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色の種類1 類語関連語(例句)

色の種類1 類語関連語(例句)

●藍●藍染●青●蒼●碧●青々●あをあを●青黒し●青し 青さ●青き●青く●青白し●青砥石●青む 青み●青紫●青やか●赤●朱●紅●赤々●あかあか●赤さ 赤し 赤い 赤か赤き赤く赤け●赤色●赤牛●赤絵●赤黒し●赤毛●赤子●茜色●赤味●朱ケ●浅黄色●浅葱色●浅黒し●浅紅●浅緑●小豆色●飴色●暗紅色●暗紫色●入日色●鶯色●鬱金●薄黒し●薄墨●薄茶●薄紅●薄緑●薄紫●江戸紫●海老茶●鉛灰色●臙脂色●オリーブ色●オレンジ色●カーキ色●灰白色●柿色●か黝し●褐色●樺色●唐紅●枯れ色●黄●黄色●狐色●黄味●レッド●ブルー●イエロー


●藍 
*さ夫藍の白咲きつづき志功の死 沢木欣一
*さ夫藍や地のここに尽く珠洲岬 小林俊彦
「甕のぞき」ほどの藍色野川澄む 文挟夫佐恵 遠い橋
あけぼのや甕深きより藍は建つ 沼尻巳津子
あぢさゐが藍となりゆく夜来る如 橋本多佳子
あぢさゐに迷ふこころの藍みどろ 稲垣きくの 牡 丹
あぢさゐのかくまで藍を深めしと 安住敦
あぢさゐの藍のつゆけき花ありぬぬばたまの夜あかねさす昼 佐藤佐太郎
あぢさゐの藍をつくして了りけり 安住敦「歴日抄」
あぢさゐの藍を盗みに闇迫る 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
あぢさゐの藍深まりし縁に立つ 吉屋信子
ある宵は藍浴衣着て夫に添ふ 柴田白葉女 遠い橋
いくつかの藍の言葉を女より 高野素十
いぬふぐり毛描きの藍に浅黄刷き 西本一都 景色
うすうすと道に余花ある藍野陵 右城暮石 声と声
おもしろう藍に酔うたる花時分 安東次男 昨
かすか織る藍の匂ふや文化の日 芝山喜久子
くわつと射す日は泊夫藍に集りて 柿本多映
ぐみ色づく湖水も空も藍深め 大熊輝一 土の香
けふよりの秋袷また藍づくし 黒田杏子
けふ冴ゆる筑波の藍や梅若忌 野村喜舟
このごろの阿波の好日藍の花 上崎暮潮
この村に減りし土蔵や藍の花 谷口秋郷
この頃の蕣(あさがほ)藍に定まりぬ 正岡子規(1867-1903)
さよりの吻太平洋の藍に染む 高澤良一 随笑
しぐれ虹二つ目は藍濃かりけり 大石悦子
しほからき藍染め阿波の夏しぼり 筑紫磐井 未定稿Σ
つばくらや藍ただよわす夕空ヘ 大井雅人 龍岡村
どの柄も亡母の語り部藍浴衣 渡辺恭子
なつめ盛る古き藍絵のよき小鉢 杉田久女
ひととせはかりそめならず藍浴衣 西村和子「かりそめならず」
ひとふでのゆの字たっぷり藍の花 白石みずき
ひと藍の暑さ照りけり巴旦杏 芥川龍之介
ふかぶかと蝶吸はれゆく空の藍 仙田洋子 雲は王冠
ふた親のくに秋嶺の藍ひらく 成田千空
ふるさとや今も名残の藍植うる 清水良艸
ほうほうと山鳩啼くや二番藍 藤田あけ烏 赤松
ほたるいか藍甕といふ富山湾 浜元旭子
まぼろしの藍ただよへり白菖蒲 草間時彦 櫻山
みんなひかるみんな未完の藍の中 伊藤 和
ものみな藍の岬端にして干大根 中村草田男
も一と雨あてて藍苗植うことに 豊川湘風
ゆるゆると水恋ふ色に藍の花 長谷川久々子
アルバムから咲きたつ泊夫藍と挙手礼 渋谷道
アルミ貨のふれあふ音す泪夫藍のむらさきに秋の日とどくとき 栗木京子
スケートの藍衣なびけば紅衣また 皆吉爽雨
ニコライ堂総硝子の藍涼しかり 児玉真知子
パレットに藍冬枯の街描ける 山本歩禅
ヒヤシンス彼の日の同じ藍の濃し 仁杉とよ
ヨットはかもめ藍の海より舞ひ上がり 菅野茂甚
一桶の藍流しけり春の川 正岡子規(1867-1903)
一湾の藍きらめけり植樹祭 上野澄江
一番の藍より出づる夕べの木 松澤雅世「萌芽」
七夕や一と降りしたる四方の藍 吉武月二郎句集
七夕や藍屋の女肩に糸 黒柳召波 春泥句集
三寒の四温紺屋の藍がたつ 青山久女
下京やかやりにくれし藍の茎 加舎白雄
中年の保養に倦みし藍浴衣 飯田蛇笏 椿花集
久住野の藍は竜胆紅は萩 小原菁々子
乙女子の魚藍観音臍澄めり 小枝秀穂女
乾かして黒く涼しく藍の玉 長谷川櫂 天球
二番藍汚れて牛の飼はれをり 中條千枝(草苑)
二階より降りてもひとり藍浴衣 豊田八重子
五位鷺くだる一湾の藍山ざくら 石原舟月
人日や帯織る町の藍にほひ 瓜生和子
代田掻く藍甕に藍眠らせて 坂本俳星
仲秋やほどよく褪せし藍の衣 和田 祥子
作柄の上上吉の藍を刈る 溝渕匠史
傘立に藍の山河や涅槃寺 辻桃子
入海の藍に長閑な霞かな 鈴木余生
入海の藍の上鳴く雲雀かな 尾崎迷堂 孤輪
全集の濃き藍色や草城忌 桂信子 樹影
八ヶ岳花野にあふぎ藍したたる 大島民郎
八月は藍垂直に男たち 高尾日出夫
六月や藍を濯ぎて川浄め 毛塚静枝
冬の灯のゆらぐ藍染夢は夏ヘ 加藤知世子 花寂び
冬の雲ひそかに藍を刷きにけり 久保田万太郎 流寓抄
冬山のさび藍色のこひしさに 綾子
冬萌えの藍の花もつ何の草 室生犀星 犀星発句集
刈ル蓼や引きぬく藍もましりけり 蓼 正岡子規
初しぐれ藍甕の蓋しかと閉づ 富田潮児
初染の藍のきげんを喜びて 浅野弓道人
初染の藍の渋味を確かむる 柳澤仙渡子
初染の藍流れ込む紙屋川 岡田ふさの
初染めの藍のきりきり立つてくる 平井照敏
初染や亀甲白き藍絞り 和田祥子
初染や藍の泡立ち快う 高田蝶衣
初空の藍と茜と満たしあふ 青邨
初花を藍ほとばしる山にこそ 中田剛 竟日
初蝶や藍に白彫る浴衣染 百合山羽公 寒雁
初観音晴天の藍無尽蔵 小川原嘘帥
初雪の藍にも染まであはれなり 初雪 正岡子規
利休忌や藍よく利きし丹波縞 佐藤 忍
勝気なる娘となりて藍浴衣 丹羽美智子
北斎の藍をば深め時雨降る 佐藤美恵子
北海の藍の身に入む多喜二の碑 高田ゆき子
十六夜や一番藍の育つ蔵 橘美寿穂
十字架の墓や*さ夫藍砂に咲く 森田公司
十郎兵衛屋敷に植ゑて藍の苗 林俊子
千屈菜のすこし藍染む紺屋裏 一丸文子
南海の藍うち晴れて野菊咲く 渡邊水巴
卯浪立つ藍より砕け知多の海 鍵谷寿乃
友静臥一川冬の藍深く 中島斌男
古九谷の深藍時雨過ぎにけり 加藤耕子
古木偶のざんばら髪や藍の花 吉田汀史
吾子征きしままの冬海深藍 飯田蛇笏 雪峡
噴くやうにわが藍匂ふ星とぶ野 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
回想のほたるが灯る藍屋敷 石原義輝
国頭や睦月素足の藍絞り ながさく清江
堂崩れ麦秋の天藍たゞよふ 水原秋櫻子
堪へざりし悔い深沈と藍浴衣 稲垣きくの 牡 丹
塵取にはこびて藍を植ゑにけり 岡安迷子
壮年の肌を脱ぎたる藍師かな 黒田杏子 水の扉
壺に満つ藍なまなまし冴返る 安斎櫻[カイ]子
夏来る松阪木綿の藍匂ふ 坂本ひで子
夏痩の男に着する藍のもの 岩田由美 夏安
夏風邪をもちこむ宿の藍浴衣 大屋達治
夕かけて藍のときめく星迎へ 川崎展宏
夕帰る漁藍おもたし蓼の雨 幸田露伴 拾遺
夕時雨をんなの眼もて藍を鑑る 柴田白葉女 遠い橋
夕桜藍甕くらく藍激す 黒田杏子 木の椅子
夕空の紺より藍へ蕎麦の花 石嶌岳
夕蝉や藍染釜に火を育て 加倉井秋を 『隠愛』
外套や火山灰に失ふ山の藍 大岳水一路
夜桜の夜も藍の香浴衣染 百合山羽公 寒雁
夢にまで藍さす霜の貯炭山 小林康治 『華髪』
夢の世のえにしで藍がふかくなる 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
大安でなくてはならじ藍を蒔く 平山八十子
大甕に藍いく枚も田が氷り 宮坂静生 樹下
大皿のむかしの藍に冷し物 川崎展宏
大空の藍ふりそそぐ二月富士 小川原嘘師
大飛瀑藍ひらめくは秋なりけり 渡邊水巴 富士
天の原夏富士藍を流しやまず 中島月笠
天を青水を藍とし先帝祭 丸山海道
女正月明治の古き藍微塵 長谷川かな女 花寂び
婆肩に一枚の芭蕉葉と魚藍を 下村槐太 天涯
宿墨の沈む藍色冬に入る ふけとしこ 鎌の刃
寂寥の身に添ふ藍の浴衣着て 橘美寿穂
寒晴れや切子ガラスの藍深く 釘宮のぶ
寒椿砕けて藍にかへる涛 西川ようこ
寒泳に藍一色の嶺(やまね)かな 松村蒼石 寒鶯抄
寒鯉の桶底に沈みて藍ばめる 田中冬二 行人
寒鯉を真白しと見れば鰭の藍 水原秋櫻子
山々の藍かさねたる秋思かな 廣瀬直人
山を焼き七堂迦藍焼く火かな 行方克己 昆虫記
山火事泊芙藍を経ておこる獣姦 加藤郁乎
山脈に藍さして夏立ちにけり 相馬遷子 雪嶺
山里の蕣藍も紺もなし 正岡子規
岬の果て海の藍濃し春深む 村田 脩
嶋原の外もそむるや藍畠ケ 服部嵐雪
帯封を解きて扇の藍匂ふ 芝 由紀
帷子は北山杉の藍模様 宮崎寒水
幾尋の藍より上げし秋の鯖 河内桜人
広重の波を染め抜き藍浴衣 佐々木典子(樹氷)
床上げの甚平の藍匂ふかな 水原春郎(馬酔木)
庭先に藍を咲かせて藍染めず 藤本朝海
庭隅の愛しき花や藍の花 粟飯原幸子
張りとほす女の意地や藍浴衣 杉田久女
御仏に日日挿替ふる藍の花 岡安迷子
御句碑の古りてあたらし藍の花 小林律子
思ひ出でし如く矢車のめぐる空わが丘の空に夜の藍満ちて 田谷鋭
悴む手なだめ藍糸絞りきる 太藤 玲
愛染明王祀りて涼し藍染場 大熊輝一 土の香
慈姑の子の藍いろあたま哀しも 室生犀星 魚眠洞發句集
戦前の藍玉あるを忘れゐし 萩原麦草 麦嵐
折れさうな長女に着せて藍浴衣 辻桃子
掌に藍染込で夜寒哉 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
掌に韻く小さき藍の陶の雛 平林孝子
揚羽蝶もつれ合ふとき藍発す 羽部洞然
摩周湖の藍一瞬や風薫る 水本森々
放蕩になりきれずして藍浴衣 石寒太 翔
敷茣蓙の藍の匂へり蓮見舟 玉澤幹郎
新涼や藍の匂ひの飛騨刺子 島 和子
日々黒くなりゆく藍を干しにけり 岡安迷子
日は塔の高みにありぬ紅藍(べに)の花 宮坂静生 春の鹿
明日植うる藍の宵水たつぷりと 豊川湘風
明日植う一番藍の束ねられ 尾上萩男
明眸や藍襟巻の一抹に 島村元句集
昔より落暉変らず藍の花 上崎暮潮
春の潮琉球藍を湛へたり 荒井正隆
時雨光生きて湧きつぐ藍の華 加藤知世子
晩祷におくれついでの泊夫藍酒 塚本邦雄 甘露
暮の春藍の機嫌を気づかひぬ 柴田白葉女 『月の笛』
暮れなづむ綿虫あかり魚藍坂 加藤 汀
朝の蝉わく藍つよき箸置も 中田剛 竟日
朝より阿波の日高し藍を刈る 上崎暮潮
朝桜天にまつたき藍満ちぬ 仙田洋子 雲は王冠
朝顔の/藍を離(か)れつつ/潮の/八百会ひ 林桂 銀の蝉
朝顔の藍をしぼりて夢あそび 文挟夫佐恵
朝顔の藍をたよりに帰りなさい 坪内稔典
朝顔の藍一色のヘアサロン 垂見菊江
朝顔の藍澄む露にふれにけり 柴田白葉女 遠い橋
朝顔や藍の深さを打ちこぼし 小石川 野村喜舟
木を登り朝顔藍を深めをり 永見博子
木枯しの渡る藍濃き枯木灘 佐藤美奈子
木枯に水藍青の田二枚 相馬遷子 雪嶺
枝豆に藍色の猪口好みけり 長谷川かな女 雨 月
枯るゝ中藍たぎつなり千曲川 相馬遷子 山国
枯菊に藍玉くだく筵かな 烏不關句集 織田烏不關、吉田冬葉選
枯蔦や藍ことに濃き色硝子 久米正雄 返り花
染めあげし藍の鮮やぐ水の秋 長谷川 翠
染めたての藍着て神田祭かな 石川 [テキ]子
染め上げし藍きびきびと冬落暉 池上不二子
染工場極寒の藍流すかな 大野林火
染糸の藍の雫を枯の中 殿村莵絲子 雨 月
桂子忌や藍の団扇を身ほとりに 平野哉
桃の日の藍に替りし湯屋のれん 加古宗也
桜鯛目に深海の藍を溜め 岡田貞峰
梅早し改札口に海は藍 福田蓼汀 山火
梅雨嵐藍染に身をつつみゐて 野澤節子 黄 炎
棗盛る古き藍絵のよき小鉢 杉田久女
棧荒き藍師の土間の白障子 文挟夫佐恵 遠い橋
極月の白昼艶たるは海の藍 飯田蛇笏 雪峡
歳時記の表紙藍鉄夜の秋 高澤良一 素抱
母の匙雨のあぢさゐ藍ふたたび 友岡子郷 遠方
毛絲編み常に額に海の藍 山口波津女 良人
水の秋羽ばたくさまを藍という 田口満代子
水涸れて一川の藍しづかにす 池島晃
水盤や藍絵の藍がぬれまさる 岡野知十
水辺草古塔のかげも藍深め 河野南畦 湖の森
水離れに藍迸る鰹かな 中島月笠 月笠句集
水飴を煉る炎昼の藍づくめ 宮坂静生 山開
氷はる慈姑の藍に驚きぬ 下村槐太 光背
氷河ありける空の藍より岩燕 文挟夫佐恵 遠い橋
氷海へ水路は藍を絞りたり 金箱戈止夫
江戸前の藍染幟菖蒲市 伊東宏晃
江戸絵図の堀の藍色夏はじめ 木内彰志
沈みたる一蝶白し藍の花 星野高士
沢庵や家の掟の藍加減 高浜虚子
河童絵図藍濃き皿のふぐとかな 西島麦南 人音
泊夫藍に戻りし声を秘事としぬ 増田まさみ
泊夫藍の苗売ってをるメノコかな 河野照代
泊夫藍へ嗚呼と口内炎ひとつ 池田澄子 たましいの話
泊夫藍や童女ドイツ語愛らしく 渋谷道
泊夫藍を咲かせすぎたる男かな 柿本多映
法師蝉藍甕の香が街道に 細川加賀 生身魂
洗ふほど藍落つきし縞縮 久保田秋女
流氷の上に藍はき目になじむ 古館曹人
海の碧藍に変れり雁の頃 田中英子
海の藍ざぼんの緑赤とんぼ 三好達治 路上百句
海よりの藍の色来て朝顔咲く 寺岡捷子
海坂の藍の深さや雁渡し 水原春郎
海溝図藍深きより秋の風 川崎展宏
海猫が誘ふ藍の深処を怖れたり 文挟夫佐恵 遠い橋
海道や往来も稀に藍を干す 雉子郎句集 石島雉子郎
涼しさや藍より〔も〕こき門の空 一茶 ■文政六年癸未(六十一歳)
淑気とは誰も来ぬ日の藍の華 斎藤梅子
深藍の鯉魚に秋の藻たふれけり 長谷川かな女 雨 月
渓流の藍にも染まず白鶺鴒 石田あき子
渚といふ渚に昆布を乾し並めて利尻の海の藍かぎりなし 太田青丘
温泉里よりおくやま藍き遅日かな 飯田蛇笏 春蘭
湖の藍より出でし菫かな 金箱戈止夫
湖の藍染みし白鳥も帰る日ぞ 村山古郷
湖の隈藍少しある時雨かな 内藤吐天
滝壺の青を藍とし雲はしる 桂信子 黄 瀬
滝落ちて滝壺を藍甕と呼ぶ 岡田日郎
潮騒やぶちまけし藍に冬日照る 渡辺水巴 白日
濃藍の潮に消えしつばめ魚 井手芳子
火にぬれて目刺の藍のながれけり 渡邊水巴 富士
燈籠の藍は桔梗紅は萩 下村梅子
父の日におろす藍濃き飯茶碗 染谷佳之子「薄荷菓子」
父祖よりの藍甕守り潤目干す 片岡とき江
片頬にひたと蒼海の藍と北風(きた) 竹下しづの女句文集 昭和十三年
犀川は藍一文字花杏 西本一都 景色
犬ふぐり藍より青き日を返す 石塚友二
甕群に藍の華浮く時雨山 古舘曹人 樹下石上
甚平やいづこの染の藍縮 水原秋桜子
生き堪へて身に沁むばかり藍浴衣 橋本多佳子「紅絲」
田を植ゑて安房は藍より青き国 大屋達治 龍宮
男顔の壮年は良き藍浴衣 鈴木まゆ
疾風にまむかひて後妻(うはなり)の藍明石 塚本邦雄 甘露
病む母へ袖口広き藍浴衣 口村喜久子
癌の名薬ふるさとの藍汁をのむ神妙に 橋本夢道 無類の妻
白南風やかさねて藍の皿小鉢 松村蒼石 雪
白南風や仔雉子にちらと藍の羽根 羽部洞然
白日の額の藍こそ淡々し 馬場移公子
白菜や小鉢の渦の藍濃ゆく 今泉貞鳳
白藤に夕水ふかき藍のいろ 白葉女
百姓の娘顔よし紅藍の花 高濱虚子
百年の老舗を守り藍植うる 稲畑汀子
皿の藍に夜色沈める海雲かな 長谷川春草
盛り上る藍の瑠璃光染始 由木みのる
目貼はぐ海原に藍戻りしと 成田智世子
目貼剥ぐ海坂に藍もどりしと 成田智世子
眼の隈の濃しあぢさゐの藍よりも 稲垣きくの 牡 丹
着て立つや藍のにほひの春袷 片山鶏頭子
矢車草夜通し藍を揺り覚ます 菊地京子
短日を藍の端切れの小商 ふけとしこ 鎌の刃
石の堅さの藍玉は手にほのぬくし 加藤知世子 花寂び
磐梯にねむればねむり藍みずうみ 寺田京子 日の鷹
秋口の洗ひて馴染む藍のいろ ふけとしこ 鎌の刃
秋天の藍抜けて飛ぶ鳥は師ぞ 佐川広治
秋天の藍火口湖にこぼれたり 仙田洋子 雲は王冠
秋潮の藍のかゝげる波頭 佐藤艸魚
秋立てる雲の穴目の藍に描く 臼田亞浪 定本亜浪句集
秋風に浴衣は藍の濃かりけり 川端茅舎
秋風や藍に染まりし竹帚 飴山實 『花浴び』以後
秩父嶺の藍より出でし秋の川 川崎展宏
稲の根にすてし布あり藍の濃し 長谷川零余子
空に藍みちゐて花の戦ぎかな 上野泰 佐介
空に藍足し雲に白足して秋 蔦三郎
空襲忌太眉くもり藍染師 石川貞夫
立冬の雲間の藍の下に居り 小島 仁
筒袖の藍匂ひけり独楽遊び 榎本好宏
算盤に藍屋の名残り冬灯し 長町淳子
簀戸の間に不況の家居藍を着て 長岡直子
簗の水痩せて濃藍七曲り 前田普羅 飛騨紬
糶聲やひたに藍さす鰹の眼 古舘曹人 砂の音
糸染める月の力や藍の華 植松章治
糸蜻蛉尾の先藍にして瀟洒 福田蓼汀
紅藍の花したたか裾を濡らしけり 古舘曹人 樹下石上
紅藍の花人に熱き手つめたき手 古舘曹人 樹下石上
紅藍花のわつと楸邨の大机 九鬼あきゑ
紅藍花を活けて風呼ぶ座敷蔵 近藤静輔
素園忌や仕立ておろしの藍結城 江川 節
紫蘇の香やたまたま着たる藍微塵 草間時彦
紫陽花の夕の藍に羽織りけり 阿部みどり女
紫陽花の昔は藍と思ひけり 水原春郎
紫陽花の藍きはまると見る日かな 中村汀女
紫陽花の藍をとばして雨あがる 阿部みどり女
紫陽花や風雨の中の藍微塵 野村喜舟 小石川
紺かきの藍の香ひも暑さ哉 四明句集 中川四明
紺屋町藍の匂ひの溝浚ふ 下里美恵子「三姉妹」
絵日記に幼な手の藍原爆忌 佐藤鬼房
絵硝子の藍の涼しき神学部 石田克子
綾子忌の風に穂をあぐ藍の花 鈴木千恵子
縫うて着て藍縞の丈だけの梅雨 渋谷道
縫ふ指に藍のうつろひ夏はじめ 八染藍子「竹とんぼ」
織りあげて雪に草の香藍紬 文挟夫佐恵 雨 月
織り上げて藍さやかなり今年絹 古賀まり子
織り上げて藍のにほへる雪催 根岸善雄
羅のたゝみて藍の深きこと 島田鈴子
羽太の目に南の果ての藍射しぬ 堀之内長一
翡翠の背に藍さして巣立ちけり 島崎秀風
肌に移した遠望の島の藍 林田紀音夫
胸中に波音湧けり藍浴衣 小島健 木の実
胸元の心許なき藍ゆかた 鈴木萩乃
脱稿すと夫一盞の藍目刺 平井さち子 紅き栞
色濃くも藍の干上るあつさかな 炭 太祇 太祇句選
花の風つよければ海藍青に 藤木清子
花人よ藍生事務所は九段下 黒田杏子 花下草上
花八ツ手日蔭は空の藍浸みて 馬場移公子
花冷の藍大島を着たりけり 久米三汀
花柊日ざしは藍をまじへそむ 石田いづみ
花茣蓙の藍はひとりの海に似て つじ加代子
花茣蓙の藍ふかければ母沈む 中尾杏子
苅り残す藍の実赤く秋日和 渡辺香墨
苗床の藍にもどりし寒さかな 尾上萩男
若水をまづ頒ちけり藍の甕 森田連雀子
茄子の藍に染まりし膝をかくしつゝ 龍胆 長谷川かな女
茱萸摘みどき藍を深むる日本海 伊藤京子
草刈の藍の中より野菊かな 夏目漱石 明治三十二年
菊なます鍋島は藍佳かりけり 草間時彦 櫻山
蓋されて並ぶ藍甕落花浴ぶ 町田しげき
藍々と五月の穂高雲を出づ 飯田蛇笏
藍いろの火がきつとある桜の夜 佐藤鬼房 朝の日
藍かめの機嫌も祝ふ社日かな 井月の句集 井上井月
藍がめにひそみたる蚊の染まりつつ 高浜虚子
藍がめの機嫌も祝ふ社日かな 塩原井月
藍がめの藍の湧き立つ霜日和 佐藤 幸男
藍さむき絞り括りの糸の音 鳥居おさむ
藍しぼる掌のうちそとのきらきらす 伊藤敬子
藍そめや糸干す土間の梅雨茸 宮田とよ子
藍つよく初烏待つ丘の線 原裕 青垣
藍と言ふ静かな色を干しにけり 後藤立夫
藍に似て寒し野づらのたまり水 大江丸
藍に染む糸の乾きや花つゝじ 妻木 松瀬青々
藍のかげふくみそめたる夕桜 川崎展宏
藍のみの暮しは立たず牛を飼う 丸山柳弦
藍の納屋開けてさくらの風通す つじ加代子
藍の花咲く番外の札所かな 豊川湘風
藍の花栞れば紅の失せにけり 坊城中子
藍の花甕はイランの大きさに 対馬康子 吾亦紅
藍の花紅きがままに人を恋ふ 野沢 純
藍の花織子泣かせし門構 坂本淳子
藍の花長者屋敷の井戸暗し 大頭美代子
藍の華何をつぶやく土用かな 森田峠 逆瀬川
藍の里ありて漢の朝言葉 阿部完市 春日朝歌
藍の香の匂ふコートの仕付け取る 中憲子
藍の香の日向にまじる寒さかな 政二郎
藍の香や義絶の兄の秋袷 塚本邦雄 甘露
藍は愛と言ひし女の浴衣かな 今泉貞鳳
藍ふかき絹着て照葉のみちをゆく 柴田白葉女 『月の笛』
藍ふかく滲む皹の二三すぢ 西村旅翠
藍ふかぶか雪庇にふるる深山空 大野林火
藍まくや空もみどりの朝日和 南 始
藍ゆかた明治の背筋伸ばしけり 堀 康代
藍ゆたか干菓子かがやく越の国 佐川広治
藍よりも濃き花開く初秋かな 横光利一
藍よりも青き信濃の端午空 広治
藍をふくむ星の光や雪の垣 渡辺水巴 白日
藍を出る纈(ゆはた)一疋桃花村 伊藤敬子
藍を刈る今も大きな藍の倉 浜秋邨
藍を掻く草履のままに神送 古舘曹人 樹下石上
藍を植ゑつゞけし人の藍文庫 宮崎寒水
藍を植ゑ広瀬絣の染場守る 西本一都
藍を溶く紫陽花を描くその藍を 竹下しづの女句文集 昭和十一年
藍を生み立春の雨夜をあがる 上村占魚 『天上の宴』
藍を着し子とゐる星の契りかな 秋山幹生
藍を蒔く日なり燕の来る日なり 宮崎寒水
藍上布女ざかりは眼がすわる 橋本夜叉
藍二尺織りて筬止む余花の雨 橘美寿穂
藍倉の陰に入りたる秋の水 桂信子
藍凝つて銀を生ずる鰹かな 松根東洋城「渋柿句集」
藍刈は小唄も出でぬあつさ哉 藍刈る 正岡子規
藍刈やこゝも故郷に似たる哉 藍刈る 正岡子規
藍刈や一里四方に木も見えす 藍刈る 正岡子規
藍刈や阿波の鳴門に波もなし 藍刈る 正岡子規
藍刈るや三番藍も育ち初め 大森扶起子「かつらぎ選集」
藍刈るや誰が行末の紺しぼり 藍刈る 正岡子規
藍匂ふテーブルクロス冷奴 一条悠子
藍匂ふ村の工房水引草 小泉志げ子
藍咲くや橋流れしは二タ昔 友岡子郷
藍問屋廃れし町の種物屋 上崎暮潮
藍嘗めて消えし魚毒や秋の風 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
藍壷にきれを失ふ寒さかな 内藤丈草
藍壷に泥落したる燕かな 正岡子規
藍壷に絞る藍汁花ぐもり 堀内雄之
藍壺にきれを失ふ寒さかな 丈草
藍壺に寝せある布や明易き 柑子句集 籾山柑子
藍壺をややあたたむる夜寒かな 水田正秀
藍布一反かなかな山からとりに来る 飯島晴子
藍干や一筋あけてはいり口 藍干 正岡子規
藍建ての一甕一華染始 景山みどり
藍微塵みそらのいろと誰が言ひし 深谷雄大
藍微塵遠き師の恋歌の恋 石原八束 断腸花
藍搗くやふつふつ思いふくらませ 桜井つばな
藍染に灯までも青き朧かな 高田菲路
藍染のさび出る時は山冷えて 佐川初江
藍染の二階も格子牡丹雪 山本洋子
藍染の小店暖房きき過ぎる 金丸直治
藍染の掛竹匂ふ神無月 桂樟蹊子
藍染の甕に闇張る去年今年 三田きえ子
藍染の蝶の飛びたつ月の秀 渕 万寿子
藍染の釜に水張る葉月かな 大信田梢月
藍染めし手を秋嶽にかざすなり 萩原麦草 麦嵐
藍染めて女婿がゐる框かな 萩原麦草 麦嵐
藍染めの布はてしれず秋の風 平井照敏 天上大風
藍染めの藍は愛なり秋ふかし 木村敏男
藍染める終始春寒時計の音 山本洋子
藍染めを着たる母娘に花の舞ふ 沢田とよ子
藍染や花野すぎゆく日照雨 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
藍染を干す朝顔の近くまで 田中信義
藍植うや孀(やもめ)ながらも一長者 吉岡禅寺洞
藍植ゆる藍植ゆるこころ藍なるかな 冬の土宮林菫哉
藍水に染まりてそだつ菖蒲の芽 岡安迷子
藍汁のしみ加減見て染初 山岸修
藍汁の底色に流れ小春川 内田百間
藍浴衣つひぞまとはぬ加齢かな 小枝秀穂女
藍浴衣ぱりつと乾く会者定離 木谷はるか
藍浴衣ひとにとどめの命あり 神尾久美子(白露)
藍浴衣出合い頭を匂ひけり 長田友子
藍浴衣夜風自在に家通る 桂信子 花寂び 以後
藍浴衣着るとき肌にうつりけり 日野草城
藍深きピアスを挿すも雁の頃 鈴木 まゆ
藍深き玄海の濤飛魚とぶ 小原菁々子
藍深く御魂鎮めよ秋の潮 林翔 和紙
藍深しこの春寒を跳ばんとす 和田悟朗
藍溶いてはげしき甕となりにけり 萩原麦草 麦嵐
藍溶いて少し日のある時雨かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
藍滲む宮古上布の砧盤 飯島晴子
藍玉の沸(た)つが如きか人恋うは 折笠美秋 君なら蝶に
藍玉の立方体の朧かな 伊藤いと子
藍玉の藍とはちがふ濃あぢさゐ 後藤夜半 底紅
藍玉の重きは石と異ならず 森田峠(かつらぎ)
藍瓶か母か夏灯にうづくまる 下元由紀
藍瓶に鼠ちょろつく寒さ哉 幸田露伴 江東集
藍甕にひゞきわたれり鵙のこゑ 瀧澤伊代次
藍甕に染り泛べる木の葉かな 岡安迷子
藍甕に焚く温め火や去年今年 渡会 昌広
藍甕に蓋して二百十日過ぐ 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
藍甕に藍沸く無明芥子の花 上野さち子
藍甕に藍眠らせて年移る 丸山哲郎
藍甕のつぶやくごとし烏貝 新村千博
藍甕のとろり眠たき花曇 村西徳子
藍甕の十三美濃に時雨来る 鈴木喜美恵
藍甕の口ならびいる今朝の秋 佐藤みさご
藍甕の底吹いて止む山の風 萩原麦草 麦嵐
藍甕の春のつぶやき手に伝う 杉浦静香
藍甕の機嫌がよくて紫苑晴 平井洋子
藍甕の深さ一丈火取虫 藤田あけ烏 赤松
藍甕の満々たるへ松飾 鈴木鷹夫 渚通り
藍甕の藍にはじまる秋思かな 市村究一郎
藍甕の藍に参らす暑気払ひ 谷崎和布刈男
藍甕の藍のつぶやく夜半の春 溝渕徳子
藍甕の藍の月日の天の川 九鬼あきゑ
藍甕の藍をおもうて蘇生せり 大西泰世
藍甕の齢の長し染始 山岸修
藍生きて冬日の布に染み憑きぬ 柴田白葉女 遠い橋
藍畑よりつぎつぎに揚雲雀 黒田杏子 花下草上
藍絶えて藍に染みたるしぐれかな 安東次男 昨
藍縮家居落ち着くこころあり 森澄雄
藍美しき秋扇とて手ばなさず 柴田白葉女
藍色になりゆく屋上岐阜提灯 阿部みどり女
藍色に溺れ秋意の山の湖 河野南畦 湖の森
藍色の水盤なれば母の家 宮崎夕美(魚座)
藍色の海の上なり須磨の月 正岡子規
藍花やをんな一途な束ね髪 保坂知加子
藍苗を育て十郎兵衛屋敷かな 溝淵徳子
藍苗引く一と握りにあまれば束ね 冬の土宮林菫哉
藍若く甕に泡立つ春彼岸 棚山波朗
藍茂り初めし濃みどり薄みどり 上崎暮潮
藍茸のにほひかなしきけんちん汁 7土師清二
藍華に言葉をかけて秋の女 椎橋清翠
藍華の呟き続く去年今年 由木みのる
藍華を咲かせ紺屋に幟立つ 三輪陽子
藍蒔くや四国二郎の豊饒地 松原射石
藍蓄めて潤目鰯も枯れいそぐ 稲島帚木
藍蔵のなか何もなき涼しさよ 長谷川櫂 天球
藍蔵の壷木枯を聴いてをり 杉浦典子
藍蔵の崩れしままや柿若葉 樫本春星
藍蔵の陰をしづかに流し三味 西本一都 景色
藍藍と五月の穂高雲をいづ 飯田蛇笏
藍褪せし衣更へても母亡かり 石川桂郎 高蘆
藍関へ二三騎いそぐ吹雪哉 寺田寅彦
藩札の藍の手ずれや雁の秋 芥川龍之介
蛤を買ひえて空の藍ゆたか 渡邊水巴 富士
蛸突きの魚藍かげろへり汐干岩 石塚友二 光塵
蛾の白さのみを許して藍染場 加倉井秋を
蜘蛛の糸垂る藍壺にとどくまで 品川鈴子
蟋蟀が跳ぶ藍甕に藍満ちて 渡邉秋男
行く春の二藍の衣酒しみたり 行く春 正岡子規
行春や藍絵に受胎告知の図 水原秋櫻子
裸子に甚平著せよ紅藍の花 高浜虚子
見染め咲く阿波藍花に山の翳 河野多希女
親よりの藍落ちつきし江戸浴衣 井田半三
誕生を待つ揺藍に囀れる 山田弘子 こぶし坂
谷川は藍より青しむら紅葉 紅葉 正岡子規
豆刈つて洞爺の湖の藍深む 竹中恭子
越前へ送る藍玉二十俵 宮崎寒水
足柄はあした濃き藍花瓢 中戸川朝人 尋声
踏台の足首ほそき藍浴衣 橋本榮治 越在
身ほとりに父在るごとし藍縮 平賀扶人「風知草」
身を投げてみせよと水平線の藍 鎌倉佐弓 天窓から
軍鶏の羽に藍ただよへり落熟柿 桂樟蹊子
迷子居や一輪挿に藍の花 為成菖蒲園
送行の荷に藍染をせし一句 串上 青蓑
逢へどもう藍の羅応へなし 野澤節子 『八朶集』
邯鄲や山河を藍に刺身皿 望月百代
重著や土間やはらかき藍染屋 古舘曹人 樹下石上
野に落つる日の大きさよ藍の花 上崎暮潮
野位牌に空の藍垂る矢車草 文挟夫佐恵 遠い橋
金縷梅や藍をいたはる藍染師 古賀寿代
長かりし梅雨に分かれむ常濡れて藍の匂ひしあぢさゐ終る 初井しづ枝
門松や藍師の青き石畳 藤江駿吉
闘鶏図双巒を藍に描きけり 野村喜舟 小石川
阿夫利嶺の藍の濃き日や田草取 尾崎迷堂
阿波の国藍園村は藍を刈る 美馬風史
阿波の地に流れし歴史藍の花 上崎暮潮
阿波初冬有髪庵主の藍ばなし 田坂光甫
阿波十郎兵衛宅の藍甕葉鶏頭 瀧 春一
阿波平野をとこの腰の藍植うる 今田清照
阿波藍の甚平なじむ喜雨亭忌 岡田貞峰(馬酔木)
難波宮跡の一隅藍微塵 福原実砂
雨雲の切れ間の藍や初嵐 野村喜舟
雪の富士に藍いくすぢや橡咲いて 渡辺水巴 白日
雪催結城の藍のたたき染め 岩崎眉乃
雪原の藍の彼方の吾子七夜 堀口星眠 営巣期
雪嶺の白銀翳り藍に染む 粟津松彩子
雪虫や連山藍を重ね合ふ 菅原多つを
雪近し餓鬼田は千の藍湛へ 白澤よし子
雲の峯藍ふかくなる夕かな 田川飛旅子 花文字
雹うつて摩周湖の藍かげりくる 石原八束 空の渚
霊の峯藍ふかくなる夕かな 田川飛旅子
霜晴れの藍の天より瀧の束 佐川広治
霜月の奥処や藍の深ねむり 斎藤梅子
霞ム夜や藍屋の匂ひ野べにある 松瀬青々
霞被て柳の魚藍見に行かむ 綾部仁喜 樸簡
霧氷林樹氷林藍憂愁林 黒田杏子 花下草上
露草のこゝらはうすき藍の色 河野静雲 閻魔
露草や藍大尽の太柱 高井北杜
霽雲に富士は藍青ひばりなく 飯田蛇笏 春蘭
青竹が搾る藍糸木の芽晴 浅場英彦
青蛙藍の葉の暮呼び色に 内田百間
青鷺の藍こくなれば吹かれをり 角川照子
風あてて夫が形見の藍縮 石田あき子
飯蛸の一かたまりや皿の藍 夏目漱石 明治四十一年
髪を梳く夏湖の藍がおびただし 古舘曹人 能登の蛙
鮎鮓に染付の藍匂ふかな 田阪笑子
鯊釣りに一天の藍しづかなり 小川敏子
鰻食ふ藍ひといろに山迫り 広瀬直人
鱈割女波かさなりて藍ふかし 角川源義
鳥雲に藍馴らしゐる藍染師 神尾久美子
鳳作の碧海宮古藍上布 文挟夫佐恵
鴨引いて山湖は藍をふかめけり 福原ふじこ
鴬の声を染めけり藍ばたけ 浜田酒堂
鵙日和ふくらんできし藍の泡 清水教子
鷹の尾の天より藍を引ききたり 栗生純夫 科野路
鷹現れて三陸の海藍を増す 佐々木茂子
麦も蚕も藍の葉もここで納屋の柱が痩せて支えているふるさと 橋本夢道 無禮なる妻抄
麦秋や藍の寝床といふを見る 瀧澤伊代次
黄落や藍を塗り足す峡の空 吉野トシ子
●藍染 
冬の灯のゆらぐ藍染夢は夏ヘ 加藤知世子 花寂び
夕蝉や藍染釜に火を育て 加倉井秋を 『隠愛』
愛染明王祀りて涼し藍染場 大熊輝一 土の香
掌に藍染込で夜寒哉 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
梅雨嵐藍染に身をつつみゐて 野澤節子 黄 炎
江戸前の藍染幟菖蒲市 伊東宏晃
空襲忌太眉くもり藍染師 石川貞夫
藍染に灯までも青き朧かな 高田菲路
藍染のさび出る時は山冷えて 佐川初江
藍染の二階も格子牡丹雪 山本洋子
藍染の小店暖房きき過ぎる 金丸直治
藍染の掛竹匂ふ神無月 桂樟蹊子
藍染の甕に闇張る去年今年 三田きえ子
藍染の蝶の飛びたつ月の秀 渕 万寿子
藍染の釜に水張る葉月かな 大信田梢月
藍染や花野すぎゆく日照雨 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
藍染を干す朝顔の近くまで 田中信義
蛾の白さのみを許して藍染場 加倉井秋を
送行の荷に藍染をせし一句 串上 青蓑
重著や土間やはらかき藍染屋 古舘曹人 樹下石上
金縷梅や藍をいたはる藍染師 古賀寿代
鳥雲に藍馴らしゐる藍染師 神尾久美子
●青 
*きささげの青にはじまる夏休み 川崎展宏
*はまなすの実の青と赤能登が見ゆ 和知喜八
*ひつじ田や小草も萌えて真ッ青に 西山泊雲 泊雲句集
あしかびの青のひといろ風いでし 長谷川双魚 風形
あじさゐの花の内部の青淵にしばし泊てゐむ旅ゆくみづは 高野公彦
あめつちの中に青める蚕種かな 銀漢 吉岡禅寺洞
あら青の柳の糸や水の流れ 上島鬼貫
いつしかに五色団扇も青ひとつ 福田蓼汀 山火
いつ仆れても満月の青世界 間立素秋
いぬふぐり青も乾坤蔵す色 坂井建
いもうとと飛んでいるなり青荷物 阿部完市 にもつは絵馬
いもうとのかぞえる青百いくつかな 阿部完市 春日朝歌
おほぞらに青また充ちて蛇笏の忌 保住敬子
お袋が泣いて栄坊のお通夜になる青枝豆の莢 橋本夢道 無禮なる妻抄
お頂上顔青ざめて皆笑へり 中島月笠 月笠句集
かざしみて異なる青や龍の玉 中田剛 珠樹以後
かたまり灼けし雲の純粋青が透き 加藤秋邨 死の塔
かつてこの青鯉はえにしだであつた 阿部完市 軽のやまめ
かはせみの青に心を残しけり 岡村寿美
かはせみ飛び残しし青を人と見し 細見綾子
からすからす保母のてのひら青暮色 松田 進
からすはキリスト青の彼方に煙る 阪口涯子
がららんと寂び後生車青日照雨 文挟夫佐恵 雨 月
きぬずれのごときを残し青太将 片山由美子 風待月
ぎす暑し青三方原歩かれず 羽公
けぶりつつ西湖を抱く青樹海 加藤耕子
けもの等の眼に青炎の月の罠 井沢正江 湖の伝説以後
げんげ田は風匍ひ止みて青は青 池内友次郎 結婚まで
ことごとく青折鶴の葱畑 福田蓼汀 秋風挽歌
この窓は海がちよつぴり青へちま 細川加賀 生身魂
さきがけて泳ぐ太陽青筑波 原裕 葦牙
さみだれや青柴積める軒の下 芥川龍之介「澄江堂句集」
ざざざざと砂を天降らせ麦の青 栗生純夫 科野路
すみれ咲く更地に青図描きけり 石井孝子
せせらぎに戯るる陽や青マロン 林翔 和紙
そよぎだす早苗田の青昼鏡 桂信子 遠い橋
そらの青瞳にためて又紙を漉く きくちつねこ
そら豆のもう咲いてゐる青入江 高澤良一 ねずみのこまくら
そら豆の花咲き空が青過ぎる 菖蒲あや
それ青陽のねぱーるのまんなか小字 阿部完市 軽のやまめ
ただようてゐし初夢の青の中 恩賀とみ子
たわたわと雪の峠の青鴉 野澤節子 『八朶集』
ちちははの恩波なまめく青によろり 加藤郁乎
ちちははの魂の青杜柞杜 加倉井秋を 『武蔵野抄』
ぢりぢりと荒魂這ふ青の夏 片山桃史 北方兵團
つぐみつぐみ死ぬほどの青知らないか 仁藤さくら
ととのはぬ青にはじまる盆の市 長谷川双魚 『ひとつとや』
とんぼ生る青にはじまる水明り 櫛原希伊子
なけなしの青を削つてゆく燕 櫂未知子 蒙古斑
なつかしや柚子湯は熱く青文身 石川桂郎 含羞
なべて低き蝶登呂生れ登呂青ち 平井さち子 完流
なめくぢの意の茫々と青世界 奥坂まや
にぶく光る青蝶貝も炉の名残り 伊藤敬子
ぬかづけばうなづく水仙青蕾 中戸川朝人 残心
ぬかるみのいつか青める春日かな 木歩句集 富田木歩、新井聲風編
のこぎり草揺れて疾駆す青目猫 加藤楸邨
はつ冬や萬年青の銘の翁丸 久保田万太郎 流寓抄以後
はまなすが沈む湖底へ青の層 加藤秋邨 死の塔
ひかりみな湖にひそみて梅の青 鷲谷七菜子 花寂び
ひぐらしや高嶺落ちこむ青湯壺 秋元不死男
ひたと青蛾暁雲動きそめにけり 福田蓼汀 秋風挽歌
ひっそりと青胡椒生り加速の愛 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
ひつぢ田の青の揃ひぬ病み抜けし 辻本保喬
ひもすがら青でありたる雨蛙 柿本多映
ひるがへるのみとはいへど青はちす 三好達治 路上百句
ひろがりひろがる青の信号だらけの海 阿部完市 絵本の空
ぴちぴちとくわりん青実に雨跳ねて 高澤良一 ももすずめ
ふすまなめらかにあき物言い青墓町 阿部完市 軽のやまめ
べつたら市青女房の髪匂ふ 村山古郷
ほたるぶくろかこめる茅の青とばり 堀口星眠 営巣期
またたびの青実おまけの一掴み 高澤良一 素抱
またたびを喰らふ青鬚越後人 沢木欣一
まだ青の領域にして初紅葉 藤崎久を
みちのくの旅の灯に透く青すいと 鷹羽狩行
みちのくは淋し春山青めども 村山古郷
むきだしの命はねたり青がえる 小沢昭一
めしつぶに来て鶯の青光り 小島千架子
めし粒や青炎の谿を濁流ゆく 赤城さかえ
もぎとつて中まで熱き青すもも 長塚京子
ものおもふには広すぎる青大樹 吉田紫乃
やどり木の青のまつたき厄日かな 三田きえ子
ゆふぐれの枇杷を仰ぎて青ざめし 中田剛 珠樹
ゆめも青うつつも青や渡り鳥 かもめ
アカデミの学の青ざめゆく世なり 井上白文地
イヤリング重たき青の晩夏かな 原コウ子
エリカ咲き海青すぎて風荒ぶ 高橋雪江
カクテルの青に酔ひしや十二月 小林芳美
カッパ淵杉菜の青を流しけり 高澤良一 宿好
ガラスの空からもらった色の 青罌粟咲く 伊丹公子 機内楽
ガラス絵の空は五月かまこと青 文挟夫佐恵 黄 瀬
キャンプの色を青過ぎると思ふ齢 加倉井秋を 午後の窓
クラッカー塩からし直江津の海薄青 阿部完市 無帽
ゴムの木が青洟たらす霊安室 中村 和弘
サイダー瓶全山の青透き通る 三好閏子
サロメ忌の鳩尾うつす青鏡 大屋達治 繍鸞
サングラスピカソの青にしてしまう 中野貴美子
サングラス本当の青が見えない 若木はるか
シグナルの青を夜の目雪国ヘ 野澤節子 花 季
シグナルの青美しき桜どき 上原花宵
シャガールの青闇・真闇・蛇・女体 小檜山繁子
シャガールの青馬翔ける遠花火 文挟夫佐恵 雨 月
シャガールの馬の眸夜明けの青はまだ 岩間民子
シヤガールの青の晩夏も終りけり 粟津松彩子
シリウスの青眼ひたと薬喰 上田五千石 森林
ジーパンの青濃く濡らし馬冷す 宮原嶺司
スケート場海光の青の窓を嵌め 石田波郷
セロリ噛む青の時代のピカソ見て 岡田幸子
タワー赤冬空の青引き上げて 稲畑汀子
ナイターの芝の青肌堪能す 河野南畦 『風の岬』
バンツァン湖の 約束の青 移住家族 伊丹公子 アーギライト
ヒマラヤの青芥子ひらく難波の地 福田甲子雄
ピーマンの青を小脇に癒えゆく身 赤城さかえ句集
ベルトひびかぬ一と時を空の碧草の青 原田種茅 径
ライターの青火寒鯉水に澄む 三谷昭 獣身
ラジオのわが声つまずく真昼の青レモン 寺田京子 日の鷹
一天に深浅の青雁わたし 八牧美喜子
一山の青の太息朴ひらく 村田まさ子
一月の音にはたらく青箒 能村登四郎 民話
一本の赤一本の青冷し麦 田村了咲
一歩入り一歩の深さ青仇野 加倉井秋を 『風祝』
一湾をよぎるカッター青檸檬 池内けい吾
一瞬の青はまぼろし夜光虫 志摩知子「風の精」
一茶嫌ひを少し訂正青槐 山田みづえ 草譜以後
一茶忌や我も母なく青ちたる 上村占魚 鮎
七日粥一微の青をすくひをり 中村石秋
万機光陰ヲ脱スベシ 青猫ノ受胎 夏石番矢 真空律
万緑や地より剥がせし青目石 西本一都 景色
三山と見れば手招く青羽黒 手塚美佐 昔の香
三角のグラスに青子海を想ふ 篠原鳳作 海の旅
不明機とぶ青ズボンの裾膨れ 赤尾兜子
中年の逢瀬を覗く青とかげ 前山松花
丹頂来る初空の青淡きより 村田脩
主婦たちに青唐黍の蔭たのし 瀧春一 菜園
九頭竜上流青ふかまりて螢の宿 金子兜太
乳房重し杉の秀炎えの青鞍馬 河野多希女 納め髪
二日はや青三日月に塵もなし 原コウ子
二番蚕のねむりに入るや青ぐもり 太田蓁樹
二荒山淵青ざめて芽吹き急 館岡沙緻
五月乙女の笠の咫尺に青朝日 竹下しづの女句文集 昭和二十三年
五月乙女の笠昏きまで青朝日 竹下しづの女句文集 昭和二十三年
五色饅頭青は色濃き春の風 久米正雄 返り花
五重塔ほとりこほりて草の青 中田剛 珠樹以後
亡夫が焼ける生涯の終りに青火を吐いて 白旗雲生
人 の 声 し て 山 の 青 さ よ 山頭火
人こそこそと青味がぬけし林かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
人を恋ふ五月の青に溺れけり 豊田康子
人待てば鏡冴ゆなり青落葉 横光利一
人焼くや飛騨の青谷蝉が充ち 加藤楸邨
人造湖の青へ声あげ一日旅 北原志満子
今年竹紛れ入るには青すぎて 野見山ひふみ
仏壇に実梅の青の十ばかり 毛呂刀太郎
伊予石に青一流れ師亡き秋 川崎慶子
伊吹よりいなびかりせり青輪中 近藤一鴻
伊賀口は青の濃くなる竹の春 佐藤鬼房
伸び過ぎてそろはぬ要冬青(かなめ)蝶がもつれて 北原白秋
何が棲む湖 カラーリストに無い青 充ち 伊丹公子 メキシコ貝
何沈み青淵といふ祭笛 田中裕明 花間一壺
余り苗育ち四万十川青世界 伊藤いと子
作り手にのせ青無垢の春メロン 百合山羽公 寒雁
俎板に寒し薺の青雫 此筋 正 月 月別句集「韻塞」
信号の青つぎも青夕時雨 清水 崑
信号青冬至の人の群うごく 川崎展宏
信号青渡るよ夏蝶まつ先に 三輪静子
信州の気の鬱として青ぐるみ 川崎展宏
俯伏せの霧夜の遊行青ざめて 金子兜太
倒産の眼もて暖房器の青火 三谷昭 獣身
備の国は国あげて藺田青靡き 村上冬燕
傾きて麦生の青や淵の上 金子伊昔紅
光る泥足が青ぐさを踏みしだく 松村蒼石 雪
入墨も余生の薄さ露青光 林翔 和紙
入梅や紫かけし青紫陽花 鈴木花蓑句集
六月や出土古陶片青失せず 岡部六弥太
六月や汗衫(かざみ)をぬぎし青女房 筑紫磐井 野干
内裏雛青人草を見そなはす 小野ト道
円屋根の緑青噴きぬ半夏生 吉田愛子
冬ざるる緑青を吹く地獄門 斎藤喜信
冬ざれや青味帯びゐる鷲の嘴 中川宋淵 詩龕
冬に死す青絵の皿に舟と波 宇佐美魚目 秋収冬蔵
冬の旅孟宗竹の青に沿ひ 猪俣千代子 堆 朱
冬の水著莪の葉むらの青照りに 瀧春一
冬天の無縫の青を遺さるる 嶋田麻紀
冬天の青に湧き顕つグレコの街 文挟夫佐恵 雨 月
冬枯にうら紫の萬年青哉 冬枯 正岡子規
冬枯やまだ頼みある青筑波 冬枯 正岡子規
冬滝の天ぽつかりと青を見す 橋本多佳子
冬空の青一枚を遺書とする 桜木美保子
冬銀河畑菜の青を感じつつ 佐野良太 樫
冷まじき青一天に明けにけり 五千石
冷やかに青める玻璃の器かな 上村占魚 鮎
出盛りの青アスパラは小買ひして 鈴木真砂女 夕螢
刀打つ鎚の谺す青吉野 品川鈴子
刀身の青白くあり薬降る 金子正昭(夏爐)
切々と葦の青める燕かな 石田勝彦 秋興
切り口の青味を帯びて新豆腐 勝田澄恵
切支丹寺の蘇鉄の青とかげ 石原八束 空の渚
初しぐれ松ぼつくりの青鎧 藤田あけ烏 赤松
初凪の青を違へて空と海 今橋眞理子
初刷の表紙の青を船あまた 山田弘子
初嵐青燈消えんとすあまたゝび 寺田寅彦
初漁や海境の青一文字 木内彰志
初空や北斎の青写楽の朱 秦夕美
初雪の見事に降れり萬年青の実 村上鬼城
初鴨の青置き湖水よみがへる きくちつねこ
刻々と雉子歩むただ青の中 中村草田男
前庭や青マルメロの一落果 北野民夫
力出すこと蝉のこゑ青水輪 大木あまり 山の夢
動物園上空の青寒気団 今井 聖
勾玉のはだらの青に春立ちぬ 龍男
北に凶作納豆の苞青残る 野沢節子
北上の楊青める頃の旅 高澤良一 宿好
北京春雷青猫の奪われし 山本掌
北陸の星青すぎるビヤガーデン 秋沢猛
十一月は青微光なし越前の蟹の雌雄も食はれてしまふ 鈴木春江
十一騎の十一本の柳青める 阿部完市 純白諸事
十六夜の青に染まりし男運 栗林千津
千尋の渓を見下ろす青ぐるみ 小俣由とり
千年の杉のこゑ棲む青高野 豊長みのる
卒業の大靴ずかと青荒地 西東三鬼
南 国 の こ の 早 熟 の 青 貝 よ 富澤赤黄男
南国のこの早熟な青貝よ 富澤赤黄男(1902-62)
南風や面面授受の青巌 中戸川朝人 残心
単葉機揺るアマゾンの青樹海 品川鈴子
単衣着の襟の青滋にこゝろあり 飯田蛇笏 霊芝
口柴に榊の青枝炭俵 茨木和生 遠つ川
古久谷の青にかなひし蕪ずし 高島筍雄
古枝にそひて青枝枝垂梅 後藤夜半
可も不可もなき白桔梗青桔梗 斎藤玄 雁道
吉野初瀬青妙成らん衣がへ 調鶴 選集「板東太郎」
向きをたがへて青淵のねむり鴨 三田きえ子
向き向きに青の散兵雨蛙 森 白樹
君ら漕ぐボートすべてが青の中 高桑弘夫
和布刈火に禰宜持つ鎌の青光り 池松幾生
咳き入ると見えしが青子詩を得たり 篠原鳳作
咳けば青僧良寛応へんや(岡山県水島円通寺は若き良寛修行の地) 角川源義 『神々の宴』
喪ごころや水面明りに青*かりん 館岡沙緻
噴水の青ざめてゐるひとところ 小松和子
噴煙や地に熟れ朱欒青朱欒 山田みづえ 草譜以後
国栖青原神武綏靖みな言える 渋谷道
土筆打ちたたき出したる青煙 高澤良一 燕音
土蜂の恋の唸りの青鞍馬 殿村菟絲子 『樹下』
土語さざめく空が青増す濤に炎え 河野南畦 湖の森
地を掃きて立てて太しき青茅の輪 後藤夜半 底紅
地下街の日暮混み合ふ青目刺 神崎 忠
地靄たつ青なんばんの名残り花 飯田蛇笏 霊芝
埋火や青墓道の一軒家 正岡子規
執すれば空の青すら冬の雁 斎藤玄 雁道
基地八方いぶるほかなし青目刺 磯貝碧蹄館 握手
塩田夫日焼け極まり青ざめぬ 沢木欣一 塩田
塩田夫陽焼け極まり青ざめぬ 沢木欣一
墓標かなし青鉛筆をなめて書く 鈴木六林男 荒天
墓過ぎて葱畑の青現身に 細見綾子
墓銘かなし青鉛筆をなめて書く 鈴木六林男
壺ひとつ夜もまっ青な田を越える 長内道子
夏の露やうやく豆の青実垂る 飯田蛇笏 雪峡
夏めきて雲間の青のときめけり 古閑純子
夏山や来し方曲る青水沫 下村槐太 天涯
夏星の座の組み変はる青氷河 小澤克己
夏来たる市井無頼の青眼鏡 佐藤雅男
夏果つる冬青の灯に聴く通り雨 宮武寒々 朱卓
夏潮の青が青生む楸邨忌 松田淳子
夏雲や青墓の出の白拍子 宇佐美魚目 天地存問
夕凍みに青ざめならぶ雪の嶺 相馬遷子 山国
夕月のいろの香を出す青胡瓜 飯田龍太
夕空の青一枚を鶴の引く 木内怜子
夕空は青とり戻し春隣 深見けん二
夕霧わたる青げじげじと家へ 阿部完市 春日朝歌
多羅葉の青実夏めく吉備路かな 藤田美代子
夜の底は緑青の淵寒牡丹 塚本邦雄 甘露
夜を荒れて海の青濃し鑑真忌 伊藤京子
夜叉五倍子の青実南風にごっつんこ 高澤良一 燕音
夜明けつつ青麻畑の高さかな 草間時彦
夜桜に青侍が音頭かな 高井几董
大夕焼鯛眼上に青一抹 香西照雄 対話
大山の青を巻きたる落し文 百瀬美津
大年の青瞬かすカシオペア 山田みづえ 草譜
大比叡の青ぶところの石に坐す 右城暮石 上下
大空の青艶にして流れ星 高浜虚子
大粒となりて雨止む青目刺 松本文子
大鯉の玉顔青冬の大利根の 阿部完市 春日朝歌
大麻や青煤笹を一と祓ひ 後藤夜半 底紅
天の青にまじらで高き紫苑かな 徳永夏川女
天を青水を藍とし先帝祭 丸山海道
天姥おりくるかけはしの青すずし 佐藤鬼房 地楡
天心の青迅からむ雁渡 平井照敏 天上大風
天窓の下に蕨の青揃ふ 羽部洞然
天高しシヤガールの絵の青よりも 稲畑汀子 汀子第二句集
太々と神楽青谿人聚め 加倉井秋を 『真名井』
太陽の出でて没るまで青岬 山口誓子 方位
女医の君青猫めづる冬来る 飯田蛇笏 霊芝
女等青ざめ乳牛はぐくむ森の傍(そば) 金子兜太
奸日や鴨の青頸日に光り 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
如月の青の奔流ヴィヴァルディ 原田喬
妻ありき筍の青水に浸り 成田千空 地霊
妻ごめの青山の青どこより萎ゆ 加倉井秋を
妻と家守る雨の葉蔭の枇杷青実 古沢太穂 古沢太穂句集
妻に裏が広い柿の木をはなれ青黍 梅林句屑 喜谷六花
姉弟青のみどろに入りゆけり 高澤晶子
威勢よく獣医爪切る青だたみ 佐川広治
子とかじる青はしばみよ岩山に 佐藤鬼房
子鴉に牛の背不思議な青大地 篠田悦子
孕猫来て青闇のこゑを出す 裕
孟蘭盆具売場一角青世界 鈴木昭一
学院は五月の空に窓枠青 福田蓼汀 山火
宋硯の青やむらさき更衣 加藤知世子 花 季
実盛の塚に飛びつく青ばつた 竹中恭子
寄居虫とピカソの青を持ちて来し 内藤ちよみ
寒の空ものの極みは青なるか 細見綾子
寒潮に向かいおとこの青拳 松田ひろむ
寒潮をくぐりて鵜の眼青深む 星野恒彦
寒濤の捲き込む青や逆光裡 永井龍男
寒禽の鶸の青餌を野にさぐる 森川暁水 淀
寒禽を青餌飼しつ喪のこもり 森川暁水 淀
対岸の青葭原へ渡し舟 松吉良信
少年ありピカソの青の中に病む 三橋敏雄
少年の日より青赤槇の実は 百合山羽公 寒雁
尾白鷲棲みつくに海青過ぎぬ 長沼三津夫
山吹の青茎の一列のつぼみ 滝井孝作 浮寝鳥
山坂の大根の青中学生 中拓夫 愛鷹
山彦のはきはきとして青吉野 大石悦子 聞香
山桜青淵に舟すべらせて 長谷川櫂 虚空
山梔子の花青ざめて葉籠れる 木村滄雨
山椒喰野の青霧に声あらた 太田 蓁樹
山神社土用の入の青箒 大峯あきら 鳥道
山葵田の彼方の水も青世界 鈴木鷹夫 渚通り
山裾をせりあがりゆく青棚田 塩川雄三
山鳩は子を呼びやまず青津軽 磯貝碧蹄館 握手
岬より基地生えてくる青とかげ 柴田康子
岬枯れ青を恥ぢらふ猫じやらし 大木あまり 山の夢
岬端は太初の青ぞキャンプの火 岩瀬 木蘭
岸の草青めり川はくろぐろと 石塚友二
崖殺げて昼も青女の裾のさま 下村槐太 天涯
川の青水煮ていて切に生死なり 阿部完市 春日朝歌
巡礼はまぼろしか棲み青秩父 河野多希女 両手は湖
巫女の舞ふ鈴の音とほる青茅の輪 池田博子
巻機山の立つ秋冷の青紵織る 下田稔
帆走の何処へ亡父青曇る 杉本雷造
師が詠みしえごも青実やふり仰ぐ 皆川白陀
師走街ゴーストップの今は青 高木晴子 晴居
帰省子にトマトの青も門辺なる 岸 風三楼
常磐木の青まさる日の涅槃講 高澤良一 随笑
常節か青の小貝か磯の月 服部嵐雪
年の市青〆縄のにほひたつ 石川桂郎 高蘆
年の火の大仏さまは青白き 斎藤夏風
幻想にありて煖炉の炎青 上野泰 佐介
幾草山芳はしき青母と行く 野澤節子 黄 炎
広州一夜青傘と男歌とあり 阿部完市 軽のやまめ
広業寺紫みだれて青尼すむ 石原舟月 山鵲
庭にして青渋柿を忘れをり 石川桂郎 四温
廃船攻める青葛が沖奏でおり 赤城さかえ句集
弟は魚の青銀河さかのぼる 小檜山繁子
彗星の尾の青白き受難節 澤井益市郎
待つ朝の鏡にうつす青落葉 横光利一
律義なる郁子の青実とその葉叢 高澤良一 寒暑
御神前梅雨の青霧吹きとほす 石川桂郎 高蘆
御身拭跪座百僧の青つむり 大橋宵火
御霊水青すいつちよを踏みさうに 中山純子
忘るなと青やかな世に蟇出づる 文挟夫佐恵(俳句研究)
忘れたころの青ぞらのかなしみの幌 林田紀音夫
怒るほかなき蟷螂の青全身 加倉井秋を
思ふべし柳青まむことをのみ 林原耒井 蜩
急に北風たてり雨降嶺青ませて 川島彷徨子 榛の木
恋終りアスパラガスの青すぎる 神保千恵子
息白し極光の青噴き出でて 澤田緑生
悋気せむ青黛(まゆずみ)の蛇をとめ 筑紫磐井 婆伽梵
悪城の壁青の精気に吹き充てる 河野多希女 納め髪
愛は日常の埓の外なりつかのまを艶めきて消ゆ冬の青虹 道浦母都子
愛弟子がゐてみちのくは青の時 能村登四郎 寒九
慰霊碑は伊予の青石薺打つ 矢葺貞子
憲法記念日シヤガールの青まなかひに 貝谷妙子
我が思ふ孤峯顔出せ青を踏む 前田普羅 新訂普羅句集
戸口から青水な月の月夜哉 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
戸袋の青淵あかり大晦日 大峯あきら 鳥道
扉をあけて青赤のもの冷蔵庫 山口波津女 良人
手の中に水のにほひの青螢 黒田杏子 水の扉
投げる苗手を離れては青匂ひ 大熊輝一 土の香
掌に載せて綿虫の青淋しめる 大郷石秋
掌のかりん青の沸騰点に在り 小檜山繁子
揚ひばり青のかなたの空知川 石寒太 あるき神
摺り鉢に摺りこらすもの青月夜 成田千空 地霊
放牛に虹を二重の青麻山 渡辺古鏡
放生津波のほむらの青すいと 加藤楸邨
故郷遠し線路の上の青ガエル 寺山修司
教へ子の頭の青刈りや百合開く 冨田みのる
数の子や鰊もともと青ざかな 石塚友二
文鎮の青錆そだつ麦の秋 夕爾
斑猫につきゆけば青崖あらむ 平井照敏 天上大風
新月や青橘の影ぼふし 蓼太
新米の粒々青味わたりけり 耕二
旅鞄いだき会式の青比丘尼 江口竹亭
日の出一気に椿の丸芽青蕾 成田千空 地霊
日の色は黄色に青や茎立てる 高浜虚子
日日に徐徐に痩沼の鯰芹の青 橋本夢道 良妻愚母
日本海の青風桐の実を鳴らす 西東三鬼
日短かし青貝のごと河北潟 前田普羅 能登蒼し
日雀鳴くひねもす木曽の青の中 矢島渚男
早出みかんの青顔黄顔魂祭 中拓夫 愛鷹
早稲にまだ青味のはしる肥後の国 能村登四郎 幻山水
昃れば青顕つ山の今年竹 野澤節子 黄 炎
昆虫の虫ピン光る青そこひ 鈴木慶子
昇り蝶大群青の富士初夏 橋本夢道 『無類の妻』以後
明月の夜の湾に肌漬けて青ざめてゐた軍艦 藤田秋泉
明月や里の匂ひの青手柴 大津-木枝 俳諧撰集「有磯海」
昔提樹の青実こぼるる九品仏 内藤恵子
星月夜青星を子の魂とせん 福田蓼汀 秋風挽歌
春さめのふた日ふりしき背戸畑のねぎの青鉾並み立ちにけり 伊藤左千夫
春の雲君は青ざめて素通り 遠山郁好
春寒きとろ火の青を家の隅 池田澄子 たましいの話
春寒をやや青すぎるアイシャドウ 桜木俊晃
春愁や薬臭に似し青インク 土生重次
春行くや額にけぶる青黛 筑紫磐井 野干
春雲の紅ロザリオの青破片 原裕 葦牙
昧爽の青ねこじやらし露じやらし 山田みづえ
昼が青すぎて 進まぬ 入試問題集 伊丹公子 メキシコ貝
昼三日月シーボルト址の青朱欒 多田裕計
晩年の如くに垂れて青糸瓜 高橋悦男
晩熟の北の青貝赤黄男の忌 畠山弘
晴天にあやかり点青犬ふぐり 香西照雄 素心
暁や青に鞍置く露の背戸 寺田寅彦
暁紅に密生の藺の青を刈る 大野林火
暗さ嘆き山青風嘆き踊唄 加倉井秋を
曼珠沙華天のかぎりを青充たす 能村登四郎 民話
曼珠沙華終りて川の青ざめし 山田具代
曼珠沙華赤すぎる空青すぎる 稲岡 長
曽良寺に青銀杏を拾ひけり 山田初枝
月あれば谷底ひろし青僧侶 金子兜太 暗緑地誌
月の面にいぶく青炎秋に入る 飯田蛇笏 雪峡
月祀る青びかりして扇状地 廣瀬町子
月繊く青楡の森暮れにけり 日野草城
月見草青眉にふるる風ありて 鷲谷七菜子
有明の海青すぎる厄日前 遠藤若狭男
朝の膳雨過天晴の青信濃 穴井太 原郷樹林
朝の馬笑いころげる青坊主 金子兜太 詩經國風
朝一番の風の生れは青ざくろ 鳥居美智子
朝日子やここに青める冬の草 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
朝空を青一枚に朴の花 濱口秀村
朝霜や猶青臭き莖菜桶 朝霜 正岡子規
朝顔の青がもつとも聞き上手 山根延子
木木そつと旗と葉を出し青蘇州 阿部完市 純白諸事
木枯に水藍青の田二枚 相馬遷子 雪嶺
木蓮の花は落ちたる青芽哉 木蓮 正岡子規
木魚孕んだ青髯の偏頭痛 久保純夫 瑠璃薔薇館
朱鷺の目にはいま杉の青なだれをり 上野波翠
朴の青枝下されて飛騨の山彦 金子皆子
朴咲くや大空青を全開す 大岳水一路
朴鳴らす風のにはかに青露変 福田蓼汀 秋風挽歌
杉山のときに青炎走り梅雨 井沢正江
来し方に悔なき青を踏みにけり 安住敦
松茸食いたし故郷から来た青酢橘 橋本夢道 無類の妻
枇杷もぎし棹青蜘蛛のつたひたる 細見綾子 黄 炎
枕辺に青黄のみかんまどろめり 角川源義『西行の日』以後
林檎箱机に淡き青の日々 攝津幸彦 未刊句集
枝豆の青すぎはぐれこころかな 吉田紫乃
枝豆やふれてつめたき青絵皿 猿橋統流子
枯園に考へる人青錆びぬ 沢木欣一
柏原小学校の青氷柱 黒田杏子 水の扉
柳青めり水脈しづまれば青が去り 加藤楸邨
柾木枌ぐ青万霊の万のため 加倉井秋を
柿若葉青鯖売の通りけり 田中冬二 行人
栗の花降る地のあはし青鴉 石原八束 空の渚
栗鼠の死に青深みゆく秋摩周 文挟夫佐恵 黄 瀬
根を切つて載せあり石に青蕨 竹中宏 饕餮
桃咲くや一途に歩く青僧侶 穴井太 穴井太句集
桶に日の射し赤なまこ青なまこ 服部翠生
梅の実へ木賊や青をきはめたり 石川桂郎 高蘆
梅一枝青光りして寒に入る 山田みづえ 手甲
梅咲いて庭中に青鮫が来ている 金子兜太(1919-)
梅雨の荒れ過ぎし雨降りポポー青実 和知喜八 同齢
梨の実のつぶらな青実吉野せい 坂内佳禰
棕梠団扇丹机青帙白い鬚 会津八一
棗の木青実ここだく製麺所 高澤良一 素抱
棚経僧の青頭が宙にひかり過ぐ 石原舟月
椎の花青面金剛へ石を踏む 久米正雄 返り花
楊梅熟る青鬱然と札所寺 松崎鉄之介
楸邨や兜太の頭や青実梅 和知喜八 同齢
榧青実にほへる下の大祓 高澤良一 素抱
樟青実地べたに落ちて煌々と 高澤良一 寒暑
樹々の青淋漓と地には蟻走る 塚原夜潮
樹々の青照るに山繭も息づける 塚原夜潮
正常へこんなに重い青鉛筆 阿部完市 証
歪む夜の街七面鳥が青変す 柴田白葉女 花寂び 以後
歯固の美濃の青頸鴨なるよ 大石悦子 聞香
殉教の青強烈な額紫陽花 窪田丈耳
母と出て青粽など街にもなし 石川桂郎 含羞
気のすむまで髪ぐせ直す青とかげ 栗林千津
気まぐれな青雷につれてかれ 宮坂静生 春の鹿
水の音たかめて青根冬枯るる 石原八束 空の渚
水仙をとりまく青は歌ういろ 鎌倉佐弓 天窓から
水影に残雪の青定まりぬ 対馬康子 吾亦紅
水灌菜青鮮やかに浸し物 阿部[せい]人
汝が顔の青ざめて見ゆ芭蕉林 宮地恒子
汝は小犬青嘘のようにもう居ぬ 阿部完市 鶏論
池畔ゆき青萍の香にむせぶ 誓子
沖は青酢嶋崎霞めひらめ舟 露言 選集「板東太郎」
沖をゆく青鯨よりもなほ遠く日本はありて常にしうごく 川野里子
河原鶸青唐松の折れし秀に 木津柳芽
油虫かくまひ燈下の青瓜どち 香西照雄 対話
沼に生れし青とうすみを胸にとめ 林翔 和紙
沼底にわれを居竦め青冬日 羽部洞然
沼波の青沁むべしや施餓鬼幡 橋本多佳子
法然の聖青世界浸るべし 大橋敦子
波底より夏日の青のかへり来る 篠原 梵
泣き貌の石仏はやす萌えの青 河野南畦 湖の森
注連の藁すぐりて青のまさりけり 宮田正和
注連切つて青無垢の山開きけり 関森勝夫
流星やパリの古地図の青表紙 小澤克己
流氷を青と見白と見独り酒 石川桂郎 高蘆
浜木綿や青水脈とほく沖へ伸ぶ 山口草堂
浦上に青文字咲けり四旬節 築城百々平
浪音あかるく砂浜のまろみ青めり シヤツと雑草 栗林一石路
浮くことになつてから浮く青水母 市場基巳
浮寝どり日向の山の青ぶすま 角川源義
海に向き紫陽花の青深まれる 祐宗知子
海の青深まれば陸枯れ始む 西村和子 夏帽子
海の青滲む葉書に数行余り 林田紀音夫
海の青静かになりしサングラス 福神規子
海は海山はおのれの青をもて惑ふことなくつらなれる伊予 与謝野晶子
海も空も揺れやすき青燕くる 倉橋羊村
海坂や青斧かざす子かまきり 角川源義
海彦を悼めば南風の青岬 橋本榮治 麦生
海開まへに泳ぎし青パンツ 百合山羽公 寒雁
涼しさのことに青岸渡寺の鐘 片山由美子 天弓
淀殿青筋揚羽ゆらりと来 筑紫磐井 婆伽梵
深吉野の行者貌して青とかげ 佐川広治
深海の明るさに青網戸かな 上田五千石 琥珀
深青の牡丹見るべき目を瞑る 相生垣瓜人
深青の牡丹見るべく目を瞑る 瓜人
添へ干して青唐辛ありにけり 高濱虚子
渦潮に朝蝉の島青黒し 宮津昭彦
渦潮の曇天にして青奈落 上野さち子
渦潮の青を身に刷く桜鯛 内田雅子
温風や落ちてちひさき青柑子 銀漢 吉岡禅寺洞
湖の青弾きモーターボート飛ぶ 小松世史子
湖の青氷下魚の穴にきわまりぬ 斎藤玄
湖をわたり青日照雨ふる如泥臼 西本一都 景色
滝壺にすいこまれゆく青蛍 岩井久美恵
滝壺の青を藍とし雲はしる 桂信子 黄 瀬
滝見むと獄衣に似たる青を着て 鳥居おさむ
濠の月青バスに乗る河童かな 飯田蛇笏 霊芝
濡れて店先きの青唐がらしは清貧なり 橋本夢道 無禮なる妻抄
濤摶ち合ふ谺はけふも青岬 豊長みのる
火を入るゝお茶の青芽にのぼせけり 長谷川かな女 雨 月
火を焚くやひと青服の肩かしげ 細谷源二 鐵
炎暑来て著し明治の青表紙 原裕 葦牙
烏瓜粋な青縞装いて 高澤良一 寒暑
焙りもむ青のりの塵たち消ゆる 森川暁水
無言よし漬け茄子のつや青夕映 堀 葦男
無防備に赤子バンザイ青網戸 篠原朱美江(甘藍)
煤を掃く青楼昼の焚火かな 岡本松浜 白菊
照り降りの照りいま厳し青黍に 細川加賀
煮る前の青たうがらし手に久し 日野草城
煮わらびの淡煮の青を小鉢盛 木津 柳芽
熊の糞青光る野の寒さ哉 中川宋淵 詩龕
熱の中遠く遠くに青淡路 松本美紗子
熱風に麦なびく麦の青はげしき 日野草城
燈火親し吸取紙を青に替ゆ 近藤一鴻
父の日の遠き一樹の青ほむら 大木あまり 火球
爼板の鯉の青眼や寒旱り 河野南畦 湖の森
片しぐれして林中の青水輪 冨田みのる
片栗や自づとひらく空の青 加藤知世子 黄 炎
牡丹の芽青ざめながらほぐれけり 加藤三七子
牡蠣の宿青楼ちかく灯りけり 石原舟月 山鵲
犬の仔の青眼の睫杳かの薔薇 下村槐太 天涯
狐火見て梅雨の枕の青臭し 殿村莵絲子 牡 丹
猫の仔のあそべば冬青の葉をくはヘ 木津柳芽 白鷺抄
玄冬を緊めて美僧の青つむり 中村明子
玉体と青馬あらわれるは初夏なり 阿部完市 純白諸事
玉虫の青鉄仮面かぶりたる 上野澄江
玉蟲の青まさりしを放生會 筑紫磐井 野干
瓜売が青にまみれて直立す 九鬼あきゑ
甘酒青白禽獣をかぞえはじめる 阿部完市 軽のやまめ
生出づる麦を青女のはだへかな 才麿
田を植ゑてしばらく羽後は青白き 斎藤夏風(屋根)
田楽の青串こげて瑠璃のこゑ 角川照子
男ゐて虻に好かるる青信濃 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
畑中や接穂青める土の上 飯田蛇笏 山廬集
畳屋の青女房を裏返す 仁平勝 東京物語
病みぬきし二月底抜け空の青 稲垣きくの 牡 丹
病床に土筆がこぼす青胞子 品川鈴子
病母の辺柚子しんしんと青尽す 目迫秩父
白杖の右も左も青浄土 村越化石
白梅の蕾は青を帯びにけり 蓮井崇男
白牡丹咲き切つてなほ青湛ふ 上野さち子
白鳥はかなしからずや空の青海の青にも染まずただよふ 若山牧水
百葉箱葉ざくらの青一途かな 高澤良一 寒暑
皮むけば青煙たつ蜜柑哉 蜜柑 正岡子規
皿に盛る流るる型に青芹は 今瀬剛一
盆の燈の青水引草にこぼれけり 斎藤夏風
盆棚の青梨ふたつ消え失せぬ 細川加賀 生身魂
目に入りて拳大なる青パパイヤ 高澤良一 さざなみやつこ
直立の止め葉揃ひし青稲田 西川雅文
直青の野に疾き翳を逝かしむる 文挟夫佐恵 黄 瀬
相追うて青淵をゆく胡蝶かな 橋本鶏二 年輪
真日あびて行きゆく原に歯朶の青 石橋辰之助 山暦
真直ぐにさす追悼の青日傘 鳥居美智子
真菰馬足の先まで青匂ふ 武田孝子
眼より後頭へ抜け青やませ 川代くにを
瞳のなかに青ざめてゆく針があり 沢好摩
短夜の名ごりの青実あまどころ 宮坂静生 春の鹿
短夜をののしり明かす青女房 筑紫磐井 野干
石仏に女体のくぼみ青秩父 河野多希女 両手は湖
石楠花が犇と葉を巻く青雪庇 堀口星眠 営巣期
砂丘より青はたはたが海へ飛ぶ 篠田悌二郎
砂丘昏れ五月夜空を青が占む 岸田稚魚 筍流し
磨く鍋天山樅の青がさす 加藤知世子
磯遊び夫婦を染める海の青 上江洲萬三郎
礁凍て一徴の青をだもゆるさず 富安風生
礼帰りけふの袂や数の子売 青河 選集「板東太郎」
祖よりの青岸渡寺の除夜の鐘 榎本冬一郎
神々のたはむれし地や青踏める 橋本榮治 越在
神神を待つ*ひつじ田のさはに青 大屋達治 龍宮
祭暑し人青ざめて口あける 森川暁水 黴
禁中の不思議な微笑青とかげ 山本敏倖
福藁のはつかなる青産見舞 中村清子
福鍋に入るゝ菜の青よかりけり 井下猴々
私裂けて私こわれて青籠なり 阿部完市 純白諸事
秋のピーマン青冴えざえす詩が貧乏 大熊輝一 土の香
秋刀魚焼き宝くじ焼く青焔 右城暮石 声と声
秋天や哭すれば青底ひなき 東洋城千句
秋思やや水に一滴青インク 河野弓子
秋水の白瀬青淵まさやかに 松本たかし
秋雨や御鏡曇る青和幣 秋雨 正岡子規
秋雨や鏡は曇る青和幣 秋雨 正岡子規
秋風や鳥も怖るゝ湖の青 久米正雄 返り花
稲妻や刈られし草の青びかり 大木あまり 雲の塔
稲妻を吸ふて太るや青狐 久米正雄 返り花
空の青とびつく刃物梨を剥く 高井北杜
空の青水の青得て蓴生う 景山 薫
空ふかく草の青汁墓参父子 宇佐美魚目 秋収冬蔵
空気甘し土筆のこぼす青胞子 伊藤博子
空青すぎて桜貝こはれさう 黛まどか
突抜ける青が好き青十月の 北島輝郎
窓は青紫のー八木にまじり斜めの木 篠原梵 雨
立ち寄りて菖蒲青張る八日堂 高澤良一 ぱらりとせ
竜胆や青尾根霧を吹きおとす 百合山羽公
竪縞のしやれてゐし青烏瓜 後藤比奈夫 金泥
竹の子を掘り横抱きに青つむり 宇佐美魚目 天地存問
竹林の青まさりけり初御空 増井 和
笆(かき)ごしに青ざし匂ふやどりかな 白雄「白雄句集」
笆ごしに青ざし匂ふやどり哉 加舎白雄
笹鳴や青淵覗く危さに 馬場移公子
笹鳴や青道心の日和下駄 乙字俳句集 大須賀乙字
筒鳥や木曽谷青をそそのかす 吉田未灰
簡短に簡短にして茶の青実 高澤良一 宿好
籾ふるふ静かな音や青唐箕 村上鬼城
精進の器の涼し青高野 村越化石
紅葉の中杉は言ひたき青をもつ 森澄雄
紅蜀葵老いぬのこりし青つぼみ 木津柳芽 白鷺抄
納戸より鶏の伏せごゑ青匏 中田剛 竟日
純日本風晩餐に蔦の青 宇多喜代子 象
紫陽花の絶頂は青つくしけり 平井照敏 天上大風
紫陽花の花青がちや百日紅 尾崎放哉
紫陽花の青極まりし波津女の忌 筒井清子
紫陽花や青にきまりし秋の雨 秋雨 正岡子規
紫陽花咲き自雷也の蟇青すぎる 長谷川かな女 花寂び
絵図面の青に日ざしや南風吹く 五十嵐唐辛子
網戸入れてより喪ごころもなじむ青 能村登四郎 寒九
綿虫の消ゆる刻来て青を帯ぶ 能村登四郎 民話
緑縁を出て雲水の青頭 石塚友二 光塵
緑青のガスタンクまで野の雪解 飴山實 『おりいぶ』
緑青の八重山かくれ春の行く 行く春 正岡子規
緑青の吹きをることの菊の如露 後藤夜半 底紅
緑青の青を放てり夕野分 小島千架子
緑青噴いて考えるひと六疊に 荻野雅彦
羊歯の中うつらうつらと青菩薩 中村苑子
羊蹄へ続く青アスパラの畝 広中白骨
翡翠の一直線の青一瞬 加藤瑠璃子
老梅の青枝長けたる蕾かな 楠目橙黄子 橙圃
老鴬に九十九谷の青谺 伊丹さち子
耳朶やわきダムの新樹ら青幾色 寺田京子 日の鷹
肺活量少なく踏むは青氷河 竹中碧水史
胎の子を先だててゆく青茅の輪 横山椒子
臘梅のしづかや空の青ふかめ 雨宮抱星
自転車初乗り湖の青だけとなり 細見綾子 黄 炎
舞ひ狂ひ青筋揚羽秋暑し 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
舞ひ落つる蠱の青火の夜光羽子 高橋淡路女 梶の葉
舞台暗し水狂言の灯は青に 黒川かもめ
船欄や青夏濤に胸押しあて 榎本冬一郎 眼光
船絵馬の海青すぎて厄日前 能村研三
芋虫すすむすすむ間は青緊り 加藤楸邨
芋虫の青の歩みを青の消す 石川桂郎 四温
芒の穂海の濃青をふくみけり 久保田万太郎 草の丈
芝居絵の青や祖父母の語りあい 国 しげ彦
芥子坊主青ざめ過ぎてをりしこと 後藤夜半 底紅
花ぐもりガスの青焔透きとほる 柴田白葉女 『月の笛』
花に透きつゝまだ青蜘蛛の居てくれし 島村元句集
花咲いて青澄む海の黄金崎 工藤茶亭
花筵青洟垂るる子がひとり 辻桃子
花終る打身の青の浮き立ちて 大木あまり 火のいろに
花萱草青野の青をさそひだす 福田甲子雄
苗ハウス透けて青めり国旗出す 松倉ゆずる
苗代の青や近江は真つ平ら 英治
苞とけば七草の菜の青ひらく 能村登四郎
若夏過ぎるや青すじ揚羽群れなして 金子兜太
若竹に一心の青にほひ立つ 尾上直子
若竹の逆光青を深めたる 松本陽平
若竹の青闇が抱く新古墳 つじ加代子
苦瓜の青香のうれし退院す 玉城一香
茅舎忌や百合の青蕾脈走り 岩崎健一
茗荷竹いつまでも心青臭し 浅羽緑子
茫々と湖上卯月の青曇り 野澤節子 『存身』
茶の青実曰く「阿留辺幾夜宇和(あるべきようわ)」とは 高澤良一 宿好
茹であげて田の*くろ豆や青まさる 石川桂郎 高蘆
草刈りてしばらく風の青ぐさき 次山和子
草枕青藺の香して大昼寝 長谷川かな女 花寂び
草矢放たん津軽の空は青鋼 磯貝碧蹄館 握手
草笛の青の中なり最上川 松山足羽
草茎や長庚出でゝ青まさる 野村喜舟 小石川
菅原葭原馬は故郷の青墓なり 阿部完市 軽のやまめ
菊人形莟ばかりの青ごろも 能村登四郎 幻山水
萩ちるや檐に掛けたる青燈籠 萩 正岡子規
落馬して青上毛野さんざめく 阿部完市 純白諸事
葛切に氷片の青染みゐたり 中戸川朝人 残心
葡萄青房奥まで同形雲双生 中戸川朝人 残心
葭切に天が養ふ青の芦 野澤節子 花 季
葱そだつ挫折も翳も青透いて 赤城さかえ
葱は青勝ちべにがら塗りの店格子 草田男
蒙古班あを青とあり涼新た 二橋美子
蒸発の男梅雨の青錆見あるくか 赤尾兜子
蔦の青ひとの思念を濡らすなり 下村槐太 天涯
蕗のたう青岸渡寺の裏に摘む 山下智子
薄氷の青味を帯びて暮れにけり 村上恵生
藪川や緑青浮む秋の風 秋風 正岡子規
藻の青でベッドを覆い旅にたつ 渋谷道
蘭散て萬年青を愛す主哉 蘭 正岡子規
蚊柱の中より見たる青筑波 火村卓造
蚊遣香のひとすぢの青納骨日 中拓夫 愛鷹
蛇を摶つ桑の青枝のにほひけり 大橋櫻坡子 雨月
蛾のほかは遠き山の灯青網戸 桂樟蹊子
蛾も青を被て山中の一燈に 野澤節子 遠い橋
蜂飼ひに山の驟雨の青猛し 文挟夫佐恵 雨 月
蜃気楼ああ蝋燭が青ざめる 三池 泉
蜩や川に沈めし青蛇籠 近藤一鴻
蜩や青年の書は青が濃し 加藤知世子 花寂び
蝉生れていのち透けたる青ごろも 三橋 迪子
蝶のさまに飴紙翔ばそ青信濃 磯貝碧蹄館 握手
蝶生れ草三寸の青浄土 白井米子
蟷螂の怒るほかなき青全身 加倉井秋を
蟷螂の青の一歩よ怒濤音 佐川広治
蟻の糧一雑草も地を青め 右城暮石 声と声
行く春や緑青をふく釘隠し 渡部義雄
行く春や青柄杓置く吐玉泉 高橋利辰
行年や奈良の都の青幣 行く年 正岡子規
行春や朱にそむ青の机掛 飯田蛇笏 山廬集
街に醜聞魚の胎内青光る 三谷昭 獣身
袋掛せしや青増す三方原 百合山羽公 寒雁
裏尾根は青翳りして初浅間 堀口星眠 営巣期
裏箔に緑青塗りし一葉かな 野村喜舟 小石川
襖絵の青濤ひかる月点前 奥村木久枝
観世音濁世の青を踏みたまへ 上野さち子
観念の死を見届けよ青氷湖 佐藤鬼房
詩想・微風まとひつくのみ青炎天 香西照雄 素心
誰も居ぬ崖大寒の青水輪 柴田白葉女 『朝の木』
谷氷り日輪空の青とありぬ 石橋辰之助 山暦
豊作の青百姓が二枚舌 石塚友二
貝細工の赤や青やを店にしてゐる シヤツと雑草 栗林一石路
赤と青闘つてゐる夕焼かな 波多野爽波 鋪道の花
赤と黄と青の昔や洗濯船 攝津幸彦 鹿々集
赤べらの上に青べら魚籠の中 吉野十夜
赤星も青星もある干菜かな 大峯あきら
走馬燈青女房の燃やしぬる 山口誓子
踏切の警報を浴び稲青つ 田川飛旅子 花文字
蹴毬の青とおくの宿に鶯がいる 阿部完市 軽のやまめ
身に沁みてナイルの青の石像護符 高澤良一 燕音
逆友を訪ふ岡晴れぬ青銀杏 飯田蛇笏 山廬集
逆立ちの子に帆走の青ひろがる 林田紀音夫
通り行時雨をまねけ青蝦手(かゑで) 重貞
逝く春の青靄包む十字架山 下村ひろし 西陲集
遅れ飛ぶ鵜の目を海の青として 古館曹人
遊船にゐてこころもち青ざめて 後藤夜半
運河濃く冬菜の青のただ一条 三谷昭 獣身
遍路杖つけば染まりぬ草の青 沢木欣一 遍歴
遠き日の屋根に兄をり枇杷青実 小檜山繁子「流水」
遠くより柳青めと鶫鳴く 飯田龍太
遠州灘よせて西瓜の青縞目 百合山羽公 寒雁
遠牧に青鳩鳴けばこたふあり 米谷静二
遠野火や青一筋の衣川 石鍋みさ代
遺伝子の組替へ繭の青光り 伊藤華将
避暑期来るパイナップルの青鶏冠 中村堯子
那智滝の巌頭に佇ち青下界 角川源義
郭公や眠りすぎたる青濁り 田口満代子
郭公や青騎士かへる太刀の上 加藤郁乎
野に古りて弓張腰や青蕨 斎藤玄 玄
野の青に置く硬質の管楽器 黒田燎
野はいつも鮮しけふは青*はたはた 藤田湘子 てんてん
野施行や青星ことに底光り 山田諒子
野蕗煮て北緯四十二度青ぐもり 平井さち子 完流
金に黄に青になり這ふ毛虫かな 粟津松彩子
金泥を引きてゑがける青蕨 後藤夜半 底紅
金輪際雑煮の青は三つ葉のみ 中野陽路
鉾杉や海より冴えて空の青 汽笛 勝峯晋風
銃身の青光りする冬の夜 小田元
銅鑼縁より緑青を噴き夏の空 中田剛 珠樹以後
錦木の繊き青爪五月来ぬ 堀口星眠 営巣期
長安に落葉はじまる青ポスト 中村明子
長鳴鶏は声のみ見せしよ青津軽 磯貝碧蹄館 握手
開墾田の青張り通し空生きる 成田千空 地霊
間引菜の青覗かせて負籠の目 石塚友二
隙なき青の密生藺と思ふ 山口誓子
隠れゐる数もありさう青*かりん 山田弘子 懐
雁わたし教師のゆるき青ネクタイ 柴田白葉女
雁渡し北見青透く薄荷飴 文挾夫佐恵
雑種われ青足つて葦顎に満つ 永田耕衣 悪霊
雑魚釣に青河豚多し秋の凪 滝井孝作 浮寝鳥
雛あられ乏しく青を点じけり 久保田万太郎 流寓抄
離宮田に水を配りて青比叡 大石悦子 聞香
雨に見し鴨の青頸夜も想ふ 鈴木鷹夫 大津絵
雪にただ青ざめ翻へす深訛 松澤昭 安曇
雪の上に今か死にたる青鳩のふくだめる胸に吾は手ふるる 前田夕暮
雪をすつぽり開拓の青ポンプ 辻田克巳
雪催翔ちきつたるや鴨の青 齋藤玄 飛雪
雪国にこの空の青餅の肌 成田千空
雪国や青日輪の炎垂れ 近藤一鴻
雪夜消す灯の残像の緋から青 千代田葛彦 旅人木
雪安居剃髪僧の青つむり 石田 博
雪山のひと日のうるみ青烏 野澤節子 黄 炎
雪嶺の青のきびしき生糸繰る 加藤知世子
雪晴や青と白とは勇み色 香西照雄 素心
雪沓を買ふには空の青過ぎて 加藤楸邨
雪渓の水青ざめて地へ出づる 山崎ひさを
雪虫の抱く青を消す雨なりし 辺見ひろみ
雪解かす青空青をうしなひつ 雨宮抱星
雲のごと緬羊は揺れ一青樹 殿村菟絲子 『菟絲』
雲はまだ覚めず全山青牧草 中戸川朝人 残心
雲ふたつ合はむとしてはまた遠く分かれて消えぬ春の青ぞら 若山牧水
雷は太古の響き青若葉 柴田奈美
雷逃ぐる悉く青ねこじやらし 清水径子
雷雲を裾に退け青妙義 関森勝夫
雷音の転がり廻る青盆地 右城暮石 上下
雷鳴のたび青佐渡を濃くしたり 本宮哲郎
霊道や枝おろされて冬の冬青 石塚友二 光塵
霜消して天の青壁武者幟 百合山羽公 寒雁
霞むには青すぎて船動きだす 岡本眸
霧はるる奥また霽るる山の青 佐野良太 樫
霧ふれば青ひといろの花畠 瀧春一 菜園
露けさのまだいとけなき杉の青 鷲谷七菜子 花寂び
露草の青の極みは空よりも 松原星城
霽雲に富士は藍青ひばりなく 飯田蛇笏 春蘭
青 貝 に 月 の 匂 の の こ る 朝 富澤赤黄男
青*かりん乾徳山に雲通ふ 皆川盤水
青*かりん大きな滝に供へけり 岸本尚毅 鶏頭
青い麩をうかせる料理の青蝉屋 阿部完市 軽のやまめ
青が尾を曳きて草矢の虚空かな 千原叡子
青ぐるみ枝先漬る濁り川 川崎展宏
青げらの木を叩く音陶の郷 木村桃山
青げらの楡ひとめぐり霜の朝 深見けん二 日月
青げらは汝が夏帽を笑ふらし 福永耕二
青ごもり鳴くは凶鳥不浄鳥 加倉井秋を
青ざくろ眼の濁りゆく齢なる 藤田湘子 雲の流域
青ざしや清少納言ありてより 正岡子規
青ざしや稲荷の庭火木綿(ゆふ)かつら 幽山 選集「板東太郎」
青ざしや草餅の穂に出でつらん 芭蕉「虚栗」
青ざめしをんなを月に残しけり 林原耒井 蜩
青ざめし流氷としぬ瞑りて 岸田稚魚 筍流し
青ざめてゐて新松子砂の上 石寒太 炎環
青ざめて朔太郎忌の木々の影 小林千史
青ざめて花いたどりも浜に老ゆ 金箱戈止夫
青ざめるまで一山の竹を伐る 小内春邑子
青すぎる広すぎる空梅が咲く 津田清子 礼 拝
青すぎる眼と長き夜の豆ランプ 二村典子
青すぎる空が不安や鶫網 大木あまり 火球
青すぐり浅間くもれば炬燵して 山田孝子
青すだち夫の無口につき合ひぬ 植原昭代
青すだち愛でゐて旅の詩育つ 加藤知世子
青ぞらに落花の風の流れをり 下村福
青ぞらのいつみえそめし梅見かな 久保田万太郎 草の丈
青ぞらのけふあり昨日菊棄てし 林田紀音夫
青ぞら片目を病みて 橋本夢道 無禮なる妻抄
青だたみ蟻の這ひゐる広さかな 小島政二郎
青つむり寄せ合ひ作務の大根漬 合田丁字路
青という馬の話や福寿草 畠山稔
青といふ色の靭さの冬の草 後藤比奈夫 金泥
青とうきびわが寝てみるは大空なり 古沢太穂 古沢太穂句集
青とかげ後尾忘れて行きにけり 箱守きよ子
青とんぼ花の蓮の胡蝶かな 山口素堂
青と見れば紫光る海鼠かな 東洋城千句
青なまこ列を違へて赤なまこ 吉本シトミ
青によし奈良の都の蕨餅 天谷 敦
青に丹に彩る春の蘭若(らんにや)かな 筑紫磐井 婆伽梵
青に染み尼僧在せり新茶の縁 長谷川かな女 牡 丹
青に魅いられて西方の門を出る 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
青のまま暮れゆく空や水仙花 二村典子
青のゆらめく無残な酔いも父の死後 林田紀音夫
青のりに風こそ薫れとろろ汁 蕪村
青のりや見るがごとくに伊勢の海 蝶夢
青の手をつくべきところ露ひとつ 齋藤玄 飛雪
青の朝暴風身ぬちにも吹けり 片山桃史 北方兵團
青の洞門歳月幽き秋湿り 関根紀恵
青の渦解けてくちなし香りだつ 工藤茶亭
青の陸日本つくづく山ばかり 右城暮石 上下
青ひかる鯖釣り獲たる掌にぬくゝ 山口草堂
青へちま仁王の舌のほどはあり 高島茂
青べらの大息つきて果てにけり 佐々木魚風
青べらを釣り落したる潮蒼し 芳野正王
青もかち紫も勝つ物芽かな 中村草田男
青ものをどつさり買ひぬ休暇果つ 折井紀衣
青やぶを死後をてるてるみちる 阿部完市 純白諸事
青や黄の梅の実甕に落ちつけり 百合山羽公 故園
青を以て聖土曜日の切通 柚木紀子
青を研ぐごとくに風や冴えかえる 平井照敏
青ギスが草噛み切つて血をたらす 太田鴻村 穂国
青レモンもだし通して飛機の旅 寺田京子 日の鷹
青上総海かけ灼くる鬼来迎 野沢節子 八朶集以後
青不動夏木夏影日々に濃く 福田蓼汀 秋風挽歌
青不動黄不動春の百舌不動 安東次男 裏山
青五月万太郎また点鬼簿裡 石塚友二
青五月叱々々の誕生日 河野南畦 『風の岬』
青五月明治の時計よく似合ふ 角川源義「西行の日」
青五湖の一湖のほとり露に泊つ 野澤節子 黄 炎
青伊吹簾のごとし軒に張る 近藤一鴻
青伊豆の青いちじくの旅短か 大峯あきら
青侍執念(しふね)き蛇の性見する 筑紫磐井 野干
青信濃鐘鳴るときも踏切越す 友岡子郷(1934-)
青信甘連続すひとつは蜃気楼 浦川 聡子
青僧の経の滲み出す朧かな 鳥居おさむ
青光りつつ天駈け巡る燕のように 西川 徹郎
青光る毛虫仏間の昼畳 柴田白葉女 花寂び 以後
青光る腹部の血脈寒立馬 池上樵人
青光る螢沈みし生姜畑 大熊輝一 土の香
青冨士の裾のキャンプにめざめたる 西島麦南
青冬日めがけ火の山駈く砂塵 羽部洞然
青凝つて尺蠖そこは枝のはじめ 中戸川朝人 残心
青刈に減反の責果たしけり 影島智子
青刈草むちむち負ひ来夕山路 猪俣千代子 堆 朱
青刷りの壱万ウオン野火けぶる 中村武男
青勝ったあぢさゐがいい老頭児(ろーとる)には 高澤良一 寒暑
青卍美濃と飛騨とへ落ちゆく水 加藤秋邨 まぼろしの鹿
青卒都婆手にし花茶の野辺送り 長谷川かな女 牡 丹
青吾妻に地上見かえり男の群れ 寺田京子 日の鷹
青味ある笊に新藷小味なる 長谷川かな女 花寂び
青唇洩れて秋風に入る偲び言 林翔 和紙
青啄木のこゑこだまして雑木山 加藤功
青墓の去来小さしうそ寒し 角川源義 『神々の宴』
青壁の天を支ふる余寒かな 平井照敏 天上大風
青太将と称されをりて穴惑ひ 中山一路
青奥羽めぐる制服一枚きり 楠節子
青奥羽覗く翼下の雲の穴 横山房子
青女放つ鶴舞ひ渡る相模灘 原石鼎 花影以後
青孕む巣箱や舟を折つてゐる 栗林千津
青富士に雪形鳥が翼張るよ 富安風生
青富士の裾のキャンプにめざめたる 西島麦南
青小梅庭一面に落ちにけり 原石鼎 花影以後
青小梅雨の葉裏にかくれんぼ 宮内柊子
青岬尖りて浪を二分けに 西村秋羅
青岬遠くで別の汽笛鳴る 石崎素秋「歳華悠々」
青岸渡寺一羽よぎりて黒揚羽 古賀まり子 緑の野以後
青岸渡寺紅葉ちり込む大香炉 近藤文子
青峠生駒八景その一景 塩川雄三
青崖の生創を舐めきりぎりす 齋藤愼爾
青崖ト愚庵芭蕉ト蘇鐡哉 芭蕉 正岡子規
青巒にそよぎかゝりぬ虹の雨 西島麦南 人音
青巒の月小ささよたかむしろ 飯田蛇笏 山廬集
青巒の秀のまくろにも見ゆるかな 西本一都 景色
青帝暁を青女に霜を乞はれけり 原石鼎 花影以後
青帝起つて日に六の花をはなちけり 原石鼎 花影以後
青帝鶴に子を連れさせて引かせらる 原石鼎 花影以後
青帯びし稲田千人塚を攻め 原裕 新治
青故郷法事一つに繋がりて 高澤良一 さざなみやつこ
青数珠玉持ちて月待つ人の中 大石悦子 聞香
青文字に村の明るき御告祭 築城百々平
青文字の花を手折りて日暮なる 堀口星眠 営巣期
青新茶土間にこぼしてはかりけり 長谷川かな女 雨 月
青昴さびつつ空の冬了る 相生垣瓜人 微茫集
青曳いて水にまぎれず糸蜻蛉 稲岡長
青月夜むかし父との湯屋帰り 斎藤由美
青月夜無柳殖やして恋封じ 河野多希女 こころの鷹
青月夜靴のおもたいほど酔えず 石橋辰之助
青服の人等帰る日が落ちた町 尾崎放哉
青枯の団栗に墓道選びけり 雑草 長谷川零餘子
青桜ひと花ごころ焼言葉 加藤郁乎
青桧葉の護摩匂ひ立つ送水会 小沢チエ子
青梧やたばしりやまぬ野鍛冶の火 杉山 岳陽
青楠の天地はじまる鯉のぼり 百合山羽公 故園
青楡の森の奥処へ自動車疾く 日野草城
青楼の壁に牡丹の詩を題す 牡丹 正岡子規
青楼の灯に松こゆるちどりかな 飯田蛇笏 山廬集
青楼や欄のひまより春の海 夏目漱石 明治三十九年
青槻の風かがやけり布海苔干し 石田波郷
青樓のともし火赤し星月夜 星月夜 正岡子規
青樓の九點下(ここのつさが)り水中花 筑紫磐井 婆伽梵
青橙加藤楸邨逝きにけり 鈴木しげを
青橙荒彫ながら臼成りて 香西照雄 対話
青櫟文鎮ほどに子を愛す 宮坂静生 山開
青武鯛忿怒の色の美しき 岸本マチ子
青比丘や鬼灯市に抽んでて 石田波郷「春嵐」
青比叡潺々と水吐けりけり 大石悦子 聞香
青毛布赤毛布さま~の雛哉 寺田寅彦
青毬のふくらむ栗に二番花 遠藤 はつ
青毯を布くス口ープの霧残す 臼田亞浪 定本亜浪句集
青汁のむそのうち蝶になるやうな 辻桃子 ねむ
青汁を鬼の娘に飲まされる 岩下四十雀
青汐に虚無の水母ら躯を透けて 内藤吐天 鳴海抄
青泥水にくびまでつかる水牛のまなこは動くわがゆくかたに 橋本徳寿
青海苔の青を沈めて海平ら 永田トシ子
青涼の風のかたちの見舞籠 中嶋秀子
青淵にさしかかりたる螢舟 大石悦子
青淵に入る泥水冬の果 辻桃子
青淵に映る神事や日短か 大峯あきら 宇宙塵
青淵に桑摘の娘の映り居り 高浜虚子
青淵に棲む綿虫の日を知らず 小林黒石礁
青淵に翡翠一点かくれなし 川端茅舎
青淵の嵐や落つる栗多し 水原秋櫻子
青淵の巌をふちどる落花かな 橋本鶏二 年輪
青淵の磧に一人キャンプせり 右城暮石
青淵の翳りのふかし朴の花 柴田白葉女 『月の笛』
青滝や来世があらば僧として 能村登四郎 民話
青澄みて大寒の空はるかなる 相馬遷子 雪嶺
青澄みて山脈残る冬の雁 相馬遷子 雪嶺
青濁の沼ありしかキリシタン刑場 金子兜太 金子兜太句集
青瀧の二つにわれて物思ふ 筑紫磐井 婆伽梵
青瀬のふち梨を冷せり人数だけ 中島斌雄
青灘へ夏天ひた墜つ一羽毛 中島斌雄
青炊煙がその裾浸す霧脱ぐ峯 香西照雄 対話
青炎の星空に澄む橇の鈴 沢 聰
青炎の杉囀りを鏤めぬ 川端茅舎
青熊野精虫騒ぐところかな 久保純夫 熊野集
青猫のよぎりて吹かる竃祓 高島征夫
青猫をめでゝ聖書を読み初む 飯田蛇笏 霊芝
青瓜に疫痢の疫神のせ流せ 長谷川かな女 雨 月
青痣の夏くる水の浦教会 穴井太 天籟雑唱
青白き全速力の魚の夜 大西政司
青白き地の涯見せていなびかり 檜紀代
青白き月と見る間に吹雪きけり 佐野良太 樫
青白き李の花は霞まずに 佐野良太 樫
青白き犬の芸あり濡れてあり 橋本七尾子
青白き雫の浮きぬ草蛍 柴原保佳
青盆地きらきらとまだ燈とならず 中戸川朝人
青目刺焼きぬ懐疑は懐疑とし 森川暁水 淀
青石の船に積まるる子規忌かな 延広禎一
青砂さん居 石川桂郎 高蘆
青祈祷幣を飛ばしてしまひけり 茨木和生 往馬
青稲穂夕山風に息もつかず 松村蒼石
青立の稲に眼を慣らしけり 斎藤玄 雁道
青立稲刈るに声など掛けられず 太田土男
青笊に湯呑が盛られ土工涼し 香西照雄 対話
青籬の霜ほろほろと初雀 松本たかし
青糸瓜太りて子規の百回忌 井上千恵子
青絹の雨の岬の緋色の情死 高柳重信
青網戸張りても竹のまぎれなし 石川桂郎 四温
青羽黒志石踏みにけり 鳥居美智子
青翳もたましいも打つ岩魚挿 山中葛子
青臭き蕃瓜たうべて刀自の健 久米正雄 返り花
青若布鳴門の渦の潮垂るる 浜田国彦
青茱萸のわが乳首こそ苦からめ 保科その子
青茹での枝豆かへらざる齢 榎本冬一郎
青蔵にからすはりつけになつたあざやか 阿部完市 春日朝歌
青蝦夷の動脈光る石狩川 橋本夢道 『無類の妻』以後
青蝦夷の起伏百方に五、七、五 橋本夢道 『無類の妻』以後
青衿の不乱の黙読霧流る 平井さち子 紅き栞
青谿の深さを落花ためらはず 渡邊千枝子
青赤の互に映りソーダ水 高浜虚子
青踏むや鞍馬をさして雲の脚 飯田蛇笏
青踏めば病者の素足埋れけり 上野さち子
青踏んで天平の塔間近にす 鈴鹿野風呂
青鍋の塔晴れて立つはだら雪 有働亨 汐路
青陽の空に鶴咲き花の声 上島鬼貫
青陽や住吉まうでげにもさう 椎本才麿
青陽や野山に物の湧きて来る 涼菟
青雉子に氷塊あます氷室口 堀口星眠 営巣期
青霧にわが眼ともして何待つや 藤田湘子(1926-)
青霧の水より明けて太宰の忌 太田 蓁樹
青霧の葬花をぬらす銀座裏 飯田蛇笏 春蘭
青霧をさすらふ声の虎鶫 渡邊千枝子
青露や遺影茅舎は善童子 福田蓼汀 秋風挽歌
青鞍馬生きる証しの納め髪 河野多希女 納め髪
青頭り法衣からげて年木作務 五十嵐象円
青頸のわが娘ふるさとは悲の雪国 武田伸一
青頸を渡らせ輪中名残かな 猪俣千代子 秘 色
青馬追こゑとならざる切々音 橋本多佳子
青駒をいつしんにみて精神書く 阿部完市 春日朝歌
青騒の竹林大硝子の全面 益田清
青高原わが変身の裸馬逃げよ 西東三鬼(1900-62)
青高原牛は重みを移しをり 横山房子
青高野よりの流れに馬洗ふ つじ加代子
青髭の松葉貰ひし雪兎 門馬圭子
青鯉になりたきわれはぽかんとす 阿部完市 軽のやまめ
青鱚の釣るるを待ちてもてなさる 外尾倭文子
青鳩の廻りきて酌む忘れ潮 山村たかを(屋根)
青鳩は木のふところに四温かな 邊見京子
青鳩や林道つひに空を見ず 井沢正江 以後
青麥の思ひのままに触れあへる 西本一都
青黍の夜天の澄ぞ押しうつり 下村槐太 天涯
青黴のはげしき一隅のあるなり 谷野予志
青黴の春色ふかし鏡餅 有風
青黴を拭ひし鍋の素ラーメン 大塚 巌
面影のさくらんぼ青戦死せり 猪俣千代子 堆 朱
韮雑炊青ゆっくりと混りたる 成田清子
音すれば音する方へ鵜の青目 関口ふさの「晩晴」
音もなく僧の一列青蓬 中尾寿美子
音読の背なに重ねし青網戸 平林恵子
頭を下げて歩まんか麦の青に堪え 細谷源二
頸ほそき朝の青鵜に麦茶沸く つじ加代子
風ありて間引菜の青透きとおる 栗林幹子
風だけを望む夏服ゆゑに青 櫂未知子 貴族
風と競ふ帰郷のこころ青稲田 福永耕二
風の音の遠きかがひの青筑波 文挟夫佐恵 遠い橋
風びゆうと蛇はおのれの青憎む 松本 旭
風炎の稲田をはしる青鴉 柴田白葉女 花寂び 以後
颱風の割れ目の青が北を指す 加藤楸邨
飛魚群海を離るる青光り 加藤知世子 花寂び
飢餓離別逃避亡命青セーター 山下知津子
飲食の水の音して青糸瓜 細川加賀 生身魂
飾臼みづの青藁仄かにも 飯田蛇笏
養鱒の水落ちて青濁る秩序 林田紀音夫
馬あらば木に馬つなげ青信濃 磯貝碧蹄館 握手
馬病みにけり青岸渡寺をみる 阿部完市 その後の・集
駒鳥にパブロ・ピカソの青入れぬ 攝津幸彦 未刊句集
驟雨に洗はる都電屋根からすつぽり青 磯貝碧蹄館 握手
骨切る日青の進行木々に満ち 加藤秋邨 まぼろしの鹿
高原の青より知らず天道虫 梶山千鶴子
高原を馬馳け吾子馳け青炎天 伊藤敬子
高原驟雨真鯉のような青僧侶 穴井太 原郷樹林
鬼の子に空青すぎる深すぎる 大島雄作
鬼やらふ青星こごえ黄星よび 矢島渚男 釆薇
魚の腹膨れてとほき青三日月 田中信克
鮎をやく青焔台風近づきぬ 柴田白葉女 遠い橋
鮎を焼く青焔颱風近づきぬ 柴田白葉女
鮭のぼる川青すぎるさみしすぎる 菖蒲あや
鯉こくやもう青すぎる土手が見え 岡本眸
鯖火燃ゆ青面童子寄るところ 宇佐美魚目「草心」
鰹きて燈台の器具青光る 百合山羽公 寒雁
鰺刺や青舐の如きひうち灘 武田玄女
鳥も稀の冬の泉の青水輪 大野林火(1904-84)
鳥兜毒もちて海の青透けり 加倉井秋を
鳴き合ふ時鴨の青頸瑠璃含む 知世子
鳶の輪の吹き流さるる青岬 片山由美子 水精
鴉の子一日中を青の中 中川宋淵
鵜の嘴にて鮎渾身の青一跳ね 加藤知世子 花寂び
鶏鳴のふくらみ雨の青岬 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
鶯や庭掃く僧の青つむり 河野静雲 閻魔
鶲をり冬青羊歯にはづみつつ 和田祥子
鷹点に青の気流をひきしぼり 平井照敏 天上大風
麦の青ざしをしいたゞきぬ掌 加舎白雄
麦の青樹の青赫と昼寝さむ 野澤節子 黄 瀬
黄に青に灯蛾染め分けつ発電所 林翔 和紙
黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ 林田紀音夫
黄落や三井寺が飼ふ青孔雀 伊東宏晃
黄蜀葵雲水青頭ならべ来る 長谷川かな女 花 季
黒青万のドラム缶の一個胃痛む 鈴木六林男 桜島
鼻風邪にへくそかづらの青実肥ゆ 大熊輝一 土の香
龍の髭ひとりで捜せ昨(きそ)の青 高橋睦郎 稽古
●蒼 
いしぶみに蜥蜴の蒼し迢空忌 角川春樹 夢殿
かくまでに人をへだてて蒼鷹(もろかえり) 宇多喜代子
からたちの蒼みし刺や雪解風 石原舟月
きりきりと月光蒼し致命祭 古賀まり子
ことごとく枯れて天竜真蒼なり 草間時彦 櫻山
このをとこ海の蒼さをみて痩せる 富澤赤黄男
しきりなるものの老鶯蒼茫に 古舘曹人 能登の蛙
しんかんと空の蒼さよ葭簀茶屋 山口誓子
ただ海の蒼さに秋の逝く日かな 武田鶯塘
ただ蒼し蚊の目無数の歳月は 佐藤鬼房 朝の日
たましひのまはりの山の蒼さかな 三橋敏雄 眞神
つばくらめナイフに海の蒼さあり 奧坂まや(1950-)
のびあがり倒れんとする潮波蒼々たてる立ちのゆゆしも 木下利玄
ほのかにも色蒼ざめて月ひとり空をあゆめり野にわれ来れば 岩谷莫哀
むろの花蒼々と翳るものもなき 右城暮石 声と声
もの蒼む梅雨や片眼を失し佇つ 村越化石
もの音もなき大寒の空の蒼 大峯あきら 宇宙塵
やゝありて蒼朮匂ひそめにけり 千石比呂志
オアシスに汲む水蒼し星月夜 田中俊尾
カヌー下ろす水の蒼さも春浅し 星野恒彦
シクラメン人を恋ふ夜の眉蒼し 鈴木真砂女
シリウスのいよいよ蒼し狐鳴く 松本貞子
セーターや蒼茫と山北にあり 折井紀衣
トロ箱の海鼠蒼めり朝の市 対馬敬子
一握の砂を蒼海にはなむけす 吉岡禅寺洞
万燈をつつむ冬樹の闇の蒼 加藤知世子 花 季
万緑に蒼ざめてをる鏡かな 上野泰 春潮
三百の銃蒼々と日輪をよぎる 富澤赤黄男
五百重山かすみて蒼し幟立つ 水原秋櫻子
人の死へ秋天限りなく蒼し 渡辺もりを
人日の海蒼々と磯料理 藤田枕流
今年竹晩齢の涯蒼茫と 中島斌雄
侵されぬ天の蒼さや初飛行 渡邊水巴 富士
倒れ樹に蒼苔むせり閑古鳥 幸田露伴 谷中集
優佳良織の蒼に吹き晴れ春北斗 鳥居美智子
八重椿蒼土ぬくくうゑられぬ 飯田蛇笏 春蘭
公休の蒼海を去り子を負うたり 細谷源二 鐵
六月の蒼を深めし麻風句碑 嶋田麻紀
内陣に蒼朮を焚く香のながれ 岡村紀洋(ホトトギス)
冬の天海の上にて真蒼なり 大谷碧雲居
冬の蜂這ひをり空の蒼さかな 出水月舟
冬帽を脱ぐや蒼茫たる夜空 加藤楸邨
冬木風山湖の蒼さ極まりぬ 金尾梅の門 古志の歌
冬空に聖痕もなし唯蒼し 中村草田男
凍滝の蒼を帯び白帯びにけり 行方克己 昆虫記
凍蝶やみづから蒼む一巨鐘 大峯あきら
凍雪に松影蒼し泣き羅漢 大熊輝一 土の香
切りとりし空の蒼さや採氷夫 武井耕天
初つばめ海の蒼さに濡れてくる 福川悠子
初声明おりおり蒼む夜の空 山田みづえ
初富士銀冠その蒼身は空へ融け 中村草田男
初漁の網蒼海を引きしぼる 堀 康代
初空の忘れ潮にもある蒼さ 雨宮きぬよ
初詣縁起蒼古の神とのみ 西本一都 景色
初鳩や真蒼に晴れし大欅 篠原一男
北蒼しうなじを伸べて鴨帰る 千代田葛彦 旅人木
十薬の野にまどろみし顔蒼し 萩原麦草 麦嵐
午後の茶を飲めば元日すでに蒼し 相馬遷子 雪嶺
南海の地図の蒼さを初夏の部屋 文挟夫佐恵 黄 瀬
合歓の花雪渓細りつつ蒼む 矢島渚男 延年
向日葵の芯蒼海を秘めにけり 千代田葛彦
吹き荒るる湖の蒼さや神渡し 渡辺つゑ
国原は蒼々として後鬼泣けり 横山白虹
坐り良き屋根石蒼し十三夜 田原口秋峰
城内に入り来て蒼し夏の湖 大峯あきら 宇宙塵
夏やせてひとり見るには海蒼し 神尾久美子 桐の木
夏山の日を蒼茫に追ひつめる 古館曹人
夏山を統べて槍ヶ岳真蒼なり 水原秋櫻子
夏深し万岳すでに蒼を帯び 福田蓼汀「暁光」
夏潮を蒼し蒼しと盥舟 桂 信子
夏蚕蒼しふるさとの日の母白し 安斎郁子
夕月や蒼ふかみゆく梨の花 篠田くみ子
夜学けふ蒼々として海深図 内田暮情
夜空蒼しひとりごと言ひ卒業す 加藤秋邨 まぼろしの鹿
大冬木空の蒼さの定まりぬ 根本裕子
大年の眼下に蒼し日向灘 鈴木鷹夫 風の祭
大年の蒼海ちかく住みにけり 原石鼎 花影以後
大空の蒼さを羽摶ち鶴来たる 重永幽林
天の蒼さ人に染む思ひ袷かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
天の蒼さ見つゝ飯盛る目刺かな 渡辺水巴
天界に湧く水蒼しお花畑 八牧美喜子
太陽の下に夏潮蒼さ増す 大橋敦子 手 鞠
夫との距離はるかに百合の奥蒼し 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
奥信濃蒼茫として梅雨に入る 渡部抱朴子「地籟」
妻の家に蒼朮を焼く仕ふかに 石田波郷「雨覆」
妻激して口蒼し枇杷の花にたつ 飯田蛇笏 山廬集
子を堕し蒼ざめながら菜を漬ける 猿橋統流子
子雀の飢あかつきの蒼さにて 千代田葛彦
宇宙船見し夜のプール蒼ふかむ 北見さとる
家風守るとは蒼朮を焚くことも 広瀬ひろし
寒き梅雨基地日本は蒼茫と 小松崎爽青
寒の日や弥勒の笑ひ蒼覚めぬ 角川春樹
寒林の海の蒼さに立ち上る 中村文子
寒泳終るもとの蒼さの川となり 尾形不二子
寒潮の海苔ふくむ蒼さザゝと岩に 渡邊水巴 富士
寒潮の蒼光をどの馬も帯び 友岡子郷 春隣
寒菊の空の蒼さを身にまとひ 渡辺向日葵
寒鰡藁包を払つたる蒼し 梅林句屑 喜谷六花
小梨咲き鳳凰山塊朝蒼し 水原秋櫻子
少女期の真蒼な顔幣辛夷 川崎展宏
少年に夜の崖蒼し鬼やらひ 岡本 眸
山からの風蒼涼と夜の貨車 大井雅人 龍岡村
山に来る夕闇蒼し朴の花 長谷川翠
山吹の反り枝も蒼し寒の水 岩田昌寿 地の塩
山室のひとつ灯蒼む根雪原 河野南畦 湖の森
山桜眼の蒼むまで暮れにけり 大石悦子 聞香
山繭の天涯孤独蒼みけり 保坂敏子
山繭の眠りて月の蒼沁みる 高橋たか子
巌はなれ滝蒼ざめて落ちにけり 宇咲冬男
巌巌のまとふ蒼さに滝凍つる 木村蕪城 寒泉
巡業の蒼朮を焚く楽屋かな 中村七三郎
年木樵空の蒼さに酔ひゐたり 加藤三七子
弛みなき木曾の水音蒼朮焚く 折井眞琴(岳)
彼へかれへ天上の蒼なだれおり 鎌倉佐弓
後の月稲架を離れて蒼さかな 西山泊雲 泊雲句集
後頭につく淡雪に蒼ざめよ 宇多喜代子
忘れんと泳ぎ来し眼の蒼を帯ぶや 川口重美
思ひ出も金魚の水も蒼を帯びぬ 中村草田男「長子」
扇風機山かたむきて河蒼む 飯田龍太「童眸」
手の傷も暮しの仲間雪蒼し 金子兜太 少年/生長
拭きかさねゆく皿蒼し雪催 渡辺千枝子
拭き重ねゆく皿蒼し雪催 渡邊千枝子
採氷や湖の蒼さを切つてをり 三浦敦子
揚雲雀天の蒼さにふれたくて 外川玲子
教室の汲み水蒼しクリスマス 宮坂静生 雹
文江忌の雪嶺の蒼心にす 加藤耕子
断崖の雪たれて落ちず海蒼し 西山泊雲 泊雲句集
新涼の浅間晴れんとして蒼し 長谷川かな女 雨 月
新雪をくぐりて蒼し谷の水 杉山青風
日はあらぬ方へ布団の蒼ざめる 高澤良一 随笑
日向黄に日蔭は蒼しうさぎの眼 岩田昌寿 地の塩
日輪のぐるり蒼めば野火もまた 近藤一鴻
早春の飛鳥陽石蒼古たり 金子兜太
早梅や空かぎりなく蒼を張る 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
早稲を刈る今日蒼凪ぎの日本海 福田蓼汀 秋風挽歌
明日は吹雪かんと天上蒼ざめたり 折笠美秋 君なら蝶に
星春の飛鳥陽石蒼古たり 金子兜太
春の水束ねし瀧の蒼さかな 岩上明美
春泥蒼し一天萬乗の大君とか 塚本邦雄 甘露
春雪の蒼さ土鍋に粥煮ゆる 柴田白葉女 雨 月
暖流のはるかな蒼さ猫の蒼さ 北原志満子
暮れてなほ天上蒼し雪の原 相馬遷子 山河
暮れて蒼し雪積む嶺も雪無きも 相馬遷子 雪嶺
暮色いま海より蒼し探梅行 中村祐子
月並の俳諧の徒の蒼*きう忌 梅津 光
月光に椽の蒼みし蝉の穴 小山森生
月光に流氷蒼む音すなり 長山遠志
月光の凍滝に刻蒼みけり 富川明子
月夜寒風行くに現世は蒼ざめて 香西照雄 対話
朝の握力水鳥の沖の蒼さ 友岡子郷 遠方
木乃伊見し眼に冬海の蒼々と 福田蓼汀 山火
木曾川の淀みの蒼し冬深む 小出きよみ
木枯のさきぶれに空蒼ざめり 関森勝夫
未知の客なれば蒼朮焼いておく 山田庄蜂
末枯れや鮠ひとすぢに蒼を刷く 河野南畦 『花と流氷』
松よりも水煙蒼しわたり鳥 水原秋櫻子
枇杷咲きぬ朝歩蒼惶晩歩縷々 林翔 和紙
桐咲くと夜空も蒼さ失はず 斎藤空華 空華句集
梟のひと声に月蒼みけり 高橋しのぶ
森の奥見てきし蝶の蒼さかな 小澤克己
森蒼々百億のバクテリア閑かなる 橋本直
楽澄めりうつむける人蒼々と 篠原鳳作
樺太の岬は蒼ざめ鰯雲 久米正雄 返り花
橡咲いて一天蒼さばかりなる 渡邊水巴 富士
檀の実圧し来る如く天蒼し 望月たかし
櫛の固さに蒼ざめた貝の耳 緑川千賀子
死が目覚むほど内蒼し魔法瓶 小檜山繁子
死にさそふものゝ蒼さよ誘蛾燈 山口草堂
残雪の蒼むも日蓮入滅地 池上樵人
母の鏡蒼しと思ふ夜は雪 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
母を入れ地球寒暮の蒼さかな 下山光子
毛皮すてゝ外套かろく空蒼し 渡邊水巴 富士
水尾曳いて白鳥蒼みくる日暮 伊藤孝一
水引草空の蒼さの水掬ふ 石田あき子 見舞籠
水涼し毬藻の生きてゐる蒼さ 大橋敦子 匂 玉
水無月の筑波蒼さや棉の花 大竹孤悠「望郷」
水無月の苔の蒼さや大伽藍 碧雲居句集 大谷碧雲居
水着脱ぐ海の蒼さをしたたらせ 吉原文音
水芭蕉中天に日も蒼みたり 八牧美喜子
水芭蕉齢ひたすら蒼ざめて 諸角せつ子
氷より月蒼ざめし冬木かな 金久美智子
汗の肉打ちつけん空の蒼さかな 中島月笠 月笠句集
沖寒き蒼さに桶の生海苔は 大熊輝一 土の香
沖潮はシャガールの蒼冴返る 伊藤京子
法師蝉杉間に蒼む空遠嶺 石 昌子
流氷の白さだけ海蒼深む 加藤瑠璃子
流氷群蒼然と昏れともないぬ 宇咲冬男
浮いて来いいま浅草の空蒼し 今井杏太郎
浴衣の上に蒼ぐろき顔載せあるく 篠原梵
海に出むとして氷塊の蒼ざめぬ 山田麗眺子
海の蒼さ消えゆく目刺焼きにけり 福田蓼汀 山火
涅槃西風猿の蒼肌露はるる 中村草田男
消えてより蜥蜴の蒼さ長崎忌 鍵和田釉子
深海の蒼さと思う春の風邪 和泉真樹
渓流の滾つ蒼さや曼珠沙華 田塚 公晴
湖蒼し芦の穂絮のよくとぶ日 中井余花朗
滝つらら空懸命に蒼むかな 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
滝の上に空の蒼さの蒐り来 後藤比奈夫「初心」
滝口の蒼みておつる秋の滝 石原八束 空の渚
滝壺の一点蒼し結氷界 佐野美智
滝壺の水の蒼さは魂しづめ 大野崇文
瀧の上に空の蒼さの蒐り来 後藤比奈夫(1917-)
灯に搦む蒼蠅いつまで更けにけり 石塚友二 光塵
炎天は蒼し廃墟に貌よごれ(敗戦) 石原八束 『秋風琴』
点滴の針あと蒼し秋黴雨 成田郁子
焚きやめて蒼朮薫る家の中 杉田久女
煤払火の見の北はいつも蒼し 大峯あきら
照る紅葉ここより利根の蒼まさる 河合凱夫 藤の実
父ら蒼し餅つき唄の昼を経て 金子兜太 蜿蜿
片頬にひたと蒼海の藍と北風(きた) 竹下しづの女句文集 昭和十三年
犀川の蒼古の神の菫かな 西本一都 景色
瑠璃揚羽蒼空の蒼持ち去れり 木内徹
田植前秋田の土も水も蒼し 相原左義長
病み抜けて空の蒼さや沈丁花 出田 浩子
白塔は火雲の翳に蒼古たり 西村公鳳
白梅の白を持さんと帯ぶる蒼 大橋敦子 手 鞠
白百合の花びら蒼み昏れゆけば拾ひ残せし骨ある如し 五島美代子
白鷺や蒼を切り裂く野辺送り 角川春樹
盆墓に北さす潮の蒼さかな 大峯あきら 鳥道
盟神湯(くがたち)に花蒼ざめしけがれかな 筑紫磐井 野干
眠る山抱き榛名湖蒼沈め 田島桂月
知らぬ間の打ち身の蒼さ春の暮 黒河内多鶴子
石庭の雪蒼ざめるまで居たり 西村和子 かりそめならず
石油危機ひそめる蒼さ凧の天 中村明子
硝子戸に嶺々が真蒼し春炬燵 宮坂静生 青胡桃
磴に見て紀の海蒼し初詣 直江藤三郎
礁覆ふ若布にもまれ蟹蒼し 河野南畦 『花と流氷』
福笹の小判に蒼し響灘 出口孤城
秋の灘引つぱり合へる蒼さかな 和田耕三郎
秋刀魚揚ぐ海の蒼さを零しつつ 鎌倉 博史
秋草も蒼黄として咲き急ぐ 相生垣瓜人 明治草抄
秋風の裏見の滝の裏蒼し 加藤知世子
秋鯖の縞の蒼さに塩を打つ 嘴美代子
空いまも無垢の蒼さや仏桑花 橋本榮治 麦生
空の蒼さしん~と胼口をあけ 大谷碧雲居
空の蒼さを言いたいのだがあわわわわ 小宅容義
空の蒼さ滝落ちながら氷りけり 渡辺水巴 白日
空の蒼さ見つゝ飯盛る目刺かな 渡辺水巴 白日
空は我を生みし蒼さや花卯つ木 渡辺水巴
空蒼し風をこぼしてこぶしの芽 河野南畦
立ちそめて夕波蒼し鱸舟 和田祥子
立秋の海蒼ならず碧ならず 西本一都 景色
立花山蒼しあをしと扇かな 中村祐子
節分草蛇笏の山の蒼みけり 郡 嵐子
篠懸の葉が茂つて人々が蒼ざめて躍つて 中塚一碧樓
絶海の蒼さ葎ののぼりつめ 野澤節子
胎内の水の蒼めるさくらどき 神谷きよ子
自死聞きし空の蒼さや棕櫚の花 田原佳代子
自転車の蒼光る肉峠より 西川徹郎 死亡の塔
致死量の月光兄の蒼全裸(あおはだか) 藤原月彦(1952-)
花どきの空蒼涼と孔雀啼く 飯田蛇笏 霊芝
茘枝割れ天の蒼さに愕きぬ 和光赤帝子
落葉踏むとき蒼惶と何か過ぐ 千代田葛彦
葉の中に咲く茶の花の蒼さかな 碧雲居句集 大谷碧雲居
蒼々と夜の峰見ゆる魂まつり 成田千空 地霊
蒼々と障子張り替へられゐたり 山口誓子
蒼々と風が編んでか森の冬 対馬康子 吾亦紅
蒼ざめしは事務所の夏のゆでたまご 渋谷道
蒼ざめし男の化粽桜樹下 柿本多映
蒼ざめし馬の来たれる梅雨寒く 大道寺将司
蒼ざめてゐる寒牡丹修羅のいろ 石寒太 翔
蒼ざめて地をあるく鷲雪とならむ 千代田葛彦 旅人木
蒼ざめて裸身溶け入る秋鏡 内藤吐天 鳴海抄
蒼ざめて霧の月しろ秋の繭 殿村莵絲子 雨 月
蒼すぎる海の淋しさ芭蕉咲く 小林希世子(朝)
蒼姫川堰落つるよりつばくらめ 紺野佐智子
蒼惶と沼を去る日や抱かれて 津沢マサ子
蒼朮たく閑にへだたる夜陰かな 飯田蛇笏 春蘭
蒼朮の只事ならず匂ひけり 後藤夜半 底紅
蒼朮の焚かれ写経の墨匂ふ 吉年虹二(未央)
蒼朮の煙のまとふ古柱 三宅二郎
蒼朮の煙賑はし梅雨の宿 杉田久女
蒼朮の花や猪垣崩れをり 飴山 實
蒼朮はけむりと灰になりにけり 阿波野青畝
蒼朮や東寺百合文書群 丘本風彦
蒼朮を焚きて暫く楽しまず 後藤夜半 底紅
蒼朮を焚きて籠れる老尼かな 水谷鍬吉
蒼朮を焚きひそやかにすまひけり 清原枴童
蒼朮を焚きゐる末寺東山 茨木和生 往馬
蒼朮を焚くすこし憂ひありければ 成瀬櫻桃子
蒼朮を焚く山の湯の一夜かな 伊藤冨美子
蒼朮を買へば僧かと訊ねられ 打出たけを
蒼朮を隣たきゐる匂ひかな 青木月斗
蒼朮焚くすこしく憂ひありければ 成瀬櫻桃子 素心
蒼氷のこは死の岩壁ぞ朝迎ふ 有働亨 汐路
蒼浪にのぞみたえけり菊の岸 嵐雪 俳諧撰集「有磯海」
蒼海が蒼海がまはるではないか 富澤赤黄男
蒼海に叶ふ衣を更へにけり 笹尾照子
蒼海に果つ雪国の雪岬 大橋敦子 匂 玉
蒼海のうねりや障子閉ざしても 野澤節子
蒼海の斯くも寂寥サングラス 馬場移公子
蒼海の浪酒臭さしけふの月 桃青 選集「板東太郎」
蒼海の浪酒臭し今日の月 松尾芭蕉
蒼海の真昼まぶしき羽抜鳥 小野恵美子
蒼海の空に畠あり鍬始め 河野静雲
蒼海の色尚存す目刺かな 高濱虚子
蒼海の落日とゞく蚊帳かな 杉田久女
蒼海へ鷹を放ちし神の島 山田弘子
蒼溟の*かりん林や額あらわ 対馬康子 愛国
蒼然と山の月の出狐啼く 茂惠一郎
蒼然と旅人を待つ泉かな 大木あまり 雲の塔
蒼然と晩夏のひばりあがりけり 三橋敏雄 眞神
蒼然と枝垂れざくらを責める霧 中島斌雄
蒼然と蝗の雲の下りきたる 加藤秋邨 沙漠の鶴
蒼然と鉄心の鐘除夜を待つ 下村ひろし 西陲集
蒼猫忌とはわが忌日夏の雨 大木あまり 雲の塔
蒼石の耳秋風にかなひけり 長谷川双魚 風形
蒼窮に鳶の輪いくつ春立ちぬ 山内遊糸
蒼翠を穿ちて白き夏の湖 富安風生「喜寿以後」
蒼茫たる対馬の渡り正南風なり 田中英子
蒼茫と夕潮寄する大枯野 天田牽牛子
蒼茫と春の*はやてに富士かすむ 澄雄
蒼茫と玄界暮るる白牡丹 小関芳江
蒼茫にこころ掠める青葉風 酒井 顕
蒼茫や歳徳と朝弾み来る 笹川正朋
蒼蝿と云へど打ちてし止まむかな 瓜人
蒼蝿の人のいかりにまだ触れず 西村 青柿
蒼蝿や鯛の眼を去り敢へず 川村鳥黒
蒼鷹を舞はす富良野の大夏野 中嶋美貴子
蒼鷺の斜陽に立てる浪花かな 坊城としあつ
蒼鷺を翔たせて舟は*えりにつく 山口草堂
蓮池を人蒼ざめて去る眞晝 渋谷道
藻の匂いで蒼む公園 幼い愛 伊丹公子 メキシコ貝
蜥蜴出て海の蒼さに驚けり 高木公園
蝶消えて蒼海一朶のこりけり 柴田白葉女 花寂び 以後
蟷螂の蒼さに麻酔より目覚め 対馬康子 吾亦紅
蠅打つや誰も来ぬ日の山蒼し 碧雲居句集 大谷碧雲居
行水の子の尻蒼し合歓の花 宮坂静生 青胡桃
見わたせば蒼生よ田植時 蕪村遺稿 夏
観音の空の蒼さや木守柿 吉澤恵美子
貧乏や蒼茫といふ水を飲む 田中亜美
逆白波の河口よしづかな蒼生(あをひとくさ)よ 夏石番矢 猟常記
遠天の蒼光り凍河流るる音 齋藤玄 『玄』
遠嶺いま蒼し梵天発つかまへ 柏山照空
酔ひはての銀河蒼ざめゆくばかり 上田五千石 田園
重ねたる硝子の蒼し冬の雷 深川淑枝
野の闇に真蒼の車輪除夜の汽車 宮武寒々 朱卓
野馬に霧ながれ黒潮夜も蒼し 神尾久美子
鈴の音の南部蒼前祭あをし 黒田杏子 花下草上
鉄階のつめたさ冬天の蒼さ 柴田白葉女 花寂び 以後
門松立てて天の蒼さをひきよせぬ 高橋たかえ
陸奥蒼しと海鞘や帆立貝を倦かず食う 金子兜太
隠しマリアに夕べは蒼む白牡丹 鍵和田[ゆう]子 浮標
隧道の果が海見す五月の蒼 河野南畦 『焼灼後』
雪かづく岩々のひま水蒼し 大橋敦子 手 鞠
雪きしむ馬上真蒼な君の夜 桜井博道 海上
雪の来るまへの蒼さの蕪畑 大石悦子 聞香
雪山に成層圏の蒼さ墜つ 松本詩葉子
雪山に汝を思へば海蒼し 相馬遷子 山国
雪嶺の襞しんしん蒼し金縷梅咲く 加藤知世子
雪嶺蒼し研師おのれを研ぎすます 長田豊秋
雪晴の日本海の蒼さ見よ 大橋敦子 匂 玉
雪晴れて我が冬帽の蒼さかな 飯田蛇笏
雪渓の一岳ごとに蒼ざめぬ 伊藤敬子
雪蒼し菜食の口僅か開け 栗林千津
雪連峰摩周湖の蒼引立てて 加藤純子
雲の中を蒼滝おちぬ花馬酔木 桂樟蹊子
雲の峰浄土ケ浜の深蒼み 半崎墨縄子
雲未明火山の蒼し芽木の中 川村紫陽
雲海に蒼荒太刀の峰のかず 中村草田男
雲漠々海蒼々と大暑かな 渡部抱朴子
雷や蒼々として大玉菜 楠目橙黄子 橙圃
雹のあと空の蒼さや畑打つ 碧雲居句集 大谷碧雲居
霜の威に墓ことごとく蒼ざめぬ 中村草田男
霜凪の蒼海渚にて白し 千代田葛彦
霧裂けてクレバス蒼しさくら草 有働亨 汐路
青梅雨や魍魎たちも蒼の中 獅子倉かずえ
風に鳴る幟刺殺の絵が蒼し 大井雅人 龍岡村
風や聖や蒼柏順順季節 阿部完市 春日朝歌
風死して日本中のテレビ蒼し 正木ゆう子 静かな水
風花の降りくる空のいと蒼し 高橋淡路女 梶の葉
飛騨蒼し花栗かをり繭匂ふ 前田普羅 飛騨紬
首桶や青田は蒼をみなぎらす 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
馬の眸を蒼しと思ふやませかな 高千夏子「真中」
髪はえて容顔蒼し五月雨 松尾芭蕉
鬱々と蒼朮を焚くいとまかな 飯田蛇笏「霊芝」
鬼灯市蒼し伽藍のふところに 山田みづえ
魚となりて父還りこよ蒼蒼とわれの頭蓋はいつの日も海 金子貞雄
魚群蒼々大字湯坪ゆつぼ庵 穴井太 原郷樹林
鮎鷹の一閃に水蒼むかな 窪田佳津子
鮟鱇は海の蒼さを思ひをり 佐川広治
鱒秤る分銅蒼し山いづみ 伊藤白潮
鳥葬を了へて蒼茫たる月夜 つじ加代子
鳳朗も梅室も来よ蒼*きう忌 松井利彦
鴎飛ぶ秋潮限りなき蒼さ 阿部みどり女
鴨の陣夜を放ちたる沼の蒼 野澤節子 黄 炎
鶏が踏む根雪が蒼しガリレオ忌 飴山實 『おりいぶ』
麥熟みぬ蒼海は今如何ならむ 相生垣瓜人
麦の畦夜も蒼々と友の遺画 友岡子郷 遠方
麦熟みぬ蒼海は今如何ならむ 相生垣瓜人 微茫集
黐つくや蒼蝿の賦に書き漏らし 青木鷺水
●碧 
いたづらに塩田空碧し草矢うつ 佐野まもる 海郷
いなびかりめらめらと碧みたつ髪 小橋啓生
さしのぞく海の碧りや蕨山 楠目橙黄子 橙圃
しんしんと肺碧きまで海の旅 篠原鳳作(1905-36)
つばくらめ帽簷雨後の山碧む 角川源義 『神々の宴』
つばな笛海の碧さをいかにせむ 佐野まもる 海郷
つらら垂る竟の御空もこの碧さに 千代田葛彦 旅人木
ふるさとは懸大根に海碧し 荒島禾生
みんなが鳥になる空の碧さへ切手貼る さいとうかぜお
むらさきも碧も焔のいろ西行忌 神尾久美子 桐の木以後
よりそひて瞳碧けれ木の芽より 池内友次郎 結婚まで
わかさぎの釣れて雫す水碧し 佐野青陽人 天の川
わすれ汐蟹の殻透くまで碧し 佐野まもる
アルプスの秋川常に碧き色 高木晴子 花 季
オリーブ園海より碧き揚羽来る 伊東宏晃
ベルトひびかぬ一と時を空の碧草の青 原田種茅 径
ペリー祭海碧ければ空もまた 坂本登美子(海)
ボート漕ぐ湖の碧さのふと怖く 吉見南畝
一月の日を乗せ海の碧きかな 藤田康子
七月の碧落にほふ日の出前 水原秋桜子
三椏の花仰向けよ空碧し 堤 京子
五十里湖の雪晴れ碧く月濡らす 雨沢和琴
佐渡どこも海の碧さの春の闇 上村占魚 『方眼』
修行場の岩かげ碧し岩魚棲む 面地 豊子
俳磚も虚碧並びて冬ぬくし 安原葉
入学の母系の碧き瞳かな 武藤万瓢
入鹿池半分涸れてゐて碧し 神谷定女
六月の富士碧々となだれやまず 佐野青陽人 天の川
冬天といふ一枚の碧さかな 石橋淑子
冬天のどこまで碧し雑木山 清藤徳子
冬天の碧さ言ふべきこともなし 岸風三楼 往来
冬服や荒海の碧さいさぎよし 内藤吐天 鳴海抄
冬桜空の碧さとかかはらず 馬場移公子
冬瓜の坐り碧湖となりにけり 山本洋子
冷えきつて茎石碧むまで磨く 宮坂静生 青胡桃
冷まじや碧巌録講門閉ぢて 桂樟蹊子
凍港の中央碧き潮動く 齋藤愼爾
初能や朝より碧落たまはれり 小枝秀穂女
勇魚(いさな)捕る碧き氷河に神のゐて 角川春樹(1942-)
北麓の空より碧し蛍草 小川晴子
南天の一粒づつに碧き空 稲岡長
去ぬ燕黒部の碧き水に触れ 岩崎眉乃
古き友一碧楼忌修しけり 草野三波郎
古老ひとり碧雲居忌の釣堀に 渡辺恭子
吉野川碧美しかちはだし 鈴木貞雄
君影草匂ひ懐し碧玲瓏忌 池田孤星
吹雪晴れ碧紺すゝむ雲の照り 金尾梅の門 古志の歌
城門のこふのとりの巣秋碧し 小池文子 巴里蕭条
基地の街碧すぢ揚羽は怒り肩 藤田直子
塔も碧き秋天を雲ゆき消ゆる 臼田亜浪 旅人
塩の道天碧む日の軒つらら 甲斐すず江
墓守に碧落のあり日のさくら 沼尻巳津子
声上げて春潮の碧足を染む 岸本マチ子
夏海の帆碧々とゆきゆけり 小橋啓生
夏碧き信州の空飛騨の空 岡田日郎
夏野にて焚くもの碧き焔出す 佐野まもる
夏霞脚下に碧き吉野川 青木月斗
夕空の碧まだ昏れずえごの花 畠中じゆん
夜は碧き雪稜線のよみがへる(志賀高原発哺) 石原八束 『雪稜線』
夜は碧く雪稜線のよみがへる 石原八束
大学の空の碧きに凧ひとつ 山口誓子
天の碧さ盗め盗めと飛ぶ噴水 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
天は碧く雲白く狗ひんの鼻に夕日影 日夏耿之介 婆羅門俳諧
天涯の碧さ野菊と吾れに透く 野澤節子 黄 瀬
天碧し盧橘は軒をうづめ咲く 杉田久女
太子廟あり碧玉の青葡萄 山岡直子
子規は月碧梧梅の佛かな 飄亭句日記 五百木飄亭
富士が嶺や南無碧落の秋の雪 西島麦南 人音
寒碧き海の奈落も見とゞけつ 佐野まもる 海郷
寒餅を搗いて碧忌に供へけり 江戸おさむ
寒鯉の苞提げゆくに河碧し 栗生純夫 科野路
山の上の空の碧さよ道元忌 河野呆人
山の分校玻璃を真碧に冬休み 森澄雄
山の空まことに碧き寒なかば 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山眠るその懐に碧き沼 柴田奈美
山碧く冷えてころりと死ぬ故郷 飯田龍太 麓の人
山碧し花桃風を染むばかり 飯田龍太
山高し墓碧し炎天にわれも 牧石剛明
岩におく水さへ碧し草雲雀 鈴木鵬于
岩にすがるたまゆらの龍胆碧し 内藤吐天
峡湾の碧さや牟婁の冬深き 内藤吐天 鳴海抄
巌つらら落ち碧潭をくつがへす 鈴木貞雄
師の快癒願へば碧し龍の玉 池田秀水
常夏の碧き潮あびわがそだつ 杉田久女「杉田久女句集」
強く吹く風に乗り換え碧揚羽 高澤良一 素抱
性器より湯島神社へ碧揚羽 攝津幸彦
成人の日の海碧く沖より醒む 大須賀浅芳
抱擁をしらざる胸の深碧ただ一連に雁わたる 富小路禎子
抱籠や碧紗を隔つ夜の空 露月句集 石井露月
撒水車空の碧きを敷きゆけり 池田梓郎
散るものを誘ふ碧さの冬の空 後藤比奈夫 初心
散る紅葉空の碧さに耐へて佇つ 小松崎爽青
散紅葉とどくを待ちて渕碧し 横山房子
新涼や木馬に碧きガラスの瞳 吉田ひろし
日ならべて鰆の潮の碧かりき 佐野まもる
日を知らず実のりて碧し龍の玉 高橋淡路女 梶の葉
早梅や碧虚を生みし城下町 星野 椿
春の河盲目の水碧く厚く 津田清子(1920-)
春の海かく碧ければ殉教す 岩岡中正
春潮の今一帆を得て碧し 中村星堂
春風に海知らぬ国の空碧し 青峰集 島田青峰
昼の空いよいよ碧き手毬唄 澄雄
晩秋の日本海暗夜は碧(へき) 金子兜太 詩經國風
曇りゐて晴れねば翔くる碧揚羽 篠田悌二郎 風雪前
月皓皓としてデスマスク碧し 有馬ひろこ
朝のそら碧くさくらは濡れてゐる 片山桃史 北方兵團
木曽川の奇岩に碧き後の月 水上美智子
朱欒まだ碧が匂へる鳳作忌 松浦敬親
東京の空の碧さよ震災忌 甲斐 謙次郎
松風に碧みてきたる氷かな 岡本 高明
枝豆の碧玉喉に飛び入りぬ 久米正雄 返り花
枯るる中指輪の碧き石ぬぐふ 鷲谷七菜子
枯菊に一天の碧ゆるみなし 福田蓼汀 秋風挽歌
桜ちる空碧ければうれひなし 岸風三楼 往来
梅満つ曇天碧落皇子つと降りよ 柳沢一弥
梅雨寒やインクは碧と決めている 川崎洋子
椰子とヨツト空が碧増す色に炎え 河野南畦 湖の森
楊散る沼の碧さに堪へ得ずに 加倉井秋を 午後の窓
歯朶刈りて海の碧さを見てゆけり 則近文子
母や碧揚羽を避くるまでに老い 永田耕衣 驢鳴集
毛糸編む碧落しんと村の上 飯田龍太
水夫の瞳デッキに碧く雨ふれり 滑川春蕾
氷水碧落に死のありしこと 友岡子郷 春隣
池塘群碧しカムイ嶺粧ひて 沼澤石次
汲みさげし閼伽に碧落秋彼岸 井沢正江
泡立草毒もつ如き碧き空 西藤 昭
洗面す冬暖の空ほのかに碧し 飯田蛇笏 春蘭
流球の海碧ければ濃ゆき眉 穴井太 原郷樹林
海の碧藍に変れり雁の頃 田中英子
海の碧見たしと凌霄花這ひのぼる 三沢 蘭
海よりも空が碧くて鴨わたる 佐野まもる 海郷
海地獄碧きが上の赤とんぼ 山本歩禅
海峡の碧を加へし秋燕 毛塚静枝
海碧き出雲に飾る粉挽臼 永井由紀子
海碧ければ座礁するグランドピアノ 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
海碧し灯台官舎椿咲く 飯村弘海
海碧し自殺防止の網暑く 福田甲子雄
海髪碧く旅のたむろの夕づけり 角川源義
深々と沈みて碧し龍の玉 野村喜舟
清水汲む影のそとなる水の碧 原裕 青垣
湖の碧 声帯模写の鸚鵡のまえ 伊丹公子 アーギライト
湖の碧さ奇しきまで秋風に映ゆ 大森桐明
湖碧し蜜柑の皮を投げ入れし 深見けん二
満ち足りて円筒に憑く碧揚羽 攝津幸彦
漱石忌雲碧落に遊びをり 村山古郷
潮筋のあらはに碧し若布刈舟 佐野まもる 海郷
瀞小春碧より瑠璃へ舟下り 落合水尾
玄海に花屑魚(かなぎ)育てて碧き潮 竹下しづの女 [はやて]
田雲雀や空の碧さを抜けられず 須磨佳雪
白雲に碧き空洞川施餓鬼 向井 秀
目慣るればほのぼの碧き泉かな 播水
眼の碧く澄みて暑さのきはまりぬ 佐野美智
短夜や碧に光る墨のしみ 照敏
石庭を蹴りてよろりと碧揚羽 攝津幸彦 鹿々集
砂まぜの肌に碧の潮を浴ぶ 吉原文音
碧きまま昏れて流星椰子の上 高澤良一 ねずみのこまくら
碧き星一つ蓴の生ひゆるる 堀朱雀門
碧き目に猫もかなしむ恋の頃 赤松[けい]子 白毫
碧き眼の娼婦ら肥えて虫飼へる 瀧春一 菜園
碧くなる空路プリンスメロン出づ 神尾久美子
碧さもどる水に響きてわが国歌 臼田亞浪 定本亜浪句集
碧天に雪富士いまだ湖覚めず 吉野義子
碧天に鷹舞ふ蝦夷地大樹海 阿部 幽水
碧天の木の葉あびつつこころさぶ 太田鴻村 穂国
碧天へいきなり到達雲の峯 高澤良一 素抱
碧天や喜雨亭蒲公英五百輪 水原秋櫻子
碧天や雪煙たつ弥生富士 水原秋桜子
碧天をうるほす紅やさるすべり 原コウ子
碧天を占めた俳句の時間帯 浅野逍風
碧天を花器に泰山木の花 筏奈雅史
碧巌録撫子添へて納棺す 宮武寒々 朱卓
碧揚羽夫婦の仲を割いてみよ 辻田克巳
碧揚羽海より来たり飛び去りぬ 高澤良一 随笑
碧揚羽翔けて欝居の眼を瞠る 篠田悌二郎 風雪前
碧揚羽見えて去らざる遠き恋 沼尻巳津子
碧揚羽逃げゆく何を煮て食はな 清水径子
碧揚羽通るを時の驕りとす 山口誓子
碧映えて出窯の壺あたたかし 及川貞 夕焼
碧湖より青天かけて山紅葉 香西照雄 素心
碧潭の上筍を掘る音す 内藤吐天
碧潭の奥から奥へ深山蝶 佐藤富美子
碧潭の奥へ奥へと大揚羽 河合凱夫 飛礫
碧潭をうつせし水に冬日影 右城暮石
碧濃き夏潮に言奪はれし 西村和子 窓
碧玉のそらうつつばさかく白き 篠原鳳作 海の旅
碧玉の昃ればただの竜の玉 三村純也
碧玲瓏忌の噴水に若葉の灯 清水九璋
碧落に入りたる草の絮うれし 矢島渚男 延年
碧落に擲げて戻らぬ木の実かな 稲垣きくの 黄 瀬
碧落に日の座しづまり猟期来ぬ 飯田蛇笏
碧落に神雪嶺を彫りにける 福田蓼汀
碧落に聖火台嵌めスケート場 轡田 進
碧落に鷹一つ舞ふ淑気かな 宇田零雨
碧落の主峰垂氷を砦とす 岡田日郎
碧落の凧の力を児へ渡す 佐々木蔦芳
碧落の牡丹の中に山の音 古舘曹人 砂の音
碧落の蔵王に迫る結氷期 斉藤典子
碧落の都心へ落葉別れとは 原裕 葦牙
碧落は太初このかた雪の富士 山本歩禅
碧落へ注連張つて那智一の滝 肥田埜勝美
碧落へ火種のごとき音のごとき 吉田未灰
碧落へ色うしなへる返り花 太田鴻村 穂国
碧落へ花散る山の登りかな 太田鴻村 穂国
碧落や父子距たれば揚ひばり 和田悟朗
碧落や鶴が邪魔する雲気かな 増田まさみ
碧落をきはめてもどり夏の蝶 本井 英
碧落を写す皐月の田の面かな 橋本立雄
碧落を掃く竹の春の竹 原コウ子
碧落を支へきれずに朴葉落つ 福永耕二
碧落下秋のレマン湖水澄めり 河野静雲
磯に赤く礁辺に碧き夜振の火 佐野まもる 海郷
秋の日をとづる碧玉数しらず 芝不器男
秋の湖別れんとして尚碧し 大森桐明
稲刈つて雀に碧き空のこる 坪井かね子
積雪に夕空碧み雲の風 飯田蛇笏 霊芝
積雪の碧落藪をそめにけり 松村蒼石 雪
空の碧落花の白のもとに濃し 池内友次郎 結婚まで
空よりも碧き摩周湖花サビタ 山本歩禅
立秋の海蒼ならず碧ならず 西本一都 景色
竜淵に潜んで碧き瞳なる 五島高資
童子の眼碧むやませが滲み通る 高野ムツオ
紫陽花の毬より碧きうみを恋ふ 中尾白雨 中尾白雨句集
絵の秋の空の碧さが迫り来る 椎橋清翠
絶壁のわんわんと鳴るとき碧落 富澤赤黄男
舟生簀潮の碧に鱚泳ぐ 小林葭竹
舟虫の断崖碧き油照り(三浦荒崎にて) 角川源義 『秋燕』
色鳥や碧天にあげて煙細し 島村元句集
芥子咲けば碧き空さへ病みぬべし 篠原鳳作 海の旅
花冷をしかと覚えて碧巌堂 鈴鹿野風呂 浜木綿
若駒に海原といふ碧きもの 大牧 広
草矢射て空の碧さを拡げしのみ 千賀静子
落葉せり碧天はいつも青年にて 有働亨 汐路
葉洩日に碧玉透けし葡萄かな 杉田久女
葡萄園出て碧落に身を涵す 木村蕪城 寒泉
葦生より碧落淡む十三の方 成田千空 地霊
蘭咲きぬ碧雲睡る岩の*あな 幸田露伴 江東集
虚子捨て碧梧誤りし俳句子規忌かな 松根東洋城
虹ありし暮天の碧さはなやぐも 内藤吐天 鳴海抄
虹たつや静かに碧き海として 佐野まもる 海郷
裏富士や男に憑きし碧揚羽 小山森生
覚めきつて碧き瞳のいぬふぐり 石田 厚子
解しかぬる碧巖集や雜煮腹 雑煮 正岡子規
誘ふ碧落墓への階も一人幅 香西照雄 素心
誰も往かぬ/かの碧落の/紺碧へ 酒巻英一郎
赤き碧き夏セーターや霧に現れ 長谷川かな女 牡 丹
越中の碧くしづかな氷柱かな 佐川広治
金雀枝の黄にある空の碧さかな 石川風女
針納め碧き水平線も針 三好潤子
長城や凍雲碧き傷ひらく(「日中友好定型詩討論会」に出席のため北京行) 石原八束 『幻生花』
閣涼し金碧はげて笙の声 涼し 正岡子規
限りなく海碧き日のばつた飛ぶ 樋笠文
陶片拾ふ冬青空の碧拾ふ 奈良文夫
陽の碧くむら嶺の風に燕来ぬ 飯田蛇笏 霊芝
雛の眼に海の碧さの映りゐる 篠原鳳作 海の旅
雛の鷺天より碧き殻を割る(鷺山二句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
雛流す沖の碧さの祓はれし 山田弘子 懐
雪の川碧深ければ渦を巻く 長谷川櫂 古志
雪はげし灯して碧きなまこ切る 吉野義子
雪下し夕空碧くせまり来る 金尾梅の門
雪山に野尻湖の碧沈めけり 橋本夢道
雪日和たたみ鰯の目の碧き 長谷川櫂 天球
雪眼鏡雪原に日も牛も碧き 橋本多佳子
雪虫のかくまで碧き三ケ日 道山昭爾
雲碧く僧の頭青し年木作務 河野静雲 閻魔
雷過ぎし一角碧し青胡桃 宮坂静生 雹
雷鳴つて碧きモーゼの五月の瞳 平井照敏 天上大風
霧かくし切れずー碧湖を置けり 岸風三樓
霧匂ふ夜や碧玉を見立て合ふ 中村明子
風の声碧天に舞ふ木の葉かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
風雪を経し火口湖の碧き冷え 伊東宏晃
飛び来る落花の風に空の碧 池内友次郎 結婚まで
馬の瞳も零下に碧む峠口 飯田龍太(1920-)
馳せ入るや秋霖碧き妻の傘 鳥居おさむ
骨小さき碧雲居仏南無小暑 萩原麦草 麦嵐
鮎落ちて淵の碧さはたへがたし 佐野まもる
鴎愛し海の碧さに身を細り 篠原鳳作 海の旅
鴨の空ふかくうつりて浦碧し 佐野まもる 海郷
鵙の天碧し朝から疲れゐる 内藤吐天 鳴海抄
鵜舟待つ川の碧さの極まれる 高橋以登
鶴引くや水にくまなき空の碧 大岳水一路
鷽納め碧き月日を惜しみけり 古館曹人
黒鯛釣に港湾の潮碧なす 鈴鹿野風呂 浜木綿
龍の玉碧き匂ひのありにけり 三ケ尻とし子
龍淵に潜んで碧き瞳なる 五島高資
●青々 
お山絵図青々すそに滝いくつ 荒井正隆
そのあとの壁青々と雛納め 小林波礼
ねずみもちの実の青々と気多大社 井上玉枝
ふくむ乳房青々と散るさくらかな 千代田葛彦 旅人木
一人遍路に土佐の*ひつじ田青々と 田中英子
一村ここに尽く青々と芒山 野澤節子 黄 炎
乙訓の竹青々と幟竿 福井鳳水
八つ手咲き夜も青々と天ありぬ 菖蒲あや
八つ目苔の青々とつきし根榾かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
円虹の名残ともなほ幽かなる 桑田青虎
冬ながら三輪の神山青々と 村田橙重
冬川に青々と見ゆ水藻かな 村上鬼城
冬草の青々として海地獄 亀田俊美
冬青々苔庵の露地苔に満ち 及川貞 夕焼
冷しうどん去年の花茣蓙青々と 渡邊水巴 富士
出来過ぎ田青々と伏し地蔵盆 西村公鳳
初御空青青と海染めにけり 高橋玲子
北風や肌青々と桐立てり 阿部みどり女
古壺に梅青青と泪妻 橋本夢道 無類の妻
命愛しめと青々と黴けむり 佐怒賀正美
地球儀の海青青と福寿草 浅賀渡洋
大旱の竹青々と蛇籠編む 佐野青陽人 天の川
天広く湖青々と旱かな 東洋城千句
宿生木の冬青々と金蓮寺 望月皓二
小松菜に寒が過ぎをり青々と 森田公司
小鰭青青開耶姫のる朝の山車 小枝秀穂女
山吹に雪解の水の青々し 山吹 正岡子規
巌に置くキャンプの胡瓜青々と 橋本鶏二
年用意竹青々と切られけり 大道寺きよし
掌をひろげ青麦の風受けて行く 篠原梵
放屁虫青々と濡れゐたりける 山口青邨
昆布ほす陽の青々と燃えにけり 西島麦南 人音
春晩の竹青々と濡れ揃ひ 福田蓼汀 山火
望郷や蔕青々と寒苺 柳生真左子
朝寒の空青々とうつりけり 朝寒 正岡子規
木のもとに草青々と暮雪かな 原石鼎
枇杷の実の青々として半僧坊 川崎展宏
桑積んで青々と清き蚕部屋かな 癖三酔句集 岡本癖三酔
梅漬けて余りし塩も青々し 百合山羽公 寒雁
極月の空青々と追ふものなし 金田咲子 全身
榧の実の青々として寺領なる 中西舗土
死の家の菌青々寒月下 三谷昭 獣身
死を恃み露に入る身の青々と 斎藤玄 玄
水替へて小亀青々売られけり 岩津必枝(たかんな)
海暗く灯に青々と並木あり 瀧春一 菜園
滅罪に来しか山鳴り青青と 和田悟朗
滝なかを青々とさかのぼるもの 今瀬剛一
濡れ岩の榧青々と滝嵐 佐野青陽人 天の川
火の国の川青々と雪とかす 杉本寛
灯の中に青々と来て虫鳴けり 温亭句集 篠原温亭
炎天や森の青々樅梢 東洋城千句
狐火や村に一人の青々派 高野素十
病ひ篤し梅青々と太るかな 阿部みどり女
着ぶくれて藪青々と通りすぐ 村山古郷
石狩川滔々と麦青々と 辺見綾子
石蕗の葉の青々と敷松葉かな 古川芋蔓
神輿舁く刻青々と流れをり 加藤耕子
穢土の川葭青々と施餓鬼かな 山口誓子
節の豆まだ撒かざれば青々し 能村登四郎
簗打ちぬ堰の杉葉の青々と 楠目橙黄子 橙圃
紀の国の海青青と初電車 川村祥子
締め鯖の夜も青々と祭来る 橋本榮治 越在
草青々牛は去り 中塚一碧樓(1887-1946)
落し文青々*かがいの地なりけり 柴崎左田男
落柿のまだ青々と拾はれず 小澤碧童 碧童句集
行く年や葱青々とうら畠 室生犀星(1889-1962)
袖垣の竹青々とつくろひぬ 高浜虚子
谷水の青々として吹雪かな 高橋馬相 秋山越
豊作の注連青々と綯ひあがり 山本二千
遊船に陽は青々と灼けにけり 飯田蛇笏 霊芝
鉈豆の葉にまがひ垂れ青々と 河野静雲 閻魔
鎮もりて村青々と十三夜 太田淳子
雪折の笹青々とみづきけり 西島麦南 人音
電飾の青々と醒め寒の雨 水田むつみ
青々さつきの天地機織るひとり私ひとり 安斎櫻[カイ]子
青々としたたるものや盆用意 和田 祥子
青々とまびきたばねぬ唐辛子 西島麥南
青々と冬を根岸の一つ松 正岡子規
青々と出で湯に洗ひ上ぐ菜かな 安部元氣
青々と夕空澄みて残暑かな 日野草城
青々と少し斜めの鳥総松 星野椿
青々と山は連なり捕虫網 大木あまり
青々と山吹冬を越さんとす 前田普羅 飛騨紬
青々と恵那山立てり大茅の輪 八橋 隆文
青々と持ちて雷や露の菊 河野静雲 閻魔
青々と挿木の屑の掃かれけり 前田普羅
青々と春星かゝり頽雪れけり 前田普羅 飛騨紬
青々と枯れて山吹籬かな 大野多美三
青々と柳のかかる築地かな 蝶夢
青々と潮のごとし冬の川 長谷川櫂 古志
青々と煙草懸けたり納屋の前 松藤夏山 夏山句集
青々と猶淋しさよ須磨の秋 秋淋し 正岡子規
青々と稲のかたちになり垂るる 阿部みどり女
青々と竹を洗ふや冬の川 癖三酔句集 岡本癖三酔
青々と菜の濡るゝほど寒の雨 廣江八重櫻
青々と見えて根のある清水かな 千代尼
青々と障子にうつるばせをかな 子規句集 虚子・碧梧桐選
青々と風にしまあり夏木立 夏木立 正岡子規
青々と髪に結びし菖蒲かな 阿部みどり女
青々と鶴来る空のかかりたり 落合水尾
青青と匂ふ茅の輪をくぐりけり 高松俊子
青青と氷見の潤鰯の目にたまる泪の如きもの何ならむ 岡部文夫
青青蚕豆眩暈に坐る妹に 金子皆子
韮青々と性欲純粋と思う 夏木陽子
馬鈴薯の花青々と朝焚火 斉藤茂
鵜の息に冷えまさる水青々と 佐野青陽人 天の川
鹿垣や青々濡るる蔦かづら 飯田蛇笏 山廬集
●あをあを 
*ひつじ田のあをあを上総日和かな 三上紗恵子
あきつ飛ぶ川あをあをと飛騨船津 中川幸子
あをあをとあかあかと絵や種袋 浜秋邨
あをあをとうすぐもりゐる梅ひと日 豊田都峰
あをあをとかたちきびしき瓢かな 飯田蛇笏 山廬集
あをあをとかまきりの子と数珠玉と 黒田杏子
あをあをとこの世の雨のははきぐさ 飴山實(1926-2000)
あをあをとしかもゆたかに夏越しの輪 石川文子
あをあをとして生きてゐる余り苗 岩田由美 夏安
あをあをとふたたびみたび大夕立 黒田杏子
あをあをとをはりのとばり里神楽 加倉井秋を
あをあをと冬川底の藻がうごく 中拓夫 愛鷹
あをあをと冷ゆあをあをと草木界 黒田杏子 花下草上
あをあをと北京あをあをと蓮は實に 黒田杏子 花下草上
あをあをと十一月の蓬かな 山口いさを
あをあをと十八*ささげ茂吉の地 森田公司
あをあをと四万六千日の寺 石塚友二
あをあをと地球も蝌蚪の紐の中 波戸岡旭
あをあをと墓草濡るる梅雨入りかな 飯田蛇笏 春蘭
あをあをと壜酒を置き山始め 鷹羽狩行
あをあをと壬生菜一畝白毫寺 丹野富佐子
あをあをと夜が来てをりぬ誘蛾燈 白岩三郎(馬酔木)
あをあをと妬心打つべき今年竹 川崎展宏
あをあをと学校即売所のあしたば 中戸川朝人 星辰
あをあをと富士のかぶさる大根蒔 関森勝夫
あをあをと少年来るや初筑波 火村卓造
あをあをと山あをあをと墓洗ふ 黒田杏子
あをあをと山ばかりなり雁渡し 廣瀬直人
あをあをと岩に映れる額の花 岡田日郎
あをあをと師走六林男師天上忌 黒田杏子 花下草上
あをあをと年越す北のうしほかな 飯田龍太(1920-)
あをあをと弥彦山は浮ぶ海雲桶 古舘曹人 樹下石上
あをあをと後の彼岸の梯梧の木 森田公司
あをあをと心の末の野分浪 恩賀とみ子
あをあをと日本海や葭簀茶屋 鈴木康永
あをあをと日輪わたる結氷期 田辺正人
あをあをと星が炎えたり鬼やらひ 相馬遷子 山國
あをあをと春の藪騒女坂 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
あをあをと春七草の売れのこり 高野素十(1893-1976)
あをあをと暮るるも露の広重忌 加藤楸邨
あをあをと暮れて夏炉の灰の嵩 櫛原希伊子
あをあをと木賊の夢が墓囲ふ 石寒太 炎環
あをあをと東風波立ちて月いづる 松村蒼石 寒鶯抄
あをあをと残りの寿命昼寝覚 鳥居美智子
あをあをと水族館の春灯 西村和子 夏帽子
あをあをと水無月祓過ぎにけり 筑紫磐井 野干
あをあをと氷の中に影法師 長谷川櫂 天球
あをあをと河残しゆく大根引き 臼田青埃
あをあをと津軽が匂ふ茅の輪かな 鈴木鷹夫「千年」
あをあをと滝うらがへる野分かな 角川春樹 夢殿
あをあをと盆の月あげ*えりの村 関戸靖子
あをあをと盆会の虫のうす翅かな 飯田蛇笏
あをあをと硝子の馬に夏来る 曽野 綾
あをあをと秋刀魚かさなるとめどなく 塙 幸子
あをあをと空あり阪神震災忌 角川春樹
あをあをと空を残して蝶別れ 大野林火
あをあをと篭組み上がる寒露かな 宇野慂子
あをあをと羽子板市の矢来かな 後藤夜半 翠黛
あをあをと芭蕉の裂くる寒露かな 黒田杏子 花下草上
あをあをと草矢は空にかくれけり 細川加賀 『玉虫』
あをあをと蕗の煮えたる喪中かな 細川加賀 『玉虫』
あをあをと薺の粥を吹きにけり 黒田杏子
あをあをと藪たちあがる藪からし 小島花枝
あをあをと裏質鋪の空の凍て 飯田蛇笏 雪峡
あをあをと野分のあとの余り風 今井杏太郎
あをあをと闇を分かちて双つ繭 三反崎美代江
あをあをと降る葉の見えて一夜鮨 鷲谷七菜子 花寂び 以後
あをあをと隠岐花蔭に塩を焼き 黒田杏子 花下草上
あをあをと雁の道あり加賀の国 田部谷紫
あをあをと雨の一日の豆御飯 関森勝夫「鳳舞集」
あをあをと雪に翳おく凍豆腐 小島 健
あをあをと風船かづらともりけり 平井照敏
あをあをと魚影に走る柿若葉 金島伊津子
あをあをと鶴を織りゐる雪女 有馬朗人 耳順
くもる日が干鰯をあをくかがやかす 田中 七草
じんだ餅あをあをと師の三七忌 八牧美喜子
すすきの空あをあをと人ゆきし 太田鴻村 穂国
ひとを逝かしめあをあをと冬木賊 片山由美子 風待月
まぼろしのあをあをと鯊死にゆけり 秋元不死男
マルメロのあをあを風にしづまれる 太田鴻村 穂国
メロン食む別れの刻のあをあをと 鍵和田釉子
七夕の星あをあをとすでにあへり 原コウ子
七夕や昼あをあをと湯屋の澄み 秋元不死男
七夕や窓あをあをと閨厨 古舘曹人 樹下石上
仏生会双眼鏡に潮あをあを 野沢節子 八朶集以後
伐折羅見て葱あをあをと茂るかな 林火
元日の樹々あをあをと暮れにけり 桂信子 黄 瀬
冬麗の天あをあをと生まれ来よ 辻美奈子
分骨のあとあをあをと春の海 友岡子郷
初蛍信濃は夜もあをあをと 伊藤伊那男
勤めの青年麦の穂をあをあをもちくる シヤツと雑草 栗林一石路
北塞ぐ萱あをあをと余りけり 大峯あきら 宇宙塵
吉野過ぐ花千本をあをく見て 大木あまり 火のいろに
同欒の灯のあをあをと網戸越す 片山由美子
地吹雪の空あをあをとありにけり 杉山霄子
堕ちし蛾のあをあを明くる看護かな 石川桂郎 含羞
塔失せてあをあを冬の空残す 伊藤いと子
夕顔の闇あをあをといくさなし 黒田杏子 花下草上
多佳子忌の崖あをあをと滴れり 上野さち子
大川をあをあをと猫ながれけり 平井照敏(1931-)
大鐘のあをあを懸る卯月かな 大峯あきら 宇宙塵
太古より淵あをあをと鳥曇 山崎千枝子
妻湯浴む闇の刈田のあをあをと 中拓夫 愛鷹
安土炎上の日も葭あをあをと 橋本榮治 越在
実朝の海あをあをと初桜 高橋悦男
密漁の鮭あをあをと打たれたり 村上しゅら
寒の水あをあをとして吉野川 日野草城
寒流の海あをあをと目貼剥ぐ 横井千枝子
寒牡丹どこか火事あるあをあをと 加藤楸邨
屈託の萱あをあをと手摺に手 稲垣きくの 牡 丹
山の鯉土用がくれもあをあをと 岡井省二
帰る雁見ゆるあをあを空流れ 木附沢麦青
恋猫が過ぎてあをあを青畳 加藤秋邨 吹越
懸鳥の杉あをあをとおん祭 中御門あや
揺らぎては刻あをあをと古代蓮 鍵和田釉子
故郷の闇あをあをと夜鷹鳴く 恩田 洋子
旅人へ苔あをあをと冬泉 加藤耕子
日の暮の空あをあをと鰺を割く 飯島晴子
春雷やあをあをとして鴨の首 岸本尚毅 舜
昼寝覚あをあをとして肥後の国 日原傳
昼寝覚うつしみの空あをあをと 川端茅舎(1897-1941)
暖冬の空あをあをと高島屋 岸本尚毅 鶏頭
月の鹿草あをあをと行き違ふ 桂樟蹊子
木の国の空あをあをと冬ざくら 安部和子
木枯にあをあをと時流れけり 後澤 啼鳥
木枯の海あをあをと星こぼす 長田 等
梅の闇あをあをと夢さめてをり 朝倉和江
殉教の海あをあをと栄螺籠 中岡毅雄
水草の茎あをあをと猟期来る 大木あまり 火球
水餅や湖あをあをとさめざめと 吉田鴻司
河骨やまたあをあをと甦り 小川二三男
浅虫の湯女にあをあを夏の海 高野素十「野花集」
浮葉波胸の内外あをあをと 小島健 木の実
海よりも陸あをあをと青葉木菟 中村苑子
煉瓦館声なし冬草あをあをと 山本一糸
狐罠月あをあをと出でにけり 山木洋子
田じまひの越後や杉のあをあをと 森澄雄
田の*ひつじあをあをとして雀老ゆ 福永耕二
田楽の串のあをあを胸三寸 内田美紗 魚眼石 以降
白木蓮の夜をあをあをと瞑らず ほんだゆき
短日や天のー角あをあをと 日野草城
硯洗ふ墨あをあをと流れけり 橋本多佳子(1899-1963)
種袋海あをあをと膨れ来る 野中亮介
竹伐つて伐つて自らあをあをと 小内春邑子
老杉の実のあをあをと敬老日 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
胎内の水あをあをと花菖蒲 吉原多喜枝
芋虫や空あをあをと山の畑 長谷川綾子
花梔子経消壺のあをあをと 柚木紀子
苜蓿冬あをあをと乳牛臥す 西島麦南 人音
荒梅雨の鵜の目あをあを飼はれたり 宮田正和
荒鋤きの泥あをあをと寒明くる 下村和子
菊の灰日暮の空のあをあをと 岸本尚毅 鶏頭
蓮の実のあをあを八雲旧居かな 篠永妙子
虫送る駕籠あをあをと朴葉被る 杉本寛
蛇生るる少年の瞳のあをあをと 星野歌子
蝉のごとあをあをとゐて孤独なり 栗林千津
覚めし猫目があをあをと牡丹雪 加藤知世子 花 季
記念樹の松あをあをと雛の家 蒲沢康利
身ごもりしうれひは唇をあをくせる 篠原鳳作 海の旅
野分後の髪あをあをとひとの妻 和田耕三郎
銀婚の秋あをあをと藻の梳かれ 鍵和田[ゆう]子 浮標
門前にあをあをと海花御堂 高野素十
門川に菜屑あをあを女正月 鍵和田[ゆう]子 浮標
陶の沓凍てあをあをと海荒るる 石寒太 あるき神
雨粒や痩田走り穂あをあをと 鷲谷七菜子 花寂び
雪崩後の星あをあをと生理くる 駒走鷹志
音楽や枇杷の実のまだあをあをと 岸本尚毅 選集「氷」
風あをあをこの世に馬の繋ぎ石 樅山 尋
餅花に畳あをあを匂ひけり 加藤楸邨
駒なめて風あをあをと祭りかな 筑紫磐井「筑紫磐井集」
高原の朝あをあをとほととぎす 行方寅次郎
鬼灯市雨あをあをと通りけり 永方裕子
鮎釣に水あをあをと流れけり 金久美智子
鯖食いたしあをあをと夜のとよもせば 上井正司
黍の穂に海あをあをと送り盆 石原舟月 山鵲
黒鯛釣るや与謝の入海あをあをと 深見けん二
●青黒し 
渦潮に朝蝉の島青黒し 宮津昭彦
●青し 青さ  
あぜ豆のつぎめは青し稻莚 稲筵 正岡子規
いくつもの扉あけ聖母に五月青し 津田清子「礼拝」
いちまいの代田を置きて夕青し 阿部ひろし
いつまでもかくれてゐたく萩青し 飯島晴子(1921-2000)
いつ来ても嵯峨野は青し初雀 黒瀬としゑ
いづこ向くも冬の潮来の水青し 野澤節子 黄 炎
お降りや清盛塚の苔青し 上埜チエ
かげらふの向ふの青し母住む町 中嶋秀子
かんな屑燃えやすくして麦青し 細見綾子 黄 炎
きちかうや眼汝がために青し 森鴎外
くわりん青しヒネクレモノとなる日まで 石寒太 炎環
ここは木曽山川青く風青し 加藤勲生
この雨に生まれなくとも蝉青し 水田むつみ
こぼれでる重油に青し冬の空 長谷川櫂 天球
ささやかな店をひらきぬ桐青し 山頭火
さゝ波や氷らぬ鳰の湖青し 鳰 正岡子規
しづくして青梅しみじみと青し 柴田白葉女 雨 月
その青田もつとも青し灯るころ 片山 悌
たまはりし一杓青し初手水 安藤清峰
ちる紅葉ちらぬ紅葉はまだ青し 正岡子規
つぎの見舞は試歩のステッキ栗青し 石田あき子 見舞籠
ところところ竹藪青し霧の中 霧 正岡子規
なきひとのおもかげにたつ麦青し 飯田蛇笏 雪峡
のぼり窯芯まで青し玉霰 兼近久子
はつ嵐ふけども青し栗のいが ばせを 芭蕉庵小文庫
ひあはひに枇杷の葉青し秋の空 渡辺水巴 白日
ひやひやと朝日うつりて松青し 冷やか 正岡子規
ひんがしに鈴鹿は青し飾焚く 大峯あきら 鳥道
ふた星に隙なく青し棚あけび 長谷川かな女 雨 月
みちのくや何処も晩稲のまだ青し 細木芒角星
めつむれど日の炎え青し麦の禾 伊藤京子
やや痩せて江流青し鱸釣 水原秋櫻子
ゆきずりや女薫りて萩青し 坂東菖雨
ゆびきりの指を離せば山青し 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
ゆりかもめひらりと青し初山河 山田みづえ
わがいのち風花に乗りすべて青し 橋間石
わが遠近青柳青し龍やさし 阿部完市 春日朝歌
わが頭上最も青し秋の天 岩崎偶子
カーディガン青し看護婦と患者われ 黒崎治夫
ガスの火の釦に青し闇汁会 廣波青
グラジオラス日日咲きつぎて天青し 川井蓼村
コンロの焔青し海より夏来るか 原田青児
シャガールを見に春装の靴青し 西村和子 かりそめならず
ダリの髭青し螻蛄いる夜更けかな 田口満代子
トマトなほ累々と青し鰯雲 木村蕪城 一位
トマト青し夕映えてなほ青し 松尾隆信
バナナ熟れ礁の月は夜々青し 神尾季羊
パセリ青し日曜といふ週はじめ 岡本 眸
パンの実の灯を得て青し手紙開く 金子兜太 少年/生長
ビタミン剤眼に効き出して芦青し 中戸川朝人
マリア観音面輪愁ひて枇杷青し 水原秋櫻子「残鐘」
マンシヨンの隣が蛇屋で風青し 北野民夫
ラムネ青し鳩の頭いつまでも未熟 竹中宏 饕餮
一人となつて原つぱ青し風が吹く 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
一月の山青し困った男かな 橋石 和栲
一村を丸ごと包む雪青し 篠木 睦
一片の落花の行方薮青し 松本たかし
一霰こぼして青し松の空 原 石鼎
三日はや船つくりゐる潮青し 山田麗眺子
三月や暮るる間際の空青し 西村和子 窓
乳匂う衣を洗いおり麦青し 一ノ瀬タカ子
五月雨にいよいよ青し木曽の川 五月雨 正岡子規
五月雨の傘のうちなる山青し 伊藤柏翠
五月青し硝子の部屋に光堂 原田青児
井戸浚へ地下百尺の土青し 岸霜蔭
何にすれて端々(はしばし)青し山ざくら 千代尼
俳諧のまことの如く萩青し 鈴木鷹夫 春の門
僧が買ふ鯔の敷きたる笹青し 前田普羅 能登蒼し
元日の夜に移りゆく雪青し 阿部みどり女
八月の山はさびしきまで青し 秋月すが子
六月のあめつち青し目つむりても 川崎 俊子
六月のハングライダー海青し 中山桂花
六甲の裾まで青し入学す 西村和子 かりそめならず
冬の草落葉かむりてかつ青し 高橋淡路女 梶の葉
冬の蝿とまるよすがの蘭青し 大谷碧雲居
冬枯の一隅青し三河嶋 冬枯 正岡子規
冬枯の中に猗々として竹青し 冬枯 正岡子規
冬枯の木間に青し電氣燈 冬枯 正岡子規
冬桜常陸風土記の空青し 原 和子
冬空青し消すによしなき心の斑 福田蓼汀
処女紙幣青し颯爽として軽く 日野草城
凧の空あまりに青し身をひきしむ 加倉井秋を 午後の窓
刀豆なめらかに青し背の子の手に余る 梅林句屑 喜谷六花
刈株に一すぢ青し冬の稲 エド-子珊 十 月 月別句集「韻塞」
初湯出て窮巷ながら空青し 碧童
初空の青し地上の雪二尺 渡辺波空
初蝉のぢいとばかりに松青し 尾崎紅葉
初雪の流れて青し朝日川 初雪 正岡子規
別れの瞳海より青し疑わず 寺山修司(1935-83)
十代の歩幅が揃ひ芝青し 中口飛朗子
十勝野の一劃青し冬菜畑 鮫島交魚子
十月の笹の葉青し肴籠 炭 太祇 太祇句選後篇
友の酔ひつぶれて冬星白し青し 川口重美
友訪わむさかさに提げて葱青し 寺山修司 未刊行初期作品
口笛吹いて沈みたる海女に海青し 内島北朗
古寺のすのこも青し冬構え 凡兆
君が代はゆづり葉白し歯朶青し 文体
吠える犬ゐなくなりたる田が青し 斉藤美規
吾亦紅うらわかければまだ青し 飴山実
周防灘青し鰻の落ちそめて 大島民郎
唐崎の松の月夜は雨青し 古白遺稿 藤野古白
地に落ちて柿栗青し土用東風 西島麦南
地の起伏こゝに残して麦青し 林原耒井 蜩
地梨の実ころころ青し山の風 石川和雄
垣きはにかたへは青し唐辛子 唐辛子 正岡子規
塔古きまほろばの村柿青し 内藤好子
塔青し白夜の鐘がなかぞらに 石原舟月
売られたる噂の畑青し 野崎加代子
夏氷錐効かぬまで心(しん)青し 川口重美
夏痩せてまぶたもやせて空青し 細見綾子 花 季
夏赫と来よ三十の髭青し 荒井正隆
夏霧や馬のしづかな息青し 吉原文音
夕立のはづれに青し安房上総 夕立 正岡子規
夜が明けて島に畑あり麦青し 原田種茅 径
夢殿にさげて一穂の麦青し 大木あまり 雲の塔
夢青し蝶肋間にひそみゐき 喜田青子
大うねりして水青し下り簗 加古宗也
大根曳く股間や日本海青し 角田九十九
天日の上巳の節供を松青し 田平龍胆子
天青し吾亦紅子にのびすぎたり 太田鴻村 穂国
太注連の青し広田の水の神 大熊輝一 土の香
奥会津は青し漆の花なども 五十嵐唐辛子
奥信濃つくづく青し法師蝉 野田健太
妻とあればいづこも家郷梅雨青し 山口誓子「遠星」
妻の手に棹青し春の鶏 大岳水一路
姫女苑雪崩れて山の風青し 阿部みどり女(駒草)
子といるとき雲が伸びきて森青し 大井雅人 龍岡村
子の佇てる籬の高さ風青し 杉本寛
学帽をとばし寝ころぶ芝青し 成瀬正とし 星月夜
家がなくなる海のひかりに原青し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
家づとの鳴門若布の籠も青し 篠原梵 雨
家郷青し低き山にも視野絶たれ 津田清子 礼 拝
富士の空いちにち青し松納 瑞峰
寒き灯や鬼を逸れたる豆青し 会津八一
寒暁といふ刻過ぎて海青し 谷野予志
寧楽山は青し鶯音を入れて 大江眞一路(橡)
寺に受く一椀の粥山青し 岸原清行
小瀬の湯の黄昏青し岩魚釣 安藤三保子
小道具の蛇ほど青し蓬餅 長谷川かな女 雨 月
少年に五月ぞ青し悲しめり 高柳重信「山川蝉夫句集」
尺蠖の真から青し仏径 大中誉子
山の空青し生れたる蜻蛉にも 村沢夏風
山へ来てもなほ毒舌者羊歯青し 北野民夫
山吹の莟も青し吉野川 野澤凡兆
山草のさやかに青し神の棚 露月
山青し浴衣一枚もちて旅 長谷川かな女 牡 丹
山青し田植のあとの伊豆の雨 瀧澤伊代次
山青し黝し颱風洋を来る 相馬遷子 雪嶺
川上の橋はみぢかし梨青し 友岡子郷 翌
巻き舌のつひ出て青し蓬餅 石川桂郎 含羞
帆にとぶ雹二ッつ三ッつ海青し 大橋櫻坡子 雨月
帚草余生の母に夜も青し 大野林火
帰省子に北窓よりの風青し 相馬遷子 雪嶺
常磐木のしたたか青し久女の忌 神尾季羊
干す海苔の青し獄出て影を添ふ 秋元不死男
干大根青し短し釈一茶 斎藤俊子
廃村をゆく霧青し灸花 橋本榮治 麦生
建仁さんと慕はるる寺苔青し 山本麓潮
引き返し仰ぎて胡桃まだ青し 青山丈(朝)
引き返すことこそ勇気蔦青し 佐藤節
引汐の浜名の橋は海苔青し 瀧井孝作
強風に吹かれて麦と吾青し 山口誓子
形代にそひて流るる藻の青し 大熊輝一 土の香
従軍服青し一石路は向う向きその頸の長し 橋本夢道 無禮なる妻抄
御手洗の杓の柄青し初詣 杉田久女
復活祭山肌赫く海青し 大野林火
忘られしもの昼の月芦青し 大野林火
忘れられしもの昼の月芦青し 大野林火
思考像しんしん青し雪降る下 加藤知世子 花寂び
恠談の蝋燭青し小夜しくれ 時雨 正岡子規
手にとりてしみじみ青し蝿叩き 高野素十
手の傷も暮しの仲間雪青し 金子兜太
打水に秋草なればひた青し 瀧春一 菜園
指青し草より蛍掬ふとき 大岳水一路「氷室の桜」
授乳後の胸拭きており麦青し 飴山實 『おりいぶ』
放たれてはたはた青し虫供養 大石悦子 群萌
故人のみ昃る写真芦は青し 中戸川朝人 残心
数へ日の空青し謝すことばかり 篠崎圭介
数珠子玉雨がさむしとまだ青し 勝又一透
敵にまだ逢はざるや蟷螂の青し 村越化石
断崖へ一歩をのこし麦青し 栗生純夫 科野路
断髪のえりあし青し業平忌 日野草城「青芝」
新年の直々として竹青し 岸風三樓
旅人に神説く男栗青し 堀口星眠 営巣期
旅愁とはつい涙する蔦青し 高木晴子 花 季
旅行書の南海青し寝正月 大島民郎
旗竿の色まだ青し竹の秋 星野紗一
日出づと雲海よぎる鳥青し 堀口星眠 火山灰の道
早稲は黄に晩稲は青し能登に入る 森澄雄
春寒の凝りてや蕗の薹青し 石井露月
春菜青し尼と泊りし伊豆の寺 長谷川かな女
春風や山紫に水青し 春風 正岡子規
晩夏一峰あまりに青し悼むかな 金子兜太 詩經國風
智恵うすき子とオバQに梅雨青し 成瀬櫻桃子 風色
暮れてなお山空青し勝つた牡牛 金子兜太
暮色来て咲くとは見えず藺田青し 大島民郎
更けながら夜空は青し虫送り 清水基吉
更生の嬉しく噛みて麦青し 長谷川かな女 雨 月
書斎より仰ぎ二月の空青し 片山由美子 天弓
月のおもかはつて青し涼み足る 木津柳芽 白鷺抄
月を得てさなぶり青し母の唄 伊藤はじめ
月出でて山なみ青し斑鳩は 加倉井秋を 午後の窓
月山新雪すでにものの芽青し赤し 加藤知世子 花寂び
月見草馬柵に咲き湖ただ青し 岸風三楼 往来
月青し夜半は鴎も燐光す 金箱戈止夫
月青し寝顔あちむきこちむきに 篠原鳳作 海の旅
月青し巌飛ぶ鹿の腹の下 幸田露伴 拾遺
月青し早乙女ら来て海に入り 石田波郷「鶴の眼」
月青し杉の木の間の閻魔堂 月 正岡子規
月青し枯木林にふみ入れば 成瀬正とし 星月夜
月青し道にあふれて夜盗虫 足立原斗南郎
月青し鷭巣籠りのころならん 藤永霞哉
朝かげに立ちける妻に麦青し 高橋馬相 秋山越
木の間もる月青し杉十五丈 月 正岡子規
木賊二尺雨と切りむすびて青し 北村美都子
本郷の五月は青し薄荷糖 中村苑子
朴咲きぬ天界おのづから青し ほんだゆき
村も見えず竹藪青し霧の中 霧 正岡子規
松の葉の隣も青し竹の春 二柳
枇杷青し悪童の瞳の澄めりけり 中島杏子
林間の十月青し雨も灯も 岡本 眸
枝のべて青水無月の松青し 清水基吉
枯るゝもの枯れ神山の歯朶青し 長谷川より子
枯山のうしろは青し風の音 長谷川櫂 天球
柳青し紅燈七十二青楼 青柳 正岡子規
柿青し御詠歌にして子守唄 加藤覚範
柿青し鏡いらずの鬚を剃る 石川桂郎
栗青し一本足に立つ木々よ 横山白虹
栗青し多摩の清さの極まり処 林原耒井 蜩
栗青し朝はうまるる善きことば 千代田葛彦 旅人木
桃咲くや故園の笛吹川青し 石原八束
桃青し赤きところの少しあり 高野素十(1893-1976)
桐一葉落ちても秋の未だ青し 桐一葉 正岡子規
桑の芽の僅に青し花大根 大根の花 正岡子規
桑青し秩父遍路も蜂起跡 佐藤佳郷
梅の丘越ゆたび現るる海青し 茂里正治
梅の実は葉よりも青し葉の中に 八木絵馬
梅雨青し旅のはじめの卵剥く 高井北杜
梅雨青し柩の人はわが師なる 鈴木節子(門)
梅青し夭折の顔それぞれに 中田剛 珠樹
梅青し爪をたてたる痕ありき 中田剛 珠樹以後
梅青し銅像の肉服に満ち 中島斌雄
梅青し青しと囃しあうてをり 中田剛 珠樹以後
棚の梨熟れつくしたる空青し 大橋櫻坡子 雨月
椋の実の落ちつくしたる空青し 五十嵐播水
樫青し写真の父は木銃捧げ 友岡子郷
樹海より湧く霧青し月夜茸 木下ふみ子
橋赤く谷川青し薄もみち 紅葉 正岡子規
檸檬青し海光秋の風に澄み 西島麦南
歯の潔き妻なり蕗は煮て青し 千代田葛彦 旅人木
歯朶いまだ凜々しく青し炭俵 高浜虚子
死んで弟は骨壺の骨、峠の海が青しとも青し 橋本夢道 無禮なる妻抄
水仙は垣根に青し初しくれ 時雨 正岡子規
水口の辺りは青し冬田かな 南耕風
水暮れて風いや青し行々子 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
水漬きつつ木賊は青し冬の雨 中村汀女
水澄みて籾の芽青し苗代田 支考
水貝の冷えこゞまりて蓼青し 長谷川かな女 雨 月
水青し土橋の上に積る雪 夏目漱石 明治二十九年
水面より雨の上がりぬ萩青し 鈴木鷹夫 千年
沈む日のたまゆら青し落穂狩 芝不器男(1903-30)
沖を過ぐ時間の青し卒業す 寺井治
泳ぐ友の妖しく青し春暮るゝ 渡辺水巴 白日
流れつゝも萍青し秋の風 碧雲居句集 大谷碧雲居
浄蓮の滝に育ちて鮎青し 島村茂雄
浪青し絵踏行かせし渡守 中村汀女
海に散るさくらは青し有風忌 松本さだを
海へ去る稲妻青し松の上 有働亨
海松青し赤間の宮の御裳裾に 轡田 進
海青し百里の富士に朝がすみ 樗良
海青し記憶もたざるだるまの目 寺山修司 未刊行初期作品
淋しさの極り青し秋の海 野村喜舟 小石川
淡路消すかすみは青し鳥帰る 赤松[ケイ]子
淡雪の垣の上なる海青し 比叡 野村泊月
深吉野や息づくもののみな青し 鈴木真砂女
淵青し石に抱つく山ざくら 高井几董
清貧の藜の花と見るは青し 依光陽子
湖青し開いて鮎の一夜干 梶山千鶴子
湖青し雪の山々鳥帰る 鳥帰る 正岡子規
湖青し雪の山々鴉飛ぶ 雪 正岡子規
湖青し雪の比良三上鳥帰る 鳥帰る 正岡子規
湖風の網戸を抜けるとき青し 梶山千鶴子
湾青し猟期最後の雉子撃たれ 大岳水一路
溜息の後の息吸ふ萩青し 鈴木鷹夫 風の祭
潟翔けて風切青し初鴉 橋本義憲
瀧の道吹きころげ来る風青し(美濃養老瀧にて) 上村占魚 『石の犬』
瀧壺にふきぬけの空遠く青し 百瀬美津
火の山の裾より青しラベンダー 木村敏男(にれ)
炉火青し口づけ給ふまぶたの上 小坂順子
点滴のしたたりを染め風青し 秋葉舟生
無医村に開院の花輪麦青し 関根淑子
無花果や八百屋の裏にまだ青し 無花果 正岡子規
焼尽の町に盆来て山青し 成田千空 地霊
煤掃や虎渓の庭の竹青し 名和三幹竹
牡蠣筏其処に沈めて風青し 林原耒井 蜩
牧水のふるさと青し夏蚕飼ふ 黒田桜の園
狐火と思へばこころもち青し 林菊枝
狩の天青し発砲寸前か 兒玉南草
玉解きて芭蕉に生まる風青し 松岡和子
玉霰竹に当つて竹青し 日野草城
玉音を野に聞き鵙の贄青し 萩原麦草 麦嵐
田に立てて杉の木青し小正月 長谷川櫂 古志
町の上に浅間が青し夏祭 相馬遷子 山国
白し青し相生の筑波けさの春 今朝の春 正岡子規
白鷺に早苗ひとすぢづつ青し 長谷川素逝
百合青し人戛々と停らず 石田波郷
盆の町夜来の雨に杉青し 近藤一鴻
盛りあげて薬味の青し泥鰌鍋 角川照子
目刺の背青し立春という一語 雅人
真額に由布嶽青し苔を掃く 竹下しづの女 [はやて]
眠る子の喉をあらはに蔦青し 山西雅子
眠る子の髪の根青し螢籠 岡田貞峰
石のかげ木のかげ青し川施餓鬼 山本洋子
石鎚山青し従ふ山霞む 倉橋羊村
石青し雪代山女魚影ながれ 水原秋櫻子
砂丘きて負籠の中の冬菜青し 澄雄
砂糖黍の畑の果ての海青し 磯直道
砕氷船の航跡青し蹤いて航く 小野田洋々
砲音ののち汽車の音葦青し 成田千空 地霊
磯の岩臥せるほとりも麦青し 瀧春一 菜園
秋風の吹けども青し栗の毬 松尾芭蕉
稲妻の砕けて青し海の上 夏目漱石 明治三十三年
稲青し窓枠額として絵なり(香里病院に西東三鬼氏を訪ふ) 河野南畦 『黒い夏』
稻妻の碎けて青し藪の奥 稲妻 正岡子規
穂麦青し跳び箱の上二段見ゆ 松本勇二
空ろ木にさす月青し寒施行 松田撲工
空青しフレームの玻璃したたりて 金子麒麟草
空青し凩の序の楢くぬぎ 鈴木しげを
空青し我も我もと仏の座 赤松 勝
空青し柳絮とどまることなさず 下村梅子
空青し目刺一連外しきし 大石悦子 百花
空青し破魔矢の人を追ひ越して 岩田由美
空青し雪嶺これを縫ふごとし 橋本鶏二
突き出しの蚕豆青し傘雨の忌 池田秀水
窓口の一と枝青し灯取虫 滝井孝作 浮寝鳥
窓暮れて日はまだおちず風青し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
立山は僧形稲妻呑んで青し 白井重之
端居して後手つけば山青し 上野泰 佐介
竹林に透く空青し冬の蜂 原石鼎 花影以後
竹馬に仕上げて青し悴みぬ 永井龍男
笹折て白魚のたえだえ青し 才麿
笹青し飾り井日風降るところ 伊藤敬子
筍鳥がいま目覚めたる霧青し 相馬遷子 雪嶺
篠の子に日射し満遍なく青し 田中美智代(朝)
籐椅子に師あれば簷に富士青し 岸風三楼
籠青し翳かさねたる寒卵 草間時彦
粟青し一本足に立つ木々よ 横山白虹
紫蘇の実青し「福龍丸」の漁夫癒よ 飯島草炎
紫蘇の實のかくても青し秋の雨 聾兎遺稿 天野聾兎
紫陽花の毬まだ青し降りつゞく 松下古城
紫陽花の雨に浅黄に月に青し 紫陽花 正岡子規
絲竹にあまりて青し小六月 高橋睦郎 稽古
絹糸草泣けば泣くほど空青し 坂本剛子(月刊ヘップバーン)
罠抜けてくる女狐の魂青し 小澤克巳
美しき音の出さうに梅青し 牧石剛明
肩出して大根青し時雨雲 前田普羅 新訂普羅句集
胡桃の実つぶらに青し何かかなし 加藤楸邨
胡桃割る母の手青し責むるがに 小林康治 玄霜
胡桃割る閉じても地図の海青し 寺山修司 『われに五月を』
能登青し煙草の花に通り雨 細川加賀 生身魂
腰かけて人顔青し芭蕉かげ 高浜虚子
芝枯れて運河は青し朝のお茶 片山桃史 北方兵團
芝青し曾ては膝に哲学書 下山芳子(岩戸)
花のなき秋海棠は唯青し 高浜虚子
花槐みごもりは皆ほの青し 川田由美子
花茣蓙に穂田の蝗の来て青し 水原秋櫻子
花長く吊して烏瓜青し 山西雅子
芹の水芹を離れてなほ青し 秋光泉児
芹青し還らぬ水として激し 松澤昭 安曇
芽ぶくともなく金雀枝の枝青し 川島彷徨子 榛の木
芽麦青し天の底まで階をなす 磯貝碧蹄館 握手
苔青し更に影置く若楓 水原秋桜子
若竹に雀二三羽雨青し 筏井竹の門
若駒の跳ねる一群海青し 笹沼淑子
茴香の夕月青し百花園 川端茅舎
草がめの葉よりも青し花胡瓜 加賀谷凡秋
草莽のたましひのため葱青し 中尾壽美子
荒牛が出る舎の前梨青し 西村公鳳
菜の花のつづきて鳥羽の海青し 紅 為子
菜の花をはさんで麦の畝青し 青麦 正岡子規
菜も青し庵の味噌豆今や引く 一茶
菜畠のわつかに青し菊の花 菊 正岡子規
萩青し劇団葬から傘のひとり 友岡子郷 遠方
萵苣青し母なきあとは叔母たより 平松竃馬
葉が青し夜をこのむこと歩むこと 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
葡萄青し人の生る木を夢の中 柿本多映
葡萄青し遺影いつまでモーニング 宇山雁茸
葦かびの日に日に青し犬の声 山田みづえ
葱青し字と団地を分け隔つ 百合山羽公
蓮如忌や絵伝の日本海青し 三浦葵水
蔦青し一本杉を登りきり 中橋寛子
蔦青し井ノクボの窓白紅の燈 竹下しづの女句文集 昭和二十四年
蔦青し父となりゆくわが日々に 大嶽青児
蕗の葉に山女三匹空青し 福田甲子雄
薔薇青し夜は子の言葉実るなり 松澤昭 神立
藁の底に葱畑青し冬山家 碧雲居句集 大谷碧雲居
虚子死して草餅のかぐはし青し 秋元不死男
虹は沖に青し波乗りをどりくる 石原舟月
蚊帳青し人魚の如く病めりけり 野見山朱鳥
蚊帳青し水母にもにてちちぶさは 富澤赤黄男
蚊帳青し癒えて妻子のなかにあり 中山 良章
蛇青し濁流はつしと触れたよう 伊藤淳子
蜩の真昼も鳴いて栗青し 林原耒井 蜩
蝉の空ひたすら青し蔵王堂 山本洋子
蝗掴みし掌の草しづく青し 原田種茅 径
蟷螂の青し長ずる哀しみに 大木あまり 火のいろに
行く年や尖りて若き芦青し 渡邊水巴 富士
行く春を剃り落したる眉青し 夏目漱石
裸木を振り返る時ぞ空青し 相馬遷子 山国
西瓜さへ表は青し蕃椒 西瓜 正岡子規
観音の身の内青し半夏生 奥山雷火
言葉ふと肉のごとくに蘆青し 岡井省二
貨車の間の冬草青し江東区 岩田昌寿 地の塩
貴様とはオレさまのことか麦青し 冬の土宮林菫哉
赤城峰は青し甘藷あかの手を洗ふ 下鉢清子
踊りきいて跼む盲ひに草青し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
身に沁みて槐の下の月青し 加藤楸邨
身ほとりの一片青し春の雪 井沢正江 晩蝉
軍歌夜々よぎりて青し芒の穂 加藤楸邨
辛夷咲く天青し何時まで貧し 青池秀二
辻番のともし火青し冬の月 冬の月 正岡子規
近づきてどこやら青し枯芭蕉 岩木躑躅
迸る梅雨こそ青し貯炭の頭 小林康治 玄霜
這々といたこに青し夏の霧 有馬籌子
道多く越へかたむき麦青し 栗生純夫 科野路
道志七里の石みな青し瀬鳴冷ゆ 石田あき子 見舞籠
遠く礼して爆心標下露青し 小林康治 玄霜
遠のけば春りんどうの野は青し 河野扶美
郭公やたそがれ時も山青し 相馬遷子 山国
酒くれし竹筒青し春の晝 幸田露伴 礫川集
釣堀の日蔽の下の潮青し 高浜虚子「虚子全集」
釣忍星の流るるとき青し 田村了咲
釣月軒の芭蕉は青し夕匂ふ 伊藤敬子
釣橋に重き牛乗り飛騨青し 西村公鳳
鉛筆で指す海青し卒業歌 寺山修司 花粉航海
降り止まぬ無灯の窓の雪青し 阿部みどり女
雀下りしところ寒草あな青し 林原耒井 蜩
離縁話かる~と運ぶ麦青し 中塚一碧樓
雨のあと月のしたたる萩青し 石井保「淡海から大海へ」
雨の枝途につきでてまだ青し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
雪しまく港にあぐる魚青し 遠藤 はつ
雪に伽羅ほのかに*たいて松青し 尾崎紅葉
雪のうへに雪降るありありと青し 辻美奈子
雪の日の隅田は青し都鳥 都鳥 正岡子規
雪を出て雪よりも青し松の風 松岡青蘿
雪崩あとの岩青し金縷梅の花つけて 内藤吐天
雪被く旧燈台下潮青し 木村蕪城 寒泉
雲碧く僧の頭青し年木作務 河野静雲 閻魔
雷に魂消て青し蕃椒 青唐辛 正岡子規
雹青し熊出没とあるあたり 金箱戈止夫
霜柱接ぎ足し今日も空青し 加藤裕子
霧青し双手を人に差しのばす 横山白虹
青し但馬土手の茅花のどこまでも 堀 葦男
青し国原梅雨雲のひらかむとして 臼田亞浪 定本亜浪句集
青し青し若菜は青し雪の原 来山
青すすきわぎもが袖に透きて青し 山口誓子
青木の実青し特攻遺品展 鈴木けんじ
青林檎しんじつ青し刀を入る 山口誓子「激浪」
青田青し明治大正昭和経て 津田清子
青田青し父帰るかと瞠るとき 津田清子「礼拝」
青蛙青し勾玉の出土跡 大熊輝一 土の香
靴と靴叩いて冬の空青し 和田耕三郎
風に寄りて萍青し秋燕 碧雲居句集 大谷碧雲居
風のよく通るセーター空青し 池田澄子 たましいの話
風の日の海原青し行々子 上村占魚 鮎
風青し古うぐいすの歎きぶし 西東三鬼
風青し叩き目あらき珠洲の壷 鳥毛正明
風青し青し木綿の肌ざはり 砂田満里子
颱風過の散らばる葉青し子らも見えず 古沢太穂 古沢太穂句集
飛鳥仏の鼻梁も青し青し蓬 金子兜太
食前の祈りのことば芝青し 対馬康子 愛国
馬が首のべて野をゆく風青し 臼田亞浪 定本亜浪句集
馬の仔の肌色淡く風青し 瀧春一
駄菓子賣る茶店の門の柿青し 柿 正岡子規
駒尻に卯波の青し都井岬 前田時余
驟雨青し兄先き立てて馳せ戻る 原田種茅 径
高吹いて麦笛青し美少年 日野草城
高音吹いて麦笛青し美少年 日野草城
髪生えて容顔青し五月雨 芭蕉
鬼灯市丹波千成皆青し 松藤夏山 夏山句集
魂の半面翳り蘆青し 伊丹さち子
鯖船を囲む僚船蝦夷青し 畑中とほる
鯛や鱧そして島島青し夕ぐれ 阿部完市 軽のやまめ
鱒池に小雀が落す蛾の青し 阿部ひろし
鳥獣戯画の蛙跳ね出て萩青し 野澤節子 遠い橋
鴨帰り俄に青し土手の草 石塚友二
鵙の天一枚青し肥を汲む 榎本冬一郎 眼光
鶺鴒のひるがへり入る松青し 秋櫻子
麥の芽のほのかに青し霜の朝 朝霜 正岡子規
麦烏賊の墨吐き潮のよよ青し 田中冬二 行人
麦青し夜の疾風もわかわかし 森澄雄
麦青し眼ゆがめて洟をかむ 山口誓子
麦青し端山もぬるるよべの雨 飯田蛇笏 雪峡
麦青し見るべからざる人と遇ひ 高橋馬相 秋山越
麦青し隊商の道野に消えて 澤田緑生
麦青し高き背丈を風に見せ 三浦文子
黒きまで青し黄になるまでの柚子 後藤比奈夫 金泥
とうがらし空の青さを深めけり 吉野昭子
どんど爆ぜしばらく竹の青さ見ゆ 佐野幸世
ひとすじの煙の青さ岩魚捕 宇多喜代子
ひと雨の青さを加へ吊り忍 鷹羽狩行 八景
まなうらに岬の青さ昼顔忌 佐々木会津
みつつかなし目刺の同じ目の青さ 加藤楸邨
一本の萱の青さを織始 あべふみ江
七夕竹の青さ清水に挿して保つ 宮坂静生 青胡桃
不尽のねに三月尽の青さ哉 三月尽 正岡子規
京菜洗ふ青さ冷たさ歌うたふ 加藤知世子
人 の 声 し て 山 の 青 さ よ 山頭火
僧若し頭の青さ夏近く 小川正純
十二湖のひとつは青さ冷まじき 柴田茫洋
大会の始まるプール青さ満つ 荒尾芳春
山吹の茎にみなぎり来し青さ 細見綾子 和語
張りかへた窓に若葉の青さ哉 若葉 正岡子規
我窓にうつる青葉の青さ哉 青葉 正岡子規
捨案山子空の青さを睨みをり 川島多美子
時雨るるや空の青さをとぶ鴉 原石鼎
朝空の青さ看護婦の声の高さ 石橋辰之助
柿の花空の青さをまぶしめり 平田節子
桑の実の青さ幼さ父遠し ふけとしこ 鎌の刃
植田はや風の青さをもてそよぐ 高橋謙次郎(冬草)
浴衣着て竹屋に竹の青さ見ゆ 飯田龍太「麓の人」
溺れてもいい葦原のこの青さ ふけとしこ 伝言
珊瑚生れもう戦艦の来ぬ青さ 玉城一香
白桃の桜にまじる青さ哉 桜 正岡子規
白蓮の中に灯ともす青さ哉 白蓮 正岡子規
福藁の青さ大事に敷かれけり 加古宗也
秋天に貼りつく青さ渡船出る 平井さち子 完流
秋高し修業の僧の目の青さ 岩田千里
空は太初の青さ妻より林檎受く 中村草田男
竹皮を脱いで青さを伸ばしけり 藤崎久を
竹篭の青さ積まるる雪の市 上林厚一
竹藪に師走の月の青さ哉 師走 正岡子規
簀戸入れて我家のくらさ野の青さ 橋本多佳子
籐椅子に空の青さを揺らしけり 角浜ミツ
細藺田の裾濃の青さ目に残り 清崎敏郎
綿虫に瞳を細めつつ海の青さ 橋本多佳子
背開きに飛魚の青さを捌きけり 新井美智子
航跡は氷の青さ久里浜丸 高澤良一 燕音
苜蓿や未来図涯もなき青さ 伊藤敬子
落葉どつと空の青さを隠しけり 松原真知子
葱の芽の毛ほどの青さ守り育て 加藤楸邨
蛾の青さ わたしは睡らねばならぬ 富澤赤黄男
蝸牛男が幹の青さ言ふ 松本文子
長崎の空の青さを凧伸びぬ 中尾杏子
雨蛙森の青さを持て余す 高橋謙次郎(冬草)
雪原の青さ身に沁む朝の楽 堀口星眠 火山灰の道
雪折れの竹の青さを言ひにけり 石川 矢
雲切れしところの青さ雪加飛ぶ 石井とし夫
霧にいる狐の青さ散華とや 金子兜太 詩經國風
鬼灯や少女の青さ抜けきれず 青木つね子
鮨桶の笹の青さを褒めそやす 鈴木鷹夫 千年
●青き 
*いとど谷に青筋青き卯月かな 野村喜舟 小石川
*たらの芽に要塞青き日の耀りぬ 下村槐太 光背
*ほうぼうの青き胸鰭砂を這ふ 田中睦枝
*もぎたての青きすだちや掌に三つ 森 龍子
□割れて青き空知る石榴かな 吉沢信彦
「古池」の句碑裏青き五月かな 大石悦子 群萌
「赤い靴」観て来て青きリンゴ買ふ 高橋笛美
あいつとは先生のこと青き梅 林宣子
あくびしてマンゴスチンの実の青き 如月真菜
あな青き女帝の山河朴の花 野見山朱鳥
あひひきや枳殻のとげ青き頃 山口誓子
あまり青き冬菜の畑に歩み入る 下村槐太 光背
あまり青き田芹が故につみとりぬ 臼田登代子
ありやうにすはりて青き瓢かな 涼莵
あをねとは青き嶺の夏老いにけり 久保田万太郎 流寓抄
いくつもの別れのありて青き踏む 伊藤 梢
いちじくのいつまで青き別れ蚊帳 細川加賀
いつまでも青き夕空つばくらめ 山田弘子 初期作品
いつまでも青き顔して寝冷の子 上地和子
いつ枯れむ島の芭蕉は冬青き 及川貞 榧の實
いつ見ても青き頭巾の酢賣哉 頭巾 正岡子規
いまは妻なしひえびえと青き竹を伐る 栗林一石路
いま森は青き実ばかり風秀づ 中戸川朝人
いや青き池と暮れ呼ぶ行々子 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
いや青き空恐れゐて夜の雪崩 立川華子
うしろより雲の翳や青き踏む 椎橋清翠
うすべりの青きにほひや涼み舟 林めぐみ
うす青き風匂ひ来る梨の花 藤本 とき
うす青き鷺の卵を胸中に 文挟夫佐恵 黄 瀬
うららかや空より青き流れあり 阿部みどり女 月下美人
お釈迦様の尻まだ青き産湯哉 仏生会 正岡子規
かかる里長生きしさう青き踏む 仁科聖鳥
かがなべて川を見つむる青き川を 細谷源二 砂金帯
かがまりてこんろに青き火をおこす母とふたりの夢つくるため 岸上大作
かすみだつ漁魚の真青き帆かげかな 飯田蛇笏 霊芝
かたつむり青き世界を伝ひゆく 布川武男
かたはらに青きプールや植樹祭 大島民郎
かというて話すことなし青き踏む 畑内節子
からたちは散りつゝ青き夜となるも 藤田湘子
かるがると子を抱きあげて青き踏む 伊藤トキノ
きちきちや空より青き耳飾り 水野あき子
きりぎりす青きからだの鳴き軋る 野澤節子 黄 瀬
くぐつ女の細眉青き在祭 高柳柿花
くぐりつつ乾坤青き茅の輪かな 井沢正江
ここで老ゆべし女子大学の青き踏む 楠本憲吉
こころざし青き粽を結ふときも 大石悦子
こしかたに恋やいくさや青き踏む 山本歩禅
こすもすや干し竿を青き蜘蛛わたる 三好達治 路上百句
ことに海青き日カンナ紅き日よ 河原白朝
ことに眉青きは近江の雪女郎 吉田鴻司
この夢如何に青き唖蝉と日本海 高柳重信
この辺明日香野にして青き踏む 八木秋水
この長き道のかぎりに青き山のゆるがむばかり立てるかぎろひ 山本友一
この青き植田なければ鬼舞へず 神田ひろみ
ころげ出て尻皆青き蜜柑哉 前田普羅
さくらんぼ熟れて真青き海ありぬ 菖蒲あや あ や
さしばゐて島の阿檀の実の青き 吉田紫乃
さるほどに空はつきしろ青き踏む 日野草城
しいらしいら青き砦として泳ぐ 高桑婦美子
しぐるるや解かれて青き稲架の竹 岸 典子
すいつちよ来ぬ海溝青き地図の上 冨田みのる
すさまじくみだれて水にちる火の子鵜の執念の青き首見ゆ 太田水穂
すねて住む庵や青きを踏むこころ 全峨
そら豆はまことに青き味したり 細見綾子「桃は八重」
たちいでて青き蕃茄を*もがれけり 松村蒼石 露
たとへむに物なき青き蜜柑売る 相生垣瓜人
たんぽぽの青き一座に冬の蜂 阿部みどり女
ちちははの墓山へ来て青き踏む 嶋田麻紀
ちやつきらこ青き汀も遠唱ひ 野澤節子
つくろへるところの青き蜆籠 富安風生
つばくろの反転信濃は青き国 木田千女
つひに素手素足となりて青き踏む 水野宗子
つれづれや青き穂麦が本の上 岩田由美 夏安
てんと虫日は痛烈に青きものヘ 徳永山冬子
とこしへの病躯なれども青き踏む 川端茅舎
ところところ菜畠青き刈田哉 刈田 正岡子規
とつくにの子ら眠りをり青き踏む 横光利一
どこみても空青き年惜みけり 久保田万太郎 流寓抄
なほ青き牧を抱きて山眠る 澤田緑生
ならび出づ青きかしらの土筆かな 大橋櫻坡子 雨月
のうぜんの繰出し吹ける青き空 高澤良一 さざなみやつこ
はざくらや青き巌に青き影 麦水「葛箒」
はだら雪仮装神武の青き髭 佐川広治
ひた落ち来滝壺に青き水となりぬ 相馬遷子 山國
ひとひらの青き楓と秋昼寝 長谷川櫂 虚空
びろうどの青きを好む懐爐かな 懐炉 正岡子規
ふきぶりになりたる青き芭蕉哉 増田龍雨 龍雨句集
ふところに母の手紙や青き踏む 大木さつき
ほの青き毒針を見直せば愛し 片山桃史 北方兵團
ほほづきの軸まで赤し青きもあり 川崎展宏
ほほづきの青き提灯たれにけり 篠原鳳作
ほほづきの青き朝の雨上る 杉山マサヨ
ぼろ市にトルコの青き涙壺 矢島 恵
また青き夜天にかへる火事の天 谷野予志
まだ青きいちごや花の咲き残り 苺 正岡子規
まだ青きお局門の冬柳 奥村霞人
まだ青き実梅落ちたり草の中 石井昭子
まだ青き桑や小鳥とあとさきに 長谷川かな女 牡 丹
まだ青き紅葉に秋の夕寒し 紅葉 正岡子規
まるめろの青き実ノブのぬくみをり 宮坂静生 山開
みそさざい青き巣を置く厨口 堀口星眠 営巣期
みちのくの万の田青き翁道 加藤耕子
みちのくの藁しべ青き凍豆腐 平紀昭
みちのくの青きばかりに白き餅 山口青邨
みづうみのふくらむひかり青き踏む 鍵和田[ゆう]子
みづから青き水傲慢や烏瓜 中村草田男
むくろじの青き実を踏む甃 大橋越央子
むささびに聞け青き夜の手触りを 神野祥子
むささびの闇に神招ぶ青き竹 窪田あさ子
もう落ちぬ実となり青き*かりんかな 森田公司
もろの手にしんじつ青き藺を植うる 山口草堂
やや青きバナナの房ゆちぎりあふ 篠原梵「皿」
やよさめや橘青き実をつけて 細見綾子
ゆるやかに古墳の丸み青き踏む 赤尾恵以
よく揺れてゐる青き灯は捕鯨船 串上青蓑
よろずやの八月青き種袋 花谷和子
わが才をなげかいくれば蓮華田に一国をになう青き牛見ゆ 大島史洋
わが衣草より青き野分かな 鈴木真砂女
われ寂し青き季の花に似て弥生の空のもとに悩める 三ケ島葭子
オパールの青き変身夏霧に 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
ゲレンデの青き灯を抱く雪の闇 堀句禅
ゴルフ場の青き褶曲*ばった噴く 平井さち子 完流
サッカーは天皇杯の青き空 岩田由美 夏安
シェフの手が青きミントの花を摘む 井越芳子
シリウスの青き吐息や風冴えて 藤原たかを
ジーパンに詰め込む肢体青き踏む 能村登四郎
ジーンズをはく若さ欲し青き踏む 岩崎照子
スクラムのラガーに青き城の空 山田弘子 螢川
スケートに青きかなしき空の色 平畑静塔
ニユートンの林檎の木まで青き踏む 山本敦子
パンをさく島山青き朝焼に 岸風三楼 往来
ヒマラヤの空より青き芥子ひらく 福見敦子(海)
ヒマラヤの青き芥子恋ひ仏生会 有馬朗人
ビヤガーデン照明青き城望む 佐野まもる
ピーマンの青き拳や核戦争 田川飛旅子 『外套』
プール閉づ張りたる水の青きまま 池田秀水
ヘリコプター冬菜の青き上飛ぶ音 右城暮石 声と声
ベルベット裾長く着て青き踏む 京極杞陽
ホップ青く山の青きにつらなれり 田村了咲
ボーナスを貰ひて青き芝を買ひぬ 日野草城
マンゴーの青きを盛れり大寝釈迦 木暮剛平
ミモーザの花の下にて海青き 山口青邨
ユッカ咲くほとほと青き野島崎 勝見玲子
ラブと彫る青き*かりんや二十歳 対馬康子 愛国
一ト嵐青き芒の分の茶屋 廣江八重櫻
一天の青き下なる紫蘇の壺 山口波津女 良人
一天の青き神代を里神楽 平畑静塔
一帆なき沖青きより土用波 野沢節子 花季
一幕はうなさか青き初芝居 天野小石
一日こもる水栽培の青き芽と 細見綾子 黄 炎
一月の中流青き社務所あり 大峯あきら 鳥道
一望の枯桑に山青き白き 京極杞陽 くくたち上巻
一枝が剌す冬青き空修学院 館岡沙緻
一歩とは永遠への意志や青き踏む 小澤克己
一病を持つ身に生きて青き踏む 岩崎陽子
一眸に大鹽湖あり青き踏む 左右木韋城
七月の青き水ゆく竹の奥 石原舟月
七月や穂に出て青き猫じやらし 青木重行
七種や暮れても青き空のこる 水野 柿葉
七面鳥の青きゆふぐれ降誕祭 柿本多映
三つちぎり得させよ青き蕃椒 蕪村「夜半叟句集」
三好碑に添ふ八束句碑青き踏む 吉田未灰
三日月やしみじみ青き桃一顆 加藤秋邨 沙漠の鶴
三階へ青きワルツをさかのぼる 西東三鬼
上海の母なる河や青き踏む 日原傳
世に青きものゝさかりや鰹時 素角
久女去り虚子去り青き竹の節 平吹史子
久闊や治部煮に拾ふ青きもの 高橋睦郎 金澤百句
乗りもする草の奔流青き踏む 皆吉爽雨
乙女さび青き裳つけぬ星の宵 長谷川かな女 雨 月
九月まだ青き銀杏の下に妻 友岡子郷 未草
九頭竜の青き葦刈り盆用意 中島真理
事務始青き文字飛ぶ電算機 猿橋統流子
二番蚕の眠りより醒め雨青き 菖蒲あや あ や
五月来ぬ潮の青きにのりて来ぬ 藤木清子
井月は路傍に死せり青き踏む 西本一都 景色
亥の子唄大きく青き葉も燃えて 神尾久美子 桐の木以後
京菜洗ふ青き冷たさ歌うたふ 加藤知世子
人のゆく方へは行かず青き踏む 落合芳子
人はみな肉の断岸青き踏む 齋藤玄 『無畔』
人悼む思ひの青き踏みにけり 名和未知
今の我僧のこころに青き踏む 上村占魚 球磨
今年は青き標紙や初暦 初暦 正岡子規
今年藁青き筵や熊手市 中村汀女
今朝秋の青き菜茹でてゐたりけり 関戸靖子
仏界に青き蟷螂這へりけり 榎本冬一郎 眼光
仔鹿ゐて泉に青き夕来たる 野澤節子 『駿河蘭』
仔鹿ゐて泉に青き闇溜まる 野澤節子
仕掛花火よ青き葉の向きが鮮かに 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
伊勢白子春潮松の間に青き 宮下翠舟
休み日の母は少女の面輪して青きリンゴをわれと食いつつ 岸上大作
佐保姫の降臨青き日矢の中 堀籠政彦
佛を信ず麦の穂の青きしんじつ 荻原井泉水
佳節の気象地に青き蕗の薹 石井露月
佳肴ありゆふべ真青き額の花 水原秋櫻子
例へむに物なき青き蜜柑売る 相生垣瓜人 微茫集
健康に青きをふみて地に謝する 飯田蛇笏 雪峡
傘さして青きをふんで人行きぬ 五十崎古郷句集
僧正の青きひとへや若楓 榎本其角
兀山の麓に青き柳かな 青柳 正岡子規
光りて青き麦生戦前戦後なし 昌寿
光線銃の青きを浴びる子供の日 篠原 元
入船の青き踏まんと逸り来る 渡辺恭子
六月や地球は青き水の星 三苫真澄
六月や水行く底の石青き 伊藤信徳 (1633-1698)
内視鏡に映れる蝶も青き踏む 齋藤愼爾
円卓のバナナは青き客を待つ 尾久恵津子
円熟に間のある齢青き踏む 雨宮抱星
再びは踏めぬ大地よ青き罌粟 宮本文江
冬こしてどろりと青き池の底 横山白虹
冬の夜の瞑れば過ぐ青き馬 今井杏太郎
冬川や藪の青きに流れ沿ひ 尾崎迷堂 孤輪
冬海の青きを嬰に見せにけり 椿和枝
冬空やキリンは青き草くはへ 森田峠
冬籠る燈下に青き蜜柑かな 会津八一
冬草の踏まれながらに青きかな 斎藤俳小星
冬草の青き力をせちに欲る 風生
冬蝶や牧草青き農学部 奥村良臣
冬青き利根の流速父母の里 猪俣千代子 堆 朱
冬青き松をいつしんに見るときあり 石田波郷
冬青き樫に雨降る親鸞忌 秋光泉児
冬青き歯朶に犇き流人の眼 中戸川朝人 星辰
冬青き湾にむかひて硝子きる 加藤秋邨 山脈
冬青き苔の小庭や藪柑子 巌谷小波
冬青き苜蓿の上や舟眠る 林翔 和紙
凍滝のなかを貫く青きもの 江井芳朗
出生の謎ある人と青き踏む 茨木和生 倭
刈られたる形に匂ひ青き芝 小林草吾
刈り競ふつぶさに青き藻なりけり 佐野まもる 海郷
初伊勢や菰まだ青き献上酒 竹川貢代
初冬の袖垣青き露天風呂 越智協子
初冬や青きは鳥の麦畠 野村喜舟 小石川
初売や真青き藁の苞卵 森総彦
初御空まなこに青き微風あり 角川春樹
初旅の今年は青きリボンつけ 田中タマエ
初東風や編まれて青き生簀籠 小澤克己
初湯出で青きを保つ百合の芯 野沢節子
初蚊帳のしみ~青き逢瀬かな 日野草城
初蚊遣香や変らず青き渦 百合山羽公 寒雁
初蝶や天を祭れる青き塔 有馬朗人 天為
初雪が青き草原の奥かくす 有働亨 汐路
別るるや青きキヤベツが玉巻く辺 村山古郷
刻むもの晩夏の青き香を流す 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
削り氷の溶けゆく青き玻璃の碗 柴田白葉女 牡 丹
剥落の壁の天使や青き踏む 山本歩禅
加熱炉の照りのゆらめく青き踏む 加藤知世子 黄 炎
動きをり霧氷の底の青きもの 加藤知世子 花 季
動悸息切れ骨粗鬆症青き踏む 吉田未灰
北信濃青きくわりんに雷籠る 高澤良一 宿好
北斗立つ夜空の青き鬼やらひ 有田八州彦
十夜婆青き魚燈を手提げたり 佐野まもる 海郷
十字架をわが救ひと見青き踏む 山本歩禅
十月や吹かれて青き松の脂 石塚友二
十津川の青きにごりや山さくら 楠目橙黄子 橙圃
午後は小さくなる水溜り青き踏む 猿橋統流子
卒業の青き山また山なりし 山本洋子
卒業歌青き吾子の頭見当りぬ 石川桂郎 含羞
卒業生退場青き椅子の波 中尾杏子
卒業証書まるめて覗く青き天 山畑禄郎
南瓜煮あがり青き空より雨が降る 柴田白葉女 花寂び 以後
単線の田の海の青きはまれり 久保厚子
卯の花やぴりぴり青き山の水 村沢夏風
厨楽しオクラきざめば青き星 大平芳江
去年捨てし吾を拾ひに青き踏む 山内山彦
叉銃のごと青き粽を樹てて置く 山田みづえ
友の賀に交らむと今青き踏む 毛塚静枝
双の手にしんじつ青き藺を植うる 山口草堂
叢に鬼灯青き空家かな 青鬼灯 正岡子規
古き椎青き蔦なり離れじと 野村喜舟 小石川
台風過ぐ妙義に青き星ひとつ 雨宮抱星
合宿に蚊帳より青き山迫る 那須 乙郎
合歓青き実を奔流の上に垂れ 大橋敦子
吉野川青き流れの花樗 細見綾子
吊肉に検印青き立夏かな 山崎千枝子
名も知らぬ春の小鳥や腹青き 春 正岡子規
名月や明けがた青き淡路しま 青蘿
君等が母国今冬青き月の下に 加藤秋邨 火の記憶
吾が帷覗くは青き葡萄かな 林原耒井 蜩
吾になほ青き未来や新松子 高橋悠里
和菓子舗の水無月青き幟立ち 田中 美彦
咳きて痰落す冬青き松の群 岩田昌寿 地の塩
哀憐の日ははろかなり青き踏む 木下夕爾
唐黍の土の中まで青き茎 長谷川櫂 天球
唐黍を*もぐ快音や空青き 川村ひろし
啄木鳥鳴いてつねに空より青き沼 飯田龍太
喜雨世界眠るも青きもの見ゆる 大熊輝一 土の香
嘘に倦みて青き陶酔が凍る 石原八束 空の渚
団栗の青きが打ちて真の音 高澤良一 寒暑
団栗の青きはあをき匂ひかな 岩田由美 夏安
固き青きイヌビワの実やひめゆり忌 玉城一香
国原や五月は青き霞立つ 佐野良太 樫
国原や青きを蓋ふ空まろく 林原耒井 蜩
圓木の搖れやむを見て青き踏む 横光利一
土佐の冬青き地球を垣間見し 原裕 正午
地下鉄の青きシートや単物 汀女
地下鉄は青き火花を夜の秋 長谷川櫂 虚空
地獄絵に青き山あり蕨餅 野池玉代
地蔵盆青き棗に湖ながれ 岡井省二
城跡の阿騎の埴踏み青き踏む 大橋敦子
埼玉全図風あり青き麦穂立つ 長谷川かな女
塔の屋根青き三月来りけり 久保田万太郎 草の丈
塗師はげむ檀の青き実を庭に 馬場駿吉
塩田の秋はにはかに星青き 佐野まもる 海郷
墓参あと吾ら背山に青き踏む 下村ひろし 西陲集
夏の夜の蕎麦の青きがよかりけり 野村喜舟 小石川
夏の闇青きタナトス通りゃんせ 高澤晶子
夏夕日石柱青き薔薇をまとふ 太田鴻村 穂国
夏果つるピエロの青き涙かな 長崎友子
夏浅し青きドレスの演奏者 田中美代子
夏潮となりゆく青き一とうねり 倉田絋文
夏至も青き夕となりて野に出づる 瀧春一 菜園
夏草刈り若人ゆゑに瞳の青き 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
夏雲へ上昇気流青き輪に 杉本寛
夕虹や貝ブローチの青き買ふ 大木さつき
多羅葉の青き実善根積めとこそ 高澤良一 燕音
多羅葉の青き実群るる二荒山 山田夏子
夜すがらの濤声青き藻を寄する 太田鴻村 穂国
夜をかけて青きにかへる柳哉 宗居
夜を青き木の芽に点る隣家の灯 中村汀女
夜櫻や中に電燈の赤き青き 寺田寅彦
夜涼一家青き蚕棚が家に満ち 相馬遷子 雪嶺
夜目青き蕗の裏戸を出漁す 中村汀女
大寒のパパイア青き西表島 富田 要
大寺の青き畳や仏生会 佐藤信子
大根の青き頭や神無月 野村喜舟 小石川
大阿蘇の冬草青き起伏かな 稲荷島人
天まろきことつくづくと青き踏む 中村 仁
天井に青き馬追母の余生 橋本美代子
天平の仏にまみえ青き踏む 石原八束 『秋風琴』
天狼の青き光も春めけり 二口 毅
天鳴りて寒星青き火を散らす 相馬遷子 山国
太平洋見ゆる丘まで青き踏む 尾崎 一子
夾竹桃戦車は青き油こぼす 中村草田男
奥羽路の青き稲穂の明るかり 前田貴美子
奥青き鏡を舐めて春の蝿 鷹羽狩行
女どちいとしあはせに青き踏む 高橋淡路女 梶の葉
女人高邁芝青きゆゑ蟹は紅く 竹下しづの女 [はやて]
女坂塞ぐ雪折れ青き踏む 浦野芳南
女子高遭芝青きゆゑ蟹は紅く 竹下しづの女句文集 昭和十三年
女正月青きひかりの魚買ひて 杉山加代
妻の手の厚くなりたり青き踏む 徳竹三三男
妻も濡る青き蕃茄の俄雨 山口誓子
妻十年の秋風青き魚を焼く 山本つぼみ
嫁ぐ日の青きパパイヤ空に鳴る 岸本マチ子「一角獣」
子にゑがきやる青き蟹赤き蟹 福永耕二
子の相撲藤の実青き灯のもとに 和地清
子の籍を抜きに青梅雨青き傘 文挟夫佐恵 雨 月
子の葬り了へ来し人と青き踏む 赤城さかえ
子は母の影を出で入り青き踏む 伊藤敬子
子雀や呂宋の空の青きこと 有馬朗人 耳順
学僧のおとがひ青き日蓮忌 吉川禮子
定刻打鐘楼青き蛾を孕む 和田悟朗
実紫蘇扱くなまぐさきまで青き天 丹野悌子
家にもまつ採点青き蜜柑ばかり 友岡子郷 遠方
家の妻瞳に描きがたし青き踏む 秋元不死男
家系図のはじめに青きバクテリア 中田美子
寂しさの極みなし青き*はたはたとぶ 橋本多佳子
富士の根の霞みて青き夕哉 霞 正岡子規
寒垢離のきのふはゐしと青き歯朶 宇佐美魚目 秋収冬蔵
寒稽古青き畳に擲(なげう)たる 日野草城
寒芹の青き田を展べ半鹹湖 木村蕪城 寒泉
寒雀そこはかと地上青きもの 碧雲居
寒鯉にときをり青き葉も散りぬ 岸本尚毅 鶏頭
寝すごして青き空あり菊枕 満田たけを
寝返つて尻が青きよ若葉風 奈良文夫
寸青き麦めでたしや鍬初め 岡本松浜
小春日や潮より青き蟹の甲 秋櫻子
小春日や病者の髭のうす青き 清見北斗
小春日や青き蝗の生き残り 沢木欣一
小晦君を惜むと夜も青き 高橋睦郎
少年の見る青き蠶の青き肉 阿部完市 無帽
山々に懸かれば青き夏霞 木暮陶句郎
山の日と八月青き栗のいが 長谷川素逝 暦日
山の湯に青き蛾泛ぶ五月来ぬ 小林黒石礁
山吹の青き根元に父を埋める 藤江 瑞
山垣も棚の葡萄も青き伊豆 大島民郎
山帰来青き実こぼす西行堂 松本 旭
山桜青き夜空をちりゐたる 石橋辰之助 山暦
山椿砥に掘る石の色青き 安斎桜[カイ]子
山櫻青き夜空をちりゐたる 石橋辰之助
山涼し青き小鳥の路に降り 長谷川かな女 花 季
山空のとろりと青き暮春かな 岡田日郎
山荘をもるる灯青き戻り梅雨 山本 正樹
山路来て正月青き芒かな 渡邊水巴
山青く青き尺蠖風をはかる 宮津昭彦
岬より青き夜が来る花辛夷 原田青児
峡の子よ空より青き凧を揚げ 鍵和田釉子
島蔭の春潮青きところかな 小杉余子 余子句選
巌鼻や草の青きに駒むつび 臼田亜浪 旅人
川甚の青き提燈獺祭忌 田中冬二 冬霞
川音のつつがなき日や青き踏む 澤村昭代
帰るは嬉し梧桐のいまだ青きうち 夏目漱石 明治四十三年
常盤木の葉がつんと青き春浅し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
帽とれば頭青き兵と汗の馬 京極杞陽 くくたち下巻
年木積むや凍らんとして湖青き 内藤吐天
幼子や青きを踏みし足の裏 青き踏む 正岡子規
幾億劫水に眠れる青き猫 山本掌
庇間の青き空より作り雨 富安風生「十三夜」
床の間に櫁の青き寒さ哉 寒さ 正岡子規
座を起って見る星青き年忘 下村槐太 天涯
弁当くふて青きを踏んで遊びけり 青き踏む 正岡子規
彼岸桜わが洟青き幾日かな 久米正雄 返り花
待春の海凪ぎ青き原酒樽 坂井とみ子
後の月水より青き雲井かな 樗良
御*せん宮只々青き深空かな 鳳朗
御影供や顱の青き新比丘尼 許 六
御影講や顱の青き新比丘尼 許六
御遷宮たゞ~青き深空かな 鳳朗
御降りや羊蹄青き道のかげ 金尾梅の門 古志の歌
復活祭雪嶺を青き天に置く 堀口星眠 火山灰の道
微熱もつくちびる青き花菖蒲 高澤晶子
心すでに妻とし青き踏みゆけり 松山足羽
心臓にも運動療法青き踏む 高澤良一 鳩信
忌に集ふ冬山青き水おとす 原裕 葦牙
忍者屋敷かまきり青き葉にひそむ 加々美鏡水
志なほ高くもち青き踏む 高橋秋郊
思ふさま青きを踏みてかがやけり 松本誠司
恋の鷺満ちては青き雫産む 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
愛溢れくれば野にでて青き踏む 嶋田麻紀
慈悲心鳥山の夜青きものばかり 栗生純夫
我が思ふ孤峯顔出せ青き踏む 前田普羅
戦後といふ来し方青き蜜柑むく 玉城一香
手くらがり青きは月の光ゆえ 川端茅舎
手にとれば桐の反射の薄青き新聞紙こそ泣かまほしけれ 北原白秋
手に触れてずずこに青き風匂ふ 水井千鶴子
手を執つて青き螢火握らしむ 上田五千石 田園
手花火の青き火映る籬づたひ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
持統陵欽明陵と青き踏む 首藤会津子
挫折味はひしボクサー青き踏む 茨木和生 往馬
振袖はよきかも振つて青き踏む 山口青邨
振返り振返りては青き踏む 軽部烏頭子
掌のどこか青き芒に切られけり 永井龍男
掛稻のとぎれに青き筑波かな 掛稲 正岡子規
採氷池青き澱みの凍ゆるぶ 木村蕪城 寒泉
接骨木咲いて耳標の青き兎たち 林翔 和紙
掻くや海苔大和島根の青きもの 渡邊水巴 富士
揺籃に集ひて鳩も青き踏む 金箱戈止夫
携へるものに吾子の手青き踏む 上田日差子
教会の束ねて青き薔薇の棘 大木あまり 雲の塔
敦忌なり棗は青き実をそだて 柴崎富子
数珠玉の今日まで青き秋日和 下村槐太 天涯
数珠玉の青きひかりや海のみち 壺井 久子
斑雪野に月あり青き魔がひそみ 堀口星眠 営巣期
新大豆青き白きに光あり 大根田蓼水
新居ぽつり信濃畑桑青き辺に 及川貞 榧の實
新發智の青き頭を初時雨 時雨 正岡子規
新米の俵も青き貢かな 内藤鳴雪
旅のわが青き帽子に玉霰 秋元不死男
既に立秋古榧青き実を垂れて 内藤吐天 鳴海抄
日ぐれ待つ青き山河よ風の盆 大野林火
日の暮の青き狸と目の合ひぬ 櫂未知子
日南や春潮青き怒濤なす 神谷竜司
日脚伸ぶ青き瞳の子に九九教え 鬼頭幸子
日陰なる南瓜飽く迄青きかな 坂本四方太
早春の湾パスカルの青き眸よ 多田裕計
早春の空より青き貨物船 岡本亜蘇
早稲刈つて二番芽青き越路かな 岡田壮三
早苗月暮れても青き木曾の空 森田かずを
早蕨の青きを和へて家籠る 大石悦子 群萌
早蕨の青き一と皿幸とせん 成田千空
明くれば空の青きより来り咲く木蓮の花 安斎櫻[カイ]子
明け易き軒の雫の青き数々 内田百間 百鬼園俳句
春かりや宮城野青き葉侍 言水 選集「板東太郎」
春の露流れて青き木賊かな 古谷軽衣
春の風邪会議に青き海見えて 神尾季羊
春昼の画廊に青き舟揺るる 大山キヌ子
春暁の青きひかりに闘魚覚む 瀧春一 菜園
春水ややすの柄青き童たち 木津柳芽
春生死す青き網戸に風出入り 宮坂静生 雹
春菊の青きをつつき別れとす 広瀬一朗
春蝉や乾きて青き石の肌 有働亨 汐路
春風や木の間に青き耶蘇の寺 春風 正岡子規
昨日の句けふは古りゆく青き踏む 大木さつき
昼も凍む葬列に淵青き弓 宇佐美魚目 秋収冬蔵
昼寝覚め青き潮路にわがゐたり 山口波津女「良人」
晩夏なり男鹿の烏の青き嘴かな 金子皆子
晩夏なる青き巻貝拾ひては 豊田都峰
晩学の小さな決意青き踏む 堀口希望
晩秋やイタリア青きゲーテの地図 有馬朗人 天為
曳売の青き鰆も讃岐かな 二宮貢作
書を曝し文を裂く天の青きこと 渡邊水巴 富士
書評など書く用朝顔青き実を 山口青邨
月もやゝほのかに青き柳かな 青蘿
月下なる青きつららに鶴の村 赤松[けい]子 白毫
月光に菜畑青き夜寒かな 楠目橙黄子 橙圃
月濡れて青鷺青きものを産む 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
月白き海より青きもの釣らる 齋藤愼爾
月青き波止場の猫の会議かな 眞鍋呉夫
望郷や秋刀魚は青き水平線 秋尾 敏
朝のさむさの凝りて常盤木青き 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
朝の海葭簀に青き縞なせり 内藤吐天 鳴海抄
朝寒やいさゝか青きものゝ蔓 道芝 久保田万太郎
朝空の青きに消ゆる月ならず 太田鴻村 穂国
朝霜に青き物なき小庭哉 朝霜 正岡子規
朝霧の青き中なれば言いやすし 和田悟朗
朝顔の実のまだ青き蔓ちぎる 田中裕明 山信
木の国に寝返れば青き飛沫 若森京子
木の芽食うべ六腑も青き出羽の旅 堀口星眠 青葉木菟
木曽に来ぬ実梅もつとも青き時 井上 雪
木犀の香を過ぎ青き海を見に 多田裕計
朴散るやあをぞら青きこと一途 三田きえ子
杉の実のま青き五百羅漢かな 細川加賀 生身魂
杉の実を真青き風が保ちをり 関根黄鶴亭
杖頼り青きを踏んで刻過ぐる 山本あい子
来し方の罪許されて青き踏む 石川冬扇
東臺の松杉青き氷哉 氷 正岡子規
松の葉に青き小春の入日かな 闌更
松島の島の一つぞ黍青き 瀧春一 菜園
松茸にまじりて青き松葉哉 松茸 正岡子規
松葉てふいとしき名の杖青き踏む 平井さち子 完流
松蟲やともし火青き西の対 弄我
松青きほか唐崎の冬景色 辻田克巳
枇杷の實の僅に青き氷柱哉 氷柱 正岡子規
枇杷の種青き潮路へ吐きにけり 榎本冬一郎 眼光
林中に青き風生れ落し文 神 緑郎
林檎の実青きに昏るる信濃かな 筒井龍太
林檎畑うしろに青き林檎売る 川島彷徨子 榛の木
枝柿の青きをもらふ土産哉 柿 正岡子規
枯るる中青き耳輪を欲りにけり 菖蒲あや
枯園の木馬は青き目をもてる 岩崎照子
枯木の丘といへど篠むら青き丘 瀧春一 菜園
架け更へて青き筧や元政忌 内藤十夜
柚子青き視野に顔あり何か言ふ 加藤楸邨
柳垂れ汽艇も青き影ゆらぐ 秋櫻子
柴又や草餅青き年の暮 小澤碧童 碧童句集
柴漬の青き葉に垢付き始む 茨木和生
柵みに真青き竹や秋の水 楠目橙黄子 橙圃
柵を出し緬羊に冬青き草 蓼汀
柿が好きで膚青き秋の女かな 土師清二 水母集
柿の実の青き秋暑や兵士去る 横光利一
柿の花落ちてたそがれ青きかな 太田 蓁樹
柿の葉の青きながらに散てけ 寺田寅彦
柿もぎの余所目に青き蜜柑かな 会津八一
柿もぐや青きかりんは無視されて 滝春一
柿青き山の町水湧きはしる 川島彷徨子 榛の木
栗落つる枕も青き月夜哉 会津八一
栴檀の実のまだ青き寺に寄る 高澤良一 随笑
桐の実の弾けて青き空ありし 岩田 麗日
桐の実の高く青きを旅のはじめ 細見綾子
桑の実の青き八十八夜かな 上田花勢
桜散る青き夕の印刷機 高澤晶子 復活
梅の実に青き陽が射す子が欲しや 市川愁子
梅の実の落て黄なるあり青きあり 梅の実 正岡子規
梅二月灯台青き灯を点す 加古宗也
梅東風やさだかに青き潮境 森田春峰
梅東風や本流に入る波青き 深谷律子
梅雨しげくして無花果の青き翳 内藤吐天 鳴海抄
梅雨めくや人に真青き旅路あり 相馬遷子 山国
梯子乗ま青き空がまはりけり 細川加賀
梶の葉の青き香に書く想ひ歌 窪田佳津子
楡の実は青きシートの馬車にも降る 加倉井秋を
楪のこぼれて青き畳かな 渡辺大年
楮蒸す青き煙の眼に沁みる 関口謙太
楽の音の滝なしふるにゴム青き 篠原鳳作 海の旅
横浜の青き市電にものわすれ 渡辺白泉
樫の葉や花より移す目に青き 日野草城
樹氷林青き天路に出てしまふ 平畑静塔
橙やつやつや青き葉一枚 滝 峻石
橙青き丘の別れや蝉時雨 横光利一
機首さげる青き前方後円へ 品川鈴子
歌留多会青き畳の匂ひけり 山口波津女
正月の苜蓿青き水田べり 富安風生
武蔵野の雪間に青き東風菜哉 冬菜
歯に当てゝいよいよ青き実梅かな 野村喜舟
歯朶青きところへ鬼をやらひけり 山本洋子
歯痛かな確かに青き葱畑 柿本多映
死なずして青き樹海を出で来たり 三好潤子
死を忘れゐしが裸体の青きかな 八木三日女 紅 茸
残肴に青き菜のあり帰雁啼く 久米正雄 返り花
殻象に青き空など用はなし 成瀬桜桃子
母の手を逃れ幼な児青き踏む 八谷 きく
母の辺にあり青き嶺も沼も見ゆ 大串章
母郷つひに他郷や青き風を生み 沼尻巳津子
毬青き栗の林も瀬に潰え 瀧春一 菜園
水くぐる青き扇をわが言葉創りたまへるかの夜へ献る 山中智恵子
水の邊のゆるる月光てりかへしわれを誘ふ青きものやある 春日井建
水仙のきつさき青き浄め塩 石原義輝
水底に青き太陽風薫る 吉原文音
水底の青きプールを開きけり 小林たけし
水無月の青きたそがれ輪中村 鎌田雅龍
水無月や青き棗の夜も落つ 加倉井秋を 『胡桃』
水無月や青き火を擦る青き妻 磯貝碧蹄館 握手
水車べり青き李の濡れとほす 下田稔
水青き葉月に生まれ葉月に死す 宇多喜代子 象
氷下魚釣る一人に青き穴ひとつ 久保田涼衣
沈丁の蕾の青き睦月かな 中上三川子
河骨の影ゆく青き小魚かな 泉鏡花
沸きし湯に切先青き菖蒲かな 中村汀女
油絵のたゞ青きのみ冬の雨 山口青邨
沼は青き色のみを吸ひ紅葉中 加藤瑠璃子
沼舟や積み出て青き*えりの竹 石田勝彦
泉くむ歯朶の青きに胸染めて 清水 節子
泣きながら青き夕を濯ぎけり 高澤晶子 純愛
注連はつて真青き箍の和布刈桶 米谷秋風子
泳ぎ来て空青きことばかり言ふ 明隅礼子
洋上飛行青き硝子の中の涼 野澤節子 遠い橋
洛中の青き炎の鳥総松 佐川広治
流れ去る捨蚕に青き夏の枝 宇佐美魚目 秋収冬蔵
流れ藻の一すぢ青き葉月尽 菅原恵
流感や青き夕ぐれ街涵す 有働亨 汐路
流燈や一すぢ青き藻を曳けり 中嶋秀子
海は師走の青き浪立てて島へ漕ぐ舟 人間を彫る 大橋裸木
海は照り青きバナナの店ならぶ 田村木国
海よりも青き入江や初不動 松林朝蒼
海光を真正面に青き踏む 染谷秀雄
海呼ぶよに冬青き苔隠しマリヤ 宮津昭彦
海見ゆるこゝに住みたく青き踏む 直原玉青
海見ゆる窓辺の青き香水瓶 落合多恵子
海青き八月父の浮遊して 秋山迪子
海青き島の傾斜や花煙草 池田俊男
消防士崩れの作家青き踏む 山崎十生
淡雪や恋遂げ来しか魚青き 望月百代
清水湧く青き千曲となるために 藤田湘子(1926-)
渋柿の青き光や夏の月 会津八一
渓梅にとまりて青き山鴉 飯田蛇笏 春蘭
温泉けむりや萱なほ青き冬の底 林原耒井 蜩
港見るうしろに青き蚊帳吊られ 橋本多佳子
湖の国神話の国の青き踏む 中島正夫
湧き湧きて青きは温泉か湖風か 林原耒井 蜩
湧水の青きひかりや木下闇 阿部三雄
湯どころや行く秋青き深山歯朶 石塚友二 光塵
湯を沸かす木垂る杏の青き辺に 下村槐太 光背
満目の青き嵐や閑古鳥 会津八一
源流を求める旅や青き踏む 角野慶子
滝案内青き蜜柑をふところに 林原耒井 蜩
漁閑の青き簾と井の神と 神尾久美子 桐の木以後
漂うて青き小国薄氷 金箱戈止夫
潮宿に青き簾の吊られけり 佐川広治
潮照りに*まるめろ青き残暑かな 内藤吐天
潮風に青き葉のとぶ送り盆 友岡子郷
火の色のひとすじ青きどんどかな 林 宏
火を見せて青きうちより唐辛子 松岡豊子
火取虫湯舟の底の青きこと 如月真菜
火口湖に浸く雪渓の青き端 太田英友
火星赤し水澄む青き星に住み 矢島渚男
火蛾狂ふ針にさすべき絲青き 上村占魚 『鮎』
火蛾青き十二時すぎを憂きものに 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
灯を消せば青き舞台やクリスマス 五十嵐播水 播水句集
灯蛾墜ちて青き海図の国汚す 中尾杏子
炎天に蓮池青き焔むら立ち 深川正一郎
炭窯のけむりの青き恵方かな 千代田葛彦
烏賊襖隙間に青き海を見す 池田秀水
焔青き灯は見馴れしに蚊帳無き夜 安斎櫻[カイ]子
無花果の実青き二百十日かな 高濱年尾 年尾句集
焼蛤や青き松葉の散りかかる 長谷川櫂 虚空
熊楠の故園に青き踏みにけり 中瀬喜陽
熊野街道青き和泉の国通る 楠 節子
熟れそめて青き蚕糞を零しけり 栗生純夫 科野路
熱帯魚青きひかりを藻に点ず 水原秋櫻子
燈へ帰る冬青きもの籠に充たし 岡本眸
爆音や青き葡萄に影うまれ 加藤秋邨 沙漠の鶴
父と子の如きが別れ青き踏む 岩田由美 夏安
父の墓野山の青き中に立つ 山口波津女 良人
父の血を享けて青き瞳チューリップ 西村和子 窓
父の遺せし陶枕の青き竜 海野迪子(対岸)
父逝きしこの年の瀬の青き空 田中鬼骨
牛の丸胴菜種は青き莢立てて 成田千空 地霊
牛の咳すべてあたりの青き中 右城暮石 声と声
牡丹の青き蕾に遊びけり 松藤夏山 夏山句集
犬ふぐり藍より青き日を返す 石塚友二
猟夫行くさきざき青き天緊る きくちつねこ
猫柳呆けて天の青き見ず 加藤楸邨
獣に青き獅子あり涅槃像 後藤夜半 翠黛
玉の子を授かりたくて青き踏む 佐藤 都
玉解いてしみじみ青き芭蕉かな 境野大波
玻璃よりも青き舗道や桜餅 宮坂静生 青胡桃
生け垣のねずみのこまくら青きこと 高澤良一 寒暑
産褥をはなれて青き蕗洗ふ 百合山羽公 故園
田が植わり苗より青き山写す 河合文宏
田を植ゑて安房は藍より青き国 大屋達治 龍宮
田園広し青き唇もて泉吸ふ 齋藤玄 『玄』
画家の犬咳して青き朴の蔭 右城暮石 声と声
畝ごとに青き芽育つ餅配 大島雄作
病むといふ翼の折れて青き踏む 早崎 明
病む夫に青きを踏ます妻の助 牧野春駒
病めば蒲團のそと冬海の青きを覚え(絶句) 中塚一碧樓
癒ゆる日はなからむ蚊帳の青き吊り 山田 文男
癩園に暮れ雪沓の青き穴 大野林火
白き山青き山皆おぼろなり 朧 正岡子規
白き山青き畷に羽子つけり 百合山羽公 故園
白桃をよよとすすれば山青き 富安風生
白梅の青きまで咲きみちにけり 小坂順子
白梅やちるさへ青き苔のうへ 立花北枝
白秋忌切つ先青きまま乾き 宮坂静生 山開
白繭となるまで青き嶺が囲み 神尾久美子 桐の木
白蓮にうつりて青き灯哉 白蓮 正岡子規
白雲や広く青きは田なるべし 青田 正岡子規
白鳥の抱卵青き芦の中 守谷順子
白鳥帰る湖畔に青き常夜灯 本田義正
百年千年夢見て青き冬景色 寺井谷子
盆のものいづれも青き天草干 石田波郷
盆の灯に青き夕餉の仏たち 鈴木鷹夫 渚通り
盆梅の真青き枝の四方にたれ 広田青陽
目の前に赤腹鶫青き虫落す 市村芳子
目の無きに目青き不思議目刺かな 石井雅子
目張り青き浅香光代に銀杏の鈴 長谷川かな女 花 季
目覚めけり青き何かを握りしめ 沼尻巳津子(1927-)
相模野の青き踏み来て手ぶらかな 高澤良一 宿好
眉青き女三月水のいろ 佐藤惣之助 春羽織
看護婦の青き底意地梅雨の夜 三好潤子
真つ青き蜜柑も売るや秋祭 西山泊雲 泊雲句集
睡蓮の葉はなまけもの水面にひったり青き己れを伸べて 奥村晃作
睡蓮の葉よりも青き蛙かな 阿部みどり女
矢作川わたれば青き麦畑 鳥居三朗
石原やほちほち青き春の草 春の草 正岡子規
石菖に青き日矢さす氷室口 新井盛治
砕氷船一すぢ青き海を曳く 八十嶋祥子
破蓮の霧雫して青きかな 佐野良太 樫
碑の裾やしみじみ青き冬の草 皆川白陀
祇園まつり家々青き瓜を供ふ 林火
神々の国の青きを踏み称ふ 鷲谷七菜子 天鼓
神の留守青き楓樹の情なかり 長谷川かな女 牡 丹
神代より瑪瑙も梅雨も青き国 河野頼人「木の実」
神前の楪青きめでたさよ 吉田隆子
祭くる淡路は青き野の五月 稲垣きくの 牡 丹
禪寺やさぼてん青き庭の秋 秋 正岡子規
秋の日の青き畳をはこびくる 神尾久美子 桐の木以後
秋の海されど藻青き渚かな 尾崎迷堂 孤輪
秋の海真青き虹のたちのぼる 中川宋淵
秋出水輪中滅法空青き 近藤一鴻
秋立つと青き畳を拭きにけり 山田弘子 螢川
秋青き茂りや被爆中心地 石塚友二
秋風の揺りゐる木の実みな青き 木下夕爾
秋風の落葉大きく青きまま 中里恒子
秋風や芙蓉喰ひ居る青き虫 西山泊雲 泊雲句集
秋高し空より青き南部富士 山口青邨
秋麗やアイビー青き画家の墓 関森勝夫
秬焚くや青き螽を火に見たり 石田波郷
種下ろし青き鈴鹿を神として 山本洋子
稲妻やちらりと青き磯の松 蘇山人俳句集 羅蘇山人
稲架襖青きひとつは今日出来し 猪俣千代子 堆 朱
穀象に青き空など用はなし 成瀬櫻桃子 風色
穂黍まだ青きに早も山の霧 原石鼎
積草の青き底まで端午の日 平畑静塔
空の色うつして雪の青きこと 高木晴子
空の青きはまり岩は並み凍てぬ 石橋辰之助 山暦
空ゆくは青き蝸牛ぞ身にかたくまとひし殻のかがやきそめぬ 斎藤すみ子
空港の青き冬日に人あゆむ 西東三鬼
空蝉のもはらに青き萩このむ 篠田悌二郎 風雪前
空青きことを称へて冬雲雀 有山八洲彦
空青きに耐へぬ落石雪解山 野澤節子 黄 炎
空青きままに昏れゆく二月かな 清水とみ
空青き丘よ穂草の風また風 赤城さかえ
空青き大岩に蝿生まれけり 山西雅子
空青き方へとくぐる茅の輪かな 能村研三「海神」
窓の空は青きかな試験監督時間 井沢元美
窓よりに青き芒の風見えて 田畑美穂女
窓全開五月五日の空青き 中村ふみ
窗高く五月の青き河を敷く 片山桃史 北方兵團
窪みあるあたり濃緑青き踏む 上野泰 春潮
立江寺の阿波の青石青き梅雨 松崎鉄之介
竹の香の青き初音を買ひにけり 栗生純夫
竹垣の青き切り口年明ける 高野清美
竹椽や青き色なる雨蛙 雨蛙 正岡子規
竹矢来雨に真青き御ン田植 渡辺流萍
竹籠の青きに跳ねて紅葉鮒 斎藤美智子
竹縁の青き匂ひや初月夜 如竹
竹青き冷えの奥より呼ばれをり 野澤節子
竹青き村に入りけり初御空 田村幸江
竹青き秩父七福詣かな 西嶋あさ子
竹馬の青きにほひを子等知れる 草田男
竹馬や青きにほひを子等知れる 中村草田男
笑ミ栗や鬼一口に青き空 東洋城千句
筑波根の裾青き大根を漬け 久米正雄 返り花
箒木にまじりて青き藜哉 藜 正岡子規
築山の芝の青きに百日紅 百日紅 正岡子規
簾捲けば則ち青き柳かな 古白遺稿 藤野古白
籠蛍かざして青き夜を愛づる 石原舟月
籠螢かざして青き夜を愛づる 石原舟月 山鵲
粟鳴子ま青き空に響きけり 岸風三楼 往来
紅梅におきての如く空青き 井沢正江 以後
紅梅や指貫青き上達部 紅梅 正岡子規
紫蘇青き日本にのこす幾日かな 加藤秋邨 火の記憶
結界の青き闇曳く青葉木菟 佐々木静江
絶壁に青きものさへすがり得ず 西本一都
綴糸の青き白きや初暦 佐藤滴泉
綺羅星の中の青きが流れけり 水原秋櫻子
綿虫のたそがれの綿つと青き 正江
綿虫を青き焔と思ひけり 橋本美智代
練炭の青き焔に太宰読む 鈴木淳一
縞青きお弓の墓の烏瓜 西本一都 景色
繭掻や青き山河にあけはなち 水原秋桜子
罠抜けてくる女狐の青き魂 小澤克己
美的百姓に団栗降るや青きもあり 上林 裕
翅青き虫きてまとふ夜学かな 木下夕爾
考のこゑ青き夜明けの筒鳥は 及川 澄
耳透けて眠るやすすき青き家 細見綾子
職一つ解かれし夫と青き踏む 金子三起子
肌を刺す青き火虫よ闇は濃き 右城暮石
肩並べ心相触れ青き踏む 山田凡二
肩貸して二人三脚青き踏む 津嘉山敏子
胡麻刈や青きもまじるひとからげ 村上鬼城
胸に抱く青きセロリと新刊書 館岡沙緻
胸中に青きもの秘め滝凍る 檜紀代
自画像の青きいびつの夜ぞ更けぬ 篠原鳳作
舌の傷刻々癒ゆる青き踏む 吉本伊智朗
舞鶴の海の真青き根釣かな 轡田 進
舟容れて青き真菰の水昏む 桂信子 花寂び 以後
船の灯の青きが花の中を航く 五十嵐播水 埠頭
船員になるはづだつた青き踏む 辻桃子
芭蕉破れ一過の空の青きかな 照子
花二つ紫陽花青き月夜かな 泉鏡花「鏡花全集」
花吹雪紺より青き九十九湾 浅賀渡洋
花昏れて夜空の青き吉野山 桑田青虎
花李美人の影の青きまで 泉鏡花
花浅沙富士より青き逆富士 川村紫陽
花芒峠に青き日ありけり 中田剛 珠樹
花辛夷空青きまま冷えてきし 長谷川櫂 天球
芹生ひて断雲青きところかな 楸邨
芽柳の青きリボンや銀座街 越田美代子
苔青き天心塚を撫でて辞す 伊藤京子
苔青き踏むあたりにも霜柱 河東碧梧桐
若き日を断つ夏果ての青き画布 文挟夫佐恵 雨 月
若楓障子に迫る青きかな 温亭句集 篠原温亭
若竹に青き大空ありにけり 嶋田つる女
若竹の色より青きすだれかな 若竹 正岡子規
若竹や四五本青き庭の隅 若竹 正岡子規
若竹や稍薄青きふしの山 若竹 正岡子規
若竹や竹より出て青き事 立花北枝
茶の花に富士の雪翳青きかな 久米正雄 返り花
茶摘女乗るバスに青き香入るるごと 田中英子
茸籠に敷く歯朶青き京を発つ 中村汀女
草刈りの青き空気の中にゐる 山岸玲子
草市や縄の青きにひきくゝり 野村喜舟 小石川
草焼く煙青き糸瓜のほかを籠め 野澤節子 黄 瀬
草青き死の壁とても風は越ゆ 稲垣きくの 黄 瀬
草青き洲を巡りけり春の水 春の水 正岡子規
草餅の草より青き匂かな 春和
荒南風や揺るがぬ青き島一つ 野澤節子
莢青き小豆莚の二三枚 池上 秀子
菊の葉の青き匂ひを菊剪りぬ 久米正雄 返り花
菜飯食ふ青き日暮となりにけり 角川春樹
菰藁の青き日を入れ寒牡丹 田中亮子
萩の戸にあめつち青き夜をかへる 西島麥南
萩青き四谷見附に何故か佇つ 石田波郷「鶴の眼」
萱喰む馬真青き涎したたらす 瀧春一 菜園
落る日にあら海青き寒哉 加舎白雄
落葉してやどり木青き梢哉 落葉 正岡子規
落葉掃く母ありてかく青き空 野澤節子 黄 炎
葉が青き夜を端正なほとけの座 大野林火
葉櫻や青きに含む露の玉 会津八一
葉籠りの青き葡萄や五月雨 五十嵐播水 播水句集
葛城の神臠(みそな)はせ青き踏む 高浜虚子
葛水や顔(かんばせ)青き賀茂の人 渡辺水巴
葡萄青き旦夕を妻の痩せにけり 林原耒井 蜩
葦青き村に葬りのありたる日 宇多喜代子 象
葭の柄のうすうす青き団扇かな 篠原鳳作
葱ぬきて青き矛盾を捨つるなり 攝津幸彦
葱白き青きを切りて丁と斜め 久米正雄 返り花
葵かけて横顔青き舎人かな 水落露石「続春夏秋冬」
蒙古斑を青き大陸と思え 松本勇二
蓑虫のひとすぢ青きもの鎧ふ 芝 由紀
蓬莱や青き畳は伊勢の海 伊藤松宇
蓮の実の青き実弾抜きて見す 高澤良一 素抱
蓮の葉のひたすら青き梅雨かな 久保田万太郎 草の丈
蓮散つて真青き茎や葉の中に 西山泊雲 泊雲句集
蓮田見え青きもの置く盆の厨 宮津昭彦
蔓引けば青きが出でぬ烏瓜 露月句集 石井露月
蔵元の杉玉青き惟然の忌 早矢仕美代
薄氷に包まれてゆく青き花 黒田杏子 花下草上
薔薇散て萩の葉青き小庭哉 薔薇 正岡子規
薮入に暁空の青きかな 増田龍雨
藁しべの青きを噛みて睨み鯛 山崎冨美子
藁塚が青き月下にぬくもれり 佐野まもる
藉くによしなしと青きを踏めりけり 西本一都 景色
藍よりも青き信濃の端午空 広治
藍染に灯までも青き朧かな 高田菲路
藪入に暁空の青きかな 増田龍雨 龍雨句集
藺座布団青き千鳥の描きあり 粟津松彩子
藺田青き師の故郷の忌に参ず 伊東宏晃
藺田青き築後平野や武者幟 中邑礼子
藺草刈る青き匂ひをまき散らし 寺見栖庵
蘭亭の秋を知らざる青き竹 関森勝夫
虎つぐみ往ねよと青き夜明くる 堀口星眠 営巣期
虎の/斑の/岬の/青き/淡き/祭 高柳重信
虎の斑の岬の青き淡き祭 高柳重信
虎杖がかぶさり青き水ねぢれ 細見綾子
虚子の忌の青き電線張られをり 西澤 麻
虫売りの虫より青き籠を積み 塩原佐和子
虫干の青き袖口たたまれし 高野素十
虫集いきて青き仲間となりぬ 福富健男
蚊帳吊りて陋巷青き夜のくだつ 内藤吐天 鳴海抄
蚊帳吊草三角に張る青き意地 新井章有
蚊帳青き裏町寺のひと間借 桂樟蹊子
蛇穴に入る青き渦眼に収め 下田稔
蛇穴を出てすぐ青き海に垂れ 神尾季羊
蛍烏賊青き飛沫をふりこぼす 石黒ト風
蛤の青きをふむや西の海 鉄丸 選集「板東太郎」
蜃楼青き一郭より崩る 大石悦子
蜜柑青き背戸の居風呂屋根もなし 青蜜柑 正岡子規
蜥蜴楽し青き牛蒡の葉に乗つて 沢木欣一
蜩や白磁は青き影つくる 加藤知世子 花寂び
蜩二十重青き壮りに杉徹す 宮津昭彦
蜻蛉の青き眼をふりうごかせり 松瀬青々
蟇鳴きて少年青きメロン食む 柿本多映
蟷螂の怒りて青き鎌上ぐる 芳賀かをる
蟷螂の易々と死す天青き日に 榎本冬一郎 眼光
蟷螂の翅まだ青き十二月 高澤良一 燕音
蟷螂の青き目のうちより視らる 野澤節子 黄 瀬
蟻殺すしんかんと青き天の下 加藤楸邨
行く春や一声青きすだれうり 蓼太
行く秋や残るトマトの青きまゝ 高橋淡路女 梶の葉
街道に干されて青き藺草かな 森田公司
衣食足るけふのわれあり青き踏む 西島麦南 人音
袂には青きバツトよ薔薇のみち 下村槐太 光背
袖にふれし茨に青き芽のありし 進藤湘海
裏年の柿まだ青き去来の忌 荒木法子
見よがしに青き実のあり物の蔓 乙二(ひぢ曲坂)
解く帯の青き渦なす夜涼かな 薮脇 晴美
谷梅にとまりて青き山鴉 飯田蛇笏
谿凍り青き夕ベを兆すのみ 有働亨 汐路
豆引くや空しく青き峡の空 相馬遷子 雪嶺
貝 殻 の 青 き 肌 に 雨 く る よ 富澤赤黄男
赤き味青き味夏来たりけり 村中[トウ]子
赤き林檎青き林檎や卓の上 林檎 正岡子規
赤き青き布さらしけり春の川 谷活東
赤き青き舌ひらめかせ氷水 高橋睦郎「遊行」
赤ん坊を泣かしをくべく青きたたみ 篠原鳳作
赤ん坊泣かしおくべく青きたゝみ 篠原鳳作 海の旅
走り梅雨刈られていまだ麦青き 相馬遷子 雪嶺
足もとに青き風立ち鬼灯市 市川千鶴子
跫音高し青きジャケツの看護婦は 石田波郷
路地に青き空みあげたり震災忌 鈴木真砂女
踏青や山谷の詩を吟じつゝ 青き踏む 正岡子規
踏青や美人群れたる水の隈 青き踏む 正岡子規
踏青や草履駒下駄足袋はだし 青き踏む 正岡子規
踏青や飴屋にかゝる綺羅の塵 青き踏む 正岡子規
蹌踉と青きふまるるみかどかな 関口比良男
身のうちに青き川あり梅雨深し 佐藤美恵子
身のまはり青き湿度の手紙書く 片山桃史 北方兵團
身をのぼるあうらの応へ青き踏む 皆吉爽雨
車停めてしばし古墳の青き踏む 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
軒菖蒲青き切つ先富士を指す 浅羽緑子
轟々と時を過ぎしめ青き踏む 林翔
轡虫東天青き方ロシア 田中正能
辻更くるこぼれて青き聖樹屑 小池文子 巴里蕭条
近江富士青き近江の芯をなす 山口 誓子
追ひ風が今向かひ風青き踏む 太田 嗟
退院の喜び青き踏みてより 高岡秀行
送金す鬼灯青き路次を抜け 松倉ゆずる
連山に雪の鞍おく青き夜 吉川昌子
遊女の帯の細しも青き踏む 橋本多佳子
遊牧の女に青き鷹の天 有馬朗人 耳順
過去といふ青き匂ひの螢かな つつみ眞乃
遙かなる出合ひ持ち寄り青き踏む 吉村ひさ志
遠光る坂東太郎青き踏む 市野沢弘子
遠景へ縄文人と青き踏む 河野南畦 『元禄の夢』
遠浅間すかんぽ青き蜘蛛のせて 宮坂静生 雹
遺画像は青きくち唇まげ藁ぼつち 岡崎万寿
郭公に全容青き茅ケ岳 小野宏文
郭公もまどろみがちや青き昼 堀口星眠 営巣期
郭公や網戸に青き渦ならび 堀口星眠 営巣期
郭公を青き湖心にゐて聴けり 朔多恭(蘭)
重陽や海の青きを見に登る 野村喜舟
野分後の野の道青きものもなし 石塚友二
金色堂出でてもつとも青き踏む 石寒太 翔
金雀枝や肋の青き少年期 星野石雀
鈿女舞ふ青き袴に足袋白し 高木朱星
鉄を断つ青き火花に冬立てり 池田博子
鉄傘の大つばさ影青き芝に 大橋櫻坡子 雨月
銀漢に青き空洞病師いかに 上田五千石 田園
銃を肩に青きを踏で戻りけり 蘇山人俳句集 羅蘇山人
銅婚や青き帆立てて芭蕉の葉 本宮鼎三
鋼断る青き火ごとに裸形群れ 片山桃史 北方兵團
鎌上げて蟷螂凍てぬ青きまま 羽部洞然
鎌倉の海青き日や仏生会 千手和子
長梅雨もわすれて青きいなびかり 百合山羽公 故園
長雨や田の面真青き*ひつじ生ゑ 西山泊雲 泊雲句集
門松に青きゆふぐれ来たりけり 柏木冬魚
門松や藍師の青き石畳 藤江駿吉
陶枕の青き山河に睡りけり 綾部仁喜「寒木」
陸はもと海なり青き竜の玉 中村苑子
雁木出て老のをろがむ青き空 小原樗才
雁渡るほのぼの青き日曇りに 石塚友二 光塵
雑炊や一すぢ青き山の幸 鷹羽狩行
雨光りパパイヤ青き残波岬 鳥越憲三郎
雨滴つく青き芒を魂棚に 宮田正和
雨蛙一枚青き皮膚持てり 立岩利夫
雪くぐり来し水音の青きかな 山田桃晃
雪に牛放てば青きオホーツク 金箱戈止夫
雪の富士北へは青き襞を流し 高橋馬相
雪もよひの夜の飾り竹の青き葉 人間を彫る 大橋裸木
雪やむやすなはち青き鰤生簀 細川加賀 生身魂
雪を割り掴みあぐるは青き芹 瀧澤伊代次
雪中の氷につまる青きもの 長谷川櫂 古志
雪吊に雪見ず青き日本海 松本夢渓
雪吊や藁の香とどく青き空 高主和子
雪山暮るゝや天青きまゝ月ほの~ 楠目橙黄子 橙圃
雪嶺の青き昃りのとき浴む 木村蕪城 寒泉
雪来ると芯まで青き野鍛冶の火 橋本榮治 麦生
雪解不二見て来て青き近江不二 大島民郎
雪解田に空より青き空のあり 篠原梵 雨
雪青き甲斐や夕富士痩せて立つ 相馬遷子 雪嶺
雲にいどむ少年夜は青き小枝 和田悟朗
雲の峰青き表紙の記憶のみ 久保田万太郎 草の丈
雲の間の深みて青き唐辛子 大井雅人
雲消田に空より青き空のあり 梵
雷の始めて青き木の芽かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
雷魚の青き目玉が火に落ちし 土谷青斗
電柱に凭る癖青き飛弾にても 加倉井秋を 『真名井』
電燈の青き炬燵の部屋に入る 京極杞陽 くくたち上巻
霜どけの風が光る山茶花の青き葉 人間を彫る 大橋裸木
霧氷林満月青き暈をもつ 栗原政子
露けしや船渠は青き火屑とび 五十嵐播水 埠頭
露地灼くる真青き海を奥にして 川島彷徨子 榛の木
露月忌の青き紫式部かな 皆川白陀
露霜やまだ歯朶青き南谷 福田蓼汀 秋風挽歌
青きこつぷは青き気泡を風光る 大澤玲子
青きひかり椎樫に満ち冬構 滝春一
青きふむ遠き一人を見失わず 細木芒角星
青きほど白魚白し苣の汁 重頼
青きままライ麦刈らる霧五月 堀口星眠 営巣期
青きまま積木の上の栗の毬 田中裕明 櫻姫譚
青きまま芭蕉の幹の氷りけり 岸本尚毅 選集「氷」
青きもの根づいてゐたる浮巣かな 片山由美子 風待月
青きもの流れてきたる盆の川 片山由美子 風待月
青きより出でて琥珀の梅酒かな 福井まさ子(天弩)
青きより青きへ雲の閑かなり 林原耒井 蜩
青きを踏む虚空の水の惑星の 川崎展宏
青きネオン赤くならんとし時雨る 竹下しづの女句文集 昭和十二年
青きパセリ食いて冬夜を送るなり 古沢太穂 古沢太穂句集
青き上に榛名をとはのまぼろしに出でて帰らぬ我のみにあらじ 土屋文明
青き中に五月つつじの盛り哉 正岡子規
青き中彫られて繊きわが文字 加倉井秋を
青き串木の芽田楽貫けり 木暮剛平
青き六月回想ぜんまいじかけなる 上田日差子
青き冠毛立てて孔雀の小正月 橘 玲子
青き冬苔生ゆるも鍋を浸け放し 宮坂静生 青胡桃
青き勾玉ならむ水輪のなかの冬 櫛原希伊子
青き声受話器の底に海ひびかす 前山巨峰
青き夕焼峰さす「細道」を藪にさがす 加藤知世子 花寂び
青き夜の猫がころがす蝸牛 真鍋呉夫
青き夜歎異抄読む時間かけて 阿部完市 証
青き天心文化の日こそ掃除の日 香西照雄 対話
青き実は青くともりぬ鬼灯市 片山由美子 風待月
青き実を榧はこぼせり金堂址 坂口緑志
青き実を舌につつみて蝮草 堀口星眠 青葉木菟
青き幹じりじり暑くなりさうな 高澤良一 さざなみやつこ
青き影添へて檸檬を描きけり ふけとしこ 鎌の刃
青き愛撫の銅版の人雪降れり 磯貝碧蹄館
青き星節分の坂乾ききる 松根久雄
青き林檎とわが古靴と笑窪あれ 磯貝碧蹄館 握手
青き林檎青く画きつつ哀しかり 飴山實 『おりいぶ』
青き果も赤きも風の烏瓜 名和未知男
青き枝の落ちてありけり蝉の宮 銀漢 吉岡禅寺洞
青き梅風に見えなくなりにけり 加藤かな文
青き梨ほとけは灯より来給ヘり 神尾久美子 桐の木
青き梨我より高き子へ与う 寺井谷子
青き津や鈴振るごとき春楽浪 櫛原希伊子
青き海見ては薬草掘りにけり 松本 旭
青き潭ただ静かなり夏の峡 渡部マサ
青き煙は秋みどりなる森へゆく 大井雅人 龍岡村
青き王妃よ/朝の/やつれの/銀の髪 高柳重信
青き目のどこか見てゐる初秋刀魚 堀口星眠
青き目の仔猫もらふや帽の中 瀬原田純子
青き目の舸子海神の破魔矢受く 野中 春艸
青き眼のさびしき毛皮売に逢ふ 中村若沙
青き穂に千鳥啼くなりひつぢ稲 史邦 芭蕉庵小文庫
青き空うごかず干布団かへす 川島彷徨子 榛の木
青き空にさくらの咲きて泣きごゑは過ぎし時間のなかよりきこゆ 森岡貞香
青き空よりのひとひら花吹雪 長谷川櫂 天球
青き糸ひつぱりあつて冬北斗 小宮山勇
青き羽根育つ韮畑亡父そこに 寺田京子 日の鷹
青き胡瓜ひとり噛みたり酔さめて 加藤楸邨
青き色の残りて寒き干菜かな 高浜虚子
青き花の種子さらさらと傷みに播く 文挟夫佐恵 黄 瀬
青き草に雪来る北の馬冴えて 大井雅人 龍岡村
青き菊の主題をおきて待つわれにかへり来よ海の底まで秋 塚本邦雄
青き葉に添ふ橘の実の割かれ 日野草城
青き葉に集まる露や枯葎 素風郎
青き葉のあれば寝に来る寒雀 右城暮石 声と声
青き葉の吹れ残るや綿畠 炭 太祇 太祇句選
青き葉の流れてくるや川床涼み 長谷川櫂 蓬莱
青き葉の添ふ橘の実の割かれ 日野草城
青き葉の目にたつころや竹の雪 千代尼
青き葉の見えて柚子なり雪囲 宇佐美魚目 天地存問
青き葉も意気のあがらぬ落葉焚 高澤良一 ぱらりとせ
青き葉も落ちくる不思議月のあと 宇佐美魚目 天地存問
青き葉をばりばり燃やす厄日かな 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
青き葉をりんと残して柚味噌かな 涼菟
青き葉縫うて黒き幹かな梅雨の梅 高濱年尾 年尾句集
青き葱微塵に刻む被曝の葬 岡崎万寿
青き葱提げ青嶂忌通りけり 長谷川双魚 風形
青き藁いつぽん立てり流し雛 大島雄作
青き藻のすこしかかりて白魚網 五十嵐播水 埠頭
青き藻を根こそぎ流す雪解川 細見綾子 黄 炎
青き蛭縞を延ばしてへろ~と 羽田利七
青き血の流れゐるらむ蝌蚪の玉 矢島渚男 延年
青き踏みけものの肢のみな繊き 金箱戈止夫
青き踏みゆきては遂にあらあらし 齋藤玄 『雁道』
青き踏みゆくしんがりと声つなぎ 清水衣子
青き踏み卑弥呼の墳と思ひけり 佐川広治
青き踏み地層のなかの貝の層 小檜山繁子
青き踏み池田満寿夫を訪ひにけり 星野椿
青き踏み行きて雲にも乗りたしや 村越化石
青き踏み踏みてはいのち噛みしむる 六本和子
青き踏み身に添ふ影は躬にひとつ 稲垣きくの 黄 瀬
青き踏み齢をすこし捨ててきし 児玉南草
青き踏む 地球そこここ削られて 中村英子
青き踏むいのち確かむごとく踏む 石川文子
青き踏むけふのわれあり明日をしらず 西島麦南 人音
青き踏むこころは海をゆくごとし 小池万里子
青き踏むどこにも地雷なき青さ 蛯子雷児
青き踏むひともけものもやまんばも 仙田洋子 雲は王冠以後
青き踏むひとりひとりや人嫌ひ 沼尻巳津子
青き踏むみ仏踵上げ給ひ 沢木欣一 地聲
青き踏むもつとも空に近くをり 新庄八重
青き踏むより濃き青へ舟使ひ 岡本眸
青き踏むより踏みたきは川の艶 齋藤玄 『雁道』
青き踏むわれより若き影を連れ 小山徳夫
青き踏むブレスレツトを放り投げ 大高 翔
青き踏む一町先に海の紺 片山由美子 水精
青き踏む一遍遊行の地なりけり 高澤良一 ねずみのこまくら
青き踏む丘のつゞきや法隆寺 岩木躑躅
青き踏む丘荒海に傾けり 石原舟月 山鵲
青き踏む中学にゆく子なりけり 鈴木しげを
青き踏む亀形石のところまで 吉村徳昭
青き踏む人吸はれ入るチヤーチかな 左右木韋城
青き踏む仔犬のごとき児を連れて 伊藤トキノ
青き踏む円光負へるこころにて 柴田白葉女 雨 月
青き踏む分身の杖横抱きに 美濃部多津子
青き踏む叢雲踏むが如くなる 川端茅舎
青き踏む夢の誰彼若きかな 吉田鴻司
青き踏む大地に弾みある如く 千原草之
青き踏む嬰児嬰児の重さにて 塩川雄三
青き踏む少年の日の堤来て 八木林之介 青霞集
青き踏む左右の手左右の子にあたへ 加藤楸邨
青き踏む平城京の跡を踏む 角川春樹
青き踏む心の翼ひろげつつ 安部睦代
青き踏む忘れたきこと道づれに 肥田美津子
青き踏む愛さるる身の趾緊め 中村草田男
青き踏む新刊の書を捲るごと 若山直美
青き踏む明日貰はれてゆく犬と 藤原悦子
青き踏む昔むかしの日差かな 高橋陸郎
青き踏む昭和の恋の微熱めく 宮下裕大
青き踏む根は底無しの欧羅巴 櫂未知子 貴族
青き踏む橋でつながる埋立地 下山宏子
青き踏む毛馬閘門のほとりまで 高濱年尾 年尾句集
青き踏む氷遠なる嶺を見据ゑつつ 小澤克己
青き踏む海の青さも踏みたけれ 鷹羽狩行 七草
青き踏む父をいたはる歩幅にて 岡田安子
青き踏む神話の恋はおほらかに 長谷川翠
青き踏む背骨一本たてとほし 加藤耕子
青き踏む菅家文藻旅の荷に 河野頼人
青き踏む華僑の娘らに纏足なし 吉岡鳴石
青き踏む身ぬちの発条をなだめつつ 小澤克己
青き踏む身を養ひてふるさとに 近藤一鴻
青き踏む青春遅々に過去のもの 佐野まもる
青き踏む鳥語を解す君に蹤き 坂本彩
青き踏んで帰るや門に客の待つ 高田蝶衣
青き野の割れて水鳴る座禅草 堀口星眠
青き頭をめぐる初蝶どこまでも 岩田昌寿 地の塩
青き風青き田螺をあゆましむ 白岩三郎
青き馬倒れていたる師走かな 金子兜太
青き馬憩ひ立つ水五月来ぬ 木下夕爾
青き鳥ゐて枯葎さゆらぎす 石塚友二
青き鴨もはらに鳴ける霙かな 篠田悌二郎
青き鴨波翔けめぐり初日いづ 水原秋櫻子
青みかん青きころもをはがしけり 日野草城
青嶺より青き谺の帰り来る 多胡たけ子(山茶花)
青年に忌日の青き椿の実 長谷川かな女 牡 丹
青木の実の青きにかえり敵機なし 原子公平
青木の実青きを経たる真紅 貞弘衛
青柿の芯まで青き不安かな 金子功
青柿の蔕より青き月夜かな 真鍋呉夫
青柿の青きままなる許六庵 塩川雄三
青梅に青き炎のある時に摘む 平井照敏 天上大風
青梅の最も青き時の旅 細見綾子(1907-97)
青竹に来るまで青き簗の水 谷口紫頭火
青竹の青きままなる川床仕舞 山本ヒロ子
青芒青き戦慄走りけり 小川軽舟
青虫のいよいよ青き自若かな 下鉢清子
青麦に青き穂が出て汗稚し 細見綾子 黄 炎
青麦の青き穂浪に乗りたしや 三浦亜紀子
革布団青き畳に浮みけり 高浜虚子「虚子全集」
靴ぬぎて青きを踏みて友ら亡し 富澤統一郎
鞄より出してつくづく青き梅雨 田中裕明 櫻姫譚
頸根覗かるるや青き文旦に 下村槐太 天涯
風呂に浮く青き草の実追ひにけり 彷徨子
風呂敷の自由なかたち青き踏む 中村路子
風垣に足す笹青き怒濤かな 橋本榮治 越在
風神の青き顔ある除夜詣 岸本尚毅
風花のかかりて青き目刺買ふ 舟月
風花やあるとき青きすみだ川 久米正雄 返り花
風花や波路のはては空青き 秋櫻子
風花や青き竹伐り死者の杖 三ヶ尻湘風
風邪声の言葉の上に青き天 榎本冬一郎 眼光
風鈴や青き空から風吹いて 長谷川櫂 蓬莱
颯爽と老いむと願ひ青き踏む 富岡夜詩彦
颱風にうかゞはれゐて青き空 豊田淳応
飛魚の青き飛沫や竜飛崎 工藤速水
飾藁殊に青きを選びけり 五十嵐牛
餅藁の青き香を入れ注連を綯ふ 影島智子
馬の鼻きるつばめの音の青き暮れ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
馬小屋に青きもの敷く土用入 白岩三郎
馬追がふかき闇より来て青き 上林白草居
高原文庫出で来てひとり青き踏む 鳥越憲三郎
高熱の青き蜥蜴は沙に消え 角川源義「ロダンの首」
高空に青き山あり吹流し 相馬遷子「山国」
髪にとまれば髪青きなり蛍の夜 見市六冬
髯そりて青きおもてや祭人 大橋櫻坡子 雨月
鬼子母神現れしは青き谷戸のどこ 加倉井秋を
鬼灯市の青き匂に疲れたり 原 コウ子
魂棚や供へて青きものばかり 岸 風三楼
魚棚に熊笹青き師走哉 師走 正岡子規
鯉青き山陰の沼雷の峯 大井雅人 龍岡村
鯖青き十日の髭をあたるべし 古舘曹人 砂の音
鯨汁のれんが割れて空青き 岸本尚毅 鶏頭
鰭酒に青き炎の関の宿 広瀬邦弘
鰺を干しま青き海を展べにけり 岸風三楼 往来
鱶の海流れて青きいかのぼり 宇多喜代子
鳩ら青き冬あかつきの牛乳車 成田千空 地霊
鳴門蜜柑青きに還り盛夏かな 高田蝶衣
鴉にも後れて青き踏みにけり 相生垣瓜人
鴨の子の足ひらひらと青き踏む 住谷不未夫
鴨の猟真青き潮を漕ぎゆける 佐野まもる 海郷
鴬のこもるや青き檜葉のなか 古沢太穂 古沢太穂句集
鴬も柳も青き住居(すまい)かな 夏目漱石 明治三十三年
鵙が鳴き青きみかんも出でにけり 岸風三樓
鶏頭や夕べは青き多摩の山 内藤吐天
鶯の青き音をなく梢かな 上島鬼貫
鶯や音を入れて只青き鳥 上島鬼貫
鷲鬱と青き降誕祭を抽く 斎藤玄
鷹孤つのつぺらばうの青き空 仙田洋子 橋のあなたに
鹿角いま青きが昏るるりんごの実 船水参夢郎
麦の穂の青きに短かかりし旅 大岳水一路
黄の甍青き甍に柳絮飛ぶ 福田蓼汀 山火
黄楊の実の青きに触りて掃苔す 石原舟月 山鵲
黄楊の実の青きに触れて掃苔す 石原舟月
黄河の日爛れ*蠍はほの青き 片山桃史 北方兵團
黍嵐青き鳥みし刹那かな 宮坂静生 春の鹿
黒菜あり青きひかりの魚族あり 山口誓子
●青く 
*はまなすに海の日青く匂ひ初む 内藤吐天
あら野来てさびしき町を過ぎしかば津軽の海は目に青く見ゆ 古泉千樫
いかつくて何處か優しき青くわりん 高澤良一 宿好
いつまでも葱青く牡蠣煮ゆるなり 槐太
いわし雲橙青く鬱と成る 石田波郷
うからみな愁しみもてり柿青く 角川源義
うりずんのたてがみ青くあおく梳く 岸本マチ子
からたちのめらめら青く春の雷 河合凱夫 藤の実
けふたちし稲架の青くて夕冷えぬ 片山桃史 北方兵團
ここは木曽山川青く風青し 加藤勲生
さむき瀬は白き渦なし青く湛ヘ 瀧春一 菜園
さむく青く石蓴を透きて指の紋 加藤楸邨
しのび逢ふかや狐火の青く燃え 高林アヤ子
すずかけ落葉ネオンパと赤くパと青く 富安風生
ただ寒し天狭くして水青く 夏目漱石 明治三十二年
つるもどきつぶらに青く夏寒し 阿部みどり女
とつとう鳥とつとうなく青くて低いやま青くて高いやま 中塚一碧樓
とりあげし団扇は青くかろかりし 楠目橙黄子 橙圃
なの花や南は青く日は夕べ 暁台
ひとふりの坂青く立つ鮭颪 鳥居おさむ
ほの青く風乾しぬ今年藁 村上鬼城
ものかげの青く卯の花腐しかな 山本洋子
やぶさめやくましで青く咲きむれて 水原秋櫻子
やや青く楮さらしを水通る 加藤楸邨
よべ一夜鳴きゐし虫や翅青く 中村汀女
ゴム青く兵は庭の柿を夢む 藤後左右
ゴム青く抑留の日に融けて来ぬ 藤後左右
サングラス氷河に青く我立てり 中田てる代
シャガールを見に春装の靴青く 西村和子
スケートや青くかなしき空の魚 平畑静塔
セロリの香かなし冬星青く炎ゆ 内藤吐天
ホップ青く山の青きにつらなれり 田村了咲
ラムネ飲む江ノ島青く傾ぎおり 大給圭泉
七夕や川を渡れば草青く 藺草慶子
下冷えや夜光時計の針青く 田中冬二 行人
不良のごと石垣の苔冬青く 宮坂静生 青胡桃
丘青く峯雲立つとき恃まるる 大野林火
丸い墓まあるく青くなくうぐいす 八木三日女 赤い地図
人生事枝豆青くうだりけり 久保田万太郎 草の丈
仲秋や青く縞なす烏瓜 鈴木貞雄
修二会みる瞼を青く化粧して 品川鈴子
元日を雪や粟田は松青く 四明句集 中川四明
入学の吾子の頭青く後前す 石川桂郎 含羞
八朔の百姓が屋根青く塗る 木村蕪城
冬の宿阿寒の毬藻のみ青く 山口青邨
冬の空こんなに青く夫逝けり 川合万里子
冬の空青く展けて異国船 柳瀬重子
冬の雨田の面を青くしたりけり 圭史
冬の鳥撃たれ青空青く遺る 中島斌雄
冬嶺青く睡りさめたる兎の瞳 加藤楸邨
冬空をいま青く塗る画家羨し 中村草田男
冷かや佛燈青く碁の響 冷やか 正岡子規
冷めるほど空が青くて鷽替える 大坪重治
冷房に盛夏の果実みな青く 片山桃史 北方兵團
出入る水苗代青くなりまさる 広江八重桜
初釜や目に入るもののみな青く 渡辺千代
初電車スパーク青く発ちにけり 鈴間斗史
利根堤冬草青く山羊とりつく 山口青邨
十一月三日は必ず空が青くてわたしたち老いらく 荻原井泉水
十月の落葉は青くあたらしく 阿部みどり女
半夏生青くらがりの藪椿 安倍安閑子
半夏雨青くらがりの藪椿 安部安閑子
卒業のアルバムどれも空青く 徳永茂代
厚朴の葉のひまに炎天青くふかし 瀧春一 菜園
合歓の花国上山は青く円かりし 小島健 木の実
名古屋城青く耀やく寒の入 横田昌子
君の瞳の青くて凍てて仕舞ひけり 和田耕三郎
吾青くゼンマイの船難破せり 横山白虹
哀しみをきざむパセリを青く刻む 小坂順子
唐辛子まだ芯青く灘へ干す 尾崎隆則
唐辛子一ツ二ツは青くあれ 正岡子規
噛み当てて青くさき枝繭団子 岡野由次
囮鮎泳がせてゆく渕青く 山口梅太郎
垣の竹青くつくろひ終りたる 高浜虚子
墓百基せんだんの実のなほ青く 阪本謙二
墨青く磨ればしぐるる桂郎忌 古賀まり子 緑の野
壁をなす大暑の鴉青く見ゆ 進藤一考
夏さればうらの草坪夜も青く 金尾梅の門 古志の歌
夏の潮青く船首は垂直に 山口誓子「黄旗」
夏山や万象青く橋赤し 夏山 正岡子規
夏山や湖水青く鳥啼き渡る 夏山 正岡子規
夏草のしみじみ青く父母は亡し 山下麦秋
夏蜜柑人親切に空青く 京極杞陽
夏足袋や交番柳青く垂れ 中村汀女
夕立やむ無患子青くこぼれゐて 小池文子 巴里蕭条
夜の公孫樹輝くばかり青くして一人となれるときを帰りぬ 近藤芳美
夜を青く富士しづもりて魂まつり 石川青幽
大屋根に春空青くそひ下る 高浜虚子
大空の羽子赤く又青く又 青畝
女白い胸を見する菜種が青くなつた 梅林句屑 喜谷六花
如月やまろくま青く鷹ケ峰 細川加賀 生身魂
子の造る注連縄青く匂ひけり 佐藤政代
守武忌枝豆皿に青く盛り 塙志津男
家滅ぶ革座蒲団に海青く 木村蕪城 寒泉
寂寥という青くあかるいリボン巻く 松本恭子 二つのレモン
寒夜覚めまじと青く小さな薬飲む 菖蒲あや 路 地
寒明きぬ夕空青く雪に垂り 金尾梅の門 古志の歌
寒月にまぶたを青く鶏ねむる 田中祐三郎
少女青く寝て同室のばば二人 椎名弘郎
山の晴牛乳青くさき昼寝ざめ 阿部みどり女
山椒魚きしみは青く木をのぼる 成井惠子
山畑麦が青くなる一本松 尾崎放哉
山青く晩涼の炉の燃えにけり 福田蓼汀 山火
山青く青き尺蠖風をはかる 宮津昭彦
川青く剃刀磨ぎは足病めり 細谷源二 砂金帯
川青く東京遠きすみれかな 五所平之助
川青く瀧白し紅葉處處 紅葉 正岡子規
川面叩いて濯ぐ榛の実青く揺れ 広瀬とし
庭のもの青く映れる油団かな 浦辻正逸
庭の土青くなりたる月夜にて 臼田亞浪 定本亜浪句集
影法師青く新内流し来て 成瀬正とし 星月夜
御灯青く通夜の公卿衆の顏寒き 寒し 正岡子規
息青くかもめ憑きくる髪しろがね 八木三日女 石柱の賦
愛はなお青くて痛くて桐の花 坪内稔典
数へればまた一つ増え青くわりん 杉田栄子
新松子わが恋ごとは青くさし 高桑弘夫
新茶青く古茶黒し我れ古茶飲まん 正岡子規
新雪を掘れば雪穴青く澄む 関谷昌子
日さむく青く石蓴を透きて指の紋 加藤楸邨
早生みかんもつと青くてよいものを 佐土原岳陽
早蕨の頭青く崖の痩せにけり 村越化石
春愁や草を歩けば草青く 青木月斗(1879-1949)
春雷に吾子の風車は青くまはる 川島彷徨子 榛の木
曼珠沙華最も青く年立ちぬ 相生垣瓜人 明治草抄
月のぼる健三郎の杜青く 武内敦子
月下なる青くわりんより青脱けて 高澤良一 寒暑
月青くかかる極暑の夜の町 高濱虚子
月青く新聞紙をしとねのあぶれもの 篠原鳳作 海の旅
月青く沈めて酌みぬ夜光杯 桑野美智子
月青く雨紅に秋ぞ行く 行く秋 正岡子規
朝から潮の青くて浜靫 長沼紫紅
朝青くくもれる山にほととぎす 茨木和生 野迫川
木曽びとの乗車短し青くるみ 桂樟蹊子
杉菜など墓地に生ふもの皆青く 高濱年尾
杉菜生ふこのふるさとの日を青く 岸秋溪子
東方に花一片の知恵もなし 青くたぎれる薔薇の原人 筑紫磐井 未定稿Σ
松の木に松の実青く精霊会 長谷川櫂 天球
松籟のしきりに歯朶を青くせり 岸田稚魚 『萩供養』
松青く枝張る空や去年今年 村山古郷
松青く梅白し誰が柴の戸ぞ 梅 正岡子規
林檎青く信州弁さへ妻解せず 北野民夫
林檎青く山河の情とゝのへり 前田普羅 春寒浅間山
柚子青くなる手拭の乾びをり 田中裕明 山信
柿の実の青くて細き土用哉 土用 正岡子規
柿の木の葉も実も青く仮寓の身 成田千空 地霊
栗の毬青くて山雨なだれけり 臼田亜浪 旅人
桐の葉のかげ青くはた桃の花 三好達治 俳句拾遺
梅日々に青くなりつゝまた逢はず 横山白虹
梅雨茸噴く青くらがりの仏みち つじ加代子
森の奥パンの実青く焼かれおり 金子兜太 少年/生長
森青く茅の輪の奥に暮れ残る 神谷文子
楢山に楢の実青く飛んで雨 木村蕪城
楪の青くて歯朶のからびたる 池内たけし
橙の青く小さき実伊予言葉 篠崎圭介
欺かれ冬天あまり青く寡婦 三谷昭 獣身
武鯛の目青く暮れ来し幸木 茨木和生 遠つ川
歯朶青く福藁五尺あまりかな 露月句集 石井露月
歯朶青く童女笑顔を夜更けまで 飯田龍太
水化粧以後のたてがみ青く保ち 岩間愛子
水無月の薄青く蝶黄なりけり 青薄 正岡子規
水青く石白く両岸の紅葉哉 正岡子規
汝を抱けば春の玻璃窓青く燃ゆ 文挟夫佐恵 黄 瀬
河水厚く青く春光を載せて行くなり 夜の富士 秋山秋紅蓼
法難会すみし日和の青くわりん 中戸川朝人 星辰
波底より夏日の青くかへり来る 篠原梵 雨
波青くふくれ来たりぬ手鏡に 岸風三楼 往来
浜木綿のみだれて青く魚眠る 金尾梅の門 古志の歌
海の上にはほの青く佐渡の明けている秋 荻原井泉水
海の中鯖青くして雪止みぬ 平畑静塔
海ゆかば秋風の青くも見えめ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
海青く樹間を出でず黒揚羽 野澤節子 遠い橋
海青く珊瑚樹は実を滝なして 村沢夏風
海青く~神戸の餘寒かな 久保田万太郎 草の丈
湖青く夏期休暇村艇放つ 大津希水
滝青く一気に描ける子ら羨し 高瀬哲夫
澁柿の青くて落つる彼岸哉 柿 正岡子規
濁醪は沸き高嶺星青くなる 佐々木有風
灯の下の菜の青くして年の市 如月真菜
灯青く廻廊赤し木下闇 木下闇 正岡子規
炎天青く子の顔遠く旅にある シヤツと雑草 栗林一石路
煤竹の女竹の青く美しく 高野素十
獨房の窓に炎天青く妻を追う 栗林一石路
玉虫の全身青くなるまでとぶ 松本旭
現在を葡萄は青く垂れたがる 畠中妙子
田は青く*まくなぎ抜けてゆくひとり 小木ひろ子
男体の青くめざめるさくら漬 和田浩一
白川や柳は青くうし車 四明句集 中川四明
白雲や青く広きは田なるべし 青田 正岡子規
目も青く染まる鯨の海ありき 杉山和子
目刺あまり青く懐疑に憑かれけり 森川暁水 淀
目刺干す生地の浜の海青く 長沼紫紅
短夜のまづ芦青くそよぎそむ 木下夕爾
石青く目覚めてをりぬ秋の雨 金箱戈止夫
石鹸玉青くさき子をはなれたり 田中午次郎
砂も家も白し夏潮ただ青く 本田花女
磯馴松の実を青くしぬ冬の雨 長谷川かな女 花寂び
神の言葉隠り寒林青くなる 石原八束 白夜の旅人
秋天にこだまも青く枝おろし きくちつねこ
秋晴れて青く小さき筑波かな 秋晴 正岡子規
秋風や梓の莢の青くとも 野村喜舟 小石川
秋鯖の全身青く売られけり 嶋田麻紀
種に入る木霊の一部青くるみ 正木ゆう子 悠
稲妻青く黒き佛の立ちたまふ 寺田寅彦
空青くして力生む橇の馬 村越化石
空青くして噴水の頭きまらず 加倉井秋を 午後の窓
空青くてのひら竜の玉乗せる 西原田鶴子
空青くなりてふたりの霧氷林 仙田洋子 雲は王冠
空青く山茱萸が咲き風生忌 浅野敏夫
空青く雲は白くてバッタかな たかはしすなお
竹植うや節目は青く六十路 福田おはら
竹青く天地のどちらにも近し 宇多喜代子
竹青く日赤し雪に墨の隈 山口素堂
竹青く棚繕ふや藤若葉 会津八一
竹青く磨ける夏至の流れかな 長谷川かな女 雨 月
竹青く縄白くあり年用意 青木まさ子
築地青く薔薇紅の館かな 薔薇 正岡子規
篠青く簷に束ねし東風の宿 久米正雄 返り花
紅梅に青く横たふ筧かな 柳居
素足海へたまには青くなりたくて 古市蛇足
紫陽花や明治の母は眉青く 京極杞陽
腋青く剃る七夕のためならず 田川飛旅子 『邯鄲』
船室の冷房海を青くせり 茨木和生 野迫川
艶歌師の雨着真青く梅雨の月 林翔 和紙
芝青くしてロダンの「歩く人」歩く 安住 敦
芝青く土手平らかに花菫 菫 正岡子規
芝青く萩紅く犬白く蝶黄なり 京極杞陽 くくたち上巻
芭蕉青く鷄頭赤き野寺かな 鶏頭 正岡子規
花冷えやガスの火青く鍋の底 鈴木了斎
苔青くゼンマイの船難破せり 横山白虹
苔青く冬の泉の底うごく 川崎展宏 冬
苔青く総立つ百合や春浅し 長谷川かな女 花寂び
草餅の真青く指に憑きにけり 柴田白葉女 遠い橋
莢青く結ぶ草あり更衣 大岳水一路
葉蘭青く秋海棠は痩にけり 秋海棠 正岡子規
葛切や山々青くかむさり来 小島健 木の実
葦の角をとこ青くさきがよけれ 辻美奈子
蔦青くたのしきわが家チエホフ忌 下村槐太 天涯
蕨餅ひんやりとしてうす青く 田中冬二 俳句拾遺
藺一すぢ青く流れて目高かな 大橋櫻坡子 雨月
虫の夜の洋酒が青く減つてゐる 伊丹三樹彦 仏恋
蝶生まるこの青くさき朝ぼらけ 柿本多映
螢火の青くなければ情湧かず 鈴木真砂女
蠅叩棕櫚の命のまだ青く 高木晴子 花 季
行く春を山青く水緑なり 行く春 正岡子規
行秋の楽器庫青く塗られけり 楠目橙黄子 橙圃
貸ボート旗赤ければ空青く 竹下しづの女 [はやて]
赤く見え青くも見ゆる枯木かな 松本たかし(1906-56)
赤く走り青く走りて走馬燈 佐藤いづみ
赤松は冬も恋するや青くして 細谷源二 砂金帯
車体拭き白ばら青く磨き出す 古舘曹人 能登の蛙
逆波もまた青くして青田風 川村草生
通草まだ青く山越すおんなの荷 久保田凉衣
進学生襟足青く上京す 篠宮信子
道をしへ止るや青くまた赤く 阿波野青畝
遠つ嶺の青く二月の埃立つ 阿部みどり女
酒旗青くして寒梅を映しだす 日原傳
野火の中遠き燈青くなりにけり 大熊輝一 土の香
鉈の刃の青く晴れゆく余寒かな 爽青
鎌倉や冬草青く松緑 高浜虚子
鏡絵の大蛇は青く鬼赤く 高澤良一 寒暑
長良川青く花菜の中流る 辻 恵美子
闇青く複写の名前増殖す 滝口千恵
離れて見え真下で見えず青くわりん 来住野臥丘
雨礫青くはじきぬ新松子 見永千恵子
雨脚の青くなるまで肴台 宮坂静生 山開
雪晴の櫟は青く霧らひたる 瀧春一 菜園
雪虫の青くなりつつちかづきぬ 篠原梵 雨
雪赤く降り青く解け銀座の灯 鷹羽狩行 八景
雲の峰たてがみ青くいななけり 甘糟怜子
露や置く神の灯青くなりけるは 露 正岡子規
青き実は青くともりぬ鬼灯市 片山由美子 風待月
青き林檎青く画きつつ哀しかり 飴山實 『おりいぶ』
青くさきひと夜を経たる盆帰省 秦 洵子
青くさき匂ひもゆかしけしの花 嵐蘭「猿蓑」
青くさき夕日追ひゆく蝗捕 中村翠湖
青くさき後悔ばかりパセリ噛む 尾上直子
青くさき葉月始めの井水かな 平子 公一
青くてもあるべきものを唐辛子 松尾芭蕉
青くても有るべきものを唐辛子 芭蕉
青くびの大根煮つけ予後の膳 角川源義
青くるみ亡父の時計が抽斗に 寺田京子 日の鷹
青くるみ学ばんと思いつつ歩く 金子皆子
青くるみ橋成るまではひびき交ふ 友岡子郷 遠方
青くるみ猿の出る山明け易し 中山純子 沙羅
青くるみ目も越えがたき槍穂高 桂樟蹊子
青くわりんきらきら夜の雨降れり 望月皓二
青くわりん夕べはゆっくりはたと来る 高澤良一 寒暑
青くわりん既に一徹者の貌 高澤良一 鳩信
青く暗くひるねを刻む砂の上 岸田稚魚 筍流し
青く疲れて明るい魚をひたすら食う 金子兜太
青く疲れ冷たい水を掌に満たす 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
青く萱に雨きた シヤツと雑草 栗林一石路
青く豊かなこの湖に獲れし鰉かな 村山古郷
青く赤く燃ゆる星あるキヤムプかな 石橋辰之助 山暦
青く重き瓢手にあり木曾の果 林翔 和紙
青く雨に山の濡れてくる昼蚊帳 シヤツと雑草 栗林一石路
青桐にかんばせ青く話しをり 唐袂
青田青くする辛抱の水ぐるま 静塔
青萩の昼青く置く籠枕 長谷川かな女 花寂び
風がうす青くてお祭ごろのスカンポの茎 荻原井泉水
風がきてことりことりと青くるみ 幸田昌子
風はらみ芽柳大気青くせり 小峰宮子
風神青く雷神赤し除夜詣 北野民雄
風花に運河は青く廃れゆく 木村蕪城 寒泉
風花や雲のかなたの空青く 小宮敏江
風花や青く研ぎ澄む魚庖丁 宮坂静生 青胡桃
風邪に寝て頭のなかに海青く 山口波津女 良人
風青く津軽言葉が湖へ張り 河野南畦 湖の森
風青く鱒の子はやも人に怖づ 臼田亞浪 定本亜浪句集
首青く鳩歩みをり睡る間に越えたることのいくつかあらむ 雨宮雅子
馬の影青く大きく骨折す 攝津幸彦 鹿々集
馬追の青くたたみし一張羅 丸山嵐人
魚の夢に青く染まりし初明り 大島雅美
鴉呼ぶ鴉に冬の空青く 岩淵喜代子 硝子の仲間
麦秋や昏れても空のなほ青く 坂梨文代
麦青くのびつつ村はほそき雨 長谷川素逝 村
黍は青く片田の蓮みな白し 北原白秋
黍青く生簀に土用鰻あり 瀧春一 菜園
●青白し 
刀身の青白くあり薬降る 金子正昭(夏爐)
年の火の大仏さまは青白き 斎藤夏風
彗星の尾の青白き受難節 澤井益市郎
甘酒青白禽獣をかぞえはじめる 阿部完市 軽のやまめ
田を植ゑてしばらく羽後は青白き 斎藤夏風(屋根)
青白き全速力の魚の夜 大西政司
青白き地の涯見せていなびかり 檜紀代
青白き月と見る間に吹雪きけり 佐野良太 樫
青白き李の花は霞まずに 佐野良太 樫
青白き犬の芸あり濡れてあり 橋本七尾子
青白き雫の浮きぬ草蛍 柴原保佳
●青砥石
●青む 青み 
*ひつじ田の青む幾枚こころ弱し 赤西愛二
「気絶の小鳥」の「のの字の眼」あけよ麦青む 磯貝碧蹄館 握手
うにの棘青む海底に迄夕焼 杉本寛
おくれ翔ぶ白鳥一羽草青む 深見けん二 日月
このあたり昔は浜辺芝青む 稲畑汀子
この町を愛せば駅の土手青む 山口誓子
しづかなる雨なりとみに芝青む 片山桃史 北方兵團
たんほゝをちらしに青む春野哉 春野 正岡子規
てのひらに乗るほどの靴芝青む 田中美月
ばら蒔きのままのばらつき麦青む 中里二庵
まづ青む彼岸桜のつぼみ哉 桜 正岡子規
もう降りることなき故郷麦青む 橋本 紅
わが知らぬわが持時間芝青む 林 翔
七草の一つが青む庭の隅 谷口雅子
不惑涼し夜色を得つつ空青む 香西照雄 対話
丸刈りの新羅古墳や草青む 高久清美
久慈川を大きく曲げて麦青む 松本陽平
五月雨や流しに青む苔の花 五月雨 正岡子規
人のけはひとばかり葉青む夜の風 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
児を預け教師に徹す草青む 伊東宏晃
其底に何草青む春の水 春の水 正岡子規
初蝶の触れゆく先の草青む 野沢節子 存身
利根川を渡れば娘の地麦青む 小林スミ
制服の手足長き子麦青む 武内英子
区切りなきものに晩年草青む 三浦光児
千枚田海への階となり青む 千田一路
南へ南へ旅麦青む 高野素十
卯の花や堰かれて青む山の水 村沢夏風「鶴俳句選集」
吉良の里塩田跡に麦青む 生川靖子
吹かれてはふくらむ羊草青む 白井 爽風
噴水の力ゆるめばやや青む 岡本眸
垣添や猫の寝る程草青む 一茶
埋没の石獅子の首麦青む 日原傳
墓並ぶ父母妹麦青む 高野素十
大学の孕雀に木木青む 下村槐太 光背
大空へ手話の宣誓草青む 指澤紀子
太陽の抓み出したる草青む 湯川雅
家持が詠める野川や草青む 長谷川かな女 花寂び
山の名はただ向山や麦青む 中村汀女
幾籠か青梅が入り家青む 矢島渚男 延年
底見えて何草青む春の水 春の水 正岡子規
弟てふ遠き男よ麦青む 辻美奈子
急流を斜めに渡り土手青む 島崎玲子
怨霊の隼人の塚の草青む 下村梅子
憂愁のみなもと知らず草青む 相馬遷子 山国
手を揚げるだけの挨拶畦青む 佐々木禎
折鶴の白ばかりふえ麦青む 坪内稔典
日日遠くして草青む涙あふる 下村槐太 天涯
日曜は父としてあり芝青む 神前あや子
春雨や何々青む花の草 春の雨 正岡子規
暁よりの筑波颪に草青む 西脇修吉
朝焼の波足もとに来て青む 三谷昭 獣身
東京に吾を待つは何草青む 山田弘子 螢川
松蘿青む雫や雪解風 菅原師竹句集
板蓋宮の址のあたりの草青む 境あつ子
枯れ果てて落葉松林裡青む 相馬遷子 雪嶺
枯蘆の下から青む湖辺かな 芦の芽 正岡子規
枸杞青む日に日に利根のみなとかな 加藤楸邨
柳青む湯元へ近き土産茶屋 桝田国市
柿青む畑の中の初一念 古舘曹人 能登の蛙
桃林はみづえをそろへ麦青む 飯田蛇笏 雪峡
桃青む木の隊商の木をゆけり 加藤郁乎 球体感覚
椋鳥のしばらく宙に畦青む 堀口星眠 営巣期
植木屋に下宿するてふ麦青む 田中裕明 花間一壺
横柄な遠野鴉に畦青む 高澤良一 宿好
機音のひびく丹後路畦青む 宇野直治
死者送り幼を育て田が青む 矢島渚男 延年
母とともに伯母も老いまし麦青む 中村汀女
母出でゆく蔦青む昼火気を絶ち 野澤節子
波騰(あ)げてひたすら青む加賀の国 飯田龍太(1920-)
波騰げてひたすら青む加賀の国 飯田龍太 今昔
滝走り来て胸許に青む淵 原裕 葦牙
潮青む礼文を皮切り雲丹採漁 高澤良一 素抱
灯の際より青む田づら哉 一茶 ■文政六年癸未(六十一歳)
牛青むまで草青む地平線 田中徹男
甘えゐる脚の表情芝青む 後藤比奈夫
生れたる朝の小旋風麦青む 斎藤夏風
生涯を父の鋤きたる畦青む 吉田ひさ枝
田の水を盗み盗まれ苗青む 清水うた子「あした季寄せ」
田鶴降りてはや芹青む流あり 森川暁水 淀
町中にローマの遺跡蔦青む 関森勝夫
畦青む地吹雪除けも外されて 窪田竹舟
畦青む見ては心に笛を吹く 千代田葛彦 旅人木
疾風雲野末は澄みて麦青む 水原秋桜子
癒えねども勤めが待てり草青む 林翔 和紙
癒えよとの言葉ひとつに麦青む 橋本榮治 麦生
百姓の血筋の吾に麦青む 高野素十(1893-1976)
石斧の憩ひ六月の沼青む 佐野美智
石畳つぎ目~や草青む 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
石鹸玉幾畝ゆけり麦青む 秋櫻子
磔像のみぞおち冥し麦青む 坂本宮尾
種おろしひと日伊吹の襞青む 近藤 一鴻
粗織りの足利銘仙麦青む 石井大泉
羊蹄山牛の乳揺れ大豆青む 轟 俊
美容師に青む川藻とどぶねずみ 横山白虹
自愛とも棚田の溝の芹青む 黒岡洋子
舟みちの蝶ひらひらと麦青む 薗田秀子
芝青む朝の鞦韆雨に濡る 西島麦南
芝青む木椅子の老は睡れるか 堀口星眠 営巣期
芹青む新婚の居の川に沿ひ 杉本寛
草青むシューシャインボーイしゅっしゅっと 山口青邨
草青む家の貧しさ子は知らず 村山古郷
草青む川べりの土踏みこぼす 上村占魚 鮎
草青む征馬繋ぎし枋そのまま 五十嵐播水 埠頭
草青む方へ亡き母亡き子連れ 飯田龍太
草青む未来駅行き縄電車 寺内 佶
草青む村に老いたる馬蹄鍛冶 寺井甘雨
草青む歩よりもこころ遠く行き 森澄雄 四遠
草青む牧場まろき空のせて 鈴木アツ子
草青む白馬の少女対岸に 藤井一俊
草青む道後の湯垢流れ来て 右城暮石
蝙蝠蛾来てとぶ狭庭桐青む 大野雑草子
襤褸をきて日和たのしも麦青む 飯田蛇笏 春蘭
許されし余生いくばく木々青む 相馬遷子 山河
讃岐路は溜池あまた麦青む 松浦貞子
足もとに灯台の影麦青む 今井杏太郎
道北の残雪退いて里青む 高澤良一 素抱
野川一本の音喪が過ぎて青む家 友岡子郷 遠方
野生馬の肌あらあらと草青む 一民江
鉄塔は見えね冬菜の野に青む 太田鴻村 穂国
鉄橋の裾からあふれ青む草 中田剛 珠樹以後
開港の史跡あちこち草青む 下村ひろし 西陲集
隠国へきぬ三千の青む峯 杉本寛
雉子のこゑひびけば青む蚕卵紙 金子伊昔紅
雨ぐせに桑の芽青む祭あと 野澤節子
雨の字は雨粒四つ草青む 木田千女
雲垂れてつひに触れたる畦青む 水原秋櫻子
雷落ちて青む夜駅に妻を待つ 佐藤鬼房 海溝
青む岸辺空にはいまも爆音満つ 岩田昌寿 地の塩
青む畦平均台のごと歩く 高崎和音
青む芝少年少女影と馳す 日野草城
青む草木曇天をさへ格子へだて 岩田昌寿 地の塩
青む野に迅さを見せて汽車煙 津田清子 礼 拝
音立てぬ虫ゐて青む夜の畳 桂信子 黄 瀬
頬白か立ちたるあとの畦青む 相馬遷子 山河
風わたる天地の間麦青む 市堀玉宗
風早は風強き地よ麦青む 稲畑汀子
馬の尻撫でてみようか草青む 古市蛇足
鳰の声さざ波となり蘆青む 石田 厚子
鶴の踏む冬草青む日南かな 長谷川かな女 雨 月
麦青む信濃いづくも水走り 澄雄
麦青む小鹿野囃子の二階より 伊藤いと子
麦青む畝の果なる遠筑波 森 初江
黄落の谷を器と湖青む 鳥居おさむ
冬の月夜の青みをわたりけり 松瀬青々
初雪の青み勝なり麦の畝 孤屋
名月や青み過ぎたるうすみいろ 広瀬惟然
坐して老ゆ畳師島の麦青み 大串章
城草青み陽は照りはつ花咲き侍る 日夏耿之介 婆羅門俳諧
天離る穂の国原や麦青み 太田鴻村 穂国
山畑に青み残して冬がまへ 向井去来
山里や雪間を急ぐ菜の青み 井上井月
忌の正座遠きあたりの草青み 鷲谷七菜子 花寂び 以後
散る花や青み渡れる夕まぐれ 石塚友二 光塵
春日野は青み勝なり春の雪 春の雪 正岡子規
昼の霜草に青みをのこしたる 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
柿の木まはり青み二月の村落 梅林句屑 喜谷六花
楢青み蔵王に縋る斑雪見ゆ 小林康治 玄霜
水底のいよいよ青み源五郎 加古宗也
涼しさや八人代の田の青み 荒雀 俳諧撰集「有磯海」
畦青み雪嶺しざり秩父別(ちっぷべつ) 高澤良一 素抱
病葉のいささか青み残りけり 野村喜舟
竹植て嬉しき窓の青み哉 竹植る日 正岡子規
茅(ち)萠え芝青み礎石にかしづける 竹下しづの女句文集 昭和十三年
草青み父の衰へ止むべくも 深見けん二
草青み青み月斗忌近づき来 江口喜一
鱒青み旅の乙女の髪短か 原裕 葦牙
鳥の尾の叩ける草の青みをり 松田美子
鶯や細き畑の菜の青み 井月の句集 井上井月
麦青みサンドイッチは反りはじむ 櫂未知子 蒙古斑
●青紫 
窓は青紫のー八木にまじり斜めの木 篠原梵 雨
●青やか
●赤 
*いとど赤しほのぼの熱の上るとき 石田 波郷
*かりん老樹に赤児抱きつく家郷かな 金子兜太
*ささげ赤し落人らしく平家住む 阿波野青畝
*さんざしの赤が誠を責めてをり 後藤比奈夫
*はまなすの実の青と赤能登が見ゆ 和知喜八
*ぶなの木に赤げらの来て戸をたたく 永由頼寿
*ほうぼうの美し過ぎる赤さにて 児玉輝代
「赤」の題出されて咲くか姫椿 中村草田男
あき家に一畝赤し唐からし 唐辛子 正岡子規
あめつちのうらゝや赤絵窯をいづ 水原秋櫻子
あららぎの終刊迎へ赤彦忌 前島みき
ある時は罌粟の赤さを憎みけり 野見山ひふみ
いい顔ばつかり赤トンボ平和宣言 村田ヒロ子
いくさとは赤錆霞む坐礁船 千代田葛彦
いつの世も鬼を赤しと思いおり 中野吟懐子
いつも一人で赤とんぼ 種田山頭火 草木塔
いまはまだ錦木の実の赤さのみ 富安風生
いま一つ赤らみ欲しき師走雲 高澤良一 鳩信
いわし寄る波の赤さや海の月 桃首 古句を観る(柴田宵曲)
うぐひすや満身のどこ赤らめる 清水径子
うすうすと南天赤し今朝の雪 二柳
うそ寒の湯揉み赤帯赤湯文字 高澤良一 随笑
うら枯れていよいよ赤し烏瓜 太祇
うろたへな寒くなる迚赤蜻蛉 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
おぼろ夜の赤亀にのる鐘ひとつ 黒田杏子 花下草上
お化け煙突冬日を赤児のごと抱けり 磯貝碧蹄館 握手
お年貢や帳場の嫁の赤てがら 河野静雲 閻魔
お祭り赤ン坊寝させてゐる 尾崎放哉
お蚕さまと泣く赤児には誰も譲る 林 昌華
かいまみの草花赤し秋の蝉 金尾梅の門 古志の歌
かけ足して直ぐ赤らむや唐辛 前田普羅 飛騨紬
かまくらや赤らふそくの遊びせむ あかぎ倦鳥
かまつかのいよいよ赤し西鶴忌 村山古郷
からげたる赤腰卷や露時雨 露 正岡子規
から松は淋しき木なり赤蜻蛉 河東碧梧桐(1873-1937)
かわされていなされてなお赤蜻蛉 秋尾 敏
かわほりや赤ちようちんの艶めける 穴井太 原郷樹林
きさらぎの笈摺赤し子順礼 如月 正岡子規
きざまれて果まで赤し唐がらし 許六
くさめして後やはらかき赤児の息 宮下白泉
くにはらは風荒ぶ夜の赤小豆粥 斎藤梅子
ぐいと曲る赤べこの角山粧う 吉田トヨ
げんなりと赤べら魚籠に腹を見せ 高澤良一 ももすずめ
こだまして赤翡翠の炎ゆる恋 堀口星眠(橡)
この墓に一株残す赤まんま 村井かず子
この天のどこが国境赤とんぼ 北見さとる
この家の赤児が欲しと青葉木菟 矢嶋あきら
この村の人より多き赤蜻蛉 今野貴美子
この頃の好きな色赤焚火守る 星野立子
これ程に山晴るゝものか赤蜻蛉 松根東洋城
こんな白い手をして嫁くか赤とんぼ 川島トク
ご当地の赤蝦夷蝉といふを聴く 高澤良一 燕音
ご遺墨に鬼灯赤し莫愁忌 岡澤喜代子
さいころの一の目真つ赤雪の国 蝦名石蔵
さかさまに浮かぶ児の闇赤マント 対馬康子 愛国
さくらんぼはじけるやうな赤さかな 辻 美江
さはらねば赤蜂美しき故郷 永田耕衣 驢鳴集
さようなら春の礼文の赤燈台 高澤良一 素抱
しかすがに撫子赤し草いきれ 東洋城千句
しぐるゝや大講堂の赤煉瓦 久保田万太郎 草の丈
しなやかに水掻き赤し鴨の雛 三宮宣子
しばらく赤し落日を容れし秋の海 高柳重信
しやぼん玉こはれて自我の赤裸 三浦加寿子
しら菊に赤味さしけり霜の朝 青蘿
すいと来て宙にとどまる赤とんぼ 前田みはる
すかんぽの畦に赤らむ甲賀かな 新田祐久
すかんぽの赤む砂山春浅し 山萩 志田素琴
すきとほる赤立春の沼落暉 石井とし夫
すぐ尽きる竜飛の村や赤とんぼ 升本栄子
すさまじや赤肌さらす普賢岳 水野トシ子
その指が好きで好きでと赤とんぼ 大山雅由
その母を焼きし跡の碑赤とんぼ 奈良文夫
その赤を心の色に藪柑子 川崎展宏 冬
そば所と人はいふ也赤蜻蛉 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
たはれ女の頬先赤し雪の朝 松岡青蘿
たまきはるいのちすぐりの実が赤し 大橋敦子
たまたまに引く人の有り赤大根 服部嵐雪
たらちねの母よ千人針赤し 片山桃史 北方兵團
だしぬけに赤啄木鳥わらふ霧の中 堀口星眠 営巣期
ちゆうりつぷふとクレヨンの赤がない 鈴木竜骨
ちよろぎ赤し一年の計箸先に 加古宗也
つつけば首ふるだけの 赤べこに話すこと 泉ひろ子
つんのめる坑夫の墓や赤とんぼ 山口超心鬼
てら~と賓頭盧赤し十夜の灯 大谷句佛 我は我
とげ赤し葉赤し薔薇の枝若し 薔薇 正岡子規
とみき居の筍大盛赤絵鉢 細見綾子 黄 炎
どんどの火舞ひゆく方の月赤し 南英四郎
ななかまど燃えたつ赤や志功の忌 井上久枝
ななかまど真つ赤盲学校の坂 佐藤淑子
ななかまど赤しシベリヤ鉄道に 依田明倫
ななかまど赤し山人やすを手に 田村木国
なんばんが真つ赤山の日山の風 冨舛哲郎
なゝかまど赤し山人やすを手に 田村木国
にぎやかに八十八夜赤芽樫 古舘曹人 樹下石上
にんじんが赤し主婦等に陽あたる坂 飴山實 『おりいぶ』
はで残す赤元結のちまき哉 粽 正岡子規
はは恋へと菠薐草の根の赤し 柴田菁景
はらわたに通りて赤し蕃椒 唐辛子 正岡子規
はる雨の赤兀(あかはげ)山に降りくれぬ 松岡青蘿 (せいら)(1740-1791)
はる雨の赤兀山に降りくれぬ 青蘿
ひたすらに赤し颱風前の薔薇 桂信子 黄 炎
ひとつづつ赤さたしかめ苺摘む 三枝ふみ代
ひと刷毛のうぐひの赤さパリー祭 宮坂静生 山開
ひと疲れもの言はず鴉のど赤し 片山桃史 北方兵團
ふたかみの夕日を吸ひて柿赤し 大東 晶子
ふところ手入日の赤さきはまれり 川上梨星
ふるさとは赤ら顔して海鞘海鼠 駒走鷹志
ふるさとを捨つる勿れと柿赤し 山崎みのる
ぶつ切りの魚の眼赤し涅槃西風 梶山さなゑ
ぶらりとライオン都会の赤児が眠っている 坪内稔典
ほうれん草の赤根揃へ束ねられたる 人間を彫る 大橋裸木
ほつれたる手毬の糸は今は赤 河越燕子楼
ほほづきの妻こそ恋ひし赤らみし 森澄雄 所生
ほほづきの軸まで赤し青きもあり 川崎展宏
ほゝづきの日に日に赤し世の荒び 林原耒井 蜩
ぼろ市の客も膝つく赤絵皿 林 八重子
まだ寒き茎の赤みやはうれんそ 植蘭
まつすぐに岐阜道の曼珠沙華赤し 冬の土宮林菫哉
まんりようや春ともつかぬ実の赤さ 春 正岡子規
ま夏野の家赤湯巻(ゆもじ)洗ひ干せるも 冬の土宮林菫哉
みごとな梅月夜妻には赤ワイン 益田 清
みせばやの花の赤さよ山の宿 松藤夏山 夏山句集
みちのくの子の赤足袋の鞐見え 阿波野青畝
みちのくの風の軽さを赤蜻蛉 斉藤町子
みちのべの赤まんまなど月の家 鷹女
むきむきに赤とみどりの唐辛子 芥川我鬼
むれ立ちて穂の飛ぶ草や赤蜻蛉 河東碧梧桐
めくり暦死ぬる日の紙なる赤し 冬の土宮林菫哉
ものゝ芽を赤しと思ふ春の闇 三橋鷹女
もの乞ひの唇赤し曼珠沙華 岩田昌寿 地の塩
もみぢ散る墓に赤さが足らぬから 櫂未知子 貴族
もりもりと生きる証の赤、ツツジ 戸田みどり
もろこしの髭の赤さのあきあかね 高澤良一 寒暑
やや暑し赤麻も丈となりにけり 鈴木しげを
やらはれし鬼たむろせり赤提灯 梅沢春子
よなぼこり登呂の赤米買ひにけり 石槫正徳
れんげ畑赤しと思え近き千鳥 金子皆子
わがたましひ赤*えいとなり泳ぐかな 飯島晴子
わがコート赤し枯野に点なすや 山田弘子 螢川
わが凧の赤地に龍の一字かな 野村喜舟
わが家が風のみなもと赤蜻蛉 八木荘一
わが庭に赤人寝ねよ菫満つ 林 翔
わが町へ流れ来にけり赤蜻蛉 野村喜舟 小石川
わが血引く孫は背にあり赤とんぼ 中原 梓
わんこそば介添え娘の赤襷 高澤良一 寒暑
をりからの月の赤さや閻魔の日 樋笠文
アスファルト切れて熔岩道赤蜻蛉 行方克己 無言劇
アトリエに赤は目立たずシクラメン 脇収子
アルプスの夕日に赤し林檎園 粟津松彩子
カナディアン・ロッキーの西日赤シャツに 高澤良一 ぱらりとせ
カンナ赤しここにしてわかきいのち果つ 瀧春一 菜園
カンナ赤し鋭し雲が突きさゝり 岩田昌寿 地の塩
カンナ赤黄海老の形に狂者の屍 岩田昌寿 地の塩
カーネーション赤母の日の母大切 鈴木栄子
ガソリン缶赤し荒鋤く田の畦に 大熊輝一 土の香
キャンピングカーに蔵う 赤児と森の兎 伊丹公子 アーギライト
クリスマス地平に基地の灯が赤し 飴山實 『おりいぶ』
クリスマス鳩の赤脚まだ眠らず 桜井博道 海上
コスモスや赤児生まれし駐在所 柳田清子
サーカスが来てゐたころの赤蜻蛉 小澤克己
サーカスの赤裏テント寒興業 右城暮石 上下
シベリヤに歌いしものに赤トンボ 木津亥さ無
ジツパー上げて赤愁ひとまづ完 櫂未知子 蒙古斑
ジヤケツトの赤着て今日を道化役 上田日差子
スクランブル交叉点赤春の月 石寒太 翔
ストーヴの口ほの赤し幸福に 松本たかし
セル匂ふ妻子なければ帯赤し 森川暁水 淀
セーターの赤が似合ひて老いにけり 大久保橙青
セーターの赤をよそほう悲しみも 稲畑汀子 汀子第二句集
セーターの赤標的になっている 岡崎紀伊子
タワー赤冬空の青引き上げて 稲畑汀子
ダリの青キリコの赤と咳けり 四ッ谷龍(1958-)
ダリア咲くマチスの赤をふんだんに 福原実砂
チューリップ赤はなくてはならぬ色 福富豊子
トマト赤し耳も淋しき高原に 対馬康子 吾亦紅
トマト赤一人で喋る娘と夕餉 丸橋静子
ドア開いてポインセチアの赤が客 山田弘子 こぶし坂以後
ナイフより赤消え林檎剥き終る 白幡千草
ネクタイを結ぶときふと罌粟赤し 富安風生
ハンカチに透けて無防備都市赤し 中村和弘「蝋涙」
フリージヤの赤しとねたみをみな老ゆ 山田津奈王
フレームをすきて牡丹の芽の赤し 是木二楽
ベネチアンガラスの赤や夏旺ん 筒井カヨコ
ペダル踏む吾に並ぶや赤とんぼ 池田賀子
ペナン行花さす客の口赤し 横光利一
ペンダントの透明な赤秋惜しむ 伊関葉子
ポインセチアこんなに赤を贅沢に 橋本佐智
ポインセチアの真つ赤をもつて祝福す 山崎ひさを
ポインセチアの赤がパン屋の一つの灯 浅香さとみ
メーデーの行くさきざきの赤躑躅 山田みづえ 木語
モダンジヤズ聴く春宵の赤ワイン 西本公明
ユダの髯柔さ赤さに凍る雲 中島斌雄
ラムネ瓶太し九州の崖赤し 西東三鬼
リラ白し旧き庁舎の赤煉瓦 塩田薮柑子
ワイン酌む白より赤へ夏料理 水見寿男
一、とのみ書き還らざる赤鉛筆 攝津幸彦 未刊句集
一つ木におしろいの花の黄と赤と 白粉花 正岡子規
一と雨の過ぎし水引草の赤 高木晴子 花 季
一むねは花にうもるや赤椿 椿 正岡子規
一ツ葉に万両の実の赤さ哉 一つ葉 正岡子規
一斉に光失ひ赤とんぼ 阿部みどり女
一本の赤一本の青冷し麦 田村了咲
一茶の国掌の赤らみの芒の穂 中拓夫
一莚ちるや日かげの赤椿 向井去来
一葉忌乙女の髪の赤鬘 百合山羽公 寒雁
一郷は平氏の裔や赤幟 寺田寅彦
一雨あり湖岸萌え初め赤彦忌 小口白湖
七月の赤がれ見ゆる芒山 冨田みのる
七浦の夕雲赤し鰯引 鰯引く 正岡子規
万両のひそかに赤し大原陵 青邨
万祝着赤地金文字霾れり 毛塚静枝
万葉に読人しらず赤蜻蛉 野村喜舟 小石川
万葉の歌の赤駒初硯 布施まさ子
上*かわや日ざかり松葉ぼたんの黄と赤と 飯田蛇笏 山廬集
上むいていろいろの赤唐辛子 内田 じすけ
不盡赤し筑波を見れは初日の出 初日 正岡子規
両側の竹藪長し赤椿 椿 正岡子規
中元の新聞広告赤刷に 上野泰 春潮
丸噛る女もよきか赤茄子 筑紫磐井 花鳥諷詠
丸薬の丸盆赤し郭公 浜田酒堂
九十九湾島の子泳ぐ赤ふどし 三谷道子
九龍の雨に赤黄の夏灯濡れ 高木晴子 花 季
乱丁の本へ逃げ込む赤とんぼ 大西泰世 椿事
井戸替の梯子降りゆく赤ふどし 山崎羅春「弥彦嶺」
人ありて象の糞掃く赤浅し 三好達治 路上百句
人ゐても人ゐなくても赤とんぼ 深見けん二
人参の赤をふしぎと眠り落つ 斎藤梅子
人参洗ひ伸び詰まる五指赤らむよ 香西照雄 素心
人声に頬赤少し首かしげ 内野修
人知れず咲きゐし枸杞の実の赤し 川原 みや女
人麿も赤人もゐる谿紅葉 津田清子
今白岳双峰赤天狗青天狗 福田蓼汀 秋風挽歌
仏桑花まつ赤や水牛の長まつげ 中山純子
仏黒く賓頭留赤し梅の花 梅 正岡子規
仙人掌の棘ににつかぬ花赤し 渡辺寿栄子
伝説を掘り生暖かき赤瓦 和田悟朗 法隆寺伝承
何といふ赤さ小ささ寒椿 星野立子
何に急く赤牛ボートより見えて 原裕「鼎門句集」
何の芽と知れず赤らむ雑木山 金箱戈止夫
何もなし何もなしま赤ま夏の陽 冬の土宮林菫哉
何も書かぬ赤短冊や春浅し 春浅し 正岡子規
俘虜の日の記憶に夏の花赤し 橋本風車
信号の赤浴びつゝや十三夜 高柳重信
信濃追分刈田の畦の石赤らむ 桜井博道 海上
俤や目鼻かきたる赤蕪 会津八一
傘ひらくときふと赤黄男こぼれけり 折笠美秋 君なら蝶に
兄なくて庭に湧き出づ赤蜻蛉 影島智子
先頭は何時も同じ子赤マフラー 大橋庄一郎
先駆けは肥後の赤牛厩出し 和田崎増美
八ヶ岳首夏の赤肌日に連ね 井上倭子
公園の砂場に吾子と赤とんぼ 米倉ミチル
兵の赤黄枯野遠別糞し行く 齋藤玄 飛雪
冬かもめどこか曇り誰か赤眼 塩野谷 仁
冬ざれの赤を散りばめ加賀友禅 中山純子
冬に入る厚き赤絵のペン皿も 上野さち子
冬ぬくし金婚の夜の赤ワイン 加藤三陽
冬ゆつくり子の油絵の赤厚く 伊藤京子
冬夜電柱と肺の赤さを思いねる 北原志満子
冬晴の赤児の頭胸に触れ 金子兜太
冬木描くいきなり赤を絞り出し 橋本美代子
冬枯のうしろに遠し赤煉瓦 冬枯 正岡子規
冬枯の中に小菊の赤さかな 冬枯 正岡子規
冬枯の八百屋に赤し何の瓜 冬枯 正岡子規
冬枯や八百屋の店の赤冬瓜 冬枯 正岡子規
冬枯や王子に多き赤楝瓦 冬枯 正岡子規
冬椿呪縛解かれし赤さかな 長谷川かな女 花 季
冬耕や肥後赤牛に日の当る 坪野文子
冬萌も赤し不知火の国なれば 福田蓼汀
冬靄に赤富士こもるスズキ舟 瀧井孝作
冬鴎煤煙よどみやや赤し 石田波郷
冬麗の不思議をにぎる赤ン坊 野澤節子 『駿河蘭』
冬麗やバイトの巫女の赤と白 川崎展宏 冬
冬麗や赤ン坊の舌乳まみれ 大野林火
凍る闇星座牡牛の目が赤し 相馬遷子 山河
凍豆腐夕日の赤も温みなし 八牧美喜子
凩に置き忘られし赤鳥居 柴田白葉女
切れさうな薄の葉抱く赤蜻蛉 田川飛旅子
刈蕎麦の切先赤し貧逃げず 太田土男
初夢の一断片のほのと赤し 九鬼あきゑ
初富士の赤富士なりしめでたさよ 大橋越央子
初恋は遠し唐黍の葉が赤し 永井龍男
初旅や赤ベコ首を振る車窓 町田しげき
初明りまづ北斉の赤富士に 真貝葉月
初春や赤装束の牛童 子規句集 虚子・碧梧桐選
初稽古人形の目のふと赤し 西村和子 かりそめならず
初詣受けて平家の赤破魔矢 百合山羽公
初飛行柿の木に子の足袋赤し 渡邊水巴 富士
別荘村赤腹鶫が来て鳴きゐたる 大場美夜子
利尻町春寒灯の入る赤提灯 高澤良一 素抱
刻々の大赤富士となりゐつつ 岸田稚魚 筍流し
力出してこらえる赤さ雪の松 和知喜八 同齢
労働祭赤旗巻かれ棒赤し 三橋敏雄「まぼろしの鱶」
動脈は赤で描かれ山笑ふ 柴田奈美
匂ひ立つ若菜のパスタ赤ワイン 白勢一間
十二月を赤舟も大鯉もはしる利根 阿部完市 春日朝歌
十日目の頂点の赤蕪漬 原田喬
十月の畠に赤し蕎麥の莖 十月 正岡子規
千両の実も万両の実も赤し 稲田重子
千両より万両赤し東慶寺 中村勢津子
千剣のつらゝ一剣の赤不動 川崎展宏
千曲川底夏霧流れ赤牛群る 宮坂静生 青胡桃
半衿の模様うれしき赤蜻蛉 徳岡蓼花
卓の柿沼の残照より赤し 大野林火
南天の実を集めたる赤さかな 温亭句集 篠原温亭
南天の赤極まれり女坂 佐々木佳子
南窓に写真を焼くや赤蜻蛉 夏目漱石 明治三十二年
南総の赤壁のもと崩れ簗 松藤夏山 夏山句集
南部富士一日まぶし赤とんぼ 深見けん二
占守島軍靴戛々赤黄男の忌 田中 満
占魚忌の午餐に加ふ赤ワイン 近藤朱月亭
厄落し赤ふんどしを落しけり 高須稲村
友ら老いゆきほおずきは赤らむよ 脇りつ子
反橋や藤紫に鯉赤し 藤 正岡子規
口つぐむ頬赤ひとつ会津領 堀口星眠 樹の雫
口づけをしてみたき赤さくらんぼ 須藤常央
口下手で引込み思案で赤セーター 室岡純子
口腔いつぱいに囲わん赤とんぼ 永田耕衣 葱室
口閉ぢて梔子の実の赤らみし 高場 ナツノ
古佐和や赤菜の中の春の風 馬仏 二 月 月別句集「韻塞」
右折して迷路左折は赤蜻蛉 杉原信子
吉良さまの赤馬祀る避寒宿 久保文子
吉野川洗ひ障子の赤はだか 平畑静塔
吊されてより赤さ増す唐辛子 森田峠
吊り初めし蚊帳にほのかな赤みかな 日原傳
吹き降りのすかんぽの赤備前なる 宮岡計次
吾も買はな背高鴫の赤ブーツ 芹山 桂
呆けゐて寒木瓜の赤さ駭かるる 内藤吐天 鳴海抄
味噌汁に赤蕪浮ぶスキー宿 田中冬二 麦ほこり
味噌玉を吊り赤彦の空があり 堀川草芳
咲き残るサルビア赤しあき子の忌 塩谷はつ枝
咳しつつ出島新地の橋赤し 山田みづえ 草譜以後
哀しいからテールランプの赤ばかり 森田智子
唐辛子は赤し新酒は酒倉に 田中冬二 俳句拾遺
唐辛子森の小人の赤烏帽子 高橋正明
唐辛子種抜かれても怒る赤 蓬田紀枝子
唐辛子赤さ青さのお別れよ 楠目橙黄子 橙圃
唐辛子赤しいまさら正邪など 花田春兆
唐辛子辛きが上の赤さかな 唐辛子 正岡子規
唐辛子非のなき赤となりにけり 津森延世
啄木鳥のうなじが赤し雪解不二 千代田葛彦 旅人木
商船学校赤し子の土産船にせむ 細谷源二 鐵
嘘つかぬ舌も真つ赤ぞかき氷 橋本榮治 越在
嘴あらば銜へむ夏の星赤し 正木ゆう子
囀りや赤彦生家の胡桃の木 三原清暁
回る木馬一頭赤し春の昼 西東三鬼
国旗又飯店の赤国慶節 高澤良一 燕音
国栖人に腹赤魚の瀬をのぼる 高澤良一 ぱらりとせ
国栖奏の贄とし生ける赤蛙 大野素郎
国神村の夕づつに消え赤棟蛇 安西篤
土用芽のくれなゐ赤彦歌碑の前 池上樵人
土用芽の丈一寸にして赤し 伊藤晴子(春嶺)
地に下りし小鳥に赤し柑子の実 佐久間法師
地下電車地へ出て赤し妻へ初日 香西照雄 素心
地獄絵の赤を春着の裾に見し 大山安太郎
地獄絵の赤深谷の茸にも 矢島渚男 船のやうに
地獄谷あるとき群るる赤蜻蛉 岡田日郎
地鎮祭烏帽子と遊ぶ赤とんぼ 円城寺里子
垣の菊ほのぼの赤しつぼみつつ 深見けん二
埋火の仄に赤しわが心 芥川龍之介
城主貧しく赤肌山や夕雉子 鍵和田[ゆう]子 未来図
城跡の赤黄黒の桜の実 瀧澤伊代次
堀を左藁家を囲む芥子赤し 会津八一
塗り上げし吉良の赤馬春の雪 稲垣法城子
塞木瓜の赤さ褒貶定まらぬ 石塚友二
塩じみてはなはだ赤し桜漬 岡田耿陽
塩売の赤手さし出すほた火かな 梅室
壮んなりし歳月遠し炉火赤し 近藤一鴻
売りますと貼られし小舟赤とんぼ 飯沼衣代
壺の棗日々に赤らみ縮みゆく 阿部みどり女 月下美人
夏の月赤児の嵩にタオルのせ 蓬田紀枝子
夏山や万象青く橋赤し 夏山 正岡子規
夏日負ふ佐渡の赤牛五六頭 成田千空
夏桑や赤彦の墓畑上に 田上さき子
夏潮の断崖にわが供華は赤 大峯あきら
夏潮の洗へる巌の赤さかな 山本洋子
夏花の赤を見ており癒しおり 鈴木六林男 王国
夏茱萸の滴るほどの赤さかな 三枝かずを(玉藻)
夏菊の赤ともつかずたゞれたる 西山泊雲 泊雲句集
夕凪や赤錆しるき帰港船 松本幹雄
夕日うつる草の實赤し藪の奥 草の実 正岡子規
夕月や蚊をのむ蟇の口赤し 鳴雪俳句集 内藤鳴雪、松浦爲王編
夕焼のさめたる崖に蟹赤し 内藤吐天 鳴海抄
夕焼のみ赤し冬来る森の方 神尾久美子 掌
夕照の赤富士となり梅幽し 渡邊水巴 富士
夕空の濁る赤さや侘助忌 林 翔
夕立に赤蟻川止め喰らひけり 高澤良一 随笑
多分画家の血の赤すこし絵の隅に 北川正吐志
夜ごとの赤らみもうぢきダム底の鬼灯畑 加藤知世子 花寂び
夜の秋赤鉛筆が見当たらず 高澤良一 素抱
夜蛙やオランダ遠き赤絵皿 有働亨 汐路
夢のなかの生きもの集う 赤葡萄酒 松本恭子 二つのレモン 以後
大き卯浪赤壁濡れて遠ざかる 山田みづえ
大き枯野に死は一点の赤とんぼ 加藤楸邨
大原路は今も変らず赤蜻蛉 鶴原虎児
大地這ふ西日に赤し畑苺 原石鼎 花影以後
大文字の火のかゞよふや雲赤し 青木月斗
大旱の赤牛となり声となる 西東三鬼「夜の桃」
大赤*えいものの怪しき姿かな 青木月斗「月斗翁句抄」
大阪に赤だし啜る雁渡し 冨田みのる
大阿蘇野赤牛去りて寒波きぬ 飯田萌亜
大雨が洗ひし空気赤とんぼ 青葉三角草
大雪を嘆く鴉の舌赤し 西村公鳳
天より朱落せし如く柿赤し 上野泰 佐介
天上へ赤消え去りし曼珠沙華 右城暮石 上下
天日に脈あるごとし桃赤らむ 櫛原希伊子
天辺でかく赤恥や出初式 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
太陽に赤児の息吹き走り梅雨 富沢葦生
太陽の赤ばかり吸ひ石榴裂け 山田弘子 こぶし坂
夭折といへど夕焼より赤し 櫂未知子 貴族
失はれゆく空地あり赤とんぼ 遠藤忠昭
奉納の赤手拭や春の風 蘇山人俳句集 羅蘇山人
女の手ますます赤し菜を洗ふ 松本たかし
妊る月へ冬の赤みを結集せよ 宮崎二健
妹が頬のほのかに赤し桃の宴 桃の宴 正岡子規
妹の朝顔赤を咲きにけり 朝顔 正岡子規
妻の裸身白背掻きやる赤らみぬ 中村草田男
嫁ぐ日のちかづく赤さ青木の実 和知喜八 同齢
子らの声途絶えし島や赤とんぼ 東明省三
子をふちどる朝日の赤さ初霜す 大熊輝一 土の香
子をもたず母を送りて赤まんま 関口桂史
子供に赤マント着せて医者へ連れる 人間を彫る 大橋裸木
子供等の声も赤らむ曼珠沙華 右城暮石 上下
子祭や梅まつ宿の赤豆飯 山店 芭蕉庵小文庫
子等の掌の卵の赤し復活祭 吉本信子
子規に供ふ早掘り甘藷の赤ら甘藷 右城暮石 上下
子鴉や巣に絡まりし赤風船 曽我部東子
孟宗の赤みさしたり寒土用 伊藤斗牛
安珍を焼いて来しかな赤蜻蛉 鳥居美智子
宝印の肉の赤さや牛王加持 吉田冬葉
室咲きにして赤巨大アマリリス 高澤良一 鳩信
宵闇に赤児香らせ人先行く 野澤節子
寒垢離の長髪搾る手の赤し 田頭光枝
寒明けのみみずの赤さなど思う 北原志満子
寒月や行ひ人の赤はだか 高井几董
寒木瓜の赤さ人間嫌ひ栖む 内藤吐天 鳴海抄
寒木瓜の赤さ褒貶定まらぬ 石塚友二 方寸虚実
寒椿一句は赤し二句黒し 攝津幸彦 鹿々集
寒椿力を入れて赤を咲く 正岡子規
寒椿赤し一揆の血が流れ 関口ふさの
寒立や日輪山の端に赤し 三尾知水
寒紅や花びら餅はほの赤し 高木晴子
寒茜浴びゆく赤肉団上に 高澤良一 さざなみやつこ
寒鴉信号どこも赤ばかり 星野椿
小屋の灯赤し雪渓を来しわが頬に 岡田日郎
小島たちが渡つてきた 山てらしの実の赤さだ 吉岡禅寺洞
小春日や石を噛み居る赤蜻蛉 鬼城句集 村上鬼城
小春日や赤すじすらりすらり引く 小春 正岡子規
小満や一升壜に赤まむし 斉藤美規
小説に赤と黒あり金魚にも 粟津松彩子
小雀来よ赤彦の樹は洞をなす 鍵和田[ゆう]子 浮標
少しづつ風をはこびぬ赤蜻蛉 伊藤和子
少年のマフラー夕日より赤し 荒木幸子
少年の日より青赤槇の実は 百合山羽公 寒雁
少年の眦赤し泳ぎ来て 黒田櫻の園
少年の耳の赤さよえぶりの火 妻神不泣
尾を振れば一面真つ赤金魚玉 小泉洋一(花鳥来)
屋久島は雨呼びやすし赤しようびん 邊見京子
屋久島や海より生るる赤とんぼ 秋篠光広
屑籠の文殻赤し春の雨 春の雨 正岡子規
屠蘇注ぐや袂の隙に炭火赤し 中村汀女
山の日に染めあげられし赤蜻蛉 吉村ひさ志
山の田は作らず売らず赤まんま 影島智子
山の辺の赤人が好き人丸忌 高浜虚子
山の香と言ふは樹の香や赤とんぼ 小林樹巴
山国に火色の赤さ富有柿 森澄雄
山妻の干す梅机辺まで赤し 百合山羽公 寒雁
山姥の投げしか朴の実が赤し 高須禎子
山寺に筍を炊く火が真つ赤 鈴木鷹夫 春の門
山川と夕日をわかつ赤とんぼ 滝佳杖
山房の雪のむら消え赤彦忌 木村蕪城
山枯れて一途に赤し猿の面 矢島渚男 梟
山椒の実赤しここらは砦跡 山田 月家
山河あり運動会の赤と白 成田千空
山空にわが鼻赤し妹眉濃し 金子兜太
山蟹のさばしる赤さ見たりけり 加藤楸邨「寒雷」
山辺の赤人が好き人丸忌 高濱虚子
山間のむかし隠し田赤とんぼ 村田 脩
山靴に赤紐交差涅槃西風 田川飛旅子 『使徒の眼』
山鳩の泪目赤し杉の花 無聞 齋
岩燕一刀に斬る隠岐赤壁 銀林晴生
嶋の雪辨天堂の破風赤し 雪 正岡子規
川に尽く細道一つ赤とんぼ 横山美代子
川上をおもへば赤し雑煮椀 有澤[かりん]
川蟹の踏まれて赤し雷さかる 角川源義「ロダンの首」
川風にたたらを踏んで赤蜻蛉 酒向キワ子
巴里祭の日の赤銹の寄港なり 友岡子郷 遠方
市にして赤*えいの刺没日赤し 加藤楸邨「野哭」
市中の穂麦も赤み行春ぞ 芥川龍之介
希臘赤絵の壺の女も壺提げる 津根元潮
師のこゑに赤啄木鳥攀づる*ぶな林 土屋巴浪
師へ運ぶ燠階段の闇に赤し 香西照雄 対話
帰省子の次男の奴が赤ふどし 岩木躑躅
常盤木の林の中や赤椿 椿 正岡子規
干潟には赤濁の波海鼠突く 貢太郎
平家方の赤褌や春の風 春風 正岡子規
年が逝く夜の火の赤さ顔を寄せゐる 人間を彫る 大橋裸木
年越に酌まんと置きし赤ワイン 宮島糸子
年酒して赤熊(しゃぐま)のごとく目がすわり 高澤良一 宿好
幼児のごと赤富士のごと冬来たる 橋石 和栲
幼子と話す亥の子の赤火鉢 長谷川かな女
序の幕の稲荷が赤し十二月 鈴木鷹夫 風の祭
店さきを赤馬通り暑をきざす 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
座の蜜柑赤し凱旋談つきず 森川暁水 淀
庫裡ふた間赤絨毯を敷き詰めし 右城暮石
廻り道する赤蟻に事情あり 高澤良一 素抱
引かれゆく赤*えい浜を均しつつ 塚原白里
引退の海女のほまちや赤大根 松本三千夫
彩どりは京劇の赤寒桜 高澤良一 素抱
影を出て赤蜻蛉となりしかな 高木晴子 花 季
彼の赤は何色南風に油塔の火 右城暮石 上下
彼岸来る欅もつとも赤みさし 稲垣きくの
待ちかねてちるや廿日の赤牡丹 牡丹 正岡子規
待ち人のマフラーも赤夕霧忌 石田静
後の世を噛み捨て来るや赤とんぼ 永田耕衣 殺祖
御僧のはたりはたりと赤扇子 山田みづえ
復原家に赤児寝かせて麦を刈る 宮坂静生 青胡桃
心赤し炭火ゆ灰を削ぎ落し 中村草田男
忘草人に逢ひたる後の赤 上林美知子(山繭)
念仏踊は歩いてゆくよ月赤し 山田みづえ 手甲
思ひ出づる赤人にまで鏡餅 言水
思想の赤馬 白馬が 乱立したビルの空をいく 吉岡禅寺洞
恋のごとくに赤蕪を籠に容れ 友岡子郷 日の径
恋愛のふとをかしきは赤茄子 増田まさみ
恐山さだかに梅雨の月赤し 桑田青虎
悪食の蟹の赤さよいくさの日 宇多喜代子
愚直なる赤さや母の大西瓜 佐藤美恵子
憲兵の赤羅紗さめる暑さかな 暑 正岡子規
我に返り見直す隅に寒菊赤し 中村汀女
我妹子をおもへば赤し雲の峰 会津八一
戦死より情死が赤し冬の草 矢島渚男 船のやうに
戸に立つや娘さびして赤マント 栗生純夫 科野路
戸の口にすりつぱ赤し雁の秋 石鼎
房なして万両まつ赤月日また 広瀬直人
手に負へぬ赤さのカンナ咲き出して 高澤良一 ももすずめ
手の届く高さに群れる赤とんぼ 吉田喜美子
手伝ひの赤万女将茸莚 五十嵐播水 播水句集
手毬真つ赤堅き大地に跳ね返り 河内静魚
打水や薩摩隼人が赤褌 鈴木吾花
折り取つて日向に赤し寒椿 渡辺水巴 白日
折詰の紐の赤房初句会 猿橋統流子
抜き残す赤蕪いくつ余寒哉 芥川龍之介
指出せば交代に来る赤とんぼ 阿波野青畝
挙げる杖の先ついと来る赤蜻蛉 高浜虚子
振り向けば赤富士あらむ希臘劇 高山れおな
挿絵めく赤提灯や酉の市 高澤良一 燕音
掃溜に鶏頭赤し納屋の口 寺田寅彦
掛け足して直ぐ赤らむや唐辛子 前田普羅
接骨木の赤さまざまな葬祭あり 鈴木八駛郎
提灯の短冊赤し山桜 山桜 正岡子規
擦過傷ほどの赤夕焼を抱く 櫂未知子 蒙古斑
敲けばか西瓜は赤し肺わろし 西瓜 正岡子規
敷島の神の赤米奥儀かな 高柳重信
文学館の絨緞赤し三島の忌 上野澄江
料峭や少年の漕ぐ櫂赤し 松村多美
新宿に風つれて来し赤とんぼ 廣田 幸子
新発意のかけし赤袈裟法然忌 磯辺芥朗
新築の庭赤つちの寒さかな 川本良佳
新茶摘む糊のききたる赤だすき 青木治代
方代の嘘のまことを聞くために秋の夜ながの燠が赤しも 山崎方代
旅いゆくしほからとんぼ赤とんぼ 星野立子
旅の西瓜首尾一貫し日は赤し 磯貝碧蹄館
旅人の笠追へけり赤蜻蜒 蜻蛉 正岡子規
旅句書きし笠こゝに捨つ赤蜻蛉 乙字俳句集 大須賀乙字
旗竿や旗に風なく赤蜻蛉 寺田寅彦
日日夕やけ生き抜かむには玻璃赤し 細谷源二 砂金帯
日陰りしサルビアの赤沈黙す 嶋田摩耶子
早咲の朝顔赤し五月晴 五月晴 正岡子規
明治座の幟は赤し都鳥 内田ゆたか
星とんで人魚の好きな赤ろうそく 塩見朱千
星に貸す赤褌もなかりけり 星 正岡子規
星赤し人無き路の麻の丈 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
春ねむたき父と赤膚山にをり 山西雅子
春の夜のともし火赤し金屏風 春の夜 正岡子規
春の日や根岸の店の赤団子 春日 正岡子規
春の鳥赤鉛筆の芯太し 下村槐太 天涯
春は赤芽のつんつんチャンチンモドキの木 高澤良一 寒暑
春めくや赤らひく日の西の島 上村占魚 鮎
春やたづきの赤鉛筆を削りつゝ 林原耒井 蜩
春寒し赤鉛筆は六角形 星野立子
春寒を来て絨緞の赤さふむ 五十嵐播水
春暁の空に赤人の大和富士 山中みね子
春暁は荒れたるよ富沢赤黄男の忌 高柳重信
春泥のいづこの赤を映しゐる 中戸川朝人 尋声
春浅き顔々浮ぶ赤鉛筆 林原耒井 蜩
春灯下絵本散らばりそこら赤 今井千鶴子
春炬燵あり赤ちやんこんにちは 西本一都 景色
春節の赤から赤を泳ぎゆく 川崎美知子
春近し赤蕪の絵をたまはりて 龍胆 長谷川かな女
春雨によごれて黒し赤鳥居 春の雨 正岡子規
春風にこぼれて赤し歯磨粉 正岡子規(1867-1903)
春風やまだ赤さびの杉の色 春風 正岡子規
春風や横町横町の赤鳥居 春風 正岡子規
春風や鹿の出て来る赤鳥居 春風 正岡子規
昼寝覚はじめの色はうす赤し 大牧 広
晩年や赤殖やしいる額あじさい 堂本ヒロ子
晩熟の北の青貝赤黄男の忌 畠山弘
暁紅の忘れ形見の赤とんぼ 佐藤鬼房
暮るる日の獅子座に飛ぶや赤蜻蛉 会津八一
曠野来る冬将軍も耳赤し 中島月笠
曲りて赤し風無き日の出の松の蕊 石田波郷
曲り家に干されて赤し唐辛子 川越蒼生
曼珠沙華すずしき赤と思ひけり 嶋田麻紀
曼珠沙華忘れゐるとも野に赤し 野澤節子 黄 瀬
曼珠沙華藁をかぶりてなほ赤し 高橋馬相 秋山越
曼珠沙華裏表なき赤さかな 駿河亜希
曼珠沙華赤し船より上り来て 右城暮石 上下
曼珠沙華赤すぎる空青すぎる 稲岡 長
曼珠沙華赤衣の僧のすくと立つ 角川源義
曽良の墓群れてあふるる赤とんぼ 田中英子
最果ての赤鼻の赤魔羅の岩群 金子兜太 蜿蜿
月いまだ赤し食後の菓子来る 横山白虹
月おぼろ悪の吉三の赤蹴出し 柳沢 君子
月下美人夜空赤らむことありて 鈴木喜美恵
月山新雪すでにものの芽青し赤し 加藤知世子 花寂び
月明の赤児とびこす轡虫 福田甲子雄
月赤し人に告げえぬ受胎ゆゑ 川口重美
月赤し雨乞踊見に行かん 雨乞 正岡子規
朝の日はいきなり赤し稲の花 山本洋子
朝市の味見くさぐさ赤蕪(かぶら) 高澤良一 素抱
朝暾の垣根に赤し初氷 瀧井孝作
朝顔と赤坊の瞳と暁涼し 福田蓼汀 山火
朝顔の二つ赤しや草の中 岸本尚毅 鶏頭
朝風や赤み帯びたる山芒 阿部みどり女
木の椿地の椿ひとのもの赤し 西東三鬼
木の芽赤しドームの天に死角なし 有働亨 汐路
木の芽雨分娩室に赤ランプ 渡辺幸恵
木ノ芽峠雨霧赤腹湧出す 岡井省二
木守熟柿は赤彦のふぐりかな 平畑静塔
木斛の実の赤らめる書院窓 高澤良一 さざなみやつこ
木枯や赤を基調に肖像画 百瀬美津
木瓜赤し雨の上りし垣の裾 星野椿
木苺は車塵にまみれゐて赤し 坊城中子
末枯のはてや稻荷の赤鳥居 末枯 正岡子規
札所へと道案内す赤とんぼ 山本博子
杉の幹剥げば赤膚冬の霧 中拓夫 愛鷹
杉の葉の赤ばる方や冬の暮 許六 霜 月 月別句集「韻塞」
杉皮の赤むきだしに夏の山 高澤良一 素抱
村は今夕雲赤し法師蝉 斉藤友栄
村人として赤彦の墓をがむ 木村蕪城 寒泉
来る虫をみな赤塗りに雁来紅 星野紗一
東京に瓦斯火は赤し秋刀魚焼く 石川桂郎 含羞
松葉焚きし火屑の赤し盆の月 内藤吐天 鳴海抄
林中にマフラーの赤走り入る 松尾隆信
林檎*もぐ秋田おばこの頬赤し 村木静雨
林檎の実赤し遠嶺に雪を待たず 大串章
林檎真つ赤唖者の頷き幾たびも 成田千空 地霊
林檎赤し寒く貧しく国の果 福田蓼汀 山火
林火忌や赤とんぼうの飛び交ひて 近藤明美
果実酒の赤経し琥珀冬深む 山田諒子
枯れきつてガソリンのぼる筒赤し 飴山實 『おりいぶ』
枯れ果てゝ尚赤菊ぞあはれなる 高浜虚子
枯山に夕日あやしきまで赤し 岡田日郎
枯萱にある赤牛の瞳かな 深見けん二 日月
枯蓮の赤らむ沼と見てはるか 阿部みどり女
枯蔦や明治の倉の赤煉瓦 加藤みさ子
枯野来て法隆赤みち松に菰 皆吉爽雨 泉声
枸杞の実の赤し江戸川近く住む 河東田素峰
枸杞の実の透ける赤さに熟れにけり 荒蒔秀子
枸杞の実は赤し枸杞茶はこの葉より 椎名みすず
染あへぬ尾のゆかしさよ赤蜻蛉 蕪村遺稿 秋
柚湯出て童女ねむれる頬赤し 水原秋桜子
柳川の岸辺や枸杞の実の赤し 棚橋ちゑ子
柿の主歌は赤人を学びけり 菅原師竹句集
柿紅葉地に敷き天に柿赤し 松本たかし
柿若葉樹液一滴もしや赤 山元志津香
柿赤し叫ばんよりは耐ふる人に 金子麒麟草
柿赤し機織る窓の夕明り 幸田露伴 拾遺
柿赤し美濃も奥なる仏たち 畠山譲二
格子赤しひるがへる燕の喉赤し 岩田昌寿 地の塩
桃咲く余白陽をまとひたる赤児欲し 磯貝碧蹄館 握手
桃赤し山の東の古砦 桃の花 正岡子規
桑の実やスタンダールに赤と黒 吉沼等外
桜の実赤し黒しとふふみたる 細見綾子 黄 瀬
梅咲て仁王の面の赤さかな 梅 正岡子規
梅咲て赤前垂の女哉 梅 正岡子規
梅嫌小粒に赤し初しぐれ 青蘿
梅雨の月入笠山に見て赤し 相馬遷子 山国
梅雨の渋滞テールランプの赤赤赤 高澤良一 素抱
梅雨茸や赤前垂れの石仏 柴田白葉女 花寂び 以後
梨花咲きたりわが赤らみし肝膾 金子兜太
楊梅のだうしたことか赤落葉 高澤良一 素抱
楊梅の赤夏落葉方円に 高澤良一 素抱
楠嫩葉もらさず赤みわたりけり 鈴木貞雄
榧の実や赤賓頭盧も露の情 下村槐太 光背
槻の芽に槻のひかりや赤彦忌 加藤楸邨
模擬店の椅子の小さく赤とんぼ 山田弘子 初期作品
樺の芽の赤らみはじむ湯壺の上 高澤良一 宿好
橙は赤し鏡の餅白し 鏡餅 正岡子規
櫨紅葉まつすぐなまで赤であり 岸本マチ子
櫨紅葉稲刈る人に日々赤し 高浜虚子
歓びは晴間にためて赤摘前 古舘曹人 能登の蛙
止まる葉のまだ定まらぬ赤とんぼ 安原正久
正視され しかも赤シャツで老いてやる 伊丹三樹彦 樹冠
武蔵野や畑打つ女帯赤し 畑打 正岡子規
歯固や火に酔ふ母の面赤し 佐久間法師
死せる赤生きてゐる赤金魚池 右城暮石 上下
死のついでに赤い椿の赤も消せ 稲葉直
殿りの秋の赤さや鴉瓜 尾崎迷堂 孤輪
母の忌の赤根を太く春野菜 下田稔
母下げし高さに赤し唐辛子 田中愛子
母似の手父似の足や赤とんぼ 歌津紘子
母在りてこそのふるさと赤とんぼ 高橋和彌
比良夕風赤襟鳰の尻押せり 高澤良一 燕音
毛糸選る欲しき赤とはどれも違ふ 山下知津子
水切りてキューピーの頭の赤蕪 高澤良一 ぱらりとせ
水塚の高き低きや赤蜻蛉 小澤碧童
水子らがゆすり搖れるよ赤まんま 坪内稔典
水害の草紅葉より尿赤し 近藤一鴻
水引草生ふ赤門に赤仁王 高澤良一 随笑
水薄くすべりて堰や赤とんぼ 石川桂郎 四温
水逃げてボートの櫂の先赤し 館岡沙緻
水飼ひの赤蕪芽吹き小鉢皿 石川桂郎 高蘆
永遠が飛んで居るらし赤とんぼ 永田耕衣 殺佛
汕頭(スワトー)のブラウスの背の赤とんぼ 大石悦子 百花
汗かいて歩めり常にポストは赤 奥坂まや「縄文」
汽車道のあらはに蕎麥の莖赤し 蕎麥 正岡子規
汽車黒く通りて赤し火事の村 齋藤愼爾
沈丁はもう赤らみて初句会 星野立子
沖波のたまゆら赤し松手入 山本 源
沢の雨赤せうびんの声ふるふ 春潮
沢蟹の赤さを祖母の戦後とす 岩淵喜代子 硝子の仲間
河豚の皿赤絵の透きて運ばるる 吐天
沼の野火消えて落暉の赤一つ 石井とし夫
法起寺の塔赤椿白椿 星野立子
波二段三段海霧の陽は赤し 石原八束 空の渚
泣き染まる赤児の裸冬の雷 赤松[ケイ]子
泥鰌掘肺の中まで赤らまむ 宮坂静生 山開
注射うつ袖うら赤し小正月 石井真理子
洋上に途あるごとし赤蜻蛉 松山足羽
洗ひても洗ひても赤蕪かな 大串章
浅草の赤たつぷりとかき氷 有馬朗人
浜木綿の芽立ち赤らむ朝より雨 河野南畦 湖の森
浪費しに行く柿の木のみえる赤みち 阿部完市 にもつは絵馬
浮き出でてちらと*いもりの腹赤し 牛島千鶴子
浮袋赤肌重ねヒロシマ忌 沢木欣一 塩田
海に出てしばらく赤し雪解川 三橋敏雄
海の藍ざぼんの緑赤とんぼ 三好達治 路上百句
海地獄碧きが上の赤とんぼ 山本歩禅
海女達の股引赤し町を行く 洞外石杖
海峡や艫に*となめの赤とんぼ 石原八束 『黒凍みの道』
海桐赤し姫鶏海鶏とわたり来て きくちつねこ
海老赤し海の藻草を敷きて売る 福田蓼汀 山火
海苔採り女力みて赤し冷えて赤し 香西照雄 素心
涅槃図に跳ねて加はる赤蛙 夏井いつき
涸川の一むら赤し蓼の茎 鼠骨
涼しさや蝦釣舟の赤行燈 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
深吉野の風雨に赤し烏瓜 大峯あきら 鳥道
深川の哀史古ぶる赤蜻蛉 望月百代
深谷の赤湯に沈み年忘れ 北市都黄男
混浴の飄(ひょう)と上がれる赤裸 高澤良一 素抱
混血のきみの血赤しヒノマルより 山岸竜治
添竹を殘して赤し蕃椒 唐辛子 正岡子規
温室越しに初日蕾の赤殖やす 大熊輝一 土の香
湿原は雲湧くところ赤とんぼ 吉原文音
源義先生の句碑あり赤とんぼよ止まれ 島谷征良
溝蕎麦の茎の赤さでありしかな 石川昭三
滅びつつピアノ鳴る家蟹赤し 西東三鬼「今日」
漆掻く日和つゞきや赤蜻蛉 乙字俳句集 大須賀乙字
演習に人群るゝ岡や赤蜻蛉 蜻蛉 正岡子規
漬菜石赤児のように洗われて 藤嶋まさと
潮かぶる所の珊瑚草赤し 稲畑広太郎
潮騒のくらしに馴染み赤とんぼ 安斎郁子
濁世熱し和尚赤裸々所化白裸々 暑 正岡子規
濠の澱みに歌の譜をなし赤とんぼ 加藤知世子 花寂び
濡れてよりしんじつ赤し牡丹の芽 対馬敬子
濤声のはるかにしをる赤蜻蛉 重田暮笛
火が熾り赤鍋つつむクリスマス 小松道子
火の山の地獄に来舞へり赤蜻蛉 岡田日郎
火の神へ紙赤赤と初御願 當間シズ
火事赤し義妹と二人のみの夜に 右城暮石 声と声
火星赤し水澄む青き星に住み 矢島渚男
火桶の火吹く顔赤し灯さざる 大橋櫻坡子 雨月
火渡りの女修験の赤素足 沢木欣一
火渡りの行者につづく赤蜻蛉 丸山 久
灯に映えて金魚赤さや風雨の夜 西山泊雲 泊雲句集
灯の色の赤さがゆゑに十夜かな 小杉余子 余子句選
灯蛾赤し幼長男は立ち上がり 池田澄子
灯青く廻廊赤し木下闇 木下闇 正岡子規
炉火赤し山のホテルに入りたれば 高浜虚子
炉火赤し旅の疲れもおはさずや 福田蓼汀 山火
炉火赤し檜山杉山淋しかろ 平畑静塔
炉火赤し犬わが膝に顎をのせ 福田蓼汀 山火
炎天となる赤縞の日除かな 久米正雄 返り花
炎天に鎮まりて赤煉瓦館 右城暮石 上下
炎昼の赤錆の蛇父おそろし 片伯部淳(青樹)
炭田に赤馬彳てり冬没日 三谷昭 獣身
烏瓜滅多に赤し姥の道 齋藤玄 『雁道』
烏瓜赤しと子らの触れゆきね 臼田亞浪 定本亜浪句集
焼跡に赤まま咲けり爛漫と 原子公平
煖爐の火赤く櫻もちほの赤し 後藤夜半
煙草火をこぼして赤し草の露 西山泊雲 泊雲句集
煤逃げや赤別珍の足袋買うて 市橋千翔
熊を彫るアイヌ膝覆ふ赤ケット 松橋与志彦
熊汁ときくたぢろぎに炉火赤し 奥田とみ子
熊皮に赤児眠らせ注連作る 哘 啓造
熱燗や心の内を赤絵皿 星野紗一
燕に目覚め近づく頬赤らむ 加藤知世子 黄 炎
燕の喉赤し母恋ふことも倦む 寺山修司 未刊行初期作品
燕の巣フェリー乗場の赤ポスト 渡邊路美
燕や赤士道のはねあがり 素牛 俳諧撰集「藤の実」
燠赤し柚湯に仕へ終るまで 百合山羽公 寒雁
爆心や頭下げて群るゝ赤とんぼ 中島斌男
父が捕りし大赤熊を眺めけり 阿部みどり女 笹鳴
父が欲るものみだらなり赤芽樫 塚本邦雄 甘露
父の骨まだあたたかし赤蜻蛉 保坂加津夫
片丘の麦刈り伏せて夕日赤し 内藤吐天 鳴海抄
牛去りし泉に赤し九輪草 相馬遷子 山国
牡丹鍋鞍馬の闇のうす赤し 鈴木鷹夫 大津絵
牧草地隈の椹へ赤とんぼ 和知喜八 同齢
物干しのきのふの位置に赤蜻蛉 金井 緑
物拭ふ古風呂敷や赤蜻蛉 内田百間
物質として凍蝶は赤銹びに 和田悟朗
犬赤し冬日が洩れて馳け出す 岩田昌寿 地の塩
独活晒し赤みさすとも夫なき手 殿村莵絲子 花寂び 以後
猫の尾に止まつてみたき赤とんぼ 山田征司
猿の胸乳赤しさわがしつくしんぼ 藤江 瑞
獣肉の赤み山村花ふぶき 中島斌雄
玉章の一つ残りし赤さかな 田中章
珠玉蔵す柘榴赤磁の壺といはん 福田蓼汀 秋風挽歌
琉球のいらかは赤し椰子の花 篠原鳳作 海の旅
瓢箪や大張り小張り赤児の声 中村草田男
甘柿も渋柿も赤さびしけれ 神尾久美子
生きて仰ぐ空の高さよ赤蜻蛉 夏目漱石(1867-1916)
生き死にを清水のふちに蟹赤し 川崎展宏
生れて十日生命が赤し風がまぶし 中村草田男
田の人の長靴赤し花まつり 今野福子
田をめぐり来し朔日の赤柏 宇多喜代子 象
田舎出のけつとう赤しみよの春 君の春 正岡子規
甲斐駒の貌のぞかせて柿赤し 臼田亜浪
甲斐駒の雲の高さに赤蜻蛉 堀口星眠
甲比丹の赤髭の花ぐもりかな(グラバー邸) 細川加賀 『玉虫』
男が着て赤シャツ種蒔きはじまりぬ 寺田京子 日の鷹
男鹿半島岩群赤し荒海や止まず動きて濤はかがよふ 鈴木幸輔
町中や列を正して赤蜻蛉 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
町角の駄菓子が赤し秋の風 鈴木鷹夫 風の祭
画廊出て人間赤し藪柑子 伊東達夫
留守の家鶏頭の赤倒れたり 柿本多映
療苑の盆踊赤ふんだんに 右城暮石 上下
登頂のまづは勲章赤蜻蛉 永峰久比古
白は供華赤は書斎に秋薔藪 稲畑汀子 汀子第二句集
白や赤や黄や色々の灯取虫 火取虫 正岡子規
白川の関まで来たり赤とんぼ 塩沢とき子
白椿赤椿幹黒くして 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白樺に映え晩涼の火赤し 福田蓼汀 山火
白菊の老いて赤らむわりなさよ 菊 正岡子規
白雲の死のかげ崩れ赤とんぼ 阿部みどり女
百咲いて百のときめき赤椿 福神規子
百年のキルトの赤や秋の昼 小川濤美子
百日紅赤児泣く間も時移らふ 鍵和田[ゆう]子 未来図
盆過ぎや月を赤しと酢を買ひに 佐野美智
目に深き赤はダリアの沈む色 稲畑汀子
目の前に赤腹鶫青き虫落す 市村芳子
目白頬白赤腹小雀上野駅 攝津幸彦 未刊句集
目立ちたがる芍薬赤芽雨催ひ 高澤良一 ねずみのこまくら
目隠しの中が真つ赤や福笑ひ 阿部静雄
着てみたきものに赤シャツ漱石忌 浜中秋雄
矢車のまはりにぶりて赤が出し 上村占魚 『萩山』
石に伏しおのが身冷やす赤とんぼ 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
石の首こちら向きをり赤芒 宮坂静生 山開
石を産む女人の裾や赤蜻蛉 夏石番矢 猟常記
石榴赤しふるさとびとの心はも 高浜虚子
石狩まで幌の灯赤しチエホフ忌 寺山修司 花粉航海
石神のつむり好きらし赤とんぼ 久保田庸子
石積んで墓遊びの子赤とんぼ 佐藤火峰
砂濱にとまるものなし赤蜻蛉 蜻蛉 正岡子規
砂金や流れとどまる赤躑躅 車庸 俳諧撰集「藤の実」
砂風の後に浮かぶや赤蜻蛉 内田百間
磨かれた消火器の赤明日また会う 鈴木六林男 桜島
神々の御代のごとくに野火赤し 高橋秋郊
神主の赤装束や鞴祭 橋本對楠
福寿草遺影と交す赤ワイン 泉京子
福耳に掛ける赤緒の踊笠 後藤立夫
秀つ峰の赤みさしきし仏の座 川端庸子
私とならぶ赤チンつけていてきつね 阿部完市 純白諸事
秋*かやを出て赤富士を目のあたり 久米正雄 返り花
秋ぐみのかくて赤らむ風雨急 前田普羅
秋の季の赤とんぼうに定りぬ 加舎白雄
秋出水乾かんとして花赤し 普羅句集 前田普羅
秋山郷赤湯に春を惜しみけり 高澤良一 燕音
秋嶺の襞より湧きて赤とんぼ 高澤良一 寒暑
秋暑し岡拓庁舎の赤煉瓦 原山月歩
秋深き隣に旅の赤児泣く 佐藤鬼房
秋灯下長崎港の古図赤し 筒井珥兎子
秋灯古川温泉赤濁湯 高澤良一 素抱
秋薊赤裸の山の照り美し 瀧春一 菜園
秋雨や赤鉛筆で速達と 星野立子
秋雨や赤鬚の画家キャフェごもり 林翔 和紙
秋雲離々赤牛を汝が墓標とす 岡田日郎
秋風が立ち赤べこの首揺する 中村居月
秋風にすこしかなめの赤芽哉 秋風 正岡子規
秋風にふかれて赤し鳥の足 浜田酒堂
秋風をあやなす物か赤とんぼ 松岡青蘿
種案山子没り日の赤さ極まれる 成田千空 地霊
稲妻のこぼれて赤し蕎麦の畑 可有
稻妻や赤猫狂ふ塔の尖 稲妻 正岡子規
稻穗やあちらこちらの赤錬瓦 稲穂 正岡子規
穴にのぞく余寒の蟹の爪赤し 子規句集 虚子・碧梧桐選
穴を出し蟻に花壇の煉瓦赤し 内藤吐天 鳴海抄
穴子縄沈む標旗の赤や青 小池ミネ
空にゐる鶴田浩二の赤とんぼ 高澤良一 さざなみやつこ
空壜を吹く子が一人赤まんま 小島健 木の実
空港に肥後赤酒や漱石忌 星野麥丘人
空港の灯は赤と青芝涼し 田中蘇冬
空真つ赤妻に秋刀魚を買はせをり 町田しげき
窓ごしに赤児うけとる十三夜 福田甲子雄
窓掛のがらすに赤し五月雨 五月雨 正岡子規
窯開けの赤絵小春の縁に並み 永井龍男
立話肩に来てゐる赤蜻蛉 宮坂つる
競漕の赤ばかり勝つ日なりけり 原 石鼎
笹折て赤蟹なぶる夕すゞみ 松岡青蘿
笹鳴や吾子の描く絵に赤多く 加倉井秋を
箱庭の南天赤し窓の下 寺田寅彦
節分の赤ちょうちんや魂ずらり 川本洋栄
籬の豆赤さ走りぬいざ摘まん 高浜虚子
粥腹に火事赤し東北地方は影 武田伸一
糸でんわむすんで薔薇の花まつ赤 熊坂てつを
紅の花枯れし赤さはもうあせず 加藤知世子 花寂び
紅葉して雲より赤し葡萄園 石塚友二 光塵
紅葉ゝにふんどし赤し峰の猿 立花北枝
紅葉連山赤蕪掘りが働ける 和知喜八 同齢
紙を漉く甲斐の媼の赤襷 三井盛夫
絨毯は赤し晶子の書は古りて 石原八束
絵ガラスのひと色が好き赤とんぼ 北川みよ子
絵屏風の撫子赤し子を憶ふ 撫子 正岡子規
絵本のやう赤燈台と浮輪の子 高澤良一 寒暑
絹糸赤し村の暗部に出生し 寺山修司 花粉航海
綿を打つ祖母の小さき赤座布団 高橋悦男
綿雪をかつぎて赤し藪柑子 吉茄子
総持寺の赤櫃に盛る涅槃団子 須原正子
編年史ならば赤茄子地に震はむ 橋口 等
縁に干す蝙蝠傘や赤蜻蛉 寺田寅彦
繭玉の下に赤児を寝かせ置く 野崎ゆり香
繭玉の赤をつつきて退院す 石寒太 翔
罌粟に黒斑スタンダールに赤と黒 福田蓼汀 秋風挽歌
罌粟真つ赤思考回路を外れ真つ赤 戸田かづ子
美しく暮るゝ空あり赤とんぼ 進藤湘海
老桜めざむ嬰子の赤さもて 殿村菟絲子 『樹下』
耳袋の赤鮮しや春の駄馬 沢木欣一
耽読や食べ尽すまで柿の赤 神尾久美子 桐の木
聞き直す意はなく仰ぐ赤とんぼ 中戸川朝人 尋声
職を追ふ呆け赤靴冬日沁む 小林康治 玄霜
肥後の赤牛豊後黒牛冬草に 鈴木真砂女 夕螢
肥後赤牛豊後黒牛草紅葉 瀧春一
肩あげの赤糸屑や初すずめ 中山純子
肩に来て人懐かしや赤蜻蛉 漱石俳句集 夏目漱石
肩に来て茂吉の国の赤とんぼ 前島みき
肺病んで炉火赤赤と胸に浴ぶ 中山純子 茜
背高鴫赤(ああか)い鼻緒のじょじょ履いて 高澤良一 随笑
胡蘿蔔赤しわが血まぎれもなき百姓 栗生純夫 科野路
胡蘿蔔赤し一滴の血も損はざれ 栗生純夫 科野路
腐る梅雨火夫のあくびの舌赤し 細谷源二
腹掛の赤紐襟に見ゆるかな 道山壮伸
腹赤(はらか)より先に九条の水菜かな 京-定之 元禄百人一句
自転車が倒れて真つ赤田植寒 佐々木六戈 百韻反故 初學
自転車のセーター赤し林透き 谷迪子
船霊の湾に赤絵の皿を積み 国武十六夜
色糸の赤増えてゐる冬籠 井上雪
芍薬の蕾の玉の赤二つ 前田普羅 新訂普羅句集
芥子赤し受洗すませし午後驟雨 大野林火
芥子赤し旅も終りはさびしけれ 五十嵐播水「石蕗の花」
芥子赤し金をもていのち購ふか 瀧春一 菜園
花いけに一輪赤し冬牡丹 冬牡丹 正岡子規
花びらの雨粒赤し藪椿 長谷川櫂 天球
花をしぞ思ふほの~赤つゝじ 守武
花アカシア降る道庁の赤煉瓦 柚口 満
花冷の湖より来たる赤彦忌 近藤弘子
花御所柿ストーブの火と赤競ふ 大熊輝一 土の香
花梨老樹に赤児抱きつく家郷かな 金子兜太 皆之
花活に一輪赤し冬椿 寒椿 正岡子規
芹生ひて家鴨の足の赤さかな 芹 正岡子規
苔の上にこぼれて赤しゆすらの実 ゆすらの実 正岡子規
若菜野のもぐらの土や赤ざらし 宮岡計次
若菜野や赤裳引きずる雪の上 闌更
苺赤し一粒ほどの平安か 森 澄雄
草の實や少し赤らむ茨の垣 草の実 正岡子規
草むらに檀特花わつかに赤し 檀特花 正岡子規
草むらむら檀特花わづかに赤し 正岡子規
草枯るゝ賤が垣根や枸杞赤し 草枯 正岡子規
草枯れの頃の寒風山赤し(男鹿半島にて) 上村占魚 『一火』
草苺朝の赤さや歌の中 加藤知世子 黄 炎
草赤し先に歩るく子の盆提灯 長谷川かな女 雨 月
荒む心の尖り傾けて火は赤し 人間を彫る 大橋裸木
菖蒲湯をざんぶりと出づ赤仁王 高澤良一 寒暑
菖蒲田に来て赤蜻蛉印象派 山田弘子 螢川
菜の花のさく頃里の餅赤し 菜の花 正岡子規
菠薐草の赤根が好きで踊り好き 星野紗一
菠薐草赤茎愛の歌流行る 大熊輝一 土の香
華厳落つしぶきの中の赤とんぼ 村田脩
萩の芽に並びて赤し牡丹の芽 木の芽 正岡子規
落陽にもなほ赤つくす交喙鳥の雄 星野紗一
葉かくれて朝鮮薔薇の花赤し 薔薇 正岡子規
葉も花にさいてや赤し曼珠沙花 曼珠沙華 正岡子規
葉桜のうへに赤しや塔二重 唯人 古句を観る(柴田宵曲)
著せ綿を除けば菊の赤さかな 渡辺水巴 白日
葛の雨はじきて肥後の赤牛よ 鈴木しげを
葡萄酒の赤をふくめば西鶴忌 すずき波浪
葬が出た でかい赤絵の皿積んで 星永文夫
蒸す昼のおんぶばつたの腹赤し 山西雅子
蓑虫ノ鳴ク時蕃椒赤シ 蓑虫鳴く 正岡子規
蓮枯て辨天堂の破風赤し 枯蓮 正岡子規
蓼赤し古墳盗掘されし日も 大石悦子 聞香
蓼赤し野川にたるむ鳴子縄 石井露月
蕃椒手水盥の水赤し 唐辛子 正岡子規
蕊の赤が花瓣にしみて孔雀草 高濱虚子
蕗の芽の赤さ就学通知来る 木挽治子
蕣の何しに赤を咲く事ぞ 朝顔 正岡子規
蕪畑の一つは赤し大かぶら 駒走松恵
蕪蒸し憲吉うつしの赤絵碗 大東晶子
薄わけて行くや笠深く鞘赤し 薄 正岡子規
薄霞南大門の赤さかな 霞 正岡子規
薄霞東大寺の赤さ哉 霞 正岡子規
薔薇の芽のどんな色にもなれる赤 広瀬ひろし
薪棚を出て薪赤し盆の風 大峯あきら
薫風や井伊の姫御の赤鎧 京極杜藻
藁屋根に干されて真つ赤唐辛子 山地曙子
藤棚に赤提灯をつるしけり 藤 正岡子規
藪に居て挽ききらるるな赤椿 山店 芭蕉庵小文庫
藪柑子その赤小さき我を通す 河野多希女 月沙漠
蘇枋枯れて鶏頭の鶏冠ただ赤し 北原白秋
虚子椿虚子恋ひ椿赤椿 河野美奇
虫売の千早赤阪より来る 熊田邨
虫食ひすもも赤犬人をなつかしむ 細見綾子
虹消えし空より乳房赤坊に 野見山朱鳥
虻石蕗に来る赤とんぼ松に来る 星野立子
蚊屋はづせ蕣の花の赤むほどに 高井几董
蚕の宮紅葉は赤をきはめたり 中山純子
蛇の舌まだ赤し秋の風 秋風 正岡子規
蛇穴に入る時曼珠沙花赤し 蛇穴に入る 正岡子規
蛙鳴けば雲赤し江尻風車台 久米正雄 返り花
蜂に憑かれ赤シャツ逃げる枯芦原 西東三鬼
蜂赤し聖書開きしまま置かれ 中戸川朝人 残心
蜂飼いの赤髭強き火を焚けり 山口 伸
蜆かく妹が赤帯赤襷 寺田寅彦
蜘の巣に一ひら薔薇の花赤し 薔薇 正岡子規
蜜豆のみどりや赤や閑職や 北登猛
蝦夷赤鹿子育ての季や緑立つ 河府雪於
蝶とまる赤児の白き足の裏 檜山哲彦
蝶鳥や農の昼餉の椀赤し 木村蕪城
蟷螂のほむらに胸の赤みかな 中村史邦
蟹赤し秩父に向きし父の墓 青山 結
蟹赤し遠山あをし母睡し間 石田波郷「春嵐」
蟹赤し野菜を洗ふ海女の前 米澤吾亦紅
蟻塚のこまかき土の赤さかな 村上信子(門)
蟻走る赤鉛筆をうたがひて 中尾寿美子
血は赤し血の管通る涅槃西風 磯貝碧蹄館
血縁を継ぐ赤赤と蕁麻疹 和田悟朗
行きすぎし赤は戻らず吾亦紅 後藤比奈夫 めんない千鳥
行きどまりなき今日の空赤蜻蛉 後藤一秋
行く雲にものいへば見ゆ赤蜻蛉 千代田葛彦 旅人木
表紙絵の赤がねばるよ牡丹雪 猿橋統流子
被弾のパンの樹島民の赤児泣くあたり 金子兜太 少年/生長
裏川に泳ぎ過ぎたる赤眼かな 猪俣千代子 堆 朱
褐色の麦褐色の赤児の声 福田甲子雄
襤褸袷赤大名の曼珠沙華 久保田万太郎 草の丈
西洋の草花赤し明屋敷 草の花 正岡子規
西洋骨董居の出窓の赤蕪 中戸川朝人 星辰
西海に入る日が赤し西行忌 五十崎古郷句集
西瓜の赤封じこめたるガラス函 沢木欣一 塩田
見てあれば見えて睡魔や赤椿 東洋城千句
見覚えの赤塀都踊見に 開田華羽
観潮や赤前垂の婢も乗せて 高野素十
言はでものこと言ひポインセチア赤 七田谷まりうす
訝しむ目に赤腹のひるがへり 高堂智恵子
誇りかに鶏頭赤し子規旧廬 雑草 長谷川零餘子
誓文の赤甚平着て店主われ 辻本斐山
諏訪をさす夜汽車の隅や赤彦忌 殿村菟絲子
論外に夾竹桃の赤がある 大西泰世 世紀末の小町
豁然と赤富士霧を払ひけり 山本允(若葉)
豊年の赤牛撫でて青年よ 岸風三樓
豊穣の空掻き回す赤とんぼ 藤田静子
貝細工の赤や青やを店にしてゐる シヤツと雑草 栗林一石路
賭博市の質屋の春のネオン赤 吉良比呂武
赤*えいに吾が一族を見せてゐる 鈴木志暁
赤*えいのあがりしとふれわたるなり 岡井省二
赤*えいの乾きやまざる鰭を振る 加藤楸邨
赤*えいの咥へてゆきし洋灯かな 糸 大八
赤*えいの広鰭潮を摶ち摶てる 山口誓子
赤*えいの広鰭裏の黄を翻す 山口誓子
赤*えいの眼のひとつある切身かな 茨木和生「倭」
赤*えいの瞑想感覚尊けれ 安西篤
赤*えいは毛物のごとき眼もて見る 山口誓子「凍港」
赤い花買ふ猛烈な雲の下 富澤赤黄男(1902-62)
赤がちに伊勢の船路の初荷かな 下田稔
赤げらが風の高みの幹たたく 都筑智子
赤げらの打つここ直せあそこをも 依田明倫
赤げらの音の谺に穂高晴れ 宇佐川礼子
赤げらひとつどこかに容れてしぐれ山 岡井省二
赤げら追う兵歴のなき父ふうわり 角田重明
赤さびの船着き極暑の荷を下ろす 伍賀稚子
赤さゆゑ握りつぶした冬苺 櫂未知子 貴族
赤しとて山の蜻蛉なつかしむ 後藤夜半 底紅
赤しまろしいのちの初心実萬両 林昌華
赤しょうびん松風にわが袖うすき 美土路圭子
赤しようびん多くは言わず旅日記 岩間民子
赤し赤し陽を喰べ飽きてチューリップ 長谷川秋子
赤ちやんの通つた匂い深雪晴れ 坪内稔典
赤といふあたゝかき色著重ねて 宮崎房子
赤ときや*いとどなきやむ屋根のうら 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
赤とんば夥しさの首塚ありけり 尾崎放哉
赤とんぼこんな孤独な世があろうか 細谷源二
赤とんぼさきがけ来しは夫の使者 津曲つた子
赤とんぼさみしき秋は空より来 石原舟月
赤とんぼさらなる羽を伏せにけり 綾部仁喜 寒木
赤とんぼじっとしたまま明日どうする 渥美 清
赤とんぼすぐゐなくなる竹の尖 辻田克巳
赤とんぼそこにもここにも妹が 坪内稔典
赤とんぼたちゆけり粗壁と空 千代田葛彦 旅人木
赤とんぼだけの踏切上がりけり 佐藤和夫
赤とんぼだらけ茜の失せるまで 町田しげき
赤とんぼつかめば夕日掴みゐる 林 美恵子
赤とんぼつまんでどこも柔かし 伊藤白潮
赤とんぼとは未だ呼べぬ色なりし 山田泰
赤とんぼとまつてゐるよ竿の先 三木露風
赤とんぼとまるにまかせ老の杖 上野泰 佐介
赤とんぼとまればいよゝ四辺澄み 星野立子
赤とんぼに慕はれてゐてふしあはせ 内田美紗 浦島草
赤とんぼほど友いたり幼稚園 宮崎志づ
赤とんぼぽるとがるの海美しき 小池文子 巴里蕭条
赤とんぼまだ恋とげぬ朱さやか 佐野青陽人 天の川
赤とんぼまだ日の残る左中間 上谷昌憲
赤とんぼみな母探すごとくゆく 細谷源二 砂金帯
赤とんぼみな胸うすく堪うことなし 細谷源二
赤とんぼキヤッチボールの宙を縫ふ 吉原文音
赤とんぼバケツの縁にとまりけり 皆吉司
赤とんぼ並ぶや風の通り道 佐藤博一
赤とんぼ人をえらびて妻の膝 山口青邨
赤とんぼ傾ぎしままの杭の先 奥村貞雄
赤とんぼ六角堂の水に浮き 古野 尖
赤とんぼ出入りす碌山美術館 飛高隆夫
赤とんぼ咎めなきまま風のまま 仙田洋子 橋のあなたに
赤とんぼ地球は円き空もてり 長尾虚風
赤とんぼ夕暮れはまだ先のこと 星野高士
赤とんぼ夕空涜し群れにけり 相馬遷子 山国
赤とんぼ夜逃げの噂広めしか 坪田晴美
赤とんぼ大和まほろば通りやんせ 小林進
赤とんぼ夫に揶揄さる少女趣味 大石悦子 群萌
赤とんぼ夷びいきの肩に来る 太田土男
赤とんぼ姫行列についてゆく 早矢仕元次
赤とんぼ嬰にありたけの子守唄 山田眞爽子
赤とんぼ子育地蔵の膝が好き 井上美寿恵
赤とんぼ宙にして石進むなり 岸田稚魚
赤とんぼ小枝の先を噛む如く 浅川虫雨
赤とんぼ少し後れて児の笑顔 空蝉
赤とんぼ山の斜面の明るき墓地 中拓夫 愛鷹
赤とんぼ山を思へば山を見ず 行方克巳
赤とんぼ影するたびに薬師古り 大峯あきら 宇宙塵
赤とんぼ御穂田に生れとなめせり 沢木欣一 沖縄吟遊集
赤とんぼ文字薄れたる道しるべ 大西生子
赤とんぼ昔の如く紅澄まず 百合山羽公 寒雁
赤とんぼ智恵子生家の格子窓 高橋花子
赤とんぼ止りなほして神の前 藤井寿江子
赤とんぼ死近き人を囲み行く 永田耕衣
赤とんぼ洗ひざらしの靴二足 山内てるこ
赤とんぼ浜吹く風は一息に 高澤良一 素抱
赤とんぼ海を慕うて来し砂丘 阿部みどり女
赤とんぼ減り淵のいろ岩のいろ 大峯あきら 宇宙塵
赤とんぼ火炭しをからとんぼ灰 上野泰 佐介
赤とんぼ点呼してバス走り出す 苗村登志子
赤とんぼ現場に拾ひダムに放つ 沢木欣一
赤とんぼ画を鳴く虫の草の上 大谷句佛 我は我
赤とんぼ白波くだく経ヶ岬 堀村英子
赤とんぼ石のほとぼり冷めやらず 行方克己 昆虫記
赤とんぼ石噛んでゐる入日時 小檜山繁子
赤とんぼ穂草を揺らす重さあり 山下幸子
赤とんぼ筏の如くつづきけり 上野泰 佐介
赤とんぼ紙になるまで降りて来ず 佐伯虎杖
赤とんぼ群るるよ夫と来し畦に 飯野てい子
赤とんぼ群れて人無き分教場 山県よしゑ
赤とんぼ群れて日本を狭くする 勝村茂美
赤とんぼ群れとぶ中の遅速かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
赤とんぼ翔ぶ混雑のなかりけり 吉村ひさ志
赤とんぼ胸にぶつかる穂見氷室 田中水桜
赤とんぼ見返る肩の手はそのまま 野澤節子 黄 炎
赤とんぼ谷の日にあひ谷を出でず 阿部みどり女
赤とんぼ踏まるる石に出でにけり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
赤とんぼ身の端々のさみしき日 小檜山繁子
赤とんぼ道いつぱいに来る祭 町田しげき
赤とんぼ遠流に果てし一女人 山本歩禅
赤とんぼ里は静かに暮れにけり 尾畑吉秋
赤とんぼ野菜いろ~の裏畠 滝井孝作 浮寝鳥
赤とんぼ集めてをりぬ六地蔵 知崎浩子
赤とんぼ離れて杭のいろの失せ 上野泰 佐介
赤とんぼ駅にもろみの匂う町 会沢みつ江
赤とんぼ駆込寺に深入りす 岡本菊絵
赤と金経たるまぶしさ夏朝日 香西照雄 素心
赤と青闘つてゐる夕焼かな 波多野爽波 鋪道の花
赤と黄と青の昔や洗濯船 攝津幸彦 鹿々集
赤は黄に黄は赤にゆれチューリップ 嶋田一歩
赤ひきたち緑ひきたち飾毬 大橋敦子 匂 玉
赤べこの振る顔会津の柿甘し 加藤知世子 花寂び
赤べこはやさしき牛ぞ冬の酒 磯貝碧蹄館 握手
赤べこをくるみ上手や春著の子 高澤良一 さざなみやつこ
赤べらの上に青べら魚籠の中 吉野十夜
赤ままは野分に荒れぬ熟睡欲し 飴山 實
赤まんまことに茂れり妻癒えよ 谷山桃村
赤まんま墓累々と焼けのこり 三橋鷹女
赤まんま屋根裏の窓人のぞく 小池文子 巴里蕭条
赤まんま母の帯より生れしか 柿畑文生
赤まんま生きる気合をかけている 岸本マチ子
赤まんま留守番の子の指しやぶり 島 汀子
赤まんま空地に捨ててある枕 秋元不死男
赤まゝにとぎ汁ほそく流れくる 飴山實
赤めだか針のごとき子生れたり 細見綾子 黄 瀬
赤もさびしからむしの茎赤蜻蛉 福田蓼汀 秋風挽歌
赤ものが生簀に多し神無月 茨木和生 往馬
赤もまた冷たき色よ冬椿 久屋三秋
赤もまた孤独なりけり寒椿 和田律子
赤もみぢ黄もみぢとことん愉しめり 高澤良一 素抱
赤も淋し緑り又くらし走馬燈 松瀬青々
赤も黄も太陽の色薔薇盛り 和田西方
赤やねに古郷もぐり込みけり春のくれ 内田百間
赤よな噴く火口をのぞく鼻の凍て 石原八束 空の渚
赤よりも白に華やぎ葉牡丹は 蔵本はるの女
赤らみし老師の頬や謡初 河野探風
赤らめる桃の*しもとを初景色 宮坂静生
赤を深めゐる山中の土運び 右城暮石 声と声
赤キ斜面ニ未定勅語ヲ書キ下ロス 夏石番矢
赤シャツで仲見世歩く傘雨の忌 河口義男
赤シヤツはざらの世となり漱石忌 井原久子
赤シヨール女佛蘭西語を話す 田中裕明 花間一壺
赤セーター一日たってなじみけり 阿部佑介
赤セーター去りゴルフ場枯れつくす 前山松花
赤チンを吹いて乾かすアキアカネ 高澤良一 ぱらりとせ
赤トンボみんな嫁いでしまいけり 笠松久子
赤トンボ魚市花市野菜市 坂野登志子
赤ブーツその他一切赤づくめ 池田秀水
赤ベコの首さしのべる居待月 船渡文子
赤レンガ驛より阿房列車発つ 高澤良一 寒暑
赤ワイン栓が抜かれておぼろ月 鈴木佐多子
赤ワイン産地の葡萄まだ枯木 高木晴子 花 季
赤ワイン舌よりわれをふくらます 子はなぜひとりか、なあタラノメよ 坂井修一
赤ン坊に男のしるし初筑波 小林幹彦
赤ン坊のなきごゑがする小さい庭を掃いてる 尾崎放哉
赤ン坊の手が驚きて夜番過ぐ 田川飛旅子
赤ン坊生れてる朝へ起きてきた子 シヤツと雑草 栗林一石路
赤不二のいましはじまる渡り鳥 服部鹿頭矢
赤人の名は付かれたり初霞 中村史邦
赤人の墓と伝はり遠蛙 久保田珠生
赤人の墓と伝へて下闇に 千賀富太郎
赤人の墓に大和の柿ひとつ 小澤満佐子
赤人の墓の雪踏み猪を追ふ 太田英友
赤人の富士を仰ぎて耕せり 大串章(1937-)
赤人の数寄にゑぼしや桃の花 立花北枝
赤兎の攀ぢ上る見ゆ雲の峰 石井露月
赤児に梅雨たつたひとりで生まれ来て 平井さち子 紅き栞
赤児日光浴さわぎさわぎて春の草 寺田京子 日の鷹
赤児泣く天山の雪は桃花鳥いろ 金子皆子
赤児泣く家見下ろして春の山 大村昌徳
赤児泣く誰も助けに来ぬ青田 村松ひろし
赤児百人滴りおちる百日紅 坪内稔典
赤唐辛子吊し火伏せも貼つておく 前田吐実男
赤啄木鳥の不意に飛び立つ森深し 佐藤富美子
赤啄木鳥の打つ幹昼を凍るなり 小林黒石礁
赤啄木鳥の来てゐる真野の御陵かな 池野よしえ
赤啄木鳥の歯切れよき音や恋狂ひ 今村庸浩
赤啄木鳥や裾野の起伏霜充ちて 望月たかし
赤地蔵土用ねずみの糞ころと 辻桃子
赤坊に水無月の宵うすみどり 福田蓼汀 山火
赤坊のうす目してゐる寒さかな 稚魚
赤坊の泣く家ありて谷戸の月 福田蓼汀 山火
赤坊の肌の冷たき厄日かな 岸田稚魚 『雪涅槃』
赤坊を抱きて端居といふことを 田中裕明 先生から手紙
赤坊馥郁と座す花かんば 小池文子 巴里蕭条
赤塗りのひょうげた仁王花の昼 高澤良一 素抱
赤壁に死す水草の花咲いて 萩山栄一
赤壁の下につぶすや三ヶ日 松浦為王
赤壁の寺の玄関花蘇鉄 井上たか女
赤壁へさへづりの階下りけり 谷中降子
赤多き加賀友禅にしぐれ来る 綾子
赤好きで赤ばかりなる毛糸編む 横町陽子
赤富士としてきはまるを慈悲心鳥 杉山岳陽
赤富士と云へる彩とは今の今 柳澤仙渡子(玉藻)
赤富士にかつとをんなの内側を 河野多希女
赤富士になりゆく釣瓶落しかな 乙部露光
赤富士に万籟を絶つ露の天 富安風生
赤富士に河童忌の雲帆のごとし 白木南栖
赤富士に滴る軒の露雫 深見けん二
赤富士に砲列のごとカメラ据ゑ 柴垣千風
赤富士に芒の花のなびきけり 岩崎照子
赤富士に見え心を新たにす 関口露子
赤富士に露の満天満地かな 富安風生
赤富士に露滂沱たる四辺かな 富安風生「古稀春風」
赤富士に鳥語一時にやむときあり 富安風生
赤富士のぬうつと近き面構ヘ 富安風生
赤富士のやがて人語を許しけり 鈴木貞雄「月明の樫」
赤富士の天に小鳥の微塵かな 上野泰 春潮
赤富士の帯ゆつたりと初仕事 島田初翠
赤富士の日が照りいだす岩桔梗 百合山羽公 寒雁
赤富士の真近に来たり浜神楽 駒走鷹志
赤富士の胸乳ゆたかに麦の秋 澤木欣一
赤富士の褪め山小屋の灯も消えて 河野美奇
赤富士の雲紫にかはりもし 阿波野青畝「紅葉の賀」
赤富士は逸してめざめ宿凍つる 皆吉爽雨 泉声
赤富士も見せたし紺の夕富士も 深川正一郎
赤富士やちやぷちやぷ波の寄り来たり 森玲子
赤富士や不二も不一も殴り書き 高柳重信
赤富士や叫びて飛ぶは慈悲心鳥 大津希水
赤富士や回り舞台のゆつくりと 高尾秀四郎
赤富士や湖の底より日は昇る 星野椿「波頭」
赤富士を仰ぐは先師仰ぐなる 行方克己 無言劇
赤富士を離れぬ雲の端焼けて 加藤多可詩(若葉)
赤寺の赤絵がちなる涅槃変 野見山朱鳥
赤寺の鬼に出逢ひし昼寝かな 龍岡晋
赤寺は魚板も赤し冬紅葉 福田蓼汀
赤屋根の漆喰しるし仏桑花 堀古蝶
赤岳に夕日秋蝉鳴きはげむ 伊藤一枝
赤岳の影尖り来て牧を閑づ 小林碧郎
赤岳の烈風なぎて聖夜なり 古賀まり子 降誕歌
赤岳の裾なだらかに蕎麦の花 山本絢子
赤岳の雹のたばしる牧草地 山岸治子
赤岳の霧流れ来るレタス畑 長江克江
赤岳の面起しのほととぎす 石田勝彦 秋興
赤岳へ道荒れつくす穴まどひ 堀口星眠 営巣期
赤岳を鋭き風つつむけらつつき 橋本榮治 越在
赤崩えのさびしき山や秋日和 内藤吐天
赤崩えの夏山頬にうすねむき 石橋辰之助 山暦
赤崩崖(あかなぎ)の背の山枯れて墓五十(中通島新魚目町、隠れキリシタンの村) 石原八束 『藍微塵』
赤帝の座は定まりぬ紫禁城 磯直道「初東風」
赤帯の女野辺行く霞哉 霞 正岡子規
赤幟疱瘡の神を送りけり 神送 正岡子規
赤幣をかざせば春野濃かりけり 細見綾子 黄 炎
赤彦に槻の歌あり大夏木 西本一都 景色
赤彦のいしぶみの前飾焚く 木村蕪城 寒泉
赤彦のゆかりの宿の桜鍋 小松みのる
赤彦の住み今刀自住める冬山家 深見けん二
赤彦の墓にみどりの落し文 五味美子
赤彦の墓ぶらんこの保母に訊く 伊藤白潮
赤彦の夕陽の歌や雪解富士 角川照子
赤彦の家に一樹の冬柏 皆川盤水
赤彦の旧廬や灰の冷たかり 宮坂静生 樹下
赤彦の湖の匂へる松納 国吉玲子
赤彦忌くる井戸端に豆浸けて 林 和子
赤彦忌湖渡りくる雪解風 永田由子
赤彦忌藁屋しづくの光曳く 鍵和田[ゆう]子 浮標
赤彦旧居なき淋しさを囀れり 南光 翠峰
赤復や雲は樹海を埋めしまま 長谷川草洲
赤微塵はた黒微塵金魚苗 小路智壽子(ひいらぎ)
赤志野の炎えるが如し夏の灯に 武原はん女
赤怨を誰が焚きこめし薄紅梅 筑紫磐井 野干
赤手ぶくろ登校の子に霧濃しや 及川貞 榧の實
赤更けし踊り場に大花瓶とは 中田剛 竟日
赤松に秋の陽赤(セキ)と鹿苑寺 高澤良一 宿好
赤松のすこぶる赤し十夜寺 高澤良一 寒暑
赤松の赤を覚まして牡丹雪 蓬田紀枝子
赤栴檀木性の仏生れたり 昌夏 選集「板東太郎」
赤棟蛇消えて伊那谿ふかくなり 石寒太 あるき神
赤棟蛇躍つていたる墳墓かな 金子兜太 詩經國風
赤椀に竜も出さうなそば湯かな 一茶
赤椿さいてもさいても一重哉 正岡子規
赤椿さかりもなくて小半月 椿 正岡子規
赤椿咲きし真下へ落ちにけり 暁台
赤椿溺死の後もただよへる 行方克巳
赤椿田舎の恋のあからさま 椿 正岡子規
赤椿盛りは過て小半月 椿 正岡子規
赤椿隠れ沼見えておそろしき 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
赤楊の朱けなる花を交へたり 軽部烏帽子 [しどみ]の花
赤楊の花うなだるる穀倉地 角田双柿
赤楽のおもみも冬のはじめかな 鷲谷七菜子 天鼓
赤樫の花と思わず空淡め 松田ひろむ
赤橋わたらず川わたらず夏狐 阿部完市 春日朝歌
赤海亀くるてふ浜の夕ほてり 辻美奈子
赤海老のさしみ縮めり深雪の夜 殿村莵絲子 牡 丹
赤海鼠裏側見られて仕舞ひけり 高澤良一 素抱
赤湯とて温泉の濁りなる残暑かな 尾崎迷堂 孤輪
赤灯りて死ぬる人あり大三十日 村上鬼城
赤煉瓦うれしき八十八夜来る 田中裕明 花間一壺
赤煉瓦雪にならびし日比谷哉 雪 正岡子規
赤煮えの蜑が初湯を出て歩く 静塔
赤牛がどたりとねまり島の秋 中山純子 沙 羅以後
赤牛が一枚上手牛角力 高澤良一 寒暑
赤牛に空はれ風の七かまど 渡辺幸子
赤牛のかたまり動く大夏野 斉藤小夜
赤牛の尻を目がけて虻叩く 深沢義夫
赤牛の火のごと阿蘇の牧の秋 皆吉爽雨
赤牛を濡らして肥後の若葉雨 亀井朝子「雉俳句集」
赤牛岳に火星水晶岳に月 岡田日郎
赤牛岳を墓標と見ればほととぎす 福田蓼汀 秋風挽歌
赤犬が居り春帽とならむ 細見綾子 花 季
赤犬の欠伸の先やかきつばた 一茶「七番日記」
赤犬は跛なりけり春驟雨 石田あき子 見舞籠
赤犬を叱りぬ亡父も西の風 攝津幸彦
赤犬を呼ぶ春日の第一声 細見綾子 黄 炎
赤狐父晩節に過てり 芳賀啓
赤猪子の怨嗟の紅に蓮咲く 大橋敦子
赤猫のうるさくなりぬ春の暮 山店 芭蕉庵小文庫
赤甘藷は赤き芽に出て苗障子 邊見京子
赤眼して母亡き冬の臼辺鳥 猪俣千代子 秘 色
赤立つやただ一枚のゴツホの絵 田中裕明 花間一壺
赤筋の手袋ながら借りかへる 川島彷徨子 榛の木
赤米の刈穂干しあり鹿島道 中島真理
赤米の神の田に幣苗代田 河野頼人
赤米の神の畦こそ厚く塗る 向野楠葉
赤米の稲架にあふるる大和の日 渡辺 和子
赤米を噛めば来たりぬ日雷 原裕 『王城句帖』
赤米を扱ぐと千歯の修埋かな 大屋得雄
赤米を食べ太宰府の梅探る 松井子
赤米搗くこの冷え谷のかぎりなし 小池弘子
赤糸も湯に漂ひぬ柚子袋 鈴木鷹夫 春の門
赤紐の草履も見ゆる秋の夕 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
赤絵鉢せいぜい雪の幕末まで 攝津幸彦 鹿々集
赤縞の袷なんど着て声変り 尾崎紅葉
赤置いて白華やげりシクラメン 今橋眞理子
赤翡翠とどまるところから燃える 高桑婦美子
赤翡翠なぞへの村が雲を堰き 城戸愛子「草朧」
赤翡翠忌来べき人皆来り 市村究一郎
赤翡翠鳴き一軒湯ランプ消す 雨宮美智子
赤肌の崖にちかづき藤を見る 百合山羽公 故園
赤腹とあだ名や立ちて紅葉鮒 紅葉鮒 正岡子規
赤腹に/時ぞ留まりて/遺父いづこ 大岡頌司
赤腹に出合ったその日ふしあわせ 平島俊子
赤腹に波立ち暮るる湖白し 原柯城(馬酔木)
赤腹のこゑあけくれの梢かな 伊野まさし
赤腹のこゑ降り暮るる天幕村 小林碧郎
赤腹のキヨロンと覗く搾乳小屋 松崎鉄之介
赤腹の声の鋭く荘の朝 山口堯
赤腹の山河清き日征きました ひらきたはじむ
赤腹の波立ち暮るる湖白し 原柯城
赤腹の泳がぬときの手足かな 小原澄江
赤腹の滅多に腹は見せぬなり 佐藤淑子(雨月)
赤腹の赤腹見んと裏返し 窪田佳津子
赤腹は倦怠たまる赤さなり 栗林千津
赤腹や幻のごと街はあり 徳弘純 麦のほとり
赤腹や未明の出湯に顎沈め 石川桂郎 高蘆
赤腹や湖はまだ朝のいろ 目黒十一
赤腹をちらりと見する*いもりの恋 橋詰沙尋
赤腹をつまみし後の指火照る 杉山瑞恵
赤腹鳥に従ひあゆむ晩夏なり 堀口星眠 営巣期
赤腹鶫の谺をかへす月山湖 鈴木幹恵
赤芽咬んで一鳥叫ぶ火山灰曇り 原石鼎
赤芽垣曲りて美しき門ありぬ 木村孝子
赤芽柏のとみに赤きは鳥も来ず 野沢節子 八朶集
赤草や夕日に重き水の色 重厚「類題発句集」
赤菊の蕾黄菊の蕾哉 菊 正岡子規
赤菊をそへし柚味噌の贈物 菊 正岡子規
赤蕪の土を拂へば高野かな 岡井省二
赤蕪の百貫の艶近江より 大石悦子 群萌
赤蕪の紅に黄船の飛雪かな 鈴木鷹夫 風の祭
赤蕪の羞らひもなき赤さかな 片山由美子 水精
赤蕪の肩新雪となりにけり 中戸川朝人 星辰
赤蕪は峠越えくる風の色 和知喜八
赤蕪を一つ逸しぬ水迅く 青邨
赤蕪を切なきまでに洗ひをり 友岡子郷
赤蕪を吊る粗壁に荒莚 角川春樹
赤蕪を噛みて春逝く香と知れり 秋光 泉児
赤蕪を赤子のごとく洗ひをり 大石悦子 聞香
赤蕪笊うす濡れて二日経つ 伊藤敬子
赤薔薇と白薔薇と枝を交へけり 薔薇 正岡子規
赤薔薇や萌黄の蜘の這ふて居る 薔薇 正岡子規
赤藻浮く水の濁りや旱雲 乙字俳句集 大須賀乙字
赤蛙焼く酢豆腐の拙者として 石川桂郎 四温
赤蜂の交りながらも暑さかな 室生犀星 犀星発句集
赤蜂よこの夏は水塩辛き 依光陽子
赤蜻蛉けさ虫の音もちからづき 木津柳芽 白鷺抄
赤蜻蛉とまつているよ竿の先 三木露風
赤蜻蛉に日和定まりて暮れにけり 青峰集 島田青峰
赤蜻蛉のせて流るゝ瓢かな 寺田寅彦
赤蜻蛉ひたと伏せたる影の上 今井つる女
赤蜻蛉ふゆる死後にもかかる空 行方克巳
赤蜻蛉ふれたるものにとまりけり 松村蒼石 露
赤蜻蛉まだびしよびしよの空の中 小檜山繁子
赤蜻蛉まなかひに来て浮び澄む 日野草城
赤蜻蛉むれて炎となりにけり 滝口照影
赤蜻蛉もつとも激つ瀬に群るる 福田蓼汀
赤蜻蛉コタンの薪にひと休み 日影幸子
赤蜻蛉三十路ふりむくこと多し 行方克巳
赤蜻蛉乾きし音をたてにけり 黒坂紫陽子
赤蜻蛉光に変りひかり殖ゆ 栗原加美
赤蜻蛉分けて農夫の胸進む 西東三鬼
赤蜻蛉地藏の顔の夕日哉 蜻蛉 正岡子規
赤蜻蛉夕日を乗せて飛んでをり 石井とし夫
赤蜻蛉多く飛過てから庭に打つ水よ 北原白秋
赤蜻蛉天の瑠璃には縫目なし 伊丹丈蘭
赤蜻蛉島より島へ瀬戸の海 青柳園子
赤蜻蛉拾ひしきしやご皆落す 龍胆 長谷川かな女
赤蜻蛉指しその指をしやぶり出す 渡辺幸弓
赤蜻蛉標立つのみの蘭館趾 石塚友二 方寸虚実
赤蜻蛉檜山杉山ながめ倦きぬ 瀧春一 菜園
赤蜻蛉止まりなほして神の前 藤井寿江子
赤蜻蛉殺生石より湧く如し 広瀬一朗
赤蜻蛉水車も捨てし野果なる 乙字俳句集 大須賀乙字
赤蜻蛉汝も動かぬこと好きか 嶋田一歩
赤蜻蛉濃き豊作のみえて来し 太田土男
赤蜻蛉火の粉払うようにはいかぬ 宇田蓋男
赤蜻蛉父ゐし母もをりし過去 嶋田一歩
赤蜻蛉百日紅の実にとまる 岸本尚毅 鶏頭
赤蜻蛉砂丘は音も影も消す 石原 透
赤蜻蛉筑波に雲もなかりけり 蜻蛉 正岡子規
赤蜻蛉繁くして川流れたり 瀧井孝作
赤蜻蛉翅うつ音さへ山日和 福田蓼汀 山火
赤蜻蛉翔び交ふ山の露天風呂 土屋保夫
赤蜻蛉茫々と沼を拓きをり 乙字俳句集 大須賀乙字
赤蜻蛉運動会の日となりぬ 子規句集 虚子・碧梧桐選
赤蜻蛉頭の痛き午後の空 石塚友二 方寸虚実
赤蜻蛉飛び交ふ象の水呑場 屋代ひろ子
赤蜻蛉飛び立ちて石軽くなる 平子 公一
赤蜻蛉飛ぶや平家のちり~に 正岡子規
赤蜻蛉魔法をかけし指にかな 塩月すなほ
赤蜻蛉鳥毛の槍の通りけり 蜻蛉 正岡子規
赤蜻蜒飛ぶや平家のちりぢりに 蜻蛉 正岡子規
赤蝮捕へらるるを見てをれず 鈴木石花
赤蟻に上がり込まれて梅雨の家 高澤良一 素抱
赤蟻のあまた木傳ふ若葉哉 会津八一
赤蟻のぶつかり合へり箒星 上野まさい
赤蟻這うひとつの火山礫拾う 金子兜太「少年」
赤行燈西瓜を切りて竝べけり 西瓜 正岡子規
赤詰草白詰草に勝る丘 高澤良一 寒暑
赤豆粥此のあけぼののにほひかな 升六
赤貝の剥かれて赤さ増しにけり 鈴木久美子
赤赤と氷の音が殺し合う 川崎真彌
赤足袋にゐのこづち着け子が生れず 中山純子 沙羅
赤足袋のふくらんだまま脱がれある 上野泰 佐介
赤足袋を手におつぱめる子ども哉 一茶
赤軸の吉書の筆をもらひけり 松瀬青々
赤鉛筆の芯の太きがあたたかし 嶋田麻紀
赤鉛筆遅々と春光漲れり 林原耒井 蜩
赤錆の棗も交じる川辺の木 高澤良一 素抱
赤錆の秋篠川に葦垂直 沢木欣一
赤錆びの船も走るぞ稲日和 中川宋淵 遍界録 古雲抄
赤錆ぶる引込線や海紅豆 佐川郁子
赤門はいちにち赤し春の風 小川軽舟
赤阪の御油へつゞく田植哉 田植 正岡子規
赤革が殻になるまで烏瓜 百合山羽公
赤靴の女が立てる社会鍋 鈴村寿満
赤領布の石仏五百寒椿 柴田春生
赤馬の鼻で吹けり雀の子 一茶 ■文化八年辛未(四十九歳)
赤馬を描きし湯飲み福沸 西本才子
赤髭を蓄ふしぐれ通りけり 宮坂静生 山開
赤髯譚菠薐草の赤い脚 末永有紀
赤鬼は蹠も赤し涅槃の図 塩川雄三
赤魚(あかうを)を焼きたる灰を篩(ふる)ひをり 宮坂静生
赤鳥居十まで数へ山眠る 渡辺喜代美
赤鳥居若葉の社古りにけり 若葉 正岡子規
赤鵙や溶岩のほてりを癒やす雨 白岩 三郎
赤黄男の忌飛ぶや出羽路の如月を 畠山カツ子
赤黄白まつすぐだからチユーリツプ 川崎展宏
赤黄黒まはり澄んだる独楽が好き 上村占魚 鮎
赤黴の自治領蟻が通りけり 高澤良一 ぱらりとせ
走つても転んでも夕焼の赤さ逃れられぬ 細谷源二
足ふるふ胎内くゞり蔦赤し 蔦 正岡子規
足もとの赤ひ時見よ下紅葉 井原西鶴
路地奥に空のありけり赤とんぼ 酒井大輔
跳ねたる夏星赤毛の赤ン坊漁夫が抱く 磯貝碧蹄館 握手
踏切に赤蜻蛉群れ十代過ぐ 宮坂静生 青胡桃
踏切を赤風船のをどりゆく 南 典二
身の秋やあつ燗好む胸赤し 炭太 (たんたいぎ)(1709-1771)
軒先に鬼灯赤し母見舞ふ 山田弘子 螢川
転生や雪後は風の松赤し 岩田昌寿 地の塩
軽雷や松を下りくる赤楝蛇 水原秋櫻子「残鐘」
轆轤蹴る少年の背に赤とんぼ 水原 春郎
辻々のともし火赤し枯柳 枯柳 正岡子規
近づけばほぐるる赤や曼珠沙華 嶋田摩耶子
追ひかけて空に堰なし赤とんぼ 望月延子
逆立つ世棕櫚は花つけ赤児ねむる 佐藤鬼房「夜の崖」
通草食む烏の口の赤さかな 小山白楢
造化又赤を好むや赤椿 高浜虚子
連翹や茶室の棟の赤瓦 四明句集 中川四明
連翹や鳴く鶴の子の口赤し 閭門の草(櫻[カイ]子の自選句集) 安斎櫻[カイ]子
進水待つ子等種痘の赤さまた見せあひ 加藤知世子 花寂び
遊船に秩父赤壁かむさり来 上武峰雪
遍路婆八十三の赤ゆもじ 鈴鹿野風呂 浜木綿
道すがら祭の家の炉火赤し 木村蕪城 一位
道の辺に赤牛匂ふ端午かな 村山古郷
道塞ぎ来る赤ブーツ黒ブーツ 岸風三樓
達磨忌の旭たふとや赤東堂 許 六
遠き雪嶺日の大きな赤児見て 北原志満子
酒中点燈ひとりで酌めば蚊も赤し 磯貝碧蹄館
酒赤し、甘藷畑、草紅葉 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
酸素足ればわが掌も赤し梅擬 石田波郷
里芋の赤芽大吉丹波から 大石悦子 聞香
野分中ガーベラ赤しまた暗し 藤田湘子 途上
野犬の目赤し芽立ちの垣に啖ふ 『定本石橋秀野句文集』
野菊濃し柿赤しとて旅つづけ 上野 泰
野馬追の赤熊に隠る女武者 加藤房子
金銀針茄子赤さを島の日がぬくむ 和知喜八 同齢
金魚赤し吾子が笛吹くこと覚え 松倉ゆずる
金魚赤し賞与もて人量らるる 草間時彦
針山の針に赤糸まつり笛 鈴木鷹夫 大津絵
錦鯉跳ねて赤赤響きけり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
鎌倉に来て赤椿虚子椿 深見けん二
鎌倉の山の椿の赤さかな 京極杞陽 くくたち上巻
長垂らすねぶた跳人の赤だすき 檜 紀代
長崎の夾竹桃の赤ばかり 黒木幸子
長靴の林移動す赤*むつへ 熊谷愛子
阿蘇寒し赤よな染めの火口壁 石原八束 空の渚
隋の寺干したる薬種の赤と黒 関森勝夫
障子まで柿の赤らみ旅の目覚 加藤知世子 花寂び
隠岐枯れて大赤断崖(なぎ)の吹かれけり 佐怒賀正美
雁渡る下赤彦の歌碑に立つ 深見けん二
雑魚と置く赤*えいの眼の憤り 皿井旭川
雛棚や幕紫に桃赤し 雛祭 正岡子規
雛罌粟の日を恋ひ海を恋ふ赤さ 鷹羽狩行
雨の赤つつじぴんぼけ眼鏡の度 高澤良一 素抱
雨中なる声の幅出す赤彦忌 進藤一考
雨歇間麦畑赤む向ひ島 滝井孝作 浮寝鳥
雨濡れの田づら赤らむ親鸞忌 田平龍胆子
雨風にますます赤し唐辛子 唐辛子 正岡子規
雪こぼし赤啄木鳥の和す祝婚歌 山元正也
雪の上に置く朝市の赤蕪 吉田早苗
雪はやき赤岳農婦菊を焚く 及川貞 夕焼
雪中に焚く枕木の赤焔 右城暮石 上下
雪中に赤芽たたえて岳樺 松村蒼石 雁
雪催ひ相馬赤牛首をふり 島ふで女
雪切スコップ赤柄やたつき積みはじむ 平井さち子 完流
雪掻に童女も混る赤シャベル 稲葉三恵子
雪晴や挽かれし板の芯赤し 宮坂静生 青胡桃
雪沓に赤紐身の上相談所 桂樟蹊子
雪解の子頬の赤らみ耳へ続く 香西照雄 対話
雪解や赤が赫く雉子の顔 野村喜舟 小石川
雪野来て半鐘記号の赤連珠 平井さち子 紅き栞
雪降るや僻地のネオン赤がちに 有働亨 汐路
雲の中赤岳崩ゆる菌狩 相生垣瓜人 微茫集
雲垂るる茂吉のくにの赤茄子 刑部和子(天為)
雲脱ぐは有明山か柿赤し 水原秋桜子
雲走り生み散らす如赤蜻蛉 濱村甫子
霍乱ややけ砂はしる赤跣 霍乱 正岡子規
霜焼の頬の赤らも頼まるゝ 林原耒井 蜩
霧の流れにさからひはしる赤蜻蛉 瀧春一
霧ひらく赤襟巻のわが行けば 西東三鬼
霧島は霧にかくれて赤とんぼ 種田山頭火
露とんで赤富士の色また変はる 綾部仁喜 樸簡
露の彩動き赤富士現じけり 石原八束 雁の目隠し
露天湯に浸りて仰ぐ赤蜻蛉 菊池栄子
霾るや星斗赤爛せしめつつ 小川軽舟
青木の実ころころ赤し襁褓縫ふ 石沢清子
青木の実赤しと赤児歩き初む 中村明子
青木の実赤しみかどの終焉地 滝 佳杖
青樓のともし火赤し星月夜 星月夜 正岡子規
青簾寺は赤板人死なず 尾崎紅葉
青葉見む抱きし赤児と胸合ひて 平井さち子 紅き栞
靴屋の奥に赤児の衣見ゆ初蛙 磯貝碧蹄館 握手
韃靼に没る日の赤し亀巣の忌 蔵 巨水
頂きが少し赤富士雁の声 井本農一
頂上に誰もをらざる赤とんぼ 石田郷子
頬の少しの赤さを吉兆としていいですか 阿川花子
頬赤と蕎麦待つ高原大き傘 阿保恭子
頬赤や夢まだのこる未明行 堀口星眠 営巣期
頬赤や峠越えれば札所寺 岩間民子
頬赤来て峠の夕日いま円に 塩野谷仁
風の日の水さびさびと赤蕪 長谷川久々子
風生の赤富士の碑や枸杞熟るる 鈴木白祇
風神も雷神も赤冬桜 鈴木太郎
風神青く雷神赤し除夜詣 北野民雄
風船も女も赤し門司港 小川軽舟
風船虫浮沈ひとすぢ布赤し 近藤一鴻
風船赤し子はくだものの匂ひして 成田千空
颱風のさ中に剥きて柿赤し 野澤節子 黄 瀬
飛騨一之宮抜きたての赤蕪 金子青銅
食器沈む川にあつまる赤蜻蛉 中拓夫 愛鷹
飯遅き旅籠の縁や赤蜻蛉 竹冷句鈔 角田竹冷
飴細工の鳩の目赤し午祭 高木淳之介
餅つきや亭主のすきな赤襷 餅搗 正岡子規
餘の草にはなれて赤しまんじゆさけ 曼珠沙華 正岡子規
香久山に赤ひもの干すつゝじ哉 横井也有 蘿葉集
馬の眼のどこかが赤し合歓の花 横山白虹
馬士(うまかた)に見られて赤し森の蔦 立花北枝
馬柵の門入れば赤腹のこゑあがる 山谷春潮
馬肉赤し唐招提寺曇りつつ 星野昌彦
馬鈴薯咲くや赤彦旧居へあと二町 大野林火
馳すは赤犬狂院の雪地を隠す 岩田昌寿 地の塩
駅前の自転車サドルに赤とんぼ 高澤良一 随笑
駅枯れて壁に童画の赤多し 飴山實 『おりいぶ』
骰子の一の目赤し春の山 波多野爽波(1923-91)
骰子の一の目赤し開戦日 吉田ひろし
高きは銀杏の梢から赤とんぼうのふえし今日しも 梅林句屑 喜谷六花
高梁の黄河の風に赤熊めく 田中英子
鬼灯が赤らむ祭提灯も 市村究一郎
鬼灯の少し赤らむぞなつかしき 鬼灯 正岡子規
鬼灯の赤しと跼むことなしに 林田紀音夫
鬼灯の赤らみもして主ぶり 高浜虚子
鬼灯の赤らんでいる豆腐店 浅香律子
鬼灯はまことしやかに赤らみぬ 高浜虚子
鮎焼きて残る火赤し時鳥 雑草 長谷川零餘子
鮠透くや赤帯垂らし堅田の子 岡部六弥太
鮭飯のほの赤味さすぬくみかな 大野林火
鰒提てむさしの行や赤合羽 一茶 ■文化三年丙寅(四十四歳)
鰻焼き一筋の母赤褐色 青木節子
鳥はらはらどれが目白やら頬赤やら 色鳥 正岡子規
鳥はらはらどれが頬赤やら目白やら 色鳥 正岡子規
鳩の脚赤しつめたき水呑んで 若林とら三
鳳仙花の赤散る雨の降りはじめ 細見綾子
鳳仙花白に隣りて赤濃し 松藤夏山 夏山句集
鳴猫に赤ン目をして手まり哉 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
鴇草に空青しとも赤しとも 後藤比奈夫 花びら柚子
鴉あつまり赤屋根の蜜を埋葬する 八木三日女
鴬の来てあけぼのの庭に胸赤し 水原秋櫻子
鶏頭のいよいよ赤し枯るる時 長閑
鶏頭の初心の赤を失はず 東野礼子
鶏頭の根まで赤しや甲斐の宿 青木泰夫
鶏頭の烈しき赤を離れけり 武田知子
鶏頭の蜂起の赤と思ひけり 大石悦子
鶏頭の赤が最も暗き庭 山田弘子 懐
鶏頭の赤さや我れにふるさとなし 内藤吐天 鳴海抄
鶏頭は捨身の赤や東慶寺 川崎慶子
鶏頭は茎まで赤し山の風 大串章
鶏頭や雁の来る時なほ赤し 松尾芭蕉
鶫来て赤腹が来て酒うまし 成井惠子
鶲頭は捨身の赤や東慶寺 川崎慶子
鶴渡る大地の阿呆 富澤赤黄男(1902-62)
鷽の来てあけぼのの庭に胸赤し 水原秋櫻子
麥蒔の赤ごしまきは娘かも 麦蒔 正岡子規
麦の穂も赤らむ物を法の声 上島鬼貫
黄がちの村 端で赤児の手が ひらひら 伊丹公子
黄の列へ赤飛び込んでチユーリップ 石井とし夫
黄勝ちの村 端で赤児の手が ひらひら 伊丹公子 陶器の天使
黄菊白菊一もとは赤もあらまほし 菊 正岡子規
黄菊赤菊ござでかたげて霜の町 松瀬青々
黄葉赤葉それかあらぬか斤鸚 松岡青蘿
黒く又赤し桑の実なつかしき 高野素十「雪片」
黒牡丹赤を極めて行き尽きし 稲畑汀子
黙し去る赤啄木鳥父の忌なりけり 堀口星眠 営巣期
●朱
*はまなすの実の朱けになほ花つゞけ 高濱年尾 年尾句集
*もぎたての朱欒の匂ひ日の匂ひ 田代八重子
「軍事郵便」の朱今も濡れざま木の芽雨 平井さち子 完流
いたゞきて薫風に坐す朱の褥 渡邊水巴 富士
いねし子の朱唇にうるむ雪夜かな 渡邊水巴 富士
おのが朱の色にたぢろぎ唐辛子 鷹羽狩行
おぼろ夜の妙見社殿朱塗りにて 松本陽平
おん袖に朱の一点や男雛 照子
お十夜や御朱印掘に掛行燈 西本一都 景色
お彼岸の朱の全円の夕日かな 福田蓼汀 秋風挽歌
お降りや朱の橋渡り朱の門へ 高橋朋
かじかむや大き朱塗の牡丹刷毛 下田実花
かりがねや紐の朱の透く母の数珠 長田等
がまずみの朱き實尖りきたらずや 八木林之介 青霞集
きりぎりす村翁の句に朱をしるす 百合山羽公 寒雁
ぎんねずに朱ケのさばしるねこやなぎ 飯田蛇笏
くちなしの実の朱くなり母恋し 赤堀秋荷
くるぶしの朱に立ちつくし寒施行 井沢正江
ころげゆく柳絮の毬に朱壁あり 原田青児
ころもがへ塵打拂ふ朱の沓 蕪村遺稿 夏
さめざめと朱をさす雲よ葉月潮 秦夕美
しぐるるや花衣句碑朱を放つ 穴井太 原郷樹林
その中の人参朱き夏料理 中井川草舟
その奥に朱聨透け見ゆ朱欒園 千代田葛彦 旅人木
ちぎりたる日附書きある大朱欒 田代杉雨堂
つきぬけて天上の紺曼朱沙華 山口誓子
つぼむ梅年のきはめの朱印かな 重頼
つるもどきその次の朱次の朱 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
としよりに猫柳朱を沁じませる 松村蒼石 雪
ともどもに枯れ枯萱は朱帯びけり 北原志満子
はてしなき雪野に鶴は朱を点ず 木下ふみ子
はばたける朱き腋見ゆ羽抜鶏 山口誓子
はまなすの朱き実ほどの胸燃やす 文挟夫佐恵 黄 瀬
はららごの朱く透けゐる蒸鰈 長谷川櫂 蓬莱
ひらきたる扉の錆朱読始 片山由美子 天弓
ひんやりとしゆりんと朱夏の宇宙駅 攝津幸彦 鹿々集
ふくませて朱墨はかなし筆始 三浦恒礼子
ふりそゝぐ日に戯れて朱欒もぐ 石田波郷
ふるさとは朱欒の市の頃なれや 上村占魚 球磨
ふるさとも南の方の朱欒かな 中村汀女(1900-88)
ほぐるる茅てんたう虫の朱をとどむ 篠田悌二郎
ほぐるゝ芽てんたう虫の朱をとゞむ 篠田悌二郎 風雪前
ほつつりと駒鳥の朱や芽ぶく中 小池文子 巴里蕭条
ほほづきの朱に幾度の別れあり 金龍綵子
ほほづきの朱赤ん坊目あけゐる 中山純子 沙羅
ほほづきの網の目透けり朱唇仏 水沼三郎
ほゝづきは暮れてなほ朱のたしかなり 及川貞
ぼうたんの朱を目裏に蕎麦啜る 関森勝夫
まぐはひは神ぞよろこぶ朱欒かな 岡井省二
まなじりに朱をあつめて櫻守 高橋睦郎 稽古飲食
まなじりの朱ケのあはれや流し雛 中村苑子
まなぶたの朱がまつくらに烏瓜 赤松[ケイ]子
まひるまの涅槃図へ朱を入れたりき 夏石番矢
まんじゅさげその朱ケ飛んで宇佐八幡 高澤良一 鳩信
みあかしの朱蝋あえかに親鸞忌 藤田しづ
みちのくの朱夏の山水掬ひけり 佐川広治
むらさきは朱よりも艶にホクシヤ咲く 岸風三樓
ものの芽へ朱を点々と入れる風 斎藤良子
もりあをがへる楼門は朱のいろ濃くす 太田鴻村 穂国
やすらゐの膳椀朱き祭かな 曾根けい二
ゆくひとへまこと一杓朱夏の水 加藤耕子
ゆづり葉に一線の朱や雲の峰 石鼎
りんりんと朱木瓜つぼみを棘に置く 及川貞 夕焼
わがために朱き実落す懸巣ならむ 安住敦
わが奉ず程朱の学や読始め 池上浩山人
わが心燃ゆるに似たり野火の朱 細谷源二 砂金帯
わが手向冬菊の朱を地に点ず 橋本多佳子
わが朱卓すぐに枯野と文づてに 下村槐太 天涯
わが朱夏の詩は水のごと光るべし 酒井弘司「地霊」
わが朱夏の雪渓なれば汚るるな 大石悦子
わが歳と同じに古りし屠蘇朱盃 小川濤美子
わくらばの朱の一片を置きて去る 上野さち子
われにもくる晩齢秋の朱けいろいろ 北原志満子
アルペンホルン吹くやうガラス工の朱夏 平井さち子 鷹日和
カレンダーにメロンの賞味日朱で標す 森 啓子
カンナ朱に神の愛憎いづれなる 岡本眸
ガスタンクの裾よぎり行く日傘の朱 有働亨 汐路
ガーベラの夜も朱かければこころ冷ゆ 宇咲冬男
ゴーグルを上げれば朱夏の白眉かな 勅使川原三左(ぬかるみ)
シャポーサカモト朱欒の鉢を道に出す 中戸川朝人 星辰
ドアノブの朱字使用中秋の暮 狐野 武
バイブルに若き日の朱線聖五月 沼山虹雨
ビーフカリーは最も淋しい朱夏である 攝津幸彦 未刊句集
フェニックス朱さは力海を前 菖蒲あや あ や
ペガサスの朱馬走りけり初霙 八十島稔 柘榴
ペディキュアの朱を落としけり今朝の秋 藤本享史
ボタ山に人声絶えて朱欒熟る 天童さつき
ボージヨレーヌーボー撥ね橋の朱の落日 山崎 聰
ポインセチアの朱けや一葉忌の夜は 森 白樹
ポインセチア究極の朱と思いおり 松本夜詩夫
マチスの朱身に欲り初夏の風の中 上野さち子
ロッカーに朱欒ごろりと博多駅 遠野 萌
ヴェルテルに朱線引き藷小粒も食ふ 川口重美
一力の朱の壁釣瓶落しかな 肥田埜恵子
一月一日の御朱印貰ひけり 加藤三七子
一点の朱唇褪せざる雛かな 行方克己 知音
一菜とすや人参の朱を和へて 三由孝太郎
万両のいつまで朱い女寺 湯本都也子
万緑に五重の塔の朱をこぼす 松本澄江
万緑に沈む夕日の朱を見たり 福田蓼汀 秋風挽歌
万緑の道をあつめて朱唇仏 穴井太 原郷樹林
万緑や御座船の朱ケゆるぎ無く 岡本差知子
万緑や現在位置を朱で示し 蛯子雷児
三方に朱欒国宝盧遮那佛 川崎展宏
三日目といへる朱さの吊し柿 片山由美子 風待月
上元の朱蝋の金字焔をふくむ 朝永律朗
上元やまぶしき数の朱蝋燭 中村やす子
上元や祈福敬謝の朱蝋燭 下村ひろし 西陲集
中年や蛮朱の象を遠く飼ひ 攝津幸彦 鹿々集
乙字忌の膳に正せし朱塗椀 河野多希女 月沙漠
乳母の家 紅包(あんぱお)の朱が 浮遊して 伊丹公子 機内楽
亀の頭のごとくに朱夏の雲の浦 高澤良一 寒暑
五重の塔の朱は朱からず冬日落つ 阿部みどり女 笹鳴
京人参無垢の朱なり掴みてやる 藤田湘子 てんてん
人の家に崩るゝ罌粟の朱ばかり 石塚友二 光塵
人参の朱をおもいだす真人間 宇多喜代子
人烟にしばらくは朱の鱗雲 紀音夫
人絹の烏追笠の朱ヶの紐 竹下しづの女
人絹の鳥追笠の朱ケの紐 竹下しづの女句文集 昭和十年
今朝秋のうす紙はさむ朱印帳 伊藤京子
仏像の朱は渋き朱や冬の蝶 久米正雄 返り花
仏唇に朱の残りをりうららなり 林翔
仏桑花奄羅の朱を庭に果て 黒田櫻の園
仏桑花洗へど筆に朱の残り 吉田登美子
仏桑華汗の眼窩に朱狂ふ 脇野素粒
仲見世の裏側の朱ヶ春の雪 毛塚静枝
伊子切に錆朱露けき返点 都筑智子
住吉の造営朱けに初卯かな 松瀬青々
侍の朱鞘に出立つ月見哉 月見 正岡子規
信玄の雨来ていちご朱きかな 吉田鴻司
修善寺のご朱印賜ふ涅槃西風 広瀬千鶴
僧の間にかゝりて朱の衣紋竹 小林七歩
元日の朱欒を剥けば日が眩し 永井龍男
元旦の塵ごと朱杯いただきぬ 永井龍男
元朝の朱唇かがやく摩崖仏 穴井太 原郷樹林
元朝や朱塗りの馬車の一家族 池内友次郎 結婚まで
元朝や朱盃に盛らる御饌の酒 藤井佳子
冬ざれや朱をあざやかに受領印 片山由美子 水精
冬来ると朱を沈めたる布表紙 野澤節子 黄 炎
冬来ると汲水場にかざす朱欒かな 西本一都
冬牡丹なかの一つの朱に執す 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
冬紅葉山門の朱にかよひ見ゆ 皆吉爽雨 泉声
冬雲や父軍艦に朱を掲げ 宇多喜代子
冷え~と朱の廻廊を渡るかな 池上不二子
冷麦に朱の一閃や姉遠し 秋元不死男
凌霄花朱に散り浮く草むらに 杉田久女
凌霄花満身の朱の痛みかな 安斎郁子
凍る夜の木瓜に来る朱や夫癒えよ 加藤知世子 花寂び
凍蝶の天与の朱を失はず 飯島晴子
出勤路茨の実朱き共稼ぎ 佐藤十雲
分母には晩夏の朱を置きなされ 田吉明
初午の朱の塗りたての稲荷駅 辻田克巳
初午や朱のなつかしき鯨尺 鷹羽狩行 月歩抄
初富士の朱の頂熔けんとす 青邨
初恵比須朱の大団扇賜りぬ 柴田豊子
初旅の鞄に加へ朱印帳 澤島郁子
初硯筆に朱墨を染ませけり 龍男
初蝶の朱金色に飛べりけり 山口青邨
初雪や紫手綱朱の鞍 井上井月
初霜のぬれて日和や譜に朱うつ 原石鼎 花影以後
利一忌の茎漬に朱の走りたり 宮田正和
削氷や潮路に朱鳥こゑ嗄れて 宇佐美魚目 天地存問
前管猊下朱塗の下駄が日向ぼこ 結城美津女
剥落や辰砂の朱を失わず 和田悟朗 法隆寺伝承
十月の街中にある朱の鳥居 岡村りつ子
卓袱の円卓は朱に秋灯下 野中貴倶子
南国の五月はたのし花朱欒 杉田久女
印度人の傘持御朱印船上に 高澤良一 燕音
印影の朱のあざやかに事務始 日野草城
印影の朱を鮮やかに事務始 宮本径考
危篤なる伯母に朱欒はあだに大き 森川暁水 淀
原爆忌近づく朱き花咲けば 岸風三樓
厩出し朱を縒り込みし牛の綱 太田土男
反りよぢれ朱き百合咲く二つの忌 文挟夫佐恵 雨 月
反り橋は朱の太鼓橋破魔矢買ふ 田中水桜
受難図の朱衣がしたたり秋の風 大島民郎
叡山の雪気柱の朱を剥ぎに 高澤良一 燕音
口に出す最期と思え朱夏天山 相原左義長
古丹波の窯変の朱や風光る 中田貞栄
古代文字の朱の中にあり冬茜 幸喜和子
各の朱ヶの箸さへ花見かな 尾崎迷堂 孤輪
吉祥天の朱唇に供え花山葵 細見綾子
吊花の吊る朱の実や五つ六つ 矢島渚男 延年
吾が葬の日は焚き合へよ朱なる火を 細谷源二 砂金帯
味方となせる朱欒一箇を枕上ミ 沼尻巳津子
咳きを朱のごとくしてゐたりけり 松山足羽
唐辛子つぶさに朱の尖りけり 松村蒼石 雪
唐辛子二束八十歳の朱さ 和知喜八
唐辛子堆朱に稍は咲きながら 石塚友二 光塵
唐辛子捨身の朱と思ひけり 北見さとる
嘉きことを与へむ朱欒剥きにけり 山田みづえ 草譜以後
噴煙や地に熟れ朱欒青朱欒 山田みづえ 草譜以後
囀や天女の御衣朱をのこし 猿橋統流子
四方枯れて朱唇匂へり伎藝天 東條素香
四月尽朱の箸流れくることも 飯田龍太
国分尼寺天平の朱の草紅葉 町田しげき
国土泰くこころにしみる野火の朱ヶ 飯田蛇笏 春蘭
国旗屋も朱に交われば海に散る 仁平勝 東京物語
圓座より見えて朱の花ばかりかな 山西雅子
土中に朱持する人参火気は家に 香西照雄
土用芽の朱きに夕光げこよなくて 甲斐田晃子
地獄図絵朱責めの暑さつづきをり 河野多希女 こころの鷹
地獄絵の朱が目に残り迎鐘 田中驕星
地球儀の海凝視めつつ朱欒剥く 原子公平
垣失せて朱の門残る古都の秋 会津八一
埋火の如き来し方朱鳥の忌 吐合寿実枝
城・朱欒見えてくるもの脈打つて 中戸川朝人 星辰
城跡の朱欒をんなを嫌ひけり 長谷川双魚 風形
塗り上る堆朱火の色冬に入る 伊藤京子
塩鮭の切身の錆朱風の路地 柴田白葉女
墓石に朱文字の大姉一位の実 藤岡筑邨
夏きざす窓掛に蛾の朱一点 篠田悌二郎
夏の灯に発止と朱きたなごゝろ 沢木欣一
夏木立本堂古りて朱兀げたり 夏木立 正岡子規
夏木立朱の鳥居の見ゆる哉 夏木立 正岡子規
夏痩のほつれ毛をかむ朱唇かな 西山泊雲 泊雲句集
夏草の蝶供華の朱へとびうつる 原田種茅 径
夏草や手ふれて見たき仏の朱 加藤楸邨「沙漠の鶴」
夕冷えて鶏頭の朱の改まる 馬場移公子
夕涼し朱印捺したる箸袋 高井北杜
外套千々揉む夜の駅の朱の欅 石塚友二 方寸虚実
多武峰はまづ朱塔より霧の晴 多田裕計
夜々かえり朝来る人の木の朱欒 和知喜八 同齢
夜が二つ出逢えり朱欒手にのせて 渋川京子
夜の太陽朱錆びたるを秋と思ふ 殿村莵絲子 雨 月
夜の秋や主客の朱き箸置けば 岡部名保子
夢に朱欒を抱き重りしが創痛す 藤田湘子
大き朱欒危篤の伯母に見するのみ 森川暁水 淀
大小の朱鞘はいやし紅葉狩 紅葉狩 正岡子規
大年や鳥居の朱ヶも靄の中 久保田万太郎 流寓抄
大朱傘野点にかざし太閤忌 吉井莫生
大朱欒ふりわけかつぎ十夜婆々 河野静雲
大朱欒もぎ空間の生れけり 合田丁字路
大朱欒据ゑてその木の苗を売る 林 三枝子
大朱欒落ちて不知火海見ゆる 宮部鱒太
大津絵の朱の美しき寒暮なり 鈴木鷹夫 大津絵
大皿を洗ひて朱き九月かな 平井照敏
大絵馬の朱のうごくなり牡丹雪 岸田稚魚 筍流し
大雨に朱の糸くづさず曼珠沙華 阿部みどり女 月下美人
大鳥居の朱へ飛び火の島もみぢ 吉村馬洗
天より朱落せし如く柿赤し 上野泰 佐介
天平の朱の大門や大夕焼 西本 俊
天平の朱を唇に冴え給ふ 浅井多紀
天竺に渡らむ朱夏の潮あり 岡井省二「鯛の鯛」
天草の海は平に花朱欒 有馬朗人 耳順
天馬いづこ朱鳥を慕ひ来し夏野 中杉隆世
天馬駆く春暁の夢朱鳥の訃 阿部みどり女
太秦は冬ざれもよし朱の扉 西山泊雲 泊雲句集
妻に呼ばるてんたう虫の朱なる時 加藤かけい
妻に朱欒焼酎をそのあとから出す 石川桂郎 含羞
姥子湯の流れつつじの朱を点ず 太田鴻村 穂国
嫁取りの大盃朱し稲の花 三浦正弘
子の耳朶の日に透く朱さ義士祭 鈴木 勲
子を産んで射干の朱を見て居りぬ 飯島晴子
宿老の紙子の肩や朱陳村 蕪村遺稿 冬
富士朱し暁ひぐらしのやみてのち 黒田杏子 花下草上
寒の内朱唇干されてゐたりけり 赤松[ケイ]子
寒の鯉身をしぼりつつ朱をこぼす 鍵和田釉子
寒木瓜の朱に天命をいただきし 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
寒木瓜を花より朱き卓に置く 水原秋櫻子
寒牡丹哀しきまでに朱をつくす 加古宗也
寒鮒の擲つて朱のまぎれなし 斎藤梅子
寝足りたり花隠元の白と朱 阿部みどり女
寿朱きがうれし返り花 渡辺恭子
小百足を摶つたる朱の枕かな 日野草城
小雪の朱を極めたる実南天 富安風生
小鼓の朱の緒を締むる二日かな 市川つね子
少年の皓歯パプリカ朱に挑む 岡本和子
屠蘇重し軽き朱金の酒杯に 草城
山くれて紅葉の朱をうばひけり 蕪村
山国の朱夏惜むべし御輿振 相馬遷子 山国
山深く在りて枯れゆく山帰来一期の朱も風の泡沫 安永蕗子
山畑に頬朱くして雉子走る 飯村周子
山院や朱楹青苔交る鳥 尾崎迷堂 孤輪
岩水の朱きが湧けり餘花の宮 芝不器男
岩菲の花あまりに朱しすぐ捨てし 加倉井秋を 午後の窓
嵐の岸にて罌粟の句に加朱あざあざ 竹中宏 饕餮
巣づくりの鳥影窓に朱唇仏 秋元不死男
巣燕や南宮大社の朱の梁に 角南英二
帆船に朱夏の井戸水積みにけり 佐川広治
帯〆の朱を選びては雁の頃 都筑智子
干柿に朱のいろ残る廓町 井上雪
干柿のいまだ朱きを雪に吊る 宮津昭彦
年寄りて帯どめの朱や秋袷 飯田蛇笏 霊芝
年神へ吾が還暦の朱蝋燭 水谷芳子
年移る闇に大きな朱欒垂れ 森重 昭
幸せに浸るいで湯や花朱欒 中野喜久枝
庭万年青玉は朱金に年果つる 飯田蛇笏 春蘭
弁天の朱唇にほへる初巳かな 大島直子
弓始我が朱の弓のはれがまし 川原田薄公英
弓掛けし朱貴が酒屋や蘆の花 芦の花 正岡子規
弟子をもて埋む一堂朱鳥の忌 大岳水一路
強右衛門朱に描く磔刑図を曝す 三浦葵水
後宮の朱柱に倚れば蝶の夢 鍵和田釉子
御朱印の乾くを鹿と待ちにけり 加藤三七子
御朱印を冬日に干して延暦寺 西脇妙子
思ひきり朱着てバレンタインの日 岩佐こん
怯える小鳥急にとぼしき椿の朱 河野多希女 彫刻の森
息さむく朱蝋三千ともる待つ 中尾杏子
悪き朱に塗られて暑し仁王門 暑 正岡子規
悴みて堆朱の膳をしまひをり 下村槐太 天涯
惜春のひとで渚に朱印押し 岩本尚子
惜春や堆朱の香炉艶ふかむ 伊藤敬子
戸隠の火蛾の白毫朱眼かな 風生
手焙にさし込む妻の朱羅宇哉 会津八一
折れ曲るオランダ塀の朱欒かな 森永杉洞
指輪ぬいて蜂の毒吸ふ朱唇かな 杉田久女
振り返る朱鞘にさはる芒かな 会津八一
捨て切れぬ思ひの朱線古暦 岡崎津留子
掌で量る朱欒偏差値てふ重さ 木島松穹
放哉や一輪咲きし朱き木瓜 弘田紀子
故弓かなし朱欒の花に日させば 荻真澄
敏雄亡く朱夏の空気が海の上 池田澄子 たましいの話
教会の朱欒ちかづく石蕗の花 和知喜八 同齢
散り敷きし楓の朱に歩幅変へ 平沼桂子
文房四宝堆朱の筥や春埃 中川久子
新甘藷の朱を大切に洗ひけり 三輪満子
新蕎麦や朱塗の膳は剥げしまま 田中冬二 行人
日かげりて朱けのしづまる唐辛子 塚原麦生
日焼濃き老農仁王の朱剥げて 香西照雄 素心
日盛りを朱の薄れゆく太鼓橋 高澤良一 素抱
日脚のぶ一点の朱に渡海僧 宇佐美魚目 天地存問
日輪も朱欒も黄なる国に来し 橋本鶏二
早梅やくちびる朱き童女仏 澤木欣一
明神の朱聖堂の黝梅雨晴るる 橋本榮治 逆旅
春の夜のこの古机に匂ふ朱欒 長谷川かな女 雨 月
春の日の朱をべつたりと中華街 原裕 正午
春仏石棺の朱に枕しぬ 飯田蛇笏 春蘭
春宵や朱の毛朱を噴き化身舞ふ 加藤知世子 花寂び
春愁はポストの朱さかへりみる 原裕 投影
春没日とぼしき朱ケを金魚田に 石田あき子 見舞籠
春眠の朱塗りの橋にさしかかり 佐々木六戈 百韻反故 初學
春色や甕さゝへる朱の柱 野村喜舟 小石川
春闌くるビジネス街に朱の鳥居 和田耕三郎
春雪や村のほとけに朱唇あり 小川軽舟
春雪をのせて一枝の朱ばしれり 赤城さかえ
昼の月かゝりて朱欒老木かな 河野静雲 閻魔
昼の湯浴みの皆子志満子に芒の朱 北原志満子
昼三日月シーボルト址の青朱欒 多田裕計
晩年のなき幸不幸朱鳥の忌 野見山ひふみ
晩蝉や六波羅密寺堆朱なす 岡井省二
暁ときの朱き花食べなめくじり 原 不沙
暑い暑いと朱塗の鞘の町奴 筑紫磐井 婆伽梵
暫くはその香に酔ひて朱欒剥く 古賀まり子
曝す書の朱線は父のつけしもの 今瀬剛一
曲*ろくの朱の担かれ来る枯田かな 金久美智子
曲水の雨や朱杯にふりそゝぐ 渡辺数子
更衣朱鳥やさしき眼をもてる 河野静雲
曼朱沙華どこそこに咲き畦に咲き 藤後左右
曼珠沙華この世の朱のために咲く 原田かほる
月さすや古へ塗りし仁王の朱 野村喜舟 小石川
月の夜は朱儒の来てゐる葱坊主 浅沼 艸月
望郷の夫や朱欒の朱は曉け色 中村明子
朝の柿潮のごとく朱が満ち来 加藤秋邨 起伏
朝の空阿修羅の朱とおもふべし 中田剛 珠樹以後
朝の舟鶏頭の朱を離れたり 大串章 朝の舟
木の芽味噌朱の濃くなりし鮠を焼く 金子伊昔紅
木守柿の朱を散らしゐる虎鶫 石原八束 白夜の旅人
木版の朱を重ねたる福詣 如月真菜
木犀や朱欄高くア鬟月に立つ 木犀ア(あ<Y 正岡子規
木瓜の朱は匂ひ石棺の朱は槌せぬ 水原秋櫻子
木瓜の朱へ這ひつつ寄れば家人泣く 西東三鬼
木瓜の朱を墓また墓のとある角 篠田悌二郎 風雪前
木瓜の雨ほのかに鯉の朱もうかぶ 水原秋桜子
末枯れて朱焔の日ありルオー展 水原秋櫻子
朱い実で空の高さを計ります 神田美砂呼
朱きもの病む子に一つ金魚吊る 石川桂郎 含羞
朱けの舌ちらと日に向け穴まどひ 栗生純夫 科野路
朱と墨を恃む篆刻事始 上津原太希子
朱にめづる根来折敷や納豆汁 蕪村
朱に交り鬼灯市に無頼たり 久米三汀
朱に燃えて散らねばならぬ花柘榴 成瀬櫻桃子 風色以前
朱のコート着て大厄を振り落す 御崎敏江
朱のリボン鍬に結びて植樹祭 飯島正人
朱の一つ殿りにつく野辺送り 森澤義生
朱の丸の入日の中や秋の風 毛紘 七 月 月別句集「韻塞」
朱の南瓜われ太陽のごとく描く 山口青邨
朱の堂に朱の造花満つ花会式 服部高明
朱の塔の見ゆる夕べのなづな粥 佐川広治
朱の多き涅槃図かかり湖の寺 森澄雄 空艪
朱の帯生涯似合へ吾亦紅 野村莵絲子
朱の扉押したる先が春の山 九鬼あきゑ
朱の柱あまた涼しき還御かな 藺草慶子
朱の棒の枯れかまつかの地に刺さり 上野泰 佐介
朱の椀にすこし飯盛る霜夜哉 露月句集 石井露月
朱の椀にみづからを祝ぐ敬老日 松本 美簾
朱の椀に白妙一つ雑煮餅 粟津松彩子
朱の漆木鉢に練つて西日蔵 石川桂郎 高蘆
朱の盆に載せて丹波の雪うさぎ 草間時彦
朱の緒のなほ艶めくや別れ蚊帳 前田普羅
朱の色に好き嫌ひあり君子蘭 稲畑汀子
朱の色の燐寸の頭一の酉 亀丸公俊
朱の袍を召せる華族に弥生尽く 長谷川かな女 雨 月
朱の褪せし漱石全集鳥雲に 片山由美子 風待月
朱の門を開き寒衣を送りけり 原田青児
朱の闇は踊りつくせぬいのり尽きせぬ 渋谷道
朱の闇や踊るひとの荷まもりつつ 渋谷道
朱の鞍や佐野のわたりの雪の駒 立花北枝
朱の鞍や花の吹雪の馬つなぎ 花吹雪 正岡子規
朱の鳥居くぐり且散る紅葉うけ 高木晴子 晴居
朱の鳥居千本くぐる朧かな 老川敏彦
朱の鳥居朱なるは今日の雪待つため 林翔 和紙
朱の點の花滲みきてやぶからし 八木林之介 青霞集
朱みさす加賀の柱や鰤起 長谷川櫂 天球
朱もさびて一の鳥居は穂田の中 邊見京子
朱よりもはげしき黄あり冬紅葉 井沢正江 晩蝉
朱をさらに薔薇に加へて若き画家 鈴木鷹夫 渚通り
朱をそゝぐ入日の後は秋の暮 高井几董
朱を以て点晴の干支雪降れり 中戸川朝人 残心
朱を入れて凧とびやすし冬青空 杉本寛
朱を帯ぶは林檎の化粧ここ信濃 広治
朱を点ず三昧集や梅の花 夏目漱石 明治三十二年
朱を研や蓬莱の野老人間に落つ 太祇
朱ヶの月出て夏草の鋭さよ 川端茅舎
朱儒どんの町の湯流す石蕗の花 岩元益夫
朱兀げて辨天堂の月見哉 月見 正岡子規
朱印めく紅葉ひとひら拾ひけり 永田豊子
朱印帳ひらく臘梅匂ひけり 芳内喜和子
朱印打つ坊守も留守花ざくろ 前川きくじ
朱印濃き遍路衣かむり逝かれけり 中戸川朝人 星辰
朱唇あわあわ 飛雪昏らみの古仏たち 伊丹公子 沿海
朱唇ややあけてやさしき雛かな 阿部みどり女
朱唇仏湖北しぐれてゐたりけり 福島勲
朱夏の旅詩(うた)の嚢(ふくろ)を携えて 高澤良一 寒暑
朱夏の船死者を落とせば軽かろう 岩下良子
朱夏書棚より見付けたり母の字「愛」 堀江喜々
朱柱に侍る地謡松囃子 山田弘子 初期作品
朱椀まゐる一人茶飯や雨蛙 古舘曹人 能登の蛙
朱欒(ざんぼあ)がるいるい颱風来つゝあり 横山白虹
朱欒かげ老母の古き物語 石田波郷
朱欒がるい~颱風来つゝあり 横山白虹
朱欒ただ残り一人の伯母も逝きぬ 森川暁水 淀
朱欒などたたきて跳ねて玉霰 黒田杏子 花下草上
朱欒など手品のごとく出しけり 佐怒賀正美
朱欒に刃絶壁のギリシャがみえる 澁谷道
朱欒の樹僧の仰いで居たりけり 河野静雲 閻魔
朱欒の花生涯のよき旅に知る 殿村莵絲子 花 季
朱欒まだ碧が匂へる鳳作忌 松浦敬親
朱欒みのる梢にひけり海の蒼 宿南かよ
朱欒一顆剥くほどの航島原へ 北澤瑞史
朱欒剥くおのれひとりの灯下かな 浜田坡牛
朱欒剥く夢の朱欒もひとつ剥く 市川千晶
朱欒割くや歓喜のごとき色と香と 石田波郷
朱欒割りサド公爵の忌を修す 有馬朗人
朱欒叩けば春潮の音すなり 飯田龍太 山の影
朱欒咲く五月となれば日の光り 杉田久女(1890-1946)
朱欒咲く島に姥捨ありしとか 軒口敏之「氷室歳時記」
朱欒咲く樹下に海あり有馬領 高橋北斗
朱欒咲く築地の内も坂ならむ(長崎二句) 殿村菟絲子 『繪硝子』
朱欒垂る白秋生家川沿ひに 宮地美保子
朱欒売りざぼんの山に顔があり 今井すえ子
朱欒抱きいつから老といふものか 古舘曹人 樹下石上
朱欒掌に重し伴天連の海眩し 成瀬櫻桃子 風色
朱欒採る一枝ごとにはねあがり 近澤 杉車
朱欒散り鉄砲丁水奔りけり 堀口星眠 営巣期
朱欒照るみち来れば詩碑の字の青さ 下村槐太 天涯
朱欒照る日のあかるさに干蒲団 五十崎古郷句集
朱欒熟れ満月のごとぶらさがる 成瀬元一
朱欒熟れ産み月という瞳の力 川田蓉子
朱欒苦く甘し春夜の貴人たり 長谷川かな女 雨 月
朱欒買ふ四万十川の漁師より 太田明子
朱欒賣月夜の店をたたみけり 黒田杏子 花下草上
朱欒黄に南蛮渡来図寺に古る 大橋敦子 勾 玉以後
朱消えて冷えて虹老ゆ己れかも 八牧美喜子
朱硯に散りしむ墨や庭若葉 内田百間
朱硯に葡萄のからの散亂す 葡萄 正岡子規
朱硯に露かたぶけよ百合の花 蕪村「遺草」
朱硯へ花瓶の水や冬籠 会津八一
朱線の書わが二十歳なる敗戦日 倉林ひでを
朱線みなわれを育てし書を曝す 神野青鬼灯
朱膳喰うはるかはるかな敗荷 安井浩司 中止観
朱身仏にふはりふはりと春の雪 今井妙子
朱鳥の死まこと雛の日もまこと 阿部みどり女 『雪嶺』
朱鳥忌の天に淡雪二三片 林十九楼
朱鳥忌の廂吐き出すくもの糸 宇佐見魚目
朱鳥忌の河口へ急ぐ雪解川 野見山ひふみ
朱鳥忌の鴨居に釘のある二月 野見山ひふみ
朱鳥翔ぶ夢を雪ふる萱の原 赤松惠子
朴の実は朱し君老ゆること勿れ 栗生純夫 科野路
村上の堆朱乾鮭しぐれけり 黒田杏子 一木一草
東北(とうぼく)謡ひそびれて朱の二月盡 塚本邦雄 甘露
松の内 朱の帯はずす新刊書 佐野二三子
松杉や朱の圍垣の薄紅葉 紅葉 正岡子規
林檎の朱しばらくは刃に逆らへる 後藤軒太郎
枯れがれの山の橋脚朱を張れり 影島智子
枯畳の平野石狩朱の鷹とぶ 寺田京子 日の鷹
枯野きて朱のまま枯るるものに遇ふ 谷中隆子
枯鶏頭種火のごとき朱をのこす 馬場移公子
柊挿す山門脇の御朱印所 栗田やすし
柿の朱に亡びざるもの何々ぞ 加藤秋邨 起伏
柿の朱に堪へゐしが寝落つ熱の中 桜井博道 海上
柿の朱に女むらがり顔洗ふ 加藤知世子 花寂び
柿の朱の極まれば来る波郷の忌 馬場移公子
柿の朱を点じたる空こはれずに 細見綾子 黄 炎
柿の朱ケ身に沁む髪膚衰ふに 佐野美智
柿の朱光寂莫とあり墨を磨す 内藤吐天 鳴海抄
柿朱くなるともわれは梢かな 平井照敏 天上大風
柿食えば朱き言葉を独り言 葉月ひさ子
校正の朱を八方へ冴返る 福永耕二
根本中堂秋の朝日に朱を朱にす 大野林火
桃青忌朱硯ひとつ欲しと思ふ 槐太
桜の実朱唇ゆたかに伎芸天 松本澄江
桜蕊降るを怺へてほの朱し 山崎千枝子
梅どきの笛寄せたまふ朱唇佛 角光雄
梅もどき錆朱をつくる風の魔手 河野多希女 こころの鷹
梅雨の底古フィルムは朱に敏し 中戸川朝人 尋声
梅雨冷や舌に朱のこる餓鬼草紙 三森鉄治「仙丈」
梅雨秘仏朱唇最も匂ひける 水原秋櫻子
梔子の実にある朱や霙降る 龍男
棺出して朱夏の畳の高さかな 武藤鉦二
椿の朱は 観音の唇 山気満つ 伊丹公子 山珊瑚
椿落ちて万緑叢中一朱唇 楠本憲吉
樟の朱い芽むくむく山の斜面だ 北原白秋
樹の膚に朱を打つ虫や若葉季 水原秋櫻子
樹海の底の花火点々雁皮の朱 瀧春一(暖流)
橋の名に朱をさしてゐる利根の春 西本一都
橙朱欒鏡のなかの橙朱欒 小澤實 砧
機の窓や聖金曜の朱き月 小池文子 巴里蕭条
欄干の朱にも触れたる落葉かな 今泉貞鳳
欄干の朱のあざらしき神迎へ 谷口ゆり女
歌もなし朱印さひしき西瓜哉 西瓜 正岡子規
歯固や短かく朱きをんな箸 中村堯子
死なしてはならず躓く*しどみの朱 篠田悌二郎
気疲れに朱が忍び込む青木の実 鍵和田[ゆう]子 未来図
水引の朱に来て夕日使ひきる 雨宮抱星
水引の朱ひとすじが風の中 徳毛あさ子
水掻の朱がひた濡れて春の鴨 水原秋櫻子
水朱く騒ぎ出したり鍛冶始 佐野鬼人
水濁る上に茱萸の朱一つ一つ 和知喜八 同齢
水禍頻々朱き梅雨茸土に水に 野澤節子
水音を越えて仙翁朱ヶひとつ 文挟夫佐恵 遠い橋
氷上をさざなみ走り朱鳥の忌 山上樹実雄
氾濫すハングル文字や朱夏の市 谷中隆子
汐満ちてうからやからの朱欒かな 五島高資
汝がひける朱線眼に憑く夜あたたか 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
沈む日と籾殻の火と朱の二つ 金箱戈止夫
河骨に一匹の鯉朱をながし 阿部みどり女
油画を見る高橋由一鮭の朱 澤柳たか子
泊船の水夫提げゆく朱欒かな 皆川盤水
法印の朱き雪下駄修正会 加藤三七子
法要の朱扇も秋の扇かな 渡辺大円
波がしらまづ朱に染めて初日かな 柴田多鶴子
浮く亀の目尻に朱あり花筏 村田白峯
浮浪焚火映え電柱も一朱柱 香西照雄 素心
海へ雪嶺へ舞ひは銀朱や朱鷺の夢 加藤知世子 花寂び
海女沈む鮫除帯の朱を曳いて 久野一花
海月朱くしてすぐに失せやすし 加倉井秋を 午後の窓
海月朱し人に飼はるる朱にあらず 加倉井秋を 午後の窓
海月朱し曲馬の天幕のどこかの色 加倉井秋を 午後の窓
海風に木瓜の朱奪られ善守の堂 加倉井秋を
海風の日覆あほつ朱欒売 小林康治 玄霜
海鼠腸や朱のよく入りし三冊子 宇佐美魚目
涼つよく朱文字痩せたる山の墓 原裕 青垣
涼暮月楓の朱葉濡れしたたり 長谷川かな女 牡 丹
淋代の朱夏や馬上の束ね髪 田中玲子
湖 の 冬 の 社 は 朱 の 社 富澤赤黄男
湯豆腐の浮沈を縫うて朱の箸 日野草城
満帆の船は白鳥朱夏まぶし 桜井初枝
漆弟子に朱使ひ許りぬ今朝の春 久米正雄 返り花
潤朱のとろとろ坐る周防雛 鳥居美智子
潰えたる朱ヶの廂や乙鳥 篠原鳳作
濤に向くオランダ坂の朱欒の実 降幡加代子
濤ひゞく朱欒の下に母は肥えぬ 藤田湘子 途上
火が灰をかづきゆく朱の春火桶 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
火と水の周辺朱夏がきらきらす 河野多希女 こころの鷹
火に透けて錆朱の深き柿落葉 角川春樹
火の国の火よりも朱し曼珠沙華 清水徹亮
火の山も海も隣人朱欒咲く 脇本星浪
火の朱鳥石の茅舎や蝉時雨 中杉隆世
灯がさせば麦は夜半も朱きなり 田中灯京
炉の名残墨交る朱硯洗ひけり 柴田紫陽花
点鬼簿の名がみな朱し螢の夜 恩田侑布子
為事の日実山椒朱を脱ぎ漆出で 中村草田男
烏瓜朱なり水ゆく無明かな 加藤楸邨
烏瓜朱に交はらぬ一顆かな 小國弘二
烏瓜枯れなむとして朱を深む 松本澄江
焙られし桜*うぐひに朱の一線 小室津満子
焚かねど燃ゆるばらの朱明日来るや 細谷源二 砂金帯
焚火より朱きつちくれに芽ぐむもの 沢木欣一 雪白
焼芋や八坂神社の朱の鳥居 龍岡晋
煉炭に*こおろぎが来て朱を点ず 萩原麦草 麦嵐
煌として朱門に開く牡丹かな 伊良子清白
煤さはぎすむや御堂の朱蝋燭 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
照れば氷の底に目高の朱を曳きぬ 臼田亞浪 定本亜浪句集
熊打ちの拠点の地図へ朱を求む 新田汀花
熱の子の指すサルビヤの朱がかすむ 阿部みどり女
爪を立てためらふ朱欒久女の忌 朔多 恭
父母のそろひの朱椀小豆粥 三浦恒礼子
片向きて傾く舞童の朱唇かな 攝津幸彦 未刊句集
牡丹の朱躑躅の朱ヶを寄せつけず 稲垣きくの 牡 丹
狐舎を見る朱の日傘を傾けつ 石田波郷
猪垣の一枚は朱のトタンかな 九鬼あきゑ
珊瑚樹の朱き実房や長崎忌 斎藤朗笛
生ま喰ひの蒟蒻朱し信長忌 吉本伊智朗
田を借景屋根ある朱橋昼涼み 香西照雄 素心
田を植うる朱き鳥居の間際まで 山崎千枝子
甲板にて朱き海月に慕はるる 加倉井秋を 午後の窓
甲板へ朱欒投げやる別れかな 太田嗟
男神祀る朱欒の実なりけり 小山森生
町なかを真清水走り朱欒の実 木村里風子
畳畳と照る白壁や朱欒割く 小池文子 巴里蕭条
白湯うくる朱椀おほらか報恩講 赤松子
白百合の大き一輪朱塗の卓 柴田白葉女 花寂び 以後
白藤や小瀧の橋の朱欄干 泉鏡花
白酒に恋ほのかなる朱唇かな 青峰集 島田青峰
白鳥にもろもろの朱閉ぢ込めし 正木ゆう子
百千鳥朱壁の龍の蟠る 福田蓼汀 山火
百年の露けさ笹の朱墨にも 藤浦昭代
盆梅と朱泥の茶器と座右に愛づ 草間時光
盆病むや佛の朱唇しめやかに 松村蒼石 雪
目白来て鳴くや御朱印あと一寺 守わこ(童子)
眉の間にむかし朱の点桃の花 中戸川朝人 尋声
真珠揚げの日を朱々と初暦 日高ひろし
眦の朱も深川の七五三 松村幸一
瞼の裏朱一色に春疾風 杉本寛
短日や大提灯の朱ヶのいろ 久保田万太郎 流寓抄
石の橋多き耶馬渓朱欒咲く 足立登美子
石仏に金と朱のこる草雲雀 本多静江
石斑魚に朱いすぢがつく雪解かな 室生犀星 魚眠洞發句集
石棺の朱におどろくや秋の暮 飴山實 『次の花』
磊塊と朱欒盛られて籠歪む 松本たかし
祇園会の児並び行く朱傘かな 中川四明
祇園會の稚子並び行く朱傘哉 四明句集全 中川四明
神さびや冬山縫へる朱ケの垣 西山泊雲 泊雲句集
祭足袋ばたばた御朱印船を曳く 高澤良一 燕音
祭馬朱総の紐に仕上りぬ 中戸川朝人 尋声
禅僧が運ぶ朱の膳小豆粥 野口喜久子
禅林の干梅の朱のあらあらし 井沢正江 以後
秀衡椀の沢瀉の朱に春惜しむ 沢木欣一
秋の七草の中手洗ひの朱印ぞ 辻 桃子
秋の蚊や女人高野の朱塗門 寺島初巳
秋の蛇朱なりしことを印象す 加倉井秋を 午後の窓
秋乾き朱塗の階の廓あと 田中翠
秋夕焼ぎりぎりの朱とおもふべし 鎌倉佐弓 水の十字架
秋寂や享けし朱印に泛く梵字 須加金男
秋日殊に万歳幡は朱かがよふ 太田鴻村 穂国
秋日負ひ唐寺の朱門目頭に 石塚友二 方寸虚実
秋深き夜の太柱朱に塗らる 加藤楸邨
秋燕妖しき朱ヶを頬にせり 飯田蛇笏 春蘭
秋茄子唐辛子の朱に奪はれぬ 秋茄子 正岡子規
秋蔭の曼陀羅版木朱を遺(のこ)し 高澤良一 宿好
秋霖の蘇州に朱き色はなし 天川悦子
秋風きく身のいづこにか朱を生かし 加藤知世子 花寂び
秋風やありし句稿に故人の朱 五十嵐播水 播水句集
秋風や京の大路の朱傘 秋風 正岡子規
秋風や京の町には朱傘 秋風 正岡子規
秋風や故人に朱引く金蘭簿 河野静雲 閻魔
秋風や朱泥の仔馬耳を立て 大橋利雄
穢土浄土分かつ朱の橋柳絮とぶ 里川水章
空也忌の護符のひさごの緒の朱く 遠藤みや子
空梅雨の朱き月夜と書きおくる 加藤楸邨
空海の寺の朱塗の汁粉椀 山田春生
空港に朱欒輝き雨上る 高橋悦男
空砲のごとき声だし朱欒売る 中村和弘
突堤に朱の字われらの夏終る 友岡子郷 遠方
立冬や文の緘ぢ目に朱を小さく 大石悦子
立春大吉朱ヶの大木魚 河野静雲 閻魔
立葵朱に咲き上る広島忌 金箱戈止夫
童が跼みゐて草木瓜に朱がのこり 長谷川双魚 風形
竹は朱にして牡丹は黒きしんかんたり(帰源院) 荻原井泉水
笈摺に札所の朱印薄紅葉 金山貴志子
笑ふのは朱欒の花の向う側 岩淵喜代子 硝子の仲間
笹飴むく朱盆の上や春めきて 月舟俳句集 原月舟
笹鳴や朱をふんだんに絵蝋燭 村田白峯
筆かみし朱唇の墨も夜涼かな 西島麥南 金剛纂
筆ほぐす朱唇の墨も夜涼かな 西島麦南
筆噛みし朱脣の墨も夜涼かな 西島麦南 人音
筆洗の若水に朱を走らしむ 小金井絢子
筍や雨雲朱を含みたる 長谷川櫂 天球
粟畑の中にうごく朱谷の昼 宇佐美魚目 天地存問
紅型師朱をたつぷりと事始 大城幸子
紅梅や泣くまえの朱を顔に溜め 田川飛旅子 『植樹祭』
紅茶濃し日覆朱きカフェテラス 佐々木幸(朝)
納雛なほ濃き朱唇ふくみをり 阿部みどり女
細註の朱も黒ずみし書をさらす 斎藤香村
紺の夜を朱の月いでぬ昆沙姑巌 渡辺水巴 白日
絣織る音や遠くに朱欒熟れ 堤 多香子
絵の中に朱の狼藉や冬近し 古舘曹人 砂の音
緋目高の生れていまだ朱もたず 五十嵐播水
緑蔭に智光燈籠朱文字なる 西本一都 景色
緑蔭の深ければ濃き堆朱盆 鍵和田[ゆう]子 浮標
編み笠の紐の朱さよ風の盆 佐川広治
縞ふかく朱冴えかへる南瓜かな 室生犀星 犀星発句集
縫初はほころびを継ぐ朱き糸 北見美智子
羅やすけて朱ぬりの衣紋竿 安光品女
群青に雲刷く朱夏の国大和 太田鴻村
羨まるる身とは思はず朱欒むく 石田あき子 見舞籠
羽子板の禿の朱き目尻かな 森澄雄
羽子板市コート裏の朱ひるがへる 藤田直子
老い櫻夕日に朱をば注がれし 相生垣瓜人
老い深き南の国の朱欒売り 木塚真人
老境や空ほたる籠朱房垂れ 能村登四郎
耕土の朱此夏山の夷らけく 楠目橙黄子 橙圃
聲は鵙雉子の朱が見ゆ野鳥園 及川貞 夕焼
肘触れて立食うどん東京朱夏 有光米子
胎たかし朱欒の二顆に手をふさぎ 中戸川朝人 星辰
胸朱き軍鶏立ち藤も過ぎにけり 千代田葛彦 旅人木
舞初や朱のはなやげる鼓の緒 宇田零雨
舟倉に蟹は朱の爪より入る 佐川広治
船長が船を降りゆく花朱欒 鈴木太郎
色褪せし朱の橋に雪残りけり 島崎章子
芭蕉四五株朱欄の橋の苔ぬれたり 芭蕉 正岡子規
花*うぐひとて金鱗に朱一線 福田蓼汀
花人を招く朱盆や焼蠑螺 雑草 長谷川零餘子
花冷えの朱唇から出る毒気かな 井上啓子
花朱欒こぼれ咲く戸にすむ楽し 杉田久女
花朱欒島の空港つばらかに 西田キヨ
花朱欒香ふかぎりの朧なる 千代田葛彦 旅人木
花板の朱にこぼれ落つ淑気かな 金田咲子
花衣朱の濃かりけり古りにけり 辻桃子
花鰔とて金鱗に朱一線 福田蓼汀
芹汁や朱ヶ古りたれどめをと膳 飯田蛇笏 山廬集
苔にして万両の朱の四粒沁む 三樹彦 (西芳寺庭園)
苗代やほとりに朱ヶの宮居なく 尾崎迷堂 孤輪
若武者の朱唇匂へる幟かも 相生垣瓜人 明治草抄
若菜かり後陣守るや朱傘 水田正秀
草虱つけ朱唇仏に会ひに行く 小島健 木の実
菊人形鎧は殊に朱を連ね 久米正雄 返り花
萱の朱一すぢ走る炭俵 丸山しげる
萱草の捧げたる朱に帰り来し 細見綾子 黄 炎
落日のふと寒木瓜の朱を点ず 加藤楸邨
落花急朱鳥死してもみづみづし 神尾 季羊
落葉敷き城おごそかに朱がにじむ 古館曹人
葉がくれの朱の鮮かや仏桑華 草間時彦
葛切苦し死者の歌稿に朱を入れて 塚本邦雄 甘露
葵朱に世やゆゝしきを人に恋 石塚友二 方寸虚実
蓼の朱も鷹の渡りの風まとふ 大岳水一路
蕋の朱が花弁にしみて孔雀草 高浜虚子「虚子全集」
蕗の薹ながきこと雲朱かりき 中田剛 珠樹以後
薄き葉の中に朱味や桜餅 桜餅 正岡子規
薄墨のどこか朱を引く亥の子餅 有馬朗人
薔薇のアーチそこより胸に朱を点じ 鍵和田[ゆう]子 浮標
薔薇ほどける 錆朱 内からうちから湧き 伊丹三樹彦 樹冠
薪能平安神宮朱と緑 関口比良男
薫風や朱もあざやかに鯨肉 佐川広治
蘂の朱が花弁にしみて孔雀草 高浜虚子
虎御前の暗き祠を覗く朱夏 蛯原方僊
虫籠に朱の二筋や昼の窓 原石鼎
蛇吊りし家も榕樹の朱の月か 渡辺水巴 白日
蛍火に火傷 朱唇の仏たち 松本恭子 二つのレモン
蜂の巣やからびはてたる朱の鳥居 河東碧梧桐
蝉の森多角に画家の朱なるかな 河野多希女 こころの鷹
蝸牛虹は朱ケのみのこしけり 大野林火
螢火に火傷 朱唇の仏たち 松本恭子
蟲籠に朱の二筋や昼の窓 原 石鼎
蟹朱し楸邨酒をたしなまず 石川銀栄子
行春や朱にそむ青の机掛 飯田蛇笏 山廬集
行秋や柱に匂ふ千年の朱 水原秋櫻子
街は朱夏生甲斐の敵八方に 小松崎爽青
衣川朱を濃くしつつ寒夕焼 村田白峯
裏比良に朱の帯を織る晩夏かな 山本洋子
裏畑に朱を打つて熟れ実山椒 飴山實
襟巻に一片浮ける朱唇かな 原石鼎
西空の朱もわづかや笹鳴す 岩田昌寿 地の塩
西鶴忌ヘリコプターの腹朱く 臺信美佐子
見れば存る帚木に朱のほんのりと 永田耕一郎
観音の朱き唇鵙の晴 高田たみ子
読み初めの扉や龍の一朱印 上野さち子
誰が摘みし土筆朱鳥の病む卓に 大岳水一路
豊年やあまごに朱の走りたる 永方裕子
豊秋や朱唇残れる観世音 森 澄雄
赤とんぼまだ恋とげぬ朱さやか 佐野青陽人 天の川
赤楊の朱けなる花を交へたり 軽部烏帽子 [しどみ]の花
跪坐石にてんたう蟲の朱一點 下村ひろし 西陲集
踏み裂きし茸の朱をのがれ来る 澁谷道
辻駕に朱鞘の出たる柳かな 柳 正岡子規
返稿に朱圏豊かに初鰹 木村蕪城 寒泉
透きて朱のすぐりを摘むや夫に蹤き 小池文子「巴里蕭條」
這ひ這ひのおもはぬ速さ朱欒まで 正木ゆう子 静かな水
逝く春の朱唇仏画にときめくも 秋元不死男
連雀の朱を引きて飛ぶ楢林 広瀬一朗
遠き芥子近きも朱の異ならず 飯田龍太「百戸の谿」
遠雷や朱の花樹下に隠れ咲く 阿部みどり女
遠雷や膝もとに置く朱塗り椀 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
邪気払ふ洗朱の箸草の餅 長谷川櫂 虚空
郵便受け朱の厚塗りや鷹と棲む 鍵和田[ゆう]子 未来図
酒槽の金紋総朱寒造 西本一都 景色
酔眼に毛氈の朱や筆始め 島村元句集
釈迦生れぬ浄飯王は朱の椅子に 下村槐太 天涯
野いちごの朱を見すごせり二ヶ所ほど 金田咲子
野火げむり駆けぬけ郵便単車の朱 平井さち子 鷹日和
野薊や朱の痕残す摩崖仏 細井房俊
金泥に朱を落したる淑気かな 鈴木鷹夫 千年
金泥の屠蘇や朱塗の屠蘇の盃 漱石
金泥の鶴や朱塗の屠蘇の盃 夏目漱石 明治三十二年
金魚の荷下すや朱の尾ゆらぎ出づ 原田種茅 径
鉄線花精一杯の朱をひろぐ 里見輝子
錆鮎の朱のありありと焼かれけり 高橋悦男
鎌倉や朱夏の夏の謝肉祭 石塚友二 光塵
閂の朱をもて禁裡春おちば 赤松[けい]子 白毫
開聞岳や瓦工場の熟れ朱欒 石鍋みさ代
関帝の朱蝋火照りに上元会 小林美智子
閻王の朱ケの隈どる灯影かな 河野静雲
闊達にギリシャの壺や西日朱に 小池文子 巴里蕭条
降る雪や鯉の朱の斑は痛からむ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
陶朱の富顔回の貧木の実かな 龍岡晋
陶板のゲルニカ原寸大や朱夏 上野章子
雁来紅のひともと朱に燃ゆるときひとりを呪ひ殺すと思へ 小中英之
雛の座の破れ雪洞は儚き朱 『定本石橋秀野句文集』
雨ぐせや木瓜が朱を張る縁切寺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雨降つて実梅に朱のはしりそむ 石嶌岳
雪いちにちの口腔に朱を溜める 林田紀音夫
雪の夜のほとけよろこぶ朱塗椀 神尾久美子 桐の木
雪の夜の指をあふるる朱欒の香 渡辺千枝子
雪を来て朱塗りの暗さ伎楽面 鍵和田釉子
雪国の細月の縁朱に燃え 上村占魚 球磨
雪解風水面はしりて蜘蛛朱し 田中裕明 山信
雪降るや道元頂相(ちんぞう)唇朱き 倉橋羊村
雲海に一点の朱を投じたき 腰川瑛子
雲海に朱を押入るる没日かな 八木林之助「鶴俳句選集」
雲海の一襞の朱をおのがもの 岸田稚魚 筍流し
霜月や朱の紐むすぶ壺の口 神尾久美子 桐の木
霜枯れし黄菊の弁に朱を見たり 高浜虚子
霜除や下駄の鼻緒の朱も失せて 田中裕明 山信
霞たつて朱ぬりの橋の消えにけり 夏目漱石 明治二十九年
霧こめてゐて遥かなる柿の朱顆 鈴木貞雄
霧の奥妻が育てて朱となる火 木村敏男
露けしと海図ひらきて朱を入るる 宇佐美魚目 天地存問
露の朱は岩菲の朱より清らかに 阿部みどり女
青春にサルビアの朱ほどの悔い 岩岡中正
青木の実朱をこぞりたり家低く 志摩芳次郎
青檜葉の一本涼し朱唇仏 宮田正和
青空に無数の傷や曼朱沙華 藤岡筑邨
青蘆の中落日の朱一条 千代田葛彦
頂上に朱塗りの鳥居鳥雲に 大原 雪山
頭の朱き水鶏のほかはそよぎをり 友岡子郷 翌
風かほり朱欒咲く戸を訪ふは誰ぞ 杉田久女「杉田久女句集」
風呂吹や朱唇いつまでも衰へず 村上鬼城
風邪の手に朱塗の盆の葛湯とる 阿部みどり女
颱風鬼吾が唇の朱を奪ふ 竹下しづの女句文集 昭和十二年
餅搗きの男朱鳥と還り来む 宇多喜代子
首里城の朱の内にゐる驟雨かな 原田ゆふべ
香合は堆朱を出して風炉支度 及川貞
駈けあがる朱をもて虹の全うす 中戸川朝人 星辰
鬼灯の一心の朱に立ち止まる 北原志満子
鬼灯の朱いそぐなり真菰編み 石田波郷
鬼灯の朱らむと吾子ささやきぬ 加倉井秋を
鬼灯の朱ヶなつかしや避暑戻り 高橋淡路女 梶の葉
鬼灯は暮れてなほ朱のたしかなり 及川貞
鬼灯や天一杯に朱のあふれ 石原八束 空の渚
鬼舞の朱に爛れて晩夏光 町田しげき
魔除けの朱 額にかげらせ 樹下の女 伊丹公子 機内楽
鮎の脊に一抹の朱のありしごとし 原石鼎
鮎鮓のはららごの朱のこぼれけり 大石悦子 群萌
鮎鮓へ黒き箸また朱き箸 長谷川櫂 天球
鮭といふ一本の朱乾びけり 長谷川櫂 天球
鮮やかな朱の宮居や迎へ梅雨 山内遊糸
鯉の朱の澄みぬ冬の日深むごと 橋本榮治 麦生
鯛の朱の色増すころや冬の海 今泉貞鳳
鰭さきの朱ヶほのかなる秋の鮎 飯田蛇笏 春蘭
鰭に朱の走れる二百十日かな 夏井いつき
鳥交り紫朱をうばひけり 龍岡晋
鳥居をば朱の琴柱とし初松籟 林昌華
鳥渡る夕べ朱の濃き甲斐の山 有馬朗人 天為
鳩の首瑠璃光放つ朱夏の宮 加藤耕子
鴨帰る日和朱線を強く引く 原裕 葦牙
鵯どりの朱の一刷けの頬も秋 三好達治 路上百句
鶏頭の一抹の朱わが生に 桂信子 花寂び 以後
鶏頭の丹朱を土がしぼり出す 内藤吐天 鳴海抄
鶏頭の朱一列に無人駅 八 行本絹枝
鶏頭は朱をかさねあふ一揆の地 佐川広治
鶴ねむる 天はしづかに朱をながす 富澤赤黄男
鷹匠の妻も朱綱の鷹放つ 佐藤林太呂
鹿の子百合曇硝子に五つの朱 阿部みどり女
麦酒樽の朱のあざやかに夕立す 内藤吐天 鳴海抄
麺廟や朱塗の門に牡丹さく 寺田寅彦
黒つぐみ朱走る朝の白馬岳 野垣 慶
●紅
*かりんの花散つても紅し鬼城の居 松本 旭
*はまなすの紅をゆらして日高線 河野 彩
あかざの葉雨を弾きて尚紅し 二階堂大河原
あかときの渦潮の紅さくら鯛 加藤守
あがり来し海女が紅さす岩の上 上村慶次
あけぼのや紅透きとほる螢烏賊 角川春樹
あせるまじ冬木を切れば芯の紅 香西照雄(1917-87)
あぢさゐは紅にふたたび恋ねがふ 仙田洋子 橋のあなたに
あねもねの紫淋し紅を買ふ 高濱年尾 年尾句集
あららぎの梅雨鮮けき幹の紅 木村蕪城 寒泉
あららぎの結ぶ紅涙小鳥来る 福永耕二
あるかなし南天の紅竹垣に 瀧井孝作
あるとき神あるときけもの紅蜀葵 横山白虹
いくたびも鏡見る日や吾亦紅 大石悦子 群萌
いささかの寒紅さして奪衣婆 有馬朗人 知命
いたどりの一節の紅に旅曇る 橋本多佳子
いたどりの花に有情の紅すこし 青柳志解樹
いたどり一節の紅に旅曇る 橋本多佳子
いちご盛つて紅の雫流れけり 苺 正岡子規
いちご紅し今日のことはや茫々と 藤岡筑邨
いちはやく雪間の土に紅ましこ 土屋かをる
いつぽんの紅がをかしき冷そうめん 吉田鴻司
いつぽんは鬼より紅し紅葉狩 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
いつまでも木瓜の紅さに執着す 加倉井秋を 午後の窓
いつも待つ誰かの便り雁来紅 平井さち子 完流
いつ見ても乾いてをるや吾亦紅 岩田由美 夏安
いづこにもいたどりの紅木曾に泊つ 橋本多佳子
いとけなき紅刷く林檎袋掛く 西本一都
いと濃かる草石蚕の紅の三つあり 杉戸由紀子
うす紅に露さわやかの芙蓉かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
うす紅の和菓子の紙や漱石忌 有馬朗人 天為
うす紅の日を竹むらは落葉どき(嵯峨野) 岸田稚魚 『筍流し』
うす紅の藜を添へし桑の籠 瀧澤伊代次
うつし世の紅をふふみし白牡丹 加藤耕子
うつすらと寒紅余命あかりかな 栗林千津
うでぬきの紅濃なりける鉾の稚子 後藤夜半 翠黛
うみやまのあはひの寺の紅蜀葵 七田谷まりうす
おのおのの紅つらならず曼珠沙華 齋藤玄 『雁道』
おろかなるたたかひの夢海紅豆 石原八束
おん墓に千日紅の供へられ 大賀賢子
お姫さんが廓言葉にて残菊紅し 長谷川かな女 花 季
お成り道梅雨茸の紅ちらばれり 佐川あけみ
お見舞は西王母てふ紅椿 田畑美穂女
お長屋や黄に紅に鶏頭花 河東碧梧桐
かくなれば早く卒寿を吾亦紅 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
かくまでも桜紅濃き発電所 川崎展宏
かくれ蓑にものりうつり縷紅草 佐々波二
かたくなな母の生きざま吾亦紅 北見さとる
かつて王国紅型色のこおろぎか 岸本マチ子
かの惨の日々うすれゆく吾亦紅 友岡子郷 翌
かへるでの花の紅さの光琳忌 松本たかし
かまつかのゆるみそめたる紅の張り 深見けん二
かまつかの紅がはなれぬ糸ぐるま 神尾久美子 桐の木
かまつかの紅に洗脳されしかな 佐藤貴美江
かまつかの紅の透く日のつゞくなり 林原耒井 蜩
かまつかの紅滴るるまで水打てり 菅井静子
からからに乾く干網海紅豆 深見かおる
かりそめの恋紅型に春ふかし 津村留々夫
きさがたのひるがほ紅をしぼりけり 黒田杏子「木の椅子」
きさらぎのどこか紅して桜榾 斉藤夏風
きさらぎや紅絹もて磨く蒔絵椀 酒井智代
きりぎりす生あるかぎり紅をさす 久米富美子
くすりくさき家に日毎の紅蜀葵 瀧春一 菜園
くちびるを噛みては寒の紅をさす 加藤三七子
くらがりに炭火の紅や何言はむ 齋藤玄 飛雪
くらやみの船紅や天神祭 金子 晉
くりくりの空があるなり吾亦紅 高澤良一 さざなみやつこ
けふの果紅の峰雲海に立つ 橋本多佳子
けふ紅を加へし庭の梅日和 塙告冬
げんげ田の紅を紡ぎて海の風 檜 紀代
ここにして旅は終りの紅蜀葵 渡辺倫太
ことごとく散る風生の紅しだれ 大坪貞子
ことごとく紅莟む室の梅 室の梅 正岡子規
こととひの紅を月夜の思草 麻生あかり
この道はチャイナタウンへ海紅豆 高澤良一 寒暑
こほる手やしをりの総の紅に 正岡子規
こほろぎの真上の無言紅絹を裂く 平畑静塔
こぼれては常の水なり紅の露 千代尼
これやこの伊勢海老の舵紅に 鷹羽狩行
こんな赤にもなれますと縷紅草 後藤比奈夫
さきさかるつばきの紅のややくらき 飯田蛇笏 春蘭
さくらの芽紅を含める手毬つく 岸風三楼 往来
さくらんぼ紅さして子の嫁ぎけり 村上しゆら
さくらんぼ鼻に紅さすピエロかな 石河義介「恐山」
さびしい午餐 紅睡蓮からかがやく村 伊丹公子 機内楽
さびしきは冷し中華の紅生姜 望月秀子
さびしさに桜貝舐め紅濃くす 山口青邨
さびしをりほそみかるみや紅の花 加藤三七子
さみだれ萩てふ名のやさし紅紫 細見綾子
さらし置く山独活の根にはしる紅 上野さち子
さりげなく老も紅刷く注連の内 村上桂月
さるすべり紅をかくさず山の星 佐野良太 樫
さるすベり惘々と紅ひろげたる 中田剛 珠樹以後
されど媾曳茅萱の紅も失せ果てゝ 中村草田男
しくるゝや紅薄き薔薇の花 時雨 正岡子規
しぐるるやもみ(紅)の小袖を吹きかへし 去来 俳諧撰集「有磯海」
したゝかに紅の花咲く小庭哉 紅花 正岡子規
しののめの紅さしのぼる接穂かな 成田千空
しろがねの冬の針曳く紅一糸 野澤節子 『八朶集』
じだらくに住みて屋後に紅葵 飯田蛇笏 春蘭
すかんぽの紅よ童女の眸のなか 新谷ひろし
すかんぽの茎紅に雪解かな 仲岡楽南
すぐ褪むる西空の紅冬の虫 豊長秋郊
すさまじき真紅捩れて雁来紅 八木林之介 青霞集
せり上る紅隈曾我や初芝居 武田玄女
そのうちに紅絹の這ふ児や人形会 牧 鴻月
その微笑紅にじませて三汀忌 長谷川かな女 花 季
そめ物や紅流す春の川 春の川 正岡子規
そらそこの紅らむ枝に春の鵙 高澤良一 素抱
たがためにあかざ紅さす山の畑 中勘助
たけて紅の菓子あり弥生尽 水原秋櫻子
たそがれの雨紅の墓へ雪蛍 小池宗彦
たのもしや西紅の雲の峰 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
たらたらと華籠の紅紐聖霊会 古舘曹人
たんぽゝや紅腿引の里わらべ 久米正雄 返り花
たゝまれてあるとき妖し紅シヨール 竹下しづの女句文集 昭和十三年
ちぬ釣に絶えず紅曳く荒磯波 岡田貞峰(馬酔木)
ちらと紅紫柄長も群れる父の林 峠素子
ついてくる人はと見れば吾亦紅 波多野爽波 『一筆』
ついに一つの生命も成さず逝きしこと雁来紅燃ゆる季近きかな 永田和宏
つとふれてはなれて吾亦紅立てる 皆吉爽雨
つまと行き行く雁来紅は日にただれ 三谷昭 獣身
つまむことこの世にいとし吾亦紅 森澄雄(1919-)
つゆためて水引の紅ふれあへる 松村蒼石 露
つよくひく寒紅に舟溜りくる 宇佐美魚目 天地存問
てのひらに這はせて愛づる紅娘 高澤良一 さざなみやつこ
てんてまりまなじりの紅すでに女 熊谷愛子
とある日の牡丹の紅秋子亡し 猪俣千代子 堆 朱
とおくより紅型(びんがた)明りははの空 井沢唯夫
とき放つ紅紐のうづ凌霄花 長谷川久々子
とりどりに人の夕べや紅粉の花 岡井省二
とりわけしちょろぎの紅に箸つけず 二木倭文夫
とり出す苺の紅の箱に滲む 大野林火
どこ歩いても足もとの吾亦紅 高木晴子 晴居
どぶろくの酔のふかまる紅椿 藤岡筑邨
どれ貸そか女七夕には紅の裏 七夕 正岡子規
なでしこよ紅粉おしろいも散らしすて 服部嵐雪
ななかまど火口に近く紅尽す 大熊輝一 土の香
なめらかに紅のながるる林檎かな 占魚
ぬかあめのけさまたふれり紅蜀葵 久保田万太郎 流寓抄以後
ぬかるみをよけてあるくや紅椿 久保田万太郎 草の丈
ねじばなの紅のひとすじあねいもうと 酒井弘司
はくれんにふと走る紅風抜くる 小池文子 巴里蕭条
はしきやし汝がつま紅の踊り笠 下村梅子
はじかみの熟れて紅涙つづりけり 仁科文男
はじめから乾燥花なり吾亦紅 金箱戈止夫
はだれ雪モンマルトルの紅灯に 荒木忠男
はぢらひのともなへる紅李にあり 宮津昭彦
はなびらに似て春禽の舌紅し 宮本啓子
はまなすや手のひら紅さし四十路来る 平井さち子 完流
はま弓や当時紅裏四天王 其角
はらわたに沁み逃げられぬ木瓜の紅(腹部疾患) 殿村菟絲子 『牡丹』
ばら紅し地獄の先は何ならむ 油布五線
ぱらぱらと夢の中まで落霜紅(うめもどき) 宮坂静生 春の鹿
ひとところ紅の空ある山ざくら 吉田鴻司
ひとの子を濃霧にかへす吾亦紅 橋本多佳子
ひとまはり違ふ後添へ吾亦紅 橋本榮治 越在
ひとり住む心決りて蓼紅し 白澤よし子
ひるの湯に蹠紅しきりぎりす 佐藤まさ子
ふかし甘藷紅し凶年はじまれり 栗生純夫 科野路
ふた七日なほ紅たもつ冬紅葉 福田蓼汀 秋風挽歌
ふと紅し其処にかまつか今あらず 林原耒井 蜩
ふるさとは木の橋ばかり吾亦紅 丸山不二子
べにはなの終りしものに紅の色 工藤茶亭
べら焼くや紅の縞うすれゆく 広瀬美津穂
ほそみちに日のちらばつて吾亦紅 鷲谷七菜子 花寂び 以後
ほのぼのと紅をさしきし冬薔薇 青柳照葉
ほのぼのと紅刷き二月礼者かな 林糺苑
ぼうたんの紅のきはみのくらさかな 松尾隆信
ぼうたんは紅にして江戸小町 高澤良一 随笑
ぼうたんや七宝焼の壺に紅たるゝ 渡辺水巴 白日
ぼうぼうと夢の紅さの箒草 高橋謙次郎
まだ濡れてゐる夕市の紅蕪 新田祐久
まなじりの紅若やかに今年雛 高橋淡路女 淡路女百句
まゆはきを俤にして紅粉の花 芭蕉
みちのくに摘まねば紅粉の花いきれ 加藤知世子
みちのくに来てゐる証紅の花 森田峠(かつらぎ)
みやこぐさ紅となる月日かな 野々山海光
みやこどり日も暮れなんに紅をさす 加藤郁乎 江戸桜
むささびやいまも紅殻塗りし村 伊藤敬子
めつむれどかまつかの紅秀野亡し 小林康治 四季貧窮
めでたさはちよろぎの紅の縒れかな 梅村すみを
やゝ紅の濃ゆしと思ふ初鏡 田畑美穂女
ゆかしさも紅浅き林檎哉 百里
ゆづり葉の茎も紅粉(べに)さす旦かな 斯波園女
りゆくさつく唐紅や小六月 相生垣瓜人
りんご園ぼつぼつ交じる紅りんご 高澤良一 宿好
りんご紅し机上に愛をころがして 飯村寿美子
れんげ田やうす紅の恥部を診し 藤後左右
わりなしやだれが紅させし蓮の花 蓮の花 正岡子規
をさな子やはやなめそむる紅の花 紅花 正岡子規
アネモネの紫淋し紅を買ふ 高浜年尾
カンナの黄雁来紅の緋を越えつ 飯田蛇笏 椿花集
カーテンの透けて紅来る朝寝かな 山口青邨
ガラス戸を開け放ちたる紅粉花の風 斉藤夏風
サルビアの紅に雨降る玻璃戸越し 因藤周一
サングラスかけて紅唇いよゝ燃ゆ 久保田万太郎 流寓抄
ジョギングの幾人(たり)通る海紅豆 高澤良一 素抱
スケートの藍衣なびけば紅衣また 皆吉爽雨
タックルに走者潰さる海紅豆 高澤良一 ももすずめ
ヂエラニユーム紅しあまりに焦土広し(浦上天主堂跡二句) 殿村菟絲子 『繪硝子』
テレビ塔紅燈帯びて去年今年 百合山羽公 寒雁
トマトーの紅昏れて海昏れず 篠原鳳作 海の旅
パッと明るくショウタイムてふ紅椿 高澤良一 さざなみやつこ
パレットの紅をうすめて白牡丹 佐藤栄一
ピンポン球脣紅のこる五月来ぬ 宮武寒々 朱卓
フレームや万の蕾の紅兆し 山崎ひさを
マロニエの花紅に滝しぶき 中村佳子
レグホンの脚のうす紅春浅し 長尾康子
レース着て白髪の女紅を濃く 三崎美佐代(藍花)
一せいに畦焼きし日の靄紅し 堀口星眠 営巣期
一ト夜さの冷えや紅濃き箒草 池田みち子
一二輪づゝ咲きふえて梅紅し 高濱年尾
一休の晩年がよし紅椿 板谷芳浄
一夜照りし春燈の痩せ暁紅に 野澤節子 『雪しろ』
一天に暁紅を刷り秋曇 富安風生
一日を今生として底紅も 後藤比奈夫
一本の楓半分紅の濃き 谷口満寿子
一束の水菜の紅を揃へけり すずきりつこ
一点の紅もささざる奈良白桃 細見綾子 黄 炎
一瓣の紅さへ沙羅の夕かげり 林翔 和紙
一病に仕ふ余生や吾亦紅 角川源義『西行の日』以後
一病を強気に生きて紅蜀葵 阿部美恵子
一病二病引きずつて雁来紅 宇佐美ちゑ子
一瞬の紅刷き冬の海昏るゝ 逸見嘉子
一花草その裏紅は誰に染む 大木石子
一茎の紅露につづく曼珠沙華 百合山羽公 寒雁
一谷の羽虫痴れたる吾亦紅 小澤實 砧
一輪の薔薇の端紅(つまべに)冬となりぬ 大谷碧雲居
一途なるものを秘めゐる寒の紅 山田弘子 こぶし坂
七十路の淡き紅差す初鏡 内田八重子
万両の紅をかざりてのぼり窯 白葉女
万両の紅己が胸裏にも 豊田曳峰
万両の零れる紅を掃初に 堀之内和子
万蕾を花の紅さに臥竜梅 上田五千石
三月やごみを出すのも紅さして 小倉貴久江
下京の梅雨の紅殻格子かな 室積徂春
下北のこれは白花吾亦紅 黒田杏子 花下草上
下水底に足つきて貰ふトマト紅し 岩田昌寿 地の塩
下萌や総身に添ひし紅絹の裏 都筑智子
不退寺の春日滴る紅庇 川崎展宏
丑紅にをんなとなりし瞳のすゞし 野沢順水
丑紅を皆濃くつけて話しけり 高浜虚子
丘のかげ雁来紅にのびてきた シヤツと雑草 栗林一石路
両側の紅提灯や花の雨 比叡 野村泊月
丸髷に結ふや咲く梅紅に 夏目漱石 明治四十年
丹生ならばこそ水引の紅も 茨木和生 丹生
丹頂の紅つつましき緑の園 山口超心鬼
丹頂の紅のもつとも凍ててゐし 石鍋みさ代
丹頂の紅一身を貫けり 正木浩一
丹項の紅もつとも凍ててゐし 石鍋みさ代
久住野の藍は竜胆紅は萩 小原菁々子
乙女らに古歌おぼつかな紅の花 鍵和田[ゆう]子 未来図
乳ぶさおさへ神秘のとばりそとけりぬここなる花の紅ぞ濃き 与謝野晶子
乳母の家 紅包(あんぱお)の朱が 浮遊して 伊丹公子 機内楽
乳鉢に紅すりつぶすいちごかな 河東碧梧桐
乾きつつ榮螺の殼の紅失せし 上村占魚 『石の犬』
乾きゆく草のにほひを紅粉の花 黒田杏子 花下草上
亀鳴くや船霊様の紅紙衣 岡本庚子
予後の顔見られ歩めり海紅豆 角川源義「西行の日」
二つ置く見合の椅子や紅芙蓉 並松 生代女
二十歳の日と同じ紅曼珠沙華 津田清子 二人称
二月晴青や紅なる青木の実 永井龍男
二階開け紅蒲団干す廓かな 堀 古蝶
五味の実は紅に透き葉洩れ陽に 横光利一
井戸水のほとばしるなり雁来紅 小島千架子
亡き子と住みし紅屋根褪せぬ冬萌えぬ 香西照雄 素心
京人は男もやさし紅扇 扇 正岡子規
京紅に貝の密室春深し 都筑智子
京紅の貝の小粒に夕霧忌 角川照子
京紅は貝の中なり春の風邪 田中 都
人形にちよんと寒紅さしにけり 有馬朗人
人日や江戸千代紙の紅づくし 木内彰志
今年第一の紅さこの一片の紅葉かな 原石鼎 花影以後
今生の末遠からず 紅睡蓮 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
仏滅や山茶花の紅寺に咲く 中山純子 沙羅
仲秋や針山はいま紅の糸 大峯あきら
伊勢海老のしんそこの紅の夜ぞ 岡井省二
伊那へ越す塩の道あり紅蜀葵 宮岡計次
伐株や紅盡きし冬の園 冬 正岡子規
伶人に秋日のもとの雁来紅 石原舟月 山鵲
似顔みな紅さし灯る羽子板市 長谷川かな女 花 季
佇めば紅さし初むる糸桜 吉村春風子
何となく孤りの花や吾亦紅 北見さとる
何染めて紅流す春の川 正岡子規
佗び住みてをり一本の紅蜀葵 深見けん二
侘住めば楪青しやゝ紅し 石田波郷
信楽のまこと窯変紅の花 大野雑草子
信濃にてみづの生まるる吾亦紅 大屋達治 絵詞
倒木に雁来紅は来つつあり 高橋 龍
傾城にとへども知らず紅の花 紅花 正岡子規
傾城の罪をつくるや紅の花 紅花 正岡子規
働いて帰る寒紅ひきにけり 菖蒲あや 路 地
優曇華や昼を点して紅絹に箆 久保田育代
先生の膝にこぼれ日紅の花 岸田稚魚
光点は紅点すところ青林檎 香西照雄 素心
入りなん枝垂桜の紅の中 山口超心鬼
八丁とんぼ紅一筋を草の先 木村嘉子
八方に垂れて宮城野萩紅し 山崎ひさを
八月暁紅しじみ殻落つむしろに覚め 古沢太穂 古沢太穂句集
八月暁紅若き寝息の同志四囲 古沢太穂 古沢太穂句集
兵の暦紅衣少女のほかは弾 片山桃史 北方兵團
円山の雪寒紅の猪口に降る 長谷川かな女 雨 月
再会す杜鵑花の紅のいよよ濃く 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
冬かれの紅緑も京をさらんとす 冬枯 正岡子規
冬ざれや枝にすがりて枸杞の紅 古舘曹人 砂の音
冬のバラ木偶のお弓は紅ふふみ 高井北杜
冬の海流木の芯紅のさす 神蔵器
冬の紅溶くに湯櫓を使ひをり 萩原麦草 麦嵐
冬の鯛遠き海よりきて紅し 百合山羽公 故園
冬芽紅し明日の多忙へ休息す 大岳水一路
冬萌に紅じゆうたんを掛けしかな 赤尾兜子
冬萌や尾鰭紅らむ川たなご 田島秩父
冬薔薇見て来し紅を引きなほす 大場美夜子
冲の帆にいつも日の照り紅蜀葵 中村汀女
冷し中華妊るころの紅強く 小高沙羅
冷じく紅の水漬きて蕎麦倒る 八木林之介 青霞集
冷まじき齢や帯の紅ひとすぢ 淵上千津
冷麦にひと筋の紅妻在らず 都甲龍生「日録抄」
冷麦の緑うす紅児に取らす 山中蛍火
凍る手や栞の總の紅に 凍る 正岡子規
凩や暖室の花紅に 凩 正岡子規
凩や紅はげる妙義山 凩 正岡子規
切り株の生きて紅さす雪解光 岸田稚魚
切支丹かくれ隠れて海紅豆 和知喜八 同齢
切株の生きて紅さす雪解風 岸田稚魚 『負け犬』
刈草のそこだけ覚めし縷紅草 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
刈込に紅刷く萩や上の茶屋 下村ひろし 西陲集
初ゆめのさめかかりたる糸紅し 八田木枯
初ミサの子や暁紅に声放ち 本宮銑太郎
初冬の旅朝焼の紅濃ゆく 柴原保佳
初夢のなくて紅とくおよびかな 鷹女
初大師だらだら坂に紅椿 柴田白葉女 花寂び 以後
初富士の紅さしそめて町の上 勝俣のぼる
初富士の紅ほのぼのと溶けてゆく 加藤国彦
初旅や海女も真珠も紅ほのか 中田豊助
初時雨姫街道の石紅し 有馬朗人
初暦ひらくや清の桃花紅 野見山ひふみ
初月やうすき紅さす汝に添へば 鈴木只夫
初氷鳩の紅脚よく動く 川村五子
初萩と呼ぶ一点の紅をもて 八染藍子
初釜の花びら餅の紅明り 村上洋子
初鏡母似の顔に紅をさす 天野美代子
初霜やうす紅の鳩の脚 四明句集 中川四明
初風や草の中なる吾亦紅 高橋淡路女 梶の葉
削るほど紅さす板や十二月 能村登四郎
削氷に紅沈みゆく湖の晴 中嶋鬼谷
前橋市紅雲町の種れんげ 林桂 ことのはひらひら 抄
剥く前の紅ふと惜しき林檎手に 嶋田摩耶子
剪定の束ねられたる枝紅し 森田峠 避暑散歩
剪定の紅枝ちらばる雪間かな 荒井正隆
割れ出でし茘枝の紅や秋隣 乙字俳句集 大須賀乙字
割箸に紅生姜あと生身魂 鷹羽狩行
千両の実だけが紅し日照雨過ぎ 細田寿郎
千両の紅めでたさや初手水 河野静雲
千代尼忌や加賀の和菓子の紅ほのか 宇咲冬男
千日紅千日白の束の中 松本武千代
千日紅触るもの皆ほてるなり 高澤良一 素抱
千日紅貰ひ入院長引かず 稲畑広太郎
千日紅雨より長く咲きつづく 宮下塔山
千紫万紅の紫のぬきんでてかきつばた 草田男
千鳥来るや紅濃うす島蕪のあり 久米正雄 返り花
卓の五人花弁囲みに梅紅し 中戸川朝人
占領兵に奪はれざりし萩紅し 殿村莵絲子 花寂び 以後
厚岸草紅し湖畔を潮飛んで 矢島渚男 延年
又の世は漢たるべし寒の紅 つじ加代子
叢や吾亦紅咲く天気合ひ 飯田蛇笏 山廬集
口先に紅さす旬の*さより買ふ 高間礼子
古代蓮開くや紅のほの暗し 久保田月鈴子
古妻の寒紅をさす一事かな 日野草城
古戦場虎杖に紅にじみ出で 鷹羽狩行
古書店で本二冊買ふ紅緑忌 阪本春枝
只おかぬ麦のぐるりや紅の花 山店 芭蕉庵小文庫
司祭館海紅豆とて帰化の花 桂樟蹊子
吉祥天にかざし枝垂れし紅桜 長谷川かな女 雨 月
吉祥天女紅唇ゆるぶ囀りに 松山足羽
君にさす盃に紅ねむの花 矢島渚男 延年
吹かれてはたちまち狂ひ紅枝垂 鍵和田[ゆう]子
吹きおろす紅雲枝垂桜咲く 林 翔
吹きわかれ春曉の鳩腋紅し 小林康治 玄霜
吹雪く夜の紅絹の色かと振り返る 正木ゆう子 静かな水
吾も亦紅なりとついと出で 高浜虚子
吾も亦紅なりとひそやかに 高浜虚子
吾を見る猿子鳥の紅ふくれくる 星野沙一
吾亦紅さして夫の忌古りにけり 高橋淡路女 淡路女百句
吾亦紅さやぐ背川の芋水車 石原八束 白夜の旅人
吾亦紅すこしはなれて暮れてゐる 豊田都峰
吾亦紅その先へ膝折りにけり 金田咲子 全身 以後
吾亦紅だらけといふもひそかなり 依田秋葭
吾亦紅つくりぼくろのかの人の 山口青邨
吾亦紅てのひらも齢とりにけり 中村房枝
吾亦紅とらふるほどの影もたず 嶋田麻紀
吾亦紅どこかで次元すり替はる 大場鬼奴多
吾亦紅には野の風のスタッカート 水田むつみ
吾亦紅のあたりでこぼこしてゐたり 岡本 高明
吾亦紅の力根さぐる春の土 松村蒼石 雪
吾亦紅の寡黙を愛す花野きて 稲垣きくの 牡 丹
吾亦紅の弾幕などといふ勿れ 川崎展宏
吾亦紅ははは一度も紅ささず 木田千女
吾亦紅ばかりの壺は正面に 星野椿
吾亦紅ひとつの顔を捨て切れず 下川初秋
吾亦紅ぽつんぽつんと気ままなる 細見綾子
吾亦紅もて転牧の牛追へり 太田土男
吾亦紅ミロの構図を想ひをり 高澤良一 燕音
吾亦紅低き火星へ路通ふ 殿村菟絲子 『路傍』
吾亦紅信濃の夕日透きとほる 藤田湘子
吾亦紅卵生みたる覚えなし 横山悠子
吾亦紅執拗に咲く妻癒えよ 青木重行
吾亦紅基督嫌ひ釈迦嫌ひ 別所真紀子
吾亦紅壮なる時過ぎて立つ 山口誓子
吾亦紅夕日つめたくなりにけり 草間時彦 櫻山
吾亦紅夕日といへど眼に痛し 福永耕二
吾亦紅夕日の雑木くすぶりぬ 山口草堂
吾亦紅夕雁も越え去りゆけり 百合山羽公 故園
吾亦紅女郎花ありて今日の月 長谷川かな女 牡 丹
吾亦紅宙に浮いたる思惟二三 高木青二郎
吾亦紅家を抜け出てあてもなし 後藤 章
吾亦紅少しはなれてくれてゐる 豊田都峰
吾亦紅山あるきの冥利とも 日比野てる子
吾亦紅山もここらは平らかに 上村占魚 球磨
吾亦紅影売るごとくもの書けり 鈴木鷹夫 春の門
吾亦紅心臓がまだどきどきと 辻桃子 童子
吾亦紅愛されてゐて華やげず 古畑一子
吾亦紅折らましものを霧こばむ 阿波野青畝
吾亦紅指で突くごと風の出て 高澤良一 ぱらりとせ
吾亦紅挿されて山のあそび消ゆ 蓬田紀枝子
吾亦紅撮りつつ現像する話 高澤良一 随笑
吾亦紅整地の隅に残されて 小須田利子
吾亦紅朝より山の名を知らず 古舘曹人 砂の音
吾亦紅朝日まばゆき山の墓 つじ加代子
吾亦紅木屑陽に触れ匂い出す 佐伯昭市
吾亦紅村の祭の口火切る 百合山羽公 故園
吾亦紅村人だけの通る径 倉田静子
吾亦紅枯首あげて霧に立つ 前田普羅 春寒浅間山
吾亦紅死を選びしが友の驕り 花田春兆
吾亦紅死後も身近に母居給ふ 中村契子
吾亦紅母にちかづくごとくなり 松村蒼石 雪
吾亦紅母をあやしに帰り来し 原裕 出雲
吾亦紅水守る神は水の辺に 神尾久美子
吾亦紅活けたる暗き灯かな 岸本尚毅 舜
吾亦紅消えさうな径またはじまり 熊谷愛子
吾亦紅淡路女の忌の遠く近し 阿部みどり女 月下美人
吾亦紅湖より昏るる榛名富士 駒形祐右子
吾亦紅湖舟は夜雨を湛へけり 新井悠二
吾亦紅独りごころを通す黝 高澤良一 随笑
吾亦紅生きて時間の流れけり 金田咲子 全身 以後
吾亦紅眼を細めても夕日燃え 桜井博道
吾亦紅穹邃き日はものがなし 小松崎爽青
吾亦紅紅のうつろひあるはあり 山田弘子 こぶし坂以後
吾亦紅紅の焦げたる山日和 森澄雄
吾亦紅老いて焦茶を着こなせる 後藤比奈夫
吾亦紅行乞流転われになし 吉田未灰
吾亦紅見つむだんだん黒くなる 高澤良一 随笑
吾亦紅語りつくせぬ一夜かな 杵村茂乃
吾亦紅谿へだて行く影とわれ 千代田葛彦
吾亦紅野のくれなゐの渋かりし 大橋敦子
吾亦紅雫し合へる山の雨 館岡沙緻
吾亦紅霧が山越す音ならむ 篠田悌二郎
吾亦紅霧にころころしてゐたり 矢島渚男 延年
吾亦紅霧に色濃くありにけり 井上哲王
吾亦紅霧の冥さを帯びつゝあり 高澤良一 随笑
吾亦紅霧の奥にて陽が育つ 宮坂静生 青胡桃
吾亦紅霧の日輪珠となる 植山露子
吾亦紅露ふくむほど色顕ちし 石原八束 『仮幻』以後
吾亦紅風が持ち去る日月よ 渡辺桂子
吾亦紅風に呼ばれて暮れにけり 石原八束 藍微塵
吾亦紅風のなき野の風のなか 阿部誠文
吾亦紅風の自在をたのしめる 小坂かしを
吾亦紅風の音にも色沈む 渡辺桂子
吾亦紅風を淋しくしてしまふ 武内緑水
吾亦紅飯場の露天洗濯機 寺島つね
呪ふ人は好きな人なり紅芙蓉 龍胆 長谷川かな女
咲きかねて紅充ちし冬牡丹 渡辺水巴
咲きそめてもう舌のある紅椿 増田まさみ
咲きにけり唐紅の大牡丹 牡丹 正岡子規
咲きまじり杏の紅はさみしき紅 西本一都 景色
咲き上げて紅勝ちぬ立葵 前田普羅
唇や格子に開く紅粉の花 紅花 正岡子規
唇をなめ消す紅や初鏡 杉田久女
唇紅に和紙の吸ひつく小春かな 小枝香穂女
啓蟄の蚯蚓の紅のすきとほる 青邨
啓蟄や紅さし街へ買物に 新山郁子
啼きつれて群れ眞鶴の頬の紅(薩摩出水郊外荒崎にて) 上村占魚 『萩山』
喪ごころや葉牡丹に紅顕ち初めぬ 大石悦子 群萌
喪にこもる日々寒紅はうすく刷く 黒瀬静江
喪の家族三人冬芽の紅とあり 橋本榮治 逆旅
噴煙の湧けば燃えたつ海紅豆 福田甲子雄
囀に紅のボタンの落ちてをり 吉崎銀舟
図書館の蔦の芽紅し復学す 奈良文夫
土の香の日照雨打ち来る海紅豆 橋本 榮治
地に下りる足のうす紅雀の子 廣瀬直人
地下宮の闇が口あき紅牡丹 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
地吹雪の果に池あり紅鱒あり 西東三鬼
地蔵会のこどもの色の紅冬瓜 森澄雄
垣越すと揃ふ縷紅の花の向き 堀 葦男
堂前や海棠紅を吐きつづけ 石田勝彦
墓花の夏花の紅縁者来て 橋本多佳子
墨絵にもほのかなる紅風光る 福島加津
声冴ゆる女あるじゆ紅を買ふ 野澤節子
壷焼やふつふつと鳴る紅炉上 村上鬼城
夏の月皿の林檎の紅を失す 高浜虚子「虚子全集」
夏川や高くかゝげし紅の裾 夏川 正岡子規
夏帯に匂袋の紅のぞく 山田弘子 螢川
夏痩せておいらん草の紅にくむ 草村素子
夏花買ふ幻住庵址に紅點ぜん 中村草田男
夏萩のほつりと紅や裕計忌 成瀬桜桃子
夏衿や紅引くだけの夕化粧 浅田伊賀子
夏霧や声の少女の紅らみ来 小池文子 巴里蕭条
夕されば睡蓮紅を濃くし閉づ 山口青邨
夕やけや唐紅の初氷 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
夕富士の紅の極まり大枯野 岡田日郎
夕日いま雁来紅にあるばかり 益田 白堂
夕日もろとも風にはためく紅蜀葵 きくちつねこ
夕日明るく朝日は暗し紅椿 加藤知世子 黄 炎
夕焼の紅射しのこす書絮の端 野澤節子 遠い橋
夕空に紅刷きにけり初さくら 小島健 木の実
夕立の前ぶれ雨や紅蜀葵 中村汀女
夕立や紅筆溝を流れ行 夕立 正岡子規
夜降つて朝上がる雨紅蜀葵 河合正子
夢のいろのうす紅や花林檎 及川貞
夢殿と讃へ合ふかに紅しだれ 寺井郁子
大きくて立派な鉢や紅牡丹 高澤良一 さざなみやつこ
大入日ここに一筋紅蔦巻く 野澤節子 黄 瀬
大寺の冷え一身に紅椿 渡辺恵美
大念佛飯に染みたる紅生姜 小島千架子
大捷か菖蒲の長さ根の紅さ 渡邊水巴 富士
大日坊即身仏に紅の花 小高章木子
大皿の青饅のなか独活の紅 瀧澤伊代次
大谷石佛秋寂ぶ唇に紅さして 高澤良一 素抱
大露の籠に卒爾の紅蕪 飯田龍太
大風の空ふかまりし落霜紅 中戸川朝人 尋声
大鮪凍て解けて紅甦る 鈴木真砂女 夕螢
大鯉の紅とにじみて薄氷 中川俊子
天の鶴雌雄の紅をならべたる 大岳水一路
天上に紅差し指をわすれきて 荻原久美子
天女より人女がよけれ吾亦紅 森澄雄 所生
天澄みて地澄みて林檎木に紅し 相馬遷子 雪嶺
天青し吾亦紅子にのびすぎたり 太田鴻村 穂国
夫愛すはうれん草の紅愛す 岡本眸
奈良へ通ふ商人住めり紅の花 紅花 正岡子規
奥嵯峨の薄暑を閉ぢし紅格子 柴田白葉女 雨 月
女には紅さし指のありて冬 稲垣きくの
女の素足紅らむまでに砂丘ゆく 岸田稚魚 筍流し
女去つて秋海棠の茎紅し 澤木欣一
女童欲し紅蜆蝶にも裾模様 香西照雄 対話
女紅場の二百十日の甍かな 波多野爽波 『一筆』
好日の山の蜜柑は紅に富む 百合山羽公 寒雁
好日や紅梅の紅失すばかり 竹下しづの女句文集 昭和十六年
妖精の娶花かも紅卯木 堀口星眠 営巣期
妬ましき芙蓉の紅や老を知る 高橋淡路女 梶の葉
妻がくふ柘榴の紅を見出せリ 林田紀音夫
妻今も紅足袋ちさし仕事多し 香西照雄 対話
姉の子の紅椿待たせられけり 太田鴻村 穂国
姉の死後紅山茶花に佇つことも 嶋田麻紀
姫辛夷うす紅ふふむ六時かな 山内美津男
娘義太夫寒紅の口大開き 辻桃子 花
嫁ぐ婢が老の脣紅大南風 宮武寒々 朱卓
嫗の背のえぞ菊紅紫につばめ帰る 古沢太穂 古沢太穂句集
子に供華の千萬かなし紅芙蓉 及川貞 夕焼
子のリボン枯野に紅を点じゆく 伊丹三樹彦 人中
子の血享け紅さす爪や白椿 石田あき子 見舞籠
子をなさずある日雁来紅の雨 長谷川素逝
子地蔵の唇に紅さす枯世界 岸田稚魚 筍流し
子燕のうす紅の喉糸ぐるま 長谷川双魚 風形
子規墓に蒔かばやと思ふ縷紅草 高浜虚子
存へてはにかみの紅山ざくら 大井戸辿
存在の吾亦紅より野の暮色 稲畑汀子
安良居の神子目尻に紅さして 広瀬千鶴
実に紅の見え出るまでを花楓 原石鼎 花影以後
宵闇の花魁草の紅深め 竹田節
家中に蚊遣火の紅ただ一点 山口誓子「激浪」
家厳は白に紅斑の椿かな 松瀬青々
寂しさが足りない夜の紅は濃し 春海教子
寄せものに紅が刷かれぬ涅槃像 宮坂静生 山開
寄せ活けて句読点なる吾亦紅 大森光栄子
寄りそふて紅確かむる牡丹の芽 小川濤美子
寒の紅思ひをこめて塗りにけり 清崎敏郎
寒の紅秘めて明治も終りけり 萩原麦草 麦嵐
寒の紅自分らしさのあるかしら 工藤ひろえ
寒夕焼端まで塗らず画布の紅 桂信子 黄 瀬
寒木瓜の紅に祝ひの言の葉を 長谷川かな女 雨 月
寒木瓜や乳房吸ふ手の紅さし来 田中茗児
寒汽笛鳩の落ち羽の柄の紅み 友岡子郷 遠方
寒牡丹くづる紅帯ほどくごと 吉野義子
寒牡丹この叫びにも似たる紅 能村登四郎 冬の音楽
寒牡丹待たるゝのみの紅ほのと 岸風三樓
寒紅さす二度とひらかぬ唇に 佐藤 緑
寒紅にしづかに曇る日なりけり 原石鼎
寒紅に口尖がらせし娘かな 皿井旭川
寒紅に女心をみたりけり 田畑美穂女
寒紅に松風つのりきたりけり 綾部仁喜 樸簡
寒紅に疲れを隠し看取妻 飯田波津恵
寒紅に鬢附油凍りけり 野村喜舟 小石川
寒紅のきりりと親を拒みをり 黛執
寒紅のくちびる何の果肉なる 上田五千石
寒紅のことば慎みゐたるなり 石嶌岳
寒紅の一文牛の溜りけり 野村喜舟 小石川
寒紅の去りし鏡の虚空かな 野見山朱鳥
寒紅の口うつくしき京言葉 蒲生院鳥
寒紅の口を結びてかたくなに 田上一蕉子
寒紅の口を絞りて舞妓かな 皿井旭川
寒紅の口許生きて来し会話 稲畑汀子
寒紅の唇うばはれて嫉妬断つ 仙田洋子 橋のあなたに
寒紅の唇に利酒つかまつる 佐久間慧子
寒紅の唇動き読みすすむ 小澤實
寒紅の店の内儀の美しき 高浜虚子
寒紅の提灯の文字女文字 田中冬二 麦ほこり
寒紅の濃き唇を開かざり 富安風生
寒紅の濃くさしたるを怖れけり 鷹羽狩行 十友
寒紅の燃えて何をか言はんとす 井沢正江
寒紅の燃え移りたる懐紙かな 池上不二子
寒紅の皓歯にすこしうつろへる 久米正雄 返り花
寒紅の皿糸底の古りにけり 京極紀陽
寒紅の筆の命毛短くも 奈良鹿郎
寒紅の舞妓も見たり外套被る 百合山羽公 故園
寒紅の貝合せめく絵なりけり 下村梅子
寒紅は末摘む花の色なりし 下村梅子
寒紅やいとけなき手にする化粧 岡本松浜 白菊
寒紅やおどけて心ひきたてて 清水万里子
寒紅やかつてをとめの鏡の座 河野南畦 『花と流氷』
寒紅やせうなきことを深嘆き 辻桃子
寒紅やそのカクテルを私にも 星野 椿
寒紅や一つの墓にひざまづき 宇佐美魚目
寒紅や二夫にまみえて子をなさず 吉屋信子
寒紅や京としいへば紅の事 小澤碧童 碧童句集
寒紅や人剌す如く言ひ捨てゝ 牧野美津穂
寒紅や今日の元気を内に秘め 別所支梛子
寒紅や何も言はじと心決め 西村和子 窓
寒紅や夫の好まぬ髪結はむ 池上不二子
寒紅や女ひとりの幸はあるか 楠本憲吉
寒紅や妻となり萎えゆけるもの 大石悦子 群萌
寒紅や小菊にぬぐふくすり指 星野麦人
寒紅や己がわがまゝ己れ知る 木内悠起子
寒紅や座敷の下は高瀬川 梶山千鶴子
寒紅や心の奥に神も魔も 上野泰
寒紅や心の闇は覗かれず 鈴木真砂女 夕螢
寒紅や心隈どるごとく引く 大石悦子 群萌
寒紅や暖簾をくぐる女形 小川陽子
寒紅や暗き翳ある我が運命 下田実花
寒紅や月蝕の闇宵のうち 宇佐美魚目 秋収冬蔵
寒紅や母にはいつも祈りあり 都筑智子
寒紅や無表情なる美しさ 三宅清三郎
寒紅や皿の糸底かかる指 野村喜舟
寒紅や眉定まりて人の妻 島村元句集
寒紅や石女と言ふ語はかなし 木村梧葉
寒紅や素直に通す人の意地 松本青羊
寒紅や美しき嘘うべなえり 大野岬歩
寒紅や老いさまざまに三姉妹 三好昭美
寒紅や花びら餅はほの赤し 高木晴子
寒紅や贋金をもて胸飾る 岸風三樓
寒紅や過ぎし世を恋ふ古簪 高橋淡路女 梶の葉
寒紅や酒も煙草もたしなまず 鈴木真砂女 生簀籠
寒紅や鏡の中に火の如し 野見山朱鳥
寒紅や雲欲すれば雲生れて 知久芳子
寒紅や鴨煮るくちに濃く刷かれ 龍岡晋
寒紅をおちよぼにつけて女身仏 山本麓潮
寒紅をさしたるのみの素顔かな 三宅清三郎
寒紅をさして初恋草とゐる 後藤比奈夫 めんない千鳥
寒紅をさして無聊の日なりけり 龍奈賀子
寒紅をさし甦るいのちかな 樋口葉子
寒紅をさすや佳き日も辛き日も 吉川禮子
寒紅をさす鏡中の暗さかな 町野けい子
寒紅をさせるお顔を見納めに 深見けん二 日月
寒紅をつけるいとまに妻はあり 上野泰 春潮
寒紅をつけ辛辣なこと言えり 沖口遼々子
寒紅をとりし白き手目にのこる 田中冬二 麦ほこり
寒紅をひいて反論もくろめり 樋笠文
寒紅をひきしづかなる一日を 深見けん二
寒紅をひきつつ言葉探しけり 鳥山米子
寒紅をひきて女形の顔となる 中山秋月
寒紅をひきて心に鞭打たん 天野貞枝
寒紅をひき直せよと母の言ふ 坂本多津子
寒紅をひそかに求め八十路たり 菖蒲 あや
寒紅を二つはきたる小皿かな 村上鬼城
寒紅を刷いて人形仕上りぬ 矢島房利
寒紅を土産にくれし宿屋かな 田中冬二 麦ほこり
寒紅を差して点晴句会かな 穂積正子
寒紅を引きて瞋りのなかにをり 大石悦子 群萌
寒紅を引きて閻魔をあざむかん 松久素子
寒紅を引きなつかしやわが死顔 恩田侑布子
寒紅を引くことのみの分限かな 今泉貞鳳
寒紅を引くたび想ふ礁あり 高千夏子
寒紅を引く表情のありにけり 粟津松彩子
寒紅を拭ひ利酒つかまつる 宇和川喬子
寒紅を濃くさしたるを怖れけり 鷹羽狩行
寒紅を濃くし噂の彼女来る 工藤昭子
寒紅を濃く稿債に倦みし日よ 稲畑汀子
寒紅を皆濃くつけて話しけり 高浜虚子
寒紅を落として葱を刻みけり 中田尚子
寒紅を裾にとうとうたらりかな 加藤郁乎
寒紅を買ふ妻をみし小路かな 長谷川櫂 蓬莱
寒紅濃く半裸半跏の奈良へゆく 渋谷道
寒紅猫咲きそめ紙のうす明り 成田千空 地霊
寒餅の紅切れば艶老妻に 山口青邨
寿(いのちなが)身延詣での紅支垂 高澤良一 燕音
封印のごとく寒紅引きにけり 小林知佳
射干の紅一花を蝋干し場 冨田みのる
對岸に紅燈ありて涼しさよ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
小安温泉や紅山桜靄染むる 桜木俊晃
小町忌や芍薬の芽の紅に 山口マサエ
小町忌や鴨の啄む紅椿 藤原口佐子
小豆粥紅を直して帰りけり 小圷健水
小雪や実の紅の葉におよび 鷹羽狩行
少女来て小犬を放つ縷紅草 古賀まり子「源流」
少年のたじろぐ紅や曼珠沙華 斎藤嘉久
尾瀬沼の渡り板濡れ吾亦紅 柳澤みはら
尾鰭めく紅帯の房踊へ行く 香西照雄 素心
屍行き紅襟巻の夫人蹤く 石田波郷
展望エレベーター動けば燃ゆる海紅豆 小笠原須美子
屠蘇注ぐや紅絹の匂ひをなつかしみ 伊藤敬子
山で噛る林檎紅肌雪で磨く 福田蓼汀
山の日のしみじみさせば吾亦紅 鷲谷七菜子 天鼓
山の日のわづかに伸びて冬芽紅し(箱根三句) 内藤吐天
山の日の焦げて小粒の吾亦紅 岡部名保子
山の雨束の間なりし吾亦紅 高田風人子
山の風寒餅に紅滲まする 村上しゆら
山は朝日薄花桜紅鷺の羽 素堂
山みちを紅炉へもどる虚子忌かな 宇佐美魚目 秋収冬蔵
山口も紅をさしたるもみぢかな 望一
山国の桃の紅らむ力かな 櫛原希伊子
山寺に織られて紙布の紅冴えぬ 吉野義子
山祇の雪に踏ん張る紅鳥居 成田千空 地霊
山羊の陰紅らむあはれ五朗の忌 成田千空 地霊
山茶花に又日が当り紅さかな 温亭句集 篠原温亭
山茶花の紅つきまぜよ亥の子餅 杉田久女
山茶花の紅つつましく石の上 小島政子
山茶花の紅ふくむ雪雫して 竹の門句集 筏井竹の門、木津螢雪編
山茶花の紅ほのとあり八一の書 中山純子 沙 羅以後
山茶花の紅を逃げたる冬日かな 阿部みどり女
山茶花の紅斑華やぎ盛かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
山茶花や紅斑の少しさみしくも 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
山萩紅そこはあふれて姉をまつ 阿部完市 春日朝歌
山蔭やこゝもとの日は紅の花 千代女「千代尼句集」
山裾のありなしの日や吾亦紅 飯田蛇笏 椿花集
山雲の一日去らず紅の花 岸田稚魚 『萩供養』
山頂の吾亦紅風も日も止らず 細見綾子
山風に朝はやさしき吾亦紅 松村蒼石 雪
岩をみて肩の凝りたる紅すすき 大木あまり 雲の塔
岩鏡誰が唇の紅なりし 有馬朗人
峠より日が濃くなれり紅の花 皆川盤水
島の崖一つ紅さす鰯雲 久米正雄 返り花
島の旧正子豚の尻がうす紅に 奈良文夫
崖下に散り三十年海紅豆 和知喜八 同齢
嵐めく風が吹く丘吾亦紅 高木晴子 晴居
川へだつ障子ぞ更くる紅燈忌 桂樟蹊子
巣燕やつられて買へる蕪の紅 石川桂郎 高蘆
差し交はす冬からまつの紅ふかし 宮坂静生 春の鹿
市がすみて青鬼灯の紅さし初む 長谷川かな女 花寂び
師に向ふ墓一つあり吾亦紅 宇佐美魚目 天地存問
師の没後はじめて萩の紅ととのふ 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
常に見て浅間鮮し吾亦紅 有働亨 汐路
幅跳の助走路に沿ひ雁来紅 高澤良一 ねずみのこまくら
干梅のほど良き紅のうらおもて 石橋稔子
干梅の紅に黄昏いろ迫る 山田弘子 螢川
干梅の紅見れば旱雲 河東碧梧桐
干梅や眼をやるたびに紅に 山口誓子 激浪
平安に薔薇の紅より昼がくる 桜井博道 海上
年酒の芋茎にいでし紅の色 瀧澤伊代次
幼巫女紅して月を待てるかも 下村槐太 天涯
広幅の大淀染めよ紅の花 殿村莵絲子 雨 月
底紅とあり父よりも妻思ひ 後藤比奈夫 めんない千鳥
底紅に咲いて木槿の不惑なり 谷中隆子
底紅に胸なでおろす風が出て 高澤良一 寒暑
底紅のびつしり咲いて村密か 鈴木蝶次
底紅の花に傅(かしず)く忌日かな 後藤比奈夫
底紅やあすは忘るる怒りとも 関 清子
底紅やなにとなけれど寺構 綾部仁喜 樸簡
底紅やひろびろとして葭の倉 対中いずみ
底紅やよるべなき風ながれけり 高澤良一 素抱
底紅や一村呑みし湖しづか 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
底紅や俳句に極致茶に極致 阿波野青畝
底紅や少女とをりて刻の過ぎ 岸田稚魚
底紅や朝みづうみの疲れ波 高橋睦郎
底紅や母郷かなしきまで澄みし 明石晃一
底紅や物の怪のたつ髪の宮 松本進
底紅や都は昼を暗く棲み 東麗子
底紅や雛妓のころの名でよばれ 加藤三七子
底紅や黙つてあがる母の家 千葉皓史
底紅夜半神様のようにねむりぬ 阿部完市 軽のやまめ
底紅忌うすむらさきに昏れにけり 肥塚艶子
底紅忌学びつ習ふこと愉し 小田尚輝
底紅忌学びて習ふこと愉し 小田尚輝
底紅忌浪華情緒もうすれつつ 吉岡みよの
店閉ずと戸をもて堰くや蕃茄の紅 田川飛旅子 花文字
庭水辺摘む七草の芹紅に 山口青邨
康成忌むかし浅草紅団 富安風生
廃園の爪紅の実をはじきなど 臼田亞浪 定本亜浪句集
引き寄せてはじき返しぬ紅蜀葵 高浜虚子「虚子全集」
張板に吸ひつく紅絹や水の芽晴れ 高橋淡路女
彼岸花は紅笄や尼寺の跡 高井北杜
御墓前へ三河育ちの紅椿 石川風女
御降りの紅粉花の稚葉ぬらしつつ 山口青邨
復活祭泥紅緑に耕耘機 百合山羽公 寒雁
心にフリル 紅山茶花を見ていたら 伊丹啓子
忍び来て摘むは誰が子ぞ紅苺 杉田久女「杉田久女句集」
忠義とは唐紅に散る紅葉 菖蒲あや
思はねば*はまなすの紅薄るるよ 鈴木鷹夫 千年
急流のはじきだしたる紅椿 松本ヤチヨ
恋の句の芭蕉に多し紅の花 加藤羝羊子
恋の島佐渡の卯木は紅濃ゆく 永田きみ枝
恋ふるものなき世酸模の紅を見て 堀口星眠 営巣期
恋を得し子のやうな紅みぞそばは 北川美枝子
恋猫の通ふ深雪の紅殻戸 佐野美智
恙なし雁来紅は枯れにけリ 清水基吉 寒蕭々
恥らひて紅のほのかに新生姜 今泉貞鳳
恥らひの紅ほんのりと新生姜 小西四郎
悪女かも知れず苺の紅つぶす 三好潤子
慶弔に出向く寒紅一本持ち 神尾久美子 桐の木
憂きことに耐へて花見の紅を刷く 鈴木千恵子
懐疑的視点で並ぶ雁来紅 城野都生子
懸想文いまさら紅を濃くしても 梶山千鶴子
我家の紫苑に魂か☆紅忌 竹貫静山
戦中記鬱勃と紅噴く藜 大佐 優
戦勝のしるしか頭の紅椿 宇多喜代子
戦場の夜明け紅薔薇たちあがり 高澤晶子 純愛
戦闘機ゆく白牡丹紅牡丹 山口青邨
手に触れてくだける恋や縷紅草 牧 冬流
手のいたき顔して渡す紅の花 加藤楸邨
手を反されし紅薔薇の匂ひなく 小出秋光
手庇の中の紅冬紅葉 阿部みどり女 『石蕗』
手拭に紅のつきてや秋海棠 支考
手相の灯唇紅濃きをおぼろとも 原田種茅 径
打水やずんずん生くる紅の花 竹下しづの女(1887-1951)
折りとつて珠のゆれあふ吾亦紅 高橋淡路女 淡路女百句
折ればすぐ彩失はむ蓼紅し 渡邊千枝子
抱卵の紅を点じて蒸鰈 槫沼清子
押花の紅染むノート谷崎忌 熊谷恵子
抽んでて雁来紅の日暮かな 中村祐子
拾ひたる石に色あり吾亦紅 長谷川かな女 雨 月
拾ひたる貝の紅もつ白秋忌(相州城ケ島白秋まつり) 上村占魚 『かのえさる』
捩花の一筋の紅四十路果つ 石田榮子(かびれ)
掃き取りて紅の重さの落椿 小林きそ
掘り上げて陽に当つ藷の紅小町 森田公司
掛香ヤ紅粉ヤクサヾヽ京土産 掛香 正岡子規
揉むごとに色顕つ紅や冬隣 手島靖一
提灯の紅はげる若葉哉 若葉 正岡子規
揚主は秋田の紅屋煙火店 高澤良一 燕音
揺れて白揺れやみて紅秋桜 中村芳子
撒水に息吹とゝのふ紅ばらは 及川貞 夕焼
撫子の紅もかなしき捨扇 山口青邨
支那蕎麦の鳴門の紅や仏生会 角川春樹
教師に一夜東をどりの椅子紅し 能村登四郎(1911-2002)
散り敷きて焔くづさず海紅豆 米谷静二
散乱の椿ありとりどりの紅 中田剛 珠樹
数学の教師が咲かす縷紅草 町田敏子
文字摺の紅を辿りし細き指 山田弘子 こぶし坂
文鎮の紅水晶や十七夜 籏こと
断崖の流人の墓や海紅豆 三好たけし
新宿に灯が点き鰯雲紅し 京極杞陽 くくたち上巻
新建の紅めでたかり寒椿 石川桂郎 四温
新米のしるしに越の紅の札 斉藤夏風
新米を紅絹の袋に神集 遠所るり実
新藷の羞ひの紅洗ひ出す 能村登四郎
新藷を水に濯げば紅はしる 高澤良一 随笑
旅かなし山より紅の低ければ 上村占魚 鮎
旅の膝揃へしままや吾亦紅 堀口星眠 営巣期
旅の鞄とほのぼの明けぬ紅の花 大類林一
旅も涯円通院のばら紅し 板谷芳浄
旅人のやうに睡りぬ紅粉の花 黒田杏子 花下草上
旅果ての白玉に紅滲みけり 野見山ひふみ
旅櫛の銀のよごれや紅薊 島村元句集
旅重ね寒紅重ねおもねりぬ 萩原麦草 麦嵐
日のみ鮮紅万象暁の凍ての中 福田蓼汀 秋風挽歌
日の渡るときは紅透く黒葡萄 廣瀬直人
日の落ちてより紅茸のかがやけり 小島健 木の実
日は塔の高みにありぬ紅藍(べに)の花 宮坂静生 春の鹿
日は閑に震後の芙蓉なほ紅し 北原白秋
日向より紅深まりぬ実南天 松永ゆきえ
日輪の滴る紅に風知草 柴田白葉女
旧道や寒木瓜の紅見出でたり 石川桂郎 四温
早乙女の紐一すぢが身に紅し 加藤不倒
早春の暁紅の中時計打つ 石田波郷
早苗饗の夜は紅さして星も酔ふ 能村登四郎
旭が木瓜に紅贈るごと誕生日 野澤節子 牡 丹
旭光に濡れ漆紅の岩鏡 福田蓼汀 秋風挽歌
明るさの静けさにある縷紅草 平柳青旦子
明日咲くいのちコップに張りて縷紅草 山本つぼみ「落暉」
昏れぎはの紅をひきゆく山蜻蛉 原裕
星合にもえ立つ紅やかやの縁 孤屋
星影や紅茸を踏み消したれば 永田耕衣
星飛びしあとに黄の星紅の星 相馬遷子 山国
春なれや紅殻格子ともりたる 井上雪
春の夜の影におどろく紅雀 太田鴻村 穂国
春の宵身より紅紐乱れ落つ 三好潤子
春の航わが紅唇を怖ぢにけり 飯島晴子
春の蚊の翅がうごいて紅らみぬ 今井杏太郎
春の雁手控に紅にじみたる 沼尻巳津子
春の雪 紅淡く引き忌を修す 大西やすし
春の雪紅絹にてみがく輪島塗 水津八重子
春の鵙紅の眦切長に 橋本鶏二 年輪
春北風へ揺れ紅型の伸子張 奈良文夫
春寒や紅の残れる伎芸天 白井恭郎
春待つや紅染める青木の実 小澤碧童 碧童句集
春愁や紅引くときの老眼鏡 高橋妙子
春暁や紫焔紅焔富士の頂 徳永山冬子
春月も酔ひしいろして紅殻搗 八牧美喜子
春泥の一歩身のうち紅絹の鳴る 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
春潮や紅殻ぬりの島社 西本一都
春燈に抜き糸の中の紅を選る 金子篤子
春着縫ふ紅絹を流るるごとのべて 三浦恒礼子
春祭り紅の溶けゆく飴細工 樋口満知子
春雪を見つめ茨に紅見る日 斎藤玄
春雲の紅ロザリオの青破片 原裕 葦牙
春風や紅の干衣ひらひらと 春風 正岡子規
春風や紅看板の吹きながし 井月の句集 井上井月
昨夜の夢かなし寒紅そと淡く 高橋笛美
昼顔に認めし紅の淋しさよ 松本たかし
昼顔の翳りくる間の紅淡き 今泉貞鳳
時化あとの新たなる花紅芙蓉 及川貞 夕焼
時雨照りはゝきの草の紅ふかき 金尾梅の門 古志の歌
晩学の二学期始まる紅を引く 大塚とめ子
晩紅の短かき雁の棹送る 伊藤敬子
晩紅を汚して藷を掘りつくす 百合山羽公 故園
晩餐や万国地図の紅も盛り 攝津幸彦
晶子忌や壺にあふるる紅薔薇 片山由美子 風待月
智恵たらぬ婦美し紅芙蓉 龍胆 長谷川かな女
智楸院達谷宙遊居士霊位紅の花 齊藤美規
暁紅に外れて夏逝く槍ケ岳 水原秋櫻子
暁紅に密生の藺の青を刈る 大野林火
暁紅に寒明けて寒新たなり 相馬遷子 山河
暁紅に山々ゆらぎ鶴の聲 篠田悌二郎
暁紅に染まる雪後の天売島断崖 七田谷まりうす
暁紅に波の穂染まり鷹渡る 斎藤朗笛
暁紅に花火うちあげ猟解禁 富安風生
暁紅に露の藁屋根合掌す 能村登四郎(1911-2002)
暁紅のあそびといふか霜柱 牧石剛明
暁紅の一川鴨の着いてをり 高澤良一 随笑
暁紅の岳へ巣立ちし鷹翔ける 研斎史
暁紅の波に影ゆく冬鴎 水原秋櫻子
暁紅の海が息づく冬はじめ 佐藤鬼房
暁紅の海に淑気の満てりけり 畠山譲二
暁紅へ首のべきつてはぐれ鴨 鷲谷七菜子 雨 月
暁紅や亡き父歩む雪の庭 相馬遷子 山河
暁紅や渚に濡るゝ氷魚の籠 河前隆三
暁紅や潟の雀ら交りつつ 村上しゅら
暁紅や瀕死の鯖火岬の端に 岸田稚魚 筍流し
暁紅を外れて夏逝く槍ケ岳 水原秋桜子
暁紅を経て雪代の溢れけり 村越化石
暁紅地にありて鳥の重たさなど 金子皆子
暑いのはこれから先よ千日紅 高澤良一 寒暑
暑に向ふ勢ひを秘めし海紅豆 林加寸美
暗紅の西日や潟の女唄 成田千空 地霊
暮るるとは知らず雁来紅と居る 中西舗土
暮れ初めぬ軒のかまつか紅つくし 平松茂都子
曉紅を経て雪代の溢れけり 村越化石
曖昧に生きぬ証しの寒紅ひく 中村明子
曲り家の牛鳴いてゐし紅の花 阿部月山子
書を典じこのひと得たり紅蜀葵 加藤郁乎 江戸桜
書を曝す中に紅惨戦絵図 橋本多佳子
書初や草の庵の紅唐紙 飯田蛇笏 山廬集
曼珠沙華夕せせらぎに紅流せ 太田鴻村 穂国
曼珠沙華浄土の雲に紅移す 平畑静塔
月の出に百紅らむか苺畑 石川桂郎
月光にふれ紅梅の紅を失す 福田蓼汀 秋風挽歌
月光に奪はれぬ紅や罌粟の海 島村元句集
月光に花梅の紅触るるらし 飯田蛇笏 春蘭
月山へつぎはぎの雲紅の花 藤田あけ烏 赤松
月青く雨紅に秋ぞ行く 行く秋 正岡子規
有明の影なかりけり紅の花 安保柳汀
朝日真円より紅にななかまど 福田蓼汀 秋風挽歌
朝晴やふち紅させる霜の菊 柴田白葉女 『冬泉』
朝焼のいつしか雨の紅の花 井桁蒼水
朝紅や水うつくしき初霞 上島鬼貫
朝露をこぼさずに摘む紅の花 山田冬馬
朝顔のはへあふ紅粉のねまきかな 卯七妻-春子 俳諧撰集玉藻集
朝顔の紅に小簾晴れて来る 長谷川かな女 花 季
朝顔ややす~染みし紅浅黄 渡邊水巴 富士
朝顔や雨に褄とり紅蛇の目 福田蓼汀 秋風挽歌
朝風の吹き抜けてゆく紅芙蓉 杉本 彬
木の実の紅覚めよ熟れよと懸巣鳴き 野澤節子 黄 炎
木の芽食む鷽の胸紅数しれず 皆吉爽雨 泉声
木の門をひとりくぐれば紅牡丹 中村祐子
木場街に豆ほどの紅唐辛子 加藤知世子 花 季
木枯しや母の紅衣が嬰包み 林 翔
木枯や母の紅衣が嬰包み 林翔
木枯や紫摧け紅敗れ 凩 正岡子規
木洩日がとらへさくらん坊の紅 高木晴子 花 季
木洩日のさすくさむらはひそかにて水引草の紅ながし 佐藤志満
木洩日や黒ばらは紅深きゆゑ 原 不沙
木犀の匂ふ夜うすく紅さして 館岡沙緻
木瓜の紅は祖母の形見のどこかの色 加倉井秋を 午後の窓
木瓜の紅を何かの色と思ひ出せぬ 加倉井秋を 午後の窓
木瓜の花紅し物慾断ちがたし 日野草城
未来語る馬鈴薯菓子の紅の上 古沢太穂 古沢太穂句集
本紅の色に羽子つき了へし空 高澤良一 さざなみやつこ
朱の帯生涯似合へ吾亦紅 野村莵絲子
朴の木の芽吹かむと紅発しけり 小島健 木の実
杉箸に雲丹の紅染み祭膳 河野頼人
杉谷に紅ィゆゑや冬椿 尾崎迷堂 孤輪
李白く桃紅の裏家かな 李の花 正岡子規
杞陽亡し苗代茱萸に紅させど 山田弘子 こぶし坂
松に紅蔦はや十年の妻帯者 中村草田男
松の芯顔出すものへ夕日の紅 桂信子 花寂び 以後
松風に紅裏かへせ御忌詣 松瀬青々
松風や俎に置く落霜紅 森澄雄 雪櫟
松風や紅提灯も秋隣(鵠沼谷崎潤一郎幽棲、七年) 芥川龍之介 我鬼句抄
枕まで海の暁紅鴨の声 百合山羽公 寒雁
林檎紅し千曲忘れ江紺を張り 西本一都
林檎紅し恋女房よ死する勿れ 西本一都
枝枝に紅走りけり雪解風 小島健 木の実
枯れきつて真の紅湧く唐辛子 加藤知世子 花寂び
枯れ芒枯れ極まりて紅走る 広瀬一朗
枯菊になほ愛憎や紅と黄と 久保より江
枯蓮の紅らむ沼と見てはるか 阿部みどり女
枯野中行けるわが紅のみうごく 野澤節子 黄 瀬
枸杞の実の精根尽きし紅さかな 秋山卓三
染付の皿鮎鮓の紅生姜 河野伸子
柘榴紅し都へつづく空を見て 柿本多映
柘榴紅まだ破裂せず愛吉碑 岡崎万寿
柳は緑ベレ紅と申すべし 三好達治 路上百句
柳屋の紅買ひに入る燕かな 野村喜舟 小石川
柳青し紅燈七十二青楼 青柳 正岡子規
柾木の実紅し入江に日を置きて 篠田麦子
柿を干し紅殻格子古びたる 岸風三楼 往来
柿紅しいつまで病みて母泣かす 古賀まり子 洗 禮
柿落葉うつくしき紅みな伏せて 山口青邨
根の国の紅ほのかなる新走り 永井由紀子
桃の紅すももの紅や幸多し 佐藤美恵子
桃水のため寒紅を引きし日も 太田夏子
桐の花紅の夕日は人去る方 桂信子 黄 瀬
桑の実の紅しづかなる高嶺かな 飯田龍太「涼夜」
桑の実や紅粉つけ過ぎる里の嫁 麦水「葛箒」
桜の実は葉透く陽に紅君ら癒えよ 古沢太穂 古沢太穂句集
桜の実紅経てむらさき吾子生る 中村草田男「火の島」
桜の実紅顕つ日々を病めりけり 冨田みのる
桜咲く前より紅気立ちこめて 山口誓子
桜咲てお白粉売や紅粉売や 正岡子規
桜湯に嫂の紅泛びゐる 小島ノブヨシ
桜貝月に育ちし紅濃ゆし 橋本鶏二
梅に雪つみてうてなの紅ばかり 皆吉爽雨
梅や紅人のけはひの初鏡 鬼貫
梅を干す甕に紅の海はあり 山口青邨
梅一輪の紅や愚鈍に生きてゐる 赤尾恵以
梅干の紅染みし筵かな 太田南岳
梅東風や貝に練り込む京の紅 加藤安希子
梅漬の紅は日本の色なりし 粟津松彩子
梅白し紅引かぬ日は尼僧めき 坂口伸子
梅紅し雪後の落暉きえてなほ 西島麦南
梅莚昨日の紅のつきどころ 久米正雄 返り花
梅雨永や紅紫若きが品定め 松根東洋城
梅雨茸の紅に目をとむ暗峠 橋本美代子
棄てらるる身をうす紅に花たばこ 渡辺恭子
棒紅の残り少なし一葉忌 諧 弘子
棚紅のみんなのうしろ姿かな 細川加賀 生身魂
森暗く水引の紅雨さそふ 松村蒼石 雪
棺の窓あけて夕陽の紅を足す 室生幸太郎
椋の実や京紅を売る桧皮屋根 藤田あけ烏 赤松
植ゑるより金蜂花に紅椿 飯田蛇笏 春蘭
椎樫も祝福す桃紅らむを 石田波郷
椿桃ぽつとり紅し熱ひきそむ 小池文子 巴里蕭条
椿落ち奔流に紅葛藤す(上野原) 河野南畦 『風の岬』
楊貴妃の紅の凝りて花柘榴 内田恒道
楓の芽ほのかに紅し鴨帰る 秋櫻子
楓の芽紅するどしや手枕に 石田波郷
楓芽を紅に自動車教習所 和知喜八 同齢
楪のゆづりきれない紅残し 中井智子
楪の紅に心のある如く 町春草
楪の紅ほのぼのと三世代 奥村直女
楪の茎も紅さすあしたかな 園女
樫は秋の紅芽するどし葬りけり 本宮銑太郎
樹雨冷の香の火の紅手くらがり 古舘曹人 砂の音
橡の花ひそかな紅を身の奥に 渡辺恭子
檜の幹の暗紅しるく猟期来る 正木ゆう子 静かな水
櫨・楓まだ散らずして風たてばから紅に庭動きそむ 三宅千代
櫨紅葉見てゐるうちに紅を増す 山口誓子
櫻咲く前より紅気立ちこめて 山口誓子 不動
欄干に紅茸生ふや古御殿 寺田寅彦
歌舞伎座の紅提灯や初時雨 服部淑子
此秋も吾亦紅よと見て過ぬ 白雄
武蔵野に水引の紅濃かりけり 笠原遠山
歯朶の枯れ残菊の紅子に帰らん 細見綾子 雉子
歯朶谷へ紅絹ふんはりと脱ぎ捨つる 熊谷愛子
死なばこの眼も焼かる吾亦紅 川代くにを
死にゆくはカラスノエンドウより紅し 大坪重治
死に神のかの指遺い縷紅草 増田まさみ
死ぬときも九文半吾亦紅 鳥居美智子
死を悼むその夜の梅雨の紅拭ふ 鈴木真砂女 夕螢
死後もこの青空あらむ紅芒 那須乙郎
死顔に化粧する紅が見あたらない 小澤武二
殉教の孤島夜目にも紅桜 原裕 葦牙
母とあればわれも娘や紅芙蓉 龍膽 長谷川かな女
母の忌の白玉に紅ほんのりと 渡辺恭子「餅焦がす」
母の日の五月つごもり紅粉の花 山口青邨
母の日や母は病むとも紅の花 林翔 和紙
母逝きて夏百日の紅咲く家 久富悠紀郎
毛糸編む紅のジヤケツの子が紅を 上村占魚 鮎
水中の紅糸と見れば花うぐひ 伊藤トキノ
水中花紅さしひらく灯の澄みに 柴田白葉女 遠い橋
水仙や冷たかりし名の紅晶女 渡邊水巴 富士
水底に紅鱒の影秋めきぬ 中條睦子
水底へゆすら紅寄せ沈みけり 吉野義子
水引の小さき紅の愛らしさ 熊谷貞子
水引の手折りて紅の失せにけり 茂里正治
水引の紅にふれても露けしや 青邨
水引の紅のこぼれて一笑塚 三好かほる
水引の紅の一すぢ涼風忌 赤澤千鶴子
水引の紅の一点づつ山気 山田弘子 こぶし坂
水引の紅の色ほど信じをり 白土青波
水引の紅は見えねど壺に挿せり 高浜年尾
水引の紅ひとすぢのつゆげしき 松村蒼石 露
水引の紅をふやして雨の寺 木内彰志
水引の紅を奪ひて夕日落ち 坊城としあつ
水引の紅を尽して末枯るゝ 高木石子
水引の紅奔放に控へ目に 御堂御名子
水引の花の人目を避くる紅 後藤比奈夫 金泥
水引草のつぶさに紅し宇陀郡 角川春樹
水楢の瑞枝紅さす二月かな 奥田杏牛
水洟や紅ふふめるは猫やなぎ 松村蒼石
水澄みて百草の実の紅の色 角川春樹
水甕のひた濡れて唐辛子紅し 内藤吐天 鳴海抄
水蜜桃の紅透く籠目の切子鉢 石原八束 風霜記
水錬の紅旗一処に集まりて 山口誓子
氷菓舐めては唇の紅補ふ 津田清子 礼 拝
氷面鏡夜は山姥が紅刷きに 渡辺恭子
氷點下に紅つぼむ寒牡丹 松瀬青々
永遠に京紅はあり事始 岡井省二
汗かきは紅・白粉に嫌はるる 筑紫磐井 婆伽梵
汗にしみて紅さめし襦袢哉 汗 正岡子規
汗の紅往診幾千なさば業果てむ 相馬遷子 雪嶺
汝が嫁ぐ紅染月の草木かな 岸田稚魚
汝が為に鋏むや庭の紅蜀葵 高浜虚子
沈みゆく春の彼岸の大き日は紅燃ゆる燃えつくるがに 半田良平
沖かけて白波そだつ海紅豆 松本幹雄
沖の帆にいつも日の照り紅蜀葵 中村汀女
沖の雲雪をはらむに梅紅し 佐野まもる 海郷
沢の蟹ほのぼの紅し業平忌 神尾久美子 桐の木
河豚食べて毒より強き紅をひく 大竹はるみ
河骨の紅の小咲まし西の国 加倉井秋を
沼の天暁ケの紅さす祭まヘ 柴田白葉女 花寂び 以後
沼の風ふふみて紅の返り花 中村久美子
沼風にごっつんこして吾亦紅 高澤良一 鳩信
泉吸ひ紅髪を獅子のごとぬらす 古舘曹人 砂の音
洋傘の裡のみ紅し冬田ゆく 桂信子 花寂び 以後
洗はれていといとけなき紅蕪 鷹羽狩行
洗はれて紅奕奕(えいえい)とさつまいも 日野草城
洗ひ髪くくる紅紐きりと噛み 橋本鶏二 年輪
洗面器金魚の紅がはじきあひ 小路紫峡
浅間越す人より高し吾亦紅 前田普羅 春寒浅間山
浮くや金魚唐紅の薄氷 氷 正岡子規
海*紅豆ポルトガル砲はおもちやめく 八木林之介 青霞集
海とほく流寓暗し紅蜀葵 鍵和田[ゆう]子 浮標
海の色捨て切つて紅ずわい蟹 森川敬三
海はもう手ぐすね引いて海紅豆 高澤良一 随笑
海桐の実弾けて紅し万座毛 亀田ヤス子
海棠の花に紅さす局かな 海棠 正岡子規
海棠や白粉に紅をあやまてる 蕪村遺稿 春
海水着より大胆に海紅豆 高澤良一 鳩信
海紅豆さつま隼人の血汐なり 百合山羽公(馬酔木)
海紅豆の紅連なり明日へうごく潮 小林久子
海紅豆もゆ鳳作の海どこまでも 森尾雀子
海紅豆二艘の水脈のせめぎあひ 小林貴子
海紅豆二階へはづむ風の枝 桂樟蹊子
海紅豆人ら過ぎゆくいつもの顔 金子兜太「東国抄」
海紅豆咲いて南極近き国 内藤芳子
海紅豆咲きたる島の酒屋かな 小園末子
海紅豆咲き安房の子の声太し 大嶽青児「遠嶺」
海紅豆咲き焼酎の甕ひとつ 草間時彦
海紅豆咲くや神々あそびし野 大島民郎
海紅豆咲く暗がりに象の息 福島晶子
海紅豆天のかぎりを火山灰降れり 白澤良子
海紅豆天曇る日の紅暗し 河添妙子
海紅豆好きも嫌ひも憚らず 松原幸恵
海紅豆恋の雀をちりばめて 白澤良子
海紅豆旅の時間を捨ててをり 川崎俊子
海紅豆束なして降る昼の雨 橋本榮治 麦生
海紅豆沖に大和は眠れるや 稲畑廣太郎
海紅豆海の涯を見るごとし 森澄雄「浮鴎」
海紅豆潮の香に髪重くなり 古賀まり子 緑の野
海紅豆花燃え芙美子文学碑 宮下翠舟
海老の尾の淡紅(とき)日短くなりにけり 友岡子郷 未草
海風に紅を深めてデイゴ咲く 満田玲子
海風の折々通ふ海紅豆 西村和子 夏帽子
涙涸れし世に雁来紅滴るる 林 翔
涛に雨近し寒紅消さず寝る 神尾久美子
淡紅の眠気もよほす花ダチュラ 高澤良一 素抱
淡紅の辛夷の影をかへり見る 阿部みどり女
深山この夢のいづこも紅茸 齋藤愼爾
淵に映る紅や撫子白や何 島村元句集
淵へ雨椿は紅をまた累ね 中田剛 珠樹
混むでもなくまばらでもなく吾亦紅 高澤良一 宿好
清方の八百屋お七の紅の涼 高澤良一 宿好
渦をなすちよろぎの紅よ病なし 深谷雄大
温室や紫広葉紅広葉 歌原蒼苔
港湾の道の十字に海紅豆 冨田みのる
湖へ明るし木かげは萩の紅に燃え 河野南畦 湖の森
湖よりも山に峙ち吾亦紅 百合山羽公 故園
湿原に暮色を誘ひ吾亦紅 小池龍渓子
湿原は草深くして吾亦紅 吉村千代子
満紅の柿や遠山にもすがる 百合山羽公 寒雁
漬梅の紅のひと粒白露の日 飯田龍太
潮さして神輿に紅の力綱 古舘曹人 砂の音
潮の香のサービスエリア海紅豆 三村純也
潮暮るるときの紫紺や吾亦紅 谷崎トヨ子
激しくてひと日の紅の仏桑花 文挟夫佐恵 遠い橋
激しくて一日の紅の仏桑花 文挟夫佐恵
濃き紅の東踊りの小提灯 下田実花
濃き紅は林檎の肩をあふれ越ゆ 青邨
濃紅菜や化石層ある長寿村 西本一都 景色
濡れわたりさつきの紅のしづもれる 桂信子 黄 炎
濡れ色の紅唇ちらと寒念仏 田中みどり
濡れ若布海女がかづげば紅させり 柴田白葉女
濤に雨近し寒紅消さず寝る 神尾久美子 掌
瀬しぶきにうつろふ霧や吾亦紅 飯田蛇笏 春蘭
火の国に火のいろ保つ海紅豆 角川照子
火傷負いし秘仏が在わす海紅豆 丸山ただし
灯るころ紅み増し来し櫻かな 阿部みどり女
灯蛾や医師鮮紅の薬吾に与へ 橋本榮治
灼け紅旗へんぽん関羽生誕祭 高澤良一 鳩信
炉びらきや紅裏見ゆる老のさび 高井几董
炉開や紅裏見ゆる老のさび 几董
炎天に雁来紅の沸き上る 相生垣瓜人
炭の香や花葩餅の紅ほのと 木村 ふく
焚くもののなか鶏頭の紅鶏冠 辻田克巳
焚火して林檎紅さしはじめけり 藤岡筑邨
無雑作に馬籠にひらく紅蜀葵 小池文子 巴里蕭条
無頼派の誰彼逝きて落霜紅 七田谷まりうす
照り翳る六十里越え紅の花 木下英一
煩悩の紅をほんのり白牡丹 檜紀代
熊除けの鈴のきてゆく吾亦紅 和知喜八 同齢
熱飯に紅生姜夏百日来 森澄雄
燈籠の藍は桔梗紅は萩 下村梅子
燕子とぶ機窓の実梅紅さしぬ 西島麦南 人音
爪紅(つまぐれ)のさきにひとびと点るかな 松澤昭 宅居
爪紅に素足古風なつばくらめ 長谷川双魚
爪紅のうすれゆきつゝみごもりぬ 篠原鳳作 海の旅
爪紅の手をのべて芙蓉折らんとす 芙蓉 正岡子規
爪紅の濡色動く清水かな 長サキ-卯七 六 月 月別句集「韻塞」
爪紅の種を飛ばしにふるさとヘ 中嶋鬼谷
爪紅の素足古風なつばくらめ 長谷川双魚 風形
爪紅の雪を染めたる若菜かな 鏡花
爪紅の鰺干す中に咲けるあり 鷹野 清子
爪紅は其海棠のつぼみかな 蕪村
爪紅や叱られて地に何を描く 藤村克明
爪紅や童女の世界夕焼けつつ 岡本まち子
爪紅を播きたることを言ひたかり 大石悦子 聞香
父と居て交々早桃の紅を割る 飴山實 『おりいぶ』
父の日の流れ藻の紅濃かりけり 大嶽青児
片隅に蚊帳の紅紐海女の昼 桂信子 黄 瀬
牛糞は乾きやすくて吾亦紅 宮坂静生 青胡桃
牡丹の紅の強情猫そよぐ 斎藤玄 雁道
牡丹双輪月世界は白日世界は紅 福田蓼汀 秋風挽歌
物縫ふや寒紅売を心まち 高橋淡路女 梶の葉
物言はぬ唇の紅みどりさす 皆川白陀
狂ほしき馬の母情や吾亦紅 堀口星眠 営巣期
独活のいろうすむらさきにまた紅に 田中冬二 俳句拾遺
猫と住み紅薔薇垣を隠れ蓑 殿村菟絲子
猫の耳あはき紅さす百間忌 角谷昌子
猿酒を振舞はれしか紅ましこ 鈴木敏子
玉体の帰属観念縷紅草 田中信克
王女迎ふ躑躅紅紫の蘭館址 下村ひろし 西陲集
現身のごと寒紅のひかれある 天谷 敦
理髪屋の日なたを昇る縷紅草 津田渓魚
琉金の紅の羽衣老母にゆれ ひらきたはじむ
瑠璃啼くや暁紅湖にさしわたり 小倉英男「磐座」
瑠璃蜆蝶紅蜆蝶ここより美き村か 香西照雄 対話
瑠璃鳥のあそべり散るは紅空木 山谷 春潮
生ひ立ちの底紅木槿婚近し 伊藤敬子
生まれたるままの身がよし吾亦紅 福田甲子雄
生国の闇を飛び交う紅椿 大西泰世
生誕の日や冬薔薇の紅の檄 楠本憲吉
産卵の 紅に栄え 鮭の死くる 伊丹公子 アーギライト
産声や唇紅させる葉月稚児 長谷川かな女 牡 丹
産月の紅びつしりと梅もどき 佐藤鬼房
産衣裁ちしが紅に酔ふ蚊帳の秋 久米正雄 返り花
田の畔に芝桜の紅深かりし 根津芙紗
田園の冷夏鬱鬱紅をひく 小枝秀穂女
田植男や雨衣の裏の紅返す 殿村莵絲子 遠い橋
田遊の紅つけて酔ふ男衆 福田甲子雄
男言葉の少女らも良し縷紅草 水野真由美
疲れゐて雨の紅茸傘で刺す 加藤秋邨 吹越
病いづる頃とをののく雁来紅 古賀まり子 緑の野
病む妻の頬に紅さし春近し 清田柳水
病む頃を雁来紅に雨多し 夏目漱石 明治三十一年
病人の汗は流れず縷紅草 石田波郷
病葉の日日濃き紅を哀しめり 平野泰代
病葉の紅さしてゐて拾はれぬ 長谷川かな女
病葉やあながちの恋紅の照り 松根東洋城
痴人また椿ふふっと紅を脱ぐ 増田まさみ
癒え近し紅薔薇鏡中にもあふれ 西村 梛子
発心の紅さしそめし青木の実 森澄雄
白(はく)牡丹といふといへども紅(こう)ほのか 高浜虚子(1874-1959)
白亜館紅蔦淋漓闇に散る 草田男 (三島氏原作・水谷氏所演の「鹿鳴館」に需められて、読まず観ずして、作る。)
白日忌鈴生り酸漿紅刷きし 古安師竹
白木槿の底紅ほどの帰心あり 吉田陽代
白桃の核の紅濃き術後かな 江口千樹
白桃の紅らむ頃を夜汽車かな 鳴戸奈菜
白牡丹いづこの紅のうつりたる 高浜虚子
白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子「虚子全集」
白牡丹ひらき切るまで紅を秘す 吉田銀葉
白牡丹ほのかな紅も許さざる 吉田静子
白玉にいろどる紅や祭の日 長谷川かな女
白玉にまじる紅一家無事 伊藤京子
白玉のしるこの中に紅一つ 中野重一
白玉の紅一すぢが走りをり 杵屋栄美次郎
白社丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
白菊や紅さいた手のおそろしき 千代尼
白萩の波に紅さす一枝あり 龍男
白萩や紅濃きは野にあるを見む 及川貞 榧の實
白蛾の目玻璃に紅彩原爆忌 原田孵子
白釉のすこし紅さし風花す 一丸文子
白雲は乱礁の浪や雁来紅 渡辺水巴 白日
白魚や紅見する花の陰 白魚 正岡子規
白鳥のはなるるときの声紅に 小島千架子
百合切るや暁紅浅間より拡がる 宮坂静生 雹
百姓の娘顔よし紅藍の花 高濱虚子
百日紅疲れを知らぬ紅として 大槻秋女
百日紅行きつくまでの紅さかな 加藤知世子 黄 炎
皐月紅さし山中節は情ふかく 長谷川かな女 牡 丹
皹薬つけてより紅絹縫ひ始む 敦賀皓子
盆の餉の紅を散らせし北寄飯 茂里正治
盆東風や紅刷きそめし山うるし 米谷静二
盆花は紅をまじへて定まりぬ 鈴木良戈
目につきし時が盛りや吾亦紅 下田水心子
目立たずも我が生ありき吾亦紅 豊長みのる
相撲取の紅裏染し秋袷 許六
相語る風雨のあとや縷紅草 久保ゐの吉
省略とは点と線との吾亦紅 山田みづえ 手甲
眄に紅ほとばしる芒かな 高澤良一 寒暑
眉などは刷かぬ妻なり紅の花 市村究一郎
眉掃きを俤にして紅粉の花 芭蕉「奥の細道」
眉掃を俤にして紅粉の花 芭 蕉
眞すぐに千草の中の吾亦紅 甘利 敏子
眦(まなじり)に紅決したる踊りかな 石橋秀野
睡蓮の紅の燃えたつ憶えかな 加藤知世子 黄 炎
睡蓮の紅を去る人はや遠し 古舘曹人 能登の蛙
睡蓮の近くの紅はつまびらか 深見けん二 日月
瞳黒き女紅煮る春の昼 吉野義子
知らぬ子に紅さしてやる地蔵盆 林佑子
短夜のつのる花かや紅ばたけ 千代尼
短日や二階で飼へる紅雀 野村喜舟
短日や雌を死なせし紅雀 野村喜舟
石を積み紅蟹置けば梅雨の宮 宮武寒々 朱卓
石像の余熱に昏れず雁来紅 河合凱夫 藤の実
石楠花の紅ひとつ荘開きけり 堀口星眠 営巣期
石楠花の紅ほのかなる微雨の中 飯田蛇笏 山廬集
石楠花の紅曳く影のあふれける 古舘曹人 砂の音
石楠花の紅盛んなる峡の朝 郡山裕子
石楠花の紅迸る雹のあと 岡田貞峰
石榴淡紅雨の日は雨の詩を 友岡子郷 翌
石榴紅し都へつづく空を見て 柿本多映
砂に這ふ防風はにかむ紅に 長谷川かな女 花寂び
碧天をうるほす紅やさるすべり 原コウ子
磯井戸はとうに使はず落霜紅 中戸川朝人 尋声
磯海女の子らも紅引き七五三 中村千恵子
祝盃の紅を拭きとる夕霧忌 田代幸子
祝膳紅仄かなり北寄貝 村岸明子
祝菓切る手と手紅ばら越しに見ゆ 柴田白葉女
神ありやあり雁来紅の立つかぎり 田川飛旅子 『使徒の眼』
神の筆ためらひ刷きし桃の紅 篠田悌二郎
神留守の紅の筆見し玉手箱 桂樟蹊子
神苑を八重紅枝桜染め 粟津松彩子
祭来て太鼓のごとし紅空木 金箱戈止夫
禮帳に紅染の花のこぼれけり 松瀬青々
秀野忌や和紙に紅透く和三盆 木村雅子
秋*かややあした夕べの炉火の紅 飯田蛇笏 山廬集
秋うららバス待つ女紅を引く 杉山青風
秋すでに始まってゐし吾亦紅 小林 むつ子
秋寒し満天星紅をなさず散る 林原耒井 蜩
秋日こめて紅蘆の葉や燃えそめし 竹下しづの女 [はやて]
秋晩く雲に紅さす巽空 飯田蛇笏
秋暁の紅唇一語洩らせしや(吾亦紅さんを悼む) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
秋海や日の紅を呑み了り 東洋城千句
秋涼の海に飽かれし紅ヨット 百合山羽公 寒雁
秋深し玉をくだいて紅を見ん 長谷川零余子
秋澄める暁雲といふものの紅 飯田蛇笏 椿花集
秋蝉や浮雲一つ一つ紅し 鈴木鷹夫 風の祭
秋蝶の紅鮮しき山路かな 川崎展宏
秋風のぐいと見せたる幡の紅 内田美紗 誕生日
秋風も紅燈趣味もそれとなく 高澤良一 鳩信
秋風や唐紅の咽喉仏 夏目漱石 明治四十三年
秋風や皆紅の舞ひ扇 会津八一
秘めやかに更紗満天星紅刷けり 新井世紫
稀にあるゆゑ紅梅の紅強し 園田夢蒼花
種蒔ざくら紅尽くし滝激す 野沢節子
稻妻に紅粉つけて居る遊女哉 稲妻 正岡子規
穂芒の紅のほのかに明日あるなり 岡本眸
穴まどゐ身の紅鱗をなげきけり 橋本多佳子
空事の紅もまじりて曼珠沙華 斎藤玄 雁道
空前の/紅唇/絶後の/裏切りや 折笠美秋 火傅書
空港に終便送る海紅豆 羽田岳水
突かざれば天地知らぬ羽子の紅 加倉井秋を 『風祝』
窓掛に風が吹くなり紅薔薇 寺田寅彦
窯出しの紅のにじみや冬深む 遠藤律
竜宮は入口ばかり紅珊瑚 北永一
笑み解けて寒紅つきし前歯かな 杉田久女
笠美人右手右足左手左足や紅鼻緒 橋本夢道 無類の妻
笹鳴りや訪はゞ紅布を裁ちをらん 安斎櫻[カイ]子
筆に紅つけて雛の口を描く 瀬戸十字
筆噛んで寒紅の唇汚さざる 村林星汀
筏乗りの裔 石楠花の紅に溺れ 伊丹公子 山珊瑚
筺底にわがいつの日の寒紅ぞ 高橋淡路女
篁の穂がやゝ紅し薄霜す 小林康治 玄霜
築地青く薔薇紅の館かな 薔薇 正岡子規
篠田桃紅美術空間秋の声 黒田杏子 花下草上
米浸す水に紅溶き桜どき 後藤淑子
粟の穂の韓紅の葉先かな 川端茅舎
糸の紅みだれて古りし手毬あり 水原秋櫻子
糸桜風のやむとき紅溜めて 中村祐子
系図には女とのみや吾亦紅 松田ひろむ
紅々と麻疹の顔や夏布団 滝井孝作 浮寝鳥
紅うつぎ風移る間も紅たもつ 莵絲子
紅がちと黄がちの二寺の花御堂 森田峠
紅がちに黄がちに城の秋を描く 大橋敦子 手 鞠
紅さいた口もわするるしみづかな 千代尼
紅ささぬ母娘に三日過ぎにけり 館岡沙緻
紅さした鯛に蠅飛ぶ殘暑哉 残暑 正岡子規
紅さしてかはせみかよふ島びさし 野尻湖 中勘助
紅さしてきし真夜中の月見草 青柳志解樹
紅さしてはぢらふ花の日日草 渡辺桂子
紅さしてまず身の内の春立たたす 鈴水ふさえ
紅さしてゐしはまことか雪女郎 永井龍男
紅さして入内さだまる玉子雛 鳥居美智子
紅さして初夢のみめかたちかな 長谷川久々子
紅さして夕月はあり一の午 深見けん二
紅さして寝冷の顔をつくろひぬ 高濱虚子
紅さして尾花の下の思ひ草 深谷雄大
紅さして峰雲崩るるとも見えず 野澤節子 黄 炎
紅さして帯解きの児の口重し 藤井さき子
紅さして日々あざやかや親子草 鯱人
紅さして神の椿の実なりけり 森田公司
紅さして細かなものに春の塵 高橋睦郎 稽古
紅さして踊揃ひし踊子草 広瀬ひろし
紅さして降りみ降らずみ木瓜の白 永井龍男
紅させば心ときめく初鏡 塩野幸子
紅さめで落つ寒椿久女忌ぞ 三品竹帆子
紅しだれざくらの雨にいまさかり 久保田万太郎 流寓抄以後
紅しだれざくらをかしやいまさかり 久保田万太郎 流寓抄以後
紅しだれ桜流るる寺の屋根 高沼稲穂
紅すこし初天神といひて濃く 上村占魚
紅すこし走りて鯉の洗ひかな 伊藤宇太子(狩)
紅すすきさ揺れ湯治湯熱めなり 高澤良一 素抱
紅すすきほどにあからみ山の湯に 高澤良一 素抱
紅すすき湯田の町並見えながら 高澤良一 素抱
紅すでに褪せし死面に睫毛立つ 三谷昭 獣身
紅だすき吾も早乙女となる列に 町田綾子(ホトトギス)
紅ちよろぎ箸にはさめば君美し 山口青邨
紅つくることいまはせず紅の花 下村梅子
紅つけて朝市の女鰊売る 八巻絹子
紅つつじ咲ききはまれる庭泉 柴田白葉女 『夕浪』
紅つつじ花満ちて葉はかくれけり 日野草城
紅とても透明感に石榴の実 山下美典
紅となるべきもの鶏頭に凝りにけり 誓子
紅にならでくちをし蕃椒 唐辛子 正岡子規
紅に人集めてをりし牡丹園 稲畑廣太郎
紅に倦むことなき淡さ千日草 稲畑汀子
紅に朝日さしけり餅筵 貞木句之都
紅に秋海棠の雫かな 秋海棠 正岡子規
紅のこる紅さし指も弥生かな 三浦尚子
紅のさす小山羊の耳や草の花 野村喜舟
紅のさす花びらもあり菊膾 竹内千花
紅のもすそかゝげぬ汐干人 汐干狩 正岡子規
紅の吐息に似たる牡丹の芽 中沢三省
紅の唇冬野の神に見られけり 殿村菟絲子
紅の夕日を浦の紅葉かな 紅葉 正岡子規
紅の帯じめ川床に鎮座まし 檜山火山
紅の影流れけり春の水 春の水 正岡子規
紅の扇と見ゆれ帯の間 扇 正岡子規
紅の暁ヶの喪礼富士は不二 沼尻巳津子
紅の朝日すゞしや不二詣 富士詣 正岡子規
紅の櫛ふところに阿波遍路 有馬朗人 天為
紅の真闇に咳を咳きにけり 八木林之介 青霞集
紅の羽根さゝれけり烏凧 伊藤観魚
紅の花びら立てゝ萩の花 高野素十
紅の花アマリリス咲き残る地もせつなしたたかひやまぬ 木俣修
紅の花刺あることを君知るや 加藤晴子
紅の花向きの定まる風見鶏 脇坂啓子
紅の花峠は水の上にあり 皆川盤水
紅の花文書くひまに開きつつ 山本洋子
紅の花暁方は土にほふなり 古賀まり子 緑の野
紅の花枯れし赤さはもうあせず 加藤知世子 花寂び
紅の花葉先するどく干されけり 百村美代女
紅の落椿なり無縁仏 両角つぎ子
紅の蕾びつしり臥龍梅 川崎展宏 冬
紅の鞋手榴弾秋の土間に蠅 片山桃史 北方兵團
紅の顎紐太し筑摩鍋 中山碧城
紅の鷹の大緒や玉あられ 胡布 霜 月 月別句集「韻塞」
紅はしる独活が人語を発しけり 栗林千津
紅はちす密教のことよく知らず 加藤三七子
紅はちす湖より明くる伊香郡 下田稔
紅ばなに最上川霧黄となりぬ 林翔
紅ばらにネオンの雨が大粒に 柴田白葉女 遠い橋
紅ほのか近江湖国に冬ざくら 谷中隆子
紅ほのとさして杏の花支度 藤田草心
紅ほのと千代尼の塚の冬桜 梅田 葵
紅ましこ鳴きて淋しき山の夕 動坂典子
紅まんさく霧のしたびに火を蔵す 栗生純夫 科野路
紅もまた雨の彩なり額の花 川合みさを
紅も萌黄も見ゆる木の芽かな 木の芽 正岡子規
紅や土より出でし紅葉芋 寺田寅彦
紅や霧のひまより蔦梢 東洋城千句
紅ゆびのもつともうごき毛絲編む 国弘賢治
紅をさす看護婦産院聖夜来る 杉本寛
紅をたてによこにとシクラメン 京極杞陽
紅をひき出かけずにいる時雨かな 田中基白
紅をひく鏡の中へ春の雪 豊田喜久子
紅を冠り下身真青や早生林檎 中矢荻風
紅を刷く志功の天女酔芙蓉 黒川芳穂
紅を失ひつゝや山眠る 高木晴子 花 季
紅を引く夜汽車の窓を時雨かな 佐藤文子
紅を濃く齢かくす気か濃あぢさゐ 稲垣きくの 牡 丹
紅マフラ山吹の池深うして 横光利一
紅ヶの綱結ひ待春の御輿倉 岸原清行
紅三頃桃の畑を鴎どり 三好達治 路上百句
紅不易八雲旧居の百日紅 津田清子 礼 拝
紅刷きてをとこ真顔やあがた祭 関戸靖子
紅卯つ木日矢聚むるは吾妻山 杉山岳陽 晩婚
紅卯つ木見し夜は夫にやさしくす 草村素子
紅卯木波止場に咲きて散りやすく 加倉井秋を 午後の窓
紅卯木蘂をつばらに吐き初むる 西村和子 かりそめならず
紅卯木見つゝ辿りぬ蔵王の温泉 高浜年尾
紅咲くや野守に見ゆる戀はせじ 筑紫磐井 野干
紅唇のああと彼方の崩れ簗 鈴木鷹夫 春の門
紅唇のはみ出してをり夏帽子 横原律子
紅唇の動いて近松忌をいへり 鈴木節子
紅唇の濡るるがごとく室の花 富安風生
紅唇の面白(おもじろ)女武者ねぶた 高澤良一 寒暑
紅型で重箱包み清明祭 稲田和子
紅型に紅の舟描く浅き春 岡部六弥太
紅型のいろの夕焼甘蔗刈る 中尾杏子
紅型のめでたづくめの初暦 八染藍子
紅型の今生れたる寒の水 玉城一香
紅型の伸子を張りて初仕事 伊差川摩生子
紅型の地色は秋の干瀬(ひぜ)の水 沢木欣一 沖縄吟遊集
紅型の花鳥しづめて水の秋 八染藍子
紅型の装ひとなる立夏かな 宮城朝教
紅型を飛び立ちゆきし夏燕 伊藤敬子
紅型師朱をたつぷりと事始 大城幸子
紅壺に収めし緋の裳石榴蕾む 香西照雄 素心
紅失せて童女の寝顔初明り 平畑静塔
紅孔雀母の扇を逃れけり 藤原月彦
紅富士にまだ寒すぎる旦暮あり 矢島渚男 延年
紅寒し唇乾く昨日今日 下鉢清子
紅少し入れて寒餅搗きにけり 今井たけ
紅少し引き甲斐甲斐し苗売女 片岡けん
紅少し濃くひき初売出しの妻 榎本栄子
紅差して十六夜の月岬より 原和子
紅差せる実梅落ちゐる雨情かな 中村汀女
紅帛を巻きし白木の神輿かな 京極杞陽
紅引いておわら流しの出を待つ娘(こ) 高澤良一 宿好
紅彩のすうつと月見草の蘂 正木ゆう子 静かな水
紅志野の窯へ山越え冬鶯 伊藤敬子
紅戈の蟹も来て居る涅槃像 河野静雲 閻魔
紅扇十三にして舞をなす 正岡子規
紅提灯三つ四つ盆の人通り 長谷川かな女 雨 月
紅摘みに露の干ぬ間といふ時間 田畑美穂女
紅斑ある虎杖思ふのみに酸し 山口誓子
紅暗し崋山の遺物落椿 百合山羽公 寒雁
紅枝垂大き入日を容れて揺る 茂里正治
紅枝垂天女の舞の夕明り 山崎千枝子
紅枝垂枝を握れば脈に触る 品川鈴子
紅枝垂桜の紅の静寂かな 粟津松彩子
紅枝垂桜を君が墓標とす 下村梅子
紅枝垂雨にまかせて紅流す 鍵和田釉子
紅染めし燈籠水を廻すかな 長谷川かな女 雨 月
紅格子途切れ小浜の干鰈 加古宗也
紅梅のその先の紅濃かりけり 綾部仁喜 樸簡
紅梅の紅のただよふ中に入る 吉野義子
紅梅の紅の通へる幹ならん 高浜虚子(1874-1959)
紅梅の紅を奪ひに山の雨 宮田正和
紅椿かがやくときに落ちにけり 上野泰 春潮
紅椿こゝだく散りてなほ咲けり 日野草城
紅椿しばらく鵯をかくまひぬ 猪俣千代子 秘 色
紅椿つとおつ午時の炭俵 泉鏡花
紅椿仰ぐに さらす喉仏 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
紅椿後鬼がかざして雪霏々たり 横山白虹
紅椿散り敷く花と守らるる 石川桂郎 四温
紅椿白椿恙なかりけり 星野麥丘人
紅椿盗るとき二人気の合ひて 内田美紗 浦島草
紅椿花びら傷みはじめけり 長谷川櫂 天球
紅椿落ちて山なすせせらぎに 中山紀恵
紅椿鳥の大きな羽音せる 長谷川櫂 天球
紅楓好き日の風の吹きすさむ 飯田蛇笏 椿花集
紅楓深しみなみし西す水の隈 高井几董
紅楓深し南し西す水の隈 几董 (高雄山)
紅楼夢ときをり開く梅雨の宿 岩田由美
紅楼夢慈悲心鳥を聞きにこい 八木三日女
紅櫨と名札掛けられ枯木なる 磯野充伯
紅殻の格子の冷えて雪催 小元洋子
紅殻の水車落花の流速に 八牧美喜子
紅殻塀つらね「一力」日脚伸ぶ 田中英子
紅殼の格子楯とし梅雨の街 佐川広治
紅波甲や凪ぎしみやこも北の海 室生犀星 犀星発句集
紅涙といふべし木の実落ちつづく 文挾夫佐恵
紅涙といふ美しさ山茶花は 松山足羽
紅涙と呼ばれて憎し鵙の贄 河野多希女 彫刻の森
紅涙をしぼりし恋や縷紅草 大井恒行
紅涙を流すがごとく椿落つ 下村梅子
紅深き大蓼の花しづの女忌 佐野光子
紅灯忌川面にうつる二階の灯 中野あぐり
紅灯忌比叡の僧もきてゐたり 勝間公子
紅煙吐く張子の大蛇鐘供養 小路日照
紅燈に水惹かれゆく秋の暮 澤田 緑生
紅燈のちまたにゆきてかへらざる人をまことのわれと思ふや 吉井勇
紅燈の丸山ちかき寝酒かな 上田五千石
紅爪の五指をそろへて雪見舞 飯田蛇笏 雪峡
紅牡丹べにをきはめし午下の日に 上村占魚 『自門』
紅牡丹跼めば緋色深まれり 田中雅子
紅猿子鳥穂高は朝の雲を脱ぐ 大野美幸
紅白の睡蓮水も紅と白 鈴木鷹夫 風の祭
紅皿も露けき頃の泪かな 露 正岡子規
紅睡蓮太陽に蕊きらめかす 鈴木延子
紅石の雨となりたる先帝祭 福田玉函子
紅筆に口つき出して七五三 水口泰子
紅筆に薄紅梅を染めて見ん 紅梅 正岡子規
紅筆の朝顔風に咲きにけり 朝顔 正岡子規
紅粉(こうふん)におちて落たる雲雀かな 立花北枝
紅粉(べに)うりの来るは田草の絶間かな 斯波園女
紅粉(べに)つけた人は大気や白牡丹 立花北枝
紅粉の花おはんの使来れば剪る 山口青邨「粗餐」
紅粉付てづらり並ぶや朝乙女 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
紅粉白粉と七夕姫の日半日 七夕 正岡子規
紅粉花を剪る夕暮はやき雨の中 古舘曹人 砂の音
紅糸が足らぬ日暮の滝こだま 神尾久美子 桐の木
紅糸を膝につけたる昼寝覚 山本洋子
紅紐の絵馬うちならぶ春の月 津森延世
紅紙のわが形代に息を吹く 長谷川かな女 雨 月
紅紫檀ひと葉のもみぢ見するかな 石川桂郎 高蘆
紅紫蘇の色に漬かれる草石蚕かな 菅原師竹
紅絹(もみ)いろに浅草の空針納め 高澤良一 宿好
紅絹を裂くたびに蜥蜴のちらちらす 石寒太 炎環
紅絹裏がひらりと寒のみたらしに 小平むつ夫
紅絹裏に春風遊ぶ舞扇 古市絵未
紅絹裏のうつればぬるむ水田哉 蓼太
紅緑忌他門の人も来て待てり 右田秀道
紅羅坊名丸が軒のへちまかな 龍岡晋
紅芙蓉かくさず濯ぐ膝二つ 殿村菟絲子
紅芙蓉とつぶやきながら種盗む 峰尾ァイ
紅芙蓉ひとの心をくむごとく 高澤良一 寒暑
紅芙蓉むすめ細身になりたがる 小林松風
紅芙蓉一花の高しくらら庵 石川桂郎 四温
紅芙蓉春樹素読の声透くや 林翔 和紙
紅芙蓉暮色裏山より落ち来 石原八束
紅芙蓉朝雲雨をこぼしたる 金尾梅の門
紅芙蓉汀女生家の丸木門 宮川杵名男
紅芙蓉珠のごとくにうち萎み 岩田由美 夏安
紅芙蓉色淡く咲き濃ゆく散り 星野立子
紅茸と遇ひて前言ひるがへす 上田五千石 風景
紅茸のつむり幼き墳墓の地 飯田龍太
紅茸の前にわか櫛すべり落つ 八木三日女
紅茸の捨るに惜き籠の中 茸狩 正岡子規
紅茸の紅あざやかに人を容れず 長内道子
紅茸の開ける傘に昨夜の雨 伊藤きよし
紅茸は木の葉に消えず山時雨 飯田龍太
紅茸へ小人の梯子絵本かな 嶋田麻紀
紅茸やうつくしきものと見て過る 高井几董
紅茸やまことしやかに歯朶外れ 清原枴童 枴童句集
紅茸や人格までを変えて病む 菅 章江
紅茸を怖れてわれを怖れずや 西東三鬼
紅茸を蹴り沃折に遅れおり 塩野谷 仁
紅菊の色なき露をこぼしけり 日野草城
紅菊の菊人形の十次郎 長谷川かな女 雨 月
紅葦の紅奪ひつゝ陽は簷へ 竹下しづの女 [はやて]
紅蔵に灯の洩るる雛の唄 鈴木漱玉
紅蔵の屋敷つらぬく雪解川 粕谷 澄
紅蕪うす日に干して湖の町 西村公鳳
紅蕪のすり傷素し娘が買ひ来る 平井さち子 完流
紅蕪ふるさとに土ゆたかなり 小林紀代子
紅薄立つ幼な子が立つやうに 石田勝彦 秋興
紅薔薇に夕べの雨のひと雫 佐伯節子
紅薔薇に闇来ても紅そこにあり 鈴木真砂女 夕螢
紅薔薇の一枝を添へし破門状 鈴木鷹夫 千年
紅薔薇の棘の血粒あなかしこ 三橋敏雄 長濤
紅薔薇や背は魔女に似る女神像 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
紅藍の花したたか裾を濡らしけり 古舘曹人 樹下石上
紅藍の花人に熱き手つめたき手 古舘曹人 樹下石上
紅藍花のわつと楸邨の大机 九鬼あきゑ
紅藍花を活けて風呼ぶ座敷蔵 近藤静輔
紅蜀葵いたるところに目立ちけり 大場白水郎 散木集
紅蜀葵いまだ花なき暑さかな 林原耒井 蜩
紅蜀葵たたみて長き夏逝きぬ 池辺マツエ
紅蜀葵は郎女の花磐余道 佐藤鬼房 「何處へ」以降
紅蜀葵ひとの高さで花ひらく 岡島昭二
紅蜀葵サロメの舞をおもひけり 佐久間慧子
紅蜀葵一朶の雲が日を蔽す 千代田葛彦 旅人木
紅蜀葵上目づかひに山童女 岸田稚魚 筍流し
紅蜀葵六つのはなびら確然と 伊沢修
紅蜀葵咲き尼の身のいたはり季 加倉井秋を
紅蜀葵咲く地の影に暑を残し 石原八束
紅蜀葵女二人して墓に狎れ 竹中宏 句集未収録
紅蜀葵子の見上ぐるに撓ひ咲く 西森請子
紅蜀葵宵弘法も近づきて 臼田亜浪 旅人
紅蜀葵常住はだかなる昼を 臼田亜浪
紅蜀葵日に向く花の揺れて居り 土方花酔
紅蜀葵明るき雨となりてやむ 高野彩里
紅蜀葵燃え落つだるき眼中より 野澤節子 花 季
紅蜀葵真向き横向ききわやかに 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
紅蜀葵砂浴び鶏の寄りどころ 田島秩父
紅蜀葵老いぬのこりし青つぼみ 木津柳芽 白鷺抄
紅蜀葵肱まだとがり乙女達 中村草田男「火の島」
紅蜀葵花なき萼の数ふべし 林原耒井 蜩
紅蜀葵花をきられてたつゆふぐれ 横山白虹
紅蜀葵軽き拳の寝入りばな 井沢ミサ子
紅蜀葵閉ぢて静けき夕ベ来ぬ 林原耒井 蜩
紅蝋燭に蝋涙朝の閑古鳥 松村蒼石 雪
紅裏の少し焦げたる懐炉哉 星野麦人
紅裏の春待ち兼ねて燃ゆる哉 尾崎紅葉 紅葉山人俳句集
紅裏は屋敷女中歟遠雉子 高井几董
紅走るひと切れの餅なづな粥 茂里正治
紅跡の吸がら仄か初雀 小坂順子
紅躑躅紅をこぼして子規の句碑 塩川雄三
紅轎の少女や嫁ぐ鳳仙花 加藤楸邨
紅閨に簪落ちたる夜半の春 泉鏡花
紅閨の足につめたき頭巾哉 高井几董
紅閨や秋海棠に灯のもるゝ 豌豆痩石
紅閨をさがしていたるひきがえる 鈴木鴻夫
紅雀まことに霜に焼けにけり 野村喜舟 小石川
紅雀主ジの昼寝鳴きにけり 野村喜舟 小石川
紅雀偽装地帯にきわやかに 金子兜太 少年/生長
紅雀残る暑さを炎えにけり 野村喜舟 小石川
紅雲一片鰯の群を率ゐ来ぬ 鈴木鵬子
紅霞たつ彼方山背に桃やある 高田蝶衣
紅鬼灯千代紙着せて帯しめて 富田絢子
紅鱒あまたみな交遊の身を曲げつつ 中村草田男
紅鱒の川瀬のぼりて夏めきぬ 富田潮児
紅鱒の斑をこぼさずに焼かれけり 渡辺恭子
紅鱒の棲める流れと聞くばかり 稲畑汀子
紅鱗をかさねて何の玉芽なる 橋本多佳子
紅鶴の巣に籠るあり子連れあり 吉良比呂武
紅鶴の群れて支ふる花万朶 鈴木節子
紅麦に鳴きやう聞かんほとゝぎす 中村史邦
紅麦に鳴き様きかんほととぎす 史邦 芭蕉庵小文庫
素通りの知人の垣根茱萸紅し 長谷川貴枝
紫のもの紅に末枯るる 風生
紫の映山紅(つゝじ)となりぬ夕月夜 泉鏡花
紫も紅も江戸前切山椒 後藤比奈夫 めんない千鳥
紫蘭いま紅をふかめて雨の中 雨宮抱星
紫陽花にきのふ紅さして今日はいかに 紫陽花 正岡子規
結ひ初めや暗がりを出て紅衣なり 香西照雄 素心
結界の紅茸どもへ鐘一打 藤田湘子(1926-)
結納の紅を拡げて冬座敷 桑島啓司
絵ガラスの紅に溶けたる海紅豆 木内岳南
絵島思ふ小彼岸ざくら紅濃にて 大橋敦子
絶望も生き甲斐ならむ紅蜀葵 平井照敏
絶滅の目高は虹に紅遺し 高澤良一 素抱
綱繕ふ手許けだるく海紅豆 高澤良一 ももすずめ
網膜に芥子の裏紅を真紅に鐫り 竹下しづの女 [はやて]
綾子の忌壷に高きは吾亦紅 滝沢伊代次
綾子忌の鶏頭紅を極めけり 小林洋子
綿菓子も紅もて装ふ夏祭 相馬遷子 雪嶺
総毛だち花合歓紅をぼかし居り 川端茅舎
緑蔭にして睡蓮の紅濃ゆし 岸風三楼 往来
縫初の絹糸紅し張り鳴らす 岡本圭岳
縷紅草その名も知らず咲かせ住む 今井千鶴子
縷紅草のくれなゐともる昼の闇 小金井欽二
縷紅草のびては過去にこだはらず 中村秋一
縷紅草はられし糸にのぼりけり 中山従子
縷紅草和田芳恵亡き坂の家 石原八束 藍微塵
縷紅草咲き広島の昼の雨 福島壺春
縷紅草垣にはづれて吹かれ居り 津田清子
縷紅草明日は行きたくない旅に 川口咲子
縷紅草母訪えば我潤され 鈴木俊一
縷紅草石垣に垂れ小学校 古川芋蔓
縷紅草訪ひきし母の声の満つ 八木林之助
繍球花をたが織りそめて紅小袖 小粉団 正岡子規
繕ひし垣に紅唇ゆるぶまま 波多野爽波 『一筆』
繭玉の枝たわわなる紅の蔵 田中由喜子
繭玉の紅が重しと枝垂れけり 片山由美子 天弓
罌粟紅しセツトの寝室灰いろに 瀧春一 菜園
罪障のふかき寒紅濃かりけり 鈴木真砂女 生簀籠
羅や林檎の頬の紅ををしむ 会津八一
羚羊のごとき少女や縷紅草 古賀まり子
義仲のうれしがりけり紅牡丹 牡丹 正岡子規
羽子つくや八ッ口の紅振りこぼし 鈴木花蓑句集
羽子を拾ひその紅さ身に加はる 加倉井秋を 午後の窓
羽子板市押絵の紅の匂ふなり 高木光子
老ゆる日のためのジヨギング吾亦紅 矢口由起枝
老女非凡に 菠薐草の茎の紅 伊丹公子 山珊瑚
老木に紅さす楓若葉かな 原石鼎
考古館陽の匂いたつ紅カンナ 伊藤 翠
耐へ来し歳月桃紅らむと指さすや 小林康治 玄霜
耳打ちの人の初紅匂ひけり 冨田みのる
耳鳴りの耳に挿したや紅の萩 鈴木鷹夫 千年
聖夜はや紅をおびゆく星得たり 阿波野青畝
職を得て寒紅を濃く引きにけり 桑原美津子
肉塊に肉塊が落つ紅椿 柴田奈美
肌寒み紅さむる襦袢哉 肌寒 正岡子規
肌寒や帚木に紅しみわたり 鷲谷七菜子 天鼓
背高き雁来紅を簾越し 川崎展宏
胡蝶蘭花芯の紅を夜へ閉ざす 深谷雄大
胸中に余白ひろがり紅睡蓮 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
胸乳割くべしや椿のかくも紅 文挟夫佐恵 黄 瀬
胸元に膨らむ潮海紅豆 吉原文音
腕貫の紅濃なりける鉾の稚子 後藤夜半
臆面もなく紅茸の裏見する 六本和子
臈たけて紅の菓子あり弥生盡 水原秋櫻子
舞ふ鶴の紅浮かみつつ下りそめし 橋本鶏二
舟曳きて小馬紅の緒風光る 小池文子 巴里蕭条
芍薬やつくゑの上の紅樓夢 永井荷風
花あほる風千変す紅牡丹 高澤良一 随笑
花か穂かもみぢ歟蓼の紅ヰは 高井几董
花びらの日裏日表紅蜀葵 高浜年尾(ホトトギス)
花びらの鮮紅崩す牡丹鍋 関根常夫
花よりも濃き紅の茎秋海棠 阿部みどり女 月下美人
花マロニエ紅し夫との刻紅し 小池文子 巴里蕭条
花八ッ手生涯母は紅ささず 中嶋秀子
花冷えの指を染めたる紅生姜 小檜山繁子
花冷や懐紙に紅を移しけり 柴田奈美
花嫁衣裳の紅獅子椿咲き重れ 和知喜八 同齢
花弁を立てゝ落下や海紅豆 徳永球石
花杏紅白のあり紅晩る 西本一都 景色
花桃や行李のなかの紅絹ほろび 花谷和子
花楓にて空紅し詩仙堂 日原傳
花水木紅ゆゑに人目ひく 野村久雄
花篝紅の火屑をこぼしぬる 京極杞陽 くくたち上巻
花紅さんざしも母うやまうも 和知喜八 同齢
花芯夢の如はぐくむ梅の淡紅瓣 橋本夢道
花蕎麦の総倒れして紅の茎 加藤憲曠
芸道のきびし寒紅落しもあへず 長谷川かな女 花寂び
苔桃の花うす紅や小鐘吊り 雨宮美智子
若水や真先浴びる紅雀 野村喜舟 小石川
苺紅しめとりて時過ぎいまも過ぐ 森澄雄「花眼」
茅舎忌や絵筆洗ひし水に紅 大堀柊花(狩)
茎立つや紅殻格子の色褪せて 杉村正子
茘枝棚かたむき紅の種こぼす 鐘江艶女
茨の実の紅もちこたえ逢う日なり 長谷川かな女 花 季
茱萸の叢いまをぞ紅し木の十字架 下村槐太 天涯
茶の花や附箋の残る紅楼夢 日原傳
草にねて山羊紙はめり紅蜀葵 飯田蛇笏 春蘭
草むらに紅点々と苺かな 赤木格堂
草原の径へ紅刷き柳蘭 和知喜八 同齢
草木瓜の紅も冷えまさるなり 飯田龍太 忘音
草石蚕紅濃しぢぢが食べばばが食べ 石川辛夷
草萎えて吾亦紅のみ丈にたつ 川島彷徨子 榛の木
草餅や盆にかむせし紅ふきん 橋本鶏二 年輪
荒々と椿の紅を打ち敷ける 松尾隆信
荒野原小さきすゝきと吾亦紅 高木晴子 晴居
菊も紅は野の一隅を爛れさす 篠田悌二郎
菊畑や隣りは紅の摘残り 千代女
菜の花に落つる日の紅たらたらと 福田蓼汀 山火
菜殻火に大河紅なす夜の母郷 岡部六弥太「土漠」
菩提子を紅ヰの糸につなぎ鳧 松瀬青々
萌え出でて吾亦紅なるかなしさよ 富安風生
萍の生ひそめしより紅なりし 堀喬人
萩すすき紅さすための薬指 黛まどか
萩根分この紅は誰白は彼に 池月一陽子
落ちてなほ陽をはなすなき紅椿 野澤節子
落日に力ありけり海紅豆 佐藤博美(狩)
落椿紅も褪せずに流れけり 高橋淡路女 梶の葉
落椿野墓にひとつ紅ひとつ 中村祐子
落葉焚く人を呼ぶなり紅猿子鳥 堀口星眠
落葉籠まだ消えやらぬ紅埋め 渡辺恭子
落霜紅總領息子食ふや食はず 塚本邦雄 甘露
落霜紅高吊りたまへ背越しの灯 石塚友二 方寸虚実
葉陰の紅羞背中合せの雀斑桃 香西照雄 対話
葉隠りの桃に紅さす耐へよと言ふ 小林康治 玄霜
蓬莱や剪り散らしたる紅唐哉 会津八一
蓬莱や軸の日輪濃き紅に 東洋城千句
蓮莟む紅のくちばし天へ向け 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
蓼の紅火のつくごとく嬰児泣く 阿部みどり女
蓼紅しそよぎて父母は遥かな 石田波郷
蓼紅しもののみごとに欺けば 藤田湘子
蓼紅し十年がほどは疾迅裡 清水基吉 寒蕭々
蓼紅し泣けばこと足るわが童女 岡田 貞峰
蔓持つて活ける朝顔紅さやか 渡邊水巴 富士
蔦の芽はほぐれて紅し春の雷 石原舟月 山鵲
蔦紅らむ野外音楽堂椅子一目 宮津昭彦
蔦青し井ノクボの窓白紅の燈 竹下しづの女句文集 昭和二十四年
蔵涼し紅屋の裔の鈴木姓 森田峠 避暑散歩
蕾いま紅のちからを生みし梅 雨宮抱星
蕾かと見れば千日紅の花 星野椿
蕾よりすでに火の性海紅豆 大岳水一路「氷室の桜」
薄氷や頸の紅ますフラミンゴ 脇坂啓子
薄紅梅の濃蕾紅衣は幼時に佳し 香西照雄 素心
薄紅葉紅にそめよと與へたり 紅葉 正岡子規
薄葉に紅ひと流れ寒見舞 石田勝彦 秋興
薔薇の実の巾着坊主紅差せり 青木重行
薔薇の芽が紅しネクタイ替へてみる 小田切輝雄
薔薇挿すや紅すでに凍ててあり 椎橋清翠
薺爪あとより紅をさしにけり 青木月斗
藍の花栞れば紅の失せにけり 坊城中子
藤袴吾亦紅など名にめでて 高濱虚子
虫はみて桃紅の腐り哉 桃の実 正岡子規
虫取の紅提灯やあちこちに 五十嵐播水 播水句集
虫干や触れて冷たき紅絹の裏 館岡沙緻
虹うつぎ風移る間も紅たもつ 殿村莵絲子
蛇苺発止と紅し熱の中 三保鵠磁
蛸焼きの紅に日のさす初詣 沢木欣一
蛸焼の紅に日のさす初詣 沢木欣一
蜂が来るたび紅型の布乾く 横山白虹
蜂の巣を蜂がはこびて紅蜀葵 和知喜八 同齢
蜑が家の椿は紅をひめて咲く 太田鴻村 穂国
蜩や紅蜀葵は落ちて燃ゆ 林原耒井 蜩
蜻蛉の紅の淋漓を指はさむ 篠田悌二郎 風雪前
蜻蛉また虹翅赭眼や吾亦紅 水原秋櫻子
蝶とめて浦島草の紅深め 阿部みどり女
蝸牛角の水色吾亦紅 宮坂静生 青胡桃
螽焼くや海紅堂はまだ知らず 廣江八重櫻
蟆子の血よりほかに紅なし山光る 中村草田男
蟹売女凍ててその掌も蟹の紅 鈴木真砂女 夕螢
蟹紅しひとの訃信じられずゐる 山口波津女 良人
蟹紅し遠畦は萌え移りをり 千代田葛彦 旅人木
行きすぎし赤は戻らず吾亦紅 後藤比奈夫 めんない千鳥
行くや山紅粉屋が里も秋なるが 調管子 選集「板東太郎」
行く末は誰が肌ふれむ紅の花 芭蕉「西華集」
行く末は誰とか契る紅の花 紅花 正岡子規
行く秋や秘仏は紅をさし給ふ 原田青児
行年を紅粉白粉に京女 行く年 正岡子規
行春の爪紅落す女かな 行く春 正岡子規
行春の紅はげる野山かな 行く春 正岡子規
行末は誰をかちぎる紅の花 紅花 正岡子規
行秋や茅萱の茎の紅深き 太田鴻村 穂国
街角の花屋に咲ける吾亦紅 富樫美津子
衰へて罌粟の紅騒しく 深川正一郎
裂き割りて紅深き海桐の実 鈴木鵬子
裸子に甚平著せよ紅藍の花 高浜虚子
裸身の色艶もなし紅の花 村上鬼城
襟巻に傷ある人の寒の紅 福田清人 麦笛
西の日に紅顕(た)ち来るや貴妃桜 橋本多佳子
見るうちにしだいに紅来梅擬 山口誓子
見渡すや柳の緑り花の紅 柳 正岡子規
観梅や留めおきたき紅蕾 小原正子
触れ合はぬ空間を持ち紅蜀葵 小檜山繁子
触れ合ひて互に金魚紅ちらし 真下ますじ
言ひさしてこれからのこと吾亦紅 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
言問を渡るマフラー紅見せて 橋本久美
記憶の中の無量寺燃ゆる雁来紅 穴井太 天籟雑唱
詩人の谷詩想さぐれば吾亦紅 鍵和田[ゆう]子 浮標
誰が植ゑて雁来紅や籠堂 河東碧梧桐
誰が筆のその紅や懸想文 松根東洋城
誰が風となるや房州紅団扇 大野信子
誰も見ぬ街の冬虹紅勝る 北原志満子
誰れにもやらぬ梅の紅をんなの炎 河野多希女 彫刻の森
誰彼の目の集まれり紅葵 阿部みどり女 月下美人
象潟や紅絹着せ真菰馬流す 岡井省二
貝寄風に木つ端みぢんの紅珊瑚 清水礼子
買初に寒紅の口切りにけり 橡面坊
買初の紅鯛吊す炬燵かな 犀星
貸したがる禿も星に紅の帶 七夕 正岡子規
賜りし牡丹の紅の手にあまり 有角正巳
赤とんぼ昔の如く紅澄まず 百合山羽公 寒雁
赤坂の見附も春の紅椿 橋本夢道
赤猪子の怨嗟の紅に蓮咲く 大橋敦子
赤蕪の紅に黄船の飛雪かな 鈴木鷹夫 風の祭
赤錆ぶる引込線や海紅豆 佐川郁子
赤門をかつと照る日の紅緑忌 見学 玄
走る霧紅軸燐寸芝に散り 田川飛旅子 花文字
越して来て垣根つくらず千日紅 船坂ちか子
足形片々雪に紅染む紙の供華 成田千空 地霊
路幽く椿の紅を燃えしめざる 竹下しづの女 [はやて]
踊子の肌に紅ます夜更けては 杉本寛
踊子や紅が淋しき草履の緒 月舟俳句集 原月舟
踊笠その紅紐を印象に 高濱年尾 年尾句集
踏みたほす借財もなし雁来紅 塚本邦雄 甘露
踏切が鳴り白椿紅椿 岩淵喜代子 硝子の仲間
蹲に落ちて紅張る寒椿 影島智子
躑躅紅し立つにんげんのさびしらに 丸山久雄
身のうちに紅の階雛飾る 辻桃子
身のうちの紅をもて春うれひ 岡本眸
身をそらし紅仰ぐべし伯爵忌 沼尻巳津子
軽みとは哀しみのこと縷紅草 瀧 春一
近づけば紅まちまちや唐辛子 西田美智子
返り花ほどの華やぎ紅をひく 佐々木潤子
返り花一閃の紅とどめたる 石嶌岳
返信を溜めゐて梅の紅噴ける 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
退庁の紅引き直す花夕べ 加藤和子
逆さ水して生かす蓼吾亦紅 稲垣きくの 牡 丹
逝く秋や秘仏は紅をさし給ふ 原田青児
遂に燃えざりし凡なる雁来紅 田川飛旅子
遠きほどげんげ田紅し行きたしや 近藤一鴻
遠くまで泣きに来てをり吾亦紅 久保祐美子
遠く淡し雁来紅に女漂ふも 小林康治 玄霜
遠山の晴間みじかし吾亦紅 上田五千石 森林
遠萩にたゞよふ紅や雨の中 松本たかし
那谷寺や岩の間より紅つつじ 佐藤晴子
郡内の衾重さよ紅薊 島村元句集
郵便受紅塗り枯野に愛を待つ 香西照雄 素心
都踊の紅提灯に灯が入りぬ 宇田零雨
酔ひしやう妻の春着の紅に映え 香西照雄 素心
酔ひの目に苺は紅しひとつづつ 加藤楸邨
酔へばなほ虞美人草の紅ばかり 仙田洋子 橋のあなたに
酔芙蓉紅ささやくと見る間かな 中村汀女
酢につけて生姜紅さす夕時雨 鈴木真砂女 夕螢
里山や紅一色の山つつじ 大西福子
重ねおく紅型帯や除夜の鐘 大嶺清子
野の面の枯るるとききて吾亦紅 松村蒼石 雪
野球部の坊主頭や紅蜀葵 冨田正吉
金剛寺枝垂ざくらの紅揺るる 佐藤 忍
針山に紅絹うつろへる供養かな 芝不器男
釣り上げし公魚に紅動きけり 江中真弓
釣瓶井を汲み雁来紅を濡らしけり 冨田みのる
鉾紅し嫁に来し日の衿の色 関戸靖子
銘を加賀前田の紋の梅紅し 河野頼人
鋸草心もゆたに紅淡し 新村千博
鍋洗ふ前紅鱒の列通る 野村泊月
鏡なき里はむかしよ紅の花 二柳「眉の山」
長月の今日のひと日の紅を恋ふ 池内友次郎
長江の千紫万紅春夕焼 松崎鉄之介
門川や桃紅ィを映す頃 尾崎迷堂 孤輪
開くだけひらき真昼の紅蜀葵 河野照代
閑庭や水いろ絞り紅注して 林原耒井 蜩
闇汁の紅散乱と柘榴かな 会津八一
降り出でゝ榾火の紅し翁の忌 梅原黄鶴子
降る雪に糶らるる蟹の紅しづもる 三好潤子
障子入れて日影落ちつきぬ雁来紅 渡辺水巴 白日
雀の巣かの紅絲をまじへをらむ 橋本多佳子
雁さびし一文菓子の紅の色 長谷川春草
雁去ぬや女の齢なほ紅絹裏 下村槐太 天涯
雁来紅にたちよりときぬ洗ひ髪 高橋淡路女 梶の葉
雁来紅に女の化身棲まはせる 河野多希女 納め髪
雁来紅に山家は白き壁をもつ 馬場移公子
雁来紅に腰のばしても母小さし 田中午次郎
雁来紅のひともと朱に燃ゆるときひとりを呪ひ殺すと思へ 小中英之
雁来紅の火柱蝶を寄せしめず 三村純也
雁来紅の頃の芝居は河内山 岸本尚毅
雁来紅へゆたかに出でし庇かな 月舟俳句集 原月舟
雁来紅や中年以後に激せし人 香西照雄 対話
雁来紅を一閂に閉ぢ勅使門 古館曹人
雁来紅一人となればたちつくし 鈴木真砂女 生簀籠
雁来紅丈けのそろはぬ風情かな 高橋淡路女 梶の葉
雁来紅上野の森は見えざりけり(東京根岸庵) 石井露月
雁来紅余白なき葉を重ねけり 白岩 三郎
雁来紅告げねばことば燃ゆるなり 笹本千賀子
雁来紅大きな雲の割れにけり 加藤楸邨
雁来紅弔辞ときどき聞きとれる 池田澄子
雁来紅微熱患者の吾も燃ゆ 島村利南
雁来紅抜きて失ふ庭の色 古賀まり子 緑の野以後
雁来紅母の妊まん日を怖る 寺山修司 未刊行初期作品
雁来紅活けし一夜の水濁る 藤木倶子
雁来紅生きてゐしかば癩病めり 山本 肇
雁来紅絵すがた一茶背をまろめ 角川源義 『神々の宴』
雁来紅起して天地新たなり 百合山羽公
雁来紅闇のどこかに眼の棲める 成瀬桜桃子 風色
雁来紅雨にうなだれ日に向きて 滝井孝作 浮寝鳥
雄心のほのかに紅し袋角 高木一恵
雛かざる昔のままの貝の紅 吉田 二葉
雛の唇紅ぬるるまま幾世経し 青邨
雛の間にあそぶ微塵も紅を帯び 八染藍子
雛より遠き眼をして紅を引く 斉藤史子
雛菓子の紅濃きところほろにがし 文挟夫佐恵 黄 瀬
雨に咲いて一日の花紅蜀葵 小林白宇
雨のあと直ぐ日が射して雁来紅 高澤良一 宿好
雨ののちにわかに紅し牡丹の芽 戸板康二
雨の日のくらさあかるさ紅の花 吉田未灰
雨の樹の下には紅の花衣 横光利一
雨ほつほつまだ紅持たぬ吾亦紅 山田みづえ
雨雲に紅暈置けり花杏 水原秋桜子
雪うさぎまなこは母の紅借りて 佐藤勇奈男
雪しぐれ小貝の芯に紅を見し 小澤克己
雪ちらつく雛の餅の紅を搗く 中戸川朝人 残心
雪に逆らう紅絹一疋の重さ負ひ 長谷川草々
雪ぬれの足袋ぬぎ訪ふに梅紅し 皆吉爽雨 泉声
雪の富士落暉紅さと円さの極 中村草田男
雪の嶺いま紅雲に護られて 相馬遷子 山河
雪の昼志野茶碗にのこりし紅ぬぐふ 吉野義子
雪催毛蟹茹でねば紅生れず 鈴木真砂女 夕螢
雪原にわが誕生の紅一すじ 魚沼泉
雪国の萩は紅濃し土濡れて 松村蒼石 雁
雪払ふ揺れや椿の紅落下 川崎展宏 冬
雪折の椿のことに紅ふかし 樋笠文
雪折れの枝を掴めば紅味見ゆ 伊串たき子
雪明り紅差し指の老いゆけり 文挟夫佐恵 遠い橋
雲に一微紅みるみる初日大 富安風生
雲に濡れ秋海棠の茎の紅 篠田悌二郎
雲へだつ筑紫の春の紅々忌 飯田蛇笏 霊芝
雲掴み捨てゆく者よ紅の花 安井浩司「汝と我」
雲漠々二月風物紅に乏し 島村元句集
雷鳥の眼尻の紅の刺すごとし 古舘曹人
雷鳴の一夜のあとの紅蜀葵 井上雪
電話より手紙待たるる紅芙蓉 西村和子 かりそめならず
霜の日の燭より紅し屍室 千代田葛彦 旅人木
霧が過ぎ霧の影過ぐ吾亦紅 隈元いさむ
霧しづくして林檎ことごとく紅 柴田白葉女 花寂び 以後
霧の中おのが身細き吾亦紅 橋本多佳子
霧よせて駒草紅を失したり 河合薫泉
露置くを摘むてふ出羽の紅の花 成木幸彦
露霜の紅さして母遺りけり(父逝く) 岸田稚魚 『筍流し』
青木の実紅をたがへず月日経る 柴田白葉女
青桐の紅さす莢や陽もまばら 川崎展宏
青空へ紅濃き河津桜かな 掘井より子
青萱と丈をきそへり吾亦紅 松村蒼石 雪
青饅や志野の器の紅さして 松田ひろむ
静塔忌指にざらざら吾亦紅 八木三日女
面にさす紅の濃ゆきも暮春かな 福田蓼汀 山火
革命は望めねど紅唐辛子 川崎光一郎
須弥壇に蜜をこぼして紅椿 板垣春枝
顏見せや朝霜匂ふ紅の花 顔見世 正岡子規
顔大き昔の女優紅牡丹 白石順子
顔紅粉をいつ染めなせし最上雉子 清風
風が来て紅つけてゆく梅もどき 田中三樹彦
風だてる春昼を鳴く紅雀 松村蒼石 寒鶯抄
風の日は紅とんで花海紅豆 和知喜八 同齢
風の蓮紅にまさりし白蕾 野沢節子 飛泉
風やんでもの芽紅濃き午祭 柴田白葉女 花寂び 以後
風ゆきて紅透きとほる蕎麦畑 草間時彦
風来ればぶつかり合ひて吾亦紅 青柳志解樹
風邪の子のうす紅の水薬 長谷川回天
颱風圏紅雲時をかけて褪す 橋本美代子
飛雪中暁紅燦と八ケ岳 伊東宏晃
食み終へし枝にて目閉ぢ紅猿子鳥 長谷川草洲
食紅がひろがつてゆく三ヶ日 宇多喜代子
餅花さすや唇こはゞりて紅乾く 雑草 長谷川零餘子
餌紅雪惨軍人の敵老五人討 中村草田男
饅頭に押す紅しかと国慶節 高澤良一 燕音
馬の背に子の頬かたし吾亦紅 渡辺 和子
馬肉屋の紅殻格子冬ひばり 宮岡計次
馬酔木はや紅の穂かかぐ女人講 加藤耕子
駐在所紅一燈の春の暮 上田五千石 田園
駒ヶ根や下野草の紅烟る 原口洋子
高熱の夢にうなされ蛾の紅眼 加藤かけい
高窓や紅粛々と夏至の暁け 赤城さかえ
鬼婆が何んで紅着る菊人形 渡辺恭子
鬼灯の殻紅々と踏みかねつも 佐野良太 樫
鬼灯の硬さ袋の紅深し 富安風生
鬼灯の葉ごもりゐしも紅ふかき 山岸 治子
魂がうす目をあけてる紅椿 松本恭子 二つのレモン 以後
魚屋が散らす紅鱗福寿草 林翔 和紙
魚影濃し紅*さんざしの咲くところ 平山嘉子
鮎落ちて伊昔紅忌の白磧 馬場移公子
鮑採る海女達夜は紅纏ひ 加藤かけい
鮭の切身の鮮紅に足とむる旅 能村登四郎
鮭の切身の鮮紅に足止むる旅 登四郎
鮭切身貴重な紅さ母に購ふ 大岳水一路
鮭川村の道は一筋紅卯木 岸田稚魚
鮮紅のサーモン切身聖夜くる 高澤良一 宿好
鯔はねて母は薄暮に紅の花 榎本愛子
鯛網を狭めて鯛の紅もだゆ 三好潤子
鰐怒る上には紅の花鬘 横光利一
鰯雲ことごとく紅どこから暮る 橋本多佳子
鱒の子のすでに紅らむほとゝぎす 石田 波郷
鱒群れて水にさからふ紅させり 山上樹実雄
鱗雲ことごとく紅どこから暮る 橋本多佳子
鱚食うて海に夕映の紅流る 中拓夫
鳥海はもとより見えず紅の花 森田峠
鳥身得て人面老ゆれ雁来紅 竹中宏 句集未収録
鳳仙花影紅にたまり水 法師句集 佐久間法師
鳳仙花紅さすごとき嬰なりけり 上野さち子
鳴いている小鳥はすずめ紅の花 三橋敏雄
鳴いてくる小鳥はすずめ紅の花 三橋敏雄
鳶ひくし秋明菊の紅ひらく 柴田白葉女 花寂び 以後
鴇草や唇弁雨に紅濃くす 岡部六弥太「厚朴」
鵙高音雁来紅は黄をのこす 鷹女
鵜飼見る紅惨のこの絵巻物 鷹羽狩行
鵯過ぎて唐寺の甍紅寂びぬ 林 翔
鶏冠の紅の艶増す名草の芽 尾崎よし子
鶏頭のかむりの紅の初々し 深見けん二
鶏頭のまだ紅唇のごとき花 山西雅子
鶏頭のむんずと紅し野分中 榎本冬一郎 眼光
鶏頭の紅しんかんと旱村 黛 執
鶏頭の紅のたけなはむざと過ぐ 齋藤玄 飛雪
鶏頭の紅夕焼の落し子か 三好潤子
鶏頭や紺屋の庭に紅久し 尾崎放哉
鶏鳴の芯の紅らむ雪解空 飯田龍太
鶴の紅さだかなる日の籾筵 大岳水一路
鷽の来てあけぼのの庭に胸紅し 水原秋桜子
麦笛や基地の紅燈はやともる 澤田 緑生
黄に赤に思ひ他ならぬ雁来紅 石塚友二 方寸虚実
黄色出し切つて紅花紅出すと 矢島渚男
黄葉林妙齢の紅もち来たり 上田五千石 田園
黒ずくめにて 寒紅を濃くすると 向山文子
黒ばらに近き紅ばらかと思ふ 落合水尾
黝きまで寒紅梅の紅驕る 長谷川素逝 暦日
鼻筋は紅ひくために花まつり 大牧 広
●赤々 
夜業終へ福神漬の赤々と 山口昭男
寒々と赤々と正一位かな 岸本尚毅
御所柿のさも赤々と木の空に 上島鬼貫
戦後の子紅葉のうらに赤々と 中村草田男
扁桃腺赤々として雨水かな 仲原山帰来
昨日今日明日赤々と実*はまなす 成田千空「白光」
枸杞の実の夕赤々と人若し 天野龍斗
禅僧が捨てて赤々牡丹の芽 加藤知世子
筑後路や麦焼きの火の赤々と 森永英子
裏山に日が赤々と秋蚕かな 小笠原和男
赤々とピラミドかけて月上る 寺田寅彦
赤々と夜空縮みて虫送り 中西舗土
赤々と年輪みえし年木かな 加藤三七子
赤々と朝日卒寿の神無月 阿部みどり女 月下美人
赤々と杉の葉交る斑雪かな 加瀬美代子
赤々と毒あるものも木の実降る 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
赤々と烏賊火は遠し寝るときも 桂樟蹊子
赤々と熾りたる火や冬座敷 久保田万太郎
赤々と百日紅の旱かな 百日紅 正岡子規
赤々と肉ひろげたる薬喰 千原草之
赤々と酒場ぬらるる師走かな 前田普羅
赤々と酒酔星や盆踊 肥田埜勝美
赤々と風さかのぼる枝椿 西山泊雲 泊雲句集
鰒汁の宿赤々と燈しけり 蕪村
鵜の篝夜の殺生の赤々と 橋本多佳子
梅雨の渋滞テールランプの赤赤赤 高澤良一 素抱
火の神へ紙赤赤と初御願 當間シズ
肺病んで炉火赤赤と胸に浴ぶ 中山純子 茜
血縁を継ぐ赤赤と蕁麻疹 和田悟朗
赤赤と氷の音が殺し合う 川崎真彌
錦鯉跳ねて赤赤響きけり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
鰒汁の宿赤赤と燈しけり 蕪村 
●あかあか 
あかあかとあかあかあかとまんじゆさげ 角川春樹(1942-)
あかあかといざよふ月の熊野灘 夏目隆夫
あかあかとわが行く歩道とほりたりゆく手の蔵王に雲ひとつなし 結城哀草果
あかあかとをとこが創る今年の火 小松崎爽青
あかあかとイクラ丼雪もよひ 辻 桃子
あかあかと一と夜の旅の花柘榴 石塚友二(馬酔木)
あかあかと一本の道とほりたりたまきはる我が命なりけり 斎藤茂吉
あかあかと吉野は藷を洗ひあげ 日原傳
あかあかと唇塗る梅に負けぬやう 仙田洋子 雲は王冠
あかあかと夢に綿打つ晩夏かな 小檜山繁子
あかあかと天地の間の雛納 宇佐美魚目(1926-)
あかあかと寶珠のごとき月のぼる 角川春樹(1942-)
あかあかと屏風の裾の忘れもの 波多野爽波(1923-91)
あかあかと山火の裾の阿修羅像 中田剛 珠樹以後
あかあかと山焼のさま金屏に 武藤紀子
あかあかと山車灯し過ぐ風邪心地 内藤吐天 鳴海抄
あかあかと己れ欺き返り花 中村正幸
あかあかと底にさす日や晒井 会津八一
あかあかと日の沈みゆく枯野かな 長谷川櫂 虚空
あかあかと日はつれなくも秋の風 松尾芭蕉
あかあかと日は難面(つれなく)もあきの風 芭蕉
あかあかと春の雪ふる金魚玉 齋藤愼爾
あかあかと月の障子や亥の子餅 服部嵐翠
あかあかと杏熟れたり梅雨曇り 内藤吐天
あかあかと柩の底に冬林檎 藺草慶子
あかあかと火を焚き年を歩ましむ 野澤節子 『存身』
あかあかと灯して春の風邪ごこち 西山誠
あかあかと熟れてトマトの見捨てられ 山田まや(知音)
あかあかと熾りたる火や冬座敷 久保田万太郎 流寓抄
あかあかと琴落ちているみち落ちている 阿部完市 にもつは絵馬
あかあかと白樺を透く雪解川 飯田蛇笏 雪峡
あかあかと竜飛の海におつる日をおきざりにする如く帰り来 佐藤佐太郎
あかあかと紅葉は焚きぬいにしへは三千の威儀おこなはれけむ 前川佐美雄
あかあかと茶碗焼かるる春氷 長谷川櫂 天球
あかあかと菊の咲きたる稲架を解く 岸本尚毅 舜
あかあかと落葉松林時雨れけり 相馬遷子 山河
あかあかと藷ゆたけしや茎漬も 石田波郷
あかあかと藷洗ひあげ終戦日 高澤良一 ねずみのこまくら
あかあかと見えて夜振の脚歩む 軽部烏頭子
あかあかと通夜の焚火をうち囲む 鈴木 昭次
あかあかと酸の密集プラムの核(さね) 高澤良一 寒暑
あかあかと野を焼くダヴイデひそむ野を 有馬朗人 天為
あかあかと雛栄ゆれども咳地獄 石田波郷
あかあかと風の上なる椿の実 今井杏太郎
あかあかと飼ひ馴らすべし鎌鼬 黒田杏子 花下草上
あかあかと駅よ線路よ終戦日 原田喬
あかあかと鵜匠は夜の漢かな 旭蝸牛
あかあかと麹のいのち冬隣 長谷川櫂 天球
あかしやの花を食べ擬宝珠の花を食べわが胃あかあかとなほ営めり 斎藤史
あをあをとあかあかと絵や種袋 浜秋邨
くろぐろと行きあかあかと除夜詣 渡辺啓二郎
しとしととあかあかと雨の大文字 矢野 絢
ちちははや炉火あかあかとぢぢばばよ 静塔
つる草はほろびのはてにあかあかと虚空に一つ実を育てたり 玉井清弘
とびとびに家あり柿のあかあかと 小野淳子
ひとつ家の燈のあかあかと魂祭 福田蓼汀 山火
イブの夜を沖にあかあか異国船 石川鹿童
三日経て恥あかあかと滑 山口広子
上円き月あかあかと西に照る氷の上も血ににじみたる 尾山篤二郎
仏具屋のあかあか灯りゐる良夜 茂里正治
俳優のあかあかと立つ夕焼川 平井照敏 天上大風
喜雨の灯のあかあかとして更けにけり 清崎敏郎
囀やあかあかと積む松の薪 宇佐美魚目 秋収冬蔵
土用の日たちまふ鷺にあかあかと 瀧春一 菜園
夕日あかあか浴衣に身透き日本人 中村草田男「来し方行方」
夕萱に日やあかあかと谷崎忌 青木綾子
夜徹しの船あかあかと雪の村 長谷川櫂 天球
夜神鳴り肉体あかあかと生木 奥山甲子男
大きめの口あかあかと瓜提灯 高浜朋子
大竃あかあかと稲はこばれぬ 柴田白葉女 遠い橋
夫婦なれば黙せり炭火あかあかと 山口波津女
山姥の顔あかあかと門火かな 沢木欣一
急ぐ蟻にもあかあかとつれなき日 後藤比奈夫
断崖の松あかあかと冬に入る なかのまさこ
新参の身にあかあかと灯りけり 久保田万太郎(1889-1963)
日月のあかあか椿白椿 高澤良一 宿好
早蕨やあかあかと火の曼荼羅図 長谷川櫂
春の鳥な鳴きそ鳴きそあかあかと外の面の草に日の入る夕 北原白秋
春闌けし夜雨あかあかと工場火を焚いてゐ 人間を彫る 大橋裸木
曼珠沙華天与の時はあかあかと 乾燕子
朝市の飛騨の蕪のあかあかと 山田静穂
末枯のあかあかと新幹線通過駅 一ノ瀬タカ子
東あかあか指の繃帯のようにはぐれる人 西川徹郎 瞳孔祭
松へ雪いまもあかあか屠馬裂かれ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
枯野来て汽罐あかあかと日ひらく 飴山實 『おりいぶ』
死後もまたあかあかと火を雪の上 有馬朗人 知命
沈みゆく日はあかあかと冬木立 大和 美人
河口家族へ あかあか燃える 師走の魚 伊丹公子 メキシコ貝
浮浪児の目があかあかと焚火育つ 田川飛旅子 花文字
牛のふぐりあかあかと行く祭かな 岩田 諒
睫毛は蕊かまくらの中あかあかと 成田千空 地霊
秋の蛇舌あかあかと押し進む 和田悟朗
穴に入る蛇あかあかとかがやけり 澤木欣一
竹林の洩れ日あかあか鶴啼けり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
耳朶に日のあかあかと卯波かな 岸本尚毅 鶏頭
舟虫や灯のあかあかと青畳 加藤楸邨
草市や星のはじめはあかあかと 上田日差子
蔦の芽のあかあかおつつけ降り出さむ 高澤良一 ももすずめ
藁灰の火のあかあかと雨の雁 福島勲
虫追ひの火にあかあかと男かな 水田光雄「田の神」
蟻地獄あかあかと日の果てにいる 中村加津彦
製茶場の灯のあかあかと夜もすがら 森田かずを
身のうちを炉火あかあかとめぐるなり 鶏二
身のうちを爐火あかあかとめぐるなり 橋本鶏二
鈴蘭の実のあかあかと墓を訪ふ 廣瀬之扶子
錆止めをあかあか塗りて年用意 高澤良一 随笑
鍵穴の大きく棗あかあかと 田中裕明 先生から手紙
雪とべり蔦あかあかと芽吹けるに 有働亨 汐路
顔見世の京に入日のあかあかと 久保田万太郎 流寓抄
鮠を焼く炭火あかあか真室川 田川飛旅子
鮭のぼる肉の襤褸のあかあかと 小檜山繁子
鵜篝やいのちあかあか人も鵜も 鍵和田[ゆう]子 浮標
黄塵の障子あかあかと日のびけり 川島彷徨子 榛の木
黒姫の雪にあかあか沈む日は谷こえて黙すわが父に射す 田井安曇
●赤さ 赤し 赤い 赤か赤き赤く赤け 
ひと刷毛のうぐひの赤さパリー祭 宮坂静生 山開
まんりようや春ともつかぬ実の赤さ 春 正岡子規
一ツ葉に万両の実の赤さ哉 一つ葉 正岡子規
何といふ赤さ小ささ寒椿 星野立子
冬夜電柱と肺の赤さを思いねる 北原志満子
力出してこらえる赤さ雪の松 和知喜八 同齢
吊されてより赤さ増す唐辛子 森田峠
呆けゐて寒木瓜の赤さ駭かるる 内藤吐天 鳴海抄
唐辛子赤さ青さのお別れよ 楠目橙黄子 橙圃
塞木瓜の赤さ褒貶定まらぬ 石塚友二
嫁ぐ日のちかづく赤さ青木の実 和知喜八 同齢
子をふちどる朝日の赤さ初霜す 大熊輝一 土の香
寒木瓜の赤さ人間嫌ひ栖む 内藤吐天 鳴海抄
寒木瓜の赤さ褒貶定まらぬ 石塚友二 方寸虚実
山国に火色の赤さ富有柿 森澄雄
山蟹のさばしる赤さ見たりけり 加藤楸邨「寒雷」
年が逝く夜の火の赤さ顔を寄せゐる 人間を彫る 大橋裸木
沢蟹の赤さを祖母の戦後とす 岩淵喜代子 硝子の仲間
種案山子没り日の赤さ極まれる 成田千空 地霊
籬の豆赤さ走りぬいざ摘まん 高浜虚子
蕗の芽の赤さ就学通知来る 木挽治子
薄霞東大寺の赤さ哉 霞 正岡子規
赤貝の剥かれて赤さ増しにけり 鈴木久美子
走つても転んでも夕焼の赤さ逃れられぬ 細谷源二
金銀針茄子赤さを島の日がぬくむ 和知喜八 同齢
雛罌粟の日を恋ひ海を恋ふ赤さ 鷹羽狩行
頬の少しの赤さを吉兆としていいですか 阿川花子
*ささげ赤し落人らしく平家住む 阿波野青畝
あき家に一畝赤し唐からし 唐辛子 正岡子規
うすうすと南天赤し今朝の雪 二柳
うら枯れていよいよ赤し烏瓜 太祇
かいまみの草花赤し秋の蝉 金尾梅の門 古志の歌
かまつかのいよいよ赤し西鶴忌 村山古郷
きさらぎの笈摺赤し子順礼 如月 正岡子規
きざまれて果まで赤し唐がらし 許六
ご遺墨に鬼灯赤し莫愁忌 岡澤喜代子
しかすがに撫子赤し草いきれ 東洋城千句
しなやかに水掻き赤し鴨の雛 三宮宣子
しばらく赤し落日を容れし秋の海 高柳重信
その中にわが浜傘のあくまで赤し 篠原梵
たはれ女の頬先赤し雪の朝 松岡青蘿
たまきはるいのちすぐりの実が赤し 大橋敦子
たらちねの母よ千人針赤し 片山桃史 北方兵團
ちよろぎ赤し一年の計箸先に 加古宗也
てら~と賓頭盧赤し十夜の灯 大谷句佛 我は我
とげ赤し葉赤し薔薇の枝若し 薔薇 正岡子規
どんどの火舞ひゆく方の月赤し 南英四郎
ななかまど赤しシベリヤ鉄道に 依田明倫
なゝかまど赤し山人やすを手に 田村木国
にんじんが赤し主婦等に陽あたる坂 飴山實 『おりいぶ』
はは恋へと菠薐草の根の赤し 柴田菁景
はらわたに通りて赤し蕃椒 唐辛子 正岡子規
ひたすらに赤し颱風前の薔薇 桂信子 黄 炎
ひと疲れもの言はず鴉のど赤し 片山桃史 北方兵團
ふたかみの夕日を吸ひて柿赤し 大東 晶子
ふるさとを捨つる勿れと柿赤し 山崎みのる
ぶつ切りの魚の眼赤し涅槃西風 梶山さなゑ
ほほづきの軸まで赤し青きもあり 川崎展宏
ほゝづきの日に日に赤し世の荒び 林原耒井 蜩
まつすぐに岐阜道の曼珠沙華赤し 冬の土宮林菫哉
めくり暦死ぬる日の紙なる赤し 冬の土宮林菫哉
もの乞ひの唇赤し曼珠沙華 岩田昌寿 地の塩
わがコート赤し枯野に点なすや 山田弘子 螢川
アルプスの夕日に赤し林檎園 粟津松彩子
カンナ赤し鋭し雲が突きさゝり 岩田昌寿 地の塩
ガソリン缶赤し荒鋤く田の畦に 大熊輝一 土の香
クリスマス地平に基地の灯が赤し 飴山實 『おりいぶ』
ストーヴの口ほの赤し幸福に 松本たかし
セル匂ふ妻子なければ帯赤し 森川暁水 淀
トマト赤し耳も淋しき高原に 対馬康子 吾亦紅
ネクタイを結ぶときふと罌粟赤し 富安風生
ハンカチに透けて無防備都市赤し 中村和弘「蝋涙」
フレームをすきて牡丹の芽の赤し 是木二楽
ペナン行花さす客の口赤し 横光利一
ラムネ瓶太し九州の崖赤し 西東三鬼
七浦の夕雲赤し鰯引 鰯引く 正岡子規
万両のひそかに赤し大原陵 青邨
不盡赤し筑波を見れは初日の出 初日 正岡子規
丸薬の丸盆赤し郭公 浜田酒堂
人知れず咲きゐし枸杞の実の赤し 川原 みや女
仏黒く賓頭留赤し梅の花 梅 正岡子規
仙人掌の棘ににつかぬ花赤し 渡辺寿栄子
俘虜の日の記憶に夏の花赤し 橋本風車
冬枯の八百屋に赤し何の瓜 冬枯 正岡子規
冬萌も赤し不知火の国なれば 福田蓼汀
冬鴎煤煙よどみやや赤し 石田波郷
凍る闇星座牡牛の目が赤し 相馬遷子 山河
刈蕎麦の切先赤し貧逃げず 太田土男
初夢の一断片のほのと赤し 九鬼あきゑ
初恋は遠し唐黍の葉が赤し 永井龍男
初稽古人形の目のふと赤し 西村和子 かりそめならず
初飛行柿の木に子の足袋赤し 渡邊水巴 富士
労働祭赤旗巻かれ棒赤し 三橋敏雄「まぼろしの鱶」
十月の畠に赤し蕎麥の莖 十月 正岡子規
千両の実も万両の実も赤し 稲田重子
千両より万両赤し東慶寺 中村勢津子
卓の柿沼の残照より赤し 大野林火
反橋や藤紫に鯉赤し 藤 正岡子規
咳しつつ出島新地の橋赤し 山田みづえ 草譜以後
唐辛子は赤し新酒は酒倉に 田中冬二 俳句拾遺
啄木鳥のうなじが赤し雪解不二 千代田葛彦 旅人木
商船学校赤し子の土産船にせむ 細谷源二 鐵
嘴あらば銜へむ夏の星赤し 正木ゆう子
回る木馬一頭赤し春の昼 西東三鬼
土用芽の丈一寸にして赤し 伊藤晴子(春嶺)
地に下りし小鳥に赤し柑子の実 佐久間法師
地下電車地へ出て赤し妻へ初日 香西照雄 素心
堀を左藁家を囲む芥子赤し 会津八一
塩じみてはなはだ赤し桜漬 岡田耿陽
壮んなりし歳月遠し炉火赤し 近藤一鴻
夏山や万象青く橋赤し 夏山 正岡子規
夕日うつる草の實赤し藪の奥 草の実 正岡子規
夕月や蚊をのむ蟇の口赤し 鳴雪俳句集 内藤鳴雪、松浦爲王編
夕焼のさめたる崖に蟹赤し 内藤吐天 鳴海抄
夕焼のみ赤し冬来る森の方 神尾久美子 掌
大地這ふ西日に赤し畑苺 原石鼎 花影以後
大文字の火のかゞよふや雲赤し 青木月斗
大雪を嘆く鴉の舌赤し 西村公鳳
天より朱落せし如く柿赤し 上野泰 佐介
夭折といへど夕焼より赤し 櫂未知子 貴族
女の手ますます赤し菜を洗ふ 松本たかし
妹が頬のほのかに赤し桃の宴 桃の宴 正岡子規
子等の掌の卵の赤し復活祭 吉本信子
寒垢離の長髪搾る手の赤し 田頭光枝
寒椿一句は赤し二句黒し 攝津幸彦 鹿々集
寒椿赤し一揆の血が流れ 関口ふさの
寒立や日輪山の端に赤し 三尾知水
寒紅や花びら餅はほの赤し 高木晴子
小屋の灯赤し雪渓を来しわが頬に 岡田日郎
少年のマフラー夕日より赤し 荒木幸子
少年の眦赤し泳ぎ来て 黒田櫻の園
屑籠の文殻赤し春の雨 春の雨 正岡子規
屠蘇注ぐや袂の隙に炭火赤し 中村汀女
山妻の干す梅机辺まで赤し 百合山羽公 寒雁
山姥の投げしか朴の実が赤し 高須禎子
山枯れて一途に赤し猿の面 矢島渚男 梟
山空にわが鼻赤し妹眉濃し 金子兜太
山鳩の泪目赤し杉の花 無聞 齋
嶋の雪弁天堂の破風赤し 正岡子規
嶋の雪辨天堂の破風赤し 雪 正岡子規
川上をおもへば赤し雑煮椀 有澤[かりん]
川蟹の踏まれて赤し雷さかる 角川源義「ロダンの首」
師へ運ぶ燠階段の闇に赤し 香西照雄 対話
序の幕の稲荷が赤し十二月 鈴木鷹夫 風の祭
座の蜜柑赤し凱旋談つきず 森川暁水 淀
心赤し炭火ゆ灰を削ぎ落し 中村草田男
念仏踊は歩いてゆくよ月赤し 山田みづえ 手甲
念仏踊りは歩いてゆくよ月赤し 山田みづえ
恐山さだかに梅雨の月赤し 桑田青虎
我に返り見直す隅に寒菊赤し 中村汀女
我妹子をおもへば赤し雲の峰 会津八一
戦死より情死が赤し冬の草 矢島渚男 船のやうに
戸の口にすりつぱ赤し雁の秋 石鼎
折り取つて日向に赤し寒椿 渡辺水巴 白日
掃溜に鶏頭赤し納屋の口 寺田寅彦
提灯の短冊赤し山桜 山桜 正岡子規
敲けばか西瓜は赤し肺わろし 西瓜 正岡子規
文学館の絨緞赤し三島の忌 上野澄江
料峭や少年の漕ぐ櫂赤し 松村多美
旅の西瓜首尾一貫し日は赤し 磯貝碧蹄館
日日夕やけ生き抜かむには玻璃赤し 細谷源二 砂金帯
早咲の朝顔赤し五月晴 五月晴 正岡子規
明治座の幟は赤し都鳥 内田ゆたか
星赤し人無き路の麻の丈 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
春の夜のともし火赤し金屏風 春の夜 正岡子規
春風にこぼれて赤し歯磨粉 正岡子規(1867-1903)
昼寝覚はじめの色はうす赤し 大牧 広
曠野来る冬将軍も耳赤し 中島月笠
曲りて赤し風無き日の出の松の蕊 石田波郷
曲り家に干されて赤し唐辛子 川越蒼生
曼珠沙華忘れゐるとも野に赤し 野澤節子 黄 瀬
曼珠沙華藁をかぶりてなほ赤し 高橋馬相 秋山越
曼珠沙華赤し船より上り来て 右城暮石 上下
月いまだ赤し食後の菓子来る 横山白虹
月山新雪すでにものの芽青し赤し 加藤知世子 花寂び
月赤し人に告げえぬ受胎ゆゑ 川口重美
月赤し雨乞踊見に行かん 雨乞 正岡子規
朝の日はいきなり赤し稲の花 山本洋子
朝暾の垣根に赤し初氷 瀧井孝作
木の椿地の椿ひとのもの赤し 西東三鬼
木の芽赤しドームの天に死角なし 有働亨 汐路
木瓜赤し雨の上りし垣の裾 星野椿
木苺は車塵にまみれゐて赤し 坊城中子
村は今夕雲赤し法師蝉 斉藤友栄
東京に瓦斯火は赤し秋刀魚焼く 石川桂郎 含羞
松葉焚きし火屑の赤し盆の月 内藤吐天 鳴海抄
林檎*もぐ秋田おばこの頬赤し 村木静雨
林檎の実赤し遠嶺に雪を待たず 大串章
林檎赤し寒く貧しく国の果 福田蓼汀 山火
枯れきつてガソリンのぼる筒赤し 飴山實 『おりいぶ』
枯山に夕日あやしきまで赤し 岡田日郎
枸杞の実の赤し江戸川近く住む 河東田素峰
枸杞の実は赤し枸杞茶はこの葉より 椎名みすず
柚湯出て童女ねむれる頬赤し 水原秋桜子
柳川の岸辺や枸杞の実の赤し 棚橋ちゑ子
柿紅葉地に敷き天に柿赤し 松本たかし
柿赤し叫ばんよりは耐ふる人に 金子麒麟草
柿赤し機織る窓の夕明り 幸田露伴 拾遺
柿赤し美濃も奥なる仏たち 畠山譲二
格子赤しひるがへる燕の喉赤し 岩田昌寿 地の塩
桃赤し山の東の古砦 桃の花 正岡子規
桜の実赤し黒しとふふみたる 細見綾子 黄 瀬
梅嫌小粒に赤し初しぐれ 青蘿
梅雨の月入笠山に見て赤し 相馬遷子 山国
橙は赤し鏡の餅白し 鏡餅 正岡子規
櫨紅葉稲刈る人に日々赤し 高浜虚子
武蔵野や畑打つ女帯赤し 畑打 正岡子規
歯固や火に酔ふ母の面赤し 佐久間法師
母下げし高さに赤し唐辛子 田中愛子
水害の草紅葉より尿赤し 近藤一鴻
水逃げてボートの櫂の先赤し 館岡沙緻
汽車道のあらはに蕎麥の莖赤し 蕎麥 正岡子規
汽車黒く通りて赤し火事の村 齋藤愼爾
沖波のたまゆら赤し松手入 山本 源
波二段三段海霧の陽は赤し 石原八束 空の渚
注射うつ袖うら赤し小正月 石井真理子
浮き出でてちらと*いもりの腹赤し 牛島千鶴子
海に出てしばらく赤し雪解川 三橋敏雄
海女達の股引赤し町を行く 洞外石杖
海桐赤し姫鶏海鶏とわたり来て きくちつねこ
海老赤し海の藻草を敷きて売る 福田蓼汀 山火
海苔採り女力みて赤し冷えて赤し 香西照雄 素心
涸川の一むら赤し蓼の茎 鼠骨
深吉野の風雨に赤し烏瓜 大峯あきら 鳥道
混血のきみの血赤しヒノマルより 山岸竜治
添竹を殘して赤し蕃椒 唐辛子 正岡子規
滅びつつピアノ鳴る家蟹赤し 西東三鬼「今日」
潮かぶる所の珊瑚草赤し 稲畑広太郎
濡れてよりしんじつ赤し牡丹の芽 対馬敬子
火事赤し義妹と二人のみの夜に 右城暮石 声と声
火星赤し水澄む青き星に住み 矢島渚男
火桶の火吹く顔赤し灯さざる 大橋櫻坡子 雨月
灯蛾赤し幼長男は立ち上がり 池田澄子
灯青く廻廊赤し木下闇 木下闇 正岡子規
炉火赤し山のホテルに入りたれば 高浜虚子
炉火赤し旅の疲れもおはさずや 福田蓼汀 山火
炉火赤し檜山杉山淋しかろ 平畑静塔
炉火赤し犬わが膝に顎をのせ 福田蓼汀 山火
烏瓜滅多に赤し姥の道 齋藤玄 『雁道』
煖爐の火赤く櫻もちほの赤し 後藤夜半
煙草火をこぼして赤し草の露 西山泊雲 泊雲句集
熊汁ときくたぢろぎに炉火赤し 奥田とみ子
燕の喉赤し母恋ふことも倦む 寺山修司 未刊行初期作品
燠赤し柚湯に仕へ終るまで 百合山羽公 寒雁
片丘の麦刈り伏せて夕日赤し 内藤吐天 鳴海抄
牛去りし泉に赤し九輪草 相馬遷子 山国
牡丹鍋鞍馬の闇のうす赤し 鈴木鷹夫 大津絵
犬赤し冬日が洩れて馳け出す 岩田昌寿 地の塩
琉球のいらかは赤し椰子の花 篠原鳳作 海の旅
生き死にを清水のふちに蟹赤し 川崎展宏
生れて十日生命が赤し風がまぶし 中村草田男
田の人の長靴赤し花まつり 今野福子
甲斐駒の貌のぞかせて柿赤し 臼田亜浪
男鹿半島岩群赤し荒海や止まず動きて濤はかがよふ 鈴木幸輔
町角の駄菓子が赤し秋の風 鈴木鷹夫 風の祭
画廊出て人間赤し藪柑子 伊東達夫
白樺に映え晩涼の火赤し 福田蓼汀 山火
石狩まで幌の灯赤しチエホフ忌 寺山修司 花粉航海
神々の御代のごとくに野火赤し 高橋秋郊
秋出水乾かんとして花赤し 普羅句集 前田普羅
秋灯下長崎港の古図赤し 筒井珥兎子
秋風にふかれて赤し鳥の足 浜田酒堂
稲妻のこぼれて赤し蕎麦の畑 可有
稿に侍し刻々赤し夜の林檎 赤城さかえ
穴にのぞく余寒の蟹の爪赤し 子規句集 虚子・碧梧桐選
穴を出し蟻に花壇の煉瓦赤し 内藤吐天 鳴海抄
窓掛のがらすに赤し五月雨 五月雨 正岡子規
箱庭の南天赤し窓の下 寺田寅彦
粥腹に火事赤し東北地方は影 武田伸一
紅葉して雲より赤し葡萄園 石塚友二 光塵
紅葉ゝにふんどし赤し峰の猿 立花北枝
絨毯は赤し晶子の書は古りて 石原八束
絵屏風の撫子赤し子を憶ふ 撫子 正岡子規
絹糸赤し村の暗部に出生し 寺山修司 花粉航海
綿雪をかつぎて赤し藪柑子 吉茄子
縞に侍し刻々赤し夜の林檎 赤城さかえ
胡蘿蔔赤し一滴の血も損はざれ 栗生純夫 科野路
腐る梅雨火夫のあくびの舌赤し 細谷源二
自転車のセーター赤し林透き 谷迪子
芥子赤し受洗すませし午後驟雨 大野林火
芥子赤し旅も終りはさびしけれ 五十嵐播水「石蕗の花」
芥子赤し金をもていのち購ふか 瀧春一 菜園
花いけに一輪赤し冬牡丹 冬牡丹 正岡子規
花びらの雨粒赤し藪椿 長谷川櫂 天球
花活に一輪赤し冬椿 寒椿 正岡子規
苺赤し一粒ほどの平安か 森 澄雄
草むらに檀特花わつかに赤し 檀特花 正岡子規
草むらむら檀特花わづかに赤し 正岡子規
草枯るゝ賤が垣根や枸杞赤し 草枯 正岡子規
草枯れの頃の寒風山赤し(男鹿半島にて) 上村占魚 『一火』
草赤し先に歩るく子の盆提灯 長谷川かな女 雨 月
荒む心の尖り傾けて火は赤し 人間を彫る 大橋裸木
菜の花のさく頃里の餅赤し 菜の花 正岡子規
萩の芽に並びて赤し牡丹の芽 木の芽 正岡子規
葉かくれて朝鮮薔薇の花赤し 薔薇 正岡子規
葉も花にさいてや赤し曼珠沙花 曼珠沙華 正岡子規
蒸す昼のおんぶばつたの腹赤し 山西雅子
蓑虫の鳴く時蕃椒赤し 子規句集 虚子・碧梧桐選
蓮枯て辨天堂の破風赤し 枯蓮 正岡子規
蓼赤し古墳盗掘されし日も 大石悦子 聞香
蓼赤し野川にたるむ鳴子縄 石井露月
蕃椒手水盥の水赤し 唐辛子 正岡子規
蕪畑の一つは赤し大かぶら 駒走松恵
薄わけて行くや笠深く鞘赤し 薄 正岡子規
薪棚を出て薪赤し盆の風 大峯あきら
蘇枋枯れて鶏頭の鶏冠ただ赤し 北原白秋
蛇の舌まだ赤し秋の風 秋風 正岡子規
蛇穴に入る時曼珠沙花赤し 蛇穴に入る 正岡子規
蛙鳴けば雲赤し江尻風車台 久米正雄 返り花
蜂赤し聖書開きしまま置かれ 中戸川朝人 残心
蜘の巣に一ひら薔薇の花赤し 薔薇 正岡子規
蝶鳥や農の昼餉の椀赤し 木村蕪城
蟹赤し秩父に向きし父の墓 青山 結
蟹赤し遠山あをし母睡し間 石田波郷「春嵐」
蟹赤し野菜を洗ふ海女の前 米澤吾亦紅
血は赤し血の管通る涅槃西風 磯貝碧蹄館
西洋の草花赤し明屋敷 草の花 正岡子規
西海に入る日が赤し西行忌 五十崎古郷句集
誇りかに鶏頭赤し子規旧廬 雑草 長谷川零餘子
赤し赤し陽を喰べ飽きてチューリップ 長谷川秋子
赤寺は魚板も赤し冬紅葉 福田蓼汀
赤松のすこぶる赤し十夜寺 高澤良一 寒暑
赤門はいちにち赤し春の風 小川軽舟
赤鬼は蹠も赤し涅槃の図 塩川雄三
足ふるふ胎内くゞり蔦赤し 蔦 正岡子規
身の秋やあつ燗好む胸赤し 炭太 (たんたいぎ)(1709-1771)
軒先に鬼灯赤し母見舞ふ 山田弘子 螢川
転生や雪後は風の松赤し 岩田昌寿 地の塩
辻々のともし火赤し枯柳 枯柳 正岡子規
連翹や鳴く鶴の子の口赤し 閭門の草(櫻[カイ]子の自選句集) 安斎櫻[カイ]子
道すがら祭の家の炉火赤し 木村蕪城 一位
酒中点燈ひとりで酌めば蚊も赤し 磯貝碧蹄館
酒赤し、甘藷畑、草紅葉 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
酸素足ればわが掌も赤し梅擬 石田波郷
野犬の目赤し芽立ちの垣に啖ふ 『定本石橋秀野句文集』
金魚赤し吾子が笛吹くこと覚え 松倉ゆずる
金魚赤し賞与もて人量らるる 草間時彦
陶片は土に還らず罌粟赤し 久保武
雛棚や幕紫に桃赤し 雛祭 正岡子規
雨三日柚味噌づくりの炭赤し 井上雪
雨風にますます赤し唐辛子 唐辛子 正岡子規
雪晴や挽かれし板の芯赤し 宮坂静生 青胡桃
雲脱ぐは有明山か柿赤し 水原秋桜子
青木の実ころころ赤し襁褓縫ふ 石沢清子
青樓のともし火赤し星月夜 星月夜 正岡子規
韃靼に没る日の赤し亀巣の忌 蔵 巨水
風神青く雷神赤し除夜詣 北野民雄
風船も女も赤し門司港 小川軽舟
風船虫浮沈ひとすぢ布赤し 近藤一鴻
風船赤し子はくだものの匂ひして 成田千空
風車赤し五重の塔赤し 茅舎
颱風のさ中に剥きて柿赤し 野澤節子 黄 瀬
飴細工の鳩の目赤し午祭 高木淳之介
馬の眼のどこかが赤し合歓の花 横山白虹
馬士(うまかた)に見られて赤し森の蔦 立花北枝
馬肉赤し唐招提寺曇りつつ 星野昌彦
骰子の一の目赤し春の山 波多野爽波(1923-91)
骰子の一の目赤し開戦日 吉田ひろし
鮎焼きて残る火赤し時鳥 雑草 長谷川零餘子
鴬の来てあけぼのの庭に胸赤し 水原秋櫻子
鶏頭のいよいよ赤し枯るる時 長閑
鶏頭は茎まで赤し山の風 大串章
鶏頭や雁の来る時なほ赤し 松尾芭蕉
鷽の来てあけぼのの庭に胸赤し 水原秋櫻子
黒く又赤し桑の実なつかしき 高野素十「雪片」
いばらの実赤いよ空が眩しいよ 石川千里
うす陽しみてくる石に垂れて赤い実 シヤツと雑草 栗林一石路
うめの花赤いは赤いはあかいはな 広瀬惟然 (?-1711)
うらぶれし日も赤い羽根かく附けし 三星山彦
お祭りの田舎の赤いさかなよばれに来てゐる 人間を彫る 大橋裸木
しぐるると赤い傘さし老婆ゆく 深見けん二
すぐ失くす「赤い羽根」とはおもへども 吉田北舟子
だるまさんが転んだ赤い耳ぶくろ 新井温子
ちぎつてやらねばこんなに赤い芥子になる 夏井いつき
つけてすぐ風を捉へし赤い羽根 山崎冨美子
どうにかなるさ海髪の絡んで赤い箸 鳥居真里子
ななかまど実も葉も赤いあから貌 和知喜八 同齢
なやらひの夕べは赤い火を焚きぬ 飯田晴
はじめから赤い花なら春の夢 鳴戸奈菜
ひやゝかな赤い朝日がぽつかりと 冷やか 正岡子規
みんな帰る家あり赤い羽根つけて 菖蒲あや 路 地
ゐもり赤い腹雨に打たれぬ銭が欲し 川口重美
アルミ鍋たたいて梟の赤い咽喉 阿部完市 証
イースターカクタス復活祭に赤い花 原勢桐男
カラカラと赤い腕輪の団扇かな 岡田史乃
キヤンピング赤い毛布を岩に干し 中條今日子
ストーブを赤い調度として数ふ 吉岡翠生
バスで逃げる粉と風来る赤い空 阿部完市 絵本の空
ピノキオの赤い帽子や春の塵 伊藤雅子
ブランコの弓を射るよな赤い服 蘭 東子
マスクして赤い車の郵便車 平野山石
モノクロの街にコーラの赤い缶 金山桜子
一列のお辞儀が誘ふ赤い羽根 吉井秀風
一粒一粒柘榴の赤い実をたべる 臼田亞浪 定本亜浪句集
一駅に出口七つや赤い羽根 山縣輝夫
七曜のはじめ身軽し赤い羽根 河野南畦 『広場』
不満ぶち切る南天赤い実をもち 田中 穂
丘の上雪ばれ袋より出す赤い飴 古沢太穂 古沢太穂句集
乙鳥や赤い暖簾の松坂屋 夏目漱石 明治二十九年
亡父の歌声聞こえてくる赤い曼珠沙華 田川史子
何がため赤い結末 曼珠沙華 水田昊子
八月尽の赤い夕日と白い月 中村草田男
初閻魔赤い風船飛んでをり 多田薙石
利休忌や赤い花ある寛永寺 上村占魚 鮎
包みから赤いセーター赤くなる 伊関葉子
北風荒ぶ赤い帽子の児と船に 上村占魚 鮎
十三夜赤い着物を出せといふ 川崎展宏
十円の赤い羽根つけ泥酔し 右城暮石 上下
南風や波止場の好きな赤い髪 加藤高治
反骨があんなに赤い冬林檎 岸本マチ子
口紅は赤い銃弾初鏡 前山松花
古池に待たれて赤い帯しめぬ 鳴戸奈菜
叱られて赤い機械を野に棄てる 武馬久仁裕
吊るし雛吊るたらちねの赤い糸 根岸たけを
名は晶子魂の名は赤い薔藪 高澤晶子
咎やわが氷菓に見せる赤い舌 野間口千佳
咳すれば空いっぱいの赤い星 有井哲夫
善男が少女に呼ばる赤い羽根 松田ひろむ
塒鳥のおちつくまさ木のうすら赤い実 梅林句屑 喜谷六花
売れもせず赤い鼻緒の滑り下駄 川崎展宏
夏館異人住むかや赤い花 子規句集 虚子・碧梧桐選
夕ベ落葉たいて居る赤い舌出す 尾崎放哉
夕日の蔦紅葉もつと赤い蔦紅葉かなた 安斎櫻[カイ]子
外で会う夫の背広に赤い羽根 伊関葉子
大旱赤い秒針廻るのみ 坂本真理子
妻が入陽の赤いこと云ふて短日の裏戸 人間を彫る 大橋裸木
妻の赤い頬冬夜いつしか更けわたり 人間を彫る 大橋裸木
子を生し子を生して棲まふに赤いゆすらうめ 中塚一碧樓
定年の足もとよぎる赤い蟹 穴井太 原郷樹林
寒夜明け赤い造花が又も在る 西東三鬼(1900-62)
寒灯は待つためのもの赤い箸 対馬康子 純情
将来よグリコのおまけ赤い帆の 清水哲男
小さく赤い蜘蛛手を這えり糸曳きて 金子兜太
少年の挙は赤い薔薇である 久野康子
少年の放心葱畑に陽が赤い 金子兜太 少年/生長
屋根の上の赤い機関(からくり) 豹が見た 星永文夫
山ふかみ赤い鶏頭や滝のかぜ 斯波園女
山腹の赤い華表や蕎麦の花 寺田寅彦
島生みよかの落涙の赤い実よ 八木三日女 落葉期
工女帰る浴衣に赤い帯しめて 風生
御祭の赤い出立の蜻蛉哉 一茶 ■文化十四年丁丑(五十五歳)
心のところに青い寺赤い寺かざる 阿部完市
心臓のところにとめて赤い羽根 鈴木伸一
思い出したように赤い風車 河野芳子
我が胸に赤い羽根さす指笑窪 鈴木三四郎
手拭の赤い女房の汐干かな 角田竹冷
托鉢の僧の求むる赤い羽根 河野シゲ子
折紙の国から赤い蝉生まる 佐田和江
拝殿に赤いスリッパ神還る 相馬沙緻
早咲きの赤い椿が咲きにけり 今井杏太郎
春の雪ふり子が叩くかがり緒の赤い太鼓 橋本夢道 無禮なる妻抄
春嵐水が持ち去る赤い花 対馬康子 吾亦紅
春昼の目覚め赤い海紅 梅林句屑 喜谷六花
春雨や蓑の下なる赤い魚 尾崎紅葉
春雨や蓑の下より赤い花 春の雨 正岡子規
晩涼や赤い団扇を腰にさし 比叡 野村泊月
晩秋の赤い自転車木に寄する 三浦百合子
晶子忌や針をつきさす赤い布 藤岡筑邨
木の実落つ兵士の帽に赤い星 黒田杏子
木兎の赤い頭巾をかぶりたる 寺田寅彦
末黒野に残るムンクの赤い空 三嶋隆英
松の山から赤い菓子持ち長女来る 阿部完市 絵本の空
松茸が異国の赤い砂こぼす 根岸竹葉
松茸や赤い松葉が歯朶の中 滝井孝作 浮寝鳥
林檎の赤い夕暮 鴎はとんでいるか(神戸) 吉岡禅寺洞
枝のさきすでに赤い芽の冬 シヤツと雑草 栗林一石路
枯れきつて赤い造花と路地に棲む 仙田洋子 橋のあなたに
枯れつくし赤い旗立てた シヤツと雑草 栗林一石路
枯尾花に赤い提灯さしつけたり 北原白秋
枯草のもう赤い芽の一月二日一月三日 栗林一石路
梅の花赤いは赤いはあかひわさ 広瀬惟然
梅の花赤いは赤いは赤いわさ 惟然
梅もどきつぶらな実赤い実つづりてはありけり 梅林句屑 喜谷六花
梅雨さむし赤い鼻緒にすげかへて 長谷川双魚 風形
極楽は赤い蓮に女かな 蓮の花 正岡子規
橡の実を拾い胸には赤い羽毛 長谷川かな女 牡 丹
正月三日赤い実採りに山へ行く 森下草城子
死のついでに赤い椿の赤も消せ 稲葉直
母考える無防備の赤い林檎のごと 阿部完市 絵本の空
水仙の荷が飛ぶ赤い航空燈 川崎展宏
泣な子供赤いかすみがなくなるぞ 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
流灯会見えては消ゆる赤いブイ 花尻 万博
清書の赤い直しや芥子の花 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
満たされぬ胸を飾りて赤い羽根 吉川清江
漁網たたまれ鳳凰木の赤い花 金子皆子
煤はきや東は赤い日の出空 一茶 ■文政六年癸未(六十一歳)
爐話の嘘をゆるす赤い馬車も出て来い 中塚一碧樓
牛市や赤い椿が泥の上 蘭草 慶子
牛肉の赤いまだらの銀河糸 対馬康子 吾亦紅
牡蠣船を赤い襷のちらちらす 川崎展宏
犬の性慾が赤い木瓜を咲かすやうにも思ふ 安斎櫻[カイ]子
犬の眼に冬至の赤い日が二つ 川崎展宏
獅子舞を見にゆく赤い下駄はいて 橋本鶏二 年輪
珊瑚樹の赤い実を飛び兜虫 和知喜八 同齢
男といふ性は峠を過ぎゆきて<赤いきつね>を啜りゐるなり 田島邦彦
男にもあるはにかみや赤い羽根 徳丸峻二
男は他郷の赤いポストにあこがれる 大西泰世 世紀末の小町
畑打つや中の一人は赤い帯 森鴎外
留守長き机の上の赤い羽根 森田智子
異人住む赤い煉瓦や棕梠の花 夏目漱石 明治二十九年
病むそばにゐて鬼灯よなぜ赤い 櫂未知子 貴族
白い梅は冬花火赤い梅も冬花火 渥美ゆかり
真っ先に赤い羽根つけ街の蝨 右城暮石 上下
砂山赤い旗たてて海へ見せる 尾崎放哉
破魔矢命中それからの赤い糸 小池 都
秋風やむしりたがりし赤い花 小林一茶
空に描いた赤い魚 落葉期がきている 吉岡禅寺洞
空の裂け目に母棲む赤い着物着て 西川徹郎 死亡の塔
空を失くした炉工に赤い雪が降る 穴井太 土語
突堤の蟹が引っ張る赤い月 河合凱夫 飛礫
紅葉して赤い獲物が山に並ぶ 阿部完市 絵本の空
纏足斯くやスケート靴の赤い紐 宮崎二健
耳を病む子に霜の木の赤い鳥 宮坂静生 山開
胸高に赤い羽根つけ老夫婦 大下順子
自分史に九文三分の赤い足袋 木谷はるか
苗木かじかむ赤い教育などとは 堀井春一郎
草餅の包みに掛けて赤い紐 川崎展宏
葉がくれの赤い李になく小犬 小林一茶
葉隠れの赤い李になく小犬 一茶「嘉永版句集」
薄氷と踏絵と赤いハイヒール 水月りの
藁屋根と赤いポストや秋黴雨 長山登良雄
蝉なくやつくづく赤い風車 小林一茶 (1763-1827)
蝉鳴や赤い木葉のはら~と 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
螻蛄の夜の闇は鳥籠赤い籠 今坂柳二
裏おもて見定め赤い羽根を挿す 高井北杜
見はるかす花野の果ての赤い屋根 鈴木文野
見るものは山 ときに赤い電車が通る 瓜生敏一
親猿の赤い頭巾や叱られし 高浜虚子
誕生や赤い実にきて赤い鳥 今瀬剛一
誰も赤い羽根つけて芥が匂ふ 加倉井秋を 午後の窓
赤いこと冬野の西の富士の山 冬野 正岡子規
赤いものこぼしてゆけり注連貰 田村美樹子
赤いドア隔月ごとに人の泣く 滝口千恵
赤いハンガーぶらさがりゐる鴉の巣 刑部和子
赤いマフラー届きし島の定期便 対馬康子 吾亦紅
赤いランタンうすいまぶたのまま眠る 木下真利子
赤い口ひらひら地下の語り継ぎ 穴井太 ゆうひ領
赤い哉仁右衛門が脊戸の蕃椒(とうがらし) 夏目漱石 明治二十八年
赤い地図なお鮮血の絹を裂く 八木三日女(1924-)
赤い夕南風髪やわらかく放電する 島津司郎
赤い夕日にわが時計死すああ満洲 高柳重信
赤い実がひよを上戸にしたりけり 一茶
赤い実がひわを上戸にしたりけり 一茶
赤い実くらがりを恋猫通す 栗林一石路
赤い実のどこかが揺れて小鳥来る 奥安則
赤い実もはかり込だる粉炭哉 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
赤い実を喉に落す鳥寒う見ゆ 渡辺水巴 白日
赤い實の一つこぼれて霜の橋 霜 正岡子規
赤い旗振る炎天の貨車押せり 萩原麦草 麦嵐
赤い日へ馬耕の土が噴きあがる 中島斌雄
赤い月 不眠の鈍器となっている 松本恭子 二つのレモン 以後
赤い月にんげんしろき足そらす 富澤赤黄男
赤い月夏蚕は苦い糸を吐く 田口一穂
赤い林檎の国境囓るミュージシャン 五島エミ
赤い柿抱へて吸へる黒揚羽 上野泰 佐介
赤い根のところ南無妙菠薐草 川崎展宏(1927-)
赤い椿白い椿と落ちにけり 碧梧桐
赤い浅草の鮨の秋の雨夜で通る 梅林句屑 喜谷六花
赤い海星焦げる日傘の舞う地下街 久保純夫
赤い犀車に乗ればはみだす角 金子兜太
赤い磯かな燈台生産グラフの中 八木三日女 落葉期
赤い童女に雪解の戸々の押し合ひて 友岡子郷 遠方
赤い箸つかふ夏痩はじまれり 望月百代
赤い糸曳いて精霊とんぼかな 田部谷紫
赤い紫陽花に運河がきて曲がる 和知喜八 同齢
赤い羽つけゐて胸を病みにけり 中西利一
赤い羽根さす胸をつく痛み欲し 鎌倉佐弓 潤
赤い羽根させるお洒落のルンペン氏 阿波野青畝
赤い羽根その日失ひ旅衣 阿波野青畝
赤い羽根つけくるる待つ息とめて 阿波野青畝
赤い羽根つけたる夫と書肆に会ふ 小笠原あや子
赤い羽根つけてどこへも行かぬ母 加倉井秋を 午後の窓
赤い羽根つけてより歩の軽くなる 小泉静子
赤い羽根つけてシネマの列に入る 肥后潤子
赤い羽根つけて一と日の性善説 小林鳳円
赤い羽根つけて一番乗りの句座 吉川康子
赤い羽根つけて上野の森に入る 高澤良一 燕音
赤い羽根つけて八十二となりぬ 遠藤梧逸
赤い羽根つけて炭団を造る父 菖蒲あや 路 地
赤い羽根つけて背筋を伸ばしたる 塩川雄三
赤い羽根つけて身なりは物売女 森田峠 避暑散歩
赤い羽根つけらるる待つ息とめて 阿波野青畝
赤い羽根つけゐて胸を病みにけり 中西利一
赤い羽根つけフリーター帰省せり 滝本香世
赤い羽根つけ再びの雑踏に 小島左京
赤い羽根つけ勤め人風情かな 清水基吉
赤い羽根つけ青年のウールの香 楠本憲吉
赤い羽根みなつけ暗き灯にもどる 伊東宏晃
赤い羽根らしき人垣出来てをり 稲畑汀子
赤い羽根ダークスーツを華やがす 波多野惇子
赤い羽根ボーイソプラノ張り上げて 宮本ひかる
赤い羽根九十才の胸にあり 石川洋子
赤い羽根付けてニコライ堂に入る 高島和子
赤い羽根似合わないからすぐはずす 外崎紅馬
赤い羽根四五歩あゆみて付け直す 肥塚艶子
赤い羽根失くす不思議を言ひ合へる 岡本 眸
赤い羽根小さき両手が来てつける 伊東慶子
赤い羽根小さき胸の灯となせり 遠藤貞子
赤い羽根胸に親ばか子ばかかな 久保田万太郎 流寓抄以後
赤い羽根袈裟につけたるお僧かな 獅子谷如是
赤い羽根視線合はせず付けくれし 倉富あきを
赤い羽根赤信号と向き合うて 高澤良一 ぱらりとせ
赤い羽根鶏舎のまへを足ばやに 熊谷静石
赤い膳も小春日のひる少しおくれたころ 荻原井泉水
赤い花は彼岸花、水に雨ふる 巣山鳴雨
赤い花咲いて六月了りけり 星野麥丘人(鶴)
赤い花買ふ猛烈な雲の下 富澤赤黄男(1902-62)
赤い蒲團のべて地にあり鶴わたる 竹中宏 句集未収録
赤い薔薇描き来喪中にかかはらず 後藤比奈夫 めんない千鳥
赤い足袋買つて欲しいと粥を炊く 中山純子 茜
赤い金魚頭の中の金魚鉢 高桑婦美子
赤い風船ばかり冬田の風船売 岸田稚魚 筍流し
赤い馬はねる曇天の精神科 穴井太 穴井太集
赤い鳥青い鳥描き染卵 大橋麻沙子
赤髯譚菠薐草の赤い脚 末永有紀
道ばたに赤い菊さく野の小店 野菊 正岡子規
道祖神に赤い菓子置き春を待つ 藤岡筑邨
遠い雷埠頭にころがる赤い缶 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
鉄道草赤い夕日に照らされて 川崎展宏
門にさしてをがまるるなり赤いわし 一茶
雑踏を出て来し胸に赤い羽根 長田等
雪舞ふや赤い鳥居を幾つ抜け 上村占魚 鮎
雪解野の絵本が落とす赤いマント 長谷川かな女 花寂び
雪責めの絵師を迎えに赤い足裏 仁平勝 花盗人
零の地のくちびる赤いチューリップ 栗林千津
青いサイロ赤いサイロ風光る 増田豊子
青竹の筒にさしけり赤い菊 寺田寅彦
頓服の赤いセロフン太宰の忌 柳田泰子
頬染めて呼びかける子ら赤い羽根 中島孝治
頬赤い山無花果を童子仏 和知喜八 同齢
飴売のおまけは赤い風車 荒木澄子
馬の匂ひの夏野の果に赤い橋 星野紗一
駅ごとの赤い椿に停まりゆく 今井千鶴子
髪の毛ほどの掏摸消え赤い蛭かたまる 赤尾兜子
鳥帰る赤い針山窓際に 佐藤和夫
麦湯飲む赤い馬など近づいて 野間口千佳
黄いばらと赤いばらとに部屋の春 高木晴子 晴居
黒鳥の赤い顔ぬれ秋の石 和知喜八 同齢
なげかへばものみな暗しひむがしに出づる星さへ赤からなくに 斎藤茂吉
万両の実の赤かりし一慶事 沢村芳翠
冬山や何に赤かる蔓もどき 松根東洋城
別れゆくときもサルビヤ赤かりき 木村浅香女
別れ霜母の血潮の赤かりしよ 相馬遷子 雪嶺
寒鮒焼く火は何よりも赤かりき 友岡子郷
春の水落ちて巌の赤かりし 山本洋子
春節の赤から赤を泳ぎゆく 川崎美知子
梟の啼かば眦赤からむ 斎藤梅子
沼統べて冬至の落暉赤かりし 石井とし夫
脱穀の姉妹どこかが赤かりき 和知喜八 同齢
花食まば鴬の糞も赤からん 夏目漱石 明治四十年
賤が家に花白粉の赤かりき 白粉花 正岡子規
赤かぜの妻の木馬と子の木馬 安住敦
赤か白かそらみつ大和の寒牡丹 原田喬
逃げし風船赤から黒にもう逢へぬ 中村明子
鉛筆の鶏頭写生赤からず 阿波野青畝
あまり赤きダリヤの数に汗垂りをり 杉山岳陽 晩婚
ある時は罌粟の赤きを憎みけり 野見山ひふみ
いとし子に赤き頭巾を冠せたる 頭巾 正岡子規
いやに赤きこの投句箱業平忌 鈴木鷹夫 春の門
おおぞらや言葉は赤き蘂となり 永井江美子
お涅槃や椿は赤き血を貰ひ 櫛原希伊子
かせどりの子に借りて着し赤き服 八牧美喜子
かなめ垣赤き冬芽を立てにけり 今村三千代
かの赤きヨットのけふも来る時刻 富安風生
かほ赤き氷の上の*いさざかな 対中いずみ
かまくらの子の赤き頬二つづつ 木谷島夫
から鮭の切口赤き厨哉 乾鮭 正岡子規
がちやがちやに夜な夜な赤き火星かな 大峯あきら
きりぎりす幹赤き松立つばかり 岩田昌寿 地の塩
くろずむまで赤きりんご冬は訪問者 栗生純夫 科野路
こいさんに赤き扇の風もらふ 小島健 木の実
さくらんぼ鎧ひて赤き木々並ぶ 吉良比呂武
さまざまの赤き実のある十二月 森澄雄
しぐるゝやいつまで赤き烏瓜 子規句集 虚子・碧梧桐選
しぐれ見るうしろに赤き火鉢の火 猿橋統流子
しをらしや細茎赤きはうれん草 村上鬼城
すいつちよ来て赤き帽子の砂糖壺 宮津昭彦
すかんぽのうす赤き茎のかなしければ手には摘みつつ我が噛みがてに 古泉千樫
そらみみや日ざかり赤き*ささげ藪 宮坂静生 山開
とびぬけて赤きは白膠木紅葉かな 右城暮石
なにもせぬ百足虫の赤き頭をつぶす 古屋秀雄(天狼)
なほ赤き落葉のあれば捨てにけり 渡部州麻子
にくにくと赤き色なり蕃椒 唐辛子 正岡子規
のど赤きつばくらめふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり 斎藤茂吉
のど赤き玄鳥ふたつ屋梁にゐて足乳根の母は死にたまふなり 斎藤茂吉
はらからと赤き桃食べ送り盆 渡辺みかげ
ひらひらと赤き蹼ふる木の葉 成田千空 地霊
ひるがほや日のいらいらと薄赤き 加舎白雄
ふぐり下げ歩道を赤き犬はゆく帽深きニイチェはその後を行く 宮柊二
ふぐり落し赤き顔して戻りきし 滝沢伊代次
ふるさとははららご赤き雑煮かな 八牧美喜子
まづしくも赤きもの著て春著の子 高木晴子 晴居
みぞるゝや切身の赤き魚の棚 守水老遺稿 寺野守水老
みみづくの赤き眼や露時雨 会津八一
もたれたる卓の赤きに寝待月 星野立子
やまかがし窶れて赤き峠越ゆ 三橋敏雄「眞神」
ゆく春のひるの灯赤き佛哉 会津八一
イルカ跳ぶ赤き風船めがけては 須磨佳雪
ウィーンの森に赤きアリアの道しるべ 五島エミ
エイサーや赤きふどしの京太郎 いぶすき幸
カレンダーの赤き小文字立春と 成瀬正とし 星月夜
キャラメルの赤き帯封原爆忌 吉村 明
ケットーの赤きを被り本願寺 毛布 正岡子規
ジプシーの手に萎え赤きカーネーシヨン 嶋田麻紀
ジープより赤き薔薇落つ跳ねとびぬ 平畑静塔
ストーブの赤き炎が睡魔かな 岩崎照子
ゼラニューム赤き愛車を洗ひをり 高澤良一 さざなみやつこ
チェーホフ讀む赤き肩掛け掻き合はせ 福島壺春
チューリップ赤きを挿して乙女妻 石塚友二 光塵
デイゴ咲き口中赤き魔除獅子 中嶋秀子
ネオン赤き露の扉にふれにけり 木下夕爾
ハーリーヘ赤き領巾振る蜑乙女 沢木欣一
ビー玉の赤き流紋雪しんしん 加川則雄
ベスビオの裔かも赤き春埃 田口一九
七夕竹願ひの赤き小短冊 鴨田之男
万両は兎の眼もち赤きかな 千代女
三島忌の赤きを愛す馬の鞍 磯貝碧蹄館
三島忌の赤き布干す寺院かな 柿本多映
上弦の月さへ赤き旱かな 藤田湘子 てんてん
与謝の海かすんで赤き入日哉 霞 正岡子規
中天に赤き月あり熱帯夜 川崎ヒデ子
中年や赤き実ばかりまなうらに 北見さとる
乾鮭の切口赤き厨かな 正岡子規
二階より駆け来よ赤きトマトあり 角川源義「冬の虹」
井戸端に一うね菊の赤きかな 菊 正岡子規
亡父の裸の何処かにありし赤きほくろ 田川飛旅子
人の手にわたりて赤き唐辛子 松村蒼石
人日の赤き実こぼす床の花 櫨木優子
人界のともしび赤き彼岸かな 遷子
他人の血貰ひて吾が目赤き梅雨 大高弘達
仲秋や赤き衣の楽人等 高野素十
伎楽面赤き鼻梁垂れ冬あたたか 大谷碧雲居
佛身も赤き裳を引き秋の暮 八牧美喜子
係累やこの正餐の赤き貝 宇多喜代子
修二会の赤き雪かな火の粉かな 吉川陽子
修善寺や赤きつぼみの糸ざくら 栗田やすし
借り履きの赤きスリッパさくらびえ 林翔 和紙
入学や赤きザイルの懸りゐる 宮坂静生 春の鹿
全人類を罵倒し赤き毛皮行く 柴田千晶
八つ手咲いて妻が著るもの赤き冬 森川暁水 淀
八朔や赤き雨降る蕎麦畑 藤原款冬
六月の画廊に赤き椅子一つ 池田琴線女
内赤き古椀に盛り新小豆 中村草田男
冬ざれの厨に赤き蕪かな 正岡子規
冬の宿赤きブーツのもたれあひ 土生重次
冬の鹿に赤き包を見せてゆく 長谷川かな女 雨 月
冬帽の赤きを買えば風囃す 野見山ひふみ
冬木立いつか生れし赤き屋根 林豊子
冬木立のうしろに赤き入日哉 冬木立 正岡子規
冬枯に赤きは雉子の眼のほとり 松瀬青々
冬枯や酒藏赤き村はづれ 冬枯 正岡子規
冬萌の赤き芯見て帰りけり 石寒太 翔
冲の方帆に赤き日や秋の暮 癖三酔句集 岡本癖三酔
冴え返る地下に赤き燈強き酒 成田千空 地霊
凍港の人ゐて赤き旗を振れり 岸風三楼 往来
凍湖に赤き椅子一つ置く何見んと 藤田湘子
凍滝に赤きザイルの垂れゐたり 石井敏夫
凍鶴を見てきぬ皿に肉赤き 波多野爽波 『湯呑』
初凪の浜辺に赤き貝拾ふ 茂木房子
初大師歌口赤き笛を買ひ 青木文恵
初富士や浪の穂赤き伊豆相模 格堂
初弘法赤き一つ身ひろげ売る 山崎八洲恵
初湯出し胸板赤き妻の父 辻田克巳
前垂の赤きに包む土筆かな 夏目漱石 明治三十年
前山の杉の赤きは花ならむ 松尾いはほ
加賀びとの赤き爪掛け春隣 加藤耕子
北風やあるひは赤き蟹の足 久保田万太郎 流寓抄以後
卒業の赤きじゆうたん踏みて去る 手塚基子
卓上に鶏頭赤き西日かな 岸本尚毅 鶏頭
南天の実の赤きこと言ふて病む 稗田 富貴子
南天の赤きに憩ひ磴のぼる 大隈 伊津子
南方の赤き団扇を使はれよ 山口青邨
厠花赤きを通す初三十日 高澤良一 素抱
去年の雪まゆみの赤き実にのれり 飴山實 『花浴び』
受験の子に朝ごと赤き牡丹の芽 加藤知世子 黄 炎
口切や南天の実の赤き頃 夏目漱石 明治二十八年
古稀翁にへんぽん赤き鯉幟 山口青邨
叩きたる夢は冬木の赤き芯 高橋睦郎 稽古
君知るや野蒜の花の赤きをば 野村喜舟 小石川
吾がための羽子板赤き藤娘 野見山ひふみ
吾子泳ぐ赤き踵をかいま見せ 嘴朋子
味噌漬の鮭の赤き身小正月 菅原多つを
咲くものの赤きが多し旱雲 小澤満佐子
唇赤き女雪割る街に住み 澤木欣一
唐辛子烏の嘴程赤きかな 広江八重桜
唐辛子赤き穗先をそろへけり 唐辛子 正岡子規
唐門の赤き壁見ゆ竹の春 高浜虚子
唖の子の指に歩ませ蟹赤き 桂樟蹊子
喉つまりさうにも赤き蒸し藷 後藤比奈夫 めんない千鳥
喪がつづく麦生に赤き峠見え 宮坂静生 山開
喪の旅の岬に赤きカンナ咲く 近藤 紀代女
喪の留守金魚が赤き領巾を掘る 辻田克巳
喰積のちよろげいつまで赤きかな 杉本禾人
嘘多き世に唐辛子赤きかな 成瀬櫻桃子 風色
嘴赤き椋鳥ゐたり別れ霜 堀口星眠 営巣期
噛んで見る秋海棠の莖赤き 秋海棠 正岡子規
土用芽や手品師の引く赤き領布 平井照敏 天上大風
地の底の赤きが見ゆる枯野かな 長谷川櫂 蓬莱
地玉子の殻の赤きを寒見舞 矢崎康子
地蔵会の日暮に赤き唐辛子 角川春樹
塵かごの赤きに下宿さくら草 赤松子
境内が一日赤き達磨市 池谷 晃
墳の中滅法赤き秋日さす 佐野まもる
夏の月赤き目をして犬が病む 山本令夏
夏の河赤き鉄鎖のはし浸る 山口誓子「炎昼」
夏の霧ホテルに着きし赤き馬車 龍胆 長谷川かな女
夏痩せの指の指輪の赤き玉 鈴木真砂女 生簀籠
夏赤き凧あげ召集兵の子なり 細谷源二 鐵
夏赤き月を砂丘に嘆くなり 有働亨 汐路
夕ベ赤き田水少年の襟ぬくし 桜井博道 海上
夕日より赤き灯の入り岐阜提灯 村尾あつ子
夕榮や稻こぐ嫁の赤き顔 稲扱 正岡子規
夕焼の赤き山女を岩にならべ 瀧春一 菜園
夕蝉や松も簾もみな赤き 尾崎紅葉
外套を吾子の赤きに並べて掛く 相馬遷子 山国
多喜二忌や赤き実残る防雪林 佐々木茂
夜の乳流るるそらへ赤き葉のはなみづきの木のびあがりけり 阿木津英
夜の紐ほどけて赤き蛇生まれ 出口善子
夜の薔薇我が瞳に宿る赤き闇 吉原文音
夜櫻や中に電燈の赤き青き 寺田寅彦
夜霧こめて赤き灯見ゆる廓哉 霧 正岡子規
大夕立足尾の赤き山洗ふ 鈴木朗月
大杉の赤き樹肌に暑さ来る 阿部みどり女
大根引く引佐郡の赤き土 大信田梢月
大榾にほてりて赤き鳥屋親子 前田普羅 能登蒼し
大臣の別莊赤き桜かな 桜 正岡子規
大花野夕日は赤き玉となり 中村明子
大阪の赤き月出づ船料理 村山古郷
天ぐさの搗き場に赤き小提灯 田中冬二 俳句拾遺
天に赤き凧その日より母病みき 宮崎光治
天ぷらの海老の尾赤き冬の空 波多野爽波 『骰子』
天地旱トラックの尾の赤き布 西東三鬼
天暗く赤き椿の咲き満てる 長谷川櫂 天球
天険に一輪赤き寒椿 吉澤卯一
失恋や片頬赤き青林檎 中尾寿美子(氷海)
奥嵯峨や軒にあめ湯の赤き旗 江崎成則
奥美濃や心底赤き木守柿 菖蒲あや
女どもの赤き蕪を引いて居る 蕪引く 正岡子規
女生徒の花傷兵の辺に赤き 細谷源二 鐵
女立たせてゆまるや赤き旱星 西東三鬼「夜の桃」
奴雛赤きふどしを極込みし 高濱年尾 年尾句集
妹が口卯の花腐の赤きかな 高濱虚子
妹が口海酸漿の赤きかな 高濱虚子
妻のみ恋し赤き蟹など歎かめや 中村草田男
妻の留守金魚が赤き領巾を振る 辻田克巳
妻へも這ふ電気行火の赤き紐 細井将人
嬰児の赤き舌を見たれば直ぐ帰る 鈴木六林男
子にゑがきやる青き蟹赤き蟹 福永耕二
子地蔵の赤き口元別れ霜 竹澤茂子
子蜥蜴やマチスの赤き絵にも這へ 小檜山繁子
宗教の赤き港を乳母叱る 攝津幸彦
宵の灯に赤き灯もあり鳥総松 中村草田男
寒き国へ帰るよ赤き鞄提げ 佐藤ゆき子
寒の空竿を巻き旗赤きはまる 島津亮
寒林に鳥ゐて赤き実をこぼす 秋篠光広
寒潮に少女の赤き櫛が沈む 秋元不死男
寒禽の赤き実全て落しけり 坂本あき
小さき子スキーの杖に赤き旗 高野素十
小袖海女潮滴らす赤き帯 佐々木みさ
小鳥来ぬジヤケツの赤き子供らに 岸風三楼 往来
少年の赤き手袋さより釣る 田中峡一
尼寺が可愛らしくて赤き秋 京極杞陽 くくたち上巻
屋根赤き砂糖工場も暮春かな 石田波郷
山うらに赤き日のある寝釈迦かな 佐々木 咲
山去るにつけて一位の実ぞ赤き 木村蕪城 一位
山又山夙に赤きはキリストか 阿部鬼九男
山焼きの赤き火を見るこけしの目 加納染人
山焼くとばかりに空のほの赤き 正岡子規
山路ゆく赤き帯また曼珠沙華 野澤節子 黄 炎
山門の赤きに秋の入日哉 飯島風香
山間の雨の長さや赤き桃 宇佐美魚目 秋収冬蔵
岡ぞひの桜は赤き蕾かな 桜 正岡子規
峡暮雪眼に赤きものあるはずなし 千代田葛彦 旅人木
島への距離百合赤きまで船近づく 右城暮石 声と声
島啼て赤き木の実をこぼしけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
嶋二つ初潮満ちて日の赤き 佐藤紅緑
川こえて赤き足行くかれ柳 上島鬼貫
川の面の赤き日向や雲の峯 内田百間
川床提灯映りて赤き流れかな 安藤雅子
川流れいちにち赤き毛糸玉 下山光子
川越して赤き足ゆく枯柳 鬼貫
座敷犬赤き舌出し菊の寺 辻桃子
廃墟にて赤き眸のある寒卵 石原八束 仮幻の花
弁天の楼門赤き桜哉 桜 正岡子規
引きよせて赤き絶壁西瓜食ふ 堀口星眠 青葉木菟
彼岸会をいづこの魚の赤き鰭 斎藤玄 雁道
待春や手綱の赤き藁の馬 川村紫陽
御手洗にこぼれて赤き木の實かな 木の実 正岡子規
御枕赤きに涅槃し給へる 吉井莫生
復活祭赤き卵は子規も喰ひき 草間時彦
心音に近くて赤き牡丹の芽 森田智子
思い断つあまりに赤き野火を見て 岸本マチ子
恋失くせしと耳袋(イヤーマフ)赤きかな 辻桃子
悴む手こする太陽赤き下 村越化石 山國抄
愁いるると起りぬ野火より赤き馬に 細谷源二
慶びのあかしの如くいいぎりが赤き実かざす季に来遭ひぬ 田谷鋭
懸大根火星の赤き夜なりけり 細谷喨々
手にとりて反せば赤き団扇かな 松藤夏山 夏山句集
手花火に面赤き時蒼き時 吉田漁郎
手花火の颯颯颯颯赤き球 安食彰彦
捕りがたき蛾のをり火山赤き冬 堀口星眠 営巣期
捨猫の出てくる赤き毛布かな 津川絵理子
授かりし仔馬の赤き寄進旗 河津春兆
探梅の赤き風呂敷提げて行く 大口元通
描きて赤き夏の巴里をかなしめる 石田波郷「鶴の眼」
提灯にほつ~赤き野萩かな 渡辺水巴 白日
摘みに行く*ささげの赤き遠目かな 高濱虚子
摺り流す赤きビートの冷し汁 秋枝蕭子()
摺絵師の手焙り赤き北斎展 小磯国雄
放心へ赤き足あるきくる鳩の冬 橋本夢道 無禮なる妻抄
教ヘ子の赤き羽根なり重ね挿す 能村登四郎
文学もかなしネオンの赤き夏 下村槐太 天涯
新しく赤き火を焚く事始め 大島龍子
新田の早苗痩せたり赤き水 早苗 正岡子規
新蕎麦の袋を縫ひぬ赤き糸 龍胆 長谷川かな女
新藁の能登雪靴の赤き糸 沢木欣一
日めくりの赤き数字や祭馬 石寒太 翔
日暮まで赤き大風薔薇の園 堀口星眠(橡)
日記買ひその後赤き花を買ふ 山田弘子 螢川
旧正の餅菓子を切る赤き糸 明隅礼子
早春や公館赤き旗たてたる 岸風三楼 往来
早稲刈のはじまる赤きコンバイン 中村佐一
明治座の緞帳赤き朧かな 皆吉 司
昏睡や赤き光をチューリップ 長谷川櫂 天球
春の夜の単衣に結ぶ赤き帯 岩瀬鴻水
春の潮赤き小貝をひた~と 四明句集 中川四明
春ふかし口中赤き熊襲面 岸原清行
春寒やほのかに赤き牡丹の芽 聾兎遺稿 天野聾兎
春愁のとどめに赤き皿買はむ 百瀬美津
春愁を赤きポストに投函す 田中冬二 冬霞
春昼や肉屋は赤き肉掴み 長嶺千晶
春暑し赤き椿に風吹いて 岸本尚毅 選集「氷」
春暖炉マチスの赤き絵が眠し 山元志津香
春燈の卓にチューリップの赤き口唇 冨田みのる
春立つや暦に赤き日曜日 吉屋信子
春立つや玩具に赤きいろ多き 長田群青
春闘や工区の空の赤き月 鋤柄定義
春雨や庭より運ぶ赤き膳 田中冬二 麦ほこり
春雪や神をいさめの赤き幡 前田普羅 飛騨紬
春雷や能面赤き唇を持つ 豊東蘇人
春霞赤き祠が木の根方 中田剛 珠樹以後
春風の戸口に赤き幟かな 春風 正岡子規
春風や恥より赤きドレスを着て 中烏健二
春風や木の間に赤き寺一つ 春風 正岡子規
春風や赤きもの何やらひるがへる 春風 正岡子規
春風や赤きもの皆ひるがへる 春風 正岡子規
昼みれば首筋赤きほたるかな 芭蕉 選集古今句集
昼寝覚赤き手鞠のかがられし 波多野爽波 『一筆』以後
昼顔や日のいらいらと薄赤き 白雄
晩年の唇赤き母冬座敷 澤木欣一
晩年や赤きとんぼを食いちぎる 永田耕衣 殺祖
暑さ言ふ戸口に赤き三輪の幣 佐野美智
暖房やつがれて赤き食前酒 萩原季葉
暮れぎはの赤き酸模ら好敵手ら 竹中宏 饕餮
暮春にて表紙の赤き罪と罰 福谷俊子
書つゞる師の鼻赤き夜寒哉 蕪村遺稿 秋
曼珠沙華散るや赤きに耐へかねて 野見山朱鳥(1917-70)
月白く柿赤き夜や猿の夢 柿 正岡子規
朝寒や花より赤き蓼の茎 内藤吐天 鳴海抄
朝市の真ん中赤き蕪売り 佐川広治
朝市の赤き鬼灯買ひにけり 木暮剛平
朝霜やかれかれ赤き蓼の花 朝霜 正岡子規
木に結ぶ赤き布切れ兎罠 大島雄作
木枯に買ひ来て赤きランドセル 岸原清行
木枯の継ぎ目継ぎ目の赤きかな 正木ゆう子 悠
木枯や鞭につけたる赤き切れ 虚子 (満州にて)
木洩れ日のつよきを赤き蜂占めて 野澤節子 黄 瀬
木蔭より総身赤き蟻出づる 誓子
木隠れて手拭赤き茶摘哉 茶摘 正岡子規
末黒野の鴉の舌は赤きかな 久米正雄(三汀)(1891-1952)
朽木に高く赤き菌の輝けり 原子公平
杉は緑南天赤きアーチ哉 寺田寅彦
村遠く赤き旗立つ青田かな 会津八一
杖袋赤きは女秋へんろ 土井原晶子
松明揚ぐれば峡中赤き夜振かな 西山泊雲 泊雲句集
枯れきりし蟷螂赤き眼を残す 井上倭子
枯れつくし赤き実一つ世に正す 古舘曹人 能登の蛙
枯原に赤き踵を見せらるる 斎藤玄 玄
枯芝に置く駅長の赤き帽 松山足羽
枸杞の実の一と粒赤き思案の掌 稲垣きくの 牡 丹
枸杞の実の赤き小さき長寿村 加倉井秋を 『隠愛』
枸杞垣の赤き実に住む小家かな 村上鬼城
柞より赤き雑木の冬芽何 新谷根雪
柿の実や口ばし赤き鳥が来る 正岡子規
柿赤き方に唱歌や南朝址 桂樟蹊子
校正の赤きペンもつ寒の入 山口青邨
根が赤きこと恥かしきはうれん草 鈴木鷹夫
根元まで赤き夕日の葉鶏頭 三橋敏雄
桂郎の赤き襟巻畦の数 秋元不死男
桃青し赤きところの少しあり 高野素十(1893-1976)
桑の実の赤き入日や半夏生 菅原師竹句集
梅干せし赤き手に揉む乳房かな 岡本松浜 白菊
梅漬けて赤き妻の手夜は愛す 能村登四郎(1911-2002)
梅雨の森赤き満月放ちたる 木下夕爾
梅雨の航キヤビンに赤き救命具 池田秀水
梅雨の航救命ヴイの赤きこと 高澤良一 素抱
梅雨冷えのサラダのトマト赤きかな 久保田万太郎 流寓抄以後
梅雨嫌ふ食卓塩の赤き蓋 高澤良一 素抱
梅雨月の赤き光輪母病めり 齋藤愼爾
梅雨茸の赤きフエノロサの墓なりき 桂樟蹊子
森霞む日付けの赤き日曜日 櫛原希伊子
椿落つ赤き不幸の殖ゆるごと 齋藤愼爾
楪の赤き筋こそにじみたれ 高浜虚子
業平忌赤き蒲団のほされけり 高柳重信
極暑なりくちびる赤きまゝ逝きし 沢木欣一 遍歴
極月の赤き水門開け放つ 速藤尹希子
橘の赤き実を愛づ旅に出て 瀬戸口民帆
檀の実身辺赤き牲ばかり 田仲了司
死の近し青木の実は赤ききわみ 海藤抱壺
残雪や赤き実による日ぐれ鳥 石鼎
殼赤き玉子をがめば入日舞ふ 中勘助
母も子も赤き靴はき雨情の忌 黒岩保行
母恋し赤き小切れの鳥威し 秋元不死男
母恋し鍛冶屋に赤き鉄仮面 寺山修司(1935-83)
母遥かかの千両の赤き実も 北原志満子
毒茸や赤きは眞赤黄は眞黄 茸 正岡子規
毛氈の赤き座敷に種痘する 田中冬二 俳句拾遺
毛虫焼く仕度の中の赤き糸 鈴木鷹夫 春の門
水の上に赤き毬浮く震災忌 館岡沙緻
水霜や臆して赤きあかのまま 青木重行
氷に上りたり竜宮の赤き魚 横山悠子
氷河湖に赤き喉もて立ちくらむ 五島エミ
汝が咽も赤きかと鵯見せて啼く 津森延世
沈む桃に銀膜赤き処は浮べ 香西照雄 素心
沓脱にこぼれて赤き萩を好く 清原枴童 枴童句集
河岸の子の赤き長靴三の酉 黒田杏子
油屋の赤き腰巻黄巻紙 仁平勝 東京物語
油虫ネオンの赤き夜に会ふ 右城暮石 声と声
洛陽の赤きみ寺も秋深み 加藤三七子
流木に赤きコートの掛けてゐる 中野貴美子
浅春の切口赤き桜榾 伊藤いと子
海に陽の赤き日つづき祭来る 成田千空 地霊
海原に一帆赤き菜の花忌 小橋久仁
海月浮くや赤き水着を目標に 龍胆 長谷川かな女
海近しサロメは赤き温室の蘭 野見山朱鳥
海道に赤き給油所鳥雲に 羽公
涅槃会やさながら赤き日の光 言水
消ゆるまで時雨に赤き一位笠 川崎展宏
涎掛ふちどり赤き端午かな 波多野爽波 『一筆』以後
涸川に石の放さぬ赤き布 辻田克巳
淵川のへりも鬼灯赤き頃 百合山羽公 故園
渋柿の赤きといづれ烏瓜 寺野守水老
満天星の真実赤き女旅 安斉君子
漁師町の裏通る赤き水着のまま 猿橋統流子
火の山へカンナの赤き道つゞく 穴井 梨影女
火事の夢に赤き楸邨居られけり 田川飛旅子 『使徒の眼』
灯の色の赤き一戸や笛の秋 加藤三七子
灰までも赤き炭団の火を掘りし 高濱虚子
烏瓜の赤きが嬉し癒えにけり 諸橋廣子
烏瓜赤き日向の山へゆく 森澄雄
煙草火のじんじん赤き鳴鳥狩 夏井いつき
煮凝や赤きうるしの妻の箸 森川暁水 黴
燃ゆる街犬あふれその舌赤き 片山桃史 北方兵團
燈火親し壁唐紙の赤き間に 京極杞陽 くくたち下巻
父の征途赤きコートに旗振りし日よ 鈴木俊子
父は神に子は冬赤き指吸へる 中島斌男
父祖の地や蜻蛉は赤き身をたるる 角川源義 『口ダンの首』
牛肉の看板赤き柳哉 寺田寅彦
牛肉の赤きをも蟻好むなり 暮石
牛若の扇は赤きとんほ哉 蜻蛉 正岡子規
特攻碑手袋赤き子ら遊ぶ 田尻牧夫
猪の口干されて口のまだ赤き 水上黒介
猪垣に赤き鬼灯二つ三つ 林 陽子
獄しずか仁丹の赤き小粒に吹く秋風 橋本夢道 無礼なる妻
玉垣に赤き実あまた靖国祭 市川千鶴子
理科室に赤き人体とゐるゆふべ 小沢青柚子
琴覆赤きがかなし冬灯 五十嵐播水 埠頭
甘藷穴より突き出て赤き農夫の首 野沢節子
生家なる生れ生れの赤き蛇 細見綾子(1907-97)
田の中に赤き鳥居や秋うらら 邊見京子
田螺ゐて水田に赤き星懸る 八木斌月
病人に夾竹桃の赤きこと 高濱虚子
病葉赤き栃の大樹や巴里祭 堀口星眠 営巣期
登高す有馬の赤き湯を恋ひて 岩崎照子
白き花赤き花秋立ちにけり 子規句集 虚子・碧梧桐選
白き赤き大き小さき卵盛り鬻ぐにわが目止まるなにゆゑ 高橋睦郎 飲食
百舌鳴くや蕣赤き花一つ 鵙 正岡子規
目の赤き火蛾にひと夜をとられけり 豊田都峰
真珠選る赤き毛布を膝にかけ 篠原としを
眸伏せて雌鹿が赤き実をつつく 長谷川かな女 花 季
着ぶくれて赤きジヤケツや舸子の妻 高浜虚子
瞑れば谿流れ血の赤きなど 鈴木六林男 荒天
矢鱈赤き看板灼けて物価高 猿橋統流子
石垣に鬼灯赤き在家かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
石竹の葉勝に赤き花一つ 石竹 正岡子規
磯日和はじけて赤き海桐の実 渡辺和子
礁に群れて夕焼よりも赤き蟹 木下夕爾
福原に霞みて赤きともし哉 霞 正岡子規
禽の身をくぐりし木の実なほ赤き 堀口星眠 営巣期
秋の昼道後は赤きタオル貸す 神尾季羊
秋の蝉川の終りの赤き潮 中拓夫
秋まつり赤き生姜をきざみこぼす 加藤かけい
秋めける灯に蟹赤き屋台店 山形勝峰
秋出水草の茎みな赤きまゝ 石橋秀野
秋天に赤き筋ある如くなり 高浜虚子
秋天の赤きしをりや幼き死 宇佐美魚目 天地存問
秋立つや隣にはまだ赤き花 立秋 正岡子規
秋虹に角締め赤き牛向ふ 八木三日女 紅 茸
秋蝉や川の終りの赤き潮 中拓夫 愛鷹
秋袷つゞきて赤き紐出でぬ 長谷川かな女 雨 月
秋風に赤き地獄絵かかりけり 八木林之介 青霞集
秋風に赤き水滴授かりぬ 沢木欣一 沖縄吟遊集
秋風や伝馬船ぐらしの赤き犬 文挟夫佐恵 黄 瀬
秋風や病者に赤き手紙受 有働亨 汐路
種案山子赤き帽子を戴かせ 松藤夏山 夏山句集
穂草波鉄より赤き馬繋ぐ 石田波郷
空梅雨や仁王の赤きふくらはぎ 加藤安希子
空海忌念珠貫く赤き紐 小澤 實
立子氏の机に小さき赤き柿 京極杞陽 くくたち下巻
立春大吉舟屋の前に赤き泛子 池上樵人
竹の奥透けて麦焚く火の赤き 久米正雄 返り花
笹酢や次の間赤き鏡掛 西宮陽子(門)
笹鳴のちらちら赤き経机 鈴木鷹夫 風の祭
箱庭のそこは井戸端赤き蟹 坂本宮尾
箱庭のとりわけ赤き鳥居かな 三宅応人
簾ごし幾筋赤き葵哉 花葵 正岡子規
籾殻火飛びたるごとき赤き月 浜本暁生
約束の赤きコートの駈けて来る 阿部王一
紐赤き妹が笠きて案山子かな 高橋淡路女 梶の葉
紫陽花や一つ光りて赤き星 岸本尚毅 選集「氷」
絨毯の赤き道来し夜を寒む 上田日差子
絵の中に赤き花ある二月かな 中西夕紀
綿の出し踊太鼓の赤き帯 西本一都
緋蕪も飛騨の炭火も赤きころ 石原八束 仮幻の花
縫初の赤き糸切る糸きり歯 岡本美恵子
罌粟赤き旅のゆくては人まかせ 稲垣きくの 黄 瀬
罫赤き用箋に書く初便り 大石悦子 百花
羅に赤き下著を重ねけり 羅 正岡子規
老いよとや赤き林檎を掌に享くる 橋本多佳子
耐へてゐる「時」と思へり鶏頭のあまりに赤きおのがしづもり 雨宮雅子
肥ききて赤きが悲しはうれん草 原田浜人
胴赤き蟻のさまよふ関ケ原 荒島禾生
胸赤き毘盧遮那仏や月と萩 角川春樹 夢殿
臘八や赤き花さく霜の中 松瀬青々
舌裏に赤きが見ゆる凍豆腐 老川敏彦
舞ひ上る風船赤き初み空 内田愛子
舟の窓より赤き風船運河のぼる 加藤秋邨 まぼろしの鹿
艀の犬秋日が赤き陸を吠ゆ 右城暮石 声と声
色なき風に貧民の買ふ赤き花 長谷川かな女 雨 月
芥子赤きかたはら別の芥子くづる 野澤節子 黄 瀬
芭蕉青く鷄頭赤き野寺かな 鶏頭 正岡子規
花冷えや赤きはなをの巫女の下駄 時田稚枝子
花換ふる道化師赤き鼻つけて 山本麓潮
花火なし厨の芋のうす赤き 横光利一
花舗に花の赤きを満たす十二月 松崎鉄之介
花風の埃に赤きポストかな 島村元句集
芹を摘む裳の赤きはあはれなり 富安風生
芽の赤き慈姑を供へ雛供養 原田しずえ
若草を踏む赤き緒の草履かな 篠崎霞山
苦潮やざくろの赤き花殖ゆる 角川春樹
苦潮や揺らぎて赤き月出づる 浅場芳子「桜えび」
茎赤き日々草に赤き花 藤田文子
茎赤き草のまじれる晩稲束 大熊輝一 土の香
茨の実の赤き目あてや鵙の贄 菅原師竹句集
茶の花や万両の赤き実の下に 北原白秋
草むらむら薔薇の黄なるあり赤きあり 薔薇 正岡子規
草むらむら薔薇黄なるあり赤きあり 薔薇 正岡子規
草刈の帯の赤きも卯月かな 野村喜舟 小石川
草枯るるかの日の赤き複葉機 大井雅人
草石蚕噛む赤きなみだの粒のほど 中尾杏子
草苅の赤き肌シヤツを破り出る 細谷源二 砂金帯
草茂み大蛇隠れて赤き花 草茂る 正岡子規
菓子折の赤き紐もて菊括る 高澤良一 ねずみのこまくら
萍の赤きに奈良の時雨かな 伊東慶子
落日の大きく赤き菜を間引く 遠藤梧逸
落残る赤き木の実や霜柱 永井荷風
落葉とびはや頬赤き佐久乙女 林翔 和紙
落葉ふむ少女に赤きリボンあり 岸風三楼 往来
葉がくれて林檎の赤き西日哉 紅緑
葛湯吹くはんなり赤き帯垂らし 小川斉東語
葡萄酒の瓶にさしけり赤き菊 寺田寅彦
葬列村を出でず母めく赤き車 和田悟朗
葵より芥子より赤き金魚かな 野村喜舟 小石川
蓑蟲や漆はすくと赤き茎 田川飛旅子 花文字
蓮枯て蓼猶赤き水淺み 枯蓮 正岡子規
蕎麦の花自転車赤き郵便夫 相馬遷子
蕣や赤きを咲ける妹が垣 朝顔 正岡子規
蕪村忌や赤き堂宇の中にわれ 坂本和加子
蕪赤き里隣る砂利を上ぐる村 河東碧梧桐
薄赤きシヤツなど着つつ小正月 八木林之介 青霞集
薄赤き根を束ねたる菖蒲哉 妻木 松瀬青々
薄赤き顔並びけり桃の酒 正岡子規
薔薇の赤き棘も美観の一つにて 高澤良一 鳩信
薔薇切って薔薇より赤き血の滲む 長山順子
薬餌ひさし赤き風船枯枝に 鷲谷七菜子 雨 月
藪蔭の浮草赤き冬田かな 寺田寅彦
虫はみて一枝赤き李かな 李 正岡子規
虫啼いて白河は赤き月をかく 西村公鳳
蚊の口もまじりて赤き汗疣哉 汗 正岡子規
蚊遣火のぽつちり赤きひとり住み 菖蒲あや
蛇苺小さく赤き昼の夢 冨田みのる
蛇赤き舌もてあそぶ秋暑し 石井 保
蛙田に赤き灯投げて万能医 石川桂郎 含羞
蛾の骸眼赤きは何を見し 岸原清行「海境」
蜜柑箱ふたつ重ねてめりんすの赤き切しく我が子等の雛 与謝野鉄幹
蜜蜂のさざめく夕日赤きとき 中拓夫
蜥蜴出づ舌の赤きをかく近く 市川綾子(屋根)
蝋八や赤き花さく霜の中 松瀬青々
蝶炎えて赤き砂漠に落ちにけり 仙田洋子 雲は王冠
螢火に赤き煙草火ひとつくる 百合山羽公 寒雁
蟹缶の赤きラベルや多喜二の忌 有田 文
蟹赤きさらさら川や芹の花 中勘助
蟻の列赤き砂漠を横切れり 池田すみ子
蟻出づる箱根の赤き土咥へ 小林美成子
血をつぐと赤き胡椒を簷に垂り 栗生純夫 科野路
行く秋や杉寂として赤き宮 行く秋 正岡子規
衛士雛の赤き篝火燃え尽きず 大橋櫻坡子 雨月
裁判所街赤き煉瓦の夏果てぬ 結城昌治
西瓜赤き三角童女の胸隠る 野澤節子 牡 丹
角巻の赤きが派手となりにけり 浜下清太郎
言葉より赤き蕪を洗ひ上げ 匹田荘平
診に走る雪中赤き非常口 瀧澤伊代次
詩興は赤き没日背にして葱買ふとき 川口重美
語尾撥ねて新成人の赤き唇 村上央夫
謀反めく赤きセーター身にまとひ 樋笠文
赤きあをき葉を見いでつつ山桜 松村蒼石 雁
赤きことただひたすらに木守柿 神尾久美子
赤きものあれば目となる雪兎 宇多喜代子 象
赤きものつういと出でぬ吾亦紅 高浜虚子
赤きものつけて女も雪卸 福田蓼汀 山火
赤きものまた一つ減る夏祭 宇多喜代子 象
赤きものを子はめで草のざつ扇 扇 正岡子規
赤きもの獅子舞となる山河かな 鷹羽狩行 第九
赤きもの甘きもの恋ひ枯野行く 草田男
赤きもの着ては老いゆく濁り鮒 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
赤きもの着て黴の家のおしら様 佐山文子
赤きもの纒うて寒の弱法師 鍬江
赤きもの見えて瓢の手もそこに 宇佐美魚目 天地存問
赤きもの部屋に増やせる雛かな 橋本きみゑ
赤きもの食ひ~行きぬ秋の人 尾崎紅葉
赤きトラクター茂草反し憩ひをり 相馬遷子 山国
赤きバレンは酒家にや張三李四の往く 田中貢太郎 貢太郎俳句集
赤き入日の中の木の葉の音ききし 重田暮笛
赤き味青き味夏来たりけり 村中[トウ]子
赤き大地の父子の時間天の川 九鬼あきゑ
赤き実がややきはだつて肌寒し 金田咲子
赤き実と見てよる鳥や冬椿 太祇
赤き実に入れ替り鳴く冬の鳥 河崎慶子
赤き実のほろと零るる初座敷 ふけとしこ 鎌の刃
赤き実のままの一位を雪囲ひ 鷹羽狩行
赤き実の三つかたまりし青木かな 三笠宮若杉
赤き実の落葉ふかきに胸打つもの 古舘曹人 能登の蛙
赤き実は知の一滴よ森枯れて 古舘曹人 能登の蛙
赤き実や桜が下の枯茨 河東碧梧桐
赤き実をさゝげて枯るゝ茨かな 甲斐謙次郎
赤き実を咥へ一月の鳥日和 阿部みどり女
赤き実を垂りて南天提げ帰る 山口誓子
赤き実を見しよりこころクリスマス 岩岡中正
赤き富士朝霧の上の山の上に 篠原梵 雨
赤き實の一つこぼれぬ霜の庭 霜 正岡子規
赤き布つけて大きな種茄子 松本長
赤き帆とゆく秋風の袂かな 原裕 青垣
赤き帆にゆく秋風の袂かな 原裕 『青垣』
赤き帆はルオ-の墓標柳絮飛ぶ 佐怒賀正美
赤き帯して杣の子や山の講 金子夏雪
赤き帯ひらひらさせて種案山子 野田迪子
赤き幣のいはれはしらず春日影 川崎展宏
赤き幹冬の松籟捧げ立つ 中村草田男
赤き旗東風にはためく分譲地 中村正敬
赤き旗立てて何売る御神渡り 玉木春夫
赤き日にさびしき鉄を打ちゆがめ 中台春嶺
赤き日の海に落込む暑かな 夏目漱石 明治三十三年
赤き日を追ひつめ高き弾流る 片山桃史 北方兵團
赤き星高きにありぬ春の鹿 永島靖子
赤き月のぼり夜店のしまふ刻 真岸米子
赤き月出て半眼の蟇すわる 横山白虹
赤き月草は晩夏の香を放つ 阿部?人(しょうじん)
赤き木の実を朝光と思う一泊 金子皆子
赤き木瓜揺れをはり我揺れゐたり 加藤楸邨
赤き杭一列雪の国頒つ 毛塚静枝
赤き林檎青き林檎や卓の上 林檎 正岡子規
赤き森黒き湖越ゆ春の雪 対馬康子 吾亦紅
赤き洋傘霰跳ねつつ去りゆけり 大高芭瑠子
赤き浮子みつめてをれば春の暮 中田剛 珠樹以後
赤き湯の有馬に盆をあそびけり 南上北人
赤き火の闇より現るる鵜舟かな 坂井建
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼(1900-62)
赤き灯の高く見えけり星月夜 星月夜 正岡子規
赤き焔黒き焔や花篝 京極杞陽 くくたち上巻
赤き爪夏手套を透きにけり 木下夕爾
赤き独楽まはり澄みたる落葉かな 立子
赤き矢を鬼門に放ち初不動 西本才子
赤き碧き夏セーターや霧に現れ 長谷川かな女 牡 丹
赤き籾撒く神の田に蝌蚪の陣 河野頼人
赤き糸付けたるままに針祀る 池内淳子
赤き紐さがつてゐたる枯木かな 池田秀水
赤き紐むすび分け入る蕨狩り 中村順子
赤き紐咥へて子喰閻魔とか 山下豊水
赤き羽根溢る夕日がどつと来て 柏 禎
赤き羽根胸に汝もまた夜寒かな 久保田万太郎 流寓抄
赤き肩掛け四時には点る観覧車 大橋沙知
赤き膝掛小説は死で終りけり 鈴木鷹夫 渚通り
赤き色段々きらひ秋袷 藤沢紀子
赤き花を嗅ぐ尼らみな健康体 和田悟朗
赤き花壁に突き挿し眠りたり 津沢マサ子 楕円の昼
赤き花見えてゐるなり秋簾 高野素十
赤き芽に蔦のいのちのかへりけり 今井野老
赤き薔薇白き薔薇皆さみだるゝ 五月雨 正岡子規
赤き蘗充つ切株の周縁に 田川飛旅子 花文字
赤き蚤柩の前を歩きをり 永田耕衣 驢鳴集
赤き蛾に柩ぶつかる速度かな 攝津幸彦
赤き蛾の昼いでて舞ふ敗戦日 藤田湘子
赤き蟹横這ひ急ぐ走馬燈 福田蓼汀 山火
赤き足袋はき家中を明るくす 中山純子 茜
赤き野のきちきちばった我が飛翔 椎名弘郎
赤き雲焼野のはてにあらはれぬ 坂本四方太
赤き霧生まれ室蘭は鉄の町 斉藤十羊
赤き青き布さらしけり春の川 谷活東
赤き青き舌ひらめかせ氷水 高橋睦郎「遊行」
赤き馬それに賭けんとして転ぶ 鈴木六林男 谷間の旗
赤き馬百尺の崖撃たれ墜ち 細谷源二 鐵
赤き馬車峠で荷物捨てにけり 高屋窓秋
赤き馬車泉に掬める少女待つ 林翔 和紙
赤き鶏のあかき卵を産みて首夏 小林京子(水明)
赤き鶴折りては翔たす夢月夜 石寒太 夢の浮橋
赤甘藷は赤き芽に出て苗障子 邊見京子
赤芽柏のとみに赤きは鳥も来ず 野沢節子 八朶集
越中や麦やまつりの灯が赤き 福山理正
軍艦に遅れて着きぬ赤き靴 攝津幸彦
軸赤き小筆買ひけり事始 小林篤子
辻相撲頬桁赤きいきりかな 渡辺水巴
道の邊や枸杞の實赤き枯葎 枯葎 正岡子規
道芝の蓼の赤きに落穂かな 高浜虚子
道頓堀に赤き芥や夕霧忌 宇咲冬男
達磨忌や赤きもの皆吹落し 達磨忌 正岡子規
遠退きて赤きものある牡丹の芽 久保田万太郎 草の丈
都鳥汝も赤きもの欲るや 山口青邨
鄙の家に赤き花さく暑哉 暑 正岡子規
釈奠の赤き草履の鼻緒穿く 大貫時余
里神楽てらてら赤き天狗面 大橋敦子 匂 玉
重砲を貨車に積み赤き日へ向ふ 細谷源二 鐵
野仏の赤き前垂れ山眠る 古田芳子
野分すなり赤きもの空にひるがへる 野分 正岡子規
野戦重砲馬百頭を赤き日に 細谷源二 鐵
野菊の天赤き岩壁を垂らしたる 有働亨 汐路
野遊の弁当赤き紐ほどく 深見けん二 日月
金襴の打敷き赤き閻魔かな 岡崎美枝
金魚田の赤きさざなみ山笑ふ 橋本薫
鉄砲狭間より俯瞰せし赤き薔薇 山口超心鬼
鍋焼の提灯赤き港町 岡安迷子
鐵斎の老い黒き瀧赤き瀧 竹中宏 句集未収録
長押なる赤き団扇や冬籠り 会津八一
開く口の奥まで赤き閻魔かな 松岡潔(渋柿)
開帳や唇赤き観世音 簗 夢郷
閻王の耳まで赤き寒さかな 高井勝利
闇百里ぽつちり赤き月の端 月 正岡子規
闘鶏の赤き蹴爪の跳びにけり 中西夕紀
阿蘇山の赤き噴煙初蜻蛉 藤波孝堂
降り積む雪赤き思想を覆いきれず 橋本夢道
陸稲刈るにも赤き帯紺がすり 西東三鬼
陽炎や砂画の跡の赤き砂 陽炎 正岡子規
陽炎や茨の芽赤き藪の中 石井露月
雛の夜の赤き魚買ふ男かな 小島健 木の実
雛流す赤き袂の阿田の子ら 小林愛子
雨の日の蛍袋に赤き筋 山本洋子
雨ふるや甚平赤き田植人 岡本松浜 白菊
雪ぞらのほのかに赤きところかな 久保田万太郎 草の丈
雪の原深夜の赤き月出づる 相馬遷子 山国
雪卸少女ならねど赤き靴 長谷川櫂 古志
雪原の赤きサイロのロシヤ文字 松崎鉄之介
雪滲みのしみじみ赤き煉瓦建 野澤節子 『存身』
雪空の一隅赤き入日かな 雪 正岡子規
雪解や赤き灯ともる支那廓 田村了咲
雪解谷赤き腹帯(はるび)の馬を見たし 友岡子郷 未草
雪解風藁馬赤き緒で生きて 友岡子郷 遠方
霙空赤き蛇の目の傘の人 原 喜久
霜の野に何咲く温室ぞほの赤き 秋元草旧居
霜月のもぐさの赤き袋かな 鈴木しげを
霧に佇つ人あり赤き星座あり 永島靖子
露の世に赤き服着てたぢろかず 坂本宮尾
露の中に赤き廓のともし哉 露 正岡子規
露の香にしんじつ赤き曼珠沙華 飯田蛇笏 春蘭
露時雨しぐれんとすれば日の赤き 白雄
青き果も赤きも風の烏瓜 名和未知男
青蔦にほのぼの赤き杉の幹 高濱虚子
静かさや日に日に赤き梅もどき 良藤 き代
鞘赤き長刀行くや春の野辺 闌更
頑なに赤き木の実よ橇作り 堀口星眠 営巣期
頬赤き子ばかり村のひひな粥 伊藤いと子
頭髪のなかまで赤き砂降れり 大井 恒行
風きれい赤き薔薇にふるゝとき 稲畑汀子
風は秋岩群赤き岩まじへ 福田蓼汀 秋風挽歌
風邪の子が見てをり地を擦る赤き凧 桜井博道 海上
風邪の瞳になじまず支那の赤き菓子 伊藤京子
風邪熱の夢にむらがる赤き蝶 上村占魚 『自門』
風邪鼻の赤きも加へ福詣 宮岡計次
風鈴の赤き舌ひるがへりけり 久保田万太郎 流寓抄以後
食べ残す鳥の赤き実壺に挿す 阿部みどり女 月下美人
食積に箸紙赤き祝ひ箸 中村春逸
首里城の片蔭赤き暗さ持つ 前田千恵子
馬がゐて日に日に赤き茨の実 岩淵喜代子 硝子の仲間
馬の眼にうつりて赤き椿かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
髪赤き若者寝落つ月の駅 石寒太 翔
髪赤き鞴祭の刀鍛冶 鈴木登代子
鬼祭茶髪の鬼の赤き足袋 木村喜美子
鬼罌粟の赤きにつむる術後の眼 深谷雄大
鰍焼く驟雨に赤き火を守りつ 多田てりな
鰡とんで夜釣の赤き電気浮子 本田令佳
鰯雲赤き下着を馭者は干し 中烏健二
鳥の嘴に赤き実のなき深雪かな 野村喜舟 小石川
鳥の巣拾ふ赤き毛糸のまじりしを 寺山修司 未刊行初期作品
鳥啼いて赤き木の実をこぼしけり 正岡子規
鳥帰る神父の腰に赤き帯 飯島晴子
鳥雲に絵伝アソーカ赤き花 神尾久美子 掌
鵙日和速達の赤きりおとす 鈴木鷹夫 春の門
鵯のこぼし去りぬる実の赤き 蕪村
鵯去りてもちの赤き実こぼれ居り 軽部烏帽子 [しどみ]の花
鶏頭のあく迄赤き小春哉 小春 正岡子規
鶏頭の赤きこころを子規忌かな 吉田冬葉
鶏頭やされども赤き唐辛子 森澄雄 鯉素
鶫罠赤き実撒いてこれでよし 銀漢 吉岡禅寺洞
鶴の野にとまりて赤き郵便車 吉野義子
麦の秋夜な夜な赤き月を持つ 池内友次郎 結婚まで
麦の穂の赤きは暮の雲雀網 琶如 俳諧撰集「藤の実」
黄に灯る赤き蝋燭春の宵 中口飛朗子
黒き蟻赤き干梅相容れず 百合山羽公 寒雁
黒き赤き桑の実散らし風騒ぐ 堀 古蝶
黒揚羽赤きつゝじを好むかに 高木晴子 晴居
黒鳥の赤き嘴よりをとこごゑ 佐川広治
ああいへばこういふ暖炉赤く燃ゆ 景山筍吉
あらしに残つた二つの柿が赤くなるのを淋しく 梅林句屑 喜谷六花
うれひなし汝が剥く柿のいと赤く 久保田万太郎 草の丈
かなかなや没日は濤を赤く起す 桜井博道 海上
くちばしを赤く染めきり椋鳥鳴けり 斉藤智恵子
けもの荒び水飲む舌を赤くせり 松原地蔵尊
これ以上赤くはならぬ唐辛子 高澤良一 寒暑
さあ赤くなるぞと風のななかまど 木村敏男
すかんぽの赤く波打つ畑境 林 佳枝
すげ笠の紐みな赤く菱採女 平川花月
すずかけ落葉ネオンパと赤くパと青く 富安風生
ちかぢかと赤く醜き蟹をみる 百合山羽公 故園
どの橇も膝掛赤く日に匂ひ 大場白水郎 散木集
なまじいに赤く成けり唐辛子 唐辛子 正岡子規
ぬぎ掛けし羽織が赤く風邪の床 八牧美喜子
ほの赤くけむる雪降り没日刻 宮津昭彦
ほの赤く掘起しけり薩摩芋 村上鬼城
ほほづきのぽつんと赤くなりにけり 今井杏太郎
またぐとき風より赤く曼珠沙華 宇多喜代子
またの夜を東京赤く赤くなる 三橋敏雄 *シャコ
まんさくが赤く黄色く咲きにけり 林紀之助
シャツ赤く来しが枯葉に鞭鳴らす 篠田悌二郎
スキー服赤く男の群に伍す 野見山朱鳥
ダリヤのみ怪しく赤く曇りがち 石塚 友二
ハンケチの赤く染みたるいちご哉 苺 正岡子規
バードウィーク絨氈赤く干されたる 対馬康子 吾亦紅
一切空赤く出でたる初日かな 野村喜舟 小石川
一杯に赤くなりつつ金魚玉 高浜虚子
久に逢ふ順々よ菊白く赤く 臼田亞浪 定本亜浪句集
今りんごむかれて赤くなくなりぬ 保坂リエ
休み田に鶏頭赤く固まつて 山口明子
僧赤く神主白し國の春 国の春 正岡子規
兎の目赤くなるまで抱いて冬 小笠原和男
兎落つ雪まみれにて陰赤く 加藤知世子 花寂び
児が見せ合ふ喉びこ赤く日脚のぶ 宮坂静生 青胡桃
入りがたの月のひかりに壁の色ほのかに赤くこほろぎ鳴くも 古泉千樫
八十のネクタイ赤く文化の日 遠藤梧逸
八朔や仏は赤く在します 中村雅樹
冬の日は赤く涙はあたたかし 萩原麦草 麦嵐
冬ひでり箱の内側赤くして 中村雅樹
初湯の児足裏赤くやはらかし 阿部左多子
初荷馬腹当赤く海辺来る 河北斜陽
包みから赤いセーター赤くなる 伊関葉子
北のかぶら漬ければ赤くしばれるも 三浦一寿子
参道を赤く染めたる達磨市 大浦
唐辛子赤く辛くとつくりけり 野村喜舟 小石川
喉にまで赤く刺さりて海市立つ 佐怒賀正美
土塊に新甘藷赤く躍りけり 高濱年尾 年尾句集
土用芽の赤く伸びたる楓かな 佐藤芙陽
土龍の土此処では赤く鐘霞む 池上樵人
地図にある日本は赤く梅白し 阿部千代子
地獄絵図赤く輝き冬に入る 細木蓉子
夏めくや火の島赤く描かれて 野上 水穂
夕凪村赤松がまづ赤くなり 桜井博道 海上
大いなる春をバラの芽赤く咲く 上野百人
大寒や赤くふくらむ岬の雲 角川春樹
大空の羽子赤く又青く又 青畝
妹は薔薇赤く姉は百合白し 薔薇 正岡子規
孵りたる燕も喉の赤くなんぬ(羽前上ノ山斎藤茂吉先生生家) 上村占魚 『石の犬』
宝船貧の灯赤くしたりけり 癖三酔句集 岡本癖三酔
寒明けの崖のこぼせる土赤く 木下夕爾
實南天ほの赤くガラス戸曇れり 竹の門句集 筏井竹の門、木津螢雪編
小魚焼く火赤く祭いらだたし 森川暁水 淀
山すこし赤く 竹藪ゆるゝかな 山崎斌 竹青柿紅
山の焚火の上行く雲も赤くこそ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
岩群の赤く赤くて黒く描きぬ 石橋辰之助 山暦
峡の子よ赤くちひさく柿たわゝ 及川貞 榧の實
幹赤く守一夏の木を画ける 高澤良一 ももすずめ
店赤くなる程松葉蟹ならべ 山下美典
忘れゆく父の匂ひや海鞘赤く 斎藤信義「神色」
懸命に赤くならむと茨の実 右城暮石
投網人に遅月赤く浮びけり 五十嵐播水 播水句集
新聞紙破れ鬼燈赤くなる 田中裕明 山信
日は赤く東京へゆき犬ふぐり 和知喜八 同齢
旱の月赤くて雲を寄らしめず 木下夕爾
春の雨街濡れSHELLと赤く濡れ 富安風生
春は曙まこと赤くて金目鯛 鈴木鷹夫 風の祭
春曉や赤く塗りたる下足札 久保田万太郎 草の丈
昼夜ひびいて鬼灯赤くなりにけり 栗林千津
暖房や絨氈赤く壁は金 京極杞陽 くくたち上巻
月見草赤くしぼみて落もせず 温亭句集 篠原温亭
月赤くじよんがら踊更けゆきぬ 蔵本丈晶
朝日が赤く出ても 雑草は 枯れるばかりです 吉岡禅寺洞
木下闇からだを拭けば赤くなり 大石雄鬼
枯るる萱夕日一際赤くさす 大熊輝一 土の香
枯野道少女が赤く赤く過ぐ 苑子
柿赤くもののおはりは美しき 倉田 紘文
柿赤く旅情漸く濃ゆきかな 高浜虚子
柿赤く稻田みのれり塀の内 柿 正岡子規
桜の実赤く黒きを多佳子の死 細見綾子
梅雨の夜の林の上の空赤く 山西雅子
橋赤く谷川青し薄もみち 紅葉 正岡子規
檻の雉子頬赤く梅雨明けにけり 川崎展宏
歳旦祭笏を持つ手の赤くなる 安田白巣
水仙を赤く塗りたる子供哉 寺田寅彦
水赤く泡流れけり蓼の花 蓼の花 正岡子規
氷の旗が赤く秋蝶とばせけり 長谷川かな女 花 季
河童忌の赤く大きな月出でし 多摩茜「多摩横山」
海ほほづき赤く染め街は捕物流行 長谷川かな女 花寂び
海士が家や鶏頭赤く波頭ラ 野村喜舟 小石川
海老赤く穂俵黒し鏡餅 鏡餅 正岡子規
涅槃西風杉山赤く動き出す 越前春生
火酒の頬の赤くやけたり冬帽子 高浜虚子
烏啼く時舌赤く見ぬ棟の霜 西山泊雲 泊雲句集
烏瓜からす啼くたび赤くなる 馬場幸子
焚火赤く黙せば力あるごとし 昌寿
焼杭に干す足袋赤く年つまる 古賀まり子 洗 禮
煖爐の火赤く櫻もちほの赤し 後藤夜半
爪赤く染めて来たるに草いきれ 岸本尚毅 選集「氷」
父の日の夜に入る煖炉赤くしぬ 成田千空 地霊
牛のための赤蕪育つせつに赤く 林火
牛の仔の臍の緒赤く秋暑し 森 孝子
犬の舌赤く伸びたり水温む 高濱虚子
狸汁花札の月空赤く 福田蓼汀
獅子舞の胸赤く運河渡るなり 石田波郷
王子稲荷あぢさゐはみな赤く立つ 久保田慶子
現し身の掌赤く戻る恐山 高澤良一 随笑
産みどめの母より赤く流れ出む 三橋敏雄 眞神
田舎出のけつとう赤く君が春 君の春 正岡子規
白牡丹と思ひし莟赤く咲く 森田一枝
皮膚赤くマラソン終へて毛襯衣着る 中山純子 茜
石の香や夏草赤く露あつし 松尾芭蕉
破風赤く風緑なり寛永寺 薫風 正岡子規
磯に赤く礁辺に碧き夜振の火 佐野まもる 海郷
福引の紙紐の端ちよと赤く 川端龍子
秋分の日輪赤く西山に 森脇はじめ
穂孕期火星もつとも赤くあり 中澤康人
筧ありつゝじは赤く米黒し つつじ 正岡子規
紐赤く伊勢の初荷の届きけり 伊藤通明
紙漉を見にきて鼻を赤くせる 瀧澤伊代次
絲赤く手袋の破れつくろひし 手袋 正岡子規
緋目高の赤くなりきぬ目のうしろ 星野立子
罌粟赤く太陽昼をつかさどる 野見山朱鳥
翼燈の赤く*きりゆく寒星座 横山白虹
胸赤くひだるき草と歩くなり 桑原三郎
腹当や赤く大きな紋所 高濱虚子
芥子赤く柑橘畑に咲入れる 京極杞陽 くくたち下巻
花いちご実は赤く化け古駿河 丸山海道
花白く蕾は赤くひめりんご 田沼良子
花赤く雪白しこゝに年くれぬ 年の暮 正岡子規
苅り残す藍の実赤く秋日和 渡辺香墨
苗代や端山の躑躅復た赤く 尾崎迷堂 孤輪
英語で赤く質屋といふこと基地の冬 富安風生
茨の実赤く夕ベ霙れてゐる 人間を彫る 大橋裸木
草の実赤く踏んでくる脚夫の大きな足だ 人間を彫る 大橋裸木
草の實の赤くして馬もくはざりき 草の実 正岡子規
草の戸や盃赤く菊白し 菊 正岡子規
菊の日に唇赤く病婦酔ひ居りぬ 阿部みどり女 笹鳴
菓子赤く茶の花白き忌日哉 茶の花 正岡子規
落日の赤く太りつ麦の秋 加藤安希子
葉柄の赤くて長き落葉得し 高澤良一 さざなみやつこ
薔薇赤く菊猶存す冬の庵 寒菊 正岡子規
藪入のセーター赤く出でゆきし きくの
蘆花くゞりそむより落暉赤くなる 石井とし夫
虎列剌の記事読み耽り夜の花赤く 宮武寒々 朱卓
蜩や七輪赤く厨には 尾崎迷堂 孤輪
蝿帳に来てゐる蝿の眼が赤く 岩田由美「夏安」
蟹赤くひそみて朝の熱帯樹 橋本鶏二
蠅帳に来てゐる蠅の眼が赤く 岩田由美 夏安
袋角赤くふくれて恐ろしき 長谷川櫂 虚空
襟巻が赤くて帰支度かな 岸本尚毅 選集「氷」
襦袢縫ふ待針赤く春隣 菖蒲あや
観潮船ストーブ赤く燃えゐたる 岸本尚毅 舜
謝肉祭赤く塗りたる体はも 上野泰 春潮
赤くなる為の林檎の日を纏ふ 佐藤静良
赤く地を匐う月ありて貧長し 三谷昭 獣身
赤く塗つて馬車新らしき吹雪かな 村上鬼城
赤く大きな夕日を見たり楸邨忌 江中真弓
赤く大き鼻頭に汗のイワノフ氏 猿橋統流子
赤く春暮にうごめくいのち男の子生まる 赤城さかえ句集
赤く枯れた芝の葉皆曲れり(大正9年) 滝井孝作 折柴句集
赤く見え青くも見ゆる枯木かな 松本たかし(1906-56)
赤く走り青く走りて走馬燈 佐藤いづみ
追儺会の笛吹く耳を赤くして 猪俣千代子 秘 色
道をしへ止るや青くまた赤く 阿波野青畝
道赤く奥州街道秋立つも 阿部冬樹
遠く赤く耕馬尾をふる真菰風 秋元不死男
部屋通るホース赤くて暑を兆す 秋元不死男
野路の梅白くも赤くもあらぬ哉 蕪村遺稿 春
鉄線や花赤くして壁に影 岩田由美 夏安
鏡絵の大蛇は青く鬼赤く 高澤良一 寒暑
陽赤く梨一と花ひらきたり 冬の土宮林菫哉
雨水も赤くさびゆく冬田かな 太祗
雪の降る彼の世は赤く燃えてをり 石原八束
雪の降る遠き世赤く燃えてをり 石原八束(1919-98)
雪ふかき田家に火のみ赤く燃ゆ 竹下しづの女句文集 昭和十一年
雪赤く降り青く解け銀座の灯 鷹羽狩行 八景
雪踏の駅長鼻を赤くして 佐瀬しづ江
霜除けて拾ひし珠や掌に赤く 長谷川かな女
青きネオン赤くならんとし時雨る 竹下しづの女句文集 昭和十二年
青く赤く燃ゆる星あるキヤムプかな 石橋辰之助 山暦
青桐や土赤くして乾きたり 青池秀二
頭の赤く八月盡の醤油壜 高澤良一 寒暑
顔赤く髯銀の如き鵜匠哉 鵜匠 正岡子規
風の日の指先赤く大根干す 合田涼子
風車赤く廻るは淋しかり 小林たか子
飯赤く栗黄にあるじすこやか也 栗 正岡子規
鬼なれば囃されながら臑こぶら赤く脹れきてなほ舞ひ狂ふ 春日井建
鬼灯のしばし赤くて古び去る 百合山羽公 故園
鬼赤く戦争はまだつづくなり 三橋敏雄 眞神
鯉二旒一つは赤くして小し 幟 正岡子規
鯖ひらく手に妊りの不意に赤く 武藤暁美
鰻食ふ役者を捨てし鼻赤く 下田稔
鶏頭赤く女の賭のはじまれり 八牧美喜子
鶯や裾回(すそわ)を赤く火の山は 秋元不死男
鷺赤くとんで日暮れて野地蔵会 落合水尾
黄菊白菊柿赤くして澁し 柿 正岡子規
のうぜんの花活けて赤ければきみが来る 滝井孝作
白けしも坊主赤けしも坊主かな 芥子坊主 正岡子規
空凍つる飯桐の実の赤ければ 名和未知男
貸ボート旗赤ければ空青く 竹下しづの女 [はやて]
飯桐の実こそ赤けれ白秋忌 中村わさび
●赤色 
火の国の牛は赤色麦の秋 谷合青洋
例ふれば恥の赤色雛の段 八木三日女
●赤牛 
何に急く赤牛ボートより見えて 原裕「鼎門句集」
先駆けは肥後の赤牛厩出し 和田崎増美
冬耕や肥後赤牛に日の当る 坪野文子
千曲川底夏霧流れ赤牛群る 宮坂静生 青胡桃
夏日負ふ佐渡の赤牛五六頭 成田千空
大旱の赤牛となり声となる 西東三鬼「夜の桃」
大阿蘇野赤牛去りて寒波きぬ 飯田萌亜
枯萱にある赤牛の瞳かな 深見けん二 日月
秋雲離々赤牛を汝が墓標とす 岡田日郎
肥後の赤牛豊後黒牛冬草に 鈴木真砂女 夕螢
肥後赤牛豊後黒牛草紅葉 瀧春一
葛の雨はじきて肥後の赤牛よ 鈴木しげを
豊年の赤牛撫でて青年よ 岸風三樓
赤牛がどたりとねまり島の秋 中山純子 沙 羅以後
赤牛が一枚上手牛角力 高澤良一 寒暑
赤牛に空はれ風の七かまど 渡辺幸子
赤牛のかたまり動く大夏野 斉藤小夜
赤牛の尻を目がけて虻叩く 深沢義夫
赤牛の火のごと阿蘇の牧の秋 皆吉爽雨
赤牛を濡らして肥後の若葉雨 亀井朝子「雉俳句集」
赤牛岳に火星水晶岳に月 岡田日郎
赤牛岳を墓標と見ればほととぎす 福田蓼汀 秋風挽歌
道の辺に赤牛匂ふ端午かな 村山古郷
雪催ひ相馬赤牛首をふり 島ふで女
●赤絵 
あめつちのうららや赤絵窯を出づ 水原秋桜子
とみき居の筍大盛赤絵鉢 細見綾子 黄 炎
冬に入る厚き赤絵のペン皿も 上野さち子
希臘赤絵の壺の女も壺提げる 津根元潮
河豚の皿赤絵の透きて運ばるる 吐天
窯開けの赤絵小春の縁に並み 永井龍男
船霊の湾に赤絵の皿を積み 国武十六夜
葬が出た でかい赤絵の皿積んで 星永文夫
蕪蒸し憲吉うつしの赤絵碗 大東晶子
赤寺の赤絵がちなる涅槃変 野見山朱鳥
赤絵鉢せいぜい雪の幕末まで 攝津幸彦 鹿々集
●赤黒し 
赤黒く小さき林檎が熟れてをり 高木晴子
赤黒き掛たうがらしそれも欲し 西東三鬼
●赤毛 
もろこしの村の赤毛ら子を孕む 合田秀渓
人参は嫌ひ赤毛のアンが好き 山田弘子
子のものは実りの黄と赤毛絲編む 香西照雄 対話
春昼の赤毛の中に紛れこむ 橋本民可
木下闇赤毛のアンの匂いかな 瀬間 陽子
牛合せ勝者の赤毛引き回され 高澤良一 寒暑
綿帽子に赤毛布の男かな 会津八一
親方の漁場差配の赤毛套(あかけっとう) 高澤良一 素抱
赤毛のアンと片手つなぎや年のくれ 栗林千津
跳ねたる夏星赤毛の赤ン坊漁夫が抱く 磯貝碧蹄館 握手
遠祖の赤毛や油蝉地獄 栗林千津
青毛布赤毛布さま~の雛哉 寺田寅彦
顔見世や鬼女は赤毛の揃ひ踏み 壺井 久子
麦笛や少年ひとり赤毛なる 鈴木栄子
●赤子 
ああああと畳に赤子秋の山 鈴木鷹夫 大津絵
あかるい灯の下で赤子抱かされてゐる 人間を彫る 大橋裸木
いつせいに赤子消えたり大旦 宮坂静生 樹下
うつむく母あふむく赤子稲光 西東三鬼
おしろいや風吹きつどふ赤子の頭 波多野爽波
お神楽の鬼に赤子を抱かせけり 亀井雉子男
お祭の赤子まるごと手渡さる 池田澄子
きつねのかみそり赤子を抱きし男立つ 八牧美喜子
きりぎりす赤子の呼吸見てをりぬ 日原傳
くるまれし島の赤子に緑立つ 山本洋子
こでまりの花より赤子抱いてくる 宗方やよい
この太い毛ぶかい腕で赤子抱いてる 人間を彫る 大橋裸木
この家の赤子のやうな雪達磨 大石悦子 百花
ころ柿が豊作の村赤子哭く 川崎展宏
さくらんぼ赤子に一語生まれけり 曽根澄子
さすり出す赤子のおくび秋日和 高澤良一 素抱
しやぼんだま熱き赤子の手に弾む 三国眞澄
しんしんと赤子ねむらせ雪見舟 田中裕明 先生から手紙
その夜から落葉始まる赤子は「あー」 対馬康子 愛国
ちらと笑む赤子の昼寝通り雨 秋元不死男「万座」
つき立ての餅に赤子や年の暮 服部嵐雪
てふてふが不思議でならぬ赤子の眸 渡辺恭子
どか雪や赤子泣く村すぐ昏るる 清水 元
どこかで花火どこかで赤子笑う闇 原子公平
なまはげの赤子の尻を撫でにけり 石島 岳
にぎられし赤子の力青葉潮 川股葦夫
ねぷた絵の義経抱かれまだ赤子 辻桃子
ねんねこの袖の奥なる赤子の手 青柳志解樹
ひつそりと遠火事あくびする赤子 西東三鬼
ひよどりや赤子の頬を吸時に 榎本其角
ふにやふにやの赤子おどろくいなびかり 仙田洋子 雲は王冠以後
ぷくぷくの素足むんずと赤子立つ 高澤良一 宿好
ほかほかと綿虫へ伸び赤子の手 鈴木鷹夫 千年
まだ名無き赤子にのぼる山の月 大峯あきら
まんさくや赤子のやうな日が昇り 鷲谷七菜子 天鼓
ゆりかもめ預けし赤子抱きにゆく 森賀まり
よそさまの赤子のぞきぬ春の雪 石川桂郎 四温
よろこんで名月を蹴る赤子かな 仙田洋子
わが名づく赤子つよかれ初霜に 長谷川かな女 花寂び
ケーブルに赤子万緑従へり 野澤節子 黄 炎
コスモスに赤子を笑ふまであやす 大熊輝一 土の香
マリヤには遠し枯野に赤子置く 八木三日女 紅 茸
リヤカーに赤子寝かせて田螺売る 三沢治子
ロープウェイに赤子泣く声山滴る 八幡より子
一つ家に赤子泣く夜やちる桜 散桜 正岡子規
一つ家の赤子鳴く夜やちる桜 散桜 正岡子規
一と月の赤子なれどもお年玉 小圷健水
三伏の赤子の耳目かがやきぬ 田中裕明 山信
乳すこし吐きし赤子や寒牡丹 大峯あきら 鳥道
乳を知る赤子の舌や原爆忌 脇本星浪
二階に赤子階下にかなぶん喚く家 高澤良一 素抱
係累に加はる赤子祭笛 蓬田紀枝子
元日の白息を見す赤子かな 岸田稚魚
兄弟の弟赤子夏布団 蓬田紀枝子
全身で乳吸ふ赤子山笑ふ 伊藤てい子
八十八夜ちからのかぎり赤子泣く 沼舘斐佐子
冬あたたかし花束の赤子抱き 辻美奈子
冬うらら綿の生まるる赤子の掌 須田奈津子
冬の星赤子ぐつたりしたるまま 岸本尚毅 鶏頭
冬萌や赤子の好きな肩車 真山 尹
冷麦や赤子泣かせて平然と 田中裕明 櫻姫譚
凍湖よこたはり赤子を宙に揺り 友岡子郷 遠方
初明り赤子が乳を吸つてをり 石川須賀子
初明り赤子のやうに目覚めけり 平野きらら
初春の赤子がにほふ鯛の浦 鈴木鷹夫 春の門
初時雨赤子に肩を叩かれて 岸田稚魚 『萩供養』
初桜赤子のまゆ毛生えにけり 高田たみ子
初泣の赤子不動となりにけり 野中亮介
初湯せる赤子もつべきものを持ち 本宮鼎三
初湯出て赤子の拳ほどけけり 藤田郁子
初産の赤子父似や金魚草 阿部恵子
初鏡かざしてあやす赤子かな 長谷川櫂 虚空
卓上赤子祖父に眉似て春燈 磯貝碧蹄館
卯の花に仏は暑き赤子哉 仏生会 正岡子規
卯の花に仏は黒き赤子哉 仏生会 正岡子規
去年今年喘鳴赤子の声をなす 藤村多加夫
友泊めて赤子のこゑと霜の華 中戸川朝人 残心
合歓咲くや湯浴の赤子掌をひらき 羽部洞然
名月をにぎにぎしたる赤子哉 一茶
咳ひとつ赤子のしたる夜寒かな 龍之介
啄木鳥や針山が見え赤子見え 大峯あきら 鳥道
啓蟄や赤子を乗せし台秤 栗林千津
囀りや赤子の喉へ乳奔り 森田智子
囃されて赤子の一歩秋澄める 村井 光子
四万六千日赤子に熱きたなごころ 辻美奈子
土手のさくら大きな声で赤子泣く 柴田白葉女 雨 月
地蔵盆木の根に赤子置かれある 黛 執
堅雪の頃となりたる木肌かな 西沢赤子
声立てぬ赤子の欠伸雁帰る 秋元不死男
夏鶯赤子の眼つよかりき 原田喬
夕空のさくらは重し赤子泣き 大井雅人 龍岡村
夕顔や赤子の声と猫の声 大峯あきら 宇宙塵
夜学まぶし道より低き赤子の声 香西照雄 対話
大寒の赤子動かぬ家の中 飯田龍太 忘音
天向いて眠る赤子や畑打 大峯あきら 鳥道
天草干し日傘のなかに赤子囲ひ 宮坂静生 青胡桃
奥の間に赤子の見ゆる牡丹園 菅原鬨也
姉のごとくに揚羽は居れど泣く赤子 高柳重信
実なんてん赤子に姉のやうな母 小川昇一
家中が赤子の匂い大旦 佐藤きみこ
家中の昼寝を赤子覚ましけり 前原早智子
家奥に赤子の眠り田水沸く 神蔵 器
寒の闇ほめくや赤子泣く度に 西東三鬼
寒雀おろおろ赤子火の泣声 西東三鬼
寒餅と襖へだてて赤子かな 大峯あきら 宇宙塵
少年泳ぎ赤子が笑う 運河の家 伊丹公子 山珊瑚
尿噴く赤子も長閑か潮噴く貝 香西照雄 素心
山吹に触れなんとして赤子の手 田中裕明 櫻姫譚
山眠る赤子のごとく湖抱へ 村松正規
峰雲や赤子を立たす膝の上 山本洋子
川の家に 睡っているのは 女神と赤子 伊丹公子 山珊瑚
帆に遠く赤子をおろす蓬かな 飴山實 少長集
年酒酌む赤子のつむり撫でながら 皆川盤水
当今(たうぎん)の昔赤子や冬霞 三橋敏雄 畳の上
待宵やひとの赤子のうすまぶた 星野麥丘人
息とめて赤子は落花浴びてをり 加藤楸邨
手も足もしまはれ赤子の睦月かな 蓬田紀枝子
手毬唄赤子の泣いて終りけり 関戸靖子
抑抑神ノ肴ハ赤子・牡丹雪 夏石番矢 真空律
抱かずとも赤子泣かすな大年ぞ 長谷川久々子
抱きをりし赤子の重さ花曇 和田うた江
抱き上げし赤子もの言ふ花楓 下村ひろし 西陲集
掴みたがる赤子の諸手 繭玉揺れ 山崎よしひろ
数珠玉や赤子抱かせてもらひたる 関戸靖子
文化の日まだ名前なき赤子抱く 門伝史会
新しき年が始まる赤子の手 綾部仁喜 樸簡
新涼のシーツの上の赤子かな 佐々木リサ
新藁の匂ひ赤子の匂ひかな 山本清子
新走り赤子は二日泊りにて 中村祐子
日の差して赤子の匂ふ冬桜 古見史子
日向に赤子独航船が海に咲いた 瀬戸 密
早梅し眠りて赤子昼湯浴ぶ 秋元不死男
昂ぶりてのぼる峯雲赤子泣き 大野林火
春の夜を手足を使ひ赤子泣く 森澄雄 所生
春の宵赤子の胴を湯より抜く 岩淵稲花
春の雷ひびく赤子の六腑かな 飯田龍太 山の木
春の霧赤子から湯気立つごとし 大串章
春はまた白ふくろふの赤子かな 木村敏男
春昼の指サツクぬき赤子のぞく 古沢太穂 古沢太穂句集
春暑し赤子抜き取る乳母車 二本松輝久
春暖の赤子のこぶし雨意の松 宇佐美魚目 秋収冬蔵
春炬燵湯気の赤子を裏返す 塚原いま乃
晝の露赤子の腹のまろまろと 田中裕明 先生から手紙
暖かし赤子は泣いて世に生る 保坂リエ
暖房のよく利いてゐる赤子かな 橋本榮治 越在
暗き家より赤子泣く声雨の鳰 鈴木鷹夫 渚通り
朝鈴や母屋へ赤子抱きゆく 井上弘美
木の下に赤子寝せあり鷹舞ヘリ 中村草田男
来客の赤子あやして合格子 松岡和子
枯むぐら赤子の声と思いけり 橋石 和栲
柚子風呂の柚子が赤子に蹴られけり 神原栄二
栗咲くや赤子が舌をもてあまし 宮坂静生 春の鹿
桃咲いて赤子のこぶし宙をつく 道廣敬子
桃咲いて隣りに赤子生まれさう 山本洋子
桜桃忌雨に赤子が泣き止まぬ 池之小町
梅が香に包まれ赤子生れ出づ 長谷部さく子
梅早し眠りて赤子昼湯浴ぶ 秋元不死男
梅雨ふかし機上赤子の泣きやめず 吉野義子
樫の實や郵便箱に赤子の名 吉田汀史
橿鳥や赤子生れし禰宜の家 山本洋子
水ぬるむ夜の鏡に赤子ゐて 宮坂静生 山開
水仙へ目を開けてゐる赤子かな 中田剛 珠樹
水温む赤子に話しかけられて 岸田稚魚
汗どつと噴き出しながら赤子泣く 諸田一風
泣きながら生まるる赤子達へ雪 櫂未知子 蒙古斑
泥に酔ふて赤子のまねを鳴く蛙 蛙 正岡子規
浜下りや赤子も濡らす足の裏 新崎米子
浪人の赤子かゝへて夜の雪 雪 正岡子規
涅槃図の裾に赤子の這うて来し 加治幸福
涼しさや赤子にすでに土踏まず 高田正子
深山も鱒も赤子のように抱く 対馬康子 吾亦紅
温泉に地元の赤子年の暮 森田智子
湖岸より赤子の声や御神渡り 磯貝碧蹄館
湯に立ちて赤子あゆめり山桜 長谷川 櫂
湯に立ちて赤子のあゆむ山桜 長谷川櫂
湯の赤子出すごと温室の花抱く 大熊輝一 土の香
湯上りの赤子の上を大やんま 大串章 山童記
湯浴みして望の月まつ赤子かな 長谷川櫂 虚空
満月や盥の湯を蹴る赤子の足 横山芦石
漬菜踏む赤子の首のぐらぐらと 宮坂静生 雹
潦澄めり赤子の検診日 宮坂静生 樹下
火山灰寒し赤子泣く茶屋地獄茶屋 石原八束 空の渚
無防備に赤子バンザイ青網戸 篠原朱美江(甘藍)
熱帯夜赤子怒りて泣きとほす 下田昭
爆ぜさうな赤子の頬や鼓草 斎藤佳織
牡蠣小屋の暗きに赤子目をひらき 岸田稚魚
瓜一ツだけば鳴きやむ赤子かな 瓜 正岡子規
生まれたての赤子見せらる神無月 内田美紗 浦島草
痛む妻赤子抱いて立たうとする 人間を彫る 大橋裸木
白菜を赤子のやうに抱いてくる 野木桃花
白薔薇と成る黄蕾や赤子いかに 香西照雄 素心
百千鳥つつかれて泣く赤子かな 仙田洋子 雲は王冠
百千鳥赤子のころの吾子わすれ 仙田洋子
目覚めよき赤子を抱けば小鳥来る 小野 喬樹
真ん中は赤子が座る花筵 松塚大地
眠りつつ驚く赤子卯浪立つ 和田耕三郎
眼が見ゆる赤子にさくら吹雪かな 山本洋子
祝ぎ歌のごと赤子泣く初列車 所 山花
神楽宿奥に赤子を眠らせて 児玉美代
祭なか父似母似と赤子抱く 矢島渚男 梟
秋の暮鴉赤子のこゑして止む 田中灯京
秋彼岸千畳の間を赤子這ふ 藤崎実
秋深き隣に旅の赤子泣く 佐藤鬼房 「何處へ」以降
秋高し赤子をあやすニッポン語 三好節子
稲の黄に出てすぐねむる赤子かな 六角文夫
立秋の赤子背負ひて田に染まる 直人
端的にいわば一生はぐにゃぐにゃの赤子のからだ罅入るまでか 小高賢
箱庭や赤子を賞でに少女集ひ 香西照雄 素心
総身に瀧飛沫あび赤子抱く 石寒太 炎環
緑蔭に赤子一粒おかれたり 沢木欣一 往還
緑蔭の赤子の欠伸母にうつりぬ 大野林火
縁側に赤子と芋茎置いてゆく 原田喬
繭玉の下に赤子を寝かせ置く 野崎ゆり香
繭玉や赤子見てまた山畑へ 岸野曜二
罌粟ひらく赤子舌出す軽さにて 藤岡筑邨
背の赤子聖夜のベールにぎりしめ 吉田汀史
脚も上げ母呼ぶ赤子緑蔭に 香西照雄 素心
良夜かな赤子の寝息麩のごとく 飯田龍太(1920-)
花木槿 蒙古斑濃き赤子泣く 平岡たかし
花満ちてしわくちやに泣く赤子かな 仙田洋子 雲は王冠以後
花火ひらく赤子必死につかみをり 宮坂静生 雹
花菖蒲赤子たちまち蚊に刺され 岸本尚毅 鶏頭
花辛夷村に赤子の生まれけり 森川光郎
苗障子はづし赤子を見るごとく 大串章
草もみぢ赤子目覚めてにこにこと 渡辺純枝
菖蒲園です 赤子は はなびらになってしまう 伊丹公子 陶器の天使
菜種の果ての銭湯で ヒリヒリした赤子 伊丹公子 メキシコ貝
萍や赤子かすかに笑ひをり 岸本尚毅 鶏頭
葉桜の下にて赤子見せ合うて 橋本美智代
葉桜の影や赤子に指あづけ 岡本まち子
葉牡丹のごとく広がる赤子の笑み 高澤良一 宿好
葱坊主赤子に涙ありあまる 本宮鼎三
蓮の香の北国の闇赤子猛る 大峯あきら
蓮枯れて赤子をくくりつけし胸 柚木紀子
蕨飯朝より宿の赤子泣く 河野南畦 湖の森
虹つかむことも出来そな赤子の手 飯野亜矢子
虹の中赤子泣かせておりにけり 山根和代
蚊柱に抱きとられし赤子かな 黒田杏子
蚊遣火や赤子煮え居る鍋の中 蚊遣 正岡子規
蚕が眠り赤子が眠り桐の花 斉藤史子「絵絣」
蛇と赤子の歩く天気かな 柿本多映
蛬鳴やつゞいて赤子なく 一茶 ■文政六年癸未(六十一歳)
蜑小屋に赤子が泣けり夜の根釣 戸川稲村
蜩やガラスの中に泣く赤子 柿本多映
蝶飛んで赤子に言葉ふえてゆく 大峯あきら 宇宙塵
蝿生れ赤子の涙吸いにくる 中村和弘
蟷螂の眠りをねむる赤子かな 田中裕明 櫻姫譚
裏返して赤子を洗ふ冬うらら 富本茂子
見開いて乳吸ふ赤子冬うらら 中嶋鬼谷
覚めてまたねむる赤子や未草 中田剛 珠樹以後
観光船 正午 赤子の髪は陽と同系 伊丹公子 陶器の天使
豊年の星座ぎつしり赤子泣く 鈴木六林男 第三突堤
賜りし赤子の声や実千両 森川梅代
赤子(ぼうや)!赤子!君なら雲に乗れるかも 大井恒行
赤子いま立てり地球よ動くなよ 出口善子
赤子が乗りてこはれる箱や涅槃寺 田中裕明 櫻姫譚
赤子ごと引きずつて来し花筵 阿部静雄
赤子つむる一文字二つこそ涼し 蓬田紀枝子「青山椒」
赤子てふあつきもの抱く菊の雨 橋本榮治 越在
赤子とて氏子のひとり桃の花 廣瀬直人
赤子と母へ撒水車くる一路あり 磯貝碧蹄館
赤子にも我が家の安堵 風知草 柏岡恵子
赤子に汽車見せて涼しむ麻畑 野澤節子 黄 炎
赤子のやうな寝釈迦に山の春時雨 瀧 春一
赤子の寝顔が日の暮に消え入るばかり 人間を彫る 大橋裸木
赤子の耳左右にひらき秋澄めり 佐藤ゆき子
赤子の頬ねんねこ黒襟母へつづき 中村草田男
赤子よく泣く日なりけり近松忌 榎本好宏
赤子哭くたび雪嶺聳え立つ 徳岡蓼花
赤子哭く大白鳥の空をゆき 黒田杏子 花下草上
赤子地に降せば歩む菊日和 伊丹さち子
赤子寝て練炭はぜる音つづく 川島彷徨子 榛の木
赤子抱ききて水口を祭りけり 三浦久子
赤子抱き干潟を進みくる男 沢木欣一
赤子抱き陽炎にゐる思ひせり 鈴木鷹夫 風の祭
赤子抱く菩薩にしだれ桜かな 川村紫陽
赤子抱けば僧も祖父なり雁来紅 田中英子
赤子泣き家に暖気をこもらする 川島彷徨子 榛の木
赤子泣く乗合船の暑さかな 会津八一
赤子泣く声の際まで桑解かれ 波多野爽波
赤子泣く声を遠くに大暑かな 布川武男
赤子泣く家の大きな鏡餅 鷲谷七菜子
赤子泣く家を覗きて雪女郎 石嶌岳
赤子泣く春あかつきを呼ぶごとく 森澄雄
赤子泣く柿の山家のただ中に 赤松[ケイ]子
赤子泣く眞宗寺や冬の月 冬の月 正岡子規
赤子泣けばすいと青鷺何処へゆく 冬の土宮林菫哉
赤子涼しきあくびを豹の皮の上 野澤節子「花季」
赤子炬燵寝漬菜くらがりよりにほふ 藤岡筑邨
赤子生みバンビの夢を見て汗す 八木三日女 紅 茸
赤子目覚め泣きそむ飛び入る親燕 香西照雄 素心
赤子眠りて繭臭き灯に染まる 廣瀬直人
赤子眠るままに夕影桔梗白し 宮津昭彦
赤子秤露はかたむく方へながれ 友岡子郷 日の径
赤子立つ夏の山肌割れるかな 和田悟朗
赤子立つ立つと褒めれば桃の笑み 高澤良一 宿好
赤子置く布団あたたか桃の花 中田剛 珠樹
赤子育つ足の裏まで皺ためて 毛利剛
赤子見て出づ門や赫つと秋晴れて 中塚一碧樓
赤子見に水溜り跳ぶ栗の花 細見綾子 黄 炎
赤子見ゆ苗代寒の鞍馬村 大峯あきら 鳥道
赤子見んとねんねこの衿おしひろげ 佐藤直子
赤蕪を赤子のごとく洗ひをり 大石悦子 聞香
途ふさぐ稲や赤子や遠刈田 橋本榮治 麦生
遠方に赤子のつむり蓮見舟 磯貝碧蹄館
里神楽赤子泣くたび砂緊る 村田小夜子
野遊びや赤子の口に箸入れて 安部元気
野遊や赤子は草に寝かされて 坂本香寿子
銀行の鈍光浴びる粘る赤子 徳弘純 非望
開帳の寺へ赤子を抱き来る 屋代ひろ子
雛の夜の寝入りばななる赤子の手 ふけとしこ 鎌の刃
雨季長し乾かぬものの中の赤子 八幡城太郎
雪吊の門前町に赤子抱く 大峯あきら 鳥道
雪片のかかるよ赤子家に迎ふ 太田土男
雲海を航く退屈さ赤子泣く 森田峠(かつらぎ)
雲雀野や赤子に骨のありどころ 飯田龍太 遅速
霜の夜や赤子に似たる猫の声 霜 正岡子規
霜晴れの赤子泣く扉によな颪す 石原八束 空の渚
霜除の家に赤子の生れけり 上野泰子
露の花圃赤子のガラ~よくひびき 瀧春一 菜園
露天湯に赤子の鼓動雲の峰 飯田龍太 遅速
青東風に花ひらくごと赤子覚め 井上純郎
風が澄む谿の一番星の赤子 関田誓炎
風光る赤子ばかりのコマーシャル 加藤洋子
風花や赤子の指の夢に舞ふ かたぎり夏実
風薫る赤子に余るバスタオル 河合澄子
風邪ひいて赤子のかほでなくなりぬ 田中裕明 先生から手紙
風邪籠りし一ト日の終り赤子泣き 宮津昭彦
飛ばさるる赤子のものや青あらし 仙田洋子
餅花の見ゆる赤子を抱きにけり 大峯あきら 宇宙塵
首すわり初めし赤子に松落葉 岸本尚毅 選集「氷」
首のまだすわらぬ赤子芙蓉咲く 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
首据わる赤子に秋の畝傍山 宮坂静生 春の鹿
鬼灯の花や赤子に老いきざし 宮坂静生
鮑(ハウ)先生赤子の寒き耳を診る 田中裕明 櫻姫譚
鯊の潮男のしるしある赤子抱き 友岡子郷 春隣
鯰浮く赤子の寝がほ近ければ 吉本伊智朗
鳥雲に赤子ごろんと寝かされて 桜田とく子
鶏頭やおゝと赤子の感嘆詞 矢島渚男
鶫来るふもとの村の赤子かな 大峯あきら
黒塚や赤子の腕の風呂吹を 風呂吹 正岡子規
黴の家もつとも赤子のこゑ透る 岸田稚魚
●茜色 
一と箇所を茜色にし女栄螺か 長谷川かな女 花 季
一月の茜色沁む芝畠 岸田稚魚 筍流し
秋の薔薇茜色買ふさむき手に 小池文子 巴里蕭条
茜色さす寒天を晒しけり 西村和子 かりそめならず
茜色の薔薇に目覚めのメス並び 八木三日女 落葉期
郭公や沼も燧岳も茜色 石川英子
朝日子の座あかね色鷹渡る 平井さち子 鷹日和
●赤味 
鮭飯のほの赤味さすぬくみかな 大野林火
しら菊に赤味さしけり霜の朝 青蘿
●朱ケ 
ぎんねずに朱ケのさばしるねこやなぎ 飯田蛇笏
まなじりの朱ケのあはれや流し雛 中村苑子
まんじゅさげその朱ケ飛んで宇佐八幡 高澤良一 鳩信
万緑や御座船の朱ケゆるぎ無く 岡本差知子
人絹の鳥追笠の朱ヶの紐 竹下しづの女 [はやて]
仲見世の裏側の朱ヶ春の雪 毛塚静枝
各の朱ヶの箸さへ花見かな 尾崎迷堂 孤輪
国土泰くこころにしみる野火の朱ヶ 飯田蛇笏 春蘭
大年や鳥居の朱ヶも靄の中 久保田万太郎 流寓抄
春没日とぼしき朱ケを金魚田に 石田あき子 見舞籠
朱ヶの月出て夏草の鋭さよ 川端茅舎
柿の朱ケ身に沁む髪膚衰ふに 佐野美智
水音を越えて仙翁朱ヶひとつ 文挟夫佐恵 遠い橋
潰えたる朱ヶの廂や乙鳥 篠原鳳作
牡丹の朱躑躅の朱ヶを寄せつけず 稲垣きくの 牡 丹
短日や大提灯の朱ヶのいろ 久保田万太郎 流寓抄
神さびや冬山縫へる朱ケの垣 西山泊雲 泊雲句集
秋燕妖しき朱ヶを頬にせり 飯田蛇笏 春蘭
立春大吉朱ヶの大木魚 河野静雲 閻魔
芹汁や朱ヶ古りたれどめをと膳 飯田蛇笏 山廬集
苗代やほとりに朱ヶの宮居なく 尾崎迷堂 孤輪
蝸牛虹は朱ケのみのこしけり 大野林火
閻王の朱ケの隈どる灯影かな 河野静雲
駈けあがる朱ヶもて虹の全うす 中戸川朝人
鬼灯の朱ヶなつかしや避暑戻り 高橋淡路女 梶の葉
鰭さきの朱ヶほのかなる秋の鮎 飯田蛇笏 春蘭
●浅黄色 
あつさりと春は来にけり浅黄空 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
いぬふぐり毛描きの藍に浅黄刷き 西本一都 景色
すすき若き浅黄や富士を賜ひたる 小池文子 巴里蕭条
ひぐらしのやむや浅黄に日の暮れて 原石鼎 花影以後
ふとん裂れの浅黄格子に銀杏散る 細見綾子 黄 炎
カムランの島浅黄なる衣更 横光利一
何の慶び浅黄夏衣を町着とし 加倉井秋を
元日や上々吉の浅黄色 一茶
八朔や浅黄小紋の新しき 野坡
出代の伊達やこゝろの浅黄うら 横井也有 蘿葉集
初東風や浅黄の旗の泊り船 谷口梅泉
大寒や浅黄のこゑの藪雀 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
寒取や霜の浅黄を踏荒し 他力
小梨の花浅間は浅黄いろに白い雲おく 荻原井泉水
山々は萌黄浅黄やほとゝぎす 子規句集 虚子・碧梧桐選
布浅黄女人遍路の髪掩ふ 草田男
形代の浅黄の帯ぞ淋しけれ 比叡 野村泊月
星もさぞあかしちぢみに浅黄うら 立花北枝
朝がほや日剃りの髭も薄浅黄 黒柳召波 春泥句集
朝顔ややす~染みし紅浅黄 渡邊水巴 富士
朝顔や雷の絶えまの白浅黄 渡邊水巴
梅が香や客の鼻には浅黄椀 許六
水浅黄は汀女の色の矢車草 青木重行
浅水に浅黄の茎や蓼の花 太祇
浅黄とも白ともつかぬ袷かな 袷 正岡子規
浅黄桜たま~掃ける庭広し 島村元句集
浅黄空おらが一茶の國の春 高澤良一 宿好
浅黄空巣につく鳰の声なるかな 冬の土宮林菫哉
海苔汁の手ぎは見せけり浅黄椀 芭蕉
田を打つて弥々(いよいよ)空の浅黄かな 一茶
白もゝや細き流れの浅黄なる 蘇山人俳句集 羅蘇山人
白菜の夜干しの芯の浅黄色 土田日露史
秋の空浅黄に澄めり杉に斧 漱石
窯出しの浅黄の小鉢風光る 垣迫俊子
紫陽花に浅黄の闇は見えにけり 紫陽花 正岡子規
紫陽花の浅黄のまゝの月夜かな 鈴木花蓑句集
紫陽花の浅黄は宵にふさはしく 鈴木花蓑句集
紫陽花の雨に浅黄に月に青し 紫陽花 正岡子規
紫陽花や帷子時の薄浅黄 芭蕉「陸奥鵆」
花野統ぶ松虫草の水浅黄 西本一都 景色
芽柳の浅黄萌黄を風の梳く 阪尻勢津子
著つけ浅黄浅黄は春を惜むいろ 久保田万太郎 流寓抄以後
蕣の世にさえ紺の浅黄のと 横井也有 蘿葉集
袖口の浅黄襦袢や秋祭 阿部みどり女 笹鳴
襟巻の浅黄にのこる寒さかな 蕪村
雁鳴や浅黄に暮るちゝぶ山 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
雨乞の浅黄の袖を老宮司 肥田埜勝美
鳩がとぶ二日の空の浅黄色 阿部みどり女
麻布団浅黄の糸のさゆれをり 阿部みどり女
黄八丈浅黄水仙情島 西本一都
●浅葱色 
けふ秋や朝浴暮浴山浅葱 松根東洋城
さざなみに馴染む鹿の子浅葱の瞳 佐川広治
ほほづき市髪の手絡は水浅葱 今泉貞鳳
便りせむ安房は浅葱の朝がすみ 大屋達治 龍宮
冬水の行方浅葱の扉なす空 安東次男 裏山
夏河は洲の白水の浅葱かな 川崎展宏
夏芝居撒き手拭は水浅葱 長谷川かな女 花寂び
天と地の境は浅葱雪の果 石嶌岳
山はまだいろの浅葱や初ざくら 森澄雄
朝顔の浅葱普羅忌のくもり空 文挟夫佐恵 黄 瀬
業平の祭浅葱に晴れたる日 後藤夜半 底紅
神官の浅葱の袴掃初め 木村登志子
秋の蛾の魔力と思う浅葱色 瀬尾教子
音羽屋の浅葱小袖も二月かな 作田 幸子
高原の老鷲の唄みづ浅葱 伊藤敬子
鵜飼待つ空のさざ波水浅葱 平賀扶人
●浅黒し 
浅黒き胸をはだけてマンゴ売 田村恵子
●浅紅
●浅緑 
五欲しづかにあぢさゐの浅緑 ほんだゆき
寄せ植の若菜の籠の浅みどり 伊藤たけ
早苗束濃緑植田浅緑 高野素十
春風や浅田の小波浅緑 暁台
暗しとは柳にうき名浅みどり 尾崎紅葉
流れいま薄氷越ゆる浅みどり 成田千空 地霊
浅みどり春のしほやの薄煙 後鳥羽院
浅みどり春七草の小籠かな 高橋淡路女 梶の葉
白百合や萼の露の浅緑 寺田寅彦
紫陽花や白よりいでし浅みどり 渡辺水巴「水巴句集」
紫陽花や紫尽きて浅緑 紫陽花 正岡子規
若菜売声や難波の浅みどり 支考
葉柳や盥のきぬの浅みどり 泉鏡花
雪晴れの月こそあなれ浅みどり 林原耒井 蜩
風邪の目にはや下萌の浅みどり 石井露月
鶯菜洗い上げたる浅みどり 木梨皓一
●小豆色 
小豆色に空暮れてゆく冬至かな 西村榮一
雀の頭蝿の眼秋の小豆色 中村草田男
●飴色 
一島を飴色にして昆布干す 金田一波「夫婦島」
切干しの飴色に透き母在す 斎藤淑子
日を吸つて飴色兆す青葡萄 富田直治
春雨や鉢の切飴色とり~ 五十嵐播水 播水句集
木枯や飴色に父ついてくる 穴井太 原郷樹林
歳月の鈍き飴色籐寝椅子 狩野朝子
涸川の飴いろ鴉来たりけり 長谷川双魚 風形
湖魚を飴色に煮て浦の秋 石川文子
湯の宿の傘も飴色春燈 石川桂郎
点滴の飴色春夜の術後妻 奈良文夫
煖炉燃ゆランプシェードは飴色に 西村和子 かりそめならず
煮凍りや飴色の汁ころころと 浅田シゲノ
籐椅子と同齢吾も飴色に 岡本まち子
籐椅子の籐のほつれも飴色に 伊藤敬子
籐椅子飴色何々婚に関係なし 鈴木榮子(春燈)
羽で飛び空では飴色の個人 阿部完市 絵本の空
若蜘蛛の脚飴色に透き通り 坂井建
茎漬の飴色ゆかし母の里 今泉貞鳳
葛水や飴色に透く蝕の月 金崎久子
蓑虫生れ飴色の身の透くばかり 山田素粒子
蠅取紙飴色古き智恵に似て 百合山羽公 寒雁
辛口や蕪飴色に煮冷まして 石川桂郎 四温
飴色となりし円座に村の長 加藤洋子(松籟)
飴色に坩堝灼けをり秋真晝 内藤吐天
飴色に干上がつて来し吊し柿 来栖泉堂
飴色に澄みて葉月のまむし酒 石川桂郎 高蘆
飴色に色の変れば牡蛎焼くる 高島みどり
飴色に鰺のひらきや冬ぬくし 今泉貞鳳
飴色のつくしを食べてゐるしあはせ 横山房子
飴色の病葉落ちて骨の音 高澤良一 鳩信
飴色の竹の物差秋日差 川崎展宏
飴色の籐椅子いまも家長の座 井出千二
飴色の蝿とりリボン湖畔亭 海老原真琴
飴色の陽が解体の藁塚に 山口速
●暗紅色 
檜の幹の暗紅しるく猟期来る 正木ゆう子 静かな水
暗紅の西日や潟の女唄 成田千空 地霊
●暗紫色
●入日色
●鶯色 
身をよぢり鶯色の出でにけり 清水径子
雪の畑鶯色に暮れてゆく 阿部みどり女 笹鳴
胼薬うぐひす色をしてをりぬ 長棟光山子
●鬱金 
あさ露や鬱金(うこん)畠の秋の風 野澤凡兆
おん手より鬱金のしづく甘茶仏 佐藤和枝
かち割りて冬至南瓜の鬱金かな 小林京子
ざわざわと月夜を鬱金桜なり 池田澄子 たましいの話
そこそこに鬱金作りの畑仕事 高澤良一 燕音
はんざきの水に鬱金の月夜かな 飯田龍太
ふた本の鬱金櫻の冷えにをり 石田勝彦 秋興
よなぐもり夕日鬱金に嘉峪関 今井すえ子
僧もまた鬱金に淡し夏の寺 依光陽子
切箔の鬱金しづめる年酒かな 鷹羽狩行
別の秋へ遺す未生の鬱金桜 池田澄子
卯の花や鬱金のものは陰に干す 来山「真蹟」
坐し見るは鬱金の蝶の彼方かな 荻原久美子
夏籠りや鬱金に染むる御誂へ 筑紫磐井 婆伽梵
寒梅にあはれ鬱金の陽射かな 富澤赤黄男
尊厳といふ死に際や鬱金咲く 佐野鬼人
山墓に薄暑の花の鬱金かな 飯田蛇笏 春蘭
山椒魚の水に鬱金の月夜かな 飯田龍太「山の木」
山茱萸の金まんさくの鬱金かな 片山由美子 風待月
戦死して鬱金にけむる下半身 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
日向ぼこ鬱金の刻のありにけり 本宮鼎三
朝露や鬱金畠の秋の風 凡兆
枝打の落ちてくるもの鬱金色 田川飛旅子 『山法師』
海底に散り積む鬱金櫻かな 黒田杏子 花下草上
灯りたる雛のあられの鬱金失せ 後藤夜半 底紅
眼裏に仏の鬱金秋日和 手塚美佐 昔の香
神農の虎生薬の鬱金色 松井良子
窓氷るゆふべ鬱金にスープ染め 正木ゆう子 悠
臥してなお鬱金の花のおとろえず 浜芳女
花もはや鬱金桜に風雨かな 原石鼎
花下にして鬱金桜の衣ずれを 西村和子 かりそめならず
花稲のあかとき鬱金泛べ来つ 高井北杜
花野来しばかりに鬱金の月夜かな 齋藤愼爾
茅花かげ螢鬱金の灯をともす 和田渓
菜の花は莖ながらなる鬱金かな 松瀬青々
薬園の鬱金の花の夜も匂ふ 寺田木公
虫干のひとつに鬱金木綿かな 鬼塚昭子
遅月の鬱金にかざす戎笹 木村蕪城 寒泉
野の道は曲りつ鬱金の花ざかり 中田ゆき
金雀枝や喪の裏窓の鬱金色 小池文子 巴里蕭条
針攻めの幾夜経たるや月鬱金 成田千空 地霊
雑草忌やくざ菖蒲や鬱金に咲く 橋本夢道 無類の妻
雨気すこし残して鬱金ざくらかな 大嶽青児
雲の縁鬱金に黄檗開山忌 柏 禎
鬱金の襖を倒す月が土足で 西川徹郎 死亡の塔
鬱金月水車は水をめぐりたる 高澤晶子
鬱金桜今を盛りに古稀となる 松本夜詩夫
鬱金桜日射せば憂ひ放つなり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
鬱金桜父が誕れし夜がおそろし 塚本邦雄
鬱金櫻父が誕(うま)れし夜がおそろし 塚本邦雄
鬱金空木海霧を抜け出てひよこ色 高澤良一 燕音
鬱金香さういう叱り方は駄目 田口 武
鬱金黄葉田の一枚を埋めつくす 後藤真理子
●薄黒し 
薄黒う見えよ朧夜朧不二 朧夜 正岡子規
●薄墨 
うす墨に牡丹供養の招き文 櫛原希伊子
うす墨の夕暮過や雉の声 小林一茶
うす墨の多摩の横山流灯会 下田閑声子
うす墨の硯の沖に雪来つつ 和田悟朗
うす墨を流した空や時鳥 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
さくらのような薄墨の朝いつかくる 宇多喜代子
さくら咲くうす墨色のゆめの中 津沢マサ子 空の季節
さやけくて薄墨いろの羽根拾ふ 鍵和田[ゆう]子 浮標
しづるとき薄墨となる春の雪 岩坂満寿枝
その夢も薄墨いろか浮寝鳥 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
丹頂に薄墨色の雪降り来 西嶋あさ子
修二会待つ生駒信貴山薄墨に 岸野不三夫
光陰のやがて薄墨桜かな 岸田稚魚
冬に入るうす墨いろの鴎ふえ 下田稔
出羽薄墨めざめて人は瓜を噛む 澁谷 道
初雁の空の薄墨流しかな 根岸善雄
夕影を曳く薄墨の花に又 稲畑汀子 汀子第二句集
寒食や薄墨流す西の空 会津八一
後ろ手に点る薄墨桜かな 五島高資
掃きよせし花屑もまた薄墨よ 近藤一鴻
散る花のなほ薄墨になりきれず 坊城俊樹
枯葉つけし桑と薄墨月信濃 古沢太穂
椋鳥過ぎて薄墨いろのながれけり 古舘曹人 樹下石上
此頃は薄墨になりぬ百日白 百日紅 正岡子規
派をなして薄墨すすきと言ふべかり 齋藤玄 『雁道』
満関の花の薄墨暮れにけり 渡邊千枝子
猪鍋や薄墨色に外暮れて 遠藤正年
祗王寺の今昔薄墨椿咲く 山田弘子 こぶし坂以後
秋扇や薄墨滲む母の文字 岡田晏司子
薄墨がひろがり寒の鯉うかぶ 能村登四郎(1911-2002)
薄墨てかいた様なり春の月 春の月 正岡子規
薄墨で描かれし夏の蕨かな 佐竹たか
薄墨にしくるゝ山の姿哉 時雨 正岡子規
薄墨に昏るる寺町空也の忌 石沢シヅ
薄墨に書きゐて春の風邪ごこち 八染藍子
薄墨のさくら養ふ断層土 藤本安騎生
薄墨のどこか朱を引く亥の子餅 有馬朗人
薄墨のにじむを華と三ケ日 鳥居美智子
薄墨の会津ぐもりに木守柿 徳田千鶴子
薄墨の冬よ笑窪の子を連れて 原裕 青垣
薄墨の富士にまみゆる遅日かな 川崎展宏
薄墨の山河をひろげ初衣桁 檜紀代
薄墨の桜まぼろしならず散る 田畑美穂女
薄墨の桜巨樹には巨魂あり 金子青銅
薄墨の生ひて花影おくほどに 山田弘子 こぶし坂
薄墨の祖母と木槿の道に遭ふ 有住洋子
薄墨の花に通ひてゐし心 稲畑汀子 汀子第二句集
薄墨の花の下臥恋ひて来ぬ 下村梅子
薄墨の花の齢にことよせむ 大橋敦子 勾 玉以後
薄墨の花より淡く風花す 稲岡長
薄墨の雨は降れども若葉かな 京極杞陽 くくたち下巻
薄墨の雨雲低し青薄 巌谷小波
薄墨の雲飛ぶ尾瀬の梅雨月夜 岡田日郎
薄墨の鱗の金ンや紅葉鮒 松根東洋城
薄墨は花に霞の夕哉 霞 正岡子規
薄墨桜 きれいな嘘を下さいな 松本恭子 檸檬の街で
薄墨桜ことし谺の棲むことも 諸角せつ子
薄墨桜逢ひ得たりあまごに酒一盞 福田蓼汀
薪能うしろの樹立うす墨に 八木三日女 落葉期
蝙蝠や薄墨にしむふしの山 蝙蝠 正岡子規
西方へ灯る薄墨桜かな 角川春樹(1942-)
見るうちに薄墨になる浸け障子 能村登四郎 菊塵
陰陽師 落花のつみを贖ふと未明のそらの薄墨の母 筑紫磐井 未定稿Σ
雁わたる薄墨使ひはじめの夜 原裕 新治
雪の野に拾ふ薄墨羽毛なり 古賀まり子 緑の野以後
雲の日の薄墨に花うすずみに 大橋敦子 匂 玉
鯊の宿薄墨色に鷺わたる 高橋馬相 秋山越
鰆舟薄墨に陸暮れゆけり 根岸善雄
鴫立て日は薄墨に暮にけり 尚白
うすずみに寒の海鼠の深ねむり 治司
うすずみに沈みて雨の辛夷かな 配島たか子
うすずみのごとくに夜の短かさよ 京極杞陽 くくたち下巻
うすずみのゆめの中なるさくら花あるひはうつつよりも匂ふも 斎藤史
うすずみの世の紅梅をまぶしめり 鷲谷七菜子 花寂び 以後
うすずみの名残うすずみざくらかな 黒田杏子 花下草上
うすずみの時空へ舞へり花吹雪 中村明子
うすずみの桜の精の観世音 大橋敦子 匂 玉
うすずみの花の齢のかすむかな 大橋敦子 匂 玉
うすずみは白よりあはし天の川 藤村真理
うすずみをもて大寒の水を描く 辻 桃子
うつろへる日にうすずみの花絵巻 大橋敦子 匂 玉
夏山夏湖うすずみいろとなりて発つ 林原耒井 蜩
息つぎの長きはうすずみ桜かな 秋山素子
松虫やつねにうすずみいろの窓 堀井春一郎
枯山のうすずみ色は唇に 斎藤玄 雁道
淡墨桜空もうすずみ流しけり 衣川 砂生
火の山の島のうすずみ春隣 神野重子
男にはうすずみ色を恵方道 齋藤玄 『雁道』
竹林の奥のうすずみ彼岸過ぐ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
花あけび雨うすずみに降るばかり 高澤良一 ぱらりとせ
茶の花にうすずみいろの奥信濃 小林子
雲の日の薄墨に花うすずみに 大橋敦子 匂 玉
●薄茶 
トラ鱚の薄茶の縞の涼しさう 高澤良一 鳩信
●薄紅 
あれや雲珠と薄紅いろを指しながら鞍馬路ゆくに山みなおぼろ 大滝貞一
いちまいに薄紅ひろぐ芙蓉かな 松村蒼石 雁
うす紅に露さわやかの芙蓉かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
うす紅の和菓子の紙や漱石忌 有馬朗人 天為
うす紅の日を竹むらは落葉どき(嵯峨野) 岸田稚魚 『筍流し』
うす紅の藜を添へし桑の籠 瀧澤伊代次
はじかみの薄紅見ゆる厨かな 松瀬青々
みよしのの薄紅いろの葛湯かな 大橋敦子
わりなしや薄紅させは蓮の花 蓮の花 正岡子規
われを過ぐ薄紅の桜たち 高澤晶子
カナリヤの脚の薄紅春逝くか 桂信子
ハルジオン富士も薄紅帯びて聳つ 高澤良一 随笑
冷麦の緑うす紅児に取らす 山中蛍火
初東雲珊瑚の薄紅鮮しき 川口爽郎
土をぬくとき薄紅のまんじゆしやげ 松村蒼石 雪
姫辛夷うす紅ふふむ六時かな 山内美津男
山の端の薄紅二十六夜待 広瀬直人
恩愛やことに生姜の薄くれなゐ 栗栖浩誉
棄てらるる身をうす紅に花たばこ 渡辺恭子
残月の薄紅に草城忌 岩田由美 夏安
法華寺さま菓子も薄紅初句会 澤田弦四朗
白を愛で薄紅愛でる花水木 岡村容子
眉に来て加賀の綿虫薄くれなゐ 六本和子
花の空薄紅に曇りけり 花曇 正岡子規
苔桃の花うす紅や小鐘吊り 雨宮美智子
薄紅き酢漬けの生姜秋桜子忌 秋川ハルミ
薄紅に咲きて林檎の白く散る 宮津昭彦
薄紅の口一文字棗の実 脇坂啓子
転機ならむか沙羅の蕾の薄くれなゐ 小野恵美子
●薄緑 
いとまなき世や苗しろの薄緑 加舎白雄
かげろふの消ぬべく生れて薄みどり 下山芳子
サイダーやしじに泡だつ薄みどり 日野草城
マニュキュアはピンクメ口ンは薄みどり 川口咲子
三齢三眠さめて秋蚕の薄みどり 川井玉枝
京菓子の和紙薄みどり蝶生るる 武田流石
囀る日葬式まんじゆう薄みどり 中尾寿美子
土用芽の手折りたくなる薄みどり 高澤良一 素抱
夏蜜柑の種子あつむれば薄緑 川島彷徨子 榛の木
夕顔や星が抱える薄緑 金子皆子
子かまきり薄みどり草深みどり 鈴木しげを
年玉の鮭の巻藁薄みどり うせつ
打ちし蚊のまだ血を吸はず薄みどり 生沢瑛子
春大根卸しすなはち薄みどり 鷹羽狩行
枯れ果てて芭蕉の芯の薄みどり 大塚とめ子
海苔*ひびの薄緑にもひろがれり 八木林之介 青霞集
湯豆腐や輪飾残る薄みどり 渡辺水巴 白日
満月に花アカシヤの薄みどり 飯田龍太
燕麦の滞りなき薄緑 京極杞陽 くくたち下巻
白蓮やあちらを向いて薄みどり 松藤夏山 夏山句集
空は青木の芽吹く風薄みどり 目黒白水
笹鳴や新藁かわく薄緑 碧雲居句集 大谷碧雲居
苗代の水の中なる薄みどり 村山一棹
薄緑お行の松は霞みけり 霞 正岡子規
藍茂り初めし濃みどり薄みどり 上崎暮潮
藤の実やたそがれさそふ薄みどり 木歩句集 富田木歩
行く年やメロン高貴の薄みどり 渡邊水巴 富士
●薄紫 
すり鉢に薄紫の蜆かな 蜆 正岡子規
ほたるぶくろ薄紫七月の思案 大沢君江
よく見れば薄紫の蜆哉 蜆 正岡子規
ヂキタリス薄紫に富士の影 新村千博
初鵙や薄紫の夜明雲 杉山えい
呑みはじむ薄紫に寒の暮 松根久雄
少しさめ薄紫の蜆汁 中嶋秀子
尼若し薄紫の燕子花 杜若 正岡子規
山笑ふ薄紫の衣着て 長谷川きくの
桐の花うす紫の風揺れて 久保田彰子
紫蘇ばかり薄紫の明家哉 紫蘇 正岡子規
紫蘇ひとつ薄紫の荒家哉 紫蘇 正岡子規
花真菰似合うジヤケツト薄紫 島川允子
蛤の薄紫に乾きけり 虚子
裾野路や薄紫の春りんだう 瀬戸口民帆
西日して薄紫の干鰯 杉田久女
雪間より薄紫の芽独活哉 芭蕉
●江戸紫 
あまのりは江戸紫の匂ひかな 松岡青蘿
かきつばた莟きりりと江戸紫 高澤良一 寒暑
これやこの江戸紫の若なすび 宗因「玉手箱」
寒禽や江戸紫を染めし水 大和忠義
懐しき江戸紫や鉄線花 武原はん
撥ぶくろ江戸紫や寒稽古 竹田小時
花菖蒲江戸紫は濡れてゐし 竹下陶子
●海老茶 
春雨や海老茶袴のぬれて行く こさふえ(胡沙笛) 秋元洒汀、市岡傳太編
豌豆咲く海老茶の色の名を守りて 中村草田男
●鉛灰色
●臙脂色 
つぼめある日傘はみ出し臙脂濃し 篠原梵 雨
まなじりに点ずる臙脂や暮の春 飯田蛇笏 霊芝
みごもりて身にはまとひぬ臙脂マント 文挟夫佐恵 雨 月
キヤベツとる娘が帯の手の臙脂色 飯田蛇笏 春蘭
コンパクト冬山近し臙脂ひく 柴田白葉女 『夕浪』
二月尽臙脂は妻の好むいろ 友岡子郷 風日
八幡平頂上芒の茎臙脂 高澤良一 寒暑
冬服の紺ネクタイの臙脂かな 久保田万太郎 流寓抄
冬菊の臙脂を畑の色どりに 高澤良一 鳩信
嘘を言ふシヨール臙脂に雪ぼたる 龍太
姉を焼いて臙脂のロールスロイスで冬野 橋田サカエ
寒臙脂やものいふ口の可愛らし 高橋淡路女 梶の葉
山櫻さう山櫻葉の臙脂 高澤良一 鳩信
愛怨の臙脂なだるる天の川 河野多希女 納め髪
日が永くなりあぢさゐの芽の臙脂 高澤良一 素抱
枯菊の臙脂の色を焚きにけり 皆川白陀
水澄みて仏の花の臙脂かな 依光陽子
猩臙脂に何ませて見ん牡丹かな 牡丹 正岡子規
白き瓶に臙脂したたる牡丹かな 中勘助
硫気噴き虎杖の芽の臙脂濃き 富安風生
窓は五月鴉に臙脂を盗まるる 宮武寒々 朱卓
節々に臙脂の入る川芒 高澤良一 燕音
肩かけの臙脂の滑り触れしめよ 石塚友二 方寸虚実
臙脂つきしバイブルにして秋の黴 飯田蛇笏 春蘭
臙脂なる菊を鎧の草摺に 高澤良一 さざなみやつこ
臙脂の黴すさまじき梅雨の鏡かな 飯田蛇笏 山廬集
芯生きて臙脂こぼしぬ泰山木の花 長谷川かな女 花 季
葉がくれに水蜜桃の臙脂かな 飯田蛇笏 霊芝
行秋の臙脂をのこす廬遮那仏 桂樟蹊子
豆腐買ふ飯能芸者臙脂足袋 前田貴美子
黒牡丹ほのかに秘むる臙脂かな 高橋淡路女 梶の葉
●オリーブ色
●オレンジ色 
大寒やオレンジ色に日が沈む 原田青児
地上から 麦がとりさられた 星 オレンジ色に燃え 吉岡禅寺洞
鶴が渡つてこないここら 夕空のオレンジ色 吉岡禅寺洞
●カーキ色
●灰白色 
おもかげや炉の灰白く崩れ落つ 内藤吐天 鳴海抄
陣中葬風にちりとぶ灰白き 細谷源二 鐵
人気なき湯宿の蚊遣灰白し 高澤良一 素抱
●柿色 
切れぬ山脈柿色の柿地に触れて 西東三鬼
寒雲のいま柿色に燃えつきて 三谷昭 獣身
柿すでに柿色斜陽とどめおり 和田悟朗
柿色に薄紙を透き美濃の柿 八木林之介 青霞集
柿色に降り注ぐ日に蜂降れり 高澤良一 鳩信
柿色の囚衣干しけり雲の峯 寺田寅彦
柿色の姉の家までおどりおどり 阿部完市 にもつは絵馬
柿色の日本の日暮柿食へば 加藤楸邨
柿色の暖簾のそとや酉の市 長谷川かな女 雨 月
柿色の歌舞伎色なる落葉かな 小杉余子 余子句選
●か黝し 
かぐろしや花茣蓙にゐる母の影 織部正子
すぐろ野を越え来し仏かぐろしや 角川源義 『口ダンの首』
人埋むる穴のかぐろき桜かな 橋本榮治 越在
初凪のかぐろき海に圧されゐる 伊東月草
十七夜水の宮こそかぐろしや 山田みづえ
山椒の芽食べてかぐろき遊びする 中村苑子
戦盲のかぐろき眼鏡ものを言う 三谷昭 獣身
新緑やかぐろき幹につらぬかれ 日野草城
日本の甍かぐろき文化の日 斎藤道子
日輪のかぐろきひかりお花畑 岡田日郎
明けやすき列車かぐろく野をかぎる 角川源義
星月夜かぐろく鳴るは狐川 角川源義 『秋燕』
春月や室戸は沖のかぐろさよ 上村占魚 球磨
月にさらす串蒟蒻のかぐろしや 角川源義 『冬の虹』
林檎真赤五つ寄すればかぐろきまで 野澤節子 黄 瀬
母奥に病むやかぐろきまで冬日 原裕 投影
聖金曜日かすむ浅間の裾かぐろく 後藤一朗
花すももかぐろし風の小黒坂 恩田秀子
降りそゝぐ雨にかぐろし蝌蚪の陣 高橋淡路女 梶の葉
雨祈る火のかぐろくて盛夏かな 飯田蛇笏 霊芝
雪嶺の覗く苗代かぐろしや 石田波郷
八月の巖のか黝く東尋坊 高澤良一 宿好
砂抱いてか黝き馬刀の虚せ貝 高澤良一 素抱
●褐色 
天幕よりの手が褐色の瓶よこたふ 横山白虹
毒薬の壜は褐色春の浜 小島健 木の実
浅蜊の斑みな褐色に食ひ了る 川崎展宏
火の山登る翁褐色の犬を連れ 金子兜太
秋曇の幹の褐色ドラン死す 桂信子 黄 炎
褐色にかたまつて炎ゆ秋の鶏 原裕 葦牙
褐色の村で風のたてがみ欲しい 三井菁一
褐色の蟷螂にしてみどりの目 粟津松彩子
褐色の麦褐色の赤児の声 福田甲子雄
見はるかすうねうねの畔褐色なし水田は天の光を吸えり 大野とくよ
風雨二日経て褐色の蝉の殻 中田剛 珠樹
鰻焼き一筋の母赤褐色 青木節子
●樺色
●唐紅 
りゆくさつく唐紅や小六月 相生垣瓜人
咲きにけり唐紅の大牡丹 牡丹 正岡子規
夕やけや唐紅の初氷 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
忠義とは唐紅に散る紅葉 菖蒲あや
浮くや金魚唐紅の薄氷 氷 正岡子規
秋風や唐紅の咽喉仏 夏目漱石 明治四十三年
かまつかのからくれなゐの別れ蚊屋 松本たかし
からくれなゐ地をくゞるとや茜掘 井原西鶴
ざり蟹のからくれなゐの少年期 野見山朱鳥「運命」
初鼓からくれなゐの緒を捌き 三村純也
古草に雉子のからくれなゐ潜む 村越化石
唐辛子からくれなゐに干して留守 清原枴童
地吹雪や蝦夷はからくれなゐの島 櫂 未知子
夕空のからくれなゐに義士祭 井沢正江
大うるしからくれなゐに紅葉せり 上村占魚 球磨
寒牡丹からくれなゐに武士の怨 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
御降りやからくれなゐに暮れしあと 松澤 昭
戀猫やからくれなゐの紐をひき 松本たかし
春の塵からくれなゐのまじりけり 長谷川櫂 虚空
春の夜にわが思ふなりわかき日のからくれなゐや悲しかりける 前川佐美雄
朝寒やからくれなゐの唐辛子 村上鬼城
泳ぐかなからくれなゐの形代と 夏石番矢
眠れねばからくれなゐの谿紅葉 野澤節子 『駿河蘭』
知命かなからくれなゐに冬木の芽 岸原清行
秋暁のからくれなゐに天の彦山 石原八束
空蝉のからくれないに砕けたり 間石
筥の中からくれなゐに雉子鳴く 古舘曹人 砂の音
紅梅のからくれなゐの瑞枝かな 大橋敦子 匂 玉
袖口のからくれなゐや新酒つぐ 日野草城
逝く秋のからくれなゐの心意気 桂信子
金魚玉からくれなゐに染まりけり 唐振昌(古志)
●枯れ色 
枯れ色に或ひは坐る草の上 岡井省二
枯れ色の連なるを火の国といふ 乾 歌子
枯れ色を動かし僧の枯野行く 齋藤愼爾
枯草にこぼれて涙枯れ色に 鈴木真砂女 夕螢
肉体の枯れ色のヤッケ吊るさるる 松田ひろむ
自ねんじよをすり枯れ色をおしひろぐ 細見綾子 存問
蟷螂の枯れ色をして妊れり 久保敦子
雨の芝生の枯れ色が見えてきた シヤツと雑草 栗林一石路
麓枯れ色処々に村落寺をまじへ 宮津昭彦
●黄 
*ひつじ田の黄みどりの黄にただよふ日 上村占魚
あかつきのひぐらし萌黄いろに啼く 原石鼎 花影以後
あかつきの雪山の上星黄なり 長谷川かな女 雨 月
あきさめや指をそめたる塗料の黄 鈴木しづ子
あざやかに黄のよみがへり菊膾 杉良介
あじさいの薄黄に染まるははの温もり 横山さつき
あぜ豆の黄ばみ初けり秋の風 松岡青蘿
あぜ豆の黄ばみ初めけり秋の風 青蘿
あたたかく枯れたるものの日の黄いろ 長谷川素逝 暦日
あぢさゐの萌黄の毬の照り合へる 深見けん二 日月
あつさりと春は来にけり浅黄空 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
ありたけのひかりあつめて石蕗黄なり 細木芒角星
いささかの雪や挿されし花菜の黄 臼田亞浪 定本亜浪句集
いつとなく夕日の黄ばむ小はるかな 素丸
いてふ葉や止まる水も黄に照す 嘯山
いぬふぐり毛描きの藍に浅黄刷き 西本一都 景色
いまさらの如くにみるよたんぽぽ黄 鈴木しづ子
いろ鳥の中に黄なるはしづかなり 一青
うぶすなの林黄ばむや神送り 松瀬青々
えにしだの黄にむせびたる五月かな 久保田万太郎 流寓抄
えにしだの黄や夕月はいろどらず 原一穂
おしろいの黄に子なければ犬飼ひぬ 森川暁水 黴
おみなへし黄に照る丘をのぼり来てあふれかがやく日おもてに立つ 橋本徳寿
お前を未だ知らざりし日々菜の花の千の訣別黄に乱れ咲く 佐佐木幸綱
お婆々らの黄ばみ果てたる秋日哉 中川宋淵 遍界録 古雲抄
お長屋や黄に紅に鶏頭花 河東碧梧桐
かうほねの黄の映りけり拭ひ縁 長谷川櫂 古志
かたばみの草に秘めある黄の花 高木晴子 花 季
かたばみの黄が喚ぶ詣憶滅びし家 木村蕪城 寒泉
かたまりて黄なる花さく夏野哉 夏野 正岡子規
かたまりて黄なる花咲く夏野かな 子規遺稿子規句集 正岡子規
からたちの黄の褪せてくる飛雪かな 藤田あけ烏 赤松
かりんの黄つめたき雨のしきりなり 早川麻子
きのふ今日まんさくの黄に適ふ空 山田弘子 こぶし坂
きはまりて連翹の黄は緑さす 松村蒼石 雁
きみにふれたことばの端が黄ばんでゆく 伊藤利恵
きらめきて雪嶺月の黄を奪ふ 佐野美智
くちなしのまぬがれがたく黄ばみそむ 下村梅子
くらがりに起重機の黄寝に帰る 土方 鉄
くわりんの実黄ばみてありぬ枝の先 上田 立一呂
けふ雲の群れたがるなり柚子は黄に ふけとしこ 鎌の刃
さいぎさいぎお山参詣稲穂黄に 飯塚田鶴子
さきがけて初夏の山草花は黄に 飯田蛇笏 春蘭
さきがけて柞が黄なり森の口 福永耕二
さきがけて薔薇の黄をとどけねばならぬ 宇多喜代子
さみしからず寒菊も黄を寄せ合へば 秩父
さんしゆゆの黄の俄なり涅槃西風 石田波郷
さんしゆゆの黄を振り撒くは善意めく 高澤良一 素抱
ざら塩の黄に染む埠頭夏詰る 成田千空 地霊
しぐるゝや地を這ひ咲ける小菊の黄 大場白水郎 散木集
しまなみ海道飛ばす単車に花菜の黄 高澤良一 寒暑
しろたへのわが鶏にやる春の日の餌には交れり菜の花の黄も 岡本かの子
しんぎくの花咲く黄なる外は無く 細見綾子 花寂び
すこやかな日も病める日も石蕗黄なり 小林たみ子
すごろくや山は萌黄に河は藍 籾山梓月
すすき若き浅黄や富士を賜ひたる 小池文子 巴里蕭条
その中に紅葉の黄なる明るけれ 高濱年尾 年尾句集
たんぽぽの白の孤高に黄を配す 稲畑汀子 汀子第三句集
たんぽぽの黄より激しき子を産めよ 櫂未知子 蒙古斑
たんぽぽの黄を挿して愛ず一コツプ 赤城さかえ
たんぽぽの黄を眼裏に夕支度 坪谷啓子
たんぽゝの黄しるく故郷遠きかな 岸風三楼 往来
ちまき喰ひ黄な粉をこぼす猿羽根峠 細見綾子
つい~と黄の走りつゝ枯芒 高浜虚子
つちふるや日輪高く黄に変じ 長谷川素逝
つはぶきの花は日ざしをかうむりて至福のごとき黄の時間あり 小中英之
つはぶきの黄の残りたる夕景色 吉屋信子
ていれぎの下葉淺黄に秋の風 秋風 正岡子規
とぢ糸の萌黄食ひ入る布団かな 温亭句集 篠原温亭
とんぼうの腹の黄光り大暑かな 室生犀星 犀星発句集
どんど逸れ重くころがる黄一顆 高志美佐子
なかんづく古九谷の黄の涼しさよ 沢木欣一 二上挽歌
なきがらの蜂に黄の縞黒の縞 橋本多佳子
なにを待つうしろ姿の黄吊舟 稲垣きくの 牡 丹
なのはなの黄のいちまいが村襲う 星永文夫
にはとりの黄のこゑたまる神無月 飯田龍太
にわとりの黄の澱み銀行休行日 山本奈良夫
にんにくの芽の黄のふかくかげろひぬ 小山空々洞
ねむれば黄翔べば火のいろ冬の鳥 栗林千津
のけぞって菜の花の黄のさわぐまま 鎌倉佐弓 天窓から
はずみなき歩みに街の麦黄ばむ 臼田亞浪 定本亜浪句集
はんの木の花踏まれあり花粉黄に 高野素十
ばら黄なり小春ごころを波立たせ 鷹女
ひぐらしのやむや浅黄に日の暮れて 原石鼎 花影以後
ひと死ねり朝食の喇叭黄天に 片山桃史 北方兵團
ひと死ねり黄天に手紙くばりゐる 片山桃史 北方兵團
ひながき日にごり金雀枝黄をつくす 川島彷徨子 榛の木
ひまはりの黄が踏切に立ちつくす 石郷岡芒々
ひらひらと蝶々黄なり水の上 蝶 正岡子規
ひらひらの黄の蝶や白や光る萩の芽に 北原白秋
ひら~と蝶々黄なり水の上 子規句集 虚子・碧梧桐選
ひるふかき青梅が黄にそまりゆき 室生犀星 犀星發句集
べっとりと連翹黄なり復活祭 百合山羽公 寒雁
ほつかりと黄ばみ出でたり柳の芽 曉台
またたきてたんぽぽの黄眼に残る 上村占魚 球磨
また一人はなれて立ちて連翹黄 後藤夜半 底紅
まなかいに永劫の黄や花菜畑 宇多喜代子 象
まんさくの黄のなみなみと暮れにけり 古館曹人
まんさくの黄のもぢやもぢやの世界かな 原田 喬
みかん黄にふと人生はあたゝかし 高田風人子
みどり子の萌黄うるはし枕蚊屋 几董「晋明集四稿」
みまはして石蕗の黄のさてにぎやかや 久保田万太郎 流寓抄
むさしのの太陽黄なり干し小豆 椎橋清翠
もてなさる南瓜粉を噴き黄の大輪 大野林火
もの湿り黄なる蝶とぶ心地する 京極杞陽 くくたち下巻
ゆふがほや黄に咲たるも有べかり 蕪村 夏之部 ■ 丸山主水が、ちいさき龜を寫したるに賛せよとのぞみければ、任官縣命の地に榮利をもとめむよりハ、しかじ尾を泥中に曳んには
よむ頁皆黄になつて春眠し 長谷川かな女
れんぎようのひとかたまりの黄の色はさだまりてゆく月の光に 河野愛子
わが生も晩期諾ふ薔薇黄なり 早崎明
わが顔や黄に疲れゐし花蘇鉄 小池文子 巴里蕭条
わだつみの辺に向日葵の黄ぞ沸し 篠原鳳作 海の旅
をみなめし遥かに咲きて黄をつくす 松崎鉄之介
アカシヤ黄に茫茫と羊帰りつぐ 小池文子 巴里蕭条
アユタヤのもろこしの黄は僧衣の黄 高澤良一 寒暑
イキシアの花空に咲く黄のかげり 石原八束
ウイーンヘの路の左右に菜の花黄 稲畑廣太郎
オムレツのやうな薄黄に新樹山 高澤良一 素抱
カステラの黄のふんはりと文化の日 中嶋秀子
カムランの島浅黄なる衣更 横光利一
カンナの黄吐息ハンカチ以て蔽ふ 下村槐太 天涯
カンナの黄禁忌の稚児の肩車 吉田紫乃
カンナの黄雁来紅の緋を越えつ 飯田蛇笏 椿花集
カンナの黄雲は遠嶺の裏に棲む 奥野久之
カンナ黄にはじまりは饒舌です 白石司子
クレヨンの黄を麦秋のために折る 林桂「銅の時代」
クロッカス黄に日溜りの陽を吸へり 山本満義
クローカス黄・白・柴咲き揃ふ 林原耒井 蜩
ゴツホの黄あたたむる胸愛の羽根 新井 真衣
サフランの花を心にとどむる黄 後藤比奈夫
シヤガールの青の晩夏の太陽黄 粟津松彩子
ジョクジャカルタの もの煮る匂い 黄の喧騒 伊丹公子 ガルーダ
スケートの影を走らす萱黄なり 岡田貞峰
ソーダ水北浜の月黄なる夜の 下村槐太 天涯
タイプ打つ視野には黄なる花あふれ 横山白虹
タンポポの黄に曇天の沼覚めし 阿部みどり女
ダイビング黄膚台頭アジア勢 高澤良一 宿好
チューリップ黄は黄に閉ぢて明日を待つ 横山房子
チユーリツプ黄は黄に閉ぢて明日を待つ 横山房子
パステルの紫に黄に昼花火 永井龍男
パッパッとさんしゅゆの黄を振撒ける 高澤良一 ももすずめ
パンが 黄ばら色に焦げて ミュージツクサイレン鳴り 吉岡禅寺洞
パンジーの群れて一つの強き黄に 吉村玲子
パンジーの黄の鉢ばかり売れ残る 河原畑宣子
ビヤホール出づれば月の黄なるあり 岸風三楼 往来
フランス画展落葉の苑の黄の太陽 柴田白葉女 花寂び 以後
ペンうれしペン始め黄の原稿紙 不死男
ミモザの黄揺れる昨日に堕ちぬため 高澤晶子
ミモザ咲き海かけて靄黄なりけり 水原秋櫻子
モネ展を出て睡蓮の黄にかがむ 越智田鶴子
一つ木におしろいの花の黄と赤と 白粉花 正岡子規
一望の黄すげや嶺々は雲中に 大熊輝一 土の香
一輪の黄が秋光を集めけり 藤本草四郎
一隅は石蕗の齎らす黄の恵み 長谷川一夫
一面の真葛ケ原の黄ばみそむ 五十嵐播水 播水句集
万緑に黄に横に竹四つ目垣 上野泰 佐介
三光鳥からまつもみじ黄けぶり 和知喜八 同齢
三室山桑の葉黄ばむ道来れば 山口誓子
三椏の花のうす黄のなかも雪 大野林火
三椏の花頷けり黄を溜めて 藤田章子
三椏の華やかな黄の花簪 福田蓼汀 秋風挽歌
三色菫黄ばかりが咲き憔悴す 福永耕二
上*かわや日ざかり松葉ぼたんの黄と赤と 飯田蛇笏 山廬集
下野の国の那須野のたんぽぽ黄 後藤比奈夫 花びら柚子
丘の風初蝶の黄をあやつるも 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
久女忌や掌中目覚むれもんの黄 櫛原希伊子
九年母の黄に好もしき見越かな 芹水
九龍の雨に赤黄の夏灯濡れ 高木晴子 花 季
乾期くる黄の枯草に毒舌撒き 金子兜太
二つずつ川の灯黄なり雪積めり 長谷川かな女 花 季
二の蝶も黄なりし少し大きかり 千原叡子
五月の日黄に透きて蟷螂うまる 伊藤月草「わが住む里」
五月野に黄のにじめるは日当れる 宮津昭彦
五月雨の泥を流して海黄なり 五月雨 正岡子規
京よりの初筍の泥黄なり 皆吉爽雨
人はみな桜桃の種うす黄いろ 山西雅子
人伝のごとくに枇杷の黄ばむかな 青山丈
人恋ふや胸に灯せるバラは黄に 石橋未どり
今日の吉黄の筋きれいなたかべ買う 阿保恭子
仕様がなし菜の花わっわっわっと黄に 池田澄子 たましいの話
仙人掌に侏儒の咲かせる黄の小花 高澤良一 さざなみやつこ
休耕田たんぽぽの黄の渦なせり 水原春郎
伯母肥えて庭の銀杏に黄の周期 友岡子郷 遠方
体調不良連翹の黄が重い 大城まさ子
何の慶び浅黄夏衣を町着とし 加倉井秋を
余花寒し何焚きつぐも黄の煙 殿村莵絲子 牡 丹
保安色の黄が勝てる街春時雨 香西照雄 素心
信濃路はいつ春にならん夕づく日入りてしまらく黄なる空のいろ 島木赤彦
個性も単なる蛞蝓の跡黄に乾く 原子公平
傾いた窓持ち銀杏の黄な葉に降られる 人間を彫る 大橋裸木
優曇華や東司の護符の端黄ばみ 三村純也
元日や上々吉の浅黄空 一茶 ■年次不詳
元朝の薄日黄ろき大路かな 内田百間
先づ黄なる百日紅に小雨かな 夏目漱石 明治四十三年
児の手では黄の花束や散銀杏 香西照雄 素心
入梅を告ぐオムレツの黄なる朝 山田弘子 螢川
八朔や浅黄小紋の新しき 野坡
公孫樹黄に石に踞したる大人なりき 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
公暁あはれ公孫樹千年の黄の壮さ 石塚友二 方寸虚実
兵の赤黄枯野遠別糞し行く 齋藤玄 飛雪
冬ぬくく夜霧舞曲を黄ならしむ 飯田蛇笏 雪峡
冬待ちつやゝ黄ばむ庭の蜜柑哉 冬近し 正岡子規
冬禽の声が黄となる大銀杏 深見ゆき子
冬落暉黄のトラクター退場す 横山房子
冬薔薇は法楽の死の黄なるべし 小檜山繁子
冬蝶の黄もたまらずに飛ぶ日和 深見けん二 日月
凩や山吹の葉の黄に染みて 小澤碧童 碧童句集
出代の伊達やこゝろの浅黄うら 横井也有 蘿葉集
刈らるべき稔田や黄に透きとほり 相馬遷子 山河
列ね行く大車(ターチョ)黄な蝶まぎれなく 永井龍男
初午の黄旗はためく淋しいから 太田雄司
初嵐きりりと締めて黄なる帯 小松崎爽青
初東風や浅黄の旗の泊り船 谷口梅泉
初盆のふたりの吾子に黄のトマト 田村了咲
初蝶のこぼるるばかり黄厚く 山口青邨
初蝶のよぎりて低し黄なりけり 大林まさ子
初蝶の一瞬にして黄なりけり 阿部みどり女 『光陰』
初蝶の洗ひし如き黄なりけり 藤松遊子
初蝶の白ゐて黄ゐて子の下宿 福嶋延子
初蝶の黄の確かさの一閃す 中村汀女
初蝶来何色と問ふ黄と答ふ 高濱虚子
北は黄にいてふぞ見ゆる大徳寺 黒柳召波 春泥句集
北は黄に銀杏ぞ見ゆる大徳寺 召波
午後からは黄なる太陽竹の秋 三橋敏雄 まぼろしの鱶
南国の石蕗の黄いろのあたゝかく 高橋淡路女 梶の葉
南天や黄南天も交りけり 寺田寅彦
南瓜咲けりかの飢ゑし日と同じ黄に 徳永山冬子
即身仏オクラの花の黄なるかな 小島千架子
厩までユフスゲの黄のとびとびに 大野林火
友の声聞く山吹の黄の中に 大井雅人 龍岡村
反転の寒鯉黄銀日矢の中 中村明子
口切の文や橙黄ばむなど 石井露月
古家や累々として柚子黄なり 柚子 正岡子規
古萱を黄に伏せ山のぬくもるよ 村越化石
名月に蘆の葉黄なり汐の上 椎本才麿
向日葵の百人力の黄なりけり 加藤静夫
向日葵の黄に堪へがたく鶏つるむ 篠原鳳作 海の旅
向日葵の黄に重なりし通学帽 飯沼 斉
向日葵の黄の畑すべてウイグル区 森田峠 逆瀬川
向日葵の黄の純粋もゴッホ以後 野見山朱鳥
向日葵の黄は廻る日や道埃 高濱年尾 年尾句集
向日葵や黄といふ色は脳に染む 京極杞陽 くくたち上巻
君見ずや尾花の莟黄に光る 岡本松浜 白菊
唐黍の花の黄いろき魂迎ヘ 萩原麦草 麦嵐
喜寿以後をあたたかく石蕗黄に咲けり 長谷川かな女 花寂び
喪の服も華やかなりし石蕗の黄に 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
噴水は黄彩を得て夜となる 山口青邨
噴煙の燦たり樹々はいま黄ばむ 石田波郷
国禁の一書に石蕗は黄なりけり 友岡子郷 翌
園のもの黄ばむと莨輪に吹ける 篠原鳳作
土に低く黄の花咲けることも梅雨 桂信子 花寂び 以後
土の黄な蝶に手向や花の露 笹分 俳諧撰集玉藻集
土佐みづき山茱萸も咲きて黄をきそふ 水原秋櫻子
地にふれて黄をよびさまし秋の蝶 赤松[けい]子 白毫
地の人となりゆくむすめ柚子黄なり 友岡子郷 翌
地を駛る雲黄の兵を地に拡ぐ 片山桃史 北方兵團
城跡の赤黄黒の桜の実 瀧澤伊代次
埴輪の目より深き小窓持てりアテネ黄白の壁は続きぬ 河野愛子
塀ぎはに萌黄のしるき小春かな 室生犀星 魚眠洞發句集
墓地の大銀杏黄ばみて村照らす 右城暮石 上下
墨を磨る秋蝶の黄がちらちらす 山田弘子 螢川
壮年の大仏にして石蕗の黄よ 中村明子
売られる映画館のネオン息づく赤青緑黄 栗林一石路
売ト子枯木に黄なる灯を守り 岸風三楼 往来
壷焼の潮の煮えて黄なりけり 小杉余子
夏の雲黄なる蝶々落しけり 長谷川かな女 雨 月
夏みかんの皮の黄浮かべ運河の朝 古沢太穂 古沢太穂句集
夏山の白日虻の黄は失せぬ 石橋辰之助 山暦
夏立つや残るは黄なる花一つ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
夏菊の黄のしまりしは夕べなる 細見綾子 花寂び
夏菊の黄はかたくなに美しき 富安風生「松籟」
夕ざれて河骨の黄を灯す水 山田弘子 こぶし坂
夕日消ゆ山吹草の黄を溶かし 木村恊子
夕時雨来て狸藻の花黄なり 内藤吐天 鳴海抄
夕浅間向日葵は黄を強く放つ 桂信子
夕焼の黄にかはりゆく蛇の衣 柴田白葉女 『冬泉』
夕燒けて雨雲黄なり稻の花 稲の花 正岡子規
夕蜘蛛の貌のくまどり黄なるかな 下村梅子
夕風は黄釣船よりはじまりし 木附沢麦青
外寝らに黄ろき月は海を出づ 岸風三楼 往来
夜の秋のそこの黄柏の文机 岡井省二
夜を照るや黄紫二枝の瓶の菊 石塚友二 方寸虚実
夜学校黄なる門燈ふたつ置けり 岸風三楼 往来
夢想枕神ならば神郭公 黄吻 選集「板東太郎」
夥しく黄なる落葉や草紅葉 小澤碧童
大きレモンの冬陽のやうな黄をしぼる 上野さち子
大くわりんぐるり廻して斑(むら)なき黄 高澤良一 宿好
大和どこも団栗柴の黄ばむ頃 右城暮石 声と声
大団円蜘蛛の匠の尻黄なり 藤田湘子 てんてん
大夕立ひる湯に柳黄ばみけり 『定本石橋秀野句文集』
大寒や浅黄のこゑの藪雀 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
大年の黄の夕焼を窓の幸 三橋敏雄
大斜面役の行者の葛黄ばむ 右城暮石 上下
大銀杏黄は目もあやに月の空 川端茅舎
大銀杏黄怨恨乳垂り結ひてけむ 石塚友二 方寸虚実
大食を上座に栗の飯黄なり 夏目漱石
大鯨黄なる西日に曝しけり 松瀬青々
天に黄の枇杷や初老の阿弥陀仏 古舘曹人 能登の蛙
天地玄黄あれよあれよと蛇穴に 栗林千津
天平のいろに御衣黄さくら咲く 宮川みね子
天離る百合の下葉のうち黄ばみ 太田鴻村 穂国
女郎花にはこまやかな黄を賜ひ 田畑美穂女
女郎花月夜のねむり黄にまみれ 六角文夫
女郎花染みて莖まで黄なりけり 松瀬青々
妻子等を書斎に逃げて菊黄なり 遠藤梧逸
子にあまえたんぽぽの黄はさらに濃し 原コウ子
子のものは実りの黄と赤毛絲編む 香西照雄 対話
子の描きし絵の如し黄の月上る 石井とし夫
子ら縊死を小声に話す石蕗は黄に 赤尾兜子
家焼けし匂ひ道翹の黄は濃ゆし 阿部みどり女
寄居虫や岩陰に黄の忘れ傘 杉本寛
寄居虫や黄名粉のやうな浜の砂 鈴木雅子
寐ごゝろや萌黄の蚊屋の薄月夜 松岡青蘿
寒つよく花黄に暮るゝ梅林 長谷川かな女 雨 月
寒む~と黄紅葉紅葉曇りけり 高木晴子 晴子句集
寒取や霜の浅黄を踏荒し 他力
寒灯に黄しき貌の並びけり 小寺正三
寒菊の避寒の宿に黄なるかな 青木薫風郎
寝ごころや萌黄の蚊屋の薄月夜 青蘿「青蘿発句集」
寝不足の眼に枇杷の黄の重しとも 小松崎爽青
寡黙な鉄材身の錆び冬日の黄より濃し 磯貝碧蹄館 握手
小さき黄の夕ベカリフォルニアポピー 山田弘子 懐
小家の掃除凍河に黄なる塵落す 細谷源二 砂金帯
小式部が腹にあるとき梅黄なり 椎本才麿
小旗の黄無視されて薄暑なる街路 長谷川かな女 花寂び
小梨の花浅間は浅黄いろに白い雲おく 荻原井泉水
小樽運河ガス燈黄なる雨月かな 細井みち
小焚火の黄を得ぬ遠火は緋の巨花ぞ 香西照雄 素心
少年の黄のシャツ酸ゆし牛膝 児玉悦子
少年泳ぐ記憶の野川花は黄に 大井雅人 龍岡村
山々は萌黄浅黄やほとゝぎす 子規句集 虚子・碧梧桐選
山と海あひだに黄なる麥の秋 森鴎外
山の影湖心にしづめ黄釣舟 加藤耕子
山の黄は山吹風の膨らめる 阿部みどり女
山より湧き信濃の蝶は少し黄に 筑紫磐井 未定稿Σ
山を出て満月黄なり雪解風 相馬遷子 雪嶺
山上の霧に夜明けて黄なる糞 右城暮石 声と声
山冷に御簾みな黄なり遅桜 渡邊水巴 富士
山吹に黄の翳はしる妬心かも 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
山吹の一重を愛し黄を愛し 重田順子
山吹の冷えつゝ黄なる月夜かな 渡邊水巴 富士
山吹の移りて黄なる泉さヘ 服部嵐雪
山吹の黄に感情の走りたり 金田咲子 全身 以後
山吹の黄の一枝に春送る 小澤碧童 碧童句集
山吹の黄の忽然と石河原 井上康明
山吹の黄の鮮らしや一夜寝し 橋本多佳子
山吹の黄や寝頃なる月ほのに 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山吹の黄を挟みゐる障子かな 波多野爽波 『湯呑』
山吹の黄を突っ切りて正受庵 高澤良一 燕音
山吹は山の黄の花友の花 大井雅人
山峡の風に黄ばみて余り苗 高澤良一 鳩信
山椒の黄ばむ畠の日和かな 細見綾子 花寂び
山河ただ寄生木の実の黄の乾び 木村蕪城 寒泉
山繭の目覚め近づく萌黄かな 加藤知世子
山繭の見えては消ゆる黄がひとすぢ 加藤楸邨
山茱萸にけぶるや雨も黄となんぬ 水原秋櫻子
山茱萸のどこさびしきや黄はさびし 及川貞 榧の實
山茱萸の花のこぞりて黄を凝らす 塩川雄三
山茱萸の貴い黄いろ海があり 駒 志津子
山茱萸の黄が流れ出す雑木山 山本富枝
山茱萸の黄が開け放つ朝なりき 高澤良一 素抱
山茱萸の黄にむらありて鄙曇 高澤良一 ももすずめ
山茱萸の黄に染み紫煙ゆらとある 太田鴻村 穂国
山茱萸の黄に染み鮮かな変身 男谷卯女
山茱萸の黄の点描や朝の椅子 水野すみ子
山茱萸の黄はおほひ得ず春の雪 及川貞 榧の實
山茱萸の黄や町古く人親し 大野林火
山茱萸の黄を春色の出入口 後藤比奈夫
山茱萸の黄を解きしより雨がちに 新川智恵子
山茱萸の黄煙たちし谷戸日和 神野重子
山茱萸は暗き雲負い黄を放つ 吉池保男
山茶花や日日蕊の黄の乱れ 瀧井孝作
山麓や黄ばかり多き秋の蝶 有馬籌子
岩清水一蝶さらに黄なりけり 古舘曹人
峠ゆく雲が晩稲の黄に馴染む 田中青濤
嵐めく夜なり檸檬の黄が累々 楠本憲吉
嶺の星黄を氷壁へしたたらす 太田嗟
巾一ぱい河口の流れ稲黄ばむ 茨木和生 木の國
布浅黄女人遍路の髪掩ふ 草田男
帚木の花季の黄滲むうすみどり 中戸川朝人 残心
帰農記にうかと木の芽の黄を忘ず 細谷源二 砂金帯
常くらき臭木の葉より黄ばみけり 百合山羽公 故園
平鰤の黄線躍る漁火の底 ひらきたはじむ
広沢のめぐりに黄なるもみぢ哉 妻木 松瀬青々
庭先の山吹黄なる蜆汁 遠藤梧逸
弄根清浄♯る黄水で仙化せよ 加藤郁乎
形代の浅黄の帯ぞ淋しけれ 比叡 野村泊月
後山の池に二つ葉黄唾蓮 飯田蛇笏 椿花集
御代の春蚊屋は萌黄に極りぬ 越人
忘れゐし空地黄となす泡立草 山口波津女
恋すみし猫ゐて画集黄に溢れ 野澤節子 牡 丹
愛は黄とミモザの花のひた烟り 後藤比奈夫 めんない千鳥
愛欲るや黄の朝焼に犬佇てり 金子兜太 少年/生長
慈悲心鳥黄の衿かけて講の婆 佐野美智
懸け煙草黄ばみてやさし飛弾言葉 加倉井秋を 『真名井』
或る夜鮮やか丘の左右のレモンの黄 阿部完市 絵本の空
戦燼の中の日輪黄なる春(空襲によつて都心への交通機関は数日殆ど杜絶することあり、やむなく早朝より疲労甚だしき足をひき世田谷在より丸之内まで徒歩にて通勤す) 石原八束 『秋風琴』
手繰り来ていさきの縞の黄が躍る 岩崎英恭
打水や夕くれ雲の黄に赤に 大塚甲山
投扇興黄なる扇がよく当る 星野立子
折り持つや甘草の黄も夕霧らふ 林原耒井 蜩
指きりげんまん 黄のランドセル踊らせて 水林秀子
掬ひたしたんぽぽの黄の濃きところ 福神規子
揚羽蝶鏡に入りて黄を濃くす 谷口桂子
摘みためて黄が濃くなりぬ女郎花 節女
改めて石蕗を黄なりと思ふ日よ 後藤比奈夫 花匂ひ
散るを待つ寸前いてふ黄を極む 岩井完司
数の子の黄のほのぼのと夜明けたり 秦夕美
数珠玉の花黄に洩るる梅雨入かな 八木林之介 青霞集
整列兵のように 黄ばんで 開拓史書 伊丹公子 パースの秋
文化の日上野の杜の日が黄なり 渡邊千枝子
文旦の大いなる黄を二三日 伊予田由美子
斑雪山半月の黄を被るなり 大野林火
新田は黄ばみ勝なりさつま芋 薩摩芋 正岡子規
日が入りて天また黄なり麦の秋 相馬遷子 山国
日に一つ食ふ夏蜜柑麦黄ばむ 皆川白陀
日に酔へる我にます~たんぽゝ黄 上村占魚 鮎
日の当る地力のかぎり柚子を黄に 中戸川朝人 星辰
日向水木連翹の黄を貶めて 高澤良一 寒暑
日向黄に日蔭は蒼しうさぎの眼 岩田昌寿 地の塩
日蝕せんとして秋の雲黄なり 寺田寅彦
日輪も朱欒も黄なる国に来し 橋本鶏二
日輪や身も黄に透きて麦を刈る 久保田月鈴子
日高きに垂れたり*かやの黄ばめるを 尾崎紅葉
早出みかんの青顔黄顔魂祭 中拓夫 愛鷹
早稲の黄を刈るや素顔の能登荒れに 山根松於
早稲は黄に晩稲は青し能登に入る 森澄雄
昃りても黄は明るくて花ミモザ 広瀬美津穂
昃りて石蕗はつめたき黄となりぬ 今井勝子
星あかり驕れる河豚を黄に染むる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
星もさぞあかしちぢみに浅黄うら 立花北枝
星飛びしあとに黄の星紅の星 相馬遷子 山国
春が来て黄の番号を丸太に描く 大屋達治 繍鸞
春くるる供花は黄なりき小督塚 飯田蛇笏 春蘭
春の月枯木がくれに黄にけぶる 渡邊水巴 富士
春の月疲れたる黄をかかげけり 木下夕爾
春の水獺の潜けば黄となんぬ 青畝
春の雪黄なる眠りを訪ひしのち 高橋睦郎 稽古
春の雷山吹の黄が葉がくれに 阿部みどり女
春を待つ絵手紙に黄を重ねつつ 板橋美智代
春一番やみて野に落つ月黄なり 亀井糸游
春寒や葱の芽黄なる籠の中 室生犀星 魚眠洞發句集
春月の病めるがごとく黄なるかな 松本たかし
春菊の大きな花は黄が褪めし 高野素十
春遠したとへ灰皿黄なりとも 加倉井秋を 午後の窓
春雨や追込籠に黄なる鳥 春の雨 正岡子規
晩稲の黄と瀬音見おろす朝日とわれ 古沢太穂 古沢太穂句集
晩菊の黄の盛り上がる日和かな 佐藤たつ子
暁天の黄や紫や初手水 松毬路
暗し青年連翹の黄に顔しかむ 田川飛旅子 『植樹祭』
暦日やみづから堕ちて向日葵黄 鈴木しづ子
暮るゝまで新樹黄にして幟立つ 百合山羽公 故園
暮雪にて燈火黄を増す貧しさよ 中島斌男
書割も豊年の黄や村芝居 宮津昭彦
月のぼる菜の花も黄を咲き揃へ 角川春樹
月の出の黄なる海へと蟇すすむ 山口誓子
月の穢に妙にも黄なる月見草 松本たかし「火明」
月低く黄なり晩夏の小漁港 下村ひろし 西陲集
月明りたんぽぽのひそかなる黄かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
望遠レンズ花菜畑の黄を絞る 高澤良一 ねずみのこまくら
朝がほや日剃りの髭も薄浅黄 黒柳召波 春泥句集
朝曇黄のうちかすむ女郎花 高澤良一 素抱
朝筵くちなしの黄を乾し並べ 大島葭人
朝貌の黄なるが咲くと申し来ぬ 夏目漱石 明治二十九年
朝顏の淺黄は薄き夜明哉 朝顔 正岡子規
朝顔ややす~染みし紅浅黄 渡邊水巴 富士
木々四囲に黄ばみ黙せり軍馬祭 石川桂郎 含羞
木枯や器の円に卵の黄 鈴木鷹夫 風の祭
木麻黄の葉風涼しや夏季講座 石井桐陰
末黄ばむ竹屋の竹や冬の雨 宵曲
本屋の前自転車降りるカンナの黄 鈴木しづ子
朱よりもはげしき黄あり冬紅葉 井沢正江 晩蝉
朱欒黄に南蛮渡来図寺に古る 大橋敦子 勾 玉以後
杜若雨に似合ひて黄なりけり 風人子
松の花砂丘さみしく黄に乾く 西本一都 景色
枇杷の花虻より弱き黄なりけり 野村喜舟 小石川
枇杷の黄を旅に加ふる雨ながら 古舘曹人 能登の蛙
枇杷は黄に天主の塔は海光に 石原八束
枇杷は黄に漱石先生ポンプ押す 武田伸一「出羽諸人」
枇杷黄に信心多き佃島 田原俊夫
枇杷黄ばむほの明るさに百日忌 高澤良一 燕音
枕辺に青黄のみかんまどろめり 角川源義『西行の日』以後
枝揺れて連翹の黄の固くなる 後藤夜半 底紅
枝柿の半は食へず黄や青や 尾崎紅葉
枯れ黄ばむけしきに萩の盛りかな 原石鼎
枯山に抱かむ黄なる日垂れて来よ 石橋辰之助 山暦
枯色に山茱萸の黄の新しや 高木晴子
枯草に禽声黄なる百ケ日 飯田龍太
枯菊になほ愛憎や紅と黄と 久保より江
枯葛の一途なる黄に日本海 野見山ひふみ
柄の処僅に黄なる紅葉かな 温亭句集 篠原温亭
柏餅焼いてくらうて繭黄なる 太田鴻村 穂国
柔かき黄のちやんちやんこ身に合ひて 高野素十
柚子の黄の北鎌倉の駅小さき 有働 亨
柚子の黄の濁りそめたる二月かな 鈴木真砂女 夕螢
柚子の黄の目立つそこより津和野路に 小谷鶴枝
柚子は黄に一枚のわが黒羽織 松村蒼石 春霰
柚子は黄に富士を神とす九十九谷 田中水桜
柚子は黄に母の日向といっしょです 田口満代子
柚子山の黄を集めあり柚子の籠 殿村莵絲子 雨 月
柚子黄なり谷の四五戸に温泉のけむり 悌二郎
柚子黄なる蜑が家居の四五戸ほど 草堂
柚子黄ばみ障子貼る日となりにけり 田中冬二 俳句拾遺
柿の花きのふ散りしは黄ばみ見ゆ 蕪村「新花摘」
柿葺新樹のふらす花黄なり 瀧春一 菜園
栗干すや飢餓の昔のごとく黄に 百合山羽公
栗飯ヤ糸瓜ノ花ノ黄ナルアリ 正岡子規
桑畑や枝黄に春の雨上り 滝井孝作 浮寝鳥
桑畑を萌黄の雨のとほりけり 岡本まち子
桜の葉黄ばむと見つゝ旅つゞく 林原耒井 蜩
梅の実の落て黄なるあり青きあり 梅の実 正岡子規
梅雨けむる水暮れゆくに黄な花は 佐野良太 樫
梅雨の月黄に熟れ切つて滴りさう 上野さち子
梅雨の蝶たま~まよひ来て黄なり 久保田万太郎 草の丈
梅雨の蝶黄は舞ひ白は沈みけり 信清愛子
梅雨茸の小さくて黄に君の墓 田村木国
梅雨雲に炭竃の火ぞ黄なりけり 川端茅舎
梵字めく斑のあり黄なる盆の月 福田蓼汀
楢黄ばむひと日見舞を怠れば 橋本榮治 麦生
橘の黄の小さきは右近かな 吉田鴻司
橘の黄を珠として弓矢神 桂樟蹊子
橘は黄を深めつつ天の鈴 長谷川秋子
橙に黄が走る日の寺詣 曽根けい二
橙も返照の海も黄なりけり 水原秋櫻子
機始縦糸を黄に草木染 近藤一鴻
櫨の実の 黄なるひかりが 冬をよぶ 吉岡禅寺洞
櫨の実の黄なるひかりが冬をよぶ 吉岡禅寺洞
櫻桃の葉黄ばみて庭の秋淋し 秋淋し 正岡子規
歩かねば山吹の黄に近づけづ 酒井弘司
歩をとどむ藪かげ山吹草の黄に 瀬戸口民帆
歳月や母の庭なる石蕗黄なり 小林康治 四季貧窮
死病診るや連翹の黄に励まされ 相馬遷子 雪嶺
残る雪月黄なる夜を失せにけり 水原秋櫻子
残暑光ひとの病ひを黄に染めつ 斎藤空華 空華句集
残菊の黄もほとほとに古びたる 松本たかし
残菊の黄をとじこめし氷かな 辻 桃子
残菊の黄をとぢこめし氷かな 辻桃子
残雪の月黄なる夜を失せにけり 水原秋桜子
毒茸や赤きは眞赤黄は眞黄 茸 正岡子規
水すみて柚の黄なるより牛肥えぬ 飯田蛇笏 春蘭
水浅黄は汀女の色の矢車草 青木重行
水無月の薄青く蝶黄なりけり 青薄 正岡子規
水着の黄濡らし終ふまで羞ろふ 加倉井秋を
水禍田の一望の黄に秋の雲 宮武寒々 朱卓
永き日やパレツトに足す黄と緑 内田鴨川
汗し病み母よ黄天に風呂溢る 片山桃史 北方兵團
汗し病み黄天に背に撒水車 片山桃史「北方兵団」
汗若き鉄工に浮き黄の気球 徳弘純 非望
汚れなき冬蝶の黄を愛しめり 新井 英子
江南の千里に黄なり花菜雨 李 國民
没る日黄に防毒マスク脱ぎて嗤ふ 岸風三楼 往来
河口より黄のトラック群わが戸口に 大石雄介
河骨の明暗しりぞけし黄いろ 渋谷道
河骨の水抽きかねて黄なりけり 臼田亜浪 旅人
河骨の黄に咲き何の告白や 石井康久
河骨の黄のかがやけるウトナイ湖 保原敏子
河骨の黄のすがれしも残暑かな 敦
河骨の黄は星のごと鏡池 皆川盤水
河骨の黄を来迎の黄となせる 後藤比奈夫
河骨の黄蕾文殊大菩薩 八木林之介 青霞集
油屋の赤き腰巻黄巻紙 仁平勝 東京物語
法王を悼み黄の濃きミモザかな 五十嵐哲也
波郷忌が近づき石蕗は黄を競ふ 皆川盤水
浄土寺へ往来の野面麦黄ばむ 滝井孝作 浮寝鳥
浅水に浅黄の茎や蓼の花 太祇
浅間猛る日々を黄ばめり山の麦 臼田亞浪 定本亜浪句集
浅黄とも白ともつかぬ袷かな 袷 正岡子規
浅黄桜たま~掃ける庭広し 島村元句集
浅黄空おらが一茶の國の春 高澤良一 宿好
浅黄空巣につく鳰の声なるかな 冬の土宮林菫哉
浪さかまいてしらぎく黄ぎくみだれ菊 幸田露伴
浪乗りの塩からき目にカンナの黄 久保田月鈴子
浮島に夏花黄なる気後れがち 成田千空 地霊
海の照り石蕗の黄の照り岬明るし 山口超心鬼
海瀞茫黄一丸のなつの月 蘇山人俳句集 羅蘇山人
海照も日受もよくて稲黄ばむ 茨木和生 遠つ川
海苔汁の手際見せけり浅黄椀 松尾芭蕉
海辺の松黄に汚れ寒日和 瀧春一 菜園
涅槃図の嘆きは黄ばむ沙羅樹にも 乾 登美子
涅槃西風濁りて浪も黄なりけり 石塚友二 光塵
淡けれど黄は遠くより女郎花 大久保橙青
深吉野に水霜来れば楮黄ばむ 鈴間斗史
添水にも黄を散らしけり石蕗の花 今泉貞鳳
湯治場や黄なる萱草得て帰る 萱草の花 正岡子規
湯船黄に淀むよ蛇ののろい湧く 八木三日女 赤い地図
湯葉ひさぐ雪解の店の黄な灯色 長谷川かな女 花寂び
満月の黄をしたたらす花樺 森澄雄
満月や黄櫨の葉紅くて眠られぬ 小川久美子
源三位墓前眼に沁む黄千両 松本 進
滑り台よりたんぽぽの黄ヘダツシユ 水田むつみ
滝落つるところに石蕗の黄ありけり 久保田万太郎 流寓抄
漁家農家菜の花の黄を内囲ひ 猪俣千代子 秘 色
漁船の帆黄ばみ秋燕高かりき 大串章
漂へる蝶々黄なり秋祭 前田普羅 春寒浅間山
潮ひびくなり浜石蕗のいよよ黄に 臼田亜浪 旅人
潮騒にたんぽぽの黄のりんりんと 阿波野青畝
澄み深き玻璃戸の菊の黄にひらく 太田鴻村 穂国
激写避け黄のかがよへる池菖蒲 赤尾兜子
灯の照らす風花黄なり松川駅 殿村莵絲子 牡 丹
灯台やたんぽゝの黄を撒きちらし 森田峠 避暑散歩
炯々とたんぽぽ黄なり万愚節 百合山羽公 寒雁
炯炯とたんぽぽ黄なり万愚節 百合山羽公
烟捲いて秋の夕日の海黄なり 秋の夕日 正岡子規
熔岩を来し眼に花菜の黄蜜柑の黄 大岳水一路
熔鋼が奪った視力へ黄の標識 河谷章夫
熱の中冬田に黄なる焔を恐れ 小宮山遠
熱退きぬ空漠として黄の疲弊 日野草城
燦と日が連翹の黄はなんと派手 池内友次郎 結婚まで
父と子にミモザの風の黄なりけり 小島千架子
父母ありし昔真桑や灯も黄いろ 森澄雄「四遠」
牛にも齢湖も花菜の黄も淡く 桂信子 花寂び 以後
牧黄なり悲愁の秋日岩にふり 石橋辰之助 山暦
物や思ふいはでも花に蝶黄なり ふぢ 俳諧撰集玉藻集
猫ねむり枯園の陽は黄と澄めり 中尾白雨 中尾白雨句集
猶黄なる枯木の中の銀杏かな 桜井芳水
玄黄の間に蓑虫下りけり 宮地良彦
王道は山茱萸の黄を貫きて 高澤良一 素抱
現はれて黄の塊や棕櫚の花 山西雅子
現れて黄の塊や棕櫚の花 山西雅子
現身にひびかぬ風のわたる時ここの公孫樹の黄なるかがやき 河野愛子
瑞々と黄に燃え残し葉鶏頭 鈴木花蓑句集
瓜の皮夜も黄なり外寝する人に 山口青邨
甘草の葉に一とすぢの黄いろかな 高野素十
産みに来てえにしだの黄に喰はれゐる 栗林千津
田が刈られ畔豆黄ばむ出雲崎 森田公司
畑三畝菊の黄なるは喰ふべく 下村牛伴
畝を冠とす受難の一路麦は黄に 藤後左右
病にも色あらば黄や春の風邪 高濱虚子
病む日にと買ひし浴衣の黄ばみけり 川越節子
病める児はハモニカを吹き夜に入りぬもろこし畑の黄なる月の出 北原白秋
病熱の憂しき夕餉に蜜柑の黄 中尾白雨 中尾白雨句集
病葉の掃きよする黄の俄かなり 皆吉爽雨
痩せほそる蟷螂千草黄ばみけり 上村占魚 鮎
白き花黄の花殉教地の五月 大橋敦子 勾 玉以後
白と見し黄と見し花の忍冬 前内木耳
白は黄に花を譲りて野の晩夏 吉村ひさ志「ホトトギス名句集」
白もゝや細き流れの浅黄なる 蘇山人俳句集 羅蘇山人
白も黄もさき竝べたり菊の花 菊 正岡子規
白も黄もなく蝶まぎれ雲の峯 山口青邨
白も黄も咲きならべけり菊の園 菊 正岡子規
白や赤や黄や色々の灯取虫 火取虫 正岡子規
白梅や蕊の黄解けて真盛り 鈴木花蓑句集
白樺の満面黄なり子守唄 堀口星眠 営巣期
白樺は黄なり火星を近づけて 堀口星眠 営巣期
白樺をめぐりて秋の蝶黄なり 瀧春一 菜園
白樺林萌黄に雲を流したり 臼田亞浪 定本亜浪句集
白菊と思ひし菊の黄を咲ぬ 菊 正岡子規
白薔薇と成る黄蕾や赤子いかに 香西照雄 素心
百済寺までの*ひつじ田黄ばみをり 高木良多
皇帝の愛でし黄ならむ冬薔薇 山田弘子 懐
盆地黄に乾く雪山の中にして 相馬遷子 雪嶺
盆栽の橙黄なり春隣 寺野守水老
盆栽や梅つぼみ福壽草黄なり 福寿草 正岡子規
真夏の夜背面鏡の花は黄に 宮武寒々 朱卓
真菰枯れ芦枯れ沼辺黄なりけり 水原秋桜子
真黄なる蝶現れし秋たゞ中 高浜虚子
睡りゆらぐ首萢原の黄のかぎり 成田千空 地霊
短か夜の明けて花なん黄なりける 林原耒井 蜩
短夜の不眠のなげき日が黄なり 石塚友二 方寸虚実
石の島花石蕗の黄を飛びとびに 冨田みのる
石摺を掛けて盆蘭の花黄なり 蘭 正岡子規
石蕗の黄に十一月はしづかな月 後藤比奈夫 初心
石蕗の黄に心せかるる何やかや 阿部みどり女 『石蕗』
石蕗の黄のいまも櫓へ隠道 古館曹人
石蕗の黄のかく褪せ落葉かくつもり 久保田万太郎 流寓抄
石蕗の黄のほつと枯色起美女亡し 松村蒼石 雁
石蕗の黄の内助の母に詣でけり 古舘曹人 砂の音
石蕗の黄の夕日の紐を垂れにけり 古舘曹人 砂の音
石蕗の黄は必死なる色東尋坊 松山足羽
石蕗の黄は日の晴曇も奪ふなし 昼間槐秋
石蕗の黄をひた輝かす漁家ばかり 佐野まもる 海郷
石蕗の黄をわぎ家に石蕗の黄を磯に 佐野まもる 海郷
石蕗の黄を剪つてしまひし日の虚ろ 山田弘子 懐
石蕗黄なり声あげて吾を生みし母 本宮哲郎
石蕗黄なり心に彫むことのあり 後藤夜半 底紅
石蕗黄なり文学の血を画才に承け 富安風生
石蕗黄なり母子順調に老ゆるなり 山口都茂女
石蕗黄なり碁は白黒で人遊ぶ 池内友次郎
石蕗黄なり老を励ましくるるなり 後藤夜半 底紅
砂丘寒く折れば乳噴く花黄なり 森川暁水 淀
硫黄噴く谷をはれゆく霧黄なり 片岡 青苑
碑文字は水の切れ味柚子は黄に 田中水桜
磯菊の汐傷みして黄の名残 高澤良一 随笑
神主の鶏遠出して柚子黄なり 大峯あきら 鳥道
神将と黄套われと余人なし 伊丹三樹彦 仏恋
福寿草の黄に陽たまれる豊かさよ 青峰集 島田青峰
福寿草わがそばに咲き黄いろなる 廣江八重櫻
福寿草黄の走り見せあたたかき 野村完升
秋うらら茶髪も黄髪も飛んで行け 北島白蜂子
秋の空浅黄に澄めり杉に斧 漱石
秋の蝶の黄は狂ほしきまで黄いろ 草川道子
秋の蝶日向に出でて黄なりけり 大久保橙青
秋の黄のながるる汽車の窓に富士 京極杞陽 くくたち上巻
秋日和畳いよ~黄ばむかな 吉屋信子
秋涼しすぐ黄に染まる湯手拭 福田蓼汀 秋風挽歌
秋草も蒼黄として咲き急ぐ 相生垣瓜人 明治草抄
秋草も黄勝ちの野草摘みとりぬ 高澤良一 宿好
秋蝶として黄斑の派手なるも 殿村莵絲子 花 季
秋蝶のいよいよ小さく黄なるかな 京極杞陽 くくたち上巻
秋蝶のこの黄の濃さよ小さゝよ 星野立子
秋蝶の黄の澄みとほるあしたかな 嶋田麻紀
秋蝶の黄を強くせり土俗舞 細見綾子
秋蝶の黄を追ふホームの端の人も 川崎展宏
秋蝶や春そのまゝの黄に白に 尾崎迷堂 孤輪
秋近し黄な斑出来て葉鶏頭 龍胆 長谷川かな女
秋雨に黄に染む合歓の梢かな 会津八一
秋雨の空へ木木うす紅うす黄 池内友次郎 結婚まで
秋風に体温黄ばむ夕ベ来ぬ 宇多喜代子
秋風や黄ばみそめたる鮎の腹 千影
秋風や黄旗かゝげし隔離船 大場白水郎 散木集
秋高し滝の上に来て蝶黄なり 河野南畦 『風の岬』
秘色とは秋蝶の黄と思ひけり 宗田安正
稲の黄に出てすぐねむる赤子かな 六角文夫
稲の黄の日があたるより爛熟す 川島彷徨子 榛の木
稲熟れるゆふべをともす燈も黄なる 加畑 吉男
稲雀黄に溺れずに雀色 栗原加実
稲黄ばむ頃よ聞きしむ音ありて 右城暮石 声と声
穴を出し蛇連翹の黄を呑むか 萩原麦草 麦嵐
空に伸び翳りを知らぬミモザの黄 綿谷千世子
空林のなくなるところ芽が黄なり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
空梅雨に黄なるネクタイひるがへす 横山白虹
空深し花棕梠の黄は誰も見ず 上関ふみ子
空白のありてすなはち連翹黄 後藤夜半 底紅
空高し黄のセーターの編み上り 今泉貞鳳
窯出しの浅黄の小鉢風光る 垣迫俊子
立冬の川を彩る胡桃の黄 阿部みどり女 月下美人
童画展連翹の黄がここに撥ね 福永耕二
竹林に黄なる春日を仰ぎけり 高浜虚子
筍が伸びる雪解富士黄いろ 萩原麦草 麦嵐
粟干すや飢餓の昔のごとく黄に 百合山羽公 寒雁
糊代の黄ばんでゐたる紙帳かな 茨木和生 倭
紀のくにの黄のくにのひととこぐなり 阿部完市 純白諸事
紅がちと黄がちの二寺の花御堂 森田峠
紅がちに黄がちに城の秋を描く 大橋敦子 手 鞠
紅ばなに最上川霧黄となりぬ 林翔
紅も萌黄も見ゆる木の芽かな 木の芽 正岡子規
紋の黄を晒して歩く河原鶸 櫻井掬泉
紙黄ばむ岩波文庫春惜しむ 澄川きよ子
紫の幕紫の総菊黄なり 京極杞陽 くくたち上巻
紫も黄も秋蝶のさまに飛ぶ 山田弘子 螢川
紫陽花に浅黄の闇は見えにけり 紫陽花 正岡子規
紫陽花の浅黄のまゝの月夜かな 鈴木花蓑句集
紫陽花の浅黄は宵にふさはしく 鈴木花蓑句集
紫陽花の雨に浅黄に月に青し 紫陽花 正岡子規
細月に黄を奪はれて月見草 阿部みどり女
経団連十三階の黄の造花 松本文子
網代垣越えて撓みし柚子黄なり 秋櫻子
綴糸の萌黄凹みし布団かな 吉屋信子
綿虫の必死に透ける黄蘗(きはだ)かな 宮坂静生 春の鹿
綿衣黄也村醫者と見えて供一人 綿子 正岡子規
緋梵天黄梵天父の雪かたし 河野多希女 月沙漠
緑の羽根さして彼岸の餅黄なり 百合山羽公 寒雁
緑の羽根黄口童子に呼ばれ買ふ 百合山羽公 寒雁
緑蔭を出づる黄の騎手赤の騎手 森田峠 避暑散歩
繭玉の寡なからざる黄の世界 後藤夜半 底紅
老人のぽつねんと黄の葉鶏頭 吉田紫乃
耕やこころの岸の黄そのまま 柚木紀子
肥かつぐ寡婦に東嶺の月黄なり 飯田蛇笏 山廬集
背戸の畑なすび黄ばみてきり~す 旦藁
胎動の肌いろ秋をあえかに黄 三谷昭 獣身
胴ぬきの黄ばめる絹や土用干 石川桂郎 高蘆
能なくて冬たんぽぽの黄が眩し 原コウ子
膝のうへに黄な粉をこぼしよろしこの人 中塚一碧楼
臘八の飲食湯葉の黄をくらふ 永橋並木
臘梅の黄の明るさの先に海 水田むつみ
色黄にして穴の多きは毒茸ぞ 茸 正岡子規
色黄にして裏に穴あるは毒茸ぞ 茸 正岡子規
芋の露天地玄黄粛然と 平井照敏
芙蓉さき黄にさき薄き陽に透ける 中尾白雨 中尾白雨句集
芝枯れて庭の隅々まで黄なり 山口波津女 良人
芝起伏してたんぽぽの黄を秘むる 深見けん二
芝青く萩紅く犬白く蝶黄なり 京極杞陽 くくたち上巻
花三椏過ぎてゆく刻また黄なり 塚本 久子
花扇黄奴の詩画を点ずべし 佐藤惣之助 蛍蝿盧句集
花明り夕映の黄が退りつつ 香西照雄 素心
花桐の下に糞尿黄なりけり 山口誓子
花石蕗の黄は憎きほどうつくしき 甲斐 潮
花石路や黄を静かなる色と知る 山田弘子 こぶし坂
花結びの黄襷で搗く祝餅 毛塚静枝
花菜の黄殊にも雨の河川敷 門脇洋星
花菜黄に黄に黄に金ンに死はそこに 津沢マサ子
花西瓜黄がじりじりと日の盛り 森白梠
花野統ぶ松虫草の水浅黄 西本一都 景色
芽ぶく楢山繭うすき黄に透ける 草村素子
芽吹く中黄なるは咲きて連翹に 林翔 和紙
芽柳の浅黄萌黄を風の梳く 阪尻勢津子
若葉して水白く麥黄ミたり 蕪村 夏之部 ■ あらたに居を卜したるに
苦瓜も真黄に秋をつくしをり 百合山羽公 故園
茱萸は黄にあかつきさめてゐるちぶさ 三橋鷹女
茱萸は黄にて女めくなり吾がちぶさ 三橋鷹女
茱萸は黄に曉さめてゐるちぶさ 三橋鷹女
茶の花のうひうひしくも黄を点じ 青畝
茶の花のうひ~しくも黄を点じ 阿波野青畝
茶の花のわづかに黄なる夕べかな 蕪村
茶の花の黄をつけて来し犬の貌 川崎展宏
茶の花や白にも黄にもおぼつかな 蕪村 冬之部 ■ 浪花遊行寺にてばせを忌をいとなみける二柳庵に
茶を嗅ぐや耳に黄鍾調をなす 高浜虚子
茸の塵掌にかきよせて黄なるかな 右城暮石 声と声
茸山や巨石うしろに酒黄なり 渡邊水巴 富士
草々に蒲公英の黄の自己主張 福島恭子
草はらのほのぼの黄なる初しぐれ 瀧春一 菜園
草むらむら薔薇の黄なるあり赤きあり 薔薇 正岡子規
草むらむら薔薇黄なるあり赤きあり 薔薇 正岡子規
草苅女草苅男ぜんぶが黄 細谷源二 砂金帯
草餅の黄ナ粉入日の色に触る 菅 裸馬
荒れなぎて囲の蜘蛛黄なる山泉 飯田蛇笏 春蘭
荒天の海にたんぽぽ黄をつよむ 桂信子 花寂び 以後
菊は黄に雨疎かに落葉かな 蕪村 冬之部 ■ 大魯が病の復常をいのる
菊枯れて梔黄ばむかき根かな 森鴎外
菊黄なり白き御帳のやはら閉づ 太田鴻村 穂国
菜の花のどこで逢ひてもよき黄かな 比奈夫
菜の花の中に夕日の黄なるかな 菜の花 正岡子規
菜の花の怒濤のごとき黄なるかな 辰巳あした
菜の花の遥かに黄なり筑後川 漱石
菜の花の黄が曇天を押し返す 望月末夫
菜の花の黄に盗まるるもの持たず 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
菜の花の黄のひきしまる俄寒 藤岡筑邨
菜の花の黄のひろごるにまかせけり 久保田万太郎 流寓抄
菜の花の黄の旅の夜の夢にまで 成瀬正俊
菜の花の黄の極まりて人愛す 浦川聡子
菜の花の黄の滲みわたる昼霞 富安風生
菜の花の黄をまじへけり雛あられ 久保田万太郎 流寓抄
菜の花を出でゝ飛び行く蝶黄なり 蝶 正岡子規
菜種御供すみたる花の黄を尽す 大西八洲雄
萓草の黄からはじまる野の夜明 後藤比奈夫
萩枯れて黄なりさゞなみ盈ち走る 渡邊水巴 富士
落ちし巣に執着の蜂日が黄ばむ 千代田葛彦
落暉たゆたふ群生の黄コスモス 金子千洋子
落暉はや鶏頭の黄を余すのみ 石塚友二 方寸虚実
落葉松の一期たけなは黄が燃ゆる 石塚友二 方寸虚実
落葉焚く煙の中の日黄なり 大橋櫻坡子 雨月
落鮎や浴衣の帯の黄を好み 田中裕明 花間一壺
葉ごもりに淡き黄のあり柿の花 奥野元也
著つけ浅黄浅黄は春を惜むいろ 久保田万太郎 流寓抄以後
蒲公英に茜さすまで黄の濃ゆく 福田蓼汀 山火
蒲公英のにはかなる黄のわきにけり 久保田万太郎 草の丈
蒲公英の踏まれてもなほ黄を残す 石塚淑子
蒲公英の黄のかくも濃し人學す 久保田万太郎 流寓抄以後
蒲公英の黄の鮓やかに石油基地 大下 健二
蓮枯るる満目の中黄の一葉 青邨
蓮翹の黄は近づいてみたき色 稲畑汀子
蔓育ち過ぎて黄独の不作かな 湯川雅
蕊の黄の浮き上りたる落椿 高濱年尾
蕗の薹を黄の蝶とみし犀星忌 井上雪
蕣の世にさえ紺の浅黄のと 横井也有 蘿葉集
蕪白く沢庵黄なり春夕 会津八一
薄々と女郎花てふ黄を始む 蔦三郎
薄の穂石蕗の黄と冬隣り合ふ 石原舟月
薔薇満ちて見上ぐる軒も黄ばらなり 及川貞 夕焼
藤を見て来しが電燈黄に点る 誓子
虎の斑に濃き黄ありけり五月の陽 長谷川かな女 雨 月
虹明りしてぬれ空の麦黄ばむ 石原舟月
蚊帳の上の一燈の黄に目覚めをり 米沢吾亦紅 童顔
蚤取粉黄なるをふりて寝入りたり 山口誓子
蛇使いの笛吹き終わる 黄の南洋 伊丹公子 ドリアンの棘
蛇摶たれ工場黄なる煙吐く 松村蒼石 寒鶯抄
蛇苺五弁黄を濃く草の中 川崎展宏
蜜柑剥く爪先黄なり冬籠 冬籠 正岡子規
蜜柑山黄のまんだらに大き寺 大野林火
蜜柑黄なり庵原八十三ケ村 津田桂影
蝉の森奥へ奥へと日が黄ばむ 千代田葛彦 旅人木
蝋梅の黄を重態と言いぬ 佃悦夫
蝌蚪の国黄(くわう)厚き日をかゝげたり 小川 軽舟
蝶の黄を淡しと思ふ石蕗の花 五十嵐播水
蝶乱舞黄を白が白を黄が追へり 上野泰 佐介
螢恋ひ運転点滅尾燈黄なり 香西照雄 素心
行き行けど菜の花の黄の地平線 藤丹青
行年五十歳漱石は石蕗の黄に 飯田龍太
袖口の浅黄襦袢や秋祭 阿部みどり女 笹鳴
襟巻の浅黄にのこる寒さかな 蕪村
西日差す壁に黄ばみしセロテープ 栗山節子
見えない亡母たんぽぽの黄に日が聚まる 磯貝碧蹄館 握手
見下すや黄雲十里村いくつ 正岡子規
豆の葉に菜の花の黄の付にけり 松瀬青々
貰ひ湯や黄ばらに腸は見せられぬ 栗林千津
貿易風 コロンボ史料の 手紙黄ばみ 伊丹公子 パースの秋
赤*えいの広鰭裏の黄を翻す 山口誓子
赤と黄と青の昔や洗濯船 攝津幸彦 鹿々集
赤は黄に黄は赤にゆれチューリップ 嶋田一歩
赤も黄も太陽の色薔薇盛り 和田西方
赤ん蜂夏日に見れば黄なるかな 原石鼎 花影以後
赤蕪の紅に黄船の飛雪かな 鈴木鷹夫 風の祭
赤薔薇や萌黄の蜘の這ふて居る 薔薇 正岡子規
赤青黄そのいずれかの死をえらぶ 鈴木六林男 桜島
赤黄白まつすぐだからチユーリツプ 川崎展宏
赤黄黒まはり澄んだる独楽が好き 上村占魚 鮎
赤黒黄高麗の厄除団扇かな 川崎展宏
踏まれつゝたんぽぽ黄なり太古より 殿村莵絲子 花寂び 以後
躓いて菜の花の黄に身を投ぐる 仙田洋子 橋のあなたに
車酔ひの菜の花の黄が雨の中 中拓夫 愛鷹
辛子黄に梅雨上りけり心太 永井龍男
辻神に黄なる日とどく晩稲刈 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
近づけば菜の花の黄の密ならず 山本歩禅
近づけば黄の蘂見ゆる椿かな 虚吼句集 相島虚吼
迷ひ来て十一月の蝶黄なり 藤原たかを
逃げし蛇容れ黄麦のつづくなり 津田清子 礼 拝
連翹がこそばゆい黄を溢れしめ 河野多希女 納め髪
連翹に似て非なる木の花黄なり 連翹 正岡子規
連翹のうす黄のさそふなみだかな 久保田万太郎 草の丈
連翹の何も語らず黄より葉へ 渡辺桂子
連翹の迷ふことなき明るき黄 後藤比奈夫 初心
連翹の黄が沸騰す風の中 加藤岳雄
連翹の黄に染まりゐし天下人 仙田洋子 橋のあなたに
連翹の黄に溺れゐる白昼夢 岡 澄子
連翹の黄に触れ胎の子が動く 樟豊
連翹の黄のしたたるや仔馬跳ぶ 田中兼豊
連翹の黄のはじきゐるもの見えず 後藤夜半 底紅
連翹の黄の明るさを通りぬけ 川原道程
連翹の黄の殴り書き朝の雨 郡司哲己
連翹の黄の鮮やかに売家有り 荒川弘子
連翹の黄や急変を告ぐるかに 矢島渚男 延年
連翹の黄よふたたびのこころざし 増成栗人
連翹の黄を汲みこぼす水車 佐藤雄二
連翹の黄を泣かしゐる村の奥 松澤昭 神立
連翹や人過ぎ人過ぎ黄うする 下村槐太 天涯
連翹や黄母衣の衆の屋敷町 炭 太祇 太祇句選
遍照に金剛に咲き石蕗黄なり 野見山ひふみ
遠からず途絶えむ生家柚子は黄に 上村昌美
遠くゐて連翹の黄と思ひをり 森澄雄
遠山を連翹の黄の立ちふさぐ 波多野爽波 鋪道の花
遠目にも山吹の黄の一重なり 立子
都市の麦黄なるは寂し家なしに 林田紀音夫
都草銀座生まれの母の黄よ 長山あや(円虹)
酒場の灯赤青おでん屋では灯は黄 池内友次郎 結婚まで
野菊黄に人目なければ悪事して 長谷川かな女
金に黄に青になり這ふ毛虫かな 粟津松彩子
金曜日小雨ガーベラの黄の記憶 駒志津子
金柑は黄に仏塔は金色に 佐野 五水
金雀枝が黄を吐き崖を吐きに吐く 増田まさみ
金雀枝の暮れがての黄の濃かりけり 藤松遊子
金雀枝の闇にひそみて黄なりけり 藤松遊子
金雀枝の黄にある空の碧さかな 石川風女
金雀枝の黄に出会ふ風旅楽し 稲畑汀子
金雀枝の黄もやうやくにうつろひぬ 長尾修
金雀枝黄今日もトレヴイに馬車が待つ 河合由二「三つ茶の實」
釣釜や佐保姫という萌黄菓子 森田金峰
鈴懸黄樹を鉾とし葦を禅とし棲む 竹下しづの女 [はやて]
鉄を打つ一瞬カンナ黄に眩み 三橋鷹女
鉢植の梅の実黄なり時鳥 時鳥 正岡子規
銀杏黄ばむ図書館 そこがいちばん深い秋 伊丹公子 メキシコ貝
錦木の逆ひか咲き黄のあはれ 河野南畦 『広場』
鎌倉の古き冬莟石に真黄 長谷川かな女 雨 月
長月や豆のまきひげ黄に枯るゝ 上村占魚 鮎
門燈の黄いろくともり野分あと 上村占魚 球磨
閑古鳥梅黄ばむ夜もくだちけり 会津八一
隠り沼に河骨の黄の吐息かな 新藤苑子(青樹)
隣家の馬は黄いろい褌をしている 西川徹郎 鳥形建築
雁鳴や浅黄に暮るちゝぶ山 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
雉子飼ふ黄咲万朶の薔薇がくり 飯田蛇笏 椿花集
雛の日や道玄坂の黄なる空 角川源義
雨に伏す残菊にして黄なる艶 米谷孝
雨の中連翹の黄の流れだす 長谷川櫂 天球
雨を呼ぶ紫よ黄よ大花野 山田弘子
雨乞の浅黄の袖を老宮司 肥田埜勝美
雨傘の赤青黒黄核の時代 鈴木六林男 王国
雨晴れて山吹黄なる蕾哉 山吹 正岡子規
雪の日のもの掴むとき黄なりけり 阿部みどり女 『陽炎』
雪の道黄によごれきて村ちかし 大橋櫻坡子 雨月
雪を黄に染むる燈ありて雪国よ 宮津昭彦
雪国の納屋もろこしの黄を吊す 森田峠 三角屋根
雪嶺に沈む満月黄を失し 福田蓼汀 秋風挽歌
雪嶺は北に遠しやたんぽゝ黄 大橋桜坡子
雪明り黄いちめんの餓鬼艸紙 石寒太 あるき神
雪洞は黄に花篝とき色に 岸風三楼 往来
雪解風連翹黄を発しけり 久保田万太郎 流寓抄以後
雲来しと雲の行きしと山茱萸黄 後藤比奈夫
霜にこげし松の黄ばみや寒の明け 室生犀星 犀星発句集
霜月の黄釉の鉢に康熙の銘 伊藤いと子
霜焼けの黄やみちのくの早苗束 沢木欣一
霜除に菜の花黄なりお正月 村上鬼城
霧粒をつけから松に黄の兆し 西本一都 景色
霧黄なる市に動くや影法師 漱石 (倫敦にて子規の訃を聞きて)
霰窓を打つて二更の月黄なり 福田把栗
露まみれ毛虫の黒黄伸びちゞみ 川崎展宏
露乾ねば稲田をおほふ黄も暗し 篠原梵 雨
露伴忌や黄ばむ楕円の帽子箱 摂津よしこ
青い淵へ灌木の芽は薄黄なり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
青みかん青の領域黄の領域 後藤比奈夫
青や黄の梅の実甕に落ちつけり 百合山羽公 故園
青不動黄不動春の百舌不動 安東次男 裏山
青葉木菟飼葉煮る火の黄をまじふ 宮津昭彦
静かなるものに午後の黄石蕗の花 後藤比奈夫 祇園守
風たちて連翹の黄はうすれけり 川島彷徨子 榛の木
風と共に野花の白も黄も澄めり 上村占魚 『かのえさる』
風を押し黄の薔薇擦つて出で入りす 伊藤敬子
風日々に冬至となりし日の黄なり 臼田亞浪 定本亜浪句集
風邪の目に枯蘆の黄のうつるのみ 森川暁水 淀
飢びとに麦いらいらと黄なりけり 森川暁水
飢ゑし眼に小鳥飛び散る黄に赤に 中村草田男
飯蛸や海峡の月黄なりける 谷 迪子
飯赤く栗黄にあるじすこやか也 栗 正岡子規
餅に海苔餅に黄な粉や命惜し 越高飛騨男
香水の瓶にさしけり黄なる菊 寺田寅彦
馬を追ふオペラグラスに花菜の黄 内田美紗 誕生日
馬祖百丈黄蘗と嗣ぎ水温む 尾崎迷堂 孤輪
馬車たまるともなくたまりたんぽぽ黄 久保田万太郎 草の丈
馬迄も萌黄の蚊屋に寝たりけり 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
馬駈けて菜の花の黄を引伸ばす 澁谷道
騎馬めぐる胡桃一樹の黄ばみけり 堀口星眠 営巣期
高々と萌黄の空に夕紅葉 前田普羅 能登蒼し
高浪をくゞりて秋の蝶黄なり 村上鬼城
鬼やらふ青星こごえ黄星よび 矢島渚男 釆薇
魁けし花は黄光迎春花 阿波野青畝
鮭の来て水上黄ばむ高ねかな 風孤
鯉簗黄いろき泡がしがらみに 本田一杉
鯖寄るやあけくれ黄ばむ能登の麦 前田普羅 能登蒼し
鰻繁の黄のおしぼりの囀りさう 高澤良一 随笑
鳥威す筈の黄紐鵯遊ぶ 東野昭子
鳥帰る黄の花あまた庭に咲き 五所平之助
鳰、顔を出せばまはりに河骨黄 成瀬桜桃子 風色
鴨の嘴黄によごれたる寒さかな 松瀬青々
鵙なくやわづかに黄ばむ柚の頭 野水
鵙高音雁来紅は黄をのこす 鷹女
鶏老い茄子黄ばみぬきく畠 黒柳召波 春泥句集
鶏頭の黄なるも時を得たる哉 松岡青蘿
鶯や慈姑煮上る薄萌黄 小澤碧童 碧童句集
鶲来て乾す染糸の黄のながれ 能村登四郎
鶲飛ぶ黄繻子の光り枯桑に 内藤吐天 鳴海抄
鷹の目に荘厳の黄や奥熊野 宇多喜代子 象
鷹澄みて島人は黄を尊べり 鳥居美智子
麦は黄に胎児こぼれんばかりなり 野見山朱鳥
麦よりも黄の大叔母ら飯囲む 遠藤煌
麦よ死は黄一色と思いこむ 宇多喜代子
麦刈つておのれ溶けゆく黄の中 横田裕恵
麦熟れて欲望を黄に塗りつぶす 津田清子
麦秋の暮れていや黄なる麦を行く 相馬遷子 山国
麦秋の黄をこめ灯る崖の上 鴻司
麻大黄おのれがこぼす花の音 前田普羅 春寒浅間山
麻布団浅黄の糸のさゆれをり 阿部みどり女
黄いばらと赤いばらとに部屋の春 高木晴子 晴居
黄いろい蝶舞いあがり行楽バスのたまり 古沢太穂 古沢太穂句集
黄がちの村 端で赤児の手が ひらひら 伊丹公子
黄けまんや色失ひて巌の肌 岸田稚魚
黄なる河わたりて雪の墓地に来ぬ 田村了咲
黄なる肌東洋に享け汗ぬぐふ 山本歩禅
黄なる花都草とは思へども 松尾いはほ「ホ誌雑詠選集」
黄なる花野に咲き充てば虫寒し 田村了咲
黄なる蝶あはれつるむや萩の枝 岩田由美 夏安
黄な旗を立てし棺や雲の峯 雲の峯 正岡子規
黄な月を屋根にのせたる暑さかな 久米正雄 返り花
黄になりて落つる木の葉や蝶のはね 野明 俳諧撰集「有磯海」
黄にもえる山をジュンジュン消してゆく 八木三日女
黄に咲くハ何の花ぞも蓼の中 蕪村遺稿 秋
黄に徹し睡蓮森の名に恥ぢず 古舘曹人 砂の音
黄に染し梢を山のたゝずまゐ 蕪村遺稿 秋
黄に灯る赤き蝋燭春の宵 中口飛朗子
黄に赤に思ひ他ならぬ雁来紅 石塚友二 方寸虚実
黄に青に灯蛾染め分けつ発電所 林翔 和紙
黄のかりん仏頂面をころがしぬ 野村光子
黄のはなのさきていたるを せんねんのゆからあがりしあとの夕闇 村木道彦
黄のひかり枯山吹の葉でありし 橋本鶏二
黄のままに没るいかるがの秋夕焼 吉田紫乃
黄のカンナ盲目のごとく花終ふ 石塚まさを
黄のカンナ赤のカンナや振り返る 田中キミ江
黄のダリヤ金管楽器漁夫が持つ 柴田白葉女 花寂び 以後
黄のハガキ定形ギリギリの遺書 五十嵐研三
黄の似合ふ薔薇の名札はオクラホマ 高澤良一 鳩信
黄の傘ひらきここ持てと柄をたたく母 五十嵐研三
黄の充溢水影へ逃げ鈍きいもり 赤尾兜子
黄の列へ赤飛び込んでチユーリップ 石井とし夫
黄の土に黄の兵にぢむ雨がふる 片山桃史
黄の手毬黄の棒が地に立ちにけり 上野泰 春潮
黄の濃くて土葬の山の女郎花 小島千架子
黄の濃さよ日の出前なる花南瓜 両角竹舟郎
黄の甍青き甍に柳絮飛ぶ 福田蓼汀 山火
黄の紙幣よみ疲れ極月の灯を昼も 片山桃史 北方兵團
黄の胸の鳥に冬至の来たりけり 友岡子郷 春隣
黄の色の汗修道尼日本人 右城暮石 上下
黄の花の野に溢れゐて河原鶸 小池よし子
黄の蝶のはらはら現れて冬近し 斎藤 道子
黄の蝶のふえゆく道の野菊晴 金子きくゑ
黄の赤に弾けて蔓梅擬かな 宿理菊香秀
黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ 林田紀音夫
黄の音符赤の音符やチューリップ 佐藤多太子
黄はたんぽぽ潮岬の十二月 橋本三汀
黄は光る色一面の金鳳華 稲畑汀子
黄は哭かむ黄は哭かむ菜の花と検非違使と 折笠美秋 虎嘯記
黄は日射し集むる色や福寿草 藤松遊子
黄は艶なり長けては灼くる女郎花 高澤良一 素抱
黄は貴色い行くに稲田継ぎ目なし 薄 多久雄
黄は黄でも日向水木の薄黄好き 高澤良一 ぱらりとせ
黄ばみたる引揚名簿曝しけり 石塚婦み女
黄ばみゐし祭提灯伸ばしけり 藺草慶子
黄ばみ来つその黄うら淋しき麦かな 冬の土宮林菫哉
黄ばみ来て日和大事の煙草かな 柑子句集 籾山柑子
黄ばみ立つ公孫樹保守派のゆるぎなし 右城暮石 上下
黄ばむ田や農婦一団鑛泉へ 相馬遷子 雪嶺
黄も白も仏花に清し夏の菊 勝村茂美(風景)
黄も黄なりいたちはぜとも言ふからに 藤田湘子 てんてん
黄も黒も強烈な色大毛虫 佐柳芦郎
黄をしかと釣りて釣舟草の秋 西本一都 景色
黄をもつて一望を刷き秋深し 富安風生
黄をもつて祝ふ菊さへ手にあれば 古舘曹人 能登の蛙
黄を濃くし海荒れる日の石蕗の花 秋田澄子
黄を積みし桜落葉を濡らす雨 大場白水郎 散木集
黄を金といふ一例や金鳳華 京極杞陽
黄勝ちの村 端で赤児の手が ひらひら 伊丹公子 陶器の天使
黄千両藁の節ほど日がのびて 藤村克明
黄日を仰いで屠蘇の酔紅 高浜虚子
黄泥の坂を越えゆく頭巾かな 比叡 野村泊月
黄白の菊や相和し相背く 相生垣瓜人
黒きまで青し黄になるまでの柚子 後藤比奈夫 金泥
黒と黄の班百足虫にたたら踏む 久岡千代子(砂山)
黙祷のまなうら黄なり原爆忌 平田冬か
龍天に昇る黄ばみし琴の爪 辻桃子
●黄色 
あたたかく枯れたるものの日の黄いろ 長谷川素逝 暦日
あたたかや砂に黄色き防風の芽 松本たかし
あぢさゐの花の花粉に黄色なし 森川暁水 淀
いちめんの黄色は背高泡立草 今井杏太郎
えにしだの黄色は雨もさまし得ず 高浜虚子
しだれ柳枯れてゆくとき萌黄色 辻恵美子
たかべ好き黄色のライン自己主張 峠素子
てふてふは黄色が好きと身篭りし 海野迪子
なきがらの蜂に黄色の縞黒の縞 橋本多佳子
ひばりひばり汝が鳴くゆゑに日が黄色 赤木しげ子
まくは瓜寄せし一山黄色かな 加来都
まつ先に黄色の薔薇が咲き揃ひ 加藤あけみ(花鳥来)
まんさくが赤く黄色く咲きにけり 林紀之助
みやま霽れて黄色むや稲の陽のたまり 日夏耿之介 婆羅門俳諧
クロッカス黄色まず咲き佳き世であれ 和知喜八
パンジーの黄色が怒る雨の午後 笠間圭子
フォロ・ロマーノでの瞑想姿勢 白色の 黄色の 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
フリージア好きでつくづく黄色好き 後藤夜半 底紅
マッチの火燃えて黄色やセルの胸 大峯あきら
マルメロや黄色の夢のポルトガル 小田島清勝
マンハッタン林檎買ふ吾が黄色き手 藤田直子
万作の花の貧しき黄色かな 倉田紘文
三月場所所司衣裳の萌黄色 杉浦典子
人はみな桜桃の種うす黄いろ 山西雅子
何候(なにぞろ)ぞ草に黄色の花の春 服部嵐雪
元日や上々吉の浅黄色 一茶
冬さうびかたくなに濃き黄色かな 龍膽 長谷川かな女
冬暖のおりゆく気球黄色なり 横山白虹
凍蝶は黄色を鉢の上に置き 高屋洋子
出てをりし月の黄色き枯木かな 岸風三楼 往来
双蝶の黄色に立てば思考も黄 岩田洋子
向日葵に黄色き元気貰ひけり 出内一申
唐黍を吊り家ぐるみ黄色なり 金子皆子
夏菊の雨の明るき黄色かな 大山清治郎
夏足袋の黄色くなりしほこりかな 高濱虚子
大霜や富士は黄色に日の当り 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
夫一人死にき花火の淡黄色 殿村莵絲子 雨 月
妻祷る真黄色なる夕焼に 草田男
山吹は黄色の絵具盛り上ぐる 安成三郎 山魯俳句集
山茱萸の貴い黄いろ海があり 駒 志津子
山茶花の蕋ばかりなる黄色かな 青峰集 島田青峰
島行きの黄色の切符夏鴎 石川文子
川曲がり黄色ただよう楠若葉 和知喜八 同齢
川筋に黄色が飛びて迎春花 中西舗土
心中す黄色のジウス飲み余し 右城暮石 上下
懐石の萌黄色なる嫁菜和 高垣菊枝
新涼や円く黄色の梟の眼 阿部みどり女
新田郡冬の野菜は萌黄色 角川照子
日の出前磯草夏も萌黄色 香西照雄 素心
日の色は黄色に青や茎立てる 高浜虚子
春を鳴く黄鶺鴒の声黄色 勝村茂美
月のぼりおしろい花の黄色かな 辻 桃子
染寺の黄色の牡丹崩れそむ 東 妙子
椋鳥の黄色の足が芝歩く 坊城としあつ
水芸は声の黄色の哀しかり 今井竜蝦
河骨の明暗しりぞけし黄いろ 渋谷道
河骨の昨日の黄色はや水漬き 谷口和子
沼を吹く風を黄色に泡立草 和知喜八
流す涙黄色と思ひ月見草 阿部みどり女
炭竃のいたく黄色き煙吐く 鈴木花蓑
父と子の清水黄色き瓜食ひて 細見綾子
父母ありし昔真桑や灯も黄いろ 森澄雄「四遠」
物おもふ暮や黄色なぬり団扇 椎本才麿
狂言の足袋黄色なる虚子忌かな 岸本尚毅
白もよし黄色もよし菊膾 山口青邨
白梅の黄色に咲くや年の内 年の暮 正岡子規
白菜の夜干しの芯の浅黄色 土田日露史
白菜を真二つ芯の黄色かも 嶋田得山
百姓が走る寒さの歯黄色く 中山純子 茜
睡蓮の黄色ばかりや雪舟庭 林 徹
石鹸玉わたしに足りないのは黄色 鎌倉佐弓
砂日傘黄色の女よこたはる 中島斌男
秋の宮松葉牡丹は黄色のみ 高木晴子 花 季
秋の蝶の黄は狂ほしきまで黄いろ 草川道子
秋の蝶黄色が白にさめけらし 高濱虚子
秋晴や今日会ふ蝶のみな黄色 西上禎子
秋晴や黄色き花の糸瓜垣 松本たかし
立春や黄色く光る五円玉 加藤あい沙
筍が伸びる雪解富士黄いろ 萩原麦草 麦嵐
紅花の紅くなりつゝある黄色 鈴木康永
結初の萌黄色なる飾紐 宮武章之
絵手紙からはみ出す花菜真つ黄色 三浦叙之
色ならば次男は黄色星祭 黒沢孝子
草の葉の黄色勝なる土用哉 土用 正岡子規
菜の花がしあはせさうに黄色して 細見綾子(1907-97)
菜の花の黄色に覚めて寝台車 高橋笛美
萩の蝶黄色ばかりや山の風 星野椿
蕪村忌や絖より黄色浮き立つる 河野多希女 月沙漠
虎河豚のはだらの黄色夢に来し 軽部烏頭子
蟷螂もおなじ黄色や女郎花 阿波野青畝
街不意に林間のごと黄色くなり 北原志満子
西日の帰帆腋を黄色のシャツを干す 中戸川朝人 残心
赤になる過程の黄色烏瓜 岩川みえ女
通園の黄色のブーツでんでんむし 高澤良一 素抱
連翹のどこかなげやりなる黄色 櫂未知子 貴族
連翹の黄色一心不乱なり 谷口千枝子
遠き帆を黄色と思ふあたたかし 今井杏太郎
醤油甕干して黄色人種たり 攝津幸彦
金縷梅の黄色は中華菓子のいろ 高澤良一 素抱
雛の家厠黄色き夕日さす 茨木和生 丹生
雲黄色く十六夜の月出でんとす 寺田寅彦
駅に借るかうもり黄色花の雨 亀井糸游
骨肉の昏さ菜の花まっ黄色 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
鳩がとぶ二日の空の浅黄色 阿部みどり女
鶏頭の黄色は淋し常楽寺 漱石
黄色とは野にありてこそ女郎花 池田一歩
黄色の芽出し原爆地捨て玉葱 黒田謙司
黄色ミモザ手動筆記(マニュエリスム)の猫は逃げた 木村聡雄
黄色出し切つて紅花紅出すと 矢島渚男
●狐色 
くちなしの実の証しなる狐いろ 高澤良一 随笑
ラグビーの野辺も稲城も狐色 山口誓子
優曇華や狐色なる障子紙 斎藤俳小星
山芝や枯れにぞ枯れし狐色 楠目橙黄子 橙圃
木洩日に狐色なす小判草 堀口星眠 樹の雫
枝豆の毛の狐色峰をかし 原石鼎
梅咲くや大方狐色の中 石塚友二
母郷たしかむ焚火の芯は狐色 原裕 『葦牙』
涅槃なり狐色して山並び 村越化石 山國抄
田鳧来る田のひこばえの狐色 沖島たづ
茂吉忌の豆餅狐色に焼け 富田直治
蚕屋障子狐色にぞともりける 田村了咲
鬼百合や山の夕日の狐いろ 柴田白葉女 花寂び 以後
咲く野梅きつね色どき過ぎつをり 篠田悌二郎
●黄味 
とことはに黄味さす父母や神無月 三橋敏雄
人日の椀に玉子の黄味一つ 野澤節子
卵割る黄味の膨らみ寒明ける 竪阿彌放心
原爆忌割れば卵の黄味ふたつ 松本三千夫
山茱萸と云へば和菓子の黄味しぐれ 高澤良一 寒暑
採血の跡黄味がかる小暑かな 高澤良一 鳩信
新涼や割れば玉子の黄味二つ 飯泉葉子
春隣割りし卵に黄味二つ 安田恒子
粥にぽと落せし黄味や寒四郎 藤田湘子 てんてん
薬喰い今朝の卵は黄味二つ 富田潮児
黄味帯びておどろおどろし夕立空 高澤良一 素抱
●レッド 
マタドールレッド激しくカフェの薔薇 高澤良一 素抱
見つめゐる梅雨のシグナルレツドかな 高澤良一 ももすずめ
薄明のレツドカードを手折りけり 岡田秀則
秋の夜のレツドワインとボサノバと 指澤紀子
オールドを飲みつつかなしサントリーレッド愛する父ありしこと 和嶋勝利
●ブルー 
サマルカンド・ブルーはなみだ勿忘草 佐々木とみ子
冴え返る膝元にユダ・ブルータス 品川鈴子
新涼や吉永小百合ブルー・ジーン 中村哮夫
氷壁を煽りて発てるブルージェイ 高澤良一 ぱらりとせ
涼しさやデュフィにブルー・モツァルト 文挟夫佐恵 遠い橋
絞り出す絵具はブルー草城忌 松倉ゆずる
臓器みなブルーカラーで励みけり 村瀬誠道
蕪村忌やブルーチーズのひとかけら 岡本公純
青春前期マフラーの色ブルー 上田日差子
●イエロー 
更衣イエローを自画像へ着せ 市川博久
 
以上

by 575fudemakase | 2022-06-25 07:21 | ブログ


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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