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俳句の水脈を探る 平成令和に逝った俳人たち 角谷昌子 を読んで (高澤良一)

俳句の水脈を探る 平成令和に逝った俳人たち 角谷昌子 を読んで (高澤良一)
   ふらんす堂   2026年2月23日

◼️阿波野青畝
水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首
虫の灯に読みたかぶりぬ耳しひ児
さみだれのあまだればかり浮御堂
なつかしの濁世の雨や涅槃像
狐火やまこと顔にも一とくさり
葛城の山懐に寝釈迦かな
けふの月長いすすきを活けにけり
住吉にすみなす空は花火かな
水澄みて金閣の金さしにけり
籾かゆし大和をとめは帯を解く
大山の火燵をぬけて下りけり
激流を鮎の竿にて撫でてをり
月の山大国主命かな
鮟鱇のよだれの中の小海老かな
紅葉の賀わたしら火鉢あっても無くても
老人の跣の指のまばらかな
ひとの陰(ほと)玉とぞしづむ初湯かな
一軒家より色が出て春着の児
寒波急日本は細くなりしまま
かがやける臀をぬぐへり海女の夏
十字切る十一月となりにけり
眠る山紺紙揉みたるごとくなる
神農の虎三越をまだうろうろ
うごく大阪うごく大阪文化の日
アチャコ死ぬ浪花はさみし水中花
鮟鱇のよだれの先がとまりけり
息白しポイ捨て御免合点だ

◼️右城暮石
練供養稚児の菩薩も加わりて
練りに練る二十五菩薩生き菩薩
青空の深くて曲る雲の峰
火事赤し義妹と二人のみの夜に
ものすべて凍る地上へ羽毛落つ
牛肉の赤きをも蟻好むなり
消防車行きてすぐ消ゆ奈良の火事
砂浜の汚点より蠅わつと翔つ
炎天を来て大阪に紛れ込む
炭窯の上日航の航空路
生きるより死に近き声きりぎりす
水中に遁げて蛙が蛇忘る
首伸ばし己たしかむ羽抜鶏
猟鳥の死に切りし眼の葡萄色
酒やめよ煙草やめよと青葉木莵
大那智の滝水那智を養へり
亀石の眠りを覚ます耕耘機
むくつけき筍吉野山に売る
猪吊す庭木に棒を架け渡し
妻の遺品ならざるはなし春星も
梨の汁煙草に荒れし咽喉通る
声の糸繰り出し流す草雲雀
草刈機停めて住職会釈せり
場所移り移り雪代山女釣る
露けくて夜は家の闇山の闇
新緑の土佐へ転居の荷を送る
八十年ぶりふるさとの螢の火
すてるとも干すともきめず柿の皮
つかみたる葉末そのまま蜻蛉死す
一芸と言ふべし鴨の骨叩く
散歩圏伸ばして河鹿鳴くところ

◼️瀧 春一
汗の身のわれをわすれて飯食へる
閼伽そそぐしづかなる刻を枯木中
省線に乗るあらそひを雪の日も
をさな子と母と語れる冬至風呂
酒やめて五年(いつとせ)酢牡蠣つめたけれ
風鈴鳴らして協約も何もない会社
夫婦別居の夜々毛のシャツのまま寝る
芥溜(ごみため)の甘き腐臭が彼女の巣
白木蓮ひらりと月の瞬ける
病む桂郎袖無し見れば河童の図
五十路爽か弁当飯は自分で詰める
雛の日のあられ分けあふ日雇婦
石炭色の浅蜊洗っても洗っても
野を前に土地周旋屋月祭る
湯豆腐や木と紙の家に住みてこそ
愛鳥週間コノニワトリハツツキマス
楤の芽やこまごまと葉をたたみゐる
退職の日なりき朝のにいにい蝉
晩春や見えしところに富士見えず
八月や時の流れもやや疲れ
鈴虫や人に飼はれし声ならず
梟の声の真上が月の道
老鶯やホーホケキョーにケキョ足せり

◼️山口誓子
かりかりと蟷螂蜂の貌を食む
夏草に汽罐車の車輪来て止まる
夏の河赤き鉄鎖のはし浸る
唐太の天ぞ垂れたり鰊群来
匙なめて童たのしも夏氷
七月の青嶺まぢかく溶鉱炉
スケートの紐むすぶ間も逸りつゝ
ラグビーのジャケツちぎれて闘へる
ピストルがプールの硬き面にひびき 
枯園に向ひて硬きカラア嵌む
ひとり膝を抱けば秋風また秋風
蟋蟀が深き地中を覗き込む
つきぬけて天上の紺曼珠沙華
秋の暮山脈いづこへか帰る
鳥羽行に今宵いづこの駅も月
海ぬ出て木枯帰るところなし
寒月に水浅くして川流る
土堤を外れ枯野の犬となりゆけり
炎天の遠き帆やわがこころの帆
鶫死して翅拡ぐるに任せたり
われありと思ふ鵙啼き過ぐるたび
熱なくて遠くのちちろまで聞ゆ
海に鴨発砲直前かも知れず
大和また新たなる国田を鋤けば
鵜篝の早瀬を過ぐる大炎上
冬河に新聞全紙浸り浮く
日本がここに集まる初詣
峰雲の贅肉ロダンなら削る
どこまでも水田日本は水の国
一輪の花となりたる揚花火

◼️百合山羽公
この鹿や人なれがほに袋角
おしろいの剥げたる稚児も花まつり
後厄の妻もつれそひ厄詣
金色の鳶をあげたる若葉かな
からすうり瓜人先生住ひけり
海道を好みて走るびかり
蝌蚪の水とろけて寄るべなかりけり
死蝉に顔よせてまだ香あり
老骨の牛が背を立て麦の秋
白鳥のごときダンサー火事を見て
蠅取紙飴色古き知恵に似て
晩年や田螺つぶやき蜷呆け
土を出てすぐ毒虫の名を負へる
遠州灘よせて西瓜の青縞目
桃冷す水しろがねにうごきけり
啓蟄のすぐ押強き蟻となる
金剛界胎蔵界と銀杏散る
薬莢の落ちて落葉もただならず
蝉吟のそろひて老師なかりけり
鬼遣るや摺切れ枡は不壊の枡
八十八夜毛蟲もすでに盛装す
藪椿つぼのこころに従はず
原子炉にサーフィンの海無関心
三方原古戦場産かまいたち
群の軸どこへも曲げて稲雀
赤革が殻になるまで烏瓜

◼️加藤秋邨
蟇誰かものいへ声かぎり
長き長き春暁の貨車なつかしき
さえざえと雪後の天の怒濤かな
隠岐やいま木の芽をかこむ怒濤かな
幾人をこの火鉢より送りけむ
冴えかへるもののひとつに夜の鼻
灯の奥に牡丹崩るるさまを見つ
雉子の眸のかうかうとして売られけり
飴なめて流離悴むこともなし
死ねば野分生きてゐしかば争へり
落葉松はいつめざめても雪降りをり
原爆図中口あくわれも口あく寒
恋猫の皿舐めてすぐ鳴きにゆく
寒卵どの曲線もかへりくる
日本語をはなれし蝶のハヒフヘホ
くすぐったいぞ円空仏に子猫の手
おぼろ夜のかたまりとしてものおもふ
ひきがへる蚯蚓呑んだるめだまかな
朝顔やひとはひとつの顔に老い
たつた一つの朝顔にメンデリズム存す
ふくらふに真紅の手毬つかれをり
天の川わたるお多福豆一列
百代の過客しんがりに猫の子も

◼️殿村とい子
あねもねのこの灯を消さばくづほれむ
雛かざる遠峰の雪崩ひびく日を
さび鮎をひとり食ふ影大いなり
音もなく雲圧し昏るゝ原爆忌
眉落としなば蛾にも似て安からむ
羅のうしろ鏡も既に寡婦
氷魚呑んで白磁となれり湖の鳥
枯れてより現し世永しうめもどき
向日葵やさまざまの死を正視して
終の時歯切れよしわが法師蝉
冬空の禅師丸柿形見とし
人あまた逝かせ微風の年の暮
忍び泣く子に今雛は絵空ごと
にいにいともの言ふ蝉や原爆忌
炎天へ一歩の蟇の指ひらく
凡なれば長寿の餅を飽食す
鮎落ちて美しき世は終りけり
神去りて春寒き空鏡なす
咽喉元の涙や汗や師は呼べず
涼しいねと通夜の遺影のおん眼もと
青葉光木となる来世ありぬべし
枯るるなら一糸纏はぬ曼珠沙華
法師蝉鳴いて尿して夜となれり
洗鯉むかし波郷の嗄れ声

◼️高屋窓秋
頭の中で白い夏野となつてゐる
舟虫のちれば渚の夜も更けぬ
虻とんで海のひかりにまぎれざる
山鳩よみればまはりに雪がふる
日空しくながれ流れて河死ねり
花を縫ひ柩はとほく遠くゆく
ひかりさへ氷晶となり草絶えたり
石の家ぼろんごつんと冬がきて
野より野へ広野の鳥はいつか秋
きらきらと蝶が壊れて痕もなし
地球ごと風がまはるよ蝶飛来
涯知れぬ露の億兆個なりけり
雪月花無心の巌そこに立つ
黄泉路にて誕生石を拾ひけり

◼️小松崎爽青
天に冲す火柱梅雨の雲燃ゆる
寒夕焼われも罪びとかく染まり
吾が在るは一つの瑕瑾夏暁の山
修羅の春形影ひしと相いだく
相抱くや春のいかづちあざみいろ
菊あふれ歳月とはに薫るべし
帰化雑草枯れて不逞にジャズ流れる
老残やはがねの色に秋風立ち
停年へ月日なだるる花明り
福豆へ万の手春を呼ぶ光
水のごと齢澄みゆく蘆の花
冷たいなあ先生死んでしまふのかよ
雀にも訛がありて暖かし
人の世の俗こそよけれ水蝋樹咲く
飛花落花老の生きざま潔し
秋暁の舌が喜ぶ末期の水
ながらへて幸せ得たり冬帽子
雀蜂ぎらり掠める原爆忌
孤愁忌や夢の師の手は仏陀のごと
逝く春や山の夕日が薄うなる

◼️皆川磐水
桃の花父の山墓照らしをり
継木藁垂らして父の昼寝かな
田植寒父がよろばひ炉火去らず
初雁を目ざとく父の仰ぎをり
最上川見る虎杖を手に余し
こけし屋に頭を揃へたる雛燕
早苗饗や茂吉の家の牛やさし
駒鳥鳴けり白鉢巻の修験者に
月山のうすうす見ゆる早苗籠
泥鰌喰う集金あとの汗の銭
漂う盆供艀涼しき食器の音
月山に速力のある雲の峰
初鴉面を上げて鳴きにけり
手焙や櫛形山の風の音
桜の芽海より雨のあがりけり
鶏合雪を散らして了りけり
家深く酢飯の匂ふ夏の果
ふるさとに帯をゆるめて盆踊
桜餅三つ食ひ無頼めきにけり
野馬追の武者に祝儀をつつむ婆
帰る雁いくども飛沫閃かす
戻り鴫昼月白き潟の上

◼️松崎鉄之介
水兵を真白に乗せし艇に会ふ
炉にゐるや別の己れが北風を行き
東京いづこに行けど寒風と人流れ
街の上を電線その上は寒し
音立てて雪渓解けてゐたりけり
わが事務所画廊に隣り冬麗ら
信篤き国に来りぬ花楷樹
呉の岸に摘んで粽の蘆青し
死ぬる日と詠みしみほとりただ汗す
ただ灼けて玄奘の道つづきけり
死ぬものは死に亞郎忌も古りにけり
林火忌の湖北に萩と吹かれけり
鳴沙山秋雲の尾のはてなかり
暁闇のタクラマカンを天の川
トルファンの鶏鳴に覚む外寝人
金輪際口きくまいと隼人瓜
千仞の谷底を牛耕せり
驢馬に乗る子に長江の日永かな
先師の家無住となりて萩枯れぬ
朝凪の廬山炊煙処々にあぐ
騎馬民族興亡の地を帰る雁
妹裕逝きおろおろすごし冬に入る

◼️馬場移公子
いなびかり生涯峡を出ず住むか
岩壁にすがれる草も月あかり
雁仰ぐいまさら峡の底に住み
秋の風来し方隙間だらけなり
曼珠沙華いづこを行くも農婦の目
探梅めきて売山の値を踏みに入る
寒雲の燃え尽くしては峡を出づ
黴の香の帯因習をまく如く
風鈴や一徹が身を縛しをり
霜の華ひと息の詩は胸あつし
飼はれゐて眼は従はず露の雉子
出世無縁のわが口付けて菖蒲酒

◼️沢木欣一
学に継ぐ兵の日課や鳥渡る
南天の実に参たりし日を憶ふ
眉濃ゆき妻の子太郎栗の花
鉄板路隙間夏草天に噴き
塩田夫日焼け極まり青ざめぬ
玉砕の岩垣闇や蚊喰鳥
炎天やをすめすの綱大まぐはひ
赤富士の胸乳ゆたかに麦の秋
みどり子の瑞歯の萌えや水芭蕉
蝌蚪の陣金剛杖ではげませり
誕生仏へそに甘茶を溜め給ふ
母の骨拝む小春の膝そろへ
冬の瀧心棒立てゝとゞろけり
八雲わけ大白鳥の行方かな
胸の傷かくさうべしや雪解富士
ひきがへるバベリバブルと鳴き合へり

◼️高島 茂
オロチョンは獐を狩るらし嶺に入る
焼けトタン負けじと叩く梅雨の日々
立ち退き迫る寒き街路に鼠の屍
俗界は梅雨の月夜の悪人達よ
白服の似合ふ草田男若かりし
ロタ島へ行くべき夏や線香買ふ
密林雨期死よりも飢と闘ひし
獏とゐて冬日に眼ほそめけり
鮟鱇などわが風狂の友にして
緋桃ちる草田男以後の十七音

◼️眞鍋呉夫
花冷のちがふ乳房に逢ひにゆく
雪女ちよつと眇であつたといふ
口紅のあるかなきかに雪女
我はなほ屍衛兵望の夜も
この階を昇れば銀河始発駅
慟哭の凍れる瀧でありにけり

◼️古舘曹人
学徒われペンを捨つべく菊白し
子を抱けば子に紙吹雪クリスマス
ネクタイの白は知鼻の汗は情
流氷の千島につづく色なき天
一介の今も書生よ法師蝉
苺つぶす舌を平に日本海
野辺といふ鮭の末路に妻つれて
ブーゲンビリア民話は死より始まりぬ
メーデーの列のをはりに爆心地
麦蒔けば来る能登の雲加賀の雲
枯蓮の扇の裏を見るやうに
普段着の屍に哭くや十二月
青嵐左に数珠を持ちかへて
露の世ののこらず見えて壁鏡
繍線菊やあの世へ詫びにゆくつもり
狐火の小千谷にありて遊びけり
産小屋も墓も磯なる枯岬

◼️成田千空
岩木嶺は大きく手毬唄やさし
耕牛の底びかりして戻りくる
鷹ゆけり風があふれて野積み藁
雪しろの本流に入る水ゑくぼ
とりけもの地吹雪に消え祖の村
草あれば水あれば鳴き残る虫
八雲立ちとどろきわたる侫武多かな
泥の田の光体となり燕くる
夫人間熱い飯には鮞を
雄の馬のかぐろき股間わらび萌ゆ
みどり児の寝落ちて紙のお雛さま
氷噛み顔の重たき岬の馬
目つぶしの雪降りしきる津軽三味
今生を燃えよと鬼の侫武多来る
津軽いま六根清浄花りんご
立侫武多火柱のごと灯りけり
地吹雪の彼方の灯影いのちなり
おけら短命到る処に燈がついて
十二月うしろの正面山の神

◼️清崎敏郎
枯萱に年かはりたる日がさせり
夏山に向ひ吸ひよせられんとす
短日のかゝるところにふとをりて
歩をゆるめつゝ秋風の中にあり
滝の面になまぐさき日のさしにけり
あらはれし干潟に潮が流れをり
掛けられし袋に雨のつぶやける
うすうすとしかもさだかに天の川
滝落としたり落としたり落としたり
読初や汝の朱線の残る書
音とてもなく木の葉散る木の葉散る

◼️深見けん二
一筋の煙動かず紅葉山
去り難な銀河夜々濃くなると聞くに
退勤時鉱山山の蜩鳴き揃ふ
日の力失ふときの冬紅葉
人はみななにかにはげみ初桜
花菖蒲さびしき色をあつめたる
わが町に一閃二閃燕来る
桜餅食べ終りたる手を膝に
蟻の貌大きく映り芋の露
人生の輝いてゐる夏帽子
蟻の道天へ天へと大欅
離愁とは郭公が今鳴いてゐる

◼️鷲谷七菜子
逢はむ日の鏡まぶしき蝶の昼
野にて裂く封書一片曼珠沙華
牡丹散るはるかより闇来つつあり
行きずりの銃身の艶猟夫の眼
滝となる前のしづけさ藤映す
行き過ぎて胸の地蔵会明りかな
日当たれば湧きて浮寝の鳥の数
雪の影してちりめんの織りあがる
田水張って湖北あかるき仏たち
鹿の子のひとりあるきに草の雨
道一つ村を出てゆく端午かな
紫陽花の見せはじめたる淵の色
どことなく水滲み出て春の山
寒月のいつのぼりゐし高さかな

◼️波多野爽波
冬空や猫塀づたひどこへもゆける
赤と青闘ってゐる夕焼かな
セルの袖煙草の箱の軽さあり
掛稲のすぐそこにある湯呑かな
骰子の一の目赤し春の山
雪うさぎ柔かづくり固づくり
菱採りしあたりの水のぐったりと
天ぷらの海老の尾赤き冬の空
冬ざるるリボンかければ贈り物
悲鳴にも似たり夜食の食べこぼし
チューリップ花びら外れかけてをり
そこらぢゆう落ちゐる厄を嗅いで犬
裂かれたる穴子のみんな目が澄んで
老人よどこも網戸にしてひとり

◼️小川濤美子
咳の子のなぞなぞあそびきりもなや
曼珠沙華抱くほどとれど母恋し
とどまればあたりにふゆる蜻蛉かな
外にも出よ触るるばかりに春の月
春寒し引戸尾重たき母の家
村々は低く寄り合ひ春寒し
地球自転の振子見あぐる日焼子と
太平洋波いろ重ねお元日
大根のどつかと太き肥後雑煮
あぢさゐや昨日に変り色あせて

◼️丸山海道
蜷つるむ涅槃のひかり水底まで
つゝじ燃えまなじりを裂く伐折羅神
浮浪児へ夜の蓮が脱ぐ衣一まい
花きざす屑籠一穢なく置かれ
骨壼と百夜を徹す春の燭
生くるゆゑ隠れ小蟹の朽葉いろ
六月の川藻魚生み魚を巻き
根こそぎといふ地獄あり冬さうび
花洛かなくわりんは落ちて石の傷
人散れば佛のあそび花月夜
椿落つ天の椿の一つ減り
添水闇小石が石に育つとき

◼️星野麥丘人
清瀬に師いよいよ冬を深くしぬ
篤と掃く元日の墓雨乍ら
草や木や十一月の深大寺
てんと虫だましや安住敦死す
いちじくを食うべてみても智慧沸かず
春暁の雪輪輪廻とも放下とも
十月や波郷に告げむ秋刀魚の値
日当ればみんなしあはせ実南天
春の夜の狸は山へ帰りけり
くつさめの夫唱婦随といふべかり
あめんぼの湧きすぎてよりくもりけり
人に血を遣りしことなし龍の玉
朝顔の紺や一徹徹すべし
柿三つ波郷友二に一つづつ
決闘を草矢でするといふことに
狐火の仔細なんどもききたがり
雪しんしん虚仮の一念通すべく
ミネルヴァの梟のこと遠き日よ
狐火のことは蕪村にまかすべし
雪の日や蕪村百句を頼みとし

◼️成瀬櫻桃子
苗包みきし新聞にビキニの記事
地に落ちぬででむし神を疑ひて
鳰、顔を出せばまはりに河骨黄
詩貧し掌に焼芋の熱さのせ
水音のたそがれさそふ夕ざくら
鉦叩たたけど無明のがれ得ず
穀象に青き空など用はなし
梅雨鴉ユダの声して嗤ひけり
地球引つぱつて大根抜きにけり
どぢやう鍋胡坐の久保田万太郎
降誕祭この不具の子も神の子よ
十六夜や海の底より平家琵琶

◼️福田甲子雄
行く年の追へばひろがる家郷の灯
桃は釈迦李はイエス花盛り
沼わたる蛇夕焼けを消しながら
子に学資わたす雪嶺の見える駅
稲刈って鳥いれかはる甲斐の空
身を捨てて立つ極寒の駒ヶ岳
山中の吹雪抜けきし小鳥の目
天辺に個をつらぬきて冬の鵙
靄あげて種捲くを待つ大地かな
春一番藁まみれなる濡れ仔牛
幾本の管身にからむ夜長かな
ハンカチの忘れてありぬ自害石
生まれたるままの身がよし吾亦紅
残る歳過ぎたる歳も霜のなか

◼️岡本眸
霧冷や秘書のつとめに鍵多く
癌育つ身の影折れて月の階
子を生まぬ乳房つめたし横臥しに
束ねたる髪の根つよし青嵐
病みて夫常より強気鉄線花
喪主といふ妻の終の座秋袷
雲の峰一人の家を一人発ち
鳥雲に働くための靴増えて
温もるは汚るるに似て風邪ごもり
水温む多忙を課して老いまじく
生きものに眠るあはれや龍の玉
秋風や柱拭くとき柱見て
まぎれ得ぬ高さに桐の花ほろぶ
虫絶えて一流水のあるがまま
目の前の些事こそ大事日照草
初電車待つといつもの位置に立つ

◼️今井杏太郎
炎天の平たき町を通りけり
稚魚さんとあそんで茅花流しかな
馬の仔の風に揺れたりしてをりぬ
人間と暮してゐたる羽抜鳥
目が覚めてゐていつまでも桜の夜
蝉殻を焚けばしづかに燃ゆるなり
風船の離れたる手をポケットに

◼️加藤郁呼
かひやぐら走るイデエへ真帆あげて
一満月一韃靼の一楕円
冬の波冬の波止場に来て返す
野暮の出る江戸研究や土用干
江戸雑書背丈をこゆる煤払ひ
俳味に詩刺身に醤油凧に骨
うれしともうれし大和し美し霞
しぐるゝや異端もやがて伝統に
小火と云ふいはゞ現代俳句かな

◼️廣瀬直人
雪の嶺しばたたく目の高さなり
枯蟷螂ぬきさしならぬ眼がふたつ
菩提寺の明るさ十夜晴れと言ふ
鴉子離れからからの上天気
鉄棒にぶらり桜を浴びてゐる
田植終る人々水に映りゆく
声かけて障子を洗ふうしろ過ぐ
鳥湧いて来るべき冬が頭上より
烈風に余さず飛んで雪雫
蝸牛仏の憤怒など知らず
牡丹に雨ともならぬ雲の帯
万両にびたびたの雪降ってくる
追ひたてて炎叩いて畦火絶つ
正月の雪真清水の中に落つ
稲稔りゆつくり曇る山の国
空が一枚桃の花桃の花
蝸牛桜は雲の湧く木なり
長男とほどほどに年忘れ酒

◼️大峯あきら
梟の月夜や甕の中までも
花咲けば命一つといふことを
人は死に竹は皮脱ぐまひるかな
虫の夜の星空に浮く地球かな
青空の太陽系に羽子をつく
麦熟れて太平洋の鳴りわたる

◼️有馬朗人
水中花誰か死ぬかもしれぬ夜も
虹二重二重のまぶた妻も持つ
草餅を焼く天平の色に焼く
万巻の書の文字雪となりて舞ふ
木の実打つ屋根を小栗鼠と分かち住む
新涼の母国に時計合せけり
光堂より一筋の雪解水
ジンギスカン走りし日より霾れり
根の国のこの魴鮄のつらがまへ
路地深く雪掃く音を重ねけり
曼荼羅の天はもつとも虫喰ひて
もう既に子猫が申す好き嫌ひ
菜の花や西の遥かにポルトガル
穴を出て子蟷螂緑したたらす
幾戦争過ぎ行きし野の草の花
ユダもまたまぎれなき使徒麦一粒
墨は奈良紙は吉野の春の雪
海底を見し鮟鱇の寄り目かな
地球といふ大いなる独楽初日の出
銀杏散る万巻の書の頁より

◼️稲畑汀子
枯色として華やげるものもあり
盛りとは雨の牡丹の匂ふこと
末枯れてゆくもの命ひそめつつ
そよ風になびくものより春らしく
早春といふ約束のやうなもの
心まで時雨るゝことのなかりけり
長き夜の苦しみを解き給ひしや
どの部屋も夫ありし日の秋灯
雪雲にさへ立つ虹のあることを
見てをれば投扇興はやさしさう
悴みて地震の夜明を待つばかり
極楽の文学論じ漱石忌
落椿とはとつぜんに華やげる
一枚の障子明りに伎芸天
三椏の花三三が九三三が九
長男と競ひ泳ぎて負くまじく
見えてゐる星見えて来る星涼し

◼️鍵和田釉子
裸子遊ぶ一茶の土蔵「なんにもない」
アネモネや神々の世もなまぐさし
未来図は直線多し早稲の花
職辞めて曜日うしなふ花月夜
よしなかやはせをやあふみうす霞む
鶴啼くやわが身のこゑと思ふまで
少年の瞳して阿修羅のしぐれをる
母の日の貝殻みちを鳴らしけり
軒つらら暗きに動く牛の舌
紅梅や六十路なかなかかぐはしき
蝌蚪の紐じゅげむじゅげむと続きをり
次ぎつぎと鶴の撒かるるみ空かな
白といふ激しき色を花菖蒲
ふくろふと向き合うて聴くしぐれかな
次ぎつぎと鶴の撒かるるみ空かな
鷹一つ紺を張りあふ空と海
竜天に登るわたしは靴を履く
被爆被爆悼みをしろばなさるすべり
つばさなき物も飛ぶ世ぞ注連飾
すみれ束解くや光陰こぼれ落つ
飛鳥大仏秋日は死力尽しけり

◼️安井浩司

◼️黒田杏子
一の橋二の橋ほたるふぶきけり
十二支みな闇に逃げこむ走馬灯
稲妻の緑釉を浴ぶ野の果に
小春日やりんりんと鳴る耳環欲し
白葱のひかりの棒をいま刻む
ふぐ鍋や壁に大きなジョン・レノン
稲光一遍上人徒跣
ガンジスに身を沈めたる初日かな
花に問へ奥千本の花に問へ
山姥と夏蚕のかほと相似たり
満行結願無花果榠櫨柿石榴

◼️鷹羽狩行
万緑にラムネ沸騰させて若し
みちのくの星入り氷柱吾に呉れよ
摩天楼より新緑がパセリほど
蓮根掘モーゼの杖を掴み出す
金魚売過ぎゆき水尾のごときもの
胡桃割る胡桃の中に使はぬ部屋
村々のその寺々の秋の暮
紅梅や枝枝は空奪ひあひ
あぢさゐの団欒に闖入の風
膝叩いては受け応へ生身魂
ハンターに蹤き猟犬の走りづめ
百人町いまは祭の山車も来ず
年迎ふ山河それぞれ位置に着き
天に満ちやがて地に満ち雁の声


以上
(陳謝妄選)

by 575fudemakase | 2026-06-05 12:13 | ブログ | Trackback


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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▽ある季語の例句を調べる▽

《方法1》 残暑 の例句を調べる
先ず、右欄の「カテゴリ」の「秋の季語」をクリックし、表示する。
表示された一番下の 「▽ このカテゴリの記事をすべて表示」をクリック、
全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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