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黛執 全句集 を読んで (高澤良一)

黛執 全句集 を読んで 
   角川書店 2022・10・21初版
黛執 全句集 を読んで (高澤良一)_b0223579_14070036.jpeg
手始めに最晩年の2句集の共鳴句を挙げて置きたい。

◆第八句集 春がきて

縁側の上のあれこれ日脚伸ぶ
八方へ轍を放ち春の村
わかさぎの水面乱さず釣られてけり
鈴の音の聞こえて遍路まだ見えず
鳥影の引きも切らずや春障子
ぬかるみを四方に広げて農具市
春泥にとびつかれたるランドセル
ながながと水脈曳いて鴨残りけり
穴出でし蛇に全き空の青
八十八夜くたかけの長鳴きも
昼は日に夜は月影に竹落葉
彷徨うてみたくなりたる白地かな
心経の声そろひたる涼しさよ
秋に入るひつきりなしに井戸鳴って
新涼やすくと立ちたる犬の耳
落し水せかせか日暮きたりけり
ゐのこづち取り合つてゐる喪服かな
にぎやかににぎやかに水温みけり
亀鳴くや暮色わけても濃き水辺
虚貝置いてゆきたる春の潮
魚は氷に童の声は路地に満ち
陽炎に捕まつてゐる登校児
草に戯れ石に弾んで春の水
水ぐるまごとごと眠いねむい春
夏めくと水面に鯉の盛りあがる
八方へさざなみ広げ田を植うる
梧桐に井戸汲む音のひもすがら
湖しんしんと郭公の声のあと
冬に入る軒下にもの積み上げて
今朝冬の木のてつぺんに鳥の声
寒明くるそよりそよりと風吹いて
捨て舟に波のひた寄る遅日かな
鳥は雲に翁は三里に灸据ゑて
せつせつと川音はげむ緑の夜
をしみなく風を湧かせて梅雨明くる
波の上に波を重ねて夏をはる
秋風のしばらくありし身八口
夕刈田鷺は一羽に如かずけり
かたときも影を離さず冬の耕
五郎助ほうほう山風を騒がしむ
真ん中に野壺の据わる初景色
水べりに沿へば笹鳴ついてくる
魚は氷に老いはおぼこに返りけり
雨だれに紛れなかりし春の音
朝の日の先へ先へと雀の子
風青し青しと弾む木魚かな
夏籠のいちにち雨の音の中
梅雨に入る山の烏を騒がせて
蕗の葉の揺れてそれから雨の音
潮の香の中の縁台将棋かな
ひたすらに雨貪つてゐる青田
月出たと大きな声の挙がりたる
ばつたんこばたんと月を上げにけり
月に鳴く鳥あり渡りゆきにけり
側溝を鼠の走るクリスマス
ただ笑ふほかなき今朝の寒さかな
さざなみの綺羅をつくせる寒さかな
どの木にも風が棲みつき冬深む
春はいつも遠い方からやつてくる
春の夜を上りつめたる春の月
だんだんに春が濃くなる水の上
ゆれながら月が上がるよ春の山
老人に遠くなりたる春の夢
春がきて日暮が好きになりにけり


◆『春がきて』以後

()は小生のコメント。

暮れかぬるしきりに水を匂はせて
ふるさとは今ぞ蜜柑の花盛る
さざなみを広げひろげて風は秋
立春の土を弄(いじく)る鴉かな
春の田に夕日がじつとしてをりぬ
緑より緑を伝ふ風の音
新緑を抜けきし風を総身に
遠い日の浮かんできたる緑かな
降り足りぬ雨待つてゐる植田かな
音もなき雨となりたる薬の日
かかなべて潮の香濃しや松の芯
(「かかなべて」は日数を重ねての意)
祭笛ひよろと月の泛びたる
たからかに水澄む音となりにけり
葉がくれにひそむ鳥の眼冬に入る
木の葉降る降るたのしげにさびしげに
(「降る降る」のリズムはあたかもシャンソンでも唄っているような)
木の葉舞って水の面をかがやかす
総身に初日を浴びて電車待つ
(私の「昭和」時代を振り返えるやう)
客ひとり降りたる駅の淑気かな
春くるとぎつたんばつこ弾みけり
(土臭い俳句だ)
永き日やジャングルジムに子が群れて
遺族席ゴム風船をただよはす
(キチンと正装した子供を思うた)
達磨落しすとんと抜けてうららけし
(懐かしい遊び道具だ)
青空をまさぐつてゐるいかのぼり
踏青の前に後ろに孫の声
(すっかりお爺ちゃん、お婆ちゃん)
春火鉢ふたりつきりとなりにけり
(行き着く処は・・・・)
水灌菜(みずかけな)しやりしやり食んでいのちなが
(水灌菜はアブラナ科の漬菜)
海へ向くコップがひとつ終戦日
(何ひとつ人物像らしきものが描かれていないが、人影を強く意識させられる)
妻と相病む
秋迎ふ一つ医院に名を並べ
(添え書きらしい添え書き)
田に太る煙も二百十日かな
街の灯の身に入みながらともりけり
塩はやや強めに寒のお菜かな
(お菜とはおかず。副食物)
待春の煙上げたる漁師小屋
風に音水に色つき春に入る
(「風」「音」「水」「色」と並べたら、確かに春がやってくるような感じがする。なかなかに凝った叙法だ)
杏ひらひら一村を埋めつくす
(こんな句は如何?ぴかぴかと天が近しよ杏花村 大野林火 方円集 昭和五十一年)
鳩くつくくつくとバレンタインデー
(「くつく」の促音便が効果的)
天心に昼月泛べベイースター
(ぬうっと出てくるハイカラな片仮名が上等)
うれしくてたまらぬやうに初つばめ
(同趣向。燕つばめ泥が好きなるつばめかな 細見綾子)
啓蟄の音たからかに小川かな
卒業の別れの言葉うさぎにも
(「うさぎにも」の蛇足が上等)
大仏の背に覗き穴春の塵
(鎌倉の長谷観音がホウフツ)
桜貝ひとつポッケに休暇果つ
(ポッケはポケットの幼児語。このたどたどしさが佳い)
鬢付けの香も際やかに五月場所
(両国国技館周辺が彷彿)
滴りのいつしか雨となつてをり
釣れなくていい釣堀にながながと
(この「投げやり感」が結構)
なめくじり航跡らしきもの曳いて
(蜷の例句にも有りさうな一句)
箱庭を作って風を待ちにけり
ほうたるの果たして雨となりにけり
(「ほうたるの」と云ひ止して置いてトボケた処がうまい)
葭切の攻めたててゐる日暮かな
(同趣向の一句をどーぞ。うるさきもの一銭蒸汽行々子 尾崎紅葉)
お花畑乱れて雲が通りけり
鷺草の翔び立つ構へくづさざる
(「くづさざる」とは画竜点睛の一語)
逆しまに走る一匹蟻の列
(流石、守一流の観察眼)
巴里祭といへばピエロの泪かな
(「ピエロの泪」から映画「道」のジュリエッタ・マシーナのベソかき顔を思ひ出した)
竹婦人蹴つとばされてゐたりけり
井戸端のびつしより濡れて送り盆
(生活感出とる)
干柿にこれ以上なき日和かな
(「これ以上なき」とは云ひ得て妙)
待宵の塩善哉となりにけり
(「おしるこ」と「善哉」の違いをもう一度確認しました)
祖父はがらくた子は玩具屋へ年の市
(私の「年の市」と云へば浅草寺)
いろいろとありたる年を惜しみけり
(芭蕉句の「さまざまなこと思ひ出す桜かな」を思ひ出した)


以上
妄言陳謝
高澤良一

by 575fudemakase | 2023-03-27 14:06 | ブログ | Trackback


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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