カテゴリ:句集評など( 95 )

永田和宏歌集「午後の庭」を読んで

永田和宏歌集「午後の庭」を読んで

第13歌集 2017・12・24 発行 角川書店


以下共鳴句を挙げる。

尚、歌集前半は妻河野裕子を失つて、まだ一年も経たない時期の作と「あとがき」にある。


引きとめる念(おも)ひも力も弱すぎて君を失ひ夏を失ふ

よく生きたよくやったよと告げたきにこの世の夏がまた巡りくる

最終歌集「蝉声」のために

君が残せし言葉を拾ふために来る淳が来て紅(こう)が来てこの夜の卓

あなたとふ君とふ言葉に立ちどまり立ちどまり進まぬ夜の校正

買ってやる誰もなけれど空港の宝石売り場をぶらりぶらりと

コスモスの揺れの間に間に見えてゐし日本手拭があなたであった

いっせいに四人がわれに跳びついてはじき出されし三番目が泣く

さらさらと欅落ち葉す無遠慮な柿の落ち葉の音もまじへて

晩年とふを持たざりし君の悔しさを誰かがわかってゐてはやらねば

遺し逝くはうの辛さをまた思ふ わが母の場合妻の場合

子も猫も吾もまとめて鼻を撫できみが親指の元気だった頃

トムが死にあなたのあとにムーが死にきほんとにあなたの望みどほりに

おかへりと言うてもくれぬ門口の桜の枝をくぐりて入りぬ

喪の家となりたるゆゑに山ざくら淳が植ゑたり庭の斜りに

喪の家にもしもなつたら山桜庭の斜(なだ)りの日向に植ゑて 河野裕子

金輪際ともに見ることもうあらぬ桜たとへば高遠の桜

間の抜けた鯉の扇子は君が購ひ無くさないでねと念を押したり

けふは三度も大声出して笑ったと懺悔のごとく風呂に思へる

もっともっと疲れて今はゐるのだがかはいさうねえと言ふ人もなし

この冬はタオルを巻いて湯湯婆を君に運ぶといふことなかりき

夫とふ居場所はどこにももうなくてテーブルの角に陽が差してゐる

語るたび少しづつ君がずれてゆく ま、いいか 夏至の日の立葵

亀だってときには腹を干したからう裏がへる亀を見しことなけれど

2010年早春 室生寺 四首

わづかなる傾斜に君が苦しみし宇陀室生寺に風寒き頃

帰ったぞ、飯だ飯だと飼ひ猫になりたるばかりの野良猫(のら)が騒ぐなり

コラーゲンを飲んでもなんにもなりません そこだけ受けて終はる講演

君がため淳が買ひ来てわれら植ゑし山桜なり鹿に喰はれき

もうお帰りと言ふのは誰か夕翳りする水の面に鳥を浮かべて

そして一年

一周忌と人に言はれてはあそんなものかと思ふどうでもよけれど

倖だったと思へるきみとわれがゐてそれがやっぱり倖だった

もうあれは去年のことかきみに降りわれらに降りし蝉声の夏

仏さんなんかにならんでよろしと言ってゐる きみの口調がそのまま私

夏草を草かまきりが渡るなり風に吹かれてそよぐかまきり

ああさうだと振り向き物言ふコロンボの追ひ詰め方は嫌ひだったな

口あけて眠れるのみとなりしかばもういいよもうと子は願ふなり

あなたとふやさしき言葉に呼ばれゐしあの頃あなたはわたしであった

相槌を打ちくるる人のなき部屋が隅よりがらんと夕暮るるなり

丸二日帰らぬ猫がゐるゆゑに娘もわれも剣呑になる

竹箒のはっしはっしと小気味よき音庭になし冬の陽が差す

歌のなかにきみが遺せし言葉なれば火(ほ)めくありそして囁(ささや)けるあり

くすくすと笑ってゐるのは誰だらう紅葉の山にくすくすくすくす

モンゴル力士の本名みんな諳(そら)んじてつくづく変なり高野公彦

語るたび美化されて死者は遠ざかるええいままよと校正もせず

ひょっとしてあなたなのかと思ふまでこの白黒の猫のわがまま

いつ行ってもこのごろ櫂(かい)は留守がちで末のふたりが飛びついてくる

さりげなく野の花があったあの頃のコップにゑのころの穂が三、四本

半ズボンが窮屈さうで大きくてハンプティダンプティのやうなどんぐり

喧嘩ばかりするなするなら勝って来いと息子に言はざりしを猫に言ひ聞かす

こんなふうに死んでゐるのが発見されやっぱりねえと人ら言ふらむ

嫌ってゐたのは鉄腕アトムの正義感 十万馬力といふ嘘くささ

とりあへず悪役にこそ味がありグリコに力があったあの頃

音声認識はフーリエ変換とこともなげに言へる甥なりグーグル社員

ベランダに蝉の三つ四つ転がれるゆふべ消し忘れたる灯りのせゐで

たったこれだけの家族ときみが詠ひしは寒谷峠(さむたにたうげ)この尾根の道

たったこれだけの家族であるよ子を二人あひだにおきて山道のぼる 河野裕子「はやりを」

こんなにも気配はそばにあるものを一度くらゐ返事をしてみろよ おい

独居老人に分類されてわれに来る区役所よりの巡回通知

あっ、攣(つ)ると思へばすなわち足が攣る呻きつつはかなき朝がはじまる

失礼な奴と思へるヤツ増えてすなはち我の老いのはじめか

家猫となりしばかりに縄張りを持ちて闘ふがんばれがんばれ

あの時のきみの笑ひは何なりしのけぞりてまたわが胸を打ちて

きみのゐた頃よりいまのぬかづけの味がいいぜと告げたきものを

またやった 腐れし梨はぼよぼよとなりたるのちに我に見つかりぬ

峰をわたり峰を越えゆく送電線のはるかなたわみのやうにさびしい

水馬(あめんぼ)が水を押すとき水にある硬さ弾力踏みごたへなど

「そうだ 京都、行こう」って思へるまでに秋晴れわたる

あしのねの短かかる世と嘆くまじそのおほよそをともにありしを

低きより光はおよぶ低きより己れ見るべし新しき年

あからひく朝の光はおづおづと比叡の肩よりさし出づるかな

かりそめの生と思はばかりそめの生の半ばに遭ひて別れぬ

拾ってきた栗でと恐縮するありてそれを喜びわれらいただく

留学生チューさんこの頃寡黙にて尖閣のことに触れてはならず

きみがしてゐたやうに折りきて挿してをく狗尾草(ゑのころ)の二、三本がほどコップの中

クリックをするたびダビデは拡大され左右の睾丸大きさが違ふ

苺には練乳かけて食ふものと疑はざりき昭和の子らは

阿保やなあほんまに阿保やと撫でられてあはうな猫になりゆけるかも

朝ごとにわが屋根に来て足踏みをするゆゑ餌をやらねばならぬ

烏に餌をやってゐることご近所に言ってはいけない知られてもいけない

死に続く眠りといふを思ひをりだあれも起こしてくれない眠り

泣いてゐるのは今の私 若き日のきみを泣かせてをりたるをとこ

そのをとこ若くて熱くて性急でそれより熱きをんなに逢へり

泣くひとをけふは見たりき声あげてただ泣くためにだけ泣くひとを

このあたりの者にござると春の土を盛りあげ土竜はまっすぐに行く

さびしいよ どんなに待ってももう二度と会へないところがこの世だなんて

ペニスなべて削りとられしまま並ぶ古きパティオのローマの戦士

いつのまに死んでゐたのか雌日芝の穂が眼交ひに揺れてゐるまに

名前はわたしがつけるときっと言ふだらうメヒシバの穂をさやさやさせて

蝸牛(まひまひ)の進化したるが蛞蝓(なめくぢ)と言はれて何かが納得しない

蝸牛に肺があるなんて知ってたか舌だってあるしペニスだってあるんだ

尻尾にも網目はありて夕暮れの網目キリンは網目のなかに

ほんたうに怒ってゐるのだ情けなくて怒るとふこと君にわかるか

大陸の風の強さが引き絞るこの弓なりの秋津洲日本

ヒンズースクワットけふ三◯回よしよしと湯舟に入れば湯のあふれたり

眠ってもいいけど凭れてこないでねお相撲さんが私の横に

この家に灯をともすにんげんはおまへだけさねと猫はねむれる

仰向けによろこぶ猫の無防備がうれしくて撫で丸めては撫づ

わたしよりわたしを知ってをりしひと亡くてわたしは死ぬとき知らず

猫が鳴けばさらに大きく泣く幼な きみの最初の敵かこの猫

赤飯を炊いた食ふかと聞いてくるぶっきらぼうは電話の向かう

開かない抽斗が少しづつ増えてゆく晩年といふ日だまりのなか

ほめかたがだいぶあなたに似てきたよ 紅(こう)のことだよ 泣けてしまふよ

10000メートルの気圧を処分できなくてわたしの耳が戻ってこない

まっすぐでかつ人間ができてないあなたの批判いまもときをり

チューリップはいいわねお尻がかはいくて、なんて言ってたはずのあなたが

ぱたぱたとタオルを振って干すときにあなたがゐない此の世と思ふ

それがなぜあなただったか夕暮れの火に火を足してまた思ひをり

いまの私を見てゐてほしいと思ふ人みんなゐなくて菜の花畑

ホバリングしてゐる蜂はくまんばちそれ以上来るな近づくなってば

この頃やけに長くなりたる眉を切るあの頃の村山富市好きだったなあ

タンポポもナズナも咲いてとんとんと地球と逆に私は歩く

先生と言ふに抵抗がなくなりて「先生、やっと」と呟いてゐる

君の知らぬ君を知らざる若きらにあのときはねえとまた言ってゐる

よくやったとほんとに思ふわたくしを出さず抑へて来し三〇年

学生時代よりともに来たりしひとりにて 一緒に飲まうぜ花山多佳子

あなたならきっと褒めてくれただらう こんなにわたしは磨り減ってゐる

ゐてほしいとおもふのはもうゐないとき 鍵をまはして戸を開けるなり


以上













by 575fudemakase | 2018-04-02 18:59 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

駒木根淳子句集「夜の森」を読んで

駒木根淳子句集「夜の森」を読んで

2016・11・25 角川書店 第2句集


以下、多くなるが共鳴句を挙げる。


遠足児邪馬台国を駈けまはる

断層の上にはばたく桜かな

ジーンズの裾の重たき濃あぢさゐ

遠郭公気を付けのまま寝袋に

直登の蜈蚣総身弾みだす

巨き荷とベンチに睡る冬帽子

老優のごとき横顔冬の蠅

海けふは陸よりしづか龍の玉

寝足りたる手足のごとき新樹かな

馬鈴薯の花あはあはとふつふつと

青梅雨や卵を宿す魚煮て

中学生胸筋ひかるまで泳ぐ

滴りの膨らんでくるうすみどり

しばらくは夕日をこらへ滴れり

打水の宙をよぎりしもの濡らす

赤のまま図面ひろげしまま歩く

新さんま傷つきやすき蒼さもて

夕鵙に抜いては燃やす畑のもの

樹樹たかく空なほたかく冬が来る

完結の龍太全集冬の鵙

雪霏霏と神代の暗れを伴なへる

荒梅雨や書庫の脚立にをればなほ

滑落の一瞬蛇の伸びきって

蟻群れて骸のそりと動き出す

地面まで雨届かざり鶏頭花

蛸の脚一本欠くる残暑かな

付添ひの寝床のかたし後の月

トロ箱の水あかく透く冬はじめ

買物の父のまごつく日短

探梅やすずめのやうに日を浴びて

若布漁近し薪を浜に積み

耕人の風を聴きをる背中かな

さくらさくら丹田使ふ登り坂

春の蠅天神裏に魚干せば

ヘルペスの母に居座る残暑かな

芋畑もっとも昼の虫鳴けり

乾きもの戸棚にさがす十三夜

囀やペットボトルの茶に馴染み

のっそりと猫の横切る扇風機

茄子の花寡黙な男なら信ず

きんぴら太し下野の初時雨

冬眠の蛇の薄目になる日差し

鮟鱇の口の向うの怒濤音

涅槃図へみしみし人の近づける

春耕のけむりなやうなもの蒔けり

首抱かれ馬のしづまる朝桜

遠足の終り兎の餌を摘む

底抜けの青空鐘馗幟立つ

翡翠の水裂くやうに飛び去れり

道をしへ虹色に跳び誕生日

江ノ電も橋も傾け神輿来る

ご赦免花つぎの船まで一時間

十三夜電話は来ても来なくても

掛大根潮騒に痩せ月に痩せ

脇腹にみどりひと刷き枯蟷螂

研ぎかけの出刃に指あて暮早し

寒釣のどのポケットもふくらめる

ぬかるみはひかりを集め冬雀

燕来るセピアづくしの写真館

そら豆をつまむ還暦まで二年

ポケットの深くて秋の更衣

流鏑馬のための盛り砂紅葉晴

枯露柿のとろりと雪になる雲か

天上に父の豆撒く声あらむ

遺されて春の小川をうたふ母

陽炎へりヨー素セシウムγ線

見る人もなき夜の森のさくらかな

傾がざる電柱はどれ夏つばめ

土足にて生家を歩く日雷

家毀つ順番来たり雲の峰

弟が父の数珠持ち盂蘭盆会

冬ざるる撮らる全員防護服

石蕗咲いて出船許されざる漁港

牛の仔の涙痕黒き冬日向

梅ふふむ土竜の土の新しく

有楽町さくらまつり

被曝櫻被災地櫻ここに咲き

竹皮を脱ぎてあっさり再稼働

子育ての翡翠の頭の禿げてゐし

すててこを穿き炭鉱の生き字引

新盆の闇じゃんがらは死者を招び

母は手を握れば寝落つつづれさせ

ぼた山のいつか草山葛嵐

稲刈のおほき太陽賜りぬ

虫喰ひの穴にあをぞら柿紅葉

仮設住居三百といふ冬景色

梅咲いてもめん豆腐を好む夫

的中の矢音みじかし山桜

鎌倉五山花御堂より花御堂

豆ごはん夫の職退く日の近し

被曝野と呼ばれやませの吹き荒ぶ

海原に祈る濃き虹また祈る

またたかぬ眼もてくちなは泳ぎけり

炎昼のけりをつけねばならぬこと

和菓子屋に母似の背中秋彼岸

初雪となるはずの雨肩濡らす

独楽よりも紐の汚れてをる日暮

鳥帰る余震一万六千回

個室より母と見てをる遠桜

沖を見るまなざしに似て桐の花

キャンパスに英語北京語四十雀

ビル裏を運河に晒す帰燕かな

テトロンの日の丸うすし鳥帰る

ふらここを一途に鳥になりたき日

もう誰もここには来ない山桜

竹皮を脱ぎ長雨の崖背負ふ

ひまはりの話しかけたくなる高さ

まくなぎを抜けそこなひし眉ふたつ

在りし日は

上京の母のうすものまぶしめり

すでに日のたかだかとあり銭葵

花木槿母に昨日も今日もなく

夕蜩ひと様に母ゆだねをる

切株といふ秋風を待つところ

初雪が来る給食の鯨カツ

黙禱の一分の闇春怒濤

芽吹山首長竜の骨埋み

切株にひとりの時間蝶の昼

この先は奔流ならむ飛花落花

巣つばめに空より鴉地より蛇


以上



by 575fudemakase | 2018-03-11 11:41 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

後藤比奈夫句集「白寿」を読んで

後藤比奈夫句集「白寿」を読んで

2016.1・8 ふらんす堂


九十九のお方の無手勝流は、ぐぐっと押して来る処をええいと呑み込むしか方法は無い。

共鳴する句数の多寡なんて言ってられない。


葉牡丹の白蛇浄らか花時計

大方が長生せよといふ賀状

寒禽にして囀るといふことも

御簾の内見えぬ源氏絵屏風かな

満作の咲いた咲いたと咲くことよ

恵方巻齎し豆も巻き呉れし

クリスマスローズそんなに俯くな

どう退治せむこの大き蓬餅

春聯の如意吉祥は昔より

白梅の蘂がこんなに紅いとは

ファッションといふ春寒きものを見る

祭来るとてヒマラヤの着道楽

文旦を剥くに千人力を出す

写真にて見参桜島大根

胞飛んでしまひてやるせなき土筆

菜の花を籬仕立にしてみたる

まだ踊り馴れぬ踊子草の群

踊らずに喉を越したる白魚も

下車もせず花のトンネル通り抜け

能代には女ベラボウ舌出す凧

金輪際鳴かぬと亀の擡げし首

残りゐて早く散りたき花ばかり

花もはや花見団子の色淡く

花を鎮めともなく雨の降り出でし

久安寺にて踊りゐし踊子草

残花てふことの郁李にもありし

赤すぎる鯛釣草の釣りし鯛

母子草御形といへば位あり

花びらは掃かず掃きゐる桜しべ

見付けたる洗鱸といへる季語

ほんたうに笑ってをりし壬生の面

しっかりと都忘は都色

夜が来れば朝が来るなり青葉木莵

六甲山にもそれなりの登山地図

浪立つるためには群れて咲いてこそ

梅雨に入る箱根卯木の咲く日より

遍羅(べら)といふ漢字のありしこと気付く

釈迦の鼻くそとえんまの目こぼしと

樽酒の樽の涼しき吉野杉

炎天へ火の気立ちゐる煙の木

泡盛のせゐか熱中症なるか

素戔嗚尊ねぶたになり給ふ

落蝉になく空蝉に命見ゆ

集団でしてゐる主張吾亦紅

紅白の鼻緒で亡者踊とは

踊まだ端縫着らるる年ならず

下草として藪蘭の悪びれず

平凡がよしと紫苑の咲きにけり

秋田美人彦三頭巾を垂れ踊る

三方の由々しき月見団子かな

夕月のかかるに間ある芒かな

にごり酒にも盃の柿右衛門

案外にさらりと酔ひてにごり酒

水澄みて鯉純金になりたがる

管物といひて神経質な菊

老爺柿ながらにいまが青年期

背山よりいつもの声の初鴉

乗初は子の押しくるる車椅子

誰にでも道をゆづりて老の春

破れても裂けても聢と朴落葉

野葡萄にあらざりへくそかづらの実

何の落葉か染みだらけ傷だらけ

聖夜にも打つ寒柝のありしこと

聖夜の子たちに回転木馬の楽

花むしろ父の座よりも倅の座

初絵馬として宮島の福杓文字

破魔矢まで清盛好み厳島

くわつと目を開き湯沢のまなぐ凧

小町の絵らし寒紅の貝の蓋

寒中も歩くプールに来て歩く

アネモネの好きな彼女を思い出す

春は春色手作りの毛鉤まで

梵天のための藁沓それを土産

丸顔の雛を見過ぎてしまひたる

水落ちてゐても鳴る気のなき僧都

のれそれはのれそれなりによき黒目

神戸港眺めの丘の碇草

三味線もなくてこの草撥ばかり

春落葉厩まはりが好きで積る

栴檀の双葉如何と尋ね来し

生えてゐるやうに竹の子立ててあり

黄心樹(おがたま)の花には神のいますかに

九(ここの)巻または十(と)巻に粽の緒

老舗の名六萬石のかしは餅

芯蒸しといひ深蒸しといひ新茶

ざくざくといふほど生けし小判草

伽羅蕗の甘口仕立よかりけり

これがその神田の生れよてふ祭

たこどない穴子どないと魚の棚(うおんたな)

なめくぢを取るになめくじいらっしゃい

黴びることなかり東郷青児の裸婦

いかがでしたかと問はれし心太

生涯に読み切れざりし書も曝す

親鹿とちがふ子鹿の見てゐるもの

象涼し鼻で物言ひ尾で返事

耳馴れし金比羅船々うちはにも

柚子坊といはれ芋虫仕合せな

如何な衣脱ぐや八岐大蛇なら

竹節虫はナナフシなりに涼しげに

文字摺の花が次第に渇筆に

やけくそにならねば跳人にはなれず

向日葵の黄のこれでもかこれでもか

盆石に鮎の遡上といふ景色

涼しいといふことをはき違へたる

土用灸近しとばかり灸花

風鈴の四万六千日と鳴る

たまに立つ土用と思ふ波頭

あゆ菓子の求肥さすがに祇園流

型録の鰻重大き鰻の日

美しや亡者履きゐる踊足袋

のぞかるるおわら踊の笠の内

白絹を着せてやりたき衣被

猪垣にある人間の出入口

かと言ひて抱負もなくて老の春

抱へられ跨ぐ湯槽や初湯殿

初暦めくれば兎弓を引く

鰤大根並びデパート惣菜部

寄鍋といはずにブイヤベースとて

大吹雪してはお降りとも言へず

寶船敷くを忘れて見たる夢

大寒に入りしと胸に言うて聞かす

外に出て歩けと励まされて寒

寒となり度胸据りし烏とも

雛菊の中の私の好きな色

堅香子の花も俯き人を恋ふ

梅花祭

梅盛り上七軒の舞妓らに

何となくペンの動きも春めいて

新じゃがや新たまねぎや主婦たのし

桜湯に花は一つでよきものを

こどもの日ですよと娘から電話

象の背を何と思って蠅止る

痛さうに千切れてをりし蛇の衣

腰振ってゐる孑孒といふ字かな

見舞客篤とジャカランダの話

退院

ナースたち涼し口々おめでとう

ピストル型水鉄砲の殺戮度

起し絵のフラダンスとはよくもまあ

昨日から鰻を食べて土用丑

するすると伸びてまだ伸び揚花火

城自慢水を自慢の踊唄

天守閣にて聞いて来し秋の聲

白寿まで来て未だ鳴く亀に会はず


以上




by 575fudemakase | 2018-02-07 17:04 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

櫂未知子句集「カムイ」を読んで

櫂未知子句集「カムイ」を読んで

2017・6・30 ふらんす堂


共鳴句を挙げる


南風吹くカレーライスに海と陸

掛香や私雨(わたくしあめ)の脚見えて

夏空をちょっと高枝切り鋏

実家とはあをき蠅帳置くところ

一切の私物を置かず夏座敷

誰からも見えて蠅取リボンかな

働いてこの夕焼を賜りぬ

流木のふるさと知らず夜の秋

水道の水をたのしむ生身魂

流燈の華奢な柱をいたはりぬ

山廬

玄関のくろぐろとあり涼新た

露草のしいんと群れてをりにけり

影としてみな杳として吾亦紅

いちじくの火口を覗く夜なりけり

あをぞらの途中に烏瓜ふたつ

帰心とは水引草にかがむこと

湯ざめして耳の捉ふる夜の川

湯気立てて来世のやうに二人をり

車間距離取るごと年の瀬を歩む

えんぶりの首華やかに振ることよ

余寒とはずらりと蛇口並ぶこと

卒業や見とれてしまふほどの雨

壺焼の奥には雲のやうなもの

陽炎に投函したる手紙かな

はまぐりの殻に遠景らしきもの

桃咲いて戸車おとなしくなりぬ

抽象をきはめて鳥の巣の高き

遠足の子の十人に十の幹

葉桜やわが裡に棲む蝦夷と江戸

夕立や肌よりにほふ正露丸

高原のポスト小さし夏休

えぞにうやほっそりと立つ父の墓

晩婚といふ味はひの葛桜

箱庭に軍隊置いてある夕べ

村にまだ掟がすこし草清水

椅子置けば部屋となりけり遠花火

冷房車三十年はすぐ過ぎて

未生なる風のあれこれ夕端居

炎昼や箸にかからぬものが好き

おほぞらにあたためられて日向水

旅ながら家の話や一夜鮓

ハンカチを小さく使ふ人なりけり

言葉すぐ切り替へてゐる帰省かな

おとうとの遠さにも似て冬銀河

挨拶は雪を払ってからのこと

塩鮭の塩ぼったりと落ちにけり

雛市のくれなゐの中あゆみをり

ほどほどに忘れられたる種物屋

いっぽんの風となりたる鯉のぼり

夏料理水を食べたる心地せり

町会の花火のつくる夜なりけり

サイダーの風のごときを飲み干しぬ

風死して充電すべきものばかり

さまよへる湖に似てビアホール

風少し連れてくるらし撒水車

陶枕の山河に頭のせてをり

経験の多さうな白靴だこと

広島忌振るべき塩を探しをり

海を見ることより始め冬支度

イブノーシンセデスバファリン一葉忌

大空に根を張るつららだと思へ

みづうみの名前のやうな風邪薬

青空に用あるごとく出初式

啓蟄や今宵は刻むものばかり

華のあるものを食べたき彼岸かな

積夜具にもたるる心地して朧

春荒や封書は二十四グラム

本名に少し慣れたる遅日かな

惜春や汽水に生くるもの数へ

母乗せて樟脳舟の出でゆきぬ

一瞬にしてみな遺品雲の峰

風鈴を外し忌中となりにけり

水菓子とともに西日に耐へてをり

仮通夜や冷し中華に紅少し

立秋や意匠を凝らす霊柩車

喪服ぬぐ蝦夷には蝦夷の稲の花

ゆつくりとかなしむために吾亦紅

稲妻や箒に残る母の癖

姉に家われにななかまどを遺し

なほ母をうしなひつづけ霧ぶすま

小海線

押せばよし枯野へ開く釦あり

はつふゆの猫にうつすら静電気

風呂敷は布に還りて一葉忌

餅買って星の気配のする街へ

真悲しやかんじき用の足に生れ

石の貌つぶさに眺め冬の川

深呼吸して雪原を味はひぬ

探梅やかばんをもたぬ者同士

海荒れてこそのふるさと節分会


以上


聞く処によると、氏は戯作文学の研究の徒と云う。

小生も同様な趣向を持っているのでこころ易く感づる。










by 575fudemakase | 2018-01-15 13:41 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

続・佐々木敏光句集「富士山麓・晩年」を読んで

続・佐々木敏光句集「富士山麓・晩年」を読んで

2017・11・30 邑書林


ご恵送深謝。

氏の住まわれる朝霧高原には、かって濱の俳友が居り、一泊したこともあり、その生活ぶりも少しは察しがつく。富士に見守られながらの四時である。



以下に共鳴句を挙げる。


漆黒の闇の爆発大花火

名月やシテとして富士舞ひ始む

天高し不運それぞれさまざまに

月影や幼いぼくがついてくる

月の出やぐんぐんのぼるわが心

五合目

天高し富士裾野より射撃音

歳晩や鼻歌いつか第九へと

桃の花爺(じじい)稼業も佳境なり

初春の輝く海へ富士下る

七十歳に

胸熱く冬てふ生に入にけり

冬の庭春待つ我をのせてゐる

富士ひとつ月もひとつの良夜かな

とぼとぼとしつこく歩む秋の暮

完熟す我家をかこむ杉花粉

塞翁の馬駆けてゐる春の野辺

春の闇黒く輝く黒き星

釣瓶落し

充血の秋のまなこは落下せり

万緑の一角揺れて友来たる

鈴蘭の小さな鈴に耳澄ます

森の中に住む

窓開けて森林浴や風涼し

三光鳥三日鳴きしが去りにけり

青田原沖に孤島のごとく富士

妻悲鳴深夜の虫とり物語

視力検査輪つかの奥の秋の暮

山の子は滝の岩場を猿のごと

糞の主どの夏鳥か洗車する

天井に魑魅魍魎の夜長かな

文化の日歌ふ「ふるさと」名歌なり

霧の中赤いエッフェル歩くのか

鼻歌はいつかシャンソン オ.シャンゼリゼ

新橋(ポン・ヌフ)はパリで最古や秋の蝶

オルセー美術館

開館を並んでパリの秋の冷

凱旋門つるべ落しの光芒に

窓々にパリの生活空を月

モンマルトル墓地 ハイネ、スタンダールたちの墓

死者たちの王国散歩パリの秋

鉢巻雲まきて富士立つ運動会

運転をやめる日いつか鳥雲に

ひつぢ田であったはずなりメガソーラー

七十一歳

気がつけば妻子や孫やお正月

命とは妻や子や孫桜咲く

氷上をすべり歩きの鴨真顔

風邪の夜や魑魅魍魎の暴るまま

冬銀河見上げ待ちゐる救急車

大雪や庭のどこかにおとし穴

3・11 三周年

春の空富士本日も無言なり

秋の暮どうにかなるとただ思ふ

夜明け前最も暗し鉦叩

秋夕べ富士隣人のごとく立つ

泉よりラララ湧きいづ春の声

年賀状「青空」とだけ友若し

水澄むや鱒の鋭き目の光

光年やはるかなるものみな清し

秋天の大きな耳に聞かれゐる

春夕べ鐘つきたくて鐘をつく

藤棚に甘ゆる虻の飛翔かな

悪魔的便秘居座る雲の峰

巨大なる蛾ののぞきゐるよその家

犬吠えて牛は無心や秋牧場

万緑や心放てば蝶となり

市役所のたらひ回しや大西日

いたづらに吹く秋風や蜘蛛の尻

カルガモの一人あそびや紅葉谷

雲間より富士の見おろす祭かな

飛鳥大仏

顔(かんばせ)の傷に刻(とき)古る秋の暮

御仏の指の先へと秋日差し

我が庭の椅子登頂をめざす蛭

かまきりは泰然自若昼の地震

雉子諸君車は急に止まれない

陸橋や靄にうづもれ地方都市

牡丹雪天の小さな道化たち

風光る海賊船に子供群れ

かたかごの花へささやく小川かな

絶壁に春の眼(まなこ)がありて象

動物園うらの林や百千鳥

夏草や遺跡歩めば一古人

炎天やわれにも影のありにけり

頂上やふらここありぬ揺れてみる

カナブンをアブの吸ひ切る小半時

ひぐらしに耳の奥より鳴かれけり

富士山の尻のあたりに住みて夏

鵯たちは我が家のベリー賞味中

笠雲は富士を離れてUFOに

老夫婦 体調不安が続く妻へ

眠るまで妻の手をとる星月夜

晩年や前途洋洋大枯野

薪を割る老人あまた別荘地

六道の辻の落ち葉を振りかぶる

富士晴れて雪輝けりGOOD LUCK

老年や夢の中なる不眠症

富士宮 朝日小滝

初空に富士あり小さな滝元気

雪煙あげて富士立つ神さびて

裏の空き地

日向ぼこ終へてカモシカ森に消ゆ

富士宮 芝川水系発電所 小さいなりに滔々と

発電を終へても元気春の水

年老いた子供となりて春の野を

富士山に見おろされつつ納税す

岸辺騒(さう)春の鮒らの交尾かな

さくら散るしづかな音に出でにけり

I have a dream 花は三分の少年期

遠足の列とりあへず抜いてみる

雪月花最上の今は若葉かな

陸奥のさへづり浴びて目覚めたり

朝寒や囲炉裏にまんづ火をおこす

足湯して石和(いさわ)の春を満喫す

原節子地下隠遁の大暑かな

生き急ぐ声の充満朝の蝉

高原やストラデイバリウスひびく夏

沈黙の最後雄弁花吹雪

遠富士や気合でわたる大枯野


以上



by 575fudemakase | 2017-12-01 08:55 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

松田雄姿集 俳人協会

自注 現代俳句シリーズ

松田雄姿集 俳人協会

平成29年10月25日 発行


共鳴句


雛の夜の十二頭に三姉妹

肥後手毬母より届く子の数だけ

父の田の雲雀を長く仰ぎけり

田を植ゑて常陸の山の定まれり

殉職の終始を梅雨の土砂降りに

この職のはじめ浅草鰯雲

冬耕の父にて絶ゆる農の系

麦秋の千手遊べる御手のなく

望郷は埋火に似て夜の酒

次女奔放三女慎重雑煮餅

抱きし子の確かな重み春立てり

若き日の夏帽今も旅が好き

春荒れや独楽の如き子あづかれる

げんげ田に子を遊ばせて耕せり

サーファーの黒光りして眠りをり

大根干し風に力の付きにけり

極月の寺に飼はれし白孔雀

梟を敬ひ熊を祀りけり

庭の萩括りて百寿の柩出す

嫁がせて一人卯波を聞きに行く

蟷螂は火星の農夫かもしれぬ

鶴一陣着きたる日より日々の鶴

夏の果水は流るること切に

何もかも妻任せなり年用意

開戦日一年生が七十に

高空に富士ある暮し初幟

富士の水七日温め田を植うる

春の雪慶事の積り行くごとく

雉撃たれ首柔らかく置かれあり

大花火昔警備に明け暮れて

赤き花赤く映して水澄めり

春の雪真珠の育つ海に降る

秋潮や門司に来てゐる猿回し

鮎を釣る川幅ほどの竿振って

振り出しは雷門や初日射す

遠山の暮れてゆくなり冷奴

洗ひ髪人魚のやうに座りけり

忠敬の一歩ここより日脚伸ぶ


以上


by 575fudemakase | 2017-11-12 11:20 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

茨木和生 第十三句集 熊樫を読んで

茨木和生 第十三句集 熊樫を読んで


2016・5・11 東京四季出版


ご恵送深謝。

この句集で特筆すべき点は、句集上梓日がお孫さんの誕生日であること、

また 一年間かぎりの作品であることである。


以下に共鳴句を挙げる。


年よりも若いと言はれ初麗

東京にゐること忘れ忘初

竜の玉まこと尽くしてひかりけり

一灯が点けり寒暮の小漁港

杉山の高くまで竹雪催

泳ぐともなく寒鯉の流れ来る

寒鴉日向に着地して歩く

立春と酒呉るる人ありにけり

あるやもと崖見てをれば蕗の薹

薄氷の上を羽毛の走りけり

薄氷に太陽崩れゐたりけり

えかげんな時間大和の春ごとは

降り出して空がにぎやか春の雪

雉走り過ぐここからは口吉野

地続きにゐることたしか雉のこゑ

田に戻ることなき大地葦芽ぐむ

瓜蠅の駆除済みと書く苗木買ふ

多々羅跡歩きて蕨摘みにけり

頂きに行かずに春の山歩く

動き出すものも見えゐて蝌蚪の紐

溜池の稚金魚百万匹はゐる

飛んで逃ぐるよりも走りて雀の子

眼を外しをればまた来て雀の子

門川も稚鮎ののぼり来る頃ぞ

眠ること勤めの妻の朝寝かな

春の雲梯子外して運びゆく

杉菜入らしめず山畑育めり

禁煙をして旨きもの桜餅

山墓は里に移され山桜

竹荒れの山を仰げば山桜

尺物を御饌に揃へて桜鯛

大物は時には安値桜鯛

青空は雲に薄るる残花かな

柏手を朝日に打てり朴の花

朴の花谷音ときに空に抜け

鹿の子の日差に跳ねて出て来たり

蒸しゐたれども蛇の出てをらず

電車にも慣れをりここの行々子

梅雨茸毒といひても触るる人

人の手のぬくもり厭ふかたつむり

蝸牛桜の脂を舐めゐたり

鳥落しゆきたる空の蝸牛

梅雨の鳶吹き上げられてとどまれり

煙草臭きことも格別蝮捕

青嵐田水が畔を越すことも

城濠を駆け空に出ず夏燕

老鶯の真珠(またま)の声をころがせる

なんぼでも鳴き出す河鹿聴きをれば

魚呑むときのすばやさ山椒魚

火を見たることなき眼山椒魚

おいに限るよ半裂を呼ぶならば

夜店用金魚と雑に扱へり

漁船より飛び込みもして泳ぎをり

写経道場を涼風抜け来たり

言うてみるもの夏鹿の肉貰ふ

夏鹿の肉を校長より貰ふ

灯明を磐に絶やさず日の盛

空嘔吐せる犬がゐて草いきれ

斑鳩も平群も地蔵盆賑やか

糠味噌の機嫌もよくて秋の色

楤の花日照雨の見えて過ぎにけり

岡不作とは枝豆の粒にまで

丁子屋の煮付なにより江鮭

動きをらざれば氣付かず秋の蛇

峠まで歩いて来たる栗拾ひ

一村の墓が一寺に秋日和

狸かと思ふ猫ゐて狩の宿

日向ぼこわてら三つ子と婆笑ふ

着ぶくれの尻割り込んで来たりけり

短日や山の日差が空に去り

東京の木の葉の色も十二月

干魚に日差を届け冬の雲

列車来る時間に人来冬の暮



茨木さんは現下、最も充実している作家であろう。

松瀬青々全句集、右城暮石全句集等の業績も見逃せない。



by 575fudemakase | 2017-05-15 10:10 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

金子敦 第5句集「音符」 を読んで

金子敦 第5句集「音符」 を読んで


2017・5・5 ふらんす堂


第四句集「乗船券」をご恵送いただいたのは、2012年。

今回もご恵送いただき只々深謝。以下共鳴句を挙げさせていただく。


大いなる果実のやうな初日の出

春を待つとんとんとんと紙揃へ

太陽より大きく描かれチューリップ

春惜しむ画鋲を深く刺し直し

ハーモニカにあまたの窓や若葉風

凭れたる壁がべこんと海の家

菜箸は糸で繋がり星祭

盆踊果てて手足のただよへる

浴槽にあひるの浮かぶ良夜かな

恐竜を組み立ててゐる夜長かな

マネキンに涙描かれ冬の蝶

絵本より森立ち上がるクリスマス

春きざすメトロノームのアンダンテ

膨らんでより風船の揺れはじむ

春昼や時計の中へ戻る鳩

揚げパンに黄粉たっぷり麦の秋

本ひらくやうに牡丹の崩れけり

錠剤に割り線ありぬ走り梅雨

緑蔭に憩ふピエロの無表情

ボールペンの先端は球鳥渡る

水底の団栗はもう転がらず

強面が蜜柑の筋を取ってをり

極月やはちきれさうな小銭入

人日やバックしますと言ふ車

白墨のやうな灯台花菜風

路線図の色の交錯油照

自動ドア開いて虹の真正面

ひとすぢの涙の跡や昼寝の子

万緑や亀の子束子より雫

ビー玉の中の怒濤や鳥渡る

短日やぱたぱた畳むパイプ椅子

卒業や絵具のチューブ真つ平ら

ランナーの肘の直角風光る

ティンパニを叩けば風の光り出す

トロ箱のまだ濡れてゐる落花かな

ストローの蛇腹ぐいんと海開き

白桃のひとところまだ空の色

方眼紙にみづいろの罫小鳥来る

順番を待つ子のあくび運動会

薄氷に映ってゐたる遠き街

白餡の匂ひのしたる桃の花

籤引の紙の三角夏つばめ

水底に金魚の餌の辿り着く

ぐい飲みの底の渦巻遠花火

手花火の煙を浴びて少し老ゆ

靴べらのしなやかに反る良夜かな

長き夜やピラフ解凍して独り

吊し柿三列目まで日の当たる

鉄条網ひとつひとつの棘に雪


以上



by 575fudemakase | 2017-05-14 14:39 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

松田雄姿句集「歳月」を読んで

松田雄姿句集「歳月」を読んで

2017・2・20 ふらんす堂 第四句集

以下、共鳴句を挙げる。

抜刀隊駈けし山坂曼珠沙華
開戦日一年生が七十に
雪掻いて雪掻き道具並べ売る
流氷を見むと靴紐固く結ふ
山に鈴聞かせて秩父遍路去る
高空に富士ある暮し初幟
富士の水七日温め田を植うる
蟻走る富嶽を目指しゐるごとく
春の雪慶事の積りゆくごとく
春光や名を書いて船塗りあがる
雉撃たれ首やはらかく置かれあり
大花火昔警備に明け暮れて
赤き花赤く映して水澄めり
秋高し亀も飛びたくなってをり
白鳥来銀河を発ちて来しごとく
冬薔薇孤高の色を掲げたる
梅雨茸大地つぶやく如く生ふ
子鎌切風を掴みて飛び立てり
やんまの眼眼鏡を掛けて見たりけり
己が鵜を師として鵜匠五十年
芥掻き梁守の今日始まれり
河鹿鳴く水が余りに美しく
春の雪真珠の育つ海に降る
往き帰り見る猿の芸日の永し(浅草三社境内)
風鈴の音競はせて売りに来る
鮎を釣る川幅ほどの竿振って
振出しは雷門や初日射す(昭和二十八年浅草署へ)
初鵙や叱る勇気の湧いて来し
誤字脱字正すごと稲補植せり
遠山の暮れてゆくなり冷奴
虹を来て明日の予定告げてゆく
甚平や齢に従ひ又抗し
老いていよいよ煩悩具足着膨るる
氷面鏡他人のごとく老いてをり
千年の桜のオーラ浴びに行く
薔薇の芽にはや大輪の勢あり
半分は聞こえぬ会話夜の長し
銀杏散る楽しき明日があるやうに
絵馬に跳ね梅林へ飛び年の豆(湯島天神)
柿熟るる美濃も尾張もなく晴れて
猪鍋を囲み昭和の気概あり
八十路なほ冬芽のやうな夢育て
松の芯目指せるもののあるごとく
松原は海辺の名残り緑さす
草笛を吹き郷愁を呼び覚ます
玄奘の塔に里程図雲の峰
横綱碑見て初場所へ廻りけり
春の雪一幕ほどを舞ひて止む
青葉谿獣のごとく水勢ひ

集中、好みで言えば、次句あたりが最も好きである。

秋高し亀も飛びたくなってをり
遠山の暮れてゆくなり冷奴
松原は海辺の名残り緑さす
氷面鏡他人のごとく老いてをり

以上


by 575fudemakase | 2017-04-09 14:02 | 句集評など | Trackback | Comments(0)

正木ゆう子句集「羽羽」を読んで

正木ゆう子句集「羽羽」を読んで

2016・9・23 春秋社 第五句集

以下、共鳴句を挙げる。

はなびらと吹き寄せられて雀の子
藤の花よりもはるかに桐の花
夏炉かな火があればみな火を見つめ
雨あがり芋の蔓さへ美しく
密やかに雲より出でず稲光
飛ぶ鳥の糞にも水輪春の湖
幹でなく茎でなく青芭蕉林
礼文
山裾を海に浸して明易し
一花のみ揺るるは蜂のとまりたる
降る雪のときをりは時遡り
雪片の速ければ影離れたり
焼芋を割れば奇岩の絶景あり
日向ぼこ瞑ればより明るくて
潺々とまたクレソンの頃となり
立春の輪ゴムを栞がはりとす
雁のこゑ足もとはもう真つ暗に
春の雷外輪山を踏みわたり
鮴の佃煮鮴のこちらは卵とぢ
まつすぐに来る螢火に道ゆづる
深ければ黒々と湧く泉かな
夜半の雨止みて啾啾虫の声
千年余撞き減りたるを除夜の鐘
本を読む手首に脈の見えて秋
ぢりぢりと石の隙より新蕎麦粉
あふちの実ならむおそらくあふちの実
冬泉湧き且つ流れ且つ奏で
春蝉の飛び移るさへ色あはし
違ひ棚とほき霞を引き寄せて
螢のみ待つふるさととなりにけり
唸り来る筋肉質の鬼やんま
安達が原ゆけば身につく草の種
こんな日はとにかく眠る鵯のこゑ
つかみたる雛(ひよこ)に芯のありて春
なんといふ高さを鷹の渡ること
渡りゆく鷹高ければ静かな空
この星のはらわたは鉄冬あたたか
いつもそこに坂道があり雪が降り

集中一句と言われれば、次句を揚げたい。

唸り来る筋肉質の鬼やんま

以上
by 575fudemakase | 2017-02-24 09:13 | 句集評など | Trackback | Comments(0)


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


by 575fudemakase

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例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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