりなり 相馬遷子 山國
男は他郷の赤いポストにあこがれる 大西泰世 世紀末の小町
痩せわらび採りて他郷に生きんかな 沼澤 石次
百日紅他郷の焦土つゞくなり 杉山岳陽 晩婚
祭好し他郷の太鼓も叩きたく 鍵和田[ゆう]子 未来図
秋蝉の声を限りに他郷の地 村野鶴諒子
綿虫の一点の瑠璃他郷なる 山本くに子
縁談や五月残雪ある他郷 及川貞 榧の實
船出待つ他郷の雲の峯に向き 津田清子 礼 拝
花篝他郷に老いて踊りけり 南一雄
茎立や故郷すでに他郷にて 樋笠文
蓮池の真つ盛りなる他郷かな 永田耕衣
薄氷の流れてここは他郷なり 加藤 正
蚊帳吊りてひとり他郷の宵祭 宮坂静生 青胡桃
蛇沈む濁流他郷の夜明にて 中島斌雄
蜩のあとの風音他郷なり 菅裸馬
蝉咽ぶ他郷信濃の古城址に 中村草田男
迎火や知らぬ他郷の人ばかり 杉山岳陽 晩婚
長男も次男も他郷天の川 富永 花鳥
門火焚く他郷に妻を喪ひて 小坂かしを
降る雪や他郷と言ふを知りてをり 杉山岳陽 晩婚
雪の上から踏む牡蠣殻や他郷ならず 木村蕪城 寒泉
雪の墓参他郷にいのち虐げて 木村蕪城 寒泉
霊柩車他郷に送り悴める 宮坂静生 青胡桃
音楽の鳴らぬ他郷の屠蘇に酔ふ 八木三日女
鳥帰る他郷に老いて甲斐訛 大須賀善和
麦秋の風切々と他郷なり 八木 峰
麻服の風の乾きも他郷なる 橋本榮治「越在」
●他国
ふるさとは遂に他国か波の華 鈴木真砂女
ヘッドライトが狙う冬帽他国の橋 寺田京子 日の鷹
他国者に鱈のあたまの大きくて 赤沢敬子
他国見る絵本の空にぶら下り 阿部完市
他国語と自国語と呵々花の山 富田美和
咳をして闇のふかまる他国かな 永田耕一郎 方途
寒夕焼他国へいそぐ千曲川 宮津昭彦
屋根越しの海さびしがる他国者 細見綾子 黄 炎
山繭を染めて他国へ没る日かな 飯田龍太 遅速
故郷は遂に他国か波の華 鈴木真砂女
日本の櫻を他国に植う話 高澤良一 燕音
木枯の橋を渡れば他国かな 一雄
汐浴びて他国を知らぬ子供等よ 星野立子
花火より火の棘降りてくる他国 対馬康子 愛国
●ふるさと
あんずの香の庭深いふるさと 室生犀星 魚眠洞發句集
ことありて帰るふるさと花辛夷 片山由美子 水精
たんぽぽの絮ふるさとを出奔す 青柳志解樹
ふるさとをまだ知らぬ子に蜥蜴いづ 萩原麦草 麦嵐
ふるさとを出でし夜もかく稲光り 成瀬桜桃子
ふるさとを半端に捨てて花遍路 金子雄山
ふるさとを去ぬ日来向ふ芙蓉かな 芝不器男
ふるさとを同うしたる秋天下 高野素十
ふるさとを忘れな草の咲く頃に 成嶋瓢雨
ふるさとを思ふ病に暑き秋 芥川龍之介
ふるさとを戀ふこともなく障子貼る 阿部みどり女
ふるさとを持つ恥づかしさ啄木忌 櫂未知子 貴族
ふるさとを捨つる勿れと柿赤し 山崎みのる
ふるさとを捨てし如くに墓参せず 杉山岳陽 晩婚
ふるさとを捨てし身のいま凍きびし 鈴木真砂女 夕螢
ふるさとを源として鮎の川 津田清子
ふるさとを訪ひ遇ひにけり寒念仏 行方寅次郎
ふるさとを語り掌に載す巴旦杏 伊藤京子
ふるさとを語れば熊と教師の名 長谷川洋児
ふるさとを遠くに暮らし踊り抜く 土井峰子
ふるさとを遠ざかりたる氷かな 横光利一
ふるさとを離るるまでを泳ぎをる 石田玄祥
ふるさと山を盾とす立夏かな 原裕 『出雲』
ふるさと近し堅そな桃の並べられ 林原耒井 蜩
一夜泊つ湖国ふるさと十三夜 大橋敦子 手 鞠
九輪草ふるさと詩碑も雨滴して 及川貞 夕焼
仏前に花持ちふるさと人のごと 池内友次郎 結婚まで
叔父の忌に集ふふるさと苗代寒 小路智壽子
喜雨の虹ふるさと人と打ち仰ぎ 飯田京畔
地の皺の中のふるさと雪明り 矢島渚男 天衣
子を生みに帰るふるさと盆の月 三輪浅茅
年酒酌むふるさと遠き二人かな 高野素十
戸籍のみ残るふるさと雁渡し 江崎慶子
春の霧ふるさと捨つるごとく発つ 佐藤輝城
木の葉髪ふるさと遠く住む身かな 村山古郷
末黒野の限りふるさと離れ得ず 加藤燕雨
枯芝を踏むふるさとを踏むやうに 丸山ゆきこ
柿落花ふるさと棄てしわれを打つ 成瀬桜桃子 風色
桐の花ふるさと人のみなやさし 川口咲子
梨甘く実るふるさと潮目濃し 伊藤京子
海を見てふるさと捨てし身は凍ゆ 木村蕪城 寒泉
盆の月ふるさと訪ふも久しぶり 成嶋瓢雨
砂糖きびかめば甘いふるさと 橋本夢道 無禮なる妻抄
色深きふるさと人の日傘かな 中村汀女「汀女句集」
薪能ふるさと深き闇を持ち 生田政春
都忘れふるさと捨ててより久し 志摩芳次郎
門火焚くふるさと人の吾を知らず 大橋櫻坡子
雪夜ふるさと真白き曲り蒼き曲り 加藤知世子 花寂び
雪強く踏むふるさとを捨てないため 望月精光
鳥渡るふるさと二つあるごとく 川上安三
鳳仙花ふるさと遠くなることなし 高橋沐石
黒眼鏡暗しふるさと田水沸く 西村公鳳
以上
by 575fudemakase
| 2022-05-22 14:04
| ブログ
俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
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