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色の種類3 類語関連語(例句)

色の種類3 類語関連語(例句)

●真紅●深浅●新緑●煤色●雀色●菫色●赤褐色●赤色●石竹色●セピア色●鮮紅●蒼白●空色●代赭色●橙色●卵色●玉虫色●丹青●茶色●茶褐色●土気色●土の色 土色●朱鷺色 鴾色●どす黒し●鳶色●茄子紺●生白し●納戸色●丹●肉色●虹色●鈍色●乳白色●鼠色●濃厚●濃淡●灰色●バイオレット●白紙●白蛇●白色●白兵●肌の色●鳩羽鼠●花色●縹色●薔薇色●緋●鶸色●ピンク●深緑●葡萄色●ブラック●ベージュ●碧空●紅墨色●ほの紅し●真蒼●真白し●真赤●真黒●真青●真白●水色●緑 みどり●翠●緑色●紫 むらさき●萌黄●萌葱●桃色●山吹色●雪白●利休色●瑠璃●ろうかん●若紫●藁しべ色●ホワイト●つまくれない●菜の花色●くれなゐ


●真紅 
お花畑ゆふべ真紅の霧を噴く 堀口星眠 火山灰の道
かげろふよ真紅の椅子に掛けたまへ 進藤一考
がまずみの真紅母より便り来ず 石寒太 翔
げんげ田真紅一瞬にして白もどる 三谷昭 獣身
この薔薇のための真紅と思ふほど 今橋眞理子
すさまじき真紅捩れて雁来紅 八木林之介 青霞集
どぜう屋の炭火真紅に冬来る 細見綾子 黄 瀬
ひとり覚めポンポンダリアの真紅なり 瀧勧進帳
ふくろふに真紅の手毬つかれをり 加藤秋邨 怒濤
アマリリス眠りを知らずただ真紅 堀口星眠 営巣期
ガーベラの真紅の中に妻が居る 吉原波路
サルビヤの真紅伴天連ここに瞑る 下村ひろし 西陲集
ネッカチーフの真紅捲かれぬ踊らむか 毛塚静枝
バラ真紅天の濃淡うばひけり 河野南畦 『硝子の船』
仏桑花真紅の声を挙げて基地 山田みづえ
冬ばらの真紅に未来うるほへり 柴田白葉女 『夕浪』
初暦真紅をもつて始まりぬ 藤田湘子
南天の真紅撒きしは鵯か吾子か 堀口星眠 営巣期
厚房の真紅めでたし麻耶参 大谷句佛
口に薔薇それも真紅ぞタラップ゜踏む 本城佐和
古根に浮きて虎杖の芽や真紅 西山泊雲 泊雲句集
吸ふ息のはげしさ春のばら真紅 杉本寛
吾にまだ燃ゆるものあり薔薇真紅 石川文子
唐突の真紅がよけれ猩々木 高澤良一 鳩信
地球儀の列島真紅桜の夜 朔多恭
夕焼けて真紅のくらげ渦とゆく 佐野まもる 海郷
夕焼へ真紅の玻璃扉ひらき出づ 鷲谷七菜子 黄 炎
夕焼消え真紅の薔薇を抱き来し 野見山朱鳥
大いなる紅葉の真紅揺らぎをる 京極杞陽 くくたち上巻
大寒や真紅に伸びる日の翼 相馬遷子 山河
太子会やかかげて貝の華真紅 飯田晴子
婚の燭焔をたつるとき薔薇真紅 加藤耕子
子への愛編み込むセーター真紅なる 杉森かつ江
実南天柄まで真紅や自若たり 草田男 (聚光院の利休自刃の間の内外にて)
実南天紅葉もして真紅なり 鈴木花蓑
実茨のひとかたまりの真紅かな 岡田日郎
富士茜真紅の冬日しづみければ 篠原梵 雨
寒梅に夕日の真紅浸み透る 笹尾操子
巨いなる真紅の如露を農婦提ぐ 石田波郷
布団はね咳きむせぶもの真紅なり 中尾白雨 中尾白雨句集
干梅の夜も真紅の香を送る 高橋利雄
忘年や醸(う)れて梅酒の真紅 辻桃子
愛染や花の荒びの真紅 長谷川 櫂
戸の隙に真紅の日あり寒の入 相馬遷子 山河
旅情まづ梯梧の真紅那覇五月 河野静雲
春の夜の灯を消せばなほ真紅の衣 長谷川かな女 雨 月
春暮るる雉子の頬の真紅 福田蓼汀
梅干の種の真紅と蟻地獄 近藤一鴻
梅雨めくや入日真紅に真円に 相馬遷子 山河
森の奥の夜の雪のおくの真紅のまんじ 高柳重信
椿真紅椿純白霊気満つ 滝青佳
檀の実裂ける力ぞ真紅 斎藤素子
母病むや闇に真紅の躑躅燃え 相馬遷子 雪嶺
活けられて寒薔薇真紅なる呪詛 嶋田麻紀
流水に真紅うつらず蛇苺 山口誓子
海人の子に真紅の破魔矢にぎらしむ 原田喬
渓紅葉真紅の妻の振りかへる 落合水尾
渾身の力は真紅冬木の芽 折井眞琴
火炉の天真紅に染みぬ春の闇 樋口玉蹊子
焚火やがて真紅となりぬ四辺なし 栗生純夫 科野路
爆心地真紅は薔薇のほかになし 池田秀水
牡丹に未開の真紅かじか領 原裕 青垣
犬の舌枯野に垂れて真紅なり 野見山朱鳥
猟期果つ真紅のシャツを風に吊り 菅原多つを
玉の緒の今こそ真紅初日いづ 千代田葛彦
畳よりすぐに真紅に雛の段 中田みづほ
皮の真紅身に滲みおり堅き桃 田川飛旅子 花文字
真紅とはこの花のことアマリリス 川口咲子
真紅とは瞼にともる唐辛子 中村明子
真紅なる薔薇抱かされぬ秋灯裡 石塚友二
真紅もて白昼を継ぐ灌仏会 小笠原理
秋湖澄み富士の落日真紅なり 富安風生
秋航へ鮫の真紅の肺を見て 齋藤愼爾
簪の珠真紅かねたたき 中田剛 珠樹以後
粉炭の火掻けばたのしき真紅あり 篠原梵 雨
絨毯の真紅に年の豆こぼれ 大野紫水
網膜に芥子の真紅を真紅に鐫り 竹下しづの女句文集 昭和十二年
老いらくの血を耀かす薔薇真紅 小出秋光
耳袋真紅に鶴を見てゐたり 喜多みき子
膝掛は真紅花見の人力車 村上美枝
船絵馬の旭真紅に雪解かな 野沢節子 八朶集
芍薬や蕊の心まで真紅にて 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
花咲蟹茄でて真紅を越えにけり 吉田紫乃
草田男忌薔薇の真紅がくづれさう 蛯名晶子(薫風)
菜殻火の立ちしふところこそ真紅 皆吉爽雨 泉声
蓬莱の国の真紅の賀状かな 小宮山政子
薔薇の芽の真紅を洗ふ雨となりぬ 岡田日郎
薔薇の芽の真紅詩の血を師より享け 早崎明
薔薇は真紅すつくと挿されありにけり ふけとしこ 鎌の刃
赤城君真紅の薔薇だよ「さようなら」 橋本夢道 無類の妻
踊り子へやんやと放つ薔薇真紅 嶋田麻紀
踊る夜を嬢っこ真紅のしごき帯 高澤良一 素抱
返り咲くための蕾を真紅にす 池田秀水
釣られざま鱸真紅の口開く 磯直進
鍵束の紐を真紅に父亡き秋 神尾久美子 掌
雪の嶺真紅に暮るゝ風の中 相馬遷子 山国
雪をんな襦袢は真紅かも知れぬ 山元志津香
青いのと真紅と笊のたうがらし 川崎展宏 冬
青天と辛夷とそして真紅な嘘 三橋鷹女
青木の実青きを経たる真紅 貞弘衛
鞭かざす馬上の友や薔薇真紅 角田 泰子
馬柵の下凍る苔桃真紅なり 堀口星眠 火山灰の道
鳥雲に真紅の毬をかなしめり 永島靖子
鳳凰木真紅に咲けり蝶湧けり 石原八束 『藍微塵』
鶏冠の真紅ながるる露むぐら 堀口星眠 営巣期
麦稈を焚く火の真紅その日暮し 平畑静塔
黐の実の真紅きはまる法隆寺 佐々木蔦芳
ぶな・いたや炉に静けしやまくれなゐ 林原耒井 蜩
まくれなゐなる睡蓮の一巻葉 上野さち子
初日いまわが遺伝子のまくれなゐ 引地冬樹
寒椿咲き切れずあるまくれなゐ 島村茂雄
明日ひらく牡丹にしてまくれなゐ 大石悦子 群萌
春疾風火を抱き窯まくれなゐ 長谷川櫂 天球
洲の芦の騒ぎ竃火まくれなゐ 木村蕪城 寒泉
浜なしのくらつとゆれるまくれなゐ 松澤昭 麓入
湯上りの子のまくれなゐクリスマス 赤松子
生国や寒の朝日のまくれなゐ 木附沢麦青
秋耕の鞍のざぶとんまくれなゐ 竹下しづの女
笹みどり鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎
笹緑鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎 金澤百句
絶海の一方向のまくれなゐ 横山康夫
芍薬の芽のまくれなゐ手毬唄 寺井瑞魚
金時の墓の病葉まくれなゐ 松永みね子
一政の心頭の薔薇真くれなゐ 高澤良一 宿好
一葉忌以後に散る葉の真くれなゐ 佐野まもる
不忠不孝の人山茶花の真くれなゐ 飯島晴子
八重白梅支ふる萼の真くれなゐ 都筑智子
啼きあぐる鶴口中の真くれなゐ 上野さち子
嘘質すべきか椿の真くれなゐ 稲垣きくの 牡 丹
土用芽のわけてもばらは真くれなゐ 篠田悌二郎
大賀蓮神も仏も真くれなゐ 古谷比呂子
寒椿その一喝の真くれなゐ 徳武貞子
明日は明日の旅あり焚火真くれなゐ 伊藤京子
湿原の冬木に実あり真くれなゐ 殿村莵絲子 雨 月
紅梅は蕾のうちの真くれなゐ 高澤良一 鳩信
美男かつら誰がつけし名ぞ真くれなゐ 山崎豊女
言ひすぎし悔い冬薔薇の真くれなゐ 鈴木とし子
遍路笠きりりと紐の真くれなゐ 永沼弥生
開かんとして躑躅たち真くれなゐ 中川宋淵 命篇
●深浅
●新緑 
あの丘に熊鷹が居て新緑なり 福富健男
いくつかの部屋新緑の椅子の部屋 山口誓子
きよお!と喚いてこの汽車はゆく新緑の夜中 金子兜太(1919-)
わが心わが身新緑の山に入る 相馬遷子 雪嶺
一雨きて新緑空を覆ひけり 井山茂臣
並木新緑花道めきて別れけり 原子公平「浚渫船」
列車快走す新緑の防雪林 内藤吐天 鳴海抄
十重二十重新緑まとふ西方寺 佐藤恒朗
去年の雌花くろいやしやの新緑 北原白秋
友讃へあふ新緑の若者たち 福田甲子雄
口を漱ぎて新緑の駅にまた 中田剛 竟日
古塔小さし洩れ日翻りの新緑に 石原八束 空の渚
塔仰ぐとき新緑に染まりつゝ 稲畑汀子
天気もちにもって新緑寸又峡 高澤良一 ぱらりとせ
夫を待つ坂多き街新緑の 対馬康子 愛国
妻子いつ呼べるや新緑の真只中 石橋辰之助
姨岩を囲む新緑柔らかし 野村倶子
実験の火は新緑の上に育つ 古舘曹人 能登の蛙
宿一歩出て新緑に目を細む 高澤良一 素抱
少年よ新緑を汝がたてがみに 渡辺恭子
山毛欅新緑足跡残してはならぬ 津田清子
師の句集言葉の飛沫新緑に 肥後悦子
快復す新緑に躬をふかく容れ 池田秀水
忽ち拡がり拡がる新緑は野武士的 山岡敬典
摩天楼より新緑がパセリほど 鷹羽狩行「翼灯集」
新緑がもえても 平和の鳩が とびたゝない 吉岡禅寺洞
新緑が人のすきまを埋めてゆく 中田 美子
新緑が新緑を染め人を染め 星野椿「星野椿句集」
新緑にさだかならざる目鼻かな 京極杞陽 くくたち下巻
新緑にしばし讀書の瞳を癒す 新井フミ
新緑にひたりて心透明に 岡部 菊
新緑にひたる贅沢職を辞す 林良子(知音)
新緑にひゞかひ堂の階を踏む 米沢吾亦紅 童顔
新緑に伸びし眉毛を切りおとす 相馬遷子 山河
新緑に俗を離れて離宮かな 幸数限
新緑に含みて釘の酸ゆきかな 長谷川櫂 天球
新緑に吹きもまれゐる日ざしかな 深見けん二
新緑に命かがやく日なりけり 稲畑汀子「障子明り」
新緑に噎せて大日峠越え 浅場英彦
新緑に慣れたところで山下る日 高澤良一 素抱
新緑に抱き余す子の手足かな 長谷川櫂 天球
新緑に指染めて指す滝への道 高橋悦男
新緑に栗鼠の神出鬼没かな 神田貴代
新緑に浮浪者蒼き目をしたる 対馬康子 吾亦紅
新緑に神の笛吹く男の子 若林かつ子
新緑に立つけだるさは祖母ゆずり 鎌倉佐弓 天窓から
新緑に紛れず杉の林立す 山口波津女
新緑に鑿の重みの道具箱 長谷川櫂 天球
新緑に開発すすむ石油の香 大島民郎
新緑に雨ひかり降り降りやまず 柴田白葉女 花寂び 以後
新緑の 陰影の深さ 鮎解禁はまだです 吉岡禅寺洞
新緑のうねり隣家を遠くせり 大山昭雄
新緑のなかに陶焼く一戸あり 井上てつこ
新緑のなかまつすぐな幹ならぶ 桂信子 黄 瀬
新緑のなか新緑の旧火口 原 雅子
新緑のもとにて髪の吹かれ立ち 藤後左右
新緑のアパート妻を玻璃囲ひ 鷹羽狩行(1930-)
新緑のジャックナイフとパセリ買う 岸本マチ子
新緑のダム白炎の水吐けり 前山松花
新緑のレース綴れり御堂筋 西村和子 かりそめならず
新緑の中にひかりのこぼれきてキリストのごとく立つ黒き幹 浅野光一
新緑の中や*いもりの水しづか 中村秋晴
新緑の中より白鳳城聳ゆ 中森美年子
新緑の中鼎談の椅子置かれ 池田秀水
新緑の光へと旅立ちにけり 明石はま子
新緑の名城公園散策す 籠谷充喜
新緑の城に掲げし寄附の額 宮坂静生 青胡桃
新緑の夜空混み合ふ電波かな 仲寒蝉「海市郵便」
新緑の大沼小沼蝦夷にして 町 春草
新緑の天にのこれりピアノの音 目迫秩父
新緑の寺の電話を借りにけり 増田龍雨 龍雨句集
新緑の山並鏡なせりけり 原裕 『王城句帖』
新緑の山径をゆく死の報せ 飯田龍太
新緑の山迫り来て声となる 高久フミ
新緑の島根を洗ふ濤の段 西島麥南
新緑の庭より靴を脱ぎ上る 山口誓子
新緑の彩のちがひも信濃かな 加藤哲也
新緑の押し寄せてゐる一山村 高澤良一 素抱
新緑の朝いつせいに送信す 吉田悦花
新緑の枝混り合ひ許し合ふ 保坂リエ
新緑の森をいできし濁り水 鈴木六林男 国境
新緑の椎の最も昂れる 百合山羽公
新緑の槐の陰に小鮒売 小林螢二
新緑の此岸に村はかたまりて 高澤良一 素抱
新緑の水に老醜山椒魚 浅羽緑子
新緑の流れうれしき蛇石かな 矢島渚男 延年
新緑の深さ競ひて医科法科 小松原みや子
新緑の町へ来る汽車の音です 北原白秋
新緑の真っ只中の車椅子 長曽我部里子
新緑の真中の我に闇ひとつ 藤木加代子
新緑の真只中に祝はるる 長谷川回天
新緑の紀ノ川渡り結納す 重松文江
新緑の肺に溶け入る湖畔荘 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
新緑の血潮を永久に龍馬像 渡辺恭子
新緑の街をゆく掌をポケットに 藤後左右
新緑の街路樹幹を敵と知らず 斎藤玄
新緑の裏山見せに母背負ふ 宮谷昌代
新緑の郵便局を左折せよ 島田牙城
新緑の重なり合うて長谷舞台 塩川雄三
新緑の野点の席に雲流る 小林律子
新緑の闇よりヨーヨー引き戻す 浦川聡子「水の宅急便」
新緑の雨や石上のかたつむり 内藤吐天 鳴海抄
新緑の雨古靴と古鞄 小出秋光
新緑の風にゆらるるおもひにて 飯田蛇笏 椿花集
新緑の香に新緑の風を待つ 稲畑汀子
新緑へでて遊びたい仏たち 谷口ふみ子
新緑へ窓を閉ざして修道院 泊 康夫
新緑めぐらし胎児育ててむわれ尊 金子皆子
新緑もビルも流れて子を産みに 森田智子「全景」
新緑やあきらかに捧げ元帥刀 渡邊水巴 富士
新緑やいよいよふるぶ屋根と墓 田川飛旅子 花文字
新緑やうつくしかりしひとの老 日野草城
新緑やかぐろき幹につらぬかれ 日野草城
新緑やこつてり絵具つけて画く 高田風人子
新緑やたへにも白き琴弾く像 山口青邨
新緑やたましひぬれて魚あさる 渡邊水巴
新緑やまた水楢に歩をとゞめ 佐野青陽人 天の川
新緑やもつたいなくて帽子とる 太田土男
新緑やグレンミラーの風つれて 大原禎子
新緑やチヨークで道に道を描き 対馬康子 純情
新緑や人の少なき貴船村 波多野爽波「舗道の花」
新緑や仰ぎて叩く楡の幹 望月皓二
新緑や兄欲る東大構内に 秋元不死男
新緑や夜まで遊ぶ鹿を見し 阿部みどり女
新緑や己が命をゆさぶらん 石川眞弓
新緑や愛されたくて手を洗う 対馬康子 純情
新緑や暁色到る雨の中 日野草城
新緑や暮らしの端に欅立つ 岩淵喜代子 朝の椅子
新緑や木椅子に昨夜のしめりあり 岡和絵
新緑や水恋鳥が啼きしと云ふ 渡辺水巴 白日
新緑や濯ぐばかりに肘若し 森澄雄「雪櫟」
新緑や生れし子に逢ふ硝子越し 福永 耕二
新緑や皇居名残の霊柩車 渡辺水巴 白日
新緑や目薬させば目の新た 長崎雁来子
新緑や石をこえゆく水の音 曽我玉枝
新緑や神居古潭の家煙る 穴井太 原郷樹林
新緑や絶壁のひび海に入る 新田祐久
新緑や芥のごとき汽車の中 百合山羽公 故園
新緑や菩薩六体顔ほてる 米村昌子
新緑や足どり軽き宮参り 横溝三男
新緑や飛びゆくもののためらはず 岩田由美 夏安
新緑や飛騨国神斧持つて 矢島渚男 延年
新緑や髪の捲きかたかへて見き 加藤知世子
新緑や魚棲むらんか枝に石に 渡辺水巴 白日
新緑や鳥語木語と縫い歩き 穴井太 原郷樹林
新緑をしきりに揺する不発弾 穴井太 原郷樹林
新緑を洗い晒して雨あがる 丸山實子
新緑を見透かせぬなり遺骨抱き 澁谷道
杉の香に新緑邃し楞厳寺 河野南畦 湖の森
村は新緑戸籍に死にし兵帰る 橋本夢道 無礼なる妻
来る・たしかな新緑をあなたが来る 田中 陽
来る日が来て母焼く新緑のなかに 山本つぼみ
森深き新緑の中幹が立つ 中島斌雄
植ゑられてすぐ新緑に加はれり 上田五千石
水飲んで新緑の山膨らます 小島健 木の実
河原木もまた新緑を怠らず 綾部仁喜 寒木
海中にも新緑のあり揺らぎをり つじ加代子
滝の如き新緑貧を遊びをり 小林康治 玄霜
眼帯の宇宙半減して新緑 山本すわ子
硝子の新緑光今朝来た蠅 北原白秋
硝子絵の騎士新緑の窓へ向く 柳田 稔
神木や新緑界を抽んでて 上田五千石 田園
篁子が匍ひ出した梅の新緑 北原白秋
職退かな新緑の渦組みほつれ 上林 裕
西塔残花に在り東塔は新緑に 日野草城
車窓新緑故山に向ふうづくまり 森澄雄 雪櫟
雑木の新緑見おろして何か光る木 北原白秋
●煤色 
夜のみ知足煤色淡め灯の障子 香西照雄 対話
●雀色 
二日はや雀色時人恋し 志摩芳次郎
春雷や雀色時妻待てば 清水基吉 寒蕭々
棗の実雀色時地より湧く 小池文子 巴里蕭条
目借時雀に雀色の草 岩淵喜代子 硝子の仲間
稲雀黄に溺れずに雀色 栗原加実
竹の皮散るよと見れば雀色 清水基吉 寒蕭々
花降れる地べたに雀色動く 高澤良一 燕音
芽ぶき雨雀色時過ぎにけり 宮坂静生 春の鹿
萱を負ひ雀色時おし黙る 山口誓子
蓑干して左千夫生家は雀色 松山足羽
雀らに雀色時炉火ほしや 石野兌
雀色時雨は光輪持ちて降る 大野林火
雪を削ぐ流れひしめく雀色 成田千空 地霊
●菫色 
伊勢海老のどことは言はず菫いろ 角川照子
ねむる子に北の春暁すみれ色 成田千空
峯雲の翳の陸地の菫色 八木林之介 青霞集
暖冬の月上げて空菫色 田川飛旅子
ねむる子に北の春暁すみれ色 成田千空
すみれ色の催眠薬の朧なり 内田美紗 誕生日
●赤褐色 
鰻焼き一筋の母赤褐色 青木節子
●赤色 
例ふれば恥の赤色雛の段 八木三日女 紅 茸
火の国の牛は赤色麦の秋 谷合青洋
●石竹色
●セピア色 
わが声のセピア色かも暑気中り 西村梛子
セピアとは眼裏のいろ去年今年 皆吉司
セピアの写真泛く 鮭上る日の珈琲店 伊丹公子 アーギライト
フランスの秋はセピアと申せませう 笠原蜻蛉子
忽然と/紫影色(セピア)/羽つけし/一家族 折笠美秋 火傅書
惜春の少年の子規セピア色 岩田佳世子
春はあけぼの復刊本もセピア色 渡邊かづ子
暮れなずむセピアの家並み一葉忌 西本公明
水温む長堤いまだセピア色 長谷川昌子
炉明りやセピアに褪せてレノンゐる 橋本榮治 麦生
魂のセピア色なる終戦日 菱川イツ子
●鮮紅 
日のみ鮮紅万象暁の凍ての中 福田蓼汀 秋風挽歌
灯蛾や医師鮮紅の薬吾に与へ 橋本榮治
花びらの鮮紅崩す牡丹鍋 関根常夫
鮭の切身の鮮紅に足とむる旅 能村登四郎
鮮紅のサーモン切身聖夜くる 高澤良一 宿好
●蒼白 
ごきぶりを打つ蒼白の刻にゐて 小澤克己
まどろみの後蒼白の牡丹かな 塚本邦雄 甘露
わが紅葉蒼白なればいちにちみる 阿部完市 にもつは絵馬
一瞬蒼白の踏切をおき喪の東北 金子兜太 蜿蜿
万緑を抜けし列車は蒼白に 小林 武
司教にある蒼白の丘疾風の鳥 金子兜太
大綿に蒼白の渦浮きあがる 村上高悦
山霧を行かせ蒼白なり氷河 有働亨 汐路
抗癌剤効きゆく桜蒼白に 中尾杏子
故郷の蒼白の文字と水の空 阿部完市 証
暦日を詰め蒼白の新日記 楠本憲吉
母も来て見よ四弁蒼白なるどくだみ 鮫島康子
流氷の蒼白に日をとどめをり 佐藤 国夫
深昼寝して蒼白に起き出づる 能村登四郎
片影を僧の蒼白来つ往きつ 殿村莵絲子 雨 月
蒼白きものふるへ来る月の霜 渡辺水巴 白日
蒼白き雲海に富士日の出待つ 沢 聰
蒼白くかもしか佇てる岩の上 坊城としあつ
蒼白く夕かげりたる辛夷かな 鈴木花蓑句集
蒼白となりて入りゆくさくらかな 岸田稚魚 『雪涅槃』
蒼白な火事跡の靴下蝶発てり 赤尾兜子
蒼白に黎明のぼり凍りつく 成田千空 地霊
蒼白のキリスト水餅に触りて 小川双々子
蒼白の国境にきて 哄笑ふかな 富澤赤黄男
蒼白の磔像肋らに夜露ため 後藤綾子
蒼白の軍鶏のたましひ月夜なり 酒井破天
蕨ひく山の大きさなど蒼白 松澤昭 父ら
離陸後に会う既望の蒼白と 澁谷道
●空色 
おはじきは今朝の空いろ芙蓉咲く 古沢太穂
そらまめの葉裏空色招提寺 沢木欣一
また逢わんいぬのふぐりは空色に 古沢太穂 古沢太穂句集
ネクタイは鳩の空色七五三 後藤夜半 底紅
久方の空色の毛糸編んでをり 久保田万太郎(1889-1963)
寒烏傾くときは空色に 加藤知世子 黄 炎
曙の空色衣かへにけり 一茶 ■文化四年丁卯(四十五歳)
朝顔のみな空色に日向灘 川崎展宏
沼と空色を同じに蘆花日和 石井とし夫
目薬は夜も空色猫の恋 宮脇白夜
稲雀日は空色に磨かれて 津田清子 礼 拝
空は空いろ水は水いろ原爆忌 滝井清子
空色のクレヨン眠る五月かな 横溝藤子
空色のゴム手袋や牡蠣を割る 松本みず代
空色の山は上総か霜日和 一茶 ■文政五年壬午(六十歳)
空色の水飛び飛びの枯野かな 松本たかし
空色は男の色よ新学期 田島秀子
空色は褪めつつ母と洗う罎 津沢マサ子
空豆空色負けるということ 阿部完市
長月の空色袴きたりけり 一茶
長月の空色袷きたりけり 小林一茶
露草の空色の花の咲くあたり 堺利彦 豊多摩と巣鴨
麦藁を染めバラ色に空色に 後藤夜半 底紅
●代赭色 
金盞花挙げて畑土代赭いろ 高澤良一 随笑
スラムの掌うごめく黒と代赭の壁 安西篤
きたぐにのぶら~している代赭の馬 細谷源二
●橙色 
屋根替へし橙色に峡の雨 滝春一
楪に橙色を流しけり 増田龍雨 龍雨句集
胡麻屋 油屋 雪降る奥の橙色 伊丹公子 陶器の天使
●卵色 
あたたかやあひるの雛の卵色 牛山一庭人
寒月も盈ちゆき頃の掻卵色 横澤放川
渇水季卵色なる電気點く 石塚友二
絵のある茶碗を子に買ふ春日も卵色 磯貝碧蹄館 握手
補陀落の那智の春月卵いろ 前山松花
鮎の斑の卵色なるつかれかな 志城柏
●玉虫色 
たましいの玉虫色に春暮れたり 橋石 和栲
玉虫の死して玉虫いろ失せず 遠藤若狭男「青年」
玉虫の玉虫色の生き難し 津嶋 和
葉ぼたんの玉虫色の中の闇 早乙女文子
雪降る淵玉虫色に紬織る 加藤知世子 花寂び
香水に玉虫色の目となんぬ 三谷昭 獣身
●丹青 
丹青のついに氷柱となりにけり 五島高資
応挙が丹青あはれ萩の中 会津八一
●茶色 
とげの木に蔓草枯れて茶色の實 枯草 正岡子規
ミニヨンの唄に茶色の毛虫あり 長谷川かな女 雨 月
六月やひき茶色なる舞扇 今泉貞鳳
冬の日や茶色の裏は紺の山 夏目漱石
如月の工夫大きな茶色の目 中村草田男
子山羊ねて青草の中茶色の目 中山純子 茜
昼顔に茶色の蝶の狂ひ哉 昼顔 正岡子規
朝顏の澁色茶色なども咲きぬ 朝顔 正岡子規
木瓜の実は茶色にまろし秋立ちぬ 渡邊水巴 富士
沢山の蝶々をれど皆茶色 星野立子
海南風死に到るまで茶色の瞳 橋本多佳子「紅絲」
石を蹴る どこも茶色の防風林 星永文夫
稚虫背にうすうすと茶色の斑 阿部みどり女 月下美人
稲妻の蚊帳をすかして茶色なり 子規句集 虚子・碧梧桐選
箒売り木枯沁みし茶色の瞳 八牧美喜子
紅葉してゐるや茶色に紫に 岸本尚毅
紫蘇畠の茶色に秋の別れかな 癖三酔句集 岡本癖三酔
花の川往き来の鴨の頭の茶いろ 高澤良一 素抱
菜の花や雲は茶色の入日影 菜の花 正岡子規
遠い昔の秋や茶色の皮表紙 栗林千津
野分あと茶色の蝶をつけ戻る 細見綾子 黄 炎
雨のふるさくら咲き出て茶色哉 滝井孝作 浮寝鳥
鳥渡る茶色の卵ひびわれて 穴井太 原郷樹林
●茶褐色 
桃の虻皆光り飛び茶褐色 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
田舎にて老母も虻も茶褐色 永田耕衣 驢鳴集
●土気色
●土の色 土色 
まひる野や土色草色のバツタ跳ね 中拓夫 愛鷹
むらさき茸夜は土色となつてをり 石脇みはる
土色に光る横顔別れ霜 早乙女未知
土色の 黄昏色の 頭ののこれる 富澤赤黄男
土色の冬ひしひしと野にきびし 長谷川素逝 砲車
土色の蜥蜴流人の墓ひとつ 宮坂静生 雹
日かげれば麦蒔消えぬ土色に 鈴木花蓑句集
秋蝶の土をはなれて土色に 古館曹人
萌ゆる色を耕してゆく土色に 及川貞 榧の實
お降りのつくづく深き土の色 宇咲冬男
ラガー等の土の色はや暮色帯ぶ 宮坂静生 青胡桃
井守手を可愛くつきし土の色 中村汀女
人死や雪の融けたる土の色 桑原三郎 龍集
名月やしづまりかへる土の色 許六
地雲雀の一生背負う土の色 土井孝
孕みたる雀がゐたる土の色 榎本冬一郎 眼光
寒肥やひと艶増せる土の色 檜 紀代
日短かや土の色して藁の屋根 成田千空 地霊
曇る田も春へ急げる土の色 阿部みどり女
猪の昨夜に荒らせし土の色 平山邦子
畑打やや僅に乾く土の色 法師句集 佐久間法師
直土の色改り蟻の変 下村槐太 天涯
紅梅や古き都の土の色 蕪村
萩か根や露にぬれたる土の色 露 正岡子規
蒟蒻すだれ土の色して道せばむ 宮津昭彦
蒟蒻玉土の色もて乾くなり 福原十王
蜂の巣の土の色して生まれたり 宮田正和
蝶とんで黄土の色にまぎれざる 依田明倫
蟷螂は渋民村の土の色 菅原多つを
鍬始め一と打ちごとの土の色 矢口由起枝
雪ふつて屍に沁みつ土の色 日夏耿之介 婆羅門俳諧
●朱鷺色 鴾色 
母のみが朱鷺色といふ蓮咲きぬ 金久美智子
足袋履いてみて朱鷺色の朝かな 鈴木允子
朱鷺色の衿裏なりき雪の宿 橋石 和栲
冬安居佐久の端山の鴾色に 土屋未知
●どす黒し
●鳶色 
冬の鳶色の夕暮 かけぬけたのは 霊柩車だつた 吉岡禅寺洞
初日いつもの鳶色の日輪となる 菅裸馬
剣鳶色花の皮膚もつアンドロメダ 河野多希女 納め髪
受験日の鳶色の眼を発たせけり 都筑智子
寒地農頬鳶色の秋日和 久米正雄 返り花
鳶色を富士見西行に着せむ 渋谷道
●茄子紺 
漬茄子紺きつぱりと朝の卓 松本有美子
真夏日の茄子紺 亡母の好きな色 中田敏樹「デ・キリコの箱」
茄子紺に恵那山昏るる涼しさよ 西本一都
茄子紺の会津の空や雁渡る 今泉貞鳳
茄子紺の空と暮れける我鬼忌かな 鈴木しげを
茄子苗や茄子紺といふ茎の色 瀧 春一
●生白し 
なま白き鬼灯の花雨を呼ぶ 高澤良一 素抱
まんじゅさげ生白の茎にょきにょきと 高澤良一 宿好
引きぬきし十薬の根の生白さ 横山房子
蟻はらふときわが肘の生白さ 百合山羽公 故園
●納戸色 
母の日の山が暮れゆく納戸色 中村明子(萬緑)
納戸色秋風母の羽織より 川崎展宏
綿虫や納戸色なる妹背山 矢部白茅
鳥渡る納戸色なる湖の町 小田 亨
●丹
●肉色 
ある街の木瓜の肉色頭を去らず 三谷昭 獣身
冬近き薪は肉色霧巻く小屋 大井雅人 龍岡村
塗椀の内の肉色秋の暮 金子青銅
年終る運河の夕日肉色に 三谷昭 獣身
芽吹く前の谷は肉色友の家 大井雅人 龍岡村
●虹色 
てんたう虫虹色夫が掌より立つ 小池文子 巴里蕭条
ストックや安房虹色に夕暮れて 大見川久代
ビーズの衣跼む虹色寒ともし 中戸川朝人 星辰
ルノアールの裸婦は虹色冬に入る 瀧 春一
夢こそ短し虹色の蟻失せて 齋藤愼爾
春光へ炉火虹色に燃親ふ 加藤知世子 黄 炎
時雨虹色うらがへるとき二重 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
替へたての水虹色にヒヤシンス 平田はつみ
枯れ透ける地や虹色の中尊寺 殿村莵絲子 牡 丹
検温の腋下虹いろ雪遠し 寺田京子 日の鷹
沖に出て気球虹色卒業期 小野恵美子
虹消えて虹色の蟻失せにけり 堀井春一郎
虹色に蜘蛛の囲懸かる雨上り 上原花宵
虹色の光ひとすぢつらら折る 仙田洋子 橋のあなたに
虹色の波くる悶絶しそうな夜 八木三日女 落葉期
雉歩く頸の虹色さざめかせ 長嶺千晶
雪光満つ夜明けの湖は虹色に 加藤知世子 黄 炎
鶏頭のチカ~~と虹色に 京極杞陽 くくたち上巻
黒鯛の潮のしたたり虹色に きくちつねこ
●鈍色 
にび色の浦より低く末枯るる 文子
カーテンに鈍色寒き塑像かな 雉子郎句集 石島雉子郎
多喜二忌や鈍色の浪くづれたる 大竹多可志
蒲の穂の鈍色人に知られぬ過去 青木千秋
親不知沖鈍色に海猫帰る 戸塚あらた
鈍色の命婦の袴春寒し 春寒し 正岡子規
鈍色の地球に沿つて蚯蚓這ふ 辻村麻乃
鈍色の淡海のうみや秋の暮 石塚友二
雪片となるまではただ鈍色に 猪俣千代子
鷹渡る彼方や鵜川鈍色に 松井利彦
●乳白色 
蝉交む乳白色の部分かな 永田耕衣 吹毛集
●鼠色 
明け易き夜頃や富士の鼠色 明け易し 正岡子規
銀鼠色の夜空も春隣り 飯田龍太
●濃厚
●濃淡 
その奥の闇の濃淡虫時雨 成井 侃
につこうきすげ風の濃淡流れたり 鍵和田[のり]子
ものの芽の濃淡うつし川ふかむ 山本つぼみ
バラ真紅天の濃淡うばひけり 河野南畦 『硝子の船』
典雅にふるえて 蘭の濃淡 華僑の店 伊丹公子 アーギライト
咲き満ちて濃淡のある櫻かな 阿部みどり女
夾竹桃の影の濃淡 母来る道 伊丹公子 時間紀行
幽霊が出る城 尖塔への闇の濃淡 伊丹公子 アーギライト
日が射せば蝌蚪に濃淡ありにけり 前山松花
日光きすげ風の濃淡流れたり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
朝霧に陽射し濃淡森の脳波 平井さち子 完流
木漏れ日の濃淡竹は皮を脱ぐ 鈴木定代
梅の香の濃淡風のうらおもて 朝倉和江
梅雨雲の濃淡悼む世の濃淡 古沢太穂 古沢太穂句集
沖までの潮の濃淡雁渡し 柊 愁生
濃淡の紅葉の奥を秘境とす 柴田白陽
濃淡の霧にしづみぬ羽黒杉 山上樹実雄
疎林起伏に菫濃淡妣の国へ 鍵和田[ゆう]子 未来図
病棟のひとの濃淡ゆすらうめ 片岡秀樹
盆唄のやみの濃淡ながれだす 桜井博道 海上
真闇にも濃淡ありし追儺の灯 根岸善雄
眠りにも濃淡ありぬ月日貝 小泉八重子
緑蔭の濃淡抜けてわが身なる 河野多希女 月沙漠
花岩菲色に濃淡なかりけり 高浜年尾
降る雪のつもる濃淡ありにけり 志摩芳次郎
露草や濃淡絶し今朝の空 中村草田男
青芝に雨意の濃淡くちすすぐ 安東次男 裏山
鵜舟ゆく闇に濃淡ありにけり はやし 碧
●灰色 
一羽なりや頭に入りくる灰色雁 阿部完市 軽のやまめ
冴え返る空灰色に凧一つ 会津八一
初冬の雲灰色に沖の方 桑村竹子
川みごと灰色鷺(ぐれいへろん)やさらすほそぬけ 阿部完市 軽のやまめ
巨き秋雲灰色の背もたのもしき 香西照雄 対話
暗黒の宇宙を負へり灰色のクレーターのさき月の地平線 宮柊二
曼珠沙華ある日とつぜん灰色に 岩淵喜代子 硝子の仲間
汐ふきや稲荷の裏の海灰色 長谷川かな女 花 季
灰色の世界を仄と虹照らし 稲畑廣太郎
灰色の午後風そひぬ冬の雨 高木晴子
灰色の夜空の下の雪の山 高木晴子 晴居
灰色の椅子ばかり枯林の音楽堂 柴田白葉女 花寂び 以後
灰色の男と冬の海がある 角川春樹
灰色の空低(た)れかかる枯野哉 夏目漱石 明治三十二年
灰色の街よ中也の雪が降る 橋本榮治 麦生
灰色の象のかたちを見にゆかん 津沢マサ子(1927-)
灰色の雪と見るにただならず二月二十六日 栗林一石路
灰色をふくみ大塊秋の雲 上野泰 春潮
百合鴎灰色に河口曇りゐたり 長谷川かな女 花寂び
神馬灰色秋蝿に眼をしばたたき 長谷川朝風
蛾を救ひその灰色はふり向かず 加藤知世子 黄 炎
酒場灰色 北欧水夫の髪溶けそう 伊丹公子 メキシコ貝
●バイオレット
●白紙 
こほろぎの夜深みたる白紙かな 晏梛みや子
ともしびを囲ふ白紙秋祭 山本洋子
なまなまと白紙の遺髪秋の風 飯田蛇笏 雪峡
ほたと落ちし墨も白紙のうらゝけき 碧梧桐
わが前の白紙いつまで虫の故郷 成田千空 地霊
わが前の白紙に零下三度の灯 阿部みどり女
ペンの影白紙にありて死を論ず 浅井冬男
三伏の白紙につつむ絵蝋燭 吉田汀史
二ン月の風や白紙を繰るごとし 竹田[ろうかん]
冬曙白紙明りといふべかり 中村明子
初辰や白紙きよらに塗り机 上川井梨葉
利休忌の白紙にちかき置手紙 上田日差子(1961-)
含羞や白紙のうえの寒卵 河合凱夫 飛礫
吾れに白紙蛾に白壁のしろき夜が 鷹女
夏シャツまくつて 見えない敵を白紙に描く 伊丹三樹彦 樹冠
夏嵐机上の白紙飛びつくす 正岡子規
夕蝉や追悼の稿まだ白紙 鈴木鷹夫 大津絵
寒月や白紙の飛狩のあと 加舎白雄
少年に白紙おかれて冬の鵙 桂信子
年明ける畳に白紙いちまいと 稲垣暁星子
弥生 ここに白紙春のあなたに『妾薄命』 宇多喜代子
形代の白紙袂のあるあはれ 福田蓼汀 秋風挽歌
懐に白紙一帖更衣 岩木躑躅
拡げおく白紙へ何か死ににくる 森田智子
文字あまた白紙に戻る夜の雷 松村筺花
新年の白紙綴ちたる句帖哉 新年 正岡子規
新玉の句帳の白紙初心とす 田中英子
明け易きものの白紙書きちらし 林原耒井 蜩
明易し白紙を巻ける旅枕 河野博行「貴船菊」
春昼の白紙にぬぐふ母の櫛 野澤節子 『存身』
曲り角で夕陽と別れ明日は白紙 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
枇杷の核の沁み拡がれる白紙哉 西山泊雲 泊雲句集
梅一輪活けて白紙の海がある 対馬康子 吾亦紅
浮塵子来て未だ白紙の稿横這ふ 岡本圭岳
湯上りの心は白紙夕端居 上野泰 佐介
湯豆腐や白紙にもどす子の進路 川崎慶子
湲流に初蝶の白紙漉村 松崎鉄之介
濃く磨りし墨と白紙や夏籠 尾崎迷堂 孤輪
火事遠し白紙に音のこんもりと 飯田龍太
爪切つて白紙に包む夜の秋 中拓夫
白紙にもらふ用意や唐がらし 飯田蛇笏 山廬集
白紙に一と握りづゝ舳倉海苔 前田普羅 能登蒼し
白紙に包みし土産蕗の薹 高浜虚子
白紙に土筆の花粉うすみどり 後藤夜半 底紅
白紙に委任の愛の手形ぞサフランは 原子公平
白紙に拭ひて船の初鏡 宮武寒々 朱卓
白紙に置きたる露もありにけり 松藤夏山 夏山句集
白紙に置く錐一本の残暑光 鈴木鷹夫 渚通り
白紙に鱸よこたへ祝ぎの家 綾部仁喜 寒木
白紙より湧く影のあり日雷 桂信子 遠い橋
白紙を張りあましある燈籠かな 後藤夜半 翠黛
眼をとぢて白紙のごとき秋夕べ 奥きく
睡蓮の深みへ捨てし白紙かな 柿本多映
神棚に貼りし白紙や夜の秋 吉武月二郎句集
禰宜平服白紙に鯛焼横たへて 平井さち子 鷹日和
空蝉を白紙に置きて二日過ぐ 赤尾冨美子(南風)
空蝉を置いて白紙に翳り生む 鍵和田[ゆう]子 浮標
童女来て白紙をねだる暮春かな 加倉井秋を
笹枯れて白紙の如しかたつむり 竹下しづの女句文集 昭和十一年
胸中の未来は白紙小鳥来る 穐好樹菟男
脚つまみ白紙の上へ蚊の骸 高澤良一 素抱
花冷の裏も表も白紙かな 大澤保子
苗代や浄き白紙を鳥おどし 高橋淡路女 梶の葉
薔薇を詠むことを白紙にして戻る 古舘曹人 能登の蛙
行燈の白紙厚し鳥曇 金久美智子
誘蛾灯次のぺージは白紙かも 竹貫示虹
露寒や裏は白紙の喪の花輪 林翔 和紙
露時雨窓下白紙の暁けゐるや 角川源義
青葉木菟弔辞の紙のまだ白紙 宮田正和
青葉騒白紙に戻す死後のこと 久保田豊秋
●白蛇 
珠の白蛇は置物にして橙固し 長谷川かな女 花寂び
白神のかの白蛇の眠る淵 黒田杏子 花下草上
白蛇の変化(パリナーマ)だやひるの川 安井浩司 密母集
白蛇の白光水をすすみけり 黒田杏子 花下草上
白蛇の舌のつめたきさくらかな 緒方敬
白蛇生むごとくに月の今年竹 鳥居美智子
神いまだ穴を出でざる白蛇かな 蛇穴を出づ 正岡子規
花に逢ふ白蛇に逢ふははに逢ふ 黒田杏子
金運の白蛇様も穴を出づ 後藤 章
●白色 
おとといから白色鸚鵡に言つたりす 阿部完市 鶏論
フォロ・ロマーノでの瞑想姿勢 白色の 黄色の 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 神戸・長崎・欧羅巴
マッチの炎の白色男ら厚着して 桜井博道 海上
初夢の花白色にその名失せ 大塚季代
少しづつ違ふ白色重ね着て 須川洋子
白色に包む島山夏の昼 沖手一恋
鵙も木も石も白色旅に出るか 宇多喜代子
●白兵
●肌の色
●鳩羽鼠
●花色 
ぎぼうしの花色の雨つづきけり 平塚司郎
くちなしの花色なして梅雨のランプ 内藤吐天 鳴海抄
むめが香に濃き花色の小袖かな 許六 正 月 月別句集「韻塞」
らふそくの花絵花色春待てり 神戸サト
一筋のうすき花色花うぐひ 浜岡延子
太陽に遠き花色花茗荷 大橋敦子
射干にその花色の蝶の来る 橋爪靖人
屠蘇袋花色絹の匂ひ哉 屠蘇 正岡子規
散り浮いて合歓の花色まぎれざる 高浜年尾
湧く雲も胡麻の花いろ奥秩父 高澤良一 宿好
花色のはなし一ケをかざる支店 阿部完市
花色の御納戸いろに雁の空 長谷川久々子
●縹色 
三伏の葛西や鯉の縹色 宮坂静生
五月逝く江戸手拭の縹色 綾部仁喜 寒木
伊良古崎春あけぼのの縹いろ 辻田克巳
冬三日月浮く丘のそら縹いろ 柴田白葉女 『月の笛』
初がすみうしろは灘の縹色 赤尾兜子
百日白近江の空こそ縹色 増田十王
竜の玉宵月の辺は縹色 中村草田男
花蓼や縹色もめん晒す川 野村喜舟
花鳥風月何処の道も縹色 攝津幸彦 鹿々集
●薔薇色 
しばらくは嶺の薔薇色凍豆腐 柿沼茂
ガヴアジュースの気だるい薔薇色 波出てきた 伊丹公子 機内楽
ツベルクリン薔薇色に出て入学期 三嶋隆英
バラ色に子の指眠る聖母祭 増成栗人
中年や薔薇色の癒を抱えゆく 水野真由美
乞食の嬰児貌薔薇色や初詣 正雄
仲春や子は薔薇色の頬もてり 島田とし子
冬薔薇色のあけぼの焼跡に 石田波郷
初空の薔薇色雀恍惚と 石塚友二
夕焼過ぎなほ薔薇色の帆を置けり 佐野まもる 海郷
大寒や霜薔薇色の貯炭の頭 小林康治 玄霜
寒卵薔薇色させる朝ありぬ 石田波郷(1913-69)
寒念仏に今薔薇色の鶴見川 安永千鶴
山野跋渉せし猪肉の薔薇色 細見綾子 黄 炎
御嶽の雪バラ色に鳥屋夜明 山口青邨
悪しき日も子の抛つ独楽は薔薇色に 石寒太 あるき神
打水に濡れた小蟹か薔薇色に 北原白秋
新年を見る薔薇色の富士にのみ 西東三鬼
春鴉紫に猫薔薇色に 相生垣瓜人 微茫集
氷岳薔薇いろ しばしとどまれ 神の刻 伊丹公子 機内楽
白露に薄薔薇色の土龍の掌 川端茅舎
睡り立つ禽は薔薇色五月来ぬ 堀口星眠 営巣期
薄氷や薔薇色に城ねむらせて 小池文子 巴里蕭条
薔薇色のあくびを一つ烏猫 日野草城
薔薇色の初明りさせ病者らに 藤沢周平
薔薇色の暈して日あり浮氷 鈴木花蓑句集
薔薇色の海はヨットを淋しくす 野見山朱鳥
薔薇色の肉を手渡す夜の秋 櫂未知子 蒙古斑
薔薇色の肺に外套を黒く着る 日野草城
薔薇色の舌を狐も吾も蔵す 山根真矢
薔薇色の蛋白質を吐く神か 夏石番矢 人体オペラ
薔薇色の西日といひて何せむに 相生垣瓜人 微茫集
薔薇色の雲の峯より郵便夫 橋本多佳子
薔薇色銀色ゴリラの色のあまたなり 水野真由美
裂かれたる猪の肛門薔薇色に 宮丸千恵子
酒薔薇色澁澤龍彦忌の眞書 馬場駿吉
階段を来る薔薇色の家族計画 仁平勝 花盗人
隙間風薔薇色をこそ帯ぶべけれ 相生垣瓜人
雪へ開く薔薇色の傘春近し 田川飛旅子 花文字
雲バラ色浅蜊一皿買ふ頭上 牧野白嶺
雲海の薔薇色つくす日の出まへ 小林碧郎
麦藁を染めバラ色に空色に 後藤夜半 底紅
●緋 
<クローン牛>次々生れこの世紀緋のサルビアが地上を統ぶる 三井修
あたたかな緋鯉集ひぬ一と餌に 原子公平
あぶな絵の緋のいろ 鵙の贄のいろ 星永文夫
あらたまの彩はこびきし緋連雀 きくちつねこ
ある日ふと怒りに似たる緋桃咲く 福谷俊子
あわあわと命連れ立つ緋連雀 安田 笙
うぐひ漁千曲の投網緋にからむ 堤 圭慥
うつれるは緋毛氈のみ雛鏡 西本一都 景色
おくんちの緋の毛氈に猫も居る 下村ひろし 西陲集
かな~や緋の毛氈に茶をたまふ(九月廿日陽明文庫に折口信夫先生をむかへて) 『定本石橋秀野句文集』
かまど火の見えて緋桃の風雨かな 大峯あきら 鳥道
かんばせに緋をながしたる障子かな 中田剛 珠樹
がっくりと見せ場つくりぬ緋の牡丹 高澤良一 鳩信
くれなゐの浪打ちよする緋の牡丹 稲垣きくの 牡 丹
ここ河津緋寒桜の田舎咲き 高澤良一 ぱらりとせ
こてい牛に緋飾をして謡初 四明句集 中川四明
この山に緋桃が咲いて御開帳 森澄雄
だだ押しの僧の緋衣緋の木沓 山中みねこ
ぢつとしてゐぬ緋目高の数読めず 松尾静子
てうちてうちあはゝと緋木瓜咲きにけり 高澤良一 さざなみやつこ
ぬれいろに夜昼となく緋薔薇さく 飯田蛇笏 春蘭
ひしめきつ冠羽揃えて緋連雀 久永光子
ひとときの夕焼よりも緋の記憶 櫂未知子 貴族
ひと本の緋桃咲き満つ吉備津彦 内藤恵子
ふるさとは緋蕪漬けて霰どき 蒼石
ふるへねば緋の寒牡丹とは言へず 坪田晴美
ぼうたんの濤に緋の刻白の刻 手塚美佐 昔の香 以後
ぽつかりと浮きし緋鯉や春の水 比叡 野村泊月
まなうらの緋を積む雪の降りにけり 斎藤玄
ゆたかにも水の濁りて緋鯉かな 大木あまり 火球
よう放し支度盥に緋鯉入れ 高澤良一 寒暑
りんご刺す木に黄連雀緋連雀 西岡晴子
わが闇の宝庫となりし緋桃の木 渋谷道
わびしらに桜ちるなり緋の袴 散桜 正岡子規
カンナの黄雁来紅の緋を越えつ 飯田蛇笏 椿花集
カンヴァスを抱く裘は緋に映えて 石原八束
サルビアの映ると見しは緋鯉飼ふ 大島民郎
サルビアの緋の一枚の馬券買う 対馬康子 純情
サルビヤの緋に魅入られし男の脚 河野多希女 琴 恋
パスワード忘れて緋鯉錦鯉 松田ひろむ
フラメンコ好きな夫なりカンナ緋に 小川礼子
ポインセチア思ひつめたる緋をかかぐ 菊地 正
モスリンのやうな緋鯉の色茫と 京極杞陽 くくたち上巻
一幹の緋寒桜に行脚僧 野中千秋
一束の緋薔薇貧者の誠より 杉田久女
一滴の雨もとどめず緋のダリア 中村菊一郎「林中空明」
一身を緋にみごもれるうぐひかな 小林子
乙女椿緋乙女椿苗木市 西本一都 景色
二月の籠鶯の緋總かな 原石鼎
五合目に雪来て緋蕪洗ひをり 福田甲子雄
休日をポインセチアの緋と暮るる 遠藤恵美子
優(やさ)踊りこれ男にや緋の袖裏 高澤良一 素抱
冬に入る一本の緋は僧の傘 小島千架子
冬の水緋鯉打つべく落ちにけり 落合水尾
冬の蜂聖画しづかに緋に燃えつ 小池文子 巴里蕭条
冬休となりしマントの緋裏かな 久米正雄 返り花
冬休みとなりしマントの緋裏かな 久米三汀 返り花
冬帽をぬがるる緋裏ちらと見し 亀井糸游
冬日浴びをる夫の背緋鯉の背 中山純子 沙羅
冷まじきまで緋縅の甲斐の山 根岸善雄
冷まじや箪笥に納む明治の緋 相澤いさを
凌霄の木戸口に緋をかぶりけり 斉藤利枝
出初して緋威の肌消防車 百合山羽公 寒雁
初勤行門跡は緋の衣召し 光野昌平
初春の香のものとて緋のかぶら 大橋敦子
初雪や笠に付けたる緋(べに)のきれ 服部嵐雪
刻々と緋を溜めてゐる石榴の実 飯田龍太
十月桜咲き先帝の御衣の緋 伊藤いと子
厚化粧する緋のカンナ咲きにけり 谷口桂子
厚物咲ピアノカバーの裏は緋に 中戸川朝人 星辰
口結ぶボイラー守りに緋のつつじ 澤木欣一
古瓦積まれて緋桃まつ盛り 松村蒼石 雁
古草の緋いろに十二単かな 小林鱒一
古頭巾裏は燃え立つ緋羅紗かな 高浜虚子
吾子の瞳に緋躑躅宿るむらさきに 草田男
周防とや緋鯉の水に指ぬらし 飯島晴子
咲きそむる緋寒桜の名護の町 磯野多希
噴煙は阿蘇のかんむり緋連雀 藤原和子
国頭の山の桜の緋に咲きて、さびしき春も 深みゆくなり 釈迢空
土佐が画や春の裾山緋の袴 春の山 正岡子規
土牢の影さす雛の緋を飾る 紀音夫
土砂降りとなりたる国栖の緋桃かな 大峯あきら 鳥道
土雛市桃は*しもとに緋をあつむ 松木敏文
夏痩せて鼓の緋緒ぞいたましき 雉子郎句集 石島雉子郎
夕映や壜にふくらむ目高の緋 丹羽 啓子
外套の裏は緋なりき明治の雪 山口青邨(1892-1988)
夢の世に緋鯉とならばほつそりと 鍵和田[のり]子
夢の中わたしは緋鯉誰か呟く 一ノ瀬タカ子
大いなる緋鯉にじみて照る氷 佐野青陽人 天の川
大牡丹塵吸ひ底に緋を湛ふ 香西照雄 素心
大琵琶の天指す丸太緋蕪干す 古谷彰宏
大雨の緋鯉を獲たり四つ手守 木津柳芽 白鷺抄
大鯉のことに緋鯉の水澄めり 横岡たかを
太宰府や梅干す巫女の緋の袴 森永英子
太郎冠者てふ緋牡丹や緋の煩悩 山本光胤
奔り出す緋縅落葉一騎あり 林 翔
奥庭やもみぢ蹴あぐる緋の袴 紅葉 正岡子規
妻も亦敵かも知れぬ緋のカンナ 藤田守啓
娘に贈る帯のひとすぢ緋連雀 田原シヅ
婢を具して登校の児の緋のマント 竹下しづの女句文集 昭和十一年
子を寝かせ緋鯉現るように妻 松本勇二「海程句集」
宝恵駕をはみ出て厚き緋座蒲団 森薫花壇
宴果てぬ猩々木の緋に疲れ 文挾夫佐恵
宵闇の緋鯉にはかに非を明かす 攝津幸彦
寒桜緋のマフラーを巻き直し 高澤良一 素抱
寒牡丹雪被てその緋ふかめけり 鈴木真砂女 夕螢
寒緋桜ひらく真下の猫の神 白澤良子
寒緋鯉とほきおもひをあぶり出す 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
寒緋鯉医師への言葉整ふる 鍵和田[ゆう]子 未来図
寒緋鯉花瓣のごとく沈みけり 大串章
小焚火の黄を得ぬ遠火は緋の巨花ぞ 香西照雄 素心
屈託もなくて緋鯉の浮き沈み 渡辺たか子
山の緋鯉じつと沈みゐたゞに冴ゆ 林原耒井 蜩
山の緋鯉危きばかり冴えゆく日々 林原耒井 蜩
山雀や舞台は敷きし緋毛氈 野村喜舟
巡禮や緋鯉にひらく大扉 古舘曹人 砂の音
巫女の緋は春の水皺に綾なせる 阿部みどり女
師走の身触れあふ緋鯉長挨拶 香西照雄 対話
平氏二十三代緋木瓜つぶらにて 鷲谷七菜子
幼児脱ぎ緋の濃き下着スィートピイ 香西照雄 素心
広芝の風の行方にカンナの緋 中口飛朗子
床下に緋鯉を飼つて鯉屋敷 前田まさを
店も狭に緋扇舞はせちやつきらこ 高澤良一 ももすずめ
庭に飼ふ鯉の緋衣灌仏会 堀口星眠 樹の雫
引かんとや小松かくれの緋の袴 子の日 正岡子規
御僧の遺愛の緋鯉とて大き 森重昭
御田植うる緋袴胸に高結び 岸風三楼 往来
心経を唱へ緋鯉の稚魚放つ 山本悦子
恤ぬりし野万朶の緋寒桜かな 桑田青虎
恵那山は雲被て深し緋連雀 皆川盤水
惜春の座や脇息と緋座布団 細井蕗有
愛一途緋桃は藪を透きにけり 木下夕爾
手すさびによごす団扇の緋房かな 高橋淡路女 梶の葉
手入れよき古墳に返り咲く緋かな 上溝かつら
折るべからずの蓮取るべからずの緋鯉哉 蓮の花 正岡子規
抱へたる大緋手鞠に酔ふごとし 飯田蛇笏 霊芝
振袖の緋がこぼれけり初茶の湯 中川いさを
捨ても着もせぬ緋のコートまた出しぬ 佐々木いく子
掛鏡死して緋木瓜になりたるよ 栗林千津
掻き曇り緋寒桜に雪しぐれ 伊東宏晃
撫子の八重は一重は緋は白は 会津八一
放たれし緋鯉のくるりくるりかな 高澤良一 寒暑
斑鳩の潰えし土塀緋桃咲く 伊東宏晃
料峭の緋目高すぐに見失ふ 西山せつ緒
新しく緋鯉加へし幟立つ 松田義朗
新松子鼓の緋の緒締め直す 谷中隆子
日盛りや新田の緋合歓田に落ちぬ 鳥居美智子
映りたるつゝじに緋鯉現れし 高浜虚子
春ときに緋鯉の狎れのうとましき 飯田 龍太
春の夜や重ねかけたる緋の袴 春の夜 正岡子規
春芝へ絨毯の緋の流れやむ 高梨花人
時計鳴り猩々木の緋が静か 阿部[しょう]人
晝たけて行く緋や箔や無韻雛の位置 安斎櫻[カイ]子
曲水の円座にどかと緋衣の僧 江口竹亭
有明に緋鯉釣るべき柳かな 古白遺稿 藤野古白
朝市の映れる川に緋鯉飼ふ 泉春花
木の実雨ちなみに姪は緋菜と瑠南 笠井百合彦
木下闇しどみに末の緋がひとつ 木津柳芽 白鷺抄
木洩日の尾の緋鯉なり詩仙堂 瀧澤和治「看花」
木瓜の緋に手を出し刺され老いたるよ 守田梛子夫
未婚の夏過ぎぬ木馬の緋の手綱 友岡子郷 遠方
松さびて緋鯉も居らず秋の水 秋の水 正岡子規
枝もろし緋唐紙破る秋の風 松尾芭蕉
梟の森にかけたき緋の毛布 鳥居真里子
梶の鞠緋の水干をかすめたる 大石泉冷
極月の法師をつつむ緋夜着かな 飯田蛇笏 山廬集
楸邨佇つ秋の緋暗き大蓖麻に 赤城さかえ
死の十日あとの空より緋連雀 友岡子郷 春隣
死者不在昼ともる臘と緋の法衣しづかなる読経のこゑあがるとき 葛原妙子
母と子の手波に大き緋鯉来る 加藤 典昭
母のベッドありしあたりの緋絨毯 大木あまり 火球
比叡の水引きて里坊緋鯉飼ふ 川勝 春
毛氈の緋のはなやぎや年忘 久保田万太郎 流寓抄
水なきがごとくに緋鯉澄みゐたり 茨木和生 丹生
水に摶たれて白き緋鯉の泳ぎけり 長谷川かな女 雨 月
水仙の国の海ゆく緋毛氈 兵頭幸久
水仙や試筆のあとの緋毛氈 久保より江
水涕に裂くや逢ふ夜の緋縮緬 尾崎紅葉
水涼し緋鯉真鯉と浮き変り 今村蕾橘
水美し山都は川に緋鯉飼ふ 岡田日郎
水色の空へ芥子の緋乾きけり 阿部みどり女
氷水きて緋毛氈の端濡らす 石川桂郎
池くらく緋鯉を散らす夏越かな 深見けん二 日月
池普請緋鯉は別にしてありし 関戸靖子
流し雛緋の一連となりてゆく 三好潤子
海女単衣緋の細帯を垂らし解く 猿橋統流子
涅槃会の僧を待ちゐる緋毛氈 吉野義子
消魂の春の緋無垢をおもふかな 久保田万太郎 流寓抄
灌仏や忍び参りの緋の袴 仏生会 正岡子規
火口開けば緋縅のごと火夫たくまし 細谷源二
炭焼の住める山家や緋鯉飼ふ 根岸善雄
父の忌は紺母の忌は緋の朝顔よ 松尾隆信
牡丹の緋のふうはりとぬけだしぬ 松澤昭 山處
牡丹散るにかくまで緋を尽し 渋谷天眠
牡丹緋の色のらんらんと燃えし燃え盡きたり 荻原井泉水
猩々木緋をうち重ねしぐれけり 千代田葛彦 旅人木
玉座あり緋蕪洗ふ流れあり 大峯あきら 鳥道
生きものはもういや緋目高飼ふことも 及川貞
生徒の眼緋桃買ふ吾を祝福す 林翔 和紙
田楽の緋の装束へばつた飛ぶ 井村和子
留守の庭緋椿咲くは華々し 龍胆 長谷川かな女
痩身の宮司さやかに緋を纒ふ 鳥居美智子
白桃の八重の花辯に降る緋桃 原コウ子
白桃は沾み緋桃は煙りけり 芥川龍之介 我鬼句抄
白秋亡し緋目高のぼる三の井手 有働亨 汐路
盆梅や八重も一重も緋も白も きくちつねこ
真姿の池に緋鯉の生まれけり 河村むつ子
真鯉の上に緋鯉出たがる幟かな 田中かずみ
真鯉の髭緋鯉の髭や冬泉 川崎展宏 冬
真鯉緋鯉触れ合うてゐる朧かな 井上康明
眼裏に昔が光る緋鶏頭 高見加代子
石の原緋の一脚の椅子もなし 大井恒行
石叩死の緋縅を閨のうち 古舘曹人 能登の蛙
祝月緋綿も見えて綿屋かな 村上鬼城
神の庭緋鯉の跳ねし水匂ふ 藤谷紫映
神座の緋鯉を啖らふ雪女 石原八束
禅林のなまめくものに寒緋鯉 鍵和田[ゆう]子 浮標
秋の鯉緋なるはとほくなみがくれ 飯田蛇笏 春蘭
秋暗しまた燃え返すカンナの緋 林原耒井 蜩
秋澄みて緋鯉は人に親しかり 高橋利雄
秋雨や色のさめたる緋の袴 秋雨 正岡子規
移し植えて信濃の緋桃三年ごし 松村蒼石 雁
種俵緋鯉の水につけてあり 星野立子
空席の緋いろ深しや二の替 鷹羽狩行
空梅雨に緋とかげしづむ拓地かな 飯田蛇笏
窯跡の緋の陶片や冬の山 小川軽舟
端居僧緋鯉真鯉に会釈して 座光寺亭人「流木以後」
竹の穂の絡まりて高き緋桃哉 西山泊雲 泊雲句集
竹を好む主に咲きし緋桃かな 尾崎迷堂 孤輪
節分の巫女の緋ばかま雪を刷き 斎藤一菜
粉河寺肩掛の緋も蘇鉄樹下 石原八束
紅壺に収めし緋の裳石榴蕾む 香西照雄 素心
紅梅や翠簾をこぼるゝ緋の袴 紅梅 正岡子規
素盞嗚の緋の川上の夏蜜柑 うさみとしお
経唱へ緋鯉を放つ奈良乙女 山田春生
緋かぶらや手織木綿の湖国人 山本古瓢
緋かぶらをさげて伊賀より来りける 細見綾子
緋ごろもの何僧正や歌かるた 静雲
緋ざくらを遠望のまま道撓む 耕二
緋に念じ白に祈らむ牡丹寺 林昌華
緋のいろのたちまち遠し流し雛 角川照子
緋のダリヤ引き緊りゆく轆轤の輪 多田裕計
緋の僧のゆふべ踏み行く紅葉かな 青蘿
緋の夜具をかむりて聴くや坊時雨 近藤一鴻
緋の彩は発心さそふ緋衣草 小川文子
緋の桃に近寄り過ぎぬ心拍音 高澤良一 燕音
緋の牡丹一点見据ゑ生きること 河野多希女
緋の牡丹崩れしのちは寧からむ 吉野トシ子
緋の牡丹赫と眼尻切れしかと 野澤節子 黄 炎
緋の目高布袋葵の根に孵る 遠藤アサ子
緋の糸を曳いて椿は落つるなり 齋藤愼爾
緋の絨毯吾をみちびく避寒宿 山口青邨
緋の色のセーターを着る夕まぐれ 米須盛祐
緋の色の他は薄れて涅槃絵図 田所節子
緋の色の尾びれをひろげ金魚草 岬雪夫(狩)
緋の菫木箱ともども匂ふなり 中田剛 珠樹
緋の蕪にはかなき霜の命かな 霜 正岡子規
緋の蕪の三河嶋菜に誇つて日く 蕪 正岡子規
緋の蕪や膳のまはりも春けしき 春 正岡子規
緋の蕪尽きて紅梅の散らんとす 紅梅 正岡子規
緋の蕪干し千那寺を守りけり 花岡明美
緋の袈裟のずしりと後の更衣 川澄祐勝
緋の袍に萎れかゝれる葵かな 五十嵐播水 播水句集
緋の褪せしように生きるや草茂る 長谷川かな女 牡 丹
緋の蹴出し流れるやうに阿波踊 鈴木石夫
緋の躑躅ここにかしこに人乾き 清水径子
緋の鯉に鴉恋ひして夏旺ん 鈴木鷹夫 春の門
緋の鯉の緋いろめでたき初景色 三田きえ子
緋ぼたんにパレットひらく寒日和 平井さち子 鷹日和
緋めだかの卍巴に水辺晴れ 山田弘子 懐
緋めだかの集散に目の狂ひだす 竹田登代子
緋をまといいる初蝉のつぎの蝉 澁谷道
緋ダリヤに今日も椅子並め老夫婦 左右木韋城
緋マントや母へ手出さんふためきに 中村草田男
緋寒桜ちる沖縄を終の地に 八牧美喜子
緋寒桜の暗闇にふれ火傷する 岸本マチ子
緋寒桜ほうと見とれて雪国びと 中山純子 沙 羅以後
緋寒桜見むと急ぎて日暮れけり 邊見京子
緋座布団たまはる彼岸の鐘の中 青邨
緋木蓮の焔なす下三輪車 森澄雄
緋桃さく水車の裏の桑畑 寺田寅彦
緋桃の下をとこが出でて釜みがく 柴田白葉女
緋桃の緋畑の空にぶちまけて 高澤良一 ぱらりとせ
緋桃みるわが青春は遠く去り 高橋淡路女 淡路女百句
緋桃ゆさゆさわが振袖の水死体 八木三日女
緋桃咲き極まりて葉をまじへたり 高浜年尾
緋桃咲き畑まつすぐに畝つくる 柴田白葉女 花寂び 以後
緋桃咲く何に汲みても水光り 岡本眸
緋桃咲く恋風もそのあたりより 友岡子郷
緋桃暮る村の水場にをみなごゑ 加藤耕子
緋桃菜の花遺残空洞胸に抱く 石田波郷
緋桜を浴び人の世にブルータス 玉城一香
緋梅かつと棄て身の彩の夕日刻 殿村莵絲子 花寂び 以後
緋梵天黄梵天父の雪かたし 河野多希女 月沙漠
緋椿に雪を忘れし羆座す 長谷川かな女 牡 丹
緋毛氈に菜の花こぼししは誰 岡田史乃
緋毛氈の上に春筍の籠 川崎展宏
緋水鶏のかくれし蘆や吹きなびき 鷹野 清子
緋水鶏の走りかくれし草を刈る 市村究一郎
緋目高のつついてゐるよ蓮の茎 原石鼎
緋目高のわれに似るてふ眼のあたり 上村占魚 球磨
緋目高の一つ孵りてよりぞくぞく 上村占魚
緋目高の上目遣いに逝くなんて 糸大八
緋目高の小さなる程せはしなや 星野立子
緋目高の溌剌として気ぜはしく 今泉貞鳳
緋目高の生の喜びめく泳ぎ 山下美典(河内野)
緋目高の生れていまだ朱もたず 五十嵐播水
緋目高の稚魚のぞき見る重なりて 中屋敷久米吉
緋目高の糶らるる春の愁ひかな 北見さとる
緋目高の緋は兄弟の秘密なり 栗林千津
緋目高の見詰むる風の行方あり 永井龍男
緋目高の赤くなりきぬ目のうしろ 星野立子
緋目高を数へてをりし男かな 栗林千津
緋目高を買ひ来し灯の下にこそ 永井龍男
緋緞子の美しき夏の蒲団かな 高橋淡路女 梶の葉
緋縅の如全山の粧ひぬ 山本歩禅
緋縅の蝶吹き上げよ那智の瀧 筑紫磐井 婆伽梵
緋縮緬噛み出す箪笥とはの秋 三橋敏雄 眞神
緋縮緬着て男衆六斎会 東野鈴子
緋蕪も飛騨の炭火も赤きころ 石原八束 仮幻の花
緋蕪一つ育つ子の畑万愚節 大橋敦子
緋蕪菁を買ふ乳母車かたへにし 石原八束
緋衣をまとふ方丈初芝居 佐久間慧子
緋衣を一著日灼和尚かな 河野静雲 閻魔
緋袴と紫袴弓始 塩川雄三
緋袴に坐してひとりの寒復習 黒田杏子 花下草上
緋袴のよぎりしあとの寒牡丹 水田光雄
緋襷の火傷はふかしほととぎす 野澤節子 『駿河蘭』
緋連雀あさきねむりの縁をとぶ 渋谷道
緋連雀きのうのことはみな忘れ 宮崎重作
緋連雀一斉にたつてもれもなし 阿波野青畝
緋連雀冠毛立てて群れ下りし 原田浜人
緋連雀死亡通知が舞ひ戻る 塚本邦雄
緋連雀空に渦巻き屋根越ゆる 藤ケ谷恭子
緋金魚に日蓮の性あらむかな 筑紫磐井 婆伽梵
緋鯉うかみでて顔真赤水澄めり 池内友次郎 結婚まで
緋鯉一つ池ににじみ出て梅雨明けの夕ベの 人間を彫る 大橋裸木
緋鯉一群婚礼衣裳になる途中 かわにし雄策
緋鯉散り切味持てる山の水 野中亮介
緋鯉泳ぐくにいま若菜のくになつかし 阿部完市 春日朝歌
緋鯉浮く池の小さし康成忌 岡田壮三
緋鯉浮上 花嫁の父 話しだす 伊丹公子 アーギライト
緋鯉真鯉卯の花腐しうれしくて 阿波野青畝
緋鯉跳ね菩薩の慈悲のごときもの 和知喜八 同齢
緋鹿子にあご埋めよむ炬燵かな 杉田久女
練供養地蔵菩薩は緋の衣 延江金児
縁側に緋毛氈ある日傘ある 京極杞陽 くくたち下巻
羽な焼きそ燃ゆる緋桃の枝の鳥 尾崎紅葉
翁忌へ行かなと緋の菜洗ひをり 北村保
肢長く姙り緋桃緋を尽す 和知喜八 同齢
能登どこも緋蕪畑を畑境 不破幸夫
舟へ運ぶ真水さざめく緋桃の季 熊谷愛子
芋洗ふ底を濁せし緋鯉かな 西山泊雲 泊雲句集
芥子は緋に羊汚れて草食める 上野さち子
芭蕉堂の緋布団に座し五月雨るる 原 コウ子
芯熱の去らず木瓜の緋うとみけり 吉野義子
花冷や絨毯の緋や恋ひわたる 齋藤玄 飛雪
花野にて耳に緋房は羊の仔 林翔 和紙
若き日の母の哀楽緋角巻 下山田禮子
草木瓜の花山国の緋を極め 飯田龍太
荒野にて緋桃三本燃えさかる 小枝香穂女
菊人形遊女は緋菊薄く着て 吉田ひろし
菊暮れぬ菊見の宴の緋毛氈 松藤夏山 夏山句集
葉櫻にひまな茶店の緋毛氈 成瀬桜桃子
蒲の穂に緋の絨緞の見ゆる家 飯田龍太「春の道」
蓄へし緋のあからさま桃ひらく 原コウ子
蕪引て緋の蕪ばかり殘りけり 蕪引く 正岡子規
藪柑子久女鷹女と緋の系譜 山根真矢
藻の花にふつと浮出る緋鯉かな 藻の花 正岡子規
藻の花に緋鯉の頭隠れけり 藻の花 正岡子規
蚊喰鳥この緋枕のみる夢は 後藤綾子
行人とありまぼろしの緋連雀 鈴木修一
行年の落葉の下の緋鯉かな 比叡 野村泊月
被てみたきもの羅の緋の僧衣 正木ゆう子 静かな水
跳ねし緋鯉の行方見てをり秋の暮 吉野義子
身に沁むや即身仏の緋の法衣 鈴木フミ子
逢ひにゆくカンナの緋途切れざる 高浦銘子
逢ひに行く緋のマフラーを背に刎ねて 辻田克巳
遠会釈するも芥子の緋の一杯に 阿部みどり女
遣羽子や官女老いたる緋の袴 遣羽根 正岡子規
郵便受の屋根のみ夏の緋開拓村 香西照雄 素心
野馬追の公達にして緋の母衣を 猪俣千代子
野馬追の緋の母衣孕みおん大将 富安風生
野馬追の緋縅の武者若からず 大堀柊花(狩)
野馬追の緋縅の濃し青田濃し 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
釣殿の橋をめぐれる緋鯉かな 籾山梓月
鉾を待つ二階手摺の緋毛氈 比叡 野村泊月
銃袋緋にぞ背負ひて猟始 亀井糸游
銚子緋繻春風吹くや古衣店 春風 正岡子規
開き初む厨に活けし緋桃より 樋笠文
闇にまで少し間のあり緋のカンナ 池谷硬司
雛壇の緋が暗闇にひろがれり 耕二
雛段の緋にも疲るる齢かな 能村登四郎 菊塵
雪の嶺四方にはしれり緋の菜干す 橋本鶏二 年輪
雪ひひと緋の裏わびし妻の帯 細谷源二 砂金帯
雪吊の見ゆる部屋なる緋の蒲団 鈴木鷹夫 風の祭
雪夜消す灯の残像の緋から青 千代田葛彦 旅人木
雪嶺を落ち来たる蝶小緋縅 川端茅舎
雪掻の巫女の緋袴舞ふに似て 田塚 公晴
雪林の朝日を浴びに緋連雀 堀口星眠 樹の雫
雲助の裸で寝たる緋木瓜かな 泉鏡花
霙降る池の緋鯉は沈みけり 今成無事庵
霜旦のイエスに通す緋毛氈 高澤良一 ねずみのこまくら
霜来るが早しと言へり緋の菜漬け 細見綾子 黄 瀬
頬の辺に裏の緋ちらと雪頭巾 杉山々
風のごときひかり走れりカンナの緋に 山崎為人
風を帰し妻の手籠の緋蕪かな 黒川憲三
養鯉池雨に緋鯉のうすぼんやり 高澤良一 寒暑
餓鬼岳は紅葉緋縅岩鎧ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
香水の緋とおぼしきが駆け抜けし 鳥居おさむ
馬の背や緋蕪のぞかすお霜月 石橋秀野
鬱の日の沸点にゐて緋の躑躅 石寒太 翔
鬼燈も紅葉しにけり緋金巾 尾崎紅葉
鯉の緋に水のうるむや実朝忌 高木杜萌子
鯉の跳ね万緑一瞬緋の入りぬ 尾崎弘子
鱗一枚落して緋鯉沈みけり 長谷川かな女 雨 月
鵜篝の百の緋文字をしたたらす 加藤耕子
鶏頭の緋はもの思ふ色ならむ 辻美奈子
黄塵や逃げし緋鯉が橋の下 岸本尚毅 鶏頭
黄鶲が出れば緋鶲雪の上 原石鼎 花影以後
黒繻子に緋鹿子合はす暮春かな 飯田蛇笏 霊芝
鼬傷片目に受けし緋鯉かな 茨木和生 往馬
●鶸色 
さんしゆゆの鶸色に母屋没しけり 高澤良一 ももすずめ
麦の芽の鶸色となり泊つるかな 中西舗土
●ピンク 
クーラーにピンクのリボン モンロー忌 沙羅冬笛
コスモスのピンクが与党他は野党 林 直入
サンタみな揃ひのピンク新世紀 後藤比奈夫 めんない千鳥
子の踵ピンクに染めて初稽古 上窪則子
春立つやピンクの象のビスケット 須川洋子
時の日や砂をピンクに砂時計 鈴木栄子
毛皮欲しピンク兎の貯金箱 塩貝朱千
灯を寄せしカーネーシヨンのピンクかな 中村汀女
片想い今はピンクの椿が好き 大高翔
芥子坊主阿片のピンク液を秘む 粟津松彩子
錠剤の一つはピンク秋深む 矢村三生
●深緑 
げんげ田や花咲く前の深みどり 五十崎古郷
バード・ウィーク湖の際まで深緑 鷹羽狩行
七夕の風吹く岸の深みどり 飯田龍太
人死して家毀たるる深みどり 河合照子
倶利伽羅の深みどり照り蝉時雨 文挟夫佐恵 黄 瀬
天の川内海夜も深みどり 西村公鳳
子かまきり薄みどり草深みどり 鈴木しげを
家苞や通草は山の深みどり 中島月笠 月笠句集
小春日や丘の小藪の深みどり 西山泊雲 泊雲句集
小春日や鳴門の松の深みどり 高濱年尾 年尾句集
春の海や暮れなんとする深緑 前田普羅 新訂普羅句集
柊の花のともしき深みどり 松本たかし
水浅く一語一音深緑 原裕 青垣
水筒の茶がのど通る深みどり 辻田克巳
深みどり汲めば色なし冬の朝 朝木奏鳳
深緑の山が吐き出す荒神輿 後藤軒太郎
深緑の湖たつぷりと失語症 伊藤敬子
炎天の色やあく迄深緑 炎天 正岡子規
穂俵も七日事なき深みどり 竹原泉園
竹伐りて深緑毫も損なはず 村上冬燕
耳傷に山の陽山の深みどり 佐藤鬼房 鳥食
花終へし擬宝珠を加ふ深みどり 岡本 眸
葉畳となり十薬の深緑 飯村周子
蓮の実のその深緑物語り 金子皆子
踏みわたる余寒の苔の深みどり 日野草城
醒めて業苦池は深緑に抱かれをり 岩田昌寿 地の塩
雨あびしシャツがちぢむや深緑に 古沢太穂 古沢太穂句集
青蔦の静かな夜の深みどり 加藤楸邨
魚棲まぬ湖の葉月の深みどり 田中敦子
鮒釣の子供の去りし深緑 山本洋子
鴛鴦流れ妹山背山深みどり 大峯あきら 宇宙塵
鹿の子に奈良のあけぼの深みどり 山本梅史
龍の玉吾子が嫁く日は深みどり 大峯あきら
●葡萄色 
まだ濡れぬ海女ゐて葡萄色の湾(若狭湾) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
啄木の墓に野ぶだう色づきぬ 井村和子
折れまがり葡萄色のシーツあり 九月隆世
猟鳥の死に切りし眼の葡萄色 右城暮石 上下
●ブラック 
コーヒーはブラックがよし巴里祭 森 礼意三
珈琲はブラック生き過ぎたかも知れぬ 立岩利夫
コーヒーはブラックにする寅彦忌 森 武司
●ベージュ 
ポケットの深きベージュのコート着て 高橋和子
●碧空 
また産まれしか 碧空に<幸福>の歔欷 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
一塊の碧空実梅太らする 阿部みどり女
囀りや卒塔婆と杉の碧空に 阿部みどり女
大根を抱き碧空を見てゆけり 龍太
岩ひばり日輪碧空の中に小さし 岡田日郎
操縦士撃たれ碧空に身をもめる 細谷源二 鐵
日もすがら碧空を恋ひ石蕗の花 飯田龍太 遅速
柳絮飛ぶ王陵出でし碧空に 西野喜美子
栴檀の実を碧空に冬休 森田峡生
水張りしごとき碧空辛夷咲く 岸原清行
真二つに碧空割れん菊の花 佐野青陽人 天の川
短日の碧空たたく揚花火 石原舟月
碧空に冬木しはぶくこともせず 篠原鳳作 海の旅
碧空に命とりあふまたたきをせず 細谷源二 鐵
碧空に山するどくて雛祭 飯田龍太
碧空に山充満す旱川 龍太
碧空に振れども鳴らず釣鐘草 西村碧雲子
碧空に支那の子父を撃たれたり 細谷源二 鐵
碧空に消ゆる雲あり夏蕨 岡田日郎
碧空に濡れ訪ね来る荷物かな 攝津幸彦
碧空に鋭声つづりてゆく鳥よ 篠原鳳作 海の旅
碧空のひかりを収め秋の蝉 飯田龍太
碧空の下にあり四方に落花降る 池内友次郎 結婚まで
碧空へつづく山家の白障子 角田宗実子
碧空へ花野の帯をかかげたる 川崎展宏 冬
碧空やわれに束の間てんと虫 金子皆子
藪入の碧空の凧澄めるかな 種茅
裸木の碧空頼むけしきかな 臼田亜浪 旅人
鉄骨の碧空ふかく鋲をうつ 細谷源二 鐵
雑沓を出て碧空の寒さかな 中島月笠 月笠句集
露の父碧空に齢いぶかしむ 飯田龍太
●紅墨色
●ほの紅し 
手毬つき身のうち暗くほの紅く 齋藤愼爾
春眠といふうす暗くほの紅く 岡本眸
白桃を食ふほの紅きところより 佐藤鬼房
●真蒼 
ことごとく枯れて天竜真蒼なり 草間時彦 櫻山
冬の天海の上にて真蒼なり 大谷碧雲居
初鳩や真蒼に晴れし大欅 篠原一男
夏山を統べて槍ヶ岳真蒼なり 水原秋櫻子
少女期の真蒼な顔幣辛夷 川崎展宏
硝子戸に嶺々が真蒼し春炬燵 宮坂静生 青胡桃
野の闇に真蒼の車輪除夜の汽車 宮武寒々 朱卓
雪きしむ馬上真蒼な君の夜 桜井博道 海上
●真白し 
少年の裸真白し七日堂 坂口江寒
島庁は真白し日傘人松に 久米正雄 返り花
揚舟に幣の真白し初凪す 代 五米
桶底の豆腐真白し初氷 草皆五沼
水仙のりゝと真白し身のほとり 多佳子
眠りよるインコ真白し夏の月 横光利一
石白し花また白し秋の日のひかりのなかにわれも真白し 川端弘
神の梅かくも真白し勝たでやは 渡邊水巴 富士
紺足袋の底の真白し初仕事 武田克美
●真赤 
「日の丸」が顔にまつはり真赤な夏 中村草田男
いけかへてグラヂオラスの真赤かな 松葉女
うそ寒の爪先に落ち真赤な葉 鷲谷七菜子 花寂び 以後
うめもどきの真赤感謝のようにあり 北原志満子
お向ひの壁が真赤で夜なべ鍛冶 藤木清子
かけ金の真赤に錆て寒哉 一茶 ■文化九年壬甲(五十歳)
くちづけのあとの真っ赤なトマト切る 大高翔
さいころの一の目真つ赤雪の国 蝦名石蔵
さびしくてならぬ真赤に火をおこして 阿部完市 無帽
せわしさのふと梅もどきもう真赤 清水素生
たらたらと日が真赤ぞよ大根引 川端茅舎(1897-1941)
ななかまど真つ赤盲学校の坂 佐藤淑子
なんばんが真つ赤山の日山の風 冨舛哲郎
また外れ真っ赤な嘘の油照 高澤良一 寒暑
みじかきは真赤の花の立葵 高木晴子 晴居
みちのくの頬の真赤な雪女郎 渡辺二三雄
みどり児が真っ赤になりて力むとき身丈かすかに延びているらし 土岐恭子
みんみんの響く真赤な砂糖壺 山田径子
わたしには氷いちごの真っ赤なやつ 高澤良一 ぱらりとせ
オリーブの真赤に熟れて放哉碑 野上美代子
ガスマスクやけに真赤な雲だけだ 平畑静塔
サルビアの真赤な殺し文句かな 徳永球石
サルビヤに真っ赤な風が起ちにけり 高澤良一 寒暑
ジヤケツ真赤く縄飛はまだ出来ず 富安風生
ストーブの真赤受験期どつと来し 宮坂静生 青胡桃
ストーヴを真赤に焚いて蕪村論 太田寛郎
ダリヤ真赤に熾んな自己主張 山岡敬典
トマト真赤みな子を連れてきようだい寄る 古沢太穂 古沢太穂句集
トランペット晩夏真赤にまつくらに 小檜山繁子
バレンタインの日なり灼かれて真赤な鉄 見学 玄
ボートの腹真赤に塗るは愉快ならむ 西東三鬼
ポインセチアの真つ赤をもつて祝福す 山崎ひさを
ポインセチア抱いて真赤なハイヒール 西坂三穂子
メスの記憶真赤な花の地に噴き立つ 野澤節子 黄 瀬
ヴァレンタインの日なり灼かれて真赤な鋲 見学玄
一位の実真赤ぞ義仲挙兵の地 江崎成則
一筋に秋や真赤な蟻の道 小檜山繁子
一聯の世にも真赤な唐辛子 遠藤梧逸
七輪の口が真赤に春来る 河野静雲 閻魔
万歳や真赤な月の雑木山 辻桃子 桃
下闇に宮も鳥居も真赤なり 木下闇 正岡子規
不断燈仏の林檎真赤にす 林火
亀の鳴くこゑを真赤と思ふなり 鈴木鷹夫 千年
人の死や納屋に真赤なとうがらし 北原志満子
人を分け真赤な燠の運ばるる 長谷川櫂 天球
今日の余白に真赤な炭と碁盤の斑 平井さち子 完流
仏前に柿が真赤よ農の葬 大熊輝一 土の香
仰臥さびしき極み真赤な扇ひらく 野澤節子 黄 瀬
伝説の途中真赤な椿落つ 大盛和美
何か言へ鬼灯むいて真赤なり 加藤楸邨
信頼せり靴下の真赤な男 阿部完市 証
傘寿過ぎの夫の真赤な春帽子 中森百合子
六月や真言宗が真赤なり 原田喬
冬ざれの牛に真赤な唐辛子 大貫弘司
冬の星暗し山の灯真赤なり 阿部みどり女
冬の海かへり見すれば日の真赤 椎橋清翠
冷し牛夕日いよいよ真赤なり 村山古郷
凩や真赤になつて仁王尊 夏目漱石 明治二十八年
初刷の真赤な日の出佳かりけり 野澤節子
千年の節目に唐辛子が真赤 歌津絃子
古城趾の冬日真赤に四郎の忌 原 菊翁
向日葵と塀を真赤に感じてゐる 白泉
咳き込んで真赤な薔薇のたちあがる 阪本道子
哭いてゐる舌が真赤で涅槃変 阿波野青畝
唐辛子真っ赤子育て奮闘記 福本五都美
嘘つかぬ舌も真つ赤ぞかき氷 橋本榮治 越在
嘘はいや真赤な薔薇の棘ささる 伊藤道子
土用灸真赤な雀飛びちがふ 菅裸馬
土砂降りへ人参真赤にぬきはなつ 秋山淡適
壮年過ぎし後ろ真赤や曼珠沙華 伊東昌信
夕日真赤に湖へ葉ふるふ若狭柿 西村公鳳
夕焼の真赤に御用納かな 藺草慶子
夕陽に熟柿いよ~真赤なる 寺田寅彦
夜祭の秩父別して真赤なり 落合水尾
大寒や真赤な苺店先に 逸見静江
大木の雪真赤なる火事明り 井上白文地
奥阿仁駅しぐれ真赤な箱ポスト 田村九路
妻へ帰る大地真赤や秋の暮 榎本冬一郎 眼光
姫杉の真赤に枯れしあつさ哉 暑 正岡子規
子烏の口中不気味なる真赤 山口笙堂
子等の絵に真赤な太陽吹雪の街 金子兜太
実南天二段に垂れて真赤かな 風生
実南天紅葉もして真赤也 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
家出づる頭上鬼凧の舌真赤 加藤知世子 花寂び
寺町の真赤なポルシエ灼けてをり 佐々木悦子(帆船)
小原村土手に真赤な酸葉の芽 渡辺昌代
小春日の章魚は真赤に染められし 川端茅舎
尾を振れば一面真つ赤金魚玉 小泉洋一(花鳥来)
山寺で商ふ真っ赤な渋団扇 高澤良一 素抱
山寺に筍を炊く火が真つ赤 鈴木鷹夫 春の門
山蟻や割れて真赤な桃の幹 長谷川櫂 天球
忘れざるために真赤な落葉踏む 石寒太 翔
忘年や真赤な薔薇の束を抱き 吉田トヨ
怒り型なる唐辛子真赤くふもならず 加藤知世子 花寂び
恋よ夢よ橋のたもとの真赤な実 林原耒井 蜩
手毬真つ赤堅き大地に跳ね返り 河内静魚
敗戦の年の真赤な天井守 川崎展宏 冬
斜塔となつて見かへれば寒い真赤な絶景 高柳重信
旱天の亀裂真赤な唐辛子 吉田未灰
春の月真赤な箱が帰りけり 清水東洋子
晩稲刈真赤なものを置きにけり 大峯あきら 鳥道
曼珠沙華真赤な嘘でかたまれり 伊藤敬子
月の餅搗くや鶏頭真赤なる 渡辺水巴
末枯れて真赤な富士を見つけたり 内藤鳴雪
杏の核真っ赤に蟻の総掛かり 高澤良一 随笑
来る年のための真赤な魚かな 如月真菜
来年ハ真赤ニ咲クゾ梨ノ花 石寒太 炎環
松笠の真赤にもゆる囲炉裏かな 村上鬼城
林檎真つ赤唖者の頷き幾たびも 成田千空 地霊
林檎真赤五つ寄すればかぐろきまで 野澤節子 黄 瀬
枯櫟原厳冬の旭を真赤透く 森 澄雄
梅漬の種が真赤ぞ甲斐の冬 飯田龍太(1920-)
梅雨貧し花でも真赤に画いてやれ 岡部六弥太
椋鳥とんで妻にかがやく西真赤 飴山實 『おりいぶ』
椿真赤嫉みアダムのむかしより 稲垣きくの 黄 瀬
武者ねぶた瞋恚も恋も真赤ぞよ 行方克巳
死ぬときは真赤なドレス鰯雲 小笠原慶子
死の顔の笑みけり唐辛子の真赤 豊山千蔭
母よ藷が真赤に晩年もいいね 北原志満子
毒茸や赤きは真赤黄は真黄 正岡子規
水洟やどこも真赤な実南天 爽波
氷下魚釣る夜は真赤な頭燈つけ 若木一朗
沈む日の真赤を囃し鳰の鳴く 石井とし夫
沢蟹を獲る手真赤にしてゐたり 茨木和生
浅草と書きて真赤な団扇かな 藺草慶子
海とほき国ぼうたんの日が真赤 鍵和田[のり]子
海神の真赤な歓喜上元會 下村ひろし 西陲集
清汁(すまし)椀の見込真赤や飢餓透し 三橋敏雄 畳の上
溶鉱炉注連飾して真赤なり 富安風生
火掻棒真赤や雪中にて異郷 小檜山繁子
灼けず濡れず真赤な水着肉余る 下田稔
烏瓜一つ真赤に不埒なる 浅野昭治
焼酎の中に真っ赤な人体図 井沢唯夫
熔鉱炉注連飾して真赤なり 風生
牛通り過ぎてすかんぽ真赤なり 内藤吐天 鳴海抄
犬の舌枯野に垂れて真赤なり 野見山朱鳥(1917-70)
狐火や真赤な紐の落ちてゐて 藺草慶子
狸汁花札の月空真赤 福田蓼汀
狸汁花札の空月真赤 福田蓼汀
目隠しの中が真つ赤や福笑ひ 阿部静雄
真っ赤な魚が獲れ蚕豆の花ざかり 瀧 春一
真実は一つチューリップ真赤 木田千女
真赤い野生のチユーリツプ久女の墓 藤岡筑邨
真赤なる河内の月に夜鷹啼く 大峯あきら
真赤なる野火の彼方にはす心 細谷源二 砂金帯
真赤な日落ちゆくことも猟名残 石井とし夫
着ぶくれてゐて愛などと真赤な嘘 伊藤トキノ
祈祷師のセーター厚く真赤なる 岩崎照子
神の留守ポスト真赤く立てりけり 藤岡筑邨
福寅の口真赤なる鞍馬かな 辻田克巳
禾負けの肌を真赤に麦脱穀 大熊輝一 土の香
秋水へ真赤な火から煙来る 草田男
秋蝉や槐多の裸僧真赤なり 原田喬
空梅雨の夕日真赤に落ちにけり 小林一行
空真つ赤妻に秋刀魚を買はせをり 町田しげき
絵日記の西瓜真赤に熟れてをり 北見さとる
緋鯉うかみでて顔真赤水澄めり 池内友次郎 結婚まで
繭玉の中に真赤な大きな玉 京極杞陽 くくたち上巻
罌粟真つ赤思考回路を外れ真つ赤 戸田かづ子
罌粟真赤廃墟の壁に咲くときも 稲垣きくの 黄 瀬
美ヶ原走る真赤な雪上車 行実みよ子
耕衣忌のアスパラガスの実が真つ赤 村上幸子
自転車が倒れて真つ赤田植寒 佐々木六戈 百韻反故 初學
苗を植う秋は真赤なかまつかの 林原耒井 蜩
草枯に真赤な汀子なりしかな 高浜虚子
落日をゆく落日をゆく真赤い中隊 富澤赤黄男
葉桜や真赤に洗ふ消防車 百合山羽公 故園
葉鶏頭の露真白にも真赤にも 高浜虚子
薔薇真っ赤売り込み一切おことわり 高澤良一 素抱
薔薇真赤ひたすらサキソホンを吹き 森田ていじ
藁屋根に干されて真つ赤唐辛子 山地曙子
藪の家真赤な橇を蔵ひけり 吉本伊智朗
虚の壁のやぶれ真赤に寒椿 和田悟朗 法隆寺伝承
血のやうな真赤な日が沈み冬の野を汽車の走る 四丁句集第一巻 鵜沢四丁
貧しさの村の真赤な七かまど 吉田 慶子
足元の真赤な冬の夕焼かな 石田郷子
踊らんかな(瀕死)真赤な血の手拍子 高柳重信
躑躅真赤にいくさごころの消え残る 小出秋光
遠足ややつれし顔が真赤な師 中村草田男
酪農の掌の真赤なる霧の中 久米正雄 返り花
鉄工葬をはり真赤な鉄うてり 細谷源二 鐵
鉄工葬終り真赤な鉄打てる 細谷源二
銀杏散る中へ真赤なポルシェゆく 小川背泳子
閻王の燭に真赤な地獄変 福田蓼汀 山火
閻王の真赤な怒り笏落し 小山南火
降誕祭布教所真赤な新車来て 鍵和田[ゆう]子 未来図
雨貧し花でも真赤に画いてやれ 岡部六弥太
雲の裏真赤に燃えて冬木立 梅田ひろし
風の芥子真っ赤にさだかならぬ記憶 木下夕爾 遠雷
風吹いて故郷明るし真赤な父 阿部完市 絵本の空
風邪熱のあやつる夢の蝶真赤 上村占魚 『自門』
驟雨来る肉屋で借りる真赤な傘 初村迪子
鬼の豆食ふ夜真赤に癩の炉火 村越化石
鬼殻の真赤なスープ暑気払ふ 野沢節子
鬼灯や真赤な嘘を吐く女 野村喜舟
鮨桶の中が真赤や揚雲雀 波多野爽波 『一筆』
鳩の街溶けて真赤な氷水 佐川広治
鳶のこゑ島の椿を真っ赤にす 高澤良一 宿好
鴎翔ぶ晩夏の腋の真赤なり 小檜山繁子
鵯の啄ばみ落す真赤な実 大高芭瑠子
鶏のとさか真赤や涅槃西風 尾川政人
鶏頭の真赤な稲を刈りにけり 斉藤美規
麦苅られてかみなりの臍が真赤な 冬の土宮林菫哉
黄いろなる真赤なるこの木瓜の雨
この集団が動くのだまつかな旗がつづくのだ 橋本夢道 無禮なる妻抄
ザボン吸いまっかな丘に登って睡る 三谷昭 獣身
夕焚火生命線のまつかつか 大倉郁子
心臓がまつかに歩きゐる冬ざれ 内田暮情
消炭を夕べまつかな火に戻す 三橋鷹女
空にまっかなうろこが跳ねる金曜日 穴井太 ゆうひ領
老人に楓まつかな芽を吹けり 小島千架子
花ぐもりまつかな船を焼いてゐる 攝津幸彦
西瓜甘ければ眼前まつかなり 清水径子
赤ん坊の蹠まつかに泣きじやくる 篠原鳳作 海の旅
金属の建築まっかな雲曳いて 松本恭子 二つのレモン 以後
雪くらむ厨まつかに蟹ゆだる 吉野義子
雪嶺の裏側まっかかも知れぬ 今瀬剛一
●真黒 
おでん屋を出て真つ黒な土手がある 岡本眸
からす猫よ汝は真黒の夢を見るか 橋本夢道 無礼なる妻
ひとり身の胸まで包むショール真黒 菖蒲あや 路 地
りんどうのほとり真っ黒火山弾 高澤良一 ぱらりとせ
夜光虫真黒き島が来て過ぎぬ 山口波津女 良人
寒風の真黒き架線ああ家に 齋藤愼爾
揚羽など真黒きものら涼しげなり 三橋鷹女
故国へかへる真つ黒の汽車にゆられかへる 酒井桐男
春に飽き真黒き蝌蚪に飽き飽きす 西東三鬼
春眠の三人の子の髪真黒 上野泰 春潮
杉菜の下無為やはらかき真黒土 中村草田男
横這の目の真つ黒や太閤忌 菱科光順
沖鋤の腹真黒なる切身かな 茨木和生 倭
浅蜊舟真黒に塗られ雨をゆく 西村公鳳
湯元の辺穂の真っ黒な猫じゃらし 高澤良一 素抱
漢方の粒真黒に秋の風 富安風生
炎天を真つ黒な傘さしてをり 久米正雄 返り花
炭火途中にて真つ黒に消えゐたる 右城暮石 声と声
焼酎に酔えば真つ黒し秋夜空 石橋辰之助
犇めくものは真黒に秋祭 折井紀衣
白百合に真黒き蝶のねむりたる 寺田寅彦
真っ黒い太陽を描く孤児である 九堂夜想
真っ黒な閻魔の怒気をふりかぶり 高澤良一 随笑
真つ黒な帽子の上の春の月 鈴木鷹夫 千年
真つ黒な牛の顔ある通草かな 岸本尚毅 鶏頭
真つ黒な鳥が物言う文化の日 出口善子
真白に又真黒に渡り鳥 梅室
真黒き冬の海あり家の間 高浜虚子
真黒き釣鐘を見て昼涼し 桂信子 草樹
真黒なソ連船泊つ晩夏かな 志城 柏
真黒な夜雲散りゆく額の花 川崎展宏
真黒な太陽をあぐ片葉の葦 熊谷愛子
真黒な怒りかくさずアネモネは 行方克巳
真黒な手鞠出てくる炭団哉 正岡子規
真黒な杭にしばらく春の鳥 柿本多映
真黒な毛虫の糞や散松葉 散り松葉 正岡子規
真黒な泥積みあげて池普請 岸本隆雄
真黒な葵の花のさかりかな 楠目橙黄子 橙圃
真黒な蝶の狂ひけり雲の峯 雲の峯 正岡子規
真黒な蝶の狂ひや雲の峯 雲の峯 正岡子規
真黒な鯉を誘ひて秋の鯉 斎藤玄 雁道
真黒に嵩む晩夏の茄子貰ふ 百合山羽公 寒雁
真黒に花見る人のさかりかな 花見 正岡子規
真黒に茄子ひかるや夏の月 夏の月 正岡子規
真黒に蟻の集りたる暑さかな 暑 正岡子規
真黒の腸を抜かれしさよりかな 佐川昭吉
砂漠に妻匂う一直線に真黒に 和田悟朗
稲は穂に嶽真つ黒に星を生み 雨宮抱星
色鳥の舌は真黒かも知れぬ 関口眞佐子
花の中鐘真黒な音を出す 桂信子
螢狩真黒き山かぶさり来 上野泰 佐介
貯炭場の細き真黒き春雨なり 西東三鬼
起きていた鏡ぼく真つ黒に存在して 堀葦男
開帳の仏真つ黒みそさざい 菅原鬨也
露すずし真黒の汽車牧をきる 石原舟月
飛んでくる虻真っ黒け二輪草 高澤良一 随笑
ぎつしりと星紅葉山まっくろに 藤本草四郎
ことしもおはりの虫がまつくろ 山頭火
これちょうだい まっくろ黒助凍てなまこ 高澤良一 寒暑
まっくろな水平線に鮫の花嫁 夏石番矢 楽浪
まっくろな目ゆえ鼠は殺される 宇多喜代子
まつくろな嘘もあるべし蛇苺 高橋悦男
まつくろな土いちにちのわれに鋤かれたり シヤツと雑草 栗林一石路
まつくろな牛を押し出す冬霞 田村ひろし
まつくろな穴のありたる汐干かな 山西雅子
まつくろな藤原仏や菱咲ける 辻桃子
まつくろな蜘蛛下りてくる炭火かな 廣瀬直人
まつくろな雪雲鍬の浅使ひ 平畑静塔
まつくろな雲の飛びゆく良夜かな 長谷川櫂 天球
まつくろな鴨にあたりし春日かな 仙田洋子 雲は王冠
まつくろに供華のちぢめる春焚火 山西雅子
まつくろに蓬枯れたる伊吹かな 阿波野青畝
寒鮒をまつくろに飼ひ双生児 原田喬
手習のまつくろ草紙山眠る 龍岡晋
灰の底よりまつくろな椿の実 夏井いつき
猫の恋風呂まつくろに沸きにけり 原田喬
秋夕焼芯はまつくろかもしれぬ 夏井いつき
考えることをやめてまつくろの太陽のもとにはたらく 橋本夢道 無禮なる妻抄
雪明かり牛まつくろに立ち止る 志賀たいじ
高熱の煤降り雀まつくろけ 寺田京子 日の鷹
●真青 
*ひつじ田や小草も萌えて真ッ青に 西山泊雲 泊雲句集
いもむしの真つ青なるを日に蹴り出す 林原耒井 蜩
お札流し真青な海に広がりぬ 藤原明窓
きさらぎの空と真青なり田波立つ 木津柳芽 白鷺抄
きりぎりす腸の底より真青なる 高橋淡路女 梶の葉
すずかけの幹真青なる祭かな 今井杏太郎
ずず玉の真青な闇に昼の虫 辻桃子 ねむ
たんぽぽの絮真青な空目指す 高橋よし
どの窓も開けて真青や楸邨忌 田村正義「水輪」
びいどろに夏の蘇苔真青なる 加藤楸邨
ふくちりや長く真青の竹の箸 草間時彦 櫻山
まくなぎを抜け切つて湖真青なり 手島 靖一
みちのくのわらび真青に箸に沁む 島みえ
むさしのの空真青なる落葉かな 水原秋櫻子
やがて壊す家に真青ないぼむしり 鈴木鷹夫 風の祭
ゑのころはうぶで真青で澄みきるそら 高澤良一 随笑
ガラス浮子真青に積まれ夏怒濤 川村紫陽
クローバの真青に晴れし夜べの雨 五十崎古郷句集
一月の空が真青久女の忌 猪島蘇風
一本の真青なる竹梅雨に入る 納 譲二
一村の真青な湖雛あられ 渡辺純枝
一片の葉の真青なる柚の実かな 飯田蛇笏
七月の海真つ青な暦剥ぐ 玉田年春
六月の臥龍梅とは真つ青な 岸本尚毅 鶏頭
冬の竹伏目ゆるさず真青なり 石田あき子 見舞籠
冴返る日の真っ青なポリバケツ 伴場とく子
切先へ息入れて葱真青なり 殿村菟絲子 『牡丹』
初時雨こぼせし空のいま真青 藤崎久を
初月やまだ真青なる楡の空 古賀まり子 緑の野以後
古都覆ふ真青の天や中也の忌 土田澪子
墳冷えて竹の真青におそはるる 鷲谷七菜子 天鼓
夏山を統べて槍ケ岳真青なり 水原秋櫻子
多喜二忌の海真つ青に目覚めけり 木村敏男
守宮出て真青な夜が玻璃に満つ 加藤楸邨
寒肥や天真青にかむされる 木村蕪城
幾日も空が真青や鳥総松 副島いみ子
強風の山真青や薬狩 櫛原希伊子
形代の行方の水の真青なる 原田豊子
忌の中に摘む真青な蕗の薹 豊島紀久
愛 真っ青な竹藪に入る 畠中妙子
懐手解くべし海は真青なり 大牧広
捨畑の桑真青に初伏かな 木村蕪城
掛稲の真青な葉のあら~し 高野素十
日本海真青なり街露に濡れ 川島彷徨子 榛の木
春や行く閑庭の歯朶真青なる 渡邊水巴 富士
春近し湧水の藻の真青にも 岸田桂子
時雨つつ竹真青なり四畳小屋 藤田湘子 雲の流域
朝焼の消えて立山真青なり 吉沢卯一
末枯や真青にせまる空一つ 井沢正江 一身
杣が家へ清水引く竹真青なり 野原春醪
枝豆を真っ青にゆで旅疲れ 降籏幸子
柚子真青向田邦子好きな夜で 脇 りつ子
桶の輪の竹真青なり葛晒す 中野詩紅
梅雨の羊歯金堂をめぐり真青なり 水原秋櫻子
榧の実に真青な楕円子に未来 須川洋子
死ににゆく猫に真青の薄原 加藤秋邨 まぼろしの鹿
死にゆく蟷螂真青な鎌かざしつつ 加藤知世子 花寂び
母子草空真青にかたまれり 上野好子
水鳥の真青なる眼をしてをりぬ 今井杏太郎
洗ひ牛葛真つ青に昏れはじむ 石田波郷
浜木綿の真青の葉や春の雨 楠目橙黄子 橙圃
海に注ぐ川真青や灼熱す 松村蒼石
海胆割つて潮の真青にすすぎ食ふ 岸原清行
深雪雲割れて真つ青霊の道 加藤知世子 花 季
清明の月真青に種浸す 武田香津子
火ロ湖に浸る雪田の裾真青 福田蓼汀
狛犬の首に真青な注連飾 藤本安騎生
生國や冬真青な曼珠沙華 柿本多映
真っ青なジャングルジムの公園は空の墓なりくすのきゆれる 江戸雪
真っ青な夏葱選ぶわが歴史 高澤晶子 復活
真っ青な空から柿を*もぎにけり 田中 彬
真つ青な夏葱選ぶわが歴史 高澤晶子
真つ青な空が一面梨受粉 旗川万鶴子
真つ青な空刈り込まれ松手入 小島健 木の実
真つ青な竹梯子吊り冬構 岡本 眸
真つ青な葉もちぎれ飛ぶ青嵐 土永竜仙子
真つ青に芙蓉蕾める葭戸かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
真つ青の海を引き寄せ葭簀茶屋 森下まゆみ
真青さや雉子かくせし谷の歯朶 尾崎迷堂 孤輪
真青なり瑕なき秋の天と海 檜紀代
真青なる孤独に乗りぬハングライダー 水野良明
真青なる檜葉より燃えぬ雛供養 原口洋子
真青なる浪ゆり返す根釣かな 楠目橙黄子 橙圃
真青なる空を残して男梅雨 小宮山 勇
真青なる紅葉の端の薄紅葉 高浜虚子
真青なる能登の荒磯や吹き流し 渡邊那津
真青なる葉を沈めをり秋の水 阿部みどり女
真青な寝茣蓙の上の窶れかな 鈴木鷹夫 渚通り
真青な山の空より落し文 市村究一郎
真青な木の実を拾ふ修那羅神 猪俣千代子 堆 朱
真青な木賊の色や冴返る 漱石
真青な松原被害者は鶴つれ 阿部完市 春日朝歌
真青な水滴らせ新わかめ 斉藤葉子
真青な水輪の芯を泳ぐかな 川村紫陽
真青な河渡り終へまた枯野 橋本多佳子
真青な海に沿ひたる年の市 山田雅子
真青な海へ出て来し夏花摘 茨木和生 遠つ川
真青な海を忘れて松手入 細井みち
真青な穂草を抜きぬ生きたくて 前田不二男
真青な空に鍬立て甘藷を掘る 大平 喜代子
真青な空より風邪をひきこみし 波多野爽波 鋪道の花
真青な竹にからみて葛の花 岩田由美
真青な笊編まれゆく雪の鵙 岸田稚魚 『負け犬』
真青な紫陽花を見し野分かな 岸本尚毅 舜
真青な葉も三三枚返り花 素十
真青な身元怪しき薄荷水 如月真菜(童子)
真青な雨が鬼灯市に降る 清崎敏郎
真青な雨の櫟と寝冷の子 神尾季羊
真青な頭をとおす木莵の夜 和知喜八 同齢
真青な顔して氷室出でて来し 片岡奈王「奈王句集」
真青にわらび煮て風邪忘れけり 及川貞 夕焼
真青に堅き氷の乾きゐる 京極杞陽 くくたち上巻
真青に枝豆飯や一つの忌 甲斐田 久子
真青に海は枯木を塗りつぶす 山口青邨
真青に芦の暮れゆく迎へ盆 鷲谷七菜子 花寂び 以後
真青に菖蒲芽立ちて移公子来ぬ 石田あき子 見舞籠
真青に蕨沈めり母の水 小檜山繁子
真鰯の真青なる背に無頼あり 鳥居三朗
真鰯の真青な背に無頼あり 鳥居三朗
破芭蕉真青の空にあらあらし 阿部みどり女
神杉の実の真青なる手向山 福井貞子
秋の海芥に根づく藻が真青 加藤知世子
稲架のかげ空はうつさず真青の井 栗生純夫 科野路
空も海も風も真青よ七五三 太田土男
空真青水の底まで冬が来て 菅原章風
立ちかこむ杉真青に孟蘭盆会 水原秋櫻子
立ちまじる松真青なり山紅葉 水原秋櫻子
立秋の筏に組まる竹真青 吉野義子
竹を伐る音真青に雨のなか 福田甲子雄
紅を冠り下身真青や早生林檎 中矢荻風
老鴬や真青の空へ声展ぐ 坪井耿青
膝の上に真青な魚がおちてゐる 富澤赤黄男
花の雨竹にけぶれば真青なり 水原秋櫻子
花菖蒲鎌は真青に研ぎにけり 轍郁摩
苔にしむ真青な梅雨の降りやまず 阿部みどり女
菜の花の真っ青な影精神科 斎藤愼爾 秋庭歌
落葉松の日の出真青にほととぎす 千代田葛彦 旅人木
落蝉にいつもの空があり真青 高澤良一 寒暑
蓋置の竹真青なる初点前 平岡しづこ
蓮真青なる夕焼を保母帰る 飯田龍太
蘆刈るや空真つ青に潟の波 秋櫻子
蚊帳吊つて一つ船窓真青なり 中條明
蛇ゆきしあと真青なる風立ちぬ 宮本径考
蛙のむくろ腹見せて炎天の池の真つ青 人間を彫る 大橋裸木
蟷螂の真青に垣の雨晴るゝ 内藤鳴雪
親杉小杉熊出し夜も空真青 赤尾兜子
赤城へ向く葱真青に夜霧の底 加藤知世子 黄 炎
迅雷に一瞬木々の真青なり 長谷川かな女 雨 月
酔ひ初めし芙蓉に空の真青なる 北野まさ子
雉子網のなか真青に蜜柑垂れ 松村蒼石 雪
雨後の森真青に子鹿生れけり 山中 三木
雪割りて真青な笹ひらめかす 加藤楸邨
雪卸し真青の海を見て憩ふ 三宅草木
雪折の松の真青に日本海 児玉南草
雪風となりし笹山真青なり 渡邊水巴 富士
雹のあと蘂真青に梅こぼれ 水原秋櫻子
霧くれば手をつなぐ蘆真青なり 堀口星眠 営巣期
颱風の松立ちなほる真青さよ 加藤知世子 花 季
馬追よ父よ日本真青なり 原田喬
骸骨が抱きあふ真青薄かな 筑紫磐井 婆伽梵
鬼灯のまだ真青なる二つ三つ 若山良子
鯉苗といひ真つ青な水に飼ふ 森田峠 避暑散歩
鰡跳ぶや真青な空の浜離宮 阿部悦子
鵯つつく空の真青を冬芽立つ 木村敏男
鶴来る村空真つ青にあけておく 森澤義生
まっさおな津軽に雫る座禅草 上田多津子
まっさおな海犯し続ける渚の蟹 森田高司
まつさおな微塵とびたち芝刈器 阿波野青畝(1899-1992)
まつさおな雨が降るなり雨安居 藤後左右(1908-91)
まつさおのべらきしきしと泳ぎ出す 三井絹枝
もう種でなくまつさおに貝割菜 永田耕衣(1900-97)
レバノンの空はまっさお鳳仙花 坪内稔典
冬菜まつさお犬醜きも愛さるる 寺田京子 日の鷹
広島漬菜まつさおなるに戦慄す 西東三鬼
旅僧仏盆の前山まつさおに 和知喜八 同齢
植物園に棒立ちの愛まっさおな 八木三日女 落葉期
●真白 
*たら芽ぐむ真白き雲の光りとび 岸風三楼 往来
あかつきの清気真白の酔芙蓉 河野静雲
あたたかく真白き飯よ神のごとわがうつしみの前にかがやく 川端弘
ある期待真白き毛糸編み継ぐは 菖蒲あや あ や
いさざ汲む湖や真白に冬の城 松村蒼石 露
いろいろの涙を知りて梅真白 村山砂田男
おおかたの書を離す日の雪真白 宇多喜代子 象
お手綱のこよなき真白御命講 高澤良一 随笑
かじかんだ手で真っ白の封を切る 大高 翔
からす瓜真白き花の怯え咲き 高澤良一 鳩信
からたち真白その下で料理はじめる 阿部完市 春日朝歌
かゝる世のかゝる真白き団子かな 林原耒井 蜩
くちびるの真白き鯉や山の冬 宮坂静生 樹下
したたかな人のハンカチ真白なる 西川織子
たじろがぬ漢の視線梅真白 吉川能生
たそがれて顔の真白き案山子かな 鷹女
ただ真白逆光の中の弥生 斉藤栄子
とうふ売るため真白なシャツを着る 南利一
のうぜんや真白き函の地震計 日野草城
まだ油ひかぬ真白き苗障子 中田みづほ
まぢかの家真白に干し草虱 友岡子郷 遠方
まばたきを集めれば闇葱真白 鳥居真里子
まゆみの実真つ白な雨山消して 八木林之助
ゆふぐれは真白きからすうりの花 鳥居三朗
キャベツ切口真白層なし颱風来 小檜山繁子
コート黒く足袋真白に春浅き 阿部みどり女 笹鳴
シクラメン真白く佳き事ありさうな 菖蒲あや
ジーンズの洗ひ擦れして梅真白 芝 由紀
パレットの洗ひて真白鶸の森 小林貴子
モンゴルの包の真白き高き月 岬 未知子
一僧の脚絆真白き夏野哉 酒葉月人
一刀の断冬瓜の腹真白 宮崎笛人
一山のふもとの坊の菊真白 久野幸子
一息という刃をつかう蕪真白 宇多喜代子 象
一月の松や真白き真砂ふむ 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
主なき障子真白く桟正し 殿村莵絲子 花寂び 以後
二の腕の若さ真白き蛾を殺す 稲垣きくの 牡 丹
五月きぬビルは真白き艦のごと 金尾梅の門
五月来ぬ艇に真白き潮見表 野島抒生
五月空真白くのぞき木曽の駒嶽 橋本多佳子
亡き人へこころ傾く梅真白 川崎俊子
侘助や独りの刻の真白に 加藤知世子
信濃の土間障子真白く婆ばかり 宮坂静生 青胡桃
僧と俗へだつ真白き冬襖 吉野義子
元朝の障子真白く父母遠し 宮坂静生 青胡桃
兄嫁という真白きもの花の時 対馬康子 愛国
八月や真白きものに蛆虫も 辻桃子
八枚の襖が真白鴨の宿 茨木和生 倭
六月や能の亡霊足袋真つ白 北野民夫
写真ほど白鳥真白にはあらず 宇多喜代子
冬の皺真白き紙にありにけり 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
冬の草太根真白に持ちてをり 菅裸馬
冬蕪の真つ白な尻積みあげゆく 太穂
冬銀河肩にまはる手真白なる 仙田洋子 橋のあなたに
冷奴真白きものに廃りなし 細木芒角星
冷房やカード真白となる手品 松本美簾
出初式の男等手套真白なる 小川原嘘師
初の子を真白につつみ葱畑 友岡子郷 未草
初ミサのヴェール真白くいただきぬ 辰馬くに子
初桜真白き船の進水す 柳沢君子
初桜鮃の裏は真白にて 茨木和生 丹生
初蝶の腋あくまでも真白なり 斎藤愼爾
別れ蚊帳真白き繭ぞつきゐたる 加藤楸邨
劫初より真白きりようぶ深吉野に 花谷和子
勇気こそ地の塩なれや梅真白 草田男
北枕は北は真白は晴れなり 阿部完市 春日朝歌
十三夜真白くきつき足袋をはく 菖蒲あや 路 地
千代尼忌の紬真白に織りあがる 林さわ子
卒業歌沖に真白き船一つ 濱永育治
印度ムード歌謡真白きダチュラ咲く 如月真菜
受胎してあはあはと過ぐ梅真白 古舘曹人 樹下石上
古き世の風起す扇真白なる 中島月笠 月笠句集
古き代の胡粉真白き屏風かな 阿波野青畝
古寺に真白はかりの蓮哉 白蓮 正岡子規
唇の塩気うすうす梅真白 長山順子
唐寺を出る真白な日傘かな 有馬朗人
商館も船も真白き日覆張る 山口波津女 良人
啓蟄や真白き船の客となる 牧野洋子
喪の家の真白き皿の無月かな 吉野義子
囀や朝は真白の割烹着 松本美簾
国府跡真白な凧ひきずれる 原田喬
坪の内真白に飾り干大根 伊藤敬子
壬生踊小姓真白き指揃へ 深川知子
壷に真白降雪前に剪りし梅 野澤節子 『未明音』
夏帽に照りて真白き雲ばかり 水原秋櫻子
夏海の匂ひ真白き朝のパン 平井さち子 完流
夏海へ琉歌の石碑真白なる 桑江正子
夏深み真白き飯を夢みけり 林原耒井 蜩
夏落葉焚く煙とて真白かな 高木晴子 花 季
夏近し真白に蔵を塗り替へて 松本美簾
夕焼けの中の灯台だけ真白 福原実砂
夜々芽吹く過去帳夫のあと真白 久保 羯鼓
夜のセロリ真白噛みしむ独立祭 吉野義子
夜桜の真白に闇を焦がしけり 吉田千嘉子
大綿の真白に迫りたるが無し 皆吉爽雨
大風の夜を真白なる破魔矢かな 渡辺水巴 白日
天の扉を次々と開け凧真白 秋山素子
天神の早梅真白き花混むよ 高澤良一 素抱
太穂忌の相模寒月梅真白 澤柳たか子
太箸の真白にうごく火勢なり 鳥居おさむ
失恋の夜の真白きハンカチーフ 成瀬正とし 星月夜
女の児真白いマント着て近より来る 中塚一碧楼
子の幸や冬を真白き乳房含む 川口重美
子供らに真白き未来日記買ふ 橋田憲明
子規に律賢治にとし子梅真白 近藤山子
守り札も肌身にひとりの兵が真白の銃と何を思う 橋本夢道 無禮なる妻抄
寄せて白砕けて真白秋の波 小林 遊
富士真白諸君も髯を剃れという 秋山牧車
寒に入る鷺の真白き恋を見て 堀口星眠 青葉木菟
寒椿しかも真白に母校なる 古舘曹人 能登の蛙
寒風や羽根折つて来る鳥真白 金箱戈止夫
寒鯉を真白しと見れば鰭の藍 水原秋櫻子
小兎や真白の足袋に父とゐて 中山純子 茜
少年の裸真白し七日堂 坂口江寒
就中首里城衛士の足袋真白 北見さとる
尼寺に真白ばかりの蓮哉 白蓮 正岡子規
尾を曳きて真白き船と日は去りぬ 津沢マサ子
山寺に真白ばかりの蓮哉 白蓮 正岡子規
山峡に灯が入りリラの花真白 青柳照葉
山棲みに光る水増え梅真白 鷲谷七菜子 花寂び
山眠る真白き山もその奥も 岡田きよ
山翡翆や釣師の飯の真白なる 星眠
山翡翠になんじゃもんじゃの花真白 遠山郁好
山翡翠や釣師の飯の真白なる 堀口星眠
山風に買ふ矢真白き恵方かな 渡辺水巴
岩肌に辛夷散華のなほ真白 岡田日郎
島庁は真白し日傘人松に 久米正雄 返り花
巣箱真白母に問はるるたび瞠る 友岡子郷 遠方
常闇に住むも真白く障子貼り 村越化石
干鱈積む浜の女の髪真白 畑美津恵
幸福感真白き卓布冬灯に垂れ 桂信子
庭稲荷留守なる瓶子真ッ白に 久米正雄 返り花
弓始たすき真白くをみななる 吉田速水
弘法の真白の脚絆初大師 山岡てる子
弟へ真白き花の打球かな 攝津幸彦
徂徠忌や髪の真白き一儒生 池上浩山人
後園の春の真白や梨の花 尾崎迷堂 孤輪
忘れゐし花よ真白き枇杷五弁 橋本多佳子
怠け懈けて雲ぞ真白き四月尽 相馬遷子 山国
性愛や夜も真白き花辛夷 岩淵喜代子 硝子の仲間
息づまるほどに真白き寒牡丹 細川子生
手袋の真白き道士語りだす 日原 傅
托鉢に出払ひて梅真白なり 片野達郎
投扇興酔うて真白き腕見す 小原啄葉
揚舟に幣の真白し初凪す 代 五米
放生会果てし真白きすすぎもの 前田留菜
新涼の真白き猫を拾いけり 寺井谷子
新涼の雨真直に真白に 成瀬正とし 星月夜
新涼やダムは真白な水を吐く 平田青雲
新涼や足袋を真白に僧を継ぐ 角野彰子
日が包む成人の日の真白鳩 中条明
日の出いまだ霜が真白のうす明り 貞
日伸びけり真白き富士を雲の中 林原耒井 蜩
旧道の二階障子の夏を真白 皆吉爽雨 泉声
明日はまだ日記真白貝割菜 井浪立葉
明治節真白き鳥のよぎりけり 秦夕美
昔日を啖い夕顔真白かな 永田耕衣 人生
春の顔真白に歌舞伎役者哉 夏目漱石 大正三年
春嵐船に真白き救命具 森 かずを
春待つや帰らねばこそ波真白 野見山ひふみ
春愁のあまり真白き肌着裁つ 馬場移公子
晩涼の真白き蝶に今日のこと 立子
更衣せめて真白な手袋も 高木晴子 花 季
月の波真白きリオに着きにけり 大木さつき
月の芝煙草すふ手が真白なる 渡辺水巴 白日
月山につづく真白き恵方道 粕谷容子
月山に真白き飯を焚き上げぬ 攝津幸彦 鹿々集
月暮れていよよ真白き幟かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
月照らす茅花野ははや真白なり 斉藤栄子
朝燕麦穂の露の真白なる 西山泊雲 泊雲句集
木々の芽や素袷真白き宮大工 雉子郎句集 石島雉子郎
木場深くゐて極月の馬真白 大峯あきら
木蓮は普賢の象の真白かな 尾崎迷堂 孤輪
末枯へ真白な兎走り出す 瀧澤伊代次
東風の船汽笛真白く吹き止めず 山口誓子
松の間に真白き富士のどこかが見ゆ 篠原梵 雨
松の間の障子真白く御歌会 澤木欣一
林中の鶏真白なる落葉どき 斉藤夏風
枝豆の真白き塩に愁眉ひらく 西東三鬼
枯谷を真白き鳥や縁起売 宮坂静生 山開
柊の花の真白き香と思ふ 片山由美子
柊の花真白な謀叛持つ 丸山嵐人
桃むけば燈真白に高原なり 村越化石
桶底の豆腐真白し初氷 草皆五沼
梅真白労咳の子に憧れて 齋藤愼爾
梅真白拍手湧きつぐ柩出し 都筑智子
梅真白臍の緒を切るはさみかな 辻美奈子
梅雨の鶏舎より真白な卵もらふ 千代田葛彦 旅人木
梅雨寒く小蕪真白く洗はるゝ 鈴木真砂女 生簀籠
梅雨篭の布巾真白く晒しけり 中丸シゲ子
梅雨茸の裏は真っ白反抗期 川村智香子
梨の花真白に胸を満たしけり 川崎俊子
梨花白く更に真白く一つの示唆 伊藤敬子
梨齧る児に真つ白な永久歯 丸山依子
椅子を引くボーイ真白き良夜かな 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
極北の街で真白き日記買ふ 有馬朗人 耳順
極彩の中に真白き釈迦寝たり 谷野予志
横に殼有りて真白く蝉生る 波多野幸子
櫨取に真白き雲のひかりとぶ 毛利明流星
死の床に似て夏蒲団真白に 関口ふさの「晩晴」
死火山に積む億年の雪真白 片山由美子 風待月
母の日の妻の真白き割烹着 伊東宏晃
毒茸の真白にくだけ円空墓 鍵和田[ゆう]子 浮標
比良峰々真白尚あり残る雪 田中田士英
気鬱の木に真白な蝶が湧く 柿本多映
水仙のりゝと真白し身のほとり 多佳子
水口のまはり真白に花薺 長谷川櫂 天球
水垢離の素足真白き寒行女 福島百合子
水漬きつゝ新樹の楊真白なり 水原秋櫻子
水芭蕉高野に咲きて真白なる 塚田正子
水鳥の水尾の真白に春隣 渡邊千枝子
氷柱に真白き芯の通りけり 古舘みつ子(天為)
永遠の真白き音符小あぢさし 仙田洋子 雲は王冠
江ノ島の浪と真白き破魔矢かな 佐野青陽人 天の川
沙羅の花真白に得度受戒の日 平田節子
沢庵漬洗はんとする手が真白 京極高忠
泡吹虫羽化せし泡の真白なる 原田清正
波頭よりも真白き初鴎 龍神悠紀子
泰山木は天の生け贄花真白 小川原嘘帥「曲水同人句集」
浄め塩真白なり冬はじまれり 渡邊千枝子
浅間晴れて豌豆の花真白なり 高浜虚子
浅間真白冬の教室汚れ易し 宮坂静生 青胡桃
浮雲の夜も真白に菊月夜 福田蓼汀 秋風挽歌
海峡も舟も真白き走り梅雨 原勲
滝垢離に褌の真白きそひあふ 筑紫磐井「婆伽梵」
滝壺にゐて真白き夢を作(な)す 松澤昭 神立
滝音の耳慣れしより蝶真白 小泉洋一
瀧垢離に褌の真白きそひあふ 筑紫磐井 婆伽梵
火の山や真白にかづく昨日の雲 南風 水原秋櫻子
火口湖が凍る真白き亀裂もち 品川鈴子
灼け砂の真白目を突く恐山 高澤良一 随笑
炭竃の上に真白に那須ケ岳 岡安迷子
煤逃げの真白きベビー毛布かな 山崎ひさを
燕巣にもどり夕潮真白に 友岡子郷
爽やかや幟真白き字境 伊藤いと子
片々と血は足りてをり梅真白 藤田湘子 てんてん
現身を真つ白にする蜃気楼 下山光子
瑕瑾なき空より落葉墓真白 鍵和田[ゆう]子 浮標
生身魂真白の髪を切りそろへ 山下道子
病みぬればただに真白き秋日かな 五十崎古郷
痛みこそ夫への挽歌朴真白 野見山ひふみ
白きもの真白に洗ふ大暑かな 福田雅子
白息のごと紅梅の蕊真白 吉野義子
白蚊帳のなかは真白き波の音 明隅礼子
白酒や江戸絵の上野花真白 市川東子房
百年後のいま真白な電車がくる 小川双々子
盆棚に薯蕷(じょうよ)饅頭真つ白な 石嶌岳
盆燈籠真白き房に風見えて 高橋淡路女 梶の葉
目にうれし恋君の扇真白なる 蕪村
目に嬉し恋君の扇真白なる 蕪村
真っ白き部屋はゆっくり夏果てぬティッシュの箱をひとつ残して 吉野裕之
真っ白な花に群がる風一目 高澤良一 鳩信
真っ白な花の二つが触れ虚空 鳴戸奈菜
真っ白に明恵の咲かす茸なり 高澤良一 宿好
真つ白なあの世見たくて芒原 務中正己
真つ白なシーツを敷けば冬の海 和田耕三郎(1954-)
真つ白なハンカチ使ひそびれたる 藤本悦子
真つ白なブラウス復活祭のミサ 都筑智子
真つ白な犀が来てゐる春の風邪 齋藤愼爾
真つ白な産着が真中初写真 金森教子
真つ白な花の二つが触れ虚空 鳴戸奈菜
真つ白に雨がふるなり除虫菊 楠部九二緒
真ッ白な蛍ぶくろも梅雨の黙 酒井龍也
真白(しんぱく)の滝を遠目に旅ゆくも 金子兜太 皆之
真白きも彩のひとつに百合開く 松山和子
真白きテーブルクロス冷し珈琲 岡松あいこ
真白きトランク初夏の空港に 成瀬正とし 星月夜
真白き富士を見にゆく建国日 深瀬政子
真白き犬なり山川をわたらん鼓笛 阿部完市 春日朝歌
真白き百合拈華微笑に夫を醒ます 加藤知世子 花寂び
真白き神の餅買ふ冬紅葉 大橋櫻坡子
真白き障子の中に春を待つ 松本たかし
真白くに母の刻みし霰餅 あらきみほ
真白さに児の手ためらふ新障子 山口あさ子
真白さのつくばねうけよ初御空 鷹女
真白といふ濃さのあり梅の花 前橋春菜
真白とは激しき色か滝真白 山口超心鬼
真白なものへときめき初日記 長沼直子
真白なるショールの上の大きな手 今井つる女
真白なる十団子を吊る峡の盆 栗田やすし
真白なる十団子添へて盆見舞 梅田 葵
真白なる半衿つけし湯ざめかな 田原重子
真白なる卓布や憲法記念の日 斉木永久
真白なる厨の卵僧自恣日 宮坂静生 春の鹿
真白なる命根持てる薺かな 高本時子
真白なる夏野の果てに面師住む 阿部みどり女
真白なる晩秋蚕の繭の玉 屋舗 信子
真白なる湯気の釜揚うどんかな 草間時彦
真白なる灰を残しぬ牡丹焚 児玉輝代
真白なる猫が墓守る春の暮 吉野義子
真白なる猫によぎられ大旱 楸邨
真白なる皿の息づく二月かな 島田文江
真白なる鯉が過ぎける暮春かな 能村登四郎
真白なシェフのスカーフ巴里祭 菅原章風
真白な壁の途中に蝉の殻 岩田由美
真白な外車を囲み泡立草 頓宮れい
真白な妻の爪屑水引草 香西照雄 対話
真白な寒月岩山の横へ出づ 岡田日郎
真白な皿に一本唐辛子 中嶋秀子
真白な皿に音楽夏立ちぬ 折井紀衣
真白な眼帯のままむなしき春 阿部みどり女
真白な羽吹かれ来し曝書かな 岸本尚毅 舜
真白な肌の背中の水遊び 八木林之助
真白な花に影なし朧月 朧月 正岡子規
真白な菊見て来てより可笑し 野村喜久子
真白な蓮が先づ咲く三室戸寺 高橋繁喜
真白な蛾や掛稲を飛び出づる 岸本尚毅 舜
真白な風に玉解く夏芭蕉 阿波野青畝
真白な風に玉解く芭蕉かな 川端茅舎
真白な鳥先立てて神還る 原田喬
真白にかしらの花や年男 許六
真白に又真黒に渡り鳥 梅室
真白に李散りけり手水鉢 李の花 正岡子規
真白に物干して豊かなるに似たり 千代田葛彦 旅人木
真白に生れて神馬寒からむ 豊東蘇人
真白に石灰やきのあつさ哉 暑 正岡子規
真白に繭干す庭や雲の嶺 奚魚 六 月 月別句集「韻塞」
真白に行手うづめて山辛夷 高野素十(1893-1976)
真白に鹿の星毛や五月あめ 江戸-楚舟 俳諧撰集「有磯海」
真白斑の鷹に日本語でものをいう 宇多喜代子 象
真白羽を空につらねてしんしんと雪ふらしこよ天の鶴群 岡野弘彦
真葛越し脚下浪湧く真白なり 中村草田男
眠りよるインコ真白し夏の月 横光利一
眠る下りてゆく真白い手紙書く 阿部完市 絵本の空
睡蓮の真白な遺書水浸きけり 丸山嵐人
短夜や伏せて真白き鵬于集 林原耒井 蜩
石白し花また白し秋の日のひかりのなかにわれも真白し 川端弘
神の梅かくも真白し勝たでやは 渡邊水巴 富士
神仏をたのまず佇てば梅真白 高崎公久
福沸真白き泡をはねあぐる 福田甲子雄
秋の声踏み来る神馬真白なる 林昌華
秋の川真白な石を拾ひけり 夏目漱石(1867-1916)
種採ると紙を真白に平かに 皆吉爽雨 泉声
穀象を見ずいま秤る真白米 岡本まち子
穂芒の雁啼くときは真白なる 河野多希女 月沙漠
立春や嬰の真白き土踏まず 森 美砂子
端午の日なれば真白なシーツ干し 如月真菜
笹解けば真白き米や鮎の鮓 鈴鹿野風呂 浜木綿
筑紫次郎見下ろす寺の梅真白 井上千恵子
籾を蒔く日の選ばれて嶺真白 成田千空 地霊
紺足袋の底の真白し初仕事 武田克美
終戦日ゆふべ真白き米磨いで 樋笠文
綿菅の真白を吹くや沼の風 飴山 實
羽摶つ鴨われに真白き胸ひらき 石田あき子 見舞籠
老齢の木を真白に杏咲く 百合山羽公 故園
腰痛の一撃脳天真っ白に 高澤良一 寒暑
臼を彫る木屑真白や三十三才 小林黒石礁
舞ひ下りて真白き夏の蝶となる 前山百年
色つきの夢の疲れや真白き蛾 有馬英子
花杏夜も真白き伊豆に来ぬ 福田蓼汀
花臭木滝真向に真白なり 石田波郷
花野より生れて真白きグライダー 窪田英治
苜蓿に落ちて真白き手巾かな 高柳重信
草の戸の真白き飯に初日さす 正雄
草田男の墓真白き薔薇を活くるべし 石嶌岳
荒縄で洗ふ大根真白きまで 冨石三保
荒行のすみたる僧に梅真白 阿部喜久子
菜の花や沖に真白きロシア船 関口青稲
菜の花売りに来る日の富士よ真つ白な 林原耒井 蜩
萩真白海渡りきて子規拝む 西東三鬼
落葉掃く或は真白のさゞんくわも 林原耒井 蜩
葉鶏頭の露真白にも真赤にも 高浜虚子
葱真白に洗ひあげたる櫟原 柴田白葉女 遠い橋
蔵壁は永久の真白さ梅の花 高澤良一 素抱
蕊も真白にていれぎの花小粒 吉野義子
蕗のたう真白き和紙に揚げらるる 玉作奈々緒
蕪村忌の富士真白にあらはるる 滝沢伊代次
薄月の鱈の真白や椀の中 松根東洋城
藪虱木原は雲を真白に 友岡子郷
蜂や秋麗らにす通草棚真白 雪人句集 西村雪人
蜜柑山より真白な雲お正月 川崎展宏
行きはわが足袋の真白く下萌ゆる 中村汀女
行けば行くところに記紀の梅真白 吉田亜司
裏切りの構図真白く梅病める 丸山嵐人
西風吹くや封を切りたる綿真白 松藤夏山 夏山句集
角切らる鹿の真白き眼を見たり 永橋並木
誕生を待つ真つ白な毛糸玉 窪田光代
谷杉の鬱蒼真白深雪かな 松根東洋城
象徴天皇御田植のシャツ真白なり 佐藤 健
跳ぶ兎すでに真白や夜の紅葉 堀口星眠
軒風や雛の顔は真白なる 内田百間
辛夷真白失ふものに気付かずに 津田清子
逆縁の喪に服す父母梅真白 杉本寛
逝きしと言ふ大事を忘る梅真白 折井紀衣
道行きの手と手真白や初芝居 中川和子
野にあそび真白なる富士に驚きぬ 冬葉第一句集 吉田冬葉
野に遊び真白なる富士に驚きぬ 吉田冬葉
野の秋日堪へてみつむるとき真白 中島斌男
野茨の昼の夢なん花真白 原石鼎 花影以後
野葡萄のまだ真つ白に月を待つ 市村究一郎
長葱の白こそ真白仏生会 神尾久美子 桐の木
門出寒く晴れ切る富士の真白かな 松根東洋城
開きゐて真白き翼新日記 小澤克己
闘鶏のうしろ真白き濤がしら 北見さとる
降りて止む降りて止む雪山真白 岡田日郎
障子貼るすぐに真白き秋日跳ね 及川 貞
雪がこひ真白な蕪をかかへて出づ 加藤楸邨
雪ならぬ霜の真白や初雀 尾崎迷堂 孤輪
雪よりも真白き春の猫二匹 高浜虚子
雪より掘り大根の肌真白な 金箱戈止夫
雪割の真白なる芯道に投ぐ 當山孝道
雪夜ふるさと真白き曲り蒼き曲り 加藤知世子 花寂び
雪崩あと兎真白く死にゐたり 田原玉乃
雪解水沈く朽葉に真白き垢 香西照雄 対話
霜真白歳月土に新しき 野澤節子 遠い橋
霧籠めとなりたり真白酒家のあり 阿部完市 軽のやまめ
顔はまだ見えず真白の服の人来る 篠原梵 雨
風邪兆す夕べ真白き懐紙 鈴木鷹夫 大津絵
飛ぶときの腑まで真白き母の鷺 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
駐車場の線の真白き海開 荒井千佐代
鮎釣の腰を真白に水たぎつ 柳芽
鯖街道すこし外れて梅真白 皿井芳子
鯛網の漁師真白き歯で唄ふ 渋谷亮子
鰤日和立山は真白に迫りたり 山出節苑
鴬に覚めて真白き肌着替ふ 河野多希女 琴 恋
鴻毛の真白き沙羅をひろひけり 本多静江
鶴渡る真白きめしを食ひをれば 辻桃子 童子
鷺真白釣瓶落しの千曲川 萩原 憲
麦熟れて夕真白き障子かな 汀女
麦秋の沼を真白に案内図 古舘曹人 能登の蛙
うきくもはましろきものに花野かな 五十崎古郷句集
うみどりのみなましろなる帰省かな 高柳克弘(俳句研究)
えりあしのましろき妻と初詣 日野草城(1901-56)
かなかなやまっしろおばけの宿題帳 岡田葉子
さみどりのいまはましろくキャベツ剥く 篠原梵 雨
のけぞりて腹まつしろや冬の鯉 斎藤梅子
ひらききる百合はまつしろ海炎えゐむ 鷲谷七菜子「銃身」
ましろくて冬菊は喪の色なりし(姉の死四句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
ましろなる団扇に虫のかげはしる 太田鴻村 穂国
ましろなる神父の髯やクリスマス 富安風生
ましろなる筆の命毛初硯 風生
ましろなる鱈に血のありうつくしき 楠本みね
ましろなる鳩一羽翔く養花天 原石鼎 花影以後
ましろにぞをとめがてどるかがみもち 飯田蛇笏 春蘭
まっしろな国になるまで牛を押せ 辻脇系一
まっしろに鶏の羽ばたく幼稚園 松本恭子 二つのレモン 以後
まつしろい初鶏のこえであろう 暁闇のうごき 吉岡禅寺洞
まつしろきところをもつて蠅生る 加倉井秋を 午後の窓
まつしろき鵲のおなかの下へ干す 姫野恭子
まつしろな眼帯をして野にゐたり 渡辺白泉
まつしろな秋蝶轢いたかもしれぬ 夏井いつき
まつしろな空の下なる花疲れ 石田郷子
まつしろになつてみたくて富士みたくて 阿部完市 軽のやまめ
まつしろに薺咲く田へ柩出る 飴山實 辛酉小雪
まつしろに降りまつくらや涅槃雪 斎藤慎爾
みどり児のましろきものを縫はじめ 伊藤雪女
ガソリン入れる男ましろく肥えおりて 岡田耕治
ジャスミンの花垣ましろ適齢期 松田起子
スリッパの裏ましろなる秋の暮 小川軽舟
スワン翔ち双眼鏡をましろにす 田村了咲
ブラウスのましろきことの涼しさよ 岸風三楼 往来
一亭の障子ましろく池に向く 村上冬燕
万緑にとべばましろき鳥ならむ 平井照敏
人日の下着ましろな湖漁師 茨木和生 野迫川
冬鶏のねむりましろきゆらぎかな 平井照敏 天上大風
初風呂へ産子をつつむましろにぞ 下村槐太 天涯
動きやすく蜘蛛ゐて壁のましろさよ 畑耕一 蜘蛛うごく
十薬のましろき襟の信徒たち 平井照敏
卯月来ぬましろき紙に書くことば 三橋鷹女
吹雪まつしろわら塚の同じ傾き 伊藤敬子
吾もまた信長贔屓萩ましろ 谷中隆子
啓蟄の脛ましろなるかじめ採り 松村蒼石 寒鶯抄
地に群るゝ蝶のましろを暮春とす 篠田悌二郎 風雪前
地平線羊ましろく生殖す 富澤赤黄男
塩蒸のましろなる身や桜鯛 長谷川櫂 蓬莱
夏料理ましろき紙のかぶせある 井上弘美「あをぞら」
夏濤の砂にましろし音たてて褪す 篠原梵 雨
夏蝶のましろに現れぬ一位の木 鈴木しげを
夕霽れのさくらましろく火鉢吹く 金尾梅の門 古志の歌
夜の雲のましろさ門木とげ~し 金尾梅の門 古志の歌
子に母にましろき花の夏来る 三橋鷹女「白骨」
小米花殖えゆく産衣みなましろ 福永耕二
山吹のましろきしんよぽんとぬく 太田鴻村 穂国
山桜狐の面のましろなり 小川軽舟
山田鋤く馬のましろし蝉の声 金尾梅の門 古志の歌
山芋を摺りまつしろな夜になる 酒井弘司
山風に棉ふき出でてましろけれ 太田鴻村 穂国
廈あひの雲のましろき撒水車 大橋櫻坡子 雨月
摺りガラスましろに月のかげを堰く 篠原梵 雨
新涼のましろき兎飼はれをり 阿部みどり女
日に昏くつきにましろく田植笠 竹下しづの女句文集 昭和二十三年
日の温み障子いよいよましろなり 星野立子
早苗田にましろき雲の満ちて来ぬ 篠原梵 雨
春大潮のましろき落差島を結ぶ 篠原梵 雨
昼休みましろき船を見にゆきぬ 細谷源二 鐵
晩涼のましろき蝶に今日のこと 星野立子
村まっしろふり向きざまに暗澹や 大沢輝一
松林の廠舎ましろく蝉ひびき 太田鴻村 穂国
枯萩の焔ましろくすぐをはる 橋本多佳子
柿の上暮れてましろき白馬岳かな 金尾梅の門 古志の歌
江の島の裏はましろの秋の波 長谷川櫂 虚空
海上はひかりてましろ桜東風 茨木和生 三輪崎
滝たゞにましろく秋日峰わたる 金尾梅の門 古志の歌
滝氷柱まつしろに炎えゐたるなり 松澤昭 神立
漉紙のましろき崖をなせりけり 正木ゆう子 静かな水
瀧氷柱まつしろに炎えゐたるなり 松澤昭
炉を切つてましろき助炭かぶせたり 飴山實 『次の花』
炭屋炭無しといふ日はましろなり 渡邊水巴 富士
牡丹焚きしましろき灰を霧濡らす 上野さち子
特老で死ぬるも風情梅ましろ 岩下四十雀
産衣のまっしろ おなじ夏雲飛んでいる 伊丹公子 沿海
石階にましろき日射し蝉時雨 原田青児
砂を落とせばまつしろな月となり 石川さくら
神の杉ましろき藤をかけにけり 岸風三楼 往来
秋の蝶ましろきものは西湖より 黒田杏子 水の扉
秋晴やましろの樺はまつたけれ 石橋辰之助 山暦
秋来ぬと散華の木槿ましろなり 秋櫻子(京都、法然院)
秋燕ましろに飯の干されたり 金尾梅の門 古志の歌
紙漉くやましろの光ゆりおこし 平井照敏 天上大風
編みかさね秋意ましろき一位笠 能村登四郎
翔つものの羽裏ましろき復活祭 古田冴子
聖夜わがましろき胸を診られ臥す 鷲谷七菜子
船を待つ素足ましろき定斎里 佐野まもる 海郷
芭蕉像笠はましろく夏近し 山口青邨
芭蕉布や夕べましろき島の道 片山由美子
花そばや立出て見ればましろなる 高井几董
葉牡丹のまつしろに父と母の家 相生垣瓜人 微茫集
蓮ひらく単語と語法まつしろなり 竹中宏 句集未収録
蛾はしんとましろなり昼うすぐらし 斎藤梅子
蝉声のまつしろな石畳かな 石田郷子
行年やましろき崖に藻の乾き 山西雅子
見をるうち菊のましろさ眼より溢れぬ 篠原梵
逃散の夜のましろき曼珠沙華 夏石番矢(1955-)
達磨忌の霜ましろなる大伽藍 和田祥子
遠山の尾根をましろに草城忌 田中麗子
釣鐘草まつしろの鐘雨に揺れ 福田蓼汀 山火
長き日にましろに咲きぬなしの花 蕪村
関東の男も多弁鱧ましろ 宇多喜代子
鵙の啼く街まつしろに描くかな 松澤昭 神立
鹿の子の雹におどろく尻ましろ 下村槐太 天涯
●水色 
あさがほの水色展べししゞまかな 林原耒井 蜩
たそがれは常に水色死処ばかり 三橋鷹女
みず色の上司の触手冷房音 川崎ふゆき
もみづり遅き谿のあさがほ水色に 林原耒井 蜩
わが八十水色のシャツ牡丹の前 細見綾子
われを視る眼の水色に今年猫 飯田蛇笏 霊芝
ダム奥となりし水色木の芽晴 茨木和生 野迫川
レタス畑水色昼寝の農婦らに 羽部洞然
共用の水色ポロシャツこどもの日 高澤良一 ぱらりとせ
北斗ありし空や朝顔水色に 渡邊水巴 富士
十勝川水色変へて鮭のぼる 矢野越山
夏めくや二人の卓布水色に 小元洋子
夏蚕飼ふ灯を水色に谷の家 福田甲子雄
夕月は水色なせり黐の花 草間時彦
好み縫ふ房は水いろ菊枕 高橋淡路女 梶の葉
故郷を水色のサングラス越し 伊藤トキノ
春愁や水色淡きハーブテイ 山田暢子
死化粧して水色桔梗なりぬ 寺井谷子
母胎につながり水色の灯の暮れ方 林田紀音夫
水洟の水色膝に落つ故郷 永田耕衣
水無月を水色に着て老装ふ 長谷川かな女 花寂び
水色に夜は明けゆくや額の花 木内悠起子
水色に昏るる湿原柳の芽 神田長春
水色のものなべてよし夏夕べ 武田鶯塘
水色のゆふべとなりぬ餅筵 角川春樹
水色のジェリーは春を逝かしむる 林原耒井 蜩
水色のノートめくればてんと虫だまし 穴井太 原郷樹林
水色の一筆箋や雲の峰 環 順子
水色の便箋暑中見舞なる 井手くに子
水色の少女飛び出す大躑躅 岡田史乃
水色の旅のハンカチ洗ひおく 吉村敏子
水色の空へ芥子の緋乾きけり 阿部みどり女
水色の露台も看えて花ぐもり 滝井孝作 浮寝鳥
水色の風を生みつぐ朝顔市 景山薫
水色は清貧の色夏燕 小野久仁子
水色は遠方の色花柘榴 桂信子 黄 瀬
水芭蕉昼の銀河は水色に 林 桂
湯河原の海は水色ミモザ咲く 柳下美砂枝
瀬戸の海や月さへも水色なせり 清水基吉 寒蕭々
目薬をさせば水色五月来る 片山慶子
秋の水色まさり行く金魚かな 乙字俳句集 大須賀乙字
空は空いろ水は水いろ原爆忌 滝井清子
空井戸あり繃帶の鶏水色に 赤尾兜子
綿虫の水色のぼる波郷の忌 貞吉直子
花の下暮れ残る空水色に 奈良邯子
茫茫渡海の水色のふたつの目 阿部完市 軽のやまめ
蜩の止めば水色ひろごりぬ 富澤赤黄男
蜻蛉の翅も水色湖国なれば 成瀬櫻桃子 素心
蝸牛角の水色吾亦紅 宮坂静生 青胡桃
衒いなき娘等水色に囀れり 宮崎敦子
角砂糖に水色の翳笹鳴す 田川飛旅子
蹴り伏せて野菊水色なる故郷 永田耕衣 吹毛集
追憶のいろは水色盆提灯 石川文子
配られて水色の飴涼しさう 都筑智子
金魚飼ふや玻璃の水色まだ寒き 富田木歩
閑庭や水いろ絞り紅注して 林原耒井 蜩
雪解けの水は水色河童橋 有元洋剛
雲海の今水色を置く夕べ 稲畑汀子
霜月の夜を水色に別れきし 秋吉世津子
霜月の菜に咲く花の水色に 廣江八重櫻
風呂敷の水色をとく遅日かな 井上雪
鳥篭を水色に塗ってさびしい 田中久美子
●緑 みどり 
α β γ 緑野の鴉 津田清子
「天緑」は咲きたり泰山木の花 渡辺恭子
あちこちで馬追い鳴いて緑の夜 和知喜八 同齢
あららぎの緑ごもりに織娘の唄 加倉井秋を 『欸乃』
ある寺の人育てたる大緑 宇佐美魚目 天地存問
いたみやまぬまなこ 萬緑も枯れてきた 吉岡禅寺洞
うつぎ咲く緑の雨や詩仙堂 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
うれいありて帽を緑蔭のごと愛す 細谷源二
おほぞらを降り来て緑蜘蛛なりし 松本陽平
おほみゆきかしこ緑蔭むかひあふ 森川暁水 淀
おほらかに緑蔭の外の照り昃り 波多野爽波 鋪道の花
おみくじは吉 古仏とわたしへ緑射す 伊丹公子 メキシコ貝
かさねあふべき肉声に緑さす 中田剛 珠樹
かもめ飛び交ふ万緑の中之島 高野清風
からし菜の湯を通したる緑かな 中村青一路
からまつの緑濡らさず走り雨 鷲谷七菜子 花寂び
がじゆまるの緑蔭ひろし貝細工 岡本まち子
きさらぎや緑控へて杉林 猪俣千代子 秘 色
きさらぎや見えざる緑野にひしめき 相馬遷子 雪嶺
きはまりて連翹の黄は緑さす 松村蒼石 雁
きりぎりす音(ね)のみに緑(あお)き妻の留守 川口重美
くらきまで緑を入れぬ壁鏡 柴田白葉女 遠い橋
くるしさや恋の下萌ほの緑 下萌 正岡子規
くるまれし島の赤子に緑立つ 山本洋子
くるみおはぎ緑雨を大事がる人と 諸角せつ子
けさの春琵琶湖緑に不二白し 今朝の春 正岡子規
こがね虫真昼は緑衣かがやかす 斎藤道子
ここのポストの親しくなりし緑したたる シヤツと雑草 栗林一石路
こぞり立つ松の緑の二十本 稲畑汀子
この位の大きさの緑の翅のある猿を 大岡頌司
この山の眠りの緑ところどころ 長谷川櫂 古志
この緑蔭みなが楽しむ木ですから 岸田稚魚 『紅葉山』
これからの緑の週のみどりとは 松田ひろむ
こんなことに泣けて緑の中にゐる 池本光子(街)
さし柳三尺にして緑ふく 柳 正岡子規
さみしくて肺を緑に染めてみる 松原秀行
されど雨されど暗緑 竹に降る 大井恒行
ざわざわと影も緑となりにけり 本山真木子
すいすいとのびて緑や梅の枝 長谷川櫂 天球
すぐにじむ春菜の緑擂鉢に 有馬朗人 天為
すねて行く緑蔭深きところまで 三好潤子
すべて地のことに緑のさやゑんどう 十河 智
その下に繙けば緑蔭の部屋 鷹羽狩行 十友
その中にへくらの海女も緑摘む 成瀬千代
ただ立てる緑の茎や曼珠沙華 岩田由美 夏安
たんぽぽの開きそめたる緑かな 永井龍男
つまさきだち緑蕚梅を嗅ぐ男 高澤良一 ももすずめ
でか山の弁慶の見得緑立つ 棚山波朗
ところどころ緑萌え立つ砂漠かな 草萌 正岡子規
とどまれば緑総身に能登羽咋 猪俣千代子 秘 色
ともに緑あの子欲しいと童唄 加倉井秋を 『隠愛』
とんぼ生れ緑の視線定まらず 白神あきら
どの鯉も泳ぎどの木も緑立つ 山田麦車
なだれ落つる著莪ことごとく緑なり 太田鴻村 穂国
なつかしやここに緑のつるでまり 稲畑汀子
なづな粥吹けば緑の茎立てり 加藤憲曠
ばくちの木大緑蔭をなせりけり 松田千代子
ぱつちりと血や万緑の中に喀き 千代田葛彦 旅人木
ひえびえと緑金ひかる薔薇の虫 飯田蛇笏 春蘭
ひそと踊る素描ニジンスキイ緑さす 小池文子 巴里蕭条
ひつじ田に三畝の緑をしぐれけり 時雨ひつじ<禾+魯> 正岡子規
ひとがみな魚となりぬ緑蔭に 嶋田麻紀
ひと一人ゐて緑蔭の入りがたき 飯島晴子
ぶつ切の鰡緑蔭へ海女運ぶ 羽部洞然
ぶな峠下りても緑賢治の径 文挟夫佐恵 雨 月
ほぐれそめしは花の緑や華鬘草 仁尾小葉
ほつほつと緑が嬉し蕗の薹 渋谷まさ江
ほとゝぎす緑のほかの色を見ず 相馬遷子 山国
ほんとうは暗緑の腸雪柳 高野ムツオ
ましづかに黄檗山の緑摘 山尾玉藻
またたびの葉の万緑をひらめかす 大橋敦子 匂 玉
まだ大樹ならざる橡も緑蔭に 稲畑汀子
みしみしとみしみしと夜の万緑 高野ムツオ
みちのくの緑は蕗の薹よりぞ 福田蓼汀 秋風挽歌
みちの辺の緑蔭にして小さけれ 高浜年尾
みどりの日緑の上に富士坐る 本間 稔
みゆきかしこ緑蔭もののひびきもなし 森川暁水 淀
もめん縫ふひとつ窓より緑さす 井上雪
やわらかき草のところの緑蔭に 上野泰 佐介
ゆりの木の花の緑盃風溢れ 山田みづえ 草譜
ゆり出だす緑の波や麻の風 惟然「菊の香」
りんご飴緑もありし夜店かな 尾関令子
れもん一つ緑の風の香に立てり 多田裕計
わがこころ万緑に開け放ちけり 石井とし夫
わがひと代木々のひと世や緑立つ 石塚友二
アスパラガス長けて緑の棒畠 高澤良一 ももすずめ
アトリエのひゞ割れ硝子緑光 右城暮石 声と声
アメリカの緑陰に身を抛りけり 依田明倫
アレキサンドリヤ緑をふかむ酷熱に 川島彷徨子 榛の木
オホツクの風万緑に吹きすさぶ 右城暮石 上下
オリーブの銀緑叢中夏帽子 福永耕二
ガイドブック手に万緑の寺めぐり 小松和子
ガラスの眼して万緑に入る男 小泉八重子
ガラス戸の緑の中に捕虜の蠅 上野泰 佐介
キャンパスの緑陰にして戦没碑 岩崎照子
キラ~と栂の緑に日短かし 前田普羅 飛騨紬
クレヨンの緑を選び花火描く 矢島 恵
ケーブルに赤子万緑従へり 野澤節子 黄 炎
ゲリラ兵この万緑にひそむとか 春田ひろ史
ゲルマンの大緑蔭に汽車入りぬ 栗坪和子
コンサートの列の後尾は緑蔭に 鈴木鷹夫 渚通り
コートの線の石灰飛び来緑蔭に 田川飛旅子 花文字
サイクリスト緑蔭に汗拭へるも 高澤良一 さざなみやつこ
サイダー飲むや全山の緑傾けて 藪宕山
ショーウインドーの手袋緑立ててをり 金箱戈止夫
ジイド好きアリサのごとく緑蔭に 高橋笛美
スイッチバックして万緑の深くなる 木村葉子
ストローに緑はしれるソーダ水 館岡沙緻
ストローを走る緑のソーダ水 吉田花宰相
ダムの水万緑へ解き放たるる 山本一歩「一楽」
テニスライン侵さぬ緑蔭恋も可憐 香西照雄 対話
バス停の人それぞれに緑蔭に 城木タネ女
ボートより釣り糸垂らす緑の日 島谷征良
マント緑に葦原邦子来りけり 鈴木栄子
マント緑美髯の首の行きにけり 八木林之介 青霞集
マンハツタン松の緑も背伸して 川崎慶子
モリアヲガエルの卵あはあは緑さす 島田麻紀
ラムネ飲む天地の緑かたむけて 竹腰八柏「火」
レース編む手が緑蔭への触角 寺井谷子
一ところ緑走れり仏手柑 中原野呂
一ツ葉の緑といへぬ黒さかな 一つ葉 正岡子規
一夜緑に遠く氷雨の中の媒酌 小泉八重子
一山の緑の暗き茅の輪かな 石田勝彦 秋興
一徹の緑存しぬ枯芭蕉 行方克己 知音
一揆の地に一歩緑雨の中へ一歩 鈴木飛鳥女
一握の緑うれしき冬夜かな 寺田寅彦
一曲りして万緑の山に入る 佐藤八山
一村は竹緑なる枯野哉 枯野 正岡子規
一水の緑蔭に入るところかな 高濱年尾 年尾句集
一湾の緑薄刃なす東風の波 耕二
一重梅緑の蕚を残しけり 松瀬青々
万歳をして緑蔭を出で来たる 坊城俊樹
万緑いま西湖を玉と抱き眠る 川崎展宏
万緑となる東京や髭伸びつつ 榎本冬一郎 眼光
万緑と我と一瞬弓を引く 今井千鶴子
万緑にあげて祝詞は言葉の祖 赤松[ケイ]子
万緑にくるぶし堅き仏たち 伊藤通明「西国」
万緑にとべばましろき鳥ならむ 平井照敏
万緑になじむ風鈴夜も昼も 蛇笏
万緑になじむ風鈴昼も夜も 飯田蛇笏「椿花集」
万緑になりゆく朝の太極拳 川崎展宏
万緑にゆだねしごとき命かな 青木重行
万緑にゐて天地の息づかひ 川口襄
万緑にラムネ奔騰させ若し 鷹羽狩行「誕生」
万緑にレーニンの禿本を読む 大木あまり 火のいろに
万緑に万の翳りやデスマスク 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
万緑に五重の塔の朱をこぼす 松本澄江
万緑に加はりてあり千枚田 嶋田摩耶子
万緑に包まれ握手掌で包む 川崎展宏
万緑に吾が眼鏡澄み吾が非力 楠本憲吉
万緑に呑まれて消ゆる人の影 安藤綾子
万緑に坐せし新聞凹みしまゝ 右城暮石 上下
万緑に塔を配して奈良を描く 山下美典
万緑に大吊橋の軋む音 山下美典
万緑に小さき生活の窓拭けり 北村佐恵子
万緑に径あり流人墓地のため 戸恒東人
万緑に抑へ込まるゝ一堂宇 高澤良一 ももすずめ
万緑に抱かれしより光る沼 稲畑汀子 汀子第三句集
万緑に抱かれて渓の音弾む 渡辺嘉幸
万緑に朴また花を消すところ 皆吉爽雨(1902-1983)
万緑に染りて命綱外す 中居梨津子
万緑に沈みし鷹の浮上待つ 矢島渚男 延年
万緑に沈む夕日の朱を見たり 福田蓼汀 秋風挽歌
万緑に浮びし長谷の舞台かな 小竹梅堂子
万緑に浸るやこの身稚魚のごと 渡辺トク
万緑に淵のしづけさ極まりぬ 岡本まち子
万緑に溶けこむ手足魚となる よこいみどり
万緑に火を打ち込みぬ登り窯 落合水尾
万緑に硬山かむろなすところ 夏秋仰星子
万緑に磐を配す立石寺 高澤良一 素抱
万緑に美男の僧を点じたる 川崎展宏「観音」
万緑に蒼ざめてをる鏡かな 上野泰 春潮
万緑に鎮もり鎖せる御影堂 川端富美子(河内野)
万緑に鐘鳴る誰の為でもなく 赤尾恵以
万緑に隠れなきかな般若窟 森田純一郎
万緑に頬ふくらませ吹く喇叭 福田蓼汀 秋風挽歌
万緑に黄に横に竹四つ目垣 上野泰 佐介
万緑のあの世この世を風来坊 大口元通
万緑のあまりに激し眩みをり 杉山岳陽 晩婚
万緑のおのれ亡き世のごときかな 岸田稚魚
万緑のくらき一隅童女仏 三品知司
万緑のこの静けさに囲まるる 阿部ひろし
万緑のしたたる谿に温泉あり 上村占魚 球磨
万緑のところどころに天の窓 山本歩禅
万緑のどこに置きてもさびしき手 山上樹実雄
万緑のなかや浮寝の鳰と鴨 中村祐子
万緑のひとつの幹へ近づきぬ 桜井博道 海上
万緑のダムや対角線の風 横川信義
万緑のトロッコ列車児を寝かす 日永田義治
万緑の一幹馬首のごと叩く 狩行
万緑の一点白き握りめし 山崎芳子
万緑の一端を食む牧の牛 柿沼昭治
万緑の一紺として四葩冴ゆ 石塚友二
万緑の一葉を毟り取りにけり 行方克巳
万緑の万物の中大仏 高浜虚子「六百五十句」
万緑の上にみどりの伊吹山 福田蓼汀 山火
万緑の中さやさやと楓あり 青邨
万緑の中に名水訪ねけり 福島五十鈴
万緑の中に胎動日々強く 合原泉
万緑の中のわが身と妻の身と 後藤比奈夫 めんない千鳥
万緑の中の一山杉の鉾 野澤節子 黄 炎
万緑の中の一点美術館 橋本榮治 麦生
万緑の中の炭焼くにほひかな 黒木久典
万緑の中はじめての喪服着る 皆吉司
万緑の中へ中へと家路かな 藤野順子
万緑の中やこぼるゝ麦の飯 萩原麦草 麦嵐
万緑の中や三井寺荒れにけり 野見山朱鳥
万緑の中や吾子の歯生え初むる 草田男
万緑の中や火の山素肌立ち 首藤基澄
万緑の中よりちぎる一葉かな 西海由美子
万緑の中より太き川出づる 加藤憲曠
万緑の中より現れて神の鳩 毛塚静枝
万緑の中学舎のはづむ声 塚本昭子
万緑の中層々と贋アカシア 橋本多佳子
万緑の中残雪の主峰峙つ 伊東宏晃
万緑の中鳳凰は釘づけに 大橋敦子 手 鞠
万緑の中鹿の目のこぼれさう 宮澤美和子
万緑の伊賀城へ鵯とび込めり 新田祐久
万緑の分水嶺に人灯す 加藤耕子
万緑の動いて風の五浦かな 福島壺春
万緑の吉野両断吉野川 右城暮石 上下
万緑の吊橋一人でも揺るる(三波石峡二句) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
万緑の墨のごとしや海芋咲き 山口青邨(夏草)
万緑の声あげて「南無妙法蓮華経」かな 橋本夢道 『無類の妻』以後
万緑の天地有情や杣男(鍵谷芳春を詠む) 原裕 『葦牙』
万緑の奥のつめたき水の音 蕗村
万緑の奥より湧きぬ富士の水 山川安人
万緑の宇陀郡抜けて吉野郡 右城暮石
万緑の家に老婆が一人ゐし 右城暮石 上下
万緑の展けて海の沖の照り 枡田国市
万緑の山高らかに告(の)りたまへ 奥坂 まや
万緑の島一艘をつなぐのみ 友岡子郷 風日
万緑の底に棺桶用の樹よ 櫂未知子 蒙古斑以後
万緑の底に物音なく牧場 畠中じゆん
万緑の底に目覚めて老いゆくか 岡本差知子
万緑の底の峡の温泉一人占め 小谷渓子
万緑の底を歩きし髪湿る 森澤照子
万緑の旅のやうやく身に温泉の香 皆吉爽雨 泉声
万緑の朴がしたたる禿頭 和知喜八 同齢
万緑の森に入る目をガラスにして 正木ゆう子
万緑の水うごきをり鳴子峡 青木重行
万緑の水打つ牛飼左千夫墓(「牛飼ひが歌よむ時に世のなかの新しき歌大いにおこる」左千夫) 角川源義 『秋燕』
万緑の沢渡の湯の秋ざくら 鈴木吾亦紅
万緑の法の高野に献木す 大橋敦子 手 鞠
万緑の深さに少年暴走す 吉田裕子
万緑の深みにはまりゐたりけり 徳永球石
万緑の湖畔はなべて幹倒れ 皆吉爽雨 泉声
万緑の点となるまで車椅子 小田欣一
万緑の狭間の海や船ゆけり 藤田鶴之丞
万緑の端を白刃のやうに行く 小澤克己「雪舟」
万緑の葉先葉先の雨雫 池田澄子 たましいの話
万緑の谿へせり出す厠かな 近藤一鴻
万緑の貌から飛んで蜂来る 秋山夢
万緑の賞味期間の真つただなか 櫂未知子 貴族
万緑の道をあつめて朱唇仏 穴井太 原郷樹林
万緑の重心にゐて鳥になる 広瀬元幸
万緑の隠しきれざる火口壁 飯島正人
万緑の雨に鳥獣生れつぐ 茂恵一郎「雪座」
万緑の雫身に受く西生寺 浦井文江
万緑の風を梳きたる母の櫛 金田町子
万緑は引力窓に身を乗り出し 広渡詩乃
万緑は甲斐の峠に他ならず 萩原麦草 麦嵐
万緑へ一握の粥ふきこぼる 和泉紀恵子
万緑へ人間万歳叫びたし 松村多美
万緑へ大山太鼓とどろけり 三澤治子
万緑へ山小屋の鍵ひびかせり 渡辺桂子
万緑へ打つ鎮魂の鐘ひとつ 川井政子
万緑も窓も無傷と思ふなり 櫂未知子 蒙古斑以後
万緑や「死」に入るごとき櫓門 藤岡筑邨
万緑やおどろきやすき仔鹿ゐて 橋本多佳子「紅絲」
万緑やおぼれさうなる屋根二つ 三宅郷子
万緑やおもへばながき冬ごもり 西本一都
万緑やこけし笑まわす筆さばき 田畑はつ枝
万緑やこの世に開く柩窓 佐藤吟秋
万緑やこぼさぬやうに産湯桶 鷹羽狩行 平遠
万緑やすつと己の道が見え 小澤克己
万緑やにせアカシヤもその一樹 鈴木真砂女
万緑やのぼりきつたる男坂 林 尚子
万緑やはづしてしまひたき頭蓋 吉原文音
万緑やまず深呼吸深呼吸 長田美智子
万緑やまだ炭の香の廃れ炭窯 川村紫陽
万緑やみどり児の掌に生命線 都筑智子
万緑やわが恋川をへめぐれる 角川源義「ロダンの首」
万緑やわが掌に釘の痕もなし 誓子
万緑やわが額(ぬか)にある鉄格子 橋本多佳子(1899-1963)
万緑やイエス打ちたる釘三本 加藤耕子
万緑やバスの後退笛ひとつ 那須淳男
万緑やマリアのごとく子を抱き 日比野睦子(狩)
万緑やラインに絵巻のごと古城 関森勝夫
万緑や一塔とほき世より立つ 西川 織子
万緑や一樹吹きしぼられてをり 串上青蓑
万緑や一舟湖へ網捌く 仁科文男
万緑や一語づつ読むマタイ伝 田島佑子
万緑や不空羂索観世音 長谷川櫂 古志
万緑や主に夫に子に守られて 関藤鈴菜(惜春)
万緑や乱れ許さぬバツハの譜 吉原文音
万緑や二度呼んでひと振り返る 望月百代
万緑や人はその日の色を著て 嶋田一歩
万緑や仏間施錠す飛騨民家 津田 渡
万緑や伏せ甕の罅地にとどく 内藤吐天 鳴海抄
万緑や伐折羅の喝を浴びにきし 高野途上(鷹)
万緑や出土仏は天地指す 木田千女
万緑や力をこめて鐘をつく 非文
万緑や動かぬ山の近づき来 永田耕一郎
万緑や友を焼く火も澄みたらむ 行方克己 昆虫記
万緑や古志の国より塩の道 西本一都 景色
万緑や喪服のゆるす首飾り 石川秀三郎
万緑や囚徒拓きし直線路 松本泰志
万緑や地の涯汀まで樹海 西本一都
万緑や地より剥がせし青目石 西本一都 景色
万緑や墓碑に椿花と刻まれて 上月一香
万緑や声もたてずに病む樹あり 津田清子「七重」
万緑や外から見れば暗き團居 香西照雄 対話
万緑や大きな家の毀さるる 井口公子
万緑や天狗棲むには山低き 石山佇牛
万緑や太初の言葉しづかに炎え 野見山朱鳥
万緑や嬰に会ふたびに言葉増え 馬場美雪
万緑や宇宙膨張続けるか 斉藤まさし
万緑や小諸に花鳥諷詠史 今村征一
万緑や山もろともに渡来せる 和田悟朗 法隆寺伝承
万緑や山羊のきづなも草がくれ 栗生純夫 科野路
万緑や山雨が醒ます昼の酒 石川桂郎 高蘆
万緑や岩殿城址岩あらは 伊藤哲也
万緑や巨石の孤独はじまれる 殿村莵絲子 雨 月
万緑や幹の片側波はしり 近藤一鴻
万緑や庭師に多き当麻族 つじ加代子
万緑や御座船の朱ケゆるぎ無く 岡本差知子
万緑や悲しみをもて胸充たす 殿村菟絲子
万緑や我れを忘れて汝となる 山崎十死生
万緑や抱きしめてのち納骨す 法水有里
万緑や採石山は万の傷 和泉伸好
万緑や揮毫の全紙老を乗せ 赤松[ケイ]子
万緑や撲たれしごとき身の火照り 岡本眸
万緑や旅嚢小さき翁像 松橋幸子
万緑や日月われをめぐるのみ 野見山朱鳥
万緑や木の根の湿り蹠に 原裕 葦牙
万緑や木の香失せたる仏たち 伊藤通明
万緑や木曾路はすべて山の中 今井杏太郎
万緑や杣の葬りの吹流し 西本一都 景色
万緑や校章燦と男子校 細野美代子
万緑や森の鳥語はみな愛語 藤原たかを
万緑や正午鳴り出す時計台 川崎展宏
万緑や死はもろもろの管とれて 三嶋隆英「遠海」
万緑や死は一弾を以て足る 上田五千石 田園
万緑や水につながる死者生者 加藤耕子
万緑や水攻めのあとかたもなし 片山由美子 水精
万緑や江山文庫興りし地 桑田青虎
万緑や波をつくりて紙を漉く 近藤静輔
万緑や泳ぐすがたの病臥身 稚魚
万緑や温泉あるゆゑの山の駅 石山佇牛
万緑や湖をたいらに男寝る 源鬼彦
万緑や湿り貯はふ一据石 村越化石
万緑や溢れせしもの水と恋 河野多希女 納め髪
万緑や瀬音のふかき峠道 林 宏
万緑や火の山鳴りが押しわたる 中條明
万緑や火を焚けばなにか寒さあり 斎藤空華 空華句集
万緑や火急の旅の荷を一つ 車谷知佐子
万緑や父となる子の掌の大き 平田笙子
万緑や牛飼ひの掌のひろく優し 成田千空 地霊
万緑や猿の子はもう猿の貌 山田麦車
万緑や現在位置を朱で示し 蛯子雷児
万緑や球も楽しき右往左往 香西照雄 素心
万緑や生きるためのみ口あける 対馬康子 吾亦紅
万緑や産土神のお百度石 早川翠楓
万緑や産声を待つ控室 浅見まき子
万緑や産屋の刻の移りをり 齋藤玄 飛雪
万緑や異国の仏陀金まみれ 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
万緑や病者夕べも麦藁帽 上野さち子
万緑や相模・武蔵の境なく 松尾隆信
万緑や真っただ中にいる乞食 対馬康子 純情
万緑や眼鏡三つを使ひ分け 成田勝子
万緑や磔像錆の血を流す 野見山朱鳥
万緑や秘仏を照らす燭一つ 青野江津子
万緑や筋交ひ打たぬ家もなし 西本一都 景色
万緑や肥後は火の国水の国 山崎幹子
万緑や舟唄水に谺して 土屋うさ子
万緑や草田男そこに今もをり 山本富万
万緑や薩摩切子に日の返り 今泉貞鳳
万緑や血の色奔る家兎の耳 河合凱夫
万緑や血の鮮烈に殉教図 内藤吐天 鳴海抄
万緑や見上げるために山はあり 森川光郎「桔槹句集」
万緑や許せぬものも四囲に満つ 香西照雄 対話
万緑や貧者も得たる母子手帳 磯貝碧蹄館 握手
万緑や野麦峠の工女塚 巾下幸一
万緑や鈴の緒いたむ弁天堂 中村冨美子
万緑や雲に分け入る僧一人 金箱戈止夫
万緑や雲居に紛ふ太龍寺 西岡美江
万緑や青年耶馬の陶に生く 阿部みどり女
万緑や青葉城下を見はるかす 佐藤富美子
万緑や風渡り来て音もなし 塚本繁雄
万緑や高舞ふ一羽鷹と見し 米田双葉子
万緑をしぼりて噴けり間歇泉 三関浩舟
万緑をしりぞけて滝とどろけり 鷲谷七菜子(1923-)
万緑をつまみ配せしごと小島 山田弘子 こぶし坂
万緑をもつて秘したる修験道 加倉井秋を 『隠愛』
万緑をゆくうらごゑをきき覚ゆ 中田剛 珠樹
万緑を一蝶浅くめぐりゐる 阿部みどり女
万緑を下降すケーブルカーに坐し 右城暮石 上下
万緑を切り裂き吾は風となる 日高真明
万緑を吹きなびかせて雨来たる 池口美奈子
万緑を抜けし列車は蒼白に 小林 武
万緑を来て酌む木曾の七笑 加古宗也(若竹)
万緑を来る風若さは白き皿 柴田白葉女
万緑を水に活けたり竹生島 杉浦和生
万緑を統べて一等三角点 栗原稜歩
万緑を統べて神話の塔高し 稲畑廣太郎
万緑を蒐めて伊豆の岬かな 福田清人 坂鳥(附・生い立ちの記)
万緑を顧るべし山毛欅峠 石田波郷
万緑叢中 花柄の忘れ傘 守田椰子夫
万緑日本よ宣戦布告なきベトナム侵略の共犯者 橋本夢道 無類の妻
万緑暗し一石路罪なき命、召し捕らる 橋本夢道 良妻愚母
万緑無情こと切れし吾に口きく海の底 橋本夢道 無類の妻
万緑裡蹄音おこり遠ざかる 大橋敦子
三鬼の骨拾ふ肩まで緑射し 小林康治 玄霜
丹頂の紅つつましき緑の園 山口超心鬼
乳搾る児の眼ん玉の緑立つ 堀越鈴子
乳搾る緑の朝のをんなの手 西島麥南
乳母車緑蔭愛のごとつつむ 伊東宏晃
二の腕細き遺児よ万緑左右に迫り 香西照雄 素心
二十余樹大緑蔭を成せりける 星野立子
二輪草暗緑浄土広がれり 高澤良一 随笑
五千年も妊みて土偶緑さす 北川英子
五合庵緑に巻きたて落し文 竹田恭子
五月の雨岩檜葉の緑いつまでぞ 松尾芭蕉
五月祭緑のペンキすぐなくなる 田川飛旅子
五月蝿なす獣示緑的諸病末てこのいのちてふ美酒(うまき)盡せと 高橋睦郎 飲食
五月雨の竹の緑や朝のパン 碧雲居句集 大谷碧雲居
五欲しづかにあぢさゐの浅緑 ほんだゆき
井戸のみの養生所跡緑蔭に 松岡 隆
亡びたるものらこゑあげ緑樹海 矢島渚男 梟
京の風奈良の緑蔭のみ記憶 神九六
人も又鳩の目をして緑陰に 高澤良一 鳩信
人を待つ緑陰子等の声つつぬけ 寺口成美
人乗れば緑蔭の馬尾を振り出づ 阿部みどり女
人容れて緑陰さわぐひとところ 桂信子 黄 瀬
人穴に没す緑の世界より 百合山羽公 寒雁
今もあるひとつの椅子や緑さす 折井紀衣
令嬢の犬緑蔭に便催す 茨木和生 木の國
伊豆は緑岬めぐれば又岬 辻本草坡
何釣るでなく万緑を釣つてをり 岩岡 中正
余生語る緑蔭に妻坐らせて 山口いさを
使ひ捨てカメラ万緑あふれしむ 北見さとる
信濃なる峠の科の木大木いまし緑す 荻原井泉水
修司忌や詩の行間に緑さし 藤田柊車
修祓のさかき緑雨を滴らす 伊藤敬子
倒れ木は朽つるままなり万緑裡 山本歩禅
傾がり芽ぶく胡桃噴煙緑帯ぶ 宮坂静生 青胡桃
入るを許さざる緑のはげしき新 加倉井秋を
八幡様の緑陰貰ひ屋台建つ 高澤良一 寒暑
八朔や松の緑の曇りなき 片山由美子 風待月
公園の小動物園緑陰に 高濱年尾 年尾句集
公園の揺るる浮橋緑の日 鈴木良戈
公園の緑陰街騒音縦横 高澤良一 鳩信
六尺の緑枯れたる芭蕉哉 枯芭蕉 正岡子規
六甲といふ万緑を横たふる 三村純也「蜃気楼」
円屋根の緑青噴きぬ半夏生 吉田愛子
再会や緑に染まり歩み寄り 嶋田摩耶子
冬かれの紅緑も京をさらんとす 冬枯 正岡子規
冬ざるる緑青を吹く地獄門 斎藤喜信
冬草や径を緑リになしも得ず 尾崎迷堂 孤輪
冷房の窓にはるかな緑十字旗 横山白虹
冷麦の緑うす紅児に取らす 山中蛍火
凍る寂けさ緑すつすと藺を植ゑる 加藤知世子 花寂び
凍滝のうす緑なる襞の数 高濱年尾 年尾句集
凩や芭蕉の緑吹き盡す 凩 正岡子規
出羽びととひとつ緑にいて羽化す 渋谷道
刃のごとく馬立つそれからの緑雨 高橋たねを
刃を入れてメロンの涙緑なる 泉田秋硯
初冬の竹緑なり詩仙堂 鳴雪俳句集 内藤鳴雪、松浦爲王編
初釜にスカート緑濃き乙女 百合山羽公 故園
前山の緑の鬱とまつり鉾 高橋睦郎 稽古
前山の緑も雨気の田草取り 和知喜八 同齢
動くもの皆緑なり風わたる 五百木飄亭
北京の大緑蔭に歩み入る 山田みづえ
十三夜蔦の落葉の緑かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
十月の浮藻花もつ緑かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
十牛図抜け出て牛の緑蔭に 関森勝夫
千年の緑を松の自在釜 松岡青蘿
南無アジア緑と水を飛ぶ蝗 上田 玄
友木の緑たもたれて寒きさるすべり 林原耒井 蜩
口締めし磯ぎんちやくのいま緑 田中憲二郎
古写経の緑を柳かと思ふ 長谷川櫂 天球
古庭の緑蔭そこにこゝにかな 高浜年尾
古書店で本二冊買ふ紅緑忌 阪本春枝
古着売り緑蔭にひろぐ婚衣裳 藤田直子
句碑と歌碑一緑陰を分ちあふ 藤田昌愁
可惜しや万緑とざす霧峠 川畑火川
合唱の緑蔭に朝始まれり 相沢野風村
合掌す緑窓傘雨大居士に 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
吊るされて雉子は暖雨に緑なり 大野林火
名づけえぬ闇にも荒るる緑濃く地球にかなし海のあふるる 市原克敏
吹くたびに緑まさりて七日粥 小沢初江
吹降りの苗田の緑いまだなり 阿部ひろし
和服着て身のひきしまる緑の日 酒井春青
咲きみちてなほ緑がち花野かな 檜紀代
咳止みて万緑滾りゐる寝覚め 斎藤空華 空華句集
回想は遠き緑蔭の家鴨さへ 香西照雄 対話
在天の友らありあり萬緑忌 平井さち子 紅き栞
地下鉄の出口Aより緑さす 烏丸道子
地平大円緑野に細き煙一條 加藤耕子
坦々とあり緑愁の背後の水 友岡子郷 遠方
垂込めて緑あたらし盆支度 藤田湘子
城囲む植田の緑日日濃ゆく 福田蓼汀 山火
堀辰雄吾子はよみ初め緑立つ 能村登四郎
塔なす緑樹母恋ふこの場がまる見えぞ 磯貝碧蹄館 握手
塩街道ローマの松に緑立つ 木暮剛平
墨を以て大萬緑を描きたる 中杉隆世
変電所痣の如くに蔦の緑 田川飛旅子 花文字
夏の蝶翔け青歯朶の日も緑 福田蓼汀 秋風挽歌
夏山の緑うつりし小窓かな 夏山 正岡子規
夏来たり夜はカーテンの緑灯る 岸風三楼 往来
夏深し山襞緑濃き夜明 福田蓼汀 秋風挽歌
夏空読むか学の眼鏡に緑映え 香西照雄 素心
夏蜜柑の種子あつむれば薄緑 川島彷徨子 榛の木
夏蜜柑むき緑陰は二人のもの 富安風生
夕ぐれの卓の緑酒に初苺 飯田蛇笏 霊芝
夕凪や烏賊の胎児の瞳は緑 奥野曼荼羅
夕霞畑いちまいのなほ緑 福田蓼汀 山火
外灯を叩きてともす夜の緑雨 右城暮石 上下
夜の底は緑青の淵寒牡丹 塚本邦雄 甘露
夜の緑螢が示現太古めく 香西照雄 素心
夜をはなれ行く万緑の牧場かな 中田佳都美
大内の森の緑のいよよ濃し 宮成鎧南
大叔母が四人緑蔭の赤ん坊 正木ゆう子 悠
大方の緑の中や遅桜 遅桜 正岡子規
大樹寺の葵の紋に緑さす 藤瀬あや子
大神の鞍懸松や緑立つ 荒木信子
大緑蔭あり日蓮宗大本山 鈴木フジ子(海原)
大緑蔭出て鮮しき声使ふ 後藤秋邑
大緑蔭端の枝白日砕きたる 香西照雄 素心
大緑陰人・鳩・とかげ憩はしめ 高澤良一 鳩信
大緑陰雀らしきが遠く跳ね 高澤良一 素抱
大阪の緑がふるえ朝の蝉 坪内稔典
天を刺す松の緑や夏近し 行く春 正岡子規
天を航く緑濃き地に母を置き 野澤節子 遠い橋
天涯に金鯱のふたつ緑立つ 上田義子
太極拳万緑を押しそれを引く 高橋央尚(松の花)
奈良にあり鹿も我らも緑雨かな 坪内稔典
奈落めく万緑の谷蝶ただよふ 鷲谷七菜子 雨 月
女人高野の緑炎に胸つらぬかる 柴田白葉女 『夕浪』
如己堂の二畳の居間に緑さす 木暮剛平
妻も外出胸に緑の羽根など挿し 岩井野風男
妻を緑雨にいれて朝食をまつなり 阿部完市 春日朝歌
嫁が君家中を緑が走る 堀之内長一
子の墓に杉菜の緑滲む如く 平松措大
子守り子や緑ひねりて草の笛 平畑静塔
子鴉に水も緑の越の国 成田千空
孔雀啼く緑蔭深きところかな 渡利渡鳥
季節労務に海渡る日の緑の羽根 大谷利彦
学僧の戒律の額緑射す 津田清子 礼 拝
宝庫とても半ばは闇や日の万緑 香西照雄 素心
実桃秘め朝の緑蔭端揺るよ 香西照雄 対話
室生寺の塔の高さの緑雨かな 小早川恒(燕巣)
宮城の松の緑の美し國 保田白帆子
家の泉鶯ひそむ緑映す 香西照雄 対話
家蔭に蕗満つ緑の上げ潮どき 香西照雄 対話
寂として万緑の中紙魚は食ふ 楸邨
寂として緑の中の美術館 鈴木律子
寂として萬緑の中紙魚は食ふ 加藤楸邨
小春鳩頸の緑金揺り内足 香西照雄 対話
小桜の笙一管に緑射す 野澤節子
少年の顔となりたり緑さす 中村祐子
尚動く亡き子の時計万緑裡 楢崎六花
尺蠖も緑に擬する山深み 富安風生
尼の服黒し緑蔭を出ても尚ほ 秋元不死男
山に降り海にも降りて緑雨かな 片山由美子
山の緑に染まりて鮎を釣り暮らす 太田鴻村 穂国
山中は独語も緑滴れり 辻田克巳
山桜緑こらへてゐたるなり 矢島渚男 延年
山蟻の背にたらたらと緑さす 森川光郎
山蟻や緑漂ふ五千畳 島村元句集
山鳩の死に緑さす山の樹々 三谷昭 獣身
岩礁の鵜の目緑に冬半ば 柴崎左田男
岬山の緑竹にとぶちどりかな 飯田蛇笏 霊芝
島に古る足踏みミシン緑差す 中嶋秀子
島は緑の泣き濡れ色に眼鏡橋 加倉井秋を 『真名井』
崖の石仏母の匂ひの緑ごめ 河野南畦 湖の森
布引の滝を要の緑世界 小路智壽子
帽章のきらりと緑の週来る 石田阿畏子
干梅の香の緑蔭になごむなり 松村蒼石 春霰
幹高く大緑蔭を支へたり 松本たかし
庭せばめをり緑蔭を作りをり 高木晴子 花 季
庭にして緑蔭なせば朝な立つ 皆吉爽雨 泉声
廃校に束ねし書冊緑立つ 木村蕪城
弑逆(しいぎゃく)あり流れゆく黄裳緑衣 金子兜太 詩經國風
引退にあらず緑蔭に住まふのみ 小山いたる
弟が大緑陰を取り仕切る 益永孝元
御柱邃き緑のさして立つ 西本一都 景色
復活祭泥紅緑に耕耘機 百合山羽公 寒雁
心暗し木賊の緑は更に暗し 田川飛旅子 花文字
思ふ事なき日の素顔緑さす 古賀まり子 降誕歌
恐ろしき緑の中に入りて染らん 星野立子
恩愛をとほくに緑に沈みゆく 柴田白葉女 『夕浪』
恵林寺や緑雨に光る武田菱 菅野邦子
愛鳥週間人も緑にまみれゐて 角田独峰
懺悔の座女来て緑さし渡り 小林康治 玄霜
戀うたの秘呪密教や 繁茂なす夏の緑に滴りて斬! 筑紫磐井 未定稿Σ
手話びとの青春しづか緑立つ 堀口星眠 樹の雫
抽象具象の量感万緑のまつただ中 河野多希女 彫刻の森
拝みたる大緑蔭のほとの神 石嶌岳
指呼の山あっと言ふ間に万緑に 岩谷玉枝
捨苗の緑を捨てて昇天す 百合山羽公 寒雁
据風呂に行春の月緑なり 会津八一
握手した友の手が緑をいっぱいくれた 冬木より子
摘み捨てし松の緑の長が短か 牧月耕
摩周湖にうつる万緑濃く淡く 柴田美代子
放課後の緑蔭の肺ホルン吹く 平井さち子 鷹日和
敏郎忌のうつしゑにさす緑かな 太田蛇秋
文字摺の石や緑雨に綾見たり 大橋敦子
斎の膳はうれん草の緑かな 高野素十
断梅やこのもかのもの緑蟻かな 加藤郁乎
新藁にあるなつかしき緑かな 小河原小葉
新道に緑少き柳かな 柳 正岡子規
方舟(はこぶね)で万緑の梢漂わん 中島斌雄
日が射して植田緑の美を尽くす 山口誓子 大洋
日曜日妻子緑にまぎれ了ふ 原裕 葦牙
日照雨緑陰の人書を閉ぢず 佐藤念腹
昌寿の喪デコボコ道に緑さし 岸田稚魚 筍流し
明水に緑雨止んだり初プール 百合山羽公 寒雁
春なれや猛き緑は彼岸花 岩田由美 夏安
春に問ふ緑の花はいかでなき 蘇山人俳句集 羅蘇山人
春の夜の建てゝ壊した緑の家 富澤赤黄男
春を待つひらきし地図の野は緑 上野泰 春潮
春雨や木立緑に十万家 春の雨 正岡子規
春風や苗圃の緑丈揃ふ 福田蓼汀 秋風挽歌
時雨たか今朝は緑の麦門冬 随古
晩学や道緑蔭で果つるかに 香西照雄 対話
普賢岳荒惨のまま緑濃し 貪橋羊村
晴天より欅若葉の緑の聲 相馬遷子 雪嶺
暁の花咲く山の緑かな 花 正岡子規
暗きまで沼は緑や烏蝶 依田明倫
暗渠出てすぐ万緑に水染まる 前山松花
暗緑にして赤熱の鮎となれ 安井浩司「人」
暗緑の肖像画ある朝寝かな 波多野爽波 『骰子』
暗緑光あつめ流木上下動 三谷昭 獣身
曇る日々松の緑も遅々と伸び 小原菁々子
月一輪星無数空緑なり 正岡子規
有耶無耶の柳近頃緑也 夏目漱石 明治三十一年
朝シャワー浴びて緑に染まりゆく 藤崎久を
朝寒や緑透いて見ゆ障子窓 朝寒 正岡子規
朝市の山独活にして緑濃き 倉橋みちゑ
朝毎の名演奏者緑立つ 石田波郷
木の根より丸く雪融け緑みゆ 田川飛旅子 花文字
木の緑したゝる奥の宮居哉 滴る 正岡子規
木の芽和皿に取りたる緑かな 温亭句集 篠原温亭
木屋町も緑深しや御忌の鐘 畑 伝一郎
未登緑労務者の眼に秋楕円か 磯貝碧蹄館 握手
朴ならむ万緑に打つ句読点 矢島渚男 船のやうに
朴一樹もて緑蔭をなせりけり 富安風生
杉は緑南天赤きアーチ哉 寺田寅彦
杖挙げて牧の緑を司る 石田勝彦 秋興
来し迅さにて緑蔭を過ぎゆく水 幸治燕居
来迎和讃わくと緑陰人いきれ 諸角せつ子
東京の端の緑蔭炎天寺 鈴木鷹夫 大津絵
東洋へ緑のうさぎよとべとべ 阿部完市 春日朝歌
松緑の死や文字摺草の紙縒咲き 平井さち子 鷹日和
松緑は目の憩ひ処や桃花まぶし 香西照雄 素心
松葉散る松の緑の伸びにけり 正岡子規
枝蛙喜雨の緑にまぎれけり 西島麦南「人音」
枝豆のはじけ緑の夢ひとつ 松田 淑
枝豆の緑鮮やかずんだ餅 渋谷一男
枯芝に松緑なり丸の内 枯芝 正岡子規
枳殻の芽西日に透いて緑かな 五十嵐播水 播水句集
柳は緑ベレ紅と申すべし 三好達治 路上百句
柳緑せり飽食に居る君か(京都の友に) 中塚一碧樓
柴の戸にさす柊の緑かな 妻木 松瀬青々
柿の花一切緑がくれかな 松村蒼石 雁
栴檀の広き緑蔭土佐に来し 野澤節子 遠い橋
栴檀の緑陰に風立ち易し 市野沢弘子
桐落ちて椶櫚緑なる小庭哉 桐一葉 正岡子規
桑の枝に兆す緑や春疾風 久保田ヤスエ
桜貝灯台のガラス緑濃く 田川飛旅子
梅を*もぐこの世の緑身に被き 文挟夫佐恵 雨 月
梅雨の朝酸素分子も緑なり 榎本泰子
梶鞠の衣冠ただせる緑蔭に 岸風三楼 往来
森の道緑雨おもたく止みにけり 松村蒼石 雪
椅子ひとつあらば緑蔭いかによき 沢 聰
椅子一つあらば緑蔭いかによき 沢 聰
植ゑし藺の緑のうねり海明けくる 加藤知世子
椿落ちて万緑叢中一朱唇 楠本憲吉
楷の樹の緑蔭に仁説きにけり 小島健 木の実
楸邨てふ大緑蔭のもうあらず 脇 祥一
楸邨を待ちつづく椅子緑蔭に 熊谷愛子
楽果てたり帰去来緑蔭を 大橋宵火
樅は北方人万緑にこの黒さ 村上冬燕
樗牛の墓緑蔭海を遥かにす 村山古郷
橄欖の実 棚で緑光 港の路地 伊丹公子 機内楽
橋揺れてきて万緑の揺れはじむ 古館曹人
欝緑といふべし島の水際まで 篠原梵 雨
次の旅物色しをり緑の日 高澤良一 素抱
歩みだす万緑といふ枷の中 櫂未知子 蒙古斑
死の肯定万緑のなか水激ぎつ 鈴木しづ子
死語の世に生きおれば緑の繭匂う 斎藤愼爾 夏への扉
母の日に奉仕緑のゴムたはし 百合山羽公 寒雁
母の日の緑雨いちにち母に近く 野澤節子 黄 炎
母は死ねりと緑蔭に来て己に告ぐ 有働亨 汐路
母子合唱つぎの緑蔭つぎの節 中戸川朝人 残心
母子合唱緑蔭も声の一ト炎 中戸川朝人 残心
毛蟲焼く萬緑曇りそめにけり 西島麥南
気がつきし瞳に緑葉や日射病 中村狭野
水の中まで緑蔭のありにけり 藤松遊子
水仙の葱緑の二タ分れかな 菅原師竹句集
水底に緑蔭深く重ねあり 高木石子
水枕に櫂の音ある緑夜かな 大島雄作
水浴に緑光さしぬふくらはぎ 飯田蛇笏 春蘭
水無月の須磨の緑を御らんぜよ 水無月 正岡子規
水草のうすき緑のふるへつゝ 岸風三楼 往来
水草の緑走りし水の中 高濱年尾 年尾句集
水軍の島万緑に盛りあがり 西村旅翠
氷仙や花の次がざる緑伸ぶ 林原耒井 蜩
汐越の松にしたたる緑雨かな 西畠 匙
汚れなき緑の山気摩耶詣 桑田永子
江の島の緑につゞく日傘かな 島村元句集
江南の万緑釦一つ外す 川崎展宏
江東に緑の早き柳哉 柳 正岡子規
池童子二ン月緑さしにけり 永田耕衣 葱室
泊船の一つ緑に冬灯 高澤良一 素抱
洋芹の緑かたまり冬隣 古賀まり子
洗ひ髪夜も緑なす雨降れり 嶋田麻紀
流鏑馬に雨の上りし緑立つ 後藤比奈夫
浅間燃え春天緑なるばかり 前田普羅 春寒浅間山
海の藍ざぼんの緑赤とんぼ 三好達治 路上百句
海よりも野山に降りてこそ緑雨 檜紀代「木染月」
海を俯瞰緑の谷に牛の群 田川飛旅子 花文字
海境なし万緑の志摩と伊勢 百合山羽公 寒雁
海苔*ひびの薄緑にもひろがれり 八木林之介 青霞集
涼しさの動く野山の緑かな 涼し 正岡子規
淡雪の窓辺フルーツパフェに緑 栃倉千江子
深は新なりと大緑蔭をなす 中杉隆世
深吉野は深き万緑無音界 梅本幸子
清晨や先師の句碑に緑さし 伊東宏晃
清水飲む山の緑を傾けて 森内定子
温室出でて緑雨浴びたき旅人木 大島民郎
渺々と緑つらなる柳哉 柳 正岡子規
湖いでてすぐ緑蔭の釧路川 水原秋桜子
湖心透る空緑なり木の実植う 河東碧梧桐
湖深く大暑の緑澄みにけり 鷲谷七菜子 花寂び
湯あみせし如く句碑あり緑蔭に 星野立子
満園の緑や薔薇二三輪 薔薇 正岡子規
満目の緑に坐る主かな 高浜虚子
満目の緑やむせぶほととぎす 相馬遷子 雪嶺
濁世なれども万緑の山河あり 見田英子
濡れそぼつ松の緑やはたたがみ 会津八一
火の山の裾万緑に道はあり 上村占魚 球磨
火山へかけ緑の地なりわらび籠 村越化石 山國抄
炉塞ぎて庭へ出て見る空緑 炉塞 正岡子規
炊き上げてうすき緑や嫁菜飯 杉田久女
炎天に鹿沼麻緑蔭に鹿沼土 西本一都 景色
炎天の高みの黝む緑樹帯 飯田蛇笏 椿花集
焦げくさき雉子の二声緑立つ 福永耕二
煤の沖梅雨緑なる雷火立つ 小林康治 玄霜
熊笹の緑にのこる枯の哉 枯野 正岡子規
熔岩を緑光はしり蝶を誘い 大井雅人 龍岡村
燈を消して冬は緑青色の闇 野澤節子 遠い橋
燕麦の滞りなき薄緑 京極杞陽 くくたち下巻
爪先まで憩う緑陰札所かな 宮田頼行
父のこといち~問はれ緑蔭に 森田峠 避暑散歩
父の愛うすく緑蔭にきて跼む 成瀬櫻桃子 風色
牛乳を飲む万緑に負けぬやう 辻美奈子
物語めき緑蔭に馬車とまる 成瀬正とし 星月夜
犬のいない犬鳴峠という緑陰 鮫島康子
犬の眼の緑に光る櫻の夜 山口誓子 青銅
犬を撫づ島の緑蔭にごるまで 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
狼煙一発万緑の山動きけり 玉川リヨ
猫柳緑金に炎え児の時間 佐藤鬼房
獄中の爪書き「母よ」緑さす 岩崎波久
獣の糞緑に和む深山中 村越化石
玉虫に山の緑の走りけり 中西夕紀
玉虫に眠りの繁み緑濃き 原裕 青垣
玻璃に緑陽がしたたらし湯舟干す 宮坂静生 青胡桃
琴弾けば緑蔭深くむせぶ声 水原秋櫻子
瓜噛むや四方の緑に咽びつゝ 東洋城千句
田を植ゑて森の緑を古びさす 相馬遷子 雪嶺
田楽に塗りつけてある緑かな 長谷川櫂
甲冑の緑光りに冬の蝿 本井 英
畑ものの緑さまざまみな央高 香西照雄 対話
異邦人見る眼も死ねり緑蔭老 林翔 和紙
疾走す緑の髪の青嵐 高澤晶子 復活
病みし馬緑蔭深く曳きゆけり 澁谷道
病院は緑陰ナースは白き風 高澤良一 随笑
癆咳の娘がレース編む緑雨かな 西島麦南 人音
癇の虫冬も緑の草ありて 中尾寿美子
登れども登れども万緑界を出でず 福田蓼汀 秋風挽歌
登緑樹となりて樹医くる松手入 八牧美喜子
白き素顔が涼点頬に緑映え 香西照雄 素心
白き花ばかり目につく緑雨かな 長谷川智弥子
白焔の縁の緑や冬日燃ゆ 松本たかし
白玉享ける石の童顔緑の星 成田千空 地霊
白瑠璃碗緑瑠璃坏美し葡萄かな 尾崎迷堂 孤輪
白緑の蛇身にて尚惑ふなり 飯島晴子
白蓮の固き蕾の緑かな 成瀬正とし 星月夜
白藤の蕾はうすき~緑 佐野青陽人 天の川
白雲を出る日仰ぎつ緑蔭に 草田男
盆栽の松に緑蔭ありにけり 吉田トヨ
目つむれど尚万緑の中に在り 森田幸夫
目つむれば睡魔ふとくる緑蔭に 稲畑汀子
直系一孫緑の羽根の緑立つ 百合山羽公 寒雁
相国寺緑を摘むに命綱 香西信子
眠りをり大緑陰の嬰の足 幸田豊秀
眼の底へひんやり緑滴れり 吉原文音
眼鏡に落つ雨滴しばらく緑ため 桜井博道 海上
瞑目の裡にも緑雨みなぎりぬ 三宮たか志
矢放たれ万緑に吸ひこまれゆく 今井千鶴子
石鼎の句碑万緑の要なす 佐藤夫雨子
破れさうになる時芭蕉緑はなつ 知世子
破風赤く風緑なり寛永寺 薫風 正岡子規
確かなる小さき緑貝割菜 草本 美沙
祓い塩白し万緑おしひらき 長谷川かな女 花 季
神さびて大緑蔭に宮居あり 星野立子
神のため緑をさはに冬菜畑 片山由美子 風待月
秋いまだ大緑蔭と申すべく 田中裕明 先生から手紙
秋烏賊の目の緑なす朝の糶 桂樟蹊子
秋立つや緑新たに金魚の藻 林原耒井 蜩
秘緑俗人なく我等聴いてをる西吹き 梅林句屑 喜谷六花
移動せむと緑蔭はまたうごめきぬ 永田耕衣 吹毛集
稲刈つて畦は緑に十文字 高野素十
稲妻の緑釉を浴ぶ野の果に 黒田杏子 木の椅子
積善の門どつしりと緑立つ 松浦敬親
穴出でし蛇も緑ぞ化粧坂 今福心太
空は五月 海底に立つ暗緑の富士 みごもりを知らぬ男ら 小野興二郎
空気まで色つきさうな緑の日 大谷 栄子
突き上げて仔鹿乳呑む緑の森 西東三鬼
立つや緑命も捨てぬ松の千代 椎本才麿
竹をもて一緑蔭をなすところ 綾部仁喜 寒木
竹生島万緑太りしてゐたり 久染康子
竹緑を踏みわる猫の思ひかな 子規
笹緑鰤まくれなゐ蕪白 高橋睦郎 金澤百句
笹鳴や新藁かわく薄緑 碧雲居句集 大谷碧雲居
笹鳴や椿緑り葉篠の中 尾崎迷堂 孤輪
筍の竹になる四方の緑かな 渡辺水巴 白日
箒目を緑雨撫でゆく曽良忌かな 明田ゆき子
簾捲けは山緑なり鮎膾 鮎 正岡子規
糸滝の緑釉の壺大いなる 伊藤敬子
紅緑忌他門の人も来て待てり 右田秀道
純色の緑の山に虹かかる 相馬遷子 雪嶺
紙人形位置定まりて緑の夜 村越化石
素読とは大緑蔭にひびきけり 田中裕明
素通りす魂とられさうな緑蔭は 市野沢弘子
紫陽花や紫尽きて浅緑 紫陽花 正岡子規
紫陽花や緑にきまる秋の雨 秋雨 正岡子規
緑ありて守武の忌を修しけり 高濱虚子
緑からさまざまとして落葉かな 野澤凡兆
緑さしわが揺りかごの五能線 成田千空「忘年」
緑さすと聞けばかなしき五月来ぬ 石野兌
緑さすへくそかづらののぼりかけ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
緑さすやからから熱き骨ひらふ 皆川白陀
緑さすや君と別るゝための黙 小林康治
緑さすや鏡中のわが白髪も 皆川白陀
緑さすモデルルームの自動ドア 高田敬子
緑さす三鬼波郷の亡き後も 小林康治
緑さす下に少年地図ひろげ 大高 翔
緑さす仰臥の夫の髭剃れば 石田あき子 見舞籠
緑さす厨を今も手離せず 横山房子
緑さす唐三彩の壷の口 松井千鶴子
緑さす富貴寺の面取り柱かな 高澤良一 寒暑
緑さす山廬を守りて子ら遠き 和田 和子
緑さす扉を少し開け祈りをり 古賀まり子
緑さす旅墓に逢ひ牛に遇ひ 鷲谷七菜子 花寂び
緑さす春夫旧居の春夫の座 片山由美子「天弓」
緑さす書見器隠り夫睡れり 石田あき子 見舞籠
緑さす未完の畫布の夫に會ふ 石田あき子 見舞籠
緑さす机の角に蚤殺す 百合山羽公 寒雁
緑さす松や金欲し命欲し 石橋秀野
緑さす漬物桶にひざまづく 野沢節子
緑さす白洲を湖とし野外能 大石悦子 群萌
緑さす窓を雨滴の徒競走 高澤良一 素抱
緑さす籐編み籠に籐の鳥 高澤良一 ぱらりとせ
緑さす胸ふれられて軽くなる 二村典子
緑さす薄粥を花のごと餘す 小林康治 玄霜
緑さす階聖歌隊昇らしめ 石田波郷「春嵐」
緑さす鴻山妖怪財布かな 高澤良一 燕音
緑てふ濡れ色にある枝蛙 河野雪嶺
緑なす松や金欲し命欲し 石橋秀野(1909-47)
緑なす都市や獣の匂ひせる 長谷川照子
緑のなか胸ふくらます若さと風 古沢太穂 古沢太穂句集
緑の中東海道線酷使さる 茨木和生 木の國
緑の夜いのち明りを吹き消せり 能村研三
緑の森ぬらして雨の移転以後(横浜郊外・大倉山へ移転二句) 河野南畦 『風の岬』
緑の羽根さして彼岸の餅黄なり 百合山羽公 寒雁
緑の羽根少女に胸を貸し恥ぢらふ 吉田北舟子
緑の羽根心音奏づ上に挿す 本多静江
緑の羽根胸に日曜看護婦たり 松山昌子
緑の羽根黄口童子に呼ばれ買ふ 百合山羽公 寒雁
緑の肉詰まる松笠子の遺骨 香西照雄 素心
緑の週母校に残る大樹かな 岡部名保子
緑の週間きのふもけふも街は雨 岡田日郎
緑の週間ボーイスカウト禿山に 加古宗也
緑の週間始まり雨に奔る川 皆川盤水
緑の頭に亀甲の罅土筆たち 田川飛旅子
緑ふかく未知の行方の栗大樹 赤城さかえ句集
緑ゆえ開かずにおく落し文 高橋将夫
緑ゆく自転車かごにパイ・ミルク 上田日差子
緑ゆらめきて井泉水忌とこそ言わめ 伊沢元美
緑ゆるがす風ばかりなる天城越え 桂信子 花寂び 以後
緑ゆ萬緑答案絶え間なく生まれ 宮坂静生 雹
緑わく夏山陰の泉かな 蓼太「蓼太句集三編」
緑一新の巨松や朝の桜侍す 香西照雄 素心
緑亀はびこる池の暑さかな 高澤良一 素抱
緑伸ぶ散り敷く花と咲く花と 林原耒井 蜩
緑側に出て髪とかす薄暑かな 大場白水郎 散木集
緑光に射られのけぞる理髪椅子 柴田白葉女 花寂び 以後
緑光の白鳥となれ婚儀服 文挟夫佐恵 雨 月
緑児の眼あけて居るや田植雲 前田普羅
緑十重二十重の滝の落つるなり 井上康明(白露)
緑噴きあげし山脈妻になれず 寺田京子 日の鷹
緑増す景に御陵も網戸越 亀井糸游
緑夜漂う方舟見えてわたし見えて 中北綾子
緑子の凧あげながらこけにけり 正岡子規
緑射す神将の剱両刃 津田清子 礼 拝
緑山中かなしきことによくねむる 森澄雄
緑山中一瀑神の一糸とも 野澤節子 遠い橋
緑山中翁と曾良のはなしかな 佐藤美恵子
緑山中魂といふそよぐもの 加藤耕子
緑愁にからまれている白昼夢 高橋三樹雄
緑愁の日記は白いままつづく 高橋三樹雄
緑愁の目がくらければ眼鏡拭く 小松崎爽青
緑愁や少し離れて司書も立つ 友岡子郷 日の径
緑拭きて楓の花を塵とせず 及川貞
緑摘む下にひろがり潦 本山邑多
緑摘む今日も総出の修道士 景山筍吉
緑星金の純粋紛れなし 高屋窓秋
緑樹からたつのおとしご六おとした 阿部完市 春日朝歌
緑樹というか海辺の草に妻 金子兜太
緑樹より翼がのぞく子と立てば 原裕 葦牙
緑樹炎え割烹室に菓子焼かる 竹下しづの女句文集 昭和十一年
緑樹炎え日は金粉を吐き止まず 竹下しづの女句文集 昭和十一年
緑泉に老の手浸す沁むことょ 山口草堂
緑涼し沙彌がくみ来る出ながれ茶 河野静雲 閻魔
緑濃きリボンを揺らす花胡桃 羽根田邦子
緑濃き原爆の日の地の起伏 松浦敬親
緑濃き子の日の小松打ちながむ 飯田蛇笏 山廬集
緑濃き朝の雨降る父の日よ 菖蒲あや
緑濃き母校はいまも女の園 楠節子
緑濃き海を見出でて揚羽ゆく 百合山羽公 故園
緑濃き玉繭供へ秩父祭 大村峰子
緑濃く冬木の梛となりにけり 渡辺政子
緑濃し白根の雪に漕ぎ出づる 太田鴻村 穂国
緑炎の星屑咥へはぐれ雁 小枝秀穂女
緑牡丹年年小さく故園恋ふ 黄川田美千穂
緑眼の蟷螂生身の斧をあげ 福田蓼汀 秋風挽歌
緑眼もて生るる蜻蛉法の山 岡部六弥太
緑秩父枝桑を切り川を見す 和知喜八 同齢
緑立つ乱立せりと云ふ如し 相生垣瓜人
緑立つ二重橋前駅に降り 布施まさ子
緑立つ塩田跡の小学校 江見悦子
緑立つ寂光院の炎上す 梶山千鶴子
緑立つ故人に物を問へとこそ 神尾久美子 桐の木以後
緑立つ日々を癒えたし母のため 古賀まり子 洗 禮
緑立つ明治憲法草せし地 高澤良一 素抱
緑立つ松に雨降り時国家 細川加賀 生身魂
緑立つ母・姉・義兄よ長暇 村越化石
緑立つ西にみづみづしき筑紫 神尾久美子
緑立つ風丹頂のうなじ打つ 清水基吉
緑竹の猗々たり霏々と雪の降る 夏目漱石 漱石俳句集
緑縁を出て雲水の青頭 石塚友二 光塵
緑萌ゆ岩にいのちを与へつつ 雨宮抱星
緑萼梅ときに潮風尖りくる 尾崎よしゑ
緑葉噛んで酒すするなり山の人 金子兜太
緑蔭で会ひし大原女まだ少女 坂根白風子
緑蔭で空にゆきたい子供たち 湊楊一郎
緑蔭といふもののある星に住む 村松紅花
緑蔭といふ奥の間のありにけり 中島たけ子
緑蔭といふ悲しくも深きもの 高橋謙次郎(俳句)
緑蔭に*どをつり下げし百姓家 高野素十
緑蔭にあり美しき膝小僧 加古宗也「八ッ面山」
緑蔭にあるかも知れぬ盗聴器 工藤克巳
緑蔭にいのちいたはる膝そろへ 林翔 和紙
緑蔭におく冬帽の汗のあと 細見綾子 花寂び
緑蔭にかくるゝ如くゐてひろし 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
緑蔭にきて跼む人をおもへばや 成瀬桜桃子 風色
緑蔭にきのふ別れし如話す 今橋真理子
緑蔭にころがつてゐる根株かな 鈴木貞雄
緑蔭にして乞はれたる煙草の火 敦
緑蔭にして睡蓮の紅濃ゆし 岸風三楼 往来
緑蔭にして脚しろくほそき椅子 木下夕爾
緑蔭にして額の花かすかなり 高濱年尾 年尾句集
緑蔭にて「何歳ですか」「忘れたよ」 工藤克巳
緑蔭にひとりの刻を欲りて来し 松井正千代
緑蔭にひろげし地図をかこみけり 柏井古村
緑蔭にまどろむ兵の皆仏 鈴鹿野風呂 浜木綿
緑蔭にみな井戸のある村の家 冨田みのる
緑蔭にむかへり鼻の汗しろき 太田鴻村 穂国
緑蔭にゐて靴磨あぶれたり 鷹女
緑蔭にゐるがその子の母らしく 上村占魚 球磨
緑蔭にトランペットを吹く少女 三浦辰郎
緑蔭にトルソーの胸豊かなり 山下ミドリ
緑蔭にバスの半身乗り入るる 黒木豊子
緑蔭にボートの順を待ちゐたり 高濱年尾 年尾句集
緑蔭にルソーの猿を呼んでをり 文挟夫佐恵 遠い橋
緑蔭に三人の老婆わらへりき 西東三鬼
緑蔭に並ぶ義仲巴塚 大石英子
緑蔭に会釈鷹揚老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭に佇ちて一樹の声を聞く 桑原光代
緑蔭に低唱「リンデン・バウム」と云ふ 上田五千石 田園
緑蔭に入りし頭髪火の如し 谷野予志(天狼)
緑蔭に入りて楡とはやさしき名 石田勝彦 秋興
緑蔭に入りゆく息を整へり 市野沢弘子
緑蔭に入りゆく旅終へし如 上崎暮潮
緑蔭に入り兎めく少年よ 鈴木方子
緑蔭に入り緑蔭の外を見る 恒藤滋生
緑蔭に出雲訛も親しかり 鈴鹿野風呂 浜木綿
緑蔭に大き異国の乳母車 藤本朋子
緑蔭に子とをり登つてみせたくなりぬ 篠原梵 雨
緑蔭に小さな出口ありにけり 岩淵喜代子 硝子の仲間
緑蔭に干すTシャツの文字は愛 行方素芳
緑蔭に待てば静かに歩みくる 後藤夜半 底紅
緑蔭に徹夜行軍の身を倒す 相馬遷子 山国
緑蔭に心のみふとたぢどまる 篠原梵 雨
緑蔭に憩ふは遠く行かんため 山口波津女「良人」
緑蔭に憩ふや六腑浄らかに 吉田未灰
緑蔭に憩ふ方(まさ)しくお蔭様 辻田克巳
緑蔭に拾ふ日の斑と約束と 上田日差子
緑蔭に教へ子美貌なるがよし 楠節子
緑蔭に智光燈籠朱文字なる 西本一都 景色
緑蔭に書き訓へ聖家族めく 高橋睦郎 舊句帖
緑蔭に木の股ありて憩ふべく 高濱年尾 年尾句集
緑蔭に染まるばかりに歩くなり 星野立子
緑蔭に椅子あり小樽運河あり 鈴木鷹夫 風の祭
緑蔭に椅子空けておく季羊の忌 吉田亜司
緑蔭に母を待たせてポストまで 池村 惇子
緑蔭に毛沢東の父母の墓 日原傳
緑蔭に浸り由布姫をあはれがる 西本一都 景色
緑蔭に深く沈める祠かな 湯浅典男
緑蔭に無の樫の顔満つるなり 永田耕衣 悪霊
緑蔭に無人の水位観測所 片山由美子 水精
緑蔭に男は優しき潜水艦 夏石番矢
緑蔭に目つむれりよき夫たるや 成瀬桜桃子 風色
緑蔭に盲導犬の気を抜かず 志摩陽子
緑蔭に盲目の感澄しけり 長谷川かな女 雨 月
緑蔭に相寄り志士の墓なりけり 岸風三楼 往来
緑蔭に眼帯の娘をけふも見し 麦南
緑蔭に眼帯の子をけふも見し 西島麦南
緑蔭に眼鏡キラリと老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭に石割る鑿の火を放つ 小林洋正
緑蔭に祝女の挿したる蛇の櫛 沢木欣一
緑蔭に縦縞荒く乳房秘め 池内友次郎
緑蔭に置かれて空の乳母車 昌治
緑蔭に美貌やすませゐたりけり 上田五千石 田園
緑蔭に聖者のごとくをられけり 岩岡中正(ホトトギス)
緑蔭に聲ごゑそろふ問答書(どちりいな) 筑紫磐井 婆伽梵
緑蔭に背伸びして見る紙芝居 石川文子
緑蔭に脱ぎ揃へある草履かな 岸風三楼 往来
緑蔭に膝もて余す女かな 右城暮石
緑蔭に自転車止めて賭将棋 吉屋信子
緑蔭に舫ひし如く木のベンチ 行方克巳
緑蔭に若人嫉妬老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭に菊水の紋散らしあり 竹中弘明
緑蔭に藻揺れのごとき日向あり 千代田葛彦
緑蔭に蟻殺す童を見て憩ふ 西島麦南 人音
緑蔭に衣脱ぎおとす磧の温泉 山崎冨美子
緑蔭に語りはじめし宇治拾遺 筑紫磐井 野干
緑蔭に読みくたびれし指栞 辻田克巳
緑蔭に読みて天金をこぼしける 誓子
緑蔭に豚肉切り分く目分量 関森勝夫
緑蔭に赤子一粒おかれたり 沢木欣一 往還
緑蔭に身を包みゐて孤なりけり 河野多希女 両手は湖
緑蔭に銭乞ふことを恥とせず 橋本美代子
緑蔭に集ひて心ひとつにす 木原美寿子
緑蔭に顔くらくなり駕着きぬ 山口波津女 良人
緑蔭に顔さし入れて話しをり 橋本鶏二
緑蔭に風のささやき聞こえけり 角皆美代子
緑蔭に飛ばず歩まず千羽鶴 有泉七種「季」
緑蔭に黒猫の目のかつと金 茅舎
緑蔭の「石狩挽歌」碑を唄ふ 伊東よし子
緑蔭のいづみの草にしづむ花 石原舟月 山鵲
緑蔭のかの友にこの友にあふ 大橋櫻坡子
緑蔭のふかければ蝶ゆるやかに 風三楼
緑蔭のわが入るときに動くなり 耕衣
緑蔭のをとこ起つをんな眼のみひらく 中島斌男
緑蔭のベンチあそこが空いてをり 高澤良一 さざなみやつこ
緑蔭のメビウスの輪のひとめぐり 藤本草四郎
緑蔭の一人一人の持つ母国 依田明倫
緑蔭の不如歸(ふじょき)に泣ける御母上様(おかあさま) 筑紫磐井 婆伽梵
緑蔭の中に扉の小さく在り 今橋眞理子
緑蔭の人の目濁り牛角力 殿村莵絲子
緑蔭の人の隣に立ちにけり 綾部仁喜 寒木
緑蔭の人もをらぬに香時計 田中裕明 花間一壺
緑蔭の人去りてより夕長し 後藤夜半 底紅
緑蔭の写真くらくてわれに似ず 相馬遷子 山国
緑蔭の冬の日に似るレストラン 京極杞陽 くくたち上巻
緑蔭の受附暗き名を記す 村上朱楼
緑蔭の園のまはりの道太し 上村占魚 球磨
緑蔭の埴輪にこにこ人を待つ 塩崎翠羊
緑蔭の大きな下の靴磨き 上野泰 佐介
緑蔭の大き目の皿深目の鉢 後藤夜半
緑蔭の大地波打ち幹立てり 池内友次郎
緑蔭の奥かがやきて泉湧く 内藤吐天 鳴海抄
緑蔭の奥処へ垂らす能衣裳 加藤耕子
緑蔭の嬰の夢ごと渡さるる 安田晃子
緑蔭の幹に人入り幹となり 上野泰 春潮
緑蔭の広さは人の散る広さ 稲畑汀子 汀子句集
緑蔭の思はぬ暗さありにけり 清水真紀子
緑蔭の恋うつくしと見て過ぎぬ 岸風三楼 往来
緑蔭の恋のベンチは見ぬがよし 稲垣きくの 黄 瀬
緑蔭の戸毎に朝のミルクあり 辰之助
緑蔭の斑は母子像の母にさす 鷹羽狩行
緑蔭の日の斑を踏めば貝の音 岩淵喜代子 硝子の仲間
緑蔭の昼餉を蚋が侘しうす 竹中九十九樹
緑蔭の昼餉セロリに指濡らす 有働 亨
緑蔭の椅子に安穏老貴族 成瀬正とし 星月夜
緑蔭の椅子人生長く倦みにけり 木下夕爾
緑蔭の水辺明るきピサロの絵 藤本 保太
緑蔭の洩れ日を蟻が輝き過ぐ 内藤吐天 鳴海抄
緑蔭の海よりしづかなる憩ひ 富安風生
緑蔭の深き紫なすあたり 相生垣瓜人 微茫集
緑蔭の深ければ濃き堆朱盆 鍵和田[ゆう]子 浮標
緑蔭の濃きを選りては揚羽過ぐ 桂信子 花寂び 以後
緑蔭の濃みどり未生以前の父母 松井利彦
緑蔭の濃淡抜けてわが身なる 河野多希女 月沙漠
緑蔭の男女の間の紙袋 鈴木貞雄
緑蔭の石截るひびき繰りかへし 青畝
緑蔭の砥石に水を伸ばしをり 伊藤てい子(*ろうかん)
緑蔭の磴の高さを先づ仰ぎ 稲畑汀子 春光
緑蔭の網目の空よ男同志 綾子
緑蔭の老婆やさしき水間寺 小寺正三
緑蔭の言葉の円さ風来る 飯田龍太
緑蔭の言葉や熱せずあたたかく 中村草田男「銀河依然」
緑蔭の読書深まり人嫌ふ 山本一糸
緑蔭の赤子の欠伸母にうつりぬ 大野林火
緑蔭の走り根に葬終へし人 鵜飼みね
緑蔭の道平らかに続きけり 高浜虚子
緑蔭の野球の球が緑蔭ヘ 鈴木洋々子
緑蔭の風さそひだす研師かな 十川陽子
緑蔭の風少女等はそよぐかに 加藤耕子
緑蔭の風朝刊に蟻おとす 福田甲子雄
緑蔭はなけれど遠き樹海あり 後藤夜半 底紅
緑蔭は人に譲りて戻りけり 山田みづえ
緑蔭は胎のなかまで静かなり 布川武男
緑蔭は詩人の個室風通ふ 小澤克己
緑蔭へ日向の匂ひついて来し 西元貢
緑蔭へ獣語あふれてきて解ける 大西泰世 世紀末の小町
緑蔭へ鳥の死骸を引き寄する 対馬康子 吾亦紅
緑蔭へ鳰をながせる瀬のきほひ 瀧春一 菜園
緑蔭まで麦生の明かさ逢引す 宮坂静生 雹
緑蔭やあるときの君うつくしく 藤後左右
緑蔭やうすはかげろふ漣を追ふ 飯田蛇笏 霊芝
緑蔭やこころにまとふ水の音 木下夕爾
緑蔭やしっぽも眠る犬の昼 吉原文音
緑蔭やなほ卓うつすべく広く 汀女
緑蔭やにべもなき犬いつそ雄々し 平井さち子 完流
緑蔭やひとつふたつは骸なし 久保純夫 熊野集
緑蔭やわが名刻める犬の首輪 瀧春一 菜園
緑蔭やアルキメデスの話など 野木桃花
緑蔭やグレコローマの琴に紋 加藤耕子
緑蔭やボクサー放棄せし男 対馬康子 吾亦紅
緑蔭やラジオながらも琴もれて 波郷
緑蔭や人の時計をのぞき去る 高浜虚子
緑蔭や人待つとなく鐘のそば 岩田由美 夏安
緑蔭や人生時に憩ふべし 高田風人子「明易し」
緑蔭や光るバスから光る母 香西照雄「対話」
緑蔭や少女のひらく文庫本 岡本昌三
緑蔭や少年兜虫を殺し 岸風三楼 往来
緑蔭や彩を極めて深山蝶 東洋城千句
緑蔭や旅人十人容れ余り 近藤一鴻
緑蔭や時には蟻の降つて来て 深見けん二 日月
緑蔭や枝にまたがり足垂るる 林火
緑蔭や母の力のにぎりめし 関森勝夫
緑蔭や泣く子に母の現れて 上村占魚 球磨
緑蔭や渚につなぐヨットあり 秋櫻子
緑蔭や熟寝子も亦神のもの 野村羊声
緑蔭や白き表紙に白き蝶 鍵和田[ゆう]子 未来図
緑蔭や白鳥遠く去りてあり 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
緑蔭や眼鏡光りてこちを見る 高浜虚子
緑蔭や矢を獲ては鳴る白き的 竹下しづの女句文集 昭和十年
緑蔭や石にも石の機嫌あり 岡野洞之(早春)
緑蔭や石の情に腰下ろす 引田逸牛
緑蔭や紙屑籠と紙屑と 波多野爽波 鋪道の花
緑蔭や老の話に齟齬多き 松島利夫
緑蔭や蝶きて蜥蜴走つたり 岸風三楼 往来
緑蔭や蝶の白さのただならぬ 春一
緑蔭や蝶明らかに人幽か 松本たかし
緑蔭や読譜乙女の指躍り 岡田貞峰
緑蔭より緑蔭に入る風の径 柴田白葉女
緑蔭より緑蔭より人きたる 津根元潮
緑蔭をよろこびの影すぎしのみ 龍太
緑蔭をよろこびの影過ぎしのみ 飯田龍太
緑蔭を出づる黄の騎手赤の騎手 森田峠 避暑散歩
緑蔭を出てかくれなきわが身かな 佐藤脩一
緑蔭を出てたちむかふ嶺は白根 大橋櫻坡子 雨月
緑蔭を出て仕事着の紺しるし 香西照雄 対話
緑蔭を出でてふたたび老夫婦 長谷川双魚 『風形』
緑蔭を出れば明るし芥子は実に 高浜虚子「虚子全集」
緑蔭を去る新聞をポケツトに 長谷川素逝
緑蔭を大きな部屋として使ふ 岩淵喜代子「硝子の仲間」
緑蔭を幹がもつとも歓べり 綾部仁喜 寒木
緑蔭を彼方の人も立つところ 高澤良一 ももすずめ
緑蔭を来しつめたさの耳飾り 胡倉和江
緑蔭を来し冷たさの耳飾り 朝倉和江
緑蔭を流れ出て来る水迅し 立子
緑蔭を疾き運転手睡いといふ 原田種茅 径
緑蔭を看護婦がゆき死神がゆく 石田波郷
緑蔭を襖のうしろにも感ず 富安風生
緑蔭を見所としたり能を舞ふ 加藤三七子
緑蔭を走り出し子が蝶を追ふ 高濱年尾 年尾句集
緑蔭を過ぐるに空の薄雲が 松瀬青々
緑蔭踏みしだく山靴は大甲虫 宮津昭彦
緑談のとんとんすすみ夏料理 鈴木伊都子
緑談や蜂の集まる石蕗の花 須永トシ
緑身佛眼を白抜きに涅槃吹 中戸川朝人 尋声
緑野ふかく来て白昼を眠りけり 北原志満子
緑金の歯朶や寒巌みづみづし 内藤吐天 鳴海抄
緑金の羽を牝にかけて秋の頸 飯田蛇笏 霊芝
緑金の虫芍薬のただなかに 飯田蛇笏 春蘭
緑闇を泳ぐさまとも胃の腑撮る 文挟夫佐恵 雨 月
緑陰で見知らぬ人と立ち話 服部基子
緑陰にあり美しき膝小僧 加古 宗也
緑陰にゐて釜ゆでの鬼を見る 森田たけし
緑陰にカスタネットを鳴らし売る 岩崎照子
緑陰にゲーテハウスの外厠 坂手美保
緑陰にヘツセの本をかかへ来ぬ 仙田洋子 雲は王冠
緑陰にマスコット回りつつ停車 岩崎照子
緑陰に三人の老婆わらへりき 西東三鬼(1900-62)
緑陰に並びて薄茶給はりぬ 武原はん
緑陰に人馴れ貌の町雀 高澤良一 素抱
緑陰に入りて得るものあるごとし 高澤良一 素抱
緑陰に入ればたちまち世捨人 森川 潔
緑陰に取り出して飲む烏龍茶 高澤良一 素抱
緑陰に子育ての知恵もらひあふ 橋場きよ
緑陰に安心しきつた乳母車 角光雄
緑陰に昔のまゝの力石 吉田伝治
緑陰に未練残して去る素振り 高澤良一 素抱
緑陰に殉教碑あり各地にあり 池田澄子
緑陰に炭焼く杣の仮眠小屋 谷法幸
緑陰に牝鹿は長き睫毛持つ 山田弘子 初期作品
緑陰に盗まれさうな嬰の眠り 古市絵未
緑陰に移す雀の遊び砂 中村ケイ子
緑陰に罠かもしれぬ椅子ひとつ 望月哲土
緑陰に自転車止めて賭将棋 吉屋信子(1898-1973)
緑陰に莫迦げて大き忠魂碑 高澤良一 随笑
緑陰に話して遠くなりし人 矢島渚男 延年
緑陰に達吉の歌碑読み返す 落合ひろ恵
緑陰に重なり透ける葉のかたち 高澤良一 鳩信
緑陰に雨意みなぎつて来けり 辻本斐山
緑陰に風反転し豹の息 桂信子 黄 瀬
緑陰に馬を忘れて行きにけり 高室呉龍
緑陰に鹿屯ろして角くらべ 太田文萌
緑陰のかげというかげ碑句称う 源鬼彦
緑陰のかたちに目醒め昼寝男 齋藤愼爾
緑陰のそれは傀儡を入れし箱 正木ゆう子 静かな水
緑陰のふちどり常に濡れゐたり 齋藤愼爾
緑陰のわが入るときに動くなり 永田耕衣(1900-97)
緑陰のバザーに大英百科かな 井口光石
緑陰の一番古い地蔵尊 光宗柚木子
緑陰の刻とどまれり乳母車 大熊虚阿
緑陰の広さは人の散る広さ 稲畑汀子
緑陰の心拍となり歩みけり 片岡宏文
緑陰の日の眼千粒揺れ止まず 青木重行
緑陰の椅子の乱るるままに去る 直人
緑陰の白バラ緑ならんとす 山口青邨
緑陰の舗道大河をゆくここち 岩崎照子
緑陰の草やはらかく語り暮る 柴田白葉女 遠い橋
緑陰の蕊まで駆けて犬戻る 原 和子
緑陰の話豆から宇宙まで 皆川恵津子
緑陰の雀とんとん走り根越ゆ 高澤良一 素抱
緑陰の鳩と鴉と車椅子 細根 栞
緑陰へ丸太のベンチ無造作に 相原左義長「地金」
緑陰もまたおちつかず揚羽蝶 桂信子 黄 瀬
緑陰や 膨脹宇宙の わらい声 伊東聖子
緑陰やレース模様の陽の揺らぎ 清水由紀子
緑陰や子には子の膳運ぶ家 細谷源二 砂金帯
緑陰や昆虫とりの葉巻のむ 銀漢 吉岡禅寺洞
緑陰や板橋かけて家二軒 岡本松浜 白菊
緑陰や水際に魚の匂ひして 桂信子 遠い橋
緑陰や矢を獲ては鳴る白き的 竹下しづの女(1887-1951)
緑陰や蝶明らかに人幽か 松本たかし
緑陰や釈迦説法の石坐る 安藤葉子
緑陰をよろこびの影すぎしのみ 飯田龍太(1920-)
緑陰を出て外面を構へけり 菊池三千雄
緑陰を来しつめたさの耳飾 朝倉和江
緑雨いまいのちの音か後円墳 松本旭
緑雨かな偲ぶに適ふ路地の幅 能村研三
緑雨です今くちびるに触れないで わたなべじゅんこ
緑雨走る子は父よりも濡れやすし 高杉杜詩花
緑青のガスタンクまで野の雪解 飴山實 『おりいぶ』
緑青の八重山かくれ春の行く 行く春 正岡子規
緑青の吹きをることの菊の如露 後藤夜半 底紅
緑青の青を放てり夕野分 小島千架子
緑青噴いて考えるひと六疊に 荻野雅彦
緑高きことが即ち夏館 高濱年尾
緑黒し鶏舎の鶏の眼より昏れ 阿部みどり女
緯度たかき緑大圏馬嘶く 成田千空 地霊
罪のごとく瘤負つて駱駝緑蔭に 田川飛旅子 『外套』
美しき松の緑に今日の雨 星野立子
美しき緑走れり夏料理 星野立子「笹目」
老といふ文字のやさしさ緑小春 後藤望洋子
老木の緑蔭のいとこまやかに 風生
老松の賑はひ立てる緑かな 富安風生
老松も若木もこぞり緑立つ 小川濤美子
老桜の洞緑暗に一花舞ふ 近藤一鴻
耳かきで干飯ほぐす緑の夜 金城けい
聖堂を出て緑蔭へ神父かな 奥本たかを
肘若し万緑に弓ひきしぼり 野崎ゆり香
肩まつき百済の鐘に緑雨かな 新田祐久
背の高き神官にして緑立つ 田中裕明 花間一壺
脚も上げ母呼ぶ赤子緑蔭に 香西照雄 素心
腕を上げ万緑の枝つかみけり 松尾隆信
膝におく聖書に緑さしにけり 桑原千穂子
自転車を曳き出す満目緑の夜ヘ 相馬遷子 雪嶺
興福寺緑の週の樹を伐れり 大島民郎
舟に積む石に緑のさしにけり 日原傳
船下りてすぐ万緑の山に入る 春田こでまり
船長の帽に吹かるる緑の羽根 小林 三郎
色ケ浜ゆふべの緑雨蛸壺に 沢木欣一 地聲
芝刈るや緑のしぶき薔薇を消す 京極杞陽 くくたち上巻
芥子園画伝の樹々も緑噴く 文挟夫佐恵 雨 月
芭蕉枯れて緑乏しき小庭哉 枯芭蕉 正岡子規
花の雨苔はいよいよ緑なる 瀧澤伊代次
花嫁を緑蔭に立ち見送りぬ 田中裕明 花間一壺
花藺田の緑にそゝぐ小雨哉 藺の花 正岡子規
芽木林月の緑光ただよへり 飯田蛇笏 椿花集
苔の花苔の緑にうもれ咲く 雨海青人
苗代に雨緑なり三坪程 正岡子規
苗代のおのが緑を泛べたり 阿部ひろし
苗代の二枚つづける緑かな 松本たかし
苗代の密なる緑いつまでぞ 西東三鬼
苗代の雨緑なり三坪程 苗代 正岡子規
苗田の緑そよぎて白き飯茶碗 内藤吐天 鳴海抄
若き父なり緑蔭の匂ひして 岩田由美 夏安
若木はや生む緑蔭の揺れやすし 鷲谷七菜子 花寂び
若楓その緑なる幼さよ 高木晴子 花 季
若竹や緑にうつりて猫とほる 大峯あきら 鳥道
若緑天上天下皆独尊 阿部宗一郎
若緑鎌倉の子の異人めき 宮坂静生 青胡桃
若緑雨の茶会の風情あり 岩下美奈子
英名は緑の狐のしっぽ草 高澤良一 燕音
苺畑ほとりす森の緑かな 尾崎迷堂 孤輪
茅舎忌の緑凝りたる石の苔 蟇目良雨
茜解き*たらの芽緑ならんとす 河野探風
茶の母樹の緑蔭鳥語弾みをり 関森勝夫
茶摘籠金と緑の込み合へる 百合山羽公 寒雁
草に落ち緑の息を雨蛙 関沢咲子
草蜉蝣透ける緑は影生れず 吉年虹二
荘子にありや緑なる何の鳥の渓巣 尾崎紅葉
菊枯れて松の緑の寒げなり 枯菊 正岡子規
菩提樹の緑蔭と知り尊べり 能村登四郎
菩提樹の緑蔭ひろき異人墓地 木付千登子
菱餅のわけても濃ゆき緑かな 下村梅子
萬緑と立枯れの木と相距つ 中杉隆世
萬緑に堪えざる病葉と思ふ 岡本眸
萬緑に朴また花を消すところ 皆吉爽雨
萬緑に滲みがたくしてわかかへで 飯田蛇笏
萬緑に見えざる雨の降りしきる 相馬遷子 雪嶺
萬緑のまつたく昏れて女漕ぐ 横山白虹
萬緑のレールを渡る猫の首 鳥居おさむ
萬緑の中さやさやと楓あり 山口青邨
萬緑の中の眼鏡のすきとほり 上野泰
萬緑の中や吾子の歯生え初むる 中村草田男(1901-83)
萬緑の動いて風の五浦かな 福島壺春
萬緑の底に滝あり轟けり 宇田零雨
萬緑の真水であれば夜も匂ふ 鳥居おさむ
萬緑の表面張力道路鏡 的野雄
萬緑やかがやき翔ける夫婦鷹 相馬遷子 雪嶺
萬緑や伏せ甕の罅地にとどく 内藤吐天
萬緑や先師語りて熱くゐる 中村明子
萬緑や嘶きほしき埴輪馬 椎橋清翠
萬緑や子ら食べ盛り伸びざかり 黒川悦子
萬緑や完敗はまた勝者のごと 宮坂静生 雹
萬緑や死は一弾を以て足る 上田五千石(1933-97)
萬緑や火の山の火の匂ふ道(上州草津白根山行) 上村占魚 『自門』
萬緑や父逝き父の部屋そのまま 椎橋清翠
萬緑や牛飼ひの掌のひろく優し 成田千空「地霊」
萬緑や糞るときに斉唱湧く 岸田稚魚
萬緑や索道つよくさびしくて 渋谷道
萬緑や野に聖塔の影二つ 加藤耕子
萬緑を深くぞゑぐる谷と谷 阿波野青畝
萬緑を顧みるべし山毛欅峠 石田波郷(1913-69)
落日顔にしみ緑おもたい坂みち シヤツと雑草 栗林一石路
落葉松の緑こぼれん袷かな 渡辺水巴 白日
落葉松の緑冷ゆるか咲く芒 林原耒井 蜩
葉ぼたんのうづまく緑賞めて売る 松添博子
葛を負ふ緑の山を負ふごとし 福永耕二
葡萄垂れ木椅子のひとを緑なす 河野南畦
葡萄酒の壜はあげ底緑の風 平井照敏 天上大風
蓬摘む爪を緑に染めにけり 中園美智代
蓮如みち行く先々に緑立つ 中村青径
蓮莱の嶋の緑や門の松 門松 正岡子規
蔦さがる窓に緑の朝日かな 蔦 正岡子規
蕗の薹紫を解き緑解き 後藤夜半 底紅
薄緑お行の松は霞みけり 霞 正岡子規
薔薇は白砂に散り緑蔭に猿の檻 田川飛旅子 花文字
薪能平安神宮朱と緑 関口比良男
薫風や千山の緑寺一つ 薫風 正岡子規
薺粥箸にかからぬ緑かな 高田蝶衣
藁寺に緑一団の芭蕉かな 高浜虚子
藤村の山河緑雨の中にあり 高尾方子(円)
藪の墓に緑けぶりけり竹の春 渡辺水巴 白日
藪川や緑青浮む秋の風 秋風 正岡子規
虫籠にすきとほりをる緑かな 上野泰 春潮
虹高し野を押しのぼる日の緑 林翔 和紙
蚕豆のゑくぼ緑にゆであがる 松浦敬親(麻)
蚕豆の緑の寝間に一粒づつ 松村多美
蛍火の極限の火は緑なる 山口誓子 雪嶽
蜻蛉うまれ緑眼煌とすぎゆけり 水原秋櫻子
蝉の昼池の萍緑金に 内藤吐天 鳴海抄
蝋涙のケロイドなせり緑の中 中村和弘「蝋涙」
蝌蚪の水森ぐんぐんと緑し来(く) 竹下しづの女句文集 昭和十年
蝦夷赤鹿子育ての季や緑立つ 河府雪於
蝶生れぬ白と緑の餅も搗く 百合山羽公 寒雁
蝿取草緑は油断させる色 菅原くに子(諷詠)
蟷螂の死後の緑の鮮やかに 矢口由起枝
蟷螂の緑眼人を見据ゑをり 西川文子
蟻曳ける翅の緑に光りけり 二口 毅
行く春や緑青をふく釘隠し 渡部義雄
行く春を山青く水緑なり 行く春 正岡子規
行水の膚に流るる緑かな 上野泰 春潮
衛兵の敬礼の頭は緑蔭出て 香西照雄 対話
衣紋古りし松の緑や紙雛 碧雲居句集 大谷碧雲居
裏山や緑くはしきほとゝぎす 相馬遷子 山国
裏箔に緑青塗りし一葉かな 野村喜舟 小石川
裏道に緑陰が見えそこへゆく 桂信子 遠い橋
補聴器や緑陰に聞く風の私語 高橋喜代司
西湖まづ覚め万緑を目覚めしむ 川崎展宏
見おろせば緑陰の燈の星に似て 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
見出でたる緑蔭たゞに見て過ぐる 相馬遷子 山国
見渡すや柳の緑り花の紅 柳 正岡子規
規定錯綜豆のふくらみ緑のまま 香西照雄 対話
解氷期クラブの緑樹灯にあふる 飯田蛇笏 春蘭
記念樹のその緑蔭に子と憩ふ 奈良文夫
記念樹も老いて緑蔭つくりけり 大島民郎
記憶の地図に緑のしるしつけてゆく 芹沢愛子
詩は怒余寒緑を冴えしめて 香西照雄 対話
誰が為か東京に佇つ若緑 齋藤玄 飛雪
谿も嶺も緑の童話ト口走る 加藤知世子 花寂び
豆腐佳しこんこんと緑湧く五月 斎藤空華 空華句集
象使ひ白き横眼を緑陰に 渡辺白泉
貝寄や柳緑なる此夕 蘇山人俳句集 羅蘇山人
赤ひきたち緑ひきたち飾毬 大橋敦子 匂 玉
赤も淋し緑り又くらし走馬燈 松瀬青々
赤松の林明るき緑雨かな 山口耕堂(風)
赤門をかつと照る日の紅緑忌 見学 玄
起き伏しの蔦の緑や五月雨 碧雲居句集 大谷碧雲居
起き臥しや他家の雛に緑さし 榎本冬一郎 眼光
足伸ばす松も緑の大仏へ 高澤良一 宿好
身ほとりに樟の緑の溢れけり 山野井朝子
車窓より好緑蔭を発見す 瓜人
軋みゆく仙山緑や西日中 竹内牧火
近江の田同じ緑の一枚田 山口誓子 大洋
返しても足りない 父にもらひたる緑の時間 茜の時間 内藤三郎
逃げ足をちどりに鹿と万緑と 赤松[けい]子 白毫
通るたび触る緑蔭の大き石 加藤耕子
通夜堂や緑の中の百日紅 百日紅 正岡子規
連弾の肩の触れ合ふ緑雨かな 伊藤公子
連翹や天の緑に枝とどく 百合山羽公 寒雁
道坂となりて万緑もりあがり 成瀬正とし 星月夜
達磨忌や舎利樹緑りに建長寺 尾崎迷堂 孤輪
遠国の船が水吐く緑夜かな 斎藤梅子
遠嶺の如死遠し厚朴の緑かげ 石田波郷
遠望さそはるゝ枯芦に緑まじり 子郷
遠目にも茶の畝々に緑立つ 高橋達次
郭公や辺りを緑に塗り込めて 新井章有
都塵濃し緑恋しと鯉幟 竹下しづの女句文集 昭和十一年
酒が励ます髪膚静かに緑見る 田川飛旅子 『植樹祭』
酸性雨かも知れず暗緑の木々よ 酒井弘司
野のちから山の力の緑噴く つじ加代子
野の緑にはかに若し虹かかる 相馬遷子 雪嶺
野育ちや小枇杷の出臍緑帯び 香西照雄 素心
金環の目の魚釣れて島万緑 木村里風子
釣床に人白うして胡桃緑なり 尾崎紅葉
鉾の緑浴衣の尻を並べたる 長谷川櫂 蓬莱
銀屏風にうつす緑や青葉山 盧元
銅鑼縁より緑青を噴き夏の空 中田剛 珠樹以後
銭持たずなか~冬草の緑 中塚一碧樓
鋸軽く槌が重たし緑蔭下 右城暮石 声と声
鎌倉の松の緑に賀客かな 星野立子
鎌倉の緑蔭を縫ふ郵便夫 岩淵喜代子 朝の椅子
鎖樋伝ひて緑雨たらたらと 高澤良一 素抱
鎮魂の岩のレリーフ緑さす 猪俣千代子
鏡台はパンドラの匣緑さす 松本澄江
長く生きこの万緑のたかぶりに 関口みぐさ
門内に梯子の見えて緑摘む 大気十潮
開山忌了へて緑雨の黄檗樹 大島民郎
開港祝歌あびせ緑蔭明るくす(横浜開港百年祭) 河野南畦 『焼灼後』
間引して緑少き畠哉 間引き 正岡子規
階いくつも緑に近き部屋に来ぬ 宮坂静生 雹
雄心の直きすがたの緑摘む 藤村克明
雑巾刺す十字細かき夜の緑 加倉井秋を 『真名井』
雨上がりたる緑蔭の匂ひかな 行方克己 無言劇
雨晴れて緑したゝる中に寺 滴る 正岡子規
雨蛙緑の皮と共に跳ぶ 百合山羽公
雪の窓メロンの緑レモンの黄 日野草城
雪五寸つらぬく麦の緑なり 小島千架子
雪間より現れし若菜の緑かな 平尾直子
雲は秋の緑剛岬萱ばかり 西垣 脩
雲水の声万緑の堂に満つ 加藤耕子
雲群れて緑の週の始まりぬ 相生垣瓜人
雷光の緑釉も浴び夜のシャワー 野中 亮介
雷後の日森は秘蔵の緑厚く 相馬遷子 山河
霜降りて緑なほ濃き深谷葱 野口佑一
霧にふれ萱の白緑暁けきりぬ 下村槐太 天涯
青年に万緑の塵見えず飛ぶ 原裕 葦牙
青首やおなじ緑の菜摘川 椎本才麿
非常口に緑の男いつも逃げ 田川飛旅子(1914-99)
靴踏みし跡の緑やクローバー 京極杞陽 くくたち下巻
頬熱きままに緑雨を戻りけり 堤亜由美(月刊ヘップバーン)
頬白ゐて緑蔭の土しづけしや 右城暮石
顔の激流暗緑となり遅れる者ら 堀葦男
顔濡らしきて緑蔭の画架に立つ 千代田葛彦 旅人木
風に吊るガラスの魚に緑さす 吉井操子
風の野のはこべの緑すべらかに 岩瀬良子
風強くして緑蔭の縁躍る 田川飛旅子 花文字
颱風が墓場の緑ひきちぎる 田川飛旅子 花文字
飛火野の緑蔭鹿も影を持つ 田川飛旅子
飛雲菩薩舞ひ出づる日ぞ緑世界(平等院) 河野南畦 『風の岬』
食堂の箸うごくみんな緑の肺 志摩一平
食緑をすてし墓参のやからかな 飯田蛇笏 山廬集
飴一粒にこもる緑光寒驟雨 友岡子郷 遠方
養生や朴一本の緑蔭に 沢木欣一 二上挽歌
馬市がありて緑蔭人だかり 高濱年尾 年尾句集
馬追の緑逆立つ萩の上 高野素十
駄津突に緑の汐も逃げ場なし 百合山羽公 寒雁
駕着けり緑蔭にして地に降りぬ 山口波津女 良人
高楼の緑蔭を抜く街造り 高木晴子 花 季
高熱の緑が覆ふ胸の恐怖(六月下旬胸部疾患に倒る八句) 河野南畦 『黒い夏』
髪を切るわが鏡面に緑濃し 永井龍男
鯉の子をのぞき緑の羽根映す 大島民郎
鯉の跳ね万緑一瞬緋の入りぬ 尾崎弘子
鯉幟きそふ緑のありてよし 後藤夜半 底紅
鯉幟立つべき緑ととのひぬ 後藤比奈夫 金泥
鳥の声春は緑に暮れて行 正岡子規
鳩の発つ風の及べる緑陰は 高澤良一 素抱
鳳梨の皮の緑や那覇の夜 岡野ひさの(岳)
鳴きやめば虫またもとの緑かな 五十嵐播水 播水句集
鴉また物くはへ飛ぶ若緑 大峯あきら 鳥道
鴨緑江節忘れるころの渡り鳥 城門次人
麦の葉や緑うなつく五六寸 青麦 正岡子規
麻打ち洗う運河暗緑の旅なり 金子皆子
黄金週間緑雨に濡らす旅鞄 大江博子
黒ぼこの松のそだちや若緑 土芳 芭蕉庵小文庫
*ひつじ田のみどりに洗ふ介護の瞳 大塚信子
あさみどり濃みどり綾に冬菜畑 星野立子
あめつちのみどりの極み雉子走る 沢木欣一
あめつちの気息ととのふみどりの日 赤澤新子
あらば世にみどりいくつぞ酉の市 増田龍雨 龍雨句集
ありまきのみどりに今日は没入せり 増山美島
あゝさみどり波郷桂郎遊山せむ 斎藤玄 無畔
いなだ盛る笹のみどりに父の記憶 伊藤淳子
いま掛けしばかりの稲のうすみどり 宮下翠舟
うぐひすの声さみどりや花卯つ木 渡邊水巴 富士
うすみどりの手足の大工の名 言え 阿部完市 春日朝歌
うすみどりわれらのテント尖り立つ 篠原梵
うすみどり大根おろしたまり来る 篠原梵 雨
うすみどり樒の花と教へられ 岡田静女
うすみどり色に日かげり花李 松本武千代
うすみどり色に染りて菖蒲の湯 金丸希骨
うつむきて髪みどりなり火取虫 深川正一郎
うねり出すぶだう若葉のみどりの炎 高澤良一 ぱらりとせ
うまおいは子がもつみどり夜の空 大井雅人 龍岡村
うみどりのみなましろなる帰省かな 高柳克弘(俳句研究)
うらゝ日ゃ御簾さみどりに観世音 静 良夜
おほいなる蝦蛄の鎧のうすみどり 見學御舟
おもだかの池みどりなる落穂かな 高橋馬相 秋山越
お供へに歯朶のみどりのほの匂ふ 高橋淡路女 梶の葉
かきまぜし棒もみどりや青みどろ 櫻井幹郎
かげろふのおのれみどりのすきとほり 下村福
きさらぎのみどりあはあは昆虫館 長谷川双魚 風形
きさらぎやうぐひす餅のあさみどり 角川春樹
ぎんなんのさみどりふたつ消さず酌む 堀 葦男
くれなゐをみどりを籠めて花氷 日野草城
けふよりのみどりの蚊帳の環おもし 原石鼎 花影以後
ここに又陸稲のみどり島の冬 深見けん二
こときれてなほ邯鄲のうすみどり 富安風生
こみどりの大雨のなかに囀れり 高橋馬相 秋山越
これからの緑の週のみどりとは 松田ひろむ
さくら咲き出土の酒のまみどりに 野沢節子 八朶集
さみだれの奥にさみどり刷毛目壺 萩原久美子
さみどりに濡るる稗蒔目に寧し 礫川市郎
さみどりのいまはましろくキャベツ剥く 篠原梵 雨
さみどりののひそかぞ釣船草 島谷征良
さみどりの一茎百合を貫けり 正木ゆう子 悠
さみどりの刺身こんにやく花時雨 角川春樹 夢殿
さみどりの夏掛やすし胸の息 きくちつねこ
さみどりの夜や蚊遣火の香の流れ 永峰久比古
さみどりの小蜘蛛登らす指の先 山田みづえ 草譜
さみどりの尾より鷺草咲かんとす 本川晴代
さみどりの山繭生るる神の山 石鍋みさ代「木綿注連」
さみどりの春あけぼのを白魚飯 角川春樹 夢殿
さみどりの森にみなぎる秋日哉 西山泊雲 泊雲句集
さみどりの瓜苗運ぶ舟も見し 松本たかし
さみどりの田に零れ行く鳧の声 恒川とも子(笹)
さみどりの病魔を一日連れ歩く 栗林千津
さみどりの繭に籠りて世を忍ぶ 津田清子
さみどりの菜飯が出来てかぐはしや 高浜虚子
さみどりの萼の王冠冬苺 百瀬虚吹
さみどりの藁の香たつや注連作り 山田英津子
さみどりの輪飾ひとつ旅住居 高橋淡路女 淡路女百句
さみどりの透き羽も重き蛾となんぬ 林原耒井 蜩
さみどりの雨後の芝生の賀茂競馬 加藤子
さみどりの雫しきりに薬降る 檜 紀代
さみどりを山と盛りあげ月見豆 中田恒子
さみどりを秘め白梅の含羞 滝浪さち子
しなやかなみどりを踏みぬ年木樵 山本洋子
しののめのあめのこりたるみどりの日 上谷昌憲
しばし目を癒すさみどり吊忍 吉川智子
しんしんと鉄灼き雪はみどりなり 杉崎ちから
すぎし日の祖父の美髯やみどりの日 佐々木美津子
すみに澄む旱の海上にみどりご 八木原祐計
ずばぬけて欅のみどりよかりけり 高澤良一 さざなみやつこ
その葉より森青蛙みどりかな 横田弥一
そらには音客僧にみどりたてまつる 阿部完市 純白諸事
そらまめのみどりに汗し夕餉の父 桜井博道 海上
たかし忌や生れてみどりの蜘蛛走り 岩崎健一
たつのおとしごみどりの目よりしろい目なり 阿部完市 春日朝歌
たゞならぬ桃のみどり芽春雷す 右城暮石 声と声
ちちははの忌をみどり濃き七月に 岡本 眸
つづれ織る窓まみどりの吉祥草 丸山圭子
つまみ行く堤の松のみどりかな 蝶夢
とくさまみどりその家に僧が来る 友岡子郷 風日
ともしびにうすみどりなる春蚊かな 山口青邨
とんで又みどりに入や松むしり 惟然
どの岬もみどり厚塗り紀の国は 茨木和生 木の國
どの窓も空呼び寄するみどりの日 菊井 義子
なづな摘む小凪の丘のうすみどり 糟谷英城
なづな粥吹きよせて野のあさみどり 稲島帚木
なびき藻のさみどり白魚さそふらし 下村ひろし 西陲集
なまなまと*ばったのみどり自刃の地 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
ひとすぢの草のみどりや鶏乳む 下村槐太 光背
ひと雨に稲架のみどりの無かりけり 高濱年尾 年尾句集
ふるさとは水飯好む母の居て 西池みどり「だまし絵」
ほころびて蕊うすみどり月見草 池内友次郎 結婚まで
またたきにみどりさしそめ雪解星 鷹羽狩行
まぶたみどりに乳吸ふ力満ち眠る 沖田佐久子
まみどりに雨降つてゐる安居かな 土山 紫牛
まみどりの外光鹿の子逸らしむ 藤田湘子 てんてん
まみどりの比叡や霧に撃たれつつ 黒田杏子 花下草上
まみどりの眼のらんらんと山の虻 太田 嗟
まみどりの芹の一箸づつの味 大工原朝代
まみどりの落葉も雨に風鶴忌 八木林之介 青霞集
みどりごに月日はじまる新暦 吉田陽代
みどりごに毛糸編む幸もらひけり 平野 伸子
みどりごに腕つかまるる冷房車 佐々木元嗣
みどりごのいづこを向くも恵方かな 渡辺恭子
みどりごのこぶしもねむるかたつむり 三嶋 隆英
みどりごのてのひらさくらじめりかな 野中亮介
みどりごの目に小鳥来し別れかな 相馬遷子 山河
みどりごの瞠るへ御印文戴きぬ 東條素香
みどりごの舌のちらちら蛍籠 鈴木鷹夫 春の門
みどりごの顔いつぱいのくさめかな 佐々木良子
みどりごの顔そこにある昼寝覚 山下 広
みどりごは「遥」といふ名爽かに 澤村昭代
みどりごは焼野にめつむり羽毛を降らす 夏石番矢
みどりごも七草爪といふことを 西村和子
みどりごをつつみに来るよかげろふは 斎藤玄 雁道
みどりごをイエスの前に昼寝さす 有馬朗人 知命
みどりごを花弁包みにクリスマス 中戸川朝人 星辰
みどりさしくれなゐがさし薄氷 鷹羽狩行
みどりさす大和恋しき八一の書 斎藤典子「大山蓮華」
みどりさす皿に待たれて予約席 大迫智子
みどりさす稜やはらかく稿重ね 中戸川朝人 残心
みどりさす開智学校玉座の間 鈴木妙子
みどりなす海老の複眼かくて夏 宇多喜代子
みどりのおばさん噴水に頭を越されて笑む 磯貝碧蹄館 握手
みどりの亀と一夏をおくる母は死ぬ 阿部完市 純白諸事
みどりの尾の何という夏の人物 阿部完市 軽のやまめ
みどりの日の雨のディズニーランドかな 山田みづえ
みどりの日よちよち歩きのリュックの子 福原千枝子
みどりの日京のほとけを見にゆかむ 佐川広治
みどりの日仁王の両目寄りしまま 金子野生
みどりの日巣箱は雨に濡れどほし 細谷てる子
みどりの日昭和一桁老いにけり 稲畑広太郎
みどりの日緑の上に富士坐る 本間 稔
みどりの日頭数には入りたる 徳弘喜子
みどりの日風もみどりでありにけり 小林草吾
みどりの時計の慰藉あり静かな廃墟 阪口涯子
みどりの畳に鯉のようにわれはいるなり 阿部完市 純白諸事
みどりの穂こぼし初めたり小判草 山田みづえ
みどりまだ残る冬田や狐雨 岡村月子
みどり中櫛こころよくとほりけり 会美翠苑
みどり児がねむるや四辺山粧ふ 相馬遷子 山河
みどり児と蛙鳴く田を夕眺め 中村汀女
みどり児にほほゑみもらふ桃の花 河合 順
みどり児にゆび握られて雪淡し 赤松[けい]子 白毫
みどり児に五指ある不思議冬いちご 川崎ふゆき
みどり児に急かされてゐる冬支度 山田弘子 こぶし坂
みどり児に指掴まるる御慶かな 駒津董子
みどり児に暁の色はや蚊帳を透き 永田耕一郎 氷紋
みどり児に百の約束夏銀河 船橋政子
みどり児に見せつつ薔薇の垣を過ぐ 篠原梵
みどり児に見つめられゐて花疲れ 森田峠 避暑散歩
みどり児に貝ほどの舌山笑ふ 辻 美奈子
みどり児のこぶしに寒ンの極まりぬ 金尾梅の門 古志の歌
みどり児のために乾杯チューリップ 山田弘子 こぶし坂
みどり児のながき眠りや春の雷 河野扶美
みどり児のならぶ産院年の夜 寺西信子
みどり児のましろきものを縫はじめ 伊藤雪女
みどり児のゆめ色鳥が来て醒ます 古市絵未
みどり児のよろこぶ手足天瓜粉 加藤宗一
みどり児の丸き欠伸や桃の花 十河しずえ
みどり児の乳の匂ひや冬日和 二階堂英子
みどり児の喃語に応ふ初湯かな 山崎千枝子
みどり児の固き拳や天瓜粉 吉田昭二
みどり児の声とはならず笑初 稲畑汀子
みどり児の宵つぱりなる春炉かな 森井美知代
みどり児の寝息冬日の中にあり 清本幸子
みどり児の心音聴けり外は雪 水原春郎
みどり児の手を出し眠る春蚊出づ 伊東とみ子
みどり児の指してもみじと風ばかり 工藤眞智子
みどり児の指まで眠る 浜日傘 中田弌子
みどり児の指甘ければ水温む 原子公平
みどり児の日々連翹も日々に濃し 百合山羽公
みどり児の瞳よ空いろの種播かむ 千代田葛彦
みどり児の知恵ふかめいる雪の夜 穴井太 原郷樹林
みどり児の覚めて御慶の客揃ふ 亀井福恵
みどり児の起きてしまひし寝正月 稲畑汀子
みどり児の軽さがこはし秋ざくら 近藤一郎
みどり児の輝く瞳新樹光 見目しつえ
みどり児の顔の埃や冬ごもり 楠目橙黄子 橙圃
みどり児は光まみれやチューリップ 堀江廣明
みどり児は足でよろこぶ蝶の昼 辻本孝子
みどり児も彦星もいま洗ひたて 白澤良子
みどり児も根みつばもいま籠の中 篠田悦子
みどり児も草も水辺や彼岸過ぐ 小林秀夫
みどり児をあやして過ぐる遍路かな 坂本孝子
みどり児を抱きて一家の帰省かな 稲畑汀子
みどり児を籠で提げゆく葉月かな 金澤良枝
みどり児を膝にふはりと女正月 飯島壽子
みどり噴く地へ滲み佇つアタッカー 穴井太 土語
みどり増す星や茂吉忌の前後 高橋道人
みどり子に光あつまる蝶の昼 上田五千石 田園
みどり子に初めての雪降りいだす 有働亨 汐路
みどり子に急ぐ枯野に乳はり来 野見山ひふみ
みどり子に砂漠の果ての煌々と 大西淳二
みどり子に竹筒負はせて生身魂 太祇
みどり子のおならめでたし初笑ひ 福島せいぎ
みどり子のにほひ月よりふと白し 篠原鳳作
みどり子のまばたくたびに木の芽増え 龍太
みどり子のもの見るすがめ春燈 瀧春一
みどり子の匂ふ二日の日向かな 大峯あきら 宇宙塵
みどり子の墨かい付けしさらしかな 蓼太「続明烏」
みどり子の夏着の手足ゆるやかに 関根淑子
みどり子の手型を押して初日記 佐藤信子
みどり子の爪伸びさうな日向ぼこ 高瀬重彦
みどり子の瑞歯の萌えや水芭蕉 沢木欣一 二上挽歌
みどり子の股くびれたる端居かな 相馬遷子 山国
みどり子の萌黄うるはし枕蚊屋 几董「晋明集四稿」
みどり子の覚めては眠る菊日和 大峯あきら 宇宙塵
みどり子の足先ぴんと日向ぼこ 今井千鶴子
みどり子の頬突く五月の波止場にて 西東三鬼
みどり子の頭巾眉深きいとほしみ 蕪村
みどり子の風邪に泣きぐせつきにけり 大熊輝一 土の香
みどり子を抱いて霞みてゆきにけり 五十崎古郷句集
みどり射す松子の鏡定位置に 赤尾恵以
みどり敷く彼方なほあり若菜の野 井沢正江 以後
みどり新たに椎の兄楠の弟 上田五千石 森林
みどり減る北山をみて斧を研ぐ 長谷川双魚 風形
みどり立つ晩学の眼のさまよへば 千代田葛彦 旅人木
みどり立つ松の枝ぶりもいごっそう 高澤良一 寒暑
みどり立つ難閑耳(なかに)ぽつんと良寛堂 高澤良一 寒暑
みどり色脱げば芋虫走れさう 木村淳一郎
みどり萌ゆアルペン号で行く信濃 的野房江
みどり葉を敷いて楚々たり初鰹 三橋鷹女
みどり藻の高波の跡実朝忌 中拓夫
みどり野にわが身一つが浮いてゐる 栗林千津
むかし基地公園となりみどりの日 稲野博明
むき~に赤とみどりの唐辛子 芥川我鬼
むくろじのみどりの玉も西武蔵 古舘曹人 砂の音
めぐる死へ木の名草の名うすみどり 穴井太 天籟雑唱
ゆく春の酒場はみどり灯をともす 岸風三楼 往来
ゆるやかに河のみどりは葡萄より 古舘曹人
よめならばみどりにせばや柳髪 貞徳
わがみどりご声たしかなり蛙の夜 林翔 和紙
わたくしはみどりに化けて鮎つるなり 阿部完市 純白諸事
わらわれる遠いみどりの一法師にも 阿部完市 春日朝歌
われに心理のみどり揺れており猿も 高橋たねを
ゑちご刈田のみどりぐさゑちごをなごら 中塚一碧樓
をちかたのみどりさだまる冬日かな 長谷川双魚
ウインドーの長崎切手みどり透く 伊藤京子
キツネノボタンその実みどりの金平糖 高澤良一 素抱
ゴスペルの樹にこだましてみどりの日 辻村拓夫
シャーベット掬ふみどりは森の風 中尾杏子
セル軽き端居に著莪のみどりあり 森川暁水 淀
トンネル見え雪のみどりの濤頭 中拓夫 愛鷹
ニセアカシアみどりの雨滴浴びせけり 高澤良一 素抱
ハンカチヘみどりの胞子吐く土筆 ふけとしこ 鎌の刃
バッタとぶアジアの空のうすみどり 坪内稔典
バツハ聴く胸のうちよりみどり溢れ 岸原清行
バードウイーク森のみどりに染まるべく 高澤良一 素抱
パスハの夜広場は星斗みどりなり 飯田蛇笏 春蘭
パンケーキほどよく焼けてみどりの日 角川春樹
プラタナス夜もみどりなる夏は来ぬ 石田波郷「鶴の眼」
プール捲き花壇をつつみ芝みどり 川島彷徨子 榛の木
ボランティアの夫の苗売るみどりの日 山口恵子
ボートの少女に青みどり濃く夏日燃え 田川飛旅子 花文字
メロン食うぶみどりの小舟揺らしつつ 林翔「幻化」
レース編むみどりの雨の降る夜は 菖蒲あや
一と雨にしまりしみどり胡瓜苗 岸霜蔭
一と雨にみどりの冴えし貝割菜 瀬戸十字
一枚の空うすみどりお田植祭 伊藤敬子
一筋のみどりを引きて滝落つる 深川正一郎
一里余を急がず歩くみどりの日 小川あやめ
一重簑つけて蓑虫うすみどり 加藤水万
七種のどれも濃みどり粥の中 上田芳子
七種のみどり細しき一籠かな 野澤節子
七草粥匙もて祝ふみどり子は 大熊輝一 土の香
万緑の上にみどりの伊吹山 福田蓼汀 山火
下積の雑木みどりに年木かな 廣江八重櫻
乱鶯や落葉松みどり烟りそめ 仙臥
乳ぜり泣くみどり児の声より薄暑 山田弘子 こぶし坂
乾きつゝふかみどりなる和布かな 高濱年尾 年尾句集
二ン月の雪が山葵のみどりに降る 細見綾子 伎藝天
五月の朝空すいすいと草のみどりが垂れる 人間を彫る 大橋裸木
享年十二歳みどりの柿の花 塚本邦雄 甘露
京菓子の淡きみどりや寒明くる 徳久 俊
人日の粥さみどりに噴きこぼれ 田中俊尾
人日やみどり児にまた智恵一つ 藤陵紫泡
今年藁みどりほのかに新娶り 麦南
今朝の栄大根下ろしのうすみどり 川口重美
今生の妻とみどりの奈良大和 山田桂三「貴船菊」
今生の森のみどりにふりかえる 和田悟朗
仏壇の兄はみどり児小豆粥 深見けん二
仏縁に垂れて胡桃の花みどり 宮津昭彦
伊勢蝦に懸蓬莱のうすみどり 飯田蛇笏 霊芝
但馬城崎海のみどりを梨の肌 石塚友二 方寸虚実
体内の水の流れやみどりの日 和田悟朗
体重計みどり子をのせ聖夜来る 轡田 進
俎の水切って果つみどりの日 岩佐光雄
傀儡のざんばら髪のみどりかな 八田木枯
僧の足袋菜の花あかりしてみどり 河野静雲 閻魔
優曇華の微塵のみどり飽かず見る 大石悦子 群萌
先帝に触れし記事なきみどりの日 渋川優子
児の息を封じてシャボン玉みどり 由利雪二
八幡に白き神馬を冷やす水 西池みどり「森の奥より」
八段の跳箱とべてみどりの日 成智いづみ
八百潮のみどりたたなり桃咲けり(清見潟) 内藤吐天
六月の芭蕉玉巻くうすみどり 小林康治 四季貧窮
内海も陸もさみどり鱚の頃 稲見碧子
冬のかもめと仏具屋の店みどりなり 栗林千津
冬ばらに芝のみどりの乱れけり 林原耒井 蜩
冬ぼたん風に正せるみどりの葉 高澤良一 ぱらりとせ
冬帝の日に抱かれてみどり児よ 稲畑汀子
冬日和みどり児に名の付きにけり 橋本佐智
冬晴の杉のみどりに掌が乾く 中拓夫 愛鷹
冬泉藻のまみどりに湧きやまず 小松世史子
冬海美くしくて岩の草みどりを残す 人間を彫る 大橋裸木
冬濤の反り極まればみどりなす 岸原清行
冬立ちぬ黄蝶の芯のうすみどり 岩淵喜代子 朝の椅子
冬草のみどり明るく御魂やすらかにおはす 人間を彫る 大橋裸木
冬草の根つくしたるみどりかな 長谷川双魚
冬近づきし街に出て菜のみどり 長谷川双魚 風形
冬館タオルみどりの水蒸気 近藤一鴻
凍る滝取巻く闇のうすみどり 岸田稚魚 筍流し
凍空に竹ま直ぐなるみどりかな 上村占魚 鮎
初*かやのさみどりなすや擁きけり 石田波郷「雨覆」
初春の水に放ちし菜のみどり 長谷川久々子
初春の禰宜の袴のうすみどり 小松和哉
初蚊帳のさみどりなすや擁きけり 石田波郷
初蝶やみどり孤ならぬ麦畑 飯田龍太
初郭公みどり萌えよき根城より 木附沢麦青
初鞴みどりの炎たちそめぬ 吉田丁冬
剪口のみどりうすうす桃の花 岩淵喜代子 朝の椅子
勾玉のみどり恋しきなづな粥 野見山朱鳥
北京の宿冬瓜汁のうすみどり 細見綾子 存問
北吹いてあさみどりなる柳かな 五十崎古郷句集
北州忌疾風とはしる田のみどり 成田千空 地霊
十二橋額のさみどり葉に紛れ 石川桂郎 四温
十重二十重なるまみどりに死木の声 飯田龍太
千代田区の柳は無聊みどりの日 大畠新草
千年のはたとせ過ぎし松みどり 松藤夏山 夏山句集
千曲川水みどりなり桜咲く 相馬遷子 山河
友の寐にみどりしたたる夏暁かな 飯田龍太
受洗子の眼もみどりなる復活祭 松林露橋
受験生みどりを連れてあるきけり 長谷川双魚 風形
古株の苔のみどりや牡丹の芽 楠目橙黄子 橙圃
古道をみかへる松のみどりかな 其角
吉事あり新樹のみどりゆたかなる 内藤吐天 鳴海抄
吸ふために吐く息みどり深かりき 長谷川久々子
吾子のロ菠薐草のみどり染め 深見けん二
咥え来し木の葉みどりに二日の猫 北原志満子
喪服着てみどり児あやす蝶の昼 稲井三子
噴きあげるみどり一戸の藁葺澄み 穴井太 ゆうひ領
噴きこぼる七草粥にみどりの香 佐藤信子
囀や札所のこんにゃくうすみどり 鷲見緑郎
園の雨はこべら最もみどりなる 富安風生
土用芽のみどり垣根にみづみづし 今西幸代(あすなろ)
地のものみどり稲妻のまたたきのまの シヤツと雑草 栗林一石路
地の果ての光の網よみどりごよ 夏石番矢
地へ深くみどりの昆虫おりてゆく 穴井太 土語
地下鉄は楽器みどりの席長く 和田悟朗
墓畔八月破れても酒の壜みどり 宇佐美魚目 秋収冬蔵
壁の絵の濤みどりたり春嵐 石田波郷
壁越しに聞く片言もみどりの夜 原裕 出雲
声出さば死ぬさみどりを行く紙片 栗林千津
声高き童女の湯浴みどりさす 金子 潮
売れ残る黄砂の宅地みどりの日 清水晴子
夏川のみどりはしりて林檎園 飯田龍太
夏暁のこゆきみどりの時間かな 平井照敏
夏燕茶畑みどり吹き返す 川原典子
夏草の香にみどり児を抱きとりぬ 長谷川久々子「花香」
夏菊の蜘蛛のさみどり掌に移す 村尾優子
夕かげにみどり顕ちけり初鰹 上田五千石 森林
夕日透けし雲雀の羽は確かみどり 香西照雄 対話
夜の落花月をこぼるゝうすみどり 斎藤空華 空華句集
夜焚火に畦がみどりを残すなり 阿部ひろし
大文字のみどりの梅雨をかけわたし 藤後左右
大枯野牧牛をればみどりあり 深見けん二
大芭蕉母の眼鼻もうすみどり 金子兜太 少年/生長
大菩薩峠を越ゆるみどりの日 山崎ひさを
大西洋沖うすみどり白い家(カサブランカ) 阿保恭子
大阿蘇をまるごと貰ひみどりの日 渋田千々穂
天上も五月みどりの橡世界 後藤比奈夫 めんない千鳥
天瓜粉打ちしみどり児借りて抱く 和田 祥子
天蚕のみどりいつしんふらんかな 安田汀四郎(樹氷)
天蚕の繭のみどりを機の糸 中川芳子
太陽の如き子が来てみどりの日 上村 米子
妃殿下の鍔広帽子みどりの日 河内きよし
妻に憎まれつつありまきの淡きみどり 加藤楸邨
妻の国の粽の粽のさみどりに 中拓夫 愛鷹
妻癒えて故山のみどり滴らす 小島健 木の実
嫋々とのぼるみどりやホップ畑 堀口星眠 営巣期
子の*かやに妻ゐて妻もうすみどり 福永耕二
子の皿に塩ふる音もみどりの夜 飯田龍太「忘音」
子の蚊帳に妻ゐて妻もうすみどり 福永耕二「鳥語」
子を産んで金紐の葉の酸きみどり 長谷川双魚 風形
子蟷螂みどりの鎌を我に向け 若林かつ子
学童の駅に溢れてみどりの日 福川悠子
寄せ植の若菜の籠の浅みどり 伊藤たけ
寄生木の春のみどりの御社 川崎展宏
富士川の水みどりなる二日かな 室積波那女
寒き燈にみどり児の眼は埴輪の眼 篠原梵
寒を盈つ月金剛のみどりかな 飯田蛇笏
寒中や柴の虫繭あさみどり 飯田蛇笏 春蘭
寒夜みどり児と眼を瞶めあふ 瀧春一 菜園
寒椿おのがみどりにてり映えて 林原耒井 蜩
寒泳の粥のさみどりたぎりをり 大沢ひろし
小寒や丁字の蕾うすみどり 益田ただし
小春日のみどりのものに跼みけり 河西みつる
少年の街頭暮金みどりの日 田中珠生
尼寺の雨や一葉もまだみどり 及川貞 榧の實
尾鰭すでにみどりに濡れて鯉幟 能村研三
屋根草もみどり深めし蚕の眠り 鈴木鷹夫 風の祭
山々や老婆ゆまればみどり立ち 長谷川双魚
山にみどりの坊主咲きみちわたりたり 阿部完市 春日朝歌
山のみどり吾子に指さるゝ街歩りき 林原耒井 蜩
山のみどり落ち来る妻の膝の上 太田鴻村 穂国
山の娘の交語みどりを滴らす 龍太
山の子の声みどりなる夏隣 小坂優美子
山の温泉のランプにかよふみどりかな 太田鴻村 穂国
山の辛夷は鬱たるみどり夏蚕飼ふ 森 澄雄
山中の贅山繭のうすみどり 後藤比奈夫「紅加茂」
山吹の黄金とみどり空海忌 森澄雄 空艪
山寺の松のみどりの涅槃かな 野村喜舟 小石川
山滴るみどりを浴びてひとり旅 白井よしこ
山繭の二つのみどり櫟枯れ 原石鼎 花影以後
山繭の手荒きもののうすみどり 古館曹人
山繭の深き眠りのうすみどり 片桐久恵
山繭の白くなりたきうすみどり 後藤比奈夫
山繭の野のいろ纏ふあさみどり 船橋かぎ子
山繭や天女の息のうすみどり 近藤悦子
山繭を振りてみどりの音こぼす 石寒太 翔
山脈の空みどりなす春の月 相馬遷子 山國
山葵田のみどりをかこむ鉄条網 土井朝子
山見たく二階へ上るみどりの日 羽根 嘉津
山越えきし君らみどりの目を持ち寄り 市原光子
山開き画布はさみどり滴らす 佐藤いね子
岩魚の斑みどりさす夏来むかへり 千代田葛彦 旅人木
川むかうみどりにお茶の花の雨 田中裕明
巣箱ありみどりさす手をかざしつつ 草間時彦
市の花の苗木をもらふみどりの日 佐野たけ子
布白くレタスのみどり玻璃に透く 小柳佐武郎
帚木の花季の黄滲むうすみどり 中戸川朝人 残心
帚草みどり失ひつゝ乾く 原三猿子
幕間にささやきの波ちまき解く 西池みどり「森の奥ょり」
干瓢の滝の照りあふうすみどり 西本一都 景色
干草の敷きのみどりに牧犬(コリー)の仔 軽部烏頭子
庄川に写るみどりや通し鴨 棚橋正恵
底見えて水のみどりや山女釣る 加賀谷凡秋
庭隅のさみどりを摘み木の芽漬 関科子
御田植雨の水輪のみどりなる 上田幸雄
心太桶に沈みしうすみどり 清水あや子
手にはたくうぐひす餅のみどりの粉 高浜年尾
手をふれて木々の名をあてみどりの日 杉田禎照
手中にみどり褪せ行く早桃かな 前田普羅 能登蒼し
手作りの花壇仕上がりみどりの日 永井靖晁
手品師の五指さみどりの驟雨かな 伊藤 翠
手囲ひの湯茶のみどりも春近き 岡本眸
手花火の闇のみどりを濃くしたり 松下信子
手袋とるや指輪の玉のうすみどり 竹下しづの女
手鏡に眉雪の増えしみどりの日 澤田 緑生
打音のビル耳にみどりの昆虫いて 金子兜太
抜き捨てし草もさみどり業平忌 茨木和生 丹生
指もて切るアンカット本みどりさす 有働亨 汐路
掃苔の花にみどりの高野槇 後藤夜半
掌にのせて団栗みどり山に雪 中拓夫
掛稲にまださみどりの匂ひあり 網谷富貴花
搗きあげて湯気もみどりの蓬餅 木内彰志
摺りつぶす豆の音かもみどりなす 林原耒井 蜩
放鳥もみどり染みたり植樹祭 中戸川朝人 残心
文まつやみどりに透ける蝉の翅 川口重美
新学期みどりの芝生弾むごと 岸風三楼 往来
新年の山深く歯朶はみどりなる 室生犀星
新樹かげ水はみどりをひろげけり 佐野良太 樫
新米を掬ふしみじみうすみどり 三嶋隆英
新聞にみどりの頁みどりの日 森松まさる
新茶濃し山河のみどりあざやかに 橋本鶏二 年輪
新藁のみどりほのかに日の匂ひ 宇佐美ふく
日あるらし林の奧のさみどりに 篠原梵 雨
日曜日挿せば花菜のうすみどり 秋篠光広
日照雨来ぬ山蚕のみどり地を這ひて 田中俊尾
日盛りをみどりや斎の膳のもの 大峯あきら 鳥道
早乙女に早苗さみどりやさしけれ 池内友次郎 結婚まで
早乙女の股間もみどり透きとほる 森澄雄「花眼」
明け方の星のみどりや井華水 太田寛郎
明日葉のみどりに元気貰ふ旅 太田光子
明神の花嫁の列みどりの日 小林淑子
春の草陽が眠る間もみどりかな 藤代静江
春の蚊の腹のみどりに辞書の中 中拓夫 愛鷹
春の鴨水こんこんとみどりさす 古舘曹人 砂の音
春寒や媚薬は暗きみどりいろ 田中芳夫
春暁の嶺々のさみどりさむらさき 福田蓼汀 山火
春服も耳輪の石もうすみどり 江川三昧
春蘭の花さみどりに母恋ひし 中村しげ子
春蘭や朝日集めてうすみどり 穂坂日出子
春蘭や雨をふくみてうすみどり 杉田久女
春雨のみどりの音を見てをりぬ 横田幸子
春雨や明治の墓の淡みどり 相生垣瓜人
春雨や桑のしもとのうすみどり 五十嵐播水 播水句集
昭和史のおほかたを生きみどりの日 千手和子
昼顔や海への恐れみどり子に 植松章治
時雨きて若狭の佛うすみどり 山本洋子
晩春のみどりのつまる魚の腸 宇多喜代子
暁やうまれて蝉のうすみどり 篠田悌二郎「四季薔薇」
曇り来し乾し干瓢のうすみどり 細川加賀 生身魂
曇天から垂れて藤の実さみどりに 中村里子
書に倦めば水遣りに出てみどりの日 宮岡計次
曼珠沙華不思議は茎のみどりかな 長谷川双魚 風形
月光に冬菜のみどり盛りあがる 篠原梵 雨
月明に地のみどり見ゆ余寒の子 飯田龍太
朝さくらみどり児に言ふさようなら 中村草田男
朝ひらき人と耕馬の髪みどり 秋元不死男
朝ゆ夕の夕ゆあかときのみどり濃き 林原耒井 蜩
朝刊のわづかな湿りみどりの日 小島良子
朝日まだささぬみどりの湊を発つ 篠原梵 雨
朝露は白夕露はうすみどり 白井麦生
朝顔の終のいろ張るみどり女忌 蓬田紀枝子
木にやどる滴もみどり修司の忌 成田千空
木のみどり 草のみどりに罠かける 津根元 潮
木の下の草のみどりや雪達磨 岡本松浜 白菊
木洩れ日や滝の千筋のうすみどり 飯久保司郎
木賊には木賊のみどり秋はじめ 神尾久美子
札幌のみどり親しや大通り 高浜年尾
杉玉にみどりの残る新酒蔵 佐藤信子
松の花みどり児の頭の重たしや 片山傘人
松みどりむらだつ山も奥まりぬ 飯田蛇笏 雪峡
松むしやみどりの*かやにひとり臥し 蓼太
松島の松のみどりに船遊 高濱年尾 年尾句集
林檎摘果みどりのつぶて地にそそぎ 堀口星眠 営巣期
枝豆の三ツ子のみどり押せば飛ぶ 久保武
枯るる中みどり必死の枝蛙 矢島渚男 釆薇
枯れそめし水藻のみどり日当れリ 高濱年尾
枯菊といえど切口うすみどり 松元峯子
染屋舟みどり涼しき淦汲めり 林翔 和紙
柳川の柳のみどり松のみどり 高濱年尾 年尾句集
栂山のみどりしたたる目覚めかな 白澤良子
桑巻いて昼顔咲かぬみどりかな 飯田蛇笏 霊芝
梅雨の月樹海のみどり波たてず 木下ふみ子
梅雨深しみどりの卵孵りさう 吉田晶二
梨の柄のうすみどり食ひのこされし 飴山實 少長集
梨の花すでに葉勝ちや遠みどり 富安風生
梨咲くと仰ぐに天のふかみどり 相馬 遷子
梵天や天女や流るみどりの空 平井照敏
棕梠咲くやみどりのしづかなる彼方 千代田葛彦 旅人木
森といふみどりの籠のほととぎす 松村多美
森の中みどりの音す昨日苦しみ 和田悟朗
森の精に会ひにゆこうかみどりの日 斉木樹美
森を来し仔鹿に湖もふかみどり 三嶋 隆英
植木屋の値切られ上手みどりの日 鈴木三四郎
植木屋の日の丸立ててみどりの日 添野光子
植樹祭霧もみどりに霧ケ峰 西本一都 景色
植田よりなほさみどりに伊吹山 福田蓼汀 山火
榛の木の芽だち一夜にみどりせり 川島彷徨子 榛の木
檜葉一位ちさく育ててみどりの日 深谷雄大
母つつむみどりの雨やほととぎす 白澤良子
母衣蚊帳の裾のみどりをにぎり寝る 目迫秩父
毛虫もいまみどりの餉を終へ歩み初む 中村草田男「美田」
水古き深田に苗のみどりかな 蕪村「新花摘」
水平に顎を回せり野のみどり 池田澄子
水掛不動冬みどりなる御身の苔 大石悦子 群萌
水桶の蕗のみどりや春火鉢 角川春樹 夢殿
水照るや枯れつゝ萩のうすみどり 渡邊水巴 富士
水盤の絹糸草の夜のみどり 清水忠彦
水神へ走る水音みどりの日 平井さち子 鷹日和
水芭蕉一日みどりの風の中 藤間治美
汝が吊りし蚊帳のみどりにふれにけり 中尾白雨 中尾白雨句集
江は春のみどりの中を朧舟 二柳
江北に植ゑても松のみどりかな 一茶
池水もみどりに返る木の芽かな 嘯山
汲み置きの水に降るものみどりの日 高橋 ちよ
沢音やみどりの紐の花胡桃 山田みづえ 草譜
河鹿鳴く風みどりなす熊野道 鎌田八重子
泡の言葉のみどりご鉄の夜気びつしり 林田紀音夫
泡立てしクリームに角みどりの日 和田順子
波の引く奈落のみどり葉月潮 中村将晴
注ぐ湯にみどりこきまぜ新茶かな 高澤良一 素抱
洗はれし若菜のみどり盛りあがる 長崎小夜子
洗礼のみどりご小さき嚏せり 藤田 宏
洗礼の済みしみどり児風花に 稲畑汀子 汀子第三句集
流れいま薄氷越ゆる浅みどり 成田千空 地霊
流水の渦みどりさし櫻桃忌 近本雪枝
浅き春空のみどりもやゝ薄く 高浜虚子
浅みどり春七草の小籠かな 高橋淡路女 梶の葉
浅間昏れ肩にみどりの闇重し 森 總彦
浚渫船水草みどりなるに来ぬ 細谷源二 鐵
浜木綿の花茎さみどり蟻のぼる 高濱年尾 年尾句集
浦々の潮のみどりや獺祭忌 大峯あきら 宇宙塵
浮塵子きてわが逼塞にみどり見す 村上冬燕
浮草の芽吹のみどり畳なす 大場白水郎 散木集
海に来て山を見てゐるみどりの日 村岡 悠
海はみどりと聞きて秋思のさだまりぬ 細見綾子 天然の風以後
海直ぐに倦むをゆるさぬ田のみどり 成田千空 地霊
消ゆるべく媼みどりの水汲めり 栗林千津
消防署裏にをんなの住むみどり 長谷川双魚 風形
涼しさやみどりごの振る鈴の音 上田圭子
淵は冬みどりのはての黒を帯ぶ 篠原梵
渚駆く小さな素足みどりの日 後藤亀泉
湧水の砂噴き上げるみどりの夜 水野すみ子
湯あがりのみどりご重し夕木槿 羽部佐代子
満山のみどりを籠めて泉湧く 有働亨 汐路
満目のみどりの中の朴の花 泉清流
源泉守る瑠璃鳥の艶みどりさす 田中水桜
源流の村木枯もうすみどり 石川雷児
滝壺のたぎちたぎちてうすみどり 深見けん二 日月
滴りのみどりいろなる近江かな 岬雪夫
潮引いて三月の岩真みどりに 中村洋子
潮騒に混じる島唄みどりの夜 田中正子
濃みどりといふべし春の山鴉 長谷川櫂 古志
濃みどりの榛に植田の風の縞 大熊輝一 土の香
濃みどりの茶摘の三時唄も出ず 平畑静塔
濤声もみどりなすなり鑑真忌 行方克巳「祭」
火を潜りきしガラス器のうすみどり 岡崎淳子
火山湖のみどりにあそぶ初つばめ 飯田蛇笏 春蘭
火山灰を踏む大靴小靴みどりの日 白井爽風
灯に笑みて苺・みどりごバラ科なり 石川貞夫
灯の下に来て馬追のみどり増す 西野たけし
灯台の玻璃はみどりに花大根 伊藤敬子
炊きあげてうすきみどりや嫁菜飯 杉田久女
炬燵ぬるし泣くみどり児を押しつけ合う 田川飛旅子 花文字
無患子のみどりさわなり樹上樹下 石塚友二
熊笹のみどり敷かるる穴施行 冨坂公子
熔岩づたひきて巻柏のみどりあり 木津柳芽 白鷺抄
熱帯魚冬みどりなる藻に住めり 水原秋櫻子
燈籠を容れみどりなる榎かな 萩原麦草 麦嵐
燕の巣みどりのかげのさしゐたり 大野林火
燕去る皿のスープのうすみどり 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
父の梢に涙のみどりごがそよぐ 林田紀音夫
父逝きて父の盆栽冬みどり 相馬遷子 山河
牧開き日輪みどりにまはりそめ 村越化石 山國抄
独楽澄むや山空たゞにうすみどり 村田翠雨
狭庭にもみどり滴り忌に籠る 山口波津女 良人
玉虫の幽きみどりやくちづけす 長崎玲子
玉虫の羽のみどりは推古より 山口青邨「露団々」
生まれたる蝉にみどりの橡世界 田畑美穂女「吉兆」
生れたる蝉にみどりの橡世界 田畑美穂女
田を植ゑてみどりの夜を眠りけり 樋口翠人(運河)
田中みどりうづくまりゐて落葉焚く 石原八束 人とその影
田植季わが雨傘もみどりなす 橋本多佳子「信濃」
田植機に乗りさみどりの晩年へ 齊藤美規
田植見て心みどりに染まりけり 相馬遷子 山河
申し訳ほどのさみどり七日粥 菱川瑞枝
畦草も小さき花揚ぐみどりの日 小林葭竹
疲れしかみどりの佐渡の深睡り 永田耕一郎 海絣
登呂掘られ蛙さみどり井噴き易し 平井さち子 完流
白兎いで来よ気多の岬は真みどりに 鷲谷七菜子 天鼓
白梅にみどりさ走る夕ベかな 成瀬櫻桃子 素心
白梅の万蕾にさすみどりかな 鷹羽狩行
白紙に土筆の花粉うすみどり 後藤夜半 底紅
白絹につつむみどりご夕桜 加倉井秋を
白藤や揺りやみしかばうすみどり 芝不器男
白魚のひとかたまりのうすみどり 遠藤若狭男
白鳥を呼ぶみどりごも白ケープ 大熊輝一 土の香
百年は生きよみどりご春の月 仙田洋子
目のあたりみどりのこれる鵙の贄 小原啄葉
目ひらけば母胎はみどり雪解谿 加藤楸邨
真四角な石鹸下ろすみどりの日 たかはしさよこ
眼白きてみどりまぎれず山桜 皆吉爽雨 泉声
矢車や谷戸はみどりの朝風に 西島麦南
石仏に山繭みどり鳥過ぎぬ 大野林火
石屋根の露みどり児の力声 岸原清行
石蕗の花極まるときの濤みどり 中拓夫 愛鷹
碾けばみどり茄でてさみどり走りそば 黒田杏子 花下草上
磨りたまる墨のみどりや家康忌 藤田あけ烏
祝ぎの座にみどり子をりて照葉かな 山本洋子
秋っこと土地人の云ふそのみどり 高澤良一 素抱
秋の田や大藪下のうすみどり 木津柳芽 白鷺抄
秋の蚊帳たたみてみどり古りにけり 行方克巳
秋口の星みどりなる嶽の上 飯田蛇笏
秋晴や午にして寺の松みどり 四明句集 中川四明
秋海のみどりを吐ける鳴戸かな 飯田蛇笏 山廬集
秋蚊帳の干さるるみどり天に富士 村越化石 山國抄
稗蒔や疲れたる眼にみどりなり 富安風生
稚海月若布刈の頃をうすみどり 佐野まもる 海郷
稲干すや海にはじまるうすみどり 古舘曹人 能登の蛙
稲架竹にみどりの稲を滴らす 松村蒼石 雁
稲雀飛来選り取りみどりの田 高澤良一 随笑
空も星もさみどり月夜春めきぬ 渡邊水巴
空母「みどり」秋天に泌みいる血友病 攝津幸彦
立秋の草のするどきみどりかな 鷲谷七菜子
竹林を透かして人語うすみどり 木村真呂
笹生吹く風のみどりをうたがはず 伊藤敬子
笹鳴の声のみどりにさす日かな 飯田龍太
筍やみどり児神にまみゆる日 大峯あきら
筒鳥や二十重のみどり揺れかはし 堀口星眠 営巣期
箱眼鏡みどりの中を鮎流れ 宇佐美魚目
箱舟にみどり汲みあげ蓴採 堀口星眠 営巣期
紀の川の水深みどり雛流す 古川悦子
紅き岩みどりの礁磯あそび 富安風生
納豆の糸光る朝山みどり 三好あさ
紫陽花や白よりいでし浅みどり 渡辺水巴「水巴句集」
累卵に馬色のあとのみどりさす 中戸川朝人 星辰
細川にみどりのくぐる葉種梅雨 松村蒼石 雪
経ケ岬むらさきけまんうすみどり 正城恵美子
絵双六みどりは松と決まりけり 秋山幹生
綿菓子やみどりの風に眠くなる 鈴木龍生
編みあげて真菰はみどり失はず 村田三夏
編みたての笊も蛇籠もうすみどり 伊藤敬子
編初の毛糸人形みどり児に 山口恵子
縫初はみどりの刺繍糸通す 大宅量子
美しき緻密のみどり絹糸草 大橋敦子(雨月)
羞明や冬もみどりのうまごやし 内藤吐天 鳴海抄
羽子やす~空の濃みどり越えて来る 中島月笠 月笠句集
翁と媼干す干瓢のうすみどり 大野岳翠
老びとの一握のみどり早苗取 青邨
老松のにぎはひ立てるみどりかな 風生
老耄のごとわがみどりはやと瓜 和知喜八
老鴬やさみどり色の声を張り 太田辰子
耳敏くなるみどり児につゞれさせ 山崎天誅子
育種以後も稲の葉みどり黒き遺髪 香西照雄 対話
胡瓜いでて市四五日のみどりかな 大江丸
胡麻煎ってしっかり摺つてみどりの日 大津幸奈
胸の辺にひらかむと百合うすみどり 石田あき子 見舞籠
胸元にみどり射し込む夏茶碗 殿村菟絲子「路傍」
能面の鬚抜けし穴みどり風 小山和男
自転車の灯を取りにきし蛾のみどり 黒田杏子
自転車の空気入れたすみどりの日 井門 伸
船長の子犬をもらふみどりの日 夏井いつき
良寛の気性さながらみどり立つ 高澤良一 寒暑
色変へぬ松のみどりや夫婦鶴 小俣由とり
芋虫の体液もまたみどりなる 大木孝子
芭蕉枯れ萩枯れ吾に少しみどり 窪田丈耳
花の前に何のみどり木押し出せる 廣江八重櫻
花御堂杉菜のみどりやはらかく 山田弘子 初期作品
花紅く草みどりなり煙柳忌 飯田蛇笏 山廬集
花繁に樟のみどりの八雲たつ 高山れおな
花鋪の日覆みどりに夏きたる 西島麦南 人音
苗代に湖の温泉ひくみどりかな 西本一都 景色
苗代の真澄みに松のみどり立つ 飯田龍太
若松の若きみどりをたゝへけり 高浜虚子
若水のみどりあふるゝ国に在り 岸秋渓子
若牛の角もみどりに早苗どき 百合山羽公
若草を摘む指先のみどりなる 三好菊枝
若菜野の濃みどり若菜のみならず 皆吉爽雨
苦瓜といふ悶々のうすみどり 坂巻純子
茂吉忌の馬酔木初花うすみどり 石田あき子 見舞籠
茅舎忌の身近なみどり箱パセリ 井伊直子「文字に彩」
茶を摘みて木幡のみどりなくならず 辻田克巳
茶を摘むや胸のうちまでうすみどり 本宮鼎三
茶柱のたちて新茶のうすみどり 森田敏子
茹で上げて花菜のみどり深めたる 澤村昭代
茹で上げて青菜のみどり日脚伸ぶ 新井和子
草の門からまみどりの鳥また老女 武田伸一
草枯や時無草のささみどり 室生犀星
草萌や燐寸ももてるみどりの火 耕二
草餅に草の天麩羅みどりの日 御子柴弘子
草餅のみどりひとすぢ濃かりけり 小島健 木の実
草餅の湯気も濃みどり女人寺 大見川久代
菜のみどり燦爛として冬を待つ 有働亨 汐路
菜の花や阿吽の苔もうすみどり 安東次男 昨
華と見しみどりの極み帚草 北原志満子
菱浮葉いまだ汚れぬみどりかな 高濱年尾 年尾句集
萍のしんとみどりの一帝国 高澤良一 素抱
萩焼の湯呑に地酒みどりの夜 河野頼人
落し文端のみどりを残しけり 森田峠 逆瀬川
落柿舎の年初の苔の常みどり 高澤良一 燕音
落葉して竹林みどりとりもどす 吉村ひさ志
落葉松のみどりさす兜飾りけり 堀口星眠 営巣期
落葉松の林の中のみどりの日 高村遊子
落葉松の萌えて河原湯みどりなす 大島民郎
葉がくれに咲く夕顔のうすみどり 軽部烏頭子
葉のみどりかたちうしなひ車窓過ぐ 篠原梵
葉櫻のみどりに甚しくひがむ 藤後左右
葎生の枯にひそみしうすみどり 中村祐子
蒙古斑鮮やかに浮きみどりの日 広瀬杜志
蓋取れば湯気もみどりや菜飯盛る 佐藤扶紀子
蓬莱の千古のみどり掛けにけり 野村喜舟 小石川
蓮如忌の雪をおろせば湖みどり 大峯あきら
薄氷の下のうすうすみどりなる 渡辺しづ
薄氷や藁二三本うすみどり 本宮哲郎
薺洗ふ掌の中みどりたのしめる 中城浪香
藁屋根の氷柱みどりに早起き村 桜井博道 海上
藷掘りて島は目にたつみどりなし 佐野まもる 海郷
藺を植ゑしばかりのみどり見渡され 高浜年尾
蘆影をおき萍にみどりさす 古舘曹人 砂の音
虎杖を手折るみどりの音を立て 日比野里江
虎河豚の怒り極めてみどりの目 沢木欣一
虚子の忌を瀬戸内海のふかみどり ともたけりつ子
虹濃くて苗田のみどりひきしまる 内藤吐天 鳴海抄
蚕豆のみどり香走る五月来ぬ 鈴木真砂女 夕螢
蛇脱ぎしばかりの衣のうすみどり 宮内克樹
蛍獲(え)て少年の指みどりなり 山口誓子 青女
蛍獲て少年の指みどりなり 山口誓子「青女」
蛾の卵しかと着きゐてうすみどり 高橋馬相 秋山越
蛾の翅うすみどりなり何かせむ 青池秀二
蜂の声山のみどりが部屋にさす 太田鴻村 穂国
蜉蝣の命透かせてうすみどり 岩村節子
蜘蛛の囲もあさみどり帯ぶ芦の間に 高澤良一 素抱
蜜豆のみどりや赤や閑職や 北登猛
蜻蛉の一碧の空みどり女忌 石川冬扇
蝉の羽化さみどりの羽根ひりひりり 山本君枝
螢獲て少年の指みどりなり 山口誓子
蟇老いてみどりにしたがへり 長谷川双魚 風形
蟷螂のみどりの活路横目して 古舘曹人 能登の蛙
蟷螂のみどりみづみづしく怒る 山田弘子 こぶし坂
蟷螂の一枚の屍のうすみどり 古舘曹人
蟷螂の枯れゆくみどり遍路道 山内遊糸
蟷螂の死のまみどりに雪が降る 龍太
血管のみどりの肌朝すゞし 片山桃史 北方兵團
血重く立つ西空のみどりの樹 桜井博道 海上
行きずりの家にみどりご帚草 児玉輝代
行水や暮れゆく松のふかみどり 金尾梅門
表札に加う吾子の名みどりの日 野村かおり
表札を洗ふみどりの戦火かな 攝津幸彦
褐色の蟷螂にしてみどりの目 粟津松彩子
見てゆくや早苗のみどり里の蔵 言水
覗く一瞬誤解のみどりの小鳥 金子兜太
観潮の渦まみどりに耀るときも 後藤比奈夫 めんない千鳥
観覧車のてっぺんにをりみどりの日 牧野春江
豆の筋たまりてそれもみどり色 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
貝寄風の海のみどりの涙壷 野見山朱鳥
貸ボート皆出払ひしみどりの日 富岡掬池路
赤坊に水無月の宵うすみどり 福田蓼汀 山火
赤彦の墓にみどりの落し文 五味美子
起伏の丘みどりなす吹流し 角川源義「ロダンの首」
転げ落つ鳥の古巣に藻のみどり 別所信子
追肥に陸稲のみどり夏至曇る 大熊輝一 土の香
逃げ水や麦はみどりの畝つめて 岡本まち子
逢坂の雨のさみどり蝉丸忌 山田弘子「懐」
連翹やみどりごは尿高くあげ 朝倉和江
週末のサラダはみどり春の雪 阿久澤博幸
遠き田の穂立ちたるらむうすみどり 篠原梵 雨
遠郭公山裾の田のうすみどり 大熊輝一 土の香
邯鄲や荷葉のみどりなかなかに 伊丹 丈蘭
郵便受きれいに拭いてみどりの日 小山泰子
野はたのし芽麦のみどりあはけれど 長谷川素逝 砲車
野外能小督に蹤き来し風みどり 大石悦子 群萌
金柑の種さみどりや松の内 大屋達治
銀杏のみどりを皿に風の音 三村絢子
銭苔のうすきみどりの冬木なる 篠原梵 雨
錆鮎の蓼酢のみどり濃かりけり 粟津松彩子
錦木の花のみどりのうすうすと 椎野房子
鎌原と聞けば身に入む菜のみどり 岡本 眸
門松のみどりしづかな雪となる 井沢芹風
門松のみどり目立つや桑畑 滝井孝作 浮寝鳥
間引菜のみどり柔らに朝餉汁 粂田美智子
闇にたつみどりの蒸気松の芯 渋谷道
闇を来し馬追の翅さみどりに 山田弘子 螢川
雛菊にみどり児の眼は常に澄む 吉村ひさ志
雨つよく降りてみどりの日なりけり 辻田 克己
雨となり硝子器に茂るみどり児 阿部娘子
雨の中淡きみどりや罌粟若葉 川口咲子
雨の日の木五倍子の花のうすみどり 鳥居みさを
雨はみどり放流の鮎瀬になじみ 金子 潮
雨月なる卓にみどりのマスカツト 波多野爽波 鋪道の花
雨永し樟樫椎のみどり重ね 中戸川朝人 残心
雪に挿す榊のみどり鍬始め 古市枯声
雪代や檜山のみどり流しつつ 大石悦子 聞香
雪割ると仄めくみどり鳩の胸 成田千空 地霊
雪女けふもみどりの布団にゐる 飯島晴子
雪晴れの月こそあなれ浅みどり 林原耒井 蜩
雪野原涯に昼餉のうすみどり 平井久美子
雲翳り森のみどりをいだききぬ 川島彷徨子 榛の木
電子辞書に鳥のこゑ聞くみどりの日 岩橋玲子
霊泉に散る風花のうすみどり 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
霜の中小さきみどりクロッカス 定別當明子
霧ゆらぐ咫尺に羊歯のにひみどり 瀧春一 菜園
露かわく葉の濃みどりに菊の虫 西島麦南 人音
露の畦みどり十字に村境 大熊輝一 土の香
青き煙は秋みどりなる森へゆく 大井雅人 龍岡村
青柿に降るやみどり子泣かしおく 齋藤玄 飛雪
音たてて落ちてみどりや落し文 原石鼎「花影」
風みどり伎藝天女の指の間 角光雄
風みどり母が蕗煮る時かけて 古賀まり子
風垣の網代追ひ挿す葉のみどり 安達実生子
風止みてみどり戻りぬ風知草 井桁蒼水
風邪の目にはや下萌の浅みどり 石井露月
颱風に籠る戸のひまみどりだち 高橋馬相 秋山越
飛んでまたみどりに入るや松啄 惟然
餅白くみどり児の唾泡細か 中村草田男
餅花や柳はみどりはなの春 西鶴
馬が瞬く刈田の闇にみどりの畦 中拓夫 愛鷹
馬はみどりに原子炉の球体岬 駒走鷹志
馬追のいのち果つるもうすみどり 藤井 彰二
馬追のみどりを闇へ戻したる 新開一哉
高浪の葛に必死のみどりかな 飯田龍太
魂もみどりなるべし手の螢 黒田櫻の園
魂棚やみどりまぎれず子蟷螂 千代田葛彦 旅人木
鮎帰る山河みどりを尽しけり 福田甲子雄
鯛に敷く竹も春なるみどりかな 岡本松浜
鰤敷にみどりの星も上りたる 大峯あきら 宇宙塵
鳥声をひとつ覚えてみどりの日 本田はじめ
鳳笙にみどりご眠り初ざくら 藤田直子
鶯菜洗い上げたる浅みどり 木梨皓一
鶴あゆむ二日の畦のうすみどり 米谷静二
麦の芽のみどりすくすく育ちゐる 安藤津子
麦の芽はあふるゝみどりつゝみかね 高橋馬相 秋山越
黒い蝶みどりの蝶も句にならず路地に戻りて妻に叱らる 橋本夢道 無類の妻
黒土をもらひて帰るみどりの日 永野 祥子
黒文字の花はみどりの四月かな 野瀬知佐
黒猫のひとみのみどり野分晴 沢田まさみ
龍太居の松みどり摘む高梯子 上野さち子
龍馬像松のみどりをそそらしめ 高澤良一 寒暑
●翠 
むらぎもゝ翠さすなり旅二日 高橋睦郎 金澤百句
わが庵は翠微に近く書をさらす 四明句集 中川四明
七夕の竹の穂見ゆる翠微かな 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
余花一朶翠の中に匂はしや 竹冷句鈔 角田竹冷
六月の翠巒を照る日が胸に 柴田白葉女 『夕浪』
出荷後の残り翠菊瓶に挿し 原作一
前山の翠へんぽん鯉幟 小原菁々子
地震ふりて翠微もつるる袋掛く 西本一都 景色
夕寒み翠簾に散る梨の花吹雪 梨の花 正岡子規
大鋸屑をまぶれど蟹の翠さす 高橋睦郎 荒童鈔
客人に埋火小さき積翠忌 辻口静夫
家ふりて幟見せたる翠微かな 蕪村「新花摘」
小春日のかげり早さや翠黛山 西山泊雲 泊雲句集
市に栖んではつかに蚊帳の翠かな 村山葵郷
待花や翠にかへるくづれ樽 調和 選集「板東太郎」
打水す娘に翠巒の雲ゆけり 飯田蛇笏 春蘭
昼顔や翠濤老と浜に出づ 高浜虚子
杉の秀にわだの翠眉や秋夕焼 富安風生
梅雨鳥の籠りてゆるゝ翠薇かな 前田普羅 飛騨紬
梨花の雪どびの雪翠簾の夢寒し 梨の花 正岡子規
武蔵野に翠したゝる筑波哉 滴る 正岡子規
水や空翠の生絹うちひろげ 呂丸
水無月の故国に入れば翠かな 日野草城
河床涸れ翠巒痩せつ秋燕 林翔 和紙
清明や翠微に岐る駅路 松瀬青々
瀧殿に積翠の文字掲げあり 中戸川朝人 尋声
白菜の一圃の翠抜ん出たり 石塚友二 方寸虚実
稲妻のはら~かゝる翠微かな 鈴木花蓑句集
穂翠亡し春田どかどか踏まれたり 宮坂静生 樹下
竹も翠に加はり山を高うせり 中戸川朝人 星辰
紅梅に檐は古びぬ翠簾作り 紅梅 正岡子規
紅梅や翠簾のすき影衣の音 紅梅 正岡子規
紅梅や翠簾をこぼるゝ緋の袴 紅梅 正岡子規
練供養翠微の雨のなか進む 高木石子
翠岱をボートの水に市民の日 石塚友二 方寸虚実
翠巒にかかる暮靄や田を植ゑし 吉武月二郎句集
翠巒に杣家のあぐる施火の煙 飯田蛇笏 霊芝
翠巒のいつ鷹放つ大暑かな 飴山實 『次の花』
翠巒の幾重の波に鯉のぼり 山内遊糸「蘇鉄」
翠巒の落ち込む流れ瓜冷やす 平松荻雨
翠巒や風を漉き込む吉野紙 倉田勝栄(けごん)
翠巒や鵜川しぶきてしづかなり 伊藤敬子
翠巒を降り消す夕立襲ひ来し 杉田久女「杉田久女句集」
翠帳にさしこむ春の朝日かな 春日 正岡子規
翠帳にさしたる月や畑の上 月 正岡子規
翠帳に御池の蛙聞く夜かな 蛙 正岡子規
翠張につらぬきとめし破魔矢かな 飯田蛇笏 山廬集
翠微にもかさねて早苗束投ぐる 井沢正江
翠微より現はれきたるボートかな 岸風三楼 往来
翠微来し巣立鶺鴒尾を振れる 西本一都 景色
翠簾(みす)際に秋海棠の袂かな 立花北枝
翠簾ごしの美人の顔や朧月 朧月 正岡子規
翠簾ちぎれ蔀荒れたりちり紅葉 蓼太
翠簾の灯のこぼれてさむし御仏名 浪化
翠簾懸て一重に白し梅の花 椎本才麿
翠簾捲けば夏山うつる鏡かな 夏山 正岡子規
翠簾越しの誰に落ちけんくらべ馬 蓼太「蓼太句集初編」
翠菊や夫の不安はわが不安 石田あき子 見舞籠
翠菊や妻の願はきくばかり 石田波郷「雨覆」
翠菊や寄りあひてゐしつかのまを 小池文子 巴里蕭条
翠蔭に幽魂あそぶ修那羅かな 西本一都
翠蔭のおよぶや洋燈ひそとあり 文挟夫佐恵 黄 瀬
翠陰をたたふる幹を叩きては 綾部仁喜 寒木
翠黛(すゐたい)の時雨いよいよはなやかに 高野素十(1893-1976)
翠黛とひもすがらある櫻狩 後藤夜半
翠黛と日もすがらある桜狩 後藤夜半
翠黛に聖燭節の雨げしき 飯田蛇笏 霊芝
翠黛に雲もあらせず遅ざくら 飯田蛇笏
翠黛のもと蒟蒻の花咲きぬ 松瀬青々
翠黛の明暗雨の時鳥 稲畑汀子
翠黛の時雨いよいよはなやかに 高野素十
翠黛も王昭君も菖蒲の芽 行方克己 知音
老鴬に雲ゆきのこる翠微かな 飯田蛇笏 霊芝
胸乳は/ 翠/鈴鹿に/春の丘づくし 林桂 銀の蝉
花ふぶき翠簾をかかげる采女哉 井上井月
蒼翠を穿ちて白き夏の湖 富安風生「喜寿以後」
蓮世界翠の不二の沈むらく 素堂「虚栗」
蓮世界翠の不二を沈むらむ 山口素堂
蚊屋つりて翠微つくらむ家の中 蕪村 夏之部 ■ 諸子此枝の僧房に會す、余はいたづきのために此行にもれぬ
蠅帳の裡の翠微や胡瓜もみ 吉屋信子
行く春を翠帳の鸚鵡黙りけり 行く春 正岡子規
野分荒れて翠簾に押さるゝ女哉 野分 正岡子規
野生馬にたかる虻の目翠なり 矢島渚男
金魚玉に聚まる山の翠微かな 青木月斗
青天を余し翠微を織る飛燕 香西照雄 素心
青嵐樫の翠はいとけなき 石塚友二 方寸虚実
騎射の日の晨晴れたる翠微哉 露月句集 石井露月
鷺翔けて雷遠ざかる翠微かな 飯田蛇笏 霊芝
●緑色 
みどり色脱げば芋虫走れさう 木村淳一郎
利根川一月見たるは緑色漁法なり 阿部完市 春日朝歌
火の島の我ら緑色細胞であり 大西健司
緑色とくるい兎の一淋し 阿部完市 春日朝歌
緑色薬瓶 乾く 僧院の黙った刻 伊丹公子 パースの秋
蜘蛛の囲も緑色なる製茶場 鈴木かづ
裏側は緑色なり朧月 中田美子
●紫 むらさき 
*はまなすや豊後水道濃むらさき 横山康夫
あけぼのやますほのすゝきさむらさき 高橋淡路女 梶の葉
あたたかやうすむらさきの玻璃の玉 川島彷徨子 榛の木
あやめむらさき死んだピカソも半裸なれ 竹中宏 句集未収録
いくさ無しむらさきすべく青葡萄 中村草田男「来し方行方」
いちじくを割るむらさきの母を割る 黒田杏子 花下草上
いにしへのむらさき野より若菜籠 北川英子
いややさしむらさきしきぶをりもてば 山口青邨
うき草にむらさきはしる秋の雷 篠田悌二郎
うすむらさき身上として寒あやめ 大橋敦子
うすものゝ重り合ひて濃むらさき 青邨
うすらひのなかのむらさき安楽死 神尾久美子 桐の木
うちむらさきありてひろがる夜の想ひ 大石悦子 群萌
うつぼ草うすむらさきに窓昏るる 釘宮のぶ
おほむらさき太虚(おほぞら)も又年経たる 河原枇杷男
おほむらさき小便小僧の視線 梶浦玲良子
おほむらさき眼前濡らし過ぎゆけり 九鬼あきゑ
かきつばた江戸むらさきは考妣かな 加藤郁乎 江戸桜
かな女忌のむらさきの野に月あがる 落合水尾
かな女忌の来る鉄線の濃むらさき 殿村菟絲子(馬酔木)
かはほりの頭上にきたるまむらさき 黒田杏子
からくりの布袋のむらさきうすごろも 高澤良一 素抱
きちかうや白に後れし濃むらさき 林原耒井 蜩
きちこうや白に後れし濃むらさき 耒井
けだるさの桐むらさきに咲きにけり 岸風三楼 往来
げんげんを見てむらさきの遠雪嶺 大野林火
こつそりと泳ぎて唇のむらさきに 品川鈴子
ことの忌の雨のむらさき華鬘かな 鈴木しげを
こなきおとめおだまきのはなまむらさき 永野孫柳
この島の椿は散りぬむらさきに 軽部烏帽子 [しどみ]の花
こばん草添ふむらさきの墓尺余 桂樟蹊子
しろがねのやがてむらさき春の暮 草間時彦 櫻山
しんかんと七月いたり母がため茄子もてつくるむらさきの馬 塚本邦雄
すゞしろの花むらさきや省亭忌 碧雲居句集 大谷碧雲居
ちる木槿ナイフ・フォークに軽いむらさき 渋谷道
ちんぐるま掌にむらさきの日暮れあり 菅野梢
つるむらさき歩いては身の忘らるる 岡井省二
ときめきの色に出でたる実むらさき 高澤良一 宿好
なた豆や垣もゆかりのむらさき野 蕪村
なみだしてうちむらさきをむくごとし 石田波郷
はぎれ屋の風のむらさき大根焚 関戸靖子
はだれ野の風むらさきに妻が来る 伊藤松風
ひかる野の芝むらさきの芽をひむる 川島彷徨子 榛の木
ひぐらしに寡婦むらさきの着物縫ふ 藤木清子
ひしひしと充ちゐむ花を思ひつつむらさきの貝を水に放てり 槙弥生子
ひろがりて雲もむらさき花樗 古賀まり子
ふるさとの彩はむらさき桐の花 水落蘭女(ぬかるみ)
ほたるぶくろむらさきだちて霧に浮く 八木絵馬
みせばやのむらさき深く葉も花も 山口青邨
みちのくの星むらさきに凍てにけり 岸風三楼 往来
みちのくの郁子山風をむらさきに 平沢陽子
むらさきしきぶかざせば空とまぎれけり 草間時彦
むらさきにちかきくれなゐ鶴の疵 八田木枯
むらさきになりゆく二羽の青鷹(もろがへり) 矢島渚男(1935-)
むらさきになりゆく墓に詣るのみ 中村草田男(1901-83)
むらさきに佇てば白恋う菖蒲園 花谷和子
むらさきに変りし蓮や魂祭 後藤夜半 翠黛
むらさきに夜は明かゝる春の海 高井几董
むらさきに暮るる遠山田鳧鳴く 今井さだ子
むらさきに暮るゝ障子や雛の窓 高橋淡路女 梶の葉
むらさきに暮れゆく島や花火待つ 本多 勝彦
むらさきに松魚泳がし宵の酒 高澤良一 素抱
むらさきに染まりし塩や茄子漬くる しぐれ
むらさきに水晶山の冴え返る 友岡子郷 遠方
むらさきに海昏れのこる葛湯かな 樋口桂紅
むらさきに煙る沖島冬の雁 池田まつ子
むらさきに白夜の孤島火を焚けり 石原八束 白夜の旅人
むらさきに統べし紅葉の活火山 伊藤敬子
むらさきに見よや桔更を手向艸 高井几董
むらさきに違はぬ桔梗の信(まこと)かな 高澤良一 寒暑
むらさきに遠嶺かがやき寒晒 鈴木虚峰
むらさきに隣る白藤見えわたる 下村槐太 光背
むらさきに雷起す葛の花 萩原麦草 麦嵐
むらさきに鞴初めのほのほかな 石沼雨耕子
むらさきに頃も薄暑のごむの花 松瀬青々
むらさきに顔枯れて巣の女かな 八木三日女 赤い地図
むらさきに骨正月の鰤の塩 後藤夜半 底紅
むらさきのあやめの夕日わが額に 阿部みどり女
むらさきのうすむらさきの室の花 久垣大輔
むらさきのかすみの富士を寝ててきく 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
むらさきのこゑを山辺に夏燕 飯田蛇笏「椿花集」
むらさきのさまで濃からず花菖蒲 久保田万太郎
むらさきのはつきり都忘かな 後藤比奈夫 金泥
むらさきの中白菖蒲白堪ふ 殿村菟絲子 『晩緑』
むらさきの他人ふたりがみてとおる 阿部完市 軽のやまめ
むらさきの僧晴天の栗の花 小檜山繁子
むらさきの冬夕焼を掌にすくふ 古舘曹人
むらさきの冬芽や虫穴のごとき両眼 長谷川かな女 花寂び
むらさきの南部しぐれとなりにけり 黒田杏子 花下草上
むらさきの夜空の下の桜かな 楠目橙黄子
むらさきの大紐つけぬ腰布団 鈴木薊子
むらさきの寄つてたかつて花蘇枋 正木ゆう子 悠
むらさきの寝釈迦の前に薬掘る 池田世津子
むらさきの山いく重にも冬来る 播磨かをる
むらさきの山気そのまま沢桔梗 渡辺恭子
むらさきの山河残して燕去る 鷹羽狩行 十友
むらさきの後れはとらじ油点草 後藤夜半 底紅
むらさきの御肉がひとつ雲の峯 攝津幸彦 鹿々集
むらさきの折紙ひらくごと桔梗 石川星水女
むらさきの散れば色無き花樗 松本たかし
むらさきの森を掠めて小鳥来る 正木ゆう子
むらさきの泡がたちをり茄子漬 『定本石橋秀野句文集』
むらさきの流星垂れて消えにけり 佐藤念腹
むらさきの深くて黒や鴨の胸 正木ゆう子 静かな水
むらさきの砂の流れや風信子 小菅佳子
むらさきの総あり狩の行厨に 吉本伊智朗
むらさきの肝啖うてをり三社祭 渡辺二三雄
むらさきの色を惜まず花蘇枋 飯島正人
むらさきの色衿重ね初鏡 影島智子
むらさきの花のジャガイモ海たひら 山口青邨
むらさきの花の五月の谷間かな 折井紀衣
むらさきの花の天あり桐畠 時彦
むらさきの褪せしがごとく昼寝覚め 加倉井秋を 午後の窓
むらさきの野の突端に初日の出 落合水尾
むらさきの雲押しのぼる春の雷 山口青邨
むらさきの靄を引き寄すラベンダー 菊地弘子
むらさきの風となるとき諸葛菜 稲畑汀子
むらさきの風呂敷包み春山河 藤岡筑邨
むらさきの鯉をしづめて麦の秋 石田郷子
むらさきの鳶職がゐる処暑の寺 田中睦枝
むらさきはむらさきの渦薔薇匂ふ 漁 俊久
むらさきは似合はずなりし春の雪 久米正雄 返り花
むらさきは君が日傘やくれやすき 芥川龍之介
むらさきは執念のいろ葛の花 新谷ひろし
むらさきは忘られやすし苧環も 津森延世
むらさきは恨ふかき色花菖蒲 丸山哲郎
むらさきは月の匂ひの霜ばしら 千代田葛彦
むらさきは朱よりも艶にホクシヤ咲く 岸風三樓
むらさきは母の面影杜若 佐藤吟秋
むらさきは紫のまま菊枯るる 片山由美子
むらさきは虹の欠けいろ逢ひがたき 一瀬信子
むらさきは都忘れや虚子の塔 原裕 出雲
むらさきは霜がながれし通草かな 渡邊水巴
むらさきは須臾に暮色へ桔梗の芽 篠田悌二郎 風雪前
むらさきも水晶さむし買始 渡辺水巴
むらさきも濃し白も濃し花菖蒲 京極杜藻
むらさきも碧も焔のいろ西行忌 神尾久美子 桐の木以後
むらさきを地に低くして仏の座 笹木弘
むらさきを深く信濃の葛の花 片山由美子 水精 以後
むらさきを着ると決めたり年忘 宇多喜代子
むらさきを秘めきれぬ白花菖蒲 稲畑汀子
むらさきを見せむと解きし糸繰草 橋本ひろ子
むらさき圧降下剤はあねもね 田村みどり
むらさき茸夜は土色となつてをり 石脇みはる
もう一彩むらさき欲しき雛あられ 高澤良一 素抱
もぎに出るうちむらさきも忌日かな 銀漢 吉岡禅寺洞
もてなしの火をむらさきに柳葉魚焼く 竹田てつを
もらひ来し通草のむらさき雨となる 横山由
ゆづり合ふ袖摺坂や実むらさき 由木まり
ゆふぐれは地よりむらさきしきぶの実 大石悦子 群萌
よべの雨遠ひかりしてみむらさき 関戸靖子
わが庭の藪はむらさき初日の出 青邨
をみならの山旅の荷に実むらさき 有働 亨
アスパラガスほのむらさきと掘りあげし 小池文子 巴里蕭条
アネモネのむらさき濃くて揺らぐなし 水原秋櫻子
アネモネのむらさき面会謝絶中 石田波郷
アネモネや来世も空は濃むらさき 中嶋秀子
アネモネや煙草のけむりむらさきに 館岡沙緻
アルミ貨のふれあふ音す泪夫藍のむらさきに秋の日とどくとき 栗木京子
エリカ咲くひとかたまりのこむらさき 草間時彦
グラスの酒透けりアネモネ濃むらさき 柴田白葉女
コスモスや遠嶺は暮るゝむらさきに 五十崎古郷句集
リラ一日暮れぬまなうらむらさきに 堀口星眠 営巣期
万葉のむらさき芽吹き人丸忌 藤小葩
上元や靴むらさきに帰化夫人 中尾杏子
中世(なかのよ)はむらさきにして美濃をながれ 渋谷道
久女忌の髪むらさきにしてみたき 姉崎蕗子
亀鳴くや太古の海のまむらさき 二村典子
人は今むらさき深き草を干す 篠田悌二郎
人去れば藤のむらさき力ぬく 澁谷道
人声のむらさきとなる釣船草 木村小夜子
人形の髪むらさきや暑気中り 山口広子
伊夜比古の山むらさきや神無月 倉田松仙子
休日は眠るむらさき式部の実 津高里永子
休窯むらさき紫蘇の吹かれをり 猪俣千代子 堆 朱
信濃路は萩のむらさきぐもりかな 堀口星眠 青葉木菟
倖あれと友が掌に置く実むらさき 石田あき子 見舞籠
元日のむらさきにほふ闇に覚む 篠原梵 雨
元日や湖畔の焚火むらさきに 青陽人
入相の山むらさきに春日かな 春日 正岡子規
八ケ岳むらさき頒けし葡萄かな 久米正雄 返り花
冬こもりうちむらさきをもらひけり 冬籠 正岡子規
冬眠の地のむらさきに藁を撒く 佐野美智
冬草のむらさき極む耐ゆるさま 青邨
冬蝶やうすむらさきを日にひらく 大橋愛子
冬鵙の翔つむらさきの先を読む 鳥居おさむ
冷え性のけふもむらさきけまんかな 辺見京子
冷たしや式部の名持つ実のむらさき 長谷川かな女 花 季
切りためて子が持つ桔梗むらさきの色を流して野の風の中 河合恒治
初さくら貝むらさきに山きゆる 角川春樹 夢殿
初凪の安房の礁のこむらさき 草間時彦
初弁天むらさきかすむ竹生島 和田祥子
初時雨帯むらさきに逢はむとす 河野多希女 琴 恋
初比叡むらさききざす風のこゑ 加藤耕子
初硯墨むらさきに匂ひけり 田中美智子
初秋はうすむらさきの遠嶺かな 豊田都峰
初筑波午後へむらさき深めけり 神原栄二
初茄子切るむらさきの雨の中 関口倭文枝
初雪や膵臟のかげうすむらさき 塚本邦雄 甘露
初霜やむらさきがちの佐久の鯉 皆川盤水
初音せりほのむらさきの雑木山 田中季子
刻一刻虹はおのれを溶かしをり きくちつねこ「うぶむらさき」
加波筑波雲むらさきに蕪村の忌 井水貞子
北海は海豹泳ぐときむらさき 富澤赤黄男
南国の日陰むらさき白牡丹 中戸川朝人 残心
受難節の日矢むらさきに雪の原 鷲谷七菜子
古九谷のむらさきは冬の言葉かな 山田みづえ
古雛とほき山湖の濃むらさき 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
吾子の瞳に緋躑躅宿るむらさきに 草田男
呂丸忌の雪むらさきに羽黒山 神林久子
地に満ちてむらさき杳き寒葵 上井みどり
夏草の丈より高野歯朶むらさき 長谷川かな女 花寂び
夕の日に色を育てて実むらさき 加藤武夫
夕べとはむらさきの刻紫蘇にほふ 藤岡筑邨「城ある町」
夕月や草むらさきに上り鮭 古舘曹人 砂の音
夕潮にうすむらさきの海月かな 大橋櫻坡子 雨月
夜の蜆うすむらさきの吐息せり 平井あい子
夜をこめて咲きてむらさき時鳥草 後藤比奈夫 花びら柚子
夜桜のむらさき色に責めらるる 宇多喜代子
大地より噴きてむらさきヒヤシンス 斎藤 道子
大年のむらさきだちし夕欅 高澤良一 ねずみのこまくら
大根蒔くむらさき濃ゆき風のなか 角川春樹 夢殿
大綿や昔は日ぐれむらさきに 大野林火
大藁屋幕むらさきに春祭 藤岡筑邨
天空のうすむらさきを鶴舞へり 上野さち子
天行やむらさきつよき田螺和え 永田耕衣 殺祖
失速す朝のたてがみ無視のむらさき 攝津幸彦
女らは声深めゆき実むらさき 加藤知世子
女工らの春愁荷縄むらさきに 香西照雄 対話
女等は声深めゆき実むらさき 加藤知世子
如月やうすむらさきの蜆殼 増田龍雨
妻癒えぬ朝むらさきに寒しじみ 綾部仁喜
娘とは何時も少女や実むらさき 板津 堯
子はみどり母はむらさき色の眠り 鎌倉佐弓 天窓から
安達太良の山はむらさき白秋忌 藤田あけ烏 赤松
宋硯の青やむらさき更衣 加藤知世子 花 季
実むらさきいよいよものをいはず暮れ 菊地一雄
実むらさきほどの恋ならこのさきも 仙田洋子 雲は王冠以後
実むらさき一語もて足る友欲しき 松村多美
実むらさき亡き師の言葉序にかへて 八牧美喜子
実むらさき僧の衣と色合はす 牧野春駒
実むらさき嘴よりこぼす山鴉 阿久津渓音子
実むらさき女流は育ち易きかな 後藤比奈夫 めんない千鳥
実むらさき女等は声深めゆく 加藤知世子 花 季
実むらさき心のおしゃれ説く尼僧 大野栄子
実むらさき明治の妣の気骨とも 浜崎古都
実むらさき松の廊下の跡にかな 奥村香都子
実むらさき榾の残り火きよらかに 望月たかし
実むらさき水の深みに目のゆきぬ 手塚美佐 昔の香
実むらさき水音に急ぐ色なるか 河野多希女
実むらさき流れのごとき京言葉 鈴木としゑ
実むらさき色を深めし寒露かな 池田秀水
実むらさき軽みの系譜を考ふる 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
実むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子
室の津の歌ひ女の哀実むらさき 志摩知子
寄居虫のむらさきいろは怒りなり 石倉夏生
寒蜆むらさきのいろせめぎあふ 岡本まち子
寒餅やむらさきふくむ豆のつや 室生犀星(1889-1962)
實むらさき銀水引と荒れまさり 黒田杏子 一木一草
寺に駕籠寺領にむらさきしきぶかな 嶋野國夫
?のと瓢まだ明けぬ空のむらさき恵方かな 上山トキイ
小春日のうすむらさきのひとりかな 峠谷清広
小流れを跳びてこぼしぬ実むらさき 及川貞
少年の日へ山葡萄むらさきに 小林夏冬
山の色けふむらさきや日向ぼこ 軽部烏帽子 [しどみ]の花
山彦やむらさきふかく春の嶺 池田秀水
山焼きの烟むらさきに捲きのぼる 石原八束 空の渚
山脈の遠むらさきや葱囲ふ 三橋迪子
山葡萄むらさきこぼれ山日和 水原秋桜子
山藤のうすむらさきにじゃれる虻 高澤良一 素抱
山藤のむらさき散り込む魚道あり 高澤良一 素抱
岩かげろふ暑し菫のむらさきに 太田鴻村 穂国
峡の空夜はむらさきに星祭る 駒敏郎 遠天
川がらす露撥ねし尾羽むらさきに 堀口星眠 火山灰の道
帰り花濃きむらさきも悼むなり 稲垣きくの 黄 瀬
帰省子に雨の紫陽花濃むらさき 水原秋桜子
干蒲団うすむらさきに沖はあり 菅原鬨也
平安の恋はむらさき杜若 木村仔羊「柿葉」
底紅忌うすむらさきに昏れにけり 肥塚艶子
庭石菖野生といえどむらさきに 松田ひろむ
式部の実むらさき初めて婚約す 石寒太 翔
弥生尽むらさき帯びし招魂祭 近藤 弘
形見なる裾むらさきの春袷 きくちつねこ
影むらさき霜を染なす旭かな 杉 風
後退る桐のむらさき見ゆるまで 村上美枝
恋もなき時雨の貯炭むらさきに 小林康治 玄霜
恋草の若むらさきも萌えにけり 星野麦人
恵方なる名もなき山のこむらさき 豊田都峰
戸隠村菱の実は角むらさきに 土屋未知
手に受けて通草の花粉濃むらさき ふけとしこ 鎌の刃
手鏡のむらさき濃ゆく時雨けり 富沢赤黄男
打撲傷こそむらさきの精神なれ 伊吹夏生
折れそうな芭蕉がゆく野の風むらさき 山田緑光
擬宝珠のむらさき汚れ悲別鉱 堺 信子
故里や家失せてうちむらさきの樹も 二宮貢作
数珠玉にきざすむらさき神衣織る 浜地和恵
数珠玉のむらさき深し一遍忌 原田しずえ
斯く紅きうちむらさきと画きけり 村上麓人
新たなる春むらさきに淑気満つ 室積徂春
新藁を叩けば日ざしむらさきに 廣江八重櫻
新豆腐むらさきの影つくりけり 小笠原草雨
日傘のつくる影のむらさき胸冷やす 野澤節子 黄 瀬
日本の古代むらさき山眠る 横澤放川
昇降機吸はれし闇のむらさきに 篠原鳳作 海の旅
明け易くむらさきなせる戸の隙間 川崎展宏
明易し耳環の石のむらさきに 白水郎句集 大場白水郎
昏々たる空はむらさき雪しきる今宵わが墓あばかるるべし 多田智満子
春ゆふべむらさき貝を拾ひけり 伊藤敬子
春冷やうすむらさきの窯の塵 西本一都
春暁のうすむらさきに枝の禽 飯田蛇笏
春暁の嶺々のさみどりさむらさき 福田蓼汀 山火
春暑し影むらさきに野の女 佐藤惣之助
春深し牛むらさきに野の烟る 露伴
春潮や手をむらさきに雲丹を剥く 皆川盤水
春雷をはらめば雲もむらさきに 山口青邨
春鳥のうすむらさきを哭いてでる 松澤昭 面白
時の日のベルトが むらさきの山脈の 向うへながれる 吉岡禅寺洞
晩夏一週涼しむらさき締る茄子 大熊輝一 土の香
晩年といへばむらさき湿地など 三田きえ子
暮れてゆく嵯峨野むらさき雛の膳 黒田杏子 花下草上
暮れ際のさくらむらさき斑雪山 堀口星眠 営巣期
曇る日や桐の花散るにむらさき 原田種茅 径
曙のむらさきの幕や春の風 蕪村 春之部 ■ 無爲庵會
曙の尾花むらさきふくみけり 臼田亞浪 定本亜浪句集
月さしてむらさき煙る葡萄かな 日野草城
月に供ふうぶむらさきの山桔梗 きくちつねこ
月上げて沖むらさきに夜振の火 小田中柑子
朝顔のむらさきの夢の谷間 桑原三郎 龍集
朝顔の今朝もむらさき今朝も雨 水原秋櫻子
朝顔の昔の色の濃むらさき 寺谷なみ女
朝顔むらさき海に裏側みせて棲む 桂 信子
朝顔を描くそれよりむらさきに 坊城俊樹
木がいく野でだ一句のむらさきをまはす 加藤郁乎
木曾深しおほむらさきの翅伏せし 伊藤敬子
木槿すこしむらさき木槿すこし乳なり 阿部完市 春日朝歌
末枯の一枝むらさきしきぶの実 山口青邨
本性はむらさきならめまんじゆしやげ 門脇今次
束縛もなく七変化 あなたは花 谷口むらさき
枕べの花はむらさきみじかよの 林原耒井 蜩
枯紫蘇を焚きむらさきの煙あぐ 古賀まり子 降誕歌
染髪の色むらさきに女正月 観山繁子
桃紅くうすむらさきに比叡あり 岸風三楼 往来
桐の花むらさきつくす別れかな 野澤節子「存身」
桐の花寺の和尚はむらさき好き 高澤良一 素抱
桜の実紅経てむらさき吾子生る 中村草田男「火の島」
梨食うてうすむらさきにけぶるかな 川崎展宏
森の枯木のむらさき愛し入り行かず 野澤節子 牡 丹
樹氷林むらさき湧きて日闌けたり 石橋辰之助 山暦
檜山かげむらさき深し縄出荷 宇佐美魚目 秋収冬蔵
櫓に日裂けてむらさきしきぶの実 古舘曹人 砂の音
此の酷暑梅むらさきに干上りぬ 久米正雄 返り花
武蔵野のむらさき見たり遠稲妻 長谷川かな女
歳迎へんと歳送る空夕むらさき 草田男
死人花蘂は変じてむらさきに 高澤良一 素抱
死後も坐すむらさきいろの厨の火 和田悟朗
死者もみひらく寒夕焼の小むらさき 金尾梅の門
残菊にむらさきさして枯れはじむ 朝倉和江
母との世おろそかならず実むらさき 上野さち子
水に墜つ藤の声音のむらさきに 高澤晶子
水切ればむらさき走る蜆かな 岡田耿陽
水浸き咲く花むらさきに春暮るゝ 岸風三楼 往来
水草生ふ深泥ほどけてむらさきに 八木林之介 青霞集
氷の海むらさきはしり日のぼる 長谷川素逝 砲車
沢蟹のむらさき透いて甲斐の国 瀧澤和治「看花」
河原までつゝぬけに見ゆ実むらさき 飴山實 辛酉小雪
河骨の浮葉か寒し濃むらさき 石川桂郎 高蘆
波郷忌のはや暮れなづむ実むらさき 石田あき子
泥吐かす蜆の水のむらさきに 岡本セツ
洩れ陽手にあるむらさきの葡萄剪る(中村星湖賞受賞偶感) 石原八束 『幻生花』
浜寺のおほむらさきで間に合はす 攝津幸彦 鹿々集
浴室に種火むらさき春霙 山下知津子
海かけて天むらさきや籾筵 中島斌雄
消えたがる日向ありけり実むらさき 町田しげき
消えた映画のうすむらさきのさるすべり 栗林千津
消ゆるときむらさき色の走馬燈 山口波津女 良人
渡岸寺さまへむらさきけまんゆれ 加藤三七子
湖めぐる山むらさきに夕焼けぬ 瀧春一 菜園
溜江やむらさき色の水の苔 巴流 俳諧撰集「藤の実」
滝道やむらさきふかきとりかぶと 及川あまき
潮いまむらさきなせり大旦 伊丹さち子
火の山の今日はむらさき麦の秋 東 弘子
火山灰に生ふしかとむらさき蕗のたう 皆吉爽雨 泉声
炎昼や身ほとりの木はむらさきに 下村槐太 天涯
炭を割る音夕凍みのむらさきに 大野林火
無宿人供養の寺やみむらさき 北見さとる
無電とぶ都会むらさき色の餡をねる 赤尾兜子
焼きつくす北上川の蘆むらさきに 黒田杏子 花下草上
熊本のうちむらさきは胸に抱く 坪内稔典
燃え据わる炉火むらさきに夜の凍つる 金尾梅の門 古志の歌
燈も秋のつるむらさきやつゆ女の忌 渡邊水巴 富士
爪ほどの貝むらさきに時雨けり 古舘曹人 砂の音
片栗の淡むらさきを愁ひとも 本庄百合子
牡丹焚く一島の風むらさきに すずき波浪
狐火や武蔵の水のむらさきに 東早苗
独活のいろうすむらさきにまた紅に 田中冬二 俳句拾遺
猪の跡たづねる裾をむらさきに 飯島晴子
珊瑚礁よりむらさきの海栗剥す 沢木欣一
琴立ててうすむらさきに風の秋 加藤耕子
生きたかり埋火割れば濃むらさき 川口重美
生後直ちの髪むらさきや冬暖か 奈良文夫
甲斐駒はむらさき凍り聖夜待つ 古賀まり子 降誕歌
男もぐ杏むらさき樹下に受く 吉野義子
病室にむらさき充てり諸葛菜 石田波郷
白式部むらさきしきぶ嫁がせぬ 猪俣千代子 秘 色
白河の關むらさきにけさの春 今朝の春 正岡子規
白繭の山のむらさきがかるかな 猪俣千代子 堆 朱
白菊のうすむらさきに枯れにけり 笹木雪子
白菊やうすむらさきは窶れのいろ 林原耒井 蜩
百日紅つかれし夕べむらさきに 橋本多佳子
睡蓮は大方むらさきアマゾン棟 高澤良一 寒暑
短日やうすむらさきの餡の出来 石嶌岳
石溜り菫咲くむらさきの濃し 太田鴻村 穂国
石臼の片割れに挿す実むらさき 鳥居美智子
磨崖仏おほむらさきを放ちけり 黒田杏子「木の椅子」
磨崖佛おほむらさきを放ちけり 黒田杏子(1938-)
祗園恋しや一力の実むらさき 辻田克巳
秋山や影むらさきに瘤二つ 水原秋桜子
秋晴やむらさきしたる唐辛子 後藤夜半 翠黛
秋暁の鳩影むらさき癒え初むる 鍵和田[ゆう]子 浮標
秋燕や荒船山も濃むらさき 伊藤敬子
秋風や子に拾ふ貝濃むらさき 堀口星眠 営巣期
穂すすきにむらさきにじむ思ひ草 石原八束
窓の樹や藤たかだかと濃むらさき 飯田蛇笏 春蘭
立版古口むらさきに泳ぎをり 宇佐美魚目 天地存問
竜胆のむらさき鬱の母は灯り 北迫正男
竜胆枯れ叩く狐の尾がむらさき 長谷川かな女
競馬場むらさき丸の海が見ゆる 軽部烏帽子 [しどみ]の花
竹の奥うすむらさきに雛祭 大峯あきら
竹林の闇むらさきに淑気満つ 松本幹雄
竹藪のむらさきけまん生ぐさし 八幡城太郎
筍と老婆その影むらさきに 橋本多佳子
筑波山むらさきふかく芝生冷ゆ 柴田白葉女 『夕浪』
管物の盃咲きの濃むらさき 高澤良一 宿好
籾殻焼く耳成山はうすむらさき 見市六冬
紅萩に見るむらさきやそこら冷ゆ 渡邊水巴
紫になほ遠けれど実むらさき 藤田八郎
紫はリラのむらさきまでありぬ 後藤夜半 底紅
紫蘇のせて新豆腐ふとむらさきに 稲岡長
紫蘇の葉のむらさきのなか紡ぎをり 佐川広治
紫陽花や一日は水もむらさきに 林翔
紺一身より出でてむらさき茄子の花 きくちつねこ「一人舞」
経ケ岬むらさきけまんうすみどり 正城恵美子
綿虫の山深き色むらさきに 吉年虹二
綿虫やむらさき澄める仔牛の瞳 水原秋桜子
胸に木霊こむらさきの不整脈 浅沼参三
胸焦がすほどの詩欲し実むらさき 小澤克己
舞ひたちて鴉むらさき八重桜 藤岡筑邨
芋茎のむらさきふかく土けぶらふ 臼田亞浪 定本亜浪句集
芝の芽のむらさきふかし妻とゐて 大野林火
花水葱のむらさき沈み農婦帰る 木村蕪城 寒泉
花活にむらさき褪せしあやめかな 飯田蛇笏 椿花集
花菖蒲まづ濃むらさきほぐれけり 久保田万太郎 流寓抄以後
花著莪のうすむらさきに仏の日 松村蒼石 寒鶯抄
花葛のうすむらさきは母のいろ 吉田紫乃
花野へ助走むらさきになりたくて 栗原節子
若き日の友垣木槿むらさきに 小野希北
茄子苗の茎むらさきを帯びて来し 後藤田白愁
茄子通草九月はものの濃むらさき 稲垣きくの 黄 瀬
草萌ゆる石むらさきにかげりけり 木田一杉
菜の花や山嶽稜々むらさきに 川崎展宏
菫掘るむらさきの時間に耽り 加藤かけい
菱の実の角むらさきに白秋忌 中尾杏子
萌えいでよ春は菫の濃むらさき 麦南 (男孫二人の後、今春はじめて女孫誕生、すみれと名づく)
落葉してむらさきふかき佐久の鯉 篠田悌二郎
落鮎はむらさきの木のなかをゆく 田中裕明 櫻姫譚
葉牡丹のむらさきかなし雪の中 大橋櫻坡子 雨月
葉牡丹の渦のむらさきより暮るる 下地 慧子
葛はつと散るむらさきの爺ヶ岳 石寒太 あるき神
葛切の唇むらさきにすゝりけり 古舘曹人 砂の音
葱畑の青むらさきの秋の翳 富澤赤黄男
蒲生野のうすむらさきの冬霞 伊藤いと子
蔦紅葉くろむらさきを深めたる 高澤良一 随笑
蕗の薹寒ンのむらさき切りきざむ 橋本多佳子
薄氷のうすむらさきや丈草忌 伊藤通明
薄荷咲くうすむらさきの風匂ふ 今井千鶴子
藁氷る地へむらさきに梯子かげ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
藤垂れてむらさきに淵よみがへる 原裕 青垣
藤垂れてわが誕生日むらさきに 山口青邨
藤垂れて水神の空むらさきに 裕
藤老いてむらさきなるは苦しからむ 遠山陽子
藪蘭のうすむらさきに長命寺 山尾玉藻
蘆焼きし日のむらさきに沼暮るゝ 石井とし夫
蚤はむらさきに背を伸ばし朝の体操 荻野雅彦
蛇草と言はれむらさきけまん咲く 青柳志解樹
蜘蛛の糸かかりて脳をむらさきに 鳥居おさむ
蝉とぶを見てむらさきを思ふかな 田中裕明 花間一壺
蝉の森抜けたる影のむらさきに 川口重美
蝉声のむらさきに染む蓬左の庫 伊藤敬子
蝶の翅うすむらさきの四枚かな 大橋櫻坡子 雨月
蟻地獄またむらさきに天炎えろ 榎本冬一郎 眼光
血小板数低し冬薔薇みなむらさき 河野南畦 『元禄の夢』
行く秋の風むらさきに水暮るる 浅沼 艸月
行春やむらさきさむる筑羽山 蕪村 春之部 ■ 召波の別業に遊びて
袴着のむらさきにほふばかりなり 岡田抜山
裁つ布もむらさき淡くリラ咲けり 福永みち子
裕忌の日帰りの旅実むらさき 西田妙子
裾野ゆく汽車もむらさき暁すゞし 佐野青陽人 天の川
襲ねたるむらさき解かず蕗の薹 後藤夜半
見てをりしうすむらさきの春の暮 中村祐子
見のかぎり煙草むらさき日向ぼこ 『定本石橋秀野句文集』
見るかぎり煙草むらさき日向ぼこ 石橋秀野
親不孝むらさきつつじ咲き了り 蓮田双川
観劇の切符むらさき春隣 山田弘子 螢川
解氷の海膽のむらさき箱眼鏡 青葉三角草
谷幽くむらさきけまん咲き揃ふ 塚田 文
象のみずいろ犀のむらさき更衣 富田敏子
貝寄風のむらさきいろに装釘し 田中裕明 花間一壺
貧しき死火を焚くいろがむらさきに 三谷昭 獣身
貫之の姫亡くせし地実むらさき 田中英子
足もとに点るむらさき諸葛菜 草間時彦
身ぞ緊むるおほむらさきの通るとき 大石悦子 百花
身の上をすこしぼかして実むらさき 中村保典
返り花むらさき淡し交はりも 山口青邨
追ひつめてむらさきの天蕨狩 平畑静塔
通草むらさき頸のうしろが皺よるわ 池田澄子 たましいの話
逝く人に葉月新月うすむらさき 諸角せつ子
遊子あり浜豌豆のむらさきに 森田峠
道元の忌の雨粗し実むらさき 吉田鴻司
遠い菜の花むらさきの殻蜆捨つ 金子弘子
遠雪嶺うすむらさきの野辺送り 渡辺礼子
邂逅や城の冬空むらさきに 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
都忘れ夜はむらさきの沈みけり 鈴木桜子
野あやめに来るむらさきも梅雨の蝶 水原秋櫻子
野あやめのむらさき一つ他は白し 水原秋桜子
野牡丹のむらさき匂ふ花氷 稲荷島人「続夏雲」
野葡萄のむらさきあはき思ひかな 島谷征良
野葡萄のむらさきくもり野菊澄む 西本一都 景色
針山の糸はむらさき松の内 大峯あきら 宇宙塵
鉄線のむらさき僧の父の座に 中山純子 沙羅
鉄線のむらさき深き母情かな 前田鶴子
銀河天に茄子むらさきに我は我に 加藤楸邨
鋤きし田のむらさきつよき日に乾く 篠原梵 雨
鍛ちたての鍬むらさきに雪間殖ゆ 荒井正隆
門の藤むらさきにして夕かな 相馬遷子 山国
闇とても遠むらさきに霧月夜 野澤節子 黄 炎
防風掘るそのむらさきは海のもの 西村数
降り足りて夜空むらさき仏生会 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
雁渡る地図にロシアのうすむらさき 川嶋悦子
雁瘡やむらさき色の塗り薬 柴原保佳
雁過ぎしあとむらさきの山河かな 草間時彦
集れば煙むらさき冬廣場 細見綾子
雑俳界むらさき走る蕗のたう 殿村菟絲子 『菟絲』
雛菓子の蝶のむらさき鶴の紅 大橋敦子
雨の花火のむらさきや銀色や 黒田杏子 花下草上
雨後いまだ雲のたゆたふ実むらさき 能村登四郎
雪ちるに捨つむらさきの蜆殻 松瀬青々
雪の嶺むらさき深しつひに暮る 遷子
雪は申さず。先むらさきのつくばかな 服部嵐雪
雪山のむらさきに出す凍豆腐 平沢洲石
雪暮れてむらさきに碾くそばの臼 黒田杏子 花下草上
雲海にむらさき滲む秋意かな 富安風生
雷雲の日にまみれ咲く浅むらさき 阿部みどり女
霄降るや林の芯はむらさきに 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
霧ごと剪る吉野の藤のむらさきを 渋谷道
露けぶるむらさき捧げ紫苑立つ 松本たかし
露散つてうすむらさきの鳩の翼 石田あき子 見舞籠
露草の露もむらさきなりにけり 鈴木豊子
霽るる日も濡るるむらさき鉄線花 後藤比奈夫 初心
頬杖のさきのむらさき靱草 中村祐子
風に咲く楝の花の濃むらさき 星野椿
風の樹氷浅間の裾野むらさきに 宮坂静生 青胡桃
風蘭のむらさきうすく雨催ふ 角田不説
高熱はむらさきがちの豆の花 宇多喜代子
鰯雲むらさき射して鶏早寝 香西照雄 対話
鶴燻ゆるひろげし翼のむらさきに 富澤赤黄男
鷺苔の花のむらさき四人踏みつ 和地 清
鷽替えて遠い人からむらさきに 安西篤
鹿の糞つるむらさきの露に濡れ 長谷川かな女 牡 丹
黒牡丹ならんその芽のこむらさき 米谷孝
黒駒を見てむらさきの葡萄祭 萩原麦草 麦嵐
龍胆枯れ叩く狐の尾がむらさき 長谷川かな女 花 季
*こおろぎは羽根の紫秘めにけり 野村喜舟 小石川
〆野行き紫野行きひばりかな 麦水
あねもねの紫淋し紅を買ふ 高濱年尾 年尾句集
あべの区すぎたり紫木槿花縷縷るる 阿部完市 鶏論
いちじくの濃紫から喪があける 植田次男
いとほしや人にあらねど小紫 森澄雄(1919-)
いにしへの王(おほきみ)のごと前髪を吹かれてあゆむ紫木蓮まで 阿木津英
いにしへを誘ふ彩に実紫 山田弘子 螢川
うす皮のうす紫や早筍 大橋櫻坡子 雨月
うら返るほどに咲きみち紫木蓮 金城千代
おきまつり紫衣の楽士の頬の老い 荒牧澄子
おほかたはとなりへ散りし紫木蓮 谷内田三恵子
お机や日想観の紫衣の僧 河野静雲 閻魔
お鏡や紫檀の卓に片よせて 高野素十
かきつばた紫を解き放ちゐし 細見綾子「天然の風」
かさうらに紫の翳しめじ茸 木村育子
かぜふけば紫なだれて淡々し 瀧春一 菜園
からぐろの黒からず茄子の濃紫 茄子 正岡子規
きはまりし郁子の紫十二月 阿部ひろし
きらん草古代紫展げけり 後藤比奈夫 金泥
ぎす鳴くや紫香楽宮の礎石跡 志賀松声
さぞあらむ紫宸殿上の此暑さ 会津八一
さびたりな茄子の紫鮎の腹 錆鮎 正岡子規
さふらんの花は紫冬ざるゝ 野村泊月
しゞみ蝶紫失せて炎天下 高木晴子 花 季
すつきりと紫張りて鉄線花 池田やす子
すり鉢に薄紫の蜆かな 蜆 正岡子規
せんぶりの花も紫高嶺晴 木村蕪城 一位
そこだけが紫けむり懸り藤 高濱朋子
その棘の紫美しき海胆を割る 諸岡孝子
たらちねの春の日向よ紫羅欄花 児玉悦子
だうもかうも天気外れて紫荊 高澤良一 素抱
だらしなさ小児に同じ紫木蓮 高澤良一 燕音
ちらと紅紫柄長も群れる父の林 峠素子
つひに来しこの片陰や紫禁城 加藤楸邨「沙漠の鶴」
てつせんの紫くらしおもひ切 久保田万太郎 流寓抄以後
ぬか味噌の茄子紫にけさの秋 会津八一
ぱつとせぬ天気つづけり紫荊 高澤良一 ももすずめ
ふろしきの紫たたむ梅の頃 大峯あきら
ほたるぶくろ薄紫七月の思案 大沢君江
まひまひの紫を帯ぶ翳に暈 西本一都 景色
むべの実に紫のりし十二月 栗林千津
むらさきは紫のまま菊枯るる 片山由美子
よく見れば薄紫の蜆哉 蜆 正岡子規
わが妻の忌に名づけぬる紫かな 野村喜舟
をだまきの紫賤のものならず 後藤比奈夫
をだまきの芽は紫の渦巻を 山口青邨
アネモネのまづ紫が立ち直る 水原秋櫻子
アネモネの紫挿せる日吉館 二宮英子
アネモネの紫淋し紅を買ふ 高浜年尾
アネモネの紫深きたのみかな 中村汀女
カメレオンが棲む公園の 滅紫いろ 伊丹公子 山珊瑚
ガスの火の紫もゆる一茶の忌 富安風生
サイネリアの花紫に出揃ひし 室積波那女
サフランの紫閉ぢぬ聖母像 河地翠
セーターの紫許せ紫禁城 品川鈴子
ヂキタリス薄紫に富士の影 新村千博
パステルの紫に黄に昼花火 永井龍男
パンジーの紫ばかり金の蕊 平野桑陰
ヒヤシンス紫は祖母眠る色 入口久弥女
ヘリオトロープ紫の呼吸ひそやかに 文挟夫佐恵 黄 瀬
マネキンの手首に切目紫木蘭 相子智恵
ライラック紫うすく漕ぎ疲れ 若森京子
一弁に紫を刷け白桔梗 大橋つる子
一枝の濃紫せる紅葉あり 竹下しづの女 [はやて]
一籠のこき紫や桔梗賣 桔梗 正岡子規
一茎の小夜の紫蘭にペンを擱く 五十嵐播水 埠頭
万葉の恋は紫かたかご咲く 吉田銀葉
丈高きことが淋しく花紫*苑 遠藤梧逸
不景気をぼやいてみても紫荊 高澤良一 随笑
中原に夜が来てをり紫木蘭 有馬朗人 天為
予後の身に曇る小路の紫荊 柴田白葉女 遠い橋
二三日風納まらず紫木蓮 高澤良一 素抱
五七五のうてん通ばら紫金牛 加藤郁乎
亡き母の紫小紋暮の秋 家久喜美子
交りたる鯖の紫鰯汲む 前島たてき
京劇の粘つこき声紫荊 穂苅富美子
人通りなきとき桐の真紫 阿部[しょう]人
今朝秋の蕾あげたる紫かな 河野静雲 閻魔
伊勢菖蒲偽紫の茎つよし 長谷川かな女 花寂び
会わねどもわが師の師なる紫影の忌 村山古郷
傘かゝへ紫いろの負真綿 下田実花
元結の紫匂ふ蚊やりかな 増田龍雨 龍雨句集
光氏(みつうぢ)と紫と寝る布団かな 松根東洋城
光氏と紫と寝る蒲団かな 東洋城千句
入るや涼しく紫いろの礼拝堂 池田澄子
入梅や紫かけし青紫陽花 鈴木花蓑句集
其骨に苔の咲くなり小紫 苔の花 正岡子規
冬枯にうら紫の萬年青哉 冬枯 正岡子規
冬紅葉濃し紫になりたるも 平野桑陰
冬草の紫だちしものは何 白山
冷房に紫褪せし造花立ち 長谷川かな女
凧の絵の貴妃が見おろす紫禁城 大島民郎
初冬や山の鴉は紫に 野村喜舟 小石川
初神楽待つ紫の幕絞り 清崎敏郎
初空や地に葉牡丹の濃紫 碧雲居句集 大谷碧雲居
初蝶のうす紫にとび消えし 星野立子
初雪や紫手綱朱の鞍 井上井月
初鵙や薄紫の夜明雲 杉山えい
初鶏は若紫の声ひけり 平井照敏 天上大風
千振干す花の紫ありながら 肥田埜恵子
千紫万紅の紫のぬきんでてかきつばた 草田男
卑弥呼美貌なりしや紫華鬘摘む 岡部六弥太
反橋や藤紫に鯉赤し 藤 正岡子規
古九谷の紫の濃き残暑かな 笠原古畦
司書の眼をときどきあげて紫蘭咲く 富安風生
君知るや薬草園に紫蘭あり 高濱虚子
吾(あ)も春の野に下り立てば紫に 星野立子(1903-85)
呑みはじむ薄紫に寒の暮 松根久雄
和名あらせいとう紫は母好み 長谷川久々子
咲きそろふ草の紫もの食む子がゐる 人間を彫る 大橋裸木
唇に紫走り井を晒す 今村野蒜
喪に服す梅雨咲く花の紫に 鈴木真砂女 夕螢
喪の知らせまたありさうよ紫荊 高澤良一 ねずみのこまくら
土佐一宮楝の紫忘れめや 小南敏子
土明く紫の日照雨はじきけり 西島麦南 人音
城主なき紫檀の玉座桐の花 本間美香
塩買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子 花 季
夏富士の紫しるき姿かな 吉波泡生「青潮」
夏来ると紫明の空に霊歌湧き 石原八束 空の渚
夏炉焚く煙の紫遊ばせて 羽部洞然
夕風に紫の供華の持たれけり 太田鴻村 穂国
夜の紫一葉の影は濃かりけり 太田鴻村 穂国
夜を照るや黄紫二枝の瓶の菊 石塚友二 方寸虚実
夜桜に星無き空の濃紫 成瀬正とし 星月夜
夢にさへ母見ゆ月日紫*苑咲く 塩谷はつ枝
大かたは打伏す梅雨の紫蘭かな 中道政子
大ばつた紫帯ぶと見ゆるなり 波多野爽波 『骰子』
大屋根を暮色下りくる紫木蓮 西村 旅翠
大根の花紫野大徳寺 高濱虚子
大淀とありてあやめの濃紫 久保田万太郎 草の丈
天上の華となりたる紫木蓮 岩瀬鴻水
天命を待ちくたびれて枯紫 塚本邦雄 甘露
天降りては地の糧となる紫木蓮 杉山とよ
女医二代表札古りて紫木蓮 内田香晴
女足袋紫野行くゆかりなり 椎本才麿
嫗の背のえぞ菊紅紫につばめ帰る 古沢太穂 古沢太穂句集
子の苞に摘む紫の梅雨の花 相馬遷子 山国
宇津の谷のうつつの色の実紫 能村登四郎 有為の山
宗盛の車も見ゆれ地主祭 紫暁「ももちどり」
宝冠の傾ぐかたちも紫木蓮 百合山羽公
実紫このごろ母を忘じをり 片山由美子 風待月
実紫わが詩も小さく円かなれ 正木ゆう子 静かな水
実紫濡れてゐる且つ枯れてゐる 岩田由美 夏安
実紫音なく過ぎし山の雨 山田弘子 こぶし坂
宵やみの紫ふかしはるの雨 素丸
寒餅のうす紫や水にひそみ 伊藤稚草
寒鯉の紫磨黄金の沈むまま 後藤夜半
寸にして紫檀びかりの袋角 八染藍子
小波を堰く紫のあやめかな 阿部みどり女
少しさめ薄紫の蜆汁 中嶋秀子
少年や紫雪を浴びてまぼろしに 和田悟朗 法隆寺伝承
尖り立ち色めく蕾紫木蓮 石川風女
尼寺跡や風のかたちに紫木蓮 山崎千枝子
尼若し薄紫の燕子花 杜若 正岡子規
局塚その面影の紫蘭咲き 下村ひろし 西陲集
山水のひゞく紫白のあやめかな 日野草城
山笑ふ薄紫の衣着て 長谷川きくの
山紫てふ模糊たる方に夏迫る 殿村莵絲子 雨 月
山紫水明にしてこの蠅叩 小堀紀子
山肌の濃紫なる冬日かな 『定本石橋秀野句文集』
岩桔梗紫消えてなほ夕焼 福田蓼汀
岩風にお調子づいて紫蘭咲く 諸田宏陽子
崩れ落つ風なき夜の紫木蓮 仲川記代
川波に紫華鬘咲き隠る 石原八束
巻かれなむ紫野なる野火けむり 赤松[ケイ]子
幸木ほの紫のかけ蕪 呼子無花果
幼子に悪戯教え紫蘭かな 栗本照子
広業寺紫みだれて青尼すむ 石原舟月 山鵲
式部の実紫に寂びまさりくる 林 京子
式部塚訪ふに花散る紫野 大石亜矢子
忽然と/紫影色(セピア)/羽つけし/一家族 折笠美秋 火傅書
恋ふるゆゑ紫の丈を妻の墓 森澄雄
悪相の紫荊雨まみれなる 高澤良一 ももすずめ
惜春やすこしいやしき紫荊 松本たかし
愁なき紫都忘かな 後藤夜半 底紅
懐胎す千の穂紫を証とし 長谷川双魚 風形
戒名は真砂女でよろし紫木蓮 鈴木真砂女
手にしたる紫包いわし雲 松村蒼石 雁
振る袖の若紫の陰になり 三輪初子
掘つて帰る薬草紫花を開きけり 喜谷六花
旅かなし紫あやめ野に咲けば 富安風生
日ざし来て紫うすし藤の花 島村元句集
日に向いてふと紫の寒烏 菅裸馬
日に月に腰折れ紫*苑ゆれとほす 馬場移公子
日を受けてうす紫の尾花かな 原月舟
日盛りを紫はしる蜥蜴かな 宮部寸七翁
春の夜や紫衣をかけたる塗衣桁 大谷句佛 我は我
春の夢濃紫を残しけり 高橋睦郎 金澤百句
春の日や紫の袴茶の袴 春日 正岡子規
春は曙雲紫のつく波山 初春 正岡子規
春光の魚紋の中の鯉紫金 小松崎爽青
春光や紫を帯ぶ毒魚の瞳 富安風生
春寒の雨紫に源氏山 大久保橙青
春愁の襟紫に掻きあはす 長谷川かな女 雨 月
春日野や若紫の惣鹿子 季吟
春暁や紫焔紅焔富士の頂 徳永山冬子
春泥に山紫水明おしとほる 松澤昭 麓入
春深し紫髯の胡人あそぶ壺 水原秋桜子
春睡や天紫に地くれなゐ 余子
春風や山紫に水青し 春風 正岡子規
春風邪をひいて紫じみてゐる 細見綾子 花 季
春駒や染分手綱紫に 松根東洋城
春鴉紫に猫薔薇色に 相生垣瓜人 微茫集
昭君酒春宵を汲む紫砂の碗 田中英子
昼ふかく魔の刻ありぬ紫木蓮 伊東宏晃
晩秋の紫の風にすがる虫 阿部みどり女 笹鳴
晴雪やうす紫の木々の影 前田普羅 飛騨紬
暁天の黄や紫や初手水 松毬路
暮早し紫川ときくからに 高木晴子 花 季
曇りゐて花びら重し紫木蓮 上村占魚 『方眼』
曙はまだ紫にほととぎす/曙やまだ朔日にほととぎす 松尾芭蕉
曲水の歌膝立てて紫衣の僧 小原菁々子
月光に連れゆれにけり紫木蓮 鈴木貞雄
月光の道嵯峨野より紫野 黒田杏子 花下草上
朝ぎりや紫動く牧の牛 菅裸馬
朝どりの茄子の紫生きてをり 黒岩 五月
朝寒や紫の雲消えて行く 朝寒 正岡子規
朝日影羽紫に初烏 初鴉 正岡子規
朝顏や紫しほる朝の雨 朝顔 正岡子規
朝顔のぱつと開きし濃紫 星野椿(1930-)
朝顔の古代紫子だくさん 愛下千鶴
朝顔や紫しぼる朝の雨 子規句集 虚子・碧梧桐選
木々冬芽凍のゆるみに濃紫 前田普羅 飛騨紬
木枯や紫摧(くだ)け紅敗れ 子規
束ねあり紫の花の群がれる 上野泰 佐介
枕元に内紫を竝べけり 朱欒 正岡子規
枝豆は紫頭巾酒の名は 後藤比奈夫 めんない千鳥
枯山に日ざすやいなや紫無し 篠原梵 雨
枸杞の芽のうす紫の籬かな 安藤雅子
染布の紫濃かに梅雨のおし上る 安斎櫻[カイ]子
染汁の紫こほる小川かな 凍る 正岡子規
染汁の紫氷る小溝かな 正岡子規
校塔を放ちて紫木蓮匂ふ 金田咲子 全身 以後
校庭のプール濃紫にて遠し 対馬康子 愛国
栴檀の紫人を選り好み 後藤比奈夫 花匂ひ
桐の花うす紫の風揺れて 久保田彰子
桑の実の紫こぼる石舞台 柴崎左田男
桔梗のつぼみふくれて見る間にも咲かんばかりに紫の濃さ 若山喜志子
桔梗の紫さめし思ひかな 高浜虚子
桔梗や白紫のほかは無く 尾崎迷堂 孤輪
桜の実紅経て紫吾子生る 中村草田男
梅雨永や紅紫若きが品定め 松根東洋城
森深き風のしめりに紫楽陽花 山下美典
正夫忌や紫ふかき竜の玉 竹内武城
武具飾り紫勝ちの部屋となる 今橋眞理子
母の忌や紫蘭細身の明るさに 菊岡素子(萬緑)
母の遺した鋏・針・糸・紫木蓮 松野順子
母をつれて来てをる茄子畑茄子の紫朝に 西垣卍禅子
気力負けせざる紫鳥甲 依田秋葭
水仙や端渓の硯紫檀の卓 内藤鳴雪
水仙や紫袱紗黒茶碗 水仙 正岡子規
水葬の夜を紫陽は卓に満つ 飯田蛇笏 霊芝
永遠に大紫は遅刻せり 攝津幸彦 鹿々集
油点草紫出過ぎても居らず 中谷楓子
波止かなし殊に紫ハンカチは 岡本 眸
洗ひ鯉山紫水明楼の夕 洗膾 正岡子規
洲の砂礫紫帯びぬ谿紅葉 香西照雄 素心
浅間嶺は紫磨黄金に春立ちぬ 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
海きら~帆は紫に霞けり 森鴎外
海も山も出雲かなしや紫なす 高柳重信
海胆の針紫にして美しき 野村喜舟
温室や紫広葉紅広葉 歌原蒼苔
源氏をば一人となりて後に書く紫女年若くわれは然らず 与謝野晶子
漢名の音(おん)も締りのよくて紫微 高澤良一 鳩信
潮たれてうす紫の蠑螺かな 原石鼎
澄む日影照る月影や紫*苑咲く 水原秋桜子
濃紫なる春眠の世界かな 成瀬正とし 星月夜
濡れつばめ野を紫の乙女来て 原コウ子
火の神のゐまさぬ阿蘇は濃紫 久米正雄 返り花
炎天下磨滅鉄蓋濃紫 香西照雄 対話
焼いもや山紫水明枯るる京 龍岡晋
熱の瞳に紫うすきぎぼしゆかな 飯島みさ子
片栗の花の紫うすかりき 高濱虚子
牧閉ぢて紫こぼす山葡萄 水原秋櫻子
玉虫の発止と墜ちし紫閃かな 野村喜舟
王女迎ふ躑躅紅紫の蘭館址 下村ひろし 西陲集
瓶の桔梗咲き次ぐは紫褪めつ 原田種茅 径
白すみれ紫すみれ喪明け未だ 三田きえ子
白涼し紫も亦涼しく著 星野立子
白蝶も紫蝶もこの日より 高野素十
白露や紫尾の峠を牛越ゆる 脇本星浪
目のかぎり紫けぶり飛燕草 加藤楸邨「沙漠の鶴」
目細雛紫袴の匂ひて喜雨亭に 及川貞 夕焼
石の花咲く紫の春の夢 小松崎爽青
石垣の上に紫宛と兜屋根 瀧春一
砲煙は紫に冬隣る音 内田百間
磯桶の海胆の紫動くなり 中川けい
秀づると見えし紫蘭の花 後藤夜半 底紅
秋の野の其の紫の草木染 高浜虚子
秋祭紫の幕箔屋町 細見綾子 黄 瀬
秋立つや紫さめし筑波山 会津八一
秋茄子の紫おもし親遠し 石橋秀野
秋草の紫立つは笛の道 長谷川かな女 花寂び
秋風や紫薄き燕子花 秋風 正岡子規
種犬の血は紫よ酷暑来る 平吹史子
稲架解くや南アルプス紫に 後藤冬至男
空家から紫木蓮という合図 楯ひろこ
窓は青紫のー八木にまじり斜めの木 篠原梵 雨
竜胆の紫が好き軽い飢 北村南嶺子
端渓の蓋の紫檀や葭障子 田中英子
笹の子のうす紫や小筆ほど 野村泊月
筍の根の紫の五月かな 野村喜舟 小石川
節々に水の氷れる実紫 長谷川櫂 天球
糠味噌の茄子紫に明け易き 茄子 正岡子規
糠味噌をよごす紫なすを抜く 川崎展宏
糠漬の茄子紫に明け易き 茄子 正岡子規
紅紫檀ひと葉のもみぢ見するかな 石川桂郎 高蘆
紫が好きで通せし木の葉髪 菜畑絹女
紫さむる峰に春光かぎろひけり 日夏耿之介 婆羅門俳諧
紫と名には呼ばれぬ木槿哉 木槿 正岡子規
紫と雪間の土を見ることも 高濱虚子
紫になほ遠けれど実むらさき 藤田八郎
紫になりきれぬまゝ式部の実 福島えつ子
紫に上る時雨も京らしく 星野 椿
紫に似ずてゆかしき野菊かな 高井几董
紫に変る霞や海の上 比叡 野村泊月
紫に夜は明かゝる春の海 几董
紫に箱根連山暮の春 河野美奇
紫に蜆のとるゝ氷かな 野村喜舟 小石川
紫に裏表ある桔梗かな 島田左久夫
紫に雪暮れいまも恋女房 品川鈴子
紫に霞みて暮るゝ都かな 霞 正岡子規
紫のあやめを狂ひ花と呼び 阿部みどり女
紫のがらすにうつる春日かな 春日 正岡子規
紫のくらげと泳ぐ月あかり 蔵巨水
紫のさまで濃からず花菖蒲 久保田万太郎 草の丈
紫のさむる茄子のあつさ哉 正岡子規
紫のさるすべりかやちりしける 高木晴子 晴居
紫のところもありて秋の水 大峯あきら
紫のひしこにかつや唐からし 旧国
紫のふつとふくらむ桔梗哉 桔梗 正岡子規
紫のぶだうを置いて雨の音 細見綾子 黄 瀬
紫のほむらを抱きて桜炭 福嶋千代子
紫のもの紅に末枯るる 風生
紫のゆかり尋ねん筆の海 正岡子規
紫のグラジオラスや雨静か 二階堂大河原
紫の一本見えぬ夏野哉 夏野 正岡子規
紫の一色を持し茄子の花 宇咲冬男
紫の上もめしけん傀儡師 蓼太
紫の丘の起伏はラベンダー 岩崎照子
紫の人ともいはれ立子の忌 星野 椿
紫の似合ふ姉妹や濃竜胆 今泉貞鳳
紫の匂ひ袋を秘めごころ 後藤夜半
紫の匂袋を秘めごころ 後藤夜半 底紅
紫の厚きを都忘とて 後藤夜半 底紅
紫の塵になりけり鉄線花 八木林之介 青霞集
紫の塵やつもりて問屋もの 炭 太祇 太祇句選
紫の夕山つゝじ家もなし 子規句集 虚子・碧梧桐選
紫の夜着にくるまる春の宵 水落露石
紫の少しほぐれし桔梗の芽 梧桐青吾
紫の山へ黄金の春日入る 大峯あきら 宇宙塵
紫の幕紫の総菊黄なり 京極杞陽 くくたち上巻
紫の心を掠めクロッカス 後藤夜半
紫の数かちゆきぬスヰートピー 星野立子
紫の斑の佛めく著莪の花 高濱虚子
紫の斑の賑しや杜鵑草 轡田進
紫の映山紅(つつじ)となりぬ夕月夜 鏡花
紫の春著の似合ふ娘に育ち 岩男微笑
紫の時雨の空もありにけり 大峯あきら 宇宙塵
紫の水も蜘手に杜若 杜若 正岡子規
紫の氷かなしや虎落笛 川端茅舎
紫の河浮き沈む冬筏 横光利一
紫の泡を野に立て松虫草 長谷川かな女
紫の泡野に立てゝ松虫草 長谷川かな女 花 季
紫の泪か露か燕子花 杜若 正岡子規
紫の流紋ゑがく海の崖切り立てり君なき胸きりたてり 春日井建
紫の淡しと言はず蘭の花 後藤夜半 底紅
紫の火をともしけり春の夕 春の夕 正岡子規
紫の火を燃やさんと精神科医 阿部完市 証
紫の灯をともしけり春の宵 春の宵 正岡子規
紫の燕の翼の下に貧し 古館曹人
紫の片かげ作る伏屋かな 上野泰 佐介
紫の玉累々と葡萄哉 葡萄 正岡子規
紫の白へ流れて白菖蒲 林翔 和紙
紫の立子帰れば笹子啼く 川端茅舎
紫の素描にしたり蘭一花 文挟夫佐恵 黄 瀬
紫の翅はかくせり女蟷螂 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
紫の背びれ尾びれや桜鯛 上崎暮潮
紫の花に刺ある薊哉 薊 正岡子規
紫の花の乱れやとりかぶと 惟然
紫の苞そりかへり常山木の実 拓水
紫の菖蒲に妻と入れ替る 古館曹人
紫の菫咲くなり野雪隠 菫 正岡子規
紫の葡萄を搬ぶ舟にして夜を風説のごとく発ちゆく 安永蕗子
紫の蒲団に座る春日かな 春日 正岡子規
紫の蕾より出づ銀の葦 竹下しづの女句文集 昭和十一年
紫の藤ののれんにかこまれて 中村絢子
紫の藤の細工や蜆殻 蜆 正岡子規
紫の藤の雨滴を掌に享くる 吉金白水
紫の被布をこのみて老にけり 池田歌子
紫の袱紗をしごく冬襖 百瀬ひろし
紫の袴をつけし春日かな 春日 正岡子規
紫の許(ゆ)りて紫式部の実 後藤夜半
紫の辱かしからぬ寒あやめ 後藤夜半 底紅
紫の鉢巻歩々に春の熔岩 原裕 葦牙
紫の闇となりゆく牡丹焚く 市野沢弘子
紫の雨の中なる紫陽花寺 田中三郎
紫の雲に鳶舞ふ春日哉 春日 正岡子規
紫の雲の上なる手毬唄 杉田久女
紫の雲も出て居る涅槃哉 涅槃会 正岡子規
紫の雲起きて来て春の雷 細見綾子 花 季
紫の雲間を漏るゝ春日かな 春日 正岡子規
紫の露とんで鹿通りけり 岡井省二
紫の頭巾に恋をせし昔 阿部みどり女
紫はリラのむらさきまでありぬ 後藤夜半 底紅
紫は人を好みて秋袷 田中弥寿子
紫は僧衣に如かずうつぼ草 神尾久美子 桐の木
紫は古き世の色式部の実 山本鬼園
紫は山高き色龍胆摘む 竹下陶子
紫は師を偲ぶ色花菖蒲 福田富き代(春郊)
紫は暗しと思ふ鉄線花 下村梅子
紫は水に映らず花菖蒲 高濱年尾
紫は衣桁に昏し秋の寺 原裕 青垣
紫は都忘よ花氷 平野青坡
紫も白もさびしやかきつばた 加地北山
紫も紅も江戸前切山椒 後藤比奈夫 めんない千鳥
紫も黄も秋蝶のさまに飛ぶ 山田弘子 螢川
紫ゆらす風青空になかりけり 阿部みどり女
紫をん咲き静かなる日の過ぎやすし 水原秋櫻子
紫を俤にして嫁菜かな 松根東洋城
紫を卯つ木の実とす鶲かな 野村喜舟 小石川
紫を玉にぬく実の糸桜 桜の実 正岡子規
紫を目指して来れば烏頭 市村究一郎
紫を着て枯芝にをとめさぶ 太田鴻村 穂国
紫匂いしむさしのくにの文房具店 阿部完市 純白諸事
紫咲き中年過ぐること早し 菖蒲あや
紫女よりも清少が好き式部の実 福島壺春
紫宸殿南廂の下蟷螂老ゆ 川崎展宏
紫木蓮くらき生家に靴脱ぐも 角川源義
紫木蓮たけなはなりしがそれも散り 高澤良一 宿好
紫木蓮アンリ・ルソーの馬車とまる 西岡正保
紫木蓮夕べの水の色吸へり 原田青児
紫木蓮幕あくように陽が射して 小出昌子
紫木蓮戸隠村は膨らめり 栗生純夫 科野路
紫木蓮曇り日の瞳の少女達 吉田未灰
紫木蓮滝ノ口にも腰越にも 高澤良一 宿好
紫木蓮職退く期を図りをり 上野さち子
紫木蓮胎内仏を世に出すな 鳥居美智子
紫木蘭谷間に咲いて水まつり 柴田白葉女 花寂び 以後
紫根草はひそひそ咲きに八幡平 文挾夫佐恵
紫水晶輝りに春暁嶺の霧氷 文挟夫佐恵 雨 月
紫禁城の土塀の外の柿一枝 伊藤敬子
紫禁城を仰ぎて行けば陽は澄めり一線の上に次の門次の門 川田順
紫禁城残暑は紅き色をもつ 磯 直道
紫禁城熟れるざくろにたれも触れぬ 渋谷道
紫禁城秋日乳房のごと落つる 皆吉司
紫禁城高野の僧に会ひて涼し 杉本寛
紫花もありまづ初生りへ茄子傾ぐ 香西照雄 素心
紫苑とは紫そつけなかりけり 後藤夜半 底紅
紫茉莉の花に殘暑の日影かな 残暑 正岡子規
紫草の花の白さを風のなか 飴山 實
紫荊おのれを通す色見たり 高澤良一 燕音
紫荊ひしめき咲きて垣の内 吉村寒雷
紫荊一方的に非を難じ 高澤良一 素抱
紫荊不承々々に咲き出でぬ 山田みづえ
紫荊不景気づらをする勿れ 高澤良一 随笑
紫荊咲いて足枷見ゆる日々 高澤良一 寒暑
紫荊咲きチャイナドレスを着てみたし 星野紗一
紫荊嘘で固めた戦して 高澤良一 素抱
紫荊噴ける莟の箆棒な 高澤良一 さざなみやつこ
紫荊女もすなる頬かむり 猿橋統流子
紫荊妻にをんなのさかりかな 島谷征良
紫荊悪女やさしく手を握る 近藤静輔
紫荊戦はアラーの思し召し 高澤良一 素抱
紫荊枝の元末余すなく 西山泊雲 泊雲
紫荊花の重さを見せざりし 稲畑汀子
紫薇岸のわかれをくりかえし 渋谷道
紫薇花下に極楽おもへとや 高澤良一 随笑
紫蘭いま紅をふかめて雨の中 雨宮抱星
紫蘭もて訪ひ来し人も逢はしめず 加藤楸邨
紫蘭咲いていささかは岩もあはれなり 北原白秋「竹林清興」
紫蘭咲き満つ毎年の今日のこと 高浜虚子
紫蘭咲き軒端流るる水の音 大堀鶴侶
紫蘭咲く艶めきおりし屋根瓦 榎本眞千
紫蘭咲く蟻の巣の上ふうわり跳ぶ 堀之内長一
紫蘭咲く雨上りたる石に觸れ 香下寿外
紫蘭掘る袴の裾に湿る土 長谷川かな女 花 季
紫蘭散華いまし飛翔の葉ぶりのまま 堀 葦男
紫衣の僧いづこへ通ふ蝶の昼 柿本多映
紫陽や崇りに慣れて人栖める 柑子句集 籾山柑子
紫陽花や紫尽きて浅緑 紫陽花 正岡子規
紫陽草や薮を小庭の別座敷 松尾芭蕉
紫香楽や芽吹く山肌須恵の肌 加倉井秋を
紫高々茜しをるが瞳になつく 太田鴻村 穂国
緋袴と紫袴弓始 塩川雄三
緑蔭の深き紫なすあたり 相生垣瓜人 微茫集
縮緬の紫さめし蒲團かな 蒲団 正岡子規
縮緬の紫さめし衾かな 衾 正岡子規
罅多き塀もて囲み紫木蓮 和田悟朗 法隆寺伝承
罌粟咲きぬ紫鬱とくもりつゝ 水原秋櫻子
群青抜けば立枯れの幹濃紫 香西照雄 対話
聖護院もの紫野もの茎立てり 百合山羽公
花の名の紫羅欄花を愛しけり 鈴木栄子
花乏し藤の紫柔毛たつ 石橋秀野
花冷えや孔雀の紫金夜をめげず 飯田蛇笏 霊芝
花紫荊帰化陶工の寄せ墓に 奥村喜代子
花菖蒲大淀と咲く濃紫 長谷川かな女 雨 月
花韮に紫の影ひそみけり 稲岡達子
花韮の紫うすき翳りかな 岸 典子
芳草や黒き烏も濃紫 高浜虚子(1874-1959)
英連邦戦没者墓地紫木蓮 池田秀水
茄子の木の紫ふかむ信濃川 松村蒼石 雁
茄子の種紫ならず蒔きにけり 今井千鶴子
草たけて紫華鬘色うすし 川島彷徨子
草籠に秋暑の花の濃紫 飯田蛇笏 山廬集
草藤の阿蘇の紫秋近し 石 昌子
菖蒲咲けり桶に紫白の遅速無く 渡邊水巴 富士
菜の花や一葉は寒の濃紫 渡辺水巴 白日
萱を刈る紫がかって神懸って 渋谷道
落葉松の芽の紫に雲遊ぶ 西村公鳳
葉と落ちて紫金まどかや金亀子 原石鼎
葉牡丹のそらざまの葉の濃紫 下村槐太 光背
葉牡丹の影のほとりの紫に 米沢吾亦紅 童顔
葉牡丹や紫衣重ねても貴女とせず 香西照雄 素心
蓮根掘る秋晴れを市烟紫に 安斎櫻[カイ]子
蓮華草鞋踏み込む秋の紫宸殿 巽恵津子
蕗の薹紫を解き緑解き 後藤夜半 底紅
藤棚の風は紫にて候 山下しげ人
藤棚や雨に紫末濃なる 鏡花
藥草の花紫に霜早し 霜 正岡子規
藥草の花紫に霜白し 霜 正岡子規
虚子にして詠める紫蘭の句を知るや 高澤良一 宿好
虚子の忌の白に遅れて紫木蓮 大井雅人
虹の根に紫つかむ慈姑掘り 加藤知世子 花寂び
蚕豆の花だよ紫の眼がある 北原白秋
蚕豆の花紫の四月かな 三木かめ
蛤の薄紫に乾きけり 虚子
蜆は紫衣浅蜊は幇斗目着たりけり 柳川春葉 ひこはえ
蝌蚪ふゆる音なきものは紫に 古舘曹人 能登の蛙
裏口に菖蒲紫ガス屋です 柴崎左田男
裾野路や薄紫の春りんだう 瀬戸口民帆
襲ねたる紫解かず蕗の薹 後藤夜半
西の京雨となりたる紫木蓮 大山百花
西日して薄紫の干鰯 杉田久女
訣るるはことばぼろぼろ紫羅欄花 山崎聡
谷の蝶紫光を放ち交みをり 石原八束 『藍微塵』
赤富士の雲紫にかはりもし 阿波野青畝「紅葉の賀」
赤帝の座は定まりぬ紫禁城 磯直道「初東風」
起し絵の山紫水明五色摺り 伊藤瓔子(ひいらぎ)
通草熟れ古代紫日のかげり 佐藤郁子
遊蝶花紫濃きが翅たたむ 文挟夫佐恵 遠い橋
遠山のそのまま秋や浅紫 阿部みどり女
遠景の雪は紫夜は聖し 後藤比奈夫 めんない千鳥
遮断機の真向ふ紫木蓮の花 柴田白葉女 『夕浪』
鄙振りに紫に染め負真綿 田村鬼童
野の色に紫加へ濃りんどう 稲畑汀子 汀子句集
野牡丹に雨の紫傘雨の忌 島山允子(海原)
野牡丹の古代紫たぐひなし 五十嵐播水
野牡丹の散りし紫浄土かな 勝又一透
野牡丹の総紫の花粉まで 大橋敦子 手 鞠
鉄線の終の一花も濃紫 松岡ひでたか
鉄線の花の紫より暮るゝ 五十嵐播水
鉄線の蕊紫に高貴なり 高浜虚子
鉄線花に紫衣の紫憑きにけり 後藤比奈夫 祇園守
鍋洗ひ紫の露に溺るゝや 小林康治
鎌倉の空紫に花月夜 松本たかし
鎌倉や紫*苑畠に寺の影 有働亨
鐘に入るまでの少女を紫荊 竹中宏 句集未収録
長江の千紫万紅春夕焼 松崎鉄之介
長雨や紫さめし花大根 橙黄子
門川に濯ぎ紫に高く干し 岸風三楼 往来
除草婦にロベリヤの紫が近くあり 阿部みどり女
陶器めく郁子に紫一寸入る 高澤良一 随笑
雛の日や古紫なる本の出来 長谷川かな女
雛会式ふつと消えたる紫衣の尼 文挟夫佐恵
雛棚や幕紫に桃赤し 雛祭 正岡子規
雨の日は雨の紫蘭を玻璃越しに 高澤良一 宿好
雨を呼ぶ紫よ黄よ大花野 山田弘子
雨を見て眉重くゐる紫蘭かな 岡本眸
雨晴れて庄屋の茄子も紫に 蘇山人俳句集 羅蘇山人
雪ながら山紫の夕かな 雪 正岡子規
雪渓に紫曳いて海迫る 古館曹人
雪間より薄紫の芽独活哉 芭蕉
雲間より垂れたる藤の濃紫 福田蓼汀 山火
電燈に笠の紫布垂れ朝寝かな 龍胆 長谷川かな女
霜融きつつ紫帯びぬ教への庭 香西照雄 素心
霧じめりせし紫や藤袴 射場 秀太郎
露けぶるむらさき捧げ紫*苑立つ 松本たかし
青と見れば紫光る海鼠かな 東洋城千句
青もかち紫も勝つ物芽かな 中村草田男
面上げて紫禁城あり菱を採る 原田青児
頂きに蟷螂のをる紫かな 上野泰 佐介
風に張る氷紫ならんとす 高澤良一 随笑
風の中紫蘭の内緒話かな 高澤良一 寒暑
風塵に紫華鬘幾菩薩 木村蕪城
食ふべう紫匂ふ蒲桃かな 尾崎紅葉
食罰の紫にがき葡萄かな 尾崎紅葉
養蜂家族いま紫の野花に暮す 金子皆子
香をつなぐ白と紫ライラック 稲畑汀子
馬鈴薯の花の紫忘我とは 児玉悦子
高原や桔梗ゆゝしき濃紫 高橋淡路女 梶の葉
鳥交り紫朱をうばひけり 龍岡晋
鳥兜その紫をわたくしす 柿本多映
鴫黒く不二紫のゆふべ哉 鴫 正岡子規
鶯や筑波紫の朝ぼらけ 鶯 正岡子規
鶯や紫川にひびく声 野村喜舟
鹽買ふや紫がかる冬日暮 細見綾子
黄昏れて家ぬち灯る紫かな 尾崎迷堂 孤輪
黒きまで紫深き葡萄かな 正岡子規
黒キマデニ紫深キ葡萄カナ 葡萄 正岡子規
黒紫光われが繁殖しつつあり 阿部完市 証
●萌黄 
あかつきのひぐらし萌黄いろに啼く 原石鼎 花影以後
あぢさゐの萌黄の毬の照り合へる 深見けん二 日月
すごろくや山は萌黄に河は藍 籾山梓月
とぢ糸の萌黄食ひ入る布団かな 温亭句集 篠原温亭
みどり子の萌黄うるはし枕蚊屋 几董「晋明集四稿」
塀ぎはに萌黄のしるき小春かな 室生犀星 魚眠洞發句集
寐ごゝろや萌黄の蚊屋の薄月夜 松岡青蘿
山々は萌黄浅黄やほとゝぎす 子規句集 虚子・碧梧桐選
山繭の目覚め近づく萌黄かな 加藤知世子
御代の春蚊屋は萌黄に極りぬ 越人
朝市の糸葱折れ菜つゆも萌黄 文挟夫佐恵 雨 月
桑畑を萌黄の雨のとほりけり 岡本まち子
白樺林萌黄に雲を流したり 臼田亞浪 定本亜浪句集
競ひ出て藪穂が萌黄梅の辺に 香西照雄 素心
紅も萌黄も見ゆる木の芽かな 木の芽 正岡子規
綴糸の萌黄凹みし布団かな 吉屋信子
芽柳の浅黄萌黄を風の梳く 阪尻勢津子
裾花の鬼女の裳裾はいま萌黄 伊藤敬子
赤薔薇や萌黄の蜘の這ふて居る 薔薇 正岡子規
釣釜や佐保姫という萌黄菓子 森田金峰
馬迄も萌黄の蚊屋に寝たりけり 一茶 ■文政二年己卯(五十七歳)
高々と萌黄の空に夕紅葉 前田普羅 能登蒼し
鶯や慈姑煮上る薄萌黄 小澤碧童 碧童句集
●萌葱 
寒ふかき能装束の萌葱かな 毛利節子
十月の萌葱のべたりうまごやし 木津柳芽 白鷺抄
●桃色 
あす覚める眠りかみがく桃色ひづめ 三橋鷹女
いやな日の木に桃色の花咲ける 津沢マサ子
えいっとばかり桃色に桃の花 池田澄子 たましいの話
まだ起たぬ子鹿の耳の桃色に 吉川康子
もも色の薬まろばせ春の風邪 森本節子
もも色の袋に入りて切山椒 下田実花
コロンボの沙羅 桃色に 海荒れだす 伊丹公子 パースの秋
一筆桃色(みょうがのこ)死者に一重のまぶたはあり 折笠美秋 虎嘯記
五月わが桃色の肌いくとせぶり 赤城さかえ句集
冷肉の芯の桃色雷雨来る 田川飛旅子
処暑の花空もも色にして溢れ 長谷川かな女 花寂び
剪定や昏れてより空桃色に 増田斗志
名月やうす桃色の猫の舌 西村冨美子
土間口に夕枯野見ゆ桃色に 金子兜太 少年/生長
大蚯蚓空に桃色たなびけり 磯貝碧蹄館
形代に桃色人に夢多き 後藤比奈夫 めんない千鳥
新涼の素足桃色蕎麦の花 江川邑節
春はまだ浅く洗面器の桃いろ 高澤良一 素抱
望郷の大あくびして桃色カバ 岸本マチ子
木を植ゑて風桃色に卒業す 小嶋治子
桃いろ多き明治の駄菓子秋風に 古沢太穂
桃の節句獣の舌も桃色に 加藤かけい
桃咲いて村桃色に沈みけり 鈴木真砂女
桃咲けば桃色に死が匂ひけり 結城昌治
桃色に教会灯る五月闇 いさ桜子
桃色に雲の入日やいかのぼり 其木 古句を観る(柴田宵曲)
桃色の夜空を誰のいかのぼり 柿本多映
桃色の布巾かけたり蓬餅 癖三酔句集 岡本癖三酔
桃色の火事迫りくる木の芽かな 齋藤愼爾
桃色の舌を出しけり大根馬 池内友次郎 結婚まで
桃色の貝の死にゆく時間見ゆよごれつつ沖に攫はれはじむ 河野愛子
桃色の馬穴が雪だるまの帽子 高澤良一 随笑
桃色の骨のあるべし磯千鳥 中尾寿美子
桃色は弁天様のはちすかな 蓮の花 正岡子規
桃色を重ねてさくら空に入る 松山瑛子
桃色沙羅 受ける 諸手を器とし 伊丹三樹彦 写俳集
歳晩の夢のかけらの桃色鍵 横山白虹
氷に上る魚は桃色吐息して 宮丸千恵子
白桃の種は桃いろ孤を灯す 梶山千鶴子
真中濃く乙女椿の桃色に 原石鼎 花影以後
罪ありしは桃色時代七変化 香西照雄 素心
蚊とんぼ歩く微熱の空の桃色を 阿部完市 証
蝮出で野に桃色の花ばかり 長谷川櫂
遂に/谷間に/見出だされたる/桃色花火 高柳重信
遂に谷間に見出だされたる桃色花火 高柳重信
金玉糖桃色の餡あからさま 小川春休(童子)
金髪にして桃色の毛絲編む 京極杞陽 くくたち上巻
雀蛾の桃色の胴旋回す 石塚友二
雪深し火事桃色に迫りくる 秋澤猛
青芝に犬の舌桃色に垂れ 池内友次郎
魚は氷に上り土竜は桃色に 小島健 木の実
鵙が奏でて桃色の沖遠くあり 田川飛旅子
黒人の掌の桃色にクリスマス 西東三鬼(1900-62)
●山吹色
●雪白 
ハンカチーフ雪白なりや富士曇る 岸田稚魚
優曇華や雪白の布灯いろさす 加藤楸邨
児のケープ雪白にして聖母祭 飯田蛇笏 霊芝
冬濤を摶つ雪白の大き翼 内藤吐天 鳴海抄
切子見る雪白界を尾の内に 皆吉爽雨
寒泳を了へ雪白のタオル纒ふ 内藤吐天 鳴海抄
恵方嶺噴煙もまた雪白に 上田五千石
枯山の上に忽として一雪白 栗生純夫 科野路
毛衣の雪白他の子の上ぞ 石塚友二 光塵
眼裏に雪白満たすメスの下 加藤知世子 花寂び
碑の陰の碑に黐の花雪白に 加藤知世子 花寂び
薄暑よし受贈の句集雪白に 亀井糸游
赤石の秀の雪白は尺余のみ 栗生純夫 科野路
躑躅照る中雪白のザビエル碑 下村ひろし 西陲集
雪白に劣らじと葛晒しけり 江口井子
雪白に命薄きを妻と称ぶ 斎藤玄 クルーケンベルヒ氏腫瘍と妻
雪白の手袋の手よ善き事為せ 中村草田男
雪白の晒を緊めて裸押 檜 紀代
雪白の牡丹に見たり円光を 瀧春一 菜園
雪白へ泣きじやくる吾子シヤツ干す妻 飴山實 『おりいぶ』
●利休色 
遠山は利休色して鳥曇 岩田洋子
●瑠璃 
*ほうぼうのつばさに瑠璃の斑を隠す 大屋達治
あぢさゐにうづまりて死も瑠璃色か 稲垣きくの 牡 丹
あぢさゐの瑠璃極まらで褪せゆくや 林原耒井 蜩
あぢさゐの瑠璃流しこむ水の音 稲垣きくの 牡 丹
いちご熟れ瑠璃空日々にふかき冬 飯田蛇笏 春蘭
いぬふぐり瑠璃をぶちまけ咲き足らふ 西本一都 景色
いのちなり露草の瑠璃蓼の紅 石田波郷
いもやけて畑火の午天瑠璃ふかし 飯田蛇笏 春蘭
うたた寝すつつじの上の瑠璃蜥蜴 高澤良一 寒暑
うぶうぶと瑠璃光如来ほととぎす 鷲谷七菜子 花寂び
うら枯や咲くつゆ草の瑠璃の雨 渡辺水巴
おほみそら瑠璃南無南無と年新た 飯田蛇笏 春蘭
かはせみの瑠璃の一閃水温む 佐長芳子
かはたれの秋ばら瑠璃の色そへて 角川源義
きつつきや瑠璃沼霧の底に醒む 千代田葛彦
こだまして森をはみだす瑠璃のこゑ 唐澤南海子
この沢やいま大瑠璃のこゑひとつ 水原秋櫻子
しらびその霧の霽れつつ瑠璃鶲 窪田佳津子
その色の天作さしめよ雨の瑠璃鳥 栗生純夫 科野路
ちちろ虫「月光菩薩さまは瑠璃浄土」 辻桃子
つゆくさの瑠璃はみこぼす耕馬かな 西島麦南
とかげ瑠璃色長巻く日本の帯銀無地 三橋鷹女
なだれたる祗の径にも瑠璃一華 前田普羅 飛騨紬
のぶどうの孕む瑠璃いろ波羅蜜多 瀬川公馨
ひぐらしや塔暮れのこる瑠璃光寺 浜 敦子
ひたぶるに大瑠璃の声光前寺 皆川盤水
ひとつぶの瑠璃ころげいづ龍の玉 飴山 實
まち針の頭の瑠璃も供養かな 野村喜舟
みつめあふ秋天の瑠璃沼の瑠璃 鈴木貞雄
もの云ふと詩が消えさう瑠璃沼澄む 加藤知世子 花寂び
やどかりの瑠璃の全身出して羞づ 加倉井秋を
やぶれがさ打つ木しづくか小瑠璃なく 金尾梅の門
ゆきぞらの下にて瑠璃のいらか華奢 久保田万太郎 草の丈
より速く高きの覇者は瑠璃揚羽 筑紫磐井 花鳥諷詠
わだつみは雲放ちつぐ瑠璃揚羽 鍵和田[ゆう]子 浮標
ガラス戸を全身で打つ瑠璃*たては 木村久美子
シートベルトして大瑠璃なり遠く 市野記余子
ピッケルで指して目に追ふ瑠璃鶲 研 斎史
ブナ純林大瑠璃のこゑさきざきに 中戸川朝人
ラベンダー畑や夕日を瑠璃色に 青柳志解樹
ルリ貝の瑠璃ひびき合ふ夏館 石崎多寿子
一と所瑠璃色たもち滝秋冷 鍵和田[ゆう]子 未来図
一天の瑠璃を張りたり鵙の声 伊東 肇
一茎に龍髯の実の瑠璃七ツ 五十嵐播水 播水句集
一蝶に雪嶺の瑠璃ながれけり 川端茅舎
三ツ峠湖へと下る瑠璃鶲 峠素子
三光鳥大瑠璃小瑠璃閑古鳥 黒田杏子 花下草上
三角点瑠璃鶲ゐて声澄めり 山谷春潮
下京の仁王の肩の瑠璃蜥蜴 坪内稔典
中の橋過ぎて瑠璃鳴く高野かな 岩木あやこ(萌)
二株の葉牡丹瑠璃の色違ひ 西山泊雲 泊雲句集
五月冷ゆ薬師瑠璃光王の前 神尾久美子 桐の木
五色沼その瑠璃沼の明け易き 山口青邨
交るとき瑠璃鳥大き瑠璃と凝る 栗生純夫 科野路
仏唇のいと濃き方へ瑠璃揚羽 小枝香穂女
伸び縮む鳩の瑠璃首春隣 高澤良一 素抱
佐保川やペルシャ瑠璃透くいぬふぐり 小檜山繁子
冬の瑠璃蝶密着の翅開き初む 中村草田男
冬草の一つに瑠璃の玉を秘む 上村占魚 『石の犬』
出土せる坏の瑠璃いろ露けしや 青木道子
初秋を告げて湖水の瑠璃深し 今橋眞理子
北上の瑠璃に流れて雪晴るる 及川あまき
千姫の墓のあぢさゐ瑠璃深む 井上千恵子
去就いまだ地図より翔ちし瑠璃揚羽 河野多希女 月沙漠
嘲笑うための瑠璃色臭木の実 鈴木光彦
嘴上げて唄ふ瑠璃鳥軽井沢 伊藤敬子
噴煙の或る時瑠璃に大つつじ 長谷川かな女 牡 丹
囀に色あらば今瑠璃色に 西村和子 夏帽子
囀の機嫌の瑠璃に筆とむる 大橋敦子
囀や雨やみ瑠璃の夜明空 岡田 日郎
囀りに色あらば今瑠璃色に 西村和子
囀りや雨止み瑠璃の夜明空 岡田日郎
四つ目垣見えかくれして瑠璃鶲 本木とし子
土砂降りに明けて朝顔の瑠璃ひとつ 水原秋櫻子
声まろぶ大瑠璃鳥樹海かたむくに 皆吉爽雨 泉声
壷焼や瑠璃を湛へし忘れ潮 水原秋櫻子
夏潮の瑠璃しんしんと菊が浜 鈴木しげを
夏蝶の息づく瑠璃や楓の葉 水原秋櫻子
夜明けはや大瑠璃の声森深く 内田 圭介
夢殿を立ち出でて逢ふ瑠璃柳 大橋敦子 匂 玉
大瑠璃に大門の霧晴れにけり 小畑晴子
大瑠璃に耳澄ます時みな詩人 永岡うろお
大瑠璃のこゑころがるや白馬岳 染谷佳之子
大瑠璃のこゑや入江の村しづか 森田かずを「金環蝕」
大瑠璃のこゑ谷空に広がりぬ 丹羽香野
大瑠璃の処替へつつ啼き継げる 小杉伸一路
大瑠璃の声すと深き谿覗く 橋本記縫恵
大瑠璃の声の涼しき立石寺 古賀まり子
大瑠璃の声ひとりじめ露天風呂 山田一恵
大瑠璃の声より明くる御岳山 佐藤 忍
大瑠璃の声をまぢかに書く旅信 冨樫藤予
大瑠璃の声聞く窓を開け放ち 山口ひろし
大瑠璃の声諸鳥に交はらず 橋本 千秋
大瑠璃の谺をかへす虚空かな 加藤耕子
大瑠璃の谿童顔をためらへり 飯島晴子
大瑠璃の鳴き移り来る呂丸の忌 粕谷容子
大瑠璃やまだ濡色の牧の空 平賀扶人
大瑠璃や一渓制し鳴き止まず 岡田日郎
大瑠璃や入江の深さ眼下にす 目黒十一
大瑠璃や山毛欅に倒るる山毛欅の影 根岸 善雄
大瑠璃や岩の鎮もる奥之院 青麻やす子
大瑠璃や岩壁すでに夜明けたる 石野冬青
大瑠璃や岳見る頬を霧が打つ 野中亮介
大瑠璃や峯はなれゆく明の雲 高野 教子
大瑠璃や峰より明くる奥鞍馬 長谷川草洲
大瑠璃や島にオンコの原始林 阿部幽水
大瑠璃や朴の梢を霧動き 渡辺夏舟
大瑠璃や海へせり出す溶岩の原 加藤青女
大瑠璃や渓に鉄泉硫黄泉 鈴木麻璃子
大瑠璃や絶壁攀づる人の点 有働 亨
大瑠璃や羊歯に細りし牧の道 藤澤 石山
大瑠璃や草川音もなく流れ 小川斉東語
大瑠璃や雲より出づるダムの壁 岡田 貞峰
大瑠璃をあちこちに聞く梓川 杉本寛
大瑠璃鳥の仰がれて枝かへにけり 堀口星眠 営巣期
大瑠璃鳥の鳴くと登れば岩仏 市村究一郎
大瑠璃鳥や白灯台に灘の照り 岡部六弥太
大華厳瑠璃光つらら打のべし 川端茅舎
天壇の瑠璃の歳月秋の天 伊藤敬子
天壇の遅日の空の瑠璃瓦 福井圭児
天蚕虫瑠璃光りしてあるきけり 飯田蛇笏 霊芝
天高し飛ばねば見えぬ蝶の瑠璃 香西照雄 素心
天高し龍の踊れる瑠璃瓦 古賀まり子
奥の湯へすぐる岩の門瑠璃鳥高音 皆吉爽雨
子蜥蜴に泉がわかつ瑠璃の色 三谷昭 獣身
守門攀づまづ瑠璃一華咲くところ 岡田日郎
安達太良の瑠璃襖なす焚火かな 加藤楸邨
安達太郎の瑠璃襖なす焚火かな 楸邨
寒梅や瑠璃きはめたる塔の天 川澄祐勝
寸刀のごと苔にあり瑠璃蜥蜴 桂樟蹊子
小瑠璃なき雨の木立の暗からず 和田 祥子
小瑠璃の巣手にとりしとき小瑠璃鳴く 新井 石毛
小瑠璃鳴きから松の穂のきらめけり 棗美沙子
小瑠璃鳴き朝は雫す森の径 原柯城(馬酔木)
小瑠璃鳴き止めばからまつ山暮るる 青柳志解樹
小瑠璃鳴き瀧のひびきの遠からず 中村 省一
小瑠璃鳴き羊歯のそよぎのひろごれる 中村信一(馬酔木)
小瑠璃鳴き胡桃も冷えしヨーグルト 澤田 緑生
小瑠璃鳴き風吹きはらふ山毛欅の雨 中村信一
小瑠璃鳴くまだ日の射さぬ谷の宿 八十嶋祥子
小瑠璃鳴く山田の苗は水に立ち 岩村牙童
就中縁まで瑠璃の朝顔や 久米正雄 返り花
尾の先の遅れがちなり瑠璃蜥蜴 片山由美子 風待月
尾を曲げて瑠璃の濃くなる糸蜻蛉 堀口星眠 樹の雫
屋根の上の瑠璃濃く木の芽ふきこぞる 川島彷徨子 榛の木
山の日の凛々として木の実瑠璃 内藤吐天 鳴海抄
山垣へ葡萄瑠璃光蕩揺す 木村蕪城 寒泉
山巓の雲離れゆく瑠璃の声 唐橋正伊
山影を抜けしとき瑠璃黒揚羽 高橋笛美
山暮るるまで白樺に小瑠璃鳴く 石原栄子
山葵咲く懸崖づたひ瑠璃鳥一羽 橋本鶏二
山門を入る瑠璃揚羽つるみつつ 松尾隆信
山陰の暗き杣路や瑠璃鶲 長谷川草洲
山風や瑠璃深めゆく式部の実 太田 蓁樹
岨の空瑠璃極まりて梅に翳 久米正雄 返り花
峡の水打つかはせみの瑠璃つぶて 平井さち子 鷹日和
崖すみれ神の遊びし淵瑠璃に 鍵和田[ゆう]子 未来図
嶺雲の影濃き朝を瑠璃鶲 小澤克己
川に野の空の瑠璃行く野分かな 小池文子 巴里蕭条
干葡萄瑠璃天蓋に星透き来 小檜山繁子
年守るとさても瑠璃香えんま香 藤田湘子 てんてん
底なし沼忽と瑠璃なす深山霧 鷲谷七菜子
引鶴として天涯の瑠璃に帰す 有馬草々子
引鶴の瑠璃美しく飛び去りぬ 川西加古
彫刻のうしろ大瑠璃こゑみがく 河野多希女「卑弥呼の風」
微風湧くなり朝顔の瑠璃の淵 高澤良一 寒暑
手にふれば瑠璃やくもりて初茄子 大江丸
散る照葉火口湖深く瑠璃なせり 角川源義
新雪の蔵王瑠璃光浴びて聳つ 小倉英男
旅の私に大瑠璃はりついて取れぬ 若森京子
日光月光瑠璃光如来花会式 窪田あさ子
日矢きはだつ楢幾樹過ぎ瑠璃鳥また鳴く 中戸川朝人 残心
春禽の瑠璃の羽立てて嘴曲ぐる 水原秋桜子
昼暗き走り根の道小瑠璃鳴く 茂木敏子
晩年や瑠璃色の飴口中に 塚本邦雄 甘露
晴れ渡る*ぶなの樹海に小瑠璃鳴く 長谷川草洲
晴雪へ瑠璃なすわれの影法師 篠田悌二郎 風雪前
暮れ残る田水明りに小瑠璃鳴く 鈴木麻璃子
曝涼の色鮮やかに瑠璃の杯 龍頭美紀子
月読の山は瑠璃晴れ花芒 粕谷容子
朝靄の山に立ちこめ小瑠璃鳴く 雨宮美智子
朝顔の瑠璃に愕く燕かな 原石鼎
朝風に小瑠璃下り来し水場あり 望月たかし
木曽川の瑠璃なす渕の番鴨 小倉眞子
杉の香や霧の奥より小瑠璃鳴く 沼田淑子
松風の声となりゆく瑠璃鶲 渡辺夏舟
枯原や溝よりたちし瑠璃鶲 銀漢 吉岡禅寺洞
枯芝にまじりし瑠璃の翅こぼつ 石井祥三
柿紅葉貼りつく天の瑠璃深し 瀧春一
梅雨の月光をましぬ瑠璃光院 山口青邨
檣に瑠璃燈懸けよ海の秋 芥川龍之介 我鬼窟句抄
止まらんと瑠璃糸とんぼ間合詰め 高澤良一 燕音
正月の雲のももいろ瑠璃光寺 上野さち子
歯朶くらし小瑠璃のこゑのまろびくる 水原秋櫻子
殻を脱ぐ蝉生誕の翅の瑠璃 小原菁々子
母います瑠璃がしたたる茄子漬 田中束穂
母の日の大瑠璃のこゑ濡れひひく 沼澤 石次
毒蔓の実の瑠璃しるく爽気かな 飯田蛇笏 春蘭
水音を抜けて小瑠璃の声聞こゆ 茨木和生
氷片の瑠璃を流して最上川 松本進
汐浴びの声ただ瑠璃の水こだま 中村草田男「来し方行方」
沖膾天の遠きに瑠璃の山 松瀬青々
沢を吹く歯朶の嵐に瑠璃鶲 山谷春潮
沢風に吹きさそはれて鳴く小瑠璃 山谷 春潮
深山蝶瑠璃虎の尾を選びたる 内山茂
深耶馬の空は瑠璃なり紅葉狩 杉田久女
清明の雨に光れる瑠璃瓦 古賀まり子
渡りきし鴛鴦に瑠璃なす雪の淵 小田 司
湖の瑠璃は掬べず水澄めり 今橋眞理子
湖瑠璃色揚羽は己が影脱けず 河野南畦 湖の森
源泉守る瑠璃鳥の艶みどりさす 田中水桜
漁やめて瑠璃の海底秋祭 百合山羽公 寒雁
瀞小春碧より瑠璃へ舟下り 落合水尾
灌頂や瑠璃瓶中の春の水 松瀬青々
焼きおにぎり小瑠璃に声を促せり 武田仲一
燈心蜻蛉(とうすみ)は瑠璃一色の針とんぼ 高澤良一 素抱
爆心といふも瑠璃なす冬の空 堀内薫
牡丹の芽瑠璃の影生む雪の上 馬場移公子
犬ふぐり瑠璃濃き日なり素陶干す 中村 彌
玉虫のむくろのとはに瑠璃光り 浅井青陽子
玉虫の瑠璃色きよき寒さかな 細見綾子 天然の風
理髪師の瑠璃の鏡にたつ卯浪 佐野まもる 海郷
瑠璃いろの蝶見失ふ滝の空 森藤千鶴
瑠璃てふは眼を洗ふ色犬ふぐり 村上杏史
瑠璃ながす空に一鳥石鼎忌 原コウ子
瑠璃のこゑ厚朴の葉脈ありありと 瀧春一
瑠璃の巣や二人静の咲くほとり 山谷 春潮
瑠璃の穂を吐きつぐ牡丹焚火かな 原 コウ子
瑠璃の空柿の枯枝の曲折に 瀧春一 菜園
瑠璃やなぎ名も美しき月照寺(松江) 角川源義 『冬の虹』
瑠璃光仏閻浮の闇は虫しぐれ 加藤楸邨
瑠璃光寺塔見上げてはやぶ椿 小平披露
瑠璃光院百日紅の花いまだ 田村了咲
瑠璃光院鳳仙花咲き人が住む 山口青邨
瑠璃啼いて天杉の闇渡りゆく 渡部利久子
瑠璃啼いて青嶺閃く雨の中 秋元不死男
瑠璃啼くや暁紅湖にさしわたり 小倉英男「磐座」
瑠璃啼くや浅間の天の底知れず 和泉千花
瑠璃天は固より照らふ紅梅も 草城
瑠璃揚羽わたしのにおい嗅ぎにこよ 鎌倉佐弓 天窓から
瑠璃揚羽蒼空の蒼持ち去れり 木内徹
瑠璃揚羽逢魔が刻を待ちゐたり 石寒太 炎環
瑠璃沼に瀧落ちきたり瑠璃となる 水原秋櫻子
瑠璃沼の塵にひとしき水馬 長田等
瑠璃沼の暁け谺して里鶫 伊藤いと子
瑠璃沼の水に瑕瑾の水すまし 伊藤孝一
瑠璃沼の瑠璃のさざなみ通し鴨 阿部子峡
瑠璃沼の瑠璃乱さずに通し鴨 岡部六弥太
瑠璃沼の瑠璃深めたる照紅葉 鎌田 茂
瑠璃沼の色より生まる糸蜻蛉 草野悦
瑠璃沼を高きより見る蔓手毬 小野宏文(橡)
瑠璃王の東西南北みずけむり 夏石番矢(1955-)
瑠璃盤となりて五月の海遠し 日野草城
瑠璃紺の身をさかしまに鯉の空 久保純夫 聖樹
瑠璃色にして冴返る御所の空 阿波野青畝
瑠璃色のニイスも何の破芭蕉 小池文子 巴里蕭条
瑠璃色の朝顏さくや松の枝 朝顔 正岡子規
瑠璃色の朝顏咲きぬ下厠 朝顔 正岡子規
瑠璃色の水を零せり柿若葉 真鍋つとむ
瑠璃色の海を秋待つ心とし 細見綾子
瑠璃色の空どこまでも冴返る 山田閏子
瑠璃色の空を控へて岡の梅 夏目漱石 明治三十二年
瑠璃色の虫の交めり梅雨晴間 ふけとしこ 鎌の刃
瑠璃草の花瞬かず巣立鳥 堀口星眠 営巣期
瑠璃草の見えずなるまで涼みけり 阿部みどり女
瑠璃草やしとしと曇る浅間山 前田普羅「春寒浅間山」
瑠璃菊や児と一字の塔かなし 西本一都
瑠璃蜆蝶紅蜆蝶ここより美き村か 香西照雄 対話
瑠璃蝶やながるゝごとく維摩経 筑紫磐井 婆伽梵
瑠璃蟻の蛹おそろし空海忌 塚本邦雄 甘露
瑠璃金銀玉虫にさへとほく生き 永高爽
瑠璃鳥に山荘の森貸してをり 伊藤敬子
瑠璃鳥のあそべり散るは紅空木 山谷 春潮
瑠璃鳥の居らずなりたるさるをがせ 不泥
瑠璃鳥の瑠璃隠れたる紅葉かな 原石鼎
瑠璃鳥の色のこしとぶ水の上 長谷川かな女 雨 月
瑠璃鳥の色残し飛ぶ水の上 龍胆 長谷川かな女
瑠璃鳥の谿渡るらし古今集 角川春樹 夢殿
瑠璃鳥の鳴くほの暗き籠の中 藤井 俊一
瑠璃鳥や覗くカメラの中に鳴く 阿部竹子
瑠璃鳥澄める連山の夜をはがしつつ 宇咲冬男
瑠璃鳴いて湖おほらかにあけにけり 近藤貴美子
瑠璃鳴いて青嶺閃く雨の中 秋元不死男
瑠璃鳴きて靄の晴れゆく美女平 朝妻力「晩稲田」
瑠璃鳴くやなほ林中の夕明り 戸川稲村
瑠璃鳴くや一磐石に水くだけ 斎藤優二郎
瑠璃鳴くや日当りながら山の雨 鵜飼登美子
瑠璃鳴くや樹海をはしる霧迅き 吉澤 卯一
瑠璃鳴くや渓に横たふ杉丸太 加納圭子
瑠璃鳴くや熔岩の湿りに掌をおけば 星野麦丘人
瑠璃鳴くや矢野の神山松荒れて 高井北杜
瑠璃鳴くや雨降つて朝みづいろに 大野林火
瑠璃鳴くや頂きけむる越後駒ヶ岳 佐藤草豊
瑠璃鳴けば樹海の霧の澄みゐたり 田中由貴子
瑠璃鳴けば蓼科に雲厚くなる 秋山花笠
瑠璃鳴ける雪崩跡日の洽しや 岡田貞峰
瑠璃鶲てのひらに来て指つつく 阿部ひろし
瑠璃鶲ふと筆を置く山日記 安田和義
瑠璃鶲一姿一声われを招く ひらきたはじむ
瑠璃鶲姫川白き波猛る 上埜是清
田楽の青串こげて瑠璃のこゑ 角川照子
異境かな瑠璃遍照の桔梗咲く 小林康治 四季貧窮
疲れ鵜の瑠璃の泪目なせりけり 石川桂郎 高蘆
白山に月傾くと瑠璃鳴くや 角川源義 『口ダンの首』
白樺に来鳴く小瑠璃や日の出前 岡田日郎
白檜曾の樹海岩荒れ瑠璃鶲 岡田 日郎
白瑠璃碗緑瑠璃坏美し葡萄かな 尾崎迷堂 孤輪
白露や瑠璃光薬師目を守れ 龍岡晋
白露や瑠璃空に生きて逆流る 石原八束
白馬鑓雪まださはに瑠璃巣立つ 澤田緑生
盛り上る藍の瑠璃光染始 由木みのる
真つすぐに朝餉の煙瑠璃来鳴く 右城暮石 声と声
眼の前にひるがへる瑠璃夏燕 川崎展宏
短夜の烏に瑠璃のありしこと 正木ゆう子 静かな水
磯鵯の襟首瑠璃に礁空 高澤良一 随笑
神の山瑠璃鳥に風引きしまる 目貫るり子
秋さむや瑠璃あせがたき高嶺草 飯田蛇笏 春蘭
秋しじま瑠璃に沈める竹生島 伊藤敬子
秋光が秋光を呼び瑠璃の碗 狹川青史
秋冷やか湖円錐に瑠璃深め 岡田貞峰
秋冷や瑠璃色尽す山上湖 宮田俊子
秋霞みしてゐる瑠璃鳥や朴の先 飯田蛇笏 霊芝
科の皮煮る大釜や小瑠璃鳴く 阿部月山子(春耕)
空が日を浴びて二月の瑠璃日和 中村草田男
空の瑠璃ここにしたたる竜胆花 太田鴻村 穂国
空は瑠璃 沙羅咲かすべく 散らすべく 伊丹三樹彦 花恋句集二部作 夢見沙羅
立石寺大瑠璃鳴ける岩襖 皆川盤水
糸遊にフラスコが瑠璃と見ゆるかな 松瀬青々
納骨の膝つけば瑠璃いぬふぐり さぶり靖子
純粋に木の葉降る音空は瑠璃 川端茅舎
素潜りや瑠璃の魚見てすぐやめし 小池文子 巴里蕭条
紫陽花の瑠璃に面伏せ匂ひなし 川崎展宏
紫陽花の瑠璃の遠心又求心 林原耒井 蜩
紫陽花の瑠璃凝れば地に牽かれけり 林原耒井 蜩
網引くや闇に瑠璃なす蛍烏賊 池田笑子
綿虫の一点の瑠璃他郷なる 山本くに子
羊歯くらし小瑠璃のこゑのまろびくる 水原秋櫻子「古鏡」
翡翆の一閃に瑠璃残しけり 冨田みのる
耕耘にくもるつゆくさ瑠璃あせず 飯田蛇笏 春蘭
腰引いて大瑠璃*たて蝶の寝所追ふ 攝津幸彦 鹿々集
臘梅に天冥きまで瑠璃きはむ 原柯城
臭木の実群青といひ瑠璃といひ 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
色鳥の抜羽ひろひぬ瑠璃濃ければ 稲垣きくの 牡 丹
芝枯れて瑠璃照壁のごと海は 山口誓子
花合歓や凪とは横に走る瑠璃 中村草田男
花散るや瑠璃の凝りたる夢の淵 阿波野青畝
芽吹きたる枝から枝へ瑠璃鶲 青木政江
草の実の瑠璃色燦と枯れはじむ 稲垣きくの 牡 丹
荒鵜の目瑠璃深めつつ春逝かす 北見さとる
菖蒲葺く簷あり小瑠璃うたひゐる 水原秋櫻子
菱形となりて大瑠璃駆くるそら 高澤良一 さざなみやつこ
萩咲きて瑠璃光如来在します 大橋敦子 匂 玉
萩紫苑瑠璃空遠く離れけり 飯田蛇笏 霊芝
落葉松に森の大瑠璃うたひ出す 伊藤敬子
薪割つてをれば濃ゆしや空の瑠璃 川島彷徨子 榛の木
薬喰座右に瑠璃の砂糖壺 妻木 松瀬青々
藪漕の間近に瑠璃鳥の騒ぎけり 西尾美穂子(山茶花)
藻の花やこれも金銀瑠璃の水 重頼「佐夜中山」
虫籠を覗けば何と瑠璃蜥蜴 高澤良一 素抱
虹立ちて十和田湖の瑠璃濃かりけり 堤剣城
蛇の髯の實の瑠璃なるへ旅の尿 中村草田男
蜩や金色仏に瑠璃が見ゆ 加藤知世子 花 季
蝉の瑠璃ちらっと脳裏掠めけり 高澤良一 随笑
蝋燭の焔の瑠璃や夏の暮 山西雅子
血を喀けば勿忘草の瑠璃かすむ 古賀まり子 洗 禮
行きし瑠璃鳥またかへしきぬ山葵澤 橋本鶏二
衣かけて岩に銭おく瑠璃鶲 古舘曹人 樹下石上
見えて鳴く瑠璃鳥か樹海の立枯に 皆吉爽雨
誰がための深き瑠璃いろ竜の玉 鈴木二郎
谷の出す雲の徒労や瑠璃鶲 中戸川朝人 尋声
谷川岳雪解滂沱と瑠璃ながる 千代田葛彦 旅人木
豊年の瑠璃空つゞる雀かな 久米正雄 返り花
赤松を吹き過ぐる風瑠璃鳴けり 西 苓子
赤蜻蛉天の瑠璃には縫目なし 伊丹丈蘭
走り来て波打つ腹や瑠璃蜥蜴 早川暢雪
足もとは瑠璃色淡きいぬふぐり 黒谷光子
跼まればここ瑠璃世界いぬふぐり 鈴木貞雄
遊船の瑠璃まぶしがる二人づつ 文挟夫佐恵 雨 月
郭公や瑠璃沼蕗の中に見ゆ 水原秋櫻子
野の病舎春りんだうの瑠璃そよぐ 古賀まり子
野葡萄の瑠璃さんざめく風日和 文挟夫佐恵
金銀瑠璃*しゃこ瑪瑙琥珀葡萄かな 松根東洋城
金魚田や瑠璃を惜しまず螢草 石田あき子 見舞籠
鉛毒の女形瑠璃湯にもがり笛 宮武寒々 朱卓
陽を砕く貝殻のみち瑠璃あそぶ 堀 葦男
雁の声生れゆるぎなき空の瑠璃 木下夕爾
雨のなか瑠璃やなぎ咲き夕ごころ 角川源義 『西行の日』
雨の日は雨の大瑠璃鳴きにけり 原 天明
雨打つや必死の瑠璃のほたる草 堀口星眠 営巣期
雨晴れて末黒芒に瑠璃もどる 立野丘秋
雪中に瑠璃冴えにけり竜の玉 荻野泰成
雪嶺に重なりて瑠璃きつき峰 内藤吐天 鳴海抄
雪降るや瑠璃光寺池鏡なす 合田岩雨
霜いたるつゆぐさは瑠璃固めゐて 松村蒼石 雪
霜鏡全天瑠璃をなせりけり 野見山朱鳥
霧氷林日を得て沼の瑠璃極む 角川源義
露をのむ瑠璃鳥や涅槃の楢林 永田耕衣
露噴いて夜明け瑠璃なす観世音 加藤知世子 花寂び
露草のひとつぶの瑠璃天の幸 柴田白葉女
露草の瑠璃いちめんの昼寝覚 木村蕪城 一位
露草の瑠璃や勲記は筒の中 飯田龍太
露草の瑠璃より明くる紀の山河 松本 幹雄
露草の瑠璃をとばしぬ鎌試し 銀漢 吉岡禅寺洞
露草の瑠璃を寝覚の床の道 山口青邨
青葉蔭薬師瑠璃光の出湯とぞ 高橋睦郎 金澤百句
青鷺の影の揺れゐる瑠璃の湖 畠 友子
風にうまみ梢よりこぼる瑠璃の声 河野多希女 月沙漠
風入るる藤村旧居瑠璃鳥のこゑ 堀口星眠
飛花たかく瑠璃空風は濁りけり 西島麦南 人音
驟雨来て瑠璃岩盤に萩散りぬ 沢木欣一 雪白
鬼やんま瑠璃の目玉を廻しけり 都筑智子
鱒跳ねる瑠璃やその値は妻ささやき 加藤知世子 花寂び
鳥渡る瑠璃陶片のさまざまを 小檜山繁子
鳩の首瑠璃光放つ朱夏の宮 加藤耕子
鳴き合ふ時鴨の青頸瑠璃含む 知世子
鴛鴦や瑠璃を沈めし明けの瀞 小川斉東語
鵙の翔つ雲間瑠璃なり炎天寺 羽田貞雄
黄落にまぎれはせずて雉子の瑠璃 細見綾子 黄 炎
黒髪山は神在す山瑠璃鳴けり 小山陽子(杉)
●ろうかん 
*ろうかんのごとく山ある大暑かな 安東次男 裏山
*ろうかんの泉を鳴らす大柄杓(黒羽大雄寺) 角川源義 『秋燕』
*ろうかんの湖芯へ引けり花筏 中村石秋
*ろうかんの潮あびては巌冴ゆる 加藤耕子
*ろうかんの空より来たり夜の秋 高野途上(鷹)
*ろうかんの竹*ろうかんの露の玉 西村千鶴枝
*ろうかんの竹に影して蟻のぼる 内藤吐天 鳴海抄
*ろうかんの竹の四つ手の白魚網 舘野翔鶴
*ろうかんの竹春雨の樋となりぬ 青邨
*ろうかんの竹筍を白く生む 粟津松彩子
*ろうかんの簷の葡萄に寿 木村蕪城
*ろうかんや一月沼の横たはり 石田波郷(1913-69)
*ろうかんや夏の日射しの砕け散り 藤松遊子
*ろうかんをくだく白波石蕗の崖 石原八束 『藍微塵』
かなかなや一*ろうかんの山上湖 山下知津子
十月の*ろうかん湖や少女過ぐ(裏磐梯) 角川源義 『神々の宴』
恵那峡に*ろうかんの水小鳥来る 伊藤敬子
日輪に飛ぶ*ろうかんの千鳥かな 川端茅舎
春夕焼水の*ろうかん利根の凪 古市絵未
朝靄に*ろうかん曇る今年竹 木村蕪城
海水浴*ろうかん色の深きとこ 井出寒子
滴りの*ろうかんを踏むほとけかな 鴻司
秋の灯の*ろうかんは色深めたり 藤木倶子
紀ノ川もまた*ろうかんや竹の秋 実
若竹の*ろうかん苔に立ちならぶ 水原秋櫻子
青柿の*ろうかんたるや活けてあり 野村喜舟
●若紫 
初鶏は若紫の声ひけり 平井照敏 天上大風
振る袖の若紫の陰になり 三輪初子
春日野や若紫の惣鹿子 季吟
春雨にうつとり読みし若紫 筑紫磐井 婆伽梵
●藁しべ色
●ホワイト 
ホワイト・メロン月に転げて止りて白し 林原耒井 蜩
●つまくれない 
つまくれなゐ幾とせ零れ咲きにけり 松村蒼石 雪
ほろほろとつまくれなゐの散る別れ 西本一都 景色
墓掃除つまくれなゐの盛りかな 田中寒楼
萎れたるつまくれなゐの枕花 吉武月二郎句集
虎吠えてつまくれなゐの零れたる 岡本洋子
行水やつまくれなゐの一ト並び 増田龍雨 龍雨句集
風なきにつまくれなゐのほろと散る 仁尾正文
廃園の爪紅の実をはじきなど 臼田亞浪 定本亜浪句集
爪紅(つまぐれ)のさきにひとびと点るかな 松澤昭 宅居
爪紅に素足古風なつばくらめ 長谷川双魚
爪紅のうすれゆきつゝみごもりぬ 篠原鳳作 海の旅
爪紅の手をのべて芙蓉折らんとす 芙蓉 正岡子規
爪紅の濡色動く清水かな 長サキ-卯七 六 月 月別句集「韻塞」
爪紅の種を飛ばしにふるさとヘ 中嶋鬼谷
爪紅の素足古風なつばくらめ 長谷川双魚 風形
爪紅の雪を染めたる若菜かな 鏡花
爪紅の鯵干す中に咲けるあり 鷹野清子
爪紅は其海棠のつぼみかな 蕪村
爪紅や叱られて地に何を描く 藤村克明
爪紅や童女の世界夕焼けつつ 岡本まち子
爪紅を播きたることを言ひたかり 大石悦子 聞香
行春の爪紅落す女かな 行く春 正岡子規
●菜の花色 
体内の地図を菜の花色にする 岡村行雄
夕暮の菜の花色となつてゆく 唐笠何蝶
家々や菜の花色の燈をともし 木下夕爾
菜が咲いて菜の花色の海の月 数馬あさじ
酔えぬ夜は菜の花色の夢が欲し 橋石
●くれなゐ 
*さんざしのくれなゐの蕊黒の蕊 深見けん二 日月
*ざりがにのむくろくれなゐ秋澄めり 小島健 木の実
あさがほや咲けば跡なきうすくれなゐ 林原耒井 蜩
あながちにくれなゐならぬ紅葉かな 橘仙 五車反古
あめつちのくれなゐ消ゆる秋の暮 藤田湘子 てんてん
あやとりの川の川浪くれなゐに 大石悦子 群萌
あやとりの紐のくれなゐ小正月 中野青芽
いぢわるの髄はくれなゐ桜しべ 西川 織子
いろは楓を凌ぐくれなゐ唐楓 藤原たかを
かはほりの天地反転くれなゐに 小川双々子
くれなゐといふ重さあり寒椿 鍵和田「ゆう」子
くれなゐにひびきもつれぬ除夜の鐘 永田耕衣 真風
くれなゐにまなこ溺るる西瓜くふ 赤松[ケイ]子
くれなゐに仏の暮れる春の雪 吉田鴻司
くれなゐに布染めてゐる鵙の昼 谷中隆子
くれなゐに暗さありけり葉鶏頭 廣瀬直人
くれなゐに枯れたる草にさす日かな 西嶋あさ子
くれなゐに焚かれ因幡の捨雛 立澤 清
くれなゐに白かしづきて寒牡丹 荒川香代
くれなゐに蕎麦を刈り伏せ野の小春 皆吉爽雨
くれなゐのこゝろの闇の冬日かな 飯田蛇笏
くれなゐのほたる烏賊食ぶ寺泊 佐川広治
くれなゐのゆく手となりぬ梅の道 井沢正江 晩蝉
くれなゐの一反を抱く雪の町 中嶋秀子
くれなゐの二尺伸びたる薔薇の芽の針やはらかに春雨のふる 正岡子規
くれなゐの夕べ鳰が首だす寂しくて 小寺正三
くれなゐの夢より蝉かひとつ落つ 枇杷男
くれなゐの奉白文や賀茂祭 中田余瓶「百兎集」
くれなゐの実を荒きとも神迎 宮坂静生 山開
くれなゐの寄りて密談毒茸 笹本カホル
くれなゐの富士に真向ひ誓子の忌 神谷青楓
くれなゐの小貝ちりばめ寒渚 内藤吐天 鳴海抄
くれなゐの巫女の歩めり冬の草 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
くれなゐの座布団一つ余りけり(悼石橋秀野) 石塚友二
くれなゐの影淡くゆれ花水木 小島花枝
くれなゐの日の出しばらく一葉忌 廣瀬直人
くれなゐの星がとびとぶ牡丹の芽 齋藤愼爾
くれなゐの星を真近に草泊 野見山朱鳥
くれなゐの春といふもの惜しみけり 角川春樹 夢殿
くれなゐの暮より蝉かひとつ落つ 河原枇杷男 訶梨陀夜
くれなゐの桃齧らむに何処ありや 下村槐太 天涯
くれなゐの残暑は背中より来ると 櫂未知子 蒙古斑
くれなゐの気配にありし雪女郎 伊藤通明
くれなゐの沖ッ白波を初景色 飴山實 『次の花』
くれなゐの泪ぎつしりざくろの実 和田知子
くれなゐの浪打ちよする緋の牡丹 稲垣きくの 牡 丹
くれなゐの疫病(えやみ)みぞれの中の紅葉 塚本邦雄 甘露
くれなゐの白けて咲ける大牡丹 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
くれなゐの瞼をとぢぬ撃たれ雉子 橋本鶏二
くれなゐの祭の後の花ひろふ 佐々木六戈 百韻反故 初學
くれなゐの空のさざなみ滝ざくら 神蔵器
くれなゐの笛の袋を冬乙女 鈴木鷹夫 大津絵
くれなゐの糸のごとくに花しぐれ 角川春樹 夢殿
くれなゐの絹糸桜綻びぬ 糸桜 正岡子規
くれなゐの肌透き羊刈り終る 尾高せつ子
くれなゐの舌を使へり春の鳥 鈴木鷹夫 大津絵
くれなゐの色を見てゐる寒さかな 綾子
くれなゐの色紙を選ぶ筆始 野見山ひふみ
くれなゐの蓮鑑真のために咲く 津田清子
くれなゐの薩摩げんげ田馬車通る 佐川広治
くれなゐの虫籠抱いて高麗の子よ 並木葉流
くれなゐの表紙華甲の初日記 宮田祥子
くれなゐの袂かかへる初詣 石原八束
くれなゐの裸木に水注ぎけり 原田喬
くれなゐの襷一本年用意 岡部名保子
くれなゐの豚の耳より春の風 江口干樹
くれなゐの重さの薔薇を腕にす 大石悦子 群萌
くれなゐの鈴虫の籠神にかな 大橋敦子
くれなゐの錦木越しの桜島 大高弘達
くれなゐの闇あたたかき雛の間 西村梛子
くれなゐの雪は世界の屋根の峰 阿波野青畝
くれなゐの雲を浮かべて文化の日 角川春樹
くれなゐの頬のつめたさぞ唇づくる 篠原鳳作 海の旅
くれなゐの骨肉裂けて懸り凧 野見山朱鳥
くれなゐの魚のごとくに紅葉の散りくるときに身を低くしき 山下陸奥
くれなゐの鴉を探す鑑真忌 岩淵喜代子
くれなゐはくれなゐをもて鎮むべし萩は残花を正眼に見しむ 雨宮雅子
くれなゐは土の信号芽芍薬 佐藤うた子
くれなゐは目覚めの早し牡丹園 片山由美子 風待月
くれなゐもかくてはさびし烏瓜 蓼太
くれなゐや夕日もへたつ雉子の声 立花北枝
くれなゐをしぼりて楓冷ゆるかな 鷲谷七菜子 游影
くれなゐをはなれて桃の花雫 伊藤通明
くれなゐをみどりを籠めて花氷 日野草城
くれなゐを一瞥に糶る金魚市 稲住津綸子「大津絵」
くれなゐを天へつなげり糸桜 井沢正江 湖の伝説以後
くれなゐを籠めてすゞしや花氷 日野草城
くれなゐを苦悶の色に武者侫武多 鈴木鷹夫 風の祭
げんげ田にくれなゐ暗き彼方あり 赤松[ケイ]子
さみだれて此処に友住む薔薇くれなゐ 林原耒井 蜩
しだれつつ夢のくれなゐ檀の実 堀口星眠 営巣期
しんじつを籠めてくれなゐ真弓の実 後藤比奈夫 初心
すかんぽのくれなゐの波鷺かへる 堀口星眠 営巣期
すかんぽの筋のくれなゐ特攻碑 安崎久子
たつ春のくれなゐ浅しひの菜漬 中勘助
つくば峰のほのくれなゐの初日かな 安江眞砂女
てのひらにくれなゐの塵実朝忌 永島靖子
てのひらのくれなゐ嫁ケ君頭上 手塚七木
なでしこに低く残れるくれなゐの花ただ一つ年をこえたり 玉城徹
はなうめのくれなゐに童が鉄*かま 飯田蛇笏 春蘭
ははきぐさ雨たかぶればくれなゐに 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
はんざきの傷くれなゐにひらく夜 飯島晴子「儚々」
ひとすぢのくれなゐ走る飛蝗かな 対中いずみ
ほのぼのと沼のくれなゐ夕蓮 羽根尾一孝
まなかひに蔦のくれなゐ岩を這ふ 中川宋淵 遍界録 古雲抄
まぼろしの水より生れしくれなゐの蜻蛉はけふ山をくだりぬ 武下奈々子
みづひきの終のくれなゐ二尊院 大石悦子 群萌
みどりさしくれなゐがさし薄氷 鷹羽狩行
むらさきにちかきくれなゐ鶴の疵 八田木枯
よく晴れて凧くれなゐや二月空 高橋淡路女 梶の葉
わが骨の髄はくれなゐ夕月夜 沼尻巳津子(1927-)
わくら葉にくれなゐの疵雨の杜 吉田 明
インディアン唇くれなゐに夜涼かな 飯田蛇笏 春蘭
サルビアの真つくれなゐに自負一つ 松本千恵女
バイブルの天はくれなゐ胼の手に 山口青邨
フレームの花のくれなゐしづかにも 清原枴童
一さかり萩くれなゐの秋の風 松岡青蘿 (せいら)(1740-1791)
一夜城趾よりくれなゐの蝶来たり 松尾隆信
一月の翳くれなゐに江戸切子 鳥居美智子
万両の実にくれなゐのはいりけり 千葉皓史
三鬼忌のくらきくれなゐばかりかな 斎藤玄 雁道
人の子もはじめくれなゐ楓の芽 清水里美
伊那よ汝に落ちてくれなゐ金亀子 石寒太 あるき神
佗助のわぶと応へてうすくれなゐ 川崎展宏 冬
侫武多去るくれなゐが去る総て去る 鈴木鷹夫 風の祭
停年やみなくれなゐの青木の実 秋元不死男
八月のくれなゐばかり墓の花 大木あまり 雲の塔
冬の虹くれなゐは濃きさやかなる応えのごとくまなかひに立つ 篠 弘
冷まじきくれなゐ過ぐる鵜舟かな 鈴木鷹夫 大津絵
冷麦にくれなゐ一縷水打たす 作田文子
凍解やくれなゐ潰ゆる万年青の実 高橋淡路女 梶の葉
出会ひたる蓮はくれなゐ終戦日 九鬼あきゑ
出雲冷ゆ神楽の鬼のくれなゐも 鈴木鷹夫 風の祭
切り屑もくれなゐ通ひなづな爪 井沢正江 以後
切株の芯のくれなゐ仏生会 伊藤乃里子
初の忌の三汀にくれなゐの梅 石塚友二 光塵
初夏の埃の中の祭の列みどりくれなゐゆるがして行く 尾上柴舟
初湯出てうすくれなゐのふくらはぎ 相沢有理子
初釜や花びら餅のうすくれなゐ 伊東余志子
千両の実のくれなゐの日暮にゐ 角川春樹
吾亦紅野のくれなゐの渋かりし 大橋敦子
啄木鳥やくれなゐ震ふ蔦かづら 徳永山冬子
土用芽にうすくれなゐの走りけり 脇 祥一
土用芽のくれなゐ赤彦歌碑の前 池上樵人
地に還るまでのくれなゐ落椿 守谷順子
垣の木瓜くれなゐそめて家壊つ 松村蒼石 露
夏の力余り黍葉に噴くくれなゐ 香西照雄 対話
夕影にくれなゐふかし梅筵 内藤吐天 鳴海抄
夕風にうすくれなゐや鮎の口 大峯あきら
大寒の反故焼く火のくれなゐに 大石悦子 群萌
天の川白き夜去りて朝風の中なる萩にくれなゐ走る 宮柊二
天窓のあはきくれなゐ驟雨すぎ 中田剛 珠樹以後
奥方の約ぶくれなゐ今日の雲雀ら 加藤郁乎
嬬恋のくれなゐきざす花すすき 辻美奈子
嬬恋や春の炭火のくれなゐも 鈴木鷹夫 春の門
孤高とはくれなゐ深き冬の薔薇 金久美智子
学僧の耳のくれなゐさくら冷 つじ加代子
寒き故くれなゐ色がうち沈む 細見綾子 花寂び
寒さくら乙女さびたるくれなゐと言ひさしてやむ 死者杳かなり 山本かね子
寒卵呑みくれなゐの声発す 栗林千津
寒椿てふくれなゐの荒々し 竹下陶子
寒牡丹散るくれなゐの羽ひらき 石原八束 『断腸花』
寒菊のくれなゐふかく昃りけり 金尾梅の門 古志の歌
寝を誘ふ子もなし炉火をくれなゐに 神尾久美子 桐の木
山畑やくれなゐの薔薇ひとつ咲く 岸本尚毅 鶏頭
山粧ふけものの道もくれなゐに 檜紀代
山茶花のくれなゐひとに訪はれずに 橋本多佳子
山霞み海くれなゐのゆふべかな 闌更
岩塩のくれなゐを舐め古酒を舐め 日原傳
岩魚焼くうすくれなゐの炭火かな 佐川広治
峰雲やほのくれなゐの弥生土器 山本洋子「渚にて」
市に出る花くれなゐに室を捨て 中村汀女
帯解やくれなゐにほひ初めしとも 今橋眞理子
干梅のくれなゐにまた眼をもどす 大岳水一路
恋の矢はくれなゐ破魔矢白妙に 青邨
恩愛の言葉短く薔薇くれなゐ 古舘曹人 能登の蛙
意志に色あらばくれなゐ水引草 都筑智子
戀の矢はくれなゐ破魔矢白妙に 山口青邨
掃き寄せてうすくれなゐの雛あられ 鷹羽狩行 七草
新松子沖くれなゐに明けてゆく 谷中隆子
旅籠屋の夕くれなゐにつゝじかな 蓼太
日に透きてひたくれなゐの寒牡丹 深見けん二 日月
早春やうすくれなゐの旅の空 草間時彦 櫻山
早梅としてくれなゐを惜しまざる 八染藍子
春愁の煙草に点す火やくれなゐ 鈴木しづ子
春睡や天紫に地くれなゐ 余子
時差疲れ癒ゆ土用芽のくれなゐに 吉田 明
曼珠沙華マチスは部屋をくれなゐに 小山森生
月さしてくれなゐなるも棉の花 瀧春一 菜園
朝の蝉富士のくれなゐ褪せゆけり 水原秋櫻子
朝靄にくれなゐ溶けて桃咲けり 相馬遷子 山河
木々芽吹くくれなゐすこし痛からむ 辻美奈子
来るものはみなくれなゐに恵方道 宇多喜代子
枝の芯までくれなゐのななかまど 大坪景章
枯れながら芒のいろのくれなゐに 今井杏太郎
枯草のうすくれなゐや西の京 山本洋子
枯菊のくれなゐふかき久女の忌 林十九楼
枯蘆にくれなゐ残るはつかかな 高橋睦郎 舊句帖
柾の実裂けてくれなゐまさやけし 大橋敦子
柿の葉のくれなゐ拾ふ桂郎忌 市橋千翔
桃はくれなゐゆく水に星あふれ 黒田杏子 花下草上
椿の木そのくれなゐに染まり立つ 中山純子 沙 羅以後
楪のくれなゐ深く父の家 中村祐子
楪の柄のくれなゐに雪紬ぐ 古賀まり子
楪の柄のくれなゐの淑気かな 鈴木貞雄
死の側より照明せばことにかがやきてひたくれなゐの生ならずやも 斎藤史
残雪や「くれなゐの茂吉」逝きしけはひ 中村草田男(1901-83)
毛槍梵天くれなゐかざし道中雛 大橋敦子 勾 玉以後
水底にまことくれなゐ冬紅葉 深見けん二 日月
水引のくれなゐに口引結び 大石悦子 百花
水引の鋭きくれなゐを貴船みち 藤本和子
水木の枝くれなゐさやに繭玉を 小松崎爽青
氷壁を攀づくれなゐの命あり 大串章 山童記
流氷のうすくれなゐの余光かな 涌井信雄
浴身にくれなゐの創夏はじめ 大石悦子 百花
淡雪や鯉の洗ひのうすくれなゐ 辻美奈子
滅びへの星はくれなゐ雁渡し 北川英子
火止窯まだくれなゐや夕牡丹 野見山朱鳥
煤の湯の爪のくれなゐよみがへる 大竹きみ江
燃ゆるとき竹はくれなゐ春のくれ 市川千晶
父母逝きてくれなゐうすき冬牡丹 杉本寛
牡丹の芽にくれなゐの寒さあり 飯田龍太
牡丹忽ちくれなゐに根分した手也 尾崎紅葉
獣園の梅くれなゐに牡丹雪 石原舟月 山鵲
玉の緒のうすくれなゐや霜日和 石塚友二
畦塗に天くれなゐを流したる 相馬遷子 山国
白に酔ひくれなゐに醒め梅の中 手塚美佐 昔の香
白帝城くれなゐを濃く桃の咲く 谷中隆子
白桃にくれなゐの種耕衣亡し 大木あまり 火球
白牡丹くれなゐぼたん寒の色 石寒太 翔
白蓮の縁のくれなゐうひうひし 矢島渚男 延年
皇帝のマントくれなゐ冬さうび 坂井建
盂蘭盆や軸くれなゐの支那御香 呉屋菜々
睡蓮のくれなゐ毛沢東旧居 片山由美子 水精
睡蓮のくれなゐ空にうつりけり 長谷川久子
睡蓮のはるかにひらきくれなゐに 永井由紀子
石のかどほのくれなゐに地蟲いづ 百合山羽公
神橋の水にくれなゐ一位の実 瀧澤伊代次
秋の日やうすくれなゐのむら尾花 青蘿
秋没日松は花よりくれなゐに 誓子
秋深しやまとことばのくれなゐも 加藤耕子
秋袷振りのくれなゐ目に立ちぬ 高橋淡路女 梶の葉
種雄牛眼にくれなゐをまじへ冬 大串章 百鳥
立子忌や空の裳裾はくれなゐに 藤田直子
笹百合の風聴く耳のうすくれなゐ 嶋田麻紀
糸屑のくれなゐ咥へ寒雀 寿美子
紫陽花の常くれなゐや大旱 相馬遷子 山河
紫雲英野を発つくれなゐの熱気球 塩出佐代子
綾取の川くれなゐに雪降れり 山崎節子
縷紅草のくれなゐともる昼の闇 小金井欽二
織る茣蓙の花くれなゐに雪ごもり 田村了咲
老梅のくれなゐの艶風生忌 鈴木貞雄
肉厚き花のくれなゐ啄木忌 瀧澤和治
自らへ贈るくれなゐ強き薔薇 櫂末知子
自滅するまで菜殻火の芯くれなゐ 津田清子
興亡や千万の蓮くれなゐに 山口青邨
花ならば爪くれなゐやおしろいや 白粉花 正岡子規
花よりもくれなゐうすき乳暈かな 眞鍋呉夫
花よりも散華くれなゐ寒牡丹 山田弘子 螢川
花よりも水くれなゐに洫の木瓜 飯田蛇笏
花魁草暑の一塊をくれなゐに 阿部みどり女
茨の実くれなゐ深く野川澄む 武笠美人蕉
草木瓜のくれなゐも冷えまさるなり 飯田龍太
草木瓜のくれなゐを踏む忌日かな 木下夕爾
萩挿してくれなゐさやに律の墓 深見けん二
萬両の実にくれなゐのはひりけり 千葉皓史
落日はうすくれなゐの霧まとふ 福田蓼汀 山火
落椿とはくれなゐと決めてゐし 齊藤美規
葉を落とし牡丹冬芽のくれなゐに 平手むつ子
葉牡丹の芯のくれなゐ一葉忌 岡本正敏
薄氷のうすくれなゐの朝ありぬ 鷹羽狩行
藁灰の芯のくれなゐ北近江 鈴木鷹夫 大津絵
蘭さいて貌くれなゐに雉子孵す 飯田蛇笏 春蘭
蚊の姥や爪のくれなゐ見せあうて 佐々木六戈
蚋打ちし血のくれなゐの野中なる 皆吉爽雨
蝶凍てて富士くれなゐに染りゐる 角川春樹
行く春や吾がくれなゐの結核菌 石田波郷
袖口のくれなゐ古りぬ冬籠 つゆ女
訥々と露にくれなゐさすことよ 中田剛 珠樹
誰が見よと梅くれなゐに奥の坊 立花北枝
豚の耳うすくれなゐや竹の春 多賀よし子
貝雛のくれなゐ世界閉ぢにけり ほんだゆき
買初や文字くれなゐの筆の銘 鈴木鷹夫 風の祭
身に巻きし紐のくれなゐ若ちちろ 野澤節子 花 季
身ぬちより溢るくれなゐ着衣始 飯田綾子
転任なくまたくれなゐの梅漬くる 榎本冬一郎
遠目には供華のくれなゐ落葉焚く 伊藤京子
酒焼の胸くれなゐや秋の風 野村喜舟 小石川
酢茎計る婆の皺の掌くれなゐに 春名耕作
里鳥にくれなゐかなしとも立秋 吉田素糸
野茨の実のくれなゐに月日去る 飯田龍太
金魚玉方尺の冷気くれなゐに 内藤吐天 鳴海抄
銀の爪くれなゐの爪猫柳 竹下しづの女
錦木の実もくれなゐに染るとは 後藤夜半 底紅
門松に夕くれなゐやかざり海老 李呂
閉ぢし眼の中のくれなゐ鵙の声 鈴木鷹夫 大津絵
関跡の砂くれなゐの蟻地獄 藤江 昭
閻王のくれなゐの舌の埃かな 富安風生
除幕とは序幕冬芽のくれなゐに 中村明子
陽に倦みてひな罌粟いよよくれなゐに 木下夕爾
雑炊に蟹のくれなゐひそめたる 山田明子
雛壇のくれなゐ山を隔つとも 宇佐美魚目 秋収冬蔵
雪嶺をひたくれなゐと思ひけり 中村千絵
雪投げしくれなゐの手が医にはべる 平畑静塔
雪解宿鮭の薄身のうすくれなゐ 野澤節子 黄 炎
雫してくれなゐふふむ糸桜 神山果泉
青天にくれなゐ少し落葉籠 磯貝碧蹄館
青梅に今日くれなゐのはしりかな 飴山實「次の花」
鵙になるおのれか木の実ひたくれなゐ 斎藤玄 雁道
鶏頭のくれなゐ黒をきはめたる 沢木欣一
鶏頭の終のくれなゐ冷まじき 古賀まり子
黄桜の本性は黄かくれなゐか 山田弘子
黄鶲の富士くれなゐに暁けゆけり 角川源義
黒椿とてくれなゐをまぬがれず 吉野義子

 以上

by 575fudemakase | 2022-06-25 17:26 | ブログ


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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