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夫婦 類語関連語(例句)

夫婦 類語関連語(例句)

●愛妻●悪妻●姉さん女房●主●家刀自●妹背●内の人●後妻●奥方●奥様●幼妻●押しかけ女房●鴛鴦夫婦●男鰥●偕老●家内●寡婦●恐妻●愚妻●荊妻●継室●賢夫人●恋女房●後家●心妻●後妻●御主人●御新造●御亭主●妻●細君●妻女●主人●主婦●正室●拙妻●背の君●世話女房●先妻●前妻●先夫●前夫●糟糠の妻●旦那●連れ合い●亭主●共白髪●内儀●内妻●内室●新妻●女房●後添い●後連れ●配偶者●人妻●病妻●夫婦●夫君●夫妻●夫人●古妻●本妻●梵妻●未亡人●宿六●鰥夫 寡夫●嫁 嫁す●良妻●良人●令室●老妻●老夫●老夫婦●若奥さん●若妻●かかあ 嬶●ワイフ ●山の神●山妻

●愛妻
●悪妻 
いとしまるる悪妻我と夜来香 加藤知世子
どちらかといへば悪妻豆の飯 山田弘子 懐
サングラスかけて悪妻つとめをり 成保房子
女正月なり悪妻を愉しめり 渡辺恭子
悪妻といわれいきいき韮の花 古川克巳
悪妻に椿の花の掃かれをり 岩淵喜代子 硝子の仲間
悪妻の名に追はるるや梅雨晴間 加藤知世子 黄 炎
悪妻の妬心怠る蛍草 齋藤玄 『玄』
悪妻の悪母の吾の年急ぐ 竹下しづの女句文集 昭和十二年
悪妻もすこし呆けて郁子熟れる 木庭杏子
悪妻やぶんぶん髪にからみつき 木田千女
悪妻を持たぬ悲しさ漱石忌 磯崎啓三
悪妻を溺愛せむか野分星 齋藤玄 『玄』
悪妻を自認してをり着ぶくれて 山口満智子
木莵聞いて悪妻持が悲しがる 秋元不死男
死して炎天悪妻にして悪母なり 齋藤玄 『玄』
●姉さん女房
●主 
あなかまと鳥の巣みせぬ菴主哉 炭 太祇 太祇句選
ありさまや写経の庵主庭の蛇 尾崎迷堂 孤輪
あれませる一言主や大嚏 五島高資
おくるとて庵主灯しを菊の雨 及川貞 榧の實
お出ましの少なき貫主山粧ふ 竹中碧水史
お赤飯炊いては花の主かな 如月真菜
かなしみの故の饒舌炉辺の主 田邊夕陽斜
かまつかや庵主突然弟子叱る 野村喜舟
このところデージーに凝る庭の主 高澤良一 素抱
ごほ~と咳きて庵主蚊帳より 清原枴童 枴童句集
さしづめの掛乞に出る主かな 吉武月二郎句集
しぐれ雲眼鏡において古書店主 諸角せつ子
ぢきぢきに主もち来る土瓶蒸し 伊藤宇太子
つく~と紙魚のなげきにいほり主 河野静雲 閻魔
でゆの主みづといふ菜を土産にくれし 高濱虚子
どぜう屋の主下駄ばき春の昼 西堀貞子
なおらひに花びらいろの貫主さま 高澤良一 随笑
ながかりし旅の主を炉に囲み 橋本鶏二 年輪
ぬばたまの黒主山の団扇かな 大石悦子 百花
ねぢあやめ主死してより荒れし庭 庄司映三
めッきりと園主老いたる梅見かな 久保田万太郎 流寓抄
もてなしは主みづから水打つて 藤松遊子
やぶ入の炬燵に寐たり主ぶり 徳美愛桜子
よるのゆき寐よともいわぬ主哉 炭 太祇 太祇句選後篇
わが主即ちわが酢流れむ春の闇 攝津幸彦
アカシヤや庵主が愛づる喧嘩蜂 竹下しづの女 [はやて]
ポインセチア飾り立てつつ「主は来ませり」 高澤良一 鳩信
一言主雪を蹴立てゝ雪を蹴て 横山白虹
万を数ふ矢数の主や篝引 安藤橡面坊
三味も引き笛も吹く梅の主哉 梅 正岡子規
中元や主家より今は頼られて 梅村好文
主いづこ火なき火鉢の影もちて 林原耒井 蜩
主しれぬ扇手取に酒宴かな 蕪村遺稿 夏
主はだれ花の下なる朝けぶり 信州-北路 選集古今句集
主はつねにいませりおでん煮えてくる 如月真菜
主は天に昇られ蛇は大地匐ふ 景山筍吉
主は馬面父としてわがクリスマス 古館曹人
主は駕籠家隷の袖にしぐれけり 時雨 正岡子規
主まつ春の用意や散り柳 桃隣 俳諧撰集「有磯海」
主も大工冬日ぬくめし鑿を買ふ 有馬朗人 知命
主より犬の逸りて猟期来る 篠田和子
主よ主よと言へるのが吾子聖夜劇 今瀬剛一
主よ人は木の髄を切る寒い朝 成田千空 地霊
主よ人等あさの電車にまどろめリ 西東三鬼
主よ人等ゆふべ互みにのゝしれり 西東三鬼
主よ我もひるげ哀しきぱん食めり 西東三鬼
主を踏むや嘴太鴉嗚呼と啼き 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
主を頌(ほ)むるをさなが歌や十二月 石塚友二
主を頌むるをさなが歌や十二月 石塚友二 光塵
主一人坐れば秋の声坐る 上甲平谷
主不機嫌花圃に跼みて不言 西山泊雲 泊雲
主不興女房もてなす鳥屋泊 福田蓼汀 山火
主云ふ雑草園の秋いよよ 高濱年尾 年尾句集
主取の仔馬の戻る花野かな 梶山千鶴子
主命一切眼をつりあげて泳ぐ犬 成田千空 地霊
主好む僅なれども菊の畝 高濱年尾 年尾句集
主家の紋背に負ひ出づる年賀かな 大橋櫻坡子
主居るかと棚の瓢に訊いてみる 鈴木鷹夫 千年
主持の小さくなりて冬籠 冬籠 正岡子規
主曰く村一番の日向ぼこ 遠入たつみ
主殺しは少年の夜へ野を飛ぶ足 高柳重信
主留守色鳥遊びやがて去る 高浜虚子
主病みたり漆黒の甘茶仏 小林昭子
主病む千の椿を雨に委し 及川貞 夕焼
主病む露の箒を柴垣に 橋本鶏二 年輪
主病ム絲瓜ノ宿ヤ栗ノ飯 栗 正岡子規
主知的に透明に石鯛の肉め 金子兜太 詩經國風
主立つて端居に客を残したり 高濱年尾 年尾句集
主遠く吠ゆる犬あり汐干潟 西山泊雲 泊雲句集
亡き父と亡き芍薬の園主かな 京極杞陽 くくたち上巻
交りゐて賓主いづれや阿波踊 葛祖蘭
人々の中の主や牡丹園 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
人おどす犬を押さへて榾の主 橋本鶏二 年輪
仏壇も他宗かぶれや繭の主 大谷句佛 我は我
冬ごもり五車の反古の主かな 黒柳召波 春泥句集
冬搆下部の如く主かな 尾崎迷堂 孤輪
初冬や悠紀主基の宮の木香高く 四明句集 中川四明
初花に夜を立出でし主かな 吉武月二郎句集
初鶏の百羽の鶏の主かな 池内たけし
十六夜やうたゝ寝さめし主じ顔 中島月笠 月笠句集
危座兀座賓主いづれや簟 高浜虚子
厨あづけて主おろおろ春苺 中村汀女
古梅酒をたふとみ嘗むる主かな 松本たかし
名月を懐裡に遊ぶ庵主かな 村上鬼城
善き酒を吝む主やひしこ漬 子規句集 虚子・碧梧桐選
四叟の舟の主や葭の花 長谷川櫂 蓬莱
団扇持ちてたそがれ貌の庵主かな 雑草 長谷川零餘子
囲みたる焚火の主を誰も知らず 大類つとむ
声の主一体誰や昼寝覚 高澤良一 鳩信
夏帽子大国主命かな 川崎展宏
夏足袋をはいて酒気帯ぶ園主かな 阿部みどり女 笹鳴
夕顔の中より出づる主かな 樗良「樗良発句集」
夕顔の花の主よ扇折 癖三酔句集 岡本癖三酔
夢さめて鮎汲みに出づ庵主かな 尾崎迷堂 孤輪
大小の花筵敷き主を待つ 木藤ヒデ子
天主(ゼウス)祷りをり籾殻のこぼれ落ち 友岡子郷 日の径
天台の御座主静かに障子の間 星野椿
太箸の太きを主持たれけり 涼葉
太箸や七歳にして家の主 吉武月二郎句集
太鼓打ち法主現る御命講 柏崎青波
女房あち向き主こち向き種を売る 橋本鶏二 年輪
姫鱒を主菜となして灯蛾の宿 北野民夫
実ざくらや死にのこりたる菴の主 蕪村「蕪村句集」
客は猗頓主は陶朱夷講 晩春
客は秋扇主は秋団扇 林直入
客を待つ祭浴衣の主かな 高浜年尾
客俳人主俳人枇杷の花 遠入たつみ
寝ねがての蕎麦湯かくなる庵主かな 杉田久女
實ざくらや死のこりたる菴の主 蕪村 夏之部 ■ 圓位上人の所願にもそむきたる身のいとかなしきさま也
小さなる小さなる主を踏まさるる 中村汀女
山房も秋なめり主ゐぬまゝに 日野草城
山猫をよぶ主艶也菊の花 菊 正岡子規
岬々に鳶の主ゐて鰹潮 鳥居おさむ
干草を踏んで一言主拝む 前田野生子
年忘噂の主も参じけり 荒井正隆
年若の主をかこむ福茶かな 中島月笠 月笠句集
座ほとりを掃かれて寒き主かな 橋本鶏二 年輪
庭の紅葉踏まする主設なり 尾崎紅葉
庵の月主をとへば芋掘に 與謝蕪村
庵主さまよりとどきたる風邪封じ 黒田杏子 花下草上
庵主や塞き夜を寝る頬冠 村上鬼城
庵主や恵方に据ゑて置炬燵 河野静雲 閻魔
庵主や肱を枕に夜短か 清原枴童 枴童句集
庵主寒さに腹を立てにけり 清原枴童 枴童句集
庵主病む撒き餌を余す冬の鯉 鍵和田[ゆう]子 未来図
建築主鋭き犬をつれ工場建つ 細谷源二 鐵
建築主雷を頭上に工場建つ 細谷源二 鐵
彩玻璃に復活の主はいづこなる 山本歩禅
待宵の梨や今宵の享主ぶり 酒堂 俳諧撰集「藤の実」
後の月に来ッて石榻の主かな 村上鬼城
御影講の花の主や女形 太祇
御手ひろげ給へる主あり雪やまず 森田峠 避暑散歩
思出や河豚の主盟の故感来 河野静雲 閻魔
悠紀主基の御田のうはさも今朝の春 四明句集 中川四明
惱み伏す主をはげます吹雪哉 吹雪 正岡子規
懐手解いて窯主火色読む 岸川鼓蟲子
戸を明けて*かやに蓮の主かな 蕪村「落日庵句集」
打水をしてゐる主縁に客 今井つる女
掃きやめて蟇にかゞみし庵主かな 比叡 野村泊月
探梅や庵主が古きひきまはし 河野静雲 閻魔
接木見に来たる隣の主かな 篠崎霞山
揚主は秋田の紅屋煙火店 高澤良一 燕音
故郷は油団に暗し客主 本田あふひ「ホ誌雑詠選集」
新茄焼いでや主が片たすき 尾崎紅葉 紅葉句集
日当りや刀を拭ふ梅の主 夏目漱石 明治三十二年
旧藩主へ年賀のほとりひそけかりし 草田男 (回想の新春)
早苗饗の襖ひらいて主かな 橋本鶏二 年輪
旱星祈られ疲れの主は一人 池田澄子
明家に菖蒲葺いたる屋主哉 菖蒲葺く 正岡子規
星朧わづかな湯気に吾も主 香西照雄 対話
春霜や箒ににたる庵の主 内田百(けん)(1889-1971)
昨夕猪にやられしかごと畠主 西山泊雲 泊雲句集
昼風呂や千貫めざす薯の主 前田普羅 春寒浅間山
書記典主(でんす)故園に遊ぶ冬至哉 與謝蕪村
月の山大国主命かな 阿波野青畝(1899-1992)
月読の春泥やなど主を避くる 中村草田男
朝霧濃し歩廊に主を失う犬 田川飛旅子 花文字
木枯に何聞き出でし火桶主 島村元句集
木犀やかゝへられゆく老法主 河野静雲 閻魔
松山の天主崩れず松の花 松の花 正岡子規
松明ともす主殿寮の夜寒哉 寺田寅彦
枇杷の花犬も主も微恙あり 堀口星眠 青葉木菟
柿の主歌は赤人を学びけり 菅原師竹句集
柿の主糸瓜の水もとりにけり 小澤碧童 碧童句集
柿主は小倉山下儒医去来 高澤良一 燕音
柿買ひに主は留守や渋を搗く 杉山々
栗拾はゞや先づは主無き山尋ねばや 古白遺稿 藤野古白
桜狩法主は若くおはしけり 露月句集 石井露月
梅さくや居酒屋の主発句よむ 梅 正岡子規
梨終り果樹園主けふ稲架組める 及川貞 榧の實
棕櫚主日陶師の蔵す木裂き筆 竹久よし子
椎の舎の主病みたり五月雨 子規句集 虚子・碧梧桐選
楽はいまセロの主奏や氷菓子 松尾いはほ
榾の主万年暦めくりけり 松藤夏山 夏山句集
榾の主唇かはきいたりけり 椎橋清翠
榾主が壮図の名残壁の地図 雉子郎句集 石島雉子郎
槻かげに主憩へり土用干 西山泊雲 泊雲句集
橇をひく犬立ち止り主見る 高野素十
機場主秋光鼻に疎林来る 宮武寒々 朱卓
正月をしに戻りたる主かな 比叡 野村泊月
歳晩のまつたゞなかの主かな 二村蘭秋
毎日の笹鳴に居る主かな 高浜虚子
民宿の主は女杜若 坪井のぶ子
水仙は畑三反の主かな 水仙 正岡子規
池寒く主いまなし無名庵 久保田万太郎 流寓抄以後
津和野藩主亀井家の墓所尋め来れば木立とよもす蝉しぐれなる 森伊佐夫
浴衣着て帯せぬ主飯をくふ 尾崎紅葉
涼風に飯食ふ主黄昏るゝ 尾崎紅葉
添水鳴る一言主は醜の神 越智 郁
温石にひたと硯の主泣く 雑草 長谷川零餘子
湯気立てて貰ひて主は疾くに居ず 中村汀女
満目の緑に坐る主かな 高浜虚子
火の飛べば木の名云ふなり榾の主 金尾梅の門 古志の歌
火を育て炉主ぶりも一寸楽し 高木晴子 花 季
炉の主雑学博士もて任ず 三村純也
炬燵出て鍬とる主や冬牡丹 冬葉第一句集 吉田冬葉
焚火好きな園主をるなり冬木立 乙字俳句集 大須賀乙字
熊祭酋長どかと主座にあり 工藤いはほ
燈籠の主が達者で居られたら 燈籠 正岡子規
片恋の歌の主や鍋祭 妻木 松瀬青々
牡丹芳御坊主蜂にさゝれたり 高井几董
犬も聴くカナリヤ主亡き三鬼館 楠本憲吉
猟犬は眠り主は酒を酌む 高野素十
猫も主も家に不在や新松子 角川源義
猫戻り豆飯が出来主居り 深川正一郎
玉子酒賓主を分つ小盃 黒柳召波 春泥句集
瓜の香や駒のわたりの県主 蕪村「夜半叟句集」
瓜もぐや庵主此頃古帽子 雑草 長谷川零餘子
甘藷切りて干すまづしさを主は見給ふ 水原秋櫻子
田主来てねぎらひ行くや夜水番 西山泊雲 泊雲句集
田主畑主二百十日のあくる朝 小澤碧童 碧童句集
田遊びの田主ドン・キホーテの貌 成瀬櫻桃子 素心
畠主かゞしに逢ふてもどりけり 蕪村遺稿 秋
番台の主好みの膝毛布 須賀美恵子
白百合や袴をつけて庵主あり 五十嵐播水 播水句集
百姓ら天主を信じ凍てゆるぶ 飯田蛇笏 雪峡
目もとより時雨の晴るる庵主さま 川崎展宏
眉白き茶屋の主や杜若 田畑三千女
真珠貝天主讃歌の裔いまも 原裕 葦牙
石菖に風あり主寝転ひて 尾崎紅葉
破れ傘の命名主はどなたぞ若し 高澤良一 寒暑
禪寺の柚味噌ねらふや白藏主 柚味噌 正岡子規
秋の*かや主斗りに成りにけり 蕪村
秋袷木曾の旅籠の主かな 松藤夏山 夏山句集
窯主がまけて三日の湯呑みの値 高澤良一 鳩信
窯元の老主帷子涼しげに 真柄嘉子
立ち上る客を見上げて炉の主 高濱年尾 年尾句集
端居してほとほと主柱たりし疲れ 後藤綾子
竹の主河童百図のちやんちやんこ 椎橋清翠
竿秤腰に山主茸案内 前田まさを
笋に鋤かりに来る庵主かな 維駒 五車反古
笹鳴に対す二日の主かな 高浜虚子
筆談の客と主や蘭の花 蘭 正岡子規
簀戸越しに主見え居り案内乞ふ 比叡 野村泊月
糸瓜だらり主戻りし灯がともる 中島月笠 月笠句集
紅雀主ジの昼寝鳴きにけり 野村喜舟 小石川
紐を組む女主や梅の花 京極杞陽
紫陽花に絵の具をこぼす主哉 紫陽花 正岡子規
紫陽花や身を持ちくづす庵の主 永井荷風(1879-1959)
経津主神上陸されし花菜かな 長谷川かな女 雨 月
絹着たる馬の主や摩耶参 岡本松浜
綺羅と衣魚出でて主を確かむる 伊藤虚舟
老貫主梅酒をめでておはしけり 山元無能子
背鰭にて浮葉撥ね上げ池の主 高澤良一 燕音
臭木咲き藩主墓前の一区画 山本紅園
色かへぬ松や主は知らぬ人 色かえぬ松 正岡子規
色鳥に心遊べる主かな 高浜虚子
芒かむりて話す主よ十三夜 長谷川かな女 雨 月
若うして家の主や着衣始 佐々木北涯
若き大国主命がひらふ椿の実 長谷川かな女 花寂び
若武者の主亡くして花散りぬ 榎本宗太
茶のはなに文覚のやうな庵主かな 黒柳召波 春泥句集
茶の花や主送りて戻る犬 碧雲居句集 大谷碧雲居
茸取に障子開け話す主かな 島村元句集
草の雨蟇も主も古りにけり 蟇 正岡子規
菊の主拙き歌を詠みにけり 菊 正岡子規
菊を剪つて行く秋惜む主かな 行く秋 正岡子規
蓑つけて主出かけぬ鮎汲みに 高濱虚子
蓮の花御堂に西の主かな 松瀬青々
薪を焚く床下知れり蚕屋の主 長谷川かな女 雨 月
藤の主盲ひの蛇を養ひぬ 南浪句集 南南浪句集、渡辺水巴編
藩主像大礼服に黄沙降る 仕田富佐江
藩主墓尖りて雪を寄せつけず ト部節子
藪入て暫し炬燵の主かな 竹冷句鈔 角田竹冷
蘭の主翰林学士と聞えけり 島村元句集
蘭の主花咲く事を厭ひけり 蘭 正岡子規
蘭散て萬年青を愛す主哉 蘭 正岡子規
虫干の衣の香にゐて客主 銀漢 吉岡禅寺洞
蚕屋の主甲斐の武田の氏を云ふ 長谷川かな女 雨 月
蜘蛛の囲の主冬眠したるさま 高木晴子 花 季
蜥蜴出て新しき家の主を眄たり 山口誓子
蝸牛と風雅の主や竹の垣 蝸牛 正岡子規
蝸牛を風雅の主や竹の杓 蝸牛 正岡子規
行春や撰者をうらむ哥の主 蕪村 春之部 ■ 暮春
行水ときこゆ主ジや程もなく 尾崎迷堂 孤輪
裏庭の百合も主を喪ひし 津田清子 二人称
西蔵に法主入りけむ二日月 筑紫磐井 婆伽梵
訪へば庵主木にあり松手入 下村ひろし 西陲集
誰のことを淫らに生くと柿主が 中塚一碧樓
豚盡きて葱を貪る主かな 葱 正岡子規
貸家より主家が低し寒雀 竹下しづの女
賓(きゃく)主鹿聞かぬ夜をかこちぬる 黒柳召波 春泥句集
起きぬけの頬かむりしていほり主 河野静雲 閻魔
踊唄藩主を恨む一節も 芳野仙子
返り花こゝの主は籠りずき 高田蝶衣
遠方の鍬主見えぬ鍛冶祭 河東碧梧桐
郁子は実にこの家の主見たことなし 高澤良一 随笑
酢陶を水主あやまちそ沖膾 高井几董
里坊の主は若し花馬酔木 寺井谷子
金印の地や葉牡丹の主顔(福岡県志賀島) 角川源義 『神々の宴』
鉄筆に名ある庵主や桐の花 内田百間
鉢の菊爛漫として倨る主かな 尾崎紅葉
鍋焼や主が猪口の癖久し 尾崎紅葉
鎌倉に主ぶりなる寒の入り 石塚友二
長身にして春服の霞霧園主 三宅清三郎
門徒いふ門主日和も時雨れけり 大谷句佛 我は我
隠居して五反の麦の主哉 麦 正岡子規
隱れ住む古主を訪ふや雪の村 雪 正岡子規
雉提げし主や狗の手柄顔 雉 正岡子規
雛の主在らで雛の灯明るけれ 小松崎爽青
雪きしむ主戻りしけはひなり 木村蕪城 寒泉
雷雲のたむろせる嶺を主座となす 篠原梵 雨
霧の香や旅にとぶらふ山毛欅の主 宮武寒々 朱卓
露の花圃天主(デウス)を祈るもの来る 誓子
風引の若き主や卵酒 玉子酒 正岡子規
風邪熱に燃えてきほへる主かな 上村占魚 球磨
飼ひ主を嚊ぎに戻りし猟の犬 右城暮石 上下
首まげてかんがへごとや榾の主 橋本鶏二 年輪
骨董屋の主ぽつぺん吹いてをる 河野絢子
髪染めて若返りたる菊の主 河野静雲 閻魔
鬼灯の赤らみもして主ぶり 高浜虚子
鮟鱇の腸より天主立ちあがる 平井照敏 天上大風
鱧さげてゆく別荘の主かな 岡田耿陽
鴨宿の主が月に大欠伸 橋本鶏二 年輪
鴫焼や主好みの布目皿 山本喜久子
鴫焼や貫主をかこむ作務のあと 升本行洋
鴫立庵主替りて不在梅熟るる 青木重行
鵙の主罪贖ふに似て十字 下村梅子
鶯やさゝやかながら果樹園主 雉子郎句集 石島雉子郎
鹿の皮着ておつとめの榾主 小原菁々子
麦の秋主家で飯食ふ夫婦かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
黄桜の花守めきし主かな 山田弘子 懐
黄蜀葵昼寝の主まだ覚めず 川崎展宏
龍玉を蔵し主は壽(いのちなが) 大橋桜坡子
あるじする乳母よ御針よ庭の花 炭 太祇 太祇句選
あるじなき几帳にとまる蛍かな 高井几董
あるじなき闇の木蓮葉をとゞめず 林原耒井 蜩
あるじにもかくべつ媚びず露の犬 久保田万太郎 草の丈
あるじよりかな女が見たし濃山吹 石鼎 (府下柏木、零余子舎)
あるじ征き藤花をはる静けさよ 佐野良太 樫
あるじ待つ扇のうつる柱かな 金尾梅の門 古志の歌
あるじ我病みをり蚤にふえられて 林翔 和紙
あるじ白衣の医に老ゆ寒さかな 室生犀星 魚眠洞發句集
あるじ逝きたる部屋一杯の夏日 増田 守
いろくづの腸の醢(ひしほ)を古猫とあるじのわれと一皿に食ふ 高橋睦郎 飲食
おしゃべりのおんなあるじや海胆の種 あをきえつこ
おでんやにすしやのあるじ酔ひ呆け 久保田万太郎 草の丈
こでまりやあるじ些か仕事呆け 石塚友二
こほろぎが女あるじの黒き侍童 西東三鬼
すゝしさやあるじまつ間の肘枕 涼し 正岡子規
そゝこしきあるじが接木おぼつかな 高井几董
まつ霄や女あるじに女客 蕪村
ゆすら梅少年にしてあるじなり 中田余瓶
ガーデンの女あるじやヒヤシンス 五十嵐播水 播水句集
スイートピーをんなあるじの英語塾 石川文子
世に遠き旧正月のあるじ顔 宇田零雨
二軒家のあるじを問へば厄拂 厄払 正岡子規
二階から下り来る月のあるじかな 長谷川零余子
仏の灯浴びて良夜のあるじかな 西島麦南 人音
休め田にあるじ貌して花薺 影島智子
似合しき萩のあるじや女宮 黒柳召波 春泥句集
俳諧もすなるあるじの三宝柑 辻桃子
借家のあるじとなつて落葉掃かう箒を持つ 人間を彫る 大橋裸木
元日の庭もあるじも枯れにけり 小林康治 『虚實』
冬ごもり五車の反古のあるじかな 召波
冬籠あるじ寐ながら人に逢ふ 冬籠 正岡子規
冷汁やあるじの僧のゆかしさは 蕪村
厄払ひ女あるじに呼ばれけり 岡本松濱
厄払女あるじに呼ばれけり 岡本松浜
古家にあるじは知らず菊の花 菊 正岡子規
同じ名のあるじ手代や夷子講 夷講 正岡子規
団扇腰に鍬つかひ居るあるじ哉 団扇 正岡子規
声冴ゆる女あるじゆ紅を買ふ 野澤節子
夏山にもたれてあるじ何を読む 子規句集 虚子・碧梧桐選
夕顔やあるじの所作のなつかしや 我峯 俳諧撰集「有磯海」
夕風や花屋あるじのコック帽 塚本邦雄 甘露
女あるじひとりの旧家若冲忌 塚田ゆうじ
子燕や織屋のあるじ酔ひ戻る 野村喜舟
客あるじ名乗る旅寝や秋のくれ 水田正秀
宿かれば月に枸杞つむあるじかな 芳之
宿借さぬあるじつれなき蚊遣かな 伏水 湖陸 五車反古
小照の父母をあるじや明の春 渡邊水巴
小説を好むあるじや葡萄棚 葡萄 正岡子規
山茶花やあるじ吾出て屑払ふ 清水基吉 寒蕭々
山買ふて我が雪多きあるじかな 黒柳召波 春泥句集
帰家のあるじに月の夕顔入れらるゝ 林原耒井 蜩
庭中にあるじ酒くむ接穂哉 加舎白雄
待宵や女あるじに女客 蕪村
御命講の華のあるじや女形 炭 太祇 太祇句選
忌の事に柿のあるじが一喝よ 中塚一碧樓
拾はれて毬栗あるじ然とせり 仙田洋子 雲は王冠
日くれなば花をあるじの首途かな 松岡青蘿
日三竿あるじが寐たる秋の蚊帳 秋の蚊帳 正岡子規
春の夜やともにうれひて客あるじ 久保田万太郎 流寓抄
月今宵あるじの翁舞ひ出でよ 蕪村
月華の是やまことのあるじ達 松尾芭蕉
朔日や祝ふ乙子のあるじぶり 車容
朴落葉女あるじのひそと病む(谷原のお宅は) 岸田稚魚 『雪涅槃』
松蝉の饗(あるじ)まうけに鳴きくれし 宮坂静生 春の鹿
椽端や月に向いたる客あるじ 月見 正岡子規
榻を客に譲りて月のあるじかな 西山泊雲 泊雲句集
歳旦のわれは硯のあるじかな 小澤碧童 碧童句集
水菜のかぶの大きさをあるじも見をる 梅林句屑 喜谷六花
河豚汁や女あるじの皮褥 井上井月
泊まりたる宿のあるじが氷室守 出口まこと
浅蜊鳴かせ主人(あるじ)十年病み申す 赤城さかえ
海老野老草庵のあるじ愚老といふ 野老飾る 正岡子規
涼しさや客もあるじも真裸 涼し 正岡子規
源氏などほのめく藤のあるじ哉 高井几董
火桶抱て艸の戸に入あるじ哉 高井几董
炉塞いであるじは旅へ出られけり 自珍 五車反古
炉塞てあるじは旅に出られけり 白珍
炎天に菊を養ふあるじ哉 炎天 正岡子規
牡丹や言葉少き客あるじ 西山泊雲 泊雲句集
牡丹二代連哥は劣るあるじ哉 高井几董
狼星(シリウス)をうかがふ菊のあるじかな 宮沢賢治
畠から出て来る菊のあるじかな 涼菟
白萩のあるじなくとも盛りかな 稚魚 (悼後藤夜半先生)
白藤のあるじゆゝしや庭あるき 尾崎紅葉
秋日さすあるじの部屋の切炉かな 柴田白葉女 花寂び 以後
秋風のあるじ家憲に囚はれて 中塚一碧樓
稲積に出づるあるじや秋のあめ 内藤丈草
筆もつて寝たるあるじや時鳥 時鳥 正岡子規
糸桜これやあるじの命綱 遊舟 選集「板東太郎」
紫陽花に絵の具こぼせしあるじ哉 紫陽花 正岡子規
芍薬やあるじは餘念なく眠る 井上井月
花どきの鬱のあるじを嫌ひをり 筑紫磐井 婆伽梵
花冷の画廊は女あるじかな 青木重行
茂吉知る宿のあるじのちやんちやんこ 岩崎照子
茶柱やあるじの鉢に藤つつじ 石川桂郎 含羞
草の家のあるじ頼むか雀の巣 雀の巣 正岡子規
草臥れてねにかへる花のあるじかな 蕪村
菊の館あるじはツレを仕る 高濱年尾 年尾句集
菊咲て花ともいはぬあるじかな 加舎白雄
菊苗に雨を占ふあるじかな 嘯山
萩刈りてあるじがなせしごとくする 阿部みどり女 笹鳴
葱坊主あるじ疎まれゐたりけリ 山口草堂
蓬莱やあるじに馴れて鳥の来る 涼菟
蕣やあるじの外は知らぬ也 朝顔 正岡子規
蕣や客來てあるじまだ寐たり 朝顔 正岡子規
虫干や若きあるじの世となり居 尾崎迷堂 孤輪
蚊遣り火の蚊に連れ出づるあるじかな 管鳥 選集古今句集
蜘の子やあるじ驚いて蘭を吹く 野村喜舟 小石川
蟇いでて女あるじに見えけり 橋本多佳子
西山に桜一木のあるじ哉 桜 正岡子規
辻番も一もと菊のあるじかな 横井也有 蘿葉集
閼迦桶にあるじの見えぬ花野哉 花野 正岡子規
雪隱にあるじものいふ師走哉 師走 正岡子規
霜除すあるじがのこせし牡丹に 阿部みどり女 笹鳴
風引のあるじ持ちけり梅の花 梅 正岡子規
飯赤く栗黄にあるじすこやか也 栗 正岡子規
飼猿を熱愛す枇杷のあるじかな 飯田蛇笏 霊芝
鳥渡るをみなあるじの露地ばかり(木屋町) 『定本石橋秀野句文集』
齢かすみて夕顔のあるじかな 鷲谷七菜子 花寂び
●家刀自 
家刀自へ深辞儀をして屋根葺けり 杉 良介
家刀自の噛み酒も馴鮓も美(よ)し 筑紫磐井 婆伽梵
●妹背 
その日まで妹背別れの納雛 福田蓼汀 山火
はしきよし妹背並びぬ木彫雛 秋櫻子
やり羽子や妹背の板の中に落る 言水
乗合や妹背の中の敷寝の舟 調泉 選集「板東太郎」
夜ざくらや妹背むつみの足ゆるく 枯蘆 清原枴童
妹背とて男は入れず磯焚火 長谷川虚水
妹背鳥煙管の筒を叩くごと 高澤良一 随笑
揚雲雀妹背山相凭りて 永方裕子
春の日や妹背のごとき鷹ケ峰 大石悦子 群萌
潮風に妹背で植うる水田かな 大屋達治 龍宮
田を植ゑて相寄る影や妹背山 水原秋桜子
眉白や雨がつつめる妹背山 城ちはる
短夜や二つの命妹背なる 野村喜舟 小石川
秋の山妹背のさまに肩組めり(会津湯野上温泉行) 上村占魚 『方眼』
綿虫や納戸色なる妹背山 矢部白茅
貝雛やまこと妹背の二人きり 高橋淡路女 梶の葉
雛流す瀬を啼きつるる妹背鳥 安達波外
●内の人
●後妻 
前妻/後妻/甘菜辛菜と/摘み分けて 高柳重信
墓洗ふ後妻の話あるはあり 朝雄紅青子
後妻(うはなり)のことごとに問ふ茎菜かな 黒柳召波 春泥句集
後妻のことごとに問ふ茎菜かな 召波
朴ちりし後妻が咲く天上華(てんじょうげ) 能村登四郎 天上華
疾風にまむかひて後妻(うはなり)の藍明石 塚本邦雄 甘露
隠亡の後妻めづる木菟の冬 西島麦南 人音
●奥方 
奥方の部屋を飛び出す昼の虫 宇多喜代子 象
奥方の約ぶくれなゐ今日の雲雀ら 加藤郁乎
雪車(そり)に乗る奥方さむき十夜かな 浜田酒堂
●奥様 
奥様を連れたが憎し蝶憎し 筑紫磐井 婆伽梵
たんぽぽにちよつと奥様うるさすぎ 火箱游歩
●幼妻 
一の酉二の酉までは幼な妻 攝津幸彦 未刊句集
交番に幼妻住む初つばめ 高野みさお
初午の野のうすぐもり幼妻 原田喬
幼な妻肩掛で肩狭め狭め 香西照雄 対話
幼妻酢をもて牡蠣を殺しけり 塚本邦雄
秋天の禽獲れといふ幼妻 飯田龍太
船室にひとり初髪の幼な妻 福田蓼汀
苗市に教へ子とその幼な妻 能村登四郎
馬遠し藻で陰(ほと)洗う幼な妻 金子兜太 早春展墓
●押しかけ女房
●鴛鴦夫婦
●男鰥 
干菜見えて男鰥にあらざりき 銀漢 吉岡禅寺洞
●偕老 
偕老の一滴惜しみつつ新茶 渡辺 昭
偕老の二人へひらく時雨傘 橋本恭子
偕老の今日がはじまる根深汁 古住蛇骨
偕老の傘の息づく夕牡丹 北島春美
偕老の夫が先きなり初手水 及川貞
偕老の歩幅をゆるせ山つつじ 斎藤梅子
偕老を希ふ柚味噌を箸先に 近藤一鴻
●家内
●寡婦 
ひぐらしに寡婦むらさきの着物縫ふ 藤木清子
七夕の竹早々と若き寡婦 阿部みどり女
倶に寡婦修二会の火の粉喜々と浴び 我妻草豊
地の涯の秋風に寡婦よろけ立つ 片山桃史 北方兵團
夜よりも昼のはかなき梅雨の寡婦 桂信子 黄 瀬
大でで虫棲みつき寡婦の日々寧し 村上光子
密雲すべるミユージツクサイレンと寡婦の上 阿部完市 絵本の空
寡婦いでて提灯つれり秋まつり 久保田万太郎 流寓抄以後
寡婦さびしむけば香走る青みかん 鈴木真砂女
寡婦となり俄かに老けぬ黍の秋 阿部みどり女 笹鳴
寡婦となり菊の好日めぐり来ぬ(多美子へ) 阿部みどり女 『微風』
寡婦となる仏灯さむく継ぎたして 岸風三楼 往来
寡婦にまで税務呼び出し二月かな 上田幸子
寡婦に馴れ大阪に馴れ寒夕焼 久松久子
寡婦の寡を字引見て書く釣りしのぶ 関 芳子
寡婦の指四五枚の紙幣を預金せり 片山桃史 北方兵團
寡婦の膳時々は飛ぶ冬の蝿 倫アツコ
寡婦ひとり入るる青蚊帳ひくく垂れ 桂信子「女身」
寡婦ふたり歩む吉野の春鴉 桂信子
寡婦ふたり鍋焼うどんに舌焼きて 東郷喜久子
寡婦ふたリ歩む吉野の春鴉 桂信子 黄 炎
寡婦われに起ちても臥ても鶏頭燃ゆ 桂信子 黄 炎
寡婦一人住む庭広し花石榴 平田縫子
寡婦一人殖して梅雨の暗きかな 秋山佳奈子
寡婦哀しあさがほを蒔き萩を植ゑ 久保田万太郎 流寓抄
寡婦若しうすばかげろふの翅撮む 梅原与惣次
寡婦貧し子等を裸にして濯ぐ 吉良比呂武
戦時寡婦一途に生きて冬薔薇 玉城倭児
戦死者の寡婦にあらざるはさびし 藤木清子
手足先に老いて農寡婦裸たくまし 加藤知世子
日雇寡婦荷こぼれ鯵を得て輝く 岩田昌寿 地の塩
早春の波寄せ濱に寡婦溢る 藤後左右
朝露の無花果を食ふ寡婦となり 中山純子 沙羅
栗咲く香にまみれて寡婦の寝ねがたし 桂信子「女身」
欺かれ冬天あまり青く寡婦 三谷昭 獣身
渦笑窪消え水鏡寡婦に冴ゆ 香西照雄 対話
火事明り寡婦ごくごくと水を飲む 寺山修司 未刊行初期作品
生身魂寡婦となる身の親不孝 鈴木須美枝
羅のうしろ鏡も既に寡婦 殿村菟絲子 『旅雁』
聖書読む寡婦ジンジャーの香の中に 中屋敷 晴子
肥かつぐ寡婦に東嶺の月黄なり 飯田蛇笏 山廬集
花仰ぐ引揚寡婦と少年と 岸風三樓
花冷えに発つ数日の寡婦をおき 鳥居おさむ
若からぬ寡婦となりつつ毛糸編む 桂信子
菊植ゑてゴルフ寡婦なる日曜日 岩城のり子
落花生寡婦という殻付きまとう 真崎シヅ子
青葉木菟汝を何時寡婦たらしめむ 小林康治 四季貧窮
●恐妻
●愚妻 
河豚を煮て生涯愚妻たらむかな 石田あき子 見舞籠
とろろ汁愚妻でとほし誕生日 中川博子
愚妻ぞと云えど道づれ彼岸東風 富田潮児
●荊妻 
荊妻の茶を飲んでゐる夜寒哉 内田百間
●継室
●賢夫人 
秋扇や淋しき顔の賢夫人 高浜虚子
●恋女房 
そのかみの恋女房や新豆腐 日野草城
山吹に手鍋洗ふや恋女房 寺田寅彦
恋女房となりたし雨の含羞草 玉川行野
林檎紅し恋女房よ死する勿れ 西本一都
百姓に恋女房や麦の秋 橋本鶏二 年輪
紫に雪暮れいまも恋女房 品川鈴子
●後家 
かの後家のうしろに踊る狐かな 黒柳召波 春泥句集
しののめや後家の田長の忍び音も 言水
佐保姫は娘、龍田姫は後家也けり 竜田姫 正岡子規
初梦や貘にくはした後家の顏 初夢 正岡子規
千両の目が涼しけれ後家殺し 筑紫磐井 婆伽梵
子らよ後家で結核で死んだお母さんだよ 石橋辰之助
宝引や後家に馴れよる思ひの綱 言氷 選集「板東太郎」
寵愛の狆抱く後家やはつ芝居 初芝居 正岡子規
彼後家のうしろにおどる狐かな 炭 太祇 太祇句選
後家が子を産む位い何ぞと妹泣いて母に抗う 橋本夢道 無礼なる妻
後家となり熱燗の味覚えしと 石渡美都子
後家の君います切籠の暗き方 月渓
後家の君たそがれがほの團かな 蕪村遺稿 夏
後家の意地張つて毛虫を焼きつくす 石川文子
後家の田へ崖の残雪ずり墜ちる 品川鈴子
後家夜更けて烟草吹きつける天の川 天の川 正岡子規
後家殺し二犯/拝みの大向う 仁平勝 東京物語
掛香ヲ人ニクレケリ後家ノ君 掛香 正岡子規
時鳥名のれ越後は後家の数 時鳥 正岡子規
歌留多屋の後家を引出す四分の熱 仁平勝 東京物語
残せ花若葉若後家若衆また 露言 選集「板東太郎」
母の面罵を真向に妹は後家で子を産みしゆえ 橋本夢道 無礼なる妻
水の粉やあるじかしこき後家の君 蕪村 夏之部 ■ 施米 水粉
神の留守うすうす後家の噂哉 神の留守 正岡子規
若後家のあたりに酔うて年忘れ 井上井月
若後家のことしも出来て十夜かな 大江丸
隣の後家小笹の露や秋の暮 調鶴 選集「板東太郎」
魂棚やいくさを語る後家二人 魂棚 正岡子規
鴉従へゆくは夏後家かも知れず 加倉井秋を
鶉鳴く木幡の里の後家一人 河東碧梧桐
●心妻
●後妻 
前妻/後妻/甘菜辛菜と/摘み分けて 高柳重信
墓洗ふ後妻の話あるはあり 朝雄紅青子
後妻(うはなり)のことごとに問ふ茎菜かな 黒柳召波 春泥句集
後妻のことごとに問ふ茎菜かな 召波
朴ちりし後妻が咲く天上華(てんじょうげ) 能村登四郎 天上華
疾風にまむかひて後妻(うはなり)の藍明石 塚本邦雄 甘露
隠亡の後妻めづる木菟の冬 西島麦南 人音
●御主人
●御新造 
御新造(ごしんぞ)の葛切添へし烏金 筑紫磐井 婆伽梵
●御亭主
●妻 
*かやに入る妻よ木の股を月昇る 萩原麦草 麦嵐
*はったいや妻をこよなき友として 大野林火
「今夜は酢牡蠣」妻の前触れ愉しけれ 林 翔
「無類の妻」上木を手に涙妻 橋本夢道 『無類の妻』以後
「眼鏡はどこに」うたにして妻おぼろかな 加藤楸邨
「詩人はいのち墓は塊」妻の語冴ゆ 草田男 (「去来の墓」にて)
「開・合」と妻よ鐘は聴くべし去年今年 橋本夢道 無類の妻
あかぎれをかくそうべしや今年妻 前田普羅
あか~と灯ともす妻の息白し 杉山岳陽 晩婚
あさ顔や悋気せぬ妻うつくしき 高井几董
あした掻く夜の雪妻は美しと 鈴木 博
あすよりは妻のほとりや桜餅 長谷川櫂 蓬莱
あちら向き古足袋さして居る妻よ 足袋 正岡子規
あち向きは鏡裡の薔薇のみ妻と居て 香西照雄 対話
あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ 土岐善麿
あはあはと妻との月日桐咲けり 小坂かしを
あはあはと妻姙れり磯菜摘 柳下良尾
あはれ妻人の夏衣を縫ふあはれ 森川暁水 淀
あまり寒く笑へば妻もわらふなり(一片の炭無し) 石川桂郎
あやめ咲き今も八歳若き妻 原田秋魚
あらためて妻のあること根深汁 市橋一男
ありありと妻の雀斑菜も咲くよ 福永耕二
ありとのみの妻の目鼻や汗の中 肥田埜勝美「太郎冠者」
ある日妻ぽとんと沈め水中花 山口青邨(1892-1988)
あれこれと煮つけて妻の春休み 仲谷牧鹿
あれは橿の木大晦を妻と寝る 佐藤鬼房 何處ヘ
あれを混ぜこれを混ぜ飢餓食造る妻天才 橋本夢道 無禮なる妻抄
あわあわと妻姙れり磯菜摘 柳下良尾
いきいきと妻の素足や大砂丘 水原 春郎
いくさに引き裂かれてはならぬ この妻の体温 赤堀碧露
いそいそとシヨールの妻を街に見し 今村青魚
いそがしき妻も眠りぬ去年今年 草城
いたく妻ら風船飛ばす世紀末 平田栄一
いたく降と妻に語るや夜半の雪 高井几董
いたく降ると妻に語るや夜半の雪 几董
いたづらつ子を妻に托し日盛り旅立つ 人間を彫る 大橋裸木
いたはりて病後の妻と麦を打つ 清田松琴
いちにちの果の夜風に妻の足袋 飯田龍太
いちはつを手に使せし妻かへる 百合山羽公
いつとなく妻の耳借る老の春 塩田月史
いつまでも子なき妻かや母子草 遠藤緑雨
いづこにも向日葵咲かせ戦後妻 吉野義子
いづれは死の枕妻寐し月明に 林田紀音夫
いとし妻もつとしもあらす角力取 相撲取 正岡子規
いとし妻人の夏衣を飽かず縫ふ 森川暁水 淀
いとど見て妻の寝がほにめさめゐる 森川暁水 淀
いなつるび妻はゆたかに太りをり 佐伯敏子
いなびかり西瓜がみえて妻おらず 和知喜八 同齢
いまはには妻ばかりあれ雪の夜 小鳥幸男
いまは妻なしひえびえと青き竹を伐る 栗林一石路
いもぼうへ妻に誘はれ勇の忌 倉持嘉博
うから不幸妻のおほばも遍路に出 森川暁水 淀
うかれ雀妻よぶ里の朝若菜 其角
うき事に妻を噛みけり蟋蟀 島道素石
うぐひすやまぶた二重の朝の妻 茨木和生 木の國
うしろむき足袋はく妻に謝しにけり 榎本冬一郎 眼光
うそ寒や屍のごとき妻を抱き躓く 小林康治 玄霜
うたがへば妻まことなし鰒に酌む 飯田蛇笏 山廬集
うたたねの妻に夕顔ひらきけり 小島健
うつし世に妻はきよけし夏の月 原石鼎 花影以後
うつつ寝の妻をあはれむ夜の秋 臼田亞浪 定本亜浪句集
うつ伏せに寝てゐる妻を見てさむき 松崎 豊
うとうとと炬燵の妻の四日かな 今井つる女
うとましや声高妻も梅雨寒も 久保田万太郎 流寓抄
うはごとをいうて泣きをり風邪の妻 森川暁水 黴
うまずめの妻の命日雛流す 高松勝々子
うららかに妻のあくびや壬生狂言 日野草城
うららかや猫にものいふ妻のこゑ 草城
うらゝかに妻のあくびや壬生念仏 日野草城
うら白のおもてを妻ときめてをり 西田 孝
うら若き妻いとほしみ残雛 会津八一
うら若き妻はほゝづきをならしけり 日野草城
うるむ瞳の妻に楢の芽櫟の芽 杉山岳陽 晩婚
うるむ瞳の師走の妻よ何も云ふな 杉山岳陽 晩婚
えごの花妻を叱りし悔残る 坂本申之祐
えごの花妻置きざりに旅し度し 右城暮石 上下
えご散るやうつうつと妻姙りぬ 杉山岳陽
えりあしのましろき妻と初詣 日野草城(1901-56)
おしめにしてある浴衣のひときれ 妻の處女のころの 吉岡禅寺洞
おとろへしとき妻をだく山火かな 萩原麦草 麦嵐
おのれには冬の灯妻には一家の灯 大牧 広
おぼろ夜かも吾は妻を見つつ 伊藤松風
おぼろ夜の声やむ妻の来し蟇か 皆吉爽雨 泉声
おぼろ夜の夢や亡き妻若きまま 杉山綾子
おぼろ夜の身起こせばありし妻の衣 河野南畦 『黒い夏』
お遍路となりたる妻に掌を合はす 藤田左太尾
かいま見ん茨咲く宿の隠し妻 茨の花 正岡子規
かえり来て汗の衣ぐるみ妻の前 石橋辰之助
かくて冬妻にゆづらん我がいのち 岡本圭岳
かくれ泣く妻が肩見ゆ白薔薇 有働亨 汐路
かく晴れたれば竜胆を妻へ供華 森澄雄
かけ易き妻の高さに稲架を組む 谷口かなみ
かさね着の不機嫌妻にうつしけり 高橋潤
かせ引の妻よ夫よ玉子酒 玉子酒 正岡子規
かたかごに妻が幼き声を出す 太田土男
かつて妻の胸にもありしカトレアよ 富田直治
かなかなや森がくり来る妻紅し 森澄雄
かなかなや胸裸のわれに妻の影 杉山 岳陽
かな~や胸裸の吾に妻の影 杉山岳陽 晩婚
かへり来て汗の夜ぐるみ妻の前 石橋辰之助 山暦
かりがねや鬼房の妻その娘 黒田杏子 花下草上
かりそめに妻が料理す洗鯉 大谷句仏
かるた読む妻には妻のふしありぬ 下村ひろし
がぶがふと茶をのむ妻の夜寒哉 内田百間
がりがりと妻が自家製氷水 高澤良一 燕音
きしませて帯を纏く妻青木の実 草間時彦
きつつきや妻あり避暑の女として 古館曹人
きのふ他人今日は小春の夫と妻 長谷川かな女 花寂び
きらめきて妻が漕ぎくる天の川 杓谷多見夫
きりぎりす音(ね)のみに緑(あお)き妻の留守 川口重美
くすぶれる妻籠の宿の春火鉢 江口ひろし
くちなしの実のつややかに妻の空 庄司圭吾
くちなしの花剪り呉れし坊の妻 椎橋清翠
くづさずに書きし妻の名柳箸 高崎武義
くらしづかれにたおれた妻の布團ふむ 栗林一石路
くらしのぼろは見せまい妻の行李であつたか 栗林一石路
くらやみで妻に遇ひにし大晦日 辻田克巳
けさ妻をあはれとおもふもの凍てて 田村了咲
けしの花散りて終ひし妻の夢 澤草蝶
けふの日がさし妻や芭蕉枯るゝや 宇佐美不喚洞
けふはまたメロンがうまく切れて妻 後藤比奈夫 めんない千鳥
けふよりの妻と来て泊つる春の宵 日野草城
けふ妻とあらそはざりき桜餅 田村了咲
けんめいに枯枝あつめ妻焼きぬ 浅原六朗 紅鱒群
げんげ田に寝転ぶ妻を許し置く 三好 曲
こがれ死ぬためしも聞かず猫の妻 史邦 芭蕉庵小文庫
こごえる妻をいたわることも寒のつとめ 細谷源二
こごみ和へ妻と突ける啄木忌 森田公司
ことば書略 鬼王が妻におくれしふすま哉 蕪村遺稿 冬
この世あの世妻を隔てし年暮るる 森澄雄
この夏を妻得て家にピアノ鳴る 松本たかし
この夜亡き妻と話して風邪心地 森澄雄 所生
この道しか知らざる妻の盆の路 能村登四郎 寒九
こぼれ萩妻より先の死を希ふ 水谷 晴光
こまごまと妻にもの買ふ草の市 森澄雄
こもり居の妻の内気や金屏風 飯田蛇笏 山廬集
これ蓼と妻にお株を奪はれぬ 高澤良一 素抱
こんこんと妻は眠りて夜の滝 岸本尚毅 舜
こんなにも桜が咲いて妻の留守 高橋謙次郎
こんもりと妻の蒲団の山かたち 高澤良一 さざなみやつこ
ごきぶりいっぴきを祀り妻の時間 中原美佐彦
ごきぶりや妻の怒りははげしきもの 森川暁水
ごきぶりを夫打ち妻が始末せり 中嶋秀子
ごきぶりを見とがめし妻さあ大変 高澤良一 随笑
ご来迎妻を一人の同朋として 浜崎敬治
さうと妻うなづきヴァレンタインの日 原田一郎
さうめんや妻は歌舞伎へ行きて留守 草間時彦(1920-)
さかしらの駱駝が妻の接木哉 接木 正岡子規
さくらんぼをさなさのこる妻の口 椎橋清翠
さくらんぼ娘は若き妻の声 堀江廣明
さくらんぼ数へて食べて妻若し 下村ひろし
さげ髪をして床にあり風邪の妻 山口波津女 良人
さそはれし妻を遺りけり二の替 正岡子規
さつま汁妻と故郷を異にして 右城暮石
さびしさに妻を叱れり紅葉狩 山口いさを
さびし春機械の如く生くる妻 藤木清子
さみだれの*かや垂れて不平なき妻か 清原枴童 枴童句集
さやけくて妻とも知らずすれちがふ 西垣脩(1919-78)
さりげなき妻の一瞥毛皮店 根岸善雄
さりげなく妻の外出や松明けぬ 千葉 仁
さんま殿妻の悲嘆を句で申す 橋本夢道 無類の妻
さんま焼く妻を罩め居り濃き茜 久米正雄 返り花
ざぼんの厚き白き皮剥ぐ人の妻 右城暮石 声と声
しくるゝや妻、子を負ふて車推す 時雨 正岡子規
しくるゝや胡弓もしらぬ坊か妻 時雨 正岡子規
しぐるゝや床のべに来る宿の妻 金尾梅の門 古志の歌
しぐれ急墓ぐさとりて妻も娘も 松村蒼石 寒鶯抄
しだいに黙す隠元豆を茄でいし妻 藤野 武
しづかなる雨無花果に妻を得し 杉山岳陽 晩婚
しまひ湯の妻の皺腹菜種梅雨 金尾梅の門
しめやかにあり胼早き妻の夜見るよ 梅林句屑 喜谷六花
しろ~と古りにし妻のシヨールかな 佐野青陽人 天の川
しんがりは妻が勤めぬ春の風邪 石塚友二
しんしんと遠き蝉妻妊ると 細川加賀 『傷痕』
すいとん畳に下してきて不服を言わさぬ妻 橋本夢道 無禮なる妻抄
すがる手の身重の妻に凍る道 有働亨 汐路
すぐ妻を呼ぶ年用意始まれり 白岩 三郎
すごく青い八十八夜妻病めり 佐藤鬼房
すすきそよそよ田舎へ行く妻 椎橋清翠
すだれ掛けて妻もよろこぶ客とあり 森川暁水 黴
すてばちのことくちばしり旱妻 高井北杜
すれ違ふ妻の気附かず町師走 榊原八郎
すれ違ふ妻は歯医者へ夏の暮 高澤良一 素抱
せいちゆう四万の妻の子宮へ浮游する夜をみつめている 橋本夢道 無礼なる妻
そこまでと女礼者を送る妻 重厚爽美
そこらいつも妻のこゑあり猫柳 森澄雄
そこらまで蓬を摘みに庵の妻 後藤夜半 翠黛
そのあたり妻と歩きてあたたかし 新明紫明
その奥に妻の城ある夏暖簾 高橋悦男
その妻と目が合ふ薔薇の花束越し 鈴木鷹夫 風の祭
その時の妻に葱の香雪降れり 鈴木鷹夫 春の門
その笊も妻の身のうち茗荷竹 飴山實 少長集
そばに居る妻の眼を借る冷奴 村越化石
それからのこと妻の墓にきて咳こぼす 栗林一石路
たかんなや妻にありたる坐り胼胝 瀧澤伊代次
たくわえなくても妻をつれて暗い映畫を見ている 橋本夢道
たくわえなくも妻をつれてきて暗い映画を見ている 橋本夢道 無禮なる妻抄
たすからぬ病と知りしひと夜経てわれよりも妻十年老いたり 上田三四二
ただ二字で呼ぶ妻のあり菊膾 亭畑静塔
ただ妻の支持のみ確か蟇低音(ひくね) 秋元不死男(1901-77)
たのしきらし我への賀状妻が読み 楸邨
たのしくて涙ぐむ妻胡桃割 細川加賀 『傷痕』
たまさかに妻の深礼春落葉 宮坂静生 山開
たまさかの妻の盛装日脚伸ぶ 八幡丈太郎
たまに出て柳絮に妻と包まるる 金箱戈止夫
たま~や二日に出でし穴居妻 萩原麦草 麦嵐
ためらはず向日葵を誕生日の妻に 伊能 洋
ためらわず妻が無言に毛虫焼く 安達知恵子
たんぽぽを捧げて妻を叙勲せり 小笠原風箕
だしざこに来し関心へ妻と十年 藤後左右
だんだんと我の強い妻わらび餅 今岡直孝
ちかぢかと妻の瞳を見て雪となる 千代田葛彦 旅人木
ちかぢかと妻亡きあとの春没日 宮津昭彦
ちちろか吾か倖と妻に言はせしは 林 翔
ちちろ孤唱妻醒めゐしやわれも醒む 磯貝碧蹄館 握手
ちちろ虫言はねど妻にたよりをり 水谷 晴光
つづれさせぼろさせの夜になつた妻 栗林一石路
つづれさせ身を折りて妻梳けづる 長谷川双魚
つとめ妻玉葱にすぐ涙ぐむ 品川鈴子
つゆくさや身にひかるもの妻つけず 上遠野梨花
てのひらに柴栗妻がのこしけり 石田波郷
とかくして妻の初盆来りけり 浅井青陽子
ときどきは妻でなき日や古酒を酌む 鳥山ルリ子
ところ天すゝり妻にはさからはじ 富永花鳥
とりとめし命とありぬ除夜の妻 藤崎久を
とゝさんに妻のまゐらす湯婆かな 西島麦南 人音
どかと暑き妻沼聖天の立葵 石原八束
どこかで何か咲いていそうなこんな日の椿を妻が挿してあつた 橋本夢道 無禮なる妻抄
どこへゆきしや母の日の妻を子が連れて 安住 敦
どんどの焔おんべ笑ひに妻の笑ひ 加倉井秋を
ながからむ妻の祈りや藤の花 齋藤玄 飛雪
なき妻の名にあふ下女や冬籠 炭 太祇 太祇句選
なつかしき服着て妻や竹夫人 岸本尚毅(屋根)
なづな打つ妻は醍醐の里育ち 鈴鹿野風呂
なによりと妻をねぎらふ秋扇 高澤良一 寒暑
なほ温し妻が掌へやる寒玉子 軽部烏頭子
なよ竹の雪折れ妻や二日炙 菅原師竹句集
ならび来し妻花蔭にまた憩ふ 橋本榮治 麦生
にはとりも妻も老いたり麦こがし 中島畦雨「山の子」
にべもなく夏痩したり古び妻 清原枴童 枴童句集
ぬれがほを鏡に妻や菜種梅雨 森川暁水 黴
ねずみもち咲く辺を妻の往き来せり 高澤良一 ねずみのこまくら
ねずみもち咲けり小さな妻の顔 油布五線
ねだられて妻が枯葉に句をしるす 横山白虹
ねているからだに日ぐれがきて妻がいない 橋本夢道 無禮なる妻抄
ねむたさの身に妻添ふや青葉木菟 杉山岳陽 晩婚
ねんごろに妻とたゝみぬ別れ蚊帳 池田紫酔
のっぺい汁妻の都会になじめざる 柴崎左田男
はこねうつぎ妻遠き日の匂ひあり 石田勝彦
はじかみや妻の匂へる夜の厨 小坂文之
はじめての巣箱の鳥に妻を呼ぶ 中戸川朝人
はたとわが妻とゆき逢ふ秋の暮 加藤秋邨 颱風眼
はた~のゐて妻の墓淋しからず 野村喜舟
はだれ野の風むらさきに妻が来る 伊藤松風
はなびらの妻までの距離はかりをり 石寒太 翔
はね返す妻の横槍爽やかに 内田安茂
ひえびえと妻の布団をたたみけり 岸本尚毅 舜
ひそやかに夜食をとりて看取妻 副島いみ子
ひとつ手に一つを妻に落し文 白岩 三郎
ひとつ灯に妻と寝ずありいとど跳ぶ 森川暁水 黴
ひとの家の油虫妻抱くときも 細川加賀 『傷痕』
ひとりぼちの妻がゐたりき春障子 細川加賀 『傷痕』
ひと夜は母のふた夜は妻の切籠かな 石原八束 藍微塵
ひと夜母のふた夜は妻の切籠かな 石原八束 『藍微塵』
ひと妻の提ぐる粽を見て買ひぬ 杉山 岳陽
ひと日妻人の夏衣を縫ひわぶる 森川暁水 淀
ひなげしや妻ともつかで美しき 日野草城
ひねもすの時雨をめでて妻とある 上村占魚 鮎
ひめくりよ妻よ鞍馬は春の山 八十島稔 柘榴
ひめしゃらや眠れる者を妻と云ふ 水野真由美
ひらひらと秋草こゆる妻の足袋 猿山木魂
ひるまへを花ほほづきにそゝぎ妻 河野静雲 閻魔
ぴいひゃらと鳴れば無尽に鹿の妻 宇多喜代子
ふかく妻の腕をのめり炭俵 能村登四郎 咀嚼音
ふさぎぐせまたくる妻や花の雨 高井北杜
ふつつかな妻の手にあり青葡萄 久保純夫「比翼連理」
ふつふつと布海苔を煮るや左官妻 佐藤重子
ふとりゆく妻の不安と毛糸玉 福永耕二(1938-80)
ふと妻の手の冷さよ柿若葉 米沢吾亦紅 童顔
ふと寄りて亡妻と冷麦食べし店 旭亮人
ふと思う少女期の妻花ゆすら 角田双柿
ふはふはのレタス妻の座古りにけり 並木照子
ふる里の雪に泣くとて妻発てり 皆川白陀
ぶつきら棒に妻を愛して漁夫若し 細谷源二
ほうれん草つめたリュツクヘ妊る妻 金子兜太
ほかならぬ妻の頼みの煤払ひ 高澤良一 鳩信
ほつれ毛を噛みて起きをり風邪の妻 森川暁水 黴
ほととぎす空の迷宮に妻が佇ち 西川徹郎
ほととぎす聞くべき妻もあらなくに 吉田絃二郎 吉田絃二郎句集
ほのぼのと妻が点てくる大福茶 奥田雀草
ほのぼのと眉描く妻や朝桜 長谷川櫂 蓬莱
ほほづきの妻こそ恋ひし赤らみし 森澄雄 所生
ほまち魚さげて年始の漁師妻 西岡千鶴子
ほゝ笑むや妻なきあとの二日月 萩原麦草 麦嵐
ぼた~と梅咲きしだれ寺の妻 久米正雄 返り花
ぼろ~が妻もうもれし木槿咲 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
また妻の母諌む声ほととぎす 三谷寿一
まだ寒くないと云ふ妻齢の差 高澤良一 素抱
まっすぐに日射すジャケツの妻の胸 藤田湘子
まつげ長く妻に似て眠る子をならべ働く妻はいつしんに生きる主張を曲げない 橋本夢道 無禮なる妻抄
まつすぐに日射すジャケツの妻の胸 藤田湘子
みごとな梅月夜妻には赤ワイン 益田 清
みごもりてさびしき妻やヒヤシンス 瀧春一
みごもる妻蜂一心に水を丸め 友岡子郷 日の径
みごもれる妻にまぶしい注連飾り 石井 保
みちをしへとんで妻籠の一里塚 大橋敦子 匂 玉
みづひきや母に仕へる妻の日々 深見けん二
みなし子に妻はなりけり鳳仙花 長谷川櫂 虚空
みな生きようと妻の種まき風に飛ぶ 細谷源二 砂金帯
みんみんの遥けさに妻齢加ふ 藤田湘子 てんてん
むかご飯民話後半妻に継がす 目迫秩父
むかし妻と牧谿の柿のごとをりし 森澄雄
むつとして妻良の明け方ダチュラ咲く 高澤良一 ももすずめ
むら萩や宮司の妻のよみ歌す 加舎白雄
めぐる春頑愚な妻で生き了ふや 及川貞 夕焼
めでたさも妻まかせなり松の内 富田潮児
めまとひや柱となりし□トの妻 村田白峯(天為)
もうひとり子欲しと誘ふ霜夜妻 中条角次郎
もう妻と呼ばれる日なし髪洗う 田中京子
ものぐさや妻に従ふ年の市 常重 繁
ものの値のうそのやうなる栗いくつ妻に買はせてけふの月待つ 土岐善麿
ものの芽の出しと妻呼ぶ机起つ 新明紫明
もの言はぬ妻家に居り盆三日 小早川 恒
もの言へば妻笑ひたる夜ぞ長き 稲岡長
もの音を妻はたやさず冬ごもり 柳芽
やがて子の妻となる娘とソーダ水 宮田喜雄
やがて帰る燕に妻のやさしさよ 山口青邨
やがて来る妻迎えんと雪を掻く 柏崎青波
やつと手の空きし妻来て心太 高澤良一 さざなみやつこ
やつぱり来ましたと妻の初雀 加藤楸邨
やどかりの後ろに妻の巨大なり 大石雄鬼
やや尖る白靴妻はヴァチカンヘ 林翔
やりきれぬ暑さと妻にこぼすなり 高澤良一 寒暑
ゆきも帰りも飛ばない岩の鵜妻の名呼ぶ 磯貝碧蹄館 握手
ゆく春や下駄箱にある亡妻の靴 荒巻大愚
ゆく秋を乙女さびせり坊が妻 芝不器男
ゆふいんに妻と遊べば色鳥来 高澤良一 鳩信
ゆふすげに熱き飯盛る夢の妻 攝津幸彦 鹿々集
ゆるぎなく妻は肥りぬ桃の下 石田波郷(1913-69)
ゆるやかに絽の帯締めて梨園の妻 内田幸子
よきひとの妻をめとりぬ秋闌けて 鈴木しづ子
よき夫たりしか妻に門火焚く 石山佇牛
よき妻とともに壮年棕櫚咲けり 中村草田男「来し方行方」
よき妻にありたき願ひきうりもみ 小松章枝
よき子生せいま金色の初日の妻 大槻紀奴夫
よく笑ふ妻ゐて勤労感謝の日 加古宗也
よく茂りましたと妻の言ふは蓬 後藤比奈夫 めんない千鳥
よそほへば病なきごと妻の秋 大峯あきら 宇宙塵
よろめいて障子破りぬ病ひ妻 吉井蛍雪
りくぞくと暮雪妻の手吾が手につつむ 細谷源二
ろうそくの円光の金、銀婚妻 橋本夢道 良妻愚母
わかものの妻問ひ更けぬ露の村 定本芝不器男句集
わかものの妻問更けぬ露の村 芝不器男
わか草の妻とこもるか萬春楽(バンスラク) 日夏耿之介 婆羅門俳諧
わが不惑げじげし妻に抑へられ 岸風三樓
わが予後を小春の妻に告ぐべきか 相馬遷子 山河
わが云へば妻が言ひ消す鉦叩 加藤楸邨
わが古き眼鏡をかけて夜なべ妻 塚本英哉
わが夜長妻の夜長の灯一つ 占魚
わが妻に人妻に水温みけり 野村喜舟 小石川
わが妻に永き青春桜餅 沢木欣一(1919-2002)
わが妻に過ぎたる目鼻ところ天 寺島夾竹桃
わが妻の忌に名づけぬる紫かな 野村喜舟
わが師の喪妻もとるなり残暑に居 森川暁水 淀
わが快き日妻すぐれぬ日春遅々と 富安風生
わが思ふそとに妻ゐて毛糸編む 宮津昭彦
わが恋は妻の文箱に黴びてあり 島崎省三(沖)
わが抜けし*まくなぎ妻を捕へをり 細谷鳩舎
わが斑猫妻と別れてかへす辺に 石田波郷「惜命」
わが月日妻にはさむし虎落笛 加藤楸邨
わが机妻が占めをり土筆むく 富安風生(1885-1979)
わが死後も妻黒髪を洗ふべし 進藤均
わが胸は妻を蔵せり寒牡丹 森澄雄
わが蚤をもらひし妻の虔しや 加藤楸邨
わが齢妻の齢や春炬燵 山崎ひさを
わびしげや麦の穂なみにかくれ妻 炭 太祇 太祇句選後篇
わびしげや麦の穂波にかくれ妻 太祇
わびしもよ人の夏衣を妻縫ふ日 森川暁水 淀
わりなしや妻追ひまはす晝の鹿 鹿 正岡子規
われとのほか妻に旅なし虫の宿 大野林火
われにある妻いとほしやはこべ咲く 森川暁水 黴
われになし妻にはありて裘 星野麥丘人
われに妻妻にわれあり北風吹く夜 森川暁水 黴
われに子に林檎運びの妻なりし 杉山 岳陽
われに酒壷妻は寒厨に余念なき 山口草堂
われのみの静けさ霧に妻こほし 石橋辰之助 山暦
われの妻みるみるスキーヤーとなる 田中春生
われもゐし妻の若き日桜貝 大屋達治 龍宮
われも老い妻も老いけり桜餅 田中冬二(1894-1980)
われを最も軽視する妻も着ぶくれぬ 猿橋統流子
われを知る妻にしくなし葉唐辛子 富安風生
われ獄のとき千日千夜妻の微笑が来て曇らず 橋本夢道 無禮なる妻抄
われ遊び妻働きて寒の暮 八木林之介 青霞集
ゐのこづち友どち妻を肥らしめ 石田波郷
ゐのこづち妻につきゆく札所径 中村宏汀
ゐるはずの妻が出てこぬ目借時 森 好文
をだまきや妻に鳴門の百度石 古舘曹人 樹下石上
をらざるがごとく妻ゐて涼あらた 市堀玉宗
アイリスや妻の悲しみ国を問わず 楠本憲吉
アトリエ建てむ妻に悲しき都會の瞳 藤後左右
カァネーション妻母として贈られき 高澤良一 寒暑
カチユーシヤを妻が唄へば冬近し 松井ふみを
カンパ帖が寒夜のみやげ咎むな妻 赤城さかえ句集
ガーベラの真紅の中に妻が居る 吉原波路
キャンプ小屋内にて妻とすれ違ふ 加倉井秋を
クサンチッペといふ妻ありき万愚節 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
クラス会へ妻の浮足桜の芽 鈴木鷹夫 渚通り
クリスマス妻のかなしみいつしか持ち 桂信子(1914-)
クロッカス妻と二人の旅もがな 山本歩禅
グラヂオラス妻は愛憎鮮烈に 日野草城
コスモスや妻に文字少女趣味 茨木和生 木の國
コスモスを妻ゆく丈にはかりゐし 桂樟蹊子
サソハレテ妻ヲヤリケリ二ノ替 初芝居 正岡子規
サングラスどこへ行くにも妻連れて 西浦一滴
サングラスはづして妻に戻りけり 阿部寿雄
サングラス人の妻たること隠す 辻田克巳
サングラス掛けて妻にも行くところ 後藤比奈夫「金泥」
シクラメン妻を映画に誘ひける 楡井 秀孝
ジヤケツの子鼻梁は吾れに瞳は妻に 大岳水一路
ジンジャーの香夢覚めて妻在らざりき 石田波郷
ジンジヤの香夢覚めて妻在らざりき 石田波郷
スエタ著て妻を看取れる老教授 神前あや子
スケートの流れへ妻を突き放す 島村 正
スケートの群より現れて妻匂ふ 上村忠郎
セル軽し妻の身忘れ歩みけり 柴田白葉女
ソクラテスの妻の顔してメロン食む 大沢玲子
ダリア剪る生涯の妻の脚太し 清水基吉
ダリア明し身弱妻の辺抽ん出て 楠本憲吉
ダリヤ切る生涯の妻の足太し 清水基吉
チューリップ赤きを挿して乙女妻 石塚友二 光塵
テレビ見て妻の泣きをる炬燵かな 山内一甫
デザートは妻即製のシャーベット 森 國穂
トマトの苗植ゑしと妻の便りにある 加倉井秋を
ネルを縫ふ妻身籠りし髪が頬に 大岳水一路
ハンモック妻でも母でもなく沈む 沢木美子
バツカス描く雲に乗る妻湖に出て 隈治人
バレンタインの日なり山妻ピアノ弾く 景山筍吉
バースディケーキに点る一つ灯のちひさき幸を妻とよろこぶ 杜沢光一郎
バー温し年豆は妻が撒きをらむ 河野閑子
パス嚥む妻へ一燈飾す降誕祭 磯貝碧蹄館 握手
パリー祭お菓子の好きな妻とゐる 天谷 敦
パンジーに妻が放てる水曲がる 攝津幸彦
ヒヤシンス妻亡きあとは地におろす 田村萱山
ビヤガーデン妻のよろこぶ何もなし 右城暮石 上下
ピーマンのやうにむくれて距離置く妻 高澤良一 随笑
ピーマンを多めに妻の手製ピザ 高澤良一 素抱
フリージヤ好きになりしと妻の挿す 後藤夜半 底紅
フリージヤ雪夜に長き妻の祈り 金箱戈止夫
ブランコの妻受胎して陽と揺れる 野ざらし延男
ボジヨレヌーボーいまさら妻の誕生日 浅川青磁
ボーナスのなき淋しさの妻にあり 井尾望東
ボーナスの胸算用は妻もする 椎橋清翠
マイン五月妻争ひの鴨のゐて 関森勝夫
マスクして妻に子がなし我にもなし 右城暮石 声と声
マスクして母でも妻でもなき時間 籏本春美
マニキュアをぬる妻でも母でもない色に 平岡久美子
マネキンを率ゐる妻の初仕事 山崎雅葉
ミシン椅子秋夜の妻の臀剰り 草間時彦
メーデーに加はることに妻不服 川崎克
メーデーの火照りに抱きし妻も老ゆ 苑田ひろまさ(苑)
モンゴルヘ妻を見送り鱗雲 鯵坂美智子
リラの花了ふ少女期の妻知らず 倉橋羊村
レースのカーテン花模様に変え子無き妻 赤城さかえ句集
一つ灯を妻と分け合ひ賀状書く 高村寿山
一とくぎりつけ得て妻の初鏡 貞弘衛
一の酉二の酉までは幼な妻 攝津幸彦 未刊句集
一夜妻ならであはれや暖鳥 暖鳥 正岡子規
一夜寝た妻に尾やひく雉の声 横井也有 蘿葉集
一夜鮓死後までわすれがたき妻 加藤郁乎 江戸桜
一夫に一妻陽当る場所は蓑虫にも 磯貝碧蹄館 握手
一夫多妻御飯こぼして叱らるる 攝津幸彦 鹿々集
一夫妻手をにぎりあひ御来光 森田峠
一度だけの妻の世終る露の中 能村登四郎(1911-2002)
一月や妻得て起居華やがむ 石川桂郎 高蘆
一本の蝋燃しつつ妻も吾も暗き泉を聴くごとくゐる 宮柊二
一本落葉松 しみじみ 日傘さす妻で 伊丹三樹彦 樹冠
一束のはうれんさうを夕妻ら 山口青邨
一椀の味噌汁に浮く妻の島々 斎藤白砂
一火夫や妻をいたわる肩わし掴み 細谷源二
一生吾に離れじと必死の妻の目は老いず 橋本夢道 無類の妻
一豊の妻の名知らず土佐の春 秋元洋子
一鍋は南瓜の煮物妻旅へ 佐藤房雄
一陽来復長湯を妻にのぞかるる 山口いさを
丁丁と妻を打つわれより弱き故に 細谷源二 砂金帯
丁子葛咲きぬ妻はもこやりし日 臼田亞浪 定本亜浪句集
丁字の香いつも素顔の妻であり 飯島みのる
丁寧に妻に御慶を申しけり 浦野芳南
七ッ祝ぐ妻の形身の子なりけり 牧野寥々
七五三妻も大人となりにけり 景山筍吉
七十や抱へて寒き欝の妻 猿山木魂
七夕の彩充すもの妻よりなし 北光星
七夕の色紙いちまい妻にくれよ 後藤比奈夫 めんない千鳥
七夕や妻いそいそと子に逢ひに 成瀬櫻桃子 風色
七夕や漢に生れ妻と会ふ 福永鳴風
七夕や百姓の子と妻あそぶ 杉山岳陽 晩婚
七夕竹立て風もあり妻もあり 辻田克巳
七草に喩ふればはこべらの妻 三森鉄治
七輪あふぐ妻の頭越しに麦萌えだす 森 澄雄
万両や万両たりし妻死にし 森澄雄 所生
万作まんず咲いて妻の大きな欠伸 山鹿精一
万愚節妻の詐術のつたなしや 日野草城
万緑の中のわが身と妻の身と 後藤比奈夫 めんない千鳥
丈け高き妻もおかしや冬籠り 会津八一
三十年前のクレオパトラも木枯妻 橋本夢道 良妻愚母
三味かかへ稽古はじめの妻となる 成瀬正俊
三寒の妻の長湯を訝しむ 西村浩風
三従の妻の後生に島四国 近藤一鴻
三従の妻や風邪にも従ひて 本宮鼎三
三月やレモン噛み来し妻の唇 草間時彦
三条で妻とおちあふ更衣 角 光雄
三河路の逢妻男川しのぶぐさ 能村登四郎
三百枚貼りしと梵妻白障子 河野頼人
上空に寒気みとせの神の妻 雨宮抱星
上見て妻や劣らん県召 高田蝶衣
下女より妻を叱る瓜がころがり 河東碧梧桐
下萌ゆる小家を珠と妻みがく 篠田悌二郎 風雪前
不完全気胸の妻に雁消えゆく 有働亨 汐路
不意にドア開き月光に溶けて妻 真木紅人
不機嫌な重ね着の妻何刻む 猿橋統流子
不治の病人見舞った日の妻強く抱く 平田栄一
両方に髭があるなり猫の妻 来山
中尉貴官は蛤となり妻に媾はむ 藤後左右
丹念に炭つぐ妻の老いにけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
丹頂に春日いつまで妻遠し 細川加賀 『傷痕』
主人たり妻たり雑煮祝ひけり 伊藤観魚
久々に妻へ聖夜の予約席 小島健 木の実
久女忌や会に三人教師妻 大畑峰子
九年母や奇蹟は妻の上にこそ 磯貝碧蹄館 握手
九月まだ青き銀杏の下に妻 友岡子郷 未草
乳垂るる妻となりつも草の餅 芥川龍之介
乳重り足らはねば汗の目の妻よ 清水基吉 寒蕭々
亀鳴くにあらず妻泣く夜なりけり 吉田未灰
亀鳴くや妻にとらるる言葉尻 橋本榮治 麦生
予後の妻藷の畝見てまた歩む 斉藤夏風
争はぬ妻の額をさむうみる 朝風
二まはり下の妻とか厄詣 茨木和生 往馬
二児連れて日傘の妻の遅れがち 山崎ひさを
二十年の夏杉を指す妻の齢 香西照雄 対話
二日はや妻の煮るもの妻臭し 萩原麦草 麦嵐
二日めは妻のくにぶり雑煮椀 椙本千代子
二月尽臙脂は妻の好むいろ 友岡子郷 風日
云ひ勝ちて妻ほきほきと蕗を折る 庄中健吉
云ひ嘆く妻に銀河の濃き夜なる 柴田白葉女 遠い橋
云ひ置いて妻の発ちゆく切身鮭 辻田克巳
五日まだ賀状整理に更くる妻 水島濤子
五月雨やくたびれ顔の鹿の妻 五月雨 正岡子規
井戸辺の寒暁米とぐ形を妻に真似て 磯貝碧蹄館 握手
亡き兵の妻の名負ふも雁の頃 馬場移公子
亡き妻にほおずき挿してさびしくも 土師清二 水母集
亡き妻に便りいつまで梅雨の薔薇 水野柿葉
亡き妻に花火を見せる窓あけて 野本思愁(砂山)
亡き妻のさきに来てゐる梅林 藤崎久を
亡き妻のしづかに坐る雪の椅子 石田勝彦 秋興
亡き妻のすでに来てをり盆支度 森澄雄
亡き妻のたたみしままや白絣 小早川恒(馬酔木)
亡き妻のまほろし消えておほろ月 朧月 正岡子規
亡き妻のまほろし見たり春の宵 春の宵 正岡子規
亡き妻の出よと蚊遣の煙かな 蚊遣 正岡子規
亡き妻の四九日や墓の霜 霜 正岡子規
亡き妻の声ふと枯野吹く風に 石井とし夫
亡き妻の天へ七夕竹飾る 小川原嘘帥
亡き妻の影沁む障子洗ひけり 板垣 紫洋
亡き妻の手袋五指を入れてみる 杉浦範昌
亡き妻の昼寝の顔を忘じけり 水野 柿葉
亡き妻の植ゑし鉄線白ばかり 松崎鉄之介
亡き妻の湯婆借りてあたたかし 水野 柿葉
亡き妻の知らざる孫も盆の客 山 信夫
亡き妻の秋の扇を開き見る 佐藤漾人
亡き妻の笑ひに似たる落葉風 石原八束 『断腸花』
亡き妻の茶の間の画像豆の飯 河野静雲 閻魔
亡き妻の顔がわらへる秋の風 河野静雲 閻魔
亡き妻の香水を子が乱用す 前山松花
亡き妻も出よと蚊遣の煙哉 蚊遣 正岡子規
亡き妻や燈籠の陰に裾をつかむ 燈籠 正岡子規
亡き妻を呼び白鳥を月に呼ぶ 石原八束 『断腸花』
亡き妻を夢に見る夜や雪五尺 雪 正岡子規
亡き妻を心に抱き秋を待つ 井上兎径子
亡き妻を探しにきたる初雀 後藤比奈夫 めんない千鳥
亡き父の形見をわが着て着古せば妻は裁ちおり子のものとして 武川忠一
亡妻の名を呼びし迂闊さ昼寝醒め 富田潮児
亡妻の四十九日や花曇り 寺田寅彦
亡妻の形見といふは羽抜鶏 上原恒子
亡妻の琴撫して見る秋の雨 寺田寅彦
亡妻の笑ひに似たる落葉風 石原八束 断腸花
亡妻よ聴け観世音寺の除夜の鐘 河野静雲
人ごみに会ふ白菜を抱く妻と 橋本榮治 麦生
人の世の妻にくもりぬ冬鏡 吉武月二郎句集
人の妻と酔ひてわづかに舌寒し 小林康治 玄霜
人の妻なぜか日永を半殺し 加藤郁乎
人の妻の菖蒲葺くとて楷子哉 菖蒲葺く 正岡子規
人の妻を盗む狐や春の月 妻木 松瀬青々
人の妻無月の蕎麦を打ちにけり 月舟俳句集 原月舟
人の衣祭わびつつ妻縫へり 森川暁水 淀
人中や妻遠きとき雁きこゆ 高橋沐石
人去りしあとつばくろの妻籠宿 橋本榮治 逆旅
人参の切り口痩せて妻の留守 三宅睦子
人寄せて妻つかれさす小正月 吉良蘇月
人日や何を尽さば妻癒えむ 神原栄二
人波に妻を奪はれ初大師 星野一夫
人浅し水に妻負ふいなごかな 言水
人混みを妻に従ふ年用意 中林利作
今も生きる妻との指切り菫角力 香西照雄 対話
今宵また妻の客あり歌かるた 宮木砂丘
今日は妻来ぬ日木槿の咲き替る 井上哲王
今日も凪妻に漕がせてべら釣に 有田平凡
今日よりは冬の松籟妻待つ家 田川飛旅子 花文字
今日よりは汝が専ら妻韮の花 大石悦子「群萌」
今生にこの妻掃除はじめかな 細川加賀 生身魂
今生の妻とみどりの奈良大和 山田桂三「貴船菊」
介護妻添ひ老どちの年忘 山田冷泉
仏なる妻としたしむ盆三日 森 澄雄
仏壇の妻の写真も日短か 森澄雄
仏壇の妻より貰ふ桜餅 高原喜久郎
仏妻来ると昼鳴くきりぎりす 森澄雄
仕合せと泣き崩れたる露の妻 後藤比奈夫 めんない千鳥
他人の如く運動会の妻踊る 富田直治
他人の子を妻抱いてゐる昼寝覚 大島雄作
付そひて妻は出でぬか鉢たたき 京-淵瀬 元禄百人一句
仲秋のかなしげの妻きらきらす 斎藤玄 玄
仲見世に若妻振りの浴衣かな 孝作
伎芸天夏痩妻のぬかづくも 肥田埜勝美
伴ふ妻がまわしの夜露を感ず 梅林句屑 喜谷六花
伽羅蕗を煮返す妻や今日も雨 増田龍雨「龍雨俳句集」
佇ち泣ける妻のうしろのふぶきけり 細川加賀 『傷痕』
住職の妻となりゐて蓮植うる 宇川まゆみ
何か言ひかけ妻が聞く虫われも聞く 川村紫陽
何といふ幸福甘藷蔓車の上の妻は 加倉井秋を 『真名井』
何はさて妻に供ふる小豆粥 佐藤岳灯
何ほども蓬摘めずに一歳妻 鷹羽狩行
何も言はず妻倚り坐る夜の秋 能村登四郎 咀嚼音
何も言はず妻倚り添へる夜の秋 能村登四郎
何やらん妻火ともして翌の煤 黒柳召波 春泥句集
何を読む梅雨入の妻の生返事 高澤良一 寒暑
何んとなく師走顔なる厨妻 丸木千香
何事か妻の悔やめる蚊遣かな 岸本尚毅 舜
佗助をもたらし活けて通ひ妻 石田波郷
余念なくパズル解く妻春炬燵 山本映二
余生などなかりし妻や送り盆 斉藤孝正
余生語る緑蔭に妻坐らせて 山口いさを
作らねど句は妻もすき菠薐草 富安風生
佳き子たちみな佳き妻に枇杷の花 林翔 和紙
供花を売る石工の妻や雁の秋 橋本鶏二
俎は妻の歳時記水ぬるむ 鈴木一夫
停年を妻言へり松納めつつ 草間時彦
健けき妻秋風をわびしめる 瀧春一 菜園
健康な妻を心の妻として 日野草城
傘傾け妻死なせじと梅雨泥撥ね 小林康治 玄霜
傷兵の妻らし子負ひ秋の雨 高濱年尾 年尾句集
働く妻の裾に病みをり寒の内 小林康治 玄霜
働く妻帰りてアイスコーヒー飲む 高橋悦男
僕ガ妻の絹着て帰る春のくれ 高井几董
僧になほ晩学妻に寝待月 赤松[けい]子 白毫
僧の妻雪にばらまく寒施行 菅原庄山子
億劫や妻の日傘を讃へるは 草間時彦 櫻山
優曇華におののく妻を肩より抱く 萩原麦草 麦嵐
優曇華に妻吃々といふらくは 森川暁水 淀
優曇華のほほけし花を妻と見る 浦野芳南
優曇華や妻の祈りは子のことのみ 米澤吾亦紅
優曇華や悲運に賭けて妻ねむる 小林康治 『華髪』
優曇華を禍とす妻にあへて不言 森川暁水 淀
元日の夜の妻の手のかなしさよ 石田波郷
元日は妻の思ひ出初日記 後藤比奈夫 めんない千鳥
元日や手をつかへたる宿の妻 几董
元日や芋牛蒡蓮人参を妻に謝す 橋本夢道 無類の妻
元旦の妻と相逢ふ街の角 河野南畦
元旦や古色めでたき庵の妻 日野草城
先ながき妻の病や桜咲く 相馬遷子 山河
先に去ぬ妻へ一瞥田草取 田上鯨波
先立ちし妻を叱るや墓参 森澄雄
光秀の妻を悼めば風花す 加藤三七子
入学の子が跳び妻がわたる畦 石川桂郎 含羞
入学の日の雀らよ妻と謝す(長女規子が小学校へ入学するまで生きてゐたいそれが私の数年前までの希ひであつた) 岸田稚魚 『負け犬』
全身を妻に洗うてもらひけり 日野草城
八つ手咲いて妻が著るもの赤き冬 森川暁水 淀
八つ手咲く月夜の濃さよ妻よ見よ 森川暁水 淀
八ツ手咲く若き妻ある愉しさに 中村草田男
八千草も夢猫も夢妻も夢 後藤比奈夫 めんない千鳥
八月のふて寝の妻となりにけり 嶋田麻紀
八月の妻をとりまく水の音 黒坂紫陽子
八月や男生みたる佛師が妻 寺田寅彦
八瀬へ行きし妻に夕立するらしも 松尾いはほ
公私の公のわが裡を知る揚羽と妻 磯貝碧蹄館 握手
六月が終るに妻を穢しけり 萩原麦草 麦嵐
六甲は雪と云ひ妻朝戸くる 高濱年尾 年尾句集
兵の妻たくたく歩みみごもりたり 細谷源二 鐵
冬ごもり妻にも子にもかくれん坊 蕪村遺稿 冬
冬ざれて枯野へつづく妻の乎か 日野草城
冬に入る妻の脳天日が射せば 宮坂静生 山開
冬のあかしのもと足し綿探し来て妻 梅林句屑 喜谷六花
冬の家暗ければ妻を雑巾の如くふと思う 橋本夢道 無礼なる妻
冬の朝日こうもり傘を干す妻に 古沢太穂
冬の灯や激して吃る妻なりし 長谷川零余子
冬の蝶見てゐて妻よ世に飽くな 米沢吾亦紅 童顔
冬の蠅蹇て妻に縋りをり 小林康治 玄霜
冬仕度たんす見あげて妻坐る 橋本鶏二 年輪
冬凪の表面張力妻の恋 高橋彩子
冬川に出て何を見る人の妻 飯田蛇笏(1885-1962)
冬日低し吾と子の間妻急がん 石田波郷
冬晴れや小さき足袋干す坊が妻 北原白秋
冬灯消すしぐさは妻の手にも似て 谷口桂子
冬物の出し入れに妻余念なし 高澤良一 燕音
冬物出す妻がもこもこ布団陰 高澤良一 宿好
冬珊瑚よりも明るき妻居りて 高澤良一 随笑
冬瓜を買ひきて妻をおどろかす 星野麥丘人
冬籠るや鶲は桐に妻は化粧に 島村はじめ
冬耕や妻をいたはる語を忘れ 大熊輝一 土の香
冬至南瓜しくりと割れば妻の国 松本旭
冬至湯の光は妻の淋しさか 峠谷清広
冬菊挿す妻の言中の人幾人 石田 波郷
冬菜割り妻豁然と冬に向ふ 古館曹人
冬萌や妻のよきこゑ旦より 木附沢麦青
冬蒲団妻のかをりは子のかをり 草田男
冬薔薇や詩人の夫画家の妻 近藤ひかる
冬蝶のごとくしづけき妻を愛す 進藤均
冬雁やもの言ふ妻が母の如し 細川加賀 『傷痕』
冬雨に濡れて歩くや孕み妻 吉武月二郎句集
冬霧に睫毛濡れゆく見舞妻 石田あき子 見舞籠
冬靴を曳き行き妻も夕焼くる 金箱戈止夫
冬鳥は群なす吾に妻あるのみ 福永耕二
冬麗や死なずに妻に迎へらる 小林康治 『虚實』
冱てめしのあとの茶に妻話すなり 森川暁水 黴
冱てる夜や妻にもしひる小盃 森川暁水 黴
冷え症の妻がくわりんを漬けるべく 高澤良一 寒暑
冷かに眼鏡の似合ふ妻となりぬ 村尾菩薩子
冷凍酒旅にしあれば妻ものむ 森川暁水 黴
冷奴買ふ鍛冶の妻また妊む 宮武寒々 朱卓
冷房を使はぬ妻に今や馴れ 高澤良一 素抱
冷蔵庫老妻の丈あはれ越す 皆吉爽雨
冷蔵庫音の微かに妻の留守 中山允晴
冷麦にひと筋の紅妻在らず 都甲龍生「日録抄」
凍てる夜や妻にもしひる小盃 森川暁水
凍星のどれかや妻は天に在り 石井とし夫
凍蝶や妻を愛さざる如病み臥す 石田波郷
凡兆の妻に縫はしぬ夏衣 大須賀乙字
凡夫わが妻の足揉む夜長かな 樋口玉蹊子
処女地の中墓標にあらず妻佇てる 和田悟朗
凧あがる空の弾力妻妊る 石井康久
出代へ餞け妻の客よりも 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
出勤す我に妻はや筵織り 前田六霞
出来れば近場妻との花見何處にせん 高澤良一 宿好
出来秋の酒に酔ひたる妻なりし 戸村五童
切干に妻の歳月ありにけり 早立栄司
切干やいのちの限り妻の恩 日野草城(1901-56)
切貼りの妻のうしろに吾子を抱く 杉山岳陽 晩婚
列車いま全速妻へ初電話 有働 亨
初めての妻亡き屠蘇の苦みかな 雨宮抱星
初伊勢の人波妻を攫ひけり 高崎よしほ
初写真妻が前髪歪みゐる 杉田以山
初凪の艪櫂かつぎて舸子の妻 石田ゆき緒
初凪や妻に五勺の笑い酒 西條泰弘
初午や妻の影ふむ素浪人 沾徳
初厠立つべく妻におくれたり 萩原麦草 麦嵐
初売の祇園や妻へ何も買はず 橋本榮治 逆旅
初夏たのし妻の天気図晴れつゞき 榎本虎山
初夢の出口に妻とすれ違ふ 神蔵器
初夢は亡き妻とゐてエーゲ海 内山泉子
初天神妻が真綿を買ひにけり 草間時彦
初富士や古き軒端に妻と老い 遠藤梧逸
初市に妻と来て買ふ志野茶碗 七田谷まりうす
初旅の宿は妻籠に定めけり 磯野充伯
初日記妻ののぞくにまかせあり 川畑火川
初明り妻の雑巾大きかり 河野多希女 月沙漠
初泣きの妻寝落つより氷りけり 小林康治 玄霜
初湯出し胸板赤き妻の父 辻田克巳
初灯二拝二拍手吾も妻も 阿波野青畝
初炬燵開く亡き妻在るごとく 沢木欣一
初産の妻を労ふサクランボ 大塚とめ子
初笑妻閉ぢこめて来し一人 香西照雄 対話
初箒妻の月日の始まりぬ 庵達雄
初茜はるかを妻の来つつあり 落合水尾
初蛙妻を娶らむと越えし山 岩田昌寿 地の塩
初蝶と妻に云ひ子が場所を問ひ 上野泰 春潮
初蝶や妻には何回目かの蝶 上野泰
初蝶や胸中に病む妻がゐて 細川加賀 『傷痕』
初詣妻にかはりて願ごと 五十嵐播水 播水句集
初詣子の目妻の目きらきらと 松本誠司
初釜の幾たりか妻となり母となり 遠山弘子
初釜や妻が亭主の四帖半 今井清之
初鏡一畳で足る妻の城 土生重次
初鏡妻の調度も古りにけり 塚本英哉
初鏡娘のあとに妻坐る 日野草城(1901-56)
初雪舞ひ地上の妻に理智給ふ 藤後左右
初雷を恐るゝ妻や針仕事 春雷 正岡子規
初音せり厨の妻は聞かざらむ 林翔 和紙
初髪の妻のなかなか帰り来ず 桑島啓司
別れ住めば子は妻のもの鰯雲 島村利南
別れ雪寝酒を妻にわかちけり 灯京
別姓論妻うなづくや鉦叩 銀林晴生
別離のごと妻放ちやる秋の暮 小林康治
刻はいま黄金の重みよ惜しむべきなごりは妻に子にしたたりて 上田三四二
前が前に妻置き子置き雑煮喰ふ 遠藤梧逸
前妻/後妻/甘菜辛菜と/摘み分けて 高柳重信
前後左右妻の香が飛ぶ扇風器 中条明
励まして妻を連れ来し子規忌かな 矢津 羨魚
勤めを戻り妻の案山子に顔を描く 猿橋統流子
勤め妻戻り夜涼へ犬を解く 羽部洞然
北窓を塞ぎて妻の遺影置く 宮田富昭
医師吾に妻がつくりし梅酒あり 川田長邦
十三夜みごもらぬ妻したがへて 志摩芳次郎
十三夜妻が書き足す子への文 冨田みのる
十五夜の病室に妻よんであり 土橋石楠花
十五夜の醤油の匂ひして妻よ 岸本尚毅 舜
十六夜の妻は離れて眠りをり 石川桂郎 含羞
十六夜や古妻古き帯を締め 鈴木真砂女 生簀籠
十六夜や妻への畳しこうこうと 加藤秋邨 雪後の天
十月の妻に所望のナポリピザ 高澤良一 素抱
十薬や叱るも躓きがちの妻 杉山岳陽 晩婚
千の蛙なかの一つ音妻よ堕胎せ 石川桂郎 含羞
千人針職工の妻街角に 細谷源二 鐵
午睡して妻の背ひろびろとありぬ 高澤良一 さざなみやつこ
半睡の耳立てている鹿の妻 宇多喜代子 象
卒業の娘ら泊む妻の夜具も混ぜ 羽部洞然
南天や酒しづかなる妻の父 草間時彦 櫻山
南天結実よき晩年を妻よ得む 細川加賀
南瓜ごろごろ働き者の妻の畑 杉浦嘉太郎
南瓜の山幾度も妻を驚かす 遠藤梧逸
南瓜交媒期の挨拶妻より受け 水内鬼灯
南瓜交媒老妻暁をたのしみぬ 臼田亞浪 定本亜浪句集
南瓜出盛り主婦らの群に妻を加ふ 磯貝碧蹄館 握手
南瓜煮る妻に俳句の出来栄え問ふ 高澤良一 随笑
南風吹けば孫に逢ひたしなう妻よ 鈴木鷹夫 風の祭
単衣きてまだ若妻や鶴を折る 星野立子
卯の花や妻の網すく火の明り 素丸
卯の花や妻を最後の他人とす 田川飛旅子 『山法師』
卯の花や蚕にやつれそめし妻となき 冬の土宮林菫哉
厨にも妻の書架あり額の花 町田しげき
厨の団扇へなへな使つて妻が汗入れてる 人間を彫る 大橋裸木
厨より妻も出句や初句会 宮下翠舟
厨妻なれど句が好き獺祭忌 里見芳子
厨辺の冬かげろふや妻の前 小林康治 四季貧窮
厭な戦争に生きのびて来た妻とは二度の梅見 橋本夢道 無禮なる妻抄
去年今年妻と云ふ名のかくれ蓑 河野多希女 彫刻の森
去年今年探れば妻の手そこにある 奈良文夫
去来忌や折ふし妻の京訛 川越蒼生
又すこし肥りし妻と種浸す 松倉ゆずる
友に恵まれ五十年苦楽一如の青葉妻 橋本夢道 無類の妻
友逝きて葉桜に妻遺りたり 沢木欣一
受話器とる妻の濡れ手や初鰹 岡田 貞峰
口少しとがらせて妻栗を剥く 肥田埜勝美
口笛を妻吹き僕に飽いたかもしれぬ 田中陽
古い机を離るる家の蕗を煮る妻 梅林句屑 喜谷六花
古い襟巻をかへず妻に昂つたこと言ふ 梅林句屑 喜谷六花
古びたる外套の肩に雨そそぐ既にして叛き離れし妻の 大野誠夫
古壺に梅青青と泪妻 橋本夢道 無類の妻
古妻とよばん去年の竹婦人 竹婦人 正岡子規
古妻と云はるゝ所以菜飯炊く 根津しげ子
古妻と旧山河涼到りけり 相馬遷子 雪嶺
古妻と梅雨の歎きを共にして 相馬遷子 山河
古妻に先をこされし籐寝椅子 原 柯城
古妻のいきたなしとや初鴉 初鴉 正岡子規
古妻のエプロン眩し初厨 房前芳雄
古妻の初髪ほめてやりにけり 橋本花風
古妻の即ち韮の卵とぢ 長尾閑
古妻の姫となりたるひめ始 岸田稚魚
古妻の寒紅をさす一事かな 日野草城
古妻の屠蘇の銚子をさゝげける 正岡子規
古妻の引き添へ風邪や又宵寝 楠目橙黄子 橙圃
古妻の怠る鉄漿や冬に入る 吉武月二郎句集
古妻の懐炉臭きをうとみけり 日野草城
古妻の手桶重げに百合花 石井露月
古妻の柚味噌作るや里心 寺田寅彦
古妻の眼に秋の金色仏 橋本夢道 無類の妻
古妻の輝く日なり初鰹 廣井良介
古妻の遠まなざしや暑気中り 日野草城
古妻の面はなやぐ雛の酒 沢木欣一 地聲
古妻も人手補ひ醫務始 下村ひろし 西陲集
古妻も出刃も海鼠も仏かな 野村喜舟 小石川
古妻も唄ふことあり紫苑咲き 橋本花風
古妻やうら枯時の洗ひ張 正岡子規
古妻や口紅刷ける着衣始 高橋淡路女 梶の葉
古妻や市井深くに菜種揉む 栗生純夫 科野路
古妻や暑さかまけの束ね髪 高橋淡路女 梶の葉
古妻や正月髪につげの櫛 高橋淡路女 梶の葉
古妻や背中合せの夜は長き 夜長 正岡子規
古妻や菜種揉み出す斗一斗 栗生純夫 科野路
古妻や針の供養の子沢山 飯田蛇笏 山廬集
古妻や除夜の燈下のうす化粧 清原枴童 枴童句集
古妻や馴れて海鼠を膳に上ぼす 青峰集 島田青峰
古妻よ味噌壺は味噌を入れとく壺である 橋本夢道 無礼なる妻
古妻を強く叩きて雪払ふ 辻田克巳
古妻を牡丹のごとくいたわらめ 橋本夢道 無類の妻
古手紙いまにして妻は枯野を来る 栗林一石路
古池に亡き妻や思ふ鴛一羽 鴛鴦 正岡子規
古碑の里にうつくし妻が宿榾や 河東碧梧桐
古茶淹るゝ妻は妻の座五十年 篠塚しげる
古蚊帳の妻のあきらめくりかへす 米沢吾亦紅 童顔
古袷傾城人の妻となり 佐々醒雪
古足袋の妻一病を捨てきれず 荒川邪鬼
句稿何度も数へて妻や暖かし 肥田埜勝美
右同じく藪虱つけ猫と妻 前田吐実男
右向けば妻ゐる秋の夜なりけり 藤田湘子 春祭
右眼には見えざる妻を左眼にて 日野草城(1901-56)
合歓の花いづれは風の妻になる 野村洋子
吉野より娶りし妻が葛湯かな 藤井瀞汀
吉野葛妻と溶きをり花の冷え 井桁汀風子
同温の妻の手とこの冬を経なむ 能村登四郎 枯野の沖
同衾の妻雪女郎かも知れず 宮田藤仔
名もて妻を呼びしことなし落し文 北野民夫
名月のもとにわが影妻の影 高橋克郎
名月やわが妻載せて渡守 古白遺稿 藤野古白
吏の妻として老い早し花南瓜 猿橋統流子
吐き気がす蒲団鞭打つ妻を見て 石川桂郎 含羞
向うむきの鵜並び文書く師へ妻へ 磯貝碧蹄館 握手
向日葵に立つ妻低し父の家に 杉山岳陽 晩婚
向日葵や起きて妻すぐ母の声 森 澄雄
向日葵をひき抜き棒としたる妻 田村了咲
向日葵咲く向日葵好きの妻に咲く 三苫知夫
吸入の妻が口開け阿呆らしや 山口青邨
吹き抜ける落葉の太虚妻らの旅 成田千空 地霊
吹雪の中戻りしためによき一言妻より生る 橋本夢道 無礼なる妻
吾がかぶり振る人参を妻買へり 高澤良一 素抱
吾が妻に身をする恋の猫怖ろし しかい良通
吾が弱気妻の強気や蚊帳吊草 鈴木鷹夫 渚通り
吾が死後も妻黒髪を洗ふべし 進藤均
吾にとどかぬ沙漠で靴を縫ふ妻よ 佐藤鬼房 海溝
吾に着き妻には着かぬ牛膝 塩川雄三
吾も妻も父母亡き齢真夜の雁 林翔 和紙
吾よりも妻に商才初戎 五島沖三郎
吾をみとる妻も聞きをり除夜の鐘 上野泰
吾を送り戻る日傘の妻あらん 波多野爽波 鋪道の花
吾云へば妻云ふそぞろ寒のこと 高澤良一 素抱
吾亦紅執拗に咲く妻癒えよ 青木重行
吾佇てばよりそひて妻年の市 成瀬正とし 星月夜
吾娘は立ち妻は跼みて墓拝む 池田秀水
吾子あらず妻が春夜の冷えをいふ 川島彷徨子 榛の木
吾子の作文妻の胼の手かなしめり 伊東宏晃
吾子の衣掲ぐ虹へ妻の顔旗手の顔 磯貝碧蹄館 握手
吾子初写し介添妻の太き指 小島青樹
吾子生まる冬日幽かの妻を覗く 石川桂郎 含羞
呆然たる妻の全身火事明り 清水昇子
周辺の黴や手病みし妻の髪 皆川白陀
味噌作る妻よ巴里へわたる前 堀口星眠 営巣期
味噌搗の杵をかはろと手出す妻 樽本利雄
呼びかけて妻そこにゐる朧かな 小林康治 『虚實』
呼人村近きあたりの妻がくれ 成瀬正とし 星月夜
呼出しに来てはうかすや猫の妻 去来 芭蕉庵小文庫
和妻の露に残れる夜明かな 内田百間
咳きにせく哀しき妻となりにけり 久保田万太郎 流寓抄以後
咳の後きらりと妻の泪眼よ 能村登四郎 民話
唐辛子干す手きびきび坑夫の妻 加藤知世子 花寂び
唐黍に重石の妻を載せ運ぶ 日原傳
唯今二一五〇羽の白鳥と妻居り 金子兜太 皆之
啄木忌母の知る歌妻の知る歌 田村了咲
啄木鳥や妻にも二つ膝小僧 岸本尚毅 舜
商家妻夜半を化粧す雁のこゑ 宮武寒々 朱卓
啓蟄の炭焼が妻みごもれり 西島麦南 人音
啓蟄や妻にも届く医療券 小見山希覯子
啓蟄や妻の帽子の色変り 大賀龍雲
善き妻の春の社に詣でけり 春 正岡子規
喪の列に妻を遣りたる時雨かな 原裕 葦牙
喪の妻と雨の石竹沈むかな 村沢夏風
喪の妻に蛍籠はやかすかなり 石田波郷
喪の妻の面あげて雛飾りをり 岡田 貞峰
喪の妻へ寒梅ひらくひびきして 鳥居おさむ
喪の妻や夜濯の歌おのづから 石田波郷「春嵐」
喪の妻や車窓の雷火浴びとほし 細川加賀
喪主といふ妻の終の座秋袷 岡本眸(1928-)
喪服着ていちにち妻は汗拭くよ 細川加賀 生身魂
喪服着て見違ふ妻や実南天 河辺智文
喪服脱ぐ妻とわが黙雪の暮 鈴木鷹夫 渚通り
喰はれたと妻の差し出すふくらはぎ 高澤良一 寒暑
喰ひ剰し小鯵を棄てよ看護妻 石川桂郎 含羞
噴水の向ふで妻が何か言ふ 畠山譲二
嚏して仏の妻に見られたる 森澄雄 所生
囀や妻洗ひ干す尿布団 小原菁々子
囀りや母となりたる妻ねむる 山崎ひさを
囁きて妻胎すとや野火走る 杉山岳陽 晩婚
四五日の旅行く妻に菊日和 石塚友二
四十五年我に妻無し新走 岡本圭岳
四十年経し思い出の岩妻と来てダイヤの海 橋本夢道 無類の妻
四月また妻の産月家ごもり 福永耕二
団扇風妻の怒りの伝はり来 春名耕作
団扇風妻より貰ひ風の盆 高澤良一 宿好
団栗や似て声たかき母と妻 白岩三郎
固しぼりの夏シャツ解き干す船工の妻 平井さち子 完流
国境追はれしカール・マルクスは妻におくれて死ににけるかな 大塚金之助
土曜日の妻の手に桃滴れり 肥田埜勝美
土用中胡瓜封じへ妻は留守 浜野桃華
土用明けたる母の村妻の町 福田甲子雄
土筆二本休暇賜はる妻の手に 林翔 和紙
土筆出て跣の妻になつてをり 松山足羽
土間口で麦の光を落とす妻 藤野 武
在りし日の妻の衣ずれ萩の風 吉田三船
地ひゞきや妻に窶るゝ浮かれ猫 『定本石橋秀野句文集』
地下電車地へ出て赤し妻へ初日 香西照雄 素心
埋火に妻や花月の情にぶし 飯田蛇笏 霊芝
埋火のごとく妻病み夜の雪 野見山朱鳥
埋火や妻の寝言に肝冷やし 市堀玉宗
埋火を生かしおぼろ夜の妻よ子よ 細谷源二 鐵
堕ろし来て妻が小さし冬木立 吉田鴻司
塔頭に稚き妻あり初鴉 龍男
塔頭に若き妻あり初鴉 永井龍男
塩つかむ妻の手太き十二月 皆川盤水
塩手掴み冬の入日を妻見居り 大野林火
塩鮭の一切で足る妻の留守 白崎きよし
塾閉ぢし妻の洗へる硯かな 綾部仁喜 樸簡
墓の妻いまはひとりや都草 森澄雄
墓参せず身重の妻と語り合ふ 杉山岳陽 晩婚
墓参了へ梅見の酒を妻もすこし 奈良文夫
墨豆腐や妻が居ぬ夜の恋衣 尾崎紅葉
壁に外套そのほかに妻と子を遺し 右城暮石 声と声
変身の妻にもありてサングラス 谷口波詞雄
夏に弱き妻なりき妻への手紙に書く 長谷川素逝 砲車
夏の果て病の果ての厨妻 今泉貞鳳
夏めきて畳拭く妻髪梳く母 鈴木鷹夫 渚通り
夏休み終る夜のさざめき妻と子 梅林句屑 喜谷六花
夏塩が溶けるに妻の顔うつる 萩原麦草 麦嵐
夏大根辛くて妻を一瞥す 皆川白陀
夏帯を解きて貧しき妻にかへる 榎本蒼水
夏帽を妻受けとりて奥に入る 廣江八重櫻
夏帽子かぶり直して妻を待つ 玉谷三山
夏掛して妻と思ひ出話など 高澤良一 鳩信
夏掛を手繰りつ妻と二タ三言 高澤良一 寒暑
夏暁の妻の睡りの一途なる 星野麦丘人
夏期賞与のつじつま妻が笑ひ出す 米沢吾亦紅 童顔
夏桔梗別の心音妻の身に 友岡子郷 日の径
夏海の糟糠の妻あどけなし 藤本拓三
夏満月妻のうながす処に佇ち 高澤良一 素抱
夏炉焚きぬ妻を尊むさびしさに 石橋辰之助 山暦
夏痩せて妻の指圧の稽古台 高澤良一 素抱
夏痩せて妻の食はせしものを食ふ 加藤憲曠「静寂」
夏痩に妻の饒舌ひびきけり 白岩三郎
夏痩の妻家中の指図して 大西昭治
夏紅葉妻の名一印にて消ゆる 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
夏羽幟著て我に逢へり妻の前 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夏羽織着て下町へ妻とかな 臼田亞浪 定本亜浪句集
夏茱萸や妻の居ぬ日はものぐさに 村沢夏風
夏草に敗れし妻は人の蛇 攝津幸彦
夏草の花しろく妻みごもれる 川島彷徨子 榛の木
夏草や詩人の妻のきつね貌 満田光生
夏葱きざむなんという妻の老いた音 斎藤白砂
夏蜜柑やや歪む妻も健康に 榎本冬一郎 眼光
夏蝶や花圃一坪の妻の幸 岩瀬善夫
夏衣裁つ妻に帙解きひと日われ 森川暁水 淀
夏見舞妻に一枚吾に二枚 高澤良一 素抱
夏負けの妻の無口のはじまりぬ 中畑耕一
夏負け妻顔をくづさず泪湧く 岸田稚魚
夏隣妻の廚に日のなごり 木津柳芽 白鷺抄
夏風邪の妻に小さく使われて 栗山恵子
夕冷えに妻が箸執る患者食 下村ひろし 西陲集
夕日くわつと山茶花に妻おどろきぬ 栗林一石路
夕映の妻にしたがふ年用意 笹川正明
夕月に妻よ柚子買ひ忘れしか 目迫秩父
夕涼み妻より先に死ぬつもり 名和未知男「くだかけ」
夕焼に染まりて妻は帰りきつ 長谷川櫂 虚空
夕焼や若し夫在らば厨妻 鈴木真砂女 夕螢
夕焼雲ですよと妻の割烹着 向山隆峰
夕虹に妻は跼みて吾は佇つも 細川加賀 『傷痕』
夕虹に妻より解けし二タ日の不和 川口重美
夕虹へ妻坑帽を捧げ干す 工藤求基
夕野火に魅かるる妻の肩に手を 堤 高嶺
夕顔にけむらす妻の叱らるゝ 鈴鹿野風呂 浜木綿
夕顔や妻が戻りて髪変へ来 清水基吉 寒蕭々
夕鯵を妻が値切りて瓜の花 高浜虚子
外套の裏緋色なる妻の勤 香西照雄 対話
外套や語らざること妻知らず 不破博
外套を売るに妻女ら無き如し 萩原麦草 麦嵐
外泊の妻を迎へし家の春 川口利夫
外食のひと日寒しや妻の留守 吉澤卯一
夜なべせる老妻糸を切る歯あリ 皆吉爽雨
夜なべ妻がたと崩折れ哭きにけり 岸風三楼 往来
夜なべ妻明日と言ふ日のなき如く 小竹由岐子
夜の市や葵買ひゆく人の妻 飯田蛇笏 山廬集
夜の庭を掃きゐる妻に百日紅 高橋馬相 秋山越
夜の新樹旅に華やぐ妻の声 岩田沙悟浄
夜の林檎ときに胸うつ妻の言 中島斌雄
夜の瀧や妻を核とし転り来ぬ 藤後左右
夜の雛うらはらの言妻へ告ぐ 小林康治 玄霜
夜の電話妻よりのもの天の川 藤崎久を
夜の青葉胎せし妻を誘ひ出づ 杉山岳陽 晩婚
夜はひそと胼をいたはり勤め妻 皆川白陀
夜はふけぬ妻は帰りぬ門涼し 涼し 正岡子規
夜は子らに従い聴かせる童話が奇蹟や良い運命の中の妻 橋本夢道 無禮なる妻抄
夜は文字書いては消して妻の冬 加倉井秋を 『欸乃』
夜ふかしを妻に叱られ干菜汁 沢木欣一 往還
夜もふけぬ妻も帰りぬ門涼し 涼し 正岡子規
夜も出づる蟻よ疲れは妻も負ふ 大野林火
夜も更けぬ妻も寝入りぬ門涼し 涼し 正岡子規
夜半の春なほ処女なる妻と居りぬ 日野草城
夜学終へし妻との夕餉子は眠り 石井とし夫
夜干白し妻の病後も遅き帰宅 中戸川朝人 残心
夜店にて仮名書論語妻買ひし 池上浩山人
夜店のでつかい南瓜買ふ妻と並んで立つてる 人間を彫る 大橋裸木
夜店匂ふかつて妻の日娘の日 岡本眸
夜明けの逮捕僕に靴下も二枚重ねて妻乱れず 橋本夢道 無禮なる妻抄
夜濯ぎになほ汚れたる蚕飼妻 萩原麦草 麦嵐
夜濯をなかなかやめぬ妻を呼ぶ 波多野爽波 鋪道の花
夜濯女いさらゐ高む誰が妻ぞ 中村草田男「母郷行」
夜蛙のひゞくを妻も聞きをるや 杉山岳陽 晩婚
夜長し妻の疑惑を釈かずに措く 日野草城
夜長妻さなきだになほ口重に 近藤一鴻
夜長妻栗色の靴買へと言ふ 欣一
夜露来てをのこごと知る妻が父 杉山岳陽 晩婚
夢に来し妻こまごま甘ゆ霜咲けり 矢島薫
夢の妻春の夜明けに去り行けり 杉浦範昌
大ぶりの西瓜妻の座占めにけり 横山久子
大メロン妻の位牌の隠くれけり 木村一朝
大切な指を傷つけ師走妻 柳本津也子
大叔母は崋山の妻や土用灸 辻桃子(童子)
大団円の春日ぞ妻の幸を誓ヘ 香西照雄 対話
大宰忌を妻に言はれし後の螢 石川桂郎
大寒に入る妻とひとつの火桶 加倉井秋を
大寒の六十妻よ湯豆腐よし 橋本夢道 無類の妻
大寒の振子動かず妻から米(発病の妻を小松に残し帰阪二句) 飴山實 『おりいぶ』
大寒む小寒む針もつ妻へ飴投げむ 磯貝碧蹄館 握手
大寒や微恙の妻が若し死なば 相馬遷子 雪嶺
大年の仕事分け合ふ夫と妻 佐藤仲子
大文字の残像妻へもち帰る 鈴木鷹夫 渚通り
大文字商家の妻は匂ひ立ち 角川春樹
大方は妻の筆跡願の糸 高澤良一 素抱
大旦火の元は妻司る 醍醐育宏
大根を洗ひ妻とも滞る 萩原麦草 麦嵐
大根干す妻昂然と国訛 古館曹人
大根洗ふ妻籠の宿の車井戸 秋山花笠
大阿蘇の霞む裾野に妻と逢ふ 野見山朱鳥
大雨を妻は来つ 胸中さらに豪雨ならむ 折笠美秋 君なら蝶に
大霜へ息かぐはしく妻立てり 高橋馬相 秋山越
大露の水靄のごと妻は逝きぬ 豊長みのる
天上の妻のつむぎし雪の華 松本進
天上の妻への手紙朴の花 大嶽青児
天上の妻洗ひ髪梳くころか 藤井 亘
天地に妻が薪割る春の暮 石田波郷(1913-69)
天守聳つ秋空この人を妻に 友岡子郷 遠方
天文や明日よりの妻を薬すかな 攝津幸彦
天瓜粉大好き妻のすつぽんぽん 谷山桃村
天瓜粉子の寝し刻の妻の刻 太田蓁樹
天竺川伽羅に竿させ妻迎 調和
天道虫は妻にも見せし後放つ 富安風生
天高く妻にゆまりのところなし 矢島渚男(1935-)
天高く馬肥ゆと妻肥えにけり 辻田克巳
太宰忌の厨にありし妻の音 古舘曹人 砂の音
太宰忌を妻に言はれし後の螢 石川桂郎 含羞
太陽のやうなストーブ病む妻に 成田千空
夫とし妻としなゝくさ一日の霜柱 中塚一碧樓
夫と妻の隙間しゃぼん玉あがれ 鎌倉佐弓 天窓から
夫の客妻の客来る野馬追祭 八牧美喜子
夫の燈妻の燈いろを頒てる冬の雨 柴田白葉女 雨 月
夫婦碁は妻の勝つまで夜長かな 俵藤正克
夫婦舟妻が棹さす搗布採り 阿部啓史
夫送る三ツ燧を切りて鵜匠妻 松井利彦
失職を妻に告ぐべし湯婆冷ゆ 小林康治 玄霜
夾竹桃遺品に妻のものあらず 吉野義子
女にも上京し春の妻へ帰るか 藤後左右
女の香失せて戻りぬ野焼妻 佐藤桂水
女人高野単衣の妻を先に立て 長倉閑山
女医と妻寒夜囁けり睦むごと 細川加賀
女番長よき妻となり軒氷柱 大木あまり
女菩薩とまがふ妻居て懐手 吉田未灰
好い三ケ日であつた妻のつぎものしている今晩 荻原井泉水
妊りておちつく妻や瓜を揉む 槐太
妊りて眠たき妻や桜桃忌 細谷喨々「桜桃」
妊りて跼まる妻や朝ぐもり 杉山岳陽 晩婚
妊れる妻の目据わり稲を負ふ 大熊輝一 土の香
妻あらずとおもふ木犀にほひけり 森澄雄
妻あらぬ一日の枇杷の疵古し 下村槐太 光背
妻あらぬ今年のわが家初写真 後藤比奈夫 めんない千鳥
妻あらば今言葉欲し氷水 北島大果(萬緑)
妻あらば衣もぞ掛けん壁おぼろ 原石鼎
妻あらば誘ひしをこの初芝居 能村登四郎
妻ありき筍の青水に浸り 成田千空 地霊
妻ありて生き永れへぬ秋の暮 小山鑑明
妻ありとひもじさゆゑにおもえるよ 藤木清子
妻あるも地獄妻亡し年の暮(十余年病み疲れて逝きし妻の葬儀を了へ) 石原八束 『断腸花』
妻いつもわれに幼し吹雪く夜も 京極紀陽
妻いつも湯浴しんがり蟲時雨 高田風人子
妻いづこ 億光年の冬銀河 前枝竜三
妻いねて壁も柱も月の中 飴山實(1926-2000)
妻かたはらに夜なべするなり磁気嵐 伊藤虚舟
妻かなし噛みゆけばある梨の芯 宇咲冬男
妻かなし転居の日まで草引いて 松尾緑富
妻かへし灯せば秋の無惨かな 杉山岳陽 晩婚
妻がいのることをわが知る墓参 森川暁水 黴
妻がいふ一閑言や冬座敷 村山古郷
妻がいふ風邪の我儘許しけり 上村占魚 球磨
妻がいま身ほとりに居て秋の暮 藤崎久を
妻がくふ柘榴の紅を見出せリ 林田紀音夫
妻がけふ絣のもんぺ燕来る 皆川白陀
妻がせし如く迎火妻に焚く 岡田南邑
妻がなければ甚平はじだらくや 森澄雄
妻がねがふしあはせとは何いわし雲 成瀬櫻桃子 風色
妻がゐし一つの椅子の春の暮 野見山朱鳥
妻がゐて四万六千日は晴 河村 健
妻がゐて夜長を言へりさう思ふ 森澄雉
妻がゐて子がゐて孤独いわし雲 敦
妻がゐて子がゐて蕎麦掻きが五つ 今瀬剛一
妻がゐる筈こんなにも月まどか 後藤比奈夫 めんない千鳥
妻が佇つ枝垂桜の向う側 草間時彦 櫻山
妻が借り子が借り母の菊枕 福島 胖
妻が入陽の赤いこと云ふて短日の裏戸 人間を彫る 大橋裸木
妻が呉れし残りのいのち露の秋 後藤比奈夫 めんない千鳥
妻が呼ぶ声夕焼の中につよし 右城暮石 声と声
妻が呼ぶ犬猫寄りぬ裸子も 杉山岳陽 晩婚
妻が夢子が夢雁や渡しつゝ 石塚友二 光塵
妻が守る防空の夜の露けさよ 竹下しづの女句文集 昭和十四年
妻が居て嫁が居て麦刈楽し 門岡一笑
妻が希ふしあはせとは何いわし雲 成瀬桜桃子 風色
妻が手に摘みて淡しや花茗荷 鈴木元
妻が手のつめたかりけり風邪顔 吉武月二郎句集
妻が手や六月の野のまくらがり 有働亨 汐路
妻が手を拱いてをる蚊との距離 島田牙城
妻が押す稲車今悪路出づ 田川飛旅子 『外套』
妻が持つ継ぐもののなき手毬唄 楸邨
妻が持つ薊の棘を手に感ず 日野草城(1901-56)
妻が指置きても涸れし泉石 桂樟蹊子
妻が提ぐすずな・すずしろ一つ籠 猿橋統流子
妻が昼寝たりと亭主小言いひ 昼寝 正岡子規
妻が書く夜長まかせの文長き 林 翔
妻が書く賀状二三や小正月 九品太
妻が来し日の夜はかなしほとゝぎす 石田波郷
妻が来て湯をわかしをり晝寝覚 石川桂郎
妻が柿むいていて日向にいざる 鈴木豊明
妻が添ふ厠通ひや冬の雨 吉武月二郎句集
妻が煮て美食にあらぬ蕗のたう 石川桂郎 含羞
妻が留守の障子ぽっとり暮れたり 尾崎放哉
妻が病む夏俎板に微塵の疵 成田千空(萬緑)
妻が盆礼に行き日覆を下ろし 小澤碧童 碧童句集
妻が糸瓜をまくといふ干場になつてる庭辺 小澤碧童 碧童句集
妻が編み子が読み雪夜はじまるか 木村敏男
妻が編む毛糸ほぐす子かたはらに 杉山 岳陽
妻が縫ふ人の夏衣の羅を見居き 森川暁水 淀
妻が美女に見える日ごしごし手を洗う 瀬戸青天城
妻が蒔く洗ひ飯待つ庭雀 三原春風
妻が見つけた白髪に黙つて肯く 島丁哉
妻が見てをらねば袖で汗を拭く 山岡黄坡
妻が観てつぶさに告ぐる今日の月 日野草城
妻が言ふ「初蝶初蝶と馬鹿みたい」 岡崎光魚
妻が言へり杏咲き満ち恋したしと 草間時彦
妻が買い置くヒマシ油の小さき瓶と夏がくる 橋本夢道 無禮なる妻抄
妻が買ふひそかなる株小正月 斎藤五子
妻が買ふものに梨あり職ある日 森川暁水 黴
妻が買ふ起上り小法師秋祭 五十嵐播水 播水句集
妻が贈りし衿巻の衿退院す 赤城さかえ
妻が起き水がはたらき明易し 福永耕二
妻が里除夜白妙の落し紙 肥田埜勝美
妻が髪結うて明日の小正月 近藤良郷
妻きりりと帯巻く戸口田植仕度 大熊輝一 土の香
妻こひの鳥啼きたつる松か岡 鳥の巣 正岡子規
妻こゝにひとり秋灯に耐へゐたり 石橋辰之助 山暦
妻ごめに五十日を経たり別れ霜 草田男
妻ごめに呆けて俯向く蟻地獄 森澄雄「雪櫟」
妻ごめに小芥子のならぶ五月かな 齋藤玄 飛雪
妻ごめの青山の青どこより萎ゆ 加倉井秋を
妻さきに帰して暮るる掛大根 奥野 勝司
妻さそひ来しを烈風の初ナイター 黒木 野雨
妻さへも義理めくバレンタインデー 細谷定行
妻さらひ行きたる年を見送りて 後藤比奈夫 めんない千鳥
妻しづかなれば花種蒔きてをり 東義人
妻すこし昼を睡りぬ小晦日 星野麦人
妻すでに亡きが如くにごきぶり出る 右城暮石
妻たちに冬の青空果てしなし 大木あまり 雲の塔
妻たちの旅はじめてのいわし雲 喜八
妻たちの移動図書館真葛原 堀之内長一
妻たちの羽化おそろしき更衣 中島あきら(紺)
妻たのし初豌豆の厨ごと 長沢鶯鳴子
妻たらず母たらず生き豆の飯 つじ加代子
妻たるは母たるは何花火果つ 河野多希女 彫刻の森
妻たる喜びの菜の株が明るし 梅林句屑 喜谷六花
妻つぎしお茶にくつろぐ草泊 荒川 すぎな
妻つれておたまじやくしを見にゆきし 長谷川双魚 風形
妻つれてくればよかりし島暮春 石井とし夫
妻つれて兵曹長や花ぐもり 高野素十
妻つれて日ぐれに打てる札所かな 深川正一郎
妻つれて院展にゆく鰯雲 岸風三楼 往来
妻とあり子とあり斯かる冬籠 京極杞陽 くくたち下巻
妻とあればいづこも家郷梅雨青し 山口誓子「遠星」
妻とあれば母を忘るる青葉木菟 八田木枯「汗馬楽鈔」
妻というガールフレンド 花大根 木寺和實
妻という一枚看板冬木立 石川桂子
妻といてときめくことも初景色 松田ひろむ
妻といて語る事もなき鰯雲 橋本夢道 良妻愚母
妻といふ ぬるき日を持つ 夜の秋 森玲子
妻といふかなしきものゝ端居かな 田村寿子
妻といふ名捨てて玉葱の皮軽し 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
妻といふ翼ひらけば青嵐 大高翔(藍花)
妻といふ道づれ花菜明りかな 細川加賀 『玉虫』
妻といまふたすぢ白き秋の滝 友岡子郷 風日
妻とおし真実遠しひとり病めば 石橋辰之助
妻とがむ我が面伏せや榾明り 飯田蛇笏 山廬集
妻ときて風の蛍の迅きばかり 波多野爽波 『湯呑』
妻とくだる肩の差ありて月の坂 山本歩禅
妻として八とせの洗ひ髪束ね 上野泰 佐介
妻として娘等も幸せ小豆粥 松田美子
妻として師走を知りしあはれさよ 杉山岳陽 晩婚
妻として来て初氷割りにけり 杉山岳陽 晩婚
妻として栗剥けば夫食ふ早し 殿村菟絲子 『牡丹』
妻とするめんない千鳥花野みち 後藤比奈夫 めんない千鳥
妻とただゐて月の出の病舎かな 千代田葛彦 旅人木
妻となり母となり木の葉髪となる 西島麥南
妻となる前世(まへ)のけぶれるははきぐさ 筑紫磐井 婆伽梵
妻となる娘野葡萄実るらし 飴山實 『おりいぶ』
妻とのみなるはいよいよ悴むなり 右城暮石 声と声
妻との旅すぐにまとまる麦落雁 高澤良一 寒暑
妻とほし噴煙ゆたかにて寒し 杉山岳陽 晩婚
妻とゆく帝釈さまや草の餅 茂里正治
妻とわれに垣の内外の冬木かな 原石鼎 花影以後
妻とゐてただよふごとし青木の実 神蔵 器
妻とゐて別のこゝろが紅葉恋ふ 立花一孔
妻とゐて妻を忘るる花曇 那須乙郎
妻とゐて悔すゝるごと晦日蕎麦 猪狩哲郎
妻とゐて語ることなし新茶かな 大平清康
妻とゐる死後にぎやかに熱帯魚 石寒太 あるき神
妻とエレベーターの急行に乗る春の宵 橋本夢道 『無類の妻』以後
妻と二人枯野の月にかくれなし 石田波郷
妻と云ふ女とゐたる近松忌 鈴木五鈴
妻と云ふ寒さ山にも忿怒仏 加藤知世子 花寂び
妻と伏す大干潮の春野かな 橋口 等
妻と其の寒気凛々しきピアノの音 中村草田男
妻と分つ薬無惨や夏疾風 河野南畦 『焼灼後』
妻と十九年目の熊蝉を聴く敗戦忌 橋本夢道 無類の妻
妻と同じ香水なれば善人に見ゆ 近藤馬込子
妻と吾と旬の秋刀魚を二等分 高澤良一 宿好
妻と吾同時に欠伸冬ごもり 澤井山帰来
妻と夫布引ッ張つて雪ざらし 小檜山繁子
妻と娘が使う鏡台芽木の中 田川飛旅子 『外套』
妻と娘の日傘並んで坂下る 谷川昌弘
妻と子と心中物の初芝居 細谷喨々
妻と子と来て野辺山の吾亦紅 大屋達治
妻と子に波の秀やさし磯遊 墓田いさを
妻と子の何興ずるや花あんず 安住敦
妻と子の初彌撒ひとり残さるる 石寒太 翔
妻と子の同じ本読む扇風機 久米正雄 返り花
妻と子の寝嵩を跨ぐ暮の秋 源鬼彦
妻と子の話の外や蜜柑剥く 藤野 力
妻と子の身支度ながし蓼の花 神田 岩魚
妻と家守る雨の葉蔭の枇杷青実 古沢太穂 古沢太穂句集
妻と寝て銀漢の尾に父母ゐます 鷹羽狩行
妻と居ることの静けき無月かな 久米正雄 返り花
妻と居れば泰山木に海の闇 佐野まもる 海郷
妻と希望に近ずいたように鶴を見ている 橋本夢道 無礼なる妻
妻と帰り石蕗の月夜の扉を開く 倉橋羊村
妻と我いちどきになり初鏡 波多野爽波 鋪道の花
妻と我沢庵五十ばかりかな 島田五空
妻と掘る砂湯のほかは霧の中 沖崎青波
妻と摘む薺や推古天皇陵 内田鴨川
妻と旅風のこでまり置きざりに 大岳水一路
妻と来し湖尻泊りにしぐれ虹 桂樟蹊子
妻と来し芦の若葉の王子跡 北條力
妻と来てひれふりやまの初日かな 古舘曹人 樹下石上
妻と来て卯浪がはこぶ藻を拾ふ 佐野まもる 海郷
妻と来て父の家に見し蟻地獄 杉山岳陽 晩婚
妻と来て霜夜をランプなれど寝ん 杉山岳陽 晩婚
妻と来て駈込寺の梅の花 細川加賀 生身魂
妻と杯あげて勤労感謝の日 山脇睦久
妻と歩むこの道が起点柳絮とぶ 磯貝碧蹄館 握手
妻と母語らせて吾ダリヤに立つ 杉山岳陽 晩婚
妻と浅蜊は厨に泣きぬ明やすし 石原八束 空の渚
妻と焚く門火若もの道通る 松村蒼石
妻と病めば鎮魂歌めく夜の雪解 小林康治 玄霜
妻と磯を行くどこまでも朧なり 有働亨 汐路
妻と祈る寒灯くらき下にして 成瀬桜桃子 風色
妻と経し月日のこれり著莪咲きて 宮津昭彦
妻と聞くエミレーの鐘鳥雲に 原田青児
妻と菊恋しく艦をあがりけり 野村喜舟 小石川
妻と葡萄つまむ思ひ出繰るごとく 伊東宏晃
妻と行きて毛野の湯の町雪ぞ降る 石塚友二 光塵
妻と行く霰店には鯛二つ 香西照雄 対話
妻と見つ蛇のつるむを見過ぎたり 石川桂郎 含羞
妻と見るまるいまあるい紅葉山 岸田稚魚 『紅葉山』
妻と見る雪は止むこと忘れをり 杉山岳陽 晩婚
妻と言ふ名を失ひし掃き納め 赤尾恵以
妻と訪ふ先師の墓所や新松子 伊東宏晃
妻と遊ぶ月日が欲しや柚子匂ふ 小林康治 『潺湲集』
妻と酌む妻は佛や温め酒 森 澄雄
妻と酌む除夜の一献恙なく 山口霞牛
妻と雪嶺暮色に奪われまいと白し 細谷源二
妻と鼻距て寝る夜の雨執拗 守田椰子夫
妻なきことつぶさや今宵セルを着て 森澄雄
妻なきを誰も知らざる年忘れ 能村登四郎 寒九
妻なきを鼠笑ふか冬ごもり 冬籠 正岡子規
妻なくてわれに父の日などあらず 白川友幸
妻なげくのちの眼あぐる藤咲けり 清水基吉 寒蕭々
妻なし〔が〕草を咲かせて夕涼 一茶 ■文化十二年乙亥(五十三歳)
妻なしがさす手ひく手や田植舟 暁台
妻なしとつぶやき豆を煮ることか 栗林一石路
妻なしに似て四十なる白絣 石橋秀野「桜濃く」
妻なしの夜を重ねむいとどかな 吉田鴻司
妻なしの月日はじまる寝冷かな 吉木伊智朗
妻なしや今年栗むくひとりにて 森澄雄
妻など知らず二の午の酒立ち呑むは 西谷義雄
妻ならめ大根ばたけに鍬忘れ 渡辺満峰
妻ならん掛菜外して入りけり 星野麦人
妻なりし日日の照り降り漱石忌 猪股洋子
妻にある男友達三十三才 上野一孝
妻にかくすことあつて氷菓脳に沁む 長谷近太郎
妻にこにこ夫むつつり稲架納め 高野素十
妻にして脂取紙あり復活祭 石川桂郎 含羞
妻にせし女世に有り年の暮 松瀬青々
妻につく眠りの神や春炬燵 長谷川櫂 虚空
妻にて候死後の証しの白足袋は 栗林千津
妻にのみ憤りをり返り梅雨 石田波郷「春嵐」
妻にのみ月日つもるや炭頭 齋藤玄 飛雪
妻にまた愛告ぐるならこの青野 小林正史(鴫)
妻にまた母なき日々や魂送 上野一孝
妻にも未来雪を吸いとる水母の海 金子兜太
妻にも母の月日芽ぐみの夜空濡る 千代田葛彦 旅人木
妻に似し娘の眼差しよ雛祭 磯 直道
妻に似て子も紅梅に黒い眼差し恋慕型 橋本夢道 無禮なる妻抄
妻に供(お)く野の香稚き七日粥 雨宮抱星
妻に供華ぽとんと咲かす水中花 細見しゆこう
妻に剥ぐ一顆の栗に十三夜 河野南畦 『花と流氷』
妻に効きわれに効かざる風邪薬 白岩世子
妻に卵われに秋富士の一と盛り 金子兜太 遊牧集
妻に呼ばるてんたう虫の朱なる時 加藤かけい
妻に夢少し残りし白牡丹 石寒太 翔
妻に子がありひらがな書き飛ぶ花虻あり 磯貝碧蹄館 握手
妻に宛てしむかしの手紙西鶴忌 茂野 六花
妻に家事少し褒めらる神無月 及川 隆夫
妻に影ありガラスは唾液にとけて 志摩一平
妻に影重ねて見入る寒牡丹 鈴木木鳥
妻に後れとりし男や大朝寝 水野柿葉
妻に憎まれつつありまきの淡きみどり 加藤楸邨
妻に未だちちはは在す桜餅 伊東宏晃
妻に朱欒焼酎をそのあとから出す 石川桂郎 含羞
妻に来し賀客に席を外さんか 井上きくを
妻に来て天皇に来て誕生日 松倉ゆずる
妻に父今亡し梅雨のたそがれに 石塚友二 光塵
妻に父母ありて訪ふ日の百日紅 杉山岳陽 晩婚
妻に現れわれには隠れ冬菫 相蘇としお
妻に眉やはらげず蜩啼けり 榎本冬一郎 眼光
妻に秘めむ恍惚鶴もろともに凍て 古館曹人
妻に米ありて春日の煙出し 森澄雄 雪櫟
妻に縋る起居や枯菊枯れしまゝ 小林康治 玄霜
妻に腹立たしダリヤに立てり 河東碧梧桐
妻に茶を注ぎて四月や語らはず 下村槐太 天涯
妻に裏が広い柿の木をはなれ青黍 梅林句屑 喜谷六花
妻に見る梅雨のまなざしとも懐ふ 篠田悌二郎 風雪前
妻に触れざれば木枯の遠くゆく 千代田葛彦 旅人木
妻に言い分風呂吹きの隠し味 田中賢治
妻に言ひ寄る男かはゆし夜の鮠 塚本邦雄 甘露
妻に言ふどこか行かうかあたたかく 新明紫明
妻に言継ぐもなかりし雨月か 杉山岳陽
妻に謝す妻よりほかに女知らず 中村草田男(1901-83)
妻に買ふ眼鏡勤労感謝の日 吉良蘇月
妻に買ふ青嶺泊りの首飾り 山下一冬
妻に買ふ鶯餅に月繊し 大岳水一路
妻に貸す老眼鏡や冬灯 春山他石
妻に蹤き俄か詣てや札納め 村上鬼城
妻に酒すすめてばかり昼花火 石寒太 炎環
妻に金ありやいちにちよく啼く鵙 榎本冬一郎 眼光
妻に隣る春著乙女の細頸よ 飼虎
妻に雀斑苗床の温度計光り 大熊輝一 土の香
妻に頼りゐて雪掻きを怠けをり 森田かずや
妻に齎す大入袋咳しつつ 細川加賀 『傷痕』
妻ねむるつづきの墓に椿散り 宮津昭彦
妻のいもと筥玉虫に妻とあそぶ 森川暁水 黴
妻のきらふけらが鳴くなり障子貼る 森川暁水 黴
妻のことほとんど知らず豆の飯 戸栗末廣(火星)
妻のこと多くは知らず花衣 山崎あきら
妻のこと子のこと秋の深きこと 島田潮
妻のこゑ聞かぬ幾日鳥渡る 藤崎久を
妻のごとし夕べ秋刀魚を買ひ戻り 樋笠文
妻のしらぬほとけばかりや門火焚く 西山誠
妻のため小松も引きぬ若菜摘みぬ 後藤比奈夫 めんない千鳥
妻のため秋の扇を選びをり 長谷川櫂 蓬莱
妻のぬふ産衣や秋の茜染め 芥川龍之介
妻のほか人なき日々の室の花 上村占魚
妻のまくらが近くて匂ふいなびかり 川島美好
妻のまま盲となりぬ菊枕 宇多喜代子
妻のみが働く如し薔薇芽立つ 石田波郷
妻のみが子に頼らるる草の花 渡辺立男
妻のみが知る客を待つ午祭 大牧 広
妻のみ恋し赤き蟹など歎かめや 中村草田男
妻のものならぬ日傘の中に入る 大隅三虎
妻のものへ外套冬鳶のごと掛ける 吉田鴻司
妻のもの干すと綱にかければふわりと垂れ 栗林一石路
妻のゆうれいビルにぶつかる自転車は 西川徹郎 死亡の塔
妻のポケット探せばぬくき手袋など 香西照雄 対話
妻の上にあくまで濃くて春の空 八木林之介 青霞集
妻の上手ひらくごとき春日あり 八木林之介 青霞集
妻の下駄履いてポストヘ鏡花の忌 千田一路
妻の乗る船の後追ふ冬鴎 石森徹朗
妻の云ふまゝのところへ萩根分 阿部よし松
妻の他は第三者航く大島は夏霞 橋本夢道 無類の妻
妻の入る柚子湯さめしやと章や焚く 清水基吉 寒蕭々
妻の入歯あはれとも思ふ冬くれば 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
妻の出すままに着て冬深みけり 肥田埜勝美
妻の初髪電話に鳴られどほしなり 樋本詩葉
妻の制止する元日の釘を打つ 右城暮石 声と声
妻の刻いつもときいろ秋夕焼 野口大輔
妻の力朝露まみれ草担ふ 石橋辰之助 山暦
妻の名にはじまる墓誌や寒椿 宮下翠舟
妻の名の梅咲き妻と経し月日 成瀬櫻桃子 風色
妻の名の薬包放る焚火どっと 深川哲夫
妻の名を花に与へて日本語の波間にあをくシーボルト居き 大口玲子
妻の味亡き母の味納豆汁 佐々木踏青子
妻の呼ぶ夕餉早めや花鬼灯 冨田みのる
妻の命は冬日を胸に戴するなり 齋藤玄 『玄』
妻の咳妻を殺めるかもしれず 星野麥丘人
妻の唄袋被て桃透きとほり 細川加賀 『傷痕』
妻の喜寿忘じしままに春逝けり 青木重行
妻の喪にありて花種蒔きにけり 平松百合男
妻の嘘夫の嘘や漱石忌 阿波野青畝
妻の嘘妻の日傘の中で聴く 市川愁子
妻の国の粽の粽のさみどりに 中拓夫 愛鷹
妻の墓これがわが墓鳥わたる 池上喜祥
妻の墓はいづれわが墓朧月 水野柿葉
妻の墓ひとの墓秋深みたり 石原舟月
妻の墓までの坂みち枇杷の花 大嶽青児
妻の墓洗ひ長生きしすぎたり 喜多青波
妻の声ばかりのひと日更衣 鈴木鷹夫 渚通り
妻の夏吾が夏一つ屋根の下 高澤良一 宿好
妻の外套の隠しを探す抱くごとく 田川飛旅子 花文字
妻の夢みな叶はざり冬至の夜 瀧春一 菜園
妻の奇禍二十日を過ぎて一雨なし 右城暮石 声と声
妻の字は夫に似るとよ花菖蒲 石田あき子 見舞籠
妻の客ばかり来る日や春障子 皆川盤水
妻の客男もまじる冬座敷 房川喜三男
妻の家に俯向く雨の十三夜 杉山岳陽 晩婚
妻の家に蒼朮を焼く仕ふかに 石田波郷「雨覆」
妻の寝嵩に朝顔紺を明るうす 柴田白葉女 花寂び 以後
妻の寝顔すやすや虫音の高音部 高澤良一 随笑
妻の屁のくすり臭きや鰯雲 磯貝碧蹄館 握手
妻の居ぬ一日永し花石榴 辻田克巳
妻の座に妻ある春の炬燵かな 三由孝太郎
妻の座に妻いて朝餉柿坊主 内田恒道
妻の座に胡坐かきたる余寒かな 片山依子
妻の座のつねに火の前魂迎へ 赤松子
妻の座の出来て卯の花腐しかな 清水基吉 寒蕭々
妻の座の厨に近しすきま風 北村かね子
妻の座の意地を通して古生姜 上田雅子
妻の座の揺ぎ無きかな着ぶくれて 水原 春郎
妻の座の日向ありけり福寿草 石田波郷
妻の座の束縛もなし麻の帯 三好潤子
妻の座の盤石にして初厨 岩田秀夫
妻の座の短かかりしよ寒蜆 鈴木智子
妻の座の長き月日や下萌ゆる 川口咲子
妻の座は厨に近し冬の月(小松にて) 飴山實 『おりいぶ』
妻の座は無韻冬ばら燃ゆるとも 柴田白葉女 花寂び 以後
妻の座は臀の座なり茸山 静塔
妻の座もうつゝに遠し初灯 和気桃重
妻の座も主婦の座もなく年迎ふ 中島町子
妻の影吾が影夜寒始まりぬ 杉山岳陽 晩婚
妻の役火中の栗をせせり出す 静塔
妻の忌の七月七日もう真近か 足立刀水
妻の忌の昨日が遠し雪蛍 沼澤石次
妻の忌の梵鐘一打五月なり 渋谷のぼる
妻の忌の身に入む雨の降り出しぬ 三谷貞雄
妻の忌や色づきそめし唐辛子 森 澄雄
妻の性かけらだになし藺刈地獄 和田照海
妻の愚のいきどほろしも憂き夜なべ 森川暁水 黴
妻の愚痴わが愚痴炭火うつくしく 岸風三楼 往来
妻の愚痴聞き流しゐる漱石忌 栗田やすし
妻の愛情の如苔寺の苔やわらかにビロードに 橋本夢道 無礼なる妻
妻の愛惜しみなし夜蛙狂ひ出す 小林康治 玄霜
妻の手に掴まれてわが冬帽子 金箱戈止夫
妻の手に木の実のいのちあたたまる 秋元不死男
妻の手に棹青し春の鶏 大岳水一路
妻の手に研ぎし庖丁夕蝙蝠 海崎芳朗
妻の手に触れし闇夜やほたる狩 石澤邦彦
妻の手に託すたつきよ胼薬 小林康治 玄霜
妻の手のいつもわが邊に胼きれて 日野草城
妻の手のいつも濡れゐて春の暮 篠田たけし
妻の手のどんどの神籤火に投ず 古舘曹人 砂の音
妻の手のやはらかすぎし台風過 橋本榮治 越在
妻の手の厚くなりたり青き踏む 徳竹三三男
妻の手の寝てしまいたり雪雫 石橋辰之助
妻の手の小雀わが手に移り来し 中川忠治「葛城山」
妻の手の濯ぎあからむ桐の花 能村登四郎
妻の手の皺ふえており福寿草 安曇ふみお
妻の手の繃帯久し凍鰈 増田龍雨
妻の手の輪ゴム飛びきて除夜ぬくし 大野梢子
妻の手をわが手預り夕桜 大岳水一路
妻の持つ我が恋文や青瓢 小川軽舟
妻の指に真珠うるほふ隙間風 千代田葛彦 旅人木
妻の振る鈴か通りて寒念仏 松耕朝蒼
妻の掌に妻の月日の唐辛子 金箱戈止夫
妻の掌のわれより熱し初螢 古沢太穂 古沢太穂句集
妻の方に柄が向いている蝿叩 千葉道郎
妻の旅日傘を海に山に開く 伊丹三樹彦
妻の日々しづかに梅の空照れり 柴田白葉女 遠い橋
妻の日々卵も桃の花も買ふ 古館曹人
妻の日もシヤネルも遠し夕牡丹 田巻和子
妻の書架茶の間に小さく花曇 遠藤梧逸
妻の杖となりて抱ふる春の泥 松山足羽
妻の来し秩父民宿木の実降る 弦巻 玄
妻の死ぬ夢みてゐたり冬の昼 石川桂郎 含羞
妻の母独り居泉に胡瓜浮べ 香西照雄 対話
妻の汗見てわが汗を拭ひけり 日野草城
妻の流せし血ほどに曼珠沙華咲かず 能村登四郎 天上華
妻の焚く焚火の音に帰り来ぬ 田川飛旅子 花文字
妻の煮るものあふれたがるよ雪催 吉田明
妻の父になぐられ妻をよろこばす 仲上隆夫
妻の琴ときには睡く松の内 二木汀骨
妻の留守ながしと思ふ夕ひばり 日野草城
妻の留守なづなが長けて花咲かす 相馬遷子 山河
妻の留守に押入れをのぞき驚き飢餓日記 橋本夢道 無礼なる妻
妻の留守ひとりの咳をしつくしぬ 日野草城
妻の留守オーバーの儘火をおこす 畠山譲二
妻の留守中も糸引く毛糸玉 右城暮石 声と声
妻の留守児と摘む花は赤のまゝ 虎尾苔水
妻の留守妻の常着を眺めけり 日野草城
妻の留守知つて友来る炉辺かな 島谷王土星
妻の留守秋の鏡を見るとなく 杜鵑花句集 金児杜鵑花
妻の留守金魚が赤き領巾を振る 辻田克巳
妻の疲れ蝸牛はみな葉の裏に 沢木欣一
妻の病みつきさうな顔火を吹く 人間を彫る 大橋裸木
妻の目にわが目に流る星三五 水内 鬼灯
妻の目に涙あふれ来天の川 加藤楸邨
妻の眉目春の竃は火を得たり 成田千空 地霊
妻の眼あり木苺の実をわが食へば 細川加賀
妻の眼に冬の鵯をる出勤時 木村蕪城 寒泉
妻の瞳のかまど火明り寒きびし 柏燹
妻の知らぬ墓詣でけり萩の道 宇内 通
妻の祈りこのごろながし余花の雨 五十嵐播水 埠頭
妻の筆ますらをぶりや花柘榴 沢木欣一 往還
妻の素手また濡れている三が日 源鬼彦
妻の職のかなしさ螢飼はれけり 小林康治 四季貧窮
妻の肉おごりて柿を好むなり 萩原麦草 麦嵐
妻の肌乳張つてゐる冴返る 滝井孝作 浮寝鳥
妻の肌紅潮雪の面きらめくのみ 香西照雄 素心
妻の肩に手を置く暗き椿の森 伊丹三樹彦
妻の肩へのりたるやうに春の月 今井杏太郎
妻の肩借りて立つなり雪薄し 村越化石 山國抄
妻の背に三角ショール巻き街へ 斉藤夏風
妻の背に泰山木の花裏に 古舘曹人 能登の蛙
妻の胴髪を流して海豚と群る 藤後左右
妻の胸匂ふ秋夜は疲れけり 小林康治 四季貧窮
妻の胸薄く温泉槽に子等と見て(渋温泉二句) 石橋辰之助
妻の胼偸む夕刊ひろげては 皆川白陀
妻の胼我が胼子等は育ちつゝ 西山胡鬼
妻の脛妖しき日ありかきつばた 佐藤いさむ
妻の腕日焼がのぼりつくし秋 福永耕二
妻の舌清し霜の旭まみれなり 小林康治 玄霜
妻の花圃わが夜更かしの灯にうかび 大島民郎
妻の荷をかへりみてしばし花の下 千代田葛彦 旅人木
妻の荷を解く三月の雪の中 林徹
妻の蚊帳しづかに垂れて次の間に 日野草城
妻の行く方に音生れ冬日差 肥田埜勝美
妻の行水音ひそめをりかなしきや 小林康治 玄霜
妻の衿あし剃る睡蓮は甕に咲き 皆川白陀
妻の裸身白背掻きやる赤らみぬ 中村草田男
妻の裾跨ぐ雪夜となりしかな 小林康治
妻の言ふとほりにしたり菊根分 安田明義
妻の赤い頬冬夜いつしか更けわたり 人間を彫る 大橋裸木
妻の足袋すでに汚れぬ死までの距離 小林康治 玄霜
妻の辺に久しや車窓花菜過ぐ 香西照雄 素心
妻の辺に寝ね身をのばす朧かな 八木林之介 青霞集
妻の遺品ならざるはなし春星も 右城暮石
妻の遺骨を網棚に置きねむたくなる 栗林一石路
妻の部屋わが部屋咳を交し合ふ 林 翔
妻の部屋覗きし母へ冬の朝日 香西照雄 対話
妻の鐵びん沸き立ち南風に走り出すか 細谷源二
妻の頬に逆光線の夏ひらけ 石橋辰之助
妻の頬の翳も春暁ならぬなし 徳永山冬子
妻の額に春の曙はやかりき 日野草城
妻の顔うしろ吾が顔初鏡 坂本山秀朗
妻の顔ぼや採る音と明けて来る 石橋辰之助
妻の顔まぢかに風つのる夜の雑炊 栗林一石路
妻の顔夏蜜柑剥くはや酸かり 森澄雄
妻の顔見てなにもなし雪暮るる 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
妻の風邪わるく不義理をそここゝへ 森川暁水 黴
妻の骨ひそと納めて山眠る 本井英
妻の髪なほ睡りをり初雀 石田波郷
妻の髪温泉に濡れしまゝ雷迫る 石橋辰之助
妻の黙水からくりの泡見てより 加倉井秋を 『真名井』
妻の鼻血がぬれている井戸端の落葉 栗林一石路
妻はいま無辜の影引くしだれ梅 古舘曹人 砂の音
妻はいま金色如来秋澄みぬ 森澄雄
妻はいま闇の水音螢籠 友岡子郷 日の径
妻はこどもの横に眠ってこどもくさいぞ 加藤太郎
妻はその父を支へて除夜詣 辻田克巳
妻はばたく花のトンネル潜り来て 益田清
妻は今日芝居の留守の助炭かな 岡本松浜 白菊
妻は夜のみづうみ霧が樺を吹く 千代田葛彦 旅人木
妻は妻の倖せ抱き熊手買ふ 宇咲冬男
妻は子のオアシス蟻が日を負ひ来 野中 亮介
妻は川に足浸けたがる月見草 佐野良太 樫
妻は志野吾は萩焼笹子翔ぶ 大岳水一路
妻は恋人一人静の深山口 原子公平
妻は我を我は枯木を見つつ暮れぬ 加藤楸邨
妻は旅に仮のやもめの冷奴 上村占魚
妻は母の肌となりゆく白障子 鷹羽狩行
妻は母艦 ぼくは母艦の灯へかえる 二見杏路
妻は渦潤目鰯を擂りつづけ 小田亨
妻は湯にわれには濃ゆき冬夕焼 富澤赤黄男
妻は火に映えゐん雪へ自影置く 香西照雄 素心
妻は若さを漬け込む白菜ギチギチ詰め 高桑弘夫
妻は読み蝿とり蜘蛛は獲物待つ 徳留海門子
妻ひそと母ひそとあり竹落葉 仲村青彦(朝)
妻ひとり果の大師へ詣りけり 上川井梨葉
妻ひと日病んで箱庭かわきけり 細川加賀 生身魂
妻ふくれふくれゴールデンウイーク過ぐ 草間時彦
妻ふつと見えずなりたる千草かな 石田勝彦
妻へのみ通るわがまま葡萄吸ふ 原田孵子
妻への感恩マスクして巷間にあり 中村草田男
妻へも這ふ電気行火の赤き紐 細井将人
妻へ声送る 雪国の赤電話 伊丹三樹彦 樹冠
妻へ帰るまで木枯の四面楚歌 鷹羽狩行(1930-)
妻へ帰る大地真赤や秋の暮 榎本冬一郎 眼光
妻へ書く便り春灯を低くする 加倉井秋を
妻まろく足袋の鞐をかけてをり 椎橋清翠
妻みごもる秋森の間貨車過ぎゆく 金子兜太 少年/生長
妻もたぬ人のうとまし春の風 春風 正岡子規
妻もたぬ家に手あらき薺哉 薺 正岡子規
妻もたぬ我と定めぬ秋の暮 松根東洋城
妻もなし父なし母なしきり~す 寺田寅彦
妻ものむ食後ぐすりや梅雨ごもり 森川暁水 黴
妻もはや朝田に水輪起てをらん 香西照雄
妻もまたときに句敵獺祭忌 八木斌月
妻もまた世事にはうとく秋簾 松岡ひでたか
妻もまた僧籍に入り親鸞忌 蘭添水
妻もまた安曇訛よ初電話 玉木春夫
妻もまた気がついてをり冬ざくら 高澤良一 随笑
妻も亦敵かも知れぬ緋のカンナ 藤田守啓
妻も使ふ原稿用紙どこも秋 加倉井秋を 『風祝』
妻も叱ってゐる鼠をどなってやった 浜口弥十郎
妻も吾もみちのくびとや鰊食ふ 山口青邨
妻も外出胸に緑の羽根など挿し 岩井野風男
妻も子もその子も萩の頃生れ 仁尾正文
妻も子もはや寝て山の銀河冴ゆ 臼田亞浪 定本亜浪句集
妻も子も何か音持ち冬の庭 加藤秋邨 怒濤
妻も子も婢もマラリヤやいかにせん 田所高峰
妻も子も寺で物くふ野分かな 蕪村遺稿 秋
妻も子も来て夕顔に涼みけり 夕顔 正岡子規
妻も子も榾火に籠る野守かな 白雄
妻も寒き教師減りゆく針の数 羽部洞然
妻も小さく歌をうたへりゆき解の日 細谷源二 砂金帯
妻も担ひ天地無用の初荷出す 中原鈴代
妻も来よ一つ涼みの露の音 渡辺水巴 白日
妻も濡る青き蕃茄の俄雨 山口誓子
妻も病み霜夜の足の寝て揃ふ 小林康治 玄霜
妻も老い柊咲くと囁ける 加倉井秋を
妻も覚めてすこし話や夜半の春 日野草城
妻も覚めて二こと三こと夜半の春 日野草城
妻も詩の友パセリぽつりと旅の皿に 伊丹三樹彦(青玄)
妻も詩人濯ぎつくして白布冴ゆ 香西照雄 対話
妻も酒少したしなみ居待月 川田長邦
妻やがて面白くなる手毬かな 吉武月二郎句集
妻や娘の笑ひもらひて夜の長き 伊東宏晃
妻や子と梅雨は愉しゑ餉に睦む 西島麦南 人音
妻や子に看られて病める弥生かな 吉武月二郎句集
妻や子の寝も見えつ薬喰 與謝蕪村
妻や子の寢皃も見えつ藥喰 蕪村 冬之部 ■ 几董判句合
妻や子や初湯貰ひし薄化粧 月二郎
妻や子や野營夢さめて雁の聲 雁が音 正岡子規
妻や逝く黴雨の詩嚢を敲きくれ 富田潮児
妻や遠し和蘭陀坂の片陰は 小林康治 玄霜
妻ゆらゆら指から指輪はずしても 鎌倉佐弓 天窓から
妻よおまえはなぜこんなにかわいんだろうね 橋本夢道(1903-74)
妻よかの月も病巣明らかに 有働亨 汐路
妻よここにも初日あり葱の束 大塚辰一郎
妻よこの二階住居の梅雨霧らふ 西村公鳳
妻よたつた十日余りの兵隊にきた烈げしい俺の性慾が銃口を磨いている 橋本夢道 無禮なる妻抄
妻よなほ未来あるかに毛糸編む 神保百合一
妻よはつなつ輪切レモンのように自転車 西川徹郎 瞳孔祭
妻よまた堪えしょうのない雪だよ 石川青狼
妻よゆうべ掻啜るものは熱くせよ 松本赫男
妻よりながき夫の合掌日盛り寺 平井さち子 完流
妻よりの薄剥き林檎永き愛 小澤克己
妻よりは妾の多し門涼み 正岡子規(1867-1903)
妻よりも先に酔ひたり玉子酒 田北ぎどう
妻よりも小さき鷽を替へて来し 山田狭山
妻よわが死後読めわが貴種流離譚 楠本憲吉
妻よわが短日の頬燃ゆるかな 石田波郷
妻よ一職工も抱けば嬰児がやわらかい 橋本夢道 無禮なる妻抄
妻よ五十年吾と面白かつたと言いなさい 橋本夢道 無類の妻
妻よ吾の影が箒に似るときなきや 細谷源二
妻よ天井を隣の方へ荒れくるうてゆくあれがうちの鼠か 橋本夢道 無礼なる妻
妻よ天網にかかる他なき吾が悪業 橋本夢道 無類の妻
妻よ子よ春日の杜の冬日和 瀧井孝作
妻よ子よ露世夢生に歯ごたえあり 折笠美秋
妻よ子よ黒焦げ秋刀魚食膳に 村山古郷
妻よ歔いて熱き味噌汁をこぼすなよ 富澤赤黄男
妻よ汝が黄華鬘庭を彩れる 水野柿葉
妻よ睡れ露の月夜も星の夜も 豊長みのる
妻よ聴け観世音寺の除夜の鐘 河野静雲
妻よ見よ米の穀象燈にとぶよ 森川暁水
妻よ酒買え大寒の詩嚢の中の蟾蜍 橋本夢道 良妻愚母
妻われを冬の木と見つ熱き冬木と 橋本榮治 麦生
妻われを凡夫といへり蜆汁 辻田克巳
妻ゐずて独居日を経ぬ花大根 村山古郷
妻をいたはる心となれば寒しぞ我は 人間を彫る 大橋裸木
妻をつれ娘をつれて木瓜の花 木瓜の花 正岡子規
妻をはなれて妻がこいしい六月の夜の大阪の灯や河 橋本夢道 無禮なる妻抄
妻をやる卯の花くだし降るなかを 高浜虚子
妻をらぬ夜の枇杷指を濡らし喰ふ 永田耕一郎 海絣
妻をらぬ妻の高さの寒灯けす 石原 透
妻を友も亡くして鋤焼のたぎる音 和田喜七
妻を呼ぶ籠の鶉や庭の萩 萩 正岡子規
妻を墓にしてさてあらためて人の顔 栗林一石路
妻を待つ月下美人の燈を残し 中戸川朝人
妻を得てうつゝ抜かすな暮のジヤズ 岩田昌寿 地の塩
妻を得てまぶしく来りきんぽうげ 細見綾子 花寂び
妻を得て秋風をきく泪かな 杉山岳陽 晩婚
妻を恋ふしづかに夜雲旱りたり 石橋辰之助
妻を慰む言葉おどけて秋かなし 椎橋清翠
妻を抱き師走なじめず仮の家に 杉山岳陽 晩婚
妻を捨て子を捨て花に死にし人 下村梅子
妻を描き月見草描き戦死せり たむらちせい(青玄)
妻を旅にやり白木蓮の日々惜しむ 田川飛旅子
妻を歎くも風樹の歎や柳絮飛ぶ 草田男
妻を死なする風鈴を吊りにけり 齋藤玄 『玄』
妻を緑雨にいれて朝食をまつなり 阿部完市 春日朝歌
妻を見し妻の瞳とあふ秋の暮 杉山岳陽 晩婚
妻を見る冬日さらさら森澄雄 寺田京子 日の鷹
妻を詠へうたへと囃す初音かな 鈴木鷹夫 大津絵
妻を語る秋栗色の大きな眼 成田千空 地霊
妻を語る網編みためて渡り漁夫 加藤知世子
妻を遺る本家の用や冬籠 会津八一
妻ヘシュプレヒコール降る愛情の冬菜畑 山岡敬典
妻一人娘一人や木瓜の花 木瓜の花 正岡子規
妻一人子ふたりそして除夜の鏡 鈴木鷹夫 春の門
妻一寸居らねば何處ぞと夏の暮 高澤良一 素抱
妻一語又妻一語して夜長 上野泰
妻不撓不屈のダリヤ咲きふゆる 古館曹人
妻乗せて残暑の町を救急車 岩男微笑
妻二タ夜あらず二タ夜の天の川 草田男
妻二世なれど素直よ茄子漬くる 菊池純二
妻二夕夜あらず二タ夜の天の川 中村草田男
妻二日臥す雨のごと樫落葉 大熊輝一 土の香
妻亡きあといつまでも保つ泥の葱 宮津昭彦
妻亡くせるばかりの春の炬燵かな 鈴木真砂女 生簀籠
妻亡くて石鹸乾く十二月 杓谷多見夫
妻亡くて蚊火焚く刻も定まらず 田尻 春夢
妻亡くて道に出てをり春の暮 森澄雄(1919-)
妻亡しのむなしさもまたかぎろへる 森澄雄
妻亡しの花魁草に夕涼み 森澄雄「天日」
妻亡しの裏口残る雪厚し 石原舟月
妻今も紅足袋ちさし仕事多し 香西照雄 対話
妻伴れて亡き子に遭はん空海忌 小畑一天
妻伴れて来ぬ日のほたる暗く飛ぶ 高澤良一 寒暑
妻伴れて講中の旅善導忌 近藤一鴻
妻何に痩せて見に立つ藤の花 清水基吉 寒蕭々
妻何時も真中に居る秋灯下 荒井稔郎
妻入の千軒鯖火照りわたり 黒田杏子 花下草上
妻入れて春の炬燵となりにけり 長谷川櫂 虚空
妻出づるやひたき騒げる冬の庭 原石鼎 花影以後
妻出でて霜の落葉をはきにけり 原石鼎 花影以後
妻刈の汗たる胸に夜は妻を 西島麥南
妻十年の秋風青き魚を焼く 山本つぼみ
妻去つて春雨の音やや荒し 香西照雄 対話
妻去りし隣淋しや夏の月 夏の月 正岡子規
妻去るに白玉艶を消しにけり 萩原麦草 麦嵐
妻去れば養女かなしむ芙蓉かな 下村槐太 天涯
妻受胎どつと犇めく露葎 清水基吉 寒蕭々
妻叱りなばうらはらに秋ふかし 杉山岳陽 晩婚
妻叱り身のさびしさよ風邪を知る 杉山岳陽 晩婚
妻告ぐる胎児は白桃程の重さ 有馬朗人 母国
妻呼ぶに今も愛称茄子の花 辻田克巳
妻呼んでばかりをられず炬燵出る 原三猿子
妻哭かせ崩れきつたる炭の尉 小林康治 四季貧窮
妻問ひのむかしの闇に星祭る 牧辰夫
妻四十鏡台祝ひなかりけり 小杉余子
妻在らず枯芭蕉下の飢かすか 石田波郷
妻在らず盗むに似たる椿餅 石田波郷
妻在らぬ一日の枇杷の疵古し 下村槐太 天涯
妻在りて子在りて足らず除夜の鐘 杉山岳陽
妻如何にめぐる西日の楢櫟 杉山岳陽 晩婚
妻家のこといふ旅の火鉢にも 遠藤梧逸
妻寂し髪の雪片消ゆるより 齋藤玄 『玄』
妻寄れば昼の*いとどに跳ばれけり 石田 波郷
妻居ぬ元日夜風が長い長い帯 磯貝碧蹄館 握手
妻居ねば子よ夕焼の歌うたへ 山口草堂
妻居る日の嫩芽がこぼす房の花 赤城さかえ句集
妻帰すひぐらしの森見透かしに 千代田葛彦 旅人木
妻帰り夜長の居間に喪服脱ぐ 津村浅次郎
妻帰るまで飯喰はず夕ざくら 皆川白陀
妻待ちし小暑海彼のうから来ぬ 千保霞舟
妻待ちて杖を与へぬ紅葉狩 上林白草居
妻待つや灯がなだれ点く大聖樹 奈良文夫
妻心臓発作の冬の刻々に 粟津松彩子
妻忘れゆきし扇子の夜を匂ふ 飯野 計夫
妻忙し市井の梅の楚々として 古館曹人
妻急変冬木一列帰路一途 松崎鉄之介
妻愛す日数の中や鳥交る 清水基吉 寒蕭々
妻抱いて乗る花冷えの救急車 西浦一滴
妻抱いて躬の証したつ雁の夜 吉田未灰
妻抱かな春昼の砂利踏みて帰る 草田男
妻持ちしことも有りしを著衣始 井月の句集 井上井月
妻持ちしばかりの吾が身小夜時雨 成瀬正とし 星月夜
妻措きて出づるかなしさ年忘れ 星野麥丘人
妻擁きつゝ母の忌の秋の声 杉山岳陽 晩婚
妻方の兄が宰領芋煮会 清崎敏郎
妻春の襟巻雨を寒がりぬ 高橋馬相 秋山越
妻昼寝させて暫く筆を執る 後藤夜半 底紅
妻梅を干し松浜忌近きかな 下村槐太 天涯
妻歎く黴ふゆるなりうつくしく 杉山岳陽 晩婚
妻死すと雪にまみれし初便り 吉田三千子
妻死なば汽罐車のごと吾哭かん 細谷源二
妻死んで虫の音しげくなりし夜ぞ 臼田亞浪 定本亜浪句集
妻死後の冬の北斗に頭を刺され 小川原嘘帥
妻死後の力賜はる霰がこ 黒須俊行
妻死後を覚えし寝覚夜の秋 能村登四郎「天上華」
妻死後を覚えし足袋のしまひ場所 能村登四郎(1911-2002)
妻沸す麦湯ちからに夏百日 高澤良一 寒暑
妻泣かすはほとほとかなし炭火見る 杉山岳陽 晩婚
妻泣かす罪ふりかむり木の葉髪 石塚友二
妻泣かせ出づるや固き下駄はきて 播本清隆
妻泣かせ酔はせ寒夜の卵酒 小林康治 四季貧窮
妻泪してうつくしき年の暮 杉山岳陽 晩婚
妻泳ぐ夫の視界の外へ出でず 黛 執
妻涙ぐむそこに迫りてゼラニユウム 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
妻湯浴む闇の刈田のあをあをと 中拓夫 愛鷹
妻激して口蒼し枇杷の花にたつ 飯田蛇笏 山廬集
妻炊ぐ頭上に銀河島暮し 村松紅花
妻無しのとまる覚悟で花見哉 花見 正岡子規
妻無しの寝積む貌の壁に映る 石原八束
妻無しの鬼面を映す寒の闇 石原八束 『断腸花』
妻猿の舞はですねたる一日かな 内藤鳴雪
妻生きて黄菊の時を盗むなり 齋藤玄 『玄』
妻生家の寺までつづく曼珠沙華 上木彙葉
妻産むか夜陰遥かに落下の滝 川崎三郎
妻産めば雲いたわりに来る夜明け 阿部完市
妻産気づきて俄かの松納 井上史葉
妻用意の昼餉小さな蝿張に 高澤良一 素抱
妻留守なりや冬しやつ片より干す 荒川一圃
妻留守に夫慣れてきて冷蔵庫 寺岡捷子
妻留守に集金多し茎立てる 杉本寛
妻留守のおでんを叱りゐたりけり 岡本 高明
妻留守のふごの温みのうらがなし 伊藤機久
妻留守の一人の昼餉燕来る 相良九馬
妻留守の伝言貼りし冷蔵庫 徳丸峻二
妻留守の冷蔵庫さて何も無し 岡本圭岳(火星)
妻留守の厨に出でし蟻殺す 相馬遷子 山河
妻留守の厨守るかに茎の石 鈴木しげを
妻留守の味噌部屋ことに梅雨兆す 相馬遷子 山河
妻留守の夜はぬくめてけんちん汁 加藤武夫
妻留守の完熟トマト真二つに 山中正己
妻留守の客に開け見る冷蔵庫 河合いづみ
妻留守の水飯他愛なく終る 北里忍冬
妻留守の燈火親しき料理本 工藤義夫
妻留守の白桃一つ冷し置く 肥田埜勝美
妻留守の裁ち鋏鱧の皮を切る 岡本圭岳
妻留守の雑炊もまた佳しとせむ 安住敦
妻疲れをり天使魚の鰓づかひ 佐野鬼人
妻病ませ根深料理ると鷲掴み 小林康治 四季貧窮
妻病みし曇日の子に蜆蝶 飴山實 『おりいぶ』
妻病みてにはかに黴のもの殖えし 菅田寒山
妻病みて旅つづくなり冬鴎 水原秋桜子
妻病みて母病みてひとり秋の暮 茂里正治
妻病みて父子の歌留多の倦み易し 奥野曼荼羅
妻病みて目尻の乾く九月尽 穴井太
妻病みて篭の大根の重かりし 前田たかし
妻病みて託す供養の針わづか 内山 亜川
妻病みて髪切虫が鳴くと言ふ 加倉井秋を「真名井」
妻病むとわが割る氷夕焼す 中島斌雄
妻病むと春大根の萎えて幾日 原田種茅
妻病むへ急く空稲架の上州路 杉本寛
妻病むや光まぎるる二月空 下村ひろし 西陲集
妻病むや千のはちすの千の黙 小川原嘘帥
妻病むや夜寒の子らと塩買いに 古沢太穂 古沢太穂句集
妻病むや片ほつれして冬簾 細川加賀 『傷痕』
妻病めばいや山国の春遠し 相馬遷子 山国
妻病めばねぎ買ふ小銭ばかり増え 古館曹人
妻病めばひとつ障子のうちにこもる 長谷川素逝
妻病めばひと間をしめて春を待つ 岸風三楼 往来
妻病めばもの音遠く霜降るか 有働亨 汐路
妻病めば子等おとなしく父と炉に 田上一蕉子
妻病めば子等諍かはず雪催ひ 相馬遷子 山国
妻病めば我病む芭蕉裂けるかに 永田耕衣
妻病めば梅雨一族の皆病めり 青木重行
妻病めば秋風門をひらく音 水原秋桜子
妻病めり水餅深く沈めゐて 橋本榮治 麦生
妻病めり秋風門をひらく音 水原秋櫻子
妻病めり秋鮎を煮て楽しまず 水原秋桜子
妻病んでわれはおろおろ昼の虫 細川加賀 『玉虫』
妻病んでゐて茄子の花十ばかり 細川加賀 生身魂
妻病んで春大根をすればかたし 田室澄江
妻病臥子を連れのぞく蟻地獄 石田波郷
妻癒えず寒の厨の音沈む 小林康治 玄霜
妻癒えたり今年わが家も燕来る 有働亨 汐路
妻癒えてきし家うらの鴬菜 皆川盤水
妻癒えてメロンの舟に匙の櫂 本宮鼎三
妻癒えて励む夜業の釦付け 楡井秀孝
妻癒えて故山のみどり滴らす 小島健 木の実
妻癒えて湯浴みしてをり月涼し 藤原宇城
妻癒えぬ朝むらさきに寒しじみ 綾部仁喜
妻癒えよ一望に初富士初浅間 西本一都
妻癒えよ茎のみとなる曼珠沙華 磯貝碧蹄館 握手
妻癒ゆに水からくりの玉はずむ 東青路
妻眠り胎の子めざめゐる良夜 小川軽舟
妻知らぬセー夕ーを着て町歩く 本井英
妻知らぬ月日の中のさくら狩 能村登四郎
妻祷る真黄色なる夕焼に 草田男
妻科の旧居なつかし花あんず 田中冬二 俳句拾遺
妻立てばまぶしい川のあるような 稲垣麦男
妻立てば晩菊もまた咲きてをり 杉山岳陽 晩婚
妻立てば獅子舞は籬の外をゆけり 湘子
妻笑ひだす水栓も杓も凍て 辻田克巳
妻笑ふ瓢の苗をわれ植うる 上村占魚 球磨
妻篭宿格子戸毎に菖蒲挿す 降幡加代子
妻籠に残る本陣榾火焚く 石川喜代
妻籠に蓑虫の音をきく日かな 石田波郷
妻籠に遠く野火の手上がりけり 冨田みのる
妻籠の冬の壕舎と思はれず 萩原麦草 麦嵐
妻籠めにおのれもこもる青簾 岡本松浜 白菊
妻籠宿さるのこしかけ並べ売る 瀧澤伊代次
妻籠宿格子戸毎に菖蒲挿す 降幡加代子
妻籠路や宝珠ひねりの栗きんとん 高島筍雄
妻籠路や木樋にころげ栗の毬 河村素人
妻籠雛へなへな坐せり恋古りぬ 平井さち子 紅き栞
妻結ひし結目を解き野に遊ぶ 大岳水一路
妻縁を走り障子開け初雪見せにけり 原石鼎 花影以後
妻織れどくるはしき眼や花柘榴 飯田蛇笏 山廬集
妻美し雨も甘しと美林真夜 林 唯夫
妻羨し教へ子に花下押され来る 中戸川朝人 星辰
妻老いて冷索麺の葱きざむ 遠藤梧逸
妻老いて母の如しやとろろ汁 成田千空
妻老いて蛞蝓を溶かしてしまふ 加倉井秋を
妻老いぬ春の炬燵に額伏せ 富安風生
妻老ゆるともゆたかなるビールの泡 榎本冬一郎 眼光
妻胎み皿ばかり積む闇に馴れ 杉本雷造
妻腹に小皺を畳みこの秋老ゆ 田川飛旅子
妻臥せば吾も着たまま春を待つ 富田潮児
妻若し百日草の首を挿す 宮坂静生 雹
妻葬る墓山初のきりぎりす 齋藤玄 『玄』
妻葬る朝秩父嶺の初雪す 小川原嘘帥
妻薄し別れ霜とて影もなし 小林康治 玄霜
妻見るや吾子見る妻に秋の蝉 杉山岳陽 晩婚
妻見入るをだまきに雨さかんなり 大野林火
妻訪い婚の壁へ 影絵のヤクの角 伊丹公子 山珊瑚
妻許せ末子入学に落ち泣ける 河野静雲 閻魔
妻詣る鈴を泉にゐて待てり 中戸川朝人 星辰
妻買ひし岐阜提灯を妻へ吊る 小原啄葉「遙遙」
妻賞でし浜木綿咲きぬ妻逝きて 佐久間東城
妻起きてひとりさわげり梅雨の漏 森川暁水 黴
妻起す蝉かも知れず日の出前 杉山岳陽 晩婚
妻越や人目つゝみの河使(かわづかへ) 服部嵐雪
妻身寄す霜夜鶏鳴遠し遠し 川口重美
妻近くなるサイネリヤ抱きかかふ 松山足羽
妻逝きし吾の如くに残花あり 成瀬正俊
妻逝きてその母も追ふ冬桜 山本富万
妻逝きてわが飲食も冬に入る 豊長みのる
妻逝きて我も病みつつ年暮るる 福井圭児
妻逝きて早き夜寒は膝より来 有働亨
妻逝きぬ柿の一葉の紅葉して 野川 枯木
妻逝くと風船かづら枯れにけり 畠山譲二
妻連れて友の盆供の買ひあつめ 杉山岳陽
妻連れて来て大原の花の雨 比叡 野村泊月
妻連れて白夜の街に琥珀買ふ 高橋克郎「塞翁が馬」
妻連れて霜夜を来たり風刺すとも 杉山岳陽 晩婚
妻遅し冬の三日月玻璃の隅に 加畑吉男
妻遠き夜を大文字四方に燃ゆ 三谷昭
妻遠し合歓咲き船には艪が二本 中村草田男
妻遠し芦原広し芦刈男 橋本多佳子
妻遠し裸燈の下で鱈子買う 源鬼彦
妻遥かにて炎天を分ち合ふ 橋本榮治 越在
妻隠にあづまをくだる傀儡師 西島麦南 人音
妻隠のごとく妻ゐて山椒の実 小田切輝雄
妻雨戸あけてをる音又雪か 京極杞陽
妻風邪寝今朝も出勤見送らず 中村青蔦
妻黙しわが入院の浴衣縫ふ 伊東宏晃
姉がりに来て妻たのし茗荷汁 下村槐太 光背
姙りておちつく妻や瓜を揉む 下村槐太 光背
姫百合の灯になじめるを妻もとめ 太田鴻村 穂国
娘の声の妻に似て来し初電話 嶋田一歩
婢を御してかしこき妻や蕪汁 飯田蛇笏
嫁せし娘の妻にやさしき賀状かな 堤俳一佳
嫁菜飯なりと炊かんと僧の妻 広島汀石
嬰となる妻にふふます冬苺 松本進
嬰に妻をとられし夜の氷菓かな 野中 亮介
嬶天下は母かぎり妻胡麻を刈る 大熊輝一 土の香
子が妻が花挿し呉るる暮春の卓 下村槐太 天涯
子が妻が覗く図上の露の家 木村敏男
子が嫁ぎ妻と二人の冬隣 相馬遷子 雪嶺
子が寝て妻の水のむ雪明り 加藤楸邨
子が得たる蛍に妻は霧を吹く 雅人
子とあそび夫とかたり妻の春 河野静雲 閻魔
子と妻とあそべば福茶わが淹るる 富岡掬池路
子と手花火遠く病む妻明滅して 磯貝碧蹄館 握手
子と見る神輿遠くの妻は安静時 磯貝碧蹄館 握手
子と遊び夫と語り妻の春 河野静雲
子どもも妻も雪はさんさんと美しくて、云い換えればくらしの痛手です 橋本夢道 無禮なる妻抄
子に生きる平凡妻と晦日そば 鴨下秀峰
子に跼む妻を見てをりえご散れり 千代田葛彦「旅人木」
子に送る新茶を妻の惜気なく 野川枯木
子に雑木妻につらつら椿買ふ 橋本榮治 逆旅
子に頒つ苺のひとつ妻の唇に 石川桂郎 含羞
子の*かやに妻ゐて妻もうすみどり 福永耕二
子の丈の妻におよべり年用意 平野彩雨
子の妻の美しかりし年酒かな 細川加賀 『玉虫』
子の寝息妻が寝息や木の実降る 福本啓介
子の寝息妻に東京遠かりき 石橋辰之助
子の寝息妻を誘ひてしぐれけり 杉山岳陽 晩婚
子の恩をひしと妻いふ秋の暮 上村占魚 『萩山』
子の母のわが妻のこゑ野に遊ぶ 原裕 青垣
子の祝電母の日しかと妻にあり 野上 水穂
子の蚊帳に妻ゐて妻もうすみどり 福永耕二「鳥語」
子の頬に妻の香もある星月夜 今瀬剛一
子は人の妻となりゆく星月夜 山田弘子 こぶし坂以後
子は娶り妻は花種蒔いてをり 松村武雄
子へ妻へ怒りの跳び火花樒 西田弘生
子へ妻へ野の虹見たる証し欲し 鈴木鷹夫 渚通り
子ら寝しかば妻へのみやげ枇杷を出す 篠原梵 雨
子をよべば妻が来てをり五月尽 加藤楸邨
子を叱す妻の声あり寒の玻璃 石寒太 翔
子を叱る妻を叱りて梅雨籠 貴田星城
子を妻を呼び交はすにや天の鶴 山本歩禅
子を妻を梅雨の車中に置き嘆く 石橋辰之助 山暦
子を寝かせ緋鯉現るように妻 松本勇二「海程句集」
子を抱いて妻に従ふ夷布 南秋草子
子を置いてなりはひ妻の秋暑かな 吉武月二郎句集
子を負う妻に寄り子にもせつぷんぼたんの前 橋本夢道 無禮なる妻抄
子亡き妻の水洟泣くにはあらじかと 香西照雄 素心
子供らに雪ふれ妻に春来たれ 京極杞陽 くくたち下巻
子凡な妻になりたき初詣 菖蒲あや 路 地
子泣くらむ妻待つらむと吹雪衝き 成瀬正とし 星月夜
子等がねて妻ねて霜夜更けにけり 鈴木貞雄
子等のあと妻も時雨れて戻りけり 河野静雲 閻魔
子等へとゞけ妻へ小包ひつくくる 石橋辰之助
孕雀妻には親し吾にはうとく 山口青邨
存分に水祝はゝや思ひ妻 水祝 正岡子規
安産札貰ひに北風を妻いとはず 大熊輝一 土の香
安静のわが咳入れば妻も咳く 秋沢 猛
定年なき妻なに刻む今朝は優し 国しげ彦
定年なき妻の鏡台木の葉髪 岡本邦子
定年や妻はシヨートパンツの庭 水谷郁夫
宝船我に敷かれて妻になし 森田峠
実ざくろや妻とは別の昔あり 池内友次郎
実万両女がひそむ喪服妻 高萩篠生
実家にて油売りくる日焼妻 高澤良一 寒暑
実石榴や妻とは別の昔あり 池内友次郎
客あれば*たらの芽かきに妻走る 堤俳一佳
客のあと妻霜焼の足を出す 下村ひろし
客を得て打つ新蕎麦や妻籠宿 松本二三女
客星を見極む妻が髪の丈 和田悟朗
客来ると妻が隠せり籠枕 青木重行
客繁き牧守妻の夏痩ぞ 堀口星眠 営巣期
宣教師ノ妻君百合ヲ好ミケリ 百合 正岡子規
宵の妻落葉の輪舞纒ひ来る 鳥居おさむ
宵の燈やくろ髪匂ふ乏し妻 高橋淡路女 梶の葉
家の妻瞳に描きがたし青き踏む 秋元不死男
家の隅や馬追と妻遊びをり 小林康治 玄霜
家の集に妻が桔梗の一句哉 石井露月
家は枷妻にも吾に夜番が呼ぶ 金子兜太
家ダニのことより言はず寝覚の妻 日野草城
家事すべて病む妻まかせ煖炉焚く 相馬遷子 山河
家事も夜業ことりと眠くなる妻よ 香西照雄 素心
家守る妻高き冬木に鳥祝ぐよ 磯貝碧蹄館 握手
家居の妻玉虫筥を針さしに 森川暁水 黴
家揺る南風触れても妻は燃えたゝず 小林康治 玄霜
家計簿の妻の頬杖花楝 柴田美代子
家護りて妻はもひとり足袋つゞる 岸風三楼 往来
家路忘れて薫風に乗りしか妻よ 安井昌子
寄りかかる妻ゐてなにかと助かる夏 高澤良一 素抱
寄道せずに朝日くる妻と白菜ヘ 磯貝碧蹄館 握手
寄鍋に妻のひと日を聞いてをり 大江行雄
密蜂の緻密な翅音妻の上に 中山純子 沙羅
富士爽やか妻と墓地買ふ誕生日 秋元不死男(1901-77)
寒がりて妻の眼鏡に映りにゆく 辻田克巳
寒の日陰シャツがつぶやく妻のように 大井雅人 龍岡村
寒の水妻に供ふる米を研ぐ 横山汎司
寒の菊乾きて咲けり妻も他人 草間時彦
寒むや吾がかなしき妻を子にかへす 石田波郷(1913-69)
寒むや妻首吊る夢を見て泣けり 猿山木魂
寒や妻の臀太る貧極まるに 小林康治 玄霜
寒三日月妻にて影のちひさしや 清水基吉 寒蕭々
寒入りの井戸水ぬくしみとり妻 今泉式女
寒夕焼妻と見る日を賜りし 綾部仁喜
寒夜まだピアノ弾く娘と妻起きて 伊東宏晃
寒天やしやがまる妻の熱き映画 攝津幸彦
寒明けて空の近しと妻の言ふ 瀧澤伊代次
寒明けや横に坐りて妻の膝 草間時彦
寒明の飛雪をそらに妻と酌めり 森川暁水 淀
寒明や横に坐りて妻の膝 草間時彦
寒星明暗わが身のなかに眠る妻 成田千空 地霊
寒月のうつくしといふ閨の妻 青邨
寒灸を妻にもしひつ日を過ぎぬ 森川暁水 黴
寒燈やかりそめ言に泣きし妻 吉武月二郎句集
寒燈をつり古る妻の起居かな 飯田蛇笏 山廬集
寒燈を身より洩らして物書く妻 山口誓子
寒紅に疲れを隠し看取妻 飯田波津恵
寒紅や妻となり萎えゆけるもの 大石悦子 群萌
寒紅や眉定まりて人の妻 島村元句集
寒紅をつけるいとまに妻はあり 上野泰 春潮
寒紅を買ふ妻をみし小路かな 長谷川櫂 蓬莱
寒肥を置くに麗わし妻つれて 松江千鶴子
寒荒れの手もて妻撫す闘志萎ゆ 小林康治 玄霜
寒菊や佛師が妻の肺を病む 寺田寅彦
寒菊や母のやうなる見舞妻 石田波郷(1913-69)
寒落暉妻ゐる墓に夫納め 中戸川朝人 尋声
寒雀何煮る妻の誕生日 中島斌雄
寒雀見て居り妻の編みづかれ 鳥居おさむ
寒雷や喪服のままの四十妻 古館曹人
寒餅の紅切れば艶老妻に 山口青邨
寒鴉村をでることなき妻と 百合山羽公 故園
寒鵙の今を墓守の妻も聴けり 下村槐太 天涯
寝し妻の起き来てをりぬ憂き夜なべ 森川暁水 黴
寝てかゝる角のしなへや鹿の妻 立花北枝
寝てをらぬ足へ足袋はき喪主の妻 松岡照子
寝て秋夜胎の子に妻呟くか 赤城さかえ句集
寝待月子を眠らせて妻と出づ 福永耕二
寝待月美しければ妻を待つ 立花ひかる
寝茣蓙買ふ郷愁しきりなる妻よ 松尾緑富
寡黙な我と妻容れここは風棲む館 楠本憲吉
實柘榴や妻とは別の昔あり 池内友次郎
寺妻に触れし揚羽の寒からむ 柿本多映
寿司くう老婆に隣し妻に先立つか 林田紀音夫
寿司もくひ妻の得し金減り易し 林田紀音夫
封人の妻の打ちたる砧これ 後藤比奈夫
導尿終へし妻が低声「月がきれい」 磯貝碧蹄館 握手
小さき炉開いて妻と二人きり 門岡一笑
小ひさ妻ちさき手合はせ観世音 日野草城
小寒や妻の形見を分けあえり 鈴木静海
小春日や声筒抜けに嫁と妻 松本 進
小春日や妻の笑顔の走り来る 佐藤哲一郎
小春日や膝つきて切る妻の爪 竹村良三
小春日を潮騒とゐる妻とゐる 川口 襄
小晦日花提げて行く妻の墓 唐沢信一
小楢若葉陽が漏れ日が透き妻匂ふ 北野民夫
小浅間や妻と買足す秋なすび 加藤郁乎 江戸桜
小蕪妻が土あたためて得しならむ 古館曹人
小説も読まずけなげに夜なべ妻 上村占魚 球磨
小走りに出し禰宜が妻霰降る 木村蕪城 寒泉
小走りに妻従へる寒詣 川端茅舎
小鯛挿す柳涼しや海士が妻 松尾芭蕉
小鰺焼く妻や厨の片襷 巌谷小波
居てほしき妻を帰せる氷雨かな 西本一都 景色
居待月臥待月も妻亡き世 成瀬正俊
居間塞ぐ裸寝妻に咎められ 高澤良一 素抱
屋上に洗濯の妻空母海に 金子兜太
屋上の白布飛びたつ妻の夏 大井雅人 龍岡村
屋上園妻の手が冷え晩夏なり 細川加賀
屋摩す雪妻は翡翆も売るべかり 斎藤玄
屋根掃いて妻を見下ろす大晦日 辻田克巳
屠蘇の酔妻の化粧を子にささやく 西垣脩
屠蘇一献妻に感謝のぎこちなく 藤野 重明
山あひの月にぞ語る莫斯科(もすこう)にわかき妻もついく髑髏ども 与謝野鉄幹
山のみどり落ち来る妻の膝の上 太田鴻村 穂国
山の戸やふる妻かくす秋の蚊帳 飯田蛇笏 山廬集
山ふかく妻とあそびぬ花しどみ 勝又一透
山上の妻白泡の貨物船 金子兜太 金子兜太句集
山吹や薪割る妻の一語勢 秋元不死男
山妻と旬の秋刀魚を二等分 高澤良一 寒暑
山妻に豆飯炊かせ同人等 山口青邨
山妻に風邪移りたる移したる? 高澤良一 鳩信
山妻の干す梅机辺まで赤し 百合山羽公 寒雁
山妻の暑さ凌ぎにコップ拭き 高澤良一 寒暑
山妻の海鼠食うたる高鼾 高澤良一 素抱
山妻の着る紺絣露の秋 山口青邨
山妻の金剛力や鏡割る 境 土ノ子
山妻や髪たぼながに神無月 飯田蛇笏 山廬集
山川やたゆまず渡る鹿の妻 立花北枝
山彦に妻の遊べる山毛欅若葉 菅原多つを
山梔子の実のつややかに妻の空 庄司圭吾
山法師妻籠は雨に変りけり 松本陽平
山眠り火種のごとく妻が居り 村越化石(1922-)
山茶花や妻の羽づくろいは二階です 勝部孚萩
山鳥の卵を茹でて妻に喰わす 小松左月
山鳥の妻か呼ぶらん泊山 島田五空
山鳥の病妻へだつ炬燵かな 黒柳召波 春泥句集
山鳴るとうちみる妻や橇暗し 飯田蛇笏 山廬集
岩壁画と 同じ微笑の妻抱く村 伊丹公子 パースの秋
峠路や水引草は妻のもの 岸田稚魚
崖氷柱折りては妻の若やげる 富士原 拓
巌頭に妻を残して滝行者 三木朱城
川浪と螢のうねり看とり妻 磯貝碧蹄館
川狩の妻も抱きくる大鯰 藤谷紫映
巣籠りの妻より痩せて飛ぶ燕 前田普羅 春寒浅間山
巣籠れる妻の燕は巣にあふれ 前田普羅 春寒浅間山
巣藁ひく雀よ妻も庭踏みに 高井北杜
工場より借りゐる機械妻の冬 岸風三樓
巴旦杏の影なす妻の若さ過ぐ 森澄雄
市中に落ちあふ妻の頭巾哉 頭巾 正岡子規
市田柿妻に父なく二十年 石寒太 あるき神
布団皺直して布団干せる妻 高澤良一 随笑
帆を下す舸夫に妻出て時雨るるよ 五十嵐播水 埠頭
師走ぞと呵る妻あり舌ありや 高井几董
師走の店の妻には欲しきものばかり 臼田亜浪 旅人
師走はや妻に借りたる銭かさむ 米沢吾亦紅 童顔
師走妻うしろをよぎり前よぎり 高澤良一 ぱらりとせ
師走妻剥きかけみかん置いて起つ 高澤良一 宿好
師走妻算盤はじく眼をしたり 高澤良一 随笑
師走妻風呂敷にある稜と丸み 香西照雄 対話
帯かへて門辺の妻や花火の夜 森川暁水 黴
帰りつけば妻は大根引きて居り 石井露月
帰り花散るや機織る坊が妻 二柳
帰来て灰にもいねず猫の妻 炭 太祇 太祇句選後篇
帰省子の去にて再び妻無口 角南旦山
帰郷する妻に夏山雲を育て 大井雅人 龍岡村
干してある妻のもののみ桐の花 風三楼
干梅に月さすらしき妻の影 桂樟蹊子
干潟より見て妻の干す物白し 加倉井秋を 午後の窓
干菜汁妻との会話そつけなし 清水基吉
干蒲団日和と妻に謂はれをり 高澤良一 さざなみやつこ
干飯や雀ささやく軒の妻 谿 々
平凡な妻になりたき初詣 菖蒲あや
平凡な妻の倖はせ色足袋はき 柴田白葉女 牡 丹
平凡に妻と連れ立ち初大師 橋本花風
平原の夜涼にたへて妻立てり 田村了咲
平城山に妻を忍びぬホッチキス 攝津幸彦
年々の妻の母なり青楓 小島健 木の実
年の夜の家にしあるは妻一人 石塚友二
年の夜の病妻の灯か貯炭山がくれ 小林康治 玄霜
年の夜や妻の位牌の下に寝て 岩村牙童
年の夜や妻より古き置時計 岩倉憲吾
年の市妻が財布の古びたる 鈴木公二
年の湯に妻と沈みて溢れしむ 大屋達治 絵詞
年の豆妻に嘘ある昔かな 玉越琅々
年上の妻となりけり彼岸寒 国兼よし子
年上の妻のごとくにかぼすかな 鷹羽狩行
年寄りと年寄りの妻牛蒡蒔く 本宮哲郎
年棚を飾りあひけり思ひ妻 松瀬青々
年玉を妻に包まうかと思ふ 後藤比奈夫(1917-)
年礼やいたく老ぬる人の妻 高浜虚子
年祝ぐや肉ゆたかなる妻の耳 千代田葛彦 旅人木
年金にて妻のやりくり冬珊瑚 高澤良一 宿好
幼な妻肩掛で肩狭め狭め 香西照雄 対話
底冷えて妻の胸にも波郷亡し 細川加賀
底紅とあり父よりも妻思ひ 後藤比奈夫 めんない千鳥
店深く買ふ妻見つつ春寒に 中村草田男
座右銘は妻の言の葉年迎ふ 香西照雄 素心
庭の外を白き犬ゆけり。/ふりむきて、/犬を飼はむと妻に計れる。 石川啄木
庭の蕗煮て病妻をよろこばす 水野柿葉
庭畑の胡瓜いびつに妻病める 手島 靖一
庭畑は妻の裁量花いちご 相馬沙緻
庵の妻人手は借らず萩を刈る 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
引越して来し巣鴉に妻不興 山田不染
引鳥や妻が受けとる舫ひ綱 上木彙葉
引鴨を見し日の宿り妻へ文 森川暁水 黴
弱き子の母なる妻の春の風邪 五味真琴
弱にして遺影の妻に扇風機 内山泉子(恵那)
弱る蜂陽あびる妻の手は荒れて 大井雅人 龍岡村
形代の名を書けば妻となるかなし 山口青邨
形代の妻はさつさと流れけり 湯浅康右
影ふんで冬菜蒔く妻あきつのよう 黒川憲二
影武者のごとく妻ゐる春炬燵 太田一石
彼岸会や妻の煮しめの薄味に 中拓夫 愛鷹
彼岸花文久三年後妻ツル 小林直岑
征く夫と別れて妻は池普請 豊嶋蕗水
待宵草妻に呼ばるるごとくかな 松山足羽
後悔未練あるまじと説く妻よ どこで泣いてきた 折笠美秋 君なら蝶に
従ふは妻の雀か雪に下り 石塚友二 光塵
御ん句掛け妻と修せし素十の忌 久恒大輔
復の卦や昔の妻の返り花 帰り花 正岡子規
復活祭妻が湯浴みの音も更く 村沢夏風
微笑が妻の慟哭 雪しんしん 折笠美秋 君なら蝶に
徹底し妻の嫌へる蛞蝓 松本みつを
心すでに妻とし青き踏みゆけり 松山足羽
必殺を目論む妻の蝿叩 高澤良一 燕音
忌に篭る妻を誘ひて畑を打つ 杉千代志
忌に逢うて日焼せし子とその妻と 伊藤いと子
忘れし字妻に教はり冬籠 富安風生
忘れもの妻の追ひくる連翹垣 高澤良一 ねずみのこまくら
忘れ音に鳴く妻猫や春の霜 二柳
忘年会妻にはありて吾になし 高澤良一 随笑
忙中閑あり妻の背中をかきにけり 伊丹余一
忽として妻逝く方や鳥雲に 澤田緑生
怒り妻蚊帳に大波立てて出し 櫻井土音
怖しや秋刀魚の剣洗ふ妻 辻田克巳
怖ろしや秋刀魚の剣洗ふ妻 辻田克巳
思い出のみつ豆たべあつている妻が妊娠している 橋本夢道
思ひやる今妻星の胸さわぎ 七夕 正岡子規
恋すてゝ妻にかへりし人の秋 宮野小提灯
恋ふるゆゑ紫の丈を妻の墓 森澄雄
恋ふ猫も妻を叱りし夜もわびし 森川暁水 黴
恋路ヶ浜妻とはだしで春惜しむ 宮崎やすお
恐るおそる水着の妻を一瞥す 田辺博充
恨みわびニヤニヤと泣く也猫の妻 猫の恋 正岡子規
恬淡と山よりそうよねむり妻 尾崎嘉助
悪胤の膝下に妻の木葉髪 齋藤玄 『玄』
悴みて妻に一円借りにけり 白岩三郎
悴む妻見れば却つて口つぐむ 榎本冬一郎 眼光
悴める妻毎日の髪結へり 森川暁水 黴
惜しみなく妻となりたる浴衣かな 長谷川 櫂
惜むかな妻うしなひし此秋を 秋惜しむ 正岡子規
惜春の妻を黒白にして撮す 吉館曹人
愁の中に妻とゐて妻の顔を見る 人間を彫る 大橋裸木
愁ふ妻二人静にものを言ふ 高橋克郎
愚か妻蛸と買ひ来し菊二本 遠藤梧逸
愚母妻よ入社パスの吾娘の進学「二足のわらじ」 橋本夢道 良妻愚母
愚痴言える妻ありてこそ福茶飲む 佐藤辨正
愛しさにむせぶ妻をも臥す吾の衣を一重へだてて抱ける 伊藤保
愛の羽根妻は厨の壁に挿す 米澤吾亦紅
愛盡す妻の白息耳の辺に 小林康治 玄霜
感冒の妻にもの煮る音殺し 高井北杜
憂きに耐ゆ妻の胸透くうすごろも 石原八束 『黒凍みの道』
憎からぬ氷上の妻雪めがね 三宅一鳴
憤ろしき夜寒や妻を叱りゐし 杉山岳陽 晩婚
懸想文ひらけと妻へ持ち帰る 茂里正治
懸煙草めぐらし妻の生家なり 坂田羔風
成木責妻が孫にも教へをり 岡田青柿
成木責妻に残れる柿一樹 稲荷霜人
我が前に妻置き子置き雑煮喰ふ 梧逸
我が妻はやつちゃば育ち衣被 大久保白村
我が手に触れつまどろめしばし魂氷る妻よ 折笠美秋 君なら蝶に
我が耳を妻の耳呼ぶ閑古鳥 脇本星浪
我よりも老行く妻や置火燵 佐藤紅緑
我家のほかに逃げ場なき妻夜を濯ぐ 磯貝碧蹄館 握手
我法学士妻文学士春の月 小川軽舟
我泪見て妻笑ふ終戦日 岩脇五風
我病めば妻が釘打つ花曇 林翔 和紙
或ときは母の如く姉のごと大馬鹿ものよと無類の妻 橋本夢道 無類の妻
或夜妻にそばがきを乞ふ甘えごゑ 大野林火
或時は妻をさげすむ寒さかな 吉武月二郎句集
戦とほし墓洗ふ妻もう哭かず 鈴木公二
戦友とよび相方は屠蘇の妻 鈴木 明
戦死者の妻も死にけり冬干潟 吉田汀史
戦遠し妻見し凶の流星も 香西照雄 対話
戸籍曝涼肥君猪手は妻四人 野村慧二
戻り来て妻喘ぐなり法師蝉 杉山岳陽 晩婚
扇風機さげて嫁いで来し妻よ 轡田進
扇風機嫌ひな妻との四十年 高澤良一 素抱
手すさみに糟糠の妻の蚕飼ふ 寺田寅彦
手で磨く林檎や神も妻も留守 原子公平
手の空く妻今初刷をまとめ読み 高澤良一 素抱
手もよ足もよいまは死にせまる妻を前(妻の死) 栗林一石路
手をとめて妻がもの問ふ夜長かな 茂里正治
手毬花手折りて妻と遊びけり 奥田杏午
手焙にさし込む妻の朱羅宇哉 会津八一
手袋をはめぬ癖いつか妻に似る 杉本寛
手製の椅子素足の妻にぶだうの芽 細見綾子 黄 炎
手鏡の中を妻来る春の雪 野見山朱鳥
手鏡を床にかくして風邪の妻 山口波津女 良人
才女めく妻の臨書や桃咲けり 小林康治
打かけの妻もこもれり藥喰 蕪村遺稿 冬
折り鶴にひとり遊びの日永妻 高澤良一 素抱
抜刀の如き噴水妻とあり 磯貝碧蹄館
抱きおこされて妻のぬくもり蘭の花 折笠美秋 虎嘯記
拇指反らす妻の新足袋子のスキー 香西照雄 対話
拐めきし妻が機織る干潟の湖賊 高柳重信
拭いても拭いても死にゆく妻の足うらの魚の目 栗林一石路
振袖を着せてやりたや猫の妻 猫の恋 正岡子規
捕へ飼ひしたる虫の音妻ごめに 三橋敏雄 畳の上
捨てられぬ妻の形見の夏帽子 冨田兼雄
捩花の妻得てあれから四十年 高澤良一 素抱
掌に手おきあかがり妻の棘さがす 角川源義
掛を乞ふことのきびしさ妻知らず 秋山郁子
掛嫌ひ通して老いし師走妻 平野一鬼
掛香や再び人の妻となり 数藤五城
掛香や妻に蹤きゆく齢なりし 橋場雅秋(樹氷)
揉瓜や四十男の酒を妻 尾崎紅葉
揚羽蝶困ず吾在り妻と在り 永田耕衣 驢鳴集
揺椅子に妻軽くなる小望月 西谷 孝
擂鉢に田螺なくなり妻の留守 会津八一
擲ちし妻の座遠し皹も 山田みづえ 忘
改めて妻の冷え性花八つ手 高澤良一 随笑
放屁虫に置き去られけり妻の前 加藤楸邨
放心の妻に近づく蛍あり 大喜多冬浪
放心の妻の手をとり出水中 増富草平
故人おもふや風炉の名残を妻と居て 原石鼎 花影以後
故人思ふや風炉の名残を妻とゐて 原 石鼎
救急車裡手負ひ妻抱く走り梅雨 小林康治 玄霜
敗戦忌墓石の兄は妻もたず 櫛谷文八
教はりて若妻の買ふ冬至柚子 阪口良子
教師妻花野に水を汲みこぼす 堀井春一郎
散りそめし柳試着の妻を待つ 友岡子郷 風日
散り松葉髪に挿す妻よ旅の秋 中島月笠 月笠句集
敬老の日や母がりへ妻を遺る 広瀬河太郎
数の子の妻のこめかみめでたけれ 石田波郷
数の子をぷりぷり噛んで子無き妻 嶋田麻紀
文学少女が老いし吾が妻茨の実 草間時彦
文月けふ大き師の忌に妻とやすむ 森川暁水 淀
断水や妻てらてらと蛾をつまむ 松田 進
断腸花妻の死ははや遠きこと 石原八束
新年や妻はともしき火を愛しむ 栗林一石路
新春の靴を磨かぬ妻と生活らすか 藤後左右
新海苔の封切る妻の若やげる 芥川桟吉
新涼や子を罵れる妻の野性 瀧春一 菜園
新涼や相見て妻の首ながし 細川加賀
新生姜いちどは欲りし妻の座よ 樋笠文
新米や妻に櫛買ふ小百姓 新米 正岡子規
新米や葛飾早稲の妻の里 小杉余子 余子句選
新米を炊くにも妻の声はづみ 福永耕二
新緑のアパート妻を玻璃囲ひ 鷹羽狩行(1930-)
新草を古草つつむ妻癒えむ 矢島渚男 采薇
新蕎妻や私に日の丸ひたす雨 竹中宏
新雪の森越え妻が産みに行く 源鬼彦
新馬鈴薯が丸くてセルの妻愉し 佐々木有風
旅いまもうしろより妻法師蝉 古舘曹人 砂の音
旅しらぬ幾とせ妻に足袋白し 軽部烏頭子
旅なれぬ妻極月の旅支度 後藤良子
旅なれや妻と腕組む夕紅葉 福永鳴風
旅に出て妻も友がら新豆腐 市村究一郎
旅に裁つ衣に妻女と夜長かな 河東碧梧桐
旅の吾に妻や硯を洗ひをらむ 星野麦丘人
旅の帰途夫待つ妻は秋刀魚買ふ 及川貞
旅の泉に手洗ひをるや妻いかに 小林康治 玄霜
旅の荷を妻とととのふ天の川 岩垣子鹿
旅人に世なれてさびし秋の妻 石原舟月 山鵲
旅来し妻春夜ネオンは火の如し(別居一歳に余りしが) 細川加賀 『傷痕』
旅疲れかくして語る夜長妻 竹下しづの女 [はやて]
旅発ちのわれを見送る風邪の妻 近藤一鴻
旅立つや冬蝶たたす妻の影 秋元不死男
旅近きことの楽しも夜なべ妻 山田弘子 螢川
既に妻の朝の物音空に凧 中村草田男
日が照りて雪が舞ひ来ぬ妻無きに 井本農一 遅日の街
日の前妻の死にゆくに時計見ることよ 栗林一石路
日や月や青嶺三日を妻と旅 鈴木鷹夫 春の門
日傘して琉球人の妻ならん 寺田寅彦
日傘ゆく日傘ゆく亡き妻がゆく 藤村多加夫
日向にも尻のすはらぬ猫の妻 上島鬼貫
日当る鹿日当る妻を遠置かむ 磯貝碧蹄館 握手
日曜の妻の寝ゆるす枯の雨 高井北杜
日本人妻 遅参 エスカルゴの晩餐 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
日焼旅果てしよ妻の胸匂ふ 小林康治 玄霜
日盛りの坂自転車の妻と会ふ 千田一路「能登荒磯」
日短く掃き出す妻に立ちにけり 河野静雲 閻魔
日蔭より日向の妻を見てゐたり 小川軽舟
日蝕が始まっている白い妻 滝口千恵
旧姓で妻への封書ハンモック 原田青児
旧正の妻の手を借りぎっくり腰 高澤良一 寒暑
早春の陽に干してやる妻の傘も 赤城さかえ句集
早苗饗や髪撫でつけし日焼妻 高野素十
早起きの妻のけはひや牡丹の芽 沢木欣一 遍歴
旬日を妻見舞はねば靴黴たり 小林康治 玄霜
旱久し眉あげて妻何を祷る 鈴木六林男「荒天」
旱星われを罵るすなはち妻 西東三鬼
明日死ぬ妻が明日の炎天嘆くなり 齋藤玄 『玄』
明日洗うワイシャツ妻の手の遠さ 石橋辰之助
明日逝く妻と葬儀のことを話合う 五十嵐研三
明易し妻問ひ婚のむかしより 仁尾正文「歳々」
昏々と妻あり空に花火開く 鈴木鷹夫 風の祭
昔からここに砂糖壺があり妻が居ない 鳥路健一
星はなくパン買つて妻現われる 林田紀音夫
星合の長距離電話妻にかな 太田土男
星月夜切絵の妻が倚り立てり 舘川京二
星月夜小銭遣ひて妻充てり 細川加賀
星祭る病みてすぐ泣く妻と二人 有働 亨
春の夜の乳涸れし妻こち向けり 萩原麦草 麦嵐
春の夜の妻の寝嵩にかくるる子 河野南畦 『焼灼後』
春の夜や妻なき男何を読む 春の夜 正岡子規
春の夜や妻にならうの私語 春の夜 正岡子規
春の夜や妻に教はる荻江節 漱石
春の夢少しぼかして妻に言ふ 後藤静一
春の大仏身重の妻が見て来たり 清水基吉 寒蕭々
春の宵人の妻なる事もよし 高橋淡路女 梶の葉
春の宵妻のゆあみの音きこゆ 日野草城
春の弁当を妻も膝にし大裾野 橋本夢道 『無類の妻』以後
春の炉に足裏あぶるや杣が妻 前田普羅 飛騨紬
春の野に妻と居ることふしぎなり 今井杏太郎
春の闇妻の掌わづか冷えしのみ 小林康治 玄霜
春の雁煙のごとし妻癒えず 小林康治 玄霜
春の雪たわわに妻の誕生日 日野草城
春の霜また病妻に会ひにゆく 有働亨 汐路
春の風邪妻へうつして癒えにけり 庵 達雄
春の驟雨たまたま妻と町にあれば 安住敦
春の鵙妻の旦暮にさからはず 佐藤治司
春や妻の使ふ水音知り尽くし 野中亮介
春よりも妻の懐広きかな 高澤良一 素抱
春を待ち我を待つとの妻の文 京極杞陽 くくたち下巻
春を待つ妻に泥鰌を食はせけり 岸本尚毅 舜
春を待つ石のねむりのみとり妻 野見山朱鳥
春シヨール妻晩年の子にあまく 徳本映水
春光や児を抱く妻の誕生日 今泉貞鳳
春園の宵に襟あし潔き妻 北光星
春園や妻と佇つなる鶴の前 下村槐太 天涯
春園や妻と彳つなる鶴の前 下村槐太 光背
春塵や吾を見あげて妻の像 河野静雲 閻魔
春塵をつけて妻と子戻るべし 高橋沐石
春夜子に妻を奪はれひとりの餉 福永耕二
春妻の有袋類の横の吾 藤後左右
春宵の母にも妻にもあらぬ刻 西村和子 夏帽子
春寒し夫の葬りに妻粧ひ 相馬遷子 雪嶺
春寒し妻の外出の遅れがち 五十嵐播水 埠頭
春山を妻と見てをりなべてぬくし 大野林火
春嵐妻ひるがへる港の端 小林康治 玄霜
春待つは妻の帰宅を待つごとし 鈴木鷹夫 千年
春待つや厨の妻のわらべ唄 今泉貞鳳
春愁の妻いとけなくなりしかな 筒井 誠
春愁やはげまし呉るゝ妻の霊 河野静雲 閻魔
春愁や妻を怒らす生返事 野上水穂
春日傘ひらいて五十妻若し 清水基吉
春日傘まはすてふこと妻になほ 加倉井秋を 『胡桃』
春日遅々樽からもやしを妻が買ふ 磯貝碧蹄館 握手
春日野に野守の妻の子日哉 子の日 正岡子規
春星や胃の無き妻ヘビスケツト 今泉貞鳳
春暁の妻のぬくみや雨降りだす 榎本冬一郎 眼光
春暁や灯ともるに似て妻の鼻 小林康治 玄霜
春月に妻一生の盥置く 平畑静塔
春月や家の中なる妻を見て 岸本尚毅 舜
春泥の窪みは妻の病むごとし 長谷川双魚 風形
春浅き夜は妻も鉛筆削る 加倉井秋を 午後の窓
春浅き牡丹活ける妻よ茶焙は 渡辺水巴 白日
春深し妻と愁ひを異にして 安住敦
春火桶妻失格のなみだ煮ゆ 山田みづえ 忘
春炬燵子と子の肩を待つ妻と 矢野宣英
春燈に妻の他に妻なく泣くも怒るも嘆くも妻 橋本夢道 無礼なる妻
春燈下妻の型紙机を覆ふ 深見けん二
春眠し妻と異なる声のして 幅 隆明
春眠の浅瀬に妻の笑ひ声 辻田克巳
春着着る心も少し看取妻 稲畑汀子 汀子第二句集
春耕の子をいたはりて妻老いぬ 飯田蛇笏 春蘭
春菊が咲いてともかく妻で母 池田澄子 たましいの話
春菊や袋大きな見舞妻 石田波郷
春著着る心も少し看取妻 稲畑汀子 春光
春蝉忌妻の好みの和菓子買ふ 上林厚一
春闘や妻は教師でありにけり 高星吐
春陰の国旗の中を妻帰る 草田男
春陰や微熱のとれぬ妻の顔 中西 清
春雪や味噌壺の蓋とる妻の平凡な幸福 橋本夢道 無礼なる妻
春雪や湯気をゆたかに厨妻 成瀬桜桃子 風色
春雷やまじまじと妻の顔のあり 茂里正治
春雷や妻を欺くは罪ならず 青木重行
春雷や雀色時妻待てば 清水基吉 寒蕭々
春風にわれを預けて妻逝けり 土屋巴浪
昨日兵役 妻と星みる 海峡みる 伊丹公子 ドリアンの棘
昼の木菟いずこに妻を忘れしや 橋石 和栲
昼の虫われに永仕へせし妻よ 石田波郷
昼寝せる妻も叱らず小商ひ 高浜虚子
昼寝より戻つてみれば妻がゐる 辻田克巳
昼寝妻さめて厨へ辿るなり 皆吉爽雨
昼寝妻ちひさき鼻をつけにけり 細川加賀 生身魂
昼寝妻顔存分に眠つたり 草間時彦 櫻山
昼深く妻とふたりや桜餅 長谷川櫂 虚空
昼蝉や妻うつつなに死を欲りす 臼田亞浪 定本亜浪句集
昼顔は半開のさま妻若やぐ 香西照雄 対話
時の日の妻の時計のあやしきかも 山口青邨
時雨るゝ灯魚画きて妻を遠くしぬ 小林康治 玄霜
晒裁つ妻に色なす酔芙蓉 青木重行
晩年の妻直角に秋刀魚切る 加倉井秋を
晩年を頼る妻ゐて糸瓜蒔く 小川玉泉
晩涼や妻擁きて明日つかるるな 森澄雄 雪櫟
晩菊のかなしく妻を擁きけり 杉山岳陽 晩婚
晩菊や妻連れし旅いつならむ 大野林火
晩霜や生ける屍が妻を叱る 日野草城
晩霜や生ける屍が妻叱る 草城
暁けの声先づは駒鳥妻醒めよ 北野民夫
暁の風薊を摘みて細る妻 池上樵人
暑き夜や妻は起き出て髪を解く 森川暁水 黴
暑き妻へまだも生きよと癌の声 斎藤玄
暖炉燃え妻とわが息窓濡す 久保田月鈴子
暮れぬよと灯ともす妻や揚燈籠 星野麦人
暮春ふりむくは妻か山鳥か 橋石 和栲
暮遅し子の声を追ふ妻のこゑ 下村ひろし
曇りぬと妻の話や遠蛙 蛙 正岡子規
更けて妻の行水の腰やはらかし 小林康治
更衣してただ妻と居る日かな 新明紫明
書初や老妻酒をあたゝめたり 鬼城
書留来て戸外眩しむ風邪寝妻 鍵和田[ゆう]子 未来図
曼珠沙華妻横抱きに日が走れり 磯貝碧蹄館
曼陀羅華咲けば豆州の妻良おもふ 高澤良一 素抱
月さびよ明智が妻の咄せん 芭蕉
月に行く漱石妻を忘れたり 漱石 (妻を遺して独り肥後に下る)
月のものありてあはれや風邪の妻 森川暁水 黴
月の出の花の樒は妻剪らむ 齋藤玄 『玄』
月の妻月が鏡を口癖に 後藤比奈夫 めんない千鳥
月まつる妻が子を抱き待てるかな 杉山岳陽 晩婚
月ゆ声あり汝は母が子か妻が子か 中村草田男
月よりの妻のこゑあり黄水仙 神蔵器
月代や少し前行く妻の肩 草間時彦 櫻山
月出でて月の色なる妻の髪 加藤秋邨 雪後の天
月夜なり買ひ来て下駄を眺める妻 中村草田男
月夜の腕妻に貸せしを吾子に貨す 磯貝碧蹄館 握手
月影の犬花影の猫穴の妻 攝津幸彦 未刊句集
月明に妻抱く受胎せよと抱く 松尾隆信
月蝕の話などして星の妻 正岡子規
月見るや相見て妻も世に疎く 山口草堂
月赭く劫火の妻が泣く二月 猿山木魂
有馬の湯しづかなるとき妻も裸女 阿波野青畝
服地裁つ妻に夢あり春来つつ 伊東宏晃
望郷の妻に夜ごとの花火鳴る 金尾梅の門(季節)
朝かげに立ちける妻に麦青し 高橋馬相 秋山越
朝の妻芍薬の芽をかぞへそむ 神生彩史
朝の虫そびらに妻を感じつゝ 杉山岳陽 晩婚
朝の蝉妻手を動かしてやめず 杉山岳陽 晩婚
朝の蝉身重の妻をはげましつ 杉山岳陽 晩婚
朝の鵙妻起たしめてねむりをり 杉山岳陽 晩婚
朝まで抱く妻に貰ひし湯婆を 落合水尾
朝井汲む妻も木槿も霧の中 西島麦南
朝井汲む妻も木槿も露の中 麦南
朝夕の青林檎すりみとり妻 梶尾黙魚
朝寒や妻病んで皿かく多し 遠藤とみじ
朝寒や歯磨匂ふ妻の口 日野草城(1901-56)
朝寝してノラには成れぬ人の妻 堀内夢子
朝市の先行く妻の素足かな 水原春郎
朝日けぶる手中の蚕妻に示す 金子兜太
朝昼晩自称若妻雪を掻く 鈴木 靖
朝朝南瓜の花咲くを妻の生甲斐か 栗林一石路
朝起は妻にまけたりほとゝきす 時鳥 正岡子規
朝顔のいつぱい咲きて妻在らず 原田青児
朝顔の双葉に朝日妻のこゑ 細川加賀 『玉虫』
朝顔の朝永きにも亡妻を憶ふ 臼田亞浪 定本亜浪句集
朝顔の花うつくしく妻老いし 京極杞陽
朝顔の風妻を吹きわたりけり 杉山岳陽 晩婚
朝顔や機織りに来る人の妻 吉武月二郎句集
朝顔や衰へて妻の前通る 岸田稚魚
朝風呂に妻を誘ひぬ松の内 田中冬二 俳句拾遺
朝鮮の妻や引くらむ葉人参 其角
朧三日月妻の恙を見舞はなむ 小林康治 四季貧窮
木に花咲き君わが妻とならむ日の四月なかなか遠くもあるかな 前田夕暮
木の芽時昔は他人いまは妻 佐々木昇一
木の葉髪かつては妻も教師たりし 森田峠 避暑散歩
木の葉髪妻居てけふも本を読む 高澤良一 宿好
木の葉髪妻愛読のサザエさん 高澤良一 ぱらりとせ
木の葉髪散らして病めり人の妻 石塚友二 光塵
木守柿妻の名二人ある系図 秦 夕美
木槿咲く我が王朝に妻と犬 名井ひろし
木犀の匂ふひと日を妻とあり 山本紅園
木瓜莟む朝日や妻の全身に 千代田葛彦 旅人木
木苺の花白ければ妻を恋ふ 河野南畦
木苺を摘みに北欧の妻どちと 平井さち子 完流
木菟の冬農僕せちに妻をほりぬ 西島麦南 人音
木菟時計鑛山住みの妻に晝は鳴り 栗林一石路
木蓮花匂へり大いなる妻に 八木三日女 紅 茸
木隠れに妻ひらひらす落葉期 大槻紀奴夫
末枯のひかりを妻と頒ちけり 本宮鼎三
末枯の戸を押し妻の灯に戻る 五十嵐哲也
本買ふと言ひし妻葱買ひ戻る 国枝隆生
本陣の絶えなき榾火妻籠宿 金森久江
杉植ゑて妻には不自由させて来し 須川峡生
杏落つ喪のかさなりし妻の肩 細川加賀「細川加賀全句集」
杜父魚や妻を愛して無言の詩人 長谷川かな女 花寂び
杣が妻にしづくしやまぬ狭霧かな 前田普羅 飛騨紬
杣が妻四温の濡手かざすなる 木村蕪城 寒泉
来る年を見詰めてをれば妻がをり 北登猛
東風の妻幼きもののごとくなり 田中裕明
松とれて妻の座ぬくし渋茶の香 豊島登風
松の内妻と遊んでしまひけり 川口松太郎
松の戸や春を薫るは宿の妻 正岡子規
松毟鳥妻とつときの声をだす 池田啓三
松過ぎに遇ひ身二つの稚な妻 岡本圭岳
松過ぎや妻のたしなむ実母散 龍岡晋
松過の子が来て妻とあそびをり 安住敦
松過やふと近くある妻の顔 藤田湘子 雲の流域
松飾り妻が大きく見ゆる日ぞ 中条明
松飾り妻は玻璃拭き空澄ます 今村米夫
枇杷の花妻のみに母残りけり 本宮銑太郎
枇杷の花家守る妻にのみ咲ける 原田種茅 径
枇杷の花母に会ひしを妻に秘む 永野鼎衣
枇杷むく妻へ一流水のごと帰る 友岡子郷「遠方」
枇杷生れり妻と出会ひしむかしの色 宮津昭彦
枕もとに妻寝ねである夜長かな 高浜虚子
枕上ミの妻と夜咄してゐたり 森澄雄
枕辺の春の灯は妻が消しぬ 日野草城
林檎の花色の黒きはまじめ妻 川崎展宏
林檎むく妻とも違う夕まぐれ 高澤晶子 復活
林檎買ひくる妻わが街を拡大せり 磯貝碧蹄館 握手
林檎青く信州弁さへ妻解せず 北野民夫
林若葉朝より妻の腕まくり 星野麦丘人
果実吸う原爆忌の妻蟹のように 前川弘明
枝先の妻呼ぶ鳥や連翹忌 平田君代
枝蛙病臥の妻に灯をともし 鈴木五鈴
枝豆は妻のつぶてか妻と酌めば 楠本憲吉
枝豆を茹でゐる妻の夕ごゝろ 山内山彦
枯るる貧しさ厠に妻の尿きこゆ 森澄雄(1919-)
枯るゝ中妻が守る亡きひとの窯 及川貞 榧の實
枯れ園は紅梅といま来し妻の唇と 橋本夢道 無禮なる妻抄
枯庭掃く妻を見てゐて見ぬふりす 加倉井秋を 『風祝』
枯木の確かさ影の確かさ妻得し年 赤城さかえ句集
枯木ゆく左手を妻に右手を子に 山本歩禅
枯菊焚き夕栄えを妻ことさら言ふ 村越化石
枯黍の残るをいとふ風邪の妻 阿部ひろし
枷の荷に漂ひ泛きて寒の妻 小林康治 玄霜
枸杞の芽やけふ薄着せし妻の胸 細川加賀
柊を挿すや妻亡く母も亡し 杓谷多見夫
柊咲き妻にも小さき詩ごゝろ 那須 乙郎
柚の花や琴かきならす医者の妻 柚の花 正岡子規
柚子を*もぐ妻の手空をきりにけり 八木林之介 青霞集
柚子湯して妻とあそべるおもひかな 石川桂郎(1909-75)
柚子湯出て妻のクリーム少し塗る 雨宮昌吉
柚子湯出て櫛目の深き妻の髪 岡田 貞峰
柚子風呂に妻をりて音小止みなし 飴山實 少長集
柚湯とて母がもどれば妻がゆく 田村了咲
柿の暮妻が点してわれが居り 村越化石 山國抄
柿むいて妻はいらしむ職場かな 森川暁水 黴
柿を剥く妻のわれよりふけしかな 草間時彦 櫻山
柿熟れて妻に樹のぼり心かな 星野紗一
柿若葉昏しと妻の病めりけり 岸本砂郷
栗おこわ持って実家へ妻いそいそ 高澤良一 素抱
栗の花こぼるゝ妻に髪刈らす 清水基吉 寒蕭々
栗をむく間縫ひ雑用足しに妻 高澤良一 さざなみやつこ
栗を焼く山賊の妻美なるかな 露月句集 石井露月
栗拾ふをとめの声の妻の声 斌雄
栗拾ふをとめの聲の妻の聲 中島斌男
根本中堂の香を指頭に妻の春 橋本夢道 『無類の妻』以後
根深汁妻の瞳のみは信ずべし 北野民夫
根白草摘み来し妻の手が匂ふ 安住敦
桂ノ悼蘭ノ漿かも妻迎船 高橋淡路女 梶の葉
桃咲くや妻になる人誰誰そ 桃の花 正岡子規
桃咲くや父失ひし妻の齢 杉本寛
桃咲けり明眸の妻つれて友 耕二
案じ顔妻に読まれて秋茄子 福田紀伊
桐の花外人墓碑に倭妻(やまとづま) 品川鈴子
桐の花妻に一度の衣も買はず 中村草田男「火の島」
桑干すに借りる御堂や山家妻 原 石鼎
桔梗やむかし碪の僧が妻 岡井省二
桜咲く神の前にて妻となる 岸 千寿
桜桃や妻を詠みしを妻に読み 中戸川朝人 残心
桜草植えをり妻の名は陽子 高澤良一 素抱
桜蘂降るや細妻ともなへる 堀口星眠 営巣期
桜貝妻の歯端も透くごとく 香西照雄 対話
桜鯛ひと切買ひて妻ならず 谷口桂子
梅が香に鼻うごめくや猫の妻 中村史邦
梅一枝抱かせて妻の棺を閉づ 石井とし夫
梅一枝昼の妻とも久しかり 松山足羽
梅咲くや妻との旅は子の用のみ 相馬遷子 雪嶺
梅干してうしろに妻のゐる想ひ 佐々木草馬
梅干して妻まだ職を捨てきれず 青木重行
梅干して最後の貞女妻こそは 佐野まもる
梅林にいくさを勝ち来妻を具し来 竹下しづの女句文集 昭和十四年
梅漬けてあかき妻の手夜は愛す 能村登四郎「咀嚼音」
梅白し隠れて妻は尿すも 清水基吉 寒蕭々
梅莚はや古妻といひつべし 内藤吐天 鳴海抄
梅酒など溜め山妻になりきりし 前田けさ子(裸子)
梅酒ふふめば捨てし妻の座翳るなり 山田みづえ
梅酒ふゝめば捨てし妻の座翳るなり 山田みづえ
梅酒をかもすと妻は実をおとす 山口青邨
梅雨あけの雷ぞときけり喪の妻は 石田波郷
梅雨ごめの片手庇ひに水仕妻 皆川白陀
梅雨の夜の川音妻の膝くづれ 石橋辰之助 山暦
梅雨の木のごとくに妻の脚立ちぬ 城取信平
梅雨の漏しばらく聞きて妻泣かす 小林康治
梅雨の病廊屍のごとき妻擔はれ来 小林康治 玄霜
梅雨の蝶妻来つつあるやも知れず 石田波郷
梅雨家居あれもこれもと妻頼み 高澤良一 寒暑
梅雨寒の廊に転がり鬱の妻 猿山木魂
梅雨寒の肱をあらはに火焚く妻 猿橋統流子
梅雨永し二階を妻の歩く音 辻田克巳
梅雨深し泣きても妻はあまえの座 大石悦子 群萌
梅雨溢る埠頭の端や妻癒えず 小林康治 玄霜
梅雨蒸しておのが妻さへいとはしき 森川暁水 黴
梅雨蒸す夜妻とほざけてひとり寝る 森川暁水 黴
梅雨見つめをればうしろに妻も立つ 大野林火(1904-84)
梨の花妻を老いしめてはならず 綾部仁喜 樸簡
梨をもぐ妻にしたがふ母居りし 窪田 竹舟
梨を食ふ白歯さびしや子無妻 森川暁水 黴
梨剥くと皮垂れ届く妻の膝 飛旅子
梨剥くやひとの夫とひとの妻 野村喜舟 小石川
梨噛みて秋も浴衣の妻と居ぬ 森川暁水 淀
梨花散り敷けり手に父と妻の便り 加倉井秋を
梵妻が小豆引きをり根本寺 阿部すず枝
梵妻が鐘つく桃の花ざかり 細川加賀 生身魂
梵妻と立話して冬紅葉 松田美子
梵妻の世事に習ひて土用灸 衣巻梵太郎
梵妻の僧にもたらす蚊遣香 小林正夫
梵妻の如露の作務や打振りて 八木林之介 青霞集
梵妻の貌冬めきてありにけり 牧野春駒
梵妻も一目置くや彼岸婆 橘 榮春
梵妻をちらと見かけし霙かな 波多野爽波 『湯呑』
梵妻を恋ふ乞食ありからすうり 飯田蛇笏
梶の葉やあはれに若き後の妻 日野草城
棒針を納めて妻の刻ありぬ 荒井
棒鱈や下戸の夫と下戸の妻 近藤昌子
棗熟れ爪先上がりに妻籠宿 高際君子
椋鳥とんで妻にかがやく西真赤 飴山實 『おりいぶ』
植木屋の妻の訃知りぬ十二月 沢木欣一 赤富士
椎の花日雇妻の額狭し 岩田昌寿 地の塩
椽側に切干切るや繪師か妻 大根干 正岡子規
椿が咲きましたと活けに来た妻 北原白秋
椿の実拾へる妻を見つつ謝す 石田波郷
楓の芽燃えたつ妻よ男の子生め 岡部六弥太
楢の葉雪のように積もる日出てゆく妻 西川徹郎 瞳孔祭
極月や妻にかはらす野辺おくり 森川暁水 黴
榛の影妻の影あり春の水 鈴木しげを
権妻の琴の稽古や梅の花 梅 正岡子規
樫落葉妻居ぬ一日永かりき 石田 波郷
樹のリンゴ地上の妻の籠に満つ 津田清子 礼 拝
檜笠着て頬の若さや山家妻 原石鼎
檸檬一顆妻との時間きらきらす 石寒太 翔
櫛その他遠くに妻が燃え麦秋 岩城 久治
櫻桃や妻銀髪をひたかくす 古舘曹人 砂の音
次の間に妻の客あり寝正月 日野草城
次足してからくりに妻慰むや 絵馬寿
歌にあるいとど跳ぶぞと妻にをしふ 森川暁水 黴
歌に見る三人の妻や人麻呂忌 下村梅子
歌やめて太りし妻や人麿忌 肥田埜勝美
歌留多讀む息づき若き兄の妻(郷里人吉の老父のもとにて妻子と共に正月を迎ふ) 上村占魚 『霧積』
歌舞伎座へ妻に従ふ初芝居 中谷静雄
正月や一歯欠けたる妻の顔 佐野青陽人
正装は妻を寡黙に菊日和 廣井國治
歯の潔き妻なり蕗は煮て青し 千代田葛彦 旅人木
歳下の妻を頼みに秋なすび 今枝立青
歳晩の書斎の出入妻に愧づ 林翔 和紙
歳晩の脚立に妻の指図待つ 安居正浩
歳晩やかの人もまた妻に蹤き 片山由美子 天弓
死にゆく妻の足うらのよごれ拭いてやる 栗林一石路
死に近き妻に団扇の風送る 石倉啓補
死ぬるまで早起き妻か露万朶 小野 喬樹
死ぬ妻が寒しと言ひし西日寒し 齋藤玄 『玄』
死を言ふ妻はげしく叱す北風の中 徳永山冬子
死期迫る妻と二人の銀河夜々 石井とし夫
死顔の妻のかしづく深雪かな 石原八束 操守
残菊や擁ねば妻女めく 小林康治 玄霜
残雪の秩父見ゆ妻へ投函す 榎本冬一郎 眼光
殺ばつな後報や陸相の顔に粛然とひげがあつて妻は読むでもない 橋本夢道 無禮なる妻抄
殺めたる百足虫の妻かやや小さし 沢井山帰来
母が焚く門火に妻も焚き添ふる 梅田真三
母であり妻であり夏季講座にも 高野美佐子(雲の峰)
母でなく妻でなく水餅に灯ともして きくちつねこ
母と妻街の噂を桜餅 深見けん二
母なくて夜々の温石妻も抱く 細谷源二 砂金帯
母に妻代りそめにし梅干すも 清水基吉 寒蕭々
母に山河妻に山河や日脚伸ぶ 小林康治
母の咳妻の歯ぎしり寒夜の底 香西照雄 対話
母の日の今日を母さび勤め妻 林翔 和紙
母の日の妻の真白き割烹着 伊東宏晃
母の日の母のごとくに妻のゐて 保坂伸秋
母の日の老妻をまのあたりにす 松村蒼石 雁
母の日や古き世を言ふ妻とをり 森田公司
母の日や指輪緩みし妻の指 岡田貞峰
母の日や頼りの妻の母に似て 成田昭男
母の日よ妻の日よ供華に埋づもれて 殿村菟絲子 『旅雁』
母へ向く妻にのこされつゝ涼し 杉山岳陽 晩婚
母よりも妻病弱や障子貼る 森川暁水 黴
母よ妻は此処にあり鶏頭の咲く此処に 杉山岳陽 晩婚
母老いて妻をさそへり酉の市 白岩 三郎
毛糸の玉いくつか抱へ夜に座つた妻です 人間を彫る 大橋裸木
毛糸玉ころがす妻の老眼鏡 荒川邪鬼
毛糸玉膨らむ妻の胸もとに 冨田みのる
毛糸編はじまり妻の黙はじまる 加藤楸邨
毛糸編みをり妻の明日の暗からず 岡田 貞峰
毛糸編み出して動かぬ妻となる 片山冬紅子
毛糸編む妻に戦火の遠けれど 岸風三楼
毛糸編む妻のかなしみ知れど触れず 成瀬櫻桃子 風色
毛糸編む妻をはなれずあづかり子 森川暁水 黴
毛絲編む妻に戦火の遠けれど 岸風三樓
毛虫焼く妻の次第に大胆に 水島三造
気ままなる妻との暮し小鳥来る 深見けん二 日月
気ままな旅で 妻の指さす方へ曲る 大橋麦生
気疲れに病む妻か夏終るより 石塚友二 光塵
水と火の妻の業終へ年明くる 能村研三 鷹の木
水にこゑかけ元日の厨妻 原裕 新治
水のみに育つ水菜よ浄き妻よ 柴田白葉女 牡 丹
水中花妻の妹の子を膝に 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
水切つて妻の寒がる伊部焼 辻田克巳
水壺と灼け翻る乙女妻 小檜山繁子
水平の妻を夏暁の救急車 鈴木鷹夫 風の祭
水温むうれしさをわが身重妻 鈴木しげを
水温むことも喜び妻癒えぬ 橋本榮治 麦生
水温む妻はうたかたを云えり 伊地知建一
水無月や青き火を擦る青き妻 磯貝碧蹄館 握手
水番す妻の匂ひの闇継ぎて 渡部柳春
水盗むことを覚えし異国妻 笠原杜志彦(斧)
水盤に行李とく妻や夏ごろも 飯田蛇笏 山廬集
水着まだ濡らさずにゐる人の妻 鷹羽狩行
水羊羹妻の作法に従へり 菅野洋々
水草生ふうなづきながら眠る妻 岸本尚毅 舜
水貝や妻をのがれて街にあり 椎葉牧之
水透く花器二月は妻も透くごとし 友岡子郷 日の径
水道が妻と麦とにわかれけり 攝津幸彦
水鉄砲浴びる妻篭の宿はずれ 松山節子
水餅にものいふわれの知らぬ妻 鷹羽狩行 遠岸
水餅をなぶる妻の手姑の手 市堀玉宗
氷柱太る妻と励まし合へる夜も 栗田九霄子
永き日や何の奇もなき妻の顔 日野草城
汐曇り鯨の妻のなく夜かな 蓼太
汗のもの山と洗うて看取妻 山田不染
汗入れて妻わすれめや藤の茶屋 蕪村「夜半叟句集」
汝が若妻の日なり夜店で買いしこの味噌壺 橋本夢道 無礼なる妻
汝はなぜわが妻なりや梅雨屍 齋藤玄 『玄』
池普勝梵妻これに桑鏑提ぐ 八木林之介 青霞集
沈丁の香まみれに寝て妻寄せず 吉田未灰
沈黙は妻の反抗毛糸編む 司馬圭子
沖は灯をたかべ五匹を妻と買う 森田緑郎
沙羅の花妻逝きてより咲きにけり 江島つねを
油虫多きわが家に妻迎ふ 茨木和生 木の國
油虫跋扈厨に隣る妻の閨 磯貝碧蹄館 握手
法師蝉啼く日となりて妻は亡し 臼田亞浪 定本亜浪句集
法師蝉妻なき子なきときはなき 友次郎
波郷忌を妻が虔しみゐたりけり 細川加賀
泣きぼくろしるけく妻よみごもりぬ 篠原鳳作 海の旅
泣きやすき娘子となりぬ風邪の妻 上村占魚 球磨
泣き初めの病妻なだめかねつあり 西本一都
泣くために来し極月の妻の墓 内山泉子
泣くまい妻の火によせる顔がやせているのも 橋本夢道 無禮なる妻抄
泣虫の妻に一日づつの冬 山本歩禅
泥濘に児を負ひ除隊兵その妻 伊丹三樹彦
泥葱に古妻雨を怖れけり 龍胆 長谷川かな女
泪ぐむうれしさを妻は雪みつゝ 杉山岳陽 晩婚
泰山木ひらけど妻と世を異に 小川原嘘帥
泰山木妻へ傾く夜の雲 原裕 葦牙
泳がざる身がしほたると妻のいふ 筑紫磐井 婆伽梵
泳がしむ子の蹠よ去りし妻よ 槐太
泳ぎきし髪をしぼりて妻若し 福永耕二
洋書手に学生の妻秋刀魚焼く 川原友江
洗い上げ白菜も妻もかがやけり 能村登四郎
洗はれて妻よりしろき新牛蒡 片山鶏頭子
洗ひ上げ白菜も妻もかがやけり 能村登四郎 咀嚼音
洗ひ飯ならひのごとく妻は食ぶる 瀧春一 菜園
洗濯機の反転忙し昼寝妻 田部黙蛙
流星のはたてのあらば妻宿らむ 吉田鴻司
浅妻の烏帽子をなでる柳哉 柳 正岡子規
浅漬や今年の出来の妻の味 高野玉風
浅草を妻も愛せりラムネ飲む 平山たかし
浜風や遍路の妻のおくれがち 高橋淡路女 梶の葉
浮人形見てゐて妻とはぐれけり 永澤 謙
浮氷まひるの妻の唇咲けり 磯貝碧蹄館
浴衣きて生業はなれたり舸子が妻 誓子
浴衣着て妻に残照ある如し 細川加賀
浴衣着て妻も飛び入り湯揉みショウ 高澤良一 随笑
海の日も干して炊ぎて漁師妻 福永鳴風(辛夷)
海女として鉄道員の妻として 上野泰(1918-73)
海棠やきのふ娶りし宿の妻 海棠 正岡子規
海見たし妻たる汗の憂き夜は 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
海豚身をくねりぬ中尉妻思へり 藤後左右
海賊の妻になりたい青木の実 加藤ミチル
消炭の壺のありどは妻にのみ 皆吉爽雨
消炭や妻がかくしてゐる煙草 石川桂郎 含羞
涙ぐむ病妻さすり日短か 西本一都
涙のごと妻と白鷺梢に棲み 阿部完市 絵本の空
涼しきダム友とその妻の間に見る 寺田京子 日の鷹
涼風の妻に槌目の鍋ひとつ 友岡子郷 未草
淡きはは濃き妻土用すぎにけり 長谷川双魚 風形
淡雪や妻がゐぬ日の蒸し鰈 臼田亞浪 定本亜浪句集
淡雪を駈けぬけて来し妻の髪 皆川白陀
深く妻の腕をのめり炭俵 能村登四郎
深海魚めきて妻をり青すだれ 工藤義夫
清水の舞台に妻が立ちて春 鈴木鷹夫 風の祭
清潔な匂ひの梨は妻が剥く 有働亨 汐路
渓紅葉真紅の妻の振りかへる 落合水尾
渚に妻白浪に敵敵を愛す 隈 治人
渡守の妻が砧や川向ひ 寺田寅彦
渡御筋の二階妻女の帯結ぶ 松村蒼石 寒鶯抄
温め酒妻にもすすめ風木忌 林 徹
湖上噴水うしろへ折れる妻の声 磯貝碧蹄館
湯ざめして或夜の妻の美しく 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
湯を浴みて妻もようやく冬至顔 高澤良一 随笑
湯婆抱き妻謀らむとはかりをり 小林康治 玄霜
湯気立てることも忘れず看取妻 鈴木蘆洲
湯豆腐や妻を恃みの病後食 伊東宏晃
満月や腰が冷ゆると妻のいふ 臼田亞浪 定本亜浪句集
満面に初日妻つれわたる畦 石川桂郎 含羞
溝萩に通ひ妻吾も窶れけり 石田あき子 見舞籠
滅多には握る日もなく握ればかたき妻の掌 橋本夢道 無禮なる妻抄
滴る冬日血を弾ませて濯ぐ妻に 磯貝碧蹄館 握手
漁夫の櫂妻問ひくれば野火遠し(「さねさし相模の小野に燃ゆる火のほなかに立ちて問ひし君はも」弟橘姫最後の歌と伝ふも、春日焼畑の火に妻問ひせし古代相聞歌なり) 角川源義 『神々の宴』
漬け茄子のまぶしき色や妻の恩 大矢章朔
漬茄子の紺さえざえと子なし妻 星野麦丘人
潮越えの妻も浮ぶや人丸忌 古館曹人
濡れて来し雨をふるふや猫の妻 炭 太祇 太祇句選後篇
濯ぎつつ炊ぐ師走の艀妻 道川虹洋
濯ぎ女に垂るる藤の実妻籠宿 豊長みのる
濯ぎ干す妻の影ある障子かな 山口いさを
濯ぐ妻に春寒き日の雲を洩る 古沢太穂 古沢太穂句集
濯ぐ妻夜も夏雲は膨れおり 飴山實 『おりいぶ』
灌仏の杓をうしろの妻に渡す 高室呉龍
火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり 秋元不死男
火に仕へ火に映え霧の拓地妻 加倉井秋を 『風祝』
火のつきし秋刀魚を妻が手で掴む 早矢仕一况
火の山や妻指す方に野火走る 冨田みのる
火を熾す妻の背にきて秋立つか 森 澄雄
火事とほし妻がしづかに寝がへりぬ 安住敦
火事を見し昂り妻に子に隠す 福永耕二
火恋し妻を邪険にしてをりぬ 吉田未灰
火鉢より吾子みてあれば妻もみつむ 川島彷徨子 榛の木
灯して妻の瞳くろし秋の*かや 飯田蛇笏 山廬集
灯ともして妻の瞳くろし秋の*かや 飯田蛇笏 霊芝
灯の前にはにかむ妻や宵の春 西山泊雲 泊雲句集
灯入して妻生々と暮雪かな 杉山岳陽 晩婚
灯火親し生涯妻に机なし 小林宗一
灯点して妻現れず春の家 岩城久治
炉の妻の膝の公教要理かな 景山筍吉
炉塞やよんどころなく妻を去る 炉塞 正岡子規
炉話に時々応へ厨妻 森本古声
炉辺よりこたふる妻や秋の蚊帳 飯田蛇笏 山廬集
炉開きの妻にふえたる童弟子 中戸川朝人 星辰
炎天の大仏へ妻と胎内の涼しさに 橋本夢道 無類の妻
炎天へ妻着て出づるジャワ更紗 高澤良一 ぱらりとせ
炎天を大きな腹でくる路地の妻女と目で挨拶 橋本夢道 無礼なる妻
炎天を来て無類の妻の目の涼しさ 橋本夢道 無類の妻
炎天を歩きまはりて妻なき如 榎本冬一郎 眼光
炎昼や妻へのたより懐に 角川源義
炎熱や癌の吾を俯仰天地に妻祈る 橋本夢道 『無類の妻』以後
炒飯を妻に分け置く一茶の忌 しかい良通
炬燵寝の妻の眼元の涙かや 京極杞陽
炬燵寝やあまり幼き妻の夢 雉子郎句集 石島雉子郎
炬燵居や妻へかたむく子等の情 栗生純夫 科野路
炭をつぐその手その肩妻よべば 加藤楸邨
炭を挽く妻に夕陽の微塵立つ 桂樟蹊子
炭出してゐる音す母か妻か 田村了咲
炭売のおのが妻こそ黒からめ 重五 (なに波津にあし火焼家はすゝけたれど)
炭掴む手袋にして妻のもの 竹原梢梧
炭斗と亡き妻の座はそのまゝに 戸田銀汀
炭火吹き技師の宿命を妻は知る 米沢吾亦紅 童顔
炭焼の妻のちひさき鏡かな 船山
点滴の飴色春夜の術後妻 奈良文夫
烏瓜つまづき多き妻の座に 河野多希女 琴 恋
無口なる妻と無口に大根蒔く 甘田正翠
無口な妻といて神経質な夏署くなる 住宅顕信 未完成
無垢の星背負ひし妻の墓洗ふ 石原八束 『風霜記』
無禮なる妻よ毎日馬鹿げたものを食わしむ 橋本夢道
無花果食べ妻は母親ざかりなり 堀内薫
無言とは妻の仕打ちの秋の霜 澤 悦子
無言館への坂道妻と斑猫 鈴木明(野の会)
無類の石組み夏朝の大阪城に古妻と 橋本夢道 無類の妻
焼米を搗く家並妻の家の灯も 安斎櫻[カイ]子
焼藷を買はんと思ふ妻の留守 小西魚水
焼野の橋渡る別居の妻が見ゆ 細川加賀
煤の日の妻の届かぬところを拭く 高澤良一 随笑
煤はらふ子の丈を妻仰ぎをり 岡田貞峰
煤払妻に従ふ一日かな 丸岡正男
煩悩の掌かざす火桶妻も来よ 康治
煮凝も心許なく妻没後 後藤比奈夫 めんない千鳥
煮凝やほのかにくらき妻の国 瀬川紅司
煮凝やわれを大事に宿の妻 森川暁水 黴
煮凝や二日つゞきし妻の留守 村上杏史
煮凝や今に知らざる妻の齢 森川暁水
煮凝や凡夫の妻の観世音 日野草城
煮凝や妻にひとつの無尽講 青木重行
煮凝や赤きうるしの妻の箸 森川暁水 黴
煮凝りになりたる妻の縫目かな 穴井太 原郷樹林
煮蕨や妻がひろぐる旅のもの 古館曹人
熊蝉に 妻の習字は小半時 伊丹三樹彦 一存在
熊野に死す重きかすみを妻にして 夏石番矢
熔接の火にぱっと あいつも妻がおる顔 柴田義彦
熟れメロン妻に執刀ゆだねたり 児玉 寛幸
熱帯夜きのふ蛇みて妻病みし 斉藤夏風
熱燗し妻をしまひの湯にゆかす 木津 柳芽
熱燗に侍りし妻の二十年 瀧澤伊代次
熱燗の一杯だけは妻のもの 湯田芳洋
熱燗や口先で妻褒めあげて 谷口稠子
熱燗を過ごし亡き妻ちらつきぬ 小田実希次
燃えさかるどんど妻への餅も焼く 神原栄二
燈の障子月見草色妻和むか 香西照雄 素心
燈をかばふ妻より若し背戸の裸木 細谷源二 砂金帯
燈心草間借り一と間を妻と分つ 成田千空 地霊
燈火親しき座にして妻の座にあらず 鈴木栄子
燈臺守とその妻夜の井戸潮鳴りす 金子兜太
燒栗や妻なき宿の角力取 相撲取 正岡子規
燕のように高階の妻胸そらす 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
燕の子妻の机に塩の瓶 飴山實 『おりいぶ』
燕来る妻の機嫌のよき日なり 有山城麓
燕来る野良着の妻が水跳べば 大熊輝一 土の香
燗熱し妻をしまひの湯にゆかす 木津柳芽
燗酒酌む妻の知らざる綽名もて 平井さち子 紅き栞
燻り炭胎児に代り妻むせぶ 鷹羽狩行 誕生
爆竹を妻が買ひ来る妖怪日 城間捨石
爐の妻の半身がくれに牡丹見ゆ 松村蒼石 春霰
爐話の老妻記憶よかりけり 鈴木洋々子
爐辺よりこたふる妻や秋の*かや 飯田蛇笏
爪噛む癖のわびしさを夜の妻に見た 人間を彫る 大橋裸木
爪立ちに鶴を覗ひ妻凍つる 原裕 出雲
父に供へ妻が相手や今年酒 今泉貞鳳
父の日の後姿を妻が言ふ 有働 亨
父も母も妻も仏や新小豆 森澄雄
父母の忌に続く妻の忌梅雨に入る 北村聖火
父遠くへ妻も遠くへ盆終る 石井とし夫
爽かに母への荷札妻が書く 木村蕪城 寒泉
片時雨妻篭街道光らしむ 岡田智彦
片栗の群落にゐて妻無色 清水逍径
片蔭や会へば妻にも会釈して 黒木夜雨
片陰をゆづられ共に見舞妻 飯野てい子
牛肉を妻に食はさん青嵐 岸本尚毅 舜
牛肉を雪に買ひ行き妻は留守 京極杞陽 くくたち下巻
牛載せて妻迎舟漕ぎ出しぬ 七夕 正岡子規
牡丹や眠たき妻の横坐り 日野草城
牡丹忌と僣称すべく亡妻に 河野静雲 閻魔
牡丹雪その夜の妻のにほふかな 石田波郷(1913-69)
牡礪飯冷えたりいつもの妻君 河東碧梧桐
牡蠣を割る妻よゑくぼのいつ失せし 佐野まもる 海郷
牡蠣好きの母なく妻と食ひをり 杉山岳陽 晩婚
牡蠣打ちの妻の姿を遠まもる 佐野まもる 海郷
牡蠣食へば妻はさびしき顔と言ふ 杉山 岳陽
牡鶏の威嚇のビール妻階下 藤後左右
牧に満つ平安百合は妻が手に 有働亨 汐路
物しらぬ妻と撰ぶや虫の声 高井几董
物干の洗濯やめん妻問ふ猫 西調 選集「板東太郎」
犬ふぐり妻と墓地買ふ話など 松井牧歌
犬来てもどくだみ臭し妻病めば 田中午次郎
犬猫にしたはる妻よ胡麻叩く 大熊輝一 土の香
独楽廻る青葉の地上妻は産みに 金子兜太「少年」
独活採りのこつ覚えたり教師妻 本井八重
狸汁妻にころりと騙されて 雪田一石
狼吠ゆ芯から妻の淋しき夜 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
猫が仔を産みし数さへ妻忘る 右城暮石 声と声
猫だいて妻の夏痩はじまれり 長谷川双魚 風形
猫にくはれしを蛬の妻はすだくらん 其角
猫の妻かの生節を取畢 炭 太祇 太祇句選
猫の妻へつひの崩れより通ひけり 芭蕉
猫の妻昨日の恋の名残り見せ 綿利信子
猫の妻竃(へつひ)の崩れより通ひけり 芭蕉
猫の妻竃の崩れより通ひけり 松尾芭蕉
猫の妻竈(へつひ)の崩れより通ひけり 松尾芭蕉
猫の妻腹をしぼりて鳴きにけり 京極杞陽
猫の妻藁の上にも帰らずに 萩原麦草 麦嵐
猫や犬になつかるる妻花蘇枋 八木林之助
猫目石のやうな目をして猫の妻 攝津幸彦 鹿々集
猫舌が冷え性の妻を舐めてみる 仁平勝 東京物語
猿曳は妻も子もなし秋のくれ 秋の暮 正岡子規
獄を出て触れし枯木と聖き妻 秋元不死男(1901-77)
獄凍てぬ妻きてわれに礼をなす 秋元不死男
獄長したえよと妻が云うセル着 橋本夢道 無禮なる妻抄
獏枕妻より子より早寝して 大久保白村
獨房の窓に炎天青く妻を追う 栗林一石路
玉の露呼べば応へて妻そこに 清水基吉 寒蕭々
玉子茹でて妻よ晩夏の誕生日 原田青児
玉子酒妻にもすすめ明日は旅 高樹旭子
玉菜は巨花と開きて妻は二十八 中村草田男「萬緑」
玉葱やふるさとに来て妻若し 高橋悦男
玉虫が寝間着の妻に殺めらる 齋藤玄 『玄』
玉虫は玉虫びかり妻あれば 千代田葛彦
玉虫を筥にし縫へり家居の妻 森川暁水 黴
玉虫を黙つて妻に渡しけり 太田土男
珍しき妻のお針や春の雪 金箱戈止夫
珍客に咄嗟の妻が零余子飯 吉沢無外
瓜刻む小気味よき音妻今日も 是永三葉
瓜干しておきたる妻の留守を守る 荒木嵐子
瓢箪は瓢箪となる妻が畑 山口青邨
瓶に直立菜の花影す夜の妻 中山純子 沙羅
甘藍に影なす妻の立てるなり 杉山岳陽 晩婚
甘藍を抱き来るは妻にあらずや 杉山岳陽 晩婚
甚平の背中が妻の小言聞く 佐藤岳灯
甚平を着て妻に子に疎まるる 茨木和生 倭
生きざまを妻な笑ひそ初明り 水野 柿葉
生きてあれば妻なに書きし初日記 後藤比奈夫 めんない千鳥
生きの身の妻との間すさまじき 石塚友二
生きの身の妻との間冷じき 石塚友二
生きるてふ気力に梅雨を病める妻 石山佇牛
生きると誓い氷雨へ帰り行く妻よ 折笠美秋「君なら蝶に」
生き生きて妻と二人の老いたらば帰らむ英彦山(えいげん)よ雪の降る見ゆ 伊藤保
生まの掌に生まの蛍火妻享けよ 辻田克巳
生前の妻をふちどる枯蕨 齋藤玄 『玄』
生涯に妻は一人や霊送 田並豊涼
生涯に妻は一人や魂送り 田並豊涼
生涯の妻の働き葛の花 村山直太郎
生涯を妻たるを得ず夏暖簾 鈴木真砂女
生身魂八十路の母へ妻逢ひに 近藤一鴻
産月の妻につくづくぼうしかな 杉山岳陽 晩婚
甥姪の機嫌気妻や胡瓜揉 石塚友二 光塵
田が始り厨に裸足朝の妻 大熊輝一 土の香
田楽や妻には妻の五十年 水原春郎
田楽や山水走る妻の里 肥田埜勝美
甲虫眠らず妻と飛行の木立かな 白井重之
町に逢ひ妻と荷わかつ秋の暮 茂里正治
町中の坂に夜寒の妻を伴ふ 内田百間 百鬼園俳句
畑打たぬ妻をもらつてしまひけり 市野川隆
留守がちの夜を守る妻の綿子かな 召波
留守もりし妻の打ちたる水としる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
留守居妻他人の咳に夜をたのむ 竹下しづの女
畠起す時亡き妻と並ぶなり 秋澤猛
畦塗つてしだいに妻へ近づきぬ 市村蘇風
異人墓地日本の妻の名も灼けぬ 細川加賀 生身魂
異邦人妻の小春と鵙の墓(モラエス墓) 角川源義 『冬の虹』
畳建具妻より古く夏去りぬ 下村槐太 光背
病ひよき妻ゆゑ眩し青瓢 成田千空
病むわれに妻の観月短かけれ 日野草城
病む夫に青きを踏ます妻の助 牧野春駒
病む妻が眼をみはりをり螻蛄の縷々 篠田悌二郎 風雪前
病む妻と倚る元朝の大玻璃戸 本井英
病む妻にふるさと遠き秋彼岸 川口利夫
病む妻にほころびを縫つてもらつてゐる 人間を彫る 大橋裸木
病む妻にわれはすこやか胴着ぬぐ 麻田椎花
病む妻に嘘いくつ言ふ枇杷の花 能村登四郎
病む妻に家族に花の過ぎにけり 嶋田一歩
病む妻に笑ひを与ふわが鼻日焼の鼻 磯貝碧蹄館 握手
病む妻に花落すなよ寒椿 今泉貞鳳
病む妻に迫りて梅の荒みかな 斎藤玄 雁道
病む妻に障子貼りつつことばかな 森川暁水 黴
病む妻のうしろにそつと猿廻し 神宮司茶人
病む妻のすそに豆撒く四粒ほど 秋元不死男
病む妻の佗助の番するでなし 齋藤玄 『雁道』
病む妻の寝嵩恋ひをり雷恋ひをり 小林康治 玄霜
病む妻の我をみてゐる昼寝かな 吉岡泰山木(南風)
病む妻の我を見て居る昼寝かな 雑草 長谷川零餘子
病む妻の眸涼しく頷きし 野川枯木
病む妻の祈る夏雲神に見え 今泉貞鳳
病む妻の裾に豆撒く四粒ほど 秋元不死男
病む妻の頬に紅さし春近し 清田柳水
病む妻の顔の白い日の暮に座つてゐる君だ 人間を彫る 大橋裸木
病む妻へけさ落ちし椎二つ拾ふ 軽部烏頭子
病む妻へ夫が手を貸す吸入器 岡本秀子
病む妻やとゞこほる雲鬼すゝき 太宰治
病む妻をおきて旅なる葛の雨 原田青児
病む妻を翔け越ゆるもの秋茜 中島斌雄
病む妻を見て来聖夜の灯を点す 加藤邑里
病む故の木の葉髪とは妻かなし 本井 英
病む秋や衾の裾に妻の重み 石川桂郎 含羞
病む身と同じもの食べて妻が酷暑に堪へる 人間を彫る 大橋裸木
病む身にて妻の日傘にまもられゆく 白石蒼羽
病よき妻ゆゑ眩し青瓢 成田千空
病妻がくらさ愉しむ木下闇 斎藤玄 雁道
病妻とさやゑんどうの糸をとる 西山一歩
病妻にみせて春笋の土こぼす 渡辺鶴来
病妻に街夏めくを告ぐるのみ 有働亨 汐路
病妻に見せて春笋の土こぼす 渡辺鶴来
病妻のこのごろ元気花かぼちゃ 石田玄祥
病妻のこぶし螢の火をもらす 小川原嘘帥
病妻のさむがる雨や紫苑生ふ 森川暁水 黴
病妻の前しくしくと林檎剥く 辻田克巳
病妻の箸を進めしごまめかな 松本巨草
病妻の素直がかなし戻り梅雨 舞原余史「鶴俳句選集」
病妻の閨に灯ともし暮るる秋 夏目漱石 明治三十一年
病妻を曳く肉片の朧の手 斎藤玄 雁道
病妻を磧へさそふ星まつり 有働亨 汐路
病室に豆撒きて妻帰りけり 石田波郷(1913-69)
病室へ妻会釈して春着きて 鳥居おさむ
病床に呼ばれし妻が跣足かな 吉武月二郎句集
病床に妻もたらしぬ雷除 高澤良一 鳩信
病床に葉牡丹活けて妻帰る 田村了咲
病床の妻に声かけ初出勤 竹内柳影
病棟の凍る灯りに妻の伏す 川口利夫
病癒え妻にもどりし初袷 今泉貞鳳
病葉や妻縦横に鋏使ふ 加倉井秋を
病院に妻の戻れる二日かな 高村寿山
痛む妻へ陽のぬくもりの苺つむ 加藤武夫
痛む妻赤子抱いて立たうとする 人間を彫る 大橋裸木
痢にこやる妻に梅雨空けふも低し 臼田亞浪 定本亜浪句集
癌の妻より遠き声出づ秋の暮 斎藤玄
癌の妻深き息継ぎ三日越ゆ 斎藤玄
癌の妻落花も踏まず日暮れぬる 齋藤玄 『玄』
癌の妻隠元花下を生き急げ 齋藤玄 『玄』
癌の妻風の白鷺胸に飼ふ 斎藤玄(1914-80)
癌の姉看てより気弱夜寒妻 大熊輝一 土の香
癒えゆく妻汗疹の吾子と指切りなど 藤瀬小城彦
登山服妻の恐るゝ界へ発つ 堀内薫
白の中の純白手袋妻へ買ふ 本宮鼎三
白らむ旅寝遥かな闇に妻を託す 隈治人
白団扇妻には貸さじ老けて見ゆ 渡邊水巴 富士
白団扇旅寝の妻の胸の上に 大野林火
白地着てつくづく妻に遺されし 森澄雄「餘日」
白地着て妻やみみしひきはまれり 松村蒼石
白地着て科あるごとし妻の前 小林康治 四季貧窮
白息をまづしく妻も勤めの歩 柴田白葉女 遠い橋
白木槿妻の逝きたる朝の白 沖津をさむ
白木蓮や妻さはり日の翳ふかし 千代田葛彦 旅人木
白朮火の妻のほとりをゆきにけり 古舘曹人 樹下石上
白朮火の闇美しく妻とゐる 羽成 翔
白桃の匂ひがしきり妻の留守 宮脇 龍
白桃や妻の雀斑をかなしめば 小林康治
白桃や死に損ひし妻が笑む 鈴木鷹夫 風の祭
白粉花妻が好みて子も好む 宮津昭彦
白粉花過去に妻の日ありしかな きくちつねこ
白粥を吹きくれる妻晩夏光 目迫秩父
白絹を裁つ妻と居て寒土用 北野民夫
白菜かがやく耳朶ほてらせて洗ふ妻 河野南畦
白菜の一塊を重しと妻は老ゆ 山口青邨
白菜をざつくり妻の朝始まる言釆ハ 市川伊團次
白菜割り妻の閑日華やかに 古館曹人
白菜食べどき妻がたてしよ膳の脚 磯貝碧蹄館 握手
白酒や妻とほろ酔ひ税滯めて 岸田稚魚
白露に得し妻なれや胸あつし 杉山岳陽 晩婚
白露に触れては燃ゆる癌の妻 齋藤玄 『玄』
白露の夜ことば少なく妻といる 影山恒太
白靴の汚れ通ひの看取妻 鈴木 子
白髪太郎がきて引きかえす妻は元気 金子兜太
百千鳥亡妻三十三回忌 八木林之介 青霞集
百合に籠る虻と手芸の妻の昼 中戸川朝人 残心
百合の香や妻の遺影の下に寝る 石倉啓補
百合ひらき数ふゆるほど妻疲れむ 杉山岳陽 晩婚
百合根煮て冬日のごとき妻たらむ 石田あき子 見舞籠
百合植うるうしろに妻が灯をかざす 五所平之助
百姓の妻になりきり水喧嘩 古川あつし
百姓をしてゐる妻へ藺笠買ふ 小谷甘露子
百日紅片手頬にあて妻睡る 加藤秋邨 穂高
百日紅百日咲かば妻癒えむ 青木重行
皮むけば糸を引く蕗妻病めり 道具永吉
皸の妻おのれ諸共あはれなり 石塚友二
皹の妻の手一年長かりし 椎橋清翠
皺ふえきし妻の昼寝の顔咎めず 榎本冬一郎 眼光
皿に萍厨に妻の箱庭あり 高澤良一 素抱
盂蘭盆や東京にある妻の墓 大岡龍男
盂蘭盆や爪痕残る妻の琴 玉置直通
盆が来て水の飛沫の艀妻 友岡子郷 遠方
盆ちかき妻の裁ち屑火のやうに 福田甲子雄
盆の挨拶妻がおもむく西林寺 高澤良一 素抱
盆の月妻が遺せし櫛めがね 今泉貞鳳
盆の月高しこゑはる柘地妻 松村蒼石 春霰
盆前や草見れば引く庭の妻 阿部ひろし
盆礼の母への品を見する妻 亀井糸游
盆礼や妻の母なる大原女 柴田只管
盆近き妻の裁ち屑火のやうに 福田甲子雄
盆過ぎたり妻に八甲田や十和田 相原左義長
盗み見る妻の日記やシクラメン 五十嵐播水 播水句集
盛ぢや花に坐浮法師ぬめり妻 芭蕉
盛りぢや花に坐(そぞろ)浮法師ぬめり妻 松尾芭蕉
盛る夏妻は地力をつけつつあり 高澤良一 素抱
盛装の妻の静けき桐の花 久米正雄 返り花
盛装の手を隠そうとする妻よ 中林一洋
目借時 老いては妻の御意のまま 守田椰子夫
目刺焼いて友らを酔はす座に妻も 森川暁水 黴
目刺焼く妻に不憫をかけにけり 森川暁水 黴
目刺焼く眉晴ればれの三十路妻 石川桂郎 含羞
目張り剥ぐ耳順の妻の恥じらいぬ やしま季晴
目張剥ぐ妻の予定を容認す 越智無蓋子
目白鳴く日向に妻と坐りたり 臼田亞浪 定本亜浪句集
目覚むれば妻も目覚むる曉の虫 高澤良一 寒暑
相恃む妻は還暦古稀の春 西本一都
相恃む月に片照る妻とわれ 山口草堂
相撲取小さき妻を持ちてけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
相模行く夕日の国の妻なりけり 折笠美秋 死出の衣は
眉などは刷かぬ妻なり紅の花 市村究一郎
眉の濃き妻の子太郎栗の花 沢木欣一 塩田
眉剃りて妻の嬉々たる初湯かな 飯田蛇笏 山廬集
眉濃ゆき妻の子太郎栗の花 沢木欣一
看とり妻雁にレースの花咲かせ 大岳水一路
看取り来て夜更けの濯ぎ妻のもの 大友龍子
看護妻出初めて蟻の躓くも 石川桂郎 含羞
看護妻炭火一片許されず 細川加賀 『傷痕』
看護婦に先づ御慶述べ妻見舞ふ 村木海獣子
看護婦の妻の転勤とりぐもり 山口 剛
真白な妻の爪屑水引草 香西照雄 対話
眠りこける妻がこおろぎとなつている 植田次男
眠る子のどこも妻似よ遠い野火 今瀬剛一
眠る間も妻の居ざりし昼寝覚む 右城暮石
眷恋の妻にはありや更衣 齋藤玄 飛雪
眼に妻を促しわたる氷橋 橋本鶏二
眼帯の義母妻に似る暮春かな 中戸川朝人
眼底の牡丹のごとし妻は最愛なる人間である 橋本夢道 無禮なる妻抄
眼鏡はづして泳ぐや浜の妻かすむ 奈良文夫
着てみせて旅装のきまる日焼妻 高澤良一 寒暑
着ぶくれて誰が眼にもただ僧の妻 赤松[ケイ]子
着ぶくれて赤きジヤケツや舸子の妻 高浜虚子
着ぶくれの妻に呼ばれて星数ふ 杉本寛
睡しや妻枯園の雨川瀬めく 石田波郷
睡蓮の紅白妻も夢保て 中村草田男
瞬いて妻瞬いて冬ざくら 高澤良一 随笑
矢車草病者その妻に触るゝなし 石田波郷
知りそめし日のごと三つ編み風邪の妻 茂里正治
短夜のまことをしるや一夜妻 短夜 正岡子規
短日やいつも妻の手濡れてをり 西村愚農
短日や母来て妻をつれ去りぬ 神蔵器
短日や金を届けに妻来たる 椎橋清翠
石女の妻が夜々編む古毛糸 森川暁水 黴
石女の妻悴みて役立たず 森川暁水 黴
石蓴採った妻よ俺よりつめたい足 八木原祐計
石蕗一輪妻の召されてしまひけり 七田谷まりうす
石蕗咲くや僧侶の妻も手内職 瀧 春一
砂のごと抱けば妻は崩れゐぬ 仁智栄坊
砂丘冬妻にひとりの乳児匂ふ 原裕 葦牙
砂山に葱の花咲き妻が郷 岸原清行
砂漠に妻匂う一直線に真黒に 和田悟朗
砧打て我にきかせよや坊が妻 芭蕉
破れ畳妻も諸声あげて担ぐ 早川邦夫
破障子児が覗き妻が茶をよこす 石川桂郎 含羞
硝子戸に鳴く青蛙妻睡る 中戸川朝人 残心
硯洗ふ妻居ぬ水をひびかせて 石田波郷
碪(きぬた)打ちて我に聞かせよ坊が妻 松尾芭蕉
磐座の神に恋すか猫の妻 角川源義
磯嘆き聞けよと妻や声ひそめ 中村草田男
磯掃きて妻の迎へる栄螺舟 相馬沙緻
磯菜摘む人の中なる少女妻 柳青華
祖母で母で妻で女である五月 岩淵喜代子 硝子の仲間
神官の妻の眉濃き三日かな 寺井谷子
神無月 妻のまま盲となりぬ菊枕 宇多喜代子
祭わぶ妻にいもとら泊りに来 森川暁水 淀
祭わぶ妻のゆあみはひるのほど 森川暁水 淀
祭わぶ妻は辞書引き文書けり 森川暁水 淀
祭客妻にまかして供に立つ 木村黄田
祭暮れ亡妻とはぐれしごと戻る 小林波留「天上」
福寿草妻まる顔に女児生むか 柴崎左田男
福寿草茶房に妻と親しみぬ 伊藤白雲
福笑ひ妻をもつとも笑はせて 田村恵蔵
福笑妻も座敷の人となり 青木景信
福達磨妻より受けて出漁す 澤野粂子
私小説めきぬ柿剥ぐ妻あれば 鈴木鷹夫 千年
秋いまだ来がてに妻の窶れをり 清水基吉 寒蕭々
秋の夜のこんなに近く妻がゐて 岸田稚魚 『紅葉山』
秋の夜の妻の戸締り念入りに 高澤良一 素抱
秋の夜の待針あまた打ちて妻 福永耕二
秋の旅明智の妻の墓に逢ふ 加藤三七子
秋の昼妻の小留守をまもりけり 日野草城
秋の蚊帳もぬけし妻が濯ぎをり 萩原麦草 麦嵐
秋の蚊帳涙涸れたる妻臥さす 皆川白陀
秋の蝶五百羅漢の誰が妻よ 渡辺恭子
秋の野の妻へ口笛遠くより 中矢荻風
秋の風箸おきて妻何を泣くや 安住敦
秋を待つ行燈はるや宿の妻 高田蝶衣「青垣山」
秋出水交番所妻が独り守る 石川桂郎
秋刀魚喰ふ今年も妻と別れずに 福島壺春
秋刀魚焼きウィーンの妻を煙らさむ 松山英一
秋刀魚焼き妻はたのしきやわが前に 加藤楸邨
秋刀魚焼くいつしか君の妻となり 大高 翔
秋刀魚焼くけぶりは妻を幸福に 榎本冬一郎 眼光
秋刀魚焼くはや鉄壁の妻の座に 五木田告水
秋刀魚焼く煙の中の妻を見に 誓子
秋十年天女に遠く人の妻 鍵和田[ゆう]子 未来図
秋妻に指頭ほどの癌棲みつく 斎藤玄
秋山を妻と下りくる刻ちがふ 石橋辰之助 山暦
秋彼岸石工の妻になりきつて 野口絹子
秋心澄む妻へ慈眼の阿弥陀仏 橋本夢道 無類の妻
秋扇や遥かの簗に妻のゐて 鈴木鷹夫 春の門
秋日に憩へよ箒と塵取りを持ちつ妻よ 磯貝碧蹄館 握手
秋日満つ妻の畑のとびとびに 石橋辰之助 山暦
秋晴や振向きてまた妻を待ち 近藤和子
秋海棠桶にあふれて妻篭宿 中山明代
秋深き妻の起居の生む音も 新明紫明
秋灯に笛持てば妻に遠ざかる 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
秋灯下句誌より妻の遺句拾ふ 秦羚羊子
秋立つや寝顔愛しき夜の妻 石塚友二 光塵
秋而今(にこん)生(なま)亡妻ぞうつくしき 永田耕衣 人生
秋而今生亡妻ぞうつくしき 永田耕衣 人生
秋胡子が妻とも見えす菽を引く 尾崎紅葉
秋草を一本挿して妻の留守 染谷秀雄
秋草を折り敷き後事妻に言へる 岸風三楼 往来
秋蝉に今日は声為す妻の唇 伊藤松風
秋野充分見渡してから鮒洗う妻 安井浩司 乾坤
秋風にかけ声もらし薪割る妻 永田耕一郎 氷紋
秋風に孤つや妻のバスタオル 波多野爽波 『湯呑』
秋風の天守閣より妻の顔 岸田稚魚
秋風や俯向くを妻としてみたり 杉山岳陽 晩婚
秋風や天守閣より妻の顔(松本) 岸田稚魚 『雪涅槃』
秋風や妻なほなじむ鯨尺 有働亨 汐路
秋風や妻に秘めたる借すこし 塚本烏城
秋風や妻の雀とわが雀 加藤秋邨 怒濤
秋風や妻もたしかに長城踏む 横山白虹
秋風や眼を病む妻が洗髪 寺田寅彦
秋風や肥桶妻と担き替る 石橋辰之助 山暦
秋風や肥桶妻と擔き替る 石橋辰之助
秋麗の産後まばゆき妻迎ふ 能村研三 騎士
秘むべきは妻の衛生寶典か 筑紫磐井 花鳥諷詠
稚妻みごもるころに秋祭 百合山羽公 故園
種蒔くや大地に曲る妻の胴 澤木欣一
種蒔けば芽が出て妻をおどろかす 長谷川双魚 『ひとつとや』
種蒔や妻も子も出て野弁当 種蒔 正岡子規
稲びかり妻も陰画にしてしまふ 平瀬 元
稲刈のしぐるゝ妻を叱り居り 竹下しづの女 [はやて]
稲架を結う助けに妻も出て行けよ 石橋辰之助
稲車うしろさらさら穂ずれの妻 草田男
稼ぎ妻戻る一束の葱のぞかせ 茂里正治
穀象といふ虫をりて妻泣かす 山口波津女「良人」
穴まどひ見てゐる妻の胸動く 鈴木鷹夫 春の門
空とぶ花妻の呼び名もまぶしさよ 子郷
空に光沢「愛の日」を妻が干竿上ぐ 磯貝碧蹄館
空は太初の青さ妻より林檎受く 草田男 (居所を失ふところとなり、勤先の学校の寮の一室に家族と共に生活す)
空真つ赤妻に秋刀魚を買はせをり 町田しげき
空蝉や妻に肩借す寺の階 原 石水
空蝉を見る妻の瞳のうるむなり 杉山岳陽 晩婚
窓あけて妻に触れさす花の風 甘田正翠
窓が嵌む野分走りの通ひ妻 石川桂郎 含羞
窓にさすつきかげに寒さつのりつつ泣くみどりごに妻はいらだつ 大河原惇行
窓に銀河妻ならぬ人おもひ寝る 上村占魚
窓の藤煌くや殊に妻居ぬ日 中塚一碧樓
竃火赫とただ秋風の妻を見る 飯田蛇笏 山廬集
竈猫尻の大きな妻がいる 和田幸司
立ちどまりては陽炎をふやす妻 丸山しげる
立ち憩ふ夫を見上げ田植妻 橋本鶏二 年輪
立夏なり木綿豆腐もわが妻も 鈴木鷹夫 千年
立春のはら~雨に妻外出 高田風人子
立膝の妻の爪切る女正月 薗田よしみ
端午なり家妻われに旅ゆるされ 及川貞
端居してかなしきことを妻は言ふ 村山古郷
端居して妻となげかふおのが性 米沢吾亦紅 童顔
端居して開く妻の書星呼べり 奈良文夫
端居して隣家に妻の声を聞く 鈴木鷹夫 渚通り
竹の子やこたびは妻をつれて旅 澄雄
竹の子や襟元つくろひ育ちし妻 香西照雄 対話
竹皮を脱ぐや愚かな妻でよし 黛執
竹落葉哀しかなしと掃く妻に 楠本憲吉
笑はせて妻を励ます納豆汁 阪田昭風
笑ふ時淋しき妻よ春袋 宮林釜村
笛を吹く妻は良かりし桐の花 白川 仁
笹子鳴く妻の言葉のあと満たし 加倉井秋を 『真名井』
笹鳴きや妻いくたびも燐寸擦る 加倉井秋を 『胡桃』
笹鳴や妻いくたびも燐寸擦る 加倉井秋を
笹鳴や鉛筆書きの妻の遺書 三村太虚洞
筆措いて妻と十六むさしかな 後藤比奈夫
筆硯わが妻や子の夜寒かな 飯田蛇笏 山廬集
筆買ひし妻の砦よ牡丹雪 小林康治
等分にメロン切る技妻にあり 神尾久美子
筍のごつんごろんと妻の留守 鈴木鷹夫 春の門
筍の皮妻の手に易々と散る 百合山羽公 寒雁
筍を煮しめて妻の二日旅 加藤武夫
筍を煮るつくづくと妻の顔 石川桂郎 含羞
策無きに怒る雪山の中の妻 石橋辰之助
箒手に妻が出て来る寒雀 梧逸
節分や身二つにし妻戻る 湯沢麗子
簡単に黒い顔せり漁夫の妻 高見鷺城
簾買ふのみに妻出づ朝餉あと 白岩 三郎
米櫃に米満たす妻桃の花 磯貝碧蹄館
籾摺や俵かぞへて妻幾度 細川路青
粕汁に酔ひし瞼や庵の妻 日野草城
粟くふて妻を思ふか飼鶉 粟 正岡子規
粥のせてやる秋風の妻の舌 中島斌雄
粧ひし妻の背後の蜂を摶つ 林徹
精蟲四萬の妻の子宮へ浮游する夜をみつめていた 橋本夢道
糟糠の妻が好みや納豆汁 高浜虚子
糟糠の妻とはなれず秋なすび 重田琴子
糟糠の妻にも一つ年忘れ 相馬沙緻
糟糠の装をして鴛鴦の妻 永嶋千恵子
糟糠を根に埋め妻に桃の花 中拓夫
糠味噌の水捨つ昼寝せず妻は 大熊輝一 土の香
糸巻を擲たれけり猫の妻 妻木 松瀬青々
糸瓜忌は今日と気づきて厨妻 森田道
糸瓜末花妻がひそかに泣くを見き 皆川白陀
紀元節ましらの妻は後ろ手に 攝津幸彦
紅少し濃くひき初売出しの妻 榎本栄子
紅梅に触れきし指を妻に当つ 吉田未灰
紅梅のふふみて寒き妻の月日 内藤吐天 鳴海抄
紅梅や妻の微笑を動員す 橋本夢道 無類の妻
紅梅を仰ぐあの日は妻ありし 三谷いちろ
紅梅を見し目を妻の眼差しに 橋本夢道 無禮なる妻抄
紅梅一生妻は歩幅に遅速なし 橋本夢道 良妻愚母
紅葉且つ散る遠妻へ鐘を二打 秋元不死男
納涼の妻と手の影合しけり 戸田九作
納豆汁僧に参らす妻忌日 柴田松雪
紙ひねり妻は苧殻火起こす役 高澤良一 寒暑
紙燭して蚊を焼く妻や蚊帳の内 寺田寅彦
紙風船越の雪夜に妻がつく 肥田埜勝美
紙魚おづる愚かな妻をいとしとも 森川暁水 黴
紡績に妻老けるよ敷ぶとん 黒柳召波 春泥句集
紫の菖蒲に妻と入れ替る 古館曹人
紫苑咲き初むと妻言ふ綾子の忌 栗田やすし
紫荊妻にをんなのさかりかな 島谷征良
紫蘇の実やつつましやかに僧の妻 永田青嵐
紫蘇の実や妻が抜きとるしつけ糸 佐川広治
紫蘇の実や母亡きあとは妻が摘み 成瀬櫻桃子
紫蘇の香の激すと見れば妻が摘む 篠田悌二郎 風雪前
紫陽花や帰るさの目の通ひ妻 石田波郷
紫雲英田の畦来る犬・吾子・妻の順 川村紫陽
細雪妻に言葉を待たれをり 石田波郷(1913-69)
紺色を身の色として妻の秋 米沢吾亦紅 童顔
終ひ湯に欠伸して母の日の妻よ 相馬遷子 雪嶺
終戦は妻に長女に吾にありし 上野 泰
絎台や夜なべする妻すでに亡く 小泉豊流
絨毯は空を飛ばねど妻を乗す 中原道夫(1951-)
絨緞に妻が引き出す単物 古舘曹人 樹下石上
絶望や戦争にわがゆく日妻表裏なく打泣きし 橋本夢道 無禮なる妻抄
綾と言ひ妻と呼ぶ町水も澄み 轟木掃星
綿入や妬心もなくて妻哀れ 村上鬼城
綿入や気たけき妻の着よそほふ 飯田蛇笏 山廬集
綿吹くや来年は妻七回忌 宮津昭彦
綿帽子士農工商の妻の体 黒柳召波 春泥句集
綿虫のごとくに妻の外出かな 遠藤正年
綿虫や妻を染めなす夕茜 杉山岳陽 晩婚
綿虫や立ち動くもの妻といふ 杉山岳陽 晩婚
緑噴きあげし山脈妻になれず 寺田京子 日の鷹
緑樹というか海辺の草に妻 金子兜太
編みかけのつづきの毛糸妻は編む 上村占魚 球磨
編みかけの毛糸を棚に妻病めり 森川暁水 黴
縄柄のセーター重し妻編みし 長谷川寿を
縫初の妻や眼鏡を掛け直し 山崎ひさを
縮まらぬ距離に妻いる大花野 池上拓哉
縺れ寄るすがれいとゞよ妻熱し 小林康治 玄霜
織女星妻を思へば煌めきぬ 後藤比奈夫 めんない千鳥
繭に似て妻にいま詩がくるところ 加藤秋邨 吹越
羅の妻と待つ月光舟を待つ 折笠美秋 死出の衣は
美しき名のわが妻の書初めよ 鷹羽狩行
美しき名の吾が妻の書初よ 鷹羽狩行
美しき妻驕り居る炬燵かな 尾崎紅葉
美しく来む世は生まれ君が妻とならめ復もと云ひし人はも 窪田空穂
羨しとも妻ある家の冬珊瑚 森澄雄
羨しとも妻の柿噛み砕く音 高澤良一 随笑
羽子をつくとき長身の妻にして 爽波
羽子板や妻も知るなるかな女の句 安住敦
羽毛の妻よ白鳥は日の肩掛す 磯貝碧蹄館
羽透けゆくものらの秋よかなしき妻も 折笠美秋 君なら蝶に
翠菊や妻の願はきくばかり 石田波郷「雨覆」
翡翠や浅妻舟の人もなし 翡翠 正岡子規
翳り来る妻よ俎上に白い鯉 石田士牙男
翻ることも起らず水着妻 鈴木鷹夫 渚通り
老いたれど妻のちぶさは桜草 岡悦郎
老いてまた母となる犬に餌をやる妻ぞ 荻原井泉水
老いにきと妻定めけりすまひ取 召波
老が身の妻も遊ぶや夏茶の湯 上川井梨葉
老にきと妻定めけりすまひ取 黒柳召波 春泥句集
老の日の余興の妻のお宮振り 尾崎浅陽
老人の日喪服作らむと妻が言へり 草間時彦
老吏出勤肥満の妻に鍵を投げ 井上白文地
老妻 年越して縫い上げた綿子 これを着よと云う 荻原井泉水
老妻とけむりのやうな昼寝して 緒方敬
老妻とは吾のことかも火消壺 上野さち子
老妻とひそかな暮し暦果つ 菅原村羊
老妻と内妻二人獺祭 水上黒介
老妻と深夜の花に遊びけり 黒田櫻の園
老妻に糊の夕冷え障子貼る 皆吉爽雨
老妻のかしづく雑煮替へにけり 大橋越央子
老妻のせちに水やる更紗木瓜 山口青邨
老妻のたどたど*さより糸づくり 山口青邨
老妻のひいなをさめも一人にて 山口青邨
老妻のひゝなをさめも一人にて 山口青邨
老妻のものわすれして事納 四明句集 中川四明
老妻の一打の強し鏡割 白岩三郎
老妻の人手借りずの雛納 鈴木洋々子
老妻の今年も割りぬ鏡餅 碧童
老妻の前三尺の鰤据はる 山口青邨
老妻の宝石箱にひよんの笛 中阪賢秀
老妻の手つ取り早き菜飯かな 小泉冬耕子
老妻の机の初鏡曇りなく 小原菁々子
老妻の火を吹く顏や鮟鱇鍋 鮟鱇 正岡子規
老妻の襷の白き茶の葉撰り 竹内夏竹
老妻の見てをる榾を割りにけり 橋本鶏二 年輪
老妻の遠き火事みてあまゆなり 長谷川双魚 風形
老妻の飾りし雛を見てやりぬ 富安風生
老妻も身のほどに麦刈りなれぬ 松村蒼石 寒鶯抄
老妻やみとりのひまの盆支度 久我清紅子
老妻を看取る朝寒そゞろ寒 鈴木洋々子
老妻を見舞ひ御慶を交しけり 鈴木洋々子
老妻若やぐと見るゆふべの金婚式に話頭りつぐ 河東碧梧桐
老朽ちし妻をあはれみ屠蘇を酌む 高浜虚子
老畫家のけふは妻伴れ鳰の岸 石田あき子 見舞籠
耕牛を先立て妻を従へて 板東玲史
耳しひの妻を雲雀に向かすなり 佐藤草豊
耳双つありて蟇の声妻の声 加倉井秋を
耳病めば遠き思ひの端居妻 牛山一庭人
耳遠の妻白地着て夕さるる 松村蒼石 雁
聖夜ミサトロール船団その妻ら 依田明倫
聖樹貧しく値切るGlの妻と子が 赤城さかえ句集
聖母祭のプリンやはらかし妻がつくり 成瀬櫻桃子 風色
聖燭の夜をまな妻が白鵞ペン 飯田蛇笏 春蘭
職乞へり片蔭に妻待たせつつ 細川加賀 『傷痕』
職捨てぬ妻に跳梁灯のいとど 鍵和田[ゆう]子 未来図
職退くも妻に数へ日残りをり 山本武司
肉付きの妻をともなふ墓参かな 橋本榮治 越在
肌ぬぎや織子あがりのすくせ妻 橋本鶏二 年輪
肌寒や妻の機嫌子の機嫌 日野草城
肝腎な用忘れ居たり昼寝妻 阿部みどり女 笹鳴
肩をもむ妻の胼の手頬にふれ 八木絵馬
肩掛けの妻より見おろされて病む 加倉井秋を 『真名井』
肩掛の妻より見おろされて病む 加倉井秋を
肩掛や妻なる身にて勤め人 岡本松浜 白菊
背に触れて妻が通りぬ冬籠 石田波郷
背のびして鴎見る妻雑煮箸 佐川広治
背の低き妻にて鵙が鳴きに寄る 榎本輝男
背を揉みし夜長の妻へ世辞一つ 吉武月二郎句集
背合せに妻と刈る萩五十過ぐ 池月一陽子
背戸を出入る妻見下ろすや秋の山 比叡 野村泊月
胎動を確めんと妻の風邪の瞳は 鳥居おさむ
胡桃割りて妻と足るなり降誕祭 星野麥丘人
胡瓜もみ今宵の味は妻か母か 有馬暑雨
胡瓜もむエプロン白き妻の幸 西島麦南
胡蝶蘭抱へて妻の実家訪ふ 船坂ちか子
胸にある妻いつまでも貝割菜 森澄雄
胸中の木枯妻は耳敏し 肥田埜勝美
胼の妻人を疑ふこと知らず 渡部桜
胼の妻銀婚式のことをいふ 橋本鶏二
胼切れし妻の両手にみとらるる 佐々木太刀男
胼妻にお講の鉦や誘ひ打つ 皆川白陀
能面と寒きはいづれ宿痾妻 石原八束 黒凍みの道
腰ぬけの妻うつくしき炬燵かな 蕪村
腰を据ゑて茶をのみをるや夜寒妻 内田百間
膝までの亡妻のエプロン秋刀魚焼く 山本富万
膝を割る身重の妻にデモ通る 土岐錬太郎
膝折つて爪切る妻や半夏雨 冨田みのる
臀丸き妻の脱穀ベルト張り 西東三鬼
臥して知る妻のひと日や笹鳴ける 金子 潮
自然薯擂る妻は大佛坐りして 高澤良一 随笑
自転車の妻に驚く鰯雲 斉藤夏風
自転車の肩立て通し師走妻 香西照雄
自転車を妻と並べて暮の春 片岡宏文
舌をやく縄文おやき妻もまた 岡 あきら
舞ひむつむ田鶴を文にしわが妻へ 森川暁水 黴
舟の上の夜濯ぎ妻に鸚鵡啼く 石原八束
舟住みの夜濯ぎ妻に鸚鵡啼く 石原八束 空の渚
舟呼ぶや柳から出る海人の妻 古白遺稿 藤野古白
舟遊や平人の妻に狎れ給ふ 前田普羅
舷梯を妻が降り来る良夜かな 冨田みのる
舸子の妻タオルを首に虎ケ雨 林白亭
船おづる妻に夜涼のさむかりき 森川暁水 黴
船乗りの妻編む毛糸太きかな 今泉貞鳳
船室にひとり初髪の幼な妻 福田蓼汀
船火事は孤独の業火妻に見す たむらちせい
艀妻暗き海へも豆を撒く 塩川雄三
良き妻は母に似てをり浅蜊汁 今泉貞鳳
良夜とて傀儡師の妻呵と笑ふ 小原洋一
色鳥がひとりぼつちの妻に来る 細川加賀
色鳥やひとつ箪笥に妻のもの 石田勝彦
色鳥や妻来るはずの曲り角 牧野桂一
芋名月母妻嫁の並びをり 杉本寛
芋喰ふや大口あいていとし妻 飯田蛇笏 山廬集
芋茎さく門賑しやひとの妻 炭 太祇 太祇句選
芍薬の芽が喪の妻を明るくす 瀧澤伊代次
芍薬や別れすげなき一夜妻 二柳「この時雨」
芝にわれ立たせ野菊に遊ぶ妻 村越化石
芝の火にもんぺの妻が暮れ残る 永井龍男
芝の芽のむらさきふかし妻とゐて 大野林火
芝居見に妻出してやる女正月 志摩芳次郎
芝焼く火ひろがりて妻隔てけり 石田波郷
芭蕉忌の燭の芯剪る坊が妻 高浜虚子
花*さんざし古妻ながら夢はあり 石田あき子 見舞籠
花あざみ喪に服す妻となり濯ぐ 斉藤夏風
花しどみ妻には妻の歩幅あり 福永耕二
花に来て妻恥かしき古びかな 尾崎紅葉
花の苗両手に抱いて妻小さし 清水忠雄
花の訃をききゐて吾も看取妻 稲畑汀子 汀子第二句集
花を以て妻とす芙蓉咲きしかな 渡辺水巴
花を追ひ妻を慕うて逝かれけり 長谷川櫂 蓬莱
花ダチユラ妻の言葉に毒すこし 橋本榮治 麦生
花冷えや白衣のままの妻と逢う 福元啓刀
花冷の火鉢にさして妻が鏝 青邨
花南天こぶりに妻の誕生日 本宮鼎三
花咲いて妻なき宿ぞ口をしき 花 正岡子規
花咲く馬鈴薯勇気は常に妻より享く 磯貝碧蹄館 握手
花守は妻こそなけれ姥桜 姥桜 正岡子規
花月夜佛の妻を誘ひ出す 神蔵器
花林檎きのふのけふの妻愛す 松山足羽
花林檎羽幟短き妻つれて 古舘曹人 能登の蛙
花槐アイヌが妻の土産店 石塚友二
花氷向ふの妻の顔ゆがむ 茂野六花
花火の音の夜格子戸の妻向ひと語り 梅林句屑 喜谷六花
花火見や風情こごみて舟の妻 飯田蛇笏 山廬集
花種の妻とは違ふものを買ふ 戸塚時不知
花種を蒔く古妻や児等左右 西山泊雲 泊雲句集
花苺ひとこと妻と立話 池内友次郎
花茣蓙や寝ねし重さに妻の胴 草間時彦
花菜漬通ひ妻また病みて来ず 石田波郷
花衣著るよろこびを妻あらは 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
芸術もすこしは解し妻に叱られて寝る 橋本夢道
芹の根も棄てざりし妻と若かりき 加藤楸邨
芹摘む母もの濯ぐ妻晴れわたり 石川桂郎 含羞
芽ぶくに咲くにこれほど虚ろにするものか妻の體温表のジグザグ 橋本夢道
芽木のたしかさ夜雲の白さ妻妊る 千代田葛彦 旅人木
苗代やある夜見そめし稲の妻 高井几董
苗代や或夜見初し稲の妻 几菫
苗売や表格子を拭く妻に 清原枴童 枴童句集
苗市に教へ子とその幼な妻 能村登四郎
苗木植え妻が稚くなる日暮れ 斉藤白砂
苜蓿の没日みつめて妻となりし 宮津昭彦
若き妻を野干(きつね)と知らでさくら狩 筑紫磐井 野干
若き妻水泳焼けの火の躰 辻田克巳
若き日の妻そのままに初鏡 長谷川櫂 虚空
若き日の妻の写真や秋海棠 大谷恵教
若さとも老とも妻の白上布 草間時彦
若声にまろびても妻露けしや 小林康治 玄霜
若水を遺影の妻と分ち合ふ 野原春醪
若葉透く日にはなやぎて妻の客 長谷川双魚 風形
苦しいぞよく見よ妻よ泥鰌は裸でいる 橋本夢道 無礼なる妻
苦労な妻よ飢餓食に凌ぎ慣れ来てもう十年 橋本夢道 無礼なる妻
苦瓜や訛大事に妻肥えよ 斎藤隆顕
苦笑して潮焼け妻を眺めをり 鈴木鷹夫 大津絵
苧殻火に屈まり並び妻にほふ 仲村青彦
苺の空函ためてどうする妻の智慧 有働亨 汐路
苺はや出しと妻いふうなづきぬ 森田峠 避暑散歩
苺摘みよろけし妻が地震にくむ 西本一都 景色
茄子の花妻も念仏講を継ぐ 大熊輝一 土の香
茄子もぐは楽しからずや余所の妻 星野立子
茄子を焼く妻にたつきの疲れ見ゆ 冨田みのる
茄子汁や妻のきりもり四十年 高澤良一 素抱
茄子畑に妻が見る帆や秋の海 飯田蛇笏 山廬集
茄子苗を貰うて植ゑて妻機嫌 上村占魚 球磨
茄子転がし妻の筆算声に出づ 米沢吾亦紅
茅屋に妻のヘリオトロープ咲く 辻田克巳
茅花ながし妻の眠りは深眠り 八木林之助
茎の石効きをるならむ妻寝落す 乾鉄片子
茎漬のあとしんしんと妻の息 南雲愁子
茎漬や妻なく住むを問ふおうな 太祇
茎漬や妻なく住を問ふおゝな 炭 太祇 太祇句選
茎漬や妻の生涯わが生涯 佐藤漾人
茎立や風に身包む拓地妻 橋本鶏二
茗荷の子妻産月となりにけり 杉山岳陽 晩婚
茗荷竹朝餉に妻とかく生きて 金子麒麟草
茜の冬田誠意の妻の何もたらす 金子兜太 少年/生長
茶の花に影目立たしめ来て妻なり 千代田葛彦 旅人木
茶碗酒妻も飲み干し藺を植うる 槙野幽泉子
茸狩るといでたつ妻の紺がすり 軽部烏帽子 [しどみ]の花
茸籠に妻は一枚歯朶そへて 砂井斗志男
茹で栗の当たりはずれを妻の云ふ 高澤良一 随笑
草かげろふ指より翔たす妻護らん 川口重美
草の実や妻という華ざつくばらん 山中葛子
草の花子供のやうな妻連れて 細川加賀 生身魂
草の花窯場に妻を置忘れ 鈴木鷹夫 渚通り
草の芽や痩せてよろこぶ四十妻 清水基吉
草も木も無くて妻ゐる蟻地獄 岸本尚毅 舜
草木なきこの家あおむけの妻の喉 武田伸一
草矢にて射とめし妻と半世紀 戸田善藏
草笛を吹き水際を妻とゆく 長田等
草餅食らふ妻を擲ちたる右手にて 磯貝碧蹄館 握手
荊妻の茶を飲んでゐる夜寒哉 内田百間
荒るる足の妻を見てより労れる 長谷川かな女 花寂び
荒梅雨の蕗原返す妻の脛 小林康治 『玄霜』
莟子死なす妻の手わが手ひた緊く 三谷昭 獣身
菅笠を脱いで静かに妻の顔 妹尾 健
菊の香や妻と子と孫と碑のまえに 浅原六朗 紅鱒群
菊を着てまつといふ妻ありしこと 後藤比奈夫 めんない千鳥
菊を買ふ妻のうしろに立ちにけり 上村占魚 球磨
菊千輪妻に寄り添えば吾子分け距つ 橋本夢道
菊根分名札は妻の歌文字 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
菊畑の人に近づくその妻か 鈴木鷹夫 風の祭
菓子買ひに妻をいざなふ地虫の夜 水原秋櫻子
菖蒲湯に妻より先の死を願ひ 冨田みのる
菖蒲湯に永浸る妻何足るや 石田波郷「石田波郷全集」
菜の花のその菜のひかり妻よ来よ 岩切雅人
菜の花のまぶしさ妻の名を呼べば 加藤かけい
菜の花や妻にしあれば耳冷ゆる 田中裕明 櫻姫譚
菜の花や妻の嫌ひなあなご鮨 八木林之介 青霞集
菜を吊りて妻の砦のあるごとし 小林康治 玄霜
菜を漬けし妻の手わづか寒かりき 小林康治 玄霜
菜殻火を見てをり妻は胎しをり 杉山岳陽 晩婚
菜畠に妻やこもりて鳴蛙 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
菜蒔きにも髪ゆひあふや賤が妻 飯田蛇笏 山廬集
菜飯上手ほかにとりえのなき妻の 上村占魚
菠薐草妻奨めればそろと箸 高澤良一 随笑
菠薐草薹立ち妻の誕生日 西本一都
菱餅の対角線に妻と我 田口一男
萩こほす留守の伏處や鹿の妻 鹿 正岡子規
萩をくる跫音妻と知りゐたり 大野林火
萩を括りに今年は来ずよ妻の母 成瀬桜桃子 風色
萩刈りて妻に灯のあり影のあり 南 うみを
萩咲いて素直な妻を見出でたり 林原耒井 蜩
萩咲くや妻の髪にも白きもの 皆川白陀
萩咲く日散る日や妻の客ばかり 山本弦平
萩揺れに揺るゝは下を妻が掃く 篠田悌二郎
萩根分妻に指輪といふものなし 皆川白陀
萩繚乱わが老いに妻追ひすがる 横山白虹
萩芙蓉一日の妻を見棄てけり 齋藤玄 飛雪
萬歳の妻に別るゝ師走哉 師走 正岡子規
落し文近くて遠きものに妻 原田青児
落し文遠くて近きものに妻 原田青児「晩夏」
落暉冷ゆ古寺巡礼にも妻気短か 鍵和田[ゆう]子 未来図
落葉焚く匂ひまとひて厨妻 角皆美代子
落葉焚妻よりつぎて日暮れけり 荒井正隆
落葉降るひかりの中を妻と行けり 倉橋羊村
落雲雀妻が講義を了へし頃 香西照雄 対話
落鮎が妻の遺骨をかじりけり 猪原丸申
葉がでて木蓮妻の齢もその頃ほひ 森 澄雄
葉桜や病むも短かく妻逝きぬ 松本万平
葉牡丹の一つ横向く怠け妻 鍵和田[ゆう]子 浮標
葉牡丹はいつも兵士の妻の貌 小檜山繁子
葉鶏頭に妻と跼める患者あり 石田あき子 見舞籠
著重ねてらっきょの如き厨妻 高澤良一 素抱
葛野萩薬餌提げ来て通ひ妻 石川桂郎 含羞
葛飾の冬の三日月通ひ妻 星野石雀
葡萄棚透き晩年へ妻佇てる 金箱戈止夫
葡萄青き旦夕を妻の痩せにけり 林原耒井 蜩
葬祭にばかり妻連れ鳥渡る 荒井正隆
葭切や友その妻を率てきたる 安住 敦
葱きざみ妻の三十路も駈くるごとし 昭彦
葱きざむ妻は厨に一生を 田村了咲
葱をよく買ふ妻のゐて我家なり 宮津昭彦
葱ノート括るや学生妻とことこ 加藤楸邨
葱刻む妻に字を聞き著者校正 河野頼人
葱刻む妻の背に嘘なかりけり 鳥居露子
葱坊主妻に少年期を明かす 川崎完治
葱引いて来る妻の髪霰かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
蒔きし種妻が消しゆく平らかな 北見弟花
蒟蒻を逃がす庖丁冬至妻 長谷川かな女 花 季
蒲団が米に変りぬ妻にやさしくせむ 田川飛旅子 花文字
蒲団のずれ直し呉れをる妻をうつつ 高澤良一 ぱらりとせ
蒲団重くなりしは妻か雪女か 神蔵器
蒲団開け貝の如くに妻を入れ 野見山朱鳥
蓬餅母といふもの妻にはなし 安住敦
蓬香を嗅ぐ刹那さへひとの妻 堀井春一郎
蓮の実とぶ妻もしなくば日月なし 磯貝碧蹄館 握手
蓮掘のその夜の妻の泥臭し 鈴木貞雄
蓮掘りの最後は妻を引き上ぐる 美川一
蓮池の向ふを妻の日傘来る 前山百年
蕎麦咲かせ妻の言々農婦めく 石橋辰之助 山暦
蕗の薹妻にへそくりある筈なし 皆川白陀
蕗の薹妻への債重ねつゝ 小林康治 玄霜
蕗を煮る妻にも白髪殖えしかな 大熊輝一 土の香
蕗煮る妻の贔屓角力は負け去んぬ 石田 波郷
蕨汁酔ひはなやげば妻も若し 小林康治 玄霜
蕪引く妻もあるらん大根引 大根引 正岡子規
薄明に妻着替へをり白露けふ 堀口星眠 樹の雫
薄氷や牡鶏の妻無垢の子ら 千代田葛彦 旅人木
薄給に妻を愛する新酒かな 会津八一
薔薇の芽や友みな妻の座にふるび 長田るり子
薔薇園一夫多妻の場を思ふ 飯田蛇笏(1885-1962)
薔薇満開一夫一妻つまらなし 高千夏子「真中」
薙刀ほほづきは帯のあひだに入れて妻 長谷川かな女 花寂び
薪割りの我よりまさる妻となりし 石橋辰之助
薪割る妻よ明治のうたはうたうなよ 栗林一石路
薪水に風邪妻の手のさやかなる 飯田蛇笏 春蘭
薬喰ひ小首かしげて妻はあり 成瀬正とし 星月夜
薺打つ妻の拍子は母に似て 安永三石
薺打つ妻ソプラノに囃しをり 大野裕康
薺粥妻も五十になりにけり 西本一都 景色
藁負うて妻もしたがふ霜くすべ 谷牡鹿野
藤に逢ふ妹といへど人の妻 柴田白葉女 遠い橋
藤は実に籠り睡の妻顔ちさし 行木翠葉子
藤冷えて妻の遊びの悔すこし 文挟夫佐恵 黄 瀬
藤咲くや妻なき人の紺絣 柴田白葉女 遠い橋
藤房を妻の手に載す平かに 石川桂郎 含羞
藤棚の下のふぢ色妻と佇つ 鈴木鷹夫 大津絵
蘆ちるや淺妻舟の波の音 芦の花 正岡子規
蘭の香にはなひ待つらん星の妻 其角 七 月 月別句集「韻塞」
虎落笛毛糸編む妻いも寝ずに 五十崎古郷句集
虎鶫大き家守る御師の妻 白岩てい子
虚子は妻を詠はざりしよ春炬燵 矢島渚男 延年
虫の夜や妻をめとれと母の言ふ 成瀬正俊
虫の戸を叩けば妻の灯がともる 古館曹人
虫時雨妻の寝顔のつやつやと 高澤良一 鳩信
虫鳴けば妻の厨も月夜ぬち 香西照雄 対話
虹に謝す妻よりほかに女知らず 草田男
虹二タ重妻の細肩つかみ起つ 石川桂郎 含羞
虹二重一重が亡妻の世をつなぐ 小川原嘘帥
虹二重二重のまぶた妻も持つ 有馬朗人 母国
虹消えて向日葵はまだ妻の丈 藤田湘子 雲の流域
虹濡れの直下あたりに妻勤む 羽部洞然
蚊に喰はる妻が夜中にむずと起き 高澤良一 随笑
蚊の声す飲食喞つ妻の方 小林康治 『四季貧窮』
蚊を叩き損ねて妻に八つ当り 川村紫陽
蚊屋のあなむざんやな句なし妻もなし 幸田露伴 江東集
蚊帳くぐる妻の消す灯をわれ消して 田村了咲
蚊帳に寝てかへらぬ妻を憶ふのみ 猪子水仙
蚊帳の寝の髪こはさじと旅の妻 森川暁水 黴
蚊帳出づる妻と知りつゝ倖か 杉山岳陽 晩婚
蚊火の妻二日居ぬ子を既に待つ 日野草城
蚊火焚くや江を汲む妻を遠くより 飯田蛇笏 山廬集
蚕飼する此頃妻のやつれ哉 蚕飼 正岡子規
蚕飼妻夕餉の肩を蚕這ふ 三宅句生
蚤捕ふことに雨夜の農の妻 豊山千蔭
蚤跳ねし音など妻はよく眠る 香西照雄 対話
蛇口より凍る夜の妻しんとして 成田千空 地霊
蛇打つて打つて息荒き妻見けり 臼田亜浪 旅人
蛍火の一夜二夜を妻と経し 河野南畦 『花と流氷』
蛍火の消えしあたりに妻の墓 深川正一郎
蛍火や樹の影離る妻の影 杉村 惇
蛙ら冬眠妻が米とぐ周辺に 磯貝碧蹄館 握手
蛙聴きゐたれば妻の手触れ来つ 石塚友二
蜂の貌して妻が帰る日暮時 石寒太
蜂の貌して妻帰る日暮時 石寒太 あるき神
蜆汁 話上手の妻が居て 八木實
蜆汁妻の雀斑が病めりけり 小林康治
蜑が妻二日の凪に麦踏めり 水原秋桜子
蜜柑山かへりみる妻海と在り 香西照雄 素心
蜜柑置きよいしょと妻の割り込める 高澤良一 随笑
蜜豆や子持となりし妻が前に 小室風詩
蜩が呼び出せし闇妻遠し 香西照雄 素心
蝉の声はるかなものへ妻の胸へ 柴田白葉女 牡 丹
蝙蝠傘干さずに返し他人の妻 塚本邦雄 甘露
蝦夷野菊吹かれて妻の旅鞄 小林康治
蝶々や妻の嫌ひな田舎道 青葉三角草
蝶の昼妻は疲れて眠りをり 長谷川櫂 蓬莱
蝸牛の四五寸妻に歌ありて 石川桂郎 含羞
蝿帳に妻の伝言はさみあり 足立修平
蝿帳のもの探す妻灯ともさず 高浜虚子
蝿生るなにかと言ひて妻太る 清水基吉
蝿生る何彼と言ひて妻太る 清水基吉
蝿生れ毛布被つてゐる妻よ 岸本尚毅 舜
螢籠つるや蓬のかくし妻 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
蟇の声にて鳴いてみぬ妻の留守 加藤楸邨
蟷螂に腹へつて妻を子を叱す 石川桂郎 含羞
蟷螂の夫は妻に喰はれける 森鴎外
蟷螂の怒りに触れし妻の杖 水野柿葉
蟹漁期月にわびしや妻の陰(ほと) 金子兜太 詩經國風
蟻が出て妻嘆くこと亦増えし 右城暮石 上下
蟻厭ふかなしき妻の夜の顔 杉山岳陽 晩婚
蟾どのゝ妻や待らん子鳴らん 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
蠅取機の捩子巻いてより妻の黙 石川桂郎 含羞
蠅生るなにかと言ひて妻太る 清水基吉 寒蕭々
血縁に百姓の妻藪からし 百合山羽公 故園
行春や妻が額の即效紙 寺田寅彦
行春や妻も子もなき草の庵 行く春 正岡子規
行水の妻に声かけ外出す 五十嵐播水 播水句集
行水も妻に寐すごす氷かた 野澤凡兆
衣更へて妻の知らざる燈に遊ぶ 鈴木鷹夫 渚通り
衣被こころひそかに妻の恩 阪本謙二
袋蜘蛛夕は妻とバツハ聞く 四ッ谷 龍
被に妻我に夫あり賀状書く 下村梅子
袷古りぬ妻と故郷を同じうし 佐野青陽人 天の川
裁板に居らぬ妻は子を抱いて梅の日に 阿部みどり女 笹鳴
裏山のうぐひす老いぬ妻を賜へ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
裏庭の比叡の夏に妻も佇つ 岸風三樓
裏紙に妻のメモ書き小正月 高澤良一 随笑
裾を引く妻の立ち居や三ヶ日 中野三允
裾を引く妻の立居や三ヶ日 三が日 正岡子規
裾野駈く雉子に妻あり夫あり 高澤良一 随笑
襟足のほのと艶めくセルの妻 新美欽哉
西日の妻きっと優曇華つれてくる 加川憲一
西瓜切る妻亡く西瓜飾りおく 久保田穎居
西空の犀ぶつ倒れ妻(さい)走る 坪内稔典
見えてゐる菜圃の妻を雪照らす 吉武月二郎句集
見るだけの妻となりたる五月かな 木山捷平
見る妻と買ふ気の夫や苗木市 藤野佳津子
見下ろされをりて妻との花むしろ 宇川七峰
見舞妻かへりしあとの日永かな 辻 文治
見舞妻喰べよと一語マスクしつ 岸風三樓
見舞妻濡らし秋霖きはまれり 岸田稚魚 『紅葉山』
視界よりいつか妻消ゆ牡丹雪 石寒太 翔
親が子が妻が代りて鳴子哉 鳴子 正岡子規
角力取心を妻に明しけり 坂桂株
角落ちし夫哀れむな鹿の妻 長谷川櫂 虚空
触れぬものの一つに妻の香水瓶 福永耕二「鳥語」
言ひ当てし妻を窘(たしな)めそぞろ寒 中戸川朝人 尋声
試歩たのし厨の妻に逢ひにゆく 日野草城
話しつつ妻隠れゆく障子貼 白岩三郎
誕生日と秋草病床へ通ひ妻 福田蓼汀
読書癖ある妻ながら冬支度 高浜虚子
誰が妻とならむとすらむ春著の子 草城
誰が踏みし雪ぞ二日の妻の墓 水野柿葉
諸子舟けふより妻をのせて漕ぐ 大串章
謡初妻に鼓を打たせつつ 坂元雪鳥
謬てるような生涯だつたが梅咲くよ妻よ 橋本夢道 良妻愚母
護符の鈴妻の荷に結ふ山開き 小西 藤満
讃められて月夜の妻の泪かな 神崎忠
谷に妻あり男ぱらぱら涙ぐせ 金子兜太
谷へだつ一火は妻の上ぐる鹿火 安田春峰
谷崎も妻に贈りし桜鯛 長谷川櫂 蓬莱
豆の飯妻は多めに炊きにけり 藤井 忠
豆を撒くいつかひとりになる妻か 渡辺嘉幸
豆を撒く妻はすなわち福の神 加藤章三
豆撒くや妻のうしろのくらがりに 小林康治 玄霜
豆黒く煮つめ火仕へ水仕へ妻 加倉井秋を
豌豆剥く母に似て来し妻とゐて 茂里正治
貞叔な妻に疲れて牡丹植う 石田よし宏
負ひ目ある妻に付き合ふ水羊羹 阿部寿雄
負犬となるとも寒暮妻が待つ 冨田みのる
貧しきに堪へ来し妻や花菜漬 田中冬二 麦ほこり
貧しき妻を慰めつつ月の風をむさぼり 人間を彫る 大橋裸木
貧乏の苦もあり病める師走妻 上野杜未生
貧居士が梅を妻とは痩我慢 尾崎紅葉
買ひすぎし妻の襁褓や年流る 嶋野國夫
買初のこけし一つを妻に渡す 皆川盤水
買物の妻にしたがひ懐手 上村占魚 球磨
買物の妻に出逢ひぬ年の暮 比叡 野村泊月
貼り終へし障子が隔つ妻の顔 大関靖博
賀状書くしみじみ妻と二人して 楠本憲吉
賓頭蘆に負はす身弱の妻の厄 西本一都 景色
賜暇の日々妻が妻めき水ぬるむ 林翔 和紙
賢にしてみごもる妻や春の雷 松瀬青々
赤かぜの妻の木馬と子の木馬 安住敦
赤かぶらやさしく描き亡妻と二人 常盤芙美男
赤とんぼ人をえらびて妻の膝 山口青邨
赤のまゝ妻逝きて今日は何日目 小川千賀
赤まんまことに茂れり妻癒えよ 谷山桃村
赤痢よとみづから決めてわれよ妻よ 山口青邨
起きだして妻の声あり春障子 成瀬榮一
起きだして朝から麦湯沸かす妻 高澤良一 寒暑
起きぬけに妻のたたかふ凍の音 吉武月二郎句集
越前三国葭切に僧の妻くれない 金子兜太 詩經國風
越後獅子など弾きいづる夜長妻 黒田杏子 花下草上
足なえの妻所在なや春の宵 寺田寅彦
足の蚊を足で払ひて厨妻 恩賀紀美子
足はつめたき畳に立ちて妻泣けり 中村草田男
足弱の妻をいたはり土用灸 奥田草秋
足算の帳尻合わず夜なべ妻 中井智子
足袋きよく光は励む妻が負ふ 山田 文男
足袋つぐやノラともならず教師妻 杉田久女(1890-1946)
足袋穿くを見下し妻を葬に遣る 山口誓子
足裏を妻と踏み合ふ秋の宿 松田志報
跳ぶ妻のどこ受けとめむ水草生ふ 秋元不死男
踊り果て蛸下げて来る僧の妻 江口ひろし
踊笠いくつ覗けば妻をらん 飴山實 『花浴び』以後
踊見の妻古りたれど連れにけり 松村蒼石 寒鶯抄
踏まれたる蛇より妻の跳ねにけり 藤野 力
踏切にて春著の妻を紹介す 三樹彦
踏青に妻倶し妻の誕生日 西本一都 景色
蹇が霜夜の妻を哭かしゐて 小林康治 玄霜
蹇の妻の晴着や針供養 日野草城
蹠汚れおろ~病めり黴の妻 小林康治 四季貧窮
蹤く妻に砂丘の月は風起たす 森川暁水 淀
蹤く妻に砂丘の萩は砂を這へり 森川暁水 淀
蹤く妻のけふよそほへり墓参 森川暁水 黴
身にしむと妻や云出て天の川 沾徳
身にしむやなき妻のくしを閨に踏む 蕪村
身にしむやみとりしなれて貧し妻 吉武月二郎句集
身にしむや亡妻の櫛を閨に踏む 蕪村
身にしむや濡れて帰りし妻の袖 吉武月二郎句集
身ほとりにいつも妻をり花菜漬 西浦一滴
身ほとりに妻の体温夕牡丹 香西照雄 素心
身籠りし妻のこゑなり鬼やらひ 小島健
身籠りて手習す妻の夜寒かな 中島月笠 月笠句集
迎火に傘さし逝きし妻を待つ 有働木母寺
迎火を焚くやふるさと待たぬ妻 金子森童
近頃接吻する事もない妻が子を負うて笑つている 橋本夢道 無禮なる妻抄
返り花妻に呼ばるることもうなく 宮津昭彦
追儺寺骨董市も加はりて 妻藤玲子
追儺豆肱触れて妻やはらかき 石田勝彦
退け待ちて妻のあとより顔見世ヘ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
退職の妻の座きまる春炬燵 大西一冬
退院の妻ときくなり除夜の鐘 五十嵐播水 播水句集
退院の妻の朝寝のいとほしき 本井英
退院の妻待つ障子貼り替ふる 川端喜峰
送り火や寡黙は妻の常ながら 高橋冬青
逃げ水やつひの日まで妻として 須賀一恵
逆縁の門火を妻と焚きにけり 下野赤灯
通ひ妻梅雨の下駄音紛れなし 石川桂郎 含羞
逝く春の蓋をことりと昼湯の妻 河合凱夫 飛礫
逝く母へ薔薇あり妻のいまだ来ず 斉藤夏風
造花になき薔薇の冷肌妻は生きて 香西照雄 対話
逢いたかつたと思う大阪から帰り妻の目も膝も六月夕べ 橋本夢道 無禮なる妻抄
連れ出せば妻は小柄の十二月 北登猛
遂に冬藷粥を妻と分つべう 小林康治 四季貧窮
遅々として進まぬ妻の更衣 木魚
遅き帰宅油虫を妻打擲せり 中戸川朝人 残心
道化師が妻にもの言ふ秋の暮 野見山朱鳥
道心の妻。しほれ来て恨む槿垣 榎本其角
達治忌や妻に不縁はさだめなり 石原八束 黒凍みの道
遠くから妻の墓見え彼岸花 鶴原虎児
遠ざかる師の忌妻の忌雲に鳥 舟月
遠のけば白鳥まぶし稼ぐ妻よ 香西照雄 対話
遠ひぐらし妻の郷愁いま癒ゆる 香西照雄 対話
遠母へ妻が歳暮と縫ふは何 岩瀬善夫
遠泳やその後の妻の独り立ち 大部哲也
遠花火妻には言はず見てゐたり 土屋秀穂
遠萩に眼のおよぶとき妻とゐて 木村蕪城 寒泉
遠蛙妻の辺に寝て幼しや 塩尻青茄
遠近や妻争ひの山笑ふ 川崎展宏
遠野火や老いて子を恋ふ妻あはれ 伊澤秋家
遠雪崩妻と襖をへだてをり 山田素雁
遠雷やなんだかんだと妻は留守 戸田善蔵
遡源行遅疑する妻へ紅葉流す 香西照雄 対話
遥かに妻立ちて一瀑なほはるか 鈴木鷹夫 風の祭
選句せり餅黴けづる妻の辺に 石田波郷
遺影妻春や雲公してくるよ 永田耕衣 人生
遺影持つ妻に粉雪しんしんと 堀口美鈴
郭公や屋根裏にある梵妻隠 河野静雲 閻魔
都忘妻の手まざと老いにけり 八木林之介 青霞集
酌下手の妻を呵(しか)るや年忘 草城
酒中且つ芍薬に妻を愍れがる 下村槐太 天涯
酒場出て聖夜の橋に妻と逢ふ 岡部六弥太
酔ひしやう妻の春着の紅に映え 香西照雄 素心
酔ひしれて百姓妻よぶだう取り 松瀬青々
酔ふ我にしかと妻居る火鉢かな 吉武月二郎句集
酢漿草にとどく子の文妻の文 新谷ひろし
酬ひ得ず妻よわれらに霜迫る 篠田悌二郎 風雪前
酷寒や日毎小さくなる妻に 相馬遷子 山河
酷寒を来し目鼻して見舞妻 石田波郷
酸漿かんで石ころ道へ出て行つた妻よ 人間を彫る 大橋裸木
醫の妻にのこる薬香切子吊る 須並一衛
里ありて夜長の妻に落花生 宮津昭彦
重ね着や妻に視らるゝぼんのくぼ 早川緑野
重陽の日や琴出して妻老いぬ 岸風三樓
野の花のりんだう家居の妻に摘む 森川暁水 黴
野を焼きし夜のぬめぬめと妻の髪 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
野を焼きし野良着の匂ひ妻と脱ぐ 中島双風
野分の戸妻に追はるる如くなり 石田波郷
野分後の髪あをあをとひとの妻 和田耕三郎
野分星妻と呼ぶ日のなく逝けり 皆川白陀
野分雲とびゆく彼方妻病めり 松田 多朗
野火見し夜妻も心を燃やせるや 河野南畦 『焼灼後』
野球観に母の日の妻連れ出しぬ 奈良文夫
野良着脱ぐや妻の下着の春白妙 香西照雄 対話
野菊より切に切なし寝顔の妻は 折笠美秋
野辺といふ鮭の末路に妻つれて 曹人
野遊びに足らひし妻か夕支度 中島斌雄
野遊びの妹にして人の妻 南川成樹
野鍬冶の妻青菜漬けると土間わたる 飴山 實
金亀子(ぶんぶん)に裾つかまれて少女妻 鷹羽狩行(1930-)
金亀子に裾つかまれて少女妻 鷹羽狩行 誕生
金婚のけふを妻なき吾亦紅 有働亨
金木犀妻と一夜の闇隔て 宮坂静生 雹
金木犀妻の里訪ひ妻に逢ふ 矢島渚男(1935-)
金柑や妻の風邪ごゑ三日目へ 鈴木鷹夫 渚通り
金柑を煮てぬくもりし妻の頬 小林康治
金策に妻出づ地虫穴を出づ 清水基吉 寒蕭々
金輪際決め込む妻が寝正月 岸田稚魚
針供養古りたる妻の鼻めがね 木島斗川
針山に待針植えて妻の聖夜 原子公平
針箱の糸のくさぐさに夜よげな妻 梅林句屑 喜谷六花
針買ひに出た妻に冬青い夜空がある 人間を彫る 大橋裸木
鈴懸の実にも手をのべとどく妻 中戸川朝人 星辰
鈴虫の一ぴき十銭高しと妻いふ 日野草城
鈴虫や妻とへだたり寝て読むに 佐野良太 樫
鈴虫や道は弧なりと試歩の妻 斉藤夏風
銀婚の妻その孫に毛糸編む 百合山羽公 故園
銀婚やかがよう妻の髪の霜 橋本夢道 良妻愚母
銀忌妻の常着へ日の移る 松谷俊弘
銀杏咲く切支丹寺の化粧ひ妻 石原八束 空の渚
銀色の失名賀状妻に来し 秋元不死男
銀行に強き妻なり日傘さし 高澤良一 素抱
鋤焼の目を付けし物妻攫ふ 工藤 貢
鍋提げて桃の中道妻帰る 桃の花 正岡子規
鏡餅割る手力を妻に見せ 野中春艸
鐘つきの妻にすすむる夏花かな 白 雄
鐘つきの妻にすゝむる夏花哉 加舎白雄
鐘撞いて妻と二人の年暮るる 志賀忠哉
長き夜の妻との黙に馴れにけり 杉本寛
長き夜の街の灯見つゝ看取妻 稲畑汀子 汀子第二句集
長き夜や妻にしたがふ事もあり 伊奈秀嶺
長旅の妻よもくれんどか咲きす 高井北杜
門火する樵夫の妻のみえにけり 飯田蛇笏 春蘭
門火焚く他郷に妻を喪ひて 小坂かしを
門火焚く妻が着てゐる母の衣 町田しげき
門火焚く妻に秘めたる仏あり 竹中弘明
門火見て惨憺たるを妻知らず 杉山岳陽 晩婚
門飾掛けて妻ゐるごとく住む 田村了咲
開襟の小脇に匂ふ妻への靴 野口根水草「誕生」
間引菜の少しを妻に手渡すも 市村究一郎
関取や妻は都のをみなへし 高井几董
闇の夜を鵜飼の妻の泣く頃か 鵜飼 正岡子規
闇汁へ妻とは別に提げしもの 古賀青霜子
關守は妻も子もなし小夜千鳥 千鳥 正岡子規
阪妻も妻も刃物を笑へりき 攝津幸彦 未刊句集
防寒靴下妻あみしかとおもひてはく 長谷川素逝 砲車
降る雪や妻が過しむ愚痴の中 清水基吉 寒蕭々
院事妻事抜け醫師冬の川を跳ぶ 藤後左右
除夜の妻ベツドの下にはや眠れり 石田波郷(1913-69)
除夜の妻ホイッスル吹くごと笑ふ 吉野裕之
除夜の妻他人のごとく振舞へり 石寒太 あるき神
除夜の妻白鳥のごと湯浴みをり 森澄雄(1919-)
除夜の鐘妻に小さな耳の穴 辻田克巳
陶工の妻つつましき春暖炉 岡田房子
随へり草虱つけし妻の肘 石田波郷
障子しむる妻の眼最後までのこる 山口誓子
障子古り妻の書架にも本ふえて 田村了咲
障子貼つて蒼きひかりの中の妻 青柳志解樹
障子貼る中なる妻を病ませては 清水基吉 寒蕭々
障子貼る妻との会話さかのぼる 軽部烏頭子
障子貼る妻の返事は横向きに 藤陵紫泡
隠し妻たるに甘んじ西瓜切る 津田清子
隠れつゝ妻化粧ふ菜は花擡ぐ 小林康治 玄霜
雁に向きし目妻へもどすかな 杉山岳陽 晩婚
雁や祝婚にわれ弔に妻 川村紫陽
雁来ぬと妻も目ざめてゐたりけり 佐野良太 樫
雁鳴くと聞えしは夢妻病めり(十年越し入院を繰り返す家人を看取る) 石原八束 『黒凍みの道』
雉子鳴くや子よりも妻の恋しき日 大串章 百鳥
雑炊のきらひな妻や冬籠 子規句集 虚子・碧梧桐選
雑炊や古妻のたゞまめやかに 高橋淡路女 梶の葉
雑炊を覚えて妻の留守に馴れ 小竹由岐子
雑煮妻よかかる世とてもたじろぐまじ 橋本夢道 無類の妻
雑煮餅湯気の向ふに妻がいて 斉藤さとし
雛の前妻がワープロ打つてをり 鈴木しげを
雛市に佇みすぎし妻を呼ぶ 大牧 広
雛市や異人の妻に人たかる 寺田寅彦
雛祭われに三十路の妻ありぬ 岸本尚毅 舜
雛祭古白に妻はなかりしよ 雛祭 正岡子規
雛飾る吾子より妻の愉しくて 根岸善雄
雛飾る妻は件の手付きして 高澤良一 寒暑
雜炊のきらひな妻や冬籠 冬籠 正岡子規
雨ざんざ降る初夢に遇うは妻 隅 治人
雨の柚子とるとて妻の姉かぶりに奉る 高浜虚子
雨ふればくらしも冷えて妻が咳する 栗林一石路
雨もりや桶けりとばし妻打つ日 細谷源二 砂金帯
雪あかり妻睡りをるにはあらず 杉山岳陽 晩婚
雪が降り消えてまた降る妻没後 井本農一 遅日の街
雪つけて妻髪枯れぬ耳ほとり 飯田蛇笏 山廬集
雪となる妻が巻く糸もつてやる 加倉井秋を
雪なだれ妻は炉辺に居眠れり 素堂
雪に病む妻へ春立つ粟おこし 飴山實 『おりいぶ』
雪の上に妻佇めるわかれかな 橋本鶏二 年輪
雪の声聴こゆ妻籠の檜風呂 小川原嘘帥
雪の夜は厨辺の妻さへ遠し 加倉井秋を 午後の窓
雪の夜やうなづかしめて妻あはれむ 千代田葛彦 旅人木
雪の往復病む妻みとりに子を寝せに 磯貝碧蹄館 握手
雪の風の日の母の聲子の聲妻の顔 栗林一石路
雪ひひと緋の裏わびし妻の帯 細谷源二 砂金帯
雪ふる中をかへりきて妻へ手紙かく 山頭火
雪催ひことこと妻の土鍋煮ゆ 岸本砂郷
雪吊や日本の裏に妻が里 古館曹人
雪囲ひ妻の支へる高梯子 羽吹利夫
雪国に生れし妻の雪卸し 橋詰一石
雪女郎いま光りくる妻と識れり 石川桂郎 含羞
雪姫に妻よ貧厨のぞかれそ 森川暁水 淀
雪富士の肌が憑くのみ留守の妻よ 香西照雄 素心
雪山の向うの夜火事母なき妻 金子兜太(1919-)
雪嶺に向ひて妻と洗面す 椎橋清翠
雪折や妻問ひ道とあればなほ 西野文代
雪掻いて妻が勤めの吾をとほす 小川千賀
雪掻きていつかはひとりになる妻か 加倉井秋を
雪柳散り散りに妻妊りし 杉山岳陽 晩婚
雪泥へ妻を走らせ酌まむとす 小林康治 玄霜
雪白へ泣きじやくる吾子シヤツ干す妻 飴山實 『おりいぶ』
雪積む貨車酔い痴れた手は妻の肩 金子兜太 少年/生長
雪積る家へ妻ひとり置いて出る 加倉井秋を
雪虫や僧と妻とがつれだちて 寺田京子
雪融けや言葉くづさず妻の家に 石田波郷
雪解雫のすだれを抜けて妻の歌 細谷源二 砂金帯
雪降ればすぐに雪掻き妻なき父 寺田京子 日の鷹
雪降れば雪たのし商の妻失格 八牧美喜子
雪霏々と妻へはげしきもの言ひす 今瀬剛一
雫して夫から妻へ初湯の子 長田群青
雲に鳥子の消息は妻を経て 荒井正隆
雲の峯妻は粉をひく板の間に 栗林一石路
雷神の妻が打つらし春の雷 山元志津香
雷落ちて青む夜駅に妻を待つ 佐藤鬼房 海溝
電線の雨滴暮色に沈む妻 大井雅人 龍岡村
震災日妻は町内防災員 高澤良一 素抱
霜の井戸明星というが妻の上に 金子兜太
霜の声寝返り打ちて妻が寄る 横山才一
霜の華咲かす厨の妻の唄 杉山岳陽 晩婚
霜ふかく妻の日課を陽があたため 大井雅人 龍岡村
霜より来る妻の不満の手紙来る 石橋辰之助
霜夜厨に柄杓うつぶせ妻病めり 森澄雄
霜白し妻の怒りはしづかなれど 日野草城(1901-56)
霞草亡き妻の亡きままに見え 宮津昭彦
霧の中四五歩先ゆく妻の肩 高澤良一 さざなみやつこ
霧の奥妻が育てて朱となる火 木村敏男
霧湧くやほのかに妻が近よりぬ 古舘曹人 能登の蛙
露けき灯働けば妻荘厳す 小林康治 玄霜
露けしや妻が着てゐる母のもの 細川加賀 生身魂
露けしや妻の運針端正に 醍醐育宏
露の妻眠れり跨がずに通る 小林康治 玄霜
露の瞳や刺繍糸貯め北欧妻 平井さち子 完流
露万朶の露一滴亡き妻よ 藤村多加夫
露享けてはや胸中に妻葬る 齋藤玄 『玄』
露光る襤褸の妻となりしかな 小林康治 玄霜
露寒し妻と手焙る喪のごとし 小林康治 玄霜
露日空うすき化粧ひの子守り妻 石原八束 雪稜線
露涼し洗はぬ顔の妻や子や 日野草城
露草に目覚めぬ妻をあはれみぬ 林原耒井 蜩
露葎妻を呼ばむと目守りをり 杉山岳陽 晩婚
露霜やうすべにの妻便り絶つ 塚本邦雄 甘露
露霜や明け方に見し妻の夢 藤崎久を
霾ると妻が告げ来ぬわれ臥すに 冨田みのる
青あらし妊る妻を吹きのこす 杉山岳陽 晩婚
青さんま素顔の妻が買ひ戻る 本庄登志彦
青山椒階段ふんで妻もたらす 沢木欣一
青年に妻の好意や栃咲けり 草間時彦
青春の思い出や妻とゆく万枯の中 橋本夢道 無類の妻
青春の日に似て妻と花野ゆく 伊東宏晃
青木の実学者の妻の墓小さし 安立恭彦
青木咲きしづかに妻の日曜日 大屋達治
青林檎機嫌の悪しき妻と居る 矢坂祐一
青柚子や嫁がすことを妻任せ 皆川白陀
青柿や医師の偽り妻と聞く 内山亜川
青梅の雨つよく妻ふるさとへ 石原舟月 山鵲
青梅の青の非情や緘口妻 橋本夢道 『無類の妻』以後
青梅や妻がししむら目のあたり 岡本高明
青梅雨のわが病室へ通ひ妻 石田波郷「酒中花以後」
青梅雨や妻への書翰遺書めきて 伊東宏晃
青潮ようたたねの妻洗いざらす 伊藤淳子
青田目に詰め帰りなんいざ妻へ 楠本憲吉
青紫蘇の穂を扱く妻や桶の水 星野麦人
青胡桃妻が子欲しともらすなり 堀川草芳「冬の鵙」
青葉冷え子離れせぬ妻叱りもし 関森勝夫
青葉木兎妻に庇はれゐたらずや 小林康治 玄霜
青葉木菟ゐる枝を知れり禰宜の妻 田中由子
青葉木菟妻のほとりに旅果てぬ 小林康治 四季貧窮
青葉木菟妻帰り来む野路見えて 山口草堂
青葉被て今日主婦でなく妻でなく 松木真沙
青蔦やあまりひしひし妻の加護 中村草田男「銀河依然」
青饅に酢を打ちすぎて離職妻 皆川白陀
静かなる音して妻の行水す 久保一秀
面会の妻帰るわたしは編笠をかむる 橋本夢道 無禮なる妻抄
面会は由縁の妻と認められ 堺利彦 豊多摩と巣鴨
面会やわが声涸れて妻眼ざしを美しくす 橋本夢道 無禮なる妻抄
面映をなくもなかりし妻の賀辞 石田黄雀
面會の妻帰るわたしは編笠をかむる 橋本夢道
面會やわが聲涸れて妻眼ざしを美しくす 橋本夢道
革る妻が病や別霜 寺田寅彦
靴履けば妻問ひに似る葛あらし 伊藤白潮
鞦韆や妻と出合ひの日へ揺らす 高島 鶏子
鞴火に蚊帳な妻見ゆ鍛冶が宿 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
韓人の妻と畑打つものうげや 寺田寅彦
音もなく妻は入り来む秋の蚊帳 村沢夏風
音もなく起きて来てをり風邪の妻 浜井武之助
音立ててうどん食うこの妻を見捨てず 細谷源二
音粗き戦時のミシン妻若し 安木白彦
頑の妻を持ちけり薬喰 露月句集 石井露月
頭痛すと先づ寝る妻や春の宵 春の宵 正岡子規
頼まるる頃よと妻の茶摘待つ 白岩 三郎
頼まれし妻の足袋買ふ一葉忌 福永耕二
頼めなき妻の命よ死蛾見出づ 臼田亞浪 定本亜浪句集
額の花妻に仕事のメモふたつ 石寒太 翔
額熱く八十八夜妻過す 清水基吉 寒蕭々
顔つくる外出の妻に昼の虫 高澤良一 宿好
顔出して巣藁雀が妻に似て 小林康治 『華髪』
顔硬き妻に発車のベルひびけり 笠原静堂
顧みねば子とあそぶ妻紫苑の辺 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
風あれば風と化し来る春の妻 折笠美秋 死出の衣は
風たちて身重の妻の銀河さす 杉山岳陽 晩婚
風で優しいまなざしの妻 砂山踏み 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 磁針彷徨
風の座を妻にゆづりて冷し瓜 名和未知男
風の日も妻の執心大根洗ふ 相馬遷子 山国
風の薔薇妻に少女期了るなり 有働亨 汐路
風ひかる うしろの正面いつも妻 守田椰子夫
風を帰し妻の手籠の緋蕪かな 黒川憲三
風化の観音妻一本の杖となる 豊山千蔭
風呂吹はとろ火にあづけ夜なべ妻 中村金鈴
風呂吹や妻とはいつも国言葉 三浦誠子
風呂吹や妻の髪にも白きもの 軽部烏頭子
風呂吹や母にとどきし妻の齢 古舘曹人 樹下石上
風呂吹や母に似て来し妻のこゑ 水原 春郎
風呂熱くたしなむ妻や夕霰 西島麦南 人音
風立ちて妻見失ふ萩の寺 高橋節夫
風花は空の音楽妻と聞く 鈴木鷹夫 渚通り
風邪に寝ていくたび書架へ妻をやる 桂樟蹊子
風邪に臥す妻に鎖し出し鍵を袂 森川暁水 黴
風邪の妻うすきけはひをして居りぬ 山口波津女 良人
風邪の妻きげんつくりてあはれなり 富安風生
風邪の妻しあはせうすく暮しけり 石原舟月 山鵲
風邪の妻の薬を買ひに年の暮 冨田みのる
風邪の妻やさしくされて起きられぬ 原田正子
風邪の妻家霊のごとく声発す 大西昭治
風邪の妻男枕をしてをりぬ 山口波津女 良人
風邪の妻眠ればなほるめでたさよ 高浜虚子
風邪の妻船の毛布を被き臥す 水原秋桜子
風邪の妻豆煮てひと日過しけり 斉藤夏風
風邪の妻起きて厨に匙落す 山口誓子
風邪の妻長びけば起き長びかす 大野林火
風邪の子に妻つよくなる起居かな 佐野良太 樫
風邪の熱混濁すれば妻し恋ふ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
風邪ひき猫と棄て犬の母がおれの妻 平井照敏 天上大風
風邪わるき妻にせめての灯を明かむ 森川暁水 黴
風邪わるき妻にわが炊く粥焦げぬ 森川暁水 黴
風邪わるき妻に人置くこともならじ 森川暁水 黴
風邪わるき妻のひたへに手やり護る 森川暁水 黴
風邪声に妻呼ぶ遠き人のごとし 大野林火
風邪声の妻よ異国へ吾子帰し 羽部洞然
風邪妻にいちにち風の雑木山 関口謙太
風邪妻のしあはせうすく暮しけり 石原舟月
風邪妻の声溜めしんと秋暑し 吉田鴻司
風邪妻の小膝のぬれし水仕かな 石原舟月 山鵲
風邪寝の妻十日を経れば父子汚る 古沢太穂 古沢太穂句集
風邪薬服する妻よお前もか 林翔 和紙
風邪薬飲めと云ふ妻も飲み夜なべしてゐる 人間を彫る 大橋裸木
風邪貰ふ妻は何でも欲しがり屋 高澤良一 鳩信
風鈴や妻には妻のまなびごと 西本一都
風鈴や生涯妻の国なまり 栗田九霄子
風除の向ふに妻の声のする 戸井文雄
颱風のなかの部屋で妻に微笑す 浅原六朗 紅鱒群
颱風眼おのれの死後の妻の声 中島斌雄
飛び帰る一紅葉濃し妻と別れ 香西照雄 素心
食後また何煮る妻か寝待月 本多静江
食思また妻とひとしく立葵 友岡子郷 春隣
飯しろく妻は祷るや法師蝉 石田波郷
飯炊いて妻旅に立つ雨蛙 秋元不死男
飯褒めて妻を笑はす啄木忌 大前貴之
飯食ひに妻と出て初時雨かな 草間時彦 櫻山
飯饐えて妻には大事夫に些事 井沢正江 以後
飯饐ゆと婢が嗅ぎ妻が嗅ぎ 宮崎了乙
飲んでみる妻の残りの風邪薬 安永幽山
飲食(おんじき)をせぬ妻とゐて冬籠 森澄雄
飲食をせぬ妻とゐて冬籠 森澄雄 所生
飴市を戻りたる妻猫を抱く 古田紀一
飼屋妻郭公啼いてねむげなる 臼田亞浪 定本亜浪句集
飼鶏の妻になじみて春近し 青峰集 島田青峰
餅を切る一切れごとに妻の息 熊谷 豊
餅一つ焙り妻ならず母ならず 岡本眸
餅切る妻いつかは一人だけになる 加倉井秋を 『欸乃』
餅焼くや鼻が記憶す妻のにほひ 磯貝碧蹄館 握手
餅花に髪ゆひはえぬ山家妻 飯田蛇笏 霊芝
饒舌の妻に湯豆腐踊り出す 滝沢鷹太郎
香具師の手妻の電光石火四月盡 塚本邦雄 甘露
香水を選び得て友妻へ発つ 原子公平「浚渫船」
馬とめて妻の馬待つ夏薊 肥田埜勝美
馬券はずれ続ければ妻や子が恋しい 渚 龍之介
馬籠より妻籠まで提げ朴落葉 浦野芳南
馬遠し藻で陰(ほと)洗う幼な妻 金子兜太 早春展墓
馬鈴薯に創こころはやれるは妻ならん 栗生純夫 科野路
馳せ入るや秋霖碧き妻の傘 鳥居おさむ
駒迎見るや埴生の小家の妻 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
騎子の妻梅雨の合羽に男帽 五十嵐播水 埠頭
骨太の妻の月日や柳葉魚食む 増田萌子
高みへと妻の手を曳く除夜詣 原 裕
高原の妻のふるさと夕立ぐせ 香西照雄 対話
高熱の妻の乱れし髪冴ゆる 大熊輝一 土の香
髪そめて妻のあはれや狸汁 石橋秀野
髪つめて涼しき妻の車椅子 鈴木喜八郎
髪につくかなぶん許し妻古ぶ 下田稔
髪に籾殻つけしまま妻はや深寝 大熊輝一 土の香
髪握つて厨へ妻や鰆見に 富安風生
髪染めしばかりの妻や風光る 内田安茂
髪染めし妻の鬼灯よく鳴れり 多賀庫彦
髪染めんといふ妻かなし銀木犀 里木野雨
髪洗ひたる日の妻のよそ~し 高野素十
髪濡れ来て妻美しや稲光 折笠美秋 君なら蝶に
髪結に出でたる妻や春の雨 西山泊雲 泊雲句集
髪詰めて童顔もどる五月妻 高澤良一 ねずみのこまくら
髭につく飯さへみえずねこの妻 炭 太祇 太祇句選後篇
鬱然と妻を愛しぬ世苦の中 三谷昭 獣身
鬼の身実やさしかなしと言ふなれば妻とふ鬼とわれは棲みにき 岩田正
鬼を打つ妻の細声闇に伸ぶ 小林康治 『華髪』
鬼を追ふ老妻酒を飲む老夫 相生垣瓜人 明治草抄
鬼女の血が妻にも少し青葉木菟 西川 五郎
鬼灯の花にたじろぐ通ひ妻 長谷川かな女 花寂び
鬼灯を妻にもちてや唐がらし 横井也有 蘿葉集
鬼灯を鳴らして妻の何思ふ 佐野良太 樫
鬼灯市妻も下町育ちかな 水原春郎
鬼百合や妻が少女となりし家 香西照雄 対話
魚雷見て誰も無口や桐一葉 高妻津弥子
鮟鱇に右往左往の厨妻 阿部底下
鮟鱇煮る妻のたかぶり声なさず 杉山葱子
鮭の貌けはしく吊られ妻病めり 大岳水一路
鮭を吊るくらがりに妻日陰の寺 大井雅人 龍岡村
鯉釣や呂尚が妻の行々子 尾崎紅葉
鯊釣をしてをり妻の名はとし子 今井杏太郎
鯛御輿縫ふ厄年の漁師妻 長谷川郁代
鯛焼や内職仲間妻にあり 細川加賀 『玉虫』
鰒に似た顏と知らずや坊が妻 河豚 正岡子規
鰭酒の鰭焦がしたり妻の留守 栗田やすし
鰯くろく焼けたらば火を消せと妻 栗林一石路
鰯焼く妻と云ふ名の五十年 武田光子
鰯雲つとめて妻に歩を合はす 野上 水穂
鰯雲妻が流されて行くは行くは 小川原嘘帥
鰹つり妻はまつほのうら船か 松岡青蘿
鰻より土用蜆の良き妻ぞ 松田ひろむ
鰻丼を妻に振る舞ふ日なりけり 高澤良一 素抱
鱒跳ねる瑠璃やその値は妻ささやき 加藤知世子 花寂び
鱚釣つて妻へ漕ぐ舟子へ漕ぐ舟 谷野予志
鳥ぐもり子が嫁してあと妻残る 安住敦
鳥の巣のありありと妻痩せにけり 田中裕明 先生から手紙
鳥交る野を喜捨しつつ妻の里へ 森川暁水 淀
鳥曇妻として生き書斎なし 八牧美喜子
鳥渡る風音のして妻匂ふ 原裕 葦牙
鳥道に笠の妻ふく青あらし 松瀬青々
鳩を見てをれば妻来て花水木 石田波郷
鳩吹をいさむる妻もなかりけり 鳩吹く 正岡子規
鳩時計はと出ず妻の大朝寝 渡辺俊子
鳴く山羊に寝床を起きて行く妻や夢のつづきの如きこがらし 近藤芳美
鴉・附子など黒きに約す妻の果 齋藤玄 『玄』
鴛鴦の妻おくるゝとなくしたがへる 池田苦茗
鴛鴦の妻より先に潜りけり 矢口由紀枝
鴛鴦の深淵に得し妻なるか 草田男
鴨ゆくや水甕満たす艀妻 塩谷はつ枝
鴨飛ぶや少しおくれて妻の鳥 超波 選集古今句集
鴫焼や妻への銭の稿未だ 秋元不死男
鴬餅わが買ひ妻も買うて来し 岩崎健一
鵙啼くや医師に見らるる妻の肌 猿山木魂
鵙高音妻とは仮りの名にはせじ 河野多希女 琴 恋
鵙鳴くや妻鎌を取つて戸を出づる 鵙 正岡子規
鵞毛の降る早春の夜や妻の裸身に触れんかな 橋本夢道 無禮なる妻抄
鵯のいくたびもくる妻のかほ 向山隆峰
鵯の樹下妻がかはりて鞴おす 佐藤鬼房
鶏頭は妻より枯るるものならじ 齋藤玄 『玄』
鶯や塵取さげて老の妻 遠藤梧逸
鶯菜花かかげたり妻病めば 三浦歌郷
鶴の美しい目ふり向けば妻が手を握る 橋本夢道 無禮なる妻抄
鶴は曇らず目を一ぱいにあけてわが妻驚きぬ 橋本夢道 無禮なる妻抄
鶴引くを見しと妻言ふ鷺ならむ 金箱戈止夫
鶸消えて雨の近しと恙妻 斉藤夏風
鷹匠の妻も朱綱の鷹放つ 佐藤林太呂
鷹行けり妻よともども存へねば 大野林火
鷺の白さで元旦の妻高笑ひ 佐川広治
鸚鵡飼ふ癇持妻の派手浴衣 石原八束 空の渚
鹿の妻尾上の芒みだしけり 妻木 松瀬青々
鹿を見てゐて鹿の斑が妻に 星野紗一
麥丘人夫妻は京へ更衣 鈴木しげを
麦こがし妻真剣に噎せゐたり 斎藤五子
麦のとげ農婦といふも稚妻 百合山羽公 故園
麦の秋一と度び妻を経てきし金 草田男
麦の秋一と度妻を経てきし金 中村草田男「萬緑」
麦めしにやつるる恋か猫の妻 芭蕉
麦刈の汗たる胸に夜は妻を 西島麥南
麦刈の汗滴る胸に夜は妻を 西島麦南「西島麦南全句集」
麦刈りし妻の寝顔の照りかなし 大熊輝一 土の香
麦刈りし妻睡るとき麦の香す 笹本達夫
麦湯呑む妻との呼吸合うて来ぬ 高澤良一 寒暑
麦湯煮ることに精出す妻なりき 高澤良一 宿好
麦秋の快眠妻の薄味に慣れ 加地桂策
麦秋や夜は目立つ妻の泣黒子 大熊輝一 土の香
麦秋や妻の血痰火の如し 小川原嘘帥
麦蒔いて妻有る寺としられけり 一茶
麦踏むや同齢妻と歩も揃ひ 大熊輝一 土の香
麦飯にやつるる恋か猫の妻 芭蕉
麦鶉子の初恋は妻が知る 小島健 木の実
麻痺の妻抱き数へ日の美容院 松沢比磋子
黄八丈色に石蕗咲き妻が着て 草間時彦
黄昏の梅に立ちけり絵師の妻 夏目漱石 明治三十二年
黄落に昂ぶりて妻瞬くや 林徹
黄金狂時代抜け出し師走妻 高澤良一 さざなみやつこ
黍の風妻の方言年過ぎつ 飯田龍太
黒い蝶みどりの蝶も句にならず路地に戻りて妻に叱らる 橋本夢道 無類の妻
黒毛虫妻譏ること譏ること 高澤良一 随笑
黴し菓子たぶる妻見てだまりゐる 森川暁水 黴
鼓うつ浅妻船や春の海 春の海 正岡子規
鼻風邪の妻に味見を頼まれぬ 高澤良一 燕音
鼻風邪の妻の言づて事細か 高澤良一 燕音
●細君 
爐開や細君老いて針仕事 炉開 正岡子規
細君と呼ばれてみたし桃の花 内田美紗 魚眼石 以降
細君の折りたたみたる行儀かな 筑紫磐井 花鳥諷詠
買初の細君しわきめでたさよ 尾崎紅葉
●妻女 
外套を売るに妻女ら無き如し 萩原麦草 麦嵐
旅に裁つ衣に妻女と夜長かな 河東碧梧桐
残菊や擁ねば妻女めく 小林康治 玄霜
渡御筋の二階妻女の帯結ぶ 松村蒼石 寒鶯抄
炎天を大きな腹でくる路地の妻女と目で挨拶 橋本夢道 無礼なる妻
●主人 
たこ焼屋主人の啖呵秋祭 有我 卓
たま~に主人も居りし門涼み 楠目橙黄子 橙圃
ふらんす堂主人の笑めり櫻桃 筑紫磐井 未定稿Σ
バス降りて主人帰るや避暑の宿 星野立子
一日無事なれば菊の主人たり 石井露月
主人たり妻たり雑煮祝ひけり 伊藤観魚
主人まづ涼み台より寝に下りし 清原枴童 枴童句集
主人より烏が知れる通草かな 前田普羅 春寒浅間山
主人より頭ふたつ高き冬の人 田中裕明 櫻姫譚
主人拙を守る十年つくね藷 芥川龍之介 我鬼窟句抄
主人散歩のそりのそりと竃猫 山口青邨
午近く主人起きけり納豆汁 癖三酔句集 岡本癖三酔
宮方や花の御宴の主人役 花 正岡子規
宿かさぬ主人つれなき蚊遣哉 湖陸
廚過ぐる主人目刺に眼落して 西山泊雲 泊雲句集
御取越主人の袴似合ひけり 平井一蛙
愚陀仏は主人の名なり冬籠 夏目漱石 明治二十八年
掛乞の曰く主人の曰くかな 掛乞 正岡子規
春昼や主人音なく長厠 楠目橙黄子 橙圃
書斎裡の主人南瓜の数を知れり 福田蓼汀 山火
朝より主人出あるき弥生尽 西山泊雲 泊雲句集
朧夜の猫と主人に髭のあり 十玉幸男
水仙や主人唐めく秦の姓 夏目漱石 明治二十九年
水霜や獺祭書屋主人考 藤田あけ烏 赤松
浅蜊鳴かせ主人(あるじ)十年病み申す 赤城さかえ
漬物に主人が世話や蕃椒 赤坂美代女
白靴や葬儀屋主人戻リをり 深見けん二
礼者西門に入る主人東籬に在り 虚子
秩父に死す囮鮎取扱所主人 武田仲一
種瓢主人風雨に堪へざりき 由井蝴蝶
空一切冬木立ち雨過主人亡し 石塚友二 光塵
茄子汁主人好めば今日も今日も 高浜虚子
茎漬くるやたま~主人書斎より 楠目橙黄子 橙圃
菊枯れて胴骨痛む主人哉 枯菊 正岡子規
蚊遣火の蚊につれ出る主人哉 管鳥
読初の主人編初の主婦と言はず 日野草城
読初の隣主人見ゆ庭つづき 林 翔
酔芙蓉主人南派の画を善くす 五十川茶村
風炉点前主人の脚のしびれ哉 青木月斗
鯛味噌に風流綺語の主人かな 岡田鱶洲
鴬を飼ひて床屋の主人哉 夏目漱石 大正五年
●主婦 
ある日子が主婦の座につく梅二月 篠田悌二郎 風雪前
かな~や主婦に暇あるときのなし 岸風三楼 往来
からたちの芽張りし空澄み主婦を忘れ 河野多希女 琴 恋
にんじんが赤し主婦等に陽あたる坂 飴山實 『おりいぶ』
ねんねこの主婦ら集まる何かある 森田峠 避暑散歩
ひらがなの会話主婦らに薔薇芽張る 鈴木蚊都夫
べたべたと咲く山つつじ主婦の旅 鍵和田[ゆう]子 浮標
ほ句も好き洗濯も好き主婦長閑 高田つや女
わらびざわめき主婦の顔になる 雨宮きみ子
パンを買ふ主婦は鋏を持ちし蟹 田川飛旅子 『使徒の眼』
メロンにも銀のスプーン主婦好み 高濱虚子
メーデーの主婦の群列逞しき 和田博雄「冬夜の駅」
レース着て女流は主婦の顔見せず 西浦昭美(雪解)
一斉に団地の主婦の草を刈る 武田光子
一輪の百合挿し主婦の暑気あたり 阿部みどり女 『微風』
三日ほど主婦を忘れて初夏の旅 稲畑汀子
主婦たたら踏むメーデーやヒロシマに 沢木欣一「塩田」
主婦たちに虫出し雷の一つかな 加倉井秋を
主婦たちに青唐黍の蔭たのし 瀧春一 菜園
主婦たゝら踏むメーデーやヒロシマに 沢木欣一
主婦であり且つこの道や冬紅葉 及川貞 夕焼
主婦として梅雨明を待ち佗びてをり 山田弘子 螢川
主婦にあるひとりの自由暖炉もゆ 成嶋いはほ
主婦にある自由の時間秋灯下 山田弘子 螢川
主婦に澄む火と水森に枯れはじまり 神尾久美子 掌
主婦に職労はられ出づ鳥総松 皆川白陀
主婦のがま口いつもばら銭達磨市 草村素子
主婦のひま松過ぎし夜の琴鳴らす 及川貞 榧の實
主婦のよろこび鰊干す針金があつて 細谷源二
主婦のわれ風邪もひかねばならぬらし 下村梅子
主婦の名が縛す友の背鷹がとぶ 寺田京子 日の鷹
主婦の夏指が氷にくっついて 池田澄子
主婦の座に定年欲しき十二月 塙 きく
主婦の座の背なる柱に古暦 遠藤新樹
主婦の座を解かれて秋の雲にのる 金井暎子
主婦の手にあまたの匂ひ祭り来る 狩野万幾
主婦の手提にキャベツと雑誌湿りあふ 津田清子
主婦の手籠に醤油泡立つ寒夕焼 田川飛旅子 花文字
主婦の日は続きのつづき柚子を*もぐ 中村明子
主婦の日は苺の店の前で閉づ 古舘曹人 能登の蛙
主婦の枷ゆるりと外し夕端居 神澤 信子
主婦の用捨てて一日茸狩 川原 程子
主婦の行楽干潟に水の路ありて 津田清子 礼 拝
主婦の顔は家に置き来て卒業歌 花田春兆
主婦の顔使ひ分けるも去年今年 野村セツ子
主婦ぶりの子の居葡萄の房そだつ 及川貞 夕焼
主婦らしくなりし起居の雛飾る 伊東宏晃
主婦らしくなりぬ苗木の市に来て 喜成緑水
主婦ら出て小溝さらへりあたたかき 石塚友二
主婦二人黍亭々として喋る 古舘曹人 能登の蛙
主婦多忙つくつく法師鳴きはじむ 阿波野青畝
主婦忙しいつしか春の風邪なほり 稲畑汀子
主婦機嫌庭に色鳥よく来去る 星野立子
主婦涼し市へ揺りゆく坐り皺 香西照雄 対話
主婦病みてかびはいよいよはげしかり 山口波津女 良人
主婦病みて俯向き咲ける庭の梅 吉良比呂武
主婦等涼し二の腕ゆたかに寄り集い 赤城さかえ句集
主婦達や心見せ合わず角巻ひし 細谷源二
二度寝して主婦のわれあり春の雨 下村梅子
京菜撰りて主婦に戻れり調律師 村上千鶴代
今日から夏休み主婦とその話する 梅林句屑 喜谷六花
仲春や滞っている主婦一般 芳賀陽子
傘の主婦に犬濡れて蹤く桃の村 田川飛旅子
傷心の翳なく主婦に芝ざくら 阿部みどり女
冬すみれ往きは日が透く主婦の籠 友岡子郷 遠方
冴え返る魚の眼におしなべて主婦 殿村菟絲子 『路傍』
南瓜出盛り主婦らの群に妻を加ふ 磯貝碧蹄館 握手
坪内氏、おだまき咲いて主婦を抱く 坪内稔典(1944-)
夏帽子すこし緩みし主婦の枷 牛川重子
夕顔や父母の意にそひ只の主婦 小松原みや子
大西瓜等しく分くる主婦の腕 船谷芳子
夫ありてこその主婦の座なづな粥 柴田清子
夫へ貌出し軽トラックの主婦運転手 五十嵐研三
妻の座も主婦の座もなく年迎ふ 中島町子
客たちて主婦にあまたの蚊喰鳥 横山房子
室咲きや午前十時は主婦の刻 石川文子
寄鍋に主客閑話や主婦多忙 星野立子
寒卵主婦健康な頬を持ち 千原草之
寒雀短き主婦の午後終る 梅田実三郎
山桑の家の主婦来る斑猫連れ 金子兜太
山茶花や主婦のしるしのエプロンを 波多野爽波 鋪道の花
山茶花や木登り上手今は主婦 堀部映子
年用意なほこまごまと主婦の用 島村茂雄
我為に主婦が座右の蝿を打つ 高浜虚子
接骨木の花貧乏に飽きて主婦 潮原みつる
日に焼けし手くびに輪ゴムそんな主婦 京極杞陽
日の縁や茶の花密に主婦の時 石川桂郎 含羞
春疾風市場出てなほ主婦の貌 神尾久美子 掌
晩涼や主婦ら床几を路次に出し 岸風三楼 往来
朝寒の主婦にある一刻の閑 今井千鶴子
木餅に主婦のなさけをかけ通す 山口波津女
未婚汝の主婦めく重み鳥雲に 林翔 和紙
杖にして主婦が買ひ来し砂糖黍 山口誓子
松蝉や土にまみれて朝の主婦 石田波郷
梅馥郁髪の短かき主婦ばかり 鍵和田[ゆう]子 浮標
榾火熾んにみごもる主婦の顔つよし 宮武寒々 朱卓
歳暮の街の灯基地の主婦の目つきまとう 栗林一石路
母の日の主婦の手籠の花匂ふ 遠藤 はつ
母の日や主婦の結核みな重く 山本蒼洋
水ぬるむ主婦のよろこび口に出て 山口波津女
水中花調度の多き主婦の部屋 杉原竹女
水流すことを落花に主婦このむ 下村槐太 天涯
水餅に主婦のなさけをかけ通す 山口波津女
水餅の水いきいきと主婦の日々 柴田白葉女 花寂び 以後
温室の世話も結局主婦の用 稲畑汀子
溝さらふ主婦らに交りわが四十 菖蒲あや
濯ぎしあとつばめを見ねば主婦さみし 神尾久美子 掌
炭掴み主婦のよろこびここにもあり 山口波津女 良人
炭豊かなるとき主婦の眼かがやく 山口波津女 良人
玉葱を提げて朝より主婦暑し 小合千絵女
畑の雪まぶしみて主婦やつれたり 下村槐太 天涯
眠るのみにて主婦の風邪癒ゆるかな 吉野義子
短日をなげかぬ主婦はなしと思ふ 山口波津女 良人
碗豆の実のゆふぐれに主婦かがむ 山口誓子「遠星」
秋ざくらばかりの庭の主婦若し 及川貞 夕焼
秋風やかかと大きく戦後の主婦 赤城さかえ句集
稲雀とまどふ主婦の団体来て 加藤知世子 花寂び
空壜立ちおよぐ海断水の主婦たちに 小田 保
竜胆の湖いろ主婦になりきれぬ 鍵和田[ゆう]子 浮標
笹鳴きや主婦の鉛筆みな短か 勝又春江
米買う主婦昼の寒気は電球に 大井雅人 龍岡村
紅梅や主婦ら相寄り炭運ぶ 岸風三楼 往来
紅花や化粧を直しに行く主婦ら D・J・リンズィー「むつごろう」
終りなき主婦の仕事や年の暮 丸谷恵子
自炊子も師走の主婦の渦にをり 黒坂紫陽子
色鳥の来しよと主婦や襷がけ 星野立子
花なき冬主婦が首出すわが太鼓へ 磯貝碧蹄館 握手
花明りへをりをり起ちて主婦の稿 中村明子
花時や旧師も主婦の文を賜ぶ 平井さち子 完流
花枇杷や職業欄に主婦と書く 矢口由起枝
若き主婦の毛橇に幼児湖の眼で 細谷源二
茶の点前済めば皆主婦日短 及川貞
草引いて小さき城守る主婦として 山田弘子 こぶし坂
蜂は脚ぶら下げ主婦は手動かし 西東三鬼
蜜豆や主婦にぎやかに席を占め 加藤知子
装ふも手は主婦の手や針供養 茂里正治
読初の主人編初の主婦と言はず 日野草城
豊作に主婦らはじめし念仏会 大熊輝一 土の香
豌豆の実のゆふぐれに主婦かゞむ 山口誓子
豌豆むく主婦に暮しの飛躍なし 伊藤敬子
走馬灯まはりて主婦の起居かな 副島いみ子
連絡船より主婦等出ずオートバイ殘し 金子兜太
過労死は主婦にもありて青胡桃 志賀綾乃
金魚買はず主婦らいづれも豪のもの 波多野爽波 鋪道の花
陋巷や芋の葉育ち主婦を凌ぐ 藤田湘子 途上
除夜の湯へ主婦の胴冷えきつて来る 榎本冬一郎 眼光
隣人の通夜にさそひあふ主婦たちのいきいきと夜の道に笑ふこゑ 田谷鋭
雑巾を濯ぎ暮春の主婦よ我 星野立子
青田車窓によどみなく沿ひ主婦の旅 平井さち子 完流
青葉被て今日主婦でなく妻でなく 松木真沙
高原の秋日に主婦の馴染顔 飯田蛇笏 椿花集
鮓つくる主婦に宵宮の祭笛 石塚友二
麦秋の全き農主婦として在りき 及川貞 榧の實
●正室
●拙妻
●背の君
●世話女房 
世話女房タイプと言はれ燗熟し 関澄ちとせ
秋茄子に世話女房と人はいふ 星野立子
胡瓜もみ世話女房という言葉 高濱虚子
茄子漬や持つべきものは世話女房 加藤郁乎(1929-)
●先妻
●前妻 
前妻/後妻/甘菜辛菜と/摘み分けて 高柳重信
●先夫
●前夫
●糟糠の妻 
モネに佇つ糟糠の香と香水と 佐藤麗子
夏海の糟糠の妻あどけなし 藤本拓三
手すさみに糟糠の妻の蚕飼ふ 寺田寅彦
枯野にて糟糠のとき惜しみなし 古舘曹人 砂の音
糟糠の妻が好みや納豆汁 高浜虚子
糟糠の妻とはなれず秋なすび 重田琴子
糟糠の妻にも一つ年忘れ 相馬沙緻
糟糠の装をして鴛鴦の妻 永嶋千恵子
糟糠を根に埋め妻に桃の花 中拓夫
●旦那 
三つばかり留守の旦那に熟柿かな 尾崎紅葉
仕出し物届きて虚子忌の旦那寺 高澤良一 随笑
売初や店に出て在る大旦那 小松月尚
山旦那杣の焚火に打交る 雉子郎句集 石島雉子郎
略冠に埃いただき毛見旦那 原田青児
●連れ合い 
連れ合いの渾名呼ばるる牡丹寺 高澤良一 鳩信
押っ圧(ぺ)せとわが連れ合いは蟻嫌ひ 高澤良一 随笑
●亭主 
おもしろき秋の朝寝や亭主ぶり 松尾芭蕉
すゞしさや月に二人の亭主あり 子規句集 虚子・碧梧桐選
たれこめて瓢箪生らす亭主かな 阿波野青畝
ふぐ汁の亭主と見えて上座哉 蕪村遺稿 冬
ものいはず客と亭主と白菊と 蓼太
亀鳴きて亭主は酒にどもりけり 内田百間 定本内田百間句集
亭主健在おでんの酒のよいお燗 富安風生
亭主留守銀の太刀魚唐揚に 吉田ルツ
亭主運わるき夏帯しめにけり 高橋潤
初釜や妻が亭主の四帖半 今井清之
初雪や亭主ぶりする浦鵆 水田正秀
初鰹亭主関白つらぬきて 澤田緑生
合歓茶屋の亭主甘い丸薬呉れて 中塚一碧樓
唯あつし客も亭主も一寝入 中村史邦
妻が昼寝たりと亭主小言いひ 昼寝 正岡子規
年下の亭主持ちけり玉子酒 五所平之助
待宵の梨や今宵の亭主ぶり 浜田酒堂
文弱の亭主の好きな貝割菜 澤木欣一
新酒賣る亭主が虎の話哉 新酒 正岡子規
新酒賣る亭主の髯や水滸傳 新酒 正岡子規
松の間を亭主の奪ふ熱哉 暑 正岡子規
独活の香に亭主のすすむ出立かな 李由 三 月 月別句集「韻塞」
瓢箪に興ず亭主の顔が見え 高澤良一 寒暑
病めるとも亭主関白夕おぼろ 松岡友江
祭見にあひると亭主置いてゆく 文挟夫佐恵「天上希求」
籠鳥(ろうてう)を亭主泣かして春闌けむ 筑紫磐井 婆伽梵
菊畑先へ進むは亭主かな 水田正秀
蕣に今朝は朝寐の亭主あり 朝顔 正岡子規
薬喰隣の亭主箸持参 與謝蕪村
蘭の香やくらき所に亭主ゐる 妻木 松瀬青々
蟾蜍亭主はがゆしさりながら 須佐薫子(帆船)
風邪声で亭主留守です分りませぬ 岡田史乃
餅つきや亭主のすきな赤襷 餅搗 正岡子規
餅を切るときは亭主に戻りけり 竹中しげる
鮓圧して聴蛙亭主客に懇ろな 雑草 長谷川零餘子
●共白髪 
共白髪ついに叶わず冬苺 増田治子
冷奴寡黙に馴れし共白髪 村上真佐子
初春や風のむくまま共白髪 松澤和子
若水やふりわけ髪の共白髪 若水 正岡子規
観梅や富貴に勝る共白髪 川村紫陽
●内儀 
あさがほに瘧のおちし内儀かな 加舎白雄
かす汁をうすめてくれる内儀かな 中村吉右衛門
ひとむしろ内儀ばかりや門涼み 月居「題葉集」
人訪へば梅干して居る内儀哉 尾崎紅葉 紅葉山人俳句集
入梅や手拭かぶる新内儀 入梅 正岡子規
内儀ぶりいつ身につきし近松忌 車谷弘 花野
夏痩の内儀覗くや紺暖簾 高浜虚子
太箸をいたゞいて置く内儀かな 卯七
寒紅の店の内儀の美しき 高浜虚子
帳合の内儀美しと鳴く燕 野村喜舟
御取越内儀の客が一座敷 嵐竹 芭蕉庵小文庫
棒鱈を引ずつて行く内儀哉 棒鱈 正岡子規
沫を消す内儀老たり玉子酒 黒柳召波 春泥句集
涅槃会や何処の内儀かもふ日傘 井月の句集 井上井月
葭切や鍵屋の内儀話し好き 稲畑汀子「さゆらぎ」
●内妻 
老妻と内妻二人獺祭 水上黒介
●内室
●新妻 
いちじくに唇似て逃げる新妻よ 大屋達治
げんげ田に新妻おけば夕日匂う 赤城さかえ句集
にひ洒や新津新妻にひ館 会津八一
友とその新妻春の汽車こだま 友岡子郷 遠方
夏至の日の新妻としてパリの旅 千原葉子
新妻と二十日の別れ鰹漁夫 谷崎和布刈男
新妻に*もぎたて碗豆ひとつかみ 寺谷弘子(雪垣)
新妻に追はれどほしの春田牛 石川桂郎
新妻のかひがひしくも夏痩せて 山田弘子 こぶし坂
新妻の二の腕白き夏の果 村井信子
新妻の友の賀状もちらほらと 播水
新妻の差し上ぐる注連飾りけり 橋本自然児
新妻の思はれにきび桜餅 塩川祐子
新妻の湯桶かんこん春の宵 辻田克巳
新妻の砒素の楽しみ雪月花 筑紫磐井 花鳥諷詠
新妻の膳に添へあるちよろぎかな 熊谷佳久子
新妻の起ち居そぞろや大晦日 五十嵐播水 播水句集
新妻の靴ずれ花野来しのみに 鷹羽狩行 誕生
新妻の頃のにほひす雛まつり 三島晩蝉
新妻や手の平で切る新豆腐 小沢初美
歌うたひつゝ新妻や蒲団敷く 森田峠 避暑散歩
菊の日々新妻の日々美しき 藤 小葩
雪の夜の新妻といふ一大事 長谷川櫂 古志
●女房 
うるはしくうるさく隣女房かな 筑紫磐井 花鳥諷詠
お講餅うすく染めつけ蜑女房 山本ちまき
かしづきて小女房よき避寒かな 飯田蛇笏 霊芝
かじかめる手をもたらせる女房かな 山口青邨
かたよりて田歌にすさむ女房かな 飯田蛇笏 山廬集
かぢめ舁く女房だちは縄の帯 丸島弓人
かはほりやむかひの女房こちを見る 蕪村「蕪村句集」
こなたにも女房もたせん水祝 其角
そろばんをおくや師走の女房ぶり 高橋淡路女 梶の葉
べつたら市青女房の髪匂ふ 村山古郷
もろこしを焼いて女房等おめえ・おら 富安風生
をけら火をいたはり戻る女房かな 安生かなめ
世話女房タイプと言はれ燗熟し 関澄ちとせ
主不興女房もてなす鳥屋泊 福田蓼汀 山火
乳あらはに女房の単衣襟浅き 河東碧梧桐
伊連女房名にこそたてれ桜がり 丸之 選集「板東太郎」
先づ女房の顔を見て年改まる 高浜虚子
六月や汗衫(かざみ)をぬぎし青女房 筑紫磐井 野干
内に居れば女房やさし秋の雨 尾崎紅葉
初ひ女房大根洗ひ積み事始め 及川貞 夕焼
初潮や陸の水汲む船女房 富田潮児
初鞴鳴り女房の向う鎚 矢野きよ子
剥身屋の女房もいいなあ銭葵 大木孝子
向う槌とる女房や初鞴 吉武月二郎
唐崎の茶屋の女房も*えり簀編み 大坪野呂子
唐黍と柿女房の多き村 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
塗盆に茶屋の女房の郁子をのせ 高浜虚子
女房あち向き主こち向き種を売る 橋本鶏二 年輪
女房が蓮を見てゐし蓮見茶屋 京極杞陽
女房が酒をたばふや小夜鵆 才麿
女房が麦茶をさげて窯に来る 伊藤幸吉
女房によびおこされて花の春 初春 正岡子規
女房に何を語らん星こよひ 星の夜 正岡子規
女房に六分の利ありぬくめ酒 塩路隆子
女房に力づけられ水盗む 西尾菟糸子
女房のかひがひしさよ雪丸げ 雪丸げ 正岡子規
女房のとかくおくれる田植哉 田植 正岡子規
女房のふところ恋ひし春の暮 松瀬青々(1869-1937)
女房の威儀のをかしく謡初 日野草城
女房の心得顔なり種物屋 吉岡禅寺洞
女房の我慢の眉や二日灸 日野草城
女房の提げし包や山始 斎藤雨意
女房の江戸絵顔なり種物屋 銀漢 吉岡禅寺洞
女房の渡す菖蒲を葺きにけり 河野静雲 閻魔
女房の牛引きいでし椿かな 比叡 野村泊月
女房は下町育ち祭好き 高浜年尾(1900-79)
女房は金の入歯や深見草 牡丹 正岡子規
女房は鶴/糸見せぬ身八口 仁平勝 東京物語
女房も同じ氏子や除夜詣 中村吉右衛門
女房をたよりに老うや暮の秋 村上鬼城
女房泣く聲冴えて御所の夜更けたり 冴 正岡子規
子を連れて古女房や蝗とり 高橋淡路女 梶の葉
客事の好きな女房や松の内 岩木躑躅
家にまつ女房もなし冬の風 冬の風 正岡子規
寒声や皆女房をもたぬ人 遊也 選集古今句集
帰り来て女房を起す晝寝かな 会津八一
帰る夫待つ女房が火鉢哉 谷活東
干菜湯に濡れたる髪をとく女房 橋本鶏二 年輪
年木負ひ杖しかと手に杣女房 上村占魚 球磨
悴んでまるくなりゐる女房かな 森川暁水 黴
手拭の赤い女房の汐干かな 角田竹冷
才無くて鶴女房と夜なべかな 星野石雀
春田打つ鶴女房の村はづれ 有馬朗人 耳順
松葉屋の女房の円髷や酉の市 久保田万太郎 流寓抄
枕継ぐ若女房やふぐと汁 和石 選集「板東太郎」
梅を見るに乳房ふくませて女房かな 雑草 長谷川零餘子
横坐してうけくちびるの汗女房 大橋櫻坡子 雨月
横櫛をさす女房の*えり簀編み 高野素十
此夏を看護にやせし女房哉 寺田寅彦
水打たせてなほたれ籠る女房かな 前田普羅 新訂普羅句集
汗女房饂飩地獄といひつべし 小澤實
沐みもどりて汗の女房を見出しけり 島村元句集
河豚提げて源太が女房通りけり この女
浮世絵の女房顔に更衣 京極杞陽
浮塵子田の畦に座りて女房泣く 宮野 寸青
炉塞いで灰汁桶かふる女房かな 伊藤一露
煮凝や女房も同じ浜育ち 彦井きみお
牛のかほ女房のかほや喜雨の宿 橋本鶏二 年輪
牧守の女房が干せる真綿かな 栗原義人堂
狩人に世辞の一つも茶屋女房 高浜虚子
畳屋の青女房を裏返す 仁平勝 東京物語
白日傘女房菩薩と歩もふよ 小島宇人
盂蘭盆や大髷結ふて浦女房 楠目橙黄子 橙圃
目刺焼くや一つ違ひの女房と 雑草 長谷川零餘子
着膨れて亀女房と言ひつべし 加賀東鷭
短夜をののしり明かす青女房 筑紫磐井 野干
砧うつはよい女房か案山子どの 泉鏡花
神の留守能(よい)女房を守るべし 服部嵐雪
秋夕やかへりみすなる小女房 飯田蛇笏 山廬集
秋茄子に世話女房と人はいふ 星野立子
細き目を向けて女房紙を干す 森田峠 避暑散歩
羽織着て門の雪掃く女房かな 黒柳召波 春泥句集
肌ぬいで女房めづらし朝焼す 佐藤惣之助 蛍蝿盧句集
胡瓜もみ世話女房といふ言葉 高濱虚子
色さめし古女房や帰り花 蝶夢
色足袋に馴れて女房らしくあり 上野泰 佐介
芋アリ豆アリ女房ニ酒ヲネダリケリ 芋 正岡子規
花守の女房出るやあさゝくら 朝桜 正岡子規
茄子漬や持つべきものは世話女房 加藤郁乎(1929-)
著脹れて行くや睦月の小女房 松江
蔵開き質屋の女房あずき煮て 三浦薫子
薺爪女房殿へ飛ばしけり 大澤ひろし
蚕豆をあざやかに茹で古女房 木崎節子
蟲送りに女房を出だす病かな 会津八一
衣更へて銀杏返の女房哉 谷活東
袷着ててんてんうごく女房かな 森川暁水
袷着て隣の女房何処へやら 小林李坪
袷著ててんてんうごく女房かな 森川暁水 黴
袷著て女房ぶりやちりはらひ 森川暁水 黴
褞袍着て風邪の女房となりけらし 原コウ子
走馬燈青女房の燃やしぬる 山口誓子
足袋はきて寝る夜隔(へだて)そ女房共 服部嵐雪
足袋はきて寝る夜隔てそ女房ども 嵐雪
返哥なき宵女房よくれの春 蕪村 春之部 ■ ある人に句を乞はれて
酒を煮る家の女房ちよとほれた 蕪村「新花摘」
酒買ひに女房出て行く朧月 寺田寅彦
酔うてゐる鞴祭りの女房かな 吉武月二郎句集
鍋洗ふ女房見よや春の鳥 岡本松浜 白菊
闇汁に古女房が入れしもの 京極杞陽
隠し女房山路ぞ隔つ呼子鳥 調鶴 選集「板東太郎」
雪のむた鶴女房の窶れかな 金箱戈止夫
雪下駄で金時女房滑走する 秋沢 猛
雪晴れの小径小走り山女房 松本万作
霜夜なり鶴女房の機の音 蓬田節子
霜晨の鶴女房として老いぬ 千代田葛彦
青物を買ふ女房の袷かな 河東碧梧桐
飼屋のぞけば女房顔を恐うしぬ 松本たかし
鮟鱇鍋女房に酒をすゝめけり 鮟鱇 正岡子規
鱸釣る女房を呼ぶや窓のもと 八一
鳥屋女房芸者上りか何かだらう 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
鴨打の家の女房子を抱く 高野素十
鶴女房日本の風土にいし時代貧しく生きて人を許しき 玉井清弘
●後添い 
ひとまはり違ふ後添へ吾亦紅 橋本榮治 越在
後添いの過去には触れず鳥渡る 太田秋峰
後添として茎漬の塩加減 岡本麻子
春の夜や後添が来し灯を洩らし 山口誓子
●後連れ
●配偶者
●人妻 
いまは人妻藁塚に罪一つ秘め 鈴木正治
うつむけば人妻も夏めけるもの 長谷川春草「春草句帖」
えんどうむき人妻の悲喜いまはなし 桂信子
ざらざらと鳴る人妻の麦藁帽 櫂未知子 貴族
ゆらゆらと人妻の香や初句会 鈴木鷹夫 風の祭
わが妻に人妻に水温みけり 野村喜舟 小石川
ゑんどうむき人妻の悲喜いまはなし 桂信子 黄 炎
スケートの濡刃携へ人妻よ 鷹羽狩行
人妻となりて守宮の腹親し 山根真矢(鶴)
人妻となりて暮春の襷かな 日野草城
人妻となりにしひとと十三夜 田中冬二 冬霞
人妻と足結び合ふ運動会 貞方義昭
人妻におどろく鶏の後頸 宇多喜代子
人妻に囲まれ滝は涸れてをり 横山白虹
人妻に手荒く曳かれ運動会 山本白羊
人妻に春の喇叭が遠く鳴る 中村苑子(1913-2001)
人妻に流離もなくて雁帰る 金久美智子
人妻に致死量の花粉こぼす百合 齋藤愼爾
人妻に蝶やトンボの影さして 鳴戸奈菜
人妻のあだに美し菖蒲園 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
人妻のうつくしいのは貌ばかり 筑紫磐井 花鳥諷詠
人妻のうなじ澄みたる牡丹かな 永井龍男
人妻のけふ来て昨日野分吹く 攝津幸彦
人妻のぬす人にあふ枯野哉 正岡子規
人妻の乳房のむかし天の川 林田紀音夫
人妻の匂へる夜や西鶴忌 河野南畦
人妻の声やはらかき小春凪 谷口桂子
人妻の夕白樺のたきつけの袋 梅林句屑 喜谷六花
人妻の姉と連れ立つ花衣 山口波津女 良人
人妻の手首は細し青嵐 筑紫磐井「筑紫磐井集」
人妻の暁起きや蓼の雨 蕪村「落日庵句集」
人妻の男呼ぶなる汐干哉 汐干狩 正岡子規
人妻の突つかけ下駄や独活の花 清水基吉
人妻の素足の季節硝子の家 鷹羽狩行
人妻の老いけり御忌の朝詣 大魯
人妻の茅の輪を抜けて戻りけり 松瀬青々
人妻の蝌蚪いぢめたき真昼時 鍵和田[ゆう]子 未来図
人妻の銀座にキネマ・ソーダ水 筑紫磐井 婆伽梵
人妻の隣うらやむきぬた哉 高井几董
人妻の風邪声艶にきこえけり 高橋淡路女
人妻の髪に挿す都忘れとや 金久美智子
人妻は大根ばかりをふくと汁 榎本其角
人妻は紅茶に毒を。我に戀を。 筑紫磐井 花鳥諷詠
人妻も頭髪饐ゆる夏となりぬ 山口誓子「炎昼」
人妻や白桃に刃をためらはぬ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
人妻よかがめば蛍鼻さきに 楠本憲吉
人妻よ薄暑の雨に葱や取る 飯田蛇笏
人妻をむんずと借りて運動会 太田寛郎
人妻を攫つて走り運動会 田中喜翔
仄暗き人妻となり鳥兜 鳴戸奈菜
冬すみれ濃し人妻となりしのち 嶋田麻紀
旅に出て人妻小萩もとびて越ゆ 平井さち子 完流
水着着て人妻なれや母なれや 林原耒井 蜩
水草の紅葉明日より人妻に 望月一美
浴衣人妻子にうとく花卉めづる 西島麦南 人音
海鞘ふふむ人妻の枷そこはかと 岩永佐保「丹青」
消し炭や人妻といふ甘きもの 阪本和加子
目を病める人妻襲うさざなみよ 鳴戸奈菜
短日の人妻の素足なまなまし 藤木清子
石垣の家黄梅と人妻と 山上樹実雄
竹夫人妻にとられてしまひけり 松尾隆信「おにをこぜ」
経師屋の恋ふは人妻紙風船 曽根富久恵
草市の人妻の頬に白きもの 飯田蛇笏 霊芝
虹消えて了へば還る人妻に 三橋鷹女「白骨」
蛇が<隠れて生きよ>と人妻に 攝津幸彦
角巻のすでに人妻われを過ぐ 青木泰夫
訪ねきてはいつも端居をして人妻 川島彷徨子「榛の木」
辛夷咲き胸もと緩し人妻は 中村苑子
遠花火人妻の手がわが肩に 寺山修司(1935-83)
鏡台祝ふ人妻なん宮仕へせし 松原射石
黴に臥す人妻を見て恋ふ夜なり 萩原麦草 麦嵐
●病妻 
山鳥の病妻へだつ炬燵かな 黒柳召波 春泥句集
年の夜の病妻の灯か貯炭山がくれ 小林康治 玄霜
庭の蕗煮て病妻をよろこばす 水野柿葉
春の霜また病妻に会ひにゆく 有働亨 汐路
泣き初めの病妻なだめかねつあり 西本一都
涙ぐむ病妻さすり日短か 西本一都
病妻がくらさ愉しむ木下闇 斎藤玄 雁道
病妻とさやゑんどうの糸をとる 西山一歩
病妻にみせて春笋の土こぼす 渡辺鶴来
病妻に街夏めくを告ぐるのみ 有働亨 汐路
病妻に見せて春笋の土こぼす 渡辺鶴来
病妻のこのごろ元気花かぼちゃ 石田玄祥
病妻のこぶし螢の火をもらす 小川原嘘帥
病妻のさむがる雨や紫苑生ふ 森川暁水 黴
病妻の前しくしくと林檎剥く 辻田克巳
病妻の箸を進めしごまめかな 松本巨草
病妻の素直がかなし戻り梅雨 舞原余史「鶴俳句選集」
病妻の閨に灯ともし暮るる秋 夏目漱石 明治三十一年
病妻を曳く肉片の朧の手 斎藤玄 雁道
病妻を磧へさそふ星まつり 有働亨 汐路
●夫婦 
*えりを挿す夫婦に夕日濃かりけり 角川春樹
「夫婦は同体」月夜の木椅子に半体置く 磯貝碧蹄館 握手
あたたかや子無き夫婦の箸づかひ 神忠
あはあはと夫婦があますなづな粥 西村弥生
あはれなりさかれば鳥も夫婦かな 松瀬青々
いさかいが夫婦の雅楽とおのく銀河 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
いさかへる夫婦に夜蜘妹さがりけり 山頭火
いつしかに夫婦二人や吊忍 長谷川櫂 蓬莱
いつよりか夫婦二人に子供の日 白鳥順子
いとこ夫婦和蘭陀石竹また枯らし 塚本邦雄 甘露
いなづまや雨月の夫婦まだ寝ねず 黒柳召波 春泥句集
うち晴れて家の夫婦も袷かな 岡本松浜 白菊
うまの合ふ夫婦となりてとろろ飯 高澤良一 随笑
うら若き夫婦二人の田植哉 田植 正岡子規
おくり来し柿にほとけと夫婦のみ 森川暁水 黴
おどろきて銀婚夫婦着膨れぬ 細川加賀 生身魂
おのづから夫婦の圈の粗襖 石塚友二
お彼岸の夫婦仲よきかたゐかな 森川曉水
お茶漬けの味の夫婦や冬ぬくし 細井新三郎
お降りに二度寝きめたる夫婦かな 藤田湘子 去来の花
かけ落の夫婦來て住む木槿垣 木槿 正岡子規
から尻に夫婦のりけり桃の花 桃の花 正岡子規
きのふの白魚にて朝餉をし夫婦 梅林句屑 喜谷六花
けふよりの夫婦の弥生はじまりぬ うさみとしお
こほろぎに宿かる蝶の夫婦哉 蟋蟀こほろぎ<虫+車> 正岡子規
こもごもに釣れて夫婦の鯊日和 茂里正治
こゝに湧く清水が頼み杣夫婦 岡本秋雨路
さし向ふ夫婦の膳の夜寒哉 夜寒 正岡子規
さすらひの老が夫婦や傀儡師 吉田冬葉
しがらきや茶山しに行く夫婦づれ 水田正秀
すさまじや夫婦の部屋の茣蓙衾 上野さち子
すだれ掛けて客好き夫婦仲がよき 森川暁水 黴
せつせつと百姓夫婦鵙の秋 橋本鶏二 年輪
それぞれの夜長夫婦という不思議 赤尾茶香
たらちねを夫婦と見るや星祭 その
つまらなく夫婦の膝の柿二つ 石川桂郎 含羞
つゝみ合し夫婦出くわす踊哉 高井几董
とかくして稲舟あげし夫婦かな 西山泊雲 泊雲句集
どくだみの大きく暮れて夫婦とは 小島千架子
どんど火に夫婦の古りしパスポート 松本勢津子
どん底の寒さ夫婦は水瓶座 塚本務人
はてしなき夫婦の枷の秋刀魚焼く 小林康治 四季貧窮
ひぐらしに丈を違へて夫婦箸 黛まどか
ひそ~と雑煮食ひたる夫婦哉 尾崎紅葉
ひとまはりちがふ夫婦や更衣 鈴木真砂女 生簀籠
ひろ庭の霜に焚火や僕夫婦 岩木躑躅
ふゝと笑ふ夫婦二人や福壽草 福寿草 正岡子規
ほつほつと喰摘あらす夫婦哉 服部嵐雪
ほつゝゝと喰摘あらす夫婦かな 嵐雪
まぐれ蚊を棲ませ深夜の癩夫婦 村越化石「独眼」
まゆ玉や一度こじれし夫婦仲 久保田万太郎(1889-1963)
みかんむき無言で足りる夫婦かな 末岡菊江
みくじ札夫婦遍路ののぞき合ふ 鈴鹿野風呂 浜木綿
むかご引いて細腰夫婦よろめきぬ 肥田埜勝美
むかご蔓ひつぱりあうて夫婦かな 橋本鶏二 年輪
むつまじき老いの夫婦や桜餅 田中冬二 麦ほこり
むつまじき老の夫婦や日向ぼこ 大橋櫻坡子 雨月
もち古りし夫婦の箸や冷奴 道芝 久保田万太郎
ものいはず夫婦畑うつ麓かな 畑打 正岡子規
もの担ひ入るゝ夫婦には戸ぐちの暗さ シヤツと雑草 栗林一石路
をかしげに夫婦老いをり初日中 知世子
エリカ咲くリタイヤ夫婦の喫茶店 初村迪子
ガーベラや夫婦で開く小児歯科 八幡より子
クロレラを夫婦で飲んで冬隣 達山丁字
トマト*もぐ夫婦夕日にひざまづき 須並 一衛
ナツメロに夫婦してのる銷夏法 高澤良一 寒暑
ポインセチア愉しき日のみ夫婦和す 草間時彦
ミサの鐘藷掘る夫婦立ち上り 秋吉良聞
メビウスの帯めく夫婦年はゆく 山田夏子
ラムネのむ若き夫婦が向ひあひ 百合山羽公 故園
一つ心に黍焼きくるゝ夫婦かな 雑草 長谷川零餘子
一つ櫛使ふ夫婦の木の葉髪 松本たかし
一切空夫婦にしらしら煖炉燃ゆ 柴田白葉女 花寂び 以後
一匹の秋刀魚にて足る夫婦かな 小野木須磨子
一夜干し夫婦の水着寄り合へり 殿村菟絲子 『旅雁』
一夜干し夫婦の水着相寄れる 殿村莵絲子 雨 月
一組の夫婦竿てふ穴子釣る 中村春逸
丁字咲き夫婦が一つづゝ咳す 長谷川双魚 風形
七夕の夫婦して牛洗ひをり 馬場移公子
七草や夫婦の丈夫な飯茶碗 池田澄子
七草籠子なき夫婦の声は似て 瀬戸内寂聴
三椏や子連れ夫婦の笑む如く 河合由二
下痢夫婦うすべりに寝て別るゝや 萩原麦草 麦嵐
不器用な夫婦の會話萬兩に 石田あき子 見舞籠
世話物に出さうな夫婦鮟鱇鍋 中火臣
串柿の夫婦めでたき連埋かな 遊花
串柿ふく粉の夫婦の夕まぐれ 瀧井孝作
串柿を夫婦の中にほどきけり 安井小洒
云ふならば初老夫婦の夕涼み 高澤良一 素抱
五時間の時差ある夫婦木の芽和 小高沙羅
今年から夫婦つきりの雑煮かな 松屋春鈴
今穴に入也蛇も夫婦づれ 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
代掻きの夫婦となりて暮れのこる 北見さとる
何もなし夫婦訪来し宿の秋 炭 太祇 太祇句選
俵あむ夫婦や納屋にジャズ流し 松倉ゆずる
元旦の灯を明るうし夫婦あり 高木晴子 花 季
児を失ひて店に夫婦の夜寒かな 比叡 野村泊月
公園にからみあってる夫婦凧 亀山佐助
共働き夫婦の汗疹笑ひあふ 中村金鈴
共稼ぎ夫婦で ハブラシがキスしてて 川嶋靖代
冬の夜を言葉なけれど夫婦なり 大竹多可志
冬濤や痩せしとおぼゆ夫婦岩 宇咲冬男
冬籠日あたりに臥てただ夫婦 飯田蛇笏 山廬集
冬籠隣の夫婦いさかひす 冬籠 正岡子規
冬紅葉夫婦の文字の似ることよ 朝倉和江
冬耕の夫婦離れてまた寄つて 柏岡恵子
冬虹や足し合ひて来し蚤夫婦 小島千架子
冬隣る夫婦雀に棟の風 石塚友二 光塵
冷やかや縄かけられて夫婦岩 鷹羽狩行
凡夫婦色なき砂糖水のむも 清水基吉 寒蕭々
分校の夫婦先生歳木樵 長岡貝郎
初凪の礁ぬきんづ新夫婦 原裕 葦牙
初富士の鳥居ともなる夫婦岩 山口誓子
初旅を締め括りたる夫婦岩 谷川和子
初春を母の喪かむる夫婦かな 長谷川かな女 雨 月
初東風や浪の洗へる夫婦岩 菅野昭藏
初空に紫紺をつらね夫婦松 佐藤喜俊
初風や夫唱婦随に夫婦松 高橋悦男
別々に鷽替へて居る夫婦あり 武藤樹青
加減よき結び昆布や夫婦箸 浜明史
勝鶏に手をあましをる夫婦かな 鈴木灰山子
勤労感謝の日の池の底夫婦鯉 隈 治人
友達のやうな夫婦や玉子酒 山田弘子 螢川
古き夫婦蚤の七月をいたわりあう 細谷源二
古り果てゝ夫婦ともなし麦を踏む 五十嵐播水 播水句集
古茶を汲み夫婦老ゆるに逆らはず 岡野洞之
句夫婦に泰山木の花二つ 八牧美喜子
吊橋に夫婦が揺れている旱り 飴山實 『おりいぶ』
同級生夫婦古りたり更衣 山田弘子 螢川
向ひをる老人夫婦日脚のぶ 高浜虚子
吹かるるもの孕み雀と我等夫婦 加藤楸邨
善く笑ふ夫婦ぐらしや冬籠 冬籠 正岡子規
喰積にさびしき夫婦箸とりぬ 松本たかし
囀や夫婦づつなる砂丘漁夫 大岳水一路
垂れこめし簾のかげの夫婦箸 鷲谷七菜子 花寂び
埋火や夫婦異なる習い事 有山城麓
埋火や子なき夫婦の人形棚 永井龍男
夏寒く並びて夫婦ミイラあり 村松紅花
夏痩せの夫婦はげまし合ひにけり 目迫秩父
夏草の丈に夫婦の息沈む 桂信子 黄 瀬
夕牡丹旅もどりても夫婦きり 西本一都
夕顔の一つの花に夫婦かな 富安風生(1885-1979)
夜のいとど夫婦が交す言短か 石田あき子 見舞籠
夜店の荷夫婦で曳いてきておろし 成瀬櫻桃子
夜長の子夫婦の膝を往来して 黒坂紫陽子
夢にまで入る隙間風夫婦たり 大沢初代
大年の力づけつゝ夫婦かな 滝井孝作 浮寝鳥
大根を煮る香夫婦の三十年 杉本寛
太りたき痩せたき夫婦の夜長かな 宮本美津江
夫婦こもごも水やりし朝顔の咲く 游魚遺稿 藤原游魚
夫婦してかうばしがれる干鰈かな 森川暁水 黴
夫婦してかこかんどりや水の秋 松藤夏山 夏山句集
夫婦してはづれぬ戸あり煤払 乙由
夫婦してわき目もふらず年木結ふ 阿部みどり女 笹鳴
夫婦してラーメンすする労働祭 坂本登美子
夫婦して万歳の顔かなしけれ 岩田蒼穹
夫婦して主に汗捧げ甘藷挿す(肥前長崎十字架山) 上村占魚 『萩山』
夫婦して二日がかりの大掃除 河津巌華
夫婦して十年の紙魚晒しけり 小林康治
夫婦して吉の神籤や初大師 名倉正志
夫婦して同じ病の懐炉かな 菱川柳雨
夫婦して同じ薬を春の風邪 松下八重子
夫婦して啜るや春のざるぶっかけ 高澤良一 寒暑
夫婦して夏季大学の生徒たり 小池森閑
夫婦して天気よければ三の酉 高澤良一 燕音
夫婦して屠蘇すふ朧月夜かな 蓼太
夫婦して山に来てをり文化の日 鈴木しげを
夫婦して恋ひ来し墓を洗ふなり 細川加賀 『傷痕』
夫婦して書初の掌を汚しけり 小川原嘘帥
夫婦して月の葎を素通りす 岸田稚魚
夫婦して物忘れしてしじみ汁 浦野榮一
夫婦して磨く玻璃戸の年の塵 高澤良一 随笑
夫婦して稼ぎ目刺のうまき哉 滝井孝作 浮寝鳥
夫婦して見にゆくさくらありにけり 高澤良一 鳩信
夫婦して買ひ物好きの年用意 西村和子 夏帽子
夫婦して雨戸押へる野分哉 野分 正岡子規
夫婦たがひに知りつくし居り青すだれ 室積徂春
夫婦ただいたはりあふや冬苺 柴田白葉女 花寂び 以後
夫婦てふ妙なえにしの月夜かな 小島千架子
夫婦てふ歳月刻む梅焼酎 三木節子
夫婦とて言葉を選ぶ衣被 古川塔子
夫婦とて騙し騙され四月馬鹿 勝田朋子
夫婦となり空につめたき日が一つ 八田木枯
夫婦となる人に匂えり山椒の芽 長谷川かな女 花 季
夫婦とも片親そだち藤咲けり 成瀬桜桃子 風色
夫婦とも見ゆる二人の寒詣 福田寿堂
夫婦なれば黙せり炭火あかあかと 山口波津女
夫婦にある倦怠期湾を見て居り 見学玄
夫婦にて目糞を拭ひ墓参り 沢木欣一 地聲
夫婦にもバレンタインの遊びごと 山田弘子 螢川
夫婦に荷一つづつ山笑ひけり 細川加賀 生身魂
夫婦の夜氷菓の中に匙残し 対馬康子 愛国
夫婦の心音鯉の心音生き作り 加藤知世子 花寂び
夫婦の距離埋まるかやけに噛む沢庵 鷹島牧二
夫婦ひややか新しき縄稲に垂れ 飯田龍太
夫婦らし酸漿市の戻りらし 高濱虚子
夫婦争ひつつ行く道や豆の花 虚子
夫婦二十五年渝らず紅梅の色をひらく 橋本夢道 無禮なる妻抄
夫婦互に力になり合ひ年迫る 滝井孝作 浮寝鳥
夫婦仲ちよつと考へ目刺焼く 岡本麻子
夫婦友なる刻香りけり机上の柚子 加藤知世子
夫婦古りぬ髭振るいとど中にして 大野林火
夫婦句碑露もひとつに結ばれし 渡辺恭子
夫婦喧嘩もうやめてはと茶立虫 影島智子
夫婦山湖をへだてて閑古鳥 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
夫婦暮しの蚊をやく夜なまめく 梅林句屑 喜谷六花
夫婦杉拝み来てより福沸 安部てい
夫婦松登山道路を岐れしむ 森田峠 逆瀬川以後
夫婦滝つららとなりて輝けり 高橋光江
夫婦滝紅葉の山にこだまして 佐藤信子
夫婦相和し茶摘機の響くなり 蒔田 晋
夫婦碁は妻の勝つまで夜長かな 俵藤正克
夫婦箸の在り処おぼろや桜鯛 草田男
夫婦箸姉妹が使ひ秋灯下 後藤綾子
夫婦箸買ひたる卯の花月夜かな 中山純子 沙 羅以後
夫婦老いどちらが先かなづな粥 草間時彦
夫婦老い涙見せ合ふ終戦日 殿村菟絲子
夫婦舟妻が棹さす搗布採り 阿部啓史
夫婦茶碗ふれて音出す十三夜 高木瓔子
夫婦雁咄して行ぞあれ行ぞ 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
夫婦雛口舌は知らぬ装かな 尾崎紅葉
夫婦雛箱を一つに眠らしむ 佐々木かつの
夫婦雛袖正しくも幾世かな 中島月笠 月笠句集
夫婦鴨さみしくなれば光り合ふ 松本 旭
夫婦鴨芦の中より現はるる 白井良治
夫婦鶴凍鶴となり相寄らず 大串 章
夫婦鶴棚田一枚移りけり 山田弘子 螢川
奪ひ得ぬ夫婦の恋や水仙花 草田男
妹と夫婦めく秋草 尾崎放哉(1885-1926)
娘夫婦来てその母と鷽替に 安住敦
子が寐てる日短かを夫婦して話す 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
子のマントの短かさに堪ふるよ夫婦 梅林句屑 喜谷六花
子の夫婦泊らす柚子湯繰り上げて 篠田悌二郎
子の夫婦銀婚迎ふ花楝 田中英子
子の縁薄き夫婦や一茶の忌 榎本栄子
子もなくて墓参いとへる夫婦かな 飯田蛇笏 霊芝
子らはキャンプヘ夜をつくねんと呆夫婦 石塚友二
子をつれて茅の輪を潜る夫婦かな 大江丸「俳懺悔」
子を中に夫婦くぐれる茅の輪かな 小原菁々子
子を連れて小綬鶏夫婦太りたる 清水基吉
子連夫婦来て帰りたる二日かな 安住敦
孫夫婦よ泰山木一樹花溢れ 松村蒼石 雁
実桜や豊頬夫婦道祖神 池上樵人
客夫婦夜桜を見に出かけたり 比叡 野村泊月
寄鍋の湯気暖かき夫婦かな 大賀豊泉
寄食して夫婦の話きいてゐる 藤木清子
寒夜の川逆流れ満ち夫婦の刻 佐藤鬼房
寒蜆夫婦ぐらしに合はせ買ふ 金子邦子
寿紅葉抜きんづ夫婦松 渡辺恭子
小食となりし夫婦やしじみ汁 田代葉子
山ざくら夫婦の仲を滝摶って 雨宮彌紅
山笑ふ功一洋子夫婦箸 川崎展宏
山雀を送る雀の夫婦かな 山雀 正岡子規
差し苗の夫婦夕べの田をへだつ 氏家さち子
巴里祭モデルと画家の夫婦老い 中村伸郎
帽深く被る夫婦の精霊会 古川塔子
干布団広げて夫婦二人分 高澤良一 随笑
年々に夫婦して詣る初聖天 細木芒角星
年の夜の夫婦余生をききすます 戸村羅生
年の市夫婦茶碗はもう買へず 河野万里子
年始の若い夫婦がせまい室 梅林句屑 喜谷六花
年木積んでみより少き夫婦もの 阿部みどり女 笹鳴
弟子もなく夫婦村鍛冶鞴祭 小原菁々子
影重ね竹瓮沈める夫婦舟 浅井陽子
御手討の夫婦なりしを更衣 蕪村 夏之部 ■ 眺望
心ふとや都の雛に夫婦づれ 上島鬼貫
怠け夫婦に百体仏の灼けてをり 鍵和田[ゆう]子 浮標
愁なき夫婦の生活アマリリス 力富山葉
慶弔に夫婦分かれて鳥曇 石丸泰子
我ら又老いし夫婦や滝見台 深見けん二 日月
我等夫婦田舎道者や春の風 西山泊雲 泊雲句集
手花火や童顔まぎれなき夫婦 秋沢和加子
持ち古りし夫婦の箸や冷奴 久保田万太郎
掃苔に夫婦らしきが供華を手に 高濱年尾 年尾句集
掻き合う爐火明日また夫婦離れ住む 石橋辰之助
教え子の夫婦別姓賀状来る さいとう白沙
散る柳夫婦づとめの落合ひて 水谷 晴光
斑猫に先をあけられ夫婦旅(佐渡行) 岸田稚魚 『雪涅槃』
新しき夫婦夜景の鯉のぼり 中山純子 沙羅
新涼や注連張り替へし夫婦岩 山本とく江
新茶いれ朝は草めく夫婦なり 熊谷愛子
新藁の注連張つてある夫婦岩 道川虹洋
日のあたる柚子を見てゐる夫婦かな 長谷川双魚 『ひとつとや』
日ヘ咲く睡蓮夫婦はいのちを預りあふ 磯貝碧蹄館
日脚伸ぶ夫婦別なることをして 高木晴子 花 季
早梅や相見て足れる病夫婦 石田あき子 見舞籠
易々と紅萩こぼれ夫婦のはなし 中山純子 沙羅
星更けて夫婦の蚊帳となりにけり 小林康治 玄霜
星祭夫婦の下駄の新しく 館岡沙緻
春の夜のいつまで残す夫婦の灯 石塚友二 光塵
春怨や子ゆゑに夫婦離れざる 成瀬桜桃子 風色
春日和阿吽の夫婦の息づかい 大谷房代
春日頒ち礼文利尻の夫婦島 高澤良一 素抱
春炬燵あすのもの食ふ夫婦かな 石橋秀野
春雷下夫婦瞬き合ひて逢ふ 細川加賀 『傷痕』
春風となりし夫婦の着メール 三浦 雪
昼寝だけして帰りたる夫婦かな 木野本加寿江「風船かづら」
時間まだ夫婦にのこる花明り ながさく清江
晩年に似たる夫婦や蝉の家 石田あき子 見舞籠
晩年の夫婦なづなの花白し 篠崎圭介
暑き夜の畳に寝たる夫婦かな 森川暁水 黴
書を盾に子無き夫婦のあせも癖 鍵和田[ゆう]子 未来図
書出しの来ておどろける夫婦かな 森川暁水 黴
書出しをひざに起きゐる夫婦かな 森川暁水 黴
月の雨駈込寺に夫婦墓 片岡和子
木のくれにすつぽり入りし夫婦かな 岸田稚魚
木の暗にすつぽり入りし夫婦かな 岸田稚魚 『雪涅槃』
机仕事の夫婦のなかへきて暮れてゐる シヤツと雑草 栗林一石路
松茸が胃にある夜の夫婦かな 鈴木鷹夫 春の門
松葉牡丹咲かせて夫婦すこし老ゆ 満田玲子
松蝉や夫婦かたみに謀りあふ 小林康治 玄霜
林檎摘花の脚立寄せ合ひ夫婦老ふ 宮津昭彦
枯木星子と離る夫婦傷み易き 平井さち子 完流
枯芝に雨夫婦仲しぶきけり 長谷川双魚 風形
栗むきて夫婦は黙の刻多し 冬一郎
栗咲くや丹波生れの夫婦なる 杉本寛
栗飯や夫婦のほかに仏も居 村越化石
桐の実に夫婦が乾く中二階 稲井優樹
桜餅子が寝て夫婦水入らず 西宮 舞
梅咲きて話題生まるゝ夫婦かな 高木晴子
梅雨の雀夜のなき夫婦手握り合ふ 岸田稚魚
梅雨地獄何に恃むとて病夫婦(妻と前後して胸を患い、病臥早や一年) 河野南畦 『焼灼後』
梅雨寒の夫婦まづしく寝まりけり 岸風三楼 往来
梅雨茜夫婦寄り添うこともなく 内藤吐天 鳴海抄
梟の子を拾ひきし夫婦かな 黒田杏子 一木一草
梨を食ふともに身うすき夫婦かな 森川暁水 黴
梨を食ふ子運のわるき夫婦かな 森川暁水 黴
棧橋に別れを惜む夫婦かな 正岡子規
森を行く夫婦に猟銃音一つ 加倉井秋を 『隠愛』
森閑と子なき夫婦や凝鮒 高木青巾
椿読みの夫婦の誓ひ紅葉晴 長谷川せつ子
標札は夫婦別性ダリアの緋 井上宗雄
櫻會や葛切くづれつつ夫婦 塚本邦雄 甘露
次の世も夫婦で居たし苗木植う 鋤柄ふみ
正月の小川跳び越え旅の夫婦 沢木欣一 塩田
歳月や傷の夫婦にさつき咲く 角川源義
毛蟲にもなれぬ夫婦や秋の蝶 秋の蝶 正岡子規
水栓をきつく締め寒夜夫婦きり 榎本冬一郎 眼光
水澄むと遠耳睦み合う夫婦 吉澤てるよ
水羊羹行儀正しき夫婦かな 大場白水郎 散木集
氷上に夫婦の旅嚢一個置く 沢木欣一 地聲
汚れたる火元夫婦の眼かな 石原舟月
汽車道の左右に畑打つ夫婦哉 畑打 正岡子規
沙羅の花季 密に明けくれ 僧夫婦 伊丹公子 ドリアンの棘
泥田の夫婦寄れば玉なす汗見合う 細谷源二
洋人の夫婦犬飼ふ露台かな 長谷川澪余子
浪音高まりしと夫婦火鉢に倚る 人間を彫る 大橋裸木
海に脛あづけ西鶴忌の夫婦 熊谷愛子
混浴に夏木を愛づる夫婦もの 高澤良一 素抱
渋柿の下に稲こく夫婦かな 夏目漱石 明治二十八年
湖施餓鬼火山灰に喰入る夫婦の座 殿村菟絲子 『路傍』
湯ざめして夫婦老後を計りをり 高橋悦男
満月に夫婦のえにし照らさるる 平之助
満目の花菜に佇ちて夫婦なり 大石悦子 群萌
濃夕焼泥田をいでず泥夫婦 橋本多佳子
火口茶屋鎖し去ぬ夫婦秋の暮 大橋敦子
火振漁阿吽の夫婦川面摶つ 田中千恵
灯を下げて白息夫婦雛つくる 中村金鈴
炉火明り夫婦抱き寝の一と呎(かます) 沢木欣一 赤富士
炉開や世に遁たる夫婦合 炭 太祇 太祇句選
炬燵して鏡に對す夫婦哉 寺田寅彦
炭にくる鼠にわらふ夫婦かな 森川暁水 黴
炭はぜしのちの夫婦の何を待つ 山口波津女
炭斗に炭を満たして夫婦住む 三浦文朗
烏骨鶏の夫婦出歩き彼岸寺 熊谷愛子
無愛想も似たもの夫婦茄子植うる 川村紫陽
焦茶が似合ふ夫婦となりて鵙日和 時彦
煮凝や夫婦となれば恥もなし 山本歩禅
煮凝や子なき夫婦の相頼り 岸風三楼 往来
熊突の夫婦帰らず夜の雪 名倉梧月
牡蛎食って漫才夫婦相黙す 安住 敦
牡蠣船やまた一トくみの夫婦客 久保田万太郎 流寓抄
牡蠣食つて漫才夫婦相黙す 安住敦
牧守の夫婦雪掻き分れたり 田村了咲
物いはぬ夫婦なりけり田草取 蓼太
物言わぬ夫婦となりし溝浚へ 石田由美子
犬蓼や暢気夫婦に子を賜ふ 内田哀而
独活の風味夫婦の仲も古りにけり 北野民夫
獄いたるところ守宮の夫婦愛 大喜多冬浪
玉葱の輪の抜けざまの夫婦かな 横須賀洋子
瓜の花夫婦かたみに俸待つも 草間時彦
甘えてはならず夫婦のなづな粥 堤敏栄
生きがいは夫婦それぞれ雛あられ 吉川葭夫
田仕事の夫婦絵となる檜笠 小出民子(かびれ)
田草取る地声の高き夫婦なり 松倉ゆずる
畑打の夫婦の距離の気にかかる 谷川和子
癩夫婦西日のトマト手より手へ 石田波郷(1913-69)
白息の内側見えて夫婦かな 吉田紫乃
白玉に子をあきらめし夫婦かな 筑紫磐井 婆伽梵
盆の月原寸大の夫婦なり 瀬間 陽子
盆礼のとしはもゆかぬ夫婦かな 逢坂月央子
睦まじき老の夫婦や二日灸 高橋淡路女 梶の葉
短夜を二階に寝たる夫婦哉 短夜 正岡子規
短日の夫婦の出るの退くのかな 久保田万太郎 流寓抄
短日や夫婦の仲のわだかまり 久保田万太郎 流寓抄
破魔矢持ち膳所で降りたる夫婦かな 高澤良一 燕音
碧揚羽夫婦の仲を割いてみよ 辻田克巳
磯遊び夫婦を染める海の青 上江洲萬三郎
神国や天てる星も夫婦連 一茶
神遊び夫婦和合の舞に果つ 奥谷亜津子
福寿草咲き簇り棲む二た夫婦 久米正雄 返り花
秋がそこに来ている蚤の夫婦かな 橋石 和栲
秋の夜や夫婦の絆さがしみる 山田五百子
秋の夫婦で学生街で手をつなぐ 片山秀雄
秋の蛇銀婚の夫婦おどろかす 山口青邨
秋天に授受や夫婦の草フォーク 平井さち子 紅き栞
秋澄むや音を一つに夫婦滝 高橋悦男
秋燈や夫婦互に無き如く 高浜虚子
秋蝉に見かわすまみは夫婦のまみ 三谷昭 獣身
秋雨が真つ直ぐに降る夫婦なり 笠 学
秋霖や四谷にありし夫婦坂 今泉貞鳳
秋霖や夫婦かたみに枷なして 清水基吉 寒蕭々
秘め事もなかりし夫婦炉辺に老い 高林三代女
種迸るに夫婦細目の箕一つ 丸山美沙夫
稲舟や夫婦の棹のよく揃ふ 鈴鹿野風呂 浜木綿
立春の卵立ちたる夫婦かな 小宮山政子
竜胆やたれもがもてる夫婦の秘 森川暁水 淀
端居してをりて夫婦の距離にゐる 兜木総一
笹鳴を聞いて居籠る夫婦かな 比叡 野村泊月
筍を食べて夫婦の不眠症 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
筑波嶺は夫婦ながらに眠りけり 細川加賀
箸とるも夫婦序のある袷かな 森川暁水 黴
箸箱の黴におどろく夫婦かな 森川暁水 黴
節分やこゝに貧しき一ト夫婦 久保田万太郎 流寓抄以後
簡単な夫婦にあらず火取虫 永井龍男
粕汁が好きで下戸なり夫婦なり 尾原 葛
紅梅を丹念にみる夫婦もの 高澤良一 素抱
紅葉の裾は一つの夫婦滝 富永和賀子
紙を焚く夫婦の幼なごゝろかな 長谷川双魚 風形
紙漉きの若き夫婦や奥吉野 大塚美代
経る早し子ら寝て夫婦秋灯下(上京前夜) 石橋辰之助
絵莚や水のごとくに夫婦ゐて 山田弘子 螢川
繭売つて骨身のゆるむ夫婦かな 飯田蛇笏 霊芝
罰あたり夫婦に子なし墓参 森川暁水 黴
羽蟻落つ過不足のなき夫婦とも 藤原たかを
老いざまの似てきし夫婦温め酒 小川茂子
老いてより夫婦気の合ふ味噌仕込み 古賀まり子
老いぬれば夫婦別なきスエタかな 松尾いはほ
老夫婦泳ぐ夫婦を木蔭より 藤田湘子 黒
老農の夫婦暮しやむかご飯 都甲 康枝
耳遠き夫婦いよいよ長閑なり 山口いさを
聟取りて夫婦老いけり薬ぐひ 蓼太
聴き澄みて夕蜩や病夫婦 石田あき子 見舞籠
肩蒲団肩に馴れたる夫婦哉 向野幽水
臘梅に夫婦二組佇める 高澤良一 ねずみのこまくら
色変へぬ松のみどりや夫婦鶴 小俣由とり
花の天より雉子鳩夫婦土に降る 柴田白葉女 花寂び 以後
花の昼夫婦はものゝ淋しけれ 長谷川春草
花の灯をいま消す癩の夫婦寮 小林康治
花びらのごとく翳もち夫婦岩 和田悟朗
花会式黒人夫婦綺羅の服 西谷剛周
花御堂の下に下足の夫婦かな 高浜虚子
花杏夫婦流るるごと働く 青木重行
花楓空気のような夫婦にて 小林鱒一
花青木夫婦で病みて灯しがち 岡本 眸
苗よのびよ夫婦小さく畑にかがみ 細谷源二 砂金帯
苗床の淀の夫婦の苗くれし 山内二三子
茄子汁やいつとはなしに夫婦老い 勝又一透
茎立や子なき夫婦の相孤独 西本一都 景色
茶屋アリテ夫婦餅売ル春の山 春の山 正岡子規
草の餅夫婦で食べに来りけり 細川加賀 生身魂
草刈りの夫婦離れて憩ひをり 江藤都月
荻の風獺の夫婦の通りけり 大野洒竹
菅笠や夫婦黙して田草取 黒田湖山
菖蒲見に淋しき夫婦行きにけり 野村喜舟「小石川」
菜種打つ向ひ合せや夫婦同志 夏目漱石 明治三十年
萬緑やかがやき翔ける夫婦鷹 相馬遷子 雪嶺
葛湯煮て寝そびれ夫婦あそびをり 草間時彦
蒟蒻掘る善根宿の夫婦かな 加倉井秋を
蒟蒻掘る夫婦に吉野山幾重 橋本多桂子
蒟蒻掘夫婦足延べ休みをり 清水山彦
蓬莱の麓に寐たる夫婦かな 蓬莱 正岡子規
蓮掘の影を同じうして夫婦 伊藤京子
蕎麦湯うはさめのした夫婦とその友 梅林句屑 喜谷六花
蕗の薹算段もなき夫婦にて 皆川白陀
蕗味噌の苦さ分けあふ夫婦椀 坂田ヒロ子
薔薇の風夫婦にもあるお三時どき 石川文子
薦を巻く根方ひとつや夫婦杉 堀 研一
藁砧打つやはげしき夫婦槌 大島兎月
藤の下夫婦の腰が子の寝台 山口超心鬼
蘆を刈る音を違へて夫婦なり 森田公司
虫くひだくさんな栗食べて夜の夫婦である 人間を彫る 大橋裸木
蚊の声の中にいさかふ夫婦かな 李由 俳諧撰集「有磯海」
蚊火焚いて宿世の夫婦古りにけり 石原舟月 山鵲
蚊遣火を隔てゝ夫婦喧嘩哉 飯島百合女
蛇いちご半弓提げて夫婦づれ 服部嵐雪
蛇の庭夫婦けろりと夜が朝に 川口重美
蝉聞きて夫婦いさかひ恥づるかな 西鶴「蓮の実」
蝉聞て夫婦いさかひはづる哉 井原西鶴
蝶々の夫婦寝あまるぼたんかな 千代尼
蝿取蜘蛛夕べの夫婦背き合ふ 菊地健
螢とび夫婦おろかに老いしかな 久保田万太郎 流寓抄以後
螢火や夫婦に乱れ籠一つ 市川恵子
蟷螂を見てゐしが弟夫婦来る 加倉井秋を 午後の窓
行く春のはたごに画師の夫婦哉 夏目漱石 大正三年
言葉少く別れし夫婦秋の宵 杉田久女
討死のごとく夫婦の水中り 山田弘子「春節」
話題なき夫婦の卓の心太 田中照子
諍ひの夫婦漫才めく薄暑 遊菜
豆めしや娘夫婦を客として 安住敦「午前午後」
豆叩く夫婦の間に子供置き 中川秋光
豆飯や娘夫婦を客として 安住敦
豆飯や幼なじみの夫婦なる 山田弘子 初期作品
貝割菜出窓に育て新夫婦 田島蔦子
赤のままちぐはぐに生き夫婦かな 小島千架子
走馬燈老の夫婦に廻るなり 田中冬二 若葉雨
越前の雪の匂ひの夫婦蟹 猿山木魂
迎火と送火の間夫婦たり 植村通草
送り火の火影の中の夫婦かな 白水郎句集 大場白水郎
遊船の揺れに夫婦のぶつかりぬ 上野龍子(門)
過敏なる風鈴ありて夫婦の夜 鷹羽狩行「誕生」
避暑に来る西洋人の夫婦哉 避暑 正岡子規
野ら猫に餌やる夫婦花蜜柑 森 啓子
野生馬の夫婦なりと言ふ夏山ゆく 藤後左右
金婚の夫婦茶碗に福茶注ぐ 力石郷水
金婚夫婦小鳥となれり菠薐草 山本嵯迷
金魚売二店出して夫婦かな 松藤夏山 夏山句集
金魚飼ふこどもあがりの夫婦かな 森川暁水 黴
釣忍水のごとくに夫婦愛 山川敏子
鈴虫の甕に顔寄せ夫婦かな 富安風生
鉄瓶鳴りひとつ秋灯に夫婦読む 柴田白葉女 遠い橋
銀婚を忘ぜし夫婦葡萄食ふ 相馬遷子 雪嶺
銭亀を間に夫婦喧嘩かな 吉田健一
銭湯へ行きし間借夫婦や秋の雨 月舟俳句集 原月舟
鋤鍬に春の日和の夫婦山 原裕 新治
錠おろす花見の留守や夫婦者 花見 正岡子規
錠かけて花見の留守や夫婦者 花見 正岡子規
鍬揃ふことなく夫婦暖かし 阿部みどり女
鎌やせて杣の夫婦の冬仕度 渥美文窓
鎌倉に遠き夫婦に虚子忌くる 高野素十
門に出て夫婦喧嘩や落し水 高浜虚子
降る雪や夫婦離(か)れ住むせんもなし 川口重美
陶房に働く夫婦帚草 高浜年尾
障子あけ水を見てゐる枯夫婦 長谷川双魚 風形
障子貼るのりによごれて夫婦かな 森川暁水 黴
雑炊の薬味異なる夫婦かな 三橋鷹女
離れ住む夫婦の寒夜三百粁 石橋辰之助
雪兎つくる夫婦に二人の子 木村蕪城 寒泉
雪空となりし三日の夫婦客 久保田万太郎 流寓抄以後
雪衣(ヤッケ)着し夫婦夫は嬰児抱く 滝 春一
雪衣着し夫婦夫は嬰児抱く 滝 春一
雲丹を割く夫婦無口にひたすらに 笹森ノブ
雲嶺見て羽根つくろへり夫婦鳩 桜井博道 海上
霞む日の夫婦一男一女連れ 廣瀬直人
露の世を以心伝心夫婦老ゆ 福永鳴風
露天の荷夫婦でほどく露の秋 館岡沙緻
青饅や夫婦の夫の誕生日 石川桂郎 含羞
青饅や夫婦無韻の箸づかひ 柴田白葉女 『月の笛』
面白や脇目もふらぬ夫婦雛 雛 正岡子規
韮粥に夫婦別あり好き嫌ひ 斎藤俳小星
頷きて年初の禮や病夫婦 石田あき子 見舞籠
風はらむ鯉幟さへ夫婦づれ 加恵喜美子
風呂吹や使ひふるしに夫婦箸 三ケ尻湘風
風邪夫婦笑つてをれずなりにけり 細川加賀 『玉虫』
風鈴の如き夫婦となりにけり しかい良通
風鈴を品定めする夫婦かな 山下民子
颱風の戸を押へゐる夫婦かな 瀧澤伊代次
餅を搗く夫婦の阿吽佳かりけり 高野孝子
養生の夫婦別在鹿のこゑ 高井几董
首出して夫婦雪夜を眠りをり 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
騎初や夫婦乗りして里帰り 石川かほる
鮟鱇鍋息子夫婦とつつき合ふ 長村雄作
鰯雲われら名もなき夫婦にて 石川星水女
鳥雲に夫婦顔して石二つ 藤岡筑邨
鳩の夫婦涙めきたる氷柱の奥に 細谷源二 砂金帯
鴨を観る夫婦のすがた見てをりし 大下佳恵子
鷹かへる夫婦尺土を耕して 細谷源二 砂金帯
麦の秋主家で飯食ふ夫婦かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
麦湯して暑さ負けせぬ夫婦なり 高澤良一 宿好
麦藁の家に小人の夫婦住み 芥川龍之介
麦踏の夫婦は即かず離れずに 関口茅花
黒猿の黒き夫婦の日向ぼこ 三好達治 路上百句
龍胆やたれもがもてる夫婦の秘 森川暁水 黴
おない年めをと相老い福沸 牛尾泥中
めおとごと終り夜のさゐさゐと雨降るや 中原紫童
めをとしてめをともてなす玉子酒 岩木躑躅
めをとともさにあらずとも秋遍路 森田 峠
めをとまんぢゆう湯気をはげしく初弁天 山口青邨
めをと鳰玉のごとくに身を流す 加藤知世子 花 季
めをと鴨湖広すぎて相寄りぬ 平井さち子 紅き栞
七草や女夫めをとに孫女夫 野坡
四肢投げて足裏で涼むめをと獅子 平井さち子 鷹日和
土産に買ふめをとまんじゆう初聖天 関戸高敬
神無月めをと茶碗の音がする 相沢 鼎
那智の滝たま~めをと遍路かな 高橋淡路女 梶の葉
飛び喘ぐめをと鴉か雪の果 堀口星眠 営巣期
●夫君
●夫妻 
あらせいとう葱じやがいもや老夫妻 八木林之介 青霞集
うすものや下町めきて僧夫妻 河野静雲 閻魔
乞ふ臘梅この家夫妻も老いてをり 及川貞
代る仕る蝉の穴見る老夫妻 川崎展宏
友二先生夫妻に万の山の蝉 岸田稚魚
夕顔をめづる夫妻のかたはらに 瀧春一 菜園
夫妻老い子等尋常に梅の花 遠藤梧逸
姿勢よく蜜豆を待つ老夫妻 川崎展宏
春夕べ夫妻踏切にて会へり 加倉井秋を 午後の窓
枇杷種に遠い灯がつき老夫妻 桂信子 遠い橋
梅咲くや今に眩しき夫妻たり 千代田葛彦 旅人木
歩く夫妻冬の花火は一つきり 八木三日女 紅 茸
水飯や一猫一犬二子夫妻 石塚友二
無職夫妻宵早く金魚買ひに出づ 及川貞 夕焼
片蔭にチンドン屋夫妻しずかな語 西東三鬼
用足せるお上り夫妻花がくれ 河野静雲 閻魔
老夫妻黙の糸瓜に夕餉はや 松村蒼石 露
色鳥や新隣人の新夫妻 百合山羽公 寒雁
花野来し隣り座敷の老夫妻 飯田龍太 春の道
茸汁や子を楽みの僧夫妻 河野静雲 閻魔
●夫人 
*しゃっくりやまぬ一肉塊の冬夫人 宮武寒々 朱卓
うすものの機上夫人に雲ぞ敷く 皆吉爽雨
かの夫人蜜柑むく指の繊かりしが 安住敦
からたちは鋭し夫人うるはしき 藤木清子
しのぶ草摘みぬ案内の蘆花夫人 瀧春一 菜園
ほうたるをお手玉にして麻耶夫人 熊谷愛子
やまとことばの夫人らと立つて満天星 阿部完市 春日朝歌
やまぶきこでまり白猫と喪の夫人 窪田丈耳
ダリヤ剪るや若きミイラと言う夫人 長谷川かな女 花 季
ドリアンの虜となりし夫人かな 山本歩禅
バイヤーの夫人睡る 橙の香の芯で 伊丹公子 メキシコ貝
マスクしてしろぎぬの喪の夫人かな 飯田蛇笏 春蘭
上元や靴むらさきに帰化夫人 中尾杏子
乃木夫人愛用ミシン凍ててあり 辻桃子
亡き夫人智恵子の色絵冬爛漫 中村草田男
今買ひし服に著替へて避暑夫人 中村芳子
出迎へのセルを召されし夫人かな 赤羽岳王
初釜や雪に遅れて来し夫人 宮下翠舟
別るると教授夫人ら足袋しろく 柴田白葉女 遠い橋
午睡夫人不機嫌の手へ釣銭渡す 皆川白陀
南国の鳥よりおしやれ主宰夫人 筑紫磐井
喪服夫人椿を踏んでしまひけり 鈴木鷹夫 千年
大和舞毛皮夫人とならび見る 大島民郎
夫人そこにありて薄茶すゝめぬ花菖蒲 島村元句集
夫人の手ひらひら煖炉ともさるる 藤田湘子
夫人夏の日目に見つゝ竹を閑却す 中塚一碧樓
夫人嬋娟として七人の敵を持つ 日野草城
客待つと犬にもリボン避暑夫人 皆吉爽雨
寒鴉ガラシア夫人につきまとう 宇多喜代子 象
屍に蹤く夫人は枯木を縫うて蹤く 赤城さかえ
屍行き紅襟巻の夫人蹤く 石田波郷
川床よりもむしろ涼しき京夫人 清水基吉
師のかげに夫人は菫そと賜ふ 波郷 (水原秋櫻子先生御夫妻御見舞)
常(とこ)乙女めく夫人去り燕来し 竹下しづの女句文集 昭和十年
常乙女めく夫人去り燕来し 竹下しづの女
扇閉づ橘夫人厨子の前 山岸治子
手袋に年をかくして夫人かな 星野立子
携へし植物図鑑避暑夫人 桑田詠子
摩耶夫人乗らるる雲や雪の果 加藤三七子
摩耶夫人抜きのあひびき摩耶祭 赤松惠子
旭の薔薇に矗と彳つ博士夫人かな 竹下しづの女 [はやて]
映画観て夕空蒼き毛皮夫人 榎本冬一郎
春の夜の夫人ゆるやかに着こなせり 藤木清子
春の夜の自動拳銃夫人の手に狎るゝ 日野草城
春寒くなみだをかくす夫人かな 飯田蛇笏 霊芝
春蘭活け吉川英治夫人の家 天野慶子
春霰ガラシャ夫人は百合持てり 森武子
晩菊を束ねてひとりハナ夫人 鈴木しげを
木枯や菊子夫人の菊づくし 大木あまり 火のいろに
李夫人のあらはれいづる蚊遣哉 蚊遣 正岡子規
李夫人をいだけば夜半にちるさくら 日夏耿之介 婆羅門俳諧
梅雨寒の昼風呂ながき夫人かな 日野草城
母のにほひせり毛皮の夫人前に立ち 田川飛旅子
毛皮夫人いきなり大き手を出せり ながさく清江
毛皮夫人ときをり卑語をのたまへり 松岡洋太
毛皮夫人にその子の教師として会へり 能村登四郎
毛皮手に夫人の耳は髪に見えず 山口誓子
毛皮着て毛皮夫人になりきれず 大森三保子
毛皮買ふ夫人の支那語うたふごと 井沢正江 火襷
水羊羹風生夫人聴き上手 松本澄江
水鳥水に浮いてゐ夫人はこれにはかなはないと思つても 中塚一碧樓
汐干狩夫人はだしになりたまふ 草城
沈丁に立ちてみめよし張夫人 清原枴童 枴童句集
沛然と雨大佐夫人分娩す 仁智栄坊
波郷夫人の短き髪や寒椿 細川加賀
涅槃図のあなうら若き麻耶夫人 細川加賀 『玉虫』
渚ゆく水着夫人や落日後 桂樟蹊子
潮干狩夫人はだしになり給ふ 日野草城(1901-56)
灌仏や桐咲くそらに母夫人(ぶにん) 鏡花
煤掃を手伝ひがほの夫人かな 高橋淡路女 梶の葉
片陰を出でて鎌倉夫人かな 行方克己 昆虫記
犬曳きてロビー縦断避暑夫人 後藤夜半 底紅
現し夫人を眼にか胸にかおお春や 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
白芙蓉秋は夫人の愁ふ瞳に 飯田蛇笏 雪峡
白薔薇の百蕾不死男夫人葬 本宮鼎三
白重ね夫人たまたま夜の卓に 吉武月二郎句集
盛裟の韓夫人野に寒食日 原田青児
眉張りて鎌倉夫人御慶かな 正雄
秋愉し知らぬ夫人も白手套 飯田蛇笏 雪峡
秋扇や寂しき顔の賢夫人 高浜虚子(1874-1959)
秋扇や淋しき顔の賢夫人 高浜虚子
羅や韋提希夫人末利夫人 尾崎迷堂 孤輪
肩狐夫人閑暇に疲れけり 林原耒井 蜩
膝小さく杞陽夫人や時雨寒 山田弘子
自動車を下りて挨拶避暑夫人 星野立子
茘枝ほど瞳の動く趙夫人 松田ひろむ
茸飯のぬくさも渚男夫人にて 草間時彦 櫻山
萩涼し林火師夫人九十五 中戸川朝人 尋声
葛餅や帯高々と夫人らは 三浦恒礼子
薔薇選るや避寒夫人と花触れて 綾部仁喜 樸簡
起居なれし疎開夫人に春の月 飯田蛇笏 春蘭
軽井沢夫人の犬に草じらみ 遠藤若狭男
通夜寒し波郷夫人を目に追ひて 石川桂郎 高蘆
遠くより夫人と解る麦稈帽 椎橋清翠
遺品少なし牧師夫人の五月の死 須佐薫子(帆船)
避暑夫人同士の小犬紐縺れ 肥田埜恵子
避暑夫人足の短き犬を連れ 岬雪夫
酔芙蓉鎌倉夫人にもならむ 原 霞
陽市とあそんだ空の雲夫人 阿部完市 証
隠れ読みしチャタレー夫人青嵐 嶋田麻紀
驟雨を伴れ来し病まざる草田男その夫人 石田波郷「惜命」
骨拾ふ桂子夫人ら小暑たり 萩原麦草 麦嵐
●古妻 
十六夜や古妻古き帯を締め 鈴木真砂女 生簀籠
古妻とよばん去年の竹婦人 竹婦人 正岡子規
古妻と云はるゝ所以菜飯炊く 根津しげ子
古妻と旧山河涼到りけり 相馬遷子 雪嶺
古妻と梅雨の歎きを共にして 相馬遷子 山河
古妻に先をこされし籐寝椅子 原 柯城
古妻のいきたなしとや初鴉 初鴉 正岡子規
古妻のエプロン眩し初厨 房前芳雄
古妻の初髪ほめてやりにけり 橋本花風
古妻の即ち韮の卵とぢ 長尾閑
古妻の姫となりたるひめ始 岸田稚魚
古妻の寒紅をさす一事かな 日野草城
古妻の屠蘇の銚子をさゝげける 正岡子規
古妻の引き添へ風邪や又宵寝 楠目橙黄子 橙圃
古妻の怠る鉄漿や冬に入る 吉武月二郎句集
古妻の懐炉臭きをうとみけり 日野草城
古妻の手桶重げに百合花 石井露月
古妻の柚味噌作るや里心 寺田寅彦
古妻の眼に秋の金色仏 橋本夢道 無類の妻
古妻の輝く日なり初鰹 廣井良介
古妻の遠まなざしや暑気中り 日野草城
古妻の面はなやぐ雛の酒 沢木欣一 地聲
古妻も人手補ひ醫務始 下村ひろし 西陲集
古妻も出刃も海鼠も仏かな 野村喜舟 小石川
古妻も唄ふことあり紫苑咲き 橋本花風
古妻やうら枯時の洗ひ張 正岡子規
古妻や口紅刷ける着衣始 高橋淡路女 梶の葉
古妻や市井深くに菜種揉む 栗生純夫 科野路
古妻や暑さかまけの束ね髪 高橋淡路女 梶の葉
古妻や正月髪につげの櫛 高橋淡路女 梶の葉
古妻や背中合せの夜は長き 夜長 正岡子規
古妻や菜種揉み出す斗一斗 栗生純夫 科野路
古妻や針の供養の子沢山 飯田蛇笏 山廬集
古妻や除夜の燈下のうす化粧 清原枴童 枴童句集
古妻や馴れて海鼠を膳に上ぼす 青峰集 島田青峰
古妻よ味噌壺は味噌を入れとく壺である 橋本夢道 無礼なる妻
古妻を強く叩きて雪払ふ 辻田克巳
古妻を牡丹のごとくいたわらめ 橋本夢道 無類の妻
梅莚はや古妻といひつべし 内藤吐天 鳴海抄
泥葱に古妻雨を怖れけり 龍胆 長谷川かな女
無類の石組み夏朝の大阪城に古妻と 橋本夢道 無類の妻
花*さんざし古妻ながら夢はあり 石田あき子 見舞籠
花種を蒔く古妻や児等左右 西山泊雲 泊雲句集
雑炊や古妻のたゞまめやかに 高橋淡路女 梶の葉
●本妻
●梵妻 
三百枚貼りしと梵妻白障子 河野頼人
梵妻が小豆引きをり根本寺 阿部すず枝
梵妻が鐘つく桃の花ざかり 細川加賀 生身魂
梵妻と立話して冬紅葉 松田美子
梵妻の世事に習ひて土用灸 衣巻梵太郎
梵妻の僧にもたらす蚊遣香 小林正夫
梵妻の如露の作務や打振りて 八木林之介 青霞集
梵妻の貌冬めきてありにけり 牧野春駒
梵妻も一目置くや彼岸婆 橘 榮春
梵妻をちらと見かけし霙かな 波多野爽波 『湯呑』
梵妻を恋ふ乞食ありからすうり 飯田蛇笏
梵妻を戀ふ乞食ありからすうり 飯田蛇笏
池普勝梵妻これに桑鏑提ぐ 八木林之介 青霞集
郭公や屋根裏にある梵妻隠 河野静雲 閻魔
●未亡人 
うつくしき団[扇]持けり未亡人 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
なまめくや枯芝に佇ち未亡人 久保田万太郎
三汀未亡人落葉を掃きてゐたりけり 皆川白陀
冷蔵庫が泣いている四畳半の未亡人 藤田踏青
十薬をざくざくと掘り未亡人 横山節子
夢さめて熊手をつかふ未亡人 中烏健二
悲しくて闊達冬の未亡人(石田波郷師三回忌) 殿村菟絲子 『樹下』
春日鶴嘴重き原爆未亡人 藤田湘子 途上
春暁のこの刻よりの未亡人 吉屋信子
未亡人と見てうら若し彼岸みち 占魚
未亡人の桃の吸ひ方見てをりぬ 櫂未知子 貴族
未亡人泣かぬと記者よまた書くか 佐々木巽
未亡人邸青蜥蜴出入りして 辻田克巳
柘榴屋敷で馬丁を責めし未亡人 筑紫磐井 婆伽梵
梅史忌の老未亡人眼つぶればます 森川暁水 淀
棺点火たちまち縮む未亡人 丸岡忍
楪の夏葉久保山未亡人 宮坂静生 樹下
水鉄砲なぜに下宿の未亡人 熊谷静石
障子張る戦争未亡人老いて 山本芳江
露の世の未亡人とは淋しき名 汀子
●宿六
●鰥夫 寡夫 
鰥夫の字小暑なにやらなまぐさし 能村登四郎「寒九」
六日はも鰥夫六輔六丁目 黒田杏子 花下草上
寡夫めける歳月の中椿実に 大内英衛
●嫁 嫁す 
あかがりやまだ新嫁のきのふけふ 正岡子規
あの下手を嫁にと思ふ踊かな 也有
うたゝ寝も嫁来るまでと炉辺の母 斎藤双風
おぼろ夜の竹へとなりの嫁の声 太田鴻村 穂国
お年貢や帳場の嫁の赤てがら 河野静雲 閻魔
かまど猫嫁の不機嫌知つてをり 長尾鳥影
かりがねや貧まざまざと娘を嫁かす 小林康治 玄霜
きみ嫁けり遠き一つの訃に似たり 高柳重信(1923-83)
こんな白い手をして嫁くか赤とんぼ 川島トク
さらぬだに月に立待つ惣嫁かな 一茶
さりげなく嫁をほめをり櫨紅葉 広津幾代
しゃべりすぎた嫁に炉塞ぎされてゆく 森須 蘭
じやがたらの咲いて天女を嫁にして 関戸靖子
たんぽぽや嫁くる峡の何でも屋 つじ加代子
つばくらや嫁してよりせぬ腕時計 岡本 眸
つれて来し嫁の屓負や御忌詣 御忌 正岡子規
なかなかに嫁のきまらず冷奴 大熊輝一 土の香
なまはげの問答嫁に及びけり 小畑柚流
なんとなく嫁の泪の気になる母 後藤比奈夫 めんない千鳥
ひさびさに嫁来るはなし雪解川 米澤勝廣
へくそかずら電柱を占め嫁飢饉 長谷川育子
まめにせし隣の嫁の吊柿 下城 宇良
まりちゃんもお嫁にいって螢の夜 小西 昭夫
アイヌ一族焚火をあげて嫁まてる 細谷源二
エプロンをはづす嫁待ち門火焚く ましお湖
サランラツプにくるまる朱色那覇の嫁 市原正直
ハタハタを数えて島がほしい嫁 館岡誠二
パンの匂いの村で弟嫁もらう 阿部完市 絵本の空
一位の実熟れて誰彼嫁に行く 菖蒲あや 路 地
七五三見来たりこれの嫁見たり 石塚友二 光塵
上げ潮や嫁泣かせ花いたづらに 小島千架子
世継榾こきりこさらふ嫁若し 山田春生
亀鳴くや豊かな国の嫁不足 飯島正人
二番果の南瓜ごろごろ嫁不足 山口伸
五十路なほ嫁と呼ばれて磯菜摘む 川村紫陽
人の嫁子常見られうか花盛 井原西鶴
今年より嫁も加へて盆支度 山田ヒサイ
代々の嫁を泣かせし茎の石 毛笠静風
何点の嫁だつたかしら盆が来る 唐橋秀子
冬星照らすレグホンの胸嫁寝しや 香西照雄 対話
冬耕の広き田に嫁し同窓生 猪俣千代子 堆 朱
冬至粥嫁も姑も若からず 鳥本三紗
冬菜洗ふ波紋を交はし嫁どうし 成田千空 地霊
凍豆腐編みてしびれて嫁の座や 村上一葉子
出雲より嫁しし日向の雲丹採女 山崎正人
初春や嫁となる娘の訪れし 北里夏雄
初電話嫁の里よりかかりけり 久保ともを
吾子が嫁く宇陀は月夜の蛙かな 大峯あきら(1929-)
吾子嫁きてよりの小春のいとほしき 後藤比奈夫 金泥
唐辛子一途に嫁きてしまひけり 板谷清太郎
土産屋の嫁となりたる日永かな 一寸木麻里子
土用白菊弟の嫁を棺に閉じ 相原左義長「地金」
壻となり嫁となる春の契り哉 春 正岡子規
夏炉守り嫁の座守りて老い給ふ 高木晴子 花 季
夕榮や稻こぐ嫁の赤き顔 稲扱 正岡子規
外仕事嫌ひし嫁の夏蚕飼ふ 天野逸風子
多木子嫁く日の紙を折ったりたたんだり 鴻巣又四郎
夜なべの座媼さま左り嫁右に 田中冬二 俳句拾遺
夜桜や嫁の仕事を打遣りて 津田ひびき
大神てふ町に子の嫁す神無月 川崎慶子
夫の忌は嫁にもどりて花菜漬 赤尾恵以
姑の嫁につれだつ小春哉 小春 正岡子規
娘とは嫁して他人よ更衣 星野立子(1903-85)
娘と嫁の紙漉きし嵩ほゞ同じ 大橋敦子 母子草
娘等嫁して元の二人に秋刀魚焼く 荒原節子
婆・嫁・乙女の黙が深まり紙漉きだす 加藤知世子 花寂び
嫁かすべきあらたまの年立ちにけり 大石悦子 百花
嫁かぬ子へ買ふ秋冷の阿六櫛 中尾杏子
嫁かぬ身やぬるき炬燵に深ねむり 菖蒲あや
嫁きしあと父情母情のきりぎりす 文挟夫佐恵 雨 月
嫁きしよりもの想ふ姪虹に佇つ 宮武寒々 朱卓
嫁きし子の部屋を書斎に鳥曇 亀井糸游
嫁き遅れ息つめ数ふ毛糸の目 菖蒲あや あ や
嫁くと決め素直に柿をむいてをり 市川紫苑
嫁く人のほかはささめく夜の雪 鷲谷七菜子 黄 炎
嫁く友のくちびるちさしつばくらめ 鈴木しづ子
嫁した 老いた 涙は島の西風(にし)で涸れた 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 島嶼派
嫁してなほ寝顔稚しよ夏布団 田中青史
嫁してより信やゝうすれクリスマス 吉井莫生
嫁してより家族は二人玉子酒 荒昔英子
嫁して来て啄木が好き毛糸編む 杉岡せん城
嫁して食ふ目刺の骨を残しつつ 皆吉爽雨
嫁せし娘の妻にやさしき賀状かな 堤俳一佳
嫁せし子の雛が眠れる天袋 小岩井清三
嫁せば嫁して仕ふ母あり日日草 白川京子
嫁たりし日の古日記燃やしけり 永山比沙子
嫁つれて涼むや背戸の薪の上 江戸-亀水 俳諧撰集「有磯海」
嫁つれて能登の寄合会に詣でけり 山本清嗣
嫁つれて鼠も出たり水祝ひ 水祝 正岡子規
嫁てふ場茶の花はうつむいて咲く 加藤知世子 黄 炎
嫁といふ不思議な人とゐておぼろ 清水美代子
嫁といふ火襷の痕秋冷に 赤松[けい]子 白毫
嫁とりし狐が顔や枯尾花 会津八一
嫁と呼び聟と云ひつゝ睦月かな 井月
嫁と見え娘と見えて畠打つ 畑打 正岡子規
嫁にくし息子にくしや十夜婆 木田千女
嫁にすぐ加担包丁始かな 海老名衣子
嫁になる娘が来てくれし二日かな 藤実艸宇
嫁にははと呼ばれふりむく初桜 伊藤いと子
嫁にやるには惜しき子と銀河見る 永野由美子
嫁のゐぬ日のさびしさの桜草 勝又一透
嫁の十年喪服の双肩がさむし 山本つぼみ
嫁の座といふ冬瓜のごときもの 奥坂まや
嫁の座もしかと十年大朝寝 服部壽賀子
嫁の座や浅漬の味ほろにがし 渡辺七三郎
嫁の座や焚かねば夏炉すぐ湿める 加藤知世子 花寂び
嫁の晴着に雪が模様となつて降る 加藤知世子 黄 炎
嫁の来て家が涼しくなりにけり 阿部静雄
嫁の起居蝶のごとしやライラック つじ加代子
嫁ひとり迎ふ総出の北風の村 成田千空 地霊
嫁ふたりあるがたのみの蚕飼ひ 篠原樹風
嫁みせに出て来る茶やの落ば哉 炭 太祇 太祇句選後篇
嫁むすめ袖入替えて田刈かた 水田正秀
嫁る気嫁らぬ気いづれも本気年詰る 毛塚静枝
嫁を得し跡取りの鍬始めかな 植木緑愁
嫁ケ島見えて昼寝の枕あり 木村蕪城
嫁ヶ島くすぐる如く蜆掻く 田中静龍
嫁・母・祖母の名に痩せ淡き星まつる 加藤知世子 花寂び
嫁・犬ぐるみ涼みプロパンの丸胴や 平井さち子 完流
嫁取の城崎にして霙かな 田中裕明 花間一壺
嫁叩き電柱のある愉しさよ 宮坂静生 樹下
嫁婿や日から弥生の雪が降る 成田千空
嫁来る日雁いくたびも渡るなり 田村了咲
嫁欲しとノヨサ踊のさす手かな 西本一都 景色
嫁泣かせてふは落葉に埋む庭 山田弘子 こぶし坂以後
嫁突はれんりの枝の手鞠哉 井原西鶴
嫁端居背に家闇の昼も濃く 香西照雄 素心
嫁見とも知らずりんごの袋かけ 三浦恵子
嫁送る音頭も奥や明治節 石塚友二 光塵
嫁達の化粧気安き若葉哉 若葉 正岡子規
嫁長閑か犬に牽かれて義母見舞 香西照雄 素心
子が嫁さば春昼琴の音も断たむ 安住敦
子が嫁に行く日や熊ん蜂宙に 高畑浩平
子の嫁してのちの歳月木守柿 矢島久栄
子の嫁に欲しき人ゐて四温光 都筑智子
子はしやらり体育の日に嫁にゆき 大野允子
子を産みし嫁花合歓のごときかな つじ加代子
子育ての修羅にある嫁旱梅雨 向笠和子
子雀に餌をまく嫁よ身ごもりし 小野秀子
孫娘嫁にゆく春ぢゝばゝに 河野静雲
実るまでが葉桜の季地味な嫁 香西照雄 素心
家いづれば嫁生き生きと曼珠沙華 加藤知世子 黄 炎
家ぢゆうに懸煙草して嫁若し 森田峠
家系累々黴茫々と嫁迎ふ 八木三日女 紅 茸
寒いホーム嫁かせて泣く母綿みたり 平井さち子 完流
寒卵産後の嫁を見舞ひけり 酒向多津子
寒梅に蕾ぎつしり妹嫁す日 香西照雄 対話
寒燈下嫁かずいもうと字をならふ 長谷川素逝
小夜しぐれうましの嫁を祝ぎて辞す 宮武寒々 朱卓
小春日や声筒抜けに嫁と妻 松本 進
小雀にも餌をまく嫁よ身ごもりし 小野秀子
山育ち嫁して巧みな鮑海女 高橋利雄
山茶花の窓を残して娘の嫁けり 福原紫朗
年頭や庄司が嫁は夜がまじる 浜田酒堂
惣嫁指の白きも葱に似たりけり 芥川龍之介 澄江堂句抄
愛ちやんはお嫁に辺り鵙日和 攝津幸彦 鹿々集
愛嫁をはなさず連れて十夜婆 殿村菟絲子
手緩しと思えど嫁の年用意 渋谷 遥
担がれて届く大きな嫁御鰤 池田世津子
掛けながら稻に隱るゝ嫁御哉 掛稲 正岡子規
掛香や嫁かずじまひに世を生きて つじ加代子
摘草ややがて嫁くなる人の閑 岡本松浜 白菊
数珠玉やかごめの鬼が嫁にゆく 高橋酔月
新婚の嫁と連れ立つ年の市 池田博子
新嫁の来るとも知らず竃猫 赤星水竹居
新嫁の里のもたらす蒲莚 三浦まさゑ
新涼や母の顔拭く嫁も老い 小野里照代
旧き家に嫁して百足虫に刺されけり 大野信子
春の夢のごとく娘が嫁くと言ふ 鈴木鷹夫 春の門
春の蚊の肢折れやすく子を嫁かす 角川源義 『秋燕』
春光や嫁して子を成し乳も足り 関森勝夫
春支度京のしきたり嫁しるや 風間さく
春炉焚かれず嫁も姑もみな死んで 成瀬櫻桃子 素心
春風や嫁を載せたる飾り馬 春風 正岡子規
末つ子の嫁も末つ子桃の花 平松三平
末子嫁き小春の母に白き猫 鍵和田[ゆう]子 未来図
本当に嫁つてしまひぬ寒卵 鈴木鷹夫 春の門
村中が柿の明るさ嫁しゅうとめ 佐藤初見
東京に育ち花菜の村へ嫁く 杉本寛
東西に嫁して姉妹や雛飾る 石昌子
柊挿す娘は嫁にゆくものか 樋口ただし
柿落花嫁同化せよ子生めよと 香西照雄 対話
桑の実や紅粉つけ過ぎる里の嫁 麦水「葛箒」
桑笑(そうしょう)や名とりの老女嫁達者 服部嵐雪
梨花盛りこの郷のよき嫁となれ 大熊輝一 土の香
楪や一男旅に一女嫁し 上田五千石 琥珀
檀の実嫁かずの月日密に濃き つじ加代子
此度は嫁にぬはせじ角頭巾 頭巾 正岡子規
母の日の嫁の手料理無洗米 榊原紘子
水盗み来て愛想良き異国嫁 佐藤凌山
水論が嫁ひきとれとなつたとか 長谷川素逝 村
洗ひたてなる子祭の嫁大根 茨木和生 往馬
浜に嫁す姉の便りや白子干 良籐き代
海鳴の村に嫁くる石蕗日和 高橋好温
漬茄子の色あざやかに嫁かずあり 菖蒲あや
濯ぎもの好きな嫁来て五月晴 堀恭子
爽やかに窯場のまどの嫁ケ島 西本一都
牛に乗る嫁御落すな女郎花 其角
牛飼いに嫁来る垣を繕いし 菊池志乃
牡蠣打つや島に生れて島に嫁し 佐藤三男
狐火やしんじつ村は嫁ひでり 彦根伊波穂
甘茶番して新発意の嫁美人 河野静雲 閻魔
生り節マニキュアとれぬ嫁の手に 甲斐つる子
田を植える母「太郎次の嫁となる」 萩原麦草 麦嵐
田遊の嫁大杯で御神酒受く 川越蒼生
病む父に頼られ嫁かず蕗を煮る 菖蒲あや 路 地
短日の行李引き出し嫁き遅れ 菖蒲あや
神に嫁す朝ほととぎす声かぎり(真理逝きし日) 角川源義 『冬の虹』
福寿草咲いてもわたしは嫁きませぬ 八木三日女
福寿草母の嫁の座永かりし 小野克雄
福茶汲む子らにそれぞれ嫁の添ひ 勝又寿々子
秋茄子や嫁二人住む屋敷うち 小川ハナ子
秋草や祠一つの嫁ヶ島 三加茂禧恵
穀象を見たこともなき嫁貰う 後藤比奈夫
空へ棚田豊の秋なり嫁に来い 出原博明
笹百合や嫁といふ名を失ひし 井上雪
紅蓮信濃御寺の嫁迎へ 斎藤夏風
納屋灼けて嫁に継がるる豆腐臼 玉城一香
納豆の糸靡かせて嫁の座に 倉田しをり
紙漉村嫁に出さぬをしきたりに 影島智子
紫雲英田のびつしり村に嫁来る日 鷲谷七菜子 花寂び
紬織る夜なべは島に嫁してより 井尾望東
緋牡丹を見し瞼を持ちて嫁け 八木三日女「紅茸」
繕ひし垣に嫁見の人だかり 小林寂無
美しき榾の刎火に嫁ばなし 小山白楢
育て来て嫁にゆづるや万愚節 杉本寛
芋名月母妻嫁の並びをり 杉本寛
芒かんざし挿して狐の嫁のごと 大石悦子 群萌
花はつぼみ嫁は子のない詠哉 井原西鶴
花は莟嫁は子のない詠哉 井原西鶴
花冷や針さす如く嫁の愚痴 塩谷健一
花芒狐が嫁にゆく雨ぞ 細川加賀 生身魂
花葵隣の嫁の洗濯す 花葵 正岡子規
芳紀てふ牡丹嫁かざる子がひとり 伊藤いと子
若嫁の削り匂へり新牛蒡 森澄雄「天日」
茎漬や世帯はいつか嫁のもの 渡辺志げ子
草の実や嫁してやさしき娘の便り 飯田弘子
菜の花や雨にぬれたる嫁狐 菜の花 正岡子規
菜虫とることにも嫁の座にも馴れ 大森積翠
葛餅を土産に嫁の里帰り 柴崎紫華
葩餅長子の嫁となる人や 大石悦子 百花
葱坊主子を育てては嫁にやり 成瀬櫻桃子 風色
葵咲く鉱山の理髪師嫁迎ふ 宮武寒々 朱卓
薪能観世に嫁せし人侍り 山田弘子 こぶし坂以後
藤浪や嫁して項の見ゆる髪 鳥居美智子
虫鳴くや嫁かぬひけ目を持たねども 菖蒲あや あ や
虹をかし長女も次女も嫁にだし 久保田万太郎 流寓抄以後
螻蛄鳴くや村に異人の嫁殖えて 道川虹洋
血に痴(し)る蚊痴れしめ嫁を憎しみゐ 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
衣更へて京より嫁を貰ひけり 夏目漱石 明治二十九年
衣被嫁かずば故郷無きに似て つじ加代子
裏戸開け秋蚕光らす朝の嫁 金子兜太
言の端に嫁を気づかふ茄子の花 大熊輝一 土の香
説教は寒いか里の嫁御達 寒し 正岡子規
転作の村に嫁なき枯蓮田 小出 照
野ぎつねの嫁とる雨や百合匂ふ 一瓢
鉾町に生れし誇嫁してなほ 鈴鹿野風呂
雨さそふこの鬼嫁の送り火は 赤松[けい]子 白毫
雪の銀世界より嫁来たりけり 角 光雄
雪柳咲くや植ゑし子嫁きてより 杉本寛
雪沓の百の口開け嫁を待つ 山崎秋穂
青い目の嫁の見舞の菊を剪る 保田白帆子
青桐や泣きべそ顔の嫁となる 吉村紀代子(京鹿子)
風鈴の音色 姑と嫁のあいだで聞く 横山ミサヲ
食積の一画すでに嫁の味 海輪久子
飯櫃入嫁家の香に馴るゝまで 門司昂
餅つきや焚火のうつる嫁の顔 黒柳召波 春泥句集
餅搗きや焚き火のうつる嫁の顔 黒柳召波
髪から手拭をはずし嫁にきている 池原魚眠洞
鬼棲みし里に嫁来る雪間草 柏原眠雨
鳥ぐもり子が嫁してあと妻残る 安住敦
鳥雲に児を措きて嫁す老教師 竹下しづの女 [はやて]
鳥雲に晩婚の嫁はみちのくへ 越田美奈子
鵯の空髷の影にて嫁となる 古舘曹人 能登の蛙
鷹鳩と化して嫁の座まだ続く 榎本栄子
鷽啼くや嫁してはじまる不仕合せ 鈴木良子
麦秋や庄屋の嫁の日傘 麦秋 正岡子規
黍嵐荒れたる村の嫁不足 田中政子
黴の花不嫁(ゆかず)の姉のチリ文學 塚本邦雄 甘露
龍の玉吾子が嫁く日は深みどり 大峯あきら
●良妻 
三月や見事なる牡丹雪降り良妻愚母 橋本夢道 良妻愚母
良妻か過労病み臥す木の芽どき 及川貞
良妻と人には言はれ古袷 三溝沙美
良妻にヤミ米騰るに農相『善処します』 橋本夢道
良妻も愚母か平仄日日合わざる世 橋本夢道 良妻愚母
賢母脱ぎ良妻も捨て更衣 西村睦子(青門)
●良人 
夜の梅を漬け終へ良人帰らずに 萩原麦草 麦嵐
禁煙の良人あはれや冬灯 三汀せん 吉屋信子
肝癪の良人うらくし夏帽子 久米正雄 返り花
雛飾るときは良人に指図する 品川鈴子
麻疹の子に良人は笛吹くよりすべ無し 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
●令室
●老妻 
冷蔵庫老妻の丈あはれ越す 皆吉爽雨
南瓜交媒老妻暁をたのしみぬ 臼田亞浪 定本亜浪句集
夜なべせる老妻糸を切る歯あリ 皆吉爽雨
寒餅の紅切れば艶老妻に 山口青邨
書初や老妻酒をあたゝめたり 鬼城
母の日の老妻をまのあたりにす 松村蒼石 雁
爐話の老妻記憶よかりけり 鈴木洋々子
老妻 年越して縫い上げた綿子 これを着よと云う 荻原井泉水
老妻とけむりのやうな昼寝して 緒方敬
老妻とは吾のことかも火消壺 上野さち子
老妻とひそかな暮し暦果つ 菅原村羊
老妻と内妻二人獺祭 水上黒介
老妻と深夜の花に遊びけり 黒田櫻の園
老妻に糊の夕冷え障子貼る 皆吉爽雨
老妻のかしづく雑煮替へにけり 大橋越央子
老妻のせちに水やる更紗木瓜 山口青邨
老妻のたどたど*さより糸づくり 山口青邨
老妻のひゝなをさめも一人にて 山口青邨
老妻のものわすれして事納 四明句集 中川四明
老妻の一打の強し鏡割 白岩三郎
老妻の人手借りずの雛納 鈴木洋々子
老妻の今年も割りぬ鏡餅 碧童
老妻の前三尺の鰤据はる 山口青邨
老妻の宝石箱にひよんの笛 中阪賢秀
老妻の手つ取り早き菜飯かな 小泉冬耕子
老妻の机の初鏡曇りなく 小原菁々子
老妻の火を吹く顏や鮟鱇鍋 鮟鱇 正岡子規
老妻の襷の白き茶の葉撰り 竹内夏竹
老妻の見てをる榾を割りにけり 橋本鶏二 年輪
老妻の遠き火事みてあまゆなり 長谷川双魚 風形
老妻の飾りし雛を見てやりぬ 富安風生
老妻も身のほどに麥刈りなれぬ 松村蒼石 露
老妻やみとりのひまの盆支度 久我清紅子
老妻を看取る朝寒そゞろ寒 鈴木洋々子
老妻を見舞ひ御慶を交しけり 鈴木洋々子
老妻若やぐと見るゆふべの金婚式に話頭りつぐ 河東碧梧桐
鬼を追ふ老妻酒を飲む老夫 相生垣瓜人 明治草抄
●老夫 
浅蜊掻く老夫一人の棹雫 摂待信子
父のごと老夫いたはり粥柱 杉原竹女
老夫のなかなかぬげぬ胴著かな 圓佛美咲
鬼を追ふ老妻酒を飲む老夫 相生垣瓜人 明治草抄
●老夫婦 
お仏事の餅に色塗る老夫婦 河野静雲 閻魔
げんげ田に影を重ねて老夫婦 宇多喜代子
そゞろ出て蕨とるなり老夫婦 川端茅舎
ぼうたんに腰をうづめて老夫婦 川崎展宏
ビーチバー水着姿の老夫婦 樋口登代子(玄鳥)
ブーゲンビリアテラスに読める老夫婦 古賀まり子
マンシヨンに鈴虫鳴かせ老夫婦 高橋達子
リヤカーで伐り竹運ぶ老夫婦 谷 和子
人ら去り冷えゆく仏と老夫婦 柴田白葉女 『朝の木』
冬鳥に柿取り残し老夫婦 田中としこ
刀豆や反りも程よき老夫婦 野田ゆたか
初鰹威勢よく売る老夫婦 佐野たけ子
向日葵の多花が重すぎ老夫婦 鍵和田[ゆう]子 浮標
大寒の小春に似たり老夫婦 小澤碧童 碧童句集
姿勢よく蜜豆を待つ老夫婦 川崎展宏
寄り添へる果の大師の老夫婦 原田冬扇
小豆粥おそき朝餉を老夫婦 島村茂雄
山の湯に骨正月の老夫婦 長谷川浪々子
新茶入れ日ざしの椽に老夫婦 田中冬二 俳句拾遺
早々と畳替して老夫婦 阿部みどり女 笹鳴
春待つや一と間に住んで老夫婦 武原はん女
春蝉や老夫婦背をながしあふ 瀧春一 菜園
椅子深くラムネ手にして老夫婦 酒井浩代
正月の白波を見て老夫婦 桂信子
氏神へ飾納の老夫婦 杉山木川
灌仏や杓をかたみに老夫婦 柴田只管
神話の国蜆舟には老夫婦 加藤水万
福笑すぐに終りて老夫婦 白岩てい子
秤炭買うて湯治の老夫婦 岡安迷子
粕汁をすすり早寝の老夫婦 岸風三樓
絵日傘の相合傘や老夫婦 稲畑廣太郎
緋ダリヤに今日も椅子並め老夫婦 左右木韋城
緑蔭を出でてふたゝび老夫婦 長谷川双魚 風形
老夫婦いたはり合ひて根深汁 高浜虚子
老夫婦うながしあひて土用灸 池田良子
老夫婦に夜の守宮もうからかな 羽部洞然
老夫婦のみの豪奢や川開 久米正雄 返り花
老夫婦のみの隣家も竹の秋 龍太
老夫婦の黙に沖さす遠ヨツト 桂信子 黄 瀬
老夫婦世を住よしの炬燵かな 竹裏
老夫婦映画ヘバレンタインの日 景山筍吉
老夫婦更衣へ合ふすべもなし 後藤比奈夫 めんない千鳥
老夫婦泳ぐ夫婦を木蔭より 藤田湘子 黒
老夫婦閑居あさがほ秋を咲く 及川貞 榧の實
老夫婦鼻つき合せ煤ごもり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
老父母はまた老夫婦梅漬くる 百合山羽公 故園
胸高に赤い羽根つけ老夫婦 大下順子
花咲けば花に茶を淹れ老夫婦 遠藤梧逸
蕣や相敬し住む老夫婦 岩木躑躅
行水や二人に還る老夫婦 岩木躑躅
観楓やいたはりあうて老夫婦 高橋淡路女 梶の葉
豆を打つ声を小さく老夫婦 中村奈美子
豆打ちてあとひつそりと老夫婦 猿橋統流子
連れ立ちて花豆引の老夫婦 古賀まり子 緑の野以後
遅れ田を植うる阿修羅の老夫婦 杉山岳陽
道行のごと煤逃げの老夫婦 松原雅子
遠き世のごとく春待ち老夫婦 加倉井秋を
野遊びの着物のしめり老夫婦 桂信子(1914-)
金蝿やあら銀蝿や老夫婦 鳴戸奈菜「天然」
鍬始め段々畑の老夫婦 三浦音和
青瓢成らせて子無き老夫婦 武田光子
食積にさびしからずや老夫婦 大橋櫻坡子 雨月
黄砂ふる遊びざかりの老夫婦 延原ユキエ
●若奥さん
●若妻 
仲見世に若妻振りの浴衣かな 孝作
単衣きてまだ若妻や鶴を折る 星野立子
教はりて若妻の買ふ冬至柚子 阪口良子
朝昼晩自称若妻雪を掻く 鈴木 靖
汝が若妻の日なり夜店で買いしこの味噌壺 橋本夢道 無礼なる妻
●かかあ 嬶 
かか(嬶)思ひ菜摘水汲真木割けり 沾葉 選集「板東太郎」
かまくらや今日は嬶座のわらべたち 堤 京子
世ぞ今宵かゝ(嬶)がむか腹宿の月 露浩 選集「板東太郎」
夜庭唄嬶よ乳でも揉ませろと 茨木和生 三輪崎
婆嬶の笑ふが如し啼く蛙 会津八一
嬶天下は母かぎり妻胡麻を刈る 大熊輝一 土の香
山宿の嬶座明るしやまめ焼く 白井新一
急須・ペン炬燵の嬶座常に混む 平井さち子 鷹日和
桑解かれ嬶天下の群馬県 北野民夫
炉の上を嬶座とのぞく嫁が君 秋元不死男
炉火欲しや暗き嬶座の柱負ふ 石川桂郎 四温
神を呼び嬶さを呼べり里神楽 西本一都
穴子漁船待ち顔の嬶衆 高澤良一 素抱
素っ気なき飯屋のお嬶御神渡 千曲山人
行水の盥に嬶が腹あます 巌谷小波
豊年踊り地口も嬶(かが)腹満作と 高澤良一 素抱
酢牡蠣塩梅実家の嬶座の代変り 菊池志乃
鍋吊つて合掌作りの炉の嬶座 片桐てい女
雪囲解き嬶座明るくなりにけり 宮田静江
雪掻にうつて出るなりお嬶衆 平畑静塔
飯あふぐ嬶が馳走や夕涼み 松尾芭蕉
鮎を煮て鮎屋の嬶座暦かな 加藤耕子
鯨裂く嬶も鴉も地声にて 茨木和生 木の國
子烏のうろうろととをかかあかな 一茶
●ワイフ
●山の神 
お昼寝の面付き直せ山の神 高澤良一 鳩信
山の神と云はれ白菜漬上手 渡辺恭子
●山妻 
バレンタインの日なり山妻ピアノ弾く 景山筍吉
山妻と旬の秋刀魚を二等分 高澤良一 寒暑
山妻に豆飯炊かせ同人等 山口青邨
山妻に風邪移りたる移したる? 高澤良一 鳩信
山妻の干す梅机辺まで赤し 百合山羽公 寒雁
山妻の暑さ凌ぎにコップ拭き 高澤良一 寒暑
山妻の海鼠食うたる高鼾 高澤良一 素抱
山妻の着る紺絣露の秋 山口青邨
山妻の金剛力や鏡割る 境 土ノ子
山妻や髪たぼながに神無月 飯田蛇笏 山廬集
梅酒など溜め山妻になりきりし 前田けさ子(裸子)
 
以上


by 575fudemakase | 2022-06-23 03:48 | ブログ


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《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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