俳句年鑑2025年版を読んで 高澤良一 (2022-10 ~2023-9)角川文化振興財団
俳句年鑑2025年版を読んで 高澤良一
(2022-10 ~2023-9)角川文化振興財団
共鳴句を挙げる。作者名は原著を参照ください。
◆2024年100句選 小林貴子選◆より
新年
どの子にも空は胸かすいかのぼり
春
後ろから春一番の羽交締め
春手套ぽんとヘルメットの中へ
子守唄廃れ子も減り桃の花
夏
瀧口の空へしぶきてゐたりけり
南無三とばかりに身投げ夏芝居
あめんぼにあめんぼが嗅ぐ如く来る
万緑へからだの線を拾う服
緑蔭の家族写真に知らぬ人
秋
秋風を聴く流眄の白孔雀
みなしやがみたる迎火の育つまで
案外に快適さうや猪の罠
零余子十ほどへ窪めて掌
横たへて白りんだうの屍めく
冬
日輪を貼りつけにしてふぶきけり
猟銃折り一弾二弾込めたるよ
除夜詣熱海芸者と道連れに
漂へる間も鳰どりの目のきつと
冬すみれ一会といふは過ぎてこそ
◆年代別 2024年の収穫◆
80代後半以上
ライラック活けて挨拶一行詩
女ひとり泣かして夢のあけやすし
横文字の苗札を土深く挿す
東京が好きで老いゆくクリスマス
命ある限り桜の咲くかぎり
いもけんぴ食べて正月過ぎてゆく
正月は何故か淋しいではないか
青春の香を束ねけりフリージア
十字架はまつすぐにのび冬の雨
マフラーを大きく巻いて雑踏に
緑蔭に郷土史学ぶパイプ椅子
とつぷりと山が隠れて雪雪雪
熱湯のあぶくすこやか大つごもり
貝はみな口を閉ざして炎暑なり
わが顔の駘蕩とあり初鏡
梅ちるやとうんとうんと晝の波
山国の雲のあそびよ鱶・勇魚
空箱が紙一枚となりて冬
ここにまた土竜の盛りし春の土
世に遅れ人に後るるショールかな
晩学のスマホ塾なり万愚節
六月や山彦返へす恐山
80代前半
燦々と青葉にまみれ吉田山
雪の夜の蜘蛛がするする目の前に
高千穂の下山に交はす御慶かな
雪像のゑびす大黒篝燃ゆ
手の螢ぽつと昔を照らしけり
しぐるると徳利をまた傾けぬ
江の島へ橋を渡れば年新た
かはせみの刹那の影を目の端に
だんだんに拳にちから滝の前
蜻蛉の顎つきだす秋の風
星吊す糸の輝く聖夜劇
鹿がつと公家顔あぐる夕霞
70代後半
身を入れて骨折装具凍てかへる
保育所の消えぬ一灯夏至の雨
なだらかに海へ傾き大根畑
蚕豆の莢もくもくと太々と
硝子器に根もしろじろとクロッカス
板塀を横に這ひゐる春の蠅
行く年が訊ぬ何してきたるかと
恋猫の道の向かうへ行ったきり
こんなにも青き冬空地震止まず
また増える蛸足配線春たけなは
渡り鳥丸太幾とせ横たはる
人ごゑに山蛭降ってくるといふ
雑煮椀しづかなる老い頂戴す
要らぬ子がここまで生きてさくらんぼ
紫陽花や単線海へ出るところ
刺身酢漬唐揚今宵鰺づくし
春炬燵指相撲ならお相手す
嚔して次の嚔を待てる顔
十二月となればいろいろ諦める(私(高澤)なら「十二月と」のところ「十二月とも」と遣りたい)
70代前半
戦争がすだれのやうに映像美
どんぐりは神さまの色知らんけど
両手広げて水鉄砲の的となる
引く波の残す光や春渚
味ぽんをしゃばしゃば振って豊の秋
お坐りをしぶしぶの犬クリスマス
さびしらを点すごとくに鹿の尻
蛇穴を出れば戦争してをりぬ
かけ廻る枯野に青畝峠をり
ぱつと散る蠅に戻る気あるらしく(作者には申し訳ないが、私なら真逆に遣りたい。ぱつと散る蠅に戻る気ぜんぜん無し)
錆び始む画鋲の頭梅雨兆す
遠足の列がみづうみ離れけり
雪国や雪の底より除夜の鐘
60代後半
角乗の飛沫(しぶき)一列夏燕
曇り日の色を持たざる石鹸玉
水つぽき雪に純白霰かな
花冷や黒ネクタイはつるんとす
鉄片のやうに蠅ゐる花八手
選ばれて水ごと買はれゆく金魚
蝦夷栗鼠の正面のかほ冬近し
大関の滅法強し草相撲
秋冷鐘韻爆心地の黙祷
春なれや鳥の潜くも羽搏くも
しばらくを花喰ふ鳥として雀
枯山は遠き列車の音を容れ
野馬追の長躯の旗のなだれこむ
60代前半
ボロ市の転がし売りの万華鏡
叩かれて家になる音栗の花(最近流行りの工法に基づく家の建築。鉄筋並みの強さを持つ建材の開発により建築現場は組み立てだけの作業となっている)
青饅に昔の部下の死を聞きぬ
鞦韆や老いゆく国にわれら老い
盆がくる無言と無言わらひあひ
大分の胸のはだけて木の芽雨
我が影を波に消さるる寒さかな
晴れてゐる方が行先春ショール
さよならの片手に残る寒さかな
それぞれの椅子を選んで冬日和
はんざきのまだくらくなるくらくなる
50代後半
からびてはまた波にぬれ桜貝
雪へ雪未来を葬るように雪
飲み干して貝まだ熱き蜆汁
履きかけの靴をとんとん桜の実
遅れくる電車みな見て夜寒なり
窓開ける囀すべり込めるほど
春の風邪額に手などあてられて
50代前半
肩車して神棚に置く破魔矢
読み聞かす絵本のなかも雪降れり
梅ひらく心籠めてといふやうに
ジャンパーの目配せにソロ交代す
40代
数へ日や経のリズムで読む漢字
直角に赤き絨緞曲がり行き
春や子の描く我が顔手足生ゆ
梅見上げつつつれあひにぶつかりぬ
うとうとのかごめかごめの春ごたつ
冷房の強し字幕に追ひつけず
一張羅着れば綿虫寄りてくる
飛行機がすすむ枯木のなかの空
寒晴や尻尾を立てて歩く猫
大寒の朝日を顔にくらひけり
がさ市の包丁で切る段ボール
蒲公英の根っこ如く勁くあれ
祖母いつもぱつと踊をものにして
秋の夜の饅頭論を譲らざる
30代
朧夜は回送電車ばかり来る
あんぱんにほのと酒の香目借時
正論にホットココアの口拭ふ
20・10代
差別語の飛交ふ酒屋扇風機
コンビーフ缶くるくると開けて春
クリスマスツリー一周して帰る
白靴と歩いてシベリアンハスキー
大寒の水を叩きて鳥発てり
◆諸家自選五句◆ より
◆今年の句集BEST15-今年の評論BEST7◆ より
隣りあふ大根や葉のかむさりあふ
空調音単調キャベツ切る仕事
にんじんの皮のはらりと敗戦日
真っすぐに立つほかはなし立葵
白玉を茹で零す湯の仄青き
瀬のひかり眠し眠しと猫柳
大夏野行くや私雨連れて
杭掴む蜻蛉脚一本余し
秒針のぎこちなき音春暁
つひそこと言うてどこまで鰯雲
やどかりの小さき顔が脚の中
靴の上に置く靴下や磯遊び
月の出を三人掛けのまんなかで
戦ぎをるものの一つが蛇の舌
書きながら字の暮れてゆく桜かな
◆今年の秀句ベスト30◆
心に残る秀句
横澤放川が選ぶ30句より
秋風に一間をゆづり仮設去る
八月の太平洋からミナカエレ
月光に休ませてゐるトウシューズ
サンタクロースが米兵だったころ
子供が泣く国にコスモスは咲かぬ
ビー玉に木枯らしが眠っている
辻村麻乃が選ぶ30句より
鶏一羽つぶす相談秋暑し
タラちゃんの敬語あかるし衣被
マフラーを外し家族の顔となり
構へれば整ふ息や弓始
抜井諒一が選ぶ30句より
聖夜劇ぢっとできない羊たち
ストーブ当番一本早いバスに乗る
買ふならば派手でなんぼの水着なり
石段に踏みどころなき落椿
美しくなりたき頃の紺水着
◆俳壇動向◆
畳這う蟻に原寸大の地図
朝露や豊かに訛る牛の声
かけのぼる炭酸の泡鳥の恋
アルプスは大地の鼻梁大夕焼
雨音のうち重なれる破芭蕉
残雪を弾き出でたる熊笹ぞ
鷹湧いて湧いて一天深かりき
氷水つめたき匙が残りけり
良寛忌越後は海も雪の中
一もとの庭の茶の木に花のとき
電灯のひそかな異音さくらの夜
阿波踊ぞめき流るゝ駅に着く
よもつへと真っ逆さまに流れ星
金婚や無常迅速春らんまん
利根運河冬の表情豊かなり
また次の緑蔭めざし歩きだす
風鈴の次の音を待つ病床に
◆全国結社・俳誌一年の動向◆
吊り上げしさおのしなりや風光る
こんなにも採って良いのか蕗のたう
人参のどこまでが皮春の風邪
蒲公英の絮の宇宙を覗き込む
銀髪をめっぽふ振って翁草
煤払くすぐる天狗の鼻の穴
せせらぎに耳を遊ばせ芹を摘む
浮かびくる海女の真白き面かな
にらめっこしたら負けさう蟇
船虫の謀なき動きかな
蝋梅は疲れたやうに咲いてゐる
恙無く別れて目刺焼いてをり
あぶが来て藤棚の下譲りけり
一球に泣き少年の夏終はる
団栗拾う戦時の頃の話など
初春や鶴亀睦む輪島塗
耳やはらかく熱燗の座に着けり
ポケットの穴をまさぐる寒の入
白寿への一歩一歩や天高し
蟇投げつけられしやうに跳ぶ
戦争がすだれのやうに映像美
ハルジオンその中泳ぎ来る柴犬
見るだけの山となりけり登山帽
若冲の絵になかりけり羽抜鳥
姉妹してイソギンチャクをつぼまする
寝台車霧の彼方へラストラン
引越しの荷物こんなに夕薄暑
レジ袋は要りません熊穴へ入る
畳替へ影新しくなりにけり
遠くから手ぶらで来たる裘
けあらしに乗り込んで行く漁始
桜東風受けむこぞりてヨット発つ
雨だれは一夜に氷柱湯治宿
風死すやはたりはたりと象の耳
春風やタンゴは急に顔そらす
父の倍生きて今年の桜かな
堂々と遅れて来たる冬帽子
日向ぼこしてゐるやうな土産店
点は線線は形に鶴来たる
ジーンズに替へ稲刈に来よといふ
掃除機の吸うてしまひし冬の蠅
成人の日の空果てしなく青し
鈴虫の捨てし辺りに鳴いてをり
独唱の河鹿の声の乗ってきし
満月を共に仰ぎてけふを謝す
よく噛みて飯の甘さも寒の内
雪降って序の舞やがて修羅の舞
満月や門限のなき暮らし方
新茶供へひねもす妻として過ごす
利かん坊の泣きっぷりよし雲の峰
やらはれし鬼をなだむる鬼だまり
まだ生きますと百歳の賀状くる
目かくしをとりてこの世へ内裏雛
雛納め互ひの老を肯へり
キー叩く青山椒のにほふ指
苧の草鉄砲を打ちあへり
前髪の一ミリ大事梅雨に入る
夏場所やきれいどころもよく映り
退屈は人間のもの蟻勁し
冬来る釦しつかり縫ひ付けて
一人から広がる拍手卒業す
台風の進路予想図たぬきそば
再試験再再試験油蝉
きたかたのきつねこんこんなくゆうべ
隼の空を一掃してゆきぬ
駅弁の蓋の飯粒麦の秋
なめくじり家は前世に置いてきし
松七日机に椅子の収まりて
夕焼を戦後とおもふ鴉かな
穴惑ひ道を譲ってくれまいか
秋暑し顎のぶあつき魚煮て
大雨を呼び込みているかたつむり
海市立つ輪島穴水珠洲七尾
ころばない練習シロバナツキミソウ
火勢得て吉書み空へ舞ひ上がる
梅の花ぱっとほころぶ日和かな
石蓴汁ひと口までの生唾
組み直したる年越の榾焔
病に名つきし安心返り花
落椿ベンチの上で錆びゆける
とっぷりと山が隠れて雪雪雪
朴の花見るに朴の葉大き過ぎ
墨作り耳の裏まで汚しゐて
プールから上がれば空つぽの私
里神楽大蛇の足のちらと見え
尊徳の松に遥かな出水川
初日差す軍鶏は野太き声で鳴く
夏服の真白が派手と思ひけり
買初の鉄鍋振って八宝菜
諧謔の斯くありたしや紅ちょろぎ
本の日や町の書店の灯は消えず
頭入れ磨く便器や年の暮
シクラメン姉妹の如くならべけり
温め酒夫の手料理夫の酌
冬ふゆフユ楽しきことのありさうな
水無月や庭師きてをりおーいお茶
ぷいと反転多感な金魚と暮らしてる
年新た息災といふ宝物
水鉄砲濡るるも楽し兄妹
戦場に行かぬ一生クリスマス
くちなはの呑みたるもののなほ動く
蒲団とふ斯くも芳醇なる奈落
深夜放送まだ起きてゐる浅蜊
温石やたとへば親のありがたみ
山国は山の物もて喰積に
砂払ひまた濡れに行く水着かな
死体まで笑ひ出したり村芝居
ゴム長で籠へ蹴り込む糶の蛸
世界中に黴が広がるやうな日々
下駄の音絶えて郡上の水の秋
一畳は神の控へ座里神楽
蛇衣を脱ぐ露天湯の岩に脱ぐ
お勝手を髭でのさばる御器齧
伊勢海老の髭を大事に糶られけり
鳥雲にまあるくあらふ鍋茶碗
一生の最晩年の良夜かな
初桜ニューヨーカーと歩きけり
炎天に晒すロダンの筋肉美
地魚に始まる料理女正月
留守の間に太ってゐたる秋茄子
たんこぶを見せに来る子や風五月
風花や書かねば易き字も忘れ
払暁に言の葉かはす淑気かな
一学級くらいのすみれ日にあそぶ
老鶯の恋唄ホーを長く引き
朝顔や触診まるで大ざっぱ
もうここで良いかと初日拝みけり
侘助や丈山かつて三河武士
達磨市大風呂敷を首に巻き
食積や絶えて久しきはかり売り
ほろ苦きものを小鉢に春惜しむ
素麺を啜る相槌打ちながら
指揮棒の思ふ存分春を呼ぶ
白梅の一輪勇気貰ひたる
雪吊り日和掛け声のよく通る
白鳥の去りて小字に戻りけり
をみなよしをとこなほよし風の盆
こんなにと声のしてゐる金木犀
草ぐさのそよぎづめなり風の盆
コスモスに少し手荒な今日の風
原爆の日や収まらぬ捻子ひとつ
大仏殿越ゆる高さに松の芯
遠足の一団のあとまた一団
雨を来て雨へと返す絢燕
ドキドキは進めの合図木の芽風
歌ふとは称ふることぞ行行子
語るほど言葉はやせて田螺鳴く
漁師妻一気に捌く初鰹
風ほしいまま甲板のハンモック
籠を編む竹の弾けて涼新た
海老反りの斬られ役へも花吹雪
椿落ち身幅がほどの切通し
水源へ一里の標山ざくら
木はいつもじつと出来ない柳かな
尾と口を大事に秋刀魚裏返す
つくしんぼ枯れても袴つけてをり
双六やこの世は通り過ぎるだけ
炎天を来て十分の面会日
生きるとは薬飲むこと龍の玉
勇ましき言葉の骸敗戦忌
いつか死ぬわれとも見えず初鏡
噴水のアドリブ風が歌わせる
低く舞ふ鳶を横目に抜手かな
ひとしほに名残りの数の花菖蒲
夜蝉ふと妻に先立たるる予感
浪人と決まりたる子も雛の客
母の日の一筆箋を前にして
墓洗ふまだ空いてゐる両隣
涙にも色ありクリスマスローズ
なあと言ふ相手のをらぬ秋の暮
病室にひとりつきりの遠花火
オンライン授業馴れして卒業す
煮凝をせせりて探す鯛の鯛
遠足の遅れがちなるあくびの子
雄三通りサザン通りに秋の風
はららごの膜に血管しかとあり
揮発油に活字洗ひぬ夕薄暑
働いて働かされてかなかなかな
生蛸に舌吸はれたりソウルの夜
風流のしれものわれら青葉の下
虎落笛よもや挽歌となるまいぞ
山栗の山の吐息のやうに落つ
雨音の疎らに夜長始まりぬ
衣被つるりと夜の帳かな
青田波一輌ローカル風を弾く
無器用に世を渡り来てかたつむり
蜃気楼消えて砂漠に巨大ダム
四万十川の蛍銀座へ棹を差す
炭酸で割ったやうなる冬銀河
右あしの都合と左あしの事情
鯛焼の五臓ふきふき寺まゐり
修司忌の外れ馬券を栞とす
杳として死すまで戦後梅雨兆す
諸葛菜逢つておかねばならぬ人
落鮎のあえかなる朱を愛しめり
紅花や酒田に残る京言葉
波音の朗々として能登小春
天領や繊月杉の秀にかかり
緋毛氈ぱっと広げて雛の間に
おほひなる冬青空のうつろかな
初霜の箒の柄にも及びけり
頭数かぞへ直して西瓜かな
ざりがにの赤く鎧ひし暑さかな
駱駝の下着干す男もの女もの
川の色一気に変はり時雨来る
サングラスずらして覗くびくの中
冬籠して悪書とも親しめり
晩年も歩幅は広く冬うらら
ぢぢばばの赴くところ春の山
探梅の火に当たらせてもらひけり
筍のみな寝かされて売られけり
太棹の煽るじょんがら夏旺ん
秋晴やしづむこころもいとほしく
ぶらさがるものに蓑虫吊り鐘も
秋めくとぎんどろの木の風まかせ
孵化槽に鮭の目動く雪催
露の世としりてこの世のおもしろき
万感を龍の一字へ初硯
合格子と力漲るハイタッチ
あらたまの一誌につどふこころざし
せせらぎはよろこびの音犬ふぐり
封を切る鋏の音や秋灯下
豆粒となりし消しゴム合格す
小躍りに堰越す水よ春ららら
春著着て行く先々の鏡かな
前方に日の射してゐる初湯かな
草刈りてきれいな風を通しけり
こほろぎの声に囲まれ生家なり
久慈川を八溝颪の真っ直に
雪下ろし雪切って捨て切って捨て
生身魂ばかりとなりし句会かな
人生は四コマ漫画蟻の道
天楽は心耳に聴かむ練供養
つひに皆のつぺらぼうの踊かな
落つこちるやうに巣立てる一羽あり
初鏡帯の高さのこれでよし
常磐木に一雨きたる立夏かな
不味いもの黙って食べる夜食かな
好きなだけ畑にゐた母柿の秋
能登へ発つ二日未明の給水車
笛方は暗きにありて庭えぶり
東洋の黒を鉄漿蜻蛉かな
水底の影を走らせあめんぼう
戦争が立たぬ縁側ぬくとしよ
にしきぎの枝は刃だらけ利休の忌
船虫に逃げ遅れなしここ葉山
脱皮せぬ人間虫を越えられず
尾びれなき鮪の顔の錻力めき
傍らに赤子の寝息毛糸編む
行く秋や新刊本の帯のずれ
河鹿聞き足りて旅情を深めけり
冬深む世に亡き人にもの問うて
一輪は一語に似たりかへり花
父親の声にそつくり合格子
これよりは老いを楽しも猿酒
号令は六年生や雪を掻く
草取は考へ事をする時間
話つつ門まで来たる夏夕べ
遠き日の波の模様の浅蜊かな
ここよりの眺めが好きで墓掃除
凌霄花道を譲れぬ気骨らし
牽く力のみを許され働き蟻
涼しかり戦捨てたる阿修羅の目
何もかも赦してゐたる良夜かな
見つめゐてだんだん滝に呑まれゆく
負けまじく極月のわが食ひ力
ワイパーも予報も加速台風来
この道をパウロ歩みき秋暑し
あばよつと翡翠われを置き去りに
雲は秋成すべきことを成さぬまま
紅梅に倦み白梅は意に満たず
葉鶏頭ことばは削るためにある
降る程に能登には重し春の雪
小糠雨はちきれさうなものの芽に
欲ハナク丈夫ナカラダ草毟る
酒旗なびく水村夢に夏の旅
年の市立ちしやたしかこのあたり
一幅の寝釈迦へ小膝すすめけり
拍子木の手締なりけり達磨市
箒目を正して終へぬ松手入
高らかな居久根ゆさぶる鮭颪
初鏡母似の顔も八十に
図書館のいつもの椅子や青葉雨
人の字に似たる金継ぎ菜の花忌
ビヤホール給仕の腕のたくましき
鷹化して鳩となり庭俳諧す
キンクロの白黒の白寒弾く
死海への道まつすぐに灼けゐたる
鹿の目に囲まれてゐるまくらやみ
母突ける心太待つ四姉妹
ドニエプロペトロフスクの長き冬
支那街をいったりきたり三鬼の忌
火がつけば直ぐに身の丈大どんど
風が組み風が解きゆく花筏
桜餅香る深夜の守衛室
馬券舞ふ府中に獺の祭りかな
駅逓に明治の気概木の根開く
永訣の温顔うづむ寒の菊
左義長を囲む千の眼燃えてをり
息止めて押す実印や秋彼岸
大文字火床へ薪を運びし日
上州のべえべえことば稲の花
炎帝へ出仕控へて蟄居の身
初昔生きてあはんといひしこと
でで虫を手に専門は物理学
鰺たたき叩き具合が秘伝とや
おでん食ふ屋台の棚に招き猫
新盆や炎大きく和蝋燭
庭師来て蜘蛛の囲払ふ祓ふかに
引いて解くリボン結びや雪の果て
しやぼん玉消ゆる一瞬目つむり
百日のはじまってゐる百日紅
干柿の粉をふいてをり日日好日
炎ゆる日の指に吸ひ付く氷かな
聖五月ピアノに映るピアニスト
天の川車飛ばす世来たりけり
年末に着きし賀状のめでたけれ
母よりも姑の味に節料理
夜蛙や水田に揺るる家あかり
湯の滾る音のほかなき冬座敷
虫の音に灯を落とし句を案ず
名月や一子相伝絵らふそく
天高しジェット機の跡のびてゆく
八月や行ずるごとく過す日日
ぶらんこの交互にゆれて仲直り
掬はれて名前を貰ひ屑金魚
妻逝きて物音しない夜長かな
着ぶくれて頷く人情噺かな
短日や仏に留守を頼みもす
獅子舞の後の足のよく跳ねて
江の島へ橋を渡れば年新た
懐かしや声も人なり初電話
椎若葉拙を守りて老い盛り
大般若六百巻を読始
列島は山が七割山眠る
夏木立大きなスケッチブック来る
朽ち舟の薄泥かぶり水に澄む
公園の水辺人来る小鳥来る
石庭の石のあはひの淑気かな
非効率こそが人間霾ぐもり
階段を濡らして行けり水着の子
スプリングハズカムとハムストリング
万緑に染まる牛車の轅かな
黙々と黒板消して花の雨
翡翠のダイブ一閃水ぬるむ
獰猛な香の香水を隠し持つ
句作りは言葉の積木小鳥来る
温め酒とことん愚痴を聞くつもり
寄生木を風の苛む冬籠
田を植ゑてより高天原そよぐ
遮断機の向こう鎌倉灼けてをり
分校の最後の一人入学す
ランドリーに本読む女夜の秋
捨てるため拾ふ棒切れ十二月
盆塔婆を横抱きにして汝長子
夫の座に夫ゐる良夜深みけり
最後には女ばかりの焚火かな
病院食余さず食べてお元日
棚経の学生僧の声太し
夏服を着通す二泊三日かな
徒然に送る余生や蚊遣香
水槽のやうなコンビニ星月夜
人出るは出るは啓蟄の雷門
これしきの鰺を叩きて老いゆくか
トラックで売る仏壇や能登しぐれ
駅弁の蓋の米つぶ麦の秋
短夜や思ひもかけぬ人の夢
手の平はよき俎よ新豆腐
着ぶくれの談笑止まぬ足湯かな
野仏の肩までかくす今朝の雪
出疲れと一笑されし春の風邪
幸せの数は偶数さくらんぼ
鹿もまた暮春の歩みとの曇
濃あぢさゐ濡れて町屋の細格子
身の丈で生きる身軽さつばめ来る
大地震の嘆きへ雪の横殴り
普段着の住職おはす朝桜
風鈴や湖畔の宿の部屋ごとに
春の浜靴を逆さに砂払ふ
山芋を摺りまつ白をいただきぬ
万愚節炭酸泉の泡まとひ
一面の落葉に長き木々の影
手のひらに乗せて枯葉といふ温み
レジ袋大が一枚春キャベツ
鳥帰る方へ堤が伸びている
夏立つやロックミシンの調子良し
庭に蛇三日も経てば往ぬだろう
降る雪や昔ばなしをするように
行く春や富士全容のゆるぎなく
鳥渡る漁へ出ぬ日も海を見て
ロボットがツカレタと言ふ残暑かな
このあたりの者にござると御器齧
熱燗や嘘のひとつも上手くなり
指で拭く人形の目の春ぼこり
皸の手にメモをしてナースなり
書初のいろはのいの字命のい
包丁を持ったまま聞く日雷
新涼やまだかほもたぬこけしたち
小鳥来て日がな慈眼に福耳に
牡蠣剝きの女は殻に埋れつつ
若狭いま滴る山の仏たち
龍の玉蔵して雪の蒼むなり
昔みな良かったはなし栗ご飯
弓を引く肘鋭角に寒稽古
糞掃の袈裟美しや奈良の秋
アインシュタイン舌出す本を読初めに
寒林を素読のごとく歩きけり
天窓の夕焼けて浮世風呂にあり
山道や踏みどころなく落椿
入学に母が袂にすがる子も
眠る児もはち巻きしめて山車仲間
退勤のひとりひとりの背に西日
夕市の𩺊を取的鷲掴み
雪に転んで名探偵登場
水となり火となり夏至のピアニスト
猟期終へぐうたら犬に戻りけり
煮汁から背鰭出てゐる鬼虎魚
暮れかけて釣られし鮎に月の色
百歳の桜赤児のやうに咲く
日本銀行立哨警備の梅雨合羽
ちょっと汗歩き続けてたんと汗
風すべり風すべり水澄まんとす
鳩鴎鳩鳩鴎波止小春
天照大神へと山を焼く
緊迫の皐月の海へ護衛艦
候といくたび謡ひ能涼し
さへづりのなかへなかへとさへづりぬ
鳴きもせず衛士の田鳧のすつくりと
工房の鉋三百初明り
晴れてゐる方が行先春ショール
どことなく男雛は楽をしてをりぬ
水中よりドラマ見てゐる水中花
背鰭出てをり梅雨明けの水田より
焼藷の匂ひや猫の髭うごく
パリ祭や断頭台は移動式
スポイトに醤油おでんの試作中
書初の大腿骨のやうな一
読初は「春はあけぼの」声を張る
この網戸外れ易くて要注意
冬服と思へぬ程の薄着の子
母の日や在さば句なども語れしに
ひばりなほ茅花流しの天にあり
餌投げて坊主で帰る草いきれ
どさっどさ葉付大根どさっどさ
まず洗う気の強そうなトマトから
覗き込みこれとこれこれおでん鍋
身に寄せて弾くおぼろ夜の百済琴
百歳の朝の身支度牽牛花
純客観写生信奉素十の忌
物の芽に寸鉄の影ありにけり
ゆっくりと線香の香のバナナ食う
たまゆらの日の顔拝す初手水
蚊柱の立つ大仏の耳の横
賀客あり先づはなじみの通ひ猫
燕飛ぶ定規で線を引くやうに
百八では足らぬ悔ある年送る
年迎ふ包丁胼胝を育てつつ
禅林の黒塀に消ゆぼたん雪
さしあたり西空へとぶ曼珠沙華
ヘブンリーブルー一輪萎む一輪咲く
だびら雪混じる鳥海颪かな
年新た歩くことより始めけり
白魚の汲まれ目玉の落ちつかず
満身へ浴ぶ日の温みクロッカス
冬ぬくし思ひ出たどる解き物
少しずつ傾く積木原爆忌
冷奴くづし昭和のはなしなど
東京の金魚田のある町に住む
関東はあずましくない冷奴
誰々の名のつく花火煙の中
へぼ茄子も大事にされし時代なり
先生に子が直ぐ見せる藷を掘る
外套は重し昭和のカーキ色
小綺麗に生きたしと着る白セーター
花の雨夫の知らざる世を生きて
今日ひと日笑へ笑へと鼓草
新米やいの一番ににぎり飯
生焼けの餅持ち帰るどんどかな
煮大根ひと夜寝かせて琥珀色
はなびらのひとひらづつのゆくへかな
雲といふ雲のかがやく帰燕かな
秋色の極みを映しはけの水
すつぽかす予定が三つしゃぼんだま
アネモネや意地悪するは人も神も
ぽつんと雨ぽつんとひとり夜の秋
響きよき下駄を選りたり郡上盆
以上
by 575fudemakase
| 2025-01-21 04:45
| ブログ
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俳句の四方山話 季語の例句 句集評など
by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。
尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。
《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)
例1 残暑 の例句を調べる
検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語
例2 盆唄 の例句を調べる
検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語
以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。
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