2018年 04月 02日 ( 1 )

永田和宏歌集「午後の庭」を読んで

永田和宏歌集「午後の庭」を読んで

第13歌集 2017・12・24 発行 角川書店


以下共鳴句を挙げる。

尚、歌集前半は妻河野裕子を失つて、まだ一年も経たない時期の作と「あとがき」にある。


引きとめる念(おも)ひも力も弱すぎて君を失ひ夏を失ふ

よく生きたよくやったよと告げたきにこの世の夏がまた巡りくる

最終歌集「蝉声」のために

君が残せし言葉を拾ふために来る淳が来て紅(こう)が来てこの夜の卓

あなたとふ君とふ言葉に立ちどまり立ちどまり進まぬ夜の校正

買ってやる誰もなけれど空港の宝石売り場をぶらりぶらりと

コスモスの揺れの間に間に見えてゐし日本手拭があなたであった

いっせいに四人がわれに跳びついてはじき出されし三番目が泣く

さらさらと欅落ち葉す無遠慮な柿の落ち葉の音もまじへて

晩年とふを持たざりし君の悔しさを誰かがわかってゐてはやらねば

遺し逝くはうの辛さをまた思ふ わが母の場合妻の場合

子も猫も吾もまとめて鼻を撫できみが親指の元気だった頃

トムが死にあなたのあとにムーが死にきほんとにあなたの望みどほりに

おかへりと言うてもくれぬ門口の桜の枝をくぐりて入りぬ

喪の家となりたるゆゑに山ざくら淳が植ゑたり庭の斜りに

喪の家にもしもなつたら山桜庭の斜(なだ)りの日向に植ゑて 河野裕子

金輪際ともに見ることもうあらぬ桜たとへば高遠の桜

間の抜けた鯉の扇子は君が購ひ無くさないでねと念を押したり

けふは三度も大声出して笑ったと懺悔のごとく風呂に思へる

もっともっと疲れて今はゐるのだがかはいさうねえと言ふ人もなし

この冬はタオルを巻いて湯湯婆を君に運ぶといふことなかりき

夫とふ居場所はどこにももうなくてテーブルの角に陽が差してゐる

語るたび少しづつ君がずれてゆく ま、いいか 夏至の日の立葵

亀だってときには腹を干したからう裏がへる亀を見しことなけれど

2010年早春 室生寺 四首

わづかなる傾斜に君が苦しみし宇陀室生寺に風寒き頃

帰ったぞ、飯だ飯だと飼ひ猫になりたるばかりの野良猫(のら)が騒ぐなり

コラーゲンを飲んでもなんにもなりません そこだけ受けて終はる講演

君がため淳が買ひ来てわれら植ゑし山桜なり鹿に喰はれき

もうお帰りと言ふのは誰か夕翳りする水の面に鳥を浮かべて

そして一年

一周忌と人に言はれてはあそんなものかと思ふどうでもよけれど

倖だったと思へるきみとわれがゐてそれがやっぱり倖だった

もうあれは去年のことかきみに降りわれらに降りし蝉声の夏

仏さんなんかにならんでよろしと言ってゐる きみの口調がそのまま私

夏草を草かまきりが渡るなり風に吹かれてそよぐかまきり

ああさうだと振り向き物言ふコロンボの追ひ詰め方は嫌ひだったな

口あけて眠れるのみとなりしかばもういいよもうと子は願ふなり

あなたとふやさしき言葉に呼ばれゐしあの頃あなたはわたしであった

相槌を打ちくるる人のなき部屋が隅よりがらんと夕暮るるなり

丸二日帰らぬ猫がゐるゆゑに娘もわれも剣呑になる

竹箒のはっしはっしと小気味よき音庭になし冬の陽が差す

歌のなかにきみが遺せし言葉なれば火(ほ)めくありそして囁(ささや)けるあり

くすくすと笑ってゐるのは誰だらう紅葉の山にくすくすくすくす

モンゴル力士の本名みんな諳(そら)んじてつくづく変なり高野公彦

語るたび美化されて死者は遠ざかるええいままよと校正もせず

ひょっとしてあなたなのかと思ふまでこの白黒の猫のわがまま

いつ行ってもこのごろ櫂(かい)は留守がちで末のふたりが飛びついてくる

さりげなく野の花があったあの頃のコップにゑのころの穂が三、四本

半ズボンが窮屈さうで大きくてハンプティダンプティのやうなどんぐり

喧嘩ばかりするなするなら勝って来いと息子に言はざりしを猫に言ひ聞かす

こんなふうに死んでゐるのが発見されやっぱりねえと人ら言ふらむ

嫌ってゐたのは鉄腕アトムの正義感 十万馬力といふ嘘くささ

とりあへず悪役にこそ味がありグリコに力があったあの頃

音声認識はフーリエ変換とこともなげに言へる甥なりグーグル社員

ベランダに蝉の三つ四つ転がれるゆふべ消し忘れたる灯りのせゐで

たったこれだけの家族ときみが詠ひしは寒谷峠(さむたにたうげ)この尾根の道

たったこれだけの家族であるよ子を二人あひだにおきて山道のぼる 河野裕子「はやりを」

こんなにも気配はそばにあるものを一度くらゐ返事をしてみろよ おい

独居老人に分類されてわれに来る区役所よりの巡回通知

あっ、攣(つ)ると思へばすなわち足が攣る呻きつつはかなき朝がはじまる

失礼な奴と思へるヤツ増えてすなはち我の老いのはじめか

家猫となりしばかりに縄張りを持ちて闘ふがんばれがんばれ

あの時のきみの笑ひは何なりしのけぞりてまたわが胸を打ちて

きみのゐた頃よりいまのぬかづけの味がいいぜと告げたきものを

またやった 腐れし梨はぼよぼよとなりたるのちに我に見つかりぬ

峰をわたり峰を越えゆく送電線のはるかなたわみのやうにさびしい

水馬(あめんぼ)が水を押すとき水にある硬さ弾力踏みごたへなど

「そうだ 京都、行こう」って思へるまでに秋晴れわたる

あしのねの短かかる世と嘆くまじそのおほよそをともにありしを

低きより光はおよぶ低きより己れ見るべし新しき年

あからひく朝の光はおづおづと比叡の肩よりさし出づるかな

かりそめの生と思はばかりそめの生の半ばに遭ひて別れぬ

拾ってきた栗でと恐縮するありてそれを喜びわれらいただく

留学生チューさんこの頃寡黙にて尖閣のことに触れてはならず

きみがしてゐたやうに折りきて挿してをく狗尾草(ゑのころ)の二、三本がほどコップの中

クリックをするたびダビデは拡大され左右の睾丸大きさが違ふ

苺には練乳かけて食ふものと疑はざりき昭和の子らは

阿保やなあほんまに阿保やと撫でられてあはうな猫になりゆけるかも

朝ごとにわが屋根に来て足踏みをするゆゑ餌をやらねばならぬ

烏に餌をやってゐることご近所に言ってはいけない知られてもいけない

死に続く眠りといふを思ひをりだあれも起こしてくれない眠り

泣いてゐるのは今の私 若き日のきみを泣かせてをりたるをとこ

そのをとこ若くて熱くて性急でそれより熱きをんなに逢へり

泣くひとをけふは見たりき声あげてただ泣くためにだけ泣くひとを

このあたりの者にござると春の土を盛りあげ土竜はまっすぐに行く

さびしいよ どんなに待ってももう二度と会へないところがこの世だなんて

ペニスなべて削りとられしまま並ぶ古きパティオのローマの戦士

いつのまに死んでゐたのか雌日芝の穂が眼交ひに揺れてゐるまに

名前はわたしがつけるときっと言ふだらうメヒシバの穂をさやさやさせて

蝸牛(まひまひ)の進化したるが蛞蝓(なめくぢ)と言はれて何かが納得しない

蝸牛に肺があるなんて知ってたか舌だってあるしペニスだってあるんだ

尻尾にも網目はありて夕暮れの網目キリンは網目のなかに

ほんたうに怒ってゐるのだ情けなくて怒るとふこと君にわかるか

大陸の風の強さが引き絞るこの弓なりの秋津洲日本

ヒンズースクワットけふ三◯回よしよしと湯舟に入れば湯のあふれたり

眠ってもいいけど凭れてこないでねお相撲さんが私の横に

この家に灯をともすにんげんはおまへだけさねと猫はねむれる

仰向けによろこぶ猫の無防備がうれしくて撫で丸めては撫づ

わたしよりわたしを知ってをりしひと亡くてわたしは死ぬとき知らず

猫が鳴けばさらに大きく泣く幼な きみの最初の敵かこの猫

赤飯を炊いた食ふかと聞いてくるぶっきらぼうは電話の向かう

開かない抽斗が少しづつ増えてゆく晩年といふ日だまりのなか

ほめかたがだいぶあなたに似てきたよ 紅(こう)のことだよ 泣けてしまふよ

10000メートルの気圧を処分できなくてわたしの耳が戻ってこない

まっすぐでかつ人間ができてないあなたの批判いまもときをり

チューリップはいいわねお尻がかはいくて、なんて言ってたはずのあなたが

ぱたぱたとタオルを振って干すときにあなたがゐない此の世と思ふ

それがなぜあなただったか夕暮れの火に火を足してまた思ひをり

いまの私を見てゐてほしいと思ふ人みんなゐなくて菜の花畑

ホバリングしてゐる蜂はくまんばちそれ以上来るな近づくなってば

この頃やけに長くなりたる眉を切るあの頃の村山富市好きだったなあ

タンポポもナズナも咲いてとんとんと地球と逆に私は歩く

先生と言ふに抵抗がなくなりて「先生、やっと」と呟いてゐる

君の知らぬ君を知らざる若きらにあのときはねえとまた言ってゐる

よくやったとほんとに思ふわたくしを出さず抑へて来し三〇年

学生時代よりともに来たりしひとりにて 一緒に飲まうぜ花山多佳子

あなたならきっと褒めてくれただらう こんなにわたしは磨り減ってゐる

ゐてほしいとおもふのはもうゐないとき 鍵をまはして戸を開けるなり


以上













by 575fudemakase | 2018-04-02 18:59 | 句集評など | Trackback | Comments(0)


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いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
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[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

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