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色の種類2 類語関連語(例句)

色の種類2 類語関連語(例句)

●金●銀 しろがね●銀灰色●金と銀●銀鼠●金縁●草色●朽色●朽ち葉色●隅●栗色●グリーン●栗毛●グレー●紅蓮●黒●黝●玄●黒髪●黒々 くろぐろ●黒し●黒潮●群青●紅白●黄金色●黒衣●黒色●黒白●焦げ茶●呉須●コバルト●濃緑●濃紫●紺●金色●金色堂●紺青●紺碧●サーモンピンク●桜色●紫紺●漆黒●渋色●朱肉●朱蝋燭●純白●白壁●白雲●白々 しろしろ しろじろ●白砂●白(ら)む●白●白一色●白黒●白し●白っぽい●白葱●白さ●白き●白い●黒む●黒み●黒ずむ●黒づくめ●白づくめ●白牡丹●白湯●白靴●白息●白帆●白南風●白桃●白障子●白絣●白芙蓉●裏白●白扇●白桔梗●白粉●白蓮●白萩


●金 
あかあかと山焼のさま金屏に 武藤紀子
あしび咲く辺をすぎゆけば金の鴟尾 阿波野青畝
あの世かくして金の唐紙古りにけり 寺井谷子
うそ替の木鷽の金の光る闇 木庭俊子
えにしだが金環生めり誰も居らず 下村槐太 天涯
えにしだの金に天気のたちなほる 上村占魚 『方眼』
おぼろなり彫りし葡萄は金にして 山口青邨
かくれ家に金のとゞきし師走かな 比叡 野村泊月
かつかつと金の輪ひびく火鉢哉 会津八一
かなかなに遠き金の扉ひらかれし 長谷川浄泉
かなかなの長鳴くしじま金打(かぬち)の地 宇多喜代子
かもめ来よ天金の書をひらくたび 三橋敏雄 まぼろしの鱶
からたちの金の玉垣八一の碑 宮坂静生 雹
きりぎりす夕日は金の輪を累ね 友岡子郷 未草
ぎこちない金と銀とのお正月 加藤ミチル
ぎつしりと金看板や寒の雨 川端茅舎
この恋に生きなば麦の金の禾 林桂 銅の時代
こまちやくれ顔の金黒羽白かな 早川とも子
こもり居や茶がひらきける金の蘂 水原秋櫻子
これやこの梨金のごとし君にすすむ 山口青邨
しられじと旅の身に添ふ金気かな 黒柳召波 春泥句集
しろ金や霰ふる夜の年忘れ 上島鬼貫
そぞろ寒金掘る人形またたかず 吉田銀葉
そのむかし繭の金より授業料 有賀辰見
それにさへ願ひ絶えめや金んの蚤 服部嵐雪
たくはへし月日を金に福寿草 山田弘子 懐
ただいまは古酒盛られたり金欄手 加藤三七子
つちふるや大仏さまの金の蓮 ふけとしこ 鎌の刃
つばさ張るかに金秋の水噴けり 三田きえ子
つゆくさの金いちじるくまたほのか 飯田蛇笏 雪峡
どこにひそむ金の狐や蕨狩 平畑静塔
どぶろくや金切声の鵙去りて 西東三鬼
どんみりと金粉ふえて木の葉髪 加藤郁乎
ねんごろな枯金ペンを寝かし置く 丸山嵐人
はこせこの金の鎖や福寿草 戸板康二
はなたれの金の釦のきんぽうげ 上杉竜介
ばら溢れ金を塗りたる兜の絵 長谷川かな女 花 季
ひえびえと緑金ひかる薔薇の虫 飯田蛇笏 春蘭
ひつそりと古巣にめざむ金の髪 小池文子 巴里蕭条
ひとわらふ金歯ひかるはさびしきかな 片山桃史 北方兵團
ひもとける金槐集のきらゝかな 山口青邨「雑草園」
ふたがみに沈む金烏や青畝の忌 中川晴美
ふためいて金の間を出る燕かな 蕪村遺稿 春
みしか夜や金商人の高いひき 短夜 正岡子規
もろこしの花の金粉遠囃子 永方裕子
ゆく年の瀬田を廻るや金飛脚 蕪村 冬之部 ■ 春泥舎に遊びて
ゆさぶれば金の煙や杉の花 瀧澤伊代次
ゆふぐれの金水引の一條も 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
よこたへて金ほのめくや桜鯛 青畝
ろうそくの円光の金、銀婚妻 橋本夢道 良妻愚母
わが影を金のふちどる泉かな 野見山朱鳥
クレヨンの金と銀とで塗る月夜 対馬康子 吾亦紅
ケルンよりケルンヘ金の虻つれる 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
シャガールの金の雄鶏秋澄めり 永方裕子
ソムリエの金のカフスや師走の夜 深田やすを
ダイヴィング金の鴎を率て迅し 多田裕計(鶴)
ドライブの金毛の肱刈田寒 香西照雄 対話
ナイル河の金の睡蓮ひらきけり 石原八束(1919-98)
ニュートンも錬金術師冬籠り 有馬朗人
ハンドベル金の蕊振る朝の百合 吉原文音
パンジーの紫ばかり金の蕊 平野桑陰
ベタ金の心臓の心音清し 阿部完市 証
ペン先の金やはらかき暮春かな 小川軽舟
モロッコ皮に金の背文字や書庫の冷え 早川典江
一体は金に塔内仏の寒 皆吉爽雨
一望の冬海金粉打ちたしや 中村草田男
一茎の金の繊さよ猫じやらし 山口青邨
万歳や佐渡より金の湧き貌に 野村喜舟 小石川
万緑や異国の仏陀金まみれ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
三日月の金無垢を置く茅の輪かな 野見山朱鳥「運命」
上元の朱蝋の金字焔をふくむ 朝永律朗
下萌や金の幣立ていくさ神 脇坂啓子
中学生となる金釦初ざくら 中山純子 沙 羅以後
乙鳥は金看板をよごすかな 野村喜舟 小石川
九つの無意識を金の輪転機 阿部完市 証
五月雨に金はしめらぬ手わざかな 上島鬼貫
五月雨や金の小笠の馬印 五月雨 正岡子規
京菓子の金封ほそし秋の風 恩田侑布子
人間に飽きて牝牛の金の蝿 高澤晶子「鈍愛」
仁母は金残雪に歩み入り 古舘曹人 能登の蛙
今朝の春金の帯解く吟醸酒 坪井耿青
今生にもうなき金環蝕澄めり 野見山ひふみ
仏像は金の冷たさ秋日和 山口波津女
仏壇に似し金閣よ水を打つ 岩田由美 夏安
仏壇の金をくもらす蒸し藷 檜 紀代
仙人掌の棘金に透き厄日過ぐ 茂恵一郎
仲秋の金蝿にしてパッと散る 波多野爽波 『骰子』
伊賀越えて金の洛(みやこ)に絵双六 大屋達治 絵詞
会釈して金壷眼冬木伐 森澄雄
住めば金殿夏月光の屋に充つ 石塚友二 光塵
何盛らむ春三日月の金の皿 岡田章子
余命の金数へてなんぞ冷まじき 小林康治
倒れ菊金泥の如土砂を塗り 上野泰 春潮
元日の夕日金閣かがやかす 倉光迪子
元日の金玉の時過ぎて行く 瓜人
元日や金の話のかしましき 元日 正岡子規
光琳の金屏の前に祝はれし 石川梨代
光背の金を零れし秋の蝶 岸原清行
兜金(ときん)ひしと少年山伏咳ころす 平井さち子 鷹日和
全身の金をふるつて死の灯蛾 河野南畦 湖の森
全集に背文字の金や大南風 宇多喜代子 象
八ッ手咲いて金の三日月よく光る 渡辺水巴 白日
八十八夜ひとつ水縫ふ金の蛭 百合山羽公 寒雁
六月の顔の大きく金を煮る 神蔵器「二代の甕」
其の上(かみ)の金の荷揚げ路燕抜け 高澤良一 寒暑
内裏雛五曲の金の屏風背に 石井いさお
再犯の金蠅なれば許さざり 高澤良一 ぱらりとせ
冬夕焼ときには金の馬車を駆り 吉本和子
冬天に透く金の葉や樺の梢 相馬遷子 山河
冬柳金繕ひの唐津かな 恩田侑布子
冬立つや金のなる木に薄埃 小見山希覯子
冬雲の三日月の金つゝみ得ず 野澤節子
冴えて書の天金浮けり病世界 秩父
冴返る金毛閣は人入れず 阿波野青畝
冷まじや金残のこと祖父へさかのぼり 宮津昭彦
凍死人つけし守の金ン耀らひ 宮武寒々 朱卓
凍鶴の翼に金ンの生れけり 永田耕衣
初凪に豚の金ン玉遊びをり 川崎展宏
初売や金地の色紙店頭に 寺井 治
初夢の金粉を塗りまぶしたる 高浜虚子
初日いま大字聖書の天金に 田川飛旅子 『山法師』
初日浮くや金波銀波の太平洋 初日 正岡子規
初明りして金鱗の波がしら 野村久子
初桜天金の書を開かしむ 嶋田麻紀
初茜寝釈迦は金の御衣着て 吉野胡桃
初蝶の金ふんぷんと降り来る 白山晴好
初蝶の金粉まみれ黙示録 伊藤敬子
初雪の中に光るや金の鯱 初雪 正岡子規
初鴉金泥の声あびせけり 岩下四十雀
初鶏や胸毛の金を打ちふるひ 六本和子
助け呼ぶ金切声や蟻地獄 成瀬櫻桃子 素心
動かねば寒鯉の金くもらざる 西川 織子
北山は見えず金閣雪しまく 冨田みのる
十六夜の金蝿よよと出てゆけり 鳥居真里子
十薬や墓地買ふ金も安くはなし 成瀬櫻桃子 風色
千年の楠の大樹の金若葉 高橋悦男
印籠の蒔絵の金ンや夏羽織 野村喜舟 小石川
厨なる蕨の上に金指環 前田普羅 春寒浅間山
受験期や宝塔攀づる金の竜 大島民郎
口ぢうを金粉にして落椿 長谷川櫂 古志
古屏風の金泥淑気はた寒飢 鈴木鷹夫 春の門
古草の金を金堂跡に踏む 井沢正江
各各の水洟顔や金の事 会津八一
同人会忘年会と金嵩む 高澤良一 鳩信
名月や金でつらはるかぐや姫 高井几董
向ひ山より金蠅のまつすぐに 小島健 木の実
向日葵の金の雨だれ終りしよ 秋元不死男「万座」
向日葵の金ンの古びや秋の風 野村喜舟 小石川
向日葵は金の油を身にあびてゆらりと高し日のちひささよ 前田夕暮
含みたる水に金気や日雷 須賀一恵
吾子あらば金の鯉幟を立てん 後藤綾子
和田金の肉しきり恋ふ雪二日 石川桂郎 高蘆
咲き揃ひ金の盃石蕗の花 阿部みどり女 『石蕗』
品替る金玉の声や玉毬打 重昌
啓蟄の耳に金ンさげバッハ聴く 鳥居おさむ
善き人の皆金くさき牡丹かな 牡丹 正岡子規
喪へいそぐのみの金蝿熱の視野 木村敏男
囀や天地金泥に塗りつぶし 野村喜舟 小石川
四日果て金海鼠(きんこ)色なる鳥羽の空 高澤良一 鳩信
土筆もう見えぬ三日月の金二重 千代田葛彦
地に金の首飾売る冬旱 宮坂静生 山開
堪へたりし金神奈落寒明けぬ 稲垣きくの 牡 丹
塵ふかく萬巻の書の金ン凍てぬ 西島麥南
墨はじく金地めでたし筆始 下村ひろし 西陲集
壺にさす郁子の金葉二三片 飯田蛇笏 春蘭
壺割つて金の罅入る冬夜空 小檜山繁子
夏シャツや金の寝台つま立ち見て 小池文子 巴里蕭条
夏潮の金の水紋もみしだく 工藤茶亭
夏草や立よる水は金気水 一茶 ■寛政年間
夏菊の土金神に香を焚く 松村蒼石 寒鶯抄
夏蝶も紺紙金泥の経ならむ 水原秋櫻子
夕焼の金をまつげにつけてゆく 富澤赤黄男
夕焼の金板の上水馬ゆく 山口青邨
夕焼の金龍飛べり冬の空 山口青邨
夜業終へ出づるや金の把手押し 菖蒲あや
大地より金を放てる福寿草 山田閏子
大塔の金の相輪初日受く 山口耕堂
大山祇(やまつみ)の放つ金の蛾薪能 野沢節子 八朶集以後
大御堂金泥はげしかすみかな 岡本松浜 白菊
大服や家の宝は金で接ぐ 梶野香代子
天つ日に金の蘂吐き黒牡丹 松本澄江
天台の金水引の吹かれをる 佐々木六戈
天地なき金の色紙に筆始め 澤田緑生
天臺の金狗尾草の吹かれをり 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
天金こぼす神父の聖書秋夜汽車 齋藤愼爾
天金の一書重たきしずり雪 小林もりゑ
天金の一書重たき桜桃忌 伊藤喜太郎
天金の復刻開く漱石忌 奥村八一
天金の怺へつづける夏はた秋 沼尻巳津子
天金の書などは持たず秋刀魚焼く 福田てつを
天金の書の閉ざさるるおぼろかな 黒田杏子 花下草上
天金の書を繙くや初燕 山川安人
天金の辞書立ちならび月を待つ 大屋達治 絵詞
太陽の金のたてがみ青嵐 吉原文音
太陽も金の汗する田草取 辻田克巳
奥えぞの金の仏に初蛙 沢木欣一 地聲
奥飛騨や金扇つけし注連飾 羽部洞然
女房は金の入歯や深見草 牡丹 正岡子規
女郎蜘蛛金龍院の空を降り 高澤良一 鳩信
如月の金の届きし書生かな 前田普羅
妻に金ありやいちにちよく啼く鵙 榎本冬一郎 眼光
姫むかしよもぎや稚児の金産毛 佐藤鬼房
子の腕の金のうぶ毛や烏麦 永方裕子
子を産んで金紐の葉の酸きみどり 長谷川双魚 風形
學帽の金の幼なさ鳥渡る 斉藤夏風
宵越しの金もて鮑仕入れけり 鈴木真砂女
家売つた金なくなりぬ秋の暮 鶴英
家隷から金をかりるや年の暮 年の暮 正岡子規
宿生木の冬青々と金蓮寺 望月皓二
富士新雪落葉松の金厚くなる 青木よしを
寒夜わが酔えば生るる金の虹 古沢太穂 古沢太穂句集
寒月の金の稚し水の上 角川源義
寒柝が金の話をして行けり あかぎ倦鳥
寒波来る明星金の翼揺り 相馬遷子 雪嶺
寒風に曝され金に突きとばされ 石橋辰之助
寒鯉の金泥のごと沈みゐる 鈴木貞雄
寒鯉の金鐶の眼を嵌めにけり 福田蓼汀
寿司もくひ妻の得し金減り易し 林田紀音夫
小硯に金泥かわく夏書哉 夏書 正岡子規
小粒柿干されてゐたり金瓶村 栗田やすし
小雪聴く金を蒔きたる馬上杯 黒田杏子 花下草上
少年のいちずなる目を焦したる金環蝕 のちの永久の焚口 米満英男
少年の街頭暮金みどりの日 田中珠生
屠蘇重し軽き朱金の酒杯に 草城
山の端に冬三日月の金沈む 阿部みどり女
山吹や井手の下帯に包金 西石 選集「板東太郎」
山吹や金(こがね)のすたる水の底 我則
山吹や金閣も見ず雨の京 雑草 長谷川零餘子
山眠る磨きこまれし金の匙 田中 都
山羊の子がしきりにはねる金ぽうげ 高浜虚子
山茱萸や雨に一滴づつの金 片山由美子 風待月
山茶花の金の蘂病癒えしかな 石田波郷
山車曲る金をはじきて山の雨 鳥羽とほる
山靴を脱ぎ金屏の間にとほる 石川桂郎 高蘆
岬が分つ紺と金との春の海 原子公平
嶺々こごし春やむかしの月の金 飯田蛇笏 春蘭
川の音金水引草に触れてをり 藤田美代子
巣鴉に月の周りの金砂子 千代田葛彦
差し金の鼠消えたり明易き 龍岡晋
巻き貝をたくさん生んで金環蝕 中村安伸
布袋台金冷まじき機関樋 高澤良一 素抱
師よりの金妻よりの金冬日満つ 石田波郷
師走の燈にひたりし金の靴を売る 斉藤夏風
干柿の金殿玉楼といふべけれ 山口青邨
干飯噛む錆びし昭和の金歯かな 五島エミ
年の瀬の金得てけがれ果てにけり 小林康治 玄霜
庭万年青玉は朱金に年果つる 飯田蛇笏 春蘭
弟切草日照雨に金の蕊張れり 山田春生
弾き金音よくかゝる日傘かな 松藤夏山 夏山句集
待春の金の成る木に花が咲く 伊藤いと子
後の月聖堂のうち金秘めて 中戸川朝人 残心
得し金の雪見酒とはなし難き 石塚友二 光塵
御斎会や大極殿の金の鵄尾 松浦敬親
御新造(ごしんぞ)の葛切添へし烏金 筑紫磐井 婆伽梵
忙しや金が入る出る歳の暮 寺田寅彦
悴むや鞄へひとの金満たし 皆川白陀
慈悲心鳥紺紙金泥一切経 三谷道子
截り金のごとき月浮く涅槃西風 荒井正隆
手にさはる金の蔓や今朝の秋 斗文
手まくらの金ことに照る寝釈迦かな 皆吉爽雨 泉声
手をふれて金末犀の夜の匂ひ 中村汀女
手水水涼しかりしを金火鉢 曲言 選集「板東太郎」
抱く輪に金砂ちりばめ寒三日月 相馬遷子 雪嶺
指輪もねじ曲つて政府に金を売る日が来た 橋本夢道 無礼なる妻
振り向けば金ゑのころの道なりし かとうさきこ
描初の金泥を溶き銀を溶き 奥野素径
揺動く萩など金を得るほかなし 石田波郷
故郷の冬へおくる金がない大きい日ぐれの國旗であつた 橋本夢道
文廟や西日蒸すなる位牌の金 下村ひろし 西陲集
文金の合せ鏡や風ひかる 風光る 正岡子規
新涼や金眼銀眼の猫とゐて 宮川喜子
新蕎麦や金が大事といふ話 龍岡晋
旅の日の秋日を金に雄物川 細見綾子 黄 炎
日の本や金も子をうむ御代の春 一茶
日を捏ねて金泥まみれ*むつ五郎 谷口自然
日照るとき金を横たふ寝釈迦かな 阿波野青畝
早春の夕月金に道掃く子ら 古沢太穂 古沢太穂句集
旭に生れて金葉冠る筍は 八牧美喜子
旭の中や金粉こぼし囀れり 中村明子
旭の金ンの一番芦を刈り倒す つじ加代子
星の金・樹の紺てのひらに呼ぼう 鎌倉佐弓 天窓から
春の夜や金たばかりし人可笑し 青峰集 島田青峰
春の闇無銘の金の位牌見ゆ 香西照雄 対話
春を待つ金の鵝鳥を追ひながら 長谷川かな女 花寂び
春光の金の振子の置き時計 工藤隆子
春光やこぼれてはづむ金米糖 龍野よし絵
春光や金の鳩抱く乙女像 満田玲子
春塵や木馬の金の目の卑し 中村和弘
春夜とや書架の金字の寒きのみ 林原耒井 蜩
春愁やミイラに履かす金の靴 池松幾生
春愁や灯は金殿に満つれども 赤木格堂
春愁や金の眼の深海魚 山下かず子
春愁や金槐集をふところに 高橋淡路女 梶の葉
春昼の賭くるべき金残憎みけり 杉本寛
春暁の金三日月や吾子生まる 岸原清行
春月や衣桁に金を散らす帯 橋本榮治 麦生
春泥に月の金片きらきらす 福田蓼汀
春泥の金泥となり夕日落つ 福田蓼汀 秋風挽歌
春浅き月像乗せて金三日月 中村草田男
春潮が湧く大盃に金蒔くに 古舘曹人 能登の蛙
春燈や金泥にほふ塩草子 加古宗也
春眠や金の柩に四肢氷らせ 三橋鷹女
春隣おろし金にも裏表 鈴木真砂女 夕螢
春雨やはなればなれの金扉風 許六 正 月 月別句集「韻塞」
春雪や金閣金を恣(ほしいまま) 松根東洋城
春雪や金閣金ンを恣 東洋城千句
昼の蛙間のびして鳴く金の不安 古沢太穂 古沢太穂句集
昼寝覚友二金餓鬼の句を思ふ 細川加賀 『傷痕』
昼顔や流沙の波紋金に炎ゆ 石原八束 『仮幻』
晩秋や金屏除けて富士を見る 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
暖房や絨氈赤く壁は金 京極杞陽 くくたち上巻
書写山に来て金芒銀芒 山田木染
書庫にかへす詩書の天金麦の秋 木下夕爾
曼珠沙華の蘂の金環欠けるなし 嶋田麻紀
曼珠沙華描かばや金泥もて繊く 長谷川素逝 暦日
月しろや金の波をまくら上 高井几董
月光を溜め天金の句集かな 吉原文音
月蝕のをはる琉金ひらひらと 武井成野
有金の束もめでたし店卸 中村烏堂
朝に銀夕べに金のねこじやらし 内山靖子
朝の日に金を抱ける寒椿 宗像夕野火
朝は金ゆふべは銀の花すすき 文挟夫佐恵
朝光の金刷く初夏の孔雀歯朶 渡邊水巴 富士
朝日さす雪原金沙銀沙照り 鈴木貞雄
木犀のこぼせし金を純金と 後藤比奈夫 めんない千鳥
木犀のほろほろ金の雨雫 佐藤礼子
木犀の金の着崩れはじまりぬ 加倉井秋を 『欸乃』
木犀の金の零れを見棄てけり しかい良通
木犀の金の香濡らす庵庇 加藤耕子
木犀の金を小出しに法然院 伊藤敬子
末弟の我もやや老い金風忌 村松紅花
末枯れや子は描きなぐる金と銀 対馬康子 純情
朴の葉に金蝿を置く蒸暑かな 富安風生
杉の間に夏の朝日が金の輪に 高木晴子
束の間や寒雲燃えて金焦土 石田波郷
東京西日金なき妻子家におく 古沢太穂 古沢太穂句集
松過ぎの金屏を立てのこしたる 皆吉爽雨
枕頭に金の匙ある夏の風邪 四ツ谷龍
枝しなひきぶしの金の鎖垂れ 岡田日郎
枯桜幹は金泥帯びにけり 高澤良一 鳩信
枯芝や金の茶壷の二坪ほど 石口光子
枯野は雲に金ちりばめて旗も静か 田川飛旅子 花文字
柚味噌焼く閻浮檀金の焔かな 西島麦南 人音
柚子の実の金の彼方に山眠る 長田群青
桜紅葉車寄せなる金モール 立川京子
梅の宮手綱を金に縁起駒 加藤耕子
梅天や金の闇垂れ九品佛 古舘曹人 砂の音
梅花渓夜々金泥の月上げぬ 内藤吐天
梅雨の夜の金の折鶴父に呉れよ 中村草田男「来し方行方」
梅雨の月金ンのべて海はなやぎぬ 原裕 青垣
梅雨杉の雲に金棺出現す 水原秋櫻子
梅雨茸をたふし金閣去りにけり 大木あまり 雲の塔
植ゑるより金蜂花に紅椿 飯田蛇笏 春蘭
楓画きある金屏も広間の灯 高木晴子 花 季
楮屑吸ひこみ金ンの鯉が居る 吉本伊智朗
橋涼みこゝにも金の咄かな 古白遺稿 藤野古白
橙の金ンの寂びゐる十日かな 野村喜舟
檜扇の金の月夜でありにけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
歳旦に僧来て金の出てゆけり 堀井ひろし
歳晩の金の栞の歎異妙 川原アヤ子
死金を一壺に蓄めて紙漉婆 近藤一鴻
母の灯へつづくよ風の金ぽうげ 高橋美智子
比良八荒寝ぬるも金の鎖して 宮坂静生 樹下
水いろの夕ぐれ薔薇を買ふ金なし 林田紀音夫
水を着て金魚の金のくもりゐる 上田五千石 琥珀
水切れば金のさやぎや縮緬菜 松藤夏山 夏山句集
水揚げのはたはた腹に金刷けり 宮津昭彦
水洟をかむ百姓の大事な金 榎本冬一郎 眼光
水澄みて金閣の金さしにけり 阿波野青畝
氷る岩肌初日さし金屏となりぬ 岡田日郎
沈黙は金なり松葉牡丹も金 みつはしちかこ
沈黙は金なり金木犀の金 有馬朗人 母国
沈黙は金のレモンの香なりけり 細川加賀 『玉虫』
沖はるかに火口の雪や金槐忌 伊丹さち子
没日いま金環となる流氷原 松村栄子
沢瀉の金覆輪の夕かな 斎藤夏風
河骨や金の待針湖に刺し 坂本祥子
波の上に金の秋日の貼りつける 西村和子 夏帽子
泥眼の金泥を溶くつくつくし 山口都茂女
派出所の金ンの記章に燕の巣 石原栄子
浅草は地の金泥に寒夜かな 飯田蛇笏 春蘭
浅草や古着コートの金ボタン 小池 都
浮寝鴨薄眼入日の金枯葦 桂信子 花寂び 以後
海一句金短冊に筆始 有働 亨
海界に金の綰(わがね)や春隣 八木林之介 青霞集
涅槃像金泥は目にあたたかし 加古宗也
涅槃図の余白を金に埋めつくす 石嶌岳
涅槃図の鬼の金冠粗なりけり 稲荷島人
涅槃西風金の際立つ仏具店 松下信子
涼しさや息に波うつ金の箔 吉藤春美
淡雪も金米糖もあをさかな 石寒太 あるき神
清盛が金扁光る紅葉哉 幸田露伴 谷中集
渓声の延金をなす露の中 鈴木貞雄
湖の日の金環枇杷の熟れにけり 丹羽 啓子
満堂の閻浮檀金(えんぶだごん)や宵の春 夏目漱石 明治三十四年
満月に金炎え立ちし銀杏かな 川端茅舎
満鉄の金釦/手厚きは皇恩 仁平勝 東京物語
滝津瀬に三日月の金さしにけり 飯田蛇笏 春蘭
炎上を過去に金閣かぎろへる 今井妙子
炎天に繋がれて金の牛となる 三橋鷹女「羊歯地獄」
炎天淋しラッパの金の輪を向けて 友岡子郷 未草
炭斗を満たし蒔絵師金を刷く 今村泗水
炭焼きのともして障子金にせり 大野林火
点晴に金を入れたる囮鴨 茨木和生 往馬
照れば金日かげれば銀芒かな 下村梅子
煮南瓜の金に盛られし喜雨祝 大熊輝一 土の香
熊ん蜂トランペットは金ピカに 成田千空
熊野路の金の落穂をふり鳴らす 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
燭置けば金屏巌のごときかな 橋本鶏二 年輪
父が夢の煉金薔薇霧暗し 内藤吐天 鳴海抄
父に金遣りたる祭過ぎにけり 藤田湘子(1926-)
父の世の如金屏と寒牡丹 松本たかし
父の日や遺品のなかの金釦 遠藤若狭男
父はわたしを金にして戻つて行つた日照らぬ田ヘ 橋本夢道
片袖欠け金ンの葉っぱに埋れるまで 八木三日女
牛の眼を金の虻すぎ五月来ぬ 岸風三樓
狐火消ゆ金の狐をしたがへて 齋藤愼爾
狛犬の金歯赫々木下闇 河野静雲 閻魔
狩くらに啼くははるけき金の鵄 飯田蛇笏 雪峡
猫柳緑金に炎え児の時間 佐藤鬼房
獺祭金の尾がしら金の川 佐藤宣子
玉葱にとまる金蝿夕映えて 岸本尚毅 鶏頭
玉虫に紺紙金泥の経を思ふ 高浜虚子「虚子全集]
甘露煮や寒鮒の金なほのこり 加藤楸邨
甘露煮や寒鯉の金なほのこり 楸邨
田作りに金は残らず風船虫 丸山海道
町川の鯉金に照り鴎外忌 皆吉爽雨 泉声
留金に風をほどきて厩出し 岡田史乃
畳まれて眼の金環や鯉幟 有働亨「蘆刈」
病む父の金の指環や夜の秋 岡本 高明
痩金体気どりの被奴も試筆すや 高山れおな
癇癪よ小言よ金よ年の暮 尾崎紅葉
癌すゝむ金三日月のかかるとも 菖蒲あや 路 地
白れむに夕日の金の滴れり 臼田亞浪 定本亜浪句集
白息や友よりの金手にし収む 清水基吉 寒蕭々
白牡丹金に染りしところあり 八木春
白綾に金王桜さきにけり 史邦 芭蕉庵小文庫
白芙蓉金の鞍置き三彩馬 野村喜舟
白靴の中なる金の文字が見ゆ 波多野爽波 鋪道の花
白魚汁金気を嫌ふ何何ぞ 石川桂郎 高蘆
白鳥に暁光金を張りにけり 野見山朱鳥
百姓の金歯光るや秋の暮 猿橋統流子
盃洗に金粉泛いてゐる寒さ 鈴木鷹夫 春の門
盆過の紺紙金泥日課経 斉藤夏風
盗人の金や隱せし冬木立 冬木立 正岡子規
相伝の金創膏や梅の花 夏目漱石 明治三十二年
看護婦のピアスの金も夏景色 綾部仁喜 樸簡
県居の大人も知らじな金槐忌 菅 裸馬
眞清水や眞金の鋺を越ゆるほど 高橋睦郎
真清水や真金の鋺(まり)を越ゆるほど 高橋睦郎 稽古飲食
真金吹く丹生の真赭な草紅葉 冨山俊雄
眦(まなじり)に金ひとすじや春の鵙 橋本鶏二(1907-90)
眦に金ひとすぢや春の鵙 橋本鶏二 年輪
矢車の金の暗さよ昼の酒 石川桂郎
矢車の金の真下に茶の芽立つ 百合山羽公 寒雁
短夜や金も落さぬ狐つき 蕪村遺稿 夏
短日の金門橋下汐変る 高濱年尾
短日や金を届けに妻来たる 椎橋清翠
石仏に金と朱のこる草雲雀 本多静江
石蕗浄土金ンのくしゃみをしたりけり 高澤良一 鳩信
砂糖水金泥で経写し来て 茨木和生 三輪崎
破蓮や降る日月の金の斧 大原千鶴子
祝言の金屏梅に触れにけり 橋本鶏二 年輪
祭酒海女の金歯の唇ゆるび 冨田みのる
福寿草雪をかぶりて金ほのか 山口青邨
秀衡塗金の一筋雑煮椀 松本澄江
秋のくれ哀れはとかく金にあり 秋の暮 正岡子規
秋の山中にも金洞と申すは 秋の山 正岡子規
秋の蚊の金切声を落しけり 藤田湘子 てんてん
秋は金の王座に進む列にあり 古舘曹人 能登の蛙
秋冷や佛にのこる金の耳 古舘曹人 砂の音
秋旻や金龍昼の月争ふ 臼田亞浪 定本亜浪句集
秋気満つ金閣を出て銀閣へ 高澤良一 宿好
秋深む天金褪せし詩書聖書 村田白峯
秋澄みて金閣は憂愁の花 遠藤若狭男
秋霖や金しづめたる九体仏 大橋敦子 手 鞠
秋風に嶽の日は金ン水鏡 石原舟月 山鵲
秋風や屋根に淋しき金の鳳 秋風 正岡子規
税吏汗し教師金なし笑ひあふ 加藤楸邨
稻妻に金屏たゝむ夕かな 稲妻 正岡子規
稻妻や金碧うつる杉の隙 稲妻 正岡子規
積つて見よ花見の金を江戸の船 一松 選集「板東太郎」
空梅雨の金環雲をそびらにす 相馬遷子 山国
立春の雪の金閣発光す 梶山千鶴子
竜の字の金粉に跳ね賀状書く 水田むつみ
竹はねて一瞬金の雪舞へり 中嶋秀子
竹を伐る刹那きらめく金の斧 脇本星浪
竿灯百本金に帆立ちてゆらぎけり 本庄千代子
等身の金ンの寝釈迦に燭一つ 近藤一鴻
箸置に金の折鶴年酒酌む 赤羽岳王
篝火の金粉こぼす鵜のまはり 平畑静塔
米俵金となりゆく冬日閑 瀧春一 菜園
紅梅も白梅も金ふちどりぬ 原裕 『王城句帖』
紅葉忌金がかたきの恋今も 渋沢渋亭
紅葉焚く金闇寺燃えおつるかな 有馬朗人
納豆に金の朝日をまぶしける 須原和男
紙雛の女雛の金ンの帯ゆるし 橋本鶏二
紺紙なる金泥の蘭秋扇 高浜虚子
経蔵や黴臭し紺紙金泥一切経 橋本夢道 無類の妻
絵襖の金地銀地にある枯野 三田和子
絵馬兎金眼をきかす月の寺 大木あまり 山の夢
綿入の袂探りそなじみ金 綿子 正岡子規
総歯金あをき入学児を連るる 宮武寒々 朱卓
総金歯の美少女のごとき春夕焼 高山れおな
緑星金の純粋紛れなし 高屋窓秋
緑樹炎え日は金粉を吐き止まず 竹下しづの女句文集 昭和十一年
緑蔭に読みて天金をこぼしける 誓子
緑金の歯朶や寒巌みづみづし 内藤吐天 鳴海抄
緑金の羽を牝にかけて秋の頸 飯田蛇笏 霊芝
緑金の虫芍薬のただなかに 飯田蛇笏 春蘭
縫初の小鋏に鳴る金の鈴 穂坂日出子
羅や匂ひ袋に金の糸 羽野里美(古志)
羅や相思てふ字を金で剌す 松瀬青々
美しき金短冊の絵雛かな 坂東みの介
羽子日和睫毛が金になりけらし 上野泰 春潮
羽子板の押絵の帯の金匂ふ 山口青邨
翁金扇拡ろげ初神楽 石原栄子
翼あらば秋金閣の屋根に触れむ(三月、生母(より)死す。納骨) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
背ふるはせ海牛の金と銀 山西雅子
胸の辺に金の鯖火の連なれり 岸田稚魚 筍流し
腹がけに金の一文字昼寝の嬰 山田登美子
臘梅の匂ふや金地曼陀羅絵 矢野宗律
自然薯の枯葉を金に山日濃し 上條勝
舞そめや金泥ひかる京扇 舞初 正岡子規
色男金はなくとも吉葉山 仁平勝 東京物語
芝桜安金剃刀捨て場なし 宮脇白夜
芥子赤し金をもていのち購ふか 瀧春一 菜園
芭蕉実に金気のはしる産湯の井 宮坂静生 樹下
花*うぐひとて金鱗に朱一線 福田蓼汀
花の世を伺う金の眼 牛蛙 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 島嶼派
花冷えや孔雀の紫金夜をめげず 飯田蛇笏 霊芝
花枇杷や病む放浪に金散じ 八牧美喜子
花楓紺紙金泥経くらきかも 水原秋櫻子
花烏賊にひやりひやりと金の串 長谷川櫂 天球
花粉金粉ぶつかけられて駄目になる 阿部完市 証
花芯より一すぢの金牡丹咲く 石嶌岳
花菜畠ゆくには金ぴか馬車でゆけ 津沢マサ子 華蝕の海
花菜黄に黄に黄に金ンに死はそこに 津沢マサ子
花鰔とて金鱗に朱一線 福田蓼汀
茎漬や金の指輪を二つして 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
茶が咲いて夕月の香の金の蘂 千代田葛彦
茶の花に金の三日月高からず 須佐たつを
茶の花の金を沈めて垣低し 今井千鶴子
茶摘籠金と緑の込み合へる 百合山羽公 寒雁
草の穂に夕日の金や魂まつり 上村占魚
草市やかの虫金のうしろざま 野村喜舟 小石川
草萌や金亡びざる殷の戈 千代田葛彦 旅人木
荒寺や金屏はげて夕紅葉 紅葉 正岡子規
荒矧の破魔矢なれども金の箔 久米正雄 返り花
荘厳に閻浮檀金の夜の闇花散りどきの阿修羅彷彿 筑紫磐井 未定稿Σ
菊かをり金槐集を措きがたき 水原秋櫻子
菊供養進む金龍鳩翔たせ 福田蓼汀
菊描く金ンの花びら長短 後藤夜半 底紅
菜の花や金蓮光る門徒寺 菜の花 正岡子規
萱草の花や金気の浮きし水 川崎展宏
葛切を金椀にわが壮年や 永末恵子「ゆらのとを」
蒔絵師の金をみるたび蝶ふゆる 森好子
蒼天に金きらきらの秋の田の 池上浩山人
蓑虫の金戀しとは鳴くなめり 蓑虫鳴く 正岡子規
蓴生ふ金毛閣に遊山せり 岡井省二
蕊の金袖に一刷き牡丹散る 石原八束 『風霜記』
蕊は金花烏羽玉の黒牡丹 石原八束 『黒凍みの道』
蕊金ンに風に弁解く黒牡丹 高井北杜
蕋の金初日に匂ひ庵椿 風生
蕗むくや金の盥に水揺れて 長谷川櫂 蓬莱
蕪村忌の蒔絵の金のくもりけり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
薄命へ金ぴかの苜蓿うまごやし 阿部完市 春日朝歌
薄墨の鱗の金ンや紅葉鮒 松根東洋城
薪能火蛾金粉となりにけり(新宿御苑) 細川加賀 『傷痕』
薪能鬼女の金欄火に染まる 品川鈴子
薬味酒発酵 月夜は 金波銀波の町 伊丹公子 山珊瑚
藪巻を柑子の金のこぼれけり 大石悦子 百花
藪色は金といふべし竹の子生る 香西照雄 対話
蘭鋳の重たき金を身にまとひ 粟津松彩子
虫つどふ金の王宮女郎花 堀口星眠 青葉木菟
虫の夜の子よりも古き金のペン 坂本宮尾
虫干に金の燭台ありにけり 山本洋子
虫鳴くや夕日の金のかすれ音に 内藤吐天
蚊の声や金ン刻んで暮るゝ鎚 東洋城千句
蚊をとらふ眼が金屏の剥落に 古舘曹人 能登の蛙
蜃気楼錬金術師歩きゐる 岩城久治
蜘蛛の罠金泥の都会暮れなづむ 三好 城
蜜蜂の山風吹けば金の縞 永方裕子
蜩や永久にと書きし金字かも 林翔 和紙
蜻蛉の羽根に微量の金ありぬ 正木ゆう子 悠
蜻蛉はや金閣映す水を打つ 大橋宵火
蜻蛉生る多摩の金泥銀砂子 久米正雄 返り花
蝉の昼池の萍緑金に 内藤吐天 鳴海抄
蝋燭の金ンの焔や寒詣 村上杏史
蝕甚の金環ほそる露の空 飯田蛇笏 春蘭
蝶々の金伽羅童子制多迦も 佐々木六戈 百韻反故 初學
蠅がみな金ンに見えしよ滝不動 吉田紫乃
衝立の金おとろひぬ河豚の宿 楠目橙黄子 橙圃
裏山に金粉散らし春の月 原和子
誰に賣らん金なき人に菊賣らん 菊 正岡子規
豆柿にまさぐる旅の金米糖 岡井省二
豊年の農婦に金のネックレス 羽吹利夫
豊年や湖へ神輿の金すすむ 西東三鬼
豊饒の稲抱くしぐさ金の獅子 吉原文音
貝雛の貝金を刷き紺を引き 舘野翔鶴
貫きし善の光の金冬日 下村ひろし 西陲集
赤と金経たるまぶしさ夏朝日 香西照雄 素心
身を離れ金のくさりのすぐ冷ゆる 上野さち子
遊女なき室とて冷えつ金蒔絵 有働亨 汐路
運動会大きく軽く金メダル 中里正子
酒槽の金紋総朱寒造 西本一都 景色
酒蔵は寒し試飲の金粉酒 大場艶子
釈迦の国金ンを貴び涅槃像 比奈夫
重陽や帯に織り込む金の蝶 阿戸敏明
野路の秋内陣の金ン遠眼にも 大岳水一路
金(こがね)にて鋳つべき顔や合歓の花 斯波園女
金々やあれは土手馬あさ蛙 加藤郁乎 江戸桜
金かんや南天もきる紙袋 一茶
金と時間に追はる卯の花腐しかな 岩田昌寿 地の塩
金と銀と赤の紙屑クリスマス 正木ゆう子 悠
金と銀加へねぶたの色となる 後藤比奈夫 めんない千鳥
金と銀芒の穂にもある品位 浦木やす子
金に黄に青になり這ふ毛虫かな 粟津松彩子
金の「渓谷」にて・医師達の偽証 阿部完市 証
金のペン先を買ひ替へ八雲の忌 村上 清
金の事とはじ木賃の蚊屋の夢 立花北枝
金の事思ふてゐるや冬日向 籾山庭後
金の入日沼に沈めて春待たむ 角川源義
金の匙霞一皿平らげる 栗田日出子
金の吹口虫の音籠り紙風船 中村草田男
金の夕日纒ひし地蜂穴に入る 内藤吐天 鳴海抄
金の尾を持つ鶏夏至の点告ぐる 長谷川かな女 花 季
金の帯まく白菜の市長賞 吉田ひさ枝
金の帯水浸きてかなし流し雛 米澤治子
金の弁こぞりて開く福寿草 阿部みどり女 月下美人
金の斑の鹿駆けてゆく御陵道 佐川広治
金の時計は東京経由枯野行き 山内康典
金の月へ遠き蝙蝠とんで消ゆ 原石鼎 花影以後
金の柾もて屋根替を終へし廟 田村了咲
金の矢のごと落葉松の枯葉降る 伊藤柏翠
金の箔おくごと秋日笹むらに 占魚
金の粉をあげて梅雨茸崩れけり 野村親二
金の絨氈刈れど富まずば出稼ぎに 橋本夢道 無類の妻
金の芒はるかなる母の祷りをり 石田波郷(1913-69)
金の芒遥かな母の祷りをり 石田波郷
金の芒頂上駅に降り立ちぬ 原裕 『王城句帖』
金の虻よろめき出でし牡丹かな 藤田湘子 てんてん
金の蜥蜴の金の瞳が考へをり 平井照敏 天上大風
金の輪の春の眠りにはひりけり 高濱虚子
金の針胸に打たれし愛の羽根 谷中淳子
金の間の人物云はぬ若葉かな 蕪村遺稿 夏
金の間の庭一ぱいや八重桜 李由 三 月 月別句集「韻塞」
金の間をさびしがらする鶉哉 乙由
金の雪紺の雪春遠からじ 齋藤愼爾
金の靴一つ落ちゐし謝肉祭 有馬朗人 天為
金の鯉泳ぎていよよ秋澄めり 影島智子
金の鶴折る手のひらにある聖夜 対馬康子 愛国
金の麦刈られてゆくは胸の幅 寺田京子 日の鷹
金は地に嘴をすり虹はえぬ 飯田蛇笏 春蘭
金ほのぼの雨を釣られて春の鮒 大野林火
金よりも銀美しき破魔矢かな 串上青蓑
金を以てメロンの皿の瑕をうづむ 後藤夜半
金を掘りたのしみうすく雪に住む 松崎鉄之介(1918-)
金を蒔く天職五月高窓に 古舘曹人 能登の蛙
金ピラノ社ヲカクス茂カナ 茂 正岡子規
金ヶ崎落花の帯が磴走る 吉野よしゑ
金・銀で酬ゆる恩の涼しかり 筑紫磐井 婆伽梵
金三日月よもやの願ひ叶ひしぞ 富安風生
金串の熱さもメリークリスマス 鈴木鷹夫 春の門
金串の突き抜けてゐる蕗の薹 綾部仁喜 寒木
金入れて子へまれの文麦の秋 赤松[けい]子 白毫
金公事もつくづくにして事納 山店 芭蕉庵小文庫
金冠の珱珞稚児の眼まで垂れ 山口誓子 不動
金剣宮の滝より小蟹這ひ出せり 田上さき子
金剥落秋冷まとひ屏風の虎 鍵和田[ゆう]子 未来図
金唯々と賜ふは老いしか春暖炉 風間ゆき
金屏にうつるは遠き花篝 川名句一歩
金屏におしつけて生けし桜かな 高浜虚子
金屏にしばらく夕日松の内 大峯あきら 宇宙塵
金屏にともし火の濃きところかな 高浜虚子
金屏にものの翳ある寒さかな 武藤紀子
金屏にもんぺの新婦鼓のごとく 宮武寒々 朱卓
金屏にわたる虫ある牡丹かな 岡本松浜 白菊
金屏に人日の目見ず寒牡丹 岡本松浜 白菊
金屏に君が五木の子守唄 京極杞陽
金屏に吹き衰へぬ山颪 大峯あきら
金屏に夢見て遊ぶ師走かな 支考
金屏に大事がらるゝ泊りかな 生田露子
金屏に宮様虚子を語らるる 星野椿
金屏に旅して冬を籠る夜ぞ 加舎白雄
金屏に明暗はあり菖蒲の日 古舘曹人 砂の音
金屏に昼を灯す雛の店 野見山ひふみ
金屏に灯火の影あるばかり 本田あふひ
金屏に筆投げつけつ時鳥 時鳥 正岡子規
金屏に群れつゝ嫁が君走る 嫁が君 正岡子規
金屏に若葉の窓を放ちけり 会津八一
金屏に袈裟ちかぢかと燭もゆる 飯田蛇笏 春蘭
金屏に雨吹きいるる野分かな 蓼太
金屏に風防く鉢の桜哉 桜 正岡子規
金屏のうしろのひとのゆききかな 橋本鶏二 年輪
金屏のかくやくとして牡丹哉 與謝蕪村
金屏のさかさに夜ごろ燭ともる 飯田蛇笏 春蘭
金屏のすそのうもるゝ毛皮かな 大橋櫻坡子 雨月
金屏の前にて賞でぬふきのたう 辻桃子
金屏の松の古さよ冬籠り 芭蕉
金屏の松もふるさよ冬籠 芭蕉 芭蕉庵小文庫
金屏の畳んでありし寒さかな 大石悦子 聞香
金屏の空の如くに翳りけり 上野泰
金屏の紅葉に秋の夕日哉 寺田寅彦
金屏の羅は誰ガあきのかぜ 蕪村 秋之部 ■ 旅人に別る
金屏の虎が睨んでゐるところ 長谷川櫂 虚空
金屏の裡の泊りに父の夢 木村蕪城 寒泉
金屏の金くろずめり山桜 茨木和生 野迫川
金屏の金の剥落山桜 齋藤愼爾
金屏の金ンを放てる虚空かな 上野泰
金屏の金痩せにけり秋の風 小川軽舟
金屏の隅に追儺のこぼれ豆 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
金屏の雲や燭燃ゆ夷講 松瀬青々
金屏やある日弥生の松の影 月舟俳句集 原月舟
金屏や一輪牡丹瓶の中 牡丹 正岡子規
金屏や刺繍屏風や亀城館 高野素十
金屏や寒風描きあるごとく 長谷川櫂 虚空
金屏や晶子百首をちらしたる 土山紫牛
金屏や父の世に古りいまに古り 上田五千石 風景
金屏や賢き妹が筆始 会津八一
金屏を祝はれ吾れは喜寿なりし 武原はん女
金屑をひざにひろひて雛師かな 森川暁水 黴
金床に鎚に盛り塩鍛冶始 柴田寛石
金彩のチェンバロの音に年迎ふ 佐藤美恵子
金扇に紅き日輪武者飾 山口誓子 大洋
金扇の雲浮かしたる冬の翳 飯田蛇笏 椿花集
金扇よき光ぞとあふぐなり 在* 選集「板東太郎」
金掘る山本遠し閑居鳥 蕪村遺稿 夏
金柑を煮含めまこと金の艶 岩本あき子
金梨地の磁器凍てかへるさびしさに 石原八束 空の渚
金槐祭はやも柘榴の割るゝ日ぞ 久米正雄 返り花
金槐集の名もまぶしくて実朝忌 森澄雄
金槐集霰たばしる日なりけり 奥田杏牛
金殿のともし火細し夜の雪 雪 正岡子規
金殿や春の夜毎を鼓打つ 露月句集 石井露月
金気だつ芝の風につつまるる 岡田史乃
金水引終の町石梵字跳ね 田中水桜
金泥で書く波羅蜜の涼しさよ 筑紫磐井「筑紫磐井集」
金泥に塗り込めし死や大櫻 火村卓造
金泥に塗り込めたりし余寒かな 行方克己 昆虫記
金泥に帯び描くことも冬安居 京極杜藻
金泥に朱を落したる淑気かな 鈴木鷹夫 千年
金泥の一巻を展べ春の海 八染藍子
金泥の仁王の乳首あをあらし 川崎展宏
金泥の全身ねむる冬の鯉 正木ゆう子 静かな水
金泥の屠蘇や朱塗の屠蘇の盃 漱石
金泥の月のぼりをり春怒濤 木村風師
金泥の水の落日鳰くぐる 桂信子 遠い橋
金泥の淡きもしるき夏書かな 加藤三七子
金泥の無地の衝立春寒し 松藤夏山 夏山句集
金泥の筆先乾く夏書かな 大谷句佛 我は我
金泥の荒渦や人面を痺れしむ 橋本夢道 良妻愚母
金泥の菩薩刺さんと春の蚊が 古川水魚
金泥の額の古びや冬籠 会津八一
金泥の鶴や朱塗の屠蘇の盃 夏目漱石 明治三十二年
金泥もて枯葦描かむ久女の忌 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
金泥をもて描くべし豊の秋 県多須良
金泥を塗られしごとき春の風邪 大木あまり 火球
金泥を引きてゑがける青蕨 後藤夜半 底紅
金泥を海に流せり盆の月 澤木欣一
金泥を溶く夜桜の冷えのなか はりまだいすけ
金泥を練る箆や冴え返るなり 内田百間
金泥経を出て凍蝶の吹かれけり 各務麗至
金泥経蔵して山の眠りゐる 菊地一雄
金湛へ秘仏くろずむ夕花菜 荒井正隆
金溜まることに縁なき柚子湯かな 鈴木真砂女 夕螢
金無地の襖牡丹まつさかり 柴田白葉女 花寂び 以後
金無垢のほとけに花の寂いたる 上田五千石
金無垢の耕牛置けり野の没日 内藤吐天 鳴海抄
金無垢の蜂を放ちぬ枯木の枝 内藤吐天 鳴海抄
金獅子の毛の落葉松の落葉かな 田中康子
金獲たり本の神田の雁高し 松崎鉄之介(1918-)
金環の目の魚釣れて島万緑 木村里風子
金環の眼見ひらく青葉木菟 石川冨美子
金環蝕ぼうぼうほろぶ一番鶏 佃悦夫
金環蝕名誉ある吾等かな 阿部完市 証
金環蝕極まれり白蝶舞ひ縮む 永井龍男
金瓶は茂吉の村や樫落葉 中谷五秋
金瓶梅うらゝかな顔で読みにけり 野村喜舟 小石川
金瓶梅浅草で買ふや祭中 野村喜舟
金甲三百鴨居に光る夏館 下村ひろし 西陲集
金短冊差しかへてをり蟻走る 松村蒼石 雪
金秋の愛語聖とならんかな 平井照敏 天上大風
金秋の鍋を煮くづす煮とろかす 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
金秋や人待つ駱駝膝を折る 岩淵喜代子
金筋の駅長混じり雪を掻く 西川朝夫
金米糖板の間に散る二月かな 小川軽舟
金粉の散ると見えたる鳴子かな 野村喜舟 小石川
金粉の沈める屠蘇を干しにけり 滝戸蓮
金粉の袖に附きくる朧かな 竹内悦子
金粉は盃の底七日暮れ 平野 卍
金粉をこぼして火蛾やすさまじく 松本たかし
金粉をこぼすごとくに春の月 山下由理子
金粉をみなぎらせたり黒牡丹 下村梅子
金粉を散らしてわれに墓はなし 津沢マサ子 楕円の昼
金縋を置く寒厨の片隅に 伊東宏晃
金芒ひとかたまり銀芒ひとかたまり 高浜虚子
金花佐久ゆめの万葉仮名涼し 山田みづえ 木語
金花虫(たまむし)や漆の椀をふたつほど 本田ひとみ
金落せしわれを憐れめ烏瓜 清原枴童 枴童句集
金蒔絵春の埃を近づけず 梶山千鶴子
金蜂のただよひ焦がす掛煙草 角川源義
金蝶の眠り過せしが銀蝶か 田中芥子
金蝿のきらきらとして遍路かな 岸本尚毅 舜
金蝿のこどくに生きて何をいふ 加藤楸邨
金蝿のごとくに生きて何をいふ 加藤楸邨「起伏」
金蝿の乾ける音をたてつるむ 辻桃子 ねむ 以後
金蝿の五重の塔にとまりけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
金蝿の叩かれやすく生れたる 小林洸人
金蝿も銀蝿も来よ鬱頭(うつあたま) 飯島晴子(1921-2000)
金蝿やあら銀蝿や老夫婦 鳴戸奈菜「天然」
金蝿やチャリーチャツプリン其処に 毛呂篤
金蠅とかまきり招きわが燈火 西東三鬼
金蠅やあら銀蠅や老夫婦 鳴戸奈菜
金褪せず色褪せにけり古雛 大橋敦子 手 鞠
金褸梅や留守居のごとき昼餉して 手塚美佐 昔の香
金襖すずめさかるを背にききぬ 太田鴻村 穂国
金襴の綾なす鯉と金閣と 高澤良一 宿好
金覆輪の雲分け出づる大初日 山田みづえ
金運の白蛇様も穴を出づ 後藤 章
金鈍る三日月は霜かゝるらし 渡邊水巴 富士
金銅の持仏を船に目白捕 茨木和生 往馬
金閣にほろびのひかり苔の花 遠藤若狭男
金閣に尻炙られて松手入 辰巳比呂史
金閣に日のありながら春時雨 中村正代
金閣に舟つなぎあり残る鴨 田村愛子
金閣のはじく余光や凍ゆるむ 竹中碧水史
金閣の屋根にとどまり永き日よ 尾崎八重子
金閣の影を大事に鴛鴦遊ぶ 田畑美穂女
金閣の歩廊めぐれりマント着て 原子公平
金閣の裾を団扇で煽ぎけり 大木あまり 雲の塔
金閣の金とは知らずあめんぼう 鈴木紅鴎
金閣の金の樋にも花の雨 品川鈴子
金閣の金を破りて錦鯉 高澤良一 宿好
金閣へ行つたきりなる寒雀 大石悦子 聞香
金閣や金箔はげて苔の花 苔の花 正岡子規
金閣をにらむ裸の翁かな 大木あまり 雲の塔
金閣を呑まんばかりに鯉の口 高澤良一 宿好
金閣を残して消えし蜥蜴かな 田中仁(たかんな)
金閣炎上知らぬ子と立ち大文字 桂樟蹊子
金風に提げて野のもの山のもの 馬見塚吾空
金風の美しければ蝶も又 星野椿
金風の翳す仏顔ほのに笑む 臼田亞浪 定本亜浪句集
金風の面影塚を包みをり 星野 椿
金風や廡壁の論語あな鮮し 下村ひろし 西陲集
金風や若狭の旅の餉鯛づくし 北野民夫
金風や虚子記念館古里に 稲畑廣太郎
金風忌念仏唱へつづけをり 北村光阿弥
金風白露いつしか雁聞く夜となりぬ 寺田寅彦
金餓鬼となりしか蚊帳につぶやける 石塚友二「方寸虚実」
金龍が吐くみたらしも初大師 大竹孤悠
金龍の尾の逆立ちて天高し 片山由美子
金龍の舞の奇瑞や暮の秋 久保田万太郎 流寓抄以後
釜神の金壷眼神の留守 猪股洋子
針金の金気切れたる鳰 宮坂静生 山開
銀の鹿と金の夕日と入れ代る 脇本星浪
銀杏散り金を呉れむと番号呼ばれ 岩田昌寿 地の塩
銀杏黄葉金の小鳥の生るるかな 西川治枝
銀波生れ金波消えつつ良夜かな 坂井建
鍋いまし金環蝕や盲汁 下村梅子
鐘氷る夜床下にうなる金の精 鐘氷る 正岡子規
閣涼し金碧はげて笙の声 涼し 正岡子規
闇汁に金鍔入れし人や誰 会津八一
阿夫利嶺に雪降る金の寝釈迦かな(相州大山) 石原八束 『幻生花』
陋巷や花火が撒きし金砂子 内藤吐天 鳴海抄
降る雪に金の卵を想ひゐる 林桂 銅の時代
降る雪や天金古りしマタイ伝 長谷川双魚(1897-1987)
除夜の灯は金の砂子を撒いてをり 阿波野青畝
雑煮祝ぐ秀衡椀の金まぶし 上村占魚 『石の犬』
難波江に金の太陽生身供 猪股洋子
雪の上に金の炎のとぶ焚火 大橋桜坡子
雪の精金粉わき立たせ金屏風 永井龍男
雪空に野火が舞はせる金砂子 能村登四郎 菊塵
雪舞ひの金粉となる没日かな 立川華子
雪見るや金をまうける道すがら 雪 正岡子規
雪解や馬の金沓打つひびき 瀧 春一
雪野照り莎の金ンの紛れたる 成田千空 地霊
雲のうら金泥ならむ初鴉 小枝秀穂女
雲の峯立つそのかみの金の露頭 津田清子 二人称
雲海や金の時計が腕にあり 九鬼あきゑ
雲雀落ち天に金粉残りけり 照敏
霙降る金の神輿を封じこめ 藤井圀彦
霞む日やさしあたりとは金のこと 藤田湘子
露けさの金閣見んと一歩寄る 高澤良一 宿好
露の金閣屋根は椹と申されき 高澤良一 宿好
露寒や走者に金の首飾り 原田豊子
露晴るるほすすきの金ただにゆれ 飯田蛇笏 春蘭
青あらし金のばれんの光りかな 幸田露伴 谷中集
青嵐聖書背文字の金こぼす 長田等
青松に金閣の金ン飛ばしけり 高澤良一 宿好
青葉光一生涯を天金に 野見山ひふみ
青葉蔭金の涙を眼にたたへ 野見山朱鳥
青蛙ぱつちり金の瞼かな 川端茅舎「華厳」
青蜜柑どこかに金の影ひそむ 百合山羽公 寒雁
風呼ぶ夕映え花菜は金の環浮かべ浮かべ 古沢太穂 古沢太穂句集
風花の金閣金を深めけり 大原教恵
風薫る金のボタンの乗馬服 船越和香
風邪患者金を拂へば即他人 相馬遷子 雪嶺
風邪秘めて耳輪に金の鈴二つ 赤松[けい]子 白毫
飽きられており木犀が金こぼす 田川飛旅子 花文字
餅花に金の草履のぬいであり 大野朱香
餌を奪ふ金黒羽白負けてゐず 岡田 日郎
馬刀掘りのひたと金壺眼かな 西田青沙
馬刀貝掘りのひたと金壺眼かな 西田青沙
騎馬少女金のボタンの五月来る 原田青児
高き棕櫚の花房金に一路たたかい 古沢太穂
鬼会晴火の粉金粉闇に舞ふ 津留崎順子
鬼柚子は歪みて金となりにけり 細川加賀 『玉虫』
鯉の金しづめし水の冴ゆるかな 鷲谷七菜子 花寂び
鳥威す金銀金は火に見ゆる 山口誓子
鳩の目に金のまじれる桜かな 夏井いつき
鴉の子さびしいか胸の金ボタン 遠山郁好
鴛鴦の水金砂銀砂をまぶすごと 高澤良一 素抱
鴨なけり枯穂の金がひた眩し 楸邨
鶏の眼の金環冴えて初時雨 北原志満子
鷹の威は金環もてる目にぞある 田畑比吉
鷹渡り日矢の金粉散らしけり 澤田緑生
鷽替の金の当りて埓もなき 後藤比奈夫 めんない千鳥
鷽替の鷽の金泥めでたけれ 田中祥子
麦の秋一と度妻を経てきし金 中村草田男「萬緑」
麦踏に金覆輪の入日あり 大峯あきら
麦飯に拳に金の西日射す 西東三鬼「今日」
黄金虫走路に金を点ずるは 加藤水万「恩寵」
黄金週間残んの金ンとなりにけり 藤本草四郎
黒いガラスに金環の笑みスラムの肩 古沢太穂
黒き壷金冬心の梅を挿す 山口青邨
黒猫の金の瞳やパリー祭 吉田ひろし
龍跳ねて金粉散らす賀状かな 中嶋秀子
●銀 しろがね 
*たらの芽や銀を運びし山路荒れ 岡部六弥太
あつまりて像歪めあふ銀器の秋 渋谷道
あはあはと銀漢面影は消えず 福田蓼汀 秋風挽歌
あんこうを銀で作つている自信 阿部完市 証
いくたびも暗きに跼み銀竜草 藤木倶子「火を蔵す」
いぶし銀のやうな仲なり冷奴 梨本怜子
うすものの中より銀の鍵を出す 鷹羽狩行「平遠」
うすものの僧の啣へし銀煙管 佐川広治
うすらひのとけゆく無双銀屏風 加藤耕子
うたたねの日傘のはじに銀の凪 鬼野海渡
うつくしき抱一か画や銀の露 露 正岡子規
おどろきて銀婚夫婦着膨れぬ 細川加賀 生身魂
おほかたは追慕に燃えて銀縷梅 山本つぼみ
お軽銀涼しき矢立給ひけり 石川桂郎 高蘆
かたかごに銀の日の懸りをり 石田勝彦
かちあたる馬車も銀坐の師走哉 師走 正岡子規
きさらぎや銀器使はれては傷を 大井雅人
ぎこちない金と銀とのお正月 加藤ミチル
くちびるは柔らかきゆえ罪深し針魚の銀の細身を好む 松平盟子
こほろぎや路銀にかへる小短冊 室生犀星(1889-1962)
さざなみのひかりを銀の襖かな 日原傳
さびしさは紙風船の銀の口 中村与謝男
さびしさは銀青梅の育つ夜 菅原和子
さらば御嶽銀漢に見送らる 福田甲子雄
しらしらと銀漢往古は絹の道 伊東杏花
でで虫に銀の雨降る子の熟睡 石田厚子
とかげ瑠璃色長巻く日本の帯銀無地 三橋鷹女
とり落す銀のスプーンや夜の秋 三橋 迪子
なきがらや光ひしひしと銀屏風 斉藤夏風
なめくぢの描きゐる銀誰も見ず 平畑静塔
はつはるや余糸銀糸の加賀手毬 田村愛子
はばたく蛾の銀粉を紗に微光の町 桂信子 黄 瀬
ひえびえと二日の夢に銀の檣 友岡子郷 日の径
ひとりゐに銀漢たわむ祭笛 相馬遷子 山國
ぴりぴりと日に欠け 香料と銀の富 伊丹公子 ガルーダ
ふえの音の今夜おそろし銀のめし 星永文夫
ぶるぶると葛饅頭や銀の盆 千原草之
ほそぼそと朝の雨ふる銀のはり清くつめたくわがはだをさす 片山広子
ぼこぼことして銀竜草にぎられし 金田咲子 全身 以後
まぼろしとうつつを破りタチウオの銀鱗瞬時空をつらぬく おおのいさお
まゆ玉をかざせる銀の屏風かな 稲垣きくの
みじか夜や枕にちかき銀屏風 蕪村 夏之部 ■ 雲裡房に橋立に別る
みだれたるわが銀の髪さへも淡く映して野の水氷る 山下陸奥
みなづきの何も描かぬ銀屏風 黒田杏子「花下草上」
ゆふいんの銀鼠ずずこ雨まみれ 高澤良一 鳩信
よく泳ぐ烏賊に銀の目十二月 神尾久美子
ろうそくの円光の金、銀婚妻 橋本夢道 良妻愚母
をし鳥や廣間に寒き銀屏風 鴛鴦 正岡子規
アメヤ横丁海鼠の棲める銀盥 渡辺二三雄
アラー称ふあれは銀漢これは砂 マブソン青眼
ウインドの銀器に映る街師走 西村和子 かりそめならず
エスカレーターは銀の遁走曲ぞ寒に入る 鳥居おさむ
エリカ咲き山手に銀の細工店 和気久良子
オホーツクの秋潮の紺銀狐の目 加藤楸邨
オリーブの銀緑叢中夏帽子 福永耕二
ガラシヤ忌虫の音銀沙撒くごとし 宮脇白夜
クレヨンの金と銀とで塗る月夜 対馬康子 吾亦紅
コンと咳 砂山に捨て 薄暮の銀 伊丹公子 パースの秋
サルーンの銀の柱の爽やかに 五十嵐播水 埠頭
セーターの胸にV切る銀ぐさり 渡辺寛子
ゼリー食ぶ銀の小匙を遊ばせて 広田恵美子
バレエ果て銀の風鳴る星月夜 吉原文音
パパイヤへ銀の額をもてる朝 高澤良一 ぱらりとせ
ホルンの音屋根突きぬけて銀漢へ 椿 ひかる
メロンにも銀のスプーン主婦好み 高濱虚子
ライラック朝の銀輪地を滑り 佐藤喜俊
ラジオ消し銀漢船に迫りたる 深見けん二
一月のさよりの銀を一包み 辻桃子
一本の華やぎ 晩年の銀の匙 伊丹公子
七月や銀のキリスト石の壁 大野林火
不知火を待つ銀漢の鮮かに 渡辺安山
乾きゆく煎子に銀のもどりつつ 野見山ひふみ
予感のごと砲車と銀器並べてあり 阿部完市 絵本の空
二月の銀の純度を量りをる 岡本信男
亭主留守銀の太刀魚唐揚に 吉田ルツ
仁丹の銀こぼれつぐ涼しさよ 青邨
仁丹の銀まろび落つ春の土 高橋敦子
仁母の銀こぼれつぐ涼しさよ 山口青邨
仏名やかるい銀撰る妹が指 野坡
仲秋や銀の腕輪が腕締めて 辻桃子 童子
作る畳へ銀針出没鮎釣りたく 香西照雄 素心
優曇華の銀糸指さす茶山にて 野澤節子 遠い橋
光堂かの森にあり銀夕立 山口青邨(夏草)
八月の銀を伸べたり太刀の魚 石塚友二
六面の銀屏に灯のもみ合へる 上村占魚 鮎
其銀で裘なと得よ和製ユダ 中村草田男
冬の帆や銀ねずみなる雲飛ぶに 細谷源二 鐵
冬の星わが鬢髪に銀を差す 中島斌男
冬月や銀の魚棲む沈没船 甲斐由起子
冬浪の銀扇の飛ぶ虚空かな 上野泰 春潮
冬瓜の銀あん下処理ねんごろに 高澤良一 素抱
冬萌や水の銀圏隆まりて 香西照雄 素心
冬銀漢灌ぎ出さるる途中かな 柚木紀子
冬青空いつせいに置く銀の匙 水野真由美
冴え返る屏風の銀や霽月忌 三由孝太郎
冷飯に鳴らして寒し銀の箸 龍胆 長谷川かな女
凍蝶を埋む銀砂のひと握り 島田節子
刈草に鳴りてまぎれぬ銀の紙 宇多喜代子
初夢のいくらか銀化してをりぬ 中原道夫
初旅や銀の器に洋酒入れ 小島健 木の実
初日浮くや金波銀波の太平洋 初日 正岡子規
初明り粉乳へ挿す銀の匙 田川飛旅子 花文字
初東風や翡翠が嚥む銀の魚 堀口星眠
初蝶や銀髪額へかげを生み 原コウ子
初雁や銀短冊の五六枚 野村喜舟 小石川
初髪といふも銀髪束ねたる 鳥越すみこ
初鮭の荷や銀さびの夜明ごろ 素丸
劇中に銀の斧あり卒業す 中村和弘
十錢の銀を銅貨に両がへて 正岡子規
千鳥駈る干潟銀無垢に冴え返る 内藤吐天
友らみな白髪をまじへ銀木犀 三橋鷹女
反転の寒鯉黄銀日矢の中 中村明子
句をえらみてはちかむ死か銀懐爐 飯田蛇笏
吹き口の銀のしめりや紙風船 岩井英雅
吾等また銀婚のこと花ゆふべ 山口青邨
啼く田鶴の一身銀の日矢の中 橋本榮治 麦生
噴煙の夜は銀漢へのぼるらん 猿橋統流子
囚はれて凍蝶銀をこぼしけり 山田弘子 懐
四十雀銀の笛吹く山日和 大塚宏江
國狭く銀漢ながれわたりけり 西島麥南
土間闇の前で銀線祭の雨 香西照雄 素心
地は銀の暗さ春天日蝕す 朱鳥
城垣や銀の鎧の太蜥蜴 澤田喜久一
埼玉のもののあはれの銀やんま 桑原三郎
夏未明銀坑洞に火を点す 吉田木魂
夏草に分け入り銀のオートバイ 稲葉南海子
夏霧に銀だちて野猿の毛 甲斐すず江
夏鹿の森の刻々銀時計 攝津幸彦
夕月の銀のさばしる鳥総松 飯田龍太
夕霞乗鞍岳に銀の鞍 伊藤敬子
夜のメロン銀の匙より冷たくて 持丸寿恵子
夜の定時銀香炉拭く青葉木菟 宮武寒々 朱卓
夜の秋の理髪店より銀の音 十時海彦
夜歩きの名残銀漢烟りけり 中島月笠 月笠句集
大伽藍跡は茅花の銀の波 小路紫峡
大利根の水を見にゆく銀やんま 火村卓造
大夏炉銀鱗荘の主たり 高濱年尾
大寒ややおら銀屏風起ちあがる 佃 悦夫
天もるる日や銀竜草が発光す 近藤忠
太刀魚の銀の傷だらけなる 辻桃子
太刀魚の銀の移りし箸を置く 石丸ただし
太刀魚の銀はくもれど悪友なり 飯島晴子
女郎蜘蛛暮色へ銀の糸を吐く 岐志津子「駆けてきて花野」
如月やひとの華燭の銀の匙 渡邊千枝子
妻と寝て銀漢の尾に父母ゐます 鷹羽狩行
娘は銀婚母は金婚万年青の実 西山すみ子
子と摘みにゆく銀(しろがね)の蓬かな 山西雅子
子の夫婦銀婚迎ふ花楝 田中英子
実むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子
宵宮に銀髪投手現はれし 今坂柳二「白球論」
家路やすらか太刀魚の銀を見て 友岡子郷 春隣
富士に雪来にけり銀木犀匂ふ 伊東余志子
寒鮒の生きゐて暮天銀いろに 杉村 惇
實むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子 一木一草
屯田村の銀芽や百年川なだめて 平井さち子 完流
山の蛾がふらす銀粉九月果つ 桂信子 花寂び 以後
山刀伐を越ゆ水引の銀を手に 安藤五百枝
山撓宝珠銀の蕊吐き秋風に 木村蕪城 一位
山麓の百年の家銀木犀 坪内稔典
帰り船灯は銀漢の尾に触れて 稲葉三恵子
幸木に編まれて光る銀の鶴 深川知子
幸来ずや苺をつぶす銀の匙 佐野まもる
幹銀の/辛夷の/空を/雲追ふ風 林 桂
律の風槌で打出す銀の花器 阿部月山子
御降りやなでて畳みし銀の帯 江崎紀和子
忘却の扉を開く銀の鍵つめたし 内藤吐天 鳴海抄
愛情のほのぼのとある銀懐炉 飯田蛇笏 雪峡
愛情は秘むべし柳の裏葉銀 香西照雄 対話
慎重に銀木犀を思いたり 阿部完市
憂ひなし桔梗の空に銀氷河 有働亨 汐路
戦華のあと金木犀銀木犀 永末恵子
手焙に銀瓶の斜なる夜更 尾崎紅葉
指先の銀はつぶせし紙魚のもの 品川鈴子
指弾して聖樹の銀の鐘鳴らず 山口誓子 紅日
掃初や銀元結の屑すこし 岡本松浜 白菊
掌に銀の影置く蓬かな 春日鳥宇
描初の金泥を溶き銀を溶き 奥野素径
放埒は銀木犀の花に始まる 福富健男
放射能雨か冷玻璃へ増す銀の刺 香西照雄 対話
故郷や玻璃にぶつかる銀やんま 中沢城子
故里の銀漢小さくなりにけり 瀧澤伊代次
新松子銀の指輪の祝婚歌 松井桂子
新涼や金眼銀眼の猫とゐて 宮川喜子
旅櫛の銀のよごれや紅薊 島村元句集
日をはじく実は銀鈴のあふちかな 若林いち子
日陰れば芒は銀を燻しけり 米岡津屋
明星の銀ひとつぶや寒夕焼 相馬遷子 山國
星凍る銀明水や土用の入 土用 正岡子規
春の夜の銀延ぶる小槌かな 雉子郎句集 石島雉子郎
春の漁密かに四五尾銀の鮎 飯田蛇笏 雪峡
春はすぐそこ離乳期の銀の匙 山崎ひさを
春を待つものに銀化の涙壺 野見山ひふみ
春三日月お伽の国の銀の舟 渡辺ゆり子
春宵や菓子鉢銀のいぶしいろ 及川貞 夕焼
春愁や銀鎖のベルトゆるく巻く 鍵和田[ゆう]子 未来図
春星の銀の小籠を見つけたる 堀口星眠 営巣期
春昼や踏絵に残る銀の色 中川宋淵 詩龕
春暁の地震がどしんと銀婚なり 奈良文夫
春灯つぶら『銀の匙』より復るもの 友岡子郷 遠方
春灯や菊勇のかげ銀屏風に 田中冬二 俳句拾遺
春近く桜の幹のいぶし銀 高澤良一 鳩信
春陰の岩吹き出づる水の銀(球磨川の水源地を探る) 上村占魚 『玄妙』
春雷やかの日の銀の耳飾り 坪内稔典
春霜満地銀狐の餌はきざまるゝ 前田普羅 春寒浅間山
春風や銀髪肩に揺らし来る 石川風女
時鳥鳴くや局の銀屏風 時鳥 正岡子規
暗やみへ銀の道生む蛞蝓 高瀬恵子(アカシャ)
暮れてなほ黄金に銀に花芒 勝西健二
最上川は鬱の銀いろ野分過ぐ 沼澤 石次
月が置く銀の環柩ある家に 文挟夫佐恵 黄 瀬
月夜しぐれ銀婚の銀降るように 佐藤鬼房
月待つや影こそ佳けれ銀沙灘 加藤安希子
月涼し銀の簪薄紙に 奥本芳枝
月祭る芒の銀のこぼれけり 太田鴻村
朝に銀夕べに金のねこじやらし 内山靖子
朝の舟搖りつ浦人銀葉草(ギバサ)掻く 高澤良一 寒暑
朝は金ゆふべは銀の花すすき 文挟夫佐恵
朝日さす雪原金沙銀沙照り 鈴木貞雄
朧銀の水のめぐりて初櫻 加藤三七子
木犀の銀の十字や誕生日 角川源義
木犀の銀疲れたり遺跡遺居 平井さち子 鷹日和
末枯れや子は描きなぐる金と銀 対馬康子 純情
朴咲くや津軽の空のいぶし銀 沢木欣一 赤富士
朴咲くや銀漢低くひんがしに 佐野青陽人 天の川
朴落葉いま銀となりうらがへる 青邨
東大寺銀の皿にも鹿彫られ 大島民郎
松が嫉(やく)水がね(銀)飲ません荻が上 洞雨 選集「板東太郎」
枯蘆のはて銀婚の影落す 古舘曹人 能登の蛙
枯銀の杏空のあをさの染むばかり 竹下しづの女句文集 昭和十四年
柊の花も蕾も銀の粒 橋爪巨籟
柴漬の手間ひま銀の夕立す 古舘曹人 砂の音
桃を剥く銀のナイフを曇らせて 岩垣子鹿
梧桐の銀置く空や明け易き 会津八一
森の中塵と銀扇露まみれ 阿部みどり女
椴松の根方にひょっこり銀龍草 高澤良一 燕音
楡大樹銀の芽もて濡るる空 柴田白葉女 『冬泉』
橋の灯は神旅立ちの銀の馬車 藤原千紗子
櫻桃や妻銀髪をひたかくす 古舘曹人 砂の音
歌いまくる炭子の唄に銀漢伸ぶ 金子兜太
歳月の八十八夜銀の匙 伊藤君江
残雪や北欧に買ふ銀の匙 吉野義子
母の世の金糸銀糸や土用干し けんとう千草
母亡くて銀鱗こぼす初御空 角川春樹
毒薬のありそうな部屋 銀映え 伊丹公子 パースの秋
水中花銀の泡つけ夜深き燈 内藤吐天 鳴海抄
水底に銀の太陽みづすまし 山本歩禅
水音は銀の重さに山ざくら 児玉南草
沈む桃に銀膜赤き処は浮べ 香西照雄 素心
沖の銀圏消えぬ脚下に花菜展く 香西照雄 素心
油いため終り銀漢かがやきぬ 宮坂静生 青胡桃
波音や応挙の銀の屏風より 三浦久子
流星にとどろきなびく銀の髪 高澤晶子
海へ雪嶺へ舞ひは銀朱や朱鷺の夢 加藤知世子 花寂び
海原に銀漢の尾の触れてゐむ 西村和子 かりそめならず
海胆割つてゐる銀鼠の雨の中 友岡子郷
海鼠漁の手応え 銀の日暮れのなか 伊丹公子 陶器の天使
涼しく銀鱗抗し得し魚数尾くるる 古沢太穂 古沢太穂句集
湖こめて降りつむ雪や銀狐鳴く 佐野青陽人 天の川
満山の銀の芒や鷹渡る 橋本鶏二 年輪
満載の橇に銀漢尾を垂れつ 栗生純夫 科野路
瀬波相摶ち銀やんま急降下 西村和子 かりそめならず
火事の夜の女がつかふ銀の匙 古舘曹人 樹下石上
灯に吊す銀新巻の蝦夷ぶりぞ 山崎千鶴子
灯の涼しかんざし店に銀の蝶 千手 和子
炎天の羽音や銀のごとかなし 川口重美
焼鳥や銀の髪もつ露語教師 日原傳
照れば金日かげれば銀芒かな 下村梅子
熊蝉の放射してゐる銀の糸 小檜山繁子
燧灘銀泥延べし良夜かな 渡部抱朴子
父の日や古りし遺愛の銀時計 近藤一鴻
牡蠣に添ふ二つのみある銀フオーク 及川貞 榧の實
犬馳けし足跡雪の銀砂灘 右城暮石 上下
猫に買ふ銀の小鈴も盆支度 桑原立生
猫柳初心の銀と思ひけり 岩瀬良子
猫柳風に光りて銀鼠 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
玉虫の飛翔は銀の翅つかふ 児玉南草
珈琲秋思の 銀匙 重くも軽くもなく 伊丹三樹彦 一存在
甕に落つ蛾の銀粉のひろがれり 福田甲子雄
甘蔗の花摩文仁の丘に銀波なす 野原培子
甘酒の銀泥怖るのんどかな 磯貝碧蹄館「馬頭琴」
生きた銀天国へ行けぬのに逃る 阿部完市 証
甲板に寝て銀漢を胸の上 奈良文夫
男ありむさしをあるく銀狐つれて 阿部完市 にもつは絵馬
病棟へ岡持ち駛すよ銀茅花 平井さち子 完流
発掘の一分銀駒返る草 吉田紫乃
登頂の荒息聞き合ひ銀婚なり 香西照雄「壮心」
白木蓮の滾りて銀の宙にあり 八村廣
白絣銀魚のごとく着てをれり 火村卓造
白菊にうはの空なる銀化粧 秋色 俳諧撰集玉藻集
白魚を汲む瓏銀の潮の色 茨木和生 往馬
白鶴の銀と化したる屏風かな 大石悦子 百花
百の幼女ほしがる桃とそして銀 阿部完市 春日朝歌
皆既月蝕凍て王女めく銀の匙 河野多希女 彫刻の森
眼が寒しストリツパーに銀の陰 磯貝碧蹄館 握手
知らぬ間に過ぎし銀婚松の芯 松村多代子
短夜やうすものかゝる銀屏風 短夜 正岡子規
短夜やともし火うつる銀屏風 短夜 正岡子規
短夜や枕にちかき銀屏風 蕪村「蕪村句集」
石焼藷銀の匙もてすくへるよ 山口青邨
祇園会や黄金の巴銀の月 大釜菰堂
祖父が先ず触れ モレーン・レイクの銀の櫂 伊丹公子 アーギライト
秋しぐれ上着を銀に濡らしける 川崎展宏
秋の夜の路銀かぞふるふしどかな 西島麦南 人音
秋の夜や紅茶をくゞる銀の匙 日野草城
秋の蛇銀婚の夫婦おどろかす 山口青邨
秋の蝶銀粉ちらす鞍馬山 松崎 豊
秋光をさへぎる銀の屏風かな 前田普羅 新訂普羅句集
秋刀魚船銀のしぶきを運び来し 目黒穎子
秋海の銀に五体を投ぜんか 大口元通
秋深む銀のフオークに血がついて 藤岡筑邨
秋澄むやひろげて銀の舞扇 藤村克明
秋澄んで銀燃ゆる蜘蛛の糸 石塚友二 光塵
秋行くとオリーブ林の銀の風 石田 波郷
秋逝きぬ銀の燭台盗らねども 大西淳二
稜線を銀にかがりて秋入日 加藤耕子
稲妻の銀の眼を沖合に 高澤良一 ぱらりとせ
空蝉をのせて銀扇くもりけり 魚目
立秋や銀の茶釜の市に出る 寺田寅彦
立雛や袴の銀のさびまさり 野村喜舟 小石川
端居して銀漢をまた遡りゐし 河原枇杷男 蝶座 以後
築地川跡銀葉アカシア咲く高さ 松田ひろむ
簟名残におきし銀煙管 松瀬青々
米櫃に銀の紙貼り秋の母 磯貝碧蹄館
粒選りの銀舎利箸に万座屋忌 上田五千石
紅梅やかの銀公の唐衣 貞徳
紙魚の銀身をうねらせて走るかな 野村喜舟
紙魚を追ひけだかき銀にたぢろぎぬ 林翔「あるがまま」
紫の蕾より出づ銀の葦 竹下しづの女句文集 昭和十一年
絵襖の金地銀地にある枯野 三田和子
織初や金絲銀絲の杼をとばす 高橋淡路女 梶の葉
義兄弟銀木犀の屋敷にて 飯島晴子
義士の日や銀をふちどる朝の雲 沢田まさみ
羮や銀匙うらゝかに舌青春 松根東洋城
翁草銀の絮かな祭笛 飯田龍太「百戸の谿」
老毛虫の銀毛高くそよぎけり 原石鼎「花影」
脚長き銀の燭台夜の秋 櫛原希伊子
脳中にも銀髪まざるおもしろさ 立原雄一郎
自動車の銀のひかりが躑躅ごし 京極杞陽 くくたち上巻
船数へながらすすきの銀の中 友岡子郷 日の径
芒野に遊べば一夜で銀の髪 本郷和子
芭蕉布の銀糸を紡ぐ鳥曇 芝 由紀
花の夜の昂ぶりに置く銀の匙 加藤三陽
花の窓銀の仏は御手をのみ 永井龍男
花の闇ひらくに銀の鍵使ふ 鳥居真里子
花の露地遠く過りしバスの銀 香西照雄 対話
花冷えや矢立の銀のくもるさヘ 石川桂郎 四温
花冷や狂女の面の裏は銀 対馬康子 愛国
花菜の海汝が銀の靴遠く泛く 磯貝碧蹄館 握手
花過ぎて秋の気もする銀屏風 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
苔くぼに銀の水玉福寿草 静雲
若菜野に銀冠の樹々ひとそよぎ 火村卓造
茶の花の新らし銀の雨が降る 星野立子
草笛を吹き銀髪となりにけり 市村究一郎
落花得つつ水の銀点大粒に 香西照雄 素心
著換売つて路銀にしたる袷哉 袷 正岡子規
葭障子銀瓶ひとに過去ありき 及川貞 夕焼
蒙古塚夜は銀漢を掲げけり 岸原清行
蕪村忌や暮れきつてより銀の雨 若山允男
薬味酒発酵 月夜は 金波銀波の町 伊丹公子 山珊瑚
藍凝つて銀を生ずる鰹かな 松根東洋城「渋柿句集」
蚊の声の銀の如しといきどほり 赤松[ケイ]子
蛇捕りの忘れてゆきし銀煙管 原田青児
蛞蝓の銀かわきたる酒船石 羽田 岳水
蜘の子や一つ居て這ふ銀屏風 会津八一
蜘蛛の糸葉陰にありて銀に 中田剛 珠樹以後
蜻蛉生る多摩の金泥銀砂子 久米正雄 返り花
蝙蝠や沙漠に銀の飛翔線 加藤知世子
蟻地獄月下に渇く銀の砂 花田春兆(萬緑)
蟻引けり蛾の銀粉をこぼしつつ 下村梅子
行秋を銀の茶釜の売られけり 寺田寅彦
袖にかくす銀簪や春の雷 阿部みどり女
被爆後のいつ竣(な)りし噴水銀の棒 友岡子郷 遠方
製油所の銀の血管鳥ぐもり 磯貝碧蹄館
襟寒き絹の蒲團や銀襖 蒲団 正岡子規
襟巻の銀狐獣の爪をもてり 岸風三楼 往来
角巻をとめたる襟の銀の蝶 上村占魚
貝寄風やじゆごんのおならは銀の珠 大住日呂姿
貨車の扉に銀の封印クリスマス 松下晴耕
賃銀と切り離された労力の皮膚が汗して震動している機械 橋本夢道 無禮なる妻抄
賢治碑の蝉銀の尿したたらす 田村了咲
輝きて銀狐は銀狐雪は雪 依田明倫
遍照光家陰に霜の銀を敷き 香西照雄 素心
遠き日の鮎は銀器の残光を 吉田紫乃
選り迷ふ菓子銀皿に聖夜くる 小川濤美子
野分が七重八重にかこんで銀の宿 阿部完市 春日朝歌
金と銀と赤の紙屑クリスマス 正木ゆう子 悠
金と銀加へねぶたの色となる 後藤比奈夫 めんない千鳥
金と銀芒の穂にもある品位 浦木やす子
金よりも銀美しき破魔矢かな 串上青蓑
金・銀で酬ゆる恩の涼しかり 筑紫磐井 婆伽梵
金塊と並ぶ銀塊秋の風 野見山朱鳥
金芒ひとかたまり銀芒ひとかたまり 高浜虚子
金蘭も銀蘭もまだ草若葉 浦野芳南
金蝶の眠り過せしが銀蝶か 田中芥子
金蝿も銀蝿も来よ鬱頭(うつあたま) 飯島晴子(1921-2000)
金蝿やあら銀蝿や老夫婦 鳴戸奈菜「天然」
金鶏も銀鶏も秋風の中 野見山ひふみ
釣りにけり銀の諸子魚(もろこ)の倖せを 堀口星眠 樹の雫
鈴虫や銀器触れ合ひ唯の音 香西照雄 素心
鉄線花壁をこぼるる銀砂子 野村喜舟
銀(かね)もてば兎角かしこし須磨の月 上島鬼貫
銀いろにかへ水おもし金魚玉 高橋淡路女 梶の葉
銀さびて片蔭をゆくひとの帯 原 俊子
銀と照る干鰯のなぞへ海に墜つ 山口草堂
銀どろのろくぐわつ鳥の肝を刺し 八田木枯
銀ねずの霙の雫能登の(あて) 西村公鳳
銀のさびしさ青麦の中で逢えぬか 廣嶋美恵子
銀の匙おけばチリンと冬隣 大塚憲二
銀の匙に麦粉そなへん漱石忌 中勘助
銀の匙もてゴンドラのメロン漕ぐ 浅賀渡洋
銀の匙もて雪嶺を窓に指す 神谷九品
銀の匙アイスクリームを削りけり 野村喜舟 小石川
銀の匙光り寒九の水の中 鈴木初男
銀の匙嬰にふくませる砂糖水 河本修子
銀の匙添へて出されし雛あられ 高木耕人
銀の匙象牙の箸やクリスマス 太田育子
銀の器か天の器かフィヨルド 金子皆子
銀の城わが国に生れる言葉 阿部完市 証
銀の強き秋刀魚の並びけり 如月真菜
銀の月の隈無き修二会かな 栗林圭魚
銀の柄のナイフが欲しき虫の闇 皆吉司
銀の泡珊瑚をはなれ昇りくる 三橋敏雄 まぼろしの鱶
銀の爪くれなゐの爪猫柳 竹下しづの女
銀の空蝉かさね秤るかな 山本掌
銀の笛ほし滝しぶき虹となり 桂信子 黄 瀬
銀の箔散らすと紛ふ花芒 中沢サク子
銀の肌の曇りや秋の鮎 塩谷鵜平
銀の薄煙の中が子の遊び場 田川飛旅子
銀の蛇かくしていそうな柿若葉 三宅やよい
銀の鈴鳴らして冬の鴎呼ぶ 仙田洋子 雲は王冠
銀の鈴鳴るよ晩夏の空とほく 仙田洋子 橋のあなたに
銀の雨切つてからまつ萌えにけり 矢島渚男 天衣
銀の魚銀の泪をさがしている 大西泰世 世紀末の小町
銀の鹿と金の夕日と入れ代る 脇本星浪
銀の黴引く子供達が散ってゆく 松本恭子 二つのレモン 以後
銀ぶちの眼鏡おでこの十夜婆々 河野静雲 閻魔
銀ぶらも絶えて久しや鰯雲 吉田久子
銀やぐら崩れて白し天の川 縁台将棋 中勘助
銀やけて月見えわかず秋扇 長谷川かな女 雨 月
銀やんま一閃兄者来てゐるよ 小出秋光
銀やんま水のたひらを返しけり 鈴木しげを
銀やんま運河の黒き水を打つ 佐藤至朗
銀やんま静止空間のふわふわ 豊口陽子
銀を冷やして置くよ未来の月明に 林桂 ことのはひらひら 抄
銀シャリてふ眩しき死語や今年米 岡田飛鳥子
銀パリも昔語りの巴里祭 岸みよ子(山茶花)
銀ブラの言葉古りゆく年の市 岩崎照子
銀三十枚の頭にはあをさぎのとまる淋しさ 加藤郁乎
銀冠の軸の青さよ翁草 沢木欣一
銀化する貝のまどろみ花氷 磯貝碧蹄館
銀合歓に戦跡かくし月を上ぐ 中戸川朝人 星辰
銀器に顔小さく住めり夜の秋 伊藤京子
銀塊の夕月熊笹原照らす 岡田日郎
銀夕日栃の芽ばかり荒々し 堀口星眠 営巣期
銀婚のうたげの若葉ぐもりかな 久保田万太郎 流寓抄以後
銀婚のエニシダも散り森に月 和知喜八 同齢
銀婚の吾等の影を掛稲に 山口青邨
銀婚の妻その孫に毛糸編む 百合山羽公 故園
銀婚の式はせずとも軒の梅 鈴木花蓑句集
銀婚の旅雪山の虹に入り 影島智子
銀婚の秋あをあをと藻の梳かれ 鍵和田[ゆう]子 浮標
銀婚の近づき沙羅のひとつ咲く 石田あき子 見舞籠
銀婚はまだまだ若し古茶新茶 山田弘子 こぶし坂
銀婚やかがよう妻の髪の霜 橋本夢道 良妻愚母
銀婚や倚れば冬木の匂ひたつ 松倉ゆずる
銀婚や枯草色の毛糸買ふ 石川文子
銀婚を忘ぜし夫婦葡萄食ふ 相馬遷子 雪嶺
銀屏にとびつくごとく灯ともりぬ 上村占魚 球磨
銀屏に淡し愛子の柩影 伊藤柏翠
銀屏に燃ゆるが如き牡丹哉 牡丹 正岡子規
銀屏に萩を焚く火や光悦寺 橋本鶏二 年輪
銀屏に葵の花や社家の庭 野坡「小柑子」
銀屏に蕪村の打てる凍み米点 高澤良一 随笑
銀屏に魍魎あそぶ冬燈 富安風生
銀屏の古鏡の如く曇りけり 高浜虚子
銀屏の夕べ明りにひそとゐし 杉田久女
銀屏の銀の老い行くめでたさよ 池上浩山人
銀屏や崩れんとする白牡丹 牡丹 正岡子規
銀屏風にうつす緑や青葉山 盧元
銀屏風無月ときめて直しけり 野村喜舟 小石川
銀屏風立てし残暑の月夜かな 尾崎紅葉
銀屏風紅葉の風に立揺らぎ 京極杞陽 くくたち下巻
銀忌妻の常着へ日の移る 松谷俊弘
銀懐炉まだなきがらの懐に 長谷川櫂 虚空
銀懐炉恋たんのうす奴かな 飯田蛇笏 霊芝
銀扇に書きし献立女正月 河野頼人
銀扇の外骨きつく押しひらく 野沢節子
銀扇の如くに水を打ちにけり 上野泰 佐介
銀扇や灯を吸ひ飽かぬ色尊と 村上鬼城
銀日輪飛雪を凌ぎゆくものに 成田千空 地霊
銀木犀は金木犀を未だ知らず 攝津幸彦 鹿々集
銀木犀指切るほどの兄もゐず 塚本邦雄 甘露
銀木犀文士貧しく坂に栖み 水沼三郎
銀木犀詩の投函は昏れてより 宮脇白夜
銀沙灘雪降りうめぬ義政忌 名和三幹竹
銀波生れ金波消えつつ良夜かな 坂井建
銀泥に撫子薄き扇かな 野村喜舟
銀漢といふにはうすしピアノうつ 安東次男 裏山
銀漢にぬれてもどれば熱き風呂 栗生純夫 科野路
銀漢に外寝の腕高く伸べ 福井圭児
銀漢に尻尾振りたくなりぬ無し 池田澄子
銀漢に抱かるるごとし婚約す 仙田洋子 雲は王冠
銀漢に溺れてゐしを呼ばれけり 藤崎久を
銀漢に触れ山姥の舞ひいづる 黒田杏子 花下草上
銀漢に青き空洞病師いかに 上田五千石 田園
銀漢に鳴りとよもせる那智の滝 鈴木貞雄
銀漢のこの世におくるほの明り 道山草太郎
銀漢のさざなみ寄する杓子岳 星野恒彦
銀漢のしぶときまでに野を圧す 栗生純夫 科野路
銀漢のたぎち入る沖左千夫の忌 上田五千石 田園
銀漢のたちふさがりぬ酔ひにけり 千代田葛彦 旅人木
銀漢のとなりに眼鏡置き忘れ 鳴戸奈菜
銀漢のはづれにまはる観覧車 谷口摩耶
銀漢のまつしぐらなり補陀落寺 角川春樹 夢殿
銀漢のもと蘭盆の宝炉もゆ 野見山朱鳥
銀漢の下に父母なき山河あり 深川正一郎
銀漢の中にちちの星ははの星 船津實生子
銀漢の声はるかなり抱影忌 熊谷恵子
銀漢の多摩にかたぶく露台かな 中島斌雄
銀漢の夜毎なだれて学に倦む 宮坂静生 青胡桃
銀漢の奥のさみしき人通り 鳴戸奈菜
銀漢の尾に触れて父臥やるなり 宮坂静生 春の鹿
銀漢の尾をふりかぶり鯨割く 崎浦南極
銀漢の尾を垂れにけり島泊り 清崎敏郎
銀漢の巨杉にかかり出石寺 和気祐孝
銀漢の彼方より来したましひのほのかに白き山ぼうしの花 馬場あき子
銀漢の後尾は己が母郷へ落つ 伊藤敬子
銀漢の果てまで送りゆき戻る 長田等
銀漢の流れや白き骨の白 正木美和
銀漢の瀬音聞ゆる夜もあらむ 芥川龍之介
銀漢の砂底乾き蛾の舞へる 櫛原希伊子
銀漢の立ちふさがりし裏戸かな 池上浩山人
銀漢の結氷の音すゝむなり 小川軽舟
銀漢の記憶につゞく山路あり 星野立子
銀漢の銀の荒粒持ち帰る 伊藤敬子
銀漢やいつよりわれのねぢれ川 小檜山繁子
銀漢やおとこ斃れてなお長身 澁谷道
銀漢やごとりごとりと牛車[く」 日野草城
銀漢やどこか濡れたる合歓の闇 加藤秋邨 雪後の天
銀漢やひそかにぬぐふ肌の汗 鈴木しづ子
銀漢やべートーヴェンのデスマスク 仙田洋子 雲は王冠
銀漢やまだ開けてある厩の戸 吉武月二郎句集
銀漢やみなし灯ともる仙巌寺 鈴鹿野風呂 浜木綿
銀漢やわが死の箱は誰が造る 後藤綾子
銀漢やナイフとフオーク触るる音 長谷英夫
銀漢や世に生きてゆく証見む 下村梅子
銀漢や並びて待てる洋車の灯 五十嵐播水 埠頭
銀漢や二十年前一兵士 相馬遷子 雪嶺
銀漢や京の山々北にあつまり 岸風三楼 往来
銀漢や僧衣の裾の闇暑し 小林康治 玄霜
銀漢や兄弟多き曲馬団 日原傳
銀漢や函を得しかに嬰の睡り 神尾久美子 桐の木
銀漢や北半球に住み慣れて 稲畑廣太郎
銀漢や千里の果に妻子寝て 長谷川櫂 虚空
銀漢や原子力発電所無音 奥坂まや
銀漢や史記にて絶えし刺客伝 日原傳
銀漢や吾に老ゆといふ言葉きく 星野立子
銀漢や喝采黒人ピアニスト 仙田洋子 橋のあなたに
銀漢や四十になりて虚子を思ふ 星野高士
銀漢や安房の湊に土佐の船 大串章
銀漢や少し坂なす社宅街 遠藤梧逸
銀漢や山は太古へ還りたる 下村非文
銀漢や峰越の疾風うちひびき 水原秋櫻子
銀漢や応召の日の覚悟成る 瀧春一 菜園
銀漢や悲しきことはいふまじく 星野立子
銀漢や指鉄砲をこめかみに 栗本洋子
銀漢や放馬にまじる牛一つ 橋本鶏二
銀漢や旅愁といふもたゞ淡く 高濱年尾 年尾句集
銀漢や月日と共に人遠く 福田泊水
銀漢や死すれば踰ゆるいろは坂 春樹
銀漢や男の腔をみな照らす 攝津幸彦
銀漢や砂丘砂散る未明音 鷲谷七菜子 花寂び
銀漢や研師佐助は父の祖父 清水青風
銀漢や礼文に小さき川一つ 高柳かつを
銀漢や胸の風音鳴りやまず 仙田洋子 雲は王冠
銀漢や芦でつながる村二つ 大峯あきら
銀漢や蜑が家夜半を閉さず寝る 小原菁々子
銀漢や誤解の横顔鉄壁なす 川口重美
銀漢や身に応へ船向き変ふる 津田清子
銀漢や野に花ありて白き愁 細谷源二 砂金帯
銀漢や野山の氷相さやり 窓秋
銀漢や馬房に馬の数足らひ 石田勝彦 秋興
銀漢や馬柵をこえ発つ登山隊 金子 潮
銀漢や高野山上川流れ 小早川恒
銀漢や齢の中に戦の日 岡本 眸
銀漢をうす雲ほのとよこぎれり 西山泊雲 泊雲句集
銀漢をせきとめてをる庇かな 泰
銀漢をひき寄せ海の匂ひけり 吉田ひろし
銀漢を五体たしかに仰ぎ立つ 渡邊千枝子
銀漢を仰ぎし記憶くりかへす 吉村ひさ志
銀漢を仰ぎ疲るゝこと知らず 星野立子
銀漢を見かへりひたに家欲しき 杉山岳陽 晩婚
銀漢を見ざる妻子を寝にやりぬ 島田牙城
銀無垢の茶托の翳り冬灯 中村汀女
銀燭の更けて露けし貸小袖 伊藤松宇
銀燭の燦爛として菊合 菊 正岡子規
銀狐わきを出でたるごとく去る 平井照敏
銀狐棲む谷土器のかけら出づ 岡田日郎
銀献納冬日が凍るいとまなし 萩原麦草 麦嵐
銀盆に熟柿の揺れの静まりぬ 日原傳
銀盆もゆめの山河や煮くずれて 澁谷道
銀砂子撒ける蓮池(れんち)のいと涼し 高澤良一 随笑
銀積みし港の跡や秋の蝿 磯貝碧蹄館
銀竜草スペースシャトルは又宙ヘ 阿部ひろし
銀竜草夢の如くに立つ夜明 長谷川久代
銀竜草滝のしぶきを摘みきしや 宮津昭彦
銀竜草滝の飛沫の結晶めく 毛塚静枝
銀竜草鵺の忘れし笛かとも 堀口星眠 青葉木菟
銀竹やかぞへ敢へずもつめりきず 加藤郁乎
銀箭の雨ほころばすかきつばた 藤森成吉「蝉しぐれ」
銀綴る帯の桔梗の雨の背 中戸川朝人 残心
銀線を曳くなめくぢと奴隷船 糸 大八
銀翼去る傷つき易き寒の空 鍵和田[ゆう]子 未来図
銀芒丹波山系光りけり 岩崎照子
銀芒触れあふ音を聴かんとす 小室善弘
銀蘭や汝も黙せる明るさに 花谷和子
銀蝿の野にとび街に君やすし 津沢マサ子 楕円の昼
銀閣の銀の砂より牡丹の芽 鈴木育子
銀闇に浪華の人や大文字 与謝蕪村
銀髪のそのことごとくきらめく死 八木三日女 赤い地図
銀鱗に秋がきてゐる志摩の海 田村英一
銀鱗のしぶく包丁はじめかな 三田きえ子
銀鱗めくさざなみ率行くぞ寒釣人 香西照雄 素心
銀鱗限りなし月の鰯雲 渡部抱朴子
銀鼠に空の整ひ大旦 高澤良一 寒暑
銀鼠色の夜空も春隣 飯田龍太
闇にありて銀の光を放ちいるしなやかな幹まだ若き幹 大島史洋
闇に出て銀木犀の香に触れぬ 山本 祐三
防風つむ砂とんで日は銀いろに 八牧美喜子
雛納め忘れ銀婚の夜なりけり 村尾香苗
雪原を北狐また銀狐 天本美沙絵
雪女郎の銀の簪拾ひたる 田中冬二 行人
雪女郎銀の半襟してゐたり 原田青児
霜柱銀にはなやぐ父の死後 平井照敏 天上大風
露けさのゑのころ銀に穂立ちけり 織田 耀子
露けしや平らに置いて銀の匙 中尾杏子
露の他省き尽くして銀沙灘 高澤良一 宿好
青き王妃よ/朝の/やつれの/銀の髪 高柳重信
青嵐銀叉ジェリーに没りて透く 林原耒井 蜩
青簾銀屏よりも撥の冴え 沢木欣一
顔の熱うばふ銀板夜の秋 田中裕明 櫻姫譚
顔赤く髯銀の如き鵜匠哉 鵜匠 正岡子規
風の中銀鈴となる山椒喰 きくちつねこ
風はおんな銀合歓の葉ずれの燠 野ざらし延男
飛魚の銀鱗光る魚市場 秋川ハルミ
首に捲く銀狐は愛し手を垂るる 杉田久女
馬の背にまたるる銀やとしのくれ 黒柳召波 春泥句集
馬入は地を這う銀の蛇、天馬に乗る(飛行機上) 荻原井泉水
高楼の銀燭見えかくれ若葉哉 寺田寅彦
髪染めんといふ妻かなし銀木犀 里木野雨
鬱の日のゼリーを崩す銀の匙 末永雅子「春嶺同人句集」
鯉釣や銀髯そよぐ春の風 幸田露伴 拾遺
鯵の皮剥いても銀や桜冷え 鳥居美智子
鳥威しの銀遡ぼる浅間かな 田川飛旅子
鴛鴦の水金砂銀砂をまぶすごと 高澤良一 素抱
麦の穂を挿しある銀の花瓶かな 篠原鳳作
黄葉ふる風に銀狐の逆毛立つ 瀧春一 菜園
黒き瞳と深き眼窩に銀狐 竹下しづの女句文集 昭和十一年
黒南風や帯の銀にも涙落つ 赤松[けい]子 白毫
鼬去る銀木犀の白浄土 村上冬燕
あさまだき原爆ドームしろがねに 大西政司
あはうみはしろがねのべぬ西行忌 大石悦子 百花
こめかみに音のしろがね梨食ぶる 赤松[けい]子 白毫
しぐれこぼす空のしろがね女寺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
しろがねにねむる蔵王や茂吉の忌 井沢馬砂人
しろがねにボートレースの水飛沫 猪俣千代子
しろがねに川昏れ残る光琳忌 山本右近
しろがねに濡れたる湖や鴨来そめ 堀口星眠 営巣期
しろがねに照る千曲川みえかくれ一望千里あんずは咲けり 松坂弘
しろがねに透き寒晴れの干さより 花谷和子
しろがねに雲洩る日射し松虫草 加藤耕子
しろがねのこがねの芒鳴りわたる 照敏
しろがねのこゑびつしりと霜柱 田口紅子
しろがねのしぶき白鳥争へる 八木マキ子
しろがねのどろめのれそれ生姜擦れ 小澤實
しろがねのひこ乾上りぬしろがねに 林原耒井 蜩
しろがねのやがてむらさき春の暮 草間時彦 櫻山
しろがねのキヤムプの雫樹は聴けり 下村槐太 光背
しろがねの一畝の棉の尊さよ 栗生純夫
しろがねの冬の針曳く紅一糸 野澤節子 『八朶集』
しろがねの出羽を立ちけり裘 斎藤梅子
しろがねの刃のためらはぬメロンかな 日野草城
しろがねの刻を研ぎ出す暁の虫 林翔
しろがねの匙もて淡き陽を掬へ 永井由清
しろがねの双羽を杳と冬の鳥 鈴木鷹夫 大津絵
しろがねの噂好きなる尾花かな 橋石 和栲
しろがねの器ならべつ泉殿 松瀬青々「鳥の巣」
しろがねの大湖を据ゑて冬霞 柏 禎
しろがねの富士に湯気立つ寒土用 村松ひろし
しろがねの尿のごとくに蓮の水 行方克己 昆虫記
しろがねの山々梅の香もしろがね 伊藤二瀬
しろがねの手応へ鏡餅ひらく 遠藤若狭男
しろがねの指の間を洩れ山清水 檜紀代
しろがねの日に風ふるゝ秋の空 渡邊水巴 富士
しろがねの日の渡りゐる枯野かな 藤田あけ烏 赤松
しろがねの日暮れの雲や棉の花 布施れい子
しろがねの春空わたりをはりし日 篠原梵 雨
しろがねの月を一輪牡丹園 片山由美子 風待月
しろがねの月走りけりとりかぶと 黒田杏子 花下草上
しろがねの木の芽ぐもりの日を秘めて 長谷川素逝 暦日
しろがねの毒を浮かべり 萬華陀羅 よみのうたげは笹舟の音 筑紫磐井 未定稿Σ
しろがねの水くろがねの水馬 西本一都 景色
しろがねの水の中より水芭蕉 斎藤信義(円)
しろがねの水を束ねて寒晒 伊藤敬子
しろがねの水尾弓なりに鰆舟 部谷千代子
しろがねの水田一枚春の田に 富岡掬池路
しろがねの水蜜桃や水の中 日野草城(1901-56)
しろがねの湖に真向ふ琴始 白柳淑子
しろがねの潮たる初日濤をいづ 飯田蛇笏 雪峡
しろがねの甲冑つけて一雪嶺 古川京子
しろがねの白菜として完結す 辻美奈子
しろがねの砂さゝめかし手長蝦 森夢筆
しろがねの秋のこぼれ蚕拾ひけり 佐坂鳴渦
しろがねの穂波となりぬ枯れ尽くし 佐々木比呂子
しろがねの網に暴れし白魚かな 阿波野青畝
しろがねの能郷白山花の上 清水弓月
しろがねの芒折れたり水の上 会津八一
しろがねの草木に触るる夢の手や 宇多喜代子
しろがねの葬花八月十五日 猿山木魂
しろがねの蜩の翅 京ことば 鈴木石夫
しろがねの襖を開けて河鹿聞く 茨木和生 野迫川
しろがねの鎖造りは梅雨の奥に 細谷源二
しろがねの雨が走れる青芒 池田苦茗
しろがねの雨粒のせて蓮浮葉 大場活刀
しろがねの霞に湖国ありにけり 櫛原希伊子
しろがねの露の走れる黒牡丹 田畑美穂女
しろがねの露玉虫厨子の中 中田剛 珠樹以後
しろがねの風のはじめのきりぎりす 坂巻純子
しろがねの魚買ふ秋の小漁港 野澤節子
しろがねの鮫反り交す無月かな 石寒太 あるき神
しろがねの鯉が統べゐる神の留守 都筑智子
しろがねの鷹となりつつ渡るかな 邊見京子
しろがねもあはきみどりの薄かな 中田剛 珠樹以後
しろがねもまぜて銭ある寒さかな 室生犀星 犀星發句集
たそがれの声しろがねや草雲雀 根岸善雄
はつはつに芽吹くもありてしろがねに光る枝枝暁の空指す 三國玲子
ぼうたんやしろがねの猫こがねの蝶 與謝蕪村
みはらしみわたしこころにことにしろがね 阿部完市 春日朝歌
トンネルを出てしろがねの蝉時雨 五島高資
一枚の湖しろがねや大旦 中村けさ子
一湾のしろがねの夕麦を焼く 堀口星眠 営巣期
一羽鳩腋しろがねに年新た 野澤節子 黄 瀬
三輪山のしろがねの日に冬ひばり 山本古瓢
乾鮭の貌のしろがね夜に入る 藺草慶子
伊勢ゑびにしろがねの刃のすゞしさよ 草城
優柔な魚であるから尾はしろがね 宇多喜代子
凍らむとしろがね震ふ滝の袖 岡本まち子
凍瀧のしろがね闇をつらぬけり 桂信子
十月の滝しろがねに轟けり 玉川鴦鳴
卯月 しろがねの鱗を飛ばす母系かな 宇多喜代子
受難曲満天星の雨しろがねに 古賀まり子
受験期や夜明の田水しろがねに 中拓夫 愛鷹
合流のしろがねびかり鯊を釣る 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
噴水のしろがねを水かけのぼる 鯉屋伊兵衛「遍在」
夕つかた町とよもして地震過ぎつわれはしろがねの粥食みゐしを 高橋睦郎 飲食
夕焼雲月のしろがねつゝみけり 久保田万太郎 流寓抄
大前のしろがねの雪跪く 小原菁々子
太陽にしろがねの環春北風 森澄雄
姫沙羅の芽のしろがねや波郷の忌 渡辺方子
子と摘みにゆく銀(しろがね)の蓬かな 山西雅子
寒林やしろがね色に日の面テ 高橋淡路女 梶の葉
寒鯉のしろがねびかり異人館 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
尾花寂ぶしろがね積みし古港 宮津昭彦
山椒喰地にしろがねの砂満ちて 堀口星眠 営巣期
嶺を落つ水のしろがね葛根掘 中拓夫
干藁にしろがねの日の沁むばかり 中島斌雄
息青くかもめ憑きくる髪しろがね 八木三日女 石柱の賦
日本黎明海しろがねにアラーの神 隈 治人
日輪もしろがね闌けし芒原 渡邊千枝子
早乙女に水しろがねにたひらかに 柚木紀子
春の雨しろがねの馬過ぎゆけり 児玉悦子
暮れながらしろがねいろの霜くすべ 今井杏太郎
月光のしろがねの芯種瓠 原 徹
朝凍みの山しろがねの春の露 奥山公世
枯蘆にしろがねの猫うづくまる 鶏二
柿の木に月しろがねでいまそがり 船曳青峰
桃冷やす水しろがねにうごきけり 百合山羽公
椿の実滝しろがねに鳴るなべに 橋間石
楊貴妃桜しろがねを張る峡の空 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
槙垣にしろがねの雨年惜しむ 御木正禅
櫛もまたしろがね色の雪女郎 本郷桂子
河骨に月しろがねを展きつつ 柴田白葉女 牡 丹
法師蝉しろがねのこゑ放ちけり 小川軽舟
波郷山河茅花しろがね打ちなびく 山田みづえ
活鯛をしろがね造り朝ぐもり 赤松子
浜ぐみの芽のしろがねにくもり来つ 太田鴻村 穂国
海士帰るしろがねの太刀魚ひつさげて 道川虹洋
潮筋はしろがねびかり烏賊をさく 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
瀬戸またぐしろがねの橋秋あかね 小川恒子
照る月のしろがね浴びて高野槇 宮津昭彦
父は亡し日はしろがねの枯木道 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
牡丹開かば吾れしろがねの船行らん 中島月笠
牡蠣殻へしろがねの雨ふりにけり 吉田紫乃
眼を貫くはしろがねのすすきの穂 富澤赤黄男
秋風裡 われしろがねの刃を投げむ 富澤赤黄男
種子はしろがねの鈍さの刈田走り 鈴木勁草
種浸すしろがねの濃き空の裾 中拓夫 愛鷹
稲刈って星しろがねと降りそそぎ 北原志満子
穂すすきのしろがねよする風にあふ 太田鴻村 穂国
筍や嵯峨しろがねの雨ふりて 月笠
老い鮭のしろがねいろに流れゆく 成田智世子
老鴬やしろがね炎ゆる昼の海 高山れおな「荒東雑詩」
腐りつつ馨る玉葱少年の指(および)触れなばおよびしろがね 高橋睦郎 飲食
腹も背もしろがね深き初鰹 宇多喜代子 象
芒野はしろがねに日は富士に落つ 高木蒼梧
芭蕉糸しろがね光り糸車 沢木欣一
花卉の春しろがねの蜘蛛顫ひゐる 飯田蛇笏 霊芝
花氷花びらの端のしろがねに 加来義明
葉月潮又しろがねの魚釣れし 鯨洋
蕗の上にしろがねのべて霧の湖 水原秋櫻子
薇の渦のしろがね子へ初潮 井桁白陶
蜘蛛の糸しろがね色に明け初むる 五木田政子
買初となすしろがねの干鰈 岡本差知子
身ほとりやしろがね色の春の暮 草間時彦 櫻山
返しくるときのしろがね群千鳥 伊藤孟峰
還暦やしろがねの雁さかしまに 塚本邦雄 甘露
邯鄲のこゑのしろがね綴りけり 根岸 善雄
邯鄲の声のしろがね風落つる 関根黄鶴亭
雉啼くや日はしろがねのつめたさに(上州神津牧場) 上村占魚 『萩山』
雨の糸鶴の命をしろがねに 北さとり
雨空がしろがね降らす恵方道 鈴木鷹夫 渚通り
雨足のしろがねなせる苗はこび 飴山實 『次の花』
雪積みて闇しろがねに奥の院 つじ加代子
霧の杉しろがねの息旅に見ゆ 小檜山繁子
風立ちて去るしろがねの夏野かな 鈴木修一
飛魚のいのちしろがね濤を翔び 神尾久美子「中啓」
飛魚の飛ぶしろがねや熊野灘 宇多喜代子
香を忘れたるしろがねの沙羅咲けり 田畑美穂女
魚梯とぶ魚のしろがね初嵐 小山えりか
鮠食うてしろがね瞼薄日射す 小檜山繁子
●銀灰色
●金と銀 
ぎこちない金と銀とのお正月 加藤ミチル
クレヨンの金と銀とで塗る月夜 対馬康子 吾亦紅
末枯れや子は描きなぐる金と銀 対馬康子 純情
金と銀と赤の紙屑クリスマス 正木ゆう子 悠
金と銀加へねぶたの色となる 後藤比奈夫 めんない千鳥
金と銀芒の穂にもある品位 浦木やす子
●銀鼠 
ゆふいんの銀鼠ずずこ雨まみれ 高澤良一 鳩信
海胆割つてゐる銀鼠の雨の中 友岡子郷
猫柳風に光りて銀鼠 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
銀鼠に空の整ひ大旦 高澤良一 寒暑
銀鼠色の夜空も春隣り 飯田龍太 春の道
●金縁 
富士暮れしそば金縁の雲うかぶ 篠原梵 雨
●草色 
たうたうと冬草色して川ながれ 高澤良一 さざなみやつこ
まなうらを草色にして水鶏笛 大木孝子
まひる野や土色草色のバツタ跳ね 中拓夫 愛鷹
ホーレン草色よく茹でて二人膳 蕪木啓子
京鹿子富士の下草色もなし 言水 選集「板東太郎」
十月の草色したる馬の糞 大木あまり 雲の塔
子と谷地へ一と日七節虫草色に 宮坂静生 山開
幻想遺跡 枯草色の家族住む 伊丹公子 パースの秋
母通る枯草色の春日中 飯田龍太
水無月は皮屋の指より垂れし草色 攝津幸彦
父の死のたちまち草色雪の中 寺田京子 日の鷹
筑波を見む夢のつくばは餅草色 折笠美秋 君なら蝶に
職に慣る草色の露ややいびつ 香西照雄 対話
花苺草色の虫をりにけり 高田風人子
草色に染まる石臼餅を搗く 伊藤孟峰
草色の土器のかけらや春の雲 伊藤 翠
草色の翅に息する蝉の羽化 黒川良子
草色の蚊をつぶしたるてのひらに顔埋めて君も透きゆくばかり 平井弘
草色の蜘蛛軽々と草渡る 千原叡子
草餅の草色深き忌明けかな 宇多喜代子 象
蟻を吸ふとき草色となる蜘蛛よ 依光陽子
銀婚や枯草色の毛糸買ふ 石川文子
餅花にまじる草色にぎにぎし 古舘曹人 樹下石上
●朽色 
朽色蝶羽を開けば炯眼紋 香西照雄 対話
●朽ち葉色
秋日閑雀下りたる朽葉いろ 瀧春一 菜園
●隅
●栗色 
一茶生地ひらたき栗が栗色に 香西照雄 対話
団栗の栗色兄らに栗拾はれ 香西照雄 素心
夜長妻栗色の靴買へと言ふ 欣一
妻を語る秋栗色の大きな眼 成田千空 地霊
栗虫のその栗色に個性あり 如月真菜
道詮忌栗色の濃き栗供ふ 右城暮石
●グリーン 
接待のグリーン茶賜ふ秋遍路 小林定子
●栗毛 
一病と年の関越す膝栗毛 高澤良一 ももすずめ
初鳩の栗毛かがやくめでたけれ 酒井湧甫
天球のずぶ濡れにして栗毛佇つ 攝津幸彦 未刊句集
復活祭四肢しなやかに立つ栗毛 片山由美子
春の閨に散るや一九の膝栗毛 春 正岡子規
暁や栗毛駆けぬく葛が露 齋藤玄 飛雪
栗の秋栗毛まつ毛の当年駒 矢島渚男 延年
白河や花吹きかゝる膝栗毛 中村史邦
芦毛より栗毛は早し競馬 競馬 正岡子規
身に一具なし雪晴の栗毛馬 荒井正隆
鹿毛・栗毛・芦毛よ芝の枯るる中 正木ゆう子 悠
●グレー
●紅蓮 
かまつかの紅蓮を見栄とおもふ日も 高澤良一 随笑
たてがみ吹く風も紅蓮の武者侫武多 高澤良一 寒暑
ぬきんでて紅蓮散るを待てるなり 松村蒼石 雁
まるい葉の中の紅蓮母が咲く 和知喜八 同齢
一弁の力の抜けし紅蓮 山田閏子
午后九時の西日紅蓮にムンクの町 石原八束 白夜の旅人
口まで来て紅蓮となりしことばかな 河原枇杷男 蝶座 以後
和上にも見えてや一つ紅蓮(唐招提寺鑑真廟) 飴山實 『辛酉小雪』
夢を食む女よ揺るる紅蓮田 鍵和田[ゆう]子 未来図
大紅蓮大白蓮の夜明かな 高浜虚子(1874-1959)
大紅蓮見られ尽くしてさびしがる 津田将也
娑婆といふ紅蓮を堰きて網戸あり 高澤良一 寒暑
寒雷や紅蓮の氷わるる夜に 中勘助
山焼の一夜の紅蓮奈良に雪 野澤節子 『駿河蘭』
扇燈籠(おぎどろ)の紅蓮見送り立ちん棒 高澤良一 寒暑
朴の実の紅蓮にけふの風迅し 堀口星眠 営巣期
濡れ豆腐焼くや炭火の総紅蓮 中村草田男
火祭や漢紅蓮の匂ひせり 槍田良枝
白蓮の中の紅蓮を指しぬ 松藤夏山 夏山句集
秋の日やまなこ閉づれば紅蓮の国 白泉
窯中に紅蓮の炎山眠る 上田佳久子
紅蓮 咲くとき 散るとき 枯れるとき 大島道子
紅蓮つひの一花を見届けに 神尾久美子
紅蓮の一とふくらみを加へたる 綾部仁喜 寒木
紅蓮の實飛びぬ白蓮の實も飛ぶ 蓮の実を結ぶ 正岡子規
紅蓮の鉢並びたる浄水場 岩瀬鴻水
紅蓮の開かむとしてゆるるなり 秋篠光広
紅蓮やまだ新発智は素足にて 北原白秋
紅蓮上野の山の負け戦 高澤良一 素抱
紅蓮信濃御寺の嫁迎へ 斎藤夏風
紅蓮天上をいま櫂の音 九鬼あきゑ
紅蓮田一遍踊り来しごとく 神原栄二
紅蓮開かんとする揺らぎかな 西尾君子
紅蓮靄を払うてひらきけり 日野草城
紫雲山より来し雨や紅蓮 岸風三楼 往来
耳在れば耳の邊暗き紅蓮かな 河原枇杷男 訶梨陀夜
至福の月日紅蓮白蓮 九鬼あきゑ
蒟蒻掘紅蓮の焚火あげて暮る 馬場移公子
蕩児いま帰る紅蓮の鯉のぼり 浅井周策
西方へ日の遠ざかる紅蓮 野澤節子
身の裡の藁火が付きし紅蓮 齋藤玄 『雁道』
道成寺堂の左右の紅蓮 河野静雲
都鳥時折紅蓮見せにけり 日原傳
閻王の紅蓮の舌の埃かな 富安風生「草の花」
雲白し山蔭の田の紅蓮華 泉鏡花
駱駝に乗れば夕焼紅蓮のピラミッド 石原八束 『仮幻』
●黒 
*さんざしのくれなゐの蕊黒の蕊 深見けん二 日月
*たらは芽を黒文字は花つけにけり 後藤比奈夫 めんない千鳥
*はまなすや沖にかゝりて船黒し 岸風三楼 往来
*はまなすや黒牛は遠灘のごとし 田口満代子
「常住漂泊」末黒の薄見てしまう 松田ひろむ
あがなひぬ彼岸の市の黒椿 星野麦丘人
あたらしき末黒野の息しづかなる 上野さち子
あな黒し茣蓙にひろげて棒若布 中西夕紀
いくら掘つてもおんなじ黒さ烏貝 加倉井秋を 『真名井』
いつしかに桑の葉黒し秋の風 秋風 正岡子規
いつまでの髪の黒さよ春の日よ 北さとり
うしろより鏡に入る黒揚羽 摂津よしこ
うたた寝に畏友のごとく黒揚羽 鈴木鷹夫 千年
うつうつと死姦に入りし黒揚羽 加藤かけい
うつうつと黒牛を乗り殺したり 桑原三郎 春亂
うば玉を見ずして何の黒牡丹 手塚美佐
うまや路や麦の黒穂の踏まれたる 定本芝不器男句集
おおかみうお黒の羅(うすもの)はおりけり 高澤良一 燕音
おでん屋を出て真つ黒な土手がある 岡本眸
おのづから夜気醸しけり黒葡萄 辻美奈子
からっ風黒革手帳を垣間見せ 神田九十九
からつ風吹きて黒富士くつきりと 倉内法子
ぎつしりと並ぶ黒靴虚子忌なり 奥坂まや
くらやみの冬木の桜ただ黒し 三橋敏雄 畳の上
ここいらの犬みな黒し芋嵐 遠山陽子
ここではないここではないと黒揚羽 林 朋子
この天の下に黒着やふのり掻き 加藤しげる
こほろぎや目を病む母の黒眼鏡 今泉貞鳳
これちょうだい まっくろ黒助凍てなまこ 高澤良一 寒暑
これもうし菊に晴着の黒小袖 菊 正岡子規
これやこの大夢の如き黒牡丹 橋本夢道 『無類の妻』以後
これ一つ父の遺品は黒マント 古賀まり子
ころがつて出る焼藷の黒だるま 辻田克巳
さきぶれは黒揚羽蝶彼が来る 熊谷愛子
さして行く牛島黒し月見船 不白
さすらひて小箕よ乙女よ黒穂とり 中勘助
さびしさよ鵜の羽広ぐ黒十字 茂木和子
さよならの手をしまひたる黒コート 内田美紗 浦島草
しぐるるや潮も黒ずむ熔岩岬 下村ひろし 西陲集
しぐるるや田の新株(あらかぶ)の黒むほど 松尾芭蕉
しぐるるや黒みてここに去来の墓 高澤良一 燕音
しやわせのうすい手 黒ぶどうをつまむ 吉岡禅寺洞
しろがねの露の走れる黒牡丹 田畑美穂女
しんかんと日のおもくなる黒牡丹 野澤節子 『存身』
すたすたと麦の黒穂を抜きにゆく 三浦ミヨ子
すでにして黒穂と育つ他はなし 湯川雅
そこに火のとまり末黒の芒折れ 成瀬正俊
たそがれの黒を増す桐ならびたり 篠原梵 雨
ちりぢりに漣照るや末黒葦 能村登四郎
とこしへの黒本尊や煤払 川名句一歩
としよりの日や神官の黒財布 櫻木久子
どこまでが影どこからが黒揚羽 飛永百合子
どの木にも触れずにゆきし黒揚羽 宮崎すみ
なきがらの蜂に黄の縞黒の縞 橋本多佳子
なにか唾棄して末黒野を立去れり 上田五千石 田園
にちりんに末黒の径の撓ひかな 上野さち子
にんげんは黒ずくめにて初日の出 正木志司子
ぬばたまの実といふ晴るる日の黒さ 後藤比奈夫 祇園守
ぬばたまの黒主山の団扇かな 大石悦子 百花
ぬれ鶴やす黒の薄分けて行く 大江丸
のど渇く子と末黒野をよぎりたる 細見綾子 黄 炎
はつきりと霞の中に鳶黒し 霞 正岡子規
ぱんぱんのひじの黒さよ夏了る 石橋辰之助
ひとのため末黒野を行き落膽す 藤田湘子(1926-)
ひと憎むこころをつつむ黒マント 文挟夫佐恵 遠い橋
ひら~と黒蜻蛉ゆく竹の径 比叡 野村泊月
びつしりと地に寂光の羊歯黒し 三谷昭 獣身
ふしだらのはじめの黒を鶏頭花 都筑智子
ふるさとのしよせんは路傍黒揚羽 古館曹人
ふんどしややうやう黒む初明り 初明 正岡子規
ほうろくや黒塚に見し鬼の豆 井原西鶴
ほつかりと月夜に黒し鹿の影 鹿 正岡子規
ほのぬくみある末黒野を歩きけり 高橋淡路女 梶の葉
ほのぼのと鴉黒むや窓の春 野坡
まぎれたる雨後の末黒の芒かな 稲畑汀子
また黒揚羽林中の秘境より 上田五千石 田園
まつむしのりんともいはず黒茶碗 服部嵐雪
まつ黒な鯉さげてゆく冬隣 小笠原和男
まつ黒な鯉住む山のけむり茸 栢尾さく子
まつ黒になれと訓示す夏休 有原悦子
まつ黒の鯉さげてゆく冬隣 小笠原和男
みんな親切粒よりの黒ぶだう 小林一子
むらさきの深くて黒や鴨の胸 正木ゆう子 静かな水
もう何処へも行かぬ黒靴西東忌 岡 典子
もくれんじ雪に拾へば黒瞳もつ 猪俣千代子 堆 朱
もろもろの寒さ育てゝ海苔黒し 右城暮石 上下
よく肥えて鯉は黒しや蕗の薹 茨木和生 木の國
よべの疾風ぬばたまの実の黒に帰す 栗生純夫 科野路
わが指紋とどめはるかへ黒揚羽 片山由美子 風待月
わが旅の黒手袋のゆびぞ透き 関口みぐさ
わが身なき黒外套や壁に垂る 榎本冬一郎
わが魔羅も美男葛も黒ずみし 矢島渚男 延年
アネモネに黒の舟唄聞かせたる 近藤季美
アネモネの蕊黒し家追はれをり 岡田貞峰
ウィーンの夜の雫なす黒葡萄 猪俣千代子
オルガンの黒に 粉雪 日本海 伊丹公子 時間紀行
オルガンの黒布ゆゆしや受難節 下村ひろし 西陲集
クレヨンの黒はまつ黒冬隣 小川軽舟
グッピーに遭ひておもたき黒コート 吉田紫乃
グライダー基地も末黒の芒原 柴原保佳
コスモスの花粉を吹けり黒表紙 田中裕明 山信
シスターの黒から黒へ衣更 坂口晴子
シチリアの夜の好漢の黒外套 河合公代
シベリアが叩き込む黒埋葬図 高澤良一 燕音
スカルノ死す金雀枝の実の黒莢に 宮坂静生 山開
ステンドグラスに挑む黒蝶 外人村 伊丹公子 メキシコ貝
ストーブや黒奴給仕の銭ボタン 芝不器男(1903-30)
スラムの掌うごめく黒と代赭の壁 安西篤
デコ木型黒びかりして凍てにけり 高澤良一 さざなみやつこ
ネクタイの黒が集ひぬ寒雀 鈴木鷹夫 大津絵
バード・ウイーク鴉の黒を持て余す 鳥居おさむ
ビル街に残る黒塀ちちろ鳴く 秦野淑恵
ベールかけるには春の髪黒すぎる 今瀬剛一
ペアリフト末黒の芒の上をゆく 満田玲子
ボスに對う意志の黒靴足裏濡れ 鈴木六林男
ポケツトに黒ずみてをり龍の玉 三浦照子
ポスターの中の黒豹寝冷えせり 皆吉司
モナリザの笑まひに似たり黒牡丹 樋口津ぐ
ラバ深みよる瀬の汐のド黒ロに釣れて 河東碧梧桐
ルオーの黒佐伯の黒や冬立てり 伊丹さち子
レーダーの円黒南風の操舵室 河原芦月
レーダーの基地をかすめし黒揚羽 森 高子
一めぐり塚も黒むや冬木立 水田正秀
一ツ葉の緑といへぬ黒さかな 一つ葉 正岡子規
一団の黒の礼服石蕗日和 高澤良一 素抱
一塊の黒に還りて忍枯る 富安風生
一塊の黒を陸とし藻刈の夜 斎藤梅子
一塵もゆるさず黒の冬帽子 前田普羅
一日の奧に日の差す黒揚羽 桂信子(1914-)
一月の風花呼びて樅の黒 村越化石 山國抄
一瞬のときめき嬉し黒揚羽 三吉礼子
一箱の闇より出でて黒葡萄 谷元左登
七月の家ゆるがせて汽車黒し 桂信子 黄 炎
丈ひくく活けて茶亭の黒牡丹 菊井稔子
丈高にわれ殿中を黒揚羽 古舘曹人 能登の蛙
三つとは数の妖しき黒揚羽 倉橋羊村
三寒の黒竹粋な一商家 高澤良一 宿好
三月や丘に黒牛出揃ひて 高橋悦子
三界に末黒の葱を抜きすすむ 島田牙城
三角に神島黒し初日の出 大川嘉智香
下校の子散りゆき黒し雪深し 宮津昭彦
不知火や黒糸威の大鎧 佐藤史奈
世に混じるべく外套の黒ねずみ 橋本榮治 逆旅
並び立つ末黒芒やむちのごとし 佐田光王
並ぶ鵜のみづかき黒し月の舷 吉野義子
並ぶ鵜の黒の端正寒日和 吉年虹二
久里浜は燕の黒の似合ふ町 高澤良一 素抱
乙字生家黒実つぶらな車輪梅 八牧美喜子
九官鳥の黒の旱のバツケヤロ 寺田京子 日の鷹
九官鳥黒し烈しき夏なりき 甲田鐘一路
二つ程拾ひ海鼠の黒奴 高澤良一 素抱
五月 石橋をくぐり黒ずむ花あやめ 宇多喜代子
五月来ぬ水田黒畑光噴き 相馬遷子
亡き友の話にもどる黒椿 石田あき子 見舞籠
人の服黒より白へ花菜咲く 波多野爽波 鋪道の花
人麿忌末黒古蘆刈られけり 藤田湘子
人黒し朧月夜の花あかり 朧月 正岡子規
仁王像の片腕さがす黒蟻よ 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
今さらに土の黒さや朧月 来山
今朝より冬黒ビロードのかがやく足袋 古沢太穂 古沢太穂句集
今朝見れば若菜に揃ふ地黒好 江戸-秋色 俳諧撰集玉藻集
仕あがれば日向にだして黒花輪 飴山實 少長集
仮位牌焚く線香に黒むまで 夏目漱石 明治二十四年
休日をとざす冷雨の松黒し 大井雅人 龍岡村
佳き声の黒鶫くる安居寺 池内けい吾(春耕)
俎に流す血黒し秋夕焼 桂信子
信濃路や濃黒の揚羽まへうしろ 小林康治 四季貧窮
信長忌黒豹といふ牡丹かな 岩田 諒
俺の落下地点をさがす黒鳥かな 小川双々子
傘の黒茎の白千本しめぢ佳き 相馬遷子 山河
傘立ての外の黒傘終戦日 大木あまり 雲の塔
傷つきてとびすさむなり黒揚羽 山口誓子
僧のくる野辺の末黒を旅はじめ 宇佐美魚目 天地存問
僧帰る月黒谷や木菟の声 滝川愚仏
兄弟の黒帯同志初稽古 堀 磯路
先生の黒のトンビの寒さかな 野村喜舟 小石川
光秀の生国黒穂踏みて佇つ 中澤康人「山居]
八つ手の葉を欠いてゐた手の煤黒ろ 梅林句屑 喜谷六花
八月や地獄の沙汰の黒たまご 水原 春郎
八月や黒も炎えいろ黒地蔵 猿田咲子
冬の川黒し酔ふため集ふ灯か 佐藤鬼房
冬の旅びろうどの黒身に添へり 櫛原希伊子
冬の日や鵜匠の羽織る黒紬 殿村莵絲子 花寂び 以後
冬帝に黒靴下の猫火照る 攝津幸彦
冬帽の黒さが似合ふ齢来ぬ 篠原梵 雨
冬帽の黒脱げば斑らなり黄塵 石塚友二 方寸虚実
冬帽子買ひ替へて黒まさりたる 綾部仁喜 寒木
冬服と帽子と黒し喪にはあらぬ 谷野予志
冬薔薇紅く咲かんと黒みもつ 細見綾子 雉子
冴え返る身辺白し黒を着て 殿村菟絲子 『樹下』
凌霄花の花に黒めん鎧壁 史庭 俳諧撰集「藤の実」
凍つる夜の地震しづまりし黒羊羹 和田耕三郎
出目金の話したがりの黒まなこ 上田日差子
切株の 黒蟻が画く 黒い円 富澤赤黄男
切西瓜発止々々と種黒し 後藤比奈夫
列の尾に黒パンを買ひ夏の終り 平井さち子 紅き栞
初午や雪解田に鶏冠黒ずめる 中拓夫 愛鷹
初成りの茄子の黒さの輝きて 和光弘
初潮に鵜の黒耀の絶ゆるなし 遠山壷中
初燕仰ぐ黒人黒瞳秀で 香西照雄 対話
初蝶が黒蝶である何ならむ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
初鴉黒をおのれの色として 加藤有水
利尻暮れ海鵜一羽の黒礁 高澤良一 素抱
動かねば冬日に溶ける黒豹か 斎藤梅子
北に他郷の黒つぐみ、ふるさとは父(ペール) 加藤郁乎 えくとぷらすま
北を指し黒みだれなき除夜の貨車 大井雅人 龍岡村
北国や雪消えやらず黒つぐみ 鈴木純子
十五夜の和服黒がち地影がち 古沢太穂 古沢太穂句集
十六夜やしばし黒谷眞如堂 青雨
十字軍より元気にて黒コート 櫂未知子 蒙古斑
十羽ゐて同じ黒瞳や初雀 友岡子郷 翌
千切りの黒文字干して秋彼岸 福島文江
千年の建物黒し冬木立 冬木立 正岡子規
千年を石に問いつつ黒揚羽 久保純夫 熊野集
午後からはおどろく重さ黒揚羽 河村まさあき
南薫と看板黒し柿若葉 長谷川櫂 古志
友の寝息晴夜の山は親しき黒 大井雅人 龍岡村
古戦場より一斉に黒揚羽 坂部新蔵
只今を水を垂らせる黒揚羽 柿本多映
合掌の舘の夏炉黒光る 寺島初巳
合歓咲いておしやれ少女の黒づくめ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
合歓咲かせ男鹿の旧家は黒造り 鍵和田[ゆう]子 未来図
吊鐘に前のめりして黒やんま 高井北杜
名月やともし火白く犬黒し 名月 正岡子規
向日葵の大き黒蕋秋の風 瀧春一 菜園
向日葵をつよく彩る色は黒 京極杞陽 くくたち上巻
吾等の祖の村土黒し蝶鮮らし(内田稔神戸より来たり遊ぶ登呂遺蹟) 飴山實 『おりいぶ』
咲きつづく天の夕顔黒雨以後 小田保
哀話のようにくけくけくくく黒鶫 小木ひろ子
唖者が飼う鳩白に黒乗り言葉見える 堀葦男
囀や乾して黒帯二三本 鈴木鷹夫 千年
土人哀史いまも黒砂炎ゆるのみ 河野南畦 湖の森
土塊をはさみて末黒野の芒 浦野哲嗣
土用三郎黒牛に乗り来りけり 中条明
土用太郎礁は黒に徹しけり 小原山籟(俳句饗宴)
土竜の屍黒菱形に北の夏 成田千空 地霊
土筆の子末黒汚れの袴穿き 後藤比奈夫 祇園守
地にころがる釘抜黒し油照 目次翠静
地獄図絵昼つかさどる黒揚羽 河野多希女 こころの鷹
城垣の闇を住処に黒揚羽 加藤佳子
城趾山眠る黒本尊とともに 松村蒼石 雁
城跡の茶席へ一花黒牡丹 秋本芳枝
城跡の赤黄黒の桜の実 瀧澤伊代次
堕天使に悪相見えず黒葡萄 吉原文音
塀いとも軽々越せり黒揚羽 高澤良一 素抱
墓石の黒刻まるる桃の花 古賀まり子 緑の野以後
墨こねて服まで黒し女来な 品川鈴子
壁面に黒塗られゆく寒い夏 佐藤鬼房(天狼)
壁黒み影向したる星佛 尾崎紅葉
夏つばめ是非なき黒を身にまとひ 岡本菊絵
夏の月頬黒の多き女哉 夏の月 正岡子規
夏帽に眼の黒耀や恋がたき 飯田蛇笏 山廬集
夏帽子目深にけものめく黒眼 柴田白葉女 『月の笛』
夏帽子黒を自信の色として 小田三千代
夏来る樹影の黒と土の白 香西照雄 素心
夏蝶の黒さを夢にもてあます 高橋謙次郎
夏黒足袋脱げば対なす洞かな 加倉井秋を
夕だちやわづかに降りて田の黒み 肥前-紫白 俳諧撰集玉藻集
夕方の黒富士あるゝ極暑かな 瀧澤伊代次
夕暮の谷戸に谺し黒つぐみ 長谷川草洲
夕涼し鯉黒耀の躬をしづめ 佐野良太 樫
夕狩の野の水たまりこそ黒瞳 金子兜太 暗緑地誌
夕立の黒雲韋駄天走りかな 高澤良一 素抱
夕鶴の全長全幅黒十字 吉野義子
外套の黒着るかくれごころかな 福井隆子
多寿黒顔の冬眠の亀瞼素く 中村草田男
夜に入る鬱のかたちの黒葡萄 奥坂まや
夜の冬木とほり過ぐれば黒にかへる 篠原梵 雨
夜の海の静かさが仇黒葡萄 池田栄子
夜は閉す扉の外の金魚黒 香西照雄 対話
夜へつながる黒砂 いまは陽に返礼 伊丹公子 機内楽
夜を待ちてゐたるごとくに黒牡丹 片山由美子 風待月
夜を脱ける黒の真澄や初鴉 知世子
夜涼し身をはなれたる背広の黒 大井雅人 龍岡村
大き夕陽に黒ぐろ雪を下しおり 北見弟花
大仏の鼻梁真夏の黒びかり 高室有子(白露)
大南風黒羊羹を吹きわたる 川崎展宏
大暑なり能登黒瓦かがやけり 高島筍雄
大根の花咲く厩出す黒馬の艶 安斎櫻[カイ]子
大根を下ろして明日は黒ずめり 津沢マサ子 華蝕の海
大観の黒の一筆冬に入る 川井政子
大雪や能登巡礼の黒づくめ 井上雪
大露の黒滝村に忌を修す 大峯あきら 鳥道
大頭の黒蟻西行の野糞 金子兜太 旅次抄録
天つ日に金の蘂吐き黒牡丹 松本澄江
天使祭黒を着たがる娘たち 鈴木明
天蓋を褥となせり黒揚羽 柿本多映
太宰忌の黒長靴の脱げば折れ 福永法弘
太陽に黒点のあり黒穂生ふ 石井とし夫
太陽に黒穂の黒き粉が育つ 堀内 薫
太陽を醸してかくは黒葡萄 野沢節子 八朶集以後
奈良墨の黒さ秋行く画仙紙に 富田潮児
奥の院八丁とあり黒揚羽 近藤笑香(地平)
女医明るし狂院の池昼黒し 八木三日女 紅 茸
女面打つ黒足袋を穿きにけり 山口都茂女
妻よ子よ黒焦げ秋刀魚食膳に 村山古郷
媾曳の跨ぎし水の蝌蚪黒し 藤田湘子 雲の流域
子が跳べば届く高さや黒葡萄 金子 蜂郎
子とあるく盲いの父の黒マント 三谷昭 獣身
孫と瞻てナマコ忍者の黒装束 高澤良一 素抱
宗鏡寺の庭に出て舞ふ黒揚羽 八木善一
室の花黒んぼ人形笑ひけり 仙田洋子 橋のあなたに
宵月のたしかに暮るゝ黒牡丹 牡丹 正岡子規
家に入る電線黒し柿若葉 日向野初枝
宿の膳こんがり焼きの黒ハチメ 高澤良一 寒暑
寂然と黒雲おこる安居かな 村山古郷
寒々と黒漆塗りの首桶なり 冨田みのる
寒夜の餉とろりと烏賊の黒づくり 北野民夫
寒念仏黒谷を出て帰りけり 赤木格堂
寒椿一句は赤し二句黒し 攝津幸彦 鹿々集
寒泳の身よりも黒眸濡れてくる 能村登四郎
寒潮の彼方夕黒雲がゆく 松村蒼石 雁
寒釣にゆくいでたちの黒づくめ 池田秀水
寒鯉雄々し黒天鵞絨の座布団も 草田男
寒鴉道士と黒を競ひけり 有馬朗人 耳順
寒鴉黒胡麻のごと過疎の里 山下美典
寵愛の白牡丹黒牡丹かな 大橋敦子 手 鞠
射干をつかんでは下げ黒揚羽 川崎展宏 冬
小暗くて木深くて黒揚羽ゐる 高木晴子
少年の黒瞳が澄めり睫毛に雪 鈴木貞雄
少年は眠れり木莵を黒と決め 齋藤愼爾
尼の服黒し緑蔭を出ても尚ほ 秋元不死男
居待月南部黒牛歩み来て 熊澤さとし
山すその草の深さに黒揚羽 高木晴子 晴居
山の寒さかぶるま黒なお寺見ゆ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
山半面焼けし末黒のすすきかな 森 無黄
山国御陵黒蟻大きすがる腰 鈴木榮子
山廬春黒竹直と立てりけり 池田秀水
山影を抜けしとき瑠璃黒揚羽 高橋笛美
山桜濡れ身の黒を観世音 上田五千石
山桜防火用水黒ずめる 行方克巳
山眠るごとくにありぬ黒茶碗 長谷川櫂 蓬莱
山脈の脈より生まれ黒揚羽 高野ムツオ「蟲の王」
山路きて山吹白く顔黒し 山吹 正岡子規
岩つばめ高澄み示す黒十字 栗生純夫 科野路
岩窪に深き海ある黒菜かな 山口誓子
岩辿る黒蟻は一登攀者 河合凱夫 飛礫
岩鏡山雨に男濡れて黒し 村越化石「独眼」
岩黒しわが名呼ばれて死ぬ日まで 津沢マサ子 楕円の昼
岬の家南風にふくらむ黒幔幕 品川鈴子
岬黒み来し風前の帰雁かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
峠路は遥か黒穂の捨てゝあり 山口草堂
巌の鵜の闇より黒し初日待つ 清水貴久子
川波の光の針や末黒葦 岡本まち子
巴投げ決めて黒帯初稽古 那須淳男
巻きそめし眉間のつむじ黒仔牛 正木ゆう子 静かな水
師の逝くや麥のかなしび黒穂なせ 成瀬桜桃子
干草の山黒馬と動きだす 林翔 和紙
平貝の殻の大いさ愚なるがごとくにて黒し 中塚一碧樓
年つまる黒佗助の花一つ 松村蒼石 雁
幼児きて部屋を野となす黒ぶどう 寺田京子
延年舞黒凍みの堂鳴らしけり 高澤良一 ぱらりとせ
建国日黒装束の鴉かな 青柳志解樹
弥撒のヴェール透して熟るゝ黒葡萄 殿村菟絲子
影と来て影よりも濃く黒揚羽 高橋笛美
御像の鉄より黒し秋時雨 沢木欣一
御木本に一粒の黒春妖し 筑紫磐井 婆伽梵
御車に梅ちりかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
微笑のみ町の確かさ黒夕焼 鈴木六林男 谷間の旗
忍者寺裏へ廻りし黒揚羽 久保木信也
志賀直哉全集美髯黒衿巻 林 朋子
忘られしところもつとも末黒濃し 加倉井秋を
忘られし冬帽きのふもけふも黒し 橋本多佳子
思索重ねてとつくりの黒セーター 成井 侃
性を欠き黒蟻の脚ひたのぼる 古舘曹人 能登の蛙
恋う寒し鼻黒犬と生まれ来て 三谷昭 獣身
恋路しかすがに末黒の薄かな 岩城久治
恍惚のかたちのひとつ黒葡萄 鈴木太郎
悠々と暮れて青嶺のいま黒嶺 高澤良一 随笑
悪しき日のために黒穂をつみて挿す 田川飛旅子 『邯鄲』
悪霊がきてざわめきぬ黒葡萄 小澤克己
悪魔親しき夜のにぎはひ黒葡萄 和田耕三郎
愛ほろびしのちも受話器の黒懼る 樋口喜代子
我来ると黒を凝らして蝶ゐるも 河原枇杷男 訶梨陀夜
戒壇の末黒の芒萌えにけり 岩崎照子
或る高さ以下を自由に黒揚羽 永田耕衣 驢鳴集
或高さ以下を自由に黒揚羽 永田耕衣(1900-97)
戦盲に雪降りかかる黒眼鏡 榎本冬一郎 眼光
戸口暫し天日仰ぐ黒セーター 鍵和田[ゆう]子 未来図
房垂れに櫨の実黒し初時雨 五十嵐播水 播水句集
手のうちを見せぬつもりの黒手套 神林久子
打たんとす蜘蛛黒し蜘蛛身をひろげ 畑耕一 蜘蛛うごく
投げ足の黒靴下に下萌ゆる 上田五千石 田園
探鳥の谷沿ひとなる黒つぐみ 早川慶子
掬ひたる出目金の黒抽んでぬ 高澤良一 素抱
描かんとして黒ばらは黒ならず 水見寿男
換気口より末黒野の匂せり 辻美奈子
故国へかへる真つ黒の汽車にゆられかへる 酒井桐男
教壇を去りて外套今も黒 森田峠 避暑散歩
散はなによき人がらや黒小袖 松岡青蘿
散る柳女も黒と茶が似合ふ 滝春一
敵手と食ふ血の厚肉と黒葡萄 能村登四郎 枯野の沖
斑牛黒牛牧は朝曇 市川典子
斑雪野に黒牛といふ鬱を置く 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
斜陽こそまぶたに重し黒葡萄 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
新発意の黒の輪袈裟や野路の秋 河野静雲 閻魔
新茶青く古茶黒し我れ古茶飲まん 正岡子規
旅にゐて装黒づくめ近松忌 森澄雄
旅の靴黒穂を燃やす火を跨ぐ 橋本鶏二
旅五日黒牛ばかり見てすごす 中山純子 茜
旅人に山の末黒はまださめず 伊藤東吉
日が暈をいちにち脱がず黒椿 大石悦子 聞香
日に憤怒る黒豹くろき爪を研ぎ 富澤赤黄男
日の下にわが子をさがす黒揚げ羽 津沢マサ子
日の涯より風となる末黒葦 千代田葛彦 旅人木
日の渡るときは紅透く黒葡萄 廣瀬直人
日の雫あまさず結び黒葡萄 藤井照子
日曜の市民が溢れ黒干潟 田川飛旅子 『薄荷』
日永きや柳見て居る黒格子 加舎白雄
日矢走り来て黒耀の山葡萄 岡田貞峰
日輪は宙に小さし黒牡丹 能村登四郎「芒種」
日雇の列に黒蟻ついてゐる 丸山嵐人
日食や芋の葉に憑く黒揚羽 高橋淡路女 淡路女百句
昏れ落ちて秋水黒し父の鉤もしは奈落を釣るにあらずや 馬場あき子
星涼し昼は黒砂に雲母賞でぬ 香西照雄 素心
春の川清きに晒し黒八丈 内田衣江
春の海ビニールすでに黒ずみぬ 攝津幸彦
春光や薩摩黒酢の畠の壺 福谷美保子
春夏秋冬用の土用の黒ネクタイ 池田澄子 たましいの話
春夫忌や真竹黒皮脱ぎ散らし 伊藤静代
春愁や黒の混み合ふバーコード 内田美紗 魚眼石 以降
春愁や黒ばかり着る画学生 松本まり
春服疲れし訥々の弁黒瞳澄み 赤城さかえ
春着の子黒瞳いきいき畦を跳ぶ 清子
春筍に夢のたぐひの黒斑あり 藤田あけ烏 赤松
春雨によごれて黒し赤鳥居 春の雨 正岡子規
昨夜の雨末黒の芒濃くしたり 戸川稲村
昼食に煮付礼文の黒がしら 高澤良一 素抱
時の日の時を見廻る黒揚羽 百合山羽公
時忠忌黒米植うる配所の田 高村俊子
時雨るるや煙出しの黒誘ひ出し 櫛原希伊子
時雨るゝや隠岐の小島の松黒み 竹冷句鈔 角田竹冷
時鳥黒牛黒いグランドピアノ 藤野武
晩年や黒穂の黒に指染まり 加倉井秋を
晩春これ肉に含める黒真珠 鳴戸奈菜
晩涼の黒の勝ちたる斑(ぶち)の猫 高澤良一 燕音
晴れた日のルオーの黒と喉湿布 徳弘純 レギオン
暁の雨や末黒の薄はら 蕪村
暗黒の強き黒らは産卵せり 攝津幸彦
暗黒の黒まじるなり蜆汁 攝津幸彦
暮るるまで恋のまことを黒鶫 市村究一郎
暮早し機関車刻々黒さ増す 永田耕一郎 氷紋
曲いつか魔王に変り黒牡丹 熊谷愛子
月の出の蛙らさわぐわが黒弥撒 高柳重信
月は歩をはやむ末黒の芒かな 三田きえ子
月光の集まり船首文字黒し 阿部完市 無帽
月斗句碑鎮魂の蟻黒づくめ 塩川雄三
月落つる山の黒さを怖れ見し 青峰集 島田青峰
木の芽活けて壁に青年の黒帽子 古沢太穂 古沢太穂句集
木の霊を逐うて揚羽の黒軽ろし 河野南畦 湖の森
木曽馬の黒瞳みひらく二月かな 大峯あきら
木洩日や黒ばらは紅深きゆゑ 原 不沙
木蓮花鉄燈籠の黒さかな 木蓮 正岡子規
木賊刈る翁に飛べり黒蜻蛉 高浜虚子
末黒とはなりたる奈良の野の名残 千原叡子
末黒なる目鼻まるまる祖の貌 成田千空 地霊
末黒ふえをりどことなくいつとなく 石井とし夫
末黒より萩ぞくぞく死の如し 金箱戈止夫
末黒畦とべば撓めり浮島村 中戸川朝人 残心
末黒葦湖に晩年ありにけり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
末黒葦身の天日を探すかな 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
末黒野となりては静かなるものよ 細見綾子 桃は八重
末黒野となりぬ一と日を籠るまに 松本田寿子
末黒野にすでに命のはじまれる 稲畑汀子
末黒野にのこる遍路のしるべ石 橋田憲明
末黒野にまさしく月ののぼりけり 松村蒼石 雁
末黒野にをりをり見ゆる鬼火かも 日夏耿之助
末黒野に二重廻しの裾ひきずる 細見綾子 黄 炎
末黒野に兎の糞の焦げてをり 蒸野弘平
末黒野に古墳のごとし水塚跡 金井玲子
末黒野に布目瓦を拾ひけり 阿部みどり女
末黒野に弔ふごとく人佇てり 四宮輝代
末黒野に春りんだうの真先に 杉千代志
末黒野に昼光りなき瀬戸の海 阿部みどり女
末黒野に昼月の照る妖しさよ 久米正雄 返り花
末黒野に松笠焦げて匂ひけり 阿部みどり女
末黒野に残るムンクの赤い空 三嶋隆英
末黒野に突き刺してある火摶棒 深沢暁子
末黒野に窯観世音幣白し 下村ひろし 西陲集
末黒野に立つ父の耳朶少年めく 石川和子
末黒野に蝶さしかかる日暮かな 森田伊佐子
末黒野に透明の水湧きゐたり 辻田克巳
末黒野に雨の切尖限りなし 波多野爽波(1923-91)
末黒野に鳶離れぬ一日かな 市野沢弘子
末黒野に鴉の遊ぶ山田寺 吉原田鶴子
末黒野のいづこより風吹きはじむ 福田和子
末黒野のいのちいざなう裳裾かな 川田由美子
末黒野のかけらの如く鴉翔つ 渡辺清子
末黒野のかばかり大きく怖ろしき 阿部みどり女
末黒野のくろみ渡れる小雨かな 高橋淡路女 梶の葉
末黒野のせせらぎの音天へ抜け 井手功子
末黒野のつやつやとして新しき 石井とし夫
末黒野のはや青みたるひとところ 八木秋水
末黒野のはるかに赭く逝き給う 和知喜八
末黒野の一つの山は硫黄噴く 友成ゆりこ
末黒野の一本の川夜が来る 原田 喬
末黒野の中の無傷のつくづくし 村上喜代子
末黒野の匂ひに馴染み旅暮るる 山田弘子 螢川
末黒野の南の切尖限りなし 波多野爽波 『鋪道の花』
末黒野の夕焼飛べぬもののため 高野ムツオ
末黒野の大きな鳶でありにけり 斉藤夏風
末黒野の昼の三日月いつか失し 加倉井秋を 『風祝』
末黒野の昼光りなき瀬戸の海 阿部みどり女
末黒野の果てに猟師と遊女墓 脇坂啓子
末黒野の海の際まで安房天津 鈴木真砂女
末黒野の焦げし巌の威風かな 菅原敏郎
末黒野の燻り立ちて夕ざるる 伊豆萩波
末黒野の空胎動のありにけり 中川須美子
末黒野の端に漢の無聊かな 野澤節子 『八朶集』
末黒野の緩急消して春の雪 行方克己 昆虫記
末黒野の色濃く棚田長四角 冨山洋子
末黒野の芒夜盗のごとくなり 高澤良一 ぱらりとせ
末黒野の薄や富士の裾長し 堀古蝶
末黒野の起伏に兵の影走る 蛇嶋知誠
末黒野の限りふるさと離れ得ず 加藤燕雨
末黒野の雨にけぶらふ一団地 木村蕪城 寒泉
末黒野の雨はひとりのうしろより 松本高児
末黒野の雨も新しと古墳塚 河野南畦
末黒野の雨をかなしと見て過ぐる 高濱年尾 年尾句集
末黒野の雨を遥かに人わたる 波多野爽波 鋪道の花
末黒野の風びしびしと自負育つ 高野力一
末黒野の風呑んでおり大欅 熊坂てつを
末黒野の風清潔に吹き始む 嶋田麻紀
末黒野の鴉の舌は赤きかな 久米正雄(三汀)(1891-1952)
末黒野の黒のかなしみ言ひ足して 斎藤玄 雁道
末黒野へ踏み出て素足病波郷 肥田埜勝美
末黒野やきりりと細き月浮ぶ 清 きくえ
末黒野やヘッドホーンの中はジャズ 仙田洋子 雲は王冠
末黒野や倭建命はみづら髪 ふけとしこ 鎌の刃
末黒野や心とむれば径の枝 尾崎迷堂 孤輪
末黒野や戦禍を抜けし少年期 有坂馨園
末黒野や梁より出でし連判状 坂本みどり
末黒野や水のにほひの立返り 福島壺春
末黒野や汽車に飛び起つ時鳥 佐野青陽人 天の川
末黒野や淀急流となりて曲る 小沢満佐子
末黒野や現れ出でし標石 吉田ひろし
末黒野や間のび声なる牧の牛 田島飛燕
末黒野や鮒のにほひの川ながれ 篠田悌二郎
末黒野ゆく雲のすこぶる女性的 高澤良一 ぱらりとせ
末黒野をぐいと曲りて川が合ふ 山田みづえ 手甲
末黒野をゆく防人の道をゆく 太田土男
末黒野を墨染めの僧来るはよし 森澄雄
末黒野を抜け旅一夜経しごとし 山口 速
末黒野を斜め斜めに誰かの父へ 安井浩司 赤内楽
末黒野を来て野良犬に嗅がれたり 加藤憲曠
末黒野を歩き始めし定年後 長谷川瑞恵
末黒野を行けば幼なの瞳澄む 谷中隆子
末黒野を見てきてよめり方丈記 龍岡晋
末黒野を踏み来てうまき夕日の水 佐々木有風
末黒野を踏めば水沁む日蔭村 蓮尾あきら
末黒野来て人形の面無表情 中村明子
村口に他所者見張る黒案山子 下村ひろし 西陲集
杖のごとき永良部鰻の黒焼よ 高木良多
来黒野に雲影牛の頭ほど 田中裕明 山信
東寺の塔黒し田水の沸きにけり 宇佐美魚目
松の木のすき影黒し青簾 青簾 正岡子規
松原や黒津の里の高燈籠 草間天葩
松明に梅散りかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
松杉の上野は黒し雪の中 雪 正岡子規
松虫のりんともいはず黒茶碗 服部嵐雪
松風や末黒野にある水溜り 沢木欣一 雪白
枇杷熟れて黒雲のゆく迅さかな 岸本尚毅 舜
枝々の黒美しき夕紅葉 川崎展宏 冬
枯れし明るさ黒手袋を深く嵌む 鷲谷七菜子 黄炎
枯れてゆく黒瞳のうごく疣むしり 鈴木貞雄
枯芝や庭の小椅子に黒鶫 三好達治 俳句拾遺
枯葎母の和服の黒澄めり 羽田貞雄
枯野ゆくまづしきものの服黒し 成瀬桜桃子 風色
枸杞の芽の傷みて黒し春の霜 高橋春灯
染めたての黒布はためく朝焚火 香西照雄 対話
柿の傷黒みちぢまり遺子の黒子 香西照雄 対話
柿の木の幹の黒さや韮の雨 原石鼎
柿の黒枝のうねり蒸す夜の水が照る 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
桜えび潮の匂ひの黒眼持つ 小出文子
桜の実赤し黒しとふふみたる 細見綾子 黄 瀬
桜吹雪前後見知らぬ黒の列 殿村莵絲子 牡 丹
梁のいよいよ黒し雪囲 片山由美子 天弓
梁をわたる寝所の黒揚羽 原裕 『王城句帖』
梅の花隣の蔵の黒さ哉 梅 正岡子規
梅雨明くる黒潮の黒引き締まり 竹本仁王山
梅雨晴間旅の鞄は黒が好き 松本旭
棟壊えて幹の黒ぐろ杏花村 伊藤敬子
森がうごくのだ黒牛の逃亡経路 中村加津彦
森茱莉逝く前にうしろに黒揚羽 文挟夫佐恵
森黒し月夜に光る屋根の露 露 正岡子規
棺を担げば棺の下ゆく黒揚羽 吉田さかえ「海程句集」
植ゑて去る田に黒雲がべつたりと 西東三鬼
楠の実の黒涙を踏む爆心地 三嶋隆英
榛の木の伐られし畷末黒なす 川島彷徨子 榛の木
槌を何にかする末黒草にほかし 梅林句屑 喜谷六花
横這の目の真つ黒や太閤忌 菱科光順
橋すぎて黒蟻はなほ戻れるか 平井照敏 天上大風
檸檬忌のれもんの木より黒揚羽 文挟夫佐恵 遠い橋
死が黒ならば腐敗は焦茶こげちやよりくろに到らむうつはぞわれは 高橋睦郎 飲食
死にかけた子が黒鬼の絵を画いた 八木三日女 赤い地図
死の使者といふ黒揚羽来て逝けり 新井遊子
死の国の黒葉櫻のはしばしに 堀葦男
死は晩夏も黒マント着て角を曲る 有働亨 汐路
残照の黒富士穿つ寒の空 久保村香花
母ならむ鶴引く頃の黒箪笥 栗林千津
毛皮して瞳の黒耀は凍てがたし 飯田蛇笏 雪峡
水仙や紫袱紗黒茶碗 水仙 正岡子規
水仙や羨しき尼の黒もんぺ 殿村莵絲子 雨 月
水捨てて鶏驚かす末黒季 鈴木鷹夫 渚通り
水煙に昇りもあへず黒揚羽 藤田湘子 てんてん
水鳥の月出て黒し眠らんか 金子兜太
氷上に黒礫載せ母の国 加倉井秋を 『隠愛』
汗光る黒牛押せども押せども啼かず 川口重美
汽罐車の黒さ秋風暮るる中 古沢太穂 古沢太穂句集
沈黙の海の深さの黒葡萄 藤岡筑邨
河上徹太郎尋めむ黒畦枯山越ゆ 石川桂郎 含羞
河光り末黒野の道うながしゆく 成田千空 地霊
河黒し暑き群集に友を見ず 西東三鬼
泉まで遡る蝌蚪黒緊り 中戸川朝人 残心
波風を立てて帰りし黒セーター 諸田登美子
洗い場守る蜷黒びかりまた山雨 中島斌雄
洗つても洗つても黒烏貝 桑野昌宜
流行の黒づくめなる案山子かな 松木幸子
浜風に色の黒さよたん生仏 一茶 ■文政四年辛巳(五十九歳)
浮世哉菊に晴レ着の黒小袖 菊 正岡子規
海士村の末黒や牛の食みゐたり 加藤楸邨
海女乙女黒眼大きくひとを見る 柴田白葉女 花寂び 以後
海松の黒混り魚類に朝日さす 相良六浦
海老の眼のあまりに黒し年忘れ 横山白虹
海老赤く穂俵黒し鏡餅 鏡餅 正岡子規
海苔黒し観音堂に登り来て 右城暮石
海茜みる手袋は黒が佳し 柴田白葉女 雨 月
海青く樹間を出でず黒揚羽 野澤節子 遠い橋
海黒し子の手袋に掴まれて 田原千暉
涸滝を遡りゆく黒揚羽 平林孝子
涼し黒し一船は皆丸裸 涼し 正岡子規
涼風を着こなす黒もまた派手に 岡地蝶児(アンソロジー俳壇)
淋し淋し夏黒足袋を穿き違へ 加倉井秋を
淵は冬みどりのはての黒を帯ぶ 篠原梵
混血児と保姆と麦より黒穂抜く 島津亮
港公園の休日 黒正装の手品師跳ね 伊丹公子 山珊瑚
湖の月通りかくるる黒檜山 中村草田男
湖風を真正面の黒手套 山田弘子 懐
湾に浮く朝の黒富士敗戦忌 益田 清
漁火をはなれ黒雁浮寝かな 佐藤宣子
漆工の爪先黒し初仕事 漆谷豊信
潮照りのさかり過ぎたり黒揚羽 友岡子郷 春隣
濡れしるき若布刈女わかめより黒し 町田しげき
瀬戸黒のまへを大蟻走りけり 百合山羽公 寒雁
灌仏や雨は黒身の蝌蚪に降り 村越化石 山國抄
火の合ひて末黒つながりゆきにけり 稲畑汀子 汀子第二句集
火消壺昼のくらがり馴れて黒し 殿村莵絲子 遠い橋
火祭の火守りの役の黒紋服 高村圭左右
灯の涼し手にずつしりと黒薩摩 片山由美子 風待月
灯をやどす黒葡萄掌にショパン聴く 川口重美
灯心蜻蜒黒もし召すは龍田姫 尾崎紅葉
炎天を真つ黒な傘さしてをり 久米正雄 返り花
炎昼の黒牛舌を見せず食む 桜井博道 海上
炎昼や黒眼もたざる石膏像 川口重美
炭火途中にて真つ黒に消えゐたる 右城暮石 声と声
烏の子もとより黒し泣きにけり 成瀬櫻桃子
烏瓜黒しと言へば黒くあり 攝津幸彦 鹿々集
焼帛(やきしめ)の融けたるものの黒しづく 茨木和生 往馬
焼酎に酔えば真つ黒し秋夜空 石橋辰之助
焼酎の濃度をとこの黒単衣 柴田白葉女 『冬泉』
煉炭の十二黒洞つらぬけり 西東三鬼
煤掃や玻璃に黒影の蜜柑山 中拓夫 愛鷹
煤煙に黒ずみあはれ枯芒 高浜虚子
煤黒の仏の立てる余寒かな 茨木和生 往馬
熔岩とまがふ黒牛夏野原 小松 幸
熟睡なすまれびととあり黒揚羽 久保純夫「比翼連理」
熱風や黒をアラブの色として 日美清史
燈の向けるギリシャ黒壺梅雨に入る 中戸川朝人
燈台の膝の高さに黒揚羽 和久田隆子
燻炭の黒の極みに一飛鳥 成田千空 地霊
父と子に十五夜の森黒ふかく 大井雅人 龍岡村
父の帯どろりと黒し雁のころ 大石悦子
父悼む黒着て九月始まりぬ 伊藤淳子
爼に流す血黒し秋夕焼 桂信子 花寂び 以後
片枝は磨鉢黒し梅の花 梅 正岡子規
牛帰る梅雨の黒幹いくつも見て 桂信子 黄 瀬
牡丹崩れて黒血のごとし土真昼 五十嵐播水 播水句集
牡丹焚いてシルクハットの黒を焼く 仁平勝 花盗人
犇めいてゐる白魚の黒瞳かな 矢野呂山
猪山に踏み入りたりし黒長靴 藤田あけ烏 赤松
猿楽の里深谿へ黒揚羽 松井利彦
獏眺む黒外套の大男 古澤千秋
珠洲焼の引き緊りたる黒涼し 沢木欣一 往還以後
琉球の夏の日よけの黒眼鏡 高濱年尾 年尾句集
琥珀よりよみがへりたる黒揚羽 菅原鬨也
瑠璃沼の暁け谺して黒鶫 伊藤いと子
甕の濡れ一条黒し万緑下 静塔
甕竝めて白酒(しろき)や黒酒(くろき)濃き淡き杓に汲み分け賣るぞわがわざ 高橋睦郎 飲食
生家黒し茶の花はまた雨の花 塩野谷仁
生涯のここに佇ちをり黒牡丹 野澤節子 『駿河蘭』
田を植うる黒比売の里飾るかに 宮津昭彦
甲冑は眠つてゐたか黒揚羽 斎藤梅子
病癒え来て黒南風の黒に堪ふ 三好潤子
登る者に天轟々と黒霧しまく 加藤知世子 花寂び
白と黒もみにもみあふ野分霊 阿波野青畝
白も黒も悲しみに著る夏衣 宮田節子
白地着る髪の黒さを大切に 朝倉和江
白川も黒谷もみなもみぢかな 嵐山 五車反古
白梅や香取奥宮黒づくめ 内海良太
白毫か黒豹の眼か春の闇 福田甲子雄
白河も黒谷も皆もみぢかな 嵐山
白襖の黒枠不吉隙間風 香西照雄 素心
白閃々黒閃々の初燕 北島大果
白鳥に黒のこりゐるをさなさよ 辻美奈子
白鳥の白黒鳥の黒と会ふ 蔦三郎
白鳥の黒曜の瞳に雪ふれり 鈴木貞雄
白鳥は悲しからんに黒鳥も 高屋窓秋
百合祭黒酒白酒の缶(そんほどき) 磯野充伯(河鹿)
百日の闇を禊の黒葡萄 小檜山繁子
百粒の黒蟻をたたく雨を見ぬ暴力がまだうつくしかりし日 浜田到
皺のなき黒カーボン紙事務始 河原芦月
盆の月森の黒さに墓抱かれ 大熊輝一 土の香
目の黒ひ人と生れて手鞠かな 手毬 正岡子規
相逢ひて過去はまぼろし黒シヨール 柴田白葉女
真つ黒な帽子の上の春の月 鈴木鷹夫 千年
真つ黒な牛の顔ある通草かな 岸本尚毅 鶏頭
真つ黒な鳥が物言う文化の日 出口善子
真宗の国や麦生の一黒穂 向田貴子(俳句研究)
真昼間の影と狎れ合ふ黒揚羽 木村晶子
真清水の極みは黒し鮴のうを 高橋睦郎「金沢百句」
眼をそむけてはならぬ古傷末黒の芽 稲垣きくの 牡 丹
着てみたし賢治先生(せんせ)の黒マント 辻桃子
着やせする黒といふ色単物 山下寿美子
瞬間が雨の黒揚羽であつた 永田耕衣 自人
石摺のその跡黒し山桜 山桜 正岡子規
石橋をくぐり黒ずむ花あやめ 宇多喜代子
石灼けて生絹のやうな黒揚羽 長谷川櫂 天球
石磨くインディアン 聖なる黒に執し 伊丹公子 アーギライト
研ぎあげて包丁黒し秋の空 長谷川櫂 古志
硝子戸に肩衝たりたる黒揚羽 長谷川櫂 古志
碧梧桐忌碾臼うつす黒御影石 砂井斗志男
秋さぶや脇侍欠いたる黒仏 上田五千石
秋の海双眼鏡に帆が黒し 宇佐美魚目
秋の田をくる黒傘のキリストは 飛旅子
秋冷の黒牛に幹直立す 飯田龍太 童眸
秋刀魚黒焦げ工場の飯大盛りに 山崎ひさを
秋夕焼不二の黒さを残しけり 三木十柿
秋川を黒犬游ぐ薄日かな 内田百間
秋日差ことに黒胴置ける廊 川崎展宏
秋暑し仮装悪魔の黒尻ッ尾 文挟夫佐恵 黄 瀬
秋潮の沖の黒さや塩屋閉づ 沢木欣一
秋茄子の暮色にまかす黒びかり 藤岡筑邨
秋草を背負ひ黒牛引いて行く 高木晴子 晴居
秋蔭のほとんど黒に近い紺 藤本草四郎
秋雨の 黒牛は 仏陀のごとく濡れよ 富澤赤黄男
秋風や生きのこりたる黒金魚 川口重美
移動せり梅雨の黒雲バッファロー 高澤良一 ぱらりとせ
稜線はだんだんに黒稲架を解く 松塚大地
種子を採る黒に信頼感を置き 後藤比奈夫
稲は穂に嶽真つ黒に星を生み 雨宮抱星
窓外に黒ずむ山や扇置く 角川源義 『口ダンの首』
立枯の木々おぼろなり黒斑山 堀口星眠 営巣期
立葵よぎる尾長の黒帽子 堀口星眠 営巣期
竹の子の黒装束は折られたり 阿波野青畝
竹の葉や近くは黒し冬日向 滝井孝作 浮寝鳥
筧ありつゝじは赤く米黒し つつじ 正岡子規
箱釣の黒出目金を狙ひけり 榎本文代(万象)
節黒の杉板囲ひ夜長の湯 高澤良一 随笑
篁の秋の空より黒揚羽 小川軽舟
篁を出て硬質の黒揚羽 西嶋あさ子
粟を刈る黒穂よごれの蜑の顔 塩谷はつ枝
紅葉やく烟は黒し土鑵子 紅葉 正岡子規
紛れゐるつもりか末黒野の鴉 大橋敦子
素袷や黒三郎が妾 子規句集 虚子・碧梧桐選
紫蘇の葉の黒びかりなる柏崎 小島千架子
紫陽花や黒の絽羽織しつとりと 渡邊水巴 富士
紫雲英田に入りて黒牛喰み始む 沢木欣一
細註の朱も黒ずみし書をさらす 斎藤香村
組上や下座の黒御簾やぶ畳 龍岡晋
給油所の流し水吸ふ黒揚羽 村川節子
緑黒し鶏舎の鶏の眼より昏れ 阿部みどり女
縁側は家内か外か黒揚羽 宇多喜代子
縹照る一筋の川末黒野に 加藤耕子
罌粟に黒斑スタンダールに赤と黒 福田蓼汀 秋風挽歌
羅臼沖背黒鴎に海霧去来 高澤良一 燕音
羊蹄の酢甕といふも黒薩摩 加古宗也
群がつて蟻が密議す黒密議 塩川雄三
義士祭来る尼寺の黒びかり 殿村菟絲子
羽根ひろぐ岩礁の鵜の黒十字 秋元不死男
羽繕ふ間も黒蝶の華麗な生 上田五千石 田園
翁二人がすれちがうとき黒牡丹 安井浩司 阿父学
老いたくはなし黒薔薇を黒と見ず 加倉井秋を 『欸乃』
老鶯や黒パン温く動かぬ木椅子 新間絢子
考への行止りより黒揚羽 藤田湘子 てんてん
耕馬の胴黒奴一撥の報ここに 成田千空 地霊
聖夜なり前髪切りて黒散らす 鳥居真里子
肥後の赤牛豊後黒牛冬草に 鈴木真砂女 夕螢
肥後赤牛豊後黒牛草紅葉 瀧春一
背の厚き新斧老の黒ジャケツ 香西照雄 素心
背黒鶺鴒新樹を過る時しろし 小松崎爽青
背黒鶺鴒波に驚きとと走り 高澤良一 ぱらりとせ
胸の前黒蝶まぼろしのごとく過ぐ 柴田白葉女 『月の笛』
腰を確かの寒肥撒きは黒づくめ 村沢夏風
舗装路に黒穂東京都に入れり 中島まさを
舞ひ込んだ福大黒と梅の花 一茶
色惜しみつつ夜明けつつ黒葡萄 廣瀬直人
色街めぐるその川底の黒葡萄 八木三日女 落葉期
芋の葉に火山灰の黒露紬織る 大岳水一路
花の下黒煌々と牛闘ふ 吉野義子「荒鋤」
花咲いて坊主の顔の黒さ哉 花 正岡子規
花咲て王子の森の黒さ哉 花 正岡子規
花散るや黒母衣武者の眠る丘 寺島初巳
花曇り南に黒しかはら竈 言水
花枕して黒揚羽横たはる 上野泰 佐介
花柘榴また黒揚羽放ち居し 中村汀女
花桐に烏がとまりあな黒し 林原耒井 蜩
花石蕗や黒つややかに焼仏 吉野義子
芳草や遺影百日髯黒し 百合山羽公 寒雁
芽寒竹黒芽ばかりの早熟児 中村草田男
若き頃都会派なりし黒ビール 青木新造(鑛)
茨の実きつぱり浮けり黒聖母 小池文子 巴里蕭条
茶の花や黒を着込みて喪へ廻る 宇野由希子
草刈女黒本の門に午休 高野素十
草千里末黒に朝の雨そそぐ 竹下流彩
荒行太鼓ひびく椎茸榾黒し 加賀美子麓
荒鋤きの黒賞で雷の鳴り出せり 村越化石 山國抄
落日運ぶ少年の船黒ぶどう 伊藤 和
落花待つ御製を彫りし黒みかげ 筑紫磐井 婆伽梵
落葉参道黒紋付のうなじ艶 鍵和田[ゆう]子 未来図
葛飾の土は黒しも麦芽ぐむ 五十嵐播水
葛飾の鯉の黒さや寒の雨 野村喜舟 小石川
葬列に黒揚羽来て十字切る 岩田洋子
蒟蒻の白と黒とが秋水に 辻桃子 花
蓑虫となるまで巻きぬ黒シヨール 高瀬恵子
蔵涼し千両箱の黒びかり 山田紀子
蕊金ンに風に弁解く黒牡丹 高井北杜
蕗原や黒瞳大きな女学生 永島靖子
薔薇嗅ぎて去る黒髭の郵便夫 辻田克巳
薪能五重の塔の黒装束 津田清子
藷殻の黒塚群れてわれを待つ 西東三鬼
蘇鉄の実の朱色を慾りて黒揚羽 細見綾子 黄 瀬
虹の輪をくぐる黒薔薇かざしつつ 三谷昭 獣身
虻の子黒天鵞縅を纏うたり 富安風生
虻の王黒天鵞絨を纏うたり 富安風生
蚕豆の花の黒瞳を子の貰ふ 文挟夫佐恵 雨 月
蛇の眼へ墜ちゆく壺の水黒し 河野多希女 こころの鷹
蛍光灯に黒の生まれて燕来る 大石雄鬼
蛍火や黒津の梢児が嶋 向井去来
蜆つぶさに子ら北ぐにの黒眸もつ 成田千空 地霊
蜜なめて黒瞳かがやく春の暮 桂信子 花寂び 以後
蜩や庇に余る黒檜山 羽部洞然
蝌蚪の水黒し汚職の雲映り 岩田昌寿 地の塩
蝌蚪黒し汽笛が山にへだてられ 右城暮石 声と声
蝙蝠の黒繻子の身を折りたたむ 正木ゆう子「悠」
蝙蝠は飛んで五重の塔黒し 蝙蝠 正岡子規
蝶黒黒舞ひ込む木蔭けうとしや 太田鴻村 穂国
蟇這い出す赤と黒との不眠地図 八木三日女 赤い地図
蟇鳴いて黒雲かくす燧岳 福田蓼汀 秋風挽歌
蟷螂の黒炭のごとなりても生く 宮坂静生 青胡桃
蟹を食ふ濡れし荒磯に黒が満つ 中拓夫 愛鷹
蟻が蟻と闘ふ黒さ憎み合ひ 右城暮石 上下
蟻の列蜒蜒として黒さ統ぶ 右城暮石 声と声
行きずりに黒外套の裏のいろ 南 典二
街の日は霜にさやけく黒手套 飯田蛇笏 雪峡
装束は黒にきはむる鷹野哉 浪化
西空焼け人影冬木ともに黒し 三谷昭 獣身
見たることあらず干しゐる黒毛布 茨木和生 三輪崎
親戚の家の中から黒揚羽 佐々木六戈 百韻反故 初學
観桜や黒塀つづく角館 継田ひでこ
角矯めてなお黒牛や露しぐれ 橋石 和栲
訥々と篠の子を売る黒瞳 殿村莵絲子 雨 月
誰がための権力政治黒南風す 相馬遷子 雪嶺
誰も眠りて黒馬一頭を知らぬ秋 金子皆子
誰れも来ぬ日や黒葡萄したたらす 小西久子
貨車黒しひまはりの影とどきても 木下夕爾
賤が屋に蚕は白く牛黒し 蚕 正岡子規
赤い柿抱へて吸へる黒揚羽 上野泰 佐介
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼(1900-62)
赤城黒檜背に坂東の冬霞 石塚友二 方寸虚実
赤子の頬ねんねこ黒襟母へつづき 中村草田男
赤微塵はた黒微塵金魚苗 小路智壽子(ひいらぎ)
赤松に黒揚羽くる不思議かな 金子兜太「東国抄」
赤黄黒まはり澄んだる独楽が好き 上村占魚 鮎
走り海雨鷺の粗巣の黒ずみて 大熊輝一 土の香
起きていた鏡ぼく真つ黒に存在して 堀葦男
越中海鵜黒し黒くて寄るとさわると 阿部完市 軽のやまめ
身に入むや女黒服黒鞄 田中裕明 櫻姫譚
身の二月黒なほにほふきもの着て 下村槐太 光背
車椅子一歩先ゆく黒揚羽 中村昭南
軒の氷柱に息吹つかけて黒馬よ黒馬よ 臼田亜浪 旅人
軽井沢麦の黒穂にきつね雨 小林貴子
追羽子や君稚児髷の黒眼がち 夏目漱石 明治三十二年
逃げし風船赤から黒にもう逢へぬ 中村明子
逃水に黒豹の見え隠れせり 石倉夏生
通夜の雪指に影置く黒真珠 吉野義子
連絡船降りし一人の黒シヨール 西村和子 かりそめならず
遅き日の畦に刺したる黒洋傘 柿本多映
道塞ぎ来る赤ブーツ黒ブーツ 岸風三樓
遠く来て夢二生家の黒揚羽 坪内稔典
遠景に近景黒し蔦の家 森田智子
遠足の子に黒豹のこゑ立てず 吉田汀史
那智黒のかがやき坐り鮨の石 桂樟蹊子
那智黒の小石拾ひぬ浜涼み 楠目橙黄子 橙圃
那智黒をいよいよ黒く男梅雨 中戸川朝人 星辰
那須五峰冬日に黒さつらねけり 渡邊水巴 富士
郭公昼休みせよ黒津舟 水田正秀
里宮に黒駒太子黍の秋 西本一都 景色
重ね着の黒をかさねて修道女 谷本恵美子
野ざらしの黒酢の甕を初景色 藤田あけ烏
野に寝たる牛の黒さをけふの月 服部嵐雪
野の力見せて末黒の芒かな 谷口和子
野の春黒塀にへだてかたくなに住みゐる 人間を彫る 大橋裸木
金管楽器に黒を散らせし揚羽かな 松本文子
金粉をみなぎらせたり黒牡丹 下村梅子
金色の雄蕊とろりと黒牡丹 矢島渚男 延年
金髪に染め帰途は黒恋い雪積む樹々 寺田京子 日の鷹
鉛筆が倒れる方位黒揚羽 対馬康子 吾亦紅
鍋鶴の黒しや足の爪までも 木田千女
鎧太刀見に黒南風の海わたる 高木良多
鏡にふれて衣紋つくろへり黒ソフト 飯田蛇笏 山廬集
開帳の仏真つ黒みそさざい 菅原鬨也
闇をよこぎる鼻黒鼬彼の詐欺漢 加藤知世子 花寂び
闇黒の水つながりて氷りおり 西谷剛周
闇黒より胡頽子一枝を持ち来たり 石田波郷
闘牛の横綱といふ黒光 稲畑廣太郎
闘牛の黒縅ゆく豊の秋 綾部仁喜
阿武隈の山に雪降る黒空穂 八牧美喜子
阿蘇島の黒穂焼く火と判るまで 荒川あつし
降り出して末黒の雨のやみがたく 波多野爽波 鋪道の花
降る雪やもの言ひて眼の黒さ増す 今瀬剛一
隙間風剃らるる鬚に黒ぞなく 石川桂郎 高蘆
雀子の髪も黒むやあきのかぜ 式之 芭蕉庵小文庫
雀翔ち末黒を空へ撒きにけり 宮津昭彦
雁来るや黒縮緬の染上り 野村喜舟 小石川
集団に蝌蚪の黒さやしづむ街 大屋達治 絢鸞
雛の眼は黒し飛行機とゞろける 渡邊水巴 富士
雨しみて幹の黒さや冬ごもり 阿部みどり女 笹鳴
雨となる末黒芒に火の匂ひ 加藤三七子
雨のひま霊のごとくに黒揚羽 河野南畦 湖の森
雨はげし花冷えはげし黒箪笥 柴田白葉女 『月の笛』
雨ふりていよ~黒し冬木立 高橋すゝむ
雨上り末黒の芒背を伸す 時広智里
雨乞や多度の社の黒御幣 香原政春
雨傘の赤青黒黄核の時代 鈴木六林男 王国
雨合羽峡の田植はただ黒し 林翔 和紙
雨晴れて末黒芒に瑠璃もどる 立野丘秋
雨残る櫟の幹に黒揚羽 小島千架子
雨蕭々建蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雨蕭々蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雪くれて昭和彷う黒マント 浅井愼平
雪ぐれや接骨院の黒瓦 中戸川朝人 尋声
雪しづか碁盤に黒の勝ちてあり 澁谷 道
雪しづる鬼射し弓の黒漆 林翔 和紙
雪の田に黒一点の羽摶くも 今泉貞鳳
雪の遠近けむり 僧侶の黒 進む 伊丹公子 時間紀行
雪や降るたちまち黒が一切事 松山足羽
雪を被し樹々黒ぐろと村眠る 宮崎敏明
雪渓へ馬柵黒黒と新冠 毛塚静枝
雪空に黒鳥ひとつ渡りけり 中勘助
雪解山裾の黒杉手をつなぐ 殿村莵絲子 花寂び 以後
雪起し帰山の僧の黒ごろも 石原八束
雲のなかに黒雲育ち桐花咲く 大井雅人 龍岡村
雲は雨こぼさず末黒野の鴉 鷹羽狩行
雲黒し土くれつかみ鳴く雲雀 西東三鬼
雷の夜の黒やわらかくミシンの首 大井雅人 龍岡村
雷火にも逆立つ馬の黒たてがみ 桂信子 黄 瀬
霊招ばひしをり寒九の黒づくめ 後藤綾子
霍乱の髪の黒さの言はれけり 榊原薗人
霞む日へ領巾振るもこの黒シヨール 殿村菟絲子 『樹下』
霧けさに翔ちて黒負ふ阿蘇鴉 加倉井秋を 『真名井』
霰うつ糶値の立たぬ黒なまこ 中戸川朝人 残心
露まみれ毛虫の黒黄伸びちゞみ 川崎展宏
露涼し騎馬の少女の黒づくめ 堤 高嶺
青岸渡寺一羽よぎりて黒揚羽 古賀まり子 緑の野以後
青柿や丹波黒牛その仔牛 右城暮石 声と声
青空の果ては黒ずみ夏木立 吉田成子(草苑)
静脈の黒さ汗の手吊革に 石塚友二 方寸虚実
面取の家具黒びかりさくら散る 中戸川朝人 星辰
靴黒しなほ雪中を進みをり 徳永山冬子
鞄提げ洋傘かずくシャツも黒 三谷昭 獣身
鞘堂に吹かれて来たる黒揚羽 山本洋子
須臾にして逆光のジャンク黒揚羽 川崎展宏
頬杖にペンを遊ばす黒セーター 金井 栞
頬黒のすゝけてをりぬ寒雀 閻魔 河野静雲
風の盆男踊りの黒づくめ 菖蒲あや
風浪や貝独楽に賭けたる子の黒眼 柴田白葉女
風花の舞ひ連れて来し黒瞳がち 栗林千津
風邪はやる黒装束の男ゐて 藤岡筑邨
颱風は去りぬつくづく牛黒し 榎本冬一郎 眼光
首塚の末黒の芒鋭かりけり 西本一都 景色
駅路や麦の黒穂の踏まれたる 芝不器男「芝不器男句集」
骨屑のごとき冬日や黒怒濤 齋藤玄 『狩眼』
高潮に黒舟祭ユツカ咲く 石原舟月
髪も黒綸子もほむら親鸞忌 赤松[けい]子 白毫
髪切虫の黒紋付の男ぶり 富安風生
髪濡れてゐれば黒牛怖ろしや 八木三日女 紅 茸
髪黒と嬰児まどろむひつじ草 文挟夫佐恵 遠い橋
髭黒の上手又出よくらべ馬 高井几董
髭黒の大将に花ふゞくかな 久保田万太郎 流寓抄
魂ぬけて喪いろただよふ黒揚羽 柴田白葉女
魂ぬけの身を吹かるるよ末黒野に 稲垣きくの 牡 丹
魂の一つ一つの黒葡萄 和知喜八 同齢
魂魄も袂あるべし黒揚羽 河原枇杷男 蝶座
魔女が杖ふり黒チューリップひらく 成瀬櫻桃子 素心
魔女めくは島に生まれし黒揚羽 大竹朝子(若葉)
鮠川の黒生のすゝきふみもする 銀漢 吉岡禅寺洞
鯉老いて黒剥落す山ざくら 森澄雄 空艪
鯛焼のはらわた黒し夜の河 吉田汀史
鰤敷にまとひ居る藻もか黒なる 鈴鹿野風呂 浜木綿
鳥曇黒身鴉のうしろ向く 村越化石 山國抄
鳥棲まず風が果ゆく黒炎天 河野南畦 湖の森
鳩の爪黒ずみ祭囃子かな 大石雄鬼
鳩胸は母似セーターは黒で決め 水野禮子
鳴き出して春蝉の黒見えねども 川崎展宏
鴉と農夫の間隔 ともに黒際立て 伊丹公子
鴉の子もとより黒し声太し 右城暮石 声と声
鴉の子至極の黒を展べにけり 大石悦子 百花
鴛鴦もゐて黒谷の景ふかむ 呉藤幸子
鵙の瞳の黒眼がちなり実朝忌 大木あまり 火のいろに
鵜の庭に滴りて干す黒合羽 辻 恵美子
鶏頭のくれなゐ黒をきはめたる 沢木欣一
鶏頭の黒づみ雑事身を縛す 根津恵美子
鶯の糞の黒さよ笹の雪 鶯 正岡子規
鶯の糞の黒さよ篠の雪 鶯 正岡子規
鶯の糞の黒さよ豆腐汁 鶯 正岡子規
鶯の黒焼もかな上根岸 鶯 正岡子規
鶴の尾羽短黒矍鑠と夏袴 香西照雄 素心
鹹き一日なりし黒葡萄 友岡子郷 春隣
麥蒔や色の黒キは娘なり 麦蒔 正岡子規
麦に黒穂ひと日のストに鉄路錆び 福田蓼汀 秋風挽歌
麦に黒穂多く償ひ得ざることせし 油布五線
麦秋の夜は黒焦げ黒焦げあるな 金子兜太 詩經國風
麦笛を捨て工場の塀黒し 萩原麦草 麦嵐
麦黒穂阿呆と罵りし父は亡し 榎本冬一郎 眼光
黄も黒も強烈な色大毛虫 佐柳芦郎
黄落や墓群の貧富黒づくめ 吉田未灰
黒ぐろと太き幹なり雨水なり 中村契子
黒し白し雪渓交ふ地の牙は 林翔 和紙
黒すぐりのぱん食べすぎて夏かな 阿部完市 軽のやまめ
黒ずくめにて 寒紅を濃くすると 向山文子
黒ずみし常滑磐や花うぐひ 山口峰玉
黒ずみて落椿とはもう言はず 宮津昭彦
黒ずみて野性のまなこ冬の鹿 山下美典
黒ずめる連翹の芽に雨つめた 高澤良一 ももすずめ
黒ずんだ楽屋茶碗や寒の入り 今泉貞鳳
黒ずんでゆく桑の実を桑知るや 菅原鬨也
黒つぐみあけぼのの富士雲払ふ 篠田悌二郎(野火)
黒つぐみきゝとめ蕨捨てゝ立つ 水原秋櫻子「旅愁」
黒つぐみつぎつぎ浴びて木の実落つ 及川貞 夕焼
黒つぐみはるかなり山萌えにけり 堀口星眠 営巣期
黒つぐみ昔のろしを上げし山 青柳志解樹
黒つぐみ朱走る朝の白馬岳 野垣 慶
黒づくめおたまじやくしに水浅し 石川桂郎 高蘆
黒づくめにて暗からず種案山子 大熊輝一 土の香
黒といふ春光にあり孔子廟 大木さつき
黒といふ派手な色あり黒揚羽 木村淳一郎
黒といふ色の明るき雪間土 高嶋遊々子
黒といふ色の重さの種を採る 片山由美子 風待月
黒とんぼ稲の葉末にとまりけり 増田龍雨 龍雨句集
黒とんぼ野川は渦も孤りなる 中島斌男
黒と黄の班百足虫にたたら踏む 久岡千代子(砂山)
黒どりの海鵜があそぶ若布刈り 佐野まもる 海郷
黒はえや校倉ふたつ間の松 下村槐太 光背
黒はまた慶びの色桜炭 佐々木紅春
黒は待つ色で ナザレの女に朝 伊丹公子 山珊瑚
黒ばえに山かつの井をのぞきけり 銀漢 吉岡禅寺洞
黒ばらに近き紅ばらかと思ふ 落合水尾
黒ひとすぢ混じる菫を束ねけり 中田剛 珠樹
黒ぶだう閻魔の舌となりにけり 高澤良一 寒暑
黒ぶちのめがね大きく白梅忌 半田あき子
黒ぶどう日暮れてからの川奔る 石川元彦
黒ぶどう留守番電話の声もどす 川崎ふゆき
黒ぼこの松のそだちや若緑 土芳 芭蕉庵小文庫
黒みけり沖の時雨の行どころ 内藤丈草
黒みつつ充実しつつ向日葵立つ 西東三鬼「変身」
黒めばるいとほしく見る齢かな 菅原鬨也
黒もまた涼しき色よ夏帽子 野坂 安意
黒もんぺ干しあり春の雨降れり 中山純子 沙 羅以後
黒ゆりの花の重さをゆらしけり 根岸善行
黒をきて鵜匠鵜のごと坐るなり 見原一朶
黒をもて派手と言ひなす三鬼の忌 中原道夫
黒を着て勝負師めける十二月 藤川喜子
黒を着て涼しき心お盆なり 井上 雪
黒を着て秋の女と言はれけり 岩崎照子
黒を着て身の充実や春の山 石嶌岳
黒を着て黒の落着安吾の忌 須佐薫子
黒ん坊の笛吹き合ひし昔かな 谷口つね
黒ん穂に叩かれし顔よく眠り 豊島蕗水
黒キマデニ紫深キ葡萄カナ 葡萄 正岡子規
黒シャツをまとひて合歓の花かげに誰待つとなく一日暮らす 杉原一司
黒シヨール吹かれ沖にはある光 鷲谷七菜子
黒ストール豊かにはおり未婚なる 橋本榮治 逆旅
黒セーター詩人のやうに生きたくて 山根繁義
黒ネクタイ汗の首より引き抜けり 藤陵紫泡(雪解)
黒ビール白夜の光すかし飲む 有馬朗人 耳順
黒ビール飲み冬の夜の食堂車 長谷川青窓
黒ペンキ塗り了へ宵闇栄もなく 香西照雄 素心
黒マントからクルクル牙が花びらが 八木三日女 赤い地図
黒マントで来て白鳥を脅す 鈴木栄子
黒マント浮ぶ町の端出雲崎 下田稔
黒マント脱ぐや世界を脱ぐやうに 櫂未知子 蒙古斑以後
黒マント角ばりしもの中に負ふ 山口誓子
黒メガネ氏来たつて問ふは♂か♀か 筑紫磐井 花鳥諷詠
黒レースのような海苔透く 基地の湾 伊丹公子 メキシコ貝
黒主のよみ人にまはるかるたかな 龍岡晋
黒仏いづこか春の光あり 山口青邨
黒仏までの足音除夜詣 斎藤夏風
黒傘ににじむこの雨伊香しぐれ 下田稔
黒傘の尖が群れ飛ぶ手槍混じえ 堀葦男
黒傘を日傘に唯一神を説く 工藤克巳
黒傘突き人外境を行く如し 齋藤愼爾
黒光る馬にもっとも風薫る 源鬼彦
黒凍(くろじ)みの道夜に入りて雪嶺顕(ゆきねた)つ 石原八束(1919-98)
黒凍みの南天棒の南天棒 高澤良一 随笑
黒凍みの道は師の道われも行く 吉田未灰
黒出しも了へしと今宵月まつる 瀧春一 菜園
黒北風にわけておどろや鰯の値 辻田克巳
黒北風や船霊に水あたらしく 大石悦子
黒十字背に長城のてんと虫 加藤耕子
黒南風にのりてぞひとの還りける 加藤楸邨
黒南風に吹かるる人体解剖図 河合由二
黒南風に嫌人癖の亢ずる日 相馬遷子「山国」
黒南風に幟はためく野間大坊 多和田きみ
黒南風に白南風ありて稿進む 池内友次郎
黒南風に草打つてゆく板ながし 横山白虹
黒南風に跼み通しの沙蚕掘り 下村ひろし 西陲集
黒南風のいづこを蹴りて狂ひたる 平松弥栄子
黒南風のねむき瞼とさくらんぼ 石寒太 炎環
黒南風のまゆみが砦死後の園 殿村莵絲子 牡 丹
黒南風のやがて白南風長命寺 大峯あきら 鳥道
黒南風のやんだる没日ころがりぬ 八木林之介 青霞集
黒南風の一湾を航きかくれなし 行方克己 昆虫記
黒南風の切傷に沁む運河べり 秋元不死男
黒南風の叢打つて人来る 棚橋影草
黒南風の埠頭淋しき倉庫群 酒井みゆき
黒南風の山じわじわと家に入る 六角文夫
黒南風の岬に立ちて呼ぶ名なし 西東三鬼
黒南風の島に蒙古の碇石 松本 学
黒南風の日比谷にをりぬ湘子亡し 戸塚時不知
黒南風の林泉山へつづきをり 大峯あきら 鳥道
黒南風の枝条架遠くなる島に 宮津昭彦
黒南風の浪どろどろと庵の裏 石寒太 翔
黒南風の浪累々と盛り上がる 河野真(白露)
黒南風の海揺りすわる夜明けかな 芥川龍之介 蕩々帖〔その二〕
黒南風の湾処に爽波知る人と 島田たみ子
黒南風の漁家あけすけの声笑ふ 山口草堂
黒南風の潮の湿りを二の腕に 坪井耿青(葭の花)
黒南風の舌先に蝶狂ひけり 広谷一風亭
黒南風の蘆原雲のごとくなり 松村蒼石 雪
黒南風の裏磐梯は荒々し 猿渡青雨
黒南風の辻いづくにも魚匂ひ 能村登四郎
黒南風の雀は細身閣は古り 下村槐太 天涯
黒南風の雨に浸かれる富士裾野 長谷川裕(夏至)
黒南風は伏屋のものを染めつくす 相生垣瓜人 微茫集
黒南風は洲の葦原を束ね吹く 松村蒼石 雁
黒南風やふいに駱駝の微笑せる 殿村莵絲子 雨 月
黒南風やニーチエの狂気伝はり来 堤 保徳
黒南風や一歩一歩の重かりき 篠原弘脩
黒南風や乾き初めたる鯨肉 内田美紗 魚眼石
黒南風や人なき家の蔓の薔薇 田中冬二 俳句拾遺
黒南風や傘煽らるる歩道橋 肥後秋晴子
黒南風や回転木馬修理中 一ノ木文子
黒南風や城に秘蔵の火縄銃 北村妍二
黒南風や城の守護霊鎧抜け 生駒清三
黒南風や大河に臨む芭蕉像 須田修一(梛)
黒南風や嫌人癖の亢ずる日 相馬遷子
黒南風や嬰児葬る甕出土 宮坂静生 青胡桃
黒南風や小蟹は穴へ海くるる 古賀佳子
黒南風や屠所への羊紙食べつつ 中村草田男
黒南風や山皆墓の大谷廟 榎並悦子
黒南風や岬のはなの照り曇り 岩佐東一郎
黒南風や島山かけてうち暗み 高浜虚子「句日記」
黒南風や巌削りたる舟著場 早坂萩居
黒南風や帯の銀にも涙落つ 赤松[けい]子 白毫
黒南風や廻船問屋に隠し部屋 早川利浩
黒南風や手首重たき朝餉前 日越意津子
黒南風や明石大門に潮うねり 田部みどり「貝桶」
黒南風や昼なほ糶の羅臼港 村上喜代子
黒南風や枝葉騒ぐに振り返り 岩田由美 夏安
黒南風や栗の花紐垂りしづる 臼田亞浪 定本亜浪句集
黒南風や校倉ならぶ間に松 下村槐太 天涯
黒南風や水夫もみあげの汗微塵 塚本邦雄 甘露
黒南風や河童百図の動き出す 北見さとる
黒南風や波は怒りを肩に見せ 鈴木真砂女 夕螢
黒南風や浜に弔ふ鯨の死 勝山彦義
黒南風や浪音からむ榕樹林 下村ひろし 西陲集
黒南風や火の爪あげて蟹はしる 赤松[けい]子 白毫
黒南風や燭盡きたれば鐵の針 竹中宏
黒南風や生家を壊す話出て 古川千鶴
黒南風や病む母をただ傍観し 相馬遷子 雪嶺
黒南風や目高が鉢のそとに死し 篠田悌二郎
黒南風や筑波の二神雲がくれ 後藤真佐子(秀)
黒南風や紺青の波蹴立て行く 堤俳一佳
黒南風や絵を抜けて鰐絵に還る 須川洋子
黒南風や群牛の波だちて来る 田口満代子
黒南風や蔵の古文書湿り帯ぶ 米山方士
黒南風や蘭渓道隆結跏趺坐 川崎展宏
黒南風や虚ろに開く魚拓の眼 小山徳夫
黒南風や西瓜のつるの裏返る 藤井乃婦
黒南風や覆刻本の文字かすれ 石川桂郎 四温
黒南風や見飼きて戻る飯匙倩の恋 鈴木寿恵
黒南風や買つてすぐ嘸む陀羅尼助 鈴木真砂女
黒南風や轆轤の首のすぐ太り 杉本 渚
黒南風や鉄塔に鳴く群れ烏 下間ノリ
黒南風や陋港いつも魚臭し 西堀真爾
黒南風や階段にある息づかい 二村典子
黒南風や雑魚流れゆく糶の果 鍋島貞子
黒南風や電子レンジにもの弾け 今田恒子
黒南風や鞭つ如く描く顔 相生垣瓜人 微茫集
黒南風や鯉飛び跳ねる草の上 笹川悦子
黒南風を呂宋にはこぶ八幡船(ばはんせん) 筑紫磐井 婆伽梵
黒南風を航く丸の字は浪の下 中村鈍石
黒南風日々怒りは希望つちかわん 赤城さかえ句集
黒塀にしだるゝ雨の柳かな 柳 正岡子規
黒塀や星に透かして梅を得たり 夜の梅 正岡子規
黒塗の火桶座右にみちのくに 成瀬正とし 星月夜
黒塚の大岩舐める秋の蝉 棚山波朗
黒塚の月と遊べり雪女郎 櫛原希伊子
黒塚の老杉雷を呼ぶごとし 石原八束
黒塚の道に乱れる野紺菊 平野みさ
黒塚の雪折れ杉のばさら髪 きくちつねこ
黒塚やつぼね女のわく火鉢 言水
黒塚や人の毛を編む雪帽子 芥川龍之介 我鬼窟句抄
黒塚や傘にむらがる夏の蜂 夏の蜂 正岡子規
黒塚や葛うらがへる風の出て 藤田あけ烏
黒塚や蚋旅人を追ひまはる 曉台
黒塚や赤子の腕の風呂吹を 風呂吹 正岡子規
黒塚をよぎる蜻蛉の胴焦げて 高澤良一 さざなみやつこ
黒天にあまる寒星信濃古し 西東三鬼
黒奴あり児に夏めきし車窗 飯田蛇笏 雪峡
黒富士と鉄塔はるかなり寒暮 松村蒼石 雁
黒富士に一痕の月よそよそし 富安風生
黒富士のぎいと傾ぐやご来光 豊口陽子
黒富士を借景とするわが庭に小さきかまきりの生れて身構ふ 藤岡武雄
黒小袖焚きほこりして福涌し 成美
黒峠とふ峠ありにし あるひは日本の地図にはあらぬ 葛原妙子
黒島の藷の畑に時雨虹 松藤夏山 夏山句集
黒帯で正座の乙女鏡割る 宮本修伍
黒帯の柔道衣手に卒業す 鈴木篁舟
黒幹を霧の出てくる縁かな 宮坂静生 樹下
黒手套嵌めたるあとを一握り 岡本眸
黒手袋を見事に落し気がつかず 田川飛旅子 『山法師』
黒手袋指にぴちりと神を説く 齋藤愼爾
黒揚羽 かたまり翔つは 何の示唆 伊丹公子 時間紀行
黒揚羽いつもどきりと現はれぬ 高橋久江
黒揚羽いつも片道切符です 丸山嵐人
黒揚羽おっとこちらの道でなし 高澤良一 素抱
黒揚羽おどろに川原毛地獄越ゆ 高澤良一 素抱
黒揚羽が去つた 太陽はむしばまれていない 吉岡禅寺洞
黒揚羽が去つた 或女のように 吉岡禅寺洞
黒揚羽すと消え飛石あるばかり 高澤良一 素抱
黒揚羽するどく脚を組みかへぬ 山西雅子
黒揚羽するどし巡礼のうしろ 伊藤淳子
黒揚羽ただよひやすくゐて勁し 柴田白葉女 花寂び 以後
黒揚羽とまる烈しき翅づかひ 川崎展宏
黒揚羽のぼりのぼりて摶たれくる 長谷川櫂 天球
黒揚羽の舌が校長となつている 西川徹郎
黒揚羽はじめ鬱たること多し 友岡子郷 日の径
黒揚羽ふっと掠めて温き風 高澤良一 素抱
黒揚羽もつれて鉄扉くぐりけり ふけとしこ 鎌の刃
黒揚羽ゆらりと現れし穴居址 鷲谷七菜子 黄 炎
黒揚羽ロールシャツハを飛び立ちて 倉島成子
黒揚羽一つの花に二つ来る 岩田由美
黒揚羽一息入るゝ大樹の根 高澤良一 随笑
黒揚羽七堂伽藍秋の影 川崎展宏
黒揚羽上へ上へと雲巌寺 岩田由美
黒揚羽九月の樹間透きとほり 飯田龍太(1920-)
黒揚羽佗居を継ぐに変りなし 百合山羽公 寒雁
黒揚羽切符拝見致します 丸山嵐人
黒揚羽地の影の上に下りつきぬ 篠原梵 雨
黒揚羽地を歩くとき魑魅となり 上野泰 佐介
黒揚羽宙より降れる晋山式 高澤良一 ももすずめ
黒揚羽己が影の少し後 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
黒揚羽庶子ゆゑに墓小さきや 羽部洞然
黒揚羽廃墟の城の水汲み場 細見綾子
黒揚羽廊下の奥へ追ひつめし 亀田虎童子
黒揚羽微量の毒は誰も持つ 中尾杏子
黒揚羽忽たり怯みつづけをり 林翔
黒揚羽我をみめぐり産卵す 清水美千
黒揚羽手離す茎が揺れてをり 高澤良一 素抱
黒揚羽晝はひとりであそびけり 佐々木六戈 百韻反故 初學
黒揚羽武蔵総社の相撲かな 斉藤夏風
黒揚羽水の匂ひの法隆寺 あざ蓉子(1947-)
黒揚羽水辺の石で息したり 細見綾子 天然の風以後
黒揚羽無垢日光の波の中 石塚友二
黒揚羽生れて濃きもの濃くなりぬ 後藤比奈夫 金泥
黒揚羽発つ神隠しより解かれ 櫛原希伊子
黒揚羽神居古譚を渡り切る 柏原眠雨
黒揚羽神戸の花を病ましむる 攝津幸彦
黒揚羽秋のひかりを曳いて飛ぶ 長谷川櫂 蓬莱
黒揚羽空き巣のごとく裏手より 高澤良一 素抱
黒揚羽突如現れ昼深し 杉村孝子
黒揚羽等身大をはみだせり 内田美紗 誕生日
黒揚羽紛れてゐたる小涌谷 井出智恵子
黒揚羽絶えず飛びゐる安居かな 川上一郎
黒揚羽網膜に穴あけにくる 坂本宮尾
黒揚羽胸中を過ぎとはに過ぐ 小檜山繁子
黒揚羽脳ひんやりと裏返る 藤木まり
黒揚羽舞ひ来て樹下に風起す 茂恵一郎「六白金星」
黒揚羽花を蔽ひてとまりけり 上野泰 佐介
黒揚羽花魁草にかけり来る 高濱虚子
黒揚羽茅葺門のくぐり初め 鈴木フミ子
黒揚羽赤きつゝじを好むかに 高木晴子 晴居
黒揚羽身ぬちに棲める荒ごころ 鍵和田[ゆう]子 浮標
黒揚羽身重に翔けてけだるき午後 吉野義子
黒揚羽軋める音をこぼしけり 宮坂静生
黒揚羽軒をさまよふ雨もよひ 関塚光子
黒揚羽追ひゆく別の黒揚羽 高澤良一 さざなみやつこ
黒揚羽邪心にはかにはばたきて 藤原たかを
黒揚羽鎌倉古道横ぎれり 橋本美智代
黒揚羽雪舟の海わたりけり 大井東一路
黒揚羽風にさからふ時はなやぎ 遠山りん子
黒揚羽飛ぶ水滴に映るまで 桂信子 緑夜
黒揚羽黒き羽音を残しけり 田口啓子
黒揚羽黒と交わる神の前 出口善子「刺茨牡丹」
黒揚羽黒を散らさず去りゆけり 岩淵喜代子 朝の椅子
黒文字と和菓子と八十八夜かな 玉木克子
黒文字の木に水ふえて春の谷 宇佐美魚目 天地存問
黒文字の花ざかりなる湯治かな 大岳水一路
黒文字の花はみどりの四月かな 野瀬知佐
黒文字を矯めて香らす垣手入れ 武田和郎
黒文字植え清明の水遣りにけり 高澤良一 素抱
黒日傘乞食坊主か高僧か 辻田克巳
黒曜の瞳のほころびしとき涼し 大橋敦子
黒曜の鶫ひそめり谷卯つ木 堀口星眠 営巣期
黒杉へ駈けて冬来る柔道着 鈴木鷹夫 渚通り
黒杉を讃へて去りぬ冬帽子 鈴木鷹夫 渚通り
黒松の黒のさらなる油照り 鈴木節子
黒板といふ黒見つめ受験待つ 櫻井幹郎
黒板の黒を鎮めてほととぎす 鈴木修一
黒染にいが栗つかむ松か岡 栗 正岡子規
黒染のうしろすがたや壬生念仏 太祗
黒栄に水汲み入るゝ戸口かな 原石鼎
黒栄や浪に打たれて天の在り 野村喜舟「小石川」
黒森をなにといふとも今朝の雪 松尾芭蕉
黒椀に岩魚の酒を廻し呑む 角川照子
黒椀に白魚淡き色を添へ 山下孝子
黒椿とてくれなゐをまぬがれず 吉野義子
黒椿まざと遺影となりにけり 石田あき子 見舞籠
黒椿貌をあげぬは愛の証 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
黒楽茶碗七種粥の匂ふなり 近本雪枝
黒樫の冬に入りたる浪がしら 齋藤玄 飛雪
黒樺に来てゐる春や雪なだれ 野村喜舟 小石川
黒檀のなにゆゑの黒残る虫 鳥居美智子
黒檻の涼しく眼そらしけり 上村占魚 鮎
黒比売の里の代田の夜を光り 田中英子
黒毛虫妻譏ること譏ること 高澤良一 随笑
黒氷柱吾が失着もまた絶景 永田耕衣 奪鈔
黒汐の海夏蜜柑落果して 右城暮石 上下
黒潮の黒の深まり菜種蒔く 延平いくと
黒濡の波のかゝれる石蕗の花 瀧澤伊代次
黒濡れて声なし音の操車場 鈴木六林男 第三突堤
黒焦げの鴉とびたつ夏断かな 北 光星
黒燦々正月五日の護美袋 林翔
黒燿の眼が驚きし雪の雷 細見綾子
黒牛が鋤きて丹波の神の御田 茂里正治
黒牛が駅に顔入れ菜の花嗅ぐ 加藤楸邨
黒牛にかつと夏来て桑畑 臼井千鶴
黒牛に朝日渦なす川の夏 岸秋溪子
黒牛に横乗りをして佐保姫は 大石悦子 百花
黒牛に雨の降りゐる夏野かな 福島壺春
黒牛のどつと通りし坂の檀 阿部完市 軽のやまめ
黒牛の光るお十夜牛車 後藤比奈夫 めんない千鳥
黒牛の尿の音たて夏日落つ 脇 いそじ
黒牛の涎一筋秋彼岸 川井しほり
黒牛の疲れ癒えざる新春野 殿村莵絲子 牡 丹
黒牛の眸と枯野の眼われに向く 原裕 葦牙
黒牛の瞳を消すまつ毛冬ぬくし 赤松[けい]子 白毫
黒牛の背が春嶺に重なりぬ 今井 聖
黒牛の腹の底より白息吐く 殿村莵絲子 牡 丹
黒牛の藁かみつくし雪無限 金子とよ
黒牛の重き跳躍厩出し 清水久美子
黒牛の黒瞳が聴いて法師蝉 香西照雄 対話
黒牛の鼻面にある梅雨あかり 高井利夫
黒牛は大根の花食い残す 宇多喜代子
黒牛も小粒に見ゆる大夏野 村上有秋
黒牛やうつうつとして翔ぶもあり 国武十六夜
黒牛ゐて雪焼け一家に田が湿る 桜井博道 海上
黒牛を磨く男に土用東風 下田稔
黒牛を越ゆ夏蝶のあらあらし 那須淳男
黒牛若し春昼の炉火馬臭し 加藤知世子 花寂び
黒牡丹あはれ日に透き紅きざす 稲垣きくの 牡 丹
黒牡丹ならんその芽のこむらさき 米谷孝
黒牡丹ほのかに秘むる臙脂かな 高橋淡路女 梶の葉
黒牡丹もどきの閨とおもひけり 大木孝子
黒牡丹千一夜読む身のほとり 原裕 青垣
黒牡丹咲くや真昼の闇を抱き 羽部洞然
黒牡丹無言の黒が水を吸ふ 原 和子
黒牡丹稲葉天目茶碗かな 大屋達治 絵詞
黒牡丹赤を極めて行き尽きし 稲畑汀子
黒牡丹黒き煩悩燃えにけり 大西一冬
黒犀の背の縫合や*はたはた跳ぶ 磯貝碧蹄館
黒犬の腹這うてゐる躑躅かな 野村泊月
黒犬も氷海を来し船の客 有馬朗人 耳順
黒猿の黒き夫婦の日向ぼこ 三好達治 路上百句
黒真珠頸にするりと今朝の冬 佐藤まり子
黒眼鏡かけた女が石に休んで居るばかり 尾崎放哉
黒眼鏡かけ炎天の墨絵かな 上野泰 佐介
黒眼鏡暗しふるさと田水沸く 西村公鳳
黒瞳がちに御崎の馬は肥えにけり 山口麻子
黒砂の浜椰子泳ぎ子土語ばかり 河野南畦 湖の森
黒神殿御燈奥へ奥へ涼し 石川桂郎 四温
黒穂など憶いしだいに酔いはじむ 徳弘純 麦のほとり
黒穂には黒穂のさだめありにけり 川口咲子
黒穂ぬく老いをな吹きそ山の風 中勘助
黒穂の粉ばさと双手に一揆村 松本旭
黒穂もて丁々と打ち魂鎮む 田川飛旅子 『山法師』
黒穂より黒き眸光るおばこの地 成田千空 地霊
黒穂一本まづ抜き麦を刈り始む 嶋田麻紀
黒穂出て村八分とは悲しけれ 星野椿
黒穂抜き女ざかりを困りたる 後藤綾子
黒穂抜く何と重たき俤よ 松崎貞子
黒穂抜く島の真昼は気だるくて 鈴木真砂女
黒穂抜く愉しさ心病むならむ 福永耕二
黒穂抜く火山灰のいたみもさりながら 泊喜雨
黒穂抜く童や顔に黒穂つけ 岩田麗日
黒穂抜く黒に徹せるものはよし 鷹羽狩行
黒穂抜けばあたりの麦の哀しめり 木下夕爾「遠雷」
黒穂焼く煙よりあはき星うまれ 木下夕爾
黒穂麦多し米軍返還地 古賀三十五
黒竹の節に日あたる葛湯かな 三木聆古
黒竹一もと佛起しに起し植う 廣江八重櫻
黒米は晩稲も晩稲捨田めく 中戸川朝人 星辰
黒米をてのひらにして神の留守 平柳草子
黒糖に熱湯注ぎ暑気払い 桃原ノブ子
黒糖をほろと噛みけり雁渡し 小林篤子
黒紋付そでの短かき壬生念仏 新井郁子
黒紫光われが繁殖しつつあり 阿部完市 証
黒繻子に緋鹿子合はす暮春かな 飯田蛇笏 霊芝
黒繻子の肌てらてらとくんち勢美 下村ひろし 西陲集
黒纏ふ御用始となりにけり 吉村玲子
黒羊羹照葉を敷けり山の音 中戸川朝人 尋声
黒耀の眼が驚きし雪の雷 細見綾子
黒耀の鶫ひそめり谷卯つ木 堀口星眠
黒耀石にもどる日時計鳥曇 中戸川朝人 尋声
黒胡麻を固めたる菓子十三夜 中戸川朝人 星辰
黒胴の馬ひかるかな氷水 榎本冬一郎 眼光
黒膳の整然並ぶ年忘 高木 静花
黒臘梅には生れつき茶の心 後藤比奈夫 めんない千鳥
黒舟と果てて漂ふ灯籠かな 阿波野青畝
黒船の黒の淋しさ靴にあり 攝津幸彦(1947-96)
黒艶の民具生きゐて飛騨の秋 河野南畦 湖の森
黒芦の折れし穂先に水触れず 能村登四郎
黒茶碗牡丹すでに散るこころ 菅原鬨也
黒菜あり青きひかりの魚族あり 山口誓子
黒葡萄いささか渋き昭和かな 鍵和田「ゆう」子
黒葡萄いよよ漆黒農一忌 皆川盤水
黒葡萄こころ痺るるほど食べて 鍵和田釉子
黒葡萄ささげて骨のふんわりと 飯田龍太
黒葡萄しづくやみたり敗戦のかの日より幾億のしらつゆ 塚本邦雄
黒葡萄すする微熱の唇よ 佐藤洋子
黒葡萄その後のユダの舌を染む 村田冨美子
黒葡萄の酸をなだむる朝の舌五十年後の老人として 米川千嘉子
黒葡萄よりも冷たき女の手 名取文子
黒葡萄天の甘露をうらやまず 一茶
黒葡萄月ゆく音を耳のうら 庄司圭吾
黒葡萄爪がおしへる沖ツ浪 小堀寛
黒葡萄父をまぶしく見し日あり 鎌倉佐弓 潤
黒葡萄男のなかで熟れており 久保純夫 熊野集
黒葡萄祈ることばを口にせず 井上弘美
黒葡萄童は母の倍も酸し 楠節子
黒葡萄聖書いつよりなほざりに 山岸治子
黒葡萄表裏を食うべ九月十日 蓬田紀枝子
黒葡萄鋏を入るる隙のなし 嶋田麻紀
黒薔薇はもつとも皮肉なる笑ひ 熊谷愛子
黒薩摩まことに黒しねむの花 邊見京子
黒蜻蛉の恋濁流をかけのぼり 百合山羽公 寒雁
黒蜻蛉浮木に群るゝ泉かな 西山泊雲 泊雲句集
黒蝶に添ふ黒蝶のただならず 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
黒蝶のばさらばさらと日の盛り 吉田鐵四郎
黒蝶のめぐる銅像夕せまり 西東三鬼
黒蝶のもつれ越したり百合の花 島村元句集
黒蝶の塊を擦る原爆忌 殿村莵絲子 雨 月
黒蝶もひだるき魂も昼の家 秦夕美
黒蝶も澄まねば舞へず最上川 加藤知世子 花寂び
黒蝶や素木(あらき)の塔に朝日さす 柴田白葉女 『夕浪』
黒蝶や香水つよきひととゐて 桂信子 黄 瀬
黒蝶を初蝶として来る未来 岡本志陽
黒蟻に自尊の歩みありにけり 杓谷多見夫
黒蟻の密集ギリシヤ語の聖書 有馬朗人 知命
黒蟻の彷徨を見る神の位置 平井照敏 天上大風
黒蟻の数見てよりの夜のふかさ 古賀まり子 緑の野
黒蟻の荷の重そうで軽そうで 長島たま
黒蟻の這へり山城復元図 小林紀代子
黒蟻やいのちの列の一行詩 林昌華
黒血川に沿ふ村里や罌粟の花 中條睦子
黒血流す春夜がらくたトラックが 寺田京子 日の鷹
黒谷の初夜きく月の野川哉 高井几董
黒谷の和紙を漉きをる十三夜 石嶌岳
黒谷の夜を鳴き交はす梟かな 五十嵐播水 播水句集
黒谷の方タの暗さに十夜かな 松根東洋城
黒谷の松や蓮さく朝嵐 河東碧梧桐
黒谷の松吹く雪となりにけり 西村和子
黒谷の紙祖神ひそと春を待つ 小原清子
黒谷の隣はしろしそばのはな 蕪村 秋之部 ■ 題白川
黒谷や十夜過ぎたる風の音 高城樹み乃
黒谷や木魚たゝけば風薫る 大塚甲山
黒豆は黒汁びたり初明り 山本紫黄
黒豹の尾のゆきもどる夕ざくら 横山房子
黒豹の牝にうす日してやむ雪か 飯田蛇笏 雪峡
黒豹はつめたい闇となつてゐる 富澤赤黄男
黒貂のとぶ朝の月朝の森 依田明倫
黒足袋の聖處女ミサヘ磯づたひ 下村ひろし 西陲集
黒酢飲めという天敵の叔母が来て 大坪重治
黒釉に爽やかな白巴紋 沢木欣一
黒金魚揚羽のごとく藻にとまり 奥野花鳥女「四季選集」
黒闇を生きて黒髪冷まじき 文挟夫佐恵 雨 月
黒陶の寒姫の舞のきびしさよ 瀧井孝作
黒雁の 黒の際立つ 男鹿日昏 伊丹公子 山珊瑚
黒雨風は鵺かや病篤くなる 品川鈴子
黒雪渓山の睡気を持ち歩く 津田清子 二人称
黒雲から風髪切虫鳴かす猫 西東三鬼
黒雲から黒鮮かに初燕 中村草田男(1901-83)
黒雲に鴨の声して竹の秋 佐野良太 樫
黒雲のにわかに騒ぐ日傘かな 日傘 正岡子規
黒雲のふち金色に氷橋 柴田白葉女 花寂び 以後
黒雲のまゆずみの下寝待月 平松措大
黒雲の冬雲を見て牛怒る 萩原麦草 麦嵐
黒雲の折々かかる青葉かな 嵐竹 芭蕉庵小文庫
黒雲の晴れて見たれば月もなし 月 正岡子規
黒雲の月隠さんとけはしけれ 池内友次郎 結婚まで
黒雲の流れに乗らず寒の月 白木原玲子
黒雲の縁金色に氷橋 柴田白葉女
黒雲の見ゆる避暑地を指してゆく 岸本尚毅 舜
黒雲の鯤の胴より月昇る 笹野俊子
黒雲やわれめわれめのけふの月 今日の月 正岡子規
黒雲を仕掛けゐのしし包囲網 脇本星浪
黒雲を出し鴨見ゆる西の天 右城暮石 上下
黒雲を起こしてゆくや蒸氣船 正岡子規
黒雲母岩の陽炎ホームレス 斉藤夏風
黒霧白雲巌をしまきて合流す 加藤知世子 花寂び
黒青万のドラム缶の一個胃痛む 鈴木六林男 桜島
黒靴を黒に磨いて万愚節 梅本豹太
黒鞄さげて陽炎責めに遇ふ 鈴木鷹夫 春の門
黒頭に白頭まじり天の川 斎藤玄 雁道
黒頭浮かべ泳げる漁港かな 右城暮石
黒馬はロシアタンポポ敷きつめて 金子皆子
黒駒を見てむらさきの葡萄祭 萩原麦草 麦嵐
黒髪の黒ふえもどる氷割り 寺田京子 日の鷹
黒鳥のあかき嘴餌を得たり 佐川広治
黒鳥のほそ鳴きに雪散りにけり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
黒鳥の翼をすべる秋の雨 岡崎桂子
黒鳥の背に降る霰樗牛の忌 小林千恵
黒鳥の赤い顔ぬれ秋の石 和知喜八 同齢
黒鳥の赤き嘴よりをとこごゑ 佐川広治
黒鳥の頸よく動き水温む 尾辻和子
黒鳥はいづこの王子薔薇匂ふ 堀口星眠 樹の雫
黒鳥を置いて落葉の水窪む 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
黒鶫いちにち湖をみて過ごす 井上閑子
黒鶫啼くや姨捨とのぐもり 棗美紗子
黒鶫山郷はまた雲の郷 市村究一郎
黒鶫掟一条諳んじぬ 宮坂静生 樹下
黒鶫朝の山脈走り出す 小田利恵子
黒鶫木々の雨粒歌ひだす 市村究一郎「土」
黒鶫講中着きし棟に鳴く 岡本まち子
黒鶫雨に榛名を見失ふ 毛塚静枝
黒鷽の嫌はれつゝも飼はれをり 岡田耿陽
黒黒と蛇が噤みて山つ方 和田悟朗
鼻涕かめば鼻黒みたり古暦 幸田露伴 江東集
●黝 
かまつかの形骸黝し恋の果 成瀬櫻桃子 風色
この黝きをねずみの糞とはよう云ふた 高澤良一 随笑
しまきても晴れても北の海黝く 桑田青虎
わかるるや月の噴火の黝き跡 田邊香代子
グラビアより黝し秋風と乗鞍は 鴻巣又四郎
トレドヘ? 秋風のなかの黝い辞書 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
中年をつつむ空洞黝い潮 三谷昭 獣身
人住まぬ炉べりのひたすらに黝し 加倉井秋を 午後の窓
佐倉照り日陰は黝き稲架襖 北野民夫
八月の巖のか黝く東尋坊 高澤良一 宿好
冬の海人の輪黝く煙あぐ 阿部みどり女
冬の雲捨田の水の黝みたる 豊長みのる
冬山とおなじの黝の雲が増す 篠原梵 雨
冬黝き槙電線をふりかぶり 石田波郷
凍月の森黝々と呑みし闇 白石かずこ
出土の土師器黝く秋冷到りけり 阿部みどり女
北陸は紫陽花多く海黝し 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
名月にならびて黝き仏たち 中川宋淵
吾亦紅独りごころを通す黝 高澤良一 随笑
地吹雪や一切黝き夜明前 加藤知世子 花 季
夏雲をきざす晴天海黝む 飯田蛇笏 雪峡
夕霧忌その琴爪の黝みて 品川鈴子
夜目にも黝し湖の向ふの雪崩跡 加藤知世子 黄 炎
大阪ややゝに黝む秋没日 大橋敦子
山海居冬を枯れざる樹々黝き 日野草城
山青し黝し颱風洋を来る 相馬遷子 雪嶺
岬の日に干されて黝き海鼠かな 不破 幸夫
常盤木の槇の黝さや寒了る 石田波郷
明神の朱聖堂の黝梅雨晴るる 橋本榮治 逆旅
楽興の時や仮面のうち黝ずむ 楠本憲吉
沼水の黝きがままに温みけり 依田明倫
浚渫船東風のわたるにひと黝し 細谷源二 鐵
海は冬の黝みのあをい太陽 シヤツと雑草 栗林一石路
海黝ろむ艙庫は暑き日を抱けり 飯田蛇笏 霊芝
滝涸れて垂水の黝く岩づたふ 篠原梵 雨
漁舸かへる夏海黝ろむ波濤かな 飯田蛇笏 霊芝
瀧涸れて垂水の黝く岩づたふ 篠原梵
炎天の高みの黝む緑樹帯 飯田蛇笏 椿花集
烏の子まことしやかに黝きかな 成瀬桜桃子 風色
煩悩や荒梅雨の幹みな黝し 柴田白葉女 花寂び 以後
白樺の黝むしじま雪を待つ 殿村莵絲子 花寂び 以後
白鳥の見られたくない黝い足 水野幸子
砂丘沃ゆ西瓜の黝き蜑の昼 飯田蛇笏 霊芝
砂抱いてか黝き馬刀の虚せ貝 高澤良一 素抱
秋霖の空より黝しノートルダム 林翔 和紙
純白に砕けたり冬濤の黝 酒井 京
紛々と黝き雪噴き日食す 栗生純夫 科野路
花終りぬ泉いよいよ黝し 栗生純夫 科野路
虹の裏その下は黝き海ならむ 井上青穂
蝌蚪の尾の黝きを夢のつづきとす 小浜杜子男
蝌蚪黝く足がうまれて游ぐなり 下村槐太 光背
蟋蟀がくる頼家と仮面黝し 萩原麦草 麦嵐
蟋蟀の黝いのが出て十夜かな 原 裕
観世音念じ黝き春雪に 長谷川かな女 雨 月
豊年や黝きひかりの湯もみ板 佐川広治
貨車黝くつながれて蝌蚪泳ぎけり 萩原麦草 麦嵐
針葉樹林たゞに黝くて秋の逝く 林原耒井 蜩
隼に山稜黝し灘の晴 斎藤梅子
雁渡る月下に黝き防砂林 柊 愁生
雪の枝黝む枝うら差しまじへ 楠目橙黄子 橙圃
雪の野や畝なす茶垣遠黝し 杉山岳陽 晩婚
雪催ふ江の黝々と梅ひらく 松村蒼石 寒鶯抄
雪渓の黝ずみたりし月日かな 鈴木貞雄(若葉)
雲の翳黝みつ富士の鋭きそそり 日夏耿之介 婆羅門俳諧
霧の中黝さが勁さ日田の牛 延平いくと
露置きて灼けし瓦礫も秋黝し 内藤吐天 鳴海抄
風花の空を黝しと見る不惑 根岸善雄
鬱と翔つ黝き蜂ありベツドの辺 石寒太 炎環
黝い茸など傘とさしかけ馬鹿な切株 三橋鷹女
黝きまで寒紅梅の紅驕る 長谷川素逝 暦日
黝きまで麦青ませて神と在り 栗生純夫 科野路
黝く灼けわが影われに先んじゆく 梵
黝づめる団栗空をさびしくす 福永耕二
黝汐にのりて春趁ふ鴎かな 飯田蛇笏 霊芝
●玄 
家も事あるさまの玄猪かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
ぐわんぐわんも玄界も抱く冬旅篭 たまきまき
しぐるゝや真菰すがれて水玄き 幸田露伴 蝸牛庵句集
ふぐ供養憲吉すすむ玄秀雄 尾村馬人
万歳の間に玄界のどよもしぬ 野中亮介
三か月のをぐらきほどに玄猪かな 其角
凍鶴の地軸となりし脚玄き 渡辺恭子
初雪や末の玄猪の荒れついで 斗文
印肉を箆もて均す玄冬なり 内藤吐天 鳴海抄
土用浪玄界灘に壱岐沈む 高崎小雨城
大師講抑揚つけて玄義読む 遠藤止観
大花火玄界灘をゆさぶりぬ 大島きんや
天地玄黄あれよあれよと蛇穴に 栗林千津
寒鯉の鰭あほりたる水玄(くろ)き 高澤良一 素抱
山焼きし夜は玄界のとどろけり 三谷 和子
御玄猪や火燵もあけぬ長屋住 亥の子 正岡子規
御玄豕も過ぎて銀杏の落葉かな 李由 十 月 月別句集「韻塞」
手習や天地玄黄梅の花 夏目漱石 明治二十九年
投錨の音玄冬の波に消ゆ 山本輝明
日脚伸ぶ撫づれば温き玄の墓 福田露幸
春の夜も亦玄々と言ふべけれ 徳永山冬子
暮るる日や落葉まじりの玄圃梨 吉田冬葉
枯れざまの梵字でもなし玄圃梨 今井妙子
枯野もとの枯野玄室より出づる 斉藤夏風
桑倉の暗さ玄室めきにけり 森田峠
楪葉や玄孫まで抱く一系図 三好夜叉男
橋渡り終え振り向けば橋玄冬 楠本憲吉
毛布かぶり寝る玄界の濤を聴き 福田蓼汀 山火
水薙鳥波の幣めく玄界灘 田中英子
深秋や足腰玄き田の貴人 磯貝碧蹄館
湯浅玄達さてもさてもと賀状かな 如月真菜
滴りて玄室に溜ることもなし 桂樟蹊子
玄き諸仏春禽宙に愛しあふ 磯貝碧蹄館 握手
玄として色ををさめし初鴉 菊地一雄
玄上の琵琶据ゑ厳島おぼろ 尾野恵美
玄上は失せて牧場の朧月 寺田寅彦
玄冬に桂林巍々と峨々とあり 竹中碧水史
玄冬の何せむとする拳なる 毛塚静枝
玄冬の地蛸粗塩すり込まれ 高澤良一 さざなみやつこ
玄冬の川を見てゐることが旅 鳥居真里子
玄冬の微かに照れる厠神 攝津幸彦
玄冬の日食巨き喪のごとし 栗生純夫 科野路
玄冬の河口におろす波ころし 大図四星
玄冬の波に唇ささくれて 高澤良一 寒暑
玄冬の海に百の目啼鴎 高澤良一 さざなみやつこ
玄冬の田に焚かれゐる太けむり 大熊輝一 土の香
玄冬の蝿の結跏趺坐してゐるつもり 攝津幸彦 未刊句集
玄冬の鮪に見入る背広かな 攝津幸彦 鹿々集
玄冬や好んで鋲となる男 栗林千津
玄冬を緊めて美僧の青つむり 中村明子
玄圃梨くれて山の子もうゐない 山田弘子
玄孫弟子亜浪序文を読初めに 高澤良一 ももすずめ
玄室に冬の短き蚊柱よ 山田弘子 螢川
玄室に吉備のどんぐり許さるる 岡本照世
玄室に棲む豪族のこほろぎよ 品川鈴子
玄室に臥て堪へがたきまで紅葉 竹中宏
玄室の上に突き出て今年竹 辻桃子
玄室の奥に影顕つ遠蛙 田中水桜
玄室の暗きに入りて虫時雨 塩川雄三
玄室の暗さは冬に他ならず 山田弘子 こぶし坂
玄室の蜥蜴彼の世の光もつ 町田しげき
玄室の闇を思へば雪加鳴く 柿沼茂「河岸段丘
玄室の階の数歩や霜柱 斉藤夏風
玄室へ靴の運びし春の泥 八染藍子
玄室を出て人の世の日傘さす 有馬朗人 母国
玄室を覗きて吾も枯野人 西村さち
玄海灘の玄は吾子の名冬怒濤 石寒太 翔
玄猪餅抛ればうけぬ牛の口 西山泊雲 泊雲
玄猪餅牛の口ヘも二つ三つ 西山泊雲 泊雲
玄猿の一幅を下げ花の宿 藤岡筑邨
玄界に一舟もなし神渡 生島花子
玄界に本の栞の紅葉飛ぶ 福田蓼汀 山火
玄界の仮幻の花の海照らし 石原八束 仮幻の花
玄界の冬濤を大と見て寝ねき 山口誓子
玄界の潮騒聞ゆ芒原 江頭 景香
玄界の紺ゆるぎなき鵙日和 木原不二夫
玄界の騒立つて来し障子かな 野中亮介
玄界を水尾の割りゆく冬銀河 矢野緑詩
玄界灘に夕日落ちゐる袋掛 一丸文子「隠の出の笛」
玄界灘渡る風音九州場所 杉山花粉子
玄翁でわるや鍛冶屋の鏡餅 鏡餅 正岡子規
玄翁の狙ひたがはず鏡割 本宮鼎三
玄賣を世にみる様か干菜賣 榎本其角
玄鳥の泥見てありく田面かな 尾崎紅葉
玄黄の間に蓑虫下りけり 宮地良彦
白服に玄沁みもどる原爆図 水巻令子
石工あり玄翁宙に風冴ゆる 飯田蛇笏 雪峡
神の杉神の玄さに初日うく(秩父三峰神社七句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
秋澄むや焼酎甕の玄光り 香原政春
節分の文箱に玄のひかりかな 平松良子
紙魚喰うて玄白訳と読まれけり 岩田深叢
脊振嶺も玄界灘も大霞 山田紀子
色ながら散る玄界に鳥群れて 秦夕美
芋の葉に玄翁の火や石碑彫る 西山泊雲 泊雲句集
芋の露天地玄黄粛然と 平井照敏
花石榴ここに玄白解剖の碑 稲垣きくの 牡 丹
蒼茫と玄界暮るる白牡丹 小関芳江
薔薇をもて栄えの玄義唱へけり 稲畑廣太郎
蚊帳吊草玄燈のいつ始まるか 高澤良一 素抱
軒玄鳥八声の鶏をきゝ居らめ 加舎白雄
鐵兜玄光迸る氷雨かな 幸田露伴 拾遺
門前の家商へる玄猪かな 松藤夏山 夏山句集
隆起して富士玄くなる秋の風 野沢節子 八朶集以後
雁わたる啄木の坂玄の坂 本庄登志彦
青空にして玄冬の鷹ひとつ 小林益枝
颱風の去つて玄界灘の月 中村吉右衛門
高き天玄からざるは惜しむべし 相生垣瓜人 明治草抄
鯊釣をやめ玄界の入日見よ 福田蓼汀 山火
鰯雲玄界灘を出発す 松本ヤチヨ
麦の香や玄界は星あふれたる 橋本榮治 越在
黄塵や僧玄奨の歩む音 磯 直道
●黒髪 
ありあまる黒髪くぐる茅の輪かな 川崎展宏「夏」
いつまでを黒髪といふ雛流す 児玉輝代
うかれ女の黒髪焦せ散り花火 大魯
うそ寒や黒髪へりて枕ぐせ 杉田久女
うば玉の黒髪山の秋の霜 従二位家隆
くちなはの夢見て伸ぶる黒髪か 黛執
たをやかに結ぶ黒髪初神楽 伊藤敬子
つれだちて黒髪にほふ初燕 松村蒼石 寒鶯抄
ひえびえと来るものを知る黒髪(かみ)の芯 宇多喜代子
ほんだはら黒髪のごと飾り終る 青邨
まだ母にならぬ黒髪花水木 中島登美子
めい月や黒髪しぼる蜑小舟 蓼太
ゆく秋の黒髪庵の門たゝく 林 千恵子
わが死後も妻黒髪を洗ふべし 進藤均
ダリア剪る長き黒髪背に廻し 上野さち子
ニーチェ読む黒髪の蠅うつぶして 増田まさみ
初夢の母の黒髪見たりけり 稲荷島人
初弓へ黒髪剪つて出掛けたり 山内なつみ
剃り捨てて黒髪山に衣更 松尾芭蕉
剃捨て黒髪山に衣更 曽良
古衾悪魔に黒髪掴まれぬ 藤木清子
吾が死後も妻黒髪を洗ふべし 進藤均
四十路なり泳ぎて重し黒髪も 吉野義子
壺の梅夜は黒髪の冷えにけり 鷲谷七菜子 黄 炎
夏近し黒髪切って身重の娘 佐藤耶重
夕焼やみな黒髪を持つ誇り 池内友次郎
夕立過ぐ黒髪奈保町歌姫町 片山由美子 水精
大寒の夜の黒髪の濡れてあり 仙田洋子 雲は王冠
天の川仰ぎ黒髪背に流す 川又曙光
威銃黒髪一本落しけり 新 福 寿
寒卵黒髪解きし頭のかたち 中村草田男
寒垢離や黒髪といふ煩悩は 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
寝しづみしひとの黒髪連翹忌 飯田蛇笏
小寒や地に黒髪の一握り 井上静川
広島忌人集まつて黒髪なり 池田行三
形代に黒髪の無き怨みかな 鈴木鷹夫「春の門」
彼のあたり二十の前の我を知る蛇島(さしま)・仙島・黒髪の島 与謝野鉄幹
愛染堂にむすぶ黒髪花おぼろ 木田千女
新海苔の黒髪に似て匂ひけり 荻野千枝
旗とほり黒髪とほり薄原 中田剛 珠樹以後
春愁や熱の黒髪頬にしき 神尾久美子 掌
春愁や黒髪をとく肩のうへ 橋本鶏二 年輪
春潮を観る黒髪を身に絡み 石原八束
朧夜の海にも似たる黒髪よ 河野多希女 両手は湖
柳散る千筋となでし黒髪も 尾崎紅葉
桜咲く我が黒髪の忌なりけり 中尾寿美子
梅雨湿りゴヤの巨人の黒髪も 高澤良一 ももすずめ
梳初の吾子の黒髪手にあふれ 鹿島あけみ
樫若葉黒髪庵は暗きかな 川原みや女
樽に乗り海女黒髪を指で梳く 影島智子
母亡くて雛の黒髪梳きたしよ 大木あまり 火球
水上夏至乳あらはに黒髪洗ふ婦も 宮武寒々 朱卓
沈丁や黒髪に手をさし入れて 中田剛 珠樹
沖に出て泳ぐ黒髪かと思ふ 山口誓子
泳ぎ並ぶ夫も天与の黒髪にて 平井さち子 完流
泳ぎ来し黒髪を解き放ちけり 澤村信男
浪化忌や黒髪塚に樫の雨 岩崎夜鶴
海姫の黒髪曳けり荒布舟 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
海苔舟や黒髪さらふ風が来て 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
満月よ黒髪の子を吾も生まむ 三橋敏雄
火の珊瑚黒髪に挿し布海苔干す 野見山朱鳥「荊冠」
火を抱けば黒髪流河となりにけり 山口 伸
火祭へ行く黒髪とすれちがふ 鈴木鷹夫 千年
炎昼や虚に耐ふるべく黒髪あり 野澤節子 黄 瀬
父母くれし黒髪乱す桜東風 大木あまり 山の夢
現身の黒髪にほふ雛の前 西島麦南
病床の黒髪断ちて髪洗ふ 庄野禧恵
看護婦の黒髪深く金亀子 原月舟
瞑れば我が黒髪も月光となる 篠原鳳作 海の旅
石の上に黒髪映るそぞろさむ 松村蒼石 雁
秋の卑弥呼の千の黒髪万の白髪 夏石番矢 神々のフーガ
紅梅や常黒髪のみようと神 百合山羽公
終ひの日はいつ来る雛の黒髪よ 河野多希女 両手は湖
繭玉に黒髪ふれて巫女出づる 林 晴美
芍薬に黒髪五寸断つ奢り 中村明子
苺食む黒髪の子よ巴里は危し 林原耒井 蜩
茱萸の花とめしを知らぬ黒髪か 堀口星眠 営巣期
蕗味噌や黒髪愛でし世ありけり 天藤青園
誰よりも長き黒髪多佳子の忌 ながさく清江
貴船菊数奇凝らしたる黒髪庵 角田双柿
逢ひし夜雪の香脱けぬ黒髪よ 三好潤子
長城裡黒髪灼くる香なりけり 白澤良子
雛愛しわが黒髪をきりて植ゑ 杉田久女
雨つけて菠薐草も黒髪も 岸本尚毅 舜
雪あそび黒髪長き子を賞づる 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雪なだれ黒髪山の腰は何 桃隣
露霜や死ぬまで黒髪大切に 橋本多佳子
青年の黒髪永遠に餓鬼忌かな 石塚友二
青麦と黒髪なびき易きかな 伊藤敬子
願かけの黒髪つるす彼岸寺 田島君子
鳥帰る母の黒髪怖ろしき 宗田安正
黒闇を生きて黒髪冷まじき 文挟夫佐恵 雨 月
黒髪がいのちのむかし針供養 太田寛郎
黒髪にからめる羽蟻流産か 中戸川朝人 残心
黒髪にすがりて点る螢かな 鈴木貞雄
黒髪に吹きつける風紅梅へ 高澤良一 さざなみやつこ
黒髪に山鹿灯籠点りけり 岩切貞子
黒髪に戻る染め髪ひな祭 西東三鬼
黒髪に打電いくつも夏の海 渡辺誠一郎
黒髪に挿すはしやみせんぐさの花 横山白虹
黒髪に結びしを山鹿灯籠と 後藤比奈夫
黒髪に芝火のにほひ伊豆の女中 鷹羽狩行 誕生
黒髪に落葉そのまま五十年 鳴戸奈菜
黒髪に雪とめて巫女初帚 大橋敦子 勾 玉以後
黒髪のいつ失せるやと福笑 飯島晴子
黒髪のおとろへ知らぬ雛かな 長井紀子
黒髪のおどろに針を納めけり 加藤三七子
黒髪のしろくなるまで相寄ればいにしへびともさきはひとせり 土岐善麿
黒髪のたたまれてゆくそぞろ寒 渡部陽子
黒髪のわつと広がる初湯かな ますぶち椿子
黒髪の中に耳あり夜の梅 鈴木鷹夫 千年
黒髪の冷き棺に崩折れて 京極杞陽
黒髪の冷を束ねる初ざくら 舘岡沙緻
黒髪の匂ふ雛市日和かな 水田光雄
黒髪の国の二日を黙し征く 平畑静塔
黒髪の女人へ弾み初蹴毬 高見寿放
黒髪の如くゆらぐ藻箱眼鏡 小林樹巴「かつらぎ選集」
黒髪の根よりつめたき雛かな 田中裕明
黒髪の母が降り来る椿山 斎藤愼爾 冬の智慧
黒髪の涼しく眼そらしけり 上村占魚 『鮎』
黒髪の白くなるまで牡蠣を打つ 本宮鼎三
黒髪の細る音して春の闇 糸山由紀子
黒髪の黒ふえもどる氷割り 寺田京子 日の鷹
黒髪は宇治の生れと掻氷 鈴木鷹夫 風の祭
黒髪は海女にもいのち真水浴ぶ 石井とし夫
黒髪は眠らずにゐるきりぎりす 大木あまり
黒髪もうなじも婚期風光る ましお湖
黒髪も雪になびけてわれ泣かず 篠原鳳作 海の旅
黒髪も風に波立つ春岬 丸毛房子
黒髪や水を塒の秋の水 河原枇杷男 定本烏宙論
黒髪や汝が影という異郷 斎藤冬海
黒髪や足袋干す下の梳り 野村喜舟 小石川
黒髪をかきあげてわが銀河かな 仙田洋子 雲は王冠
黒髪を乱してかるたとりにけり 下村梅子
黒髪を剪りそびれたる遅日かな 仙田洋子 雲は王冠
黒髪を手にたぐりよせ愛しさの声放つまでしひたげやまず 岡野弘彦
黒髪を持つ憂さ枇杷の熟るるころ 三木照恵
黒髪を束ねしのみよ合歓挿さな 佐々木有風
黒髪を梳くごと麻を挽きにけり 鈴木貞雄(若葉)
黒髪を梳くにも瀬に佇つ峡もみぢ 柴田白葉女
黒髪を梳くや芙蓉の花の蔭 日野草城
黒髪を波にあづけて泳ぎ出づ 檜 紀代
黒髪を洗ひて宿の大晦日 飯田法子
黒髪を男刈りせり牡丹咲く 殿村莵絲子 牡 丹
黒髪を船に祀りて鮪追ふ 歌津紘子
黒髪を首にからめて雪女 松村多美
黒髪山は神在す山瑠璃鳴けり 小山陽子(杉)
黒髪庵涼しや路地の奥まりに 石黒哲夫
●黒々 くろぐろ 
たかんなの今朝黒々と見捨てらる 下坂富美子
もぐら塚濡れて黒々大花野 竹内雪絵
ものうい通夜の星空へ夜業の煙が黒々とのぼつている 橋本夢道 無禮なる妻抄
ハブの子の目の黒々と雨期となる 岸本マチ子「残波岬」
九輪水煙黒々とあり初茜 川崎展宏 冬
人形の目の黒々と夜長星 島田仙海
北風や黒々と立つ防風林 浅井ふみゑ
双眸の黒々として夜の秋 川口真理
合掌の梁黒々と根深汁 初川トミ子
名月や寺の大屋根黒々と 石川とみ子
夕日背に黒々と山眠りたる 稲畑廣太郎
夜桜や幹黒々と逞しき 石崎鬼門
幽霊茸引けば黒々土掴む 鈴木貞雄(若葉)
接骨木の花や黒々土間の土 ますぶち椿子
春日や種子黒々と地に移す 北園克衛
暮春かな山黒々と川を抱き 中村苑子
月白の森黒々と発光す 横井理恵
杜若に水黒々と暮れにけり 青峰集 島田青峰
櫨は実を黒々垂らし冬に入る 山口青邨
氷雨降る鹿のひとみの黒々と 金子純子
淵瀬より黒々のぼる寒き山 松村蒼石 雁
耕せば土黒々と息をせる 倉田健一
肥効いて稲黒々と田水沸く 市村究一郎「東皐」
蝶黒黒舞ひ込む木蔭けうとしや 太田鴻村 穂国
雪渓へ馬柵黒黒と新冠 毛塚静枝
鷹を吹き上げて黒々鞍馬杉 茨木和生 遠つ川
黍畑の闇黒々と黍の立つ 井上 隆幸
黒々とうしろ立山曼珠沙華 山路紀子
黒々とひとは雨具を桜桃忌 石川桂郎 含羞
黒々と冬木そのものありにけり 京極杞陽 くくたち上巻
黒々と初髪結ひし頃もあり 鈴木民子
黒々と夜船かゝれる千鳥かな 岡田耿陽
黒々と富士の素顔や九月尽 栗田やすし
黒々と寒の鰍の男ぶり 矢島渚男 延年
黒々と山動きけり夜の秋 星野椿
黒々と幹走り居り花の中 温亭句集 篠原温亭
黒々と日向の芝の焼けて行く 高浜虚子
黒々と松の傾く寒の雨 山田弘子 懐
黒々と松前帰る日の礁 三上冬華
黒々と藻の打ち上がる秋の風 長谷川櫂 天球
黒々と雪に影あり松の月 雪 正岡子規
黒黒と蛇が噤みて山つ方 和田悟朗
おでん酒風くろぐろと吹き通り 草間時彦
かまつかに吾れくろぐろと征かむとす 金子兜太 少年/生長
くろぐろと*ひつじ田かへす耕運機 長谷川太郎
くろぐろとふはと藁灰夏炉かな 舩山東子
くろぐろと前へゆくのみ寒行者 伊藤通明
くろぐろと和銅坑開く岩菲かな 橋本檜山「青峠」
くろぐろと土の匂いの穀雨かな 針ヶ谷里三
くろぐろと大文字待つあたま数 川村悠太
くろぐろと富士は宙吊り冬霞 横山白虹
くろぐろと東寺はありぬ春の雨 川崎展宏
くろぐろと梅雨入の八ケ岳の大つむり 高澤良一 ももすずめ
くろぐろと沖波あがる十三夜 川崎展宏 冬
くろぐろと波畳まれて十三夜 河合凱夫
くろぐろと津軽がありし雪起し 青山法破来
くろぐろと海立ち上る大夕立 稲井優樹(白桃)
くろぐろと熊野の零余子こぼれ落つ 岩淵喜代子
くろぐろと田毎の土を耕せる 京極杞陽 くくたち下巻
くろぐろと睫毛のあれば春眠し 草深昌子
くろぐろと立つ雷鳥の夏姿 由山滋子
くろぐろと精霊舟を曳きし跡 高澤良一 ねずみのこまくら
くろぐろと行きあかあかと除夜詣 渡辺啓二郎
くろぐろと調律師出て花曇 鳥居おさむ
くろぐろと闇たぐりこみそそり立つ大樟おとこならば惚れむに 久々湊盈子
くろぐろと雪のない路ちかく見ゆ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
くろぐろと雪片ひと日空埋む 相馬遷子 山國
七夕の夜はくろぐろと広瀬川 石垣絢子
人肌を知りてくろぐろ雪うさぎ 櫂未知子 貴族
八月や月餅の餡くろぐろし 内田美紗 魚眼石
回遊の鱒くろぐろと葛嵐 中戸川朝人 尋声
夕ざくら髪くろぐろと洗ひ終ふ 鷲谷七菜子(1923-)
屋根替の人くろぐろと跳ぶごとし 冨田正吉
山桜髪くろぐろと那智詣 斉藤夏風
岸の草青めり川はくろぐろと 石塚友二
後の月東寺くろぐろ浮かびけり 今井圭子
掘り起こす土くろぐろと穀雨かな 伊藤節子
揚花火貨車くろぐろと迫るかな 中戸川朝人 残心
星まつりたゞくろぐろと空がある 林原耒井 蜩
木犀が匂いくろぐろ眉毛のび 和知喜八 同齢
桜餅顔くろぐろと男まへ 川崎展宏
梅の幹くろぐろと梅雨待ちゐたり 高澤良一 ねずみのこまくら
流星群能登くろぐろと北へ伸ぶ 綾野南志
漆掻く溝くろぐろと天台寺 高杉利十
烙印は二等辺三角形 恥毛くろぐろとある 山田敏郎
破芭蕉欠航の文字くろぐろと 長谷川閑乙
秋燕や海中は藻のくろぐろと 岸本尚毅 舜
種浸す朧夜の杉くろぐろと 中拓夫 愛鷹
肥効いて稲くろぐろと田水沸く 市村究一郎
花豆をくろぐろ煮たる二月かな 市村究一郎
見夜火堂夜叉倍子の実のくろぐろと 高澤良一 鳩信
逆光の塔くろぐろと遅日かな 玉垣 咲良
酒精欲りくろぐろ寝れば海鼠めく 豊間根則道
野火止の土くろぐろと牛蒡引く 太田明子
降りそそぐ雨くろぐろと送り梅雨 清水孝男
雪ふんで靴くろぐろと獄吏かな 飯田蛇笏
露の那智護符にくろぐろ烏文字 宮津昭彦
露霜にくろぐろとして菊の叢 彷徨子
鰻屋の字のくろぐろと花吹雪 仙田洋子 雲は王冠
●黒し 
*はまなすや沖にかゝりて船黒し 岸風三楼 往来
あな黒し茣蓙にひろげて棒若布 中西夕紀
いつしかに桑の葉黒し秋の風 秋風 正岡子規
おもかげに顕ちくる君ら硝煙の中に死にけり夜のダリア黒し 宮柊二
くらやみの冬木の桜ただ黒し 三橋敏雄 畳の上
ここいらの犬みな黒し芋嵐 遠山陽子
ここ過ぎて霜陣営の賤ヶ岳山柿の実は棘より黒し 山崎方代
さして行く牛島黒し月見船 不白
はつきりと霞の中に鳶黒し 霞 正岡子規
びつしりと地に寂光の羊歯黒し 三谷昭 獣身
ほつかりと月夜に黒し鹿の影 鹿 正岡子規
もろもろの寒さ育てゝ海苔黒し 右城暮石 上下
アネモネの蕊黒し家追はれをり 岡田貞峰
七月の家ゆるがせて汽車黒し 桂信子 黄 炎
三角に神島黒し初日の出 大川嘉智香
下校の子散りゆき黒し雪深し 宮津昭彦
並ぶ鵜のみづかき黒し月の舷 吉野義子
九官鳥黒し烈しき夏なりき 甲田鐘一路
人黒し朧月夜の花あかり 朧月 正岡子規
休日をとざす冷雨の松黒し 大井雅人 龍岡村
俎に流す血黒し秋夕焼 桂信子
元日の炭売十の指黒し 其角
冬の川黒し酔ふため集ふ灯か 佐藤鬼房
冬服と帽子と黒し喪にはあらぬ 谷野予志
冬雁のゆき水中に畦黒し 西村公鳳
切西瓜発止々々と種黒し 後藤比奈夫
千年の建物黒し冬木立 冬木立 正岡子規
南薫と看板黒し柿若葉 長谷川櫂 古志
名月やともし火白く犬黒し 名月 正岡子規
吾等の祖の村土黒し蝶鮮らし(内田稔神戸より来たり遊ぶ登呂遺蹟) 飴山實 『おりいぶ』
地にころがる釘抜黒し油照 目次翠静
墨こねて服まで黒し女来な 品川鈴子
夏草や母親のみな衣黒し 中村汀女
夜桜の幕の隙間の海黒し 皆川白陀
女医明るし狂院の池昼黒し 八木三日女 紅 茸
媾曳の跨ぎし水の蝌蚪黒し 藤田湘子 雲の流域
子祭や大根白く神黒し 嘯山
家に入る電線黒し柿若葉 日向野初枝
寒椿一句は赤し二句黒し 攝津幸彦 鹿々集
尼の服黒し緑蔭を出ても尚ほ 秋元不死男
山路きて山吹白く顔黒し 山吹 正岡子規
岩山に生れて岩の蝶黒し 西東三鬼
岩鏡山雨に男濡れて黒し 村越化石「独眼」
巌の鵜の闇より黒し初日待つ 清水貴久子
平貝の殻の大いさ愚なるがごとくにて黒し 中塚一碧樓
御像の鉄より黒し秋時雨 沢木欣一
御車に梅ちりかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
忘られし冬帽きのふもけふも黒し 橋本多佳子
房垂れに櫨の実黒し初時雨 五十嵐播水 播水句集
打たんとす蜘蛛黒し蜘蛛身をひろげ 畑耕一 蜘蛛うごく
新茶青く古茶黒し我れ古茶飲まん 正岡子規
早乙女の遠き欠伸の口黒し 平畑静塔
昏れ落ちて秋水黒し父の鉤もしは奈落を釣るにあらずや 馬場あき子
春雨によごれて黒し赤鳥居 春の雨 正岡子規
月光の集まり船首文字黒し 阿部完市 無帽
月明のトロッコ走りたく黒し 渋谷道
東寺の塔黒し田水の沸きにけり 宇佐美魚目
松の木のすき影黒し青簾 青簾 正岡子規
松明に梅散りかゝり幕黒し 梅散る 正岡子規
松杉の上野は黒し雪の中 雪 正岡子規
枯野ゆくまづしきものの服黒し 成瀬桜桃子 風色
枸杞の芽の傷みて黒し春の霜 高橋春灯
梁のいよいよ黒し雪囲 片山由美子 天弓
森黒し月夜に光る屋根の露 露 正岡子規
水鳥の月出て黒し眠らんか 金子兜太
河黒し暑き群集に友を見ず 西東三鬼
海老の眼のあまりに黒し年忘れ 横山白虹
海老赤く穂俵黒し鏡餅 鏡餅 正岡子規
海苔黒し観音堂に登り来て 右城暮石
海黒し子の手袋に掴まれて 田原千暉
涼し黒し一船は皆丸裸 涼し 正岡子規
渦潮に朝蝉の島青黒し 宮津昭彦
漆工の爪先黒し初仕事 漆谷豊信
濡れしるき若布刈女わかめより黒し 町田しげき
火消壺昼のくらがり馴れて黒し 殿村莵絲子 遠い橋
烏の子もとより黒し泣きにけり 成瀬櫻桃子
焼酎に酔えば真つ黒し秋夜空 石橋辰之助
父の帯どろりと黒し雁のころ 大石悦子
爼に流す血黒し秋夕焼 桂信子 花寂び 以後
片枝は磨鉢黒し梅の花 梅 正岡子規
甕の濡れ一条黒し万緑下 静塔
生家黒し茶の花はまた雨の花 塩野谷仁
画をかき字をかきて長松が扇終に黒し 尾崎紅葉
白き掌にコルト凛々として黒し 日野草城
盆のともしび仏眼よろこびて黒し 飯田龍太
真清水の極みは黒し鮴のうを 高橋睦郎「金沢百句」
石摺のその跡黒し山桜 山桜 正岡子規
研ぎあげて包丁黒し秋の空 長谷川櫂 古志
秋の海双眼鏡に帆が黒し 宇佐美魚目
立てかけて雨月の傘の皆黒し 大野林火
竹の葉や近くは黒し冬日向 滝井孝作 浮寝鳥
筧ありつゝじは赤く米黒し つつじ 正岡子規
紅葉やく烟は黒し土鑵子 紅葉 正岡子規
緑黒し鶏舎の鶏の眼より昏れ 阿部みどり女
花にうき世我が酒白く飯黒し 松尾芭蕉
花桐に烏がとまりあな黒し 林原耒井 蜩
芳草や遺影百日髯黒し 百合山羽公 寒雁
荒行太鼓ひびく椎茸榾黒し 加賀美子麓
落ちさうな冬オリオンヘ椰子黒し 都筑智子
蛇の眼へ墜ちゆく壺の水黒し 河野多希女 こころの鷹
蛭泳ぐ余呉湖の田螺蜷黒し 右城暮石
蜜豆の寒天ごしの蜜黒し 如月真菜
蝌蚪の水黒し汚職の雲映り 岩田昌寿 地の塩
蝌蚪黒し汽笛が山にへだてられ 右城暮石 声と声
蝙蝠は飛んで五重の塔黒し 蝙蝠 正岡子規
西空焼け人影冬木ともに黒し 三谷昭 獣身
賤が屋に蚕は白く牛黒し 蚕 正岡子規
赤き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼(1900-62)
越中海鵜黒し黒くて寄るとさわると 阿部完市 軽のやまめ
遠き火事哄笑せしが今日黒し 西東三鬼
遠景に近景黒し蔦の家 森田智子
雛の眼は黒し飛行機とゞろける 渡邊水巴 富士
雨ふりていよ~黒し冬木立 高橋すゝむ
雨合羽峡の田植はただ黒し 林翔 和紙
雨蕭々建蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雨蕭々蘭の花老いて黒し 蘭 正岡子規
雲黒し土くれつかみ鳴く雲雀 西東三鬼
颱風は去りぬつくづく牛黒し 榎本冬一郎 眼光
鯛焼のはらわた黒し夜の河 吉田汀史
鴉の子もとより黒し声太し 右城暮石 声と声
麦笛を捨て工場の塀黒し 萩原麦草 麦嵐
黒し白し雪渓交ふ地の牙は 林翔 和紙
●黒潮 
あたたかや黒潮逃ぐる指の股 高井北杜
うごきゆく黒潮が見ゆ花茨 大屋達治 絵詞
つちふる夜黒潮を来し鰹食ふ 矢島渚男 延年
はや花菜黒潮も端はみどりなす 宮津昭彦
フレームや黒潮の玻璃めぐらすか 加藤三七子
ホピー摘む声に黒潮応へけり 赤羽正行
初東風に沖黒潮の帯をひく 富安風生
初東風に沖黒潮の帯太く 富安風生
坊津に黒潮やすむ仏桑華 矢島渚男「船のやうに」
壺焼や夜も黒潮の流れゐる 井上康明
天の川真夜黒潮とゆれかはす 渡辺恭子
岬鼻を黒潮洗ふ椿かな 深見けん二 日月
探梅や黒潮流るあきらかに 中拓夫
枇杷啜り土佐の黒潮したたらす 渡辺恭子
梅雨明くる黒潮の黒引き締まり 竹本仁王山
椿は実に黒潮は土佐を離れたり 米澤吾亦紅
浜木綿に 黒潮の・背を きこうとする 吉岡禅寺洞
海苔掻きの手を黒潮に曳かれけり 古舘曹人 樹下石上
湾に入る黒潮の波干大根 川崎展宏
病みぬけし寒の黒潮ながれたり 千代田葛彦 旅人木
竹皮を脱ぐ黒潮の高鳴りに 渡辺恭子
花曇黒潮曇いづれとも 伊藤柏翠
若菜野に黒潮の風ゆきわたり 猪本清代子
蘇鉄咲き黒潮荒き雨降らす 神尾季羊「石室」
遍路笠沖は黒潮流れをり 益本三知子
野馬に霧ながれ黒潮夜も蒼し 神尾久美子
長子得し胸に冬黒潮の紺 大岳水一路
鯉幟沖を黒潮とほりゐる 中拓夫
鰹舟南風の黒潮漕げり見ゆ 西島麦南 人音
鳥帰る黒潮しぶく熔岩岬 阪井節子
鳥雲に入る黒潮の憮然たり 鈴木鷹夫 千年
鷹渡るとき黒潮の満つる音 宮田正和
黒潮か血しほ岸を打つ硫黄島 中勘助
黒潮と別るる岬雁渡し 鈴木鷹夫 千年
黒潮にふるゝ銀河の響かな 武田玄女
黒潮に乗りしもあらん花筏 増田河郎子
黒潮に影もこぼさず鳥渡る 上野さち子
黒潮に秋がひろがりゐたりけり 柏 禎
黒潮に秋陽たゆたひねむりけり 中川宋淵
黒潮に突き刺さりては飛魚の群 長谷川閑乙
黒潮のいろ濃き鮪糶り落す 松本幹雄
黒潮のうねりて太し雲の峰 溝口みさを
黒潮のうねりて秋刀魚競る町に 青畝
黒潮のうねりの彩の握り鮨 富田昌宏
黒潮のうねりを沖に畑を打つ 安福春水
黒潮のその色なせる鰤を揚ぐ 前田鶴子
黒潮のとどろき寄する深田打 渡辺 立男
黒潮のどよもしてゐる蕗の薹 高木良多
黒潮の下の径ゆく遍路かな 中島月笠
黒潮の中の一点鰹船 坂本鬼灯
黒潮の人魚にもなり髪洗う 中村竹子
黒潮の午後のかゞやぎ椿照り 高濱年尾 年尾句集
黒潮の寄せる白波海桐の実 青木起美子
黒潮の帯あきらかに海四温 井沢正江
黒潮の気勢に乗りて船起し 大西比呂
黒潮の沖が雲呼ぶ袋掛 岩崎洋子
黒潮の沖に島ある朧かな 福島せいぎ
黒潮の沖へひびきて行々子 深見けん二
黒潮の沖透くままに鵯の木々 佐野まもる
黒潮の海より立てり雲の峰 道先凛宗
黒潮の潮の岬のさくらかな 原子公平
黒潮の礁を砦に天草海女 楓巌濤
黒潮の紫紺に夏は立ちにけり 渡部抱朴子「天籟」
黒潮の色香染み込みたる鰹 岩城鹿水
黒潮の荒磯狭しと初鴉 楓巌濤
黒潮の遠かがやきに桃の花 織田鶴子
黒潮の闇に灯れる鯖火かな 楓巌濤
黒潮の風あたたかき冬の蝶 土永竜仙子
黒潮の風に色もつ金盞花 長野美恵子
黒潮の風立つ島の鬼やらひ 佐野美智
黒潮の香のいまだある鰺叩く 間地みよ子
黒潮の騒ぐ匂ひや鯨追ふ 田中化生
黒潮の黒の深まり菜種蒔く 延平いくと
黒潮は旧正荒れや卓球す 宮武寒々 朱卓
黒潮は鰤場鰤場を経ていたる 長谷川素逝
黒潮へ傾いてゐる葱坊主 坊城 俊樹
黒潮へ傾き椿林かな 高濱年尾 年尾句集
黒潮へ揺るる思慕かも島桜 渡辺恭子
黒潮も端はみどりぞ大南風 伊藤通明
黒潮や憚かるごとくすみれ淡く 香西照雄 素心
黒潮や渓に沿ひ来る夏遍路 林 晴美
黒潮を二枚三枚白拍子 夏石番矢 楽浪
黒潮を控へて岬の寺の梅 高濱年尾 年尾句集
黒潮を流れ来たりしさくら貝 神尾久美子
黒潮を眼下に竜馬像暮春 宮武寒々 朱卓
黒潮を背負ひし色の鰹かな 坊城中子
黒潮を貫く海女の命綱 山下兎月
黒潮を越え来し漁夫に愛の羽根 南光 翠峰
黒潮を食い散らしゐる伊豆の国 佃 悦夫
●群青 
八月ちりぢり逃げて逃げて群青 森田緑郎
冬波の古代群青の水かゞみ 齋藤玄 飛雪
初弥撒や群青の馬の充ち来よ 山本 掌
双つ峰群青に暮れ橋涼み 沖山政子
天に劇場ありK百番は群青 前田圭衛子
帯締めを群青にきめ花を見に 伊藤敬子
底ひなき瀞の群青岩燕 高橋道子
曼荼羅の群青涼し芦峅寺 新保ふじ子
月凍つる群青の村その下に 岡田順子
桜鯛猛き群青鰭に秘め 神尾久美子
海霧透きて波の群青よみがへる 仙田洋子 雲は王冠
瀧落ちて群青世界とゞろけり 水原秋櫻子
白魚に群青の息残りたり 宇多喜代子
破れ障子から群青の東京湾 櫂未知子 貴族
秋暑き洲に群青の川ひとすぢ 松村蒼石 雁
群青が満ちてひとりの刻揺るる 大西泰世
群青といふ名の囀りを聞いてゐし 安東次男
群青に川の流るる桜かな 野村喜舟
群青に雲刷く朱夏の国大和 太田鴻村
群青のあやめや蝶を炎えたたす 萩原麦草 麦嵐
群青のすぢひいて雉翔りけり 林徹
群青の乳房盛り上げ夏岬 高橋悦男
群青の毛布の時化てをりにけり 櫂未知子 蒙古斑
群青の氷河湖見えて夏木立 中村昌恵
群青の海と照り合ふ椿山 野間喜代子
群青の海に櫂漕ぐ冬の夢 妹尾 健
群青の秋見ていたり赤ん坊 津沢マサ子 華蝕の海
群青の空あたたかに波郷の忌 石塚友二
群青の空の戻りて小鳥来る 田畑由子
群青の空ひるがへし海女潜く 堀 康代
群青の空張る池塘ゐもり浮く 近藤 暁代
群青の空抜けられず岩つばめ 鈴木正子
群青へ滝こそひびけ喜雨亭忌 矢野 聖峰
群青をなほ染め上げし冬の海 山岡正嗣
群青をぬけ白鳥の白きわむ 蔵 巨水
群青をゆたかに溶かし光琳忌 高浜虚子「虚子全集」
群青を岩にぶつつけ秋の水 小坏健水
群青を恋ひ一月の船にあり 友岡子郷 未草
群青抜けば立枯れの幹濃紫 香西照雄 対話
臭木の実群青といひ瑠璃といひ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
草矢飛ぶ群青界を突き抜けて 山内遊糸
見上ぐれば五十億年の群青や 冨岡和秀
阿夫利嶺の空群青に鯉幟 三橋喜代
霧を来ていま群青の登山隊 篠田悦子
額づきし草城の墓碑冬群青 山本つぼみ
●紅白 
おしろいの花の紅白はねちがひ 富安風生
おのづから罌粟紅白に蔬菜園 飯田蛇笏 春蘭
おぼろにて一樹紅白の落椿 水原秋櫻子
こゝに二人梅に紅白あるごとく 久保田万太郎 流寓抄
さきがけし紅白二本梅林 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
じやがたらの花の紅白相涼し 西本一都
ぼうたんの終の紅白大雄寺 河合寿子
み仏に切る紅白の千日草 野口丈二
ワイングラス合はせよ卓に吾亦紅 白岩 三郎
乗込口幟紅白鳥渡る 毛塚静枝
人の世のからくり白玉紅白に 鈴木真砂女 夕螢
八重椿紅白の斑のみだりなる 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
初剪りの紅白の牡丹靄の中 阿部みどり女 月下美人
咲きわけて紅白淡し冬の梅 小林碧郎
如来賞でらるる紅白の花氷 山口超心鬼
宝恵駕の紅白の紐いのち綱 橋本美代子
床の間に梅の紅白闘病とは 鈴木鷹夫 大津絵
御手洗へ雨がこぼせし萩紅白 永井龍男
恋衣紅白彼岸の青芝に 香西照雄 素心
新春や綱紅白に神の牛 中山咲枝
春一番紅白饅頭届きけり 内田美紗 浦島草
松蔭や紅白しるき牡丹なる 尾崎迷堂 孤輪
梅園や紅白枝垂れ且つ撥ねて 石塚友二 光塵
梅紅白戦後所帯に国旗無く 鍵和田[ゆう]子 未来図
梵天の餅紅白よ雪に売る 宮野斗巳造
海潮音木瓜の紅白冴え分る 瀧春一 菜園
源平桃にも紅白散りみだれ 花蓑
源平桃地にも紅白散りみだれ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
瀬を挟み梅紅白に咲き分かれ 伊東宏晃
白粉の花の紅白はねちがひ 富安風生
睡蓮の紅白妻も夢保て 中村草田男
磨硝子ごしの紅白シクラメン 山中弘通
秋風や紅白粉も身に古りし 岡本眸
紅白に空を分ちて梅ひらく 高橋悦男
紅白のさみしきものや秋櫻 上野泰
紅白のなますのけぞる藁盒子 岡田文子
紅白のはんぺんの寒見舞かな 小林篤子
紅白の切山椒を打ち重ね 増田手古奈
紅白の幔幕つかみ稲子麿 安部元気
紅白の幕のふくれて卒業す 田中英子
紅白の提燈ともすキャムプかな 田中冬二 行人
紅白の松葉牡丹に母をおもふ 原石鼎
紅白の枝差し交す梅浄土 野間口一夫
紅白の梅や埼玉よき日和 川崎展宏
紅白の梅両袖に葺き上る 荒井正隆
紅白の梅見えてくる氷かな 岸田稚魚 『雪涅槃』
紅白の牡丹と競ひ招かれぬ 杉本寛
紅白の牡丹朝日に開きけり 牡丹 正岡子規
紅白の睡蓮水も紅と白 鈴木鷹夫 風の祭
紅白の紅水引の花の紅 後藤夜半 底紅
紅白の菓子高坏に業平忌 本谷久邇彦
紅白の萩こぼれつつ風を呼ぶ 伊藤芙美子
紅白の萩伯仲と見えにけり 阿波野青畝
紅白の萩門前に咲き分けし 館岡沙緻
紅白の蓮を隔つ陶の橋 後藤夜半
紅白の蓮擂鉢に開きけり 夏目漱石 明治二十九年
紅白の餅の柱やお命講 高濱虚子
紅白の餅大いなり大師祭 喜多栄子
紅白は大伯大津や寒牡丹 三嶋隆英
紅白もさみしきものよ秋桜 上野泰
紅白梅圖地底の踏みきり衝突あり 竹中宏 饕餮
繭玉の紅白なにごころなく揺らす 柴田白葉女 花寂び 以後
花杏紅白のあり紅晩る 西本一都 景色
萩根分して紅白を失したる 山田弘子 懐
藪入に梅の紅白咲きにけり 野村喜舟 小石川
鳳仙花紅白砂にけがれざる 林原耒井 蜩
●黄金色 
木苺の黄金色淡甘きかな 金子皆子「花恋」
黄金色の正午 からんと椰子殻干す 伊丹公子 ドリアンの棘
●黒衣 
ひらかねば孔雀は黒衣枯るる中 金子篤子
ゆく年を黒衣の僧と思いけり 久保純夫 熊野集
ラストシーンめきて黒衣の枯を行く 吉野義子
一月の桜並木は黒衣たり 中山洋子
伴僧は黒衣の幼児法然忌 猪股万起
修二会僧堂くらがりを出て黒衣 早崎 明
冬晴れの禍福いづれぞ黒衣装 飯田龍太
初彌撒へ黒衣白衣の尼出仕 保田白帆子
北海の冷えし海鼠のはらわたを買ひて提げたり黒衣まとひつ 倉地与年子
十三夜駅のベンチに黒衣人 伊藤京子
夏果てのよつてたかつて黒衣かな 内田美紗 魚眼石
憩ふときモデルは黒衣そぞろ寒 小金井絢子
掃き拭きに夏も黒衣の聖處女ら 下村ひろし 西陲集
曼珠沙華吉凶共に黒衣着て 田中政子
枯木燦黒衣少女の顎とがる 仙田洋子 橋のあなたに
枯野来る悪意と黒衣離れずに 久保純夫 熊野集
森たどる黒衣の神父ほととぎす 大島民郎
水汲女夏枯草を黒衣にて 加藤耕子
汗すべる黒衣聖母の歯をうがち 西東三鬼
炎天を黒衣まとひて神の使徒 林 友次郎
熱風の黒衣がつつむ修道女 中島斌雄「火口壁」
秋彼岸黒衣まとふは鴉のみ 坂本満子
秋涛に黒衣サーファー起ちて堕つ 恩知陽子
秋満つ寺蝶の行方に黒衣美女 西東三鬼
秋濤に黒衣サーファー起ちて堕つ 恩知陽子
粉雪が似合ふ黒衣の三姉妹 櫂未知子 貴族
紫雲英田に鴉の黒衣ピカソ逝く 橋本美代子
綿虫の狂ひとぶとき黒衣なる 阿部みどり女
聖黒衣成人式の晴着中 下村ひろし
茫々と月夜の花菜父は黒衣 大井雅人 龍岡村
著ぶくれて黒衣の農婦ロバでゆく 高木晴子 花 季
蛇苺黒衣聖女の指が摘む 秋元不死男
親鴉黒衣ひろげて子と別れ 鳥越すみこ
躬の汗や黒衣聖女に触れまじく 岸風三樓
遠蛙黒衣をひらく夜の欅 大井雅人 龍岡村
釜ケ崎黒衣まぎれこみ雨に 井沢唯夫
鵜の匠鵜と同族の黒衣装 野澤節子 黄 炎
黒衣の鵯が蹴散らす花襖 茂木連葉子
黒衣より掌を出し神父枇杷をもぐ 津田清子 礼 拝
黒衣一枚、凡夫である私が歩いている 住宅顕信 未完成
黒衣僧月界より橇に乗りて来ぬ 飯田蛇笏 山廬集
黒衣欲し木へ鋭角にとまるため 渋谷道
黒衣着てどこか破調の蝉時雨 櫂未知子 貴族
黒衣着てヨハネの墓を拝みけり 下村梅子
黒衣著て孫の後見初芝居 中村吉之丞
●黒色 
黒色の滲み容れたる冬夕焼 岡田三矢子
聖霊はきつと黒色クリスマス 田川飛旅子 『邯鄲』
●黒白 
むささびの飛ぶ黒白の夕景色 長谷川双魚
処刑塔に黒白の鳩朝ぐもり 鍵和田[ゆう]子 浮標
尼の衣の黒白すがし竹の秋 瀧 春一
惜春の妻を黒白にして撮す 吉館曹人
挨ふかし黒白綿かかる神の留守 調試 選集「板東太郎」
捨菊に黒白分ちなほ枯るる 齋藤玄 『狩眼』
揚羽飛ぶ黒白といふけぢめあり 藤田湘子 てんてん
日食や飛雪黒白こもごもに 栗生純夫 科野路
梅雨の森黒白の蛾のもつれたつ 福永耕二
目つむるや黒白さだかに虫の闇 石塚友二 方寸虚実
突風や喪服黒白春うたた 阿波野青畝
雲の黒白袂にあそぶ秋の銭 斎藤玄
風死んで黒白分つ一街路 有馬朗人 母国
黒白の斎藤茂吉雪降れり 和田悟朗
黒白の櫻あらがふ國つ神 仇なせる筑紫・白縫のつくし 筑紫磐井 未定稿Σ
黒白の魂魄ちゞれ蟻の塔 八木三日女 石柱の賦
黒白を以て眼なり涼し 桑原三郎
黒白を問ふ鋭さにつかのまの稲妻われをあらはにいたる 蒔田さくら子
●焦げ茶
●呉須 
さやけしや呉須を溶きたる硯石 井山幸子
呉須淡く嘉兵衛が陶の舟枕 品川鈴子
猫そばに呉須愛で庭の萩をめづ 及川貞 榧の實
砥部の呉須ことに色さゆ石蕗の花 松崎道子
陶枕の呉須の長江下りかな 飴山實 『花浴び』以後
陶枕や呉須の七賢夢に出よ 秋田卯子
●コバルト 
コバルトの 空の下からきた 山笠見の人たち 吉岡禅寺洞
コバルトの湖の覗ける樹氷かな 谷口白葉
コバルトの空の雫や竜の玉 内山眠龍
夏潮のコバルト裂きて快速艇 牛田修嗣(狩)
絵芝居の絵のコバルトの空も秋 久米正雄 返り花
雪虫のコバルトほどの愛が欲し 金箱戈止夫
●濃緑 
あさみどり濃みどり綾に冬菜畑 星野立子
からし菜が濃緑に夜や明けぬらし 前田普羅 新訂普羅句集
七種のどれも濃みどり粥の中 上田芳子
早苗束濃緑植田浅緑 高野素十
窪みあるあたり濃緑青き踏む 上野泰 春潮
緑蔭の濃みどり未生以前の父母 松井利彦
羽子やす~空の濃みどり越えて来る 中島月笠 月笠句集
若菜野の濃みどり若菜のみならず 皆吉爽雨
草餅の湯気も濃みどり女人寺 大見川久代
藍茂り初めし濃みどり薄みどり 上崎暮潮
●濃紫 
*はまなすや豊後水道濃むらさき 横山康夫
いちじくの濃紫から喪があける 植田次男
うすものゝ重り合ひて濃むらさき 青邨
かな女忌の来る鉄線の濃むらさき 殿村菟絲子(馬酔木)
からぐろの黒からず茄子の濃紫 茄子 正岡子規
きちかうや白に後れし濃むらさき 林原耒井 蜩
たかんなの産毛の奥の濃紫 宮津昭彦
ややねびし人の春著の濃紫 松本たかし
アネモネや来世も空は濃むらさき 中嶋秀子
グラスの酒透けりアネモネ濃むらさき 柴田白葉女
ヒヤシンス二列に咲きて濃紫 城戸崎松代
ヘリオトロープ香籠めに千々の濃紫 文挟夫佐恵
一枝の濃紫せる紅葉あり 竹下しづの女 [はやて]
冬すみれ雨の重たき濃紫 清田たか
初空や地に葉牡丹の濃紫 碧雲居句集 大谷碧雲居
別霜夜干のものの濃紫 石橋秀野
古雛とほき山湖の濃むらさき 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
喪に服しゐる間にもはや濃紫花 辻口静夫
夜桜に星無き空の濃紫 成瀬正とし 星月夜
大淀とありてあやめの濃紫 久保田万太郎 草の丈
富士は雲に沈みあやめは濃紫 渡辺水巴
山肌の濃紫なる冬日かな 『定本石橋秀野句文集』
己生えしてゐて紫蘇の濃紫 藤田文子
帰省子に葉がくれ茄子の濃紫 水原秋桜子
手に受けて通草の花粉濃むらさき ふけとしこ 鎌の刃
早春の松に烏や濃紫 星野立子
春の夢濃紫を残しけり 高橋睦郎 金澤百句
春眠や覚むれば夜着の濃紫 松浜
春駒や染分手綱濃紫 籾山梓月
朝顔のぱつと開きし濃紫 星野椿(1930-)
朝顔のまだ咲きつゞく濃紫 桐野 慎吾
朝顔の昔の色の濃むらさき 寺谷なみ女
朝顔の蔓を離れて濃紫 星野 椿
朝顔の裂けてゆゝしや濃紫 石鼎
木々冬芽凍のゆるみに濃紫 前田普羅 飛騨紬
校庭のプール濃紫にて遠し 対馬康子 愛国
桔梗の二夫にまみえて濃紫 阿部宗一郎
河骨の浮葉か寒し濃むらさき 石川桂郎 高蘆
濃紫なる春眠の世界かな 成瀬正とし 星月夜
火の神のゐまさぬ阿蘇は濃紫 久米正雄 返り花
炎天下磨滅鉄蓋濃紫 香西照雄 対話
生きたかり埋火割れば濃むらさき 川口重美
秋燕や荒船山も濃むらさき 伊藤敬子
秋風や子に拾ふ貝濃むらさき 堀口星眠 営巣期
窓の樹や藤たかだかと濃むらさき 飯田蛇笏 春蘭
竜胆の日を失ひし濃紫 山口誓子
管物の盃咲きの濃むらさき 高澤良一 宿好
紫の袷袖口濃紫 高野素十
紫蘇の実も夜明の山も濃紫 木下夕爾
群青抜けば立枯れの幹濃紫 香西照雄 対話
花菖蒲大淀と咲く濃紫 長谷川かな女 雨 月
芳草や黒き烏も濃紫 高浜虚子(1874-1959)
茄子通草九月はものの濃むらさき 稲垣きくの 黄 瀬
草籠に秋暑の花の濃紫 飯田蛇笏 山廬集
菜の花や一葉は寒の濃紫 渡辺水巴 白日
萌えいでよ春は菫の濃むらさき 麦南 (男孫二人の後、今春はじめて女孫誕生、すみれと名づく)
葉牡丹のそらざまの葉の濃紫 下村槐太 光背
蟻出でし穴は日照りて濃紫 中村汀女
鉄線の終の一花も濃紫 松岡ひでたか
雲間より垂れたる藤の濃紫 福田蓼汀 山火
風に咲く楝の花の濃むらさき 星野椿
高原や桔梗ゆゝしき濃紫 高橋淡路女 梶の葉
鰭見せて逃ぐるかぢきは濃紫 拓水
●紺 
*はまなすや親潮といふふかき紺 豊長みのる
あくがれて夏蝶と越ゆ海の紺 金箱戈止夫
あさあけの男体山は紺のいろふかくふくみて目に近くあり 鹿児島寿蔵
あさがほの全き紺に寺をとこ 柴田白葉女 花寂び 以後
あぢさゐにさびしき紺をそそぎゐる直立の雨 そのかぐはしさ 大辻隆弘
あらあらと紺ながれたる捨団扇 川崎展宏
いよゝ濃し種下ろす日の沼の紺 石井とし夫
うすうすと紺のぼりたる師走空 飯田龍太
うすものの胸いたく緊む海の紺 櫛原希伊子
うすものや月夜を紺の雨絣 泉鏡花
うばはれし紺の裏おく歌留多かな 皆吉爽雨
おぼろ夜や紺を長子の色となし 石川雷児
かいつぶりいくど引きこむ空の紺 武川一夫
かせを干す紺屋の柳散りにけり 柳散る 正岡子規
かなかなや夕日のあとの海の紺 中拓夫 愛鷹
かなかなや夕雲の間の紺うごく 中拓夫 愛鷹
かばかりに高くて天の紺うすれ 井沢正江 以後
かもめどり截れば截らるる空の紺 楠本憲吉
きりぎりす鳴くたび緊まる海の紺 福谷俊子
けものみち猟夫の刺し子紺匂ふ 鈴木竜骨
この涼を色にたとへてみれば紺 星野立子
さくら咲きみちのくの空せつに紺 岡部玄治
さくら蘂降る制服の紺の肩 高澤良一 ねずみのこまくら
しかと着て身に沁む紺の絣かな 長谷川かな女 雨 月
その中の紺を選びし九月かな 木村三男
そもそものはじめは紺の絣かな 安東次男(1919-)
たましひは紺にてあらむ雪螢 三嶋隆英
たんぽぽや崖にくひ入る海の紺 太田 鴻村
ちぬ釣りの底は数十枚の紺 鳥居おさむ
つきぬけて天上の紺曼珠沙華 山口誓子(1901-94)
つばくらや海は季節の紺まさり 佐野まもる 海郷
はしたなく水薬にぬれし紺足袋よ 青愁 佐竹草迷宮
ひげ深く天の紺秘め龍の玉 河野静雲
ひとつ盗る秋なすの紺極まれば 角川春樹 夢殿
ひとへもの紺なか~に匂ふかな 野村喜舟 小石川
ふところに紺の香高し秋袷 前田普羅
ふと紺足袋そして一僧行つて谷 阿部完市 春日朝歌
ふるさとにただ親しきは茄子の紺 小寺正三
ふるさとに朝顔の紺海の紺 有働亨 汐路
ふるさとのひと雨ありし茄子の紺 伊藤京子
ふるさとの野菊の紺に溺れをり 秋山素子
ぼろ市や塀に拡げし紺絣 渡辺育子
まぶしさの鶴おちてくる北は紺 宇多喜代子
みちのくの菱の実採りの紺づくめ 松崎鉄之介
もぎたての茄子の紺や籠に満てり 星野立子
やすやすと亡母の齢くる野紺菊 つじ加代子
よく上げてゐる鮎釣りの紺づくめ 綾部仁喜 樸簡
よく焼けしたうもろこしや海の紺 きくちつねこ
よこはまに近づく紺の冬帽子 長谷川双魚 『ひとつとや』
りんだうのひらかぬ紺を供ふなり 柴田白葉女 花寂び 以後
わだつみの紺をまぢかに秋すだれ 若井新一
をだまきの紺の深さの父子の情 末増省吾
アスファルト隆まりて紺桐の花 香西照雄 対話
オホーツクの秋潮の紺銀狐の目 加藤楸邨
カンナの風農夫の影の紺となる 桜井博道 海上
タオルの紺泳ぎし体固く閉づ 中嶋秀子
プールの紺十月の寮ひつそりと 蒲田陵塢
メーデーヘ同紺の服同車の揺れ 榎本冬一郎
レグホン次々冬沼の紺見ゆる枝へ 香西照雄 対話
一の酉夜空は紺のはなやぎて 渡邊千枝子
一掬の風とよぎりし紺揚羽 伊藤柏翠
一氷湖空の紺さへ許さざり 古内一吐
一渓の紺を絞りぬ寒の川 稲垣陶石
一途なる上げ潮の紺鳥雲に 峯岸壽雄
万作やゆるびそめたる海の紺 行方克巳
万緑の一紺として四葩冴ゆ 石塚友二
三寒の四温紺屋の藍がたつ 青山久女
下り鮎山稜紺を裁ちにけり 大嶽青児
乾しものは紺の法衣や豆の花 高浜虚子「句日記」
二合より炊かぬ小釜や茄子の紺 蓬田紀枝子
亡き母の父の忌いつも紺のセル 田中英子
亡き母へ友も摘みをり野紺菊 古賀まり子
仰ぎ得し巴里の秋の空の紺 河野静雲
伊豆の海紺さすときに桃の花 澤木欣一
伏流に堪へず雪割る紺真水 平井さち子 紅き栞
光なき遠嶺の紺や十二月 大岳水一路
光太郎忌わが紺絣着古りたり 富岡掬池路
入れし刃をしめつけてをり茄子の紺 中村正幸
入社式紺一色に犇めけり 相馬沙緻
八朔の人の出入の紺のれん 安田源二郎
六甲の冷宿す紺竜の玉 山田弘子 懐
再会の紺を絞りぬ西出口 攝津幸彦
冬に入る山国の紺女学生 森澄雄
冬の日や茶色の裏は紺の山 夏目漱石
冬の蝿紺美しくあはれかな 野村喜舟
冬の雁紺の法被を落しけり 磯貝碧蹄館
冬帽子勃海の紺抜けて来し 井上 康明
冬待つや白善くいでし紺絣 野村喜舟 小石川
冬日消えとほき島山に紺還る 篠原梵 雨
冬服の紺まぎれなし彼も教師 星野麦丘人
冬服の紺ネクタイの臙脂かな 久保田万太郎 流寓抄
冬木立透きて深まる海の紺 小松世史子
冬来れば母の手織りの紺深し 細見綾子
冬浜を一川の紺裁ち裂ける 中村草田男(1901-83)
冬海の紺のひそかに忌を修す 原裕 青垣
冬海の紺を見つめて墓白皙 細見綾子 花寂び
冬滝の真上かの世の天の紺 井口☆子
冬田ゆく汽車や紺いろのわが座席 桂樟蹊子
冬蝶を翔たす庭師の紺の足袋 石川文子
凌霄花に紺の水着の群つどふ 大屋達冶
凧の子や仕立おろしの紺絣 高橋淡路女 梶の葉
凧高くいよいよ涸るる多摩の紺 中島斌男
凩の吹ききはまりし海の紺 深見けん二
刃を研ぐは人おもうこと野紺菊 渋谷道
切株が坐れと二つ野紺菊 太田土男
刈田ゆく袖を四角に紺絣 桂信子 遠い橋
初商の法被の紺が匂ふなり 古山千代子
初大師なり紺足袋の男など 神尾久美子 桐の木以後
初春や紺衣匂はす小袖海女 千葉艸坪子
初蝶に明けしばかりの海の紺 神尾久美子 掌
初雲雀海坂の紺胸高に 千代田葛彦 旅人木
初鵙に峡空の紺深まりぬ 藤嶋紫峰
北上川さむざむと遠く紺たたふ 川島彷徨子 榛の木
十月の紺たつぷりと画布の上 福永耕二
千代尼忌の朝顔紺の露ためて 泊 康夫
千屈菜のすこし藍染む紺屋裏 一丸文子
千曲川雪入れて紺発色す 矢島昭子
午後からは春日さんさん海の紺 星野立子
半天の紺半天のいわし雲 遷子
厚司展あり大綿の紺ごのみ 中戸川朝人 星辰
友の忌の黴ほのかなる紺絣 古沢太穂 古沢太穂句集
右往左往の紺事務服や桜草 鈴木鷹夫 渚通り
合歓の花沖には紺の潮流る 沢木欣一
吹き晴れし大つごもりの空の紺 星野立子
吹雪晴れ碧紺すゝむ雲の照り 金尾梅の門 古志の歌
咲きみちて梅林の空紺深し 植田廣子
咲き残る朝顔の紺衰へず 白井良治
咲く前の姿幼し野紺菊 古賀まり子
喇嘛僧の子の春服の紺匂ふ 西村公鳳
噴きあげる一本の紺茄子の苗 有馬朗人 知命
四十雀のつむりの紺や深山晴 加藤青圃
団扇太鼓紺の腹掛けして摶てる 高澤良一 随笑
土うすき岩の対島の野紺菊 林 翔
土用干し紺糸威は美男の具 伊藤敬子
土用鰻うの字大きく紺暖簾 蕪木啓子
地下足袋の紺の匂ひて麦を刈る 門岩明子
地下足袋の紺の匂へる七日かな 北見さとる
地下足袋の紺来て朝顔市開く 島崎省三
基地ヘオネスト・ジョン朝顔の紺に走る縞 橋本夢道
堪ふることばかり朝顔日々に紺 橋本多佳子
墓原に咲く曼珠沙華誰が「死後の恋」突き抜けて天上は紺 小川太郎
声のぼる桃の節句の空の紺 堀 古蝶
夏の海遠きは紺の平らけく 上村占魚 鮎
夏山の紺ひりひりと萱の中 飯田龍太
夏果つるこころよ紺の絞り着て 稲垣きくの 牡 丹
夏海の紺の中なる能登の尖 家田小刀子
夏痩せて帯締まりよき紺献上 野澤節子 『駿河蘭』
夏痩の内儀覗くや紺暖簾 高浜虚子
夏蝶も紺紙金泥の経ならむ 水原秋櫻子
夕ながし紺引締めてすみれ草 岸田稚魚 筍流し
夕潮の紺や紫紺や夏果てぬ 藤田湘子「途上」
夕焼の海せりあがる茄子の紺 阪本謙二
夕空の紺よみがへる沙羅の花 大槻紀奴夫
夕空の紺より藍へ蕎麦の花 石嶌岳
夕空は雪降りつくし漂ふ紺 中西舗土
夜の町は紺しぼりつつ牡丹雪 桂信子(1914-)
大いなる火の島の紺春隣 大岳水一路
大原女の紺が匂ふよ初時雨 富岡犀川
大原女の紺の衣干されみそさざい 田中英子
大原女の紺着のにほふ端午かな 石原舟月
天は紺 藁を掴んでわめくかな 富澤赤黄男
女生徒の紺われのみが淡く冷ゆ 徳弘純 非望
妻の寝嵩に朝顔紺を明るうす 柴田白葉女 花寂び 以後
実朝の海秋晴れの紺流す 小室善弘
家をいでゝ今宵も明治の紺かすりを着てあるく夏の夜 安斎櫻[カイ]子
寒の川近づけば透き去れば紺 南 俊郎
寒泳のまだ濡らさざる紺水着 長田等
寒潮や小茜雲は早も紺 香西照雄 対話
寒肥やつくばの紺のことのほか 神郡 貢
少女期の紺一色の水着干す 三雲檜里子
少年の紺の絣の春着かな 岩倉憲吾
少年の紺の闇ゆくほたるいか 松本照子
少年の風邪の三日を紺絣 蓬田紀枝子
屋上や酷暑はげゆく空の紺 阿部みどり女
屑買ひは青空仕事紺ジャケツ 香西照雄 対話
山にはさくら海女をしずめて海の紺 栗林一石路
山のいろ山より湧きぬ野紺菊 手塚美佐
山の子の制服の紺冬苺 黒川礼子
山妻の着る紺絣露の秋 山口青邨
山山は紺に日暮れて雛まつり 福田甲子雄
山翡翠の飛び立ち残る淵の紺 板谷芳浄
山路やうつぎの隙の海の紺 阿部みどり女 笹鳴
山里の蕣藍も紺もなし 正岡子規
岩へ滴るゝ巖の紺や月の潮 渡辺水巴 白日
岩燕擦りては鞣湖の紺 殿村莵絲子 花寂び 以後
岬が分つ紺と金との春の海 原子公平
峠小屋きのふで閉ぢし野紺菊 星野恒彦
島山は紺あたらしや百千鳥 綾部仁喜 寒木
崖登りつめ朝顔の紺ひらく 山口草堂
布を積んで春を隣りの紺屋かな 阿部みどり女
帷子の洗ひ洗ひし紺の色 松本たかし「鷹」
帷子の紺あでやかに初嵐 野村喜舟 小石川
幟一尾大小干して紺ズボン 香西照雄 対話
干し衣は紺の五月晴のよく乾き 高濱虚子
干し衣は紺の単衣のよく乾き 高浜虚子
平家納経紺地黄落ふりかゝる 細見綾子
幼な木より蝉とんでいま海の紺 桜井博道 海上
広重忌紺の暖簾に日照雨降る 戸川稲村
彼岸花傷つきやすき空の紺 菖蒲あや あ や
律僧の紺足袋穿つ掃除かな 足袋 正岡子規
性格が紺の浴衣に納まらぬ 櫂未知子 貴族
恋はものゝ男甚平女紺しぼり 高浜虚子
愛の羽根はじまる服も帽も紺 和田暖泡
慈悲心鳥紺紙金泥一切経 三谷道子
戀はものの男甚平女紺しぼり 高濱虚子
手を放さば紺に喰入る凧をあぐ 細谷源二 砂金帯
手折らるることなくすがれ野紺菊 石塚雅子
手甲の紺に浮きたる日照雨 萩原麦草 麦嵐
手計りの塩の機嫌や茄子の紺 廣嶋美恵子
控えめの女が好きです野紺菊 清水うた子
数へ日のいよよ澄みけり海の紺 伊丹さち子
数へ日の紺の山より大鴉 廣瀬直人
敷網の内外の紺も鰤の海 皆吉爽雨
文月の北浦紺を流しそむ 大竹孤悠
斑猫や空ある限り紺尽きず 田中妙子(あざみ)
斑雪空へつながる海の紺 加藤憲曠
新らしき紺のズボンで秋風分けて 細谷源二
新海苔や薄口醤油皿の紺 阿片瓢郎
新海苔や誰が袖が浦紺ちゝぶ 古白遺稿 藤野古白
新涼や張板ならぶどれも紺 波多野爽波 鋪道の花
新漬の頃合しぼる茄子の紺 きくの
日あたりや紺屋のうらの杜若 許六 四 月 月別句集「韻塞」
日の本の此処や東雲草の紺 池田澄子 たましいの話
日曜の紺まだらなる朝涼し 原裕 青垣
日脚伸ぶ夕空紺をとりもどし 皆吉爽雨
日輪を追ふ繊月や空の紺 正木ゆう子 静かな水
早稲の香や紺深みゆく日本海 千手 和子
早苗饗の夜気ゆるやかに紺を張る 奥村 愛
早苗饗の紺にうるほふ夜空かな 有泉七種(白露)
星の金・樹の紺てのひらに呼ぼう 鎌倉佐弓 天窓から
春さむし髪に結ひたるリボンの紺 鈴木しづ子
春の雨紺屋機屋が斜向ひ 阿部静雄
春みぞれ刺子の紺の匂ひたつ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
春待つや一幹の影紺を引き 井沢正江
春潮の紺深まりて日向灘 中野はつえ
春潮の紺緊りゆく岬の日 柴田白葉女 牡 丹
春雨に陶榻の紺深めたり 阿部みどり女 月下美人
春雪のあとしんしんと海の紺 佐野まもる 海郷
暁の紺朝顔や星一つ 高浜虚子
暖簾の紺濃やかや柱餅 広江八重桜
暗きまで紺引き締めて龍の玉 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
更衣紺を好みし齢過ぐ 馬場移公子
曼珠沙華一水の紺飛びちれり 石嶌岳
朝涼や紺の井桁の伊予絣 清水基吉
朝顔が紺折りたたむひらく前 橋本多佳子
朝顔のきのふの紺を咲きつげる 岸風三樓
朝顔の二輪重なり紺深し 福田蓼汀 山火
朝顔の名残の紺の深かりし 江頭信子
朝顔の富みたる紺を乏しとも 細谷源二 砂金帯
朝顔の生粋の紺母の紺 村中登子
朝顔の白さよ紺は咲かざりし 渡邊水巴 富士
朝顔の的*れきと紺ばかりかな 石塚友二 光塵
朝顔の紺いさぎよし喜雨亭忌 水原春郎
朝顔の紺に傾きゐたりけり 五十崎朗
朝顔の紺に執して帯の紺 稲垣きくの 黄 瀬
朝顔の紺に山風疾走す 萩原麦草 麦嵐
朝顔の紺のかなたの月日かな 石田波郷(1913-69)
朝顔の紺のしじまや飛騨格子 渡辺恭子
朝顔の紺の向ふの遠伊吹 近藤一鴻
朝顔の紺の寂しさ子が言へり 関戸靖子
朝顔の紺の小さき暮らしかな 岡本猿人
朝顔の紺の彼方の月日かな 石田波郷
朝顔の紺の彼方の波郷かな 鈴木鷹夫 春の門
朝顔の紺ひらき子も覚めにけり 杉山岳陽 晩婚
朝顔の紺や律義に咲きつづき 水原 春郎
朝顔の露経し紺や貧久し 小林康治 『華髪』
朝顔は紺水甕に朝日満つ 内藤吐天 鳴海抄
朝顔や紺の薄足袋きしみ穿く 松村蒼石 春霰
朝顔小さく杉の梢の紺一輪 島村元句集
枕頭に波と紺足袋漁夫眠る 鈴木六林男 第三突堤
林檎紅し千曲忘れ江紺を張り 西本一都
柳ちる紺屋(こうや)の門の小川かな 夏目漱石 明治二十八年
根づきたる茄子苗に紺のび上り 上村占魚
桐の花むかし紺屋の中の庭 平手むつ子
桑黄落林檎紅潮千曲紺 西本一都 景色
桜前線過ぎてぞ深む海の紺 小金井絢子
梅咲いて紺の野良着がよく似合ふ 石川文子
梨咲いて紺いろの夜ひたひたと 井上雪
棒状に燕来る日の海の紺 千田一路
楓萌えわが服の紺寂びにけり 藤田湘子
樫の扉に暖流の紺毛糸編む 中戸川朝人 残心
次女に生れて朝顔の紺が好き 渡辺恭子
母の白父の紺あさがほひらく 久保山敦子
母訪ふや師走の空の紺一色 星野麦丘人
水やつて朝顔の紺ふやしけり 山本柳翠
水打つて紺まさりける年の空 大石悦子 聞香
水温む紺屋に届く布百反 小林千穂子
水音の方へ傾ぎて野紺菊 ふけとしこ 鎌の刃
水音の紺屋に遠く山眠る 渡辺みどり
永き日の絵硝子の紺そして赤 日原傳
汗し集いて母らは白と紺満たす 赤城さかえ句集
河童忌や表紙の紺も手ずれけり 小島政二郎
油蝉紺屋の屋根へ鳴きにゆく 原田喬
法被の紺匂ふ墓守御命講 中川はぎの
波照間の秋潮の紺眼にしみる 上村占魚
泳ぎ子に紺島山のよこたはる 加藤三七子
流氷の動きて紺を引き直す 能登裕峰
流燈の浮みし紺の夜空かな 細川加賀 生身魂
浅草や初仕入なる紺包み 荒井正隆
浴衣の紺刷く白粉の淡ければ 石塚友二 方寸虚実
浴衣裁つ紺が匂ひて夜深まる 矢島寿子
海で紺なり紫雲英の上の疾風は 八木原祐計
海といふ秋一色の紺を航く(フェリーまりも客中) 上村占魚 『かのえさる』
海の紺いつまでも紺多佳子の忌 塩川雄三
海の紺くろきがまでに夏ふかむ 佐野まもる 海郷
海の紺ゆるび来たりし仏桑花 清崎敏郎
海の紺巌より咲きし桔梗の紺 佐野まもる 海郷
海の紺木々芽ぶかぬが不思議なほどに 川島彷徨子 榛の木
海の紺木守柿より高きかな 杉村凡栽
海の紺梯梧は花の火焔立(沖縄本島) 上村占魚 『自門』
海の紺白く剥ぎつつ土用波 瀧春一「瀧春一全句集」
海の紺透りて白き蚊帳に覚む 佐野まもる 海郷
海の風神輿の列の紺煽る 毛塚静枝
海原の紺の椿の色消すまで 杉本寛
海女にして野良着の紺や小六月 大串章
海峡は紺を尽くせり鷹渡る つじ加代子
海水浴この朝潮の紺に染まむ 大谷碧雲居
海苔干すや路地ごとにおく海の紺 寺島ただし
海見れば紺きはみなし蝶の昼 佐野まもる 海郷
海軍の紺を選びて毛糸編む 鈴木栄子
海風に紺をもらひて秋茄子 桑島啓司
涅槃図の暮れゆく紺に誘われる 稲葉 直
深川や紺屋干場の冬至雲 宮坂静生 春の鹿
湖は雨の暗さよ野紺菊 八木林之介 青霞集
湯ざめしてより美しき海の紺 今井杏太郎
滝落ちし白さをかこみよどむ紺 篠原梵 雨
漬茄子の水はじきたる今朝の紺 鈴木慶子
漬茄子の紺さえざえと赤坂昏れ 楠本憲吉
漬茄子紺きつぱりと朝の卓 松本有美子
潮の紺鰤場つらぬきやまぬなり 皆吉爽雨 泉声
瀧落ちし白さをかこみよどむ紺 篠原梵
火口湖の紺深くして笹子かな 福島壺春
点々と耕人の紺うすがすみ 川崎展宏
熔岩踏みしあかぎれ疼く海の紺 殿村莵絲子 牡 丹
燕去ぬあまりに遠き海の紺 佐野まもる 海郷
爪しごく紺糸強し夏痩せじと 榎本冬一郎 眼光
父となる日朝顔の紺萎ゆるとも 杉山岳陽 晩婚
父の忌は紺母の忌は緋の朝顔よ 松尾隆信
父想ふたびに厚司の紺匂ふ 山内山彦
玄界の紺ゆるぎなき鵙日和 木原不二夫
玉虫に紺紙金泥の経を思ふ 高浜虚子「虚子全集]
珈琲濃しあさがほの紺けふ多く 橋本多佳子
瑠璃紺の身をさかしまに鯉の空 久保純夫 聖樹
甘藷畑の崖下に紺日本海 茨木和生 遠つ川
生身魂妙高紺を全うす 大峯あきら 鳥道
田の子らに半天の紺つめたかり 桜井博道 海上
田植え進む同紺の尻朝日に向け 山口 伸
田植進む同紺の尻朝日に向け 山口伸
画展出て紺の印象午後の雪 神尾久美子 掌
畦塗の夕空の紺塗りこめし 今井杏太郎
畦塗らむ紺股引にふぐり緊め 大熊輝一 土の香
登高やみな紺の羽に谷鴉 皆吉爽雨
白梅や紺地金泥一切経 長谷川櫂 天球
白足袋にいと薄き紺のゆかりかな 河東碧梧桐
白鳥の白まぎれなしダムの紺 石川文子
白鳥の羽根てのひらに海の紺 金箱戈止夫
百仏に一怨の翳野紺菊 金子青銅
盆過の紺紙曹洞日課経 斎藤夏風
盆過の紺紙金泥日課経 斉藤夏風
直ぐ消えし富士の初雪空の紺 森田游水
眉目よしといふにあらねど紺浴衣 高濱虚子
真夏日の茄子紺 亡母の好きな色 中田敏樹「デ・キリコの箱」
眠る山紺紙槿みたるごとくなる 阿波野青畝
眼に古典 紺々とふる牡丹雪 富沢赤黄男
眼を病めば片眼淋しく手紺書き居る 尾崎放哉
瞳に古典紺々とふる牡丹雪 富澤赤黄男(1902-62)
瞳を澄ますほどの風あり野紺菊 きくちつねこ
短日や重なり伏せる山の紺 角川春樹
石あれば仏と思ふ野紺菊 吉田健二
石蕗咲いていよいよ海の紺たしか 鈴木真砂女
磯鵯の天上天下紺ばかり 林翔
神護寺の紺地経紙漉きにけり 平井 梢
秋の田やむかし似合ひし紺絣 高柳重信
秋の航一大紺円盤の中 中村草田男(1901-83)
秋の蝶利島へ紺の海十里 和泉 好
秋天の紺きつぱりと子の嫁ぐ 鹿喰悦子
秋天へ紺を投げたる山上湖 伊代次
秋彼岸麓の馬の紺に見ゆ 友岡子郷
秋愁や白雲むらがり海の紺 阿部みどり女 月下美人
秋曇男の裏地いつも紺 香西照雄 素心
秋潮の紺より生れて月のぼる 神尾久美子 掌
秋潮の紺消す雲の蟠り 阿部みどり女
秋潮の紺漲れる力かな 波多野爽波 鋪道の花
秋濤の紺へ葬りの船すがる 角川源義
秋茄子にこみあげる紺ありにけり 鈴木鷹夫 千年
秋蔭のほとんど黒に近い紺 藤本草四郎
秋風にあらざるはなし天の紺 高橋馬相 秋山越
種茄子のやうやく紺を失しけり 渡辺何鳴
稲扱にかぶせしおほひ紺がすり 星野立子
稲穂村はたらく紺をみなまとふ 渡辺千代子
稽古着の紺が匂ひて雪晴れぬ 古賀まり子 緑の野
穀雨くる紺のスカートはいてくる 角田睦美
穴出づる蟻春光に紺ならずや 香西照雄 対話
空の紺 ふかく 原爆のあの日ちかづく 吉岡禅寺洞
空席があり冬山の紺の襞 友岡子郷 日の径
立冬や紺の上衣に紺の闇 飯田龍太
立秋の紺落ち付くや伊予絣 漱石
紀の川の紺濃き二百十日かな 大屋達治
紀の海の紺極まりて薊咲く 高橋好温
紅葉にあたらしき紺空にあり 伊藤敬子
紅葉薄き天城を越えて紺の海 林原耒井 蜩
紙を漉く冬百日の紺絣 山田春生
紙漉の里なれば濃し川の紺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
細格子朽ちて朝顔紺深し 林翔 和紙
紺いろのからだつかれて過ぎて浪華 阿部完市 にもつは絵馬
紺かきが竹虎がくれや花林檎 高井几董
紺かきの藍の香ひも暑さ哉 四明句集 中川四明
紺さびし秋の燕と見たるより 三輪青舟
紺つよき大洋に倚り年送る 原裕 葦牙
紺と白わが好む色夏来たる 稲畑汀子
紺に溺れていくたびも鳴く秋の鴨 細谷源二
紺のすみれは死者の手姉さんだめよ 西川徹郎 死亡の塔
紺のれん(質)といふ字もおぼろかな 吉屋信子
紺の厚司で魚売る水産高校生 能村登四郎 合掌部落
紺の夜を朱の月いでぬ昆沙姑巌 渡辺水巴 白日
紺の旗かざして骨折した九月 竹中宏 句集未収録
紺の汗手へ流れけり駕の者 一茶
紺の濤くづれて夾竹桃のうへ 大屋達治 龍宮
紺の荷の毒消売を西日追ふ 大野林火
紺の香きつく着て冬空の下働く 尾崎放哉
紺ひたに刈田の果ての有磯海 大屋達治
紺ふかき装束翁や初蹴鞠 桂樟蹊子
紺を紺とし翔ぶ白鳥の未明音 栗林千津
紺一身より出でてむらさき茄子の花 きくちつねこ「一人舞」
紺克明に鶯の谷渡り 大坪重治
紺切濃く底に沈める泉かな 西山泊雲 泊雲句集
紺天のすつぽり沈む水馬 田中水桜(さいかち)
紺天を一刀断ちに刺羽飛ぶ 石井いさお
紺屋いまも用心籠とつづれさせ 加古宗也
紺暗く夜空は簾ふちどりぬ 石田波郷
紺服の芯の細頸新入生 林翔 和紙
紺朝顔直哉旧居はまださめず 加藤三七子
紺毛糸編み山行の計煮つまる 都筑智子
紺法被匂はせ仕事始かな 南るり女
紺着流す風樹相摶つ七月の 桂信子 花寂び 以後
紺糸こく蜩近鳴き遠応へ 野澤節子 牡 丹
紺紙なる金泥の蘭秋扇 高浜虚子
紺紙金銀泥経残花冷 黒田杏子 花下草上
紺絣冬の初めの音立てぬ 原田喬
紺絣春月重く出でしかな 飯田龍太(1920-)
紺絣野を焼きし香の沁みゐなり 戸川稲村
紺脚絆岩を飛びけり山女魚釣 柿原けん一(雪解)
紺菊の闇のしぶきのおぼえかな 斎藤玄 雁道
紺菊も色呼出す九日かな 桃隣
紺足袋の女も冬の初めかな 大谷句佛 我は我
紺足袋の底の真白し初仕事 武田克美
紺足袋の強げに見ゆる女かな 会津八一
紺足袋の紺に好みのありしこと 後藤夜半 底紅
経蔵や黴臭し紺紙金泥一切経 橋本夢道 無類の妻
結局は喪中も紺の冬衣 斉藤夏風
絵行器や定紋匂ふ紺暖簾` 中村素山
綿虫やひと日身につく紺絣 藤田湘子 雲の流域
緑蔭を出て仕事着の紺しるし 香西照雄 対話
羅の紺にほやかや太り肉 野村喜舟
羅やたたみて紺の濃かりける 大室 達恵
翔ちてまた返す千鳥に海の紺 橋本佐智
耕して百年前の空の紺 坪内稔典
背骨の型に褪せ草取の紺絣 加藤知世子
腹当の紺のゆゆしき菊師かな 野見山朱鳥
腹掛の紺の匂や心太 露月句集 石井露月
自立せる山々の紺こぶし咲き 桜井博道 海上
興るとき紺天冒す一雷雲 野澤節子 黄 瀬
良夜かな盥に紺の衣漬けて 塚本邦雄(1922-)
色褪せてむしろ魅かるる野紺菊 米尾 芳子
芦刈の眼を見せてゐし空の紺 斎藤玄
花びらが絣の紺の肩につく 中嶋秀子
花みかん山に喰ひ込む海の紺 関森勝夫
花冷えや老いても着たき紺絣 能村登四郎(1911-2002)
花冷の羽織りて父の紺絣 鈴木しげを
花吹雪紺より青き九十九湾 浅賀渡洋
花楓紺紙金泥経くらきかも 水原秋櫻子
花衣紺を己の色として 鈴木真砂女
花野過ぎて紺屋の前に出でに鳧 内田百間
若人にたのしき暑さ海の紺 河合嵯峨
若水や紺ほのかなる鞍馬苔 下村ひろし 西陲集
茄子の紺ふかく潮騒遠ざかる 木下夕爾
茄子の紺緊り野良着の中学生 飴山實 『おりいぶ』
茄子の紺転がして刃の入れどころ 植松てる
茄子の苗一天の紺うばひ立つ 有馬朗人 知命
茄子畑に紺の戻りし祭来る 青木重行
茄子紺に恵那山昏るる涼しさよ 西本一都
茄子紺の会津の空や雁渡る 今泉貞鳳
茄子紺の空と暮れける我鬼忌かな 鈴木しげを
茄子苗や茄子紺といふ茎の色 瀧春一
茸狩るといでたつ妻の紺がすり 軽部烏帽子 [しどみ]の花
草いきれ脚絆の紺を頼みかな 野村喜舟 小石川
草に寝て秋空の紺眼に溶かす 道部臥牛
草の絮つく機関士の紺の服 茨木和生 木の國
草刈るや萩に沈める紺法被 杉田久女
草刈女行き過ぎしかば紺匂ふ 軽部烏頭子
草市の小山内薫紺飛白 久米正雄 返り花
草木瓜の花山国の紺を極め 飯田龍郎
草矢打ち込みすべなし空は無定の紺 川口重美
草餅の重の風呂敷紺木綿 高浜虚子
菊枯れていよよ緊まれる海の紺 松本三千夫
菜の花や旅路に古りし紺絣 沢木欣一 雪白
萩咲いて雨の蛇の目の紺へ降る 池内友次郎 結婚まで
落花すぐ紺の上衣の青年に 杉本寛
葉の紺に染りて薄し茄子の花 高濱虚子
葉月潮海は千筋の紺に澄み 草田男
葡萄摘むと嵌めたる籠手の紺飛白 正雄
蓮の実のとぶを待ちをる空の紺 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
蓮見船浮かべてみたし空は紺 星野椿
蕣の世にさえ紺の浅黄のと 横井也有 蘿葉集
蕪はこぶ女盛りの紺絣 つじ加代子
薔薇園に小鳥来る日の海の紺 原田青児
藍刈るや誰が行末の紺しぼり 藍刈る 正岡子規
藍華を咲かせ紺屋に幟立つ 三輪陽子
藤の宮紺幕張りて氏子寄 河野静雲 閻魔
藤咲きて海も日毎に紺まさる 山口波津女 良人
藤咲くや妻なき人の紺絣 柴田白葉女 遠い橋
蘆刈の眼を見せてゐし空の紺 斎藤玄 雁道
蘆刈や誰が行末の紺しぼり 芦刈 正岡子規
蚊を打つて甲斐は龍太の紺の闇 中尾有為子(天為)
蚊絣の紺のにほへる釣荵 石川桂郎
蛙鳴く洗いざらいの紺木綿 穴井太 原郷樹林
蝉わづか眠りて紺の夜明けたり 殿村莵絲子 雨 月
行年の暖簾そむる紺屋哉 行く年 正岡子規
街中を紺の矢車草一束 原田喬「長流」
袋小路に霰愛犬紺太の屍 塚本邦雄 甘露
見とほしに夏海紺をふかめたり 柴田白葉女 遠い橋
親潮の紺の上なる雲の峰 大峯あきら 宇宙塵
角帯は紺の献上明の春 今泉貞鳳
谷杉の紺折り畳む霞かな 原石鼎
貝雛の貝金を刷き紺を引き 舘野翔鶴
買初は日暮れの町の紺の足袋 鈴木鷹夫 千年
赤富士も見せたし紺の夕富士も 深川正一郎
越後屋ののれんの紺の燕かな 野村喜舟 小石川
足袋の紺匂ふを知りつ階上る 久米正雄 返り花
足長き紺や文珠の田植人 殿村莵絲子 牡 丹
踊浴衣は白波模様裾は紺 香西照雄 素心
身に合わせて冬服の紺旅に出る 本多草明
身を包む紺の深さも帰燕以後 岡本眸
軒つばめお紺の枕灯し見る 宮武寒々 朱卓
輪飾や月さして夜の紺にあり 高野途上
農衣干す雫も紺の鵙日和 大岳水一路
遠つ世の紺を裾まで初筑波 中山一路
遺品そのまま紺朝顔の殖ゆるまま 福田蓼汀 秋風挽歌
郷はるかに紺絣着て母の冬 神尾久美子 掌
野紺菊ついばみ染まる鳥の嘴 杉本 幸
野紺菊や人は仏に癒されて 佐柳妙子
野紺菊一日家を忘れゐる 北澤瑞史
野紺菊下見二度目の新居にも 都筑智子
野紺菊始祖にまみゆる信濃かな 関口 勉
野紺菊嫁菜の花も畦日和 鈴木しげを
野紺菊川は馬入と名をかへて 北澤瑞史
野紺菊志功耕衣の丸眼鏡 依光陽子
野紺菊日々つつましくつまらなく 津田ひびき
野紺菊日ざし逃さぬ髪束ね 花谷和子
野紺菊狐に枕縫うてやろ 大石悦子
野紺菊眦色を崩しけり 河野多希女
野紺菊飛ぶ雁をくらうせり 齋藤玄 『雁道』
野紺菊骨となりゆく烟濃し 高橋有
野菊野に出し三日月の少し紺 数馬あさじ
金の雪紺の雪春遠からじ 齋藤愼爾
鉄線花竹刀打込む紺少年 中村草田男(萬緑)
鏡餅しばらく紺の潮目あり 友岡子郷 未草
長子得し胸に冬黒潮の紺 大岳水一路
除夜守る火紺地金泥なせりけり 加倉井秋を
陸稲刈るにも赤き帯紺がすり 西東三鬼
雁渡る山脈は紺を引き締めて 磯田とし子
雉子翔ちてひとすぢの紺亡びけり 宮坂静生 山開
雑巾堅く絞る朝顔紺と白 鈴木鷹夫 渚通り
離れ住む子の夢をみて茄子の紺 廣瀬町子
雨あとの紺屋と話す目白のこと 飯島晴子
雪晴の洗つて緊まる紺セーター 中拓夫 愛鷹
雪片の裏返り紺ばかり降る 殿村菟絲子 『牡丹』
雷雲や轟々変る海の紺 加藤知世子 花寂び
霧をゆき父子同紺の登山帽 能村登四郎「合掌部落」
霧をゆく父子同紺の登山帽 能村登四郎
露天風呂首の高さに野紺菊 毛塚静枝
露深く紺屋のお方咲きにけり(紺屋のお方とは露草の方言なり) 金尾梅の門 古志の歌
露草に古き紺なし鶏二の忌 大岳水一路
露草の紺に覚めたる髪膚かな 永方裕子
露草の紺のむらがる小暗さよ 亀井糸游
露草は紺のなみだを一つづつ 藤田美代子
露路の奥紺屋一軒秋の暮 近藤一鴻
靄に透く紺の山なみ四月かな 三森鉄治
青き踏む一町先に海の紺 片山由美子 水精
青葉潮深く紺なし時彦逝く 皆川盤水
青葡萄しだるる隙に湖の紺 佐野美智
頓に冬教師の服の紺寂びて 石田波郷
風に罅あり紺布張りの魯迅の書 穴井太 穴井太集
風呂敷の紺を匂はす冬木立 桂信子
風花に紺のまひとぶ染場かな 石橋秀野
飛魚とぶや日本海の紺を抜け 大橋敦子 匂 玉
飛魚とんで玄海の紺したたらす 片山由美子「天弓」
餅の杵海潮の紺流れつぐ 友岡子郷 遠方
餅搗きに山川の紺ゆく力 大峯あきら
餅搗のあと天上の紺に溶け 飯田龍太
髭剃りて内衣の紺の匂かな 会津八一
魂が呼ぶ海軍紺(ネービーブルー)の盆の凪 平井さち子 紅き栞
鮎釣の紺に統べをり千曲川 宮坂静生 春の鹿
鯖の背に沖の紺あり流紋あり 香西照雄 対話
鯛網や刺子の沖着紺ばかり 井上土筆
鰹釣る灘の紺より引き抜いて 稲松錦江
鱚の海紺が紫紺にかはりけり 大橋櫻坡子 雨月
鳥追の手甲の紺の饐えにけり 八田木枯
鴎目をつぶらにとまつて居る春晝の紺の海の頂點 安斎櫻[カイ]子
鵙啼けり天上は紺ひらきつつ 武宮 至
鵜の下りる寒潮紺を張るところ 皆吉爽雨
鶏頭や紺屋の庭に紅久し 尾崎放哉
鶯に山家の人の紺絣 鈴木鷹夫 風の祭
鶯や水にくぐりし紺木綿 栗林千津
鶴の野に荒崎の海紺たゝゑ 小原菁々子
鹿の峰の紺屋なほあり豆の花 高浜虚子(風早懐古)
鹿啼くや紺地金泥の経の文字 松根東洋城
麦秋やよろこび深き天の紺 仙田洋子 雲は王冠
黍嵐みづうみの紺吹きたわめ 川村紫陽
黒き手に紺屋の掬ぶ清水哉 山本洒石
黒塚の道に乱れる野紺菊 平野みさ
鼻を摶つ法被の紺や供の春 喜太郎
龍の玉紺を極めてをりにけり 田中君子
龍馬忌や穿きふるしたる紺袴 楠瀬薑村
●金色 
あかときの鰡金色に跳べりけり 緒方敬
かなしめば鵙金色の日を負ひ来 楸邨
からたちの実の金色を刺囲ふ 野沢節子
きちきちの翔てば金色夕日谷 野澤節子 遠い橋
さくらちる鴟尾金色に光るとき 岸風三楼 往来
ささ啼のとぶ金色や夕日笹 原石鼎
つばくらめ死は金色をもて祀る 山西雅子
ほととぎす金色発す夕富士に 中村汀女
もみ合へる雲金色に初日出づ 戸川克巳
よき子生せいま金色の初日の妻 大槻紀奴夫
アルプスは金色に照り鳥威 大野花子
ガラシャ廟蘇鉄の花の金色に 山口玖磨加
一匙の栗金色に離乳食 都筑智子
一行の詩は金色に美女柳 都川一止
七月の少女の産毛金色に 芦川巣洲
三日、強風、"金色夜叉"の夜に入れり 久保田万太郎 流寓抄以後
下金色の夕日に菜を間引く 高澤良一 ももすずめ
乗馬クラブの少女 金色のたてがみ持つ 伊丹公子 アーギライト
九体仏金色の冷えまさりけり 能村登四郎
九体仏金色壺焼芋もきん 川崎展宏
何に還る火の金色や春の窯 嶋田麻紀
余剛峯寺より金色の秋の蜂 綾部仁喜 樸簡
元朝や八ツ岳の稜線金色に 五十川敏枝
冬の掌や一筋の藁金色に 内藤吐天 鳴海抄
冬サボテン護身の針を金色に 柴崎左田男
冬日没る金色の女体かき抱かれ 山口誓子
冬空に宝塔暮るゝ金色に 高木晴子 花 季
冬耕の一人となりて金色に 西東三鬼
冬薔薇日の金色を分ちくるゝ 細見綾子 花 季
冬薔薇金色の日を分ちくるゝ 細見綾子
冬蝿にして金色を負い来たる 穴澤篤子
凍蝶の金色の眼よさざなみよ 上野まさい
凍鶴に金色の額縁を嵌めよ 田仲了司
列車いま金色となり稲の国 斎藤康子
初富士の金色に暮れたまひつゝ 竹下しづの女句文集 昭和十四年
初日さすいま金色の盲導犬 佐藤瑛子
初蝶の朱金色に飛べりけり 山口青邨
初護摩の焔生きたり金色仏 高島筍雄
初鴨の羽うてり首の金色に 鈴木厚子
北窓に金色の凧あがりけり 橋石 和栲
取らず置く実梅大きく金色に 岩田由美 夏安
古妻の眼に秋の金色仏 橋本夢道 無類の妻
向日葵の金色冷ゆれ月の秋 渡邊水巴 富士
囀りの金色帯びてきたりけり 奥坂まや
回診の来るとき時雨金色に 岩田昌寿 地の塩
夕を経て夜は金色の鰯雲 相馬遷子 雪嶺
夕東風や黒猫の目の金色に 原田ゆふべ
夕霜や湖畔の焚火金色に 泉鏡花
夕鵙や諸仏金色を深くせり 米沢吾亦紅 童顔
夜焚火に金色の崖峙てり 秋櫻子
大火聚の金色しばし野焼かな 松瀬青々
大袖の金色匂う神楽かな 渡辺ゆり子
妻はいま金色如来秋澄みぬ 森澄雄
子の尿が金色に透き落葉降る 沢木欣一
寒の鯉金色の身をひと揺らし 橘川まもる
寒風に売る金色の卵焼 大木あまり
封筒にある金色の月一枚 対馬康子 純情
山よりの日は金色に今年米 成田千空
山吹の蘂も金色乳かゆし 田川飛旅子 花文字
山毛欅の芽の金色に明けぬ雪崩跡 殿村莵絲子 花 季
山深く金色の日や雪崩あと 村田脩
峯々にたつ金色の雲掌のごとし 横山白虹
巣のほとり初夏金色の雨けぶる 水原秋櫻子
師走圏外金色を経て一紫雲 香西照雄 素心
干されある藻の金色や紫や 篠原鳳作
広前に欅芽吹きの金色相 高澤良一 素抱
御柱金色なれば煤もなし 山口青邨
悪評は覚悟の毛虫金色に 白岩三郎
情なく濡れて金色甘茶佛 清水径子
文化の日雁金色の蘆花を活く 百合山羽公
斑鳩に見し金色の穴まどひ 来栖三代子
日向ぼこ金色の爪伸びてくる 上田貴美子
日当りて金色垂るゝ棕櫚の花 五十嵐播水
早乙女の耳の産毛の金色に 福田甲子雄
明星いまだ金色保つ初明り 相馬遷子 山河
春の蕗母金色に煮てくれぬ 脇祥一
春ふかく芋金色に煮上りぬ 桂信子
春水の影亀甲に金色に 右城暮石
時逝くや日に金色の芦を刈る 鍵和田[ゆう]子 浮標
時雨るる瀧金色と見し旅一瞬 松村蒼石 雪
月いづる波金色を孕むより 岸風三樓
月一痕雪金色の夜明かな 福田蓼汀 秋風挽歌
月日また金色に去る春惜しむ 西本一都 景色
木の葉散る金色に刻染まりつつ 野澤節子
木偶の目の夜は金色に木枯吹く 桂信子
木枯の中金色に秩父暮る 田中冬二 行人
末枯の行く手金色仏おはす 澤井我来
杉の秀のときに金色冬深し 田中哲也
枝打ちの落ちてくるもの鬱金色 田川飛旅子
枝打の落ちてくるもの鬱金色 田川飛旅子 『山法師』
枯芦を金色の日がつつむなり 柴田白葉女
枯草のひと思ふとき金色に 鈴木真砂女
枳殻の実の金色に白秋忌 三吉美知子
桐一本金色の年立ちにけり 原田喬
梅雨滝を金色と見し旅一瞬 松村蒼石 雪
梟の金色の目は雪呼ぶ目 清水緑子
樫若葉金色仏の如くあり 沢出蒼子
池普請鯉の金色宙を舞ひ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
波の穂の金色に散る実朝忌 大木 茂
洗ひ髪かわく夕雲金色に 柴田白葉女 遠い橋
深秋の鯉金色に有備館 菅原静風子
漁港への一路 路鋲の金色光 伊丹公子 メキシコ貝
濡れたまひいよよ金色甘茶仏 野村慧二
濡れたまひこよひ金色甘茶仏 野村慧二
炎天に金色の蓮廟の前 山口超心鬼
焚火人金色の眼におし黙り 内藤吐天 鳴海抄
煤竹の映る金色の御柱 山口青邨
熊楠の忌や金色のモジホコリ 関塚也蒼
熟れ麦の禾金色に風立ちぬ 堺みちを(圓)
燕子花鴟尾の金色射すところ 下村槐太 天涯
父として幼き者は見上げ居りねがわくは金色の獅子とうつれよ 佐佐木幸綱
牡丹の蕋金色に発光す 丸山嵐人
猫の目の奥の金色五月闇 宇多喜代子 象
猫の眼の金色が透く夏まつり 柴田白葉女 雨 月
畏れ見る遅日金色の御仏を 水原秋桜子
百合の蘂金色に妹とく癒えよ 澤木欣一
真剣に鼻梁匍いいる金色よ 阿部完市 証
石の蝶金色すべく没日まつ 加藤楸邨
神農の虎生薬の鬱金色 松井良子
秋冷の仮死金色をなせりけり 柚木紀子
空蝉に金色の風溢れけり 大橋俊彦
窯中の炎金色に春の雨 水原秋櫻子
竹林を過ぎ来て乞食金色に 攝津幸彦
笛吹川金色に秋うかびゆく 千代田葛彦 旅人木
簀もれ日の遠金色に茶を摘める 皆吉爽雨 泉声
紅梅の寺金色の仏ます 本宮鬼首
繭玉に金色の風ゆらぎ立つ 横光利一
翻へるとき金色に凍鴎 石塚友二
胸も頬も金色の土砂土用過ぐ 岩田昌寿 地の塩
臘八の日矢の金色雲間より 倉橋弘躬
自動車が好きで好きで金色の自動車にのつてゆく子 中原礼二
舞ひ終へて金色さむし獅子頭 鷹女
芒野の金色を来て喪章剥ぐ 橋本榮治 麦生
花筏金色の鯉潜めけり 川村紫陽
菊の香の堂の金色われをつつむ 加藤知世子 花寂び
萩刈つて金色の日を賜はりぬ 嶋田麻紀
落葉してならぶ木の金色背文字 渋谷道
落鮒の深処金色浄土かな 松村蒼石
葱の花ふと金色の仏かな 川端茅舎
蜩や金色仏に瑠璃が見ゆ 加藤知世子 花 季
蜷遊ぶ水金色の春となり 細見綾子 花寂び
襤褸市や大学芋の金色に 辻 桃子
西日燦金色放つ仏達 塩見瑞代
試歩疲れ小菊のつぼみ金色に 鍵和田[ゆう]子 浮標
身慄へて金色の羽を銀杏脱ぐ 石塚友二 方寸虚実
郭公も金色ならん落暉いま 栗生純夫 科野路
酒後の尿金色なせり蕗の薹 遠藤梧逸
金柑は黄に仏塔は金色に 佐野 五水
金色になるまで親指を見つめている 折笠美秋 君なら蝶に
金色にひかる朝寝の障子かな 阿波野青畝
金色に乾きあがりし海蘿かな 岡田耿陽
金色に咲くとは菊の口をしき 菊 正岡子規
金色に涅槃し給ふくらさあり 下村非文
金色に湯花かがやく出湯の秋(草津温泉大阪屋旅館泊) 上村占魚 『球磨』
金色に照るが雀の帷子で 佐々木六戈
金色に照るが雀の鉄砲で 佐々木六戈 百韻反故 初學
金色に秋の祭の菓子を焼く 有馬朗人 天為
金色に竹落葉飛ぶ行方あり 舞原余史
金色に芽吹く欅を敬へり 山田みづえ 木語
金色に茗荷汁澄む地球かな 永田耕衣 殺佛
金色に萱立てかけし馬の墓 村越化石 山國抄
金色に襖百枚うちかさね 佐藤琳子
金色のあかき日の出の若葉ごし 原石鼎 花影以後
金色のみなぎる梅雨の蝶生れし 宮崎敬介
金色のみほとけくらき牡丹かな 橋本鶏二 年輪
金色のみほとけ在す無月の灯 藤松遊子
金色のものの減りたる五日かな 櫂未知子
金色のコーランの文字枇杷熟るる 有馬朗人 知命
金色の一トすぢはしる破魔矢かな 久保田万太郎 草の丈
金色の一瞬ありき朴落葉 茨木和生 往馬
金色の仏ぞおはす蕨かな 秋櫻子
金色の仏見し眼に散る紅葉 福島裕峰
金色の佛ぞおはす蕨かな 水原秋櫻子
金色の凍てし烏や黒部川 折井眞琴
金色の壷は新茶よ身ほとりに 青邨
金色の夕映え鶴を呼びもどす 原裕 『出雲』
金色の失せつつ涅槃し給へり 北澤瑞史
金色の寸に満たぬ火芝火もゆ 大橋敦子 手 鞠
金色の封蝋バレンタインの日 水田光雄
金色の小菊入りぬ枯葎 耕衣
金色の尾を見られつゝ穴惑ふ 竹下しづの女句文集 昭和十四年
金色の巫女の元結若井汲む 立花波絵
金色の御堂に芭蕉忌を修す 山口誓子
金色の日かげ氓びぬ冬の蝶 内藤吐天
金色の日に猥雑な蓮の骨 磯貝碧蹄館
金色の日輪一つ乾く刈田 柴田白葉女 花寂び 以後
金色の朝の藁より寒卵 白岩三郎
金色の柚子を青空よりもらふ 三島敏恵
金色の歯朶にかくるゝ鷦鷯 大谷秋葉子
金色の海へ初漁船押出す 齋田鳳子
金色の焔の牡丹焚火かな 山崎ひさを
金色の無花果籠に盛る老人 金子皆子
金色の狐はいずと蕨狩 平畑静塔
金色の猫翻る 雪の茶房 伊丹公子 メキシコ貝
金色の目をあけて亀不思議そうに沈んでゆく 橋本夢道 無禮なる妻抄
金色の笏を手握り閻魔王 高浜虚子「虚子全集」
金色の羯鼓打つべう福寿草 文挾夫佐恵
金色の老人と逢ふ暮れの町 平井照敏 天上大風
金色の芒の穂波湖に落つ 石原八束 空の渚
金色の花芽を立てて冬ぬくし 中田陽子
金色の蛇の冬眠心足る 加藤楸邨
金色の蛾眉をあらはにクロッカス 西村和子 夏帽子
金色の蜂蜜秤る日永かな 千手和子
金色の西日に消ゆる杖の夫 北 美枝子
金色の豪奢豪放夕みぞれ 鍵和田[ゆう]子 未来図
金色の走りしは鯉雪催 茨木和生 倭
金色の鈴ころげ出す初電車 富士原拓
金色の鍵奉る山開き 神沢英雄
金色の雄蕊とろりと黒牡丹 矢島渚男 延年
金色の雲丹をほろろと再会す 内田冬至
金色の雲打ち延べて神還る 黛執
金色の音のひぐらしを祠べり 村越化石
金色の風十方に銀杏散る 狹川青史
金色の髪は白夜に似合ふもの 高木晴子 花 季
金色の鯉の浮きくる灌仏会 山城英夫
金色の黴をまとへる魚板かな 中本一九三
金色の黴を咲かせて阿弥陀仏 木内彰志「仏の座」
金色を冬日はぐくみゐたりけり 松崎鉄之介
金色仏実梅は太ること止めず 鍵和田釉子
金色仏終の牡丹に来迎す 野澤節子 黄 炎
金色柚子夜を重るべし癩日記 村越化石
金雀枝や喪の裏窓の鬱金色 小池文子 巴里蕭条
雨蛙のまぶた金色嬰児も不思議 金子皆子
雨降れば雨金色に甘茶仏 福原紫朗
雪のうへの月や金色銀世界 貞徳
雪はれて小角を照らす金色の征矢 横山白虹
雲を割る金色光に蚋の陣 加藤楸邨「穂高」
霧だちて金色しづむ樺の蝶 飯田蛇笏 椿花集
霾るや没日の前を金色に 吉本一江
青梅雨の金色世界来て拝む 水原秋櫻子「帰心」
韃靼国よりの金色逮捕状 阿部完市 証
颱風や彌撒の聖燭金色に 内藤吐天 鳴海抄
鮭のぼる金色けぶりその夜以後 和知喜八 同齢
鳥渡る雲の笹べり金色に 杉田久女
鴨の死を金色の日が包むなり 柴田白葉女 『冬泉』
鴨睦むとき金色を発しけり 成瀬櫻桃子 素心
鵜匠より金色の鮎抛げもらふ 西本一都 景色
鶴舞ふや日は金色の雲を得て 杉田久女(1890-1946)
黍高梁野の朝焼の金色に 相馬遷子 山国
黒雲の縁金色に氷橋 柴田白葉女
黴くさや金色五月去りて遠し 石塚友二 光塵
いてふこんじき舟唄をうたはんか 松澤 昭
からまつ散るこんじきといふ冷たさに 鷲谷七菜子 花寂び
こひびともかもめも炎天のこんじき 夏井いつき
こんじきの棺炎天の湖わたる 飴山實 『おりいぶ』
こんじきの菌斜面に四月かな 柚木紀子
人参の太さこんじきぐらしかな 松澤昭 宅居
父ら暑いとこんじきにならぬかや 松澤昭 面白
立科の雲の峰なりこんじきに 岡井省二
風呂吹に芥子こんじき癌家系 竹鼻瑠璃男
●金色堂 
ひでり星ともる金色堂の上 有吉桜雲
みくじ結ふ金色堂の山百合に 白瀬陽子
人混みに秋の蚊払ふ金色堂 横山房子
今日の月三体浮くや金色堂 川崎展宏 冬
四月一日金色堂に詣でけり 今井杏太郎
桐の実や金色堂へきつね雨 小林康治
燦然と金色堂や春の昼 河野静雲
白露や扉を開く金色堂 露月句集 石井露月
眠るミイラは何色金色堂発光 伊丹三樹彦
秋の昼ガラスの中の金色堂 川崎展宏
金色堂たましいあれば底冷えす 駒走鷹志
金色堂ゆるがぬ燭の凍みにけり 宮津昭彦
金色堂出づや蒔絵の散紅葉 大橋敦子 匂 玉
金色堂出て現し世の紅葉晴 伊東宏晃
金色堂出でてもつとも青き踏む 石寒太 翔
金色堂奏づる月の虎落笛 沼澤石次
金色堂飛雪にひらく淑気かな 佐藤国夫
霜柱金色堂は鎮されて 石井露月
●紺青 
たこあげて誰が子ぞ紺青の汚点とせし 細谷源二 砂金帯
ぢか火とて紺青焦げし目刺かな 銀漢 吉岡禅寺洞
まうへ舞ふ蝶のまうへは唯紺青 川島彷徨子 榛の木
インキ壺紺青湛へ灯に親し 吉屋信子
世にあいづしもつけあり紺青の縁 阿部完市 軽のやまめ
光琳や水紺青に白千鳥 千鳥 正岡子規
冬の海紺青の斑の鯉澄める 水原秋桜子
冴返るささくれ妙義紺青に 堀口星眠 営巣期
凛然と降る雪のさまかそかなる夜の紺青を吸ひて光れり 大滝貞一
初潮や海紺青の岬重ね 星野椿
初鴎紺青の水木場に澄む 有働亨 汐路
土壁の竹紺青し花菖蒲 菅野潤子
土用浪紺青の夜を追ふごとし 松永晩羊原
垣の芥子海の紺青さしせまり 佐野まもる 海郷
大空は紺青に枇杷は鈴をなす 鈴鹿野風呂 浜木綿
女正月伊豆の紺青欲しいまま 横山左知子
子のたぐる空の紺青火伏せ凧 伊藤三十四
寒泳の首紺青の海へ出す 池田秀水
火を恋ふや隠岐紺青の潮鳴りに 永井由紀子
磯川の紺青みだし雪捨つる 佐野まもる 海郷
秋晴や杉生の面紺青に 五十嵐播水 播水句集
穂高岳秋立つ空の紺青に 及川貞 夕焼
糸とんぼひぐれ紺青透きにけり 加藤楸邨「怒濤」
紺青の乗鞍の上に囀れり 普羅
紺青の夜涼の空や百貨店 飯田蛇笏 霊芝
紺青の孔雀の瀧といひつべし 宮坂静生 樹下
紺青の日輪渡る雪晒 高橋悦男
紺青の海ひき寄せて独楽回し 鷹羽狩行
紺青の海へかざして山帰来 太田鴻村 穂国
紺青の海坂まろし秋天下 中田貞栄
紺青の空が淋しや萩の花 石橋辰之助 山暦
紺青の空と触れゐて日向ぼこ 篠原鳳作 海の旅
紺青の空や野分の戸をあける 及川貞 夕焼
紺青の背色つらねし目刺かな 楠目橙黄子 橙圃
紺青の蟹のさみしき泉かな 青畝
紺青を塗りもあまさず初御空 轡田進
翼張つて飛魚の紺青大皿に 野澤節子
花の上の道紺青の空へ行く 池内友次郎 結婚まで
茄子/牛となり/今宵紺青/一盞の 上田 玄
草の穂に雨後紺青の嶺せまる 大島民郎
藻の林冬澄む水の紺青に 五十崎古郷句集
蜜柑むく海の紺青手の中に 新井英子
蜜柑山紺青の江に高からず 米澤吾亦紅
蜥蜴草にその紺青を重ねたり 加藤燕雨
蝉の背の紺青にして樫の風 石鼎
蝌蚪増ゆるまで紺青の水鏡 滝谷泰星
鉄線花天の紺青はりつめて 石原八束 空の渚
降り足りし空の紺青桃熟るる 堀 佐夜子
雲を出し富士の紺青竹煮草 遠藤梧逸
霞みても紺青コリントス運河 石原八束 人とその影
露けくて壺は千古の紺青に 古舘曹人 能登の蛙
風冴えて高嶺紺青雪のこる 飯田蛇笏 雪峡
風花や湖紺青に凪ぎわたる 木下ふみ子
麦門冬の実の紺青や打ち伏せる 篠原鳳作
黒南風や紺青の波蹴立て行く 堤俳一佳
●紺碧 
たちしようべん紺碧の空あけわたす 早瀬恵子
どのヨツトにも紺碧の空ありぬ 会田仁子(未央)
不意に戦後来る紺碧のひと日冴え 桜井博道 海上
冬空の紺碧の下に咳をする 道部臥牛
揺れやまぬ夜行列車に紺碧の老師 金子兜太
春霧に天の紺碧ただならぬ 飯田蛇笏 椿花集
柚子切つて紺碧に空拡げたり 松下千代
烏賊襖透く紺碧の響灘 飯久保司郎
熱帯魚紺碧の海恋しからむ 福永鳴風
瓜を啖ふ大紺碧の穹の下 [え】 富澤赤黄男
秋潮の紺碧変ること迅し 阿部みどり女
紺碧にそまりたくなり泳ぎだす 和田耕三郎
紺碧の伊吹山見ゆ夏座敷 梶山千鶴子
紺碧の小春を得たり大根引く 松尾章子
紺碧の沖を楯とし流氷来 田村すゝむ
紺碧の波にたゝめる日傘かな 上村占魚 鮎
紺碧の波走りくるサーフィン 藤原照子
紺碧の海にも沈んでいるバンザイ 三好夜叉男
紺碧の海に育ちし鰤の色 飯島正人
紺碧の海より抜きし鰹かな 遠藤逍遥子(風土)
紺碧の画布へ裸木林立す 桜井昭子
紺碧の空に帰燕や草千里 佐々木筆子
紺碧の空の涙かいぬふぐり 室岡純子
紺碧の空を招いて潮まねき 火村卓造
紺碧を切り裂いて行くボートかな 清水静子
菜の花の沖は紺碧日本海 塚田恵美子
誰も往かぬ/かの碧落の/紺碧へ 酒巻英一郎
青芝に坐して紺碧の海を恋ふ 阿部みどり女
鶴引きしあと紺碧の空残る 村上淑子
●サーモンピンク 
鮮紅のサーモン切身聖夜くる 高澤良一 宿好
斜里町はサーモン色の夕焼けに 高澤良一 燕音
●桜色 
初空や日の本明くる櫻色 初空 正岡子規
春の雪桜色して降りにけん 高橋睦郎
朝日いま浴びたる鶴の桜色 増田原子
桜満ちる十日 障子の桜色 伊丹公子 ドリアンの棘
桜色に闇ほぐれ来る御万燈 渋谷亮子
桜色失せずに焼けしうぐひかな 竹本袴山
榾煙桜を焚けば桜色 吉年虹二
河につけし指桜色行々子 阿部みどり女
●紫紺 
かはせみの紫紺一閃よき日なれ 成田千空 地霊
とほきひと湖の紫紺にかさなりぬ 川島彷徨子 榛の木
とりかぶと紫紺に月を遠ざくる 長谷川かな女 花 季
なす漬の紫紺かがやく食卓に 山岡千枝子
ラグビーは紫紺の怒濤「前へ」「縦に」 川崎展宏
初空に紫紺をつらね夫婦松 佐藤喜俊
初霞赤城紫紺の裾引けり 岡田日郎
土間闇寸前紫紺の飛燕訪はぬ恋 香西照雄 対話
夏薊山は紫紺を深めけり 四條好雄
夕潮の紺や紫紺や夏果てぬ 藤田湘子「途上」
夜の穂高紫紺あせざる五月来ぬ 澤田緑生
寒月下しんと紫紺のしなのかな マブソン青眼
明治てふ紫紺の時代梅雨の蝶 坂本宮尾「木馬の螺子」
暮れ際の紫紺の五月来りけり 森 澄雄
朝顔の白に紫紺にちんちろりん 林原耒井 蜩
朝顔の紫紺簇がり車掌住む 石塚友二 方寸虚実
朝顔の紫紺葬りをきのふとす 高澤良一 素抱
桔梗のしんと紫紺の英治遺居 川崎慶子
潅水の紫紺の茄子の苗そよぐ 篠原梵
潮暮るるときの紫紺や吾亦紅 谷崎トヨ子
父と子へ紫紺の山湖ラムネ抜く 佐川広治「光体」
片栗の蕊を紫紺のなみだとも 和田知子
白妙の春の月ある空紫紺 高浜虚子
真昼間へ紫紺の蝶のこぼれ落つ 柿本多映
紫紺なほ呼びあふ風の秋あざみ 成田千空 地霊
紫陽花の紫紺をつくし竜飛岬 成田千空「人日」
芥子畑の紫紺を浴びる旅のはじめ 北原志満子
花菖蒲紫紺まひるは音もなし 中島斌雄
芽吹く木の紫紺の影を踏みゆくも 内藤吐天 鳴海抄
茄子の馬紫紺滴るばかりなり 石川空山
茄子苗やふた葉紫紺の雨のこり 長谷川久代
荒星や絞りあがりし紫紺染 黒田杏子 花下草上
葉牡丹のうづまく紫紺寒ン充ちぬ 渡邊水巴 富士
葡萄棚の地面の紫紺 家族老いて 伊丹公子 時間紀行
返り咲く紫紺のあやめ暮の秋 福田蓼汀 山火
野を焼きて富士を紫紺に燻しけり 加々美鏡水
降る雨をはじく茄子の紫紺かな 馬場五倍子
陽に心ゆるして紫紺の花菖蒲 横内照代
雪渓のほかは紫紺に暮れにけり 若井新一
雪眼鏡紫紺の岳と相まみゆ 谷野予志
雲井なる富士八朔の紫紺かな 飯田蛇笏 霊芝
雲割れて紫紺の空の枯木かな 池内友次郎 結婚まで
雹晴れし遠山襞の紫紺かな 楠目橙黄子 橙圃
霜枯の中に紫紺の竜の玉 阿部みどり女 月下美人
顕はれて紫紺きはまる初筑波 火村卓造
鱚の海紺が紫紺にかはりけり 大橋櫻坡子 雨月
黒潮の紫紺に夏は立ちにけり 渡部抱朴子「天籟」
●漆黒 
あねはあおさぎ漆黒のピアノに映る 金子弘子
ががんぼや漆黒の夜をありがとう 蝦名石蔵
つばめ帰して漆黒の寺の簷 山下廣
ぬばたまの実の漆黒は夜の一点 栗生純夫 科野路
エジプトの布の漆黒首に巻く 岸本マチ子
コスモスや髪漆黒に狂女達 池田定良
ハイビスカスの花に漆黒島の蝶 茂里正治
レコードの回る漆黒天の川 皆吉司
七夕や男の髪も漆黒に 草田男
七月やロダン立像漆黒に 石田あき子
主病みたり漆黒の甘茶仏 小林昭子
伝教会漆黒の母漆黒の鯉 松田ひろむ
兜虫漆黒なり吾汗ばめる 石田波郷
兜虫漆黒の夜を率てきたる 木下夕爾(1914-65)
初富士や漆黒の襞は雪をとめず 渡邊水巴 富士
南円堂漆黒に浮き薪能 橋川敏孝
囮鮎まだ漆黒に傷つかず 野澤節子 遠い橋
夏野駆け放馬いよいよ漆黒に 北 光星
夜鷹聴けり病みても髪の漆黒に 酒井鱒吉
天体に漆黒の筒さしいれる 遠藤進夫
子規の忌の漆黒の貨車大きかり 秋山重子
山夕焼牛の漆黒ひき出だす 落合水尾
山火事のあと漆黒の瀧こだま 飯田龍太
山脈の夜影漆黒きりぎりす 内田典子
平原にあり漆黒の椿の実 対馬康子 吾亦紅
日盛やテレビも牛は漆黒に 石田波郷
春昼の漆黒に蒔く鷺羨し 古舘曹人 能登の蛙
春隣燈下子の髪漆黒に 加畑吉男
曼珠沙華漆黒の蝶つゆ吸へり 松村蒼石 露
月朧たゞ漆黒の吉野なる 桑田青虎
月餅の中の漆黒鉦叩 正木ゆう子 静かな水
木の芽風漆黒の膳拭き清め 桂信子 黄 瀬
朴の実の漆黒に春惜しみけり 折井眞琴
桑括る漆黒の鳶に村が晴れ 中拓夫 愛鷹
森閑と漆黒の蟻たたかへり 根岸善雄
海胆怒る漆黒の棘ざうと立ち 橋本鶏二
海鵜とんで春漆黒となりにけり 九鬼あきゑ
漆黒に光る瓦や梅三分 畠山美緒
漆黒に柱ねむれり春の闇 小檜山繁子
漆黒に生れ繋がれ兜虫 有働亨
漆黒に秋を灯してバス行けり 稲畑廣太郎
漆黒のみほとけ在す花の冷 永峰久比古
漆黒のピアノより生れ春の蝿 本庄登志彦
漆黒のピアノ据ゑたる大暑かも 林翔 和紙
漆黒の円空仏や雁渡し 田阪笑子
漆黒の冷えをまとひて思惟菩薩 児玉喜代
漆黒の切り火を灘へ初つばめ 渡辺恭子
漆黒の列車は北へ直哉の忌 櫂未知子 貴族
漆黒の壺に鬼百合挿せば父 石倉夏生
漆黒の夢の切れ目に鴨のこえ 澁谷道
漆黒の大日如来涼しけれ 川崎展宏
漆黒の天に星散る野分あと 相馬遷子 山国
漆黒の山が夜空に文覚忌 鷲谷七菜子
漆黒の怒濤ひびけり鮟鱇鍋 酒井みゆき
漆黒の揚羽蝶彫り陶枕 辻桃子
漆黒の梁に山風蛇笏の忌 廣瀬悦哉
漆黒の楷書に戻る冬の山 松浦敬親
漆黒の樟は寒気を放ちけり 有働亨 汐路
漆黒の水晶岳へ星飛べり 山下智子
漆黒の背に沖のあり冷し牛 向野楠葉
漆黒の薬師輝く花会式 平尾圭太
漆黒の蛙天国医書を閉ぢ 堀口星眠 営巣期
漆黒の蝶もつれ舞ふ浦日和 楠本向谷
漆黒の野良猫にして恋すなり 松村蒼石 雪
漆黒の銀河を指でなぞりけり 角田沙織
漆黒の闇のいろもて地虫出づ 山崎千枝子
漆黒の闇の刃の竹落葉 山田弘子 懐
漆黒の闇を川ゆく秋まつり 栗田九霽子
漆黒の闇虫出しの雷ひとつ 金谷まさる
漆黒の除夜のみ曾て記憶せり 相生垣瓜人 微茫集
漆黒の雲急ぎすぐ厄日かな 樋笠文
漆黒の馬のとけゆく青水無月 山本掌
漆黒の髪の子に来しお正月 水野一風子
漆黒や鯉の跳ねたる夕立雲 秋篠光広
濡れ鵜まぶし漆黒まといたき齢 八木三日女 赤い地図
炉開きや漆黒のピアノ次の間に 及川貞
無主義者つまみ蟻の怒りは漆黒に 川口重美
爐開きや漆黒のピアノ次の間に 及川貞 夕焼
牛いよよ漆黒となる冷やされて 田辺ふゆ
疲れ鵜の漆黒を大抱へにし 細見綾子 黄 炎
眉月の漆黒の闇切り取らむ 泉澤光子
眠りさえもこの漆黒の羽摶く音 安達昇
破芭蕉漆黒に立つ夜の輪血 秋光泉児
神の杜へ来て漆黒となる揚羽 北田夏生
秋の牛乳房のほかは漆黒に 中島斌雄
秋雨や漆黒の斑が動く虎 渡邊水巴
立つ船の見えて聖夜の松漆黒 殿村菟絲子 『繪硝子』
美しき嘘漆黒の絹扇子 木田千女
船員螢籠提げ漆黒の夜の汽船に戻る 人間を彫る 大橋裸木
花大根に蝶漆黒の翅をあげて 杉田久女
落葉敷き漆黒の熊眼がうるむ 沢 聰
薫風やめばるの瞳漆黒に 堀口星眠 営巣期
蛇穴を出づ漆黒の尾を連れて 村本恭三
蝌蚪漆黒氷の如き水に拠り 瀧 春一
遺されしこの漆黒の冬帽子 鈴木鷹夫 大津絵
雨太し幹漆黒にさくら咲く 高井北杜
雪晴れや牛の漆黒かがやきぬ 小島健 木の実
青梅の一枝漆黒の塀に垂れ 内藤吐天 鳴海抄
風花や爪漆黒の能登の牛 黒田櫻の園
馬刺は冷たき食いもの漆黒の活火山 野田信章
鴨鳴きて漆黒の闇動かしぬ 川口洋子
黒板の朝の漆黒スイートピー 片山由美子 天弓
黒葡萄いよよ漆黒農一忌 皆川盤水
●渋色 
澁色の袈裟きた僧の十夜哉 十夜 正岡子規
朝顏の澁色茶色なども咲きぬ 朝顔 正岡子規
渋色に沁みし染桶枯れ重ね 影島智子
●朱肉 
くろずめる朱肉に御用始かな 西川狐草
これも黴底なし梅雨の朱肉壺 石塚友二 光塵
区役所の朱肉うすれし秋暑かな 鈴木庸子
啓蟄の朱肉ゆるびてゐたりけり 柿本多映
峯雲や朱肉くろずむ村役場 土生重次
抽斗に朱肉をさぐる事務始 岡田貞峰
朱肉つけて一塊涼し山の石 碧雲居句集 大谷碧雲居
朱肉煮て油返すも日短き 内田百間
行秋の見え居て探す朱肉皿 原石鼎
鶏毟る女に朱肉の月昇る 斎藤愼爾 夏への扉
●朱蝋燭 
上元やまぶしき数の朱蝋燭 中村やす子
上元や祈福敬謝の朱蝋燭 下村ひろし 西陲集
年神へ吾が還暦の朱蝋燭 水谷芳子
煤さはぎすむや御堂の朱蝋燭 一茶 ■文政七年甲甲(六十二歳)
●純白 
かりんの実純白同志の看護婦らに 友岡子郷 遠方
久しぶりに純白シーツ冬のバラ 皆吉司
元日の川純白な鳥の胸 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
初秋の純白をもて参籠す 加倉井秋を
初釜や傘寿の衿を純白に 及川貞
去年今年いま純白の睡り来る 千代田葛彦
口ケット純白地の汚穢に遺る者ら 神田はじめ
基地扼す大根純白且つ無数 町原木佳
夏手袋純白の刻たいせつに 猪俣千代子 堆 朱
夏濤の発端純白立志めく 香西照雄 素心
大滝の音純白と謂つべし 深川正一郎
太陽の純白の死の桜谷 攝津幸彦
子が持ち来夏純白の通知箋 相馬遷子 山国
山百合の純白守り抜く香なり 廣瀬町子
崖さむし海鵜の糞の純白に 矢島渚男 延年
師と仰ぐ面影椿純白に 檜垣長子
息止まるほど純白のアマポーラ 吉原文音
手を打てば純白の鯉年立てり 渡辺恭子
教堂に純白の壁原爆忌(神戸にて) 飴山實 『おりいぶ』
斑雪より純白の鳥舞ひあがる 斎藤信義
朝の日に画布の純白小鳥来る 橋本榮治 麦生
朝戸出のマスク純白なるはよし 岸風三楼 往来
木犀の香や純白の犬二疋 高野素十
杓子菜の茎の純白葉へ伸びて 香西照雄 対話
枇杷の花らしからぬこの純白は 夏井いつき
林火先生純白諸事言う村咲く 阿部完市 純白諸事
桜桃の花純白を通しけり 福田甲子雄
森に開く手帳純白日雀鳴く 橋本榮治 越在
椿真紅椿純白霊気満つ 滝青佳
母の愛とは純白のさくら草 川原和子
沙羅散るや純白かくも錆び易し 関礼子「逃げ水」
狐火見し純白の夜を妊れり 齋藤愼爾
白の中の純白手袋妻へ買ふ 本宮鼎三
白木蓮に純白といふ翳りあり 能村登四郎
白萩に神純白ををしむなく 竹下しづの女句文集 昭和十五年
白鳥の純白をわが炎とす 高松文月
白鳥の腋の純白恋兆す 平井さち子
睡蓮の純白のこす山の暮 桂信子 黄 瀬
秋扇のその純白を愛しめり 楠本憲吉
純白で私を避ける雪ばかり 櫂未知子 貴族
純白な鶏に冬日がまはり来る 阿部みどり女
純白にこころをのせて餅を切る 岡田和子
純白に子をくるまんと編む毛糸 赤松[ケイ]子
純白に砕けたり冬濤の黝 酒井 京
純白のマスクぞ深く受験行 岸風三楼 往来
純白のマスクを楯として会へり 野見山ひふみ
純白の初蝉にして快翔す 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
純白の富士をたまはる十一月 川崎展宏 冬
純白の屍衣に翳なし雪満つ窓 内藤吐天 鳴海抄
純白の布巾揃へて初厨 芝 由紀
純白の心に今日の花ひらく 阿部みどり女
純白の想像 影が肩たたく 穴井太 土語
純白の手袋も買ひそろへたる 西村和子 夏帽子
純白の放つ光に百合の花 今橋眞理子
純白の時間とまらず花辛夷 藤岡筑邨
純白の服もて日焼子を飾る 林翔
純白の服着て旅す陽市は 阿部完市 無帽
純白の棚の一線梨の花 酒向敏子
純白の水泡を潜きとはに陥つ 三橋敏雄 巡禮
純白の点訳楽譜小鳥来る 丹羽啓子
純白の眠りに入るや雪の鶴 渡辺 昭
純白の睡蓮われも目覚めよし 桑島啓司
純白の砂漠に死にし黄金虫 仙田洋子 雲は王冠
純白の紙にひたひたと蟲の闇 神生彩史
純白の結び目北風の遺骨一つ 成田千空 地霊
純白の雪の進軍のかたちみえる 阿部完市 にもつは絵馬
純白の霧に夜明けて沼住ひ 石井とし夫
純白の鬱であり暗く大きな鱈 大西健司
純白へ試練まだある子白鳥 安居正浩
純白もて己れ縛せし春手套 田部谷紫
脱ぎ惜しむ手套純白海鳴る夜 鷲谷七菜子 雨 月
花野来て夜は純白の夜具の中 岡本眸
若菜摘む空に純白天守と雲 林昌華
菊純白にかなしみの香を放つ 龍太
蓮落花泥にささりて純白に 中戸川朝人 残心
街に雪この純白のいづこより 橋本榮治 麦生
身ごもれる子に純白の毛糸玉 渡部良子
遠花火思ひ出のみな純白に 田中とし子
鑑真の寺純白の蓮開く 倉持嘉博
陽の射さぬ純白の椅子むごい微笑 堀葦男
飾り羽子純白えらびくれしかな 加藤三七子
鴉の子純白の糞落としけり 西本一都 景色
●白壁 
あしかびや白壁のぼる水陽炎 神蔵器
あたたかに白壁ならぶ入江哉 正岡子規
ざぶざふと白壁洗ふ若葉かな 一茶
つるし柿陽の白壁に老婆溶け 大井雅人 龍岡村
のどかさや昼は白壁夜は灯 長閑 正岡子規
ほほけた草を刈つてしまつた白壁 人間を彫る 大橋裸木
もう鳴かぬ蟲白壁は日を溜めて 松村蒼石 雁
タイプの音ひびく白壁薄暑来ぬ 大井雅人 龍岡村
トマト炸裂教会の白壁に 今井 聖
今日も生きて虫なきしみる倉の白壁 尾崎放哉
倉敷の白壁家並柳絮とぶ 中林健人
厠蔵白壁に年あらたまる 下田稔
吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が 鷹女
夕焼のにじむ白壁に声絶えてほろびうせたるものの爪あと 前川佐美雄
大寒の空の白壁日もすがら 阿部みどり女
家成りて春の白壁鏡なす 高橋克城
春立てり野の白壁の暗き方 千代田葛彦 旅人木
枝蛙居たり塔頭の白壁に 尾崎迷堂 孤輪
毛虫焼く焔の首尾を白壁に 中戸川朝人 残心
洗濯屋白に疲れぬ白壁冴え 香西照雄
浴衣着て四角白壁部屋ごもり 林翔 和紙
渋濯屋白に疲れぬ白壁冴え 香西照雄 素心
満月を上げ白壁の蝋屋敷 清水美和子
燕や白壁見えて麦の秋 麦秋 正岡子規
独楽抱いて帰る白壁が痛い 村上雅子
畳畳と照る白壁や朱欒割く 小池文子 巴里蕭条
白壁がこんなに続くのも愛か 大西泰世 椿事
白壁が廻る廻るよ秋の風 阿部みどり女
白壁と冬空の壁人死せり 阿部みどり女
白壁にあをじ映れる光琳忌 石寒太 あるき神
白壁にかくも淋しき秋日かな 前田普羅
白壁につゝじ咲たる庄屋哉 つつじ 正岡子規
白壁にひたと影置く枇杷の花 阿部みどり女
白壁にひゞく蘇州の水砧 森田峠 逆瀬川
白壁にわが影折れて島小春 植田桂子
白壁に影歩ませる冬日かな 山下芳男
白壁に月さやかかる野分かな 岡本松浜 白菊
白壁に氷遠にとまれる蝿を見き 白泉
白壁に消えも入らずに毛糸編み 平畑静塔
白壁に濁の一点寒波来る 橋本榮治 麦生
白壁に白服うつる真田町 田中三二良(屋根)
白壁に秋逝かんとす武家屋敷 山田弘子 初期作品
白壁に蜂がぶつかる藤の花 鈴木鷹夫 渚通り
白壁に蜂つきあたりつつ入日 桂信子 黄 瀬
白壁に蜻蛉過る日影かな 黒柳召波 春泥句集
白壁に見失ひけり歸り花 帰り花 正岡子規
白壁に雨のまばらや初嵐 西山泊雲 泊雲句集
白壁に雪ちりかかる都かな 闌更
白壁のあれば水影枯柳 世古諏訪
白壁のかくも淋しき秋日かな 前田普羅
白壁のそしられつゝもかすみけり 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
白壁のふゑる町あり年のくれ 年の暮 正岡子規
白壁のままに倉古る寒造 榎本冬一郎
白壁の一閃二閃夏つばめ 村上良三
白壁の倉を見当てに水見舞 今村野蒜
白壁の割れ一筋に仏の座 古屋村木
白壁の向う側から秋の声 渡辺鮎太
白壁の囹圄白息紛れやすく 香西照雄 素心
白壁の影をひき据ゑ蓮開く 西村公鳳
白壁の日は水のよな深雪かな 佐野良太 樫
白壁の焔硝蔵や雲の峯 寺田寅彦
白壁の町を旅してサングラス 森田峠 逆瀬川以後
白壁の白あふれだす春の暮 岩井三千代
白壁の白暮れのこり鴎外忌 若井新一「雪田」
白壁の眩しき蔵や夏きざす 渡辺喜久子
白壁の蔵にいかりの子蟷螂 雨宮抱星
白壁の蔵の上ゆく初の雁 伊藤敬子
白壁の蔵の高窓枇杷熟るる 松尾照子
白壁の蔵囲みをり秋桜 須藤繁一
白壁の街に売らんと鴎鳴かす 山中葛子
白壁の里見くだしてかんこ鳥 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
白壁は女なく場所卯浪ゆえ 福田甲子雄
白壁は秋空のある窓に厚し 池内友次郎 結婚まで
白壁へ影が月から一本の電話線で 渡辺砂吐流
白壁へ歩みて消えてしまふ冬 鈴木鷹夫 千年
白壁や子供がすさみ筆始 黄口
白壁や青葉明りの秋篠寺 大河内京子
白壁をすばやく過ぎし秋弱日 岸田稚魚 筍流し
白壁をキャンバスにして蔦紅葉 大澄利江
白壁を映す外濠鴛鴦泳ぐ 高井のぶを
白壁を汚さぬやうに燕の巣 鷹羽狩行
白壁爽か大時計の秒針が赤 池内友次郎 結婚まで
白壁高高と爽か大階段 池内友次郎 結婚まで
秋の日の白壁に沿ひ影とゆく 林火
秋ふかし白壁をゆく手話の指 奥村比余呂
竹馬が倚る白壁のうらの湖 民郎
老鴬や白壁の蔵残りをり 小山ナオ子
薔薇咲いて白壁フェリス女学院 稲野博明
藻の花や白壁落ちし角櫓 子規句集 虚子・碧梧桐選
虹の根に白壁光る青田哉 青田 正岡子規
見返れば白壁いやし夕がすみ 越人
起絵のむかし白壁ばかりの村 神尾季羊「権」
遠足や白壁沿ひの朝の道 大野林火
●白雲 
いちめんの白雲となる春の坂 大野林火
かがやける白雲ありて照紅葉 高浜虚子
くらがりに白雲のこる網戸かな 阿部みどり女 『陽炎』
くるみ負ひ一歩一歩を白雲へ 村越化石 山國抄
げんげ田に寝て白雲の数知れず 林火
さびしげに白雲わたる焼野哉 焼野 正岡子規
さらさらと白雲わたる芭蕉かな 正岡子規
たえずしも白雲おこる氷室守 氷室 正岡子規
とんぼうや白雲の飛ぶ空までも 几董
またくらに白雲起る清水哉 清水 正岡子規
まだ彷徨う亡弟が来し夜の白雲 峠 素子
むさし野の秋は白雲よりととのふ(疎開先の高崎より東村山に移り住む) 上村占魚 『一火』
ゆつくりと白雲のゆく海鼠桶 児玉輝代
よしきりの声白雲を呼んでをり 若林蕗生
りんだうに白雲うごき薄れけり 柴田白葉女 遠い橋
オオバギボウシ白雲翳り易くして 高澤良一 宿好
キャベツ畑を祝福し アヴィニヨンで融ける白雲か 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
クローバに坐し白雲に愛さるる 村越化石 山國抄
七月のこゑ白雲が蜂起せり 千代田葛彦
下萌えて白雲しづかなる移り 太田鴻村
不二は白雲桜に駒の歩みかな 松岡青蘿
両手を挙げる白雲ありき出雲ありき 夏石番矢 神々のフーガ
井の底に白雲あそぶ針供養 飯田龍太
人ごゑは白雲に触れ山廬の忌 井上康明
伊賀富士に白雲流る今朝の秋 澤井とき子
伐りし竹かつぎ白雲隨へし 大串章
何に屋根へ上つてゐるこども夏の白雲 中塚一碧樓
傍に白雲を置き蕎麦刈れり 脇本星浪
元日の白雲すみやかに通る 大峯あきら 宇宙塵
八方に夏白雲や日照雨けり 松村蒼石 雁
凍桑にまた白雲のひつかかり 大峯あきら 鳥道
唐紙の白雲形や冬籠 冬籠 正岡子規
唐黍に白雲盆も過ぎにけり 大野林火
喪へるひかり白雲谿を覆ふ 石原舟月
土手のすみれ昏れて白雲残りけり 林原耒井 蜩
土用芽のそら白雲の溜り易し 高澤良一 素抱
地を照らす白雲杏拾ひをり 宮津昭彦
夏に入る白雲あふぎ師に近づく 松村蒼石 雪
夏帽に白雲遠く望みけり 青峰集 島田青峰
夜は夜の白雲靆(たなび)きて秋の岳 飯田蛇笏
夜は春の白雲遊ぶ古墳群 西村公鳳
夢二忌や白雲尽くる時もなし 安成三郎 山魯俳句集
天にみち白雲冬をとざしけり 原石鼎 花影以後
天平のころの白雲ひなまつり 中田剛 珠樹以後
安達太良に白雲生まれ袋掛 阿部みどり女 『雪嶺』
寧楽のあかるさ白雲に水草生ひ 鷲谷七菜子
小梅恵草行者白雲まとひ来ぬ 岡田日郎
山裾を白雲わたる青田かな 高浜虚子
山越えてゆく白雲も涅槃かな 岡澤康司
山越えて来る白雲も松の内 大村昌徳
干瓢乾し村に白雲殖やすごとし 大串章
年木樵また白雲の流れ込む 友岡子郷 日の径
急がざる白雲仰ぎ春子摘む 伊藤京子
扉のひらくたびに白雲十二月 友岡子郷 日の径
摘草の子に白雲のながれけり 月二郎
数へ日の白雲とゐて山仕事 友岡子郷 春隣
新樹山白雲移り易きかな 高澤良一 素抱
春嵐白雲海へ海へとぶ 井村美治子
昼中の白雲涼し中禅寺 涼し 正岡子規
晴の日も*けの日も白雲花辛夷 鍵和田[ゆう]子 浮標
月あれば白雲集ふ枯ポプラ 野澤節子 黄 炎
月みせてはとぶ白雲や深山槇 飯田蛇笏 山廬集
木がらしや白雲過る月凄し 闌更
杉の奥に白雲起る紅葉哉 紅葉 正岡子規
枇杷もげば白雲とみに目をそそる 太田鴻村 穂国
林から生まの白雲昼蛙 子郷
枯枝に湧く白雲や百千鳥 石鼎
柿の木の空の白雲馬肥ゆる 小原菁々子
桃*もぐや白雲まとひ越後富士 宇野慂子
欠伸すれば白雲口に入る閑古鳥 会津八一
氷室の戸白雲深く閉しけり 河東碧梧桐「碧梧桐句集」
泥田にも浮かぶ白雲苗育つ 松倉ゆずる
泰山木の一花結印白雲に 近藤一鴻
泰山木咲き白雲へ風届く 川村紫陽
海鼠食ふ夕白雲のかがやきに 中拓夫
淡墨の残花白雲持ち去れり 野沢節子
湖山の遠白雲にげんげ刈る 松村蒼石
田に白雲サイクリングの脚も消えて 瀬戸 密
男山葡萄を絞る白雲の明りを身にうけ 安斎櫻[カイ]子
白雲と共に行く雁のふる里遠く清しと思ふ 安斎櫻[カイ]子
白雲と冬木と終にかかわらず 高浜虚子
白雲と老母うやむやの関に遊べ 安井浩司 牛尾心抄
白雲にさゝやかな希ひもちて久し 片山桃史 北方兵團
白雲にのる村もあり山ざくら 榎本其角
白雲に千鳥こもるやきらきらす 川島彷徨子 榛の木
白雲に時代祭の毛槍飛ぶ 辻本斐山
白雲に枯木の小枝ひろがりし 高木晴子 晴居
白雲に椿の貝殻虫も照る 川島彷徨子 榛の木
白雲に碧き空洞川施餓鬼 向井 秀
白雲に秋立つてまだ地は暑し 立秋 正岡子規
白雲に肩入れ剪定の男あり 天野武雄
白雲に雪の御嶽まぎれつゝ 田中王城
白雲のあと何も来ぬ秋湯治 山本洋子
白雲のうしろはるけき小春かな 飯田龍太(1920-)
白雲のしづかに行きて恵方かな 村上鬼城
白雲のもとに翔び得ぬものは蛇 片山桃史 北方兵團
白雲のゆたかなれども菊月夜 福田蓼汀 秋風挽歌
白雲の上に家あり桜あり 桜 正岡子規
白雲の上に岩あり蔦紅葉 蔦紅葉 正岡子規
白雲の下に横なる国ありや 安井浩司
白雲の下に鬱気の蟹といる 宇多喜代子
白雲の中へ中へと登高す 加藤三七子
白雲の中白光の一雪嶺 岡田日郎
白雲の中白雪の中を来ぬ 岡田日郎
白雲の人の居を訪ふ春の昼 鷲谷七菜子 天鼓
白雲の他来ぬ谷の接木かな 大峯あきら
白雲の匂ひて通る飾かな 大峯あきら
白雲の去ぬればみえる山の餓鬼 安井浩司
白雲の去来見送る冬籠り 遠藤はつ
白雲の夏野の果てや村一つ 会津八一
白雲の大火の中のわらびかな 田中芥子
白雲の奥かを出でて夜の空に月ぞかがやくわれを牽かんと 醍醐志万子
白雲の奥の奥よりななかまど 元砂輝代
白雲の妬心にかくす春日かな 前田普羅 春寒浅間山
白雲の寂花蓼の露百顆 石原八束 空の渚
白雲の影きれぎれの海月かな 暁台「暁台句集」
白雲の影も動かず春の水 春の水 正岡子規
白雲の映れる池の菱を取る 高浜虚子
白雲の春へ春へと動きけり 阿部みどり女 『石蕗』
白雲の根をおろしけりさくら苗 眠獅
白雲の死のかげ崩れ赤とんぼ 阿部みどり女
白雲の流転の尾根に紅葉濡れ 岡田日郎
白雲の滑り尽せり青泉 関森勝夫
白雲の白を移せり諏訪破魔矢 静塔
白雲の空ゆりすゑて牡丹かな 蓼太
白雲の立ちつぐ山の破魔矢かな 村田 脩
白雲の絶えず湧き出る若葉かな 三森幹雄
白雲の行方うつして秋の水 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
白雲の触れては芽吹く雑木山 山田弘子 こぶし坂
白雲の誘ひに乗れり初雲雀 関森勝夫
白雲の迅きがゆゑの安居かな 田中裕明 先生から手紙
白雲の野に腹かへす*いもりかな 島村元句集
白雲の限りなく過ぐ野の泉 近藤一鴻
白雲の雲影よぎるカラマツ草 高澤良一 宿好
白雲の静かに行きて恵方かな 村上鬼城
白雲の龍をつゝむや梅の花 服部嵐雪
白雲は乱礁の浪や雁来紅 渡辺水巴 白日
白雲は二百十日を遊ぶかな 野村喜舟 小石川
白雲は動き噴井は砕けつゝ 中村汀女
白雲は山をはなれて電波の日 岡澤康司
白雲は遠いものなり菊の上 乙二
白雲へ杉まつすぐに四月尽 寺井治
白雲や三千丈の蔦紅葉 蔦紅葉 正岡子規
白雲や上戸の目には花盛 九之 選集「板東太郎」
白雲や女の歯がすみ冬の月 立独 選集「板東太郎」
白雲や実がちに咲きし桐の花 渡辺水巴
白雲や山の麓の蜜柑畑 青蜜柑 正岡子規
白雲や山分け入れば草の露 露 正岡子規
白雲や広く青きは田なるべし 青田 正岡子規
白雲や林檎の花に日のぬくみ 大野林火
白雲や湯の湖をめぐる夏木立 夏木立 正岡子規
白雲や漕ぎつれ競ふ鰹舟 吉武月二郎句集
白雲や秋の暮また春の暮 永田耕衣 殺祖
白雲や芽吹く力に大樹揺れ 川村紫陽
白雲や茅の輪くぐりし人の上 乙二「乙二発句集」
白雲や萩の若葉の上を飛ぶ 若葉 正岡子規
白雲や雪解の沢へうつる空 炭 太祇 太祇句選後篇
白雲や青く広きは田なるべし 青田 正岡子規
白雲や青葉若葉の三十里 若葉 正岡子規
白雲よ女は祷るときかなし 片山桃史 北方兵團
白雲をいくつか許し斧始 大峯あきら 宇宙塵
白雲を出て春愁もなかりけり 中川宋淵
白雲を出る日仰ぎつ緑蔭に 草田男
白雲を吹き尽したる新樹かな 椎本才麿
白雲を吹尽したる新樹かな 才麿「難波の枝折」
白雲を押し出す水面花*あさざ 中戸川朝人
白雲を滝へ蹴落す雲雀かな 膳所-万里 俳諧撰集玉藻集
白雲を率てまたひとり苗運び 友岡子郷 翌
白雲を雪嶺と見て年忘れ 阿部みどり女
白雲紅葉ともし火見えて日暮れたり 紅葉 正岡子規
白鳥の空や白雲にも翼 鞍悦子
眼のなかの秋の白雲あふれ去る 山口誓子
秋愁や白雲むらがり海の紺 阿部みどり女 月下美人
秋深く白雲の多き年かな 太田鴻村 穂国
秋風や白雲迷ふ親不知 秋風 正岡子規
種茄子白雲を吸ふこと幾日 栗生純夫 科野路
稲刈つて田水の底を白雲飛ぶ 中拓夫 愛鷹
穴まどひ白雲に乗りそびれしか 和田耕三郎
立待やただ白雲の漠々と 原コウ子
竹やぶはなれぬ白雲のまま月夜となり シヤツと雑草 栗林一石路
絶えずしも白雲おこる氷室かな 正岡子規「子規句集」
背戸の山白雲わたる若葉哉 若葉 正岡子規
背戸山に白雲わたる若葉哉 若葉 正岡子規
脚下より春の白雲流れけり 響月句集 村上黍月
花を折つてふり返つて曰くあれは白雲 古白遺稿 藤野古白
若葉して白雲近し東山 若葉 正岡子規
茸飯白雲低くよぎりけり 蓬田紀枝子
草競馬眺め白雲眺めをる 成瀬正とし 星月夜
薄雪草震ふ白雲来ては触れ 岡田日郎
薬莱山に白雲かかる麦の秋 宮脇良子
薺粥遠白雲に家冷ゆる 中拓夫
虹の輪をくぐる白雲童子かな 野澤節子 『駿河蘭』
西行の白雲あそぶ弥生かな 岡澤康司
貧しさに耐へつつ生きて或る時はこころいたいたし夜の白雲 佐藤佐太郎
辛夷の白雲に重なり佳き日なる 毛塚静枝
野に山に白雲ゆくよ煙柳忌 飯田蛇笏 山廬集
陸橋の眞空白雲秋彼岸 石原舟月
陸橋の空の白雲秋彼岸 石原舟月
隙々を白雲わたる新樹かな 西山泊雲 泊雲句集
青空の白雲動き春の蟻 阿部みどり女 『陽炎』
青空を白雲走る木の芽かな 原石鼎 花影以後
青胡桃白雲は夜も太りをり 伊東 肇
青雲と白雲と耀り麦の秋 日野草城
飄と行く白雲高し日向ぼこ 貝塚放朗
飛びかゝる白雲望を隠し得ず 旭川
高原の白雲に濡れ黍熟るる 岡田日郎
鬼やらひ夜の白雲のひと刷きに 中拓夫 愛鷹
鶯や白雲は影残さざり 直人
鶴咳きに咳く白雲にとりすがり 日野草城
麦秋の星白雲にひそみけり 西村公鳳
黄梅や白雲杉にこぞる迫 原石鼎
黒霧白雲巌をしまきて合流す 加藤知世子 花寂び
龍胆に白雲うごき薄れけり 柴田白葉女 『冬椿』『遠い橋』『岬の日』
●白々 しろしろ しろじろ 
つと入や縁白々と足の跡 喜谷六花
はてどなく白々春雪の少しづゝ 西山泊雲 泊雲句集
まなうらの瀧白々と風邪きざす 馬場移公子
みぞれには非ず白々したる雨 高木晴子
ドロの木の白々梅雨の十三湖 矢島渚男 延年
一人分の米白々と洗ひあげたる 尾崎放哉
下り簗白々月の磧かな 松根東洋城
冬隣る屑屋の籠の竹白々 内田百間
初鶏や富士白々と明心 友之
卓布白々と夜寒のカフェー静かかな 青峰集 島田青峰
堰落つる水白々と夕紅葉 大橋櫻坡子 雨月
夏の蝶白々浮きて通りけり 上林暁
夕送る札所の梅の白々と 山田弘子 初期作品
夜食する箸白々と狎妓かな 久米正雄 返り花
大人(うし)逝きて桜吹雪の白々し 小出秋光
大文字消えて月星白々と 山田弘子 螢川
宵闇の白々浮かむ棺ひとつ 平松 綾
寒芹の根の白々と父の古稀 皆川白陀
帷子に白々とある滑走路 糸 大八
息白々昨日を痣のごとく負ふ 加藤楸邨
新涼の雲まばらなり白々と 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
春雨や白々けぶる堰の水 西山泊雲 泊雲句集
月は寒く日は白々と低くなる 斎藤空華 空華句集
枇杷の芽立白々と春の夕なる 碧雲居句集 大谷碧雲居
椎若葉白々と墓地暮れにけり 富田木歩
横ざまに雨白々と牡丹かな 根根東洋城
樹にのぼる蛇白々と水展け 松村蒼石 雪
水冴えてカーヴす鯉の白々と 渡邊水巴 富士
水鳥や白々明けの尖り浪 野村喜舟 小石川
湛水の夜を白々と秋闌けし 臼田亞浪 定本亜浪句集
燕麦の白々熟るるこよひ泊つ 山口青邨
狐雨白々と聳つ秋の槍ケ岳 羽部洞然
獨り居や梅雨寒の窓白々と 内田百間
病む人の足袋白々とはきにけり 前田普羅 新訂普羅句集
白々と何の新樹か吹かれ立つ 高木晴子「晴居」
白々と余白めでたし年賀状 七三郎
白々と女沈める柚子湯かな 日野草城
白々と寝釈迦の顔の胡粉かな 高浜虚子
白々と木の間の空や十夜寺 柏木白雨
白々と梅あり粥のありにけり 相生垣瓜人 明治草抄
白々と浄土ケ浜の年明ける 磯野充伯
白々と海女が潜れる秋の海 前田普羅 能登蒼し
白々と灼け居る奥の細道よ 楠節子
白々と立夏の月の在りどころ 高木晴子 花 季
白々と縁にさし来ぬ後の月 前田普羅 新訂普羅句集
白々と華やぐ鼓楼団扇撒 磯野充伯「五七五」
白々と障子しめあり冬安居 前沢落葉女
白々と雲湧き由布の月夜かな 石橋梅園
白魚汲む湖の曙の白々と 玉置仙蒋
石除るや十薬の根の白々と 西山泊雲 泊雲句集
秋風や蝶々さへも白々と 野村喜舟 小石川
花冷や白々と居る障子内 池上浩山人
花禰宜の息白々と祓ひをり 山田文子
芹摘みが来れば空港白々し 静塔
苗代田に幣白々と夜明けたり 青峰集 島田青峰
苧の露白々と結びけり 奥園操孔
萍に白々浮くは捨団扇 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
葉桜や逢うて手を挙げ白々と 青邨
蔕のあと白々とある木の実かな 西山泊雲 泊雲句集
藪茗荷白々とはや実をかかげ 山西雅子
虎河豚の白々として夜の生簀 小林葭竹
身にしむやそよや銀河の白々と 椎本才麿
雨あとの花白々と桜かな 原石鼎 花影以後
くちなしの逢魔が時をしろじろと 下村梅子
しろしろと畠の中の梅一本 阿波野青畝(1899-1992)
しろしろと色紙の雛の余白あり 後藤夜半 底紅
しろしろと花びら反りぬ月の菊 杉田久女
しろしろと馬刺啖うて年の内 諸角せつ子
しろじろとくだけて寒き仏かな 太田鴻村 穂国
しろじろと一月をはる風の畦 綾部仁喜 寒木
しろじろと地梨を咲かせ御師の家 西本一都 景色
しろじろと夜がうねりだす花万朶 那須淳男
しろじろと夜風に揺れて蝉の羽化 岡本昭子
しろじろと安女(やすめ)太郎次相擁く 毛利 令
しろじろと日は流るるよ散る柳 堤 まさ子
しろじろと春日に甍反りゆけば危うく自恃を喪わんとす 大野とくよ
しろじろと月の残れる淑気かな 柴田美枝子
しろじろと月光わたる木の芽道 山本智恵子
しろじろと月暁けてをり寒稽古 辻岡夏人
しろじろと洗ひざらしぬ夏の足袋 西島麦南 人音
しろじろと花を盛りあげて庭ざくらおのが光りに暗く曇りをり 太田水穂
しろじろと草木吹かるる厄日過ぎ 片山由美子 水精
しろじろと豆腐が沈みゐたる午後 小沢青柚子
しろじろと越後くにはら夜の出水 斉藤美規
しろじろと道通りたり祭あと 相馬遷子 山河
しろじろと霧の姥捨山があり 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
しろじろと頬杖たてぬ梅雨安居 赤松子
しろじろと顕ちて真闇の滝の丈 伊東肇
しろじろと風流れゐる切籠かな 吉田速水
はまゆふに雨しろじろとかつ太く 長谷川素逝
ふと羨し息しろじろと地を嗅ぐ犬 川口重美
ビキニ忌のしろじろとして海の照り 衣川次郎
信楽の涼夜をしろじろと狸腹 能村登四郎 天上華
冬服や襟しろじろとつつがめく 飯田蛇笏 山廬集
初螢得てしろじろと夜のありぬ 大石悦子 群萌
夜濯ぎの物しろじろと駅舎裏 大村道子
大熊手かつぐしろじろ夜靄ひき 石原八束 空の渚
大蕪しろじろ洗ふ夢の母 松村多美
姫女苑しろじろ暮れて道とほき 伊東月草
岩走る水しろじろと秋の声 小倉虹男
峭崖や花しろしろとして散らず 豊長みのる
干されたる萱しろじろと暮れにけり 阪本早苗
早稲の花しろじろと夏忘れ酒 佐野良太 樫
昼の虫しろじろ息を交はしけり 岩田昌寿 地の塩
曲水の夜もしろじろと花筏 冨田みのる
河口に浪しろじろと寄り吾子も夏へ 金子兜太 少年/生長
流さるる蚕しろじろ芦に寄る 石原舟月
烏瓜の花しろじろと由布泊 松村越子
父逝きしこの世しろじろ萩月夜 櫛原希伊子
秋の繭しろじろ枯れてもがれけり 飯田蛇笏 山廬集
秋の雲しろじろとして夜に入りし 飯田蛇笏 山廬集
花茗荷しろじろ命燃えてゐし 大石悦子 群萌
里山の明けしろじろと柄長群れ 安西篤
隣子貼つて灯のしろじろと豫後を住む 石原舟月 山鵲
鮭のぼる川しろじろと明けにけり 皆川盤水
●白砂 
お火渡りあしたに白砂凍みこごる 中戸川朝人 星辰
この庭の白砂に萌ゆるもの許さず 鈴木貞雄
さくらんぼ寄進の白砂とどきけり 中戸川朝人 星辰
ほだはらは玉白砂の上にあり 加藤みき
亀孵る白砂と御坊指さしぬ 高澤良一 宿好
佐渡見えず白砂掌より洩れ終り 阿部完市 無帽
分葱萌ゆ白砂混じりの島の畑 中島真理
初空や青松白砂ところがら 尾崎迷堂 孤輪
初鐘の楼へ白砂を渡りけり 比叡禽化
名月に白砂玉とも見ゆるかな 名月 正岡子規
夏風邪や青松白砂夜遊びて 尾崎迷堂 孤輪
夢殿へ白砂敷き足す年用意 山田孝子
年祝ぎの波白砂に敷きのべて 津田清子
庭坪の白砂弾んで初雀 勝村茂美
御白砂に数珠の音なしかんこ鳥 浜田酒堂
恐山血の池地獄の白砂に吾を裏切りし人の名を書く 石野公子
揚舟に湖の白砂と花の屑 伊藤京子
斑猫もまぎるる白砂秋の声 田中水桜
日に鴨の白砂あゆむ尾ぶりかな 白雄
早生紅葉白砂育ちの繊細に 香西照雄
春泥は王の墓域の白砂にも 河野頼人
晴昊や白砂に置いて鯊の顔 小澤實 砧
暮れなづむ白砂に残る若布の香 植田 桂子
月の白砂に腹がつかへてゐる餘裕 藤後左右
東海の小島の磯の白砂に/われ泣きぬれて/蟹とたはむる 石川啄木
松葉散る白砂道や三穂神社 散り松葉 正岡子規
梨剥くや山水白砂を滲み出て 香西照雄 対話
椎匂ふ白砂のごとき頭痛薬 鈴木鷹夫 千年
椿落ち白砂に咲きぬ子安神 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
渚まで続く白砂や仏桑花 古賀まり子「暁雲」
白砂に別雷の実梅かな(上賀茂神社) 波多野爽波 『骰子』
白砂に松の実生や春の雨 比叡 野村泊月
白砂に水に飛石かきつばた 堀 葦男
白砂に熊手の波やちり松葉 散り松葉 正岡子規
白砂に犬のゐねふる小春哉 小春 正岡子規
白砂に犬の寐ころぶ小春哉 小春 正岡子規
白砂に葉を散らしをり沙羅双樹 森田公司
白砂に雀足ひくあつさかな 遅望 俳諧撰集「有磯海」
白砂のきらきらとする熱さ哉 暑 正岡子規
白砂の山もあるのにしくれ哉 時雨 正岡子規
白砂や露の貝殻鏤めて 石塚友二 光塵
白砂光り早箸さばき白子干す 丹羽卓
白砂安堵の息するすると蔓南瓜 飯田龍太
白砂拾ふともなく浜へ世阿弥の忌 上田日差子
白砂青松怒濤に縮む干大根 百合山羽公 寒雁
白砂青松磯に群がる鰯引 寺田寅彦
白砂青松踊子鞍を卸さるゝ 安斎櫻[カイ]子
石庭の白砂すがしき若葉かな 中野 薫
石庭の白砂ひかる薄暑かな 久保田万太郎 流寓抄以後
神籬の白砂にとんで道をしへ 大橋敦子 匂 玉
落し文安宅の白砂巻きにけり 小原啄葉
蕎麦の花白砂の海を行くごとし 田野やゑ
薔薇は白砂に散り緑蔭に猿の檻 田川飛旅子 花文字
長元坊現るる白砂や虚し貝 小枝秀穂女
陽炎や白砂がいだく塚一基 鷲谷七菜子 雨 月
青松を白砂へ出たる春着かな 森田 峠
須磨の白砂跡つけて雛の落ちゆくや 久米正雄 返り花
鷹の子や岩山裾に白砂の帯 成田千空 地霊
●白(ら)む 
うしろから白む端山の雉の声 雉 正岡子規
ねこ柳のほほけ白むや雛の雨 室生犀星 魚眠洞發句集
ほとゝぎす口すゝぐ間も夜の白む 相馬遷子 山國
シャガールの月恋人に夜が白む 橋本榮治 麦生
何事もなく水番の夜が白む 池田風比古
反転々白むには間の熱帯夜 及川 貞
吹き白むことを欅も厄日空 皆吉爽雨 泉声
寝ねさせよ白むまで咳く咳地獄 及川貞
恥らひて鼻白む雛の灯かな 安斎桜[カイ]子
悴みて海苔漉き了へし窓白む 長谷川史郊
摶つ濤に眼鏡の白む寒暮かな 中戸川朝人 残心
明け白む荒海の方ゆ初放送 安立恭彦
明星の白む焚火にあたゝまる 百合山羽公 故園
明鶯寒屋の穴みな白む 百合山羽公 寒雁
朝富士に月も雪白むすこ病む 和知喜八 同齢
氷る河わたる車室の裡白む 山口誓子 黄旗
池白むほどの雨なる遠桜 久米正雄 返り花
照り白む道のわが影原爆忌 嶋田麻紀
献盃式果てゝ白むや菱燈籠 名和三幹竹
産ごゑと紅葉の香と明け白む 廣瀬町子
縄綯ひて夜の耳白む結氷音 豊山千蔭
舌白む朝よ青大将が過ぐ 柿本多映
舞は過ぎし夜を春に塵白む灯よ 安斎櫻[カイ]子
芹匂ふ顔白むまで雲を見て 子郷
苗代や抜くたび白む農の脚 石川桂郎
街路樹の小雨短夜ほの白む かきね草 藤井紫影
谷空のやうやく白むけらつつき 三田きえ子
身に入むや夕べを白む?(ぶな)林 黛執
逆波の白む世阿弥の忌なりけり 三田きえ子
長雨の暁白む蛙かな 雉子郎句集 石島雉子郎
馬頭観音盆道白むほどの雨 野沢節子
あいの風弥彦山(やひこ)の沖に浪白らめ 高澤良一 寒暑
人声やこんもり白らむ踊り更け 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
原ひろくなれば白らけつ寒きかな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
夜は白らむ籠の螢のにほひはげしき 原田種茅 径
夢にかよひて戸の面の雪の暮れ白らむ 木歩句集 富田木歩
山なみへ夜の白らむ冬の旅する 橋本夢道
戸の隙を雪吹き白らめ神代記 野澤節子 黄 炎
春の日にみ仏の前土白らむ 原田種茅 径
枯草を音たてて男等没日白らめ 桜井博道 海上
水洗ひ白らけし塀や返り花 内田百間
海女潜き薫風磯に白らみたる 仙臥
白らむ旅寝遥かな闇に妻を託す 隈治人
簀の外の路照り白らむ心太 木歩句集 富田木歩
舷窓に白らむ濤音秋遍路 伊藤敬子
闇凍てて遠くの闇の白らむなり 松澤昭 神立
雨空の北から白らむ夜寒かな 廣江八重櫻
雪に白らみ遠く呼ばれる眠りのなか 大井雅人 龍岡村
雷とどろその夜わが家白らみけり 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
露寒や草に白らけし蛇の衣 梧月
食卓のもの急に白らける雪の風 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
●白 
*さ夫藍の白咲きつづき志功の死 沢木欣一
*はまなすや白兎海岸兎波 赤坂八重子(京鹿子)
*はまなすや白兎祀りて宮小さし 松原文子
「延年の舞」は白濤秋の風 渡辺恭子
あかつきは白蜀葵あるいは奏上 阿部完市 春日朝歌
あか白とうち重なりぬ散蓮華 池内友次郎
あこがるる夕顔白花種子の冷え きくちつねこ
あさがほの蘂さし出づるところ白 正木ゆう子
あさきゆめみし白椿白たんぽぽ 塩野谷 仁
あしたばや足裏ま白に海女潜る 石川錠子
あほちたる肩白鷹の肩の幅 依田明倫
あるだけの雪降らしゐて白孔雀 木山杏理
あをあをと壬生菜一畝白毫寺 丹野富佐子
あをじ去り頬白来り雪催ひ 島村元句集
いたつきや庵春さむき白衾 西島麥南 金剛纂
いちご切れば秘めたる白のあらわるる 中島あわし
いちはつの白夕闇を漂へり 岡田佳子
いちはつの白真つ先に明けにけり 森尾仁子
いち早し白りんだうの草もみぢ 瀧井孝作
いつの世の乙女白歯そ桜貝 佐藤惣之助 蛍蝿盧句集
いつぽんの白長睫毛初鏡 高澤良一 寒暑
いつぽんの陰の白毛も江鮭 宮坂静生 樹下
いつ散りし白薔薇そらを濤の音 桜井博道 海上
いつ来ても白秋の町炬燵舟 小柳正之
いとけなき霊はや橇の白轍 成田千空 地霊
いまはただ眼白の鳴ける霧の木々 水原秋桜子
いわし雲と白を競ひて蕎麦の花 羽部洞然
いんげんの白花むつと曇りづめ 高澤良一 ももすずめ
うしろ姿を白と決めたる立葵 柿本多映
うすずみは白よりあはし天の川 藤村真理
うち透きて男の肌白上布 松本たかし
うら白のおもてを妻ときめてをり 西田 孝
えんぴつは白首のごとし宿の朝 阿部完市 鶏論
おどろきが初蝶となり白となる 中村明子
お四国へ一番発ちの白浄衣 つじ加代子
お小姓にほれたはれたや白重 高濱虚子
お山焼く僧六人の白頭巾 田村愛子
お年玉白寿の父に包みけり 遠藤秋尾
お涅槃に女童の白指触れたりし 飯田蛇笏
お白朮の火消ゆる火縄をまはさねば 松井亀羅
お花畠斜めに雲の白奔る 近藤一鴻
かきわける白のゝれんや風薫る 薫風 正岡子規
かぎりなく白に近づく海暮春 吉田紫乃
かくも小さき白足袋ありし七五三 林 翔
かくれ水ひゞきて白膠木紅葉かな 藤岡玉骨
かくれ泣く妻が肩見ゆ白薔薇 有働亨 汐路
かげりきてむしろ白湧く冬桜 中村 房子
かげろふの白洲を舟に歩みをり 中村雅樹
かしこみて白粥二椀寒のうち 石橋秀野
かたがたの身の上きかん白重 白重 正岡子規
かたくなに定めて白襟白足袋と きくちつねこ
かたまれば白とて燃える曼珠沙華 花谷和子
かはほりや小庭明るき白菖蒲 石井露月
かへり来し命虔しめ白菖蒲 石田波郷「酒中花」
かまどなき家に白朮火持ち帰る 金子篤子
からすみや酒ならなくに白飯に 林原耒井 蜩
きさらぎの白鞘ともる死者の胸 鈴木鷹夫 大津絵
きちかうや白に後れし濃むらさき 林原耒井 蜩
くさむらに月光を踏む白毫寺 大串章
くちなしに飛ぶ白蝶の白からず 阿部みどり女 『石蕗』
くちなしの無意識界に白浮ぶ 殿村菟絲子 『旅雁』
くるみ咲く窓白粥の煮ゆる香を 松村蒼石 春霰
くれなゐの奉白文や賀茂祭 中田余瓶「百兎集」
けさ秋の敷布の白にめざめゐる 河合凱夫 藤の実
けふ多き白朝顔や忌に籠る 立花豊子
げぢげぢや風雨の夜の白襖 日野草城
げんげ束白混れるをよしとせり 五十嵐播水 播水句集
こけし未だ白面雪女来て覗く 有馬籌子
ことほぎの灯に来る蛾ありま白なる 岸風三楼 往来
このごろの夜の朧さや白椿 朧夜 正岡子規
この広き丘白芒銀芒 塩川雄三
この降りに頬白の雛巣立つとは 南耕風
こぼれ梅まさかも貝のごとく白 上村占魚 鮎
こゑ出して夜明けの白の都鳥 森澄雄
ご城下に諸白小路うめもどき 中戸川朝人 尋声
さくらの夜白装へばすぐに祝者 加倉井秋を
さはやかや絵の中に添ふ白鸚鵡 吉野義子
さへづりや白杖頼り旅に出る 高原喜久郎
さらすなり浪のうねうね白縮 疎計 選集「板東太郎」
さりげなき小菊の白や十三夜 野村喜舟 小石川
さるすべり白を尽くして咲き勤む 高澤良一 素抱
さわさわと白着て坐る孟蘭盆会 能村登四郎 民話
しくるゝや東へ下る白拍子 時雨 正岡子規
しづかなる汗八朔の白がさね 筑紫磐井 野干
しばらくの白を打ち敷き春霰 藤村克明
すき焼の白たきの濤子と分つ 佐川広治
すぐ汚れる白ハンカチは薄幸ぞ 清水径子「清水径子全句集」
すさのをのくしなだひめの白朮の火 石田小坡
すはだかにねおぼれにける白蚊帳 飯田蛇笏 春蘭
せめぎあひては睡蓮の白ばかり 中野陽路
そぞろ寒白毛を抜きし喉ぼとけ 角川春樹
そだちゆく対岸の夕景に白犬 金子皆子
そのかみの廓白焼鯊ひさぐ 市川這児
その墓域白の落花の蔽ふべし 野沢節子 八朶集以後
その白描冬瓜あはくなりにけり 赤尾兜子
それ讃岐の山に白犬蹴り上り 阿部完市 軽のやまめ
たいつり草咲きて白とは遺憾なり 山本京子
たうがらし売白頭の翁かな 高井几董
たかうなに白箸置きて句を案じ 笹沢美明 春光秋色
たくはへる白髯ならず寒ゆるぶ 石川桂郎 四温
たたずめば頬白の鳴く狩野なり 阿部ひろし
たひらかに心音ありぬ白菖蒲 須賀一恵
たまきはる白のひびけり貴椿 神蔵 器
たましひの抜けしにあらず白南天 片山由美子 水精
たまむしをつけ行乞の白脚絆 南 典二
たり蔓の白花ならべて秋やたつ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
たんぽぽの白の孤高に黄を配す 稲畑汀子 汀子第三句集
たんぽゝもけふ白頭に暮の春 召波
ちり鍋や白滝結ひし藁一本 今泉貞鳳
ちゝはゝとまた呼ぶを得し露白光 杉山岳陽 晩婚
つまみたるだけ白蛾の白奪ふ 加倉井秋を
つむる眼の中まで晴れて白菖蒲 櫛原希伊子
てんとむしだましの技術白襷 阿部完市
とびぬけて赤きは白膠木紅葉かな 右城暮石
どうだんの白鈴の花日を振りて 猿山木魂
どくだみの白美しき日陰かな 小野茂川
どくだみや真昼の闇に白十字 川端茅舎「華厳」
どこも見てゐず菊人形の白面輪 関戸靖子
なきがらの冷えよりも冷え白浴衣 小原啄葉
なぜ見えぬ白村江の落花落日 夏石番矢
なほ北へ行く船の白冬かもめ 赤塚五行
なまめきて白猫ひとつ花野かな 小池文子 巴里蕭条
にごつた空 どこかの家に 白燕がきている 吉岡禅寺洞
にはたづみ冬日まみれや白毫寺 岸田稚魚 筍流し
ねむたくて河鹿か石か白千曲 和知喜八 同齢
はくれんのたっぷりな白宙に浮く 田中公子
はくれんの白鷹となり翔たむとす 安東次男 昨
はく日からはや白足袋でなかりけり 一茶 ■文化十一年甲戊(五十二歳)
はまゆふの白へ紛れる波の音 福川悠子
はるばると引くも白濤神の留守 神尾久美子
ぱんは白綾につつみゆくなりあめつち 阿部完市 春日朝歌
ひさかきの花に眼白の巣引かな 大場白水郎 散木集
ひそひそと白侘助の内緒ごと 立野靖女
ひと夜経し白濤に夏老見せて 鈴木鷹夫 渚通り
ひなあそび十津川渓谷白光塵 夏石番矢
ひやひやと白気の上る氷室かな 氷室 正岡子規
ひるがへり去りし鶲の紋の白 坊城としあつ
びしびしと雨降る銀座白秋忌 佐藤秀蒼仔
ふきのたう風に呆けて白面子 高澤良一 燕音
ふすまたおして十二月十日白噺 阿部完市 春日朝歌
ふたたびの寝酒にかへす白枕 山口草堂
ふとめくり私白蜀葵であつたりす 阿部完市 鶏論
ふる雪に木々の撓ひや白吉野 宇佐美魚目 秋収冬蔵
ふれあへば白炎をひく冬の蝶 仙田洋子 橋のあなたに
ほがらかに黛そびゆ白重 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
ほぎごとの白足袋も入れ旅鞄 柴田只管
ほぐれそめ翳知りそめし白菖蒲 林 翔
ほしひ碾く観蓮さんは白襷 本田一杉
ほつほつと闇のめくれて白辛夷 辻美奈子
ぼうたんの数多の先づは白に倚り つじ加代子
ぼうたんの濤に緋の刻白の刻 手塚美佐 昔の香 以後
ぼうたんの白に浸りてゐる浴後 高澤良一 ねずみのこまくら
ぼうたんの白炎を挿し原爆忌 木田千女
ぼうたんの緋に綿の刻白の刻 手塚美佐
またたびの目立ち吹かるる白葉かな 本田空也
またちがふ鳥が来てをり白椿 大木清子
まだ珠の泰山木の白蕾 八木林之介 青霞集
まっ白な脳天いつも落伍して 青木貞雄
まつ白な旅のはじめの花こぶし 杉山マサヨ
まつ白な日傘に雨の落ちはじむ 名取里美
まつ白な風の岬に踏む蟻よ 皆吉司
まつ白のオウム鳴き出す秋彼岸 乙武佳子
まつ白の島又島は除虫菊 和田ふく子
まどかさや片面は白茶白團扇 渡邊水巴
まはさねばきゆる白朮火まはしつゝ 井上治憧
まぼろしと言うはやさしい白椿 大西泰世 世紀末の小町
まぼろしの藍ただよへり白菖蒲 草間時彦 櫻山
まゆみの実真つ白な雨山消して 八木林之助
まゆ玉や白ちりめんの肌障り 一音
まろ~と白大嶽や峡深雪 松根東洋城
みじか夜の白狐吾を見てわれも見る 角川春樹 夢殿
みじか夜やいとま給る白拍子 蕪村 夏之部 ■ 探題老犬
みたび原爆は許すまじ学帽の白覆い 古沢太穂
みづうみに諸子取れ出す白伊吹 高澤良一 燕音
みめよきは白縦縞の烏瓜 大橋迪代
み仏にはべり果報の白頭巾 高岡智照尼
むしかりの白花白花オルゴール 金子皆子
むらさきに佇てば白恋う菖蒲園 花谷和子
むらさきの中白菖蒲白堪ふ 殿村菟絲子 『晩緑』
むらさきを秘めきれぬ白花菖蒲 稲畑汀子
めつむりし中の星空白雄の忌 鷲谷七菜子
もつるるは白侘助の心の緒 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
もみぢして松にゆれそふ白膠木かな 飯田蛇笏 山廬集
ももいろの光は空に海に溶け白兎海岸夕ぐれんとす 石川不二子
もり入れる三盆白や小豆粥 小澤碧童 碧童句集
やうやくに癒えて障子の白は白 中田てる代
やはらかに月光のさす白薔薇 飯田蛇笏 春蘭
やませ除け黄花白花屋根に石 相原左義長
やまぶきこでまり白猫と喪の夫人 窪田丈耳
ゆく春の飯白すぎる昼奈落 宮崎あや
ゆづり葉や巖に白筋吾に血脈 香西照雄 素心
ゆりかもめ来しゆめの世の白の来し 山根真矢
ゆるやかに岬を押えて尾白鷲 小林寿子
よき声の病者ありけり根白草 飯田龍太
よく鍋に躍る白繭糸を引く 佐山滄々子
よべの凍ミ月にのこれり白磧 中戸川朝人 残心
よるがおをふりかえりつゝ白狐逃げ 八木三日女
わが好みのストックは白洲崎 高澤良一 素抱
わが好む白ふんどしの裸かな 飯田蛇笏 山廬集
わが寝屋の闇の一角白破魔矢 橋本多佳子
わが箸の白の歳月水溢れる 寺田京子 日の鷹
わが辿る白道無限年新た 桜木俊晃
わが鉾の句碑が白朮の縄の先 後藤比奈夫 めんない千鳥
をとゝひのけさのきのふの白朝顔 鈴木鷹夫 春の門
をんなは女外出気負うて白足袋に 河野多希女 琴 恋
アカシア白花昂揚の日の来し方 金子皆子
オホーツクの空ひろげたる尾白鷲 木村燿子
オホーツク朝日に向かふ尾白鷲 榎 美幸
カサブランカリリーの白で嫁ぎゆく 長谷川智弥子(麓)
カタン糸の白がするする伸びて夏 嶋田麻紀
クローカス黄・白・柴咲き揃ふ 林原耒井 蜩
グラバー邸港月夜の白椿 西本一都
コウ子忌や野を飾る花白づくし 渡辺蟹歩
コスモスの白がもつともゆれやすし 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
コスモス見る尼僧の帽の白庇 田川飛旅子 花文字
コック帽無菌の白に鰯雲 六角耕
シクラメン白馥郁と忌日過ぐ 古賀まり子
シクラメン縮れし白を求めけり 華 風女
シテとツレ白装束に月涼し 本橋 節
ジンジャーの白極まりて香を高む 平岡喜美子
スそッグにくちなしの白傷つけり 瀧井孝作
セルは古びわが髪白を加ふなる 森川暁水 淀
セルむかし、勇、白秋、杢太郎 久保田万太郎 流寓抄以後
セーターの白は誰にも似合ふ色 稲畑汀子
セーラー服白のきはまる五月かな 谷口桂子
ダム開くや吹きすさぶ白彼岸花 澁谷 道
ダリヤ植う白大輪は窓近く 尾崎木星
ダ・ヴィンチの白貂の見る春の闇 佐藤祝子
チカチカと水面の埃頬白来る 中拓夫 愛鷹
チゴガニの応援団の白手套 高澤良一 寒暑
ドル買いが沖見る 白光マーライオン 伊丹公子 ドリアンの棘
ネクタイの白は知鼻の汗は情 古館曹人
ハンカチの木のハンカチは白ばかり 坂本宮尾「木馬の螺子」
ハンカチーフ雪白なりや富士曇る 岸田稚魚
バッグより白兎のごときスキー靴 奈良文夫
バレンタインデーの奇襲の白*しょ古聿(ショコラ) 鈴木栄子
ベレーはみ出る白鬢 神戸でなら死にたい 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
マスクして白装束を決めてゐし 常見知生
マフラーの白にとびつく野のひかり 赤尾冨美子
ヤクルトの殻の白傷木々芽吹く 大石雄鬼
ランプ幾つ白秋生家添水鳴る 門脇美智子
レグホンの白が混みあふ花曇 耕二
レース編む白を飽きざる色として 池田秀水
ロベリアの白をめぐらす時計塔 つじ加代子
ワイン酌む白より赤へ夏料理 水見寿男
一つ落つ一つの音の 白侘助 高橋千鶴子
一ツ火に白道濡れむばかりなり 高澤良一 ねずみのこまくら
一人より二人は淡し白芒 齋藤愼爾
一八の白は夜の花風荒ぶ 阿部みどり女
一団の白装束や土筆原 脇坂啓子
一寸留守眼白落しに行かれけん 高浜虚子
一島を守る一家系白椿 毛塚静枝
一弁を欠きて曇れる白はちす 冨田みのる
一教師たかが青天白月ぞ 香西照雄 対話
一月の砂洲の白張り尽したる 伊藤京子
一本のいたく傾く白楊樹 京極杞陽 くくたち下巻
一本の白菖蒲また一行詩 中村明子
一汁の芋殻甘し白隠忌 酒井絹代
一湾の風となりゆく尾白鷲 市村正之
一灯に音なく狂ふ白蛾かな 大竹朝子
一生を和服で通し白上布 成見九一
一白は吾が生まれ星若葉澄む 雨宮抱星
一白艇冬の濤穂が発射せしか 香西照雄
一礁に一濤の白松毟鳥 友岡子郷 風日
一穢なきこと怖ろしき白菖蒲 中尾杏子
一羽なる源平つつじ白つつじ 吉田吼文
一羽見えてより枯枝の眼白たち 野澤節子 遠い橋
一誌持てば眼が大切や白椿 肥田埜勝美
一路なる白毫寺村籾おろす 赤松子
一輪の梅白毫の光あり 福田蓼汀 山火
一輪は天の白毫返り花 井沢正江 晩蝉
一輪車白セーターの女の子 大井雅人
一陣の風を仰げば白椿 下村槐太 光背
一面の白を裁ちゆく橇の鈴 横尾桂子
一駅を乗る山姥の白団扇 下田稔
七変化はじまる白は毬なさず 吉年虹二
七夕の赤の千代紙裏は白 池田澄子 たましいの話
七夕や宵の畳の白団扇 碧雲居句集 大谷碧雲居
七月の朝白粥の微光かな 山下淳
七月の燈台の白波濤の白 吉田未灰「独語」
七種の日の額白の馬とをり 友岡子郷 未草
七種の白猫畦を歩きをり 大峯あきら 宇宙塵
七草粥佛に選ぶ白茶碗 八牧美喜子
万両の白たいせつに喪正月 嶋田麻紀
万座より落せる水の白菖蒲 前田普羅 春寒浅間山
万灯引く衆の白足袋白法被 高澤良一 随笑
万里をゆく夏の白花手に挿頭し 金子兜太 遊牧集
丈草忌修す御岳白装束 加藤耕子
三井寺の門にかけたり眼白籠 松瀬青々
三代の爼にほふ根白草 新田祐久
三伏の白粥に芯ありにけり 小野恵美子
三宝に御供米の白初霞 毛塚静枝
三寒やエンデバの富士白一点 唐木培水
三月の筆のつかさや白袷 飯田蛇笏 霊芝
三状の寺一白の遍路の衣 高橋柿花
三男として白蟻を見つめけり 宮崎斗士
三白草二白のときを剪られけり 山田弘子 こぶし坂
三輪山にみな向きてをり白椿 穂苅富美子
三重吉旧居の白い鳥ことり白式部 澤柳たか子
上枝下枝に頬白はずみ氷照る 渡邊水巴 富士
下北のこれは白花吾亦紅 黒田杏子 花下草上
下帯も白足袋も濡れ出初式 宮田 勝
下駄箱に白緒がひとつ寒灸 石田勝彦 秋興
世界との距離か白バラまで散歩 坪内稔典
世阿弥忌の月白明り竹の奥 佐野美智
世阿弥忌の白を尽せる瀧なりし 松尾隆信
両眼の雫も寒し白がへし 中村史邦
丹の馬に山茶花の白花ぴかり 阿部完市 軽のやまめ
九文の白足袋はかす死出の母 品川鈴子
九月はや白をさみしきいろとなす 工藤久仁年
乱世にあらずや桜白過ぎる 沢木欣一
乳燕に白機あがる虹明り 西島麦南 人音
二つある白朮燈籠と云ふを見し 小松虹路
二河白道蝉のもどれぬ蝉の穴 吉田紫乃「一尋」
五月白嶺恋ひ近づけば嶺も寄る 橋本多佳子
五月雨の*(白+)生ゆらんか蝶の羽 五月雨 正岡子規
井戸地相す白霜のところ露霜のところ 山崎斌 竹青柿紅
亡き妻の植ゑし鉄線白ばかり 松崎鉄之介
交(あざ)はらず愛遂ぐるてふいろくづの累卵のせて今朝の白飯(しらいひ) 高橋睦郎 飲食
京へゆく日のハンカチは白と決む 吉田紫乃
人に死期田の神に白化粧季 加倉井秋を
人の世の嘘に汚れし白ハンカチ 下山宏子
人の服黒より白へ花菜咲く 波多野爽波 鋪道の花
人の踏む月より更にはるかにて白光浄く鷲座アルファ星 山田あさ
人を無視世を無視檻の尾白鷲 村松紅花
人参の花の白などうるさけれ 齋藤玄 『雁道』
今宵かぎりの白充ち枝垂れ夕桜 山本つぼみ
今朝秋や白蚊帳ごしに佐渡淡く 林翔 和紙
今生に白は紛れず冬かもめ 神蔵器
今白岳双峰赤天狗青天狗 福田蓼汀 秋風挽歌
仏性の火炎となりし白つつじ 椎橋清翠
仏見し瞼重しや白椿 澤村昭代
仕事着の白を守りて去年今年 毛塚静枝
仙洞に梅の白とぶ疾風かな 筑紫磐井 野干
仲秋や葉子と名付け白づくめ 宇佐美魚目
休暇はや白朝顔に雨斜め 汀女
似せ白がたかうな掘るやけつもどき 加藤郁乎
似もつかぬ白装束の更衣 飯田蛇笏 山廬集
伽羅蕗やふと白粥の恋ひしき日 堀口星眠 営巣期
低く飛ぶ白鳩雪の出稼ぎ村 隈 治人
佐保姫に山童の白にぎりめし 大串章
何故にあるのか白の曼珠沙華 細見綾子
佗人や眼白落しに誘はれ 尾崎迷堂 孤輪
佛蘭西の弘法麦か白熟す 八木林之介 青霞集
便箋の白に螢火近く置く 井上雪
俗権得て白装の椅子雪の梅 香西照雄
信濃紀行白の一章蕎麦の花 水谷洋子
信頼は白に還へれり朴一花 稲垣暁星子
修道女セーターの白許さるゝ 平林とき子
傘の黒茎の白千本しめぢ佳き 相馬遷子 山河
傷つきし白猫月が癒すなり 宮坂やよい
僧正の白緒の草履初蝶来 大石悦子 聞香
優曇華や雪白の布灯いろさす 加藤楸邨
元日のたそがれのある白襖 鈴木鷹夫 風の祭
元日や忘られてゐし白兎 飯田龍太 山の木
元朝の祗園はよかり白朮酒 後藤比奈夫 紅加茂
元結の白のめでたし結初め 五十嵐象円
兄弟(ひんでい)に問ふ紋白の落處かな 筑紫磐井 婆伽梵
先生が通つたような白団扇 小倉喜郎
光放つが最後の思想白芒 齋藤愼爾
光点なす白蝶ただよひ桜桃忌 鍵和田[ゆう]子 浮標
光琳やうつくしき水に白千鳥 千鳥 正岡子規
光琳や水紺青に白千鳥 千鳥 正岡子規
児のケープ雪白にして聖母祭 飯田蛇笏 霊芝
全貌を見せぬ雪嶺白皚々 右城暮石
八十八夜火よりも熱き餅の白 大木あまり 火のいろに
八十八夜白毫落ちし仏あり 三嶋隆英
八十八夜過ぎ山国の白豆腐 児玉南草
八月のついたちの白づくしかな 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
八月や老いの愛せし白襲 筑紫磐井 婆伽梵
八朔の祠に供ふ白だんご 藤野澪子
公魚を白の世界に釣り上げる 板谷クララ
六日はや鳥籠で売る白マウス 小林清之介
六月の夢の怖しや白づくし 岸風三樓
六月馬は白菱形を額(ぬか)に帯び 中村草田男(1901-83)
六白の無花果嫌ひ通しけり 榎本冬一郎 眼光
内庭を見せかけにけり白つつじ 嵐竹 芭蕉庵小文庫
冥府より翔つは五月の白孔雀 石寒太 炎環
冬に入る白粥の味かみしめて 瀧井孝作
冬の川白髯橋を以て渡る 山口青邨
冬帝は白装束で来ると決め 櫛原希伊子
冬待つや白善くいでし紺絣 野村喜舟 小石川
冬暖の濃き夕焼に橋の白 野澤節子 黄 炎
冬浪の白起つばかり鯨望荘 高澤良一 燕音
冬海の紺を見つめて墓白皙 細見綾子 花寂び
冬濤を摶つ雪白の大き翼 内藤吐天 鳴海抄
冬瓜の清しき白をサクと切る 祝 恵子
冬草や白猫座せる廃寺跡 三国義輝
冬萌に群れて白鶏汚れをり 根岸善雄
冬蕪の真つ白な尻積みあげゆく 太穂
冬薔薇の白の奥なる暗さかな 菱田瞳子
冬薔薇反逆の白崩れゆく 伊藤 梢
冬闇の広袤漁火と汀白のみ 香西照雄 素心
冬鴎越後の旅は白づくし 福永耕二
冴え冴えと手術待つ夜の白枕 毛塚静枝
冷まじや地獄絵仕置の白女體 高澤良一 素抱
冷麦や見れば白滝くへば雪 冷麦 正岡子規
凍滝の一徹の白垂れにけり 小林草山
凜凜と初水を吸ふ白椿 谷本淳子
凡白の句弟子杖曳く亜浪の忌 岡部義男
処女らコートの白に統べられ霧の航 上野さち子
凧二三裏の白見す流寓者 香西照雄
凧吹いて島の峠の白薄 和知喜八 同齢
凧糸の白のひとすぢ身より出て 桂信子(1914-)
凶作の白穂を流す河童淵 小川斉東語
出羽びとの山を神とす尾白鷲 武甕静江
刀匠は白の通し着山桜 茨木和生 往馬
切味よし卵で作る白睡蓮 香西照雄 素心
切子見る雪白界を尾の内に 皆吉爽雨
切株の白打つて雨盆の山 高澤良一 ねずみのこまくら
切株をたつ頬白の一呼吸 堀口星眠 営巣期
切株ノ 白イ時問ガマハル 年輪 富澤赤黄男
初凪や白鬚橋はうす~と 山口青邨
初刷の多色グラビア白は富士 上田五千石
初午や女人提げくる白狐絵馬 林 昌華
初夏や蓬が中の白薊 高田蝶衣
初嵐白蚊帳に透き父母が見ゆ 冨田みのる
初弓の振袖しぼる白だすき 岸川素粒子
初弥撒や白繭に似て嬰の睡り 中尾杏子
初春の鶴まつ白に風ひろぐ 吉原文音
初東風の山越えに逢ふ白弥山 鷲谷七菜子
初秋や舟子が着たる白襦袢 阿部みどり女 笹鳴
初稽古刺子の白の潔し 荒井正隆
初虹や梅の花まだ白許り 初虹 正岡子規
初蝉のそれ以後白粥かきまぜぬ 矢野千代子
初蝶に会ふ白足袋に退け目なし 神尾久美子 桐の木
初蝶や藍に白彫る浴衣染 百合山羽公 寒雁
初蝶を見し日空白多きかな 細見綾子 黄 瀬
初詣白歯よろしき矢大臣 松藤夏山 夏山句集
初雪の白を禁色とも思ふ 竹中弘明
初雪や嬰の産着の白づくめ 栗山妙子
初雪や裾へとゞかぬ白丁花 服部嵐雪
利休忌の海鳴せまる白襖 鷲谷七菜子 花寂び
利休忌やすすぎあげたる白茶巾 近藤一鴻
前の世の河に捨てけり白枕 齋藤愼爾
剪るは白薔薇か鋏の鋭き音は 加倉井秋を 『武蔵野抄』
勅使門裾濃に据はり白椿 久米正雄 返り花
動く時きて翔ちゆけり尾白鷲 永田耕一郎 雪明
勧進の白提灯も寒の内 館岡沙緻
匍匐せる木を出て海へ眼白飛ぶ 茨木和生 遠つ川
化石めざしたまなざしの白兎 柴勇起男
化身めく白蛾の翔ちて溺谷 毛塚静枝
北上川の白瀬見せつつ朝ざくら 高澤良一 宿好
北上川の雨の飛びくる白菖蒲 菅原多つを
北吹くと北向きしまま尾白鷲 田代朝子
十二月白鷺の白嫌いです 岡田寿子
十人は居る寺男白つつじ 岡田日郎
十代の秋去る手に載る白文鳥 松尾隆信
十六夜の白瀬や滝に発しつつ 野澤節子 黄 炎
十薬の白汝が胎内の十字架 石寒太 翔
千日紅千日白の束の中 松本武千代
千里来て白鳥の白翳りなし 新海りつ子
半夏生の白は化粧の白ならめ 酒井土子(惜春)
南風の一日白富む岬の町 櫛原希伊子
南風や白のまぶしき定年後 工藤義夫
卯の花に兼房みゆる白毛かな 曽良
卯の花の白に触れゆく瀬音あり 山田弘子 こぶし坂
即興の言葉うしなふ白睡蓮 北見さとる
卵生のラフマニノフや白辛夷 増田まさみ
原爆の日や白茶けし雀ゐて 森田公司
厳寒や白のみがわが里の色 高津ますえ
友あり白蟻の棲む言語在り 河原枇杷男 流灌頂
友二忌や紙風船の白と赤 星野麥丘人
友去りぬ春夜の床の白椿 阿部みどり女 笹鳴
友舟へ白菖(しゃうぶ)一本流しけり 星野恒彦
双魚忌の野菊は白をつくしけり 玉貫甲子郎
受粉後の白を深めて花りんご 佐藤信子
受難日のシモンの家に白鶏鳴く 堺 信子
口誦む童謡いくつ白秋忌 黒岩英子
口開けしあけび白痴の白を見す 三好潤子
古白とは秋につけたる名なるべし 夏目漱石 明治二十九年
古白死して二年桜咲き我病めり 正岡子規
句一念わが白足袋の指太き 岡本圭岳
句碑までの歩をねんごろに白虹忌 森松まさる
合い性の筆は一本 白椿 伊丹三樹彦
合性の筆は一本 白椿 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 花仙人
合歓咲いて白瀬よく見ゆ停留所 大串章 山童記
吊鐘を廻り初蝶白整ふ 殿村莵絲子 雨 月
同行二人朝すでに白犬は眠り 金子兜太
名月や院へ召さるる白拍子 井月の句集 井上井月
名無き嬰も白をまとひぬ初蝶も 文挟夫佐恵 雨 月
向き白由容ち自由に*かりん熟る 山田弘子 螢川
向日葵と白猫ともにふりむかず 堀口星眠 営巣期
吾ヲ啖フ勿レ晩白柚曰ク 坂本宮尾
呉羽山晴れて眼白の枝移り 青木和枝
和すれども同ぜずにゐて白上布 有馬朗人
咲きそめて白は神慮の花菖蒲 藤岡筑邨「葛西橋」
咲きはじむ野ばらの白よ旅衣を解く 高橋信之
唐子頭大市場通りの晩白柚 高澤良一 素抱
唐椿白極まれり詩仙堂 尾関佳子
唖者が飼う鳩白に黒乗り言葉見える 堀葦男
商才にたけ白服を着こなせり 木場田秀俊(狩)
啼く鵜あり白崩崖際の鵜捕鳥屋 石原八束 黒凍みの道
喪ごもりの目に水鳥の白が過ぐ(妹百合子逝く) 岸田稚魚 『花盗人』
喪に替ふる白衿都忘れ咲く 野見山ひふみ
噴水の白穂もて何の字を書かむ 柴田奈美
噴煙は鬱屈の白林檎もぐ 中島斌雄
四つ白の馬のあがきや摩耶詣 前田秋皎
四谷見附の白球よ遠く飛べ 中烏健二
四階に見るシャガールの虹は白 対馬康子 純情
囲はれて白極まりし寒の菊 河本好恵
国分尼寺静かに消えて白兎 攝津幸彦
国旗買ひ帰るや冬の白襖 赤尾兜子
土くさき遺跡の炉辺の白蛾かな 堤高嶺「五嵐十雨」
土筆伸ぶ白毫寺道は遠けれど 水原秋櫻子
土筆摘む白隠祭の夕ぐれに 萩原麦草 麦嵐
地に白花そらに繊月淡路女忌 文挟夫佐恵
地の塩が白を凝らせり灼け砂漠 品川鈴子
地を蹴って大根の白せりあがる 大橋浄
地獄門 血の葡萄酒に火を放てり 幻想と戀の白羊宮かな 筑紫磐井 未定稿Σ
地球儀の海にヨットとなる白蛾 石川文子
地蔵会のおさがりの白甜瓜 大石悦子 百花
垣なくて妹が住居や白つゝじ 雁宕
埋葬行夜の白服に白釦 中村草田男「母郷行」
埴輪の目より深き小窓持てりアテネ黄白の壁は続きぬ 河野愛子
堰落ちし水の白炎ほたる噴く 関森勝夫
塔遠み耕す人と白蝶と 和田悟朗 法隆寺伝承
塗師の町ここにも白膠木紅葉かな 坂本明子
墓山に眼白啼く日を帰郷せり 宮岡 計次
墓石に煙草一本の白寒椿 中拓夫 愛鷹
壮年の暁白梅の白を験(ため)す 赤尾兜子
声凍みて頬白とべり夕穂高 堀口星眠 火山灰の道
夏に一歩出で白足袋の人迎ふ 村越化石 山國抄
夏めくや男結びの白の帯 篠原美加英
夏めくや葡萄酒の白冷しをり 角川春樹
夏をかし白蝶とんで日いまだ 原石鼎 花影以後
夏寒き白粥煮るや古火桶 室生犀生
夏山に白球打ちて何かなしむ 相馬遷子 雪嶺
夏掛の白を揃へて父母安寝 冨田みのる
夏暁のなほ白燈の船あはれ 山口誓子
夏来ると白蝶貝のボタン選る 文挟夫佐恵 黄 瀬
夏来る樹影の黒と土の白 香西照雄 素心
夏神楽舞ふ狩衣に白袴 見浦町子(愛媛若葉)
夏立つと誰に告ぐべく挿す白花 佐野美智
夏菊のよりどころなし白ばかり 成瀬桜桃子 風色
夏行僧白粥に塩落しけり 土居伸哉
夏越餅名はみなづきや白撓み 吉野義子
夏足袋の白が飛び出す能舞台 木島斗川
夏足袋の白怖れけり訃の続く 小高和子(玄火)
夏雲や青墓の出の白拍子 宇佐美魚目 天地存問
夏鴬白手拭を身の護り 村越化石
夕ごころ片白草の化粧ふより 石田勝彦
夕しぐれ柩を蔽ふ白レース 吉野義子
夕ひぐらし屋根の凹みに白球乗り 友岡子郷 遠方
夕光の石の放てる白蛾かな 岩崎雅巳
夕弥撒や扉に花蕎麦の白挟み 大岳水一路
夕日さす峠の白膠木紅葉かな 山本順子
夕暮れて白の冷えゆく花大根 五十島典子
夕月や林泉めぐる白団扇 島村元句集
夕朧笈摺堂に白ふやす 杉本寛
夕潮の音白鱚に箸執らむ 瀧春一
夕立に烟り蘇堤も白堤も 山本歩禅
夕顔の白ク夜ルの後架に紙燭とりて 芭蕉
夕顔は白光仏におはすかや 上川井梨葉
夕顔や白狐見返えるたび透ける 八木三日女
夕風や白薔薇の花皆動く 薔薇 正岡子規
多佳子忌や七曜啼けり白孔雀 本橋定晴
夜々の露あしたのために日記の白 加倉井秋を
夜の秋白絹の冷え手に残り 勝又星津女
夜の野火や一字あやまつ白封書 神尾久美子 桐の木以後
夜の黒猫 雪の白兎 実態のないもの飼い馴らし幻想の街に住む 梓志乃
夜は秋のみつしりと織る白紬 三田きえ子
夜もつづく白の緊張花辛夷 山田弘子
夜桜の白を極めて女人堂 影島智子
夜濯ぎの白ばかりなる手くらがり 井上雪
夜濯ぎの白泡家を流れ出づ 右城暮石 上下
夜神楽の神のつぶやき白ろ面 竹内一笑
夜空かなはじめてつかふ白團扇 渡邊水巴
夜蝉鳴く白林荘はまくらがり 阿部みどり女
夜露触る耳を垂らして白兎 長谷川かな女 花 季
夢の中に茅花の白を摘み来る 河野南畦 『黒い夏』
夢見ざる枕まつ白ほととぎす 岩永佐保
大いなる白薔薇にして冬晴るる 師竹
大いなる白蝶来たる味噌づくり 斉藤夏風
大いなる迂回路と知る白椿 五島高資
大伽藍越えて白蝶酔いゆけり 和田悟朗 法隆寺伝承
大佛の白毫にまつ月見かな 幸田露伴
大名行列白狐にたぶらかされゐる圖 高澤良一 燕音
大和絵の引目鉤鼻白上布 田口一穂
大夕立白狐のごとく打ち来たる 大高松竹(けごん)
大寒のひろがりいたる白の創 中村和弘
大寒の白鎮まれる休み窯 佐藤鬼房
大寒や白緒草履の足捌く 村野秋果
大小の梅の莟の白嵌まり 長谷川素逝 暦日
大山蓮華包む双掌の白光す 野見山ひふみ「大山蓮華」
大山蓮華白毫の香を放ちけり 瀬戸清子(湾)
大年や寺真つ向に白磧 石原舟月
大根の白はちきれんばかりかな 岡純子
大根の白供へある常楽会 上野一孝
大根洗ふや風来て白をみなぎらす 大野林火
大欅白樹しんしん去年今年 斎藤夏風
大王のごとき白鶏照紅葉 道下則子
大瑠璃鳥や白灯台に灘の照り 岡部六弥太
大白は瀬見の小川か砂糖水 重頼「名取川」
大白鳥白が好きとは限らない 池田澄子
大秋と白林を弟子や秋の風 飯田蛇笏 山廬集
大穹に鶏頂山の白鶏冠 高澤良一 素抱
大絵馬の白駒枯野へ跳り出る 宮坂秋湖
大花白豚(はくとん)歩いてゆくぜ白鳥だぜ 金子兜太 皆之
大輪の白朝顔はハイカラよ 京極杞陽 くくたち上巻
大露の海見ゆ谷戸の白墓標 石原舟月
天上の声溜めおらん白椿 寺井谷子
天守閣よりハンカチの白を振る 長屋きみ子(諷詠)
天心の月の白毛稲を干す 中拓夫 愛鷹
天日を遮りて翔つ尾白鷲 深谷雄大
天牛の黄金比なる白と黒 柳澤君代(駒草)
天界へ跳んで白隠雪嶽描く 高澤良一 随笑
天風の圏に入り凧白を増す 羽部洞然
太箸や眉にも白を加へたる 森澄雄
太陽の白光となる揚雲雀 都筑智子
夫が辺に白粥を吹く淑気かな 大石悦子 百花
夫の忌の白足袋濡るる傘の中 日野晏子
夫の風邪癒えて白粥けさ炊かず 及川貞 榧の實
夫亡くす友白炎の雪の国 対馬康子 吾亦紅
夾竹桃白のたぎるは雨の前 蓬田紀枝子
夾竹桃白鮮烈にアポロの暾 中尾杏子
奈良団扇すなはち白を選びけり 長谷川櫂 蓬莱
奉安殿の白の記憶や花万朶 河野南海
奉納をされし頬白囀れり 茨木和生 倭
契らばや君は赤われ白椿 椿 正岡子規
奥ふかく砂しく門や白丁花 無徳「新類題発句集」
女出て沼を見てゐる白暖簾 町田しげき
女郎花尾白の馬をあそばしむ 槐太
如月や海の底ゆく白鰈 桂信子(1914-)
妙な充実白便器に多量の水流し 上月章
妹山の夏めく裾の白瀬かな 田中英子
妻にて候死後の証しの白足袋は 栗林千津
妻の裸身白背掻きやる赤らみぬ 中村草田男
妻子寄り白餅を食ぶ乗のごと 小林康治 玄霜
姿見にむけば白頭昼の凍て 飯田蛇笏 雪峡
娘のつくる白粥匂ひ風邪籠り 城間芙美子
娼婦ゐる木天蓼の葉の白光し 宮坂静生 樹下
嬰も母も灼けし白濤眸にやどす 大岳水一路
子が泣くや満月過ぎの白磧 宮坂静生 山開
子と別る白膠木の紅葉時雨はや 小林康治 四季貧窮
子に抛る白球の線薄紅葉 原裕 青垣
子の血享け紅さす爪や白椿 石田あき子 見舞籠
子守唄やむ白繭のほの明り 櫛原希伊子
季白来ば山に笋掘らんもの 松瀬青々
学僕や出代わる時の白袴 佐藤滴泉
安否まづ嗅ぎ合ふ白狗聖樹の下 香西照雄 素心
安楽死願ふは鬼か白椿 阿部みどり女
安達太良の山はむらさき白秋忌 藤田あけ烏 赤松
宝前の百日白に人憩ふ 高浜年尾
実桜やいにしへきけば白拍子 麦水「葛箒」
実無稲のそゝけ白穂も刈るらむか 石塚友二 光塵
客船に白鵜は近く浮き涼し 大場白水郎 散木集
家々の釜の白飯露深し 石橋辰之助 山暦
家厳は白に紅斑の椿かな 松瀬青々
家捨てし白ねずみたち雪が降る 寺田京子
家郷なり端山に白ナプキンの富士 奈良文夫
家鴨ま白に倚る石垣の乾き 芥川龍之介
寂かなる雨六月の白襖 石原舟月
寂光院の山茶花まろし白深し 市野沢弘子
富士たらたら流れるよ月白にめりこむよ 金子兜太 旅次抄録
富士は/白富士/至るところの/富士見坂 高柳重信
寒の月白炎曳いて山を出づ 飯田蛇笏
寒声やあはれ親ある白拍子 高井几董
寒明けの少しよごれし白孔雀 吉屋信子
寒暮の谿滝白光となり展く 鷲谷七菜子 雨 月
寒月やわれ白面の反逆者 原石鼎
寒月や灯影に冱てん白拍子 飯田蛇笏 山廬集
寒月や路上ピエロの白化粧 仙田洋子 橋のあなたに
寒泳の衆目を負ふ褌(こん)の白 能村登四郎 幻山水
寒泳を了へ雪白のタオル纒ふ 内藤吐天 鳴海抄
寒潮仏みな海女が名の白幟 佐野美智
寒牡丹白光たぐひなかりけり 水原秋櫻子
寒蝉や陰の白毛は秋の霜 栗生純夫 科野路
寒行の白装束や闇を行く 高濱年尾 年尾句集
寒鯉に手叩き寺の白飯粒 中山純子 沙羅
寝積むや耳の穴より白毛出て 吉本伊智朗
寝落ちたる夜陰の畳白団扇 松村蒼石 雪
寝足りたり花隠元の白と朱 阿部みどり女
寺に駆け込むまつ白な捕虫網 川澄祐勝(春耕)
封切つて白折と知り桜餅 石川桂郎 四温
小日向の鷺坂に舞ふ白すすき 石原八束 黒凍みの道
小机の白毫光や去年今年 齋藤玄 飛雪
小江戸に春来て鹿皮白鞣し 加倉井秋を
小走りに続く小走り白鶺鴒 麓 晨平
小雪や月の夜干しの白野菜 細木芒角星
小鳥来る白帝城の空深し 武山愛子
少年よ白たぐひなき兎抱く 大石悦子
尚白の家に会して鮒膾 鮒膾 正岡子規
尼五山のままの竹の香白式部 田中水桜
尼寺や卯月八日の白躑躅 飯田蛇笏 山廬集
尼御前の白足袋濡らす著莪の雨 井口 秀二
尾のながき猫のまつはる白沈丁 横山房子
尾の力抜いて頬白囀れり 堀口星眠 樹の雫
尾白鷲の気配に万の鴨翔ちし 高橋桐子
尾白鷲大岩壁の背後より 高澤良一 燕音
尾白鷲天に流氷きしみ哭く 長谷川史郊
尾白鷲棲みつくに海青過ぎぬ 長沼三津夫
尾白鷲現れ一天のひきしまる 古賀昭子
尾白鷲空手のままに舞へりけり 阿波野青畝
尾白鷲翼大事にたたみけり 久保田重之
尾白鷲雪降るときも止むときも 福島壺春
屏風碑の太陽は白踊子は黒 田村了咲
展望台頬白逃げもせずに鳴く 森田峠 避暑散歩
屠蘇つげば頬白鶲つぎつぎに 黒田杏子 一木一草
屠蘇の座をはなれて仰ぐ白伊吹 近藤一鴻
山の宿襖に止まる白蛾かな 鈴木勘之
山の木は白葉をかへし土用灸 鷲谷七菜子 游影
山の闇吸ひし辛夷の白ならむ 山田弘子 懐
山上の妻白泡の貨物船 金子兜太 金子兜太句集
山上へ闇を縫ひくる白切子 つじ加代子
山吹の白には昔語りなし 後藤夜半 底紅
山吹の白は騒がしからずして 後藤夜半 底紅
山国の夜まっ白に梨の花 酒井弘司
山月を遊ばせて白鉄線花 有働 亨
山梔子の新しき白古き白 山田弘子 螢川
山水のひゞく紫白のあやめかな 日野草城
山水は澄み残心の梅の白 櫛原希伊子
山百合の白にうたれて頭が重し 阿部みどり女
山百合の白の鮮烈爆破点 鷹羽狩行 平遠
山繭の夕営みの白ほのと 加倉井秋を
山若し清水さらりと白茶碗 岡部弾丸
山茶花の白のこぼるる鳳凰堂 近藤明美
山茶花の白ばかりなるこぼれけり 今井杏太郎
山茶花の白より昏るる埴輪群 つじ加代子
山茶花の白をこゝろに喪に服す 大橋敦子 手 鞠
山茶花の白哀しみの母に散る 山田弘子 こぶし坂以後
山茶花の白尋めゆくや石鼎忌 原裕 青垣
山茶花の白見て時間無駄にする 加倉井秋を
山茶花の累ねの白や惜命忌 星野麥丘人
山茶花や亭さしはさむ白と赤 尾崎迷堂 孤輪
山葵のはなのまっ白な仇討ちです 水口順子
山路来て報恩講の白襖 大峯あきら
山遠く白尾の鷹を見送りて 尾崎紅葉
山間に靄立ちのぼり白遍路 吉野義子
山陰の白鱚に割る檜箸 揚石八重子
岩をかむ人の白歯や秋の風 飯田蛇笏 山廬集
岩魚よし白檜の箸よし温泉の宿り 田中冬二 俳句拾遺
岳人のふるさと奥又白は秋 福田蓼汀 秋風挽歌
峯入りのしんがりを守る白脚絆 塩崎 緑
峯雲の白をひとりの哭ののち 友岡子郷 未草
峰二つ踏みきし汗の白脚絆 小島千架子
島の子が跣で走る白秋碑 河野南畦 『元禄の夢』
島栄ゆ鈴なる鴎白珊瑚 横光利一
川の洲に晒の白や梨の花 淡々
川施餓鬼弁当箱に白だんご 水田悦子
川狩や白とびとびに嶺の数 矢島渚男 木蘭
川蒸気船過ぎて 杞柳の白光増す 伊丹公子 時間紀行
巷間や夾竹桃は白に出て 菅家瑞正
師と夫に供ふ彼岸の白だんご 梅田 葵
帰る刻きて白炎の山桜 大木あまり 火のいろに
帰省子の投げし白球頭上で受け 鳥飼土筆
帰郷とは令法の花の白房にあり 金子皆子
幕間に白膠木紅葉を活けもして 竹田小時
干しあげて夏足袋もとの白ならず 室伏文恵
干大根白失ひて海に向く 菖蒲あや あ や
干梅の匂ひて夜目の白怒濤 伊藤京子
干瓢の白縮緬の花の夕 西本一都 景色
干紙の白は清少納言の白 有馬朗人 天為
年々に澄み勝る白百日紅 高澤良一 燕音
年の尾や白朮火赤う見え初めぬ 大谷句佛 我は我
年暮るる干足袋の白空跳んで 殿村莵絲子 花寂び 以後
幸せを編み込んでゐる白毛糸 土橋いさむ
幽けさの定家かづらの花の白 後藤夜半 底紅
幽霊みえて 白ねぎが煮えている 松本恭子
幾穐の白毛も神のひかり哉 向井去来
広々と紙の如しや白菖蒲 星野立子
床の間の一輪の白夏座敷 長谷川通子
庭園をゆっくりと見て白式部 高澤良一 随笑
庭山に頬白の来て又鳴ける 寺田 コウ
庭椅子の白が寒さを呼ぶ頃に 山田弘子 こぶし坂以後
庭稲荷留守なる瓶子真ッ白に 久米正雄 返り花
廣々と紙の如しや白菖蒲 星野立子
廻廊の雨したたかに白椿 横光利一
弓始め射手の少女の白袴 高橋悦男
弔問のハンカチの白蟇鳴けり 鈴木鷹夫 大津絵
弔問や門辺の木槿白極め 大橋敦子
引際の白を尽して葉月潮 岡本眸
弥生卯月と遅遅たり籠に白よもぎ 金子兜太 詩經國風
強東風に掃かるる水鳥の白 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
形代の白にひとしく波がしら 林田紀音夫
彦三頭巾白鉢巻が夜涼呼ぶ 高澤良一 素抱
影の世が見え白芒白芒 鷲谷七菜子 天鼓
彼岸潮白浮かび来て海女となる 鈴木鷹夫 千年
待宵の白張りつめて会下障子 吉野義子
御几帳や尼将軍の白頭巾 高橋淡路女 梶の葉
御手洗をかこむ遍路の白脚絆 森田峠 三角屋根
御沓をぬがせまゐらす白重 雑草 長谷川零餘子
御白洲や膝つきすゑる秋の霜 秋の霜 正岡子規
心ある人のすがたや白重 白重 正岡子規
心算といふ字面白西鶴忌 高澤良一 燕音
念々の白でありけり今年米 清水道子
念仏の渦の中より白すみれ 池田照子
思ひ出すは古白と申す春の人 夏目漱石 明治二十九年
恵方にてことりことりと母白寿 斉藤美規
恵方嶺噴煙もまた雪白に 上田五千石
悼文霞 白炭の骨にひらくや後夜の鐘 蕪村遺稿 冬
惜しげなく沙羅の白寄せ朝の僧 荒川雅夫
愛弟子の頬白鳴かす腹部かな 攝津幸彦 鹿々集
懐に紙重からめ白重 雑草 長谷川零餘子
懐紙白鶯餅の色残る 稲畑汀子
成人の日の白椿一穢なし 五十嵐播水
我が鬢に白毛を噴くも冬の意志 栗生純夫 科野路
戦昨日終る白レース服裾かろし 文挟夫佐恵 黄 瀬
戸口守るごとし白杖朧の夜 村越化石
戸隠の火蛾の白毫朱眼かな 風生
戸隠山の螢見てゐる白狐かな 佐川広治
扇骨の白干しの巨花牡丹咲く 中戸川朝人 残心
手をかがむ白装束や秋の*かや 飯田蛇笏 山廬集
手を重ね寝る月明の白臥床 吉野義子
折からの雪面白や謡初 池松迂巷
折鶴の白ばかりふえ麦青む 坪内稔典
抱き戻る破魔矢の白と京の冷 山田弘子 螢川
抽出しの白足袋の波母老いぬ 小檜山繁子
持ち山を白狐守り蛇の舌古り 八木三日女 落葉期
指にもろき昼顔の白海鳴れり 伊藤京子
指細くしては摘みけり根白草 今泉陽子
据りよき筆立て買へり白秋忌 阿部すず枝
掃き初めて白南天のあたりまで 古舘曹人
掘り上げていぶせき白の野老かな 藤田あけ烏 赤松
揺れて白揺れやみて紅秋桜 中村芳子
摺足に白進み来る能始 高橋睦郎
撓はせて白穂の稲を刈りにけり 八木林之介 青霞集
撫子の八重は一重は緋は白は 会津八一
擦れ違ふ白装束の草虱 羽深美佐子
放心の真昼で白蟻増殖す 森須 蘭
散らぬゆゑ花アカシヤの白汚す 稲畑汀子 春光
散りがての牡丹の白に日を惜む 阿部みどり女
散る花の白より白へうらがへる 坊城俊樹
数の子に父祖の白歯もひゞきけむ 日野草城
文月や豆腐の白にある一偈 野村喜舟 小石川
新しき白を選びて海芋剪る 石井とし夫
新涼やバケツにおろす白雑巾 石川文子
新涼や白楊の葉のうらおもて 岩淵喜代子 硝子の仲間
新涼や白粥を煮る塩加減 久米はじめ
新絹裁つぬめらかな白畏れけり 寺村朋子
新緑のダム白炎の水吐けり 前山松花
新調の白服まぎれてはならず 福井隆子「新調」
新雪に頬白の影聚り来 内藤吐天 鳴海抄
方丈の廂一文字月白に 荒木東皐
旅人に白皆ゆらぐ夕牡丹 近藤一鴻
旅先の雨の白朮火かざしけり 松村多美
日あたれる蒲の白穂辺憩はんか 大野林火
日がさして白ばかりなる走馬燈 藤岡筑邨
日だまりの熟柿に来るやみな眼白 大峯あきら 宇宙塵
日の入りをみている陸の白兎 宇多喜代子
日の障子十一月の白ならん 大井雅人
日の黄道月の白道鷹渡る 福田蓼汀
日は南中に白樫の春落葉 藤田あけ烏
日向ぼこ眼白とる子を妨げそ 大橋櫻坡子 雨月
日向歩む冬の白蝶覚ましつつ 野澤節子
日当たれば溶けさうな白幽霊草 山田弘子 懐
日当りて彼岸寺なり白毫寺 外川飼虎
日月のあかあか椿白椿 高澤良一 宿好
日本的な白で 人影すぎる障子 伊丹公子
日焼け船長白髭殖やし上陸す 佐川広治
日焼子の白尻父に少女めき 石川桂郎 含羞
日盛の潮の汚れに白秋碑 木村蕪城
日盛りや身延詣の白脚絆 神田美穂子
早春の涸川砂は産着の白 大井雅人 龍岡村
早春の遊心白汀を檻と観ず 藤後左右
早梅に早瀬こそ白飛ばすもの 林翔
早梅の白光色の戦火あり 対馬康子 吾亦紅
旭光に枝張る霧氷白珊瑚 福田蓼汀
昇る日の先づ白れんを捉へけり 笠 慶子
明け易き夜をおもしろの白拍子 明け易し 正岡子規
明の月白ふの鷹のふみ崩す 鷹 正岡子規
昏れそめて累卵の白クリスマス 竹腰千恵子
昏れてより白を極めぬ花みづき 加賀谷硯子
昏睡の海にただよふ白菖蒲 石寒太 炎環
星のこる欅頬白の鳴きそめぬ 原 柯城
星生る百日白の花の上 粟津松彩子
星白の馬青麦に立ち向かせ 汀女
春の土白足袋で踏む鬼まつり 木下きよ子
春の地震白鶏百羽揺すりたる 高澤良一 ねずみのこまくら
春の夜の夢をさますや白拍子 春の夜 正岡子規
春の夜や船へ召さるゝ白拍子 春の夜 正岡子規
春の宵白鳩の尾に影たまる 四ッ谷 龍
春の日や卒寿白寿と先長し 藤田湘子 てんてん
春の灯に白足袋をぬぐ疲れかな 久米正雄 返り花
春はまた白ふくろふの赤子かな 木村敏男
春や昔古白といへる男あり 正岡子規
春光や白猫に透く肉の色 浅生田圭史
春光を白樺白として受ける 手塚基子
春分の湯にすぐ沈む白タオル 飯田龍太
春北風白嶽の陽を吹きゆがむ 飯田蛇笏
春夜泣くカスタネットの白腕 文挟夫佐恵 雨 月
春天をふり仰ぐ白歯とぢまけて 飯田蛇笏 山廬集
春寒や編めば汚るゝ白毛絲 久米正雄 返り花
春日無心鼻おぼめかす一白兎 中村草田男
春日若葉みこは白絹あまき酒 中勘助
春日野の白蛾舞ひ来る薪能 中村富子
春昼や尼ぜの下駄の白鼻緒 高濱年尾 年尾句集
春暁のまつ白な掌を窪にする 平井照敏 天上大風
春暁の鵯が落とすは白椿 大峯あきら 宇宙塵
春泥の敷藁にほふ清白寺 土屋なつ
春浅し白兎地をとぶ夢の中 飯田龍太
春窮やよごれ飼はるる白孔雀 下村槐太 光背
春落葉焚いてけぶれり白毫寺 下里美恵子
春障子白鶏高く枝に乗る 長谷川かな女 花 季
春雨や車を下りる白拍子 春の雨 正岡子規
春風のちぎれて鶏の白散れり 太田土男
昭和は過去白りんだうの先充つる 松村多美
昼の虫債鬼白皙なれば憂し 小林康治 四季貧窮
昼吸ひし白光を吐き夕牡丹 山口青邨
昼寝覚六牙の白象降り佇ちて 高澤良一 随笑
昼月の白じろと枯れ木立中 阿部美恵子
昼月の白よりこぼれ淡雪に 水田むつみ
昼月や白木の鵜舟白緒結ひ 吉野義子
昼深く東司の窓の白躑躅 瀧 春一
昼醒めて春雪の白たてよこに 沼尻巳津子
時価とある白焼うなぎ肋撫づ 石川桂郎 四温
時鳥夜を白鬚の白みけり 時鳥 正岡子規
晒菜升麻白狐のごとし霧がくれ 古賀まり子
晩学にごろごろと白瓜のあり 藤田あけ烏 赤松
晩年やきつぱりと白花菖蒲 吉岡泰山木
晩白柚ごろり施錠岩屋の前 鈴木明
晩白柚叩いてその句褒めてをり 中戸川朝人 尋声
晩白柚美童と一夜ゐるごとし 大石悦子 百花
暁けてゆく障子の白に秋来る みどり女
暗きより潮さしくる白切子 佐野美智
暮しの中の波音烏賊の白乾され 鈴木六林男 第三突堤
暮れぎはの白増すごとく花なづな 木内怜子
曇り日の稲刈あとの白野菊 中拓夫 愛鷹
曇り日の花を重ねて白菖蒲 渡辺 立男
曇天へまづ白点や辛夷蕾む 香西照雄 素心
曉剪る名「はつあらし」白椿 吉野義子
曙や眉墨匂ふ白重ね 白重 正岡子規
曲水や白拍子の太刀梅に触れ 平田羨魚
曳山の白幣逸りたつ桜東風 つじ加代子
書初におろす白穂の奈良の筆 きくちつねこ
曼珠沙華白は文珠の知恵の彩 長野澄恵
月(しまぼし)よ 白粥谷のふりむきに 折笠美秋 虎嘯記
月は珠雲の白竜これをとる 荻原井泉水
月上げて白を彩とす冬の滝 町田しげき
月光にかたち崩さぬ白薔薇 石嶌岳
月光に白曼珠沙華反りはじむ 黒田杏子 花下草上
月光に花びら傷め白菖蒲 岡田日郎
月光もいくとせかみし白団扇 渡邊水巴 富士
月光も幾年か見し白団扇 渡辺水巴
月前や四月八日の白つつじ 飯田蛇笏 椿花集
月明や白光流れ真葛原 武田玄女
月照るや両岸氷る南白亀川 前田普羅
月白に姿見せ初め記念館 稲畑廣太郎
月白に月の使者の灯ありありと 上田日差子
月白に祈りて心乱すまじ 河合正子
月白に色生るるもの消ゆるもの 後藤比奈夫 花匂ひ
月白のダンスシユーズを脱ぎにけり 岡田詩音
月白の亀の大きくなりさうな 斉藤夏風
月白の少年牛を引き帰る 善積ひろし
月白の戸口にゐたり聖書売 辻桃子 花
月白の森黒々と発光す 横井理恵
月白の楽器の坂と思ふべし 山西雅子
月白の濃くなりまさり月に消ぬ 篠原梵 雨
月白の稲にぬくもりありにけり 東野照子
月白の虎の衣裳をたたみをり 辻桃子
月白やこの道母のくにに向く 児玉輝代
月白やふわりと跳べるトウシユーズ 石井秀子
月白や人驚かす鯛の引き 宇佐美魚目 天地存問
月白や大阿蘇吹きて空濁る 有明むつごろう
月白や指などからむ遊びせむ 熊谷愛子
月白や瀧の真上の幣吹かれ 黒田杏子 花下草上
月白や猫ねんごろに身を舐めて 降旗牛朗
月白や花火のあとの角田川 花火 正岡子規
月白や讃岐の山のうねりだす 今井誠人
月白や関帝廟の屋根の反り 鈴木千恵子
月白や音を繰り出す水車小屋 山本恵美子
月白を北へ一遍ほかの者 黒田杏子 花下草上
月祀るための白足袋替へにけり 青木まさ子
月蝕や笠きて出たる白拍子 月 正岡子規
月見草白沙を神の御前まで 前田普羅 能登蒼し
有明の四條を渡る白拍子 有明 正岡子規
朝かげやすこしほぐれて白菖蒲 長谷川櫂 古志
朝の樹々眼白のこゑの降るごとし 根岸善雄
朝凪の渦のはじめの白走り 北川英子
朝寒や白粥うまき病上り 草城
朝寒や禰宜のさゝぐる白和幣 朝寒 正岡子規
朝市や解けば荷の中白菖蒲 高木聡輔
朝曇白足袋はいて出でにけり 増田龍雨 龍雨句集
朝顔のをはりの白を海士の家 川崎展宏
朝顔の白に紫紺にちんちろりん 林原耒井 蜩
朝顔の白や叔母来る咳ばらひ 鈴木鷹夫 大津絵
朝顔の白を咲かせて無欲なり 桜木俊晃
朝顔や雷の絶えまの白浅黄 渡邊水巴
朝顔白咋日逢つても今日逢ひたし 鈴木栄子
朧夜の白絹に置く一分金 井上康明
朧夜の鶏が夢見る白世界 能村研三 騎士
木の芽風燈台白をはためかす 桂信子
木天蓼の白葉吹かるる魂送り 沢田まさみ
木曽谷の素白の石の淑気かな 山上樹実雄
木枯の川引きよせて白蒲団 齋藤愼爾
木枯を秘色としたり白襖 齋藤愼爾
木槿散り白犬交る地のほめき 宮武寒々 朱卓
木槿白花おのおのはなれおのおの咲き 阿部完市 軽のやまめ
木洩れ日に白惜しまずよ鉄線花 石田あき子 見舞籠
木犀の落葉掃きけり白丁花 常磐木落葉 正岡子規
木犀や乾漆佛の白光し 宮坂静生 雹
未知と云ふ白の重さや初日記 田中玲子
本尊は榧の一木白椿 村上あけみ
朱欒垂る白秋生家川沿ひに 宮地美保子
朴や白恋の山霧しげきかな(湯殿山) 河野南畦 『広場』
杉垣に眼白飼ふ家を覗きけり 寺田寅彦
杉山を出てゆく蝶や白一筋 青柳志解樹
杉皮を剥げば杉舞茸の白 茨木和生 遠つ川
来る年へ山また山や白連ね 村越化石 山國抄
来る鳥に潮気もらひて白桜 吉本伊智朗
東風に照る白毫堂の荒るるまま 亀井糸游
杵一吐こねどり白陀草餅搗く 八木林之介 青霞集
松かぜにぼうたんの白菩薩かな 藤田あけ烏 赤松
松に垂るる白藤が白鬚の明神の松 荻原井泉水
松の根を白足袋の行く涅槃かな 鈴木鷹夫 春の門
松影や夕栄え着なす白重ね 吉武月二郎句集
松籟や馬上の人の白襲 竹内尚子(草苑)
松茸を白象様へお福分け 高木晴子 花 季
松蝉をいきなり啼かす白毫寺 上田五千石 森林
松風や白犬細うすぎにけり 芥川龍之介
林檎園千摘花して千の白 加倉井秋を
枝垂れ桃白のきはみを池映す 石川桂郎 四温
枯れ尽す桐に風鳴る白秋忌 中島寿美
枯山に生れて滝の白秀づ 伊藤京子
枯山の上に忽として一雪白 栗生純夫 科野路
枯芝に白猫飛ぶや黙読す 中拓夫 愛鷹
枯草原白猫何を尋ねゆくや 石田波郷
枯野来し白ハンカチに折目あり 神尾久美子 桐の木以後
枳殻の実の金色に白秋忌 三吉美知子
柊挿す卯の一白は浮気星 稲垣きくの 牡 丹
柳挿すやしばし舟押して白腕 飯田蛇笏 山廬集
柳鮠白秋もかく遊びし子 阿部小壷
柿干して一城の白映ゆるなり 舩山東子
柿落葉白毫寺坂を急にせり 米沢吾亦紅 童顔
栂を出てあそぶ良夜の白蛾あり 飯田龍太
栞はさみあるふみをひらく白薔薇に 鈴木しづ子
根白草けさ晴れわたる水の上 児玉輝代
根白草ばらまかれたる薄日かな 井出渉
根白草仏の山の日だまりに 高木良多
根白草摘みに靄立つ泉まで 古川芋蔓
根白草摘み来し妻の手が匂ふ 安住敦
根白草雉子酒の微醺残りけり 山県瓜青
根開きの靄立つ梢の尾白鷲 畠 友子
桃の日を白瀬の照りのなかにをり 斎藤梅子
案山子の白つぽいのを立てゝもう帰りゆく阿爺 中塚一碧樓
桐一葉麦屋踊りの白だすき 前田時余
桑の葉のひしひし暮るる白団扇 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
桔梗の白の切り込みくるひなく 龍男
桔梗や白紫のほかは無く 尾崎迷堂 孤輪
桜々帰りは酔ふて白拍子 桜 正岡子規
梅が香や流行(はやり)出したる白博多 井上井月(1822-86)
梅の白散れるそこより耕せり 太田土男
梅便り昨日白球便り今日 今坂柳二
梅干すやおどろの髪に白手拭 原石鼎「花影」
梅干や汐風越して千鳥の白調 幸子 選集「板東太郎」
梅白を張る成満の僧迎へ 毛塚静枝
梅白を枝にちりばめ建国祭 西村公鳳
梅雨のれん白に白置く浄め塩 平井さち子 紅き栞
梅雨の蝶黄は舞ひ白は沈みけり 信清愛子
梅雨寒の朝の白粥命愛し 伊東宏晃
梅雨山中白茫々の狂ひ滝 岡田日郎
梅雨暗しスピッツの白沈みゐて 今泉貞鳳
梔子やみどり子の白怖しし 文挟夫佐恵 雨 月
梟に白装束の夜の富士 有働亨
梟や闇のはじめは白に似て 齋藤愼爾
梨を食ふ白歯さびしや子無妻 森川暁水 黴
梨散るよ白濤の生む風のつづき 大野林火
梨花と梨花白極まりて触るるなり 林翔 和紙
梨花の冷え手術の足の白枕 中戸川朝人 残心
梨齧る児に真つ白な永久歯 丸山依子
棹さすは白寿の三鬼花筏 佐藤鬼房
椋鳥仰ぐみな白襟の女学生 中戸川朝人 残心
業車まわし花朴よりも白 和知喜八 同齢
楮全き白に晒して初仕事 毛塚静枝
極めたる色の白なり冬の星 高石幸平
極月の礼拝堂の白扉 有光令子
楽きけり白蛾はほそき肢に堪ヘ 篠原鳳作 海の旅
樹上にて魚を割きたり尾白鷲 滝沢伊代次
樹氷林白を豪華な彩と知る 福田小夜
樹海の果て白照るリーフ見ゆるのみ 金子兜太 少年/生長
次は三鷹職安日本白蟻研究所前です 田川飛旅子 『邯鄲』
此頃は薄墨になりぬ百日白 百日紅 正岡子規
武蔵野の尾花に入るか大白熊(はぐま) 椎本才麿
歩かぬと寒いよ白の落椿 池田澄子
歩をゆるめ木槿の花の白感ず 村越化石 山國抄
死が残す地鳴りに浮きぬ夜菊の白 加藤知世子 黄 炎
死なば五月一羽の白鶏従へて 加倉井秋を 『隠愛』
死にたれば白から白のうすごろも 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
死に怯えおり夕顔の白に和し 長谷川草々
死はときめき白椿の半開き 鳴戸奈菜
母がもぐ白繭黄繭露の中 石原八束 『秋風琴』
母に呼ばるるごと山茶花の白に寄る 大串章
母の忌の円描き重ね白蛾とぶ 原コウ子
母の汗拭へば終の白額(八月三日寂行年八十六歳) 野澤節子 『八朶集』
母の白父の紺あさがほひらく 久保山敦子
母の辺の祷りに白蛾たちのぼる 桂信子 黄 瀬
母系家族は白のあけくれ油照 長谷川双魚 風形
毒蛇を見し山百合の白を見し 山田弘子 螢川
比良に雲げんのしようこは白なりき 吉岡三枝子
毛衣の雪白他の子の上ぞ 石塚友二 光塵
気前よし鈴蘭狩の白束ね 依田明倫
水あまき寺にてありし白はちす 上村占魚 鮎
水うまき国の夕べの根白草 伊藤通明
水かげろふに棹さして白秋忌 植村通草
水ぎはは白にてぞあれ杜若 井上井月
水くぐり夜は白鯉と遊ぶかな 桂信子 草樹
水したたるごとくにしだれ梅の白 野澤節子 黄 炎
水なめてからのこれから白兎舞(しらうさまい) 阿部完市 軽のやまめ
水にさす白服の翳露の秋 石原舟月 山鵲
水に添はばまた名もあらむ白ぼたん 千代尼
水のごとき夜を愉しめり白上布 石原舟月
水の辺や散れば白蛾も花に似て 金箱戈止夫
水よりも風の冷たし根白草 角納金城
水を揉み落とす深雪の白竜頭 岡田日郎
水仙は怯まざる白怒涛音 西谷 孝
水仙やいざ白足袋を履きかえて 鈴木美智子
水仙やゆかしがらるゝ白拍子 水仙 正岡子規
水屋より師匠のくさめ白椿 鈴木鷹夫 春の門
水巴忌の白菊白に徹しけり 松田碧霞
水平に水平に白蔓珠沙華 小宅容義
水思ふとき白面の椿落つ 中川須美子
水洟の富士の白毫久しかり 齋藤玄 飛雪
水満たし淑気に締まる白薩摩 田中英子
水源へ山葵の花の白つどふ 羽部洞然
水激し白を現ぜよ樹々芽ぶく 香西照雄 素心
水無月や白塀に径岐れては 神尾久美子 桐の木以後
水盗みつゝ白飯の炊けて来し 萩原麦草 麦嵐
水脈一筋真向きに鴎の白ひらく 成田千空 地霊
水芭蕉としてのみどりと白なりし 嶋田一歩
水草に白楼ひくき門もてり 橋本多佳子
水面より白澄みのぼる水芭蕉 和布浦喜代
水面胸面に辛夷の白が揺れて揺れて 折笠美秋
水鳥の白ははの死を告げに行く 中島恭子
水鳥の眠りにまじる白枕 藤井孝子
水鶏啼く夜の白凪に打たれけり 臼田亜浪 旅人
水鶏啼く黎明(しののめ)庵の白襖 中川宋淵
氷像に白詰まりけり浅間透き 西本一都
氷塊を爪に殺して尾白鷲 深谷雄大
氷湖ゆく白犬に日の殺到す 岡部六弥太
氷眠の山もあるべし白菫 大木あまり 雲の塔
氷菓工場出でても工女白づくめ 野澤節子
永病まず逝きし父なり白毛布 伊藤京子
汗し集いて母らは白と紺満たす 赤城さかえ句集
汗たれて白粥吹きぬ生き得たり 石田あき子 見舞籠
汚れざる白といふ色花菖蒲 細江大寒
汚れなき白はまぎれず蝶の昼 稲畑汀子 春光
汚れ犬白尾がゆたか枯芒 香西照雄 素心
汝が禿びし指もてとぼす白切子 村越化石
決闘にゆく綿虫か白マント 堀口星眠 営巣期
沖に顕つ五月白嶺婚の唄 平井さち子 鷹日和
沖を走る波の白兎や柿接木 中拓夫
沖波とつばなの白と暮れてあり 森 澄雄
沖白浪切子の白に重ならず 近藤一鴻
沙庭にはあんくうどでで白膠木るゝ 加藤郁乎
沙羅の木に添うて白蛾の柱立つ 大坪景章
沙羅の花踏み白面の僧なりし 小倉由紀
沙羅ひらく晴れの白より雨の白 卯之木智子
沙羅一花浄土に白を還しけり 三浦正弘
沙羅仰ぐ 口端 自ずと 花白の語 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 夢見沙羅
沙羅落花して白汚れなかりけり 稲畑汀子
沙羅落花白の矜持を失はず 大高霧海(風の道)
沢蟹に白頭映す家郷かな 金子兜太 皆之
河童忌の白鷲に雨しぶきをり 堀口星眠 営巣期
河豚ばかり釣れて白兎の秋の濤 川澄祐勝
法の山桜の花の白光す 石井いさお
法体のあどけなき貌白襲 茨木和生 三輪崎
法起寺の塔赤椿白椿 星野立子
泡立ち草みな白面で擦れ違う 上林 裕
泥鰌鍋のれんも白に替りけり 大野林火
泳ぎ来し身の素直なり白タオル 櫛原希伊子
洋館に祖父の世の風白薔薇 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
洗ひ薤ひと夜に伸ばす芯の白 亀村佳代子
洗ひ髪夜風に吹かれ白を増す 鎌居千代
流れ藻に白花いづこの便りかな 一ノ瀬タカ子
流木や白鳥の白冷まじく 殿村莵絲子
流氷の海に日の落つ尾白鷲 大森三保子
流氷の点晴として尾白鷲 和久田隆子
流氷を青と見白と見独り酒 石川桂郎 高蘆
流氷期湯浴児くるむ白タオル 大平照子
浄白は黄泉の色かも月見草 小松崎爽青
浅黄とも白ともつかぬ袷かな 袷 正岡子規
浜どんど渚の白を浮きたたす きくちつねこ
浦島草蕭白好みの画材にて 高澤良一 鳩信
浪裡白跳河童の多見次ほとゝぎす 久保田万太郎 流寓抄以後
浮寝していかなる白の冬鴎 森澄雄 浮鴎
浮寝鳥覚めて失ふ白ならむ 後藤比奈夫 花匂ひ
浴後の雪行白ひろき書を繰りつ 中戸川朝人 残心
海のなき国紫陽花の白がちに 川崎慶子
海を見る秋の白服とは佳かり 福井隆子
海光に白を尽くして冬桜 舘岡沙緻
海暮れて風の変はれり白切籠 井上 雪
海棠の雨が止んだり白雫 高澤良一 寒暑
海蝶のふたつあはれや白と白 富沢赤黄男
涅槃会の燠白じろと果てにけり 川村祥子
涅槃図の白を余して慟哭す 相良哀楽
涅槃西風胸毛に白の容赦なく 加藤 学
消る雪の味やとゞまる根白艸 松岡青蘿
涼しくしづか白繭に音こもりゐて 高島 茂
涼しさや水楼を下る白拍子 涼し 正岡子規
淀殿の墓山梔子の白似合ふ 池田とみ子
淡墨桜の白の崇さに洗はるる 田中水桜
淡墨桜風立てば白湧きいづる 林火
淡路忌の一輪ざしに白椿 田中房子
深く捲き尖る白薔薇自省勝ち 香西照雄 素心
淵に映る紅や撫子白や何 島村元句集
混沌の世の一隅の白椿 吉野義子
清少納言に白花菖蒲ほどな恋 草深昌子
清水のんで立つ白ズボン草の中 大橋櫻坡子 雨月
清水諸白涼しきゆへに其の名をうる 吉林 選集「板東太郎」
清純が誇りコスモス白ばかり 大熊輝一 土の香
渓の虫団扇の白を恋ひとまる 阿部みどり女
渓流の藍にも染まず白鶺鴒 石田あき子
渓谷を渡り白蝶夢こぼす 山ノ内治一
渡殿は百日白に折れ下る 山田弘子 こぶし坂
温泉の丘の頬白とまる桑の先 飯田蛇笏 椿花集
湖さむくホテルの白は招かぬ手 大井雅人 龍岡村
湖に向け素面の白の種案山子 上田五千石
湖ほとり柳は芽持つ白描画 高澤良一 鳩信
湖国ゆく始終うしろに白伊吹 高澤良一 燕音
湧水につどふ眉白谿の風 吉見京子
湯口に踊る白繭小春の糸を繰る 古沢太穂 古沢太穂句集
満地落花なほ片々の白加ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
滝おとを白と思ひぬ薄暮かな 富川明子
滝の前白粥をふきはじめけり 阿部完市 軽のやまめ
漂泊の大根咲けり白秋碑 殿村莵絲子 花寂び 以後
潮がはり白鱚の食ひ止まりけり 田島 秩父
濁世熱し和尚赤裸々所化白裸々 暑 正岡子規
濯ぎしもの白づくめなる虫の闇 中山純子 沙羅
濯ぎ女に白鶺鴒のはしりけり 友岡子郷
火の島の白濫費して袋掛 加倉井秋を 『欸乃』
火を消して寂寞の白走馬燈 能村登四郎
火取蛾に電球の白極まれり 高澤良一 寒暑
火祭の白足袋凍てし土を踏む 金田義子
火薬工場の真昼眼帯の白現われ 杉本雷造
火袋に生きて白蛾も涅槃衆 野澤節子 遠い橋
灯だんだん暁けぐむ白気涼しみぬ 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
灯をめざし白蛾のやうな雪がふる 佐藤公子
灯を消して逃がす白蛾よ友逝けり 伊藤京子
灯台の一徹の白初景色 片山由美子
灯台の白たちあがる夏岬 佐藤信子
灯台の白のしたしき牡蠣の旬 友岡子郷 風日
灯虫落つ卓布は白を惜しまざる 波多野爽波 鋪道の花
炎ゆる日の頬白鳴くも焼罪跡 下村ひろし 西陲集
炎天の浜白泡を長く保つ 右城暮石 上下
炎天の海見たき日の白帽子 伊藤京子
炎天の白皚々の塩湖かな 森田峠 逆瀬川
炎天の軸とし立てり孤寥の白 小松崎爽青
炎天はるか来し白象の礼をなす 大山安太郎
炎帝や白寿の父の葬の列 黒田京子
炭焼きの小屋に白粥ふつふつと 辻岡紀川
炭焼の小屋に白粥ふつふつと 辻岡紀川
烈風の辛夷の白を旗じるし 殿村菟絲子 『樹下』
烈風の青空白足袋だけを干す 川島千枝
烏の子白は不徳と教へられ 堀切武雄
烏帽子着て送り火たくや白拍子 送り火 正岡子規
焔をつつく白朮の縄の尖ともる 丸山海道
焚く煙の白透明に秋立ちぬ 大熊輝一 土の香
熊出づる夕崩せし白豆腐 長谷川かな女 牡 丹
熔接の白光へ顔梅雨のドック 古沢太穂「火雲」
熟るゝ柿*もぐにもあらず白婦人 吉良比呂武
熱の子に白粥煮ゆる二日かな 永島理江子
熱の子の冬夜の白の濡れタオル 大井雅人 龍岡村
燃ゆるてふ白のあるなりシクラメン 芳野年茂恵
燃ゆる如きつゝじが中の白つゝじ つつじ 正岡子規
燈台の曳くえぞにうの白裳裾 原柯城
燈台の白染める陽よ多佳子の忌 桂信子 花寂び 以後
燈台は白に徹せり酔芙蓉 山口超心鬼
燈籠にはや灯を入れよ白栄えす 林原耒井 蜩
爪白の石のあはれや秋の霜 上島鬼貫
爪立ちて生く朝顔の白ばかり 千代田葛彦 旅人木
父の情はあらはに出さず水引白 成瀬桜桃子 風色
父の死顔そこを冬日の白レグホン 森澄雄 花眼
父母会に臨む白服着たりけり 樋笠文
父穿きし白足袋穿きし記憶なし 後藤比奈夫 めんない千鳥
爽やかや丹後松島白渚 鈴木しげを
爽雨忌の白皙に朴残花あり 井沢正江
片寄せられ等外の菊白ばかり 高澤良一 ねずみのこまくら
片白の何をたくらむ半夏生草 松岡心実(橡)
片白草や風土記の丘に土饅頭 小高正子
片白草式部職なる鵜匠の家 田中英子
片白草花立ち鑑真和上の故地 北野民夫
牛喰つて水際白の百日紅 吉田紫乃
牛守の古稀の白髭おぼろかな 太田土男
牡丹の白に触るべき指は持たず 稲垣きくの 牡 丹
牡丹の白の重たきとのぐもり 齋藤玄 『狩眼』
牡丹ほのぼの白と定まる蕾かな 松村蒼石
物欲らぬ母に初湯の白肌着 山上カヨ子
犬の眼の風を見てをり白菖蒲 鈴木鷹夫 渚通り
狂うなら今と白椿が囃す 大西泰世 世紀末の小町
狂言白(もう)さく鼻腔饐ゆれば天地酸しと 竹中宏 饕餮
狐舎の径白膠木の紅葉赫と燃ゆ 水原秋桜子
独り尼藁屋すげなし白躑躅 松尾芭蕉
独楽の紐よりも白朮の縄やさし 後藤比奈夫
独楽の辺の猫の白腹また睡し 中拓夫 愛鷹
独活きざむ白指もまた香を放ち 木内影志
猫が吐きそして茶の花の白の早起き 阿部完市 軽のやまめ
猿の白歯秋蚊に剥いで哀れかな 島村元句集
猿楽と申すは白の夜なりけり 毛呂 篤
獣の匂ひして白兎やはらかし 木塚眞人
玉虫をつけ行乞の白脚絆 南 典二
現身を真つ白にする蜃気楼 下山光子
琴糸に白繭の冷こもるなり 吉野義子
生えかはる歯のまっ白にみかん吸ふ 満田春日
生き過ぎて卯波の白をまぶしめり 沢木欣一 遍歴
生活の確かさ白足袋乾き切る固さ 中村明子
生涯の大喜利へ梅白極む 都筑智子
生身魂白蚊帳にとく寝ねたまふ 下田稔
産み呆けた白鶏に着せるものがない 新井哲囚
産んで来て白高靴にまたも載る 鷹羽狩行 遠岸
田のしめり踏んで運ぶや餅の白 鷲谷七菜子 花寂び 以後
男なり小菊ながらも白を咲く 菊 正岡子規
男鹿に冬ながし白皙の流木群 能村登四郎 合掌部落
町中に提灯を吊り白秋祭 井山幸子
畳紙の紙縒りの固き白重 宮野やよひ(*ろうかん)
病みぬけし胸に白矢さす初日かな 石田波郷
病よし医師の白足袋目にしるく 島村元句集
病上り白足袋ゆるく人と逢ふ 野澤節子 黄 瀬
病葉や学問に古る白浴衣 原石鼎
痩牛の白昂然と冬田鋤く 有馬朗人 天為
白(はく)牡丹といふといへども紅(こう)ほのか 高浜虚子(1874-1959)
白*かやに髪のもつともけぶるらん 大石悦子 聞香
白がさねにくき背中に物書かん 蓼太「蓼太句集」
白がねの寒満月の面てかな 粟津松彩子
白がねの濤音ばかり年惜しむ 大村フサエ
白がねの目ぬきやさしや藤袴 浜田酒堂
白がねの砂の乾きや福壽草 会津八一
白がねの耳環や秘むる頭巾かな 楠目橙黄子 橙圃
白がねの背くらべかな霜柱 持田子
白ぎくと黄菊のまさり劣りかな 久保田万太郎 流寓抄
白ぎくにとどく莨のけぶりかな 蒼[きう]
白ぎくや三旬の家居をしからず 日夏耿之介 婆羅門俳諧
白ぎくや籬をめぐる水の音 二柳
白げしや片山里の濠の中 太祇「太祇句選」
白じらと菊を映すや絹帽子 芥川龍之介
白じろと風渡るなり蕎麦の花 高橋淡路女 梶の葉
白すぎる一日は魚の眼かな 幅田信一
白すぎる一日季節なき窓を拭く 吉川真実
白すぎる女の素足夕薄暮 的場秀恭
白すぎる雪降りゐたり母の墓 瀧澤宏司
白すすき吹かれけむりて地に昏るる 八束
白すみれ紫すみれ喪明け未だ 三田きえ子
白たへに花や桜の枝くばり 立花北枝
白たへの塑像いだきて海の旅 篠原鳳作 海の旅
白たんぽぽこの孫僧になると言ふ 小澤満佐子
白つつじきのふは弾みゐしこころ 樋笠文
白つつじこころのいたむことばかり 安住敦
白つつじ奏者それぞれ試し吹く 友岡子郷 風日
白つつじ小さきはたごに夕べ来ぬ 阿部みどり女
白つつじ挿して大山崎の庵 後藤夜半 底紅
白つつじ純情にさへ個性無し 香西照雄 対話
白つめくさいちめん水上バス乗り場 高澤良一 燕音
白つゝじまねくやうなり角櫓 服部嵐雪
白つゞり始めし雨の花卯木 今橋眞理子
白づくめなる燈台に炎暑来る 森田峠
白づくめの病褥もまた冬用意 能村登四郎
白づくめ灯台立ちて炎暑来る 森田 峠
白という孤独運動靴の少年 高階健一
白といふさびしさ冬日の下着売 岡本眸
白といふしづかな色の紙を漉く 大崎ナツミ
白といふはじめの色や酔芙蓉 鷹羽狩行
白といふ厚さをもつて朴開く 富安風生
白といふ未知なるものよ日記買ふ 庄野よしみ
白といふ本当の白雪柳 福島テツ子
白といふ気の張る帯に汗かけず 田畑美穂女
白といふ激しき色に瀧躍る 森本之子
白といふ終ひのいろして花辛夷 長谷川双魚 『ひとつとや』以後
白といふ色とも違ふ春障子 本庄登志彦
白といふ色に疲れて棉を摘む 宮木砂丘
白といふ色の段階葛さらす 西村旅翠
白といふ色をたためる扇かな 深川正一郎
白となる前のさみどり山法師 河野美奇
白と云ふ艶なる色や寒椿 浩山人
白と化し枯野出られぬ新聞紙 加倉井秋を
白と決めし死までのいろや大牡丹 伊藤松風
白と白布とそしてきつね狩るなり 阿部完市 春日朝歌
白と白重ね無月の皿小鉢 竹内順子
白と見し黄と見し花の忍冬 前内木耳
白と黒もみにもみあふ野分霊 阿波野青畝
白にして薄くれなゐや帰り花 東洋城千句
白に咲く朝顔恋はもつるゝよ 清水基吉 寒蕭々
白に徹して白鳥の気品かな 長田等
白に敏き肌や障子を貼りし夜は 櫛原希伊子
白に白重ね形代納めけり 落合水尾
白に酔ひくれなゐに醒め梅の中 手塚美佐 昔の香
白のまぶしさレグホン百羽夏野に飼ふ 加藤楸邨
白のみでとほすハンカチの我鬼忌かな 石川桂郎 四温
白のみの夜濯ぎことば家に置く 寺田京子 日の鷹
白の原種蓮とゆきかい乳歯落つ 安井浩司 赤内楽
白の子に日本海野菊咲き 古舘曹人 能登の蛙
白の帷子を着る愧るところなくゐたり 梅林句屑 喜谷六花
白の秋シモオヌシモンと病む少女 高篤三
白の郭公森を荒しけり 堀口星眠 営巣期
白はけむるいろ 陸中真昼の 朴の花 伊丹公子 山珊瑚
白はちすうすけむらひてあきらけき 石原八束 空の渚
白はちすゆふべの雨を帯びてあり 滝井孝作 滝井孝作全句集
白はちす夕べは鷺となりぬべし 三好達治 路上百句
白はちす手のとどきたる匂ひかな 加藤知世子
白はちす濁流沖をおしながる 石原八束 空の渚
白はちす目覚めむとする薄瞳して 上野さち子
白は供華赤は書斎に秋薔藪 稲畑汀子 汀子第二句集
白は強すぎる色 体操服の少女 伊丹公子 陶器の天使
白は白く五月光れるセルロイド 長谷川かな女 牡 丹
白は目に涼し夾竹桃さへも 稲畑汀子
白は鷺柩のごと冬沼の詩は嫁ぐ 橋本夢道 良妻愚母
白は黄に花を譲りて野の晩夏 吉村ひさ志「ホトトギス名句集」
白ばえて岬の鼻に風もなし 内田百間
白ばえに曉めく街の鶏音かな 富田木歩
白ばらやピアニッシモの恋心 千田知都子
白ばらを抱けば裏心身に疼く 古市絵未
白びやうし兄のすまふにかくれけり 大江丸
白ぼたん崩れんとして二日見る 成美
白ぼたん覚醒という言葉ある 星野一郎
白や赤や黄や色々の灯取虫 火取虫 正岡子規
白ゆかた飢ゑいつしかに忘じたる 宮田正和
白ゆふのはしぎれをかし汗とりに 野村喜舟 小石川
白れむに夕日の金の滴れり 臼田亞浪 定本亜浪句集
白れむやあしたの霜を語り過ぐ 臼田亞浪 定本亜浪句集
白れんげ燃えたつ昼をひとり鬼日向の芝にうしろ向きおり 馬場あき子
白れんに月深海のごとくあり 矢島渚男 梟
白れんに道小川のごとくあり 齋藤愼爾
白れんの成れの果也平家琵琶 津田将也
白れんの日和や宰相病むと云ふ 小西蕗生
白れんの羽二重明りのなかにかな 柿沼盟子
白れんの花の吹雪よ父母は老ゆ 小檜山繁子
白れんや家一軒の建ち上る 宮脇幸子
白をもて一つ年とる浮鴎 森澄雉
白をもて喪のいろとなす野梅かな 大石悦子 群萌
白をもて神に仕へる氷室祭 吉江テルヨ
白を失ふ鶏のだんまり冬の霧 星野沙一
白を愛で薄紅愛でる花水木 岡村容子
白を着て俄かに腕の細りたる 松本陽平
白を着て風の辛夷と昏れのこる 渋谷道
白を足す立秋の海かがやいて 浅井恵美子
白オール翼と構へ少女待つ 香西照雄「対話」
白ズック祭の日よりおろしたる 細見綾子 黄 炎
白タイルまでを導く蝶番 宇多喜代子
白ハンカチ青春は畳みこんで置く 蔦 悦子
白ベレー大和しぐれに濡れてをり 佐川広治
白一衣まとふ雲逝く涅槃空 林昌華
白一途もて舞ふ冬の鴎かな 池田秀水
白丁(かくちょう)の根に吹きまくるあられかな 支考 俳諧撰集「有磯海」
白丁(よぼろ)らの顔の小さき賀茂祭 後藤夜半「翠黛」
白丁に随ふ賀茂の牛童 後藤夜半 翠黛
白丁の如くに水に杜若 上野泰 佐介
白丁の組む脚細し享保雛 上野さち子
白丁の顔の小さき賀茂祭 後藤夜半 翠黛
白丁らの顔の小さき賀茂祭 後藤夜半
白上布むかし時間のゆつくりと 永方裕子「洲浜」
白上布よく新涼にたへにけり 久保田万太郎 流寓抄以後
白上布似合ふ二枚目盆狂言 渋沢渋亭
白丸のなかのいくつの白兎 阿部完市 春日朝歌
白五月枝をひろげて村を抱く 和田悟朗
白仔馬親へ脚挙げ蹠黒く 香西照雄 素心
白侘助遺言二十七行半 塚本邦雄 甘露
白光す夜の城壁木々芽ぶく 原裕 葦牙
白光のかの蓬まで行かば死す 永田耕衣
白光のレールを月に向はしむ 上田五千石 田園
白光の一筋通ひ去年今年 平井照敏
白光の中に人馬や湖凍る 山口青邨
白光の初富士に聴く師のこころ 都筑智子
白光の千の露おく惟然塚 清水青風
白光の湯冷めをそそる秋蛍 殿村菟絲子
白光の秋白皙の痩羅漢 原裕 青垣
白光はのべし首より白鳥来 井沢正江 一身
白光をかかげ泰山木咲けり 満田たけを
白光を放つ産毛も袋角 出口恵美子
白光を蕊に灯して梅昏れぬ 加藤耕子
白兎あすあさってを吐きつくす 夏石番矢 神々のフーガ
白兎いで来よ気多の岬は真みどりに 鷲谷七菜子 天鼓
白兎かかえて雨にかこまれる 大坪重治
白兎はたらきはじめていて鼓声 阿部完市 春日朝歌
白兎月に住みしを語り草 鈴木栄子
白几夏書の僧のかぶさりぬ 大石悦子 百花
白凪に鼻の日焼の見られけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
白凰の塔の真下の田螺かな 宮岡計次
白切子炎の一丈となりにけり 芝口早苗
白切子眼に残るもの綿々と 櫛原希伊子
白切子高野の闇につつまるる 民井とほる
白制札呼ぶかに光り遠桜 香西照雄 素心
白加賀といふ痩骨の梅の花 西岡正保
白加賀に長居豊後に又長居 高澤良一 素抱
白加賀の老来ますますかほる花 高澤良一 寒暑
白動車の灯に邸内の落椿 大橋櫻坡子 雨月
白匂う卯の花月となりしかな 宇咲冬男(あした)
白千鳥干潟を走り影置かず 安田芳子
白和にまぎれもあへず根芹かな 長谷川櫂 蓬莱
白和は飛騨の十六ささげかな 清水基吉
白団扇けふも独りをあふぐなる 渡邊水巴 富士
白団扇一とせ過ぎて何も書かず 松村蒼石
白団扇妻には貸さじ老けて見ゆ 渡邊水巴 富士
白団扇廻して水の如く居る 桑尾黒潮子
白団扇旅寝の妻の胸の上に 大野林火
白団扇母に薄痘痕(うすいも)ありしかな 佐野青陽人
白団扇置かれて庫裡に人を見ず 香山節子
白地着て白に吸はるるごと眠る 中村祐子
白地着て白逸る夜を人と逢ふ 櫛原希伊子
白埴の瓶こそよかれ霧ながら朝はつめたき水くみにけり 長塚節
白埴の甕春愁の翳つくる 村山古郷
白埴の異国の酒器に菊を挿す 瀧春一 菜園
白堤は西湖を分くる柳かな 中瀬喜陽
白塊の山霧(ガス)が押し寄す山母子 高澤良一 随笑
白塊の鳥のデフォルメ涼気曳き 高澤良一 宿好
白塔にひら~高し蚊喰鳥 鈴鹿野風呂 浜木綿
白塔は火雲の翳に蒼古たり 西村公鳳
白塗の門番小屋や桐一葉 寺田寅彦
白塗りののつぺらばうの梅雨茸 藤田湘子 てんてん
白塗りの手首窶れし姉弟 宇多喜代子
白塗りの顔ばかり過ぐ桜狩 山田諒子
白壽までたつぷりとある雑煮餅 河西みつる
白夜の燈溶けゐるごとし白ビール 関森勝夫
白夜更く琥珀の濁りの白ビール 関森勝夫「親近」
白天に原ありにがよもぎありけり 阿部完市 春日朝歌
白天のさなか真日照り真日見えず 原石鼎 花影以後
白夾竹桃のたそがれながし予後の旅 角川源義 『西行の日』
白子煮る白蝶の飛ぶ時間をかけ 加倉井秋を
白孔雀冬毛たくはへはじめけり 大石悦子 百花
白孔雀啼く春潮の流れざま 斎藤梅子
白孔雀涅槃の翅をひらきけり 渡辺恭子
白孔雀白鮮かな木の葉髪 山口誓子
白富士や雪に奔つて一稜絶え 竹中宏 饕餮
白富士を輪投げの的に裾野の子 五島エミ
白寿の嶺はるかに望む更衣 細見しゆこう
白少し透きし三日の鏡餅 森澄雄
白屏風谷の魚どちさびはじむ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
白山の白浮き出して春隣 竹中文男
白山へ靡く奥美濃白芒 橋本茶山
白岳の白根の端山焼ける見ゆ 福田蓼汀 秋風挽歌
白帝といふ名の城の百千鳥 石田野武男
白帝と亢(たかぶ)る波のたてがみと 高橋睦郎 稽古
白帝の鷺の幻聴鶴の恩寵 沼尻巳津子
白帝や六万年の火星来る 五座育乃
白帝や風紋崩しゆく駱駝 清水紀子
白帝城くれなゐを濃く桃の咲く 谷中隆子
白帝城幕おとす如春夕焼 田中英子
白帝城彩雲のごと桐の花 松崎 鉄之介
白帳割れて修二会の僧が見ゆ 大石悦子 聞香
白帽の流れ朝の日疾く高く 金尾梅の門 古志の歌
白幣の切れ端の飛ぶ枯山中 飯野きよ子
白干や大井にかへす御祓串 言水「東日記」
白式部ことば失ひたるごとく 片山由美子 風待月
白式部むらさきしきぶ嫁がせぬ 猪俣千代子 秘 色
白式部風の過ぎゆく墳一つ 斎藤一骨
白張の蝙蝠傘や薬売 寺田寅彦
白手套手綱を取つて汚れなし 森田峠 逆瀬川以後
白手袋はめて門衛交替す 小笠原須美子
白拍子乗せおとなしき祭馬 山本道三郎
白拍子柳の門に這入りけり 柳 正岡子規
白拍子舞ふや照葉の影引きて 石塚友二 光塵
白拍子雪見の舟にはいりけり 桜井芳水
白指も編棒のうち毛糸編み 鷹羽狩行
白描の三つ目の白沢(はくたく)お風入れ 高澤良一 燕音
白描の二月の枝を鋭く引く 高澤良一 素抱
白描の普賢しづかにほととぎす 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
白描の絵巻ほどかれお風入 加藤三七子「無言詣」
白描の聖観音や瑞香(ぢんちやうげ) 文挟夫佐恵
白描の雪渓白濁の霧の中 岡田日郎
白揚羽未だ見ぬ姉が塩道に 攝津幸彦
白揺れて少し虎尾草らしくなる 山田庄蜂
白擬宝珠たそがれの指やわらかき 戸田富美子
白散よ酒に交へて生く薬 松瀬青々
白文を読み下されてどつと汗 筑紫磐井 婆伽梵
白映や日没閉門熊本城 内田百間
白晢にして鶏頭の群れに入る 中田剛 珠樹
白曼珠沙華はたりはたりと鶏番ひ 大石 悦子
白曼珠沙華月光に剪り余す 黒田杏子 花下草上
白服にてゆるく橋越す思春期らし 金子兜太「金子兜太句集」
白服にねむり成層圈を航く 高澤良一 ねずみのこまくら
白服にプラットフォーム端好む 田中灯京
白服に月光沁みて寝にもどる 大島民郎
白服に浜の豆ッ子鼓笛隊 高澤良一 随笑
白服に玄沁みもどる原爆図 水巻令子
白服に腕輪の色を利かせをり 佐藤うた子
白服の一人は誰ぞや螢狩 鈴木花蓑句集
白服の人甘苧の花を折る 下村槐太 光背
白服の女の肘の嶮しけれ 小川軽舟
白服の旅の汚れも二日目に 稲畑汀子
白服の澄みてさびしき眸とおもふ 岸秋渓子
白服の皺は汚れのごときもの 福永耕二
白服の笞のごとくに佇てりけり 川口重美
白服はカルダンと決めコンサート 大村フサエ(松籟)
白服や循吏折目を正しうす 日野草城
白服や海を見たりし釦はめ 加藤楸邨「雪後の天」
白服を吊るし一日を過去とする 広渡詩乃「春風の量」
白服を置くあけぼのの操舵室 岸原清行
白朝顔なにかが終る身のほとり 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
白木槿妻の逝きたる朝の白 沖津をさむ
白木槿寝て起きて白里帰り 和知喜八 同齢
白木蓮女人高野に白凝らす 森下光江
白朮の火闇夜の風に消すまじく 金子晉
白朮火のくらきに紛れ蜑が顔 小島ノブヨシ
白朮火のひとつを二人してかばふ 西村和子
白朮火のほのかに顔の見られけり 矢島渚男
白朮火の一つを二人してかばふ 西村和子 夏帽子
白朮火の一寸先の都かな 松尾隆信
白朮火の大き小さき二人の輪 小嶋樹美子
白朮火の妻のほとりをゆきにけり 古舘曹人 樹下石上
白朮火の水明りにはほど遠き 斉藤夏風
白朮火の渦なす闇の陰詣 野澤節子
白朮火の祇園小路を曲りけり 大森光栄子
白朮火の輪のゆく闇に人の声 神原廣子
白朮火の輪の中小さき顔うかぶ 山本つや女
白朮火の闇うつくしき大路かな 鳥羽とほる
白朮火の闇美しく妻とゐる 羽成 翔
白朮火の風にみだれし焔かな 田村ふみよ
白朮火やふと故郷の炉のにほひ 藤崎実
白朮火や火の危ふさもいただけり 福田万紗子
白朮火や突当るみな善男女 鈴木鷹夫 大津絵
白朮火を傘に守りゆく時雨かな 大谷句仏
白朮火を先づ亡き夫に灯しけり 刈米育子
白朮火を受けて真顔になりにけり 村上喜代子
白朮火を廻して通る祇園茶屋 松本澄江
白朮火を廻す八坂の杜の闇 佐々木静江
白朮火を消さじとおもひ子を念ひ 関戸靖子
白朮火を輪に振る中に人の顔 四明句集 中川四明
白朮詣のだらりの帯とすれ違ふ 清水基吉
白朮酒といひて屠蘇とはいはざりし 後藤比奈夫
白杖に八十八夜の杉雫 村越化石
白杖の人を追ひ越す汗なりき 松山足羽
白杖の先の触れたる茅の輪かな 板倉馨子
白杖の右も左も青浄土 村越化石
白杖の行きたる音も彼岸過 綾部仁喜 樸簡
白松が最中をまへに花疲れ 川崎展宏
白枕いづこに置くも雁のこゑ 齋藤愼爾
白林を湯へよぶ柝や冬木立 飯田蛇笏 山廬集
白栄えて我がくれないの軍船 松田正徳
白栲の如月寒し駿河町 尾崎紅葉
白梅の白を持さんと帯ぶる蒼 大橋敦子 手 鞠
白梅の白を食べたる鳥のこゑ 関戸靖子
白棺や月光胸に重からん 折笠美秋 君なら蝶に
白椅子に胃の検査待つ漱石忌 伍賀稚子
白椿うすみどり帯び湿らへる 大野林火
白椿そこは鬼のあつまる木 松本恭子 二つのレモン 以後
白椿に錆さす雨の酒匂川 原 裕
白椿ふかきはひかりこもりけり 豊長みのる
白椿一枝の先の重さかな 飯村周子
白椿主治医祝ぎ言賜ひけり 石田波郷
白椿名刀の冷え思ふべし 西村和子 かりそめならず
白椿咲いていて僕寝ていたり 五島高資
白椿團體さんは急ぎ足 八木林之介 青霞集
白椿墓碑銘は森林太郎 中島正夫
白椿挿して「山齢」読み籠る 影島智子
白椿日に透きながら汚れゆく 高橋千鶴子
白椿昨日の旅の遥かなる 中村汀女
白椿気位捨てては生きられず 稲野和子
白椿汚れ易きをけふ厭ふ 石田あき子 見舞籠
白椿白を失ふはやさかな 見永千恵子
白椿白痴ひうひう研究せり 攝津幸彦
白椿老僧みずみずしく遊ぶ 金子兜太 詩經國風
白椿落ちたる音に囚はれし 藤田湘子 てんてん
白椿落ちて腐りし日数かな 落椿 正岡子規
白椿赤椿幹黒くして 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白楊の梢つぶやくに似て秋隣 加藤楸邨
白楊の瘤一と年風と去るごとし 成田千空 地霊
白楊の絮を拾ふ旅愁のひろごりぬ 阿部みどり女
白樫は直情の樹ぞ秋の声 池田弥寿
白樺の根方の白は水芭蕉 森田峠 逆瀬川
白樺の白の織りなす青葉かな 加藤由美子(梟)
白樺の白極まりて猟期来る 宮澤 薫
白樺の白極まりぬ雪月夜 古賀まり子
白樺は白つらぬけり霧の中 西川五郎
白樺林ゆく白蝶に逢ひしのみ 山口草堂
白樺街道雪の香を呼ぶ白ばんば 鳥居おさむ
白檜曾に月のさしたる道をしへ 宮坂静生 樹下
白檜曾の幹を好める霧が出て 高澤良一 さざなみやつこ
白檜曾の木の香にむせぶけらつつき 内藤総子
白檜曾の樹海岩荒れ瑠璃鶲 岡田 日郎
白毛布はなびら溢れして抱く子 赤松[ケイ]子
白毛布チカ~柊の花に干す 久米正雄 返り花
白毛布殉死のやうに眠りたる 大牧 広
白毛布泣きたきときの深かぶり 明田和子
白毛糸ぐるみの「おいしそうな顔」 右城暮石 上下
白毛糸編みをり洗礼式前夜 長田等
白毛糸編むと手濯ぎ来て坐る 大橋敦子
白毫か黒豹の眼か春の闇 福田甲子雄
白毫がとらへし萩の驟雨なる 吉田紫乃
白毫と凝らす汗なり恥ぢにけり 赤松[ケイ]子
白毫にけふの冬日の尽きんとす 山田桂三
白毫にとどける煤の帚かな 名見崎 新
白毫に山蛭宥し千手仏 つじ加代子(蘭)
白毫に日の当りをり百千鳥 岡澤康司
白毫のごとき月山鐘霞む 磯貝碧蹄館
白毫の三つならびし春の寺 鈴木太郎
白毫の光る磨崖や佛生会 小池萬吉
白毫の塔まぼろしに山時雨 小島千架子
白毫の甘茶にぬれし灯影かな 会津八一
白毫や烏犀角などたしなみて 沼尻巳津子
白毫寺今年しみじみ蝶を見き 猿橋統流子
白毫寺坂なる露の跫音かな 鷲谷七菜子 花寂び
白毫寺坂のかるかやをかるかや 宮坂静生 樹下
白毫寺村へ一筋残る虫 岸田稚魚 筍流し
白毫寺秋篠までの夜長かな 松根東洋城
白毫寺萩の根分を僧もする 今井妙子
白毫寺鹿垣の竹届きけり 西山純子
白毫救相の示現を前に氷水 磯貝碧蹄館 握手
白波と競ふ寒梅白点じ 伊藤京子
白波のごとくはるかに白菖蒲 山口青邨
白泥の壺にさしたる冬すみれ 伊藤敬子
白洲ある古き舞台の能始 松本たかし
白洲場のごとし寒夜の手作りは 福田甲子雄
白洲跡石ひとつづつ冷えてをり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
白浴衣老女を蝶のごとくしぬ 中尾寿美子
白海とわれに雪舞ふ僧待てば 吉野義子
白海月(くらげ)汀(みぎは)の氷流れけり 調栄 選集「板東太郎」
白涼し紫も亦涼しく著 星野立子
白滝の忽と現はる秋気かな 上田佳久子
白滝や六月寒き水煙り 松岡青蘿
白濤が白波をのみ涅槃西風 加藤紀久子
白濤に乗る何もなしきりぎりす 千葉皓史
白濤の灘晴れきつて厄落 斎藤梅子
白濤の白極まりぬ夏霞 香西照雄 対話
白濤の高きを恵方道とせり 斎藤梅子
白濤は寒のひびきのなかに顕つ 山崎満世
白濤を見る足もとにきりぎりす 冨田みのる
白瀧の二筋かゝる紅葉かな 紅葉 正岡子規
白灣は青しつつじは花紅く 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
白灯蛾さくら一本喰ひねむる 鳥居美智子
白炎となりしづもれる牡丹かな 深見けん二 日月
白炎をひいて流氷帰りけり 石原八束(1919-98)
白炎天鉾の切尖深く許し 橋本多佳子(1899-1963)
白炭の割りて粉のなし十三夜 毛塚静枝
白炭の揃へて干さる南風筋 西尾智美
白炭の組み方までは教へざり 後藤比奈夫 めんない千鳥
白炭や彼の浦島が老の箱 芭蕉
白炭や焼かぬ昔の雪の枝 忠知
白烏に極彩色の鴛鴦の沓 西本一都 景色
白烏の一羽が擢(ぬき)んでて翔べり 佐川広治
白烏の声はづみをり濤沸湖 伊舎堂根自子
白烏の翅もぐごとくキャベツ*もぐ 能村登四郎「咀嚼音」
白焔の縁の緑や冬日燃ゆ 松本たかし
白焼のうなぎ巴里風シェフ若し 大島民郎
白焼の諸子に曇る玻璃戸かな 田中英子
白焼の鱚皿ごとに届きけり 宇佐美魚目 天地存問
白熊が食パンを喰ふ食事時 瀧井孝作
白熊の昼寝失神かと思ふ 津田ひびき
白熊を連れジプシーの女来る 山田弘子 懐
白燈台統ぶ夏洋に戦絶えよ 香西照雄 対話
白牛を率て冬耕の詩ありき 飯田蛇笏 雪峡
白牛を見に行く家や罌粟の花 井月の句集 井上井月
白犬に好かれてをりし良夜かな 木塚眞人
白犬の貌神さびぬ洗ふうち 下村槐太 天涯
白狂や横にかげろふけむりだし 加藤郁乎
白狐いや雪をんな邪鬼一瞬 大里泰照
白狐の尾見えたか燕翻る 丸木美津子
白狐天を翔け顔見世のはねにけり 西村和子 かりそめならず
白狐汝は稲荷の事触れか 名和三幹竹
白猫と音声菩薩と向うべし 阿部完市 軽のやまめ
白猫に不実な霰ふりかかる 宇多喜代子
白猫に乗りて死にゆく梅の花 攝津幸彦
白猫に炎昼の光古びたり 西矢籟史
白猫に真つ黒子ねこ聖五月 片山亀夫
白猫のうづくまる如夜の牡丹 上野さち子
白猫のひらりと沈む金葎 渡部良子
白猫のみるみる穢れ冬隣 福永耕二
白猫のみれどもたかき帰燕かな 飯田蛇笏
白猫の俄か閉ざす目メーデー歌 河野多希女 月沙漠
白猫の尾の黒きをり初詣 田村千勢
白猫の恋のはじめの闇夜かな 藤本始子
白猫の松を降りくる灌仏会 星野恒彦
白猫の田を渡りくる神無月 古舘曹人 樹下石上
白猫の白もてあます秋の昼 佐藤智恵子
白猫の秋の名残の塀歩く かとうさきこ
白猫の綿の如きが枯菊に 松本たかし
白猫の行衞わからず雪の朝 雪 正岡子規
白猫の見れども高き帰燕かな 飯田蛇笏
白猫の通ひ路となる萩の庭 横山房子
白猫の通りぬけする庭紅葉 川崎展宏
白猫は汚れ泰山木の花 依光陽子
白猫へ恋の一瞥野良の猫 大脇良子
白猫やとかげ喰ふてふ閨の秋 飯田蛇笏 山廬集
白猫をゑがく火桶をとほざくる 松村蒼石
白玉の白の浮力を冷しけり 中尾有爲子
白玉や産着のごとき白表紙 八牧美喜子
白王の牡丹の花の底ひより湧きあがりくる潮の音きこゆ 太田水穂
白球のゆくて筑波の山笑ふ 後藤郁子
白球の野菊に近く濡れてをり 菅原鬨也
白瑠璃碗緑瑠璃坏美し葡萄かな 尾崎迷堂 孤輪
白瓜や川が近くてをんなの子 斎藤夏風
白瓜を提げて越路の女衆 川崎展宏
白甃をゆくまへうしろ燕とぶ 西村公鳳
白百合の白を揺らしてゆはへつけ 神谷一枝
白皃の墓守にして紫蘇のはう 中田剛 竟日
白皙の立ちて舞ふより淑気かな 文挟夫佐恵
白皙の青年なりし遍路笠 松島千代
白皿のふれあふ音の夜の秋 吉野義子
白真砂すこしこぼれて若茱籠 甲斐すず江
白睡蓮一花を端に賢沼 大熊輝一 土の香
白睡蓮閉ぢて普賢の重目蓋 田口一穂
白瞑の自伝の荒野雪が降る 深谷雉大
白破魔矢武に苦しみし神達よ 橋本多佳子
白破魔矢潮騒空にひろがり来 友岡子郷
白磧より草笛か麦笛か 神尾久美子 桐の木以後
白社丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子
白禅に斑の満ちて神還りけり 堀口星眠 営巣期
白秋という方角に二、三人 坪内稔典
白秋と思ひぬ思ひ余りては 後藤比奈夫 祇園守
白秋にゆかりといへり雛の客 長谷川櫂 蓬莱
白秋にをけらの花を加へけり 矢島渚男 延年
白秋の生家へ一里炬燵舟 坂井たづ子
白秋も啄木も夢明易し 倉田紘文
白秋や少年独り終電車 阿部美代子
白秋や川に香を立つ杉丸太 宮田祥子
白秋や触れて崩れし父の竿 宇佐美魚目 天地存問
白秋亡し緋目高のぼる三の井手 有働亨 汐路
白秋忌切つ先青きまま乾き 宮坂静生 山開
白秋忌雨こぼれてはすぐ止みぬ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
白秋祭島も露めく風の色 河野南畦
白穂立つ田ある限りは彼此もなし 石塚友二 光塵
白箸に色かぐはしき薺かな 秋皎
白箸に飲食清め道元忌 本多静江
白箸や瀬々の網代木氷鮒 花流 選集「板東太郎」
白籏に顕つ秋風や笛まつり 伊藤いと子
白粥にたふとがらする十夜かな 水田正秀
白粥にも入れてもらひぬうぐひす菜 長谷川かな女 花寂び
白粥に人隔てゐて春を待つ 野澤節子
白粥に坐して新涼あきらかや 村越化石 山國抄
白粥に塩一とつまみ夏負けす 森英恵(曲水)
白粥に大き梅干震災忌 館岡沙緻
白粥に宝珠とおとす寒卵 谷野予志
白粥に振る島の塩バリさやか 高地房子
白粥に春のかたみの箸つかふ 三田きえ子
白粥に春暁の雨いとかすか 宋淵
白粥に梅干おとす春のあさ 伊東月草
白粥に梅干埋めいくさなし 赤尾恵以
白粥に溺れてゐたる春の風邪 木村敏男
白粥に粗塩ふりて夏至近し 池上貴誉子
白粥に終りし行や実南天 野中亮介
白粥に芹のあをさを加へけり 佐川広治
白粥のうす塩味や暑気中り 日野草城
白粥のこの頃うまし梅の花 石田波郷
白粥のとろりと煮えて時頼忌 上田澪子
白粥の一椀のみの涼しさよ 藤崎久を
白粥の一椀をおく淑気かな きちせあや
白粥の三度が三日春の風邪 乗本真澄
白粥の日数のなかの寒ざくら 鷲谷七菜子 花寂び
白粥の朝餉に夏のものばかり 原石鼎 花影以後
白粥の温もりに似て豆の花 森川吾城生
白粥の湯気すぐに消ゆ夜の秋 福田甲子雄
白粥の老人冬日たゆたひて 松村蒼石 雪
白粥の花椀くまなし初日影 丈草
白粥の香もちかづけず身ごもりし 篠原鳳作 海の旅
白粥はおかか梅干日永かな 石川桂郎 四温
白粥は花明りとぞ啜りけり 山上樹実雄
白粥や沙羅の落花と一卓に 村越化石 山國抄
白粥や起き直りえて風涼し 原田種茅 径
白粥や雨風の中蕗煮ゆる 斎藤空華 空華句集
白粥をまぶしくしぐれ通りけり 田中鬼骨
白粥を吹きくれる妻晩夏光 目迫秩父
白粥を啖ぶ春暁のあはれかな 石原八束 空の渚
白粥を夫に吹きやる年の暮 品川瑩子
白粥を所望す京の桜どき 水原春郎
白粥を朧にはこぶ看とりかな 橋本鶏二
白粥を煮て月明に遅れ来し 井上菜摘子
白粥を父にまゐらす夏ゆふべ 大石悦子 群萌
白結飯すずしく被爆石の上 赤松[ケイ]子
白絹で碁石を磨く小六月 浅井陽子
白絹につつむみどり児夕桜 加倉井秋を
白絹に嬰包み来て春祭 茨木和生 野迫川
白絹に待針を打つ菊日和 佐藤 緑
白絹に置く一刀や夏の果 きくちつねこ「五浦」
白絹のつめたさを縫ひ冬新し 能村登四郎 枯野の沖
白絹は勝者の肩に競べ馬 山田由紀子
白絹は葬りのごとし雛をさめ 井沢正江 以後
白絹を縫ふ縁先の青木の実 鳥井信行
白絹を裁つ妻と居て寒土用 北野民夫
白綾に金王桜さきにけり 史邦 芭蕉庵小文庫
白綾の衣の青みや冴返る 菅原師竹句集
白綿をはみ出す我も初蝶も 大木あまり
白緑の蛇身にて尚惑ふなり 飯島晴子
白縮片手上げたる別れかな 津幡龍峰(初蝶)
白縮緬ゆふがほの花浮かみ出で 川崎展宏 冬
白繭となるころ月も満つるらめ 大串章
白繭となるまで青き嶺が囲み 神尾久美子 桐の木
白繭にこもる踊の酣は 宮坂静生 樹下
白繭のいのち静かに透けてをり 相川やすし「筥その後」
白繭のうちなる闇をおもひをり 片山由美子 天弓
白繭のごとき行者を滝打てり 吉武千束
白繭のひかり二時打つ山の寺 龍太
白繭の信夫の里となりにけり 加藤三七子
白繭の山のむらさきがかるかな 猪俣千代子 堆 朱
白繭の翳れば山河はたと暮れ 井澤正江
白繭や母を思へば父なくて 河野邦子
白繭をのせて小さな秤かな 星野稔代
白繭を手にして今日の力湧く 多田照江
白繭を掌にして今日の力湧く 多田照江
白罌子も岨路も暮るるほととぎす 松村蒼石 露
白罌粟に煤はく家や加茂の里 高井几董
白罌粟に照りあかしたる月夜哉 松岡青蘿
白罌粟の紙のごとくに咲けるかな 山本岬人
白罌粟の花より高し罌粟坊主 前田普羅
白罌粟の辺りより暮れつひに暮る 福永みち子
白罌粟も五月の雲もまぶしさよ 水原秋櫻子
白罌粟も岨路も暮るるほととぎす 松村蒼石 寒鶯抄
白罌粟や形見の蝶ぼろぼろの桑 仁平勝 花盗人
白罌粟や片山里の朦の中 炭 太祇 太祇句選
白肘の当りしも落ち桃摘花 中戸川朝人 残心
白胡麻の乾きて自づからはじけ 米谷孝
白脚絆冬濤とほく崩れけり 斎藤梅子
白脚絆洗ひ栄えして春の旅 吉武月二郎句集
白脛に春風新進女教師よ 藤本節子
白脛をかくさず風に踊るなり 藤田湘子 てんてん
白舟や谷間の底で厄落とし 井上秋魚
白良浜良き名を灼きて荒布干す 宮津昭彦
白芒海へ出たくて駆けとほす 猪俣千代子 堆 朱
白芥のうしろの原や青嵐 青嵐 正岡子規
白芥子に秘密の扉開く黴匂ふ 筑紫磐井 婆伽梵
白芥子に羽(はね)もぐ蝶の形見哉 松尾芭蕉
白芥子に麦の朝風強すぎぬ 高田蝶衣
白芥子のちりかゝりけり梅法師 芥子の花 正岡子規
白芥子の妬心まひるの陽にこゞる 篠原鳳作
白芥子の波折りの風も夕まぐれ 文挟夫佐恵 遠い橋
白芥子の美人かくるゝ草の庵 松岡青蘿
白芥子の花透く朝日夕日かな 闌更「半化坊発句集」
白芥子やどこに火を焚く藁ぼこり 山内曲川
白芥子や冷たきこゑを忘れざる 仙田洋子 橋のあなたに
白芥子や時雨の花の咲きつらん 芭蕉「鵲尾冠」
白芥子や莟の中の花一つ 小澤碧童 碧童句集
白花の芙蓉のをはりしづかなる園はいさよふゆふべの光 山本友一
白花の芯に食ひ入る蟻一つ 古屋村木
白茅刈る兄の太腕盆支度 堀口星眠 営巣期
白草に日はきらきらと枯野かな 森鴎外
白莱をきしきし漬けて明日があり 嶋田麻紀
白菊と札の付いたる根分かな 古白遺稿 藤野古白、正岡子規編
白菖蒲おののき易き花もてり 樋笠文
白菖蒲おもひしづむにまかせをり 坂間晴子
白菖蒲おもひを凝らすとき翳る 鈴木 まゆ
白菖蒲とびたたむまで見てをりぬ 木村 ふく
白菖蒲別れし夫の訃を聞けり 館岡沙緻
白菖蒲剪つてしぶきの如き闇 鈴木鷹夫 渚通り
白菖蒲剪つて水音をまとひけり 雨宮きぬよ
白菖蒲子を恋ひをれば翳りけり 成瀬櫻桃子 素心
白菖蒲母がちらちらして困る 北上正枝
白菖蒲母の袂に風こもり 大関靖博
白菖蒲水を舞台に爪で立つ 星野光二
白菖蒲白は無念のいろならむ 斎藤梅子
白菖蒲眦切つてひらきけり 櫛原希伊子「百鳥俳句選集」
白菖蒲神泉に立つ風の筋 福本天心
白菖蒲空よりも地の明るき日 中村路子
白菖蒲蕾きりきり鏃めく 高澤良一 鳩信
白菖蒲過去なくて人生きられず 稲垣きくの
白菖蒲風の離れるときゆらぐ 沢木欣一 往還
白菩薩たちや鬼無里の水芭蕉 羽部洞然
白菫黄昏は物のあはれなり 碧梧桐
白華鬘菩薩の慈悲を偲ばせて 坂井建
白葡萄シルクロードの月を来し 手繰直美
白葵大雨に咲きそめにけり 前田普羅
白葵藪の幽邃暾を得たり 飯田蛇笏 椿花集
白蒲団鏡の如く干されあり 上野泰 佐介
白蓼の雨ふる夢のつづきかな 吉田紫乃
白蕪の土這ひ出でて坐りゐる 目次翠静
白薔薇おもおもしくも朝ぐもり 飯田蛇笏 春蘭
白薔薇と成る黄蕾や赤子いかに 香西照雄 素心
白薔薇に花期を譲りて菫実に 田川飛旅子 花文字
白薔薇に饗応の麺麭温くからぬ 飯田蛇笏 霊芝
白薔薇のいよゝ色増す日暮かな 飯塚博子
白薔薇のつぼみ解きゆき聖母月 中塚久恵
白薔薇の名はプリンセス嫁ぎけり 伊藤京子
白薔薇の城のやうなる蕾かな 石田郷子
白薔薇の天使が墜ちる朝の卓 吉原文音
白薔薇の百蕾不死男夫人葬 本宮鼎三
白薔薇の胸の高さに咲きにけり 小川原嘘帥
白薔薇の花をつめたる棺かな 薔薇 正岡子規
白薔薇の開ききつたる翳りかな 橋本榮治 麦生
白薔薇一輪遠嶺発行所 小澤克己
白薔薇口渇く日の続きけり 谷口桂子
白薔薇沸々と死が近くあり 石嶌岳
白薔薇買ふ山下りんの絵を見し日 森尻禮子
白藤の白に嫁ぐ日決まりけり 市村季子
白虹のごとくよぎりし雪礫 柴田果
白虹の貫く天や畑打つ 五十嵐播水 播水句集
白虹忌銀杏大樹を燭とせり 寺井谷子
白虹日を貫いて蟷螂起つ 石井露月
白蚊帳と波音と吾子をいねしめず 林原耒井 蜩
白蚊帳にうすき寝嵩もひとりなる 鷲谷七菜子
白蚊帳に入りたるごとし西湖微雨 関森勝夫
白蚊帳に奇跡の目覚めある如し 川口重美
白蚊帳に孤独の母が透きとほる 藤井 亘
白蚊帳のしづかなたるみ覚めにけり 大野林火
白蚊帳のとなりに吊りしよもぎ蚊帳 前田普羅
白蚊帳の丈山中に目を覚ます 藤井亘
白蚊帳の大紋どころ避暑の寺 皆吉爽雨
白蚊帳の寝覚や鳩鳴く京泊り 北野民夫
白蚊帳の雑草園に寝ねしこと 田村了咲
白蚊帳をくゞる偽善の身を屈め 丘本風彦
白蛾の目玻璃に紅彩原爆忌 原田孵子
白蛾来る辞書の重さのわが窓に 中村汀女
白蛾舞い木曽の春の夜あらあらし 城取信平
白蜀葵の身命ややあおし愛す 阿部完市 鶏論
白蜀葵は九十年生きゆく舞なり 阿部完市 春日朝歌
白蜜へ匙さし出せる優しき日 宇多喜代子
白蝋の一基を点ず月の家 松村蒼石 寒鶯抄
白蝋の彫刻となりて五月逝く 阿部みどり女
白蝶々飛び去り何か失ひし 綾子
白蝶のふるさと熟睡したまへる 殿村莵絲子 花寂び 以後
白蝶の失せしはいづこ光堂 野澤節子
白蝶の弱く落ち来ぬ秋の雨 長谷川かな女 雨 月
白蝶の森に這入るを見て涼し 阿部みどり女
白蝶の白置いて来るやうに翔ぶ 後藤立夫
白蝶は天より来る風葬野 加倉井秋を
白蝶も紫蝶もこの日より 高野素十
白蝶や生れしばかりの風に会ふ 神蔵器
白蝶や野に福音の湧くごとく 新村長門
白蟻に山蟻襲ひかかりけり 岸本尚毅 舜
白蟻の家ならなくに崩れゆく 文挟夫佐恵 遠い橋
白蟻の柱を抜けて吹き荒ぶ 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
白衿に針はこぶ夜の鰤起し 井上雪
白衿を恃みて寒の闇すがし 川端京子
白袖振つて巡りゆく川夕河鹿 草田男
白袴薩摩飛白に霙れけり 久米正雄 返り花
白装の少女羨しも齢に富む 山口誓子「和服」
白装束神に仕へて冬田打つ 薗田郁子
白装束霜に声あり寒念仏 露章 選集「板東太郎」
白襖の黒枠不吉隙間風 香西照雄 素心
白襖よりまじまじと見つめられ 石田勝彦 秋興
白襖入れたることの病みはじめ 坂巻純子
白襖幼児笑へば亡母来る 飯田龍太 忘音
白襖染みを鳥とも茄子とも 依光陽子
白襷白鉢巻に和布刈禰宜 金森柑子
白詰草たどれば渡来人の裔 柿本多映
白詰草咥えて世阿彌のひびきあり 中北綾子
白詰草真っこと冷たかりけるよ 高澤良一 素抱
白詰草飯盛ることののどかなり 新間絢子
白豚や秋日に透いて耳血色 杉田久女
白象が大橋渡る花まつり 前田圭史
白象に苦しむ姉に江戸の春 攝津幸彦
白象のごとくけだかく雲灼けて 高澤良一 ぱらりとせ
白象の牙上げて哭く涅槃絵図 松本圭二
白象の糸のまなじり仏生会 長谷川櫂 蓬莱
白象の耳もて哭けり涅槃絵図 安田新参子
白象を笑ひ嘆かせ涅槃図絵 赤松子
白豪寺坂なる露の跫音かな 鷲谷七菜子 花寂び
白足袋にいと薄き紺のゆかりかな 河東碧梧桐
白足袋に狭目の下駄も好みかな 野村喜舟
白足袋に皺殖え老母花見得たり 香西照雄 素心
白足袋のいちにん深山朝櫻 黒田杏子 花下草上
白足袋のじよんがら弾のづかと来る 田中英子
白足袋のつるつる縁やつく手毬 野村喜舟
白足袋のどこまでゆけば弥陀に会ふ 神尾久美子 桐の木
白足袋のひたひたと来る破芭蕉 川崎展宏
白足袋のよごれもつかずぬがれけり 富安風生
白足袋のよごれ盡せし師走哉 師走 正岡子規
白足袋のチラチラとして線路越ゆ 中村草田男(1901-83)
白足袋の一斉に浮く踊かな 坂本たみ
白足袋の一糸乱れぬ演武かな 丸谷領一
白足袋の位置の磐石弓始 岩田千恵
白足袋の僧より落ちし名刺かな 桂信子 樹影
白足袋の暑中稽古や鞍馬寺 小中勿思
白足袋の汚れざりしがさびしき日 鷲谷七菜子 黄 炎
白足袋の汚れのほどの人疲れ 向田貴子
白足袋の汚れもあはれ鹿踊 田村了咲
白足袋の熔岩原を踏み行けるかな 草間時彦 櫻山
白足袋の爪先そろへて御仏がくらい 人間を彫る 大橋裸木
白足袋の爪先の春待つごとし 影島智子
白足袋の父にしたがふ墓参かな 五十嵐播水 播水句集
白足袋の糊の硬さや花八ツ手 浅野啓子
白足袋の若き和尚や花あせび 田中冬二 麦ほこり
白足袋の足の先まで几帳面 竹崎玉子
白足袋の踏んでゆきける瓦礫かな ふけとしこ 鎌の刃
白足袋の過ぎゆく盆の廊下かな 角川春樹 夢殿
白足袋の鞐に母の名のありぬ 佐藤晴代
白足袋も五つこはぜの針供養 今泉貞鳳
白足袋も鼻緒もきつめなのが好き 榊原弘子
白足袋や使はず捨てず姑のもの 野見山ひふみ
白足袋や大僧正の袈裟の下 野村喜舟 小石川
白足袋や寒叟春の粧も 松根東洋城
白足袋や帯の固さにこゞみ穿く 阿部みどり女 笹鳴
白足袋や母の天寿をわれ知らねど 平井さち子 完流
白足袋や箱階段の黒き艶 今泉貞鳳
白足袋や継もなか~清浄に 野村喜舟 小石川
白足袋をぬぐや流るる天の川 野澤節子 『駿河蘭』
白足袋を一歩も退かず怒濤見る 神尾久美子 桐の木
白足袋を叩き干したり松納め 福田邦子
白足袋を手に嵯峨念仏楽屋入り 野川義宣
白足袋を穿きて心を立つるなり 岡野美代子
白足袋を穿けば歩幅の改る 小林一鳥
白足袋を箪笥が銜へゐる寒さ 鈴木鷹夫 春の門
白足袋を脱ぐや流るる天の川 野澤節子
白足袋を雨に濡らして弓始 沖久治
白足袋裾ずれこの用もあの用も 河東碧梧桐
白足袋遺し泣くほか寝るほかなかりしか 中村草田男
白躑躅日に透くあたり来世見ゆ 都筑智子
白躑躅遅れて雨に花盛り 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白転車つづく朝の小手毬道へでて 川崎展宏
白轢の倒れ木もある月の道 比叡 野村泊月
白辛夷円空仏にかしづける 土岐錬太郎
白辛夷咲き秀でたる木の間かな 山本歩禅
白遍路番外終へて一切終ふ 秋を
白過ぎてあはれ少し蓮の花 蓮の花 正岡子規
白道の左右より咳御滅燈 高澤良一 ねずみのこまくら
白釉のすこし紅さし風花す 一丸文子
白重ね夫人たまたま夜の卓に 吉武月二郎句集
白重涙のしみのなかりけり 野村喜舟「小石川」
白銅の銭に身を売る夜寒かな 芥川龍之介 蕩々帖〔その一〕
白銅貨はまんなかに穴あきて哀し 日野草城
白長須鯨を花に誘ふかな 栗林千津
白閃々一夫一婦の鶴の舞 中村草田男
白閃々黒閃々の初燕 北島大果
白陀亡し地に秋茄子の露まみれ 村上高悦
白陀亡し炉煙りもなし白木槿 青木重行
白陀忌のひかり孕めり草の露 松本三千夫
白隠に妊り申す万愚節 萩原麦草 麦嵐
白隠の書画踏み破る花ごころ 高澤良一 随笑
白隠元豆食べつくすまで枯木鳴る 長谷川かな女 花寂び
白雁といふ大いなる一羽かな 中野津久夫
白雁の一羽まじれる旅愁かな 三宅 句生
白雁や野馬をおどす草の露 許六 九 月 月別句集「韻塞」
白雄忌と言へば信濃の彼を思ふ 細川加賀 『玉虫』以後
白雄忌の人恋ふ雨となりにけり 島田洋子
白雄忌の人食はぬ人ものを食ふ 攝津幸彦 鹿々集
白雄忌の海鳴りしるき鴫立庵 田中英子
白雄忌の火取蛾一夜蔦沼に 鳥居美智子
白雄忌の酒粕の肌理炙るなり 中原道夫
白雄忌へ百椀の酒たてまつれ 矢島渚男
白雄忌やご城下のころ連歌町 中戸川朝人
白雄忌を過ぎたるころや冷し酒 青柳志解樹
白雄碑や遣らずの雨をつまべにに 高岡すみ子
白面に干戈のひびき微かなり 徳弘純 レギオン
白面の眉間発止と雪崩れけり 林昌華
白鞘の一刀まつる滝まつり 桑原視草
白鞘を出づる小太刀や炉を開く 後藤比奈夫 めんない千鳥
白頭のバイオリニスト秋の宵 佐久間慧子
白頭の吟を書きけり捨團扇 捨団扇 正岡子規
白頭の耳の上まで砂糖水 磯貝碧蹄館
白頭鵠(べたこふ)の一樹明るし雨上り 千代田葛彦 旅人木
白飯に飢ゑしは昔霰はね 桂信子 花寂び 以後
白飯やいづこの山も日暮にて 桑原三郎 龍集
白飯や今日はさかえ忌浅蜊汁 橋本夢道 無類の妻
白首に近づく雨と馬匹かな 徳弘純 レギオン
白驟雨人恋ひ虫のこもり鳴く 石原八束 『高野谿』
白驟雨桃消えしより核(さね)は冴ゆ 赤尾兜子
白髪に白髯に春あふれけり 久保田万太郎 流寓抄以後
白髭の笠木も見えて秋の水 黒柳召波 春泥句集
白髯の神の椿は湖に落つ 岩崎照子
白髯の露人胸はりてゆく街は冬 五十嵐播水 埠頭
白鬚の鳥居に波や神渡し 宮地恒子
白鬚の鳥居をくぐるはぐれ鴨 倉持嘉博
白鬚を飾り野老を飾りけり 上羽津由子
白鳥の白を限りに求愛す 照井 翠
白鳥の白消しがたし秋の暮 鍵和田釉子
白鳥の白誇らかに羽摶きし 田村紅子
白鳥を呼ぶみどりごも白ケープ 大熊輝一 土の香
白鳩の屋根に来てゐる終戦日 福田芳子
白鶏だけが神を感じて走り行く 安井浩司 乾坤
白鶏の竹の中行く寒さかな 成美
白鶺鴒あさざの水に移りけり 鈴木しげを
白鶺鴒とんと川原の雪醒まし 高澤良一 寒暑
白鶺鴒逝く間石をば礼叩き 永田耕衣
白鷲は榛の宿水に二月尽 松村蒼石
白鷲や今日こそ秋のことぶれに 林翔
白鷹を据ゑて憂ひのなき花野 長谷川かな女 花寂び
白鷺のはるかな白に居りにけり 不破 博
白鷺の白をあゆませ植田水 木内怜子
白麹冬を昼寝の母怖ろし 成田千空 地霊
白麻の日傘の陰にひそかにゐ 長谷川櫂 虚空
白鼠はしり出でけり蔵開 西李
白鼠わるや祕藏の萬古やき 正岡子規
百千の白兎駈け来る冬の浜 山田みづえ
百日白近江の空こそ縹色 増田十王
百済野の白栲の衣の案山子たち 上野さち子
百獣に白象やさし涅槃像 河野静雲
百足屋も白蚊絣も昔かな 石川桂郎 高蘆
皺ひとつ無き白服の強気なり 櫛原希伊子
皿カップ白で揃へて聖母月 檜 紀代
皿山の白崩崖けぶる霞空 石原八束 空の渚
盆の灯に加はる父の白切子 毛塚静枝
盆舟にまだあたたかき白団子 山崎祐子
盛り塩の白の目を引く事始 山下美典
目に触るるもの白ばかり春の風邪 永方裕子
目白頬白赤腹小雀上野駅 攝津幸彦 未刊句集
盲ひ子の座右に白猫ながし吹く 飯田蛇笏 雪峡
直感のうすくらがりに白菖咲く 本田ひとみ
直面の白皙にして秋扇 西村和子 かりそめならず
眉に立つ白毫剛し初鏡 富安風生
眉描いて来し白犬や仏生会 川端茅舎
眉白に旭が当り出すぶな林 平田繭子
眉白の一声に場の和みたる 三谷尚子
眉白の森に鳴きゐて姿見ず 森美代子
眉白の高音に天城晴れわたり 豊長哲也
眉白の高音ひびけり天城越え 橋本記縫恵
眉白や朝餉の匂ふキャンプ村 樟真弓
眉白や雨がつつめる妹背山 城ちはる
眞つ白な布巾をつかふ花茗荷 秋枝初子
真つ白なあの世見たくて芒原 務中正己
真つ白なシーツを敷けば冬の海 和田耕三郎(1954-)
真つ白なハンカチ使ひそびれたる 藤本悦子
真つ白なブラウス復活祭のミサ 都筑智子
真つ白な犀が来てゐる春の風邪 齋藤愼爾
真つ白な産着が真中初写真 金森教子
真つ白な花の二つが触れ虚空 鳴戸奈菜
真つ白に雨がふるなり除虫菊 楠部九二緒
真ッ白な蛍ぶくろも梅雨の黙 酒井龍也
真菰の芽おびただしはや白蛾ゐつ 川島彷徨子
眠れねば白狐いざなふ霧氷林 野澤節子
眩暈や白芒すら暗すぎる 齋藤愼爾
眺めゐて誰も買はざりき晩白柚 古賀まり子
眼に見えぬ糸の張られて白椿 桂信子 黄 瀬
眼に遣るは遍路の白のどの部分 加倉井秋を
眼白来て庭の春秋はじまりし 稲畑汀子
眼白来て庭の楽しさ音となる 斎藤翠
眼白籠恵那晴るる日は簷に吊る 水谷晴光
眼白頬白一つ籠なる冬日かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
眼白飼ふや父が集めし棚人形 月舟俳句集 原月舟
眼白鳴く磧つづきの家の中 飯田龍太
眼裏に雪白満たすメスの下 加藤知世子 花寂び
着ぶくれてまぶしむものに白燈台 中山純子 沙 羅以後
着るものの終を白とす雁渡し 豊長みのる
睡蓮の一むら離れ白ばかり 大場白水郎 散木集
睡魔来る眼白のいつも来る時間 山田弘子 螢川
睫伏せ白満月の雪の樅 和知喜八 同齢
瞬きをするたびに綿菅の白 正木ゆう子 悠
知床の断崖踏まへ尾白鷲 丸茂良子
知床の風をはらみて尾白鷲 小森行々子
短夜の山中白瀑落し明け 村越化石 山國抄
短夜をかつがつねむる白鸚鵡 大石悦子 百花
短日の出湯の上を白蛾飛ぶ 矢島渚男 延年
短日の白機すすむ筬の音 石原舟月
石に坐し恍惚のとき白すみれ 丸山嵐人
石・流木秋めく白にあばれ川 大熊輝一 土の香
石弓で眼白落しぬ今朝の冬 冬葉第一句集 吉田冬葉
石柱に鳩降り鳩降り白拍子 八木三日女 石柱の賦
石組みの冬日るいるい白虹忌 静間まさ恵
石鹸玉割れる音聞く白寿なり 澤井我来
砂丘白肌見せて薄暑の酒田港 大野林火
砂礫白エーデルワイスまぎれけり 岩崎照子「かつらぎ選集」
研白といふ美しき繭出荷 石橋郷水
破れ傘白花かかげかけこみ寺 東福寺薫
破魔弓の白矢をたとふ一矢かな 安斎櫻[カイ]子
硯する傍にうつくし白がさね 服部嵐雪
碑の陰の碑に黐の花雪白に 加藤知世子 花寂び
磨る墨に酒の一滴白雄の忌 竹中龍青
磯神の一燈の白野分浪 近藤一鴻
祝ぎごころさりげなけれど白重 清水忠彦
祝ぎ事の済みし白足袋干されけり 高橋利雄
神の座の白岳照らす日一輪 福田蓼汀 秋風挽歌
神代桜甲斐の山気に白を帯ぶ 有働 亨
神官の白から白へ更衣 板谷芳浄
神木めぐるどくだみの花白十字 松村蒼石
神苑を歩む白鶏秋をの忌 金丸トミ
神葭流し澪標にも白提燈 佐野美智
神話女神の白肌にして春かもめ 対馬康子 愛国
祭服の涼しき白や起工式 稲畑廣太郎
祭町橋に白髭泪橋 渡邊千枝子(馬酔木)
禅寮に積む白ぶとん臘八会 亀井糸游
福寿草や卓にかけたる白錦 村上鬼城
禪寺の柚味噌ねらふや白藏主 柚味噌 正岡子規
秀野忌や白絹にあるうらおもて 矢部るみ子
秋くると云ひし子の柩ま白なる 萩原麦草 麦嵐
秋のリボンは白蝶と姉妹かも知れぬ 細谷源二
秋の服どこかに白のまだ欲しく 近江小枝子
秋の湯に白蛾をすくふもろ手かな 宮武寒々 朱卓
秋の田に石の標や白毫寺 田村鬼現
秋の蝶黄色が白にさめけらし 高濱虚子
秋は喫茶白手套ぬぐ愉しき世 飯田蛇笏 雪峡
秋冷の白襖またはるかかな 飯田龍太
秋天にクルスは白を色とせる 有働 亨
秋嶺行く光る白点あれが吾子 田所節子
秋彼岸白のおこわも上総ぶり 大坪景章
秋愉し知らぬ夫人も白手套 飯田蛇笏 雪峡
秋暑また仏飯の白無慚なり 櫛原希伊子
秋暑やおはしたながら肌白に 野村喜舟 小石川
秋来ると町屋根越しの白マスト 野澤節子 花 季
秋水の白瀬青淵まさやかに 松本たかし
秋澄むに白杖を身の光りとも 村越化石
秋繭の白の豊作嶺の家 大岳水一路
秋耕の人に蹤く犬白と黒 杉本 寛
秋蝶の白追へば白失せやすし 雨宮きぬよ
秋蝶や春そのまゝの黄に白に 尾崎迷堂 孤輪
秋風に吹かれ白増す母の骨 茂里正治
秋風に白蝶果を狂ひけり 青蘿
秋風に閉ざす離宮の白吟子 西岡 翠
秋風のたてがみ見ゆる白芒 斎藤愼爾 冬の智慧
秋風の隠岐こころざす靴の白 高橋睦郎 稽古飲食
秋風の鬣見ゆる白芒 齋藤愼爾
秋風や旅もハンカチ白がよし 鈴木真砂女
秘色見る外は畠の白椿 松瀬青々
稔り田の白や俄に鷺となる 中山婦美子
稲の花白より味を育てたる 稲畑広太郎
稲光り白ちりめんを積み重ね 鳥居美智子
稲刈後の校庭をあるく白兎 中拓夫 愛鷹
穂孕みを白す八田部の郎女が 廣江八重櫻
穴子白焼どこかで始まる人の離別 藤本常彦
空に咲く白のはじめの花辛夷 宮津昭彦(1929-)
空に藍足し雲に白足して秋 蔦三郎
空の碧落花の白のもとに濃し 池内友次郎 結婚まで
空よりも水の明るき白菖蒲 伊豫田道子
突く羽子の白をたよりの身の在りど 田中みどり
窓越しに手折りて重き白椿 横山房子
窺いて白球を打つ葬後の空 杉本雷造
立ちのぼる白光秋の繭上がる 藤原たかを
立ち出でて白がねふまむ春の雪 立花北枝
立冬のたちまち正午白卓布 友岡子郷 未草
立春のまだ垂れつけぬ白だんご 中山純子 沙羅
立葵一輪白をあげて枯る 阿部みどり女
端午なり鴎の白とはやり唄 鈴木鷹夫 大津絵
競べ馬勝の白絹鞭にうけ 田畑比古
競馬場白系の騎手並み憩ふ 田村了咲
競鳴の賞状の下目白鳴く 中戸川朝人 星辰
竹の幹白服の人通しけり 桂信子 草樹
竹の春朽ちて白ずむ寺の梁 高井去私
竹の花うなづきゆけば白枕 夏石番矢
竹を伐る男しだいに白狐たり 熊谷愛子
竹育つ白光の径五月雨 長谷川かな女 花 季
笛の尾の白装束の行方かな 八木三日女 落葉期
笹緑鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎 金澤百句
筆とつて冨士や画かん白重 白重 正岡子規
筆洗う梅のつぼみの白のため 増田萌子
篝守月の白洲に水を打つ 西尾りん三
籠の目を雑木と思ひ頬白は 永田耕衣 吹毛集
籠を出て考へてをり白兎 清水基吉
籾摺りし糯の白佳し笊すわる 大熊輝一 土の香
粧へる白膠木紅葉や甲斐も奥 矢頭萩花
糸瓜忌の落日淋し白芙容 竹の門句集 筏井竹の門、木津螢雪編
紀のはての白濤ばかり雁帰る 米沢吾亦紅 童顔
紅椿白椿恙なかりけり 星野麥丘人
紅葉湖へ潜水服は白がいい 河野薫
紅葉谿白光曳けりひとつ蝶 石塚友二
紙干すや白を拒絶の色として 文挟夫佐恵
紙漉きて天与の白をかがやかす 落合水尾
紙漉く家白鷲流るごと渡る 西村公鳳
紙魚喰うて玄白訳と読まれけり 岩田深叢
紙魚老いて白毫の如し秋の暮 永田耕衣 闌位
紛れなき白に育ちし毒茸 岩瀬操舟
素謡の洩れて白れん風に舞ふ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
紫の白へ流れて白菖蒲 林翔 和紙
紫陽花や白よりいでし浅みどり 渡辺水巴「水巴句集」
紫雲英咲く白毫寺村佳き香せり 林之助
細雪碁石の白は夫が持つ 湯橋喜美
経文のごとく殖えゆく白蟻や 守谷茂泰
経蔵は白の一色地虫鳴く 佐々木いつき
結界に白朮火を振る別れかな 並山南山
絵扇の裏の白無地しみじみと 猪俣千代子
絹機を織るやかゞよふ白兎 中村草田男
綱引くや知念岬に白穂浪 沢木欣一
網戸はめ白樺の白変らざる 森田 峠
綿帽子白拍子とは見えにけり 小澤碧童
緋に念じ白に祈らむ牡丹寺 林昌華
総門の白蛙股時雨けり 高澤良一 燕音
緑さす白洲を湖とし野外能 大石悦子 群萌
緑陰の白バラ緑ならんとす 山口青邨
繭のごとき卯浪の白をまぶしめり 皆川盤水「寒靄」
繭玉やめでたき色の餅の白 小杉余子 余子句選
群鳩に光る鳩あり吾も白服 香西照雄 素心
羽の旅の白に印象山法師 佐久間庭蔦
羽衣の滝とや白絹岩に掛け 福田蓼汀 秋風挽歌
翳る白輝く白の辛夷見ゆ 千原叡子
翼ひろげ胸白の鷹名は吹雪 福田 蓼汀
老人の手のように白夾竹桃 和知喜八 同齢
老人や牛蒡蒔く日の白手拭 草間時彦 櫻山
老梅の一途の白のけぶるかな 鈴木鷹夫 大津絵
老梅の受身の白や尼寺の跡 川崎慶子
老犬の貌の白毛も霞みけり 境野大波
而して白陀がどんや年忘れ 石塚友二
耕の雲水のみな白襷 後藤比奈夫
耳少し疼く日の團扇の白や 中塚一碧樓
耳朶に灯の透きし夜店の白兎 土生重次
聖十字白ぬく柩麦嵐 村越化石 山國抄
聖燭の夜をまな妻が白鵞ペン 飯田蛇笏 春蘭
聖鐘の塔の真下の雪の白 村越化石 山國抄
聚まりて白鳥の白極まりぬ 鈴木貞雄
肉声もなく盆過ぎの白磧 子郷 (紀州滝神村)
肌寒やひとり臥すとき白鳩見し 八牧美喜子
背くこと白コスモスの茎真ッ直ぐ 荒井良子
胎蹴りし日のあり泳ぐ白蹠 品川鈴子
胡瓜つかむ蜑の白爪帰りざま 古館曹人
胸中も白をよそほひ秋遍路 平綿涼風
胸元で打つ波 船の毛布は 白 伊丹公子 メキシコ貝
胸白ろ燕よ吾には母の記憶なし 川口重美
脂こきものがまだ好き白縮 綾部仁喜「樸簡」
脛(はぎ)白の丁(よぼろ)踏み入る薄叢 筑紫磐井 婆伽梵
膝折って額白牛やうめばち草 杉山岳陽
舟をあやす河水たつぷり白秋忌 鍵和田[ゆう]子 浮標
舟虫のこそりと迅し白ヶ島 本橋 仁
船腹の白痛からむ秋は走り 和田悟朗
船酔の首を振つては白熊となり 藤後左右
色として白梅の白なかりけり 齋藤玄 『雁道』
色街に老を忘れて白上布 伊豫田道子
色里や白頭の翁花を売る 花 正岡子規
芦青ければ甘し堤防の白投影 宮津昭彦
芭蕉葉の夕べ色濃し白縮 笠原すま子
花とつて臘白の頬や墓詣 飯田蛇笏 霊芝
花に来る眼白見えつつ授業かな 木村蕪城 寒泉
花に舞ハで歸るさにくし白拍子 蕪村 春之部 ■ 雨日嵐山にあそぶ
花のさびたの白は平穏逢ひたけれど 野澤節子 黄 炎
花の昼白光放つ骨拾ふ 内藤吐天 鳴海抄
花の雨延年舞の白足袋に 沢木欣一 地聲
花びらのうすしと思ふ白つつじ 高野素十
花びらのてのひらほどの白菖蒲 山口青邨
花会式献茶点前の白袱紗 石垣幸子
花冷えの白粥少し残りけり 保科その子
花冷や塔の礎石の白瑪瑙 神田美穂子
花卉秋暑白猫いでゝ甘まゆなり 飯田蛇笏 霊芝
花大根チョークは白でいいですか 濱垣和子
花守の白手袋に迎へられ きちせあや
花柊の白昏れのこる夕あかり彼の世からわれは覗かれゐたる 引野収
花桑や白沫の宇宙暗みかも 林桂 ことのはひらひら 抄
花梨の無限の白に入りてまどふ 加藤知世子
花烏賊の腸抜く白足袋のをんな 鈴木鷹夫 千年
花石榴ここに玄白解剖の碑 稲垣きくの 牡 丹
花石蕗に雨のあがりし白虹忌 横山房子
花祭の白象生死無限にして 長谷川かな女 花 季
花祭稚児白象の鼻を撫づ 岸 正儀子
花野ゆく白をもつとも美しく着て 森川 潔
花降らす菩薩ならめや白拍子 筑紫磐井 野干
苔涼し平泉先生の白緒下駄 桂樟蹊子
苗代と死者を隔つる白襖 野中亮介
苗木市雨の白佗助を買ふ 金田咲子 全身 以後
若きらの白服北大練習船 千葉 仁
若さとも老とも妻の白上布 草間時彦
若者の手をとりあるく白詰草 高澤良一 素抱
若草に干して白張傘果敢(はか)な 冬の土宮林菫哉
若葉満つひるの白飯いたゞきぬ 冬の土宮林菫哉
英雄の息女の三人白夏服 中村草田男
英霊よ白装束の初鳩よ 築城百々平
茂る白楊そびらに父の眠り在す 阿部みどり女
茄子割つて思はぬ白を暴きけり 鳥居おさむ
茉莉花の褪せての白とおもわれず 野崎明子
茜さす水面をよぎる白蛾かな 阿部みどり女
茨の枝に頬白ふくるゝ粉雪かな 西山泊雲 泊雲句集
茶の席の白佗助といふ一花 中村祐子
茶の花や白にも黄にもおぼつかな 蕪村 冬之部 ■ 浪花遊行寺にてばせを忌をいとなみける二柳庵に
茶畑に螢袋の白ともる 瀧澤伊代次
茸山の白犬下り来るに逢ふ 誓子
茸狩や若い女の白脚絆 寺田寅彦
草に白蛾ここはさつきもとほつたはず 奥坂まや
草の戸や白機はじむ十四日 飯田蛇笏 山廬集
草市の燈を白服に享けて過ぐ 大野林火
草紅葉水の落差は白をもて 中戸川朝人 星辰
荒くくりして白肌の寒の葱 大熊輝一 土の香
荒鵙の白鵙にして椢原 原石鼎
莟解く風を待ちをり白菖蒲 高島筍雄
菊の原白猫散り散りはるかになりぬ 阿部完市 春日朝歌
菊の名や問ひかへさるゝ白ウルリ 中村史邦
菊匂ふ白鮫着せの飾太刀 中戸川朝人 尋声
菊畑や暮れのこる白のところ~ 森鴎外
菖蒲咲けり桶に紫白の遅速無く 渡邊水巴 富士
菖蒲湯の吾を待ちゐる白肌着 鈴木鷹夫 春の門
菖蒲苑白誇りあひ嘆きあひ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
菜の花や東へ下る白拍子 寺田寅彦
菜の花売りに来る日の富士よ真つ白な 林原耒井 蜩
菜園の白天ゆらぎ蝗降る 西村公鳳
菜畑やきのふ白蝶けふ黄蝶 ふけとしこ 鎌の刃
菫かな白寿の母を生みたるは 上野まさい
菱の実の角むらさきに白秋忌 中尾杏子
萩のトンネル白足袋の母に蹤きゆきぬ 杉本寛
萩刈つて土のあらはに白毫寺 伊藤敬子
萩寺の確か白咲き萩未だ 高澤良一 宿好
萩散りて頼りし白のすべて失し 加倉井秋を 『風祝』
萩根分この紅は誰白は彼に 池月一陽子
萩芽吹く石段粗き白毫寺 佐藤 忍
萱厚く氷室を葺きて白蛾湧く 吉田紫乃
落し文懸想は白をつくしけり 河野多希女
落柿舎に人棲み風の白のれん 中尾寿美子
落花せで春菊白化黄蝶放つ 香西照雄
落鮎の白瀬に次の白瀬見ゆ 宮津昭彦
葉の色に白は淋しき夏椿 高木晴子
葉の裏の白があざやか若牛蒡 茨木和生 往馬
葉をかぶる朝顔の白颱風報 野澤節子 黄 瀬
蒟蒻の白と黒とが秋水に 辻桃子 花
蒲公英の白ばかりなり墳のみち 大森三保子
蒲公英や白系露人今いかに 福田蓼汀
蓮は実に白毫寺まで畦づたひ 北澤瑞史
蔦青し井ノクボの窓白紅の燈 竹下しづの女句文集 昭和二十四年
蔵に居て人には見えず白鼠 上島鬼貫
蔵元の餅花は白ひといろに 伊藤敬子
蕃椒の白花小さく葉かげなる 設楽太草
薄き日へ樹氷のかかぐ白十字 羽部洞然
薄暑よし受贈の句集雪白に 亀井糸游
薔薇挿すや床臥す母の白づくめ 橋本榮治 麦生
薫風にマルソーの白躍りけり 今泉貞鳳
薫風や神との間の白几帳 毛塚静枝
藤垂れて深夜崖なす白襖 栗生純夫
藤房の白光放ちつつこぼる 河本好恵
藤白のみ坂を染めし椿かな 黒川隆子
藤白の落花を敷きて皇子の墓 山口超心鬼
藪陰やうつくしき白蛾よゝと飛ぶ 蛾 正岡子規
藻に白花開くさざなみ淡青に 香西照雄 素心
藻の花や舟寄せて読む白秋碑 奈良文夫(萬緑)
蘆花祭の霧の頬白啼きうつり 石原八束 空の渚
虚子の忌の白に遅れて紫木蓮 大井雅人
虚室のかなた白尽し飛ぶ冬鴎 赤尾兜子
虚白院へ茶の木のなかの霜の路 河野静雲 閻魔
蚊の影や讌(うたげ)はてたる白襖 西島麦南 人音
蚊帳吊るやわがひとり寝の白蚊帳を 石塚友二
蛇笏忌の月にあそべる白蛾あり 須並一衛
蛍飛ぶ宿へ帰りぬ白拍子 蛍 正岡子規
蜜と乳賜ふカンナの白炎天 加藤耕子
蜜を吸ふ眼白天地を逆しまに 八島あきの
蜜月の真っ只中の白詰草 高澤良一 素抱
蜜柑山飛び立つ鳩の腋の白 中拓夫 愛鷹
蝶あがる浪の白宵(ゆふべ)の磯菜摘み 石原八束 秋風琴
蝶の影大きく飛んで白つつじ 深見けん二
蝶の白蝶の黄心迷ふ日に 稲畑汀子 汀子第三句集
蝶乱舞黄を白が白を黄が追へり 上野泰 佐介
蝶生れぬ白と緑の餅も搗く 百合山羽公 寒雁
螢来ず白装束の蛾と逢ヘり 殿村莵絲子 花寂び 以後
螢狩白歯のちからおもふべし 飯島晴子
蟹走る白秋生家の舟着場 松村節子
蟻あそぶ神官脱ぎし白緒下駄 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
蟻いでて庭苔ふかし白つばき 飯田蛇笏 雪峡
血縁の絶えて白花さるすべり 新井佳津子
衆にして孤なりける白遍路 杉本雷造
行く春に一匹白猫添いにけり 阿部完市 軽のやまめ
行く春の寂光曳けり白孔雀 石田克子
行く春の烏帽子買ひけり白拍子 行く春 正岡子規
行く春をなれも惜むか白拍子 行く春 正岡子規
行く雲のこぼしたる白返り花 江川虹村
行春や白封筒にかしこまり 南 典二
街角の靴音白とわかるまで 菅原さだを
衣更へて祇園に賽す白拍子 菰堂子
衰えはおとろえとして白椿 三田村弘子
被爆地へ発つハンカチの白ばかり 鈴木鷹夫 渚通り
袱紗解くごと風に解け白菖蒲 宮田春童
裏切りの二転三転白孔雀 宇多喜代子
裏山や雪頬白に枯れ盡くし 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
裸灯に鰤の白腹百数ふ 細見綾子 雉子
襟もとの白すこし見え単衣もの 実花
西霽(は)れて窓の木がくれ白椿 飯田蛇笏
西霽れて窓の木がくれ白椿 飯田蛇笏 春蘭
見すかせば白だつ浪や麦ばたけ 佐野まもる 海郷
見つめゐて身に白流る白菖蒲 高橋良子
見上げられゐても頬白鳴き止まず 太田 嗟
見事なり全髪雪と白変し 相馬遷子 山河
親しみて立つにかげろひ白秋碑 桂樟蹊子
親音に夏の白花黄花かな 森 澄雄
観自在菩薩の白を沙羅の花 大石悦子 群萌
観阿弥の地や大神神社の白朮綯ふ 谷本まさ子
触れてゆく霧の音生む白合羽 中戸川朝人 残心
託禅師乾鮭に白頭の吟を彫 蕪村 冬之部 ■ 倣素堂
許さざる白の眩しさ花辛夷 渡辺恭子
詞にも玉の緒のあり根白草 神尾久美子
詩碑前に白秋祭の徳利置く 古賀寿美人
誕生を待つ真つ白な毛糸玉 窪田光代
誕生日夜は浜木綿の白花火 吉野義子
誘ふごと白蝶ゆけり木下闇 ふけとしこ 鎌の刃
読初や卓上白文唐詩選 高浜虚子
読初や机上白文唐詩選 高浜虚子
誰が擲つ舟首舟尾の白海月 宇多喜代子
諸白といひ透きとほる濁酒 後藤比奈夫 めんない千鳥
講宿に頬白来鳴く山日和 岡田 日郎
谿ちかく絶唱の白泰山木 友岡子郷 遠方
谿ひらく青葉しぐれの白磧 川口芳雨
豆の花白ばかり胸に不毛の地 下村槐太 天涯
豆柿の数より眼白多きかな 木南青椒
象牙玉小粒かたまり白式部 石原栄子
貝寄風や白球は誰も追いかける 塩野谷 仁
貝杓子使ふ白粥梅雨の底 中戸川朝人 星辰
貝母憂し母は白寿を疾くに過ぎ 中田モト子
貞白の牡丹大息ためて見る 大屋達治 絵詞
買ひてすぐ羽をいたはる白破魔矢 橋本美代子
赤よりも白に華やぎ葉牡丹は 蔵本はるの女
赤石の秀の雪白は尺余のみ 栗生純夫 科野路
赤置いて白華やげりシクラメン 今橋眞理子
赤薔薇と白薔薇と枝を交へけり 薔薇 正岡子規
赤詰草白詰草に勝る丘 高澤良一 寒暑
起出でけり草の東雲白茄子 調菅子 選集「板東太郎」
越冬の蛹めくかな白ギプス 野澤節子 黄 炎
足袋にあり男の白といふ色も 山崎みのる
踏切が鳴り白椿紅椿 岩淵喜代子 硝子の仲間
躑躅照る中雪白のザビエル碑 下村ひろし 西陲集
身ごもりて御髪長し白重 龍胆 長谷川かな女
身にかなふものに白粥夏ゆふべ 大石悦子 聞香
身にしむや白手套をみるにつけ 飯田蛇笏 雪峡
身に入むや白装束の笛吹くは 田中裕明 花間一壺
身に堪へて寂しと言はじ庭のべの白つめ草は花咲きにけり 松村英一
身に覚えあれば膨るる梅の白 宇多喜代子
身の丈に生き十薬の花の白 小島日登美
身の中の肋を支へて白芒 齋藤愼爾
身も軽し白爪草を踏み行けば 西村和子 窓
身を鍛へよと頬白の遠音冴え 飯田龍太
車体拭き白ばら青く磨き出す 古舘曹人 能登の蛙
軍扇の裏の白泥蟻地獄 吉田紫乃
軻具突智の火山灰降る繭の白斎ひ 加倉井秋を
辛夷の白剪らむと研ぐか月の鎌 成瀬桜桃子 風色
辛夷白を極め高野の胎蔵界 毛塚静枝
辣韮の無垢の白より立つにほひ 文挾夫佐恵
辻君の白手拭や冬の月 冬の月 正岡子規
返り花とて放心の白ばかり 倉橋羊村
追ひ炊きして白飯や年木宿 萩原麦草 麦嵐
追羽根や高く干されし白襁褓 菖蒲あや
送り盆笹舟に乗す白団子 森 郁代
送水文読む白装束は川の中 中西舗土
逃亡や白詰草に膝を折り 柿本多映
透かし見る繭や孤高の白放つ 杉渕真喜子「未来図合同句集」
透蚕らに木の葉映らぬ白瀬あり 宇佐美魚目 秋収冬蔵
逢うて来し足袋まつ白に洗ひをり 北村峰子
進みけり白柄の切貝風呂吹の兵 上島鬼貫
遊びをせんとや白椿白椿 齋藤愼爾
遊亀展の白寿の画業涼しけれ 伊東宏晃
遊船の波切り進む白詰草 高澤良一 素抱
運転席のぞく兄弟白夏帽 大越みほ
遍路脱ぐ今日のよごれの白足袋を 中村草田男
道白や月を背に坂なぞへ 松根東洋城
達磨下地の白重ね塗り初仕事 奈良文夫
遠い煙が白瓜抱いて昇るらん 安井浩司 密母集
遠き日の紅葉また踏む白虹忌 箱田三更
遠ければ瀬はただの白絵燈籠 魚目
遠吠えの牙の白光蕎麦の花 和田悟朗
遠嶺白野兔ももう冬毛なる 依田明倫
遠樹に雲草に白帽夏果てぬ 木下夕爾
遠目にも 禰宜の白冴え 梅花祭 伊丹三樹彦
遣羽子や邪魔して過る白袴隊 遣羽根 正岡子規
遥かなる大樹は暗し白楊の絮 阿部みどり女
避暑の荷に加ふる白洲正子かな 大石悦子 百花
還れざる白鳥の白死装束 三好潤子
還暦といふ月白に似たる日々 湯浅康右
郁子いけて白蚊帳秋となりにけり 飯田蛇笏 春蘭
郁子も濡るる山坂僧の白合羽 野澤節子 花 季
部屋に来る白蛾宥して行者宿 毛塚静枝
郭公や白頭明かり曳きゆけば 中島斌雄
都鳥昭和の白のながれゆく 津根元潮
釈朝風白猫抱いて月を行く 松村蒼石
重き白装キャベツ畑に霧を撒く 大高弘達
野に下れば白髯を吹く風涼し 夏目漱石 明治三十七年
野に雪の来て白狐寺の祈祷どき 文挟夫佐恵 遠い橋
野の景にマーガレツトの白を置く 稲畑汀子
野水仙白瀬そのまま海に入り 中戸川朝人 残心
野葡萄のまだ真つ白に月を待つ 市村究一郎
野遊びと世は異ならず白遍路 森澄雄
金柑にはや頬白の来鳴くなり 癖三酔句集 岡本癖三酔
金環蝕極まれり白蝶舞ひ縮む 永井龍男
金網影踏みて白鶏夏に入る 伊藤京子
鈍き日や白足袋干せる二三日 野村喜舟 小石川
鈴のみが仔犬の春装白柔毛 香西照雄 素心
鉄線花の白蕾病つまづくな 石田あき子 見舞籠
銀行の裏に鶏出て白穂の田 飴山實 『おりいぶ』
鍬切れの藷の白傷ごまかし得ず 津田清子
鏡中の吾を消し秋の夜の白蛾 殿村莵絲子 花寂び 以後
鏡太郎忌夜目に紫陽花白呆け 成瀬桜桃子 風色
長き夜の物音きくや白拍子 夜長 正岡子規
間断の妻の死顔白菫 斎藤玄 クルーケンベルヒ氏腫瘍と妻
闇に浮く白塔あれば夜の秋 林翔 和紙
闇割れて白狐顕はる夏芝居 西村和子 かりそめならず
阿片の花白曼陀羅の罌粟畑 橋本夢道 無類の妻
陶工の往き来の径や眼白籠 高木良多
陶酔や白糖を蟻光り出づ 内藤吐天 鳴海抄
陸奥白兎しんぷるにたべてならんで 阿部完市 軽のやまめ
陽かげれば十薬の白光り出す 市野沢弘子
陽炎の光源は娘の白チャドル 小檜山繁子
隙だらけにて皆ゐるに白蝶々 細見綾子 黄 炎
障子入れ白をぬくしとおもふなり 鶴豊子
障子貼り終へたる白に母を恋ふ 三輪満子
隠居名の白猿襲ぎぬ二の替 野村喜舟 小石川
隠沼に鳰ゐて錆びぬ白椿 石川桂郎 高蘆
雁渡し草木白瀬もひるがへり 山口草堂
集ひくる白鶺鴒や秋彼岸 堀口星眠
雉子の死を吹いて記憶の白薄 和知喜八 同齢
雉子の貌どこかに白点ありしと思ふ 山口青邨
雉子鳴くや無住寺にして白襖 大峯あきら
雌ノ大和白蟻ニ不定愁訴ノ栄誉ヲ授ク 夏石番矢 真空律
雑巾しぼるペンだこが白たたけた手だ 尾崎放哉
雑巾堅く絞る朝顔紺と白 鈴木鷹夫 渚通り
雛つづら抱へきたれる白袴 石田勝彦 秋興
雛の日や誰と遊ばん白拍子 雛祭 正岡子規
雛祭古白に妻はなかりしよ 雛祭 正岡子規
雨あとの月白すでに田を乱す 古舘曹人 樹下石上
雨が打つ白兎神社の焚火跡 木村蕪城 寒泉
雨けぶる頬白声を募らせて 小林陽子
雨にじむにじむ鉾曳く白足袋に 山田弘子 初期作品
雨ふくむ枝よこさまや白はちす 瀧井孝作
雨上がり白膠木紅葉は木の女 鳴戸奈菜
雨冷えの白花をつづり茜草 高槻弘文
雨後は佐渡近みて点る白切子 伊藤京子
雨粒の磨かれてゐる白式部 山口啓介
雪に向き白瞑目の障子の家 大井雅人 龍岡村
雪のうえ罰として白落椿 和知喜八 同齢
雪の上に落ちて紛れず白椿 吉川一竿
雪の世のいつかは倒る白襖 齋藤愼爾
雪の山畑白真ッ平らしかし斜め 金子兜太 遊牧集
雪の辺に白惜しまずよ冬椿 齋藤玄 『玄』
雪は白雪は白だと諦める 櫂未知子 蒙古斑
雪ばんば縋る白洲の竹矢来 町田しげき
雪ふりや棟の白猫聲はかり 雪 正岡子規
雪やなぎ白濃き午前海が見たし 大野林火
雪中にまぎるれば鳴く山羊の白 細谷源二 砂金帯
雪加鳴く雲の白光沼に満ち 小川斉東語
雪原に白顕ち晒す布の丈 野澤節子 『存身』
雪原の白光月光を以つて消す 岡田日郎
雪国にいて白鳥は菓子の白 和知喜八 同齢
雪国や月照りてまた白朝日 和知喜八 同齢
雪山に林相白を以て描き 福田蓼汀 秋風挽歌
雪山に白樺の白やや汚れ 福田蓼汀 山火
雪山の羞らひの白村が見え 齊藤美規
雪山背にバレーのごとき白孔雀 加藤知世子 黄 炎
雪晴や青と白とは勇み色 香西照雄 素心
雪渓の白光見ゆる晴るる夜は 岡田日郎
雪白に劣らじと葛晒しけり 江口井子
雪白に命薄きを妻と称ぶ 斎藤玄 クルーケンベルヒ氏腫瘍と妻
雪白の手袋の手よ善き事為せ 中村草田男
雪白の晒を緊めて裸押 檜 紀代
雪白の牡丹に見たり円光を 瀧春一 菜園
雪白へ泣きじやくる吾子シヤツ干す妻 飴山實 『おりいぶ』
雪眼鏡はづして白につかれいる 片山花御史
雪積みて全白となる関ヶ原 山口誓子 大洋
雪解靄頬白のこゑ遠ざかる 島田万紀子
雲海やただ白描の日本海 橋本鶏二
雲湧くへ白被り出て甘蔗刈 荒井正隆
雷神は白皙にして耳秀づ 相生垣瓜人
雷鳴や病んで白蛾のかげを忌む 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
霊棚の前はいよいよ白瀬かな 友岡子郷 翌
霜柱白宮殿を現じけり 下村梅子
霜降や白じら老ゆる象はな子 中原鈴代
霧なめて白猫いよよ白くなる 能村登四郎
霧にふれ萱の白緑暁けきりぬ 下村槐太 天涯
霧の夜の炎の中に白炎 中戸川朝人 残心
霧の阿蘇晩白柚を剥く香あり 加藤楸邨
霰ふれども濡れざるは白秋碑 松澤昭 神立
露なめて白猫いよよ白くなる 能村登四郎
露の屋根へ白猫躍り上りけり 原石鼎 花影以後
露はしる紫式部白式部 和田祥子
露無限つひに白猫を抱擁す 岩田昌寿 地の塩
露白(つゆじろ)の脳髄の蝿びいきかな 永田耕衣 殺祖
露白光インコの会議熱しつつ 堀口星眠 営巣期
露草のホントは白といふ秘密 谷 さやン
露葎白膠木は火色つくしけり 鈴木しげを
青あらし白衿きつくかき合せ きくちつねこ「あこめ」
青天に白を増やして紙を干す 五十島典子
青嵐なんじやもんじやの白爆発 加藤国彦
青嵐白襟きつくかき合せ つねこ
青春の白歯の笑ひ牡蠣煮えつつ 榎本冬一郎 眼光
青葉して白花点じぬ姫林檎 石塚友二
青葉の夜裁つ白絹の声をあぐ 横山美代子
青鵐来て頬白去るや庭の面 高浜虚子
靜かさに寒し師走の白拍子 師走 正岡子規
面目はをみなにもあり白上布 鈴木鷹夫 千年
音楽がからだに在りて白セーター 熊谷愛子
頑なまでどくだみの白十字 石川文子
頬白ときまりて鳴けり松の上 松藤夏山 夏山句集
頬白にまさかの田畑売られけり 今井園子
頬白にやさしき心取戻し 楠原 晴江
頬白に怒濤の巌を見出けり 齋藤玄 飛雪
頬白に朝がはじまる茨の実 青柳志解樹
頬白のくりかへし呼ぶ春の岬 瀧春一 菜園
頬白のこゑに蹤きゆく薄暮かな 加藤楸邨
頬白のこゑのたしかに山住ひ 全田直子
頬白のこゑのみ風の小松原 平賀扶人
頬白のこゑの揺れゐる湖びらき 市ヶ谷洋子
頬白のすがりて撓むおほでまり 飯塚秀城
頬白のとまる枯木をながめけり 阿部みどり女
頬白のひとりごと くぬぎは いつまでも枯葉 吉岡禅寺洞
頬白のゐて桑明し秋の暮 中島月笠 月笠句集
頬白のカメラに入りぬ真向にて 林原耒井 蜩
頬白のディスクジョッキー始まれり 高澤良一 ぱらりとせ
頬白の一声ごとに明けにけり 阿部ひろし
頬白の古巣をひとつ初景色 関戸靖子
頬白の咽喉母のこゑ専らなり 石田波郷
頬白の地鳴かそけし草城忌 石田あき子 見舞籠
頬白の声に明け暮る岳住ひ 藤原よしえ
頬白の声のちりちり河原来る 旗川青陽
頬白の声の一灯震災地 永見貴子
頬白の好む粟置く給餌台 藤原たかを
頬白の庭の一劃手を入れず 稲畑汀子
頬白の恋唄ならふセミナリヨ 井口弥江子
頬白の恋川風に押されつつ 友岡子郷 翌
頬白の日させばうごく霜の畦 阿部ひろし
頬白の春田歩きの頬よ来よ 皆吉爽雨
頬白の来て明るさの森の中 土屋紫信
頬白の来鳴きて芽立つものの蔓 水原秋櫻子
頬白の横歩きせる恋はじめ 増田斗志
頬白の水亭きらと渡りけり 古舘曹人 砂の音
頬白の片羽つくろふ通り雨 島崎秀風
頬白の目覚し止むる術もなし 堀口星眠 青葉木菟
頬白の磯くもれども空まぶし 千代田葛彦
頬白の移りゆく枝みな芽吹く 中村四峰
頬白の空降りてくる草に臥て 桜井博道 海上
頬白の罠かけてきて登校児 青柳志解樹
頬白の群れて紙漉く家を越ゆ 岡本まち子
頬白の群れに湯玉のとぶ井あり 友岡子郷 春隣
頬白の老いてまで怖るるを叱す 永田耕衣 吹毛集
頬白の長き啓上会閉づる 平井さち子 紅き栞
頬白の飛ぶとき雪の光ひき 青柳志解樹
頬白の鳴き真似上手の兄だった 髪谷雅道
頬白の鳴くためにある柳かな 阿部みどり女
頬白は久女か虚子の墓に啼き 五島エミ
頬白は孵へり八十八夜かな 高橋馬相 秋山越
頬白は竪琴かなで聖五月 古賀まり子
頬白へ一筆啓上吾病めり 山田みづえ
頬白やそら解けしたる桑の枝 村上鬼城
頬白やひとこぼれして散り~に 川端茅舎
頬白やみささぎ山の冥さより 千代田葛彦
頬白や一の鳥居を湖のなか 宮川貴子
頬白や一人の旅の荷がひとつ 有働亨 汐路
頬白や下枝下枝の芽ぐむ間を 中村汀女
頬白や人肌ほどに池ひかる 雨宮抱星
頬白や児ら溢れ出る朝のバス 都倉義孝
頬白や大磐石に雪残り 有働亨 汐路
頬白や子の欲しきもの限りなし 石田あき子 見舞籠
頬白や家なき原を郵便夫 相馬遷子 雪嶺
頬白や屋根に草生ふ御堂あり 中川ヨシ子
頬白や手鏡ほどの水溜り 杉浦恵子
頬白や故山の土に母還し 手島靖一
頬白や木立に雨後の靄かかり 長谷川草洲
頬白や杉箸乾く吉野郷 中村風信子
頬白や村に力の戻りたる 小島健 木の実
頬白や目つむりて空白となる 森澄雄
頬白や磯曇れども空まぶし 千代田葛彦 旅人木
頬白や篁の秀は隠岐の海 加藤楸邨
頬白や耳からぬけて枝うつり 室生犀星 犀星發句集
頬白や芽吹きこぞりし裏至仏 甲賀 山村
頬白や葛城を靄のぼりゆく 中御門あや
頬白や裾濃の靄に岳光る 千代田葛彦 旅人木
頬白や配色となる古毛糸 加藤知世子
頬白や雪解がすみに八ヶ岳 根岸善雄
頬白や雲吹き上ぐる弥彦山 山田春生
頬白を聴くや芭蕉堂わびて 宇咲冬男
頬白を飼ひて万年床をして 茨木和生 倭
頬白を鳴かせて濁り信濃川 早川草一路
頬白来る何かくはへて紅梅に 中村汀女
頬白高音鳥となり吾子還りしか 福田蓼汀 秋風挽歌
頬白鳴く炎の母が濡れる森 杉浦はるか
頭突きくる伝教大師忌の白蛾 宮坂静生 山開
顔見世の白狐吊られて宙に在り 品川鈴子
風に経緯吹かれて 秋の白封書 伊丹公子 時間紀行
風の筋再び白に花菖蒲 米谷孝
風の蓮紅にまさりし白蕾 野沢節子 飛泉
風光る白一丈の岩田帯 福田甲子雄
風呂敷にすぐ毛虫つく白毫寺 田川飛旅子
風呼んで夕べ白湧くさくらかな 伊藤京子
風抜ける一瞬の闇白菖蒲 鎌倉佐弓 潤
風死すや白髯垂れし翁椰子 山崎冨美子「低音」
風船の白ばかり売れシヤガール忌 上田日差子
風花やかたらひの鵜の白灯 殿村莵絲子 花寂び 以後
風見たり菖蒲の白の頂点に 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
風選び風と遊べる白芒 塩川雄三
颱風あがりの白れむの月煌々たり 臼田亜浪
飢はるか白ふくろふの夢の中 柚木紀子
飯桐の実こそ赤けれ白秋忌 中村わさび
飲食のあと白繭を見にゆかむ 中村苑子
餅搗や頬白は籠を飛びやまず 加治幸福
餌を奪ふ金黒羽白負けてゐず 岡田 日郎
饗宴の卓の白花春をしむ 飯田蛇笏 春蘭
首都秋暑白襟徒手の者ら満つ 北野民夫
香をつなぐ白と紫ライラック 稲畑汀子
香具山の風にほぐるる白菖蒲 古川京子
馬の眉間の白ひとすぢや山始 小澤實 砧
馬追が鳴くアパートの白天井 鷹羽狩行
駒牽きやけふ切り立ての白ふどし 大江丸
駒迎ことにゆゝしや額白 蕪村 秋之部 ■ 竹渓法師丹後へ下るに
骨熱くあげきて寒の白椿 石原舟月
高き厦日覆の白を暗くしぬ 山口波津女 良人
高枝に白猫隠もる梅雨の槇 宮武寒々 朱卓
高槻のこずゑにありて頬白のさへづる春となりにけるかも 島木赤彦
高浪の白と向きあひ氷菓食ぶ 山田弘子 初期作品
高階に春日あまねし白ベッド 館岡沙緻
髪に来し白蛾の紋の忌まれけり 太田鴻村 穂国
髪も稍々白初夢などは嘗て見ず 加藤楸邨
髪を飾りはるかな郷の白太陽 佃悦夫
髪五尺眩しむ梅の白負うて 河野多希女 納め髪
魂棚や何はあれとも白團子 魂棚 正岡子規
魔女ならず白梟のとぶおどろ 依田明倫
魚板打つ音にも零る萩の白 宮村たかを
魚簗打に出る白栄の夜空かな 大須賀乙字「乙字句集」
鮎占い白装束の山人ら 奥山甲子男
鮎落ちて伊昔紅忌の白磧 馬場移公子
鮮白の節かず六十今年竹 中村草田男「時機」
鰒汁古白今いづくにかある 河豚汁 正岡子規
鱚添へて白粥命尊けれ 石田波郷
鱶の死に白一団の海女よぎる 友岡子郷
鳥ごゑの弾ける如し白隠忌 高澤良一 鳩信
鳥交る大河の空の白ぐもり 高橋悦男
鳥追いの籠り戸が開き白鶺鴒 大森知子
鳳仙花白に隣りて赤濃し 松藤夏山 夏山句集
鳴き逸る頬白言葉つめつめて 大橋敦子
鴎の白少し疲れし晩夏かな 石川文子
鴨狙ふ尾白鷲木に身じろがず 南秋草子
鵲の巣に白嶽の嶮かすむなし 飯田蛇笏 春蘭
鶏卵の白のまぶしき終戦日 猿渡藜子
鶯のうたゝ眼白の眼を妬む 鶯 正岡子規
鶯やレグホンの白一羽飼う 和知喜八 同齢
鶴の白借りて明けゆく鶴の里 井手 直
鷹女ならず白梟のとぶおどろ 依田明倫
鷺とんで白を彩とす冬の海 山口誓子
鷺を白点接収こばむ雨の荒田 古沢太穂 古沢太穂句集
鷺舞の老の白足袋光りけり 上野さち子
鷺草の残り少なく白澄みぬ 石田波郷
鷺草の白極まりてはばたけり 篠田恵衣子
鷺草の白澄みわたるさびしさよ 池上不二子
鷺草の飛べば穢るる白ならむ 片山由美子 天弓
麗人をいざなふ僕の白手袋 筑紫磐井 婆伽梵
麦の穂に頬白すがる雹のあと 阿部ひろし
麦刈り終ふ天の白毫一つ星 池上樵人
麦埃いとふ白機織りすゝむ 西島麦南 人音
麦秋の江と白楊の風しろし 桂樟蹊子
麻酔利き白蛾となりて先ゆくもの 殿村莵絲子 牡 丹
黄昏へ山梔子は白離さじと 河野多希女 月沙漠
黄昏や扇をのする白ぼたん 斯波園女
黄泉に発つ足袋白すぎる薄すぎる 石田阿畏子
黄白の菊や相和し相背く 相生垣瓜人
黄砂降り籠にけばだつ白兎 横山房子
黄落や森の奥処の白塑像(ローマ・ボルゲーゼ) 石原八束 『高野谿』
黄道や白道や葉の曼珠沙華 池田澄子
黍白穂赤穂信濃に夏をはる 福永耕二
黎明の白鴉と寒鴉啼き交はす 高澤晶子
黒松にこもる海鳴り尾白鷲 成田千空
黒潮を二枚三枚白拍子 夏石番矢 楽浪
黒猫を恋ふ白猫に梅月夜 矢島渚男 船のやうに
黒釉に爽やかな白巴紋 沢木欣一
黒頭に白頭まじり天の川 斎藤玄 雁道
鼬去る銀木犀の白浄土 村上冬燕
齢きて白歯失せゆく雛かな 寺田京子
齢に色あれば白とよ母の冬 鈴木鷹夫 渚通り
龍神の棲む水湛へ白睡蓮 大熊輝一 土の香
●白一色 
大滝の白一色の淑気かな 平松三平
山茶花は白一色ぞ銀閣寺 碧童
新生児室に白一色の新春来る 斉藤夏風
新生児白一色の夏衣 山田登美子
晩年の白一色の日向ぼこ 鷹羽狩行
水急ぐ白一色の菖蒲田ヘ 三橋鷹女
浜菊の白一色のいさぎよし 八牧美喜子
障子たて白一色に雪見舟 近藤一鴻
雪晴の襁褓高干す白一色 岸風三樓
青山中白一色の襁褓干す 長田等
●白黒 
なまり節喉につかえて眼を白黒 高澤良一 素抱
にわとりへ白黒映画の手が伸びる あざ蓉子
夏の雨白黒映画の画面ぶれ 高澤良一 素抱
母と見し映画白黒浅蜊汁 井上宗雄
白鳥の白黒鳥の黒と会ふ 蔦三郎
白黒の写真を伸ばす鳥曇り 岡田カヨ子
白黒の十一月の映画かな 小原すさ
白黒の映画の続きちちろ鳴く 長谷川陽子
白黒をつけかねてゐる春の土 島田牙城
石蕗黄なり碁は白黒で人遊ぶ 池内友次郎
記録映画の白黒のチユーリップ 夏井いつき
貝寄風に白黒白と猫生まれ 柚木紀子
霧の白黒の闇夜をうごかせり 松永千鶴子
鶯や白黒の鍵楽を秘む 池内友次郎 結婚まで
麻畠白黒映画とともに伸ぶ 攝津幸彦 鹿々集
●白し 
*かや垂れて百合の花仄かに白し 石井露月
あかつきや氷をふくむ水白し 加舎白雄
あかときの身の仄白し野水仙 長谷川弥生
あか~と灯ともす妻の息白し 杉山岳陽 晩婚
あぜ豆のつぎめは白し稻莚 稲筵 正岡子規
あと一声力む糴子の息白し 浜田清子
あな白し塔を降りて来る日傘 鈴木鷹夫 春の門
あやまちて片白草として白し 後藤比奈夫
あらせいとうアメリカヘ行く船白し 鈴木柿城
あんずのはなに茫然たれば鬢白し 栗生純夫 科野路
いちはつの一輪白し春の暮 春の暮 正岡子規
いづれが虚いづれが実の息白し 岩崎照子
いよよ白し帆柱過ぎて初鴎 中拓夫
うちはれて障子も白し初日影 鬼貫
うち晴て障子も白し春日影 上島鬼貫
おとろへし父の酒量や萩白し 福永耕二
おのが怒り吐きすててゐる息白し 嶋田一歩
おもかげの尾花は白し翁塚 浪化
お火焚の串かけがへもなく白し 後藤比奈夫
お玉じやくし蛭を避けたる腹白し 島村元句集
かくまてに見透いて白し河豚の肉 河豚 正岡子規
かざす手のひらひら白し風の盆 小倉英男
かたかたは花そば白し曼珠沙花 曼珠沙華 正岡子規
かなしみはしんじつ白し夕遍路 野見山朱鳥(1917-70)
かまくらの雪の祠に幣白し 山口誓子
から松の梢に白し秋の湖 会津八一
かりがねの腋羽白し佐渡おけさ 磯貝碧蹄館
きさらぎのわが魂白し滝の水 木村蕪城 寒泉
きのふより今日枯深し飯白し 岡本眸
くちぶえにかかはらぬ水鳥白し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
くらがりに一線白し五月潮 阿部みどり女
くらがりに富士の図白し更衣 山口青邨
くれきらぬ白帆に白し夏の月 夏の月 正岡子規
けさの春琵琶湖緑に不二白し 今朝の春 正岡子規
こちらむけ海老売女藤白し 自笑
こでまりは白し子の髪剪り揃う 相葉有流
さきの世に刈りたる蘆かかく白し 相生垣瓜人 微茫集
さし寄せし暗き鏡に息白し 中村汀女
さらしくじらしみじみ白し雨になる 池田澄子
さるすべり白し肴を焼く火あり 木村蕪城
しぐるゝや鶏頭黒く菊白し 正岡子規
しののめにほたるの一つ行く白し 杉風
しょんぼりと燈籠白し草の奥 燈籠 正岡子規
すぐそこに雨脚白し田草取 相馬遷子 山国
せきれいの居るともなくて波白し 鬼城
せんつばや野分のあとの花白し 野分 正岡子規
その匂ひ桃より白し水仙花 芭蕉
その後の一句もなくて梅白し 阿部みどり女 『光陰』
そら豆の戦ぐは白し春の風 青魚
たそがれの月に垣根の梅白し 夜の梅 正岡子規
つき合はす鼻息白し冬ごもり 蝶夢
つつじ咲きて片山里の飯白し 蕪村
てゝら脱ぐ帯跡白し日向水 上島鬼貫
どこからも伊吹は白し針供養 大峯あきら 宇宙塵
どの道も秋の夜白し草の中 渡辺水巴 白日
なまはげの眼鼻より洩れ息白し 藤原星人
ぬかるみのほのかに白し星月夜 寺田寅彦
はく息の霧より白し靴固し 原田種茅 径
はげしくも静かに白し花吹雪 川口咲子
はつあらし葛のみならず裏白し 正木ゆう子 静かな水
ばさと落つ片目鴉や芥子白し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
ひとみなくて飛ぶ蝶白し省亭忌 渡辺水巴 白日
ふぐの腹ふくらみ並びあな白し 川本臥風
ふぢ白し尾越の声の遠ざかる 前田普羅 飛騨紬
ふりむけば女神湖白し金鳳華 大森三保子
ふるさとの秋蚕のこもる繭白し 中村瑞穂
ほとゝぎすなべて木に咲く花白し 篠田悌二郎 風雪前
ほのと白し枯野の汽車を遠く見て 相馬遷子 雪嶺
ほのと白し破魔矢作りの巫女の手は 石田波郷
まだ誰のこゑにも逢はず梅白し 藤崎久を
まつたうな入道雲として白し 酒井一鍬
まなうらに還り来ぬ日の梅白し 高須節子
まなうらの冬涛かぎりなく白し 相沢透石
まなかひに比良山白し若菜摘 柴山みちを
まなじりに翻りて白し夏の蝶 日野草城
まぼろしは白し虫声降るごとく 林原耒井 蜩
まらうどに礼をつくして菊白し 飯田蛇笏 雪峡
みどり子のにほひ月よりふと白し 篠原鳳作
むしろ快楽を極めて白し夜のさくら 奥坂まや
もとほると言へるこころの足袋白し 後藤夜半 底紅
ゆすら花一夜風雨に堪へて白し 映水句集並浪化の研究 石原映水
よき針の白粉白し針供養 岡本松浜
わが息は気付かず人の息白し 滝野三枝子
わが紙白し遠く日當る荷役あり 金子兜太
わびすけにみぞれそそぎて幹白し 室生犀星 犀星発句集
アルプスの太陽白し林檎園 粟津松彩子
オホーツクは白し大鷲相寄れる 杉山鶴子
コスモスの枯れて神父の髭白し 内藤吐天 鳴海抄
コロナのやうなものに憑かれつゝ息白し 平井さち子 完流
シャツ白し少年の喉鋭角に 白石菊代
ジーンズの膝みな白し芽木光る 吉原文音
スノードロップ春告ぐ花として白し 山崎ひさを
ヒヤシンスレースカーテンただ白し 山口青邨
ペレストロイカ ミルク初冬の喉に白し 国 しげ彦
ホテルみな白しホテルは何充つ城 楠本憲吉
ホワイト・メロン月に転げて止りて白し 林原耒井 蜩
マラソンの止ることなし木蓮白し 長谷川かな女 花 季
モザイク画めく渋谷の夜空息白し 柴田千晶
ランナーの誰もが一人息白し 堀越せい子
リラの花弾く提琴の弓白し 村田白峯
リラ白し何告げて鳴る朝の鐘 那須 乙郎
リラ白し旧き庁舎の赤煉瓦 塩田薮柑子
一つとはめでたく白し寒卵子 深川正一郎
一八の白こそ白し一の谷 石川辛夷
一刀に断ちて海鼠の腹白し 野中ちよこ
一切の色を拒みて滝白し 檜 紀代
一列に遺跡掘る人息白し 今井真寿美
一欲を捨てたる尼の足袋白し 磯野充伯
三日月のほのかに白し茅花の穂 茅花 正岡子規
世に在るも老いぬ古木の梅白し 石塚友二 光塵
中年の華やぐごとく息白し 原裕 葦牙
中年や華やぐごとく息白し 原裕(1930-99)
二の腕の裏白し朝寝の土工らし 香西照雄 対話
二月うらゝ傷兵鴎より白し 渡邊水巴 富士
二枚浪一枚白し花海桐 近藤一鴻
五月富士全し母の髪白し 桂信子 花寂び 以後
五月或日鶴殺傷のこと白し 阿部完市 にもつは絵馬
五月雨の大川白し幌のひま 会津八一
井戸ばたにこほれて白し小米花 小米花 正岡子規
亡き父母に告ぐることあり菊白し 松尾隆信
人いきれヒーターいきれ窓に白し 篠原梵
人の世に戻りての息また白し 能村登四郎
人の膝にハンカチ白し文化の日 中山純子 沙羅
人も世も疑はず来て靴白し 渡邊千枝子(馬酔木)
人気なき湯宿の蚊遣灰白し 高澤良一 素抱
仏間より見えて林檎の花白し 脇 祥一
令法の花の次ぎ次ぎ零れ髪白し 金子皆子
位して仙丈白し夕ざくら 荒井正隆
佗助や神も悪魔もかく白し 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
余花白し若狭の旅のはじまりに 加藤三七子
例ながら明星白し菊の霜 上島鬼貫
供華はみな白し一八抽きん出て 山口波津女 良人
供養とは語り継ぐこと梅白し 杉村凡栽
俘虜のごとく王者のごとく雉子白し 大串章
俤のむき栗白し雨の月 露言 選集「板東太郎」
傘の端のほのかに白し雨の月 無月 正岡子規
傘をたゝめば白し春の月 春の月 正岡子規
僧堂へ急げる僧の足袋白し 上原光代
僧赤く神主白し國の春 国の春 正岡子規
元日やこがねの鞍に馬白し 曾良
入営を送る社頭や霜白し 青峰集 島田青峰
八月の擦り傷の跡ほの白し 高澤良一 素抱
兵隊の行列白し木下闇 木下闇 正岡子規
其の匂ひ桃より白し水仙花 素堂
冂巾(いか)白し長閑過ての夕ぐもり 太祇
内堀に古水草の花白し 水草の花 正岡子規
冬浪に浮きし蝦夷地の嶺白し 渡邊忠一
冬海の心見せたる浪白し 堀口星眠 営巣期
冴え返る身辺白し黒を着て 殿村菟絲子 『樹下』
凍返る夜をあざけらる顔白し 石原八束
凧白し長閑過ての夕ぐもり 炭 太祇 太祇句選後篇
凩にひろげて白し小風呂敷 芥川龍之介 我鬼窟句抄
出格子よりちちははのこゑ萩白し 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
刈萱のたへにも白し草泊り 銀漢 吉岡禅寺洞
初夢もなく穿く足袋の裏白し 渡邊水巴
初孫に男子授かる梅白し 伊東宏晃
初富士のあくまで白し拝みぬ 小山陽子
初富士の白し葛西の海濁る 瀧春一 菜園
初秋の芝踏んで来つ足袋白し 碧雲居句集 大谷碧雲居
初空や埃鎮めて霜白し 班象
初空や鳥は黒く富士白し 初空 正岡子規
前向ける雀は白し朝ぐもり 草田男
北山を沈め冬川夜へ白し 岸原清行
十字架を埋めつくせる菊白し 阿部みどり女 笹鳴
十月の窓掛白し痢者眠る 古賀まり子 洗 禮
十薬や夏のものとて花白し 鳳朗「鳳朗発句集」
千鳥なく三保の松原風白し 千鳥 正岡子規
午過きて山家の干烏賊唯白し 尾崎紅葉
卯の花も白し夜半の天河 言水
原稿紙白し蝉声波紋なす 野澤節子 黄 瀬
厨子像の近松翁の足袋白し 山田弘子 螢川
友の酔ひつぶれて冬星白し青し 川口重美
口あけて体内白し秋の鯉 殿村菟絲子
口緘ぢて通り過ぎをり菊白し 加藤楸邨
口髭の一すぢ白し今朝の秋 森鴎外
古庭に白菊白し星月夜 星月夜 正岡子規
古沼の草末枯れて鷺白し 末枯 正岡子規
古道の岡に上るところ茨白し 茨の花 正岡子規
合宿の訓辞もつとも息白し 樋笠文
吉野気の離れて白し秋の雲 上島鬼貫
吊橋の下は逆浪梅白し 渡辺満千子
吊橋の揺れねば揺りて梅白し 西本一都 景色
名月の道に茶碗のかげ白し 名月 正岡子規
君が代はゆづり葉白し歯朶青し 文体
君煙草口になきとき息白し 星野立子
吸入器白し窓には白き朝 依田明倫
吹きすさむ凩白し冬の月 冬の月 正岡子規
吹雪くなか遠山襞の雪白し 鈴木貞雄
唇に夜となりつつ息白し 依田明倫
善哉をたべて互みに息白し 長谷川櫂 虚空
喜雨のあとふたたび白し夜の雲 富安風生
喪にありて賀客来らず梅白し 大庭三巴
喪の家の夜目にもしるく梅白し 成瀬正とし 星月夜
噴く水の田毎に白し菊日和 石川桂郎 含羞
囀りや沖行く船のみな白し 糸山謙治
四方の春日は明かに餅白し 尾崎紅葉
団子汁吹く息白し峠茶屋 房前芳雄
国譲りの巌真榊の花白し 山根村笛
地に還るもののしずけさ萩白し 実籾 繁
地を擦つて来たりしものら息白し 栗林千津
地図にある日本は赤く梅白し 阿部千代子
地獄絵の女は白し秋の風 武藤紀子
坂ながく白し涼める足のごとし 宮津昭彦
堂守りの法難を説く息白し 梶田ふじ子
墓原の提灯白し秋の風 秋風 正岡子規
声かれて猿の歯白し岑の月 榎本其角
声もろとも来て鵯の息白し 蓬田紀枝子
夏氷食ぶ日や寺の道白し 山田広樹
夏潮は白し母と子相距て 竹下しづの女 [はやて]
夏菊の吹かれて白し城ヶ島 鈴木しげを
夏蚕蒼しふるさとの日の母白し 安斎郁子
夏蝶の人目引かむと来て白し 日置草崖
夏足袋の小はぜくひ入る足白し 武原はん女
夕されば旅の栞の蝶白し 小島幸男
夕ほのと白し素足を投げだすに 石川桂郎 四温
夕凪のあとたゝ白し秋の海 尾崎紅葉
夕日なきゆふぐれ白し落葉焚 小川軽舟
夕月が白し寒しと鵯叫ぶ 堀口星眠 樹の雫
夕月のほのかに白し盆迎へ 鈴木文意
夕東風に切り口白し竹の束 龍男
夕鐘や梅永劫に花白し 原石鼎 花影以後
夕顔にまぶれて白し三日の月 夕顔 正岡子規
夕鷺のぽつちり白し苗の風 早苗 正岡子規
外套の下は僧衣の足袋白し 青峰集 島田青峰
外海を知らぬ船長服白し 大島民郎
夜の秋の舞楽をならふシヤツ白し 大島民郎
夜の秋の鮎の歯白し皿の上 野沢節子 飛泉
夜の蘭香にかくれてや花白し 蕪村 秋之部 ■ 澗水湛如監
夜干白し妻の病後も遅き帰宅 中戸川朝人 残心
夜白し蟲聲も見れば見ゆるかに 高田蝶衣
夜神楽や鼻息白し面の内 榎本其角
夜行バス明けそめ朴の花白し 大島民郎
夜鷹鳴く森ゆき友の靴白し 堀口星眠 火山灰の道
夢に似てうつゝも白し帰り花 蓼太
大仏を埋めて白し花の雲 花の雲 正岡子規
大切籠雪より白し歩み寄る 佐野青陽人 天の川
大寒の吹けばふくほど帆が白し 長谷川双魚 風形
大小の筆の穂白し初硯 中川久子
大晦日神馬の鬚の皆白し 大晦日 正岡子規
大根のしんじつ白し償いなし 北原志満子
大楠に朝のおとづれ息白し 玉城一香
大空に一鷹白し鷹はやる 原石鼎
天の川白し夜気凝る潟の上 臼田亜浪 旅人
天然色映画の雪が実に白し 内藤吐天 鳴海抄
天神は白面ならん梅白し 粟津松彩子
太陽が白し*かりんを輪切りにす 山西雅子
奥能登や山吹白く飯白し 前田普羅 能登蒼し
如月の日にうすづきて尚白し 瀧春一 菜園
妹がかぶる手拭白し苗代田 寺田寅彦
妹が歯をさとく当てたる梨白し 清水基吉
妹は薔薇赤く姉は百合白し 薔薇 正岡子規
妻と雪嶺暮色に奪われまいと白し 細谷源二
子の皃に秋かぜ白し天瓜粉 召波
子別れの瞽女唄なれば息白し 西本一都
子規詠みし御岳白し義中忌 辻口静夫
孤影深めてゆく旅なれば息白し 楠本憲吉
安息のほのかに白し沙羅落花 千代田葛彦
宝蔵に飼はれて白し春女猫 原石鼎 花影以後
家も人も汚れて秋の繭白し 真鍋やすし
家を出る門を一歩の息白し 高浜年尾
家貧しければ梅いよ~白し 石井露月
宿の月朧に余所の梅白し 夜の梅 正岡子規
寂鮎の瀬々のしらなみ夜も白し 水原秋櫻子
富士白し富士川青しその間 関口比良男
寒の十五夜の水白し 原田種茅 径
寒星にどの夜もどこかに雲白し 篠原梵 雨
寒波来て遠山白し秋彼岸 相馬遷子 雪嶺
寒行僧街人にまぎれず白し 大野林火
寝ころびて砂丘は白し秋の風 引田逸牛
寝た家の外から白し冬の月 母斛 選集古今句集
寝はぐれしあけぼの白し梅の花 無笛 古句を観る(柴田宵曲)
寺障子連りて白し庭木の芽 西山泊雲 泊雲句集
小豆粥祝ひ納めて箸白し 渡辺水巴
小走りに薪を取りに息白し 上野泰 佐介
小鼓を打ち終はりても息白し 井上雪
尼が寐にいまこそ白し月の縁 阿波野青畝
屋島なる旅籠の庭の余花白し 斎藤朗笛
屋根の雪ずり落つや雪の上に白し 原田種茅 径
山ぜみの消えゆくところ幹白し 室生犀星 魚眠洞發句集
山ぞらのふしぎに白し仏法僧 太田鴻村 穂国
山に寝て夢にも白し花さびた 金箱戈止夫
山の手にドアありてドアの風白し 筑紫磐井 花鳥諷詠
山の湯に男が白し末枯れて 久保田博
山の畑雲も耕されて白し 大串章
山の背に雲みな白し年の果 原裕
山の陽は斜に白し蛭蓆 羽場桂子
山の雨斜めに白し竹煮草 浅田浦蛙
山吹の垣うら白し小米花 小米花 正岡子規
山廬忌やまぎれず秋の蝶白し 塚原麦生
山水でとぐ米白し林檎の花 細見綾子 雉子
山猿の内腿白し盆やすみ 平畑静塔
山茶花や立山の雪日々白し 荻原井泉水
山風は荒御魂飛ぶ梅白し 渡辺水巴 白日
岡城は谷深うして余花白し 下村道(古志)
岩山に張りつく農家繭白し 相馬遷子 山国
岬消え花暮れ磯浪なほ白し 福田蓼汀 秋風挽歌
峠越す時雁金の肚白し 東洋城千句
島畑は藷の葉白し旱星 羽田岳水「空鳥」
川青く瀧白し紅葉處處 紅葉 正岡子規
巨船まだ白し憲法記念の日 櫂未知子
巫女白し炭をつかみし手をそゝぐ 前田普羅 飛騨紬
布巾きちんと畳んで白し雲の峰 中山純子 茜
帰らざる日ややまかがし腹白し 宮坂静生 春の鹿
帰り咲いて西日と白し苗桜 旅人 臼田亜浪
帷白しジヤスミンの香はさへぎらず 林原耒井 蜩
干潟より見て妻の干す物白し 加倉井秋を 午後の窓
広ごらぬ網や貴人の肱白し 高井几董
庭先の清水に白し心太 心太 正岡子規
庭闇へ去る時白し蛾のつばさ 原石鼎
往診車降りて吐く息すぐ白し 下村ひろし 西陲集
御油の松抜けて赤坂梅白し 遠藤三鈴
心見せまじくもの云へば息白し 橋本多佳子
忌を修すことを余生や萩白し 伊藤京子
志野白し養花の天の明け暮れて 相生垣瓜人 微茫集
思ひはてず思ひさだめず梅白し 会津八一
怠けたるわが影白し冬麗 佐藤正一
息白く問へば応へて息白し 稲畑汀子
息白ししづかに吐いてみても白し 加倉井秋を
息白し人こそ早き朝の門 中村汀女
息白し何昂ぶりて行く人ぞ 犬塚華苗
息白し夜の戸探ればふるゝもの 長谷川かな女 雨 月
息白し子の忘れ物追ひかけてへ嗜 豊岡美千江
息白し根本中堂常闇に 高澤良一 燕音
息白し梳かるる馬も梳く人も 石田 克子
息白し極光の青噴き出でて 澤田緑生
息白し残留孤児といふ老も 三嶋隆英
息白し気づきてよりはことさらに 千手 和子
息白し求人の掲示見つつ押され 落合伊津夫
息白し河原の石を拾ふとき 森賀まり
息白し泣かずに笑ふこと出来て 下村梅子
息白し行く手のくらむごとくなり 石原八束 『操守』
息白し長屋の空に変圧器 沢木欣一
息白し餌を撒く人も丹頂も 牧野寥々
悪濤ながく見て来ぬ木の葉髪白し 中戸川朝人 残心
愁ひ身にあれば紫雲英の野は白し 鷹女
戦あるかと幼な言葉の息白し 佐藤鬼房 夜の崖
戯れる蝶より白し韮の花 林真砂江
扇収めて辞し去る客の足袋白し 青峰集 島田青峰
手の熱き女と生まれ萩白し 鷲谷七菜子 黄 炎
手まくらの目に啓蟄の雲白し 松本可南
手を人るる水餅白し納屋の梅 夏目漱石 明治三十二年
手を擧げてその手が白し蓮見船 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
手苗取る二人ばかりや息白し 萩原麦草 麦嵐
手袋白し森に遊べる一少女 草間時彦
押し花の牡丹は白し紙よりも 阿部みどり女
捕虫器に伏せし薊の蝶白し 杉田久女
捕虫網白し城址の日暮るるに 後藤比奈夫
掛けてある砧の衣の唯白し 松本たかし
採石の一山白し夏燕 下村ひろし 西陲集
揚梅の花や高吹く雲白し 加瀬勇魚
搗くほどに膨れて白し渋の泡 田畑比古
搗布焚く火にちらちらと脛白し 野澤節子
撃剣の面を溢れて息白し 田川飛旅子 『使徒の眼』
撫子に蝶々白し誰の魂 撫子 正岡子規
散る花も残るも白し節子の忌 戸恒東人
斜かひに窓昇る畑やそば白し 島村元句集
新米のまことに白し有難し 岸風三樓
旅しらぬ幾とせ妻に足袋白し 軽部烏頭子
旅籠屋の前まだ白し春の雪 春の雪 正岡子規
日の暮の沖より来たり梅白し ふけとしこ 鎌の刃
日の砂州の獣骨白し秋の川 藤沢周平
日は松にはじけて白し冬紅葉 渡邊水巴 富士
日もすかぬ森の下草花白し 草の花 正岡子規
日も白し氷海変のオホーツク 岡田貞峰
日本は海なり机上菊白し 渡邊水巴 富士
日焼人帽子目深に髭白し 高浜虚子「虚子全集」
日覆の下のテーブル皆白し 朝谷又三郎
日輪の月より白し虎落笛 川端茅舎
早乙女に雇はれてゆく肘白し 萩原麦草 麦嵐
早乙女の加賀笠にして緒の白し 下田稔
早朝の峠に白し落し角 斉藤志津子
早梅の一輪白し夫逝く日 織部れつ子
明ぬれどいよいよ白し初桜 千代尼
明易く見えきて日本海白し 大野林火
明月を迎へにいそぐ鷺白し 堀口星眠
星空へ消え入りがてに梅白し 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
春の潮巌にまたがるとき白し 岸風三楼 往来
春暁の天窓すぎる猫白し 龍胆 長谷川かな女
春泥を避け行く月の雲白し 右城暮石 声と声
春雪の白ともなくて志野白し 相生垣瓜人 微茫集
春風に白鷺白し松の中 来山
春風のぽつちり白し都鳥 春風 正岡子規
昼の月白し真下の寒牡丹 有馬朗人
昼寝覚め遠目に水位標白し 友岡子郷 遠方
時計台白し秋雲尚白し 佐藤夫雨子
時鳥鳴く時杜若白し 時鳥 正岡子規
晩年の夫婦なづなの花白し 篠崎圭介
晩晴の雑草の花みな白し 川島彷徨子 榛の木
暁の山茶花白し落がはら 白雄
暑気払ふ秋田小町の粥白し 大島民郎
暗き沖より浪寄せ秋灯にふれて白し 福田蓼汀 秋風挽歌
更衣野路の人はつかに白し 蕪村 夏之部 ■ 眺望
曼珠沙華母の化身の如白し 古市絵未
最上源流音なく白し枯木中 千手和子
最澄の書に息あはせ息白し 宇佐美魚目 天地存問
月の名をいざよひと呼びなほ白し 竹下しづの女句文集 昭和十一年
月中の盗人落よ李花白し 高井几董
月白し洞雲院の屋根瓦 古白遺稿 藤野古白
月白し牡丹のほむら猶上る 川端茅舎
月落て江村蘆の花白し 芦の花 正岡子規
月見草灯よりも白し蛾をさそふ 竹下しづの女句文集 昭和十二年
有明をはなれて白し梨の花 梨の花 正岡子規
朝のミルクこつくり白し晩春の身は奔放に在りてしづけし 小島ゆかり
朝の浦夕ベの軒や切干白し 三好芳子
朝の陽に段々畑息白し 澤柳たか子
朝の風集めて韮の花白し 経沢千春
朝より夕が白し雪柳 五十嵐播水
朝市の売手買手の息白し 鎌田利彦
朝庭に立ちて帰省の裸白し 谷野予志
木曾殿に一日花の沙羅白し 有働 亨
木枯が止みていちにち藁白し 萩原麦草 麦嵐
木枯にひろげて白し小風呂敷(六年) 芥川龍之介 我鬼句抄
木槿白し悪夢にからめられし夜も 仙田洋子 雲は王冠
木瓜白し老い母老いし父を守り 有働亨 汐路
末枯や掘り出し人形まつ白し 龍胆 長谷川かな女
末黒野に窯観世音幣白し 下村ひろし 西陲集
朴はわが郷関の花夜も白し 所 山花
杉本寺磨り減る磴に梅白し 新井悠二
李花白し酒のむ友を尋ねあて 大串章
村ぢゆうの障子が白し豚を飼ふ 木村蕪城
東欧の民族民族息白し 川崎展宏
東海道五十三次風白し 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
松の中の三畝の畠蕎麦白し 島田五工
松原の見こしに白し雪の山 雪 正岡子規
松蝉や遠州灘に日が白し 鈴木鷹夫 渚通り
松越しに流れて白し梶の鞠 田中王城
松青く梅白し誰が柴の戸ぞ 梅 正岡子規
板に彫る火炎は白し冬籠 野見山朱鳥
板塀に春雨白し上根岸 春の雨 正岡子規
林中より莞爾たるとき息白し 赤城さかえ
枯木照り元日の煙草手に白し 渡邊水巴 富士
枸橘の花に降る雨ゆゑ白し 岸風三楼 往来
柩出て家がらんどう梅白し 成瀬正とし 星月夜
柿の花こぼれて白し甃 田中冬二 俳句拾遺
校門へ駈け来る息のみな白し 浜口はじむ
桃ありてます/\白し雛の殿 炭 太祇 太祇句選
桃ありてますます白し雛の顔 太祇
桔梗白し激しき恋は一度きり 平野周子
桜葉となるやをみなの衿白し 桂信子 黄 瀬
桶の鮒浮けるは白し花びらも 瀧春一 菜園
梅いよよ白し渓流細りつつ 下村ひろし 西陲集
梅二幹重なりあへり共に白し 伊藤いと子
梅寒く白し眦切れにけり 殿村菟絲子 『樹下』
梅寿忌や一花二花なる梅白し 岸風三楼
梅白しマイクの首相見ゆるかに 渡邊水巴 富士
梅白し中空を風猛りつつ 上村占魚 『萩山』
梅白し佳人のひと世をろがみぬ 藤田湘子 てんてん
梅白し初心をとうに忘れおり 望月哲土
梅白し古墳に夜の雪来つつ 神尾久美子 掌
梅白し吹奏練習林中に 中戸川朝人 残心
梅白し国立清瀬療養所 沢田弥生
梅白し大善寺の梁反りに反り 佐野澄江
梅白し山浮びても曇りても 広瀬直人
梅白し峡は片側より暮れて 有働亨 汐路
梅白し庭前さらに耕さむ 殿村菟絲子 『繪硝子』
梅白し恩に馴れ住む幾月ぞ 杉山岳陽 晩婚
梅白し日陰日向に岩ありて 大井雅人 龍岡村
梅白し昨日や鶴を盗まれし 芭蕉
梅白し梅より白き老のゆめ 加倉井秋を 『風祝』
梅白し棺焼く日の人の世に 吉屋信子
梅白し檜山の凍てをふみ来り 瀧春一 菜園
梅白し烈風の雲不二を去らず 佐野青陽人 天の川
梅白し玉淀をへし瀬の早み 荒井正隆
梅白し生活これにこだはりて 飯田蛇笏 春蘭
梅白し盗まるるもの何も無し 小檜山繁子
梅白し目白は鳴かぬ禽ならね 林原耒井 蜩
梅白し碇泊燈を港外に 下田稔
梅白し禅林にして声しまる 大熊輝一 土の香
梅白し空は夜の間に磨かれて 神尾久美子
梅白し紅引かぬ日は尼僧めき 坂口伸子
梅白し遠景一煙あれば足る 竹村文一
梅白し門灯に通夜明けし家 中拓夫
梅白し隠れて妻は尿すも 清水基吉 寒蕭々
梅白し麥踏む人のあちこちす 左衛門句集 吉野左衛門、渡邊水巴選
梅雨の蝶白しレールにとまるかな 野村喜舟
梅雨入や礁まはりの波白し 小澤實
梅雨未明なきがらに縫ふもの白し 神尾久美子 掌
梅雨白し路次の貝殻道来れば 文挟夫佐恵 黄 瀬
梓川白し色なき風の過ぐ 志摩芳次郎
梨花白し交配了へて地に抱かる 林翔 和紙
梨花白し叔母は一生三枚目 寺山修司 未刊行初期作品
梨花白し歎かば消えむ疲れかも 林翔 和紙
梨花白し此頃美女を見る小家 梨の花 正岡子規
棉の花白し夕立の峯一つ 山口青邨
棚田十程一斉に白し落し水 西山泊雲 泊雲句集
森を出て妙にも白し春の月 原石鼎
森深く泳ぎて白し梅雨の蝶 白岩三郎
椎の花雨となりゆく夜を白し 及川貞 夕焼
槍の穂を家の宝や梅白し 野村喜舟
橋をゆく人悉く息白し 高浜虚子
橙は赤し鏡の餅白し 鏡餅 正岡子規
機関車やなんでも食べる息白し 二村典子
櫻遠く白し移民隊と佇つデッキ(満州へ) 加倉井秋を
歳月の継ぎ目は白し去年今年 齋藤愼爾
歴史は暗しひひらぎの花白し 篠崎圭介
死ねば白し蛇も蛙も水中に 右城暮石 声と声
死出の衣も産着も白し天の川 西川織子
殿の馬がいちばん息白し 矢沢要一
母の髪逢ふたび白し竹の花 宮下翠舟
母をいま詠まねば悔む梅白し 雨宮抱星
母子寮の厨に見えて葱白し 臼田亞浪 定本亜浪句集
母百齢を越し満天星の花白し 雨宮抱星
毬雲の浪穂より白し夏初め 乙字俳句集 大須賀乙字
水に映り茅花は白し死は徐々に 桂信子 花寂び 以後
水に置く落花一片づつ白し 藤松遊子
水の音絶へて夜江の梅白し 野梅句集 加納野梅
水仙の一點白し古書斎 幸田露伴 江東集
水仙や水を湛へて砂白し 青峰集 島田青峰
水切りし狙白し鰺叩く 上村占魚 『天上の宴』
水涸れて土ふくよかに鷺白し 高濱年尾 年尾句集
水田打つ男よふくらはぎビビと白し 香西照雄 対話
水白し迅し華厳の滝を経て 田渕成水
水芭蕉垂るる雪渓より白し 羽部洞然
水草の花まだ白し秋の風 秋風 正岡子規
水鳥の嘴に付たる梅白し 野水
氷室山里葱の葉白し日かげ草 榎本其角
池氷る山陰白し冬の月 古白遺稿 藤野古白
汽車ごつこの汽罐車もつとも息白し 北山河
沈みたる一蝶白し藍の花 星野高士
沖の浪白し破魔矢を袖に抱く 秋を
沖雲の白きは白しサングラス 瀧春一
沙羅の花ひときわ白し講の宿 我部敬子
沼の息わが息白し暁けゆけり 沢 聰
法楽や仮面を這つて息白し 矢島渚男 延年
波切大王燈台白し海女逆立つ 野見山朱鳥
洗へば大根いよいよ白し 種田山頭火(1882-1940)
洗髪乾く間あそぶ梅白し 清原枴童 枴童句集
洞穴や圓座人無く鹿白し 鹿 正岡子規
流灯の巌によるとき滝白し 馬場移公子
浦浦の草刈終り雲白し 最所紀久枝
浪化忌の蘭白し下葉全けれ 筏井竹の門
浮浪児の息白し地下道口を開く 原田種茅 径
浮虜のごとく王者のごとく雉子白し 大串章 朝の舟
海くれてかもの聲ほのかに白し 蕪村
海くれて鴨のこゑほのかに白し 芭蕉
海の上に初雪白し大鳥居 正岡子規
海の胸より生れつぎ盆の波白し 但馬美作
海暮れて鴨の声ほのかに白し 芭蕉
海桐の香夜を走りつぐ波白し 岡田 貞峰
海猫の翔つ夕焼の断崖白し 石原八束 空の渚
海鳴りの遙けく白し年の夜 角川春樹
涸川が野梅の裏にまた白し 百合山羽公 故園
淋しさをこらへて白し男郎花 男郎花 正岡子規
清明や木樵の庭の鶏白し 大峯あきら
清流に章魚を洗つて梅白し 遠藤梧逸
滝白し夜目にも丈を失はず 保坂伸秋
激つ瀬の夜目にも白し青葉木菟 福田蓼汀
激つ瀬の白し五月をむかへむと 木村蕪城 寒泉
濁り酒白し白陀師十年忌 大橋一青
濁世絶つ障子が白し別火坊 津田清子
瀧白し内部で否定してをれば 齋藤愼爾
瀬がしらのひょいひょい白し春の水 日野草城
火の山の夜明けて白し磯つつじ 石原八束 空の渚
灯されてマリアは白し露の中 秋篠光広
灯台ははや木苺の花白し 山口青邨
灯台白し薊秋咲く渚径 倉橋弘躬
炎天の雀翔ぶときほの白し 藤田湘子 てんてん
烈風踏みしめて来る足袋白し 林原耒井 蜩
無意識に骨抱かさる余花白し 殿村菟絲子 『旅雁』
焼岳の雪より白し一輪草 菊地さたよ
煙にもすすけず白し富士の雪 徳元
煤掃いて柱隠しの跡白し 煤払 正岡子規
熊笹のさゝべり白し時雨ふる 川端茅舎
熱われの息のみ白し梅雨に入る 中戸川朝人 残心
燈台ははや木苺の花白し 山口青邨
爪の力白し仁王に萌ゆるもの 古舘曹人 能登の蛙
父恋が母恋なりき梅白し 永田耕衣 陸沈考
片道はかはきて白し夏の月 炭 太祇 太祇句選後篇
牛の子の鼻いき白し霜夜哉 霜夜 正岡子規
牛市や親仔別れの息白し 井口公子
牡丹白し人倫を説く眼はなてば 飯田蛇笏
狂ひても母乳は白し蜂光る 平畑静搭
狂ふべく開けば白し冬扇 原裕 『出雲』
独活の花白し淙々と水流る 山口青邨
猩猩袴白し師と来し高野道 八牧美喜子
猶白し寒に入る夜の月の影 蝶夢
獨房につつじ活けて白し夏来たる 栗林一石路
瑞垣や杉ほの暗く梅白し 梅 正岡子規
生れたてのでで虫白し芭蕉の葉 中根則子
生国を忘れし母の息白し 大木あまり 雲の塔
産土の鬱蒼たるに余花白し 辻田克巳
田舎道まつすぐ白し霍乱す 飯田綾子
由布の風のまゝにあかしや花白し 殿村莵絲子 花 季
男より女の度胸靴白し 西村和子 かりそめならず
男湯の初湯に白し女の子 為王
畑の梅そちこち白し恵那曇る 木村蕪城 一位
畑打に絵馬の女の顔白し 藤田湘子
白し白し二階の下の沈丁花 廣江八重櫻
白し青し相生の筑波けさの春 今朝の春 正岡子規
白山の清水に白し堅豆腐 熊田鹿石
白木槿芯まで白し加賀女 沢木欣一 二上挽歌
白百合の今年も白し師の忌来る 守部幸代
白菊の一もと白し八重葎 菊 正岡子規
白障子しめて師恩の闇白し 赤松子
白魚の其はらわたも猶白し 白魚 正岡子規
白鷺の下降漸く翅白し 右城暮石 声と声
百合を沈めて白し初伏の日 富安風生
百合白し山の根方に門ありて 及川貞 榧の實
百合白し母と茅舎の忌日けふ 川端紀美子
百谷を沈めて白し初伏の日 富安風生
相見るやあたゝかきまで息白し 清水基吉 寒蕭々
眉毛一本吹かれて白し遠蛙 近藤一鴻
着水の白鳥一羽づつ白し 藤井寿江子
短夜や鴉鳴いて天の川白し 短夜 正岡子規
石を出る流れは白し花薄 麦水
石山の石より白し秋の風 芭蕉
石白し花また白し秋の日のひかりのなかにわれも真白し 川端弘
石菖に雫の白し初月夜 月夜 正岡子規
砂も家も白し夏潮ただ青く 本田花女
砂丘白し帰る燕の瀬戸際に 百合山羽公 寒雁
砂利山の砂利白し夏来りけり 石塚友二
破魔矢白し今日いまだ客に触れず 渡邊水巴 富士
祓い塩白し万緑おしひらき 長谷川かな女 花 季
祖母の足袋もつとも白し野遊びへ 福島延子
神の名を呼ぶソリストの息白し 吉原文音
神官の細脛白し御田植 高久田瑞子
禅寺や無愛想にして蓮白し 滝川愚仏
禿倉暗く水仙白し庭の隅 水仙 正岡子規
秋の人白し燈台なほ白し 坊城俊樹
秋の空より落ち仙娥滝白し 鶴田栄秋
秋天へほろびゆくもの皆白し 小出秋光
秋晴るゝ松の梢や鷺白し 秋晴 正岡子規
秋海棠熱退く足の裏白し 依田由基人
秋白し笊にほしたる西瓜種子 中勘助
稜線の研がれて白し山眠る 橋本千枝
空梅雨の草吹く風に蝶白し 高橋淡路女 梶の葉
空漠を用いて白し夏枕 永田耕衣 葱室
窓際に給仕が白し百合鴎 鈴木鷹夫 大津絵
立春の水に沈めて皿白し 菖蒲あや
竹二本伐りて春暁富士白し 萩原麦草 麦嵐
笑ってるひとの数だけ息白し 伴場とく子
篠白し月蝕まれつついそぐ 竹下しづの女句文集 昭和十年
篠笛の男たたせて朴白し 吉田紫乃
籠蛍ほのに照らせる薔薇白し 臼田亞浪 定本亜浪句集
紙ひひな唇を描かれてより白し 長谷川双魚 『ひとつとや』
紙漉の村より賀状和紙白し 山崎和賀流
素手四つ白し相対死の秋 沼尻巳津子
紫陽花に夏痩人の足袋白し 西島麥南 金剛纂
結綿に蓑きて白し雪女郎 泉鏡花
綿積んで雪より白し秋の風 久米正雄 返り花
編みかへす海女の毛絲に秋白し 前田普羅 能登蒼し
縋るてふこと許されず梅白し 岸風三樓
繭の山白し一玉ごとの翳 大岳水一路
繭白し不破の関屋の玉霰 井上井月
繭白し繭に埋れて父老いぬ 青柳志解樹
繭白し蚕飼疲れの母午睡 瀧澤伊代次
置かれある靴ベラ白し寒椿 原田青児
群山の朝から白し送盆 宮坂静生 春の鹿
翁面とりて翁の息白し 中條ひびき
翠簾懸て一重に白し梅の花 椎本才麿
翻へる鶫の群の腹白し 本多 勝彦
老いてなほ小さき立志梅白し 深見けん二 日月
老いてゆく体操にして息白し 五味 靖
老妓ひとり春夜の舞の足袋白し 渡邊水巴 富士
老犬を引いて曳かれて息白し 矢野知子
老猿のまたたき白し日の盛り 中村明子
聖夜ミサ祈る神父の息白し 小原菁々子
聖歌隊吾子を交へて息白し 冨田みのる
聲かれて猿の歯白し峰の月 宝井(榎本)其角 (1661-1707)
肌のものほのかに白し夕涼み 長谷川櫂「松島」
肩退くや湖白し暑気中り 松澤昭 神立
臘八や眠たがる目に雲白し 臘八 正岡子規
舞ふ燕ときどき白し幣に似し 橋本鶏二
航路の一すぢ白し鳥渡る 大橋敦子
艸の原きりはれて蜘の囲白し 加舎白雄
芙蓉白し敬老の日の老刀自に 下村ひろし 西陲集
花の下燈心ほどの水白し 西山泊雲 泊雲句集
花ゆすら白し暮色をうべなはず 竹下しづの女句文集 昭和二十四年
花人の箸にはさめる飯白し 後藤夜半 底紅
花冷えや天守に白し紙燭の間 鈴木節子
花南瓜農夫に読まれ本白し 秋元不死男
花屑のきのふの上にけふ白し 飯田綾子
花木槿美作に来て汗白し 森澄雄
花林檎ほとほと白し夜の床も 野澤節子 牡 丹
花残り高野より落つ滝白し 西村公鳳
花穂ひとつ一人静の名に白し 渡邊水巴 富士
花藤や母が家厠紙白し 中村草田男
苗売の手甲白し上天気 野村喜舟 小石川
苗札を十あまり挿す夜も白し 八木林之助
茄子籠にまじりて白し茗荷の子 喜多皎友
茨白し精神の歌の昧きとき 下村槐太 光背
茱萸の叢いまこそ白し木の十字架 下村槐太 光背
茶摘女の手拭咥へ犬白し 大橋櫻坡子 雨月
草なかに貝殻白し夜の秋 長谷川櫂 天球
草の戸や盃赤く菊白し 菊 正岡子規
草の雨一歩踏み出す足袋白し 阿部みどり女 月下美人
草茂みベースボールの道白し 草茂る 正岡子規
荒く白し刃物舐いだる男の息 林翔 和紙
荒梅雨の叉手網白し山の池 長谷川櫂 古志
菊白しピアノにうつる我起居 杉田久女
菊白し安らかな死は長寿のみ 飯田龍太
菊白し得たる代償ふところに 鈴木しづ子
菊白し棺の遺体の眼鏡まで 福田甲子雄
菊白し死にゆく人に血を送る 相馬遷子 雪嶺
菊白し死に逢ひ得しは神の意志か 岩田昌寿 地の塩
菊芋の花にばらばら雨白し 小松崎爽青
菜と塩と菜と塩とあふれて白し 林原耒井 蜩
菜食の母の昼寝に雲白し 鈴木鷹夫 渚通り
菱採りや八朔過ぎて雲白し 癖三酔句集 岡本癖三酔
萩白し女人の息のこぼしたる 金箱戈止夫
萩白し身を引き緊むる旅をして 小澤克己
落つる音白し深夜の花木槿 林原耒井 蜩
葛と萩並みて姉妹花葉裏白し 香西照雄 素心
葛原の風の中にて猫白し 横山白虹
葬りきて吾を離るる息白し 木村敏男
葱白し娘心を読めずして 山田政枝
葱白し足のしびれを火に當る 井上井月
蒲団干す下にいちごの花白し 苺の花 正岡子規
蓮の花白し鈎鼻もて愛せし 津田清子 礼 拝
蓮咲いて一羽一羽のごと白し 中川美亀
蓼の花草末枯れて水白し 河東碧梧桐
蔓手毬白し霧濃きその朝も 柴田黒猿
蕃椒晝間の月のうそ白し 唐辛子 正岡子規
蕎麦咲くや鼻をまづさす風白し 石川桂郎 高蘆
蕪白し遅れし鳥の旅立ちに 田口満代子
蕪白し順縁に母送らねば 秩父
薄明のまづ鶴守の息白し 淵脇 護
薔薇白し処女の倫理の昨日(きぞ)の栄 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
薔薇白し暮色といふに染りつつ 後藤夜半 底紅
藤白し祭それゆく町の川 原裕
藥草の花紫に霜白し 霜 正岡子規
藪中の木を積む墓所や梅白し 飯田蛇笏 山廬集
藪陰に茶の花白し晝の月 茶の花 正岡子規
藻の花や月の出しほの水白し 澤村昭代
虎杖は火の山の花夜も白し 米谷静二
蚊帳明けてほのかに白し栗の花 栗の花 正岡子規
蛇塚や蛇死して蛇のから白し 蛇の衣 正岡子規
蜜蜂の儲け話や菊白し 野村喜舟 小石川
蜻蛉に湛へて白し雲の海 林原耒井 蜩
蝶白し薄暑の草の道埃 田士英句集 田中田士英
蟹の泡流れて白し朧月 正岡子規
蟹漁の雨脚白し最上川 高澤良一 随笑
蠣がらは垣根に白し菊の花 菊 正岡子規
蠣殻のうしろに白し梅の花 梅 正岡子規
行く春の山吹散つて蝶白し 行く春 正岡子規
行く春の貝殻白し蜆塚 清水杏芽
行列の巨象は白し花まつり 西田穂村
街並のはるかに白し蚯蚓の死 五味一枝
裸詣の酒気を帯びたる息白し 外山緑汀
製紙工場白煙雪嶺より白し 本多穆草
襄の目の豆腐は白し蕪汁 奇北
西陣の機場始めや餅白し 中村烏堂
見直せは冨士ひとり白し初月夜 月夜 正岡子規
話す息聞いてゐる息とも白し 嶋田一歩
誓子亡き春昼の部屋蘭白し 松崎鉄之介
誰が門ぞやみに匂ひの梅白し 井上井月
諌早の釣瓶落しに手が白し 青柳志解樹
讃美歌はすぐにうたへて息白し 岩崎照子
谷の月いよいよ白し薬喰 山本洋子
谷出づる猟夫の見えて梅白し 宮津昭彦
豊年の離々とあそびて雲白し 岸風三楼
貝塚に虫鳴けば白し波の泡 桂樟蹊子
貝殻のうちがは白し秋のこゑ 小島健 木の実
貝殻の浮き出て白し喜雨の浜 大熊輝一 土の香
貝骰のうちがは白し秋のこゑ 小島 健
賽の目の豆腐は白し蕪汁 川島奇北
赤子眠るままに夕影桔梗白し 宮津昭彦
赤腹に波立ち暮るる湖白し 原柯城(馬酔木)
赤鬼灯青鬼灯と花白し 鈴木りう三
起伏ひたに白し熱し若夏(うりずん) 金子兜太 皆之
越中の花菜はさかり雪は白し 前田普羅 新訂普羅句集
蹴鞠白し背山の降らす雪よりも 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
身の髄まで侮蔑くひ込む足袋白し 稲垣きくの 黄 瀬
身構へる襟足白し歌かるた 富永晃一
車椅子進め受洗の息白し 冨田みのる
車窓曇らせし別れの息白し 山田弘子 こぶし坂
軒並みに大根白し冬の月 蝶夢
農地改革は暴政なりし蝶白し 齊藤美規
返し地震来ずて暮れたる花白し 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
返り咲く鉄線白し紙どころ 大島民郎
送火や椎の葉裏の蝶白し 牛崎花城
透き通る和紙より白し寒牡丹 今井千穂子
道ばたの冬菜の屑に霜白し 冬菜 正岡子規
道曲り一人となりし息白し 嶋田一歩
遠きほど面輪は白し春田打 神尾久美子 桐の木
遠山の奥遠山の雪白し 斉藤忠男
遥拝す御廟は白し夏木立 一茶 ■寛政七年乙卯(三十三歳)
避暑の宿うら戸に迫る波白し 室生犀星 魚眠洞發句集
酒庫深くこぼれて白し酒の粕 西山泊雲 泊雲句集
醒むるたび浪音白し籐寝椅子 中島斌男
醴(アマザケ)に桃裏の詩人髭白し 其角
里ふりて江の鳥白し冬木立 蕪村遺稿 冬
重ねあふ真昼の翳りリラ白し 今橋眞理子
重ね塔婆白し余寒の眼にのこる 阿部みどり女
野あやめのむらさき一つ他は白し 水原秋桜子
野葡萄に霧うごきそむ湖白し 日比谷広子
金縷梅の折口白し墓地を行く 阿部みどり女 『陽炎』
鈿女舞ふ青き袴に足袋白し 高木朱星
銀やぐら崩れて白し天の川 縁台将棋 中勘助
鋼塊の谷によろめきカラー白し 広岡善
鏡にも手のあと白し天瓜粉 岡本松濱
鏡中にわが髯白し裘 島田五空
長崎のにんげんの丘息白し 夏石番矢
長期戦富士は初雪はや白し 渡邊水巴 富士
門川は凍りて白し松飾 田村了咲
閻王が斎の白菜ひた白し 藤田湘子
降り積る雪より白し波の花 浦幸雪
降る雪より積む雪白し避病棟 川村紫陽
陸戦隊白しカッタア艦へ帰る 片山桃史 北方兵團
陸戦隊白し疾風雨をくゞる 片山桃史 北方兵團
陸軍記念日雨に洗はるる梅白し 太田鴻村 穂国
陽炎の一筋白し丸木ばし 陽炎 正岡子規
障子白し子の死経てわが病経て 古屋秀雄
雛過ぎて更に活けたる桃白し 石井露月
雨どどと白し菖蒲の花びらに 山口青邨
雨暗き木立に栗の花白し 栗の花 正岡子規
雨白し思ひ出でては鳴く轡虫 林原耒井 蜩
雪と雪の相剋かぎりなく白し 津田清子 礼 拝
雪に立て雪より白し紙干板 井上雪
雪を掻き落して白し雪の上 右城暮石 声と声
雪を魔と呼ぶには余りにも白し 堺井浮堂
雪急に撒き去る雲や梅白し 長谷川かな女 雨 月
雪散つてしばらく白し山の杉 和知喜八 同齢
雪白し加茂の氏人馬でうて 蕪村 冬之部 ■ 題七歩詩
雪白し天の霊嶺のすでに秋 石原舟月
雲よりも白し浅間の秋けむり 永井龍男
雲白し夜の畳の灼けのこる 松村蒼石 雪
雲白し山蔭の田の紅蓮華 泉鏡花
雲白し蝉満開の故郷の杉 福田甲子雄
雲白し銀河の埋むる穴もありて 篠原梵 雨
雲白し鬨あぐるごと田水沸く 河野南畦 湖の森
雹にうたれ白さも白し大桜 長谷川かな女 牡 丹
雹の傷穂麦に白し没日冷え 大熊輝一 土の香
霜凪の蒼海渚にて白し 千代田葛彦
霜白し妻の怒りはしづかなれど 日野草城(1901-56)
霜白し死の国にもし橋あらば 清水径子
霜白し烏のかしら帰り花 言水
霜白し独りの紅茶すぐ冷ゆる 中村汀女
霧よりも湯けむり白し十三夜 西村公鳳
霧藻採る山に池あり蓮白し 雉子郎句集 石島雉子郎
露白し充ちて授かる言葉待つ 早崎明
露白し稲葉の果の筑波山 古白遺稿 藤野古白
靈山の麓に白し菊の花 菊 正岡子規
青きほど白魚白し苣の汁 重頼
青天に縁濃ゆき月萩も白し 香西照雄 素心
青年の一語一語の息白し 島津 亮
青空が創りし朴の花白し 橋本鶏二
青空につんつんのぼる羽子白し 美濃部古渓
静けさのどこか揺れゐて梅白し 鷲谷七菜子 黄炎
靴白し一寸先の闇知らず 岡本 眸
音冴えて羽根の羽白し松の風 鏡花
額の花一花命名の紙白し 対馬康子 吾亦紅
風いまだ冷たき丘や梅白し 安部靖代
風なりや打返る萩のほの白し 暁台
風死すや川原の石の貌白し 伊藤白雲(獅子吼)
風白しマーガレットを野に置きて 稲畑汀子
風立ちてわが身離るる萩白し 加倉井秋を 午後の窓
風立ちて仏迎へる道白し 原 和子
風若くさゞなみの歯朶裏白し 松月
風蘭のほのかに白し鉄燈籠 風蘭 正岡子規
風蘭の花白し細しすがしき 甲田鐘一路
風邪の身に米の磨ぎ汁いや白し 山口波津女 良人
風鳴つて春草白し神通川 麦水
飛んでゐる千鳥は白し夕ざくら 田村木国
飛燕の腹白し夕日の森の上 大熊輝一 土の香
飛魚追いは白し夜昼さかな食べ 和知喜八 同齢
飯粒の臍もれ白し雀鮓 安斎桜[カイ]子
餅白し中千本を走る水 宇佐美魚目 秋収冬蔵
馬の息白し藁束燃ゆる辻 大井雅人 龍岡村
馬の背の大根白し夕もみち 紅葉 正岡子規
馬を拭きはづむ少女の息白し 福田甲子雄
馬柵白し十勝に夏野あるかぎり 舘野翔鶴
馬追の鳴いて夜干のもの白し 宇津木未曾二
駆けり来し幼らの皆息白し 山岡黄坡
駿河富士白し四温の晴れに聳つ 岡田文泉
骨白し抱いて眠らん凩の夜は 水島稔
高千穂へ赭岩踏みゆく息白し 杉田竹軒
鬼ヶ島へさみだれの波たゞ白し 渡辺桂子
鰯雲読みし葉書は手に白し 木村蕪城 一位
鳥いよよ白し桜の蜜吸ひて 有馬朗人
鳥白し春あけぼのの君ヶ浜 有馬朗人
鴃舌(げきぜつ)の「ディッヒ」「リッヒ」と息白し 鷹羽狩行 十友
鴃舌のディツヒ・リツヒと息白し 鷹羽狩行
鶏の二十羽白し落椿 野村喜舟 小石川
鶏白し暑く静かな水の底 飯田龍太
鶏群の初こがらしにまた白し 百合山羽公 寒雁
鷹白し春の驟雨の過ぐるまで 進藤一考
鷺白し冬の太陽野に抱かれ 河野多希女 両手は湖
麦の芽にちりて太古の貝白し 飴山實 少長集
麦刈女誰よぶこともなく白し 飯田龍太 麓の人
黄塵の疾風の中の梅白し 上村占魚 球磨
黄落や母の日暮れの母は白し 高柳重信
黄落や白樺はてしなく白し 吉良和子
黍は青く片田の蓮みな白し 北原白秋
黒し白し雪渓交ふ地の牙は 林翔 和紙
黒人のてのひら白しクリスマス 政木 紫野
黙々と襷の走者息白し 伊藤典子
黙祷のまなうら白し油蝉 土屋未知
鼻筋の一刷毛白し祭稚児 森重夫(風)
龍馬の墓かくす藪あり梅白し 鳥羽とほる
●白っぽい 
冬の日に駱駝の鼻先白っぽく 高澤良一 鳩信
案山子の白つぽいのを立てゝもう帰りゆく阿爺 中塚一碧樓
白つぽい桑芽が幽かだ 北原白秋
●白葱 
うつし世の白葱をほめ久女忌へ 榎 三吉
白葱のしろい性器がみえている 高岡修
白葱のひかりの棒を今刻む 黒田杏子
白葱の一皿寒し牛の肉 葱 正岡子規
白葱の白 晴れ晴れと足許に 伊丹公子 時間紀行
白葱の白きところが抱かれてる 松本恭子 二つのレモン
白葱を二三本ぬき鼓うつ 橋石 和栲
鴨鍋の近江の芹よ白葱よ 大橋敦子
●白さ 
あぐらせる雛の足の白さかな 法師句集 佐久間法師
いつの世も足袋の白さは手で洗ふ 朝倉和江
かかる昼かかる白さの菖蒲かな 今泉貞鳳
かざす手の病めば白さよ春火桶 野田きみ代
からびたる土の白さや手鞠つく 八木三日女 紅 茸
かるた取る逸早き手の白さ見し 青峰集 島田青峰
きさらぎの滝の白さを負ひもどる 木村蕪城 寒泉
くらやみに立てる桜の白さかな 金子晉
この世あの世を行き交ふ白さ梅雨の蝶 鍵和田[ゆう]子 浮標
この菊の白さは人をあやめるほど 後藤昌治
しなのぢやそばの白さもぞつとする 小林一茶 (1763-1827)
その白さためつすがめつ朝櫻 高澤良一 鳩信
ただ白き白さも風の水巴の忌 阿部誠文
つくづくと梅のひとへの此の白さ 広瀬惟然
つく羽子の天より戻る白さかな 西宮舞
つばくろの胸の白さよ友垣よ 中村明子
つるばらの冬さくばらの白さみよ 久保田万太郎 流寓抄
とみかうみ風の白さも萩の中 河野多希女 こころの鷹
とりかえてくれた瓶の 菊の白さにも おびえる 吉岡禅寺洞
どくだみの花のこそばゆき白さ 加倉井秋を 午後の窓
どくだみの花の白さに夜風あり 高橋淡路女 梶の葉
なかば閉ぢ扇子の白さ改まる 鷹羽狩行 八景
なほ暮るる夕くらがりの梅白さ 長谷川素逝 暦日
ぬか雨の海の白さや早生蜜柑 中拓夫 愛鷹
はかりこぼす丹精の繭の白さはや 太田鴻村 穂国
はなびらの白さ夢透く冬牡丹 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
ばらくに咲いて辛夷の白さかな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
ひとり立つ鷺の白さよ五月雨 士朗「枇杷園句集」
ひるがへるものの白さや秋つばめ 秋篠光広
まだ何も獲ざる白さの捕虫網 池田秀水
まだ昨日を知らざる白さ花辛夷 鎌倉佐弓 潤
まないたの葱の白さよ核家族 佐川広治
ま白さのどこより触れむ盆燈籠 加倉井秋を
むいた実の肌の白さよきぬかつぎ 片桐まさを
ゆきひらの粥の白さや月朧 岡部名保子
ゆれやすき白さに稲の花そろふ 山本つぼみ
よく眠れて木槿の白さ讃へをり 長谷川倫子
よめあによめの朝早い李の白さ 梅林句屑 喜谷六花
オムレツの皿の白さよ苗代寒 冨永 冨
シロナガス鯨の白さ春浅間 矢島渚男 延年
ストのビラはぐタイルの白さ泣けてくる 川村志青
ハンカチのぬきさしならぬ白さかな 中村明子
ハンカチの汚るゝためにある白さ 岩岡中正
マスクして鶴の白さにとなりけり 所山花
マスクの白さ同僚とは相憎むもの 榎本冬一郎 眼光
マフラーの白さを惜しげなく垂るる 行方克巳
一とすじの白さタイガの雪の道 坊城としあつ
一人欠くあやめの軸の白さかな 阿部みどり女
一心といふ白さなり寒牡丹 藤田佳子
一握の米の白さよ虫の声 栗生純夫 科野路
一杓に湯気の白さよ風炉名残 井沢正江 一身
三ケ日雪の白さにつかれけり 倉田素商
三寒の障子つぎ張りの白さもて 中山純子 沙羅
三月降る雪の白さに笑ひ出す 川崎展宏
三椏の花の白さの幾朝か 中村汀女
下闇にたゞ山百合の白さかな 木下闇 正岡子規
乳歯生ふ月見団子の白さほど 塚田登美子
二の腕の白さかくさず更衣 鳥沢まさ江
二輪草まだ一輪の白さかな 星野恒彦
人去れりマーガレットの白さわぐ 阿部みどり女
今掛けしいまの白さに袋掛け 加倉井秋を 『隠愛』
今日干してけふの白さの干大根 西川保子
今生れし和紙の白さに触れては見ず 細見綾子 黄 炎
伊賀紙の紙の白さよ御帳綴 観魚
伊那谷の冬満月の白さかな 佐川広治
体内の梅の白さは知られけり 齋藤愼爾
佳き睡り餅の白さを枕辺に 岡本眸
俄かに病臥黐の白さが芝覆ふ 河野南畦 湖の森
信州の浄土の白さ蕎麦の花 鷹羽狩行
倒木の砕けし白さ蛇にほふ 吉本伊智朗
僧堂の飯の白さよ新豆腐 水原秋櫻子
六月の木に咲く花の白さゆゑ逃れゆきたき道とざさるる 高田流子
冬の日の障子白さや吸入器 碧雲居句集 大谷碧雲居
冬の暮遠き白さの鶏生きて 宮津昭彦
冬濤の白さよ人を信じ切る 山田弘子 螢川
冬濤の裂ける白さに巌立つ 稲岡長
冬菊となりて闇負ふ白さかな 五十崎朗
凍む白さもていつぽんの藁流る 櫛原希伊子
凜冽の滝の白さや初ざくら 伊丹さち子
凧糸の白さをもつて地に還る 加倉井秋を 午後の窓
刀匠の鬚の白さや鞴祭 大森敏光
切りいだす氷頭の白さよ冬霞 長谷川櫂 古志
刈田風もう帰らない棺の白さ 館岡誠二
初かはづ喉の白さは見えずとも 宇佐見魚目
初荷幟の白さを競ひ富士ある町 鍵和田[ゆう]子 未来図
初萩のやがて滝なす白さかな 鈴木フミ子
初蝶と思ふ白さのよぎりけり 阿部タミ子
初蝶のまだ海を見ぬ白さかな 永田英子
初蝶の己が白さを淋しがる 原田青児
初蝶の白さ触れなば風となる 高橋謙次郎
剥かれたる牡蠣の白さをなほ洗ふ 花田春兆
十薬の白さこの世の捨て葉書 鍵和田釉子
千万の山毛欅の白さの秋の風 堀口星眠 火山灰の道
半身を病む形代の白さかな 熊谷愛子
南天の花の白さの夕べかな 岡本尚枝
卯の花の白さ父情の遠い白さ 有働亨 汐路
原昏れてより頬白の尾の白さ 坊城としあつ
叔母の白さは桃葉湯のむかしかな 中戸川朝人 尋声
古備前に百合一輪の白さかな 佐浦國雄
句を記す紙の白さや初桜 嶋田麻紀
台風あと別な白さの萩咲ける 細見綾子 存問
味噌を解く浮く秋茄子の白さかな 池田音次郎
咲き初めし梅一輪の白さかな 川口咲子
嘘をいふ息の白さの澱みなく 鈴木貞雄
嘘言はぬ北の白さの牛の舌 平井さち子 鷹日和
国引きの綱の白さの枯岬 佐川広治
土に嘴百羽の燕白さ失す 栗生純夫 科野路
地球岬その白さもて野分截る 林翔
塚山に花橘の白さかな 伊丹さち子
壺に咲いて奉書の白さ泰山木 渡邊水巴 富士
夏シャツの白さ深夜の訪問者 野見山朱鳥
夏帯の白さを己がこころとも 勝又星津女
夏椿こらへかねたる白さかな 佐藤美恵子
夏蝶の自在白さのゑがかるる 西村綾子
夏足袋の白さいづこへ行くとせん 原裕 『王城句帖』
夏足袋の白ささみしくはきにけり 成瀬櫻桃子
夏野越茨の白さをたのみかな 増田龍雨 龍雨句集
夕暮の白さは梅に残りけり 阿部みどり女
夕闇の包めぬ白さ鉄線花 吉岡ひとし
夕霰枝にあたりて白さかな 高野素十
夕顔におのれを審く書の白さ 下村槐太 光背
夕顔に更けゆく白さありにけり 田畑美穂女
夕顔の白さについては触れまじく 加倉井秋を 午後の窓
夜目に湧く雲の白さや蕗畑 宇佐美魚目 天地存問
大寒の護符の白さに牛を飼ふ 木村蕪城 寒泉
大根の二本白さや飯を蒸す 碧雲居句集 大谷碧雲居
大根の白さつめたさ刻々暮れ 雅人
大根の白さを風のもたらせし 右城暮石
大根洗ふ白さ月日の鮮しく 影島智子
大舞茸半分売れたる白さかな 蓬田紀枝子
天の川身籠りてより白さ増す 鷹羽狩行
太刀持の脛の白さよ草の露 露 正岡子規
失ひし白さ戻らず掛大根 池田秀水
女には足袋の白さといへるもの 後藤比奈夫
子が残す飯の白さよ原爆忌 佐藤木鶏
室の独活切るや犇めく白さ切る 大橋敦子
寒明けの中洲の砂の白さかな 片山由美子 天弓
寒梅の白さは叱咤飛ぶごとし 朝倉和江
寒椿雨にも白さうしなはず 松下芳子
寒雁の額に白さの明けてきし 小圷健水
寒鯉の口の白さの進みけり 深見けん二 日月
寸鉄も帯びざる白さ寒牡丹 伊藤京子
対き替へてヨット白さを失へり 加倉井秋を 『欸乃』
少女期のころの白さや花サビタ 武田立子
尾白鷲白さだかにし止りたり 依田明倫
山の日の移りて梅の白さかな 福島壺春
山光る餅の白さも幾夜経て 飯田龍太
山桜花の白さに散りやすき 高浜虚子
山椿昼間の月の白さ哉 椿 正岡子規
山法師霧の育てしその白さ 朝倉和江
山畠やそばの白さもぞつとする 一茶
山砂の崩るる白さ夕立あと 杉本寛
山芋の妖しき白さ啜りけり 久安五劫
山茶花に咲き後れたる白さあり 宮田正和
山茶花の八重咲く白さ昃りても 小澤満佐子
山茶花の風脈昏れてゆく白さ 古市絵未
山落ちる水の白さやめうが汁 宇佐美魚目 天地存問
岐阜行燈の白さ好もしともし見る 雑草 長谷川零餘子
巣を守る燕のはらの白さかな 炭 太祇 太祇句選後篇
帚木に水やる腕の白さかな 四ツ谷龍
底抜けの白さを持っている柩 大西泰世 『こいびとになつてくださいますか』
引きぬきし十薬の根の生白さ 横山房子
形代の白さ伏屋のものに似ず 相生垣瓜人 微茫集
御眉の白さ目にしむ夜寒かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
御輿洗ひはざの白さや神楽神子 椎本才麿
息の白さ豊かさ子等に及ばざる 中村草田男
打連れて足袋の白さや御坊達 村上鬼城
投函の封書の白さ冬に入る 片山由美子 天弓
折鶴の内の白さよ厄日過ぐ 大石雄鬼
振り向きし顔の白さや路地の秋 岩田由美 夏安
捕虫網まだ使はれぬ白さもて 鈴木貞雄「月明の樫」
捕虫網雲より白さ得しごとし 大川つとむ
揚がるたび白さ戻りぬ白魚網 齋藤朗笛
揚げ餅に塩の白さの弥生かな 堀川良枝
擂粉木の頭の白さ冬はじめ 鷹羽狩行
教会と別な白さの花海桐 伊丹三樹彦
文七が下駄の白さよ春の月 一茶 ■享和二年壬戌(四十歳)
新蕎麦と書かれし紙の白さかな 磯野外美子
日あらはに切籠の白さ照らし居り 渡邊水巴 富士
日にとくる霜の白さや枯芒 原石鼎
日本の白さと形餅を焼く 嶋田一歩
早乙女の素足の白さ家を出る 西村公鳳
早咲きの梅の白さに振り返る 関口美子
明け方の雨の白さや朝顔市 菖蒲あや
星の遠さ無名戦士に雪の白さ 有働亨 汐路
春の波眼を病む白さうち重なり 八木原祐計
春大根いつはりのなき白さかな 三成恭子
春暁の雪と見まがふ白さあり 高木晴子 花 季
春月のひと夜の白さ干鰈 文挾夫佐恵
昨日より今日の白さのさくらかな 坊城中子
昼月の秋呼ぶ白さかかりけり 宮津昭彦
晒し葛蚕のやうな白さかな 石河義介
晒井に和尚の尻の白さかな 会津八一
暁闇を弾いて蓮の白さかな 芥川龍之介
暮るる湖の白さ彼岸の走り野火 山口草堂
曇り日も蛍袋の白さあり 阿部みどり女 『陽炎』
朝の気のリラの白さに鋏入れ 山田弘子 こぶし坂
朝寝の朝朝の洗面器の白さに水張る 人間を彫る 大橋裸木
朝星の白さ増しゆく乙字の忌 雨宮抱星
朝霧の誰にも触れられざる白さ 加倉井秋を 『真名井』
朝顔の折目正しき白さかな 鈴木良子
朝顔の白さよ紺は咲かざりし 渡邊水巴 富士
朝顔の色を忘れし白さかな 渡邊水巴 富士
木瓜の花白さが闇を深くせり 森しず子
木苺の薄暗がりの白さかな 児玉寿美女
木蓮の夕暮れてゆく白さかな 中濱信子
杉箸の束の白さも寒九かな 片山由美子 水精
杜を過ぎ杜を過ぎ鷺白さ増す 山口誓子
松明に露の白さや夜の道 黒柳召波 春泥句集
松陰におどらぬ人の白さ哉 一茶 ■享和三年癸亥(四十一歳)
松露掻く真下の波の白さかな 金井典子
柏餅古葉を出づる白さかな 渡邊水巴
柚の花の白さにふるる潮かな 田中猪山央
桑畑に綿の白さの秋の雲 細見綾子 黄 瀬
梅三分月の白さに死を悼む 古舘曹人 砂の音
梅雨の忌や空の白さと沙羅双樹 阿部みどり女
梅雨の鶏白さつくして羽ひろぐ 下村槐太 天涯
梨花一聯々々づゝの白さかな 島村元句集
橙の花の白さの奇遇かな 池谷花城
死の睫毛少女の白さ深めたる 三谷昭 獣身
残る花夕かたまけし白さかな 行方克己 知音
母の手の白さばかりの十三夜 鈴木 映
毎日の露の白さや古簾 阿波野青畝
水が責めぬきし白さよ寒晒 右城暮石
水のくらさ欅の白さ螢燃え 堀口星眠 営巣期
水仙の白さくもりて暮れにけり 青峰集 島田青峰
水底の豆腐の白さ寒の入り 小谷武生
水弾く白さに葱を洗ひ了ふ 宮津昭彦
水母浮く月の白さを身にまとひ 北田関汀
水神に大山百合の白さかな 前田正治
水芭蕉のみの白さの闇となり 荒木一朗
水草の花の白さよ宵の雨 水草の花 正岡子規
水飯の色すさましき白さ哉 冷まじ 正岡子規
水鳥おのが身の白さ寒むざむと鳴くかな 人間を彫る 大橋裸木
氷湖に雪死装束の白さもて 轡田進
汀線の際立つ白さ冬に入る 上田五千石 田園
汐路来し喉の白さよ夏燕 大塚さよ子「さよ子句集」
汐風にもめても蕎麦の白さかな 浪化
汲かへていとゞ白さや寒の水 浮流
沈丁の咲きはじめたる白さかな 星野立子
沖の帆も秋の白さと思ひけり 片山由美子 風待月
沖雲塩の白さ三十路の汗咲けと 宮津昭彦
沙羅咲けりまことかの世の白さもて 井沢正江
法楽の白さ尽して寒念仏 加倉井秋を
泣きくづれたる夏衿の白さかな 野崎静子
泰山木けふ咲くけふの白さもて 岡部六弥太
泳ぎつく魚の白さよ今朝の秋 中川宋淵
泳子の足裏のみの白さはや 高田蝶衣
洗ひたる牡蠣の白さをなほ洗ふ 花田春兆
洗ひ足るシヤツの白さに花菜風 久米正雄 返り花
流木と別の白さのシロヨモギ 高澤良一 燕音
流木の白さ寧けさ外寝海女 加倉井秋を 『真名井』
流氷の白さだけ海蒼深む 加藤瑠璃子
海の香を失いし貝の白さかな 天野素子
涼風や髪の白さを嗤ひあふ 岸風三樓
湧きつげる雲の白さや海開き ほんだゆき
湯豆腐のふつふつそつけなき白さ 日向和夫
溶岩原昏れると綿虫の白さのみ 加倉井秋を 午後の窓
滝みつめ総身滝の白さ満つ 岡田日郎
滝壺がけむる白さや五十代 鈴木鷹夫 大津絵
滝落ちし白さをかこみよどむ紺 篠原梵 雨
火燵出る足袋の白さや蓍衣始 中村烏堂
炎天の裸木リヤ王の白さなり 平井照敏 天上大風
焦げてゐて雪の白さにきりたんぽ 後藤比奈夫 花びら柚子
煮凝に透けたる鯛の白さかな 今泉貞鳳
燕の飛びとゞまりし白さかな 松本たかし
爼に大葱あまる白さかな 碧雲居句集 大谷碧雲居
物も色も唯白雪の白さかな 東洋城千句
独活育つ室の暗さが白さ生む 大橋敦子 匂 玉
独活育つ等しき高さ白さにて 大橋敦子 匂 玉
玉繭の闇を抱ける白さかな 片山由美子 水精 以後
理リの梨の白さや返り花 尾崎迷堂 孤輪
男来て梅の白さに狼狽す 宇多喜代子
病み馴れて梅の白さをかなしまず 河野南畦 『黒い夏』
病めばふと碍子の白さ明易し 猪俣千代子 秘 色
白さぎと白うさぎ書くわが空白帖 阿部完市 にもつは絵馬
白さ加へて白山の年迎ふ 片山由美子 水精 以後
白と言ひ難き白さの母子草 依田明倫
白木蓮花に花影して白さ 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白菊の白さつくして晴れにけり 金尾梅の門 古志の歌
白菜の一枚づつの白さの差 阿波野青畝
白鳥のかげの白さも水の春 原コウ子
白鳥の己れの白さ暮れなづむ 阿波野青畝
白鳥の目覚めし白さ拡げけり 山田弘子 こぶし坂
白鳥の眠り足りたる白さかな 今瀬剛一
白鳥の群れを逸れたる白さかな 中島ちなみ
白鷺の白さ掛け稲濡れとほる 右城暮石 声と声
白龍の月にかゞやく白さかな 村上鬼城
目にたちて野分の白さ海を越ゆ 佐野まもる 海郷
睡蓮のはじめの白さ男来る 松山足羽
睡蓮の蕊の見えざる白さかな 嶋田一歩
短夜の夢の白さや水枕 鈴木しづ子
石楠花の白さ消えたる夜の病棟 秋山石声子
磧湯の石の白さや十二月 坂本登美子
磨ぎ終へし四日の米の白さかな 若井新一
神還り給へる富士の白さかな 岩永極鳥
秋の渚ほどの白さの猫を飼う 北原志満子
秋の燈の白さ人形つくりをり 臼田亞浪 定本亜浪句集
秋の空華巖の瀧の白さかな 秋の空 正岡子規
秋の蚊のあまり白さやこぼれ落つ 雑草 長谷川零餘子
秋扇や時化し白さの波がしら 池田秀水
秋扇身に添うて白さありにけり 中島月笠 月笠句集
秋日の鶏己が白さに瞼閉づ 羽部洞然
秋濤の己れ巻き込む白さかな 上山永晃
秋立つと目に白樺の白さかな 石井露月
秋雨に卵の白さ鳴き上ぐる 林原耒井 蜩
秋風や骨の白さの磧石 片山由美子 水精
秋風や骨の白さの竹人形 鷹羽狩行
移り住んで壁の白さの夏すいと 林原耒井 蜩
立枯るる樅の白さの良夜かな 有働亨 汐路
筧水餅米洗ふ白さに落つ 八木沢つとむ
簗に立つ脛の白さや秋日和 廣瀬ひろし
糊つよき衿の白さよ花海棠 脇坂啓子
紙の白さ飯の白さの梅雨に入る 千代田葛彦 旅人木
紙を漉く簀の面に浮きてくる白さ 小田切ふみ子
紫草の花の白さを風のなか 飴山 實
結願の萩吹けば飛ぶ白さかな 塚本邦雄
綿虫の掌に触れ白さ失へり 長田等
緑蔭や蝶の白さのただならぬ 春一
縫初の繭の白さの婚衣装 大川八重
繰り糸の白さと風の川芒 子郷 (湖北大音)
置きし如ぬけ出て蕪の白さよし 高田蝶衣
羽ばたきて大白鳥の白さかな 松井文子
羽抜鶏群るる白さに距りぬ 中戸川朝人 残心
老鶯や白さやさしき吉野和紙 加古宗也
考へて気づく真夜の蛾の白さ 成田千空 地霊
肉の白さの潮の迅さで夜の出漁 隈治人
脱ぎすてし足袋の白さに雪降り出す 内藤吐天
舞ふ雪のこの白さもて三日かな 鞠絵由布子
船は花嫁の白さや雲の秋 片山由美子 風待月
色々もなくて夜露の白さ哉 露 正岡子規
花八つ手今日の白さの小春かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
花八つ手瞋の白さと見たる日も 伊丹さち子
花冷えの空の白さを映す海 岩淵喜代子 朝の椅子
花冷の白さただよふ母の耳 坂巻純子
花季の吉野の和紙の白さかな 佐川広治
花朴のたたかふ白さ滑川 鳥居美智子
花韮の白さどきまぎ嘘ばかり 小堤香珠
芽木のたしかさ夜雲の白さ妻妊る 千代田葛彦 旅人木
茎はいま腕の白さ曼珠沙華 五十嵐暢子
菊月や雲は日ごとに白さ増し 片山由美子 天弓
菜の花の夜目に白さや摩耶詣 飯田蛇笏
落ちてなほ瀑布の白さ失はず 鷹羽狩行 長城長江抄
落日に頬白さむき鳥の母子 浜 芳女
落栗の向け合ふ尻の白さかな 石田勝彦 秋興
落鮎に裂く割箸の白さかな 川崎展宏
葉ざくらや白さ違へて塩・砂糖 片山由美子「水精」
葛晒す白さ重ねて春を待つ 相良哀楽
葱の根の白さしのぼるごとくなり 能村登四郎 冬の音楽
蔦の花滝と白さを分ちけり 渡邊水巴 富士
藻の花の朝の白さをつくしたる 行方克己 昆虫記
蘭の鉢と便器白さや夜半の冬 碧雲居句集 大谷碧雲居
虹消えて眠りぬ猫の手の白さ 加藤よう子
蛾の白さのみを許して藍染場 加倉井秋を
蜥蜴来て喉の白さの生命かな 下山田禮子
蟻はらふときわが肘の生白さ 百合山羽公 故園
蠅とめぬ壁の白さに居つきたり 林原耒井 蜩
街裏に瀬波の白さ風の盆 澤木欣一
裏切らぬ梅の白さや峡の道 手塚 卓
裸木の蕊の白さをおもひけり 高澤良一 ももすずめ
襖絵の波の白さや鑑真忌 竪ヤエ子
触診の指の白さや秋の冷え 大竹多可志
言葉はや息の白さとなりて消ゆ 山下しげ人
谷底に雪一塊の白さかな 村上鬼城
貼り替へし障子とわかる白さかな 稲畑汀子
走り寄る浪の白さや和布刈桶 矢上蛍雪
足裏に秋の白さを集め臥す 中嶋秀子
踏絵図の女の足の白さかな 鈴木鷹夫 風の祭
蹌踉デッキで 死ねる白さの夜の浪で 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 島嶼派
身にあまる白さに堪へて雪の嶺 相馬遷子 山河
辣韮の洗ひ上げたる白さかな 頓所八重子
退くときの白さが無限春怒濤 山本つぼみ
遊行忌の露の白さをたたへけり 長谷川櫂 蓬莱
道の辺に捨蚕の白さ信濃去る 橋本多佳子
道へ出て浴衣白さやほととぎす 原石鼎
遠こぶし傷兵の白さもう絶えて 平井さち子 完流
遠滝の音なき白さ畏れけり 渡辺 昭
酒米の冴えたる白さ寒造 水谷たつ子
金鳳華足袋の白さに慰められ 小坂順子
鉦叩雌は白さのまさりけり 瀧澤伊代次
闇汁の湯気に欄間の白さかな 大坂邦子
降る雪と歯並の白さ別れ際 榎本冬一郎 眼光
除夜の鐘葱の白さを洗ひ上げ 安村敏子
障子立つ天地の白さ一文字に 井沢正江 湖の伝説
雨に焼く栄螺の白さ夏が果つ 中拓夫 愛鷹
雨の日の芋種選ぶ芽の白さ 市村究一郎
雨降れば雨の白さを鳰浮巣 加古宗也
雨霧のすすげる白さ山帽子 島津とみゑ
雪に雪降り積む白さ乳児眠る 長田等
雪の富士神の白さを輝かす 林 瑠美
雪の日は雪の白さに人距つ 津田清子 礼 拝
雪の白さに疲れやはらかさに疲れ 津田清子 礼 拝
雪山の重なる奥の白さかな 五十嵐春男
雪掻いて雪の白さのなかにをり 日下部宵三
雪柳夜には夜の白さあり 五十嵐播水
雪激し障子の白さまさるとき ふけとしこ 鎌の刃
雪解富士木天蓼の葉に白さ見ゆ 渡邊水巴 富士
雲丹つけし飯の白さよ秋の立つ 河野南畦 『空の貌』
雹にうたれ白さも白し大桜 長谷川かな女 牡 丹
霜来り護符の白さに野良の富士 百合山羽公 寒雁
露のんで猫の白さの極まるなり 加藤楸邨
露地曲る足袋の白さや初稽古 八木浩二
靄の白さなかの白百合わきてよし 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
青蛙喉の白さを鳴きにけり 松根東洋城(渋柿)
鞍馬道夏手袋の白さかな 吉井幸子
頬白の頬の白さを風ぬける 原 天明
餓ゑし瞳に雪の白さがふりやまぬ 篠原鳳作 海の旅
馬鈴薯の白さを秘めし土のまま 稲畑汀子
駆け終へてことさら息の白さかな 阪井邦裕
鰰のすしの麹の白さかな 佐川広治
鳥帽子きて春寒眉の白さかな 久保田万太郎 流寓抄
鴨の胸仕立て上がりの白さかな 長沼弘子
鵜の嘴にしなひし鮎の白さかな 矢島渚男 木蘭
鶏頭の種蒔く土の白さかな 高浜虚子
鶴となる紙の白さや夜の秋 池田琴線女(うぐいす)
鶺鴒や痛き白さの生丸太 百合山羽公 寒雁
鷺の白さで元旦の妻高笑ひ 佐川広治
麦搗いて月夜と白さくらべけり 萩原麦草 麦嵐
麻の中月の白さに送りけり 高浜虚子
麻服のおのが白さに眩み行く 篠原梵
●白き 
ただ白き白さも風の水巴の忌 阿部誠文
仲秋の深眼に白き砂糖菓子 柴田白葉女 『月の笛』
初夏の洗ひて白き皿の数 柴田白葉女 『月の笛』
初扇白何遍も白きかな 後藤立夫
吸入器白し窓には白き朝 依田明倫
大変や白腰巻は白きまま 三橋敏雄 *シャコ
彼岸花の白きは幽冥界のもの 柴田白葉女 『月の笛』
曇天の白き太陽蟻地獄 柴田白葉女 花寂び 以後
梅白し梅より白き老のゆめ 加倉井秋を 『風祝』
残雪ニ鶏白キ余寒カナ 残雪 正岡子規
沖雲の白きは白しサングラス 瀧春一
白よりも白き雪なり法然忌 羽根尾一孝
白南風の庭に置かれて白き椅子 稲畑汀子 汀子第三句集
白桃の白きは蒼きほど寂か 石原八束 『幻生花』
白濤の白きはまりぬ夏霞 香西照雄
白熊の公爵白き息つけり 高澤良一 ぱらりとせ
白葱の白きところが抱かれてる 松本恭子 二つのレモン
白薔薇の白きひかりの遺りゐて 原田青児
白蚊帳のなかは真白き波の音 明隅礼子
白隠の帰りを白き岡で待つ 攝津幸彦 鹿々集
虹如す秋雲二点白きは白鳩か 香西照雄 対話
●白い 
三重吉旧居の白い鳥ことり白式部 澤柳たか子
切株ノ 白イ時問ガマハル 年輪 富澤赤黄男
土曜日の白南風白い影は誰 諸角せつ子
見ている人みないで白萩白い雲みている 佐藤良三郎
●黒む 
しぐるるや田の新株(あらかぶ)の黒むほど 松尾芭蕉
ふんどしややうやう黒む初明り 初明 正岡子規
ほのぼのと鴉黒むや窓の春 野坡
一めぐり塚も黒むや冬木立 水田正秀
仮位牌焚く線香に黒むまで 夏目漱石 明治二十四年
雀子の髪も黒むやあきのかぜ 式之 芭蕉庵小文庫
●黒み 
しぐるるや黒みてここに去来の墓 高澤良一 燕音
冬薔薇紅く咲かんと黒みもつ 細見綾子 雉子
壁黒み影向したる星佛 尾崎紅葉
夕だちやわづかに降りて田の黒み 肥前-紫白 俳諧撰集玉藻集
岬黒み来し風前の帰雁かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
時雨るゝや隠岐の小島の松黒み 竹冷句鈔 角田竹冷
柿の傷黒みちぢまり遺子の黒子 香西照雄 対話
黒みけり沖の時雨の行どころ 内藤丈草
黒みつつ充実しつつ向日葵立つ 西東三鬼「変身」
鼻涕かめば鼻黒みたり古暦 幸田露伴 江東集
●黒ずむ 
しぐるるや潮も黒ずむ熔岩岬 下村ひろし 西陲集
わが魔羅も美男葛も黒ずみし 矢島渚男 延年
ポケツトに黒ずみてをり龍の玉 三浦照子
五月 石橋をくぐり黒ずむ花あやめ 宇多喜代子
初午や雪解田に鶏冠黒ずめる 中拓夫 愛鷹
大根を下ろして明日は黒ずめり 津沢マサ子 華蝕の海
山桜防火用水黒ずめる 行方克巳
春の海ビニールすでに黒ずみぬ 攝津幸彦
煤煙に黒ずみあはれ枯芒 高浜虚子
石橋をくぐり黒ずむ花あやめ 宇多喜代子
窓外に黒ずむ山や扇置く 角川源義 『口ダンの首』
細註の朱も黒ずみし書をさらす 斎藤香村
走り海雨鷺の粗巣の黒ずみて 大熊輝一 土の香
青空の果ては黒ずみ夏木立 吉田成子(草苑)
鳩の爪黒ずみ祭囃子かな 大石雄鬼
黒ずみし常滑磐や花うぐひ 山口峰玉
黒ずみて落椿とはもう言はず 宮津昭彦
黒ずみて野性のまなこ冬の鹿 山下美典
黒ずめる連翹の芽に雨つめた 高澤良一 ももすずめ
黒ずんだ楽屋茶碗や寒の入り 今泉貞鳳
黒ずんでゆく桑の実を桑知るや 菅原鬨也
鶏頭の黒づみ雑事身を縛す 根津恵美子
●黒づくめ 
合歓咲いておしやれ少女の黒づくめ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
大雪や能登巡礼の黒づくめ 井上雪
寒釣にゆくいでたちの黒づくめ 池田秀水
旅にゐて装黒づくめ近松忌 森澄雄
月斗句碑鎮魂の蟻黒づくめ 塩川雄三
流行の黒づくめなる案山子かな 松木幸子
白梅や香取奥宮黒づくめ 内海良太
腰を確かの寒肥撒きは黒づくめ 村沢夏風
霊招ばひしをり寒九の黒づくめ 後藤綾子
露涼し騎馬の少女の黒づくめ 堤 高嶺
風の盆男踊りの黒づくめ 菖蒲あや
黄落や墓群の貧富黒づくめ 吉田未灰
黒づくめおたまじやくしに水浅し 石川桂郎 高蘆
黒づくめにて暗からず種案山子 大熊輝一 土の香
●白づくめ 
仲秋や葉子と名付け白づくめ 宇佐美魚目
初雪や嬰の産着の白づくめ 栗山妙子
氷菓工場出でても工女白づくめ 野澤節子
濯ぎしもの白づくめなる虫の闇 中山純子 沙羅
白づくめなる燈台に炎暑来る 森田峠
白づくめの病褥もまた冬用意 能村登四郎
白づくめ灯台立ちて炎暑来る 森田 峠
薔薇挿すや床臥す母の白づくめ 橋本榮治 麦生
●白牡丹 
あけぼののしづけさにあり白牡丹 三宅句生
あでやかなものは昏れゐて白牡丹 猪俣千代子 秘 色
いつぱいに朝日の溜まる白牡丹 長井 寛
うつし世の紅をふふみし白牡丹 加藤耕子
から咳に真昼の深さ白牡丹 鍵和田[ゆう]子 未来図
きつちりと蕊を結んで白牡丹 谷中隆子
くづほるる寸前のこれ白牡丹 安住敦
くづるる刻来て落日の白牡丹 鷲谷七菜子 黄 炎
くづれんと太陽ほどの白牡丹 山田閏子
これぞまさに有季定型白牡丹 鈴木鷹夫 風の祭
これやこの御声掛りの白牡丹 尾崎紅葉
これ以上寄れば崩れむ白牡丹 小栗しづゑ
しくるゝや古き都の白牡丹 時雨 正岡子規
すげのふに見えて位のある白牡丹 久女 俳諧撰集玉藻集
その蕊に黄河のひびき白牡丹 加藤耕子
たそがれて大きく円く白牡丹 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
たまきはるいのちなりけり白牡丹 加藤三七子
たましひの崩るるは易し白牡丹 齋藤愼爾
ちる時は風もさはらず白牡丹 牡丹 正岡子規
ていねいに日は退りつつ白牡丹 河合照子
ひつそりと後ろ髪引く白牡丹 内田美紗 誕生日
ひとひらは虚空へ散りぬ白牡丹 渡辺恭子
ひとり酌めばひとりの灯影白牡丹 吉野義子
ほうと声あげたるあとの白牡丹 長田等
ほとほとに黒きみほとけ白牡丹 栗生純夫 科野路
まぶしかり雲頂庵の白牡丹 高澤良一 さざなみやつこ
むかし女ありけり寒の白牡丹 石寒太 翔
めつむりて闇きが中に白牡丹 山口青邨
ものいはば人は消ぬべし白牡丹 来山「花の市」
もの言はぬやさしさもあり白牡丹 松下 米
やや褪せし遺影の眉目白牡丹 文挟夫佐恵 雨 月
われ去らば夜がおほふべし白牡丹 佐野美智
パレットの紅をうすめて白牡丹 佐藤栄一
一弁をゆるめ風待つ白牡丹 河相瑛子
一徹の旅にて佛座白牡丹 古舘曹人 砂の音
一日に一齢加へ白牡丹 鷹羽狩行「十友」
一歩づつ不惑ちかづく白牡丹 石寒太 炎環
一点の早蝿清浄白牡丹 阿波野青畝
不尽は見ぬ家搆也白牡丹 牡丹 正岡子規
中々に女はいやし白牡丹 牡丹 正岡子規
五六年先の散りどき白牡丹 桑原三郎
五分かくる真昼の蝕や白牡丹 几董「晋明集二稿」
亡骸のつめたさに似て白牡丹 川原重子
人声が過ぎ影が過ぎ白牡丹 片山由美子 天弓
人寄ればあをみさしたる白牡丹 小松崎爽青
今ここに出番となりぬ白牡丹 長石啓子
傘つくる宿に咲いたり白牡丹 長谷川かな女 雨 月
初夢の白牡丹なる失明感 豊山千蔭
南国の日陰むらさき白牡丹 中戸川朝人 残心
古備前の壺に適ひし白牡丹 金子隆吉
命終を告げられてをり白牡丹 斉藤鈴子
咲きそめて翳りの深き白牡丹 片山由美子 天弓
地にゆらぐ影も王者よ白牡丹 鈴木早通甲
天嶮の汝も一法師白牡丹 古舘曹人 砂の音
天平のこがねの蘂の白牡丹 有馬朗人
奥の院虚空へひらく白牡丹 町谷よし子
妻に夢少し残りし白牡丹 石寒太 翔
寂光をまとひて崩る白牡丹 高橋良子
寵愛の白牡丹黒牡丹かな 大橋敦子 手 鞠
山蟻のあからさま也白牡丹 蕪村 夏之部 ■ 波翻舌本吐紅蓮
崩れむとして白牡丹羽ひらく 石原八束(1919-98)
幾重にも刃を蔵ひゐて白牡丹 小泉八重子
従四位を賜る象や白牡丹 龍岡晋
戦闘機ゆく白牡丹紅牡丹 山口青邨
抱かねば消えさう月の白牡丹 高木初枝
指しびるるまで曉の冷え白牡丹 中島斌男
日と月を穴と思へば白牡丹 宗田安正
日の雫包みて開く白牡丹 曽我部多美子
日を見ずに暮るゝ一日や白牡丹 阿部みどり女 笹鳴
日表と日裏を隔て白牡丹 稲畑廣太郎
明日崩る憂ひを秘めし白牡丹 中西ひさえ
晩節を守るしづけさ白牡丹 伊藤京子
暮れかぬる花大いなる白牡丹 高橋淡路女 梶の葉
月の夜は月の魂抱く白牡丹 那須 乙郎
月もなく星もなけれど白牡丹 黒田杏子 花下草上
月光に触れし冷たさ白牡丹 片山由美子 風待月
月蝕の露にあてまじ白牡丹 木導 閏 月 月別句集「韻塞」
有明の雫や落ちて白牡丹 中村史邦
朝日いま漣となる白牡丹 古賀まり子 緑の野以後
本降りの闇はじまりぬ白牡丹 鷲谷七菜子 花寂び 以後
本陣の宿札古ぶ白牡丹 大熊輝一 土の香
母老いて瀟洒とゐます白牡丹 細見綾子 黄 炎
水揚げし大白牡丹の忌日かな(父の忌日) 阿部みどり女 『月下美人』
渦潮のごとくに風の白牡丹 稲垣きくの 牡 丹
渾身の光鎮めて白牡丹 佐土井智津子
漢籍に亡父のにほひ白牡丹 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
煩悩の紅をほんのり白牡丹 檜紀代
白牡丹ある夜の月に崩れけり 牡丹 正岡子規
白牡丹あをむや空も鏡なす 篠田悌二郎 風雪前
白牡丹いちにち雨の一と日暮れ 行方克己 昆虫記
白牡丹いづこの紅のうつりたる 高浜虚子
白牡丹かなはぬ夢とかなふ夢 平野加代子
白牡丹きりさめしげくなりにけり 松村蒼石 寒鶯抄
白牡丹くづる仏の立たす闇 野澤節子 黄 炎
白牡丹くづれんとする湯のたぎり 中川宋淵 命篇
白牡丹くれなゐぼたん寒の色 石寒太 翔
白牡丹さくや四国の片ほとり 牡丹 正岡子規
白牡丹さやけき珠のつぼみかな 高橋淡路女 梶の葉
白牡丹すでに五衰の風の中 佐々木のり子
白牡丹そのまま月の牡丹かな 神蔵器
白牡丹ただ一輪の盛りかな 高桑闌更 (らんこう)(1726-1798)
白牡丹ちまたのどよみ遠巻きに 鍵和田[ゆう]子 未来図
白牡丹といふといえども紅ほのか 高浜虚子
白牡丹といふといへども紅ほのか 高浜虚子「虚子全集」
白牡丹と思ひし莟赤く咲く 森田一枝
白牡丹には静心ありにけり 山田桂梧
白牡丹に物のさはらぬ風情かな 井月の句集 井上井月
白牡丹の白を窮めし光かな 富安風生
白牡丹はらりと散るは雑念か 小杉百合子
白牡丹ひと夜を経たるさまもなし 鷲谷七菜子 花寂び
白牡丹ひらきかかりて暮れてをり 長谷川櫂 天球
白牡丹ひらき切るまで紅を秘す 吉田銀葉
白牡丹ふたつひらきし朝ごはん 黒田杏子 一木一草
白牡丹ほのかな紅も許さざる 吉田静子
白牡丹わが越えて来し山の数 今瀬剛一
白牡丹コキュはしがなき仏蘭西語 長谷川双魚 『ひとつとや』
白牡丹一花に見ゆる風の筋 裕
白牡丹三十六宮の夕哉 牡丹 正岡子規
白牡丹二夜をかけて開きけり 七部繁子
白牡丹五日の月をつぼみけり 牡丹 正岡子規
白牡丹傷日深う夜深う 中島斌雄
白牡丹十歩退ればまぼろしに 渡辺恭子
白牡丹吐く月光を緋牡丹吸ふ 川村紫陽
白牡丹咲かばといひし君を待つ 牡丹 正岡子規
白牡丹咲き切つてなほ青湛ふ 上野さち子
白牡丹夕風雨意をふふみけり 向笠和子
白牡丹夜はうす衣をかづきけり 木村 ふく
白牡丹大河のひびきたたへをり 角谷昌子
白牡丹大河のひびき湛へをり 角谷昌子
白牡丹大輪風にをさまらず 深見けん二 日月
白牡丹天二上のひかり享く つじ加代子
白牡丹女汗ばみやすきかな 伊藤京子
白牡丹子は幾人も持ちけれど 智月 俳諧撰集玉藻集
白牡丹寵愛しけりゆるされよ 山口青邨
白牡丹小ぶりに開き切らざるも 滝青佳
白牡丹崩るるまでを奢りとす 古市絵未
白牡丹崩れつつなほ臈たけて 八木絵馬
白牡丹崩れんとして二日見る 成美
白牡丹張子のやうな岩一つ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
白牡丹影もろともに剪られたり 中尾杏子
白牡丹悠々として切られけり 野村喜舟
白牡丹捨身さながら散りにけり 荒井正隆
白牡丹救世観音に献ぜばや 大橋敦子 匂 玉
白牡丹散る一瞬の熱き宙(広瀬としさま御生家二句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
白牡丹日影妖しくなりにけり 中村祐子
白牡丹星のとなりの星に棲み 花谷和子
白牡丹星辰めぐりはじめけり 伊藤敬子
白牡丹李白が顔に崩れけり 夏目漱石 大正四年
白牡丹柔はき莟が手にさはる 松村蒼石 雁
白牡丹母が許にて産着縫ふ 荒井正隆
白牡丹活けてゆたかな日となりぬ 澤村昭代
白牡丹渓の深さに濡れだしぬ 松澤昭 安曇
白牡丹玉の如くに蕾抱き 川口咲子
白牡丹白は極まり激すなり 渡辺恭子
白牡丹白日ここにとどまれる 水原春郎
白牡丹真昼の翳を重ねけり 津村典見
白牡丹緋牡丹と瞳のうかれゆく きくちつねこ
白牡丹緋牡丹と瞳の漂泊ゆく きくちつねこ
白牡丹緋牡丹死神がとほし 廣瀬町子
白牡丹総身花となりにけり 遷子
白牡丹美貌も才のひとつなる 上野さち子
白牡丹自愛の首を腐しけり 増田まさみ
白牡丹萼もあらはにくづれけり 飯田蛇笏
白牡丹萼をあらはにくづれけり 飯田蛇笏 春蘭
白牡丹葭簀の影のあきらかに 長谷川櫂 天球
白牡丹蝶に仙醤ぬすまれし 滝川愚仏
白牡丹蟲ひとつ来て完結す 石寒太 翔
白牡丹詩に王道のあらば行く 小澤克己
白牡丹辺りの色をへだてけり 釘宮のぶ
白牡丹迦陵頻伽のひびきあり 二橋満璃「迦陵頻伽」
白牡丹金に染りしところあり 八木春
白牡丹雨粒のあとありやなし 川崎展宏
白牡丹風の大きくなりて過ぐ 林田隆士
白牡丹魂遊びせる月夜かな 千代田葛彦
百夜かよふ初廿日は白牡丹 松岡青蘿
百慾のゆらりと立てり白牡丹 鳥居おさむ
眠りゆたか白牡丹咲く地つづきに 佐野美智
知り合うて師系問はるる白牡丹 鍵和田[ゆう]子 浮標
空の涯地の涯はあり白牡丹 深谷守男
箸紙に五観の偈あり白牡丹 山田弘子 懐
篝火の燃えやうつらん白牡丹 牡丹 正岡子規
糸ほどの雨の一痕白牡丹 近藤潤一
紅粉(べに)つけた人は大気や白牡丹 立花北枝
罪業の虫の一縷や白牡丹 古舘曹人 能登の蛙
美しきものに翳あり白牡丹 滝川名末
美しき老に杖あり白牡丹 都筑智子
胎の子に話しかけをり白牡丹 内山えみ
自愛の座起つ身じろぎの白牡丹 竹中宏 饕餮
花びらに花びらの翳白牡丹 矢島渚男 延年
花びらの真横にとんで白牡丹 黒田杏子 一木一草
花王たり白装束の白牡丹 阿波野青畝
草の戸や都のあとの白牡丹 牡丹 正岡子規
蒼茫と玄界暮るる白牡丹 小関芳江
観音のひらきかけたる白牡丹 川崎展宏「冬」
身も世もあらず崩れけり白牡丹 山上康子
里坊といふも比叡や白牡丹 深見けん二 日月
銀屏や崩れんとする白牡丹 牡丹 正岡子規
鏡中にふしぎな死顔と白牡丹 宇多喜代子
長命の水飲みて賞づ白牡丹 伊藤京子
開くより魂ぬけ出せり白牡丹 檜紀代
隠しマリアに夕べは蒼む白牡丹 鍵和田[ゆう]子 浮標
雨すこし傘さしかけて白牡丹 村上容子
雪となる気配に開く白牡丹 梅田男
須賀川駅暮れつつありぬ白牡丹 皆川盤水
風もろし色を御袖に白牡丹 調和 選集「板東太郎」
風雲に日がさらはれつ白牡丹 鍵和田[ゆう]子 浮標
飛ぶ胡蝶まぎれて失せし白牡丹 杉風「続別座敷」
鮮しき日に傷みゆく白牡丹 黒田杏子 木の椅子
●白湯 
いきものに匂ひあり極寒の白湯 和田耕三郎
がぶがぶと白湯呑みなれて冬籠 前田普羅
きさらぎの白湯が滾りぬ母の部屋 鈴木鷹夫 渚通り
きさらぎや白湯もてゆるぶ飯の粒 百瀬美津
きりぎりす白湯の冷え立つ枕上 室生犀星
ごくごくと白湯飲む朝や原爆忌 美谷島寸未子
すすりゐる白湯のあまみや親鸞忌 森澄雄
ちるさくら白湯のさめゆく如きかな 和田順子
はつ雪に白湯すゝりても我家哉 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
ひとり旅露けき白湯をのむごとし 長谷川双魚 風形
もてなしは白湯に浮べて花柚かな 長谷川櫂 蓬莱
やま一つ越えたりし草もち白湯と 中村ヨシオ
ゆく春の白湯にひらきてさくら漬 吉野義子
ストールと白湯の一椀それと椅子 井上信子
ネクタイをゆるめ春昼の白湯を飲む 木村蕪城 寒泉
一人づつ子に白湯のます深雪かな 長谷川春草
一口の白湯に鳴る胃や夜の朧 馬場移公子
元日の日暮ごころに釜の白湯 きくちつねこ
冬ざれの山一椀の熱き白湯 松村蒼石 雪
冬の山秘結三日の白湯すすり 中戸川朝人 星辰
冬蝶や白湯をさましてゐる間 折井紀衣
初あらし白湯に甘さの戻りけり 関根洋子
口中の白湯まだぬくし波郷の忌 関戸靖子
咳く人に白湯まゐらする夜寒かな 几董
埋み火や白湯もちんちん夜の雨 一茶
堂守や秋の火鉢に白湯をのむ 八木林之介 青霞集
大釜に白湯たぎらせて弓始 西川雅文
奥山に雪積るらし白湯うまし 村越化石
山坊に白湯沸いてゐる半夏かな 木内彰志「人界」
山笑ふ画室に白湯をいただきて 黒田杏子
嵐が落ちた夜の白湯を呑んでゐる 尾崎放哉
庭に沸く年忌の白湯や雲の峰 山本洋子
文月や唯々白湯のかむばしく 野村喜舟 小石川
新茶古茶ときには白湯を独り居は 及川 貞
春雨や白湯たくはへて魔法瓶 成瀬正とし 星月夜
朝寒み白湯のあま味をおぼえけり 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
栗の花白湯にも味のある母郷 小松崎爽青
桜漬白湯にひらきてゆくしじま 黒田杏子
梟や白湯一杯を寝る前に 木倉フミヱ
櫻東風白湯こんなにも甘かりし 北見さとる
正露丸二粒白湯で呑む冬至 上野一孝
水澄むや一本の湯気お白湯より 辻桃子 ねむ
汗とならず白湯の収まる夕の鐘 中戸川朝人 星辰
湧きかけし白湯の匂ひや夕桜 長谷川櫂(1954-)
澤庵忌白湯飲みて又書きはじむ 河原枇杷男 蝶座
焼芋と白湯の香に立つ波郷亡し 原裕 葦牙
病みほほけて白湯のんでゐる 金井三郎
白湯うくる朱椀おほらか報恩講 赤松子
白湯うまし山の仏とさくらみて 矢島渚男 采薇
白湯さめしごとくに鶴の空はあり 友岡子郷 未草
白湯さめるころ葦鴨をみてゐたり 緒方 敬
白湯たぎる音のどこかに冬桜 浅沼艸月
白湯という日本の言葉寒椿 尾田秀三郎
白湯とうに冷め連翹の空深し 菅原鬨也
白湯にとく飯のかたまり燕くる 鈴木はるを
白湯に噎せ涙こぼすも万愚節 富田潮児
白湯のんでさらさら湯ざめなどもなく 新井光子
白湯の匂ひさしてばかりに風邪ごもり 右城暮石 声と声
白湯の湯気祖父祖母の影かすかなる 杉本青三郎
白湯の香や冬の弱日を力とし 大石悦子 百花
白湯ふふむくちほのぼのと風邪薬 石原舟月 山鵲
白湯ほしと思ふ不思議の夜の秋 林 翔
白湯までだらだら坂や竹の春 菊池 輝行
白湯を呑む十月吉野杉匂い 中島斌雄
白湯一椀しみじみと冬来たりけり 草間時彦 櫻山
白湯吹いてのむ春風の七七忌 宇佐美魚目 秋収冬蔵
白湯吹いて冷ます彼方を渡り鳥 鈴木鷹夫 春の門
白湯吹きて湯気なつかしき夜長かな 金久美智子
白湯呑みて小皺の殖ゆるおぼろかな 長谷川双魚 風形
白湯呑んでしばらく骨となっており 久保純夫
白湯呑んで仕事納めの筆硯 佐藤素人
白湯汲んでゆふべの花を身のほとり 黒田杏子 花下草上
白湯飲みし身のほのぼのと霜夜かな 大石悦子 群萌
白湯飲んですぐ去ぬ二月礼者かな 佐藤とも子
白湯飲んでをり森閑と桜咲く 嶋田麻紀
白湯飲んで彼の臘梅をこころざす 見口黎子
白湯飲んで比良残雪を遥かにす 梶山千鶴子
白湯飲んで身の芯ゆるぶ夏の風邪 館岡沙緻
百人に白湯ふるまえば散るさくら 江里昭彦 ロマンチック・ラブ・イデオ口ギー
百合子忌や弥生子の家で白湯のむ 田原千暉
秋の日の白湯甘しと全昌寺 中山純子
秋天を歩みて白湯を所望せり 中村雅樹
竹落葉掌に白湯さめてゐたりけり 鷲谷七菜子 花寂び
胃袋へ白湯の落ちゆく暖かさ 成田きよ
花守の白湯もて終る昼餉かな 小寺敬子
花菜漬白湯に咲かせて一人の夜 野見山ひふみ
華蔵寺の春水の白湯まろやかに 西本一都
葉桜や白湯を甘しとおもふ齢 渡辺恭子
薄瞼簾の風が白湯さます 桂信子 遠い橋
薬飲む白湯の匂へる夕桜 大岳水一路
道三の白湯に口きる人もがな 越人
野あそびや霞いろせる白湯賜ふ 櫛原希伊子
鉄瓶の白湯の甘さよ花疲れ 杉 良介
鉄瓶の白湯の甘しよ芽白樺 伊藤敬子
錠剤と白湯ある卓も立夏かな 都筑智子
長き夜の眠り薬の白湯さます 鈴木華子
雪の上に雪折れの松滾る白湯 宇佐美魚目 秋収冬蔵
霜月の白湯の粒子を噛んでをり 鳥居おさむ
音立てゝ白湯すゝる媼や朝寒き 島村元句集
風邪熱やにがきがなかの白湯の味 久保より江
鳥風の白湯のんで笙吹けるなり 岡井省二
鴨帰るふはふは熱き白湯吹きて 中拓夫
鷹と鷹匠一椀の白湯分かち飲む 古内静子
●白靴 
いさかひて夫の白靴まで憎し 堀恭子
お見合の子に白靴を揃へやる 毛塚静枝
くらがりの白靴いつまでも歩く 岸田稚魚
ふりむかぬための白靴履きにけり 中井恭子
まさに無職たり白靴にてステッキ 加倉井秋を 午後の窓
やや尖る白靴妻はヴァチカンヘ 林翔
わぎもこの小さき白靴夏は来ぬ 岸風三楼 往来
シュトラウス聴いて白靴履きぞめに 村上 光子
スパニール背低し白靴にて愛す 内藤吐天 鳴海抄
パリー祭白靴巌の上に脱ぎ 岸風三樓
メトロから白靴が下り犬が蹤き 須川洋子
リハビリの白靴をもて母立たす 三田逃水
九十九里浜に白靴提げて立つ 西東三鬼「夜の桃」
京子忌の脱ぎし白靴揃へけり 猪俣千代子
債鬼の間駈け白靴の減りざまよ 楠本憲吉
光緒年間諸葛菜と白靴といつぱい 阿部完市 軽のやまめ
四十路も佳し白靴しろく夜を帰る 赤城さかえ
土曜日の白靴を抱き麻工女 西本一都 景色
夏果の白靴濁る漂白感 小堤香珠
女子夜学生鮮白靴下期せず競ふ 中村草田男
山の戸や古白靴ももののかず 飯田蛇笏 山廬集
山駕籠に乗る白靴の脱がれけり 野村喜舟
彫刻展出て白靴の先とがる 上田日差子「忘南」
恐山巡りの白靴戞々と 高澤良一 随笑
息しづめ白靴の歩を揃へ行く 内藤吐天 鳴海抄
捨て薔薇に白靴が来るきつと踏む 鈴木鷹夫 千年
文学の果の白靴並べ干す 飯田龍太「童眸」
新しき白靴しかと始発駅 田上久枝
新しき白靴阿蘇の野におろす 高橋満子(湾)
暑に負けて白靴の白日々たもつ 林翔 和紙
森醒ましゆく白靴の少女たち 福永耕二
熱砂ゆくなほ白靴を捨てきれず 野澤節子 花 季
白紐のようなるみちを白鞠白靴 阿部完市 春日朝歌
白靴で行くユトリ口の坂の路地 松本澄江(風の道)
白靴にはきかへて行く夢二展 今岡直孝
白靴に信濃古径の土少し 加藤耕子
白靴に場の睡蓮夕焼けぬ 飯田蛇笏 霊芝
白靴に岩礁はしる潮耀りぬ 飯田蛇笏
白靴に干藻がからむせむもなし 佐野まもる 海郷
白靴に急に雨降り急に照り 嶋田摩耶子
白靴に明月院の泥すこし 大屋達治 龍宮
白靴に朝焼けのして蘇鉄園 飯田蛇笏 霊芝
白靴に照る洋上の広い道 杉野一博
白靴に男の過去は匂はざる 行方克巳
白靴に踏む浜砂の曇りたる 内藤吐天 鳴海抄
白靴に過ぎし日の甦へる町 山田弘子 螢川
白靴のなんとなくまだ身にそはず 稲畑汀子
白靴のよごれなぞりし指はどれ 仙田洋子 橋のあなたに
白靴のよごれにけふの旅了る 塚原 夜潮
白靴のマンハツタンに出かけたる 鈴木しげを
白靴の一団お釜を覗き見に 高澤良一 素抱
白靴の中なる金の文字が見ゆ 波多野爽波 鋪道の花
白靴の二三歩拾ひあるきして 佐山文子
白靴の先突堤の端に出す 池田秀水
白靴の埃停年前方より来 文挟夫佐恵 黄 瀬
白靴の小さい方が母のもの 黒川悦子
白靴の平均点の子供達 横山香代子(街)
白靴の弾んでくれぬ旅の雨 稲畑汀子 汀子第二句集
白靴の旅に赤道通過証 小河きよ子(ホトトギス)
白靴の来し方行方揃えけり 徳弘純 麦のほとり 以後
白靴の歩みそろひし修道女 田島魚十
白靴の汚れが見ゆる疲れかな 青木月斗
白靴の汚れ通ひの看取妻 鈴木 子
白靴の淡き光に咳くひとり 赤尾兜子
白靴の爪先海へ向けて脱ぐ 猿橋統流子
白靴の男出て来ぬ司祭館 星野麥丘人
白靴の疵わかき日のきずに似る 平栄子(波)
白靴の踏まれ~ていさぎよき 佐野青陽人
白靴の軽きに峠二つ越え 西浦幸男
白靴の長襦彦や耳順過ぎ 浜明史「人日」
白靴の降りくる客船ターミナル 高澤良一 素抱
白靴の音なき午後をペルシヤまで 和田悟朗「山壊史」
白靴の高さを若き躬に加ふ 池田秀水
白靴は今底抜けの遊びやう 大越 晶
白靴まで少女全容鏡に満つ 大串章
白靴もほつほつ花もほつほつと 阿部みどり女
白靴もパリーの雨に似合ふもの 高木晴子 花 季
白靴も混じりて従兄弟はとこかな 阿部静雄
白靴やひとっとびできさうな島 武知陸子
白靴やサティのワルツを唇に 仙田洋子 雲は王冠
白靴や少女大人びやすきこと 藤松遊子
白靴や忘れて生きること多き 西村和子 かりそめならず
白靴や手鏡を出す峠口 増子 京
白靴や移民送りにうち踏まれ 五十嵐播水 埠頭
白靴や葬儀屋主人戻リをり 深見けん二
白靴や街の活気に立ち交じる 大津信子(風花)
白靴や見知らぬ闇を降りてゆく 横山節哉
白靴や連絡船のタラップを 田中冬二 麦ほこり
白靴や鍾乳洞を出るところ 森田峠 避暑散歩
白靴をあくまで白く北国へ 山田弘子 螢川
白靴をはいてしばらくポルカの中 折井紀衣
白靴をはいて刑事と思はれず 松岡ひでたか
白靴を宙に浮かしぬ逆上り 佐藤善也
白靴を少し汚しておろしけり 三浦恭
白靴を履いてたちまち裕次郎 汐月ゆたか
白靴を穿いて歩きしアメリカよ 京極杞陽 くくたち上巻
白靴を穿くためらひの今もあり 能村登四郎
白靴を翼代はりに履いてゆく 仙田洋子 雲は王冠
白靴を脱ぐ瑞巌寺昼ふかく 加藤耕子
白靴を脱げばハワイの砂こぼる 佐伯哲草
白靴を買ひ旅支度整ひぬ 矢嶋淳子
白靴を踏まれしほどの一些事か 安住敦「暦日抄」
白靴買ふ乏しき金を数へ買ふ 石田あき子 見舞籠
真ッ直に来てくちばしのやうな白靴 吉見春子
経験の多さうな白靴だこと 櫂未知子 蒙古斑以後
船長の白靴海を往来して 津田清子
草千里白靴の子を放ちやる 福永耕二
虚子庵の沓脱ぎ石に白靴を 高澤良一 燕音
跫音のなき白靴を選びけり 内田美紗 浦島草
車より白靴すつと出て銀座 広渡詩乃
車椅子白靴汚すことなきも 舩田千恵康
遠目にも白靴歌劇場に入る 後藤比奈夫 めんない千鳥
黴を干す古白靴をいたみけり 西島麦南 人音
●白息 
うつむく停年者を送る拍手と白息で 田川飛旅子
かまくらや子らの白息湯気めきて 香西照雄
こもごもに白息かけて棺納め 冨田みのる
みほとけのまへ白息のわれかすか 野見山朱鳥
めざむよりおのが白息纏ひつつ 橋本多佳子
わが書きし字へ白息をかけておく 加藤楸邨
わが澄むまで白息かけて鏡拭く 大石悦子 群萌
わが身からこの白息ぞオホーツク 大石悦子 聞香
わが身より洩るる白息誤解は世に 伊丹三樹彦 人中
わらわらと白息称名起りけり 高澤良一 ねずみのこまくら
マイクロフオン白息強く当てて験す 田川飛旅子 花文字
マラソンの余す白息働きたし 野澤節子 牡 丹
マンホールより首出して白息す 北野春彦
一切を告げてしづかな白息よ 長田等
三人子の白息砂糖壺に満ち 石川桂郎 含羞
丹頂の白息天へ吐かれけり 嶋田麻紀
主の磔像仰ぐ白息ほそめつつ 古賀まり子 降誕歌
乳の香の白息漏らす宮参り 太秦女良夫
五十とや白息吐いてきよろきよろす 石塚友二
人を恋ふゆゑの白息かと思ふ 石川仁木
伐折羅吐きたまふ白息なかりけり 阿波野青畝
僧と会ひ又白息の僧と会ふ 毛塚静枝
元日の白息を見す赤子かな 岸田稚魚
入営子白息もつて応へけり 萩原麦草 麦嵐
凡兄凡弟白息朗々母の忌や 平井さち子 完流
初明り父の白息見えてきし 澤井洋子
勤めるは闘うに似る白息も 鈴木六林男 第三突堤
北穂高かげ落すわが白息に 杉山岳陽
千人針縫ふに白息とどこほる 萩原麦草 麦嵐
吾子にはや丹田白息やはらかく 下田稔
嘆かへば白息のまたありにけり 猪俣千代子 堆 朱
基地の夜や白息ごもりにものいうも 古沢太穂 古沢太穂句集
塔仰ぎわが白息の立ちのぼる 津幡久子
夜祭りの火と白息の荒れあはれ 多田裕計
妙齢の白息に触れ旅なかば 力石郷水
子持ち女教師白息の誰より濃し 楠節子
宙跳んで白息揃ふ稚児の舞 橋本榮治 麦生
山中に薪棚白息ふりかへる 宇佐美魚目 秋収冬蔵
待ち針に白息かかるたび曇る 田川飛旅子 花文字
愛盡す妻の白息耳の辺に 小林康治 玄霜
懺悔さ中の己が白息吐くだけ吐く 加藤知世子 花寂び
戻り来て白息消えぬ妻子の辺 細川加賀
掌に白息あてて無理式諳んずる 田川飛旅子 花文字
摩滅は鈍し朝白息の連結手 大井雅人 龍岡村
数万の白息神へ向ひをり 鈴木鷹夫 春の門
枯山水見て白息を肥しけり 百合山羽公 寒雁
枯野の日の出わが白息の中に見る 野澤節子 黄 瀬
棒のごとき白息何もかもこばむ 高澤良一 ねずみのこまくら
横笛を吹く白息の一呼吸 井上雪
樹氷原わが白息の生臭し 渡辺恭子
機関車に潜る白息交しつつ 吉田未灰
欅高し崖のぼり来し子の白息 古沢太穂 古沢太穂句集
氷下より釣られ白息あるやうに 鳥居おさむ
江戸風鈴わが白息に生れけり 町田しげき
泣きしあとわが白息の豊かなる 橋本多佳子
深井戸に降る月光と白息と 中村苑子
満ちてくる精気白息吐き出せり 柴田奈美
溜息の如白息の如噴煙 殿村莵絲子 牡 丹
火を取りに出でて白息ごもりたる 安東次男 裏山
灯を下げて白息夫婦雛つくる 中村金鈴
父の眼に戻り昏々と白息はく 田川飛旅子 花文字
父の眼訴え言葉にならぬ白息よ 田川飛旅子 花文字
牛の白息田の四方より冬の音 中拓夫 愛鷹
犇めきて白息競ふ子豚かな 河野 真
犬白息我も白息朝駆けて 菅井康次
生きるなり白息昭和より重ね 志摩知子
登校の子等の白息豊かなり 山本よしを
白息で木地師木の粉を吹き払ふ 品川鈴子
白息となるをシヨールに封じゆく 野沢節子
白息とも紫煙とも過ぎ女子高生 角田重明
白息と北斗を残しソウル発つ リンズィー、ドゥーグル・J
白息と気付き駅まで楽しかり 峠 素子
白息に老の一徹通しける 西川五郎
白息のあたたかかりし昔かな 今井杏太郎
白息のかかりしところより近江 永末恵子 留守
白息のかつかつ鬼面をどりかな 矢崎良子
白息のたのしき口をすぼめけり 綾部仁喜 樸簡
白息のつづくかぎりの生身かな 渡辺恭子
白息のとどかぬ距離でありにけり 谷口摩耶
白息のゆたかに人を恋へりけり 藺草慶子(1959-)
白息のゆるゆる読むや虚子句集 川崎展宏
白息の中の朝日をみつめゐる 桜井博道 海上
白息の人をつつめる石鼎忌 原裕 正午
白息の働く色となりにけり 冨田正吉
白息の内側見えて夫婦かな 吉田紫乃
白息の出てより声す蒟蒻掘 松本康男
白息の列に加はる神父かな 柳田 寛
白息の大きさ競ふ通学路 矢野正和
白息の太きがサラブレッドなり 大石悦子 聞香
白息の新しき闇広目天 小島千架子
白息の日本語をつれ天壇へ 矢島房利
白息の米子といふに明かしゐつ 石塚友二 光塵
白息の続く限りを弁解す 柴田奈美
白息の近づきすぎの畏れかな 平子 公一
白息の闇のつづきに戦火あり 宮田カイ子
白息もて頤までゆさぶる握手残し 平井さち子 完流
白息も身の一部なり濁り捨つ 増田種子
白息やいづこへゆくも坂ありて 朝倉和江
白息やこの木より蛇落ちきしと 宇佐美魚目 天地存問
白息や北斗わづかの片曇 杉山岳陽 晩婚
白息や友よりの金手にし収む 清水基吉 寒蕭々
白息や後仕末つけるだけの旅 杉本寛
白息や悼まれし人をすこし妬く 内田美紗 浦島草
白息や生徒あざむく容易なり 辻田克巳
白息をかけて遺愛の眼鏡拭く 角川照子
白息をからませ聞くにみな片語 栗生純夫 科野路
白息をゆたかに齢忘じゐる 上川謙市
白息を吐いて朝礼始まりぬ 中村輝峰
白息を吐きて己れをとり戻す 朝倉和江
白息を吹きあげ競売の輪に加はる 宮坂静生 青胡桃
白息を大きく牛の積まれけり 遠藤郁子
白息を失立てゝ世に交はらむ 福永耕二
白息を弾ませ一語まだあらず 鎌田洋子
白息を掌にかけて今日はじまりぬ 石田波郷
白息を殺して詰める登窯 松崎鉄之介
白息を生のすさびと美しく 斎藤玄 雁道
白息を雲のごと吐き杉磨く 殿村菟絲子 『晩緑』
白息を雲の如吐き杉磨く 殿村莵絲子 雨 月
白息交し貯炭場家族煤け果つ 小林康治 玄霜
白息吐く心中火玉燃えてをり 松村多美
白息溢らす別れどいつも太い首(静岡へ転勤ときまり前田氏宅で送別会、兜太・六林男も同席) 飴山實 『おりいぶ』
白息細々と思考の漏れてをり 柴田奈美
白煙白息洩れ陽が太き柱なし 鈴木六林男 第三突堤
知礼や白息一対百の向き 高取杜月
短き舌白息と土の句を吐けり 栗生純夫 科野路
石の面へゆく白息をたしかむる 岸田稚魚 筍流し
破魔矢買ふ母の白息触れしものを 橋本美代子
確執の白息もつれもつれけり 岩崎照子
称名の十言葉せば十白息 加倉井秋を
竜笛の森の白息ひそかな一夜 木村孝子
胸中のこゑ白息にこもりけり 加藤耕子
能面の吐く白息の千切れとぶ 中西舗土
脚太き馬の白息多喜二の街 茨木和生 木の國
舞楽面鬼の白息たちのぼる 吉原文音
舟唄の白息あげて最上川 森 玲子
襟に幣さし白息の情け言 友岡子郷 遠方
許されてよりの白息濃かりけり 老川敏彦
許したししづかに静かに白息吐く 橋本多佳子
走り来て泣く子の白息豊かなる 村井信子
走り来て白息といふ余力あり 風間 圭
蹄鉄かかへ馬の白息浴びせらる 榎本冬一郎 眼光
身籠りてより白息の濃くなれり 木内怜子
軽子白息稼ぐ畚を羽ばたかせ 小林康治 玄霜
速足のたのしき父の白息くる 桜井博道 海上
遊女の墓馬の白息地を這へり 加倉井秋を
限りなき白息母体より出づる 水谷仁志子
雁をわが白息の上に見し 杉山岳陽 晩婚
頬かむりしめりおぶ夜の白息に 大熊輝一 土の香
飛機へ別れの人の白息長く曳けり 田川飛旅子 花文字
餓鬼鴉われの白息奪はれじ 村越化石 山國抄
馬の白息先は玉成し明日あるべし 川口重美
骨だいておのが白息吸ふごとし 大槻紀奴夫
鶴唳の白息見ゆる淑気かな 森澄雄
黒牛の腹の底より白息吐く 殿村莵絲子 牡 丹
龍骨は君らの背骨白息吐く 榎本冬一郎
●白帆 
ありあけの白帆を見たり富士詣 富士詣 正岡子規
うなさかの釣瓶落しに白帆澄む 橋本鶏二
かたよつて白帆行くなり秋の海 秋の海 正岡子規
すゝしさや島あり松あり白帆有り 涼し 正岡子規
たんぽぽの綿飛び沖に白帆見ゆ 吉田ひろし
のどかさや白帆過ぎ行く垣の外 長閑 正岡子規
みな月のけしきとも見ぬ白帆哉 水無月 正岡子規
ゆつくりと白帆が過ぎぬ茎立菜 綾部仁喜 寒木
メロンに刃入るるや沖に白帆置き 畠山讓二
一月の白帆とのぼる蜜柑山 中拓夫
三重に白帆かけたり春の風 春風 正岡子規
不仲の二人白帆みゆればねむり草 八木三日女 石柱の賦
光る海光る風沖かけて白帆 石塚友二 光塵
冬の白帆とおき洩れ日のなかに入る 古沢太穂 古沢太穂句集
冬の靄遠目にきまる白帆曳 野澤節子 黄 炎
冬枯の野末につゞく白帆かな 冬枯 正岡子規
冬白帆ひしめけば沖充実す 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
凩にもたれてはしる白帆哉 凩 正岡子規
初旅に願つてもない遠白帆 大牧 広
初筑波湖上に白帆うかべたる 小林螢二
初縫や白帆を床にうちひろげ 鈴木厚子
動くともなくて白帆の動く夏 田淵十風子
南風や白帆ならむとわが身体 山根真矢
卯の花腐し白帆ちらばる三河湾 伊藤敬子
卯波濃したまたま白帆知己に似て 石原舟月
品川の白帆かすむや遠眼鏡 霞 正岡子規
夏座敷海に白帆の徃来あり 夏座敷 正岡子規
夏木立四五町欠げて白帆哉 夏木立 正岡子規
夏波の衰へ白帆また窶る 石塚友二 光塵
夏草の中に動かぬ白帆かな 夏草 正岡子規
夏霞よりはみ出してゐる白帆 山田弘子 懐
夕立の見る見るまくる白帆哉 夕立 正岡子規
夕立の見る見る過る白帆哉 夕立 正岡子規
富士山を仰ぐ白帆の物忘れ 徳永希代子
屋根船や白帆にまじる小六月 小六月 正岡子規
山ごしに白帆見下す若葉哉 若葉 正岡子規
山法師花の白帆をあさかぜに 益本三知子
山盡きて稻の穗末の白帆かな 稲穂 正岡子規
山盡きて稻の葉末の白帆かな 稲 正岡子規
川ぐまや白帆しわむる荻の風 中勘助
帰り来しヨットの白帆放心す 西村和子 窓
幻に白帆の満てるさくらかな 加倉井秋を 『隠愛』
揺れやまぬ白帆難聴青蘆も 若森京子
春愁の波のままなる遠白帆 小檜山繁子
春潮にうち傾ける白帆かな 播水
春炬燵沖にほつほつ白帆生る 中拓夫
春風に待つ間程なき白帆哉 井上井月(1822-86)
春風に身ぬち溶けさう遠白帆 鍵和田[ゆう]子 浮標
春風のどちらを見ても白帆哉 春風 正岡子規
春風や白帆つらなる麦畑 春風 正岡子規
春風や白帆にまじる蜆舟 春風 正岡子規
春風や白帆重なりあふて行 春風 正岡子規
暁や松も白帆も蚊帳の外 蚊帳 正岡子規
暁や白帆過ぎ行く蚊帳の外 蚊帳 正岡子規
暁や白帆過行蚊帳の外 正岡子規
月光を濃くして白帆近づきぬ 廣波青
松白帆されど蚊も居り蝿も居る 蚊 正岡子規
梅の花に重なる遠き白帆あり 田川飛旅子 花文字
欄に近く白帆通りぬ夏座敷 夏座敷 正岡子規
汽車北上さくら白帆となり走る 佐川広治
沖の白帆とはしやれた名の花菖蒲 高浜年尾
浅蜊ほる母とほし白帆母の背に 秋元不死男
海の日の越中島の白帆かな 長谷川歌子(春燈)
海の果や白帆出て来る雲の峯 雲の峯 正岡子規
海見えて尾花が末の白帆かな 薄 正岡子規
涼しさに白帆数そふけしき哉 涼し 正岡子規
涼しさの中に白帆の往来哉 涼し 正岡子規
涼しさや白帆白帆の風の向 涼し 正岡子規
淡海に白帆のうかぶ四月かな 大槻制子
白地着て白帆のやうな父の来る 萩 夏枝
白帆には別な風吹き処暑の海 勝又木風雨
白帆にもげんげ明りのあるごとし 蓼汀
白帆ばかり見ゆや漁村の冬木立 冬木立 正岡子規
白帆もて埋まる沖の白魚舟 松藤夏山 夏山句集
白帆より先づ夜の明る海邊哉 正岡子規
白帆をは見送りなから昼寝哉 昼寝 正岡子規
白帆沖へ追ひつめられし晩夏光 倉橋羊村
白帆消え遊ぶ時消え法師蝉 鍵和田[ゆう]子 浮標
白帆消ゆ沖に五月の風余し 高澤良一 ももすずめ
白帆見ゆや黍のうしろの角田川 黍 正岡子規
白帆遠し嶋を見こしの秋の海 秋の海 正岡子規
真帆白帆みるみる秋に従へり 飯田龍太
秋の海に事もなげなる白帆かな 青峰集 島田青峰
花芥子の上を過ぎ行く白帆哉 芥子の花 正岡子規
若葉して白帆つらなる川一筋 若葉 正岡子規
茅花流し沖の白帆に生れしかな 茂里正治(俳句研究)
草刈女白帆にまなこ休めては 鳥井信行
莚帆の白帆にまじる枯野哉 枯野 正岡子規
葬列の中に白帆がみつかりぬ 杉本雷造
藪越しに動く白帆や雲の峰 永井荷風
蟻が曳く白帆のやうな蟻の列 河口仁志
衣更へて白帆を沖の花と見る 神尾久美子 桐の木
裏口や白帆の通る春の川 春の川 正岡子規
追羽根や白帆のよぎる露地の奥 龍岡晋
遠く合ふ軌条黒点冬白帆 中戸川朝人 残心
闇汁の闇の白帆や帆立貝 会津八一
闘鶏の果ててぞ沖の白帆見る 岡田太雄
雉聞て山に上れば白帆かな 雉 正岡子規
雪の日や白帆きたなき淡路島 雪 正岡子規
雪解の川口上る白帆かな 会津八一
雲の峯つひに白帆の上りけり 雲の峯 正岡子規
雲の峯白帆南にむらがれり 雲の峯 正岡子規
雲の峰白帆南にむらがれり 正岡子規「子規句集」
青田あり川あり白帆つらなれり 青田 正岡子規
青田あり川あり白帆上り行 青田 正岡子規
青田あり川あり白帆五つ六つ 青田 正岡子規
青田あり河在白帆画のことし 青田 正岡子規
青簾かすれかすれの白帆かな 青簾 正岡子規
青蚊帳の繃帯の足白帆の形 羽部洞然
風のたんぽぽ白帆をつねに沖へ置き(荒崎海岸) 河野南畦 『空の貌』
風上ミに航くことをせり冬白帆 中戸川朝人 尋声
風探る白帆へぴしと夏燕 金箱戈止夫
高黍の上に短き白帆かな 黍 正岡子規
麦と菜の花の中から白帆哉 菜の花 正岡子規
麦と菜の花の間を白帆哉 菜の花 正岡子規
黒かねの橋の目にたつ白帆かな 正岡子規
黒かねの橋や目にたつ白帆かな 正岡子規
●白南風 
ややこしくなる前の蔓白南風に 高澤良一 ぱらりとせ
一行詩白南風に立つ燈台は 福永耕二
午後の白南風ガラスのこころを硝子屋拭く 磯貝碧蹄館 握手
土曜日の白南風白い影は誰 諸角せつ子
流木を焼く白南風の男たち 鈴木鷹夫 渚通り
浄土にも白南風吹くか茅舎の忌 山口耕堂
白はえや写字する窓の時明り 白南風 正岡子規
白南風にあらあらと皮膚呼吸かな 前田美智子
白南風にかざしてまぼろし少女の掌 楠本憲吉
白南風にかざしてまろし少女の掌 楠本憲吉
白南風にエンゼル遊ばせている海辺 八木三日女 石柱の賦
白南風に刀架の抜身くもりけり 鈴木鷹夫 千年
白南風に播磨の米屋匂ひをり 大峯あきら 鳥道
白南風に月よりうすく日おちゆく 川島彷徨子 榛の木
白南風に来し白浜の女泊る 萩原麦草 麦嵐
白南風に観音開きする艇庫 星野紗一
白南風に角なし栄螺捕りにけり 田中英子
白南風のからまつやまへ馬の耳 鷲谷七菜子 花寂び
白南風のしきりにふかむ蠅のこゑ 川島彷徨子 榛の木
白南風の一帆沖を去らむとす 小澤克己
白南風の一茶画像と息交はす 鈴木鷹夫 大津絵
白南風の上着飛ばさんばかりかな 川崎展宏
白南風の光の中の丸の内 坂井建
白南風の吹きぬけ鶏をむしる家 鈴木鷹夫 渚通り
白南風の吹き抜けてゆく岬の茶屋 宇佐美文香
白南風の地図に無き道海へ出づ 鈴木鷹夫 渚通り
白南風の夕浪高うなりにけり 芥川龍之介「澄江堂句集」
白南風の布良の荒磯に泳ぐあり 石橋ひかる
白南風の帆となれ母の癒えし杖 清水良子
白南風の帆柱を打つ帆綱かな 西村和子 窓
白南風の桑名の町が好きになる 大峯あきら 宇宙塵
白南風の浜あるきゐる夕鴉 長谷川双魚 風形
白南風の海の見えきて蒲郡 中谷五秋
白南風の牛はさびしき眼せる 加藤楸邨
白南風の牧のミルクは立つて飲む 有働 亨
白南風の異人墓地発港行 橋本榮治 麦生
白南風の相合傘は淋しいよ 郡山やゑ子
白南風の稿手でおさえ急かれおり 赤城さかえ
白南風の竹の穂蝶をはなさざる 皆吉爽雨
白南風の耳ひらひらと俥屋さん 攝津幸彦 鹿々集
白南風の野の放牛のけふ多し 笹原耕春
白南風の雲の切れゆく迅さ見し 稲畑汀子
白南風も鳴く海猫も日もすがら 清崎敏郎
白南風やかさねて藍の皿小鉢 松村蒼石 雪
白南風やきらきらとくる旅一座 石川信子(陸)
白南風やきりきり鴎落ちゆけり 角川源義
白南風やしぶきにくもる船の窓 檜紀代
白南風やスローカーブを素手で受く 浦川聡子
白南風やハングル文字のミサ告知 田口風子
白南風や一番パンが焼きあがる 矢島三榮代
白南風や乾びきつたる捕鯨基地 笠原さとし「星の座標」
白南風や仏眼閉ぢしまま千年 小澤克己
白南風や仔雉子にちらと藍の羽根 羽部洞然
白南風や僧のつむりのあからさま 綾部仁喜 樸簡
白南風や化粧にもれし耳の蔭 日野草城
白南風や午前にちよっとキスをして 坪内稔典
白南風や南国の船来てゐたる 鈴木方子
白南風や古きジャズ弾くピアノ・バー 角川春樹
白南風や大河の海豚啼き渡る 芥川龍之介
白南風や指呼の孤島も流人島 池上樵人
白南風や樫にいちにち雀鳴き 宮岡計次
白南風や水底に星溢れたり 水野真由美
白南風や永病めば土掴みたし 香取哲郎
白南風や汽車尾を振つて海に沿ふ 若林芳樹
白南風や沖に真昼の地震おこる 沼尻巳津子(草苑)
白南風や波のうへ飛ぶ波しぶき 長谷川櫂 虚空
白南風や波音とどく萩城址 塚本 清
白南風や浮きそこねゐる牡蠣筏 八木林之介 青霞集
白南風や海の青さの河口まで 三村純也
白南風や海一望の観覧車 倉田静子
白南風や湖低くとぶ鳥の飢ゑ 鈴木鷹夫 春の門
白南風や漁婦寄りあひの磯休み 松田洋星
白南風や漁船にTシヤツ干されあり 島田和子
白南風や片目大きなピカソの絵 福本みど里
白南風や皿にこぼれし鱚の塩 田中冬二 麦ほこり
白南風や真水に洗ふ麦烏賊を 田中冬二 麦ほこり
白南風や砂丘へもどす靴の砂 中尾杏子「ながさき曼陀羅」
白南風や磯の匂ひの刃物市 小林幸子
白南風や竹の擦り合ふ吐月峰 小長井弘子
白南風や耳かすむるは詩ばかり 仙田洋子 橋のあなたに
白南風や背戸を出づれば杏村 室生犀星 犀星發句集
白南風や船みづからの飛沫あび 友岡子郷
白南風や船員バーのギリシア文字 市川栄司
白南風や蓋の力のかぎりなし 宮坂静生 樹下
白南風や蝶はらひてもはらひても 仙田洋子 雲は王冠
白南風や豪華客船接岸す 河合 順
白南風や足裏こたへに防風の実 皆吉爽雨 泉声
白南風や錆に太りて捨錨 三田きえ子
白南風や革に打ちつけ刃物とぐ 林翔 和紙
白南風や靴より吐かす星の砂 長谷川閑乙
白南風や飯場の竿に女物 島田芳恵
白南風や鳩も雀もひとに馴れ 稲垣きくの 黄 瀬
白南風を探しさがして海へ来つ 藤原たかを
白南風埠頭帆船フアンで賑はへり 高澤良一 素抱
白栄や写本の窓の時明り 白南風 正岡子規
逢ひたきか逢ひたし白南風応へけり 山田みづえ
雨男・ぼうふら・窓の白南風なぞ 筑紫磐井 花鳥諷詠
黒南風に白南風ありて稿進む 池内友次郎
黒南風のやがて白南風長命寺 大峯あきら 鳥道
●白桃 
ある冥き物にて白桃司る 攝津幸彦 鹿々集
うちあけて恋の白桃わかつべし 清水基吉 寒蕭々
おもひでの花は白桃春しぐれ 西島麥南
かのつぼみゐし白桃の今日如何に 下村槐太 天涯
かぶりつきぬ白桃葡萄梨に 原石鼎 花影以後
ここからが闇白桃を置きにけり 吉野裕之
この家にゆふべふたつの胃袋は白桃の香を満たして座る 竹山広
たちよりて白桃しづかなる曇り 石原舟月
たましひの白桃に似し打身かな 眞鍋呉夫
と見かう見白桃薄紙出てあそぶ 赤尾兜子
はるかなるもの白桃に子の泪 岸田稚魚 『萩供養』
むきくるる白桃に海鳴りつづけ 清水寥人
もぎたての白桃全面にて息す 綾子
やはらかな闇の手前に白桃置く 山田暢子
ピアノに載す白桃一顆吉男の忌 伊東宏晃
一剥きに今生の香や大白桃 鷲谷七菜子 游影
一指づつ拭ふ白桃食べし指 長田等
一点の紅もささざる奈良白桃 細見綾子 黄 炎
人妻や白桃に刃をためらはぬ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
今日勝気明日も勝気の白桃剥く 三好潤子
何をいつ満ち来るを待つ白桃に 齋藤玄 『雁道』
供へたる白桃の香の厨まで 川元安子
刀を容るるまで白桃のしづかなり 藤岡筑邨
右の手を馴事としたる白桃よ 久保純夫 熊野集 以後
同じ値の白桃同じ形なし 品川鈴子
吾が啖ひたる白桃の失せにけり 永田耕衣(1900-97)
唇を吸ふごと白桃の蜜すする 上村占魚
坐りなほして白桃に刃を当つる 遠藤央子
夜すずみに白桃の香を愛すかな 飯田蛇笏 春蘭
大白桃をとこをんなの老いにけり 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
大白桃一休をまだ滴れり 永田耕衣 冷位
大白桃妄想森の如くなり 永田耕衣 葱室
天元に白桃ひとつ泛びゐる 中尾寿美子
妻告ぐる胎児は白桃程の重さ 有馬朗人 母国
妻留守の白桃一つ冷し置く 肥田埜勝美
幼児はいたく笑ひね夜の淵にありて白桃食べをへしとき 佐藤通雅
広島市街図白桃しんとあり 保坂敏子
後頭に涼溜む白桃三つ食べ 村越化石 山國抄
息の根をつかひ白桃すするなり 齋藤玄 『雁道』
打身ある白桃味に変りなし 高澤良一 素抱
掌上に白桃涼をあつめけり 久保田万太郎 流寓抄
旅のことなど白桃の辺に腕を置き 桜井博道 海上
日除すだれの縞目の影の白桃よ 細見綾子 黄 炎
星々の雫を享けて熟れてゆく白桃ありき人に知らゆな 前登志夫
昼の僧白桃を抱き飛騨川上 金子兜太 狡童
暗黒の先へさきへと転ぶ白桃 攝津幸彦
曳売の白桃すでに一患者 角川源義 『西行の日』
枝あげてあげて白桃咲きにけり 石田勝彦 秋興
桃畑白桃ひとつ目立ちけり 桃の花 正岡子規
死にごろとも白桃の旨き頃とも思ふ 河原枇杷男 蝶座 以後
水に浮く白桃に指ふれかねつ 安東次男 裏山
水はじきつつ白桃の冷えにけり 野村春子
沈黙のつづき白桃置かれけり 折井紀衣
洪水はわが白桃に至らむと 糸大八
海流は夢の白桃のせて去る 桂信子 緑夜
白桃およぎおよぎ人のことなり 阿部完市 春日朝歌
白桃が三つテーブルにある平和 古田けいじ
白桃が喉過ぐ戦時その奥に 岡崎光魚
白桃すするけふ退院の一少女 石田あき子 見舞籠
白桃にいとど濡れたる姑あはれ 大石悦子 群萌
白桃にくれなゐの種耕衣亡し 大木あまり 火球
白桃にすすり余すといふことなし 鷹羽狩行 八景
白桃にをさまらぬものしたたりぬ 中村正幸
白桃に一つの疵もなかりけり 武田孝子
白桃に人刺すごとく刃を入れて 鈴木真砂女
白桃に入れし刃先の種を割る 橋本多佳子(1899-1963)
白桃に唇濡れしまゝ笑ふ 莵絲子
白桃に噂の顔をして来たり 小檜山繁子
白桃に夜のおもさが加はりぬ 奥名春江
白桃に奈良の闇より藪蚊来る 沢木欣一 塩田
白桃に寒幾度かあともどり 河野静雲 閻魔
白桃に微細なる虫狂ひけり 小澤實
白桃に昨日の指の痕のこる 小檜山繁子
白桃に淡々として夕日さす 細見綾子
白桃に眠りの紐のゆるびたる 夏井いつき
白桃に笊の魚介やみづ~と 楠目橙黄子 橙圃
白桃に羽が生えたり恋すれば 佐藤成之
白桃に触れたる指を愛しみをり 斎藤空華 空華句集
白桃に触れてはがねの薄曇る 松本秀子
白桃に諸行無常の産毛あり 櫂未知子 蒙古斑以後
白桃に風くる父の詩集かな 大木あまり 火球
白桃に魚潜みおり朝の火事 坪内稔典
白桃のいたみながらのよい匂い 池田澄子 たましいの話
白桃のうす紙の外の街騒音 野澤節子 牡 丹
白桃のかくれし疵の吾にもあり 林翔(1914-)
白桃のかすかな傷に剥きすすむ 鈴木鷹夫 渚通り
白桃のごとくに酔いし人送る 対馬康子 純情
白桃のすべり込んだる喉かな 山上樹実雄
白桃のつかのまの肉をなおすする 北原志満子
白桃のつるつる剥けて夜も蒸せる 篠田悌二郎 風雪前
白桃のどこ押されてもしずくする 笹田かなえ
白桃のひかりをまとひ沈みあり 戸栗末廣
白桃のひそかに熟るる快楽かな 須賀一恵
白桃のまだかたき肌おそれけり 鷲谷七菜子 天鼓
白桃のみな沈みたるめでたさよ 加藤鎮司
白桃のもたらされたる驟雨かな 山本洋子
白桃の仙ならんとす月五更 尾崎紅葉
白桃の傷めばいたみ夜明来る 猪俣千代子 堆 朱
白桃の傷をゑぐりしこと忘る 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
白桃の八重の花辯に降る緋桃 原コウ子
白桃の冷えゆるやかに刃を入るる 岬雪夫
白桃の冷ゆるを待ちて方丈記 鈴木鷹夫 大津絵
白桃の匂ひがしきり妻の留守 宮脇 龍
白桃の匂ひ亡き児を育てをり 太田保子
白桃の心足らへるひかりかな 久保田万太郎 流寓抄以後
白桃の核の紅濃き術後かな 江口千樹
白桃の桜にまじる青さ哉 桜 正岡子規
白桃の水よせつけず洗はるる 柴田佐知子
白桃の汁したたらし生身魂 有山八洲彦
白桃の浮きしが一つづつ沈む 小松一人静
白桃の渓声に冷えまさりけり 石川桂郎 高蘆
白桃の無疵を悼むこころかな 櫛原希伊子
白桃の白やこほるゝ朝の露 桃の実 正岡子規
白桃の白桃然と剥かれをり 攝津幸彦 未刊句集
白桃の皮引く指にやゝちから 川崎展宏
白桃の種ちかきまで歯を入るゝ 川崎展宏
白桃の種は桃いろ孤を灯す 梶山千鶴子
白桃の箱に貰ひし棘うづく 鈴木鷹夫 渚通り
白桃の紅らむ頃を夜汽車かな 鳴戸奈菜
白桃の純潔水をはね返す 石川正幸
白桃の絵のひび割れてゐたりけり 市川千晶
白桃の肌に入口無く死ねり 永田耕衣 闌位
白桃の芯まで甘し生家に来て 伊藤敬子
白桃の花やこぼるゝ朝の露 桃の花 正岡子規
白桃の花やこぼれて松のつゆ 桃の花 正岡子規
白桃の荷を解くまでもなく匂ふ 福永鳴風
白桃の莟うるめる枝の反り 芥川龍之介
白桃の蕾みちみちて天曇る 蒼石
白桃の露や花なる花や露 桃の花 正岡子規
白桃の静かに熟るる夜の雨 三森裕美
白桃は桃に似ている満月よ 鳴戸奈菜
白桃は沾み緋桃は煙りけり 芥川龍之介 我鬼句抄
白桃は闇を貪(むさぼる)るかたちかも 宮坂静生
白桃へみな抜き手切る夜の沖 攝津幸彦 未刊句集
白桃むく古稀ときめきのなほありて 小坂かしを
白桃むく手より老醜はじまるか 樋笠文
白桃も淋漓と秋に入りにけり 相生垣瓜人 明治草抄
白桃やいま豊満の時にをり 能村登四郎
白桃やかりそめならぬ今の幸 岡田和子
白桃やしづくも落ず水の色 桃隣
白桃やためらはず刃を触れしめよ 康治
白桃やつくづくものを言はぬ夫 石田あき子 見舞籠
白桃やのこるは花よちるは露 桃の花 正岡子規
白桃や他力の海のひたひたと 橋石 和栲
白桃や力を抜きし掌の中に 朝倉和江
白桃や夜どおし水を欲しおり 二村典子
白桃や大暑の街を遠くにす 桜井博道
白桃や妻の雀斑をかなしめば 小林康治
白桃や子の耳うちのこそばゆし 千代田葛彦 旅人木
白桃や家の中にも波打際 大坪重治
白桃や家の奥より川の音 長谷川櫂 天球
白桃や弱音を吐かば寧からむ 山田みづえ 忘
白桃や彼方の雲も右に影 中村草田男
白桃や心かたむく夜の方 石田波郷
白桃や愛するという包むこと 折笠美秋 死出の衣は
白桃や日永うして西王母 桃の花 正岡子規
白桃や昼の静脈北を指す 坪内稔典
白桃や死に損ひし妻が笑む 鈴木鷹夫 風の祭
白桃や民話のやうな子が生れよ 冨田正吉
白桃や泣く子の熱き後頭部 深谷栄子
白桃や海ある方に海見えず 藤岡筑邨
白桃や満月はやゝ曇りをり 森澄雄
白桃や火種は胸の奥の奥 小檜山繁子
白桃や父のふるさと青山路 中西碧秋
白桃や盗まれさうな児に育つ 吉田紫乃
白桃や耕衣と共にせし時間 永島靖子
白桃や莟うるめる枝の反り 龍之介
白桃や遠き燈下に濤あがり 岡本眸
白桃や釘うたれたる箱をでて 百合山羽公 故園
白桃や雫も落ちず水の色 桃隣
白桃や青天へ皆のびし枝 野村喜舟 小石川
白桃を*もぎてしばらく男面 宮坂静生 山開
白桃をいだきし乳房濡れゐたり 仙田洋子 雲は王冠
白桃をおもひて眠る砂の街に 小檜山繁子
白桃をくも這ひたればくもの糸 長谷川櫂 天球
白桃をくらへばあきの風くづる 日夏耿之介 婆羅門俳諧
白桃をすするや時も豊満に 能村登四郎
白桃をひとりがむきてひとり哭く 黒田杏子 一木一草
白桃をむきてたしかに麦粒腫 和田耕三郎
白桃をもいで葉叢の下に置く 廣瀬直人
白桃をよよとすすれば山青き 富安風生
白桃を今虚無が泣き滴れり 永田耕衣(1900-97)
白桃を剥くうしろより日暮れきぬ 野澤節子 黄 瀬
白桃を剥くねむごろに今日終る 角川源義
白桃を剥くやこころの水位増し 中尾杏子
白桃を剥くや膜なす光りの蜜 真鍋呉夫
白桃を剥けばひらひら夜の来る 松下千代
白桃を剥けば夜が来て孤独が来 鈴木真砂女 夕螢
白桃を吸い山国の空濡らす 酒井弘司
白桃を啜ふや海女の四肢ゆるび 高橋伸張子
白桃を啜らむと世に生れきし 吉田汀史
白桃を啜るに夜風立ちにけり 冨田みのる
白桃を啜る間何も考へず 細川加賀 『傷痕』
白桃を女は睫毛伏せて剥く 石田あき子 見舞籠
白桃を投げれば鬼が口ぬぐふ 仙田洋子 橋のあなたに
白桃を摂りたる夜の鼻痒く 宮武寒々 朱卓
白桃を攀ぢつつ蟻の幸福に 本下夕爾
白桃を洗ふ誕生の子のごとく 林火
白桃を浮かべてぐんと桶古ぶ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
白桃を滴らし微熱期を脱す 石川桂郎 含羞
白桃を産み落したる地球蒼し 安斎郁子
白桃を登山ナイフで削ぎて食ぶ 栗田やすし
白桃を睨み幼子ひとり立つ 原田喬
白桃を自転車泥と思ひ込む 攝津幸彦 未刊句集
白桃を見て白桃の居泣くなり 永田耕衣 闌位
白桃を触らば道のうごめきぬ 永田耕衣 冷位
白桃を購い風を食むゆうべ 津沢マサ子
白桃を電話のあとに食べておりゆうぐれ少し泣いた ほんとだ 吉川宏志
白桃を食ひ大いなる虚にありぬ 藤田湘子 てんてん
白桃を食ふほの紅きところより 佐藤鬼房
白桃を食ぶみづうみになるために 東川治美
白桃を魂のごと手に翳す 井上千代美
白桃を齢頽れて啜りけり 草間時彦 櫻山
白桃一個一雷は檄のごと 友岡子郷 風日
白桃抱く心はさらに危ふきを 林翔 和紙
白桃来飛鳥の土にまぶれつつ 攝津幸彦 鹿々集
白桃身嘴のごときを秘めている 永田耕衣 闌位
白桃食ふ宵過ぎの月あるきをり 中拓夫 愛鷹
盆棚に白桃が尻ならべたる 辻桃子
相触れてより白桃の腐りそむ 中田剛 珠樹以後
磧にて白桃むけば水過ぎゆく 澄雄
神仏のあはひで白桃熟れゆけり 小泉八重子
福島や夜々白桃の栄ゆる店 鳥居おさむ
秋めきて白桃を喰ふ横臥せに 森 澄雄
秋めきて白桃を食ふ横臥せに 森澄雄
聖書伏せて娘は白桃に爪立つる 渡辺桂子
肉維核にほのほのごとし大白桃 原石鼎 花影以後
肘まで走る白桃の汁終戦日 中拓夫
脣を吸ふごと白桃の蜜すする 占魚
舌といふ肉白桃の肉を捲き 熊谷愛子
薄紙を剥ぐ白桃はけぶりをり 星野昌彦
虹たちて白桃の芽の萌えにけり 飯田蛇笏 霊芝
身のうちに白桃を抱き会ひに行く 辻美奈子
身の内を白桃埋め尽くしけり 対馬康子 吾亦紅
道端に売る白桃も百済かな 有馬朗人 耳順
長城より帰りきて白桃を賜う 金子皆子
雲 桜 螢 白桃 汝が乳房 真鍋呉夫
音たてて白桃の闇すするなり 岸本マチ子
顎下より胸へ濃きかげ白桃売り 友岡子郷 遠方
馬車道や白桃に雨うちそそぐ 松村蒼石 寒鶯抄
鳥ほどにあり白桃のやわらかさ 対馬康子 吾亦紅
齢かな白桃といふ靄を手に 澁谷 道
●白障子 
あかるさもしづけさも白障子越し 片山由美子 水精
いちまいに繰る白障子春障子 古舘曹人 樹下石上
いづこより花明りして白障子 長谷川櫂 蓬莱
けもの径抜け出て茶屋の白障子 福原紫朗
とんとんと運ぶ話や白障子 大谷史子
なめらかに海を出し入れ白障子 原 雅子
みづうみに舟の出てゐる白障子 大串章
みづうみを眠らせておく白障子 西村和子 かりそめならず
みどりごに名のつくまへの白障子 青木文恵
めりはりの五体に戻る白障子 都筑智子
ゆく水の残すひかりの白障子 鷲谷七菜子 花寂び
一枚はいつもわが楯白障子 井沢正江 以後
一灯に母子の浄土白障子 毛塚静枝
三百枚貼りしと梵妻白障子 河野頼人
上げ膳の据膳の宿白障子 猪俣千代子 秘 色
九枚の白障子しめ九体仏 岩崎照子
人がひと産みあけぼのの白障子 飯田綾子
人声や二タ間つづきの白障子 深見けん二 日月
僧の影して暁の白障子 鷲谷七菜子 花寂び
午後といふ不思議なときの白障子 鷹羽狩行
墨を磨るほかに音なき白障子 片山由美子 天弓
変化いま午の日夕日白障子 皆吉爽雨
妻は母の肌となりゆく白障子 鷹羽狩行
尼の声して白障子全けれ 赤松[ケイ]子
尼寺に猫の道あり白障子 長山順子
届けもの置かれしままの白障子 石田勝彦
山の日のぐらつと昏れる白障子 山中栄子
山近みわが白障子夜長来る 村越化石 山國抄
待たされてゐる洛北の白障子 藤田あけ烏 赤松
忘れし文字探しにたちて白障子 平井さち子 完流
折檻の昔土蔵の白障子 鈴木鷹夫 大津絵
故人と居る思ひ小春の白障子 村越化石 山國抄
明け暮れのさらさら過ぎぬ白障子 櫛原希伊子
春宵の白障子ただならぬ時 皆吉爽雨
春暁の鶏鳴へだつ白障子 大熊輝一 土の香
松陰のきらめく塾の白障子 川畑克己
桜実に西行堂の白障子 沢木欣一 二上挽歌
棧荒き藍師の土間の白障子 文挟夫佐恵 遠い橋
樹の暮るるまで白障子あけて読む 神尾久美子 桐の木
次の世に隣りて真夜の白障子 柴田佐知子
歌よみの山へ眉あぐ白障子 加藤耕子
母に母あり元日の白障子 中楯貞女
母在りて米寿や凜と白障子 森 武司
母訪えば母の声せり白障子 口村喜久子
水音を聞く曲がり家の白障子 曽我部多美子
法悦に満ちて坐を起つ白障子 古市絵未
浅間嶺に開け虚子庵の白障子 中島真沙
海鳴の一夜明けたる白障子 桜田美都子
灯を消して月光を知る白障子 鈴木鷹夫 千年
灯点さぬ部屋に暮色の白障子 澤井洋子
煎餅を食む音のみの白障子 小野藤花
猪鍋や川音へだつ白障子 金久美智子
玄関の白障子まで石畳 茨木和生 遠つ川
現し世のはなし声する白障子 中山純子 沙 羅以後
病人がときをり開く白障子 岩城 久治
白障子あくれば虚空へ通ふらし 那珂太郎
白障子この世の染みをすぐもらふ 坂本俊子
白障子その張りを目に胸に欲し 小川恭生
白障子の明けゆく此の世の桟の影 中村草田男
白障子までひとすぢに畝起す 平畑静塔
白障子よりの慈光に秋蚕飼ふ 長田等
白障子よりもあわき光束宴の果 赤尾兜子
白障子をんなの会話閉ぢ込める 渡辺祥子
白障子一枚塵土隔てけり 伊藤敬子
白障子人の深さを映しけり 中村正幸
白障子張り巡らせて千代紙屋 堀之内和子
白障子死化粧といふ含み綿 松本澄江
白障子白美しき石鼎庵 塩川雄三
白障子立てて心のさだまれり 小林京子
白障子紙衣は更に白くして 堀内薫
白障子透かして母のいのち見ゆ 石寒太 翔
白障子閉ざすはこころ放つなり 正木ゆう子 静かな水
白障子飲食の香を写しゐる 鳥居おさむ
盆霧の奥の会津の白障子 黒田杏子 花下草上
目覚めての不安たかぶる白障子 田中みち代
碧空へつづく山家の白障子 角田宗実子
絶壁を閉じたるのちの白障子 森田廣
繭玉のふれゆく音の白障子 中山純子 沙 羅以後
臘八の海鳴りを断つ白障子 佐野美智
色鳥や鴫立庵の白障子 中川冬紫子
蚕の眠りはじまる谷の白障子 大野林火
覚めてまだ今日を思はず白障子 岡本 眸
謡初へ青空うつる白障子 田川飛旅子
貼り替へて空の青さの白障子 高橋悦男
長良川雪待つ舟の白障子 殿村菟絲子
閉ざすより闇の息づく白障子 片山由美子 水精
雨安居の人の世へだつ白障子 塩谷はつ枝
雨情生家藤のかげりの白障子 古賀まり子
露けしや閉ぢて日のなき白障子 西村公鳳
高野より風受けてゐる白障子 山中麦邨
鶏頭の庭とほざけて白障子 古賀まり子 緑の野
鶯や絃糸縒る家の白障子 伊藤京子
●白絣 
いくらかは僧形に似む白絣 能村登四郎 冬の音楽
おとなびてよき兄となり白絣 長谷川櫂 蓬莱
さよならは常にもがもな白絣 石原八束 黒凍みの道
とほくきく汽笛はよけれ白絣 神尾久美子 桐の木
ひとり身は老も恋めく白絣 能村登四郎 寒九
まなざしの父となりゆく白絣 北見さとる
もてなしの聞香に座す白絣 中戸川朝人 尋声
ものごとに四肢聡くなる白絣 根岸 善雄
やや冷えて定家忌までの白絣 森 澄雄
亡き妻のたたみしままや白絣 小早川恒(馬酔木)
亡き父の背を想ひ出す白絣 佐藤良子
右の手の少しく長し白絣 長谷川櫂 古志
吉報や折目のつよき白絣 宇多喜代子 象
夜がはじまる長き橋ゆく白絣 櫛原希伊子
夢の端に拘つてゐる白絣 根岸善雄
夫よもう世を急がずや白絣 三橋迪子
妻なしに似て四十なる白絣 石橋秀野「桜濃く」
子に着せし曾ては夫の白絣 高根照子「ティー・エンジェル」
少しずつ涙にじんで白絣 田中みち代
少年に母の面影白絣 長谷川櫂 蓬莱
山川に別れるための白絣 齋藤愼爾
待つてろと男の弔辞白絣 歌津紘子
怒るとき生あざやかに白絣 鷹羽狩行 七草
擬宝珠またかざせる花に白絣 中村汀女
日に夜に末路のやうな白絣 斎藤玄 無畔
明け暮れを山見てすごす白絣 菊地一雄
昔男にふところありぬ白絣 岡本 眸
晩景に逢ふたのしさの白絣 能村登四郎
来し方のよく見ゆる日の白絣 綾部仁喜 樸簡
東京に来て汗ばめる白絣 細見綾子
正直も短所のひとつ白絣 入谷和子
水音は遥かを急ぎ白絣 綾部仁喜 寒木
波音を懐に入れ白絣 古賀まり子
濁りこそ川のちからや白絣 宮坂静生 春の鹿
炎の龍子露の茅舎や白絣 大石香代子
父に似ぬ学究にして白絣 和田祥子
白絣きえたりしかば雨後の古葉 中田剛 竟日
白絣てふ風韻に託すも 坂巻純子
白絣ははもこころをかけし草 宇佐美魚目 秋収冬蔵
白絣ひと生のはたて見えてきし ほんだゆき
白絣ほかには誰も着てをらず 下村槐太 天涯 下村槐太全句集
白絣人の匂ひも潮の香も 高橋将夫
白絣勘気の面にふれし日の 藤井寿江子
白絣合槌を打ち聞いてゐず 中村苑子
白絣後姿の父に似て 竹内鈴子
白絣書生は死語となりにけり 越智 協子
白絣水の話を聴きにゆく 宇多喜代子
白絣無器用に着て威張りをり 猪俣千代子 堆 朱
白絣生きてこの世で擦れ違ひ 長谷川櫂 蓬莱
白絣着て思想家のごとくをり 長谷川櫂 天球
白絣着て海彦を待つごとし 神尾久美子 桐の木以後
白絣着て身の老を深くする 能村登四郎
白絣着て飛魚の眼のごとし 飯田龍太「山の木」
白絣荒波とほく闘へる 桂信子 樹影
白絣遠くの山の道が見え 齋藤愼爾
白絣部屋のまんなか通りけり 桂信子
白絣銀魚のごとく着てをれり 火村卓造
稽古場の役者一様白絣 片岡我当
端居して旅の借着の白絣 加藤秋邨
納屋までの往き来に母の白絣 桂信子 黄 瀬
職退いて痩躯養ふ白絣 近藤一鴻
致仕の身に雨いさぎよし白絣 町田しげき
色褪せし我が青春の白絣 田中義孝(ランブル)
詫び状は達筆なりし白絣 赤尾恵以
逗子開成一年生や白絣 長谷川櫂 蓬莱
隠れなき身過ぎ世すぎや白絣 浦亀甲子
雨の夜の齢静かに白絣 町田しげき
露に入るしんがりとして白絣 齋藤愼爾
顔変りしたるおもひの白絣 上田五千石 風景
飯強し母の着給ふ白絣 桂信子 花寂び 以後
黄泉の子もうつせみの子も白絣 能村登四郎
●白芙蓉 
かなしさやことしの秋の白芙蓉 増田龍雨 龍雨句集
そはそはと次の風待つ白芙蓉 高澤良一 ももすずめ
ははかたの系譜に加ふ白芙蓉 柴田朱美
ふくらむといふあやうさの白芙蓉 風間靖彦
亡母訪ねくるよな夕焼白芙蓉 大野林火
仏燈を消しまゐらする白芙蓉 阿部みどり女
俗界を離れし夢を白芙蓉 古市絵未
北国の教会裏の白芙蓉 石原八束
夕べの日吸ひこみ丸む白芙蓉 上村占魚 『自門』
大仏や濡れてぞよけれ白芙蓉 岡澤康司
妬心ほのと知れどなつかし白芙蓉 杉田久女
子の恋の終り見守る白芙蓉 毛塚静枝
存分に踏石ぬらし白芙蓉 南 典二
少し泣いて心ゆるびぬ白芙蓉 大石悦子 群萌
教会の厚き扉や白芙蓉 村川雅子
料理屋の夜の*間寂や白芙蓉 飯田蛇笏 霊芝
日暮には日暮の色に白芙蓉 落合きくお
朔日の空にぽっかり白芙蓉 高澤良一 さざなみやつこ
朝涼し僧の会釈と白芙蓉 角川春樹 夢殿
朝風の墓地に私と白芙蓉 阿部みどり女
涙もろくなりし夫に白芙蓉 八牧美喜子
爪切るはもの思ふとき白芙蓉 会田 良
白水郎忌まで白芙蓉咲きつづく 成瀬桜桃子 風色
白芙蓉さやけく水に臨みたり 岡本癖三酔
白芙蓉しだいに灯恋はれけり 石橋秀野
白芙蓉その明るさに逢ひにゆく 飯塚まさよし
白芙蓉なまめかしさのなしとせず 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白芙蓉ふたたび交す厚き文 野澤節子 黄 瀬
白芙蓉一日一日を大切に 阿部みどり女 月下美人
白芙蓉今日一日は恋人で 宮田朗風
白芙蓉傷あとは身に深くあり 乾鉄片子
白芙蓉咲かせに朝がやってくる 高澤良一 さざなみやつこ
白芙蓉咲き加はりし庭の景 高澤良一 宿好
白芙蓉墓大にして血統絶ゆ 福田蓼汀 山火
白芙蓉夫の知らない世を生きて 峯島孜子
白芙蓉如如(にょにょ)常住のほとけなり 高澤良一 燕音
白芙蓉後事託すと云ひて墜つ 高澤良一 鳩信
白芙蓉曉けの明星らんらんと 川端茅舎
白芙蓉朝の似合ひし人なりき 今泉貞鳳
白芙蓉朝も夕も同じ空 阿部みどり女
白芙蓉松の雫を受けよごれ 高濱虚子
白芙蓉母には遠き木椅子なる 東野昭子
白芙蓉無垢を全うして散れり 滝峻石
白芙蓉睡竹堂の木椅子かな 松崎鉄之介
白芙蓉秋は夫人の愁ふ瞳に 飯田蛇笏 雪峡
白芙蓉芯に生臭さ育てをり 谷口桂子
白芙蓉衣笠山の風渡る 水野加代
白芙蓉見ながら体調どうと問ふ 高澤良一 燕音
白芙蓉遠き記憶のまた遠き 辰巳あした
白芙蓉金の鞍置き三彩馬 野村喜舟
白芙蓉鎮まらぬもの鎮めをり 高澤良一 素抱
白芙蓉閉づと云ふよりポシャリけり 高澤良一 ぱらりとせ
白芙蓉隠岐の二帝の行在所 西本一都
祭くる木曾の晴夜の白芙蓉 福田甲子雄
稲妻やくづるゝときの白芙蓉 野梅句集 加納野梅
義理ひとつ果せず風の白芙蓉 谷中隆子
誕生地即終の地か白芙蓉 福田蓼汀
鉄亜鈴と揺れの大きな白芙蓉 川崎展宏
門入りてまづ夕方の白芙蓉 星野立子
●裏白 
かさかさの裏白自転車の少年 山本弥生
ちぢみ初む三日の裏白母訪はな 福嶋延子
のけぞれる裏白 父を許す気に みよし節子
唐招提寺裏白萩の一分咲き 松尾隆信
塩噴きて舟の裏白そり返る 工藤義夫
売られゐる間も乾きをり裏白は 嶋田麻紀
木曾殿の塚に裏白侍らしめ 高澤良一 燕音
杉渓はしづか裏白採去りて 茨木和生 木の國
棚の歯朶天の裏白と申すべう 鶯笠
注連飾る間も裏白の反りかへり 鷹羽狩行
火の山の裏白蓼のみな黄葉 岡田日郎
秘めごとのように反りだし裏白よ 久保 純夫
船頭の閨の裏白青かりし 鈴木太郎
裏白と一夜明くれば古稀の父 百合山羽公 故園
裏白にたそがれの風立ちにけり 根岸 善雄
裏白に和歌三神の灯影かな 北涯
裏白に夕日しばらくありにけり 草間時彦 櫻山
裏白に齢かさねし父と母 百合山羽公
裏白のうらまで年の光かな 巴水
裏白のからびまろまり藁を纒き たかし
裏白のともればすこし枯れてけり 太田鴻村 穂国
裏白のひと荷の婆や浄瑠璃寺 宮坂静生 春の鹿
裏白のふんはりとあるダンボール 山尾玉藻
裏白のみどりの仔細老あたらし 桂信子 花寂び 以後
裏白の乾反りて石狩海荒るる 山部栄子
裏白の反りをいたはり注連外す 嶋岡茂雄
裏白の岩のわれ目に焼け残る 寺田寅彦
裏白の影濃くしたり谷戸の寺 間中恵美子
裏白の渇きに触れし夜の指 中嶋秀子
裏白の葉が乾反りつつくもりのまま正月二日寒く暮れにき 松村英一
裏白の葉のちりちりと十日かな 江間 蕗子
裏白の葉を眩しめり五月富士 軍司路フ
裏白の葉裏ぶつぶつ母が消えた 相川玖美子
裏白は三枚百円断乎まけず 加藤水万
裏白は東雲招くそよぎ哉 順也
裏白やうらに本音の京言葉 岡本一路
裏白やかけがへのなき一河あり 布施伊夜子
裏白やからから笑ふ山の姥 伊丹さち子
裏白やはぢらひ深き神のこゑ 恩田侑布子
裏白や卒寿の母のかぞへ唄 松本照子
裏白や天龍の瀬は風の底 木村蕪城
裏白や寒気の畳躙りける 伊丹さち子
裏白や市中にして古る路標 木村蕪城 寒泉
裏白や新しき足袋さがしあて 石川桂郎 四温
裏白や朝に夕に火をつくり 中村雅樹
裏白や野山歩きし今朝の夢 滝井孝作 浮寝鳥
裏白や鉄階段の子の住居 辻 男行
裏白や長寿家系のひとりなる 作山 和子
裏白や齢かさねし父と母 百合山羽公 故園
裏白を切りて湯壺にしづもりぬ 野中 亮介
裏白を剪り山中に音を足す 飴山實 辛酉小雪
裏白を売る杣の子が銭こぼす 中村石秋
裏白を宥め家風に馴染まする 岩下四十雀
裏白採り湧水絶えし父の山 中拓夫
見てあれば裏白に火の廻りけり 藤田あけ烏 赤松
軽く反る裏白過去を背負ひけり 松瀬むつ江
開く日も裏白そよぐ氷室かな 梅室「梅室家集」
風にあらがひ裏白の白くなる 鷹羽狩行
餅が敷く裏白楪病に死ぬな 野沢節子
●白扇 
くらがりに鳴らす涼みの白扇 石原舟月
たかし忌の白扇が打つ膝拍子 鷲谷七菜子 花寂び
アメリカヘ立つ白扇を手離さず 冨田みのる
列席の貴顯・淑女よ白扇 筑紫磐井 婆伽梵
友かるく打つ若者らの白扇 尾田秀三郎
君絵を画け我句を書かん白扇 扇 正岡子規
帯にはさむ白扇心定まれり 古賀まり子 緑の野以後
御田植うる白扇胸に乙女さび 岸風三樓
摘ずとも花あり香あり白扇 松岡青蘿
日本語のたてよこ自在白扇子 樋口俊子
洛中の水近くをり白扇 福島 勲
湧くや泉白扇の影のありどころ 村上鬼城
熱量のある会議にて白扇子 能村研三
白扇で膝を打ちたり大石忌 岡澤康司
白扇にほとけ招く手踊の輪 野澤節子 遠い橋
白扇に一句ためらひゆるされず 滝 峻石
白扇に一筆描きの波走る 東峰芳子
白扇に山水くらしほととぎす 飯田蛇笏 山廬集
白扇に怒濤ひきよせ荒岬 甲斐すず江
白扇に潮の差し来る韻きかな 鈴木鷹夫 大津絵
白扇に竹かく墨の溜り哉 妻木 松瀬青々
白扇に笹の葉触れん夜の客 碧雲居句集 大谷碧雲居
白扇に細き筆もて句をしるす 高木晴子 花 季
白扇に茶化しきれざる病景色 高澤良一 鳩信
白扇のさびしければわが句を記す 下村梅子
白扇のひとり嗚咽をききゐたり 石原八束
白扇のほか身に帯びず初仕舞 中村孝一
白扇のゆゑの翳りをひろげたる 上田五千石(1933-97)
白扇の上昇するや昇降機 中村汀女「汀女句集」
白扇の師の句を裏にして扇ぐ 中原道夫
白扇の戯墨を恥ぢぬ今朝の秋 島村元句集
白扇の踊夕顔ひらくごと 羽部洞然
白扇はり~きりと畳むかな 尾崎迷堂 孤輪
白扇は未明のごとし何書かむ 丸山海道
白扇やいひつくろへど裏切りなり 村山古郷
白扇やかの一片ラの沖津波 尾崎迷堂 孤輪
白扇やこゝに僧あり無惨無愧 尾崎迷堂 孤輪
白扇や恥ぢては足の指うごく 加藤楸邨
白扇や文ンにあそびて人喬し 西島麥南 金剛纂
白扇や水の如くはた雲の如く 小杉余子
白扇や筑紫の海の夕凪に 野村喜舟 小石川
白扇や若きお僧の落ちつかず 高橋淡路女 梶の葉
白扇をたためば乾く山河かな 橋間石「和栲」
白扇をたためば舟のはやきこと 黒田杏子 一木一草
白扇をひらけば遠き山河あり 植野フサ子
白扇を捨てて手だけになりて舞ふ 山口誓子
白扇を日とし月とし舞始め 木内怜子
白扇を月としかざし鹿踊 杉山古月
白扇を用ひて山気そこなはず 上田五千石 琥珀
白扇を蝶の如くに使ひをり 上野泰 佐介
白扇を開きしよりの要かな 甲斐すず江
白扇何も書かずに持ち古るす 高橋淡路女 梶の葉
目礼のあとの黙殺白扇子 鷹羽狩行「七草」
秋風のなか白扇の風とほす 大岳水一路
秋鴎岬に白扇の胸ひらく 中拓夫
竹林の薄暮に遊ぶ白扇 鈴木鷹夫 渚通り
笑ふ時老いたる顔や白扇 村上鬼城
贐といふ白扇のすがすがし 高野素十「雪片」
踊り子の白扇月に返しては 黒田杏子 花下草上
連台の市長白扇かざし越ゆ 鈴木勝女
頷いてばかりゐる客白扇子 中村苑子
黙礼のあとの黙殺白扇子 鷹羽狩行(1930-)
●白桔梗 
いくさ経し野路に露おく白桔梗 河野南畦 『花と流氷』
さゆらぎてゲーテハウスの白桔梗 関森勝夫
とび石の石の終はりの白桔梗 岬雪夫
ふくらみのきはみの蕾白桔梗 大岳水一路
ほの暗き京の老舗や白桔梗 岡部名保子
みづうみは朝のひかりの白桔梗 大屋達治
ゆふぐれの吾を離るる白桔梗 柿本多映
一弁に紫を刷け白桔梗 大橋つる子
人形の肩よく泣けり白桔梗 斎藤梅子
光秀を祀る社の白桔梗 奥村皐月
口移しの死が這い上り白桔梗 増田まさみ
可も不可もなき白桔梗青桔梗 斎藤玄 雁道
奥美濃の月の出待たる白桔梗 伊藤京子
山中に一夜の宿り白桔梗 野澤節子
撫肩は茶入にもあり白桔梗 神尾久美子 桐の木以後
新涼や一輪ざしの白桔梗 阿部みどり女 笹鳴
方法は流水に山に白桔梗がある 阿部完市 軽のやまめ
日暮とも雨けむるとも白桔梗 藤田湘子
歌膝の男は佳けれ白桔梗 北見さとる
母看とる月日惜しまず白桔梗 八牧美喜子
水切りの水に伏せ置く白桔梗 大岳水一路
白桔梗いつも味方と思ふなり 中尾寿美子
白桔梗すなわちトラジ父が植え母が植え吾は髪に挿す 李正子
白桔梗一の字に置きただ泣ける 清水径子
白桔梗一本にして万事かな 和田悟朗
白桔梗一蝶誘ふ水車音 河野多希女
白桔梗友がふはりと来て帰る 森 めぐみ
白桔梗家居を深くしてゐたり 石崎径子
白桔梗折目のほかはやはらかし 都筑智子
白桔梗文字は縦書匂ふなり 渡邊千枝子
白桔梗校歌貞女に徹せよと 野上寛子
白桔梗百日経を写しては 寺井谷子
白桔梗窯の顱頂は火を裹む 竹中宏 饕餮
白桔梗花あげそろひ解夏の寺 加藤風信子
相連れて主治醫二人や白桔梗 石田あき子 見舞籠
睡ることに専念しをり白桔梗 石田あき子 見舞籠
羽左衛門の貢が見ゆる白桔梗 渡邊水巴
辰雄偲ぶ何に彼にすべて白桔梗 林翔 和紙
退院の姉に二度咲く白桔梗 林 民子
遺されしひと来て泣けり白桔梗 石田あき子 見舞籠
酒倉の裏へまはれば白桔梗 柿本多映
酔ひざめの水に差し置く白桔梗 榎本好宏
●白粉 
ありふれてゐる定年と白粉花 高澤良一 随笑
おしろいは妹のものよ俗な花 白粉花 正岡子規
お梅見の白粉厚き寒さかな 梅 正岡子規
お白粉の皿にうけばや花の露 露 正岡子規
お降りやほの~濃ゆき寝白粉 石橋秀野
かけもちの漫才白粉が浮く西日 文挟夫佐恵 黄 瀬
すつきりと晴れ白粉花の咲きはじむ 武井規子
つぼ白粉時雨宿りに買ひもして 『定本石橋秀野句文集』
ふるさとのお白粉花も実となりし 萩原麦草 麦嵐
ほつ~とお白粉花や雨の月 冬葉第一句集 吉田冬葉、伊藤月草編
をとこらに白粉にほふ踊かな 篠原鳳作
アパートの皆共稼ぎ白粉花 七田千代子
七夕や白粉にほふ野べの霧 松瀬青々
五月晴れ白粉焼けの昇天す 石原八束 空の渚
井を借るや白粉剥げて桜人 雑草 長谷川零餘子
傾城のお白粉はげて朝桜 朝桜 正岡子規
六月やお白粉なする腋の下 六月 正岡子規
初日の出隣のむすめお白粉未だつけず 初日 正岡子規
名月に白粉くさき伽藍かな 名月 正岡子規
咲きおくれ白粉花雨にばかり逢ふ 菖蒲あや
咲きついでこぼれて白粉花の反り 川崎展宏
四時廻り白粉花咲き出せり 高澤良一 ぱらりとせ
地蔵盆白粉花を蒐む子に 高澤良一 寒暑
塀外へ出たがる白粉花雨上り 菖蒲あや
天人の白粉箱か富士の雪 勝女
寝白粉香にたちにけり虎が雨 日野草城
山の子の夏沸瘡白粉はたきたる 滝沢伊代次「鉄砲蟲」
床ずれに白粉ぬりぬ牽牛花 木歩
引き抜かれゐて白粉花の咲き続く 菖蒲あや あ や
後の世は白粉筥の匂いして 滝口佳代
御白粉に白うよごれし菫かな 菫 正岡子規
御白粉の風薫るなり柳橋 薫風 正岡子規
手になじむ道具いくつか白粉花 掘之内長一
斉飯に白粉匂ふほとゝぎす 殿村菟絲子 『牡丹』
朝夕の白粉花も終りかな 山下 尭
本郷に残る下宿屋白粉花 瀧春一
枝炭の白粉ぬりて京に入る 一茶
桜咲てお白粉売や紅粉売や 正岡子規
水無月やお白粉なする脇の下 水無月 正岡子規
汗かきは紅・白粉に嫌はるる 筑紫磐井 婆伽梵
法衣ふと白粉花にふれにけり 阿部田鶴子
浴衣の紺刷く白粉の淡ければ 石塚友二 方寸虚実
海棠や白粉に紅をあやまてる 蕪村遺稿 春
湯煙りの白粉臭き朧哉 寺田寅彦
牛の競売はじまるまでの白粉婆 上木輝子
牡丹の白粉はげぬ秋扇 阿部みどり女 笹鳴
白粉のとく澄み行くや秋の水 尾崎放哉
白粉ののらぬ汗疹となりにけり 日野草城
白粉のはげし稚児かな草の餅 大谷句佛 我は我
白粉の咲いて黄昏どきながし 八木春
白粉の残りてゐたる寒さかな 吉右衛門
白粉の父鳴き砂に滅り込みぬ 攝津幸彦 未刊句集
白粉の花が其処には咲いてゐて 京極杞陽 くくたち上巻
白粉の花に游ぶや預り子 松野青々
白粉の花ぬつて見る娘かな 一茶
白粉の花の匂ひとたしかめぬ 今井つる女
白粉の花小夜更くる籬かな 高橋淡路女 梶の葉
白粉の花落ち横に縦にかな 高濱虚子
白粉や落ちて霜踏む橋がゝり 了機 選集「板東太郎」
白粉をつければ湯女や五加木つむ 高濱虚子
白粉を塗る不所存や蚊喰鳥 道芝 久保田万太郎
白粉吹いて全く枯れし巨木かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
白粉気なくて人柄秋袷 阿部みどり女 笹鳴
白粉気ぬきでひと朝河豚買ひに 鈴木真砂女 夕螢
白粉気抜けし花街鳥総松 岡部義男
白粉花 犬も一緒に老いる町 右近絢子
白粉花に咳して漁夫の深まなこ 原田喬
白粉花の勝手気ままに路地に殖ゆ 高澤良一 さざなみやつこ
白粉花の匂ひか月の匂ひかと 深見けん二 日月
白粉花の匂へる袋小路かな 吉田ひろし
白粉花の夕咲く香なり二日月 遠藤 はつ
白粉花の闇の匂ひのたちこめし 深見けん二
白粉花の風のおちつく縄電車 河野南畦
白粉花やあづかりし子に夜が来る 堀内春子
白粉花や多忙の窓辺土荒れぬ 中村草田男
白粉花や子供の髪を切つて捨て 岩田由美
白粉花や月の出端は闇に似て 長谷川草々
白粉花や百人町は暗い町 鳥居美智子
白粉花侏儒の喇叭を吹きにけり 高澤良一 燕音
白粉花吾子は淋しい子かも知れず 波多野爽波 『湯呑』
白粉花妻が好みて子も好む 宮津昭彦
白粉花平家都を落ち果てぬ 川崎展宏
白粉花過去に妻の日ありしかな きくちつねこ
白粉草の花の夕闇躓けり 渡辺桂子
看護婦白粉ぬつてゐる冬夜の病院の一隅 人間を彫る 大橋裸木
秋の雨白粉は咲く長柄かな 中島月笠 月笠句集
秋風や白粉やけといへるもの 野村喜舟 小石川
窮屈な社宅付き合ひ白粉花 山田弘子 初期作品
紅粉白粉と七夕姫の日半日 七夕 正岡子規
耳たぶに塗る白粉や春寒し 龍岡晋
花三日お白粉くさき山路哉 花 正岡子規
花白粉農の常口ひろやかに 石川桂郎 高蘆
菊の香や白粉の香や酒五合 尾崎紅葉
薫風や白粉吐きたるなんばの葉 西山泊雲 泊雲句集
虚空の穴いつみえそめし白粉花 齋藤愼爾
虫干や白粉の花さきこぼれ 村上鬼城
行年を紅粉白粉に京女 行く年 正岡子規
街路樹の裾の白粉花江東区 藤田湘子
襟迄も白粉ぬりて田植哉 一茶 ■文政元年戊寅(五十六歳)
誰が家の白粉花と云ふでなく 依光陽子
貨車過ぎて白粉花の散る兎舎の雨 宮武寒々 朱卓
賤が家に花白粉の赤かりき 白粉花 正岡子規
軽便の白粉くさく時雨けり 岩田昌寿 地の塩
道の端の白粉花に薄埃 船坂ちか子
道端に白粉花咲ぬ須磨の里 白粉花 正岡子規
遣羽子の白粉散るや肩先に 飯島百合女
遣羽子や鼻の白粉頬の墨 遣羽根 正岡子規
鉛入り白粉美人杜若 桑原三郎 晝夜 以後
降る雪淋しがつて白粉をとくてのひら 人間を彫る 大橋裸木
雁行くや白粉塗つて旅はじまる 栗林千津
雲行きの怪しくなれば白粉花悄気(しょげ) 高澤良一 素抱
髪置や白粉つけし艀の子 宇治五岳
鳥もトト魚もトト白粉の花に座る幼児 長谷川かな女 花 季
黒子に乗る白粉かなし花曇 田川飛旅子 『植樹祭』
齋館に白粉匂ふほととぎす 殿村莵絲子 牡 丹
●白蓮 
剪らんとす白蓮に手の届かざる 白蓮 正岡子規
原爆の日の白蓮に出遇ひけり 志摩知子
因陀羅(いんだら)の腕輪からりと白蓮華(ぷんだりか) 筑紫磐井 婆伽梵
大白蓮暁雲にふれしかも 松瀬青々
大紅蓮大白蓮の夜明かな 高浜虚子(1874-1959)
後楽の祖志や風立つ白蓮 福田竜青
日雷に咲くやおほむね白蓮 高橋馬相 秋山越
桂子忌や白蓮浄土まのあたり 渡辺笑鬼郎
田にあふれ白蓮ひとつ畦に咲く 水原秋櫻子
田舟して白蓮たるを求め得つ 会津八一
白蓮と輝き合ひて白鷺舞ふ 加藤知世子 黄 炎
白蓮にうつりて青き灯哉 白蓮 正岡子規
白蓮に人影さはる夜明けかな 蓼太「蓼太句集初編」
白蓮に歌はかよへど飢残り 加藤知世子 黄 炎
白蓮に貧乏寺の朝寝かな 山口花笠
白蓮のあまたは咲けど静かなる 水原秋桜子
白蓮のこの白を言わねばならぬ 大坪重治
白蓮の一茎高し泥の上 田村梛子
白蓮の中に灯ともす青さ哉 白蓮 正岡子規
白蓮の中の紅蓮を指しぬ 松藤夏山 夏山句集
白蓮の光量履歴書郵送す 設楽清子
白蓮の固き蕾の緑かな 成瀬正とし 星月夜
白蓮の夕閉づるあり僧帰山 松藤夏山 夏山句集
白蓮の夢より少し遠くかな 山田六甲
白蓮の散華を待てる男女あり 阿部みどり女
白蓮の朝あな貴にあな艶に 前山百年
白蓮の橋をはさみて咲きにけり 青陽人
白蓮の橋渡りそこ浮御堂 門屋大樹
白蓮の灯りきつたるとき哀し 古市絵未
白蓮の縁のくれなゐうひうひし 矢島渚男 延年
白蓮の落ちて地に銹ぶ天衣かな 櫛原希伊子
白蓮の闇を脱ぎつつ膨らめり 小枝秀穂女
白蓮の隈どりのごと月のかげ 上村占魚 鮎
白蓮の香にむせかへる小庭哉 白蓮 正岡子規
白蓮やあちらを向いて薄みどり 松藤夏山 夏山句集
白蓮やその瑞茎を巻きかへし 水原秋桜子
白蓮やはじけのこりて一二片 飯田蛇笏 霊芝
白蓮や浄土にものを探す風 中村草田男
白蓮や開かば露をこぼすべう 白蓮 正岡子規
白蓮より来て盤上の汗血馬 竹中宏 句集未収録
白蓮を切らんとぞおもふ僧のさま 蕪村 夏之部 ■ 律院を覗きて
白蓮を映し彼の世の水となる 満田春日
白蓮を活けたる下の夏書かな 赤木格堂
紅蓮の實飛びぬ白蓮の實も飛ぶ 蓮の実を結ぶ 正岡子規
至福の月日紅蓮白蓮 九鬼あきゑ
花寄せに白蓮生けて宗達忌 牧 鴻耳
開花了南無不可思議光白蓮華 前山百年
●白萩 
いのちなり白萩落花掬ふべき 河野多希女 月沙漠
かつらぎ庵の白萩はいまとの便り 岸田稚魚
りんりんと白萩しろし木戸に錠 三橋鷹女
卯辰山前に白萩うねり初め 高澤良一 宿好
吉良さまの墓や白萩走り咲く 雨宮民子
咲きし日より白萩こぼれとめどなし 徳永山冬子
唐招提寺裏白萩の一分咲き 松尾隆信
夜の風にこの白萩の乱れやう 桂信子
子規堂の白萩にまづ句ごころを 河野静雲
寂として白萩ばかりこぼれけり 永井龍男
少年の白萩かつぐ祭かな 遠山郁好
山のごとき白萩に日の動かざる 山村冨美子
山仕舞ひたる白萩に月夜かな 福田甲子雄
山伏の読経白萩聞き澄ます 金沢房子
括られてなほ白萩の彩ひろげ 野間田芳叢
掬へばこぼる白萩人の負はつづく 河野多希女 月沙漠
散り初めてより白萩の盛りかな 榎田きよ子
月下白萩滝浴むごとくくぐりけり 吉野義子
機械油の手に白萩をなつかしむ 三谷昭 獣身
汀女忌の白萩は白重ねをり 澤村昭代
病んでより白萩に露の繁く降る事よ 夏目漱石 明治四十三年
白萩といひ十五夜に刈りしといふ 高濱年尾 年尾句集
白萩にわれ過ぐる風たちにけり 野澤節子
白萩に古人は言ひぬ礼節を 田中冬二 若葉雨
白萩に堅く戸さすや夫の留守 長谷川かな女 雨 月
白萩に夢のほつれを繕へり 水下寿代
白萩に尻さはられつ畑を打つ 飴山實 辛酉小雪
白萩に幽霊の絵を売る男 鈴木鷹夫 春の門
白萩に湖の風来る陶干場 西村千鶴枝
白萩に禅の山風荒々し 大岳水一路
白萩に蜘蛛の吊りたる一花二花 永井龍男
白萩に解夏の草鞋を結ひにけり 橋本鶏二 年輪
白萩に風見えてをり化粧の間 関口謙太
白萩のあるじなくとも盛りかな 稚魚 (悼後藤夜半先生)
白萩のこぼれて悪僧護摩を焚く 会津八一
白萩のさかりの花にしづもれる光も人もとどまらなくに 清原令子
白萩のしきりに露をこぼしけり 正岡子規
白萩のつめたく夕日こぼしけり 上村占魚 鮎
白萩のみだれも月の夜々経たる 篠田悌二郎
白萩のみだれ雨ひく土昏し 臼田亞浪 定本亜浪句集
白萩のやさしき影を踏みゆけり 山内きま女
白萩のよそよそしさを久し振り 池田澄子 たましいの話
白萩の下枝揺るるはひとりごつ 西村和子 かりそめならず
白萩の余白に読みし戸籠かな 斎藤慎爾
白萩の塵掃く日々も過ぎにけり 深見けん二 日月
白萩の夜に入り一鬼うづくまる 寺井文子
白萩の散るは夕日のこぼるなり 細見綾子 黄 炎
白萩の散るをついばむ錦鯉 筒井 保
白萩の日を見てをりぬ抜歯後 鈴木鷹夫 渚通り
白萩の枝垂りつつなほ反れる 永井龍男
白萩の楚々たるを寄せ掃き給ふ 高澤良一 燕音
白萩の波に紅さす一枝あり 龍男
白萩の浄土すなはち恋地獄 手塚美佐 昔の香
白萩の白によせたる文綴り 加藤知世子 黄 炎
白萩の白打ち重ね重りたり 殿村莵絲子
白萩の花の奥なる朝夕 加藤知世子
白萩の花や繭蔵レストラン 山口富子
白萩の触るるたび散る待ちて散る 細見綾子 黄 炎
白萩の走りの花の五六粒 飴山實 『花浴び』
白萩の辺に一日ゐて風を見し 田中英子
白萩の雨に過ぎたる汀女の忌 姉川長玄
白萩の雨をこぼして束ねけり 杉田久女
白萩の露ふき落す薄哉 萩 正岡子規
白萩の風のこまかな葉の楕圓 加倉井秋を
白萩へ一夜泊りの障子かな 川崎展宏
白萩やこれよりさきはけものみち 大木あまり 雲の塔
白萩やふり分け髪の薄けはひ 水田正秀
白萩や乙女を諭す民謡もて 加藤知世子 花寂び
白萩や以ての外に露もなし 萩 正岡子規
白萩や克己のかほの閻魔王 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
白萩や呼ばれて踵かへしたり 阿部みどり女
白萩や夜のあけぎはをりんと澄む 萩 正岡子規
白萩や妻子自害の墓碑ばかり 宮坂静生(1937-)
白萩や忌につながりて姉弟 伊藤京子
白萩や星一つ消え二つ消え 萩 正岡子規
白萩や松を籬の高台寺 竹冷句鈔 角田竹冷
白萩や水にちぎれし枝の尖 萩 正岡子規
白萩や紅濃きは野にあるを見む 及川貞 榧の實
白萩や茂吉の墓へ水運ぶ 大坪景章
白萩や露ふる庭の草の中 南雅
白萩をくぐりて広し徳島城 佐藤緋沙
白萩をこぼして母の日暮かな 大林信爾
白萩を春ワかちとるちぎり哉 蕪村 秋之部 ■ 永西法師はさうなきすきもの也し、世を去りてふたとせに成ければ
白萩を植ゑてさびしきこと殖やす 中村路子
禅寺や白萩縁に這ひ上る 寺田寅彦
舞姫の足袋にこぼれる白萩のつかれ 田中よしみ
萩の中に猶白萩のあはれなり 萩 正岡子規
薬師寺の白萩濡らす雨にあふ 夏目満子
見ている人みないで白萩白い雲みている 佐藤良三郎
風もなく白萩ほろり涙ほど 古市絵未
馬と神のみ白萩の原にあリ 阿部みどり女
 
以上


by 575fudemakase | 2022-06-25 17:10 | ブログ


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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