山頂・山道・麓 の俳句
山頂・山道・麓 の俳句
●青嶺
いつの世も青嶺ぞ立てる盆支度 藤田湘子 途上
かくばかり父の恋しさ夜の青嶺 寺井谷子
ぐいぐいと青嶺引き寄せ旅はじめ 山崎千枝子
ここすぎて蝦夷の青嶺ぞ海光る 角川源義 『神々の宴』
しんがりにも細き道あり遠青嶺 鍵和田[ゆう]子 未来図
ためしたき山彦青嶺ま近なり 朝倉和江
どこ見ても青嶺来世は馬とならむ 村越化石
ひむがしや青嶺つづき宇陀郡 井浪立葉
ふるさとの青嶺に外すサングラス 宮本はるお
みちのくの青嶺はじまり道曲る 角川源義
むささびの声聞く青嶺泊りかな 小林和子(橡)
わがものとして裏山の青嶺聳つ 斎藤玄 雁道
わが立てる青嶺に青嶺続きゐて 右城暮石 上下
をみなへし信濃青嶺をまのあたり 大野林火
イザヤ書の語や凜々と遠青嶺 大谷利彦
コスタリカ旗翩翻青嶺よりの風 大橋敦子
シャワー熱し八甲田山いま青嶺 鈴木鷹夫 風の祭
テスト終ふ青嶺全身映りけり 宮坂静生 雹
ドライブイン四方の青嶺に見下ろされ 高澤良一 随笑
ハンモック青嶺の底へ髪垂らす 中島斌雄
ロープウェイ迫る青嶺に息こらす 大谷秀子
一野猿逃げて残れる遠青嶺 吉田紫乃
七月の青嶺まぢかく溶鑛爐 山口誓子
三山の青嶺の奥に青嶺聳つ 大石壮吾
三泊して雲湧かす青嶺の襞知りぬ 中戸川朝人 残心
九十年へて鍋山も青嶺かな 福田秩父
仰ぐかぎり梅雨の青嶺や小海線 古賀まり子 緑の野
六月の青嶺をちかみ雨のひま 石原舟月 山鵲
六月の青嶺仏相嶽鬼相 西本一都 景色
切り出してここら青嶺の水利権 高澤良一 ぱらりとせ
北上川越えたる青嶺明りかな 下鉢清子
双眼鏡合はす青嶺の一点に 池田秀水
句碑もまた合掌造り遠青嶺 都筑智子
句碑洗ふ青嶺にこだま返しては 長山遠志
句碑生れぬ佐久の青嶺も袖つらね 古賀まり子 緑の野以後
吊皮に足踏んばつて青嶺見る 加藤真名子
向日葵の向きかはりゆく青嶺かな 篠原鳳作 海の旅
吾子死にし青嶺ゆ光雲ひよこ色 香西照雄「素志」
土蔵に青嶺の群るる桑照りぬ 桂樟蹊子
夢踏んでさらに遠のく青嶺かな 小山大泉
大杉に透き重畳の青嶺かな 大橋敦子 匂 玉
大青嶺雲もろともに立ちあがる 井沢正江 湖の伝説
天涯に青嶺むらがり牡丹園 桂樟蹊子
天矛の滴りの山みな青嶺 山口誓子 不動
妻に買ふ青嶺泊りの首飾り 山下一冬
子の目にも梅雨終りたる青嶺立つ 谷野予志
字を思ひ出すため遠き青嶺見る 角光雄
安住す青嶺全きふるさとに 松倉ゆずる
尺蠖の青嶺はかるや句碑の前 角川源義
屋根の上をわたる青嶺や朴の花 田村了咲
屋根替の大声がとぶ青嶺晴 鵜飼直子
川ぐいと曲る青嶺を巻き込みて 高澤良一 随笑
巫女舞の扇の先の青嶺かな 佐野典子
師のほかに師はなし青嶺星ひとつ 小澤克己
師の句碑の成るや火山に青嶺侍す 杉本寛
形代の襟しかと合ふ遠青嶺 能村登四郎 幻山水
悠々と暮れて青嶺のいま黒嶺 高澤良一 随笑
押し迫る青嶺や羆棲息地 高澤良一 燕音
振りて買ふ鈴よ青嶺に雲生まる 宮坂静生 雹
振り向けば帰郷なり遠青嶺 尾田明子
掛茶屋のうらは青嶺や滝祭 田村了咲
放牧の牛見当らず青嶺村 長田等
故里の青嶺さびたり鰻食ふ 細見綾子 黄 瀬
旅の身のいづく向くとも青嶺のみ 菖蒲あや
旅自慢などしてバスは青嶺越え 高澤良一 随笑
日や月や青嶺三日を妻と旅 鈴木鷹夫 春の門
明方の夢が尾をひき青嶺聳つ 本村蠻
昼ふかき青嶺の鬱を道の神 猪俣千代子 秘 色
昼月の青嶺さびしき柿の秋 内藤吐天 鳴海抄
普陀落へ雲翳移る青嶺ばかり 鈴木六林男
望郷の山振り向けば青嶺聳つ 豊長みのる
朝の虹立ちかはりたる青嶺かな 五十崎古郷句集
木曾青嶺お茶壺さまのお通りよ 杉本寛
松伐つて青嶺は傷の深々と 青木重行
梅雨の鳥ひとに似て啼く青嶺かも 飯田蛇笏 雪峡
正面に風三樓忌の青嶺聳つ 池田秀水
母いつも手庇をして青嶺見し 長谷川双魚 『ひとつとや』
母の名を指呼の青嶺に呼びかける 両角津也子
水無月や青嶺つゞける桑のはて 水原秋櫻子「葛飾」
水論に青嶺湧き立つ負けるなよ 加藤かけい
泥まみれなる飲食に青嶺聳つ 飯田龍太
浮雲をあつめて遠き青嶺かな 両角津也子
海原に聳える青嶺神島は 塚腰杜尚(天狼)
渥美夕山青嶺を海のかなたにす 太田鴻村 穂国
湯どころの青嶺をくだりくる湯樋 皆吉爽雨 泉声
湯に立つや青嶺に礼をする如く 川崎展宏
滴りて青嶺を指せる洋傘の尖 加藤楸邨
父に肖るはさびしからねど青嶺聳つ 友岡子郷 日の径
牧柵の白き一条青嶺より 太田土男
瑠璃啼いて青嶺閃く雨の中 秋元不死男
生涯の竹刀青嶺に向きて振る 梶山千鶴子
田沢湖は青嶺の間に手窪ほど 高澤良一 素抱
由布青嶺翳ればかげる寺三和土 岸原清行
男に咲く発破青嶺を噴きあげて 加藤知世子 花寂び
疎の村の青嶺こだまに機を織る 河野南畦 湖の森
白鷺城掌中にして青嶺峙つ 伊東宏晃
的立てて青嶺に対す洋弓部 桂樟蹊子
硬山の青嶺と顕てり廃坑史 阿部いく子
神が世をつくりしままの青嶺かな 梅木蛇火「大山蓮華」
稚い睾丸青嶺へ見せてさびしい牛 井沢子光
空にあふるる青嶺描くに画布たりず 今瀬剛一
立山は七重の青嶺雲を率き 佐藤こう一
紙漉唄ありて青嶺の富める村 神尾久美子 桐の木
繭を煮る老婆に青嶺より微風 福田甲子雄
置いて来し子の眉なすや遠青嶺 猪俣千代子 堆 朱
羽後牛のステーキ青嶺滴るに 高澤良一 素抱
老鴬や青嶺折々雲の上 徳永山冬子
聖母月青嶺青潮あひ響き 伊丹さち子
職も青嶺も癒えねば遠し簾の内 小檜山繁子
胸の上に青嶺来てをり急行車 猪俣千代子 堆 朱
船笛に青嶺引寄せ接岸す 袴田君子
花あけび垂れて青嶺を傾かす 松本 進
花火野郎青嶺の肝を抜き来しと 高澤良一 ねずみのこまくら
蔵を引く転(ころ)や青嶺がどこからも 宮坂静生
蜩や奥の青嶺にうちひびく 水原秋桜子(1892-1981)
蝦夷青嶺肩寄せて守る湖の艶 高澤良一 ねずみのこまくら
裏返る蟇の屍に青嶺聳つ 飯田龍太
西方にあぶくま青嶺句碑開眼 金丸鐵蕉
語尾に光つて杖雲上の青嶺を指す 加藤知世子 花寂び
踏切りいつも生きねばならぬ青嶺見ゆ 寺田京子 日の鷹
轆轤引く指呼に青嶺の帆を張りて 関森勝夫
造船の鉄の音飛ぶ青嶺かな 谷角美砂(湾)
遠青嶺円空仏に鳥の貌 鈴木恵美子
遠青嶺師の墓山に対ひ峙つ 伊東宏晃
遠青嶺煽りて岳の大幟 町田しげき
釣竿を青嶺に向けて川漁師 高澤良一 随笑
鉾杉の鉾を重ねて青嶺なす 山口誓子 紅日
雲ふつと青嶺離るは子のごとし 東城伸吉
雲青嶺母あるかぎりわが故郷 福永耕二
霜害を脊の青嶺がさしのぞく 相馬遷子 雪嶺
青嶺あり日覚めてすぐに水欲りぬ 菖蒲あや あ や
青嶺あり青嶺をめざす道があり 大串章「百鳥」
青嶺こす鉄塔墓の上に光り 福田甲子雄
青嶺なる湯地獄音もかよふなり 皆吉爽雨 泉声
青嶺また青嶺故郷へ産みにゆく 長田等
青嶺もて青嶺を囲む甲斐の国 丁野弘(狩)
青嶺より青き谺の帰り来る 多胡たけ子(山茶花)
青嶺出てまたも青嶺へほとけ道 渡辺恭子
青嶺垣麻八尺の丈そろふ 及川貞 夕焼
青嶺星ゴッホの杉も谷に暮れ 辻田克巳
青嶺星秋立つ雲にさゞめける 西島麦南 人音
青嶺来て身ぬちに充たす野の力 つじ加代子
青嶺照る重たき椅子に身を沈め 沢木欣一
青嶺眉にある日少しの書を読めり 細見綾子 黄 炎
青嶺立つ茶房に双眼鏡置かれ 中田尚子
青嶺聳(た)つふるさとの川背で泳ぐ 大野林火(1904-84)
青嶺聳つに白鳳石の句碑坐る 影島智子
青嶺聳つ三つの國の寄合ひに 山口誓子 雪嶽
青嶺聳つ川沿ひに町続きけり 関森勝夫
青嶺背に分譲マンシヨンそびえ建つ 由良つや子
青嶺背に負ひて当麻の塔二つ 前川伊太郎
青鷺と青嶺動かず千曲川 堀口星眠(橡)
鞍形の青嶺をそこに木曾旅籠 荒井正隆
顔近く昏るる青嶺や合歓の花 藤田湘子
風の奥青嶺は眉を張りつめし 木村敏男
風の青嶺大河芯よりひかり出す 柴田白葉女
風見鶏いづちを向くも伊豆青嶺 冨田みのる
飛騨の迅霧顔出す青嶺陣痛待つ 加藤知世子 花寂び
馬入れて青嶺廂に蹄を打つ 森 澄雄
骨壺に葛生の青嶺見せ戻る 高澤良一 素抱
鮎掛の反らす蹠に青嶺立つ 橋本鶏二
鮎鷹の一閃青嶺澄みにけり 土山紫牛
鳶舞ふや青嶺の滝を護るごと 羽部洞然
鷹とべり青嶺を雲を切り抜けて 茨木和生 三輪崎
麺棒に青嶺窓あり過疎つづく 河野多希女 こころの鷹
●頂
あまつ日に頂裂けぬ秋の島 長谷川かな女 雨 月
お山焼火は頂を皆目指す 磯野充伯
とどまれる波の頂初昔 正木ゆう子 静かな水
まぶしかり雲頂庵の白牡丹 高澤良一 さざなみやつこ
めぐる春頂愚な妻で生き了ふや 及川貞
万燈は頂の花地に崩す 古舘曹人 能登の蛙
元朝の焼嶽の頂蓮華座に 宮武寒々 朱卓
初富士の朱の頂熔けんとす 青邨
初富士の頂丸く友が住む 吉平たもつ
君子蘭蟻頭をふりて頂に 加藤楸邨
噴水の頂の水落ちてこず 長谷川櫂 古志
囀や洛の内チの華頂山 尾崎迷堂 孤輪
塔頂に競うて揚羽異界より 和田悟朗 法隆寺伝承
夏山や二三枚の田を頂に 前田普羅 新訂普羅句集
夢窓忌や頂相となす円相図 渡辺大円
大峯の頂暮れず蓼の花 角川春樹
大穹に鶏頂山の白鶏冠 高澤良一 素抱
寒食や頂まろき双子山 星野麥丘人
尺蠖の頂礼大地しづかなり 嶋田麻紀
手始めに山の頂もみずれり 高澤良一 素抱
摩天楼の頂に秋来てゐたり 長谷川櫂 虚空
星流る天覧山の頂に 山口素基
春山の頂近く開墾す 高濱年尾 年尾句集
春暁や紫焔紅焔富士の頂 徳永山冬子
春虹の頂見んと森を出づ 溝口青男
春蝉や頂を指す道のあり 深川正一郎
春風に頂渡る禅師かな 野村喜舟 小石川
月山の頂にある夏炉かな 岸本尚毅「舜」
枯松の頂白き月夜かな 前田普羅 新訂普羅句集
梅雨雲を頂にして八ケ岳 高木晴子 花 季
樹種ごとに異なる芽生え頂も 雨宮抱星
残照に頂染めて山眠る 孤村句集 柳下孤村
水仙を頂にして堤成る 中戸川朝人 尋声
絶海の島頂に枯すすき 品川鈴子
臘八や老師は須弥の頂キに 尾崎迷堂 孤輪
花氷頂の色何の影 原石鼎
英彦山の頂に置く夏帽子 松尾隆信「菊白し」
錆鮎や頂見えぬ山ひとつ 児玉輝代
雄阿寒の頂吹雪きユーカラ織る 野崎ゆり香
雪の香濃し頂近くわが香失す 加藤知世子 花寂び
雪残る頂一つ国境 残雪 正岡子規
韓国の頂見えて滝かかる 小原菁々子
頂ならぶ越の雪山きのこ取り 川崎展宏
頂にたてば海見え山笑ふ 成瀬正とし 星月夜
頂につらなる雪に厩出し 前田普羅 飛騨紬
頂に出て茸空し昼の月 比叡 野村泊月
頂に噴煙載せて山笑う 宮成鎧南
頂に家かたまれり梅の村 五十嵐播水 埠頭
頂に山の日のこる桐の花 佐藤美恵子
頂に春の岩群膝吹かる 原裕 葦牙
頂に湖水ありといふ秋の山 河東碧梧桐
頂に神話の碑あり雲の峰 木津凉太(萬緑)
頂に花一つつけ秋茄子 原 石鼎
頂に西日残せり秋の山 大場白水郎 散木集
頂に遊べる馬や萱を刈る 河野静雲 閻魔
頂に雪来る暗さかも知れず 山田弘子 懐
頂に駕籠を置きたし冬桜 星野紗一
頂に鷺がとまりぬ梅雨の松 前田普羅 新訂普羅句集
頂のしばしを霧に馴れ憩ふ 石橋辰之助 山暦
頂の夕日わづかや雪の嶺 長谷川かな女 雨 月
頂の山火かくさず鹿の杜 古舘曹人 砂の音
頂の泰山木の花に逢ふ 殿村莵絲子 花 季
頂の湖の真晴や山眠る 東洋城千句
頂の炎の歓喜牡丹焚く 大橋敦子
頂の神事は知らず山開 森田峠 逆瀬川
頂の雪澄みわたり秋立ちぬ 池内友次郎 結婚まで
頂は日射す風樹や蝉音籠る 中戸川朝人 残心
頂は祠一つや四方の春 木野泰男
頂へ峰焼く煙たゝなはり 高橋馬相 秋山越
頂へ踏青の道馬の径 遠井俊二
頂へ逆立つ樹氷奥信濃 三栖隆介
頂へ道の集まる初詣 高澤良一 ねずみのこまくら
頂や残んの雪の一握り 平塚蕗山
食べるものある茶屋もあるかに頂見ゆれ シヤツと雑草 栗林一石路
麦藁帽に頂のある日暮かな 大木あまり 火球
●奥嶺
とらはれし熊に奥嶺の秋のこゑ 大島民郎
仏母忌の奥嶺をのぼる沙羅の雨 安藤葉子
佐保姫に白き奥嶺のいつまでも 大島民郎
凍滝と奥嶺の月と照らし合ふ 能村登四郎
初機のやまびこしるき奥嶺かな 飯田蛇笏
吹雪ゐてかがやく奥嶺信じたし 宮坂静生 春の鹿
夏深く奥嶺に入れば音もなし 飯田蛇笏 椿花集
夕映えて雪の奥嶺のあぶり出し 堀口星眠 営巣期
奥嶺もう隠れし秋の扇かな 辻桃子
奥嶺よりみづけむりして寒の溪 飯田蛇笏 春蘭
奥嶺より雪の次第に迫る町 吉村ひさ志
奥嶺奥嶺へ雨の燕と電線と 加藤楸邨
奥嶺奥嶺へ雪降るやうな繭組む音 加藤知世子 花寂び
山吹の夕冷え奥嶺までつづく 大串章 朝の舟
山葵田は奥嶺の梅雨にしたしめり 松村蒼石 雪
戸隠の奥嶺ちかづく雪卸 松村蒼石 雪
日は渺と奥嶺秋園人をみず 飯田蛇笏 春蘭
暑うして奥嶺も花の古びたる 吉武月二郎句集
桜桃の花に奥嶺の雪ひかる 大竹孤愁
波立つ瀬奥嶺の雪の解けそめたり 大島民郎
簗守るや奥嶺にこもる夜の雷 河北斜陽
蛇去るに多摩の奥嶺が日を吸へり 萩原麦草 麦嵐
蛇笏忌や奥嶺の雲に炎走る日 角川源義
逆の峰入法螺鳴つて奥嶺霧うごく 松林到池
重陽の夕日をのこす奥嶺あり 大峯あきら 鳥道
頬白や奥嶺秘めたる渓去らず 木山白洋
風かはり奥嶺雲脱ぐ植樹祭 根岸善雄
●尾根
いく尾根の果とし雪の平家村 桑田青虎
うぐひすや古雪いよよ尾根に臥し 皆吉爽雨
かやくぐり聞き天近き尾根わたる 福田蓼汀 山火
けんぽなし干してほかほか尾根ぬくし 浜田波川
この小屋を埋むる雪の尾根に来し 福田蓼汀 秋風挽歌
こまどりや風に靡きて尾根の木々 土方 秋湖
さねかづら一途に来しが尾根さみし 稲垣きくの 牡 丹
すひかづら尾根のかなたの椎の群 志摩芳次郎
つめたい尾根へ足なみそろえてみに行つて 阿部完市 軽のやまめ
ななかまど尾根に吹く雲霧となり 原柯城
まんまるに雑木尾根出て盆の月 永井東門居
やまびこをつれてゆく尾根いわし雲 飯田蛇笏 春蘭
わが来し尾根わが来し雪渓夕日さす 岡田日郎
キャンプ出て暁の尾根ともし行く 田中静竜
ヤンマとぶ伊豆南端の尾根の上 飯田龍太 今昔
一刷きの紅葉の修羅尾根走り 斉藤美規
一尾根に日向が逃げて葛しぐれ 上田五千石 琥珀
一尾根はしぐるる雲か富士の雪 松尾芭蕉
一月の星座きりりと尾根を統べ 雨宮抱星
一樹だになき尾根秋風殺到す 岡田日郎
丹沢の尾根よく晴れて大根引 萩原まさこ
人住めば人の踏みくる尾根の雪 前田普羅 飛騨紬
人小さく雲崩のがれて尾根はしれり 石橋辰之助 山暦
偃松とお花畑は尾根に会ふ 福田蓼汀 山火
八栗嶺の松原尾根の遍路みち 高濱年尾 年尾句集
冬旱尾根の草原牧のあと 岩本相子
凍空へ尾根みち槍のごとくあり 清水青風
刈萱や雲通ふ尾根を吾も行く 岸田幸池
反りうつて花野へのびる尾根の径 栗生純夫 科野路
吊り尾根を越え来し雨脚踊子草 平井さち子 鷹日和
囀や次の札所へ尾根づたひ 柳沢仙渡子
夕尾根のたてがみとなり雪木立 平井さち子 紅き栞
夕雁の光となりて尾根越ゆる 佐藤桂水
夕露や尾根うつりする鳥一羽 金尾梅の門 古志の歌
大南風をくらつて尾根の鴉かな 飯田蛇笏 霊芝
大恵那の尾根や端山や鳥渡る 松本たかし
子と描きし七月の尾根遂に昏れぬ 石橋辰之助 山暦
子は抱かれ夏雲の尾根を下りむとせず 石橋辰之助 山暦
孫尾根へすべり込む鳥子供の日 平井さち子 鷹日和
寒明けもおし迫りたる尾根ゆきぬ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
尾てい骨したたかに打つ夏の尾根 江崎豊子
尾根ごとの秋日を愛しみ馬佇てる(美ケ原四句) 内藤吐天
尾根さらに尾根を岐ちて初紅葉 有働亨
尾根さらに尾根を岐つや初紅葉 有働 亨
尾根といふ大地の背骨春の雷 薬師寺彦介
尾根に出て雲まぶしめり岩鏡 国枝隆生「鈴鹿嶺」
尾根に出るところ日当り春竜胆 岡田日郎
尾根に延ぶエーデルワイス夕日の的 影島智子
尾根に雪残し弥陀仏懇ろに 相原左義長
尾根の赤土せんぶり摘みが蟻めくよ 佐野まもる
尾根みちの杉の下露濡れて行く 高濱年尾 年尾句集
尾根めざす鷹捲き上る霧に乗り 羽部洞然
尾根わたる杖もさだかに遍路かな 皆吉爽雨
尾根をゆく雲の流れや南州忌 松尾田春一
尾根を行く夫鶯のまねしつつ 一ノ木文子
尾根を越す柳絮の風の見えにけり 前田普羅 春寒浅間山
尾根を越す羽音鳴かねば冬の鳥 中戸川朝人
尾根寄りに五六戸ひかる昼がすみ 荒井正隆
尾根移り落ちゆく日あり冬紅葉 島田みつ子
尾根越しに鶸鳴きわたる日和かな 長谷川草洲
尾根越しの風に匂ふは花辛夷 福田蓼汀 秋風挽歌
尾根越しの鶴光塵となりにけり 小西 藤満
尾根雪と幕舎にもどる山男 福田蓼汀 秋風挽歌
尾根雪崩れ鳴りどよみひんひんと餘韻消ゆ 京極杞陽
山火いま月のしたびを尾根に出づ 栗生純夫 科野路
岩なだれとどろ荒尾根蝶湧けり(穂高尾根) 河野南畦 『黒い夏』
幽明の境の尾根を月照らす 福田蓼汀
幾尾根に広がる牧場雲の峰 松尾緑富
幾尾根の冬紅葉抜け奈良山に 稲岡長
幾尾根を越え春潮へ至る旅 稲畑汀子 春光
幾尾根を越え来し我に野菊あり 大久保橙青
我等父子雷鳥親仔と尾根に逢ふ 福田蓼汀
我等親子雷鳥親仔と尾根に逢ふ 福田蓼汀
新樹風一息に尾根渡る見ゆ 高澤良一 素抱
日の尾根の太虚に亙り寒き聯 木村蕪城 寒泉
明けはずむ鳥音ぞ尾根に雲眠れる 太田鴻村 穂国
星かとも尾根ゆく灯あり初詣 白澤よし子
春蘭に尾根つたひくる日のひかり 斎藤梅子
月のこる尾根に囮もくばられし 瀧春一 菜園
月の天網場の尾根のうかびくる 瀧春一 菜園
朝焼の尾根にザイルを結び合ふ 山田春生
朝焼の雲海尾根を溢れ落つ 石橋辰之助「山行」
朝焼やたてがみなして尾根の藪 香西照雄
朝焼やたてがみ如して尾根の藪 香西照雄 対話
木賊刈いく尾根の線起ちて走す 桂樟蹊子
松虫草いく夜吹かれし月の尾根 小畑耕一路
枯尾根の模糊たるはつるうめもどき 福永耕二
柳絮舞ふ天に吊尾根揺るぎなし 橋本榮治 越在
桑咲くや尾根を下りくる薬うり 金尾梅の門
横川まで卯月曇の尾根づたひ 中井余花朗
残雪のわが来し尾根を星が埋め 岡田日郎
残雪の尾根星ぞらの若々し 千代田葛彦 旅人木
海の日をさやけみ尾根の枯れをゆく 太田鴻村 穂国
炭山は尾根を重ねて月遅し 高濱年尾 年尾句集
片頬朝焼片頬月夜尾根のぼる 岡田日郎
生きものを見ぬ尾根の池虹映す 福田蓼汀 秋風挽歌
白雲の流転の尾根に紅葉濡れ 岡田日郎
真直に尾根越えしたり天の川 乙字俳句集 大須賀乙字
秋や尾根アテネを模せし小劇場 吉田紫乃
秋晴を分水嶺の尾根で截る 辻田克巳
秋草や尾根おのづから径をなす 馬場移公子
稲妻に穂高むら尾根光り合ふ 河野南畦 『黒い夏』
竜胆や嶺にあつまる岩の尾根 水原秋櫻子
竜胆や青尾根霧を吹きおとす 百合山羽公
筒鳥や思はぬ尾根に牛群れて 堀口星眠「火山灰の道」
老鴬を足元に聞く風の尾根 竹屋睦子
胡麻干すや津久井の尾根を河越しに 石塚友二 光塵
芋虫や赤城が尾根を曳く様に 野村喜舟 小石川
花の名は知らず花野の尾根行けり 渡部抱朴子
花吹雪うねりて尾根を越えゆけり 矢島渚男 船のやうに
茸狩の尾根みちへ出て戻るなり 高濱年尾 年尾句集
萱刈の尾根に出てゐる日和かな 松藤夏山 夏山句集
蒼天へつづく尾根尾根植樹祭 木村蕪城 寒泉
蒼天へ続く屋根尾根植樹祭 木村蕪城
薄雪草咲く尾根夕日朝日さす 岡田日郎
虹くぐり神官ひとり尾根くだる 岡田日郎
蜻蛉やにはかに紅き尾根の霧 千代田葛彦 旅人木
裏尾根は青翳りして初浅間 堀口星眠 営巣期
踏みさうになりし竜胆風の尾根 豊田美枝子
退路なし進路霧ただ冥き尾根 福田蓼汀
這松を抽きつつ尾根も花野なす 皆吉爽雨 泉声
遠山の尾根をましろに草城忌 田中麗子
雄阿寒の尾根引き締めし今朝の秋 三上美津子
雑木山にこぶし点在尾根を越す 杉山郁夫
雛を呼ぶ雷鳥尾根の日暮どき 新井 英子
雪尾根に月ありコリーさまよふも 堀口星眠 営巣期
雪尾根の日に炎えて鴨落ちにけり 堀口星眠 営巣期
雪嶺のかみそり走り尾根を成す 若木一朗
雪嶽の尾根越ゆる道白き道 山口誓子 雪嶽
雲取の尾根の樹間に初日の出 大原紀峰
雲海の音なき怒涛尾根を越す 福田蓼汀
雲海の音なき怒濤尾根を越ゆ 福田蓼汀
雷又雷尾根の新樹を震はせて 高澤良一 素抱
雷鳥や風吹き分かれ尾根のみち 金沢正恵
霧はれし尾根がみちびく浄土山 能村登四郎
霧晴るゝいとまは短か尾根もみぢ 及川貞 夕焼
露けさの尾根連なりて暮れにけり 金尾梅の門 古志の歌
青あらし高積雲に尾根かたぶき 桂樟蹊子
頬にふるゝ萩をかなしと尾根づたひ 岸風三楼 往来
風やみし入日の尾根を猪の列 土方 秋湖
風花の尾根がすなはちへんろ道 細谷喨々
駒草や朝しばらくは尾根はれて 望月たかし
鳩鳴いて松尾寺まで尾根歩き 田中はな
鴬や岬の尾根は海女の畑 渡部昌石
鵙の昼ひかりて尾根の人が見ゆ 原裕 青垣
鶯やしばし平らな尾根伝ひ 小澤碧童 碧童句集
鶴の棹尾根に吸はるる如く消ゆ 鈴木貞雄
黒百合の花に鎌尾根霧吹きし 蓮實淳夫
●岳麓
*のろが来て鳴く岳麓の夕べかな 大野雑草子
山廬まだ存す岳麓枯木中 高浜虚子
岳麓の名残りの猟の野兎二匹 山本二三男
岳麓の思出尽きず夜の秋 松尾緑富
岳麓の旅や三日の雪に逢ふ 伊藤いと子
岳麓の旅コスモスにコスモスに 山田弘子 こぶし坂
岳麓の朝日きびきび山吹に 高澤良一 ももすずめ
岳麓の枯れのつづきの畳に母 友岡子郷 日の径
岳麓の石田やよべはどんど焚 百合山羽公 寒雁
岳麓の達谷山房蝉涼し 伊東宏晃
岳麓の闇より闇へほととぎす 山田弘子 こぶし坂
岳麓も浪うつ畦や田掻馬 百合山羽公 寒雁
岳麓や正月菓子の色ぞ濃き 北野民夫
岳麓冬物音はなればなれにす 宮津昭彦
萱刈つて岳麓の冬見えはじむ 岡本 眸
鯉幟岳麓の田植始まれり 渡邊水巴 富士
●神の嶺
神の嶺も雪消したまふ田植かな 井沢正江 一身
水分の神の嶺つたふ木の葉雨(吉野山) 角川源義 『神々の宴』
●切通し
たたら踏む神輿となりし切通 槐太
丑満の星飛び氷る切通し 佐野美智
何時も春に湧く水祭の切通し 宮田正和
何求(と)めて冬帽行くや切通し 角川源義(1917-75)
公暁忌のしんと底冷え切通し 伊藤伊那男
冬空の鋼色なす切通し 大野林火
切通からの青空水仙花 中田剛 珠樹以後
切通しこほろぎの音に満ち満てる 山本歩禅
切通し出て天辺に枯野星 石塚友二
切通し岩に日の照る蜻蛉哉 内田百間
切通し岩石剥いで氷柱落つ 高澤良一 鳩信
切通し手套の拳固めすぐ 大岳水一路
切通し抜けて田に出る冬日和 藤田あけ烏
切通し春りんどうに足をとめ 坂本いつ子
切通し海へ出る蝶かずしれず 佐野まもる 海郷
切通し磐しぼる水凍りつき 高澤良一 宿好
切通し落葉朽葉を踏み付けに 高澤良一 宿好
切通し薄の空の深くして 森本芳枝
切通し蜑がくさめのこもりたる 佐野まもる 海郷
切通し路藁苞の胡瓜苗 滝井孝作 浮寝鳥
切通し霜踏めば遂はるるごとし 角川源義 『口ダンの首』
切通破魔矢かざせば海が見ゆ 宮下翠舟
初音して海ひらけくる切通し 水原春郎
団栗や入日に冷ゆる切通 長谷川櫂 古志
大雪や藪と藪との切通し 秋紅 俳諧撰集玉藻集
天に葛飛び咲く赭き切通し 末次雨城
好しき切通あり小正月 八木林之介 青霞集
妹許へ萩に触れゆく切通し 北野民夫
山吹の風ふき抜くる切通し 中原八千子
山桑は花垂らしをり切通 阿波野青畝
捨雛に甲斐の山見ゆ切通し 水原秋櫻子
早春の空嵌(は)めて悲し切通し 楠本憲吉
本郷は切通し上吹雪かな 久保田万太郎 草の丈
烈風に桜のけぞる切通し 高澤良一 寒暑
猟犬の綱引き絞る切通し 嶋田一葉詩
猪狩の大勢が来る切通 細川加賀
獅子頭抱へてゆきし切通し 増成栗人
盛んなる雪解や湯島切通し 村沢夏風
石蕗は絮飛ばし亀ヶ谷切通し 青木重行
秋郊のひやゝかなりし切通し 山口誓子
笹鳴のたどたどしさよ切通し 長谷川浪々子
笹鳴や鎌倉街道切通し 矢田邦子
背負籠に水仙風の切通し 佐野美智
茱萸の花寺へ往き来の切通し 永島きみ子
葛咲くやいたるところに切通 槐太
藤揺れて朝な夕なの切通し 中村汀女
蚋が出て闇の下り来る切通し 原口英二
蝉に蝉声加へゆく切通し 都筑智子
行く秋の鶴に似る雲切通し 鍵和田[ゆう]子 未来図
鎌倉の切通ゆく冬青空 大橋敦子
阿羅漢のつくる野分や切通 齋藤玄 飛雪
雪折の竹裂くるよる切通し(末次雨城庵二句) 『定本石橋秀野句文集』
零余子散るいざ鎌倉の切通し 川崎展宏
青を以て聖土曜日の切通 柚木紀子
青葉風都電跡なる切通し 長 カツコ
●銀嶺
まんさくに銀嶺の風まつしぐら 立川華子
新樹より一銀嶺に眼を飛ばす 古舘曹人 能登の蛙
銀嶺の水の巡りて山葵沢 宮木忠夫
銀嶺をはるかに蝦夷の野焼かな 矢野 宗
銀嶺を劃す一木枯れにけり 金尾梅の門 古志の歌
青空に銀嶺走るだるま市 高澤良一 寒暑
●群峰
慈悲心鳥鳴き群峰の一つ明け 岡部六弥太
●嶮嶺
●高峯
つゆさむやすこしかたむく高峯草 飯田蛇笏
秋さむや瑠璃あせがたき高峯草 飯田蛇笏
●孤峰
我が思ふ孤峰顔出せ青を踏む 前田普羅
眉間に聳ち雪の冥さの孤峯なり 鷲谷七菜子 銃身
●最高峰
登り来し山上どれが最高峰 右城暮石 上下
●山中
あくがれは山中に摘む子日草 立半青紹
いさぎよくやみたる雨にしばらくの真夜の沈みは山中のごと 松村英一
かくれ滝鳴る山中に独活を提ぐ 村越化石 山國抄
きりぎりす山中の昼虚しうす 原コウ子
したたりや山中に老ゆ寺の鶏 秋元不死男
しらほねという山中で人を見た 奥山甲子男
どくだみの咲く山中に迷ひけり 大串章 百鳥 以後
どこにても死ねる山中あけびの實 手塚美佐 昔の香
ひぐらしの鳴く山中に林火句碑 伊藤いと子
ゆく年の山中の星 独眼竜 穴井太 土語
ゆく年や山中に水湧くところ 久保純夫 熊野集
われを呼ぶ患者寒夜の山中に 相馬遷子 雪嶺
一つ葉の胞子を飛ばす山中に 久保田月鈴子
一握の刈田明りや木曽山中 鷲谷七菜子 花寂び
一月や山中をくる狐憑 矢島渚男 梟
一灯もなき山中の火取虫 檜紀代
久女忌の山中に焚く桜榾 児玉輝代
人真似の吾が頬かむり木曾山中 橋本三汀
仏在す山中に僧冬耕す 吉野義子
仏法僧山中の樹々沈みゆく 高橋良子
伊豆へ避暑今は山中今は浜 高澤良一 鳩信
伊賀上野いまも山中餘花にきて 古舘曹人 砂の音
何もなし飛騨山中の火打ち石 津沢マサ子 華蝕の海
何燃やしゐる月明の山中に 吉田汀史
修羅落し走りの梅雨を山中に 佐野美智
八月の山中なれば吾子とゐる 松尾隆信
初秋や山中は魚串刺しに 斎藤玄 雁道
台風豪雨甲斐山中の湯に沈む 石川桂郎 四温
吹流し山中に家見えざれど 茨木和生 倭
嚏して木曽山中と知らすなり 松山足羽
夜寒さの皿洗ふ音山中に 野澤節子 遠い橋
大炉燃えて山中の家城の如し 清原枴童 枴童句集
大雪の今朝山中に煙たつ 宇多喜代子 象
密教の山中鰯雲密に 近藤一鴻
富士五湖の山中の秋ついりかな 石塚友二
寒の雨山中に艶もどりたる 原田しずえ
山中にあり囀りは身より出づ 渡辺恭子
山中にこの大蟻の行きゝかな 前田普羅
山中にしてまくなぎの徒党組む 滝 佳杖
山中に一夜の宿り白桔梗 野澤節子
山中に人の働くしぐれどき 齋藤玄 『雁道』
山中に人恋ふごとく火を恋へり 檜紀代
山中に人来ればまた夏落葉 清水径子
山中に何時かは亡ぶ大桜 高澤良一 寒暑
山中に冬の日昇ること遲し 冬の日 正岡子規
山中に古き炭屑世阿弥父子 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中に喝と木の根をうつ木の実 福永耕二
山中に地球儀まわし霧深める 中島斌雄
山中に夜干しの褌(みつ)の静かなり 奥山甲子男
山中に大きほとけや鴉の子 関戸靖子
山中に子あやす鈴をもらす家 安川貞夫
山中に寝よとて合歓は植おかず 立花北枝
山中に師と花冷の湯壺かな 近藤一鴻
山中に底冷えの湖一つ置く 松村蒼石 雪
山中に恋猫のわが猫のこゑ 橋本多佳子
山中に新しき道十二月 和田耕三郎
山中に時の澄みゆく蟻地獄 山上樹実雄
山中に暦日ありて蝌蚪生る 遠藤梧逸
山中に朴ひとつ咲き父の日か 木村敏男
山中に梅あり道はこゝにあり 尾崎紅葉
山中に楪氷るものを踏み 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中に楽師の宿や夏の月 乙字俳句集 大須賀乙字
山中に歩みをとどめ火の恋し 檜紀代
山中に氷柱を囲み詩仲間 村越化石 山國抄
山中に河原が白しほとゝぎす 遷子
山中に澄みのはじめの返り花 村越化石
山中に火を飼ふごとし夏炉焚く 鷹羽狩行「十二紅」
山中に独りの日あり梅雨菌 若月瑞峰
山中に生きぬく鯉に春の雲 車谷弘
山中に番地の残り竹の秋 大木あまり 山の夢
山中に眼の慣れてきし狐罠 牧 辰夫
山中に空家の並ぶ竹の花 福田甲子雄「山の風」
山中に竹しなふ音菊膾 大木あまり 火のいろに
山中に羽子を突くその可憐な音 山口誓子 構橋
山中に芽ぐむもの待つ蟹の泡 村越化石 山國抄
山中に菌(きのこ)からびぬ冬日輪 野沢節子 鳳蝶
山中に菌からびぬ冬日輪 野澤節子 黄 炎
山中に薪棚白息ふりかへる 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中に解脱して蛇穴に入る 村越化石 山國抄
山中に貝の化石や松蘿 原 天明
山中に身を養ふや洗鯉 森澄雄
山中に達者なりけり大桜 高澤良一 随笑
山中に銀河を語る大銀河 中島斌雄
山中に銀行ありし櫻かな 久保田万太郎 流寓抄以後
山中に鯉飼ふさくらさくらかな 大石悦子 百花
山中のいづこ雷雨か洗ひ牛 村越化石 山國抄
山中のほたるぶくろに隠れんか 小澤實「立像」
山中のテントむしばむ星の数 内野 修
山中の一木に倚る蛇笏の忌 桂信子 緑夜
山中の一窯守りて竜の玉 北見さとる
山中の冷えきびきびと神の顔 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山中の凩白い手を出しぬ 庄司とほる
山中の初烏とてなまぐさし 清水衣子
山中の吹雪抜けきし小鳥の目 福田甲子雄
山中の夜やわれ坐り柿坐り 村越化石
山中の夜干しの褌(みつ)の静かなり 奥山甲子男
山中の大き目まとひ水薬師 宮坂静生 山開
山中の大百合もたらせし中夜吟 原裕 『王城句帖』
山中の大石橋や時鳥 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
山中の小松みどりに春祭 森 澄雄
山中の居や一簾に足りにけり 村越化石
山中の巌うるほひて初しぐれ 飯田蛇笏
山中の巨石の季節苔寒し 林翔
山中の師の夢のこと雪が降る 大串章
山中の径たえだえに芹の花 大木あまり 火球
山中の斧のひかりを恵方とす 佐川広治
山中の昼老け役のけらつつき 岡井省二
山中の時雨に無線中継所 和田耕三郎
山中の木々の匂へる冷し酒 大木あまり 雲の塔
山中の水音いそぐ紅葉かな 山崎千枝子
山中の氷らぬ池や浮寐鳥 石動炎天
山中の池の薄氷美術館 横田昌子
山中の池物凄し閑古鳥 閑古鳥 正岡子規
山中の涅槃団子としての色 小林牧羊
山中の瀧を見にくる厄落 宮坂静生 山開
山中の炊煙霧が濃くて失す 及川貞 夕焼
山中の相雪中のぼたん哉 蕪村 冬之部 ■ 陶弘景賛
山中の石気に冷ゆる新茶かな 高田蝶衣
山中の神輿庫守る冬桜 中野真奈美
山中の秋めくものに枕かな 大木あまり 火のいろに
山中の竹林ゆれて底冷す 鶏二
山中の落葉しぐれや芭蕉堂 泊 康夫
山中の螢を呼びて知己となす 飯田蛇笏 椿花集
山中の贅山繭のうすみどり 後藤比奈夫「紅加茂」
山中の闇たちあがる仏法僧 高橋良子
山中の闇の分厚さ牡丹鍋 横山房子
山中の雨やきらきら若牛蒡 森澄雉
山中の雲にあけびをあづけたる 高澤良一 ねずみのこまくら
山中の静けさありぬ夏座敷 増田龍雨 龍雨句集
山中の風が風呼ぶ時雨宿 中川結子
山中の風鈴白き尾を垂らす 館岡沙緻
山中の馥郁たるは焚火あと 鴻司
山中の鯉にフ麸をやる三ヶ日 森 澄雄
山中の鯉に麩をやる三ケ日 森澄雄
山中は心音と梅にぎやかに 宇多喜代子 象
山中は独語も緑滴れり 辻田克巳
山中は雪解空より糸の滝 松村蒼石 雪
山中は青空に明け冬苺 中田剛 珠樹以後
山中やえごの散り敷く翁道 山本麓潮
山中やただにおもふも人のうへ 室生犀星 犀星発句集
山中や何れか固き鼻と栗 永田耕衣 闌位
山中や何をたのみに秋の蝶 蝶夢
山中や日の没るまでを猛り鵙 桂 信子
山中や朝しらたまの冷豆腐 上田五千石
山中や泉を寝かせ涅槃雪 村越化石 山國抄
山中や空にみなぎる春の雪 林 徹
山中や絵団扇の色薄きまま 波多野爽波 『一筆』
山中や菊は手折らぬ湯の匂ひ 芭蕉
山中や萩咲き私の座敷のよう 斎藤一湖
山中や鶯老いて小六ぶし 支考「けふの昔」
山中をありありとゆく父の拳 奥山甲子男
山中を出て曼珠沙華旅いざなふ 村越化石 山國抄
山中を風暗く過ぐ慈悲心鳥 山崎千枝子
山中一湖の光り山中漆掻く一人の男 安斎櫻[カイ]子
山中人が饒舌の爐を塞ぎけり 内藤吐天
山中公園 熊蜂 女神像同居 伊丹公子 ドリアンの棘
山中昏れ 昏睡の鵙 美山杉 伊丹公子 山珊瑚
山中村此頃俗化山の月 上野泰 春潮
折鶴ら如何に夜を越す雪山中 村越化石 山國抄
春の葬山中に木木立ちどまり 和田悟朗
暦日もなき山中や鶏合 和気魯石
月光を得て山中の竹煮草 多田裕計
月明の熊野山中水急ぐ 久保純夫 熊野集
木の実植う山中に得て名を知らず 後藤梅子
木曽山中松風をきく夏爐かな 加藤耕子
枯れ山中夜は星降るを誰れも知らず 河野南畦 『空の貌』
枯山中日ざせばふいに已が影 野澤節子 遠い橋
枯山中月光散華一水車 近藤一鴻
枯山中遠きけむりにぬくみあり 和田耕三郎
枯蔓や山中に水もつれ合ふ 加藤けい
栃の実にしたたかの雨出羽山中 鷲谷七菜子
栃降つて山中深く日当りぬ 宮慶一郎
桜濃き紀伊山中に界を分つ 宇多喜代子 象
梅雨寒のそれも山中七ヶ宿 岸田稚魚
梅雨山中白茫々の狂ひ滝 岡田日郎
梅雨雲のそれも山中七ケ宿 岸田稚魚
正月の山中にして囀れり 岸田稚魚
死の見ゆる日や山中に栗おとす 秋元不死男(1901-77)
気短き木曾山中の走り雨 福田甲子雄
水芭蕉山中は日のこまやかに 大畑善昭
沢音の時雨とまがふ木曾山中 片山由美子 天弓
泉ある証靄立つ寒山中 村越化石 山國抄
滝もある山中に蝉死処えらび 村越化石
滝落ちて山中の春ゆるやかに 星野麦丘人(1925-)
火より人恋ひ山中の火取虫 鷹羽狩行「十四事」
父恋ひの山中に栗落としをり 伊藤白潮
猪を煮て山中に日の失せしかな 手塚美佐
猪食つて山中忘る余寒かな 秋元不死男
猫歩く枯山中にみごもりて 山口誓子
白幣の切れ端の飛ぶ枯山中 飯野きよ子
白蚊帳の丈山中に目を覚ます 藤井亘
白骨樹立つ山中に目細鳴く 池永 和子
皐月紅さし山中節は情ふかく 長谷川かな女 牡 丹
真鯉飼ふ木曾山中の秋の水 大西八洲雄
睡蓮の初花雲の山中に 中戸川朝人 残心
短夜の山中白瀑落し明け 村越化石 山國抄
秋の山中にも金洞と申すは 秋の山 正岡子規
秋の山中に石鐵山高し 秋の山 正岡子規
竹が粉を噴いて山中日の盛り 河合凱夫
笑ふ山中に妙技のむつかしき 山笑う 正岡子規
紅葉山中にあたまが数珠繋ぎ 中田剛 珠樹以後
終点は山中にあり白露の日 永田園子
緑山中かなしきことによくねむる 森澄雄
緑山中一瀑神の一糸とも 野澤節子 遠い橋
緑山中翁と曾良のはなしかな 佐藤美恵子
緑山中魂といふそよぐもの 加藤耕子
耳ふたつ山中をゆく落葉どき 猪俣千代子 堆 朱
耳澄ましゐる山中の百合とをり 永田耕一郎 海絣
船の音山中深く響きけり 高橋 龍
芋虫を木曽山中に嗤ひけり 波多野爽波 『湯呑』
芥子の種蒔く山中の薬舗かな 富永眉月
花魁草甲斐山中の一軒湯 岡田日郎
荒くれのやう山中の朴落葉 平手むつ子
荒瀧にしてかく静かなる山中 小島花枝
蔓うめもどき雪と交はる山中に 村越化石 山國抄
薫風に求めて軽き山中紙 林翔 和紙
虎杖折る小気味よき音山中に 茂里正治
蛇穴に入りて不思議に澄む山中 村越化石
蛭降つて大台山中雷火立つ 平川 尭
蛾も青を被て山中の一燈に 野澤節子 遠い橋
蟻地獄在り山中の暦日に 松本たかし
蠅叩置き山中の料金所 宮坂静生 春の鹿
裏白を剪り山中に音を足す 飴山實 辛酉小雪
裏白取りに行く山中の愛林碑 浜田清子
誰も来ぬ日の山中に茸(たけ)あそぶ 青柳志解樹(1929-)
赤を深めゐる山中の土運び 右城暮石 声と声
軍装を解く山中のかまいたち 星野昌彦
逢ひにゆく枯山中の一泉 宮坂静生 山開
野分雲箱根山中にて仰ぐ 細見綾子 黄 瀬
長時間ゐる山中にかなかなかな 山口誓子
長遊びして山中のゐのこづち 児玉輝代
雨に日延べの踊を今日や木曾山中 島谷征良
雨降れば冷ゆ山中のおそざくら 関 成美
雪ふる夢ただ山中とおもふのみ 大野林火(1904-84)
雪来るか山中に入る深轍 中村明子
雪解急夜の山中にこゑひそみ 松村蒼石 雪
雲白く湧く山中のかたつむり 大串章
電気出発雪山中の発電所 茨木和生 木の國
霜柱の針の山中蘭の温室 殿村莵絲子 花寂び 以後
霧の山中単飛の鳥となりゆくも 赤尾兜子
青嵐湧く山中のささら舞 茂里正治
青苔の冷え山中に口おごり 原裕 葦牙
髪のピン光る山中の紅葉に逢ひ 櫛原希伊子
鬼やらひ山中だけの雪とべり 村越化石 山國抄
鳥けもの喜雨山中に出で逢へや 村越化石「山國抄」
鶏売の来て山中に鰯雲 村越化石 山國抄
鶏犬の声す山中の返り花 臼田亞浪 定本亜浪句集
●山頂
いま山頂に汗よろこびて看護婦達 飯田龍太 麓の人
かんじきに乗る山頂に溺れぬため 小川双々子
きちきちがとんで山頂草広し 高浜年尾
つひに佇つ奥穂山頂秋日濃し 紅谷敏子
ひぐらしや山頂は陽の谺生み 雨宮抱星
リフトにて山頂へなほ冷えに行く 辻田克巳
体育の日の山頂に彩筵 筏奈雅史
冬の虹山頂ホテル夕閉す 柴田白葉女 遠い橋
凍波の月影砕く山頂湖 山本圭子
十歩に山頂お花畑を駈け登る 福田蓼汀 山火
十里飛び来て山頂に蝿とまる 誓子
双子山頂のはだれ夕日かな 滝井孝作 浮寝鳥
夕近き畝傍山頂つばめ飛ぶ 田上悦子
天ハ固体ナリ山頂ノ蟻ノ全滅 夏石番矢 真空律
夫と来て野分の山頂夫とふたり 及川貞 夕焼
富十山頂天へ聳ゆる雲の峯 山口誓子 大洋
山頂でいつまでも帽子を振っている 西川 徹郎
山頂にあり凩と語らなん 山田弘子 螢川
山頂になにほどもなく秋の穴 宇多喜代子
山頂にわが顔覗く鏡なし 津田清子 礼 拝
山頂にをとこの汗を指で拭く 雨宮抱星
山頂に乙女座垂るる聖五月 加藤春彦
山頂に冷えし麦茶を頒ち合ふ 大澤栄子
山頂に及ぶ開拓馬鈴薯の花 太田ミノル
山頂に塔かすみをり一の午 原 裕
山頂に女藷食ふかなしけれ 石田あき子 見舞籠
山頂に少年かるい錠剤撒く 阿部完市 絵本の空
山頂に杭打ちて山目覚ましむ 吉野義子
山頂に桜樹のありし咲き満ちて 成瀬正とし 星月夜
山頂に海の風あり蕨狩 大沢貴恵
山頂に牌腹をあづけ蜜柑食ふ 佐藤鬼房
山頂に登りて今日の新聞燃す 加倉井秋を
山頂に眼こらせば雪降り来 島田武重
山頂に神の灯蒼く松納 三千女
山頂に立つ矛錆びて岩ひばり 堀内ひろし
山頂に童児走れば薄暑光 飯田龍太
山頂に羽虫とぶ日の冬はじめ 篠田悌二郎
山頂に脾腹をあづけ蜜柑食ふ 佐藤鬼房
山頂に蜻蛉密集せり月下 矢島渚男 延年
山頂に駅その先に鱗ぐも 市川友苑
山頂のことにかがやく十二月 雨宮抱星
山頂のなお秋天の底の吾れ 宇咲冬男
山頂のモラエス館に黄砂降る 藤江駿吉
山頂の一樹占め鳴く四十雀 清水 山彦
山頂の古墳初風四方より 鳥羽紀子
山頂の吾亦紅風も日も止らず 細見綾子
山頂の城に抜け道法師蝉 長田等
山頂の小屋秋風につぶれたる 岡田日郎
山頂の松一本に冬日あり 高木晴子 晴居
山頂の櫨の紅葉を火のはじめ 矢島渚男 釆薇
山頂の磐座に来し初詣 茨木和生 遠つ川
山頂の神守りて貼る障子かな 大峯あきら 鳥道
山頂の草立つさまや霜の晴 長谷川かな女 雨 月
山頂の蜂飢えまひるのなみがしら 坪内稔典
山頂の見えて晴れ間や水見舞 吉武月二郎句集
山頂の野菊の天に子を放つ つじ加代子
山頂の霧粗かりし夜の髪 野澤節子 黄 炎
山頂の鳥に多汗の病かな 宇多喜代子
山頂はこの先とのみ夏の霧 柏井幸子(ホトトギス)
山頂はごろごろ岩や御来光 河本和「かつらぎ選集」
山頂はメルヘンめきて煙茸 松本田寿子
山頂は夏雲の中駅を出づ 平賀淑子
山頂は見えざるままよ心太 如月真菜
山頂へ丘重なりて竹の春 桂樟蹊子
山頂へ小屋の灯連ね富士涼し 伊藤いと子
山頂へ日覆の町の続きけり 滝青佳
山頂へ犀吹き寄せて空の秋 坪内稔典
山頂へ磴じぐざぐの初妙見 小砂見曙美
山頂も果たして同じ霧の景 高澤良一 随笑
山頂や三百六十度の炎天 高橋悦男
山頂や吹かれて霧の影走る 木村勇
山頂や忌のごとく日の楢紅葉 小島千架子
山頂や日の出待つ間の煮しめ芋 つじ加代子
山頂や更に踏みたき鰯雲 渡辺恭子
山頂や松挽く如き梅雨の蝉 殿村莵絲子 花寂び 以後
山頂や雁にも逢はず鹿の跡 渡辺恭子
山頂を征し成人祝ぐ仲間 山田弘子 こぶし坂
山頂を極めし如く日焼して 長島ちよ
山頂ヘ二手にわかれ夏つばめ 土生重次
山頂ホテル霧に盲ひし火蛾宿し 樋笠文
山頂小屋天水桶に氷張る 成宮弥栄子
山頂駅寒き映画の闇のぞく 石原八束 空の渚
山頂駅迅風は寒し楽鳴らし 石原八束 空の渚
山頂駅鉄鎖に止まる秋あかね 高澤良一 寒暑
峨眉山頂秋風玉石百顆かな 金子皆子
彼の雲は山頂に雪降らしをり 高木晴子 花 季
日の暈のまろき山頂花馬酔木 沢 聰
春月にかの山頂の荒御魂 大峯あきら 鳥道
槍山頂歩む不安の秋の風 沢 聰
海底山脈山頂は島冬耕す 吉野義子
湖風の山頂ホテル灯を派手に 柴田白葉女
湧蓋山頂に雪焼野統ぶ 穴井湧峰
滝は凍て山頂つぎつぎ日を失す 福田蓼汀 秋風挽歌
焼きのぼる火や山頂に相擁す 野澤節子 『駿河蘭』
燈涼しく総玻璃聖堂山頂に 吉良比呂武
片陰を縫ひ山頂へ至る道 稲畑汀子
盆の路山頂にまであらはるゝ 瀧澤伊代次
秋晴や山頂に立つ観世音 新井太四郎
秋澄むや荒船山頂水流れ 原田清正
秋高し身にそふ影もなき山頂 福田蓼汀 山火
荒船の山頂広し桷の花 行実みよ子
虎吼えてかの山頂を老けさせる 安井浩司
虫出しや山頂へ眉張り通す 鴻司
視界ゼロ吹雪く山頂無一物 平田青雲
遠望のわが山頂の壷中の母よ 高柳重信
鈴蘭やまろき山頂牧をなす 大島民郎
阿蘇山頂がらんどうなり秋の風 野見山朱鳥(1917-70)
阿蘇山頂にんげん冷ゆるかけらほどに 玉城一香
雨乞ならん山頂へ灯かたまり 菅裸馬
雲海にうかぶ山頂神います 吉澤卯一
雲雀すつ飛ぶ白根山頂駐車場 山田みづえ 手甲
雷鳥の鳴くや山頂雲の中 山田英津子
騰る騰る夏雲に山頂はあり 佐野良太 樫
魚哭きて山頂の木の昼下がり 坪内稔典
鳥の目光る山頂めざしわが柩 小宮山遠
鷽鳴くや山頂きに眞晝の日 相馬遷子 雪嶺
●山巓
大夕焼視野の山巓みな踏みし 福田蓼汀 秋風挽歌
山巓に一と刷毛の雲蛇笏の忌 吉田飛龍子
山巓に弓なりの木木 栄光!(ぐろうりや) 夏石番矢 猟常記
山巓に海底地殻まざと夏 斎藤梅子
山巓に立ち老鴬の気分なり 高澤良一 随笑
山巓のさくらを風の櫛けづり 高澤良一 寒暑
山巓の冬の尖りに顔射らる 石橋辰之助 山暦
山巓の雲離れゆく瑠璃の声 唐橋正伊
山巓の霧を切り裂きつばくらめ 高澤良一 随笑
山巓はすでにまぶしく籾の臼 友岡子郷 未草
山巓は人気を嫌ひ夏も冷ゆ 上村占魚 『自門』
山巓は雲に突込み山ざくら 小檜山繁子
山巓は雲吐きつくし青林檎 愛澤豊嗣
山巓や氷柱に閉ぢし測候所 寺田寅彦
山巓よ眠る鯨を涅槃とす 久保純夫 聖樹
秋星の山巓に船の舳を向くる 加藤楸邨
酔ひて濃き虎の老斑山巓の高祖 高柳重信
雪解日に山巓傷をあらはにす 金箱戈止夫
雲表にみゆる山巓初音 飯田蛇笏 椿花集
●桟道
桟道に瀧落ちかかる藪柑子 児玉 小秋
桟道を羽音よぎりしは雉子かな 尾崎迷堂 孤輪
●山腹
味噌なめて釘打ちに行く山腹へ 坪内稔典
天辻の山腹(たいら)使ひや蝿叩 辻桃子 ねむ 以後
山腹にかたまり凍つる墓石かな 阿部みどり女 笹鳴
山腹に暁けの灯ひとつ初荷着く 東條和子
山腹に暖気一點やまざくら 木附沢麦青
山腹に灯りがひとつ西行忌 木内怜子
山腹に灯見えぬあれや桜寺 桜 正岡子規
山腹に百八燈の一文字 清崎敏郎
山腹に道あり花をつゞりたる 高濱年尾 年尾句集
山腹に霧がにじます灯をならべ 相馬遷子 山国
山腹に鳥を下ろせし遅櫻 高澤良一 ももすずめ
山腹の冬田の上や昼の月 寺田寅彦
山腹の家並の照りや初手水 長崎玲子
山腹の家寒暖に従ヘり 飯田龍太 春の道
山腹の模糊たるはつるうめもどき 福永耕二
山腹の赤い華表や蕎麦の花 寺田寅彦
山腹の遠花菜畑ちぎり絵めく 高澤良一 素抱
山腹へ列車を入れる牡丹雪 五島高資
山腹へ汽車入れ傾山笑ふ 川原つう
山腹をめぐると知らず花野来し 大須賀乙字
磐梯の山腹に入り田螺食ふ 有馬正二
袋掛山腹かけてすゝみをり 清崎敏郎
●山稜
下り鮎山稜紺を裁ちにけり 大嶽青児
冬鵙や山稜に日の環ふるへ 矢島渚男
山稜に日の沈みけり草ひばり 早川典江
山稜に霧立つ巌ぞ大汝 水原秋桜子
山稜の大片蔭の谷を蔽ふ 福田蓼汀 山火
山稜へ涼気うかがふ雲の貌 河野南畦 湖の森
秣場の先に山稜馬肥ゆる 原田昭
空果てしなき山稜に植樹の声 飯田龍太
金星や雪の山稜見ゆるのみ 杉山岳陽 晩婚
隼に山稜黝し灘の晴 斎藤梅子
雲海に山稜沈み音もなし 福田蓼汀 山火
●山嶺
桑枯れて大菩薩山嶺をつらぬけり 水原秋桜子
●山麓
とるほどは無くて山麓夏わらび 及川貞 夕焼
制服その他洗濯し干し愁眠山麓 阿部完市 純白諸事
囀へ小室山麓明け渡す 小出文子
囀や男体山麓畑ひらけ 石原栄子
夏雲の湧く山麓に荘傾斜 深見けん二
大山山麓すかんぽ噛めば谺 金子兜太
子無くとも見ゆ山麓の凧ひとつ 神尾久美子 桐の木
山麓と温度差五度の早紅葉 高澤良一 寒暑
山麓に日色を湧かせ花りんご 高澤良一 ぱらりとせ
山麓の溶岩隠り虎杖摘 高澤良一 さざなみやつこ
山麓の煙り卯の花腐しかな 阿部みどり女
山麓の牧草を刈り蚕飼村 和知喜八 同齢
山麓の百年の家銀木犀 坪内稔典
山麓の遠ちの一村夏祭 欣一
山麓の駅舎灯りて去年今年 内池珠美
山麓は麻播く日なり蕨餅 田中冬二 行人
山麓や黄ばかり多き秋の蝶 有馬籌子
山麓ホテルの 黄金時間 角笛は 伊丹公子 アーギライト
山麓声なくて初曼珠沙華 岡井省二
山麓駅造花紅葉も酣に 高澤良一 随笑
採るほどは無くて山麓夏わらび 及川貞
春昼や山麓の家樫鳥飼へる 田中冬二 俳句拾遺
白馬山麓少年と鍬形と 国沢晴子
白馬山麓星夜天然冷房裡 高澤良一 宿好
花の山麓の橋の人通り 泉鏡花
蔵王山麓鷹の巣の漉始 黒田杏子 花下草上
青毛虫程の山麓木五倍子かな 高澤良一 鳩信
●秀峰
秀峰を北に重ねて狩場かな 大峯あきら 宇宙塵
●秋嶺
ちゝはゝの顔秋嶺の深刻み 原裕 葦牙
ふた親のくに秋嶺の藍ひらく 成田千空
わが秋嶺基地原色の油槽と澄み 赤城さかえ
信ねど秋嶺どこかに吾子居るかと 福田蓼汀 秋風挽歌
八ケ嶽どの秋嶺を愛すべき 中村草田男
名ある嶺秋嶺として輝ける 竹腰八柏
幼な名を呼べど秋嶺谺なし 福田蓼汀 秋風挽歌
掃く方の秋嶺さやに夫癒えぬ 神尾久美子 掌
涙つくしてしまへば何も彼も秋嶺 岩田昌寿 地の塩
目睫にして秋嶺の嶮ふゆる 赤松[けい]子 白毫
神と人逢ふ秋嶺の絶巓に 福田蓼汀
秋嶺となりておのおの天に帰す 太田嗟
秋嶺と思ひて帽子まぶかにす 今瀬剛一
秋嶺にのぼりつくまでまた逢はず 岩田昌寿 地の塩
秋嶺に手帳失ひ過去なきごとし 岡田日郎
秋嶺に神の吐息の雲一つ 井沢正江 以後
秋嶺に置き忘れたる池ひとつ 福田蓼汀 秋風挽歌
秋嶺に背を向けて立つ旅衣 松原弥生
秋嶺のどの襞もわが頭に栖めり 金子無患子
秋嶺の影秋嶺を覆ひけり 岡田日郎
秋嶺の絞りて落とす滝ひとすぢ 宮下翠舟
秋嶺の聳つまぶしさの鍬づかひ 鷲谷七菜子 花寂び
秋嶺の肩のかみそり神さびて 赤松[ケイ]子
秋嶺の襞より湧きて赤とんぼ 高澤良一 寒暑
秋嶺の闇に入らむとなほ容 桂信子
秋嶺はコールに応ふ死者応へず 福田蓼汀 秋風挽歌
秋嶺や晴れの日へ押す介護椅子 山田桃晃
秋嶺や渡舟にまとも尖り立ち 河野静雲 閻魔
秋嶺や父系を遠く思ひたり 尾高惇子
秋嶺を収む硝子戸蜂歩む 大野林火
秋嶺を覗くは丹雲昏れゆとる 飯田蛇笏 雪峡
秋嶺行く光る白点あれが吾子 田所節子
肩ならべあひ秋嶺を讃へあふ 和田耕三郎
身について近き点滴遠き秋嶺 横山白虹
雨浴びて秋嶺襞をふかめけり 近藤一鴻
風鐸の秋嶺近くひびくなり 神山冬崖
●主峰
あまた嶺の主峰いづれぞ車百合 冨田みのる
ゆつくりと主峰あらはれ大旦 長田 等
コスモスに朝雲脱ぎし主峰あり 山田弘子 こぶし坂
万緑の中残雪の主峰峙つ 伊東宏晃
主峰いづれ雪のこやみに薄日さし 福田蓼汀 秋風挽歌
主峰なほ灼けふかみをりわが裡にて 昭彦
主峰まだ暮れず寒柝第一打 藤田湘子
岩のみの主峰かがやく日の盛 黒坂紫陽子
朝の間の主峰全き花野かな 山田弘子 懐
登り来し剣の主峰目に溢れ 右城暮石
石楠花や主峰の薙の男ぶり 水沼三郎「鰤起し」
碧落の主峰垂氷を砦とす 岡田日郎
窓に嵌む夏山主峰見えねども 篠田悌二郎 風雪前
老鶯や主峰は遂に霧はれず 下村非文
聖主峰縹渺と雪新たにす 坂本謙二
遠ざかり来て雪嶺の主峰見ゆ 右城暮石 上下
那須五峯主峯は肩に月を載せ 町田しげき
風花の中白濁の主峰見ゆ 岡田日郎
鳥海の主峰に消ゆる雁の列 伊藤てい子
鷹渡る主峰は厚き雲脱がず 中川 忠治
●峻峰
青空に雪の峻峰と鷲とかな 河野静雲
桔梗や此の峻峰の遭難者 雑草 長谷川零餘子
●峻嶺
峻嶺のそれぞれに空冬近し 三森鉄治
●春嶺
ミサの鐘四方春嶺となりひびく 村越化石 山國抄
春嶺となれり万雷の瀧谺 川村紫陽
春嶺とほき奥のけむりをわびにけり 飯田蛇笏 春蘭
春嶺に向ふこころを旅情とす 加倉井秋を 午後の窓
春嶺に夕月淡き久弥の忌 田村愛子
春嶺のかたまり動くときのあり 関戸靖子
春嶺の気流に孤独の鳶乗れり 渡邊日亜木
春嶺の胸から小鳥飛び出せり 大串章 百鳥 以後
春嶺の脈うつを蹴り起きあがる 加藤楸邨
春嶺の雨に文の端濡れてきし 神尾久美子 掌
春嶺は女性草を噛む山羊うつむく山羊 河合凱夫 飛礫
春嶺を重ねて四万といふ名あり 風生
春嶺白根あるとき雲の上に並ぶ 岡田日郎
神々の座とし春嶺なほ威あり 蓼汀
義父母とは遠春嶺のやうなもの 本庄登志彦
金剛と聞く春嶺の大いなり 遠藤梧逸
雲に触れ春嶺肌を燃やし合ふ 日郎
黒牛の背が春嶺に重なりぬ 今井 聖
●絶巓
北に絶巓悪相ひとつ動きをり 森澤義生
画布にいま雪の絶巓夜は狂ふ 小枝秀穂女
神と人逢ふ秋嶺の絶巓に 福田蓼汀
絶巓にいてむささびの雄々しさよ 松本勇二
絶巓に圏谷の闇真夜の月 福田蓼汀 秋風挽歌
絶巓のコーラス烈日に肩を組み 福田蓼汀 秋風挽歌
絶巓の夜明け氷壁エメラルド 福田蓼汀 秋風挽歌
絶巓はさびしきかなや岩ひばり 福田蓼汀「暁光」
絶巓へケーブル賭博者を乗せたり 平畑静塔(1905-97)
絶巓へ降る絶体の雪片よ 坂戸淳夫
身をそらす/虹の絶巓/処刑台 重信
香水瓶蓋に絶巓ありにけり 小林貴子「北斗七星」
●雪嶺
*えり挿しの背後雪嶺威を解かず 丸山哲郎
ある日遠くある日は近く一雪嶺 本郷昭雄
いちご咲く雪嶺天にねむれども 有働亨 汐路
いや白く雪嶺媚びぬ彼岸前 相馬遷子 山河
かのセーラー服二輌目の雪嶺側 今井 聖
きのふ見し雪嶺を年移りたる 森澄雄 浮鴎
きらめきて雪嶺月の黄を奪ふ 佐野美智
ぎしと鳴つて牧柵の釘耐う雪嶺風 中島斌雄
けふの日のしまひに雪嶺荘厳す 上田五千石 田園
げんげんを見てむらさきの遠雪嶺 大野林火
この寮を出て雪嶺へ行き逝きし 岡田日郎
この雪嶺わが命終に顕ちて来よ 橋本多佳子(1899-1963)
これを見に来しぞ雪嶺大いなる 富安風生
しきりなる汽笛雪嶺より返す 岸風三楼 往来
しろがねの甲冑つけて一雪嶺 古川京子
そそり立つ雪嶺に月近くあり 上村占魚 球磨
たんぽぽを踏み雪嶺を指呼に見る 藤岡筑邨
つるぎなす雪嶺北に野辺おくり 飯田蛇笏 春蘭
どんど焼果てて雪嶺に囲まるる 石原八束
はこべらや雪嶺は午后うつとりす 森 澄雄
はるかなる雪嶺のその創まで知る 橋本多佳子
ふいご押す雪嶺の光押し返えし 細谷源二
ふりむきし鷲の眼雪嶺けぶりたる 鷲谷七菜子 雨 月
ふりむけば雪嶺ならぶ洋書棚 大島民郎
ほほづきの如き日輪雪嶺に 岡田日郎
まんさくの淡さ雪嶺にかざし見て 阿部みどり女 『微風』
ゆくほどに雪嶺囲ひや恵方道 森 澄雄
わが攀ぢしひと日雪嶺に雲湧かず 岡田日郎
わが汽車に雪嶺のやや遅れつつ 榎本冬一郎 眼光
わが疼く眼に雪嶺の照り倦かぬ 相馬遷子 山国
われを呼ぶもの雪嶺と大日輪 和泉千花
ガラス戸の内側拭けば雪嶺見ゆ 津田清子 二人称
コンテナは並び雪嶺かがやける 岩崎照子
スト中止令雪嶺に対ひて張らる 内藤吐天 鳴海抄
一家のゴム長乾されるたびに雪嶺指す 細谷源二
一戸減り雪嶺がまたひとつ増ゆ 齊藤美規
一汁の大鍋たぎる雪嶺下 加藤知世子 花 季
一蝶に雪嶺の瑠璃ながれけり 川端茅舎
七十年雪嶺あふぎてくたびれたり 齊藤美規
万才の雪嶺にかざす扇かな 志水圭志
三國嶽三つの國の雪嶺なり 山口誓子 紅日
下萌や雪嶺はろけき牧の柵 芝不器男
並ぶ肥樽峰雪嶺に湧きつつあり 成田千空 地霊
久方の雪嶺見えて霞みけり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
乗初めのすぐ雪嶺と対ひあふ 上田五千石
人は世に墓を遺して遠雪嶺 小澤克己
人生序の口雪嶺に眼を凝らし 伊藤敬子
全貌を見せぬ雪嶺白皚々 右城暮石
冷房のかつ雪嶺の絵の前に 皆吉爽雨 泉声
刃毀れのやうな雪嶺月渡る 金箱戈止夫
切先に比叡の雪嶺破魔矢受く 山田弘子 こぶし坂
切干の青みがちなる雪嶺も 中村志那
切手買ひ雪嶺の名を聞きにけり 正岡雅恵
切手購ふ雪嶺のあるやすらぎに 猪俣千代子 秘 色
切炬燵夜も八方に雪嶺立つ 森澄雄
刈萱寺塵掃く雪嶺まなかひに 岡部六弥太
初めに言ありと雪嶺光りだす 田川飛旅子 『植樹祭』
初めに言葉ありと雪嶺光りだす 田川飛旅子
初日待つ雪嶺の色かはりつつ 五十嵐播水
刻々と雪嶺午後の影きざむ 相馬遷子 山国
北端の極みに雪嶺ひとつ立つ 永田耕一郎 海絣
北陸線雪嶺に沿ひ海に沿ふ 朝野早苗
午後の日の雪嶺づたひや山葵採 藤田湘子
南北の雪嶺太陽西へ行く 津田清子 二人称
厩出し牛に雪嶺蜜のごと 森澄雄
只眠るなり雪嶺の前の山 原田喬
吹かれつゝ雪嶺暗し棉の花 久保田月鈴子
吹越や虹のごとくに遠雪嶺(群馬方言風花を吹越といふ) 角川源義 『秋燕』
告げざる愛雪嶺はまた雪かさね 上田五千石 田園
咽喉かわく旅や雪嶺蹤き来る 津田清子
喪章はづす雪嶺ちかき野の光り 鷲谷七菜子 黄炎
地のうねりつづき雪嶺遥かなり 平川雅也
堂押祭果てし夜空の雪嶺かな 本宮哲郎
夏雪嶺生れし郷は目の高さ 一條友子
夕日さしカットグラスの一雪嶺 岡田日郎
夕日なほ濃き一群の雪嶺あり 岡田日郎
夕月にとどろき暮るる一雪嶺 岡田日郎
夕風や捨子のごとく雪嶺攀づ 加藤知世子 花寂び
夜間飛行雪嶺と湖響きあふ 川村紫陽
大和にもかゝる雪嶺雪金剛 右城暮石 上下
天に雪嶺路のおどろに蔓もどき 石原八束 秋風琴
天寿とは父を焼く日の遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
天帝を追ひ傾ける一雪嶺 岡田日郎
妻と雪嶺暮色に奪われまいと白し 細谷源二
子に学費わたす雪嶺の見える駅 福田甲子雄
安曇野は雪嶺連なり猫柳 森澄雄
安曇野や雪嶺におよぶ晝がすみ 及川貞 夕焼
寄生木に雪嶺浮かみゐしが雨 木村蕪城 寒泉
小春日や雪嶺浅間南面し 相馬遷子 山河
小路ふさぐ雪嶺へ蒸籠けむりけり 金尾梅の門 古志の歌
尺八吹く雪嶺に窓開け放ち 伊藤いと子
山桜雪嶺天に声もなし 水原秋櫻子
崩れ簗雪嶺のぞみそめにけり 五十崎古郷句集
師の碑けふ少し猫背に遠雪嶺 平井さち子 鷹日和
師の訃あり雪嶺を見に丘のぼる 堀口星眠
帰路の友にぶし雪嶺は夕日得て 大井雅人 龍岡村
帰還兵なり雪嶺の下に逢ふ 文挾夫佐恵
幕切れのごと雪嶺の夕日消ゆ 岡田日郎
干割れ落つ餅花一つ雪嶺覚め 喜多牧夫
往還の上雪嶺のたたずまひ 猪俣千代子 秘 色
復活祭雪嶺を青き天に置く 堀口星眠 火山灰の道
恋ふ寒し身は雪嶺の天に浮き 西東三鬼
愛ひらくときも心に雪嶺あり 平木梢花
戸隠の雪嶺間近に御開帳 前川みどり
抜群の雪嶺生涯たどたどし 古舘曹人 能登の蛙
捨てられて雪嶺あそべる村の空 齊藤美規
授業日々雪嶺にとりまかれつつ 石田小坡
文江忌の雪嶺の蒼心にす 加藤耕子
斑雪嶺に会ふまばゆさの顔撫でて 村越化石 山國抄
斑雪嶺のふかきへ鱒を提げゆくか 村上しゆら
斑雪嶺の影のゆらぎの絵蝋燭 吉田紫乃
斑雪嶺の暮るるを待ちて旅の酒 星野麦丘人
斑雪嶺の音霊を聴く達治の忌 伊藤貴子
斑雪嶺や雀尾長も声潤ひ 行木翠葉子
斑雪嶺や風の土手ゆく郵便夫 奥田卓司
斑雪嶺や鴉の声のややに錆び ふけとしこ 鎌の刃
斑雪嶺をささふ穂高の鉄沓屋 宮坂静生 樹下
斑雪嶺を仰ぎ応挙の絵を見たり 越智照美
斑雪嶺を神とも仰ぎ棚田打つ 伊東宏晃
新樹の道雪嶺に向き背まつすぐ 細見綾子
方位盤指す山すべて雪嶺なる 村木海獣子
旅人に雪嶺翼張りにけり 大橋敦子 匂 玉
日のテラス雪嶺へ展べ佳人亡し 木村蕪城 寒泉
日の出時雪嶺向きを変へはじむ 永田耕一郎 雪明
日の描く雪嶺の襞自在なり 阿部ひろし
日を浴びて雪嶺一座づつまどか 岡田日郎
明日へ繋がる寝息雪嶺足先に 太田土男
昏々眠る昨日雪嶺の裾にゐし 佐野美智
昏るるとき雪嶺やさしふるさとは 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
星うるむ夜は雪嶺も肩やさし 千代田葛彦 旅人木
星ひとつともり雪嶺ひとつ暮れ 岡田日郎
星光り雪嶺になほ夕日の斑 岡田日郎
星空に雪嶺こぞる夜番かな 松本たかし
春の牛乳おはよう牧の雪嶺よ 有働亨 汐路
春の雪嶺夜は雲母の肌へ照る 石原八束 空の渚
春ふかき雪嶺めぐる甲斐盆地 柴田白葉女 花寂び 以後
春月を得て雪嶺のやさしさよ 岸風三楼 往来
春立つや雪嶺はまだ夢の白 大串章
春雪嶺北へ数へて飼山の家 宮坂静生 春の鹿
春雲と雪嶺ふれむとして触れず 吉野義子
春駒がゆく雪嶺を雲の上 森澄雄
晩年の道行きどまる遠雪嶺 木村敏男
暁光にけふ雪嶺となりて立つ 相馬遷子 山河
暮雲おき雪嶺たゞの山に伍す 篠田悌二郎
曇天に雪嶺しづむ野梅かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
月光に雪嶺かくすところなし 大橋桜坡子
月光に雪嶺ひとつ覚めて立つ 相馬遷子 山河
朝ざくら雪嶺の威をゆるめざる 木村蕪城
木菟の夜は雪嶺軒に来て立てる 堀口星眠 火山灰の道
杏咲き雪嶺いたくよごれたり 宮下翠舟
来し方や雪嶺はかくあるばかり 行方克己 昆虫記
東京へ東京へ車窓雪嶺しづむ 桜井博道 海上
枯桑に雪嶺裾をひきにけり 大橋櫻坡子 雨月
桑の芽や雪嶺のぞく峡の奥 秋櫻子
桑解けば雪嶺春をかゞやかす 西島麦南
楊萌ゆ雪嶺天にねむれども 有働 亨
楽器抱くように編物雪嶺ふくらめ 寺田京子 日の鷹
榛の花雪嶺かすかに光り暮れ 岡田日郎
歩廊の端に余りし雪嶺の寒さ 内藤吐天 鳴海抄
母の瞳の行き届くかに遠雪嶺 佐藤美恵子
水鳥に凍てはとほらず逆雪嶺 原裕 青垣
汽車とまり遠き雪嶺とまりたり 山口誓子 七曜
汽車どちら向くも雪嶺なくなれり 右城暮石 声と声
汽車喘ぎ雪嶺遠く威ありけり 岸風三楼 往来
汽車降りて雪嶺の高さには馴れず 橋本美代子
波の花とべば遥かな雪嶺あり 加藤有水
泪目に殊に眩しき遠雪嶺 前山松花
洗面の水の痛さの遠雪嶺 石川桂郎
流氷と羅臼の雪嶺いづれ濃き 石原八束 『風信帖』
浮雲いつかなし雪嶺は墓標群 福田蓼汀
海に聳つ雪嶺はこの陸つゞき 右城暮石 上下
海へ雪嶺へ舞ひは銀朱や朱鷺の夢 加藤知世子 花寂び
湖眠る雪嶺深く映すべく 西村和子 かりそめならず
濡れし眼に雪嶺父の愛母の愛 伊藤敬子
炬燵焦げくさし雪嶺暮れてなし 藤岡筑邨
無情なるまで雪嶺の天聳る 榎本冬一郎 眼光
燕来る遠雪嶺の光負ひ 林翔 和紙
牛乳のむ花の雪嶺のつづきにて 細見綾子 黄 炎
牧の犬むつみ来るまゝ雪嶺ヘ 石橋辰之助 山暦
狂院のちなみに鴉声遠雪嶺 古舘曹人 能登の蛙
獅子舞つてはるか雪嶺の晴れをよふ 上野一孝
班雪嶺の寡黙を通す別れかな 佐藤文子
町の上に雪嶺澄めり吹雪熄む 相馬遷子 山国
畦青み雪嶺しざり秩父別(ちっぷべつ) 高澤良一 素抱
白雲の中白光の一雪嶺 岡田日郎
白雲を雪嶺と見て年忘れ 阿部みどり女
白鳥に雪嶺も頭を並べたり 堀口星眠 営巣期
白鳥の別れ夜空に雪嶺泛く 石原舟月
真夜雪嶺雲なし月光のみまとふ 岡田日郎
矢のごとく降り雪嶺の雪となる 原裕 葦牙
短日や雪嶺天に遺されて 小野宏文
碧落に神雪嶺を彫りにける 福田蓼汀
秋の暮どの雪嶺がわれを待つ 齋藤愼爾
種浸す若狭は雪嶺遠巻きに 西村公鳳
穂高ほどの名なく雪嶺にて並ぶ 篠田悌二郎
空青し雪嶺これを縫ふごとし 橋本鶏二
立ち憩ふときも雪嶺に真向へり 相馬遷子 山国
立春の日差雪嶺の肌燃やす 岡田日郎
競ひ立つ雪嶺をアラスカの天とせり 有働亨 汐路
竹皮を脱ぐ雪嶺に真向ひて 佐野美智
筒鳥や雪嶺映す池しづか 鎌田八重子
米磨ぐや雪嶺いつまで夕茜 岡田日郎
糀屋が春の雪嶺を見てゐたり 澄雄
紅葉鮒そろ~比良の雪嶺かな 松根東洋城
終着駅雪嶺触るるばかりなり 茂里正治
網を引くエンジンに負荷雪嶺耀る 中戸川朝人 尋声
綺羅星は私語し雪嶺これを聴く 松本たかし(1906-56)
繭玉の端雪嶺に触れてゐし 平原玉子
美しき雪嶺を指す人さし指 茨木和生 木の國
翔ぶことの歓喜雪嶺たたなはる 原和子
老婆より菫を買へり雪嶺下 田川飛旅子
耳うごくごと雪嶺に遠く佇つ 萩原麦草 麦嵐
聴診器ことりと置けば雪嶺あり 岡本正敏
脚はやき僧に雪嶺あとしざり 河野静雲 閻魔
腕組んで唄へば雪嶺ゆらぎ出す 岩田昌寿 地の塩
舞踏室灯せばなづむ雪嶺かな 宮武寒々 朱卓
船の銅羅かの雪嶺に谺せる 福田蓼汀 山火
芦刈りて夕べ雪嶺をあらはにす 茂里正治
花杏雪嶺なぞへに暮れなづむ 石原八束 空の渚
落花抜けゆく雪嶺にまみえんと 中戸川朝人 残心
落花霏々雪嶺いまも陸に聳つ 佐野まもる 海郷
蒼天に雲消ゆ雪嶺離りては 岡田日郎
藁屋根の端の雪嶺ことに冴え 桂信子 黄 瀬
藁灰の底の火の色雪嶺星 福田甲子雄
蚕具焼く火に雪嶺の線揺ぐ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
製紙工場白煙雪嶺より白し 本多穆草
見えゐて遠き雪嶺や夫に追ひつけず 加藤知世子 花寂び
諸仏諸天かつ雪嶺の加護なせる 小澤 實
谷展け雪嶺右へ右へ濃し 太田嗟
貧しくて照る雪嶺を窓にせり 相馬遷子 山国
貨車連結さる雪嶺の大盤石 齋藤愼爾
赤子哭くたび雪嶺聳え立つ 徳岡蓼花
足袋つくろふ雪嶺の朝から晴れて 内藤吐天 鳴海抄
身は萎えて気はまだ確か雪嶺よ 相馬遷子 山河
農耕の声雪嶺のふもとより 永田耕一郎 海絣
追分や越後路雪嶺立ち塞ぎ 福田蓼汀 秋風挽歌
逆雪嶺うすももいろに水あかり 原裕 青垣
連なりて雪嶺一つづつ尖る 石井いさお
連なれる雪嶺の黙天を占む 山本歩禅
遠き雪嶺日の大きな赤児見て 北原志満子
遠く雪嶺一村日の中ぐみ熟るる 近藤馬込子
遠ざかり来て雪嶺の主峰見ゆ 右城暮石 上下
遠ざかる雪嶺近づき来る雪嶺 大橋敦子 手 鞠
遠ぞらに雪嶺のこり機の音 鷲谷七菜子 花寂び
遠空へ雪嶺畳めり晝蛙 松村蒼石 春霰
遠雪嶺うすむらさきの野辺送り 渡辺礼子
遠雪嶺石楠花は紅こぼれむと 林 翔
遠雪嶺見むと胎児もともに出づ 鷹羽狩行
遠雪嶺近よりがたし去りがたし 古舘曹人 能登の蛙
遠雪嶺黒部に紅葉下りて来し 源義
遥かよりわれにむき照る雪嶺あり 岡田日郎
銀の匙もて雪嶺を窓に指す 神谷九品
鋪装路の果ての雪嶺に駅出でぬ 原田種茅 径
除湿器に生の水たまり遠雪嶺 平井さち子 鷹日和
雀交る雪嶺を截る屋根の上 相馬遷子
雛の灯を消せば近づく雪嶺かな 本宮哲郎
雪原のかなた雪嶺絹の道 片山由美子 風待月
雪嶺(ゆきね)を砦書を砦しなほ恋へる 川口重美
雪嶺が北に壁なす大暗黒 榎本冬一郎
雪嶺が台座神鏡の日が一輪 岡田日郎
雪嶺となつて外山の大起伏 竹下しづの女 [はやて]
雪嶺となる雲中にきらめきつゝ 相馬遷子 山河
雪嶺と交歓に日の短かさよ 大島民郎
雪嶺と倒影の間の唐辛子 中戸川朝人 残心
雪嶺と吾との間さくら満つ 細見綾子 黄 炎
雪嶺と暮色のあひを風吹けり 長谷川双魚 風形
雪嶺と激浪のあひ貨車長し 吉野義子
雪嶺と色同じくて霞立つ 相馬遷子 山河
雪嶺にても女懐中かがみ見る 稲垣きくの 黄 瀬
雪嶺にぶつかりぶつかり凧あがる 藤岡筑邨
雪嶺にむかひて*たらの芽ぶきたる 長谷川素逝
雪嶺にむかひて高し祷りの碑 古賀まり子 降誕歌
雪嶺にわが名呼ばれぬ春の暮 奥坂まや
雪嶺に一雲すがりともに暮れ 岡田日郎
雪嶺に三日月の匕首飛べりけり 松本たかし
雪嶺に今年別れんとして来たり 岡田日郎
雪嶺に住む鏡掛くれなゐに 神尾久美子 掌
雪嶺に向きて雪解の簷しづく 素逝
雪嶺に向く山車蔵を開け放つ 栗田やすし
雪嶺に向ひて妻と洗面す 椎橋清翠
雪嶺に向ひて砂利を篩ひをり 萩原麦草 麦嵐
雪嶺に地は大霜をもて応ふ 相馬遷子 山河
雪嶺に夕蒼き空残しけり 馬場移公子
雪嶺に対きて雪解の簷しづく 長谷川素逝 暦日
雪嶺に対したじろぎ一歩挑む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に対す籐椅子ふたつ置かれ 岸風三楼 往来
雪嶺に徒手空拳をもて対す 行方克己 昆虫記
雪嶺に我こそ寵児たらむとす 行方克己 昆虫記
雪嶺に手を振る遺影ふり返り 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に押され梵天近づき来 利部酔咲子
雪嶺に星座の移るとんどかな 角川春樹
雪嶺に暈の触れゐて月は春 皆吉爽雨
雪嶺に月の部落息ひそむかな 河野多希女 こころの鷹
雪嶺に死ぬ落陽を生かしたし 細谷源二 砂金帯
雪嶺に汽車分け登る力出し(津軽路) 河野南畦 『黒い夏』
雪嶺に汽車現れてやや久し 中村汀女
雪嶺に沈む満月黄を失し 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に注連新しき若狭彦命 斎藤夏風
雪嶺に照りりんりんと夜明月 岡田日郎
雪嶺に産声あげて水芭蕉 渡辺和子
雪嶺に発し海まで短か川 山口誓子 青銅
雪嶺に目を離し得ず珈琲のむ 岩崎照子
雪嶺に真向き居並ぶ化け地蔵 岡田日郎
雪嶺に真向ふ道のあれば行く 太田土男
雪嶺に瞬く星も春めけり 京極高忠
雪嶺に礼し初湯に入りにけり 柳澤和子
雪嶺に神観し朝日当るより 吉村ひさ志
雪嶺に立つ父の過去子の未来 京極紀陽
雪嶺に終る太陽手は垂れて 細谷源二 砂金帯
雪嶺に落月白くまぎれ消ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺に訣るる影を濃くしたり 行方克己 昆虫記
雪嶺に輝きし日も昏れそめし 上村占魚 球磨
雪嶺に遠し田があり田がありて 山口波津女 良人
雪嶺に重なりて瑠璃きつき峰 内藤吐天 鳴海抄
雪嶺に雉子全きを吊りにけり 野中亮介
雪嶺に離り近づく桜かな 阿部みどり女
雪嶺に雪あらたなり実朝忌 相馬遷子 山河
雪嶺に雲無きひと日忌を修す 勅使川原敏恵
雪嶺に電車久しく通らざる 山口波津女 良人
雪嶺に面をあげて卒業歌 岩崎健一
雪嶺に風突き当り苗代寒 石井とし夫
雪嶺に駆けのぼりたき夜ぞ街ヘ 石橋辰之助
雪嶺に骨光るかに月かかる 岡田日郎
雪嶺に鷹の流るる初御空 森澄雄
雪嶺に鼻梁のかげのごときもの 宮津昭彦
雪嶺のいづかたよりの山彦ぞ 猪俣千代子 秘 色
雪嶺のうしろより雷ひびき来る 飯田晴子
雪嶺のうしろを見たき夕焼かな 太田土男
雪嶺のうつりてひろき水田かな 鈴木花蓑句集
雪嶺のかがやきかへし花すもも 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺のかがやき集め紙乾く 細見綾子 黄 炎
雪嶺のかがやく祖谷の出初かな 佐原頼生
雪嶺のかげ射す車窓人睡たり 相馬遷子 山国
雪嶺のかみそり走り尾根を成す 若木一朗
雪嶺のかゞやき集め紙乾く 細見綾子
雪嶺のこぞりて迫る大根漬け 駒形白露女
雪嶺のさめては鳶を放ちけり 井上三余
雪嶺のため息聴ゆ大落暉 伊達甲女
雪嶺のとらへがたけれ雲湧きつぎ 大島民郎
雪嶺のどこかにまぎれ鳥飛べり 岡田日郎
雪嶺のなほ彼方なる一雪嶺 右城暮石
雪嶺のひとたび暮れて顕はるる 森澄雉
雪嶺の上の青空子は二十歳 越智千枝子
雪嶺の上の青空機始め 澤木欣一
雪嶺の下五日町六日町 高野素十
雪嶺の並ぶかぎりの青霞 岡田日郎
雪嶺の中まぼろしの一雲嶺 岡田日郎
雪嶺の乙女さびしてスイス領 有働亨 汐路
雪嶺の人語翼となりて飛ぶ 小川原嘘帥
雪嶺の佐渡の吹つ飛ぶ大嚏 小島 健
雪嶺の供華とし銀河懸かりけり 藤田湘子 てんてん
雪嶺の光わが身の内照らす 相馬遷子 山河
雪嶺の光をもらふ指輪かな 浦川 聡子
雪嶺の冷たさいつも桜の上 細見綾子 黄 炎
雪嶺の名をみな知らずして眺む 山口誓子 晩刻
雪嶺の吹き晴れてゆく桜かな 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺の大を以て怒りを鎮む 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺の天に牆なす牧びらき 小林碧郎
雪嶺の天の余白は生きんため 宮坂静生 春の鹿
雪嶺の威の劣へし初桜 上野弘美
雪嶺の尚彼方なる一雪嶺 右城暮石 声と声
雪嶺の彼方の何ともわからぬ音 加倉井秋を 午後の窓
雪嶺の悠久年のあらたまる 阿部みどり女 『光陰』
雪嶺の愁眉に迫る朝かな 蓬田紀枝子
雪嶺の我も我もと晴れ来たる 三村 純也
雪嶺の星おのおのの音色あり 舘野 豊
雪嶺の春やいづこの田も日射す 山口誓子
雪嶺の暮れなむとしてこころの炎 仙田洋子 雲は王冠
雪嶺の朝な影濃き園児服 原裕 葦牙
雪嶺の正装君を送るなり 福永耕二
雪嶺の歯向ふ天のやさしさよ 松本たかし
雪嶺の氷の色を夜空かな 正木ゆう子 静かな水
雪嶺の浮きて流れず茜空 原裕 青垣
雪嶺の溶け入る湖のくもりかな 矢島渚男 延年
雪嶺の無言に充てる太虚かな 松本たかし
雪嶺の照りをうながす除夜詣 原裕 正午
雪嶺の白銀翳り藍に染む 粟津松彩子
雪嶺の目の高さなる小正月 阿部みどり女
雪嶺の神々しさに鮭打たる 洲浜ゆき
雪嶺の稜骨くろし地にも雪 相馬遷子 山河
雪嶺の肩に雲燃え樺の花 西村公鳳
雪嶺の茜や詩論白熱す 加藤知世子 花寂び
雪嶺の裏側へなほ旅つづけ 岡田日郎
雪嶺の裏側まっかかも知れぬ 今瀬剛一
雪嶺の裾なにか播きなにか消す 木村敏男
雪嶺の裾を踏まんと来て踏むも 相馬遷子 山国
雪嶺の襞しんしん蒼し金縷梅咲く 加藤知世子
雪嶺の襞亀裂せり父の鬱 齋藤愼爾
雪嶺の襞濃く晴れぬ小松曳 杉田久女
雪嶺の見えしざわめきスキーバス 行方克己 無言劇
雪嶺の見えてなかなか近づけず 冨田みのる
雪嶺の見えて漆器をつくる町 冨田みのる
雪嶺の見つめすぎたる暗さかな 猪俣千代子 秘 色
雪嶺の覗く苗代かぐろしや 石田波郷
雪嶺の踏んばつてゐる湖国かな 大石悦子 群萌
雪嶺の遠き一つの名は知りて 須田冨美子
雪嶺の間近く泊り確かに酔ふ 鈴木鷹夫 渚通り
雪嶺の雪につづける縁の雪 遠藤梧逸
雪嶺の霞むといふはやさしかり 平林春子
雪嶺の青き昃りのとき浴む 木村蕪城 寒泉
雪嶺の青のきびしき生糸繰る 加藤知世子
雪嶺の青みかかりぬ柏餅 阿部みどり女 『陽炎』
雪嶺の風繭玉に遊ぶかな 村越化石
雪嶺の麓に迫る若葉かな 野村泊月
雪嶺の麓再会と言ふ茶房 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺は 遠い切り絵で 珈琲沸いた 伊丹公子 アーギライト
雪嶺はくまなく父でありにけり 下山田禮子
雪嶺はつらなり畝はたてよこに 長谷川素逝 暦日
雪嶺は北に遠しやたんぽゝ黄 大橋桜坡子
雪嶺は天の奥なり目白籠 宇佐美魚目
雪嶺は天柱をなし吾を迎ふ 伊藤彰近
雪嶺は月掲げたり友癒えよ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
雪嶺は父この橋ときに酔うて帰る 齊藤美規
雪嶺は美し道祖神手をつなぐ 坂口緑志
雪嶺は襞深く立ち送水会 岡崎桂子
雪嶺は遠し田があり田がありて 波津女
雪嶺は雪嶺に向き黙し会ふ 岡田日郎
雪嶺へひとたび柩掲げたる 中島畦雨
雪嶺へひびき丸太を貨車積みす 榎本冬一郎 眼光
雪嶺へ二輛編成にて発てり 本宮鼎三
雪嶺へ向けチカチカと鶸の嘴 木村蕪城 寒泉
雪嶺へ戸口のくらさ猟夫住む 星眠
雪嶺へ日影去りにける花野かな 渡辺水巴
雪嶺へ杏の枝のやゝしだれ 椎橋清翠
雪嶺へ林檎の芯を投げにけり 佐久間慧子
雪嶺へ畝の伸びたり木の芽風 小島健 木の実
雪嶺へ白魚を汲む肘上ぐる 田川飛旅子
雪嶺へ貨物車長き列と影 右城暮石 声と声
雪嶺へ通ふゴンドラ外より鍵 大橋敦子 手 鞠
雪嶺へ酷寒満ちて澄みにけり 相馬遷子 山国
雪嶺まで枯れ切つて胎かくされず 森澄雄 雪櫟
雪嶺まで行きては戻るばかりかな 平井照敏 天上大風
雪嶺も一憂一喜雲移る 堀口星眠 営巣期
雪嶺やどこを行つても向ひ風 ふけとしこ 鎌の刃
雪嶺やひとのこころにわれ映り 黒田杏子 花下草上
雪嶺やコーヒー餓鬼のわが乾き 秋元不死男
雪嶺やマラソン選手一人走る 西東三鬼
雪嶺や一つ猟銃音ありしのみ 猪俣千代子 堆 朱
雪嶺や一艇湖の色分ける 中村みよ子
雪嶺や口を拭ひて飯の後 岸本尚毅 舜
雪嶺や右に首垂れイエス像 野澤節子 黄 炎
雪嶺や名もまぶしくて初鴉 森澄雄
雪嶺や地蔵のごとく吾を残す 渡辺七三郎
雪嶺や夕ベのチャイム廊に鳴り 有働亨 汐路
雪嶺や如来の幅に扉を開く 小島千架子
雪嶺や寝足りて耳の温かりし ふけとしこ
雪嶺や昼夜の膳に鱈鰊 岸本尚毅 舜
雪嶺や死者還らねば棺は空ら 岡田日郎
雪嶺や畦の焚火に誰もゐづ 秋元不死男
雪嶺や疎林の奥にゆるぎなく 筒井正子
雪嶺や白眼ばかりの達磨市 渡辺白峰
雪嶺や肉塊トラックよりおろす 藤岡筑邨
雪嶺や誰も触れざる火縄銃 長田喜代子
雪嶺や頭を寄せ合つて唄ふ看護婦 岩田昌寿 地の塩
雪嶺や髪刈つて首すくめゆく 永田耕一郎 方途
雪嶺より来る風に耐へ枇杷の花 福田甲子雄
雪嶺より水来て水菜萌えたたす 伊藤霜楓
雪嶺より稜駈けりきて春の岬 大野林火
雪嶺より高処ホテルの桜草 神尾久美子 掌
雪嶺よ女ひらりと船に乗る 石田波郷(1913-69)
雪嶺よ日をもて測るわが生よ 相馬遷子 山河
雪嶺よ柑橘に風吹きこぞる 下村槐太 光背
雪嶺をひたくれなゐと思ひけり 中村千絵
雪嶺をひた負ひ年賀配達夫 横道秀川
雪嶺をみちづれにして詩嚢充つ 原裕 青垣
雪嶺ををろがみ杣の一日終ゆ 木村蕪城 寒泉
雪嶺を今年まだ見ずクリスマス 右城暮石 上下
雪嶺を仰ぐキヤラメル渡されて 藤岡筑邨
雪嶺を出づ毒の川濁りなし 岡田日郎
雪嶺を出でたる星のはなればなれ 橋本 榮治
雪嶺を大障壁に天守閣 瀧澤伊代次
雪嶺を天にさだめる線太し 橋本鶏二
雪嶺を天の高みに田の昼餉 大野林火
雪嶺を小さき日遅々と天づたふ 福田蓼汀 山火
雪嶺を山でたる星のはなればなれ 橋本榮治 麦生
雪嶺を左右にひらき月のぼる 橋本鶏二 年輪
雪嶺を慈母とす開拓の聖家族 岡田日郎
雪嶺を据ゑ一故旧なき故郷 林翔
雪嶺を支へ百日百夜の湖 伊藤敬子
雪嶺を点じ山々眠りけり 大野林火
雪嶺を背骨となしつ農夫老ゆ 小田欣一
雪嶺を若き一日の標とす 藤田湘子 途上
雪嶺を落ち来たる蝶小緋縅 川端茅舎
雪嶺を西に鞴の太き息 成田千空 地霊
雪嶺を見し網膜のあたらしき 本郷をさむ
雪嶺を見て耕して長命す 田川飛旅子
雪嶺を讃へ落葉松芽吹くなり 長倉いさを
雪嶺を負ふ映画館恋やぶれ 堀口星眠 火山灰の道
雪嶺を連ねて阿蘇の火山系 山口誓子 青銅
雪嶺を間近としてや初暦 越智哲眞
雪嶺を雌蘂とし夕日の巨花開らく 岡田日郎
雪嶺を離るる雲とその影と 行方克己 昆虫記
雪嶺下小橋つくろふ雪まみれ 林翔 和紙
雪嶺夕焼鈴高鳴らす供米車 加藤知世子 花寂び
雪嶺描く底に羆を眠らせて 秋本敦子
雪嶺攀づわが影われを離れ攀づ 岡田日郎
雪嶺星赴任せし夜の寝つかれず 堀井春一郎
雪嶺晴れ畦の水仙風のなか 欣一
雪嶺暮れ機婦等若さをもちあぐむ 宮武寒々 朱卓
雪嶺燃えかぶされり夕蒼き村 岡田日郎
雪嶺美しおとこ光星仰ぐかに 源鬼彦
雪嶺聖見んと藪こぎ山を攀づ 鈴木りう三
雪嶺芽吹く嶺朝湧く力校歌創る 加藤知世子 花寂び
雪嶺蒼し研師おのれを研ぎすます 長田豊秋
雪嶺襖鳶は翔たんと息つめる 松本 旭
雪嶺見ゆとて傾ぎゆく一車輛 原裕 青垣
雪嶺輝り伊那の小梅も咲くべかり 西本一都 景色
雪嶺近き畦は塗られて夜も光る 加藤知世子
雪嶺雪嶺を登り暮るるや西行忌 加藤知世子 黄 炎
雪嶺颪ゆふべ身ぬちに滾るもの 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雪嶺颪を毛に立て兎逃げまどふ 加藤知世子
雪沓の跡が雪嶺と駅を結ぶ 加藤楸邨
雲しきてとほめく雪嶺年新た 飯田蛇笏 雪峡
雲上にまだ雪嶺や百千鳥 森澄雄
雲嶺の中まぼろしの一雪嶺 岡田日郎
青年の肩幅雪嶺をかくしえず 椎橋清翠
革命のいろに雪嶺暁けてきし 高島茂
風荒び雪嶺の秀を研ぎすます 前山松花
風邪の眼に雪嶺ゆらぐ二月尽 相馬遷子 山国
風雲の雪嶺にふるるところあかし 矢島渚男 釆薇
馬の鼻なでて雪嶺のアポイ岳 笠川弘子
馬産む日しづかに雪嶺明けきたる 鴎昇
高まりし野にかくれたる雪嶺かな 阿部みどり女
魚割女胸に雪嶺かがやかす 金箱戈止夫
鳶の声雪嶺屹つて来る日なり 永田耕一郎 雪明
鴨ねむりくらき雪嶺湖に満つ 堀口星眠 火山灰の道
鷲飛びし少年の日よ雪嶺よ 多田裕計
鷽鳴いて雪嶺天に還りけり 松本進
麦あをみ雨中の雪嶺雲むるる 飯田蛇笏 雪峡
麦踏のたつた一人にみな雪嶺 加藤楸邨
麦踏を今朝雪嶺となり囲む 佐野美智
麦踏んで雪嶺の下の一頭顱 森澄雄
黒凍(くろじ)みの道夜に入りて雪嶺顕(ゆきねた)つ 石原八束(1919-98)
●尖峰
日高嶺の尖峰白く厩出し 荒舩青嶺
キャンプ張る槍の尖峰まなかひに 山田春生
●岨道
*さんざしの花に岨道夜明けたり 紀野自然生
から駕の岨道戻る月夜かな 月夜 正岡子規
わたすげに岨道の出でひろがりぬ 八木林之介 青霞集
岨みちを夜どほしたどる小鳥狩 瀧春一 菜園
岨道にかゝり明けゆく山始 竹原梢梧
岨道に六方踏むややぶれ傘 高澤良一 宿好
岨道に鶯聞くや馬の上 鶯 正岡子規
岨道の上り下りや滝の道 高浜年尾
岨道の家危うして若葉哉 若葉 正岡子規
岨道の高くかかれる朴の花 富安風生
岨道や匂へば仰ぎ栗の花 高濱年尾 年尾句集
岨道や折るともなしに蕨もつ 蝶夢
岨道を横に駕舁ぐ紅葉かな 内藤鳴雪
旅人に吉野岨みち凍解かず 中村青峯
盆まへの岨道鳶の影落つる 『定本石橋秀野句文集』
紅葉狩心もとなき岨みちを 松尾緑富
蔓手毬岨道細くなるばかり 松本秩陵
豁然と岨道ひらけ山法師 沢村芳翠
足かけて岨道崩すいちご哉 苺 正岡子規
青梅雨や修那羅岨みち沢づたふ 西本一都 景色
●高嶺
いちはやく高嶺の草木蝉たえし 飯田蛇笏 春蘭
すみれ展高嶺の菫花異端めく 沢 聰
せんぶりの花も紫高嶺晴 木村蕪城 一位
つゆさむやすこしかたむく高嶺草 飯田蛇笏 春蘭
ひぐらしや高嶺落ちこむ青湯壺 秋元不死男
ふりけぶる高嶺の雨や田植唄 橋本鶏二 年輪
みちのくの高嶺幾座や深山蝶 渡辺 立男
ゆく雲に高嶺はさとし牧開 土屋未知
よく光る高嶺の星や寒の入り 村上鬼城
三山の高嶺づたひや紅葉狩 杉田久女
初夢のなかの高嶺の雪煙り 龍太
初荷馬木曾の高嶺に嘶けり 木内彰志
初鳴りは高嶺止まりに雪起し 相馬沙緻
別れはや高嶺薄雪草咲くに 野見山朱鳥(菜殻火)
回春の利尻高嶺は雪を置き 高澤良一 素抱
地の土は高嶺の土のお花畠 山口誓子
夜神楽の笛に澄みゆく高嶺星 西村博子
夜神楽の笛哭くやうに高嶺村 橋本和子
夜蛙や高嶺をめざす人に逢ふ 堀口星眠 火山灰の道
夜鷹鳴き影の高嶺をきびしくす 岡田貞峰
宿坊や楡の木の間に高嶺月 鈴鹿野風呂 浜木綿
山なみに高嶺はゆがむ秋の空 飯田蛇笏 山廬集
山なみの上の高嶺の秋意かな 鷲谷七菜子 天鼓
山山青垣なしてこれの高嶺の夏の朝なり 荻原井泉水
川ひたと定まる秋の高嶺かな 飯田龍太
巣立鳥高嶺の壁のこたへなし 藤田湘子
干瓢の曇るを高嶺曇りとす 木村蕪城 寒泉
年木樵老いぬ高嶺をいたゞきて 小川枸杞子
日覆馬車高嶺のもとの街往来 橋本鶏二 年輪
旦高嶺の残雪へ田を植ゑすすむ 松井鴉城夫
早蕨や高嶺ならねど山ばかり 橋本鶏二
星月夜高嶺へ窓の開きあり 野尻みどり
春すでに高嶺未婚のつばくらめ 飯田龍太(1920-)
春蘭を掘り提げもちて高嶺の日 高浜虚子
春雪を玉と頂く高嶺かな 野見山朱鳥
暁の紅葉黄葉の間に高嶺 畠中じゆん
朴暮れて信夫高湯は高嶺冷ゆ 遠藤梧逸
松蝉の高嶺を左右にとろろ汁 秋元不死男
桐の花甲斐の高嶺を透かし見る 仙田洋子 雲は王冠
桐の花高嶺と高嶺向き合ひて 橋本美代子(七曜)
桑の実の熟れて靄立つ高嶺村 飯島 愛
桑の実の紅しづかなる高嶺かな 飯田龍太「涼夜」
桔梗や高嶺へ戻る夜明雲 望月たかし
椅子向けてれんげつつじや高嶺晴 伊藤敬子
橋に来て高嶺の月を仰ぎけり 比叡 野村泊月
水仙に住むべく着きぬ高嶺晴 雑草 長谷川零餘子
水無月を際だつ雲の高嶺かな 霊椿 俳諧撰集「有磯海」
河鹿鳴き夜は雲とざす高嶺村 下元きみ子
流氷に夜も高嶺の影正し 一水
湖をとりまく秋の高嶺哉 秋の山 正岡子規
湯の神をまつる高嶺の花辛夷 塩田龍瑛
火祭の煙うすれに高嶺星 鈴鹿野風呂
狐啼く声冴えざえと高嶺星 斎藤美智子
狩座に高嶺の月を仰ぎけり 安達素水
猫柳高嶺は雪をあらたにす 山口誓子
町を行く夜番の灯あり高嶺星 松本たかし
畦塗るや高嶺いちにち雲の中 本村蠻
畳替高嶺いちにち日浴びたる 友岡子郷 春隣
矍鑠と日あたる雪の高嶺哉 会津八一
石楠花や朝の大気は高嶺より 渡邊水巴 富士
秋さむや瑠璃あせがたき高嶺草 飯田蛇笏 春蘭
秋晴や由布にゐ向ふ高嶺茶屋 久女
秋燕に日々高嶺雲うすれけり 飯田蛇笏 春蘭
秋燕に高嶺をきそひ甲斐の国 井沢正江 湖の伝説
秋耕や高嶺を四方にしりぞけて 橋本鶏二 年輪
篭枕こころに高嶺ありし日や 鷲谷七菜子
簗番が高嶺の星を褒め合へる 皆川盤水「暁紅」
簗見廻つて口笛吹くや高嶺晴 高濱虚子
簗見廻りて口笛吹くや高嶺晴 高浜虚子「虚子全集」
籐椅子に暮れゆく高嶺見てゐたり 及川貞 夕焼
籠枕こころに高嶺ありし日や 鷲谷七菜子「晨鐘」
緬羊に高嶺がさむき雲を呼ぶ 大島民郎
耳もとに高嶺撫子吹かれけり 古舘曹人 樹下石上
膝抱いてあふぐ高嶺や網代守 橋本鶏二 年輪
花と見る高嶺の雪や来山忌 伊藤松宇
菊酒や高嶺の裾の一ツ家 窪田桂堂
菜殻火に刻々消ゆる高嶺かな 野見山朱鳥
萌ゆるあり咲くあり梅雨の高嶺草 堀口星眠 営巣期
薄暑光高嶺いきなり水にあり 友岡子郷 未草
蝶いでゝあそぶ高嶺の二日かな 渡邊水巴 富士
蝶生る高嶺の壁のきららかに 藤田湘子 てんてん
見上げ立つ高嶺の花や雨の中 野村泊月
連峰の高嶺々々に夏の雲 高浜虚子
金剛の高嶺を月の桟敷とし 水上末子
除夜の鐘果てたるあとの高嶺星 福田甲子雄
隠栖の窓の高嶺や鷹渡る 橋本鶏二 年輪
雁列や飛騨の高嶺の日のありど 藤田湘子
雉子啼くや月の輪のごと高嶺雪 前田普羅 春寒浅間山
雨くると指す高嶺より秋の雨 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雪しろき高嶺はあれど阿蘇に侍す 山口誓子 炎晝
雪渓やなべて短き高嶺草 佐藤瑠璃
雲の翳とどまる高嶺木賊刈る 渡部北星
雲出でし高嶺雪なり文化の日 相馬遷子 雪嶺
雲立ちて高嶺とざしぬ田草取 相馬遷子 雪嶺
雲誘ふ高嶺の雪や人麿忌 堀口星眠 火山灰の道
風冴えて高嶺紺青雪のこる 飯田蛇笏 雪峡
高嶺つゝむ雲の中こそ若葉なれ 渡邊水巴
高嶺にて高嶺仰ぐや螻蛄がなく 加藤知世子 黄 炎
高嶺の黙男突つ立ち夏桑つむ 加藤知世子 花寂び
高嶺みな機嫌くづるる出初かな 上田五千石
高嶺みな鋭き眼をあげて麦の秋 飯田龍太
高嶺ゆく軽便鉄道風薫る 大谷恵教
高嶺より礫うち見ん夏の海 言水「前後園」
高嶺より翔け来し競ひ夏つばめ 大串章
高嶺並む広袤に住み鍬はじめ 飯田蛇笏
高嶺星わけなく新酒酌みにけり 武田伸一
高嶺星墓参怠りしにあらず 坂本山秀朗
高嶺星蚕飼(こかひ)の村は寝しづまり 水原秋桜子(1892-1981)
高嶺星見てより夏夜の深睡り 角田独峰
高嶺星開拓村に冬早き 及川貞 夕焼
高嶺星除夜参籠の燈をつつむ 岡田 貞峰
高嶺星風に吹き飛ぶ鬼やらひ 末永龍胆
高嶺松霧に育ちて霧に老ゆ 岡本緑也
高嶺百合潮のごとき雲に向く 有働亨 汐路
高嶺草夏咲く花を了りけり 水原秋桜子
高嶺草神を畏れて丈短か 佐藤美恵子
高嶺踏みきし荷を置くや花馬酔木 渡辺 立男
高嶺風一朶の花を微塵とす 栗生純夫 科野路
鮎掛くる高嶺の入日仰ぎをり 橋本鶏二 年輪
鳶の木も高嶺の雪も暮遅し 藤田湘子 てんてん
鶯のこゑのゑがける高嶺かな 橋本鶏二
鶯の高嶺曇りになきつゞけ 鈴鹿野風呂 浜木綿
鷹舞うて神座の高嶺しぐれそむ 飯田蛇笏
黒百合や高嶺の泉飛騨に落つ 堀口星眠 営巣期
●中腹
中腹に宮あり詣で薄紅葉(上州妙義山) 上村占魚 『球磨』
中腹に道の岐れる冬の山 桂信子 遠い橋
中腹に雲湧き上る岳紅葉 村田橙重
硫黄山にして中腹に滝を懸け 北野民夫
●頂上
お頂上皆かほよせて語りけり 柑子句集 籾山柑子
お頂上顔青ざめて皆笑へり 中島月笠 月笠句集
かなかなや夜明けて見えぬお頂上 林原耒井 蜩
くすり飲む頂上に花崗岩があり 五島高資
ハクサンシャジンリフト減速して頂上 高澤良一 宿好
一重足袋日の頂上を履きにけり 増田龍雨 龍雨句集
両神山を指呼に頂上涼み台 高澤良一 宿好
八幡平頂上芒の茎臙脂 高澤良一 寒暑
初鶏や頂上一戸谿十戸 近藤一鴻
日射病頂上見えて倒れけり 森田峠 三角屋根
最高となり頂上の巌の林檎 西東三鬼
枯山をきて頂上の平らな水 桂信子 黄 瀬
樹氷満ちゐて頂上といふ幽さ 鷲谷七菜子
炭俵積める頂上闇に透き 棟上碧想子
男体山の頂上に生れ梅雨茸 山口恭徳
百千鳥頂上なにもなかりけり 星野麥丘人
百歩にて頂上の塚富士詣 村木海獣子(天佰)
秋晴や頂上にして褥草 楠目橙黄子 橙圃
秋風や頂上ありく癩患者 佐野青陽人 天の川
茸山の頂上に水置かれたり 右城暮石 声と声
草木なき頂上雪の積むままに 津田清子 二人称
蜜柑山眼のみ頂上まで行けり 山口波津女
金の芒頂上駅に降り立ちぬ 原裕 『王城句帖』
雷鳥や頂上は巌あたゝかく 久米正雄 返り花
霧破れ頂上の標の字ぞ見ゆる 相馬遷子 山國
頂上から太古柑橘したたり来 渋谷道
頂上といふも平らに蕨山 畠山讓二
頂上にたてば文化の日が見ゆる 只野柯舟
頂上になれば野菊の低く咲く 大塚 あつし
頂上に朱塗りの鳥居鳥雲に 大原 雪山
頂上に来てその先に秋の山 桂信子 遠い橋
頂上に蛇巻き冬の山乾く 飴山實 『おりいぶ』
頂上に誰もをらざる赤とんぼ 石田郷子
頂上の天の逆鉾蜂唸る 鈴木厚子
頂上の寝釈迦のどけし肘枕 内海良太
頂上の末枯いそぐ穂草かな 福田蓼汀 山火
頂上の枯木に群るゝ秋燕 比叡 野村泊月
頂上の薄に乾び鳥の糞 桂信子 遠い橋
頂上の雨音のまた芽吹く音 増田萌子
頂上の霞に游ふ子馬哉 松瀬青々
頂上の風の菫の泪いろ 辻田克巳
頂上は日傘を畳む程の風 星野椿
頂上は此処よと花野四方へ伸び 阿波野青畝
頂上は銀河に近し母に近し 西尾 苑
頂上は黄泉の明るさ式部の実 大嶋邦子
頂上へ六根極む深山蝶 鈴木すなを
頂上へ火の筋走るお山焼 滝沢伊代次
頂上や人の匂ひの雪だるま 松尾隆信
頂上や嗚咽のごとく遠き街 和田悟朗
頂上や月に乾ける薯畑 前田普羅 春寒浅間山
頂上や殊に野菊の吹かれ居り 原石鼎(1886-1951)
頂上や海ひとひらの冬霞 玖保律子
頂上や淋しき天と秋燕と 鈴木花蓑句集
頂上や秋凪見せて日本海 河野南畦 湖の森
頂上や雲の渚の空の秋 河野南畦 『広場』
頂上や風入れてゐる登山靴 太田土男
頂上を証す前後の深き谿 津田清子 二人称
●九十九折
三日月を左右に遊びし九十九折 本多恭子
九十九折後ト来る人や春の山 尾崎迷堂 孤輪
九十九折木五倍子の上に人のこゑ 高澤良一 ももすずめ
九十九折雪しろ棚田光り合ふ 西村公鳳
幻住庵への九十九折秋気澄む 小路智壽子
探梅や一間上の九十九折 白泉
林道の九十九折顕たせて一夜雪 平井さち子 完流
白梅や谷に傾く九十九折 須佐はじむ
紅萩や死んで山道九十九折 渋谷道
青枇杷や九十九折なす島の道 石川桂郎 含羞
●吊尾根
柳絮舞ふ天に吊尾根揺るぎなし 橋本榮治 越在
●峠
「北越雪譜」峠紅葉の空張つて 紺野佐智子
あかねこ餅峠にひさぐ半夏生 茂里正治
あすの天気は/晴かもしれぬ/知らぬ峠で/凍る轆轤師 鳥海多佳男
あるときは狢の眼ある峠かな 三田きえ子
いくつ山越えて峠の霙かな 村田三郎
いざ夏と塩尻峠雲騰る 篠田悌二郎
いしぶみは峠の名のみ夏蕨 大岳水一路
いつもこの峠から花火が盗まれる 西川碧桃
いとどたよりあらぬもといや峠の蝉 広瀬惟然
いひおとす峠の外もあきの雲 内藤丈草
おけら咲く峠に消えた薬売り 中西みつえ
かまど猫座せり峠の茶屋の土間 茂里正治
からだじゅう満月となる峠かな 林加宝利
かるかやを見て峠から雨にのる 鳥海むねき
くぼみたるところは峠雲の峰 島田紅帆
くらがりの峠とぶ風狂もいて正月 大西健司
くらがり峠音たてて虻ついてくる 江中真弓
くらやみを年来つつあり峠の木 綾部仁喜 寒木
けもの径落合ふ峠独浦の花 毛塚静枝
この峠又越ゆべしや落花急 大久保橙青
さくらの芽峠に坐る牛の神 つじ加代子
さめざめと雪の峠になりゆくよ 野澤節子 『八朶集』
すかんぽや峠の雨の降りに降り 水原秋櫻子
すれ違ふ春の峠の樽と樽 中村苑子(1913-2001)
ずら・だんべ峠が頒つ冬鴉 影島智子
ぜんまいの筵にちぢむ峠茶屋 深井かず子
たましいの暗がり峠雪ならん 橋間石
たわたわと雪の峠の青鴉 野澤節子 『八朶集』
にじは七色、七十路の峠に立つ 荻原井泉水
ひとり来て峠の春と別れけり 小川特明
ぶな峠下りても緑賢治の径 文挟夫佐恵 雨 月
まつすぐに峠下りくる霞なか 瀧澤伊代次
みんみんの峠を越えし風呂敷よ 国武十六夜
もの狂ひしてゐる春の峠かな 柿本多映
やぶさめや峠を左右に越ゆる霧 水原秋櫻子
ゆく春や杖突峠なほ上り 久保田万太郎 流寓抄以後
ゆく秋の夜叉神峠の雲迅し 倉林美保
イタリアヘ越す峠見ゆ朝の百合 有働亨 汐路
エゾオヤマリンドウ秋を告ぐ峠 高澤良一 寒暑
カンナ燃えさかれど避暑期はや峠 久保田万太郎
カーナビに載らぬ峠や一位の実 宮本つる子
パラソルをさして入道峠かな 京極杞陽
ピレネーの峠の桔梗手折りけり 加藤三七子
ミサ終へし乙女峠の春惜む 松尾白汀
一声を峠に天城の初鴉 林 昌華
一旦は照つて峠の霰かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
一本のラムネの甘露峠茶屋 中山純子
一鳥も見ぬ寒林の峠さび 阿部みどり女
万緑は甲斐の峠に他ならず 萩原麦草 麦嵐
万緑を顧みるべし山毛欅峠 石田波郷「風切」
三ッ峠お山洗ひの潔ぎよし 佐々法子
上も下も枇杷もぐ薩*た峠かな 吉中愛子
上簇は蚕飼の峠時鳥 大岳水一路
下りへの荷直し峠懸巣鳴く 山田和子
世の花や百の峠も幾九十 上島鬼貫
中空に秋の風吹く峠かな 秋風 正岡子規
乳房ふたつ冷えて山刀伐峠かな 黒田杏子
亀兎飼うて峠の葭簀茶屋 江川由紀子(諷詠)
五平餅人語も芽吹く峠茶屋 渡辺恭子
京へ出るひくき峠や寒見舞 大峯あきら 鳥道
仙人峠雪呼ぶ窓と指さされ 田中英子
伊賀へ越す峠七つや土芳の忌 大杉幸靖
会釈して水口祭の峠神 大井戸 辿
何時の間に越へたる峠福寿草 佐藤愛子
何追うて越ゆる峠か秋の蝶 金箱戈止夫
信濃なる峠の科の木大木いまし緑す 荻原井泉水
修奈羅峠のお金の神様肩まで雪 小澤實 砧
先立ちゆく犬の巻き尾や露峠 鷲谷七菜子 花寂び
八十八夜女を仮りの峠とす 鈴木明
六月の雪踏まれずにある峠 山田弘子 こぶし坂
冬がれの里を見おろす峠かな 黒柳召波 春泥句集
冬の芽の婆娑羅峠を越えて来し 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
冬雲や波郷が詠みし山毛欅峠 牛山一庭人
凧吹いて島の峠の白薄 和知喜八 同齢
凩に向ふて登る峠かな 凩 正岡子規
凩のひつかかりゐる峠の木 原裕 正午
出雲への峠晴れたり初蕨 鷲谷七菜子 天鼓
初富士のかすめる草の峠かな 市村究一郎
初明りまとひつつありぬわが峠 新谷ひろし
初茸の婆のうしろに大菩薩峠 古舘曹人 樹下石上
初蛙笛吹峠の真下より 山口素基
初電話暗峠を声往き来 鈴木六林男
刺客ひそむ峠のような日暮の便所 西川徹郎 無灯艦隊
北冥き雪の峠を誰か越ゆ 千代田葛彦 旅人木
北狐出さうな峠春を待つ 新家崇子
北窓を開きさびしき峠見ゆ 鳥羽とほる
十三峠業平泣かせの北風吹くよ 楠節子
十文字峠にかかる朴の花 岡安迷子
卒業の子のー人ゆく峠あり 岸 霜蔭
南予には峠の多し山桜 青山ミヱ子
卯の花に不二ゆりこぼす峠哉 卯の花 正岡子規
卯の花の峠に来れば京が見え 大峯あきら 宇宙塵
卯の花の水呑峠夫と越ゆ 中村としゑ
古き道葡萄峠の渓涼し 桑原天士
古杉に道ある雪の峠かな 古白遺稿 藤野古白
句碑寂とくらがり峠冬ざるる 江見太郎
合歓は実に風の行き交ふ峠かな 市堀玉宗
名を恋ひし月出峠に馬酔木咲く 中戸川朝人 残心
吾妻に峠十三もみぢ晴(上州野反湖途上) 上村占魚 『萩山』
吾妻に峠十三紅葉晴 上村占魚
唯今は十国峠時雨をる 高木晴子 晴居
啄木鳥が叩き葉が降る峠神 猿橋統流子
喪がつづく麦生に赤き峠見え 宮坂静生 山開
囀りの擬音ひねもす峠茶屋 田中政子
団子汁吹く息白し峠茶屋 房前芳雄
団栗や倶利伽羅峠ころげつゝ 東洋城千句
団栗拾ふ峠あかるきさびしさに 山田麗眺子
国分寺は峠の向かふ鴉麦 平岡千代子
国盗りの綱引き峠冬枯るる 杓谷多見夫
土佐水木峠は人の別れ径 安岡清子
土竜打ちをり大菩薩峠見え 渋谷隆治
地下鉄にかすかな峠ありて夏至 正木ゆう子「静かな水」
坂鳥や峠へつづく塩の道 澤田佳久
坂鳥や木ノ芽峠の雲のなか 川上季石
声あげて牛首峠芽吹きおり 穴井太 原郷樹林
夏山や水に乏しき峠茶屋 夏山 正岡子規
夏木にも瓜蠅とべり峠畑 飯田蛇笏 山廬集
夏果つる峠や茶碗伏せし棚 長谷川かな女 花 季
夏炉焚く木の芽峠の一軒家 橋本公枝
夏鶯雲立ち上がる山毛欅峠 櫛原希伊子
夕日さす峠の白膠木紅葉かな 山本順子
夢にも人に逢はぬ峠の夕桜 島田柊
大峠小峠鷹の渡る頃 大峯あきら 宇宙塵
大島の峠の籔の実梅かな 後藤栄生
大根引くけふを峠といふ日和 林のぶ子
大菩薩峠をつつむ春しぐれ 福田甲子雄
大菩薩峠を越ゆるみどりの日 山崎ひさを
天はるかに大菩薩峠冬晴れたり 渡邊水巴 富士
天地水明あきあきしたる峠の木 中村苑子
奇稲田姫の須勢理姫の恋の秋峠 伊藤いと子
女郎花の中に休らふ峠かな 高浜虚子
姉とねて峠にふえるにがよもぎ 安井浩司
子鴉の峠短し明智領 大峯あきら 鳥道
宇陀越えの花の峠をバス徐行 西浦立子
寂しくばなほ寂しきに来て棲めと花折峠のひぐらしぞ澄む 青井史
密猟の小鳥を食はす峠かな 安田蚊杖
富士見峠乙女峠の小春富士 大橋敦子 手 鞠
寒凪ぎの高鳥見ゆる峠かな 乙字俳句集 大須賀乙字
寒潮のそのくろがねを峠より 大峯あきら
寝ござ干す峠の茶屋の罐コーヒー 村本畔秀
小佛の峠の茶屋の菜飯噴く 塩月能子
小峠に海道憩ふ山ざくら 百合山羽公 寒雁
小峠や青田の風を吹き上げに 野村喜舟 小石川
小障子に峠の日あり七日粥 木村蕪城
小雨より雪に変りし時峠 稲畑廣太郎
尾瀬竜胆雨に艶濃き峠かな 柴田寛石
山刀伐峠のかくも暑き日祠神 原裕 『新治』
山刀伐峠の栗の毛虫の大きさよ 細川加賀
山刀伐峠の青葉闇なす翁径 菅原庄山子
山椒喰峠田の水あまりたり 皆川盤水
山椿高々とある峠かな 河東碧梧桐
山樫に朝霧かゝる峠かな 霧 正岡子規
山毛欅の芽や富士見峠をどの国も 中拓夫
山蛭の落ちて峠は風もなし 竹中雪乃
山蟻とて乙女峠へ攀ぢにけり 成瀬桜桃子
峠うかべ遅日の村の昔より 村越化石 山國抄
峠からは行く方へ水も急ぎゆく秋(清水峠) 荻原井泉水
峠から一川糸に青田かな 東洋城千句
峠から大和の里や春夕 尾崎迷堂 孤輪
峠から故郷に来し紅葉かな 稲垣暁星子
峠から見る段々の青田かな 青田 正岡子規
峠こす鴨のさなりや諸きほひ 内藤丈草
峠この夢のいづこも蝉しぐれ 河原枇杷男 訶梨陀夜
峠てふバス停留所桐の花 川村紫陽
峠にうごかぬめがねの女いる二月 阿部完市 純白諸事
峠にて朴の鬱たる秋はじめ 森澄雄
峠にはまだ雪消えず水芭蕉 瀧井孝作
峠に見冬の日返しゐし壁ぞ 深見けん二
峠のその向ふの話夜長なり 化石
峠の名桃咲くころに来て覚ゆ 野中 亮介
峠の名空と伝へて朴の花 南 うみを
峠は闇われに棲みつく北風も 河原枇杷男 流灌頂
峠への終の痩せ坂息さやけし 鷲谷七菜子 花寂び
峠まで一本の道雁渡し 草間時彦
峠まで来ても真上や揚雲雀 揚雲雀 正岡子規
峠まで送るつもりの炉火を埋め 長尾あき子
峠まで送るならひやほとゝぎす 遠藤加寿子
峠みなよき名を持てりほととぎす 藤崎実「菱花」
峠みな佳き名をもてる初時雨 片山由美子 風待月
峠ゆく影のいちまいとして咳 小松雅朗
峠ゆく雲が晩稲の黄に馴染む 田中青濤
峠より人の下り來る吹雪哉 吹雪 正岡子規
峠より平らに落ちぬ天の川 天の川 正岡子規
峠より日が濃くなれり紅の花 皆川盤水
峠より来し車濡れ草紅葉 斉藤夏風
峠より海を見下す日永哉 日永 正岡子規
峠より無限夜長のはじまりぬ 宇多喜代子 象
峠より眞下におろす野分哉 野分 正岡子規
峠より雪くる一樹立ちつくし 穴井太 天籟雑唱
峠より風吹きおろす蚊帳哉 蚊帳 正岡子規
峠より風音かはる落し文 立木節子
峠一つがんじがらめに葛嵐 木下むつみ
峠一つ越すたび紅葉透けてくる 島 杜桃
峠二つ乳房のごとし冬の空 赤星水竹居
峠半里を帰りゆく子にほととぎす 茂里正治
峠大きな目で泣くははたちの新月 金子皆子
峠家の子の数の凧峠に見ゆ 茂里正治
峠小屋きのふで閉ぢし野紺菊 星野恒彦
峠教ゆ冬の深みのなつかしく 村越化石 山國抄
峠星美しくなりぬ春隣 大森桐明
峠村ひるをふかしとだいこひき 関戸靖子
峠涼し沖の小島の三年酒 山口素堂
峠涼し沖の小島の見ゆ泊り 素堂「六百番発句合」
峠澄む実の仙人掌のほの甘く 小池文子 巴里蕭条
峠神ひこばえの先づ紅葉して 小島千架子
峠神幣を倒して旅だちぬ 福田蓼汀
峠空身にしむ青さ誰が現れむ 野澤節子 黄 炎
峠茶屋なくて門茶の功徳かな 中山蕗峰
峠茶屋子育て飴も薄暑かな 細川加賀 生身魂
峠行く声ちりばめて小梨咲く 青柳志解樹
峠行く時静けさの若葉かな 東洋城千句
峠見ゆ十一月のむなしさに 細見綾子(1907-97)
峠踏みもこれきりの残雪となりぬ 乙字俳句集 大須賀乙字、岩谷山梔子編
峠近し落葉松林日雀鳴き 小川斉東語
巣立鳥あそべり峠隠す杜 及川貞 榧の實
幾曲り峠の月は海のうへ 横光利一
待宵の山刀伐峠ひそと子安神 斎藤夏風
律寺への峠肉(しし)切る青芒 山口草堂
心太峠の茶屋の隠し味 小島左京
恵方なる見え来て天塩峠の木 永田耕一郎 方途
悠然と峠を行き来鬼やんま 小島國夫
支那人大きな壺脊負ひ峠の冬を越える 人間を彫る 大橋裸木
故郷の巨燵を思ふ峠かな 炬燵 正岡子規
新涼や蜜の香のせる峠みち 岸田稚魚 筍流し
新蕎麦や木曽路へ抜ける峠茶屋 吉田幾代
日田越えの峠の小村花たばこ 吉田南窓子
旧街道峠の茶店の長火鉢 蕪木啓子
早朝の峠に白し落し角 斉藤志津子
早蕨の風の峠の名を知らず 佐野まもる
昔/真神の/深雪匂ひの/青春楡峠(あをだもたうげ) 林桂 銀の蝉
星合や峠へだてて牧ふたつ 大島民郎
星空や葛の峠を越えてきし 長谷川櫂 天球
春昼や蓮如も越えし大峠 宇佐美魚目 天地存問
春浅き峠とのみの停留所 八木林之助
春浅し峠の茶屋の丸火鉢 鷲見千里
昨夜の猪峠に現れて二つ 森下草城子
昼の虫峠の神は足短か 江中真弓
昼月の峠にをりぬ野老掘 大峯あきら 鳥道
昼頃の蝉の峠の茶屋日覆 清原枴童 枴童句集
時雨きてたましひを吊る峠の木 柿本多映
時鳥昔此頃此峠 時鳥 正岡子規
晩春の登りつめたる峠の木 廣瀬直人
晴着着て峠くだれば母の国 阿部完市 絵本の空
暑き日の浦見えわたり峠かな 尾崎迷堂 孤輪
暮坂の峠や懸巣啼かず飛ぶ 上村占魚
月の出の峠振り出し鳥追衆 下田稔
月の道乙女峠へ一筋に 平野青坡
月花を見かへすや年の峠より 上島鬼貫
望の月西行峠さびれける 下田稔
望台に芒積んだり峠茶屋 比叡 野村泊月
木ぶし咲き花折峠つづら折 古賀まり子 緑の野以後
木ノ芽峠雨霧赤腹湧出す 岡井省二
木枯や二つ越え来し又峠 東洋城千句
東方に峠あるなり雪降るなり 村越化石 山國抄
松籟は峠ならむと汗ばみ登る 篠原梵 雨
松蝉の湧ける暮坂峠かな 勝又一透
枯峠青空に風無尽蔵 矢島渚男 梟
枯萱に峠の鷹の沈みけり 秋櫻子
柿点す峠これより伊賀へ入る 加藤耕子
柿熟るるうしろの虚峠見ゆ 宮津昭彦
柿熱るるうしろの虚ろ峠見ゆ 宮津昭彦
栗の花峠に饑神(ひだるがみ)のゐて 茨木和生 遠つ川
桑の実に長きも長き峠かな 阿波野青畝「国原」
梅雨茸の紅に目をとむ暗峠 橋本美代子
梅雨霧に鳴く鳥もなし和田峠 相馬遷子 雪嶺
棕櫚剥ぎて峠の道の見えにけり 山口峰玉
棟寄せてくらがり峠小鳥来る 犬童冴子
榾たくや峠の茶屋にいわし売 泉鏡花
樹々透きて峠の雪に昏れゆく間 飯田蛇笏 椿花集
橡の実をふたつひろへば峠冷ゆ 黒田杏子
死んで弟は骨壺の骨、峠の海が青しとも青し 橋本夢道 無禮なる妻抄
殉教の乙女峠の萩こぼる 森 操
殊更に初日待ちたる峠かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
残菊や風も峠を登りゆく 猿橋統流子
母がりの峠を越ゆる桐の花 古田かつみ
母老いしや冬日に浮ぶ峠あり 村越化石
毒茸ばかりの修那羅峠かな 山田春生
水仙の匂ふ峠を越へにけり 横田昌子
水底より明けて峠の犬も死んだ 沢 好摩
水楢の芽立ちはおそし峠茶屋 高木晴子
水気付けたのむ峠の暑さかな 水田正秀
水菜さげ霧の峠のゆきだおれ 吉田さかぇ
泡吹虫峠の風に泡育て 河内孝子
洞川へ古き峠や水中り 大峯あきら 鳥道
海までは峠ひとつや餅配 大峯あきら 鳥道
海道の難所の峠杉の花 和田孝子
涅槃会の風の峠を越えにけり 山田弘子 懐
涼しさや立木柱に峠茶屋 雉子郎句集 石島雉子郎
涼風や峠に足をふみかける 許六 六 月 月別句集「韻塞」
深息をして八月の峠かな 中里 結
渋茶すゝる峠の茶屋や青嵐 寺田寅彦
滑歯の花テーブルに峠茶屋 満田玲子
滴りは木の根のことば峠みち 岩間民子
漱石忌近づく峠茶屋を訪ふ 河津春兆
濡れ落葉峠の向ふいつも晴れ 白鳥峻
炉に一夜峠で別れ後知らず 福田蓼汀
炎天の峠こえくる一人かな 石井露月
炎天の馬あれつのる峠かな 横光利一
烏瓜の花は峠の風のいろ 福川悠子
煤逃や峠を越えて海辺まで 松林朝蒼
熊棚の残る吹雪の峠かな 原田恵美子
犬のいない犬鳴峠という緑陰 鮫島康子
狐の嫁入り虹を峠に残しけり 櫛原希伊子
独活を掘る碇峠と云ふところ 渋谷一重
狼に夜は越せざる峠かな 大谷句仏
猪(しし)が来て空気を食べる春の峠 金子兜太(1919-)
猪がくる元旦の峠かな 星野昌彦
猪が来て空気を食べる春の峠 金子兜太 遊牧集
猪とれし話峠を越え来る 吉年虹二
猪独活の峠ひたひた女たち 樋口こと
猿の手の秋風つかむ峠かな 吉田汀史
猿蓑の峠は雨と秋刀魚売り 北村 保
猿鳴ひて金精峠初しぐれ 三角 節
生れは甲州鶯宿峠に立っているなんじゃもんじゃの股からですよ 山崎方代
甲斐への塩絶たれし峠山法師 田中英子
甲斐信濃分かつ峠や冬霞 下瀬川慧子
男といふ性は峠を過ぎゆきて<赤いきつね>を啜りゐるなり 田島邦彦
男郎花峠下れば海女の村 東 容子
畚岳遠望りんだう咲く峠 高澤良一 寒暑
異国旗のひきずられ行く雪峠 対馬康子 愛国
白玉を竹の器に峠茶屋 山本閑子
白露や紫尾の峠を牛越ゆる 脇本星浪
白靴の軽きに峠二つ越え 西浦幸男
百幹の峠の冬木夕茜 上沼美保子
目頭に刈田峠の蜻蛉かな 高橋龍
真清水や世に小峠の忘れられ 野村喜舟 小石川
石楠花や影振りすててゆく峠 鷲谷七菜子 雨 月
秋口のこんにやく畑の峠かな 阿波野青畝
秋桜峠に祀る牛の霊 広瀬一朗
秋祭すみし塵掃く峠茶屋 渡辺一魯
秋祭人語四方の峠より 前田普羅 春寒浅間山
秋草の峠はいつも今朝もさびし 岡田日郎
秋草の花みな濡れて霧になびく夕霧峠といふ道をこゆ 尾崎左永子
秋蝶と漂ひ越すも一峠 小林康治 玄霜
秋風〔に〕ふいとむせたる峠かな 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
秋風に小銭の溜まる峠神 角川春樹(1942-)
秋風や加賀へ峠をひとつ越え 片山由美子 風待月
秋風や旅の女と小峠と 野村喜舟 小石川
秋風を映す峠の道路鏡 大串 章
科の木や葉月ぐもりの峠茶屋 佐藤鬼房
立葵ゆらぎ峠をはしる水 水原秋櫻子
竹杖のしわる峠や閑古鳥 閑古鳥 正岡子規
竹煮草野麦峠の雨太し 小野淑子
笹子峠に春告ぐ雲のかかりたる 古屋富雄
笹鳴や義経越えしといふ峠 石原 栄子
筒鳥や山刀伐峠日照雨来る 金居欽一
筒鳥や峠に冷やす車酔 相馬遷子 雪嶺
箒売月の峠を越えきたり 中田剛 珠樹以後
籠坂の峠の神に鵙の贄 鳥越憲三郎
紀見峠の薊なびかす風に立つ 鈴鹿野風呂
紀見峠紀伊けぶらせて五月雨るる 安立富美子
紅の花峠は水の上にあり 皆川盤水
綺羅星の揃ひし年の峠かな 池田秀水
義仲の声す照葉の峠往く 山本富万
義経の笛吹峠花野かな 岡本英夫
羽前羽後分かつ峠や初しぐれ 小野誠一
翁憩ひし峠の空を草の絮 茂里正治
老鴬や峠といふも淵のうへ 石橋秀野
老鶯やゆくての峠雲の中 白水郎句集 大場白水郎
老鶯や峠といふも淵のうへ(石見市山村七句) 『定本石橋秀野句文集』
耳やはらか霧の峠を二つ越え 神尾久美子 桐の木
耶蘇祀り摘草峠野萱草 小原菁々子
聳え立つ恋の峠や業平忌 京極杞陽
胡鬼の子や一茶のころの峠みち 中戸川朝人 星辰
胸元に涼風あつめ峠茶屋 小林ミヨ子
臍峠いづこや雨の仏生会 魚目
自転車の蒼光る肉峠より 西川徹郎 死亡の塔
良寛の辿りし峠草紅葉 沢木欣一
色鳥や道の消えたる古峠 野村喜舟 小石川
芭蕉越えて戻らぬ峠葛茂る 品川鈴子
花どきの峠にかかる柩かな 大峯あきら
花の雨ふりて人来ぬ峠かな 前田普羅 新訂普羅句集
花芒峠に青き日ありけり 中田剛 珠樹
花萩に三味一挺や峠茶屋 鈴鹿野風呂 浜木綿
花蕎麦や谷におくれて峠の灯 長田 等
花追ひて鞍馬花背と二峠 肥田埜恵子
若狭田のわかきそよぎを峠より 高橋睦郎 稽古飲食
若菜摘む風の峠をはるかにし 久松澄子
茸狩や峠の奥の遠き山 草間時彦
茸狩や峠の奥の遠つ山 草間時彦 櫻山
草ひばり声澄みのぼる峠みち 柴田白葉女
莨火の貸借一つ枯峠 上田五千石 田園
萬緑を顧みるべし山毛欅峠 石田波郷(1913-69)
萱草の花に霧ふく峠かな 中勘助
萱萌えし伊豆の峠の雪を踏む 石橋辰之助 山暦
落葉ふるなり峠の茶屋にたべる餅に シヤツと雑草 栗林一石路
葛の中人を見すごす峠神 森澄雄 游方
葛掘と越ゆる風雨の狛峠 河北余枝子
蒟蒻の花を咲かせて峠茶屋 高橋悦男「海光」
蓬摘む由比の峠の暮るるまで 大橋利雄
蓮如忌やみづうみ蒼きこの峠 大峯あきら
蓮如輿難所とはこの峠かな 吉波泡生
藁屋根にたんぽぽ咲けり峠茶屋 佐々木尚子
藪入やくらがり峠降り来しと 阿波野青畝
虎杖や狩勝峠汽車徐行 星野立子
蚕屋障子開きて九月の峠見ゆ 筒井恭子
蛍狩花背峠を越え来たり 松村節子
蜻蜒を相手に上る峠かな 蜻蛉 正岡子規
蝉暑つや松に飽き行く長峠 東洋城千句
蝦夷富士へ蕗のはためく峠みち 渡辺恭子
蝶と化す菜の花ばかり峠村 上田五千石
蟆子擲つて山刀筏峠引き返す 深谷雄大
蟷螂のひらひら飛べる峠かな 岸本尚毅(1961-)
蠅とぶや烈風なぎし峠草 飯田蛇笏 山廬集
護摩焚いてくらがり峠残花なり 山本千之
谷越えの風透く峠花さびた 櫻内玲子
豆柿をひたき占めゐる峠かな 中勘助
豆筵峠をおりしここに干す 村越化石 山國抄
赤き馬車峠で荷物捨てにけり 高屋窓秋
赤松や峠は春の雪とべる 有働亨 汐路
越えてきし峠のはなし夜長し 下田稔
越す峠ガラガラ蛇の轢かれをり 坊城としあつ
躑躅咲く奥もつつじや仁田峠 増田 富子
車とめぬ風の峠の松虫草 及川貞 夕焼
送行にあるべき様の二つ峠 斎藤玄 雁道
通り峠棚田絵巻の遠霞 早水運太郎
通草引くひとりが塞ぐ峠みち 小澤満佐子
逝く春や見返り峠低けれど 細川加賀 生身魂
遅き日のフランス見ゆる峠かな 大峯あきら
遠くわくこう森のはじめの峠みち 野澤節子 黄 炎
遠富士に乙女峠は枯芒 後藤比奈夫
遠目して修那羅峠のいぼむしり 原田喬
遠耳や風に吹かれる峠の木 穴井太 原郷樹林
郭公耳摺払ふ峠かな 上島鬼貫
野に仰ぐ峠の道や秋の晴 内田百間
野峠へしばらくの径朴落葉 岸原清行
野峠を越ゆれば秋の国ならむ 穴井太 原郷樹林
金精の峠閉じたる薬喰ひ 藤田十紀子
闇の雁手のひら渡る峠かな 雁 正岡子規
防人の別れの峠鷹渡る 若松徳男
降る雪のその先日暮れ峠の灯 野澤節子 『八朶集』
雁渡る杖突峠湖の上 桂樟蹊子
雄国沼望む峠やうつぼ草 石原栄子(山火)
集落へくだる峠や熊の架 雨宮美智子
雉子なくや倶理加羅峠まだ五町 水田正秀
雪ちらちら峠にかかる合羽かな 夏目漱石 明治三十二年
雪峠「継さ」「角さ」も越えしてふ 伊藤いと子
雪晴夜夜泣峠をうさぎ跳ぶ 赤尾兜子
雪解の峠の茶屋の戸口かな 原 石鼎
雪解川峠の下を衝きにけり 野村喜舟 小石川
雪起し山刀伐峠底ひびき 加藤楸邨
雲うすらぎ鶯なく峠の小雨となりぬ 梅林句屑 喜谷六花
雲めざす蛾のあり暮坂峠なり 堀口星眠
雲渡る猿羽根峠の花こぶし 鈴木朗月
霜くすべ土湯峠を下り来れば 阿波野青畝
霜柱高き山刀伐峠なる 下村梅子
霧は家族の匂ひ峠の木下闇 広嶋爽生
露草や温見峠の空濁る 斎藤英樹
青峠生駒八景その一景 塩川雄三
青葉してくらがり峠粉挽けり 林 徹
青葉木菟峠に女工哀史あり 松本千冬
頬赤来て峠の夕日いま円に 塩野谷仁
顔上げて梅の峠へ郵便夫 蓬田紀枝子
風倒木雹こゑあげて峠こゆ 石原八束 空の渚
風峠 雲をちぎって捨てておく 鈴木石夫
風干しの肝吊る秋の峠かな 三橋敏雄 *シャコ
風荒き峠の菫冴えにけり 渡辺水巴 白日
風返し峠風なき日の霞 稲畑汀子
風返峠の桜吹雪かな 永方裕子
馬が来てどこも坂なす峠の磔刑 深谷守男
馬鈴薯の花やこれより臍峠 濱田正把「冬晴」
駅の名の峠と呼ぶや雪の聲 寺田寅彦
骨壺の弟を抱え母と故郷の海見ゆる峠となる 橋本夢道
鬼追はれ夜昼峠までゆくか 正木ゆう子 静かな水
鮒鮨を買はむと越ゆる花峠 飴山實 辛酉小雪
鮓宿へ旅人下りぬ日の峠 飯田蛇笏 山廬集
鳥の巣を覗いて登る峠かな 希 因
鳥渡る甲斐十方に峠もつ 加々美鏡水
鴬や柏峠をはなれかね 蕪村遺稿 春
鶯の声たちのぼる峠の木 綾部仁喜 樸簡
鶯笛十国峠に吹きて売る 石鍋みさ代
鶴引て行くや海より峠より 引鶴 正岡子規
鶸渡る雨の峠の草伝ひ 堀口星眠
麦秋や峠むかうに杜氏の村 島津ふじ穂
麦笛の中の笛吹峠かな 秦 夕美
黄鶲や峠に波郷見しやうな 木村有宏
黒い峠ありわが花嫁は剃刀咥え 西川徹郎 無灯艦隊
黒峠とふ峠ありにし あるひは日本の地図にはあらぬ 葛原妙子
黒百合や美幌峠の岩陰に 藤瀬正美
●峠口
よく晴れて峠口より頬被 中井満子
一村のしぐれはじまる峠口 石寒太 あるき神
三椏に生魚割く峠口 綾部仁喜 樸簡
峠口うめさきつゞく道曲る 滝井孝作 浮寝鳥
斑猫のとぶ夜叉神の峠口 荒川優子
旅人に稲負鳥峠口 八木林之介 青霞集
松は目をみひらく寒の峠口 大井雅人 龍岡村
松毟鳥山路ここより峠口 後藤春翠
桔梗やまた雨かへす峠口 飯田蛇笏 霊芝
梅雨晴や小村ありける峠口 水原秋桜子
白靴や手鏡を出す峠口 増子 京
盆近き老婆いちづに峠口 宮坂静生 山開
竜胆や風のあつまる峠口 木内彰志
色鳥や塩の店ある峠口 皆川盤水
花了る木曽のひまはり峠口 黒田杏子
葭簀茶屋かたまるところ峠口 荒川あつし
薬掘る天目山の峠口 高木良多
露草の千の目ひらく峠口 若井新一
馬の瞳も零下に碧む峠口 飯田龍太
●峠路
冬山や峠路別に樵り道 尾崎迷堂 孤輪
峠路のいづこか鳴ける囮かな 水原秋桜子
峠路のはづれに四五戸立葵 稲畑汀子
峠路のほぼなかばなる初景色 橋本鶏二
峠路の分るるところ野菊咲く 阿部ひろし
峠路の句碑をうづむる霜柱 飯田蛇笏 雪峡
峠路の夕や夏の雲はやし 蘇山人俳句集 羅蘇山人
峠路の春も吹雪くといふことを 稲畑汀子 春光
峠路の果なき如く花辛夷 稲畑汀子
峠路の登るにつれて紅葉濃し 高浜年尾
峠路は遥か黒穂の捨てゝあり 山口草堂
峠路やわらびたけてぼうぼうの山 室生犀星 犀星發句集
峠路や俯向きて受く郁子の雨 岸田稚魚 筍流し
峠路や夏蚕の家は瀬を前に 石橋辰之助 山暦
峠路や時雨晴れたり馬の声 尾崎放哉
峠路や水引草は妻のもの 岸田稚魚
峠路や風の形に咲く木華 中村恵美子
峠路をゆかばこのまま雪をんな 野沢節子 八朶集
空濡れて峠路うすき草もみぢ 柴田白葉女 花寂び 以後
芒なほ午前の光り峠路は 野澤節子 黄 炎
●峠道
きぶし咲く雫つらねて峠道 茂木房子
万緑や瀬音のふかき峠道 林 宏
仙翁花や信濃へ越ゆる峠道 桜木俊晃
元日の海の風吹く峠道 龍太
夏薊丹波でかんしよ峠道 中野あきを
宇津谷の葛も了りの峠道 高澤良一 燕音
宿までは氷柱明りの峠道 斎藤夏風
富士曇る静かな花の峠道 広瀬直人
山百合の白新しき峠道 滋田房子
峠道見えゐて消ゆる秋の暮 小林康治 『潺湲集』
新涼や蜜の香のせる峠みち 岸田稚魚 筍流し
桑の実ややうやくゆるき峠道 五十崎古郷句集
滴りは木の根のことば峠みち 岩間民子
猪撃ちの黙殺に遇ふ峠道 高澤良一 ぱらりとせ
胡鬼の子や一茶のころの峠みち 中戸川朝人 星辰
草ひばり声澄みのぼる峠みち 柴田白葉女
蝦夷富士へ蕗のはためく峠みち 渡辺恭子
通草引くひとりが塞ぐ峠みち 小澤満佐子
遠くわくこう森のはじめの峠みち 野澤節子 黄 炎
●遠嶺
さだかなる遠嶺の高さ落葉踏む 橋本鶏二
しばらくは遠嶺あかるし黐の花 柴田白葉女 花寂び 以後
のこる鴨肥えて遠嶺のかすみけり 山本古瓢
ふぢばかま遠嶺は雨にけむりをり 古谷のぶ子
まなじりと遠嶺かかはり合ふ寒気 水谷キミエ
みづいろの遠嶺入れたり春日傘 山本千恵子
むらさきに遠嶺かがやき寒晒 鈴木虚峰
よべ月をあげし遠嶺の名を問ふも 山田弘子 こぶし坂
カンナの黄雲は遠嶺の裏に棲む 奥野久之
コスモスに遠嶺を入れて娘を写す 横山房子
コスモスや遠嶺は暮るゝむらさきに 五十崎古郷句集
プラタナス咲いて遠嶺のやさしかり 椎橋清翠
マスクしてけふの遠嶺の雪に会ふ 五十崎古郷句集
一位の実ふくみ遠嶺のよく見ゆる 大串章
一位の実甘し遠嶺の霧を見る 野見山朱鳥
伊勢海老の髭を雲ゆく遠嶺晴 小澤克己
光なき遠嶺の紺や十二月 大岳水一路
六月の遠嶺引き寄せ方位盤 今井嘉子
初大師遠嶺より享く日のぬくし 吉岡道夫
初春の日ざし見えゐる遠嶺雪 河野南畦
初東風や雪清浄の遠嶺より 室積徂春
初秋はうすむらさきの遠嶺かな 豊田都峰
初雪の遠嶺へ高き操車音 鳥居おさむ
勝独楽も遠嶺も肩をあげにけり 大嶽青児
北空の遠嶺けふ澄み達谷忌 矢島房利
卒業歌遠嶺のみ見ること止めむ 寺山修司
吹き晴れし遠嶺を指して鳥帰る 鈴木英女
夏惜しむ目を細めよと遠嶺雲 鈴木鷹夫 大津絵
夏期講座窓の遠嶺を見てゐたり 戸川稲村
夏風邪の長びいてゐし遠嶺かな 綾部仁喜「樸簡」
子供の日薄紅色に遠嶺暮る 福田甲子雄
扇風機の羽根透き遠嶺ゆらぐなり 松田 多朗
手袋をまだ脱がずゐる遠嶺かな 綾部仁喜 樸簡
新墾山遠嶺をつなぎ光る風 成田千空 地霊
春雪の遠嶺つらなる母子の旅 柴田白葉女 花寂び 以後
木瓜咲けば遠嶺も春にかへりけり 石橋辰之助 山暦
林檎の実赤し遠嶺に雪を待たず 大串章
桃畑に糞りて遠嶺を見はるかす 奈良文夫
桑もゆれ遠嶺もゆれて桑車 岡本まち子
樹氷ぱりぱり触れてのぼりぬ遠嶺見に 及川貞 夕焼
水飲めば生きたかりけり遠嶺の雪 川口重美
沈む星遠嶺に冴ゆる燈と並ぶ 宮津昭彦
法師蝉杉間に蒼む空遠嶺 石 昌子
深秋の雄心ひとり遠嶺越ゆ 木村敏男
片栗の花咲き遠嶺雪きゆる 松村蒼石 露
独活掘るや遠嶺に消えぬ雪の道 中拓夫 愛鷹
田水沸く遠嶺雲を育てつつ 米沢吾亦紅
白菊に八方澄める遠嶺かな 石昌子
白薔薇一輪遠嶺発行所 小澤克己
秋草に埋もれて低き遠嶺かな 青峰集 島田青峰
種おろし遠嶺しぐれのうつるころ 福田甲子雄
竜胆やかがめば遠嶺も草の丈 花田春兆
笛吹いて了る童話よ遠嶺に雪 大嶽青児
紅葉寒遠嶺の日ざし吾に来ず 綾子
紙の里遠嶺の雪解やさしくす(土佐、仁淀川付近) 河野南畦 『試走車』
緬羊舎雪の遠嶺に扉を開く 福田蓼汀 山火
芒闌けこだまが遠嶺より返る 河野南畦 湖の森
芦刈の置きのこしたる遠嶺かな 橋本鶏二
花林檎遠嶺恋する彩にかな 高山まどか
菜種蒔く遠嶺の没日仰ぎ見ず 寺田木公
葱掘るやしんしん吹雪く遠嶺どち 吉田未灰
蒟蒻を掘り散らしたる遠嶺かな 古舘曹人
蘆刈の置きのこしたる遠嶺かな 鶏二
蜩や遠嶺々浮かめ曉の色 松根東洋城
遠嶺いま蒼し梵天発つかまへ 柏山照空
遠嶺から日癖の風や達磨市 林 青芒子
遠嶺の如死遠し厚朴の緑かげ 石田波郷
遠嶺の晴れて風寄す稲架襖 工藤たみ江
遠嶺まだ闇をはなさず漁始 山崎冨美子
遠嶺まで風透きとほり青葡萄 吉田保子
遠嶺みなよき名山葵の水はしる 平田笙子
遠嶺みな雲にかしづく厄日かな 上田五千石 風景
遠嶺もう雪肌理のこまかい対話で旅 楠本憲吉
遠嶺も晴いく畑となく藷掘られ 古沢太穂 古沢太穂句集
遠嶺より日あたつてくる鴨の水 桂信子 遠い橋
遠嶺より日差伸び来る葡萄棚 橋本榮治 麦生
遠嶺より追風青葉若葉風 小出秋光
遠嶺より雨匂ひだす水芭蕉 堺 信子
遠嶺より霜の強さを掴みだす 松澤昭 安曇
遠嶺より鬣を振り野分来る 小林康治 『虚實』
遠嶺斑雪シヨートケーキの角くずす 田村みや子
遠嶺斑雪夕鶴は声やはらかに 神尾季羊
遠嶺新雪すぐ旅立てる世ではない 秋庭俊彦 果樹
遠嶺星涼し父母ゐる昂りに 鍵和田[ゆう]子 未来図
遠嶺濃し藁塚のいと眠たげな 森戸光子
遠嶺発つ冬の薄日に姉の葬 相原左義長
遠嶺白野兔ももう冬毛なる 依田明倫
野焼後の遠嶺は肩を寄せ合へり 館岡沙緻
雉子鳴くや遠嶺は雪を被きたる 井杉恵美子
雛菊に遠嶺の虹のしばらくは 鷲見鈴子
雪千々の遠嶺暮れゆく母の忌も 堀口星眠 営巣期
雪渓の遠嶺そびらに天守立つ 広田恵美子
餅花をつくる遠嶺のよく見えて 佐川広治
馬上の子に遠嶺ふくらむ裸の雲 飯田龍太
麻刈りて稲妻かかる遠嶺かな 橋本鶏二 年輪
黐の花しばらく遠嶺あかるくて 柴田白葉女
●夏嶺
どんよりと夏嶺まぢかく蔬菜園 飯田蛇笏
レンズもて夏嶺アイガーは捕へがたし 稲垣きくの 黄 瀬
乱気流噴きあげ夏嶺まのあたり 今井杏太郎
卓に白墨立て教へ子と夏嶺恋ふ 友岡子郷 遠方
夏嶺ゆき恋する力かぎりなし 仙田洋子 雲は王冠
富士夏嶺谺雄々しく育ちをり 橋本榮治 麦生
父なる夏嶺と群燕中に丸裸 磯貝碧蹄館 握手
突兀の夏嶺も泰くねむるなり 文挟夫佐恵 黄 瀬
飛騨高山へ帰る少女と夏嶺越ゆ 原田青児
●麓
お山焼すみし麓に鹿遊ぶ 山下輝畝
お岩木の麓の林檎熱しをり 高澤良一 寒暑
きさらぎの麓よく見え梯子市 福田甲子雄
たたなはる山の麓へ春墓参 津曲つた子
ふじのねや麓は三保の松飾り 門松 正岡子規
ふるさとの雪あたたかき麓かな 石塚滴水
まんさくや麓をさらに長歩き 猪俣千代子 秘 色
ものいはず夫婦畑うつ麓かな 畑打 正岡子規
よいぞ嵐麓のいきり肩の花 調試 選集「板東太郎」
アスパラガスの花のあはあは麓村 飯坂ヒデ子
アルプスの麓に目覚め百千鳥 田中水桜
キヤデイこの麓の農婦曼珠沙華 車谷弘 花野
ヒマラヤのここも麓や水澄める 福井圭児
ヒマラヤの麓に古りし暦かな 山本洋子
万葉の山の麓のかぶら売り 岸原清行
二上の麓ひゝらぎ挿しにけり 角川春樹
二十六夜の草道を刈る麓人 佐野美智
兀山の麓に青き柳かな 青柳 正岡子規
八つ霽れや神の留守なる麓原 飯田蛇笏 山廬集
再会は麓を風の山法師 小川トシ子
冬山の麓にならぶ喇嘛八寺 遠藤梧逸
冬山やごぼごぼと汽車の麓行く 冬山 正岡子規
冬木立道灌山の麓かな 冬木立 正岡子規
冬紅葉俗塵払ふ麓寺 高澤良一 燕音
凩や麓の方に鍛冶の音 凩 正岡子規
初富士や雪の筆勢麓まで 染谷彩雲
初霞娘の嫁ぎゆく麓村 羽吹利夫
初鶏に遥か麓の鶏こたふ 高浜虚子
北麓の空より碧し蛍草 小川晴子
南麓に灯の帯展け朧富士 川村紫陽
名月に麓の霧や田の曇り 芭蕉
堂頭の新そばに出る麓かな 内藤丈草
夏山の麓に見ゆる牧場かな 夏山 正岡子規
夏山の麓電車の来てかへす 倉田青
夏山や麓なしける草の丘 尾崎迷堂 孤輪
夏山や麓に近き雲の村 夏山 正岡子規
夕焼の麓の村の帰省かな 田中冬二 俳句拾遺
夜の富士麓残して雲となんぬ 渡邊水巴 富士
夜の蝉に戸締りきそふ麓かな 龍胆 長谷川かな女
夜越えして麓に近き蛙かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
夜越して麓に近き蛙かな 蛙 正岡子規
大久住眠る麓の今日の宿 高野素十
姨捨の麓の四五戸胡麻を干す 大久保橙青
宇治山の麓の寺のうす紅葉 比叡 野村泊月
家見ゆる花の麓の郭かな 花 正岡子規
寒鮒に千年かたちよき麓 松澤昭 山處
寝てくらす麓の嵯峨ぞ雲の峰 来山
山々に麓ありけり桐の花 小島健「木の実」
山峨々としてその麓猫の恋 岸本尚毅
山焼の麓に暗き伽藍かな 多田桜朶
山風に芒浪うつ麓かな 蘇山人俳句集 羅蘇山人
岩木山祀る南麓蕗の雨 宮津昭彦
峯すでに麓へぼかす紅葉哉 寺田寅彦
川の名の変はる麓の絲ざくら 佐川広治
恐山閉ざし麓の兎罠 松本進
早苗饗の燈の暈ならぶ麓村 三嶋隆英
明月に麓のきりや田のくもり 芭蕉 俳諧撰集「有磯海」
春山の麓に餅を搗ける音 田中冬二 俳句拾遺
春風の山の麓に子がもたれ 大峯あきら
時鳥人馬の細き麓かな 時鳥 正岡子規
晩春の猫が草吐く麓かな 大木あまり 火のいろに
月の出や麓暗さに松林 東洋城千句
月山の麓の村の箒草 伊藤いと子
月山の麓より来し小豆売 岩月通子
杖となるやがて麓のをみなへし 三橋鷹女
松伐られゆく麓より威銃 阿部みどり女 月下美人
枯麓落石であり墓である 平畑静塔
横山の麓の藤の見ゆる縁 京極杞陽 くくたち下巻
水と地と麓ゆったり余寒あり 一ノ瀬タカ子
水張つてまた眠らせる麓の田 綾部仁喜 樸簡
水打つや上野の山の麓路 子規句集 虚子・碧梧桐選
水鳥や麓の池に群れて居る 水鳥 正岡子規
浅間嶺の麓まで下り五月雲 高浜虚子
消しゴムや麓の川を川蒸気 攝津幸彦
涼しさや小家の前の麓川 涼し 正岡子規
湧水を鈴の音と聞く麓神 伊藤京子
滴りや東叡山に麓あり 斉藤夏風
火の山の麓に二つ秋の湖 鶴飼 風子
火の山の麓の湖に舟遊 高濱虚子
火の山の麓の茶屋の蕨餅 田中冬二 俳句拾遺
火山寧らぐ鼓笛びんびん麓を衝ち 隈治人
炉塞いで一本の道麓まで 神尾久美子 桐の木
煤掃いて眼鏡玉澄む麓かな 山本洋子
煦(く)々として麓畑あり種井あり 友岡子郷 未草
爪たてて山柿しぶし麓路 飯田蛇笏 山廬集
父はひとり麓の水に湯をうめる 三橋敏雄 眞神
牧番の麓むけたる雪達磨 松本みどり
犬吠ゆる里は麓に星月夜 星月夜 正岡子規
犬吠ゆる麓は低し星月夜 星月夜 正岡子規
田を植うる妙義の麓家二軒 高浜虚子
畦の波麓に寄する山ざくら 松藤夏山 夏山句集
白雲や山の麓の蜜柑畑 青蜜柑 正岡子規
目刺青し富士麓までよく見える 岩間民子
看下すや麓の村の揚花火 会津八一
眠る山の麓に据ゑぬ製縄機 比叡 野村泊月
石を切る山の麓や桃の花 湖柳
石切場に石切る鑿の音ひびき麓はかすむ菜の花ばたけ 太田青丘
秋彼岸麓の馬の紺に見ゆ 友岡子郷
空蝉に雨水たまる麓かな 高橋龍(龍年纂)
笠を編む麓の村や山眠る 内田百間
笹鳴や艦入り替ふる麓湾 飯田蛇笏 山廬集
糸屑を払うや冬に入る麓 橋石 和栲
繭玉飾る麓の村よ雪降り出す 村越化石 山國抄
胡麻咲きて霧湧きのぼる麓村 菅原文子
臥待ちや湯町の囃子麓より 田村鬼現
自動車と駕と麓に冬紅葉 高浜虚子
花の句碑に早其處めける麓かな 西山泊雲
花の種買ふアルプスの麓町 岬 雪夫
花咲きて牛にのりたき麓かな 井上井月
芹の水葛城山の麓より 矢島渚男
草山の麓燃ゆるや桃ならん 尾崎迷堂 孤輪
菊の香や麓の里のそここゝに 尾崎迷堂 孤輪
菜の花や末寺の見ゆる麓迄 古白遺稿 藤野古白
萱刈のゐて麓路に山でにけり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
葛城の麓まで雪の大和側 右城暮石 声と声
葡萄熟れ雲も棚なす麓村 野中亮介
蓬の麓へ通ふ鼠かな 鬼貫
蓬莱の麓にかよふ鼠かな 西鶴
蓬莱の麓に寐たる夫婦かな 蓬莱 正岡子規
虚子句碑の麓の畑の蕎麦を刈る 中川みさえ
虫分けて来るや麓の映画バス 長谷川かな女 雨 月
行く春や麓におとす馬糞鷹 荊口 三 月 月別句集「韻塞」
親籠をはるか麓に茶を摘める 八染藍子
豆腐うる声は麓の月夜かな 内藤丈草
逆吊りの兎を軒に麓村 藤木倶子
酒旗高し高野の麓鮎の里 高浜虚子
降かくす麓や雪の暮さかひ 井上井月
陣場址に聞くは麓田の昼蛙 有働亨 汐路
雪山の麓の山毛欅の疎林かな 京極杞陽 くくたち上巻
雪嶺の麓に迫る若葉かな 野村泊月
雪嶺の麓再会と言ふ茶房 福田蓼汀 秋風挽歌
雪渓の楔を深く麓村 片山由美子 風待月
雪解や旅人通る麓町 雪解 正岡子規
雪車下りてかじきをつける麓かな 橇 正岡子規
雲の峯の麓に一人牛房引 雲の峯 正岡子規
靈山の麓に白し菊の花 菊 正岡子規
風にのる母と麓の梅祭 宮坂静生 山開
馬肥ゆる牧場に遊ぶ麓の子 蒲沢康利
馬鈴薯の花蝦夷富士の麓まで 永沼弥生
鶏鳴くや小冨士の麓桃の花 桃の花 正岡子規
鶫網かけある英彦の麓かな 前田まさを
鶲来る富士北麓に夕日充ち 飯田龍太
鷽鳴くや麓の村の照り曇り 和田明子
鹿啼いて麓は奈良のともし哉 河東碧梧桐
麓から寺まで萩の花五町 萩 正岡子規
麓から風吹き起るすゝき哉 薄 正岡子規
麓しき春の七曜またはじまる 山口誓子 七曜
麓なる当麻の寺や烏瓜 侘仏
麓なる鐘をうつゝに榾火かな 喜谷六花
麓の胸毛をこぼす春みなみ 加舎白雄
麓の蕎麦屋に何カラツトの寒すばる 尾田秀三郎
麓まで一気に駈けて龍田姫 山仲英子
麓まで山の峨々たる比良祭 辻田克巳
麓まで米貰はばや花の雲 内藤丈草
麓よりはや散らばりて蕨狩 永松西瓜
麓より余花をたづねて入りにけり 原 石鼎
麓より大分硬き芽山桜 高澤良一 素抱
麓より届く夏越の神饌の鯛 白岩てい子
麓より拝む佛や初嵐 山本洋子
麓より暮れて信濃路菜殻焚く 宮坂静生 青胡桃
麓より風吹き起る薄かな 薄 正岡子規
麓人の描く冬瓜や良寛忌 草間時彦 櫻山
麓人先生雷除をはや享けし 石田あき子 見舞籠
麓枯れ色処々に村落寺をまじへ 宮津昭彦
麓田の夕日に多き案山子かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
麓神熟ませし柿を貰ひけり 村越化石 山國抄
麓神遊びに来るか炬燵せり 村越化石 山國抄
麓野や月一色に轡虫 東洋城千句
麥蒔や北砥部山の麓まで 麦蒔 正岡子規
麥踏みの角力ひたりけり阿蘇麓 三好達治 路上百句
麻干して麓村とはよき名なり 高野素十「初鴉」
黄鶲や裏由布麓まで崩れ 雨宮美智子
●分水嶺
ケーブルカー雑木紅葉の分水嶺 八木洋子
万緑の分水嶺に人灯す 加藤耕子
低くとぶ分水嶺の冬の鵙 河合凱夫 飛礫
分水嶺からの一水 橡の花 伊丹三樹彦
分水嶺に髪の枯色梳る 八木三日女 落葉期
分水嶺未生の春の霧氷顕つ 文挟夫佐恵 雨 月
分水嶺汽車を雪野へ放ちけり 羽部洞然
分水嶺海の方には雪ゆたか 鷹羽狩行 誕生
分水嶺発しゆくもの柿に会え 和知喜八
分水嶺越えて夕日に鳥帰る 研 斎史
南無三滴!分水嶺のみなみへ落つ 折笠美秋 虎嘯記
建国の日となり分水嶺を越ゆ 山口都茂女
新豆腐分水嶺の町に買ふ 岩崎照子
秋晴を分水嶺の尾根で截る 辻田克巳
荒梅雨の雲奔り去る分水嶺 吉田鐵城「分水嶺」
香水を分水嶺にしたたらす 櫂未知子「蒙古斑」
鮎かけや分水嶺に雷遠し 冬葉第一句集 吉田冬葉、伊藤月草編
●山窪
啓蟄や山窪の日に忘れ罠 小林黒石礁
山窪に窯古りぬ鵯ひくゝたつ 及川貞 榧の實
山窪の二十戸足らず初神楽 百合山羽公
山窪は蜜柑の花の匂ひ壺 山口誓子(1901-94)
菊戴山窪すこし水を溜め 能村登四郎 菊塵
鳥だけが知る山窪のわすれ雪 能村登四郎
●山坂
ここよりは山坂けはし駒つなぎ 増田宇一
このあたり有為の山坂花なずな 北見さとる
ひらきし掌に自問す露の山坂にて 友岡子郷 遠方
みちのくの蚯蚓短かし山坂勝ち 中村草田男「来し方行方」
吹流し吹かれ山坂あつまれり 萩原麦草 麦嵐
境内に山坂ありて梅早し 有働 亨
寒念仏山坂越えてひとつ家に 福田蓼汀 山火
山坂にかかりて唄ふ春祭 大石悦子 百花
山坂に山車がつまづく秋祭 百合山羽公 故園
山坂に牛の足掻きの秋立つ日 千代田葛彦
山坂に蟇待つ死ねば家に帰り 宮坂静生 青胡桃
山坂に馬の足掻きの秋立つ日 千代田葛彦 旅人木
山坂の大根の青中学生 中拓夫 愛鷹
山坂の影に入りけり菊車 吉田成子
山坂の浮雲貝の雛あける 長尾由夫
山坂の荒れし春泥如何に行かむ 下村槐太 天涯
山坂は日のすさびゐて冬の虫 安藤葉子
山坂や二人静も雨の中 星野麥丘人
山坂や冬日は秀野亡き後も 清水基吉 寒蕭々
山坂や春さきがけの詣で人 飯田蛇笏 山廬集
山坂や風傷みして遅ざくら 秋元不死男
山坂を立てたる盆供流しかな 綾部仁喜 樸簡
峰入や山坂花にはぐれ行 松瀬青々
川灯し山坂灯し風の盆 柏原眠雨
弥生尽山坂の靄あるごとし 飯田蛇笏
日和山坂をくだると師走の町 菅原俊夫
春泥の果の山坂うつくしき 萩原麦草 麦嵐
木曾馬に山坂ばかり青胡桃 大野林火「白幡南町」
柩ゆく山坂紅葉明りかな 縄田喜笑
桑照りに山坂照りに郵便夫 森澄雄
波郷土に山坂すべる初時雨 古舘曹人 砂の音
洞川へ山坂三里囮鮎 宇佐美魚目 天地存問
牛乳買ふと山坂こえぬ虹の橋(安見子肺浸潤を病む二句) 『定本石橋秀野句文集』
白雨あびし馬皎として山坂ゆく 加藤知世子 花寂び
続きゐる山坂無情夏薊 今井千鶴子
繭くさき乳房もどるか山坂暮れ 沢木欣一
葛を負ひ鍬を杖とし山坂を 橋本鶏二 年輪
蛇の尾や山坂ものゝ声ひそめ 『定本 石橋秀野句文集』
蜩の山坂登り農夫帰る 相馬遷子 雪嶺
螢火や闇に山坂あるごとく 檜紀代
郁子も濡るる山坂僧の白合羽 野澤節子 花 季
釘打つて釘からゆるぶ春の山 坂本ひろし
雨の山坂ぎざぎざできれい妹あるけ 阿部完市
霧ぬれの飛騨山坂の蕎麦の花 鈴鹿野風呂 浜木綿
風が吹く月の山坂展けたり 有働亨 汐路
●山路
*たらの芽や銀を運びし山路荒れ 岡部六弥太
いちご取る山路に著莪を手折けり 苺 正岡子規
いつしんに露を浴びたる山路かな 田中裕明 花間一壺
いろいろの人見る花の山路哉 小いと
うぐひすに松明しらむ山路哉 高井几董
えびづるの食みこぼしある山路かな 坊城としあつ
おのづから山路となりぬ夏の萩 楠目橙黄子 橙圃
かく刳りしよべの雷雨か萩山路 皆吉爽雨 泉声
きのふけふ樗に曇る山路かな 芭蕉
こしらへて案山子負ひ行く山路哉 案山子 正岡子規
こちからも越の山路や八重霞 立花北枝
さはやかに日のさしそむる山路かな 飯田蛇笏
さま~の木葉あつまる山路哉 枳風
しくれすに歸る山路や馬の沓 時雨 正岡子規
しぐれする音聞き初むる山路かな 黒柳召波 春泥句集
しるべして山路もどせよ杜宇(時鳥) 内藤丈草
ぜんまいの鼓膜一輪づつ山路 赤松子
つゆじもに冷えし通草も山路かな 芝不器男
とどまれば跫音もやむ雪山路 福田蓼汀 秋風挽歌
どことなくここらの山路凍ててをり 上村占魚 球磨
どの紅葉にも青空のある山路 木暮つとむ
ぬれ蓑に落花をかづく山路哉 松岡青蘿
ひとしぐれ通りし山路古暦 大岳水一路
ひともとの春にやすらふ山路かな 角川春樹 夢殿
ふるさとは山路がかりに秋の暮 臼田亞浪 定本亜浪句集
ほつほつと春の雨ふる山路行く 高野素十
み吉野の山路阻みてゐる朧 河野美奇
むめがゝにのつと日の出る山路かな 松尾芭蕉
もつれ見ゆ三笠山路小春空 皆吉爽雨 泉声
やぶさめや山路なほ咲くすひかづら 水原秋櫻子
ゆくほどにかげろふ深き山路かな 飯田蛇笏
一とわたり霧たち消ゆる山路かな 飯田蛇笏 山廬集
一ツ家の家根に蓼咲く山路かな 蓼の花 正岡子規
下りゆく山路滝音遠ざかる 麻生英二
不図友に山路の雲雀語りかけ 飯田蛇笏 椿花集
五月雨に胡桃かたまる山路かな 斯波園女
人麻呂の越えし山路や百千鳥 平野 伸子
今年竹先生せまき山路かな 黒部祐子
令法つみかかる山路にあき俵 鴻水
再びの夕立にあふ山路かな 阿部みどり女 笹鳴
初富士の秀をたまゆらに山路ゆく 皆吉爽雨
初花の蕾ころがる山路かな 中島月笠 月笠句集
卯の花に白波さわぐ山路哉 卯の花 正岡子規
卯の花の匂ふ山路の雨意の風 廣瀬凡石
厩出しの馬かもあらび山路来る 皆吉爽雨
古桑の実のこぼれたる山路かな 飯田蛇笏 霊芝
古草に陽炎をふむ山路かな 大魯
唐黍の煙る山路の一車両 飯田龍太
團栗のひとりころがる山路哉 団栗 正岡子規
土佐水木咲きしづもれる山路かな 桜木俊晃
塔見えて躑躅燃えたつ山路かな 阿波野青畝
夏つばめ喪服つぎつぎ山路より 飯田龍太「今昔」
夕されば山路も盆の人どほり 吉武月二郎句集
夕山路毒茸踏めば白き雨 下田稔
夜をこめて越ゆる山路や清水茶屋 青峰集 島田青峰
大根の白き花より山路へ 阿部みどり女
大牛の尻に夕立つ山路哉 夕立 正岡子規
大蟇に出逢ひ山路の昼暗し 仙座公坊子
太滝の凍りて曇る山路かな 橋本鶏二
女郎花猿にも馴るる山路かな 上島鬼貫
如月の駕に火を抱く山路かな 高濱虚子
家ありて桃の仄めく山路かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
宿とりて山路の吹雪覗けり 炭 太祇 太祇句選
宿はづれ急に山路や夜の秋 松本たかし
寒苦鳥の声に脉見る山路哉 鬼 貫
寝耄御前山路に初夜の桜狩 井原西鶴
寺ゆかし山路の落葉しめりけり 黒柳召波 春泥句集
尋ね行く武庫の山路や靭艸 素丸「素丸発句集」
小芝かけて萩こぼれたる山路かな 西山泊雲 泊雲句集
山吹に行けば山路となるばかり 楠目橙黄子 橙圃
山路きてむかふ城下や凧の数 炭太 (たんたいぎ)(1709-1771)
山路きて山吹白く顔黒し 山吹 正岡子規
山路しみじみ薄荷の花に匂ふ雨 平沢桂二
山路なるこゝら辺りも麻植うる 脇坂満穂
山路にて銭の寸借薄紅葉 辻田克巳
山路に石段ありて葛の花 高浜虚子
山路に落葉なだれしまゝにあり 高濱年尾 年尾句集
山路の苔穴あれば栖むこほろぎ 太田鴻村 穂国
山路の草間に眠るきりぎりす 蟋蟀 正岡子規
山路はや萩を咲かせてゐる 種田山頭火 草木塔
山路やうつぎの隙の海の紺 阿部みどり女 笹鳴
山路や壺荷にひびくほととぎす 内藤丈草
山路ゆくさしかけ日傘しかと寄れ 皆吉爽雨 泉声
山路ゆく赤き帯また曼珠沙華 野澤節子 黄 炎
山路より霧来るならひ盆夕べ 村越化石 山國抄
山路を下りて刈田を横ぎりぬ 高浜虚子
山路を横切る水やほとゝぎす 楠目橙黄子 橙圃
山路急なるとき朴の花匂ふ 高木石子
山路折れ夏うぐひすの声変る 白尾澄子
山路攀づ顔の高さに水仙花 高澤良一 寒暑
山路春水車の音につながり歩す 村越化石 山國抄
山路暮る濡れし薄に触れしより 福田蓼汀 山火
山路来し杖も一本盆の家 宇佐美魚目 天地存問
山路来し秋扇たたむ厨子の前 大島民郎
山路来てとくに月落つ夜長かな 乙字俳句集 大須賀乙字
山路来てなにやらゆかし菫草 松尾芭蕉
山路来て何やらゆかし菫草 芭蕉
山路来て半日藤の曇りかな 会津八一
山路来て向ふ城下や凧の数 太祇
山路来て報恩講の白襖 大峯あきら
山路来て正月青き芒かな 渡邊水巴
山路来て立ちよる宿や茸干せる 岡本松浜 白菊
山路来るや暮るゝばかりの栗の花 碧雲居句集 大谷碧雲居
山路来れば蜥蜴神代のさまに遊ぶ 村越化石 山國抄
山路枝頭の花に逢へは皆合歓也 尾崎紅葉
山路経るこゝちや菊にえのき茸 服部嵐雪
山路行き山路を戻り深秋ぞ 村越化石 山國抄
山路行くや木苺取つて食ひながら 村上鬼城
山路行く限り奈落と花卯木 稲畑汀子
山路見ゆ滝川ごしの冬日和 飯田蛇笏 山廬集
山路這ふ葛にも花の鉾の立つ 爽雨
川よりも山路につよし枯尾花 枯薄 正岡子規
引返す山路これより凍ててをり 稲畑汀子 春光
彼の日彼の山路眼に在りわらび買ふ 及川貞
愛づるもの蕗の花さへ山路ゆき 及川貞 夕焼
慈悲心鳥父母恋ひの歌碑おく山路 入江朝子
我笠に藤振りかゝる山路哉 藤 正岡子規
我等には険しき山路小鳥来る 稲畑汀子
戸口より山路はじまる屠蘇の酔 宇佐美魚目 天地存問
手にとまる蝶おそろしき山路かな 星野立子
手折捨る山路の菊のにほひ哉 高井几董
持主も知らず山路の葡萄園 葡萄 正岡子規
掃苔の鎌ひかりゆく山路かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
散る花のうこんまじりとなる山路 井沢正江
旅人に合はぬ山路のいちご哉 苺 正岡子規
旅人のつゝじ引き抜く山路哉 つつじ 正岡子規
旅人の山路に暮れるいちご哉 苺 正岡子規
日傾く山路いへづとの蝉鳴いて 林原耒井 蜩
日本道に山路つもれば千代の菊 井原西鶴
日表にかかりし山路鷽鳴けり 久田 澄子
明暗の著き山路の道をしへ 岡田順子
春の山路雪ある峯に近づきぬ 会津八一
春曇り鳩の下り居る山路かな 前田普羅 新訂普羅句集
春泥を踏む雲はれし山路かな 西島麦南 人音
昼暗き山路に灯す灸花 川野秋恵「新山暦俳句歳時記」
書を負うて梅雨の山路をたどりけり 飯田蛇笏 春蘭
月光にぶつかつて行く山路かな 渡邊水巴
木の実落つ山路は祖母を訪ふごとし 大串章
木苺の花美しく山路行く 枌さつき
朴の花見上げて佇ちし山路かな 比叡 野村泊月
松明に雪のちらつく山路かな 雪 正岡子規
松毟山路ここより峠口 後藤春翠
松風に新酒を澄ます山路かな 支考
栗の毬より野菊咲き出し山路かな 西山泊雲 泊雲句集
桜烏賊提げて山路となりにけり 大峯あきら 鳥道
梅が香にのつと日の出る山路哉 松尾芭蕉
梅が香や山路猟入る犬のまね 向井去来
梅ちりて蘭あをみたる山路かな 飯田蛇笏 春蘭
梅雨晴の白百合多き山路かな 石動炎天
樒かとまがふ山路の馬酔木かな 河東碧梧桐
残る雪山路の果の雲路かな 二村典子
水引草山路ここより仏みち 本橋沙紗
水担いて彼岸の空へ山路継ぐ 友岡子郷 遠方
水晶の山路分け行く清水かな 蕪村「落日庵句集」
海見えぬときは冬めく山路ゆく 清水忠彦
海道と山路いで逢ふ威し銃 百合山羽公 寒雁
清水より濡れつゞきたる山路かな 村家
温泉山路のおほつゆたるる鬼薊 飯田蛇笏 春蘭
滴りやかつて負はれてきし山路 田中裕明 櫻姫譚
炭馬にしばし挟まれゆく山路 田村了咲
熊でるまではなんでもなき山路 大塚信太
爽かに日のさしそむる山路かな 飯田蛇笏 山廬集
狼のおくる山路や月夜茸 中勘助
猪鍋食ひ山路の闇をおそれけり 大串章
猿の恋見るにあらねど山路ゆく 氷由頼寿
生絹めく山路の雨に鷽鳴けり 井沢正江 湖の伝説
町中の山路や雪の小鳥ども 立花北枝
盃や山路の菊と是を干す 桃青 選集「板東太郎」
石踏めば水にじみ出づ枯山路 岡田日郎
秋の蚊に病む身さゝるゝ山路かな 秋の蚊 正岡子規
秋晴の山路すなほに導ける 阿部みどり女
秋曇や山路に深き轍あと 阿部みどり女
秋蝶の紅鮮しき山路かな 川崎展宏
竜胆や山路に入りて山隠る 下村ひろし
竹煮草山路の昼をさだかにす 松村蒼石 雁
老杣の目鼻ひとつに雪山路 鷲谷七菜子 花寂び
老鶯にこころ洗はれゆく山路 松野加寿女
肌のよき石にねむらん花の山 路通
脚夫一人木曾の山路の落葉かな 寺田寅彦
花三日お白粉くさき山路哉 花 正岡子規
花卯木いよいよ山路細くなる 稲畑汀子 春光
花葛の秋にからまる山路哉 方壷
茴香に浮世をおもふ山路かな 浪化
茶の花に人里ちかき山路かな 芭蕉
菊の香にさすが山路の雪踏(雪駄)かな 服部嵐雪
菊の香や山路の旅籠奇麗也 炭 太祇 太祇句選
落葉さへあらぬ山路となりにけり 渡辺水巴 白日
落葉して杉あらはるゝ山路かな 前田普羅 新訂普羅句集
葬送の山路がかりにいわし雲 飯田蛇笏 雪峡
蕎麦はまだ花でもてなす山路かな 芭蕉
藁沓や庭に山路の露を印す 露 正岡子規
藪雨の小ごゑ聞きとめ山路ゆく 野地二見
虫の音に挟まれて行く山路かな 風国
蛇の子の息絶えてをり夕山路 堀口星眠 青葉木菟
行くほどにかげろふ深き山路かな 飯田蛇笏 霊芝
行春や山路の空に塔の簷 橋本鶏二
西行も踏みし山路の草の花 稲畑汀子 春光
走り根のをどる山路や藪柑子 栗原ひろし
足許に気配る山路雪しづれ 松尾緑富
足跡の氷る山路も宵の口 宇佐美魚目 秋収冬蔵
踏む度に落葉香を立つ山路かな 栗原稜歩
迢空の越えし山路や葛の花 中村昭一
迷ひなき山路と知れどそぞろ寒 広江八重桜
里見えて葉こぼれ居し山路かな 尾崎迷堂 孤輪
重荷負ひ山路急ぐか秋の暮 福田蓼汀 秋風挽歌
野を来しがいつ山路なる蕨かな 柑子句集 籾山柑子
野菊咲き続く日あたりはある山路 橋本夢道 無礼なる妻
野菊濃し山路七折平家村 松隈博子
銀漢の記憶につゞく山路あり 星野立子
閑古鴛鐘も通はぬ山路哉 星野麦人
闇の山路へ灯をさし向けて柿くれる 加藤知世子 花寂び
降り出して山路の暗さうそ寒く 牧野令子
陽だまりのここより山路藪柑子 伊藤いと子
隠し女房山路ぞ隔つ呼子鳥 調鶴 選集「板東太郎」
雉一羽吊りし山路の茶店哉 雉 正岡子規
雨あと秋見ゆる山路見とほしてのぼる 人間を彫る 大橋裸木
雨あれて筍をふむ山路かな 炭 太祇 太祇句選後篇
雨にまた川なす山路鶸鶲 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雨流る山路に葛の落花の渦 阿部みどり女
雪残る山路の高さありにけり 稲畑汀子 春光
雪蹈にて辷る山路のつゝじ哉 高井几董
雫たる山路のませんよぶこ鳥 重頼
雲を蹈山路に雨のさくら哉 高井几董
雲照りて山路を夏へ入れにけり 村越化石
雲霞呑みつゝ越ん菊の山路 菊舎
霜凪の山路の落葉が牛の足にはがれる 人間を彫る 大橋裸木
霜多き山路になりぬ猿の声 麦水
霞みつつ一縷の山路谷へ消ゆ 福田蓼汀 山火
霧の香に桔梗すがるる山路かな 飯田蛇笏 山廬集
露結ぶ音をうしろに山路暮れ 井沢正江
青刈草むちむち負ひ来夕山路 猪俣千代子 堆 朱
青空へ近づく山路野菊濃し 山田弘子 こぶし坂
顎出して登る山路や秋あかね 中里藤風
香を踏みて蘭に驚く山路かな 月居
馬の尾に雪の花ちる山路かな 支考
馬の鈴近くて遠き山路かな 正岡子規
鴾啼て雲に露ある山路哉 挙白
鶫焼きしあととおぼしき山路かな 木村蕪城 一位
鶯にほうと息する山路かな 嵐雪
鶯の老いたるが多き山路哉 老鶯 正岡子規
鷽の声きゝそめてより山路かな 式之
鹿の糞ありて日の入る山路かな 大峯あきら 宇宙塵
鹿垣のずり破れたる山路かな 阿波野青畝
黒部沿ひ蝶導けど山路切れ 福田蓼汀 秋風挽歌
龍胆や山路に入りて山隠る 下村ひろし
●山下
●山裾
いくたびも山裾めぐり初市へ 巌寺堅隆
うす羽かげろう山裾に孵るサーカス 山中葛子
信心する山裾に桃が咲きすぎるけしき 中塚一碧樓
六曲一雙山裾にして焚火して 佐々木六戈 百韻反故 初學
刻惜み刻山裾の椎拾ふ 高木晴子
千年の秋の山裾善光寺 高浜虚子
声継ぎて山裾駆ける地蜂取り 村山智一
寝釈迦山裾膝そろへをる寒さかな 小林康治
對岸に雪の山裾見ゆるのみ 鈴木洋々子
山桜山裾に咲き山に満つ 平林桂山
山裾にかすみて当麻の塔二つ 皿井旭川
山裾にきのふ虚子忌の柴の束 宇佐美魚目 天地存問
山裾に入る雪上車浮き沈み 村上しゆら
山裾に屋根のかたまるかき氷 猪俣千代子 堆 朱
山裾に庵りしゆゑに月遅く 斎藤双風
山裾に日はさめやすし駱駝薯 小田つる女
山裾に旧街道や桐の花 吉田伝治
山裾に梅の一角ありしかな 平渡藻香
山裾に梅見て足を休めけり 雑草 長谷川零餘子
山裾に立もたれたる日向ぼこ 松本たかし
山裾に落葉の塀の長さかな 大橋櫻坡子 雨月
山裾に葬具寄せある霞かな 大峯あきら 鳥道
山裾に藩の窯跡竹の秋 田部みどり
山裾のありなしの日や吾亦紅 飯田蛇笏 椿花集
山裾の一本道の木の芽風 千原満恵
山裾の三椏の花灌仏会 細見綾子 黄 炎
山裾の井を汲む八十八夜かな 岡井省二
山裾の山葵畑やおちつばき 西山泊雲 泊雲句集
山裾の戸毎にひらく花菖蒲 伊藤とく
山裾の日に燦とあり仏の座 工藤弘子
山裾の没日あつめし冬苺 川上左恵子
山裾の河原となりて草紅葉 高木晴子 晴居
山裾の野葡萄熟す秋の霜 渡辺香墨
山裾の錆びし鉄路や柿熟るる 岩谷照子
山裾の風ごちごちと蕎麦を刈る 豊川トシ
山裾は杉皮葺のひかる午下 横山白虹
山裾は梅まだ早し竜沢寺 蒲 長子
山裾へ参道細る初不動 北原木犀
山裾へ日毎退く遠紅葉 篠田悌二郎
山裾や一と隅請けて牛蒡蒔く 井上痴王
山裾や草の中なる落し角 高濱虚子
山裾や落花引き込み紙漉女 河野南畦 湖の森
山裾より灯りて秋の暮の灯は 茂里正治
山裾をせりあがりゆく青棚田 塩川雄三
山裾を欠き欠く道の枯野かな 楠目橙黄子 橙圃
山裾を白雲わたる青田かな 高浜虚子
山裾を螢袋のかこむとき 岩淵喜代子 朝の椅子
御ン身いとはれよ山裾風冷ゆる 高木晴子
御岳山裾まで晴れて菜種刈り 大塚友治
月の出や石炭殻山裾に葱育て 友岡子郷 遠方
木戸出るや草山裾の春の川 飯田蛇笏 霊芝
枯芝に山裾流れ来てをりぬ 五十嵐播水 埠頭
流星や火の山裾に灯の撒かれ 渡邊千枝子
火の国の火の山裾に打てる麦 中島斌雄
眠る山裾の谷倉に父母の墓 高木晴子
神の山裾に香りて花蜜柑 飯塚やす子(狩)
種子蒔く少年反射炉は立つ山裾に 田川飛旅子
菊畠晴れて夜の山裾ひきぬ 石原舟月 山鵲
落人の住む山裾の青葉木菟 熊倉 猷
蔵王権現山裾こがす冬日かな 角川源義
蜜柑山裾に釈迦堂多宝塔 今川凍光
螢飛ふや山裾を行く水暗し 孤村句集 柳下孤村
街大路雪の山裾なほせまる 池内友次郎 結婚まで
誰も負う山裾の影秋収め 遠藤秀子
遠郭公山裾の田のうすみどり 大熊輝一 土の香
里祭山裾かけて幟立つ 藤崎実
雪の来し火の山裾のななかまど 加藤ひろみ
雪解山裾の黒杉手をつなぐ 殿村莵絲子 花寂び 以後
領巾振山裾わに摘めり蕗の薹 原田しずえ
風呂吹や山裾にねむたくなりぬ 田中裕明 櫻姫譚
風音に山裾遠く秋早む 飯田蛇笏 椿花集
馬肥ゆる火の山すそをかけめぐり 廣中白骨
鶴の懐妊山裾に雪降らしむる 磯貝碧蹄館
●山道 山径
*まくなぎや山道つひにどんづまる 松澤 昭
うららかや行く山径を疑はず 楠目橙黄子
お涅槃の山道ながくながくあり 岸本尚毅 舜
きさらぎの山道見ゆる書道塾 広瀬直人
これはやまみちやまざくらいろへ向かう山みち 阿部完市 にもつは絵馬
しぐるゝや山道深く石だゝみ 楠目橙黄子 橙圃
たれも通らぬ山道の注連飾 広瀬町子
厩出しの山道蹄あとに荒れ 皆吉爽雨
大凍に衆山径を交はしけり 前田普羅 飛騨紬
大石の山道ふさぐ野分かな 野分 正岡子規
姥捨の山みち険し華鬘草 高木良多
嫁菜咲きここ山道の待避箇所 高澤良一 素抱
寒施行山道声のおりてくる 井上道子
山がら小がら山みち小みち水神へ詣る 荻原井泉水
山みちを滑りて蛭に囲まるる 今井杏太郎
山みちを紅炉へもどる虚子忌かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山径の明るきに入りゐのこづち 猪股千代子
山径の礫あたらしき出水あと 田原央子
山径を降らるるままに新樹雨 高澤良一 素抱
山道となりて灯が混む地蔵盆 中川須美子
山道に並ぶ地蔵や露涼し 金子幽霧
山道に扇をつかふことありぬ 今井杏太郎
山道に毛虫の落ちて忙しき 高澤良一 随笑
山道に麥丘人や秋の風 今井杏太郎
山道のいづれを来しも富士桜 勝俣のぼる
山道のここにどっこい蝮蛇草 高澤良一 宿好
山道のゆき止まりなる虚子忌かな 岬雪夫
山道の墓と人栖む籾莚 石原舟月
山道の掃いてありたる初詣 富安風生
山道の案内顔や虻がとぶ 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
山道の腐れ木株に木の葉蝶 高澤良一 素抱
山道も吾妻郡葛の花 清崎敏郎
山道や不義理つづきの十二月 福田甲子雄
山道や人去て雉あらはるゝ 雉 正岡子規
山道や出羽に見下す雲の峯 雲の峯 正岡子規
山道や椿ころけて草の中 落椿 正岡子規
山道や糞落し行く馬涼し 野村喜舟 小石川
山道や落葉溜に寒葵 吉田八重子
山道や葛のうら葉に青嵐 寺田寅彦
山道や足もとに雉子野に雲雀 雉 正岡子規
山道をゆきつもどりつあきつかな 室生犀星 犀星發句集
山道を挟めて萩の乱れ咲き 高橋よし
山道を水流れゐる野菊かな 中田剛 珠樹
山道を直す百日焚火して 大木あまり 火のいろに
山道を行き行き永日かへりみる 村越化石
彼らの話山道の人らにてすぎし シヤツと雑草 栗林一石路
後山道ゆく手明くて雪見月 飯田蛇笏 椿花集
探梅や宇津の山道踏みもして 矢島渚男
提灯で花の山道下りける 妻木 松瀬青々
新緑の山径をゆく死の報せ 飯田龍太
木天蓼の花や山道湿りたる 射水綾子
柿を剥く山道たどるごとく剥く きくちつねこ
椀持ちてゆく山道とだえ春の霧 赤尾兜子
油瀝青咲いて山道あたたかし 鈴木しげを
波音の消えて山みち出開帳 大峯あきら 鳥道
温泉山みち凝る雲みえて躑躅咲く 飯田蛇笏 霊芝
温泉山みち賤のゆき来の夏深し 飯田蛇笏「山廬集」
炉を塞ぐ丹波山道の崖住まひ 堀 古蝶
爆薬庫に山径果てつ竹煮草 林翔 和紙
石上布留の山みち野菊濃し 下村梅子
紅萩や死んで山道九十九折 渋谷道
葛の花 踏みしだかれて、色あたらし。この山道を行きし人あり 釈迢空
行けどゆけど吉備の山みち花煙草 松尾いはほ
遅田植見かけこれより峨山道 逢坂月央子
雨降れば渓音はやみ後山道 飯田蛇笏 椿花集
霧ひらく山径にして蔓もどき 臼田亜浪
青梅ふた粒づつ山道 北原白秋
麦の穂に山径たよりなく細る 飯田龍太
●稜線
うすものの稜線切れんばかりなり 赤松[けい]子 白毫
ゆるやかに稜線のぼる鰯雲 丸山瑠美子
丹沢の稜線劃然として冬 川崎展宏 冬
乳房鋭し雪稜線に近き夜 仙田洋子 橋のあなたに
今年藁稜線の陽の鈍うごき 諸角せつ子
仔馬帰る月夜雪稜線を負ひ 石原八束 雪稜線
佐渡が島稜線紅葉して怺ふ 伊藤敬子
元朝や八ツ岳の稜線金色に 五十川敏枝
六甲の稜線仄と黄沙降る 稲畑廣太郎
冬晴の稜線視野に余りけり 坂本山秀朗
夜は碧き雪稜線のよみがへる(志賀高原発哺) 石原八束 『雪稜線』
夜は碧く雪稜線のよみがへる 石原八束
大富士の稜線の野や時鳥 渡邊水巴 富士
山々は稜線張りぬほととぎす 正木ゆう子 静かな水
嵐山の稜線天に冴返る 粟津松彩子
昏れる稜線広重タッチの春霖行 河野 薫
月渡る稜線いくさを共に経し 成田千空 地霊
海へ散る課員稜線の松のように 堀葦男
牛の背の稜線なせる夏薊 正木ゆう子 静かな水
甲斐駒の稜線ゆるび種おろし 渡辺立男
男郎花あの稜線が大菩薩 古沢太穂
秋風の歔欷の稜線山さらば 岡田日郎
稜線の右肩上がり稲妻す 石渡玲子
稜線の寝釈迦にぞ見え母は亡し 大橋敦子
稜線の昏れ残りゐる洗鯉 鈴木寿美子
稜線の研がれて白し山眠る 橋本千枝
稜線の輝きませる五月かな 遠山 翠
稜線はだんだんに黒稲架を解く 松塚大地
稜線も襞も女神や初浅間 西本一都
稜線をはなれ卯の花月夜なる 稲畑汀子 汀子第二句集
稜線を引張り合へり雁渡し 中島畦雨
稜線を蕗の毛花の越えゆける 佐野良太 樫
稜線を銀にかがりて秋入日 加藤耕子
稲雀古都に稜線ありにけり 坂口匡夫
花薊われら稜線にうきあがる 佐野良太 樫
赤城嶺の稜線浮かぶ桃の花 堤箸理吟
里山のゆるき稜線柿すだれ 佐藤美恵子
雪稜線さす白鳥の青雫 築田圭子
雪稜線光りては生む銀河かな 仙田洋子 雲は王冠
青松が森の稜線冴返る 石田波郷
鷹を目に追ひ稜線は湖に入る 中戸川朝人 残心
以上
by 575fudemakase
| 2022-05-22 15:15
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俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase

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《方法1》 残暑 の例句を調べる
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(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
《方法1》 残暑 の例句を調べる
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例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
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