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野原・丘  の俳句

野原・丘  の俳句
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●浅野
冬の浅野川河畔歩きしふところ手 細見綾子 黄 炎
初鴨の水かがやかす浅野川 望月皓二
友禅を流す小春の浅野川 大坪貞子
桜桃忌夕日とどめる浅野川 宮本千代子
浅野川ほとりの宿も注連の内 深見けん二
浅野川木橋渡りてごりの汁 高橋恵美子
鮴汁の椀のぬくみや浅野川 浜本愛子
鮴汁や旅も名残りの浅野川 谷村久美子
●葦原
さまざまな青葦原を股のぞき 齋藤玄 『無畔』
しづけさの青芦原は日を返す 村田脩
すうすうと背中は広し枯葦原 池田澄子 たましいの話
たまさかに日当るは贅枯芦原 高澤良一 燕音
てのひらは枯芦原の縮図かな 小檜山繁子
てんと虫わが手の甲の青葦原 伊藤淳子
のどかわく葭切楽土の葦原は 鍵和田[ゆう]子 浮標
はるかより枯蘆原の昃りくる 素逝
めつむりて聴く葦原の秋の声 和泉千花
よく通る声は卑弥呼ぞ枯蘆原 越川 都
タンカーに豊葦原の菜種梅雨 岡 あきら
ハンドルのあそびを遊ぶ 青葦原 沙羅冬笛
マント緑に葦原邦子来りけり 鈴木栄子
三月の枯葦原は遠くうすれ 松村蒼石 雁
乱世のごとき大蘆原を行く 田川飛旅子 『邯鄲』
吾がいほは豊葦原の華がくり 竹下しづの女 [はやて]
咳きしつつ遠賀の蘆原旅ゆけり 橋本多佳子
地蔵会の裏は葭原葭すずめ 辻田克巳
夕潮に浮きし葭原葭雀 橋田憲明
夕蘆原行きて猟夫の肩没す 藤田湘子
太陽も蹤きて入り来し青芦原 右城暮石 上下
女知り青蘆原に身を沈む 車谷長吉
妻遠し芦原広し芦刈男 橋本多佳子
孵らざるものの声する青蘆原 大石悦子「耶々」
対岸の大葦原や行々子 田宮良子
対岸の青葭原へ渡し舟 松吉良信
己が影枯葦原を移りゆく 斎藤キヌ子
忽然と大蘆原の見えしかな 岸本尚毅 舜
指さして青芦原に風立たす 土生重次
捨てし田を豊葦原へ還しけり 大屋達治
日々刈りて蘆原とほくなりし小屋 戸田銀汀
日ねもすの葭原雀田ごしらへ 竹末春野人
日上れば芦原は冬の靄となる 開原冬草
日当つて枯蘆原のかげもなし 高浜年尾
春あさし葦原に焚くは夢の襤褸 寺井谷子
月の輪が豊葦原の葦を吹く 加藤郁乎 球体感覚
月を待つ芦原ひくゝ鷭翔けり 岸風三楼 往来
服の色忘れてあそぶ枯芦原 岡本眸
松原に葭原ありて行々子 河野静雲 閻魔
枯芦原水現れて流れ去る 石塚友二
枯葦原たつぷりと日の匂あり 小野恵美子
枯葦原他界のひかりはばからず 和田知子
枯葦原必死のいろに火を待てり 蒼石
枯蘆原どこまで入らば紛るるや 大石悦子 群萌
枯蘆原日に磨かれて丈そろふ 松村蒼石 雪
枯蘆原杜国のゆきし跡をゆく 九鬼あきゑ
枯蘆原水現れて流れ去る 石塚友二
棲めば吾が青葦原の女王にて 竹下しづの女 [はやて]
母を叱り枯蘆原に走り込む 鈴木六林男
気功なら枯芦原をころがして 杉浦一枝
溺れてもいい葦原のこの青さ ふけとしこ 伝言
熱気球の影の薙ぎゆく枯芦原 伊藤いと子
白鷺を沈め蘆原暮れむとす 神戸みち子
胎内に豊葦原がそよいでいるわ 豊口陽子
自ら照る太陽を枯葦原 池田澄子 たましいの話
芦原にさめざめと日の入りにけり 西村和子 かりそめならず
芦原に幟の靡く川施餓鬼 大竹節二
芦原に牛沈み居る磧かな 高濱年尾 年尾句集
芦原の上低くとぶ春の雁 波多野爽波 鋪道の花
芦原の中に家あり行々子 行々子 正岡子規
芦原の日の中に降るあられかな 阿部みどり女 『微風』
芦原の月夜大きな暈の下 長谷川素逝 村
芦原も刈りたる跡も広かりし 青葉三角草
芦原やはらり~と落つる雁 古白遺稿 藤野古白
芦原や手賀沼の猫文学す 篠田喜代
芦原や豊のちまきの国津風 上島鬼貫
芦原を埋め立てし泥田鳧飛ぶ 茨木和生 遠つ川
芦原を焼き払ひたる水とびとび 松本たかし
花淡き茱萸を仰ぎて芦原の湯 堀口星眠 樹の雫
菅原葭原馬は故郷の青墓なり 阿部完市 軽のやまめ
葦原にざぶざぶと夏来たりけり 保坂敏子「芽山椒」
葦原にまつすぐな穂の生れをり 矢島昭子
葦原に入りて滅びし曼珠沙華 火村卓造
葦原に帰燕あつまる遠江 夏目隆夫
葦原のどこかに叛旗初しぐれ 岩間民子
葦原の戦ぐそよがぬ天命かな 坂戸淳夫
葦原の日の中に降るあられかな 阿部みどり女
葦原や命も棒も歩きつつ 桑原三郎 春亂
葦原をうつる雪加や声のみに 渡辺 立男
葦原をすすむ決闘儀式かな 宇多喜代子
葦原を出づる嘗ての蛍の身 齋藤玄 『無畔』
葦原を撫でて日が落つ泥鰌掘 斎藤道子
葦牙に立つ日入る日や故レ葦原ノ中国 高柳重信
葭切に大芦原の目路はるか 鈴鹿野風呂 浜木綿
葭切は豊葦原の昔より 森田峠 避暑散歩
葭原の刈られ蜂の巣ころびをり 京極杞陽 くくたち下巻
葭原の外網代木の流れかな 大須賀乙字
葭原の葭切の鳴き雑木に飛び 小澤碧童 碧童句集
葭原雀月の夜一夜啼くものか 臼田亜浪 旅人
蘆原に夏のきはまる夕日かな 松村蒼石 雪
蘆原に牛沈みゐる磧かな 高浜年尾
蘆原に絮のあがるは蘆を刈る 林火
蘆原に隠れて蘆を刈る人ぞ 長谷川櫂 天球
蘆原に雲生れしとき濁り鮒 角川源義
蘆原の中に家あり行々子 正岡子規
蘆原の日の中に降るあられかな 阿部みどり女
蘆原を押分けくるや鯊の潮 古橋呼狂
蘆原を焼拂いたる水とびとび 松本たかし
蘆原将軍といふ人ありしラムネかな 成瀬桜桃子 風色
蜂に憑かれ赤シャツ逃げる枯芦原 西東三鬼
行々子葭原に雨突き刺さり 河府 雪於
身の丈の蘆原に来てハーモニカ 対馬康子 純情
辱を得て青葦原を泳ぐかな 鳴戸奈菜
道に添うた葭原の葭切ついそこ 梅林句屑 喜谷六花
遠き国より来し葭原の梅雨の音 高室呉龍
雁帰る大芦原に声を継ぎ 神山テル
霾ると蘆原色を失ひぬ 向笠和子
青芦原をんなの一生透きとほる 橋本多佳子
青芦原列車から手を出している 永末恵子 発色
青芦原母はと見れば芦なりけり 中村苑子
青葦原あまりのことに生れけり 永末恵子
青葦原ふたつの目玉なにもせず 齋藤玄 『雁道』
青葦原吹かれ通しにどんな夢 篠田悦子
青葦原日の光濾し風を漉し 津田清子
青葦原汗だくだくの鼠と遇う 金子兜太 皆之
青葦原踏み入るすきのなかりけり 市野沢弘子
青蘆原をんなの一生透きとほる 橋本多佳子
青蘆原微熱少年疾走す 石寒太 翔
靴紐を固く青蘆原無限 折井紀衣
鞭からみ鳴る葦原は没り日の巣 成田千空 地霊
駑馬の尾と揺るる葦原橋得たし 成田千空 地霊
鳰泳ぐ蘆原の子を呼び出して 茨木和生 往馬
鷭鳴くや芦原に闇うごき出す 影山葭郎
黒南風の蘆原雲のごとくなり 松村蒼石 雪
黒南風は洲の葦原を束ね吹く 松村蒼石 雁
●大野
一天の安騎の大野の刈田かな 平井照敏 天上大風
夏菊に馴染初めたる大野かな 上島鬼貫
狼が消え大野のはげしい尿意 山田緑光
秋風の大野朝市猿を売る 新田祐久
落穂拾ひ阿騎の大野の狩場跡 岩崎眉乃
霜の声富士の大野を渡るかな 服部静江
●丘辺
●小野
からさけや小野の薄もかれてのち 蕪村遺稿 冬
からざけの片荷や小野の炭俵 蕪村
はべくれや小野のお通が花すすき 山口素堂
ふるさとの小野の木立の青葉木菟 浅井青陽子
めづらしと海鼠を焼や小野の奥 俊似
わか竹に家重なるや小野醍醐 蝶夢「草根発句集」
乾鮭の片荷や小野の炭俵 蕪村遺稿 冬
何戀ひて痩するぞ小野の女郎花 女郎花 正岡子規
小野の鳶雲に上りて春めきぬ 飯田蛇笏 霊芝
小野を焼くをとこをみなや東風曇り 飯田蛇笏 霊芝
小野ゝ炭匂ふ火桶のあなめ哉 蕪村 冬之部 ■ 老女の火をふき居る畫に
小野炭や手習ふ人の灰ぜせり 松尾芭蕉
小野神社飛地境内小鳥来る 植松秀子
年玉に梅折る小野の翁かな 言水
明けまたぬ小野の山彦土竜うち 吉武月二郎句集
春暁や麦連りに小野の里 尾崎迷堂 孤輪
消炭に薪割る音か小野の奥 芭蕉
淺茅生の小野の奥より年木樵 年木樵 正岡子規
火の絶えし小野の炭竈小夜嵐 炭竈 正岡子規
火や鉦や遠里小野の虫送 虫送 正岡子規
炭売の小野で日暮るる話かな 洒竹
炭屑に小野の枯菊にほひけり 几董
糸染むるや秋遠からぬ小野の森 飯田蛇笏 山廬集
草紅葉小野の黄昏真一文字 石塚友二 方寸虚実
萩咲や間近き小野に色かさむ 北枝
衣うつ頃とて小野の露深し 内藤鳴雪
見えわたる小野の墓群や秋の空 飯田蛇笏 椿花集
霧立て遠里小野となりにけり 黒柳召波 春泥句集
●河口原
●片丘
片丘や住初る日を鴫の鳴 一茶
片丘の麦刈り伏せて夕日赤し 内藤吐天 鳴海抄
●萱原
初日いま阿蘇の萱原さゞめかす 原三猿子
径どれも萱原へ外れけもの径 千田一路
空梅雨や真野の萱原きらめきて 角川照子
萱原にいまはあまねき初日かな 清原枴童 枴童句集
萱原にちん~ちろり風がふく 寺田寅彦
萱原のしら~明けて馬の市 長谷川素逝
萱原の中直通の電話線 茨木和生
萱原の日に埋もれて薬掘る 木村蕪城
萱原の笹原続き二月かな 尾崎迷堂 孤輪
萱原やぬるでの紅葉風に照る 高田蝶衣
萱原や地鳴きかすかにかしらだか 水木なまこ
萱原や枯れかげろひて馬の陰嚢(きん) 服部嵐雪
萱原や贅さす百舌の声せわし 寺野守水老
萱原を萱の葉ながれ秋の蝶 長谷川櫂 天球
蛇穴に入りぬ萱原を恐るゝな 蛇穴に入る 正岡子規
蝶さきに真野の萱原吹かれゆく 角川源義 『西行の日』
●枯野
あかあかと日の沈みゆく枯野かな 長谷川櫂 虚空
あくびして喉の奥まで大枯野 今井杏太郎
あっけらかんと木馬より枯野はじまる 築網耕平
あみ棚につつぱる棒鱈枯野バス 平井さち子 紅き栞
ありありと狐逃げゆく枯野かな 渋川玄耳 渋川玄耳句集
いくさゆゑうゑたるものら枯野ゆく 長谷川素逝 砲車
いくすぢの小川枯野にかくれけり 松村蒼石 雪
いちまいの蒲団の裏の枯野かな 齋藤愼爾
いつの間にか急いでゐたり枯野道 湯室月村
いつ尽きし町ぞ枯野にふりかへり 木下夕爾
いつ来てもひとりの枯野とぶ穂絮 筑紫磐井 未定稿Σ
いづこまで枯野の道を落しもの 松藤夏山 夏山句集
いづこまで臼こかし行く枯野かな 渡辺水巴
いとしきは枯野に残る蒙古斑 櫂未知子 蒙古斑
いまそかりし師の坊に逢ふ枯野哉 高井几董
うしろから道ついてくる枯野かな 黛執
うたた寝の枯野は友を呼びにけり 山田昭子
おくれ来し一人が見ゆる枯野かな 高濱年尾 年尾句集
おのが影浮沈し枯野わたり切る 茂恵一郎
おほわたへ座うつりしたり枯野星 誓子
おほわたへ座移りしたり枯野星 山口誓子
おもはざる枯野のひかり胸に充つ 渡邊千枝子
おもむろに雲かげり行く大枯野 岡嶋田比良
おん顔や枯野の星と生くかぎり 石塚友二 光塵
かくれ家の裏よりつゞく枯野かな 比叡 野村泊月
かの丘にこれの枯野に友ら死にき 長谷川素逝 砲車
かの枯野子の手袋を隠し了ふ 福永耕二
から風の高吹くに枯野薊かな 内田百間
くま笹のうき世見あはす枯野かな 野澤凡兆
けものめく鴉の仕草大枯野 吉野義子
この杖の末枯野行き枯野行く 高浜虚子
この杖の末枯野行く枯野行く 高浜虚子
この枯野走り抜けねば鬼女に遇ふ 石川文子
この石を墓と思へぬ枯野かな 永田定子
この道に寄る外はなき枯野哉 河東碧梧桐
こゝにある枯野の松を惜みけり 鈴木花蓑句集
こゝ迄は雪無き枯野これよりは 高濱年尾 年尾句集
さくさくと母歩み行く大枯野 高橋悦子
さびしさは枯野のみちをゆかしむる 白雨
ざぶりざぶりざぶり雨降る枯野哉 一茶
しろがねの日の渡りゐる枯野かな 藤田あけ烏 赤松
ぜんまいのかちりと戻る枯野かな 森賀まり
そこそこに死馬埋め去る枯野かな 渋川玄耳 渋川玄耳句集
そのあたり明るく君が枯野来る 西東三鬼
その下に古代都市ある枯野かな 武田知子
その果に小松の竝ぶ枯野かな 枯野 正岡子規
それ鷹の斜めに下りる枯野哉 鷹 正岡子規
たかの目の枯野にすわるあらしかな 丈草
たまたまに蝶見てうれし枯野道 枯野 正岡子規
たゞ見る起き伏し枯野の起き伏し 山口誓子 黄旗
つぎつぎと自動扉 いつか枯野にいた 井上郁子
つと蹲む枯野にその身埋むるごと 栗生純夫 科野路
つひに吾も枯野のとほき樹となるか 野見山朱鳥(1917-70)
つま先に石さからひし枯野かな 鈴木真砂女 生簀籠
つみつみて枯野を戻る若菜かな 蓼太
つれ立ちし納め詣や枯野道 雑草 長谷川零餘子
とっぷりと暮れて枯野は童話村 平吹史子
とりまいて人の火をたく枯野哉 正岡子規
とりまいて人の火を焚く枯野かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
とろ~と日輪わたる枯野かな 佐野青陽人 天の川
どこか違う電話の向こうにある枯野 早乙女文子
どん底を木曾川のゆく枯野かな 松本たかし
なつかしや枯野にひとり立心 炭 太祇 太祇句選
なほ遠く往けと枯野の道しるべ 山口 速
ぬつくりと夕霧くもる枯野かな 暁台
ひとうねの菜に雨すぐる枯野かな 金尾梅の門 古志の歌
ひとすぢの水のひかりや大枯野 岩田由美 夏安
ひと死ぬる畳枯野のごとくあり 秋好山好
ひと雨の色を重ねし枯野かな 木内怜子
ふかぶかと空が一枚大枯野 佐賀日紗子
ふたり子の枯野より手を繋ぎあふ 橋本榮治 麦生
ふつと吾ひとと置きかへ枯野行く つつみ眞乃
ふとわれの後姿よ枯野行く 山口草堂
ふるさとや枯野の果ての汐明り 鈴木真砂女 夕螢
ふるさとや枯野の道に海女と逢ふ 鈴木真砂女
ほがらかに日の暮れかゝる枯野かな 増田龍雨 龍雨句集
ほそぼそと三日月光る枯野哉 枯野 正岡子規
ほのと白し枯野の汽車を遠く見て 相馬遷子 雪嶺
ほのぼのと姙婦すわれり枯野の石 穴井太 穴井太集
まぐはひの奇石寄せある枯野かな 阿波野青畝
またもとの枯野の景となりしかな 安住敦
また或る日扇遣ひゆく枯野かな 暁台 五車反古
また雨の枯野の音となりしかな 敦
まだ見えて枯野の瘤となる男 鈴木 明
まぼろしの芭蕉を追へる枯野かな 豊長みのる
まるまると抱き合ふ神の枯野かな 関森勝夫
まんもすの骨を掘り出す枯野かな 松瀬青々
みづからの光りにまたたき枯野星 中村明子
みどり子に急ぐ枯野に乳はり来 野見山ひふみ
むかうより来るわれを見し枯野かな 中杉隆世
むささびの小鳥はみ居る枯野哉 與謝蕪村
むさゝびの小鳥食み居る枯野哉 蕪村
めいめいに松明を持つ枯野哉 枯野 正岡子規
めづらしく女に逢ひし枯野哉 枯野 正岡子規
もの音を枯野に移し逝きしかな 栗林千津
ももいろの舌を遊ばす枯野かな 穴井太 原郷樹林
やうやくに山近寄りし枯野かな 楠目橙黄子 橙圃
ゆき逢ひし枯野乙女の何人目 久保田万太郎 流寓抄
よく眠る夢の枯野が青むまで 金子兜太
よはよはと日の行届く枯野哉 麦水
わがコート赤し枯野に点なすや 山田弘子 螢川
わが垂るるふぐりに枯野重畳す 加藤楸邨
わが家に枯野迫るを見下ろしぬ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
わが庭のごとく枯野をゆく齢 林翔 和紙
わが影と呼び合ふ影もなき枯野 橋本榮治 麦生
わが影の吹かれて長き枯野哉 夏目漱石 明治四十年
わが影を遠き枯野に置き忘れ 野見山朱鳥
わが朱卓すぐに枯野と文づてに 下村槐太 天涯
わが死と詩枯野の末に光るもの 徳弘純
わが汽車の汽罐車見えて枯野行く 波津女
わが胸のほむら枯野に点火せむ 前山松花
わが馬をうづむと兵ら枯野掘る 長谷川素逝 砲車
わが馬を埋むと兵ら枯野掘る 素逝
わらんべの犬抱いて行く枯野哉 枯野 正岡子規
われもその中のひと色枯野道 岩井タカ
をとこ独り枯野に佇ちて煙草吸ふ 石川文子
アブラハムに枯野は広し子は重し 成瀬櫻桃子 風色
インデックスの最終更新日: 2006-03-19
オリエント急行よぎる枯野かな 竹葉英一
カルデラの常世寂たる枯野かな 東 柊村
キムという少年のいる枯野 油井正生
ゴンドラや空中遊歩の大枯野 遊佐光子
サロベツやサイロ一つの大枯野 谷 廣司
サーカスの天幕ふくらむ枯野の午後 内藤吐天 鳴海抄
チンドン屋枯野といへど足をどる 楸邨
テレビ塔聳ゆるのみの枯野かな 左右木圭子
トラックが枯野越え来て女おろす 寺山修司 未刊行初期作品
バス吾を枯野にひとり残し去る 岩切徹宵
バス発つやそれぞれ大き枯野得つ 栗生純夫 科野路
バス通る時刻枯野の中にあり 百合山羽公 寒雁
パレットの平ら枯野の色を溶く 橋本美代子
マリヤには遠し枯野に赤子置く 八木三日女 紅 茸
一つ家に日の入りかゝる枯野哉 枯野 正岡子規
一つ家に日の落ちかゝる枯野哉 枯野 正岡子規
一つ家に鉦打ち鳴らす枯野哉 枯野 正岡子規
一体の風化仏より枯野なる 豊田都峰
一句二句三句四句五句枯野の句 久保田万太郎 草の丈
一戸とざし枯野を守るは白き鶏 栗生純夫 科野路
一日臥し枯野の音を聴きつくす 馬場移公子
一村は竹緑なる枯野哉 枯野 正岡子規
一枚の葉書運ばれ枯野の家 桂信子 黄 瀬
一枚の蒼天傾ぎ枯野と逢ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
一点の馬より昏れて大枯野 前山松花
一瞬の日ざしに枯野はなやぎて 武良喜美代
一車の砂利一潟の空つぽ枯野風 平井さち子 完流
一風船ただよひ枯野力づく 鷲谷七菜子 黄 炎
七つ子にあふてさびしき枯野哉 加舎白雄
三人の一人が歩き出す枯野 益子 聰
三日月に横顔のある枯野かな 山本千春
三日月に行先暮るる枯野かな 青蘿
三日月のこのまま枯野に居つくらし 加倉井秋を 『欸乃』
三日月も罠にかゝりて枯野哉 蕪村遺稿 冬
三日月や枯野を歸る人と犬 枯野 正岡子規
三日月を相手にあるく枯野哉 枯野 正岡子規
三輪山のうなじへ続く大枯野 桑田和子
上らせてもらう枯野の一軒家 渡辺鮎太
上京の湯どのに続く枯野かな 黒柳召波 春泥句集
下北の日に晒さるる大枯野 桑原恒雄
不動の眼開ききつたる大枯野 久野鈴一
世に人あり枯野に石のありにけり 松根東洋城
世の外へつづける如し枯野道 井沢正江 湖の伝説
世の終を入日に見せし枯野かな 東洋城千句
両の手を耳の帽子に枯野行く 四条ひろし
中天に月いびつなる枯野かな 五十嵐播水 播水句集
丹沢は雲の中なる枯野かな 石塚友二
乱おこるらしき雲ゆく枯野かな 鷲谷七菜子
事故現場にて眼に余る枯野の雲 右城暮石 声と声
二つあり相隔つ石の枯野かな 月舟俳句集 原月舟
二つ三つ石ころげたる枯野哉 枯野 正岡子規
二階より枯野におろす柩かな 野見山朱鳥
五六人行くや枯野の一つ道 枯野 正岡子規
五六疋馬干ておく枯野哉 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
亡き妻の声ふと枯野吹く風に 石井とし夫
人と逢ふ胸の枯野をひた隠し 小林康治 『叢林』
人の手に撓む枯野の鉄搬ぶ 軽部烏頭子
人はみな何かを背負ひ枯野ゆく 杓谷多見夫
人もなし夕日落ちこむ枯野原 枯野 正岡子規
人去つて句碑は枯野の石となる 佐々木虹橋
人参一本枯野の底をゆつくり急く 藤村多加夫
人妻のぬす人にあふ枯野哉 正岡子規
人小さく日に向いて行く枯野かな 月舟俳句集 原月舟
人見えて人の遊ばぬ枯野かな 本庄登志彦
人語過ぎ枯野の城の小さしや 角川源義 『秋燕』
今出でし爐火想ひゆく枯野哉 西山泊雲
仏めく石を見立つる枯野かな 北枝
仏めく石を見立る枯野かな 立花北枝
仏見てまた仏見に枯野バス 畠山譲二
他のこと考へ枯野逢曳す 堀井春一郎
伸び上れば海原見ゆる枯野かな 枯野 正岡子規
低き木に月上りたる枯埜哉 枯野 正岡子規
何うらむさまか枯野の女郎花 正岡子規
何もかも枯野にひそめ無人駅 平野謹三
何もなし墓原ばかり枯野原 枯野 正岡子規
何やらに鴉群がる枯野哉 寺田寅彦
何某の門ののこれる枯野かな 山本洋子
佝僂に遇ひし心をかしみ枯野の日 原石鼎
信長の榎残りて枯野かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
信長の榎殘りて枯野哉 枯野 正岡子規
信長の榎淋しき枯野哉 枯野 正岡子規
修道尼の頬に血のぼる枯野の日 細見綾子 黄 炎
働きて帰る枯野の爪の艶 細見綾子
僧の前を鴉のありく枯野かな 野村喜舟 小石川
僧ひとり枯野に降ろしバス発てり 畠山譲二
僧一人横にしくるゝ枯野哉 枯野 正岡子規
兀と山ありて枯野の景変る 高濱年尾 年尾句集
元日や枯野のごとく街ねむる 加藤楸邨
光り合ふ枯野と玻璃の美術館 竹田登代子
光陰のひそむ枯野をなに急くや 小林康治 『潺湲集』
入口のあって出口のない枯野 並河 洋
全身に風あり枯野行くかぎり 徳永山冬子
八方に山のしかゝる枯野かな 松本たかし
兵の赤黄枯野遠別糞し行く 齋藤玄 飛雪
其魂の朱雀もめぐる枯野哉 炭 太祇 太祇句選後篇
冨士昏れて枯野灯す達磨市 杉山葱子
冬が来るもぬけのからの枯野より 齋藤愼爾
冬ざれて枯野へつづく妻の乎か 日野草城
冬枯野母から得しもの懐に 高橋沐石
冬鴉声おとしゆく枯野かな 上村占魚
凍つまま枯野の果の石二つ 濱人句集 原田濱人
切通し出て天辺に枯野星 石塚友二
初明り我が家枯野に坐りゐる 阿部みどり女
別の窓から夫の視てをり遠枯野 渡辺延子
利根川の左右に開く枯野かな 宰洲句日記 勝田宰洲
動かざるタクシーの列枯野まで 福田洽子
北今星枯野に今日のバス終る 齋藤愼爾
千人の地ひびきマラソン枯野へ発つ 豊田 晃
即枯野安中榛名駅出れば 有 旅 有
厄除けの礼焼いてゐる枯野かな 角川春樹 夢殿
厠にをりてかがめばひしと枯野寄る 森澄雄
去る人も枯野も響き易きかな 小泉八重子
去年今年枯野を胸に皿洗ふ 小池文子 巴里蕭条
又或日扇つかひゆく枯野哉 暁台
口中に枯野ある夢断続す 栗生純夫 科野路
古手紙いまにして妻は枯野を来る 栗林一石路
古鏡に火映ゆるごと枯野に朝日出づ 岡田日郎
吊革にすがれば枯野傾きつ 原田種茅 径
君と共に菫摘みし野は枯れにけり 枯野 正岡子規
君乗せむかな枯野馬車たびぐらし 田中裕明 櫻姫譚
吹き亘る枯野の風の夜もすがら 石塚友二 光塵
吹き晴れて枯野の月の小さゝよ 喜多春梢
吹風の一筋見ゆる枯野かな 幸田露伴
吾がうしろ姿を思ひ枯野ゆく 石川文子
吾が影の吹かれて長き枯野かな 漱石
吾影の吹かれて長き枯野かな 夏目漱石
命かけるものあり枯野の雨太し 古賀まり子 降誕歌
咋今に土橋なほしゝ枯野かな 尾崎迷堂 孤輪
哭(ね)のみ泣く女枯野を匍ひ廻り 沢木欣一 二上挽歌
哭のみ泣く女枯野を匍ひ廻り 沢木欣一
商人の敵地にはいる枯野かな 枯野 正岡子規
噴煙は枯野に獅子の影なせる 水原秋桜子
四ツ谷から馬糞のつゞく枯野かな 青峨 (負郭)
四万十川に海苔舟くくる枯野かな 丹羽真一
四方八方枯野を人の通りける 枯野 正岡子規
四谷から馬糞のつゞく枯野哉 青峨
土堤を外れ枯野の犬となりゆけり 山口誓子 遠星
土手うらに千鳥あがりし枯野かな 大橋櫻坡子 雨月
土手こして千鳥枯野へちらばれる 川島彷徨子 榛の木
土手を外れ枯野の犬となりゆけり 山口誓子(1901-94)
土間口に夕枯野見ゆ桃色に 金子兜太 少年/生長
在りし日の帽子が燃える枯野かな 谷口慎也
地に生命あづけ眠りに入る枯野 矢野芳月
地の底に蟲生きてゐる枯野哉 長谷川零余子
地の底の赤きが見ゆる枯野かな 長谷川櫂 蓬莱
地獄耳澄ませば枯野ごうと鳴る 雑草 長谷川零餘子
地車の轄ぬけたる枯野哉 加舎白雄
坂一つ越して忘るゝ枯野かな 尾崎迷堂 孤輪
垣ぬけて鶏の遊べる枯野かな 金尾梅の門 古志の歌
城内に兎狩する枯野かな 野村泊月
城市遠く枯野の波のかなたかな 長谷川素逝 砲車
塀越の枯野やけふの魂祭 炭 太祇 太祇句選
塔うつるとある金魚田枯野ゆく 皆吉爽雨 泉声
塩売のから荷は寒き枯野かな 古白遺稿 藤野古白
塩舐めてまなこやさしき枯野牛 菅原多つを
声出せば枯野に我のゐたりけり 草間時彦 櫻山
夕富士の紅の極まり大枯野 岡田日郎
夕方の枯野を抱へ込みにけり 桑原三郎 龍集
夕日の手伸び米倉は枯野の繭 大井雅人 龍岡村
夕日今枯野の大を現じけり 東洋城千句
夕日負ふ六部背高き枯野かな 枯野 正岡子規
夕日赫っと枯野白堊にぶつかり来 竹下しづの女 [はやて]
夕明り恋うて高きへ枯野虫 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夕枯野もろもろの影徘徊す 中村苑子
夕鴉声おとしゆく枯野かな 上村占魚 鮎
外套の奥は枯野へ続きけり 鳴戸奈菜
夜々は霜に星ふる枯野かな 古白遺稿 藤野古白
夜の枯野つまづきてより怯えけり 馬場移公子
夜の枯野遠き世の声あるごとし 河野南畦 湖の森
夜を帰る枯野や北斗鉾立ちに 山口誓子(1901-94)
夢に見れば口中枯野よこたひぬ 栗生純夫 科野路
大いなる声聞かばやと枯野行く 矢島渚男 木蘭
大いなる枯野に堪へて画家ゐたり 大野林火
大いなる茶屋を囲める大枯野 阿部みどり女 笹鳴
大き手に枯野来し手をつつまるる 桂信子
大き掌に枯野来し手をつつまるる 桂信子(1914-)
大き枯野に死は一点の赤とんぼ 加藤楸邨
大とこの糞ひりおはす枯野かな 蕪村
大仏の鐘を見わたす枯野かな 許六
大利根の舟行見ゆる枯野かな 金尾梅の門 古志の歌
大屹と遠ちの枯野の大を見る 阿部みどり女
大戦果絶えて枯野の日は烈し 渡邊水巴 富士
大木の雲に聳ゆる枯野哉 枯野 正岡子規
大枯野とぶ一枚の新聞紙 吉田登子
大枯野に四隅がありて安堵する 佐々木耕之介
大枯野ひとりを奥の間へ通す 正木ゆう子 静かな水
大枯野ほとべのごとく夜に入る 岸田稚魚 『負け犬』
大枯野夜はぐらりと回転す 小泉八重子
大枯野戻りて嬰を抱きけり 永島理江子
大枯野日本の夜は真暗闇 山口誓子 大洋
大枯野杭打ちはじまる造成地 三浅馨三
大枯野母の涙の川ひと筋 吉本和子
大枯野牧牛をればみどりあり 深見けん二
大枯野突き破つてや伊吹山 長谷川櫂 虚空
大枯野羽咋の湖も亡びたり 欣一
大枯野走る郵便車を見たり 田川飛旅子 花文字
大枯野釘箱錆びし釘満たし 松倉ゆずる
大枯野雲には雲の深轍 河口俊江
大枯野風のごと来て母泣かす 細川加賀 『傷痕』
大正に生まれ枯野を栖処とす 和田悟朗
大正に生まれ枯野を街となす 和田悟朗
大空につらなりわたる枯野かな 三溝沙美
大絵馬の白駒枯野へ跳り出る 宮坂秋湖
大臼の前は枯野となつてをり 松山足羽
大隅のしらす大地の大枯野 西村 数
天つ日と我とまつはる枯野かな 原石鼎
天心のフエノロサの来しこの枯野 加藤耕子
天災に翻弄されし大枯野 鈴木聖子
太陽はエロス枯野に島の頭 金子兜太
女曳く枯野の牛車墓石を積み 軽部烏頭子
女狐の石になつたる枯野哉 枯野 正岡子規
女遍路に東西のなき枯野かな 加倉井秋を
如何なる日白衣傷兵枯野を来る 相馬遷子 山国
如何なる時聖書手離す枯野の尼 加倉井秋を 『真名井』
妻と二人枯野の月にかくれなし 石田波郷
子のリボン枯野に紅を点じゆく 伊丹三樹彦 人中
子の學校枯野の中に旗を揚ぐ 横光利一
子を抱けば人間臭し枯野道 阿部完市 無帽
子を捨る藪さへなくて枯野哉 蕪村 冬之部 ■ 春夜樓會
子後の身をいとひて枯野灯しけり 源義
子等の声かたまつて来る枯野道 西本 清子
孤りには一つの夕日大枯野 小澤克己
孤独汝枯野の丘に今日も見つ 中尾白雨 中尾白雨句集
学校が枯野に浮かび揺れており 秋元大吉郎
学校の水流れをる枯野かな 藤田あけ烏 赤松
家まれに枯野のうねり道のうねり 長谷川素逝 砲車
家五六を北に見て行く枯野かな 露月句集 石井露月
家建ちて硝子戸入るゝ枯野かな 渡辺水巴 白日
家路なる眞夜の枯野は行くべかり 山口誓子
宿に着いてしばしがほどは枯野かな 小杉余子 余子句選
密々と夕雲満たす末枯野 斎藤道子
富士昏れて枯野灯す達磨市 杉山葱子
寒星のむらがれる邊の枯野に似 橋本鶏二
寝て夢路起きて枯野路行くもひとり 福田蓼汀 秋風挽歌
寝仕度の漂鳥騒ぐ枯野星 佐野美智
寝化粧す鏡に枯野映しつつ 対馬康子 吾亦紅
小屋の戸に枯野の道の曲りけり 柑子句集 籾山柑子
小男鹿の重なり伏せる枯野哉 土芳(奈良)
小石川も水引き染める枯野かな 小石川 野村喜舟
小鳥死に枯野好く透く籠のこる 飴山實
少年に咬みあと残す枯野かな 櫂未知子 蒙古斑
少年のまなざし父に枯野かな 宮川光子
少年は一人の枯野選びけり 加藤瑠璃子
尻ばかり熱くて枯野発の電車 久保砂潮
屋根の石落ちなんとして枯野かな 野村喜舟 小石川
屑炭を継げば枯野の匂ひけり 中村楽天句集 中村楽天
山あれて灰の降りたる枯野哉 寺田寅彦
山のぼるこころ枯野にへだたりぬ 太田鴻村 穂国
山裾を欠き欠く道の枯野かな 楠目橙黄子 橙圃
山遠く川流れたる枯野哉 枯野 正岡子規
山間の打傾ける枯野かな 松本たかし
山頭火に会ふかも知れぬ大枯野 西川 五郎
山鳴りの草鞋にひゞく枯野かな 柑子句集 籾山柑子
岐路に来て西日やすらぐ枯野かな 松村蒼石 雁
巌の鷲のむさゝび攫む枯野かな 東洋城千句
川ありて遂に渡れぬ枯野かな 夏目漱石 明治四十年
川渉りてすぐはく足袋や日の枯野 阿部みどり女 笹鳴
巻尺を収む枯野を引き寄せて 中村明子
市中に枯野のありて泊りけり 銀漢 吉岡禅寺洞
床下に枯野続けり能舞台 澤木欣一
建ちかけの家の灯れる枯野かな 大橋櫻坡子 雨月
引き出しの中は枯野と答えけり 寺井禾青
弦楽器ぼろんと鳴らす枯野にて 冨田みのる
彼をうめしただの枯野を忘るまじ 長谷川素逝 砲車
往来人皆背ぐくまり枯野道 西山泊雲 泊雲句集
待たれゐる何か言はねば枯野ゆく 如月真菜
後尾にて車掌は広き枯野に飽く 小川双々子(1922-)
御陵を枯野にのこし都なし 成瀬正とし 星月夜
心の隙枯野行かねば充たされず 藤田湘子
忽然と阿蘇夕焼けし枯野道 穐好樹莵男
恋瀬川とは枯野ゆく細き川 吉岡桂六
息杖に石の火を見る枯野哉 蕪村 冬之部 ■ 春夜樓會
悲しみを詩に枯野をまつすぐに 仙田洋子 雲は王冠
意趣のある狐見廻す枯野かな 炭 太祇 太祇句選
慈恩寺へ二股道の枯野かな 吉田浮月
我が形(なり)の哀れに見ゆる枯野かな 智月 俳諧撰集玉藻集
我形の哀に見ゆる枯野かな 智月 十 月 月別句集「韻塞」
戦のある方遠き枯野かな 東洋城千句
手賀沼のわけなくみゆる枯野かな 久保田万太郎 草の丈
手鏡の中の枯野を見てをりぬ 穂坂日出子
折鶴に瞳なし枯野を見せずすむ 田中周利
抱いて呉るゝほどのあたゝか枯野行く 及川貞 夕焼
押しベル即朗声枯野を黙し来て 香西照雄 素心
担ぎ屋も帰途は身緩め枯野汽車 北野民夫
担ひゆく沽鯉のぞく枯野哉 加舎白雄
拾ひあてし石笛を吹く枯野かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
指先を枯野にあてて恋ひやまず 仙田洋子 橋のあなたに
振り向けば夜叉の相かも大枯野 白井 爽風
振返り見ても枯野や都府楼址 佐藤冨士夫
掌(てのひら)に枯野の低き日を愛づる 山口誓子(1901-94)
掌に枯野の低き日を愛づる 山口誓子 黄旗
描きかけの枯野を提げて枯野行く 庄中健吉
提灯の一つ家に入る枯野哉 枯野 正岡子規
提灯の星にまじりて枯野哉 枯野 正岡子規
握りしむ携帯電話枯野行 篠田くみ子
摩天楼ま上またたく枯野星 加藤耕子
放たれし犬の速さの枯野かな 田中裕明 山信
放哉の咳とも思い枯野過ぐ 山口清山
敗走に似て枯野ゆく父母の死後 堀口星眠 営巣期
教会の窓が眼となる枯野の暮 倉橋羊村
教科書の重み負ひゆく枯野の子 中村草田男
数珠玉のむしりのこりに枯野の日 細川加賀
方寸にたたみし思ひ枯野星 中西舗土
旅に病んで夢は枯野をかけ廻る 芭蕉
旅二人話なくて越す枯野哉 枯野 正岡子規
旅二人話盡きたる枯野哉 枯野 正岡子規
旅二人話盡きぬる枯野哉 枯野 正岡子規
旅人の咄しして行く枯野かな 枯野 正岡子規
旅人の蜜柑くひ行く枯野哉 枯野 正岡子規
日かげりし枯野やゝやゝにつやもどす 川島彷徨子 榛の木
日が射して枯野に匂う鰐二、三 坪内稔典
日だまりを蝶の出でゆく枯野かな 安達潔
日と月の絶えずめぐれる枯野かな 林周平
日に現はれ風に無くなり枯野虫 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
日のさすや枯野のはての本願寺 枯野 正岡子規
日の正午墓の枯野を人いそぐ 高柳重信
日の高さ霰おとせる枯野かな 乙字俳句集 大須賀乙字
日は斜枯野を北へ走る汽車 寺田寅彦
日をさして旅つゞけゆく枯野かな 中島月笠 月笠句集
日光はうつろ充たして枯野かな 渡辺水巴 白日
日当るや枯野にひびく海の音 原 石鼎
日本には見馴れぬ枯野展けたり 高浜年尾
日當るや枯野にひゞく海の音 原石鼎
日蓮に似し顔が来る枯野道 飯田龍太
日輪のたらたら枕む枯野かな 成瀬正とし 星月夜
明るく死ぬこともあるべし枯野行 宇多喜代子 象
星へ発つごとし枯野の終列車 佐野美智
星一つ生れ枯野の匂ひたつ 西沢独海
春の枯野日当る顔は卵形に 大井雅人 龍岡村
春恋や枯野斜めに抜け来り 安住敦
時折は心向け見る枯野あり 村越化石
晩年の過ぎゐる枯野ふりむくな 齋藤玄 『雁道』
晴れゆくにつれて風たつ枯野かな 上村占魚 鮎
暗室へ入るや枯野へゆくやうに 正木ゆう子 悠
更くる夜の枯野に低し箒星 枯野 正岡子規
書を抱けるスタイルは彼枯野来る 名和紅弓
月天に流星見えし枯野かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
望月の昇りてきたる枯野かな 小澤登代
末枯野佇てばゆきどのあるごとし 山田みづえ 忘
末枯野何か忘れてきし思ひ 中村苑子
朱雀門のみを色とし大枯野 松下信子
村人の都へ通ふ枯野哉 枯野 正岡子規
杖上げて枯野の雲を縦に裂く 西東三鬼(1900-62)
松へ登る人呼びとめし枯野かな 長谷川かな女 雨 月
松明投げて獣追ひやる枯野かな 泉鏡花
松杉や枯野の中の不動堂 枯野 正岡子規
枚方の火燵の外の枯野かな 岡本松浜 白菊
果しなき枯野の起伏見て眠し 内藤吐天 鳴海抄
果しなき枯野枯山石鼎忌 原コウ子
枯れ色を動かし僧の枯野行く 齋藤愼爾
枯野ありイエスはいつも足垂れて 有馬朗人 天為
枯野いまわたしと雲と陽のにほひ つじ加代子
枯野いま何か言ひしか独り言か 今瀬剛一
枯野かけ来て千年をうもれし馬車 有馬朗人 天為
枯野かなつばなの時の女櫛 西鶴
枯野から少し寝くづれ寝釈迦山 杉山十四男
枯野から洗ひざらしの男来る 森 酒郎
枯野から空からつづく広さかな 斉藤良子
枯野から身をはがしたる男かな 飯本龍吉
枯野きて修羅の顔なり入間川 角川源義
枯野きて朱のまま枯るるものに遇ふ 谷中隆子
枯野くるひとりは嗄れし死者の聲 河原枇杷男 閻浮提考
枯野していづこいづこの道の数 黒柳召波 春泥句集
枯野して松二もとやむかし道 黒柳召波 春泥句集
枯野ただ大き起伏をして果てず 長谷川素逝 砲車
枯野なる心の内を旅すれば 司修
枯野にて子守自分に唄ひだす 平畑静塔
枯野にて抱くぬくみのまぐれ犬 林翔 和紙
枯野にて糟糠のとき惜しみなし 古舘曹人 砂の音
枯野にて見せ合ふ夢もなくなりぬ 高橋龍
枯野に出てなほ喧しき女学生 桂信子 黄 炎
枯野に向き窓くもらせる中學よ 津田清子
枯野に弱々やがてがつきと立つ電柱 寺田京子 日の鷹
枯野に日あまねき時を愉しめり 成瀬櫻桃子 風色
枯野に日戸をあけて鳴く鳩時計 秋元不死男
枯野に石誤算の一生ならずとも 堀井春一郎
枯野に置く塩酸の壺煙りおり(クエン酸工場にて二句) 飴山實 『おりいぶ』
枯野のや簑着し人に日の当る 黒柳召波 春泥句集
枯野の一隅日ちりちりにつむじかな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
枯野の中独楽宙とんで掌に戻る 西東三鬼
枯野の天雪現るる厖然たり 内藤吐天 鳴海抄
枯野の如く人等午笛の中歩む 榎本冬一郎 眼光
枯野の子かがやくものとして弾む 鳥居おさむ
枯野の家の呼鈴が鳴りゐたり 直人
枯野の日の出わが白息の中に見る 野澤節子 黄 瀬
枯野の日帰りて逢へるひとならず 稲垣きくの 黄 瀬
枯野の景胸にあたため日日励む 有働亨 汐路
枯野の水に魚のぼりゐたりけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
枯野の涯一点光るものクルス 成瀬櫻桃子 素心
枯野の灯遠き二つは棘つながる 田川飛旅子
枯野の犬水飲み肋動かせる 殿村菟絲子 『路傍』
枯野の絵の父の工場売られたり 田川飛旅子 『植樹祭』
枯野の草こもれりの哥あだ也けり 調泉 選集「板東太郎」
枯野の路の三猿塚をよしと見き 臼田亞浪 定本亜浪句集
枯野の道海が見えざるもどかしや 右城暮石 声と声
枯野の陽果てしポストに口がある 河合凱夫 藤の実
枯野の鹿また突堤に来て立てり 永田耕一郎 方途
枯野はも涯の死火山脈白く 藤沢周平
枯野はも縁の下までつゞきをり 久保田万太郎 草の丈
枯野はや暮るゝ蔀をおろしけり 芝不器男
枯野は雲に金ちりばめて旗も静か 田川飛旅子 花文字
枯野へ向く硝子の英字裏より見ゆ 田川飛旅子 花文字
枯野まで抱き来しボール蹴りはじむ 上野さち子
枯野もとの枯野玄室より出づる 斉藤夏風
枯野ゆくおのれの影に十字架負ひ 成瀬桜桃子 風色
枯野ゆくともりてさらに遠き町 木下夕爾
枯野ゆくまづしきものの服黒し 成瀬桜桃子 風色
枯野ゆくわがこころには蒼き沼 木下夕爾(1914-65)
枯野ゆくライカ口径むきだしに 高野途上
枯野ゆく一点となりつくすまで 鷲谷七菜子
枯野ゆく一羽の鳶に見おろされ 鈴木真砂女
枯野ゆく人は枯野を見ざりけり 石原八束 風霜記
枯野ゆく人みなうしろ姿なり 石井几輿子
枯野ゆく土墳がくれにひとりづゝ 皆吉爽雨
枯野ゆく女の髪も枯るるもの 檜紀代
枯野ゆく帯を重しと思ひけり 鈴木真砂女
枯野ゆく幼子絶えず言葉欲り 馬場移公子
枯野ゆく急かれては牛の尻尖り 北原志満子
枯野ゆく我も枯色かもしれぬ 小野沢千鶴
枯野ゆく最も遠き灯に魅かれ 鷹羽狩行(1930-)
枯野ゆく棺のわれふと目覚めずや 寺山修司(1935-83)
枯野ゆく背丈に余る十字架負ひ 成瀬櫻桃子 風色
枯野ゆく色なき雨のやすらぎに 相葉有流
枯野ゆく葬りの使者は二人連れ 福田甲子雄
枯野ゆく行商の荷の海老生きて 宮下翠舟
枯野ゆく身に一粒の真珠つけ 勝又春江
枯野ゆく青年はもうふりむかず 遠藤若狭男
枯野ゆく鳴りを鎮めし楽器箱 静塔
枯野よりあふれる日ざし母が縫ふ 飴山實
枯野より千筋の枯をひきゐくる 上田五千石 風景
枯野より帰りたしかむ身の温み 鷲谷七菜子 雨 月
枯野より戻りビー玉で遊ぶ 細見綾子 黄 炎
枯野より手かけて起すドラム罐 榎本冬一郎 眼光
枯野より来て美しき箸づかひ 折原あきの
枯野より枯野へひとの渡りけり 角川春樹
枯野より漕ぎ出て舟の底鳴れり 山口草堂
枯野より高く入日の相模湾 阿部藍子
枯野わたる洋傘直し児を連れて 野澤節子 花 季
枯野バス映画ポスター胴に巻き 宮坂静生 青胡桃
枯野光炎々として書をひらく 窓秋
枯野原團子の茶屋もなかりけり 枯野 正岡子規
枯野去り満月が来る熟睡かな 金子兜太
枯野吐き出す発熱の兄妹 対馬康子 吾亦紅
枯野吹く風やがてかの雲を吹く 斎藤空華 空華句集
枯野哉つばなの時の女櫛 西鶴
枯野塚胴と別れし首三千 下村ひろし 西陲集
枯野夕焼うたがい深くすれ違う 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
枯野帰るひとすぢの日を母恩とし 榎本冬一郎 眼光
枯野往診星等率き連れ魔女めきて 渋谷道
枯野征く友は行方を告げぬなり 椎橋清翠
枯野明るし電車の中で目を覚まし 池田澄子 たましいの話
枯野星よな降る音か風音か 富永小谷
枯野星ミンクを飼ふに燈をやらず 中戸川朝人
枯野星括られし鶏肉冠振る 福田蓼汀 山火
枯野星是非を問はるる一行詩 椎橋清翠
枯野星路地へ戻れば大粒に 香西照雄 対話
枯野晴布団の色をはばからず 鳥居おさむ
枯野来し人の指輪の光りけり 前田普羅
枯野来し人を喜び牧の犬 佐藤艸魚
枯野来し水に夜業の手を洗ふ 桂信子 黄 炎
枯野来し白ハンカチに折目あり 神尾久美子 桐の木以後
枯野来し目に何もかも枯野色 吉田長良子
枯野来ていつもの貨車とすれ違う 佐々木はるを
枯野来て人懐しむ奈良古道 伊藤敬子
枯野来て命かなしく海を見ぬ 五味酒蝶
枯野来て四人たまりし渡舟かな 野村喜舟 小石川
枯野来て塔ただちなり見の惜しき 皆吉爽雨 泉声
枯野来て忘れしことを想ひ出す 河野南畦 湖の森
枯野来て水の匂ひにつき当る 原田青児
枯野来て汽罐あかあかと日ひらく 飴山實 『おりいぶ』
枯野来て法隆赤みち松に菰 皆吉爽雨 泉声
枯野来て障子の中の時計聞く 櫻井土音
枯野来る悪意と黒衣離れずに 久保純夫 熊野集
枯野来る貨物列車は灯ともして 坂本登美子
枯野枯山遂に脱がざる鉄仮面 磯貝碧蹄館
枯野歩す身や風に馴れ坂に馴れ 富田潮児
枯野渡る人の白衣を撲つ日かな 楠目橙黄子 橙圃
枯野牛雲とびとびの伏目がち 古舘曹人 能登の蛙
枯野行き横渡りまた枯野行く 風生
枯野行くまつはる星を眼にて逐ひ 相馬遷子 雪嶺
枯野行くやレールに沿うて心ほそ 清原枴童 枴童句集
枯野行くや山浮き沈む路の涯 芝不器男
枯野行くバス幾駅も通過して 渡辺昭男
枯野行く人や小さう見ゆるまで 千代尼
枯野行く山浮き沈む路の涯 芝不器男
枯野行く心にほむら兆すまで 小林知佳
枯野行く汽車にかかれる道の地圖 京極杞陽
枯野行く釦の多き少女の服 福田甲子雄
枯野行けば道連は影法師かな 寺田寅彦
枯野行人や小さう見ゆるまで 千代女
枯野行刻々沈む日が標 藤田湘子(1926-)
枯野見やついでにのぞく百花園 野村喜舟
枯野見る背に夫を感じつつ 石田あき子 見舞籠
枯野走る紙のさくらを満載し 吉野義子
枯野起伏明日といふ語のかなしさよ 加藤秋邨 起伏
枯野路や松をたよりの墓三四 五十嵐播水 播水句集
枯野道まつすぐに来て終りけり 藤田湘子 てんてん
枯野道ゆく外はなく行きにけり 富安風生
枯野道夕日を連れて帰りけり 佐々木みち子
枯野道少女が赤く赤く過ぐ 苑子
枯野道癩園へゆくと知りて居り 石田波郷
枯野道誰かに拍手されゐたり 平井照敏 天上大風
枯野鉄道ところどころに駅と町 加藤耕子
枯野雲わが真上より四方に垂れ 林火
枯野電車に茹で卵むく中学生 飴山實 『おりいぶ』
枯野電車の終着駅より歩き出す 細見綾子(1907-97)
枯野飛ぶ一片の紙刃となつて 上野さち子
枯野馬車かなし見てゐて小さくなる 加倉井秋を 午後の窓
枯野馬車日當りてゆくたのしさよ 加倉井秋を
枯野馬車驢馬は頭を垂れて曳く 高濱年尾 年尾句集
枯野駅のこし汽車来て汽車去れり 奈須ゆう子
柩車ならず枯野を行くはわが移転 西東三鬼
柵透きて枯野入り込む車庫の中 右城暮石 声と声
森こえて枯野に來るや旅鳥 枯野 正岡子規
棹鹿のかさなり臥せる枯野かな 服部土芳 (とほう)(1657-1730)
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橋あれば渡り枯野の墓に逢ふ 近藤一鴻
橋越えて渡しにかゝる枯野哉 竹冷句鈔 角田竹冷
機関手が掌に受けて見る枯野の雨 内藤吐天 鳴海抄
母の帯巻いて枯野に寝起きせり 栗林千津
母背負ひ枯野八丁足震ふ 猿橋統流子
母連れて花野の果ての枯野まで 鳴戸奈菜
母郷とは枯野にうるむ星のいろ 福田甲子雄
気の狂つた馬になりたい枯野だつた 白泉
氣車あらはに枯野を走る烟哉 枯野 正岡子規
水汲みに呼びつれてゆく枯野哉 富田木歩
水銀のごとき空ある枯野かな 夏井いつき
氷入れコップに枯野浮き上る 古舘曹人 能登の蛙
汐干ひて干潟につゞく枯野かな 前田普羅 能登蒼し
汝がおもひ枯野に佇てばはろかなり 中尾白雨 中尾白雨句集
汝がむくろ枯野の草に臥てちさき 中尾白雨 中尾白雨句集
江あらはな帆影さす背戸は枯野かな 乙字俳句集 大須賀乙字
決闘の時間を待つてゐる枯野 皆吉司
汽車の汽缶闇に枯野をひきさりぬ 川島彷徨子 榛の木
汽車道に鳩の下り居る枯野哉 枯野 正岡子規
汽車道の此頃出來し枯野かな 枯野 正岡子規
汽車降りてすぐに枯野を行く人等 池内たけし
沖に立つしら波みゆる枯野かな 久保田万太郎 流寓抄以後
没日赤しコタン枯野のど真ん中 水島冬雲
河明り芒をほそくする枯野 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
沼の道むかし枯野の兵舎おもふ 瀧春一 菜園
法螺の音の河処より来る枯野哉 夏目漱石 明治四十年
泡のごときものを枯れ野に打てる鞭 竹中宏 饕餮
泣きながら一人枯野を歩きけり 高橋淡路女 梶の葉
泣きながら母を追ふ子や枯野道 野村泊月
泣く前の大きな瞳枯野星 今瀬剛一
浅草の塔がみえねば枯野かな 久保田万太郎 草の丈
海こしてまた枯野なる奥をおもふ 佐野良太 樫
海の音の風と争ふ枯野かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
海へ出る風が枯野をまぶしくす 中江月鈴子
海底のごとく月照る枯野かな 岡田夏生
渤海を大き枯野とともに見たり 山口誓子
湖のうき上りたる枯野哉 鱸釣
湖の上に吹きよせられし枯野星 岡部六弥太
満天の枯野の星のみなうごく 松本浮木
満月は枯野を照らす策よりなし 橋本夢道 無類の妻
滔々の江を送れども枯野かな 東洋城千句
滿月の半分出かゝる枯野かな 枯野 正岡子規
漱石忌枯野おほかた日が当り 森澄雄
火の山に侍るとみたり大枯野 鈴木真砂女 夕螢
火の山へ荒磯へ枯野道二つ 村松紅花
火を放つ心を持ちて枯野行 筑紫磐井 未定稿Σ
火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ 能村登四部
火を焚けば枯野の風のねらひけり 斎藤空華 空華句集
火遊びの我一人ゐしは枯野かな 大須賀乙字
灰色の空低(た)れかかる枯野哉 夏目漱石 明治三十二年
炭部屋の中から見えし枯野かな 石鼎
点滴は遠い枯野の中落ちる 対馬康子
点滴や枯野を迷ふ耳を持ち 立川華子
烏撃たれ枯野の無惨極まれり 橋本夢道 無類の妻
烏飛び牛去りて枯野たそかるゝ 枯野 正岡子規
烽火台とび~にある枯野かな 雑草 長谷川零餘子
無提灯で枯野を通る寒哉 夏目漱石 明治三十二年
焼酎の瓶の塒は大枯野 源鬼彦
煙突の煙に暮るゝ枯野かな 古白遺稿 藤野古白
煙草買ふ連れをまちても枯野かな 久保田万太郎 草の丈
熊笹の緑にのこる枯の哉 枯野 正岡子規
熱い音楽あびる枯野の猿田彦 穴井太 天籟雑唱
燈があれば彼方がありぬ枯野行 鈴木鷹夫 風の祭
燈が點り枯野の果の村も見ゆ 山口誓子 大洋
燈ともりて那須の枯野にかゝりけり 増田龍雨 龍雨句集
父の呼ぶ遠き枯野を愛しけり 仙田洋子 橋のあなたに
父の雲ひとつ残りし大枯野 大家和子
片頬に日はあり枯野ゆくかぎり 林翔 和紙
牛の尾がひらりひらりと枯野指す 吉田未灰
牛の尾の外はうごかぬ枯野かな 蓼太
牛の顔枯野へ向けて曳き出す 藤田湘子(1926-)
牛も走る枯野に夜が迫る時 有馬朗人 母国
牛売って手はふところに枯野路 川元達治
牛歸る枯野のはてや家一つ 枯野 正岡子規
牛車十程ならぶ枯野哉 枯野 正岡子規
犬の眼の位置より枯野ひろがれる 吉田耕史
犬の舌枯野に垂れて真赤なり 野見山朱鳥(1917-70)
犬らしくせよと枯野に犬放つ 山田みづえ 木語
犬吠て枯野の伽藍月寒し 枯野 正岡子規
犬屹っと遠ちの枯野の犬を見る 阿部みどり女
犬連れて枯野の犬に吠えらるゝ 馬場移公子
狐かも知れず枯野の宿女 山田弘子 こぶし坂以後
狐消えしあたり枯野のそよぎ濃し 正木ゆう子 静かな水
狐火や那須の枯野に小雨ふる 枯野 正岡子規
猪の砂を身にぬる枯野かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
玄海へ突き出す枯野牛飼ヘり 林さわ子
現在地不明枯野に地図拡ぐ 津田清子
現在地確かめ 枯野歩きだす 増田治子
生垣に外は枯野や球遊び 枯野 正岡子規
生徒らと枯野の刻をあたたむる 宮坂静生 山開
町に来てそちこち寄りぬ枯野バス 遠藤梧逸
町一つ打ち捨ててある枯野かな 長谷川櫂 虚空
畝作りし土は淋しき枯野かな 楠目橙黄子 橙圃
畠にもならでかなしき枯野哉 蕪村遺稿 冬
病むかぎりわが識りてをる枯野道 石田波郷
病める母の障子の外の枯野かな 原石鼎
病夫睡る枯野わが来し寧けさに 石田あき子 見舞籠
療園に枯野延びきて暮れてをり 有働亨 汐路
白き月艶めきそめし枯野かな 相馬遷子 山河
白旗や枯野の末の幾流れ 枯野 正岡子規
白草に日はきらきらと枯野かな 森鴎外
皮剥の業見て過ぐる枯野かな 几董
目の前にお台場見ゆる枯野かな 椎橋清翠
目をつむりはろばろ来ぬる枯野あり 長谷川素逝 砲車
目刺焼き枯野に恋ふる海の色 藤原たかを
目路とほく菊をゆたかに枯野の墓 山口青邨
目開けば枯野の鳩となりてゐし 平井照敏 天上大風
真中に松花江ある枯野かな 楠目橙黄子 橙圃
真直に道あらはれて枯野かな 蕪村
真青な河渡り終へまた枯野 橋本多佳子
眼をあげてみても枯野にかはりなし 安住 敦
眼二つ枯野にありて燃えやすし 柿本多映
石に腰かけて枯野の芯となる 桑高清而
石に詩を題して過る枯野哉 蕪村
石をパンに変へむ枯野の鍬火花 堀井春一郎
石碑負ひて枯野何処まで行く人よ 河野静雲
石負うて枯野に人のおはしける 室生犀星 犀星發句集
砂利舟の大工でくらす枯野かな 野村喜舟 小石川
磨崖仏見むと枯野に深く入る 宮田正和
神なにもなさざる枯野大きかり 伊藤通明
神の眼と呼ぶ赤光の枯野星 野見山朱鳥
秋ちらほら野菊にのこる枯野哉 枯野 正岡子規
秘仏見し刻還らざる枯野ゆく 井沢正江 一身
移り来し個室枯野を前にする 宗田安正
稿の前あたたかき枯野もう寒し 森澄雄
空も枯野わが合掌の指先に 古舘曹人 能登の蛙
空ゆけば枯野東南西北に 山口誓子 黄旗
空港と言えど枯野の一部なり 中村耕人
空澄みて拝むほかなき枯野かな 渡邊水巴
空色の水飛び飛びの枯野かな 松本たかし
窓に枯野神説かれゐてひた黙す 友岡子郷 遠方
窓外の枯野見てゐる煖炉かな 比叡 野村泊月
立死のごとき枯野や甲斐の国 仙田洋子 雲は王冠
筑後川大きく曲り枯野かな 田村木国
紀の川のかりそめにして枯野かな 進藤一考
紅きもの枯野に見えて拾はれず 山口誓子(1901-94)
紅茶欲し枯野の果てに海あれば 原田青児
紙漉は枯野に住みて日和かな 渡辺水巴 白日
絵襖の金地銀地にある枯野 三田和子
絶えず動き枯野にぬくい牛の舌 桂信子 黄 瀬
絶壁となる寸前の枯野に日 上井正司
網をあむ十指に枯野聚りぬ 古舘曹人 能登の蛙
練塀の内迄も来る枯野哉 移竹
縄をもて劃す枯野と無人駅 品川鈴子
繕ひの音か塔より枯野ゆく 皆吉爽雨 泉声
罠逃げて狐落ちゆく枯野かな 広江八重桜
羊蹄(ぎしぎし)は世に多がほの枯野かな 野澤凡兆
美しきもの追ふごとく枯野に出づ 瀧春一 菜園
美しき女に逢ひし枯野哉 寺田寅彦
群雀飛んで枯野の色を出ず 橋本榮治 越在
義理ありて枯野のありて巡業す 遠藤美由樹
翔たんとする枯野鴉の歩き出す 山口草堂
翡翆の一閃枯野醒ましゆく 堀口星眠 営巣期
耕せし土黄に照れる枯野かな 楠目橙黄子 橙圃
聖書ひらけば栞くの字に枯野光 嶋田麻紀
脆く光る枯野の端に保母立てば 友岡子郷 遠方
膝折れば枯野一面つくづくし 小泉よし
自動車の中の日ぬくし枯野行く 新田充穂
舩曳の斜めにそろふ枯野哉 枯野 正岡子規
船小屋のありて枯野の水添へる 瀧春一 菜園
色々の石に行きあふ枯野かな 上野-無名氏 選集古今句集
芭蕉忌の枯野の端を歩きをり 宇野隆雄
花もなき原も名に立つ枯野哉 枯野 正岡子規
茂吉の死枯野の広さ量られず 阿部完市 無帽
茅葺や枯野の口の小商ひ 桃隣
茜とび水がめざめてゆく枯野 高井北杜
茫々と枯野の地獄大夫かな 平井照敏 天上大風
茫漠の枯野ながらも放牧す 高濱年尾
茶の木見て麦に取つく枯野哉 松岡青蘿
茶屋に見る富士つちくれに枯野かな 雑草 長谷川零餘子
草ぐきや鵙も枯野の弱り声 水田正秀
草鞋薄し枯野の小道茨を踏む 枯野 正岡子規
荒海と枯野を隔つ砂丘かな 松尾白汀
荒海の千鳥ぶちまく枯野かな 飯田蛇笏 山廬集
荷をかげに弁当たぶる枯野かな 金尾梅の門 古志の歌
莚帆の白帆にまじる枯野哉 枯野 正岡子規
落つる日を惜しみ枯野に車駐め 深見けん二
落人の心戦く枯野哉 寺田寅彦
落武者の如くに憩ひ枯野行 成瀬正とし 星月夜
葬禮の二組つゞく枯野哉 枯野 正岡子規
葬禮の旗ひるがへる枯野哉 枯野 正岡子規
葱提げて枯野の渚渉り来し 上田五千石
蓄音機針は枯野におりてゆく あざ蓉子
蕭條として石に日の入枯野かな 蕪村 冬之部 ■ 金福寺芭蕉翁墓
薄い日のそろりと動く枯野かな 幸田露伴 拾遺
薄とも蘆ともつかず枯れにけり 枯野 正岡子規
藁つんで広く淋しき枯野哉 尚白
虚無僧の物言ひかける枯野哉 爪流
虜れの毛布枯野に垂したり 松崎豊
蟷螂の尋常に死ぬ枯野哉 榎本其角
蟻程に枯野の家の竝びかな 枯野 正岡子規
血のつきし鼻紙さむき枯野かな 許六
血液輪送車すつとび枯野いきいきする 平井さち子 完流
血統書の無い犬と枯野を突っ走る 瀬戸青天城
衆目を蹴つて脱兎や枯野弾む 中村草田男
行き合ふて先を問ひ合ふ枯野哉 蘇山人俳句集 羅蘇山人
行き合へる車まさしき枯野かな 尾崎迷堂 孤輪
行き暮れて屯なほ遠き枯野馬車 原田青児
行馬の人を身にする枯野かな 炭 太祇 太祇句選
衰へし視力枯野の端に立ち 菖蒲あや あ や
襖絵の鶴相寄りて枯野閉づ 橋本榮治 麦生
見えてくる枯野の星やちんどんや 宮坂静生 春の鹿
見かえるや枯野にちさく友病む灯 古沢太穂 古沢太穂句集
見出せし枯野の中の土の家 高濱年尾 年尾句集
見舞人枯野の匂ひまとひ来る 朝倉和江
覚めて又同じ枯野のハイウェイ 深見けん二
観音の微笑枯野の果てにあり 九鬼あきゑ
詩因逃ぐ枯野に届く拡声ゆえ 田川飛旅子 花文字
詩神棲む枯野けぶりてゐたりけり 仙田洋子 雲は王冠
語らねば心が渇く枯野径 藤嶋まさと
誰彼も死んでしまへば枯野かな 草間時彦 櫻山
警察犬放ち枯野を捜索す 松岡ひでたか
豆ほどに人を見送る枯野かな 也有
貨車いくたび過ぎし枯野の雨やまず 柴田白葉女 遠い橋
貨車繋ぎ全車輛鳴る大枯野 吉田輝二
赤きもの甘きもの恋ひ枯野行く 草田男
足もとに青草見ゆる枯野かな 枯野 正岡子規
足萎の如き枯野の捨て車 八幡より子
足袋少し汚し枯野を越え来たり 鈴木真砂女 夕螢
足裏に除夜の枯野の真平ら 飯田龍太
足高に橋は残りて枯野かな 中川乙由 (1675-1739)
跫音の日暮を誘ふ枯野かな 桜木俊晃
踏み入りて枯野の声につつまるる 竹下陶子
踏めば騒いでいたしかたなき枯野の蘆 細谷源二
身のうちに山を澄ませて枯野ゆく 福田甲子雄
身より心の心より眸の弾む枯野 楠本憲吉
輪くづれの烏落つと枯野ひた暮るゝ 乙字俳句集 大須賀乙字
辻堂のあとになりたる枯野かな 枯野 正岡子規
辻駕に狐乘せたる枯野かな 枯野 正岡子規
追ふて逃げる鴉かしこき枯野哉 河東碧梧桐
透明な傘を開いて枯野ゆく 岡田史乃
通夜のため大知識人枯野来る 鈴木六林男(1919-)
運命の一糸乱れず枯野星 野見山朱鳥
過ぎり来し枯野の如く疲れたり 有働亨 汐路
過去は運にけふは枯野に躓けり 鈴木真砂女
道の上に家を建てゐる枯野かな 大橋櫻坡子 雨月
道二つ牛分れ行く枯野哉 枯野 正岡子規
道連の無口なりける枯野哉 枯野 正岡子規
遠くにも枯野が一つ大枯野 倉田絋文
遠く見る枯野の中の烟かな 夏目漱石 明治三十二年
遠ざかる背のいつしんに枯野かな 石塚友二 方寸虚実
遠山に日の當りたる枯野かな 高浜虚子
遠方や枯野の小家の灯の見ゆる 一茶
遠足の列くねり行く大枯野 高浜虚子
郵便受紅塗り枯野に愛を待つ 香西照雄 素心
郵便夫今日の枯野を私す 栗生純夫 科野路
郵便夫急ぐ枯野はあたたかに 吉屋信子
郵便夫枯野に黒く荷を確かむ 田川飛旅子 花文字
都出て枯野へ上る渡しかな 枯野 正岡子規
鄂博(オボ)とわが影ひくばかり枯野の日 桂樟蹊子
酒倉の土間に日當る枯野かな 長谷川零余子
酒壺と睾丸提げし狸よ枯野を来よ 磯貝碧蹄館 握手
酔ひてぐらぐら枯野の道を父帰る 西東三鬼
酔泣は号泣となる夜の枯野 林 翔
里の子の犬引て行枯野哉 枯野 正岡子規
里人や枯野の道を横ぎるも 尾崎迷堂 孤輪
里犬や枯野の跡を嗅ぎありき 椎本才麿
野は枯れて杉二三本の社かな 枯野 正岡子規
野は枯れて殘りし牛と地藏哉 枯野 正岡子規
野は枯れて隣の國の山遠し 枯野 正岡子規
金の時計は東京経由枯野行き 山内康典
金州の南門見ゆる枯野哉 枯野 正岡子規
金魚玉枯野の色のこれを攻む 栗生純夫 科野路
釣堀のわづかにのこる枯野かな 久保田万太郎 流寓抄以後
鈴鳴らす馬よ枯野は海に尽き 金箱戈止夫
鉄塔が大股で来る枯野かな 大村翔児
鉦も打たで行くや枯野の小順禮 獺祭書屋俳句帖抄上巻 正岡子規
銃声す枯野の中の誕生日 対馬康子 愛国
銃眼に蒙古の枯野あるばかり 原田青児
鐘の音の漂ひゐたる枯野かな 澤村昭代
閂をかけて枯野を遠ざける 箱井幸子
閉す門の内にあふれて枯野星 馬場移公子
関屋より道のさだまる枯野哉 召波
閼伽すこし枯野にそそぎ俳諧師 古舘曹人 砂の音
闇動きゐるは枯野を通る貨車 大橋敦子 手 鞠
阿蘇五岳枯野に起ちて雲に遊ぶ 高井北杜
阿蘇火口枯野逆立ちくる如し 橋本鶏二
陣取の咄して行く枯野かな 尾崎紅葉
陰りたるまゝ日のくれとなる枯野 大橋敦子 手 鞠
陰陽の石のありたる枯野かな 福島壺春
陽の枯野仮睡の中に傷兵佇つ 大井雅人 龍岡村
陽炎や枯野の時の馬の糞 陽炎 正岡子規
雁列の突つたちしづむ枯野かな 皆吉爽雨
雑貨屋で切符を買ひぬ枯野駅 石川文子
雨の坂ひかり枯野に達しをり 中戸川朝人 残心
雪このかた馬も放たぬ枯野かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
雲の影落ちて動かず大枯野 岡田日郎
雲を呼び枯野大円盤の牛 古舘曹人 能登の蛙
雲見ても生国の海おもふ枯野かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
雷落ちし松は枯野の初しぐれ 丈草
電球転がる枯野が家路一教師 齋藤愼爾
鞍置けばガラスの馬も枯野まで 宮坂つる
鞠をつくこゑのちひさき枯野かな 中田剛 珠樹
顧みて馬車まだ見ゆる枯野かな 五十嵐播水 播水句集
風に身をまかせて枯野わたりけり 仙田洋子 橋のあなたに
風吹てうしろ見返る枯野哉 枯野 正岡子規
飛ぶ鳥のしきりに落つる枯野かな 野上豊一郎
飛行機のずしんと降りる枯野かな 長谷川櫂(1954-)
飴牛のかがやきすぐる枯野かな 那須辰造
養鶏場その裏側の枯野かな 森田公司
馬に乘つて北門出れば枯野哉 枯野 正岡子規
馬のゐる枯野を好きになりにけり 今井杏太郎
馬の尾にいばらのかゝる枯野哉 蕪村 冬之部 ■ 金福寺芭蕉翁墓
馬叱る声も枯野の嵐かな 曲翠
馬子のせて馬つゝましや枯野道 島村元句集
馬子一人夕日に歸る枯野哉 枯野 正岡子規
馬消えて鳶舞上る枯野哉 枯野 正岡子規
馬痩せて枯野の露をいたむらし 尾崎紅葉
馬立ちて枯野の人を四肢の内 原子公平
馬糞のほゝけて白き枯野哉 枯野 正岡子規
馬糞も共にやかるゝ枯野哉 枯野 正岡子規
馬見えて雉子の逃る枯野哉 枯野 正岡子規
駆けてきてなほも枯野を駆けんとす 谷中隆子
髪梳くと枯野の匂ひこぼれたり 石川紀子
魚獲ては男枯野の端通る 桂信子 黄 瀬
魚籠の鮒生きて枯野を濡らしゆく 鈴木河郎
鮒釣つて金箔こぼす枯野かな 不死男
鳥総松枯野の犬が来てねむる 水原秋櫻子
鳥飛んで荷馬驚く枯野哉 枯野 正岡子規
鳩翔んで汽笛噴き出す枯野の果 三谷昭 獣身
鳶一羽はるかに落つる枯野哉 枯野 正岡子規
鴉発ち枯野の窪み枯れつくす 三谷昭 獣身
鴉鳴いて枯野の黙を深うしぬ 駒村多賀子
鴟尾あげて枯野の人ら炊ぐなり 和田悟朗
鴨網を立てゝきらめく枯野星 内藤吐天
鵯の来る墓のうしろにある枯野 椎橋清翠
鵲のみが知る戦跡の枯野かな 大場白水郎 散木集
鶺鴒の尾に叩かるゝ枯野かな 野村喜舟 小石川
鷹の目の枯野にすはるあらしかな 内藤丈草
鷹匠の痩身枯野ふみゆけり 伊與雅峯
鷹舞へば虚空渦巻く枯野かな 野見山朱鳥
鷺の雪降りさだめなき枯野かな 千代尼
鹿眠る夢の中まで枯野かな 高橋睦郎
黄櫨の木の紅葉見て過ぐ枯野哉 蘇山人俳句集 羅蘇山人
黒牛の眸と枯野の眼われに向く 原裕 葦牙
鼻紙を捨つれば白き枯野かな 尾崎迷堂 孤輪
●川原
あさ風やかもの川原の洗ひ葱 大江丸
うら若き川原蓬やはるの風 加舎白雄
おわら流しころと川原の石鳴れり 高澤良一 宿好
かなかなや川原に一人釣りのこる 瀧井孝作
くるめきて炎帝わたる涸れ川原 柴田白葉女 『夕浪』
このうへなし川原すすきの吹っきり方 高澤良一 随笑
しらじらと川原乾けり鶏合 大塚あつし
とんぼ湧く礎石ばかりの川原寺 都合ナルミ
なでしこよ川原に足のやけるまで 上島鬼貫
ひきゝりなく川原雲雀の揚りけり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
ふるさとや正月を啼く川原鶸 木下夕爾
やはらかき色なり川原撫子は 片山みち
ゐのこづち川原の小石踏めば鳴る 荒川優子
ゑのころの川原は風の棲むところ 稲畑汀子
トランペット音詰まりながら冬川原 児玉けんじ
一月十五日取手利根川川原四句 八木林之介 青霞集
一行事終り人去り冬川原 山本幸代
仏塔の影川原まで獺祭 松岡道代
僕の青春がぽつんと座っている川原 西村秀治
冬川原広やかに建ちぬ芝居小屋 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
冬川原石に鳥ゐて飛び失せぬ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
冬川原鳥眼に失せて広さかな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
冴返る川原に鳥の声ひそめ 森高 武
名月や角田川原に吾一人 名月 正岡子規
夕月の滲む川原や蚊喰鳥 飯久保紫朗
大鍋を川原に据ゑし芋煮会 佐藤四露
富士川の川原畑の桑黄葉 山口青邨
寒鴉富田川原は塒かも 阿波野青畝
山晴るゝ多摩ひろ川原幟立つ 及川貞 榧の實
岳の下野菊の川原ひろからず 大島民郎
川原にも復活祭の人こぼれ 稲畑汀子
川原の砂ほこり色鳥低し 内田百間
川原の砂ほこり色鳥渡る 内田百間
川原への道野茨の花のみち 青柳志解樹
川原上りて広々と蕎麦の花 松村蒼石 雁
川原吹く風にゆれ漕ぐ吊船草 浅見咲香衣
川原吹く風より水の青谺 原裕 青垣
川原寺ほとり手沢の稲架木組む 赤松[けい]子 白毫
川原湯に失せし川音闇深し 大山久恵
川原石の隙を見つけて花の塵 高澤良一 燕音
川原石積みてお城やお雛粥 宮津昭彦
川原石背中に痛きキャンプかな 堀勇夫
川原草ちくちくかゆし神旅に 辻桃子
川床に湯花川原にすすき咲く 高澤良一 随笑
常夏に切り割る川原川原かな 一茶「寛政紀行書込」
御所川原町われわれは水煙なり 阿部完市 軽のやまめ
数珠玉にことし川原の肥えにけり 辺見京子
星涼しうたごゑ流れくる川原 穴澤光江
暗き木を探す川原の兜虫 廣瀬直人「日の鳥」
月光は川原伝ひに雛の家 直人
月夜野の月なき川原汽笛ちぎれ 文挟夫佐恵 黄 瀬
梅散るや川原鼠のちゝと鳴く 祗空
楮干す川原かぶさる奥の嶺 小澤満佐子
水の月川原祓ひのありし夜や 河東碧梧桐
河鹿鳴く川原が見えて一軒宿 高澤良一 素抱
深秋の川原に白き石拾ふ 大薮寿子
湧く蛍天の川原と流れくる 赤松子
火を焚くや川原にはかに冬ざるる 小島健 木の実
由良川原欅に鷺の巣のあまた 吉川信子
白鶺鴒とんと川原の雪醒まし 高澤良一 寒暑
盆花摘み川原歩きも朝のうち 高澤良一 ぱらりとせ
石蕗咲いて夢の川原の淋しきこと 吉本和子
笹叢に日の移りたる川原鶸 黒川純吉
糸引いて石這ふ蜘蛛や冬川原 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
素通しに川原の見ゆる盆の家 高澤良一 宿好
紫雲英蒔く川原に所番地なし 坂本坂水
織りあがる甲斐絹のひかる冬川原 福田甲子雄
色鳥の暮れて川原の砂の月 内田百間
菜の花のすでに咲きたる川原ゆく母にふく風われにふく風 沢口芙美
落鮎や川原芒はただ靡く 本橋 仁
雪代や川原の湯壷越え奔る 和田祥子
露おりて四条はもとの川原哉 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
顔擦って川原の雪気野天風呂 高澤良一 寒暑
風死すや川原の石の貌白し 伊藤白雲(獅子吼)
鵜川原に滅罪の石積みありし 松井利彦
鶺鴒か雪の川原をすっ飛んで 高澤良一 寒暑
黒揚羽おどろに川原毛地獄越ゆ 高澤良一 素抱
●丘陵
丘陵の雑木吹鳴る彼岸道 高澤良一 随笑
土匂う宗谷丘陵なだらかに 高澤良一 素抱
室蘭は丘陵の都市青葉燃え 高浜年尾
武蔵丘陵蝮寝ている夜明けかな 金子兜太
郭公や丘陵たもつ古墳帯 宮坂静生 青胡桃
●草千里
かげろうて草千里浜空眠る 石原八束 空の渚
かげろふて人馬揺れゆく草千里 吉田佐和子
りんだうや牧鐘ひびく草千里 宮原 双馨
一匹のばつたもたゝず草千里 米本沙魚
一望の枯れといふべし草千里 吉田美和
冬山の神たづね継ぎ草千里 角川源義 『冬の虹』
噴煙の見え草千里雪降れり 大熊輝一 土の香
夏雲や草千里とは夢千里 岸原清行
夏霧のとほりしあとの草千里 松本康男「鶴俳句選集」
夕菅も星もひらきて草千里 坂本宮尾「木馬の螺子」
夜長宿宴席の名も草千里 高澤良一 鳩信
春愁を深めし雨の草千里 上村占魚 『自門』
末枯の馬の眼に逢ふ草千里 加藤安希子
火口より草千里見る千里の枯れ 石原八束 空の渚
牧牛に澄む水溜り草千里 大津希水
秋晴れの阿蘇を浮かせて草千里 多賀照子
竜胆や牛放たるる草千里 仲山秋岳
紺碧の空に帰燕や草千里 佐々木筆子
若駒に朝日溢るる草千里 野原春醪
若駒の点となりゆく草千里 川原博美
草千里いま風千里枯るるのみ 小野希北
草千里まだ番号の無き仔牛 品川鈴子
草千里より凩の湧くならむ 中田剛 珠樹以後
草千里一二三と霧湧いて 高澤良一 鳩信
草千里下萌えにはや牛放つ 里川水章
草千里光りとどめて囀りぬ 太田蘆青
草千里千里総枯はじまるか 鈴木真砂女 夕螢
草千里末黒に朝の雨そそぐ 竹下流彩
草千里果てまで行かず鬼薊 長田等
草千里浜のうす眼の水冴えて 石原八束 空の渚
草千里浜のかげろふ馬を染め 石原八束 空の渚
草千里浜の凍光鳴りいだす 石原八束 空の渚
草千里白靴の子を放ちやる 福永耕二
草千里而して霧千里なる 正木ゆう子 悠
草千里野火あげ天へ傾けり 橋本多佳子
草千里雪の別れの匂ひ立つ 小出秋光
草千里霧氷千里となりゐたり 谷川章子
草千里馬の糞より地虫出づ 井手嘯月
草千里馬の背を吹く神渡し 登坂章一
草千里馬追ひ立てて白雨来る 岩永はるみ
薫風に草のさざなみ草千里 山口速(狩)
薫風の脈打つて来る草千里 西村博子
虫出しの雷奔る草千里 野中春艸
野焼あとの霜濡れけむる草千里 石原八束 空の渚
野焼あとはだれにさびし草千里 石原八束 空の渚
雲は春の草千里浜楽降らせ 石原八束 空の渚
雲海や大うねりして草千里 菅原素子
霜消えの水光日覚む草千里 石原八束 空の渚
霧込めののっぺらぼうぞ草千里 高澤良一 鳩信
風の草千里熱波の砂千里 岡田日郎
風光り雲また光り草千里 門松阿里子
風吹いてかげろふきえぬ草千里 石原八束 空の渚
馬の目に雪降るのみの草千里 岡部六弥太
馬上なる天の深さよ草千里 加藤知世子 花寂び
●草野
穂草野ぐんと尿し終へし爽しさに 石塚友二 方寸虚実
穂草野を母の膝とす鳥けもの 津田清子
●草深野
●国原
みはるかす新羅国原すすきに夕日あるところ 山本木天蓼
みはるかす瑞穂国原穂走れり 石塚友二 光塵
元日や吉備の国原藺を植うる 市川東子房
凧越後国原照る雪に 佐野青陽人 天の川
国原にあまねく初日とゞきけり 稲岡長
国原に団雲浅問は我と灼ける 草田男
国原に日のさしはじめ若菜摘 今田清照
国原の松高く芒長くかな 尾崎迷堂 孤輪
国原の水たてよこに彼岸鐘 飯田蛇笏
国原の水満ちたらふ蛙かな 芝不器男
国原の田にして落穂とりかざす 皆吉爽雨 泉声
国原の鬼と並びてかき氷 柿本多映
国原は蒼々として後鬼泣けり 横山白虹
国原や五月は青き霞立つ 佐野良太 樫
国原や到るところの菊日和 日野草城
国原や古き天柱萌えはじむ 和田悟朗 法隆寺伝承
国原や小さき山ほどよく笑ふ 都倉義孝
国原や桑のしもとに春の月 阿波野青畝(1899-1992)
国原や生きてゐる木に鯉幟 吉本伊智朗「柝頭」
国原や野火の走り火よもすがら 水原秋櫻子
国原や雪解の山のなだれ合ひ 石田波郷
国原や青きを蓋ふ空まろく 林原耒井 蜩
国原を撓道の火のはしりをる 阿波野青畝
国原を瞰して鷹巣作れる 玉置仙蒋
国原を繞道(にょうどう)の火のはしりをる 阿波野青畝
国原を走る神の火年立てり 民井とほる
大和より国原つゞき小春富士 長谷川かな女 雨 月
大和国原よ牡丹の寺を置く 稲垣きくの 牡 丹
大和国原冬日が額にあつまりぬ 細見綾子 黄 炎
大和国原花菜に電車なだれ来る 宮坂静生 雹
天離る穂の国原や麦青み 太田鴻村 穂国
海光の如く国原花みかん 赤松[ケイ]子
煙りなき甲斐国原の秋日かな 飯田蛇笏 霊芝
短夜の国原とざす霧に濡れ 石橋辰之助 山暦
短夜の灯をちりばめて国原は 相生垣瓜人 微茫集
祈年祭国原に雪敷きみちて 会田逸平
神やがてつどふ国原稲架を解く 藤崎久を
稲の香のしるき国原神迎 栗間酔舟
空燦と最上国原さくらんぼ 三木星童
藺を植うる筑後国原日一つ 兒玉南草
藺植して火の国原の暗らきかな 小西須麻
雪なき越の国原の素直さよ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
雪解富士国原青さみちにけり 渡邊水巴 富士
雲に山の座国原に寒牡丹 瀧澤和治
青し国原梅雨雲のひらかむとして 臼田亞浪 定本亜浪句集
鳴く雲雀国原の畑皆煙る 米澤吾亦紅
鹿つれて大和国原見はるかす 黒田悦子
●原野
ゆたかなる棉の原野にいまいくさ 長谷川素逝 砲車
ペガサスに打ち跨りて廣大な原野駈けゆく女にあはむ夜 野口世津子
一樹なきサロベツ原野雁の声 船越 幸子
入り会いの原野 鈴ふる雪ばかり 穴井太 土語
原野(ぬぷ)はわが心の故郷榛の花 金箱戈止夫
原野にてみたままつりの生花展 川崎展宏
原野の耕しは真つ黒き帯一人の旅 寺田京子 日の鷹
夏寒しサロベツ原野の北きつね 天野和風
秋深し原野にあふぐ白鳥座 大島民郎
蕗原野貫く道を行くばかり 稲畑汀子
蛇呑んで原野"俳諧自由"なり 中島斌雄
誰ぞ住める原野の果ての鯉のぼり 稲葉三絵子
退屈な原野を佇ちつくすポプラ 櫂未知子 蒙古斑
隼の原野に狙ひをりしもの 岡安紀元
風つのるサロベツ原野沢桔梗 足立登美子
●高原
あけそめて高原の霧今やなし 高濱年尾 年尾句集
あんず咲く高原療養所より挽歌 七田谷まりうす
すでに秋の高原の夜の手足かな 柴田白葉女 雨 月
たそがれて高原の雁しづみ去る 飯田蛇笏 椿花集
ひばりなき高原のみち暖雨ふる 飯田蛇笏 春蘭
ふんだんに高原野菜のバーベキュー 高澤良一 燕音
みな枯れて高原に寒ゆきわたる 草本美沙
トマト赤し耳も淋しき高原に 対馬康子 吾亦紅
ビール酌む高原の夜や生きゐてこそ 森川暁水
上蔟の二タ夜の月を高原に 中西舗土
仙石の高原暮るゝ霧の音 石塚友二 光塵
初夏の飢高原を下りず耐へゆかむ 石橋辰之助 山暦
卓にみな手を置く高原濃霧報 友岡子郷 遠方
台風来高原の闇うねり来る 柴田奈美
夏惜しむ高原の鐘一つ打ち 古賀まり子
夏終る高原駅の時刻表 鈴木 冽
子は遠くつぶらまばらの高原蝶 中村明子
富士薊高原の風ほしいまま 下間ノリ
息しろく立つ高原の花の雨 大島民郎
星飛んで高原は秋早かりし 福村青纓
昼顔に浅間高原あはれなり 室生犀星
時雨冷覚え高原いゆく旅 松尾緑富
晩霜の予報高原星満つる 杉山鶴子
暑し高原歯をむきだしに笑う馬 福富健男
朝の智慧午後霧消する高原にて 八木原祐計
木曽馬があそぶ高原紅葉晴 伊東宏晃
桃むけば燈真白に高原なり 村越化石
洪水ひきし高原川に梅雨の滝 前田普羅 飛騨紬
清水鳴る高原野菜「プッチーニ」 吉原文音
無数の目あり高原の枯れ澄めば 堀口星眠 青葉木菟
牧牛の群る高原や皐月富士 吉井竹志
牧閉ぢしあと高原の雲低く 大谷茂
畝涼しく高原野菜向ひ峯まで 佐野美智
白地着て高原にわが暮れのこる 馬場移公子
石に踞し聞く高原の昼の虫 相馬遷子 山国
秋の日の強し高原なればなほ 高浜年尾
群菫高原なれば日の強く 林火
芽からまつ高原の日は雫なす 佐藤美恵子
菜の花忌蒙古高原まのあたり 大島麦邨
蓼の花濃き高原を去る日かな 副島いみ子
蛇苺高原の日に傷みたる 石橋辰之助 山暦
蟻見つゝ高原の刻過ぎゆくも 相馬遷子 山國
邯鄲や高原はものの翳ひそむ 山口草堂
開発の高原に湧く夏の雲 梅沢信作
露草や高原の汽車唯二輌 瀧春一
青芝を踏み高原の朝の弥撒 高橋照子
青高原わが変身の裸馬逃げよ 西東三鬼(1900-62)
青高原牛は重みを移しをり 横山房子
頬赤と蕎麦待つ高原大き傘 阿保恭子
風の高原乳房を持たぬ少女と馬 津根元潮
饒舌の夏の高原の椅子にあり 石橋辰之助 山暦
高原といふ円さあり露涼し 林糺苑
高原なり蒔く人に蹤く白き犬 村越化石 山國抄
高原にこころ違へし花萱草 津森延世
高原にゐてや蛙の目借時 笠原古畦
高原にゼンマイ枯れてかぶされり 前田普羅 春寒浅間山
高原に五月の雪を踏みちらす 石橋辰之助 山暦
高原に低き小雀の影をめづ 軽部烏頭子
高原に住みつき銀河澄むなべに 高濱年尾 年尾句集
高原に山雨到れば夜の秋 高濱年尾
高原に立ちはだかりて秋高し 高浜虚子
高原に踏み込む一歩きりぎりす 鈴木美枝
高原に黴てふものを忘れ住む 木村蕪城 寒泉
高原のいづこより来て打つ田かも 大島民郎
高原のうねりのままに大根畑 瀬藤もと子
高原のつゞく限りの秋日かな 永松 西瓜
高原のバス待つ春着吹かれをり 大島民郎
高原のリフト青田の上もゆく 茨木和生 遠つ川
高原の冷えしみとほる細身の銃 藤井亘
高原の列車花野の風運ぶ 近藤詩寿代
高原の向日葵の影われらの影 三鬼
高原の夏の薊に山の蝶 高濱年尾 年尾句集
高原の夜に入る天の夏ひばり 飯田蛇笏 雪峡
高原の夜気鈴蘭の香に澄みて 小島岸郎
高原の夜空は高し流れ星 赤木タモツ
高原の天の無辺やあきつ翔ぶ 伊勢谷紅月女
高原の天鼓の蛙五月闇 皆吉爽雨
高原の妻のふるさと夕立ぐせ 香西照雄 対話
高原の小さき部落柿の秋 高濱年尾 年尾句集
高原の干草日和つづきをり 井上たか女
高原の戸に物売や新豆腐 星野立子
高原の日の乏しさよ蕎麦の花 川上訓子
高原の日近く巻きし大キャベツ 長谷川かな女 雨 月
高原の曇れば黒き桔梗かな 相島虚吼
高原の月はや沈み虫の闇 五十嵐八重子
高原の朝あをあをとほととぎす 行方寅次郎
高原の柞黄葉の一色に 甲斐 謙次郎
高原の桔梗にひくく雲すみぬ 川島彷徨子 榛の木
高原の水禍をよそに地蜂焼 飯田蛇笏
高原の水秋にして花あやめ 渡邊水巴 富士
高原の流星しきりなる夜かな 星野立子
高原の温泉匂はず梅雨入り月 前田普羅 春寒浅間山
高原の白雲に濡れ黍熟るる 岡田日郎
高原の真上晴れぐせ天の川 伊藤翠壷
高原の秋めくものに飛燕かな 高濱年尾 年尾句集
高原の秋めく日ざし小雷 星野立子
高原の秋惜しむ火や土蜂焼く 飯田蛇笏 雪峡
高原の秋日に主婦の馴染顔 飯田蛇笏 椿花集
高原の秋運転手ギター弾く 木村蕪城 一位
高原の秋高しとも深しとも 品川光子
高原の空の広さに鳥渡る 稲畑廣太郎
高原の筒鳥遠く聞き歩く 藤田静水
高原の老鷲の唄みづ浅葱 伊藤敬子
高原の聖堂クルス照る五月 大橋敦子 勾 玉以後
高原の色のはじめの櫨紅葉 滝佳杖
高原の草山に霧ふれて飛ぶ 上村占魚 球磨
高原の薄みぢかき良夜かな 松本たかし
高原の薄暑三百六十度 佐藤和子
高原の薊はまぎれ易き色 稲畑汀子 汀子句集
高原の蜻蛉は空を従へり 角川春樹
高原の蝶噴き上げて草いきれ 西東三鬼
高原の裸身青垣山よ見よ 山口誓子「黄旗」
高原の観光ホテル夏蕨 赤星水竹居
高原の轢轆とほし秋の昼 相馬遷子 山国
高原の鈴虫星へ谺せる 橋本美代子
高原の銀河は低し夜の散歩 塙告冬
高原の陽のたしかさや福寿草 碓氷すすみ
高原の雨の土砂降り花さびた 東 堯子
高原の雨やむ湿気翁草 飯田蛇笏 椿花集
高原の雨潔よし賢治の忌 吉田雅枝
高原の霧に背までの髪ぬらす 橋本美代子
高原の霧はれてゆく小鳥かな 高濱年尾 年尾句集
高原の青より知らず天道虫 梶山千鶴子
高原の青栗小粒日の大声 西東三鬼
高原の風に色増す秋あざみ 太田常子
高原の風に芋虫太るかな 細川啓子
高原の風の軽さにレタス巻く 森田智子
高原の風は秋冷たたへあふ 雨宮抱星
高原の風ひびき合ふ草雲雀 小岩浩子
高原の風身に添へる半夏かな 恩田秀子(白露)
高原はすでに秋めく花と人 青柳志解樹
高原は梅鉢草に埋まりけり 小桐芝原
高原へ少女多情の夏帽子 対馬康子 吾亦紅
高原や四方の春山とこしなヘ 五十嵐播水 播水句集
高原や朝寒の天張りつめて 有働亨
高原や朴にかゝりて月の暈 島村元句集
高原や栗の不作に蕎麦の出来 高浜虚子
高原や桔梗ゆゝしき濃紫 高橋淡路女 梶の葉
高原や水清ければ鱒を飼ふ 三ツ谷謡村
高原や粟の不作に蕎麦の出来 高浜虚子
高原や貸馬の汗腱に寄る 平井さち子 完流
高原を去るや鵯花咲いて 前澤宏光
高原を去る日も萩の雨が降る 阿部みどり女 笹鳴
高原を空母とおもふ良夜かな 仲寒蝉
高原を馬馳け吾子馳け青炎天 伊藤敬子
高原ゴルフコース敷地のヤナギラン 高澤良一 素抱
高原光地蜂焼く火のおとろへず 飯田蛇笏 椿花集
高原光己れ意図なく騎馬少女 飯田蛇笏 椿花集
高原夕むんむん煙草掛けおもり 松村蒼石 雁
高原広きにいつまで双蝶星祭 香西照雄 素心
高原文庫みどりの風の休館日 西野洋司
高原文庫出で来てひとり青き踏む 鳥越憲三郎
高原晩夏肉体はこぶ蝮とおれ 金子兜太
高原涼し靄の刻すぎ朝日の萱 古沢太穂 古沢太穂句集
高原湖太古の涼に月を呼ぶ 河野南畦 湖の森
高原驟雨真鯉のような青僧侶 穴井太 原郷樹林
黍刈るや高原の土秋暑し 西島麦南 人音
●広野 曠野
ががんぼの帰路の往路の曠野哉 小原洋一
きれ凧の広野の中に落ちにけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
すさまじや曠野の雨を揚雲雀 野村喜舟 小石川
たんぽぽや曠野の果ての野付牛 遠藤梧逸
なやらひの眼あそべる曠野かな 飯田龍太
ねぢあやめ咲けり曠野に旅をすゝむ 望 鳥
はた~やかくも広野の風無限 徳永山冬子
アイダホの果なき広野鰯雲 利根里志
オキーフの広野に降りし夜露かな 仙田洋子 雲は王冠
一瞬の広野暗きは椋鳥渡る 野納紫香
不眠曠野の狼でありし日々 小田弥生
今日も亦曠野の夕焼秋の風 相馬遷子 山国
冬尽きて曠野の月はなほ遠き 飯田蛇笏
切れ凧に淋しく暮るゝ広野かな 古白遺稿 藤野古白
初夢のつづく曠野に父のこゑ 石寒太 炎環
初日とどく広野の月の落ちて行く 瀧井孝作
北斗うすく広野の水に月上る 池内友次郎 結婚まで
十字街曠野の星をかかげたる 三谷昭 獣身
厩当番貨車に曠野の日を見たり 細谷源二 鐵
向日葵と没日曠野に相對ふ 今川凍光
夕立や広野の中に牛一つ 夕立 正岡子規
少年を曠野につなぎ冬ひばり 塚越美子
山生みし曠野*たらの芽どぐいの芽 長谷川かな女 牡 丹
島一つ見えず広野の青嵐 青嵐 正岡子規
嵯峨の雅困が閑を訪て 曠野行身にちかづくや雲の峰 蕪村遺稿 夏
帰雁鳴き尽きず曠野の尽きざりし 依田明倫
干菜湯に曠野の匂ひ少し嗅ぐ 上野さち子
年忘れ広野の鶴を見にゆかむ 樗良
広野にて梅は咲かむと揺るるなり 齋藤玄 『狩眼』
広野拓きし人の墓かも野菊挿し 林 翔
折々に雉子飛び立つ広野哉 雉 正岡子規
折々は雉子飛立つ広野かな 雉 正岡子規
旱星教会裏は曠野めき 三谷昭 獣身
春雨になるや広野の南風 春の雨 正岡子規
昼貌の小さなる輪や広野中 松本たかし
曠野かな朝より蜂の針光る 徳弘純 麦のほとり
曠野にて梅は咲かむと揺るるなり 斎藤玄
曠野来る冬将軍も耳赤し 中島月笠
月ささぬ曠野の雪を踏みにけり 松村蒼石 露
月に澄み日に澄む広野の冬泉 柴田白葉女 雨 月
林檎剥く指も曠野の夕焼を 楸邨
沖よりの声は曠野に魂迎 斎藤玄 雁道
沢あまたありて広野や虫の声 癖三酔句集 岡本癖三酔
焼残る広野の中の地蔵哉 焼野 正岡子規
父の忌や曠野を頒つ雪解川 宮田和子
甕積みし檣外枯るゝ広野かな 楠目橙黄子 橙圃
白菜を漬けて曠野に生きんとす 加藤楸邨
空港につヾく曠野の麦の秋 久保田万太郎 流寓抄
脳といふ曠野をいまも鳥渡る 土橋たかを
花薊広野をめぐるミサの鐘 柴田白葉女 遠い橋
荒神墨の/顔を/曠野に向けて/干す 林桂 黄昏の薔薇 抄
蟷螂や広野の風にうち向ひ 小杉余子 余子句選
蟷螂や曠野のゝ石に風の中 東洋城千句
行く雁の腹を見上る広野かな 巌谷小波
軍用貨車染めて曠野の日が終る 細谷源二 鐵
鈴蘭の広野や吾を小さく置き 徳永山冬子
鉄色の曠野をわたる年の暮 石田波郷
雲水の広野飛びゆく幾夏ぞ 齋藤玄 『無畔』
霧ふかき広野にかかる岐かな 蕪村
霾れる曠野を居とし遊牧す 柳村苦子
青柿の上枝に父の曠野見ゆ 佐藤鬼房 地楡
駅凍てゝ曠野につゞく深雪かな 前田普羅 飛騨紬
鮭とんで広野の景の一変す 木村要一郎
鳥帰る蝦夷の広野や集治監 鳥帰る 正岡子規
鳰吹かるる岸の曠野なり 斎藤玄
鶯や広野あたりの夕霞 古白遺稿 藤野古白
●荒野
いのちいま荒野野菊と花あそび 花谷和子
この少女宙の荒野より来りしか 須藤徹
てのひらの荒野を立てるてんと虫 須藤徹
てのひらの荒野卯の花腐しかな 池田澄子
とんかつの荒野が口にある遅日 大石雄鬼
ひもすがら駆け来し荒野天の川 上崎暮潮
ほそぼそと荒野の石も芽ぐみけり 室生犀星 犀星発句集
よだかの星彼方に光る荒野にて他者食わず生きる生などありや 小川太郎
オートバイ荒野の雲雀弾き出す 上田五千石(1933-97)
オーバーの裏側にある荒野かな 櫂未知子 蒙古斑
テーブルの上の荒野へ百語の雨季 寺山修司 花粉航海
テーブルの荒野まん丸蜜柑匂う 野口哲陽
ラグビーの影や荒野の声を負い 寺山修司
ラ・マンチャの荒野の古城の今日の泊り遠く夜は寄す沈む日ののち 近藤芳美
一粒の向日葵の種まきしのみに荒野をわれの処女地と呼びき 寺山修司
初弥撒や荒野へかへるみそさざい 加藤楸邨
初雁や荒野の真中水たたへ 宇和井聖
十薬の蕊高くわが荒野なり 飯島晴子「儚々」
吹雪に蓋しても荒野続くだけ 櫂未知子 貴族
外套の胸の底まで荒野かな 草間時彦 櫻山
夜濯ぎの母が荒野へ耳ひらく 藤田守啓
手が足が伸びて荒野に五月くる 津沢マサ子 風のトルソー
暮れなづむ荒野をともす烏瓜 土屋 啓
月明の喝采を聞く荒野かな 高澤晶子 復活
枕木を憶えばしずかなる荒野 斎藤康子
槍放ちけり荒野のはての王国へ 須藤 徹
気がついたときは荒野の蝿だった 津沢マサ子(1927-)
池乾して荒野のごとし蟻の列 古舘曹人 砂の音
泣きながら責めたる母の荒野かな 津沢マサ子(1927-)
流さるる雛海にも荒野あり 藤井冨美子
火の空の荒野に絵らふそくなど立てるな 小川双々子
火蛾落ちて机の上の荒野かな 遠山陽子「高きに登る」
熔岩群れて荒野に怒り充つる冬 宮津昭彦
白瞑の自伝の荒野雪が降る 深谷雉大
目つむりて荒野に曼珠沙華咲かす 目迫秩父
眠る男の荒野へゆかん月明り 高澤晶子 復活
稲妻の荒野十戒をつぶやきぬ 九鬼あきゑ
稲妻や荒野の果の一軒屋 寺田寅彦
立つところいづこも荒野寒の入 伊藤通明
聖書いま荒野の章に紙魚もをり 井沢正江 以後
膝抱きて荒野に似たる年忘れ 山田みづえ 忘
花苺荒野の土も湿りたる 小川敏子
荒野から一目散に風戻る 岩尾可見
荒野なるこゑの罅入る柘榴の実 小檜山繁子
荒野より声す向日葵播きをれば 齋藤愼爾
荒野原いつも吹きをり秋の風 高木晴子 晴居
荒野原小さきすゝきと吾亦紅 高木晴子 晴居
荒野深く実生の松の冬凪ぎぬ 渡邊水巴 富士
荒野菊身の穴穴に挿して行く 永田耕衣(1900-97)
蒲の穂をユタの荒野に見とどけぬ 原田喬
蕗の薹母の荒野にとく出でよ 肥田埜勝美
薄日さし荒野荒海大寒なり 福田蓼汀
追いおわれ荒野の石になった雲 津沢マサ子 風のトルソー
鍵束のそばの荒野で眠りおつ 岡宣子
鎌漏れて荒野にたつや梅の花 浜田酒堂
雨はれて荒野の桔梗夕日照る 桔梗 正岡子規
雲雀翔つ荒野の光り尋めゆきぬ 内藤吐天 鳴海抄
電気毛布の中の荒野を父さまよふ 林 朋子
青空と荒野を愛し子を抱かず 津沢マサ子 楕円の昼
鷹匠の鷹はなしたる荒野哉 鷹 正岡子規
荒れ野ひとつ精神にひろがる酔ひ醒めやしばらく俺は荒れ野に遊ぶ 島田修三
荒れ野焼くあなたが先に火を付けた 櫂未知子 貴族
爛々と鷹の見据うる荒れ野かな 平澤澄子
●小山
かたかごを祀る小山を指さしにけり 阿部完市 軽のやまめ
のどかさや小山つゝきに塔二つ 長閑 正岡子規
のどかさや小山小山の寺の塔 長閑 正岡子規
ふるさとの小山のやうな春炬燵 境野大波
コスモスや小山のごとき万治仏 中谷沓仙
初雪の雑木につもる小山かな 把栗
四國路や小山の底の稻莚 稲筵 正岡子規
塔見ゆや小山つゞきのむら紅葉 紅葉 正岡子規
家ちらほら小山つゞきの麦畑 麦 正岡子規
小山の裾の春さきにゐるやこの伊豆 梅林句屑 喜谷六花
戸をあけて愛する小春の小山哉 小春 正岡子規
早稻の香や小山にそふて汽車走る 早稲 正岡子規
春の水小山の中を流れけり 春の水 正岡子規
松若くつゝじがちなる小山かな つつじ 正岡子規
枯尾花ばかりの小山鳥も鳴かず 梅沢墨水
柔らかく寄せて小山に落椿 新井登志
桃咲いて牛行く背戸の小山かな 桃の花 正岡子規
温泉の町を取り卷く柿の小山哉 柿 正岡子規
町中の小山のすすき月祭る 松村巨湫
秋の雨松をいたゞく小山哉 秋雨 正岡子規
茶茸得て歸る小山のしめぢ哉 茸 正岡子規
野鼠ら晴れた小山を競っている 穴井太 ゆうひ領
雲なくて空の寒さよ小山越 正岡子規
鳥雲に壱岐の小山に曾良の墓 嶋野一晴
鳶の輪に磯の小山も眠りつく 駒沢たか子
鶯や小山の裾の卵塔場 鶯 正岡子規
●笹原
ささ啼のとぶ金色や夕日笹 原石鼎
しぐるゝや笹原もどる兎狩 寺田寅彦
はらはらと動くや秋の根笹原 秋 正岡子規
妹許や露の笹原踏み分けて 寺田寅彦
巣立鳥笹原は風くりかへす 友岡子郷
朝寒の笹原走る兎かな 朝寒 正岡子規
東風に暮れて笹原を村に下りけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
柳生街道笹原ふかくおとし角 中村翠湖
熊笹原音絶えてより雪はげし 岡田日郎
秋たつやいなの笹原うつり来る 松岡青蘿
笹原に光陰流れ青あらし 伊藤敬子
笹原に沈むと見しが松毟鳥 鈴木しげを
笹原に硫黄匂へり夏鴬 横山白虹
笹原に秋といふ風来て鳴らす 阿部みどり女
笹原に笹のたけなる紅葉かな 紅葉 正岡子規
笹原に笹子の声のみちさだか 皆吉爽雨 泉声
笹原の暮れゆくひかり白樺に(蓼科高原) 石橋辰之助
笹原や何にすがりて藤の花 会津八一
笹原や笹の中なる落椿 落椿 正岡子規
笹原や笹の匂も日の盛(八年) 芥川龍之介 我鬼句抄
納沙布は広き笹原囀れり 茨木和生 丹生
花ぐもり笹原くだる山女釣 滝井孝作 浮寝鳥
萱原の笹原続き二月かな 尾崎迷堂 孤輪
銀塊の夕月熊笹原照らす 岡田日郎
雪車引て笹原歸る月夜かな 橇 正岡子規
霧こめてなほ笹原に日のひかり 石橋辰之助 山暦
霧すぎて笹原わたる風の音 石橋辰之助 山暦
●笹生
笹生吹く風のみどりをうたがはず 伊藤敬子
●山野
すごすごと日の入る山野茅萱かな 佐藤紅緑
とりの死は山野遠しや牡丹雪 宇多喜代子
一抜けて二脱けて山野夜の母雪 折笠美秋 虎嘯記
剣士皆眠り山野の虫を聞く 上薗 猛
山野跋渉せし猪肉の薔薇色 細見綾子 黄 炎
月光に山野凍れり去年今年 相馬遷子 山国
炉を閉ぢてよりの山野に親しめり 山口苔石
秋の山野の石に耳あるごとし 武藤鉦二
裸夫馬にまたがり山野はるかなり 池内友次郎 結婚まで
颱風の山野眼鏡の枠にあふれ 栗生純夫 科野路
●湿原
いぶき虎の尾湿原の精群るるかに 新井英子
ちんぐるま湿原登路失せやすし 水原秋櫻子
ほたるぶくろは湿原の彼方あり 和知喜八 同齢
凍鶴や湿原の川海へ入る 佐野農人
吾を知れる李白は立てり湿原に 安井浩司
家族和解す湿原に降りゆかば 仁平勝 東京物語
庭知れぬ蒙古湿原虫すだく 樹生まさゆき
春兆す湿原に水蘇り 小宮山政子
条約の守る湿原草紅葉 村手圭子
枯湿原いのちひとつも見えざりき 宮田黄李夫
水色に昏るる湿原柳の芽 神田長春
湿原に人散つてゆく桷の花 小口英吉
湿原に地みち板道ほととぎす 尾亀清四郎
湿原に夕焼とどく柳葉魚漁 磯部 実
湿原に折れ伏す蘆や小葭切 水原秋櫻子「玄魚」
湿原に昼の闇あり座禅草 藤木倶子
湿原に暮色を誘ひ吾亦紅 小池龍渓子
湿原に水の道つく燕子花 上田五千石
湿原に水澄む悲しみのやうに 矢島渚男 延年
湿原に沼の目河骨の金一点 福田蓼汀 秋風挽歌
湿原に目が捉へたる糸蜻蛉 丸山次郎
湿原に神の一睡糸とんぼ 木村敏男
湿原に神の焚く火かなゝかまど 堀口星眠
湿原に飛びて大きな蠅の音 高澤良一 随笑
湿原のきびしき枯に入日かな 松村蒼石 雪
湿原のひかりの翼水芭蕉 森田 博
湿原の冬木に実あり真くれなゐ 殿村莵絲子 雨 月
湿原の山女いぶかる秋の雪 後藤博一
湿原の日は蒲の穂にとどまれり 宮下翠舟
湿原の日矢射す方の恵方かな 斎藤青火
湿原の横から一声夏鶯 高澤良一 鳩信
湿原の死枯樹梢に星鴉 瀧沢ちよこ
湿原の水の自在に芦の角 名取光恵
湿原の水まだ暮れず花さびた 水見悠々子
湿原の空玲瓏と鶴渡る 阿部寿雄
湿原の花に雨ふる夏暁かな 内藤吐天
湿原の茱萸あさる童に虹たちぬ 飯田蛇笏 春蘭
湿原の雲自在なり風露草 岡田和子
湿原の風を背負ひて犬橇速し 三関きよし
湿原はひびくものなし虹の橋 金子千代
湿原は草深くして吾亦紅 吉村千代子
湿原は雲湧くところ赤とんぼ 吉原文音
湿原は鶴の涯なる二月盡 古舘曹人 砂の音
湿原や星流れたる男の背 小川双々子
湿原をうねる流れや水芭蕉 山田 信夫
湿原をへだつみづ山きぎす啼く 飯田蛇笏 春蘭
湿原をよぎる鎌見え露微塵 成田千空 地霊
湿原を見むためかけし冬の鍵 対馬康子 愛国
目細鳴き湿原はまた霧の刻 小野宏文
筒鳥は遠し湿原日を揚げて 目黒十一
翡翠に湿原の風うまきかな 高岡千歌
草雲雀もう鳴きそめし湿原に 工藤乃里子
踏めば水にじむ湿原座禅草 大野雑草子
道行の果て湿原の枯真菰 熊谷愛子
遠かすむまで湿原のかきつばた 細見綾子 天然の風
霧多布てふ湿原の海霧に遭ふ 茂木花詠
霧濃ゆく湿原を罩め郭公鳴く 飯田蛇笏 椿花集
青梅雨の底湿原の色のこる 澤田緑生
鬼やんま湿原の水たたきけり 酒井 京
●篠原
凍蝶よいくたび逢える篠原か 三谷昭 獣身
篠原の月冴残る兜かな 支考
篠原やおもひのままに寒菫 木津柳芽
篠原や日あたる蔦のむらもみぢ 飯田蛇笏 山廬集
篠原や黒羽山もうちつづき 山店 芭蕉庵小文庫
耿々たりこの篠原のふゆの月 日夏耿之介 婆羅門俳諧
鶯や雑木つゞきの小篠原 鶯 正岡子規
●標野
額田王しのぶ標野の春の雪 井口弥江子
そのかみの標野の桑をほどきけり 市川天神居
標野なきつるふぢばかま咲きにけり 只野柯舟
●末黒野
あたらしき末黒野の息しづかなる 上野さち子
なにか唾棄して末黒野を立去れり 上田五千石 田園
のど渇く子と末黒野をよぎりたる 細見綾子 黄 炎
ひとのため末黒野を行き落膽す 藤田湘子(1926-)
ほのぬくみある末黒野を歩きけり 高橋淡路女 梶の葉
土塊をはさみて末黒野の芒 浦野哲嗣
換気口より末黒野の匂せり 辻美奈子
末黒野となりては静かなるものよ 細見綾子 桃は八重
末黒野となりぬ一と日を籠るまに 松本田寿子
末黒野にすでに命のはじまれる 稲畑汀子
末黒野にのこる遍路のしるべ石 橋田憲明
末黒野にまさしく月ののぼりけり 松村蒼石 雁
末黒野にをりをり見ゆる鬼火かも 日夏耿之助
末黒野に二重廻しの裾ひきずる 細見綾子 黄 炎
末黒野に兎の糞の焦げてをり 蒸野弘平
末黒野に古墳のごとし水塚跡 金井玲子
末黒野に布目瓦を拾ひけり 阿部みどり女
末黒野に弔ふごとく人佇てり 四宮輝代
末黒野に春りんだうの真先に 杉千代志
末黒野に昼光りなき瀬戸の海 阿部みどり女
末黒野に昼月の照る妖しさよ 久米正雄 返り花
末黒野に松笠焦げて匂ひけり 阿部みどり女
末黒野に突き刺してある火摶棒 深沢暁子
末黒野に窯観世音幣白し 下村ひろし 西陲集
末黒野に立つ父の耳朶少年めく 石川和子
末黒野に蝶さしかかる日暮かな 森田伊佐子
末黒野に透明の水湧きゐたり 辻田克巳
末黒野に雨の切先かぎりなし 波多野爽波
末黒野に雨の切尖限りなし 波多野爽波(1923-91)
末黒野に鳶離れぬ一日かな 市野沢弘子
末黒野に鴉の遊ぶ山田寺 吉原田鶴子
末黒野のいづこより風吹きはじむ 福田和子
末黒野のいのちいざなう裳裾かな 川田由美子
末黒野のかけらの如く鴉翔つ 渡辺清子
末黒野のかばかり大きく怖ろしき 阿部みどり女
末黒野のくろみ渡れる小雨かな 高橋淡路女 梶の葉
末黒野のせせらぎの音天へ抜け 井手功子
末黒野のつやつやとして新しき 石井とし夫
末黒野のはや青みたるひとところ 八木秋水
末黒野のはるかに赭く逝き給う 和知喜八
末黒野の一つの山は硫黄噴く 友成ゆりこ
末黒野の一本の川夜が来る 原田 喬
末黒野の中の無傷のつくづくし 村上喜代子
末黒野の匂ひに馴染み旅暮るる 山田弘子 螢川
末黒野の南の切尖限りなし 波多野爽波 『鋪道の花』
末黒野の夕焼飛べぬもののため 高野ムツオ
末黒野の大きな鳶でありにけり 斉藤夏風
末黒野の昼の三日月いつか失し 加倉井秋を 『風祝』
末黒野の昼光りなき瀬戸の海 阿部みどり女
末黒野の果てに猟師と遊女墓 脇坂啓子
末黒野の海の際まで安房天津 鈴木真砂女
末黒野の焦げし巌の威風かな 菅原敏郎
末黒野の燻り立ちて夕ざるる 伊豆萩波
末黒野の空胎動のありにけり 中川須美子
末黒野の端に漢の無聊かな 野澤節子 『八朶集』
末黒野の緩急消して春の雪 行方克己 昆虫記
末黒野の色濃く棚田長四角 冨山洋子
末黒野の芒夜盗のごとくなり 高澤良一 ぱらりとせ
末黒野の薄や富士の裾長し 堀古蝶
末黒野の起伏に兵の影走る 蛇嶋知誠
末黒野の限りふるさと離れ得ず 加藤燕雨
末黒野の雨にけぶらふ一団地 木村蕪城 寒泉
末黒野の雨はひとりのうしろより 松本高児
末黒野の雨も新しと古墳塚 河野南畦
末黒野の雨をかなしと見て過ぐる 高濱年尾 年尾句集
末黒野の雨を遥かに人わたる 波多野爽波 鋪道の花
末黒野の風びしびしと自負育つ 高野力一
末黒野の風呑んでおり大欅 熊坂てつを
末黒野の風清潔に吹き始む 嶋田麻紀
末黒野の鴉の舌は赤きかな 久米正雄(三汀)(1891-1952)
末黒野の黒のかなしみ言ひ足して 斎藤玄 雁道
末黒野へ踏み出て素足病波郷 肥田埜勝美
末黒野やきりりと細き月浮ぶ 清 きくえ
末黒野やヘッドホーンの中はジャズ 仙田洋子 雲は王冠
末黒野や倭建命はみづら髪 ふけとしこ 鎌の刃
末黒野や心とむれば径の枝 尾崎迷堂 孤輪
末黒野や戦禍を抜けし少年期 有坂馨園
末黒野や梁より出でし連判状 坂本みどり
末黒野や水のにほひの立返り 福島壺春
末黒野や汽車に飛び起つ時鳥 佐野青陽人 天の川
末黒野や淀急流となりて曲る 小沢満佐子
末黒野や現れ出でし標石 吉田ひろし
末黒野や間のび声なる牧の牛 田島飛燕
末黒野や鮒のにほひの川ながれ 篠田悌二郎
末黒野ゆく雲のすこぶる女性的 高澤良一 ぱらりとせ
末黒野をぐいと曲りて川が合ふ 山田みづえ 手甲
末黒野を墨染めの僧来るはよし 森澄雄
末黒野を抜け旅一夜経しごとし 山口 速
末黒野を斜め斜めに誰かの父へ 安井浩司 赤内楽
末黒野を来て野良犬に嗅がれたり 加藤憲曠
末黒野を歩き始めし定年後 長谷川瑞恵
末黒野を行けば幼なの瞳澄む 谷中隆子
末黒野を見てきてよめり方丈記 龍岡晋
末黒野を踏み来てうまき夕日の水 佐々木有風
末黒野を踏めば水沁む日蔭村 蓮尾あきら
末黒野来て人形の面無表情 中村明子
松風や末黒野にある水溜り 沢木欣一 雪白
河光り末黒野の道うながしゆく 成田千空 地霊
紛れゐるつもりか末黒野の鴉 大橋敦子
縹照る一筋の川末黒野に 加藤耕子
雲は雨こぼさず末黒野の鴉 鷹羽狩行
魂ぬけの身を吹かるるよ末黒野に 稲垣きくの 牡 丹
●薄野 芒野
「花は変」芒野つらぬく電話線 赤尾兜子
ちゝはゝのごと芒野の懐に 長山あや
どこまでも芒野どこまでも常陸 今瀬剛一
ふり向けば又芒野に呼ばれさう 稲畑汀子
バス降りてみな芒野に沈みけり 村松知津子
一樹とてなき芒野でありにけり 大久保橙青
丹念に芒野を分け捜索す 松岡ひでたか
夕焼や芒野を渡る大鴉 内田百間
天に入る芒野の波奔放に 古賀まり子 緑の野以後
序の舞の笛喨々と芒野に 香月梅邨
次の温泉へなほ芒野のみち続く 高濱年尾 年尾句集
死ぬるなら芒野を行く馬上にて 鈴木鷹夫 千年
母来つつあらむ芒野かがやける 岩田はる恵
瓶の芒野にあるごとく夕日せり 林火
瓶の芒野に在るごとく夕日せり 大野林火
生涯は短し芒野はきらと 岩岡中正
芒野でわずかな時間を過しけり 漠夢道
芒野にいちばん似合つている手ぶら 宮野由紀
芒野にかくれし昔探しをり 木村十三
芒野に人現はれし淋しさよ 青峰集 島田青峰
芒野に呵々大笑すさみしきか 鷹女
芒野に定員一人の密室あり 工藤克巳
芒野に富士も全し今日の月 酒井絹代
芒野に心も身をも委ねたし 小川濤美子
芒野に手慣れのペンを失ひし 上野さち子
芒野に手足気化させ透いている 斎藤一湖
芒野に来て日射し欲し風が欲し 佐土井智津子
芒野に母在りし日の風と居る 平岡喜美子
芒野に空描き足せば荒びけり 小泉八重子
芒野に芒戦いて月の出る 寺田寅彦
芒野に踏みこみ風に踏みこみぬ 佐土井智津子
芒野に遊びて母の忌なりけり 山田弘子 螢川
芒野に遊べば一夜で銀の髪 本郷和子
芒野に道はあれども果てしなく 池内たけし
芒野に風つのりつつ浅間澄む 小林碧郎
芒野のところどころにこぼれ炭 鈴木月彦
芒野のどんでん返しありしかな 齋藤愼爾
芒野のぬば玉の闇揺れてゐし 長山あや
芒野の光の中へ溺れにゆく 住谷不未夫
芒野の宙や今日のみ女富士(富士三句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
芒野の眠れる闇に目覚めゐる 長山あや
芒野の空気まとめて持ち帰る 長浜 勤
芒野の金色を来て喪章剥ぐ 橋本榮治 麦生
芒野の鳶より低し賤ケ岳 秋櫻子
芒野はしろがねに日は富士に落つ 高木蒼梧
芒野やモデルハウスに猫の声 守屋明俊
芒野や一番星が帽子掛 磯貝碧蹄館 握手
芒野や本街道は松並木 青峰集 島田青峰
芒野や浅間の煙吹き下ろす 高野素十
芒野や淋しき方に三日の月 高浜虚子
芒野や空に近づくほど歩く 渡辺千鶴子
芒野や風がおしくらまんぢゆして 島田武重
芒野や駕に乗りたる荷宰領 渡辺香墨
芒野を刈って四方より風渡る 大草 薫
芒野を吹かれぼそりの父がくる 今瀬剛一
芒野を吹かれ疲れてふつと消ゆ 今瀬剛一
芒野を最上階と思うかな 守谷茂泰
芒野を行きて友情生れさう 後藤立夫
芒野を行き一生を見渡せり 脇本星浪
芒野を過ぎきて別ればなしする 宮坂静生 樹下
花薄野にある風情見よといふ今日 尾崎紅葉
薄野を行脚僧一人しぐれたる 寺田寅彦
話し弾んで芒野に深入りぬ 勝田享子
遠く来し錯覚芒野の風に 志子田花舟
●芒原
いつまでや手足あそびの芒原 齋藤玄 『無畔』
いつよりの身の斜めぐせ芒原 沼尻巳津子
いなづまやなぐり尽して薄原 史邦 芭蕉庵小文庫
おほよその真中をゆく芒原 足立礼子
ことふれのやうに風くる芒原 雨宮きぬよ
さんさんと人らころがす芒原 穴井太 原郷樹林
だつて眠いどんどん芒原に入る 正木ゆう子 静かな水
ちがふ世の光がすべり芒原 鷲谷七菜子 花寂び 以後
つむじ風移りゆくなり芒原 下村梅子
のびあがる峯へつづける芒原 橋田憲明
みんな羽かくしてゐたる芒原 清水睦子
わが前にばかり道あり芒原 今瀬剛一
わが墓と思ひ溺るる芒原 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
わが行けばうしろ閉ぢゆく薄原 正木ゆう子
われに棲む風も音たて芒原 稲岡長
グライダー基地も末黒の芒原 柴原保佳
一刀があれば人斬る芒原 森岡正作
一叢の薙ぎ倒されぬ薄原 中田剛 珠樹以後
一本の松の高さや芒原 比叡 野村泊月
一泊のえにしに白き芒原 宇多喜代子 象
丘の上に飼ふ小羊見ゆ芒原 癖三醉句集 岡本癖三醉
人恋し崖の縁まで芒原 花尻 万博
人消えて風残りたる芒原 江崎八恵子
凡のまんなかをゆく芒原 正木ゆう子 静かな水
出でし声己れに還る芒原 佐野美智
分け入るや乳のあたり刺す青芒 原コウ子
名月や浴衣引きさく薄原 同-梅女 俳諧撰集「藤の実」
夜叉の面つけて舞ひたき芒原 北井ちず子
天の川なだれて芒原ほろぶ 吉田未灰
女狐になりてもみたし芒原 勝田享子
姿見せないものの影ゆく芒原 室生幸太郎
娘ら追ふに己が風欲し芒原 熊谷愛子
帰るさに今一度(ひとたび)の芒原 高澤良一 素抱
帰る道は言葉すくなし薄原 川崎展宏
幽霊の出所はあり薄原 上島鬼貫
引き金に指掛けている芒原 森田智子
引返すには遠すぎて芒原 長田等
影捨てにゆく落日の芒原 千代田葛彦
快晴の芒原なぐられた後のように 佐久間風葉
手のひらの芒原こそ秘めおかむ 河原枇杷男 蝶座
指で遊ぶのちはひとりの芒原 久保純夫 聖樹
文芸や何さわがしき芒原 長谷正子
旗とほり黒髪とほり薄原 中田剛 珠樹以後
日が月に代りて露の芒原 森澄雄
日輪もしろがね闌けし芒原 渡邊千枝子
暁の雨やすぐろの薄原 蕪村
曇る日の川をへだてゝ芒原 上村占魚 鮎
枯れ尽したるまぶしさに芒原 片山由美子 天弓
桐箪笥奥にひらけし芒原 坂本宮尾
死ににゆく猫に真青の薄原 加藤秋邨 まぼろしの鹿
母と子の声かけあひて芒原 佐長芳子
海原へひた走る青芒原 平井照敏
消えそうな電球だけの芒原 対馬康子 愛国
湯治小屋嘗て十六芒原 高澤良一 寒暑
火の如く哭く子を下ろす芒原 鈴木鷹夫 春の門
牛引て大の男や薄原 薄 正岡子規
牛馬とて遠き眸となる芒原 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
狩猟期の風音さとき芒原 鷲谷七菜子 花寂び
玄界の潮騒聞ゆ芒原 江頭 景香
真つ白なあの世見たくて芒原 務中正己
筋なして風の落ち込む芒原 千原叡子
船出待つごとしや芒原に立ち 片山由美子 水精 以後
芒原うねりて風をさらに呼ぶ 小西エミ子
芒原おもいて真昼老いいたり 津沢マサ子
芒原このどこよりか発火せむ 中村苑子
芒原この身を軽くしておかむ 波多野麻美
芒原さらわれたいと風に告ぐ 浜田順子
芒原の上の日輪いつ亡ぶ 横山白虹
芒原入り行きて日をおどろかす 右城暮石
芒原十月の雲流れけり 松浦為王
芒原寝釈迦の嶺をのせにけり 松本幸子
芒原手足流されゐたりけり ほんだゆき
芒原握り拳の内あたたか 池田澄子
芒原日のあるうちは日に遊び 松本可南
芒原暮色を軽きものとして 山田弘子 螢川
芒原枯れて光れり人に逢はず 篠田悌二郎
芒原枯れて明るき阿蘇五岳 松井子
芒原沙翁の科白諳じよ 浅川 槐
芒原泳げないので引き返す 伊関葉子
芒原目がみえてきて女郎花 高澤良一 ぱらりとせ
芒原眼鏡はずせばキツネ顔 室生幸太郎
芒原行くも二本の足なりけり 柿本多映
芒原身を漂はせ雲に乗る 朝倉和子
芒原面より眉のこぼれ落つ 宇多喜代子
芒原風の棲家となり居たり 鈴木光枝
芒原餓鬼も法師も水飲みて 斎藤梅子
薄原哀しみいくらでも容れむ 柴田奈美
薄原暮れてもあかき夕焼かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
薄原月は頭の上にあり 薄 正岡子規
薄原望はきのふとなりにけり 波津女
行く道のいつしか絶えぬ芒原 小貫貞彦
見えぬものを風つなぎゆく芒原 足立礼子
踏み入れて風の深さの芒原 長澤壽子
鎮魂の手の切り傷よ芒原 原裕 葦牙
阿蘇五岳乗せて波打つ芒原 穐好樹菟男
階段はのぼり専用芒原 吉田千賀子
雪原とならばまた来む芒原 橋本美代子
風いつも先に来てゐる芒原 池辺治子
風そこに生れ熄まざる芒原 稲畑汀子 汀子第二句集
風と居て真実愉し芒原 倉田しげる
風の道いくつか残し芒原 脇坂啓子
風ふけば髪束ねたし芒原 渋谷道
風呂敷に飛ぶちからなく薄原 桑原三郎 晝夜 以後
風渡りゆくあきらかに芒原 大橋敦子 手 鞠
風神の袋やぶれし芒原 高島静子
風遊ぶフェンスの先の芒原 鈴木洋子
馬市の馬帰りゆく芒原 阿部菁女
駆けまはる風のくるまや芒原 川崎展宏
騎馬軍団現れさうな芒原 井上けい子
騒めくは筐底に秘す薄原 冨田拓也
●裾野
いたどりの茂れるさまも裾野かな 深川正一郎
うつた姫やすらぐ裾野雪根づく 高木節子
これやこの富士の裾野のをとこへし 村松ひろし
さしもぐさや裾野あたため行く蛍 鉄丸 選集「板東太郎」
じやがたらの花裾野まで嬬恋村 金子伊昔紅
ふじは雲露にあけ行く裾野哉 露 正岡子規
不二は朝裾野は暗のともし哉 照射 正岡子規
不二詣裾野の小家立出でぬ 露月句集 石井露月
二上山の長き裾野の若菜摘む 土肥昌子
五月雨や裾野に遊び富士を見ず 丸山みどり
伊那富士の裾野に栖みて十三夜 板谷芳浄
凩や富士の裾野を吹きまくる 古白遺稿 藤野古白
初富士の裾野入れたる海の音 中原道夫
初旅の友来る富士の裾野より 沢木欣一
初秋の浅間裾野に夜雨はげし 長谷川かな女 雨 月
初空や裾野も冨士と成りにけり 初空 正岡子規
利尻富士雪の裾野を海ぞこへ(船中) 上村占魚 『自門』
叢野菊に卯の刻雨す裾野かな 宮武寒々 朱卓
句碑涼し三瓶の裾野ある限り 山田弘子 こぶし坂
吹き返す不二の裾野の野分哉 野分 正岡子規
囀りや朝けの裾野二千町 中勘助
夕立の龍下りたる裾野哉 夕立 正岡子規
夜の湯槽に裾野を恋ふる霧時雨 宮武寒々 朱卓
大阿蘇の裾野を焼くはあそびめく 朝倉和江
大阿蘇の霞む裾野に妻と逢ふ 野見山朱鳥
女郎花裾野の雨に負けしかな 長谷川かな女
安房四郡鋸山の裾野哉 正岡子規
富士にたつ霞程よき裾野かな 井上井月(1822-86)
富士の雲散つて裾野の小菊かな 幸田露伴 拾遺
富士は雪三里裾野や春の景 宗因
富士山の此処らも裾野独楽廻る 嶋田一歩
富士晴れて裾野茶摘みの一斉に 今枝貞代
山火事も凍てはてにける大裾野 百合山羽公 寒雁
御山雪裾野芝原蕗の花 寺田寅彦
旅衾狐狸の裾野も思ひ寝る 百合山羽公 寒雁
春の弁当を妻も膝にし大裾野 橋本夢道 『無類の妻』以後
木枯に電線喚めく裾野かな 会津八一
枯草となりて安らぐ裾野かな 山本柳翠
樽前の雪の裾野の枯木立 高濱年尾 年尾句集
残雪の富士に残照引く裾野 稲畑汀子
満月の裾野かき消え山洗う 長谷川かな女 牡 丹
火の山の裾野の村の別れ霜 久留島広子
火の帯の駆け抜け裾野焼き尽くす 伊東宏晃
牧がしら雪来しを裾野蜻蛉かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
獻上の鷹据ゑて行く裾野哉 鷹 正岡子規
畑打やふじの裾野に人一人 畑打 正岡子規
白富士を輪投げの的に裾野の子 五島エミ
眠りたる富士や裾野に滝授け 百合山羽公 寒雁
眠るべき山は裾野に駅をおく 椎橋清翠
砲音の届かぬ裾野花静か 畠山節子
秋の田の下に裾野の滝懸る 百合山羽公 寒雁
筒鳥なく泣かんばかりの裾野の灯 加藤楸邨
芝山の裾野の暑気やねむの花 飯田蛇笏 山廬集
花すすき夜盗さながら裾野馳せ 高澤良一 鳩信
若草や富士の裾野をせり上る 若草 正岡子規
草もみぢミニチュア火山の裾野にも 高澤良一 寒暑
萱刈つて阿蘇の裾野に束ねけり 佐川広治
蔵王嶺を裾野ぼかしに稲架立てり 国井 美代
薬莱山の裾野の広し秋桜 熊沢れい子
虫籠を買うて裾野にむかひけり 上島鬼貫
蜜蜂を飼ひて裾野の春の昼 田中冬二 俳句拾遺
行く雁は月の裾野を啼き渡るいづこの国もかなしからむに 飯田明子
裾野のすすき遠目には大氷原 関森勝夫
裾野まで富士を見て来し髪洗ふ 金久美智子
裾野まで雪一刷毛の春日哉 会津八一
裾野ゆく汽車もむらさき暁すゞし 佐野青陽人 天の川
裾野ゆく行けるところまで夏霧 福田太ろを
裾野より風広がりぬ蕎麦の花 水谷成一
裾野包み邯鄲包み霧月夜 町田しげき
裾野原野焼のあとの雨やさし 及川貞 夕焼
裾野路や薄紫の春りんだう 瀬戸口民帆
裾野駈く雉子に妻あり夫あり 高澤良一 随笑
赤啄木鳥や裾野の起伏霜充ちて 望月たかし
雉子のこゑ陽炎ひやすき裾野村 久保田泉
雉子啼き轍くひこむ裾野径 前田普羅 春寒浅間山
雪の裾野に眠る一茶と拓士たち 松村蒼石 雪
雪雲の空にたゞよふ裾野哉 雪 正岡子規
雲いくへふじと裾野の遠きかな 正岡子規
雲と歌撒き富士の裾野を逃げまわる 阿部完市 絵本の空
雲ひろく裾野にそゝぐ暖雨かな 西島麦南 人音
霧脚のすばやき裾野芒かな 乙字俳句集 大須賀乙字
露涼し富士は裾野の捨草鞋 青木重行
風の樹氷浅間の裾野むらさきに 宮坂静生 青胡桃
飛蟻(はあり)とぶや富士の裾野の小家より 與謝蕪村
鯉幟富士の裾野に尾を垂らす 山口誓子
鳥渡り裾野相会ふ火山群 福田蓼汀
鶏鳴に覚めゆく裾野初赤城 池畠敏子
鶯や不尽の裾野の花千里 鶯 正岡子規
黍ほして富士の裾野の貧しき村 村山古郷
黒南風の雨に浸かれる富士裾野 長谷川裕(夏至)
●裾野原
●砂原
女ありく春の砂原下駄を没す 春 正岡子規
晝顔に浅間砂原あはれなり 室生犀星 魚眠洞發句集
照り昃り皺む砂原農馬の市 成田千空 地霊
砂原に頭ばかりの土筆哉 土筆 正岡子規
砂原の時雨吸いこんて水もなし 時雨 正岡子規
砂原の風吹き止まず朝の月 内田百間
砂原やほうしこ抜けばとなゝがら 土筆 正岡子規
砂原や脳巓暑く眼眩む 暑 正岡子規
砂原を蛇のすり行く秋日かな 村上鬼城
舟横に砂原あつし藪はづれ 信徳「誹林良材」
花火ありし砂原へ船上りけり 増田龍雨 龍雨句集
裸で焼き黍を食ふ家の前の砂原 梅林句屑 喜谷六花
●雪原
ひた歩く雪原恋の罠あらずや 仙田洋子 雲は王冠
ぼほと日が落つ雪原の畦木ども 桜井博道 海上
まぶしくて雪原ひかりの鹿ふやす 永田耕一郎 氷紋
みそさざい聴く雪原に橇止めて 小坂順子
一斉に雪原をたつ日の出鶴 浅沼艸月
一村のみ雪原白紙委任状 河野薫
丹頂の舞ふ雪原の輝きに 村上唯志
久々に照る雪原のあの木この木 佐野良太
体重をかけ雪原を横切らねば 嶋田摩耶子
傷あらぬ雪原に顔埋めたし 能村研三 騎士
初鴉雪原低くとびつづけ 小野池水
千の鬼出て雪原に跡もなし 加室鳴
唇耳そばだてて雪原を遠く見る 飯田龍太
噴煙の影雪原を蒼くせり 前山松花
地吹雪に雪原の村吹き消さる 長谷川櫂 古志
夜の嶽を燈が登りゆく根雪原(立山連峰) 河野南畦 『湖の森』
山室のひとつ灯蒼む根雪原 河野南畦 湖の森
川鳴れど雪原暮れて道失ふ 岡田日郎
影一つだになくて雪原睡くなる 野澤節子 遠い橋
採氷や唯雪原の網走湖 唐笠何蝶
星白く炎えて雪原なほ暮れず 相馬遷子 雪嶺
月光の雪原を這ふはぐれ雲 岡田日郎
朝日さす雪原金沙銀沙照り 鈴木貞雄
林檎の芯抛る雪原の大反射 内藤吐天 鳴海抄
枯葉揉まるる音澄んで雪原の月 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
根雪原影の嶽おく月明り 河野南畦 湖の森
橇失せぬ雪原と星あふところ 平野 露子
汽笛しみゆく雪原の果に出そむ星 シヤツと雑草 栗林一石路
汽車全く雪原に入り人黙る 西東三鬼
没日の後雪原海の色をなす 有働亨 汐路
泉まで雪原踏まれ往来あり 岡田日郎
燈台の燈が雪原へ伸び切れず 河野南畦 『硝子の船』
白日の雪原を行く浚はれゆく 成田千空 地霊
眠りも祈り雪原は雪重ね 齋藤愼爾
硝子戸に雪原あふる卒業歌 有働亨 汐路
群れ鴨を載せ雪原のかゆからむ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
耳そばだてて雪原を遠く見る 飯田龍太 童眸
耳聾ひて雪原と青空にあり 千代田葛彦 旅人木
若さ遣り場なし雪原の道つゞく 右城暮石 声と声
逃げ水が逃ぐ雪原の高速路 茨木和生 木の國
雪原とならばまた来む芒原 橋本美代子
雪原となりし筑紫野久女の忌 鈴木厚子
雪原にあらかた埋もれ梅林 長谷川櫂 古志
雪原においてきぼりのごと一戸 高澤良一 随笑
雪原におらぶ言の葉なさぬ語を 川口重美
雪原につんと彳ちたる萱いっぽん 高澤良一 随笑
雪原にまつたき夕日垂れ来たる 石橋辰之助 山暦
雪原にわが機影投げ初飛行 室賀杜桂
雪原にわが誕生の紅一すじ 魚沼泉
雪原に丹頂の婚かがやけり 小柳ひろ子
雪原に佇つ初陣のこころあり 中原道夫
雪原に兵叱る声きびしかり 片山桃史 北方兵團
雪原に到り双手を挙げて会ふ 成田千空 地霊
雪原に北斗の針の廻りけり 福田蓼汀 秋風挽歌
雪原に北斗七ツの六ッ昇る 岡田日郎
雪原に十勝の月をあげにけり 星野松路
雪原に呼気のみ太しゆまりして 川口重美
雪原に土よりの杭うらがなし 成田千空 地霊
雪原に塩湖の広さおく機窓 山田弘子 こぶし坂
雪原に天つ日暗きまで照りぬ 岡田日郎
雪原に太のどのびて鶏鳴す 北原志満子
雪原に子のこゑのある淋しさよ 石寒太 あるき神
雪原に小さき礼拝堂(チャペル)暮れ残る 仙田洋子 雲は王冠
雪原に川あらはれて重きかな 桜井博道 海上
雪原に川の全長沈みけり 鈴木 勉
雪原に建てて見捨てて己が墓 中島斌雄
雪原に月光ゆらぐこともなし 岡田日郎
雪原に月光充ちて無きごとし 岡田日郎
雪原に杭打つ土の匂ふまで 加藤憲曠
雪原に汽笛の沈む成木責 石田波郷
雪原に沼あり水晶水湛ふ 岡田日郎
雪原に灯して牧舎年を守る 金箱戈止夫
雪原に片手袋の指忘れ 対馬康子 吾亦紅
雪原に犬放ち炉火熾んなり 河野南畦 『黒い夏』
雪原に白顕ち晒す布の丈 野澤節子 『存身』
雪原に硬き闇あり星を嵌め 相馬遷子 雪嶺
雪原に立方体のホテルかな 岩崎照子
雪原に紛れざらんと鶴啼けり 岸田稚魚 筍流し
雪原に行き暮れいつか星の中 岡田日郎
雪原に踏み入るなんと淋しき世 熊谷静石
雪原に道あるらしや人遠し 高木晴子
雪原に野哭といふ語口もるる 石寒太 炎環
雪原に雪原の道ただ岐る 八木林之助
雪原に雪降り月光の跡癒やす 岡田日郎
雪原に風吹き夕日消しにけり 岡田日郎
雪原に鴉の掟翔けては降り 齋藤愼爾
雪原のいづこ月光ひらりと舞ふ 岡田日郎
雪原のおのが影へと鷲下り来 山口草堂
雪原のかなた雪嶺絹の道 片山由美子 風待月
雪原のしづかさ余呉の湖を嵌め 永井博文
雪原のなかに川ある墳墓の地 佐川広治
雪原の一樹かゞやき囀れり 相馬遷子 山国
雪原の一樹高しと日はのぼる 石田波郷
雪原の三寒四温浅間噴く 相馬遷子 山国
雪原の中に春立つ産屋はも 依田明倫
雪原の人か一点動くを待つ 有働亨 汐路
雪原の兎の足跡藪目指す 斉藤志津子
雪原の夜明孤屋は火を燃やす 福田蓼汀 秋風挽歌
雪原の夜風ぶつかれ街に酔ふ 石橋辰之助 山暦
雪原の天地神明去りがたし 古舘曹人 能登の蛙
雪原の子に太陽がつきまとう 長嶋石城
雪原の平らに書かれし遺書ありき 寺田京子
雪原の日矢に盲ひし達磨売り 木内彰志
雪原の明より暗へ三十三才 木附沢麦青
雪原の月光かたまる一巨木 岡田日郎
雪原の月枯蔓に大いなる 西本一都
雪原の木の影あはし影を踏む 仙田洋子 橋のあなたに
雪原の果て見て歩くばかりなり 永田耕一郎 氷紋
雪原の極星高く橇ゆけり 橋本多佳子
雪原の樹間に光る湯の湖かな 若林幸枝
雪原の水漬く一線菜現れぬ 原田種茅 径
雪原の水音鈴ふるごと暮るる 鷲谷七菜子 雨 月
雪原の泉へけものみち寄れり 中戸川朝人 残心
雪原の深創ゑぐり天塩川 山崎秋穂
雪原の焚火に月の上りけり 岩田由美
雪原の白光月光を以つて消す 岡田日郎
雪原の突起もつとも白き藁塚 河合凱夫
雪原の藁塚として寄り添へる 樋笠文
雪原の藍の彼方の吾子七夜 堀口星眠 営巣期
雪原の見えぬところに翳生ず 宗田安正
雪原の赤きサイロのロシヤ文字 松崎鉄之介
雪原の起伏失せつゝ雪深む 大橋敦子 匂 玉
雪原の雪舐め老犬牛を追ふ 岡田日郎
雪原の靄に日が溶け二月盡 相馬遷子 雪嶺
雪原の青さ身に沁む朝の楽 堀口星眠 火山灰の道
雪原の風遠し樹氷晶々と 内藤吐天
雪原の風遠樹氷晶晶と 内藤吐天
雪原の高き一樹を恃みとす 小澤克己
雪原の黒きところが能の村 佐川広治
雪原は月読神伏してゐる 平井照敏
雪原へつながつてゐる長廊下 西山 睦
雪原やとんで二つの監視塔 石川桂郎 高蘆
雪原や小屋に刃物を閉じ込めて 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雪原や抜きさしの歩の女の息 猪俣千代子 堆 朱
雪原や肩から上の人往き来 嶋田摩耶子
雪原や落ち方の月隈見する 臼田亞浪 定本亜浪句集
雪原をわたる日ざしに馬放つ 木村凍邨
雪原を一列に来る下校の児 中園真理子
雪原を分つ落葉松襖かな 古賀まり子 緑の野以後
雪原を北狐また銀狐 天本美沙絵
雪原を悪童のごと漕ぎ進む 松本明子
雪原を月わたりゆく翁面 斎藤梅子
雪原を来てやまどりの尾をひらふ 那須乙郎
雪原を琴唄まろびゆく夕べ 文挟夫佐恵 雨 月
雪原を跳びては羽摶ち鶴の舞 伊東宏晃
雪原を跳び跳ぶ兎一未来 中島斌雄
雪原行くきのふの吾を置き去りに 西井さち子
雪眼鏡雪原に日も牛も碧き 橋本多佳子
馬となるべき魂あをく雪原に 正木ゆう子 静かな水
鴨飛んで雪原に大き影落す 林 翔
鷲下りて雪原の年あらたなり 草堂
黄鷹の雪原の果まで飛翔 長谷川かな女 花寂び
じゃみせんじょんから坊様(ぼさま)に蹤きて雪の原 高澤良一 燕音
たいくつな白樺佇てり雪の原 三輪初子
ながながと川一筋や雪の原 凡兆
またたかぬ一灯が刺す雪の原 鷲谷七菜子 銃身
われとわが顔の昃りを雪の原 佐野良太 樫
一つ家のともし火低し雪の原 雪 正岡子規
何処やらにせゝらぎの音雪の原 西山泊雲 泊雲句集
受難節の日矢むらさきに雪の原 鷲谷七菜子
吹かるるは何の蔓もの雪の原 高澤良一 随笑
声出さば他人の声なり雪の原 小泉八重子
夕焼のかそかなりしか雪の原 相馬遷子 山国
富士に添て富士見ぬ空ぞ雪の原 高井几董
寺一つむつくりとして雪の原 雪 正岡子規
形代となるまで伏せむ雪の原 柿本多映
暮れてなほ天上蒼し雪の原 相馬遷子 山河
本然の日と雪の原ここ母郷 成田千空 地霊
朱雀門紛れもあらず雪の原 坪井澄郎
汽笛ひいひいと雪の原暮るゝ工場あり シヤツと雑草 栗林一石路
湧きそめて星かぎりなし雪の原 相馬遷子 山国
湯をかけて墓現はるる雪の原 藺草慶子
白山に引き上げられし雪の原 大石悦子 百花
穴と見し所家なり雪の原 松瀬青々
翔けゆきし影かたちなき雪の原 的野雄
葉のついてゐるのは柏雪の原 高木晴子
足跡の盡きし小家や雪の原 雪 正岡子規
足跡の盡きし戸口や雪の原 雪 正岡子規
金売が小荷駄行くなり雪の原 几董
長々と川一すじや雪の原 凡兆 選集古今句集
雪の原すべりゆくごと大烏 稲葉道子
雪の原とぶ夕雲の力なし 橋本鶏二 年輪
雪の原なる探梅の五六人 長谷川櫂 天球
雪の原の一樹目がけて人通ふ 青峰集 島田青峰
雪の原ぼつこりとなる木陰かな 美濃-此筋 俳諧撰集「有磯海」
雪の原深夜の赤き月出づる 相馬遷子 山国
雪の原犬沈没し躍り出づ 川端茅舎(1897-1941)
雪の原猟銃音がわれを撃つ 遷子
雪の原穴の見ゆるは川ならめ 寺田寅彦
雪の原道は自然と曲りけり 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
青し青し若菜は青し雪の原 来山
風音にまじる音なし雪の原 相馬遷子 山國
鴉二羽寄りつ離れつ雪の原 辻田菊子
●草原
かかここ蛙鳴いてゐて夕ベ草原 シヤツと雑草 栗林一石路
かなしみの草原を着る夫も鳥 金子皆子
ここ草原から都会の憂鬱が見えている気球 栗林一石路
わたくしの始まりの景色 草原を吸うように木の一本立てり 鈴木英子
七月の広き草原楡一樹 河野恭二
冬旱尾根の草原牧のあと 岩本相子
初雪が青き草原の奥かくす 有働亨 汐路
地面に口(はこ)書いて入る 白い草原 星永文夫
夏去りゆく草原に耳ふかく埋め 桜井博道 海上
夕焼けて秋草原の火なりけり 高屋窓秋
夕風あかるき草原の鶏追ふて土間にはいる 人間を彫る 大橋裸木
夜明け五時ふと草原のキリンであった 岸本マチ子
大露や馬の仔飛んで干草原 鈴鹿野風呂 浜木綿
太陽に恥づる身をもてきしひろき草原 シヤツと雑草 栗林一石路
子を呼ぶおのれに草原の子がみんな顔出した 人間を彫る 大橋裸木
富士がとほく夕焼のまだ明りある草原 シヤツと雑草 栗林一石路
履きへらした下駄で草原の秋を踏んで来た 人間を彫る 大橋裸木
日傘さし草原の帆となりてをり 芦田川幸子(甘藍)
日高見の草原匂ふ女郎花 村谷龍四郎
旭の霜や檜原の裾の小草原 西山泊雲 泊雲句集
書楼出て日の草原のやなぎかな 飯田蛇笏 山廬集
木原より草原行かん秋の風 高田蝶衣
木簡は恋文らしき冬草原 小泉八重子
枯草原白猫何を尋ねゆくや 石田波郷
永き日を蝦夷の草原田ともならず 日永 正岡子規
汽笛ひびいて消えてゆくよりくるる草原 シヤツと雑草 栗林一石路
海へなぞへの草原の蝶がとんでゐる シヤツと雑草 栗林一石路
火蛾とんで夜は草原のごとき海 大木あまり 火球
父の腰揉みただよえる草原に 寺田京子 日の鷹
牛が立つ草原露けくずつと秋なる白波 人間を彫る 大橋裸木
狼葬の草原にある冬日かな 島田 柊
町を出てすぐに草原日傘さし 大島早苗
百合叢ラや草原空の流れ雲 東洋城千句
穂草原師を焼きてあともう泣かず 増田河郎子
純情とは雨後草原に仔山羊いる 和知喜八 同齢
舟つけて草原あがる十夜かな 蒼[きう]
草原がごうごうといる大腿部 佃 悦夫
草原どこからもはいることができない 青木此君楼
草原にかまけてわが日ほうけたり 津沢マサ子
草原に人獣すなおに爆撃され 阪口涯子
草原に似たる日ありて水澄めり 津沢マサ子 空の季節
草原に出でたる雉子の丸々と 斎藤夏風
草原に湧きたつこだま野馬追へり 秋山素子
草原に灯る電燈や秋の雨 西山泊雲 泊雲句集
草原に牛の袂便日雷 大木あまり 火球
草原に犬の喧嘩や秋の雨 西山泊雲 泊雲句集
草原に秋引きよせし包(パオ)の雨 上村占魚 『かのえさる』
草原に窓開け放ち桃葉湯 内川恵(岳)
草原に蜻蜒の羽の光りけり 寺田寅彦
草原に釧路の煙林檎くふ 京極杞陽
草原に音なき流れ千鳥草 山田をがたま(京鹿子)
草原に風あと見ゆる夏の朝 太田柿葉
草原のここから行方不明の青 鎌倉佐弓
草原のこゝも人の世閑古鳥 河野扶美
草原のごと海の展けし秋の夢 阿部みどり女 月下美人
草原のそこはかと木や夏初め 尾崎迷堂 孤輪
草原のもりあがらんとする 驟雨 富澤赤黄男
草原の一樹を離れ鷹遠し 南野和歌子
草原の光るものみな秋澄めり 杉田久美子
草原の国に生れて初相模 長谷川櫂 虚空
草原の径は泉の森へ消ゆ 山田弘子 懐
草原の径へ紅刷き柳蘭 和知喜八 同齢
草原の端っこ押え捕虫網 高澤良一 素抱
草原の茫茫とたゞ月明り 藤丹青
草原の蝮も風のひかりなる 長谷川櫂 天球
草原の起伏に独活の花は枯れ 橋本鶏二
草原の軍楽隊や桜咲く 長谷川かな女 雨 月
草原の雲の別れやきりぎりす 古舘曹人 砂の音
草原も夏霧も唇強いて居り 萩原麦草 麦嵐
草原も山湖も梅雨のふところに 藤浦昭代
草原や何を病ませに山背来る 小澤克己(遠嶺)
草原や夜々に濃くなる天の川 臼田亞浪 定本亜浪句集
草原や淡雪やみし径がある 原田種茅 径
草原や花うるみたる梅一樹 飯田蛇笏 山廬集
草原や蜂を恐るる狐の子 正岡子規
草原や蜂を恐るゝ狐の子 蜂 正岡子規
草原や象のしっぽになった気持 穴井太 原郷樹林
草原や踏む石くれの草深く 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
草原や陽炎もゆる捨篝 陽炎 正岡子規
草原や雨の月ほのかに移り 臼田亜浪 旅人
草原ゆく胸やわらかく林檎抱き 山本ともこ
草原を一帆走の捕虫網 斎藤道子
血がにじむ手で泳ぎ出た草原 尾崎放哉
観兵の御儀の予行秋草原 石塚友二 方寸虚実
角欲しくなる草原の風にうもれ 桜井博道 海上
踏まれざる草原にして露涼し 鈴木紅果(ホトトギス)
野兎の出て草原の岩やわらか 長谷川かな女 花 季
雪加啼く草原谷をなすところ 佐藤裸人
露ほどくより草原の揺れそめし 稲畑汀子
頭に星ともり子供草原を出る 人間を彫る 大橋裸木
飛魚を焼き草原を失えり 津沢マサ子 華蝕の海
駈ける児に草原の露とびつきぬ 山田弘子 こぶし坂以後
鶉去つて草原の風濃くなりぬ 青木鐵史
鷄の子の草原あさる時雨哉 時雨 正岡子規
いなづまのこもりてみゆれ草の原 炭 太祇 太祇句選後篇
かんたんや又かんたんや草の原 佐野青陽人 天の川
きじ鳴くや汁鍋けぶる草の原 一茶
ひややかや羊ちらばる草の原 長谷川櫂 天球
ゆふだちや螽ちいさき草の原 榎本其角
冬川や筏のすはる草の原 榎本其角
冬川や筏のすわる草の原 其角
十六夜や飛ぶ鳥もなき草の原 中島月笠 月笠句集
大文字や北山道の草の原 河東碧梧桐
撫子や堤ともなく草の原 高浜虚子
撫子や海の夜明の草の原 河東碧梧桐
春風やまりを投げたき草の原 春風 正岡子規
秋風やみな十一面の草の原 河原枇杷男 閻浮提考
稲妻や半ば刈りたる草の原 高浜虚子
稲妻や牛かたまつて草の原 乙字俳句集 大須賀乙字
粉雪の散り来る迅し草の原 長谷川かな女 花寂び
行秋やすゞめの群るゝ草の原 柳芽
遅き日や人あらはるる草の原 長谷川櫂 古志
銀河よりまともの風や草の原 渡邊水巴 富士
雨後の蝶もつれ上りぬ草の原 清原枴童 枴童句集
●台地
おろぬきどき大根台地を抜けにけり 高澤良一 さざなみやつこ
ラバ台地踏みしめ行けば慈悲心鳥 大津希水
南瓜蔓弧を為す台地這へるなり 高澤良一 寒暑
大根台地葉っぱが眩し眩しとも 高澤良一 随笑
晴れわたる大根台地に踏み入りて 高澤良一 鳩信
洞を出て深秋の風吹く台地 高濱年尾
落花生ばかりの台地日も扁平 木村蕪城 寒泉
西瓜台地帆を片寄する入江持つ 中戸川朝人 残心
郭公や武蔵野台地住みなじみ 深見けん二
頤(おとがひ)を大根台地の風掠め 高澤良一 鳩信
風光るカルスト台地一望に 石浜純子
風薫るカルスト台地果てしなく 安田廣子
驟雨あり大根台地の地味肥やす 高澤良一 ももすずめ
●高台
市川に高台多し露の樹樹 毛塚静枝
烏飛て高台橋の寒の月 松岡青蘿
雲の峰高台にある無人駅 梶本志奈
霜枯るる都の高台人遅々と 飯田蛇笏 雪峡
高台に住む代償の日焼とも 水田むつみ
高台に家構へたるつゝじかな つつじ 正岡子規
高台に賢母グループ沈丁花 香西照雄 対話
高台に集る音や秋の暮 石塚友二
高台の夏露しづむ夜陰かな 飯田蛇笏 雪峡
高台の学園を前蜜柑熟る 飯田蛇笏 雪峡
高台の月光けぶる蔬菜園 飯田蛇笏 雪峡
高台をゆき次ぐを見る雪曇り 飯田蛇笏 椿花集
●立野
●段丘
天龍に沿ふ段丘の花野かな 瀧井孝作
対峙して段丘桃の花の昼 宮津昭彦
春の雨段丘海に向ひたり 横光利一
段丘に溢れし雨がどくだみの咲きたる溝をくらぐらと落つ 吉川宏志
段丘の断崖のその冬の竹 石塚友二
段丘の道弥高し秋の山 瀧井孝作
白亜紀の河岸段丘の死臭かな 石田よし宏
●野遊び
しばらくは来れぬと思ふ野に遊ぶ 山内山彦
しんがりを行きて野遊び孤独もち 甲斐とくえ
すでにして声とどかざる野に遊ぶ 中村汀女
すり傷にママの魔法や野に遊び 熊丸 淑子
たはれねの身を出でて野に遊ぶ影 深谷雄大
なづな咲く野に出て遊べ童子仏 伊藤よしと
むかし兵たりし身を伏せ野に遊ぶ 辻田克巳
ゆふべ見し夢のつづきの野に遊ぶ 野路斉子
チョコレート解けし野遊びの袋かな 龍胆 長谷川かな女
上海を出て清明の野に遊ぶ 三宅清三郎
丘の上に並びて終る野遊びよ 高柳重信
亡き夫を抱いて小春の野に遊ぶ 川崎多恵子
亡き母の乗る浮雲と野に遊ぶ 山田弘子
亡母の乗る浮雲と野に遊ぶ 山田弘子 こぶし坂
人と灯を恋うて戻るや野に遊び 森澄雄
佐保姫の少し手抜きの野に遊ぶ 松田家永子
俘虜の列野遊びのごと還るなり 平畑静塔
兄の跳ぶ通りに跳んで野に遊ぶ 梶田敬子
卒業即浪人の子と野に遊ぶ 細川加賀 生身魂
印籠に野遊の絵のふくれをり 大石雄鬼
商ひの遠出野遊びごころにも 宮井しづか
地雷などなきこの国土野に遊ぶ 加藤章三
天上の花摘むごとし野の遊び 櫛原希伊子
夫持つてゐる時計聞き野に遊ぶ 嶋田摩耶子
女患らが病廊に出て野遊す 齋藤玄 『狩眼』
妹あわれ野遊の飯食みこぼし 三谷昭
妻結ひし結目を解き野に遊ぶ 大岳水一路
子の母のわが妻のこゑ野に遊ぶ 原裕 青垣
子負虫母たちもけふ野に遊ぶ 篠田悌二郎(馬酔木)
安達太良や雪虫を野に遊ばせて 藤田湘子
日輪のわらべとなりて野に遊ぶ 高橋範子
春の野や遊び疲れし影法師 市ヶ谷洋子
暖かき日を遊ばんと野に出でし 高木晴子 花 季
書を繰りて野遊びの夜の指粗し 山田弘子 螢川
木の山は一日痒し野の遊び 福田葉子
木簡のうすれて読めぬ野に遊ぶ 古賀寿代
根子岳がそこに見えゐて野に遊ぶ 大塚華恵
桜草の名所とも知らず野に遊ぶ 大場白水郎 散木集
母と子と時にはもつれ野に遊ぶ 安斉君子
母細眼薄明界の野に遊び 桂信子 黄 瀬
海へ帰るゆたかな汚水野に遊ぶ 鈴木六林男 桜島
百姓にまされる休躯野遊びす 榎本冬一郎 眼光
短足と相談しては野に遊ぶ 加藤春子
祖母の足袋もつとも白し野遊びへ 福島延子
胸中に犀を遊ばす野の色に 小口斌
若菜野に遊ぶ少女よ鳥になり 小島和江
茣蓙の上の母を標や野に遊ぶ 不破 博
荒るゝ海来しこと忘れ野に遊ぶ 稲畑汀子
荒れ野ひとつ精神にひろがる酔ひ醒めやしばらく俺は荒れ野に遊ぶ 島田修三
蛇皮線弾いて農清明の野に遊ぶ 大城幸子
誰も居ぬ事が親しき野に遊ぶ 河野扶美
貝毒の出てくる頃や野に遊ぶ 上島清子
貫之のあそびたる野に遊びけり 稲荷島人
賢治忌の野づら石づら遊べるも 清水基吉 寒蕭々
踏青や母と遊びし野は失せぬ 高木晴子 花 季
連れ立ちて遠の朝廷の野に遊ぶ 岸原清行
野に出でし牛に陽炎来て遊ぶ 瀬古多永
野に遊びこんなときにも家事のこと 浅利恵子
野に遊びたるだけのこと誕生日 大橋敦子 匂 玉
野に遊び真白なる富士に驚きぬ 吉田冬葉
野に遊ぶことを翁にならひけり 大石悦子 聞香
野に遊ぶ七夕童子びしよ濡れに 原裕 『王城句帖』
野に遊ぶ人を眺めてあそびをり 田部井竹子
野に遊ぶ子等紙旗を立てにけり 大田洛川
野に遊ぶ少年の膝笑ひだす 稲垣暁星子
野に遊ぶ日が乗りすての雲一朶 三田きえ子
野に遊ぶ日曜毎の路を又 楠目橙黄子 橙圃
野の中の遊女屋ばかり櫻見し 横光利一
野の遊びせむとて仇に齢とりぬ 後藤綾子
野蒜掘り芹摘み己れ遊ばしむ 石塚友二 光塵
野遊のはてはひとごゑばかりかな 平井照敏 天上大風
野遊のひと日得て飯握るなり 森川暁水 黴
野遊のをとこが汲んで谿の水 大石悦子 聞香
野遊の一番先の末子かな 上野泰
野遊の人沈みゆく起伏あり 佐藤朴水
野遊の人見に登る天守かな 谷活東
野遊の女がぬぎし羽織かな 野村喜舟 小石川
野遊の帰りの話風に飛び 上野泰
野遊の弁当赤き紐ほどく 深見けん二 日月
野遊の心たらへり雲とあり 高濱年尾 年尾句集
野遊の心のままに別れけり 水田むつみ
野遊の時間を油断しすぎたる 山田弘子 懐
野遊の果の船渠にうづくまる 大石雄鬼
野遊の誰もの声を瀬が奪ふ 中村汀女
野遊の遥に水をもとめけり 会津八一
野遊びと世は異ならず白遍路 森澄雄
野遊びに 発条(ばね)のはたらく 葛の花 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
野遊びにまでも絵本をたづさえて 依田明倫
野遊びにわれの見知らぬ我もゐし 河原枇杷男 定本烏宙論
野遊びにクロワッサンのやうな雲 高澤良一 ぱらりとせ
野遊びに似ておん墓に憩ふなり 手塚美佐 昔の香
野遊びに女はあてにせずおこう 高澤良一 素抱
野遊びに昏れ兄妹の同じ声 杉本雷造
野遊びに河原あそびのまさり見ゆ 皆吉爽雨 泉声
野遊びに祖先の雲の大きかな 里見静
野遊びに足らひし妻か夕支度 中島斌雄
野遊びのあつまりて皆直面 吉本伊智朗
野遊びのありあまる雲われを吸う 永末恵子 発色
野遊びのいつしか働き出してをり 松山足羽
野遊びのごろごろ転げゐる子かな 浅倉里水
野遊びのしるべの一樹囀れる 橋本榮治
野遊びのため一湾をよぎり来し 鷹羽狩行 平遠
野遊びのつづきに夜も遊びをり 山口波津女
野遊びのつづきの二人松に入る 中嶋秀子
野遊びのつづき遊覧船の上 小林呼渓
野遊びのつひには川を徒渉る 猿橋統流子
野遊びのつひのひとりとなりにけり 柴田孤岩
野遊びのどこまでといふこともなし 渡辺マチ子
野遊びのはじめにつくる葉の紙幣 上田日差子
野遊びのひとの見てゐる水たまり 鳥居三郎
野遊びのひとりひとりに母のこゑ 橋本榮治 麦生
野遊びのふたりは雨の裔ならむ 河原枇杷男 流灌頂
野遊びのみんな不思議になつてゐる 松澤昭 面白
野遊びのサンタマリアは繻子の帯 磯貝碧蹄館
野遊びの一番先の末子かな 上野 泰
野遊びの二人は雨の裔ならむ 河原枇杷男(1930-)
野遊びの人たまり来る渡舟かな 行方克巳
野遊びの先頭崖に来てゐたり 小泉八重子
野遊びの児の尻花粉まみれなる 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
野遊びの児等の一人が飛翔せり 永田耕衣(1900-97)
野遊びの刃物が光る彼方かな 原子公平
野遊びの切株に置く犬の服 小林波留
野遊びの口笛何ぞ高音なる 林 翔
野遊びの味噌こそよけれにぎりめし 綾部仁喜 寒木
野遊びの声に湧き来し稚魚の群 河野南畦 湖の森
野遊びの大西洋に車椅子 斎藤夏風
野遊びの天に歩みてゆくごとし 平井照敏 天上大風
野遊びの妹にして人の妻 南川成樹
野遊びの子にひつじ雲兎雲 根岸善雄
野遊びの子ら全身を声にして 清水明子
野遊びの少年ナイフ隠し持つ 永島十三湖
野遊びの山の名聞きてすぐ忘れ 今瀬剛一
野遊びの帰り子の背の伸びてゐし 梅野廸子
野遊びの心たらへり雲とあり 高浜年尾
野遊びの戻りつまづき石の橋 遠藤若狭男
野遊びの昼餉の中をわが通る 八木林之助
野遊びの服を叩いて起ち上がり 高澤良一 ぱらりとせ
野遊びの横顔ばかり墓地をゆく 今井 勲
野遊びの橋渡るとき川覗く 小杉風子
野遊びの水のしみだす一ところ 辻桃子 ねむ 以後
野遊びの水車に向けて歩きけり 吉木フミエ
野遊びの父に教はる草木かな 上野泰 春潮
野遊びの皆伏し彼等兵たりき 西東三鬼(1900-62)
野遊びの着物のしめり老夫婦 桂信子(1914-)
野遊びの籠よ湿りし草の香よ 長谷川久々子
野遊びの終り太平洋に出づ 大串章(1937-)
野遊びの続きにありぬ養老院 小泉八重子
野遊びの身投げのやうに靴揃へ ふけとしこ 鎌の刃
野遊びの逢魔が時の橋こつ 牧瀬千恵
野遊びの遠い人影三鬼亡し 佐藤鬼房
野遊びの野に月上げておどろ髪 攝津幸彦 鹿々集
野遊びの隠れ木なれば伐るなかれ 中村苑子
野遊びの離れ居りしは炊ぐなり 鈴木 元
野遊びの髪のほてりの暮れてなお 新関岳雄
野遊びやたつて腰うつ春の暮 信徳
野遊びやまたげるほどの川ふたつ 茂里正治
野遊びやグリコのおまけのようなひと 小枝恵美子
野遊びやペンだこやはらかくなりぬ 小島健 木の実
野遊びやリユックにごつと洋酒壜 小島健 木の実
野遊びや一死もとより屠龍の技 加藤郁乎 江戸桜
野遊びや声のつぶてを吾子に投げ 上田日差子
野遊びや夢のごときを手に手に持ち 河原枇杷男 蝶座 以後
野遊びや家の暗きにいつも母 中川須美子
野遊びや我等役職官位なし 市野沢弘子
野遊びや水の上くる火の匂ひ 田部谷紫
野遊びや江戸は目黒の不動尊 門脇山卯
野遊びや泡吹虫の泡も見て 小島國夫
野遊びや略図に太き川渡り 櫛原希伊子
野遊びや笛吹く口をしてみたり 木曽シゲ子
野遊びや老の一日すぐ暮れる 菅 敏夫
野遊びや草のむしろも譲り合 雙鳥
野遊びや赤子の口に箸入れて 安部元気
野遊びや近く寄りくる淀の鳥 冬葉第一句集 吉田冬葉
野遊びや霊園行のバスに乗り 瀧 春一
野遊びや飛行機とべば手を叩く 龍胆 長谷川かな女
野遊びを誘ふ野崎の花暦 前内木耳
野遊やあの子が欲しきあの子のみ 櫂未知子 蒙古斑以後
野遊やあらぬ方より男だち 石井露月
野遊やいちごの味の子のあくび 田中幸雪
野遊やよそにも見ゆる頬冠 村上鬼城
野遊や人目なければ頬被り 岡本松浜
野遊や口ついて出る唄の節 野村喜舟 小石川
野遊や夕餉は連れの友の家 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
野遊や小松がもとの物語り 会津八一
野遊や父老遅しと顧る 小野素茗
野遊や筍早き嵯峨の寺 松根東洋城
野遊や肱つく草の日の匂ひ 大須賀乙字
野遊や赤子は草に寝かされて 坂本香寿子
野遊や路山に入る麥畠 会津八一
野遊や霊園行のバスに乗り 瀧 春一
金鳳華子らの遊びは野にはずむ 橋本多佳子
陵あれば寄る野遊びのつづきにて 山下幸子
雪籠皆が経親し野に遊ぶ 嶋田摩耶子
雲雀野を一つもらひしごと遊ぶ 藤崎久を
風出でて野遊びの髪よき乱れ 西東三鬼
馬車駈りて野に遊びけり春の虹 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
麗かや野に死に真似の遊びして 中村苑子
●野歩き
いぬふぐり歩き初む子を野におろす 西村三穂子
ほのぬくみある末黒野を歩きけり 高橋淡路女 梶の葉
二人三人と歩いて 花野のいまは一人 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 夢見沙羅
初夢の野をあはあはと歩きけり 高田 明
史書に倦み秋草の野を歩きけり 宮島和夫
土筆野のひとりは淋し又歩く 松下のぶ
大焼野ゆく月面を歩くごと 平田倫子
大花野歩けば母に逢へるかも 大杉節子
太陽も野に踏青の歩を誘ふ 稲畑汀子 春光
寒さ佳し欲望なしに野を歩く 山田みづえ
寒雲雀聞かまく歩む曳馬野を 大島隆三
屋根裏を野のように歩き 独身 西川徹郎 無灯艦隊
広きこと美しきこと花野歩す 丹羽たま子
手を振つて歩くは人のみ夏の野へ 日比訓子
春ひとり野を歩きては野にひとり 中村ユキ
晩秋の野の明るさを歩きけり 前田震生
晴雪や農家の花嫁野を歩む 相馬遷子 雪嶺
末黒野を歩き始めし定年後 長谷川瑞恵
枯野歩す身や風に馴れ坂に馴れ 富田潮児
枯野電車の終着駅より歩き出す 細見綾子(1907-97)
泣きながら一人枯野を歩きけり 高橋淡路女 梶の葉
深雪野をいちにち歩き面痩せし 伊藤敬子
現在地確かめ 枯野歩きだす 増田治子
町を離れて野に入る歩々や春めけり 青峰集 島田青峰
秋の野路歩々に土から石の音 中村草田男
秋めくやのっぽとちびが野を歩く 穴井太 原郷樹林
穀雨かな記紀にしるせし野を歩く 伊藤敬子
芒野や空に近づくほど歩く 渡辺千鶴子
茅花野へ杖を頼みの試歩百歩 前田 白雨
虫音そこここ眼な底澄みぬ野の歩み 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
野に降りて毛深きふたり歩むかな 竹本健司
野の茶屋に柿買ふて遠く歩きけり 柿 正岡子規
野を歩む雉子にもつとも雨ひかり 岡本まち子
野歩きのまなうら乾く草の絮 橋本榮治 麦生
野歩きの夜は塩利きし零余子飯 村上 光子
野歩きの果一月の星得たり 細見綾子
野歩きの靴の重さが春に通ふ 細見綾子 黄 炎
野遊びの天に歩みてゆくごとし 平井照敏 天上大風
野遊びの水車に向けて歩きけり 吉木フミエ
雲雀野の吾も一点となり歩む 馬場移公子
音高き春の野水に歩をとゞめ 高浜虚子
●野風
ふし漬の水に集る野風哉 妻木 松瀬青々
やぶ入の脛をしかくす野風哉 高井几董
凧糸もつれ解く野風に立てりけり 八年間『碧梧桐句集八年間』 河東碧梧桐
剪定のすめば野風の道ひらく 稲垣みのる
墓山の松に二月の野風かな 楠目橙黄子 橙圃
御田植の酒の泡ふく野風かな 白雄
月更て朧の底の野風哉 炭 太祇 太祇句選
朝寒の背中吹かるゝ野風哉 朝寒 正岡子規
榛の芽の銅街道野風とも 諸角せつ子
種足の野風に荒れし顔を恥づ 木津柳芽 白鷺抄
竹院や野風にさます鮓の飯 妻木 松瀬青々
花にくれて首筋さむき野風かな 月渓
葛飾の野風涼しや素堂の忌 甲田苔水
葬人に野風のつよき尾花かな 吉武月二郎句集
藪入の脛おしかくす野風かな 几董
野風たつ*しどみの落花踏みにけり 西島麦南 人音
野風ふく室町がしら初時雨 高井几董
雛の夜の野風をり~通ひくる 金尾梅の門 古志の歌
いぬふぐり覚ます野の風太穂の忌 諸角せつ子
かけまはる夢や焼野の風の音 上島鬼貫
しばらくは花野の風に吹かれゐる 谷中弘子
はだれ野の風むらさきに妻が来る 伊藤松風
ふところに野の風溜むる夕爾の忌 永方裕子
ものの芽に野の風あらき受難節 古賀まり子 洗 禮
何の香と言へぬ花野の風匂ふ 山口喜代子
切りためて子が持つ桔梗むらさきの色を流して野の風の中 河合恒治
初雲雀草薙の野の風痛し 原田しずえ
十勝野の風まだ寒き厩出し 島田一耕史
吹き亘る枯野の風の夜もすがら 石塚友二 光塵
吾亦紅には野の風のスタッカート 水田むつみ
吾亦紅風のなき野の風のなか 阿部誠文
折れそうな芭蕉がゆく野の風むらさき 山田緑光
揺れ交す花野の風は四方より 今井千鶴子
末黒野の風びしびしと自負育つ 高野力一
末黒野の風呑んでおり大欅 熊坂てつを
末黒野の風清潔に吹き始む 嶋田麻紀
火を焚けば枯野の風のねらひけり 斎藤空華 空華句集
狗尾草生けて野の風遠きかな 山田弘子 こぶし坂
粕汁や野の風遠くわたる音 水原秋櫻子
自転車を駆れば野の風ひかり添ふ 那須乙郎
芽吹く野の風を鞴の風となす 大石悦子 群萌
茅花野の風に措かれてゆくばかり 八木林之介 青霞集
遠く来し錯覚芒野の風に 志子田花舟あ
遥かとは花野の風の湧くところ 片山由美子 風待月
野の風にながく憩ひて展墓かな 橋本鶏二
野の風にまだなじまざる雪間草 浅田伊賀子
野の風に妻恋ひゆくや萩撓む 小林康治 四季貧窮
野の風に念仏申し秋遍路 佐野八洲
野の風に追はるるごとく秋遍路 竹内貴久枝
野の風のたまゆらきこえ残る虫 秋月すが子
野の風のはづみて朝の厩出し 赤間玲子
野の風のびようびようと蟇交るなり 有働亨 汐路
野の風や初猟の犬すでに逸る 富田直治
野の風や小松が上も尾花咲く 太祇
野の風や蟷螂生る雷神 島田五空
野の風をいくつも覚えペンペン草 赤尾恵以
野の風をひかりに変へて猫柳 佐藤冨士男
野の風塵穢れざるもの泉のみ 栗生純夫 科野路
青麦の野の風かよふ花圃つくり 及川貞 夕焼
高原の列車花野の風運ぶ 近藤詩寿代
●野川
「甕のぞき」ほどの藍色野川澄む 文挟夫佐恵 遠い橋
あるが中に野川流るる女郎花 白雄
いきづき濡れて春暁の野川べり 松村蒼石 雁
うかれ出て野川尋ねん草の月 成美
この野川蜆掻く子の濁し去る 武笠美人蕉
ちさの花野川にながれ田植前 水原秋櫻子
はればれと木の葉流るる野川かな 臼田亜浪 旅人
ひとところ水のまよへる枯野川 鷲谷七菜子 花寂び
ひとりつく羽子は野川に映りつつ 加倉井秋を 午後の窓
ふくらみて野川は奏づ花茨 石田あき子 見舞籠
ふたまたになりて霞める野川かな 加舎白雄
ふたまたに月の流るゝ野川哉 月 正岡子規
ほがらかに野川流るる金鳳花 黒坂紫陽子
むくどりや野川草の実うち被り 及川貞 榧の實
よるべなき冬の野川の小魚かな 冬の川 正岡子規
らちもなく狩尽されし野川哉 尾崎紅葉
一と股ぎほどの野川の芹の花 田村いづみ
一束の葉生姜ひたす野川哉 生姜 正岡子規
二またになりて霞める野川かな 白雄
会式太鼓聞えず野川流れたり 臼田亜浪
元日やされば野川の水の音 来山
初寅や葛飾の道野川沿ひ 皆川盤水
初景色野川一本光り出す 中村明子
厩出しに会ひぬ野川も弾みつつ 星野麦丘人
古草や野川かがよひ動きだす 宮岡計次
吾よりさきに野川に映りゐし冬木 加倉井秋を 午後の窓
堰きれば野川音ある霞かな 下村槐太 天涯
夏菊や遠き野川に油浮く 秋元不死男
夕月や野川をわたる人は誰 夏目漱石 明治二十八年
夕焼に野川が染みつ寒の入 水原秋桜子
夕百舌に野川溢るる雨となり 臼田亞浪 定本亜浪句集
夕風や野川を蝶の越しより 加舎白雄
大根をかけて野川はやせにけり 加藤かけい
家持が詠める野川や草青む 長谷川かな女 花寂び
寒むや白けて雨忘じゐる野川 松村蒼石 雁
寒施行北へ流るゝ野川あり 石田波郷
小旋風や野川乗込鮒をどり 草堂
小鹿越えしごと冬ざれの野川跳ぶ 樋笠文
少年泳ぐ記憶の野川花は黄に 大井雅人 龍岡村
尾を高く巻きたる犬の尻枯野 川崎展宏
左富士野川曲れば稲架曲がる 川村紫陽
幾千の悲のしたたりよ姉川は野川となりて冬をたゆたふ 原田汀子
御影供に近道わたる野川哉 御影供 正岡子規
教会の鐘降る野川鴨ねむる 関森勝夫
散る桜見んとて来たる野川べり 細見綾子
数珠玉の幾株野川折れまがり 市村究一郎
数珠玉や夕霧野川べりに濃き 宮下翠舟
数珠玉や野川ここより北へ急く 石田波郷
数珠玉や野川に近き母の家 神谷茂代
早春の魚影もなき野川かな 福田蓼汀 山火
早梅や野川一筋光るのみ 広本俊枝
早蕨や野川鳴りつつ光りつつ 山田美保
星祭る窓の下なる野川かな 芝不器男
春惜む野川の紅くやくるまで 瀧春一 菜園
春風にさかふて濁る野川哉 松岡青蘿
春風や野川流るゝ水の泡 孤村句集 柳下孤村
時の間の野川濁りや夏の雨 小杉余子 余子句選
曼珠沙華名もなき野川海に入る 山口誓子 激浪
月けぶりて夜もとけ行野川哉 松岡青蘿
月欠けて野川を照らす雹のあと 堀口星眠 営巣期
枸杞の実の色づき野川水やせぬ 宮下翠舟
梅日和野川に鮠の影細き 内藤吐天
橋ひくゝ野川あふれぬみぞそばに 及川貞 榧の實
水せきて穂蓼踏み込む野川哉 蓼の花 正岡子規
水澄んでをるといふのみたゞ野川 池内たけし
水草生ふ野川の涯や浄瑠璃寺 宮坂静生 雹
沢瀉に野川しめきりて溢れけり 村上鬼城
浮草に薺こぼるる野川かな 会津八一
添いて来し野川いづちへ山ざくら 作者不知 五車反古
犬ふぐり野川かがやきついて来る 米谷静二
犬ふぐり野川水音高まれり 西村秋子
用なきに野川に来たり年惜しむ 細見綾子
病葉をそつと野川に流しやる きりぶち輝
石橋の蝗や野川とどまらず 山口誓子
秋すでに野川にしるき杭の影 久米正雄 返り花
秋の星うるむ野川の夜の息 阿部みどり女
稲刈れる田ごとに野川ひかりそふ 草堂
竹伐りし顔がでてくる椹野川 飴山實 少長集
胡葱や野川するどく街中へ 皆川盤水
茨の実くれなゐ深く野川澄む 武笠美人蕉
草ともに氷流るる野川かな 蝶夢
草餅や野川にながす袂草 芝不器男
葱洗ふや野川の町に入る處 葱 正岡子規
蓼赤し野川にたるむ鳴子縄 石井露月
蕎麥の花野川の音に暮れにけり 蕎麥の花 正岡子規
蕎麥の花野川の音はくれにけり 蕎麥の花 正岡子規
藻の花や野川を引し庭の池 藻の花 正岡子規
虻鳴くや野川の芥の樋に溜り 内田百間
蚕莚を干しならべたる野川かな 芝不器男
蛇わたる野川の岸や曼珠沙華 中勘助
蛭多き野川に小鮒なんど得つ 蛭 正岡子規
蛭痩せぬ秋の野川の水清み 秋の川 正岡子規
蝗ばつた彼岸の野川流れたり 臼田亞浪 定本亜浪句集
螢火の明暗流れゐる野川 山田弘子 こぶし坂
西瓜たべ幼き源義野川にす 高井北杜
足濯ぎ野川にごしぬ茜草 金田きみ子
跳べさうで跳べぬ野川や鳴く雲雀 堤 高嶺
踏青の一歩に響く野川かな 森健二郎
車窓いまのうぜんに燃ゆ野川も過ぎ 大野林火
迸るものの芽野川唄ふなり 石塚友二 光塵
野川なるクレソン摘みにシェフも来る 鈴木幸子
野川にて雪解の濁りみなぎらす 篠田悌二郎 風雪前
野川の音走り数珠玉咲きつづり 河野南畦 『花と流氷』以前
野川ひとすぢの雪どけの菜船が下だる 人間を彫る 大橋裸木
野川ひとつ利根に遂げゆくふるさとよ 高柳重信
野川一本の音喪が過ぎて青む家 友岡子郷 遠方
鍋つけし野川を渉る祭客 前田普羅 春寒浅間山
鍋つけて野川暮れ行く秋祭 前田普羅
陽炎や萌えしも見ゆる野川べり 及川貞 夕焼
雷颪す光芒とんで野川かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
露けしやうきくさ浮けぬ野川なく 五十崎古郷句集
露草や野川の鮒のさゝ濁り 露草 正岡子規
青鷺のつばさ眩しく野川翔つ 久村葵
飛び初めし鮠に東風吹く野川かな 広江八重桜
鮒上る野川いくすぢ雪とべり 千代田葛彦 旅人木
鴉むれて夕日すゝしき野川哉 涼し 正岡子規
鴨一羽飛んで野川の暮にけり 鴨 正岡子規
鶏の羽の野川に舞へり秋祭 米沢吾亦紅 童顔
鷹それて野川人無し古蛇籠 幸田露伴 竹芝集
麦秋のやさしき野川渡りけり 石塚友二 光塵
黒とんぼ野川は渦も孤りなる 中島斌男
黒谷の初夜きく月の野川哉 高井几董
大寒ンや芹の如きが野の川に 尾崎迷堂 孤輪
野の川が翡翠を追ひとぶことも 平井照敏
野の川の向う明るき土佐水木 東條未英
野の川を心に撰りし秋の帯 鈴木黎子
●野小屋
菜の花ひといろの野小屋へ骨休めに来る 人間を彫る 大橋裸木
●野路
あきぐさをふりふりいそぐ野路かな 鈴木しづ子
いくさ経し野路に露おく白桔梗 河野南畦 『花と流氷』
いつも追はれ今はたはたを野路に追ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
おくれゐて一人がたのし野路の秋 植田濱子
ばつた飛ぶ野路なほ残り農学部 椋砂東
ひき水の野路よこぎりて稲みのる 飯田蛇笏 春蘭
ほこりだつ野路の雨あし夏薊 飯田蛇笏
一月の野路川あれば川に沿ひ 野見山ひふみ
修道士一人が消えし野路の秋 阿部慧月
先に行く人すぐ小さき野路の秋 星野立子
初電車灯の煌々と野路走る 奥田敦子
助産婦が野路をたどれり朝焼す 飯田蛇笏 雪峡
名月のわが家を見むと野路へ出づ 林翔 和紙
唐秬に駒や繋がん野路の月 黒柳召波 春泥句集
四五人や行き戻り待つ野路の秋 雑草 長谷川零餘子
埃りだつ野路の雨あし夏薊 飯田蛇笏「心像」
夕鶯子雪一と色の野路となり 林原耒井 蜩
好晴やほとほと枯れし野路の蔓 水原秋桜子
寝て夢路起きて枯野路行くもひとり 福田蓼汀 秋風挽歌
尿する野路の童に夏の富士 原コウ子
山河の野路に成行や蓼の花 高井几董
山肌を流る雲影野路の秋 増山至風
年礼に少しの野路の気晴れたり 子東
後れゐて一人がたのし野路の秋 植田浜子
数珠玉を手ぐさに野路や業平寺 的場 敏子
新発意の黒の輪袈裟や野路の秋 河野静雲 閻魔
日月や茅花流しの野路の空 室積徂春
旧約の蛇新約の百合野路行けば 矢島渚男 木蘭
早紅葉の丘まで野路のきゆるまで 高木晴子 晴居
春灯をりをり野路ともつかぬ轍道 草田男
時雨つつ野路に明るさありにけり 佐藤朴水
時雨るゝや加茂の社も野路のもの 尾崎迷堂 孤輪
暮の火影鶏頭の野路迷けり 調菅子 選集「板東太郎」
曳き水の野路よこぎりて稲みのる 飯田蛇笏
更衣野路の人はつかに白し 蕪村 夏之部 ■ 眺望
木綿合羽露の舎りや昔の野路 調鶴 選集「板東太郎」
末枯の野路遠く人いつか無し 高浜年尾
来る後に暮るゝ霧あり野路の秋 池内たけし
枯野路や松をたよりの墓三四 五十嵐播水 播水句集
柳から日のくれかゝる野路かな 蕪村遺稿 春
梅雨雲は野に垂れ野路の月は金 池内友次郎
汽車を出て直に日傘の野路哉 巌谷小波
流れ消ゆ雲かよ野路の閑古鳥 臼田亜浪 旅人
流れ消ゆ雲から野路の閑古鳥 亜浪句鈔 臼田亜浪
涅槃図に泣きしねずみと野路に会ふ 野見山朱鳥
淡雪や何を紅かる野路の宮 尾崎迷堂 孤輪
燈籠に人明るさや野路の茶屋 雑草 長谷川零餘子
牛売って手はふところに枯野路 川元達治
白木槿うかべて野路の月いまだ 翔
石廊時雨るゝ夜や「科野路」を読了す 林原耒井 蜩
秋の日の野路の小川に光りけり 秋の日 正岡子規
秋の野路歩々に土から石の音 中村草田男
秋郊の津軽もはての野路をゆく 高木晴子 晴居
秋雨や色づきたけて野路の草 西山泊雲 泊雲句集
秋雨や野路こゝもとの寺の門 尾崎迷堂 孤輪
米堤げて野路の雪はた街の雪を 竹下しづの女句文集 昭和二十四年
縄に堰く野路あり塒づく鶴に 皆吉爽雨 泉声
芦野路や山襞馳せる梅雨の霧 屋代孤月
芭蕉忌や野路の時雨といふ菓子を 田中冬二 麦ほこり
草もやす白き匂ひや野路の秋 向井治郎
草笛や泳ぎ子野路をなだれゆく 木歩句集 富田木歩
草虱野路の一日を語りたく 山田弘子 こぶし坂
菅笠に螽わけゆく野路哉 蝗 正岡子規
落人の碓氷箱根や野路の雪 和鶴 選集「板東太郎」
蓼の花野路より高き細流れ 大谷句佛 我は我
蕗の芽の石動かせる野路なりき 横光利一
蟷螂に石うつて去る野路かな 蟷螂 正岡子規
行く人に笑ひかゝるや野路の梅 梅 正岡子規
行秋や山へも依らず野路の松 尾崎迷堂 孤輪
袖みやげ今朝落としけり野路の月 山口素堂
裏みちの野路にも灯かげ酉の市 及川貞 夕焼
襟足が野路に清しき愛鳥日 岡部豊
西吹くや白雨せまる野路の人 大魯
見えがてに遅るる人や野路の秋 池内たけし
訪ね見ん春めく野路をかくい行き 高木晴子 晴居
身に入むや野路に見らるゝ野の我が家 尾崎迷堂 孤輪
追ふ如くをとめと走る野路夕立 池内友次郎(1906-91)
逃げ馬にしもとくはへぬ野路の秋 飯田蛇笏 山廬集
遠見れば酔漢も好し野路の梅 殿村菟絲子 『菟絲』
酸模の野路くもりくる帰省かな 芝不器男
野路かへる麻幹なゝめに抱きゐたり 田中午次郎
野路こゝにあつまる欅落葉かな 芝不器男
野路の人鷹はなしたるけしき哉 鷹 正岡子規
野路の名の七変化とや若菜摘む 山田弘子 螢川
野路の月海と山とのちまたかな 蕪村 選集古今句集
野路の梅白くも赤くもあらぬ哉 蕪村遺稿 春
野路の秋内陣の金ン遠眼にも 大岳水一路
野路の秋呼べど答へず黍刈れり 雑草 長谷川零餘子
野路の秋埴輪の馬を置き去りに 小早川蘇宇
野路の秋我が後ろより人や来る 蕪村
野路の風秋つれて来てそつと去る 宮崎宏一
野路暮れて草の陰より鉦叩 星野椿
野路朗ラ袋蹴りゐる螽かな 野村喜舟 小石川
野路行けばばつた日和でありにけり 粟津松彩子
野路行けば垣繕うてゐる小家 高浜虚子
雌岳いま雄岳がくれに野路の秋 山田弘子 こぶし坂
雨ほつと折から野路のたんぽゝ黄 星野立子
露の野路つい並びては裾濡らす 篠田悌二郎 風雪前
青葉木菟妻帰り来む野路見えて 山口草堂
頬赤ゐて北吹く野路のはろかなる 五十崎古郷句集
飴売の虻に追はるゝ野路かな 古白遺稿 藤野古白
馬橇行くただきらきらと野路の果 福田蓼汀 山火
馬頭尊武蔵の野路の秋ゆふべ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
麦踏の壮者彼や野路の景 石塚友二 方寸虚実
鼬出てをどることあり野路の秋 五十崎古郷句集
鼻寒し雲のみ動く野路の果 三谷昭 獣身
●野末
はてしなき野末に見えて椋鳥わたる 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
わが骨朽ちたり野末の石といふ言葉も 高柳重信
わたり行く野末といはむ年の暮 齋藤玄 飛雪
一棹の鳥を野末に植田寒む 高井北杜
中年やいつか野末の大夕燒 福島壺春
供へ餅大禍時の野末の井 坂井三輪
冬枯の野末につゞく白帆かな 冬枯 正岡子規
初蝶のわれ在りと出づ野末かな 正木ゆう子 静かな水
吉備津彦笑へば野末まで芽吹き 豊田都峰
名月や野末の雲に人の声 南雅
夕顔や野末を走る雨の音 中島月笠 月笠句集
太宰忌の野末やうすきいなびかり 遠山陽子「弦楽」
摘草の歌声ひびく野末まで 金子啓二
放れ馬終に野末の春がすみ 臥央 五車反古
放馬鈴に野末の春かすみ 臥央
春の日の暮れて野末に灯ともれり 春日 正岡子規
暖き大きな雲のある野末 久米正雄 返り花
月白も無くて月出る野末哉 月の出 正岡子規
欅落葉野末は富士の白くして 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
洪水の野末に尊き酒屋旗 安井浩司
湖尻とは即ち野末秋の風 杉本零
湯豆腐や野末さまよふ悪鴉 中烏健二
疾風雲野末は澄みて麦青む 水原秋桜子
稲妻に盗人走る野末哉 寺田寅彦
稻の香や野末は暮れて汽車の音 稲 正岡子規
穗芒や野末は暮れて氣車の音 薄 正岡子規
縄文の野末の古墳練雲雀 工藤行夫
罌粟咲いて野末にあをき白根立つ 大島民郎
羽音して北風吹き分る野末の樹 成田千空 地霊
芥火かあらず野末の秋没日 篠田悌二郎 風雪前
芦の穂に家の灯つづる野末かな 富田木歩
菜の花の野末に低し天王寺 菜の花 正岡子規
薄暮れぬ野末に汽車の走る音 正岡子規
蘆の穂に家の灯つづる野末かな 富田木歩
野末にていまは蝶とも別るべき 堀井春一郎
錦する秋の野末のかかしかな 蕪村
陽炎の立つや野末の浅間山 陽炎 正岡子規
頬落ちて野末の石を訪め歩く 穴井 太
鳥飛ぶや夏野の野末山細し 夏野 正岡子規
鴫たつや行き尽したる野末より 蕪村
わが死と詩枯野の末に光るもの 徳弘純
小灯やかれ野の末を人の行 加舎白雄
小田原の海も見ゆべき野の末に午後濃くなりぬ冬の霞は 松村英一
我一人行く野の末や秋の空 夏目漱石 大正三年
津軽野の末枯ふかし母と佇つ 小松崎爽青
白旗や枯野の末の幾流れ 枯野 正岡子規
野の末に小さき富士の小春かな 紅緑
野の末の雁の別れに立ちつくす 細谷源二 鐵
野の末やかりぎ畑をいづる月 鬼貫「大悟物狂」
野の末やかりぎ畑を出でる月 上島鬼貫
野の末やわつかに枯れぬ一在所 尾崎紅葉
野の末や霞んで丸き入日影 霞 正岡子規
●野田
布団干し野田の玉川べりに住む 屋代ひろ子
音に出て野田の玉川温みけり 鷹羽狩行
鷹一過野の田蟻群に目もくれず 太田 嗟
親なしと答ふ淀野の田にし売 暁台
●野っぺ
●野面
くるぶしに野面のぬくみ鳥渡る 手塚美佐 昔の香 以後
このたびも師を恋ふ野分の野面かな 岩田昌寿 地の塩
わが野面鬼の目風の目働いて 金子皆子
一月の野面や低く糸を干す 殿村莵絲子 雨 月
何もかも死に尽したる野面にて我が足音 尾崎放哉
北へ展く野面の光蛇の光 酒井弘司
富士見えぬ秋の野面に石斧あり 阿保恭子
曼珠沙華消えてしまひし野面かな 『定本石橋秀野句文集』
曼珠沙華燃えしづまりし野面かな 大橋敦子 手 鞠
木枯の野面や星が散りこぼれ 相馬遷子 雪嶺
残菊を刈れば野面もひと続き 小林博子
浄土寺へ往来の野面麦黄ばむ 滝井孝作 浮寝鳥
父も子も音痴や野面夕焼けて 伊丹三樹彦 人中
盆唄や野面に熱き風の渦 山田みづえ
秋の蝉ひたすら野面ゆくごとし 栗林千津
秋思果て暮るる野面の芯となる 美佐子
稲がかけてある野面に人をさがせども 尾崎放哉
稲妻の切つ先に落つ野面かな 中村洋子
稲架解きて野面の末を見なほせり 佐野まもる
空也忌の時雨の通る野面かな 鈴木鷹夫 千年
糸遊の野面に蝶のおどり出づ 江藤ひで
花遅し野面を葛の仇しげり 遠藤 はつ
草笛や野面に吾と友二人 市野沢弘子
野面の日山へ廻りぬ掛大根 斎藤章子
霜強しはらからの声野面這ふ 田中禾青
鵙の晴れ野面石積む小諸城 竹内和歌枝
麦の穂の揃ふて立ちし野面かな 穂麦 正岡子規
黄塵の野面の隅に雪の富士 水原秋桜子
元日や金星の野づら火を焚かず 渡邊水巴 富士
思ひきり野づら晴れたる一遍忌 有光令子
賢治忌の野づら石づら遊べるも 清水基吉 寒蕭々
●野中
(洛北)名月や野中岩倉松ヶ崎 尾崎迷堂 孤輪
しはぶきの野中に消ゆる時雨かな(折口信夫先生に随ひ武蔵野を歩く) 角川源義 『口ダンの首』
つなぐ手を吾子からほどく花野中 井上真実
のどかさや野中に丸き草の山 長閑 正岡子規
一本に蝉の集まる野中哉 蝉 正岡子規
人もなし野中の杭の凧 正岡子規
古代壷ゆるぎ出でたる枯野中 山口草堂
君が代や野中であたま民の春 立花北枝
咲く花はつりがね草か野中寺 才麿「河内国名所鑑」
四方からよるや野中の桃の花 桃の花 正岡子規
土筆野中の石碑字消えたり 正岡子規
夕虹に焼帛立つる野中かな 高田蝶衣
大花野中で小石を積みあげる 岡田史乃
思い出が翼広げる大花野 中山五十鈴
抱けば子が首に手を纒く枯野中 伊丹三樹彦 人中
振り向きて振り向かれけり花野中 赤木日出子
日の落る野中の丘や曼珠沙華 曼珠沙華 正岡子規
枯るゝもの枯れ野中寺のしづけさよ 木代ほろし
枯野中コイン洗車の大看板 金子佳子
枯野中行けるわが紅のみうごく 野澤節子 黄 瀬
桃の花人待ち顔の野中哉 桃の花 正岡子規
橋コース水車場コース大花野 中戸川朝人
橘やあたりに家もなき野中 橘 正岡子規
橘やいつの野中の郭公 松尾芭蕉
次降りに野中の辛夷あかるしや 川上梨屋
水筒のぬくみに手触れ枯野中 桂信子 黄 炎
水音の野中さびしき柳かな 浜田酒堂
水音の野中にくれて冬の雨 支朗
演習の野中の杉や鵙の聲 鵙 正岡子規
焼野中いつも俯向くひとところ 斎藤玄 雁道
犬一匹町も野中の吹雪ざま 成田千空 地霊
甘草の咲き添ふ石の野中めき 松本たかし「鷹」
盲女来て野中の厠で瞠かん 安井浩司 霊果
石白く清水湧き出る野中哉 清水 正岡子規
耳低く吾子の声待つ枯野中 古館曹人
花野中大き昔の日が沈む 水原春郎
菜の花や野中の寺の椽の下 菜の花 正岡子規
蒙古医の看板かかげ花野中 田村了咲
蓮花草咲くや野中の土饅頭 正岡子規
蓮華草咲くや野中の土饅頭 れんげ 正岡子規
蚋打ちし血のくれなゐの野中なる 皆吉爽雨
蝉鳴くや野中の井のはね釣瓶 蝉 正岡子規
蝗来て游ぐ野中の出湯の槽 石塚友二 光塵
蝙蝠の出でし野中の枯井哉 露骨
蝶の飛ぶばかり野中の日影哉 松尾芭蕉
行く水に雉子の下りたる野中哉 蘇山人俳句集 羅蘇山人
遅月が照らす野中の曼珠沙華 内藤吐天 鳴海抄
遠き子を見て立てる子も花野中 井沢正江 一身
遺言とせむ咲き満てるこの花野 中村裕治
野中を走る角鹿の雄、血はA(アラン)に見ない 加藤郁乎
野中寒き火を焚けば寒き人が集り シヤツと雑草 栗林一石路
野中寺に見しもの美男蔓かな 粟津松彩子
阿蘇五岳方位を変へてゐし花野 中村田人
陽炎の野中に立つや大師堂 陽炎 正岡子規
陽炎や目立つ野中の一つ岩 井月の句集 井上井月
雲の峯に扇をかざす野中哉 雲の峯 正岡子規
雲の峰立や野中の握飯 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
露けさに息づき深き野中の灯 相馬 遷子
靴に足嵌りてきたり大枯野 中戸川朝人 星辰
風は草を分けて野中の清水秋近し 古白遺稿 藤野古白
魂祭る野中の家や草の月 中山麦圃
鳥帰る野中に楡と水たまり 鈴木貞雄
鶯や野中の墓の竹百竿 蕪村
黍を摘む鋏の音の野中かな 木村蕪城 寒泉
放馬離々柵は花野の中を縫ひ 太田光子
枯野の中独楽宙とんで掌に戻る 三鬼
枯野の中独楽宙とんで掌に戻る 西東三鬼
点滴は遠い枯野の中落ちる 対馬康子
目を閉ぢて花野の中へ紛れけり 今井千穂子
野の中やひとりしぐるゝ石地藏 時雨 正岡子規
野の中や只一本の杉の月 月 正岡子規
野の中や焼場を隠す夏木立 夏木立 正岡子規
野の中や道曲りたる天の川 天の川 正岡子規
●野畑
●野花
活け上げて野花にいこふ夏の雨 佐藤しづ江
野花摘む少女に夏至の祭くる 岩崎照子
鏡台の野花八専や湯治舟 宮武寒々 朱卓
風と共に野花の白も黄も澄めり 上村占魚 『かのえさる』
養蜂家族いま紫の野花に暮す 金子皆子
いつしかに野の花の香の暖かし 阿部みどり女 『石蕗』
かたまつて野の花白く夏ひばり 木下夕爾
けんぽー二十一条を吹く野の花のぽー 加藤郁乎 形而情学
わが手に摘みし野の花の一輪ぞこれ 木戸夢郎
一壷には野の花挿して汀女の忌 大津信子
吾子が手に花野の花はあふれ咲く 軽部烏頭子
夜は星に花野の花として語る 吉村ひさ志
秋の野の花の高さに風遊ぶ 後藤 ヨシ江
花御堂巨勢野の花を摘み集め 右城暮石
葺きあげて野の花ばかり花御堂 木村有恒
野の花にナイターの灯の及びけり 松本みどり
野の花に蛍を入れて灯しけり 中沢広子
野の花のりんだう家居の妻に摘む 森川暁水 黴
野の花は野の花の品冬隣 阿部みどり女 月下美人
野の花をたつぷり活けて石鼎忌 深川知子
野の花をつば先に差し敬老日 岩波千代美
野の花を手向けて里の雛送り 植松 昌子
野の花を挿したる瓶に初嵐 阿部みどり女 笹鳴
野の花を摘み来ては挿して寧げる 石川桂郎 四温
野の花を摘めば摘まるゝ白夜かな 田村了咲
野の花を添へてつつまし御難餅 阪本 晋
風に立ち汝も花野の花となる 大隅三虎
●野火
あはれ野火の草あるかぎり狂ひけり 鈴木真砂女
いたづらの河童の野火の見えにけり 阿波野青畝
いにしへの野火の焔を見し仏 細見綾子 黄 炎
おりよ~野火が付いたぞ鳴雲雀 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
かたまつて野火まぬがれし仏の座 石丸 誠
がうがうと七星倒る野火の上 橋本多佳子
さかんなる野火やパイプを手に移す 横山白虹
しばらくは野火のうつり香義仲忌 飯田龍太
しらぬひの筑紫小島の野火けむり 麦南
すぎてゆくものらに野火の透かし彫り 渋谷道
つかの間の野火のくゞりし茨かな 芝不器男
つま思ふはげしき刻の野火熄みぬ 関戸靖子
ときどきは男が見えて野火煙 鈴木鷹夫 風の祭
どの船も長崎通ひ野火のもと 中村汀女
どの野火も炎を見せて暮れてきし 石井とし夫
ぱらぱらと墓ある野火のあがりけり 野中 亮介
ひかりなき落暉と見れば野火あがる 桂樟蹊子
ふと落ちてきしもの野火の塵なりし 石井とし夫
ふるさとの起伏のすべて野火が知る 中村正幸
ふるさとの野火あつけなく終りけり 原田喬
ふる里を二度と離れじ野火を守る 今村青魚
へさきそろへて滞船野火に遠くをり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
ほそ~と野火這ひそむる咫尺かな 中島月笠 月笠句集
ほのぼのとアイヌコタンの遠き野火 内田圭介
またひとつ吾が負ふ喪あり野火にじむ 堀口星眠 営巣期
まなかひに見て過ぐ島の猛り野火 冨田みのる
みちのくの闇に野火して啄木忌 山口青邨
みち曲るさびしさ野火の匂ひ来る 米沢吾亦紅 童顔
もえつくすまで手放しの野火ならむ 今瀬剛一
よく燃えて野火のけむりもなかりけり 高橋淡路女 梶の葉
わがまなこ二つを放り野火とせむ 栗林千津
わが心燃ゆるに似たり野火の朱 細谷源二 砂金帯
わが野火に一天昏きしばしかな 久米正雄 返り花
オリオンが方形結ぶ野火余燼 橋本多佳子
カルストの岩面に野火吹き上ぐる 古川綾子
マクベスの闇が降りくる野火の涯 中尾杏子
一*ちゅうの野火更級の闇に燃え 鈴木貞雄
一鳥を手放すごとく野火放つ 赤松[けい]子 白毫
亀石の立退きできぬ野火となる 阿波野青畝
二三人立つ処より野火起りけり 温亭句集 篠原温亭
人影を二タ手に分ち野火奔る 平井さち子 鷹日和
仏像はあす彫りあがる野火の月 飯田蛇笏 山廬集
仕舞湯にまだ野火を見ぬ首ひとつ 攝津幸彦 鹿々集
停年や一舌伸びて野火焔 河野南畦 湖の森
傾ける野火の曼荼羅紬織る 加倉井秋を 『隠愛』
兄とゐて話すことなし野火迫る 五十嵐唐辛子
先生の沈黙野火のごときかな 中山美樹
八方に走るや野火も野火守も 茂木喜子
再びを野火見て潜るかいつぶり 石原義輝
初午の幡野火止めのところまで 藤田あけ烏 赤松
剣豪の勢い偲ぶ野火猛る 磯野充伯
北上川大きくうねる野火避けて 登四郎
原城址寄せ手の迫るさまに野火 下村梅子
反逆にくみせず読むや野火の窓 飯田蛇笏 山廬集
叩かれてあらぬ方へと走る野火 有吉桜雲
吾が髪もかく燃ゆるべし野火熾ん 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
吾風なれば野火を圖太くせんものを 細谷源二
囁きて妻胎すとや野火走る 杉山岳陽 晩婚
四十路いま駆くるごとしや野火走る 影島智子
国原や野火の走り火よもすがら 水原秋櫻子
國土泰くこゝろにしみる野火の朱 飯田蛇笏
土手すこし駈けあがりたる野火の果 藤田湘子 てんてん
地に伏しつ水に踊りつ野火走る 大川恵子
城攻めの昔を今に野火放つ 田部黙蛙
夕星を見てゐて急に野火のこと 岡本眸
夕野火のうさぎの耳のやうな炎よ 高澤良一 ぱらりとせ
夕野火の色にも雨の近きかな 藤崎久を
夕野火の荒駈けも見し駿河かな 藤田湘子
夕野火やはるかな世には藻塩焼き 永井由紀子
夕野火や降り出し雨のしめやかに 西島麦南 人音
夕野火を見てのぼりゐる鐘楼かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夕野火を越すものの翅みな強し 中野茂
夜に入りて野火は鬼火になりたがる 鈴木石夫
夜の野火に沼の鳥獣覚めゐるや 石井とし夫
夜の野火や一字あやまつ白封書 神尾久美子 桐の木以後
夜の野火阿修羅が好きといふ女 木田千女
夜は野火を遠くにしたり筑紫野は 菖蒲あや あ や
夜を燃ゆる野火に佇つ吾も阿蘇女 河野扶美
大いなる野火を納めし夕日かな 宮崎夕美
奔放に生くるも一つ野火走る 橋本石火
妻籠に遠く野火の手上がりけり 冨田みのる
子のなみだいつしか野火のゆきわたり 依光正樹
寝ねてなほこころに野火の燃えにけり 成瀬櫻桃子 風色
寝入らんとする眼裏を今日の野火 岸原清行
寺の池に浮かぶ笹舟遠き野火 大井雅人 龍岡村
将門の関八州に野火走る 角川春樹(1942-)
少女居て三輪の里輪の野火放つ 赤松[けい]子 白毫
少年に獣の如く野火打たれ 野見山朱鳥
山揺らす野火はまぼろし乳張れり 若林波留美
川千鳥ひら~と野火明り 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
巣放れし諸子の群れに野火走る 内藤吐天 鳴海抄
巻かれなむ紫野なる野火けむり 赤松[ケイ]子
庚申塔起点に野火の放たれし 塩川祐子
弔問にすこし間のある野火のいろ 飯田龍太
引き出しに野火のひとつは入れておく 森 さかえ
彼奴去りし玄関野火の匂ふかな 角光雄
往診の夜となり戻る野火の中 相馬遷子 山国
待つもののありしや野火の走りけり 井上みつこ
思い断つあまりに赤き野火を見て 岸本マチ子
思はざる闇に崎あり忘れ野火 桂樟蹊子
愁いるると起りぬ野火より赤き馬に 細谷源二
愛念の身を烙き野火となりて燃ゆ 齋藤玄 『玄』
戦止むか野火あと黒き雨の土手 相馬遷子 雪嶺
折からの野火を神話の発端に 鷹羽狩行
放火魔の目をして野火の一刹那 櫂未知子 貴族
断崖に野火を追ひつめ島暮るる 徳留末雄
旅人の中を山彦ときに野火 三枝桂子
日輪のぐるり蒼めば野火もまた 近藤一鴻
春の野に夕日傾き野火止の流れはあかくきらめき続く 原田清
昼の野火ためらふときはなまめける(オレゴン州コバリスにて) 飴山實 『少長集』
晴着きてはるかな野火を見てゐたり 和田耕三郎
暗がりのどこも息つめ野火送る 鎌倉佐弓 潤
暮るる湖の白さ彼岸の走り野火 山口草堂
暮れて野火風の姿となり奔る 豊長みのる
曲り家に馬ゐて野火に嘶けり 佐々木北闘
朽舟を飲みこむ野火の速さかな 堀井より子
村人の修羅を秘めゐて野火燃やす 八牧美喜子
根より湧く水の軽さよ野火止は 原裕 葦牙
棚田より国見心に野火を見る 前川菁道
椋鳥のめをとも急ぐ野火熾ん 堀口星眠 営巣期
橋の人二階の人や野火を見る 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
武尊の旗と見るまで野火もゆる 鈴鹿野風呂 浜木綿
武蔵より甲斐かけて野火向かい風 折笠美秋
武蔵野の上野毛に来て野火を見たり 大橋櫻坡子 雨月
死火山のふところ深く野火放つ 市川栄次
残さるることを怖れて野火走る 露木まもる
沙翁劇ほどのくらさを野火走る 中尾杏子
沼の野火消えて落暉の赤一つ 石井とし夫
浪音をひき寄せて野火秀を立つる 原裕 葦牙
浮き出でし閘門の錆野火猛る 斉藤輝子
海すずめ遠流の国に野火走る 角川源義 『西行の日』
潮退いて埓もなく野火終りけり 中戸川朝人 残心
濁世より乱世がよけれ野火猛る 鈴木鷹夫 風の祭
火となりし萱のたふるゝ野火の中 佐藤寥々子
火の山や妻指す方に野火走る 冨田みのる
火の色を見せずに走る野火のあり 加藤三七子
火より火を奪ひて野火の走るかな 武田玄女
炉を見つつ野火の話や牧場守 成瀬正とし 星月夜
焼き始めたる一穂の遠き野火 上野さち子
焼け~て野火のおとろへ蝶の飛ぶ 大谷句佛 我は我
煖炉燃ゆ野火のごとくに飛ぶ思念 徳永山冬子
熱風の刹那に過ぎて野火始め 火村卓造
燃えつなぐものを探りて野火走る 長谷川 宏
燃えながら野火は曳きゆく野火の傷 宇咲冬男
燃え残る草にかまはず野火走る 棚山波朗
父を裂き母を裂き野火は走れり 森 洋彦
犬となり吠えれば野火もやさしからむ 寺田京子 日の鷹
狂うだけ狂わせて野火叩き消す 磯村鉄夫
狂ひ野火追ふて四五人走りけり 鶴丸白路
猛ける野火仏の千手けむるかな 兵庫池人
猛り来て野火つまづけり遊女塚 宮木孝苑
献体へ思ひの到る野火の中 小島千架子
男の鞭ときどき駈けて野火を打つ 福永耕二
病みたまふ師を思ひゆけば野火の野に 森川暁水 淀
病める師の言のかずかず野火に思ふ 森川暁水 淀
白き着てかすめるは韓の野火守か 近藤一鴻
相憎む農婦や野火が飛び立たむ 右城暮石 声と声
真赤なる野火の彼方にはす心 細谷源二 砂金帯
眠る子のどこも妻似よ遠い野火 今瀬剛一
眼のごとく石乾きをり野火のあと 新谷ひろし
眼よりあふれて野火の奔りだす 小澤克己
石の中巧にぬけて野火走る 上村占魚 鮎
石人の跪づくあり野火の中 下村非文
神々の御代のごとくに野火赤し 高橋秋郊
秋声や野火止用水翳なせる 加藤安希子
秩父嶺に雲ゐてさらず野火はなつ 西島麦南 人音
種擇びの膝ほとり野火の香を刷いて 安斎櫻[カイ]子
窓に野火見し後夜汽車となりにけり 館岡沙緻
窓枠に十指しっかと野火を恋ふ 川口重美
羞じらいのきわみ舌だす野火燃えおり 寺田京子 日の鷹
耳底に野火走る音三七忌 伊藤京子
舐めにくる野火舐め返す童かな 永田耕衣(1900-97)
草こがすところの野火は透明に 飴山實 少長集
草千里野火あげ天へ傾けり 橋本多佳子
草萌や野火止塚の小高さに 深見けん二 日月
荒るる海走りて野火の腰つよし 加藤知世子 花寂び
萱奔る野火や煙の追ひつけず 羽部洞然
落ちてくるときのゆつくり野火の塵 石井とし夫
落日や戸口に払ふ野火ほこり 金尾梅の門 古志の歌
落日を野火の面に見うしなふ 加藤楸邨
葛城の神みそなはす野火煙 右城暮石
葛飾に歳時記を閉づ野火煙 石田波郷
蓬に野火止塚の烏瓜 鈴木妙子
藁先に火を吸ひとりて野火散らす 加藤水万
見えぬもの追ふかに野火のひた走る 野口順子
親しみし抜け道のけふ野火の中 中島たまな
詩は孤独風向き変へて野火走る 中村明子
豪雨とも野火のこゑ聴く舳かな 宮武寒々 朱卓
貧農に耐ふ野火のあとかぐはしく 津田清子 二人称
走つて走つて野火は懐疑の涯に途絶う 細谷源二
走る野火吾妻安達太良嶺々坐り 及川貞
走る野火獣の如く打たれをり 石井とし夫
身をよろけ野火の煙を避けんとす 八木林之介 青霞集
軒鳥が野火を感じてゐたるなり 福島小蕾
逃げてゆく野火ともなつて走るあり 石井とし夫
透きとほるかなしき野火も白魚も 野見山朱鳥
逸れ野火を打ちのめしては仁王立ち 岡部六弥太
過去よりも今に悔もつ野火あがる 野澤節子
道下は海まで野火を放り置く 中戸川朝人 星辰
遠きもの欲れば遠くに野火上る 橋本美代子
遠くにも野火跫音の楽しき夜 内藤吐天 鳴海抄
遠ざかるバックミラーの中の野火 吉田政江
酒蔵の西も東も野火煙 山田弘子 懐
野に野火が山に山火が走るかな 下村梅子
野の涯に野火のはじまりさきくませ 加藤郁乎 球体感覚
野火あがる空の渚に亡者笑む 石原八束
野火あげてかひなき笞うちふるふ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
野火あとに雄鹿水飲む身をうつし 多佳子
野火あまた立ちて天草四郎の忌 大島民郎
野火が野火追うて越後の大き闇 中川美亀
野火けむり伸びて日輪とらへをり 石井とし夫
野火けむり大地と切れて立つてをり 石井とし夫
野火けむり貧乏寺に及びけり 鈴木鷹夫 春の門
野火げむり駆けぬけ郵便単車の朱 平井さち子 鷹日和
野火つけてあと魍魎にまかせけり 島田 柊
野火つけてはらばふて見る男哉 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
野火つけて男大きく戻りけり 山田節子
野火となるまでの草丈映す川 増田まさみ
野火に出動新品の消防車 遠藤けんじ
野火に焦げし宿の廂や蕨汁 冬葉第一句集 吉田冬葉
野火のごとわが悲しみも焔立ち 深川正一郎
野火のごと玉蟲厨子の天女飛ぶ 野見山朱鳥
野火のごと立消えむ火をたが掻き立つ 稲垣きくの 黄 瀬
野火の中遠き燈青くなりにけり 大熊輝一 土の香
野火の力童ら呆然と佇めり 阿部みどり女
野火の子ら一しゆんに追い久しの旅 古沢太穂 古沢太穂句集
野火の径牛に目隠しして過ぐる 岩永花泉
野火の火をつくる男の走り出す 朝倉和江
野火の焔の胸の焔と打ち合へる 阿部みどり女
野火の祭典銃は金輪際執らず 磯貝碧蹄館 握手
野火の秀の川を越えむとして勢ふ 大橋敦子 匂 玉
野火の舌ちろりちろりと水を舐め 行方克己 昆虫記
野火の舌横道に逸れ叩かるる 田村睦代
野火の舌舐め取らんとて隠し水 高橋睦郎 稽古飲食
野火の色濃くなつてゐる玻璃戸かな 佐野良太 樫
野火の裾片ふところ手して通る 西本一都 景色
野火の跡頭焦げたる土筆出づ 鳥海高志
野火の道手をひきつれていそぎけり より江
野火の雨切株はやくぬれにけり 飯田蛇笏 春蘭
野火の香のまがふかたなき在所かな 今井 勲
野火の馬鹿堂々めぐりしてくすぶる 細谷源二
野火はげし悲しいときは手を洗う 久野千絵
野火はしる暮どきの音みな連れて 渡邉きさ子
野火はみな救世観音へ向かひけり 九鬼あきゑ
野火はるか胸の濤音聴き澄ます 鷲谷七菜子 雨 月
野火ひとつ見えて五十路の誕生日 堀口星眠 営巣期
野火ふえて沼の暦日俄かなる 石井とし夫
野火までの距離や穢(え)のごと家名負ふ 川口重美
野火ゆゑにその夜の記憶今もあり 高濱年尾 年尾句集
野火を前に棒数本の遺跡かな 原田喬
野火を愛せよ天界にある戦さ人 磯貝碧蹄館 握手
野火を消す咒文や臼に伏せにけり 廣江八重櫻
野火を背に男黙せり道筑波 大野岳翠
野火を見し夜のまな板の傷無数 寺島敦子
野火を見し眼に湖の水を見る 上野さち子
野火を見し眼鏡の煤を払ひけり 高山睦子
野火を見てきて椅子が持ち去られゐし 川口重美
野火を見に利根を渡りて来りけり 比叡 野村泊月
野火を追ひ隠れ狂ひを知られけり 鍵和田釉子
野火分ち夜風乱るるが堪へ難し 内藤吐天 鳴海抄
野火匂ふ飼屋砦に似たるかな 堀口星眠 営巣期
野火哮るくらやみに帯解きをれば 中村苑子
野火守に見捨てられたる火も走る 竹屋睦子
野火守の退路にも火のまはりつつ 大石悦子 聞香
野火守の那須野になまけゐたりけり 古舘曹人 樹下石上
野火守りの麻かみしもを先だてて 吉田紫乃
野火守りゐて若者は振り向かず 直人
野火山火いちにち狂ふ神の国 豊長みのる
野火山火柩に古きものはなし 神尾久美子 桐の木
野火恋し十国峠越ゆる夜を 加藤かけい
野火投げて休耕田を覚ましけり 美柑みつはる
野火放ち少年顔を鎮めをり 加藤知世子 花 季
野火放ち男の構えほどかざる 宇咲冬男
野火放ち男走りて風起す 吉岡好江
野火放つ男の首のさびしさに 鎌倉佐弓 水の十字架
野火明り輪中の中に小輪中 近藤一鴻
野火映し犀川当り返しけり 西本一都 景色
野火映ゆや藁たゝきつゝ暮るゝ手に 芝不器男
野火暮れてゆくに筑波の濃きは淋し 石井とし夫
野火果ててふたつの鼓動だけの夜 櫂未知子 蒙古斑
野火果てて常陸下総一つ闇 桑島 蟆
野火果てて闇禁じられし獄灯る 平井さち子 完流
野火止に数へ日の水流れたり 伊藤三十四
野火止に赤松多し初松籟 沢木欣一
野火止のせせらぎ跨ぐ小六月 飯塚房子
野火止の冬ころころとながれけり 平井照敏
野火止の土くろぐろと牛蒡引く 太田明子
野火止の土橋をくぐる通し鴨 若月栄枝
野火止の岸の荒れにし鼓草 七田谷まりうす
野火止の闇の深さよ蟲時雨 林田青圃
野火消えし薄くらがりに人動く 古野治子
野火消えてしまひぬ眼底にて燃やす 楸邨
野火消えてたゞの暮色となりにけり 石井とし夫
野火消えてより八方の暮らしの灯 相沢有理子
野火消えて消えざるものの胸にあり 真木礼子
野火消えぬ胸のほむらはそのままに 西尾みゐ
野火消しの戻りがや~籬外 西山泊雲 泊雲句集
野火消しや煙にむせつゝ身をかはし 西山泊雲 泊雲句集
野火消ゆる如くに想ひ熄む日あり 稲垣きくの
野火煙や吹きおくられて湖の上 飯田蛇笏 山廬集
野火煙りひく立山の夕照りに 金尾梅の門 古志の歌
野火煙る繊月馬柵にあふがれぬ 西島麦南 人音
野火煙天王山を襲ひけり 大石悦子 百花
野火熄むや肥後より来たる馬剌売り 河津あきら
野火熾ん鬨興すいくさ亡き後も(小机城址) 河野南畦 『焼灼後』
野火燃ゆる仏の山に泊つる夜を 西村公鳳
野火留や宵暁のかぶら汁 巣兆
野火移りゆくに遅速の萱の丈 稲畑汀子
野火見えてともしきこころ耀らふなり 松村蒼石
野火見し夜妻も心を燃やせるや 河野南畦 『焼灼後』
野火見つつ人間不信今更に 藤田湘子 てんてん
野火走り神をおそれし日に似たり 渡辺千枝子
野火走るさきざき闇の新しく 三村純也
野火走るアイヌ集落ありし地を 三輪初子
野火走る先は沼なり走らする 宇田秋思
野火走る大地の襤褸ひつぺがし 折原ゆふな
野火走る己れのあげし煙追ひ 瀧登喜子
野火走る走る墓山うち囲み 黒田杏子 花下草上
野火走る車窓となりて寧らげり 茂里正治
野火迅し迅し老女の夢の奥 黒田杏子 花下草上
野火追つてゐたりしいのち夭しと 小川双々子
野火追ひて川遡るみそかごと 宮坂静生 山開
野火追ひぬ深手の獲物詰めるごと 鹿野島孝二
野火追ひの棒すさまじく先ぼそり 吉田未灰
野火逃げてすんでに墓を焼くところ 小林波留
野火這うて芦は水面へ倒れゆく 浅倉里水
野火遠しなべてひとりの旅ばかり 成瀬桜桃子 風色
野火遠し仔鹿の耳がぴぴと揺れ 飯田龍太
野火遠し生あるかぎり歩む道か 成瀬桜桃子 風色
野火遠し病者のその後思ふとき 岡田晴子
野火遠し膝折牛のやがて立つ 杉山岳陽 晩婚
野火高く立ち上れるは使徒の像 三好潤子
野石墓またぎて野火の走りけり 朝倉和江
鋭目ただに逢はむと夕べ野火を越ゆ 金箱戈止夫
鎌首を打擲されて野火走る 行方克己 昆虫記
関ヶ原畦一筋の野火走る 山本悦子
閨怨のまなじり幽し野火の月 飯田蛇笏(1885-1962)
防人塚雄たけびのごと野火走り 伊藤京子
阿蘇ひろし野火の煙の数知れず 下村梅子
隠れ火となりては野火の立ちあがる 手塚美佐 昔の香 以後
雄のごとく野火駆けのぼり雌に逢へる 上野さち子
雪空に野火が舞はせる金砂子 能村登四郎 菊塵
青刷りの壱万ウオン野火けぶる 中村武男
青春も人も遥けし夕の野火 飯泉葉子
青空が昏れ三日月と野火が濃し 西村公鳳
鞭うちて野火と走れる童子あり 福田蓼汀 山火
風波の野火吹きのぼる鶴見川 水原秋桜子
風神の行ったり来たり野火嬲る 藤井英怡子
風神の駈けりし後を野火は追ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
飄忽の野火おもしろく川隔つ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
飛火野の野火巻紙を巻くやうに 伊藤敬子
馬の糞焦がして野火の馳せ行きし 上野さち子
駅伝の次の走者は野火の先 伊藤白潮
高館の裾に迫りて野火猛る 岩崎眉乃
黄昏や風声うばふ野火の音 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
●野臥せり
●野辺
かゝる夜の月も見にけり野辺送 向井去来
こがらしに私語幾人の野辺送り 林田紀音夫
そばかすの蛍袋は野辺育ち 朝倉和江
それ一種で野辺の宿かせ鶯菜 宗因
つるぎなす雪嶺北に野辺おくり 飯田蛇笏 春蘭
のどかさや哀れ少なき野辺送り 長閑 正岡子規
はた~やいづれは野辺の枯るゝまで 小杉余子 余子句選
ひと朝のいのちつくして咲く花の野辺のつゆくさ君にしありけり 四賀光子
ひもすがら月見る野辺や笹鳴ける 金尾梅の門 古志の歌
ふみきやす雪も名残や野辺の供 向井去来
ふるさとの稲田は低し野辺送り 広瀬みわ
まちがえている僕がいる春の野辺 五島高資
みづうみはひるも露けし野辺送り 関戸靖子
めし碗のふち嶮しけれ野辺にいくつ 三橋敏雄 眞神
ものゝ芽の影さすさへや多摩の野辺 久米正雄 返り花
やうやくに雀隠れの野辺のみち 柴田白葉女
わが柩まもる人なく行く野辺のさびしさ見えつ霞たなびく 山川登美子
わびしさに沖の鵜を指し野辺送り 佐野まもる 海郷
ラグビーの野辺も稲城も狐色 山口誓子
三日はや野辺の送りに肩濡らす 大梶啓子
人声は野辺の遠くに春の雪 比良暮雪
人幅に汚るる雪や野辺送り 橋本榮治 麦生
人徳のひばり上がりぬ野辺送り 椎橋清翠
人日の野辺に昭和の終る雨 落合水尾
仔の牛を放てる野辺や雉子鳴けり 秋櫻子
僧のくる野辺の末黒を旅はじめ 宇佐美魚目 天地存問
初旅は歩くと決めし野辺の道 中里武子
初旅は野辺の送りや舞子浜 門脇山卯
古事記には海なる野辺の若菜摘 赤松子
名ある草名もなき草も霞む野辺 中村苑子
名を埋む野辺や蒲公英一坏の土 蒲公英 正岡子規
四五人の稲架に触れゆく野辺送り 殿村莵絲子 雨 月
大寒の富士にぶつかる野辺送り 岸田稚魚
如月に取つく野辺の景色哉 松岡青蘿
姿川渡り野州の野辺の秋 高澤良一 素抱
性善説信ず四日の野辺送り 今井君江
我も画にかゝれて見たし春の野辺 春 正岡子規
斑鳩の野辺豆干して胡麻干して ふけとしこ 鎌の刃
春の野辺橋なき川へ出でにけり 紫暁
昨日の雪吹消しゝ野辺月みつる 金尾梅の門 古志の歌
暑き日や野辺ゆく人の見えて尚 一鼠
月の供華集むる野辺も殉教地 朝倉和江
朝がほに野辺のちぎりや稲光 サガ農-為有 俳諧撰集「有磯海」
朝鹿や何国(いづこ)の野辺に花莚 斯波園女
朱の一つ殿りにつく野辺送り 森澤義生
東門を出づれば野辺の菫哉 菫 正岡子規
枯れ枯れの野辺に恋する螽かな 一茶
枯桑の瓔珞散らす野辺送 松藤夏山 夏山句集
極月や妻にかはらす野辺おくり 森川暁水 黴
活け込みて卓上秋の野辺とせり 高澤良一 素抱
淋しさに堪へてや野辺の芒散る 士朗
牛の眼に広がりてゐる春の野辺 道部臥牛
猪除けを鳴らして野辺に葬出づる 堤信彦
町近き野辺に乏しき土筆 土筆 正岡子規
画をかいて人に見せたし春の野辺 春野 正岡子規
白鷺や蒼を切り裂く野辺送り 角川春樹
秋の野辺はかなき菓子のよく売るゝ 中川宋淵
秋草と一つ括りに野辺の草 高澤良一 素抱
稲妻の野辺地にかかる袖袂 黒田杏子 花下草上
稲妻や提灯多き野辺送 正岡子規
窖(はか)ちかく雪虫まふや野辺おくり 飯田蛇笏
縮んだり伸びたり春の野辺送り 黛執
耳につく童女の鈴の野辺送り 林田紀音夫
舟解くや葬人野辺に芋の秋 飯田蛇笏 山廬集
若草や寐よげに見ゆる野辺の月 古白遺稿 藤野古白
若菜摘みし野辺はいずこぞ久女の忌 坊野靖子
草枯や野辺ゆく人に市の音 飯田蛇笏 山廬集
藁塚の無くなる野辺の土筆かな 尾崎迷堂 孤輪
誰も言はぬ塩田の夕焼野辺送り 佐野まもる 海郷
赤帯の女野辺行く霞哉 霞 正岡子規
踏みやすき雪も名残や野辺の供 去来
迎へ火の消えたる野辺の夕闇に魂よぶ子らの声ぞきこゆる 太田水穂
道野辺の朽木の柳はな緒もなし 丸石 選集「板東太郎」
道野辺や竹付馬の片時雨 曲言 選集「板東太郎」
遠くとも月に這ひかかれ野辺の蘿 山口素堂
遠雪嶺うすむらさきの野辺送り 渡辺礼子
都会にも野辺の径ありナルコビエ 高澤良一 素抱
野辺かろし鹿のかつぐ草刈籠 実利 選集「板東太郎」
野辺といふ鮭の末路に妻つれて 曹人
野辺の草草履の裏に芳しき 芳草 正岡子規
野辺の露毛が生えて飛ぶ螢かな 古白遺稿 藤野古白
野辺をゆくごとくに舞うて神楽巫女 斉藤夏風
野辺歩きせり父の日をはみ出して 島 将五
野辺焼くも見えて淋しや城の跡 焼野 正岡子規
野辺送りきのふもけふも冴え返る 冴返る 正岡子規
野辺送りひとりふたりは風のひと 林田紀音夫
野辺送りまさしう野辺を北風に吹かれ 奈良文夫
野辺送り蜻蛉空にしたがへり 五十嵐播水
野辺送り転びて凍てに跪拝めく 田中英子
野辺送る鉦や氷雨の畦とほる 小林泰子
陽炎や野辺に捨てたる握飯 尾崎紅葉
雌日芝に降り癖つきぬ野辺のそら 高澤良一 宿好
雪踏を先にたてたる野辺送り 田村杉雨
雲雀鳴く野辺や火繩の燃え退(しさ)り 風斤 俳諧撰集「藤の実」
霜結ぶ野辺の木草や御講凪 妻木 松瀬青々
霞むよりほかなき野辺に来ても見つ 林原耒井 蜩
露草や未練に晴るゝ野辺の霧 石塚友二 光塵
青卒都婆手にし花茶の野辺送り 長谷川かな女 牡 丹
馬頭尊春は名のみの野辺の風 高澤良一 随笑
鬼灯の窶れて野辺の魂棚に 高澤良一 素抱
鰍干され今年何度の野辺送り 木田柊三郎
●野仏
みかへれば野仏みかへれば秋風 吉野義子
冬に入る野仏の辺に柴束ね 吉野義子
国東に野仏多し蛇苺 糸井 昭
大夕焼野仏に血が通ひ出す 立澤菊子
応仁の野仏ひそと竹落葉 都築澄子
月さして野佛のみな動くかに 今井杏太郎
白鳳の野仏在はす恵方道 長谷川浪々子
笹鳴や野仏おはすどんづまり 渡邊たけし
綿木や野仏も夜を経たまひぬ 森澄雄 花眼
芦枯れて野仏の顔枯以上 平畑静塔
蝿とんで野仏の顔動きしか 静塔
野ぼとけを酔わせていたり花杏 河野胆石
野仏となるぞ花野に長居せば 狩行
野仏に体温のある秋日和 古矢良枝
野仏に供華分けもして墓参り 山田弘子 初期作品
野仏に添寝がしたし朴落葉 永井喜久司
野仏に菰を巻きゐる小春かな 柴田 青水
野仏に遠き一樹も桜かな 増田月苑
野仏のみんな丸顔九輪草 中川ゆうじ
野仏の一重まぶたに木の実降る 松尾悦子
野仏の前いらむしに螫されをり 加藤楸邨
野仏の合掌に雪舞ふばかり 前川 実
野仏の影かたぶきぬほとけのざ 田辺博充
野仏の指の先まで良夜かな 木庭布佐江
野仏の指欠け村の冬構 中井之夫
野仏の欠けた鼻鳴る一人旅 南出好史
野仏の片頬照らす十三夜 山本英昭
野仏の石となりゐて日脚伸ぶ 渡部幸枝
野仏の空昏れいろに寒卵 久行保徳
野仏の糸引くお目や曼珠沙華 野村喜舟
野仏の胸当て寒き二月かな 上田俊二
野仏の蓑あらためて鍬はじめ 尾田青城
野仏の蔦紅葉して奈良井宿 黒柳春江
野仏の赤き前垂れ山眠る 古田芳子
野仏の足元つつむ草紅葉 福嶋照子
野仏の遠目とろりと目借時 土肥原澄子
野仏は口あけたるがよし赤のまま 信童二
野仏へ接骨木芽吹く塩の道 葛西節子
野仏や夕雲あそぶ松の涼 河野南畦 湖の森
野仏をいたはるごとき冬日かな 横山嘉子
野佛に石置く二月礼者とて 中村祐子
錦木や野仏も夜を経たまひぬ 森澄雄
風光る石を出られぬ野仏に 榎本冬一郎
麦踏のゆきき野佛のふところを 田中菅子
あだし野の仏にこぼす松手入 山田弘子 懐
ひるがほや童顔似たる野の佛 小澤満佐子
まゆ玉の一枝添へたり野の仏 牛山一庭人
乳せがむ風が吹く夜の野の佛 内田利之
仲秋の陽がしみとほる野の仏 加藤青圃
冬ざれや乾ききったる野の仏 高橋重男
初蝶に逢いて光りし野の仏 九鬼重子
天竺や小松引く野の仏だち 藤野古白
春雷やあそび出でたる野の仏 山根和子
枯深し声を持たざる野の仏 河野南畦 湖の森
燭ひとつ貰ひ良夜の野の仏 猿橋統流子
秋風や石にうすうす野の仏 藤岡筑邨
秋風や膝の高さの野の仏 毛塚静枝
竜の玉膝つき拝む野の仏 福島裕峰
萌えいづるものの中なる野の仏 高田ときわ
逝く春の影やはらかし野の仏 池田雅水
野の仏と語る嵯峨野の雪の声 橋本夢道 『無類の妻』以後
野の仏へくそかづらを着飾りて 石田あき子
露涼しついで詣りの野の仏 荒武 蕾
●野水
末枯や野水に映る梅嫌 菅原師竹句集
枯囲む野水を鳥の帰るなり 右城暮石 声と声
残照のいづこの野水鴨のこゑ 百合山羽公 故園
眺めやる野水の行方春浅し たかし
石狩の野水ゆたかに初あらし 石原舟月 山鵲
霧罩めて野水はげしや黍の伏し 飯田蛇笏 山廬集
音高き春の野水に歩をとゞめ 高浜虚子
馳せちがふ野水のひかり鴨帰る 羽公
鳧の子を野水にうつす植女哉 加舎白雄
みだれたるわが銀の髪さへも淡く映して野の水氷る 山下陸奥
トキソウに浮野の水のひびくなり 落合水尾
初東風の野の水のにごりみせたり 原田種茅 径
夕日さす元日の野の水緊り 原裕 葦牙
夕狩の野の水たまりこそ黒瞳 金子兜太 暗緑地誌
手押喞筒花野の水のつめたさよ 川崎展宏
春の野の水とろとろと沼に入る 今井杏太郎
曼珠沙華燃えはてし野の水澄めり 西島麦南 人音
枯野の水に魚のぼりゐたりけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
船小屋のありて枯野の水添へる 瀧春一 菜園
若菜野の水に沿ひゆく郵便夫 秋篠光広
菜を洗ひ冬野の水を皺にする 古館曹人
萌ゆる野の水通はせて飛鳥寺 大石悦子 群萌
遠光りする野の水や返り花 亜浪
野の水となりて花野を奔るなり 谷野予志
野の水の澄む日もあらぬ霞かな 岡本松浜 白菊
鳥の影つぎつぎ花野の水を過ぎ 川崎展宏
●野守
ひるすぎの野守は水や遠花火 桑原三郎 春亂
冬灼けて秀立つ野守の一つ杉 小松原みや子
十六夜の闇をつなぐや野守の火 十六夜 正岡子規
妻も子も榾火に籠る野守かな 白雄
春は大和にわれ半日の野守かな 後藤綾子
春日野に野守の妻の子日哉 子の日 正岡子規
枯尾花野守が鬢にさはりけり 蕪村遺稿 冬
柳絮とび野守の池と聞くあはれ 菅沼玲胡
母にどこか似たる八十路の花野守 古賀まり子 緑の野以後
甘酒に佗ふる野守の鏡かな 尾崎紅葉
紅咲くや野守に見ゆる戀はせじ 筑紫磐井 野干
芋の露野守の鏡何ならん 炭 太祇 太祇句選後篇
花守は野守に劣るけふの月 蕪村 秋之部 ■ 鯉長が醉るや、嵬峩として蜻蛉や草取り飽きし別野守 雉子郎句集 石島雉子郎
見に行かん野守の鏡星月夜 古白遺稿 藤野古白
踏青や野守の鏡これかとよ 松本たかし
野守きて端に参じぬ菜種御供 加藤三七子
野守など見ぬ現し世の若菜摘み 山口 速
野守の頬かすめし月の霙かな 宮武寒々 朱卓
野守濡れひらかぬ唇となりにけり 攝津幸彦
飛火野は今も野守のをりて焼く 後藤夜半
●野屋
●野藪
●野山
いつまでも明るき野山半夏生 草間時彦
うら~と野山につゞく遍路かな 比叡 野村泊月
うりずんへ一気に駆ける野山かな 小橋川恵子
しづかなる野山の晴れや昇天日 竹田哲「鉄神父俳句集」
たゝかひのあとを野山の錦かな 野山の錦 正岡子規
にほどりや野山の枯るゝ閑けさに 日野草城
ふるさとの野山日々恋ふ脚気かな 藤田桐泉
りょうらんと春の野山を着ていたり 岸本マチ子
クレソンの沼につづける大花野 山田弘子 螢川
ノートとる月の野山の学生達 阿部完市 絵本の空
不器男忌の過ぎし野山の初桜 草間時彦
九重を中に野山のにしきかな 蓼太
二日見ていかさま花のよし野山 高井几董
佐保姫のちぎり絵ならむ野山かな 伊藤瓔子
八百万神々迎へ野山燦 石原今日歩
冬雁に野山応へず過ぎにけり 草間時彦 櫻山
名月や野山をあしのつづくまで 江戸-太大 俳諧撰集「有磯海」
大兵の野山に満つる霞かな 霞 正岡子規
大和植物志の野山冬霞 高繁泰治郎
大晴の野山光れる蛙かな 楠目橙黄子 橙圃
大雪の鴉も飛ばぬ野山哉 雪 正岡子規
小春とはしぐれせぬ日の野山かな 此路 選集古今句集
小火のごと四方の野山の錦かな 高澤良一 寒暑
峰入りやおもへば深き芳野山 白雄
廬をさせば野山のにしきさしそめぬ 飯田蛇笏 春蘭
御盛儀に日本野山の錦せる 長谷川かな女 雨 月
悲しさや狩のあとなる野山とて 尾崎迷堂 孤輪
懐旧の野山の色を眉間にし 長谷川かな女 花 季
懸巣飛び野山の錦ゆるがする 本川晴代
打ち晴れて野山の錦明日も旅 北川左人
新幹線通る野山の錦かな 川井 梅峰
日暮れては野山相寄る龍田姫 児玉南草
早苗田となりて野山の今朝やさし 青柳志解樹
春たちてまだ九日の野山かな 松尾芭蕉
春めきし野山消え去る夕かげり 高浜虚子
春立ちてまだ九日の野山哉 松尾芭蕉
春風の野山をわたる雲の影 中勘助
昼寝覚む車窓を野山逆行して 右城暮石 上下
晩霜の野山くつきり在りにけり 草間時彦 櫻山
月たかく大暑にくらき野山かな 京極杜藻
月照りて野山があをき魂送り 橋本多佳子
月高く大暑にくらき野山かな 京極杜藻
海よりも野山に降りてこそ緑雨 檜紀代「木染月」
涼しくも野山にみつる念仏哉 向井去来
涼しさの動く野山の緑かな 涼し 正岡子規
涼しさの野山に満つる念仏かな 去来「去来抄」
漁樵たえげにはつかすむ野山かな 飯田蛇笏
灌仏の野山は日和尽しけり 服部嵐翠
父の墓野山の青き中に立つ 山口波津女 良人
病むことも伴侶か野山色づきて 赤尾兜子
相乗りのふらここ野山へ漕ぎ出せる入 和田政子
眼つむれば今日の錦の野山かな 高濱虚子
稲妻のあとは野山もなかりけり 内藤鳴雪
空さむく野山のにしき神聳ゆ 飯田蛇笏 霊芝
美の神の織れる野山の錦かも 猪子水仙
花裹にさざめき野山見はるかす 原裕 青垣
芳野山又ちる方に花めぐり 去来 三 月 月別句集「韻塞」
荼毘の火に野山の錦きはまりぬ 山口峰玉
蕗味噌をふくみ野山にゐるごとし 広田とよ子
行春の紅はげる野山かな 行く春 正岡子規
裏白や野山歩きし今朝の夢 滝井孝作 浮寝鳥
起ふしに眺る春の野山かな 闌更
近々と火星が燃ゆる夜の花野 山上みさゝ
都出て行けば野山の錦哉 野山の錦 正岡子規
野の錦山の錦は繪の錦 野山の錦 正岡子規
野の錦昼の葬礼通りけり 野山の錦 正岡子規
野山にもつかで昼から月の客 内藤丈草
野山の色に眠れぬ旅となりにけり 長谷川かな女 雨 月
野山焼く頃や足にも二日灸 二日灸 正岡子規
野山獄址寒しひと筋冬日射し 岡部六弥太
銀漢や野山の氷相さやり 窓秋
除夜の灯のどこも人住む野山かな 渡辺水巴 白日
雨ながら露に明け行く野山哉 露 正岡子規
雨を呼ぶ紫よ黄よ大花野 山田弘子
雨晴れて春の日光る野山かな 春日 正岡子規
雪の不尽その外は花の芳野山 花 正岡子規
雪の果これより野山大いに笑ふ 高浜虚子
雪夜寝て四囲を海とも野山とも 大串章
雪晴や野山ひかりの鬨あぐる つじ加代子
霰かな野山の真言聴き居れば 河原枇杷男 訶梨陀夜
青陽や野山に物の湧きて来る 涼菟
風染し野山の錦風畳む 長山あや
飛倉は野山の錦一っ跳び 高澤良一 鳩信
首相放送野山の色をゆるがしぬ 長谷川かな女 雨 月
鬼灯や野山をわかつかくれざと 久保田万太郎 草の丈
鯉つづきめぐりて野山錦せり 飯田蛇笏 春蘭
鴨たてゝ再びねむる野山かな 前田普羅 能登蒼し
鵙の来て一荒見ゆる野山かな 蓼太
鶴引きし野山に春の雲一朶 冨田みのる
龍吐水の音だけ 書野山 正月 伊丹公子
●野良
うきうきと春の日除けの野良帽子 影島智子
うすものに隠せど野良の香もありぬ 影島智子
こむらのみ凛々しく夕焼野良帰り 香西照雄 対話
これやこのつむりめでたき野良蚕 飯田蛇笏 山廬集
ぬぎ捨てし母の野良着の蝗かな 明石 茂子
上州の風ひりひりと野良の梅 松本たかし
人遠く胡麻にかけたる野良着かな 飯田蛇笏 山廬集
今朝着けし野良着干さるる盆の寺 橋本 逍月
体内の菜の花明り野良着きて 静塔
冬耕や柿澁染の野良衣着て 嶋 玲子
分かち合ふ野良の昼餉や笹子鳴く 芝 哲雄
分家して野良の一つ家夏灯 百合山羽公 寒雁
南洲の野良着涼しく大いなる 堀口星眠 青葉木菟
喝采のごと花を浴ぶ野良帽子 影島智子
四五人は野良着のままや施餓鬼寺 藤原香雲
夏草は虫の日傘よ雨傘よ 野良(古志)
夕焼に定年のなき野良着脱ぐ 酒匂君江
夕顔に隠れ野良着を脱ぎはじむ 影島智子
女杣野良着でひらく草の市 矢野愛乃
手拭もときに野良帽駒鳴けり 影島智子
招かれし野良着のままのむかご飯 宮川 斗潮
振上ぐる鍬の光りや春の野良 杉風
故郷の野良打つ音して鍬形虫 ひらきたはじむ
日々野良にゐて悪友の帰省待つ 佐野まもる
月おぼろ野良着のままに湯を貰ふ 佐川広治
月と日の出てゐる野良の十二月 三枝青雲
朝日涼し野良着も蠅も縞模様 香西照雄 対話
柴栗の破顔一笑野良着干す 今井茅草
梅咲いて紺の野良着がよく似合ふ 石川文子
海外を知らねば広き秋の野良 百合山羽公 寒雁
海女にして野良着の紺や小六月 大串章
湯たんぽ沸かす痩せし野良牛一頭立ち 金子兜太
溜の屋根に脱いである野良着春さき 梅林句屑 喜谷六花
烏瓜野良着をまとひ惑ひなし 成田千空 地霊
燕来る野良着の妻が水跳べば 大熊輝一 土の香
爽籟や峡二十戸の野良日和 佐藤古城
玉虫や野良着ばかりの我が箪笥 塩見蛙子
田遊に野良焼けの顔揃ひけり 関森勝夫
畦焼きのけむり沁みたる野良着脱ぐ 吉野トシ子
畦焼の終りし野良に人見えず 高浜年尾
白猫へ恋の一瞥野良の猫 大脇良子
百姓は野良着のまゝや親鸞忌 久我清紅子
空風の道ゆくは野良人ばかり 太田鴻村 穂国
竃に稲架の匂ひの野良着干す 坂内佳禰
立春大吉野良はきのふと変りなし 百合山羽公 寒雁
笹鳴や野良着にもある好き嫌ひ 影島智子
糸とんぼ野良着干しある石の上 岡部幸子
花冷や手櫛にて足る野良の髪 影島智子
花柊野良着に小さき身八つ口 川島千枝
茄子の紺緊り野良着の中学生 飴山實 『おりいぶ』
蕎麦も見てけなりがらせよ野良の萩 松尾芭蕉
蛍飛びそめしに野良着まだ脱がず 石井とし夫
行き来せる野良人花にかゝはらず 上村占魚 鮎
野を焼きし野良着の匂ひ妻と脱ぐ 中島双風
野良からも手がきて梅の茶のけぶり 木津柳芽 白鷺抄
野良で食ふ日の丸弁当天高し 小池秋々子
野良で飲む生水うまし雲の峰 影島智子
野良にゐる姉を手伝ふ岐阜提灯 原田ゆふべ
野良に先づ礼して初日出るを待つ 佐藤鬼房
野良に出る朝はかゝせぬ根深汁 山本魚石
野良の父に蓑持ちゆくや春の雨 比叡 野村泊月
野良の鳶燦々と年送りをり 百合山羽公 寒雁
野良は早苗ふし立にけり莚織 宗也 選集「板東太郎」
野良へ出て閉ざしてありぬ野蒜の花 田中冬二 行人
野良よりの帽子に*ささげ入れ戻る 奥沢竹雨
野良帰る農婦等間遠き虹 平井さち子 完流
野良帽に黄色いリボン日雷 影島智子
野良疲れ五月闇より深眠る 影島智子
野良疵に舅もつけたる蝮酒 影島智子
野良疵を夫に話さず夕端居 影島智子
野良癖となりし手拭茶の木咲く 冬の土宮林菫哉
野良着など繕ひ終へて春支度 今井三千寿
野良着の背褪せぬ日を得て野菊色 香西照雄 対話
野良着干す夜風の甘し花みかん 松尾千代子
野良着脱ぎ神楽の足袋を穿きにけり 佐川広治
野良着脱ぐや妻の下着の春白妙 香西照雄 対話
野良納めして松高き百姓家 百合山羽公 寒雁
野良飯や脛に飛びつく青蛙 櫻井土音
霜来り護符の白さに野良の富士 百合山羽公 寒雁
髪切つて白き野良帽聖五月 影島智子
鳥は草は何やら彼やら秋の野良 眉山
麦埃はたき野良着のまま水仕 岡本明美(雲の峰)
麦熟れて野良に明るさひろげけり 安原春峰
●氷原
ただ氷原 時間飛びゆく 光りながら 伊丹公子 アーギライト
恐竜は何処だ 氷原の粗目(ざらめ)のうえ 伊丹公子 アーギライト
氷原に 雲影 鳥影 交叉して 伊丹公子 アーギライト
氷原に没る太陽の紅からず 村上冬燕
氷原に珈琲こぼす なにの標 伊丹公子 アーギライト
氷原に鷲来て吾の生身欲る 津田清子(1920-)
氷原の果てに白夜の影引かず 合田丁字路
氷原の氷の塊のみな影引く 古館曹人
氷原を白き貂ゆく光あり 長谷川櫂 天球
船客に四顧の氷原街見えず 山口誓子
●平原
噴水を置く平原へ続く道 対馬康子 愛国
平原にあり漆黒の椿の実 対馬康子 吾亦紅
平原の夜涼にたへて妻立てり 田村了咲
広々と続く平原棉の花 一田牛畝
涸れ果てて平原や風透きとほる 小池文子 巴里蕭条
●平野
あけぼのや蝶生まれ継ぐ伊勢平野 橋本輝久
しやぼん玉散つて天北平野かな 木村照子
ときには海を全身で見たい伊勢平野 加藤一郎
ひとり来て庄内平野に浮苗挿す 石川文子
ひもときし平野雑記や恒友忌 阿部みどり女
もんから火大もんから火佐賀平野 安部伴女
わらぼつちここも庄内平野かな 鈴木和子
一望の刈田平野や春日山 佐藤三男
今生の鳥の涙涙たる平野よ 小川双々子
切り貼りの石狩平野麦熟るる 松倉ゆずる
刈り終へて越後平野に籾焼く火 佐川広治
十万石の程は刈られて加賀平野 松倉ゆずる
古都に住む身には平野の御行かな 名和三幹竹
夏がすみ平野俯瞰図展けくる 佐野良太 樫
小さい駅については汽車が平野を走っては夏の日 大越吾亦紅
平野より山へ杏の花粉見に 田川飛旅子
平野平水花はもう過ぎし梨の木 中塚一碧樓
暗い平野仕事の聲で僚(とも)確かめ 鈴木六林男
来信や平野に植田ゆきわたり 北村美都子
枯畳の平野石狩朱の鷹とぶ 寺田京子 日の鷹
桑枯れて山と平野と噛みあへり 川島彷徨子 榛の木
残雪平野馬首をかえせば酸味の河 安西 篤
渡り鳥人住み荒らす平野見え 矢島渚男 船のやうに
田代掻く越後平野に来てゐたり 佐川広治
白鳥と六尺隔つ平野かな 齊藤美規
百万石の庄内平野春兆す 粕谷容子
皺の父越後平野に線を引く あべすぐる
眠そうな近江平野のいぼがえる 小町圭
秋風や伊勢の平野の葬り鉦 村田治男
稲刈らる越前平野を丸刈りに 堀 康子
稲刈機越後平野の黒き点 小松崎二三江
花過ぎし篝平野家夜空濃き 渡邊水巴 富士
草矢打てば仙台平野傾けり 菅野茂甚(小熊座)
藁塚から夜明け鶏鳴く佐賀平野 山崎明子
藺田青き築後平野や武者幟 中邑礼子
越後平野雪の真柱たちにけり 小島千架子
阿波平野をとこの腰の藍植うる 今田清照
雁わたるむかひは平野久法寺 山店 芭蕉庵小文庫
電柱の/キの字の/平野/灯ともし頃 高柳重信
露の道しんと庄内平野かな 斉藤夏風
飛魚の羽ごと買われゆく平野 対馬康子「愛国」
鳥渡る播州平野音もなし 西村和子 かりそめならず
鶸飛べり出雲平野の春の雷 葛井早智子
麻の芽や栃木平野の東風強し 高橋淡路女 梶の葉
●松原
しかるべき松原も有りむめの花 如行 俳諧撰集「有磯海」
しくるゝや松原通る馬の鈴 時雨 正岡子規
つのくにの角の松原つのの芦 椎本才麿
はる~と越の松原ひと涼み 尾崎紅葉
ひさかたの松原くらし海蘿掻き 軽部烏帽子 [しどみ]の花
もののふの千本松原走り梅雨 川崎展宏
やくそくのときところともしびいろ松原 阿部完市 にもつは絵馬
八栗嶺の松原尾根の遍路みち 高濱年尾 年尾句集
初凪の宇多の松原うちつれて 下村梅子
千木の松原を背に牛冷す 岡田波流夫
千本松原冬鷺が過ぎ風が過ぐ 原子岱子
千鳥なく三保の松原風白し 千鳥 正岡子規
原松原きつねの一年晴れている 阿部完市 春日朝歌
夕千鳥松原越えて浜移り 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
女客入りし門なる鳥総松 原コウ子
学内にのこる松原学士鍋 河野静雲
指さゝれ宇田の松原青田越し 高濱年尾 年尾句集
春しぐれ虹の松原砂丘越え 石原八束 空の渚
春の夜の三保の松原煙たつ 春の夜 正岡子規
春風や三保の松原清見寺 鬼貫
曙の松原行くや鉢叩 蘇山人俳句集 羅蘇山人
松の花この松原も老いにけり 河野静雲 閻魔
松原にとまる電車や冬の月 銀漢 吉岡禅寺洞
松原に体の重みかけている 永末恵子 留守
松原に富士置く浦や鰯引 迷堂
松原に稲を干したり鶴の声 椎本才麿
松原に葭原ありて行々子 河野静雲 閻魔
松原に雪投げつけんふじ詣 富士詣 正岡子規
松原に風を残して塩干かな 風国 三 月 月別句集「韻塞」
松原の中から見えて春の海 春の海 正岡子規
松原の事よく知れり松露掻 池内たけし
松原の朧の月に別れけり 蘇山人俳句集 羅蘇山人
松原の松のちいさし鰯引 松藤夏山 夏山句集
松原の果てしを秋日暮れにけり 金尾梅の門 古志の歌
松原の秋ををしむか鶴の首 一茶
松原の見こしに白し雪の山 雪 正岡子規
松原の角の海辺の競べ馬 田村奎三
松原の通ひ路来れば砧かな 乙字俳句集 大須賀乙字
松原へ人を誘ふ春の蝉 乾燕子
松原へ波うち返す盆芝居 亀井朝子
松原へ雪投げつけんふし詣 富士詣 正岡子規
松原や夕ベの過ぎて春の月 尾崎迷堂 孤輪
松原や時雨せぬ日も冬の音 杉風
松原や松の梢の秋の暮 尾崎迷堂 孤輪
松原や荷ひつれたる桜鯛 桜鯛 正岡子規
松原や闇の上行く冬の月 古白遺稿 藤野古白
松原や黒津の里の高燈籠 草間天葩
松原を出つ入りつして月見哉 月見 正岡子規
松原を横にはひ行く月も哉 月 正岡子規
松原を水の果に花御堂 宇佐美魚目 天地存問
松原を過ぎて菜の花三里かな 円谷枯山
松露掻見かけし三保の松原に 池内たけし
桜貝拾へり虹の松原に 大坪貞子
残照の松原遠き余寒かな 金尾梅の門 古志の歌
比良の八講松原に猫が出て 岡井省二
江を横に露の松原やしぐれあと 古白遺稿 藤野古白
海かけて気比の松原虹立てり 大橋櫻坡子 雨月
濤おぼろ慶野松原恋ひくれば 井桁蒼水
煤掃や日の当りたる庭の松 原石鼎
爽かや気比の松原人に逢はず 森田峠 避暑散歩
犬つれて松原ありく月見哉 月見 正岡子規
甘藷を掘る三保の松原に尻立てて 古館曹人
真青な松原被害者は鶴つれ 阿部完市 春日朝歌
秋乾くけしきや御油の男松原 濱田正把
秋晴の松原にいま舟は沿ひ 五十嵐播水 埠頭
網さらす松原ばかりしぐれかな 素堂
老鶯や磯松原に流人の碑 高橋淡路女 梶の葉
落葉松原四方にせめぎて朧なり 堀口星眠 火山灰の道
虹の松原色なき風のめぐりをり 島野美穂子
虹立ちて三保の松原日当れり 京極杞陽 くくたち下巻
身に沁むや青森椴松原生林 高澤良一 寒暑
雨も春三保の松原遠滲み 西本一都
雷鳥消ゆ這松原はみぞれ待ち 松村蒼石 春霰
露しぐれ檜原松原はてしなき 蝶夢
●焼野
あたたかき焼野の端を踏みにけり 大石悦子 群萌
あら雨に鴇いろにじむ焼野かな 宮武寒々 朱卓
うしろより雨の追ひ来る焼野かな 大魯
かけまはる夢や焼野の風の音 上島鬼貫
きのふも焼けふも春日野焼にけり 焼野 正岡子規
さびしげに白雲わたる焼野哉 焼野 正岡子規
しののめに小雨降り出す焼野かな 蕪村
しのゝめに小雨降出す焼野哉 蕪村 春之部 ■ 几董が蛙合催しけるに
そほふるや焼野の石に雀鳴く 焼野 正岡子規
そぼふるや雉の走る焼野原 焼野 正岡子規
だしぬけに日のさしてきし焼野かな 成瀬桜桃子
どこからか道の来てゐる焼野かな 鷲谷七菜子
なつかしや焼野沿ひなる飛鳥川 尾崎迷堂 孤輪
ぬくみある焼野の径を戻りけり 関根きみ子
はや草の息吹の包む焼野かな 阿部誠文
はればれと焼野の匂ふ芹小鉢 野澤節子 『八朶集』
ひとり行く曾爾の焼野の芒径 田畑美穂女
ほくほくとつくしのならふ焼野哉 土筆 正岡子規
みどりごは焼野にめつむり羽毛を降らす 夏石番矢
をさな子の母呼び返す焼野哉 焼野 正岡子規
一面に霜のふりたる焼野哉 寺田寅彦
下駄はいて行くや焼野の薄月夜 焼野 正岡子規
冬めくや焼野いつまで藜立ち 小林康治 四季貧窮
古めきて月ひかりいづ焼野かな 飯田蛇笏 山廬集
堰の水用ふると無き焼野かな 尾崎迷堂 孤輪
塔に眼を定めて黒き焼野ゆく 西東三鬼
墨滲むごとく焼野となりゆけり 川島朗生
夕暮の雨や焼野の匂ふまで 小杉余子 余子句選
夢の景とすこし違へる焼野かな 能村登四郎 有為の山
大焼野ゆく月面を歩くごと 平田倫子
大焼野風も煤けてをりにけり 村田たかし
山伏の貝吹き通る焼野かな 吉武月二郎句集
山鳥と小松の残る焼野かな 伊賀-洞木 俳諧撰集「有磯海」
我もいざ焼野の雉に音をそへん 雉 正岡子規
旅にして坐洲船の灯を見し焼野 宮武寒々 朱卓
旅人の焼野に迷ひとげを踏む 焼野 正岡子規
旧道や焼野の匂ひ笠の雨 漱石
星空のすぐ降りて来る焼野かな 山崎満世
昼ながら月かゝりゐる焼野かな 原石鼎
月いよいよ大空わたる焼野かな 飯田蛇笏 山廬集
月・雪・花そしてときどき焼野が原 池田 澄子
森冷えのひろごる焼野夕べかな 冬葉第一句集 吉田冬葉
業障の茨焼けゝる焼野かな 尾崎迷堂 孤輪
橋なかばより遥かなる焼野見ゆ 古田慶子
橋一つ置てどちらも焼野哉 焼野 正岡子規
母の背に匂ふ焼野は暗かりき 橋間石
湧蓋山頂に雪焼野統ぶ 穴井湧峰
火は見えで黒く広がる焼野かな 高浜虚子
焼けながら黒き実残る野の葎 焼野 正岡子規
焼残る広野の中の地蔵哉 焼野 正岡子規
焼野から焼野へわたる小橋哉 焼野 正岡子規
焼野の橋渡る別居の妻が見ゆ 細川加賀
焼野より翔ちし白鷺汚れもせず 野澤節子 『八朶集』
焼野匂へり/遠く//性欲花のごとし 林 桂
篠消えて焼野の灰となりにけり 雑草 長谷川零餘子
草に置く身も安からぬ焼野かな 樗良
赤き雲焼野のはてにあらはれぬ 坂本四方太
越えわびて淋しうなりし焼野かな 白雄
道芝のくすぶつて居る焼野かな 碧梧桐
野は焼けてすつくり高し一里塚 焼野 正岡子規
野は焼けて茨の中の卵かな 焼野 正岡子規
野を焼く火木立の中に燃え入りぬ 焼野 正岡子規
野辺焼くも見えて淋しや城の跡 焼野 正岡子規
雉子の声あらはに悲し焼野原 焼野 正岡子規
雪濁り焼野のすゑに来りけり 松瀬青々
馬士帰る焼野の月の薄寒き 焼野 正岡子規
髪長き女よ焼野匂い立つ 西東三鬼
麦踏んで帰る焼野のかまいたち 中拓夫 愛鷹
●藪原
藪原に妙喜天と遊ぶ静けさ 安井浩司 乾坤
藪原に風こもるなり神の留守 能村登四郎
藪原の風のむかごを摘み歩く 長谷川櫂 天球
藪原や処もしらず鐘霞む 松瀬青々
藪原や蚊帳をめぐる山の雲 蚊帳 正岡子規
●沃野
放牧にチューリップ咲く沃野あり 岩崎照子
沃野千里雨乞すべき山を見ず 木戸解剣
秋雲の下に広ごる沃野かな 西村和子 窓
行く雁の声の豊かに沃野かな 依田秋葭
●燎原
燎原の火か筑紫野の菜殻火か 川端茅舎
燎原の火に菜殻焼く人の影 小原菁々子
麦を焼く燎原の火は夜を匐へり 石原八束「仮幻」
●緑野
α β γ 緑野の鴉 津田清子
きさらぎや見えざる緑野にひしめき 相馬遷子 雪嶺
地平大円緑野に細き煙一條 加藤耕子
緑野ふかく来て白昼を眠りけり 北原志満子

以上

by 575fudemakase | 2022-05-22 15:02 | ブログ


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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