「詳細」秋の生活の例句 in 角川俳句大歳事記 秋
「詳細」秋の生活の例句 in 角川俳句大歳事記 秋
赤い羽根つけらるる待つ息とめて
赤い羽根つけてどこへも行かぬ母
今年より吾子の硯のありて洗ふ
ねんごろに贋端渓を洗ひけり
硯洗ふてのひらほどの一つ得て
七夕や野にもねがひの糸すすき
生き堪へて七夕の文字太く書く
天ざかる鄙に住みけり星祭
銀紙に揃ふ絹針星祭
七夕竹惜命の文字隠れなし
七夕の竹青天を乱し伐る
星合や瞽女(ごぜ)も願ひの糸とらん
大濤のとどろと星の契りかな
枕辺や星別れんとする晨
昧爽といふべき星の別れかな
彦星のしづまりかへる夕かな
おり姫に推参したり夜這ひ星
鵲の橋は石にも成りぬべし
汝が為の願の糸と誰か知る
手をとってかゝする梶の広葉かな
好しき色とりどりや貸小袖
ふんばれる真菰の馬の肢よわし
腰掛けの侫武多曳き手の声揃ふ
こは貞任これは宗任ねぶたに灯
つかのまの若さを跳ねて侫武多かな
ぬつと出て町睥睨す立侫武多
竿灯の撓ふにつれて身を反らす
竿燈や光の大河さながらに
竿灯の息抜くやうに倒れたる
秋遍路水うまさうにのみにけり
船室に鈴つつしむよ秋遍路
山を見つ山に見られつ秋遍路
流木に腰かけてゐる秋遍路
秋遍路白湯一杯に発ちにけり
落日に明日を恃みて秋遍路
摂待や雨にぬれたる真木一駄
居し人に後来し人に門茶かな
望月や盆くたびれで人は寝る
盂蘭盆や水にうつりて風が過ぐ
瀬しぶきに洗ひて盆の瓜なすび
盆の客みんな帰ってしまひけり
蕎麦好きを蕎麦でもてなす盆の入
喉しぼる盆唄にして会津かな
藁にかへる馬糞や盆も過ぎし道
まざまざといますが如し魂祭
玉棚の奥なつかしや親の顔
魂棚をほどけばもとの座敷かな
腹立つる顔でも見たし玉祭り
線香の焼きし錦や魂祭
魂まつる馬の墓にも火を領けて
盆棚の二尺四方の夕明り
河原石積んで魂棚こさへけり
棚経僧煽ぎまゐらす昔より
棚経に前山は雨ぬいでゆく
奥の間に声おとろへず生身魂
生身魂すずしく箸を使ひけり
生身魂小鎌一丁持ちあるく
大正の佳き世のことを生身魂
針を持つ手は衰へず生身魂
田の見ゆる縁側が好き生御魂
世に活きて腹こやしけり蓮の飯
姿見の奥に映れる蓮の飯
生霊は刺鯖喰うて現かな
かくつよき門火われにも焚き呉れよ
真っ先に弟の来る門火なり
門火焚き終へたる闇にまだ立てる
門火焚くひとりの膝を深く折り
波音の常とかはらぬ門火焚く
苧殻焚くゆるしてゆるしてゆるしてと
風が吹く仏来給ふけはひあり
迎へ火のぽとと火屑を地にひろげ
妻がせし如く迎火妻に焚く
父に似る伯父を上座に魂迎
まあまあの出来なる茄子の馬で来よ
初捥ぎのわが丹精の茄子の馬
夕月や涼みがてらの墓参り
凡そ天下に去来程の小さき墓に参りけり
きやうだいの縁うすかりし墓参かな
掃苔やありし日のごとかしづける
掃苔や母の話を聞くばかり
順送りならばわが番墓洗ふ
暑がりの弟の墓洗ひけり
雛僧の下駄並べゐる施餓鬼かな
山月の細りし施餓鬼太鼓かな
川施餓鬼四十九院の旆なびき
小舟より灯籠とめどなく流す
流燈や一つにはかにさかのぼる
流灯のまばらになりてより急ぐ
流灯の探し当てたる風のみち
流燈となりても母の躓けり
流灯におのづと道の生れけり
暮るるまで雨怺へをり流燈会
島も果精霊舟の打ち上がり
旅終へてひと日遅れの送り盆
いとせめて送火明く焚きにけり
焔立つ送り火を子がまたぐとき
送り火のあとかたもなく掃かれけり
柳川は水辺水辺の地蔵盆
蕗の葉に蠟燭ともす地蔵盆
裾たくし上げてもらひぬ地蔵盆
地蔵盆つかめば財布しんなりと
灯を低く飛鳥大仏地蔵盆
持ち寄りし団子まちまち地蔵盆
湯上がりの項匂ふよ地蔵盆
下京や下駄突っかけて地蔵盆
行き過ぎて胸の地蔵会明りかな
まづ匂ふ真菰むしろや艸の市
草市やほつりと雨を人の上
草市に買ひたるもののどれも軽し
草市の荷を解けばすぐ蝶きたる
草市のひとつ売れては整へて
草市のものにまじりて竹とんぼ
草市の露に濡れゐるものばかり
舟板に草蝦干すも盆用意
おしまひにうどん粉を買ふ盆用意
燭台の蠟削ぐことも盆支度
日の当るものを日陰に盆支度
幼には帚を持たせ七日盆
背戸よりの盆みちをまた草覆ふ
盆路に午後はかぶさる山の影
うしろから風吹いてくる盆の道
かりそめに燈籠おくや草の中
燈籠にしばらくのこる匂ひかな
燈籠に火が入りてなほあをき空
ぬれ縁をわづかに照らし盆燈籠
盆燈籠ともす一事に生き残る
先生の切子燈籠ともしけり
まつくらな海がうしろに切子かな
大切子匂ふばかりに新しく
盆花の丈を揃へて育てらる
父の箸母の箸よと苧殻折る
苧殻折る力を母が出しにけり
盆綱へ打つ産土の命水
雨脚を窓に眺めて盆休
菓子木型あまさず干して盆休み
薬草茶いろいろ味見盆休
病人に問ふて払へり盆の掛
中元の礼状書きもして家居
大仏の耳掻といふお中元
盆礼に忍び来しにも似たるかな
藪入して秋の夕を眺めけり
衝突入(つといり)やおのれをかしき足の跡
八朔や浅黄小紋の新しく
八朔の山へ打ち込む護摩太鼓
出代の一夜も二夜も夜寒かな
馬の市酔ひどれ哀歌くりかへす
ふつかめも来て馬市にあそびけり
茱萸酒に酔ふとしもなく凝りにけり
ちちははより老いて菊酒愛しをり
菊酒や国栖にみじかき木挽き唄
火美し酒美しやあたためむ
あたため酒いくたびも世につまづきし
まなじりの皺こそよけれ温め酒
捨つるもの捨てて今ある温め酒
夜は波のうしろより来る温め酒
豊年の雨御覧ぜよ雛達
箱書に母の書褪せず後の雛
みちのくの黄菊ばかりの菊枕
今更と思へど欲しき菊枕
菊枕してなにほどの夢や見し
やはらかく叩いて均す菊枕
化粧して十日の菊の心地かな
うつかりは凡人の常十日菊
恋すてふ角切られけり奈良の鹿
起きあがる牝鹿もう角切られゐて
角伐の勢子(せこ)頭とし祓はるる
角切の波打つ腹を仰向かす
ぬけてすぐ闇に入る顔べったら市
べったら市へ裏口開けて問屋ビル
べったら市秤も糀(かうぢ)まみれなる
正倉院曝涼の日の雲翔べり
院展を出て湯疲れのやうにあり
二科展の女の臍と向ひ合ふ
雨の二科女の首へまっすぐに
休暇了ふ森にシャベルを一つ置き
キヨスクで土産買ひ足し盆帰省
どん尻の悠々と馳け運動会
手廂に子を追ひかけて運動会
子を走らす運動会後の線の上
ねかされて運動会の旗の束
運動会午後の白線引き直す
夜学すすむ教師の声の低きまま
ばらばらに来て八人や夜学の灯
夜学生煌々と幾何学びをり
灯に遠き席から埋まり夜学生
夜学子の一音鳴らすピアノかな
眉毛剃り落して後の更衣
相撲取のもみ裏染めし秋袷
老いて尚芸人気質秋袷
ぬくもりのたゝむ手にあり秋袷
豊満といふを隠せず秋袷
喪主といふ妻の終の座秋袷
まだ生きるつもりの秋の袷かな
高くゆく雲と一日秋のセル
いくへにもよろこびごとの菊襲
酒桶干す鵯とみに鳴く日なり
藁の栓してみちのくの濁酒
濁り酒などもよかれと見舞かな
生ひたちはさして変はらず濁り酒
置けば燈をうつす茶碗の濁り酒
栓飛んで夜の始まる濁り酒
どぶろくや地に突き刺さるやうな雨
猿酒のことにもおよび今日の客
猿酒不死とは言はず不老ほど
猿酒火屑のすこし入りにけり
一雫走るをなめて猿酒
ありがたや古酒一盞に震ふ手も
古酒新酒歳月ひとを愛すべし
古酒の壺筵にとんと置き据ゑぬ
古酒の酔とまれといふに帰りけり
岩塩のくれなゐを舐め古酒を舐め
どの家も新米積みて炉火燃えて
新米といふよろこびのかすかなり
新米を掬ふしみじみうすみどり
新米の袋の口をのぞきけり
新米の量感手より手へこぼす
やき米を幾年かんで諸しらが
焼米や家に伝はる会津盆
あたたかき夜食の後の部屋覗く
人の顔見つつたべゐる夜食かな
悲鳴にも似たり夜食の食べこぼし
共犯のごと夜食して父娘
枝豆の食ひ腹切らばこぼれ出む
枝豆を剥く邪(よこしま)な指いくつ
俳諧の味炊き立ての零余子飯
栗飯のまったき栗にめぐりあふ
栗飯のほくりほくりと食まれけり
栗飯を子が食ひ散らす散らさせよ
栗ごはん外を舞妓の通りけり
取敢へず松茸飯を焚くとせん
平凡な日々のある日のきのこ飯
とんぶりを噛んで遠くへ来しおもひ
栃餅や天狗の子供など並ぶ
搗栗のくちやくちやの皺毛の国の
栗干して縁側の日は逃げ易き
丹精の柚餅子を一顆たまはりぬ
柚味噌やひとの家族にうちまじり
干柿の緞帳山に対しけり
干柿の種のほっそり物思ひ
吊柿鳥に顎なき夕べかな
半日の陽を大切に吊し柿
甘干に軒も余さず詩仙堂
饗宴の灯にとぶ虫や菊膾
聞き置くと云ふ言葉あり菊膾
障子して夜川音なし菊膾
角帯の父来て坐る菊膾
氷頭膾前歯応へて呉れにけり
氷頭膾どこぞ殴打の味したり
行灯に膳の暗さよ鯷づけ
何よりも父の好みし鮎うるか
苦うるか師系は酒を尊びぬ
就中(なかんずく)四万十川の苦うるか
節黒き指のすばやく裂膾
今生のいまが倖せ衣被
衣被しばらく湯気をあげにけり
衣被つるりと日暮来てをりぬ
にんげんに指を折る癖衣被
きぬかつぎ正座の蹠(あうら)ふたつづつ
とろろ汁鞠子と書きし昔より
妻老いて母の如しやとろろ汁
夫死にしあとのながいきとろろ汁
凡百の一人にして薯蕷汁
地鳴りめく音よとろろを擦りくるる
新蕎麦のそば湯を棒のごとく注ぎ
新蕎麦を待つに御岳の雨となる
新蕎麦の手打届くが便りにて
新蕎麦を待つ間の灘の生一本
新蕎麦や口で箸割る秩父駅
待たされてゐるもまたよし走り蕎麦
そのかみの恋女房や新豆腐
はからずも雨の蘇州の新豆腐
新豆腐よき水を生む山ばかり
五箇山の固きがうれし新豆腐
おはやいうちおあがりやして新豆腐
秋の燈やゆかしき奈良の道具市
秋の燈のいつものひとつともりたる
秋の灯にひらがなばかり母の文
終電といふ秋の灯のなかにをり
秋燈を明うせよ秋燈を明うせよ
夫在らず秋灯の紐長く垂らし
燈火親しむ序より跋まで読み通し
燈火親し声かけて子の部屋に入る
燈火親しもの影のみな智慧もつごと
一寝いり起きて蟵つる九月かな
寝姿の行儀あはれや秋の蚊帳
降りいでし音に覚めをり秋の蚊帳
秋の蟵つるかと云へばつるといふ
吊ればすぐ風来る蚊帳のわかれかな
鐶鳴らし鳴らしたためり別れ蚊帳
朝雨を竹に聞く日や扇置く
扇おくこゝろに百事新たなり
船宿の潮湿りする捨団扇
一言の忘扇に及ぶなき
一文字に秋の扇の置かれけり
秋扇あだに使ひて美しき
秋扇しばらく使ひたたみけり
秋扇もてなしうすく帰しけり
ひしひしと怒りつたはる秋扇
頑張ってほほえみとおす秋扇
衣紋ぬくくせまだぬけず秋扇
浅草へ仏壇買ひに秋日傘
秋日傘大阪嫌いを滔々と
やゝ暗きことに落ちつき秋簾
秋簾とろりたらりと懸りたり
一枚の秋の簾を出でざりき
づかづかと日に射してをり秋簾
秋すだれくぐりて来たる京ことば
湖へ倒して障子洗ひをり
洗ひをる障子のしたも藻のなびき
鷹ヶ峰借景として障子干す
障子紙まだ世にありて障子貼る
使う部屋使はざる部屋障子貼る
独りなり障子貼り替へてはみても
貼り替へてたてつけきかぬ障子なり
大空に微塵かがやき松手入
松手入れ三の丸より二の丸へ
日和得て海坂藩の松手入
親方と向かひ合はせに松手入
枝ぶりの月にかなへと松手入
傷みには触れぬ邂逅火の恋し
火恋し雨の宿りも宇陀の奥
火の恋しみちのく訛聞けばなほ
秋の炉や芯までさくら色の榾
一杓に湯気の白さよ風炉名残
水差しも志野に変りて風炉名残
風炉名残母の小紋の身に添うて
裏畑に穴掘ることも冬支度
踏台の紅い丸椅子冬支度
木の葉かと思へば鳥や冬支度
秋耕の終りの鍬は土撫づる
秋耕の了りし丘を月冷やす
スクエアーダンス八月大名なり
竹の音石の音とも添水鳴る
添水鳴るたびにこころの新しき
二つ目を聞けばたしかにばったんこ
みちのくのつたなきさがの案山子かな
案山子翁あち見こち見や芋嵐
倒れたる案山子の顔の上に天
敗戦の年に案山子は立ってゐたか
からからと鳴子の音の空に消え
鳴子縄たはむれに引くひとり旅
余り淋し鳥なと飛ばせ鳴子引
母恋し赤き小切の鳥威
麓まで鳥威また鳥威
威し銃たあんたあんと露の空
威銃奥は天狗の山ばかり
松明に浮かぶ人影虫送り
虫送うしろ歩きに鉦打って
虫送りここまでといふ磨崖仏
火を煽り火を宥(ゆる)めては虫送り
虫送りホーイホーイと闇沈む
淋しさにまた銅鑼うつや鹿火屋守
鹿火屋守天の深きに老いんとす
小鳥籠日向に移す鹿火屋守
焚きそめて火柱なせる鹿火にあふ
月落ちて鈴鹿の闇に鹿火ひとつ
鹿垣と言ふは徹底して続く
猪垣のひとところ切れ人通す
猪垣の几帳面なる出入口
焼帛(やきしめ)や風のまにまに露しろき
焼帛に焼酎吹いてゆきにけり
犀川に還りゆくなる落し水
熊野人怒濤へ田水落しけり
暗き夜のなほくらき辺に落し水
田鰻の首持ち上げし落し水
ざりがにの流れて来たる落し水
稲妻に水落しゐる男かな
水落し来て子の間に寝まるなり
順礼や稲刈るわざを見て過る
汽車を見て立つや出水の稲を刈る
稲刈って鳥入れかはる甲斐の空
田を刈ってから墓は墓空は空
稲舟の音もなく漕ぎかはしけり
一癖のある稲刈機借りて来し
かけ稲や大門ふかき並木松
かけいねに鼠のすだく門田かな
稲刈りて六日六晩の天日干し
稲かけて天の香具山かくれたり
掛稲のすぐそこにある湯呑かな
掛稲のうしろ大きな波上がる
稲架組んで水郷の景新なり
稲架解くや雲またほぐれかつむすび
新稲架の香のする星を見にゆかむ
日も闌けて出羽の稲架原まもなく雪
三輪山の脚高く稲架組まれたる
暮るる江に稲架木一本づつ洗ふ
腰に笛差して来てをる鎌祝
新聞にざらと菓子あけ鎌祝
ふくやかな乳に稲扱く力かな
晩稲扱く心胆あつき老ならむ
脱穀の古発動機力出す
来かかりし人ひきかへす稲埃
籾かゆし大和をとめは帯を解く
電柱に影が乗りくる籾筵
すくも焼く煙三方ヶ原あたり
きのふけふ宇陀にけぶらふ籾殻火
稲滓火(いなしび)の匂ひの残る余呉の湖
摺り溜まる籾掻くことや子供の手
籾摺の埃に立たす二の鳥居
もみがらを踏み配りくる火伏札
家々の籾すり歌や月更けぬ
秋收め塒雀のひとわたり
にはとりに飛ぶ宙のあり秋收め
一穂の長きを供へ秋收
赤んぼの地べたに置かれ秋收
田仕舞のそしてもうもうたる煙
豊年や湖へ神輿の金すすむ
豊年や切手をのせて舌甘し
豊年やあまごに朱の走りたる
出来秋の人影もなき田圃かな
寝台車明けゆくほどに豊の秋
赤ん坊の手首のくびれ豊の秋
すぐそこといはれて一里豊の秋
とんとんと弾む加賀毬豊の秋
新藁やこの頃出来し鼠の巣
肥桶を荷ひ新藁一抱へ
新藁の香に包まれし契かな
みちのくの牛も新藁敷くころか
よろこびて馬のころがる今年藁
天窓も隠さむばかり今年藁
みづうみの夜毎の月や藁砧
藁塚の同じ姿に傾ける
道の端大藁塚の乗出せる
藁塚をのこしてすでになにもなし
藁塚に年輪はなし農に老ゆ
藁塚の始めの束の据ゑらるる
とっぷりと暮れて大和の低き藁塚
蕎麦刈りに西より雨の来る信濃
蕎麦の茎紅あたたかくにぎり刈る
蕎麦刈の三人(みたり)も居れば賑々し
夜逃げせしごとくに蕎麦を刈り散らし
お六櫛つくる夜なべや月もよく
夜なべしにとんとんあがる二階かな
同じ櫛ばかりを作る夜なべかな
飢ゑすこしありてはかどる夜なべかな
夜業人に調帯(ベルト)たわたわたわたわす
浅茅生の碪に踊る狐かな
しづまりし女夫喧嘩や小夜砧
湖に響きて消ゆる砧かな
砧打つ音の居眠り加減なる
月を見てまた坐りたる俵編み
渋搗や垂乳ほたほたをどらせて
きゝきゝと鵙とんとんと渋を搗く
渋を搗く音を労るやうに搗く
新渋の一壺ゆたかに山盧かな
新渋の手を洗っても洗っても
西安へ梶高く上げ棉車
満載の上に子をのせ棉車
新綿や子の分のけてみんな売る
箕と笊に今年の棉はこれっきり
たっぷりと日をふくみたる今年綿
新絹やさらりと展べて見惚れぬる
新絹裁つぬめらかな白畏れけり
白無垢の模様の透ける今年絹
竹伐るやうち倒れゆく竹の中
竹を伐る頃しも嵯峨に来合はせし
一日や竹伐る響竹山に
竹を伐る無数の竹にとりまかれ
懸煙草音なき雨となりにけり
子供等の空地とられて懸莨
をとゝひのへちまの水も取らざりき
痰一斗糸瓜の水も間に合はず
たまりたる糸瓜の水に月させり
種を採る鶏頭林の一火より
種採の袋にしては大きすぎ
種採の息細やかに使ひけり
朝顔の種採って母帰りけり
朝顔の種採りはじめ採り尽す
秋撒の土をこまかくしてやまず
無口なる妻と無口に大根蒔く
大根をきのふ蒔きたる在所かな
耕してあるよ大根など蒔くか
薬掘蝮も提げてもどりけり
薬掘けふは蛇骨を得たりけり
千振を引きて河内の日が真っ赤
茜掘夕日の岡を帰りけり
葛掘るはたたかひに似て吉野人
葛の根を獣のごとく提げて来し
掘り崩すいもが垣根や山のいも
とやかくとはかどるらしや小豆引
小豆引く言葉少き一日かな
山畑も三成陣趾小豆干す
日向へと飛び散る豆を叩きけり
老の息うちしづめつつ牛蒡引く
懐に夕風入れて牛蒡引
牛蒡掘る黒土鍬にへばりつく
掘りあげし牛蒡の丈をそろへをり
秋篠寺四門の一つ胡麻を干す
打ちたての胡麻を包んでくれたるよ
長生きをしきりに詫びて胡麻叩く
胡麻叩く祖母(おほば)にくわつと射す山日
胡麻筵ひきずり日ざし移しけり
穂刈して粟あざやかに紅葉しぬ
さきがけて一切経寺萩刈れり
萩刈って轍二筋現るる
俳諧の萩刈ならば手伝はむ
頓に冬門辺の萩を刈りしより
萩刈のまた一人出て毛越寺
萩を刈る働く五人見る二人
菱採りしあたりの水のぐったりと
菱採のはなるる一人雨の中
菱採女舳に坐り艫に石
菱採りの傾げるかぎり傾ぐなり
ものいはぬ男なりけり木賊刈り
木賊皆刈られて水の行方かな
萱刈が下り来て佐渡が見ゆるてう
萱刈の遠くへ行ってしまひけり
萱刈を了へて遊べる馬をよぶ
萱刈るや出雲石見と山わかち
蘆刈のうしろひらける大和かな
蘆刈の音とほざかる蘆の中
葦刈の影も束ねて湖国かな
また一人遠くの蘆を刈りはじむ
蘆を刈る音を違へて夫婦なり
束ねたる手のすぐにまた蘆を刈る
蘆舟の帰る川幅いっぱいに
行暮れて利根の芦火にあひにけり
蘆の火の美しければ手をかざす
水桶に星の映れる草泊り
桑括ることぶれの雪山に見て
蔓たぐり蔓積み上げて終りけり
蓼科に雲湧く速さ牧閉す
金屏の前に憩ふや小鷹狩
袂より鶫とり出す鳥屋師かな
木曾川のかゞやく鳥屋の障子かな
鳴き鳴きて囮は霧につつまれし
日が翳り人も囮もさびしくなる
晴々と啼いて囮と思はれず
啼き出して囮たること忘れゐむ
高擌の杉撓はせてありにけり
藪陰や鳩吹く人のあらはるる
鳩吹いて顔とっぷりと暮れにけり
水に筋金下り簗経たる後
激し寄る四方の川水下り簗
ほどほどの濁りたのもし下り簗
草の根の生きてかかりぬ崩れ簗
しもつけの夕暮まとひ崩れ簗
日のありしところに月や崩れ簗
辛うじてそれとわかりぬ崩れ簗
鰻簗木曾の夜汽車の照らし過ぐ
鮭打つや一棒にして一撃に
素振りして鮭打棒を選びをり
簗の果鮭打棒を置き去りに
瀬音入れ川風入れて鮭番屋
鮭番屋寒ければ足踏みならす
鮭漁の二十丁艪のよく揃ひ
鰯引むかしは声を揃へたる
越の国引かんばかりに鰯引
夕づける根釣や一人加はりぬ
氏育ち良き子とならび根釣かな
よく釣れてゐて愛想なき根釣人
ぶらぶらと根釣の下見とも見ゆる
むら雲や雨は手に来る鱸釣
釘曲げて流人が釣りし鱸かな
はぜつるや水村山郭酒旗ノ風
鯊釣れず水にある日のうつくしく
鯊釣や不二暮れそめて手を洗ふ
鯊釣の女に負けて戻りけり
よろよろと尉のつかへる秋鵜かな
烏賊襖遠流の島を隠したり
いぇのひらをかへせばすゝむ踊かな
一ところくろきをくゞる踊の輪
踊り尽くして亡きも生けるも暁に失す
いのちなが寿(いのちなが)とぞ踊るなり
いくたびも月にのけぞる踊かな
かりそめの踊いつしかひたむきに
指美しく生れて踊上手かな
ひろがりて月を入れたる踊の輪
あと戻り多き踊にして進む
さりげなく入るつもりの踊りの輪
盆踊ほとけに留守を頼みけり
づかづかと来て踊子にささやける
踊子の足休むとき手を拍って
盆唄や今生も一踊りにて
手をあげて足をはこべば阿波踊
夕立の上るを待たず阿波踊
天を突く手のやはらかし阿波踊
日ぐれ待つ青き山河よ風の盆
風の盆八尾は水の奔る町
若衆踊りさらになまめく風の盆
風畏れ風に祷りて風の盆
八尾いま早稲の香のなか風の盆
稲を刈る仕草を切に風の盆
格子戸を風の盆唄流しゆく
相撲取ならぶや秋のからにしき
都にも住みまじりけり相撲取
負けまじく角力を寝ものがたりかな
相撲見てをれば辺りの暮れて来ぬ
秋場所の風のひだるき初日かな
地芝居の濡れ場のしどろもどろかな
地芝居の狐忠信は姉ならむ
地芝居の松にはいつも月懸り
地芝居のぱたりと山を落しけり
出番待つ馬話し合ふ村芝居
だしぬけに花火のあがる村芝居
をりしもの満月屋根に村歌舞伎
岩鼻やここにもひとり月の客
鳰ひとつ相手に池の月見かな
月見るや相見て妻も世に疎く
朝より素顔を通し月まつる
うしなひし一腑を悼む月の海
やはらかく重ねて月見団子かな
海蠃の子の廓ともりてわかれけり
をばさんがおめかしでゆく海蠃うつ中
ポケットに海蠃の重さや海蠃を打つ
負け海蠃に魂入れても一うち
むさし野の地べたに下ろす鶉籠
負色の花こそ見えね菊合
常連の名札が並び菊花展
菊あつく着たり義経菊人形
菊人形小町世にふる眺めして
陰謀の場を煌々と菊人形
衆目のなかで着せ替へ菊人形
菊人形一体分の菊の束
菊人形使ひ回しの手足老ゆ
虫売りも舟に乗りけり隅田川
虫売りのふいに大きな影法師
虫売と向き合うて子のしづかなり
虫売の立てば大きな男かな
現はれし山刀伐峠の茸とり
こっそりと戻ってをりぬ茸取
あやしきも持ちて下りけり茸山
盃にとくとく鳴りて土瓶蒸
えんやさと唐鍬かつぐ地蜂捕
紅葉見や用意かしこき傘二本
石段があれば椅子とし紅葉狩
紅葉の賀わたしら火鉢あっても無くても
秋興に遠く来にけり大江山
秋興や拾ひては捨つ河原石
秋興や捺して落款ひさご形
考古学研究班の芋煮会
わいわいと捨田へ運ぶ芋煮鍋
成吉思汗鍋口論のうやむやに
冬瓜汁子あればあるで憂ひけり
杳杳と女身仏あり秋渇き
雁瘡を掻いて素読を教へけり
雁瘡と言ひ治るかと問はれけり
秋思斯く深し屈原像に触れ
この秋思五合庵よりつききたる
面倒なことは秋思といふことに
頁繰るかそけき音も秋意かな
以上
作者名を知りたければ原典を参照されたし
因みに
「新版 角川俳句大歳事記 秋」角川書店 2022・8・31 初版
by 575fudemakase
| 2023-04-20 10:37
| ブログ
|
Trackback
俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase

カテゴリ
全体無季
春の季語
夏の季語
秋の季語
冬の季語
新年の季語
句集評など
句評など
自作
その他
ねずみのこまくら句会
ブログ
自作j
自作y
未分類
以前の記事
2023年 09月2023年 08月
2023年 07月
more...
フォロー中のブログ
ふらんす堂編集日記 By...魚屋三代目日記
My style
メモ帳
▽ある季語の例句を調べる▽
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
検索
タグ
お最新の記事
この頃の嘱目句(2023年9.. |
at 2023-09-25 21:22 |
角川「俳句」2023年 八月.. |
at 2023-09-14 08:18 |
NHKBSプレミアム「世界里.. |
at 2023-09-09 08:41 |
雪童子<主宰 同人欄> 選.. |
at 2023-09-09 04:13 |
『俳句的』外山滋比古(みすず.. |
at 2023-09-08 04:33 |
おわら風の盆2023スペシャ.. |
at 2023-09-03 09:47 |
季寄せを兼ねた俳句手帖202.. |
at 2023-09-03 05:37 |
「風の盆」詠 (高澤良一) |
at 2023-08-30 23:38 |
角川「俳句」2023年 五月.. |
at 2023-08-30 09:58 |
マチス晩年の到達点 (高澤良一) |
at 2023-08-30 04:54 |
今日の嘱目句(2023/08.. |
at 2023-08-29 08:17 |
朝の谷戸(称名寺) 高澤良一 |
at 2023-08-28 12:01 |
四季の小文 原裕 より (高.. |
at 2023-08-28 04:53 |
産声 高澤良一 |
at 2023-08-27 16:29 |
華麗な一夜 高澤良一 |
at 2023-08-26 21:29 |
今日の嘱目句(2023/08.. |
at 2023-08-26 16:36 |
小原啄葉の俳句 (高澤良一) |
at 2023-08-25 05:31 |
秋は忍び足で・・・ |
at 2023-08-24 11:19 |
今日の嘱目句(2023/08.. |
at 2023-08-24 06:05 |
言葉の道草 岩波書店辞典編集部編 |
at 2023-08-24 00:51 |