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寝る 類語関連語(例句)

寝る 類語関連語(例句)

●寝る 寝ぬ 寝ね●寝不足●寝過ぎ●寝過ごす●いびき●寝相●寝息●寝入る●寝かす●寝転ぶ●寝そべる●横たわる(たえる)●伏す 臥す●横臥●仰臥●寝返り●寝込む●病臥●早寝●宵寝●朝寝●朝寝坊●寝坊●共寝●添い寝●ごろ寝●雑魚寝●侘寝●膝枕●肘枕●北枕●波枕●旅枕●草枕●旅寝●床に就く●寝落つ

●寝る 寝ぬ 寝ね 
*かや風や漁火の明滅思ひ寝る 金尾梅の門 古志の歌
G線に食ふ寝る尿る驢馬の四季 長澤奏子
あこがれて寝るや接木の夜の雨 接木 正岡子規
あとは寝るだけの酒あとひきにけり 中村伸郎
あまり寝る火燵の祖母をのぞきけり 大橋櫻坡子 雨月
あららぎの芽思ひ寝る夜暖き 富田木歩
あれは橿の木大晦を妻と寝る 佐藤鬼房 何處ヘ
いづれは土くれのやすけさ土に寝る 山頭火
い寝るべき頬杖とかむ霧のおと 稲垣きくの 牡 丹
うすき灯に小さきよろこび抱き寝る 藤木清子
うす~と寝るや炬燵の伏見舟 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
うつぶせに寝る癖いまも青葉木菟 石川美佐子(若竹)
おそき子に一顆の丹火埋め寝る 竹下しづの女句文集 昭和十三年
かじかみて脚抱き寝るか毛もの等も 橋本多佳子
かなしき日春塵の厨拭いて寐る 草村素子
がた~と古戸さし寝る暑さかな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
くたびれや心太くふて茶屋に寝る 心太 正岡子規
けふの今宵寝る時もなき月見哉 松尾芭蕉
この頃の時雨は子等の寝る頃に 加倉井秋を 『胡桃』
こも~と亥の子の晩の夜着に寝る 廣江八重櫻
こんな好い月を一人で見て寝る 大空(背・放哉俳句集、扉・俳句集大空) 尾崎放哉、荻原井泉水輯
さびしさに馴れて寝る夜の蛙かな 上村占魚 鮎
さみしい夜は狐の面をつけて寝る 岸本マチ子
しもやけの薬が匂ふ寝るときも 中山純子 茜
しらけたる月や鶴寐る梅の奥 幸田露伴 拾遺
すぐに寝る草の庵の宝舟 松本たかし
せゝらぎに馴れて寝る夜のねこやなぎ 林原耒井 蜩
そこら掃いて寝るばかり屋根の露涼し 中島月笠 月笠句集
ちちろ虫あすの教案立てゝ寝る 深沢京子
てのひらに寝る灯照り添ひ春隣 野沢節子
とどかざる切子の闇に触れて寝る 小林康治
とろとろと寝る烏あり十三夜 杜口
なにひとつなさで寝る夜の蛙かな 上村占魚 鮎
なほ猛威ふるふ暑さにはだけ寝る 高澤良一 随笑
ねむれねば寝ること捨てぬ遠蛙 及川 貞
のとかさや亀の背中に寝る胡蝶 胡蝶 正岡子規
ははそはの寝おはす蚊帳に戻り寝る 木村蕪城 寒泉
はらからと古蚊帳に寝る生家かな 大澤修子「青き踏む」
ひだるさに馴れてよく寝る霜夜かな 惟然
ひとすぢの虫音よすがに寝る母か 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
ひとり寝る山を焼く火を見て戻り 鈴木六林男
ひとり寝る足爪貝のごと冷ゆる 川口重美
ひとり寝る鬼城忌の灯を細めては 小林康治
ひとり居や蚊屋を着て寝る捨心 来山「童子教」
ひびわれし手を胸に置き寝るとせん 山口波津女 良人
ふみつけしいとどのあはれおもひ寝る 森川暁水 黴
ふるさとの名残の蚊帳に父と寝る 橋本花風
ふるさとや屏風へだてて舸子と寝る 木村蕪城 一位
ほととぎす寝るべき卓を壁によせ 稲垣きくの 牡 丹
まんぼうの泳ぎつつ寝る夏の月 杉岡節子
むささびに如何な筋力わたしは寝るわ 池田澄子
むささびの一声ならん寝るとせん 小田黒潮
もう寝るといつて死にたる菫かな 龍岡晋
もう誰にも支配されない眠りのために寝る 水谷卓郎
もがり笛とまれ寝るべくなれりけり 木下夕爾 遠雷
やがて寝る大つもごりの母子かな 清原枴童 枴童句集
やぶ入の寝るやひとりの親の側 炭太 (たんたいぎ)(1709-1771)
わが手わが足われにあたたかく寝る 種田山頭火
アイスティーぐびぐび飲んでまた寝る子 高澤良一 素抱
クリスマスツリーのともし残し寝る 稲畑汀子
スキー列車あさき睡を歪み寝る 石田波郷
ズボンと股引いちどに脱いで農去寝る 田村了咲
チンギス・ハーン水より淡く草に寝る 遠山郁好
ペンを持ち寝るまで眠むし壺の桃 殿村莵絲子
マスクして寝るほど寒き恐はき夜 池内友次郎
一めんの流燈に寝る船ありぬ 大橋櫻坡子 雨月
一夜晩夏のとどろく波を頭にして寝る 古沢太穂 古沢太穂句集
一握の米磨いで寝る松も過ぎ 関口ふさの
一羽来て寐る鳥ハ何梅の月 蕪村遺稿 春
万緑や湖をたいらに男寝る 源鬼彦
不知火を待てり草木の寝る刻を 松岡豊子
世を宇治の門にも寝るや茶つみ共 炭 太祇 太祇句選
並び寝るむくろにわれに明易し 岡安仁義
中学生寝るも撩乱春の旅 百合山羽公 寒雁
九月蚊帳天気はよしと思ひ寝る 大場白水郎
乞食の事いふて寝る夜の雪 李由 霜 月 月別句集「韻塞」
乞食の犬抱いて寝る霜夜かな 許六
二人子の向き合うて寝る蛍籠 野中亮介
交替に寝る木洩日のハンモック 山根昭子
人間に寝る楽しみの夜長かな 青木月斗
仔猫寝る弘法市の大皿に 小中はまこ
仰向き寝るげんげ今年の冷たさよ 下田稔
仰向き寝るは夢見るすがた雲の峰 宮津昭彦
仰向けに寐る猫木犀林散るよ 古沢太穂
伊豆の山焼くるを見つゝ船に寝る 内藤吐天
伊豆の湯に浴衣着て寝るわが家になし 古沢太穂 古沢太穂句集
住み荒れて雀來て寐る椽の霜 霜 正岡子規
俎を寒月に立てかけて寝る 小檜山繁子
俗詩人酢浸しの鮎食べて寝る 鈴木勁章
倒れ寝る道化師に夜の鰯雲 寺山修司 花粉航海
傾城のぬけがらに寐る夜寒哉 夜寒 正岡子規
傾城はなれてよく寐る鹿の聲 鹿 正岡子規
傾城やしくれふるとも知らで寐る 時雨 正岡子規
光氏(みつうぢ)と紫と寝る布団かな 松根東洋城
光氏と紫と寝る蒲団かな 東洋城千句
児を持たず八十八夜寒み寝る 石橋秀野
冬の夜や犬上り寝る米俵 西山泊雲 泊雲句集
冬の夜を真丸に寝る小隅哉 一茶 ■文化十二年乙亥(五十三歳)
冬の月いろいろな欲捨てて寝る 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
冬の燈に寝るまでの顔かがやかす 野澤節子 黄 瀬
冬の雁病人の辺に少し寝る 細谷ふみを
冬の雨癒えし寝息にさそわれ寝る 古沢太穂 古沢太穂句集
冬夜の仕事に寝る前の子が顔を現はす 人間を彫る 大橋裸木
冬木の芽一日歩いて二日寝る 大森杏雨
冬眠の土中の虫につながり寝る 大野林火
冬鳥のぽたぽたと寝る遠景色 渋谷道
凍つる夜の防空頭巾たゝみ寝る 岸風三楼 往来
北風吹く夜ねむり薬にしばし寝る 森川暁水 黴
十六夜はわが寝る刻を草に照る 橋本多佳子
台風に下をとられて上に寝る 藤田俺良
名ある月寝るならはしに眠りけり 岡井省二
君もぼくも暮春の鱶のように寝る 坪内稔典
四方の葦母と枕を低く寝る 北原志満子
土手に寝る 白いくれよんの音階で 星永文夫
地つづきに死火山のあり霜夜寝る 宮津昭彦
垣添や猫の寝る程草青む 一茶
墓参せし夜の雨音の故里に寝る 人間を彫る 大橋裸木
壁寒し自恃のはかなさ念ひ寝る 石塚友二 方寸虚実
夏痩は野に伏し山に寝る身哉 夏痩 正岡子規
夕顔汁やがてみなより先きに寝る 廣江八重櫻
夜の蝉ひとり寝ることまつとうす 岩田昌寿 地の塩
夜も暑し独り袴を敷いて寝る 石田波郷
夜咄に重慶爆撃寝るとする 鈴木六林男
夜寒寝る前静かに座せばわれ獣 冬の土宮林菫哉
夜興引の声もたてずに戻り寝る 原田孵子
夜遅く寝るべき布団敷きはやむ 飯田蛇笏 椿花集
夢充つる帰省列車にかゞみ寝る 能村登四郎
大佛の足もとに寐る夜寒哉 夜寒 正岡子規
大旱の星空へ戸をあけて寝る 長谷川素逝 村
大雪となりたる犬を入れて寝る 原田青児
大雪や寝るまでつがん仏の灯 渡辺水巴 白日
奈良に寐る絹の蒲團や鹿の聲 鹿 正岡子規
妻と鼻距て寝る夜の雨執拗 守田椰子夫
姿見の絶壁の下かゞみ寝る 八木三日女 紅 茸
子と寝るや窓枠に雪溜りゆく 田川飛旅子 花文字
子の部屋に声かけて寝る夜寒かな 西村和子 かりそめならず
定年もなく夜はヒラメのように寝る 山田智津子
室生寺と川隔て寝る青葉木莵 桂樟蹊子
家にあれば寝るころほひを萩と月 上田五千石 琥珀
寐る牛をあなどつて來たり鷦鷯 鷦鷯 正岡子規
寐る門を初雪ぢやとて叩きけり 夏目漱石 明治二十九年
寐る頃の美しくなり寝待月 高木晴子 晴子句集
寒きとて寝る人もあり暮の秋 炭 太祇 太祇句選後篇
寒けれど二人寝る夜ぞ頼もしき 芭蕉
寒夜かも明日焼く父に侍して寝る 小林康治 四季貧窮
寒月や 兵士も樅も喇叭に寝る 星永文夫
寒月下犬片耳を立てて寝る 金子如泉
寒燈にひとり寝る塵たちにけり 中村草田男
寒鯉のふたつのひげを思ひ寝る 三橋敏雄 畳の上
寝られねば寝ることを捨てぬ遠蛙 及川貞 榧の實
寝るかたの壁に来て鳴けきり~す 紫白女
寝ることによき月ありて松の内 大谷碧雲居
寝ることの寂しさを知る寝正月 津田マサ子
寝るだけがたのしく仏壇の扉をしめる 内田南草
寝るだけの家に夜長の無かりけり 松崎鉄之介
寝るだけの畳を拭くや鯊日和 春日一枝
寝るてふにかしておくぞよ膝がしら 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
寝るときの冷えや*いさざを身のうちに 森澄雄
寝るときの冷えやを身のうちに 森 澄雄
寝るときはひたすら眠れ浮寝鳥 吉田やまめ
寝るときや水鶏の声のよみがへり 中山純子
寝るとして旅明易き灯を細む 稲垣きくの 黄 瀬
寝るとせん鴨居の月となりたれば 森田峠
寝るには早いラクダを買うはなし 鹿又英一
寝るにもたいぎなローソクにめしくってる 西垣卍禅子
寝るによき太き枝あり夏木立 長谷川櫂 虚空
寝るのみの家へ急ぐか祭の夜 藤田湘子 途上
寝るひまもあつてうれしき二月哉 二月 正岡子規
寝るべしや梅干ほして一昼間 道彦「発句題叢」
寝るほかはなき中辺路の螢の夜 下村梅子
寝るまでに初雪積り飛騨の山 藤田湘子
寝るまでの口さみしくて玉子酒 越智竹帆子
寝るまでは明るかりしが月の雨 高浜虚子
寝るまでを一日といふ寒さかな 大石悦子 聞香
寝るまで明るかりしが月の雨 高浜虚子
寝るまへに語りあひ居つ梅雨の月 宮武寒々 朱卓
寝るまへのートときいとし秋の蚊帳 久保田万太郎 流寓抄
寝るまへの蛍に水をあたへけり 安住敦「古暦」
寝るより枕かたむく初霰 齋藤玄 飛雪
寝る僧の月の障子にふと影す 野澤節子 花 季
寝る前になりて物書く師走かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
寝る前に本すこし読む良夜かな 辻田克巳
寝る前の錠剤一つ虎落笛 錦織畔燼
寝る前の馬に声かけ冬北斗 中谷真風
寝る前の髪に朧を感じをり 朝倉和江
寝る外に分別はなし花木槿 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
寝る妹に衣うちかけぬ花あやめ 木歩句集 富田木歩
寝る廣さになる鎧戸の秋西日 八年間『碧梧桐句集八年間』 河東碧梧桐
寝る恩に門の雪はく乞食哉 榎本其角
寝る所ありて行くらめたつ小蝶 立花北枝
寝る時の枕辺に匂ひ袋かな 安藤橡面坊
寝る蛇の頭はかなし身の円座 中村草田男
寝る頃にはじまる隠岐の踊かな 森田峠 避暑散歩
寝る頃の美しくなり寝待月 高木晴子 晴居
寝る髪と壁の空間十二月 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
寝床まで月を入れ寝るとする 種田山頭火(1882-1940)
寝茣蓙敷きかなしき音の中に寝る 小林康治 『存念』
寺に寝る身の尊さよ涼しさよ 涼し 正岡子規
小屋の上銀河懸ると思ひ寝る 福田蓼汀 山火
少年の日の友と寝る蒲団かな 上村占魚 鮎
山の長さに寝る友空の怖い青さ 堀葦男
山代のいで湯の菖蒲敷きて寝る 中山純子
山小屋に寝る足と足突き合はせ 石井いさお「雪の輪」
山小屋の荒粒銀河閉めて寝る 堀内薫
山鳩よセーター顔にかけて寝る 諸岡直子
岩襖鵜翔けるところ寝るところ 林原耒井 蜩
巣燕の寝る時は皆寝るらしく 細見綾子
己が寝るあたりへ豆をま一打 高田蝶衣
布裁って沼の暗さにかくれ寝る 北原志満子
帰省して天井低き部屋に寝る 舘脇千春(若竹)
帰省子の喋るは食ふはよく寝るは 三本松隆男
年ゆく夜並びねる子にわれも寝る 及川貞 夕焼
幸に柳も寝るや春の雨 吾仲 正 月 月別句集「韻塞」
庵に寝るなみだなそへそ浦鵆 広瀬惟然
庵主や塞き夜を寝る頬冠 村上鬼城
引きすてた雪車に來て寐る小犬哉 橇 正岡子規
恨み佗ひ河豚食うて寝る夕かな 尾崎紅葉
情死とりやめ葛根湯を飲んで寝る 中島玄一郎
懐ろ手一人寐る夜や炉の名残 雉子郎句集 石島雉子郎
我と我が息吹聴き寝る五月雨 富田木歩
戸を閉めて寝る干梅の力満つ 西東三鬼
戸を開けて又寝る雨の杜若 雉子郎句集 石島雉子郎
戸外に寝る猫をにくみて夜盗虫捕り 長谷川かな女 花 季
戸締もなく寝る里の報恩講 阪田姉川
手を重ね寝る月明の白臥床 吉野義子
手足白く子が寝る蛙田窓を攻め 桜井博道 海上
折々は馬の尾近し寝る胡蝶 胡蝶 正岡子規
抱き寝る吾子欲し虫も鳴き細り 菖蒲あや あ や
押入に丈艸寝るも余寒かな 飯田蛇笏 山廬集
拵へてくれし蒲団に甘え寝る 鈴木花蓑句集
敷いて寝る百万両の宝舟 富安風生
新米を入れし盥を囲み寝る 長谷川かな女 牡 丹
旅おえてまた梟に近く寝る 宇多喜代子 象
旅日記つばめの子だけ画いて寝る 下阪淑峰
旅衾狐狸の裾野も思ひ寝る 百合山羽公 寒雁
日あたりや棉も干し犬も寐る戸口 棉摘 正岡子規
日あたりや綿も干し猫も寐る戸口 棉摘 正岡子規
明家の戸に寐る犬や柳散る 柳散る 正岡子規
明日引かむ鶴八千と寝る夜かな 内田園生
明月やすつでのことで寐る處 名月 正岡子規
星月夜ひとり五階に寐る夜哉 星月夜 正岡子規
星月夜ひとり五階の上に寐る 星月夜 正岡子規
星涼し寝るを惜みて立つ門に 星野麦丘人
星空をふりかぶり寝る蒲団かな 松根東洋城
春の夜の明けしといひて又や寝る 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
春の夜の鈍子屋に寝る二人哉 春の夜 正岡子規
春の夜や泣きながら寝る子供達 村上鬼城
春の夜や金魚に言葉かけて寝る 甘田正翠
春の海魚と鳥と寝るならば 田中裕明 櫻姫譚
春の雪ぐつとばいして寝ることよ 角川源義 『冬の虹』
春の風邪寝るほどもなく見舞はれて 上村占魚 球磨
春を寝る破れかぶれのように河馬 坪内稔典
春日のすこしを自分のために寝る 宇多喜代子 象
春深し耳あてて寝る仮枕 宮武寒々 朱卓
春風に箸を掴で寝る子哉 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
時鳥それなら寝るのぢやなかつたに 時鳥 正岡子規
暖かや乳首ふくみしまま寝る子 逸見静江
暴君の腰痛なだめ寝る寒夜 高澤良一 寒暑
曲て寝る枕も痩て老の秋 横井也有 蘿葉集
更けて寝る蒲団に嵩のなきおのれ 山口草堂
月光にいのち死にゆく人と寝る 橋本多佳子
月清き林泉に足向け旅に寝る 田川飛旅子 花文字
望月や盆くたびれで人は寝る 路通
朧にて寝ることさへやなつかしき 森澄雄(1919-)
木屋町の簾隠りに寝る灯かな 石橋秀野「桜濃く」
木菟なくや剃りたての頭つゝみ寝る 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
木菟のたわいなく寝る時雨哉 一茶
木菟や剃りたての頭つつみ寝る 高田蝶衣
木菟啼くや剃りたての頭つゝみ寝る 高田蝶衣
木葉木菟旅の手足を軽く寝る 浜芳女
未来おもひ蛙の国に隣り寝る 村越化石 山國抄
松籟やふたり寝る夜も寒の内 清水基吉 寒蕭々
松蟲にささで寝る戸や城ケ島 松本たかし
板の間にへた~寝るや蝉の声 鳳朗
枇杷の柔毛わが寝るときの平安に 森澄雄「花眼」
枕辺に櫛ならべ寝る虫しぐれ 宮武寒々 朱卓
枯草寝るによし泪かくすによし 油布五線
柿若葉寝る時きりきり絣着て 小檜山繁子「流沙」
桜桃を五つ房もつて寝る子かな 長谷川かな女 雨 月
梅雨はげし百虫足殺せし女と寝る 西東三鬼(1900-62)
梅雨蒸す夜妻とほざけてひとり寝る 森川暁水 黴
梟や白湯一杯を寝る前に 木倉フミヱ
極寒や寝るほかなくて寝鎮まる 西東三鬼
楽々と喰ふて寝る世や秋の露 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
残る虫死ぬがよろしと思ひ寝る 小林康治 『華髪』
母と寝る一夜ゆたかに虫の声 栗生純夫 科野路
母独り足向けて寝る春の山 仁平勝 東京物語
母老いて鳥のぬくみを持ち寝るか 北原志満子
母衣蚊帳の裾のみどりをにぎり寝る 目迫秩父
毛布かぶり寝る玄界の濤を聴き 福田蓼汀 山火
毛布など一枚足して寝る夜かな 高澤良一 寒暑
毛布外套なんど蒲団にかけて寝る 寺田寅彦
毛布被て星の一つに寝るとせり 村越化石
水平に山を見るため棺に寝る 奥山甲子男
水張つて浅蜊もわれも寝る時刻 都筑智子
水盗み来し夜妻子にはなれ寝る 大西静城
水落し来て寝る屋根に浸みる雨 久米正雄 返り花
水餅の水たつぷりと替へて寝る 杉浦小冬
氷雨降る夜は不発弾の如く寝る 玉井日出夫
永き日や鶏はついばみ犬は寝る 加舎白雄
汽車に寝る眉ふく風や雲の峯 会津八一
波郷忌や膜はつて寝るかたつむり 鳥居美智子
泣ぐせのやがて寝る子や日脚伸ぶ 杉山 岳陽
流星やかのピエロもう寝る頃か 長田等
海女と寝る章魚の話しや秋暑し 野村喜舟
海老に寝る癖なほ老いて蒲団かな 小澤碧童 碧童句集
涛に雨近し寒紅消さず寝る 神尾久美子
涯しなかりし獄と流氷無音に寝る 古沢太穂
淋しい寝る本がない 尾崎放哉(1885-1926)
渦潮の渦の快楽を思ひ寝る 上田五千石
満ち汐の静けさに寐る蒲団かな 増田龍雨 龍雨句集
満潮や寝る水鳥の床かはる 水鳥の巣 正岡子規
濤に雨近し寒紅消さず寝る 神尾久美子 掌
火星に異変あるとも餅を食べて寝る 津田清子
火蟲掃き寝るときさそり星のあり 及川貞 夕焼
灯して寝る癖の美帆にいま雪明かり 折笠美秋 君なら蝶に
灯虫掃き寝るときさそり星のあり 及川貞
燈籠の灯をつくろひて寝るとせん 大橋櫻坡子 雨月
父の日の酔ひて子よりも早く寝る 高澤良一 ぱらりとせ
爽やかに投げる枕を受けて寝る 秋元不死男
片蔭に紐のごとくに漁夫が寝る 宮坂静生 青胡桃
牛と寝る仔犬や牧を閉すまへ 堀口星眠 営巣期
牛はまだ寝る足折らず白夕顔 静塔
牛寝るや一かたまりに飛ぶ胡蝶 胡蝶 正岡子規
物 思 ふ 膝 の 上 で 寝 る 猫 山頭火
犬の子の椽に来て寝る入梅哉 入梅 正岡子規
狐火に逢ふてもどりてもぐり寝る 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
狐鳴く夜目にともし寝るあれこれよ 村越化石 山國抄
狩くらは大月夜なり寝るとせん 田村木国
猪罠と畑一枚をへだて寝る 白岩三郎
猫の耳手ぐさに折れど冬は寝る 小池文子 巴里蕭条
玉葱苗霜枯れぬつぎつぎ風邪に寝る 古沢太穂 古沢太穂句集
生き疲れてただ寝る犬や夏の月 飯田蛇笏 山廬集
田楽に夕餉すませば寝るばかり 杉田久女
甲板に寝る人多し夏の月 正岡子規
畑風月の明るさもたらし寝るとし 人間を彫る 大橋裸木
瘤とりの咄すれば寝る子よ春の雪 成瀬櫻桃子 風色
白足袋遺し泣くほか寝るほかなかりしか 中村草田男
百合の香や妻の遺影の下に寝る 石倉啓補
皸の手入れがすめば寝るばかり 児玉葭生
盆燈籠よわが酔ひしれて寝るまでなり 小澤碧童 碧童句集
真夜中に寝る子起きる子大試験 及川青山子
真桑瓜眠くなつたら寝る暮し 鈴木鷹夫 春の門
眼うとしと母こごみ寝る時雨れんか 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
短夜のつきつめし顔をゆるめ寝る 斎藤空華 空華句集
石に寝る蝶薄命の我を夢むらん 蝶 正岡子規
石岡のまつり囃子のなかに寝る 醍醐味風
砂漠には壺を抱きて寝る駱駝 対馬康子 吾亦紅
砲いんいん口あけて寝る歩兵達 鈴木六林男 荒天
福笹を置けば恵比寿も鯛も寝る 上野章子
秋の夜の時計に時計合せ寝る 波多野爽波 鋪道の花
秋の夜を生れて間なきものと寝る 山口誓子
秋の蚊帳ふたことみこと言つて寝る 田原陽子
秋の蚊帳よく寝る母と寝たりけり 白水郎句集 大場白水郎
秋山を越えきて寝るや水のごとく 高橋馬相 秋山越
秋彼岸地に寝る若者らが暑し 金田咲子 全身 以後
秋簾寝る児へ通す子守風 林昌華
稲びかり少女は胸を下に寝る 加畑吉男
窓に銀河妻ならぬ人おもひ寝る 上村占魚
立待の庭の明りをたのみ寝る 角田拾翠
竜淵へ入る頃ほひを月と寝る 伊藤格
童子寝る凩に母うばはれずに 橋本多佳子
競ふごと寝るや明朝冷えると云ふ 桜井博道 海上
筏で流された夜のようにひらたく寝る 林田紀音夫
筏で流れた夜のようにひらたく寝る 林田紀音夫
米磨ぐ音の春めく日ざし慕ひ寝る 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
約三十ほし蛸ゆらぐ寝るまでも 平田直樹
縁に寝る情や梅に小豆粥 支考
繭積んで寝るとこもなし山冷えす 長谷川かな女
群鶴を見て寝る誰も齢負い 北原志満子
羽蟻に寝る語り語りて友三人 金子兜太
老母と寝る二夜の寝息初明り 安井昌子
聖夜寝る機席に小さき羽根枕 橋本美代子
聖水冷えびえ室は寝るのみ祈るのみ 林翔 和紙
職工の寝るほかなき顔がかへる 石橋辰之助
背なあぶり蕎麦掻食べて寝るとせん 坪野もと子
胸抱いて寝るさが月に吠えるさが 三谷昭 獣身
脚まげて寝る癖はかなし 夜の鳥 富澤赤黄男
脛立てて寝る母秋の*かや越しに 定本芝不器男句集
膝たてて寝る雪卸しすみし夜 安藤五百枝
膝に蒲団はさみて寝るや守宮鳴く 沢木欣一
自らをののしり尽きずあふむけに寝る 尾崎放哉
舟に寐る遊女の足の湯婆哉 たんぽ 正岡子規
舟宿にどやと来て寝る蚊帳かな 吉武月二郎句集
花季の寝るほかはなきわれや誰 石塚友二 光塵
花市を巡りて露地を帰り寝る 宮坂静生 青胡桃
芸術もすこしは解し妻に叱られて寝る 橋本夢道
茄子もいで茄子煮て茄子のように寝る 坪内稔典
茶立虫脊中合せに寝る夜かな 尾崎紅葉
荒梅雨や檻のパンダは拗ねて寝る 菅野綾子
荒神輿見て来てけもの臭く寝る 小林しげる
蒲の穂に河童出て寝る月夜かな 上村占魚 鮎
蓬莱やながながと寝る座敷犬 山田径子
薔薇散らす夜の風雨にとざし寝る 中尾白雨 中尾白雨句集
藪蔭の嵯峨は鵜の寝る小家哉 竹冷句鈔 角田竹冷
虫の音や火をけして寝る一重壁 巴流 俳諧撰集「藤の実」
虫残る玄関近く寝るわれに 田村了咲
蚊に馴れて能く寝る室の遊女哉 蚊 正岡子規
蚊を焚いて再び寝るや明け易き 赤木格堂
蚊帳取つて天井高く寝る夜かな 温亭句集 篠原温亭
蚊帳除れて黍の葉擦に寝る夜かな 松本たかし
螢狩してきし足を抱いて寝る 大石雄鬼
行く年の長江に足向けて寝る 岬雪夫
行く春をひとり寝るべき宵も哉 行く春 正岡子規
行水や夜髪結びて寝るばかり 山家和香女
裸子のくるくる廻りころと寝る 斉藤夢有
親も子も酔へば寝る気よ卵酒 太祇
角伐られたる鹿今宵如何に寝る 津田清子 二人称
触れがたしげんげ田に寝る四童女 澁谷道
負独楽は手で拭き息をかけて寝る 加藤楸邨
貧しき犬が寝るだけの日向となって 不滅の愛 小澤武二
赤々と烏賊火は遠し寝るときも 桂樟蹊子
起きよ起きよ我が友にせん寝る胡蝶 松尾芭蕉
足袋はいて寝る夜ものうき夢見哉 蕪村 冬之部 ■ 御火焚といふ題にて
足袋はきて寝る夜隔(へだて)そ女房共 服部嵐雪
車輌吹雪き軍服床に籍きても寝る 竹下しづの女句文集 昭和十四年
軍談に寐る人起す夜寒哉 夜寒 正岡子規
軒に寝る人追ふ声や夜半の秋 蕪村
追込の鳥早く寝る日永かな 日永 正岡子規
通勤の明日にとく寝る野分浪 百合山羽公 故園
遅き春喰ひては寝るよ肝病めば 北野民夫
遊ぶ子も寝る子も裸なる秋や 大場白水郎 散木集
道に寝る石取太鼓打ち疲れ 長田白日夢
遠く来て大の字に寝る夏座敷 笹本カホル
酒で寝るあぢさゐに染みきし夜は 稲垣きくの 牡 丹
酒のあと寝ること残る紅葉山 鈴木六林男
酒買ひに走るか寝るか細雪 鈴木達生
酔うて寝るそれが船方鮟鱇鍋 加賀山たけし
酔うて寝る破片ばかりの旱星 上原勝子
野分後の水のんで寝る仰向けに 菖蒲あや あ や
金魚夜を如何に過すや人は寝る 山口波津女 良人
針をだに持てば寐る婢や灯取虫 菅原師竹句集
鈴虫の死に絶えるまでいくつ寝る 鈴木明
鉦叩けふ寝るだけの刻残す 大熊輝一 土の香
銀河濃し枕に頬を埋め寝る 星野立子
銀漢や蜑が家夜半を閉さず寝る 小原菁々子
門をしめる大きな音さしてお寺が寝る 尾崎放哉
陸の燈の絶えたり除夜の船に寝る 山口波津女 良人
階下の人も寝る向き同じ蛙の夜 金子兜太 少年/生長
階段を降りまたの日は柩に寝る 林田紀音夫
障子たててロシアに最も近く寝る 平井さち子 紅き栞
障子際に帯おいて寝る霜夜かな 綾子
雑煮食ふて獄は読むほか寝るほかなし 秋元不死男
雛飾る部屋に小さくなつて寝る 谷口まち子
雨音のかむさり祖母は裸で寝る 星野石雀「延年」
雪くらみあてがはれしもの食べて寝る 岩田昌寿 地の塩
雪ちるや我宿に寝るは翌あたり 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
雪の戸にいつまで寝るや御元日 前田普羅 新訂普羅句集
雪国のきれいな股間思ひ寝る 矢島渚男 延年
霊まつる燭にまちかくひとり寝る 飯田蛇笏 雪峡
霜夜ぬくく君をいだきて寝るごとし 飯田蛇笏 椿花集
露の夜に黍殻枕軋み寝る 百合山羽公 寒雁
露寒や髪の重さに溺れ寝る 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
青梅に手をかけて寝る蛙哉 一茶 ■寛政三年辛亥(二十九歳)
青葉木莵枕の凹み直して寝る 岡松久子
青葉木菟鳴きゐる遠さ思ひ寝る 岸風三楼
青葉木菟鳴くから日記伏せて寝る 畑田孝子
靴下の下に寝る毛や夜鷹蕎麦 田川飛旅子 花文字
靴下をはいて寝る祖母春よ来い 関 裕子
頭痛すと先づ寝る妻や春の宵 春の宵 正岡子規
風呂の湯にあす蒔く麦を浸けて寝る 長谷川素逝 村
風呂冷めやたのまれ手紙書いて寝る 森川暁水 黴
風泣く夜の遺体とおなじ長さに寝る 林田紀音夫
食ふ部屋と寝る部屋ひとつ沙羅の花 攝津幸彦 鹿々集
飢ゑを堪え寝る里人に丑満の雪 閭門の草(櫻[カイ]子の自選句集) 安斎櫻[カイ]子
餅腹を蹴る子の足を掴み寝る 大熊輝一 土の香
首途の用意して寐る夜寒哉 夜寒 正岡子規
駅の声夜涼に絶えていつか寝る 山口誓子
高床の昼も蚊帳垂れ 誰かが寝る 伊丹三樹彦
鮎喰ひて鮎の流れに添ひて寝る 川井玉枝
鳥曇働いて寝る日のつづく 岡田耕治
鶴を見し昂りに寝る行火かな 杉田賀代子
黄落や人形は瞳を開けて寝る 堀井春一郎
黒猫の畑に出て寐る三日かな 秋元不死男
鼠よけに燈ともして寝る衾かな 吉田冬葉
あさがほに夜も寐ぬ嘘や番太郎 炭 太祇 太祇句選
あるだけの酒くみ寝ぬる雨月かな 上村占魚 『橡の木』
あるだけの酒飲み寝ぬる雨月かな 上村占魚
たびびととして寝ぬ迎火を焚くまで 下村槐太 天涯
ふるさとの虫の音高き夜を寝ぬる 桂 信子
まだ寝ぬと伝家の宝刀泣きを入れ 高澤良一 素抱
一夜二夜夜を寝ぬ蚕飼盛哉 蚕飼 正岡子規
一夜寝ぬ目に春暁のうすあかり 相馬遷子 山河
乳の上に手を置きて寝ぬ虫の宿 宮武寒々 朱卓
人寝ぬと芭蕉の灯影消えにけり 日野草城
吉兆をかかげて寝ぬる京は雨 長谷川かな女 花 季
名月や君かねてより寐ぬ病 太祇
名月や君かねてより寝ぬ病 炭 太祇 太祇句選
夏の夜や寝ぬに目覚す蚤の牙 言水 選集「板東太郎」
夏の月寝ぬ声一人二人かな 夏の月 正岡子規
夏至過ぎて吾に寝ぬ夜の長くなる 正岡子規
夜を寝ぬ僧の念佛や榾の宿 会津八一
大水に夏の夜を寝ぬ二階かな 夏の夜 正岡子規
子豚等寝ぬ矢車も夜を憩ふべし 磯貝碧蹄館 握手
寒き夜はむしろ静けく寝ぬべかり 藤森成吉 天翔ける
寒き夜は一家かたまり寝ぬるのみ 菖蒲あや 路 地
寒夜には子を抱きすくめ寝ぬるわれ森の獣のいづれかなしき 筏井嘉一
寝ぬる子が青しといひし冬の月 中村汀女
寝ぬる時水音の月となりゐたり シヤツと雑草 栗林一石路
寝ぬる頃少し残りし炭火かな 石井露月
寝ぬ夜寝て榊に鶏の初音哉 淡々
寝ぬ室に地図広く掛かる寒さかな 龍胆 長谷川かな女
寝ぬ恋の眠たき節や茶摘歌 茶摘唄 正岡子規
帰来て夜を寝ぬ音や池の鴛 太祇
引き減りし野鶴の声に村寝ぬる 亀井糸游
抱き取ればすぐ寝ぬし児や昼霞 久米正雄 返り花
撲たれて寝ぬる健康さとは芥子・落花 竹中宏 饕餮
星合や外にて寝ぬる家畜ども 磯貝碧蹄館 握手
月明の障子ひろらに二夜寝ぬ 殿村菟絲子 『繪硝子』
朝の間や蚤に寐ぬ夜の假枕 井上井月
朝顔の結びゆるむと見て寝ぬる 林原耒井 蜩
松の中に燈籠ともして寝ぬ夜かな 雑草 長谷川零餘子
枯菊に隈なき月や寝ぬるとき 五十嵐播水 埠頭
比良八荒寝ぬるも金の鎖して 宮坂静生 樹下
水洟も泪も気配して寝ぬる 皆吉爽雨
油さしあぶらさしつゝ寝ぬ夜かな 上島鬼貫
秋尽きぬ寝ぬ夜の夢の躍舟 調和 選集「板東太郎」
窓の灯の佐田はまだ寝ぬ時雨かな 蕪村
罪深く夜を寐ぬ蝿や瓜の皮 高井几董
能なしも寐ぬ夜がちなる梅の月 松岡青蘿
花に寝ぬこれも類か鼠の巣 松尾芭蕉
芳草の香に咽せび寝ぬあばらやの 竹下しづの女句文集 昭和二十四年
虫伏せし小箱に眼鏡置きて寝ぬ 宮武寒々 朱卓
蚊を焼くや箪笥の上の寝ぬ人形 月舟俳句集 原月舟
蚤に寝ぬ夜の衣をかへしけり 尾崎紅葉
蚤振ふを見し白眼や背き寝ぬ 島村元句集
行く春を夜を寝ぬ顔の籬かな 上島鬼貫
誰門ぞ雪に寐ぬ夜の魚の骨 高井几董
豆撒きし枕べのまま寝ぬるべし 皆吉爽雨 泉声
遊行上人拝みて寝ぬる布団かな 小杉余子 余子句選
雨乞ひの幾夜寝ぬ目の星の照り 太祇「太祇句選」
雪の夜の耳より冷え来寝ぬべしや 鈴木真砂女 夕螢
霙聴き魂なき母と一夜寝ぬ 蓼汀
霜の声ひとの鼾で寝ぬ夜かな 太祇
顔見世は世界の図也夜寝ぬ人 井原西鶴
餅花の下より外に寝ぬ子かな 石川笑月
あばら骨露はに釈迦の寝ねませり 山口誓子
いなづまや雨月の夫婦まだ寝ねず 黒柳召波 春泥句集
おしろいの花咲くまでと寝ねにけり 林原耒井 蜩
きぞの夜水仙の香にまみれつつ寝ねたりき匂ふいまかなたより 北沢郁子
こほろぎは寝ねざるものか暁を鳴く 山本歩禅
さくら打つ夜雨と思ひ寝ねがたし 佐野美智
たのしさは寝ねて見上ぐる青葡萄 岩田由美 夏安
ひそ~と寝ねぬ子どちや秋の蚊帳 金尾梅の門 古志の歌
ひと寝ねずけり雛の間となりてより 山口波津女 良人
もう一度見てから寝ねん後の月 高澤良一 宿好
わが寝ねし暗中の壁年抜けゆく 澄雄
わが庭に赤人寝ねよ菫満つ 林 翔
わらべらに寝ねどき過ぎぬクリスマス 山口誓子
世は寝ねてわれ聞く夜の鳴子かな 信徳
乞食寝ねをる草しづかにも陽のあゆみ シヤツと雑草 栗林一石路
人寝ねてあかるきみちや寒念仏 松村蒼石 寒鶯抄
人寝ねてさくら月夜の残りけり 柴田白葉女
人寝ねて蛍飛ぶ也蚊帳の中 蛍 正岡子規
僧寝ねたり廊下に満つる梅の影 夜の梅 正岡子規
初蚊帳に寝ね臥すときは更けしとき 及川 貞
十字星見したかぶりに寝ねがたし 岩崎照子
受胎せし馬は寝ねしか天の川 須永かず子
吹雪く夜の橋思はれてしばし寝ねず 長谷川櫂(1954-)
吾子が手に寝ねし夜寒の小鈴鳴る 千代田葛彦 旅人木
夏掛にさして寝ねつぐこともなし 中村汀女
夏掛にたはむるる子よとく寝ねよ 堀口星眠 営巣期
夏虫や寝ねがての灯を悲しうす 佐藤紅緑「花紅柳緑」
夜の梅寝ねんとすれば匂ふなり 白雄
夜長き女蚕の如く寝ね入れり 竹下しづの女 [はやて]
大雪のスキー列車の夜を寝ねず 水原秋桜子
夫先きに寝ねて湯気立つ無為暫し 及川貞
妻の辺に寝ね身をのばす朧かな 八木林之介 青霞集
妻子寝ねホ句の夜長でありにけり 小原菁々子
子が寝ねて風の燈籠となりにけり 林原耒井 蜩
子どもらは寝ねよたらちね年を守る 山口青邨
子の枕買はむと春の寝ね語り 殿村菟絲子 『旅雁』
子ら寝ねて春燈明くなりにけり 五十嵐播水 埠頭
子ら寝ねて樫の実は降りやまざるよ 高橋比呂子
子等寝ねて花野の果の地軸鳴る 都筑智子
寒夜健やか寝ねたる果舗が香をのこし 川口重美
寒夜診て来し患者はすでに寝ねたらむ 相馬遷子 山国
寝ねあぐむ老や夜長の三つ下り 会津八一
寝ねかぬる子に応へつゝ涼みけり 佐野青陽人 天の川
寝ねがたく螢の闇に対ふかな 大石悦子 群萌
寝ねがてにしてをれば蝿にとまらるる 日野草城
寝ねがてに千の耳もち桜の夜 森澄雄 四遠
寝ねがてに蜘蛛捨てつ銀杏月なかり シヤツと雑草 栗林一石路
寝ねがてのそば湯かくなる庵主かな 杉田久女
寝ねがての淡海や恋のかいつむり 森澄雄 游方
寝ねがての莨一服茶立虫 福田蓼汀 山火
寝ねがての蕎麦湯かくなる庵主かな 杉田久女
寝ねがての蕎麦湯を溶くもひとりかな 安井農人
寝ねさせよ白むまで咳く咳地獄 及川貞
寝ねしより風呂のこほしくさみだるゝ 金尾梅の門 古志の歌
寝ねし児に祭衣の仮だたみ 藤岡筑邨
寝ねし子の胸を離るゝ手毬かな 山本八杉
寝ねし後音せしものは蟹なりき 相生垣瓜人 微茫集
寝ねたらぬ泪に春を惜しみけり 金尾梅の門 古志の歌
寝ねてかの華奢を憶へり花御堂 大石悦子 聞香
寝ねてなほこころに野火の燃えにけり 成瀬櫻桃子 風色
寝ねどきのやんまの低翔流し釣 平井さち子 鷹日和
寝ねどきのよべよりとほき遠砧 相馬 黄枝
寝ねを積む定年迎う日の近く 塩田薮柑子
寝ねを積む漂流物のやうにかな 伊藤白潮
寝ね起きのわるさ誰に似し百日紅 飴山實 『花浴び』以後
寝ね足らぬ幾日ぞ返り花白き 金尾梅の門 古志の歌
寝ね足らふこゝろ虚しも*かやたゝむ 西島麥南
寝ね足りしけさ見しを初蝶としつ 永井龍男
寝ね足りし短日の帷上げにけり 林原耒井 蜩
寝ね足りてちかぢかと見る枝の雪 桂信子 黄 炎
寝ね足りて朝寒のこと皆がいふ 高浜年尾
寝ね足りて残るさびしさ秋の風 高澤晶子
小屏風にかくれて寝ねし女かな 長谷川かな女x
山夜長寝ねし時のみ涙なく 福田蓼汀 秋風挽歌
山恋ひて術なく暑き夜を寝ねず 石橋辰之助 山暦
山火見てをれば寝ねよと母の声 今井つる女
山近し星低し虫の峡に寝ね 及川貞
巨石信仰どすんと寝ねる日もありき 武田伸一
師はさきに寝ねたまひある船夜長 五十嵐播水
平板にこほろぎが鳴く寝ねにけり 館岡沙緻
年の夜の次の間ともし寝ねにけり 青陽人
早々と百姓寝ねし夕月夜 遠山 楠翁子
明日食す蜆たしかめてより寝ねんとす 鮫島康子
星飛ぶや寝ねし我家へ帰りつく 篠原温亭
春星や女性浅間は夜も寝ねず 前田普羅(1884-1954)
春灯という言葉あり寝ねがたし 池田澄子 たましいの話
春雨や檻に寝ねたる大狸 正岡子規
暑き夜も寝ねて尸すべき時至る 相生垣瓜人
月の甲板旅僧寝ねず語らざる 寺田寅彦
月光を浴びすぎたるか寝ねがたし 石橋まさこ
月山の木の葉かぞへて寝ねんとす 岩淵喜代子
村寝ねて無垢の暗さの冬田かな 松本可南
枕もとに妻寝ねである夜長かな 高浜虚子
栗咲く香にまみれて寡婦の寝ねがたし 桂信子「女身」
梅雨の音高望みして寝ねられず 奈良文夫
母寝ねしあとも稿継ぎ夜の秋 鈴木栄子
母寝ねて雪の厨に皿ひとつ 桂信子 花寂び 以後
毛襯衣着て寝ねよといはれ寝ねにけり 加藤楸邨
汽車に寝ね雪降る船に寝て旅す 山口波津女 良人
泳がざる汐臭き身やひとり寝ね 殿村莵絲子 花寂び 以後
海彦とふた夜寝ねたり花でいご 小林貴子「北斗七星」
涸沼に旅の背を向け寝ねむとす 成瀬桜桃子 風色
湯たんぽに足届かせて寝ねにけり 温亭句集 篠原温亭
灯の下に寝ねしは誰ぞやよべの春 前田普羅 春寒浅間山
炉火守りて焼岳凍る夜を寝ねず 石橋辰之助 山暦
炬燵の上に温もる鋏もう寝ねん 田川飛旅子 花文字
熱出ると思ひ寝ねけり春の夜 長谷川かな女 雨 月
爐火守りて焼岳凍る夜を寝ねず 石橋辰之助
片足は畳に寝ねて夏の風邪 渡辺白峰
犬の子の草に寝ねたる熱さ哉 暑 正岡子規
狐舎の灯を木の間の闇に見て寝ねつ 前田普羅 春寒浅間山
狩人のことりともせず寝ねにけり 宮坂静生
玄界の冬濤を大と見て寝ねき 山口誓子
生身魂白蚊帳にとく寝ねたまふ 下田稔
男梅雨侮りをれば寝ねがたし 山田みづえ 草譜
白夜光サビタの花もわれも寝ねず 成瀬櫻桃子 風色
白蚊帳の雑草園に寝ねしこと 田村了咲
盆魂と寝ねて柱の細き家 綾部仁喜
短夜を寝ねんとすなり肋に手 高澤良一 素抱
禽寝ねしあとを夜釣の鈴鳴りて 原 柯城
立春や寝ね覆はるる酒の酔 三橋敏雄 畳の上
紫苑咲く子は素直に寝ねられず 田中裕明 花間一壺
繊き繊き月とこそ見て寝ねにしか 林原耒井 蜩
胸に梅雨受くる思ひに寝ねにけり 平川堯
花の昼ごろりと寝ねてひとりなる 菖蒲あや 路 地
花茣蓙や寝ねし重さに妻の胴 草間時彦
若布刈神事誘はれゐしを寝ねにけり 藤中和
菊にほひ波郷も寝ねし雨の音 及川貞 榧の實
葭切もまた寝ねざりし鳥ならむ 相生垣瓜人
葭切もまた寝ね難き鳥ならむ 相生垣瓜人 微茫集
蓑虫の寝ねし重りに糸ゆれず 能村登四郎
虫の音の一旋律に寝ね難し 苑 清子
虫籠に虫なし子なし寝ねにけり 呉竹弓夫
蚊帳の香や今日校了の寝ね心地 永井龍男
蚤取粉にほひつゝあり寝ねゆけり 小川萱夫
蛍に足裏の冷えて寝ねにけり 岡田詩音
賜はりし春睡よべを寝ねざれば 相馬遷子 山河
除夜の鐘きき堪へぬらし夫寝ねぬ 及川貞 夕焼
雨夜の蟻寝ねても脳裡走りをり 高澤良一 素抱
雪を見ぬくにの淋しさや少女と寝ねて 原コウ子
雲海のひとつ灯のかた吾子寝ねむ 角川源義「秋燕」
霧を来て湯の香に寝ねて夜半も霧 及川貞 夕焼
青柿のこつこつと落ち寝ねがたし 水原春郎
青桐の風をうましと父寝ねて 大石悦子 群萌
青蚊帳に茂吉論などもう寝ねよ 加藤楸邨
颱風過しづかに寝ねて死にちかき 橋本多佳子
鰯右側臥位に寝ね売られたり 上田五雨
鷺草の寝ね難ければ夢に飛ぶ 佐藤恭治
齢富む一間に寝ねて餅筵 森澄雄
●寝不足 
まいにちを少し寝不足桃の花 細川加賀 生身魂
向日葵の八方向いて寝不足に 藤井英怡子
寝不足のきのふや今日や鴨の声 鈴木鷹夫 春の門
寝不足の眼に枇杷の黄の重しとも 小松崎爽青
寝不足の瞼の腫れし定家の忌 檜 紀代
寝不足の顔がぞろぞろキャンプより 猪子青芽
寝不足はさすらいに似て水中花 北原志満子「つくし野抄」
寝不足は多少の不幸種を採る 鈴木鷹夫 春の門
寝不足は気で補えと朴咲きぬ 金子兜太「東国抄」
寝不足も加はり坊の寒さまた 白石峰子
寝不足や大根ぬきし穴残り 鈴木六林男 荒天
恍惚と旅の寝不足仏桑華 渡邊千枝子
早起きが徒の寝不足籠枕 高澤良一 素抱
明易し寝不足言はずじまいひなる 勝田享子
春泥も寝不足の目も乾きだす 市原光子
祖父として寝不足の盆過ごしけり 山下年和
青桐に寝不足よりの立ちぐらみ 阿部みどり女 笹鳴
●寝過ぎ 
朝飯や寝過ぎて春の四つ時分 春 正岡子規
杉の間の羽虫明るう寝過ぎたり 林原耒井 蜩
万愚節寝すぎた兎を身ぬちに飼ふ 磯貝碧蹄館 握手
やや寝すぎ雨戸を繰れば初雀 田中冬二 俳句拾遺
●寝過ごす 
寝過ごせぬ性分にして蝉に起つ 高澤良一 素抱
春眠の母の寝過ごし許されず 稲畑汀子
寝すごさぬ寺明りより花颪 鳥居美智子
寝すごして青き空あり菊枕 満田たけを
寝すごす冬野昨日が犬の形で来る 磯貝碧蹄館 握手
行水も妻に寐すごす氷かた 野澤凡兆
黴の宿寝すごすくせのつきにけり 久保田万太郎 草の丈
●いびき 
うたたねに月のさしこむ鼾哉 月 正岡子規
うら町の鼾(いびき)あかるしけふの月 千代尼
くたびれし僧の鼾や蟲の聲 虫の声 正岡子規
ざこ寝して鼾そちこち初紋出づ 荒井正隆
しづり雪鼾ぴたりと止みにけり 高澤良一 随笑
すが洩りや杜国の鼾友も持つ 中戸川朝人 星辰
その人の鼾さへなし秋のくれ 榎本其角
ちよとかいた万菊丸の鼾かな 尾崎紅葉
としの夜や己が鼾を聞きとがむ 青蘿
ならはせや霜夜を鼾く薦かぶり 闌更
ふぐ汁やもやひ世帯の惣鼾 一茶 ■文政八年乙酉(六十三歳)
ほのほのや鼾忽ち絶えて春 新年 正岡子規
まくらがりなる河豚宿の鼾かな 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
みじか夜を皆風呂敷に鼾かな 除風(浪花より船にのりて) 古句を観る(柴田宵曲)
一村の鼾盛りや行々し 一茶 ■文政八年乙酉(六十三歳)
代掻いて夜は獣の鼾せり 山口伸
傾城の鼾おそろしほとゝきす 時鳥 正岡子規
元日と知らぬ鼾の高さかな 正岡子規
埋火や鼾の中のほのあかり 加舎白雄
大鼾三尺寝とは言ひ難き 納谷一光
寺しんと昼寝の鼾聞えけり 昼寝 正岡子規
山寺や昼寝の鼾時鳥 時鳥 正岡子規
床に来て鼾に入るやきりぎりす 松尾芭蕉
我宿や鼾忽ち絶えて春 新年 正岡子規
明け易き頃を鼾のいそかしき 明け易し 正岡子規
明方の蚊帳はづせども鼾かな 蚊帳 正岡子規
春愁のあらずと思ふ鼾かな 茨木和生 丹生
春月や五條橋上の大鼾 春の月 正岡子規
時は彌生ひさご枕に鼾かな 竹冷句鈔 角田竹冷
月か花か問へど四睡が鼾哉 松尾芭蕉
月滿円鼾絶えてこゝに二百年 月 正岡子規
朝顔に傾城だちの鼾かな 朝顔 正岡子規
朧夜の鼾廊下に出てをりぬ 鈴木鷹夫 風の祭
松虫と後先になる鼾かな 車来
毛布著て机の下の鼾哉 毛布 正岡子規
水鳥と除夜の鼾や樗陰 麦水 (一株の樗をたのみかた計の庵を結ひ)
河豚汁の皆生きて居る鼾かな 会津八一
河鹿沢僧の鼾と応ふなり 石川桂郎 高蘆
海棠に鼾の細き美人哉 海棠 正岡子規
無月なる猫の鼾の柱かな 鳥居おさむ
父に似し汝の鼾や遠蛙 岩田昌寿 地の塩
牡丹咲て美人の鼾聞えけり 牡丹 正岡子規
猿酒の不覚の鼾聞かれたり 北見さとる
獣の鼾聞ゆる朝寒ミ 正岡子規
瞑想の鼾に覚めて春炬燵 小出秋光
秋の夜や厮に籠る鼾あり 秋の夜 正岡子規
秋風や人に聞けとの大鼾 秋風 正岡子規
竜踊を見て寝落ちしか大鼾 北野民夫
筍を食ひしその夜の鼾かな 鈴木鷹夫 春の門
臘八や彌勒の鼾雷の如し 臘八 正岡子規
船頭の鼾を逃ぐるほたるかな 在江戸 燕史 五車反古
花に思へ元禄若き大鼾 高橋 睦郎
茶坊主の鼾の下や蚯蚓鳴く 蚯蚓鳴く 正岡子規
蚊をよけて親の鼾や郭公 上島鬼貫
蝮の鼾も合歓の葉陰哉 蕪村 夏之部 ■ 畫賛
蠅に鼻鼾なぶらせ心怒ってゐる 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
行春に達磨の鼾聞かばやな 行く春 正岡子規
辻堂に鼾聞ゆる蚊遣かな 蚊遣 正岡子規
過疎すでに山の鼾のきこゆなり 斉藤美規
遠来の友の鼾や明け易し 栗田やすし
野むしろに頑丈な大豆昼鼾 土田武人
鏡餅ときをり鼾聞えけり 松林 慧
鏡餅小さな鼾立てにけり 栗林千津
長き夜や猿の鼾鶴の夢 霊子
門待の車夫の鼾や冬の月 冬の月 正岡子規
陽炎にくい~猫の鼾かな 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
雷をさそふ昼寐の鼾かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
霊山や昼寐の鼾雲起る 子規句集 虚子・碧梧桐選
霜の声ひとの鼾で寐ぬよ哉 炭 太祇 太祇句選後篇
風神の鼾きこゆる木の芽かな 鈴木鷹夫 千年
餅搗きし父の鼾声家に満つ 西東三鬼
鼾あり皿も徳利も蚊帳の外 蚊帳 正岡子規
鼾かき婆の大暑を逝かれけり 瀧澤伊代次
鼾さへ枯れ行くごとく昼寝せり 栗生純夫 科野路
鼾すなり涅槃の寺の裏門に 子規句集 虚子・碧梧桐選
鼾する門叩かばや今日の月 今日の月 正岡子規
鼾にてをのれと覚ぬ菊の昼 服部嵐雪
鼾声雷ノ如シ蚊にくはれ居る酔倒れ 蚊 正岡子規
うら町の鼾(いびき)あかるしけふの月 千代尼
ねんねこの中よりしたるいびきかな 石田勝彦 秋興
ひと寝入りいびきかきけり年の暮 龍岡晋
アザラシのほえるがごときいびきかな 岡村ともみ
孫娘聖しこの夜をいびき立つ 田川飛旅子 『薄荷』
小いびきにはや乗る夢路宝船 井沢正江
晩春のいびきかコインランドリー 宮川としを
澄みゆく影いびきさだかに眠る子よ 古沢太穂 古沢太穂句集
翁の忌ま中盛り上ぐいびきの図 加藤耕子
翁忌や雲とうかびていびきの図 宇佐美魚目 天地存問
●寝相 
寝相みな秋繭のすそ甲斐の暁 古沢太穂
相方の寝相や団扇持ちしまゝ 高澤良一 随笑
●寝息 
いのちかれゆく父の寐息の明易く 臼田亜浪 旅人
くらがりに寝息きこゆる蚕飼かな 大橋櫻坡子 雨月
すやすや寝息たてている子のことで争つている 松尾あつゆき
ねんねこの中の寝息を覗かるる 稲畑汀子
みちみちて水の寝息の植田村 熊谷愛子
みどり児の寝息冬日の中にあり 清本幸子
亡き母の寝息聞こゆる籠枕 大西一冬
人丸の寝息や残る朝の霧 椎本才麿
八月暁紅若き寝息の同志四囲 古沢太穂 古沢太穂句集
冬ぬくし寝息もらさず猫眠る 三坂雅二郎
冬の雨癒えし寝息にさそわれ寝る 古沢太穂 古沢太穂句集
冬満月囲ひし芋の寝息きく 高野喜八郎
冬畳父が善意の寝息つたふ 友岡子郷 遠方
冬眠の寝息こぞるか山の音 石川恵美子
冬眠の蝮のほかは寝息なし 金子兜太(1919-)
凍つる夜のふところにあり子の寝息 皆川白陀
勾玉の寝息がまじる冬霞 平松彌榮子
友の寝息晴夜の山は親しき黒 大井雅人 龍岡村
夜なべ村猪の寝息の間近かな 久保厚夫
大綿のたとえば母の寝息かな 青木栄子
大部屋の患者寝息の朧なる 高澤良一 鳩信
嬰児の寝息のように大根煮る 吉尾広子
嬰児籠に寝息うかがふ蚕飼季 池元道雄
子の寝息やすらに年のしらみけり 金尾梅の門 古志の歌
子の寝息妻が寝息や木の実降る 福本啓介
子の寝息妻に東京遠かりき 石橋辰之助
子の寝息妻を誘ひてしぐれけり 杉山岳陽 晩婚
子の寝息知らぬまま過ぐ春夜かな 谷口桂子
子の寝息確かめ消しぬ春灯 西村和子 夏帽子
子の寝息高しひと日の潮浴びに 藤原たかを
子より幼く雪夜寝息に加はりぬ 猪俣千代子 堆 朱
家中の寝息たひらに冬の雨 長部多香子
寒の暁ツィーンツィーンと子の寝息 中村草田男
寝息あるはうへ寝返り冬の暁 谷口桂子
寝息より軽しと思ふ夏蒲団 山田東海子
山河して寝息となれり籠螢 松山足羽
岳人の寝息さだまる炉火太し 岡田 貞峰
建国日蛇は寝息を立ててをり 関口眞佐子
擁きて夜寒の寝息分つなり 小林康治 玄霜
旅にかなしき女の寝息添水の音 加藤知世子 花寂び
日当たつてをり鴛鴦の寝息かな 小島健 木の実
明日へ繋がる寝息雪嶺足先に 太田土男
晩秋や鳥籠に吊る父の寝息 増田まさみ
暗中に聴きえし寝息あたたかし 楸邨
月の大戸しめて牛の寝息をきいてHる 栗林一石路
月夜茸山の寝息の思はるる 飯田龍太 山の影
月明り山の寝息のきこえけり 大井戸 辿
木枯も使徒の寝息もうらやまし 西東三鬼
梟や森の寝息の漏るるごと 無田真理子
極寒のをさなき寝息ふけてゆく 保坂敏子
死の灰や黴いつせいに寝息の中 桜井博道 海上
水鳥の寝息にそそぐ雨の糸 飯田龍太
深酒の寝息も花祭(はな)の笛に通ふ 友岡子郷 遠方
満開の花の香に入る児の寝息 林翔 和紙
牛蛙明日退院の太寝息 上月大輔
牡丹雪ほたほた母の寝息へ降る 岡本庚子
猪鍋や山の寝息の定まらず 角川春樹
瓜蝿に寝息を立ててゐたりけり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
病む母の軽き寝息や春遅々と 石川栄枝
眠りたる山の寝息とおもふ風 朝倉和江
短夜のしばらく更くる母寝息 斎藤空華 空華句集
短夜の連添ふ寝息きこえけり 井上静川
秋山と一つ寝息に睡りたる 森澄雄 四遠
老母と寝る二夜の寝息初明り 安井昌子
肩越しの寝息は羽音たる銀河 対馬康子 吾亦紅
胃を照らす月光囲りには寝息 片山桃史 北方兵團
良夜かな赤子の寝息麩のごとく 飯田龍太(1920-)
良夜の寝息たましいほどけてゆく 吉原陽子
花茣蓙を外れし寝息をつづけをり 森澄雄
赤ん坊が寝息を立つる養花天 富安風生
赤ん坊の寝息が軽い灸花 小木ひろ子
身ほとりに子等の寝息や除夜の鐘 佐藤美恵子
軍神碑うらの冬草寝息のごとし 相原左義長
遠山火寝息生絹のごとくゆれ 龍太
部屋々々の寝息しづかや花の雨 清原枴童 枴童句集
銃口の此の世のごとき寝息かな 大屋達治
除雪夫の寝息冴えきて寝むらえぬ 石橋辰之助 山暦
陽だまりの屏風に虎の寝息かな 岩尾可見
雪女馬の寝息の中を来る 今井 聖
露の中萬相うごく子の寝息 加藤楸邨
青山椒父の寝息のすこやかに 新保フジ子
風神の寝息聞こゆる寒の月 森本 満
●寝入る 
あすあすと言ひつゝ人の寐入けり 大晦日 正岡子規
いたづらな子は寐入けり秋のくれ 秋の暮 正岡子規
かくらんやまぶた凹みて寝入る母 杉田久女
こほろぎや霧の渚に寝入らむか 小池文子 巴里蕭条
すやすやと寝入らせ玉ふ暑さかな 会津八一
たらちねの昼寝寝入らせたまひけり 中村汀女「汀女句集」
ひと寝入りいびきかきけり年の暮 龍岡晋
ひと寝入りせし間に寒雲空に満つ 篠原梵 雨
ひと渦をともして寝入る蚊遣香 福田甲子雄「師の掌」
もう鴨が来たかと聞かれ寝入られし 茨木和生 倭
キツネ目の男野を焼き寝入りたり 鈴木八駛郎
乳のまぬ子は寐入けりさよきぬた 砧 正岡子規
冬の夜の小屏風立てゝ寐入りけり 筏井竹の門
十一月ホンドタヌキの空寝入り 高澤良一 寒暑
口に指当て短夜の寝入りばな 鳥居美智子
喧嘩せし子の寐入りたる夜寒哉 夜寒 正岡子規
夜も更けぬ妻も寝入りぬ門涼し 涼し 正岡子規
子を抱いてラツコスタイル泣寝入 鈴木石夫
子規子規とて寝入りけり 調和
客僧の狸寝入りやくすり喰ひ 蕪村
寒燈明滅小僧すよすよと寐入りけり 寒燈 正岡子規
寝入らんとする眼裏を今日の野火 岸原清行
寝入りたる吾子の重たき墓参り 菅原 素子
寝入りばな月の朧を水いそぐ 佐野美智
寝入りめに似非の時雨の朴落葉 宇多喜代子 象
寝入り子の眼球うごく冬の汽笛 田川飛旅子 花文字
寝入る児の指に触れなば螢かな 岡田史乃
寝入る息しづかに椅子に洗髪 下村槐太 天涯
山寺や風の落葉をきゝ寐入 馬光 (寒山拾得賛)
恋猫のあはれやある夜泣寝入 正岡子規
憎らしき狸寝入りのこたつ猫 大崎寿子
我膝に寝入れる孫や昼の秋 阿部次郎 赤頭巾
新参のふるさと遠く寝入りけり 石原舟月
春の夜の手術痕撫で寝入るまへ 高澤良一 鳩信
時鳥僧正坊は寝入りけり 時鳥 正岡子規
水寒く寝入りかねたる鴎かな 松尾芭蕉
泣きなから子の寐入たる夜寒哉 夜寒 正岡子規
泣き寝入りしてそのまゝに昼寝の子 粟津美知子
泣き寝入りせし児を離れ母夜長 粟津美知子
泣き寝入るは遺族のみかは虎落笛 香西照雄 素心
淋しさやセーターのまま寝入りたる 岡本よし子
炎天の洗面器空子が寝入れば 古沢太穂 古沢太穂句集
炬燵の辺先づ猫よりぞ寝入りける 林原耒井 蜩
獣を三ツ集て発句せよといへるに 猪の狸寐入やしかの戀 蕪村遺稿 秋
眠る山狸寝入りもありぬべし 茨木和生 野迫川
秋蚊帳に踊聞えて寐入りけり 大谷句佛 我は我
紅蜀葵軽き拳の寝入りばな 井沢ミサ子
股の中寝入りし子の足 小沢碧童
花散つて心やすくも寝入りけん 散桜 正岡子規
若き葉に今日のやどりを寝入る鳥 広瀬惟然
若殿が狸寐入の寒さ哉 寒さ 正岡子規
草枕蚊遣火焚て寝入りけり 文皮
蒲団薄し薪水の疲れ寝入りけり 尾崎迷堂 孤輪
蚤取粉黄なるをふりて寝入りたり 山口誓子
蝶の昼指より寝入る三才児 浜本 漣
遠蛙病む子もつとも寝入りたり 石川桂郎 含羞
長き夜や思ひあまりの泣寝入り 星布尼
雁鳴くや海女の部落は寝入りばな 鈴木真砂女
雛の夜の寝入りばななる赤子の手 ふけとしこ 鎌の刃
雛棚を見ながら寝入る小供哉 雛祭 正岡子規
雨すこし都会寝入りの裸子へ さかすみこ
鮟鱇の泣き寝入りして買はれけり 堀口星眠 営巣期
鳥共も寝入ってゐるか余吾の海 路通
鳴く虫の名など訊ねて寝入りけり 吉武月二郎句集
●寝かす 
いち枚に夕日寝かせて柿落葉 吉田鴻司
けふの月人を寐かして晴れにけり 今日の月 正岡子規
ころ柿を寝かす新藁切り揃へ 佐藤 良生
すぐ転ぶ紙雛なり寝かせおく 内田美紗 魚眼石
ねんごろな枯金ペンを寝かし置く 丸山嵐人
もう一度福笑して寝かさるる 河野美奇
もう寝かして欲しくお前の膝に蛾が落ち 小澤碧童 碧童句集
もう少し寝かせてくれと今朝の秋 井上ルリ子
わが梅雨の臍を水平に寝かしやる 森澄雄「花眼」
リヤカーに赤子寝かせて田螺売る 三沢治子
一燭が尽き盆の妣寝かしけり 蔦 悦子
万緑のトロッコ列車児を寝かす 日永田義治
三尺の藤房を掌に寝かせみる 伊藤敬子
三年を寝かす定めの味噌仕込む 内田恒楓
上総には豆造を寝かす闇がある 武田和郎
九官鳥早く寝かして土筆煮て 平井さち子 紅き栞
六月のピザ生地寝かす雨の昼 高澤良一 素抱
冬に入る誰の寝かせある土間も 菖蒲あや あ や
冬の灯に子達を追うて寝かしけり 阿部みどり女 笹鳴
冷え冷えと抜き身寝かされゐたりけり 永野ヤヨイ
出開帳寝かせて運ぶ芭蕉さま 森きよし
分身の杖を寝かせて花の宴 松宮 昭
初話因幡の兎で寝かすかな 長瀬ナヲ子
味噌桶の寝かせ干さるる五月晴 宇野篤子
売れ残る目なきだるまを籠に寝かせ 宮坂静生 青胡桃
大夕立する廊に子を守り寝かす 上野章子
嬰を寝かすごとく不作の俵積む 長崎美根
嬰寝かすやうにたたみぬ花衣 野島美津子
子を寝かせ来て踊るなり石鏡海女 小島飽石
子を寝かせ緋鯉現るように妻 松本勇二「海程句集」
子寝かせし手足をひらき夜泳ぐ 中山純子 沙羅
寒造寝かせておく間の倉の闇 宗像夕野火
寝かさば石立たさば仏夏蓬 篠崎圭介
寝かされて乳飲み児匂ふ冬座敷 塩川祐子
寝かされて案山子は手足もてあます 濱田桐花
寝かせある根釣の竿を跨ぎけり 田中裕明 山信
寝かせある琴柱をさます小春かな 柴田雪路
寝かせたる時計が鳴るよ煤はらひ 加藤松薫
山中や泉を寝かせ涅槃雪 村越化石 山國抄
山姥の杖寝かせある冬苺 富岡廣志
庫裏に子を寝かせ十夜の信徒たり 大杉洋子
復原家に赤児寝かせて麦を刈る 宮坂静生 青胡桃
春の草測量棒を寝かせけり 井上弘美
春一夜寝かして稿のふくらみぬ 肥田埜勝美
月雪や旅寝かさねて年一夜 加舎白雄
朝顔に雨戸すかして二度寝かや 阿部みどり女 笹鳴
木を伐つてそのまま寝かす花の山 樅山 尋
東京裁判子を寝かしつつ蚊帳にきく 川島彷徨子 榛の木
板壁や馬の寝かぬる小夜しぐれ 中村史邦
梨むいてゐるかたはらに児を寝かせ 田中裕明 櫻姫譚
棹寝かせ客待つ舟や行々子 加瀬ゆきえ
残雪を寝かしたるまま耕さず 茨木和生 木の國
水ひと夜寝かせて置きし雛料理 茨木和生 三輪崎
洗ひたる独活寝かしたる目笊かな 石川桂郎 四温
涼しさに寝かねし唄や門の月 小酒井不木 不木句集
煤払ひ畳に仏寝かせあり 阿部静雄
熟すまま来世紀まで寝かしおく葡萄酒千本そして恋人 松平盟子
狐火の母には見えて子を寝かす 太田土男
猫は尾を雀隠れに寝かせたる 鈴木鷹夫 千年
秋耕の鍬寝かし置く木の根方 北村保
種案山子きのふも畦に寝かされて 関森勝夫
種薯を土に寝かせて祭くる 石工冬青
稲架かこむぬくき処に子を寝かす 角光雄
空席に破魔矢を寝かせ湖西線 鈴木鷹夫 大津絵
竿灯のはじめ寝かせて進むなり 杉浦典子
笛吹いて神を寝かさぬ雪祭 稲垣陶石
管楽器寝かす五月の海の上 河合凱夫 飛礫
糠床に寝かしつけたる初茄子 宮原つね
網棚に寝かせ高野の女郎花 猿橋統流子
繭玉の下に赤児を寝かせ置く 野崎ゆり香
自転車も芝生に寝かせ春の雲 長谷川久子
良き土に淑(よ)き女(ひと)寝かす真昼かな 金子兜太 詩經國風
芯のみとなりし案山子を納屋に寝かせ 宮坂静生 青胡桃
花の雲櫂は寝かせしままにせよ 田部谷紫
菜の窪の苺を寝かす患者食 石川桂郎 高蘆
萩くくり地震に備へて墓寝かす 西本一都 景色
葡萄山長き短き房寝かす 三好潤子
蒟蒻を蚕棚に寝かす山日和 馬場移公子
蓬莱に寝かされてをり年を待つ 森澄雄 空艪
蓮掘りてしばらく畔に寝かせけり 北見さとる
虫の夜の手足寝かせて耳覚むる 菖蒲あや
蚊遣して子を寝かせては燈下の母 鈴木栄子
野遊や赤子は草に寝かされて 坂本香寿子
門番のひとり寝かねるあつさ哉 暑 正岡子規
青竹の寝かされて待つお水取 美濃部多津子
青芝に自転車寝かせおく恋よ 正木ゆう子
頭澄む子なれ虫音に寝かされて 大熊輝一 土の香
鰰の寿司寝かせをり男鹿海女 阿部月山子
鳥雲に赤子ごろんと寝かされて 桜田とく子
●寝転ぶ 
げんげ田に寝転ぶ妻を許し置く 三好 曲
げんげ田に寝転んでいる町役場 武田和郎
どったんと寝転び昼寝でもせんか 高澤良一 寒暑
どの窓も雷光の燃ゆ寝転べり 原田種茅 径
クローバーに寝転び雲に運ばるる すずき巴里
寝転がる我が身の弱さ蝉時雨 宇佐美次男
寝転べば吾も夏景色のひとつ ともたけりつ子
寝転べば少年となる春の雲 小澤 徹
寝転べば睫毛蕊なす花野かな 岡部玄治
寝転んで読む悪女伝さくらんぼ 野村尚子
海軍が寝転んだ海の沖から冬 武田和郎
甘藷食ふは至福にちかし寝転べば 伊藤白潮
石菖に風あり主寝転ひて 尾崎紅葉
葺替の萱に寝転ぶゆるされよ 八木林之介 青霞集
鞦韆を下りて寐転ぶ芝生かな 鳴子
駈ける子に寝転がる子に草紅葉 中里泰子
きりぎりす腰紐ゆるめ寝ころべば 桂信子 黄 炎
ころり寝ころべば空 山頭火
さくら咲き男は防波堤に寝ころぶ 加倉井秋を 午後の窓
ものぐさの寝ころびて見る夜の新樹 八十島稔 牡丹照る
クローバに寝ころべば子が馬乗りに 伊藤彩雪
不来方のお城の草に寝ころびて/空に吸はれし/十五の心 石川啄木
中空に寝ころぶ人や梯子乗 大谷美和子
利根べりに寝ころび足で蝶を追ひ 上野泰 佐介
天草に寝ころんでゐる海女のスト 萩原麦草 麦嵐
太刀佩いて芝に寝ころぶ子の日かな 一茶
学帽をとばし寝ころぶ芝青し 成瀬正とし 星月夜
寐ころべば靴青空へ卒業期 香西照雄
寐ころんで牛も雪待つけしき哉 雪 正岡子規
寝ころびしよりひき寄せて籠枕 今井杏太郎
寝ころびし少年の窪落葉山 斎藤夏風
寝ころびし爪先にはね秋の風 皆吉爽雨 泉声
寝ころびてけふといふなく夏逝かす 高澤良一 素抱
寝ころびてコスモス空に咲かせけり 片岡うらら
寝ころびて刻明に爐火見はじめぬ 石橋辰之助
寝ころびて太き枝ぶり秋湯治 宇佐美魚目 天地存問
寝ころびて待たるるものよ小夜鵆 惟然
寝ころびて待たるる物よ小夜鵆 広瀬惟然
寝ころびて砂丘は白し秋の風 引田逸牛
寝ころぶは戦死のかたち夕かなかな 田沼文雄
寝ころぶや一顆の柘榴雲にふれ 太田鴻村
寝ころぶや手まり程でも春の山 一茶
寝ころべばすぐに眠くて避暑の宿 成瀬正とし 星月夜
寝ころべば土筆シグナル遠く立ち 宮津昭彦
寝ころべば地のぬくもりや鰯雲 山川 充恵
寝ころべば昼もうるさし秋の蝿 桃隣
寝ころべば水からくりのしづけさに 上村占魚「鮎」
寝ころべば空に燃え立つ彼岸花 大西 土水
寝ころべば耳を若草くすぐるよ 小島國夫
寝ころべば靴青空へ卒業期 香西照雄 対話
寝ころべる女あらはに避暑の宿 成瀬正とし 星月夜
寝ころんてゐれは小舟の通りけり 正岡子規
寝ころんでチェーホフを読む囮守 水野李村
寝ころんで俳諧安居夏の月 河野静雲 閻魔
寝ころんで書読む頃や五六月 六月 正岡子規
寝ころんで牛も雪待つけしき哉 正岡子規
寝ころんで背負ふ地球や鰯雲 鶴田独狐
寝ころんで蝶泊らせる外湯哉 一茶 ■寛政七年乙卯(三十三歳)
寝ころんで見るに糸瓜の長きこと 伊藤通明
寝ころんで見れば小舟の通りけり 正岡子規
寝ころんで酔のさめたる卯月哉 卯月 正岡子規
曲水やどたり寝ころぶ其角組 一茶 ■文政三年庚辰(五十八歳)
松かぜ松かげ寝ころんで 種田山頭火 草木塔
枯草に寝ころぶやからだーつ 山頭火
橋裏を見上げ寝ころぶ春きさらぎ 高柳重信
白砂に犬の寐ころぶ小春哉 小春 正岡子規
石ばかりの中に寝ころび泪にじむ 北原志満子
秋天や大堤防に寝ころびて 池内たけし(1889-1974)
紅葉観て寝ころぶによし岩畳 斎田鳳子
草の上に寝ころんで見る凧高し 青峰集 島田青峰
萩の上に寐ころびうつや鹿の腹 鹿 正岡子規
葉がくれの瓜と寝ころぶ子猫哉 一茶
蒲公英や寝ころんで聴く地の韻き 植田 桂子
語らず寝ころぶ怒濤も夜の砂に友 古沢太穂 古沢太穂句集
避暑地去る心残りに寝ころびて 成瀬正とし 星月夜
雪とばし寝ころぶ犬を見下ろす犬 京極杞陽
鵙鳴くや寝ころぶ胸へ子が寝ころぶ 古沢太穂 古沢太穂句集
●寝そべる 
またも来て猫の寝そべる干し布団 高澤良一 随笑
やや離れ犬の寝そべる菊根分 向山雅子
ボクサーと犬が寝そべる麦の秋 渡辺誠一郎
孕鹿前脚投げて寝そべるも 山本蛍村
宿の子の寝そべる秋の積木かな 田中裕明 花間一壺
寝そべるもをりて四温の百羅漢 大井戸辿
暮れてより鹿の寝そべる島に泊つ 竹中良枝
難破という犬が寝そべる春の道 坪内稔典
●横たわる(たえる) 
たなばたの天横たはる廓かな 後藤夜半 翠黛
ひび割れし木の横たはる南風 広瀬直人
ぼろのごと放つちやれ鮭の横たはる 林火
不知火にムー大陸の横たわる 五島高資
不確な世に短日が横たはる 保坂リエ
任侠の目をして鮟鱇横たわる 沢田改司
伐りし竹青さまさりて横たはる 右城暮石 上下
傷深く受けて筍横たはる 保坂リエ
六斎市雪に真鱈の横たはる 松本 進
六月が牛のごとくに横たはる 松尾隆信
初夏や母も美田も横たわる 佃悦夫「身体私記」
四月なのか、重金属の横たはる 木村聡雄
夏山や雲湧いて石横たはる 正岡子規「子規句集」
夏川や死後とは知らず横たわる 和田悟朗
夕顔の実の横たはる国家かな 鈴木伸一
夜寒星橋立ほのと横たはる 西山泊雲 泊雲句集
大鮪姨捨駅に横たはる 安西閑山寺
山河としてくちなわは横たわる 北川邦陽
巣立ちたる燕に大河横たはる 山田弘子 こぶし坂
悪童のごとく旗魚の横たはる 頬魚
捨てられて月の芒の横たはる 宮津昭彦
春の島なんでもなくて横たはる 桂信子
春の昼生傷をもち横たわる 森田智子
月明り服は人着て横たわる 鳴戸奈菜
月蒼き氷河長身横たはる 有働亨 汐路
望の夜を吹かねば笛の横たはる 朔多恭
枝打ち鎌冬陽を曲げて横たはる(北山杉) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
桐一葉落ちて心に横たはる 白泉
横たはる三河の山や初茜 岡島礁雨
横たはる束稲山や鷹わたる 山田千恵
横たはる枯草堤大空に 京極杞陽 くくたち下巻
横たはる梁やさびゆく串岩魚 米澤吾亦紅
横たはる様は涅槃の自然生(じねんじょう) 高澤良一 随笑
横たはる礁はそれと夜光虫 高濱年尾 年尾句集
横たはる脳死のわれか梟か 芳田照代
横たはる鉄砲百合よテロなくなれ 津島 圭
横たはる麦打棒をまたぎ行く 堤俳一佳
横たわる河豚に中りし寝棺かな 河野静雲 閻魔
横たわる父に秋陽の西夏文字 平井久美子
歩く昼横たわる夜の杉花粉 林田紀音夫
水餅のやうに氷河の横たはる 高澤良一 ぱらりとせ
水鳥や安房夕浪に横たはる 秋櫻子
涅槃図を見て来し吾も横たはる 杉山 岳陽
濡れ髪を木枕に海女横たはる 関口祥子
濤沸湖夏野に沿ひて横たはる 清崎敏郎
瀧浴びし人やはらかに横たはる 長谷川櫂 虚空
灰皿に灰横たはる終戦日 高澤良一 随笑
無防備に横たわる彼晩夏光 高澤晶子(1951-)
磨かれて寒九の杉の横たはる 笹井武志
磨かれて杉の寒さの横たはる 黒坂紫陽子
秋草を圧して白馬横たはる 日原傳
空制しきて横たはる凧の武者 木村 勇
箸の木や伐り倒されて横たはる 三橋敏雄 眞神
綱引の綱の疲れて横たはる 柴野みちゑ
老幹の横たはるあり夜の梅 高野素十
胸裡にも梅雨前線横たはる 相生垣瓜人
臥てみれば天に鶏頭横たわる 川崎真彌
自然薯がおのれ信じて横たはる 中村汀女(1900-88)
船虫に手擦れの櫂の横たはる 藤田れい子
花ざくろ海坂庭に横たはる 佐野まもる 海郷
花枕して黒揚羽横たはる 上野泰 佐介
荒鵜のうしろに海の横たはる 原裕 葦牙
蒲公英や鮫あげられて横たはる 水原秋桜子
螢かご月なき山河横たはる 柴田白葉女 遠い橋
農具市見て春草に横たはる 金子蜂郎
近く鎖の音して海が横たわる 林田紀音夫
除夜の門に出でて一路の横たはる 皆吉爽雨
鮭打ちし棒月光に横たはる 鈴木節子
黄熟の麦横たはる阿波郷 伊藤敬子
●伏す 臥す 
あかつきの冬菜はおのが影に伏す 古舘曹人 砂の音
あげ舟の如く熱砂に駱駝伏す 中村草田男
うつそみは秋陽炎にむせび伏す 太田鴻村 穂国
かぼそくて地に伏す桔梗あきらかに 飯田蛇笏 春蘭
かまつかの伏せば伏すとて燃ゆるなり 林原耒井 蜩
この山に倒れ伏すとも山桜 成田千空
ひたすらにひれ伏す草や滝しぶき 五十嵐播水 播水句集
まろび伏す仔豚よ村の受難週 有働 享
下萌えに伏す鹿われを見てをりぬ 江原富美子
二三本菊倒れ伏す草の雨 菊 正岡子規
人愚なり雷を恐れて蚊帳に伏す 蚊帳 正岡子規
伏す萩の風情にそれと覚りてよ 夏目漱石 明治三十七年
伏す鹿の耳怠らず紅葉山 小島健
倒れ伏すものを褥に菖蒲の芽 稲畑汀子
先生を負ひ紫陽花の墓に伏す 京極杞陽 くくたち下巻
冬山の扉の裾に伏す宮津かな 西山泊雲 泊雲句集
冬越して立つも伏するも茅の道 石川桂郎 四温
冬野に伏す母よ耳が寂しいと 小泉八重子
冬靄を窓に近寄せ風邪に伏す 及川貞 夕焼
冷まじや枯水芭蕉水に伏す 佐藤久子
凍蝶の翅伏す霜の寂光土 西島麦南
刈株や山田の鳴子倒れ伏す 寺田寅彦
厳しさや琅*かん折れて霜に伏す 前田普羅 飛騨紬
向日葵のうつ伏す花を蔑めり 相生垣瓜人 明治草抄
向日葵の枯れ伏すにまかせ褒貶なし 小林康治 四季貧窮
君亡くて霜伏す小屋根連ねたり 森 かつみ
夕桜酔伏す猩々ゆりおこす 川崎展宏
大かたは打伏す梅雨の紫蘭かな 中道政子
大冨士にひれ伏す軒端寒晒 勝又一透
大王にひれ伏す餓鬼や壬生狂言 岸風三楼 往来
天壇や裾に並み伏す金盞花 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
妻と伏す大干潮の春野かな 橋口 等
寒凪の沖の小島ゆ雲に伏す 田中水桜
山々の闇が組み伏すどんどの火 千代田葛彦
山畑の芋ほるあとに伏す猪かな 其角
崩れ伏す母岩一帯赤のまま 成田千空 地霊
弓を射る鵙にひれ伏すにはあらず 古舘曹人 能登の蛙
律義なるものの俯伏す春炬燵 飯田蛇笏 雪峡
悉く稲倒れ伏す野分哉 寺田寅彦
惱み伏す主をはげます吹雪哉 吹雪 正岡子規
抱くことに執し母鷺繊く伏す(野田の鷺山三句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
捨案山子雑兵倒れ伏すに似て 水原秋櫻子
敗荷は日に背きつゝ折れて伏す 萩原麦草 麦嵐
数珠玉や真間の低山露に伏す 千代田葛彦 旅人木
昼寝ともつかず打ち伏す疲れかな 阿部みどり女 笹鳴
暗き灯に悲しみ伏すや冬籠 会津八一
曇り来て諸仏面伏す雨蛙 水原秋櫻子
書を伏するたび冬蝶の死が見ゆる 殿村菟絲子 『菟絲』
月欠ける前のひかりに真菰伏す 田中ひろし
朝露や猪の伏す芝の起上り 去来
本尊にひれ伏す黴の畳かな 滝口芳史
杜若にひれ伏す如く蹲みけり 青峰集 島田青峰
東風曇むか伏す紀山渺々と 高田蝶衣
浜草の塩たれ伏すや土用浪 青峰集 島田青峰
添竹も折れて地に伏す瓜の花 瓜の花 正岡子規
湿原に折れ伏す蘆や小葭切 水原秋櫻子「玄魚」
漣に蝶はじけとび岬伏す 松澤昭 安曇
激浪を怖れ芒の摺伏す 岸風三樓
火の山にひれ伏す祈り雪催 板垣鋭太郎
火祭の呪師ひれ伏す熊の皮 太田英友
火祭太鼓富士へひれ伏す炬火一里 羽部洞然
灯台を芯に島伏す雁渡し 服部鹿頭矢
炭あたりなれと祈れり師の伏すを 石川桂郎 含羞
熊笹の水にうち伏す彼岸かな 村沢夏風
燈台を芯に島伏す雁渡し 服部鹿頭矢
牡丹花の闘心こめて霜に伏す 渡邊水巴 富士
病棟の凍る灯りに妻の伏す 川口利夫
白鳥撃たれ野に並び伏す極月や 林 壮俊
皓として伏すのみの父野分中 友岡子郷
盲導犬耳立てて伏す草の花 高橋たか子
砂に伏す鯒もさだかに潮澄める 久保もり躬
磐石にひれ伏す巫女や滝の前 橋本鶏二 年輪
秀野忌の野分鶏頭慴伏す 小林康治 四季貧窮
秋女酔ひ伏す枕抱きしめて 飯田蛇笏 山廬集
秋日はや起き伏す山に照り疲れ 瀧春一 菜園
秋雨や木賊折れ伏す池の面 西山泊雲 泊雲句集
秋雨や蜘蛛とぢて伏す枯れ葎 原石鼎
稲雀風に伏す田を飛び越えぬ 原田種茅 径
競漕のゴール勝者も倒れ伏す 有田ひろ志
網かけて蓼の折り伏す川貧し 水原秋櫻子
聖駕に伏す遺族三萬春の土上 橋本夢道
股稗のその身重たく飛騨に伏す 前田普羅 飛騨紬
花着けて草乱れ伏す山の果て 廣瀬直人
萎れ伏すや世はさかさまの雪の竹 松尾芭蕉
落し文もがなと身を伏す虚子の塔 阿波野青畝
葛飾は霜に芦伏す初景色 能村登四郎
藻の花や竹伏す岸に乱れ咲く 藻の花 正岡子規
蘆折れて或は地に伏す雁の聲 和風句集仇花 安藤和風
蜻蜒や実り伏す稲まだの稲 寺田寅彦
行き行きてたふれ伏すとも萩の原 河合曽良
被き伏す蒲団や寒き夜やすごき 芭蕉
遊行者一遍倒れ伏す曼珠沙華 黒田杏子 花下草上
鉢菫昨日のままの頁伏す 石田あき子 見舞籠
銃ひやびやと星がこぼるる草に伏す シヤツと雑草 栗林一石路
雨に伏すゑのころのみな短くて 岸本尚毅 舜
雨に伏す残菊にして黄なる艶 米谷孝
雨乞のひれ伏す頭上雲もなし 入江朝子
雷雲下國境山脈惨と伏す 相馬遷子 雪嶺
露に伏す薄の原の朝日哉 薄 正岡子規
非命多喜二北風の機関車煙伏す 成田千空 地霊
風なきに茅花ひれ伏す夕爾の死 成瀬櫻桃子 風色
飾師や三日酔伏すことおかし 野村喜舟
駛り伏す瞬時の影へ斉射噴く 片山桃史 北方兵團
鳳作忌濤白ければ乳房伏す 磯貝碧蹄館
鷹舞へり雪の山々慴伏す 鈴木花蓑句集
*う歯病んで縁に打ち伏しぬ麦の秋 比叡 野村泊月
「デスペア」の伏して全身梅雨の音 加藤知世子 花 季
あけくれの涛声菊も乱れ伏し 福田蓼汀 山火
あふことのまたなき眸よ伏しやすく 湊楊一郎
いつせいに草木ひれ伏し神渡し 片山由美子 天弓
うち伏して草の葉末も土用哉 竹冷句鈔 角田竹冷
うち伏して鴬餅の息づけり 福地記代
うつ伏してゐる*ひつじ田の溺死人 萩原麦草 麦嵐
うつ伏して山角這ひぬ夏の霧 長谷川かな女 雨 月
うつ伏して岸より流す燈籠かな 比叡 野村泊月
うつ伏して泣ける羅漢や残る虫 森田君子
うつ伏して浮巣ごこちや大南風 大木あまり 山の夢
うつ伏して風邪を軽しむ女かな 阿部みどり女 笹鳴
くれ竹の雪ひつかつき伏しにけり 雪 正岡子規
この墓はひれ伏し参るべきなれど 波多野爽波
たえがたく伏して花野と血が通う 澁谷道
たが塚ぞ霜に伏したる八重葎 霜 正岡子規
たゞ見る起き伏し枯野の起き伏し 山口誓子 黄旗
ともしびのもとに伏しては雪を聴く 石原八束 雁の目隠し
ひれ伏して歓喜の僧や開帳会 河野静雲
ひれ伏して湖水を蒼くあをくせり 三橋鷹女
ふるさとにわが空蝉は突伏して 正木ゆう子 静かな水
ももさくら咲き起き伏しの異らず 桂信子 黄 炎
わが影の起き伏し庭に桃散りて 桂信子 黄 瀬
コスモスの倒れ伏しつゝ花咲けり 青峰集 島田青峰
ストーブに泣き伏し生徒女見す 茂里正治
ヂェヅユ・クリにをとめ伏したり汗の襟 池内友次郎 結婚まで
マラソンのあとクローバーに伏し息す 草間時彦
一樹仰ぎ一樹伏し梅渓に臨む 梅 正岡子規
一病にしたがう起き伏し 梅の花 小金千鶴
三四本花さく萱の伏しにけり 飯田蛇笏 椿花集
下萌や葎は伏して嵩もなく 依光陽子
下萌や警察犬は伏して待つ 岡野洞之
中世の黒猫ここら伏しにけり 阿部完市 軽のやまめ
伏してゐる銃身をとぶきちきちあり 川島彷徨子 榛の木
伏して念ふ雛の如き御契 雛 正岡子規
伏して拝む東照宮の風薫る 正岡子規
伏して見る子規忌の草の高さかな 南うみを
伏し重つて清水掬ぶや生徒達 竹下しづの女 [はやて]
伐られ伏し櫟限りの花こぼす 及川貞 夕焼
余り天低ければ蓮枯れ伏しぬ 徳永山冬子
俯伏して葡萄句会と言ひたけれ 萩原麦草 麦嵐
傀儡の歎き伏したる畳かな 橋本鶏二 年輪
元日の猪打つて草も木も伏しぬ 萩原麦草 麦嵐
冬薊ひれ伏して富士拝むかな 皆川白陀
冬霞む畝傍の山を伏しをがみ 岩津戸知太
出来過ぎ田青々と伏し地蔵盆 西村公鳳
刈株に倒れ伏したる案山子哉 寺田寅彦
北へ帰る船窓雲伏し雲行くなど 金子兜太 少年/生長
受験書に俯伏し眠る覚ますべし 那須 乙郎
噴煙の伏して崩れず冬深し 米谷静二
国生みの神に野分の草伏して 長谷川久々子
地に伏しつ水に踊りつ野火走る 大川恵子
地に伏して咲きふえてゆく時鳥草 福田甲子雄
地に伏して父病み居りし甘蔗畑 比叡 野村泊月
夏痩は野に伏し山に寝る身哉 夏痩 正岡子規
大花野少年のうち伏してをり 藺草慶子
寒梅や風に伏し伏し坂下る 阿部みどり女
寒流として天龍も伏し流る 百合山羽公 故園
射干の地に伏しをれば風強し 松本ああこ(草蔵)
小さき墓その世のさまを伏し拝む 高浜虚子
小火桶に伏して遅吟や春星忌 王春
山椿小松もろとも崖に伏し 福田蓼汀 山火
岬まで濤は地に伏しとりかぶと 古館曹人
左右より芍薬伏しぬ雨の径 松本たかし
平和祭の地に伏し汚れ塗装工 鈴木六林男
懐妊のこと言ふ父の日の伏し目 辻美奈子
打ち伏して闇の深さのかまつかか 林原耒井 蜩
打伏して朴の落葉にあらぬなし 藤松遊子
撫し子の我から伏して咲にけり 撫子 正岡子規
星おぼろ鞍馬百軒闇に伏し 小川斉東語
春炬燵伏したる酔ひをとがめんや 飯田蛇笏 雪峡
春草に伏し枯草をつけて立つ 西東三鬼
春草やどかと伏したる男根神 石寒太 あるき神
月下美人あしたに伏して命あり 阿部みどり女 月下美人
木下闇伏し目のロバがいるばかり 服部一彦
松かげや糸萩伏して秋の立つ 室生犀星 魚眠洞發句集
松手入起き伏しかろくなりにけり 北見さとる
枯はちす五体投地のごと伏して 部谷千代子
枯れしもの等伏し滝音を自在にす 桂信子 花寂び 以後
枯れすすき伏しては兎走らする 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
枯れ伏して真菰は蘆とわかれたり 五十嵐播水
枯山の起き伏し蘇領に続くかな 小林康治 四季貧窮
桔梗の倒れ伏したる背丈かな 日原傳
椰子の花こぼるゝ土に伏し祈る 篠原鳳作 海の旅
楠公の首塚に伏し落椿 鷹羽狩行
歎異抄に二月耐へゐぬうつ伏して 長谷川かな女 花寂び
残り菊棚田の隈に伏してゐし 細見綾子
残暑雲動かず家婦は縫い物に伏して哭す 喜谷六花
母の視野のなかの起き伏し春嵐 桂信子 花寂び 以後
沖くらく昼顔砂に伏し咲ける 岸風三楼 往来
泣き伏して身のかさもなきくぐつかな 安田千鶴女
洋蘭と起き伏し七曜過ぎにけり 阿部みどり女 月下美人
海までの砂の起き伏し草紅葉 高井北杜
海疼く椿の花の落ち伏しに 八木三日女
涙涸れ枕に伏して寒更くる 阿部みどり女
炉けぶりに伏して岩魚を焼きゐたり 松藤夏山 夏山句集
炎天に焦げ叫び伏したゞアラー(ダハラン二句) 殿村菟絲子 『牡丹』
炭竈の火加減見るや地に伏して 西山泊雲 泊雲句集
狐火に枯ぐさ恍と伏しにけり 松村蒼石 寒鶯抄
短夜やあが起き伏しの草の寺 尾崎迷堂 孤輪
石に伏しおのが身冷やす赤とんぼ 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
硫黄煙高西風に伏し萩咲けり 宮武寒々 朱卓
秋晴の肇国の地にひれ伏しぬ 高濱年尾 年尾句集
秋晴やみだれ伏したる水辺草 五十嵐播水 播水句集
秋霊にひれ伏してゐて端唄かな 攝津幸彦
種子島雲と伏しゐる菊日和 米谷静二
稻の穗の伏し重なりし夕日哉 稲穂 正岡子規
穂すすきの根に伏し海の御祖呼ぶ 細見綾子 黄 炎
紫雲英田の起き伏し耶馬台国に入る 岸風三樓
腕立ての遂に伏したる夏畳 桂信子 草樹
舟先に真菰へなへな伏し沈む 後藤夜半
芒伏し萩折れ野分晴れにけり 野分 正岡子規
芦の穂の日に~伏して城高し 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
花すゝき伏し悉したる崖に対す 林原耒井 蜩
花たけて藺の伏しなびく汀かな 高橋淡路女 梶の葉
花伏して柄に朝日さす秋海棠 渡辺水巴
花韮の並び伏したる雨上り 深見けん二
花魁草倒れ伏したり草の上 伊藤鴎二
茯苓は伏しかくれ松露はあらはれぬ 蕪村
萩に伏し芒に乱れ古里は 夏目漱石
萩伏して身ほとり月の刺すばかり 殿村莵絲子 花寂び 以後
蓮如忌に寸の秘仏を伏し拝む 黒田甫水
蕗伏して海の鯖色國の果 古舘曹人 砂の音
薔薇の香に伏してたよりを書く夜かな 池内友次郎
薬玉や伏して奉る民の事 島田五空
藤の根に伏して色なし冬の鹿 西山泊雲 泊雲句集
蛇伝ふ笹つぎ~に伏しにけり 小泉静石
蜻蛉や野の高草の伏しはじめ 徳永山冬子
諸葛菜咲き伏したるに又風雨 水原秋櫻子
起き伏しの蔦の緑や五月雨 碧雲居句集 大谷碧雲居
起き伏しや秋海棠は澄みてのみ 林原耒井 蜩
遅日なほ砂漠の翳の起き伏しは 澤田 緑生
道ばたに伏して小菊の情あり 風生
野の秋や水城の跡も露に伏し 下村ひろし 西陲集
野の萩の伏し重なりて路もなし 萩 正岡子規
野外弥撒犬は穂草に伏して待つ 藤井寿江子
野施行の伏しつ起ちつつ一と焔 丸山海道
野遊びの皆伏し彼等兵たりき 西東三鬼(1900-62)
金魚の死母には伏して言はずおく 高澤良一 素抱
雨つよし辨慶草も土に伏し 杉田久女
雨乞に榊献げてひれ伏しぬ 萩原相二
雨風たける地に伏して低き家家 栗林一石路
雪に伏し掌あはすかたきにくしと見る 長谷川素逝 砲車
雪原は月読神伏してゐる 平井照敏
雪月夜裸婦の屍伏し~て 渡邊水巴
雪消えしばかり根曲笹は伏し 福田蓼汀 秋風挽歌
雪鎧ふ浅間も伏して地に抱かる 玉城一香
霊魂の群がり伏して石霞む 石原八束 空の渚
霜強しがばと伏したる牧草地 矢島渚男 延年
霜抽く葦麺麭の骰野に伏して 成田千空 地霊
霧罩めて野水はげしや黍の伏し 飯田蛇笏 山廬集
靴みがき伏してひたすら柳散る 吉屋信子
額伏して白き扇や露の中 比叡 野村泊月
風の向きに伏し枯草の年移る 鈴木六林男
風邪に伏し竹の日斑を眼うらに 阿部みどり女
風鈴や枕に伏してしくしく涕く 鈴木しづ子
麦の秋地に伏し泣く子放つておけ 椎橋清翠
麦埃鯰は池に伏して笑ひ 永田耕衣 吹毛集
麦畑の起き伏し冬日わたるなり 瀧春一 菜園
あたたかに柄杓の伏せてありにけり 勝又一透
ある挿話砂丘に伏せる二枚貝 伊藤敬子
うつ伏せに寝てゐる妻を見てさむき 松崎 豊
かまつかの伏せば伏すとて燃ゆるなり 林原耒井 蜩
くれなゐに蕎麦を刈り伏せ野の小春 皆吉爽雨
くろ雲が来る雪が来る伏せ籠いつぱいのひよこ 安斎櫻[カイ]子
こおろぎの闇に日の丸伏せている 吉平たもつ
さへずりに十余り甘茶茶碗伏せ 高澤良一 ねずみのこまくら
さんど笠にはたと伏せたりきり~す 蘇山人俳句集 羅蘇山人
じやがいも植う地靄を素手に伏せながら 大熊輝一 土の香
まくなぎの待ち伏せに遭ふ橋の上 瀧尻 佳子
むかし兵たりし身を伏せ野に遊ぶ 辻田克巳
わが影や冬の夜道を面伏せて 青峰集 島田青峰
わが膳は盃伏せしまま秋夜 猿橋統流子
わびしさの面を伏せて刈らむ蘆 相生垣瓜人 微茫集
エスカレーター伏せ灯に春の歌舞伎客 高井北杜
シクラメン蕾を伏せし深紅かな 村田 脩
トロッコ伏せ秋の日はもうどこにもなし 行方克巳
ハンモック胸に伏せたる福音書 荒井千佐代
ペカ伏せて河岸に雨呼ぶ猫柳 横山蒼生
七日盆刈り伏せの草束ねある 秋山幹生
万緑や伏せ甕の罅地にとどく 内藤吐天 鳴海抄
三槐に門あり雪に伏せしもの 和露句集 川西和露
下萌にねぢ伏せられてゐる子かな 星野立子
中空にバケツを伏せて死ぬ四月 津沢マサ子 空の季節
二た並び三並び蕎麦を刈り伏せぬ 小澤碧童 碧童句集
今日よりの春風なりしコップ伏せ 井上雪
仮伏せの牛蒡とり出す小正月 伊與愛子
伏せし掌に頭つめたく蝶もがく 川島彷徨子 榛の木
伏せてある桶の酢の香や夜の秋 恩田秀子
伏せばなほ涙や露の音すらむ 石原八束 『幻生花』
伏せば硝煙立てば乳の香わが半島 夏石番矢 猟常記
伏せられしカードそのまま去年今年 伊藤 梢
伏せられしコップの曇る無月かな 中戸川朝人 星辰
伏せるもの伏せて涼しき水屋かな 後藤夜半 底紅
伏せ籠に矮鶏の子育ち菊枯るる 新海りつ子
伏せ籠の雛にかゞみぬ花吹雪 阿部みどり女 笹鳴
伏せ葱に夕三日月の影しけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
伐り伏せの竹四五本の余寒かな 上田五千石 森林
伐り伏せる樹をつぎつぎに控えゆき手帖のなかへ移動する森 草野比佐男
何か負ふやうに身を伏せ夫昼寝 加藤知世子 花寂び
俯伏せの霧夜の遊行青ざめて 金子兜太
俵炭手掴む負ひ子俯伏せに 森澄雄
倒れしも伏せしも咲いて草の花 大久保白村
先へ行く猟犬唸り地に伏せる 越智条山
冬耕の顔伏せしまま暮れにけり 柚口 満
冬薔薇くらき手鏡伏せて置く 鍵和田[ゆう]子 浮標
冬長し二人に余る葱伏せて 古賀まり子 緑の野以後
几董忌の盃を伏せ眠らんか 深見けん二
出稼ぎて夕月に舟伏せらるる 金箱戈止夫
刈り伏せしまま秋風に草を乾す 羽部洞然
刈り伏せし草の匂ひや盆の月 兼藤教子
刈り伏せし藺草匂へり登呂遺跡 室谷幸子
刈り伏せて牧草匂ふ春の露 米谷静二
刈り伏せて節々高し秋海棠 原石鼎
刈り伏せて紫蘇の匂へる通り雨 奥田とみ子
刈り伏せの草も熱もつ広島忌 木下むつみ
刈り伏せの萱に日渡る裏秩父 上田五千石
刈り伏せの萱這ふ蟇となりしかな 吉田紫乃
刈伏せし棚田棚田を雲這へる 加藤耕子
北信濃伏せ字ごこちに雪の家 大木あまり 火のいろに
千松や盥で伏せし雀の子 雀の子 正岡子規
千社札火伏せ札貼る涸井かな 内山 都
友禅の伏せ糊こねて年つまる 田村愛子
古萱を黄に伏せ山のぬくもるよ 村越化石
名を伏せて風を彩る鳥兜 杉本則江
名月や洗ひ伏せたる日々のもの 村松紅花
吹雪衝く橇に面を伏せもして 高濱年尾 年尾句集
吾までの農かも床に藷伏せて 大熊輝一 土の香
味噌漉しにこほろぎ伏せぬ十三夜 田中冬二 俳句拾遺
唐黍や兵を伏せたる気合あり 夏目漱石 明治三十一年
噴煙をねぢ伏せて阿蘇眠りけり 千々和恵美子
地に伏せば地のあたたかき初螢 鳴瀬芳子
地霊みな狼(ぬくて)の貌をして伏せる 橋本喜夫
坊泊りして桜前線待ち伏せす 東野礼子
埋火に月下戻りし身を伏せぬ 大野林火
壺ひとつ伏せてありたる花の庭 金久美智子
夏兆す曲家に鍋釜を伏せ 神蔵 器
夏果つる峠や茶碗伏せし棚 長谷川かな女 花 季
夏草やうつ伏せてある鉢の数 癖三醉句集 岡本癖三醉
夏蝶ひたと羽伏せて砂の安宅道 中村草田男「銀河依然」
夕山に対ふ夏帽地に伏せて 木村蕪城 寒泉
夕蜻蛉日にみな向きて羽根を伏せ 大野多美三
夜の古典琴は伏せたる船ならむ 長岡裕一郎
大寒や鍋・釜伏せて静かな夜 菖蒲あや 路 地
大年の火伏せの笹を奪ひ合ふ 篠田法子
大綿や生垣に笊伏せられて ふけとしこ 鎌の刃
妻とがむ我が面伏せや榾明り 飯田蛇笏 山廬集
妻老いぬ春の炬燵に額伏せ 富安風生
姉と呼びてあはて眼伏せぬ葉鶏頭 雑草 長谷川零餘子
姉をまね高麗人も野に伏せり 攝津幸彦 未刊句集
子のたぐる空の紺青火伏せ凧 伊藤三十四
寒月や火伏せの笹が潮垂らす 片山浮葉
小男鹿の重なり伏せる枯野哉 土芳(奈良)
屋根替の籠伏せの鶏鳴きにけり 太田土男
山かげに伏せ貝ひとつ柴屋寺 中勘助
嶺々を伏せ霧中空を飛べりけり 富安風生
巡りくる忌や片栗の花伏せて 角川照子
年木負ふ胸伏せ眼を上げ裏日本 草間時彦
形代となるまで伏せむ雪の原 柿本多映
待ち伏せてゐる児春の夜の廊下 長谷川かな女 花寂び
愛宕火の火伏せの火種持ち帰る 森淑子
我が影や冬の夜道を面伏せて 青峰集 島田青峰
扁平の身を伏せ*えいも寒に耐ふ 津田清子 礼 拝
手をとらむとりて落葉の地に伏せむ 石原八束 『高野谿』
手鏡を伏せたる前の春の谿 友岡子郷 未草
手鏡を伏せて顔消す春寒き 山田諒子
打ち伏せし萩起さむとして濡るる 関戸靖子
打ち伏せるかまつか獅子の如くにも 馬場移公子
打ち伏せる従者の起きずやはたゝ神 尾崎迷堂 孤輪
払暁の波みな伏せり鷹渡る 吉岡昌夫
捕へたる鳩伏せ置くや桃の花 会津八一
捕虫器に伏せし薊の蝶白し 杉田久女
掛稲の下に慈姑のうち伏せる 岸本尚毅 舜
文庫本伏せては目刺返すなり 岡田貞峰
文庫本伏せて麦湯を飲みにゆく 高澤良一 さざなみやつこ
文庫本膝に羽伏せて春隣 横澤放川
文様の絡める中に虎伏せり 和田悟朗 法隆寺伝承
施粥釜伏せて一山枯れ急ぐ 野見山ひふみ
日陰雪待伏せのごと残りをり 矢島渚男 延年
明日は明日海鞘食つて女組み伏せむ 塚本邦雄 甘露
春愁の瞳伏せけりじやこう猫 文人歳時記 吉屋信子
春昼の子兎抱かる耳伏せて 沢 聰
春雷や籠伏せの鶏高鳴きす 高橋淡路女 梶の葉
春風に面伏せて暗き山河かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
書を伏せて太宰を語る夜学の師 町田しげき
書を伏せて思ひたちたる菊根分 夏目麦周
書を伏せて立つまでの雷となりにけり 尾崎迷堂 孤輪
書を伏せる度冬蝶の死が見ゆる 殿村莵絲子
曼珠沙華刈り伏せて畦熱くなる 藤井寿江子
月光になべて伏せあり猫車 行方克己 無言劇
朝顔や親族罪は伏せしまま 河野多希女 月沙漠
朝鶏も伏せて茶山へ急ぎけり 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
木曾深しおほむらさきの翅伏せし 伊藤敬子
木菟明眸をりをり月に瞼伏せ 橋本多佳子
本伏せて眠つて居るや春の草 比叡 野村泊月
本伏せて蟻のゐさうな庭に出づ 高澤良一 随笑
机みな椅子乗せて伏せ冬休 古川閑山
来ていまだ伏せある手紙春炬燵 村越化石
枯れ伏せるもののひかりの二月かな 遠藤悠紀
枯葭を押し伏せる風頼朝忌 宮口文泰
柿落葉うつくしき紅みな伏せて 山口青邨
桶伏せや木の下闇の高雄山 如流 選集「板東太郎」
棹伏せて舟すべり入る茂かな 長谷川櫂 虚空
水仙の折れ伏せる葉や雪の上 虚子選躑躅句集 岩木躑躅、村上磯次郎編
水切りの水に伏せ置く白桔梗 大岳水一路
水餅の尽きたる甕を伏せにけり 徳永山冬子
汗と泥にまみれ敵意の目を伏せず 長谷川素逝 砲車
江もあらはに稲刈り伏せてしまひけり 小杉余子 余子句選
沢蟹を伏せたる籠もみぞれゐる 龍太
泣き伏せる狂女に都鳥飛ぶも 池内友次郎
海近く麦を刈り伏せ~て 月舟俳句集 原月舟
淡雪や伏せ眼とも見え童子仏 河野南畦 湖の森
清明の蔓ねぢ伏せて籠をあむ 大橋廸代
清水の碗ゆすぎて伏せて追ひのぼる 中島斌男
濯ぎ場に湖の鯉を伏せ繭を煮る 西本一都 景色
火口しづか若き眼伏せてリンゴ噛る 津田清子 礼 拝
火祭の闇にひそみて火伏せ役 井沢正江 湖の伝説
炎天はまぶし目を伏せ旅疲れ 高濱年尾 年尾句集
炎帝の待ち伏せにあふ地下出口 原 幸子
炭焼の炭俵(すご)に伏せある湯呑かな 宮城きよなみ
父の匂いの盃伏せゆく峰々に 小泉八重子
片丘の麦刈り伏せて夕日赤し 内藤吐天 鳴海抄
猟夫伏せ一羽より目を離さざる 後藤雅夫
猪口伏せて飯食ふ老や宵の春 河野静雲 閻魔
猫車ペンペン草の上に伏せ 行方克己 無言劇
獅子舞の大きく震い地に伏せり 中村和弘
獅子舞の骨まで崩し伏せりけり 殿村菟絲子 『樹下』
甕伏せしあたりもつとも夏蕨 つじ加代子
甘茶もうなしと釜伏せ茶碗伏せ 橋本美代子
産小屋は鍋釜伏せぬ油蝉 細川加賀
田舎源氏炬燵に伏せて髪をのせ 福田蓼汀 山火
男梅雨かな三日目は芦伏せて 能村登四郎 冬の音楽
畦火駆く我を火伏せの神として 大木あまり 火のいろに
白桃を女は睫毛伏せて剥く 石田あき子 見舞籠
皿小鉢洗つて伏せて十三夜 鈴木真砂女
盥舟伏せて底乾す花ふぶき 荏原京子
目を伏せて歯のうらをみがく いのち 漆畑利男
目を伏せて無言詣と思はるる 宮田枝葉「瞑想]
眸伏せて雌鹿が赤き実をつつく 長谷川かな女 花 季
眼を伏せてほくろが媚びるヒヤシンス 日野草城
眼伏せて炭ついでゐる無言かな 青峰集 島田青峰
睫伏せ白満月の雪の樅 和知喜八 同齢
睫毛伏せ鄙のをとめの雪に佇つ 京極杞陽 くくたち下巻
短夜や伏せて真白き鵬于集 林原耒井 蜩
短日や重なり伏せる山の紺 角川春樹
神仏よ鹿ねぢ伏せて角切らす 百合山羽公 寒雁
神楽面伏せてある朴の初花 金子皆子
秋ふかし流人の島は面伏せに 高井北杜
秋出水あらがふ岩を組み伏せて 高澤良一 寒暑
税重く屋根伏せて村は梅咲く日々 栗林一石路
種伏せの遅速語るや小百姓 伊藤観魚
籾伏せが叩く苗田の泥日輪 羽部洞然
紅葉かつ散るうつ伏せに佐渡情話 高岡すみ子
納戸より鶏の伏せごゑ青匏 中田剛 竟日
紫陽花の瑠璃に面伏せ匂ひなし 川崎展宏
組伏せて残暑の布団たたみけり 冨村みと
絵団扇が株式欄に伏せてあり 大石雄鬼
翅伏せ蝶がおほへり花苺 水原秋桜子
耳たれて舞獅子伏せし青畳 掛札常山
聖書伏せて娘は白桃に爪立つる 渡辺桂子
胸伏せて眠る花火を見しあとは 館岡沙緻
腕立て伏せに突く父の忌の冬畳 奈良文夫
腕立て伏せ地べたに尽きてあたたかし 能村研三
花のなき壺は伏せおき寒に入る 高橋青矢
花更けて北斗の杓の俯伏せる 誓子
花桐や重ね伏せたる一位笠 前田普羅
花神楽火伏せ神事に月くらし 石川魚子
若き日の愁ひの眼伏せ毛糸編む 吉屋信子
若草や調教の犬伏せのまま 奥井信子
茸汁替ふ蜂の子は蓋伏せて 及川貞
菊の香にうもれて瞼伏せにけり 松村蒼石 寒鶯抄
萬緑や伏せ甕の罅地にとどく 内藤吐天
落ちさまに虻(あぶ)を伏せたる椿哉 夏目漱石 明治三十年
落ちし雷を盥に伏せて鮓の石 夏目漱石 明治三十六年
落椿俯伏せに墓を抱くごとし 林翔 和紙
落穂拾ふ顔を地に伏せ手を垂れて 西東三鬼
落蛍俯伏せのまま火を點す 山口誓子 雪嶽
葱伏せてその夜大きな月の暈 直人
葱深く伏せて雪くる信濃川 本宮哲郎
蓬髪の汗で至芸の火伏せよ 筑紫磐井 婆伽梵
薙ぎ伏せる藺を走りゐぬ梅雨雫 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
薯伏せて山畑守る隠れ耶蘇 下村ひろし 西陲集
藁塚を畷に伏せて初霞 富安風生
藁家伏せられてあるばかり月光したたる シヤツと雑草 栗林一石路
虫伏せし小箱に眼鏡置きて寝ぬ 宮武寒々 朱卓
蛾はひねもす伏せりさびしき神の前 林翔 和紙
蜻蛉や売らるる甕はうつ伏せに 野村喜舟
蝌蚪の國腕白どもに伏せておく 高澤良一 素抱
螢伏せし手を除けゆくに草の燃ゆ 原田種茅 径
蟷螂の斧擡げゝり今は伏せぬ 村上鬼城
西遊記伏せて眠りぬ桃の花 嶋田麻紀
言ひよる人に睫毛伏せ縫ふ秋愁 龍胆 長谷川かな女
象潟の家はうつ伏せ冬田べり 村田脩
負け鶏に血の匂ひして伏せ篭に 岩橋玲子
負け鶏を蛇口に伏せて洗ひけり 森田峠 逆瀬川
賀状書く世にひれ伏せし心もて 守屋 吉郎
赤とんぼさらなる羽を伏せにけり 綾部仁喜 寒木
赤唐辛子吊し火伏せも貼つておく 前田吐実男
赤蜻蛉ひたと伏せたる影の上 今井つる女
走鳥類エミュー目を伏せすずかぜに 高澤良一 さざなみやつこ
蹴り伏せて野菊水色なる故郷 永田耕衣 吹毛集
身を伏せて岩根づたひや河鹿とり 楠目橙黄子 橙圃
身を伏せて解夏の一痛棒を乞ふ 水野淡生
身を伏せて郷関はあり細雪 竹本健司
軒下に釣竿伏せぬ天の川 金尾梅の門 古志の歌
野に伏せば蚊屋つり草も頼むべし 一茶「八番日記」
野火を消す咒文や臼に伏せにけり 廣江八重櫻
釜伏せて山に海猫舞ふ鰊港 鳥居おさむ
釣釜に伏せ置く杓の定まらず 伊藤宇太子
鉢伏せて冬待つ庭を作るべし 川口利夫
開帳を晴れがましとて御ン目伏せ 宮下翠舟
雀子や人居らぬさまの盥伏せ 雀の子 正岡子規
雛の灯のこぼるる星の伏せ柄杓 対馬康子 吾亦紅
雪に酔ひ説き伏せられて行くごとし 成田千空 地霊
雪笠の碧眼伏せて喜捨を受く 丸山哲郎
霜おきぬかさなり伏せる壕の屍に 長谷川素逝 砲車
霜夜の街角誰か待ち伏せ居るごとし 宮坂静生 青胡桃
霧に身を伏せて漕ぎくる舟のあり 京極杞陽
青木の実大きな石がうつ伏せに 栗原節子
青柿や昼餉の茶碗洗ひ伏せ 瀧春一
青葉木菟鳴くから日記伏せて寝る 畑田孝子
面伏せに掛けて暗しや壬生の面 後藤比奈夫 めんない千鳥
顔伏せてはたと齢や寒の雨 草間時彦 櫻山
顔伏せて春着たゝめる髷太し 阿部みどり女 笹鳴
顔伏せて濤やり過ごし鮑とり 山田千城
風の村伏せて瞳つむる地鶏かな 奥山甲子男
風を聴く花のかたかご面伏せて 奥村直女
風花や伏せ字に当ててみる言葉 内田美紗 誕生日
颱風の打つ面伏せて墓洗ふ 及川貞 夕焼
食前酒本音伏せ置く涼しさよ 中尾杏子
飯桶を伏せて鮎鮓休みの日 後藤夜半 底紅
馬の仔は跳ね牛の仔は伏せ牧場 檜 紀代
髪長き少女とうまれしろ百合に額は伏せつつ君をこそ思へ 山川登美子
髷重きうなじ伏せめに春著かな 杉田久女
髷重きうなじ伏せ縫ふ春著かな 杉田久女
鳥墜ちて青野に伏せり重き脳 安井浩司(1936-)
麦の風少し荒しと目を伏せぬ 一瀬信子
麦門冬の実の紺青や打ち伏せる 篠原鳳作
黒猫を組み伏せ愛す日向かな 正木ゆう子 悠
あしなへのががんぼ歩く臥す我に 福田蓼汀
いんいんと青葉地獄の中に臥す 福田甲子雄
うすぐもり瞰れば京都は鮃臥す 竹中 宏
おほぜいの命あづかり風邪に臥す 五十嵐播水 埠頭
おほらかに山臥す紫雲英田の牛も 石田波郷
きめられし床に来て臥す捨団扇 角川源義
けもの臥すごとくに汚れて残る雪 大橋櫻坡子
どくだみに農薬まきし農夫臥す 萩原麦草 麦嵐
どの山も雪被て臥すや母の国 高澤晶子
みかん光り一人臥す家結束す 高橋富久江
クリスマス肋除られて打臥すも 石田波郷
スペインより帰りし夫の風邪に臥す 田中芙美
乳牛臥す雪解白根の高さにて 相馬遷子 雪嶺
乾び臥す父の大足夏布団 伊丹三樹彦
二朶三朶春雲まぶし仰ぎ臥す 山崎光尋
人の踏む落葉のくぼみ思ひ臥す 秩父
人来ぬは無上の薬風邪に臥す 宮原信子
倒れ木の臥す林あり筆竜胆 石田波郷
傀儡われ箱に納まるごとく臥す 渡辺鳴水
冬日向目つむれば臥す故人見え 飯田龍太
凍蝶や妻を愛さざる如病み臥す 石田波郷
出穂の前眼を刺されたる農婦臥す 萩原麦草 麦嵐
初花を持ち来し人に会はず臥す 相馬遷子 山河
初蚊帳に寝ね臥すときは更けしとき 及川 貞
初露や猪の臥す芝の起きあがり 去来
吾子とならんで風邪に臥すこそたのしけれ 佐野良太 樫
呼ばるるに声なく臥すや冷じき 大石悦子 聞香
咲き急ぐ小粒朝顔臥すが仕事 岸田稚魚 筍流し
咳き臥すや女の膝の聳えをり 石田波郷
喀血す足形足袋を置きて臥す 石川桂郎 含羞
地球儀は露の大玉子規臥す間 高澤良一 随笑
夏に病みて竹枯れやまぬ音に臥す 斎藤空華 空華句集
夏料理てふ附録読み臥す身かな 国分咲子
夏果や眼にありありとわが臥す日 大野林火
夏菊や病み臥す若き貌ばかり 加畑吉男
夕顔に病み臥す人と物語り 松本つや女
夜の秋母臥す畳ふみとほる 野澤節子 『存身』
夜の蜘蛛母臥す方へは近寄せず 寺井谷子
夢ゑがき臥す夜を匂ふ冬薔薇 古賀まり子 洗 禮
天が下朴の花咲く下に臥す 川端茅舎
天の川わが臥す岳がせきとめつ 澤田 緑生
妻二日臥す雨のごと樫落葉 大熊輝一 土の香
子を見せにゆくや母の日臥す母に 金子 潮
富士の野や鹿臥すとこのかたさがり 野澤凡兆
小梅干す伊豆の臥す波坐る波 中拓夫 愛鷹
山眠るごとくに臥すか牛として 赤尾兜子
廻禮の按摩酔ひ臥す大路かな 会津八一
息白く打臥すや死ぬことも罪 林田紀音夫
愛しさにむせぶ妻をも臥す吾の衣を一重へだてて抱ける 伊藤保
打倒すやうに犬臥す暑さ哉 森鴎外
旅に得し風邪に旅よりながく臥す 中戸川朝人 残心
春の日や松一本を恃み臥す 大石悦子 聞香
春寒く貝殻骨を鳴らし臥す 石塚友二
春寒の板の目なりに狂者臥すも 岩田昌寿 地の塩
枕もとにぎやかにして風邪に臥す 右城暮石 上下
梅の実のふくらむことよ三日臥す 石田あき子 見舞籠
母の日や病み臥すこともなく八十路 高村寿山「清流」
母の日を明日に母臥すとのぐもり 大橋敦子 匂 玉
水仙や夜明の初島蒼く臥す 水原秋桜子
汽車疲れ食後の梨を措きて臥す 石塚友二 方寸虚実
漁やめて病み臥す蚊帳の見ゆるなり 森田峠 避暑散歩
炎天の岩に山羊臥し蜥蜴臥す 三浦斗牛
煎り蠣やひとり臥す夜の小紫 蓼太
父子風邪兎のたつる音に臥す 古沢太穂 古沢太穂句集
牛臥すに馬食むに非ず春田かな 野村喜舟 小石川
牛部屋の裏に母臥す落葉期 宮坂静生 青胡桃
独楽の日や枯れざる竹の中に臥す 石川桂郎 含羞
猫じやらし臥す子の気儘すてておく 北村和子
畦豆を跨ぐゆくてに昼も臥す 下村槐太 天涯
病みて臥す子の枕辺に雪兎 薦田伸子
病み臥すやひとこゑきりの呼子鳥 池田まつ子
病み臥すや梅雨の満月胸の上 結城昌治
病み臥すや蝉鳴かしゆく夜の門 木歩句集 富田木歩
病み臥すや蟇の恋してゐるときを 大石悦子 聞香
病み臥す視野二月暦にゴッホの絵 北野民夫
皓として臥すのみの父野分中 友岡子郷 日の径
秋の蜂病み臥す顔を歩く日よ 石原八束 秋風琴
秋祭きこえて誰も黙し臥す 古賀まり子 洗 禮
空は黒き雪満ちてをり風邪に臥す 徳永山冬子
竹垣や雨の山吹土に臥す 山吹 正岡子規
老女臥す紫苑ぐもりと言ふべきか 堀口星眠 営巣期
聖夜わがましろき胸を診られ臥す 鷲谷七菜子
肌寒やひとり臥すとき白鳩見し 八牧美喜子
膝立てて臥す友冬の斧の音 成田千空 地霊
臥すのみの父とてもよし福寿草 毛塚静枝
臥すは嘆き仰ぐは怨み流し雛 岡本 眸
臥すひとに小春日の椅子寄せて語る 宮津 澪子
臥すままの母に若葉の風を入れ 大西あい子
臥すわれに微熱の如く花合歓は 石川桂郎 含羞
臥すわれを見下ろすイエス夜長し 下田稔
臥す人に鬼打豆をひそと置く 依田久子
臥す友に会はぬわがまま吊忍 安藤千穂子
臥す吾に蚊遣火遠く遠くより 椎野房子
臥す妹に一と雨ねぎぬ軒葡萄 富田木歩
臥す母のどこからも見え障子貼る 上田薫
臥す父の顔ばかり見て秋に入る 石田仁子
臥す秋や竹の葉影が胸洗ふ 石川桂郎 含羞
臥す足の重し熱しと秋立ちぬ 久保田晴朗
臥す顔にちかぢかの崖の霜の牙 橋本多佳子
良妻か過労病み臥す木の芽どき 及川貞
芭蕉像に夜は襖を隔て臥す 阿部みどり女 『光陰』
花の夕皆臥すいのち愛しみつ 古賀まり子 洗 禮
苜蓿冬あをあをと乳牛臥す 西島麦南 人音
葛の花葬られしごと峡に臥す 角川源義
薔薇挿すや床臥す母の白づくめ 橋本榮治 麦生
薬臭を訴ふる子や風邪に臥す 東野昭子
虚実なく臥す冬衾さびしむも 野澤節子 黄 瀬
虫減る中手術へ一日一日臥す 石田 波郷
蚊遺香濃くしづみ来る下に臥す 篠原梵 雨
蚤地獄臥すより陥ちて夜もすがら 石塚友二 光塵
血を喀いて大夕焼の中に臥す 石原八束 『秋風琴』
貝背負つて臥すエスカルゴ巴里祭 磯貝碧蹄館
赤松の芽立の雨に駒は臥す 石橋辰之助 山暦
足裏に秋の白さを集め臥す 中嶋秀子
蹇(あしなへ)のががんぼ歩く臥す我に 福田蓼汀
野分すや女臥すごと箒草 石田あき子 見舞籠
鎧着て行き臥す人や女郎花 朝顔 正岡子規
長生きをせよと言はれて日永臥す 村越化石
雪のこる家のまはりとも思ひ臥す 原石鼎 花影以後
雪日輪ただありとのみ病みて臥す 村越化石 山國抄
雪虫に生殖の意を見つゝ臥す 軽部烏頭子
雪野へと続く個室に父は臥す 櫂未知子 貴族
霾ると妻が告げ来ぬわれ臥すに 冨田みのる
風の萩月に起き臥す夕哉 萩 正岡子規
風邪ごゑを常臥すよりも憐れまる 野澤節子 黄 瀬
風邪に臥すや枕に近き手水鉢 雑草 長谷川零餘子
風邪に臥す一日梅の光りざま 高澤良一 ねずみのこまくら
風邪に臥す妻に鎖し出し鍵を袂 森川暁水 黴
風邪に臥す子の目に熱のありそめぬ 高濱年尾 年尾句集
風邪のひと多し言ひ居てわれも臥す 及川貞 榧の實
風邪の妻船の毛布を被き臥す 水原秋桜子
風邪引いて床に打ち臥す図は平目 高澤良一 宿好
高円の月かも孕み鹿臥すも 藤田湘子 てんてん
高山もこの炎天の下に臥す 相馬遷子 山國
鳥のごと眼つむり風邪の床に臥す 高澤良一 さざなみやつこ
麦扱きを距てをぐらく昼を臥す 今枝蝶人
黴に臥す人妻を見て恋ふ夜なり 萩原麦草 麦嵐
あはれあはれゆまりくそまる仰に臥し 日野草城
うぐひすや古雪いよよ尾根に臥し 皆吉爽雨
うち臥して冬鹿地より暗き背よ 井沢正江
けふ一と日ゆたかに臥して春の雪 森澄雉
げんげ田に臥しげんげんの厚褥 大橋敦子 匂 玉
げんげ褥の香もなつかしや疲れ臥し 高田蝶衣
ことしまた臥して祭を遠く聞きぬ 小山 寒子
つちふるや臥して十日のぼんのくぼ 大石悦子 聞香
ひと日縫ふふた日は臥して萩の風 小檜山繁子
ひと日臥し卯の花腐し美しや 橋本多佳子「信濃」
もつたいなき日和や春の風邪に臥し 内野チエ
コスモスは臥し鶏頭は憤り 西村和子 夏帽子
シクラメン四五日臥して世を忘る 古賀まり子
一日を臥して風邪寝の薄まぶた 高澤良一 燕音
一日臥し枯野の音を聴きつくす 馬場移公子
一遍は行き子規は臥し葉鶏頭 乾 燕子
主に祈る花菜あかるき中に臥し 古賀まり子 洗 禮
亀島の打臥してゐる小春凪 足立喜世子
何をなせとや秋天下かく臥して 野見山朱鳥
冬の日や臥して見あぐる琴の丈 野澤節子(1920-95)
初筍到来微恙臥し居れず 及川貞
喰ひ臥して暮春や額に恋慕角 三橋鷹女
四肢を投げ首投げ仔馬草に臥し 依田秋葭
地に臥してなほ残菊の蕾かな 浅野白山
坐せば花臥して深山の塔の空 橋本榮治 逆旅
夏の風邪田水明りに臥しにけり 木村蕪城 一位
夜田を刈るはずが爐辺に酔ひ臥しぬ 木村蕪城
天よりの見舞の雪に病臥して 上村占魚 『玄妙』
山の気に打たれ臥しつゝ羯鼓聞く 龍胆 長谷川かな女
山姥の一夜を臥しぬ花の下 黒田杏子 花下草上
常臥しの身なれど今日は寝正月 堀米秋良
常臥しは配流のごとし文覚忌 森 澄雄
打ち臥して何思ふらん秋の風 会津八一
旅以後を臥し初団扇わが使ふ 神尾久美子 掌
春の夜を皆酔臥しぬ天狗ども 石井露月
晩夏臥し暗流に身を運ばるる 小檜山繁子
晩年のわが常臥しや四月馬鹿 森 澄雄
曼茶羅を敷き臥し繭となりはつる 夏石番矢 猟常記
月させば臥しつつ遠き早瀬見ゆ 水原秋桜子
松むしやみどりの*かやにひとり臥し 蓼太
極月の常臥しの顔木椅子に似 栗林千津
注射し守る炎昼石廊に臥しいるを 古沢太穂 古沢太穂句集
湯あたりの女人臥しをり真弓の実 橋本鶏二
潮騒に臥して山ある千鳥の夜 有泉七種
炎天の岩に山羊臥し蜥蜴臥す 三浦斗牛
猫の子のざれて臥しけり蚊屋の裾 中村史邦
病み臥して愛すにあまる冬薊 石川桂郎 含羞
病み臥して観る体内の梅の花 斎藤玄 狩眼
病むといふきびしさに臥し晝の蟲 及川貞 夕焼
病臥して向うが見ゆる青簾 柿本多映
盆の波今日は荒ばず巌起き臥し 岸田稚魚 筍流し
眼の限り臥しゆく風の薄かな 大魯
糸取女夜は稲妻の臥し処 細見綾子
糸引き女夜は稲妻の臥し処 細見綾子
老残の鶏頭臥しぬ嵐雪忌 石田波郷
老鴬や臥して童女の心なる 乾 燕子
臥しがちの冬よ真つ赤なペン愛す 野見山ひふみ
臥しがちの夫の浴衣は糊うすく 大和田享子
臥したきを耐へ来し日々ぞ紫雲英風 香西照雄 素心
臥してなお鬱金の花のおとろえず 浜芳女
臥して思ふ今日の雪谿に見し穂高 石橋辰之助 山暦
臥して知る妻のひと日や笹鳴ける 金子 潮
臥して聞けば初蝉海に沁みわたる 山口誓子
臥して見るものに冬夜の屏風かな 青峰集 島田青峰
臥して見る冬燈のひくさここは我家 橋本多佳子
臥して見る子規忌の草の高さかな 南うみを
臥して見る暑き日の空終るとき 金田咲子 全身 以後
臥して見る秋海棠の木末かな 正岡子規
臥して見る青芝海がもりあがる 加藤楸邨「寒雷」
臥して謝すことことごとく露となる 中嶋秀子
臥しも得ぬ微恙栗咲く香を被り 及川貞 夕焼
花時や裸婦臥しパステル折れ易し 榎本愛子
草の戸の起き臥し自在木槿咲く 水谷静眉
藻にすだくわれからなれや常臥しも 森澄雄
蚊が出ぬ不思議なやうな小夜着にて母臥し 梅林句屑 喜谷六花
行く雁や起き臥しつねに変らねど 結城昌治 歳月
観測は屋根の傾斜の雪に臥し 長谷川素逝 砲車
起き臥して離れぬ青田ばかりなり 福田甲子雄
起き臥しに嗅ぐ焼け土の春となり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
起き臥しのすこし恙や葭屏風 大橋杣男
起き臥しの一と間どころを掃納め 富安風生
起き臥しは畳一枚達磨の忌 林なつを
起き臥しや他家の雛に緑さし 榎本冬一郎 眼光
過信せし健康はたと風邪に臥し 嶋田摩耶子
酔ひ臥して一村起きぬ祭かな 太祇「太祇句選後篇」
酔ひ臥しの妹なつかしや年忘れ 召波
野分浪夫臥しをればひとり見る 山口波津女 良人
長臥しの夜のいやなる蚊帳垂れて 長谷川素逝 暦日
長臥しの梅雨降る音の畳かな 長谷川素逝 暦日
雨音に臥しをり二百十日かな 皆川白陀
雷の夜をまろび臥しつゝ独りなり 杉山岳陽
雷雲の上に臥しなほ撃ちあへり 片山桃史 北方兵團
風邪に臥して窓の日ざしを喜べり 青峰集 島田青峰
風邪に臥し飛んでる雲に乗つている 桐山典子
風邪ひけば従容として臥しにけり 尾崎迷堂 孤輪
風邪わるく人に誣ひられ臥し居りぬ 森川暁水 淀
風邪臥しの夕べや隣るけもの谷 村越化石 山國抄
風邪臥しの背骨の疼く草城忌 伊丹三樹彦
飛騨の酒淡しと臥しつ五月の炉 宮武寒々 朱卓
鳥雲に臥して流るる月日かな 澤村昭代
麻臥して風筋とをす小家かな 斜嶺 芭蕉庵小文庫
*たらの芽に雲がゝりして鹿臥せる 飯田蛇笏 霊芝
あやめ祭へ舟に自転車煌と臥せて 平井さち子 完流
のこり咲く嵯峨菊臥せり后の如 長谷川かな女 花寂び
はやり風邪お鉢が廻り来て臥せぬ 高澤良一 宿好
はらからのひとり臥せをり花辛夷 篠原千代子
わが臥せば丘の春雲寝つつ流る 野澤節子
一日臥せて仙台虫喰聞いてゐる 仲原山帰来
一株のすすきや臥せば安けくて 細見綾子 黄 炎
人を絶ち文絶ち臥せば度々の雪 野澤節子 黄 瀬
夕臥せば寒厨に菜を洗ふ音 桂 信子
夜の南風臥せば蹠が脂噴く 河合凱夫 飛礫
妻臥せば吾も着たまま春を待つ 富田潮児
居士臥せゐし居間より露けきものはなし 高澤良一 随笑
悪石島稲妻はしる下に臥せり 福永耕二
春蘭にうづまく髪を臥せしかな 長谷川かな女 雨 月
月に近く臥せば恙の身にきざす 太田鴻村 穂国
本臥せていつも眼とあふ木守柿 福田蓼汀 山火
梅臥せ木湿り男着がばとあり 河野多希女 彫刻の森
棹鹿のかさなり臥せる枯野かな 服部土芳 (とほう)(1657-1730)
海鼠なり風邪こじらせて臥せる身は 高澤良一 さざなみやつこ
湯婆熱し瑣事にかかはりなく臥せば 三橋敏雄
猪や臥せし鹿や亂せし萩の花 萩 正岡子規
病み臥せば蛙は昼と夜と言はず 福田蓼汀 山火
病み臥せる視野に蝿虎けふも 安原葉
病床を一残雪として臥せる 齋藤玄 『雁道』
白梅や臥せば満身創痍なる 上野さち子
相討ちのごとく雄日芝雨に臥せ 高澤良一 さざなみやつこ
磯の岩臥せるほとりも麦青し 瀧春一 菜園
秋雨の土間より見えて病み臥せる 松本たかし
胸張つて書初へ身を臥せにける 中村草田男
臥せし穂にふと瞳を見せし稲雀 原石鼎 花影以後
臥せばなほ臍を擽るいぬふぐり 蜂須賀晩鐘
菊匂ふ夜の静けさを病臥せり 青山緑葉
鍋一つ一つが寒し母臥せば 小檜山繁子
鎌鼬われは静かに病み臥せる 石川桂郎 四温
雪の夜や臥せば胸中水奏づ 根岸善雄
静臥せるまま書く日記果てにけり 北野民夫
風邪気味と臥せば小犬の添い寝する 高橋律子
鳥葬のかたちに臥せば雲の峰 福永耕二
●横臥 
いわし雲食後横臥す眼鏡澄み 古沢太穂 古沢太穂句集
地蟲出て釈迦の横臥や行者越 古舘曹人 砂の音
夜の秋や横臥しに聞く木曾の雨 稚魚
横臥しの片耳を過ぐ夜のしぐれ 丸山海道
横臥の老女空には滅多矢鱈の線 金子兜太
横臥より仰臥は親し笹鳴けり 神生彩史
水無月の横臥の息がほむらなす 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
法師蝉横臥のわが背に沁む 林火
玉葱の影なすを見をり横臥しに 杉山岳陽 晩婚
秋そこに横臥屈葬人骨に 高澤良一 素抱
秋めきて白桃を喰ふ横臥せに 森 澄雄
読み初めの横臥椿子物語 神尾久美子
●仰臥 
あき子忌を送り波郷忌待つ仰臥 福永 耕二
げんげ田に仰臥良寛かもしれず 柴田奈美
ひとつ音や仰臥の顔に雨蛙 石川桂郎 含羞
われも加ふ波郷仰臥の胸の菊 福永耕二
一瞬の汗引く仰臥漫録に 藤浦昭代
仰臥こそ終の形の秋の風 野見山朱鳥
仰臥さびしき極み真赤な扇ひらく 野澤節子 黄 瀬
仰臥さびし天はおほかた帰雁など 斎藤空華 空華句集
仰臥して仰臥漫録の著者を弔ふ 日野草城
仰臥して冬木のごとくひとりなり 田中裕明
仰臥して死後や朝の虎落笛 古舘曹人 能登の蛙
仰臥せり鰹の角煮舌に載せ 水原秋櫻子
仰臥のまま両眼ひやす冬の果 古沢太穂 古沢太穂句集
仰臥の手さしのべて梅雨来てゐたり 萩原麦草 麦嵐
仰臥の窓同じ燕が返す待つ 黒木野雨
仰臥今日指頭の蟻の何処よりぞ 石田波郷「惜命」
仰臥位にあまた帰燕の見ゆる日よ 冨田みのる
仰臥位は天への正座囀れり 橋本鶏二
先生と呼べば仰臥の菊人形 澁谷道
冬の雁仰臥の窓を人が拭く 渡辺幸子
冷まじや仰臥漫録温く飯も 辻桃子
千年の仰臥屈葬まざと寒し 齋藤玄 『狩眼』
卯の花腐し仰臥の手足透きとほらむ 岩田昌寿 地の塩
吊し持ち仰臥の口にさくらんぼ 坂元佐多子
園丁の仰臥を許す菊日和 品川鈴子
天高し仰臥の視野に「出る杭」のみ 香西照雄 素心
寒昴病みてぞ正す仰臥の寝 駒木逸歩
息安く仰臥してをりクリスマス 石田波郷(1913-69)
指話筆話つづる仰臥やチユーリツプ 石田あき子 見舞籠
春蝉を聞いて仰臥の手足かな 山口誓子
梅も一枝死者の仰臥の正しさよ 石田波郷
横臥より仰臥は親し笹鳴けり 神生彩史
温室の花仰臥のほかの日は知らず 柏木真紀女
男を死を迎ふる仰臥青葉冷 山下知津子
籠枕仰臥の腹を凹ませて 岸風三樓
糸瓜垂る仰臥漫録の繪のままに 上野一孝
緑さす仰臥の夫の髭剃れば 石田あき子 見舞籠
腹うすく仰臥つづけり秋隣 石田波郷
薄暑中仰臥の腰の萎えてはならぬ 杉山岳陽 晩婚
薔薇の香のただなか仰臥浮くごとし 鷲谷七菜子 花寂び
虫ごゑの海に出てをり仰臥のまゝ 川崎展宏 冬
虹失せて仰臥の趾のはるかかな 千代田葛彦 旅人木
蛇穴を仰臥漫録闇を出づ 長山あや
蝙蝠見てわが仰臥日の暮れゆく裡 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
郭公や仰臥のままに四十過ぐ 宮岡計次
雪は迅し仰臥の胸に横なぐり 萩原麦草 麦嵐
●寝返り 
たまきわる命寝返りところてん 和田悟朗
一枚の病葉であり寝返れり 高澤晶子「純愛」
児へ寝返る枕の熱き黍あらし 中拓夫 愛鷹
冬の谷寝返る方に落ちる音 橋本 薫
冬眠の蛇に寝返りの透き間 桑原三郎
去れよ雷寝返れば子の手ありとて 対馬康子 吾亦紅
夏暁寝返りを闇の方に打つ 平井照敏 天上大風
夏空の真中思へり寝返りぬ 櫻井博道
夕ぐれの笹鳴の方へ寝返りぬ 大石悦子 百花
夜鷹鳴き旅の布団に寝返りぬ 辰巳あした
夢やすき方へ寝返る月高し 綾部仁喜 樸簡
大榾の寝返り打てる火の粉かな 徳永寒灯
姫百合に耳痛くなり寝返りぬ 長谷川かな女 花寂び
寐返れば江の島見ゆる葭戸哉 竹囲
寝息あるはうへ寝返り冬の暁 谷口桂子
寝袋の中の寝返り明易し 岡部玄治
寝返つてくる波高き凌霄花 石井保
寝返つて尻が青きよ若葉風 奈良文夫
寝返りし子の片頬の雛明り 今瀬剛一
寝返りし子は月光に近づきぬ 対馬康子 愛国
寝返りし枕つめたく身ひとつを 鷲谷七菜子 黄 炎
寝返りてなほ颱風のさ中なり 山口波津女 良人
寝返りてみてもはるけき河鹿笛 橋本榮治 逆旅
寝返りて秋暑の闇をうらがへす 藤木倶子
寝返りて裏切りのごと寒もどる 宮崎 綾
寝返りのかなはぬ肩に月ゆるし 斎藤空華 空華句集
寝返りのできたる嬰や台風裡 半田かほる
寝返りの闇に出水の闇ありぬ 城取信平
寝返りの髪の根さむし一葉忌 樗木秀子
寝返りはよきもの蜻蛉は空に 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
寝返りもなくて昼寝の蹠見せ 高浜年尾
寝返りをうつや自分の名を思う 池田澄子
寝返りをさせて泣かせて天瓜粉 佐々木久菊
寝返りをするぞそこのけ蛬 一茶 ■文化十三年丙子(五十四歳)
寝返りを大きく打ちし日焼の子 野田迪子
寝返りを打ちつゝ蝉のかすれごゑ 高澤良一 さざなみやつこ
寝返りを打ちてそろそろ昼寝覚め 稲畑汀子
寝返りを打つて闇見る我鬼忌かな 山地春眠子(鷹)
寝返りを打つ子五月の青畳 大橋利雄
寝返るも時雨るゝ家でありにけり 小林康治 四季貧窮
寝返るや銀杏の花の落る時 会津八一
寝返れど半身いつも冬日享く 篠原梵 雨
寝返れば佳き音したり簟 大石悦子 聞香
寝返れば傷口ひくと夜の秋 高澤良一 鳩信
寝返れば夢逃げてゆく青葉木莵 田中恵理
寝返れば思ひ寝返る明易し 金井苑衣
寝返れば未明しはぶく森の雉子 堀口星眠 営巣期
寝返れば母も寝拾う棺の中 森早恵子
寝返れば秒音うまる春の闇 楠本憲吉
寝返れば耳吹く風や虎落笛 石塚友二
寝返れば醒めれば匂ふ菊枕 土居牛欣
寝返れる方のちちろもなきはじむ 見戸一青
山眠る信玄側に寝返りて 佐々木六戈
床ずれや天に寝返るつばくらめ 秋元不死男
心臓を重く寝返り梅雨の夜 堀井美奈子
方位なき暗闇のなか寝返ればうゐのおくやまゆめ揺れにけり 高野公彦
昼寝人かさと寝返りうちにけり 高澤良一 ももすずめ
木の国に寝返れば青き飛沫 若森京子
水際に寝返る秋のミイラかな 増田まさみ
海に向け寝返りを打つ納税期 松井国央
海豹となり寝返りを打つ虚空 羽石昭子
火の果てに蛤ぱくと寝返りぬ 櫂未知子 貴族
牡丹花肖伯遠くにねむる寝返りす 阿部完市 その後の・集
病閑や寝返るいまだ田草取 石川桂郎 含羞
秋蚊帳に寝返りて血を傾かす 能村登四郎 枯野の沖
菊枕なりし寝返りするときに 田畑美穂女
萍がゆらぎ寝返る百襲姫 檜紀代
落葉ほど寝返る 不眠の夜 いつまで 叶 夏海
藁塚や闇に寝返る夢ひとつ 河原枇杷男 流灌頂
蟋蟀や乳児が寝返り打つて力む 澄雄
身ほとりに孫が寝返る聖五月 横山白虹
霜の声寝返り打ちて妻が寄る 横山才一
音立てて大榾寝返り打ちにけり 長崎小夜子
七夕竹寝がへりをうつ方ありや 安東次男 裏山
初夢のおどろ衾に寝がへりて 石橋秀野
寐がへりの方になじむやきりぎりす 内藤丈草
寝がへりに音をあやしむ湯婆かな 嘯山
寝がへりに鹿をどろかす鳴子かな 一酌 芭蕉庵小文庫
寝がへりの耳に枕のひやりとす 寺田寅彦
寝がへれば寒雷か吾を鳴りつつむ 大石悦子 群萌
寝がへれば身は薄片ぞ春の闇 相馬遷子 山河
戸に犬の寝がへる音や冬籠 与謝蕪村
春雷のあとの奈落に寝がへりす 橋本多佳子
梟や肩さむしとて寝がえるに 古沢太穂 古沢太穂句集
火事とほし妻がしづかに寝がへりぬ 安住敦
薄き身を寝がへりうちて暑気中り 福田蓼汀 山火
雨の花菜寝がへりしてもつめたしや 大野林火
露の石寝がえりをうつこともなし 辻桃子
鮭を吊り寝がえりをうつ霧の町 館岡誠二
●寝込む 
去勢され寝込む仔牛へ扇風機 小山田親作
根深汁一ト日寝込めば世に遠し 安住 敦
炉話の寝込み勝ちなり一ト時雨 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
番長は寝込んで終ふ花の果て 如月真菜
●病臥 
ががんぼも病臥の我も閉ぢこめられ 福田蓼汀 山火
むだ花の糸瓜日々見つ病臥かな 木歩句集 富田木歩
シヨール手に病臥の夫に一礼す 堀風祭子
万緑や泳ぐすがたの病臥身 稚魚
俄かに病臥黐の白さが芝覆ふ 河野南畦 湖の森
冬の蠅病臥の夫になれなれし 石田あき子 見舞籠
冴返る病臥の乳房見てしまふ 奈良文夫
夏の雲過去も病臥とつながりし 三好潤子
夏めくと己励ます病臥かな 荒川あつし
夫病臥雲割つて椋鳥わたりけり 石田あき子 見舞籠
妻病臥子を連れのぞく蟻地獄 石田波郷
巣ごもりの雀に近き病臥かな 大石悦子 聞香
捕虫網病臥の視野を戦ぎ過ぐ 楠本憲吉
新年の病臥の幾日既に過ぎ 誓子
春の雪方六尺の病臥窓(慢性硬膜下血腫にて入院) 上村占魚 『かのえさる』
枝蛙病臥の妻に灯をともし 鈴木五鈴
柚子釜の香をありありと病臥かな 石川桂郎 四温
洗ひ髪病臥の夫がもてあそぶ 品川鈴子
炎天や病臥の下をただ大地 斎藤玄 雁道
病臥とは朧へ見えぬ手に曳かるる 斎藤玄
病臥なほ壁の羽織の裏あかき 鷲谷七菜子 黄 炎
病臥位の雪の轣轆より低し 千代田葛彦 旅人木
病臥悲歌炉の火ゆたかに過去燃やせ 古賀まり子
紅梅や病臥に果つる二十代 古賀まり子(1924-)
絲瓜咲き病臥誓子の荘とせる 岸風三楼 往来
色鳥や病臥といふはもの見えて 橋本榮治 越在
芦枯るる風のけはひに病臥かな 富田木歩
藤棚に斜面屋根裏の病臥いかに 香西照雄 素心
蘆枯るる風のけはひに病臥かな 富田木歩
蝉しきり病臥ひねもす松の幹 河野南畦 湖の森
遊ぶごと病臥の外の遠田打 斎藤玄 狩眼
雛いまだ納めず病臥匂ひ出す 村山古郷
雲の峰眦あつき病臥かな 太田鴻村 穂国
鶏遠音きこゆる北風に病臥かな 富田木歩
鶏遠音きこゆ北風に病臥かな 木歩句集 富田木歩
黒い夏病臥の足先まで見たくなし 河野南畦 『黒い夏』
●早寝 
うぐひすもち母早寝してゐたりけり 佐藤まさ子
おでん屋をのこし早寝の小漁港 大島民郎
おぼろなり早寝の町の販売機 小島千架子
かなしきまでに水澄みをりぬ早寝せむ 岡本眸
かゝはりもなくて良夜を蜑早寝 松本巨草
たまさかの早寝虫の音枯れにけり 金尾梅の門 古志の歌
ぶんぶんに灯を取らせおき早寝せん 高澤良一 寒暑
むささびの闇うつくしく山人早寝 篠田悦子
佗び住みて雪に早寝や嫁ケ君 高橋淡路女 梶の葉
六十漢早寝早起更衣 黒田杏子 花下草上
切干の含め煮早寝提案す 松本 翠
十二月八日の夜を早寝せり 天野初枝
名月を見ずに早寝の山荘守 品川鈴子
大晦日御免とばかり早寝せる 石塚友二
守宮鳴く島の早寝の灯なりけり 荏原京子
恋猫にとり囲まれて早寝せり 古賀まり子 緑の野
愚痴もなくインコ早寝やけふの月 堀口星眠 営巣期
故里や稲妻がして早寝せり 細見綾子
早寝してなほりしほどの風邪なりし 稲畑汀子
早寝して五欲おぼろとなりにけり 大石悦子 聞香
早寝して夢いろいろや冬籠 日野草城
早寝するほかなしちちろもう鳴かず 菖蒲あや
早寝せり守歳の難に堪へずして 相生垣瓜人 明治草抄
早寝なりし仏に切子消しにけり 成瀬桜桃子 風色
星飛ぶやどこまで行くも早寝村 いのうえかつこ
昼寝して又早寝して母一と日 高木晴子
柊を挿して早寝の母なりけり 藤谷令子
梅雨寒や予後身につきし早寝癖 北野民夫
母とゐて早寝共にす目借どき 八牧美喜子
母よりも早寝の父や宝舟 深川正一郎
浦人の早寐早起鳴く千鳥 山崎楽堂
湯婆や早寝早起する夫に 園田美代子
父母昇天つららを垂らし早寝の戸 細谷源二 砂金帯
獏枕妻より子より早寝して 大久保白村
獺祭る水の蟹江はみな早寝 岡本春人
玉子酒皆相伴の早寝かな 西川かなえ
目を病めば今宵も早寝鉦叩 小坂蛍泉
秋篠の人の早寝や落し水 前田普羅
節分の鬼追ひ出して早寝せり 阪口良子
簗守は早寝早起燈を持たず 越央子
粕汁をすすり早寝の老夫婦 岸風三樓
臥待月隣りの異人館早寝 松崎鉄之介
花どきの早寝の雨戸しめにけり 山本洋子
虫のこゑ早寝養生してをりぬ 森田公司
虫の夜や父母早寝吾読書 成瀬正とし 星月夜
蟲の宿昇樂太夫早寝かな 八木林之介 青霞集
豆腐屋の早寝につもる夜の雪 関 成美
貼り替へし障子の内の早寝かな 新美京子
走馬灯早寝の子等によく廻る 笠原大樹
身ひとつの秋よと今日は早寝せり 沼尻巳津子
遠き鴨蜑の早寝に雪積り 林翔 和紙
鈴虫や早寝の老に飼はれつつ 後藤夜半 底紅
銀杏を拾ふ積りの早寝かな 佐野喜代美
長き夜の灯なし早寐の家つゞき 夜長 正岡子規
雨の日の早寝の椋鳥か楔文字 福永耕二
雪降ると路地は早寝の灯を消しぬ 菖蒲あや
風邪ひいて早寝の夜やきりぎりす 田中冬二 俳句拾遺
鰯雲むらさき射して鶏早寝 香西照雄 対話
鳩時計鳴るや早寝の宵戎 赤尾兜子
鴨の声またの風邪忌む早寝かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
●宵寝 
はたをりや娵の宵寝を謗る時 横井也有 蘿葉集
丈山は宵寝がちなり引板の音 四明句集 中川四明
古妻の引き添へ風邪や又宵寝 楠目橙黄子 橙圃
寒声のうたてき朝寝宵寝哉 島道素石
恋痴れのをんなの宵寝濃あぢさゐ 稲垣きくの 牡 丹
春を惜しめり宵寝朝寝と寝溜めして 高柳重信
朝貌のかくて宵寐の人ならし 朝顔 正岡子規
樽提けて宵寐起すや水祝 水祝 正岡子規
蓬莱にをさなき宵寝ごころかな 木歩
蚊一つに身をくれかねて宵寐哉 松岡青蘿
酔漢の宵寝を覚す二日かな 石塚友二 光塵
鯊釣に行くといふなる宵寝哉 尾崎紅葉
●朝寝 
あめつちの中のひとりの朝寝かな 村越化石
うぐひすを夜るにして聞朝寝哉 横井也有 蘿葉集
うやむやの朝寝の中の約なりし 筑紫磐井 花鳥諷詠
おもしろき秋の朝寝や亭主ぶり 松尾芭蕉
お降に草の庵の朝寝かな 高浜虚子
かへらざるものに執する愚の朝寝 稲垣きくの 牡 丹
くさまくら旅の朝寝のゆめの魚 稲垣きくの 黄 瀬
この頃のことに捨身の朝寝かな 井沢正江 一身
さらさらと魚の記憶の朝寝かな 吉田悦花
ちちははの朝寝の富士の美しく 勝又一透
つゆの土隣につづく朝寝かな 松村蒼石 露
どんたくの疲れもありし朝寝かな 高濱年尾 年尾句集
なきがらや大朝寝しておはすかに 長谷川櫂 虚空
ならはしの朝寝に疲れ花の露路 石塚友二
はつ雪は朝寝に雫見せにけり 千代尼
はづかしき朝寝の薺はやしけり 高橋淡路女 淡路女百句
ひとつ蚊屋に僕も朝寝の枕哉 加舎白雄
ふたり居のひとり逝きたる朝寝かな 根岸かなた
みちのくの旅長かりし朝寝かな 深川正一郎
みどり児もともに朝寝の足りにけり 千原草之
ものかはといひけん春の朝寝哉 春眠 正岡子規
ものの芽のほぐれほぐるゝ朝寝かな 松本たかし
ものの音聞き分けてをる朝寝かな 野中 亮介
もの憂しとにはあらぬ花の朝寝かも 清水基吉 寒蕭々
もの音の我家とまがふ旅朝寝 翁長恭子
よき家や朝寝の襖隙もなし 龍胆 長谷川かな女
よき旅をしたる思ひの朝寝かな 村越化石
われとわが虚空に堕ちし朝寝かな 永井龍男
カーテンの透けて紅来る朝寝かな 山口青邨
フィアンセが来るてふ朝寝してをれず 藤丹青
ミサの鐘すでに朝寝の巷より 阿波野青畝
ミサの鐘芝生の天使朝寝せよ 林 翔
一人居の朝寝を犬に言い訳す 金森教子
三光鳥山の朝寝はゆるされず 下村ひろし
世にありしわが名を呼ばれ朝寝覚む 井沢正江 一身
世にまじり立たなんとして朝寝かな 松本たかし
世に交り立たなんとして朝寝かな 松本たかし
世上の医者朝寝の種やけふの菊 口慰 選集「板東太郎」
並肉をよく伸ばしをり大朝寝 暮 岸江
二の腕の裏白し朝寝の土工らし 香西照雄 対話
余命とや断じて朝寝貪らむ 石塚友二
佳き壷を運びし疲れ朝寝せり 朝倉和江
充電をすると言ふ子の大朝寝 塩川祐子
光射す微塵眺めて朝寝継ぐ 小林綾子
六感のどれかが覚めてゐる朝寝 山下しげ人
六根の濁り果てたる朝寝かな 小島千架子
初秋の日脚はひこむ朝寐かな 初秋 正岡子規
卵焼く匂ひふはふは朝寝覚む 岸間光女
受難節天上にあり朝寝せり 百合山羽公 寒雁
口ーマびと愛せしと云ふ朝寝我も 磯部 克
句を案じ暫し朝寝も虚子掌上 高澤良一 さざなみやつこ
向ひ山鳥も朝寝の奥道後 高澤良一 寒暑
吾子ら来て朝寝の我に挙手の禮 京極杞陽
喜多方や旅の朝寝の蔵座敷 長谷川耿子
土佐湊鳰のゆらゆら朝寝して 高澤良一 寒暑
夜や昼や朝寝の床のきり~す 土芳
大いなるもくろみありて朝寝かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
大原女に起されてゐし朝寝かな 岸風三樓
大年や朝寝の床に耳すます 浅原六朗 欣求鈔
大朝寝して六道の埓外に 瀬川芹子
大朝寝して匂やかに現れし 山田弘子
大朝寝人に訪はれて起さるる 上村占魚 球磨
大都会動いてゐたる朝寝かな 山本歩禅
夫留守のわれの朝寝を雛は知る 下村梅子
妻に後れとりし男や大朝寝 水野柿葉
始発待つベンチの朝寝登山口 癸生川昭
娘の家に旅の終りの大朝寝 桶川皆舟
嫁の座もしかと十年大朝寝 服部壽賀子
子の朝寝篁に日矢遊びをり 清水基吉 寒蕭々
子の親のつとめをへにし朝寝かな 麻田椎花
定年の天下御免の朝寝かな 岬 雪夫
定年やなにか疾しき大朝寝 平木智恵子
寒声のうたてき朝寝宵寝哉 島道素石
寝くたれて朝寝いよいよ起き難し 石塚友二 光塵
尾瀬山の雪渓を見て朝寝かな 萩原麦草 麦嵐
山雀や朝寝して出る竹の縁 ぜぜ-游刀 俳諧撰集「藤の実」
山風を濤と聞きつつ朝寝せり 米谷静二
山鳩のくぐもり鳴ける朝寝かな 中憲子
嶺岡山の春を軒端に朝寝覚 富安風生
川音の切なくなりぬ朝寝覚め 雨宮きぬよ
帰国して畳の朝寝ほしいまま 岡安仁義
彩のある夢にさまよひ大朝寝 上村占魚 『かのえさる』
思はざる禊の朝寝とはなりぬ 手塚美佐 昔の香
悪評の嘖嘖とどく朝寝して 伊藤白潮
惜命といふいくぢなき朝寝かな 西本一都 景色
我が僕落花に朝寝ゆるしけり 榎本其角
投句して何もかもなき大朝寝 小原菁々子
旅にあることも忘れて朝寝かな 高浜虚子
旅に馴れニューヨークにも馴れ朝寝 星野立子
旅の刻惜しゝ朝寝もそこそこに 高槻青柚子
旅人に朝寝許さぬミサの鐘 長屋きみ子
日曜の客に朝寝の夫不興 一円あき子
日曜日大魚籠のごと朝寝せり 高澤良一 ぱらりとせ
春を惜しめり宵寝朝寝と寝溜めして 高柳重信
春三日たちて朝寝の始めかな 其白
春暁や瀬音かすかに朝寝宿 関口 里
春雪となりゐて朝寝きりもなし 石塚友二
時計見てからの朝寝の深からし 岡田季男
暗緑の肖像画ある朝寝かな 波多野爽波 『骰子』
月の夜の桜に蝶の朝寝かな 千代尼
朝寐しておのれ悔しき暑さ哉 炭 太祇 太祇句選
朝寐して餅焼く遅れ始めなり 殿村莵絲子 雨 月
朝寝していま極楽にゐたりけり 片山鶏頭子
朝寝しておのれに甘えをりにけり 下村梅子
朝寝してさすらひ神に憑かれけり 奥坂まや
朝寝してすでに潮目のあきらけく 波多野爽波
朝寝してせはし~は口ぐせに 田畑美穂女
朝寝してとり戻したる力あり 稲畑汀子
朝寝してふはふは啜るカプチーノ 高木瓔子
朝寝してをんなの齢いみじけれ 大石悦子 聞香
朝寝してスペースシヤトル飛ぶがまま 京極杞陽
朝寝してノラには成れぬ人の妻 堀内夢子
朝寝して世に問ふこともなかりけり 下村梅子
朝寝して二食に秋の日暮れたり 会津八一
朝寝して体内ふかき鍵ひとつ 能村登四郎 天上華
朝寝して句会は午後の一時より 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
朝寝して可き日やくやしく覚めてゐる 奈良文夫
朝寝して吾には吾のはかりごと 星野立子
朝寝して夢のごときをもてあそぶ 山田みづえ
朝寝して夢の余白に遊びをり 櫛原希伊子
朝寝して妻子忘るるすべもなく 飯田蛇笏 雪峡
朝寝して悔いなき齢とはなりぬ 斉藤恵子
朝寝して打ち寄するごと心拍音 高澤良一 燕音
朝寝して授かりし知恵ありにけり 片山由美子 風待月
朝寝して敗者に似たる思ひあり 菅原けい
朝寝して旅のきのふに遠く在り 上田五千石
朝寝して松喰虫をおそれけり 吉本伊智朗
朝寝して海はればれとありにけり 長嶺千晶
朝寝して犬に鳴かるる幾たびも 臼田亞浪 定本亜浪句集
朝寝して生死ふたつにあそぶ如 井沢正江 以後
朝寝して生死二つに遊ぶごと 井澤正江
朝寝して白波の夢ひとり旅 金子兜太 詩經國風
朝寝して窓の隣は埴輪塚 瀧井孝作
朝寝して精一ぱいに生きてをり 大塚鶯谷楼
朝寝して色変りけり茄子漬 青木月斗
朝寝して花鳥の世に目覚めける 上田五千石
朝寝して街騒に耳たのします 片山由美子 天弓
朝寝して覚めぬ至上の死の手順 勝亦年男
朝寝して買はざりし絵の青空を 宇佐美魚目
朝寝して鏡中落花ひかり過ぐ 水原秋桜子
朝寝して霧氷は天にもどりけり 大島民郎
朝寝して餅焼く遅れ始めなり 殿村莵絲子
朝寝して餅花かざす顔の上 林翔 和紙
朝寝して馬上杯てふおもしろし 田中裕明 櫻姫譚
朝寝して鴉の声もにくからず 平野 伸子
朝寝して鵯に椿を踏まれをり 宇佐美魚目 天地存問
朝寝して鼻のひかりの青蜜柑 中拓夫
朝寝する障子の間や霧の山 立花北枝
朝寝せしこの世しんかんたりしかな 坂巻 純子
朝寝せり孟浩然を始祖として 水原秋櫻子
朝寝せり幼き跫音階鳴らし 堀口星眠 営巣期
朝寝せり木を挽く音と思ひつゝ 千代田葛彦
朝寝せり漁翁鰆を提げ来るに 水原秋桜子
朝寝とは巨き豊けき二蹠 高橋睦郎
朝寝の朝朝の洗面器の白さに水張る 人間を彫る 大橋裸木
朝寝の銀座背見せ腹見せ初燕 宮本由太加
朝寝もし久し振りなるわが家かな 稲畑汀子
朝寝ややさせて勤労感謝せむ 亀井糸游
朝寝児の乳さぐらざる生ひ立ちよ 『定本石橋秀野句文集』
朝寝子の乳さぐらざる生ひ立ちよ 石橋秀野
朝寝子や永日つゞく寝ざまして 原石鼎 花影以後
朝寝昼寝夏の夜長し五月雨 調盞子 選集「板東太郎」
朝寝髪撫でもつけずに茶摘笠 高田蝶衣
朝寝髪桜にこほる素顔かな 言水
朝寝髪梳りみる東山 田中冬二 若葉雨
朝顔や朝寝涼しき枕もと 会津八一
松の内こゝろおきなき朝寝かな 高橋淡路女 梶の葉
枇杷たわゝ朝寝たのしき女の旅 近藤愛子
梅咲いて朝寝の家となりにけり 貴志沾州 (1671-1741)
椿に来る鵯にも会はず朝寝して 石田波郷
段々に夢叶ふらし朝寝など 殿村菟絲子 『菟絲』
毎日の朝寝とがむる人もなし 松本たかし
気まゝなる旅の朝寝を許されし 井桁蒼水
水仙や朝寝をしたる乞食小屋 素牛 俳諧撰集「藤の実」
泪耳に入りてゐたる朝寝かな 能村登四郎
浅蜊汁匂ふ朝寝を惜しみけり 宮坂静生 青胡桃
涅槃像一休の朝寝起しけり 涅槃像 正岡子規
渡りゆく彼岸の遠き朝寝かな 石原八束
温泉の宿の窓の低きに朝寝かな 龍胆 長谷川かな女
溶けてゆく星座のための朝寝かな 水野真由美
点滴の枷を解かれし朝寝かな 松村英子
熊の糞見に連れ出さる朝寝かな 茨木和生 倭
物の芽のほぐれほぐるる朝寝かな 松本たかし(1906-56)
独居の野分ながらに朝寝かな 黒柳召波 春泥句集
獏の舌長々しきを朝寝かな 辻桃子 ねむ 以後
生涯の道違へたる朝寝かな 秋山未踏
病間の朝寝のいとも長かりし 高浜年尾
白蓮に貧乏寺の朝寝かな 山口花笠
百彩の顕ちくる刻を朝寝して 林翔 和紙
百本杭潮落ちはじむ朝寝かな 龍岡晋
神主の朝寝の雨戸芙蓉咲く 清水晴子
美しき眉をひそめて朝寝かな 高浜虚子
耳洗ふ楽あり朝寝覚めゐたる 岡田 貞峰
職退いて朝寝の夫や春の雨 國武和子
胎内もかくなん朝寝ありがたし 黒鳥一司
脳神経外科医朝寝の階下に父 相原左義長
航空路朝寝の上をすぢかひに 山本歩禅
色里や朝寝の門の注連貰ひ 岡本松濱
花ちるや朝寝の窓のしづけさに 五十崎古郷句集
花を蹈し草履も見えて朝寝かな 蕪村
花屋のはさみの音朝寝してをる 尾崎放哉
若き敗北一月一日の朝寝 中尾寿美子
茎立は一寸伸びに子等朝寝 上野泰 佐介
蕣に今朝は朝寐の亭主あり 朝顔 正岡子規
薄氷の寄るべなく泛き朝寝ぐせ 鍵和田[ゆう]子 浮標
薄闇は胎内に似し朝寝かな 上野美智子
虫売りのかごとがましき朝寝かな 蕪村
蚊帳ごしに日のさして居る朝寝かな 河東碧梧桐
蝶追ふや朝寝の枕ふり上げて 雑草 長谷川零餘子
血統書自慢の犬も朝寝せり 大島民郎
行年を鴎の朝寝昼寝かな 渋川玄耳
西行のそのもちづきのころ朝寝 山口速
誇などそんなものなき朝寝かな 下村梅子
誕生日朝寝も一理電話鳴る 河野南畦 『広場』
誰彼の声聞き分けて朝寝かな 河村紫山
象頭山詣でし朝寝のふくらはぎ 高澤良一 寒暑
退院の妻の朝寝のいとほしき 本井英
連泊の宿に気ままの朝寝かな 小川小春
遊学の了りし吾子の大朝寝 山田ゆう子
遠浅の海に遊べるごと朝寝 高澤良一 ねずみのこまくら
還り来し吾に母ある朝寝かな 桐田春暁
野あがりの日まちとなりし朝寝の戸 長谷川素逝 村
金色にひかる朝寝の障子かな 阿波野青畝
鐘つかぬ大仏殿と朝寝せり 百合山羽公
長き夜の連歌に更けて朝寐哉 夜長 正岡子規
長崎は汽笛の多き朝寝かな 車谷弘
雛の間の闇うつくしき朝寝かな 原コウ子
雨だれの世を隔てゐる朝寝かな 迫牛彦
雨戸掻く犬に朝寝を起されぬ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
雨蛙朝寝の足を冷しをり 米沢吾亦紅 童顔
雪どけの音聞いてゐる朝寝かな 几董
雪のふるゆめよりさめし朝寝かな 久保田万太郎 流寓抄以後
雪趨(はし)る音の中なる朝寝かな 高橋睦郎 金澤百句
電燈に笠の紫布垂れ朝寝かな 龍胆 長谷川かな女
霜くすべ終へたる父の朝寝かな 皆川盤水
青柳の朝寝をまくる霞かな 千代尼
願はくば黄泉路平らの大朝寝 三村絋司
馬車ゆききしてゐて町の朝寝かな 田村了咲
鳩時計はと出ず妻の大朝寝 渡辺俊子
鳰二つこゑのもつるる朝寝かな 森澄雄
鳶の輪の家根めぐるらし朝寝よし 福田蓼汀 山火
鶯や朝寐を起す人もなし 子規句集 虚子・碧梧桐選
●朝寝坊 
家族みな朝寝坊勤労感謝の日 南まさとし
我に許せ元日なれば朝寝坊 夏目漱石 明治三十二年
渋柿も紅葉しにけり朝寝坊 一茶
●寝坊 
あたまから海の朝日や冬寝坊 松根東洋城
ひよんの実にゐるやも知れず寝坊虫 吉田千嘉子
人日の寝坊日雇落葉かく 岩田昌寿 地の塩
夏籠りと人には見せて寝坊哉 一茶
大寝坊夢は時雨にほとびけり 可躍 選集「板東太郎」
寝坊して雲より垂るる藤の花 長谷川櫂 古志
寝坊なる花片栗に日は真上 八牧美喜子
寝坊に小鳥来てゐる山日和 岩城久美
小豆粥すこし寝坊をしたりけり 草間時彦 櫻山
野分沼寝坊鴉が来てさわぐ 町田しげき
長寝坊朝日ぞ起す竹の雪 立允 選集「板東太郎」
飛ぶは鴉ばかりで パリの寝坊な屋根 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
●共寝
●添い寝 
稽古鵜を抱へ添ひ寝をしてゐたる 松村富雄「花の内」
秋雨や猫に添ひ寝をされをりて ふけとしこ 鎌の刃
風の夜の銀河は遠し子に添ひ寝 宮坂静生 青胡桃
寝釈迦さまの添ひ寝を怖れ戻りけり 嶋野國夫
しばらくは鬼に添寝の夏の月 高澤晶子 純愛
ひねもすを猫に添寝の小春かな 小川胡蝶
別々の命の添寝毛布被て 品川鈴子
夕風がむすめとよばん添寝籠 杉風
寒暁や母に添寝のうすあかり 野澤節子 『存身』
新しき独楽に添寝をせしことも あかぎ倦鳥
木簡に添寝の蛙掘り出され 津田清子
死に近き母に添寝のしんしんと遠田のかはず天に聞こゆる 斎藤茂吉
流木に添寝をしたる水着かな 大木あまり 雲の塔
添寝して乳の匂へる暑さかな 美濃京子
添寝せしはずの吾児ゐず蝶の昼 豊田陽子
添寝の児素直に寝つく鉦叩 内海節子
短夜を生きて在るごと添寝する 野澤節子 『八朶集』
秋灯に語り部となる添寝かな 田口許甫
綿子こそ添寝はなれぬ朝の床 露言 選集「板東太郎」
蝶ひとつわれに添寐の山家かな 幸田露伴
蟋蟀の世までを流る添寝して 宇多喜代子
里帰り母と添寝の春一夜 五十嵐藤崗
野仏に添寝がしたし朴落葉 永井喜久司
雁渡し死にゆくものに添寝して 長岡きよ子
雪女郎添寝す笹のうすみどり 長谷川かな女 花 季
●ごろ寝 
ごろ寐の夏又来て厄介かけまする 高澤良一 随笑
●雑魚寝 
亡骸と雑魚寝一と夜のもがり笛 成田千空 地霊
夜汽車待つ雑魚寝児は覚め青林檎 小檜山繁子
妣の夜着足しはらからの喪の雑魚寝 羽田岳水
日焼けして二等船室雑魚寝組 高澤良一 寒暑
船室に雑魚寝卯波の為すままに 高澤良一 寒暑
雑魚寝布団夢の豺狼越え歩く 高田蝶衣
●侘寝 
暮れ暮れて餅を木魂の侘寝哉 松尾芭蕉
●膝枕 
どちら選ばうか膝まくら菊枕 鈴木鷹夫 千年
膝枕哉物の音の喜春楽 言水
良雄忌や肘にもどりし膝枕 鷹羽狩行
見えずうるはし滝の如きを膝まくら 加藤郁乎
●肘枕 
すゝしさやあるじまつ間の肘枕 涼し 正岡子規
わか草や烏帽子ながらの肘枕 几董
五色縷の垂れも垂れたり肘枕 飯田蛇笏 霊芝
元旦の大計を載せ肘枕 辻田克巳
君琴弾け我は落花に肘枕 芥川龍之介 我鬼窟句抄
夏雲の姿変へゆく肘枕 鶴田邦子
山蟻の畳をよぎる肘まくら 柴田白葉女 牡 丹
新涼の畳になじむ肘枕 成田昭男
春蝉や山の平に肘枕 佐藤鬼房 朝の日
梅が香や南吹く夜の肘枕 詰洲
秋涼し寝羅漢にして肘枕 米住小丘子
肘枕しびれ醒めたる無月かな 金居欽一
肘枕月の豊かな国に生れ 大嶋康弘
青簾肘枕して吾と居り 増田和子
青萩か萩の青さか肘枕 鈴木鷹夫 風の祭
頂上の寝釈迦のどけし肘枕 内海良太
●北枕 
ががんぼの影曳く旅の北枕 平子公一
こがらしの昼はたらいて北枕 長谷川双魚 『ひとつとや』
ささぶね流れる空 のびやかな北枕 星永文夫
むさしのの蝉聴く母は北枕 渡辺恭子
元日を覚むるやつねの北枕 前田普羅
北まくら高梁繁れる高さにて 攝津幸彦
北枕して木犀の香に近し 目迫秩父
北枕そっとずらせば雁渡る 木戸葉三
北枕その北窓の霜のこゑ 鈴木鷹夫 大津絵
北枕は北は真白は晴れなり 阿部完市 春日朝歌
北枕真北に涅槃図絵垂らす 赤松[けい]子 白毫
夜を寒み小冠者臥たり北枕 蕪村 秋之部 ■ 山家
夜を寒むみ小冠者寝たり北枕 蕪村 五車反古
寒星やいのちの果ての北枕 佐藤きみこ
新涼や旅の夜もまた北枕 下村槐太 光背
橡の実落つ寝釈迦北枕でありぬ 小堀葵
熱帯夜しやうことなしに北枕 佐々木久子
獣らはみな北枕春の星 三好さら
目覚めゐて八十八夜の北枕 手塚美佐
薄雪の夜をたはむれの北枕 岩村蓬
蛇眠る地中いづこも北まくら 鍋谷ひさの
覚めよ起てよ花の朝の北枕 つじ加代子
香げむり寒をうづまく北枕 飯田蛇笏 春蘭
麦を蒔くひとを遠くに北枕 高橋去舟
●波枕 
ころりんと渚に海鼠波枕 高澤良一 素抱
みえはじめはかまとゆかいに波枕 阿部完市 春日朝歌
丈夫(ますらを)やマニラに遠き波枕 攝津幸彦
放生の河豚しばらくは波枕 森田峠 逆瀬川以後
昼月をあふぎ海月の波枕 高澤良一 宿好
木枯の夜明が見えて波まくら 中拓夫
波まくら小舟にうすき蒲団かな 闌更
●旅枕 
名月の前へまはるや旅まくら 内藤丈草
夏炉焚く匂ひの中の旅まくら 徳重怜子
夜あらしや時雨の底の旅枕 上島鬼貫
文月やそばがらこぼす旅枕 黒田杏子
旅まくら雨夜の夢はつばくらへ 林原耒井 蜩
旅枕かたみに覚めつ蚊におびゆ 林原耒井 蜩
旅枕ただ五月雨を聞きにけり 野田雅城
旅枕はづれやすくて明易し 松尾節朗「大山蓮華」
旅枕ゆさぶる能登の雪起し 緒方眞帆子
旅枕夜目にも茅花流しかな 沼尻巳津子
旅枕手さぐりおれば雁の声 源鬼彦
旅枕甲斐のちちろに眠り落つ 藤本はるを
旅枕雁が鳴いても目がさめる 雁が音 正岡子規
明易し白紙を巻ける旅枕 河野博行「貴船菊」
星合の夜を俳諧の旅枕 堀内吟一
梟や耳覚めてゐる旅枕 堀井和子
痩せ蚤の這ひ出る肩や旅枕 丈草「幻の庵」
痩蚤の這出るかたや旅枕 内藤丈草
眼うらに鵲舞はす旅枕 成瀬櫻桃子 風色
秋雷を遠くに聞きて旅枕 尾沼チヨ子
臍寒し柿喰ふ宿の旅枕 柿 正岡子規
蛙鳴くこの夜忘るな旅まくら 上島鬼貫
鷺草の白き月夜の旅まくら 岡部六弥太
●草枕 
あした行く旅路の梦や草枕 正岡子規
あぢさいを五器に盛ばや草枕 服部嵐雪
あぢさゐを五器に盛らばや草枕 服部嵐雪
あらたまや俳枕とは草枕 原裕 正午
いざ共に穂麦食らはん草枕 芭蕉(行脚の客にあうて)
くらがりにいちご喰ひけり草枕 史邦 俳諧撰集「有磯海」
くらがりに覆盆子(いちご)喰ひけり草枕 中村史邦
けふの日を祝へ野菊の草枕 野菊 正岡子規
こてふこてふ合宿たのむ草枕 胡蝶 正岡子規
たらちねやかくなでしこ(撫子)の草枕 立花北枝
つちふるや殷周秦漢草枕 川崎益太郎
てふてふやあひ宿たのむ草まくら 蝶 正岡子規
五月雨や田蓑の島の草枕 五月雨 正岡子規
人々に扇をあげて草まくら 立花北枝
六郡を稲妻すなり草枕 石井露月
出かはりし身のかたづきや草枕 高井几董
名月はどこでながめん草枕 名月 正岡子規
太箸の嬉しさしるや草枕 蒼[きう]
山茶花を椿ときくも草枕 蒼[きう]
我顔に雲雀落つるや草まくら 雲雀 正岡子規
旅をしも草枕とや合歓の花 細見綾子 花寂び
朝見れば撫し子多し草枕 撫子 正岡子規
氣樂さのまたや師走の草枕 師走 正岡子規
焼米や月日指折る草枕 柑子句集 籾山柑子
白魚や小佐渡をめぐる草枕 会津八一
秋もこぬその人の閏の草枕 上島鬼貫
秋風を分ちて眠る草枕 櫻井尚子
草まくら女に狎れるどてらかな 楠目橙黄子 橙圃
草まくら旅にしありて雑煮ばし 久保田万太郎 草の丈
草枕あり其稲穂手向かな 杉風 (翁塚の記)
草枕して末枯れは旅の匂ひ 野見山朱鳥
草枕たまの宵寝に風邪薬 楠目橙黄子 橙圃
草枕の我にこぼれぬ夏の星 正岡子規
草枕の我にこぼれよ夏の星 夏の星 正岡子規
草枕まことの花見しても来よ 芭蕉
草枕まことの華見しても来よ 松尾芭蕉
草枕ジジジジ自恃と螻蛄の声 文挟夫佐恵
草枕ランプまたゝきしぐれくる 相馬遷子 山國
草枕今年は伊勢に暮れにけり 年の暮 正岡子規
草枕射水の川に聞く千鳥 有馬朗人
草枕小春は替へむ夢もなし 水原秋櫻子
草枕我膝にくる蜻蛉哉 蜻蛉 正岡子規
草枕故郷の人の盆曾かな 暁臺
草枕涼し三千の姫小松 涼し 正岡子規
草枕犬も時雨るか夜の声 芭蕉
草枕薺うつ人時とはん 山川
草枕虻を押へて寝覚めけり 路通
草枕蚊遣火焚て寝入りけり 文皮
草枕袷の領の汚れかな 楠目橙黄子 橙圃
草枕青藺の香して大昼寝 長谷川かな女 花寂び
薬欄にいづれの花を草枕 松尾芭蕉
裾折て菜をつみしらん草枕 服部嵐雪
解夏草やすぐに結びし草枕 桐 雨
里遠しいざ露と寐ん草まくら 幸田露伴
陽炎に心許すな草枕 陽炎 正岡子規
雲雀なく其下や花に草枕 雲雀 正岡子規
飛かはづ草まくらより草枕 服部嵐雪
飛ぶ蛙草まくらより草枕飛ぶ 服部嵐雪
餅を夢に折り結ぶ歯朶の草枕 松尾芭蕉
餅搗のその夜はそこに草まくら 立花北枝
●旅寝 
こほろぎに宿かる蝶の旅寐哉 蟋蟀こほろぎ<虫+車> 正岡子規
たばこ干す寺の座敷に旅寐哉 高井几董
つくつくと汗の香に飽く旅寝哉 汗 正岡子規
みじかよや旅寐のまくら投わたし 炭 太祇 太祇句選後篇
めりやすの旅寝はやすし初あられ 浜田酒堂
よしの出てまた菜の花の旅寐かな 松岡青蘿
わびしさや旅寐の蒲団数をよむ 炭 太祇 太祇句選
われ宗祗に似たらん秋の旅寐哉 秋 正岡子規
トランプの散らばる旅寝明易し 岩崎照子
五里の浜月を抱て旅寝哉 向井去来
傾城は屏風の萩に旅寐哉 萩 正岡子規
八千の鶴見し旅寝浅かりし 山田弘子 こぶし坂
句碑の字の旅寝崩るる餘寒かな 古舘曹人 砂の音
地酒あり蚕あかりほどの旅寝あり 岩佐光雄
埋火や木曾に旅寐の相撲取 埋火 正岡子規
夏の夜に風呂敷かぶる旅寐哉 一茶 ■寛政四年壬子(三十歳)
旅寐して家に帰れば青葉哉 幸田露伴 礫川集
旅寐九年故郷の月ぞあり難き 月 正岡子規
月照らす師のふるさとに師と旅寝 深見けん二
月雪や旅寐かさねて年一夜 白雄
朝毎の法リや旅寐の一大事 高井几董
枕にもなれよ旅寐の春の鹿 松岡青蘿
柿売の旅寐は寒し柿の側 炭 太祇 太祇句選
波音かしぐれか旅寝うつゝなる 内田准思
潮鳴りと篠のこがらしきく旅寝 稲垣きくの 牡 丹
玉の緒の子おもふ旅寝青鬼灯 中山純子 沙 羅以後
病雁の夜寒に落ちて旅寝哉 松尾芭蕉
白らむ旅寝遥かな闇に妻を託す 隈治人
腰にさす団扇も軽し絵の旅寝 浜田酒堂
舞ひ入りし螢いとしむ旅寐かな 臼田亜浪 旅人
花のかげ謡に似たる旅寝哉 松尾芭蕉
蚊屋ごしに蕣見ゆる旅寝哉 士朗
行く秋の腰骨いたむ旅寝哉 正岡子規
行秋のふしぶしいたむ旅寐哉 行く秋 正岡子規
遠雪崩ひとりの旅寝安からず 藤田湘子
雑煮ぞと引おこされし旅寝哉 路通 (備後の鞆にて)
鳥雲に男は伊勢に旅寝哉 妻木 松瀬青々
鵆聞くために二日の旅寐哉 桃隣
鹿啼てまことがましき旅寐哉 加舎白雄
●床に就く 
移さるる野分の床につきゆくも 岸田稚魚
非常口灯る就寝蛇は穴に 篠田悦子
●寝落つ 
ががんぼや寝落ちて長き子の手足 寺井谷子
けろり寝落つ蛙にはしやぎゐし吾子は 大熊輝一 土の香
はや寝落つ夜濯の手のシャボンの香 森澄雄
ややの掌の寝落ちて開く天の川 石田阿畏子
わが寝落ちゆく海原は十三夜 小檜山繁子
一山の寝落ちてしだれ桜かな 蘭草 慶子
僧房の寝落つに早し青葉木菟 篠田 幸子
元日の瞼あかるくまた寝落つ 櫻井博道
初泣きの妻寝落つより氷りけり 小林康治 玄霜
制服のままに寝落ちし受験生 吉川智子
十薬にメランコリヤの犬寝落つ 火村卓造「長堤」
夜の泉男寝落つや奏でいづ 殿村莵絲子 牡 丹
夜蝉ヂと寝落ち難きを託てるか 高澤良一 寒暑
子が寝落つ白魚宿の河明り 寺井谷子
子と寝落つ秋のルオーの森ぬけて 原裕 葦牙
子と息を合はせて寝落つ小晦日 石寒太 あるき神
子の家に明け方寝落つ九月かな 向笠和子
子ら寝落つよりいきいきと螢籠 菖蒲あや あ や
寝落ちたる夜陰の畳白団扇 松村蒼石 雪
寝落ちたる産婦の額に冬の蠅 石川桂郎 含羞
廂がくれの月が霧らへば寝落ちたり 林原耒井 蜩
早苗饗の夜の雨音に寝落つかな 西村牽牛
曉の蜩や覚め又寝落ち 松根東洋城
村寝落ち雪降る夜のただ平 今井勝人
柿の朱に堪へゐしが寝落つ熱の中 桜井博道 海上
汗拭きてふたたび寝落つ羽根枕 稲垣きくの 黄 瀬
沙羅もみぢ子負ひ羅漢の子は寝落つ 平井さち子 紅き栞
炉主のあぐらの中に寝落ちし子 鈴木貞二
白鳥の首より寝落つ雪深し 神蔵器
秋蚊帳に子菩薩となり寝落ちけり 赤松子
稲刈女夜は押し花のごと寝落つ 石本志明
竜踊を見て寝落ちしか大鼾 北野民夫
童子童女みんな花野に寝落ちたる 柿本多映
胸にひらく掌寝落ちし後は雪たたかふ 齊藤美規
花起こしの雨と憶ひつ寝落ちたる 伊藤いと子
茎の石効きをるならむ妻寝落す 乾鉄片子
葦騒や椋鳥の百寝落つまで 平井さち子 鷹日和
蚤取粉撒くにも馴れてすぐ寝落つ 伊丹三樹彦
蛾の微光おのれ昂り母寝落つ 桂信子 花寂び 以後
螢火と知りて寝落ちし旅泊かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
那須の野に寝落ちは早し火取虫 古舘曹人 樹下石上
隙間風祖母と寝し子の寝落ちしか 大野林火
霧笛寒くうから寝落つや哭くごとし 小林康治 玄霜
青葉木菟寝落つまで読み週の終り 猪俣千代子 堆 朱
風船虫隣は寝落つ二人の息 角川源義
颱風をもつとも怖れすぐ寝落つ 篠田悌二郎 風雪前
髪赤き若者寝落つ月の駅 石寒太 翔
鱒釣談きかせてすとんと寝落ちたる 平井さち子 鷹日和
鼻暗く寝落ちてゐたり寝冷子は 岸田稚魚

 
以上

by 575fudemakase | 2022-06-24 00:37 | ブログ


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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