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「詳細」秋の植物の例句 in 角川俳句大歳事記 秋

「詳細」秋の植物の例句 in 角川俳句大歳事記 秋
「詳細」秋の植物の例句 in 角川俳句大歳事記 秋_b0223579_17501143.jpeg
ワンピースふはとかがむや秋の薔薇
秋の薔薇人もひかりに包まれて

木犀の香に往来かな
木犀の香を浴びにけり
木犀やしづかに昼夜入れかはる
散るときが来て木犀の金どっと
木犀の金を小出しに法然院
この路地の金木犀も了りけり

道のべの木槿は馬にくはれけり
逢へぬ日は逢ふ日を思ひ白木槿
墓地越しに街裏見ゆる花木槿
老後とは死ぬまでの日々花木槿
一日のまた夕暮や花木槿
底紅の咲く隣にもまなむすめ
底紅や黙ってあがる母の家

物かげに芙蓉は花をしまひたる
美しき芙蓉の虫を爪はじき
落芙蓉すうっと終章いそがねば
白芙蓉朝も夕も同じ空
こんなきれいな時間がありぬ花芙蓉
ロゼといふ色に出でたる酔芙蓉
酔芙蓉どこへも行かぬ日の暮れて
はなびらを風にたゝまれ酔芙蓉

中年の遠くみのれる夜の桃
桃冷す水しろがねにうごきけり
水中にありたる桃の濡れてゐず
桃を剥くどこにも力入れぬやう
ゆっくりと引けばめくるる桃の皮
もぎたての白桃全面にて息す
白桃を食ふほの紅きところより
磧にて白桃むけば水過ぎゆく
白桃の皮引く指にやゝちから
白桃のしづく手首へつたはりぬ

孔子一行衣服で赭い梨を拭き
梨食うてすっぱき芯にいたりけり
古くさき二十世紀の多汁なり
洋梨が版画のやうに置いてある
デッサンの練習用のラフランス
梨狩や遠くに坐りゐるが母

柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺
よろよろと棹がのぼりて柿挟む
塗盆の曇るや柿のつめたさに
潰ゆるまで柿は机上に置かれけり
朝の柿潮のごとく朱が満ち来
柿すでに柿色斜陽とどめおり
日々水に映りていろのきたる柿
渋柿の如きものにては候へど
山柿や五六顆おもき枝の先

日あたりや熟柿の如き心地あり
いちまいの皮の包める熟柿かな
熟れ柿を剥くたよりなき刃先かな
くちばしの一撃ふかき熟柿かな

星空へ店より林檎あふれをり
刃を入るる隙なく林檎紅潮す
病むことは代ってやれず林檎むく
原稿がありころばしておく林檎
一望に佐久市小諸市林檎園

黒きまで紫深き葡萄かな
葡萄あまししづかに友の死をいかる
ミネルヴァのふくろふの眼して葡萄食ふ
亀甲の粒ぎっしりと黒葡萄
黒葡萄鋏を入るる隙のなし
原爆も種無し葡萄も人の知恵

雨の日のつゞく子供に栗ゆでん
栗剥くや昭和の暗部語りつつ
間道はいづれも京へ丹羽栗

さと割らば迸りけりざくろの実
露人ワシコフ叫びて石榴打ち落す
恍惚たりざくろが割れて鬼無里なり
石榴是煉獄の色逢引す
深裂けの柘榴一粒だにこぼれず
大津絵の鬼出て喰ふ柘榴かな
ひやびやと日のさしてゐる柘榴かな
実石榴を割れば胎蔵曼陀羅図

よもすがら鼠のかつぐ棗かな
棗はや痣をおきそめ秋の雨
その辺の棒を拾ひて棗打つ

いちじくに臍ありイヴの昔より
蜂の来ぬ日のいちじくは雨となり
無花果をなまあたたかく食べにけり

考へがまとまるまでの掌の胡桃
胡桃割る胡桃の中に使はぬ部屋

波頭とほくにそろふ青蜜柑

出棺の膳に添へたるすだちかな

柚子すべてとりたるあとの月夜かな
長梯子たわたわ柚子を剪りくれし
柚子の実に飛行機雲のあたらしき

仏壇の柑子を落す鼠かな

橙や火入れを待てる窯の前
橙や訪ひたる家に浪の音

雨はじく九年母挘ぎてきたりけり

金柑は咳の妙薬とて甘く

老僧のいたく愛でらる仏手柑

ダビンチの家オリーブの実が熟れる

レモンきる齧る転がす滴らす

榲桲や二つもらうて両の袖
世をすねし様にまるめろゆがみしよ

己が木の下に捨てらる榠櫨の実
くらがりに傷つき匂ふくわりんの実

静かなり紅葉の中の松の色
山くれて紅葉の朱をうばひけり
青空の押し移りゐる紅葉かな
障子しめて四方の紅葉を感じをり
恋ともちがふ紅葉の岸をともにして
全山の紅葉に対す一戸なり
この樹登らば鬼女となるべし夕紅葉
乱調の鼓鳴り来よ紅葉山

初紅葉はだへきよらに人病めり

谷下りて水に手ひたすうすもみぢ

黄葉してポプラはやはり愉しき木
黄葉より谷川岳の始まりぬ

ひもすがら外に作務ある照葉かな
照もみぢ庭師鋏を止めゐたる

紅葉かつ散る一乗寺下り松

黄落に立ち光背をわれも負ふ
本願寺東寺等しく黄落す
病室の窓黄落の百号よ

暫くは雑木紅葉の中をゆく

沼楓色さす水の古りにけり

窯変に似たる彩あり柿紅葉

梅紅葉濡れやすくまた舞ひやすく

滝の前漆紅葉のひるがへり

櫨紅葉酒呑童子を祭りけり

銀杏黄葉すクリムトの綺羅に似て

桜紅葉まぬがれ難き寺の荒れ

とびぬけて赤きは白膠木(ぬるで)紅葉かな

中山は材木の町五倍子(ふし)を干し

恵那晴れてははそ黄葉は道に敷く

山は今染めんとすなり櫨櫟

どうだんに秋芽の立ちしうすぐもり

城亡び松美しく色かへず
砂防林二十重の松の色変へず
名所絵図そのままの松色変へず

竹生島つねに正面新松子
新松子濤たちあがり立ちあがり

からまつ散る縷々ささやかれゐるごとし

桐一葉日当りながら落ちにけり
頓首と書き雅兄と書けば桐一葉
夜の湖の暗きを流れ桐一葉
桐一葉地べたやさしくありにけり
ともかくも一度はひろふ桐一葉

柳散清水涸石処々
流れては鮠となるらんちる柳
いへばただそれだけのこと柳散る

銀杏散るまつたゞ中に法科あり
銀杏ちる兄が駆ければ妹も
いれふ散るすでに高きは散りつくし
いてふちりしける日なたが行手にあり
ネクタイをする日しない日いてふ散る
銀杏散る一切方下とはこれか

牛の瞳も山の木の実も大粒な
よろこべばしきりに落つる木の実かな
庭古りて日にけに落つる木の実かな
水中をさらに落ちゆく木の実かな
棒で線引けば陣地や木の実降る
はやされてまだまだ廻る木の実独楽

椿は実に黒潮は土佐離れたり

実南天十二神将眉あげて
不退寺の実南天また実南天

平城(ひらじろ)のうしろたのめるきこく(枳殻)かな

山茱萸の実の夕日まだ溜めてをり

山梔子の実のみ華やぐ坊の垣

藤の実は俳諧にせん花の跡
藤の実の愁のごとく垂れにけり

合歓は実に風の行き交ふ峠かな

芙蓉の実枯れてはなやぐことありぬ

木瓜の実やとられまじとて針の中
木瓜の実のやゝ偏屈を愛しけり
木瓜の実の取って付けたるごとくあり

朴は実に人は出でたつ秩父かな
荒胆のごと朴の実に朴の風

杉の実の匂ひたちこめ杉鉄砲

いよようすき空気大事にななかまど
ななかまど岩から岩へ水折れて
なりたきは乱世の女ななかまど

禰宜の沓とどまり橡の実をひろふ
橡の実を握るや力湧くごとし
橡の実を熊に残して拾ひけり
栃の実がふたつそれぞれ賢くみゆ

子とかじる青はしばみよ岩山に

椋の実や一むら鳥のこぼし行く

樫の実の水に落つるにいきいきす
樫の実の落つる羅漢のみぎひだり

団栗の寝ん寝んころりころりかな
どんぐりのところ得るまでころがれり

山祇の土になれゆく小楢の実

山去るにつけて一位の実ぞ赤き
手にのせて火だねのごとし一位の実
おんこの実口に遊ばせユカラ聞く

檀の実割れて山脈ひかり出す
しんじつを籠めてくれなゐ真弓の実
真弓の実昔の赤はこんな赤

城址去る栴檀の実の坂下りて
栴檀の実ばかりとなり風の音

榧の木に榧の実のつくさびしさよ
榧の実を干し紋付を干す日かな

丸盆の椎にむかしの音聞かむ
牛の子よ椎の実蹄(つめ)にはさまらん
椎の実を拾ひに来るや隣りの子

一段と榎の実色づく曇り空

うしろ手に一寸紫式部の実
実むらさき老いて見えくるものあまた

青き葉の添ふ橘の実の割かれ

暮るる日や落葉まじりの玄圃梨

銀杏を焼きてもてなすまだぬくし
ぎんなんをむいてひすいをたなごころ
銀杏を見知らぬ人と拾ひけり
銀杏を割りつつ夫を待つ夜かな

菩提子を降らせし樹なり敬ひぬ

杖で突く無患子の実にほかならず

水懈(たゆ)く臭木の花を浮べをり

常山(くさぎ)の実こぼれ初めけり夜の雨
旧道に走る断層くさぎの実

瓢の実を上手に吹けば笑はるる
ひょんの笛力まかせに吹かずとも

桐の実の鳴る酒蔵の残りけり
桐の実の落ちてきさうな山の径

海桐の実ニライカナイの海荒れて

山椒の実昼を人居ぬ家ばかり
実山椒摘みてはかなき数なりし

またたび酒親孝行もうやむやに

珊瑚樹の実にかくれなき海の艶

錦木や鳥語いよいよ滑らかに
錦木のもの古びたる紅葉かな

澄むものは空のみならず梅擬
放心の眼のゆくところ梅擬
立山に雪の来てゐるうめもどき

蔓として生れたるつるうめもどき

腕白の頃の赤さにピラカンサ

棠梨(やまなし)のけふ色づくを些事とせず

さいかしや吹きからびたる風の音
皂角子のあまたの莢の梵字めく

はまなすの実の熟れ淋代小学校
はまなすの実より離るる砂嘴の風

人棲みし名残りの茱萸の島に熟れ
茱萸熟るるどーんどーんと海鳴って

がまずみや女行者のこゑの張り

衝羽根に城址の空のひろがりぬ

懸命に赤くならむと茨の実
叩き割るように雨来る茨の実

山葡萄からめる木々も見慣れつゝ

野葡萄の彩増すころの吉野川

悪路王手下が喰ひしあけびかな
掌に受けし通草の山の冷え
取ることのなければ雲の通草かな
あけび垂れ風の自在を楽しめり

桟やいのちをからむつたかづら
引けば寄る蔦や梢のここかしこ
落葉松を駈けのぼる火の蔦一縷
教会や蔦紅葉して日曜日
蔦の葉の完璧にして無傷の朱

一口で飲みたる水や竹の春
竹の春嵯峨野に小さき墓訪はん

此の寺は庭一盃のばせをかな
悉く芭蕉伐らんと思ふなり
うちつけに芭蕉の雨の聞えけり

破芭蕉一気に亡びたきものを
小気味よきまでに破れたる芭蕉かな

鶏たちにカンナは見えぬかもしれぬ
カンナ咲き畳古りたる天主堂

サフランや印度の神は恋多き
サフランや寄港の船に会ひにきて

万年青の実たのしむとなく楽しめる

蘭の香にかなひて眠る薄瞼
蘭の香やむかし洋間と呼びし部屋

あさがほに我は食(めし)くふおとこかな
朝顔に釣瓶とられてもらひ水
朝がほや一輪深き淵のいろ
蕣の紅きはだってしぼみけり
朝顔や濁り初めたる市の空
朝顔や百たび訪はば母死なむ
身を裂いて咲く朝顔のありにけり
朝顔の紺のかなたの月日かな
朝顔やのぞかれてゆく家の中
朝顔が日ごとに小さし父母訪はな
大輪の朝顔しおれ易きかな
朝顔や板戸にしみて釘のさび

人老ゆる朝顔も実となりにけり
実ばかりの朝顔おのれ巻きさがる

夜顔の花のうしろに廻りけり

野牡丹の江戸紫を散らしけり

鶏頭の昼をうつすやぬり枕

鶏頭に日はさしながら雨の降る
鶏頭を三尺離れもの思ふ
鶏頭の澎湃として四十過ぐ
鶏頭に手を置きて人諭すごとし
鶏頭に鶏頭ごつと触れゐたる
身のなかに種ある憂さや鶏頭花

葉鶏頭のいただき躍る驟雨かな
根元まで赤き夕日の葉鶏頭
葉鶏頭はげしき雨をよろこべる
きのふけふかまつかの丹もさだまりぬ

コスモスの押しよせてゐる廚口
コスモスの揺れ返すとき色乱れ
コスモスの真只中のヘリポート
コスモスの花あそびをる虚空かな
昼の雨コスモス胸に抱え来る
コスモスの上には空のあるばかり
抱へ来てコスモスわっと活けにけり

仙翁花に取り付く大き揚羽蝶

白粉の花が其処には咲いてゐて
おしろいやお隣として二十年
おしろひや通ひ稽古のありしころ
おしろいの黒き実となり廓跡
おしろいが咲いて子供が育つ路地

少年に鬼灯くるる少女かな
鬼灯が赤らむ祭提灯も
ほほづきの綾うつくしき通り雨
鬼灯の鳴らし上手を娶りたし
酸漿の秘術尽してほぐさるる

汲み去って井辺しづまりぬ鳳仙花
正直に咲いてこぼれて鳳仙花
鳳仙花いまをはぜよとかがみよる
鳳仙花木曽はどの家も鯉太り
湯の街は端より暮るる鳳仙花
姉母似妹母似鳳仙花

如意輪には秋海棠をたてまつれ
花のなき秋海棠は唯青し
病める手の爪美くしや秋海棠
秋海棠といふ名も母に教はりし
役立たぬ夫を許せよ断腸花

白菊の目に立てて見る塵もなし
菊の香やならには古き仏達
黄菊白菊其の外の名はなくもがな
有る程の菊なげ入れよ棺の中
たましひのしづかにうつるお菊見かな
菊咲けり陶淵明の菊咲けり
菊咲けり小さき花を羞ひて
野辺送り小菊畑の端踏みて
懸崖の菊の末端まで力

残菊として色競ふこゝろなほ
残菊の軍伝ふる賤ヶ岳

紫苑といふ花の古風を愛すかな
紫苑にはいつも風あり遠く見て
ゆるるとも撓むことなき紫苑かな
門なくて紫苑の高さ仮寓かな

うけら咲くほのぼのとしてつまびらか

お祭のごとき門前大毛蓼

雨つよし弁慶草も土に伏し

くさむらに風の風船葛かな
下宿屋にふうせんかづら十ばかり

敗荷に午後の日射も三時まで
敗荷の中の全き一葉かな
敗荷や笑ふがごとき鴨のこゑ

蓮の実や水重たげに昏れてゆく
極楽へ蓮の実飛んでしまひけり

風呂敷のうすくて西瓜まんまるし
冷されて西瓜いよいよまんまるし
やや膝をひらいて西瓜食べてをり
階段をどどどどと降り西瓜食ふ

大南瓜這ひのぼりたる寺の屋根
包丁の身動きとれぬ南瓜かな
若冲が描けば菩薩となる南瓜
鶺鴒がたたいて見たる南瓜かな
南瓜割る構の妻に呼ばれけり
刃を入れて抜き差しならぬ南瓜かな

冬瓜と老いて友誼を深めけり
冬瓜の微笑といふもありさうな
所望せし冬瓜抱いて妻戻る

使ひ道なく垂らしおく大糸瓜

夕顔の存外軽き実なりけり

くびるるをうかと忘れし瓢かな
瓢箪の尻に集る雨雫

種瓢斑らなつらを見はやさん
夕方はひとのこゑして種ふくべ

苦瓜の棚より透ける海見ゆる
苦瓜を食っていぢ悪してみるか

隼人瓜なでて老人旅にあり
雷鳴に尻照らされ隼人瓜

打ち上げてみたきオクラの五六発

月さすや娵にくはさぬ大茄子
頂きに花一つつけ秋茄子
秋茄子や初老といふは水に似て

種茄子の地に着きてよりまた太る
退屈な日を退屈に種なすび

万有引力あり馬鈴薯にくぼみあり

箸逃ぐる此奴新芋煮ころがし
八頭いづこより刃を入るるとも
風神の踏み荒らしたる芋畑
芋水車掛くるやいなやしぶきけり

自然薯の全身つひに掘り出さる
自然薯の苦しきかたち掘り起す
自然薯を暴れぬように藁苞(つと)のなか

つくねいも叡山の泥つけて売る

太刀包むごとなが蕷を贈らるる
長薯に長寿の髯の如きもの

鳥を見て吉野に入るや何首烏芋

笹掻きの最後は牛蒡薄切りに

零余子蔓流るる如くかゝりをり
伸べし手をつたひこぼるるむかごかな
音のして夜風のこぼす零余子かな
触れてこぼれひとりこぼれて零余子かな
むかご炒るちちははとほくなりにけり

籠の目にからまり残る貝割菜
ひらひらと月光降りぬ貝割菜

間引く菜をあはれあはれと間引くなり
間引菜を水に放てばおよぎけり
疎抜菜(おろぬき)を帽子に入れて帰りけり
間引菜に土ごっそりとついてくる

火焔菜しづかに巴里の夜ひらく

九頭竜川光りて曲る辣韮咲く
らっきょうの花どきといふ因幡入り

紫蘇の実を鋏の鈴の鳴りて摘む
紫蘇の実や母亡きあとは妻が摘み

青くても有べき物を唐辛子

今日も干す昨日の色の唐辛子
簷に手の出て唐辛子取り込まる
唐辛子潑溂としていびつなり
先端の曲がりはじめて唐辛子
木曽街道軒端に吊す鷹の爪

人知れぬ花いとなめる茗荷かな

てんぷらの揚げの終りの新生姜

夕星や生姜を針に刻みゐて

稲稔りゆっくり曇る山の国
とんと丈揃へて稲を束ねけり
稲乾く匂ひ教室まで届く
稲穂波おほきくめくれ群れすずめ
稲の香や継ぎ目あらはに飛鳥仏

遠くほど光る単線稲の花
すぐ上る雨のまぶしさ稲の花
みづうみを逸れて若狭へ稲の花
未来図は直線多し早稲の花
東大寺裏なる小田の早稲の花

わせの香や分入右は有磯海
葛飾や水漬きながらも早稲の秋
十一面観音にくる早稲の風
早稲の香や大地はほてりさめやらず
早稲の穂に能登より寄する波幾重

魚沼や中稲の穂波うち揃ひ

橋に架け木にかけ晩稲刈りいそぐ
晩稲垂れ波濤は隠岐のかたより寄す
残照をとどめ輪中の晩稲かな

青空に茎もろともの落穂かな
伸びてきし落穂拾ひの影法師

棟梁に弁当とどく穭かな

稗を抜くぶっきらぼうな顔が来て
仕事ともなく雲の田に稗ひきに

藷掘りの楽しみ畝に探り当て
好藷あり好日とこそ言ふべけれ
藷太る島のうしろの多島海
ほやほやのほとけの母にふかし藷

もろこしを焼くひたすらになりてゐし
鯉ほどの唐黍をもぎ故郷なり
唐黍喰む葉音の澄みの木曽仔馬

黍高く熟れ一片の雲遠し

砂糖黍かじりし頃の童女髪

高梁を驢馬がめぐりてひくところ

よき家や雀よろこぶ背戸の粟

しなのぢやそばの白さもぞっとする

月光のおよぶかぎりの蕎麦の花

蕎麦の花無声映画のごとき花

奥能登や打てばとびちる新大豆

いそいそとお手玉に入る新小豆

糸ほどの莢隠元の筋を取り

もてゆけと十六ささげともに挘ぐ

藤豆の垂れて小暗き廊下かな

刀豆を振ればかたかたかたかたと
鉈豆や甲斐に蛇笏と方代と

落花生みのりすくなく土ふるふ

早池峰山に梯子たてかけホップ摘む

峠より本降りとなる花煙草

あきくさをごったにつかね供へけり
秋草を活けかへてまた秋草を
秋草にいちいち沈み山の蝶
秋草の近づけばみな花つけて
ひざまづく八千草に露あたらしく
繚乱の干草に君が門はあり

草いろいろおのおの花の手柄かな
草の花少しありけば道後なり
牛の子の大きな顔や草の花
草の花絵筆の水をきってをり
摘みためてその名は知らず草の花
手をふれて胸まで濡るゝ草の花
ままごとにかあさんがゐて草の花

一靡きしたる穂草の力なし
醜草の絮ほろほろと波に落つ
よく晴れて一本道や草の絮

払ひきれぬ草の実つけて歩きけり
草の実をつけてミノタウロスの死よ
草の実のとんで晴天極まりぬ

肥後赤牛豊後黒牛草紅葉
草紅葉アルプスすでに雪を被て
湖の波寄せて音なし草紅葉
石積めば仏が宿る草紅葉
紫をきはみとしたり草紅葉
点晴のごとく富士あり草紅葉
一雨に濡れたる草の紅葉かな

末枯の原をちこちの水たまり
末枯といふ躊躇うてゐる景色
鳴き細るものを宿して末枯るる

子の摘める秋七草の茎短か
秋七草欠けるものなし山は晴れ

萩咲いて家賃五円の家に住む
白猫の通ひ路となる萩の庭
白萩の雨をこぼして束ねけり
夜の風にこの白萩の乱れやう
白萩の走りの花の五六粒
萩の風何か急かるゝ何ならむ
風立つや風にうなずく萩その他
手に負へぬ萩の乱れとなりしかな

この道の富士になり行く芒かな
折りとりてはらりとおもきすゝきかな
行き行きて芒に消ゆるところまで
ばんざいのかたち芒の中をゆく
風のないときは乱れてゐる芒
薄活けて一と間に風の湧くごとし
芒野の鳶より低し賤ヶ岳

落日を慕ふは尾花のみならず
出かゝりし油のやうな薄の穂

萱鳴らす山風霧を晴らしけり

刈萱にいくたびかふれ手折らざる
かるかやかすすきか橋の影とどく
女刈萱とて青麦のごときもの
めがるかやをがるかやとて踏みまよふ

蘆の花がくれとなりぬ竹生島
蘆の花舟あやつれば水にほふ

穂絮ゆく地の息天の息をうけ
難波津の葭を名告りて穂に出でし

古歌にある沼とて荻の騒ぐなり

珊瑚草果てしところに海開け

荻を見に来れば道々荻の声
頬ずりに子は目を閉づる荻の声
源流に歩を向け荻の声を聞く

大利根の曲がれば曲る泡立草
時に車窓すれすれ背高泡立草

葈耳(おなもみ)を勲章として死ぬるかな
をなもみや東京の人早歩き

数珠玉や鶏がかほ出す札所寺
数珠玉のかちりと夕日返しけり

相寄りて葛の雨きく傘ふれし
あなたなる夜雨の葛のあなたかな
虫食いの穴ひとつなし真葛原
引きさがる街を知らざる真葛原
山の雨葛の葉に音たてにけり
索道の奈落へさそふ葛あらし
ゆらゆらと野をゆり明す葛の花
葛の葉の吹きしづまりて葛の花
葛咲くや嬬恋村の字いくつ
葛の花来るなと言ったではないか
葛引けば躍り出でたる葛の花

約束の郁子提げて夫見舞ふなり

大原の霜晴美男かづらかな
不退寺のさればやここに真葛

赤い実がひよを上戸にしたりけり

ひめむかしよもぎ空より何も来ず
明治草そよぎ秘湯へ径一本

やぶからし己れも枯れてしまひけり
貧乏かづら手ぐれば雨滴重りして

茎ながき撫子折りて露に待つ

頂上や殊に野菊の吹かれをり
八ヶ嶽ここに全し野菊折る
まず風は河原野菊の中を過ぐ
いつまでも野菊が見えてゐて暮れず
戦争がはじまる野菊たちの前
白球の野菊に近く濡れてをり

帰心湧く荒地野菊を過ぎてより

磯菊の期待の莟数多あり

浜菊に海嘯は古き語り草

どれだけの津波越えしか小浜菊

貴船菊の一茎生けし直指庵
秋明菊如雨露の水のしろじろと

堰落つる水の光りて田村草

さいはての町去り難し朝霧草

虱草さわぐ女に付きやすし

めなもみや早瀬日暮るる匂ひして

めはじきをしごけば花のこぼれけり
明眸やめはじき一寸してみせて

城址とはゑのころ草の井戸一つ
浜ははやえのころ草の穂に出でて
いつ見てもゑのころぐさの揺るるなり
ゑのころの金となるまで吹かれをる
猫ぢやらし触れてけものゝごと熱し
木曽に入る秋は焦茶の猫じやらし

ゐのこづちまみれ主もその犬も
通勤のむかしの道のゐのこづち
ゐのこづち淋しきときは歩くなり
父よりも母の拳骨いのこずち

刈安の山に入りて百夜たつ

何と世を捨ても果てずや藤袴
雁坂の方は雲なり藤袴
すがれゆく色を色とし藤袴

高原を去るや鵯花咲いて

人影や息を殺せる藪虱
子の服にうつしやるわが藪虱
草虱つけて払はぬこと愉し
草虱スカート好きてかくも附く
草じらみ一つつまみて旅の果て
草じらみ行を同じうせし証し

ただ細く径天に入る麝香草

鬼あざみ鬼でありたき日もありて

朝霧に岩場削ぎ立つ富士薊
痛さうな棘つつたてて富士薊

空澄めば飛んで来て咲くよ曼珠沙華
つきぬけて天上の紺曼珠沙華
曼珠沙華抱くほどとれど母恋し
曼珠沙華落暉も蘂をひろげけり
考へても疲るゝばかり曼珠沙華
まんじゅさげ暮れてそのさきもう見えぬ
曼珠沙華どこさきに咲き畦に咲き
天国(ハライソ)は知る人ばかり曼珠沙華
曼珠沙華どれも腹出し秩父の子
西国の畦曼珠沙華曼珠沙華
曼珠沙華はがねの力もて開く
野にて裂く封書一片曼珠沙華
曼珠沙華われに火の性水の性
怨の字に艶の字にまんじゅしゃげ開く
地雷死のキャパを偲べと彼岸花

手の届くところに狐のかみそりが
きつねのかみそり一人前と思ふなよ
きつねのかみそり付の墓地なれば買ふ

煩悩にへだたりて白曼珠沙華

桔梗挿す壺の暗さをのぞいてから
ふつくりと桔梗のつぼみ角五つ
その影の石に折れたる桔梗かな
桔梗の紫さめし思ひかな
桔梗や男も汚れてはならず
仏性は白き桔梗にこそあらめ
咲きそめて花に折り目や白桔梗

沼の辺の踏み場なかりし沢桔梗
目に見えて雨降り出だす沢桔梗

鼠尾草や身にかからざる露もなし
千屈菜の供へてありぬ一束ね
新しき水にみそはぎ浸しをり

我が詠めばつりがねにんじん揺れにけり

女郎花賤がうたにはおかた草
女郎花少しはなれて男郎花
いつの世に名づけし花や女郎花
雲はいまうすぎぬの季(とき)をみなへし
壺の花をみなめしよりほかは知らず
をみなめし遥かに咲きて黄をつくす

男郎花白きはものの哀れなり
暁やしらむといへば男郎花
小笹吹く風のほとりや男郎花

浅間越す人より高し吾亦紅
吾亦紅折らましものを霧こばむ
吾亦紅ぽつんぽつんと気ままなる
吾亦紅老いて焦茶を着こなせる
ついてくる人はと見れば吾亦紅
吾亦紅母をあやしに帰り来し

水引の花の人目を避くる紅
陶器市みづひきの花ちよつと挿し
水引草身は老いて眼は老ゆまじや
水引の紅ひとすぢのつゆげしき
山刀伐を越ゆ水引の銀を手に

釣船草黄なるは夢の如くにも
奥社まで花は釣舟草ばかり
指先にのせて釣舟草を見る

竜胆や巌頭のぞく剣岳
りんだうに白雲うごき薄れけり
山上のことに晴れたる濃竜胆
壺の口いっぱいに挿し濃竜胆

一画を欠く大文字草なんとせう

角力草どっちが残る父と母
今抜いた雑草これが雄ひじはぞ

みせばやに凝る千万の霧雫
みせばやのむらさき深く葉も花も
みせばやの花のをさなき与謝郡

杜鵑草人恋ふ色に咲きいでし
杜鵑草遠流は恋の咎として
さなきだに湖尻はさびし時鳥草
林中に雨の音満つ油点草

松虫草今生や師と吹かれゆく
松虫草ケルンに走る雲の影

ことごとくつゆくさ咲きて狐雨
露草や飯噴くまでの門歩き
露草も露のちからの花ひらく
人影にさへ露草は露こぼし
露草や流れながらに固まる血

弟切草日照雨に金の蘂張れり

せんぶりの花も紫高嶺晴

霧剥がれゆく霊山の鳥兜
鳥兜その紫をわたくしす
野の草に正邪なけれど鳥兜
画布に置く色定まれり鳥兜
今生は病む生なりき鳥頭

思ひ出となる思草見しことも
思草思ひの丈をつくすらし
向き合ふも背くもなんばんぎせるかな

下駄履いて人呼びに出る蓼の花
美しき風とおもひぬ桜蓼

長雨の降るだけ降るや赤のまゝ
さゞ波のここまでよする赤のまゝ
赤んまま海へ日本一の川
人なぜか生国を聞く赤のまま
犬蓼や暢気夫婦に子を賜ふ

溝そばと赤のまんまと咲きうづみ
町中に溝蕎麦の堰く流あり

提げ来るは柿にはあらず烏瓜
をどりつつたぐられて来る烏瓜
一生のいま火の玉の烏瓜

くだけ落つ蒲の穂わたのはなやかに
沼風に蒲の穂絮の呆けぐせ

紅葉して汝は何といふ水草ぞ
塔をうつす水の萍もみぢかな

竜安寺池半分の菱紅葉

ひしひそと茸の山になってゐし
爛々と昼の星見え菌生え
煙茸突つつく番を待ちにけり

松茸の椀のつつつと動きけり

千本しめじ闇夜に息をしてをりぬ

舞茸が花とひろごり土瓶蒸

月光に毒を貯へ毒きのこ
笑茸隠れて口にしてみむか

月夜茸山の寝息の思はるる

妻籠宿さるのこしかけ並べ売る
こしかけて山びこのゐし猿茸


以上

作者名を知りたければ原典を参照されたし
因みに
「新版 角川俳句大歳事記 秋」角川書店 2022・8・31 初版


by 575fudemakase | 2023-04-13 16:00 | ブログ | Trackback


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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