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音2 類語関連語(例句)

音2 類語関連語(例句)

●瀬音●騒音●空音●空耳●高鳴る●滝音●叩く●太刀音●丁々発止●地籟●槌音●爪音●弦声●低音●天籟●遠谺●遠鳴り●遠音●怒号●怒涛音●轟き●響動き(どよめき)●とんとん●波音●波の音●鳴り響く●鳴り渡る●鈍き音●寝息●羽音●葉音●爆音●撥音●反響●万籟●微音●鼻音●弾く●ぴしり●人音●響き●ひゅうひゅう●風韻●風籟●不協和音●蚊雷●霹靂●ぺたぺた●鞭声●母音●砲声●骨の音●ポポ●松風●水音●水声●水谺●水の音●水響く●霧笛●鳴動●物音●物の音●矢音●家鳴り●山彦●弓音●余韻●呼子●雷鳴●列車音●櫓声●和音

●瀬音 
あるときは高き瀬の音夕紅葉 岸風三楼 往来
うるはしき瀬音鷹化し鳩となる 高島信一
がちや~や瀬音も聞え真暗闇 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
くわりんの実あららぎ川の瀬音来て 細見綾子
この村の瀬音に春の遅れをり 亀井糸游
ごり汁や雨かと思ふ夜の瀬音 内藤吐天
さくら鱒遡る瀬音や花サビタ 東 天紅
さびた咲き瀬音まじりに鳴く柄長 篠田 幸子
ざわめきの瀬音をなせり初不動 吉村秋川
しぐるゝや瀬音ま近く温泉にひたる 金尾梅の門 古志の歌
どこまでも従き来る瀬音夕河鹿 山田閏子
どんどの火衰へ瀬音の高まり来 阿部みどり女 『光陰』
ひとところ瀬音のありて川涸るる 卯野澄子
ほうたるの落ちゆく先の瀬音かな 小川孝子
ほととぎす瀬音も朝へ引緊る 馬場移公子
やまのはの樅に瀬音やはるかすみ 飯田蛇笏 雪峡
ゆく年や故園の瀬音ひるも夜も 飯田蛇笏 雪峡
一と時雨いや高まさる瀬音かな 楠目橙黄子 橙圃
一夜躯を河鹿徹りぬ瀬音すら 徳永山冬子
万緑や瀬音のふかき峠道 林 宏
三椏の花に瀬音の遠からず 行方克己 知音
乱鴬と瀬音に峡の温泉の夜明け 高濱年尾
井田川の瀬音更けゆく風の盆 堀井より子
六月の風にのりくる瀬音あり 久保田万太郎 草の丈
冬ざれや瀬音ま近く湯にひたる 角川源義
冬菜漬け瀬音澄みゆく室生村 吉澤卯一
初河鹿とほきはまじる瀬の音と 藤田湘子
初河鹿遠きはまぎる瀬の音と 湘子
初雀すでにまぎるゝ瀬音かな 石橋秀野
卯の花の白に触れゆく瀬音あり 山田弘子 こぶし坂
咳込んで瀬音微塵にガラス展 茂里美絵
囀りの瀬音にまじり夜明けつつ 福田蓼汀
四十雀瀬音にまぎれまぎれざる 相馬遷子 山河
土佐みづき瀬音の径をへだてけり 小俣由とり
夏の瀬音して九番のミシン針 藤本鯖人
夏山や夜は活くる瀬音に犬眠る 平井さち子 完流
夏帽子瀬音へ忘れ来て遠し 都筑智子
夜な~の瀬音やさしき蚕飼かな 馬場駿吉
夜の瀬音さへぎり鳴くは葭切か 水原秋桜子
夜の瀬音棒となりをり紅葉宿 上野泰 佐介
夜もすがら雨名月の瀬音かな 佐藤竹門
夜や秋の瀬音透きゐる空あかり 河野南畦 湖の森
夜半の月出水の瀬音遠からず 水原秋櫻子
夜明けの蚤瀬音のなかに汲む音す 友岡子郷 遠方
夜桜の灯うらの瀬音なりしかな 山田弘子 こぶし坂
大利根の瀬音早まる荻の風 滝登喜子
大峰の桜を洗ふ瀬音かな 冬葉第一句集 吉田冬葉
奥伊予や瀬音に太る花梨の実 稲瀬奈加枝
存浅き藪に瀬音や大悲閣 五十嵐播水 播水句集
宇陀川の瀬音涼しき磨崖仏 山本光江
安曇野の瀬音はアルト早春譜 梅野三四子
山国の瀬音は高し初月夜 江口竹亭
山独活に舌荒されし夜の瀬音 稲垣きくの 牡 丹
帳場まで瀬音つゝぬけ鮎の茶屋 今城余白
忘るなき春立つ峡の瀬音かな 飯田蛇笏 山廬集
恋螢ふたつの瀬音合ふところ 椎橋清翠
慈悲心鳥瀬音に添へば風の出て 伊藤敬子
憎まれて坐すのみ夏の逝く瀬音 友岡子郷 遠方
成熟が死か麦秋の瀬音して 佐藤鬼房 地楡
手拭を月光に干し瀬音かな 大木あまり 火のいろに
新年の瀬音清しき輪島川 中前和枝
日が落ちて湯瀬の瀬の音洗ひ鯉 工藤勲治
春暁のあまたの瀬音村を出づ 龍太
春暁や瀬音かすかに朝寝宿 関口 里
春浅き藪に瀬音や大悲閣 五十嵐播水
春火鉢宇治の瀬音を座にたゝへ 菅裸馬
春睡や瀬音のごとく園児過ぐ 黒坂紫陽子
晩稲の黄と瀬音見おろす朝日とわれ 古沢太穂 古沢太穂句集
月挙げて瀬音立ち来る空知川 金箱戈止夫
朧夜の瀬の音つつむ比翼塚 大石千代
朴の花瀬の音かはり滝ありぬ 殿村莵絲子 花 季
杉の花瀬音は径をはなれざり 中村秋晴
梅咲いて瀬音たかぶる真室川 小野末吉
梅寒の瀬音を奪ふわらべ声 河野南畦 湖の森
梅林にさしかゝりたる瀬音かな 五十嵐播水 播水句集
梓川瀬音たかまるキャンプかな 加藤楸邨
橡の実にひたすら瀬音澄みにけり 鈴木貞雄
檜山よりかなかな瀬音ともなへり 荒井正隆
河口近きに井手ある瀬音千鳥更け 内田百間
河鹿鳴く中に瀬音はゆくばかり 皆吉爽雨「雁列」
洗ひたる障子に瀬音憑くごとく 田中裕明 櫻姫譚
清滝の瀬音まじりに初河鹿 杉 良介
滝っ瀬の刹那刹那の音繋ぎ 高澤良一 鳩信
滝の音瀬の音いつか山の音 北村 寛
滝の音瀬の音月の差しゆきぬ 桂樟蹊子
澄む方に小さき瀬音水芭蕉 山根都子
激つ瀬の音おそろしや葛の道 山口波津女 良人
激つ瀬音に冬の急磴登り切る 岩上奎子
瀬の音と全く離れ河鹿更け 高濱年尾
瀬の音にあしたの花の夢もなし 西山泊雲 泊雲句集
瀬の音に尾羽を叩く黄鶺鴒 堀川草芳
瀬の音に紅葉且つ散る休め窯 西村秋子
瀬の音のいつか時雨るゝ音なりし 稲畑汀子 汀子句集
瀬の音のうすくきこゆる螢かな 久保田万太郎 草の丈
瀬の音のくだくる葡萄の房々に 山口青邨
瀬の音のして葉桜の山泊り 神原栄二
瀬の音のまさりゆきつゝ河鹿かな 星野立子
瀬の音の二三度かはる夜寒かな 浪化
瀬の音の時雨に似たる蕪蒸 角川春樹
瀬の音の秋おのづからたかきかな 久保田万太郎 流寓抄
瀬の音の高きに応へ風薫る 執木 龍
瀬の音へみな傾きてやぶれ傘 嶋田麻紀
瀬の音や月夜に落つる鮎もあらん 落鮎 正岡子規
瀬の音や霧に明け行く最上川 霧 正岡子規
瀬の音をきゝつゝ貼りし障子かな 久保田万太郎 草の丈
瀬より出て瀬音より出て石叩 笠間文子
瀬音 火の音 満ちて 落鮎料理店 伊丹公子 沿海
瀬音ありものの芽競ふ寂けさに 林翔 和紙
瀬音せり旧正やすむ楮釜 有働亨 汐路
瀬音にも揺れて水引草の花 森田かずを
瀬音へと花房垂るる木五倍子かな 笹川悦子
瀬音やややはらぎ岩に萩も咲き 福田蓼汀 山火
瀬音よりも雨ひそやかに葛の花 木下夕爾
瀬音より離り影なき稲実る 阿部みどり女
瀬音入れ川風入れて鮭番屋 嶋崎専城
瀬音消え螢阿吽の闇さばく 丸山嵐人
瀬音澄み奥入瀬の滝ひびき合ふ 鳥谷部武子
瀬音澄むところ若鮎育つらむ 岩崎洋子
瀬音聞く初瀬の宿のつくねいも 木村雅子
灯籠にはや火を入れよ瀬音満つ 多田裕計
無鄰庵瀬音涼しく曲りけり 川合梅子
球磨昏れて見えねど出水瀬音かな 上村占魚 球磨
瓢棚真下に瀬音ありにけり 樋口桂紅
皇后の歌集は瀬音風薫る 青木重行
真日の下瀬音かすかに茅花噛む 金尾梅の門 古志の歌
短日の耳に瀬の音のこりけり 久保田万太郎 草の丈
石たゝき瀬音はいつも高くして 高木晴子 晴居
秋もやゝ瀬音にゆづる何の聲 安東次男 昨
秋冷の瀬音いよいよ響きけり 日野草城
秋夜二夜三夜寝ず瀬音狂ひ出す 岩田昌寿 地の塩
秋耕の一人に瀬音いつもあり 深見けん二
秋風も瀬音に暮れてしまひけり 福田蓼汀 秋風挽歌
竹秋の瀬音にいつか心沿ひ 行方克巳
笹鮨を解きつつ秋の瀬音かな 友岡子郷
簗打つてその夜昂る瀬音かな 平松三平
簗掛けて絞り込みたる瀬音かな 菊池風立子(諷詠)
紅葉貼リこめし障子に夜の瀬音 深見けん二
紙の素一途に晒す瀬音かな 阿波野青畝
老犬に瀬音折れくる梅明り 宇佐美魚目 秋収冬蔵
耳鳴りのきのふは吹雪けふ瀬音 正木ゆう子 悠
脚下より湧きくる瀬音犬ふぐり 佐藤脩一
芋の葉の夜露瀬音もゆるびたり 瀧春一 菜園
花くぬぎほほじろ遠き瀬音呼ぶ 中川輝子
花の瀬の音より音のけぶりつつ 平井照敏 天上大風
芽吹くなり瀬音いたらぬところなく 行方克己 知音
若鮎や瀬音つのれる南朝址 高橋好温
荒梅雨の筋金入りし瀬音かな 秋山幹生
落鮎の瀬音ばかりが暮れ残る 加古宗也
落鰻瀬音に追はれ安からず 鈴木左右
薫風の瀬音染みたる土鈴買ふ 小澤克己
虫篝消えて瀬音の闇となる 大隈草生
蜩に瀬音にこころ急かれけり 根岸善雄
蜩の底の瀬音に沿うてゆく 河野美奇
蜩や瀬音や胸はただ濡るる 林翔 和紙
谷川の瀬音のこりて雷雨去る 緒方氷果
谿削げて瀬音立ち来ぬ落霜紅 石 昌子
身はいつか瀬音の中に芹洗ふ 金箱戈止夫
迎へ火や瀬音の中の一家族 草間時彦
逗留の瀬音さびしむ秋簾 西村和子 かりそめならず
遠き世のことを暮春の瀬の音に 河野静雲
遠き瀬の音はなれては秋出水 飯田蛇笏 春蘭
部屋ごとに変はる瀬音や夏の山 藤森成吉
郵便車停り春逝く瀬音絶ゆ 宮武寒々 朱卓
野をわたる瀬の音軽し益母草 山口典子
鈴のごと瀬音いくつも橡枯れぬ 和知喜八 同齢
銀漢の瀬音聞ゆる夜もあらむ 芥川龍之介
障子しめてことさらさむき瀬音かな 高橋潤
隼の瀬音浴びをり葛の花 野沢節子 八朶集以後
雁帰る瀬音になれし一部落 渡辺志ま子
雛舟に瀬音たかまる吉野川 河合佳代子
雨戸たつれば外は朧の瀬音かな 青峰集 島田青峰
雪まつり更けて瀬音を還らしむ 宮武寒々 朱卓
雪渓の傷より瀬音噴き出だす 小林黒石礁
雪解して黒部の瀬音ただならず 八尾とおる
霧の視野瀬音浸りにバス遡る 平井さち子 完流
鞍馬山天に囀り地に瀬音 植田 弘子
風に揺れ瀬音に揺れて柳の芽 松添博子
風の音やがて瀬の音琴始 木内怜子
風むきでかはる瀬音や大根干す 高橋潤
風花や瀬音秘めたる天塩川 天田牽牛子
鮎の瀬の音に夜更くる峡の町 上村占魚 球磨
鮎の瀬の音の暮れゆく天狗岩 犬飼孝昌
鮎落ちて風のまつはる瀬音かな 館 容子
鳥啼かず瀬音ひびかず山は初夏 福田蓼汀
鶺鴒の鳴き翔ち瀬音残りけり 新井悠二
黒羽の闇の瀬の音蛍飛ぶ 松川洋酔
●騒音 
ごみ車ひく 白馬のたてがみを 騒音が追いかける 吉岡禅寺洞
七五三公耳へ騒音私耳へ鈴 香西照雄 素心
公園の緑陰街騒音縦横 高澤良一 鳩信
咳きこむあと他人の騒音にやはらげられ 竹中宏 饕餮
朝からの騒音へ長い橋かかる 種田山頭火 草木塔
白桃のうす紙の外の街騒音 野澤節子 牡 丹
街の騒音から太陽が沈もうとする大きいしじまだ 橋本夢道
長子生れ耳の中まで光る騒音 市原正直
騒音のひたと止みたる桐の花 村上澄子
騒音は稲を刈る音峡部落 関 秀子
麦を打つ騒音の中の農婦の死 萩原麦草 麦嵐
●空音 
とんぼうの空音もなく深かりし 藤松遊子
冴かへる空音は星かさよ千どり 松岡青蘿
商人の空音ゆたかやいせの春 向井去来
春の夜の三味の空音や三味線屋 春の夜 正岡子規
空音して雁塔晨鐘辛夷咲く 石原八束 仮幻の花
●空耳 
かけい忌の空耳で聴くうぐひすや 佐藤武子
かすかなる空耳なれどあたたかし 森賀まり
三月菜にがし軍靴は空耳か 鈴木ふさえ
凩やまた空耳の母を前 石川桂郎 含羞
呼鈴は空耳なりし春一番 田中湖葉
夏雲雀雲の空耳ばかりなり 廣瀬直人
夕顔垣きしむ牛車を空耳に 田中英子
夜なべの手とめ空耳と確かめる 近江小枝子
新盆や空耳なれど靴の音 秦夕美
明易し水流るるを空耳に 宮津昭彦
柩打つ音は空耳手毬唄 樫本つた女
殉教地空耳に亀鳴きにけり 高橋克郎
狐火か/鬼燈に入る/初夜の/空耳 林桂 黄昏の薔薇 抄
盲人に空耳はなく螻蛄鳴けり 三島牟礼矢
硝子戸の夜の空耳や月の山 中拓夫 愛鷹
空耳か夢かかそかな除夜の鐘 岡本昼虹
空耳か砧の音と聞きたるは 徳永山冬子
空耳とおもひつ待てり金魚売 根岸善雄
空耳とおもふ矢先の青葉木菟 安田 晃子
空耳とおもふ鈴の音十三夜 千田徳子
空耳にD5l過ぎぬ枯木宿 北見さとる
空耳に亀鳴くときく夜もありて 坊城としあつ
空耳に母の声あり吾亦紅 和田 登
空耳に濤の音聞く春の暮 伊藤京子
空耳や将棋倒しの影法師 仁平勝 東京物語
空耳歟うつくし湖と蝉の鳴く 幸田露伴 谷中集
笹鳴は空耳なりし雪が降る 原田青児
芳一の空耳に似てつくつくし 清水基吉
鶏頭に空耳あまたありぬべし 五島高資
●高鳴る 
だんだんと水の高鳴る岩魚釣 高澤良一 ぱらりとせ
アメリカンクラッカー高鳴る街や初燕 鳥居おさむ
カルストの晴れを高鳴き時鳥 岡部六弥太
トテ馬車の蹄高鳴る照紅葉 寺岡捷子
何事もなくて高鳴く夏うぐいす 玉水幸代
初詣傘寿の鈴を高鳴らす 宮下秀昌
初鶏の己が影踏み高鳴けり 畑佐白城子
喇嘛寺の楽の高鳴る臘八会 武田禅次
夏痩せて淋しき指を高鳴らす 内藤吐天 鳴海抄
大漁旗高鳴る磴や初詣 藤木倶子
大白鳥闇深ければ高鳴けり 棚山波朗
寒垢離に高鳴る団扇太鼓かな 東 妙子
寒晴や神楽の鈴を高鳴らし 石嶌岳
山晴るることに高鳴き四十雀 岡田日郎
恋の血の高鳴つていま月凍る 仙田洋子 橋のあなたに
愚者われを見据ゑ高鳴く冬の鵙 吉田未灰
日に向いて高鳴く鶏や霜解くる 青峰集 島田青峰
春場所を明日に高鳴るふれ太鼓 佐藤信子
柿に来て高鳴く鵯に夜明けたる 水原秋櫻子
水飛沫くぐり高鳴き三十三才 長谷川草洲
海神の没後高鳴る祭笛 宇多喜代子
湯檜曾川辛夷月夜を高鳴りて 久田 澄子
稲扱器高鳴る音は空にあり 五十嵐播水 埠頭
稲扱機高鳴る方へ犬跳びゆく 西東三鬼
稲扱機高鳴る音は空にあり 五十嵐播水
竹林に高鳴る風や残り花 内田百間
竹皮を脱ぐ黒潮の高鳴りに 渡辺恭子
第九高鳴り行く年をゆかしむる 文挟夫佐恵 雨 月
籾すり機高鳴る家の重なれる 鈴鹿野風呂 浜木綿
誰もゐない路地や高鳴く初鴉 今村征一
谷川の高鳴る岩に雪残る 上村占魚 球磨
野外演奏まづ行進曲高鳴らし 加藤水万「恩寵」
障子張るや高鳴る渓を眼な下に 林原耒井 蜩
雪山をぬけきし川の高鳴れる 安原 葉
雪嶺夕焼鈴高鳴らす供米車 加藤知世子 花寂び
青どんぐり湯川高鳴り流れけり 高澤良一 随笑
高鳴きの鵙の胸毛に朝日さし 高尾富美子
高鳴きの鶫の空の夕ごころ 宮川貴子
高鳴くは駒鳥囮秋風に 及川貞 夕焼
高鳴りの奔流めがけ囮鮎 吉井竹志
鬼志野を生む焔高鳴る五月闇 本庄千代子(秋)
鶯や裏川の瀬の高鳴れる 内田百間
齢とは秋風鈴の高鳴れり 吉田紫乃
●滝音 
あららぎにかかる滝音耳に来ず 長谷川かな女 牡 丹
うぐひすに滝音笑ひつゝ暮るる 飯田龍太
たそがれの瀧音となる花さびた 青木重行
一切を断つ滝音となりにけり 上田操
一山のどこか滝音山ざくら 鈴木貞雄
下りゆく山路滝音遠ざかる 麻生英二
冬の滝音かへしくる石鼎忌 原裕 青垣
冬の滝音を殺して落ちにけり 鈴木真砂女
凍てきれずあり滝音の乱れざる 鷲谷七菜子 雨 月
呼び合ひて瀧音二つ重ならず 永田耕一郎 方途
夜となりて滝音たかくなりけらし 田中冬二 俳句拾遺
太古よりつづく瀧音新しき 嶋田摩耶子
寒垢離のあの滝音はひとりなり 小澤克己
山ぶだう手繰れば滝音とどろけり 菅原文子
日つむりて遍路瀧音の中にをり 鷹野 清子
月の滝音きらきらと立ちのぼり 宇咲冬男
枯れしもの等伏し滝音を自在にす 桂信子 花寂び 以後
極寒の滝音ひびく土不踏 鷲谷七菜子 雨 月
滝音となる水と水水と石 後藤比奈夫 花びら柚子
滝音にすがる他なき山ぶだう 坂巻純子
滝音になれて住みをる飼屋かな 橋本鶏二 年輪
滝音にまぎれつつ家建ちすすむ 深見けん二
滝音に人語逆らふすべもなし 小路紫峡(ひいらぎ)
滝音に佇つ一途なるものに佇つ 篠崎圭介
滝音に沿ひて高みに登りけり 西村和子 夏帽子
滝音に消されしものの中にをり 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
滝音に節のばしゐる今年竹 野澤節子 遠い橋
滝音に近づいて行く初詣 保坂嘉子
滝音に開け放ちたる春障子 阿部喜代子
滝音に驚き黄葉したりけり 高澤良一 寒暑
滝音のただなかや帯ゆるみくる 鷲谷七菜子 花寂び
滝音のはつかに聞ゆ蔓あぢさゐ 高澤良一 燕音
滝音のほかは聞えず蛇の衣 中川秀司
滝音のやや力得し追儺の灯 福田甲子雄
滝音の中小説を読む女 山田弘子 螢川
滝音の中松蝉のまぎれなし 深見けん二 日月
滝音の呪縛振り切り来たりけり 高澤良一 燕音
滝音の唄とも聞こゆ読経とも 西山小鼓子
滝音の息づきのひまや蝉時雨 定本芝不器男句集
滝音の柱となりてくづれざる 脇 祥一
滝音の消ゆるところに来て安堵 磯辺まさる(藍生)
滝音の無限の白磁茶を点てる 加藤知世子 花寂び
滝音の耳を離れし昼の酒 小島健 木の実
滝音の耳慣れしより蝶真白 小泉洋一
滝音の近づく歩みゆるめつゝ 比叡 野村泊月
滝音の風にさからひ蝶生きし 河野南畦 湖の森
滝音の高まるばかり解夏の寺 新田千鶴子
滝音も昔のままや寒雷忌 鎌田 茂
滝音や群歯朶の下暗ければ 佐野鬼人
滝音をとほく衣干す薄暑かな 松村蒼石 寒鶯抄
滝音を己が声とし若き行者 加藤知世子
滝音を滝にもどして平常心 吉田貞子
滝音を聴き疲れたり滝を去る 太田昌子
滝音を蔵し凍てゆく月の巌 鷲谷七菜子 雨 月
滝音を離れてよりの冬日和 竹中碧水史
滝音を離れて水の匂ひけり 小島健 木の実
滝音を離れ風音秋の暮 野澤節子 遠い橋
瀧音にしばられてゐてこの世かな 椎名書子
瀧音に包まるるまで近寄りぬ 牧野春駒
瀧音に消されしものの中にをり 稲畑汀子
瀧音に肩をそがれてゐるごとし 大木あまり 雲の塔
瀧音のこもりてをりし天袋 鳥羽三郎
瀧音の中より痩せてもどりけり 石田勝彦 秋興
瀧音の夕べを散りぬえごの花 池松 昌子
瀧音の息づきのひまや蝉時雨 芝不器男
瀧音の秀衡櫻とぞ申す 黒田杏子 花下草上
瀧音の高まるばかり解夏の寺 新田千鶴子
瀧音を持ち帰りたる懐炉かな 鈴木鷹夫 千年
短か夜の客に滝音ありにけり 林原耒井 蜩
総身に滝音つめて戻りけり 黛 執
虫干の蔵にかすかに滝音あり 平井久美子
街空に滝音を聴く流民か 徳弘純 非望
道ちがふらし滝音に遠ざかる 下村梅子
遠のけば滝音さむき竹林 平井照敏 天上大風
きこゆるは瀧の音とや曼珠沙華 久保田万太郎 草の丈
しばらくは身を離れざる滝の音 瀬山一英
たのしさとさびしさ隣る瀧の音 飯田龍太
とめどなく八月尽の滝の音 百合山羽公
ほろほろと山吹ちるか瀧の音 松尾芭蕉
をちこちに滝の音聞く若葉かな 蕪村
パチンコ店瀧の音なす終戦日 大木あまり 山の夢
一切の音絶ち滝の凍つるかな 坂本菊江
下校時の闇の階段滝の音 東江万沙
中宮祠に滝の音聞く夏の月 夏の月 正岡子規
二の滝の音の交響神帰る 橋本榮治 麦生
二荒や紅葉にこもる瀧の音 紅葉 正岡子規
人氣なき山の紅葉や瀧の音 紅葉 正岡子規
全山のもみぢ促す滝の音 山内遊糸
公園の櫻月夜や瀧の音 泉鏡花
凍滝の怒濤の音を嵌め殺し 石嶌岳
凍滝の玉簾なす水の音 川辺房子
凍滝の音を封じて濁りけり 行方克己 昆虫記
凍瀧の内や垂水の音やさし 佐藤希世
刻つなぎきて永劫に瀧の音 青木重行
剣が峰に夏霧吹て滝の音 夏霧 正岡子規
千年の杉や欅や滝の音 草間時彦「瀧の音」
句碑動くかに城山の滝の音 杉山青風
夜はときに長寿かなしき滝の音 飯田龍太
大杉の蓄へてゐる滝の音 和田耕三郎
寒行の見えねど瀧の音変る 中戸川朝人
待春の空に襞ある瀧の音 古舘曹人 砂の音
懐手して上段に瀧の音 古舘曹人 砂の音
手を置きし巌のこむる瀧の音 中戸川朝人 尋声
昼みたる滝の夜の音聞きにけり 久保田万太郎 流寓抄
木枯の竹山越えて滝の音 吉武月二郎句集
涸瀧の落ちゆく末は風の音 山口草堂
涼しさや闇のかたなる滝の音 涼し 正岡子規
満月やせり上りくる瀧の音 黒田杏子 花下草上
満月や地下千丈の瀧の音 鳴戸奈菜
源流の雫の旅や滝の音 湯浅昌子
滝の音あるときつよく椿落つ 夕爾
滝の音あるひはこもる書の力 加藤知世子 花寂び
滝の音かたまりのぼる年の暮 福田甲子雄
滝の音してゐて未だ滝見えず 田中冬二 俳句拾遺
滝の音とどく木の椅子木の机 猪俣千代子 堆 朱
滝の音にのまれし言葉眸がただす 稲垣きくの 黄 瀬
滝の音によろけて掴む男の手 稲垣きくの 黄 瀬
滝の音に消ぬべき声やお山蝉 雑草 長谷川零餘子
滝の音も細るや峰に蝉の声 千代女「真蹟」
滝の音万朶の花の奥深く 峰山清
滝の音呪文となりて我を縛す 山本歩禅
滝の音四方にこたへて木下闇 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
滝の音均されてゆく春堤 原裕 青垣
滝の音山に揺さ振りかけてをり 阿部方城
滝の音岩魚焼く火の暮れ残り 古賀まり子
滝の音瀬の音いつか山の音 北村 寛
滝の音瀬の音月の差しゆきぬ 桂樟蹊子
滝の音真近に聞いて冬ごもり 中川宋淵 詩龕
瀧の音いろいろになる夜長哉 夜長 正岡子規
瀧の音ひびきて忘れ扇かな 細川加賀 『玉虫』以後
瀧の音殘る暑さもなかりけり 残暑 正岡子規
父の声滝の音にも消されざる 山崎みのる(諷詠)
生徒らの賑はひ去りし滝の音 萩原正章
真夜中や蚊帳を圧しくる滝の音 増田龍雨 龍雨句集
真言の秘密々々の滝の音 京極杞陽
石穿つ力を秘めし滝の音 きよみ
秋燕忌六腑にひびく滝の音 角川春樹 夢殿
秋風や墓の下なる滝の音 渡辺水巴 白日
糸滝の音より抜けて日雀かな 隈崎了仙
緒を締めし鼓ケ滝の音と思ふ 鷹羽狩行
虹鱒を釣る腹背に滝の音 宮下翠舟
蛇穴を出て洞然と滝の音 辻桃子
蛇笏忌の岩うつ滝の音聞ゆ 飯田龍太
蝉鳴くや団扇に画く滝の音 蝉 正岡子規
衣更へてきけばきこゆる滝の音 村越化石 山國抄
補陀落の雲の峰より滝の音 春樹 (日光の二荒山(男体山)は補陀洛山なり)
遠滝の音なき白さ畏れけり 渡辺 昭
金輪際滝落つ滝の音として 小林康治 玄霜
長き夜や闇に落ちかゝる瀧の音 夜長 正岡子規
青山中錫杖滝の音なせり 松山足羽
音止の瀧の音澄む蕗の薹 青木重行
養老や残る花より滝の音 吉田冬葉
魂離るこの世に瀧の音残り 加藤耕子
●叩く 
*えい糶られなほも勢ひの地を叩く 奈良文夫(萬緑)
いたづらに叩く水鶏や墓の門 水鶏 正岡子規
うちつけに夜の戸叩く帰省かな 高橋淡路女 梶の葉
うちつけに氷上叩く雨となりぬ 木村蕪城 一位
おほばこの花をはげしく雨叩く 若土白羊
かなぶんの叩くホテルの非常口 露口美穂子
ががんぼの一肢かんがへ壁叩く 矢島渚男「采薇」
けらつつきふかき眠りの木を叩く 永井一穂
こもり音に啄木鳥叩く又叩く 原石鼎
さびを聞け氷を叩く竹柄杓 氷 正岡子規
すがもりの小屋の戸叩く五十雀 田中豊季子
せきれいの叩く自炊の土鍋は空ら 長谷川かな女 花 季
つるはしで叩く枕木梅雨はじまる 細見綾子 花寂び
とうすみやまた雨叩く水の面 岸田稚魚
とひよりて竹を叩くや元政忌 松瀬青々
なな草や次手に叩く鳥の骨 桃隣 正 月 月別句集「韻塞」
なまくら出刃もって寒海苔叩くかな 高澤良一 素抱
ぬれ髪を振りては肉を叩く春 宇多喜代子
はじめより殺意ありけり蚊を叩く 星留水子
ふれよ雪ふれよと叩く鉢叩き 鉢叩 正岡子規
まだ土の匂ひを持たぬ畦叩く 川上弥生
まつさきに花舗の戸叩く春一番 満田玲子
まみどりの秘境に叩く天瓜粉 櫂未知子 蒙古斑
まろび寝を水鶏叩くや胸の上 森澄雄
みづうみのしづかなる日の胡麻叩く 甲斐のぞみ
ゆきずりの洋傘もて叩く南風の狸舎 宮武寒々 朱卓
アトリエの高き天窓雹叩く 中島隆
アネモネを呉れと人来て戸を叩く 前田普羅
ジャスミンや酔ふ人影の水叩く 小池文子 巴里蕭条
パイプの灰叩く他郷の一夏木 秋元不死男
ブリキ屋叩く切なきまでに門川澄み 加倉井秋を 『真名井』
一つ家を叩く水鶏の薄暮より 松本たかし「石魂」
一戒を破り即ち蝿叩く 堀前小木菟
一芸と言ふべし鴨の骨叩く 右城暮石(1899-1995)
一茶忌の川底叩く木の実かな 石田勝彦
七種の叩けば叩くあをさかな 岸原邦代
万緑の一幹馬首のごと叩く 狩行
不器用に警察官が蝿叩く 加藤良彦
人叩く音にて覚めし昼寝かな 中村哮夫
人探すことも忘れて蝿叩く 田沼文雄
人違ひして肩叩く目借時 徳丸峻二
何鳥か梅雨の厚みをまた叩く 椎橋清翠
充分に引きつけ置いて蚊を叩く 高澤良一 素抱
先づ叩く己の影や土竜打 新井盛治
児が叩く気侭な鉦や地蔵盆 小山徑石
冬山を叩くが如く魚板打つ 杉浦冷石
冬帽子脱ぎて無念の椅子叩く 浅井惇介
冷房に疲れし肩を叩くなり 星野立子
出刃の背を叩く拳や鰹切る 松本たかし「火明」
出初を祝うて叩く瓢かな 一茶
出峡の日和あまさず胡麻叩く 若林英子
初東風や双手で叩く馬の胴 松村多美
初雷の嫩芽を叩く風雨かな 長谷川かな女 雨 月
北向やこんこん叩く厚氷 尾崎紅葉
十日夜おもしろがりて地を叩く 猪俣千代子 秘 色
半漁の一戸を水鶏叩くなり 森田峠 逆瀬川以後
厠の扉叩く子がゐて冬の月 松村蒼石 雁
古暦丸めて犬の頭を叩く 岸本尚毅 舜
叩くにも君を忘れぬ薺哉 紅爾
叩くのは季節の音かわたし咲く 和田美代
叩くもの自在に選び石叩き 神谷壽松
叩くより仕末がこはし大百足虫 奥出豊子
叩く尾のすりきれもせす石敲き 鶺鴒 正岡子規
叩く時は叩かぬ時は秋の聲 秋の声 正岡子規
叩く時ひさご飛び出せ時鳥 時鳥 正岡子規
名月の裏戸を叩く水鶏かな 皿井旭川
啄木鳥が鉄砲虫の木を叩く 今川篤子
啄木鳥の叩く木の音空の音 今村七栄
啄木鳥の昇りきらざる日を叩く 平子 公一
啄木鳥叩く音のかなたはうつろなる 原 柯城
啓蟄の田をせきれいの尾が叩く 南 うみを
土間叩く藁ぼて重き亥の子かな 藤木栄二
地を叩く夫の縄飛び春隣 蕪木啓子
垣こえて雨戸を叩く水鶏かな 水鶏 正岡子規
夏痩の腋皿叩く団扇哉 夏痩 正岡子規
夏過ぎのプールを叩く通り雨 永方裕子
夕暮はラジオを叩く父となる 仁平勝 東京物語
夜の雪やしきりに叩く医者が門 雪 正岡子規
夜の雪やせわしく叩く醫者の門 雪 正岡子規
夜寒の戸叩くけはひや起ちて見る 青峰集 島田青峰
夜神楽の死にゆく鬼に手を叩く 野見山ひふみ
大年や啄木鳥叩く常の音 東洋城千句
大豆叩く音の深みへ溜まる鯉 澤 悦子
天界へ向き大氷柱叩くなり 金箱戈止夫
妹背鳥煙管の筒を叩くごと 高澤良一 随笑
寒釣の煙管を叩く石置けり 米沢吾亦紅 童顔
寒鮒の尾が地を叩く暮色かな 斎藤梅子
寝よとすれば門叩く也春の宵 春の宵 正岡子規
小夜更けて氷を叩く隣かな 氷 正岡子規
小夜更て氷を叩く月夜哉 氷 正岡子規
山吹や月の戸叩く武者一騎 山吹 正岡子規
山吹や藁屋を叩く武者一騎 山吹 正岡子規
山影の移りゆくなか胡麻叩く 棚田良子
山笑ひ初むや帽子で膝叩く 岩月星火
山鳩や数へて母の肩叩く 冨山としを
年玉の鴨提げて書生戸を叩く 年玉 正岡子規
幹どこを叩くも鉄の音や冬 橋本榮治 麦生
底叩く音や余寒の炭俵 召波 五車反古
庭履の四五歩に秋の蚊を叩く 徳澤南風子
影さしてなほ繭の中叩くあり 赤松[けい]子 白毫
忘れゐしときに水鶏の叩くかな 小玉竜也
思ひ切り地球叩く西瓜割 阿部一彦
恋猫が屋根に居るピアノを叩く 加倉井秋を 『胡桃』
愛妻家小西昭夫氏蝿叩く 小西昭夫
憂き事を忘れんとして胡麻叩く 三浦音和
戸を叩く女の聲や冬籠 冬籠 正岡子規
戸を叩く狸と秋を惜しみけり 蕪村
戸を叩く音の出したき水鶏笛 後藤比奈夫 めんない千鳥
戸を叩く音は狸か薬喰 子規句集 虚子・碧梧桐選
戸隠の磐戸を叩くけらつつき 伊藤伊那男
手に足にこほろぎのぼる胡麻叩く 白川朝帆
手を叩くが如く万象句となる冬 橋本夢道 良妻愚母
打ち上げて尾鰭怒れる鮭叩く 西村和子 かりそめならず
拳で叩く枯木悪夢の昨夜無し 小宮山遠
掛乞の留守を叩くや竹の門 掛乞 正岡子規
掛乞の竹椽叩く烟管哉 掛乞 正岡子規
掛矢あがる時叩く音桃咲けり 川村紫陽
揉み叩くゐさらひ鏡餅に似て 矢島渚男 延年
揚羽蝶遠忌の柱叩くかな 柿本多映
文人とかかはり鴨の骨叩く 水谷芳子
新平忌の経塔叩く夜の雨 北村広洋
新緑や仰ぎて叩く楡の幹 望月皓二
新蕎麦や月下に叩く俳諧寺 小川牛里
旅人の破鐘叩く扇かな 扇 正岡子規
日に叩く鶏頭の種無尽蔵 大石悦子 聞香
日の当る幹の高さにけら叩く 深見けん二 日月
春の雪ふり子が叩くかがり緒の赤い太鼓 橋本夢道 無禮なる妻抄
春宵の叩きに叩く肉一片 大倉郁子
春沼の天のどこかで手を叩く 横山白虹
春驟雨船端叩く川蝦漁 高澤良一 寒暑
暑し都両手で叩く甕の胴 宇多喜代子
更けて来て宿を叩くや夏の月 井月の句集 井上井月
朝来ると山小屋叩く星鵜 伊藤いと子
朝桜吾子の駆足地を叩く 奈良文夫
朧夜や用ありげに狸戸を叩く 朧夜 正岡子規
木の家や涼風に肩叩く音 中山純子 沙 羅以後
木の葉降る降れよと子らが樹を叩く 寺井谷子
木を叩く音のしぐるる誕生寺 立間悠久男
未明すでに溲罎は見ゆれ水鶏叩く 石田波郷
朴咲くや「朴(すなほ)」とも読み幹叩く 平井さち子 紅き栞
村中を法華の叩く彼岸哉 小澤碧童 碧童句集
枕木を叩くつるはし梅雨に入る 細見綾子
柚子坊やくびれ無きわが腰叩く 佐藤洋子
柿若葉あれあれ鯉の尾が叩く 林原耒井 蜩
栗叩く音に首あげ薩摩鶏 倉橋羊村
桐落葉乾ける土を叩くなり 上村占魚 球磨
梅の実を叩くを見つつはらはらす 相生垣瓜人 微茫集
梅深く月下の門を人叩く 夜の梅 正岡子規
棒をもて少年春の水叩く 吉田木底
森の朝告げて啄木鳥叩く音 梅田実三郎
樵り休めば啄木鳥の叩くしづかさよ 冬葉第一句集 吉田冬葉
樹を叩くとき満満と思慕つのる 大西泰世 世紀末の小町
樹木医の叩く樹の音春浅し 辻本孝子
此村の門並叩く水鶏哉 星野麦人
死はときに木をこつこつと叩く鳥 尾利出静一
母の肩たたくおもひに胡麻叩く 粟田素江
水切りし狙白し鰺叩く 上村占魚 『天上の宴』
水叩く草花あり蜻蛉吹かれ行く 四明句集 中川四明、粟津水棹・名和三幹竹共編
水叩く蜻蛉の秋となりにけり 長谷川櫂 虚空
水無月の竹を叩くや俄雨 妻木 松瀬青々
水草生ふ水面を雨の叩くなり 高浜年尾
水鶏きて戸を叩く夜は我とおもヘ 上村占魚 球磨
沖晴れてとべらの花を叩く雨 藤田あけ烏
波羅蜜多写経の半ば蚊を叩く 北見さとる
洗面器叩くや明けをつづれさせ 佐々木六戈 百韻反故 初學
深川や風が戸叩く雛の家 加藤耕子
深海のホテルの壁を蛾が叩く 横山白虹
滝泡の岩めぐる鳥を叩くさま 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
濁り鮒釣りをる泛子を雨叩く 平尾祁村
瀬の音に尾羽を叩く黄鶺鴒 堀川草芳
焚き添ふる鵜篝薪を以て叩く 高濱年尾 年尾句集
燈籠の門を叩くや女馬士 燈籠 正岡子規
父酔うてしきりに叩く火桶かな 松本たかし
片膝をたて直しては胡麻叩く 山崎寥村
犬猫にしたはる妻よ胡麻叩く 大熊輝一 土の香
狸来ずなりぬ水鶏や戸を叩く 水鶏 正岡子規
玉ぜりの裸を叩く霰かな 富安風生
球根の土を女の掌で叩く 古舘曹人 能登の蛙
生凍豆腐叩く谺や寒未明 小佐田哲男
畝叩く喜雨の力を見てゐたり 佐々木蔦芳
病床に心いらちて蚊を叩く 蚊 正岡子規
百日紅叩く雨可し朝の酒こころを洗ふものなれど注す 伊藤一彦
真夜中を叩く私的な国境 穴井太 ゆうひ領
短夜や頻りに叩く医者の門 短夜 正岡子規
短日やエホバの使徒が戸を叩く 穴井太 原郷樹林
石叩き叩く擬宝珠をきめてをり 中村天詩
石鯛きて舟底叩く嬉しさよ 森下草城子
砂叩く雨に昼顔花やぶれ 岡本無漏子
秋の蚊を叩く一人の音を立て 深見けん二 日月
秋高し駅員手旗で肩叩く 田川飛旅子 『植樹祭』
種選るや通りがかりに樹を叩く 藤田湘子
稲妻に怯ゆる牛の背叩く 倉重其粧亭
空つ風たつた一人の戸を叩く 高橋イネ
竜胆枯れ叩く狐の尾がむらさき 長谷川かな女
童出て犬の子叩く余花の宿 岡本松浜 白菊
竹藪の外から叩く水鶏哉 水鶏 正岡子規
笠叩く松の雫や五月雨 比叡 野村泊月
籾伏せが叩く苗田の泥日輪 羽部洞然
粟の穗のこゝを叩くな父の墓 粟 正岡子規
絵馬叩く風より雪の降り出して 角光雄
縁先のいとも良き音蚊を叩く 斎藤夏風(屋根)
縄とびの縄啓蟄の地を叩く 辻田克巳
縋り合ひて雪を叩くや下駄と下駄 左衛門句集 吉野左衛門、渡邊水巴選
老にまだのこる力や粟叩く 上野泰 春潮
背を叩くから夕焼を吐かねばならぬ 豊口陽子
胡麻叩くすとんと夕日落ちにけり 大出百合子
胡麻叩くダムとなるまで胡麻叩く 大野西湘子
胡麻叩く千手千眼観世音 井上みつこ
胡麻叩く女の一日暮れにけり 石川克子
胡麻叩く平和の音の響きけり 吉田利子
胡麻叩く手首の力やさしくし 猪俣千代子 堆 朱
胡麻叩く母のうしろへ帰省かな 市野波人
胡麻叩く税書かたへに置きしまま 乙草之介
胡麻叩く著物の膝のぬけしまま 橋本鶏二 年輪
胡麻叩く面白そうに手を上下 長谷川かな女 牡 丹
脚長のいらくさの香に太鼓叩く 長谷川かな女 花 季
腰叩く刈田の農夫誰かの父 西東三鬼
腹擦りて鮭のぼる瀬を叩く雨 有働亨
舟ばたを叩く上げ汐春近し 田山諷子
舷を叩くが習ひバナナ売り 吉田鴻司
花くれない魚板を叩く風吹く日 和田悟朗
花冷えの城の石崖手で叩く 西東三鬼
茅舎忌や魚板を叩く雨しきり 磯崎美枝
菱刈りの面を叩く夕立かな 前田普羅
萩の戸に埃叩くやむし鰈 松瀬青々
落花水に動きて雨の叩くなり 高濱年尾 年尾句集
葛の葉の日は衰へず豆叩く 石田あき子 見舞籠
葭切や布団を叩く音のして 後藤 章
蓑虫や化けて戸叩く秋の雨 立花北枝
虫の夜の弾くと叩くとありにけり 佐々木六戈
蚊の声やうつゝに叩く写し物 蚊 正岡子規
蚊を叩くをんなの手のひら華やげり 谷口桂子
蚊を叩く姿勢のままに逃げられし 米澤江都子
蚊を叩く音も更けたる夜学哉 蚊 正岡子規
蚊を叩く骨も折れよとおもひ切 高澤良一 寒暑
蛙闇よりあやかしの扉を叩く 文挟夫佐恵 雨 月
蛭の水面叩くがごとく手を洗ふ 石川桂郎
蜻蛉や叩くも墓の船大工 不句襍成 細谷不句
蝿叩くことのおろかさ見てをりぬ 亀井糸游
蝿叩くには手ごろなる俳誌あり 能村登四郎(1911-2002)
蝿叩くふりして叩く夫の膝 岩川春江
蟲の夜の弾くと叩くとありにけり 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
蠅叩くことのおろかさ見てをりぬ 亀井糸游
蠅叩く術練達にまだ遠し 高澤良一 寒暑
行過ぎて隣を叩く水鶏かな 会津八一
裏木戸を叩くは風の雪柳 横田清香
誘惑の雨でで虫の殻叩く 前川 実
誰が家の戸叩く音ぞ夜半の秋 秋 正岡子規
誰もゐぬ世や草叩く盆の雨 清水径子
豆叩くうちでのこづち振るやうに 岩崎すゑ子
豆叩く夫婦の間に子供置き 中川秋光
豊年の地下足袋叩く夕重み 久米正雄 返り花
赤牛の尻を目がけて虻叩く 深沢義夫
逆らへる山火は二人して叩く 岩岡中正
連翹や田水を叩く海の雨 斉藤美規
遠野郷踊り太鼓を地に叩く 斉藤敬子
酔ひし竹雨の叩くに任せけり 相生垣瓜人 明治草抄
野猿浴み蜻蛉叩く露天温泉 西本一都 景色
野遊びや飛行機とべば手を叩く 龍胆 長谷川かな女
金物で叩く音する切子かな 岡田史乃
鉢棚を叩く硬さや寒の雨 颯(しづの女小句) 竹下しづの女
鉦叩く子のわき見して春祭 小間さち子
鉦叩叩くほかなき夜の不安 設楽千恵子
鉦叩山鳴熄めばまた叩く 米谷静二
鉦叩思ひだしてはまた叩く 杉山青風
鉦叩朝より叩く含み墨 村上麓人
鍋もとはしんがり急ぎ雹叩く 福田蓼汀
鎧戸を叩く落葉の夜の童話 文挟夫佐恵 黄 瀬
長き影曳きねんごろに胡麻叩く 原田卯つ木
長生きをしきりに詫びて胡麻叩く 小原啄葉
雨叩く最上川べり破れ竹瓮 高澤良一 随笑
雪の戸を叩く子のこゑ注連貰ひ 角川春樹
雪女をとこひとりの家叩く 保坂伸秋
雪女子盗ろことろと戸を叩く 中村敞
雪崩跡叩く雷雨のマチガ沢 小野宏文
雪解山叩くとでるわでるわ鯉 鈴木光彦
雪風の人声に似て戸を叩く 太田土男
電線に鶺鴒空の端叩く 舟山月歩
霧積の霧の戸叩く夜のすだま 文挟夫佐恵 雨 月
青げらの木を叩く音陶の郷 木村桃山
頭痛しと頭を叩く音や春 池田澄子
颱風に傾ぐデッキを濤叩く 山本暁鐘
高層の玻璃叩く喜雨傘寿の師 奈良文夫
鴨の骨叩く音なり二階まで 後藤綾子(1913-94)
鵜つかひの舷叩く谺かな 大谷句佛 我は我
鶏頭に太鼓叩くや本門寺 夏目漱石
鶯の鳴く中叩く魚板かな 野村喜舟 小石川
鶺鴒のとまりて叩く鬼瓦 坪井 さちお
鶺鴒の叩く泉石序ありけり 篠塚しげる
鶺鴒よこの笠叩くことなかれ 鶺鴒 正岡子規
鶺鴒叩く霽れ間の猩々木 林原耒井 蜩
鹿火屋にも山廬の風や戸を叩く 古舘曹人 砂の音
黒潮の香のいまだある鰺叩く 間地みよ子
黒瀬川岐てる島に豆叩く 中戸川朝人 星辰
黙々と西日の中に胡麻叩く 田中冬二 俳句拾遺
鼈甲屋の叩く調子は日永かな 野村喜舟 小石川
龍胆枯れ叩く狐の尾がむらさき 長谷川かな女 花 季
●太刀音
●丁々発止
●地籟 
初明り胸中天籟地籟あり 渡部抱朴子
●槌音 
冬の夜や槌音返す壁聳ゆ 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
学ぶ紅顔冬あたたかな木槌の音 成田千空 地霊
未生以前の槌の音する朝の杉 鶴岡梨江子
棟上げの槌音一気に秋ぞ立つ 高澤良一 素抱
沖がかる船に槌音小春凪 五十嵐播水 埠頭
父の日の谺となりて槌の音 前原蟻子
牧開く槌音雲に響かせて 橋本榮治
玉綱打つ槌音の冬に入る 渡辺成典
秋は絡まぬ石切槌の二挺の音 川口重美
秋風や浜茶屋たたむ槌の音 後藤亀泉
箔打の槌音止めば暮春かな 本多静江
薬師寺の初東風に乗る槌の音 中村富子
金箔を打つ槌の音冬に入る 三代川次郎
●爪音 
日向ぼこ雀ちか寄る爪音す 大城 周
●弦声
●低音 
ただ妻の支持のみ確か蟇低音(ひくね) 秋元不死男
ぼくが低音のロシヤ民謡太る春月 穴井太 鶏と鳩と夕焼と
サックスの低音が好き冬銀河 下条冬二
低音です東京湾の枯芒 福島靖子
低音のときどき強く虎落笛 平本微笑子
低音は枯木高音は雲ワイン澄む 河野多希女 両手は湖
低音を好みてリラを愛しけり 後藤夜半 底紅
晩涼やはじめ低音に習ひ笛 伊藤京子
草笛の低音は業の深さかな 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
踏みゆるめばすぐに低音稲扱機 橋本多佳子
●天籟 
初明り胸中天籟地籟あり 渡部抱朴子
天籟や山のなぞへを鴨の群 文挟夫佐恵
天籟や雁の羽ばたきまぎれこみ 大石悦子 百花
天籟を猫と聞き居る夜半の冬 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
●遠谺 
二期田植う村に射爆の遠谺 玉城一香
人見えぬまま寒林の遠こだま 桂信子 黄 瀬
今発ちしすすきの風の遠こだま 豊田都峰
冬の猟銃忘却かけし遠こだま 寺山修司 未刊行初期作品
晩秋の木曾谷汽車の遠谺 福田蓼汀
月一痕仏法僧の遠谺 渡邊千枝子
月更けて鶴が機織る遠こだま 渡辺恭子
月落ちて仏法僧の遠谺 高橋克郎「月と雲」
身近きは響き野分の遠谺 斎藤空華 空華句集
遠谺して木曾谷の修羅落し 加古宗也
●遠鳴り 
九十九里の波の遠鳴り日の光青葉の村を一人来にけり 伊藤左千夫
出埃及記に母の颱風の遠鳴り 江里昭彦 ラディカル・マザー・コンプレックス
大沢小屋目細遠鳴き日暮れつつ 岡田日郎
弔問の月あきらかに遠鳴子 西島麦南 人音
春潮の遠鳴る能登を母郷とす 能村登四郎
梟の遠鳴きお山更けにけり 雨宮美智子
湖に岸離る舟や遠鳴子 尾崎迷堂 孤輪
白日の酒座しめやかに遠鳴子 西島麦南 人音
筒鳥の遠鳴き女岳雲の中 水野博子
筒鳥の遠鳴く手稲山といふ 山口青邨
筒鳥の遠鳴く朝の樹海かな 松田多朗
誰が引くやしきりに鳴つて遠鳴子 高橋淡路女 梶の葉
踏切の遠鳴り蝶の凍てにけり 菅原鬨也
遠鳴きが良し病む床に法師蝉 森定南樂
遠鳴神面裡顎緊む手力男 平井さち子 完流
郭公の遠鳴き霧の大菩薩 小川寿々子
隣り町に一の鳥居や遠鳴神 平井さち子 紅き栞
鶴来つつあり遠鳴きのさざめきに 吉野義子
●遠音 
あかがねの茶筒に雉子の遠音あり 友岡子郷 未草
うき時は蟇の遠音も雨夜哉 曽良
うぐひすの西日になつて遠音かな 比良
うぐひすの遠音置きたる鏡かな 中村祐子
うちまぜて遠音かちたる砧かな 飯田蛇笏 山廬集
かりがねの遠音もあらむ川の音 小松原みや子
こゑおもく牛遠音して梅の奥 石原舟月
ひぐらしの遠音の糸の切れしまま 飯田龍太
みん~やつく~法師遠音なる 野村喜舟 小石川
めづらしや水鶏の遠音竹をうつ 樗良「雪の声」
三光鳥森のしづくとなる遠音 北川孝子(京鹿子)
冴ゆる灯の見えて石切る遠音かな 広江八重桜
啄木鳥の柝を遠音に師匠亡し 上田五千石 森林
塩田に遍路の鈴の遠音あり 舟月
夏鶯の悲願の遠音あるばかり 飯田龍太「童眸」
夢かれて初秋犬の遠音かな 西吟
奔流の遠音となりし山椒の実 斎藤梅子
宿題の子に邯鄲の遠音澄む 西村和子 窓
寒蝉の遠音ばかりの余生かな 山口草堂
小春日の障子をはたく遠音かな 句佛上人百詠 大谷句佛、岡本米蔵編
山塊の月の仏法僧遠音 中村將晴
山茶花に筬の遠音をなつかしむ 小松崎爽青
恋猫の鈴の遠音や姥子宿 井上久枝
恵那晴れて遠音はりゐる囮かな 本田一杉
憂き時は蟇の遠音も雨夜かな 曾良「蛙合」
打返す枕に虫の遠音かな 井上井月
日盛に知らぬ小鳥の遠音かな 泉鏡花
春の月雉の遠音に傾きぬ 士朗
月夜の星大きくて蛙の遠音 北原白秋
朝夕の潮の遠音も羽子日和 西島麦南
朧夜に何やらものゝ遠音哉 朧夜 正岡子規
海鳴りの遠音を聞くや冬籠 癖三酔句集 岡本癖三酔
煮ゆる壺焼に海の遠音を聞きにけり 青峰集 島田青峰
秋来れば博多小女郎もなげきけむ波の遠音に人の待たるる 柳原白蓮
笛の音のあはれ遠音や盆の夜々 馬場移公子
筒鳥の遠音か夕雲岳とざす 福田 蓼汀
筒鳥の遠音ばかりに峡暮るる 江口良子
筒鳥の遠音近づくことのなし 森田峠(かつらぎ)
筒鳥の風の遠音となりにけり 三村純也「常行」
老鴬の遠音どこまでも遠音 及川貞
草笛の遠音はすでに暮れてをり 寺井満穂
薺うつ遠音にひくや山かつら 青蘿
虫遠音刻々月下美人解け 及川貞
蜩の遠音に人の恋しかり 鹿野周治
蟲遠音近音月下の留標群 下村ひろし 西陲集
身を鍛へよと頬白の遠音冴え 飯田龍太
近づくと思ひし鹿の遠音かな 柳原極堂
邯鄲の鳴ける遠音に風の出て 行方克巳
郭公の遠音こだまは末消ゆる 豊長みのる
陵の青葉に潮の遠音かな 会津八一
雉子鳩の遠音や風のさくらんぼ 渡邊水巴 富士
雉鳩の遠音うつつに明易し 佐々木俊介
雪ちらちら鵯の遠音をなつかしむ 臼田亞浪 定本亜浪句集
風鈴の遠音に似たり甲斐地酒 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
高からぬ山突兀と百舌遠音 三好達治 路上百句
鬼ケ城夏鶯の遠音して 前田普羅 新訂普羅句集
鮎の瀬は遠音あぐるや蚕仕度 前田普羅 飛騨紬
鳴くてふに鹿の遠音や老が耳 松根東洋城
鴬の遠音こたびは夫が聴きし 上野さち子
鶏遠音きこゆる北風に病臥かな 富田木歩
鶯のいつか去にけん遠音かな 会津八一
鶯の遠音と父の記憶力 栗林千津
鶯の遠音のありて雨読の日 浅井青陽子
鶸遠音笹かぶる井の底知らず 臼田亞浪 定本亜浪句集
鹿笛に答へて鹿の遠音哉 鹿笛 正岡子規
麦笛やおのが吹きつゝ遠音とも 皆吉爽雨「雪解」
●怒号 
蟷螂に怒号のなきを惜しむなり 中原道夫
暗闇祭闇に怒号し闇を殴り 深谷鬼一(梟)
●怒涛音 
かげろひゆく身に谺して怒濤音 鷲谷七菜子 雨 月
なまはげの一歩一歩に怒濤音 荻原都美子
冬蝶の身をひらきたる怒濤音 斎藤梅子
壺焼を食ふこめかみに怒濤音 鈴木鷹夫 渚通り
寒椿落ちて崖うつ怒濤音 河本好恵
年詰る軒にいちにち怒濤音 石原舟月
怒濤音の身ぬちにとどく寒牡丹 石寒太 翔
怒濤音わが初夢を囲みけり 奥坂まや
怒濤音島にひびきて五月果つ 村上辰良
怒濤音懸大根に日が移り 安田照
怒濤音背に角巻の女かな 徳永山冬子
旅に年送るはさむし怒濤音 中戸川朝人 残心
水仙は怯まざる白怒涛音 西谷 孝
浜菊の枯れて突立つ怒濤音 加藤憲曠
煮凝に箸かけて聴く怒濤音 小川原嘘帥
腸にずしりと冬の怒涛音 伊藤霜楓
蟷螂の青の一歩よ怒濤音 佐川広治
飾り臼しづかにをれば怒濤音 加藤楸邨
●轟き 
あかつきの海傾けて来る浪の磯に砕けて天に轟く 都筑省吾
おでん食ふよ轟くガード頭の上 篠原鳳作 海の旅
ついに鳴り轟きにけり寒の雷 川島彷徨子
どどーんと轟く連山猟期入る 藤田真寛
やまうらの夕轟きやきじの声 空芽 俳諧撰集「有磯海」
トラックの轟き秋蚕まろびけり 殿村菟絲子
モルダウの轟くなかのしづり雪 中村与謝男
元日の晴れて轟く午砲かな 青峰集 島田青峰
冬涛の轟き攻むる沖の岩 浜田徳子
南桶の轟きやまぬ花ゆすら 綾部仁喜 寒木
外に多事雷も壮年の轟きに 平井さち子 完流
天城嶺の芯に轟く日かみなり 白井新一
寒凪の夜の濤一つ轟きぬ 川端茅舎
山雨なほ轟き落ちて夏爐もゆ 松本たかし
枇杷実る大海の轟くところにて 長谷川かな女 雨 月
枯れてもう考えぬ葦 日轟く 楠本憲吉
湯地獄の底轟きて真炎天 西村公鳳
濤ひとつびとつ轟く野蒜摘 児玉 小秋
火縄銃城に轟く子供の日 岩崎悦子
玄海の濤の轟く月の浜 伊藤いと子
穴釣や氷湖轟く寧からず 新井石毛
蝶と来たり脚下のダムの轟きに 赤尾恵以
螢滅し国道一号線轟く 木村蕪城 寒泉
轟きて名も荒川の秋の雷 鈴木鷹夫 千年
轟きて湯柱立てり空に鵙 下村ひろし 西陲集
轟きに虹を架けたり那智の瀧 五島高資
轟くといふには遠き日雷 伊藤政美「天の森」
長谷寺に法鼓轟く彼岸かな 高浜虚子
雪解川轟きゐたり流刑小屋 岡田加代
雪起し轟き渡り雪となる 金山有紘
雲轟きして鳥のつく枯蘆や 廣江八重櫻
飛騨山を雷轟きに指させる 鈴鹿野風呂 浜木綿
首夏の家朝に深夜に貨車轟き 石田波郷
高濤の轟きやすし盆の前 大井戸辿
●響動き(どよめき) 
左義長の響動めきに酔ふ在の衆 吉井秀風
山川の響動み流るる良夜かな 茨木和生 往馬
どよめきから部隊をもつて行くレールの鉄錆も五月 橋本夢道 無禮なる妻抄
どよめきに馬のたじろぐ多度祭 林 圭子
どよめきの繰込む会陽仁王門 細川子生
初富士を得しどよめきの食堂車 浅野右橘
物言ひに杜どよめきて草相撲 平尾圭太
福引の笑ひどよめく隣哉 福引 正岡子規
竹の精どよめき匂ふ雨五月(飯能・竹寺) 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
軽きどよめき麦藁帽の花火なり 高澤良一 随笑
●とんとん 
きゝきゝと鵙とんとんと渋を搗く 阿波野青畝
すすき野を神主よぎるとかとんとん 穴井太 原郷樹林
たべ飽きてとんとん歩く鴉の子 高野素十
とんとんと上る階段年忘れ 星野立子
とんとんと二階へ上る冬支度 辻田克巳
とんとんと二階を降りて合格子 豊田八重子
とんとんと叩けハ崩る門の雪 雪 正岡子規
とんとんと年行くなないろとんがらし 草間時彦
とんとんと杭ゼわたれる寒鴉 小原菁々子
とんとんと砂糖スティックアイスティー 高澤良一 随笑
とんとんと縁踏み畳替終る 森本順代
とんとんと薪割り紅葉ちる日向 高澤良一 寒暑
とんとんと運ぶ話や白障子 大谷史子
二歩とんとん三歩目跳んで風花や 工藤克巳
初電車とんとんと坂下りけり 岸田稚魚
初電車坂とんとんと下りにけり(東京に一系統都電残れり) 岸田稚魚 『萩供養』
初鴉安土の田んぼをとんとんと 高澤良一 燕音
千年の古都とんとんと春の風 鹿又英一
味噌玉のとんとんとんと杏咲く 小岩井隴人
夜なべしにとんとんあがる二階かな 森川暁水 黴
建て急ぐとんとん葺きや暮の秋 石塚友二
早苗饗の娘の板橋をとんとんと 射場秀太郎
桃・満作咲きてとんとん拍子の春 高澤良一 寒暑
梯子段とんとん降りる菊日和 藤岡筑邨
着ぶくれてすつとんとんと市場行 中尾杏子
紙角力とんとん年の詰るかな 高澤良一 ねずみのこまくら
緑談のとんとんすすみ夏料理 鈴木伊都子
緑陰の雀とんとん走り根越ゆ 高澤良一 素抱
葉が出たさくらとんとんとろりこ甘茶のうた 中塚一碧樓
葱だけを見てとんとんと葱刻む 岩田由美
薺打つすととんとんと母癒えよ 渡辺恭子
藁砧とんとんと鳴りこつこつと 高野素十
袴着のとんとんのぼる五十段 高澤良一 さざなみやつこ
雨だれの音のとんとん祭月 高澤良一 ぱらりとせ
餅板の上に包丁の柄をとんとん 高野素十
●波音 
いちにち物いはず波音 種田山頭火(1882-1940)
かたばみの花に波音休暇村 木村蕪城
ここから浪音きこえぬほどの海の青さの 尾崎放哉
ちぎり絵に濤音ありぬ夏つばめ 河野多希女
とべらの実浪音に殻割れんとす 大熊輝一 土の香
どーんと波音日向に覚めて石蕗の花 有働亨 汐路
はしり蕎麦濤音つのりきたりけり 齋藤玄 飛雪
はまなすや濤音慣れの昼寝漁夫 河野南畦 湖の森
はららご飯濤音いつか納りし 岸田稚魚
ひねもす曇り浪音の力かな 尾崎放哉
ひよんの笛吹けば波音風の音 稲畑汀子
ひる顔の夢は波音ばかりなり 西沢和子
ふるさとの波音高き祭かな 鈴木真砂女(1906-)
みくまのゝ波音聞きて初湯かな 桑田青虎
みちのくの濤音荒し望の夜も 成瀬正俊
オリーブの花へ波音高き午後 平井伊都子「新山暦俳句歳時記」
ホテルの浪音もなくうすら眠うものかく 梅林句屑 喜谷六花
ポケットに生るる波音さくら貝 清水久子
ワイキキの波音ごもり昼寝覚 古賀まり子
一ツづゝ波音ふくる夜長哉 夜長 正岡子規
一度だけの波音冬日昏れにけり 桂信子 黄 炎
一湾の凍て浪音を封じけり 大島早苗
伊豆はあたたかく死ぬるによろしい波音 山頭火
冬すみれ石垣は波音に慣れ 山崎正枝
凍蝶に濤音いつも遥かなり 鷲谷七菜子 雨 月
切株に波音のあり抱卵期 増成栗人
刳舟に座れば 波音 魚の声 伊丹公子 アーギライト
十夜寺濤音ひとつとどろきぬ 小澤謙三
午後よりは眠し雲雀も浪音も 阿部みどり女
古道は濤音ごもり新松子 六本和子
囀りやよべの波音引絶えて 石塚友二 光塵
土佐の濤音サングラス外し聴く 田中英子
夏蚕飼夜は浪音に籠りけり 大野林火
夕靄のなかに波音小六月 角川春樹
夜くだちて浪音ばかり松の内 高浜虚子
夢にまで浪音重ね年詰る 伊藤京子
大いなるけふの浪音荒布干す 平尾楽山人
太古より湖の波音浜ひるがほ 鈴木隆子
実朝の忌の浪音を聴きに来し 大野崇文
実朝忌由井の浪音今も高し 高浜虚子
寶舟須磨の波音聞えけり 宝船 正岡子規
山越しに濤音聞ゆ十三夜 西山泊雲 泊雲句集
巌風呂に濤音こもる神無月 坂本山秀朗
帚目に載る波音や西行忌 池田弥生
庭番と濤音を聞く夕霞 鈴木鷹夫 大津絵
後の雛濤音ひびく床柱 田中英子
房総の高き波音秋刀魚買う 長田美智子
敦盛塚浪音聞かず花散らず 岡部六弥太
春の波音きくべし眼閉づるべし 鈴木真砂女
春やこの波音やさしくりかへし 齊藤美規
春寒き舟の波音さびしみつ すみだ川 新井聾風
春愁や湖に波音あることも 徳田千鶴子
昨日今日波音のなし白子干 清崎敏郎
昼寝覚め波音高くなりゐたり 川村紫陽
暮しの中の波音烏賊の白乾され 鈴木六林男 第三突堤
最はての濤音重ね手鞠唄 古賀まり子 緑の野以後
望の夜の波音に舞ふ安乗木偶 山下千代子
村ぢゆうに濤音ひびく冬柏 永田耕一郎 方途
松の奥浪音涼し御用邸 五十嵐播水 播水句集
柚子の花波音空にのぼりけり 市川恵子
梅干して夜は波音の近きかな 礒江沙知子
横走る渚波音日短し 染谷彩雲
歳明くる濤音国の四方つゝむ 長谷川素逝
毛糸編む遠く波音くりかへし 永田清子
水無月の波音返す師宣忌 伊丹さち子
沖に波音なくためて冬の靄 上窪則子
波 音 強 く し て 葱 坊 主 山頭火
波音かしぐれか旅寝うつゝなる 内田准思
波音がすぐそこにある大根引 加藤岳雄
波音が月光の音一人旅 坪内稔典
波音にくもる裸灯蜜柑選る 石本秋翠
波音になごむ松籟春ここに 及川貞 夕焼
波音にまぎれぬ虫や門草に 雉子郎句集 石島雉子郎
波音にまさりて蝉の岬あり 八木林之介 青霞集
波音にむせび酢蛸に咽びける 安達実生子
波音にポスター吹かれ海の家 田村恵子
波音に亡き声のあり送南風 川合憲子
波音に寒夜枕を深く当つ 井上雪
波音に榎の実こぼるる港阯 木村蕪城
波音に歩を合はせゆく小春かな 松田美子
波音に耽りこころまで海月 吉持愁果
波音に背ナ向けてゐる座禅草 小池槇女
波音に鉄道草の月日あり 高野ムツオ
波音のいちにち高し金盞花 水田光雄
波音のいつか遠のく篭枕 上 慶子
波音のうつつに寄せて初明り 稲畑汀子
波音のおほひかぶさり来る暑さ 今井千鶴子
波音のけだるきキャンプたたみけり 行方克巳
波音のけふのびやかに袋掛 赤尾冨美子
波音のこもりし髪を洗ひけり 片山由美子 風待月
波音のすぐそこにあり十夜寺 福川悠子
波音のせぬは不思議や松露掻 森田峠 三角屋根
波音のたえずしてふる郷遠し 山頭火
波音のときをりひびく新障子 片山由美子 水精
波音のなくて寄す波朝ぐもり 水野宗子(麓)
波音のねむたくなりし浴衣かな 細川加賀 『玉虫』
波音のほかを忘れてゐてのどか 保坂伸秋
波音のまくれ上れる春の雪 行方克巳
波音のをりをり漏るる朧かな 林 千恵子
波音の中の人声明易し 中村雅樹
波音の丸くかへりぬ月日貝 百瀬美津
波音の四方に聞ゆる冬瓜かな 八木林之介 青霞集
波音の大王岬の蚊と生れ 波多野爽波 『骰子』
波音の如き風音十三夜 石川喜美女
波音の引く音ばかり落椿 行方克巳
波音の改りたり初明り 高浜年尾
波音の早稲田を囃し出雲崎 小島健 木の実
波音の昏れし水仙畑かな 行方克巳
波音の暮色まとへり袋掛 西村博子
波音の月にからまるごと朧 郷 のぶこ
波音の朝の芒に高まりし 奥田智久
波音の消えて山みち出開帳 大峯あきら 鳥道
波音の湖にもありぬ流し雛 神崎 恵
波音の灯をくらくする山蛾かな 太田鴻村 穂国
波音の由比ケ浜より初電車 高浜虚子(1874-1959)
波音の筵成したり桜えび 佐野鬼人
波音の耳をはなれぬ無月かな 片山由美子 天弓
波音の落ちて盂蘭盆沖暗し 鈴木真砂女
波音の蘇鉄にひびく甘茶寺 荻原芳堂
波音の遠くにありしおぼろかな 田井野ケイ
波音の須磨をはなるゝ汐干哉 汐干狩 正岡子規
波音の高き日続く種浸し 茨木和生 三輪崎
波音の高き湖畔を鍋の渡御 廣瀬凡石
波音の高まる雪を割りにけり 陽美保子
波音は光りと消えて花アロエ 原 天明
波音は妻恋ふしらべ防風摘む 山田弘子 こぶし坂
波音もいつしか忘れ防風摘む 御堂御名子
波音も星も真近きバルコニー 永野由美子(阿蘇)
波音も木の国の音栄螺焼く 藤井冨美子
波音やひるの薊のかげもなし 田中裕明 花間一壺
波音や不漁鰊場の犬が吠ゆ 清崎敏郎
波音や夜目に仰ぎて寒ざくら 及川貞 夕焼
波音や弁天様の孑孑に 岸本尚毅 舜
波音や応挙の銀の屏風より 三浦久子
波音や抱けばつめたき秋日傘 井上弘美
波音を同行として秋遍路 芳西兌子
波音を懐に入れ白絣 古賀まり子
波音を掬ひてゐたり*いさざ舟 関戸靖子
波音を聞きしばかりの野梅かな 青木重行
波音を聞きちやつきらこ歌まねる 寺田木公
波音を聞きに来てゐる卒業子 山田弘子 螢川
波音を豊かに容れて夏座敷 柴田奈美
波音を近づけてゐる端居かな 稲畑汀子
波音を離れて春の月となる 星野椿
波音を離れコートの襟を立て 高澤良一 随笑
波音を風除少し遠ざけし 稲畑汀子
泳ぎゐてとほき波音に恍惚す 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
浪子碑に波音絶えず冬かもめ 岩村森子
浪音あかるく砂浜のまろみ青めり シヤツと雑草 栗林一石路
浪音にあらがふいのち鬚髯白く 篠原鳳作 海の旅
浪音にまろねの魂の洗はるゝ 篠原鳳作 海の旅
浪音に暮るゝ日おそし豆の花 吉川春藪
浪音に気づきて跼む苺園 横山白虹
浪音のしば~変る夜半の秋 雉子郎句集 石島雉子郎
浪音のどどとくずれて国ありや 栗林一石路
浪音のゆるい冬陽の蜜柑ちぎつている 橋本夢道 無禮なる妻抄
浪音のをりをりとどく屏風かな 矢島久栄
浪音の今宵は遠し草朧 本井英
浪音の冬に入りたる色ヶ浜 森田公司
浪音の夜は遠流めく柳葉魚焼く 菊地滴翠
浪音の由比ヶ浜より初電車 高浜虚子
浪音の空にしてゐる棗の実 茨木和生 木の國
浪音の部屋にとどけり松納 洞 久子
浪音は春のこころをかきたつる 阿部みどり女
浪音も夏に入りけり健吉忌 茨木和生 往馬
浪音も静かに暑し棉の花 高浜虚子
浪音をかけしさくらの莟かな 永田耕衣 真風
浪音をひき寄せて野火秀を立つる 原裕 葦牙
浪音を終始奏上先帝祭 竹腰八柏
浸蝕の波音背戸に雁供養 岡田波流夫
深海の波音聞こゆ立浪草 小玉真佐子
湖岸打つ波音その夜炉を開く 中嶋秀子
濤音にしぐれのまじる行幸宿 宮武寒々 朱卓
濤音に太鼓ぽと~一の午 河野静雲 閻魔
濤音に犬の追はるる海開き 高澤良一 素抱
濤音に耳をあづけて雪の旅 古賀まり子 緑の野
濤音に芋のころがる雨月かな 齋藤玄 飛雪
濤音に近づくわれも冬景色 黒田杏子 水の扉
濤音に飽きたる椿落ちにけり 谷口忠男
濤音のある夜なき夜も冬籠 蓼汀
濤音のかかるあかるさ初筑波 矢島房利
濤音のどすんとありし雛かな 千葉皓史
濤音のなき日かさぬる百日紅 杉山 岳陽
濤音のはずみ立待月のぼる 池田 菟沙
濤音の七草粥を吹きにけり 飯島晴子
濤音の中に千鳥の声すなり 岡田耿陽
濤音の天より硯洗ひけり 菅原多つを
濤音の山の奥より多摩二日 宮坂静生 春の鹿
濤音の月日のしだれざくらかな 篠崎圭介
濤音の萱にはずみて明治節 齋藤玄 飛雪
濤音の賀状深雪の賀状かな 大嶽青児
濤音へあけて炭つぐ置炬燵 石田波郷
濤音やうぐひす餅の暗くあり 鈴木鷹夫 大津絵
濤音やしづかに絮となる薊 鷲谷七菜子 雨 月
濤音や都をいづる梅雨二タ夜 『定本石橋秀野句文集』
濤音や陸稲の中のきりぎりす 増田龍雨 龍雨句集
濤音をあひまあひまの冬至風呂 飯島晴子
灯を消して雛も波音聞き給ふ 松内かつみ
瓢(ひょん)の笛吹けば波音風の音 稲畑汀子 ホトトギス汀子句帖
瓢の実につく波音のしらべかな 原裕 正午
畑の青菜抜きつくし浪音の冬 人間を彫る 大橋裸木
白がねの濤音ばかり年惜しむ 大村フサエ
白南風や波音とどく萩城址 塚本 清
白蚊帳と波音と吾子をいねしめず 林原耒井 蜩
秋夜ふと浪音にゐて流人めく 柴田白葉女
立秋の退く濤音を心拍と 安東次男
精霊舟いづる波音間遠なる 銀漢 吉岡禅寺洞
胸中に波音湧けり藍浴衣 小島健 木の実
舟屋口洗ふ波音初月夜 久保峰子
舷窓に白らむ濤音秋遍路 伊藤敬子
船過ぎしあとの波音花八つ手 杉立悦子
花火果て湖に波音よみがへる 中西以佐夫
菜の花や沖の濤音逃げてなし 河野南畦 湖の森
萩は花へ波音しるきにさんにち 林原耒井 蜩
萱草に立つ浪音や桂浜 高木晴子
葉月かな濤音遠くあらたまり 藤原たかを
蓬長け波音人を安からしむ 右城暮石
藁屋根に沁む濤音や冬仕度 久米正雄 返り花
虫の間磯の波音なかりけり 友水 清
蛸壺に波音詰まる昼の虫 白井新一
街尽きて波音ありぬ諏訪の秋 深見けん二
補聴器にはづむ波音春きざす 島村野青
襖絵に起る浪音鑑真忌 小畑晴子
角切られ波音に鹿寝べきころ 菅原鬨也
遠き日の父と波音籐寝椅子 清水節子
醒むるたび浪音白し籐寝椅子 中島斌男
野火はるか胸の濤音聴き澄ます 鷲谷七菜子 雨 月
門司小学校波音の運動会 野中亮介
闇深し晩涼の浪音を聞く 高木晴子 花 季
雨音の中の波音ところてん 岩淵喜代子 硝子の仲間
音波電波霊波音響N氏UFO論 五島エミ
風音を波音と聞き浦島草 鷹羽狩行
鯉のぼり庭先すぐに九十九里 川口浪音
鰯がしけの町のどよもす濤音 梅林句屑 喜谷六花
黒南風や浪音からむ榕樹林 下村ひろし 西陲集
●波の音 
*えり解いて畳の上に濤の音 古館曹人
*はまなすや波の音聞く水枕 雪島東風
あいの風防波堤うつ濤の音 藤井紫水
あたたかに忘れがちなる浪の音 中條 明
いつ散りし白薔薇そらを濤の音 桜井博道 海上
きさらぎのあけくれ波の音ばかり 鈴木真砂女 生簀籠
さへづりのすとんとやめば波の音 夏井いつき
しばらくは濤の音して春の月 北崎武
たまさかに浪の音して夜の雪なり 北原白秋 竹林清興
つはぶきの花へうしろの浪の音 鈴木蚊都夫
ながき夜や佛の耳に浪の音 会津八一
はまゆふの白へ紛れる波の音 福川悠子
ぱつたりとやんだ浪の音の夜のダリヤだ 北原白秋
ひともとの櫻に佇てば濤の音 環 順子
ふるさとに春を風邪寝の波の音 鈴木真砂女 夕螢
ふるさとの亥の子といへば波の音 木村蕪城
まひるまの波の音聴く合歓の花 西村和子
もつれあふて涼し松風浪の音 涼し 正岡子規
ゆく春の放送劇に波の音 内田美紗 魚眼石
七浦や安房を動かす波の音 正岡子規
世に遠く浪の音する深雪かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
伊予は梅散りをり濤の音の中 鈴木鷹夫 大津絵
元朝の泳者ぞ潜く浪の音 石川桂郎 四温
冬浪の音の聴きたく障子開け 後藤夜半 底紅
冬浪の音断つ玻璃に旅寝かな 佐土井智津子
冬隣る夜をこまやかや濤の音 小杉余子 余子句選
初夢の土鈴に波の音すなり 水野恒彦
初潮や人は畠に波の音 会津八一
初鶏やひそかにたかき波の音 久保田万太郎 流寓抄
台風の近づいてゐる濤の音 岡安仁義
向日葵の迷路どこまで波の音 小野恵美子
夜に入りて波の音あり避寒宿 中 火臣
夜の秋のすこし間をおく濤の音 小川鴻翔
夜や更けぬ蚊帳に近き波の音 蚊帳 正岡子規
寒念仏聞きわけてまた波の音 斉藤夏風
山吹の根行く輪波の音たてて 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
崎の蝉鳴き出で濤の音をつらぬく 篠原梵 雨
引く浪の音はかへらず秋の暮 渡邊水巴
放哉の卯波の音と聞きゐたり 飯島晴子
料峭のこの道行けば波の音 行方克巳
新藁にかがみて濤の音拾ふ 裕
日脚伸ぶ机の下に波の音 今井聖
早梅の花ほつほつと濤の音 細田寿郎
明け易き夢に通ひて濤の音 村沢夏風
明月に波の音見るゑくぼ哉 名月 正岡子規
星合の波の音する新羅の壷 飯島晴子
星流れ土偶の眼より波の音 菅野茂甚
春の夜の大きな~濤の音 京極杞陽 くくたち上巻
春の夜の玻璃戸の外の波の音 星野立子
春の夜や重たう打てる波の音 小杉余子 余子句選
春眠のわが身をくゞる浪の音 山口誓子
春風やちよろりちよろりと波の音 春風 正岡子規
昼顔にからむ藻屑や波の音 昼顔 正岡子規
昼顔にひと日けだるき波の音 鈴木真砂女 夕螢
昼顔や砂丘の果ての波の音 鈴木文野
昼顔や老いることなき波の音 青木重行
智恵子碑の残暑とろとろ濤の音 鍵和田[ゆう]子 浮標
月光とまぐはふ波の音ばかり 森壽賀子
村じゅうにある一月の浪の音 岡田 耕治
松落葉元寇の波の音きこゆ 高橋沐石
松過ぎの良寛堂や濤の音 森田公司
枇杷*もぎし山のやせける波の音 木下 慈子
枕かへし冬濤の音ひきよせる 橋本多佳子
林檎をかぢつて、夜、浪の音がしてゐる 北原白秋
柚子剥けばいちにち風と波の音 春樹
桑の実は食べごろ波の音ばかり 高瀬恵子
椅子に寝て波のプールは海の音 松浦敬親
母に抱かれて初秋の波の音 藤原満喜
水貝や安房の一夜の波の音 深見けん二
永き日の波の音せる紙芝居 中村与謝男
永き日やくたびれもせぬ波の音 日永 正岡子規
河豚汁や風をさまりし波の音 山田春生
波の音いと高く蝿生れけり 久保田万太郎 流寓抄
波の音さっと切り裂く寒の鰤 福原幸江
波の音たかく元日了りけり 久保田万太郎 流寓抄
波の音ときどき高き敷松葉 川崎展宏
波の音とどく寺領の思ひ草 青柳はじめ
波の音はこぶ風あり秋まつり 久保田万太郎 流寓抄
波の音やゝたかく蝶うまれけり 久保田万太郎 流寓抄
波の音をりをりひびき震災忌 久保田万太郎
波の音低し雪国雪止んで 深見けん二
波の音教室を占め夏休 鈴木貞雄
波の音残して月の去りにけり 松田美子
波の音聞ゆる浜に花火待つ 長田一男
波の音話を奪ふ月にあり 大場白水郎 散木集
波の音遠し水仙揺れどほし 久万とみ子
流星やかくれ岩より波の音 加藤楸邨
浜木綿の薄暮にひらく濤の音 古館曹人
浪の音にも馴れ過ぎた衣更へてる 北原白秋
浪の音は遠し あんまにからだ右を左にする 荻原井泉水
海に来て浪の音聞く真砂女の忌 後藤綾子
海へ降る霰や雲に波の音 基角
海苔粗朶に潮引ききりし波の音 森田かずを
涼しさや平家亡びし浪の音 子規句集 虚子・碧梧桐選
満月も菜の花いろや波の音 朝倉和江
灯かすかに沖は時雨の波の音 時雨 正岡子規
煤逃げの伊豆に二泊の波の音 鈴木鷹夫 風の祭
牡蠣船や静かに居れば波の音 日野草城
甘蔗刈の歌となりけり波の音 米須盛祐
由良の門の冬天浪の音満てり 山口草堂
番神堂に入りて春めく濤の音 笠原古畦
病めばきこゆ春の襖の波の音 鷲谷七菜子 花寂び 以後
白菊の在所に入れば波の音 山本洋子
白蚊帳のなかは真白き波の音 明隅礼子
真夜中や涼みも過ぎて波の音 納涼 正岡子規
短夜や波の鼓の音早し 短夜 正岡子規
短日やにはかに落ちし波の音 久保田万太郎 流寓抄
短日や俄かに落ちし波の音 万太郎
砂日傘睡気催す波の音 笠原古畦
磯に来て卯浪の音となるところ 浅賀魚木
空耳に濤の音聞く春の暮 伊藤京子
立待の月得てよりの波の音 吉本和子
竹島に灯のつき波の音涼し 栗田せつ子
紅葉寺いつ訪ねても濤の音 蒲澤康利
老杉の間涼しかり波の音 石寒太 翔
聖夜劇牧師が波の音つくり 真下耕月
肌寒やふじをまきこむ波の音 肌寒 正岡子規
臨終なる父の口から波の音 仁平勝 東京物語
花ぎぼし句碑と吹かるる波の音 伊藤あかね
花芭蕉むかしの波の音きこゆ 澤木欣一
若鮎や波のすれあふ波の音 古館曹人
茶の花や越後村上浪の音 三浦仙水
荒東風にのる波の音父の墓 鍵和田[ゆう]子 武蔵野
落椿よろめくほどの濤の音 鍵和田[ゆう]子 浮標
落鮎や一夜高瀬の波の音 立花北枝
蓬生ふ月指す城の波の音 横光利一
蘆ちるや淺妻舟の波の音 芦の花 正岡子規
蘆刈りて日を横たへぬ波の音 石田 厚子
螢袋ふくろにためて濤の音 原田青児
行く年の波の音ともきこゆなり 柏崎要次
要咲く山垣尽きて波の音 藤田れい子「新山暦俳句歳時記」
豆実る天心居なり浪の音 及川貞 榧の實
踊唄息つぐときの波の音 鹿喰悦子
遠つ世の浪の音きけ宝舟 星野石木
釣舟草耳をすませば波の音 山崎ルリ子
鎌倉は波の音より明易し 星野椿
門火消えもとのくらさに濤の音 原田青児
闇冴えて虚空に聴きし濤の音 鷲谷七菜子 雨 月
雑炊となりし宴に浪の音 中戸川朝人 尋声
雛芥子や机の上に濤の音 磯貝碧蹄館
青饅や島に泊れば波の音 草間時彦 櫻山
風涼し生地(せいち)へかへる浪の音 立花北枝
鯔納屋の春陰濤の音ばかり 北見さとる
鴬を聞きとめしより波の音 行方克己 知音
●鳴り響く 
はらわたに響く海鳴り冬確か 有働亨 汐路
わが名は忘れられ旅人木鳴響(とよ)め 小川双々子
シクラメン死は早朝に鳴り響く 夏石番矢
ナイサントクール教会の鐘鳴り響き 毛塚静枝
俎始火炎太鼓の鳴り響く 松本澄江
打てば鳴る叩けば響く涼しさよ 黒田杏子 花下草上
松に鳴り樫に響けり春一番 川村紫陽
機織虫(はたおり)の鳴り響きつつ飛びにけり 高浜虚子
潮鳴りや貝の風鈴響き合ふ 吉原文音
蚶満寺海鳴り響く新松子 佐藤トミ
鳰鳴けり奈良の日輪響かせて 茨木和生 野迫川
鶏頭花正午の号鼓鳴り響く 永井龍男
●鳴り渡る 
ごうごうと皐月の海の鳴り渡る 皐月 正岡子規
ラベンダー婚のオルガン鳴り渡る 山口超心鬼
中空を風鳴り渡り千鳥なく 竹中すゝき女
入相の鐘鳴り渡る新樹かな あふひ
天高し角力の大鼓鳴り渡る 相撲 正岡子規
晩鐘や稻の葉末を鳴り渡る 稲 正岡子規
枯蘆の鳴り渡るなり雪日和 長谷川櫂 天球
消燈の鐘鳴り渡る暖炉かな 子規句集 虚子・碧梧桐選
護摩焚くや北風鳴り渡る那智部落 小川原嘘帥
踏切りの鐘鳴り渡る大青田 久米谷和子
青葉若葉昼中の鐘鳴り渡る 子規句集 虚子・碧梧桐選
●鈍き音 
あらぬこと考えて蝉、音の鈍る 高澤良一 寒暑
榧の実の落ちて鈍き音又挙ぐる 高澤良一 燕音
着ぶくれて受く警策の鈍き音 尼崎たか
花冷や魚切る出刃の鈍き音 中元英雄
蓮開く一鈍音を放送す 相生垣瓜人
鈍き日の木立音なし畑打つ 南浪句集 南南浪句集、渡辺水巴編
鈍器もて物を割る音花曇り 高澤良一 燕音
鮭打たる音鈍痛と思ひけり 岡崎桂子
●寝息 
くらがりに寝息きこゆる蚕飼かな 大橋櫻坡子 雨月
すやすや寝息たてている子のことで争つている 松尾あつゆき
ねんねこの中の寝息を覗かるる 稲畑汀子
みちみちて水の寝息の植田村 熊谷愛子
みどり児の寝息冬日の中にあり 清本幸子
亡き母の寝息聞こゆる籠枕 大西一冬
人丸の寝息や残る朝の霧 椎本才麿
八月暁紅若き寝息の同志四囲 古沢太穂 古沢太穂句集
冬ぬくし寝息もらさず猫眠る 三坂雅二郎
冬の雨癒えし寝息にさそわれ寝る 古沢太穂 古沢太穂句集
冬満月囲ひし芋の寝息きく 高野喜八郎
冬畳父が善意の寝息つたふ 友岡子郷 遠方
冬眠の寝息こぞるか山の音 石川恵美子
冬眠の蝮のほかは寝息なし 金子兜太(1919-)
凍つる夜のふところにあり子の寝息 皆川白陀
勾玉の寝息がまじる冬霞 平松彌榮子
友の寝息晴夜の山は親しき黒 大井雅人 龍岡村
夜なべ村猪の寝息の間近かな 久保厚夫
大綿のたとえば母の寝息かな 青木栄子
大部屋の患者寝息の朧なる 高澤良一 鳩信
嬰児の寝息のように大根煮る 吉尾広子
嬰児籠に寝息うかがふ蚕飼季 池元道雄
子の寝息やすらに年のしらみけり 金尾梅の門 古志の歌
子の寝息妻が寝息や木の実降る 福本啓介
子の寝息妻に東京遠かりき 石橋辰之助
子の寝息妻を誘ひてしぐれけり 杉山岳陽 晩婚
子の寝息知らぬまま過ぐ春夜かな 谷口桂子
子の寝息確かめ消しぬ春灯 西村和子 夏帽子
子の寝息高しひと日の潮浴びに 藤原たかを
子より幼く雪夜寝息に加はりぬ 猪俣千代子 堆 朱
家中の寝息たひらに冬の雨 長部多香子
寒の暁ツィーンツィーンと子の寝息 中村草田男
寝息あるはうへ寝返り冬の暁 谷口桂子
寝息より軽しと思ふ夏蒲団 山田東海子
山河して寝息となれり籠螢 松山足羽
岳人の寝息さだまる炉火太し 岡田 貞峰
建国日蛇は寝息を立ててをり 関口眞佐子
擁きて夜寒の寝息分つなり 小林康治 玄霜
旅にかなしき女の寝息添水の音 加藤知世子 花寂び
日当たつてをり鴛鴦の寝息かな 小島健 木の実
明日へ繋がる寝息雪嶺足先に 太田土男
晩秋や鳥籠に吊る父の寝息 増田まさみ
暗中に聴きえし寝息あたたかし 楸邨
月の大戸しめて牛の寝息をきいてHる 栗林一石路
月夜茸山の寝息の思はるる 飯田龍太 山の影
月明り山の寝息のきこえけり 大井戸 辿
木枯も使徒の寝息もうらやまし 西東三鬼
梟や森の寝息の漏るるごと 無田真理子
極寒のをさなき寝息ふけてゆく 保坂敏子
死の灰や黴いつせいに寝息の中 桜井博道 海上
水鳥の寝息にそそぐ雨の糸 飯田龍太
深酒の寝息も花祭(はな)の笛に通ふ 友岡子郷 遠方
満開の花の香に入る児の寝息 林翔 和紙
牛蛙明日退院の太寝息 上月大輔
牡丹雪ほたほた母の寝息へ降る 岡本庚子
猪鍋や山の寝息の定まらず 角川春樹
瓜蝿に寝息を立ててゐたりけり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
病む母の軽き寝息や春遅々と 石川栄枝
眠りたる山の寝息とおもふ風 朝倉和江
短夜のしばらく更くる母寝息 斎藤空華 空華句集
短夜の連添ふ寝息きこえけり 井上静川
秋山と一つ寝息に睡りたる 森澄雄 四遠
老母と寝る二夜の寝息初明り 安井昌子
肩越しの寝息は羽音たる銀河 対馬康子 吾亦紅
胃を照らす月光囲りには寝息 片山桃史 北方兵團
良夜かな赤子の寝息麩のごとく 飯田龍太(1920-)
良夜の寝息たましいほどけてゆく 吉原陽子
花茣蓙を外れし寝息をつづけをり 森澄雄
赤ん坊が寝息を立つる養花天 富安風生
赤ん坊の寝息が軽い灸花 小木ひろ子
身ほとりに子等の寝息や除夜の鐘 佐藤美恵子
軍神碑うらの冬草寝息のごとし 相原左義長
遠山火寝息生絹のごとくゆれ 龍太
部屋々々の寝息しづかや花の雨 清原枴童 枴童句集
銃口の此の世のごとき寝息かな 大屋達治
除雪夫の寝息冴えきて寝むらえぬ 石橋辰之助 山暦
陽だまりの屏風に虎の寝息かな 岩尾可見
雪女馬の寝息の中を来る 今井 聖
露の中萬相うごく子の寝息 加藤楸邨
青山椒父の寝息のすこやかに 新保フジ子
風神の寝息聞こゆる寒の月 森本 満
●羽音 
いぐし奪ふ人の羽音や御祓川 高井几董
かすかなる羽音や蛍袋より 伊佐山春愁
かなぶんよ羽音しずめよ今旅立ち 平田よしこ
きち~といふ羽音立て鳩の冬 高濱年尾 年尾句集
さわさわと寄する羽音や浮氷 金箱戈止夫
その羽音てっきり蝉と思ひけり 高澤良一 素抱
つがひ蜻蛉翔ちし羽音も峡の音 石田波郷
つく羽の音のつゞきに居る如し 汀女
とぶ鳥の羽音間近に寒露かな 高木良多
どの父も真昼間深く羽音せり 水野真由美
ばつたの羽音が 埋立地の 歴史を掠める 吉岡禅寺洞
ぶつかれる蝉の羽音の残暑かな 柏木喜美恵
ましぐらに小鳥の羽音霜柱 松村蒼石 雪
わが中に鷹の羽音や怒濤見る 朱鳥
わが先へ雀の羽音雪浄土 村越化石 山國抄
クローバや蜂が羽音を縮め来て 深見けん二
一せいに椋鳥の羽音の失せにけり 徳永山冬子
一ッ葉の芽吹くや奥に鵜の羽音 石川桂郎 高蘆
一羽にて羽音も生まる初雀 齋藤玄 『狩眼』
一陣の鴨のとび立つ羽音かな 下村梅子
一雁の列をそれたる羽音かな 能村登四郎(1911-2002)
三伏の藪の中なる羽音かな 櫛原希伊子
人の死をおもうておれば羽の音 山下 淳
人刺しに来る時虻の羽音なく 富氷和代
人面にはるか鶴来る羽音かな 齋藤玄 『無畔』
元旦の羽音より濃きものはなし 藤田湘子
冬の蚊の耳朶をくすぐる羽音かな 土岐公子
冬の蝿かなしき羽音のこしけり 岸田稚魚
冬青空わたしの羽音ありにけり 吉田悦花
冬鳥の羽音にしばし和みをり 石川風女
冷やかや空にあまたの羽音して 柿本多映
凌霄花のさかり雀に羽音なし 宮坂静生 樹下
初声や闇を離るる羽音して 梓沢あづさ
初東風に乗りたる鷹の羽音あり 瀬戸悠
初雀羽音を残し消えてをり 高澤良一 随笑
初髪の空を鴎の羽音かな 波多野爽波
北の岬で とびたつ髪の 羽音きく 伊丹公子 山珊瑚
卒然と羽音脊を切る冬の雁 相馬遷子 雪嶺
唖蝉の羽音ばかりが大きかり 高澤良一 寒暑
啄木鳥の羽音きびしく霰止む 堀口星眠 火山灰の道
喪服着て蜻蛉の羽音聞こえけり 岸本尚毅 鶏頭
囀の小き羽音や障子外 西山泊雲 泊雲句集
土蜂の羽音うららか数しれず 阿部みどり女
地ひびきめく羽音で翔てり万の雁 櫻井菜緒
大雉子の羽音をさらふ雪解風 三宅 句生
密蜂の斥候がゆく羽音落とし 相原左義長
寒天干場湖ゆ羽音のいくたびも 宮坂静生 樹下
寒禽の羽音袖口いつ濡れし 大岳水一路
寒雀ゆふべの羽音おほきかり 白雨
少女らは羽の音もち盆帰省 野島恵禾
尾根を越す羽音鳴かねば冬の鳥 中戸川朝人
居り替る羽音涼しや蝉の声 立花北枝
屋根を越す羽音鳴かねば冬の鳥 中戸川朝人 残心
山鳥の羽音つつぬけ桑畑 皆川盤水
山鳥の羽音急なる草紅葉 石昌子
岩つばめ霧深ければその羽音 有馬正二
幹に着きあやまつ蝉の羽音しつ 篠原梵 雨
引鴨の羽音しわしわしわしわと 鶏二
引鴨の羽音ののこる日暮空 福田甲子雄
引鴨の芦間に羽音残りけり 白根百合子
引鶴の羽音国来よ国来よと 榎本好宏
待春の羽音が溜る鬼房忌 渡辺規翠
御庭田の羽音ぞ眉に稲すずめ 石川桂郎 含羞
怠らで日増す鷹の羽音かな 雪松「類題発句集」
戸袋にしずかに溜る羽音かな 荻野雅彦
折り鶴の羽音確かに星祭る 岡田久慧
掛蓑にとまる羽音や冬の鳥 銀漢 吉岡禅寺洞
探梅の空に聞きたる羽音かな 上村占魚 鮎
放ちたる鷹の羽音の澄めりけり 勝又一透
新刊書ときどき蝿の羽音して 夫馬瑳衣子
春の月羽音ばかりの鴨たてり 米沢吾亦紅 童顔
春の雁声と羽音と凄まじく 嵯峨寿美子
春禽の羽音の端の竹箒 大岳水一路
更衣雀の羽音あざやかに 橋本多佳子
月の夜や何とはなしに眺むればわがたましひの羽の音する 片山広子
朝堤ふみたつる鴫の羽音かな 中勘助
木へ移る鴨の羽音の起りつぐ 八木絵馬
木斛の花に群がる羽音かな 堀恭子
桟道を羽音よぎりしは雉子かな 尾崎迷堂 孤輪
梅雨明けて雀の羽音やはらかし 今井杏太郎
椋鳥わたる羽音額にふるるほど 皆吉爽雨
椋鳥渡る羽音朝霧街を閉ず 金尾梅の門 古志の歌
椋鳥百羽命拾ひし羽音かな 太祇
榎の実ちる椋鳥の羽音や朝嵐 芭 蕉
残る蜂羽音もなくとびてゐし 前岡京子
母が巻く目醒時計蛾の羽音 草田男
水の匂いの冷蔵庫より羽音 中田 美子
水音と羽音の夜明け鴨来たる 松永千鶴子
水鳥の争ひ摶ちし羽音かな 松本たかし
水鳥の夜半の羽音も静まりぬ 高浜虚子
水鳥の夜半の羽音やあまたたび 高浜虚子
水鳥や夜半の羽音をあまたたび 高浜虚子
浪の花礁に育つ羽音かな 吉田功次郎
源流に雷鴫の羽音かな 福田甲子雄
瀬の蛍水を羽音にみだれけり 松岡青蘿
火取虫羽音重きは落ちやすし 楸邨
炎天の羽音や銀のごとかなし 川口重美
炎天下おのが影より羽音して 鎌倉佐弓 潤
熊ン蜂羽音腹立ちまぎれなる 行方克巳
片岡に雉子の蹴合ふ羽音かな 杉風
独活枯るるところ最後の蜂羽音 村越化石 山國抄
瑞鳥の羽音は春の渚より 白澤良子
疾風めく羽音一陣芽吹き山 鷲谷七菜子 花寂び 以後
石蕗咲くや羽音のまろき虫とべる 中拓夫
磨る墨に雁の羽音のまぎれしや 齋藤愼爾
秋の蚊と云へぬ羽音を払ひけり 辻弘雄
秋虹や鳥の羽音の行きどころ 村井美意子
稲刈るや羽音に似たる音連れて 猪俣千代子 堆 朱
稲雀一時に帰る羽音かな 野村喜舟
稲雀翔くる羽音か屋を越ゆる 五十崎古郷句集
立秋の鷹の羽音と思ひをり 吉田鴻司
篁や蜂の羽音をかくさざる 石川桂郎 四温
簷高し蝉の羽音の来ては返す 右城暮石
米炊けば寒し雀の羽の音 せん 俳諧撰集玉藻集
紅椿鳥の大きな羽音せる 長谷川櫂 天球
紙漉くを雁の羽音のごとく聴く 冨田みのる
羅にあまたの羽音日暮径 鈴木鷹夫 渚通り
群集いま野鳥の羽音雪きたる 寺田京子 日の鷹
羽音さへ聞えて寒し月の雁 青蘿
羽音してかみ切り虫の胸に来し 佐藤芙陽
羽音して北風吹き分る野末の樹 成田千空 地霊
羽音して樹木も歩き出す月夜 荻原都美子
羽音して髪かすめしは鬼やんま 結城恵子
羽音せる霞の国に住ひをり 村越化石
羽音たてゝ都の空の渡り鳥 小沢碧童
羽音たてゝ鳩おり来なり春惜む 久保田万太郎 流寓抄以後
羽音なき鳥春月をよぎり飛ぶ 福田蓼汀 秋風挽歌
羽音なく本菟樹ごもりの月かすめ 福田蓼汀
羽音なほ夜空に残し蚊喰鳥 稲畑汀子「障子明り」
羽音にも零余子こぼるる日和なり 熊丸 淑子
羽音みな空へ還りし山笑ふ 堀米秋良
羽音もたぬ蝶の音階 満つ 温室 伊丹公子 アーギライト
羽音冴え飛騨へましぐらぼろ鴉 加藤知世子 花 季
翁忌の羽音のつよき鴎かな 橋本榮治 越在
翔つ鳥の羽音の寒し弥谷寺 山本八重美
職捜しの移民を 鴎の羽音掠め 伊丹公子 アーギライト
肩越しの寝息は羽音たる銀河 対馬康子 吾亦紅
色鳥の羽音しぐれのいくうつり 高橋馬相 秋山越
色鳥の羽音のなかの父の墓 大木あまり 火球
花山葵羽音を消して鳥が発つ 宮坂静生 山開
苔芝を出づる蛍の羽音かな 内藤丈草
葛城山を越へし羽音に初鴉 佐野美智
蓑を編む鳩の羽音の中二階 阿部菁女
蓮の花小さき羽音をみごもれる 大串章 山童記
虻宙にとどまるときの羽音かな 稲畑汀子
蛾の羽音してゐるアガサ・クリステイ 仲原山帰来
蛾の羽音しべに残れる烏瓜 橋田憲明
蜂死して軽きのあまり羽音あり 対馬康子 吾亦紅
蜜蜂の重さうに翔ぶ羽音かな 米澤富栄
蜻蛉つるむ羽音を神に献じつつ 磯貝碧蹄館
蜻蛉生れ白鷺の羽音空に満つ 久米正雄 返り花
衣更えて軽い羽音の女かな 武田和郎
裁ち落す絹に羽音や春立てり 本塩義子
見張り鴨鳴けば百羽の羽音立つ 中島京子
言の葉の犬の暫く羽音せり 攝津幸彦 鹿々集
赤旗の鷹の羽音の十二月 大木あまり 山の夢
軒雀羽音からりと秋の昼 赤嶋千秋
野鳩の高い羽音林の私を驚いたのでもあつた 梅林句屑 喜谷六花
間引菜を摘まむ番号制の羽音 宮崎二健
隼と指され羽音の過ぎるのみ 吉年虹二
雪ごめの鶏舎したたかなる羽音 鷲谷七菜子 花寂び
雪の精羽音ひびかせ燈を取りに 佐藤鬼房 「何處へ」以降
雪の羽音われへ近づく長まつげ 栗林千津
雪解なか羽音のごときを空に追ふ 桜井博道 海上
雷打ちて灯絶えてありぬ蛾の羽音 及川貞 夕焼
青空へぬける羽音や春隣 永野佐和
青鷺は水に羽音をふりすてて 澁谷道
頭上より羽音拡がる稲雀 山口誓子
風なくば禽の羽音に柳絮舞う 川岸冨貴
風花は海へ沈んでゆく羽音 対馬康子 吾亦紅
風説の泥流に羽化わが羽音 佐藤鬼房 地楡
飛ぶ鴨の羽音爽やか打たるるな 羽部洞然
香煙に蝿あそぶのみその羽音 細川加賀 『傷痕』
鬼やんま款款として羽音なし 大石和堂
鰯雲折鶴千羽の羽音かも 桜井博道 海上
鳥たちの大きな羽音苗代寒 木島みのる
鳥の羽音と 落葉ふる音 のみにあらず 富澤赤黄男
鳩の羽音を冬の桜の木がつつむ 大井雅人 龍岡村
鴨のたつ重き羽音やまくらがり 小澤満佐子
鴬のたつ羽音して高音かな 高井几董
鵜仕舞の荒鵜の重き羽音かな 中尾杏子
鵯の勁き羽音や簷打つて 石田あき子 見舞籠
鵯群れて海金剛を来し羽音 桂樟蹊子
鶴威鶴の羽音の蔽ひたり(出水荒崎にて五句註鳥威と同じような仕掛) 岸田稚魚 『花盗人』
鷹渡り百の羽音をうち仰ぐ 立石 京
黒き花蜂羽音もろともわれに鮮烈 金子皆子
黒揚羽黒き羽音を残しけり 田口啓子
黙祷に加はる梅雨の羽音あり 下田稔
●葉音 
おかめ笹梅雨の葉音を沈めつつ 石川桂郎 高蘆
ちらぬ木葉音を分けけり皮草履 調川子 選集「板東太郎」
古き葉の音の中なる木の芽かな 藤本美和子
吹き飛びし葉の音立つる月夜かな 藺草慶子
唐黍喰む葉音の澄みの木曽仔馬 鷲谷七菜子
寝てをれば静けさ葉音小春かな 乙字俳句集 大須賀乙字
月焼に散る葉音なし蚊帳に入る 渡辺水巴 白日
短夜の葉音と過ぎし走り雨 橋本榮治 逆旅
秋の蝉葉音のごとく鳴きにけり 米須盛祐
草の葉の川波の音をききたまえ 栗林一石路
葉の音に犬吼えかかるあらしかな 斯波園女
雨兆す風の葉音や目細鳴く 長谷川草洲
雪降るや葉音収めて竹立てる 臼田亜浪 旅人
風に葉の音と思はぬ芭蕉哉 太無
●爆音 
いのち柔き簑虫の裡飛爆音 中島斌男
井戸浚爆音の今鮮しき 宮坂静生 樹下
元朝の火神香炉に爆音住み 牧野信子
合歓と爆音乙女らは祈る天ありや 赤城さかえ句集
君よそうや元日から北鮮爆撃に行く爆音の話 橋本夢道 無礼なる妻
咲いて散る桜しんとしずまり爆音に散らずよ 橋本夢道 無礼なる妻
夜々の爆音寒ん星の智慧は瞬くより知らず 橋本夢道 無礼なる妻
夜の爆音昼から地平白けたまま 飴山實 『おりいぶ』
夜の爆音最もひゞく蛾の翅に 中島斌男
子らに祭爆音ささえて蝉しぐれ 古沢太穂 古沢太穂句集
日々爆音しぶとき生の大根干す 榎本冬一郎
星と向日葵中を平に爆音行く 田川飛旅子 花文字
桐の花爆音山の湯にも飛び 石田波郷
海は午なりモオタアの爆音の点 北原白秋
炎天下また爆音下クレーン動く 岩田昌寿 地の塩
爆音くらし一岬成し眼る灯よ 古沢太穂 古沢太穂句集
爆音で倒されるキリンの首林 大島地平
爆音に寸断の夢薔薇につなぐ 加藤知世子
爆音に石の面や小六月 齋藤玄 飛雪
爆音に鳩はひろげる火傷の軍手 八木三日女 赤い地図
爆音のあと死の谷(デスバレー)の熱砂のみ 仙田洋子 雲は王冠
爆音の真下に居たり梅雨鯰 船越淑子
爆音の空たちもどり扇持ちぬ 渡邊水巴 富士
爆音の跡絶えぞつくり貝割菜 野澤節子
爆音の遠のく障子貼りにけり 小泉淑子
爆音の雲よりとどき栗太る 伊藤京子
爆音は編隊蟹が続々と 八木三日女 赤い地図
爆音びびと布團おしくる冬の闇 栗林一石路
爆音またもペンがりがりと夜の雪 栗林一石路
爆音やおもひつめたる目に枯葉 加藤秋邨 火の記憶
爆音やすなはち響き障子貼る 石田波郷
爆音や乾きて剛(つよ)き麦の禾(のぎ) 中島斌雄(たけお)(1908-88)
爆音や夜はプールに水補ふ 津田清子 礼 拝
爆音や秋の鴉をつんぼにす 菖蒲あや
爆音や種芋は地にころがされ 金子晃典
爆音や雪を噛みゐて金髪児 小池文子 巴里蕭条
爆音や霜の崖より猫ひらめく 加藤楸邨
爆音や青き葡萄に影うまれ 加藤秋邨 沙漠の鶴
爆音下水かがやきて蟻溺る 佐藤鬼房
爆音下鶏馳せ晩夏極まれり 大野林火
爆音去れ霧の向日葵輝くとき 赤城さかえ句集
爆音経で蝶素のままの朝日浴ぶ 古沢太穂 古沢太穂句集
爆音領す海ゆれ寒きぶらんこ揺れ 古沢太穂 古沢太穂句集
牡蠣打たれ積まる爆音みなぎれり 中島斌男
盲同然炎暑爆音身に浴びつ 成田千空 地霊
積乱雲以来爆音けはしく聴く 竹下しづの女句文集 昭和二十五年
空の爆音まひ~水にやすまざる 瀧春一 菜園
空港の爆音ざらし鵙の贄 西川雅文
羽衣や雲の中ゆく爆音あり 八木三日女 落葉期
胎内を抜ける爆音基地展く 三谷昭 獣身
蟇あるく大きくゆるく爆音下 加藤楸邨(1905-93)
視力図に蛾は卵産む爆音下 田川飛旅子 花文字
降りて曇り風邪の鼻孔と遠爆音 古沢太穂 古沢太穂句集
雪重きまゝ爆音に軒震ふ 中島斌男
青む岸辺空にはいまも爆音満つ 岩田昌寿 地の塩
●撥音 
撥音や上野をめぐる秋の聲 秋の声 正岡子規
●反響 
金盥落ちし反響花の夜に 野沢節子
壁寒く議長と呼ぶ語反響す 中島斌男
●万籟 
万籟寂たり清水静に砂を吹く 清水 正岡子規
万籟寂然清水静に砂を吹く 清水 正岡子規
氷湖昏れ万籟を絶つ四辺かな 伊東宏晃
赤富士に万籟を絶つ露の天 富安風生
●微音 
あめつちにかく微なる音蓮ひらく 篠塚しげる
いのち微かに振れば音して落花生 正木志司子
冷蔵庫音の微かに妻の留守 中山允晴
咳込んで瀬音微塵にガラス展 茂里美絵
喪の家の音微かなり粥柱 吉川千丘
天涯の藤ひらきおり微妙音 石牟礼道子
寒菊の微音微光を切りとらむ 望月英男
山葡萄地に枯れ微音伝へ来る 大林清子
明け易し街の微音に水感ず 田川飛旅子 花文字
柔肌に微光微音の春の星 原裕 葦牙
滝凍てて微塵の音のなかりけり 西岡フサ子
滴りの微かな音が集まれり 本居桃花
眠たさや寒禽和紙の微音して 大木あまり 山の夢
秋晴の境内の音は微塵かな 野村喜舟 小石川
葱が微塵になりゆく音や鰯雲 鈴木鷹夫 渚通り
薄繭の出来ゆく音の微かにも 木暮つとむ
蛇の衣微音を発しゐるごとし 藤田湘子
蜘蛛が弾く囲の琴の音の微かなる 上野泰 春潮
雪ふりだす微かな音を女身仏 中山純子 沙羅
霧の中微風ながるるさ音かな 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
鳴き止みし馬追の身に微音満つ 岩村蓬
●鼻音
●弾く 
「戦友」弾く身の一部が鋼鉄車室冷ゆ 磯貝碧蹄館 握手
あかぎれの指そろばんの珠弾く 土屋保夫
あたたかや興じて弾くはじき猿 茂里正治
えのこ草小雨を弾く青穂かな 高澤良一 寒暑
お岩木の日照雨を弾く青りんご 高澤良一 寒暑
からだごとぐぐとチエ口弾く青葉かな 満田光生
ぶんぶんを弾く指なん持てりける 林原耒井 蜩
またきたと我を弾くな角大師 中勘助
わがたのむピアノ弾く手や手袋す 田中敬子
わが弾くに耕す土のひびきかな 池内友次郎 結婚まで
ガムランの月光 一生を座して弾く 伊丹公子 ガルーダ
ギター弾くも聴くも店員終戦日 高島茂
ギター弾く南大門の春の暮 高橋幸子
ギター弾く男二つに折れし男 菅野丹吾
ショパン弾く窓に植ゑたり糸瓜苗 三枝正子
セ口弾く隣人きざはしに氷ちびる 和田悟朗
チェロ弾くと竹林を出る盆の月 脇本星浪
チエロ弾くに似合ふは三十路枇杷の花 和田耕三郎
トリル弾くふりしてつまむさくらんぼ 仙田洋子 雲は王冠
バイエル弾く汗の父への別れとし 有働亨 汐路
バレンタインの日なり山妻ピアノ弾く 景山筍吉
ピアノ弾くからだの中の白夜かな 浦川 聡子
ピアノ弾く白い渚の蟹のやうに 大屋達治 繍鸞
ボタ鼻に朧の胡弓弾くは誰 清原枴童 枴童句集
リラの花弾く提琴の弓白し 村田白峯
ヴィオラ弾く家のどうだん散り初む 若月瑞峰
三味弾くや秋夜の壁によりかゝり 阿部みどり女 笹鳴
三味線を弾く二階ある泳ぎかな 増田龍雨 龍雨句集
丸茄子朝露弾く梵天丸 高澤良一 素抱
今年竹指しなやかにピアノ弾く 上田五千石 田園
光の玉樹氷に隕ちつ地に弾く 石橋辰之助 山暦
冬の暮辻楽士わがために弾く 八牧美喜子
冬の月チェロを弾く人をまなかひに 蒲生 幸
冷し牛胴震ひして水弾く 大塚華陽
卒業歌弾くこの家のをとめまだ吾見ず 橋本多佳子
天の川祖国の曲を弾く人よ たかおさむ
姉妹の弾く三味線も月見かな 増田龍雨 龍雨句集
寒夕焼高層ビルの玻璃弾く 井澗道子
寒夜まだピアノ弾く娘と妻起きて 伊東宏晃
少年が弾くエチュードや秋の窓 文挟夫佐恵 黄 瀬
川鴨の胴振ひては日を弾く 加藤耕子
新月の宝前に弾くギターかな 田中由子
新緑やたへにも白き琴弾く像 山口青邨
日に弾く小豆の莢のうす煙 野見山朱鳥
日を吸ふも弾くも薔薇の色なりし 稲岡長
日本海へ巌の仙人掌花弾く 奥村直女(馬酔木)
日除綱さはりたる手を弾くかに 松藤夏山 夏山句集
早起きの鷽が琴弾く父の山 黒田杏子
昃りなき日が黄梅の黄を弾く 八木沢高原
星月夜ゴーシユの如くギター弾く 松清まゆこ
春愁のセロ抱き弾くは父の影 松山足羽
春愁の身を寄せて弾くハープかな 野矢久美子
春暁の木に倚りて弾く胡弓かな 月舟俳句集 原月舟
杣が路頬弾く草のいきれかな 楠目橙黄子 橙圃
松とれて日ぐれ夜ふけとピアノ弾く 及川貞 夕焼
毛虫焼くや人窓掛をあげて弾く 飯田蛇笏 山廬集
水弾く白さに葱を洗ひ了ふ 宮津昭彦
水弾く身のうすあぶら海の果 三橋敏雄 *シャコ
氷上へひびくばかりのピアノ弾く 篠原鳳作 海の旅
満開の櫻のために琴を弾く 品川鈴子
激ちつつ日の虹弾く雪解川 仁科文男
火の性の石榴ひやびや雨弾く 高澤良一 随笑
灯を消して弾き弾く影よ子の良夜 林翔 和紙
熱し弾くピアノ受験生霰やむ 及川貞 夕焼
片蔭に入るや琴弾く母の声 永田耕衣 奪鈔
猫じゃらし雨を嫌ひて雨弾く 高澤良一 素抱
琴に身を倒して弾くも春の昼 野見山朱鳥
琴を弾くはにわ人にもある遅日 野澤節子
琴を弾く初伏の畳冷たしと 長谷川かな女 雨 月
琴を弾く春満月を二日すぎ 阿部みどり女 『雪嶺』
男肥えて何春愁ぞ楽器弾く 清一郎
白南風や古きジャズ弾くピアノ・バー 角川春樹
白木槿少年の弾くポロネーズ 鶴岡 容子
盆唄や夜は三味を弾く刀鍛冶 朝妻 力
盆舟や爆竹弾く海女の路地 安原敬裕
眠りいる琴に連れ弾く霧の指 高澤晶子
種弾く大事起りぬ鳳仙花 野村喜舟 小石川
竜田姫手すさびに弾くヴァイオリン 多々良敬子
競泳の勝者や影も水弾く 中村翠湖
節分の夕日を弾く鬼瓦 八木岡宏子
篝火の弾く音より年明くる 高橋妙子
紅梅や舞の地を弾く金之助 夏目漱石 大正四年
納涼にあらず君が夫の弾く小唄 及川貞 夕焼
紫陽花やなりはひにあるを侘びて弾く 富田木歩
綿摘みて夜は一絃琴を弾く 市川つね子
縫初の母のききゐる琴を弾く 斎藤耕子
胡弓弾くごとし柳絮の流れゆく 高嶋 茂
胡弓弾く男に惚るる風の盆 結城美津女
胡弓弾く男腰やおわら浮き沈み 松田ひろむ
胸張つて琵琶弾く路地の簾越し 北野民夫
自動ピアノ弾くはあの夜の雪女 玉木春夫
舸子酔ひて弾くバラライカ壁炉燃ゆ 橋本榮治 麦生
船室に琵琶弾く盲神送り 宮武寒々 朱卓
花辛夷散らばつて弾く弦楽器 高木良多
蒸気時計塔 噴く 街頭音楽士 弾く 伊丹公子 アーギライト
薄氷のかけらとなりて日を弾く 山田閏子
薺爪ギター弾く爪のこしけり 平林孝子
虫の夜の弾くと叩くとありにけり 佐々木六戈
蜘蛛が弾く囲の琴の音の微かなる 上野泰 春潮
蟲の夜の弾くと叩くとありにけり 佐々木六戈 百韻反故 吾亦紅
誰が弾く三味線かかる夜なべ小屋 木村蕪城 一位
豆稲架の弾く丹波の夕日かな 須永トシ
鉞の柄はぼろ市の雨弾く 阪本宮尾
阿波踊ぼろ三味線を弾く女 高濱年尾 年尾句集
雪吊の繩の竪琴弾くは風 本岡歌子
露まみれ喜ぶ野性蓮は弾く 香西照雄 素心
風の盆腰で胡弓を弾く男 三浦薫子
高原の秋運転手ギター弾く 木村蕪城 一位
鬱屈の火花を弾くいぶり炭 倉田信司
鷹舞ふや朝日を弾く千曲川 野口光江
●ぴしり 
そろばんのぴしりと合ひし帳始 曽我部ゆかり
わが悔にぴしりと対ひ影凍つる 小池文子 巴里蕭条
われを打つ言葉ぴしりと冴返る 小室善弘
初針の糸をぴしりとしごきけり 閑野芙慈子
大寒のぴしりとくるひなき障子 恒川絢子
寒鯉にぴしりと脛を打たれたり 太田鴻村 穂国
庵主の蠅打ち遊ぶぴしり~ 河野静雲 閻魔
梅の実に雲水ぴしりぴしり消ゆ 松澤昭 山處
稲妻にぴしり~と打たれしと 高浜虚子
藤の実をぴしりと踏みし廢れ宮 丸山佳子
野薊にぴしりぴしりと夕立来ぬ 内藤吐天 鳴海抄
●人音 
白鷺の人音聞くや麦の中 豊後-慎女 俳諧撰集玉藻集
人音を鶴もしたふて若菜かな 千代尼
竹藪に人音しけりからす瓜 広瀬惟然
人音の耳に立つ日や冴え返る 金久美智子
●響き 
あたたかくこゑの響きて冬泉 小島健 木の実
あつき夜や汽車の響きの遠曇り 暑 正岡子規
かなかなのコーラス森に響きけり 小倉晴美
きつき足袋過去より響きくるものあり 川口重美
こめかみに柝の響きけり初芝居 片山由美子
すゞしさや松の響きを夢ごゝろ 松岡青蘿
つららといふ外国語めく響きかな 矢島渚男 延年
どよむ瀬の上ヮ響きして河鹿かな 楠目橙黄子 橙圃
ならべ置膳に薺の響きかな 我峯 俳諧撰集「有磯海」
ふるさとにエイサー太鼓響きけり 平 千花子
わが内耳水壺のやうな響きあり月明踏みて何者か来る 河野裕子
わが弾くに耕す土の響きかな 池内友次郎(1906-91)
カンツォーネ運河に響き秋麗 森田文
ナイサントクール教会の鐘鳴り響き 毛塚静枝
ピストルかプールの硬き面に響き 山口誓子
マラルメて誰梨は木に灼け響き 竹中宏 饕餮
一ノ倉沢雪来し響き新たなる 斎藤 節子
一村の紅葉散り去る響きかな 草間時彦 櫻山
一瀑の凍らんとして響きけり 岡田日郎
万葉の歌の響きや寒詣 加藤知世子 黄 炎
三井の鐘花菜に響き消えにけり 碧雲居句集 大谷碧雲居
三百年の杉の響きを雨の中 前田秀子
上棟のかけやの響き冴え返へる 鈴木綾子
下駄の音脳に響きつ夜寒けれ 石塚友二 方寸虚実
丘の辺に小学校の鐘響き日々の旅人としてわれは聞きたり 三枝昂之
二三尺秋の響きや落とし水 月渓
元日のおと響きあふ舟着場 角川春樹 夢殿
入棺の釘の響きや夜ぞ寒き 寒し 正岡子規
八朔の天上大風響き止む 原裕 『王城句帖』
冬の波退くや鉄鎖の響きして 長谷川櫂 古志
冬の海空の冥さと響き合う 瀧 ミサ
冬の瀧おのれの壁に響きけり 古舘曹人 砂の音
冬川に丸太落しの響きかな 牧野蚊文
冬空の弾けば響きさうな青 木内怜子
冴え返る鐘の響きに驚けり 青峰集 島田青峰
冷奴父には地下水響きます 駒走鷹志
凍てもどり木曽路は夜へ渓響き 福田蓼汀
凩によく聞けば千々の響き哉 凩 正岡子規
凩のまがりくねつて響きけり 夏目漱石 明治三十二年
初ミサの鐘響き合ふ海の上 下村ひろし
初春に知覧のピアノ響きだす 嘉陽 伸
初蜩あしたの夢に響きけり 西村和子
初鍾を撞けば山河に響きたる 秋山青潮
初鼓あめつち響きあふごとし 下田青子
十月は鵙も俳句も響きけり 中嶋秀子
午の鐘響き渡るや花供養 高浜虚子
去る人も枯野も響きやすきかな 小泉八重子
去年今年水の響きをわがものに 新谷ひろし
古都五山朧の鐘の響き合ふ 沖鴎潮
名曲よ雪に響きて娘にかへれ 加藤知世子 黄 炎
呂と律の響き累なる紅葉滝 延平いくと
唐臼のひねもす響き雪の宿 藤井君江
喪歌響きダリヤのうしろガラス感 和田悟朗
地に響き屍ほどの雪落ちぬ 古館曹人
地の底に響きて淋し寒念佛 大谷句佛
地続きに材落とす響き冬の暮 右城暮石 上下
坑の滴り石の響きで鉄帽打つ 加藤知世子 花寂び
埋火に松風落る響き哉 松岡青蘿
基礎打つ響き恋ひず祈らず永き日を 高山れおな
夏の海鉄打つ響き得て展く 椎橋清翠
夕立あと町空響き易きかな 高澤良一 素抱
夜間飛行雪嶺と湖響きあふ 川村紫陽
夢深く海の響きに散るさくら 黒田杏子 花下草上
大木に響きて淋し藁碪 吉武月二郎句集
天上を鴨わたりゆく響きかな 宇多喜代子
天冥く山響きあふ雪崩かな(七沢) 河野南畦 『花と流氷』以前
天心に鶴折る時の響きあり 攝津幸彦
太竿の響きや月の農舞台 杉原美代子
威銃姨捨山に響きけり 今瀬剛一
孫は留守遠ひぐらしも響きやすし 香西照雄 対話
実海桐をくゞる時雨の響きけり 前田普羅 能登蒼し
寂滅の鐘の響きや雲の峯 水田正秀
寒星となるらし土橋は肉の響き 遠藤 煌
寒晴の叩けば響きさうな空 木村享史
寒暁をはるかな貨車の長響き 野村秋介
寒林や疲れ忘るる斧響き 河野南畦 湖の森
寒柝の水辺へ出でし響きかな 黛執
寒灯下筆置く音も響きけり 松田美子
審きもまた光と響き大牡丹 竹中宏 句集未収録
山桜天を伝ひて風響き 高澤良一 寒暑
山桜風の響きは幹伝ひ 高澤良一 寒暑
山津波響き岩流れランプ揺れ 福田蓼汀 秋風挽歌
山焼や火焔太鼓の響きせり 武井与始子
山谺して錫杖の響き冴ゆ 山崎慈昭
岩をかむ佐渡荒浪に寒響き 牧志朝介
岩乾き谷間は冬の響き去る 石橋辰之助 山暦
崖氷柱薙ぎ金石の響きあり 福田蓼汀
広島や神函の蝉響きけり 白石作州人
廃校舎月下の海と響きあう 大西健司
弓弦の響きかすかや青木の実 星野恒彦
息の緒よ未明は物の響きせり 高柳重信
息触れて初夢ふたつ響きあふ 正木ゆう子
成木責白神山に響きけり 斎藤耕心
手毬つくてんてん響きくる書斎 山口青邨
斧始杉凜々と響き合ふ 早川翠楓
旅荷解く框に響き春の雷 村上光子
春の日がおよぶギターの響き孔 青柳志解樹
春の砂浪さま~に響きけり 高濱年尾 年尾句集
春立つや水響きゐる甲斐の国 石嶌岳
昼寝覚軍馬の響き頭をよぎる 沢木欣一
木の実降る音にも響きさうな塔 山田弘子 こぶし坂
木の椅子に寒柝響き書き嘆く 田川飛旅子 花文字
木天蓼の花に響きて渓の音 高島和江(かびれ)
木枯に槇割の木玉響きけり 椎本才麿
松蝉に双塔響き立てりけり 野見山朱鳥
枝を伐る夏至の日深く響きたり 阿部みどり女
枯柳壁に鞭うつ響きかな 会津八一
枸杞の実の響き合ふとき父佇てり 水野真田美
柿もみぢ遠く竹割る響き哉 佳舟
梅雨寒や石棺のごと校舎響き 宮坂静生 雹
梟に人事不省の響きあり 櫂未知子 蒙古斑
榾崩れせし音朝に響きけり 河東碧梧桐
榾明り夜の臼搗く響きかな 大山秋子
橋裏に響きどんどこ舟くゞる 板東福舎
機織虫(はたおり)の鳴り響きつつ飛びにけり 高浜虚子
正月の海原太鼓の響きもつ 上村占魚 『玄妙』
水澄みてビオラの低き響きかな 高崎公久
水芭蕉林中に水響きけり 高澤良一 燕音
水響き小雀囀り紛れなし 石原栄子
氷る湖へだて二街響きあふ 木村蕪城 寒泉
氷塊となりつゝ滝の響きつゝ 夏井いつき
池水に響き鶯遠のきぬ 久米正雄 返り花
沖膾叩けば雲に響きけり 大櫛静波
洗はれてコップに秋気響き合ふ 長谷川秋子 『菊凪ぎ』『鳩吹き』『長谷川秋子全句集』
渡りかけて鳥さわぐ海の響き哉 渡り鳥 正岡子規
湖に響きて消ゆる砧かな 松根東洋城
滝凍つる底に息づくもの響き 住谷幸子
滝落ちて空に響きを残しけり 楠田哲郎
潮が響きて歳晩の烏瓜 山西雅子
潮鳴りや貝の風鈴響き合ふ 吉原文音
炉塞ぎて筧の響き暮れのこる 山崎久美江
爆音やすなはち響き障子貼る 石田波郷
独りという響き青梅のごとく 森田高司
猟銃音歩む腓に響きたり 山口誓子
猪威し烽(とぶひ)の山に響きけり 栗原稜歩
瓢の笛夜汽車のやうに響きけり 山田東海子
百千鳥姉味のソプラノよく響き 関森勝夫
百年の柳伐られし響きあり 阿部みどり女 『石蕗』
盆の波ゆるやかにして響きけり 岸本尚毅
石積んで石の響きの冬の暮 宮田正和
砂洲の露響きはじめを喚く鐘 竹中宏 饕餮
碧さもどる水に響きてわが国歌 臼田亞浪 定本亜浪句集
磐走る一水響き夕ざくら 川村紫陽
磴雲に入り響き交ふ四方の蝉 石塚友二 光塵
秋の日をとどめて松の響きなし 臼田亞浪 定本亜浪句集
秋の江に打ち込む杭の響きかな 夏目漱石
秋冷の瀬音いよいよ響きけり 日野草城
秋雷の豆を煎るごと空ら響き 高澤良一 寒暑
稗枯れて月にも折るゝ響きせり 前田普羅 飛騨紬
空さむく惜命の句の響きけり 下村ひろし 西陲集
空壕に響きて椎の降りにけり 長谷川かな女
立冬と言葉も響き明けゆく空 高柳重信
立春や木の幹に聞く地の響き 大櫛静波
童女と同じ響きさかんに銀杏割る 加藤知世子
筍掘る一撃の地に響きけり 伊藤敬子
箱庭に子のささやきの響きけり 田中裕明 先生から手紙
篁の揺れ響き合ふ竹の秋 重松國雄
簗番の貫禄のこゑ響きけり 石嶌岳
粟鳴子ま青き空に響きけり 岸風三楼 往来
紅葉舞ひ呂川律川響きけり 雨宮美智子
紙を截る音よく響き雪の朝 山本洋
線路のみ雪融けやがて響きいづ 佐野良太 樫
羚羊を間引く銃声響きけり 工藤貢
聖母月青嶺青潮あひ響き 伊丹さち子
胡麻叩く平和の音の響きけり 吉田利子
船の音山中深く響きけり 高橋 龍
船腹に五月の波の響きかな 島田五空「裘」
花びらに響きのあがる寒牡丹 石原八束 断腸花
花びらに風の響きの寒牡丹 石原八束 『断腸花』
茱萸の花木馬の響き風の中 原 天明
草木打つ雨の響きや挿木つく 原石鼎
草木瓜にどうと響きて若葉風 中村汀女
荒海へ竹伐る響き落ちゆけり 渡辺恭子
落石の月に響きし谺かも 小林碧郎
落葉松の響き合ひたる帰燕かな 木倉フミヱ
葉桜に扉ビーンと響きけり 久米正雄 返り花
蓮を掘る水底に城の響きあり 長谷川かな女 雨 月
蝉殻を割れば星空響き合う 田村勝実
行く秋の石打てばかんと響きける 行く秋 正岡子規
護摩焚きの太鼓の響き紅葉晴れ 木島節子
貝搗く音夜長の汐に響きけり 久米正雄 返り花
貨車つなぐ響き枯野へ抜けにけり 寺島ただし
賽銭の響きゆゆしき初詣 伊藤セキ
足音の響きやすさよ新松子 小野恵美子
身近きは響き野分の遠谺 斎藤空華 空華句集
辻桃子となけれどケキヨと響きけり 筑紫磐井 未定稿Σ
逆潮の響き鳴門の春暮れつ 臼田亜浪 旅人
連弾のひかりの響き春の海 佐藤美恵子
遣り水の玉と響きて澄みにけり 深見けん二 日月
還らざる一歩の響き冬の山 渡辺恭子
鉄板打つ響きの圏に雪降りて 榎本冬一郎 眼光
錦鯉跳ねて赤赤響きけり 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
鎌の刃のもつとも麦に響きけり 長谷川櫂 天球
鎌倉の山に響きて花火かな 高浜虚子
闘球の球の響きやほととぎす 会津八一
除夜の鐘ぬる湯の壁に響きけり 会津八一
除雪車の響きにゆるるピエロかな 室谷安早子
雛の眼に夜はしほざゐの響きけむ 篠原鳳作 海の旅
雪にむかし軍靴の響き寒雀 齋藤愼爾
雪崩るるや雲垂れて岳響きあふ 小林 碧郎
雪解川おのが響きに逸りけり 若井新一
雲の中春雷響き躑躅燃え 相生垣瓜人 微茫集
雷は太古の響き青若葉 柴田奈美
霜柱俳句は切字響きけり 石田波郷(1913-69)
露の身に吾が撞く鐘の響きくる 松野自得
靴底に暗渠響き冴返る 長崎洋子
音なべて響き易くて山の秋 山田弘子 こぶし坂
響きあふものあり吾と曼珠沙華 三好潤子
響きこもる六月の雲水の上 野澤節子
響きつつ一夜を駆けて御神渡 小松麗
響きわたる「花鳥」のフーガ春の昼 川崎展宏 冬
響き合ふ光となりて星凍つる 今橋眞理子
響き合ふ和讃の鉦や彼岸寺 長島 操
響き来て遊子が胸を打つ砧 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
響き落つ水濁りなし雪椿 岡田日郎
風花や肩にも触れて響きけり 高橋馬相 秋山越
餅搗の響き山河を喜ばす 小島 健
養花天選挙合戦空ラ響き 高澤良一 素抱
館内にマーラー響き蔦紅葉 水田むつみ
高虻は自ら響きやまざるも 安井浩司
魚の暗い響きあつまる髪脱ける 八木原祐計
鳥声のかしこに響き冬安居 泉 直樹
鴨を撃つ沼の響きに町は寝し 石井とし夫
鶏鳴の沼に響きて暮の春 山田閏子
黄金週間てふ語嘗ての響きなし 高澤良一 随笑
●ひゅうひゅう 
ひゅうと手が伸びて編み込む通草蔓 高澤良一 宿好
ひゆうひつと吹き切り終る祭笛 福田蓼汀
ひゆうひゆうと父の息して木の実降る 國分水府郎
ひゆう~と風鳴る日なり初閻魔 井上猴々
一飛雪ひゅうと川面をよぎりけり 高澤良一 鳩信
口笛ひゆうとゴツホ死にたるは夏か 藤田湘子「白面」
喜多方ラーメンずずと啜れば北風ひゅう 高澤良一 随笑
寒月や鹿ひゆうと鳴く岡の上 五十川茶村
木の葉ひゅうと飛ばして山の風走(わし)る 高澤良一 宿好
楮剥ぐ長寿の息のひゆうと鳴り 吉本伊智朗
猿払の貝殻置場春荒れひゅう 高澤良一 素抱
諦めのひゅう葡萄の木の匂う 三井絹枝
●風韻 
みなし栗山の風韻秘めゐたり 大橋敦子
新涼の風韻きゐる風の中 藤田湘子
植えし田の風韻ちちとはは透ける 沢田充子
白絣てふ風韻に託すも 坂巻純子
風韻のこだまかへしに寒ざくら 吉田未灰
風韻の人おもふべし冬蕨 飴山實 『花浴び』以後
風韻の水玉太る雪庇 古舘曹人 砂の音
風韻をもて寒木をつなぎ合ふ 佐野まもる
風韻を巻き込みてゐし落し文 稲畑汀子
●風籟 
鷹翔ぶや風籟おこる山の肩 大岳水一路
●不協和音 
花野にも不協和音が生まれます 早乙女文子
大英帝国不協和音のリーゼント 早瀬恵子
掃除機が木の実吸ひたる不協和音 山田弘子 初期作品
不協和音あかく濁れる夏の月 吉原文音
●蚊雷 
蚊雷やなかば時計の刻む音 森鴎外
●霹靂 
年の瀬や霹靂のごと餅届く 小林康治 玄霜
霹靂として神去りましぬ夏の雲 露月句集 石井露月
霹靂とならばやアッツ落つる夜に 中勘助
霹靂と墨書して四肢おとろふる 塚本邦雄
霹靂と聞きし一葉の真闇かな 林翔 和紙
霹靂に歯向かへるや庭の大薊 内田百間
霹靂や凛と灯りて清洲橋 長屋せい子
霹靂や知らねどうたふ葬送歌 加藤知世子 花寂び
霹靂や鶏頭もえてゆくばかり 加藤知世子 黄 炎
霹靂神急いで御通りなさいませ 竹田きよし
青天の霹靂とはこれ蝉の尿(しと) 高澤良一 寒暑
青天の霹靂癌来て吾れを犯すかな 橋本夢道 無類の妻
●ぺたぺた 
あたたかや指紋ぺたぺた卓につく 川島彷徨子 榛の木
ひぐれのようにゴム印ばかりぺたぺた捺す 穴井太 天籟雑唱
ぺたぺたと干潟を行けば伽羅百済 藤田湘子 てんてん
ぺたぺたと階打つ素足少女かな 嶋田麻紀
ぺたぺた寒い鰈をならべる シヤツと雑草 栗林一石路
夏至の日の仲見世ぺたぺた歩きけり 吉田鴻司
海蘿掻潮垂草履ぺたぺたと 岡安迷子
●鞭声
●母音 
入学式母音のやうに母附き添ふ 田川飛旅子
八月十五日朝母音のゆたかなり 石寒太 炎環
冬木立母音と子音ひびきあい 大竹広樹
吉兆の母音は三つ花ことば 伊藤敬子
啓蟄や母音ばかりで暮れる村 斎藤白砂
囀りの子音母音の中を行く 角川春樹
塾始め母音と読めば子等笑ふ 田川飛旅子 『薄荷』
更衣米借りに母音もなし 沢木欣一
桜の実鳥語の母音ずぶ濡れに 高岡すみ子
母音のごと雪の火の見に灯が点り ながさく清江
率爾ながら母音はかはらけだらけだよう 加藤郁乎
胎内に母音のこだま花祭 橋口 等
蜆蝶母音いきづく子の片言 成田千空 地霊
鶯の啼くや母音を先立てゝ 高澤良一 素抱
●砲声 
くちすゝぎ砲声を遠に端午なり 相馬遷子 山国
深夜砲声斥候に行くと飯喰いいる 鈴木六林男 荒天
●骨の音 
きちきちに骨の音する山河晴れ 野澤節子 遠い橋
はじまりの骨の音する秋の空 山口かな
わらび摘む婆か蕨か骨の音 小檜山繁子
今年初のわが骨の音拍手に 加倉井秋を
凍豆腐からから骨の音をたて 宮坂静生 雹
吹く風に骨ころがれば骨の音 佐藤弘明
昭和いつまで骨の音する蘆を刈る 上中章逸
昼ちちろ握れば骨の音する反古 石坂亜以子
晩年や骨の音して籐の椅子 山下良三
朴の花散るや清らに骨の音 正木ゆう子 静かな水
枝炭の骨の音して山あかり 大木あまり 雲の塔
案山子焼く時に弾ける骨の音 石山幸月
歩くたび骨の音する秋ゆふぐれ 中村苑子
炎天に犬身振ひの骨の音 沢木欣一 地聲
秋霖に骨の音する鉋屑 山田みのる
缶蹴れば骨の音して野分川 増成栗人
裸木を叩けば骨の音がする 源鬼彦
身の裡に骨の音聞く冷まじき 都筑智子
野分はや骨の音するけむりだし 柿本多映
骨の音からんと春のなかにゐる あざ蓉子
骨の音させて溽暑の立居かな 大野林火
骨の音したり落穂を拾ふとき 吉本伊智郎
骨の音ためしてをりぬ雨水の日 鳥居おさむ
骨の音加えメロンの匙をとる 林田紀音夫
●ポポ 
小鼓のポポとうながす梅早し 松本たかし
おぼろ夜のぷぽぷぽちぽぽ魚啼けり 深谷鬼一
児があらばぽぽと飲まさんうしのちち 江里昭彦(1950-)
嬰児湯を濁さずぽぽと花杏 長谷川双魚 風形
山刀伐や筒鳥ぽぽとぽぽぽぽと 黒田杏子
山椒喰滝神の燭ぽぽと揺れ 水野爽径
斑鳩きてぽぽうと鳴けば幾時代過ぎたるならむ頬づゑをとく 川野里子
枇杷の子のぽぽぽとともるほの曇り 平井照敏 天上大風
沸騰した空気ぽぽぽぽ折れたまま 猪原丸申
涅槃図にぽぽつぽぽつと和らうそく 西村和子
灯明のぽぽと次郎柿の山河かな 折井紀衣
筒鳥やぽぽぽぽぽんと一日果つ 嶋田麻紀
紙衣着てにんげん火山ぽぽと燃ゆ 小檜山繁子
胸のうちぽぽぽぽと年守る火か 川崎展宏 冬
たんぽぽのぽぽのあたりが火事ですよ 坪内稔典
たんぽぽのぽぽぽぽぽぽとある日和 須佐薫子
たんぽぽのぽぽ戴きぬ犬の名に 中島英子
●松風 
あかるくなりたや鐘つかれ松風にふかれたや 阿部完市 春日朝歌
いり蠣に軒の松風奪ふなり 曉台
うちまぎれ行くや松風小夜しくれ 時雨 正岡子規
おもしろう松風吹けよ除夜の闇 松岡青蘿
お遍路となるや松風身にひびき 沢木欣一 遍歴
かう~と松風を背に猫交る 久米正雄 返り花
さはさはと松風わたる芙蓉かな 富安風生
しぐれきてはては松風海の音 時雨 正岡子規
しぐれねば又松風の只おかず 立花北枝
なく雲雀松風立ちて落ちにけむ 秋櫻子 (唐招提寺)
ぼのくぼに松風あそぶ夏炉かな 飴山實 『次の花』
みづうみの松風ばかり苗障子 石田勝彦
みほは松風雪はたれふる甲斐の山 中勘助
もつれあふて涼し松風浪の音 涼し 正岡子規
ものごしの松風聴ける木の葉髪 松村蒼石 雁
サングラス師なき松風のみ捉ふ 文挟夫佐恵 黄 瀬
マネキンの着る松風のようなもの 永末恵子 留守
二丁櫓や初松風の綴るなか 池上樵人
冬山や松風海へ吹落す 村上鬼城
初午や松風寒き東福寺 蝶夢
初夏の松風に棲む灯かな 吉武月二郎句集
初松風心の襞にかそかなり 富安風生
利久梅松風に白かげりけり 大熊輝一 土の香
十五夜の松風に雨まじりつつ 岸本尚毅 鶏頭
千鳥群るる初松風の鳴る辺べに 向田貴子
友二忌の松風とみに激しかり 大牧 広
友葬る冬松風の真ッ下に 羽部洞然
吹き落ちて松風さはる牡丹の芽 日野草城
囀も松風もやむ時のあり 大橋櫻坡子 雨月
埋火に松風落る響き哉 松岡青蘿
墓原や松風たかき旱り空(末の松山) 角川源義 『神々の宴』
夏座敷松風を召され候ぞ 夏座敷 正岡子規
夕涼松風とめされ候そ 納涼 正岡子規
大貯水ふるゝもの鴨と松風ぞ 渡辺水巴 白日
奥津城は冬松風のひびくのみ 吉武月二郎句集
寒紅に松風つのりきたりけり 綾部仁喜 樸簡
山椒喰松風絶えて鳴き澄める 水原秋櫻子
山鳥も初松風に耳ひらく 松村多美
川かぜも松風も来て夏神楽 井月
川風も松風も来て夏神楽 井月の句集 井上井月
帰るさに松風ききぬ花の山 巣兆
帷子や須磨は松風松の雨 帷子 正岡子規
庵出る子に松風のほたるかな 飯田蛇笏 山廬集
引鴨の松風ばかり残りけり 井上唖々
後の月松風さそふ光りかな 井月の句集 井上井月
心太に松風落ちぬ桶の中 松瀬青々
忘れ庵檜風松風しだのかぜ 中勘助
手にとれば松風わたるわかなかな 蒼[きう]
数へ日の松風をきく齢かな 勝又一透
新涼の松風水をわたりけり 今井杏太郎
日南ぼこ直ぐ松風のでゝ陰る 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
春の昼遠松風のきこえけり 日野草城(1901-56)
春蝉も鳴くころほひの松風ぞ 石塚友二 光塵
月の夜の松風の夜の近松忌 大橋櫻坡子 雨月
有明山初松風をおろしけり 上田五千石
木曽山中松風をきく夏爐かな 加藤耕子
松手入して松風も村雨も 後藤夜半 底紅
松風すずしく人も食べ馬も食べ 種田山頭火 草木塔
松風す大輪の菊運ばるる 松村蒼石 雁
松風にいよいよの雪酒欲しや 清水基吉 寒蕭々
松風にうはずるこゑの鳥の恋 原裕 青垣
松風におどろき仰ぐ鹿の子かな 大橋櫻坡子 雨月
松風にかなしき声や高燈籠 高井几董
松風にきき耳たつる火桶かな 飯田蛇笏 山廬集
松風にこそつかせたる紙子かな 涼菟
松風にさめて行くなり薫衣香 佐藤紅緑
松風にしぐるゝ能の舞台かな 高浜虚子
松風にのりたるこゑのつくつくし 今井杏太郎
松風にはらはらととぶ水馬 高浜虚子
松風にふやけて疾し走馬燈 原石鼎
松風にゆるぐ紙帳や窓の下 内藤丈草
松風に乾きて涼し由か耳 尾崎紅葉
松風に千の波引く涼み台 原裕 青垣
松風に吹かれて来たる雀の子 今井杏太郎
松風に吹かれて蟻が水に落つ 右城暮石
松風に咲きつくしけり神の蓮 西山泊雲 泊雲句集
松風に城くつきりと秋意濃し 大熊輝一 土の香
松風に干し重ねたる鵜籠かな 山西雅子
松風に揺れゐる舟や沖膾 長谷川櫂 蓬莱
松風に新酒を澄ます山路かな 支考
松風に明け暮れの鐘撞いて 種田山頭火 草木塔
松風に松葉ばかりの雪間かな 小川軽舟
松風に気性はげしき蟻出でし 宇佐見魚目
松風に流れ二日の石たたき 大峯あきら 宇宙塵
松風に犬が振りむく秋声忌 田村愛子
松風に玉取終へし神の楽 斎藤滴萃
松風に甘酒さます出茶屋かな 甘酒 正岡子規
松風に甘酒わかす出茶屋かな 甘酒 正岡子規
松風に碧みてきたる氷かな 岡本 高明
松風に祓はれて来ぬ留守詣 今久保あき
松風に神馬のいななき冬至梅 飯田蛇笏 春蘭
松風に筍飯をさましけり 長谷川かな女
松風に筧の音もしくれけり 時雨 正岡子規
松風に紅裏かへせ御忌詣 松瀬青々
松風に耳欹つる春の鹿 清原枴童 枴童句集
松風に蛸の卵といへるもの 綾部仁喜 寒木
松風に蝌蚪生れたる山田かな 芝不器男
松風に誘はれて鳴く蝉一つ 日野草城
松風に醤油つくる山家かな 高濱虚子
松風に顔を上げたる夜業かな 岸本尚毅 舜
松風に風鐸かなで常楽会 亀井糸游
松風に驚く松も雨水かな 池田澄子 たましいの話
松風に鶯老いぬ天竜寺 碧雲居句集 大谷碧雲居
松風のある日無き日や地虫出づ 大峯あきら 宇宙塵
松風のうすれうすれぬ鐘供養 大峯あきら
松風のうるさき秋の昼寝かな 長谷川櫂 虚空
松風のおちてゆだちや筆硯 小林康治 四季貧窮
松風のがう~と吹くや蕨取り 村上鬼城
松風のこよなき日なり書を曝す 大峯あきら 宇宙塵
松風のこゑ地におちて荒しぐれ 石原八束 空の渚
松風のさくらもみぢを急かすなり 野沢節子
松風のつのる五浦の秋の月 中村政子
松風のときをり高き茅の輪かな 草間時彦「瀧の音」
松風のぬけて行きたるしぐれかな 千代尼
松風のふはと添ひけり御帷子 松香
松風のもうつまらなく炬燵かな 永末恵子 留守
松風のやゝのしづもりの枯葎 清水基吉 寒蕭々
松風のわたるを秋の声と聴く 植野枯葦池
松風の中なる人の懐炉かな 岸本尚毅 舜
松風の中を行きけり墓参人 芥川龍之介 我鬼句抄
松風の中を青田のそよぎかな 丈草「四哲集」
松風の價をねぎる殘暑哉 残暑 正岡子規
松風の匂はゞ須磨の朝の内 薫風 正岡子規
松風の吹いてをれども灼けてをり 槐太
松風の吹くや鵜川の朝ぼらけ 井月の句集 井上井月
松風の声となりゆく瑠璃鶲 渡辺夏舟
松風の夏めく庵を追はれけり 久保田万太郎 流寓抄
松風の夜々をかたむく炭俵 斎藤玄
松風の奥にわらびを摘みにゆく 山本洋子
松風の奥に寺ある寒さかな 犀星
松風の寐覚ばかりか軒の月 松岡青蘿
松風の小径となりぬ破魔矢持ち 吉屋信子
松風の怒濤の如き吹雪かな 阿部みどり女
松風の晒す障子となりにけり 中島月笠
松風の村雨を呼ぶ団扇かな 団扇 正岡子規
松風の松しぐるるや象頭山 広瀬惟然
松風の櫻吹くなり荒御魂 会津八一
松風の涼しき浜の館かな 高橋淡路女 梶の葉
松風の甘酒を吹く出茶屋哉 甘酒 正岡子規
松風の畠に落ちて今朝の秋 会津八一
松風の秋ひきたつる葛の花 斎藤玄 雁道
松風の空や雲雀の舞ひわかれ 丈草
松風の窟にしたたる観世音 角川源義
松風の納豆仕込む精舎かな 尾崎紅葉
松風の落かさなりて厚氷 松岡青蘿
松風の落つ浜木綿にゐてあかず 鈴鹿野風呂 浜木綿
松風の落葉か水の音涼し 松尾芭蕉
松風の行きつくところ山桜 大石悦子 聞香
松風の説法長し施米受く 松瀬青々
松風の謠半ばや春の雨 春の雨 正岡子規
松風の谺返しや夕桜 小林康治 四季貧窮
松風の賦をさざなみや早稲遅田 言水
松風の遠くにありし雛あられ 野上けいじ
松風の里は籾するしぐれ哉 服部嵐雪
松風の降らせる塵や弓始 上杉緑鋒
松風の雨こぼしたる切籠かな 飴山實
松風の音の身に入む安乗崎 森田志げを
松風の音を汲みあげ釜始 吉川ちしゑ
松風の頭巾吹きけり山法師 闌更
松風は潮騒に似て未明の忌 大沢紀恵
松風もおのがのにして蝉の声 千代尼
松風もつのればわびし寝正月 高田蝶衣
松風も家督にしたり葛根掘 三津人
松風も春のものとて暖かに 福丸
松風も村雨もあり須磨の雛 古白遺稿 藤野古白
松風も村雨も秋深き須磨 竹腰八柏
松風やいくとせ冬の田打せる 横光利一
松風やさばしる水に水馬 長谷川櫂 蓬莱
松風やしぐるるいろに種の浜(敦賀) 岸田稚魚 『花盗人』
松風や七輪に茄子くべてをり 森澄雄
松風や人は月下に松露を掘る 芥川龍之介
松風や仏法僧が修羅の声 清水基吉
松風や俎に置く落霜紅 森澄雄 雪櫟
松風や初荷車の楽過ぎて 波郷
松風や吾を涼ませて琴に落つ 納涼 正岡子規
松風や四十過ぎてもさわがしい 上島鬼貫
松風や山繭のねむりなほ浅き 関根黄鶴亭
松風や巣篭る鳩の目の澄みて 田中幹也
松風や年の山人の帰る後 内藤丈草
松風や時うつりして海苔の寄る 乙二
松風や月の障子に法の影 月 正岡子規
松風や朝寒顔の小鰺売り 村山古郷
松風や末黒野にある水溜り 沢木欣一 雪白
松風や池の月見るたかむしろ 篠崎霞山
松風や海東に暮るゝ春 尾崎紅葉
松風や甘酒釜を吹きさまさず 野村喜舟 小石川
松風や白犬細うすぎにけり 芥川龍之介
松風や紅提灯も秋隣(鵠沼谷崎潤一郎幽棲、七年) 芥川龍之介 我鬼句抄
松風や羽田の子供海苔を乾す 細谷源二 鐵
松風や膝に波よるあじろ守り 闌更
松風や芙蓉溺れむばかりにて 岸田稚魚 『萩供養』
松風や軒をめぐって秋暮れぬ 松尾芭蕉
松風や道の溜りにあめんぼう 森澄雄
松風や関はむかしに羽抜鳥 白雄「白雄句集」
松風や阿修羅涼しく腋をあげ 前田普羅
松風や霜に浮いたる石の貌 小林康治 四季貧窮
松風や鱸を荷ふ人のきほひ 徳田秋声
松風をいたゞく汗の額かな 尾崎紅葉
松風をうつつに聞くよ夏帽子 芥川龍之介 澄江堂雑詠
松風をおさへてふるや秋の雨 秋雨 正岡子規
松風をききゐる蝌蚪の薄日かな 松村蒼石 雁
松風をくゞりぬけたり春の山 春の山 正岡子規
松風をはなれて高し秋の月 月 正岡子規
松風を中に青田のそよぎかな 内藤丈草
松風を得意で売るや納涼茶屋 納涼 正岡子規
松風を打越して聞く蛙かな 内藤丈草
松風を植えて聞きたしくもの嶺 千代尼
松風を聞き足らはせる寝釈迦かな 徳永山冬子
松風竹雨芭蕉玉巻く書楼かな 飯田蛇笏 山廬集
梅干してよき松風の通り道 大峯あきら 宇宙塵
梅白く松風匂ふ城ほとり 大熊輝一 土の香
極月の松風もなし万福寺 石田波郷
武蔵野の松風聞かな青邨忌 深見けん二
汗を吹く茶屋の松風蝉時雨 汗 正岡子規
汲み水に落ちし松風昼寝ざめ 西山泊雲 泊雲句集
汲水に落ちし松風昼寝ざめ 西山泊雲 泊雲
河豚食ふや松風ひびく講和の間 陣場孝子
涼しさや松風蔦の葉を返し 尾崎迷堂 孤輪
滴りや天の松風吹きかはり 康治
潮騒に勝る松風新松子 伊丹三樹彦
潮騒の松風となり松露掘り 阿部みどり女 笹鳴
炎昼の松風棕梠と吹き通う 三谷昭 獣身
炭つぎて釜の松風もどりけり 手塚基子
炭の火に峯の松風通ひけり 一茶
獅子舞の太鼓松風ぐもりかな 久保田万太郎 流寓抄
琴の音の松風さそふ二日かな 川上梨屋
盆過ぎの松風を聴く沼津垣 黒田杏子 花下草上
真昼日に松風少し土用かな 尾崎迷堂 孤輪
祖母の世の松風今も墓洗ふ 福田蓼汀 山火
秋の夜やよその松風海馬の床 昌夏 選集「板東太郎」
穴の明く松風もなし朧月 千代尼
立春の松風星を呼びゐたり 伊藤京子
若潮を汲む羽衣の松風に 芋川幸子
苺咲く松風ばかり日を追へり 角川源義
葛水に松風塵を落すなり 高浜虚子「虚子全集」
藪入や墓の松風うしろ吹 一茶 ■文化七年庚午(四十八歳)
蛇穴に入る松風の音の中 井上哲王
蛍烏賊松風陸を離れざる 金尾梅の門
蝉を聞く蝉よ松風勝れつつ 三橋敏雄 畳の上
蟻地獄松風を聞くばかりなり 高野素十「雪片」
護国寺の松風ききぬ年の暮 龍岡晋
赤しょうびん松風にわが袖うすき 美土路圭子
足音を聴きわけ松風と蜥蜴 宮坂静生 山開
遠ざかり行く松風や神送り 神送 正岡子規
都にも松風ありて寒さかな 立花北枝
鎌倉の松風さむき雛かな 久保田万太郎 流寓抄
鑑真の冬松風は怒濤にて 加藤秋邨 吹越
長いぞや曽根の松風寒いぞや 広瀬惟然
青田風山門を入り松風に 川村紫陽
頬杖の頬や痩けたり松風忌 星野麦丘人
風呂吹を褪ます松風入れにけり 久米正雄 返り花
風景は松風ばかり日傘かな 鳴戸奈菜
食堂(じきどう)に松風通る春の昼 桂信子 樹影
鱸焼く松風の音聞きながら 長谷川櫂 蓬莱
鳴く雲雀松風立ちて落ちにけむ 水原秋桜子
鶴舞へり松風奏で涼しさに 山口青邨
をちこちに松かぜ落つる二月かな 久保田万太郎 流寓抄
松かぜ松かげ寝ころんで 種田山頭火 草木塔
●水音 
いざよいの水音を聞き魚ごころ 木村えつ
いざよひの空より水音起つごとし 関森勝夫
いづくにも水音のあり湯殿行 下鉢清子「みちのく」
うなぎひしめく水音朝のラジオより 豊田晃
おぼろ夜の水音に添ひ坂下る 柴田白葉女
きぶし咲き山に水音還り来る 西山 睦
ぎしぎしの伸びざかりなる揚水音 森田公司
くらがりへ覚める水音冬紅葉 板橋美智代
この水あの水の天龍となる水音 山頭火
たしかなる春の鼓動を水音に 吉富萩女
たたみの上にテレビ水音夜の秋 草田男
どことなく水音のして盆の町 岡本眸
ふ と 思 ひ 出 の 水 音 か げ り 山頭火
もてなしは秋の水音櫟の火 霜田千代麿
ゆうがたは水音恋ふる雪ばんば 池田琴線女
わがたてゝゐる水音や田草取 依田秋葭
コスモスも水音ごもり忍野村 古賀まり子 緑の野以後
シナノザサ秋水音もなく流る 高澤良一 素抱
トイレの水音もあったりして通夜の中 植田次男
トーキーに入りし水音木の芽時 長谷川かな女 雨 月
マンホールの水音寒夜は火の音す 寺田京子 日の鷹
了以忌や水音通ず京丹波 松瀬青々
二階屋を水音縦に切る寒夜 大井雅人 龍岡村
五月の鯉空に水音たたせけり 中田モト子
体内はいつも水音浮寝鳥 大村玉兎
何するも水音ごもり丁字咲き 高橋謙次郎
作り滝夜は水音を飼ふごとし 鈴木きぬ江
側溝にかすかな水音草茂る 青砥真貴子(朝)
八十八夜水音を聞き惚れもして 中山純子 沙 羅以後
六月の水音に添ひ検査すむ 萩原麦草 麦嵐
冬うらら水音のふと欹ちぬ 小川軽舟
冬の日の水音想ふ泛子を買ふ 鈴木鷹夫 渚通り
冬晴れの水音鋭がり来る日暮 岸田稚魚 筍流し
凍滝の中の水音墨を摺る 一條友子
分け入れば水音 種田山頭火(1882-1940)
分け入れば水音ばかり春の草 千代女
列柱に水音おぼろ地下宮址 澤田緑生
刻きざむ水音してをり初御空 加納久子
卒業のこの雪の田も水音す 桜井博道 海上
吹く風も澄む水音も木曽に入る 高橋悦男
夕紅葉とみに水音澄みわたり 鈴木花蓑句集
夜振火を消せば水音立ちにけり 冨田みのる
夜長の灯水音に明き花屋にや 安斎櫻[カイ]子
大原の水音烏瓜の花 大川真智子
大寺にこもる水音あたたかし 澤村昭代
大山蓮華渓のくらさを鳴る水音 土屋紫信
天の川は黒部川の水音を聞く(宇奈月温泉) 荻原井泉水
奉書漉く水音つづみ拍つ如し 荒井正隆
奥飛騨は水音太し破れ傘 佐藤斗星
妻はいま闇の水音螢籠 友岡子郷 日の径
子を連れては草も摘むそこら水音 種田山頭火
実むらさき水音に急ぐ色なるか 河野多希女
寒に入る一位樫には水音して 小川双々子
寒潮の濤の水音まろびけり 飯田蛇笏
寒諸子釣れし水音耳うてり 鈴木鷹夫 大津絵
寝ぬる時水音の月となりゐたり シヤツと雑草 栗林一石路
小暗がりの庫裡に水音木蓮忌 菊地智子
山中の水音いそぐ紅葉かな 山崎千枝子
山毛欅の樹を水音のぼる原爆忌 竹林仁
山葵田の水音しげき四月かな 渡邊水巴
山葵田の水音といふ音のあり 後藤比奈夫 祇園守
岩すべる水音へ垂る沢胡桃 伊藤敬子
川とんぼやさしき水音つれてきし 加古宗也
川宿の青柚にさぶと水音あり 長谷川かな女 雨 月
川狩や堰の水音遠く来し 雄子郎句集 石島雉子郎
師の墓を洗ふ水音の涼やかに 松田碧霞
帯とけば涼しくなりぬ水音も 星野立子
年の瀬の水音切れぬ洗車場 西村美枝
幾重にも水音ときに遠郭公 野中亮介
底冷えに水音のしてゐたるかな 猿山木魂
引あげて水音くらき柳かな 斯波園女
弛みなき木曾の水音蒼朮焚く 折井眞琴(岳)
愛のごとし深雪の底の水音は 小林康治 玄霜
我家の水音に年新たなり 露月
施餓鬼會や水音更る後夜の鐘 施餓鬼 正岡子規
明け方の水音ひびく朴の花 皆川白陀
昏れて行く水音山葵田にのこる 島村茂雄
春の水音ばかりかな枯林 横光利一
春や妻の使ふ水音知り尽くし 野中亮介
春暁の町ゆく水音離れずに 下村ひろし 西陲集
春浅き水音めぐる都府楼址 能村登四郎
春蘭や水音はまだ谿にのみ 児玉輝代
春風や土手は水音馬の鈴 春風 正岡子規
昼を夜につぐ水音や秋となる 阿部みどり女 『雪嶺』
昼昏き渓に水音座禅草 吉田百合子
暁暗の水音百合の奥はたらく 松澤昭 父ら
月の出やよその厨の水音す 菖蒲あや あ や
朝明よし投げ苗の水音さばしりて 高田蝶衣
木の中をのぼる水音原爆忌 益田 清
木ぶし咲くと見れば水音ゆたかなり 椎橋清翠
木道をくぐる水音沢桔梗 宮田俊子
枯園としてのやすらぎ水音にも 後藤比奈夫
柴漬の水音にたがふなかるべし 岡井省二
桑枯るる水音に沿ひ陣馬道 児玉真知子
桑畑に水音かよふ暮春かな 成瀬櫻桃子 風色
桶の水音立てて飲む祭馬 斉藤重子
椎若葉水音のして水の神 神原栄二
樵小屋水音細く冬に入る 栗原澄子
武蔵野の水音聴くや西行忌 志城 柏
毛虫焼く炎の水音に応へあり 原裕 青垣
水 音 の、 新 年 が 来 た 山頭火
水 音 を さ ぐ る 山頭火
水に棲み水音たてずあめんぼう 水田昊子
水ひろがる奥に水音苺食ぶ 友岡子郷 遠方
水よりも水音いそぐ下り簗 若井新一
水神へ走る水音みどりの日 平井さち子 鷹日和
水竜の中の水音夏はじめ 甫喜本のぶ女
水音(みおと)またおろそかにせず春の水 高澤良一 寒暑
水音、冬が来ている 住宅顕信(すみたく・けんしん)(1961-87)
水音があれば母ゐて菊膾 古市絵未
水音が河鹿の聲である水を聞く 荻原井泉水
水音が胸を出てゆく花わさび 青柳志解樹
水音が身から離れず春に入る 船水ゆき
水音けふもひとり旅ゆく 種田山頭火
水音しんじつおちつきました 種田山頭火 草木塔
水音で充たす一日さくら散る 桂信子 黄 瀬
水音で川幅わかり螢狩 木村紀美子
水音といつしよに里へ下りて来た 種田山頭火 草木塔
水音と即かず離れず紅葉狩 後藤比奈夫 祇園守
水音と機織る音や沖縄忌 山崎祐子
水音と羽音の夜明け鴨来たる 松永千鶴子
水音と花に憑かれし師が一入 野澤節子 遠い橋
水音と虫の音と我が心音と 西村和子
水音と蚤の記憶の薄あかり 飯田龍太
水音にいちにち芽吹く楢くぬぎ 由利雪二
水音にきよとんきよとんと鳰 高澤良一 さざなみやつこ
水音にそそぐ水音冬深し 行方克巳
水音にひかるる昼や桔梗の芽 宮坂静生 樹下
水音にまづくつろぎて川床料理 南 ふじゑ
水音にも山国の張り*たら芽あヘ 鍵和田[ゆう]子 浮標
水音にをののく蓼や櫻桃忌 石田あき子 見舞籠
水音に別れて虫の原となりぬ 及川貞
水音に千鳥ケ淵の夜寒かな 桜木俊晃
水音に山現れて梅の花 長谷部愛子
水音に恋の夢醒む天の川 石田ふじ乃
水音に暮るる信濃の干菜竿 前田時余
水音に朝のひらかず夏落葉 松澤昭 神立
水音に添ひ行き若菜野に出でぬ 菖蒲あや
水音に濡れては帰る夕すずみ 千代女「古人筆句録」
水音に紫陽花白く返り咲く 山田節子
水音に色あれば銀花山葵 原田青児
水音に記憶もどりぬ滝ありし 星野立子
水音に足裏より酔ふ簗の上 きくちつねこ
水音に跼めば蝶の翔ちにけり 飯野弥生
水音に蹤きてはかへす秋の蝶 北見さとる
水音に近づき離れ螢狩 茨木和生 往馬
水音に追はるる漆紅葉かな 小島千架子
水音に醒めし安曇野百千鳥 松本敏子
水音に闇ととのへば蛍とぶ 町田しげき
水音に離れ杭立つ十三夜 宮田正和
水音のあるばかりなる霧地獄 石塚友二 光塵
水音のいつもどこかで花山葵 寺岡捷子
水音のかすかにありて涼しさよ 稲畑汀子 汀子句集
水音のかたさ失せゆく犬ふぐり 平子 公一
水音のこもりてのぞく實梅かな 八木林之介 青霞集
水音のころがりくるや蕗の薹 小林紀代子
水音のして蘆間より鷭現るる 古賀ひさ
水音のする雪中の福寿草 菊地弘子
水音のそこだけ消えて冬桜 清水衣子
水音のそこに夕づくうつぼ草 村田脩
水音のたえずしていばらの実 種田山頭火
水音のたえずして御仏とあり 山頭火
水音のたそがれ誘ふ夕ざくら 成瀬櫻桃子 風色
水音のたてよこななめ雪解村 神沢英雄
水音のつれづれに春うごきけり 東條陽之助
水音のどこから夢の業平忌 寺井谷子
水音のながれながれて霜の橋 松村蒼石 雪
水音ののぼりくる山朴おそし 小島千架子
水音のひろがつて野は秋半ば 中村田人
水音のふくらんでくる曼珠沙華 野木桃花
水音のほしくなる絵よクリスマス 土谷倫
水音のやさしき日なり芹の花 浜福恵
水音の一つは炊ぎ雨の枇杷 友岡子郷 遠方
水音の中に句を書く新樹かな 渡辺水巴 白日
水音の中に小春のありにけり 星野椿
水音の中まで日暮朴の花 雨宮抱星
水音の中を歩いて月見草 末光令子
水音の五線音譜に乗る河鹿 稲畑汀子
水音の八尾はよかり風炉名残 坂田はま子
水音の八朔柑へ来て降るごとし 鳥居おさむ
水音の包める宿や新豆腐 山田弘子
水音の四辺よごさず卒業す 松澤昭 神立
水音の夜を咲きのぼるからすうり 白澤良子
水音の夢のごとくに返り花 順子
水音の家々つなぐ八重桜 ながさく清江
水音の家を半周すもも咲く 太田土男
水音の寝覚冷すや夏ごろも 鳳朗「鳳朗発句集」
水音の引き立ててゐる冬紅葉 後藤比奈夫 金泥
水音の方へわかれし端午かな 田中裕明 櫻姫譚
水音の方へ傾ぎて野紺菊 ふけとしこ 鎌の刃
水音の方へ薄暑の径たどる 隈柿三
水音の日向さびしく蕗刈れり 小田 司
水音の早春かなでゐて倦まず 稲垣きくの 黄 瀬
水音の明くる早さよ水芭蕉 三ケ森青雲
水音の晴ればれとして大賀蓮 猿山木魂
水音の暮れてひとりの大焚火 春樹 (吉野)
水音の枕に落つる寒さ哉 寒さ 正岡子規
水音の檜山夜に入る網戸かな 木村蕪城
水音の消えては生れあざみ咲く 稲畑汀子
水音の涸るる音もつ破芭蕉 吉村美波
水音の澄めば冷えくる茨の実 小松崎爽青
水音の爽やかに抜け棚田の空 中村行一郎
水音の空へ抜けゆく冬桜 勝又民樹
水音の糺を秋のはじめかな 大魯
水音の紺屋に遠く山眠る 渡辺みどり
水音の絶えずしてをり勇の忌 井上綾子
水音の耳うち荻の角組まれ 和久田隆子
水音の芋名月の陰(ほと)洗ふ 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
水音の荻にかくるゝ夕哉 荻 正岡子規
水音の萍ひとつ離れをり 山上樹実雄
水音の落ち込んでゆく木下闇 今井つる女
水音の葎はしる夏木立 夏木立 正岡子規
水音の近づいてくる葭障子 野澤節子
水音の野中さびしき柳かな 浜田酒堂
水音の野中にくれて冬の雨 支朗
水音の離れ蹤きくる梅寒し 岸風三樓
水音の風とはなるる春涼し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
水音の高くなりけり草螢 浦川聡子
水音の高まる木曾の草蚊遣 長田等(狩)
水音の髪膚に響く川床涼み 西村和子 かりそめならず
水音の鳥音にも似て田植すすむ 大熊輝一 土の香
水音は二階に高き河鹿かな 英治
水音は山女魚跳ぶらし淵おぼろ 内山 亜川
水音は暮しのリズムつばめ来る 兼山き志枝
水音は水にもどりて水鶏かな 千代尼
水音は耳に障らず春眠す 茨木和生 丹生
水音は遥かを急ぎ白絣 綾部仁喜 寒木
水音は銀の重さに山ざくら 児玉南草
水音もあんずの花の色をして 草間時彦 櫻山
水音もまた梅の香をくぐり来る 山田弘子 螢川
水音もまた風に乗る茂り中 市東 晶
水音も一品として夏料理 渡辺ユキ子
水音も記憶の中にありて夏 星野立子
水音も身に組み込んで薬喰 鳥居おさむ
水音も風の音にも九月かな 副島いみ子
水音も鮎さびけりな山里は 服部嵐雪
水音や匂ひ緊りて生姜畑 大熊輝一 土の香
水音や川添垣の青瓢 古白遺稿 藤野古白
水音や樽を並べて酢茎売り 穂坂日出子
水音や船にゐて秋風の唄をきく 太田鴻村 穂国
水音や谷ほの暗く紅葉散る 古白遺稿 藤野古白、正岡子規編
水音や野菊のあかるさをおもへ 夏井いつき
水音より明くる街道燕来る 加藤安希子
水音をあつめて木曾の青胡桃 長田等(狩)
水音をはさむ蛍の屏風哉 蛍 正岡子規
水音をひかりを切りて囀れり 茨木和生 三輪崎
水音を一品にして夏料理 榎本栄子
水音を両側にして桐の花 飯島晴子
水音を先だててくる雁渡し 今瀬剛一
水音を受けとめている寒椿 山内年日子
水音を寒からず聞く心あり 汀子
水音を抜けて小瑠璃の声聞こゆ 茨木和生
水音を止めて始まる夕祓 中村泰子
水音を深めし宇治の祭あと 石田厚子
水音を秋の声とし奥信濃 鈴木真砂女
水音を素手でつかみて春隣り 高梨まゆみ
水音を聞いてゐるだけ夕端居 沢田れい
水音を聞きのがさじと枯葎 瀧澤宏司
水音を聞く曲がり家の白障子 曽我部多美子
水音を聴く木の橋の凍りけり 仙田洋子 雲は王冠
水音を越えて仙翁朱ヶひとつ 文挟夫佐恵 遠い橋
水音を踏んで歩くや秋の暮 草間時彦 櫻山
水音を離れ螢火ピアニシモ 吉原文音
水音淙々芽吹きうながす山の雨 福田蓼汀 秋風挽歌
水音遠くなり近くなつて離れない 山頭火
水鳥の水音のようにわがまま 阿部完市 その後の・集
江名子川水音棗に響かせて 高澤良一 素抱
油蝉この世水音なかりせば 今村俊三
洞窟の中より寒の水音す 舛田としこ
流星や水音こもる真葛原 飯野てい子
涼新たよき水音の水に寄り 村越化石
淙々と水音珊々と深山蝉 福田蓼汀 山火
溝蕎麦にだんだん水音暗くなり 諸角せつ子
滝の水音柔かく木の間なる 高濱年尾 年尾句集
火祭の果てし水音逸るなり 菖蒲あや あ や
炎天を来て水音の如意輪寺 加古宗也
炬火(まつ)照らしゆく霧原の水音かな 臼田亜浪 旅人
猩々袴水音に蕊のばしけり 伊藤敬子
田に引ける水音すずめのてっぽうに 高澤良一 燕音
白樺の芽吹く空あり水音す 星多希子
白河に近き水音沙羅の花 鳥居おさむ
白菖蒲剪つて水音をまとひけり 雨宮きぬよ
盆礼や水音たかき飛鳥川 城孝子
盆過ぎの寧き水音道志村 河野南畦
盲ひたりせめては秋の水音を 高浜虚子
石のみの川に水音谷あけび 寝瓶史
石鼎忌修す水音山の音 原和子
秋風の水音糸のごと乱れ 内藤吐天 鳴海抄
空讃え水音讃え犬ふぐり 高澤良一 随笑
竜沼へ水音はげしく桷は実に 阿部藍子
筒鳥や水音や霧のにじり口 安西篤
筧水音の春めき宗淵忌 依田由基人
精霊路のどこも水音ばかりかな 関戸靖子
紙を漉く水音こそは秋の音 鈴木真砂女 夕螢
紙漉きの水音さむく暮れにけり 田中冬二 麦ほこり
紙漉女と語る水音絶間なし 橋本多佳子
紫苑咲く水音風音蓮華寺 小川笹舟
紫陽花や朝の水音二階より 桜井博道 海上
胎内の水音聴いてゐる立夏 中村苑子(1913-2001)
胎動の水音夏の大樹まで 高原与祢
脳下垂体涼し水音聞きをれば 正木ゆう子 静かな水
膨らます背戸の水音猫柳 西村久子
花林檎吾を水音の中に置く 藤田湘子
花誘ふまゝ水音の誘ふまま 田畑美穂女
芹摘みの水音に山動き出す 水品トミ子
菩提寺の常の水音霜日和 今井峰月
菱ちぎるひそけき音と水音と 真木洛東
落差埋めんと水音優し年の暮 香西照雄 素心
葛の花ふかき水音がする 栗林一石路
薄暑なり水を離るる水音も 茨木和生 往馬
藺を植うる水音のみの夕べかな 加藤しげる
虫野来てうしろになりし水音かな 臼田亞浪 定本亜浪句集
蛇穴に入り水音の空にあり 宮岡計次
蛇穴を出て水音をききにけり 三橋鷹女
蛍火へいつも水音さしはさむ 横山白虹
蛍狩せし水音に旅名残り 稲畑汀子
蝉の声絶えて水音山深し 蝉 正岡子規
蝌蚪揺れて私語の水音聴きとれず 河野南畦 湖の森
蟲野来てうしろになりし水音かな 臼田亜浪
覚めてすぐ近き水音をとこへし 田中裕明 花間一壺
観音へ走る水音去年今年 斎藤典子
谷里は水音つねなる夜寒かな 尾崎迷堂 孤輪
谿ふかく水音の冬木の霜 シヤツと雑草 栗林一石路
豊年の水音抱いて山の闇 奥名春江
返り咲く花を水音逸れてゆく 裕
途切れざる水音にとぎれ河鹿鳴く 脇収子
金魚守昼寝も池の水音なか 原 好郎
鎧戸のそとの水音あけ易き 稲垣きくの 黄 瀬
雨音の中の水音花山椒 今井園子
雪くぐり来し水音の青きかな 山田桃晃
雪の来し地は水音を霊歌とし 松澤昭 神立
雪加鳴くや朝の谷水音をひそめ 桜木俊晃
雪原の水音鈴ふるごと暮るる 鷲谷七菜子 雨 月
雪残す微笑水音遠く垂れ 松澤昭 父ら
雪渓の水音の白根葵かな 伊藤いと子
霧月夜水音を和語のやすらぎに 吉野義子
青すだれ吊れば水音近づきぬ 片山由美子 天弓
青麦に水音はしる比叡の前 青々
風立ちて水音変る花馬酔木 玉木春夫
饒舌も夜の水音も涼しかり 稲垣きくの 黄 瀬
騒がしき水音ばかり数の子は 渡辺誠一郎
鮎の瀬の水音ばかり暮れてをり 津村典見
鮎落ちてより水音の昂まれり 荻原芳堂
鯉買つて水音運ぶ枯るる中 鈴木鷹夫 渚通り
鱒池の春めくものに水音も 茨木和生 野迫川
鱒飼へる四方の水音に春日満つ 内藤吐天
鳥啼きて水音くるゝあじろかな 与謝蕪村
鳥鳴て水音くるゝ網代かな 蕪村
鴨下りる水音を聞く火桶かな 山口青邨
●水声 
いづこなる水の声々初不動 玉置仙蒋
てふてふや木曾の水車の水のこゑ 吉原文音
とくとくと岩根くり抜き冬水の声新し 橋本夢道 良妻愚母
ななかまど谷を離れし水のこゑ 黛執
ななくさや落ちて暗渠の水のこゑ 高橋睦郎 稽古飲食
ゆめはじめ氷の下の水のこゑ 大木孝子
万両の向うを通る水のこゑ 高澤良一 宿好
下闇のさきへさきへと水のこゑ 中村祐子
今年竹湧水のこゑ放ちけり 鍵和田釉子
修二会の柱に寄れば水のこゑ 角川春樹 夢殿
冬ぬくし古井にのこる水の声 今井サト
冬の水声なきものを沈めたる 高瀬竟二
冬晴れ天水声も有縁のやさしさで 友岡子郷 遠方
冬鱒の好む水温水の声 百合山羽公 寒雁
友鮎に懈き午後の水のこゑ 角川春樹 夢殿
地下駅の奈落に秋の水のこゑ 前山松花
時雨れむず橋下の水の秋の声 臼田亞浪 定本亜浪句集
木の葉雨添水の声も寂にけり 菅原師竹句集
杉山の日昏れよく澄む水のこゑ 石井一舟
枯山の岫をめぐれる水のこゑ 石原八束 空の渚
水のこゑ木のこゑ石のこゑ冴ゆる 黒田杏子 花下草上
水のこゑ水にとどまる冬ざくら 馬場移公子
水の声地のこゑ睦ぶ枯れはてて 古賀まり子 降誕歌
水の面に入日残りて鴛の声 春香
水の音マリアの声となる月夜 朝倉和江
水声のうひうひしきも蛍の夜 三田きえ子
波郷忌の夕べ木の声水の声 白澤良子
涼しさは河童が淵の水のこゑ 鈴木鷹夫 千年
炎天の葛くぐりゆく水のこゑ 宇佐美魚目 秋収冬蔵
燕子花活けてぞきかむ水の声 朝倉和江
疲れ鵜に闇を落ちゆく水のこゑ 岬木綿子
皹の指にあつまる水の声 萩原玉子
石の声水の声して山ざくら 久保田月鈴子
秋風に吹かれてゐたる水のこゑ 長谷川綾子
篁や秋深まりし水の声 臼田亜浪
荻の声きらめく水の行方かな 柴崎絢子
走り梅雨水声町をつらぬける 水原秋櫻子
迎火のうすうすと地のこゑ水のこゑ 吉田鴻司
逝く秋の急流に入る水のこゑ 鷲谷七菜子 花寂び
●水谺 
下萌のいづこともなく水谺 日向野貞子
凍解けて瀧にもどりし水こだま(常陸袋田瀧) 上村占魚 『方眼』
双魚忌の山に籠りし水こだま 梶田悦堂
水こだま走りて釣瓶落しかな 長谷川双魚
水谺深き夜明けの初音売 臼田亜浪
汐浴びの声ただ瑠璃の水こだま 中村草田男「来し方行方」
白鳥の立上りたる水谺 綾部仁喜 寒木
綿虫消え峡を満たせる水谺 鍵和田[ゆう]子 飛鳥
草笛や白鳥陵の水こだま 石田勝彦
薄暗き厨房秋の水こだま 奈良鹿郎
●水の音 
あけぼのの春あけぼのの水の音(蘇生) 野澤節子 『駿河蘭』
あぢさゐの瑠璃流しこむ水の音 稲垣きくの 牡 丹
あぢさゐ寺土鈴ころころ水の音 野田勇泉
あつき日や病夢さまよふ水の音 幸田露伴 谷中集
ある寺の添水の音を今思ふ 富安風生
いつの世も朧の中に水の音 桂信子
うしろから水の音して訃が来たり 大西泰世
うたた寝の母の唇より水の音 中村孝史
うつしみの終のあぶらを捨てにゆく越の深山は水の音する 山田あき
おぼろ夜やわが身ゆすれば水の音 石嶌岳
おもかげや早稲の刈田に水の音 角川源義
おもしろや水の春とは引板の音 園女 俳諧撰集玉藻集
お簀の子に流觴の水の音をきく 長谷川かな女 雨 月
かけ橋や霧の底より水の音 霧 正岡子規
かけ橋や霧の底行く水の音 霧 正岡子規
かしらだか飛ぶ古藪に水の音 目黒十一
かじか鳴かず闇に落ちゆく水の音 石原フサ
かたかごの斜面を満たす山の音 黒田杏子 水の扉
かな女忌の柱の中の水の音 三浦文子
こ こ ろ お ち つ け ば 水 の 音 山頭火
この山の脈音か雪水の音 宇多喜代子 象
さびしさ水の音水の競うなり 荻原井泉水
すがもりのぽとり昔の水の音 伊藤千恵
すゞしさや惣身わするゝ水の音 松岡青蘿 (せいら)(1740-1791)
そこらより摘みて夏花や水の音 草間時彦 櫻山
たづねきて添水の音も情あり 波多野爽波 鋪道の花
たでの花阿蘇山系は水の音 穴井太 原郷樹林
てふてふのひろげてゆきし水の音 奥名春江
としのうちの春やたしかに水の音 千代尼
ひつそりと春の蚊を打つ水の音 森田正実
ひとすぢの水の音あり斑雪山 行方克巳
ほうたるになくてはならぬ水の音 稲岡長
まづ水の音もどりきし庭雪解 安原葉
まんさくの咲いてころころ水の音 赤松子
まんさくや谺返しに水の音 岸野千鶴子
みず摘みし夜はことさら水の音 竹川せつ子
むさしのや霞の中に水の音 霞 正岡子規
ゆく年の一夜明らむ水の音 川崎展宏
ゆく年や草の底ゆく水の音 久保田万太郎 流寓抄
ヒーターの中にくるしい水の音 神野紗希
一山の笑ひはじめの水の音 兒玉南草
一田づつ行きめぐりてや水の音 立花北枝
七種のひびきからある水の音 千代尼
万緑の奥のつめたき水の音 蕗村
三椏の花の放さぬ水の音 浅沼艸月
下冷や心にかゝる水の音 蘿状
人里に水の音する寒ンの入り 細見綾子 花寂び
今日の空水の音して糸瓜垂れ 原裕 青垣
休耕田春来る水の音ひびく 町田敏子
佐保姫の眠や谷の水の音 松根東洋城
元日やされば野川の水の音 来山
元旦に寝てみぞおちを水の音 中拓夫 愛鷹
八月の妻をとりまく水の音 黒坂紫陽子
冬ごもり漉し水の音夜に入りぬ 白雄
冬ごもり漉水の音夜に入ぬ 加舎白雄
冬ぬくし墓地にきこゆる水の音 藤岡筑邨
冬山行くリックの中の水の音 笹本達夫
冬野出て見知らぬ街の水の音 橋本洋子
冬銀河地下を流るる水の音 志村宗明
冬麗の山を墜ちきし水の音 神尾久美子 桐の木以後
冷かや人寐静まり水の音 漱石 (快晴、心地はし、昨夜眠穏(修善寺病中))
凍滝の玉簾なす水の音 川辺房子
凍滝を衣通りにけり水の音 行方克己 昆虫記
初秋やまだうつくしい水の音 千代尼
十二月八日米研ぐ水の音 白川宗道
去年今年一縷の水の音ありて 清崎敏郎
古池やこいつ投げこめ水の音 古白遺稿 藤野古白
古池や蛙とび込む水の音 松尾芭蕉
古池や蛙飛こむ水の音 芭蕉
古草に座す水の音風の音 中島木曽子
右に左に田へ行く水の音立てて行く(信州御牧村) 荻原井泉水
合歓咲いて失語の街の水の音 牧野桂一
名月や舳に捨てし水の音 比叡 野村泊月
向日葵の轟然と佇つ水の音 穴井太 原郷樹林
啄木鳥や森くらがりに水の音 道場信子
喪正月水の音のみ耳につき 宇咲冬男
噴水の小さくなりて水の音 小島健 木の実
土舟や蜆こぼるる水の音 白雄
埋もれて若葉の中や水の音 夏目漱石 明治三十年
夏燕峡の田毎の水の音 藤木倶子
夕霧忌川二つ合ふ水の音 外川玲子
夜鴨居る気配でありし水の音 新田充穂
大和より金魚をはこぶ水の音 岡井省二
妻恋へば七月の野に水の音 角川源義
室生寺やすすき分け行く水の音 角川春樹(1942-)
寺を出て萩に片よる水の音 桂信子 遠い橋
小男のナンバに寒し水の音 幸田露伴
山寺の涼しさ水の音所々に 安原葉
山梨や走りはじめし水の音 白井爽風
山葵田のこのもかのもの水の音 鈴木貞雄
山藤も借景寺苑に水の音 望月紫晃
山里や雪積む下の水の音 雪 正岡子規
川水の音に彳む闇夜哉 正岡子規
川水の音のすゝしき闇夜哉 涼し 正岡子規
川水の音をすゝみの闇夜哉 納涼 正岡子規
川霧や馬打入るゝ水の音 太祇
年のうちに春やたしかに水の音 千代女
年のうちの春やたしかに水の音 千代女
年の瀬や水の上ゆく風の音 覚範
年の豆掃き落したる水の音 岡本松浜 白菊
幹打てば水の音して芭蕉かな 長谷川櫂 蓬莱
座をかへて春水の音かはりけり 大橋櫻坡子 雨月
座禅草去年見し辺り水の音 伊藤京子
彳むや月見て居れば水の音 月見 正岡子規
悴むや岩に魑魅の水の音 古舘曹人 樹下石上
打水の音さらさらと庭の竹 打ち水 正岡子規
摘草の水の音する方へ行く 半澤律
放蕩や水の上ゆく風の音 中村苑子
新緑や石をこえゆく水の音 曽我玉枝
方丈に寒の明けたる水の音 星野椿
旅にかなしき女の寝息添水の音 加藤知世子 花寂び
日ぐらしや山田を落る水の音 諷竹
日盛りの石の中より水の音 佐藤星雲子
明月や白きにも似ず水の音 千代尼
明月や雲間につもる水の音 千代尼
星鴉風のあとまた水の音 鈴木六林男
春の月水の音して上りけり 正木ゆう子 静かな水
春の野や霞の中に水の音 春野 正岡子規
春兆す億年という水の音 澤野 弘
春宵の障子にひゞく水の音 上村占魚 鮎
春水の水琴窟の音となる 山下美典
春水の音あるところ人佇てり 高濱年尾 年尾句集
春蘭や奈落をいそぐ水の音 松本美簾
春風や麦の中行く水の音 木導
暖かや野崎詣の水の音 久松さだ子
暗きより暗きへ冬の水の音 石塚友二
暗室より水の音する母の情事 寺山修司(1935-83)
月光の野のどこまでも水の音 貞
月影や田をおちこちの水の音 黒柳召波 春泥句集
月高く樹にあり下は水の音 月 正岡子規
朧夜や水の音する壁の中 中田剛 珠樹以後
朧月淀のわたりの水の音 徳野
木立暗く何の實落つる水の音 木の実 正岡子規
村中に桃咲くころの水の音 松林 慧
松風の落葉か水の音涼し 松尾芭蕉
枯園のいつもどこかに水の音 相川紫芥子
枯河原暗渠に水の音のして 館岡沙緻
柳散る片側町や水の音 漱石
栃の花日ぐれは逸る水の音 菅井静子
梅林のまんなかにゐて水の音 関戸靖子
梅雨晴や近江いづこも水の音 山口英子
楽しさや青田に涼む水の音 芭蕉「真蹟懐紙写」
残菊や身の内流る水の音 美馬順子
水の音くらきにきこえ十三夜 久保田万太郎 草の丈
水の音さぶしかりけり後の月 日野草城
水の音して雪渓の髄滅ぶ 津田清子 二人称
水の音せきれいの声またちかし 木津柳芽 白鷺抄
水の音たかめて青根冬枯るる 石原八束 空の渚
水の音つねに新し端午来る 大岳水一路
水の音マリアの声となる月夜 朝倉和江
水の音山に放てり雛の家 酒井和子
水の音施餓鬼涼しき灯影哉 施餓鬼 正岡子規
水の音木苺の花咲きにけり 笹岡晴湖
水の音毬藻は浮動はじめけり 長谷川かな女 花 季
水の音絶へて夜江の梅白し 野梅句集 加納野梅
水の音聞きに筍崖に出し 茨木和生 木の國
水の音聞てたのもし崖九間 正岡子規
水の音聴きつけ大賀蓮ひらく 中村菊一郎
水の音近く芭蕉の紙子展ぶ 松井慶太郎
池に引きし水の音のみ良夜かな 及川貞 榧の實
沓の音水の音しぬ二月堂 大魯
河鹿鳴く闇にもつるる水の音 稲荷島人「続夏雲」
洞穴や涼風暗く水の音 涼風 正岡子規
涼しさや真桑投こむ水の音 涼し 正岡子規
涼しさや花火ちりこむ水の音 涼し 正岡子規
涼しさや行燈消えて水の音 涼し 正岡子規
涼しさや闇の夜中の水の音 涼し 正岡子規
淀舟やこたつの下の水の音 炭 太祇 太祇句選
清明や壺に満ちゆく水の音 片山由美子 天弓
湧き水の音遠近に散紅葉 下間ノリ
湧く水の音に片栗咲き初めぬ 茂木房子
湧水の音もかすかに座禅草 小野竹葉
溝蕎麦やたたらの村の水の音 宮本よしえ
牡丹三千めぐり疲れて水の音 古賀まり子 緑の野以後
猫抱けば水の音して去年今年 坪内稔典
玉川や分れてぬるむ水の音 水温む 正岡子規
生きいきと渓が月呼ぶ水の音 河野南畦 湖の森
生きるから水の中より泉の音 藤田湘子 てんてん
田から田へうれしさうなる水の音 青田 正岡子規
田水の音ねむし妻子の聲近し 石橋辰之助
田草取り向きを変へたる水の音 榎本栄子
町中を水の音して犬ふぐり 濱田のぶ子
畦塗つて田と田をつなぐ水の音 谷脇政江
畦豆や丹波はぐくむ水の音 ふけとしこ 鎌の刃
白ぎくや籬をめぐる水の音 二柳
白地着て逢魔が刻の水の音 斎藤梅子
盆月夜かの世も水の音あらむ 豊長みのる
目張剥ぐどこかに水の音がして 島田妙子
矜羯羅に水の音して水の秋 神尾久美子 桐の木
短日の嵯峨竹林の水の音 柴田白葉女 花寂び 以後
短日やどこにきこゆる水の音 久保田万太郎 草の丈
石投げて水の音聴く秋思かな 甘田正翠
神の旅どこまで地下に水の音 杉野一博
祭太鼓とろとろ水の音を出す 正木ゆう子 悠
秋彼岸湧いて玉なす水の音 川崎展宏
秋澄むや紙漉く里の水の音 稲垣一雄
秋簾木屋町筋の水の音 守永規子
稲の中水の音して日和かな 野田別天楼
稲の香や屈めば水の音聞こゆ 矢島房利
稲の香や束ねて落つる水の音 蓼太
空蝉や家をめぐりて水の音 岸田稚魚 筍流し
竜吐水の音のたかまり初明り 田中みち代
筒鳥の空にも水の音がせり 茨木和生 木の國
簗にゐてあめつち水の音となる 良太
糸遊や曲(くせ)を操る水の音 浜田酒堂
紫陽花や渡岸寺めぐる水の音 愛甲良江
絶壁も暮れかねてをり水の音 仙田洋子 雲は王冠
綿虫やひとり暮しの水の音 藤本鷹山
緑蔭やこころにまとふ水の音 木下夕爾
羽化しつつあるとんばうや水の音 松尾隆信
老尼病む庭の添水の音止めて 浅井素栄
老鴬やふんだんに使う水の音 鈴木六林男「谷間の旗」
臘八接心朝方の水の音 城 松喜
色鳥や山家につかふ水の音 鈴木康久
芭蕉忌や古池や蛙飛びこむ水の音 芭蕉忌 正岡子規
花菖蒲活けて真夜きく水の音 福永みち子
芹摘むや溝へ落ちゆく水の音 小林久夢
若竹や暗がり走る水の音 鳳嘴
若鮎や生家は水の音ばかり 高野ムツオ
苧環や木曽路は水の音の中 蟇目良雨
茶の花や刈田の塚に水の音 角川源義
草の葉のほたるゆれるや水の音 蛍 正岡子規
草も木も蛍くささや水の音 水田正秀
草擦ってゆく水無月の水の音 福永耕二
落穂拾ふ真昼は水の音かすか 石原八束
藤垂れて傘下一切水の音 古舘曹人 能登の蛙
虎尾草翳れば迅き水の音 井田満津子(円)
虎杖の花やわびしき水の音 佳兆「よさむ」
蛍待つ闇深まりて水の音 小笠原将圭
行く秋や太山を出づる水の音 古白遺稿 藤野古白
行春の艪音に遅れ水の音 加古宗也
裏富士の水の音聞き酔芙蓉 有馬朗人 耳順
見えてゐて添水の音の聞えけり 松尾いはほ
見えてゐる水の音を聴く実梅かな 田中裕明 花間一壺
谷深きより水の音秋澄めり 成松秋吉
赤松に添水の音や朗たり朗 辻桃子
越後いま刈田に水の音ばかり 角川春樹
足元に水の音きくおぼろかな 高木昌風
蹲踞の一水の音炉を開く 大森保延
身のうちを水の音して夜の秋 林 享子
過・現・未の音 洞窟の水の音 伊丹三樹彦 覊旅句集三部作 島嶼派
達磨句あり蛙飛びこむ水の音 蛙 正岡子規
闇涼し草の根を行く水の音 露月
障子外に田水の音や春の月 冬葉第一句集 吉田冬葉
雁仰ぐ身体の中に水の音(その息いでゆけば、かれ土にかへる。その日かれがもろもろの企ては亡びん。(詩篇一四六)) 田川飛旅子 『薄荷』
雪女郎雪間の水の音となり 長谷川櫂 古志
雪間より一筋奔る水の音 小松世史子
露の家や目覚めにいつも水の音 金箱戈止夫
青柳やどちらの世話で水の音 千代尼
青葉木菟塔より天に水の音 角川春樹
青鬼灯どこまでのぼる水の音 今井誠人
音させて添水すぎても水の音 乙二
風の盆唄にからまる水の音 藤島咲子
風の盆昼どこまでも水の音 三谷みちる
風吹て秋行く水の音寒し 秋の水 正岡子規
飲食の水の音して青糸瓜 細川加賀 生身魂
鯉喰って霜夜からから水の音 鶴岡梨江子
鰯雲日かげは水の音迅く 飯田龍太(1920-)
鴨川や涼みも更けて水の音 納涼 正岡子規
鵜篝消す一気火の音水の音 中村明子
鹿苑に春月われに水の音 下村槐太 天涯
麦秋の見えざる水の音くもる 鷲谷七菜子 雨 月
麻刈って谿さっぱりと水の音 及川貞 夕焼
龍吐水の音だけ 書野山 正月 伊丹公子
●水響く 
ばつたんこ水の重さを響かせる 山下美典
わが内耳水壺のやうな響きあり月明踏みて何者か来る 河野裕子
二三尺秋の響きや落とし水 月渓
去年今年水の響きをわがものに 新谷ひろし
敗荷の水に響ける風の音 田邊英夫
春立つや水響きゐる甲斐の国 石嶌岳
水澄みてビオラの低き響きかな 高崎公久
水芭蕉林中に水響きけり 高澤良一 燕音
水音の髪膚に響く川床涼み 西村和子 かりそめならず
水響き小雀囀り紛れなし 石原栄子
江名子川水音棗に響かせて 高澤良一 素抱
添水かけて木々からび行く響かな 大須賀乙字
片頬に水の響けりわさび沢 高澤良一 燕音
碧さもどる水に響きてわが国歌 臼田亞浪 定本亜浪句集
磐走る一水響き夕ざくら 川村紫陽
秋水の響くあたりの夕明り 成瀬正とし 星月夜
遣り水の玉と響きて澄みにけり 深見けん二 日月
響き落つ水濁りなし雪椿 岡田日郎
風花や読経の響く手水鉢 中村照子
●霧笛 
こくりこの辛うじて見え霧笛かな 中戸川朝人 尋声
ふたり子にて二つの頭霧笛来る 友岡子郷 日の径
ぼうぼうと霧笛はこもる恋やまい 穴井太 土語
ヴエネチアの細道小道霧笛鳴る 奥山俊子
一つ一つ過去となりゆく霧笛かな 鈴木鷹夫 風の祭
一吹のあとさきもなき霧笛かな 加倉井秋を 『隠愛』
人に霧笛きこえて冬の夜の灰皿 古沢太穂 古沢太穂句集
卯月曇ペンキを厚く霧笛室 堀野信子
地の底へ引き込むやうに夜の霧笛 伊藤彩雪
天女いま梅雨の霧笛を身にまとふ 堀口星眠 営巣期
寒燈をまた暗めては霧笛鳴る 古賀まり子 緑の野以後
岩燕沖へ反り身の霧笛塔 毛塚静枝
岬去り難し霧笛の鳴り次ぐに 茂里正治
新涼や港見下ろす霧笛橋 星 輝子
水底に棲む街ありて霧笛きく 仙田洋子 橋のあなたに
汽笛吹けば霧笛答ふる別れかな 大久保橙青
流木は鳥のかたちや霧笛鳴る 仙田洋子 雲は王冠
海彦と山彦とゐる霧笛かな 鈴木洋々子
海彦のゐて答へゐる霧笛かな 橋本多佳子
海彦の答へず霧笛かけめぐる 橋本多佳子
灯台の霧笛いぶかり北狐 稲松錦江
灯台の霧笛頭上に投錨す 広瀬河太郎
灯台は低く霧笛は峙てり 高浜虚子
燈台に低く霧笛は峙てり 高浜虚子
牡蠣飯や霧笛を熄めぬラジオ劇 秋元不死男
碇泊船遠き霧笛に重ね吹く 米沢吾亦紅 童顔
秋思とは霧笛か水尾か梳る 長野澄恵
箸すべる海髪や霧笛の遠吠ゆる 三村太虚洞
聖夜霧笛去りゆくはユダかヨハネか 平井照敏 天上大風
若き日の蘆花住みし町霧笛鳴る 冨田みのる
遥かなる除夜の霧笛に眠りをり 仙田洋子 雲は王冠
還らざるものを霧笛の呼ぶ如し 伊藤柏翠
霧の航おのが霧笛をふりかぶる 阪上史琅
霧笛こみあげこみあげ句座には働く顔 赤城さかえ
霧笛と日のあかるさが霧に満つ 篠原梵 雨
霧笛の夜膀胱痛し狂ひたし 小林康治 玄霜
霧笛の尾遠くはるけきものを呼び 高崎武義
霧笛の応ふるがありわが船停る 篠原梵 雨
霧笛の船あらはれずへだたりぬ 篠原梵 雨
霧笛の音モーンモーンと北の果 加藤知世子 花 季
霧笛吼ゆうからを呑みし海とこそ 依田明倫
霧笛寒くうから寝落つや哭くごとし 小林康治 玄霜
霧笛泣くほどに海霧濃き啄木碑 石原八束 空の渚
霧笛聞く大間岬に桂月碑 勝田蒼人
霧笛鳴りやまず仮泊の秋めきて 石原舟月
霧笛鳴り咫尺の浪穂あるばかり 福田蓼汀 山火
霧笛鳴るたびに面上げ夜の稿 冨田みのる
霧笛鳴る上海蟹をせせる時 岩崎照子
霧笛鳴る修学旅行第一夜 奥田智久
霧笛鳴る岬や寄り合ふ親仔馬 渡会 昌広
霧笛鳴る岬や寄り立つ親仔馬 渡会昌広
霧笛鳴る花黒百合を剪るみぎり 石原八束 空の渚
頭上にて霧笛ふとき柱のごとし 篠原梵 雨
●鳴動 
五体投地春暁の堂鳴動す 岩崎眉乃
寒夜更く鳴動つづく登窯 谷本淳子
火山性鳴動続く草泊 茨木和生 往馬
火山鳴動して蛤となる雀 梅木蛇火
焼岳の鳴動秘めて雪待つか 澤田 緑生
竹秋の竹林鳴動して止まず 高澤良一 鳩信
阿蘇鳴動啓蟄の土こぼれけり 寺島勝子
鳴動す近き浅間や葡萄狩 阿部みどり女 笹鳴
鳴動の山を力に枇杷熟るる 西屋敷峰水(湾)
鳴動の浅間をとざす梅雨の雲 相馬遷子 山国
鳴動はやまず火口の霧ふかし 井上波二
鳴動もなく秋麗の恐山 原 好郎
●物音 
しんしんと物音断ちし雪安居 桑田青虎
コホロギヤ物音絶エシ臺所 蟋蟀 正岡子規
一人の淋しい物音立てている 住宅顕信 未完成
万緑の底に物音なく牧場 畠中じゆん
亀鳴くや物音絶えし坊泊り 藤田つとむ
冬かすかなる物音を立てにけり 佐々木六戈 百韻反故 冬の皺
初午や物音ひびく部屋の壁 桂信子 遠い橋
十二月八日の昼の物音す 高澤良一 随笑
夕暮の物音親し秋刀魚焼く 西村和子 夏帽子
夜の長く物音遠くなりにけり 高浜年尾
家々の立つる物音ものの芽に 高澤良一 ぱらりとせ
家ぬちの物音ばかり夜の秋 星野立子
家中に物音のなき雛納め 西村和子 夏帽子
既に妻の朝の物音空に凧 中村草田男
棺の中物音もなし菊日和 原裕 『出雲』
物音におどろきやすく虫の夜 阿部みどり女
物音に敏く図太く寒鴉 池田啓三
物音のかたりことりと秋の風 山田みづえ
物音のしてゐる家や目借どき 岸田稚魚
物音のしない家です蕨煮る 沓名普子
物音のなき安らぎや梅雨世界 古賀まり子 緑の野
物音のよく聞え来る秋の晴 山下美典
物音のよく通る空烏瓜 高澤良一 宿好
物音の死して往還油照り 青谷小枝(春月)
物音の絶えて雨来る花真菰 白石みや
物音の階上へつつぬけ鴨の宿 大石悦子 聞香
物音の隣まぢかき夜寒哉 中川宋淵 詩龕
物音は一個にひとつ秋はじめ 藤田湘子(1926-)
物音は人にありけりおぼろ月 炭 太祇 太祇句選後篇
物音は人にはあらず柿落葉 岩田由美
物音も雨月の裏戸出でずして 田中裕明 花間一壺
物音やさゆる柏の掌 才麿
物音をはばかり起きれば梅雨雀 高澤良一 素抱
物音を立てぬ向ひ家みそさざい 高澤良一 ぱらりとせ
物音低く住みて片陰に光る蛇 平井さち子 完流
百姓の咳まじる遠き物音に 中山純子 茜
秋の稿いずこにいても物音す 鈴木六林男 後座
紛るべき物音絶えて鉢叩 樗良
耳傾むく北風より遠き物音に 林火
耳袋とりて物音近きかも 高浜虚子
花通草物音一つたてぬ村 高澤良一 素抱
茄子苗につひに物音なき村か 大峯あきら
落葉のあと夜の物音のひそみをり 鷲谷七菜子 黄 炎
蜉蝣と物音絶えし夜を共に 吉年虹二
長き夜の物音きくや白拍子 夜長 正岡子規
除夜の家ひとりの物音およがせて 渋谷道
雛まつる壁裏昼の物音す 桂信子 黄 瀬
雨を吸ひ物音を吸ひ山新樹 高木晴子 花 季
雪中の物音にして紙の音 本庄登志彦
露けさに物音ありぬ寺修理 松本たかし
香の物音たてず噛む安居かな 森樵仙子
魂棚にとどく物音何々ぞ 大峯あきら
●物の音 
古井戸に物の音聞く夕すゞみ 高浜虚子
日向ぼこして聞き分くる物の音 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
昼寝覚め港に近き物の音 今井つる女
晝中や野分はじまる物の音 野分 正岡子規
源氏屏風に追儺の物の音しける 長谷川かな女 雨 月
物の音の冴える夜だ子も目をあいて 北原白秋
物の音ひとりたふるる案山子哉 野沢凡兆
物の音ひとり倒るる案山子かな 凡兆
物の音散りあつまりて十月へ 黒川路子
膝枕哉物の音の喜春楽 言水
●矢音 
弥生空上棟式の掛矢音 岡野寛人
●家鳴り 
鷹わたる蔵王颪に家鳴りして 阿波野青畝
家鳴して酒庫の夜の大雪崩 西山泊雲 泊雲句集
●山彦 
やまびこのゐて立ちさりし猿茸 飯田蛇笏 霊芝
やまびこの消えてさびしき鳴子かな 阿波野青畝
やまびこをつれてゆく尾根いわし雲 飯田蛇笏 春蘭
やまびこを交してをりぬ植樹祭 小田切輝雄
初機のやまびこしるき奥嶺かな 飯田蛇笏
夏の炉にやまびこきこえ師弟古る 石原舟月
木菟の森やまびこ昼をねむりけり 西島麦南 人音
盆花を摘む子等の声やまびこも 川崎展宏
破魔弓ややまびこつくる子のたむろ 飯田蛇笏
門前のやまびこかへす碪かな 飯田蛇笏 霊芝
いくたびも山彦かへす夕焼かな 吉武月二郎句集
おーいおーいと永久にあなたを呼ぶ山彦 池田澄子
おーいおーい命惜しめといふ山彦 高柳重信
からうじて山彦もどる吾亦紅 下田稔
ざんばら髪の山彦あるく油照り 長谷川双魚
しぐるるや山彦は樹を親と思ひ 長谷川久々子
しぐれきて山彦絶ちし下りかな 原田種茅 径
ためしたき山彦青嶺ま近なり 朝倉和江
ひよどりの山彦の澄む初詣 田村木国
ぼんでんの法螺山彦のごと吹きあふ 上村占魚
亀鳴くや山彦淡く消えかかる 赤尾兜子
二人行けど秋の山彦淋しけれ 佐藤紅緑 紅緑句集
全山の芽や山彦がもの言へり 米沢吾亦紅 童顔
凧高うなりて山彦もう答へず 内藤吐天 鳴海抄
前山に山彦棲む日松飾る 渡辺柳風
吠え牛に山彦高し霧の中 西山泊雲 泊雲句集
夕凍みの山彦山に残りけり 秋山ユキ子
夕焼る山彦山に帰るとき 三田きえ子
天彦呼びに山彦駈くる斧始 大野せいあ
子遍路に山彦のゐる札所かな 山崎一角
寒卵割り山彦の国を出る 市原光子
山彦が聞えてあやめ祭来ぬ 萩原麦草 麦嵐
山彦とならぬわがこゑ落胡桃 白岩 三郎
山彦とゐるわらんべや秋の山 百合山羽公
山彦と啼く郭公夢を切る斧 山口素堂
山彦と晴れて学校始めかな 松下鶴生
山彦にいつか鳴き勝て羽抜鶏 秋山朔太郎
山彦にさからひやまず霧の鵙 西島麦南 人音
山彦にも毀れるひかり二月の樹 速水直子
山彦に妻の遊べる山毛欅若葉 菅原多つを
山彦に山葵の花や散りかゝり 萩原麦草 麦嵐
山彦に散果たしたるさくらかな 米密 三 月 月別句集「韻塞」
山彦のあと一斉に杉花粉 岡本まち子
山彦のうしろ姿を漉き上げる 小澤杏林
山彦のしばしとだへし紅葉かな 杉本寛
山彦のしばらくありて草刈男 西山泊雲 泊雲
山彦のはきはきとして青吉野 大石悦子 聞香
山彦のはじめつばらにねこじやらし 藤田湘子
山彦のはなればなれよ妓王の忌 神尾久美子
山彦のゆつくりとほる弥生かな 中村契子
山彦のよくかへる日よえびかづら 遠藤露節
山彦のわれを呼ぶなり夕紅葉 臼田亞浪 定本亜浪句集
山彦のゐてさびしさやハンモツク 水原秋桜子(1892-1981)
山彦の一歩も退かず閑古鳥 檜紀代
山彦の南はいづち春のくれ 蕪村遺稿 春
山彦の口まね寒きからすかな 千代尼
山彦の尻尾だすまで黄落す 西野理郎
山彦の山みな遠し花うつぎ いのうえかつこ
山彦の己の声に呼ばれ夏 白岩三郎
山彦の待ちかまへゐし山開き 木内怜子「繭」
山彦の打つ小鼓や山葵咲く 田方建子「土鈴」
山彦の打てもどしに砧かな 紫貞女
山彦の棲む山めざし旱道 徳永山冬子
山彦の棲む谷々の薄紅葉 三村純也
山彦の気配を棟に冬仕度 岡本まち子
山彦の触れず落ちたる一位の実 浅井一志
山彦の語尾のすとんと山眠る 山本秋穂
山彦の通り抜けたる涼気かな 神尾久美子
山彦の駆けて椎の実こぼしけり 井本芦水
山彦はみな男ごゑ冬の山 大谷てるみ
山彦は他所(よそ)の事なりわかな摘 千代尼
山彦は呼べぬ齢や栗の花 赤塚五行
山彦は宵に一戻るやのちの月 千代尼
山彦は山に捨て置く夜の桃 鈴木湖愁
山彦は山へかへりて枯一途 鹿野佳子
山彦は杜甫か李白か登高す 白澤良子
山彦は湖に出てゆく朴の花 長田等
山彦は男なりけり青芒 山田みづえ 木語
山彦は青年のこゑ山笑ふ 二藤 覚
山彦も山を出ることなき二日 鷹羽狩行
山彦も島出づるなし青芒 朝倉和江
山彦も魂ぎる多摩や血止め草 高柳重信
山彦やむらさきふかき春の嶺 池田秀水
山彦や湯殿を拝む人の声 桃隣「陸奥鵆」
山彦や知らなくてよいけもの道 池田澄子
山彦や花の梢にひびき行く 水田正秀
山彦をかへし雪渓夜もしるく 福田蓼汀 山火
山彦をすぐに戻せぬ樹氷林 北見弟花
山彦をつけてありくや鉢たたき 千代女
山彦をぬすむすすきのすだま見つ 栗生純夫 科野路
山彦を伴ふ窓に夏経かな 蝶衣句稿青垣山 高田蝶衣
山彦を呼び出してゐる山開き 小野伶(南風)
山彦を呼び戻せしが雪となる 相原左義長
山彦を山に帰して修二の忌 関野八千代
山彦を山へかへして卒業す 遠藤若狭男
山彦を引き寄せてゐる春田打 小泉八重子
山彦を探す夕暮れ頬濡らし 久野千絵
山彦を連れて半鐘防火の夜 野澤節子 遠い橋
山眠るや山彦凍てし巌一つ 松根東洋城
岬現れ海彦山彦すでに春 河野南畦 湖の森
引鶴のこゑ海彦へ山彦へ 福島笠寺
拍手が山彦となる四方拝 石津不及
旅人の中を山彦ときに野火 三枝桂子
早春の山彦かへる垣根かな 萩原麦草 麦嵐
明けまたぬ小野の山彦土竜うち 吉武月二郎句集
春愁やひとの山彦われに来る 米沢吾亦紅 童顔
月明や山彦湖をかへし来る 秋櫻子
木耳を踏み山彦の老いゆくよ 長谷川双魚 風形
朴の青枝下されて飛騨の山彦 金子皆子
梅雨雲がすぐ山彦を追ひかへす 米沢吾亦紅 童顔
極月の山彦とゐる子供かな 細川加賀 『傷痕』
海彦と山彦あそぶ初茜 樫村安津女
海彦と山彦そろふ入学期 原裕 新治
海彦と山彦とゐる霧笛かな 鈴木洋々子
海彦も山彦も来て綱を引く 荒井籠聲
海彦も山彦も来よ太刀飾る 野木桃花
澱みなく山彦とんで神無月 斎藤佳代子
火祭の山彦ゆゆし秩父人 佐藤春夫 能火野人十七音詩抄
牛飼の山彦わかし冬隣 岩田昌寿 地の塩
町の子の山彦遊び秋の山 安藤登美子
白根葵咲けりといふよ山彦も 水原秋櫻子(馬酔木)
窓の外にゐる山彦や夜学校 芝不器男
老鴬に山彦もなき浮葉かな 碧雲居句集 大谷碧雲居
腸の水の山彦昼寝覚 高澤良一 随笑
花菜いちめん孤児に山彦野彦する 磯貝碧蹄館 握手
蔓梅擬山彦つれて山の子ら 古賀まり子 緑の野以後
近づいてくる山彦の暑さかな 松澤昭 山處
近頃は山彦となる不如帰 橋本鉄也
返盃や会うこともなき山彦に 仁平勝 東京物語
雪嶺のいづかたよりの山彦ぞ 猪俣千代子 秘 色
鞦韆や春の山彦ほしいまゝ 秋櫻子
鶏のこゑ山彦すなり日南ぼこ 吉武月二郎句集
●弓音 
くたら野の果てや梓の弓の音 蝶夢
ひきしぼる弓の音のみ的始 志水優子
桜舞う大庇より弓の音 木幡しずほ
梅が香や通り過ぎれば弓の音 毛がん 正 月 月別句集「韻塞」
雪解風弓の素引きの音ひびく 友岡子郷 翌
風薫る森の木蔭や弓の音 文波
●余韻 
いま切れし電話の余韻蒲団干す 北上正枝
かなかなかな金剛力の余韻かな 渡辺恭子
こめかみに音叉の余韻花の冷え 熊坂てつを
ねつとりと鐘の余韻や夕霞 中村苑子
ひぐらしのこゑの余韻に山の霊 前山松花
パンジーの吹かるる余韻なかりけり 行方克巳
ブランコ余韻父子にハゼ釣れてる みなとたいじ
マフラーに旅の余韻を巻き帰る 捧 喜香
佞武多笛かなしき音色余韻とし 増田手古奈
凡鐘の遠き余韻の冬の朝 枌御許
友逝きて余韻の長し春の雷 田中英子
名曲も美酒も余韻を朝曇 上井正司
名鐘の余韻のかなた比良暮雪 朝日子
墓洗ふ恋の余韻のなくはなし 藤原照子
如月や鐘の余韻のうらおもて 石關洋子
寒柝の一つ一つに余韻なし 京極杞陽 くくたち上巻
寒椿一輪剪りし余韻かな 青木重行
尾根雪崩れ鳴りどよみひんひんと余韻消ゆ 京極杞陽 くくたち上巻
押へ込む太鼓の余韻霜夜かな ふけとしこ 鎌の刃
捨鐘の余韻秋風おこりけり 福田蓼汀 秋風挽歌
日盛りや時打つ余韻時計の中 中村草田男
春昼や水琴窟の余韻聞く 加藤元子
東にも釣瓶落しの余韻かな 松尾清隆
案内僧の黙の余韻や蚊火の寝間 平井さち子 完流
梵鐘の余韻余寒の中に散る 吉井秀風
梵鐘の余韻透き行く冬木立 小田久恵
爪打ちの鐘の余韻は紫雲英野に 風生 (観世音寺)
発車ベルにもある余韻花ぐもり 片山由美子 雨の歌
百八の鐘鳴る余韻消さぬため 佐藤南山寺
磬子の余韻仏が稲田へ出で立つよ 磯貝碧蹄館 握手
菊根分旅の余韻の中にゐて 山田弘子 螢川
落石の余韻を長く山眠る 片山由美子 雨の歌
虚子の世の余韻今生き鐘供養 林 克己
襟巻に包むコンサートの余韻 畑湘甫
讃美歌の余韻咳なほ堪へてをり 津田清子 礼 拝
遠雷の余韻愉しむ烏龍茶 高澤良一 寒暑
鐘ついて去る鐘の余韻の中 尾崎放哉
鐘供養余韻わたりて渓つつむ 近藤 實
鐘纏ふ一打の余韻夕桜 木野恭子
長老の一打の余韻去年今年 河野汎明
除夜の鐘余韻は高き星となり 小島とよ子
雷の余韻の下の京都かな 五十嵐播水 播水句集
馬車馬の蹄の余韻 復活祭 中 ヤスヱ
鵜祭の余韻に空の白み来し 中村珠栄
●呼子 
しぐるるや寺の柱に呼子笛 松山足羽
ゆふがほに阿児と呼子は女なり 加舎白雄
冬晴や玉一つ入る呼子笛 小川軽舟
呼子とは風呼ぶ港厄日過ぐ 片山由美子 風待月
呼子町唐様手摺にうるめ干す 大村和子
幸木ほの紫のかけ蕪 呼子無花果
湊名の呼子とよんで磯鵯 能村登四郎 天上華
烏賊干して呼子の沖は霾ぐもり 小林碧郎
烏賊干して寒のもどりし呼子港 龍頭美紀子
空谷に猿の呼子の鋭かりけり 西本一都 景色
義士祭の遺品に並ぶ呼子笛 和田幸八
臨海生徒の寝耳に呼子吹かれけり 沢本知水
逝く春や呼子の宿のおどり喰ひ 川村さく
骨蒸や呼子の舟に年の塵 古舘曹人 樹下石上
うしろから前から我を呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
けものとも鳥ともいふや呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
しら糸や稲負勢鳥呼子鳥 上島鬼貫
ははの名は墓碑に新らし呼子鳥 藤原貞子
みやま路や何とらまへて呼子鳥 大阪-万海 元禄百人一句
み吉野や花啣へたる呼子鳥 角川春樹 夢殿
むつかしや猿にしておけ呼子鳥 榎本其角
三井寺の鐘さびついて呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
世のゆがみ見えて花眼よ呼子鳥 友永佳津朗
佐保姫の誰を召すとや呼子鳥 巌谷小波
何もかも知らぬ顔せよ呼子鳥 上島鬼貫
何やらの鳴く声すなり呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
呼子鳥なくか碓氷の盤根石 中村史邦
呼子鳥ひたすら鳴けり霧の崖 田中里佳
呼子鳥啼くか碓水の盤根石 史邦 芭蕉庵小文庫
呼子鳥妹ふりかへりつつ遠し 黒岩有径
呼子鳥専心花鳥諷詠経 高澤良一 ぱらりとせ
呼子鳥鳴き交ふゆふべははそ山 林ヨシ子
呼子鳥鳴く夕影のでんでら野 吉田道子
奥山や鈴がら振つて呼子鳥 古白遺稿 藤野古白
宵宵やたゞ鳴きくれて呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
山荒れの石原ゆけば呼子鳥 中勘助
山陰や誰呼子鳥引板の音 蕪村 秋之部 ■ 武者繪賛
巫峽に猿あり化して鳥となる呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
役なしの我を何とて呼子鳥 一茶
復元の森のしじまに呼子鳥 高岡すみ子
思はざれば外海は無し呼子鳥 三橋敏雄 長濤
木母寺や柳は枯れて呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
松の木と名は知りながら呼子鳥 上島鬼貫
毛が三すぢたらいでそれが呼子鳥 井原西鶴
猿は見えでうしろに人を呼子鳥 子規句集 虚子・碧梧桐選
猿引が声をいふ也呼子鳥 存義
猿引の村へ来たるよ呼子鳥 召波
病み臥すやひとこゑきりの呼子鳥 池田まつ子
細道のひたと消けり呼子鳥 呼子鳥 正岡子規
繰り返す言葉の呪術呼子鳥 沼尻巳津子
草の根をたたいて捨つる呼子鳥 柳澤和子
西行いかに吉野の奥の呼子鳥 椎本才麿
護摩の炎の天へ昇れり呼子鳥 水戸啓子
隠し女房山路ぞ隔つ呼子鳥 調鶴 選集「板東太郎」
鳥追や背中で母を呼子鳥 元夢
●雷鳴 
*ほうぼうの鳴きしや冬の雷鳴りしや 矢部白茅
かきくもり雷鳴雹をたたきつけぬ 長谷川素逝 砲車
丘の向かうで雷鳴つてゐるナバホの子 齊藤美規
乾きたる雷鳴夕立去りしあと 大橋敦子
冬の雷鳴るも樗牛の忌日かな 工藤金一
出し抜に初雷鳴りぬ三ッばかり 飯島風香
初の雷鳴るや一と雨一としきり 渋谷まさゑ
初旅の熊野雷鳴もて明くる 山口超心鬼
地軸折るほどの雷鳴ありにけり 滝青佳
地階春夜の雷鳴をきゝとめぬ 西島麦南 人音
天主堂の炎をさまりし外壁を浮きあがらせて夜の雷鳴る 竹山広
念を押すごとくに春の雷鳴れり 高澤良一 燕音
方言と雷鳴をもち海渡る 対馬康子 愛国
春の雷鳴り居し雲の消えにけり 高橋淡路女 梶の葉
時よ光れシベリウス像雷鳴す 石原八束 白夜の旅人
月山の霧の中より雷鳴す 矢島渚男 延年
楸邨を思へば雷鳴はるかに来 久保美智子
樫が身を揉む雷鳴の魚籃坂 渡辺 昭
深夜胸の上の雷鳴許し給え 鈴木六林男 王国
漁夫の婚一と日雷鳴る裏日本 齋藤愼爾
生れてすぐ雷鳴にあう女児にして 鈴木六林男 谷間の旗
立膝をすればはるかに春の雷 鳴戸奈菜
糊皿に一雷鳴や冬深し 外川飼虎
花大根雷鳴の雨に打たれけり 中村泰山
雪暗の裏山に雷鳴りこもる 佐藤鬼房 潮海
雷鳴が渡りさびしき肋せり 林田紀音夫
雷鳴つて三日の松を晴らしたり 長谷川かな女 牡 丹
雷鳴つて大峰山の戸開式 山田春生
雷鳴つて御蚕の眠りは始まれり 普羅
雷鳴つて碧きモーゼの五月の瞳 平井照敏 天上大風
雷鳴つて蚕の眠りは始まれり 前田普羅 飛騨紬
雷鳴にふと俤の重なりし 星野椿
雷鳴に尻照らされ隼人瓜 豊口陽子
雷鳴に怯えそれより茸は出ず 西山泊雲 泊雲
雷鳴に湯引きし魚の背きけり 今関幸代
雷鳴に火焔いよいよ青不動 狹川青史
雷鳴に耐ゆ城壁に手をあてて 古舘曹人 砂の音
雷鳴のあとを春雨らしく降る 鈴木鷹夫 風の祭
雷鳴のたび青佐渡を濃くしたり 本宮哲郎
雷鳴のプールに誰か抜手きる 寺田京子
雷鳴の一夜のあとの紅蜀葵 井上雪
雷鳴の中の再会なりしかな 山田弘子 こぶし坂
雷鳴の吹き割りし木も花ざかり 宇佐美魚目 天地存問
雷鳴の擬音江戸村忍者劇 倉橋羊村
雷鳴の真只中で愛しあふ 仙田洋子(1962-)
雷鳴の間遠になればまたにくむ 仙田洋子 橋のあなたに
雷鳴やはらりと活けし縞芒 野澤節子 黄 炎
雷鳴やサティゐるうちに眠るべし 仙田洋子 橋のあなたに
雷鳴やダンテの家は路地の奥 有馬朗人 知命
雷鳴や同ずる一鴉あらずして 相生垣瓜人 明治草抄
雷鳴や少年の背の垂直に 原コウ子
雷鳴や山川草木宙より来 和田悟朗 法隆寺伝承
雷鳴や授業いつきに目覚めたる 宮口 征子
雷鳴や病んで白蛾のかげを忌む 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
雷鳴や脳病院に容赦なく 森田智子
雷鳴や駿河を攻むる甲斐の雲 いのうえかつこ
雷鳴りてただの夕雲栗の花 皆吉爽雨
雷鳴りて大岳の神を送りけり 藤原たかを
雷鳴り来しづかに今年惜しむなり 及川貞 夕焼
雷鳴を二度とは聞かず祈り終ふ 長田等
雷鳴を柩の上にしてすすむ 丘本風彦
黎明の雷鳴りしづむ五百重山 飯田蛇笏 霊芝
●列車音 
短夜の野に迫り来し列車音 依田明倫
国中の初霞より列車音 茂里正治
夕東風や川尻わたる列車音 進村五月
●櫓声 
櫓の声波ヲ打つて腸氷ル夜や涙 芭蕉
櫓声身にひしと涼しむ闇の濃し 飛鳥田[れい]無公 湖におどろく
秋声と聞くや櫓べその鳴くことも 吉川禮子
●和音 
ウクレレに和音三つの端居かな 田中幸雪
大道は秋/生娘はみな和音 仁平勝 東京物語
座禅草せせらぎに聞く和音かな 下農由希子
椋鳥さわぐ天界不況和音なし 影島智子
男声和音聴く涼しさに暁の経 平井さち子 完流
花かへで水琴窟の和音かな 山本秋穂
鬼灯の雨垂れ和音笑おうか 増田萌子

 
以上

by 575fudemakase | 2022-06-25 22:35 | ブログ


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グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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