カテゴリ:句集評など( 93 )

後藤比奈夫句集「白寿」を読んで

後藤比奈夫句集「白寿」を読んで

2016.1・8 ふらんす堂


九十九のお方の無手勝流は、ぐぐっと押して来る処をええいと呑み込むしか方法は無い。

共鳴する句数の多寡なんて言ってられない。


葉牡丹の白蛇浄らか花時計

大方が長生せよといふ賀状

寒禽にして囀るといふことも

御簾の内見えぬ源氏絵屏風かな

満作の咲いた咲いたと咲くことよ

恵方巻齎し豆も巻き呉れし

クリスマスローズそんなに俯くな

どう退治せむこの大き蓬餅

春聯の如意吉祥は昔より

白梅の蘂がこんなに紅いとは

ファッションといふ春寒きものを見る

祭来るとてヒマラヤの着道楽

文旦を剥くに千人力を出す

写真にて見参桜島大根

胞飛んでしまひてやるせなき土筆

菜の花を籬仕立にしてみたる

まだ踊り馴れぬ踊子草の群

踊らずに喉を越したる白魚も

下車もせず花のトンネル通り抜け

能代には女ベラボウ舌出す凧

金輪際鳴かぬと亀の擡げし首

残りゐて早く散りたき花ばかり

花もはや花見団子の色淡く

花を鎮めともなく雨の降り出でし

久安寺にて踊りゐし踊子草

残花てふことの郁李にもありし

赤すぎる鯛釣草の釣りし鯛

母子草御形といへば位あり

花びらは掃かず掃きゐる桜しべ

見付けたる洗鱸といへる季語

ほんたうに笑ってをりし壬生の面

しっかりと都忘は都色

夜が来れば朝が来るなり青葉木莵

六甲山にもそれなりの登山地図

浪立つるためには群れて咲いてこそ

梅雨に入る箱根卯木の咲く日より

遍羅(べら)といふ漢字のありしこと気付く

釈迦の鼻くそとえんまの目こぼしと

樽酒の樽の涼しき吉野杉

炎天へ火の気立ちゐる煙の木

泡盛のせゐか熱中症なるか

素戔嗚尊ねぶたになり給ふ

落蝉になく空蝉に命見ゆ

集団でしてゐる主張吾亦紅

紅白の鼻緒で亡者踊とは

踊まだ端縫着らるる年ならず

下草として藪蘭の悪びれず

平凡がよしと紫苑の咲きにけり

秋田美人彦三頭巾を垂れ踊る

三方の由々しき月見団子かな

夕月のかかるに間ある芒かな

にごり酒にも盃の柿右衛門

案外にさらりと酔ひてにごり酒

水澄みて鯉純金になりたがる

管物といひて神経質な菊

老爺柿ながらにいまが青年期

背山よりいつもの声の初鴉

乗初は子の押しくるる車椅子

誰にでも道をゆづりて老の春

破れても裂けても聢と朴落葉

野葡萄にあらざりへくそかづらの実

何の落葉か染みだらけ傷だらけ

聖夜にも打つ寒柝のありしこと

聖夜の子たちに回転木馬の楽

花むしろ父の座よりも倅の座

初絵馬として宮島の福杓文字

破魔矢まで清盛好み厳島

くわつと目を開き湯沢のまなぐ凧

小町の絵らし寒紅の貝の蓋

寒中も歩くプールに来て歩く

アネモネの好きな彼女を思い出す

春は春色手作りの毛鉤まで

梵天のための藁沓それを土産

丸顔の雛を見過ぎてしまひたる

水落ちてゐても鳴る気のなき僧都

のれそれはのれそれなりによき黒目

神戸港眺めの丘の碇草

三味線もなくてこの草撥ばかり

春落葉厩まはりが好きで積る

栴檀の双葉如何と尋ね来し

生えてゐるやうに竹の子立ててあり

黄心樹(おがたま)の花には神のいますかに

九(ここの)巻または十(と)巻に粽の緒

老舗の名六萬石のかしは餅

芯蒸しといひ深蒸しといひ新茶

ざくざくといふほど生けし小判草

伽羅蕗の甘口仕立よかりけり

これがその神田の生れよてふ祭

たこどない穴子どないと魚の棚(うおんたな)

なめくぢを取るになめくじいらっしゃい

黴びることなかり東郷青児の裸婦

いかがでしたかと問はれし心太

生涯に読み切れざりし書も曝す

親鹿とちがふ子鹿の見てゐるもの

象涼し鼻で物言ひ尾で返事

耳馴れし金比羅船々うちはにも

柚子坊といはれ芋虫仕合せな

如何な衣脱ぐや八岐大蛇なら

竹節虫はナナフシなりに涼しげに

文字摺の花が次第に渇筆に

やけくそにならねば跳人にはなれず

向日葵の黄のこれでもかこれでもか

盆石に鮎の遡上といふ景色

涼しいといふことをはき違へたる

土用灸近しとばかり灸花

風鈴の四万六千日と鳴る

たまに立つ土用と思ふ波頭

あゆ菓子の求肥さすがに祇園流

型録の鰻重大き鰻の日

美しや亡者履きゐる踊足袋

のぞかるるおわら踊の笠の内

白絹を着せてやりたき衣被

猪垣にある人間の出入口

かと言ひて抱負もなくて老の春

抱へられ跨ぐ湯槽や初湯殿

初暦めくれば兎弓を引く

鰤大根並びデパート惣菜部

寄鍋といはずにブイヤベースとて

大吹雪してはお降りとも言へず

寶船敷くを忘れて見たる夢

大寒に入りしと胸に言うて聞かす

外に出て歩けと励まされて寒

寒となり度胸据りし烏とも

雛菊の中の私の好きな色

堅香子の花も俯き人を恋ふ

梅花祭

梅盛り上七軒の舞妓らに

何となくペンの動きも春めいて

新じゃがや新たまねぎや主婦たのし

桜湯に花は一つでよきものを

こどもの日ですよと娘から電話

象の背を何と思って蠅止る

痛さうに千切れてをりし蛇の衣

腰振ってゐる孑孒といふ字かな

見舞客篤とジャカランダの話

退院

ナースたち涼し口々おめでとう

ピストル型水鉄砲の殺戮度

起し絵のフラダンスとはよくもまあ

昨日から鰻を食べて土用丑

するすると伸びてまだ伸び揚花火

城自慢水を自慢の踊唄

天守閣にて聞いて来し秋の聲

白寿まで来て未だ鳴く亀に会はず


以上




by 575fudemakase | 2018-02-07 17:04 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

櫂未知子句集「カムイ」を読んで

櫂未知子句集「カムイ」を読んで

2017・6・30 ふらんす堂


共鳴句を挙げる


南風吹くカレーライスに海と陸

掛香や私雨(わたくしあめ)の脚見えて

夏空をちょっと高枝切り鋏

実家とはあをき蠅帳置くところ

一切の私物を置かず夏座敷

誰からも見えて蠅取リボンかな

働いてこの夕焼を賜りぬ

流木のふるさと知らず夜の秋

水道の水をたのしむ生身魂

流燈の華奢な柱をいたはりぬ

山廬

玄関のくろぐろとあり涼新た

露草のしいんと群れてをりにけり

影としてみな杳として吾亦紅

いちじくの火口を覗く夜なりけり

あをぞらの途中に烏瓜ふたつ

帰心とは水引草にかがむこと

湯ざめして耳の捉ふる夜の川

湯気立てて来世のやうに二人をり

車間距離取るごと年の瀬を歩む

えんぶりの首華やかに振ることよ

余寒とはずらりと蛇口並ぶこと

卒業や見とれてしまふほどの雨

壺焼の奥には雲のやうなもの

陽炎に投函したる手紙かな

はまぐりの殻に遠景らしきもの

桃咲いて戸車おとなしくなりぬ

抽象をきはめて鳥の巣の高き

遠足の子の十人に十の幹

葉桜やわが裡に棲む蝦夷と江戸

夕立や肌よりにほふ正露丸

高原のポスト小さし夏休

えぞにうやほっそりと立つ父の墓

晩婚といふ味はひの葛桜

箱庭に軍隊置いてある夕べ

村にまだ掟がすこし草清水

椅子置けば部屋となりけり遠花火

冷房車三十年はすぐ過ぎて

未生なる風のあれこれ夕端居

炎昼や箸にかからぬものが好き

おほぞらにあたためられて日向水

旅ながら家の話や一夜鮓

ハンカチを小さく使ふ人なりけり

言葉すぐ切り替へてゐる帰省かな

おとうとの遠さにも似て冬銀河

挨拶は雪を払ってからのこと

塩鮭の塩ぼったりと落ちにけり

雛市のくれなゐの中あゆみをり

ほどほどに忘れられたる種物屋

いっぽんの風となりたる鯉のぼり

夏料理水を食べたる心地せり

町会の花火のつくる夜なりけり

サイダーの風のごときを飲み干しぬ

風死して充電すべきものばかり

さまよへる湖に似てビアホール

風少し連れてくるらし撒水車

陶枕の山河に頭のせてをり

経験の多さうな白靴だこと

広島忌振るべき塩を探しをり

海を見ることより始め冬支度

イブノーシンセデスバファリン一葉忌

大空に根を張るつららだと思へ

みづうみの名前のやうな風邪薬

青空に用あるごとく出初式

啓蟄や今宵は刻むものばかり

華のあるものを食べたき彼岸かな

積夜具にもたるる心地して朧

春荒や封書は二十四グラム

本名に少し慣れたる遅日かな

惜春や汽水に生くるもの数へ

母乗せて樟脳舟の出でゆきぬ

一瞬にしてみな遺品雲の峰

風鈴を外し忌中となりにけり

水菓子とともに西日に耐へてをり

仮通夜や冷し中華に紅少し

立秋や意匠を凝らす霊柩車

喪服ぬぐ蝦夷には蝦夷の稲の花

ゆつくりとかなしむために吾亦紅

稲妻や箒に残る母の癖

姉に家われにななかまどを遺し

なほ母をうしなひつづけ霧ぶすま

小海線

押せばよし枯野へ開く釦あり

はつふゆの猫にうつすら静電気

風呂敷は布に還りて一葉忌

餅買って星の気配のする街へ

真悲しやかんじき用の足に生れ

石の貌つぶさに眺め冬の川

深呼吸して雪原を味はひぬ

探梅やかばんをもたぬ者同士

海荒れてこそのふるさと節分会


以上


聞く処によると、氏は戯作文学の研究の徒と云う。

小生も同様な趣向を持っているのでこころ易く感づる。










by 575fudemakase | 2018-01-15 13:41 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

続・佐々木敏光句集「富士山麓・晩年」を読んで

続・佐々木敏光句集「富士山麓・晩年」を読んで

2017・11・30 邑書林


ご恵送深謝。

氏の住まわれる朝霧高原には、かって濱の俳友が居り、一泊したこともあり、その生活ぶりも少しは察しがつく。富士に見守られながらの四時である。



以下に共鳴句を挙げる。


漆黒の闇の爆発大花火

名月やシテとして富士舞ひ始む

天高し不運それぞれさまざまに

月影や幼いぼくがついてくる

月の出やぐんぐんのぼるわが心

五合目

天高し富士裾野より射撃音

歳晩や鼻歌いつか第九へと

桃の花爺(じじい)稼業も佳境なり

初春の輝く海へ富士下る

七十歳に

胸熱く冬てふ生に入にけり

冬の庭春待つ我をのせてゐる

富士ひとつ月もひとつの良夜かな

とぼとぼとしつこく歩む秋の暮

完熟す我家をかこむ杉花粉

塞翁の馬駆けてゐる春の野辺

春の闇黒く輝く黒き星

釣瓶落し

充血の秋のまなこは落下せり

万緑の一角揺れて友来たる

鈴蘭の小さな鈴に耳澄ます

森の中に住む

窓開けて森林浴や風涼し

三光鳥三日鳴きしが去りにけり

青田原沖に孤島のごとく富士

妻悲鳴深夜の虫とり物語

視力検査輪つかの奥の秋の暮

山の子は滝の岩場を猿のごと

糞の主どの夏鳥か洗車する

天井に魑魅魍魎の夜長かな

文化の日歌ふ「ふるさと」名歌なり

霧の中赤いエッフェル歩くのか

鼻歌はいつかシャンソン オ.シャンゼリゼ

新橋(ポン・ヌフ)はパリで最古や秋の蝶

オルセー美術館

開館を並んでパリの秋の冷

凱旋門つるべ落しの光芒に

窓々にパリの生活空を月

モンマルトル墓地 ハイネ、スタンダールたちの墓

死者たちの王国散歩パリの秋

鉢巻雲まきて富士立つ運動会

運転をやめる日いつか鳥雲に

ひつぢ田であったはずなりメガソーラー

七十一歳

気がつけば妻子や孫やお正月

命とは妻や子や孫桜咲く

氷上をすべり歩きの鴨真顔

風邪の夜や魑魅魍魎の暴るまま

冬銀河見上げ待ちゐる救急車

大雪や庭のどこかにおとし穴

3・11 三周年

春の空富士本日も無言なり

秋の暮どうにかなるとただ思ふ

夜明け前最も暗し鉦叩

秋夕べ富士隣人のごとく立つ

泉よりラララ湧きいづ春の声

年賀状「青空」とだけ友若し

水澄むや鱒の鋭き目の光

光年やはるかなるものみな清し

秋天の大きな耳に聞かれゐる

春夕べ鐘つきたくて鐘をつく

藤棚に甘ゆる虻の飛翔かな

悪魔的便秘居座る雲の峰

巨大なる蛾ののぞきゐるよその家

犬吠えて牛は無心や秋牧場

万緑や心放てば蝶となり

市役所のたらひ回しや大西日

いたづらに吹く秋風や蜘蛛の尻

カルガモの一人あそびや紅葉谷

雲間より富士の見おろす祭かな

飛鳥大仏

顔(かんばせ)の傷に刻(とき)古る秋の暮

御仏の指の先へと秋日差し

我が庭の椅子登頂をめざす蛭

かまきりは泰然自若昼の地震

雉子諸君車は急に止まれない

陸橋や靄にうづもれ地方都市

牡丹雪天の小さな道化たち

風光る海賊船に子供群れ

かたかごの花へささやく小川かな

絶壁に春の眼(まなこ)がありて象

動物園うらの林や百千鳥

夏草や遺跡歩めば一古人

炎天やわれにも影のありにけり

頂上やふらここありぬ揺れてみる

カナブンをアブの吸ひ切る小半時

ひぐらしに耳の奥より鳴かれけり

富士山の尻のあたりに住みて夏

鵯たちは我が家のベリー賞味中

笠雲は富士を離れてUFOに

老夫婦 体調不安が続く妻へ

眠るまで妻の手をとる星月夜

晩年や前途洋洋大枯野

薪を割る老人あまた別荘地

六道の辻の落ち葉を振りかぶる

富士晴れて雪輝けりGOOD LUCK

老年や夢の中なる不眠症

富士宮 朝日小滝

初空に富士あり小さな滝元気

雪煙あげて富士立つ神さびて

裏の空き地

日向ぼこ終へてカモシカ森に消ゆ

富士宮 芝川水系発電所 小さいなりに滔々と

発電を終へても元気春の水

年老いた子供となりて春の野を

富士山に見おろされつつ納税す

岸辺騒(さう)春の鮒らの交尾かな

さくら散るしづかな音に出でにけり

I have a dream 花は三分の少年期

遠足の列とりあへず抜いてみる

雪月花最上の今は若葉かな

陸奥のさへづり浴びて目覚めたり

朝寒や囲炉裏にまんづ火をおこす

足湯して石和(いさわ)の春を満喫す

原節子地下隠遁の大暑かな

生き急ぐ声の充満朝の蝉

高原やストラデイバリウスひびく夏

沈黙の最後雄弁花吹雪

遠富士や気合でわたる大枯野


以上



by 575fudemakase | 2017-12-01 08:55 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

松田雄姿集 俳人協会

自注 現代俳句シリーズ

松田雄姿集 俳人協会

平成29年10月25日 発行


共鳴句


雛の夜の十二頭に三姉妹

肥後手毬母より届く子の数だけ

父の田の雲雀を長く仰ぎけり

田を植ゑて常陸の山の定まれり

殉職の終始を梅雨の土砂降りに

この職のはじめ浅草鰯雲

冬耕の父にて絶ゆる農の系

麦秋の千手遊べる御手のなく

望郷は埋火に似て夜の酒

次女奔放三女慎重雑煮餅

抱きし子の確かな重み春立てり

若き日の夏帽今も旅が好き

春荒れや独楽の如き子あづかれる

げんげ田に子を遊ばせて耕せり

サーファーの黒光りして眠りをり

大根干し風に力の付きにけり

極月の寺に飼はれし白孔雀

梟を敬ひ熊を祀りけり

庭の萩括りて百寿の柩出す

嫁がせて一人卯波を聞きに行く

蟷螂は火星の農夫かもしれぬ

鶴一陣着きたる日より日々の鶴

夏の果水は流るること切に

何もかも妻任せなり年用意

開戦日一年生が七十に

高空に富士ある暮し初幟

富士の水七日温め田を植うる

春の雪慶事の積り行くごとく

雉撃たれ首柔らかく置かれあり

大花火昔警備に明け暮れて

赤き花赤く映して水澄めり

春の雪真珠の育つ海に降る

秋潮や門司に来てゐる猿回し

鮎を釣る川幅ほどの竿振って

振り出しは雷門や初日射す

遠山の暮れてゆくなり冷奴

洗ひ髪人魚のやうに座りけり

忠敬の一歩ここより日脚伸ぶ


以上


by 575fudemakase | 2017-11-12 11:20 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

茨木和生 第十三句集 熊樫を読んで

茨木和生 第十三句集 熊樫を読んで


2016・5・11 東京四季出版


ご恵送深謝。

この句集で特筆すべき点は、句集上梓日がお孫さんの誕生日であること、

また 一年間かぎりの作品であることである。


以下に共鳴句を挙げる。


年よりも若いと言はれ初麗

東京にゐること忘れ忘初

竜の玉まこと尽くしてひかりけり

一灯が点けり寒暮の小漁港

杉山の高くまで竹雪催

泳ぐともなく寒鯉の流れ来る

寒鴉日向に着地して歩く

立春と酒呉るる人ありにけり

あるやもと崖見てをれば蕗の薹

薄氷の上を羽毛の走りけり

薄氷に太陽崩れゐたりけり

えかげんな時間大和の春ごとは

降り出して空がにぎやか春の雪

雉走り過ぐここからは口吉野

地続きにゐることたしか雉のこゑ

田に戻ることなき大地葦芽ぐむ

瓜蠅の駆除済みと書く苗木買ふ

多々羅跡歩きて蕨摘みにけり

頂きに行かずに春の山歩く

動き出すものも見えゐて蝌蚪の紐

溜池の稚金魚百万匹はゐる

飛んで逃ぐるよりも走りて雀の子

眼を外しをればまた来て雀の子

門川も稚鮎ののぼり来る頃ぞ

眠ること勤めの妻の朝寝かな

春の雲梯子外して運びゆく

杉菜入らしめず山畑育めり

禁煙をして旨きもの桜餅

山墓は里に移され山桜

竹荒れの山を仰げば山桜

尺物を御饌に揃へて桜鯛

大物は時には安値桜鯛

青空は雲に薄るる残花かな

柏手を朝日に打てり朴の花

朴の花谷音ときに空に抜け

鹿の子の日差に跳ねて出て来たり

蒸しゐたれども蛇の出てをらず

電車にも慣れをりここの行々子

梅雨茸毒といひても触るる人

人の手のぬくもり厭ふかたつむり

蝸牛桜の脂を舐めゐたり

鳥落しゆきたる空の蝸牛

梅雨の鳶吹き上げられてとどまれり

煙草臭きことも格別蝮捕

青嵐田水が畔を越すことも

城濠を駆け空に出ず夏燕

老鶯の真珠(またま)の声をころがせる

なんぼでも鳴き出す河鹿聴きをれば

魚呑むときのすばやさ山椒魚

火を見たることなき眼山椒魚

おいに限るよ半裂を呼ぶならば

夜店用金魚と雑に扱へり

漁船より飛び込みもして泳ぎをり

写経道場を涼風抜け来たり

言うてみるもの夏鹿の肉貰ふ

夏鹿の肉を校長より貰ふ

灯明を磐に絶やさず日の盛

空嘔吐せる犬がゐて草いきれ

斑鳩も平群も地蔵盆賑やか

糠味噌の機嫌もよくて秋の色

楤の花日照雨の見えて過ぎにけり

岡不作とは枝豆の粒にまで

丁子屋の煮付なにより江鮭

動きをらざれば氣付かず秋の蛇

峠まで歩いて来たる栗拾ひ

一村の墓が一寺に秋日和

狸かと思ふ猫ゐて狩の宿

日向ぼこわてら三つ子と婆笑ふ

着ぶくれの尻割り込んで来たりけり

短日や山の日差が空に去り

東京の木の葉の色も十二月

干魚に日差を届け冬の雲

列車来る時間に人来冬の暮



茨木さんは現下、最も充実している作家であろう。

松瀬青々全句集、右城暮石全句集等の業績も見逃せない。



by 575fudemakase | 2017-05-15 10:10 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

金子敦 第5句集「音符」 を読んで

金子敦 第5句集「音符」 を読んで


2017・5・5 ふらんす堂


第四句集「乗船券」をご恵送いただいたのは、2012年。

今回もご恵送いただき只々深謝。以下共鳴句を挙げさせていただく。


大いなる果実のやうな初日の出

春を待つとんとんとんと紙揃へ

太陽より大きく描かれチューリップ

春惜しむ画鋲を深く刺し直し

ハーモニカにあまたの窓や若葉風

凭れたる壁がべこんと海の家

菜箸は糸で繋がり星祭

盆踊果てて手足のただよへる

浴槽にあひるの浮かぶ良夜かな

恐竜を組み立ててゐる夜長かな

マネキンに涙描かれ冬の蝶

絵本より森立ち上がるクリスマス

春きざすメトロノームのアンダンテ

膨らんでより風船の揺れはじむ

春昼や時計の中へ戻る鳩

揚げパンに黄粉たっぷり麦の秋

本ひらくやうに牡丹の崩れけり

錠剤に割り線ありぬ走り梅雨

緑蔭に憩ふピエロの無表情

ボールペンの先端は球鳥渡る

水底の団栗はもう転がらず

強面が蜜柑の筋を取ってをり

極月やはちきれさうな小銭入

人日やバックしますと言ふ車

白墨のやうな灯台花菜風

路線図の色の交錯油照

自動ドア開いて虹の真正面

ひとすぢの涙の跡や昼寝の子

万緑や亀の子束子より雫

ビー玉の中の怒濤や鳥渡る

短日やぱたぱた畳むパイプ椅子

卒業や絵具のチューブ真つ平ら

ランナーの肘の直角風光る

ティンパニを叩けば風の光り出す

トロ箱のまだ濡れてゐる落花かな

ストローの蛇腹ぐいんと海開き

白桃のひとところまだ空の色

方眼紙にみづいろの罫小鳥来る

順番を待つ子のあくび運動会

薄氷に映ってゐたる遠き街

白餡の匂ひのしたる桃の花

籤引の紙の三角夏つばめ

水底に金魚の餌の辿り着く

ぐい飲みの底の渦巻遠花火

手花火の煙を浴びて少し老ゆ

靴べらのしなやかに反る良夜かな

長き夜やピラフ解凍して独り

吊し柿三列目まで日の当たる

鉄条網ひとつひとつの棘に雪


以上



by 575fudemakase | 2017-05-14 14:39 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

松田雄姿句集「歳月」を読んで

松田雄姿句集「歳月」を読んで

2017・2・20 ふらんす堂 第四句集

以下、共鳴句を挙げる。

抜刀隊駈けし山坂曼珠沙華
開戦日一年生が七十に
雪掻いて雪掻き道具並べ売る
流氷を見むと靴紐固く結ふ
山に鈴聞かせて秩父遍路去る
高空に富士ある暮し初幟
富士の水七日温め田を植うる
蟻走る富嶽を目指しゐるごとく
春の雪慶事の積りゆくごとく
春光や名を書いて船塗りあがる
雉撃たれ首やはらかく置かれあり
大花火昔警備に明け暮れて
赤き花赤く映して水澄めり
秋高し亀も飛びたくなってをり
白鳥来銀河を発ちて来しごとく
冬薔薇孤高の色を掲げたる
梅雨茸大地つぶやく如く生ふ
子鎌切風を掴みて飛び立てり
やんまの眼眼鏡を掛けて見たりけり
己が鵜を師として鵜匠五十年
芥掻き梁守の今日始まれり
河鹿鳴く水が余りに美しく
春の雪真珠の育つ海に降る
往き帰り見る猿の芸日の永し(浅草三社境内)
風鈴の音競はせて売りに来る
鮎を釣る川幅ほどの竿振って
振出しは雷門や初日射す(昭和二十八年浅草署へ)
初鵙や叱る勇気の湧いて来し
誤字脱字正すごと稲補植せり
遠山の暮れてゆくなり冷奴
虹を来て明日の予定告げてゆく
甚平や齢に従ひ又抗し
老いていよいよ煩悩具足着膨るる
氷面鏡他人のごとく老いてをり
千年の桜のオーラ浴びに行く
薔薇の芽にはや大輪の勢あり
半分は聞こえぬ会話夜の長し
銀杏散る楽しき明日があるやうに
絵馬に跳ね梅林へ飛び年の豆(湯島天神)
柿熟るる美濃も尾張もなく晴れて
猪鍋を囲み昭和の気概あり
八十路なほ冬芽のやうな夢育て
松の芯目指せるもののあるごとく
松原は海辺の名残り緑さす
草笛を吹き郷愁を呼び覚ます
玄奘の塔に里程図雲の峰
横綱碑見て初場所へ廻りけり
春の雪一幕ほどを舞ひて止む
青葉谿獣のごとく水勢ひ

集中、好みで言えば、次句あたりが最も好きである。

秋高し亀も飛びたくなってをり
遠山の暮れてゆくなり冷奴
松原は海辺の名残り緑さす
氷面鏡他人のごとく老いてをり

以上


by 575fudemakase | 2017-04-09 14:02 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

正木ゆう子句集「羽羽」を読んで

正木ゆう子句集「羽羽」を読んで

2016・9・23 春秋社 第五句集

以下、共鳴句を挙げる。

はなびらと吹き寄せられて雀の子
藤の花よりもはるかに桐の花
夏炉かな火があればみな火を見つめ
雨あがり芋の蔓さへ美しく
密やかに雲より出でず稲光
飛ぶ鳥の糞にも水輪春の湖
幹でなく茎でなく青芭蕉林
礼文
山裾を海に浸して明易し
一花のみ揺るるは蜂のとまりたる
降る雪のときをりは時遡り
雪片の速ければ影離れたり
焼芋を割れば奇岩の絶景あり
日向ぼこ瞑ればより明るくて
潺々とまたクレソンの頃となり
立春の輪ゴムを栞がはりとす
雁のこゑ足もとはもう真つ暗に
春の雷外輪山を踏みわたり
鮴の佃煮鮴のこちらは卵とぢ
まつすぐに来る螢火に道ゆづる
深ければ黒々と湧く泉かな
夜半の雨止みて啾啾虫の声
千年余撞き減りたるを除夜の鐘
本を読む手首に脈の見えて秋
ぢりぢりと石の隙より新蕎麦粉
あふちの実ならむおそらくあふちの実
冬泉湧き且つ流れ且つ奏で
春蝉の飛び移るさへ色あはし
違ひ棚とほき霞を引き寄せて
螢のみ待つふるさととなりにけり
唸り来る筋肉質の鬼やんま
安達が原ゆけば身につく草の種
こんな日はとにかく眠る鵯のこゑ
つかみたる雛(ひよこ)に芯のありて春
なんといふ高さを鷹の渡ること
渡りゆく鷹高ければ静かな空
この星のはらわたは鉄冬あたたか
いつもそこに坂道があり雪が降り

集中一句と言われれば、次句を揚げたい。

唸り来る筋肉質の鬼やんま

以上
by 575fudemakase | 2017-02-24 09:13 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

句集 はまなす を読んで

句集 はまなす を読んで
升田ヤス子 第一句集 文學の森 2016・2・24

共鳴句を挙げる。

のぼりきし鮭は藻の色石の色
頬被りすれば身に添ふ土地言葉
夕花野野馬一列に帰りゆく
春暁の一間隔てて母の経
受験子の朝を素直な返事かな
劇団の去りし楽屋に蠅取紙
子の眼涼し幾何証明を成し得たり
滝の前直立不動にて撮られ
母の汗ハンカチにあり逝きにけり
湯冷めして手抜きの家事のつけ払ふ
猫車立てて干しある田植足袋
納屋の戸に農覚え書耕せり
雛の夜の熱の子にその姉の添ふ
口々に留学の夢チェリー食ぶ
草刈の顔に飛びつく雨蛙
漫画本読みて夜長を笑ひづめ
ひらひらと念佛踊り葛の風
葉牡丹の畑に入りて眩暈せり
夜回りの農協前に勢揃ひ
受験子のおのれに怒る声に泣く
合格の数字踊ってゐるごとし
職探す娘に白シャツの糊効かす
葛湯吹き糢糊と夢見る子の未来
大学生首突っ込んで穴子丼
母の髪握りねまる子冬ぬくし
仏掌薯擂れば子の手の添ひにけり
牡丹鍋肉を乗せくる新聞紙
海上タクシー昼寝に舫ふ待合所
盆過ぎの棚の品薄作州鎌
錦絵の顔になりをり梯子乗
室の花咲かせマンハッタン住まひ(長男一家)
地芝居やさはりとなれば客も和し
踵より足抜くがコツ蓮根掘
いかなごに値札を置きぬ無言糶
川風に旗鳴らし売る囮鮎
割り箸を子も持ち鮴の塵取れり
青梅の臍を取りつつ子のことを
音びゅんと鳴らぬが不思議流れ星
冬蝶の紛れてゐたる御籤の木
雪掻の音を嗚咽と思ひけり
恋猫に他人やうな目で見らる
鯉のぼり大きな口の掲げらる
木曾馬の北を見てゐる緑雨かな
草の脈走るほうたる点るたび
川原湯や形ばかりの秋簾
芽柳に公園深くなりにけり
茅花の穂風がつまんでゆきにけり

集中、目を見張ったのは、たぶん長期に渡った「松手入」詠。
俳人誰しも長期にわたって、お気に入りの季語を詠いたいもの。
私の場合は、「まんさく」「山茱萸」「蝉」等である。

角刈の男前来て松手入
松手入れ大将亡くし弟子ばかり
手入れせし松にわが家の位負け
松手入れ新入り鋏落しけり

一言、
浜木綿の昨夜の花火の残像めく
「浜木綿の」は「浜木綿は」とハッキリさせるべきである。

以上
by 575fudemakase | 2016-05-05 11:07 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

句集 短夜を読んで

句集 短夜を読んで

大峯あきら著 第九句集 角川学芸出版 2014・9・25

共鳴句を挙げる

森澄雄氏を悼む
とめどなき夕蜩となってをり
大時化の来さうな種を採ってをり
磐石に音を消したる時雨かな
鴛鴦のはやも来てゐる茶々の里
九天に舞ひはじめたる落葉かな
本の中歩いて年が改まる
雪折の音いま止みし書院かな
赤椿はね上りたる雪解かな
鳥帰り一川の折れ曲りたる
永き日の大日寺といふがあり
凹みたるところに家や春の山
みな低き宇陀の山なり小鳥引く
門川に連翹映りあまりたる
みなつきや声を惜しまぬ山鴉
朝風の通り道なる蓮かな
板廂涼風どどと至りけり
浦浦に入江入江に盆来る
心持ち夕べが早し花茗荷
島かげに芋の大露こぼれつぐ
朝風は芙蓉の白にありあまる
上弦の月下に麦を蒔き終る
冬麗や鴉一つもゐなくなり
行く年の連山にとり巻かれをり
初日出てすこし止りて上るなり
残月の伊吹のそばを帰る雁
一休寺までは春田の中を行く
蝶飛んで土塀破れに破れたる
午からは日のあふれたる彼岸かな
いつまでも花のうしろにある日かな
物音のなくなりたれば花月夜
大いなる暈着て日あり花御堂
春の日のをりをり揺るるかと思ふ
春暁や屋敷の中の一畠
春逝くと南都の雨の降りつのる
苗代やまだまだ太る屋敷松
遠山の映つてゐたる植田かな
奥宇陀の一本杉の鴉の子
麦熟れて太平洋の鳴りわたる
昼の月いつしか合歓の花のそば
鴉の子中仙道を歩きをり
一つ葉の夕暮のまだつづきをり
秋声のしきりなる日の書庫にをり
秋の日の行手さへぎるものもなし
奥座敷より暮れかかり蘭の秋
秋風は太平洋の上を吹く
松手入済みてすつかり暮れてゐる
行く雲の丸や四角や大根蒔く
松虫は明る過ぎたる月に鳴く
秋風やいくたび曲る吉野川
横雲のゆつくり通る良夜かな
大寺をとり巻く秋の草となる
山茶花にまだまだ細る雨と思ふ
玄海の紺こよなくて大根干す
亀鳴くや天気ふたたび下り坂
木蓮にまた来る夜のとばりかな
灌仏の雨は明るくなるばかり
筒鳥が鳴くとかたへの人も云ふ
天狗岩天狗杉あり夏来る
子鴉のよく鳴く宇陀に来てゐたり
青梅の中来て君を訪ひにけり
消えがての昼の月あり青嵐
梅干してまだまだ伸びる雲の先
涼風を吹き分ちをる柱かな
ここからは青田に映る下校かな
今しがた雹の過ぎたる南部領
城門のごとき山門秋の風
色鳥に伊勢のうしほの先が飛ぶ
浅井領鶫しきりに渡りけり
ひとり居る時の時雨のよく聞こゆ
朴落葉はじまる山の日和かな
元日の山を見てゐる机かな
一つ行く白雲はやし初御空
元日の日向となりて人来る
雪山の十重二十重なる春隣
雪折の音の絶えたる夜中かな
大風にさからひて摘む蓬かな
大根の花に濃くなる霞かな
何鳥か緋桃に来ては威丈高
穴を出し蛇に噴煙折れ曲り
はくれんの天辺に来て日は止まる
心持ち曇るとおもふ蝶の昼
右にまた近づき来たる大桜
花どきの薪棚へ薪取りにゆく
鳥の巣のつまびらかなる大樹かな
竹秋やゆきとどきたる拭き掃除
山高く谷深くして種下し
すかんぽに大きくなりて入る日かな
筍を掘りかけてある裏の庭
瀧風といふものいつも吹いてをり
梅落とす声のしばらくしてゐたり
時鳥鳴き移りゆく雨の中
時鳥本を探してをれば鳴く
筒鳥はいちばん遠い声で鳴く

俳人を称して云うに、「かな」止めの人とか 「けり」止めの妙手とか云うが、
氏の場合は、「たる」止めの達人と渾名したい。景を踏まえて悠然と詠う。
「たる」止めの人の為しうるところであろう。
又 最小限の言葉をもって句を成立せしめているところも我々、後進の学ぶべきところ
である。


以上
by 575fudemakase | 2016-04-28 10:24 | 句集評など | Trackback | Comments(0)


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


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《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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