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端居

端居

例句を挙げる。

あきらめの溜息もらし端居せる(一力五郎六月二十三日逝く) 阿部みどり女 『微風』
あそこからかう来るかぜと端居せり 高澤良一 随笑
あめ去れば月の端居となりにけり 鈴木しづ子
いつになく齢をかくし夕端居 河野南畦 『花と流氷』
いはけなき法師蝉きく端居かな 芝不器男
いふまじき言葉を胸に端居かな 星野立子
いらぬこと聞ゆる耳と夕端居 尾崎陽堂
うつし世の年を忘れし端居かな 松村蒼石 寒鶯抄
うつし世の負目みな持つ夕端居 伊藤 孝一
おのづから朴ある方へ端居して 大石悦子 聞香
おふくろの国に来てゐる端居かな 上田五千石 琥珀
おほよそのこと見えてをり夕端居 齋藤愼爾
かるわざのはやしきこゆる端居かな 久保田万太郎 草の丈
きのふけふ仏がそこに居る端居 高澤良一 素抱
くらがりの合歓を知りゐる端居かな 石田波郷(1913-69)
こでまりに端居の頃となりしかな 富安風生
さしかけの葭簀うれしき端居かな 久保田万太郎 流寓抄
さふらん酒飲むに似合ひの端居かな 影島智子
さりげなくゐてもの思ふ端居かな 高橋淡路女 淡路女百句
しぐるるとなきに茶はなき端居かな 室生犀星 犀星発句集
しつかりと舌をしまつて夕端居 内田美紗 魚眼石 以降
しばらくのこゝの端居を許されよ 高野素十
しみじみと端居の端といふところ 鷹羽狩行 七草
そくばくの技を身すぎの夕端居 佐野美智
たまゆらの端居の身にも闇せまる 鷲谷七菜子
つくばひのよく濡れてをる端居かな 高浜虚子
どうしても墓に目がゆく端居かな 吉本伊智朗
なか~に沖は暮れざる端居かな 大野きゆう
なまじかの孤高うとまし夕端居 猿橋統流子
なるやうになれとはだけて端居かな 高澤良一 寒暑
はまゆふのかたわらに咲く端居かな 楠目橙黄子 橙圃
ひとりづつ座を外しくる端居かな 苑子
ひとり居のどこに坐るも端居めき 林めぐみ
ひとり居の端居心を誰か知る 砧女
ふけわたる草木の風に端居かな 日野草城
まだ誰も来ぬ料亭の端居かな 下田実花
まどろみの覚めてかなしき端居なる 林原耒井 蜩
みちのくは端居といふも夏炉辺に 星野立子
みどり子の股くびれたる端居かな 相馬遷子 山国
むかし禁制の女人と夜の端居 鷹羽狩行 八景
めくら子の端居さびしき木槿かな 白雄
めつむりて一日を逝かす端居かな 村越化石 山國抄
ゆふべ見し人また端居してゐたり 普羅
われをわがみつめゐるなり夕端居 木村蕪城 寒泉
ウクレレに和音三つの端居かな 田中幸雪
カチユーシヤも一番星も端居かな 西本一都
セル軽き端居に著莪のみどりあり 森川暁水 淀
セル軽き端居の香をたつるなり 森川暁水 淀
フルートになりし男の端居せる 川崎展宏
一日の籠り居のあと夕端居 高野素十
一片の詩をあたためてゐる端居 岩岡中正
一生を悔いてせんなき端居かな 久保田万太郎 流寓抄以後
主婦の枷ゆるりと外し夕端居 神澤 信子
主立つて端居に客を残したり 高濱年尾 年尾句集
久々や旅の端居も漁火も 石井とし夫
五月雨の端居古き平家ヲうなりけり 服部嵐雪
人の世の裏側を見し夜の端居 西川 五郎
人はいざ師走を我の端居かな 会津八一
人を待つ心々の端居かな 楠目橙黄子 橙圃
人見んと瓜に眉かく端居かな 斯波園女
仏蘭西を話のたねの端居かな 日野草城
佐渡院に波押し寄する端居かな(佐渡十句) 佐々木六戈 百韻反故 わたくし雨
偲ぶとは恋しきことよ夕端居 星野椿
僧の笠よけて端居や時雨茶屋 比叡 野村泊月
別府の灯旅の端居の膝抱けば 深見けん二
刻失し端居の脚を揺るばかり 中戸川朝人 残心
北畠親房端居でもするか 佐々木六戈 百韻反故 初學
十二時を宵のごとくに旅の端居 山口誓子
古雛の身退きたる端居哉 尾崎紅葉
叱る人ゐなくなりたる端居かな 高橋良子
君端居われは離れにたかむしろ 高濱年尾 年尾句集
吾が性と同じ吾子見て端居して 高木晴子 晴居
唐突に齢問はるる端居かな 谷口桂子
夏場所のはねの太鼓に端居かな 富安風生
夕さりて川のにほひの端居かな 石嶌岳
夕端居うしろに母の匂ひして 朔多 恭
夕端居けふ記すべき事もなし 大星たかし
夕端居こつんと堅き爪を切る 阪本澄江
夕端居ほどよき距離とおもひけり 小川江実
夕端居よばれて立ちし一人かな 久保田万太郎 草の丈
夕端居国に姉あり妹あり 横倉牧民
夕端居心に期するもの育ち 佐野 一恵
夕端居数ふるとなく木を眺め 依光陽子
夕端居髪ふれゆきしものは誰か 小倉涌史
夜の端居火山も空も揺れずあり 村越化石
夜色楼台雪万家圖を見て端居 高澤良一 ねずみのこまくら
妹さするひまの端居や青嵐 木歩句集 富田木歩
妻といふかなしきものゝ端居かな 田村寿子
娘を呼べば猫が来りし端居かな 五十嵐播水
嫁端居背に家闇の昼も濃く 香西照雄 素心
子の恋の行方ほぼ見え夕端居 山田弘子 こぶし坂以後
子を恃む心もすこし夕端居 半田 順子
安住もときにさみしや端居更く 村越化石
小鼓の稽古すませし端居かな 松本たかし
居るごとく居らざるごとく端居して 手塚美佐 昔の香
山に向き亡き父の座に夕端居 太田土男
山荘の月よき夕ベ端居して 高木晴子
師との間水のごとしよ夕端居 村越化石
帰りたくない人ばかり夕端居 水田むつみ
年寄の知恵出しつくし端居せり 能村登四郎 菊塵
床とれば老の寝に立つ端居かな 河野静雲 閻魔
後に飽く蚊にもなぐさむ端居かな 上島鬼貫
思ふより我の小さき端居かな 田中裕明 先生から手紙
悔もなく未練もなくて端居かな 下田実花
打明けて胸軽くなる端居かな 山田弘子 こぶし坂
文芸はかなたかなたへ夕端居 斎藤玄 無畔
料亭に早く来すぎし端居かな 築城百々平
新月に眉引きならふ端居かな 尾崎紅葉
旅にして端居ごころを携へし 山内山彦
昔日と同じ端居に向き変へず 村越化石 山國抄
昨日虚子今日はモームと端居して 嶋田一歩
時計あり端居の人ののびし手に 池内友次郎 結婚まで
晴眼と人には見ゆれ夕端居 平尾みさお
曲り家の辰巳開きに端居かな 延平いくと
更けわたる草木の風に端居かな 草城
曾てなき端居語りの夜を得たり 青畝
月蝕の暗転にある端居かな 山田弘子
望郷の端居に夜風立ちにけり 冨田みのる
望郷の端居の父も母も老ゆ 冨田みのる
来ると否端居や月のねだり者 炭 太祇 太祇句選
東京の端居なる位置柴叉は 能村研三 鷹の木 以後
樹雫の端居の耳にしづけさよ 清原枴童 枴童句集
次の世のことは思はず夕端居 片山由美子 水精
歓迎の香を一ちゅう 端居李氏 伊丹三樹彦 写俳集
正座して明治の母の夕端居 鈴木千恵子
母の衣なりし寐巻に端居灯蛾つけて 中戸川朝人 残心
母刀自のあるかなきかに端居かな 下村梅子
池辺来るいたちの音の今宵も端居はなるる 梅林句屑 喜谷六花
沈黙も会話の一部夕端居 山田弘子 こぶし坂
河童忌の夜風鳴りたる端居かな 内田百間
波音を近づけてゐる端居かな 稲畑汀子
海風の身を吹きぬける端居かな 澤村昭代
淵としてわれをあらしめ夕端居 中里麦外
湖を見て端居ごころを尽しけり 西本一都 景色
湯上りのシャボン匂はせ端居に来 中野浩村
湯上りの心は白紙夕端居 上野泰 佐介
湯沸しの笛に呼ばるる端居かな 八染藍子
灯移せば端居の影も移りけり 五十崎古郷句集
父ありし日に端居の母の記憶なし 茂里正治
父ありてこそのこの身や夕端居 大橋敦子 匂 玉
父の忌の端居も更けてしまひけり 齋藤玄 飛雪
生身魂こゝろしづかに端居かな 阿波野青畝
病居士の端居そぞろなり菊の花 正岡子規
百点の子を真中に夕端居 三輪閑蛙
目で語る端居の夫に目で答ふ 浅野まき子
盲児の端居淋しき木槿哉 白雄
硯匠雨宮弥兵衛昼端居 上野さち子
神神と倡婦ら端居下校道 竹中宏 句集未収録
禅堂の大句座の端に即端居 赤松[ケイ]子
空に色なくなつて来し夕端居 深見けん二
端居してあの世へ声をかけてをり 百瀬ひろし
端居してうかと引き受く頼みごと 吉年虹二
端居してうしろ何なき古畳 石川桂郎 四温
端居しておもひ巡らす眼となれり 高澤良一 随笑
端居してかなしきことを妻は言ふ 村山古郷
端居してこのときめきをもてあます 小柴全代
端居してこの身このままこはれもの 林翔
端居してこの頃涙もろき姉 出羽 智香子
端居してすぐに馴染むやおないどし 星野立子
端居してそもじは女吾は男 佐藤漾人
端居してたゞ居る父の恐ろしき 高野素十
端居してつくり言葉のこゝになし 米沢吾亦紅 童顔
端居してとなりの犬を憎みけり 細川加賀 『玉虫』
端居してほとほと主柱たりし疲れ 後藤綾子
端居してみなとはなれてゐる心 成瀬正とし 星月夜
端居してみな遠のけるものばかり 高澤良一 素抱
端居してものも思はずゐたりけり 大橋敦子 母子草
端居してわれ等忌にある者ばかり 山口波津女 良人
端居してをちかたびとと語りをり 西村和子 かりそめならず
端居してをりて夫婦の距離にゐる 兜木総一
端居して一門に頼られてゐる 江口喜一
端居して亡き父います蚊遣香 上田五千石 田園
端居して仏となる日待つごとし 鈴木真砂女
端居して仏の肩や明易き 永井龍男
端居して仏万太郎在しけり 永井龍男
端居して何かを思ひ出さゞる 楸邨
端居して勤終へたるにはあらず 木村蕪城 一位
端居して吹き込む風の通り道 高澤良一 素抱
端居して夜空の蒼き流れかな 櫛原希伊子
端居して夢のごときを子と約す 青木泰夫
端居して夫も親しきもののうち 大石悦子 群萌
端居して女に生れし事悔ゆる 森田 桂子
端居して妻となげかふおのが性 米沢吾亦紅 童顔
端居して妻子を避る暑かな 蕪村 夏之部 ■ 探題寄扇武者
端居して孫の手をもう借りる齢 高澤良一 随笑
端居して宇宙への旅心かな 水見壽男
端居して家の灯りを見てをりぬ 仁平勝
端居して帰りゆき処のなきごとし 岩淵喜代子 螢袋に灯をともす
端居して常夜の国に近くゐる 原裕 出雲
端居して後手つけば山青し 上野泰 佐介
端居して慈悲半眼の中にあり 古舘曹人 砂の音
端居して憂きこと忘れゐるをふと 上野章子
端居して戒壇院に女あり 高野素十
端居して戦災愚痴をきゝゐける 石塚友二 光塵
端居して日々に疎しと誰かいふ 加藤楸邨
端居して明日逢ふ人を思ひをり 立子
端居して暮れゆく湖をまのあたり 片山由美子 天弓
端居して月日を戻す亡夫の貌 坂本たけ乃
端居して浄土の母を疑はず 大橋桜坡子
端居して濁世なかなかおもしろや 阿波野青畝(1899-1992)
端居して父祖の譲りの何もなく 木村蕪城 寒泉
端居して眠つてをるに若くはなし 鈴木花蓑句集
端居して祖母は姿勢を崩さざる 稲畑廣太郎
端居して糊ききすぎし袖たもと 及川貞 榧の實
端居して老いの語りの哭いてをり 櫛原希伊子
端居して老骨といふを撫でやりぬ 猿橋統流子
端居して若き波郷とゐたりけり 細川加賀 『玉虫』
端居して虚子の面影淡からず 藤浦昭代
端居して角力はせてみる蝉の殻 三好達治 路上百句
端居して話もせずに帰られし 星野立子
端居して読みがたし戦場のたよりなり 及川貞 夕焼
端居して謡稽古や指拍子 森澄雄
端居して遊びゐるなる忌日かな 後藤夜半 翠黛
端居して遠きところに心置く 後藤夜半(1895-1976)
端居して銀漢をまた遡りゐし 河原枇杷男 蝶座 以後
端居して開く妻の書星呼べり 奈良文夫
端居して闇に向へる一人かな 篠原鳳作
端居して闇を眺めてをりにけり 石井とし夫
端居して隣家の声に親しめる 片山由美子 天弓
端居して顔のくらさを感じをり 米澤吾亦虹
端居するうしろ姿も人さまざま 風生
端居する柱替りに嵐山 高澤良一 素抱
端居する間も仏恩を申さるゝ 大橋櫻坡子 雨月
端居せるこころの淵を魚よぎる 野見山朱鳥
端居せるほとりみづみづしく故人 赤松[ケイ]子
端居せる家のここより木曾路なる 木村蕪城 一位
端居せる父子のさだめの相対ふ 木村蕪城 寒泉
端居せる西の十万億土かな 齋藤愼爾
端居には勿体なかりし法語とも 浅井青陽子
端居にも正座崩さずゐたる父 大久保橙青
端居の祈夙に亡き友かもしれず 草田男
端居よりゐこぼれてをり芝に座し 後藤夜半 底紅
端居人に芋虫ころころして来る児 長谷川かな女 牡 丹
端居人見あげて鴛鴦の通りけり 吉武月二郎句集
端居人起ちし大きな影なりし 藤松遊子
端居更け父のひとりの煙草の火 冨田みのる
縁台にかけし君見て端居かな 高浜虚子
羽抜鳥人に鳴きよる端居かな 岡本松浜 白菊
考へのつづきを持つて来て端居 本多芙蓉
考への断崖にをる端居かな 上野泰 佐介
考への鍵をあけたて夕端居 上野泰
耳病めば遠き思ひの端居妻 牛山一庭人
聞えない振りも気配り夕端居 永尾静枝
肩書のとれて気易き端居かな 川村紫陽
胎の子と一つ呼吸に端居せる 上田日差子
脛長の脛を立てたる端居かな 森田峠 逆瀬川以後
膝を下りて猫もほりする端居かな ゐの吉
膝折れば湯呑のありし夕端居 手塚美佐 昔の香
色鳥を待つや端居の絵具皿 松瀬青々
芝暮れて端居の縁と平らなる 爽雨
虚空蔵の塔を見飽かぬ端居かな 堀口星眠 樹の雫
蚊やりして師の坊をまつ端居かな 大魯
蚊火置けば譚めく端居かな 小杉余子 余子句選
蜘蛛の囲も端居の母も夕それぞれ 茂里正治
蝙蝠や据膳に菜して端居 内田百間
蟇は蟇われはわれなる端居かな 下村梅子
行末のことおもはるゝ端居かな 久保田万太郎 草の丈
被さつてくる子の予感端居かな 毛塚静枝
装束をつけて端居や風光る 高濱虚子
西祭まつ勾欄に端居して 中井湖山
訪ねきてはいつも端居をして人妻 川島彷徨子 榛の木
訪れて心易さの端居かな 高濱年尾 年尾句集
赤坊を抱きて端居といふことを 田中裕明 先生から手紙
走馬燈たまの端居にしづ心 清原枴童 枴童句集
踏石に椿落ちたる端居かな 内田百間
車椅子離せぬ足の端居かな 柘植梅芳女
辺境のたつきにも馴れ端居かな 松本澄江
退官の毛脛撫でゐる端居かな 猿橋統流子
週末や端居の膝に子を乗せて 黒坂紫陽子
遠囃子風のはこべる夕端居 小島ユキエ
酔かくす子と相見ざるため端居 篠田悌二郎
野良疵を夫に話さず夕端居 影島智子
門跡に我も端居や大文字 河東碧梧桐
関節を鳴らしてみせぬ端居人 高澤良一 寒暑
陋巷の端居心に窓に倚り 高濱年尾 年尾句集
青葦の囁きやまず端居かな 竹下しづの女句文集 昭和十年
首折りて端居の母は一羽の鶴 武政 郁
骨壺にすこし離れて夕端居 中村祐子
鯉跳ねて端居の思ひ断たれけり 吉野トシ子
鴛鴦を見る現心の端居かな 会津八一

以上
# by 575fudemakase | 2014-07-17 00:51 | 夏の季語

髪洗ふ

髪洗ふ

例句を挙げる。

あきらめといふ清しさに髪洗ふ 山田弘子 初期作品
あぎとあげ洗ひし髪を梳り 上野泰 佐介
あるがまま気ままに生きて髪洗ふ 大平保子
いつお召しあるやもしれぬ髪洗ふ 一円あき子
いとほしむほどの丈なき髪洗ふ 檜 紀代
いやなことつもりにつもる髪洗ふ 久保田万太郎 草の丈
うつむくは堪へる姿ぞ髪洗ふ 橋本多佳子
お百度を踏みて乾けり洗ひ髪 品川鈴子
かなしみはなし身を曲げて髪洗う 対馬康子 愛国
げに長きみとりなりけり髪洗ふ 野見山ひふみ
この髪に明治の長さあり洗ふ 小石なつ子
せつせつと眼まで濡らして髪洗ふ 野澤節子(1920-95)
つまらなき湯治の髪を洗ひけり 綾部仁喜 樸簡
ながかりしことは昔よ髪洗ふ 下村梅子
ぬばたまのくろ髪洗ふ星祭 高橋淡路女 梶の葉
ねむごろに洗へり明日は手術の髪 品川鈴子
ねんごろに戀のいのちの髪洗ふ 上村占魚 『霧積』
ははそはのすくなき髪を洗ひます 山口波津女 良人
ははよ 来世は髪を洗つてあげる 向山文子
ふはふはと櫛を逃げゆく洗ひ髪 下村梅子
ふり返るとき阿修羅なり洗ひ髪 鷹羽狩行 七草
まだ云うてなき里帰り髪洗ふ 野島時子
まなじりに罌粟吹かれをり髪洗ふ 佐野美智
キャンプして森の匂ひの髪洗ふ 前川紅楼
ジーパンを腰で穿きたる洗ひ髪 百瀬ひろし
チャルメラのひびく夕ベの洗ひ髪 仙田洋子 橋のあなたに
ヒマラヤの水で洗うは 童女の髪 岩崎 勇
ミサイルの射程の裡の髪洗う 出口 善子
七曜の一曜きめて髪洗ふ 鈴木真砂女 夕螢
五十なほ待つ心あり髪洗ふ 大石悦子 聞香
今日暮れて髪洗ふことひたすらに 中山純子 沙羅
何事もおもはず髪を洗ひけり 久保田万太郎 草の丈
俯むきて仰むきて洗ひ髪を干す 山口波津女 良人
先帝祭過ぎきりきりと髪洗ふ 坂巻純子
六月の手応えうすき髪洗ふ 久野兆子
前に梳きうしろに梳きて洗ひ髪 山口波津女 良人
半夏生所在なければ髪洗ふ 岩鼻十三女
卯の花や一握となる洗ひ髪 鷲谷七菜子 雨 月
受洗まつ子の髪浄くリラ咲けり 堀口星眠 営巣期
吾子の髪少し切らばや洗ひやる 星野立子
命得て一筋ごとに髪洗ふ 三好潤子
喜びにつけ憂きにつけ髪洗ふ 高浜虚子
喪つとめのあるやも知れぬ髪洗ふ 塩谷はつ枝
地球まろき旅して洗ふ髪一握 稲垣きくの 黄 瀬
地球儀の裏側に来て髪洗ふ 佐川広治
地虫鳴くやさみしきゆゑに洗ふ髪 鈴木真砂女
夕ざくら髪くろぐろと洗ひ終ふ 鷲谷七菜子(1923-)
夜も流る雲の分身髪洗ふ 原和子
天の川こころ乾けば髪洗ひ 鈴木真砂女 夕螢
天空に鳥別るるや洗い髪 藺草慶子
夫の手をかりて丈なす髪洗ふ 石川文子
夫の魂迎ふる髪を洗ひけり 吉野トシ子
奔放に生きて悔あり髪洗ふ 木田千女
女に家あり時に家憂し洗ひ髪 平井さち子 完流
妻として八とせの洗ひ髪束ね 上野泰 佐介
子の髪を洗ふ遥かに海が鳴る 有馬朗人 母国
実盛のいくさおもへり洗ひ髪 猪俣千代子 秘 色
寝たきりの母の短き髪洗ふ 林 照江
小夜更けて髪を洗ひて彼岸入 中山純子 沙 羅以後
山川にひとり髪洗ふ神ぞ知る 高濱虚子
山川に洗ひし髪のくもりけり 永田耕衣 傲霜
嵐のあと短くなった髪洗う 大高翔
川に俯向きて丈なす髪洗ふ 品川鈴子
彗星を待つ少年の洗ひ髪 杉山久子
忌明け後のひとりに余る髪洗ふ 中嶋秀子
忘れたきこと忘れずに髪洗ふ 福川悠子
忘れたき夢きしきしと髪洗ふ 池田あや美
思ひのたけを闇に投げ出し髪洗ふ 石原八束 『幻生花』
恋とならざりき大年の髪洗ふ きくちつねこ
悲しみの諦めとなる髪洗ふ 上野泰
手探りで蛇口をひねり髪洗ふ 榎本城生
手術後の初の入浴髪洗ふ 新 純子
故郷喪失洗い髪のまま寝ては 対馬康子 愛国
旅の髪洗ふ卯の花腐しかな 小林康治 玄霜
日の匂ひある子の髪を洗ひやる 大橋敦子
明日といふ言葉は楽し髪洗ふ 鷲巣ふじ子
明日は来るテレビの取材髪洗ふ 今井風狂子
明日嫁ぐ子の歌ひつつ髪洗ふ 関口美子
星まつる髪を洗ひて狂女なる 永井寿子
昭和逝く七日の夜を髪洗ふ 蓬田紀枝子
暁闇や洗ひしごとき髪の冷え 野澤節子 黄 瀬
月の夜にはしばしを梳く洗ひ髪 山口誓子
月光に青むまで髪洗ひをり 加藤 紅
木の葉髪一身洗ひざらしなり 井沢正江 湖の伝説
梳きながら乾いてをりぬ洗ひ髪 玉利孝子
梳きに梳く洗ひこらへし旅の髪 赤松[ケイ]子
樽神輿髪洗橋渡り行く 龍雨
母と今死にたしと思ふ髪洗ふ 坂巻純子
母情むなしセロリ噛んでも髪洗つても 平井さち子 完流
汗の髪洗ふ頭蓋も痩せにけり 相馬遷子 山河
沢山の髪もてあまし洗ひけり 山口波津女 良人
油断たのしや髪洗うとき目をつむり 池田澄子 たましいの話
波音のこもりし髪を洗ひけり 片山由美子 風待月
泣きくづるごとくに髪を洗ふなり 石原八束
泳ぎし髪洗ふ遠杉も日焼いろ 中拓夫 愛鷹
洗い髪裏の松山濃くなりぬ 鳴戸奈菜
洗い髪見せるついでにケロイドを 相原左義長
洗い髪風に遊ばせ吾娘十八 楠本憲吉
洗ひたる髪の千すぢのみないのち 大竹きみ江
洗ひ髪あげて襟あし見せくれし 上村占魚 『萩山』
洗ひ髪いつか他郷に家事の順 平井さち子 完流
洗ひ髪かはく間月の籐椅子に 杉田久女
洗ひ髪かわく夕雲金色に 柴田白葉女 遠い橋
洗ひ髪かわく間を子に絵本よむ 野見山ひふみ
洗ひ髪かわく間月の籐椅子に 杉田久女
洗ひ髪くくる紅紐きりと噛み 橋本鶏二 年輪
洗ひ髪して夕顔の闇にあり 五十嵐播水 埠頭
洗ひ髪ならべて月に姉妹 柴田白葉女 遠い橋
洗ひ髪ひたいの汗の美しく 星野立子
洗ひ髪乾くかそけき音にをり 北住京子
洗ひ髪傘におぼえなき光ばかり 八田木枯
洗ひ髪冷たし夜の窓に梳く 関口ふさの
洗ひ髪吹かれ南十字星仰ぐ 大木さつき
洗ひ髪垂れし背筋の冷たけれ 品川鈴子
洗ひ髪垂れて苗床見に来る 山口波津女 良人
洗ひ髪夜も緑なす雨降れり 嶋田麻紀
洗ひ髪夜空の如く美しや 上野泰 佐介
洗ひ髪孫のうなじの早や乙女 小野 武子
洗ひ髪巻いて湯もみに来し女(上州草津温泉) 上村占魚 『球磨』
洗ひ髪振りて怒りをしづめをり 中村祐子
洗ひ髪日の前を雲通り過ぎ 岩田由美
洗ひ髪月に晒して寝惜しめる 西村和子 夏帽子
洗ひ髪梳きつつもつれやすきかな 下村梅子
洗ひ髪梳きつつ定年の話など 菖蒲あや
洗ひ髪梳くほの昏れの恋ごころ 中村多喜子
洗ひ髪森より静かに夜生まれ 齋藤愼爾
洗ひ髪母に女の匂ひして 岡本眸
洗ひ髪沈めて水を豊かにす 三好潤子
洗ひ髪病臥の夫がもてあそぶ 品川鈴子
洗ひ髪素顔でゐてもよき夕べ 嶋田摩耶子
洗ひ髪結ふ間なくして人に逢ふ 下村梅子
洗ひ髪背に垂れ若き日のごとく 山口波津女 良人
洗ひ髪路地吹きぬくる風のあり 鈴木真砂女
洗ひ髪身ぐるみ匂ふ姉妹 大塚品子
洗ひ髪身におぼえなき光ばかり 八田木枯
浄土曼荼羅見足りて夜の髪洗ふ つじ加代子
浮世絵の女は長き髪洗ふ 松尾静子
海の色なほひきよせて髪洗ふ 坂巻純子
海蘊洗ふ指漏る髪を梳くごとく 稲垣きくの 牡 丹
涙することはまだ先髪洗ふ 小池和子
涼しさや藁で束ねし洗ひ髪 井月の句集 井上井月
潮風に吹かれし髪を洗ひけり 田村糸女
灯の尽くるかなたは砂漠髪洗ふ 小池文子 巴里蕭条
無造作に束ねて軽し洗ひ髪 吉崎ふみ
片頬に敷く洗い髪あやめの闇 坂野宜枝
生かされて術後十日の髪洗ふ 影島智子
生涯のここまでは来し髪洗ふ 沼尻巳津子
病む母に頼らるる髪洗ひけり 大木あまり 火球
病床の黒髪断ちて髪洗ふ 庄野禧恵
病髪洗ふ逆さに夏の怒濤見て 城佑三
目をつむる顔横向けて髪洗ふ 高野素十
看護婦の一と日の疲れ髪洗ふ 水無瀬白風
短夜や未だ濡色の洗ひ髪 嘯山
砂漠より戻りし髪を洗ひけり 藺草慶子
稗蒔の嵐及べり洗ひ髪 日野草城
約束を反故にせし日の髪洗ふ 片山由美子 風待月
紅梅に臈たけて見ゆ洗ひ髪 松宇家集 伊藤松宇
紫陽花に温泉を汲みて髪洗ひけり 龍胆 長谷川かな女
耳たぶを花のごとくに洗ひ髪 鷹羽狩行 八景
腰張つて大つごもりの髪洗ふ 菖蒲あや あ や
船室の一隅に髪洗ひをる 夏井いつき
花の闇海に浸して髪洗わん 対馬康子 愛国
荒星を傾け洗ひ髪を乾す 蓬田紀枝子
葬果てぬばたまの闇髪洗ふ 松村多美
薄命の叔母似と云はれ洗ひ髪 有馬籌子
被爆忌のいのち素直に髪洗ふ 中尾杏子
裏切を聞きたる耳を髪洗ふ 林 みち子
裾野まで富士を見て来し髪洗ふ 金久美智子
親の縁薄かりし梅雨の髪洗ふ 佐野美智
豊かとも乏しともなき洗ひ髪 上野泰 佐介
身を折りて明日あるための髪洗ふ 館岡沙緻
逢はぬ日のやすらかさゆゑ髪洗ふ 岩崎照子
遠退きてちかむ忌日の髪洗ふ 猪俣千代子 秘 色
金星に触りし髪を洗うなり 五島高資
鏡見てべつかつこうや洗ひ髪 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
関所越ゆ洗ひざらしの髪束ね 川島千枝
闇のほかまとふものなし洗ひ髪 赤松[ケイ]子
除夜の鐘聞きつつ長き髪洗ふ 中村節代
雁来紅にたちよりときぬ洗ひ髪 高橋淡路女 梶の葉
雫して思ひ晴れざる洗ひ髪 鈴木 まゆ
雲に近き天守で吹かれし髪洗ふ 平井さち子 鷹日和
青田見て髪洗ひ濡らす藁ざうり 中山純子 茜
風花や受洗の朝の髪梳かる 古賀まり子 洗 禮
髪梳いて硯を洗ふ歌娘 鈴鹿野風呂 浜木綿
髪洗うしばらくは死の闇とあり 徳弘純 麦のほとり
髪洗うたび流されていく純情 対馬康子 純情
髪洗うて温泉にもうたるゝいとま乞ひ(七月十四日、玉造温泉なる木村庄三郎氏夫妻の仮寓に至り別れを惜しむ) 『定本石橋秀野句文集』
髪洗うまでの優柔不断かな 宇多喜代子 象
髪洗う山河を越えてゆくときは 対馬康子 純情
髪洗う敵のちかづく音楽して 鈴木六林男 王国
髪洗ひゐて茫々の山河かな 鷲谷七菜子(1923-)
髪洗ひゐる身ひとつに天の川 石原八束
髪洗ひ今日の愁ひは今日捨てん 山田弘子 螢川
髪洗ひ生き得たる身がしづくする 橋本多佳子
髪洗ひ頭蓋が小さし旅づかれ 殿村菟絲子 『晩緑』
髪洗ふいくたびも修羅くぐりきて 木田千女
髪洗ふいま宙返りする途中 恩田侑布子
髪洗ふこころのどこか人に倚る 石原八束 風霜記
髪洗ふことより病ひ断ちしかな 佐藤 佳津
髪洗ふたび流されていく純情 対馬康子
髪洗ふもうむづかしく考へず 尾熊靖子
髪洗ふボトル二つやさてどちら 高澤良一 素抱
髪洗ふ五月の風の井のほとり 及川貞 夕焼
髪洗ふ人通りたる廊下かな 原石鼎
髪洗ふ夜の羅馬びと歌ひ過ぎ 小池文子 巴里蕭条
髪洗ふ女の乳房機嫌よく 石原八束
髪洗ふ女体限界まで曲げて 竹中碧水史
髪洗ふ女百態その一つ 高浜虚子
髪洗ふ少女や射程距離内に 宮武寒々 朱卓
髪洗ふ手術を明日の胸しづめ 朝倉和江
髪洗ふ明日より元気出したくて 吉政実代子
髪洗ふ月下のいまは雫の木 小檜山繁子
髪洗ふ枝だれ身や男信じきつて 平井さち子 完流
髪洗ふ母には嘘がつき易く 齋藤朗笛
髪洗ふ水草の花白がちに 柴田白葉女 牡 丹
髪洗ふ沼の乙女や菱の花 片岡奈王
髪洗ふ湯の沸きすぎし時雨かな 鈴木真砂女 生簀籠
髪洗ふ生地にしかと足着けて 中嶋秀子
髪洗ふ痩肘張りて見栄もなく 鈴木真砂女 夕螢
髪洗ふ目に逆しまのこの世見ゆ 八牧美喜子
髪洗ふ眼つむれば夜のごと 浦野芳南
髪洗ふ秘めたるわざのごとくせり 軽部烏頭子
髪洗ふ胸奥に瀧鳴りやまず 坂巻純子
髪洗ふ草のふかさをさぐるごと 正木ゆう子 悠
髪洗ふ落著く迄の二三日 稲畑汀子
髪洗ふ許可出し友を見舞ひけり 堀之内和子
髪洗ふ身の逆しまに銀河系 横山美代子
髪洗ふ逆しままつたく孤りのとき 川島千枝
髪洗ふ遂に子のなき固乳房 品川鈴子
髪洗ふ長崎の忌の水つかひ 朝倉和江
髪洗ふ髪の重さを掌にのせて 館岡沙緻
鯛曼荼羅の海をはるかに髪洗ふ 小枝秀穂女
黒潮の人魚にもなり髪洗う 中村竹子


以上
# by 575fudemakase | 2014-07-17 00:50 | 夏の季語

胡瓜揉み

胡瓜揉み

例句を挙げる。

ふたりゐるただそれで佳し胡瓜揉む 渕脇登女
一雨去り一雨また来る胡瓜揉み 角川春樹
世を以て黄昏となす胡瓜揉 藤田湘子
低くして灯のにほひける胡瓜揉 森澄雄
地火照りの家の中まで胡瓜揉み 宮坂静生 春の鹿
子が泣けば揉みつぶしたり胡瓜揉 岩田由美
指太くなりし月日や胡瓜揉む 弓木和子
揉まずして食ぶる胡瓜や荒々し 相生垣瓜人
物言はぬ独りが易し胡瓜揉み 阿部みどり女
甥姪の機嫌気妻や胡瓜揉 石塚友二 光塵
胡瓜揉みうからはらから共に老ゆ 根岸 善雄
胡瓜揉みぽりぽりやりて昼餉了ふ 高澤良一 随笑
胡瓜揉みスープの冷めぬ距離に住む 相馬沙緻
胡瓜揉む答のいらぬ夫のぐち 土田京子
訪ひとはれしつつ今宵の胡瓜揉み 上村占魚 球磨
遣唐使もどりし寺の胡瓜揉み 近藤園子
マニキュアの指をどらせて胡瓜もむ 副島いみ子
ラジカセを大きくかけて胡瓜もみ 足立悦子
七年の濁りになれて胡瓜もむ 南雲 糸虫
上げ板のきしむ厨の胡瓜もみ 高橋尚子
厨ごと手抜き加減に胡瓜もみ 西村美佐子
夕空に窓つつまれぬ胡瓜もみ 岡本まち子
大たらひもて百膳の胡瓜もみ 石川星水女
好き嫌ひなき子に育ち胡瓜もみ 嶋田摩耶子
帰省子に杉山にほふ胡瓜もみ 野澤節子
手のとどく四十路怖れじ胡瓜もみ 赤松[けい]子 白毫
故郷の味を守りて胡瓜もみ 倉田静子
旅戻りやはり吾が家の胡瓜もみ 長尾鳥影
湖の雨の涼しき胡瓜もみ 富安風生
爼の傷の歳月胡瓜もむ 藤井寿江子
物言はぬ濁りが易し胡瓜もみ 阿部みどり女
病室の小さき爼胡瓜もみ 石田あき子 見舞籠
職離れ変るくらしや胡瓜もみ 藤村藤羽
胡瓜もみ世話女房といふ言葉 高濱虚子
胡瓜もみ今宵の味は妻か母か 有馬暑雨
胡瓜もみ命日の日の高上り 大峯あきら 鳥道
胡瓜もみ夕餉明るき中にすむ 相馬 黄枝
胡瓜もみ蛙の匂ひしてあはれ 川端茅舎
胡瓜もむエプロン白き妻の幸 西島麦南
蠅帳の裡の翠微や胡瓜もみ 吉屋信子
豆殻をさしくべながら胡瓜もみ 松藤夏山 夏山句集
貧乏の光をちらし胡瓜もみ 原コウ子
退勤のすぐなる水仕胡瓜もみ 高野彩里
食卓に夫がゐる夜の胡瓜もみ 西村和子 夏帽子
鼻唄のきのふと同じ胡瓜もみ 黛まどか
朝夕瓜もみ食ふ旱かな 前田普羅
いちにちを姉に徹して瓜を揉む 上田日差子
一本で足る瓜揉みや老いふたり 小坂部佳代
女将ある日やりきれなさの瓜揉んで 鈴木真砂女
妊りておちつく妻や瓜を揉む 槐太
妹瓜を揉むま独りの月夜かな 渡辺水巴 白日
姙りておちつく妻や瓜を揉む 下村槐太 光背
揉まずして食ぶる胡瓜や荒々し 相生垣瓜人
揉瓜のひとにぎりにて独りの餉 鷲谷七菜子
揉瓜や四十男の酒を妻 尾崎紅葉
瓜を揉む一晩泊る母の家 山崎千枝子
瓜揉みや名もなき民の五十年 日野草城
瓜揉むやふたりのための塩加減 黒田杏子
瓜揉や佗び住む事も十五年 高橋淡路女 梶の葉
瓜揉や相透く縁のうすみどり 日野草城
瓜揉んでさしていのちの惜しからず 鈴木真砂女
瓜揉んで待てど海路に日和なし 鈴木真砂女 夕螢
瓜揉んで降らずじまひの一日かな 片山由美子 天弓
男手の瓜揉親子三人かな(病みて百日ちかし) 『定本石橋秀野句文集』
年輪の音と聞きつゝ瓜刻む 荒木水無子
暁の富士瓜刻む音藁屋より 吉野義子
瓜きざむ女のひと世刻むごと 渡邊千枝子
瓜刻む小気味よき音妻今日も 是永三葉
瓜刻む気兼ねの音の聞えくる 波多野爽波 鋪道の花
瓜刻む足もとに来て蟹可愛 富安風生
病院がわが家のごとし瓜刻み 石田あき子 見舞籠
糠雨やいづこに住むも瓜刻む 殿村莵絲子

以上
# by 575fudemakase | 2014-07-17 00:49 | 夏の季語

冷瓜

冷瓜

例句を挙げる。

この邊の水は若狭へ冷し瓜 山本洋子
ごつと触れごつと離れて冷し瓜 阿部静雄
ふたり子に似合ひの伴侶冷し瓜 平木智恵子
まくは瓜戸口に冷す琴糸師 荏原京子
もいで来し手籠のまゝに瓜冷やす 稲垣弓桑
をみならの声を遠くに冷し瓜 関戸靖子
三日月とひとつならびや冷し瓜 一茶
五つ六つ瓜冷しある手桶哉 松香
井に深く星またたけり瓜冷す 大網信行
人来たら蛙となれよ冷し瓜 一茶 ■文化十年癸酉(五十一歳)
兎にも亀にも内緒冷し瓜 星野麦丘人
冷し瓜おのれ自身のほかは模糊 有澤[かりん]
冷し瓜したる馬穴の水使ふ 暮石
冷し瓜しんと農婦のこめかみに 岡本かげゆ
冷し瓜すこし濡れたる置手紙 林 民子
冷し瓜ぶつかり合つて浮きにけり 小島健
冷し瓜二日たてども誰も来ぬ 一茶 ■文化元年甲子(四十二歳)
冷し瓜僧の泪はいまだ見ず 大久保明仁
冷し瓜富士の真清水戸々に湧き 勝亦年男
冷し瓜江の島沖に白波立つ 中拓夫
冷し瓜浦の停船の灯があかし 中拓夫
冷し瓜独り食ひしを言ひそびれ 白岩 三郎
冷し瓜老よく通る村のなか 大峯あきら 鳥道
冷し瓜船場言葉のなつかしき 小松 虹路
冷やし瓜したる馬穴の水使ふ 右城暮石 声と声
刃を入れて鬱を払はむ冷し瓜 清水基吉
初七日も雨に送りぬ冷し瓜 上田五千石 琥珀
古き代の造作重し冷し瓜 林翔 和紙
土間口にまた小突かるる冷し瓜 工藤弘子
大荒れの東京湾や冷し瓜 辻桃子 童子
子の家の斑のうつくしき冷し瓜 大石悦子 百花
山水の新鋭そそぐ冷し瓜 上田五千石 風景
市振の白波つづく冷し瓜 友岡子郷
指一本出してつつきぬ冷し瓜 波多野爽波
故郷や瓜も冷して手紙書く 雑草 長谷川零餘子
横川には猿多くて冷し瓜 斎藤夏風
水中に水より冷えし瓜つかむ 上田五千石 田園
瓜の姫茄子の童子と冷しけり 田中裕明 先生から手紙
瓜の葉の瓜をつゝみて冷しけり 松岡青蘿
瓜冷しあたり一景なしてをり 波多野爽波 『一筆』
瓜冷しあること思ふ二階かな 波多野爽波 『一筆』
瓜冷し一揆の伝へ古りにけり 鳥越憲三郎
瓜冷すまはりにトマト浮ばせて 長谷川櫂 蓬莱
瓜冷す井を借リに来る小家哉 高井几董
瓜冷す尺水にして邃し 相生垣瓜人 微茫集
瓜冷やすひとつは揺らぎやまざるよ 辻桃子
瓜冷やす水まはりをり衣文村 宇佐美魚目 秋収冬蔵
瓜冷ゆるまも古りゆきぬ人も世も 森川暁水
瓜既に冷えてゐるなり昼寐起 武定烏人
能登島の夕潮匂ふ冷し瓜 黒田櫻の園
草の葉のはりついてゐる冷し瓜 山本洋子
葭簀して囲ふ流れや冷し瓜 正岡子規
越後から誰か来ぬ日か冷瓜 会津八一
道元のつむりほどなる瓜冷やす 伊藤白潮
道草をして大原の冷瓜 小川章子
頭数舟形に切る冷し瓜 大矢章朔
鮒のゐぬ生簀の桶の冷し瓜 角川春樹
うり西瓜うなづきあひて冷えにけり 高浜虚子
まだきより西瓜常陰の井にて冷ゆ 中尾 白雨
もてなしは冷し西瓜と湖の風 尾形 柿園
冷えきりし西瓜の肌の雫かな 池内たけし
冷されて西瓜いよいよまんまるし 伊藤通明
冷蔵庫に西瓜入れあるぞと出掛け 高澤良一 素抱
冷蔵庫西瓜もつともなまぐさし 山田みづえ 手甲
大いなる西瓜の冷えてゐたりけり 行方克巳
子の西瓜清水に冷えてゐて日射す 中山純子 沙羅
濡れ色の走り乾くや冷西瓜 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
献金に行く子ら西瓜よく冷えん 渡邊水巴 富士
西瓜より冷たきものののぼりけり 松本たかし
西瓜冷やせば西瓜の上をシヨシヨニー川 折井紀衣
西瓜熟れ空のひととこ冷えゐたり 金子篤子
門川に西瓜冷やせる講の宿 田中柚子香
門涼み西瓜の如く冷えにけり 野村喜舟 小石川
障子閉む田中の家に西瓜冷え 和知喜八 同齢
鮎の簗とどめは冷えし西瓜かな 佐治玄鳥

以上
# by 575fudemakase | 2014-07-17 00:48 | 夏の季語

茄子漬

茄子漬

例句を挙げる。

ほんとうに軽く一膳漬茄子 高澤良一 ぱらりとせ
むらさきに染まりし塩や茄子漬くる しぐれ
むらさきの泡がたちをり茄子漬 『定本石橋秀野句文集』
塩きつく茄子漬け雲の言葉待つ 源鬼彦
奔放に茄子漬盛りて静まりぬ 渡部陽子
妻二世なれど素直よ茄子漬くる 菊池純二
庇まで波の来てをる茄子漬 栗栖恵通子
心合ふ婢と茄子漬けて暮しけり 龍胆 長谷川かな女
忘れていたい明日が近づく茄子漬 池田澄子 たましいの話
新漬の頃合しぼる茄子の紺 きくの
明け易き一夜一夜の茄子漬 鈴木花蓑 鈴木花蓑句集
星宿す茄子を漬け込む糠深く 殿村菟絲子
春待や漬け残りたる桶の茄子 室生犀星
曉闇の少壮の茄子漬けむかな 鳥居おさむ
朝寝して色変りけり茄子漬 青木月斗
朧夜のつまみて茄子の雲母漬 石嶌岳
母います瑠璃がしたたる茄子漬 田中束穂
母の忌や饐飯によく漬きし茄子 木津柳芽 白鷺抄
漬け茄子のまぶしき色や妻の恩 大矢章朔
漬茄子と佐渡米に食すすむなり 高澤良一 ももすずめ
漬茄子に鴫焼に食旺んなれど 石川桂郎 含羞
漬茄子のいろあざやかや退院す 影島智子
漬茄子の水はじきたる今朝の紺 鈴木慶子
漬茄子の紺さえざえと赤坂昏れ 楠本憲吉
漬茄子の色あざやかに嫁かずあり 菖蒲あや
漬茄子紺きつぱりと朝の卓 松本有美子
無言よし漬け茄子のつや青夕映 堀 葦男
糠床を薄むらさきに茄子漬かる 大塚とめ子
芥子漬に塩漬に茄子生るは~ 高浜虚子
茄子漬けて三DKにまだ馴れず 稲垣きくの 牡 丹
茄子漬けて母の消したる厨の灯 山田 百穂
茄子漬けて茄子のさむさをもらひけり 鳥居美智子
茄子漬けの色鮮かに母とほし 古賀まり子
茄子漬のあしたの色に執着す 米澤吾亦紅
茄子漬のこの色留守の母に告げん 原子公平
茄子漬の一塩濃くし入院す 高橋洋子
茄子漬の彩にひとりの夜を濃くす 福川悠子
茄子漬の朝の色に執着す 米沢吾亦紅
茄子漬の色鮮かに母とほし 古賀まり子
茄子漬や亡母空似の人の母 百合山羽公 寒雁
茄子漬や持つべきものは世話女房 加藤郁乎
茄子漬や砥に似た石を拾ひけり(背戸は御室川) 『定本石橋秀野句文集』
茄子漬や雲ゆたかにて噴火湾 楸邨
茄子漬時が薬と養生す 高澤良一 随笑
誰そや影茄子漬け色の深みつつ 古屋磯子
飽食の子がよく食べる漬茄子 三井千秋
なすび漬母のたすきの細かりき 川村幸子
浅漬の茄子を称へて戦中派 井坂景秋

以上
# by 575fudemakase | 2014-07-17 00:47 | 夏の季語


俳句の四方山話 季語の例句 句集評など


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《方法1》 残暑 の例句を調べる
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全部を表示下さい。(全表示に多少時間がかかります)
次いで、表示された内容につき、「ページ内検索」を行ないます。
(「ページ内検索」は最上部右のいくつかのアイコンの内から虫眼鏡マークを探し出して下さい)
探し出せたら、「残暑」と入力します。「残暑 の俳句」が見つかったら、そこをクリックすれば
例句が表示されます。

尚、スマホ等でこれを行なうには、全ての操作の前に、最上部右のアイコンをクリックし
「pc版サイトを見る」にチェック印を入れ実行下さい。


《方法2》以下はこのサイトから全く離れて、グーグル又は ヤフーの検索サイトから
調べる方法です。
グーグル(Google)又は ヤフー(Yahoo)の検索ボックスに見出し季語を入力し、
その例句を検索することができます。(大方はこれで調べられますが、駄目な場合は上記、《方法1》を採用ください)

例1 残暑 の例句を調べる

検索ボックスに 「残暑の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「残暑 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【残暑】残る暑さ 秋暑し 秋暑 【】=見出し季語

例2 盆唄 の例句を調べる

検索ボックスに 「踊の俳句」 と入力し検索ボタンを押す
いくつかのサイトが表示されますが、「踊 の俳句:575筆まか勢」のサイトを
クリックし表示ください。
[参考] 【踊】踊子 踊浴衣 踊笠 念仏踊 阿波踊 踊唄 盆唄 盆踊 エイサー 【】=見出し季語

以上 当システムを使いこなすには、見出し季語をシッカリ認識している必要があります。

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