角川「俳句」2023年 八月号付録 俳句手帖 秋 を読んで （高澤良一）

角川「俳句」2023年　八月号付録　俳句手帖　　秋　を読んで

以下　共鳴句を挙げる

硯洗ふ海原に星宿るまで

嘴太がみな嘴開けてゐる残暑

ダイハツを降りて残暑の草を踏む

薄墨の岐阜提灯を姉に置く

一穂も見逃すまいぞ田稗取る

眼前に今日越す山や稲の花

秋風や佐渡の大きな日本地図

弁当の蓋に貰ってふかし藷

はたはたと敗荷水を打ちにけり

露の玉ほろとこの世に残されて

鶏頭花太き雨粒撥ね返す

はたはたの肘のするどく飛び出せり

山ほめをして入り行けり菌狩

昼の虫聞こえる耳となつてきし

本を捨て本棚を捨て虫時雨

月待つと江口に踊る鯔の数

林檎剥く少し夜更かしするための

崩れ簗水卍なすひとところ

秋冷や湖底に踊る銀の砂

語らふにひとりは立ちて十三夜

末枯れの賑はひにあり雑木山

放牧の馬の背光る残暑かな

サックスの埃を払う秋彼岸

玄関に手すりの付いて秋の暮

スメタナに針を落してわが夜長

装束の絹のひも抜く音さやか

うそ寒の歯茎に残る麻酔かな

行く秋や折り目通りに地図たたむ

話しつつくぐる暖簾や菊日和

よき月が波のひとひらひとひらに

足の爪切って貰へて月今宵

産院の全室灯る良夜かな

銀河濃し鍵もて探る鍵の穴

ともに見し星も流れてしまひしか

星飛ぶやサンテグジュベリ今も飛ぶ

髪梳いてほのかな温み野分中

稲妻にぞつと白みて妙義山

妻来ると思ふ花野に待ちをれば

母が手を振りほどきたる花野かな

倒木を沈めて水の澄みにけり

クリップの跡消えぬ紙終戦日

竿燈の反りに反りても倒れざる

角切や波打ちてをる鹿の腹

一等の判に安堵の今年米

新蕎麦や背中に回す社員証

飴色のヴィオラよチェロよ秋灯下

松手入百万石の城仰ぎ

だんだんに鋏の重き松手入

出来秋の藍葉は蔵に堆く

手ぬぐひのへなへなとあり夜なべ終ふ

背の子を預け輪に入る盆踊

手を拭いて母の加はる月見かな

太刀佩いて菊人形の仕上がりぬ

生身魂いまも昭和を生きてをり

鍵かけて島を離るる墓参かな

仰向けに目覚めて子規の忌とおもふ

もてなしは鷹の渡りの見ゆる窓

小鳥くる戸口に洗ひたての鍬

色鳥の散らせる羽根を栞とす

稲雀逃げて援軍つれて来る

秋の蚊も一緒に乗って観覧車

牛舎まで誰にも会はぬ赤とんぼ

もの思ふときに抱く膝きりぎりす

もぢもぢと構へしばつた飛びにけり

蝗煮る二三が鍋を逃れをり

芋虫のまたもや同じ顔がゐる

網棚に桃の匂へる夜行バス

ひとしきり食べて葡萄を裏返す

はんかちにのせて棗を見せにくる

恋ともちがふ紅葉の岸をともにして

踊り場のたびにある空銀杏散る

芋食ふや昔を今のごと語り

おほかたをとりこぼしたるむかごかな

次のバス来るまで蕎麦の花と待つ

萩咲いて使い勝手のよい箒

川べりの芒うひうひしき夜なり

真葛原鎌倉に居て海遠し

あれこれと干して一戸や葛の花

円ひとつ描いて相撲やゑのこ草

こちらからのみ渡る橋曼珠沙華

露草や生・死の間の老・病

作者名は原著を参照下さい。

以上

誤字あるやも　その節はゴメン。

（高澤良一）